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欧州の排出量取引きの市場(その 1)
調 査 報 告 ウィーン 欧州の排出量取引きの市場(その1) 9 月 29 日にベルギー・Brussels で欧州の排出量取引き市場 (European Emissions Markets)が開催された。主催者は、PLATTS 社(英国)である。 今回は、欧州電気事業者連盟からの排出量取引き制度の改革の現状と評価およびチェコ 電力からの市場安定化準備制度への提案に関する講演を報告する。 1.EU排出量取引き制度の改革:フェーズ2およびフェーズ3、市場安定化準備制度 Jesse Scott氏、EURELECTRIC (ベルギー) 【EURELECTRIC】 EURELECTRIC(欧州電気事業者連盟)は、欧州大陸の電力業界に加えて他の大陸の支社や関連企業の 共通の利益を代表する協会であり、32の欧州諸国の電力業界を代表する30団体以上の会員がいる。 EURELECTRICの活動の3つの主な目的は以下の通り。 ・2050 年までに欧州内にカーボンニュートラルな電力の提供 ・統合された市場を通じて費用対効果の高い、信頼できる供給の確保 ・気候変動の緩和のためにエネルギー効率および需要側の電化の促進 1.1 EU排出量取引き制度の役割 (1) 概況 EU の温室効果ガスの排出量取引き制度(以下、EU-ETS)に関する政策の議論全体におい て最も重要なことは、一部の経済分析に見られる温室効果ガス排出量と経済成長の乖離と いう相関関係の変化である。その結果として、いくつかの国際的なレポートでは効果のあ る安定した炭素価格を必要としている。 EU-ETS は温室効果ガスの排出量に対応するための 3 つの基本的選択肢の 1 つである。 EU では炭素税を導入しているが、EU レベルで統一された税制を持たないので 28 の異な る炭素税について議論することになる。次に、EU は“キャップ・アンド・トレード”方式 を選択することができ、EU-ETS の形で存在している。さらに、ポートフォリオリオまた は施設ごとに対して排出量の上限値や性能基準を設定することも可能である。そして、EU は 20 年前に排出量削減のために、1 つで 3 つの働きができるという理由から排出量取引き 制度を選択した。 EU では常に排出量削減の効果について議論しているが、世界中で手本とされている制度 を設定していることも気付かせてくれる。つまり、世界中の炭素市場がリンクする可能性 があり、排出量が低減でき、そして、低炭素社会にむけた投資のための収益を生み出して くれるのである。排出量の取引きについて政府と議論する際、3 つ目 (収益)が非常に多くの 場合で彼らが注目している点である。 (2) 世界の排出量取引き制度の成功 炭素市場に関する世界銀行のレポート『炭素市場の現状と傾向(State and Trends of ― 1 ― 調査報告 ウィーン Carbon Pricing 2014)』によると、世界中には約 30 の炭素市場があり、その他にも 20 の 市場が新たに開設されることが見込まれている。特に、国内 6 都市で ETS のパイロット制 度の運用が開始している中国では、2016 年までに炭素市場の開設が予定されている(図 1-1 参照)。このことは、EU の制度が多くの国や地域で採用され、認められているということ である。 ETS の導入済みまたは導入を予定 炭素税の導入済みまたは導入を予定 ETS または炭素税を検討 炭素税の導入済みまたは導入を予定、 および ETS または炭素税を検討 ETS および炭素税の導入済みまたは導入を予定 出典:6th European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC 図1-1 炭素価格制度(ETSおよび税制)の地域、国および準国家における導入状況 (3) 現在のEU-ETSの問題点 現在、排出量削減のための手段としての EU-ETS はあまり成功しているといえないが、 それは実行しながら学ぶものである。我々は最初に大きくて複雑で新しい何かを見事に行 うことはできないからである。 EU-ETS の現状には 2 つの問題がある。1 つ目は、多くの市場参加者に明確な投資の合 図を与えるような炭素価格を生み出せていないこと(図 1-2 参照)。2 つ目は、炭素価格のレ ベルや明確な投資の合図の実績に関する疑問が、代替案や追加の政策についての議論で復 活していることである。 ― 2 ― 価格(ユーロ/トン-CO2) 調査報告 ウィーン 時間 出典:6th European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC 図1-2 欧州の排出権価格の推移 1.2 EUの2030年目標につながるEU-ETSの改革 (1) 2030年枠組みへの道のり EUの2030年枠組みに向けた道のりとしては下記のとおりとなる。 Step 1:2014年1月22日、欧州委員会が目標を提案 ・2015年から2020年のカーボンリーケージリストも含まれている Step 2:2014年10月、欧州理事会の目標に関する政治的決断 2014年9月から2015年第1四半期(1月から3月)、 ETSの市場安定化準備制度の共同決定 Step 3:2015年、欧州委員会が目標の実施および負担を広げるための法律を立案 (公開は12月にParisで開催される第21回締約国会議(COP21)の前後の見込み) ・新しいETSの線形削減率が含まれる ・2021年から2030年のカーボンリーケージリストが含まれる Step 4:2016年から2017年、欧州議会と理事会の法律に関する共同決定手続き Step 5:2018年から2019年、必要事項の国内法化 1.3 提案されている市場安定化準備制度 (1) EU-ETSの問題と改革 EU-ETS には下記のような3つの異なる問題と3つの異なる解決策がある。 短 期:2020年までの欧州の排出枠の余剰が26億トン 解決策は、半永久的に取り置きする 中 期:固定された供給量と需要量の差異が価格の変動をもたらす 解決策は、市場安定化メカニズム 長 期:ETSの排出量の上限(キャップ)はEUの2050年目標と一致していない 解決策は、線形削減率を強化する ― 3 ― 調査報告 ウィーン (2) EU-ETSの改革 EU-ETS の問題の解決は、5つの政策的プロセスを経て少しずつ進展しており、表1-1に 現在までの状況を示す。 表1-1 プロセス 1 バックローディング 2 市場安定化準備制度 (MSR) 3 取り置き 4 線形削減率の改正 5 より多くの部門へ 負担を拡大 EU-ETSの問題への対策と効果 影響・効果 状況 実効 目標 実施済み 2014年 ~2018年 - ・価格の変動には便利、 ・余剰に関する効果は遅い 共同決定中 2021年? 2017年から バックローディング を含む ・余剰枠を解決することが可能 ・線形削減率への影響無し 政策的協議 未定 加盟国全体の合意 白書 2021年? 何%? 検討中 2021年以降 政策文書 (コミュニケーション) ・見せかけの修正 ・市場の信用に役立つ ・効果絶大 ・余剰に関する効果は遅い ・ETSを確保するために役立つ ・余剰と線形削減率の解決が 可能となる 出典:6th European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC (3) EU-ETSの目標への到達 現在、我々には運営または設備の決定に影響を与える炭素価格が必要である。それは化 石燃料を使う施設に投資するのか、または、再生可能エネルギー(特に、陸上風力で補助金、 固定価格などのコスト支援の補償無し)に投資できるかどうかを決定するためのものである。 図 1-3 に、意図的に数値を入れていない炭素価格についてのグラフを示す。しかし、実際 には、炭素価格が到達すべきまたは少なくとも向かうべきしきい値が、30 ユーロから 40 ユーロの範囲にあることは明らかである。5 ユーロから 7 ユーロの炭素価格は運営または設 備費用に関する意思決定に対して影響しない。EU-ETS の信頼性を取り戻すためには、15 ユーロから 20 ユーロの炭素価格でもよいかもしれないが、運営または設備に対する意思決 炭素価格 定のための違いを生み出すことにはならない。 運営費と資本的経費に影響する炭素価格のしきい値 年 出典:European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC 図 1-3 EU-ETS の改革と炭素価格の関係 ― 4 ― 調査報告 ウィーン 我々には合理的なしきい値を持つ必要があるので、改革が行われるときには真剣に議論 が行われるべきである。 (4) EURELECTRICの市場安定化準備制度に対する見解 EURELECTRICでは、欧州の気候政策の重要な原動力としてEU-ETSの信頼を取り戻す ための重要な一歩として市場安定化準備制度(以下、MSR)を見ている。しかし、我々は(計 画されている)効果が非常に小さく、遅すぎると考えている。 2020年より前にEUの排出枠の供給と需要のバランスを回復させるための動きは、企業の 運営と設備投資への意思決定に影響するレベルで信頼性があり持続可能な炭素価格の合図 を迅速に作りだすためにも不可欠である。 したがって、EURELECTRICは、MSRの開始日を2017年に前倒し、直ちにバックロー ディングされた9億トンの排出権をMSRのリザーブに移すことを支持している。このため、 MSRの決定には様々な入力される変数による蓄積された経験を活用するために2022年12 月31日より前の見直し条項が含まれていることが極めて重要である。 1.4 2030年枠組みにおけるEU-ETS (1) 2030年枠組みに向けた取組み 域内市場、価格、再生可能エネルギー、競争力 図1-4に示すように、2030年枠組みに向けては基本的に2つの取組みが可能である。図1-4 の左図のような取組みでは、ETSは極めて大きくて強力な役割を担い、「産業排出指令 (2010/75/EU)」や「新大気排出指令(2008/50/EC)」のような引き続き対応すべき政策があ る。また、再生可能エネルギーの拡大を支援するためのいくつかの措置もあるが、それら は革新的で成熟していない再生可能エネルギーに焦点をあてられるので、現在、成熟した 技術(例:陸上風力)への支援は無くなる。そして、エネルギー効率性の政策では、強い炭素 価格が供給側の発電所および電力集約型産業を制御するので、需要側の規制措置が必要と なる。 再生可能エ IED:産業排出指令 ネルギーの 革新性への 支援 AQ:新大気質指令 再生可能エネルギーの支援 エネルギー 効率性 エネルギー効率性 (需要側 (供給側および需要側管理) 管理) (a)統一した取組み (b)加盟国ごとの取組み 出典:6th European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC 図1-4 2030年に向けたと取組み方の比較 ― 5 ― 調査報告 ウィーン 一方で、図1-4の右図のような加盟国ごとの取組みでは、ETSは中心的役割ではなく、異 なる排出量政策(排出性能基準、排出量の規制)がより重要な排出量政策となる。また、再生 可能エネルギーの支援のために現在の取組みを継続し、再生可能エネルギーの技術が成熟 するまで非常に費用のかかる支援を行い続ける。そして、炭素価格が優先される合図では ないので、供給側への合図を追加したエネルギー効率性に関する政策が必要となる。 2030 年枠組みで我々が目指すべき方向は、欧州のエネルギー部門に強力な単一市場があ り、EU レベルでほとんどの政策決定が行われるようにすることである。単一市場と EU 加 盟国ごとに 28 の市場を持つことの比較を要約すると下記のようになる。 ①EUの単一市場 ・エネルギー市場の統合および(より)予測可能な政策となる ・EU-ETSは強力なイノベーション政策に強い影響力を持つ ②EU加盟国ごとの市場 ・市場は分断され、政策は開始と停止を繰り返す ・国内の再生可能エネルギーおよびエネルギー効率化の計画がある ・国内の炭素価格は下限レベルにあり、その他に税制もある (例:英国の炭素価格は低価格、オランダの石炭税) (2) 価格 図1-5に、2013年までのドイツにおける1kWhあたりの電気料金を示す。緑色は電力の卸 売価格の基本的な部分で、発電コスト、送電コスト、販売コストから構成されている。直 近の5年間はほぼ一定であり、電力ユーティリティは収益が得られないレベルにある。一方、 黄色は消費者が負担する税金などから構成されており、この部分の上昇にともない消費者 への販売価格も上昇してきた。ただし、これらの構成は加盟国ごとに異なる。しかし、政 策が実際の発電コストではなく、販売価格を上昇させていることを理解することは重要で ある。 (単位:ユーロセント/kWh) 年 ■:再生エネ賦課金、コージェネ賦課金(19条)、電力税、コンセッション費、付加価値税 ■:発電、送電、販売 出典:6th European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC 図1-5 ドイツにおける一般家庭(3人構成)の平均的な電気料金(年間3,500kWhベース) ― 6 ― 調査報告 ウィーン (3) 競争力 欧州および世界の市場での競争力に関する留意点は以下のとおりである。 ①エネルギー部門に関して世界規模の競争する場のようなものはない ・欧州とアメリカでは異なるエネルギー環境を持っているので、異なるエネルギー 戦略が必要となる ②競争とは全ての経済全体の問題である。 ・1つの分野を支持するまたは免除するような政策は他の分野にマイナスの影響を与え る可能性がある ③欧州域内の税金、価格、政策の違いは欧州域内のリーケージにつながる ・オランダとドイツの製鉄部門は同じ市場で競っているが、それぞれ異なる再生可能 エネルギー、炭素価格や電力価格の下にいる (4) 再生可能エネルギー 再生可能エネルギーに関して想定される目標と結果の組合せならびに2030年枠組みに向 けた増加に対する課題は下記のとおりとなる。 ①4つの目標と起こり得る結果 ・EUの再生可能エネルギー目標が国家の目標と支援制度を通じて行われた場合 結果:分断されて歪んだ市場 ・EUの再生可能エネルギー目標が調和のとれた支援制度を持つように設定された場合 (どのように作用するかは明らかではない) 結果:市場は歪められるが分断はしない ・EUの再生可能エネルギー目標がEU-ETS(成熟した再生可能エネルギーに対して)と革 新性の支援策(未成熟な再生可能エネルギーに対して)を通じて行われた場合 結果:完全な市場の互換性 ・EUの再生可能エネルギー目標が設定されない場合 結果:欧州委員会、ドイツ、そして欧州議会の反対を踏まえるとありそうもない ②再生可能エネルギー増加への課題 現在、電力部門における再生可能エネルギー資源は電源構成の約21%を占めており、 2030年までに約45%まで引き上げることを目標としている。2013年から15年以内に容量 を約2倍に増やすので合理的に見えるが容易ではない。表1-2に、2013年および2030年の 再生可能エネルギーの電源構成に占める割合と増加に向けた課題を示す。 ― 7 ― 調査報告 ウィーン 表1-2 再生可能エネルギーの割合と2030年に向けた課題 バイオマス 水 力 間欠的資源(太陽光、風力) 2013年 5% 10% 6% 2030年 5% 10% 30% 原料となるバイオマス の確保とそれに関連する 持続可能性の問題に対応 しなければならない。 基本的に、大型水力のた めの場所はほとんど残され ていない。 いくつかの小水力発電を 追加できる場所、より高い 効率性とより柔軟なタービ ンによって少しだけ増える 可能性がある。 気象条件の影響を受ける ため、安定供給が現状では 困難。 太陽光や風力のような間 欠的な再生可能エネルギー からの電力を15年間で5倍 にすることは、電力システ ム全体にとっての大きな挑 戦といえる。 課題 出典:6th European Emissions Markets、Jesse Scott氏、EURELECTRIC (参考資料) ・6th European Emissions Markets、Jesse Scott 氏、EURELECTRIC ・EURELECTRICホームページ、(http://www.eurelectric.org/) ― 8 ― 調査報告 ウィーン 2.EU排出量取引き制度に対する電力ユーティリティからの提案 Ondřej STRECKER氏 、CEZ (チェコ電力) 2.1 市場安定化準備制度 エネルギー部門には EU の排出量取引き制度(以下、EU-ETS)において必要とされる温室 効果ガス(以下、GHG)排出削減量の大半に寄与する必要があり、それは可能であるが、安 定したインセンティブが必要である。図 2-1 に、EU の排出権取引き価格の計画と結果を示 すが、当初の計画と比べて現在の価格は非常に低い。しかし、EU-ETS は長期的な脱炭素 化の目標を達成するために必要な政策であるため、チェコ電力(以下、CEZ)は下記のように 考えている。 ①EU-ETSの長期安定性は、エネルギー部門の低炭素化への投資の動機を与えるために不 可欠である ②したがって、迅速かつ信頼性の高いEU-ETSの改革が緊急に必要である ③“CEZが自ら設計した市場安定化準備制度”(以下、MSR2.0)を提案したとしても、現 在、完璧な設計に関する終わりの無い議論を避けるために欧州委員会の提案に基づく いくつかの妥協案を支持している。 ④CEZは利害関係者間の幅広い支持を獲得し、EU-ETSの迅速な均衡につながるようなオ リジナルの提案(MSR2.0)への変更が好ましいと考えている。 ⑤さらなる変化を予定されたメカニズムの見直し期間中に導入することは可能である。 当初計画(2008 年 6 月) 排出権取引き価格(ユーロ/トン-CO2) 結果 現在の見込み 年 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-1 (2) EU-ETSの排出権取引き価格の計画と結果 MSRの導入時期 欧州委員会が提案するバックローディング(排出枠の入札延期措置)の排出枠量を市場安 ― 9 ― 調査報告 ウィーン 定化準備制度(以下、MSR)のリザーブとしてそのまま移し、MSRは2017年に開始するべき であると下記の理由から考えている。また、図2-1にその効果を示す。 ①改革の前倒し(2017年から) a)改革の2つの目標 ・現在の過剰供給量に対する解決策となる ・将来のEU-ETSの係数の安定化につながる b)新しい目標を実施する前に、歴史的な負担を解決することが重要である c)技術的に開始の前倒しに対する障害は何もない ②バックローディングされる排出枠量のMSRへの移動 a)バックローディングされる9億トン分の排出枠量は結果的にMSRのリザーブになる b)したがって、市場へのそれらの戻りは下記のような悪影響しかおよぼさない。 ・市場の均衡の達成を遅らせる 排出枠の余剰量とリザーブ量 (×100 万トン-CO2) ・短期的な不安定さを高める 年 EU-ETS 余剰(2021 年 MSR 開始) リザーブ量(2021 年 MSR 開始) EU-ETS 余剰(2017 年 MSR 開始) リザーブ量(2017 年 MSR 開始) 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-2 排出枠の余剰量とリザーブ量 (3) 余剰と不足 排出枠量の余剰と不足に対するより柔軟で対称的な対処方法がEU-ETSをより強固にす ることになり、下記のように欧州委員会とフランスの提案が存在する(図2-3参照)。 ①欧州委員会の提案 ・上限のしきい値がリザーブ量よりも多ければ、余剰枠の12% ・下限のしきい値よりも少なければ、リザーブ量から1億トンを準備 ― 10 ― 調査報告 ウィーン ②修正されたフランスの提案 ・市場の余剰排出枠量と上限のしきい値の差の33%を準備 (×100 万トン-CO2) 欧州委員会の提案 市場のリザーブ量 修正されたフランスの提案 最適な余剰枠量 4 億トン~8 億 3,300 万トン 余剰枠量 (×百万トン-CO2) 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-3 2つの提案に基づく市場の余剰枠量に応じたリザーブ量による対応 また、市場のリザーブ量の効果については下記のような機能を考慮する必要がある。 ①市場が大きくバランスを失っているときにはより確実な応答 ②余剰枠量に余剰が近付くときには緩やかな反応 ・最適な余剰枠量に関する一致した見解はない ・ゆるやかな反応は誤った余剰枠量による潜在的な被害を最小限に抑える ③市場の過剰供給と不足の両方への対称的な措置が可能 (4) 余剰枠量に関する応答時間 現在の改革の問題点として、余剰枠量発生時の応答時間の遅さが挙げられる。下記およ び図2-4にその問題点と対応案を示す。 (問題点) ・X年からの余剰枠量が発生 ・X+1年目の5月に報告 ・X+2年目の1月から調整が開始 ・結果的に半年以上の不要なタイムラグが発生し、対応が遅れる ・しかし、オークションのカレンダーはX+1年の6月からに調整可能である ― 11 ― 調査報告 ウィーン 余剰排出枠量 の蓄積 5 月:報告された 余剰枠量 (a) 調 整 (X+2 年 1 月から開始) 現状の応答時間 () 余剰排出枠量 の蓄積 5 月:報告された 余剰枠量 (b) 調 整 (X+1 年 6 月から開始) 短縮可能な応答時間 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-4 現在の余剰枠量発生時の対応時間の問題点 2.2 MSR2.0:EU-ETSを改善するための可能性 長期的な経済発展の予測が不可能であることが、現在のEU-ETSの問題の主要原因である。 欧州委員会の作業用文書(2014年1月22日)『IMPACT ASSESSMEN、p.7(政策的背景)』で も、「経済不況や国際クレジットの急激な流入が、フェーズ2当初から20億トンの余剰排出 枠量が生じた」と評価している。 図2-5に、国際通貨基金(IMF)による欧州の国内総生産(GDP)の予想と実際(2007年時を 100)を示す。2013年の実際のGDPは当初の予測から約16%も低下している。 GDP ■:2008 年から 2013 年の予想 GDP(2008 年 4 月時点) ■:2007 年から 2013 年の実際の GDP 年 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-5 IMFによる欧州のGDPの予想と実際 ― 12 ― (2007年時を100とする) 調査報告 ウィーン 下記に、“CEZが自ら設計した市場安定化準備制度”(MSR2.0)について説明する。MSR2.0 は実際の発生周期と炭素供給の間に密接な関係を確立するものである。 Step1:EU-ETS部門(エネルギー、工業)における発生量の推定量を定める *生産量の推定量はすでに存在しており、欧州委員会『IMPACT 発生量 、排出枠量の供給 ASSESSMEN』にある 欧州委員会によって定義された 2.2%の線形削減率による排出枠の供給 EU-ETS の供給 電力からの発生量の推定量 工業生産からの発生量の推定量 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-6 MSR2.0の原理 (Step1) Step2:計画量と実発生量の相対的な差異に応じて排出枠の供給量を調整 *景気の状況が良い場合は予備の利用可能な量まで 、排出枠の供給 電力からの発生量 と基準推定量との 差異 発生量 工業生産からの発生 量と基準推定量と との差異 欧州委員会によって定義された 2.2%の線形削減率による排出枠の供給 EU-ETS の供給 工業生産からの発生量の推定 電力からの発生量の推定量 実際の電力からの発生量 実際の工業生産からの発生量 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-7 MSR2.0の原理 ― 13 ― (ステップ2の1) 調査報告 ウィーン 、排出枠の供給 電力からの発生量 と基準推定量との 差異 発生量 工業生産からの発生 量と基準推定量と との差異 EU-ETS の供給 の比例偏差 EU-ETS の供給 実際の電力からの発生量 調整された EU-ETS の供給 電力からの発生量の推定量 工業生産からの発生量の推定 実際の工業生産からの発生量 出典:6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER氏 、CEZ 図2-8 MSR2.0の原理 (ステップ2の2) 2.3 まとめ MSR2.0には、下記のような多くの利点がある。 ①“ダイナミック・アロケーション・ファンド”の考え方に対応 ②リスク回避の必要性に関する検討が不要 ・回避するために必要な容量は任意の時点での市場によって設定される ③迅速な調整機能 ・経済の統計結果(Eurostat)の公開に必要な遅れだけに制限され、四半期より短い ④実際の経済状況に関連した供給量 ・長い時間軸での経済状況は予測できないので、現在の提案の中に本質的に存在する 最も大きな不確実性の1つを回避することが可能 ・長期的な脱炭素化が焦点として残る ⑤柔軟な調整機能 ・外部変化の全体的な大きさを吸収することが可能(MSRのリザーブ量による) ⑥エネルギー効率政策の影響を吸収する供給量の調整機能 ・より優れたエネルギー効率性への取組みは、電力生産量の低減とそれによる排出枠 の供給量減少を含意する ⑦投機的理由に対するあらゆる市場操作を防止する外部の制動機能 ⑧透明性のあるルールに基づく非裁量的メカニズム (参考資料) ・6th European Emissions Markets、Ondřej STRECKER 氏 、CEZ ・COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT/ IMPACT ASSESSMENT (2014年1月22日) ― 14 ―