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ヒトの幹細胞から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成

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ヒトの幹細胞から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成
資料 3
平成27年○月○日
生命倫理専門調査会
ヒトの幹細胞1から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成について
(中間まとめ案)
1.はじめに
○ 平成22年5月に、ヒトES細胞等からの生殖細胞を作成について、文部科学省では、関係
指針2を整備し、作成できるように見直された。また、この検討のなかで、ヒト多能性細胞から
作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成は、当面は行わないこととされた。
文部科学省の検討において、ヒトES細胞等から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作
成を当面行わないこととした理由は、①ヒトES細胞等から胚の作成が可能な生殖細胞を得
るのは、指針の検討を行った段階では技術的に現実的でなく、今後の生殖細胞の作成に関
する基礎的な研究の蓄積が必要と認識したこと、② 「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え
方」[平成16年7月23日総合科学技術会議](以下。「平成16年の基本的考え方」という。)
で、研究目的のための新たに人の生命の萌芽であるヒト胚を作成することは原則認めないと
しており、慎重な検討を必要とする事項であることなどであった。
○ 当該整備(生殖細胞作成に関するヒトES細胞の使用に関する指針の改正)に先立って、
文部科学省から総合科学技術会議に諮問がされ、それに対する答申においては、生殖細胞
作成については、①ヒト胎内で進行する精子及び卵子の成熟・分化機構の検討が可能とな
り、生殖細胞に起因した不妊症や先天性の疾患・症候群について、原因の解明や新たな診
断・治療方法の確立につながること、②生殖細胞の老化のメカニズムや、生殖細胞に与える
内分泌かく乱物質や薬物など影響因子の影響などの研究に資することから、生殖細胞作成
の必要性が認められるとされた。
また、ヒトES細胞からの生殖細胞を用いてヒト胚の作成を行わないこととすることなどの
措置を講じることによって、個体産生についての予防措置が取られているとされた。
○ その後、平成23年から総合科学技術会議・生命倫理専門調査会(以下、「生命倫理専門
調査会」という。)では、生命科学研究の最新動向に包含される生命倫理に係る課題につい
て抽出していくために、外部の専門家からのヒアリングを実施した。
平成24年12月に今後の議論の進め方をまとめ、「iPS 細胞等から作成したヒト生殖細胞
によるヒト胚作成」を個別の検討課題の1つとし、研究の進展を見越し、時機に遅れない議
論をしていくこととした。
○ 生命倫理専門調査会では、平成25年9月より当該検討課題に関する議論を本格的に開
始した。
検討においては、①生殖細胞作成研究の現状を把握するため、平成24年度に行った「諸
外国における生命倫理に係る法制度の現状と最新の動向に関する調査」の調査結果(関係
部分)を参考にしつつ、必要に応じて研究者、有識者からのヒアリングも行い、今回のヒト胚
1
2
ヒトES細胞、ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞
「ヒトES細胞の使用に関する指針」及び「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究
に関する指針」
の作成の考え方について、②ヒト胚作成により得られる科学的知見及び、③作成によって生
じ得る配慮すべき事項[負の側面]を整理したうえ、現時点で倫理的に妥当な研究として進
められるという仮定のもと、想定しうる論点について、倫理的観点及び科学的観点から慎重
に検討を重ねてきた。
○
議論を重ねた結果、今回、生命倫理専門調査会としては、ヒトの幹細胞から作成される生
殖細胞を用いるヒト胚の作成について、現時点では、生殖細胞の作成研究は着実に進展し
ているが、ヒト胚の作成を真に求める研究段階には、まだ至っていないところであり、研究の
進む方向を見極める必要がある段階であることから、それを待って、引き続き議論を再開す
ることが適当であると整理することとした。
一方、関係研究は、何かを契機に急速に進展する可能性又は何かの障害で頓挫する可
能性は、いずれも否定できないと考えられることから、検討を再開すべき時期に達した場合、
ここを起点に議論を開始し、速やかに最終的な結論を導いていくため、今回の議論を、「中
間まとめ」として整理しておくこととしたものである。
2
2. 生殖細胞作成研究の現状
(1) 生殖細胞作成研究の全体像
1) ヒトES細胞等から生殖細胞を作成する場合、必ず始原生殖細胞(あるいはそれに類似
した細胞)を経由する。
2) ヒトES細胞等から生殖細胞を作成する研究は、①始原生殖細胞作成までの段階(発生
学/幹細胞学)と②始原生殖細胞から配偶子までの段階(繁殖学/生殖学)に整理でき
る。
(2) 動物
1) マウス多能性細胞から生殖細胞(精子・卵子)については、体外成熟技術の進展によ
り、始原生殖細胞様細胞(PGCLC)の作成まで技術が開発されている。また、それらを動
物の精巣又は卵巣に移植し、得られた配偶子を使った体外受精他で健常なマウスが生ま
れている。 [1][2]
2) マウスの精巣から取り出した組織片を、血清代替物又は血清アルブミンを使用し器官培
養すると、in vitro で、その組織のなかで精子形成まで誘導できた。それを顕微授精すると
正常な産仔が得られた。(次世代や次々世代の産仔まで得られている。)ヒト等のマウス以
外の動物の組織で、同様の精子形成はできていない。[3]
3) 体外培養の現状としては、マウスで最も技術開発が進んでいるが、雌雄生殖細胞とも、
減数分裂の一部の過程しか再現できていない。始原生殖細胞のなかで起こる刷り込みの
消去、遺伝情報の再構築を試験管内で解析できる準備ができた段階である。
(2) ヒト
1) 米国スタンフォード大学のグループは、ヒトiPS細胞又はヒトES細胞にある遺伝子を人
為的に導入し、移植措置なしに、精子細胞(精子の一歩手前の形をした細胞)に分化させ
ている。その他、英国シェフィールド大学の論文発表、米国ピッツバーグ大学の論文発表
がある。 [4][5][6]
2) 英国ケンブリッジ大学とイスラエルのワイツマン科学研究所の共同研究グループは、試
験管内でヒト多能性幹細胞から、生殖細胞(精子・卵子)の前駆細胞であるヒト始原生殖細
胞様細胞(hPGCLCs)を高効率で誘導することに成功し、マウスとは相違し、SOX17遺伝
子(転写因子)が重要な役割を果たすものであることを論文発表した。また、ヒト始原生殖
細胞様細胞やヒト始原生殖細胞の全能性獲得のためのエピゲノムのリセット及びゲノム・
エピゲノムの情報伝達に係る将来の研究の基盤を確立したとしている。 [7]
3) 独国マックスプランク分子生物医学研究所の研究グループは、ヒト多能性幹細胞(hPSC
3
s)からヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)に誘導するための段階的な分化システムを明
確に説明した。
サイトカインに反応し、ヒト多能性幹細胞は、まずは様々な中胚葉細胞が集まった集団
(中胚葉細胞群)に分化させる。そしてヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)に分化させ、そ
の際、PRDM14遺伝子の最小限度の発現がみられた。また、ヒトの始原生殖細胞(hPGC)
の発生はマウスの過程と似ていること、ヒト始原生殖細胞の発展期(3∼6週)の初期ステー
ジの間の転写調節に差異があることを発表した。 [8]
4) 京都大学の研究グループは、iPS 細胞をサイトカイン等で処理することにより初期中胚葉
用細胞に誘導し、それらをヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)に効率よく誘導する方法を
開発した。マウスとは異なる細胞状態を経由させるなど、ヒトとマウスの生殖細胞形成機構
に様々な違いが存在することを示唆した。 [9]
(3) 研究の現状のまとめ
1) 現在、生殖細胞(精子・卵子)を体外で成熟させる技術は、マウスで最も進んでいるが、
未だに減数分裂を完全に体外で進める技術は確立していない。マウスでは、同所あるい
は異所的体内環境を利用することで、始原生殖細胞様細胞(PGCLCs)から完全な生殖細
胞(精子・卵子)の作出に成功している。ヒトでは異種の環境を使う場合、同種(又は近縁
の)体細胞(指示細胞)が必要になると予想される。
2) 平成24年4月時点で、ヒト多能性幹細胞(hPSCs)から生殖細胞(精子・卵子)を体外で
成熟させる技術は、ヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)の十分な作成までに至っていな
かったが、平成26年12月末には、ヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)を高い効率で作
成する方法が見つけられたとする発表などがあった。体外で成熟させることについては、
精子の作成ではある程度の進展があるが、卵子の作成では精子と同様な段階迄には至
っていないと考えられる。
現時点で、作成されるヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)は、遺伝子の解析等により
ヒト始原生殖細胞(hPGCs)によく似た特徴を持つ細胞であることが確認されるものである
が、生殖細胞(精子・卵子)ではないので、受精させ育つような次元にある細胞ではなく、
受精を試みる分化のレベルの細胞でもない。
3) また、今後、作成されるヒト始原生殖細胞様細胞(hPGCLCs)の機能の確認について、
ヒトにおいては、マウスのように移植により評価できない。そこで、ヒトに近い動物種(霊長
類等)を用いる研究などにより、段階的に進められることとなると想定される。
関連基礎的研究のなかで作成される細胞が、減数分裂の段階に至れば、それらを使用
する受精・胚作成等は、それらの受精能や全能性獲得などの正常性の確認のために重要
な要素となり、生殖細胞発生過程のメカニズム解明の基礎的研究にさらに資する知見を与
えることになるとも考えられる。
4) 生殖細胞発生過程のメカニズム解明のため、生殖細胞(精子・卵子)に体外で成熟させ
る技術は、着実に進展していると考えるが、人の体内での生殖細胞(精子・卵子)の形成
4
過程の複雑さ(①親のエピジェネティック修飾の消去。②減数分裂。③刷込み。④形態・機
能分化。)や体内で長い時間を経て形成されることを考えると、それらの過程を体外ですべ
て実現させるには、さらに関係の基礎的研究が進む必要があり、暫く時間を要すると考え
られる。一方、関係研究は、何かを契機に急速に進展する可能性又は何かの障害で頓挫
する可能性は、いずれも否定できないと考えられる。
5
3.今回のヒト胚(疑似胚)3作成によって得られる科学的知見について
(1) 今回検討しているヒト胚の作成の検討に於いては、生殖細胞(精子・卵子)の作成には
至っていないことを前提とする。
そのうえで、関連基礎的研究のなかで作成される細胞が、減数分裂の段階に至れば、ヒ
ト胚(疑似胚)を作成し、生殖細胞の正常性等の確認を目的とする研究がヒト胚作成に係
る次の研究段階(以下、「第1段階」という。)になると予想される。
これによって得られた「科学的知見」は、生殖細胞(精子・卵子)の作成研究に資するこ
とになる。そして、将来的に生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成され、それを用いたヒト胚
の作成による研究(以下、「第2段階」という。)につながっていくと予想される。
(2) ヒト胚(疑似胚)作成によって得られる「科学的知見」は、現時点で、次のように段階別に
整理できる。
【Ⅰ.第1段階】
研究者からのヒアリング結果から、ヒト胚(疑似胚)の作成(初期胚迄)により、次の生殖
細胞(精子・卵子)の正常性(遺伝的、機能的)や安全性に係る科学的知見(必要条件)を
含めた、ヒトの発生及び分化の解明に資する科学的知見が得られると考えられる。
また、それらのなかで研究者からのヒアリング結果から、ヒト胚(疑似胚)の作成によら
ずに確認できる事項(胚作成という、倫理的問題を生じさせない方法)があることに留意す
る必要がある。
1) 胚を正常に発生させるための生殖細胞(精子・卵子)の必要条件は、次のように考えら
れる。
①
②
③
④
⑤
⑥
胚盤胞までの発生率・異常の確認
前核形成の検討
染色体数異常(頻度)
核タンパク質ヒストン化学修飾の検証
減数分裂が適切に行われていること(二倍体胚が形成されるため。)の確認
形態・機能分化が適切に行われていること(精子では、顕微授精技術を用いる限
り、減数分裂終了後の分化は必須ではない。卵子では、胚作成を支える卵細胞質の
成熟と増大が必要のため。)の確認
⑦ ゲノム刷り込み(primary DMR)が適切に行われたこと(主に着床後の胚と胎盤の発
生に必要のため。)の確認
⑧ ゲノム初期化(全能性獲得能)が適切に行われていること(正常な胚性遺伝子発現
に必要のため。)の確認
3
「ヒト胚(疑似胚)」という用語については、現状ではまだできていない生殖細胞(精子・卵子)を用いたヒト胚であって、当初
はヒト受精胚に似ているという位置づけとなると考えることから仮に、この資料の整理上使用している。一部学会のまとめに
も「疑似胚」という用語の使用例がある。
6
⑨ 着床前期胚特異的な DNA メチル化動態の確認
2) 上記1)の確認事項のうち、胚作成によらずに得られる可能性がある科学的知見は、次
のとおりと考えられる。
⑤ 減数分裂が適切に行われていることの確認
染色体像の確認で可能である。
⑥ 形態・機能分化が適切に行われていることの確認
精子の場合、顕微授精技術を用いる限り、減数分裂終了後の分化は必須ではな
い。卵子の場合、サイズ、細胞質の形状、第一極体放出、透明帯の確認、さらに人
為的活性化による細胞質内 Ca 振動(Ca オシレーション)で可能である。
⑦ ゲノム刷り込みが適切に行われたことの確認
DNA メチル化及び刷込み遺伝子の解析で確認可能である。
⑧ ゲノム初期化(全能性獲得能)が適切に行われていることの確認
胚性遺伝子発現の確認で可能である。卵子は単為発生でほとんどの情報が得ら
れると考えられる。精子は体内由来卵子と組み合わせた場合精子由来の遺伝子発
現の区別が必要と考えられる。 (注 : 様々な考え方がある事項である。)
3) 上記1)の確認事項のうち、胚作成に依らなければ得られないと考えられる科学的知
見は、次のとおりと考えられる。
①
②
③
④
胚盤胞までの発生率・異常の確認
前核形成の検討
染色体数異常(頻度)
核タンパク質ヒストン化学修飾の検証
【Ⅱ.第2段階】
生殖細胞作成研究が進展し、さらに将来的に生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成され
ていると考えられる段階(第2段階)になれば、研究者からのヒアリング結果等から、その
生殖細胞(精子・卵子)によるヒト胚(疑似胚)の作成・利用により、次の基礎的研究の科学
的知見が得られると考えられる。
また、通常の精子、卵子を使い、胚作成を伴う、「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医
療研究に関する倫理指針」(以下、「ヒト受精胚指針」という。)が適用される範囲の研究4に
より確認できる科学的知見があることに留意する必要がある。
① 精子由来因子と卵子由来因子の相互作用を明らかにする科学的知見5
4
「ヒト受精胚指針」の適用範囲の規定 (抜粋)
・ 受精、胚の発生及び発育並びに着床に関する研究、配偶子及びヒト受精胚の保存技術の向上に関する研究その他の
生殖補助医療の向上に資する研究のうち、ヒト受精胚の作成を行うものを対象。
5
胚性遺伝子の発現状況。精子のゲノムが卵子の因子による活性化すること。雌雄両染色体の同調した動きの
様子など。
7
② 受精障害の原因解明など、不妊の診断や治療に資する知見や、受精後の発生メカ
ニズムの解明など生殖補助医療技術の安全性に関係する科学的知見6
③ 受精後の発生過程に原因があると考えられる疾患の診断及び治療に資する科学
的知見7
④ 環境が、受精時や受精後の発生過程に及ぼすエピジェネティックな影響(世代を超
える影響)に資する科学的知見
【Ⅲ.第1段階と第2段階に共通する事項】
ヒト胚(疑似胚)の作成により得られる何らかの科学的知見は、「ヒトの発生、分化及び
再生機能の解明に資する基礎的研究」8に新たな知見を提供することが考えられる。
【Ⅳ.その他】
ここでは、ヒト胚(疑似胚)の利用としての動物の体内への移植、個体産生に係る科学
的知見の整理をしない。
6
7
8
出典 文部科学省の平成21年度の関係資料
出典 文部科学省の平成21年度の関係資料
「ヒトES細胞の使用に関する指針」における、生殖細胞の作成を容認した前後では、ヒトES細胞の「使用の要
件」に変更はなかった。この要件の範囲内で、ヒトES細胞利用研究が進められている。
(使用の要件)
第5条 第一種樹立により得られたヒトES細胞の使用は、次に掲げる要件を満たす限り、行うことができるものとする。
一 次のいずれかに資する基礎的研究を目的としていること
イ ヒトの発生、分化及び再生機能の解明
ロ 新しい診断法、予防法若しくは治療法の開発又は医薬品等の開発
二 生殖細胞の作成を行うことが前号に定める研究において科学的合理性及び必要性を有すること
8
4.今回のヒト胚(疑似胚)作成によって生じる配慮すべき事項[負の側面]につい
て
(1) ヒト胚(疑似胚)作成又は利用により科学的知見を得る一方で、生じ得る懸念などの「配
慮すべき事項[負の側面]」は、現時点で、次のように第1段階、第2段階別に、次のように
整理できる。
なお、当該「配慮すべき事項[負の側面]」は、今後の研究の進展等により、「配慮すべき
事項[負の側面]」とは言えなくなる場合もあり得るものであることに留意する必要があると
考えられる。
【Ⅰ.第1段階の科学的知見を得るために考えられるもの】
1) 作成される生殖細胞(精子)と未受精卵からヒト胚(疑似胚)を作成する研究では、未受
精卵の採取(輸入)などにおける不適当なインフォームド・コンセントによる入手などが想
像される。
2) 研究利用のためのヒト胚(疑似胚)の作成研究では、胚の何らかの悪用のおそれ(興味
本位での胚作成。原始線条形成を超える分化の実施。安易な人への胎内移植の検討。)
が生じることが懸念される。
【Ⅱ.第2段階の科学的知見を得るために考えられるもの】
1) 将来的に研究が進展し、ヒト胚(疑似胚)の研究利用として、ヒト胚(疑似胚)をヒトへの
安全性の観点等からヒトには直接移植はできないことからの当該ヒト胚の「動物の胎内
移植」への期待が高まることが考えられる。
それに関係して、(a) 目的が適当でない実験の実施による想定できない結果の発生、
(b) 移植される動物への福祉が十分に配慮されない可能性(代替法の十分な検討がさ
れない)、(c) ヒト胚への動物細胞の意図しない混入の恐れなどが想像される。
2) 将来的に研究が進展し、生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されていると考えられる
段階になれば、受精させ医療目的での「個体産生」への期待が高まることが考えられる。
それに関係して、(a) 生殖細胞の由来を限定しない個体産生が行われることにより、現
在の親子関係を複雑化し、社会の秩序を混乱させる可能性があること、(b) 胎内移植を
受ける被験者の安全性への十分な配慮がなされないことや後の世代への悪影響を残す
おそれが払拭されないなかで実施されれば、被験者保護の観点から容認され得ない事
態が発生すること、(c) 生殖細胞の由来を限定しない場合、作成される胚が無性生殖に
当たる場合が考え得る。人の尊厳の保持に与える影響、社会に対する影響が大きく、そ
の実施は社会的に容認され得ない事態となることなどが想像される。
3) 将来的に研究が進展し、生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されていると考えられる
段階になれば、それ自体やそれらを用いるヒト胚を使用した各種の基礎的研究の実施へ
の期待が高まることが考えられる。
それに関係して、ヒト胚を尊重しない扱いが助長されることが想像される。
4) 将来的に研究が進展し、生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されていると考えられる
9
段階になれば、それらを用いるヒト胚への遺伝子改変が行われることも考えられる。それ
に関係して、生殖細胞系列の遺伝的改変を通じて後の世代にまで悪影響を残すおそれ
が想像される。
【Ⅲ.第1段階及び第2段階の科学的知見を得るための共通する事項】
1) 基礎的研究としてのヒト胚(疑似胚)の作成研究である限り、研究後に当該ヒト胚が損
なわれることになり、当該ヒト胚がヒト受精胚と倫理的に同様と位置づけられると考える
場合は、研究利用のための作成は、人の道具化・手段化をさらに推し進め、ヒト胚を尊重
しない取扱いとなることや、「生命を操作する」という考え方が強まる。
【Ⅳ.その他】
ここでは、ヒト胚(疑似胚)の利用としての動物の体内への移植、個体産生に係る科学的
知見の整理をしない。
10
5.生命倫理上の論点の整理について
ヒトの幹細胞から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成の検討において、関連する生
命倫理上の論点として3つ考えられる。
これらについて、①生殖細胞作成研究の現況、②ヒト胚(疑似胚)作成によって得られる科学
的知見、③ヒト胚(疑似胚)作成によって生じ得る配慮すべき事項[負の側面]を踏まえて、整理
を行った。
(論点1) 研究用にヒト胚(疑似胚)を作成することについて
<検討のポイント>
○ 想定される研究目的毎に、「平成16年の基本的考え方」の ヒト受精胚の取扱いの基本
原則 の例外が許容される条件に基づいて考えていくかどうか。考えることができる事項か
どうか。これまでに容認してきた、研究目的でのヒト胚の作成の整理との関係。
○ 仮に、 ヒト受精胚の取扱いの基本原則 に基づいて考える場合、個々の想定される研
究目的は、基本原則の各要件等にあてはめると、どのようになるか。
これまでに容認してきた、研究目的でのヒト胚の作成の整理との関係。
○
ヒト受精胚の取扱いの基本原則
て、整理していくか。
に基づいて考えない場合、どのような考え方を以っ
○ 今回のヒト胚の作成・利用により、どのようなことが起こるのか。リスクとして想定されるこ
とは何か。各リスクへの対応が何かできるか。クリアすることができないリスクはどうするか。
何が必要となるか。
○ 今回のヒト胚の作成の検討では、生殖細胞作成の由来細胞(ヒトiPS細胞、ヒト組織幹細
胞及びヒトES細胞)の種類などからの倫理上の区別について、どのように考えるか。区別は
必要か、不要か。
○ 想定される研究目的毎に、仮に、既存のヒト受精胚指針で規定されている各項目(作成
制限、取扱期間、ヒト又は動物への胎内移植、他機関への移送、廃棄等)は、どのように考
えるか。検討項目として考慮すべき項目は他にあるか。
○ 研究方法を部分的に制限する場合、将来的に緩和する可能性があるかどうか。その観点
からはどのように整理しておくか。
<生命倫理専門調査会の考え方の整理>
【Ⅰ.研究目的でのヒト胚の作成・利用の現状】
11
1) これまで研究目的でのヒト胚の新たな作成・利用は、「平成16年の基本的考え方」の “ヒ
ト受精胚尊重の原則” の例外として、次の2つが容認されてきている。
関係研究によらなければ得られない生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待について、
科学的合理性に基づき、社会的に妥当なものであるかどうか等の例外が許容される条件か
らの検討を行っている。
① 他に治療法が存在しない難病等に対するヒトES細胞を用いた再生医療技術の基礎的研究の
ための人クローン胚の作成。
(人クローン胚からヒトES細胞を作成し、利用。)
② 生殖補助医療の向上に資する研究(基礎的研究)のためのヒト受精胚の新たな作成
(作成したヒト受精胚自体を利用。研究後は廃棄。)
【Ⅱ.今回の研究目的を検討する場合の基本的な要件の考え方】
1) ヒトES細胞の樹立のための人クローン胚の作成、生殖補助医療目的に資する研究の
ためのヒト受精胚の新たな作成においても、これらヒト胚のヒト胎内への移植は禁止されて
いる。
現時点、生殖細胞(精子・卵子)の作成には至っていない状況では、それらを用いたヒト
胚(疑似胚)を作成してのヒト胎内への移植については考えられない段階である。さらにそ
れらを用いたヒト胚を作成しての医療目的での作成・利用(ヒト胎内への移植)を議論すべ
き段階にはないと考えられる。
2)
生殖細胞を作成する研究は、「ヒトES細胞の使用に関する指針」(以下、「ヒトES使用
指針」という。)の第5条など 9に示された、ヒトES細胞の 使用の要件 を満たすヒトES細
胞使用研究の1つとして行われている。
したがって、これまでの流れから、当該ヒト胚の作成研究の要件は、生殖細胞の出自に
関わらず、 使用の要件 の範囲内に留める必要があると考えられる。
また、ヒトES使用指針の第5条のうち「新しい診断法、予防法若しくは治療法の開発又
は医薬品等の開発に資する基礎的研究」については、ヒト胚の作成の必要性が考え難い
ことから除かれる。
今回のヒト胚の作成研究の要件の検討では、同じ目的でも代替法(倫理的に問題がより
少ない他の方法)がある場合は、当該研究を行うことができないとすることを要件に追加す
る必要がある。
[想定されるヒト胚作成の研究の要件]
ヒト胚の作成研究は、次に掲げる2つの要件を見満たす場合に限られる。
① ヒトの発生及び分化の解明に資する基礎的研究を目的としていること
② 多能性幹細胞から作成された生殖細胞を用いてヒト胚の作成を行うことが、①に
定める研究において科学的合理性及び必要性を有すること。
9
「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針」の関係規定
(生殖細胞作成研究の要件)
第4条 生殖細胞作成研究は、次に掲げる要件を満たす場合に限り、行うことができるものとする。
一 次のいずれかに資する基礎的研究を目的としていること。
イ ヒトの発生、分化及び再生機能の解明
ロ 新しい診断法、予防法若しくは治療法の開発又は医薬品等の開発
二
生殖細胞の作成を行うことが前号に定める研究において科学的合理性及び必要性を有すること。
12
【Ⅲ.論点1に対する考え方の整理】
【整理A】
1) 研究用のヒト胚の作成としては、①人クローン胚から作成し ES 細胞を樹立し、それを利
用すること、②新たにヒト受精胚を作成して生殖補助医療に資する各種研究を行うことで既
に許容されている。これらの関係研究の範囲は、ある程度の拡がりを持っている。
一方、今回のヒト胚の作成については、生殖細胞(精子・卵子)の作成には至っていない
状況にある。そこで、生殖細胞作成後の次の研究段階(第1段階)と考えられる、ヒト胚(疑
似胚)を作成し、その際の現象等を観察し、生殖細胞が正常かどうかの確認の目的に限定
し、その取扱いを考えることが現実的である。
即ち、今回は、ヒト胚作成の拡がりを持った研究全体を対象に、必要な検討するのでは
なく、ヒト胚(疑似胚)を作成し、生殖細胞の正常性等の確認を目的とする研究(以下、「ヒト
胚(疑似胚)作成研究」という。)を対象に、それにより得られる科学的知見等から、当該目
的の研究が検討できるものであるかを整理することが適当である。
2) まず、作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の作成によって、現時点では、作成さ
れた生殖細胞の正常性等を確認し、得られた科学的知見は、生殖細胞(精子・卵子)の作成
研究に資することになる。そして、将来的に生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成され、それ
を用いたヒト胚の作成につながっていくこととなる。
したがって、この流れから当該ヒト胚(疑似胚)は、「ヒト受精胚」と倫理的に同様に位置づ
けられるもの(原則、損なう取り扱いが認められないこと)と整理することが適当である。
3) これまで研究目的でのヒト胚の新たな作成・利用は、「平成16年の基本的考え方」の ヒ
ト受精胚尊重の原則 の例外が許容される条件から、研究目的でのヒト胚の作成・利用の
取り扱いが整理され、先述の2つが容認されてきている。
そこで、この基本原則の例外が許容される条件から、「正常性等確認の研究目的でのヒト
胚(疑似胚)の作成」の取扱いを整理することとした。
[対象研究目的の例外が許容される条件の整理(現状)]
◆科学的合理性の整理10
① 現時点では、作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の作成により、作成された生殖
細胞の正常性、安全性に係る科学的知見を得ることが必要となる。当該ヒト胚(疑似胚)の作
成により得られた、作成された生殖細胞の正常性、安全性の知見は、ヒトの発生及び分化の
解明に資する基礎的研究に、新たな知見を提供することになり、その恩恵及びそれに期待す
ることには、先行する動物を用いた関係研究の状況から科学的合理性が認められると考えら
れる。
当該ヒト胚(疑似胚)作成によらずに、生殖細胞に対する遺伝子の発現等で確認できる事
項もあるとのことであり、ヒト胚(疑似胚)を作成しなければ確認できない事項に係るそれにつ
いて、科学的合理性が認められると考えられる。
10
対象研究目的のようなヒト胚の取扱いによらなければ得られない生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待
が十分な科学的合理性に基づいたものであるかの整理。
13
また、正常性、安全性の確認に係るヒト胚作成によらずに得られる科学的知見について
は、関係科学技術の発展に伴い増加することが考えられる。したがって、胚作成によらずに
得られる可能性がある科学的知見に係る恩恵及びそれへの期待により、上記の科学的合理
性を考える必要性が少なくなり得ると考えられ、この点からは、胚作成自体の是非を容易に
判断できる段階ではないと考えられる。
②
「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」の適用範囲の研究により
確認出来ることは、作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の作成により敢えて確認す
る必要はないと考えられる。
当該研究目的におけるヒト胚(疑似胚)の作成について、それによらなければ得られない
生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待は、特にないものと整理されると考えられる。
③
今後、どのようなレベルの生殖細胞が作成できた時点で、それを用いたヒト胚(疑似胚)を
作成するか、胚を作成しどのような結果が得られた場合に正常性の確認ができたといえるか
について、科学的に十分に研究する必要があると考えられ、関係の基礎的研究の知見の蓄
積を待つ必要があると考えられる。
④
ヒト胚(疑似胚)の作成研究等の進展の結果、生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されて
いると考えられる段階になれば、これからの胚作成・使用により、ア)受精障害の原因解明な
ど、不妊の診断や治療に資する知見や、受精後の発生メカニズムの解明など生殖補助医療
技術の安全性の向上、イ)受精後の発生過程に原因があると考えられる疾患の診断及び治
療に関する研究に資する科学的知見が得られると考えられる。
これらの恩恵及びそれに期待することには、生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されてい
る段階になれば科学的合理性が認められることになると考えられる。
⑤
生殖細胞の作成研究の現況から、それらを用いたヒト胚(疑似胚)を作成してのヒト胎内へ
の移植については考えられない段階である。また、ヒト胚(疑似杯)の作成の次の段階として
は、ヒト胎内への移植を考えることではなく、基礎的研究の更なる進展、それによる知見の蓄
積が行われることが必要であると考えられる。
当該事項迄を踏まえる生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待についての科学的合理
性の検討に資する科学的知見は特に無く、想定できない状況にあると考えられる。
更なる関係の基礎的研究の進展、基礎的知見の蓄積、社会の動向などを経て、将来、改
めて慎重な検討を要する事項と考えられる。
◆ 社会的妥当性の整理11
①
作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の作成により、ヒトの発生、分化機能の解
明の基礎的研究が進めば、将来的には、不妊症、受精後の発生過程に原因があると考え
られる疾患の診断及びその疾患の治療に資する知見が得られることが考えられる。当該疾
11
対象研究目的のようなヒト胚の取扱いによらなければ得られない生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待
が社会的に妥当なものであるかの整理。
14
患を抱え苦しむ人々に治療法を提供することに期待することには、社会的妥当性が認めら
れると考えられる。
②
現時点では作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の作成により、作成された生殖
細胞の正常性、安全性の基礎的知見を得ることが期待される。当該生殖細胞に対する遺伝
子の発現等で確認できることについては、あえて当該ヒト胚を作成する必要はないとすれ
ば、社会的妥当性は認められないと考えられる。
③
生殖細胞(精子・卵子)が作成できていない、できる可能性が高まっていないと考えられる
現時点では、当該ヒト胚(疑似胚)の作成に係る恩恵及びそれへの期待について、当該研究
目的でのヒト胚(疑似胚)の作成に対する社会の懸念や社会的影響をさらに慎重に考え、ま
ずは段階的に基礎的研究が進められることが妥当と考えられる。
◆ 人に直接関わる場合には、人への安全性に十分な配慮がなされることの整理
①
現時点、ヒト胚(疑似胚)の作成は、現時点で作成された生殖細胞の正常性、安全性の知
見を得ることであり、実際には未だ生殖細胞(精子・卵子)は作成できていない。
生殖細胞の作成研究の現況では、当該ヒト胚(疑似胚)が人に直接関わる状況について
考えられない段階である。また、ヒト胚(疑似胚)の作成の次の段階としては、基礎的研究の
更なる進展、それによる知見の集積が行われる必要があると考えられる。
◆ 人間の道具化・手段化の懸念をもたらさないよう、適切な歯止めを設けること
① これまで研究目的でのヒト胚の作成・利用においては、研究方法は、その取扱期間を原始
線条の形成前迄に限定されている。
作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の取扱いを検討する場合、その取扱期間
は、その範囲内の必要な期間と同様にすることが、適切な歯止めとなると考えられる。
ヒト胚(疑似胚)の正常性等の確認項目は、当該期間内(14日以内)で目的とする十分な
情報を得ることができると考えられる。
4)
ヒト胚(疑似胚)作成研究の研究方法については、作成された生殖細胞を用いたヒト胚
(疑似胚)の作成によって生じ得る「負の側面」に対応する必要があると考えられる。
ヒト胚(疑似胚)は、「ヒト受精胚」と倫理的に同様に位置づけられるものと整理するが、
ヒト胚(疑似胚)は、ヒト受精胚そのものではなく人工物であることから、その取り扱いは、
ヒト受精胚の研究利用より慎重であるべきと考えられる。
そこで、研究方法については、生殖補助医療研究目的のヒト受精胚の作成の手続きを
定めている「ヒト受精胚指針」の研究方法に関係する規定(配偶子の入手、インフォームド
・コンセント、ヒト受精胚の取扱い、提供機関など)を援用又は 必要ならばその範囲内に
整理することに、現時点で一応の合理性があると考えられる。
15
5) 論点1の対する考え方の整理のまとめ
作成された生殖細胞の正常性等の確認の研究目的のヒト胚(疑似胚)作成によらなけれ
ば得られない、生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待について、科学的合理性、社会
的妥当性の観点からの現時点での整理としては、ヒト胚(疑似胚)を作成する研究段階に
は、まだ至っていないところであり、ヒト始原生殖細胞様細胞の作成の次段階の研究の進
展、研究の進む方向によっては今回の整理が変わり得る可能性があると考えられる。
したがって、関係研究の更なる進展など研究の進む方向を見極めたうえで、今回の整
理を起点として改めて検討を進めることが、現時点では適当と考えられる。
16
【整理 B】
○
正常性等の確認の研究目的のヒト胚の作成により、次のような負の側面を伴うことの蓋
然性は明白と考えられ、そのうち関係の社会的な対応が、胚作成の実現可能な段階に達す
るより、時間的に早く検討される予定が現時点では無く、その意味で社会の秩序の混乱は必
至であると考えられることから、現時点で禁止は必要不可欠と整理される。
○
現時点で、柔軟な規制の形態である ES 指針等により、次のような負の側面は起こされ
ていないことから、この方法で胚作成の禁止を維持することは適当と整理される。
◆負の側面 (概要)
※ <↑> : 今回のヒト胚作成で増加すると考えられる負の側面
【ヒト胚作成に係る共通的事項】
○ 研究後に当該ヒト胚が損なわれることは、人の道具化・手段化をさらに推し進め、ヒト胚を尊重
しない取扱いとなること
<↑> (3つめの研究目的でのヒト胚作成という意味で)
○ 「生命を操作する」という考え方が強まること
<↑>
【第1段階 (初期) の知見を得るために考えられるもの】
① 未受精卵の採取(輸入)などの不適当なインフォームド・コンセントによる入手
② 興味本位での胚作成。原始線条形成を超える分化の実施。安易な人への胎内移植の検討。
<↑>
【第2段階 (関係研究のより進展段階) の知見を得るために考えられるもの】
③ 当該ヒト胚の「動物の体内移植」に関係して、
(a) 目的が適当でない実験の実施による想定できない結果の発生 <↑>
(b) 移植される動物への福祉が十分に配慮されない可能性(代替法の検討がされない)
(c) ヒト胚への動物細胞の意図しない混入の恐れ <↑>
<↑>
④ 生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されていると考えられる段階になれば、受精させ医療目
的での「個体産生」に関係 (*) して、
(a) 生殖細胞の由来を限定しない個体産生により、現在の親子関係を複雑化し、社会の秩序を
混乱させる可能性があること、
(b) 胎内移植を受ける被験者の安全性への十分な配慮がなされないことや後の世代への悪影
響を残すおそれが払拭されないなかで実施されれば、被験者保護の観点から容認され得な
い事態が発生すること
(c) 生殖細胞の由来を限定しない場合、作成される胚が無性生殖に当たる場合が考え得る。人
の尊厳の保持に与える影響、社会に対する影響が大きく、その実施は社会的に容認され得
ない事態となること
17
(*) 3つめの研究目的でのヒト胚作成という意味で : <↑>
⑤ 生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されていると考えられる段階になれば、さらなる基礎的研
究の実施への期待から、ヒト胚を尊重しない扱いが助長されること
⑥ 生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成されていると考えられる段階になれば、それらを用いるヒ
ト胚への遺伝子改変に関係して、生殖細胞系列の遺伝的改変を通じて後の世代にまで悪影響
を残すおそれがあること <↑>
18
(論点2) ヒト胚(疑似胚)の利用として、動物の胎内への移植について
(論点3) 個体産生について
<検討のポイント>
○ 今回のヒト胚の作成の想定される研究目的では、作成したヒト胚を動物(霊長類ほか)の
胎内又はヒトの胎内へ移植することとはどういう関係になるのか。
<生命倫理専門調査会の考え方の整理>
【Ⅰ.論点2に対する考え方の整理のまとめ】
1) 生殖細胞の作成研究の現況から、作成された生殖細胞と動物の生殖細胞を用いての胚
(ヒト動物交雑胚)12の作成する研究を行う必要があるかどうかは、未だに想像しにくい状況
にある。
したがって、現時点で検討の俎上に載せる事項ではないと考えられる。
なお、現在、当該ヒト動物交雑胚の作成は、「特定胚の取扱いに関する指針」により禁止さ
れており、さらに、ヒト動物交雑胚の胎内移植は、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関
する法律」(平成12年12月6日法律第146号)13で禁止されている。
2) 生殖細胞の作成研究の現況から、作成された生殖細胞を用いたヒト胚(疑似胚)の異種動
物の胎内への移植をする研究を行う必要があるかどうかは、未だに想像しにくい状況にあ
る。また、動物の福祉の観点からは、関係研究を行う必要性を十分に考える事項であると考
えられる。
したがって、現時点で検討の俎上に載せる事項ではないと考えられる。
12
「ヒト動物交雑胚」の定義(第2条関係)
次のいずれに掲げる胚(当該胚が一回以上分割されることにより順次生ずるそれぞれの胚を含
む。)をいう。
イ ヒトの生殖細胞と動物の生殖細胞とを受精させることにより生ずる胚
ロ 一の細胞であるイに掲げる胚又はイに掲げる胚の胚性細胞であって核を有するものがヒト除核
卵又は動物除核卵と融合することにより生ずる胚
13
禁止行為(第3条関係) ;
何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植
してはならない。
19
【Ⅱ.論点3に対する考え方の整理のまとめ】
1) 生殖細胞の作成研究の現況から、それらを用いたヒト胚(疑似胚)を作成してのヒト胎内
への移植については考えられない段階である。また、ヒト胚(疑似胚)の作成の次の段階は、
ヒト胎内への移植を考えることではなく、基礎的研究の更なる進展、それによる知見の蓄積
が行われることが必要であると考えられる。
さらに、人への胎内移植をどう考えるかなどの検討の段階に移るためには、関係技術の
人への安全性の各種データが得られてから議論すべきものであると考えられるが、それに
至る迄には、時間を要するものと考えられる。
この期間の人の胎内移植を厳格に禁止する措置を構築しておく必要があると考えられる。
6.おわりに
今後、関係研究の更なる進展があった時点で、当該中間まとめを起点として改めて本件の
検討を進めていく。
20
【参考1】
○生殖細胞作成研究の参考文献一覧
[1] Hayashi,K., Ohta,H., Kurimoto,K., Armaki,S. & Saitou,M. Cell 146, 519-532 (2011)
[2] Hayashi,K.et.al. Science 338, 971-975 (2012)
[3] Ogawa, (2011)
[4] Panula et al, Human Mol.Genetics
[5] Aflatoonian et al, Human Repord
(2011)
(2009)
[6] Easley et al, Cell Reports, (2012)
[7] Irie N, Weinberger L, Tang WW, Kobayashi T, Viukov S, Manor Ys, Diemann S, Hanna
JH, Surani MA. Cell 2015 Jan 15; 160 (1-2); 253-268
[8] Sugawa F, Scholer HR, et al, EMBO J
2015 Mar 6.
[9] Sasaki K, Yokobayashi S, et al., Cell Stem Cell 2015 Jul 16.
21
【参考2】
○
海外における規制の状況
内閣府は平成24年度、ES 細胞・iPS 細胞から作成した生殖細胞によるヒト胚作成
に関する法規制の状況を確認するため、米国、英国、ドイツ、フランス、スペイン、オ
ーストラリア及び韓国を対象とする実地調査を実施した。実地調査は各国の生命倫理
に関する規制当局、研究機関、大学研究者等を訪問し行った。
(1)調査対象国の規制状況
①
ES 細胞、iPS 細胞から生殖細胞を作成すること
アメリカ・カリフォルニア州、イギリス、ドイツ、フランスおよびスペインでは許
容されていた。なお、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health、以
下 NIH という)では、NIH が助成する研究に対する規制として、配偶子の作成を禁止
していた。
一方、オーストラリアでは、法律で規制されていなかった。韓国では、法律(生命
倫理法)上に具体的な規定はなかった。但し、両国ともにヒトを対象とした研究には
倫理審査委員会の承認が必要である。
②
ES 細胞、iPS 細胞から作成した生殖細胞を用いてヒト胚を作成すること
アメリカ・カリフォルニア州、イギリスでは許容されていた。なお、NIH が助成する
研究に対する規制として配偶子の作成、その受精を禁止していた。
一方、ドイツ、フランス、スペインおよび韓国は生殖補助医療以外でのヒト胚の作
成を禁じていることから、当該生殖細胞を用いてヒト胚を作成することを含む研究も
禁止されているものと考えられた。
なお、オーストラリアでは、法律に具体的な規定がなかった。
22
調査対象国の規制状況
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
スペイン
オーストラリア
韓国
(○:許可、X:禁止)
生殖細胞の作成
連邦政府 X
カリフォルニア州
○
○
○
○
規定なし
規定なし
○
23
ヒト胚の作成
連邦政府 X
カリフォルニア州
○
X
X
X
規定なし
X
○
【参考3】
○ 研究目的でヒト胚の作成が認められた際の経緯について
1.研究目的(ヒトES細胞の樹立)で、人クローン胚を作成すること
(1) 「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年12月6日法律第146号)(以下
「クローン技術規制法」という。)の第3条において、①人クローン胚、②ヒト動物交雑胚、③ヒト性融
合胚又は④ヒト性集合胚の人又は動物の胎内への移植は禁止行為とされている。(胚の性質とし
て、①は無性生殖により、特定の人と同一の遺伝情報を持つ胚、②∼④は人間の亜種になる胚と
されている。)
同法第4条で、人クローン胚等の9つのヒト胚(特定胚)について、人又は動物の胎内に移植さ
れた場合に、人クローン個体若しくは交雑個体又は人の尊厳の保持等に与える影響がこれらに準
ずる個体となるおそれがあることに鑑み、特定胚の作成、譲受又は輸入及びこれらの行為後の取
扱いの適正を確保するため、特定胚の取扱いに関する指針(以下「特定胚指針」という。)を文部科
学大臣は定めるとしている。
(2) クローン技術規制法の附則第2条で、ヒト受精胚の人の生命の萌芽としての取扱いの在り方を総
合科学技術会議で検討するとされたことに伴い、その後、「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」
(平成16年7月23日総合科学技術会議)(以下「平成16年の基本的考え方」という。)がまとめら
れ、人クローン胚の作成・利用について、研究目的を限定し容認するとしている。
そこでは、人クローン胚は、ヒト受精胚とは生物学的性質に相違があるが、母体内に移植すれば
人になり得る可能性を有することから、「人の生命の萌芽」としてヒト受精胚と倫理的に同様に位置
付けられるべきとしている。
そして、その取扱いについては、ヒト受精胚における基本原則が適用されるべきとし、ヒト受精胚
の取扱いの基本原則における例外的要件の条件等を満たすかどうかについての次の一般的考察
がされている。
科学的合理性等については、①ヒトES細胞を用いた再生医療が、難病等に対して有効な手段
になるとの確証はないが、動物モデルでの有効性が示唆されており、有力な候補であることは否定
できないこと、さらに、②体性幹細胞の利用などの他の手法についても確実な方法とは認められな
い現状であること、③ヒトES細胞研究の成果を再生医療技術として実現するためには、少なくとも
動物モデルで得た知見の適応検証等のために、人もしくは人の組織等を使用しなければならない
ことから、人クローン胚を用いた研究が必要となること、④難病等に関する治療のための基礎的研
究に限定し、人クローン胚の作成方法等に関する研究することから認められるとしている。
社会的妥当性については、現在は根治療法が無い様々な疾患や障害を抱え苦しむ多くの人々
に治療法を提供することから認められるとしている。また、体性幹細胞の利用等、人クローン胚を用
いない方法にも可能性がある段階で、あえて人クローン胚の作成・利用を行うことについては、患
者のより早期の救済という社会理念に照らせば、望ましい選択とは考え難いとし、段階的に研究を
進めることとし、パブリックコメントの結果等をも踏まえれば、このような社会選択には、十分な社会
的妥当性が認められるとしている。
(3) 現在、特定胚指針第2条において、特定胚のうち作成することができる胚の種類が限定されてお
り、当分の間、人クローン胚と動物性集合胚に限られている。
なお、特定胚指針が告示された平成13年当初は、動物性集合胚の作成のみが認められてい
24
た。
(4) 人クローン胚の作成の要件は、上記の平成16年の基本的考え方等を踏まえ、特定胚指針第9条
で、①人クローン胚を用いない研究によっては得られることができない科学的知見が得られる場合
であって、②次のいずれかに該当する疾患の患者に対する再生医療に関する基礎的研究のうち、
ヒトのES細胞を作成して行う研究であって、③新たに人クローン胚を作成することの科学的合理性
及び必要性を有するものに限られるとされている。
・ 人の生命に危機を及ぼすおそれのある疾患であって、その治療方法が確立しておらず、又は治療
の実施が困難な疾患
・ 不可逆的かつ著しい身体機能の障害をもたらす疾患であって、その治療方法が確立しておらず、又
は治療の実施が困難な慢性の疾患
2.研究目的(生殖補助医療の向上に資する研究)で、新たにヒト受精胚を作成すること
(1) 「平成16年の基本的考え方」において、ヒト受精胚の取扱いの基本原則をヒト胚の取扱いについ
ての共通原則とし、これに基づいた考察の結果、ヒト受精胚を損なうことになる研究目的の作成・利
用は原則認められないが、例外的に容認される場合もあるとし、また、ヒト胚は胎内に戻さず、取扱
いは原始線条形成前に限るとしている。そして、ヒト受精胚の研究目的での作成・利用は、「生殖補
助医療研究での作成・利用」及び「生殖補助医療の際に生じる余剰胚からのヒトES細胞の樹立の
際の利用」に限定して認め得るとされている。
生殖補助医療研究での作成・利用について、当該研究の主な目的に対しての一般的な考察結
果として、①今後とも、生殖補助医療技術の維持や生殖補助医療の安全性の確保に必要と考える
こと、②研究成果に今後も期待することには、十分科学的に合理性があり、社会的にも妥当性があ
るとしている。
(2) また、ヒト受精胚の生殖補助医療研究における作成・利用に係る制度的枠組みについては、新た
にガイドラインを整備する必要があるとされ、具体的な遵守事項として、①研究に用いたヒト受精胚
を臨床に用いないこと、②未受精卵の入手制限及び無償提供、③ヒト受精胚や未受精卵の提供の
際の適切なインフォームドコンセントの実施、④胚の取扱期間の制限、⑤ヒト受精胚を取扱う研究に
ついての記録の整備、⑥研究実施機関の研究能力・設備の要件、⑥研究機関における倫理的問題
に関する検討体制の整備及び責任の明確化、⑦ヒト受精胚や未受精卵等の提供者の個人情報の
保護、⑧研究に関する適切な情報の公開等を定める必要があると明示されている。
(3) さらに、平成16年の基本的考え方を受けて、文部科学省と厚生労働省は、平成21年4月に「生
殖補助医療研究目的でのヒト受精胚の作成・利用の在り方について」をまとめている。
(4) (3)の報告を踏まえ、 「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」(平成22
年12月17日厚生労働省・文部科学省告示)において、生殖補助医療の向上に資する研究のうち、
ヒト受精胚の作成を行う研究を対象に新たにヒト受精胚を作成することを認めている。
なお、当該ヒト受精胚は出産目的には使用できないとされている。
25
【参考4】
○本件に関する生命倫理専門調査会の開催状況 (関係分)
平成25年9月20日
第75回 生命倫理専門調査会
・ ES細胞等からの生殖細胞作成研究の動向について
ヒアリング(1)
野瀬俊明(慶應義塾大学船頭研究センター・教授)
平成25年10月18日 第76回 生命倫理専門調査会
・ ES細胞等からの生殖細胞作成研究の動向について
ヒアリング(2)
小川毅彦(横浜市立大学医学科分子生命医科学系列・教授)
平成25年11月27日 第77回 生命倫理専門調査会
・ ES細胞等からの生殖細胞作成研究の動向について
ヒアリング(3)
小倉淳郎(理化学研究所バイオリソースセンター・室長)
ヒアリング(4)
斎藤通紀(京都大学大学院医学研究科・教授)
平成25年12月20日 第78回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成の検討に係る議論
の進め方について
平成26年1月31日 第79回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成の検討に係る議論
の進め方について
平成26年3月12日 第80回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成の検討に係る議論
の進め方について
平成26年4月24日 第81回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成の検討に係る議論
の進め方について
平成26年7月25日 第82回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
ヒアリング(5)
盛永審一郎(福井大学・客員教授)
ヒアリング(6)
島薗 進(上智大学・特任教授)
26
平成26年8月22日 第83回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
ヒアリング(7)
秋葉悦子(富山大学経済学部・教授)
平成26年9月17日 第84回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
ヒアリング(8)
奥田純一郎(上智大学・教授)
平成26年10月10日 第85回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
平成27年2月24日 第87回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
平成27年4月17日 第88回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
平成27年6月3日 第89回 生命倫理専門調査会
・ ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成研究について
27
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