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平成 17 年 5 月 26 日 FASID ジュニア・プログラム・オフィサー 今井あい
平成 17 年 5 月 26 日 FASID ジュニア・プログラム・オフィサー 今井あい 最新開発援助動向レポート No.17 「IDA 第 14 次増資1」 背景 世銀グループの国際開発協会 (以下、IDA2)は、最貧国の経済成長、貧困削減、生活状況の 向上を目指し、譲許的条件で融資(ローン)及び無償資金(グラント)提供を行う組織で あり、通称第二世銀と呼ばれている。グラント供与は IDA 第 13 次増資(IDA 13)から本 格的に始まっており、その増減及び配分が注目されている。2005 年現在、IDA の借入国は 81 ヶ国である。IDA の資金源は、自己資金(IDA 加盟国及び卒業国からの返済及び投資の 収入等)、同グループの IBRD(国際復興開発銀行)の純利益からの移転の他、三年に一度、 主要メンバー国から拠出される拠出金(Contributions)である。三年ごとの増資交渉にお いて、世銀と加盟国の間で必要資金額及び各国のバードン・シェアリング(どの国がいく ら負担するか)が協議される。ミレニアム開発目標(以下、MDGs)達成のために貧困削減 が主眼に置かれている昨今、貧困削減戦略(PRS)や重債務貧困国(HIPCs)イニシアテ ィブ等と関連し、最貧国が主な対象国である IDA の重要性が IBRD よりも増す傾向にある。 概要 IDA 第 14 次増資交渉(IDA14)は、2004 年 2 月下旬のパリを初めとして 5 回開催され、 2005 年 2 月 22 日のワシントンの会議において合意に至った3。今回決定された増資は、2005 年 7 月から 3 年間、ローン及びグラントとして供与されるものである。第 14 次増資交渉に おいては、MDGs の達成の重要性や特に達成率が悪いサハラ以南アフリカへの追加的な援 助の重要性が強調され、前回増資に比べ大幅な増額が決定された。IDA134においてはロー ンとグラントの比率が焦点となったが、IDA14 においてはグラントを援助裨益国にどのよ うに配分するかが交渉の焦点となった。IDA14 の新機軸としては、各国の債務リスクに基 1 2 3 4 IDA 14 に関する全てのペーパーは World Bank ウェブサイト http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/EXTABOUTUS/IDA/0,,contentMDK:20168247~me nuPK:370069~pagePK:83988~piPK:84004~theSitePK:73154,00.html から入手できる。なお、本レポ ートは世界銀行 IDA14 担当局エコノミストの高田氏の協力を得た。 IDA は International Development Association の略。詳細は FASID 課題別基礎情報:援助機関・国「世 界銀行」参照。http://dakis.fasid.or.jp/report/information/worldbank.html 第 2 回から 4 回の会合は 7 月にハノイ、10 月にワシントン、12 月にアテネで行われた。 詳細は「FASID 開発援助の新しい潮流:文献紹介 No.13」参照。 づく新たなグラント配分方法の導入、結果測定システムの導入が挙げられる。IDA13 との 違いはグラントの配分を分野別ではなく国別によって行うということであろう。 内容 1) 大規模な増額 IDA14 におけるドナー各国の拠出額は 141.3 億 SDR であり、この数字は、IDA13 におけ る拠出額と比較して、25%の増額であり、また、過去最高額を記録している。ドナー各国 は、第 4 回のアテネでの会合において IDA14 の最終的な目標増資額(ドナー各国の拠出額 に加えて、融資の返済、IBRD 純利益からの移転等からなる総額)を IDA13 の 30%増とし ており、その目標達成のために、新たな拠出金の創出を試みる国もある。今回の増資交渉 において、目立った動きは欧州各国の大幅な拠出額増である。例えば、スウェーデンは前 回 IDA13 と比較して約 2.2 倍、フランス、スペインは約 70%増しの増額を提示した。また、 アフリカの最貧国への援助を最重要視している英国は、前回と比較して 83%の増額を図り、 総額、シェア共に前回の 4 位からドイツ、日本を抜いて 2 位に上昇した。主要ドナー各国 が軒並み増額を提示した一方で、唯一米国のみ前回比 14%の減額をした。米国は依然とし て総額に占めるシェアはドナー拠出国中第 1 位であるものの、その割合は前回の 20%超か ら 14%弱へと大幅に縮小する形になった。なお、昨今 ODA の減額により援助協調に消極的 な姿勢が見られる日本は、かろうじて前回比約 8%の増額を提示した。 2) グラント配分 IDA からの途上国への資金供与は譲許的ローンによるものが中心であったが、第 13 次増資 以降、本格的なグラント供与が認められるようになった。前回の IDA13 においてグラント の比率は約 20%であったが、IDA14 では約 30%にまで上昇する見込みである。これは、 IDA14 期間中の援助裨益国のパフォーマンスの変化、債務困窮度の変化等によって変動し 得るため、あくまでも見込みに過ぎないが、大幅な割合の上昇である。このことは、「返済 の義務付けにより資金は生産的に使われ裨益国の自助努力を支援する」という目的に沿っ てローンを方策とする IDA 設立当初からの理念が、変化を促されたことを如実に表してい る。この結果、IDA は無償援助額において世界最大の機関となり、UNDP 等他の国際機関 との援助協調の調整が必至であろう。 2-1) 各国の債務リスク(Country’s risk of debt distress) グラントの配分基準として、IDA14 より新たに各国の債務リスクに基づいた方法が導入さ れた。IDA13 においても、重債務国がグラント供与の対象となっていたが、グラント比率 の上限が各援助裨益国に対する年間 IDA 供与総額の一定割合に設定されていたため、各国 の異なる債務履行レベルに対応していなかった。しかしながら、より効率的な援助を実施 するためには裨益国別の実際的あるいは潜在的な債務履行レベルを明らかにし、ニーズに 応じたグラント供与を行う必要があるとして、世銀と IMF が共同で、IDA 援助裨益国の債 務困窮度を測るフレームワークを提案した5。このフレームワークでは、国別政策・制度評 価(CPIA)6と債務支払い能力を示す指標7を用いて、各被援助国の債務困窮度を測り、そ の度合いを低、中、高程度にランク付けする。ランクの低い方から、各国向けの IDA 資金 援助が 100%ローン、ローンとグラント半々ずつ、100%グラントの 3 つに分類される。こ のフレームワークは、HIPC イニシアティブが過去の負債を軽減する目的を持つのと対照的 に、将来的に債務が持続不可能なレベルにまで累積することを回避する目的がある。この 配分方法の導入により、IDA14 のグラントを受ける国は 50 カ国程度となる見込みである。 (2004 年 11 月時点の各国の IDA 資金配分額及びグラント割合見込みは別紙参照。 ) 2-2) 20%ディスカウント8 IDA 資金の配分(ローン、グラント問わず)は IDA13 と同様に、CPIA を用いた Performance Based Allocation System に基づいているが、新たなフレームワークの導入により、修正が 伴うこととなった。債務支払い能力が低く、債務困窮度が高程度と判断された国に援助額 の減額なしにグラントを供与することは、政策・制度評価の高い国により多くの IDA 資金 を配分するという IDA 資金配分の原則に反し、モラルハザードを引き起こす可能性がある。 そのため、グラントとして配分される額には一律 20%の減額を伴う処置が施される9。 2-3) グラント・ファイナンス10 IDA のグラント比率が上昇することは、IDA の譲許性を高めることになるが、将来の融資 からの資金還流(元本返済等)を減じ、IDA の深刻な資金不足に発展し得る。この危険性 を回避するために、施策を講じる必要があり、IDA14 会合中に二つの提案が出された。一 つは、ドナー各国が更なる拠出に応じることであり、もう一つはグラントの受け手にチャ ージをする、あるいは融資の条件を厳しくするというものである。しかしながら、後者は IDA 裨益国の健全な発展を妨げる要因となり、現実的な施策とはいえないため、グラント の結果として損失される資金分をドナー各国が追加拠出することが理想とされている。 5 Debt Sustainability in Low Income Countries : Proposal for an Operational Framework and Policy Implications by Mark Allen and Gobind Nankani, IMF and IDA, February 3, 2004 6 CPIA は Country Policy and Institutional Assessment の略で、4つの基準(経済運営、構造に関する 政策、社会的包含・平等化政策、公共セクターの管理と制度)に基づき、合計 20 の政策、制度に関して の項目を評価するようになっている。 債務正味現在価値国内総生産比率、債務正味現在価値輸出比率、債務返済輸出比率の 3 つが用いられた。 7 8 別紙 Table の”After a 20% Discount on Grants (b)”について 9 詳しくは Debt Sustainability and Financing Terms in IDA 14, IDA June 2004 参照。 開発援助の新しい潮流:文献紹介 No.46」参照。 10グラント・ファイナンスの考察については、 「FASID 2-4) 今後の課題 IDA14 で導入されたフレームワークによる債務削減策は、低所得国が IDA の枠組みにおい て債務持続可能性を図ることには有効である。しかしながら、このフレームワークは、他 の援助機関や、二国間援助においても同様に適用されるものではない。このことは特に、IDA による援助の占める割合が小さい国において特に重要である。そのため、ドナー間の効率 的な調和が債務持続可能性を達成するために不可欠であり、国際コミュニティはこのこと を認識する必要がある。 3) 結果測定の重視11 MDGs 及び各 IDA 諸国の長期的な目標達成のためにより効率的な援助を重視することから、 従来以上に結果測定の重要性が唱えられ、IDA14 では新たなシステムが導入され、以下の 二点が強調されている。 ① 国別成果の進度をモニターする ・ IDA14 以降、各国の集積された成果を IDA の事業に最も適切で測定可能な指標に基づ いてモニターし、3 年毎の増資サイクルで報告する。 ・ IDA の主要なセクターでの新たな事業における主要項目の成果をモニターできるよう に策定する。 ② IDA の貢献度、パフォーマンスをモニターする。 ・ 新たな IDA のプロジェクトに結果追跡機能が組み込まれるように管理、評価の段階で 徹底する。 ・ プロジェクトの成果や保健、教育、水、交通分野における IDA のパフォーマンスの改 良を測り、モニターする。 IDA の結果測定システムは、国別の開発目標に IDA のプログラムがより直結し、効率性及 びパフォーマンスを高めることを目的としているが、同時に、この測定は他の援助機関や 二国間援助にも影響を及ぼし得る。そのため、目標が実利的、費用効果的に達成されるた めに今後の IDA システムの慎重な検討が益々重要になる。なお、本年 3 月に行われたパリ・ ハイレベル・フォーラム12においても援助の結果ベースの管理及びモニタリング・システム の導入が採択され、本年 9 月の「ミレニアム+5」サミットまでに具体的な指標を設置する 方向である。 11 12 詳しくは IDA Results Measurement System : Recommendations for IDA14 June 24, 2004, Debt Sustainability and Financing Terms in IDA14 : Technical Analysis of Issues and Options IDA September 2004, Debt Sustainability and Financing Terms in IDA14 : Further Considerations on Issues and Options IDA November 2004 参照。 詳しくは FASID 国際開発援助動向研究会第 39 回会合議事録参照。 コメント IDA14 の初年である 2006 年(2005 年 7 月~2006 年 6 月)は MDGs の中間レビューが行 わ れ る 年 で も あ り 、 IDA14 の 政 策 の 枠 組 み は ”Working Together to Achieve the Millennium Development Goals”というコンセプトが強調されている。昨今の援助協調の 潮流を受けて、IDA14 においても、包括的開発フレームワーク評価に基づいて他の援助機 関の調和と援助裨益国との整合性が繰り返し強調された。その原点に沿って、大幅なグラ ント供与の割合が決定され、MDGs の達成に直結的な貧困削減に益々重点が置かれている といえる。 今回の増資交渉においては、アフリカの最貧国への援助を重要視する欧州各国の積極的な 貢献を受けて全体として大規模な増額をもたらす結果となった。また、昨今援助協調への 消極的な姿勢が指摘される日本であるが、欧州各国の増額に引っ張られる形で IDA14 にお いては増額を提示し、今後の ODA 増額への前向きな兆しを伺わせたといえるだろう。 更に、HIPC イニシアティブと IDA14 で新たに導入された超過債務によるカントリー・リ スクを測定するシステムの併用により、債務救済策の強化が図られた。これにより、多く の援助裨益国で援助額の大半が教育、保健衛生改良等の社会開発よりも、債務返済に充て られている現状の改善が期待される。その一方で援助額の増加に伴う裨益国の援助吸収能 力の問題が益々注目されるだろう。政策も制度も、改善するには時間がかかる。早急かつ 巨額の援助増加が行われた場合、援助が有効に使われない危険性は高い。実際のところ、 良好な制度・政策評価が国民生活の改善にどの程度直結しているかは測りにくいため、仮 にガバナンスが良好であっても現場がついてこられるかどうかは別問題であろう。IDA14 から国別制度・政策評価及び結果測定システムが併用されることになったが、これにより、 長期に渡る制度・政策と結果の関係性が明確化され、今後の援助政策の方向性を示唆する ことが期待される。 別紙 出典:”Debt Sustainability and Financing Terms in IDA14: Further Considerations on Issues and Options” International Development Association, November 2004