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口唇裂口蓋裂患者における顎顔面成長変化に関する研究

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口唇裂口蓋裂患者における顎顔面成長変化に関する研究
口唇裂口蓋裂患者における顎顔面成長変化に関する研究
-乳 幼 児 期 か ら 成 人 ま で の 経 年 的 変 化 -
A study on maxillofacial growth
of patients with cleft lip and/or palate.
- Longitudinal changes from infancy to adolescence -
2013 年
九州大学大学院歯学府
口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野
田村 直子
本研究の一部は以下の学術雑誌に投稿中である。
日本口蓋裂学会雑誌
口唇裂口蓋裂患者における顎顔面成長変化に関する研究
-乳 幼 児 期 か ら 成 人 ま で の 経 年 的 研 究 -
田村直子
笹栗正明
鈴木陽
中村誠司
2
略語一覧
ANOVA : analysis of variance
ICC : intraclass correlation coefficient
UCLA : unilateral cleft lip and alveolar
UCLP : unilateral cleft lip and palate
CP : cleft palate
SD : standard deviation
ns : not significant
SN 比:
距離的計測頄目計測値
前頭蓋底長計測値
×100 (%)
3
目次
貢
Ⅰ.要旨
5
Ⅱ.緒言
8
Ⅲ.女性における口唇裂および口蓋裂の有無による比較
Ⅲ -1.対 象
12
Ⅲ -2.結 果
21
Ⅲ -3.考 察
31
Ⅳ.男性における口蓋裂の有無による比較
Ⅳ -1.対 象
42
Ⅳ -2.結 果
43
Ⅳ -3.考 察
47
Ⅴ.総括
51
Ⅵ.謝辞
52
Ⅶ .参 考 文 献
53
4
Ⅰ.要旨
口唇裂口蓋裂(CL/P)は、組織欠損や形成手術による形態異常が問題となる
ため、治療の遂行にあたっては顎顔面の潜在的な成長能や顎顔面の成長に対す
る外科・矯正治療の影響を把握しておくことが重要である。本研究では、口唇
裂または口蓋裂の有無による顎顔面成長パターンの違いを明らかにするために、
同一患者の乳幼児期から成人までの正面・側面頭部X線規格写真を用いて経年
的な顎顔面形態の変化を検討した。
対象は、九州大学病院(2003 年以前は九州大学歯学部附属病院)で口唇また
は口蓋形成術後に矯正歯科で治療を受けた CL/P 患者のうち、口唇形成術時 (4
か月)、口蓋形成術時(約 2 歳)、5 歳時、10 歳時および 15 歳以上の 5 時点
の経年的資料が得られた女性 46 例、男性 42 例である。女性患者は片側性口唇
顎裂(UCLA)11 例、片側性完全唇顎口蓋裂(UCLP)22 例、口蓋裂(CP)13 例
であり、男性患者は UCLA 14 例、UCLP 28 例であった。正面・側面頭部X線規
格写真をトレースし、二次元座標読み取り装置より座標入力後、顎顔面形態を
表す距離および角度を計測し、反復測定分散分析により裂型間の成長パターン
の相違を比較した。
(1) 女性における口蓋裂および口唇裂の有無による比較
女性における UCLA と UCLP の比較では、上顎の前方成長を表す部位は成長パ
ターンが異なり、5 歳時から口蓋裂を有する UCLP の方が小さくなっていた。前
上顔面高、後上顔面高ともに成長パターンに違いはなかったが、後上顔面高は
乳児期から UCLP の方が小さかった。下顎体長と下顎骨体長は成長パターンの違
いはなかったが、そのサイズは UCLP の方が小さかった。
CP と UCLP の比較では、ANS-PNS などの上顔面前後径を表す部位で成長パター
ンに違いを認め、口唇裂のある UCLP の方が成長量が尐なく 15 歳以降で有意に
5
小さかった。前上顔面高、顔面幅径、下顎骨は成長パターンに差を認めなかっ
た。
上顎骨の幅径において、口蓋裂があると眼窩、鼻腔、上顎歯槽などの上顎骨
幅径は術前に大きくなる傾向にあった。また、口唇裂があると内眼窩と上顎歯
槽などの幅径が大きくなる傾向にあった。
(2)男性における口蓋裂の有無による比較
男性における UCLA と UCLP の比較では、上顎の前方成長を表す部位や後上顔
面高は成長パターンが異なり、15 歳以降では口蓋裂を有する UCLP の方が小さか
った。前上顔面高および下顎の全ての計測頄目では成長パターンもサイズも違
いがなかった。
以上のことより、口蓋裂と口蓋形成術の場合は、男女ともに上顎の前後的成
長には抑制的に働くが、前上顔面高の成長には影響を及ぼさないことが判った。
下顎骨に関しては、口蓋裂は女子では部分的に成長を抑制するが、男子では影
響を及ぼさないことが判った。また、上下顎ともに部位により口蓋裂による影
響に性差があることが判った。一方、口唇裂と口唇形成術の場合には、上顎の
前後的成長および後上顔面高の成長に抑制的に働くが、前上顔面高には影響せ
ず、その他の顔面の成長パターンにも影響を及ばさないことが判った。
上顎幅径に関しては、口蓋裂がある場合は眼窩、鼻腔、上顎歯槽などの幅径
は術前に大きくなり、口蓋形成術は上顎骨 のより下方の上顎歯槽基底部の側
方 成 長 を阻害する影響を及ぼしている ことが 判った。内眼窩間幅径および
上顎歯槽基底幅径に関しては、口蓋裂の影響だけではなく口蓋前方部の裂や口
唇裂もその側方成長に大きく関わっており、その幅径を大きくする傾向にある
と考えられた。
6
Ⅱ.緒言
口唇裂口蓋裂(CL/P)は、顎顔面口腔領域の先天的な組織欠損があり、形成
手術後も顎顔面の劣成長や形態異常が問題となる。そのため CL/P 患者の治療
の遂行にあたっては、潜在的な成長能や外科・矯正治療が顎顔面成長に及ぼす
影響を把握しておくことが重要である。Graber(1)が手術例の CL/P 患者より
も未手術例の顎顔面頭蓋の成長の方が非破裂者のそれに近く良好であったと報
告して以来、口唇および口蓋形成術の侵襲が顎顔面発育に与える影響が注目さ
れるようになった。特に口蓋形成術が上顎骨の前方成長の抑制をもたらす原因
として、Ross(2)は push back 法による手術侵襲が蝶形骨翼状突起と上顎結
節から口蓋部全域に瘢痕組織を形成し、上顎骨後方部における骨添加の阻害に
よって繊維性、瘢痕性結合を引き起こすことを指摘している。
CL/P 患者の形成手術後の顎顔面形態と非破裂者のそれを比較し、CL/P 患者
の顎顔面形態の特徴を指摘した報告は多い(3-12)。頭蓋底の前後的成長に関し
て、未手術例より小さいとするもの(3,4,11)、差がないとするもの(5,8-10,
13)など様々な部分があり一定の見解が得られていない。また多くの報告では、
上顎歯槽基底前後径の短小(4,7,13,14)、上顎骨の後方位(5,8,15,16)、
中顔面高の短小(4,8,13)、下顎枝高の短小(4,5,8,11,13,17)、下顎角
の開大(4,8,10,11,13,18)、下顎骨の後方位(8,19)などの劣成長や形
態異常が指摘されている。しかし、そうした過去の報告は組織欠損である裂部
に対してさらに形成手術の侵襲が加わった後の評価であったため、顎顔面頭蓋
そのものの先天的な成長能については言及できなった。その後、非破裂者との
比較(18,24,25,27,28)や未手術の CL/P 患者の顎顔面発育に関する検討(29
-34,37)がなされ、CL/P 患者は術前に特徴的な顎顔面形態を有しているだけ
でなく、もともと劣成長を表す部位があり、さらにその部位に形成手術などの
7
侵襲が加わることで、顎顔面の成長過程において低形成となることが指摘され
た。
また、こうした過去の報告は頭部X線規格写真を使用しているが、そのほと
んどは横断的研究であり経年的研究は尐ない。CL/P 患者の長期的な経年的資料
の採取は困難である。それは CL/P の治療が機能回復または獲得のために早期
かつ長期の経過を要し、多方面の専門的治療を同時期に必要とするため通院が
煩雑になるためである。すなわち、CL/P は言語、咀嚼、呼吸、審美などに関わ
る口腔顎顔面領域の重要な機能部位に存在する疾患であるため、成長段階に応
じて口腔外科・形成外科、言語治療、矯正治療、小児歯科、耳鼻咽喉科、小児
科、精神科など多科の受診が必要になるが、その長期の成長発育期間には社会
生活環境のさまざまな変化が起こるためである。こうした事情から、経年的研
究であっても対象期間が成長終了とみなされる思春期後までのものでないこと
が多い。しかし、限られた期間の経年的資料では、各々の部位で起こる一連の
成長が分断され、その前後の成長変化が見逃されてしまう可能性がある。なぜ
なら、頭蓋顎顔面の発育は個体内で調和を保ちつつも、成長の著しい時期や成
長変化はその部位によって時期によっても異なるためである。多方面の専門的
治療を要する CL/P 患者において、その治療自体が顎顔面頭蓋発育を複雑にして
いることを鑑みれば、研究の対象期間を設定する際に、治療時期や各部位の成
長が著しい時期に対する配慮が必要不可欠であることは言うまでもない。
昨今では、限られた期間の経年的研究ではあっても、CL/P 患者の治療と発育
に関して、様々な論点から報告がなされてきた。年齢別、裂型別、性別、術式
による研究(18,19,20,38,39,40)のみならず、術前後や手術別、さらに
は歯科矯正治療の経緯にも着目した研究も散見される(41,42)。CL/P 患者の顎
顔面成長に関する研究においては、藤野(43)が本邦で初めて導入した「チー
8
ム医療」によって、九州大学では治療前の乳児期から思春期成長を越すまでの
一貫した治療での顎顔面形態の経年的評価資料を得ることができるようになっ
た。
これまでの研究では、資料を採取した各時期の平均値と成長変化量を分析し
て、顎顔面成長における裂型間の差を評価していた(14,24,39,40,44- 46,
48)
。これらの裂型間の比較は、ある時期の断続的な比較であり、経時的な成長
全体を統計学的に有効に評価し得たものではなかった。過去の報告においては、
成長過程の長期的な経時的変化を成長パターンとしてとらえ、統計学的に評価
している報告は見られない。
そこで本研究では、裂型別の成長パターンを比較するために、5 つの時期で
の経時的データを用いて、統計学的に一連の成長パターンと捉えて比較するこ
とができる反復測定分散分析を適用した。裂型とそれに対応する形成手術の影
響を評価するため、片側性口唇顎裂(UCLA)と片側性唇顎口蓋裂(UCLP)、なら
びに口蓋裂(CP)と UCLP における顎顔面形態の比較を行った。すなわち、口
蓋裂の存在と口蓋形成術の施行による影響を評価するために UCLA と UCLP の
比較を行い、口唇裂の存在と口唇形成術の施行による影響を評価するために、
CP と UCLP の比較を行った。CL/P 患者の顎顔面発育において性差があること
が報告されているため(13,20,39)、男性と女性に分けて分析を行った。
CL/P 患者と未手術患者の顎顔面形態の成長パターンを比較することで、口唇
形成術や口蓋形成術の形成手術の影響を評価することができる。しかし、非破
裂者の乳幼児期からの経年的資料採取は困難で、未手術症例の資料も入手する
ことはできない。このように非破裂者や未手術例の乳幼児期から思春期以降ま
での経年的な資料採取は困難であるため、今回は反復測定分散分析(repeated
measured ANOVA)を用いて CL/P 患者の顎顔面発育の成長パターンを統計学的に
9
パターン化して、裂型による成長パターンの違いを比較した。本研究において
は、CL/P 患者の頭蓋顎顔面成長の過程を見すえた治療を遂行する一端を担うべ
く、裂型の違いおよび形成手術による CL/P 患者の顎顔面形態への影響をその成
長パターンでとらえることを目的とし比較検討を行った。
10
Ⅲ.女性における口唇裂および口蓋裂の有無による比較
Ⅲ-1.対象
対象は、九州大学病院(2003 年以前は九州大学歯学部附属病院)にて 1975 年
から 1987 年までに口唇および口蓋形成手術を受けた後、同病院矯正歯科で矯正
治療を受けた CL/P 患者のうち、初回形成術時から思春期成長以降までの経時的
な頭部X線規格写真の資料が得られた女性 46 名である。裂型の内訳は、UCLA 11
例、UCLP 22 例、CP 13 例であった。
口唇形成術は平均 4 カ月時 に Cronin 法に準じて行い、全症例において
McNeil 床、Hotz 床、Latham 装置などを用いた前顎矯正治療は行われていない。
口蓋形成術は平均 2 歳時に Wardill 法に準じた Push back 法にて行った。こ
れらの症例は 4 歳時から正歯科にて咬合管理を開始し、5 歳時に検査を受け経
過観察を行い、上顎中切歯萌出期にリンガルアーチ装置を用いて歯の捻転の改
善を行った。9 歳時から上顎歯列弓の狭窄を表す症例においては上顎歯列弓の
拡大を行い、顎裂部犬歯が萌出する前の 10 歳時に顎裂部に自家腸骨移植術を行
い、骨移植術前に検査を行った。術後セクショナル・アーチ装置を用いて移植
骨の吸収を防止するため、移植骨へ後方歯の移動を行った。その後、第二大臼
歯が萌出すると、マルチブラケット装置を用いて最終的な歯の排列を行い咬合
を確立した。概ね 18 歳頃にこれらの治療を終了し、保定装置を装着し咬合の後
戻り等について経過観察を行っている。歯列矯正は顎内矯正のみで、チンキャ
ップなどの顎間矯正は行っていない。
研究資料は口唇形成術時(stage 1)、口蓋形成術時(stage 2)、5 歳時(stage
3)、10 歳時(stage 4)、15 歳以降(stage 5)の 5 つの時点で撮影された正面・
側面頭部X線規格写真(セファロ) である。(図 1、表 1)
11
stage 1
stage 2
図1
stage 3
stage 4
stage 5
正面・側面頭部X線規格写真
口唇形成術時(stage 1)、口蓋形成術時(stage 2)、矯正治療前 5 歳時(stage 3)、
矯正治療中 10 歳時(stage 4)、15 歳以降(stage 5)の 5 つの時点で正面・側面頭部
X線規格写真を示す。stage 1 および stage 2 では経口気管内挿管された状態である。
表1
stage
UCLA (n = 11)
UCLP (n = 22)
CP (n = 13)
stage 1
3.6±0.7 か月
4.3±1.1 か月
なし
症例内訳と手術時平均年齢
stage 2
なし
1.7±0.5 歳
1.5±0.5 歳
stage 3
4.7±0.5 歳
4.7±0.6 歳
4.9±0.3 歳
stage 4
10.3±0.5 歳
9.9±0.7 歳
10.3±0.5 歳
stage 5
15.8±1.4 歳
16.9±1.7 歳
16.7±1.6 歳
口唇ならびに口蓋形成術時のセファロは、経口気管内挿管による全身麻酔下
に、手術室に設置した仰臥位撮影の乳幼児用 2 向頭部X線規格写真撮影装置(図
2)を用いて撮影した。(47)撮影条件は、X線管球の焦点から被写体中心矢状
面までの距離を 150 cm、被写体中心からフィルムまでの距離 15 cm、管電圧 78-80
KV、管電流・秒 18 mAs とした。経口気管内挿管による全身麻酔下で撮影されて
いるので開口状態である。5 歳以降の頭部X線規格写真は、通法に従って患者
12
は座位で、顎位は中心咬合位で咬合した状態とし、顔面フランクフルト平面を
床に平行にして撮影した。
図 2 乳幼児用2方向頭部X線規格写真撮影装置
X線管球の焦点から被写体中心矢状面までの距離を 150 cm、被写体中心からフィル
ムまでの距離 15 cm、管電圧 78-80 KV、管電流・秒 18 mAs で経口気管内挿管による全
身麻酔下で撮影を行った。
正面・側面セファログラムの顎顔面骨格形態のトレースを行い、トレース上
に設定した計測基準点のX、Y座標を二次元座標読み取り装置 KD4030(Graphtec
社製、東京、日本)で読み取り、演算により頭蓋と上下顎における角度的、距
離的計測値を求めた。計測基準点と基準平面を図 3、4 に示す。基準平面として、
フ ラ ン ク フ ル ト 平 面 ( Frankfult horizontal plane : FH )、 下 顎 下 縁 平 面
(Mandibular plane:MP)、口蓋平面(Palatal plane:P.P)、前頭蓋底(Anterior
13
cranial base:SN)、咬合平面(Occlusal plane:OP)、下顎枝後縁平面(Ramus
plane:RP)を用いた。距離的頄目の一部は、症例間の頭蓋骨の大きさの差を考
慮して前頭蓋底(S-N 間距離)を 100 として補正した SN 比で表した。
IO, IO’:左右眼窩の最内側点
OO, OO’:左右眼窩の最外側点
Zyg, Zyg’:左右頬骨弓最外側の上縁点
NC, NC’:左右梨状口の最外側点
Cl, Cl’:左右下顎顆頭の最外側点
Mx, Mx’:左右上顎骨基底部の最外側点
Go, Go’:左右下穎骨基底部の最外側点
図 3 正面頭部 X 線規格写真の計測基準点
N:前頭鼻骨縫合部の鼻前頭最前点
S:トルコ鞍の壺状映像の中点
Ba:大後頭孔の前縁部の正中点
Or: 左右の眼窩骨縁最下点
ANS:前鼻棘の最先端点
PNS:後鼻棘の最前端点
A:上顎歯槽骨基底の前方限界
Pr:上顎中切歯間歯槽突起の最前先端点
(上顎乳中切歯が未萌出の場合は口蓋平面に対して
上顎歯槽部の最下点)
Ptm:翼口蓋窩の透過像の最下点
Pog:下顎骨下縁平面を基準としたオトガイ部の最前点
Me:オトガイ部断面像と下顎骨下縁の交点
Go:RPとMPの交点Gのなす角の二等分線が下顎骨縁と交わる点
Po:骨外聴道の上縁
Ar:下顎枝後縁と側頭骨下縁との交点
Cd:下顎骨顆頭の最上点
G :下顎下縁平面と下顎後縁平面の交点
Id:下顎中切歯間歯槽突起の最前先端店
B :下顎歯槽基底の前方限界
Gn:Facial plane と Mandibular plane との交角の二等分線が
下顎骨オトガイ部と交わる点)
Z :SN と RP の交点
G :RP と MP の交点
図 4 側面頭部 X 線規格写真の計測基準点
14
顎顔面形態に関する計測頄目または計測部位
(1)正面頭部 X 線規格写真における顎顔面幅径
OO-OO’: 外眼窩間幅径
IO-IO’: 内眼窩間幅径
Zyg-Zyg’: 頬骨弓間幅径
NC-NC’: 最大梨状孔幅径
Mx-Mx’: 上顎歯槽基底幅径
Cl-Cl’: 外顆頭間幅径
Go-Go’: 下顎角間幅径
(2)側面頭部 X 線規格写真における距離および角度計測頄目
a.距離計測頄目
頭蓋底計測頄目
S-N: 2 点 S と N 間の距離、前頭蓋底長
S-Ba: 2 点 S と Ba 間の距離、後頭蓋底長
N-Ba: 2 点 N と Ba 間の距離、全頭蓋底長
上顎骨に関する計測頄目
N to PP: 点 N から平面 PP に下ろした垂線の長さ、前上顔面高径
Or to SN: 点 Or から平面 SN に下ろした垂線の長さ
Or to PP: 点 Or から平面 PP に下ろした垂線の長さ
Pr to PP: 点 Pr から平面 PP に下ろした垂線の長さ、上歯槽骨高径
N-ANS: 2 点 N と ANS 間の距離、前上顔面高径
15
ANS-PNS: 2 点 ANS と PNS 間の距離、上顔面下部長径
ANS-Pr: 2 点 ANS と Pr 間の距離、前歯槽骨高径
S-PNS: 2 点 S と PNS 間の距離、後上顔面高径
A’-Ptm’: 点 A と点 Ptm から平面 PP に下ろした垂線の足(A’、Ptm)
の間の距離
下顎骨に関する計測頄目
G-Cd: 2 平面 MP と RP の交点 G と点 Cd との距離、下顎枝高径
Cd-Pog: 2 点 Cd と Pog 間の距離、下顎骨長
Gn-Cd: 2 点 Gn と Cd 間の距離、下顎骨長
Pog-G: 2 点 Pog と G 間の距離、下顎骨体長
Me-G: 2 点 Me と G 間の距離、下顎骨体長
Pog-Go: 2 点 Pog と Go 間の距離、下顎骨体長
Id-Me: 2 点 Id と Me 間の距離、下顎縫合部高
b.角度計測頄目
Facial plane angle: N-Pog to FH
Angle of Convexity: N-A-Pog
A-B plane angle: A-B to N-Pog
Mandibular plane angle : MP to FH
SNP: SN 平面と N-P を結んだ線分とのなす角
SNA: SN 平面と N-A を結んだ線分とのなす角
SNB: SN 平面と N-B を結んだ線分とのなす角
ANB: N-A と N-B のなす角
SNBa: SN 平面と S-Ba を結んだ線分とのなす角
NSGn: SN 平面と S-Gn を結んだ線分とのなす角
16
Y-axis: S-Gn to FH
Gonial angle: Ar-Go-Me
Ramus inclination: RP to FH
GZN: RP to SN
統 計 解 析方法
(1) UCLA と UCLP の 2 群間において、また(2)CP と UCLP の 2 群間におい
て各計測時期の計測を行い、その成長パターンを比較するために、反復測定
分散分析(repeated measures ANOVA)により時間と裂型の 2 要因交互作用の
有無を解析し、有意水準 0.05 未満の場合を「交互作用あり」とした(統計パ
ッケージ JMP5.01J、SAS Institute、USA)。「交互作用あり」の場合は裂型間
で成長パターンが異なることを意味し、
「交互作用なし」の場合は裂型間で成
長パターンが同じであることを意味する。交 互作 用の有無に基づ いて個々
の検定にすすみ、「交互作用あり」の場合は各計測時期で分散分析を
行 い 裂型間の差が顕在 化する時期を同定 した。一方、
「交互作用なし」の
場合は同時に裂型間の形態差の有無まで解析されているので、形態差を認め
た計測頄目においては、データの従属性を考慮している調整された Student t
検定により、裂型間の大小を検定した。(図 5)
17
図 5
統計解析の流れ
反復測定分散分析法 ( repeated measured ANOVA) で 交 互 作 用 の 有 無 す な わ ち 、
成 長 パ ター ン の違 い の有 無 を 検討 し た。図 のよ う に 交互 作 用の 有 無に 基 づ いて
個 々 の 検定 に すす み 、
「 交 互 作用 あ り 」の 場合 は 各 計測 時 期で 分 散分 析 を 行い 、
「交互作用なし」の場合は形態差がある場合のみデータの従属性を考慮している調整さ
れた Student t 検定を行い、裂型間の大小を検定した。
計測の信頼性
評価者内の計測の信頼性を評価するために、無作為に stage 1 から stage 5
18
の各ステージを全て含む 10 症例を抽出し、同一検者が 1 カ月の期間をおいて 2
回トレースを行い、透写図から計測した。2 回の計測に基づく計測値の級内相関
係数(intraclass correlation coefficient、ICC)を計算し、評価者内信頼性
を検討した。
19
Ⅲ -2. 結 果
1. 計測の信頼性
計測の評価者内信頼性を示す級内相関係数は、全ての計測頄目で、いずれの
計測時期においても 0.85 から 0.99 であり、本研究のセファロ計測における
評価者内信頼性は良好であった(表 2)
表 2 級内相関係数
距離的計測項目 (㎜)
正貌計測項目
Oo
Io
Zyg
Nc
Mx
Cl
Go
-
Oo '
Io '
Zyg '
Nc '
Mx '
Cl '
Go '
stage 1
stage 2
stage 3
stage 4
stage 5
0.94
0.91
0.94
0.93
0.86
0.97
0.98
0.94
0.93
0.94
0.90
0.92
0.98
0.95
0.95
0.91
0.87
0.85
0.85
0.95
0.99
0.99
0.95
0.97
0.90
0.98
0.96
0.97
0.98
0.94
0.98
0.96
0.98
0.88
0.99
0.93
0.99
0.97
0.93
0.90
0.92
0.99
0.92
0.97
0.90
0.93
0.92
0.92
0.94
0.93
0.92
0.91
0.90
0.96
0.85
0.99
0.93
0.99
0.98
0.94
0.91
0.90
0.99
0.92
0.93
0.91
0.93
0.99
0.98
0.94
0.98
0.99
0.99
0.99
0.99
0.95
0.99
0.95
0.99
0.94
0.93
0.98
0.96
0.93
0.93
0.92
0.99
0.98
0.98
0.95
0.98
0.99
0.99
0.97
0.93
0.96
0.96
0.96
0.94
0.98
0.97
0.95
0.97
0.97
0.98
0.99
0.99
0.91
0.97
0.94
0.99
0.97
0.90
0.99
0.98
0.92
0.97
0.93
0.94
0.98
0.99
0.91
0.92
0.97
0.96
0.95
0.99
0.90
0.97
0.98
0.92
0.94
0.92
0.93
0.91
0.95
0.96
0.93
0.93
0.98
0.99
0.93
0.93
0.95
0.94
0.96
0.93
0.92
0.93
0.99
0.98
0.98
0.99
0.95
0.92
0.97
0.95
0.96
0.96
0.95
0.94
0.94
0.92
0.96
0.96
0.94
0.96
0.97
0.99
0.98
0.98
0.99
0.99
0.99
0.99
0.92
0.94
0.99
0.97
0.98
0.98
0.96
0.99
0.98
0.99
0.96
0.99
0.99
0.99
0.98
0.98
0.95
0.91
0.94
0.99
0.98
0.99
0.99
0.90
0.90
側貌計測項目
N-Ba
S-N
S-Ba
N to PP
Or to SN
Or to PP
ANS-Pr
Pr to PP
N-ANS
S-PNS
A'-Ptm'
ANS-PNS
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
G-Cd
Me-G
Pog-Go
Gn-Cd
角度的計測項目 (degree)
SNA
Angle of Convexity
A-B plane angle
ANB
FH to SN
SNP
SNB
NSGn
GZN
Facial plane angle
Mandibular plane angle
Y-axis
Ramus inclination
Gonial angle
20
2.頭蓋顎顔面形態の成長パターンの比較
口蓋裂の存在あるいは口蓋形成術の影響を検討するために UCLA と UCLP を比
較し、口唇裂の存在あるいは口唇形成術の影響を検討するために UCLP と CP を
比較した。
1)UCLA と UCLP の比較
計測結果を表 3 に示す。
21
表 3 各計測時期におけるUCLAとUCLPの各計測項目の平均値
stage 1
stage
裂型
UCLA
stage 3
UCLP
UCLA
stage 4
UCLP
UCLA
stage 5
UCLP
UCLA
UCLP
距離的計測項目 (㎜)
正貌計測項目
Oo
Io
Zyg
Nc
Mx
Cl
Go
-
Oo '
Io '
Zyg '
Nc '
Mx '
Cl '
Go '
73.7
16.6
90.8
23.1
48.0
84.1
64.3
(2.7)
(1.9)
(3.2)
(1.7)
(3.0)
(2.7)
(3.7)
75.9
19.2
90.8
31.8
53.0
86.7
66.0
(2.7)
(2.3)
(16.2)
(16.5)
(3.6)
(5.3)
(3.0)
86.2
20.4
120.0
27.7
60.5
111.7
86.1
(3.4)
(2.0)
(4.7)
(2.1)
(2.2)
(3.8)
(3.5)
87.8
23.4
121.2
29.8
62.1
112.1
85.6
(2.8)
(2.7)
(3.2)
(1.2)
(2.3)
(4.7)
(3.4)
90.0
22.4
130.1
30.7
67.1
121.8
95.4
(2.8)
(1.3)
(3.8)
(1.7)
(2.8)
(5.1)
(4.2)
91.2
25.1
130.5
32.4
68.0
121.6
94.8
(2.8)
(2.0)
(5.3)
(2.7)
(3.7)
(6.2)
(3.4)
93.0
24.4
138.7
32.8
69.0
130.1
103.5
(3.4)
(2.0)
(4.1)
(2.4)
(3.2)
(5.5)
(4.1)
95.5
27.7
140.5
35.5
70.3
130.7
103.3
(2.8)
(2.6)
(3.5)
(2.6)
(3.8)
(5.4)
(3.3)
72.5
47.5
29.8
29.7
18.6
9.7
12.2
11.7
30.1
27.0
36.1
36.4
19.2
62.6
45.2
26.1
40.1
43.2
62.9
(2.8)
(2.1)
(1.3)
(2.1)
(1.0)
(1.6)
(1.5)
(1.5)
(2.1)
(1.5)
(2.7)
(2.4)
(1.7)
(3.2)
(3.1)
(2.9)
(3.0)
(3.0)
(3.4)
72.6
48.0
30.0
29.1
17.5
9.6
12.3
11.6
29.6
26.0
35.0
34.8
19.8
60.7
41.6
27.0
37.1
40.0
61.0
(4.4)
(2.5)
(2.6)
(2.3)
(1.3)
(1.9)
(2.0)
(1.8)
(2.2)
(2.5)
(2.2)
(2.5)
(2.0)
(5.9)
(2.8)
(3.8)
(2.6)
(2.6)
(5.7)
93.2
61.5
39.4
44.5
24.8
18.1
17.0
16.4
44.8
40.1
45.9
47.7
28.9
93.9
62.4
46.6
57.5
60.4
95.1
(5.2)
(4.1)
(2.1)
(2.4)
(1.3)
(2.1)
(2.0)
(1.7)
(2.5)
(3.0)
(3.8)
(3.1)
(3.3)
(2.6)
(3.2)
(2.1)
(3.1)
(3.0)
(2.8)
93.7
62.6
38.9
44.3
23.3
18.4
16.6
16.0
44.3
37.3
42.7
43.5
28.5
91.6
60.6
43.9
55.8
58.6
92.7
(4.0)
(2.9)
(2.3)
(2.4)
(1.6)
(1.4)
(2.9)
(2.6)
(2.4)
(1.9)
(2.2)
(2.4)
(2.0)
(3.1)
(3.0)
(3.0)
(3.0)
(3.1)
(3.2)
103.2
66.8
45.6
51.8
26.3
24.0
15.3
15.2
52.0
46.8
48.7
51.7
31.4
109.1
72.8
54.9
67.9
70.4
110.7
(4.2)
(3.8)
(2.7)
(3.3)
(1.7)
(2.6)
(2.6)
(2.5)
(3.5)
(2.7)
(3.2)
(3.3)
(3.5)
(4.1)
(4.1)
(3.6)
(3.8)
(4.0)
(3.7)
102.9
66.6
45.0
51.4
24.7
24.0
13.0
12.8
51.6
43.1
44.1
46.7
31.1
104.7
70.3
50.2
65.9
68.3
106.2
(5.0)
(2.9)
(3.2)
(2.7)
(1.6)
(2.2)
(2.8)
(2.7)
(2.7)
(3.0)
(2.7)
(3.3)
(2.6)
(4.8)
(3.3)
(3.5)
(3.4)
(3.4)
(5.2)
107.0
69.2
46.8
56.6
28.1
26.4
17.2
17.1
56.8
49.0
50.4
54.6
36.0
119.7
79.0
63.1
74.4
76.7
122.1
(4.5)
(4.0)
(2.1)
(2.7)
(2.2)
(2.1)
(3.0)
(3.0)
(2.8)
(3.2)
(3.1)
(3.2)
(4.0)
(3.3)
(4.1)
(3.6)
(3.6)
(3.1)
(3.3)
107.4
69.5
47.0
55.8
26.2
26.6
14.8
14.5
56.0
46.2
45.2
48.8
35.3
114.2
76.4
57.3
71.6
74.5
116.4
(5.4)
(2.9)
(3.8)
(2.8)
(1.7)
(2.4)
(3.1)
(3.2)
(2.9)
(3.4)
(3.2)
(3.2)
(3.5)
(6.2)
(5.2)
(4.7)
(6.6)
(5.5)
(7.0)
63.5
56.9
76.7
40.6
91.2
84.7
55.1
132.7
(5.2)
(2.6)
(4.6)
(3.9)
(7.2)
(7.2)
(5.4)
(7.9)
61.6
54.1
72.5
41.1
83.3
77.3
56.1
127.1
(3.2)
(4.4)
(4.4)
(3.2)
(3.9)
(4.2)
(5.8)
(7.1)
73.0
65.4
77.8
47.3
98.6
93.7
76.1
155.2
(4.2)
(5.6)
(4.6)
(7.5)
(5.8)
(6.3)
(5.9)
(8.0)
70.9
59.6
69.5
45.5
93.6
89.3
70.2
148.2
(3.6)
(3.5)
(3.6)
(4.4)
(5.9)
(5.8)
(4.7)
(7.0)
78.1
70.3
77.6
47.1
105.6
101.9
82.5
166.2
(7.6)
(4.9)
(4.6)
(5.6)
(5.9)
(6.1)
(8.6)
(10.4)
77.4
64.8
70.1
46.8
102.7
99.0
75.4
159.6
(3.8)
(5.0)
(3.8)
(4.5)
(6.0)
(6.0)
(5.6)
(8.9)
82.3
71.0
79.1
52.1
111.1
107.7
91.6
177.1
(5.4)
(5.0)
(4.6)
(5.7)
(5.0)
(5.5)
(8.6)
(10.1)
80.6
66.5
70.3
50.8
107.3
103.1
82.5
167.6
(3.7)
(5.6)
(3.8)
(5.3)
(8.0)
(9.6)
(6.2)
(10.0)
139.1
86.1
9.0
136.5
(7.0)
(4.7)
135.9
84.4
4.7
137.6
(4.1)
(4.6)
134.4
83.8
163.2
-8.3
7.6
8.5
75.1
76.2
71.5
90.0
83.6
29.1
63.0
81.5
131.9
(7.3)
(4.8)
(5.6)
(4.6)
(3.4)
(2.9)
(3.9)
(4.3)
(3.6)
(4.9)
(2.0)
(3.6)
(2.9)
(4.5)
(3.7)
133.4
78.0
170.2
-4.8
4.4
7.4
72.8
73.5
72.6
89.3
80.3
32.2
65.1
81.9
134.3
(4.9)
(3.4)
(4.8)
(3.1)
(2.4)
(2.4)
(2.5)
(2.6)
(2.3)
(3.6)
(1.4)
(3.7)
(2.4)
(4.0)
(4.2)
132.9
82.2
169.5
-7.4
5.6
7.4
76.9
76.6
71.7
91.7
84.3
29.3
64.2
84.2
130.2
(6.9)
(5.0)
(5.4)
(3.0)
(2.6)
(2.9)
(2.9)
(3.2)
(2.1)
(3.0)
(1.5)
(2.3)
(1.9)
(4.3)
(3.7)
133.5
76.2
176.9
-2.4
1.8
7.3
74.6
74.4
73.1
91.9
81.8
32.3
65.8
84.7
132.0
(4.6)
(3.9)
(6.2)
(3.1)
(2.6)
(2.5)
(2.7)
(2.8)
(2.5)
(3.8)
(2.7)
(4.5)
(3.2)
(4.8)
(4.9)
134.2
80.5
174.4
-5.7
3.6
8.8
77.6
76.8
72.8
93.5
86.5
28.0
64.0
84.7
128.4
(6.6)
(3.9)
(4.9)
(3.4)
(2.5)
(2.6)
(3.1)
(3.4)
(3.0)
(4.9)
(2.7)
(3.7)
(3.0)
(5.8)
(4.7)
133.5
74.9
180.3
-1.5
0.6
7.9
75.0
74.3
74.3
94.6
82.9
31.7
66.3
86.7
129.7
(5.9)
(3.9)
(7.3)
(3.5)
(2.9)
(3.3)
(3.9)
(3.7)
(3.5)
(4.8)
(3.2)
(5.6)
(3.7)
(5.6)
(5.7)
側貌計測項目
N-Ba
S-N
S-Ba
N to PP
Or to SN
Or to PP
ANS-Pr
Pr to PP
N-ANS
S-PNS
A'-Ptm'
ANS-PNS
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
G-Cd
Me-G
Pog-Go
Gn-Cd
SN 比 (%)
N-ANS/SN
S-PNS/SN
ANS-PNS/SN
Id-Me/SN
Pog-Go/SN
Me-G/SN
G-Cd/SN
Gn-Cd/SN
角度的計測項目 (degree)
SNBa
SNA
Angle of Convexity
A-B plane angle
ANB
FH to SN
SNP
SNB
NSGn
GZN
Facial plane angle
Mandibular plane angle
Y-axis
Ramus inclination
Gonial angle
(3.4)
(6.2)
(2.3)
(6.2)
平均 (SD)
22
1)-ⅰ . 交互作用 ありの 頄目
UCLA と UCLP の比較において、反復測定分散分析で交互作用を認めた頄目、つ
まり成長パターンに違いを認めた計測頄目を表 4 に示す。
正面幅径において、上顎歯槽基底幅径(Mx-Mx')は口唇形成術時では UCLP で
有意に大きかったが、術後は口蓋裂がない UCLA と同じ幅径で経過した。
側 面に おいて 、距離的計測頄目は 上顔面下部長径(ANS-PNS、A'- Ptm')、
前 歯 槽 骨高径(ANS-Pr、 Pr to PP)、下顎枝高径を表す部位 ( G-Cd)で交
互 作 用 を認めた。2 群間で stage 1 は差はなかったが 、stage 5 では UCLP
が 小 さ かった。角度的計測 頄 目では 、SNA は口唇形成術時 で は 2 郡間 で
差 はな か ったが 、stage 3 以降は UCLP が小さかった。SN 比 において 、
G-Cd/SN のみで計測値比較と同様の結果を得 た。Pog-Go/SN は 計測値比較
の 結 果 とは異なり交互作用を認め た。
計測項目
距離的計測項目
Mx-Mx'
ANS-Pr
Pr to PP
A'-Ptm'
ANS-PNS
G-Cd
SN比
Pog-Go/SN
G-Cd/SN
角度的計測項目
FH to SN
SNA
stage 1
表 4 交互作用ありの項目
分散分析 (UCLA : UCLP)
stage 3
stage 4
stage 5
UCLA<UCLP*
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
ns
ns
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
ns
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
ns
ns
UCLA>UCLP*
ns
UCLA>UCLP*
ns
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
ns
ns
UCLA>UCLP*
ns
ns
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
ns : non signifficant、* : p < 0.05
23
1)-ⅱ.交互作用なしの頄目
交互作用を認めなかった頄目、つまり成長パターンに違いを認めなかった頄
目を表 5 に示す。
成長パターンに違いを認めなかったが、計測値の差つまり形態差を認めた距
離的計測頄目は、正面幅径において、Oo-Oo'、Io-Io'、Nc-Nc'であり UCLP が
大きかった。側面においては、 Or to SN、S-PNS、Cd-Pog、G-Pog に差があり、
いずれも UCLP が小さかった。角度的計測頄目では、A-N-B、Angle of convexity、
SNB、 SNP、 Facial plane angle は UCLP で小さく、A-B plane angle は UCLP
が大きかった。SN 比は N-ANS/SN、ANS-PNS/SN、S-PNS/SN、Gn-Cd/SN、Me-G/SN
で差を認め、N-ANS、Gn-Cd、Me-G は計測値比較では差を認めなかったが、SN 比
では UCLP が小さかった。S-PNS、S-PNS/SN はともに UCLP で小さかった。
形態差を認めなかった距離的計測頄目は、頭蓋底長径(N-Ba、S-N、S-Ba)、
前上顎顔面高径を表す頄目(N to PP、Or to PP、N-ANS)、下顎骨体長径と下顎
骨長径を表す頄目(Pog-Go、Gn-Cd)であった。形態差を認めなかった角度的計
測頄目は、下顎骨の前後的位置関係を表す全ての計測頄目(Mandibular plane
angle、Y-axis、NSGn、Gonial angle、GZN)であった。SN 比では、口唇形成術
時から Id-Me/SN のみで差を認めなかった。
24
計測項目
距離的計測項目
Oo-Oo'
Io-Io'
Nc-Nc'
Zyg-Zyg'
Cl-Cl'
Go-Go'
N-Ba
S-N
S-Ba
N to PP
Or to SN
Or to PP
N-ANS
S-PNS
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
Me-G
Pog-Go
Gn-Cd
SN 比
N-ANS/SN
ANS-PNS/SN
S-PNS/SN
Id-Me/S-N
Me-G/SN
Gn-Cd/SN
角度的計測項目
SNBa
Angle of Convexity #
A-B plane angle #
ANB #
SNP #
SNB #
NSGn #
GZN #
Facial plane angle #
Mandibular plane angle #
Y-axis #
Ramus inclination #
Gonial angle
表 5 交互作用なしの項目
反復測定分散分析
形態差
t 検定
あり
あり
あり
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
あり
なし
なし
あり
なし
あり
あり
なし
なし
なし
UCLA<UCLP*
UCLA<UCLP*
UCLA<UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
-
あり
あり
あり
なし
あり
あり
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
なし
あり
あり
あり
あり
あり
なし
なし
あり
なし
なし
なし
なし
* : p < 0.05
25
UCLA>UCLP*
UCLA<UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
# :stage 3 ~stage 5で分析
2)CP と UCLP の比較
計 測 結果を表 6 に示す。
表 6 各計測時期におけるCPとUCLPの各計測項目の平均値
stage
裂型
stage 2
CP
stage 3
UCLP
CP
stage 4
UCLP
CP
stage 5
UCLP
CP
UCLP
距離的計測項目 (㎜)
正貌計測項目
Oo
Io
Zyg
Nc
Mx
Cl
Go
-
Oo '
Io '
Zyg '
Nc '
Mx '
Cl '
Go '
80.6
17.9
107.8
31.1
51.1
95.4
77.3
(4.0)
(2.8)
(5.0)
(20.4)
(7.4)
(12.5)
(7.5)
81.6
19.9
109.3
28.2
56.8
98.5
75.5
(2.1)
(2.3)
(3.6)
(2.4)
(2.8)
(3.9)
(2.6)
85.4
20.9
119.2
27.9
61.2
111.4
85.5
(4.1)
(2.5)
(5.2)
(2.3)
(2.7)
(4.4)
(4.2)
87.8
23.4
121.2
29.8
62.1
112.1
85.6
(2.8)
(2.7)
(3.2)
(1.2)
(2.3)
(4.7)
(3.4)
89.5
23.6
129.2
31.0
66.9
121.6
95.8
(5.0)
(2.7)
(6.4)
(3.0)
(2.8)
(5.3)
(4.7)
91.2
25.1
130.5
32.4
68.0
121.6
94.8
(2.8)
(2.0)
(5.3)
(2.7)
(3.7)
(6.2)
(3.4)
93.0
25.6
139.9
34.8
69.1
131.0
103.5
(5.0)
(2.7)
(6.4)
(3.6)
(3.5)
(6.8)
(4.8)
95.5
27.7
140.5
35.5
70.3
130.7
103.3
(2.8)
(2.6)
(3.5)
(2.6)
(3.8)
(5.4)
(3.3)
83.2
56.6
33.8
37.3
21.0
14.6
13.1
13.0
37.4
34.4
36.5
36.1
25.0
79.7
51.6
38.5
46.9
49.5
80.2
(2.5)
(1.6)
(1.2)
(1.4)
(1.4)
(1.4)
(1.5)
(1.6)
(1.4)
(1.8)
(1.1)
(1.0)
(1.6)
(3.9)
(2.8)
(2.7)
(2.5)
(2.4)
(4.0)
85.1
57.4
34.9
36.0
21.1
13.1
15.1
14.5
36.1
32.8
39.8
39.9
25.3
78.3
50.2
37.9
45.7
48.5
79.0
(3.9)
(2.6)
(2.4)
(2.4)
(2.0)
(1.7)
(1.4)
(1.4)
(2.4)
(1.9)
(1.7)
(1.8)
(1.5)
(3.0)
(2.7)
(2.3)
(2.6)
(2.8)
(3.1)
89.6
61.2
36.2
44.2
23.3
19.1
16.0
15.7
44.3
39.0
40.5
41.7
28.8
91.1
60.5
44.0
55.9
58.6
92.2
(2.8)
(2.0)
(1.9)
(1.8)
(0.9)
(2.1)
(1.4)
(1.4)
(1.8)
(2.4)
(2.5)
(2.4)
(2.4)
(3.9)
(2.5)
(2.6)
(2.1)
(2.2)
(3.7)
93.7
62.6
38.9
44.3
23.3
18.4
16.6
16.0
44.3
37.3
42.7
43.5
28.5
91.6
60.6
43.9
55.8
58.6
92.7
(4.0)
(2.9)
(2.3)
(2.4)
(1.6)
(1.4)
(2.9)
(2.6)
(2.4)
(1.9)
(2.2)
(2.4)
(2.0)
(3.1)
(3.0)
(3.0)
(3.0)
(3.1)
(3.2)
99.5
66.2
42.1
52.5
25.6
24.7
13.5
13.3
52.7
45.1
43.8
45.8
31.0
105.4
71.0
51.7
66.9
69.0
107.1
(3.0)
(1.9)
(2.0)
(1.7)
(1.1)
(2.4)
(2.5)
(2.5)
(1.7)
(2.3)
(2.6)
(3.0)
(2.3)
(5.9)
(3.5)
(3.4)
(3.4)
(3.4)
(5.8)
102.9
66.6
45.0
51.4
24.7
24.0
13.0
12.8
51.6
43.1
44.1
46.7
31.1
104.7
70.3
50.2
65.9
68.3
106.2
(5.0)
(2.9)
(3.2)
(2.7)
(1.6)
(2.2)
(2.8)
(2.7)
(2.7)
(3.0)
(2.7)
(3.3)
(2.6)
(4.8)
(3.3)
(3.5)
(3.4)
(3.4)
(5.2)
104.2
69.2
44.3
57.0
26.7
28.1
15.9
15.9
57.3
49.2
46.0
48.5
35.6
116.4
77.6
58.6
73.6
75.6
118.5
(3.4)
(2.3)
(2.7)
(2.3)
(1.3)
(2.6)
(2.8)
(2.8)
(2.2)
(3.0)
(3.3)
(2.9)
(3.0)
(6.2)
(3.5)
(5.2)
(3.3)
(3.4)
(6.3)
107.4
69.5
47.0
55.8
26.2
26.6
14.8
14.5
56.0
46.2
45.2
48.8
35.3
114.2
76.4
57.3
71.6
74.5
116.4
(5.4)
(2.9)
(3.8)
(2.8)
(1.7)
(2.4)
(3.1)
(3.2)
(2.9)
(3.4)
(3.2)
(3.2)
(3.5)
(6.2)
(5.2)
(4.7)
(6.6)
(5.5)
(7.0)
66.1
60.8
63.9
44.3
87.5
83.0
68.1
(3.0)
(4.1)
(2.6)
(2.8)
(5.0)
(4.9)
(6.0)
62.9
57.3
69.6
44.2
84.6
79.7
66.1
(3.9)
(3.5)
(4.0)
(3.5)
(5.6)
(5.2)
(5.0)
72.4
63.9
68.1
47.2
95.8
91.4
72.0
(2.4)
(5.1)
(3.5)
(4.5)
(5.9)
(5.5)
(5.2)
70.9
59.6
69.5
45.5
93.6
89.3
70.2
(3.6)
(3.5)
(3.6)
(4.4)
(5.9)
(5.8)
(4.7)
79.6
68.2
69.2
46.9
104.4
101.1
78.2
(2.7)
(3.7)
(4.5)
(4.0)
(6.8)
(6.8)
(6.1)
77.4
64.8
70.1
46.8
102.7
99.0
75.4
(3.8)
(5.0)
(3.8)
(4.5)
(6.0)
(6.0)
(5.6)
82.9
71.3
70.2
51.6
109.5
106.6
84.9
(3.5)
(4.7)
(4.1)
(5.3)
(6.9)
(7.0)
(9.1)
80.6
66.5
70.3
50.8
107.3
103.1
82.5
(3.7)
(5.6)
(3.8)
(5.3)
(8.0)
(9.6)
(6.2)
132.3
78.1
4.9
137.0
(5.4)
(3.6)
132.9
81.5
5.7
138.3
(4.2)
(4.1)
132.4
78.5
172.4
-1.4
2.5
6.8
74.6
76.0
71.7
89.7
81.4
32.7
64.9
82.9
133.7
(4.6)
(4.1)
(7.1)
(6.1)
(3.9)
(2.4)
(3.4)
(4.1)
(2.8)
(3.9)
(2.7)
(4.3)
(3.0)
(4.1)
(3.7)
133.4
78.0
170.2
-4.8
4.4
7.4
72.8
73.5
72.6
89.3
80.3
32.2
65.1
81.9
134.3
(4.9)
(3.4)
(4.8)
(3.1)
(2.4)
(2.4)
(2.5)
(2.6)
(2.3)
(3.6)
(1.4)
(3.7)
(2.4)
(4.0)
(4.2)
132.3
77.4
175.2
-3.8
2.6
7.7
75.0
74.8
73.3
93.7
82.7
31.7
65.6
86.0
129.9
(5.0)
(4.0)
(5.4)
(3.5)
(2.5)
(2.2)
(3.1)
(3.3)
(3.0)
(4.6)
(3.4)
(4.5)
(3.5)
(5.0)
(4.1)
133.5
76.2
176.9
-2.4
1.8
7.3
74.6
74.4
73.1
91.9
81.8
32.3
65.8
84.7
132.0
(4.6)
(3.9)
(6.2)
(3.1)
(2.6)
(2.5)
(2.7)
(2.8)
(2.5)
(3.8)
(2.7)
(4.5)
(3.2)
(4.8)
(4.9)
132.4
77.1
178.4
-3.0
1.5
8.5
76.3
75.6
73.8
94.8
84.8
31.4
65.4
86.4
129.2
(5.4)
(4.0)
(4.8)
(2.5)
(1.8)
(2.3)
(4.0)
(3.9)
(3.8)
(5.6)
(4.4)
(6.7)
(4.2)
(5.7)
(6.0)
133.5
74.9
180.3
-1.5
0.6
7.9
75.0
74.3
74.3
94.6
82.9
31.7
66.3
86.7
129.7
(5.9)
(3.9)
(7.3)
(3.5)
(2.9)
(3.3)
(3.9)
(3.7)
(3.5)
(4.8)
(3.2)
(5.6)
(3.7)
(5.6)
(5.7)
側貌計測項目
N-Ba
S-N
S-Ba
N to PP
Or to SN
Or to PP
ANS-Pr
Pr to PP
N-ANS
S-PNS
A'-Ptm'
ANS-PNS
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
G-Cd
Me-G
Pog-Go
Gn-Cd
SN 比 (%)
N-ANS/SN
S-PNS/SN
ANS-PNS/SN
Id-Me/SN
Pog-Go/SN
Me-G/SN
G-Cd/SN
角度的計測項目 (degree)
SNBa
SNA
Angle of Convexity
A-B plane angle
ANB
FH to SN
SNP
SNB
NSGn
GZN
Facial plane angle
Mandibular plane angle
Y-axis
Ramus inclination
Gonial angle
(2.2)
(4.2)
(2.1)
(3.6)
平均 (SD)
26
2)-ⅰ .交互作用 ありの 頄目
CP と UCLP の比較において、反復測定分散分析で交互作用を認めた頄目、つま
り成長パターンに違いを認めた計測頄目を表 7 に示す。
側面において、距離的計測頄目では頭蓋底全長径(N-Ba)、上顔面下部長径なら
びに前上歯槽高径(ANS-PNS、A’-Ptm’、ANS-Pr、Pr to PP)、後上顔面高径(S-PNS)
において交互作用を認めた。N-Ba は口蓋形成術時では両者で差がなかったが、
stage 3 以降は UCLP の方が大きかった。ANS-PNS、A’-Ptm’、ANS-Pr、Pr to
PP は口蓋形成術時で UCLP の方が大きかったが stage 5 で差がなかった。
S-PNS は全 stage を通じて UCLP が小さく、成長に伴い両群の差は増大した。
また、交互作用を認めた角度的計測頄目は SNA、A-B plane angle、A-N-B、angle
of convexity であり、SNA は口蓋形成術時に UCLP が大きかったが、stage 5 で
は UCLP の方が小さかった。また、上下顎前後関係を表す ANB は stage 3 で UCLP
が大きかったが stage 5 では UCLP の方が小さかった。SN 比においては、
ANS-PNS/SN のみが ANS-PNS の計測値と同様に口蓋形成術時では UCLP が大きかっ
たが、その後両群で差を認めなかった。
計測項目
距離的計測項目
N-Ba
ANS-Pr
Pr to PP
S-PNS
A'-Ptm'
ANS-PNS
SN比
ANS-PNS/SN
角度的計測項目
SNA
Angle of Convexity
A-B plane angle
ANB
stage 2
表 7 交互作用ありの項目
分散分析 (CP : UCLP)
stage 3
stage 4
stage 5
ns
CP<UCLP*
CP<UCLP*
CP>UCLP*
CP<UCLP*
CP<UCLP*
CP<UCLP*
ns
ns
CP>UCLP*
CP<UCLP*
ns
CP<UCLP*
ns
ns
CP>UCLP*
ns
ns
CP<UCLP*
ns
ns
CP>UCLP*
ns
ns
CP<UCLP*
ns
ns
ns
CP<UCLP*
-
ns
CP>UCLP
CP>UCLP
CP<UCLP
27
ns
CP>UCLP*
CP<UCLP
CP<UCLP
CP<UCLP
CP<UCLP
CP>UCLP
CP>UCLP
ns : non significant、* : p < 0.05
2)-ⅱ.交互作用 なしの 頄目
交 互 作 用 を認 め なか っ た 、 つ まり 成 長パ タ ー ン に 違い を 認め な か っ た
頄 目 を 表 8 に示す。
口蓋形成術時から 成長パターンに違いがなく 、形態差を認めた計測頄目
は 、正 面幅径の Io-Io'、Mx-Mx'および 側面 の SN 比の S-PNS/SN であった。
Io-Io'、 Mx-Mx'では UCLP が大きく、S-PNS/SN の後上顔面高を表す頄目で
は UCLP が小さ かった 。
口蓋形成術時から成長パターンの違いも形態差も認めなかった距離的計測頄
目は、側面において S-N、N-Ba などの前後頭蓋底長径、N to PP、N-ANS などの
前方上顔面高径の下方成長を表す頄目と、下顎骨の全ての計測頄目であった。
形態差を認めなかった角度的計測頄目は、SN と FH を基準とする下顎骨の前後
的顎間関係を表す全ての頄目であった。SN 比において、N-ANS/SN と下顎骨の SN
比は計測値と同様に成長パターンに違いがなく、計測値にも差がなかった。
28
計測項目
表 8 交互作用なしの項目
反復測定分散分析
形態差
距離的計測項目
Oo-Oo'
Io-Io'
Zyg-Zyg'
Nc-Nc'
Mx-Mx'
Cl-Cl'
Go-Go'
S-N
S-Ba
N to PP
Or to SN
Or to PP
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
G-Cd
Me-G
N-ANS
Pog-Go
Gn-Cd
SN 比
N-ANS/SN
S-PNS/SN
Id-Me/SN
Pog-Go/SN
Me-G/SN
G-Cd/SN
Gn-Cd/SN
角度的計測項目
SNBa
Facial plane angle #
Mandibular plane angle #
Y-axis #
FH to SN
SNP #
NSGn #
SNB #
Gonial angle
GZN #
Ramus inclination #
t 検定
なし
あり
なし
なし
あり
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
CP<UCLP*
CP<UCLP*
-
なし
あり
なし
なし
なし
なし
なし
CP>UCLP*
-
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
* : p < 0.05
29
# : stage 3 ~stage 5で分析
Ⅲ -3. 考 察
1)統 計学 的解析法
CL/P 患者の顎顔面頭蓋の形態の特徴や成長パターンを把握しようと試みた
報告は数多い(3-5,7-11)。クラスター分析や因子分析、主成分分析等の多変
量解析による研究は、顎顔面形態の特徴を解析し分類することには優れていた
が、時間的要素が反映されていなかった(8,24,48)。経時的研究においても
各時期での平均値やその間の 成長変化量を比較したものがほとんどで、裂型間
の比較は時点間の断続的な比較であったため、経時的な成長全体を統計学的に
有効に評価し得たものではなかった。成長を成長パターン全体として捉えるに
は、統計学的には「検定多重性の問題」が指摘される。すなわち、過去の報告
にあるように、同一被験者から成長変化として反復して収集した経時的データ
に対して、裂型間の平均値の差に対する t 検定や分散分析法を比較する群間で
繰り返し適用することは避けねばならない。設定した有意水準が比較回数を重
ねることにより緩められ、有意差が出やすくなるいわゆる「検定多重性の問題」
が生じるからである。
そこで本研究では「検定多重性の問題」を回避し、5 つの時期での経時的デ
ータを一連の成長パターンと捉えて比較することができる反復測定分散分析法
( repeated measured ANOVA)を適用し、時間と裂型を 2 要因として交互作
用の有無を検討した。
「交互作用あり」とは裂型によって成長パターンが異なる
ことを意味する。成長パターンが異なる場合、成長量に差があり成長線の逆転
や二極化が考えられる。(図 4)「交互作用なし」とは裂型間での成長パターン
が同じであり、さらに計測初期の計測値の差が統計学的に stage 5 まで継続し
ていることを示している。UCLA と UCLP の stage 1および CP の stage 2 は
口唇形成あるいは口蓋形成術時で術前顎矯正治療を行っていない未治療の状態
30
であるため、裂型による頭蓋顔面形態への影響が最も反映されていると考えら
れる。よって、stage 1 での計測値の差が stage 5 まで継続される場合、その
部位の成長パターンは形成手術の影響というより主として生来の裂型の影響を
受けていると考えられる。また、「交互作用なし」でさらに Studentt検定で裂
型による計測値の有意差がなければ、裂型にも形成手術にも影響を受けていな
い部位であると考えられる。
2)頭 蓋基 底部 について
頭蓋基底は成長時期の異なる脳頭蓋と顎顔面との境界に位置し、両者の成長
速度の差を調節する部位と言われ(50)、この部の成長は顔面頭蓋の成長に影響
を及ぼすと言われている(51)。CL/P の頭蓋底の成長発育については過去に多く
の報告がある。未手術例より小さいとするものもあるが(3,4,10)、差がない
とするものが多くみられる(3,5,7,8,9,10,13,41)。頭蓋底角に関する
未手術例との比較では、CL/P 患者の頭蓋底角は大きいとするもの(4,7,8,26)、
小さいとするもの(18)、差がないとするもの(3,41)などの報告があり一定
の見解が得られていない。
本研究においては、UCLA と UCLP、すなわち口蓋裂の有無に関する比較で頭
蓋底のすべての成長パターンは違いを認めなかった。このことより、尐なくと
も口蓋裂の存在は先天的および後天的に頭蓋底長径および頭蓋底角に影響を及
ぼしていないと考えられた。一方、CP と UCLP の比較、すなわち口唇裂の有無
に関する比較では全頭蓋底長のみに成長パターンの違いを認め、全頭蓋底長は
口蓋形成術時に両者で同程度であったが stage 3 以降は UCLP の方が大きかっ
た。口唇裂および口唇形成術の存在により、5 歳以降の全頭蓋底長は長くなっ
ていた。
31
頭蓋底の成長において、最後に癒合する蝶形後頭軟骨結合は主要な部位とされ
ており、女子では 12~13 歳頃、男子では 2 年遅れて骨化が始まり、20 歳頃に
骨結合が完了する。ここでの成長が上顎骨を下顎に対して上前方に移動させる
ことになり、上顎骨の深さと高さの増加に貢献すると言われている(52)。こ
の成長様式を考慮すれば、遅れて成長する蝶形後頭軟骨結合部の影響が尐なか
らず後頭蓋底長と頭蓋基底角に及び、その結果、口唇裂の有無による比較で全
頭蓋底長に形態差が生じたと考えられる。全頭蓋底長のみ統計学的な有意差が
表れたのは一見矛盾しているように思われるが、後頭蓋底長と頭蓋基底角にも
有意差には及ばない程度の差が生じており、有意差が顕著化した頄目が全頭蓋
底長であったと考えられる。
3)上顎骨について
Graber(1)が形成手術を受けた CL/P 患者よりも、未手術 CL/P 例の顎顔面頭
蓋成長の方が非破裂者の顎顔面頭蓋成長に近く良好であったと報告して以来、
口唇形成術や口蓋形成術の侵襲が顎 顔 面 領 域 の 成 長 に及ぼす影響が注目され
て き た 。先天的な組織欠損である裂に対しさらに加わる形成手術の侵襲が、顎
顔面の成長にどのような影響を及ぼすかについては、過去にも術後の CL/P 患者
と未手術例の比較よる報告が数多くなされた。その中で、口蓋裂を有する UCLP
や CP では上顎歯槽基底長径が短いとする報告は多い(16,35,40,44,53,54)。
真鍋(25)は、UCLA、UCLP、CP の術後の上顎骨はそれぞれに特有な顎発育を認
め、特に口蓋裂を有する裂型の中顔面の陥凹感は 8 歳まで経年的に著明となる
とし、吉田 (40) は UCL、 UCLA、UCLP の比較において 、破裂部位が広範
囲 に 及 ぶほど ANS は術後に後 退する傾向にあるとし た。また後藤(48)は
4 歳までの上顎歯槽基底長径および SNA の手術前後の変化量に注目し、4 歳ま
32
で上顎歯槽基底長径は口蓋裂の有無による有意差がなく、その一方で角度 SNA
は口蓋裂のある UCLP、BCLP の方が 4 歳まで減尐傾向を示し、上顎の前方成長
の抑制を認めると指摘した。
本研究では、口蓋裂の有無に関する 比較で、上顎の前方成長を表す計測頄目
(ANS-PNS、A'-Ptm'および SNA)は裂型間で成長パターンに違いを認めた。口
唇形成術時は UCLA と UCLP 間に差はなかった が、術後は口蓋裂を有する UCLP
が経年的に小さくなってい た 。 この 結 果 から 上 顎 の 前方 成 長 は口 蓋 裂 に よ
る 先 天 的 な 形態 差 はな い が 、 形 成術 に よる 頭 蓋 に 対 する 上 顎の 前 方 成 長
抑 制 は あり 15 歳以降 まで持続すると考えられた。
本研究は後藤(48)と Han ら(45)の研究対象をさらに長期に観察したもの
であるが、後藤の指摘した頭蓋に対する上顎の前方成長の抑制は、思春期成長
を経て も 持続することを示すものであった。これより、一般的に指摘されてい
る UCLP と CP の中顔面の経年的な陥凹感は、口蓋形成術などの後天的な要因が
上顎骨の前方成長に抑制的に働いているためと考えられた。
口唇裂の有無に関する UCLP と CP 間の 比較で、ANS-PNS、A'-Ptm'および SNA
は口唇裂を有する UCLP が口蓋形成手術時に大きかったが、ANS-PNS と A'-Ptm'
は stage 3 以降に同程度になり、SNA は成長に伴って逆転し 15 歳以降では UCLP
で小さくなった。また、このことは、UCLP の ANB が stage 3 から stage 4 に
移行する時に小さくなったことにも表れていた。つまり、UCLP の A 点は、口蓋
形成手術時は CP より前方に位置していたが、成人では CP より後方に位置する
ようになっており、口唇形成術と口蓋形成術と受けていると上顎の前方成長量
は口蓋形成術以降に尐なくなることが判った 。
Bishara(29)は 、成人未手術例で CP では頭蓋底に対し 、 上顎が後退
し て い た と 指摘 し てお り 、 ま た 吉田 ( 40) は 、 口 唇 形成 術 の影 響 に つ い
33
て 口 唇 の 連 続性 が 修復 さ れ る こ とに よ って 切 歯 骨 に 内方 へ の圧 力 が 加 わ
り ANS が後上方へ変位すると述べている。本研究の所見はこれらと一致
し 、上顎歯槽基底長径の成長は口唇裂と口唇形成術の存在によりさらに抑制さ
れ ると考えられた。
また、本研究において形成術前から形態差も認め成長パターンも異なる場合、
裂型と手術の双方の影響を受けている可能性が示唆される。点 A や ANS の上顎
骨 の 前 方成長に関わる頄目は成長パターンが異なっていたため、口唇裂と口蓋
裂という先天的な器質的欠損そのものと、口唇形成術後の口唇緊張および口蓋
形成術後の繊維性、瘢痕性結合による後天的な成長抑制の両方が関与しており、
その影響は思春期成長にまで及ぶと考えられた。
上顔面高に関して、前上顔面高(N to PP、 N-ANS)は口唇裂および口蓋裂の
有無による比較では成長パターンにも計測値にも差を認めなかったが、前上顎
歯槽高径(Pr to PP)では成長パターンが異なった。Pr to PP は、UCLA と UCLP
間の比較では口蓋裂を有する方が経年的に小さくなったことから、push back 法
による口蓋形成術の硬口蓋への手術侵襲が前歯槽部の下方成長に抑制的に働い
ていると考えられた。一方、口唇裂の有無に関する UCLP と CP 間の比較では、
口唇裂を有する UCLP の方が口唇形成術後に Pr to PP は大きかったが、口蓋形
成術後に差がなくなり成人まで持続した。このことから、口唇裂および口唇形
成術による Pr to PP への影響は思春期成長に及ぶほどではなく、かつ前歯槽部
に限局していると考えられた。このことは、阿部(54)が石膏模型法で歯列弓
を観察し、口唇形成術の影響は前歯部に限局しているとした所見と一致してい
た。
後上顔面高(S-PNS)は、口蓋裂の有無で成長パターンに違いを認めなかった
が、計測値には差を認め、口蓋裂を有する方が成人まで小さかった。後上顔面
34
高においては、口蓋裂の存在により出生時からの形態差を認め、形態差は 15 歳
以降まで持続し、口蓋形成術による成長の抑制は認められないが劣成長として
残存していると考えられた。一方、後上顔面高は口唇裂の有無で成長パターン
に違いを認め、口蓋形成術時ですでに口唇裂を有する方が小さく、stage 4 か
ら stage 5 の間の思春期成長を経てその差が開いた。このことから、口唇裂と
口唇形成術は、後天的に思春期成長期に抑制が顕著になっていることが分かっ
た。口蓋裂を有する患者の上顎後方部がより上方にあるという報告は数多く(5,
8,10,16)、この形態異常は形成手術前にすでに認められるとする報告(14,
16,38,49)もある。Enlow(6)は、上顎骨 は上顎臼後結節での新生骨添加
で 後 方 へ と 拡大 し 、そ の 前 後 径 を増 加 し 、 縫 合 性 骨 形成 は 骨縫 合 部 で の
周 囲 の 骨 添 加に よ る骨 構 造 で 互 いに 分 離さ れ 、 そ の スペ ー スに 相 対 す る
骨 縁 の 新 生 骨 添 加 が 起 こ り 補 わ れ る と 述 べ て い る 。 本研 究 結 果 か ら も 、
口蓋裂の存在による形態変異と口蓋形成術後に形成される口蓋結節部より口蓋
全域におよぶ瘢痕組織は、これらの上顎骨の後方部で生じる骨添加を阻害し、
前方成長や後上顔面高径の成長を抑制したと考えられた。
正面幅径について、過去の CL/P 患者の正面頭部X線規格写真 の分析により、
口蓋裂を有すると梨状孔幅径、内眼窩間幅径、上顎歯槽基底幅径が大きい傾向
にあることが指摘されている(14,49,61)。Subtelny(15)によれば、口蓋裂
患者の口蓋帆張筋や口蓋帆挙筋は不連続であるため、内側翼突筋や外側翼突筋
にひかれて蝶形骨大翼部の縫合が広がり、上顎結節間の距離が広がるとしてい
る。本研究において、外眼窩間幅径と梨状孔幅径は 口蓋裂の有無に関する比較
で成長パターンに差がなかった。計測値は口蓋裂を有する方が有意に大きかっ
たため、口蓋裂の存在により開大しており口蓋形成術の影響は受けないとこと
がわかった。口唇裂の有無に関する比較では、成長パターンに差が無く計測値
35
でも差を認めていないため、口唇裂による先天的な影響はなく、口唇形成術の
影響も受けていないと考えられた。以上のことから、外眼窩間幅径と梨状孔幅
径は口蓋裂の存在よる先天的な影響のみを受けると考えられた。内眼窩間幅径
は、口蓋裂および口唇裂の有無による両者の比較において、成長パターンに差
がなく、いずれも UCLP が有意に大きかった。これより、内眼窩間幅径は口唇
裂単独および口蓋裂単独よりも唇顎口蓋裂で有意に大きく、先天的な影響のみ
で形成手術の影響を受けないと考えられた 。
上顎歯槽基底幅径について、後藤(48)は BCLP、UCLP、CP の 3 群の乳幼児期
から 4 歳までの比較から、上顎歯槽基底幅径は CP の変化量が最も大きいこと
を指摘した。中後(56)は口蓋形成既手術群と未手術群との比較から、口蓋形
成術は上顎歯槽幅径を小さくする傾向があると述べている。本 研究 に おい て 、
上顎歯槽基底幅径は UCLA と UCLP の比較では 、両群の成長パターンが異なり、
口蓋形成術時は口蓋裂を有する UCLP の方が大きいが、口蓋形成術以降は成人ま
で 差 が な く 維持 さ れた 。 こ れ ら より 、 上顎 歯 槽 基 底 幅径 は 口蓋 裂 の 存 在
に よ り 術 前 に 大 き いが 、 口 蓋 形 成術 に より 上 顎 歯 槽 基底 部 の側 方 成 長 が
抑 制 さ れ て いる こ とが 考 え ら れ 、中 後 (56) の 報 告 と一 致 する 所 見 で あ
った。一方 、口唇裂の有無に関する比較で、成長パターンは差がなく計測値は
口唇裂を有する方が口唇形成術後から成人まで大きく、口唇形成術による影響
は思春期成長まで及んでいると考えられた。Han ら(45)は、8 歳までの経年的
資料から、口唇形成術時に鼻上顎複合体の梨状口幅径、上顎歯槽基底弓幅径は
側方に成長し、口唇および口蓋形成術は、鼻上顎複合体の中央部の側方への成
長を一時的に抑制すると述べている。本研究の結果でも、Han(45)の述べてい
るように、鼻上顎複合体における幅径の計測頄目は形成手術による成長の阻害
を認めるが、成長パターンは同じ頄目が多く成長阻害が一時的とは言い難かっ
36
た。しかし、これは統計手法の違いから生じていると考えられた。口蓋裂の存
在は眼窩、鼻腔、上顎歯槽などの上顎骨幅径 を術前に大きくし、口蓋形成術は
上 顎 骨 下 方 の上 顎 歯槽 基 底 部 の 側方 成 長を 阻 害 す る 影響 を 及ぼ し て い る
こ と が 考えられた。内眼窩間幅径および上顎歯槽基底幅径に関しては、口蓋裂
と口蓋形成術の影響だけではなく、口蓋前方部の裂や口唇裂の存在もその側方
成長に大きく関わっており、その幅径を大きくする傾向にあると推察された。
上顎歯槽基底部は Suzuki ら(58)が指摘しているように完全な裂が存在するこ
とにより手術侵襲の影響を受けやすいと考えられた。
4)下顎骨について
非破裂者と CL/P 患者とを比較した報告において、CL/P 患者の下顎について下
顎枝、下顎骨体長、下顎骨長の短小、下顎角の開大などが報告されている(4,
8,10,11,13,18,17,19)。距離的計測頄目について、CP と UCLP の比較では、
下顎骨の全ての計測頄目は口唇裂の有無により成長パターンに差を認めず、計
測値にも差を認めなかった。これより、下顎骨の成長は口唇裂の存在や、口唇
形成術による影響は受けていないと考えられた。
一方、UCLA と UCLP の比較では、口蓋裂を有すると下顎枝高は成長パターンが
異なり口唇形成術時は同程度であったが、口蓋形成術以降 に 有意 に小さ くな
り 思 春 期以降も持続した 。このことより、UCLP の下顎枝高の短小は口蓋裂そ
のものの存在による先天的影響というよりは、口蓋形成術などの上顎発育への
後天的な影響が下顎の発育に及んでいるためと考えられた。
また、下顎骨長(Cd-Pog)は成長パターンに違いはないが、計測値は UCLP が
小さく、生下時の形態差がそのまま成人まで維持されていた。このことから、
下顎骨長(Cd-Pog)は口蓋裂に伴う先天的な影響のみで、口蓋形成術の影響は
37
受けていないと考えられた。下 顎 骨 長 ( Gn-Cd)、下 顎 骨 体 長 ( Me-G)は計測
値および SN 比の比較において、口蓋裂にともなう成長パターンに違いはなかっ
た。しかし SN 比では形態差を認め、口蓋裂の存在により頭蓋底に対して相対的
にかつ術前から小さいことが示唆された。また、下 顎 骨 体 長 ( Pog-Go)の SN
比は成長パターンに差を認め、口蓋形成術を受けた後の 5 歳頃から、成長に及
ぼす手術の抑制的な影響が表れ持続していると考えられた。
顆頭間幅径および下顎角幅径は、口唇裂および口蓋裂の有無による比較で成
長にも計測値にも差を認めず、裂の存在と手術のどちらの影響も受けていない
と考えられた。
5 )上 下 顎関係 について
本研究では全身麻酔下で経口的に気管内挿管がなされた開口状態で撮影され
ているため、側面での頭蓋に対する下顎骨の相対的位置の角度的計測は、stage
3 以降でないと評価できなかった。stage 3 は口唇形成術および口蓋形成術を終
えており、手術による影響が顎骨にすでに及んでいるため、生来の裂型の違い
による影 響 に よ る も の か ど う か は 判 断 で き な か っ た 。 従 っ て 、 口 唇 裂 ま
た は 口蓋 裂の有無による比較 を行った 本研究における所見が 、先天性か後
天性かを考察することは難しい。
口蓋裂の有無で比較したところ、頭蓋底や顔面部に対するオトガイ部の突出
度(SNB、SNP、Facial plane angle)は、stage 3 以降の成長パターンに差は
なかったが、計測値は口蓋裂を有する UCLP が小さかった。これより、口蓋裂の
存在と口蓋形成術の影響でオトガイ部は stage 3 以降は後方に位置しており、
思春期成長を経ても変わらないことが判った。また、上顎突出度(Angle of
convexity)および上下顎前後的関係(A-B plane angle、ANB)は、成長パター
38
ンに違いがなく stage 3 で UCLP の ANB は UCLA より小さく、この上下顎歯槽
基底部の前後関係は成人まで持続した。
口唇裂の有無の比較では成長パターンが異なり、UCLP の ANB は stage 3 で
は CP より大きかったが stage 4 では CP より小さくなり、Angle of convexity
も stage 3 から stage 4 の変化で UCLP が大きくなった。つまり、口唇裂の存在
および口唇形成術は、5 歳以降の上下顎関係に影響を及ぼすことが判った。ど
ちらの比較でも、成人での上顎突出度および上下顎前後的関係は、UCLP の側面
プロフィールがストレートタイプを呈す傾向にあった。この理由として、上述
の A 点の前方成長抑制が考えられ、口唇裂および口蓋裂はいずれも成人の中顔
面の前方成長の抑制を引き起こす要因であり、口唇裂も口蓋裂も有する UCLP
は CP や UCLA に比べて成長に伴って劣成長が顕著になると考えられた。
本研究では、SN 比を用いて頭蓋底に対する口唇形成術時からの下顎の形態の
比率を算出し、上下顎関係と合わせて評価した。その結果から、口蓋裂の有無
による下顎骨の形態差が SN 比のみで認められた頄目があった。Pog-Go、Me-G、
Gn-Cd は、口蓋裂の存在により頭蓋底に対して相対的にかつ術前に小さいこと
が示唆された。また、N-ANS、ANS-PNS、S-PNS の SN 比の比較は成長パターン
に違いがなく口蓋裂を有する方が計測値は小さかった。これより、口蓋裂の有
無による上下顎関係の差は、口蓋裂を有する方が下顎骨は術前に小さいこと、
ならびに上顎骨の成長抑制の程度の両方の要素を含んでいることが示唆された。
一般的に CP の顎顔面形態は下顎が小さいとする報告が多い。そのため、UCLP
が上下顎関係の不良や中顔面の劣成長を指摘されるのに対し、CP は見かけ上、
中顔面の劣成長が顕在化しない場合も見受けられる。口唇裂の有無に関する比
較で、2 群間の Id-Me、Pog-Go、Me-G、Cd-G、Gn-Cd の SN 比は計測値比較と同
様に差を認めず、下顎の形態に差はなかった。これより、口唇裂を有する UCLP
39
の 5 歳以降の上下顎関係および上下顎突出度の抑制的変化は、UCLP の上顎骨の
前方成長の程度を反映したものと考えられた。
40
Ⅳ.男子における口蓋裂の有無による比較
Ⅳ -1. 対 象
研 究 対 象は、 九州大学 歯学部附属病院にて 1975 年から 1987 年までに口
唇およ び口 蓋形 成手 術を 受 けた 後に 矯正 治療を 受け た CL/P 患者の うち 、
初 回 形 成術時から思春期成長以降までの経時的な頭部X線規格写真 の資
料 が 得 られた男子 42 名である。裂型の内訳は 、UCLA 14 例、 UCLP 28 例
で あ っ た(表 9)。CP は男性 における発生頻度が尐なく 、男 性患者の資料
が 尐 な かったので本研究対象とはできなかった。また 、 Crouzon 症候群
や Pierre Robin 症候群などの症候群に関連のある患者は除外した。
研 究 資 料 と 研 究 方 法 に つ い て は Ⅲ -1 と 同 じ で あ る 。
表9
stage
UCLA (n = 14)
UCLP (n = 28)
症 例 内訳 と 手術時 平 均 年齢
stage 1
0 歳 (4.2±0.6 か月)
0 歳 (4.3±1.0 か月)
stage 2
なし
1.8±0.4 歳
41
stage 3
4.6±0.7 歳
4.8±1.0 歳
stage 4
9.6±0.9 歳
10.1±0.5 歳
stage 5
16.3±1.6 歳
16.3±1.7 歳
Ⅳ -2. 結 果
頭 蓋 顎顔面形態の成長パターンについて 、 口蓋裂の影響を検討するた
め に UCLA と UCLP を比較し た。計測結果を表 10 に示す。
表 10 各計測時期におけるUCLAとUCLPの各計測項目の平均値
stage 1
stage
裂型
UCLA
stage 3
UCLP
UCLA
stage 4
UCLP
UCLA
stage 5
UCLP
UCLA
UCLP
距離的計測項目 (㎜)
正貌計測項目
Oo
Io
Zyg
Nc
Mx
Cl
Go
-
Oo '
Io '
Zyg '
Nc '
Mx '
Cl '
Go '
75.4
18.1
93.5
23.7
47.7
85.5
65.3
(2.9)
(1.6)
(3.7)
(3.0)
(4.7)
(3.6)
(3.2)
75.4
18.1
93.5
23.7
47.7
85.5
65.3
(4.0)
(2.1)
(4.5)
(2.7)
(4.3)
(4.1)
(4.3)
87.0
21.4
120.0
28.2
61.4
111.1
86.1
(4.4)
(3.2)
(6.3)
(2.9)
(4.1)
(6.9)
(4.8)
87.0
21.4
120.0
28.2
61.4
111.1
86.1
(2.9)
(1.9)
(4.6)
(2.4)
(3.5)
(5.0)
(5.0)
92.6
24.7
132.2
31.4
68.6
124.2
99.0
(3.4)
(2.7)
(5.2)
(2.6)
(4.0)
(5.6)
(5.0)
92.6
24.7
132.2
31.4
68.6
124.2
99.0
(3.6)
(2.3)
(5.4)
(2.6)
(2.0)
(5.6)
(4.7)
96.2
27.0
146.6
35.0
72.9
135.4
109.8
(3.9)
(2.9)
(5.8)
(3.1)
(4.7)
(6.0)
(6.6)
96.2
27.0
146.6
35.0
72.9
135.4
109.8
(3.6)
(2.4)
(5.6)
(3.2)
(3.1)
(5.8)
(5.2)
74.1
48.5
31.0
30.1
18.3
10.1
11.4
10.9
30.4
27.1
36.0
35.5
19.4
62.6
43.8
27.8
38.9
41.9
63.1
(3.3)
(2.9)
(1.7)
(2.0)
(1.7)
(1.3)
(1.9)
(1.7)
(2.1)
(2.2)
(3.3)
(3.0)
(1.1)
(2.8)
(1.9)
(3.2)
(1.9)
(1.7)
(2.3)
75.6
49.9
30.1
30.7
18.6
9.8
12.7
12.3
31.1
26.1
36.5
35.5
20.2
61.9
43.2
27.2
38.5
41.1
62.3
(3.2)
(2.2)
(1.8)
(1.7)
(1.3)
(1.2)
(2.1)
(2.0)
(1.8)
(2.0)
(3.8)
(2.1)
(1.9)
(3.5)
(2.6)
(2.2)
(2.8)
(2.7)
(3.3)
94.0
63.0
39.8
44.8
24.0
19.3
16.4
16.0
44.9
41.1
44.6
45.3
28.7
93.6
62.2
46.1
57.2
59.8
94.6
(6.0)
(4.5)
(4.2)
(3.3)
(2.2)
(2.8)
(2.4)
(2.4)
(3.3)
(3.1)
(4.5)
(4.1)
(2.9)
(5.7)
(4.8)
(3.7)
(4.4)
(4.5)
(5.6)
97.8
65.1
40.2
46.2
24.3
19.3
17.4
16.7
46.4
39.3
44.8
45.1
29.3
93.9
62.3
45.0
57.2
60.1
95.1
(3.8)
(3.0)
(2.4)
(3.9)
(2.6)
(2.6)
(2.2)
(1.9)
(4.0)
(2.8)
(2.6)
(2.5)
(2.4)
(5.6)
(3.9)
(3.8)
(3.8)
(3.8)
(5.4)
102.4
65.8
47.0
51.2
25.4
24.5
14.5
14.4
51.4
47.4
47.8
50.8
30.6
107.7
73.4
53.6
68.0
71.3
109.4
(5.0)
(4.2)
(3.4)
(3.5)
(1.7)
(2.6)
(3.4)
(3.3)
(3.5)
(2.2)
(4.6)
(4.8)
(2.8)
(5.1)
(3.9)
(4.3)
(3.6)
(3.7)
(5.1)
106.8
69.4
45.5
53.6
26.2
24.5
14.1
13.9
53.8
44.3
46.6
49.4
32.7
108.0
72.8
51.3
67.8
70.5
109.4
(4.8)
(2.9)
(3.0)
(2.7)
(2.1)
(2.3)
(2.3)
(2.2)
(2.8)
(2.8)
(3.0)
(3.0)
(3.2)
(4.6)
(3.1)
(3.8)
(2.9)
(3.1)
(4.6)
110.8
72.5
50.1
59.8
28.1
30.0
15.3
15.3
60.0
53.7
52.6
55.3
37.3
125.9
84.3
66.8
79.4
81.8
128.7
(6.4)
(4.1)
(4.7)
(2.9)
(2.4)
(3.0)
(2.9)
(2.9)
(2.9)
(3.0)
(3.6)
(3.8)
(3.3)
(6.6)
(6.2)
(7.4)
(5.9)
(5.8)
(7.2)
116.0
75.7
50.9
59.6
29.4
28.7
17.0
17.2
60.1
50.1
47.9
52.7
39.0
119.7
83.8
63.3
77.0
79.9
125.5
(9.1)
(9.5)
(6.3)
(3.7)
(6.1)
(2.4)
(3.1)
(3.5)
(3.6)
(2.8)
(7.4)
(2.6)
(4.2)
(18.1)
(10.8)
(7.2)
(4.9)
(4.5)
(6.6)
62.7
56.0
73.2
40.1
86.8
80.5
57.4
130.5
(2.7)
(3.7)
(4.6)
(3.6)
(6.1)
(5.6)
(6.5)
(7.4)
62.3
52.4
71.3
40.4
82.6
77.2
54.5
124.8
(3.5)
(3.3)
(3.8)
(2.9)
(6.0)
(6.0)
(3.6)
(5.4)
71.6
65.4
71.9
45.8
95.2
91.1
73.4
150.8
(6.6)
(4.4)
(4.3)
(6.2)
(8.8)
(8.5)
(6.8)
(12.0)
71.2
60.4
69.3
45.0
92.5
88.1
69.2
146.2
(5.3)
(4.3)
(3.9)
(3.0)
(5.9)
(6.2)
(5.2)
(6.8)
78.4
72.2
77.1
46.7
108.6
103.8
81.6
166.6
(8.0)
(3.4)
(4.3)
(6.3)
(8.2)
(8.9)
(5.9)
(9.6)
77.6
63.9
71.2
47.1
101.8
97.9
73.9
157.7
(5.3)
(4.5)
(3.7)
(4.0)
(5.5)
(5.8)
(5.0)
(7.0)
83.0
74.2
76.4
51.7
112.9
109.6
92.2
177.7
(5.5)
(4.6)
(4.4)
(6.1)
(8.2)
(8.2)
(10.3)
(10.2)
81.6
68.0
71.4
52.1
108.3
104.9
84.4
170.0
(6.4)
(4.8)
(3.6)
(4.9)
(7.2)
(7.6)
(7.3)
(9.6)
137.0
84.0
6.0
136.3
(6.1)
(5.5)
140.4
82.8
7.3
137.3
(4.4)
(6.8)
131.1
82.1
167.6
-6.2
5.4
6.5
75.8
76.7
69.5
87.4
82.3
29.0
63.0
80.9
132.4
(3.1)
(5.1)
(6.6)
(6.1)
(4.2)
(2.0)
(2.4)
(2.6)
(3.0)
(4.9)
(2.0)
(5.0)
(3.5)
(4.7)
(6.2)
135.0
78.2
168.0
-3.9
5.4
8.0
72.0
72.8
73.0
89.5
80.0
32.3
65.0
81.5
134.8
(4.4)
(4.4)
(6.7)
(2.6)
(3.4)
(2.6)
(3.5)
(3.1)
(3.7)
(5.4)
(2.9)
(4.6)
(3.2)
(5.1)
(5.4)
129.4
83.5
170.0
-7.2
5.0
6.2
78.7
78.6
69.6
91.0
85.0
27.8
63.4
84.7
127.8
(3.8)
(4.3)
(5.3)
(4.6)
(2.9)
(1.7)
(2.5)
(2.5)
(4.1)
(5.0)
(3.0)
(4.5)
(4.1)
(4.9)
(5.1)
135.6
76.4
173.4
-4.2
3.2
8.6
73.1
73.2
74.4
93.2
81.8
32.6
65.7
84.5
132.7
(4.9)
(3.6)
(6.8)
(3.9)
(3.0)
(1.9)
(3.5)
(3.4)
(3.6)
(4.5)
(2.9)
(4.2)
(2.9)
(4.0)
(4.0)
127.7
81.9
176.8
-3.9
2.2
7.0
80.4
79.7
70.0
92.0
87.3
26.4
63.0
85.0
126.3
(4.2)
(3.3)
(5.2)
(2.6)
(2.0)
(2.6)
(4.1)
(3.6)
(4.3)
(4.8)
(4.5)
(8.3)
(4.7)
(4.9)
(7.3)
134.5
76.2
178.9
-2.6
1.3
8.7
75.6
74.8
74.0
94.3
84.4
30.6
65.3
85.5
129.7
(4.4)
(4.1)
(6.8)
(4.1)
(3.0)
(2.1)
(4.2)
(3.9)
(4.8)
(6.2)
(3.6)
(6.3)
(4.2)
(5.8)
(5.6)
側貌計測項目
N-Ba
S-N
S-Ba
N to PP
Or to SN
Or to PP
ANS-Pr
Pr to PP
N-ANS
S-PNS
A'-Ptm'
ANS-PNS
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
G-Cd
Me-G
Pog-Go
Gn-Cd
SN 比 (%)
N-ANS/SN
S-PNS/SN
ANS-PNS/SN
Id-Me/SN
Pog-Go/SN
Me-G/SN
G-Cd/SN
Gn-Cd/SN
角度的計測項目 (degree)
SNBa
SNA
Angle of Convexity
A-B plane angle
ANB
FH to SN
SNP
SNB
NSGn
GZN
Facial plane angle
Mandibular plane angle
Y-axis
Ramus inclination
Gonial angle
(3.6)
(6.0)
(3.0)
(5.5)
平均 (SD)
42
ⅰ.交互作用ありの頄目
UCLP と UCLA の比較において交互作用を認めた 頄目、つまり成長パタ
ー ン に 違いを認めた頄目を表 11 に示す。
正 面幅 径において 、上顎面下部幅径( Nc-Nc'および Mx-Mx')は口唇形
成 術 時で は UCLP が有意に大きかったが 、stage 3 以降は 2 群間に差は
認 め な かった。
側 面に おいて距離的計測 は、上顔面 下部 長径( ANS-PNS、A’-Ptm')お
よ び 後 上顔面高径( S-PNS)で交互作用を認めた。UCLA と UCLP の両 群間
で 口 唇 形成術時において 差が なかったが 、上顔面 下部長径( ANS-PNS、A’
-Ptm’) は stage 5 で、後上顔面高径( S-PNS)は stage 4 以降で UCLA
が 有 意 に大きかった。角度的計測頄目においても同様に 、SNA は口唇形
成 術 時で は差がなかったが stage 3 以降においては UCLA が大きかった。
下 顎 角( Gonial angle)は 、stage 4 においてのみ UCLA が有意に大きか
った。
計測項目
距離的計測項目
Nc-Nc'
Mx-Mx'
S-PNS
A'-Ptm'
ANS-PNS
角度的計測項目
SNA
Gonial angle
stage 1
表 11 交互作用ありの項目
分散分析 (UCLA: UCLP)
stage 3
stage 4
UCLA<UCLP*
UCLA<UCLP*
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
UCLA>UCLP*
ns
43
ns
ns
UCLA>UCLP*
ns
ns
stage 5
ns
ns
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
ns
ns : non significant、* : p < 0.05
ⅱ . 交 互作用なしの 頄目
交互 作 用を認めず 、成長パターンに違いを認めなかった頄目を表 11 に
示 す 。 両 群 間で 計 測値 に 差 を 認 めた 側 面 の 距 離 的 計 測頄 目 は 、 全 頭 蓋 底
長 径 ( N-Ba) と 前 頭蓋 底 長 径 ( S-N) で 、 UCLP が 小 さ か った 。 ま た 、 オ
ト ガ イ部 の突出度を表す頄目(Facial plane angle、S-N-B、S-N-P)は、
stage 3 以降で UCLP が小さく、Mandibular plane angle、Y-axis、N-S-Gn
な ど の下 顎下縁平面の角度を 表す頄目は 、UCLP で大きかった。
計 測 値 に 差 を 認 め な か っ た 頄 目 は 、 正 面 幅 径 に お い て Oo-Oo'、 Io-Io'、
Zyg-Zyg'であった。側面におい て距離的計測頄目は 、S-Ba、N to PP、Or to
PP、Or to SN、N-ANS などの 後頭蓋底長 径と前上 顔面高径 、 そして下顎
骨 の 全 ての計測頄目であった 。角度的計測頄目 は 、Angle of Convexity、
A-B plane angle、 A-N-B、G-Z-N、Ramus inclination、 また SN 比によ
る 比 較 は N-ANS/SN、 Id-Me/SN、 Me-G/SN で 計 測 値 に 差 を 認 め な か っ た 。
44
計測項目
距離的計測項目
Oo-Oo'
Io-Io'
Zyg-Zyg'
Cl-Ci'
Go-Go'
N-Ba
S-Ba
S-N
N to PP
Or to SN
Or to PP
Pr to PP
Id-Me
Cd-Pog
G-pog
G-Cd
Me-G
N-ANS
ANS-Pr
Id-Me
Pog-Go
Gn-Cd
SN 比
N-ANS/SN
ANS-PNS/SN
S-PNS/SN
Id-Me/SN
Pog-Go/SN
Me-G/SN
G-Cd/SN
Gn-Cd/SN
角度的計測項目
SNBa
Angle of Convexity #
A-B plane angle #
ANB #
FH to SN
SNP #
SNB #
NSGn #
GZN #
Facial plane angle #
Mandibular plane angle #
Y-axis #
Ramus inclination #
表 12 交互作用なしの項目
反復測定分散分析
形態差
t 検定
なし
なし
なし
なし
なし
あり
なし
あり
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
-
なし
あり
あり
なし
あり
なし
あり
あり
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
あり
なし
なし
なし
あり
あり
あり
あり
なし
あり
あり
あり
なし
* : p < 0.05
45
UCLA<UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA<UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA>UCLP*
UCLA<UCLP*
# : stage 3 ~stage 5で分析
Ⅳ -3. 考 察
1 )頭 蓋 底基底部 について
本研究の結果では、頭蓋底計測頄目(N-S、N-Ba、S-Ba)は交互作用がなく S-Ba
は計測値にも差がなかったが、S-N と N-Ba は UCLP が大きかった。また頭蓋底
角は、2 群間で成長パターンに差を認めなかったが、口蓋裂を有する UCLP の計
測値が大きかった。UCLA よりも UCLP の頭蓋底角が大きいということは過去にも
報告されており(5,10,13,60)、Blaine(60)は鋤骨の成長力が前頭蓋基底
部を上方に持ち上げるためであると述べている。また、長谷川(10)は鼻中隔
を構成する鋤骨の成長力が、篩骨鉛直板を介して頭蓋基底部の蝶形後頭軟骨結
合に影響し、前頭蓋基底部を上方に持ち上げるために頭蓋底角の開大が生ずる
と推察している。本研究結果では 、頭蓋底長径および頭蓋底角は口唇形成術時
から形態差を認め、成長パターンに差がなかったことから、形成手術による後
天的な影響を受けず、口蓋裂の存在により術前に大きいと考えられた。研究Ⅲ
の結果では女子の頭蓋底長径は CP の影響を受けておらず、今回の男子の結果と
異なっていた。これより頭蓋底の成長には性差があると考えられた。
2 )上 顎 骨について
本研究において N to PP、Or to PP、Or to SN、N-ANS などの前上顎顔面高は、
UCLA と UCLP の比較で成長パターンに差はなく、計測値に有意差を認めなかっ
たことから、前上顔面高の下方成長は口蓋裂の有無や口蓋形成術の影響を受け
ないと考えられた。これは研究Ⅲの女子の結果と同様であり、前上顔面高径の
下方成長に対する口蓋裂の影響は性差がないと考えられた。一方、ANS-PNS、A'–
Ptm'、S-PNS などの上顔面下部長径および後上顔面高径は成長パターンが異な
っていた。いずれも口唇形成術時で差がなかったが stage 5 では UCLP が小さ
46
くなり、特に 15 歳以降において UCLP の上顔面下部の前後的成長や後上顔面高
径の成長量が尐なかったと考えられる。角度的計測頄目は SNA が成長パターン
に差を認め、stage 1 は差を認めなったが、口唇・口蓋形成術後は UCLP が小
さかった。上顔面高や上顔面下部長径は研究Ⅲの女子の結果と同様であった。
こ の よ うに、点 A や ANS の上顎骨の前方成長に関わる頄目は成長パター
ン が 異 な っ てい た ため 、 口 唇 形 成術 後 の口 唇 の 緊 張 およ び 口蓋 形 成 術 後
の 繊 維 性 、 瘢痕 性 結合 に よ る 後 天的 な 成長 抑 制 が 関 与し て おり 、 そ の 影
響 は 思 春期成長以降 にまで及ぶと考えら れた。
幅径において、男子の内外 眼 窩 間 幅 径 お よ び 頬 骨 間 幅 径 は 成 長 パ タ ー ン
や 形 態 差 が な か っ た こ と か ら 、 こ の 部 に 対 す る 口蓋裂による先天的および
形成手術による後天的な影響はないと考えられた。女子では内外眼窩間幅径も
口蓋裂の影響を受けて開大していたが、男子では口蓋裂の影響は上顎歯槽や梨
状口などの上顎骨のより下方で留まっていた。男子の上 顎 歯 槽 幅 径 と 梨 状 口
幅 径 は口 唇形成術時 に UCLP が大きく 、口唇・口蓋形成術後に差がなくな
っ た 。 こ れ より 、 上顎 歯 槽 基 底 幅径 と 梨状 口 幅 径 は 口蓋 裂 の 存 在 に よ り
術 前 に 開 大 して い たが 、 そ の 側 方成 長 には 形 成 術 が 抑 制 的 に働 い て い る
と 考 え ら れ た。 口 蓋裂 を 有 す る 患者 の 内眼 窩 間 幅 径 と 上 顎 歯槽 基 底 幅 径
が 大 き い傾向にあることについては 、Subtelny(4)は口蓋 帆張筋や口蓋
帆 挙 筋 の 不 連続 に よる 蝶 形 骨 大 翼部 の 縫合 の 広 が り を原 因 のひ と つ と し
て 挙 げ ている。
本研究の結果から、男子では口蓋裂および口蓋形成術により前上顔面高径は
影響を受けないが、後上顔面高径の下方成長、上顎歯槽部の前後的成長、上 顎
歯 槽 幅 径 と 梨 状 孔 幅 径 は 口 蓋 形 成 術 に よ り その成長が影響を受け、とくに
15 歳以降に抑制されると考えられた。一方、女子の後上顔面高径は口蓋形成術
47
の影響を認めておらず、口蓋形成術の顔面発育に対する影響は性差がある可能
性が示唆された。
3 )下 顎 骨について
下顎骨は全ての距離的計測頄目で交互作用を認めず、計測値に有意差を認め
なかったことから、下顎骨の様々な部位の長さは口蓋裂の存在や口蓋形成術の
影響を受けなかったことが示唆された。しかし頭蓋底および上顔面部に対する
オトガイ部の突出度(S-N-B、S-N-P、N-S-Gn、Y-axis angle、Facial plane angle)
と下顎下縁平面角(Mandibular plane angle)などの下顎骨の前後的位置関係
は影響が認められ、口蓋裂を有するとオトガイ部は後方へ位置し下顎下縁平面
は大きくなっていた。
本研究では、全身麻酔下で経口的に気管内挿管がなされた開口状態で撮影さ
れているため、頭蓋に対する下顎骨の相対的位置の計測は 5 歳(stage 3)以
降でないと評価できなかった。stage 3 は口唇形成術および口蓋形成術を終え
ており、手術による影響が顎骨 にすでに及んでいるため 、裂型 の違いによ
る 先 天 的な影響の有無 は判断できなかった。よって、UCLP において上記の
ようなオトガイ部の後退や、下顎下縁平面角の開大が先天的か後天的かは推測
できないが、尐なくとも口蓋裂と口蓋形成術の影響を受けて形態差が生じてい
ると考えられた。
UCLP においては、前頭蓋底長は UCLA より長く N 点が前方に位置していると
考えられ、上顎骨の下方成長量は口蓋裂による差がないにも関わらず前方成長
量は UCLP が尐なく、さらに後上顔面高は 10 歳頃より UCLP で低成長が顕著と
なり、成人で UCLA より上方に位置していることが示された。以上のことより、
オトガイの後方位は N 点の前方位と後上顔面高の劣成長および前方の劣成長
48
を受けたものと考えられる。過去には、上顎骨の劣成長による下顎骨の後下方
への回転のため、下顎骨オトガイ部が後方位をとるとする報告(8,59)もある
が,本研究においては,顔面部に対する下顎枝の回転を表す G-Z-N,Ramus
inclination が裂型の違いで差を認めず,下顎枝の回転が統計学上では顕著に
表れなかった。しかし,Gonial angle が交互作用を認め成長パターンに差があ
り,stage 4 で UCLP の Gonial angle が開大していることから,本研究結果か
らは、オトガイ部の後方位は Gonial angle の開大によるところが大きいと考え
られた。
49
Ⅴ.総括
1) 女 子における口蓋裂お よび口唇裂の有無による比較
ⅰ . 口 蓋 裂 の 存 在 は 上 顎・下 顎 骨 を 術 前 に 小 さ く す る 傾 向 に あ る が ,
口唇裂は上顎のみに劣成長を示した。
ⅱ .口 蓋 裂 の 存 在 は 術 前 に 後 上 顔 面 高 径 の 短 小 を も た ら し 、
ま た 上 顔 面 の 前 方 成 長 を 抑 制 し て い た 。後 上 顔 面 高 径 の 成 長 に
関しては口唇裂と口唇形成術が抑制的に影響していた。
ⅲ .口 蓋 裂 と 口 唇 裂 の 存 在 は 上 顎 骨 幅 径 を 術 前 に 大 き く す る 傾 向 に
あり,口蓋裂の方がより上方まで影響し、その影響は大きいと
考えられた。しかし、口蓋形成手術は上顎幅径の側方成長を抑
制 し た 。特 に 口 唇 か ら 口 蓋 骨 に わ た る 裂 を 有 す る UCLP で は 手 術
侵襲の影響が大きいと考えられた。
2)男子における口蓋裂の有無による比較
ⅰ .口蓋裂および口蓋形成 術は上顔面下部長径の前方成長および後上
顔面高径の下方 成長に, 後天的かつ抑制的に影響を及ぼし ,それ
は思春期成長にまで及んでいた。
ⅱ.口蓋裂および口蓋形成術は,下顎骨の距離頄目に影響を及ぼしていない
が,下顎骨の頭蓋底や上顔面部に対する位置関係には影響しており、オ
トガイ部がより後方に位置していた。
ⅲ.口蓋裂の存在は上顎歯槽基底弓幅径と梨状口幅径を術前に大きくするが,
口蓋形成術はその部の成長を抑制していた。
ⅳ.男女間で口蓋裂により成長に影響を受ける部位に違いがあることが判
った。
50
Ⅵ.謝辞
稿を終えるにあたり,御懇篤なるご指導いただきました中村誠司
教授に深甚なる謝意を表します。また直接ご指導いただきました笹
栗正明講師,九州大学大学院歯学研究院口腔保険推進学講座歯科矯
正 学 分 野 鈴 木 陽 講 師 ,九 州 大 学 病 院 ARO 次 世 代 医 療 セ ン タ ー 特 任 岸
本淳司准教授に深謝いたします。また,常に励ましの言葉と建設的
なご意見を頂きました,九州大学大学院口腔顎顔面病態学講座顎顔
面腫瘍制御学分野の皆様に深く感謝いたします。
51
Ⅶ.参考文献
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