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平成 18 年度設備点検で、2次系ダンプタンク(A)CLD (240A

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平成 18 年度設備点検で、2次系ダンプタンク(A)CLD (240A
添付資料-17
平 成 18 年 度 設 備 点 検 で 、 2 次 系 ダ ン プ タ ン ク (A) C L D
(240A-XE313A)に絶縁低下が確認された。このため、CLDを予備
品と交換したが、当該CLDの取外し時に、その内部に結露水が観
察された(平成 19 年 3 月 7 日)
。
観察された
結露水
既設 CLD の取外し
既設 CLD の取外し後の状況
平成 18 年度設備点検時に観察されたCLD内部の結露水
(240A-XE313A)
添付資料-18
2次系オーバフロータンク(A)CLD警報発報保修管理面の要因分析
原因を究明すべき現象:2次系オーバフロータンク(A)付CLD警報
対 策
【エビ】H3 日立資料(HQ-A0697)
新担当への、設備
情報共有化の仕
組みはあるが、共
有化状況を実効的
に確認する仕組み
がない。
【エビ】H5 東芝資料(TQ-A1059)
メーカーは銀ろうは実績か
ら2年程度はIMは発生し
ない。また建設時の環境を
考慮すると2年以上期待で
きるとのことだったが、H5
からH10まで点検(絶縁
抵抗測定)を実施していた
ものの、その後H18年まで
点検を行わなかった。
その後、絶縁抵抗値が
判定基準を下回ることが
なかった為、点検を実
施せずと判断がなされ
た。(推定)
平成10年までの点検にお
いて、異常が発見されな
かったため、点検時期を
見直せると考えたが、IMが
高温で促進されることを認
識できなかった。
IMの認識不足の問題
H3年及びH5年に
イオンマイグレー
ション(IM)発生事
例がありながら今
回類似した原因で
警報が鳴った。
H3年及びH5年の対
応で、それぞれIMリス
クを排除したと考えた
と思われるが、その後
の環境悪化(結露)が
あった。
漏えい事故後の改造
工事で、タンク内ナトリ
ウム固化を計画した
が、予熱をきったこと
で結露が発生すること
を予見できなかった。
(推定)
IMの認識不足の問題
情報共有化の問題
オーバーフロータンク
は、IM発生の経験が
あるため、H20年5月に
実施したNa漏洩検出
器点検の中で、同じ環
境にあるダンプタンクを
含めた5基(15個)のC
LDについて、取り外し
て点検をしたが、異常
は見つけられなかっ
た。
検査方法の問題
保全データ管理の問題
積極的に対策品への
取替えを進めなかっ
た。
IM認識不足の問題
リスク認識を共有化できな
かったため、一人が、気
づかなかったことを、組織
でリカバリーできなかっ
た。(推定)
H18年の検査で絶縁抵抗
値の著しい低下が見られた
CLDをタンク下部より抜いた
際に、結露が見つかった
が、IM発生条件が形勢・維
持されたことを認識できな
かった。(推定)
ニ次系タンク下部もCLD
は、結露環境が生じた段
階で、IM発生条件が形
成・維持されているが、ま
だ高温環境となっていな
いため、IMの発生成長が
なく、検査しても発見でき
ない公算が大きかったこと
を認識できなかった。
必要な情報を探し
にくい。
資料は保管される
が、担当が代わるた
びに、効果的に情報
共有がなされなかっ
た。
情報が集約されて
いない。
設備毎に、保修経験を集めた
「保全計画の根拠集」を作成
し、共有化資料とする。
現在保守管理要領で実施して
いる保修票のデータ分析に、
不適合のデータ分析及び懸
案事項の抽出を行うことを保
守管理要領書に追加する。
各設備の懸案やトピック
スを保修管理職や所幹
部に集約的に情報共有
がなされなかった。
絶縁抵抗が落ちたもの
意外は、H18年に測
定した絶縁抵抗値に問
題がないため、異常が
ないと判断した。(劣化
があるものは交換を
行った。)
結露によるIM発生条
件の形成・維持とそ
の後の高温環境での
IMの発生・進展と
いった基本的事項を
認識していなかった。
IMに関するトラブル事例の教
育試料を作成し、 IMに関す
る基本的事項の理解を深める
ための教育を行う。
A
Aへ
高温環境経験前の状態で
の、IM発見のための検査
手法が確立していないと
いうことを認識できなかっ
た。
IMの進行程度と、検出性
に関する手法が整理確立
されていないことが問題で
あることを認識できなかっ
た。
絶縁抵抗値は、絶対値で
の判断をしており、トレンド
管理の必要性を認識でき
なかった。
また、トレンド管理とリンクし
た予防処置基準を確立し
なかった。
IMにより、急速に絶縁抵抗
が低下する実績が無なく、
トレンド管理の必要性を検
討しなかった。(推定)
H5年の検討では、「現状の
仕様のものは特異な環境に
なければ問題ない」と結論
づけた上、金ロウ品は、予備
品仕様としての提案であっ
たため当面のリスクは無く
なったものと認識した。(推
定)
Aへ
今後、保全計画のデータベー
スとなる「保全計画の根拠集」
を作成し、新担当への過去に
おける情報共有が行えるように
し、教育プログラムの中で、「保
全計画の根拠集」の運用が理
解していることを確認するように
する。
点検をして絶縁抵
抗値の低下が認め
られれば、予備品
(対策品)と取り替
えれば良いと考え
た。
絶縁抵抗のトレンド管理及び
予防処置基準を導入し、保全
計画に反映する。
原因の究明と対策
が充分ではなかっ
た。
誤警報発報防止の
意識が低かった。
Na漏洩警報発報の重大性
について再度教育する。(実
施済)
誤警報重大性認識不足の
問題
H5年からH10年で、絶縁
抵抗が判定基準を下回る
ものが見られなかったた
め、IMリスクは無くなったも
のと認識した。
IMについての基本的理解
が不足した。
H18年の結露発見の時
点で、不適合処理をし
ていないため、組織的
な検討ができなかっ
た。(保修票も同様に
発行せず。)
保修票管理の問題
点検工事の中で対応が可
能なものは、保修票をきら
なくともよいと認識した。
(推定)
不適合状況を定期的に検
討し、保全計画への反映及
び評価を行う。
Aへ
保修票や不適合の
発行を限定的にとら
えようとする意識が
あった。
不適合や保修票をデー
タとして保修計画に
フィードバックする仕組
みがなかっため、不適合
や保修票の効果を理解
できなかった。
不適合対応により、組
織的検討ができるように
なることや、水平展開が
かかり、類似の潜在的
なバグを消去できるなど
の不適合管理の目的に
ついて教育不足であっ
た。
保修票運用手順書で、運
用事例を添付し、都合の良
い判断をする余地がないよ
う改正する。
不適合管理要領におけ
る、不適合対応の目的につ
いて教育する。(実施済)
2次系CLDの現状品と対策品の比較
添付資料-19(1/2)
2次系CLDの現状品と対策品の比較
添付資料-19(2/2)
添付資料-20(1/2)
金と銀のイオンマイグレーションの発生しやすさの比較
イオンマイグレーションは、直流電圧が印加されている銀電極間の絶縁物表面に水分が付着す
ることで発生する。陽極の銀表面において、次の(1)式の化学反応が起こる。
Ag+OH-→AgOH+e-
(1)
ここで生成する水酸化銀(AgOH)は不安定な物質であるため、次の(2)式のように容易に
分解する。
2AgOH→Ag2O+H2O
(2)
(3)
この反応によって生成した酸化銀(Ag2O)も不安定な物質であるため、容易に分解し、
式のように反応してAg+イオンを生成する。
Ag2O+H2O⇔2AgOH⇔2Ag++2OH-
(3)
(2)(3)式の反応で生成したAg+イオンがクーロン力で陰極側に向かって徐々に移動して
陰極に到達すると、その表面で電気化学的に還元されて、次の(4)式のように金属銀となる。
Ag+e-→Ag
(4)
この析出銀は、一般に樹枝状成長となり、その先端の電界強度は成長と共に増大するので、一度
成長が始まると加速度的に進行する。これがイオンマイグレーションのメカニズムである。
したがって、イオンマイグレーションしやすい金属というのは、水分と反応して生成した酸化物
が不安定な金属である。この金属の酸化物の不安定程度を示す指標としてギブスの自由エネルギー
がある。ギブスの自由エネルギーの絶対値が小さいと酸化物は安定な状態で存在することができず、
分解・生成が繰り返される。
表1に各種金属酸化物のギブスの自由エネルギーを示す。AgOは-2.39(kcal/mol)と他の金属
と比較して極端に小さいことがわかる。分解してAg+イオンとなった時に陰極側に移動し、また
AgOになるが、またAg+に分解した時に陰極側に移動するということを繰返し陰極まで移動す
る。
ギブスの自由エネルギーのマイナスの値が大きい酸化物は、安定な物質ということになる。一
旦酸化物になると、イオン化することはないため、マイグレーションは起こらない。
添付資料-20(2/2)
AgとAuの酸化物のギブスの自由エネルギーの絶対値を比較すると、AuはAgの約15倍
の値である。酸化銅(CuO)と同等以上の安定性があることがわかる。
表1
各種金属酸化物のギブスの自由エネルギー(ΔG)
酸化物
ギブスの自由エネルギー
ΔG(kcal/mol)
Ag2O
-2.59
Au2O3
-39.0
CuO
-30.4
NiO
-51.7
SnO
-61.5
ZnO
-76.0
Fe2O3
-196.5
また、Auはイオン化傾向が小さい金属である。イオン化傾向は、水溶液中における金属のイ
オンのなりやすさを示している。イオン化傾向が小さい金属ほどイオンは還元され金属として析
出しやすく、イオン化傾向が大きい金属ほど酸化されてイオン化しやすい。以下に代表的な金属
のイオン化傾向の順番を示す。
K>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>Cu>Ag>Pt>Au
一般的に使われる金属の中でAuは最もイオン化傾向が小さい金属である。水中に浸漬しても、
酸化することはない。王水(濃塩酸/濃硝酸の混酸)等ハロゲンが存在する特殊環境下だけで、
Auは酸化されイオン化する。
以上から、Auは水溶液中で酸化物が生成しにくいこと、また酸化物が生成された場合にもそ
の酸化物はAgと比較して安定であること(ギブスの自由エネルギーによる)から、イオンマイ
グレーションが発生しにくい金属といえる。
以上
別添9-3
2次系RID故障の対応
次
<参考> 2次系ナトリウム漏えい検出器の体系とRIDの位置付け
5.まとめ
4.調達管理・不適合管理での改善事項
3.RID検出器の不具合の発生状況
3.1 指示値の一時的スケールダウンに関する不具合
3.2 指示値上昇に関する不具合
3.3 指示値のスケールダウン継続に関する不具合
2.RID検出器(タイプⅠ、タイプⅡ)について
1.2次冷却系ガスサンプリング型ナトリウム漏えい検出設備のシステム概要
目
1
配管のクランプ
配管のクランプ
保温材
保温材
サンプリング配管
内装板
漏えい検出器の設置数
・Aループ:11個(平成19年2月に交換(新型基板:タイプⅡ))
・Bループ:10個(平成19年2月に交換(新型基板:タイプⅡ))
・Cループ:11個(内9個を平成14年1月に交換(旧型基板:タイプⅠ))
(内2個を平成19年2月に交換(新型基板:タイプⅡ))
検出性能:検出器単品は、空気中において、10-10g/ccのナトリウムエアロゾル濃度(煙)を、検出する感度を有する。
すると、イオン室内の内部抵抗が増加する。この結果、イオン室と標準イオン室間の電圧分担が変化し、電圧指示
値が上昇する。この電圧指示値の上昇により、ナトリウム漏えいを検知する。
測定原理:サンプリングガスが導かれるイオン室と、密封された構造の標準イオン室がある。各々のイオン室には放
射線源であるAm-241が設置されている。イオン室に導かれたサンプリングガスにナトリウムエアロゾル(煙)が存在
ポンプ
検出器出力
サンプリングガス
サンプリングガス
放射線源
放射線源
電極
電極
イオン室
イオン室
絶縁板
絶縁板
RID:Radiative Ionization Detector
V
電圧
指示計
放射線源
放射線源
標準イオン室
標準イオン室
放射線イオン化式検出器(RID)
放射線イオン化式検出器(RID)
ヘッダ(HD)
ナトリウム配管
保温材
検出器
RID
サンプリングフィルタ
ヘッダ(HD)
目的:ナトリウム配管と保温材との間から吸引した空気(サンプリングガス)を検出器に送り、ナトリウムの微少漏え
いを検出する。RIDの警報が発報した時の漏えいの最終判断は、以下のとおり。
①当該RIDがモニタする対象の現場を目視により、ナトリウム漏えい独特の白煙、刺激臭の有無を確認する。
②RIDは、保温材からのガス発生、異物混入等を検知して、誤警報を発生させるため、警報が発生した場合、サンプ
リングフィルタに通気し、サンプリングフィルタに捕獲された物質を化学分析(pH確認[色])して、ナトリウムの有無を
確認する。
配管
予熱ヒータ
予熱ヒータ
1.2次冷却系ガスサンプリング型ナトリウム漏えい検出設備のシステム概要
2
タイプⅠの検出器
本体外観
本体外観
本体裏面
本体裏面
基板
基板
タイプⅡは、本体裏面に、基板の
一部(緑の部分)が見え、容易に取り
外せる構造になっている。
タイプⅡの基板は、表面実装(部
品のハンダ付けを自動化)により製
作している。
2次系ナトリウム漏えい事故の影
響を受けていないA、BループのRID
全数(合計21個)、CループのRID
(原子炉建物内の2個)は、更新のた
め平成19年に、タイプⅡと交換した。
タイプⅠは、本体裏面内部に基板
が取り付けられている。
タイプⅠの基板は手作業で部品
(抵抗、コンデンサー、トランジスタ
他)をハンダ付けして製作している。
2次系ナトリウム漏えい事故以前
のRIDは、タイプⅠのような手作業で
製作した基板を使用していた。同事
故の影響を受けたCループのRID(9
個)を、平成14年にタイプⅠのものと
交換した。
2.RID検出器(タイプⅠ、タイプⅡ)について
もんじゅのRIDの特徴は、通常の煙感知器が、煙の有無をON-OFF信号として出力するのに対して、ナトリウムエアロゾル濃度に応じた信号(ア
ナログ電気信号)を出力するように設計製作したものである。
タイプⅡの検出器
3
箇所
Aループ
HD-6、9
Cループ
HD-8
Cループ
HD-8
Cループ
HD-8
Aループ
HD-4
日付
H19.3.27
H19.5.21
H19.8.7
H19.8.8
H19.8.28
タイプⅡ
タイプⅠ
タイプⅠ
タイプⅠ
タイプⅡ
タイプ
検出器の
指示値が上昇して、警報が発報。
<指示値上昇>
スケールダウン。
<指示値の一時的スケール
ダウン(続き)>
一時的にスケールダウンして、再
び指示値が自然に復帰したが、復
帰の際、警報が発報。
<指示値の一時的スケール
ダウン>
一時的に指示値が低下して、再び
指示値が自然に復帰したが、復帰
の際、警報が発報。
<指示値の一時的低下>
スケールダウンを発見。
<指示値のスケールダウン継続>
事象
Na充填中
Na充填中
Na充填中
Naドレン中
Naドレン中
系統状態
不具合発生時の対応
即日、予備と交換した。
取り外した検出器は、同様に製造メーカへ
持ち込み、調査を実施。
即日、予備と交換し、保管していたAループ
HD-6、9も合わせ、調査を元請メーカに指示
した。
取り外した検出器は、製造メーカへ持ち込
み、調査を実施。
信号形状から見て、5月21日と同等な事象
の再現と判断。
信号形状から見て、ケーブル端子部の緩み
が原因と考え、接続端子部の緩み確認や打
振による確認を行ったところ、再現性が見ら
れなかった。
このため、一過性のものと考え、経過観察と
した。
初期故障と判断し、予備と交換した。
3.RID検出器の不具合の発生状況
4
1
15:00
1.5
2
2.5
15:30
16:00
16:30
17:00
警報設定値
ΔV=0.70V
8月7日 RID指示変動状況
(主としてCループの2次系主循環ポンプの入口配管を監視)
発生箇所:Cループ HD-8
17:30
18:00
(断線部拡大)
トランジスタ部
X線写真
Cループの残りの検出器(タイプⅠ)は、9月に全てタイプⅡ
の検出器に交換した。
タイプⅠと
同様の部品
原因:トランジスターのコレクタが製造時の取扱上のミスにより、亀裂
が入り、断線に至ったことで故障が発生した。
対策:Cループ HD-8の検出器は、手作業による部品取付
のタイプⅠから、自動的に部品の取付を行なう、表面実装の
タイプⅡに交換した。(8月8日)
RID出力電圧(V)
概要:RID出力電圧が2.3Vからスケールダウンし、3分後、2.3Vに復旧したことにより、警報設定値(通常値から
の電圧変化量)を超え、警報が発生した。
当該RIDは、翌日の12時50分からスケールダウンが継続し、故障と判断してタイプⅡに交換した。なお、5月21日のナトリ
ウム充填前にも一過性と思われる指示値低下が発生したが、一時的であったため、経過観察としていた。
平成19年5月21日、8月7日、8月8日発生
事象説明
3.1 指示値の一時的スケールダウンに関する不具合
(プリント基板)
タイプⅡの基板
タイプⅠの基板
5
(主としてAループの過熱器入口配管を監視)
発生箇所: Aループ HD-4
3.2 指示値上昇に関する不具合
18:30
19:00
19:30
警報設定値
ΔV=0.42V
<信頼性向上対策>
更に信頼性を向上させるため、今
後、改良型基板との交換を行う。
(10月下旬より)
20:30
21:00
原因:基板留めネジの緩みによる、プリント基板と固定リング(イオン室
とつながる)との電気的接触不良
ネジの緩み防止の為に、歯付き座金を追加し接触不良防止の為に接触子を追加する。更に、スルーホールを設けて導通を強
化する。
基板留めネ
ジが緩むと
わずかな段
差(数十
μm)により
接触不良が
生じる
20:00
RID指示変動状況
<対策>
全ての検出器について基板留め
ネジの増締めを行った。(9月)
1
18:00
1.5
2
2.5
概要:RID出力電圧が1.4Vから2.2Vに上昇したことから、警報設定値(通常値からの電圧変化量)を超え、警報が発生した。
サンプリングフィルタで、漏えいがないことを確認した後も、上昇前に比べてRID出力電圧の変動が大きいことから、検出
器の故障と判断して交換した。
平成19年8月28日発生
事象説明
RID出力電圧(V)
6
発生箇所: Aループ HD-6、HD-9
<対策>
検出器本体をベースへ取り付ける
際は、内部配線を押し込んで、挟
み込まないよう十分注意して作業
を行うとともに、検出器とベースに
マーキング(印)を行ない、適正な
位置にはめ合わされていることを
確認する。なお、内部配線の押し
込み状態やマーキング位置につ
いては、作業要領書に明記し、必
ず作業時に確認するようにする。
ガイド
タイプⅡ検出器
検出器本体
ベース
刃金具と刃受金具は電気的に
接触している必要がある
刃金具(検出器本体)
刃受金具(ベース)
検出器本体とベースの
はめ合い方向
原因:タイプⅡの検出器では、ベース内部配線が検出器本体取付時にガイド部に当たり、内部配線が挟む可能性がある。
この場合、検出器本体とベースとのはめ合わせが不十分となり刃金具と刃受金具の電気的接触不良が発生することが
判明した。なお、タイプⅠはガイドが設けられていないため、内部配線が挟み込むことはない。
工場における試験・検査を行った結果、検出器本体には異常はみられなかった。
・外観検査、電圧変動試験、温度変動試験、湿度変動試験、打振試験、加振試験、分解検査 など
概要:ナトリウム充填前の工事確認試験期間中にスケールダウンしているのが発見された。
平成19年3月27日発見
事象説明
3.3 指示値のスケールダウン継続に関する不具合
7
○受注者に対し、不具合(不適合)対応の管理を確実に実施するよう改善を指示した。
○ナトリウム漏えい検出器の不具合については、不適合管理(原因究明、再発防止策)を行うことを品質保証体系の中で明確にすること
を検討する。
改善事項
3月、5月に発生したRID不具合段階において、本格的な原因究明、再発防止策の検討に着手されていなかった。
反省事項
不適合管理(原因究明、再発防止策)での改善事項
○今回の対策である改良型RIDの検出器の製作にあたっては、受注者が検出器内部の構造変更、施工管理についても確認するよう改
善を指示した。
○ナトリウム漏えい検出器については、設計管理(設計審査時の留意事項への記載)等を強化することを品質保証体系の中で明確にす
ることを検討する。
改善事項
受注者は、今回のRID検出器を調達(購買)しているが、調達品であることから検出器内部の構造変更に係わる設計、施工管理の詳細ま
では確認していなかった。
反省事項
調達管理(設計管理、施工管理)での改善事項
4.調達管理・不適合管理での改善事項
8
改良型RID検出器の製作にあたっては、受注者が検出器内部の構造変更、施工管理についても確認
するよう改善を指示した。また、ナトリウム漏えい検出器については、設計管理(設計審査時の留意事項
への記載)等を強化することを品質保証体系の中で明確にすることを検討する。
ナトリウム漏えい検出器の不具合については、不適合管理(原因調査、再発防止策)を行うことを品質
保証体系の中で明確にすることを検討する。一方、受注者に対し、不具合(不適合)対応の管理を確実に
実施するよう改善を指示した。
2.調達管理・不適合管理の改善事項
調査の結果、故障状態(指示値の一時的スケールダウン、上昇)の再現がみられたRID検出器
(CループのHD-8、 AループのHD-4)については、原因( トランジスタのリード線の断線、検出器本体に
内蔵されている基板の留めネジの緩み)が特定され、既に対策を実施した(表面実装タイプのタイプⅡに
統一、留めネジの増締め )。
再現がみられないRID検出器(AループのHD-6、9)については、検出器本体には異常は認められず、検
出器本体とベースとのはめ合わせが十分でなかったために、接触不良によりスケールダウンしたもので
あると推定されている。これについての対策は、内部配線を挟まないように注意して、はめ合い位置に
マーキングする措置を行う。
今後、更に信頼性向上対策として、RID全数を対象に、改良型基板に取替えることを予定している。
1.故障したRID検出器の調査結果と対策
5.まとめ
9
*MS-3:原子炉施設における構築物、系統及び機器を、その有す
る安全機能の重要度に応じてクラス分けした分類表示であり、MS-3
は異常の影響緩和の機能を有するもの(MS)のクラス3を意味する。
・ 検出性能
検出器単品は、空気中において、10-10g/ccのナトリウムエアロゾル濃度(煙)を、検出する感度を有する。
RIDは安全系の設備ではなく、微少漏えいを早期検知する検出設備である。
・ 設計上の要求
もんじゅのナトリウムを保有する機器、配管は延性に富むステンレス鋼を使用し、運転圧力が低いことから急速に破断する恐れは
ない。仮に亀裂が生じても、大きな破損に至る前に必ず漏れが生じることが確認されている(LBB:Leak Before Break)。検出時間
として、ASME等を参考に100g/hの漏えいを24時間以内に検出することを設計上の要求として設定した。
Ⅱ.RIDの位置付け(設備重要度分類:MS-3* 相当)
・ ナトリウム液面計(蒸発器、タンク類他)
2次系の蒸発器等のナトリウム液面計が低下するようなナトリウムの大規模な漏えいを検出する。
・ 空気雰囲気セルモニタ
2次系ナトリウム配管、機器の保温層から外側(部屋内)に漏えいし、エアロゾルとなったナトリウムの漏えい(10kg/h 相当)を検出
する。
・ 接触型ナトリウム漏えい検出器
2次系のタンク、弁等からのナトリウムの漏えい(1~1×103kg/h相当)を検出する。
・ ガスサンプリング型ナトリウム漏えい検出器(RID: Radiative Ionization Detector)
2次系ナトリウム配管、機器と保温層間の隙間に漏えいし、エアロゾルとなったナトリウムを、隙間の雰囲気(空気)をサンプリング
することによって、微少漏えい (100g/h~1kg/h相当)の段階で検出する。
Ⅰ.2次系ナトリム漏えい検出器の体系
<参考> 2次系ナトリウム漏えい検出器の体系とRIDの位置付け
10
別添9-4
2次系接触型ナトリウム漏えい検出器の加速試験について
1.目 的
平成20年9月6日に発生した2次系接触型ナトリウム漏えい検出器(Contact type
Sodium Leak Detector、以下「CLD」という。)の警報発報原因が、銀のイオン・マイグ
レーションによる絶縁低下であったことから、従来品CLD(端子を銀ロウ付けしたタイ
プ:以下、「銀ロウCLD」という。)を対策品CLD(端子を金ロウ付けしたタイプ:以下、
「金ロウCLD」という。)に交換することとした。
今回交換する金ロウCLDは、従来の銀ロウCLDと比較してイオン・マイグレーショ
ンが起こりにくいものであるが、これを実証するために、絶縁低下の発生過程を模擬
した条件(温度、湿度等)において、銀ロウCLDと金ロウCLDの比較試験を実施し、
金ロウCLDの対策効果を確認する。
2.銀ロウCLDの絶縁低下原因の概要
銀ロウCLDの警報発報の原因は、CLDのセラミック端子表面の正極端子とアース
電位のスリーブ間の銀のマイグレーションによる絶縁低下である。図1に、銀ロウCL
Dの構造図と銀マイグレーションが発生したセラミック端子面の外観を示す。
1.35
1.35
-
-
+
-
CLD電極
図1 銀ロウCLDの構造図及びセラミック端子面
以下に当該CLD(240A-XE314C)のセラミック面の分析結果と絶縁低下推定原
因を述べる。
1) 分析結果
図2に正極端子とスリーブ間の絶縁低下箇所を赤枠で示した。赤枠部分全体に銀
が付着しており、2A/2B正極(アノード)端子近傍の変色部には特に銀が濃く検出
され、デンドライト状のマイグレーションが成長していた。また、負極(カソード)である
1
スリーブ近傍には端子めっき金属のNiがひび割れた状態で付着していた。
スリーブ近傍のヒビ割れしたNi付着物は、アノードとカソード間に結露等の水が付
着し、アノード金属が電気分解し、カソードで電子を受け取り還元し析出したもので
ある。アノードとカソードの間に連続した水膜が形成されないと起こらない現象であ
る。したがって、当該CLDは結露環境に曝されていたと判断した。
スリーブ(-)
2A/2B端子(+)
1A/1B端子(-)
図2 セラミック端子表面の絶縁低下箇所(赤枠部分)
2) 絶縁低下原因の推定
当該絶縁低下CLDのセラミック表面の分析結果から、当該品は結露環境に曝さ
れていたと推定される。ナトリウム漏えい対策工事期間中(平成 17~18 年)に同一
条件であった他のタンクのCLDでも結露水を確認している(平成 18 年 9 月)。当該C
LDの設置環境条件は明らかでないが、管理情報から、結露が起こりやすい高湿度
雰囲気に約2年間、その後200℃、325℃の高温状態にあったと考えられる。その
間、当該CLDには常にDC24Vが印加されていた。
設置条件とセラミック表面の分析結果から推定した絶縁低下のメカニズムを以下
に示す。
① 結露水がセラミック端子面に付着し、一番絶縁距離が短い2A/2B端子-
スリーブ間で電気分解が起こった。
↓
② 電気分解しイオン化した金属は、カソードで還元あるいは水分で酸化し、セラ
ミック表面に析出した。
↓
③ その後の高湿度+電圧印加条件は、銀のイオンマイグレーションが発生しや
すい条件である。2A/2B端子とスリーブ間のセラミック面には電気分解で銀
のデンドライトが形成されており、絶縁距離が短い部分があり、そこから銀のイ
オンマイグレーションが成長した。
↓
④ 200℃、325℃の高温状態になると、酸化銀から酸素が放出され金属銀に
変化する。また、セラミックの絶縁抵抗も低くなる。その結果、銀の高温でのマ
イグレーションが起こり銀が成長し、更に絶縁抵抗が低下し、警報発報に至っ
た。
2
3.試験方法
銀ロウCLDの絶縁低下原因の推定結果をもとに、以下の試験を実施する。
1) 銀ロウCLD絶縁低下再現試験
絶縁低下発生過程を模擬した試験で事象を再現することで、推定原因の妥当性
を確認する。
2) 金ロウCLDの対策効果検証試験
金ロウCLDが、イオン・マイグレーション対策品として効果があることを確認す
る。
3.1 試験片
(1)ロウ材の材質
試験片の模式図を図3に、外観を図4に示す。端子のロウ付けは、従来CLD
の銀ロウ、および対策効果確認のための金ロウをそれぞれ用いた試験片を作成
した。
Agロウ
Auロウ
セラミック
(アルミナ)
電極ピン (コバール)
※ロウ付け部分
Niめっき
Agロウ
Auロウ
1.35
1.35
メタライズ
(Mo-Mn)
Agロウ
Auロウ
-
+
メタライズ
Agロウ
Auロウ
(-)電極ピン
スリーブ模擬 (-)
図3
側面
(+)電極ピン
2A/2Bピン模擬 (+)
試験片 銀ロウ品と金ロウ品の模式図
上面
図4
試験片外観
(2)電極間距離
電極間距離は、図3のように実機CLDの電極ピンとスリーブ間の距離1.35m
mとする予定であったが、端子周囲のロウ付け面積での調整は困難であり結果的
に表1に示した距離となった。距離が予定の1.35mmの約半分程度と短くなった
が、マイグレーションの評価を行うには、より厳しい条件となるので問題ないと判断
した。
表1 電極間の実測距離
試料No 電極間距離(実測値)
試料No 電極間距離(実測値)
銀ロウ
Au1
Ag1
0.73mm
金ロウ
0.74mm
品
Au2
品
Ag2
0.79mm
0.77mm
Au3
Ag3
0.77mm
0.74mm
3
(3)数量
銀ロウ品 3個*1)(Ag1,Ag2*2),Ag3)
金ロウ品 3個*1)(Au1,Au2,Au3)
*1)Ag2は結露試験と高湿度イオンマイグレーション試験のみ実施
3.2 銀ロウCLDの絶縁低下再現試験
絶縁低下の発生過程を模擬するために、結露により銀の電気分解を起こさせた後
に、高湿度試験で銀のイオンマイグレーションを成長させ、次に高温で銀のマイグレ
ーションを成長させる複合試験を行う。
(1)結露試験
+25V
実機に近いDC25Vを印加した試験
電極間に
VRS IL
片のセラミック端子表面に純水0.5μ 純水滴下
7.5K
100
ℓを滴下し、(+)電位側の電極ピンと
0V
セラミック
試験片
レコーダ
銀ロウに金属(銀、Ni、Fe等)の電気
分解を発生させる。CLD設置場所の
汚損物質の種類、量、及び水量等が
図5 結露試験回路
不明であること、滴下する水は純水で
も電気分解が起こることを予備試験で確認済みのため、滴下水は純水とした。
純水滴下により、セラミック端子表面の絶縁抵抗が低下するが、その低下度合
いを電極ピン間の漏れ電流(抵抗に換算)をレコーダで測定する。
試験時間は、セラミック端子表面に滴下した結露水が漏れ電流により乾燥するま
での時間である、5分の間隔で順次滴下する。純水滴下時は漏れ電流がパルス
状に流れるが滴下の回数増やすことによりマイグレーションが生成されかつ、漏
れ電流が約1~2mAとなり、その値がほぼ一定値を示すようになった段階で結
露試験を終了する。
なお、金ロウ品はマイグレーションが発生しないか、極めて発生しにくく、漏れ電
流の低下観察できないと考えられるため、0.5μℓの純水を5分間隔で8回滴下
し、結露試験を終了する。
(2)高湿度イオンマイグレーション試験
+50V
結露試験後の試験片を60℃、95%
高温高湿槽→
VRs IL
RHの恒温恒湿槽に放置し、イオンマイ
(60℃-95%RH)
10K
1KΩ
高温槽→
グレーションを促進させる。印加電圧は、
試験片
(325℃)
レコーダ 0V
イオンマイグレーションを加速させるた
図6 高湿度イオンマイグレーション試験及び
めDC50Vとし、試験時間は漏れ電流
高温マイグレーション回路
が増加又は安定するまでの時間とす
る。
試験中は電極ピン間の漏れ電流(抵抗に換算)をレコーダで測定し、漏れ電流
値を記録する。
試験終了後は、漏れ電流の有無によらず全サンプルを取り出し、セラミック表面
状態を実体顕微鏡で観察する。
4
(3)高温マイグレーション試験
結露試験→高湿度イオンマイグレーション試験を終了した試験片を325℃の恒
温槽内に放置する。印加電圧は、マイグレーションを加速させるためDC50Vとす
る。
試験中は電極ピン間の漏れ電流(抵抗に換算)を測定し、漏れ電流値を記録す
る。試験時間は、漏れ電流が増加傾向を示すまでとする。
試験終了後は、漏れ電流の有無によらず、全サンプルを取り出し、セラミック表
面の状態を実体顕微鏡、SEMで観察し、EDXにてAg、Ni、Fe、Cu等の元素の
付着状態を分析し、当該絶縁低下CLDの表面状態と比較し、再現状況を確認す
る。
SEM観察:走査型電子顕微鏡による観察
EDX分析:エネルギー分散型蛍光X線分析のことをいい、試料にX線を照射し発生する蛍光X
線から、試料の構成元素や含有量を分析する。
3.3 金ロウCLDの対策効果検証試験
従来品の銀ロウCLDと同様の設置条件(結露、高湿度)に万一曝された場合の、金
ロウCLDの対策効果を検証するための試験を行う。したがって、試験方法は、3.2
項の銀ロウCLDの再現試験と同じ複合試験で検証する。
(1)結露試験
DC25Vを印加した試験片のセラミック端子表面に水を滴下し、(+)電位側の
電極ピンと金ロウに金属(Ni、Fe等、金は電気分解しないと想定)の電気分解を
発生させる。滴下条件は、3.2項の銀ロウCLDの最も厳しい結露条件と同じ条件
で実施する。
(2)高湿度イオンマイグレーション試験
結露試験後の試験片を60℃ 95%RHの恒温恒湿槽に放置し、イオンマイグ
レーションの促進を促す。印加電圧は、イオンマイグレーションを加速させるため
DC50Vとする。温度・湿度、印加電圧の加速条件及び試験時間は、銀ロウCLD
に合わせる。
試験中は電極ピン間の漏れ電流(抵抗に換算)をレコーダで測定し、漏れ電流
値を記録する。
試験終了後は、漏れ電流の有無によらず全サンプルを取り出し、セラミック表面
状態を実体顕微鏡で観察する。
(3)高温マイグレーション試験
結露試験→高湿度イオンマイグレーション試験を終了した試験片を325℃の恒
温槽内に放置する。印加電圧は、マイグレーションを加速させるためDC50Vとす
る。温度、印加電圧の加速条件及び試験時間は、銀ロウCLDに合わせる。
試験中は電極ピン間の漏れ電流(抵抗に換算)をレコーダで測定し、漏れ電流値
を記録する。
試験終了後は、漏れ電流の有無によらず、全サンプルを取り出し、セラミック表
面の状態を実体顕微鏡、SEMで観察し、EDXにてAu、Ni、Fe等の元素の付着
状態を分析する。
5
(4)対策効果確認
各試験後に、電極間の漏れ電流(抵抗)とセラミック表面の析出物の状態を、3.
1項の銀ロウCLDの試験結果と比較し、対策効果を確認する。
4.試験結果
4.1 結露試験
結露試験における漏れ電流とマイグレーション生成状態を図7(銀ロウ品)と図8(金ロ
ウ品)に示す。
Ag1、Ag2、Ag3は純水(0.5μℓ)の滴下回数は異なるが,何れもマイグレーション
が生成された。また、漏れ電流も1.4mA前後流れ、ほぼ一定値を示すようになった
ため、それぞれこの時点で結露試験を終了した。
また,結露試験後の絶縁抵抗(短絡抵抗)は、以下のような結果であった。
<結露試験後の電極間の絶縁抵抗(室温測定)>
Ag1:11.0×103Ω
Ag2: 9.8×103Ω
Ag3: 8.8×103Ω
金ロウ品(Au1、Au2、Au3)の場合の漏れ電流は、3個とも水の電気分解電流が
僅かに確認されたのみで、マイグレーションの生成は全く見られなかった。
4.2 高湿度イオンマイグレーション試験
4.2.1 漏れ電流の経時変化
高湿度イオンマイグレーション試験での漏れ電流の変化を図9(銀ロウ品)と図10
(金ロウ品)に示す。
銀ロウ品の高湿度イオンマイグレーション試験における漏れ電流は、結露後の漏
れ電流を維持し、高湿度イオンマイグレーション試験で吸湿によるイオンマイグレーシ
ョンが成長して結露後の漏れ電流より徐々に増加すると考えられたが、高湿度イオン
マイグレーション試験開始後、何れも時間とともに減少していくのが確認された。な
お、Ag1の試験片では結露試験では1.52mAの漏れ電流であったが、高湿度イオン
マイグレーション試験開始直後から漏れ電流は流れなくなった。また、金ロウ品の漏
れ電流は結露試験同様、ほとんど0で検知限界以下であった。
4.2.2 マイグレーションの生成状態
高湿度イオンマイグレーション試験後(260時間経過後)のマイグレーション状態を図
11(銀ロウ品)に示す。
銀ロウ品は、試験前後でマイグレーションの生成状態に変化はほとんど見られなかっ
た。また、金ロウ品は高湿度イオンマイグレーション試験でも、マイグレーションの発生
は見られなかった。
4.3 高温マイグレーション試験結果
4.3.1 漏れ電流の経時変化
325℃高温マイグレーション試験中の漏れ電流の経時変化を図12に示す。
6
銀ロウ品のAg1とAg3は試験開始直後から漏れ電流が徐々に増加し,Ag1は約6時
間以降,Ag3は約11時間以降は短絡状態となった。なお、試験開始から70時間まで
は、時々漏れ電流が小さくなる現象がみられるが、70時間以降は短絡状態が継続し
たので、試験時間は120時間までとした。
一方,金ロウ品は,3個とも漏れ電流はほとんど流れず,30時間以降は1μA以下
(絶縁抵抗で50MΩ以上)であった。
4.3.2 マイグレーションの生成状態
325℃高温マイグレーション試験前後の電極間の状態変化を、銀ロウ品は図13、金
ロウ品は図14に示す。
銀ロウ品(Ag1、Ag3)は、高湿度イオンマイグレーション試験後に電極間に生成して
いた黒灰色のマイグレーションのほとんどが銀色に変化した。マイグレーションの酸化
銀が325℃で酸素を放出して金属銀となったと考えられる。
一方金ロウ品は、結露試験、高湿度イオンマイグレーション試験を行ってもマイグレ
ーションは生成しないが、325℃高温マイグレーション試験後は電極間表面の一部に
変色が見られる。
4.3.3
電極間付着物の分析
(1)銀ロウ品(Ag1、Ag3)
Ag1及びAg3の電極間付着物の元素分析の結果、いずれの試験片も電極間から、
銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)が検出された。Ag、Cuは銀ロウの成分、Niは端子め
っき金属である。電極間を橋絡している部分はAgであり、CuとNiは高温になると酸化
物として安定化するが、Agは金属銀となり、電極間の絶縁抵抗を低下させた。
酸化銀はAg2O、AgO、Ag2O3等が知られているが、いずれも熱に対して不安定で、
たとえばAg2Oは160℃から分解が認められ、融点300℃(分解)と報告されている
(化学大辞典、共立出版)。
(2)金ロウ品(Au1、Au2、Au3)
Au1の電極間付着物の元素分析の結果、いずれの試験片も電極間から、鉄(Fe)、
Ni(ニッケル)が検出された。Fe,Niは端子金属及び端子めっき金属である。Fe、Ni高
温になると酸化物として安定化するため、絶縁抵抗が低下する要因にはならない。
4.4 各試験後の絶縁抵抗測定結果
参考までに、各試験後の絶縁抵抗測定結果を表2に示す。
銀ロウ品は、結露試験後の絶縁抵抗は何れも104Ω前後でほぼ短絡状態となったが、
高湿度イオンマイグレーション試験では漏れ電流は徐々に減少し、260時間後は、Ag
2は2.7×106 Ω、Ag1とAg3は1010Ω以上と絶縁抵抗は回復した。結露試験で電極
間に形成され絶縁を低下させる原因となっていたAg(銀)のマイグレーションがどこかで
切れてしまったと考えられる。しかし、Ag1、Ag3の325℃の高温マイグレーション試験
では、マイグレーションの酸化銀が高温で酸素を放出し金属銀に変化し、また銀粒子
の融着等で連続した金属銀の電路が形成されたことにより、急激な絶縁低下がおこ
り、試験開始6~10時間で短絡状態になった。
7
金ロウ品は、ロウ材は結露で電気分解せず、端子金属が電気分解し、電極間に付着
するが、水分や温度で酸化され絶縁低下は起こらなかった。
表2 各試験後の絶縁抵抗測定結果
絶縁抵抗(測定:常温常湿中)
試料
Ag1
Ag2
Ag3
Au1
Au2
Au3
60℃
325℃-120h後
備 考
95%RH-260h後
1.1x104Ω
6.8x1010Ω
0Ω(短絡)
←約6h後
3
6
9.8x10 Ω
2.7x10 Ω
-
8.8x103Ω
3.3x1010Ω
0Ω(短絡)
←約11h後
10
12
9
2.0x10 Ω
1.0x10 Ω
2.2x10 Ω
9
11
1.3x10 Ω
5.3x10 Ω
1.2x109 Ω
9
11
1.3x10 Ω
7.2x10 Ω
1.0x109 Ω
結露試験前 結露試験後
4.7x109Ω
1.2x109Ω
1.3x109Ω
1.8x1010Ω
1.4x109Ω
1.3x109Ω
5.試験結果のまとめ
5.1 銀ロウ品
銀ロウ品は、結露試験でほぼ短絡状態(漏れ電流は1.4mA前後/絶縁抵抗では104
Ω前後)となったが、その後の高湿度イオンマイグレーション試験260時間では、絶縁抵
抗が回復した。Agのマイグレーションが、高湿度イオンマイグレーション試験に移行した
ことに伴う設置雰囲気の変動により、デンドライトが切れた可能性が考えられる。
次の325℃高温マイグレーション試験では、6~11時間後に絶縁抵抗の著しい低
下がり、電極間が短絡状態になった。325℃試験では銀粒子同士の融着も確認され
た。
本複合試験により、結露や高湿度でのイオンマイグレーションで形成された酸化銀
のデンドライトが、325℃で金属銀に還元され、金属銀の電路ができたことで絶縁抵抗
が低下し、漏れ電流が急激に増加することを確認した。
以上から、当該CLD(240A-XE314C)が曝された電圧印加状態での結露及び
高湿度環境→高温運転環境で、Agのマイグレーションにより誤警報を発するような絶
縁低下現象が起こることを確認することができた。
5.2 金ロウ品
対策品である金ロウ品は、本複合試験で絶縁低下はみられなかった。結露により端
子金属が電気分解し、セラミック表面にFe、Niが付着したが、いずれも酸化物が安定
で、金属に還元されることはなかった。金ロウ対策品は、万一結露環境に曝されたとし
ても、絶縁低下がおこることはないことを確認した。
6.試験条件等の根拠・考え方
1) 試験片構成の妥当性
試験片は、実機を模擬している部分と模擬していない部分がある。以下に、各構成
についてその妥当性を説明する。
(1)実機を模擬している部分
①構成材料
8
構成材料(セラミック、電極ピン、ロウ材)は実機と同一材料である。材料と使用
環境による組合せで発生した事象であることから、構成材料は実機と同一として
試験することは必須である。
(2)実機を模擬していない部分
①構造(スリーブ)
当該CLDの実際のマイグレーションは、(+)電極ピンとスリーブ間で発生して
いる。今回は、観察を容易にするために、2本の電極ピンのうち、1本を正極電極、
もう1本をスリーブにみたてた。したがって負極電位になるスリーブの形状が異な
るが、結露による電気分解、マイグレーション発生による絶縁低下現象を評価す
る上で、スリーブ形状の差異は問題ではない。
②構造(+電極のロウ付け位置)
実機CLDの正極電極のロウ付け位置はセラミック端子穴内部であるが、試験
片はセラミック端子表面でロウ付けした。本構造は、結露試験で正極、負極の反
応が観察でき、事象を再現しやすいこと、マイグレーションによる短絡に至るまで
の成長が観察しやすいことを優先して選定した構造である。今回の試験目的であ
る事象再現、及び対策効果把握ができるだけ明確に判定できるような構造であ
る。
③電極間距離
電極間距離は、電極ピン周囲のセラミック表面にメタライズしロウ材の端部間が
目標 1.35mm になるように調整したが、ロウ付け結果で、銀ロウ、金ロウタイプい
ずれも電極間距離は約 0.5~0.9mm となった。電極間距離は短い方が加速性が
あること、又、今回の試験は絶対評価ではなく、比較評価であることから、電極間
距離が実機の電極-スリーブ間距離 1.35mm より短い試験片による試験でも問
題ない。
2) 再現試験における高湿度イオンマイグレーション試験の加速条件選定理由
(1)温湿度 :60℃95%RH
温湿度条件は、文献、規格で、40℃90±5%RH、50℃90~98%RH、6
0℃90±5%RH、85℃85%RH等様々な条件で試験されている。同じ湿度で
は、温度が高くなるほど雰囲気中の水分量は多くなるが、85℃85%RHでは材
料の吸湿は加速されるが、温度が高いので材料表面に吸着する水分量が減少
し、マイグレーションがあまり加速されないことを過去の評価で確認している。フェ
ノール樹脂のように吸湿性の大きい材料で銀のマイグレーション試験をするので
あれば、85℃85%RHの方が加速性は大きくなるが、吸湿性が低いセラミックで
は、60℃95%RHの条件が、セラミック表面の水分吸着もあり、かつ温度加速も
できる条件と判断し選定した。
(2)印加電圧:DC50V(実機はDC24V)
印加電圧を高くするとマイグレーションの成長速度は大きくなるが、成長したデ
ンドライトが溶断しやすくなるという弊害が生じる。実際、予備試験でセラミック表
面に成長させた銀マイグレーションの絶縁抵抗を測定した際、測定電圧250Vで
デンドライトが溶断し抵抗が回復する現象があった。
今回は、実機CLD印加電圧がDC24Vであること、予備試験ではデンドライトの
9
溶断がDC250Vで起こったことから、デンドライトが溶断する可能性が低く、多少
でも成長を加速する条件として、安全サイドでDC50Vを選定した。
3) 再現試験における高温マイグレーション試験の加速条件選定理由
(1)温度:325℃
実機CLDの設置環境温度は最高でも325℃程度であり、材料耐久性の観点
からも、温度による加速はあまり高温まで実施できない。また、高湿度イオンマイ
グレーションで成長させたデンドライトの高温での変化を確認する意味からも、実
機CLD設置環境温度に合わせ、325℃を選定した。
(2)印加電圧:DC50V
印加電圧を上げることで、高温マイグレーションは加速すると予測されるが、マ
イグレーションが溶断する弊害があるので、高湿度イオンマイグレーションの加速
条件に合わせた。
以 上
10
2.0mA
(1)Ag1
1.5mA
純 水 0.5μLx10回 滴 下
(0,5,10,15,20,30,40,50,60,70分 )
1.35mA
1.0mA
Ag1絶 縁 抵 抗
試 験 前 :4.7x10 9 Ω
試 験 後 :1.1x10 4 Ω
0.5mA
0mA
0
15
2.0mA
30
45
60
75
90分
(2)Ag2
1.5mA
1.44mA
Ag2絶 縁 抵 抗
試 験 前 :1.2x10 9 Ω
試 験 後 :9.8x10 3 Ω
1.0mA
純 水 0.5μLx4回 滴 下
(0,5,10,15分 )
0.5mA
0mA
0
10
20
30
40分
2.0mA
(3)Ag3
1.52mA
1.5mA
Ag3絶 縁 抵 抗
試 験 前 :1.3x10 9 Ω
試 験 後 :8.8x10 3 Ω
1.0mA
純 水 0.5μLx5回 滴 下
(0,5,10,15,20分 )
0.5mA
0mA
0
10
20
30
40
50分
※ Ag1, 2, 3と も マイグレーション生 成
図7 銀ロウ品の結露試験における漏れ電流とマイグレーション
11
0.2mA
(1)Au1
0.15mA
純 水 0.5μLx8回 滴 下
(0,5,10,15,20,30,40,50分 )
0.10mA
Au1絶 縁 抵 抗
試 験 前 :1.8x10 10 Ω
試 験 後 :2.0x10 10 Ω
0.05mA
0mA
0
15
30
45
60分
0.20mA
(2)Au2
0.15mA
※ 純 水 0.5μLx8回 滴 下
Au2絶 縁 抵 抗
試 験 前 :1.4x10 9 Ω
試 験 後 :1.3x10 9 Ω
0.10mA
0.05mA
0mA
0
15
30
45
60分
0.2mA
(3)Au3
Au3絶 縁 抵 抗
試 験 前 :1.3x10 9 Ω
試 験 後 :1.3x10 9 Ω
0.15mA
※ 純 水 0.5μLx8回 滴 下
0.10mA
0.05mA
0mA
0
15
30
45
60分
※ Au1,2,3ともマイグレーションなし
図8 金ロウ品の結露試験における漏れ電流とマイグレーション
12
+50
←60℃/95%RH
VRs
10K
CLD電 極
IL
1KΩ
レコーダ
0V
fig.1 60℃-95%RH試 験 回 路
5.0mA
60℃ /95%RH, DC50V印 加 , 0h~120h
Agロウ:No.1(茶 ), No.2(赤 ), No.3(青 )
4.0mA
No.1
No.2
2.0mA
No.3
0mA
0
12
5.0mA
24
36
48
60
72
Agロウ:No.1(茶 ), No.2(赤 ), No.3(青 )
84
96
108
120h
60℃/95%RH,DC50V印 加 , 120h~ 168h
4.0mA
No.1
No.2,3
2.0mA
0mA
120
132
144
156
168h
5.0mA
Agロウ:No.1(茶 ), No.2(赤 ), No.3(青 )
60℃/95%RH,DC50V印 加 , 168h~260 h
4.0mA
No.1
No.2,3
2.0mA
0mA
168
192
216
240
260h
図9 銀ロウ品の高湿度イオンマイグレーション(60℃-95%RH)試験における漏れ電流
13
←60℃/95%RH
VRs
10K
+50V
IL
1KΩ
CLD電 極
レコーダ
0V
fig.1 60℃-95%RH試 験 回 路
10μ A
60℃/95%RH,DC50V印 加 , 0h~120h
Auロウ:No.1(茶 ), No.2(赤 ), No.3(青 )
8μ A
6μ A
No.1,2,3
4μ A
2μ A
0μ A
0
12
24
36
48
60
72
84
96
108
120h
10μ A
60℃/95%RH,DC50V印 加 , 120h~168h
Auロウ:No.1(茶 ), No.2(赤 ), No.3(青 )
8μ A
6μ A
No.1,2,3
4μ A
2μ A
0μ A
120
132
144
156
168h
10μ A
Auロウ:No.1(茶 ), No.2(赤 ), No.3(青 )
60℃/95%RH,DC50V印 加 , 168h~260h
8μ A
6μ A
No.1,2,3
4μ A
2μ A
0μ A
168
192
216
240
260h
図10 金ロウ品の高湿度イオンマイグレーション(60℃-95%RH)試験における漏れ電流
14
Ag1
Ag2
Ag1の絶縁抵抗=6.8x10 10 Ω(at 20℃/65%RH)
Ag3の絶縁抵抗=3.3x10 10 Ω(at 20℃/65%RH)
Ag2の絶縁抵抗=2.7x10 6 Ω(at 20℃/65%RH)
Ag3
図11 銀ロウ品の高湿度イオンマイグレーション試験(60℃/95%RH) 260h後
のマイグレーション状態と絶縁抵抗
15
試 験 片:銀ロウ品 Ag1,3
(タイプA)
金ロウ品 Au1,2,3(タイプA)
試 験 条 件 : ①結 露 試 験 → ②高 温 度 イオンマイグレーション試 験
(60℃-95% , 260h) → ③ 高 温 マ イ グ レ ー シ ョ ン 試 験
← 325℃ (高 温 槽 +50
R
VRs IL
7.5K
100
0V
試験片
レコーダ
図4
(325℃,120h)
325℃ 高 温 試 験 回 路
測定間隔:1 分(データ処理間隔:3分)
10
※①結露試験→②60℃/95%,260h実施品
9
短 絡
6h 11h
↓ ↓
漏れ電流(mA)
8
7
Ag1
6
5
Ag1
Ag3
4
3
2
1
Ag3
0
0
20
40
60
80
100
120
時間(h)
(1)銀ロウ品(Ag1,Ag3)
1)銀ロウ品(Ag1,Ag3;タイプA)の漏れ電流
10
※①結露試験→②60℃/95%,260h実施品
9
漏れ電流(μA)
8
Au1
Au2
Au3
Au1
7
Au2
6
Au3
5
4
3
2
1
0
0
20
40
60
時間(h)
80
100
120
2)金ロウ品(Au1,2,3;タイプA)の漏れ電流
(2)金ロウ品(Au1,Au2,Au3)
図1. 銀ロウ品/金ロウ品の③325℃高温試験における漏れ電流
図12 銀ロウ品/金ロウ品の高温マイグレーション試験(325℃) における漏れ電流
16
Ag1
Ag1
絶縁抵抗
10 Ω
6.8x10
0Ω(短絡)
絶縁抵抗
6.8x10 10 Ω
(1-1)Ag1 325℃高温試験前
(※ 60℃/90%RH,DC50V,260h後)
(1-2)Ag1 325℃高温試験後
(※ DC50V,120h)
Ag3
Ag3
絶縁抵抗
3.3x10 10 Ω
絶縁抵抗
0Ω(短絡)
(2-1)Ag3 325℃高温試験前
(※ 60℃/90%RH,DC50V,260h後)
(2-2)Ag3 325℃高温試験後
(※ DC50V,120h)
図13 銀ロウ品(Ag1,Ag3)の高温マイグレーション試験前後のマイグレーションの変化
17
Au1
Au1
絶縁抵抗
2.2x10 9 Ω
絶縁抵抗
1.0x10 12 Ω
(1-1)Au1 325℃高温試験前
(※ 60℃/90%RH,DC50V,260h後)
(1-2)Au1 325℃高温試験後
(※ DC50V,120h)
Au2
Au2
絶縁抵抗
5.3x10 11 Ω
絶縁抵抗
1.2x10 9 Ω
(2-1)Au2 325℃高温試験前
(※ 60℃/90%RH,DC50V,260h後)
(2-2)Au2 325℃高温試験後
(※ DC50V,120h)
図14 金ロウ品(Au1,Au2)の高温マイグレーション試験前後の電極間表面状態の変化(代表例)
18
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