...

感染症媒介蚊サーベイランスにおける捕集蚊の調査結果について(平成

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

感染症媒介蚊サーベイランスにおける捕集蚊の調査結果について(平成
東京健安研セ年報
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 66, 303-311, 2015
感染症媒介蚊サーベイランスにおける捕集蚊の調査結果について(平成26年度)
髙橋 久美子a,井口 智義a,辻 麻美a,市川 めぐみa,楠 くみ子a,石上 武a,武藤 千恵子a,矢野 一成b,
田部井 由紀子a,金子 雅信b,c,鈴木 俊也a,灘岡 陽子b,保坂 三継d,栗田 雅行d
ウエストナイル熱,デング熱等の感染症を媒介する蚊について、蚊の数と種類の同定及びウイルス等の有無を確認
するため,東京都では平成16年度から「感染症媒介蚊サーベイランス」を実施している.平成26年度の16地点の調査
において,12種類2,403匹の蚊が捕集された.最も多く捕集された蚊はAedes (Stegomyia) albopictus(以下ヒトスジシマ
カという)であり,次に多かった蚊はCulex (Culex) pipiens complex(以下アカイエカ群という)であった.ヒトスジシ
マカは8月に,またアカイエカ群は7月に最も多く捕集された.この2種類の蚊はウエストナイルウイルスを媒介し,
特にヒトスジシマカはデングウイルスやチクングニアウイルスの媒介蚊でもあるため,これら蚊媒介感染症の蔓延防
止には,未発生時から蚊の生息密度を下げるために防除対策を行うことが重要である.
キーワード:蚊,感染症,ヒトスジシマカ,アカイエカ
は じ め に
も多く捕集されている蚊である3).また,国内にはヒトス
ウエストナイル熱,デング熱,チクングニア熱及びマ
ジシマカ以外にも実験的にデングウイルス感受性がある
ラリアは,ウイルスまたは原虫を保有した蚊によってヒ
と思われる蚊が存在しているとされる4).さらに,平成26
トに媒介される蚊媒介感染症である.これら蚊媒介感染
年8月に,東京において約70年ぶりにデング熱の国内感染
症は,国内における患者発生を早期に探知するため,感
が報告され,推定感染地である代々木公園において捕集
染症法上,全数把握対象疾患の四類感染症に分類されて
したsubgenus Stegomyia(以下シマカ亜属という)の蚊か
おり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出る
らデングウイルスを検出している5).
ことが定められている.
ウエストナイル熱は米国及びカナダで平成11年以来,感
国内における蚊の生息状況からみて,今後も蚊媒介感
染症が国内発生及び国内流行するリスクは少なくない.
染が広がり現在も流行している状況にあり,日本国内で
加えて,地球的な気候変動に伴うこれら感染症を媒介す
は平成17年に米国からの帰国者の感染が1例報告されてい
る蚊の生息域の拡大や,輸送手段の発達等による流行地
1)
る .病原ウイルスであるウエストナイルウイルスは,米
域から国内への人を介した病原体の侵入,物資を介した
国では30種以上の蚊から検出されており,日本でも媒介
蚊の侵入等も懸念されている6).
する可能性のある種として,Culex (Culex) pipiens pallens
東京は,都市部だけでなく臨海部から山間部まで幅広
(以下アカイエカという)
,Culex (Culex) pipiens from
い地域特性を持っているため,生息する虫はそれぞれの
molestus(チカイエカ)
,ヒトスジシマカ,Aedes (Finlaya)
地域に応じて多様である.都内における蚊の生息状況を
japonicus(以下ヤマトヤブカという)等11種があげられて
把握することは,感染症未発生時における蚊の防除計画
いる2).
に役立つだけでなく,感染症発生時には直ちに防除の対
デング熱,チクングニア熱及びマラリアはアジア,ア
フリカ,中南米など亜熱帯・熱帯地域を中心に患者発生
象となる地域を見極め,蔓延防止対策を講じるために重
要である.
が多く,旅行者等が海外で感染し日本国内で発症する輸
このため,東京都では平成16年度からウエストナイル
入例も多く報告されている.このうち,デング熱及びチ
熱等の蚊媒介感染症を対象に「感染症媒介蚊サーベイラ
クングニア熱の病原ウイルスであるデングウイルス,チ
ンス事業」を実施している.今回,平成26年度における
クングニアウイルスの主要な媒介蚊は, Aedes (Stegomyia)
捕集蚊の調査を行い若干の知見を得たので報告する.
aegypti(以下ネッタイシマカという)
,ヒトスジシマカで
あり,ネッタイシマカは,現在日本国内での定着は確認
されていないものの,ヒトスジシマカは,東京で毎年最
a
東京都健康安全研究センター薬事環境科学部環境衛生研究科
b
東京都健康安全研究センター企画調整部健康危機管理情報課
c
現所属:東京都多摩府中保健所生活環境安全課
d
東京都健康安全研究センター薬事環境科学部
169-0073 東京都新宿区百人町 3-24-1
183-0022 東京都府中市宮西町 1-26-1
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 66, 2015
304
調
査
結
方 法
果
及 び
考
察
1. 蚊の捕集結果
1. 調査期間及び調査地点
調査は,蚊の活動が活発な6月から10月までの期間に,
平成26年度に都内16ヵ所の調査地点において,12種
およそ2週間に1回(合計9回)実施した.特別区内8ヵ所,
2,403匹(虫体の状態により同定困難な蚊6匹を含む)の蚊
多摩地区8ヵ所(合計16ヵ所)の都有施設の敷地内(図
が捕集された(表1).その内訳は,シマカ亜属が1,858匹,
1)を調査地点とした.都有施設の内訳は,公園8施設,
アカイエカ群が346匹であり,この2種類で全体の約92%
動植物園3施設,学校1施設,霊園4施設である.
を占めた.残りの約8%は,ヤマトヤブカ67匹,Culex
(Culex) tritaeniorhynchus(以下コガタアカイエカという)
42匹,Orthopodomyia anopheloides(以下ハマダラナガス
ネカという)35匹,Culex (Culex) bitaemiorhynchus(以下
●
■
▲
●
◆ ●● ▲ ▲
▲
◆
◆
●
●
●
●
カラツイエカという)26匹,Armigeres (Armigeres)
subalbatus(以下オオクロヤブカという)11匹,Tripteroides
(Tripteroides) bambusa(以下キンパラナガハシカという)4
●
◆
■
▲
公園
動植物園
学校
霊園
図 1 調査場所
匹,Culex (Eumelanomyia) hayashii(以下コガタクロウスカ
という)3匹,Aedes (Finlaya) nipponicus(以下シロカタヤ
ブカという)2匹,Uranotaenia (Pseudoficalbia) novobscura
(以下フタクロホシチビカという)2匹,Lutzia
2. 蚊の捕集方法
(Metalutzia) vorax(以下トラフカクイカという)1匹,不
蚊の捕集は,調査地点1ヶ所につき2台の電池式ライト
明の蚊6匹であった.シマカ亜属1,858匹の内訳は,ヒトス
トラップ(有限会社猪口鉄工所製)を設置し,捕集の効
ジシマカが1,823匹,虫体の状態が悪く種の同定が困難な
果を上げるため,ドライアイスを併用しておこなった
蚊が35匹であり,ネッタイシマカやAedes (Stegomyia)
(図2).
flavopicyus(ヤマダシマカ)は同定されなかった.
捕集装置は,風当たりの弱い木の枝など,地上1.0mか
また,総捕集数の約82%(1,962匹)は雌であり、雄は
ら2.0mの位置に午後3時から4時までに設置し,翌日の午
約18%(441匹)であった.捕集された雄の蚊の約96%
前9時から10時までに回収した.
(422匹)はシマカ亜属であった.アカイエカ群の雄は12
匹捕集され,その外部生殖器の形態により,すべてがア
カイエカと同定した.
捕集された蚊を地域別に比較すると,特別区では約80%
をヒトスジシマカが占めるのに対し,多摩地区では66%に
留まった.アカイエカ群は、特別区,多摩地区共に約15%
程度であった.シマカ亜属とアカイエカ群以外の種類に
ついては,特別区では5%程度のみであったのに対して,
多摩地区では,16%となっており,捕集された蚊の種類に
ついても特別区では8種類であったのに対し,多摩地区で
は12種類と,多種な蚊が捕集されていた.
調査地点別に見た蚊の種類を図3に示す.調査16地点の
うち,捕集蚊総数が最も多かったのは石神井公園(424
匹)であり,最も少ない場所は八王子霊園(54匹)であ
った.また,平均すると約5種類の蚊が捕集され,捕集さ
図 2 電池式ライトトラップ
れた蚊の種類が最も少ないのは谷中霊園(3種類:ヒトス
3. 蚊の種類の同定方法
ジシマカ,アカイエカ群,カラツイエカ)
,お台場海浜公
捕集装置から外した捕集網を,蚊の入った状態のまま
園及び神代植物公園(3種類:ヒトスジシマカ,アカイエ
冷凍(-20℃にて24時間以上,または-80℃にて1時間以
カ群,コガタアカイエカ)であり,最も多様な蚊が捕集
上)した後に,蚊を捕集網から取り出した.取り出した
されたのは小山田緑地(9種類:ヒトスジシマカ,アカイ
7) 8)
蚊は,実体顕微鏡を用いて形態学的に種を同定し
,調
エカ群,コガタアカイエカ,ヤマトヤブカ,オオクロヤ
査回,調査地点ごとにそれぞれの個体数を求めた.また,
ブカ,キンパラナガハシカ,カラツイエカ,コガタクロ
アカイエカ群については、雄のみが外部生殖器の形態学
ウスカ,トラフカクイカ)であった.
的な違いによる同定が可能なため、室温で一晩5%KOH処
理した外部生殖器を用いてプレパラート標本を作製し,
その形態による同定も行った7) 8).
0
0
ヤマダシマカ
(Aedes (Stegomyia ) flavopictus )
その他のシマカ亜属※
(other subgenus stegomyia )
0
60
0
0
0
0
0
0
0
5
オオクロヤブカ
(Armigeres (Armigeres) subalbatus )
キンパラナガハシカ
(Tripteroides (Tripteroides ) bambusa )
コガタクロウスカ
(Culex (Eumelanomyia ) hayashii )
シロカタヤブカ
(Aedes (Finlaya ) nipponicus )
フタクロホシチビカ
(Uranotaenia (Pseudoficalbia ) novobscura )
トラフカクイカ
(Lutzia (Metalutzia ) vorax )
不明
※検体の状態により同定困難なものを含む
総計
0
0
カラツイエカ
(Culex (Culex ) bitaemiorhynchus )
0
1
0
0
0
0
0
0
13
0
65
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
2
1
91
0
0
0
0
0
0
0
1
2
2
104
0
0
0
0
0
0
0
1
2
2
5
21
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
4
4
1
0
0
16
209
0
0
0
0
0
0
1
2
2
8
13
0
8
0
0
96
8
0
0
84
92
230
0
0
0
0
0
0
1
2
2
8
13
0
8
0
4
100
9
0
0
100
109
合計
48
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
2
3
0
0
43
46
♂
261
2
0
1
0
2
0
0
6
4
13
28
0
8
0
0
82
7
0
0
136
143
♀
309
2
0
1
0
2
0
0
6
4
13
28
0
8
0
2
84
10
0
0
179
189
合計
149
0
1
0
0
0
0
0
0
3
3
7
0
0
0
3
3
0
0
0
139
139
♂
335
0
0
0
1
1
1
2
2
11
29
47
0
1
0
0
15
0
0
0
272
272
♀
484
0
1
0
1
1
1
2
2
14
32
54
0
1
0
3
18
0
0
0
411
411
合計
117
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
0
0
115
116
♂
461
4
0
0
0
0
1
1
6
3
6
21
0
4
0
0
12
2
0
0
422
424
♀
578
4
0
0
0
0
1
1
6
3
6
21
0
4
0
1
13
3
0
0
537
540
合計
25
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
25
25
♂
260
0
0
0
0
0
0
2
4
8
1
15
0
2
0
0
25
2
0
0
216
218
♀
285
0
0
0
0
0
0
2
4
8
1
15
0
2
0
0
25
2
0
0
241
243
合計
第7回
(9月上旬)
57
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
57
57
♂
149
0
0
0
0
0
0
3
1
0
2
6
0
10
0
0
12
7
0
0
114
121
♀
206
0
0
0
0
0
0
3
1
0
2
6
0
10
0
0
12
7
0
0
171
178
合計
第8回
(9月下旬)
6
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
6
6
♂
136
0
0
1
0
0
2
2
4
0
2
11
0
9
0
0
32
0
0
0
84
84
♀
142
0
0
1
0
0
2
2
4
0
2
11
0
9
0
0
32
0
0
0
90
90
合計
第9回
(10月上旬)
441
0
1
0
0
0
0
0
0
3
3
7
0
0
0
12
12
5
0
0
417
422
♂
1,962
6
0
2
2
3
4
11
26
32
64
150
0
42
0
0
334
30
0
0
1,406
1,436
♀
総計
2,403
6
1
2
2
3
4
11
26
35
67
157
0
42
0
12
346
35
0
0
1,823
1,858
合計
年
2
0
1
5
0
0
0
2
47
4
0
0
48
17
♀
第6回
(8月下旬)
セ
0
0
4
0
0
0
0
45
4
0
0
37
52
♂
第5回
(8月上旬)
研
ハマダラナガスネカ
(Orthopodomyia anopheloides )
4
0
その他の蚊
0
0
0
0
0
0
2
2
0
0
0
11
41
合計
第4回
(7月下旬)
安
ヤマトヤブカ
(Aedes (Finlaya ) japonicus)
0
0
ハマダラカ
(genus Anopheles )
0
0
0
15
0
0
0
46
11
46
♀
第3回
(7月上旬)
健
0
0
チカイエカ型
(Culex (Culex ) pipiens from molestus )
0
15
0
0
0
41
♂
合計
第2回
(6月下旬)
京
コガタアカイエカ
(Culex (Culex ) tritaeniorhynchus )
0
アカイエカ型
(Culex (Culex ) pipiens pallens )
0
0
ネッタイシマカ
(Aedes (Stegomyia ) aegypti )
アカイエカ群
(Culex (Culex ) pipiens complex)
5
41
5
ヒトスジシマカ
(Aedes (Stegomyia ) albopictus )
シマカ亜属(subgenus stegomyia )
♀
♂
第1回
(6月上旬)
表1. 平成26年度感染症媒介蚊サーベイランスにおける捕集蚊の種類と捕集数
東
報,66, 2015
305
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 66, 2015
306
(Ae. (Stg.) albopictus)
(other subgenus stegomyia)
(Cu. (Cux.) pipiens complex)
(Cu. (Cux.) tritaeniorhynchus)
(Ae. (Fin.) japonicus)
(Orthopodomyia anopheloides)
(Cu. (Cux.) bitaemiorhynchus)
(Armigeres (Armigeres) subalbat)
(Tr. (Trp.) bambusa)
(Cx. (Eum.) hayashii)
(Ae. (Fin.) nipponicus)
(Ur. (Pfc.) novobscura)
(Lt. (Mlt.) vorax)
図 3 調査地点別の捕集蚊の種類
最も多く捕集された蚊は,染井霊園及び小山田緑地を
生育する蚊である9).デングウイルスやチクングニアウイ
除く14地点全てにおいてヒトスジシマカであった.その
ルスを媒介する可能性については不明であるが,これら
活動範囲が50mから100mと狭いにもかかわらず,特別区,
感染症の国内発生時には,都内にはヒトスジシマカ以外
多摩地区を問わず大部分の調査地点で最も多く捕集され
の蚊が多い地域があるということも念頭に置いておく必
ていることから,ヒトスジシマカは都内に広く分布し,
要がある.もう1地点は,染井霊園であり,アカイエカ群
調査地点とした公園等には発生源が数多くあると考えら
が捕集蚊総数の55%以上を占めていた.アカイエカ群がヒ
れた.
トスジシマカよりも数多く捕集される要因として,アカ
平成27年度より実施する「デング熱等媒介蚊サーベイ
イエカはヒトスジシマカよりも活動範囲が広いので,霊
ランス」は,「利用者が多い」
「イベントなどが多い」等
園周辺も含めた周辺地域に発生源があるためと考えられ
のヒトによる条件,
「成虫の潜み場所となる低木や植え込
る.また,霊園の管理者は参拝者へ蚊対策への協力を呼
みなどの植栽が多い」等の環境による条件を考慮して調
びかける等,ヒトスジシマカの発生源となる花立てやあ
査地点を選定した結果,特別区内の公園を中心に実施す
か受け等の水たまりを減らす努力をしている.特に,7月
ることとなった.ヒトスジシマカは,デングウイルス,
中旬と8月中旬には墓参りに訪れる人が多く,墓周りの清
チクングニアウイルス,ウエストナイルウイルス等の日
掃を行うために,他の地点では比較的多くヒトスジシマ
6)
本での主要な媒介蚊である .今回の蚊の捕集結果から,
カが捕集される8月上旬にヒトスジシマカの捕集数が少な
多摩地区でもヒトスジシマカが多く捕集されており,特
くなったと考えられる.
別区に限らず多摩地区を含めてヒトスジシマカの生息密
度を低減させておくことが,国内未発生時におけるデン
2. 蚊の季節変動
グ熱等の蔓延防止対策として重要であると考えられた.
最も多く捕集されたヒトスジシマカの捕集数は,8月が
ヒトスジシマカ以外の蚊が最も多く捕集された調査地
最大であった(図4).ヒトスジシマカの捕集数を地域別
点は2地点であった.1地点は,小山田緑地であり,ヤマ
に見ると,特別区では8月後半に,多摩地区では8月前半
トヤブカが捕集蚊総数の約60%を占めた.ヤマトヤブカは
に最大数捕集されており,同じ都内でも半月ほどの差が
ヒトや野鳥から吸血する習性を持つと考えられる上,日
見られた.一方,アカイエカ群の捕集数は,7月が最大と
本では地域や季節により発生個体数が多いため,ウエス
なった(図5).その他の蚊については,ヤマトヤブカは8
トナイルウイルスを媒介する可能性があるとして注意す
月前半に多く捕集され,コガタアカイエカは7月前半と9
べき蚊の一つとされている2).ヒトスジシマカと同様に,
月後半に捕集数の増加が見られた(図6)
.
ヤマトヤブカも多種多様の自然環境及び人工の容器内で
東
京
健
安
研
セ
年
307
報,66, 2015
600
捕集数(匹)
合計
500
特別区
400
多摩
300
200
100
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
捕集時期
図4 ヒトスジシマカの捕集状況
合計
120
特別区
100
捕集数(匹)
多摩
80
60
40
20
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
図5 アカイエカ群の捕集状況
コガタアカイエカ
ヤマトヤブカ
ハマダラナガスネカ
カラツイエカ
オオクロヤブカ
35
捕集数(匹)
30
25
20
15
10
5
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
8月
下旬
上旬
捕集時期
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
図6 コガタアカイエカ及びその他の蚊の捕集状況
各調査地点別の捕集の変動は,図7,8に示すとおりであ
以上異なっていた.したがって,感染症発生時において
る.ヒトスジシマカは8月に最も多く捕集されている地点
蚊の防除対策を行う際には,未発生時における「感染症
が多いが,大井ふ頭中央海浜公園(9月上旬)や神代植物
媒介蚊サーベイランス」の結果を考慮し,さらに対象地
公園(9月下旬)のように8月よりも9の方が多くのヒトス
域における詳細な調査を実施して,その地域の蚊の活動
ジシマカが捕集される地点もあった.
状況を把握した上で防除方法や実施期間を決定すること
蚊媒介感染症の国内発生時には,その年の蚊の活動が
が重要であることが明らかになった.
終息するまでは蚊の防除対策を徹底させることが蔓延防
また,感染症未発生時から,捕集される蚊の種類に対
止のために必要となる.気象状況に影響を受けて,年に
して適切な幼虫・成虫対策手法を明らかにするためにも,
より蚊の活動の終息時期は異なるが,本調査においては
この「感染症媒介蚊サーベイランス」の結果を活用させ
調査地点によっても蚊の捕集数が最大となる時期が一ヵ月
ていきたい.
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 66, 2015
308
大井ふ頭中央海浜公園
お台場海浜公園
ヒトスジシマカ
100
ヒトスジシマカ
100
その他のシマカ亜属
コガタアカイエカ
60
その他の蚊
40
アカイエカ群
80
捕集数(匹)
捕集数(匹)
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
80
20
コガタアカイエカ
60
その他の蚊
40
20
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
青山霊園
谷中霊園
ヒトスジシマカ
ヒトスジシマカ
50
その他のシマカ亜属
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
40
アカイエカ群
40
コガタアカイエカ
30
その他の蚊
20
コガタアカイエカ
捕集数(匹)
捕集数(匹)
10月
上旬
捕集時期
50
10
30
その他の蚊
20
10
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
捕集時期
染井霊園
石神井公園
40
ヒトスジシマカ
200
ヒトスジシマカ
その他のシマカ亜属
180
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
160
コガタアカイエカ
140
その他の蚊
30
20
捕集数(匹)
50
捕集数(匹)
9月
下旬
アカイエカ群
コガタアカイエカ
その他の蚊
120
100
80
60
10
40
20
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
6月
上旬
10月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
捕集時期
舎人公園
砧公園
200
ヒトスジシマカ
180
その他のシマカ亜属
160
アカイエカ群
140
コガタアカイエカ
120
その他の蚊
100
80
ヒトスジシマカ
50
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
40
コガタアカイエカ
捕集数(匹)
捕集数(匹)
8月
上旬
その他の蚊
30
20
60
40
10
20
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
捕集時期
7月
下旬
8月
上旬
捕集時期
図 7 調査地点毎の蚊の捕集状況(特別区)
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
東
京
健
安
研
セ
年
309
報,66, 2015
井の頭恩賜公園
多摩動物公園
ヒトスジシマカ
50
ヒトスジシマカ
25
その他のシマカ亜属
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
40
アカイエカ群
20
その他の蚊
30
20
コガタアカイエカ
捕集数(匹)
捕集数(匹)
コガタアカイエカ
10
15
その他の蚊
10
5
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
狭山公園
小山田緑地
ヒトスジシマカ
ヒトスジシマカ
50
その他のシマカ亜属
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
40
アカイエカ群
40
その他の蚊
30
20
コガタアカイエカ
捕集数(匹)
捕集数(匹)
コガタアカイエカ
10
その他の蚊
30
20
10
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
捕集時期
八王子霊園
薬用植物園
ヒトスジシマカ
25
ヒトスジシマカ
25
その他のシマカ亜属
その他のシマカ亜属
アカイエカ群
20
アカイエカ群
20
コガタアカイエカ
その他の蚊
15
10
コガタアカイエカ
捕集数(匹)
捕集数(匹)
10月
上旬
捕集時期
50
5
その他の蚊
15
10
5
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
捕集時期
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
捕集時期
ヒトスジシマカ
神代植物公園
福生高等学校
その他のシマカ亜属
50
50
ヒトスジシマカ
アカイエカ群
その他のシマカ亜属
コガタアカイエカ
40
アカイエカ群
40
その他の蚊
コガタアカイエカ
捕集数(匹)
捕集数(匹)
9月
下旬
30
20
10
その他の蚊
30
20
10
0
0
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
7月
下旬
8月
上旬
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
6月
上旬
6月
下旬
7月
上旬
捕集時期
7月
下旬
8月
上旬
捕集時期
図 8 調査地点毎の蚊の捕集状況(多摩地区)
8月
下旬
9月
上旬
9月
下旬
10月
上旬
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 66, 2015
310
ま
と
め
3)
セ年報, 65, 249-255, 2014
平成26年度の「感染症媒介蚊サーベイランス」の検査
結果では,ウエストナイルウイルス,デングウイルス,
4)
国立感染症研究所:デング熱・チクングニア熱等蚊
媒介感染症の対応・対策の手引き 地方公共団体向
チクングニアウイルス,及びマラリア原虫はいずれも検
10)
出されなかったものの ,海外で感染して都内で発症する
例は毎年報告され,また,デングウイルスは約70年ぶり
髙橋久美子,酒井 侑,森髙久賀,他:東京健安研
け,平成27年
5)
代々木公園を中心とした都内のデング熱国内感染事
の国内感染が確認されている.これらの病原体を媒介す
例発生について,http://idsc.tokyo-
るとされるヒトスジシマカやアカイエカ等は調査した全
eiken.go.jp/diseases/dengue/dengue2014/iasr1/
ての公園等において生息しているものの,これまで組織
(平成27年8月1日現在,なお本URLは変更または抹
的かつ大規模にその防除対策に取組んでこなかった.
また,今回のサーベイランスではネッタイシマカは捕
消の可能性がある)
6)
告書 平成26年12月24日, 2014
集されなかったが,平成24年には成田国際空港内でネッ
タイシマカの幼虫等,平成25年には東京国際空港内で成
東京都福祉保健局:東京都蚊媒介感染症対策会議報
7)
川合禎二,谷田一三,:日本産水生昆虫,東海大学出
版,757-1005, 2005,
虫が確認されるなど輸送手段の発達などによる国内への
蚊の侵入や地球温暖化による蚊の生息域の拡大も懸念さ
8)
佐々学,栗原毅,上村清:蚊の科学,北隆館,1976
れている11) 12).
9)
津田良夫:蚊の観察と生態調査,北隆館,2013
蚊媒介感染症の早期発見と流行の未然防止,発生時に
10)
平成26年度 蚊が媒介する感染症サーベイランス調
おける蚊の駆除の資料とするためにも,都内における蚊
査結果
の生息状況を把握しておくことが必要であり,今後も感
http://www.tokyo-eiken.go.jp/files/kj-kankyo/
染症媒介蚊サーベイランスを続け,感染症未発生時から
surveillance-gaiyou /kekka/H26.pdf
蚊の防除対策に活用していくことが重要である.
(平成27年8月1日現在,なお本URLは変更または抹
消の可能性がある)
文
1)
献
13-14,2005
2)
11)
Sukehiro N, Kida N, Umezawa M, et al., Jpn J Infect Dis.
66(3), 189-94, 2013
国立感染症研究所感染症情報センター:IDWR,40,
12)
厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所
厚生労働科学研究:ウエストナイル熱媒介蚊対策に
業務管理室,成田空港検疫所:検疫所ベクターサー
関するガイドライン,平成14年
ベイランスデータ報告書(2013年)
東
京
健
安
研
セ
年
311
報,66, 2015
Species Composition of Mosquitoes in Tokyo from June to October in 2014
Kumiko TAKAHASHIa, Tomoyoshi IGUTIa, Asami TSUJIa, Megumi ICHIKAWAa, Kumiko KUSUNOKIa, Takeshi ISHIKAMIa,
a
a
a,b
a
a
Chieko MUTOa, Kazumichi YANO , Yukiko TABEI , Masanobu KANEKO , Toshinari SUZUKI , Yoko NADAOKA ,
a
a
Mitsugu HOSAKA , and Masayuki KURITA
To prevent outbreaks and the spread of mosquito-borne infectious diseases, such as West Nile fever and dengue fever, which are
prevalent in countries outside Japan, surveillance of infectious disease-carrying mosquitoes has been conducted since 2004 in the
Tokyo Metropolitan area. Analysis of the surveillance data from 2014 showed that 12 taxa of mosquitoes were identified at 16 sites.
Most of the mosquitoes collected were Aedes albopictus and Culex pipiens pallens (including Culex pipiens molestus). A.
albopictus was the most abundant in August, and C. pipiens pallens was most common in July. A. albopictus and C. pipiens
pallens carry the West Nile virus, whereas A. albopictus also carries dengue virus and chikungunya virus. Therefore, the
importance of vector control was highlighted in this study.
Keywords: mosquito, infectious disease, Aedes (Stegomyia) albopictus, Culex (Culex) pipiens complex
a
Tokyo Metropolitan Institute of Public Health,
b
Present Address: Public Health Center,
3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073, Japan
1-26-1, miyanishityou, futyu-City, Tokyo 183-0022,Japan
Fly UP