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PDFデータ - 岩井整形外科内科病院
◆Summar y 複数施設でのクラウドサービス利用による 情報共有の実現と医療の質均一化 ある。そこで、我々は情報の共有に際し、ク の共有を行うための新たなシステムの構築で サ ー バ を SaaS / PaaS (注)にて利用して いた。今回、2院目を開院するに当たり、医 メールサーバやホームページ用のコンテンツ 医療法人財団 岩井医療財団 岩井整形外科内科病院 整形外科 ラウドシステムを利用することで解決を試み 療情報系ネットワーク側でのクラウドシステ ム環境を構築することにした。 (注) SaaS とは Software as a Service の頭文字 を と っ た 略 語 で、 イ ン タ ー ネ ッ ト に 接 続 し て ア プリケーション(メール、 スケジュール機能など) を 提 供 す る ク ラ ウ ド サ ー ビ ス で あ る。 ま た、 が増加し、病院のキャパシティを超えるまで 700件の手術を実施していたが、手術件数 た。インターネットに接続しないものとして ネットに接続するものに分けて運用をしてい ンターネットに接続しないものと、インター 従来、岩井整形外科内科病院におけるネッ トワーク環境は、セキュリティ対策としてイ ウドサービスである。 ベ ー ス、 W e b サ ー ビ ス な ど ) を 提 供 す る ク ラ とは Platform as a Service の頭文字をとっ PaaS た略語で、インターネットに接続してアプリケー になった。そのため、2015年7月に当財 は、電子カルテシステムやPACS( 医療情報系ネットワークでの クラウドシステムの構築 効果、並びに今後の取り組みについて述べる。 本稿では、新病院の開院を契機に当財団で 導入したクラウドサービスの活用内容とその た。当財団の全体システム構成を図1に示す。 金子剛士 要旨:情報をクラウド化して集約すること で、物理的な距離に縛られることなく手術 技術を含めた医療情報の共有が可能とな り、さらにコストの最適化も実現できる見 通しである。情報を複数施設で共有するこ とで、情報の均一化を図ることが可能とな り、医療の質の向上に大きく貢献できると 考える。 %を実施している。当初は病床 当財団は、日本整形外科学会発表の報告件 数のうち、全国で実施されている脊椎内視鏡 下手術の約 団の2院目となる脊椎、関節に特化した稲波 )が Archiving and Communication System 稼働している医療情報系ネットワークであ の ( 注 ) と、 各 病 院 と IaaS を接続する IaaS 医療情報系ネットワーク側の最初のクラウ ドサービスとして、グループウェアシステム 医療情報系ネットワークでの 利用 IaaS シ ョ ン が 稼 働 す る た め の ミ ド ル ウ ェ ア( デ ー タ 脊椎・関節病院を開院した。 る。 床の岩井整形外科内科病院だけで年間1 病院が2施設に増え、手術件数を増やすこ とが可能となった反面、物理的に距離のある Picture 2つの施設に分かれたため、新たな課題が発 元々、インターネット系ネットワークでは、 数 10 生した。それは、2施設に分かれた患者情報 60 選択と構築からみた 実際的効果 Cloud computing for Medical information sharing is one of the most attractive applications, where Patient information including surgical technique can share, not taking into consideration of a restrict physical distance and also a fascinating solution for reducing running costs. Homogenizing healthcare information contribute to improving the overall quality of healthcare. 新 医 療 2016年7月号 ( ) 44 る接続が可能となり、セキュリティ強化が図 このインターネットVPNサービスを利用 することで、病院間でプライベート回線によ 線を構築する方法である。 )サービスを利用した。VPNとは Network 情報を暗号化して、仮想上のプライベート回 イ ン タ ー ネ ッ ト V P N( 境を構築していた。そのため数年後に発生す のサーバやアプライアンス機器を設置して環 前記グループウェアシステムやリモートア クセスサービスは、これまで院内に自主運用 している。 なった。今後は遠隔診療としての活用も検討 回線を利用した電子カルテの利用が可能と の利用により、自宅などからインターネット その他、クラウドサービスベンダーが提供 しているSSL V - PNによるリモートアク セスサービスも利用している。このサービス ティ下で可能となっている。 るため、先ほどの遠隔診療検討と併せて院外 さらに、このWeb会議システムは、リモー トアクセスサービスの利用も可能となってい るシステムが利用可能となっている。 スの必要がなく、どこでもすぐに会議ができ のクラウドサービスにWeb会議システムを 前記の問題を解決するため、グループウェ アシステムと同じ医療情報系ネットワーク側 所も制限されることになる。 テムリプレースの必要が生じる上に、利用場 レビ会議システムとどちらにするか検討を 総 論 タブレット向けコンテンツ管理シス テム( Handbook )での SaaS 利用 構築した。これにより、ハードウェアリプレー レビ会議システムにした場合、数年毎にシス 行った。据え付け型のハードウェアを伴うテ られている。これにより、相互の病院同士で るハードウェアリプレースや機器の長期稼働 Virtual Private 医師によるカルテや所見の参照および放射線 による経年劣化のためのメンテナンス、不慮 の医師との専門的なカンファレンス利用など 検査などの画像閲覧が、より強固なセキュリ の事態における物理的破損による情報喪失へ も検討することにしている。 ビスに環境を構築したことで、そういったコ ストやリスクを回避することができるように なった。 当財団では、患者さんへの手術説明資料の 閲覧にタブレット端末を使用している。タブ (注) IaaS とは Infrastructure as a Service の頭 文 字 を と っ た 略 語 で、 イ ン タ ー ネ ッ ト に 接 続 し て仮想サーバやOSを提供するクラウドサービ レットを導入する前は診察室にて患者さん1 め、患者さんによっては説明に 分以上も要 人ひとりに対して手術説明を実施していたた ス で あ る( ア プ リ ケ ー シ ョ ン の イ ン ス ト ー ル や 設定作業は利用者にて実施) 。 していた。 可能となり、医師は患者さんに共通する手術 環境への構築 IaaS 今回2病院間の職員によるコミュニケー ション方法を検討するに当たり、電話やメー 説明を省略し、患者さんの質問に回答する形 Web会議システムの ルではなく対面会議と同等の品質確保が実現 に要する時間を従来の3分の1に短縮するこ 式で説明が可能となった。これにより、説明 環境に構 IaaS 築した。Web会議システム導入に当たって できるWeb会議システムを とが可能となった。 新 医 療 2016年7月号 45 ( ) の対応が必要であったが、今回クラウドサー 技術進展がもたらす 医療応用 図 1 全体システム構成 選択と構築からみた 実際的効果 は、据え付け型のテレビ会議専用機によるテ タブレットの導入により、患者さんは医師 の説明前に手術説明資料の閲覧を行うことが 30 HIS─それ程凄いか、クラウド&仮想化 総特集 サービスにフィードバックすることも考えて の閲覧履歴を活用することで、患者さんへの 画している。また、コンテンツ管理システム の紹介などさまざまなコンテンツの配信を計 今後は、コンテンツの閲覧環境を病室に設 置のパソコンへも展開し、病院の案内や医師 料が閲覧できるようになっている。 備するために、以下のシステムを整理する必 のデータを利用するためのデータベースを整 一方で、データ開示の実現化にはいくつか の課題がある。実用化するに当たり、当財団 ている。 よって、医療技術の発展に寄与したいと考え タをクラウド上で開示し、当財団で得られた データを院内外で広く活用してもらうことに いる。 要がある。すなわち、診療情報の収集・管理・ 抽出を実現するデータベースシステム化の複 クラウドサービス利用による情報の共有 を、医療技術者間の情報共有にも活用したい ラウドを用いて構築することである。その課 等)を連結するためのスキームを整理し、ク 医療データのクラウドサービス活用 数の情報源(アンケートデータを含む患者情 と考えている。当財団は、内視鏡下の脊椎手 題について現在取り組んでいる。 報・DPCデータを含む診療情報・会計情報 術の習得を希望する研修医を受け入れてお クラウドサービス利用による効果 情報をクラウド化して集約することで、物 理的な距離に縛られることなく情報共有が可 具体的には、データを匿名化することを条 件として、セキュアな環境で、症例の検討や いる。 化などが可能となり、医療の質の向上に大き 情報を複 数施設で共有するこ とで、病態、 治療法の優劣のより正確な把握と情報の均一 る見通しである。 能となり、さらにコストの最適化も実現でき 参照のできる環境を設けている(図2)。 保有する手術中画像のデータは約7000 15 10 76 この手術説明資料をタブレット端末に登録 する方法として、当初は手術説明資料が登録 く貢献できると考えている。 ある。病院保有のデータを多く集めることで 金子剛士(かねこ・たけし)● 年北海道生まれ。 年 愛 知 医 科 大 卒。 年 東 京 医 科 歯 科 大 大 学 院 医歯学総合研究科医療管理政策学修士課程修了、 年 博 士 課 程 修 了。 年 7 月 稲 波 脊 椎・ 関 節 病 院 勤 務。 同 年 月 よ り 岩 井 整 形 外 科 内 科 病 院 整 形 外 科 勤 務。 日 本 整 形 外 科 学 会 専 門 医、 日 本 整 形 外 科 学 会 リ ウ マ チ 認 定 医、 医 学 博 士、 医 療 管 理学士(MMA) 。 05 されていたパソコンとタブレット端末を有線 ことを考慮し、新たに 分析の精度が上がり、よりよい医療を提供で 件、手術前後の臨床データは約3000件で コ ン テ ン ツ 管 理 シ ス テ ム「 Handbook 」を導 入した。これにより、タブレット端末への手 によるモバイル SaaS 術説明資料のスピーディーな同期を可能と きるのではないかと考えられる。これらデー ※ ※ また 年より、患者さんに対して手術の効 果を客観的に判断するために、患者立脚型の のバックアップを取れる体制構築を検討して 機会や手術件数の減少が必発であるため、そ しかし、研修を終えた後は、症例に遭遇する に 執 刀 医 と な り 実 績 を 積 む よ う に し て い る。 勤の医師の指導のもと技術を習得し、短期間 り、その研修期間は約6ヵ月からである。常 選択と構築からみた 実際的効果 アンケートを取得している。現在、当財団が 図 2 クラウドによる情報共有画面例 のケーブルに接続して実施していた。新病院 技術進展がもたらす 医療応用 の開院によりタブレット端末の台数も増えた 総 論 し、どちらの病院にいても同一の手術説明資 10 14 12 HIS─それ程凄いか、クラウド&仮想化 総特集 新 医 療 2016年7月号 ( ) 46