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GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり ID:65336

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GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり ID:65336
GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり
ウルヴァリン
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
日本に突如として現れたゲート。そこで日本に旅行に来ていた第
2海兵遠征軍海兵隊員のエース・クレイグ当時少尉は妻を失った。
銀座事件と名付けられたあの日から3ヶ月後、異世界に派遣される
自衛隊へのサポートとして第31海兵遠征隊と台湾陸軍戦車小隊が
参加することとなり、妻の仇討ちが出来ると判断したエースも中尉に
昇進した直後に転属願いを提出し、第3偵察大隊B中隊独立偵察チー
ムリーダーとして異世界へと向かう。
*感想を書かれる際の注意事項
1:本作は原作・漫画版・アニメ版の3つにオリジナル要素を含め
た作品となり、基本的には書いて頂いたご感想に関しましては返信さ
せて頂きます。しかしあまりにも内容がずれた物や中傷、作品展開に
関わる内容のものに対しては返信はありません。また通達なしで削
除させて頂く場合があります。
2:ご希望に関しましても吟味した状態で応えさせて頂きますが、
あまりにも過度なご希望や、否決されたにも関わらず何度も強要する
ようなご希望に関しても削除、若しくはアクセス拒否をさせて頂く場
合があります。
誤字修正に関するお知らせ
自分が書いた方
本作の誤字修正に関しまして暫くお受けしない方針を取らせて頂
きます。理由としましては一部のユーザー様より
が面白いから言う通りに書き換えろ
という脅迫まがいなメッセー
ジを送られて来ている為で、確かに誤字になっている個所もありま
す。しかし中には敢えてそうしている個所もありますので、一時的に
誤字修正受付を停止させて頂きます。予めご了承下さいますようお
願い致します。
なお、停止中にも関わらず過度に誤字修正をされた際は最悪の場
合、お得意様でありましてもアクセスを拒否させていただく場合が御
座います。︵現在仮解除中︶
Mission00:Prologue │││││││││
目 次 Mission01:銀座事件 │││││││││││││
1
第1章:遭遇編
Mission02:親友 │││││││││││││││
3
Mission20:不本意の共闘 │││││││││││
Mission19:運命の交差 ││││││││││││
Mission18:イタリカへ ││││││││││││
Mission17:恨み │││││││││││││││
Mission16:灼熱の力 │││││││││││││
Mission15:炎龍 │││││││││││││││
Mission14:エムロイの使徒 ││││││││││
Mission13:鬼神 │││││││││││││││
Mission12:レレイ ││││││││││││││
Mission11:首無騎士の少女 ││││││││││
Mission10:燃え盛る森 ││││││││││││
Mission09:リーパー │││││││││││││
Mission08:エルベ藩王国の獅子 ││││││││
Mission07:皇帝の策略 ││││││││││││
Mission06:初の遭遇戦 ││││││││││││
主人公紹介:伊丹 耀司 ││││││││││││││││
主人公紹介:エース・クレイグ │││││││││││││
Mission05:異世界へ │││││││││││││
Mission04:復讐の鬼 │││││││││││││
Mission03:二重橋の英雄 │││││││││││
9
12
15
18
22
25
27
31
35
40
44
50
54
59
63
66
72
77
81
85
90
Mission21:戦う理由 │││││││││││││
Mission22:ワルキューレ達の飛翔 │││││││
Mission23:戦乙女の騎行 │││││││││││
Mission24:無慈悲の鬼神 │││││││││││
Mission25:鉄の獅子と死の案内人 │││││││
Mission26:畏怖と恐怖 ││││││││││││
Mission27:怒りを抱く英雄 ││││││││││
Mission28:騎士団との接触 ││││││││││
Mission29:協定違反の代価 ││││││││││
MISSION30:イタリカへの潜入 │││││││││
Mission31:黒髪の女性 ││││││││││││
Mission32:動き出す各国 │││││││││││
Mission33:ひと時の休息 │││││││││││
Mission34:アルヌスへ ││││││││││││
Mission35:谷とルフス ││││││││││││
Mission36:ゲートの向こう側 │││││││││
Mission37:波乱の参考人招致 │││││││││
Mission38:真実の話 │││││││││││││
Mission39:逃走と隠密 ││││││││││││
Mission40:墓参りと部下との再会 │││││││
Mission41:首脳達と英雄達 ││││││││││
Mission42:タスクフォースナイツ │││││││
Mission43:エースとミオ │││││││││││
Mission44:伊丹とロゥリィ ││││││││││
Mission45:アークエンジェル │││││││││
94
203 199 194 190 184 180 172 167 159 154 152 147 144 141 137 132 127 122 118 114 110 105 101 98
Mission46:瞬殺の具現者 │││││││││││
Mission47:スペツナズ ││││││││││││
Mission48:未来の英雄 ││││││││││││
Mission49:エース ││││││││││││││
第2章:炎龍編
Mission50:雨 ││││││││││││││││
Mission51:2つの平和 ││││││││││││
Mission52:セラフィム ││││││││││││
Mission53:黒衣隊 ││││││││││││││
Mission54:4番目の力 ││││││││││││
Mission55:予知 │││││││││││││││
Mission56:スティーブとミーア ││││││││
Mission57:衝撃的な真実 │││││││││││
Mission58:玉座での戦い │││││││││││
Mission59:国の在り方 ││││││││││││
Mission60:ウォートホッグ ││││││││││
Mission61:2つの議題 ││││││││││││
Mission62:烈火と豪火の騎士 │││││││││
Mission63:悪夢の再来 ││││││││││││
Mission64:壊された日常 │││││││││││
Mission65:出会いと決断 │││││││││││
Mission66:取り戻すための旅 │││││││││
番外編:スペツナズの進撃 │││││││││││││││
Mission67:帰還する獅子 │││││││││││
Mission68:馬鹿を救う決断 ││││││││││
221 215 212 208
320 316 312 305 301 296 290 286 281 277 274 268 261 257 250 245 241 236 230 225
番外編:スペツナズの進撃2 ││││││││││││││
Mission69:流れるは涙と謝罪 │││││││││
Mission70:CIA ││││││││││││││
Mission71:料理人のスパイ ││││││││││
Mission72:炎龍再び │││││││││││││
Mission73:ダークエルフ │││││││││││
Mission74:バカ達の翼 ││││││││││││
Mission75:亡き者達の手向け │││││││││
Mission76:炎龍再編 │││││││││││││
Mission77:背水の陣 │││││││││││││
Mission78:Hessu│amnt │││││││
Mission79:邪神と猊下の戯言 │││││││││
Mission80:猊下との戦い │││││││││││
Mission81:旅の終わり ││││││││││││
第3章:動乱編
Mission82:本国でのホームパーティー │││││
ゴースト
││
Mission83:台湾動乱の回想 ││││││││││
Mission84:長距離偵察チーム
Mission85:新たなる影 ││││││││││││
Mission86:圧政の始まり │││││││││││
Mission87:ファントムチーム │││││││││
Mission:88アングレイファー │││││││││
Mission89:スニーキング │││││││││││
Mission90:届く願い │││││││││││││
Mission91:敵はウラ・ビアンカにあり │││││
392 387 380 376 371 366 362 357 353 347 343 338 333 324
439 435 432 428 424 420 415 410 403 398
Mission92;自由の一撃/空挺降下 │││││││
Mission92:自由の一撃/ヘリボーン ││││││
Mission93:自由の一撃/救出 │││││││││
Mission94:自由の一撃/脱出 │││││││││
Mission95:義鬼と忠狼 ││││││││││││
Mission96:解放への戦火 │││││││││││
Mission111:新たな闇 ││││││││││││
Mission110:使徒 ││││││││││││││
番外編:2重のサプライズ │││││││││││││││
Mission109:獣人種の習慣 ││││││││││
Mission108:パラパン ││││││││││││
Mission107:カラスとハンマー ││││││││
Mission106:誓い ││││││││││││││
Mission105:歪んだ記事 │││││││││││
Mission104:CQC │││││││││││││
Mission103:古田 ││││││││││││││
ハロウィン番外編:特地でのハロウィン │││││││││
Mission102:カティラの悲劇 │││││││││
Mission101:新しい旅の始まり ││││││││
第4章:総撃編
Mission100:GATE ││││││││││││
Mission99:英雄達 ││││││││││││││
Mission98:脱出へのチェイス │││││││││
e │││││││││││││││││││││││││││
Mission97:The Revenge of Battl
464 460 456 452 448 443
485 481 476 471
557 550 547 540 534 529 525 520 513 509 504 500 494
Mission112:ダー ││││││││││││││
564
第1章:遭遇編
Mission00:Prologue
月明かりが見当たらない新月。俺たちは明かりもない丘の上にい
た。正確には潜んでいたと言った方が正しいだろう。念入りに偽装
され、塹壕や掩蔽壕を設置して敵から自分の姿を見せないように息を
殺して潜伏している状態だ。
無線機にて聞こえてくる通信や暖機運転をして待機している車両
に金属が擦れ合う音。
俺たちはアメリカ海兵隊。日本の要請と条約に基づいて派遣され
た第31海兵遠征隊という組織になる。
展開している丘の下には隊列を組み、音を立てずに前進してくる武
器を手にした敵部隊。夜襲を仕掛けるには絶好の暗さで、戦力差は実
に10倍以上とされていたが、俺を含む隊員はしっかりと敵を見てい
た。
︿HQから全部隊に通達。敵が突撃破砕線に接近中だ。距離500に
なり次第、自衛隊が照明弾を打ち上げる。それを合図に自由射撃を許
可する﹀
﹁こちらリーパー指揮官。了解したHQ﹂
海兵隊指揮所から通信を受け取り、俺は小声で簡単に返答する。そ
してライフルの銃口をしっかりと敵部隊の隊長らしき男に向け、照準
器を覗き込んでトリガーに指を置いた。
そして暫くしてから空が一気に明るくなった。
自衛隊が打ち上げた複数の照明弾により敵の存在ははっきりと見
えるようになり、逆に敵部隊は夜襲が成功するであろうという考えし
か持たなかったのか非常に混乱していた。
敵の装備は俺たちみたいにボディアーマーやライフルなどではな
く、鎧兜に剣、盾、槍、弓など中世ヨーロッパのような時代錯誤の編
1
成だ。しかも縦隊で隊列を組んで移動しているという俺たちにとっ
て戦術とも呼べない行動だ。
だがここが異世界ということを証明するかのように、隊列の中には
ゴブリンやオークのようなモンスターの姿も確認されている。だが
所詮は雑魚だ。
俺たちにとっては射撃演習の的が動いているようにしか見えない。
だが1人だけ違う動きを見せて素早く状況を理解した上で馬を走
らせる敵がいたが手加減は無用だ。
ダックインされた自衛隊のマーク74の105mm砲による砲撃
が始まり、続けて自衛隊兵士のマーク64やM249が一斉に射撃を
開始し、立て続けに敵兵をなぎ払っていく。
俺たち海兵隊からも攻撃が開始され、俺もトリガーを引いた。
自衛隊兵士や海兵隊員も続けて敵に射撃を加えていき、次々と死体
の山を築いていく。
から
俺は奴等を許せない。3ヶ月前に奴等の一方的な日本への侵略で
銀座事件
民間人が見境なしに殺され、そこで俺は大切な人を失った。
全てのきっかけは3ヶ月前の日本で起きた事件
始まった⋮⋮⋮⋮⋮。
2
Mission01:銀座事件
2018年7月22日 東京都銀座
ずっと仕事漬けだった俺は前から妻が来たがっていた銀座に休暇
を利用して旅行に来ていた。
第2海兵師団に所属しているエース・クレイグ。それが俺の名前
だ。
大学を飛び級で19歳の頃に卒業し、22歳の頃に軍曹。直ぐに士
官候補生として訓練を受けて4年後にようやく今の階級である少尉
に任官した。
少尉に任官して既に6年が経過し、近い内に昇進があるっていう話
があるが、今は手洗いに行っている妻のエミリアを壁にもたれ掛かり
ながら待っている。
3
﹁ごめんなさいエース。思ってたより時間が掛かっちゃって⋮⋮⋮﹂
﹁大丈夫だよ﹂
店から出て来た俺の妻であるエミリアを迎える。彼女はブロンド
の三つ編みをした小柄の女性で、ハイスクール時代の後輩だったから
両親とも前々から知っていた。
結婚したのは少尉任官から1週間後で、6年前にようやく一緒にな
れたっていうことだ。
エミリアは茶色のハンドバッグを肩に担いで、俺の左手を握って銀
座を歩き始める。観光地であって繁華街でもあるので人の賑わいは
凄く、辺りに買い物袋を手にした同じ海外からの観光客が目立ってい
た。
しかも賑わいの中にも日本人らしい謙虚さと仁義が満ちており、観
﹂
光客からの道案内を快く答えたり、持ち切れない荷物を持ってあげた
りと親切な国であると感心する。
﹁けど日本ってやっぱりいい国よね
?
﹁あぁ。飯は美味いし文化は面白い。しかも住んでる人は親切で人当
たりもいいから観光にはうってつけだよ﹂
﹁こんないい国だったら移住してみたくなっちゃうわ﹂
﹁全くだな。いっそのこと第3海兵に転属して沖縄にでも暮らしてみ
るってのもありだ﹂
﹁だ っ た ら 嬉 し い わ ね。日 本 の お 寿 司 っ て 本 当 に ヘ ル シ ー だ か ら
﹂
⋮⋮⋮あら
﹂
目の前に広がったのは逃げ惑う人々に、それを追撃する一団。だが
﹁こ⋮⋮⋮これは⋮⋮﹂
光景に驚きを隠せなかった。
を確認した俺も急いで曲がり角に向かった。だが目の前に広がった
そういうとエミリアは戸惑いながらも近くの店に入っていき、それ
﹁えっ⋮⋮⋮う⋮⋮うん﹂
隠れていなさい﹂
﹁どうやら⋮⋮⋮尋常じゃならなくなりそうだ。だから安全な場所に
﹁エース
﹁エミリア⋮⋮近くの店内に隠れていてくれ﹂
立ち、睨みつけるように騒がしくなって来た方角を見る。
非常に危険な状況だと理解した俺はすぐに彼女を庇うように前に
聞こえてきたのは悲鳴だからだ。
がそんなものじゃない。
確かに少し進んだ辺りで騒がしくなり始め、イベントか何かと思った
エミリアが何か聞き取り、俺も耳を研ぎ澄まして辺りを観察する。
﹁なにかしら⋮⋮⋮なんだか騒がしくなって来たわ﹂
﹂
﹁どうした
?
問題は一団だった。
4
?
?
手には剣や槍、弓を手にした鎧を身につけた武装集団で、槍を手に
した奴らは馬に乗って通過する市民を見境なしに殺害していった。
そしてそれらを上回る驚愕な存在が、異形の人ではないモンスター
や飛来するドラゴンだ。
おとぎ話でしか存在することがない筈のモンスターが目の前にい
る。とても現実とは思えない光景ではあるが、目の前に存在している
のだから受け入れるしかない。
そんな光景に呆気に取られていると、少し離れた場所にM360J
を構えた警察官に剣を手に殺害しようとする奴がいた。
しかも警官は恐れを抱いているのか手元が震えており、照準が合わ
さっていない。すると余裕の表情をしながら敵兵はバデレールを構
えて仕掛けたが、素早く警官に駆け寄って半ば強引にM360Jを手
にして狙いを付けて発砲。
﹂
.38スペシャル弾は敵の額に命中して、目標は崩れるように倒れ
死にたいのか⁉
良かったんだが、合計で5発しか支給されない日本警察なら使い慣れ
ている警官が使用した方がいいだろう。
警官はM360Jを受け取ると近くで震えていた市民を連れてそ
の場を後にする。それを狙ったかのように今度は辺りを武装集団6
﹂
人が囲み、背後の敵が刺突で仕掛けてきた。
﹁ふんっ‼
スターを持った敵の足をしゃがみ姿勢から一気に足払いをし、先ほど
倒した敵のバデレールを奪って喉に突き刺した。
5
た。
﹁えっ⋮⋮⋮あっ⋮⋮﹂
﹁撃つ気概が無いなら銃を握るな‼
?
それだけいうと警官にM360Jを返却する。別に俺が使っても
?
敵の刺突をいなすと首を掴んで一気に地面に叩きつけ、モーニング
?
すると4人同時に仕掛けて来たが、バデレールを引き抜いてショー
トスピアーを持つ敵を斬り裂き、バデレールを持った敵の腹に突き刺
して今度はダガーを奪い取る。
これで残り2人だ。
そのまま目の前にいる敵の喉をダガーで振りかざしながら斬り裂
いて、最後の敵の首を腕で締め上げて一気に首をへし折った。
6人を短時間で制圧すると上空を飛来していたドラゴンの翼がい
きなり捥げて地上に墜落していった。
上空を見上げると陸上自衛隊が使用している攻撃ヘリのAH│1
SがM197を発砲しながら飛来してきた。確か練馬区に駐機して
いる機体だ。
地上からも自衛隊車両が搭載されているM249やM2、下車戦闘
で展開してきた兵士が主力ライフルのM89A1で射撃を開始し始
めた。
どこだエミリア‼
﹂
の玉で燃え広がるビルに入り、1階を突き進む。
﹁エミリア‼
?
6
中世ヨーロッパ装備しかない連中は次々と射殺されていき、ゴブリ
ンやオークみたいなモンスターも次々と屍を晒していく。
これで敵は制圧されるしかないだろう。ダガーを投げ捨てると俺
の頭上をドラゴンが飛来していき、目の前にいたコブラに火の玉を吐
き出した。だがコブラは素早く反転してバルカンを発砲してドラゴ
ンを叩き落とした。
だが俺は嫌な予感がした。
﹂
ドラゴンが吐き出した火の玉が飛来していった方角を見ると落ち
エミリア‼
た場所は⋮⋮。
﹁エミリア⁉
?
先ほどエミリアが隠れたビルだったからだ。俺はガムシャラに火
?
?
瓦礫を除きながら必死にエミリアを探す。すると近くの瓦礫の下
に身に覚えがあるものがあった。
それは人の左腕であり、細さからして女性だ。しかも左薬指にはめ
﹂
られている結婚指輪で誰かがすぐにわかった。
﹁エミリア⁉
間違いなくエミリアだ。俺は瓦礫を急いでどかし、必死にエミリア
を助けようとする。少ししてから大きい瓦礫を取り除くとようやく
﹂
頼むから目を開けてくれエミリア‼
エミリアを抱き抱え、彼女の名前を必死に呼び続けた。
しっかりしろ‼
﹁エミリア⁉
くっそぉおおおおおおおっ‼
‼
‼
?
光に来ていただけだというのに⋮⋮なぜこんなことに⋮⋮⋮。
くそっ⁉
?
い。
されて中尉にも昇格したが、そんなくだらないものなんてどうでもい
せた。市民救出に貢献した俺に大統領からメダルオブオナーを授与
エミリアを失った俺は彼女の遺体を本土に帰還させ、葬儀を終わら
桐花大綬章を授与したらしい。
二重橋で多数もの国民を救出し、中尉に相当する2等陸尉に昇格して
後で知ったんだが自衛隊に入隊していた知り合いの伊丹 耀司が
制圧された。
戦闘は暫くしてから終結し、武装勢力は自衛隊の活躍により完全に
?
﹁くそっ⁉
?
俺の叫び声は虚しく空に響き渡った。
﹂
認めたくはない⋮⋮⋮認められる訳がない⋮⋮⋮俺たちはただ観
目を閉じたままピクリとも動かない。
彼女の上半身を抱え、耳元で彼女の名前を呼び続ける。だが彼女は
?
?
頼むから目を開けてくれエミリア⁉
頼むから⁉
?
?
7
?
?
?
後に銀座事件と呼ばれる事件で俺が最も愛した女性の命を失い、無
関係な人達を虐殺した奴等を絶対に許さない。指導した奴等を絶対
に見つけ出して生きたまま灰にして豚のえさにでもしてやる。
絶対にな⋮⋮⋮⋮⋮。
8
少康部隊
Mission02:親友
・第564装甲旅団
高雄阿蓮駐屯基地
ニュースでとんでもない事件を見た。俺の第2の故郷である日本
の首都の銀座にて謎の武装勢力が全く正体不明な石造りの門と共に
出現し、多数の人達が犠牲になったのだ。
最初は中国のくそったれ共がテロ攻撃を仕掛けたのかと思ったが、
TVに映ったゴブリンやオーク、ドラゴンナイトなんかというファン
タジック小説に出てくる軍勢だったから俺を含めて第5中隊第33
戦車小隊の営舎にいる部下共も唖然にとられていた。
それに加えて、次のニュースで現台湾大統領はこの事件に対し、次
昨日、我々の大恩ある親友である日本の首都にて凄惨な大量虐殺
の声明を公表した。
が行われた。いまこそ我々は祖国独立時の日本の義心に報いなけれ
ばならない。
我が台湾政府は医療、資金、資材の復興支援に全力を注ぎ、大きな
傷を負った友を救うことをここに宣言します
政府は日本に対して限りない支援を公表し、それを聞いた一般人か
らも様々な援助物資が提供され、更には企業からも多額の寄付金が寄
せられ、励ましの手紙もすごい数が送られるらしい。
俺も貯めた貯金5390,000台湾ドルを政府が設置した寄付金
口座に振り込むため街へと出掛けていた。
﹁凄い人だかりですね中尉﹂
﹁そりゃな。それほど民間人が日本に恩を感じているっていうことだ
な﹂
9
隣で俺の愛車であるM60A3ATTSの砲手を担当している林
國華軍曹も私服で俺、谷 劉郭中尉と一緒に銀行に来ていた。
そこに居たのは政府の発表を観て、日本に寄付する為に銀行に駆け
付けた大量の市民だ。中には札束で窓口から寄付金を送ろうとする
時間をあけてから
老人や、手にある小遣いを寄付しようとする子供など様々な人達がい
た。
﹂
﹁こりゃあ時間が掛かりそうですが、どうします
にしますか
?
な﹂
それに明後日からヤキマ演習場での台米合同演習の準備が始
﹁鈴姉さんの和食バイキングですよね
と食べられませんからね﹂
た。
人気店ですから時間がずれる
と日本への恩返しをしたいが、そんな機会がすぐに訪れることになっ
そんな日本とアメリカに感謝してもしきれない。出来るならもっ
とはいえ、イージス艦や強襲揚陸艦を無償で提供してくれた。
警戒も請け負ってくれた、アメリカ軍も軍備再編成で旧式化したもの
してくれて、更に戦後の海軍再編成完了まで海上自衛隊が周辺海域の
は祖国独立にもっとも力を貸してくれた上に独立後も様々な援助を
そう口にしながら動き出した列を進む。俺にとって日本という国
﹁中尉らしい発想ですね﹂
てやるとしよう﹂
﹁売上金の一部を寄付にまわすらしいから、食べて日本に元気を与え
?
まるんだ。今日中にしておかなかったら明日は楽しめなくなるから
﹁だろ
﹁確かにこれは⋮⋮⋮下手したら本当に明日になりかねないですね﹂
う可能性があるぞ﹂
金を送りたいし、なによりも並んでなかったら営業時間が終わっちま
﹁いや、このまま列に並んで待つとしよう。少しでも早く日本に寄付
?
アメリカから要請があったからだ。
10
?
自衛隊支援の為、戦車部隊を派遣して欲しい
と⋮⋮⋮⋮⋮。
11
Mission03:二重橋の英雄
本当に面倒臭いことになったよ⋮⋮。
銀座での事件が落ち着きを取り戻して1ヶ月、習志野駐屯地第1普
通科大隊所属している俺は需品科に呼ばれ、部下である栗林と富田の
2名を引き連れて需品科保管倉庫にいた。
﹁へぇ⋮⋮これが戦闘服5型か⋮⋮﹂
﹁陸自で初となるデジタルパターンにコンバットユニフォームスタイ
ルのデザイン。動き易さと通気性に概念を置かれているようです﹂
﹁私は4型より5型の方が動き易いと思いますよ﹂
俺は需品科長から手渡された最新型の迷彩服である戦闘服5型を
試着していた。
12
海自や空自では既に独特のデジタル迷彩を採用されているが、今ま
で陸自は予算の都合上からデジタル迷彩服は採用されてなかった。
けど開発自体は進められてたみたいだし、富田は同時期に完成した
戦闘服4型を試着している。それが何故か習志野に送られたみたい
で、手にある書類では既に生産ラインに乗っかっちゃったみたいだ。
長机の上には5型と4型に加えて防弾チョッキ2型の後継である
防弾チョッキ3型に88式鉄帽の後継であるMICH2000って
いうアメリカ製ヘルメットをモデルにした16式鉄帽。
武器科からも89式小銃2型に9mm拳銃2型などっていう自衛
隊では最新式に入る小銃や拳銃が鎖付きで展示されていて、それらを
手にして見ている。
﹁だけど面倒なことになったよな⋮⋮⋮俺たちまで特地に派遣される
から支給して欲しい装備を決めにいけって⋮⋮﹂
⋮⋮⋮あの時ゆりかもめに乗り
﹁まぁそう言わず⋮⋮⋮それ程まで隊長に期待が寄せられているとい
うことになります﹂
﹁あの二重橋の英雄っていう異名か
?
﹂
遅れたばっかりに気が付けば2尉に昇進して隊長だなんてな⋮⋮出
来るなら変わって欲しいよ﹂
﹁ま∼だそんなこと言ってるんですか
﹁だって銀座の時には即売会が中止になっちゃうし、マスコミからも
取材要請が来るし、敵と戦った体験談を聞かせてくれっていう人達に
囲まれそうになるし、おかげでアキバに同人誌買いに行けないんだ
よ﹂
﹁うわっ⋮⋮キモっ﹂
﹁まぁまぁ⋮⋮⋮貯金が出来るからいいじゃないですか﹂
﹁うるせぇ﹂
そんな話をしながら作業服3型に着替え直し、89式小銃2型を手
にする。アメリカのM4A1とある程度の互換性を持たせてあるっ
てらしく、銃底がスライド式のものになってて、握把もM4A1と同
﹂
じものになってる。操作性や取り回しも悪くないっていうのが印象
だな。
﹁しかし隊長。どれを申請しますか
めて、小銃は89式小銃2型と1型を3丁ずつ。2丁を64式にして
2丁は軽機﹂
﹁それがいいですね。全体的にバランスが取れていると思います﹂
﹁じゃあ近いうちに訓練期間を設けて小銃の分解結合、5型が届いた
ら今もってる作業服はすぐ返納出来るならように階級章と名札は早
い内に外しておくように﹂
﹁﹁了解﹂﹂
それだけ指示すると書類に申請する項目を記入し、提出すると俺た
ちは需品科保管倉庫を後にした。
それから2週間後に申請された内容のものが届き、特地派遣に備え
て準備を進めていった⋮⋮⋮⋮⋮。
13
?
﹁取り敢えず戦闘服5型は決まりだな。それと防弾チョッキ3型に決
?
⋮⋮⋮⋮⋮面倒なことにならなきゃいいがな⋮⋮⋮⋮⋮。
14
Mission04:復讐の鬼
あの忌々しい銀座事件⋮⋮エミリアが殺されて2ヶ月が経過した。
銀座から日本を侵略しようとした武装勢力が異世界の帝国軍という
テロリスト共であるということが分かり、そいつらの目的は新たな領
土獲得と日本を植民地化することだったことが日本政府により公表
された。
そんなくだらない理由で妻と無関係な人達は殺害されたのか⋮⋮。
目の前に奴らがいたら問答無用で皆殺しにしてやりたい気分だが
俺は誇りある海兵隊員だ。だから私情を持ち込んだ殺害なんて御法
度である。
だが逆にいえば俺の身体の中で怒りと憎悪が心体を循環しており、
そのはけ口がないから溜まる一方だ。
事件後にアメリカに帰国した俺は心理カウンセラーによるカウン
セリングを受け、PTSDと診断され入院の必要ありとされたが結局
入院はしなかった。
日本政府がゲートの向こう側に広がる異世界に自衛隊を派遣し、ア
メリカ政府も自衛隊の支援で第31海兵遠征隊と台湾陸軍戦車小隊
が派遣されるっていうことを聞いたからだ。
必死に説得
して許可書を受領。す
俺はすぐに上官と医師に転属する旨を伝えたが急すぎるというこ
とで最初は断られたが、何とか
ぐに横須賀に到着して第31海兵遠征隊に配属となった。
ダラス国際空港から羽田空港に飛び、鉄道を使って横須賀に到着し
リーパー
だ﹂
の隊長に着任し、今は室内射撃場で射撃
た俺は異世界にて独立して動くことが出来る第3偵察大隊B中隊独
立偵察チーム
演習をしていた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
復讐の鬼
﹁おい⋮⋮あの中尉が⋮⋮﹂
﹁あぁ、いま噂の
﹁なんでも奥さんを殺されて、異世界の帝国を凄まじく憎んでるって
15
話しだ﹂
﹁近付くだけで殺気が伝わってくるぜ⋮⋮﹂
後ろから同じ演習に参加してきた下士官達の話に耳を傾けつつも
新たに正式採用されたM417A2で300m離れた場所に7.6
2mm弾を撃ち込んでいった。
アメリカ軍では長い間課題となっていたM4・M16シリーズの後
継を様々な解釈を交えて、2年前の2016年に遂にHK416A5
とHK417A2がそれぞれM4A1とM16シリーズの後継ライ
フルとして採用された。
20発入りマガジンをマグチェンジして新しく弾薬を装填すると
セーフティを掛けてM417A2を机に置いた。
﹂
﹁失礼します。リーパー隊隊長のエース・クレイグ中尉でありますか
か
﹂
﹁頼む。だがなぜショットガンを
﹂
﹂
の部隊の副官を命じられるとは⋮⋮﹂
⋮⋮⋮なんだそれは
?
ト サムライ
﹁ラスト サムライ
?
ラス
16
﹂
﹁そうだが⋮⋮お前は
が混じった男だ。
俺も敬礼で返すとビリーの持つライフルに目をやった。
?
﹁選抜射撃評議会で首位を頂きました。なんでしたら撃ってみせます
﹁M416A5+M26 MASSか⋮⋮⋮曹長。射撃の実力は
﹂
らかに俺よりかは年上であり、叩き上げの軍人という印象が強い白髪
敬礼しながらそういう男は自分をビリー・コーエンスと名乗る。明
よりリーパー隊の副官に任命されました﹂
﹁自分はビリー・コーエンス最上級曹長であります。シュガーズ大佐
?
?
﹁自分は元々はポイントマンだったからです。しかしいま噂の
?
?
﹁巷に広がっている市民達から広がった中尉の異名です。銀座事件に
て敵兵6名を瞬く間に制圧した姿が監視カメラに記録されていまし
て、それがテレビ公開されて本国では人気を博しています﹂
﹁⋮⋮なんてくだらない﹂
﹂
﹁そう仰らず⋮⋮⋮いつの時代でもヒーローという存在は必要なので
すから⋮⋮﹂
﹁曹長⋮⋮俺が周りからなんて言われているか知ってるか
﹁話だけでしたら⋮⋮⋮﹂
曹長に俺がなんて言われているか問うと、俺は再び手にしたM41
7A2のマガジンを抜き取り、チャージングハンドルを引いて装填さ
れていた弾薬を取り出すと出口に歩き出した。
﹁曹長⋮⋮俺は鬼だ。ヒーローなんかじゃない。それだけは覚えてお
け﹂
振り返らず言い放つと俺は射撃場を後にした。
特 地 派 遣 ま で 1 ヶ 月、奴 等 に 復 讐 す る 日 は 近 付 い て い た
⋮⋮⋮⋮⋮。
17
?
Mission05:異世界へ
2018年10月22日、あの事件から3ヶ月が経過した。俺たち
自衛隊はかねてより準備していた異世界派遣を開始させる準備が整
い、晴れ渡る雲ひとつ無い晴天の下、シェルターで厳重に封鎖されて
いる門の前にいた。
﹁自衛隊の皆さん。そしてアメリカ海兵隊、台湾陸軍の皆様。遂にこ
の時がやって来ました﹂
演説台では今の首相をしている本居首相が演説をしていた。その
左右にはアメリカのディレイ大統領と台湾の周大統領の姿もあった。
俺は89式小銃2型を立て筒にしながら直立不動で耳にしている。
﹁これから皆様が向かわれるのは、我々の世界の人間が一度も踏み込
んだことのない異世界の地。そこに待ち構える存在がどういうもの
か、どういう危険があるのか分かっていません。
恐らくは様々な危険が皆様を襲うでしょう。しかし私は日本国首
相として、また1人の日本国民として強く確信しております。
皆様が与えられた責務を全うし、必ずこの世界に帰ってくることを
⋮⋮⋮私は強く確信しております。そしてそれは私の隣におられる
ディレル大統領閣下と周大統領閣下も同じであります﹂
そういうと今度は左右のお二方が演説を始める。
﹁私はアメリカ大統領ディレルであります。勇敢な日本国自衛隊の皆
様、盟友の窮地に駆け付けた台湾陸軍の皆様、そして我が誇りの海兵
隊諸君。
この晴れ渡った日に諸君等は異世界へと出陣することになります。
本居総理閣下のお言葉通り、貴方方が向かう異世界で何が起きるか分
かりません。恐らくは辛い困難な試練が貴方方を待ち構えているや
18
も知れません。しかし本居総理閣下と同様に、私も貴方方がどのよう
な困難をも乗り越え、自らの使命を完遂させ、この日本国という国の
大地を再び踏むことを確信しています。
ですのでどうか、私に帰還なされた皆様の元気な素顔をお見せ下さ
い。それはこちらにおられる周閣下も同じです﹂
﹁私は中華民国大統領にして政府首相周です。ここに集められた日本
国自衛隊、アメリカ海兵隊、台湾陸軍兵士の皆様。私と本居総理、ディ
レル大統領が肩を並べ、手を重ね合う姿をご覧いただきたい﹂
周大統領がそういうと本居総理とディレル大統領が互いに歩み寄
り、肩を並べて手を重ね合う。
﹁私から皆様に伝えたい言葉はただ一つ。どうか無理をなさらず、隣
にいる戦友を支え合って頂きたい。
確かに私達は国や人種が違い、血は繋がっておりません。しかし私
達は互いを助け合い、信じ、語り合える家族です。この絆は誰にも断
つことは叶わず、崩すことはない強硬な強い絆という鎖です。
だからどうか、隣にいる家族と語り合い、信じ、支え合って、無事
に私達が待つ家に帰って来て下さい﹂
周大統領がそういうと周囲にいる世界各国の取材班からのフラッ
シュが閃く。多分明日の朝刊に第1面で乗るだろうな⋮⋮⋮。
3人の演説が終わり、全員が敬礼で見送る。そして今度は88式鉄
帽を被り、防弾チョッキ2型で固めた陸将が演説台に堂々と姿を現し
た。
﹁私が連合派遣団最高司令を務める狭間 浩一郎陸将である。1ヶ月
前より何度も斥候部隊を門の向う側に派遣してはいるが、未だに実態
は不明のままだ。即ち、門の向う側に着いた瞬間に戦闘となるという
心構えだけはしてほしい﹂
19
第1空挺団団長の狭間陸将の演説を聞きつつ、俺は門の側に設けら
れた献花台に視線を移した。そこには親族を亡くした母親に俺が銀
座事件で救った女の子がいた。
﹂
あの事件で何人もの人の人生が狂い、連合派遣団に参加することに
各員は速やかに搭乗し、配置につけ‼
なった知り合いのエースもすっかり変わっちまった。
﹁間も無く突入だ‼
だ。
︿運転開始‼
﹀
︿サクラ指揮車より各車。状況送れ﹀
︿サクラ01及び02。準備良し﹀
︿サクラ03及び04。準備良し﹀
︿ミスフィット︵アメリカ海兵隊指揮車︶だ。準備はいいか
︿リーパー隊指揮官。準備良し﹀
︿デスサイズ隊指揮官。準備良し﹀
︿高雄01から全車。状況を報告せよ﹀
︿高雄02、準備良し﹀
︿高雄03、準備良し﹀
陸将の声が響いた。
を封鎖していたシェルターが重い金属音と共に姿を現し、再び無線で
2を使用する部隊と台湾戦車部隊の無線が聞こえてくる。そして門
車内の無線機でうちの74式戦車部隊にエースのLAV│25A
﹀
一斉にそれぞれの車両に乗り込み、俺も部隊の高機動車に乗り込ん
を抜き取り、それを差し込んで薬室に弾を装填させた。そして全員が
狭間陸将に敬礼し、陸将も答礼すると俺たちは一斉に弾嚢から弾倉
?
﹀
20
?
?
?
突入‼
?
︿全隊‼
?
それを合図に74式を先頭にパットン、LAV│25の順で門の中
へ突入が開始され、俺たちが乗る高機動車も運転手がアクセルを踏
み、前進していった。
﹂
﹁ね⋮⋮ねぇ伊丹2尉﹂
﹁ん
﹂
目の前に座ってる部下でもありオタク仲間の倉田3曹が話しかけ
て来た。
GATEと⋮⋮⋮⋮⋮
?
﹁向う側の世界に⋮⋮⋮猫耳娘っていますかね
﹂
?
2つの世界を繋いだ門を人はこう呼んだ
﹁いないわけないだろ
21
?
主人公紹介:エース・クレイグ
エース・クレイグ
1985年5月27日生まれ
出身:アメリカ合衆国ワシントンD.C出身
年齢:33歳
身長:178cm
体重:71kg
髪:赤髪
瞳:オッドアイ︵R:灰色/L:赤色︶
所属:アメリカ海兵隊
階級:少尉↓中尉
コードネーム:リーパー01
Hildolfr
、ククリナイフ、OKC│3S
武器:HK417A2、M45A1 CQBP、M1070 CQ
BP
本作の主人公の1人で階級は当初少尉だったが銀座事件後に中尉
に昇進。
休暇を利用した妻のエミリア・クレイグとの旅行で日本に来ていた
が、銀座事件で帝国による異世界侵略に巻き込まれてエミリアを失
う。
アメリカに帰国後は1ヶ月ほど精神科医によるカウンセリングを
受けていたが、第3海兵隊遠征軍隷下第31海兵遠征隊が異世界に向
かう陸上自衛隊のサポートの為に同行すると聞き付けて転属願いを
半ば強制で提出して転属。
異世界到着後はリーパー隊の指揮官として親友の伊丹二等陸尉が
指揮する第3偵察隊と作戦を共にする。
伊丹とは中学時代に日本に留学した先で知り合って、ジャンルは違
と云われていることに対して襲いかかっ
うもオートマチックハンドガンの二丁撃ちを得意とする武器マニア
二重橋の英雄
として国を超えた親友。
伊丹が
22
と称ばれるようになる。
や帝国に深い憎しみを抱く姿から
て来た帝国兵6名をCQCで無力化した彼は自国から
Samurai
of revenge
Last Demon 性格は冷静沈着で状況分析力が非常に高く、豊富な戦闘経験で能力
は全体的に高い。
しかし妻を帝国に殺されたこともあり、帝国を恨む感情は連合の中
でも随一とされているが、軍人としての誇りもあるので酷い葛藤に悩
まされている。
手先が器用で、軍から支給されている装備品に加えて自身が手掛け
とグルカナイフを基本装備に加えている。
た カ ス タ ム ガ バ メ ン ト の M 1 0 7 0 C Q B P C o s t u m e
Hildolfr
他にも海兵隊においてCQCの教官を任されている程の格闘技の
エキスパートで、銀座事件において6人の帝国兵を瞬く間に制圧した
り、特にククリナイフを用いたナイフファイティングに関しては連合
Hildolfr
内において栗林2曹を凌駕するとされている。
M1070 CQBP
Dealer in の資格を持つエースが自ら手掛けたカスタムガ
Gunsmith Class III
firearms
バメント。
M45A1 CQBPの民間モデルであるM1070 CQBP
をベースとしており、システムそのものを軍基準にして公私共に使用
できるように設計されている。
ほぼ全てのパーツが入念に吟味されてカスタマイズされており、そ
や
スペシャリスト
と
の軍用モデルを簡単に凌駕。命中精度と集弾性もレストマシーンで
最高質のガバメント
の射撃なら25ヤード1ホールも狙える位に高い。
基準としては
いうコンセプトとして改良され、シューティングマッチ用アウターバ
レルに換装してあったり、実際の操作に煩わしいグリップセーフティ
の機能をキャンセルしてあったりとベースとなったM1070の連
23
射性の低さを高めている。
だが末端価格が通常にM1911A1が900$︵日本円換算約1
00,000円︶に対してこちらは販売を全く度外視しているので価
格が約4,000$︵日本円換算約500,000円︶と実に5倍の
価格となっている。
提携しているガンショップにてみせてみたら同じものを製品化し
て欲しいと依頼されたことがあったが手間とコストのバランスが余
りにも悪過ぎるので完全ワンオフ仕様となっている。
24
主人公紹介:伊丹 耀司
伊丹 耀司
1985年生まれ︵詳細不明︶
出身:日本国東京都出身︵詳細不明︶
年齢:33歳
身長:175cm
体重:63kg
髪:黒髪
瞳:ブラウン
所属:日本国陸上自衛隊
階級:3等陸尉↓2等陸尉
コードネーム:詳細不明
武器:89式小銃2型、9mm拳銃2型、89式銃剣2型
本作の主人公の1人で階級は3等陸尉だったが銀座事件後に2等
陸尉となる。
夏の同人誌即売会に向かう途中で帝国による異世界侵略に遭遇し、
一般市民を皇居に誘導して立てこもり、半蔵門から避難させるという
作戦をとっさに立案。
、一部の国からは
東洋の男
と呼ばれ、2等陸尉から昇進した。
二重橋の英雄
指揮系統を失った警察官に協力を仰いで作戦を指揮し、数千人の命
を救っている。
その際の功績から
性版ジャンヌ・ダルク
喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっと
が表すように怠け癖があり、嫌なことは危険なことには首を
性格自体はモットーの
人生
突っ込まない。
同期からは無能な月給泥棒などと言われているが寧ろ有能な怠け
者であり、とっさの判断や機転が利いたり、仲間の為ならルールを破
れる型破りな有能ぶりを発揮させられる。
海兵隊のエースとは中学時代に彼が留学していた頃のクラスメイ
25
トで、今でも連絡を取り合っていた親友同士だが、妻を殺されて復讐
の鬼と呼ばれるようになった彼に戸惑いを少し見せている。
オタク道を何よりも大切にしているだけあって、即売会開催日が近
づくと溜まっていた休暇を一斉に消費したり、重要視が高い訓練など
があったとしても開催日が近かったら趣味を優先させて断ったり、オ
タク道を無意識に相手に植え付けて仲間を増やしていったりと、尋常
じゃない位の愛着をオタク道に注いでいる。
だが普段の自分の性格を理解した上で怠け者を演じる精神力の太
さから自殺防止という名目で転属されないでおり、人生経験も豊富な
ので部下の悩み事や相談に対しては冗談が少し入りながらも的確な
アドバイスも出来るので新人の相談役を任されることもある。
彼を知らない自衛官からの評判は悪いが、彼の人柄を知っている隊
絶対に
と公言しているので、彼の役回りはかなり
員や友人からの評判は良好であり、狭間陸将も伊丹のことを
死なせてはならない馬鹿
重要視されていることで一部のエリート出身者からは嫉妬の対象と
もされることがある。
しかし同時に自衛官内部において不明箇所が存在しており、自衛官
内部にて使われる伊丹の情報が一部閲覧不可ともなっている。
26
﹀
Mission06:初の遭遇戦
︿敵影発見‼
ゲートを抜けた第1声がそれだ。俺はM60A3TTSに搭載さ
れているAN/VSG│2熱線映像装置越しにゲートを抜けた先を
伺う。
抜けた先はどうやら丘みたいになっているようであり、比較的穏や
かな傾斜に木々などは見当たらない。だが熱線映像装置て映し出さ
﹂
れた映像は丘を下った先に篝火と共に複数の密集した熱源が映し出
されていた。
﹁熱源の総数測定不能。相当数の敵部隊を確認﹂
﹁確か敵の装備や編成は中世ヨーロッパ程度だったよな
的有利ってやつですかね
﹂
﹁そうですね。火力、機動力、防御力、戦術。全部の面で俺たちの圧倒
にしては数がエゲツないが、こっちが負けてるのは数だけだ﹂
﹁てことは熱源の規模と数を考えて実に数十万ってとこか⋮⋮序盤戦
成に加えているようです﹂
﹁そうです中尉。それに加えてゴブリンやオーク、豚のバケモンも編
?
﹁孫、目の前にある窪みに車体を隠せ﹂
︿04及び05了解﹀
︿高雄02及び03了解﹀
0時方向にある窪みに布陣して横隊だ。高雄隊全車了解か
﹂
﹁よし。俺たちは自衛隊の74式戦車に合わせて右翼に展開する。1
﹁中尉。海兵隊と自衛隊が前に出ます﹂
﹁﹁了解﹂﹂
を向けておけ﹂
﹁袁。初弾はHEAT│MPを装填。林はいつでも撃てるように砲身
﹁了解﹂
を砲撃していくぞ﹂
﹁敵にドラゴンの姿は見当たらないな⋮⋮対空警戒を厳にしつつ、敵
?
?
27
?
﹁了解﹂
孫に指示するとM60は指定された窪みに向かい、砲塔のみを出し
ながら車体は完全に隠れた。他の車両も同じように窪みに移動して
ダックインで敵を攻撃する準備をする。
︿サクラ00より全部隊に通達。照明弾撃ち上げ後に攻撃を開始。敵
を近付かせず遠距離から脅威を排除せよ﹀
﹁こ ち ら 高 雄 隊 指 揮 官 了 解。当 部 隊 は 貴 官 等 の 戦 車 隊 の 反 対 側 に 布
陣。そちらの合図でいつでも砲撃可能﹂
︿サクラ00了解。貴官の武功に期待する﹀
指揮官からの無線に応答すると引き続きサーマルを覗き込む。敵
に動きは見られない。
りのない夜空に眩い光が広がって周辺を照らした。M301A3照
明弾がパラシュートに揺らされながら辺りを照らしているのだ。
いきなり辺りが明るくなったことで敵は混乱しているようだが間
髪入れずに次の指令が入ってきた。
﹂
︿攻撃目標、敵武装組織。戦車榴弾。班集中⋮⋮⋮射て﹀
﹁撃て‼
ように敵に飛来していき、爆発音が鳴り響く。
斉にHEAT│MPを発射させた。発射させた砲弾は吸い込まれる
サクラ00の合図で74式戦車が一斉に砲撃を開始し、俺たちも一
?
28
合図で敵に榴弾を叩き込んでやれ
︿81mm迫撃砲。照明弾発射⋮⋮⋮⋮⋮弾着⋮⋮5秒前⋮⋮⋮弾着
⋮今﹀
﹂
﹁始まるな⋮⋮⋮各車砲撃用意‼
‼
?
暫くしてから自衛隊の迫撃砲部隊により照明弾が上げられ、月明か
?
それを合図にしたかのように前方に展開している自衛隊とアメリ
カ海兵隊もそれぞれの銃火器で攻撃を開始し、更に敵へ打撃を与えて
いく。
5.56mm弾に7.62mm弾、12.7mm弾、更にはLAV
﹂
判断は任
あわせてモンスター共も突撃
からの25mm砲弾による嵐だ。敵にとっては豪雨となるだろうな。
次弾装填‼
﹂
林は引き続き砲撃を実施‼
敵騎兵部隊が突撃を開始‼
﹁命中確認‼
﹁中尉‼
してきます‼
﹂
﹁そいつらは俺が対応する‼
せるぞ‼
99
×
近﹀
﹁中尉、ワイバーンって何ですか
﹂
﹂
﹁日本に現れたドラゴンのことだ‼
ドラゴン撃墜に専念しろ‼
各車対空戦闘用意‼
戦車長は
?
?
だ。
つまり5.56mm弾や7.62mm弾では苦戦は免れないよう
通したらしい。
ば機動力はそれほど高くは無いが12.7mm徹甲弾でようやく貫
信通り複数のワイバーンがこちらに接近していた。事前情報によれ
俺はハッチを開けて見通しを良くする。するとサクラ指揮官の通
?
︿サ ク ラ 0 0 よ り 全 隊 に 警 告。上 空 に 敵 増 援 を 確 認。ワ イ バ ー ン 接
を絶やさないようにして味方部隊を支援していく。
暫くしてから自衛隊迫撃砲部隊も新たに照明弾を撃ち上げ、明かり
やモンスターは身体を木っ端微塵にして息絶えていった。
mm NATO弾は見えた敵兵を次々と薙ぎ払い、直撃を受けた敵兵
接近を開始した敵部隊に銃撃を開始。撃ち出された12.7
そういいながら俺は備え付けられているM2重機関銃を操作して
?
?
?
29
?
?
?
?
?
?
照準をワイバーンにあわせてトリガーを弾くと数発外した後にワ
イバーンの翼の付け根辺りに命中し、そのまま地上に落下していっ
た。
137mm徹甲弾
前方に展開しているLAV│25A2も対空戦闘を開始したよう
であり、12.7mmより強力なM791 25
わり﹀
﹂﹂﹂
﹁五 月 蝿 い 爬 虫 類 は 叩 き 落 と し た ‼
﹂
﹁﹁﹁了解‼
そのまま決着を付けてやれ‼
︿全ワイバーンの撃墜を確認。引き続き地上部隊殲滅を実施せよ。終
たいだ。
そして程なくして飛来してきたワイバーン全てを叩き落としたみ
れて次々と撃墜されていく。
を撃ち出しているので直撃を受けたワイバーンは身体を引き千切ら
×
なり、朝になってから陣地構成を開始する。
序盤戦における遭遇戦は死傷者が全くいない俺たちの完全試合と
敵が撤退していった後には実に6万もの死体が確認された。
全く接近することが出来なかった敵集団は我先にと逃走を開始し、
再開させて決着は暫くしてからついた。
無線が聞こえたのか、高雄隊が一斉に敵集団に対して猛烈な砲撃を
?
異世界における戦いは始まったばかりである⋮⋮⋮⋮⋮。
30
?
?
Mission07:皇帝の策略
ウ ラ・ビ ア ン
。強大な国家である帝国の首都であり、眩い建物に帝都を見回る
ア ル ヌ ス の 丘 よ り 東 に 約 6 0 0 k m 離 れ た 帝 都
カ
ワイバーン部隊、街の至る所に靡く帝国の国旗。
その中央に位置する白く輝く立派な建造物。その中では多数の人
が何やら話し合っていた。
皇帝陛下はこの国をどう
﹁大失態でしたな皇帝陛下。帝国の保有する総戦力のなんと6割が喪
﹂
失。如何なる対策をご講じられますかな
お導きになられるか
侵略国家
を作り上げた英傑。
﹁カーゼル公爵。卿の心中は察するものである。此度の損失によって
皇帝は頭を少しだけ抱えながらカーゼル公に返答を始めた。
せすぎる傾向がある。
り、侵略した地方の圧政に目を向けたりしないという、国益を優先さ
しかも人種史上主義を掲げ、亜人などを迫害する政策を容認した
性が強い野心家だ。
諾させ、最終的には自国に完全に取り入れるという遣り口をする独裁
同盟を締結させた後に向こう側に不手際を強いて要求を無理やり承
助命して仲間に引き入れるという気概も持っているが、同時に敢えて
自身の考えに共感する者にはたとえ敵対していた直後であっても
高めていき、現在の
敵を退け、時には知略と武芸を駆使して敵国の王を討ち取って名声を
若かりし頃は王族の一員であったが自ら騎士団を率いて幾多もの
現皇帝の地位に居座るモルト・ソル・アウグスタス。
に立派な服を身に纏い、頭には王の証である王冠が被さっている。
爵。その彼の眼の前にいる金髪で他の元老議員や将軍達とは明らか
円形状となっている玉座の間で中央に立つ元老議員のカーゼル侯
?
帝国の軍事的優位が薄れたというのは確かだ。外国や諸侯達が一斉
31
?
﹂
に反旗を翻し、一斉に帝都に攻め込んでくるのではないかと不安なの
であろう
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁痛ましいことである﹂
抱えていた手を離した皇帝はカーゼル公爵を見るが、それは決して
悲痛な顔つきではなく、どちらかといえはからかっているかのような
表情をしている。
﹁我が帝国は今回のような未曾有の危機に直面する度に皇帝、元老院、
そして国民が一致団結して更なる発展をしてきた。
如何なる精強な軍勢であろうと百戦百勝は存在せず、必ずや敗北を
裁判ごっこ
に明け暮れようとす
経験せざるを得ん。故に此度の敗北の責任を追求はせぬ。まさか他
﹂
国の軍勢が帝都を包囲するまで
る者はおらぬな
﹁しかし如何なされるか
﹂
︵自分の責任を不問に⋮⋮⋮︶
だがカーゼル公爵だけは不満な顔をしていた。
皇帝が言い放つと周りの議員から少しばかりの笑い声が聞こえる。
?
パパンという音と共に我が軍を蹴散らしたのです﹂
無論我等も丘を奪還せんと迫りました。だが遠くにいる敵がパパ
敵はこちら側に陣を築こうとしているのですぞ。
﹁送り込まれた私の軍は僅か2日で壊滅してしまい、更に門は奪われ
で軍を率いたが僅か2日で潰走し、命からがら帝都に帰還したのだ。
ゴダセン議員が発言を開始する。彼は1週間前に行われた門奪還戦
カーゼル公爵の隣につく杖をついて頭に包帯を巻いた老人⋮⋮⋮
?
32
?
ゴダセン議員は自身が見た光景を思い出す。夜だというのに敵は
こちら側の兵を次々と正確に薙ぎ払い、爆発させて吹き飛ばす。それ
によってこちら側は全く丘に近付くことすら敵わず、遂には敗走して
しまったのだ。
﹂
戦って奴等を殺せばよいのだ‼
﹁儂も長年魔導師をしておりますが、あんな魔術儂は見たこともござ
いません‼
﹁何 を 弱 気 な こ と を 言 っ て お る ‼
﹂
いポタワン議員が声を上げながら発言する。
?
び門の向こう側に攻め込むのだ‼
﹂
﹂
力押しでやってどうなる⁉
分かって言ってるのか⁉
﹁それが出来ればとっくにやってるぞ‼
﹂
﹁各地の治安が悪くなるんだぞ‼
皆殺しにして女
?
﹂
そうすれば我等に歯向かう者は出ぬ‼
か‼
?
﹂
﹁そんなことをしたら敗戦に続く敗戦だぞ‼
兵が足りないぞ‼
だいいち掻き集めても
素晴らしい考えではない
子供は奴隷にし、街を廃墟にして誰もおらぬ荒野にしてやればよい‼
﹁そんな逆賊共と愚民なんぞ皆殺しにすればよい‼
?
?
?
?
ばる軍を結集させてアルヌスにいる蛮族共を討ち滅ぼし、然る後に再
﹁窮地だからこそ攻めるということが唯一の打開策だ‼
全土に散ら
ゴダセン議員の発言を遮るように今度はスキンヘッドで体格がい
?
?
﹁事態を悪化させることを余は望まん。だが民を護ることもまた然り
した。
そんな野次の飛びあいが玉座に響き渡るが、皇帝が片手を上げて制
?
?
?
33
?
?
?
⋮⋮⋮﹂
﹁ならば⁉
﹂
﹁属国や周辺諸国に使節を派遣せよ‼
する為に援軍を求めるのだ‼
﹂
大陸侵略を目論む賊徒を撃退
我等連合諸王国軍を糾合し、アルヌスの丘へと攻め入る‼
﹁皇帝陛下に忠誠を‼
﹂
﹁偉大なる帝国に栄光あれ‼
﹁皇帝陛下﹂
﹂
?
?
で答える。だがこの皇帝の策略は別の目的があったことを誰も知る
カーゼル公爵がそういうと皇帝は不敵な笑みを浮かべながら無言
﹁アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ﹂
﹁なんだ
﹂
元老議員達が拍手しながら一斉に立ち上がった。
皇帝が立ち上がり、連合諸王国軍という軍勢の助力を可決させると
?
?
?
?
由が無かった⋮⋮⋮⋮⋮。
34
?
Mission08:エルベ藩王国の獅子
帝国の皇帝から使節がやって来て、連合諸王国軍招集、アルヌスの
丘に屯する異世界の賊徒を殲滅する為に援軍を要請してきた。
我等エルベ藩王国軍も援軍要請に呼応する形でアルヌス近郊に赴
いた。
敵の兵力は1万にも満たず、逆にこちらの兵力は30万足らず。普
通ならば戦の勝敗は火を見るよりも明らかで、30万の兵力に敵が勝
てるはずもない。
アルグナ、モゥドワン、リィグの3個軍団が初日の戦法を務めるこ
とになったが、火山の噴火の如くの爆発によりアルグナ国王、モゥド
ワン国王、リィグゥ公王の3人は行方が知れず、リィグゥ公王の壊さ
れた兜のみが見つかった。お陰で30万を超えた兵力は1週間もし
ない内に半数以上が死亡したか重傷を負って後方に送られた。
35
だが今回の戦に対してエルベ藩王国国王のデュランは初めから違
和感を感じていた。
帝国軍どころか帝国兵が一兵も見当たらないのだ。初日の会合に
来た伝令によればアルヌスにて対峙していると言っていたが全く対
峙などしておらず、逆に誰もいないのだ。
我々は帝国の思惑に薄々と感じてきているがこのまま黙って帰る
訳にはいかないというのも事実である。
昼 間 で 全 く 歯 が 立 た な い と い う の で あ れ ば 月 明 か り の な い 夜 に
我々は残り少ない兵力を導入し、物音を立てずに丘の反対側に向かっ
ていた。
﹂
﹁このまま敵が気付いていなければよいが⋮⋮⋮﹂
﹁デュラン様、如何なされましたか
か実は向こう側も負傷者が多いのか⋮⋮﹂
﹁敵は完全に油断しきっているか⋮⋮はては正面しか警戒していない
⋮⋮﹂
﹁いや⋮⋮今までの熾烈な戦が嘘のような静寂ぶりで逆に不気味でな
?
﹁分 か ら ぬ ⋮⋮ し か し 油 断 は 出 来 ん 敵 で あ る と い う こ と に は 変 わ ら
ん﹂
﹁しかし何としても成功させなければならないということもまた事実
⋮⋮アルグナ王やモゥドワン王やリィグ侯の死を無駄にしない為に
も⋮⋮⋮﹂
﹁そうだな⋮⋮⋮礼をいうぞグラビよ﹂
﹁デュラン様に付き従えて既に10年足らず⋮⋮⋮どこまででも付き
従います﹂
﹁うむ⋮⋮⋮儂はそなたのような従者を持てて幸せであ⋮⋮⋮﹂
デュランが従者であるグラビ・ルナ・ウォースラーに礼を言おうと
した瞬間、デュランを含めた諸王国軍将兵全員が驚愕した。
月 明 か り の な い 新 月 に 広 が る 闇 夜 が い き な り 昼 間 の 如 く 明 る く
なったのだ。デュランが見上げると複数の眩い光を放つ球体がゆっ
合諸王国軍以外には敵しかおらず、彼等があげたものでないというこ
とは敵が上げたものだ。
つまり敵はデュラン達が見えていたということだ。それを察知し
人は走れ‼
﹂
﹂
たデュランは前方に向かって馬を走らせ、グラビもまた同じように馬
を走らせる。
馬は駆けよ‼
死にたくなければ殿下に続け‼
?
﹁全軍突撃‼
﹁敵の攻撃が来るぞ‼
?
?
デュランとグラビが馬を駆けた瞬間、アルヌスがある丘から高速で
?
?
36
くりと地上にゆらゆらと降りてきており、かなり明るいものだと分か
﹂
るが、これがデュラン達にとって危険な事態であるということを直ぐ
ハァ‼
に察知した。
﹁いかん‼
?
デュランは馬を急いで駆けさせる。ここにいるのはデュラン達連
?
﹂
こちらに近付く物体が飛来し、それが地上に落ちると爆発が発生して
将兵が吹き飛んだ。
後に続けぇ‼
?
﹂
走れ走れぇ‼
前に何かが⁉
﹁止まるなぁ‼
﹁殿下‼
?
された。
いまお助けします‼
﹁デュラン様⁉
た。
お怪我は⁉
﹂
?
﹂
兵を率いてすぐに逃げるんだ‼
?
﹁デュラン様‼
﹂
﹁逃げろグラビ‼
﹁陛下⁉
?
﹁ぐ⋮⋮グラビ⋮⋮﹂
グラビを不意に見た。
次々と倒れていく兵士を見ているしか出来ないデュラン。そして
防げるはずが無く、次々と貫通して兵士が倒れていく。
う。大楯隊も銃弾に構えるが防弾能力のない鉄板で作られた盾では
デュランの退却命令のなか、今度は無数の銃弾がデュラン達を襲
﹂
る意識をなんとか戻し、暫くして状況が切迫した状況であると把握し
少しだけ気を失っていたデュランはグラビに抱えながら朦朧とす
乗り越え、デュランを護るように盾を構える。
そう指示があるとグラビを先頭に大楯を手にした兵が有刺鉄線を
?
?
デュラン様をお救いせよ‼
﹁大楯隊前へ‼
?
﹂
で出来た針金⋮⋮⋮有刺鉄線に馬ごと突っ込んでデュランは投げ出
グラビが何かに気付いてデュランを制止するが間に合わず、鉄の茨
?
?
?
?
37
?
?
グラビは地面に倒れていた。長年付き従った従者を呆気なく失っ
て唖然としたデュランは足元に落ちた弓を手にして構えた。
そして弓矢を射掛けるが、悲しく弓矢は敵に届くはずも無く、山を
と⋮⋮⋮。
描 く よ う に 弓 矢 は 地 面 に 落 ち て い っ た。そ し て デ ュ ラ ン は 全 て を
我々は帝国に捨て駒とされたのだ
悟った。
辺 り で 爆 発 が 発 生 す る 中、デ ュ ラ ン も ま た 爆 発 に 巻 き 込 ま れ た
⋮⋮⋮⋮⋮。
﹂
伊丹の近くに倒れていた敵兵の身体が微かに動いたのを確認し、す
38
戦闘が終結して6時間後、夜が明けてから様子を確認しにきた伊丹
と倉田、そして海兵隊のエースはそれぞれ89式小銃2型と64式小
銃、M417A2を構えながら辺りを見渡していた。
辺りにはまだ火薬の臭いが残り、死体に群がるハゲタカが辺り一面
にいた。
﹁敵の死者⋮⋮推定で6万だそうです﹂
﹂
﹁銀座でも6万⋮⋮合わせて12万もの戦死者か⋮⋮﹂
﹁クソッタレテロリストの心配なんかしてるのか伊丹
﹁だって12万だぞエース﹂
﹁中世や古代中国では一回の戦闘で100万が死んだ戦いもあったん
?
だ。奴らが人の命を軽視してんだったら不思議じゃない﹂
﹂
﹁そりゃそうだが⋮⋮⋮ん
﹁どうしたんすか
?
﹁この兵士⋮⋮⋮まだ生きてる﹂
?
ぐに脈を取った。すると敵兵は気を失っているだけのようであり、額
を切っていることを除けば支障はないようだ。
エースはすぐにM417A2を構えて敵兵の頭に照準を合わせて
こいつはテロリストの一員だぞ﹂
トドメを差そうとする。だがすぐに伊丹がハンドガードを押さえて
止めた。
﹁やめとけエース﹂
﹁なんで止める伊丹
﹁生きてるんだったら情報を引き出す必要はがあるんだ。ひとまず本
部に連行していこう﹂
﹁⋮⋮⋮⋮勝手にしろ﹂
エースはゆっくりとM417A2を下ろし、倉田が負傷者を背負い
と3人は本部に戻っていった。
連合諸王国軍の死傷者は10万に達し、敗残兵は退却していった。
第4次アルヌス攻防戦も連合特地派遣団の圧倒的勝利で終わった。
そして物語は更に進んでいくこととなる⋮⋮⋮⋮⋮。
39
?
Mission09:リーパー
敵軍勢を退けて1週間、ゲートから次々と後続部隊が到着して陣地
構 築 に 力 が 入 っ て き た。陣 地 構 築 は 野 戦 教 範 に 基 づ い て 中 世 ヨ ー
ロッパレベルの戦術に対して最も有効なヴォーバン式星型要塞とし
て内部に兵站に必要な様々な設備が用意された。
兵舎に関しては親睦を深める名目で日米台共同ということが可決
し、リーパー隊のメンバーも自衛隊と台湾軍とは仲良くやっている。
一方で2日前に行われた方針会議によれば、人種や産業、宗教や政
治形態の調査が必要であるという結論が成されたようで、今回の調査
では自衛隊との合同となる。
台湾軍は台湾軍で訓練を兼ねた地形調査が行われることとなり、戦
車を使用して実際に担当地域を偵察しながら走らせるらしい。
俺は海兵隊指揮官のシュガート大佐からリーパー隊の出動を命じ
集合しました‼
﹂
﹂
の 面 々 が 集 結 し て い た。第 3 偵 察 隊 の 副 官 で あ る 桑 原 曹 長 に 我 が
リーパー隊副官のコーエンス曹長は共に50歳らしく、性格も似てい
るからすぐ意気投合したようだ。
俺たちリーパー隊は副官のコーエンスを含めて合計14人の隊員
で編成されている。チームリーダー、ガナー、マークスマン、ライフ
ルマンの4人で形成された計2個チームと1個の特技兵チームの合
計3チーム編成となる。
﹁第3偵察隊に上番した⋮伊丹です﹂
﹁リーパー隊指揮官のエース・クレイグ中尉だ﹂
40
られ、伊丹が指揮する第3深部偵察隊と共に集合していた。
﹁第3偵察隊‼
﹁リーパー隊集結完了‼
?
俺と伊丹の前には偵察隊として合同する第3偵察隊とリーパー隊
?
?
伊丹は戸惑いながら名乗り、俺は声を変えずに無表情で返答する。
だが無駄な話なんかは時間の無駄使いでしかなく、名乗ると俺たちは
すぐに車両へと乗り込んだ。
自衛隊は国際任務仕様のジャパニーズハマーこと高機動車、73式
小型トラック、軽装甲機動車を使用しており、俺たちはLAV│25
A2にクーガーHとHEに分かれて乗り込んだ。
全員が乗り込むとジャパニーズハマーを先頭に正面入り口を通過
して陣地の外へと出た。
俺たちリーパー隊の任務は担当地域の偵察であるが、道中にある集
落で伊丹たちとは別行動することになる。到着後は集落で情報を集
めた後に伊丹達は西、俺は北へ向かう。
﹂
車列の一番前を走行するクーガーHの助手席にて地図を見て周囲
を確認していた。
﹁今の位置はここだな
﹁はい。このまま道なりに進めば集落があるとスカウトチームが特定
しています。距離は50kmといった処ですな﹂
﹁そ う な る。一 先 ず 3 r d R e c o n と は そ こ で 別 れ る こ と に な
る。集落の人間が友好的なら全く問題はないが、もしテロリスト共の
仲間だったら遠慮なく潰してやれ﹂
﹁また縁起でもないことを⋮⋮⋮﹂
﹁それがリーパー隊だ。敵がいるなら遠慮なく死を振り撒いてやれ﹂
﹁そうならないことを本当に祈りますよ﹂
俺とコーエンス曹長の間にM416A5+M320A1を手にし
ている茶髪のショートヘアをした活発な印象が強い女性海兵隊員の
シンディ・ゲインフォート伍長が顔を出して話す。
このリーパー隊におけるマスコットを務めるリーパー01のチー
ムリーダーで、子供っぽい外見とは裏腹に実家が代々続く格闘一家
で、こいつも確か柔道黒帯を有している格闘技のプロだ。
格闘技なら俺を上回るが⋮⋮⋮⋮天然のバカということは問題だ
41
?
が戦闘になったら頼りになるからいいだろう。
個性という面が強いリーパー隊だがその中でも群を抜いて個性的
なのがゲインフォート伍長率いるリーパー01だ。
﹁俺も無益な戦闘なんざ望んではない。だが降りかかる火の粉は払わ
なきゃならないだけという話だ﹂
﹂
﹂
もし敵がいるなら私がギッタンバッコンにして
﹁中尉がいうと重みが全く違うような気がするのは自分だけでしょう
か
﹁大丈夫っす隊長‼
やりますから安心しちゃって下さい‼
でも前にシモンズ︵リーパー02チームリーダー︶が日本は旦
﹁それをいうならギッタンギッタンだ﹂
﹁ふぇ
﹂
?
通信が入った。
︿3│2からリーパー00。送れ﹀
?
ませんか
﹀
﹁伊丹がどうかしたか
﹂
︿あの⋮⋮ちょっと頼みがありまして⋮⋮⋮うちの隊長を止めてくれ
﹁こちらリーパー00だ。どうした
﹂
チームリーダーに呆れていると、車内に取り付けられている無線機に
ゲインフォートになんともバカな冗談を吹き込んだリーパー02
﹁あのバカ⋮⋮⋮後で拳骨だな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
くれた時にこういってましたよ
那様をお出迎えするときに裸にエプロンでお出迎えするって教えて
?
何やら明るい歌が聞こえてきた。
るジャパニーズハマーの通信機の周波数に合わせたようで、そこから
栗林2曹から通信で無線機に耳を傾ける。すると栗林は伊丹が乗
︿これ聞いて頂けましたら分かります⋮⋮﹀
?
?
42
?
?
?
﹂
﹁⋮⋮⋮なんだこれは
⁉
﹀
だから中尉から隊長にやめるよう言って下さ
︿もぅ無理なんです⁉
﹀
﹀
﹁⋮⋮⋮⋮⋮サージェント栗林﹂
︿やってくれますか⁉
‼
?
﹁⋮⋮⋮頑張れ﹂
︿ええぇええええええええええええええ‼
俺は無線機のスイッチを切った。
﹂
?
因みにLAV│25A2に乗るリーパー02のシモンズ・ワークス
の集落へと向かった。
それから伊丹の3rd Reconは西側へ向かい、俺たちは北側
を確認できた。
だったのでそこの村長からそれぞれの方角には集落が存在すること
それから暫くして最初の集落であるコダ村に到着し、幸いにも協力的
そんな他愛もない話をしながらクーガーHEは田舎道を突き進む。
﹁ですな⋮⋮⋮﹂
ぱなしは感心せんな。あとで注意だけはしてやるとしよう﹂
﹁まぁな。別に気晴らしに歌うのは構わんが作戦中に無線機の送信し
﹁⋮⋮⋮向こうも苦労してるみたいですね
?
?
い‼
?
?
伍長の頭にはデカイコブが出来ていた⋮⋮⋮⋮⋮。
43
?
?
Mission10:燃え盛る森
コ ダ 村 に て 情 報 を 得 る こ と が 出 来 た 俺 た ち は エ ー ス 率 い る リ ー
パー隊と別れて東に位置する森の集落へ向かう。
本音をいえば今のエースと別れるのは得策じゃなかったかもしれ
ない。敵に奥さんを殺されて仇打ちをする為に躍起になってる。コ
ダ村の村人が温厚だったから何も起こらなかったけど、仮に敵の仲間
だったら間違いなくエースは容赦なく全滅させるだろうな。
もしそんなことしたら俺たちは侵略しにきたように見えてしまい、
敵に大義名分を与えるキッカケにもなる。
だから監視としてでも同行した方が良かったかもしれないけど、別
れてしまったんだから仕方がない。
集落へと向かう俺たちは青く広がる晴天の下を移動していた。
44
﹁空が青いねぇ。さっすが異世界だよ﹂
﹁こんな風景なら北海道にもありますよ。俺はトロール族や巨人族が
歩いてたり、ドラゴンや妖精が飛び交う風景を想像してたんすけど、
﹂
これまで見かけたのは人間ばっかだし、ガッカリっす﹂
﹁そんなに猫耳娘がいいのかよ
暫く移動していると目の前に透き通った川が見えてきた。
されるから俺が不在の時はおやっさんに指揮を任せることにしてる。
やっさんみたいに地図の読み取りに精通したベテランがかなり重宝
ない異世界での移動を考えてGPSは持ってきていない。だからお
おやっさんが地図を見ながら進む方向を確認する。衛星が存在し
﹁了解﹂
てくる筈だ﹂
その川沿いを右に曲がって進むとコダ村の村長が言ってた森が見え
﹁楽しい話を割って悪いが倉田、このまま道なりに進むと川がある。
吸血鬼でも⋮⋮⋮﹂
﹁別に猫耳娘でもエルフでも、妖艶な魔女や貞淑な淫魔とか情熱的な
?
﹁言った通りの川だ。さすがおやっさん。頼りにしてるよ﹂
﹂
﹁どうも⋮⋮頼られついでに意見具申します。伊丹隊長﹂
﹁ん
?
それに村に住んでる人達を脅かすことになるよ。
﹁いま乗り込んだら何があるか分からない森で夜になっちゃうでしょ
﹁一気に乗り込まないんですか
﹂
と軽装甲機動車に連絡を始める。
そのままおやっさんは無線機を使って後方の73式小型トラック
﹁了解です﹂
﹁賛成。じゃあおやっさんは無線機で栗林や富田達に知らせて﹂
かと⋮⋮﹂
﹁森の手前に到着したら野営にしましょう。このまま進めば夜になる
?
俺たちは国民に愛される自衛隊だよ。この任務は有効的な関係を
作ることも目的だからね﹂
﹁隊長、連絡終わりました﹂
﹁サンキューおやっさん﹂
﹂
﹁それで隊長、前から聞きたかったのですが、海兵隊のクレイグ中尉と
はどんな関係なのですか
﹁そうなんすか
﹂
見てると人って怖いって思うよ﹂
﹁それが縁で今でも連絡を取り合ってるんだけど⋮⋮⋮今のあいつを
﹁幼馴染⋮⋮ではないですね﹂
よ。そん時に俺とクラスメイトになって仲良くなったって訳さ﹂
﹁あ ぁ。俺 が 中 学 生 の 頃 に あ い つ は 日 本 に 留 学 生 で 来 日 し て た ん だ
?
﹂
?
不意に前方の様子がおかしいと感じて、倉田とおやっさんも前を見
のあいつは俺の知ってるエースじゃ⋮⋮⋮なんだ
﹁あぁ。何でも銀座で巻き込まれて奥さんを殺されたらしいんだ。今
?
45
?
﹂
る。すると目的地の森から派手に黒煙が立ち上っているのが確認さ
れた。
﹁あれは⋮⋮⋮山火事か
﹁倉田、確か森の手前に丘があるって話だからそこに向かってくれ。
様子を見るぞ﹂
﹁了解﹂
倉田に指示して黒煙が立ち上る森に向かう。暫くして山火事が見
渡せる丘に到着した俺たちは周辺警戒しつつ双眼鏡を使って火事を
見る。
﹁燃えてますねぇ﹂
﹁あぁ⋮⋮盛大にな。大自然の脅威だな﹂
﹁というか怪獣映画ですね﹂
﹁怪獣映画って⋮⋮⋮今なにか動いた﹂
﹂
燃え盛る森の中に何か動く物を見つけ、すぐに確認したが俺は驚愕
した。
﹁ありゃま⁉
げたら何mあるか分からない翼を羽ばたかせ、口からありとあらゆる
ものを灰に変えてしまう灼熱の炎を吐き出している巨大生物⋮⋮⋮
ドラゴンだ。
異世界の代名詞であるドラゴンが目の前にいる。
驚愕しているのは俺だけじゃなく、倉田やおやっさん、栗林や富田
達にも緊張が走っていた。
﹁あれは⋮⋮⋮首一本のキン⋮⋮﹂
46
?
そこに映し出されたのは火災現場を羽ばたく赤い物体。全開に広
?
﹂
﹁それ以上は駄目だよおやっさん。何だか著作的にね⋮⋮﹂
﹁隊長、これからどうします
﹂
ると思うか
﹂
﹁どういうことですか
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あのドラゴン⋮⋮何も無い唯の森を焼き討ちする習性があ
﹁飛び去っていきますね﹂
び立っていった。
暫く様子を伺っているとドラゴンは力強く羽ばたいて何処かに飛
い奴なんている訳がないよな⋮⋮。
簡単に拒否された。まぁあんな如何にも凶暴な生き物に近付きた
﹁あっ⋮⋮そう⋮⋮﹂
﹁嫌です﹂
てくれる
﹁栗林ちゃ∼ん⋮⋮おいら1人じゃ怖いからさ∼⋮⋮一緒についてき
?
﹂
じゃああのドラゴンが襲ってたのは村人か⁉
﹁⋮⋮集落⁉
﹁やべぇ⁉
﹁了解⋮⋮全員‼
移動用意‼
﹂
?
なよ﹂ふぇ⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁これで生存者がいたら奇跡っす⋮⋮⋮って隊長⋮⋮あれって﹁言う
﹁まだ地面が燻ってます﹂
焼け崩れた建物に燻る大地。生々しい光景が広がっていた。
た頃には鎮火していたが凄惨な光景が広がる。
乗り込んで火災現場へと向かう。途中で辺りに雨が降り出し、到着し
ドラゴンが襲ってたのは集落だと確信した俺たちはすぐに車両に
?
るかも知れないから対空監視といつでも逃げれる準備をしておいて﹂
﹁おやっさん。野営は後回しだ。生存者の捜索と救出。また戻ってく
?
?
47
?
﹁コダ村の村長の言葉を思い出して見るんだ。あの森には⋮⋮⋮﹂
?
?
?
瓦礫に紛れて飛び出す黒焦げになった遺体。中にはドラゴンに食
べられたのか下半身しかない遺体も確認された。
89式小銃2型を手にして辺りを捜索するが一向に生存者らしき
人物は見当たらない。俺は井戸に腰を下ろして一休みすることにし
たら栗林が歩み寄って来た。
﹁隊長、この集落には建物と思わしき建造物が32件で確認された遺
体が27体と少なすぎます。瓦礫の下敷きになったかドラゴンに捕
食されたと思われます﹂
﹁てことは⋮⋮死者は間違いなく100人以上に上るな﹂
﹁酷いものです。ゲートの遭遇戦で確認されたワイバーンは腹部か頭
部に12.7mm徹甲弾でようやく貫通したらしいです﹂
﹁空飛ぶ戦闘車って事だな⋮⋮⋮ドラゴンの種と生息地を調べておい
48
たほうがいいよな⋮⋮⋮それと栗林。リーパー隊に連絡して対空警
戒と速やかに合流するようにって﹂
﹂
そ う い う と 俺 は 何 気 に 桶 を 井 戸 に 投 げ 入 れ て 水 を 汲 も う と す る。
﹂
コーン
だがここで再び違和感を感じた。
﹁ん
﹁いま⋮コーンって音が⋮⋮何でしょう
照らした。
そこに映ったのは⋮⋮。
﹂
?
﹁⁉
﹁人だ⋮⋮⋮人がいるぞ‼
﹂
栗林も違和感を感じたようであり、ライトを取り出して井戸の中を
?
?
?
俺たちが探し求めていた生存者だった⋮⋮⋮⋮⋮。
49
Mission11:首無騎士の少女
アルヌス基地から緊急連絡が届いた。自衛隊の第3偵察隊が集落
を襲う巨大なドラゴンを目撃し、集落が全滅したらしい。しかもドラ
ゴンは何処かに飛び去っていったようであり、下手をしたら任務中の
部隊と鉢合わせする可能性がある。
アルヌス基地の指揮所は全部隊に作戦中止を命じ、地形調査と偵察
﹂
をしていた俺たちもM60A3TTSをアルヌス基地に走らせてい
た。
﹁しかし中尉、本当にドラゴンがいたんですね
﹁まぁワイバーンやゴブリンがいるんだ。ドラゴンがいてもおかしく
はないが見たままの凶暴さまで定番とはな⋮⋮﹂
﹁そんな化け物に遭遇したら一瞬で負けちまうな⋮⋮早く基地に帰還
しましょう﹂
﹁そうだな⋮⋮いくら105mm砲でも飛び回るドラゴンには直撃以
外では全くの無意味になっちまうからな﹂
﹁本国にフレシェット弾を申請しておいたほうがいいでしょうね。使
いどころに困るっていう欠点がありますが⋮⋮﹂
﹂
﹁備えあれば憂いなしって奴だ。それに対空としては有効だから少数
は積んでおいた方がいい﹁中尉、11時方向に動きあり﹂なに
む﹂
﹁袁と呉は残ってこいつを守ってくれ。万一はM2を使って援護を頼
﹁了解です中尉﹂
﹁林、下車戦闘だ。短機関銃を持って救助に向かうぞ﹂
キを排除していってるが数が違うみたいだ。
た。女性の手には死神の鎌みたいな武器があり、それで次々とゴロツ
認する。すると複数の武装したゴロツキが1人の女性と交戦中だっ
呉が何か見つけたようであり、俺も身体を車外に出して双眼鏡で確
?
50
?
﹁了解です﹂
﹁分かりました中尉﹂
袁と呉に戦車を任せてT77短機関銃と57式手槍︵M1911A
1︶を手にしてM60A3から降りる。そしてそのまま急いで交戦中
の場所に向かった。
﹂
そして丘を下ってT77を変えながら前進するがさっきまでの戦
間に合わなかったか⁉
﹂
闘が行なわれていなかった。
﹁中尉‼
﹁くそっ⁉
77を構える。
奴らを殲滅しろ‼
?
﹂
﹁攻撃開始‼
﹁了解‼
?
武器を捨てて両手を頭の後ろに回して両膝をつけ‼
を向けて警告を発する。
﹁動くな‼
?
言葉は通じていないだろうが敵は完全に怯んで、そのまま後ずさり
﹂
2名のみとなった。T77に新しいマガジンを装填すると俺は銃口
敵の数は10人弱だが次々と銃弾の餌食となり、瞬く間に敵の数は
ACP弾をぶち込んで仕留める。
ていき、銃撃をかわして斬りかかって来た敵兵は至近距離から45,
トリガーを弾いて接近してくる敵を9mmバラベラム弾で仕留め
﹂
俺たちの存在に気がついた敵は剣や槍を手に突っ込んで来たがT
敵を全滅させることが優先事項となる。
先に落ちていた。間に合わなかったことを悔いたいが今は目の前の
賊の足元には先程の女性。だが頭が綺麗に切られていて頭が少し
?
?
?
51
?
?
しながら逃げようとするが、いきなり2名の首が綺麗に飛んだ。
首が無くなった男の亡骸は噴水のように血を噴きださせ、そのまま
地面に音を立てながら倒れた。
﹂
そして賊がいた場所の背後に銃口を向ける。
﹁な⋮⋮⋮なんだよ⋮⋮﹂
﹁し⋮⋮死体が動いてる⋮⋮⋮だって
⁉
﹂﹂
﹁助力に感謝する。数が多かったから手を煩わされていたところだっ
そして鎌を肩で担ぐと何処からか声が聞こえてきた。
り、よく見たら首から血が一滴も流れていなかった。
戦っていて首が無くなった女性の身体が鎌を手にしながら立ってお
そ こ に 映 っ た 光 景 に 俺 た ち は 驚 愕 し た。そ こ に は 先 程 ま で 賊 と
?
ないかのように喋り出す。銀髪の三つ編みロングヘアで戦士特有の
﹂
鋭い目つきをした女性だ。生首でなければ普通に可愛いのだが⋮⋮。
﹁どうした
﹂
?
銃を軽く構えたままで警戒している状態だった。
しながら一体化を果たす。だが俺たちはいつでも発砲できるように
女性はそういうと首を自身の身体に取り付けて、ねじり込むように
﹁むぅ⋮⋮仕方がないか﹂
にちょっとな⋮⋮﹂
﹁あっ⋮⋮あぁ⋮⋮⋮ひとまずは⋮身体に首をつけてくれ⋮⋮⋮流石
﹁やはり驚いているのか
﹁いや⋮⋮く⋮⋮⋮首が取れる人間なんて初めて見たから⋮⋮﹂
?
52
た﹂
﹁﹁‼
?
首がない身体は自身の首をつかむが、今度はその首がまるで何でも
?
﹁ふぅ⋮⋮改めて感謝する。私は旅をしているルフス・エム・ヴォー
﹂
ディッシュ。デュラハンの女だ﹂
﹁で⋮⋮デュラハン
﹂
我が一族は代々暗黒神エムロィに仕える
﹁確か⋮⋮死ぬ人間の前に現れて魂を頂いていく種族だった⋮⋮⋮⋮
ような⋮⋮﹂
﹁なんだ、知っておるのか
死の案内人をしている﹂
﹁な⋮⋮なんだか物騒だな﹂
﹁全くです⋮⋮⋮って俺たちまだ名乗って無かったですね
﹁そうだな⋮⋮俺は谷 劉郭。こっちは林 苞徳だ﹂
聞くが異国の出身者か
﹂
﹁変わった名前だな⋮⋮⋮遥か東に似たような名前を持つ国があると
?
?
た。
る言葉の壁だが、通じない筈なのにルフスとは普通に会話ができてい
因みに車内で思い出したのだが、この世界の住民と俺たちの間にあ
り、アルヌス基地へと向かった。
を暫く見送った俺たちはドラゴンと遭遇を避けるためにM60に戻
そういいながらルフスと名乗る女の子は立ち去っていった。それ
﹁そうだな。そなたらとはなんだか気が合いそうだからな﹂
﹁あぁ、機会があったらまた会うとしようか﹂
﹁では谷殿、林殿。私は旅を続ける故にこれで⋮⋮﹂
異世界の出身者なんて言えないからな⋮⋮。
﹁まぁ⋮⋮そんなとこだ﹂
?
こっちは調べておいた方がよさそうだ⋮⋮⋮⋮⋮。
53
?
Mission12:レレイ
コダ村に齎された炎龍出現。本来は50年先までは冬眠から目覚
める筈がないのに、古代龍である伝説の存在である炎龍。
言い伝えによれば炎龍と並ぶ存在である水龍と並び、大小様々な集
落や街が滅ぼされ、絶滅の道を辿った種族もかなり多いらしい。だが
なぜ炎龍が復活したのかが分からない。
冬眠途中で起こされた龍というのは非常に凶暴で、コダ村を放棄す
ることになった。
だぁああ‼
なんのこーれーしーきー⋮⋮だあぁ
だから私達も住んでいたお師匠の家を放棄し、馬車の荷台に荷物を
纏めていた。
﹂ ﹁おーもーいー‼
ああ⁉
?
﹂
?
﹁痛ーい‼
痛いのー‼
大量の本を抱えて、階段を降りた直後に躓いて本を払いたお師匠。
?
本は必要なんじゃ‼
﹂
?
?
﹁お師匠も早く乗って欲しい﹂
目覚めおって全く迷惑じゃ⋮⋮﹂
﹁そうじゃ。頭がよいなレレイは⋮⋮しかし炎龍め⋮⋮50年も早く
デ梨の種は置いていくのが合理的﹂
﹁確かに⋮⋮ここは貴重な書物を優先させるべき。コアムの実とロク
﹁レレイ⋮⋮どうにもならんか
﹂
原稿本といった損失すれば2度と手に入らない貴重な書物となる。
な魔道書や歴史書など。しかもお師匠は著名な哲学者でもあるから
子供のように駄々を捏ねるお師匠。お師匠が運んでいたのは貴重
﹁嫌じゃ‼
﹁お師匠、これ以上つみこむのは無理﹂
?
?
54
?
﹁ん
に へ へ ∼ ⋮⋮ ど う せ 乗 る な ら お ま え の 姉 の よ う な ボ ン、
なにを言っておる。儂はお前に乗っかるような少女趣味は無い
わい‼
カチン
キュ、ボンに⋮⋮﹂
乱用する
お師匠の言葉に何だかカチンと来た。私は無詠唱で光魔法を発動
魔法とは神聖なものじゃ‼
させ、光の弾をお師匠にぶつける。
や⋮やめんか⁉
﹂
?
﹁ぎゃっ⁉
ものではないのじゃぞ⋮⋮あぎゃっ⁉
?
﹁心配するではない‼
儂らは魔導師‼
﹂
﹁積めといったのはお師匠。こうなる事態は予測できた﹂
﹁動かんね⋮⋮荷物が多すぎたようじゃ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
りの重さから馬車は動かなかった。
一当てした。驢馬はそれに従って前に進もうとするけど、荷台のあま
私はお師匠に今の状態の原因がお師匠にあると伝えて驢馬に鞭を
匠﹂
﹁こ れ は 幼 少 期 か ら 受 け た お 師 匠 の 教 育 の 成 果。だ か ら 原 因 は お 師
﹁全く⋮⋮冗談の通じぬ娘じゃな﹂
師匠が隣に乗ってきた。
避難しなければならないので魔法を停止させ、馬車の手綱を握るとお
暫くお仕置きとしてお師匠に魔法をぶつける。私も暫くしてから
?
?
?
が言った言葉﹂
﹁魔法とは神聖なものじゃ、乱用するものではないのじゃぞ。お師匠
?
55
?
?
﹁ぐっ⋮⋮じゃが⋮⋮﹂
﹁けどこの際仕方がない﹂
状況が状況なので私は簡単な浮遊魔法を馬車に無詠唱でかけ、馬車
の重量を軽くする。魔法を使うことで重量が軽くなれば、荷台山盛り
であっても驢馬の力で容易に引くことが出来る。
住み慣れた家を後にしてコダ村の中心部に向かう中、あちらこちら
で馬車に荷物を積み込む者の姿が見られた。すると馬車の車列は集
レレイ‼
﹂
実は荷物の積み過ぎで馬車が道を塞いで
⋮⋮この先はどうなっておるのだ
落の入り口に向かって長い行列を作ったまま停止していた。
﹁ん
﹁カトー先生‼
おるのです﹂
?
こえてきた。
﹁避難の支援も仕事の内だ‼
﹂
事故した馬車を急いで撤去しろ‼
﹂
村人からの話を聞いていたら、何かすぐ前の方から誰かの指示が聞
?
?
﹁言葉が通じませんよ‼
どうしますか⁉
﹂
﹁勝本は後続に渋滞を知らせて迂回するように説明しろ‼
?
?
れ‼
﹂
﹁了解‼
﹂
﹂
も倉田達と一緒に現場に行ってけが人がいないかどうか確認してく
﹁ジェスチャーでも地面に絵を描いて説明してなんとかしろ‼
黒川
伊丹隊長は村長から出動の要請を引き出して下さ
﹁俺達が行きます曹長‼
﹂
﹁頼んだぞ倉田‼
い‼
﹂
?
?
﹁分かった‼
?
?
?
?
斑模様の服装をした人達がいた。
指示がしてきた方角を見ると緑色⋮⋮⋮緑や茶色、黒色の混ざった
?
56
?
?
?
?
どこかの兵士かと思ったけど鎧を纏っていないし、知識にない集団
⋮⋮聞いたこともない言葉じゃな﹂
のように見えた。
﹁兵士
﹁見たこともない服装﹂
﹁女兵士もおるようじゃな﹂
﹂
﹁お師匠、様子を見てくる﹂
﹁ちょっ⋮⋮レレイ⁉
﹁危険な状態⋮⋮﹂
﹂
﹁この子は脳震盪を起こしています‼
も‼
﹁⋮⋮医術者⋮⋮﹂
﹁君、危ないから下がって﹂
肋骨にヒビが入ってる可能性
という轟音が聞こえた。その瞬間に暴れていた馬
から血飛沫を出しながら地面に倒れてピクリとも動かなかった。
パンパンパン
黒髪の緑の服を来た人が私を庇うように身を呈するけど、いきなり
ない。
だろうけど、私を押しつぶす危険が迫っているということには変わら
前足を挙げて私を踏み潰そうとしていた。馬にそんなつもりはない
それに従って立ち上がろうとした瞬間、錯乱状態に陥っている馬が
けど私を心配し、避難するように促していることが伝わって来た。
緑の服の人が私に話しかけてきた。なにを言ってるか分からない
?
私は女の子に歩み寄るとしゃがんで状態を確認する。
辺 り に は 撒 き 散 ら か っ た 荷 物 に 怪 我 を し た 女 の 子 が 倒 れ て い た。
暴れたみたいだ。
あった。どうやら車軸が折れて馬車が転倒し、驚いた馬が走り回って
お 師 匠 の 制 止 を 聞 か ず に 馬 車 1 5 台 先 に 事 故 を 起 こ し た 馬 車 が
?
音がした方向を見ると先程の初老の男性が黒い筒のようなものを
57
?
?
大丈夫⁉
﹂
構え、先端からは小さく煙が出ていた。
﹁あなた‼
これが私⋮⋮⋮レレイ・ラ・レレーナとジエイタイ、アメリカカイ
だけど目の前にいる人達は私を助けてくれた。
げ出す存在であると私は認識している。
から税金と称して搾取するし、自分たちが危険に晒されると我先に逃
軍隊というのは民を守る存在。だけど帝国の騎士や貴族は私達民
﹁この人達⋮⋮私を助けた⋮⋮﹂
していた。
間違いなく馬に何かをしたのは間違いなく、これだけははっきりと
いた。
すると今度は若い男女が駆け寄ってきて先程の男性に何かを話して
女性が私に話し掛けて来たけど私は先程の初老の男性を見ていた。
?
ヘイタイ、タイワングンの最初の出会いだった⋮⋮⋮⋮⋮。
58
?
Mission13:鬼神
伊 丹 の 3 r d R e c o n か ら の 報 告 に 驚 き を 見 せ て し ま っ た。
伊丹の奴が偵察に向かった森の集落に巨大なドラゴンが出現し、集落
に住む人達を皆殺しにしたとのことだ。
ドラゴン出現なんて非現実的な出来事なんて信じられなかったが、
いくらオタクであっても伊丹はそんなジョークなんて口にしないし、
奴の性格は理解してるから信じることにした。
クーガーHEに搭乗して上空警戒を厳にしながら伊丹達が展開し
﹂
ているコダ村へと急行していた。
﹁曹長。コダ村までの距離は
﹁あと30kmほどです。このままいけば1時間程で到着します﹂
﹁了解だ。ドラゴンなんているか分からないが用心に越したことはな
い。上空に関してはドラゴン出現に備えて常にぶっ放せるようにし
ておけ﹂
﹁キャリバーには徹甲弾を装填してはいますがワイバーンで苦戦しま
したからね⋮⋮恐らくLAVが頼りになるでしょうけど自信はない
です﹂
﹁だろうな⋮⋮こういうことならSMAWやジャベリン、M134D
を搭載しておけばよかったよ﹂
﹂
﹁無い物ねだりしても仕方ありません。ひとまずは伊丹2尉と合流し
ましょう﹂
﹁そうだな⋮⋮⋮伍長。ミスフィットからは
て一気に向かうぞ﹂
﹁了解⋮⋮⋮なんだ
﹂
﹁何かあったかコーエンス
﹂
﹁現存戦力では火力不足だが仕方がない⋮⋮そのまま速度をキープし
ことです﹂
﹁はい。速やかに自衛隊と合流し、共に避難民警護に就くようにとの
?
59
?
﹁前方になにか動きがあります﹂
?
?
何か見つけたコーエンス。よく見ると小さいが何やら砂煙が立ち
上っており、横に広がっているから速度を上げて移動していることが
分かる。だが方角からしてコダ村から逃げ出すような感じで、馬車に
しては速度が異常に早かった。
﹁中尉、方角からしてコダ村から逃げ出した民間人の可能性が高いで
すね﹂
﹂
﹁あぁ。だが何かに追われてるみたいだ。砂煙が邪魔でよく見えない
が⋮⋮⋮くそ﹂
﹁どうしましたか
﹂
﹁どうやらお客さんだ⋮⋮⋮リーパー00からリーパー隊各員。お客
さんの到着だ。歓迎パーティーの準備をしておけ﹂
︿こちらリーパー02、了解﹀
︿リーパー03了解﹀
﹁盗賊ですか⋮⋮⋮﹂
民間人を救出するぞ‼
﹁あぁ。胸糞悪いテロ野郎共が⋮⋮⋮﹂
﹁隊長、救出を進言します﹂
﹁当たり前だ⋮⋮⋮進路変更‼
?
身構える。
﹂
?
﹁リーパー00から全隊‼
攻撃開始‼
M417A2に7.62mm弾を装填し、いつでも降りれるように
いている分だけ速度を遅くなっている。
馬車には男性が手綱を必死に操ってふりきろうとするが馬車を引
りを武装した盗賊が囲むようにして追い立てていた。
方角に向かう。そして馬車が目視できる距離までに到着し、馬車の周
無線機で救出指示を出すとすぐに進路変更をして砂煙が立ち上る
?
そういいながら全ての車両が馬車の周辺に展開している盗賊に攻
?
60
?
撃を開始した。クーガーHとHEがそれぞれのMCTAGS│R︵M
a r i n e C o r p s T r a n s p a r e n t A r m o r Gun Shield │ Reducible︶に搭載されたM2
│QCBとM240Gにそれぞれガナーのルイス・ハック上等兵と
ポー・マーシェン上等兵︵リーパー03ガナー︶が攻撃を開始し、L
AV│25A2もM242 25mm機関砲にて攻撃。
側面から攻撃を受けた盗賊は不意打ちを完全に受ける形となり、対
して馬車は隙を突いて一気に賊から距離を稼いだ。
﹂
馬車が離脱したのを確認したら馬車と盗賊の間に車列を割り込ま
一気に畳み掛けろ‼
せ、俺は扉を蹴り破るように外に飛び出した。
﹁射撃要員を除いて降車‼
中尉の突撃を援護しろ‼
﹂
そのまま攻撃を維持しつつ援護しろ‼
俺が突撃してケリ
ンを差し込むと一気に立ち上がってフルオートで薙ぎ払う。
近くの窪みに飛び込んでM417A2で攻撃しつつ、新しいマガジ
PARAで敵に射撃を開始して弾丸の雨を降らせる。
ら降車してM416A5、M417A2、M27 IAR、M249
に7.62mm弾を撃ち込む。コーエンス達もクーガーとLAVか
インカムで指示を出すとHK417A2を構えて近くにいる盗賊
?
?
﹁曹長‼
﹂
野郎共‼
を付ける‼
﹁了解‼
?
る盗賊に俺はM417A2を背中に預けてCQCホルスターから海
兵隊正式採用サイドアームのM45A1 CQBPを引き抜く。
そのまま走りながら45,ACP弾を撃ち出しながら突撃。すると
俺が1人であると判断した盗賊はヤケクソになりつつも仕掛けてき
た。
だが俺はシングルカラヒムを交換し、そのまま左手を腰に回して私
61
?
援護指示を出して曹長達は一気に銃撃を強める。そして逃げ始め
?
?
?
?
Hildolfr
をホルスターから取り出して射
物として携行している俺が手掛けたカスタムガバメントのM107
0 CQBP
撃。
俺が最も得意とする射撃は乱戦でのハンドガンを用いた2丁拳銃
だ。
しかもHildolfr自体が反動を緩和させる改良をしている
ので左手だけでも十分に扱え、2丁拳銃をするには非常に扱い易く
なっている。
﹂
一気に敵を制圧し、最後に虫の息である盗賊に至近距離から頭に4
﹂
5,ACP弾を撃ち込み、辺りを完全に制圧した。
﹂
攻撃中止‼
﹁周辺クリア‼
﹁攻撃中止‼
﹂
もたもたするなよ‼
﹂
俺たちはこのまま自衛隊と合流して避難民誘導に向かう
そのまま移動を続けているようです‼
馬車はどうした⁉
﹁了解だ‼
﹁安全圏内に離脱‼
﹁曹長‼
?
移動するぞ‼
?
﹂
全員‼
?
ぞ‼
﹁了解です‼
?
?
?
上空と周辺監視を続行しながら車列は移動を開始した⋮⋮⋮⋮⋮。
ていた時刻よりも早く伊丹達と合流できる。
から出発して北に移動を開始したらしい。このままいけば予定され
戦闘直後に伊丹の3rd Reconから連絡が入り、避難民は村
街に到着したらしい。無事で本当によかったよ。
後で知ったんだが無事に離脱した馬車は無事にイタリカっていう
ガーHEに乗り込んだ。
車列に乗り込んでいき、俺もハンドガンをホルスターに戻してクー
年期が違うコーエンスの指示を受けて全員が近くまでやってきら
?
62
?
?
?
?
?
?
Mission14:エムロイの使徒
エース達リーパー隊が馬車を襲っていた盗賊を撃退したその日の
晩、襲撃地点からそれ程離れていない場所に焚き火を囲む数人の男達
が屯していた。
﹁頭、コダ村の連中が村から逃げ出してるみたいですぜ﹂
﹂
﹁いい獲物だ。だが昼間の妙な連中でこっちの手下がくたばったから
人手が足りねぇぞ。なんか宛でもあんのか
盗賊の頭に手下の男達はコダ村の村人を襲う手筈を提案する。だ
が昼間に馬車を襲わせた自分の手下はエースの救援により壊滅し、当
初は40人ほどいた盗賊は20人にも満たない数になっていた。
たった20人弱では村丸ごとのキャラバンを襲うには大き過ぎる
戦の敗残兵をかき
獲物だ。だが手下は何か宛かあるようで、すぐに笑みを浮かべながら
頭に考えを知らせた。
﹁アルヌスの丘で戦った敗残兵なんざどうですか
に倒れたからだ。手下連中は最初は何が起きたのか分からなかった
頭の首がゆっくりと身体からずれて、ゆっくりと地面に身体と一緒
ることとなる。
る姿でも想像したのだろう。だがそんな淡い夢は瞬く間に闇に消え
自分が領主となって何人もの美女を抱き、毎日贅沢な食事をしてい
賊には飽きちまったからな⋮⋮へへっ⋮⋮﹂
﹁盗賊の頭が領主様か⋮⋮⋮悪くない⋮⋮いい加減その日暮らしの盗
﹁領主を追い出すのも夢じゃねぇぜ﹂
集めりゃ村どころかちょっとした町だって襲える筈でさぁ﹂
?
が、やがて自分達の頭が即死したことに理解して思わず声を出しなが
ら恐れを抱いた。
63
?
﹁ふふふっ⋮⋮おじ様方ぁ⋮⋮⋮今宵はどうもありがとう﹂
頭の後ろにあった岩の上に誰かがいることに気が付き、全員が一斉
闇
に視線を向けた。
それが最初の印象だ。
フリルで飾った漆黒の服装に重い鉄の塊の如き重厚なハルバート。
そして血のように真っ赤な瞳。そして柳のような細い腕と白魚のよ
うな細い指で重厚なハルバートを振り回す姿をした1人の少女。
その少女はスカートをつまみ上げ、一礼をするが不気味さは倍増す
るばかりだ。
その少女は笑みを浮かべ、優雅さを見せているが眼だけは笑ってい
なかった。
﹁生命をもってのご喜捨を賜り、本当にありがとう﹂
少女は唇を小さくひと舐めし、掲げたハルバートを眼にもとまらぬ
速さで盗賊の1人を斬り捨てる。
﹁主神はぁ、あなた達の振る舞いが大層気に入られてぇ、おじ様方をお
召しになるって仰ってるのぅ﹂
少女が1歩ずつ近付く度に賊の首が次々と刎ね飛ぶ。そして長い
黒髪が揺れる中、焚き火の明るさで少女の素顔がはっきりと見えてき
エムロイ
の使徒﹂
た。そして少女はくすりと笑いながら小さい口を開いた。
﹁私はロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神
ロゥリィ・マーキュリー。それが彼女の名前だ。月明かりに照らさ
れながらハルバートを地面に突き立てる。そして彼女の正体を知っ
た盗賊は今までにない位の恐怖を見せながら後ずさりを始める。
64
死神ロゥリィ
﹂
﹂
﹂
⁉
エムロイ神殿の神官服だぁ⁉
﹁十二使徒の1人⋮⋮
﹁ありゃ⁉
﹁に⋮⋮逃げろぉおおっ⁉
?
後の賊。
﹁ひぃ⁉
﹂
き取り、それを構えた。構えた先にいるのは恐怖に動けなくなった最
ロゥリィは地面に突き刺さったハルバートを着地したと同時に抜
衝撃で陥没し、周りにいた2人の賊が吹き飛ばされた。
い上がる。ハルバートは賊の身体を貫通し、鋒が地面に届くと地面が
そして直後に逃げる賊にハルバートを投げ飛ばし、自身も高々と舞
だ岩も中にはあった。
空中で連続で弾きとばし、賊の後頭部に全て命中させ、深くめり込ん
斧部を地面に叩きつけて舞い上がった頭ほどのサイズがある岩を
ら飛び、すれ違いざまの賊の身体を次々と両断していく。
自分の体重の何倍もあるかのようなハルバートを軽々と抱えなが
﹁駄目よぉ﹂
リィは死の淵から逃げようとする賊を笑いながら追撃する。
の賊に感染していって蜘蛛の子が散るように逃げ始める。だがロゥ
1人が大声で逃げろと叫ぶと、その言葉が感染したかのように辺り
?
そして力を込めて最後の1人にハルバートを最後の賊に振り下ろ
し、賊 の 身 体 は 盛 大 な 砂 煙 と 爆 音 の 中 で 地 上 か ら 消 え 去 っ た
⋮⋮⋮⋮⋮。
65
?
?
﹁ふふふっ﹂
?
Mission15:炎龍
コダ村の避難支援を開始して3日。コダ村を出発したのはいいが
荷物を馬車に満載しているから必然的に足は遅かった。こんな遅い
状況で炎龍にでも襲われたら間違いなく被害者が発生する。
今の懸念すべき箇所はそこだ。
初日の段階で北側を偵察していたエースも合流し、戦力の増強は出
来たが来る前に戦闘が発生して弾薬を少し消費したらしい。
対戦車火器はあるから炎龍にも対抗できるかもしれないけど、それ
でも襲ってこないことを心から願いたい。高機動車の助手席で後続
に続くキャラバンを見ていた。
﹁遅々として進まない避難民の列。次から次と起きる問題。増加する
﹂
﹂
傷病者と落伍者。本当に難民ってのは何処でも同じなんだな﹂
今の避難民は行く宛がない状況だ。近隣に身内がいる街があるな
らそこに向かっていけば問題はないが、そんなのは一部しかいない。
すると無線機から通信が飛び込んできた。
︿リーパー00から3│1﹀
﹀
﹁こちら3│1、感度良好。送れ﹂
︿そっちの状況はどうだ
﹁お前が俺だったらどう考える
﹂
るが車両が足らん。可能だったら増援を呼ぶがどうする
?
﹀
︿こっちも似たような状況だ。クーガーにも子供や老人を載せてはい
乗ってもらってるよ﹂
﹁これまで落伍した馬車は4台。焼却して避難民は歩くか他の馬車に
?
?
66
﹁そうっすね。これって宛でもあるんですか
﹁ないってさ﹂
﹁ないんすか⁉
?
﹁敢えて言うなら炎龍が襲って来ないことが分かるまでってらしい﹂
?
︿エネミーラインだからな付近は⋮⋮⋮敵の追撃を恐れておれたちだ
けで護衛するしかない﹀
﹂
﹁そういうことだ。もし万一に接敵したら俺たちが相手をする。エー
ス達も火力で支援して欲しいけど頼めるかな
︿任せてくれ。だが無理はするなよ。リーパー00 out﹀
無線でエースに今の状況を簡単に知らせる。既に高機動車内部に
は子供が3人に足を挫いて歩けない大人と妊婦、老人が1人ずつに森
の集落で助け出して意識が戻らないエルフ族の少女が乗っていた。
他には俺にドライバーの倉田、副隊長のおやっさんに衛生要員の黒
川2等陸曹と11人。本来は10人乗りなので定員オーバーだが今
の段階では仕方がない。
だが子供が3人ということであと大人1人位ならまだ余裕がある。
だがこれ以上落伍者が増えれば流石に輸送科の1/2tトラックや
7t特大型トラックを要請する必要がリスク覚悟で出てくる。
もしその部隊が敵に発見されたら動き出すだろうし、戦線拡大に最
終的に被害が大きいのは全く関係がない民間人だ。
キャラバンに合わせて微速で移動していると少し進んだ先に何か
﹂
映り込んだ。よく見えないので双眼鏡を取り出して前方を伺った。
﹁なんだ⋮⋮⋮カラス⋮⋮えっ⁉
なりハルバートが姿を現して思わず双眼鏡を外してしまう。
そして改めて前方を確認してみるとカラスに囲まれるようにして
﹂
1人の少女が路頭に座り込んでいるのを確認した。
﹂
﹁ゴスロリ少女⁉
﹁ええっ⁉
﹂
67
?
双眼鏡に映し出されたのはカラスの群れ。だがその中央からいき
?
﹁女の子⋮⋮⋮それにゴスロリってなんですか隊長
?
﹁えっと⋮⋮等身大の西洋人形みたいな女の子ですね﹂
?
?
おやっさんはゴスロリという意味が分からず、黒川も少女の外見を
人形みたいだと口にする。それ程までに無機的で隙のない造形をし
ていたのだ。俺は反射的に無線機を取り出してエースに連絡する。
﹁こちら3│1。リーパー00送れ﹂
︿こちらリーパー00だ﹀
﹁エ ー ス。こ れ か ら 車 列 を 停 止 さ せ る。目 の 前 に ゴ ス ロ リ 少 女 が い
て、接触を試みる﹂
︿了解だ。気を付けてくれ﹀
後方のエースに状況を伝えると、直後に少女がこちらに歩み寄って
﹂
きた。しかも肩にハルバートを担いで不敵な笑みを浮かべながらだ。
﹂
﹁あなた達、何処からいらして、何方に行かれるのかしらぁ
﹁⋮⋮⋮現地語だよな
ですね﹂
目の前にいる少女が口にしたのは日本語や英語ではなく、この世界
の言葉だった。これにより彼女が現地の人間であるということが判
﹂
達も降りて少女に歩み寄っていった。
﹁どこから来たの
?
68
?
﹁言ってる言葉は分かりませんけど、少なくとも日本人じゃ無さそう
?
明した。すると少女を見た子供達が後部扉を開け、外に飛び出した。
﹂
?
﹂
﹁神官様だ‼
﹂
﹁神官様‼
﹁神官
?
子供達の言葉に現地語で神官という言葉が出てきた。すると大人
?
﹁コダ村からだよ‼
﹂
﹁村を逃げ出しておりまして⋮⋮⋮﹂
﹁炎龍が現れて、皆でここまで⋮⋮﹂
﹂
大人達は跪いて祈りを捧げ始める。
﹁祈りを捧げているみたいですね
﹂
﹂
た。俺は座席に座りつつ、様子を伺うことにした。
﹁この変な人達は
﹁助けてくれたんだ。いい人達だよ﹂
﹂
﹁嫌々連れて行かれてる訳じゃないのね
﹁うん‼
﹂
﹂
﹁分かんない。けど乗り心地は荷車よりずっといいよ‼
﹁へぇ⋮⋮乗り心地がいいのぉ
﹂
そんな推測をしていると、少女がこっちに気が付いて歩み寄ってき
﹁あの変な服装は信仰的な意味合いがあるってことか⋮⋮﹂
?
舐めし、口元に指を持ってきて何か思い付いた表情でこちらを見る。
﹁私も感じてみたいわぁ。これの乗り心地﹂
︶﹂
﹁えっと⋮⋮さ⋮ザワール アル ウール ︵こんにちは、お元気です
か
?
てきて、ハルバートを置くと何を考えているのか俺の膝に乗って来
た。
69
?
何を言ってるか分からないが、少女はこっちを見て唇を小さくひと
?
?
?
?
?
﹁これ、どうやって動いてるのかしらぁ
?
ひとまず現地語で挨拶をする。すると少女は後部扉から中に入っ
?
﹁んふふふ∼♪﹂
﹁ち⋮⋮ちょっと⁉
﹁ふふふ♪﹂
﹂
﹂
﹂
﹁窮屈なんだが⋮⋮﹂
﹁んふふ♪﹂
﹁どいてくれ⁉
﹂
﹁羨ましいです隊長⁉
﹁あらぁ
﹁って小銃に触るな⁉
﹁ふふふ♪﹂
﹂
﹁だから触んなって⁉
﹁羨ましいっす⁉
﹂
﹂
﹂
ってだから触んな⁉
⁉
﹁いや嬉しかねぇ⁉
﹁羨ましいっす‼
照らしている。
﹂
﹁こっちの太陽って⋮⋮日本より暑くないか
﹂
そういいながら後方を見る。天候は晴天で、太陽の日差しが辺りを
﹁全くです﹂
﹁村からだいぶ離れたからな。このまま逃避行も終わりにしたいよ﹂
﹁だいぶ雰囲気が変わりましたね﹂
なり長い距離を移動したことになっていた。
そして気が付けば辺りの風景は草原から荒地に変わったようで、か
移って貰うことで妥協して貰った。
そんな訳のわからん攻防戦が続いてしばらく、何とか少女を片膝に
﹂
﹁いいから降りろー‼
?
?
ギラギラに輝く太陽を見る。すると太陽を背にしながらこちらに
?
70
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
向かって来る何かを見つけた。よく見るとゲートの遭遇戦に遭遇し
たワイバーンだ。人が乗っていないから野生か逃げ出したかのどち
らかだと思う。脅威はないだろうと考えるがそれは打ち消されるこ
とになる。
そのワイバーンに横から何かが噛み付いたのだ。
ワイバーンを遥かに上回る真っ赤な巨大に力強い翼、そして獰猛な
前に出ろ‼
﹀
黄色の眼球。俺は反射的に無線機を使って全ての車両に通信を送っ
た。
﹂
コンタクト‼
?
﹁戦闘用意‼
︿リーパー00から全隊員‼
無線機からもエースの指示が鳴り響いていた。
?
脱 出 開 始 か ら 3 日、最 悪 の 状 況 で あ る 炎 龍 に 捕 捉 さ れ た
⋮⋮⋮⋮⋮。
71
?
?
コンタクト‼
Mission16:灼熱の力
﹁リーパー00から全隊員‼
前に出ろ‼
﹂
?
﹂
﹁エイリアン退治ならお手の物なんだがな‼
い過ぎる‼
﹂
﹀
任せたぞザイヤー
炎龍をこっちに引きつ
牽制射撃‼
﹂
﹁口を動かす前に手を動かせ‼
けろ‼
伍長‼
︿こちらリーパー03了解です‼
出なきゃこっちがやら
まるで効いちゃいません⁉
?
﹁ルイス‼
﹂
ですがジリ貧です⁉
?
れるぞ‼
﹁分かってます‼
?
キャリバーの弾幕を絶やすな‼
から伊丹が89式小銃2型で牽制しているのが見えた。
伊丹達も前に出て炎龍に攻撃を開始したようで、高機動車の助手席
を引き付ける為に銃撃を開始する。
リーパー03に一般人救出を指示して炎龍をその間こちらに注意
﹀
﹁リーパー03は逃げ遅れた一般人を救出しろ‼
242で仕掛けます‼
?
?
?
︿リーパー02了解‼
こいつはスケールが違
俺はクーガーHEの窓を開けてM417A2を構えて発砲する。
これ以上はやらせはしない。
薙ぎ払い、逃げ惑う村人を次々と捕食していく。
炎龍はキャラバンの中央を奇襲して灼熱の火炎を吐き出し、馬車を
間違いがない。
伊丹から話を聞いていた炎龍とかいう古代龍であるということに
平伏させる獰猛な黄色の眼球。
をする。目の前に現れた赤い巨大に力強い翼、ありとあらゆる生物を
無線機の出力を最大にしてリーパー隊全隊に聞こえるように指示
?
?
?
?
?
?
72
?
?
?
?
?
﹂
﹁中尉‼
ブレスが来る‼
﹂
避けろ‼
奴の口に変化あり‼
﹁まずい⁉
﹂
?
?
﹁くそっ⁉
火力が凄まじい⁉
﹂
40mmグレネードも嫌がる程度にし
﹁25mm砲弾も効果無し‼
﹂
﹂
﹀
﹂
いくら奴でも目は柔らかい筈だ‼
﹁そうか‼
﹀
﹀
﹀
奴の目に火力を集中させる‼
なら効果がある筈だ‼
﹁了解だ‼
﹂
3│1終わり‼
4を奴に食らわせる‼
︿頼んだ‼
こっちも合わせてAT│
﹂
奴の目に火力を集中させろ‼
たっぷり弾を食らわせてやる‼
﹁リーパー00からリーパー隊各員‼
﹂
﹁了解‼
?
どんな屈強な生物であったとしても急所の1つである目に関しては
伊 丹 の 報 告 を 受 け て 全 員 が 一 斉 に 炎 龍 の 目 に 火 力 を 集 中 さ せ る。
対戦車火器
目を狙え‼
このままじゃこっちが本当にやられ
﹂
か効き目がないみたいです‼
ちゃいます‼
無事か⁉
︿3│1からリーパー00‼
﹁伊丹‼
?
︿奴が動きを止めたらパンツァーファウストⅢを使う‼
?
?
?
︿いまエルフの女の子が目を覚まして情報をくれた‼
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
﹁本当に戦車みたいな敵です⁉
?
?
?
?
まともに受けたら一瞬であの世行きになっちまう。
い た。つ ま り あ の ブ レ ス は 6.0 0 0 ℃ 以 上 は あ る。そ ん な も の を
することには成功したが、ブレスを受けた地面は一部が融解し始めて
レスを吹き出して来た。幸いにも直前に動作を察知出来たので回避
こちらに注意を引き付けることには成功したが、洗礼として奴はブ
?
?
?
?
73
?
?
?
攻撃を防ぎ切れない。しかもよく見るとそれを表すかのように奴の
左目には弓矢が突き刺さっており、失明していることがよく分かっ
た。
ロックフォール‼
AT│4を奴
LAM︵110mm個人携帯対戦車弾︶
先程まで何にもひるまなかった炎龍は両手で顔を覆い隠すように
﹂
勝本‼
怯み、動きを止めた。
﹁いいぞ‼
︿動きが止まった‼
﹀
﹂
そのまま速度を保て‼
で仕留めろ‼
﹁曹長‼
﹂
の腹にぶち込んでやれ‼
﹁了解‼
?
?
後方の安全確認﹀
るようだった。
︿おっと‼
‼
﹁Die you son of a bitch
いいから早く撃て‼
全員が思っただろう。
!!
そのハルバートが足もとに突き刺さると一瞬だけ電気が走った直
目掛けて投げた。
バートの少女が屋根に飛び上がり、ハルバートを回転させながら炎龍
んでいた。外すと思ったがいきなり高機動車から報告にあったハル
するが悪路に揺らされたことにより照準が狂い、弾は外れる軌道を飛
そんなことを考えながらロックフォールと勝本はほぼ同時に射出
?
﹂
クフォールはすぐに構えるが無線機で勝本は自衛隊の癖を出してい
上等兵に対戦車兵器のAT│4 CSで仕掛けるように指示。ロッ
軽装甲機動車に乗るサージェント勝本に合わせてロックフォール
?
?
74
?
?
?
?
?
?
?
後に地面が爆発したかのように盛り上がって、外すかと思われた2発
の弾頭はパンツァーファウストⅢが左腕、AT│4CSが右脇腹に命
中。
爆煙を発しながら左腕と脇腹の肉の一部を失った炎龍は悲鳴をあ
げ、翼を羽ばたかせながら逃げていった。
それを確認した俺たちは車列を停止させ、俺もクーガーHEから降
りて逃げ出す炎龍、そして損害を受けたキャラバンを見た。
炎龍撃退の晩、俺たちは丘に炎龍によって犠牲になった148名を
丁寧に埋葬し、黙祷を捧げた。
伊丹達は両手を合わせて俺たちは敬礼。そして俺たちの背後には
親族、友人、恋人を失って悲しみに暮れていたキャラバンがいたが一
番心に刻まれたのは1人の涙を流しつつも必死に堪えようとする少
75
女だ。
母親を亡くし、父親も小さかった頃に流行病で亡くした少女で身寄
りもない。そんな少女に伊丹は歩み寄り、手を頭に乗せて慰める。
炎龍撃退には成功した。
だが心は晴れなかった。銀座にてエミリアを失い、目の前に大事な
人達を失った人達。彼等の気持ちを俺は痛い位に気持ちが分かって
しまう。
暫くの黙祷を終わらせ、キャラバン隊も出発しなければならないが
問題があった。
﹁キャラバン隊は近隣の身内の処に身を寄せるか、どっかの街に避難
するらしい﹂
﹁街 っ た っ て ⋮⋮ 知 り 合 い な ん て い な い だ ろ う に ⋮⋮ 大 丈 夫 な の か
﹂
﹁薄情ですまぬが、こちらも自分のことで手一杯なのでな⋮⋮⋮その
﹁身内が亡くなった子供のお年寄り、怪我人だな﹂
﹁だが一番の問題は⋮⋮﹂
?
﹂
者らのことまで心配してやれぬのだ﹂
﹁見捨てるってことか
俺が村長を睨むように言い放つと、村長は被っていた帽子を脱ぎ頭
を軽く下げた。
﹁⋮⋮⋮あんたらには心から感謝しておるよ。心から⋮⋮﹂
そう言われると俺は暫く村長を見て、続いて伊丹を見る。俺たちは
互いを見て考えが一致したようだった⋮⋮⋮⋮⋮。
76
?
Mission17:恨み
アルヌス攻防戦から暫く、左手足を失ったエルベ藩王であるデュラ
ンは生き残った部下達によりある修道院に運び込まれた。
自身の身体の一部を失ったことはいい。戦場に出るなら命を落と
す覚悟をしていたから生きているだけまだ良かった。しかし彼は何
よりも自身を信じていた部下達を瞬く間に喪ったことに心を痛めて
いた。
彼はもとから60を超える年齢ではあったが前の黒く歳を感じさ
せなかった黒髪は白髪になり、覇気も無くなっていた。
そんなデュランの下に1人の来客が現れた。
赤髪の髪を束ね、騎士団の標準的な女性騎士の装備を身につけた赤
い瞳をした幼さが見える女性。
ピニャ・コ・ラーダ。
からは帝国に対しての
恨み
薔薇騎士団
を率いてアル
が存分に込められていた。
77
皇帝第3皇女の地位に位置する皇帝と側室の間に産まれた女騎士
で、皇帝の指示で自らの騎士団である
ヌスに陣取る連合特地派遣団の偵察の為、道中でデュランの存在を見
つけてこの修道院に立ち寄ったのだ。
﹂
ピニャは目の前に寝台で横になった獅子に言葉を詰まらせていた。
﹁⋮⋮⋮デュラン陛下﹂
﹁⋮ピニャ殿下か⋮⋮何故ここに参られた
⋮⋮⋮我ら諸王国軍に何が起きた
⋮⋮ 姫 は ア ル ヌ ス で 何 が 起 き た の か ご 存 知 で は な い の か
高貴なお方がおられると聞きつけ、立ち寄った次第であります﹂
﹁情 報
⋮⋮何も知らされておらぬのか
のか⋮⋮﹂
?
﹁無論、アルヌスのことです。アルヌスに関する情報を散策中、ここに
?
デュランはピニャを睨みつける。覇気は失われたとしても、その瞳
?
?
﹁隊列の中衛にいた儂は、アルヌスの丘が吹き飛ぶような爆発を目に
した。まるで火山噴火だ⋮⋮⋮だが前触れの地震はなく、気がつけば
﹂
目の前に広がったのはアルグナとモゥドワン両軍の死体が辺りを埋
め尽くしておったよ⋮⋮﹂
﹁両国の王は⋮⋮どうなされたか
﹁⋮⋮⋮⋮死んだよ﹂
﹁何ということか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
つまり皇帝は我等の始末を敵に押し付けたのだ﹂
障りとしておったのであろう
帝国は我等よりも早く敗走していたのであろう
健在な我等を目
帝はこうなることを知っておったのだろう⋮⋮⋮⋮。
﹁姫⋮⋮⋮連合諸王国軍は最後まで戦い抜いた⋮⋮じゃが帝国は⋮皇
﹁何故で⋮⋮何故なのですか
﹁ふん⋮⋮もはや帝国に世話になろうとは思わぬ⋮⋮﹂
故、一先ずは我等の下で体力の回復を図って下さい﹂
﹁陛 下 ⋮⋮ す ぐ に 帝 都 に 使 者 を 送 り ま す。医 師 と 馬 車 を 手 配 し ま す
この寝台の上ということだ⋮⋮﹂
じゃ⋮⋮細い鉄で出来た茨に遮られ、気がつけば儂は左手足を失って
﹁そして我らは一矢報いる為に3度目に夜襲を仕掛けたが見ての通り
?
?
慢な盾を手にし、不義なる心で儂の前に立つではない。
もはやお怒りを鎮められよとは申しませぬ‼
しかしせめ
﹁すぐに立ち去るがよい姫⋮⋮⋮不実の鎧を身に纏い、欺瞞の剣に傲
ンに問いかけた。だが先にデュランが口を開いた。
ず後ずさりしようとしたが、何とか押し留めて凛とした姿勢でデュラ
いつの間にか敬称を無くし、怒りを見せるデュランにピニャは思わ
場⋮⋮⋮アルヌスの敵と戦い、どうなったのか⋮⋮⋮ご存知の筈だ﹂
﹁知らなかったとは言わせぬよ姫⋮⋮⋮姫も皇帝の一族に身を置く立
?
78
?
?
そして我等の真の敵は背後⋮⋮⋮帝国なる﹂
﹁陛下⁉
?
てどうか敵についえ教えて頂きたい‼
﹂
﹂
敵はどのようなものであり、
どのような魔導を駆使し、どのような戦運びをしたのてすか⁉
﹁触れるでない‼
その事実に気付き⋮真に悔い改め慈悲を乞うても誰も応じはせぬ。
伸べる⋮⋮⋮。貴様ら帝国とは比べ物にもならぬのだ⋮⋮。
足元にも及ばぬ力を持ち、手傷を負った兵に慈悲を持って救いの手を
儂は敵に恨みは持っておらぬ⋮⋮⋮寧ろ感心を持った。帝国など
らの軍勢はそなたらを遥かに上回る力を持っておる。
﹁帝国は力をもって好き放題してきた⋮⋮⋮だがアルヌスの異世界か
﹁ぐっ⋮⋮⋮﹂
がて自らに帰るということを知るがよい﹂
やれるものならやってみよ⋮⋮偽りしかない剣を振るう業は⋮や
愚かということか⋮⋮。
﹁ふん⋮⋮⋮戦を何も知らぬ小娘が⋮⋮皇帝が皇帝ならば娘も同じく
ましょう﹂
けないならば我等はエルベ藩王国を逆賊とし、悉くを焦土としてみせ
﹁⋮⋮そうは参りませぬ。何としても情報を教えて頂きます。もし頂
あらぬ﹂
特に我等をこのようにした皇帝の娘たるそなたに教える情報など
う⋮⋮そなたの私兵の血肉を犠牲にすれば知るこてが出来ようぞ。
牲にした⋮⋮ならば知りたくば姫自らがアルヌスに向かえば良かろ
﹁もはや帝国に手助けなどせぬ。それに儂は敵を知る為に我が身を犠
殺意を込めながら睨みつけた。
ニャの腕を振り払い、帝国に対する怒りを隠そうとしないデュランは
な ん と か 情 報 を 引 き 出 そ う と し て デ ュ ラ ン の 肩 に 手 を 置 い た ピ
?
?
﹂
その時になって⋮⋮⋮帝国に降り注ぐ死神の鎌を眺めるがよい‼
‼
?
79
?
これまでにないデュランの怒りにピニャは言葉が出なかった。
?
力を持って権力や腕力を持って屈服させれても、人心という城壁を
崩すことは叶わない。もはやデュランから情報を得ることができな
いと判断したピニャは諦めて修道院を後にした。
ピニャの心に残ったのは頑ななデュランに対する怒り、諸侯にここ
まで離反させる父への憤懣である。
修道院を出ると自身の腹心であるハミルトン・ウノ・ロー、薔薇騎
士団にて数少ない男性騎士で自身の叔父のような存在であるグレイ・
﹂
コ・アルド、兄のような感覚のノーマ・フレ・ガウが待っていた。
﹁姫様、騎士団でアルヌスに突撃なんて言いださないでしょうね
﹁承知しました姫﹂
かう。
そう判断したピニャは自らが率いる斥候を率いてイタリカへと向
治していた前フォルマル伯爵とは面識があったから損はない。
にあるのなら立ち寄ってもある程度の休息が出来るし、イタリカを統
道中にて何か情報が転がっているかも知れない。アルヌスの道中
﹁イタリカか⋮⋮⋮﹂
﹁ここからならばアルヌスに向かう道中にイタリカがあります﹂
﹁グレイ、この先に街はあるか
﹂
ばならない。ノーマ、伝令を出して本隊に移動の指示を送れ﹂
﹁妾もそこまで馬鹿ではない。だが何にせよアルヌスに向かわなけれ
?
帝国の歯車が急速に且つ複雑に噛み合い、ピニャ達に運命的な出会
いが待ち構えていた⋮⋮⋮⋮⋮。
80
?
Mission18:イタリカへ
伊 丹 2 尉 が 指 揮 す る 第 3 偵 察 隊 と エ ー ス 中 尉 が 指 揮 を す る リ ー
パー00による炎龍撃退は瞬く間に連合派遣団内部に伝わった。
しかも伊丹2尉は複数の難民を引き連れていて、そのまま難民達の
保護・観察役を命じられたらしい。
無線機の不調で連絡が行かなかったと説明しているようだが謙虚
な日本人だ。難民を放り出されることを考えて定時連絡をせず、なし
崩しで難民を受け入れざるを得ない状況を作り出したのだろう。
俺には到底出来ない仁徳に則ったやり方だ。流石は侍の国だよ。
偵察任務の再開を命じられた俺は引き続き戦車隊を利用した地形
調査を兼ねて北部へと向かっていた。
﹁高雄01からアルヌス指揮所。現段階で異常は見当たらない。この
まりがいいでしょうから美味いかもしれないですね﹂
81
まま地形調査を実施する﹂
︿こちらアルヌス指揮所、了解した。なお、自衛隊部隊にアメリカ海兵
隊1個チームが同行して避難民の商取引の為にイタリカへと向かっ
たとの報あり。問題は無いだろうが頭に入れておいてくれ﹀
﹁高雄01了解﹂
無線にて定時連絡を入れて現段階を伝える。まぁ今の段階で変わ
﹂
な
らず異常なしだがな。問題があっても困るが、逆に退屈過ぎるってい
うのも嫌なものだ。
﹁中尉、商取引ですか
﹁らしい。遭遇戦で叩き落としたワイバーンの死体があっただろ
⋮⋮ちょっと想像できないですね﹂
?
まぁ翼の付け根あたりは筋肉が締まってるだろうし、足も筋肉の締
﹁ドラゴンのステーキですか
しいし、肉も中々の珍味らしいぞ﹂
んでもこっちでは翼龍って呼ばれてて鱗や皮、骨は高く取引されるら
?
?
﹂
﹂
﹁だけど周りにあった死骸には手をつけるなよ呉。お前はよく食うか
ら拾い食いなんてすんなよ
俺もそこまで意地汚くなんかねぇぞ袁‼
﹁ひっでぇ‼
?
?
﹂
?
﹁ち⋮⋮中尉も⁉
﹂
なったんだがな俺は⋮⋮⋮﹂
﹁因みに付け加えれば不届きで連帯責任で一緒に始末書を書く羽目に
﹁うぐっ⋮⋮⋮﹂
末書書かされたのは誰だったかな
前に腹が減ったからって厨房にこっそり忍び込んで始
﹁そうかぁ∼
?
﹂
?
﹂
コバルトなんかは当時
悪戯好きのコボルトが工夫を困らせる為に
加工技術が未発達なのならば仕方がない。ドイツにて発見された
ダイヤの出来損ないとされているようですね﹂
では金、銀、銅、宝石位しか利用価値がないようで、コバルトなどは
﹁カトー先生によると活用方法が見当たらないらしいです。この世界
を利用しないんだ
﹁どれもマイナーメタルじゃないか⋮⋮なんでこの世界の連中はここ
ゲルマニウムの3種類が少しだけ見つかったようです﹂
地を選んでいる時にショベルカーで掘ってみたらコバルトやクロム、
﹁はい。仲良くなった施設科から聞いたんですが、難民キャンプ予定
鉱物資源が見つかったって本当か
﹁そういえば林、アルヌス近郊を自衛隊が試し掘りしてみたら貴重な
現に今でも奴の大好物である日本の焼いた握り飯を食べている。
えられたが、俺も監督不届きとして始末書を書かされる始末だ。
呉は始末書を書かされて1ヶ月間の戦車格納庫清掃という罰を与
トが台無しになった。
として見つかったという前科があり、しかも来賓に出す予定のデザー
別に構わないが前に基地にある厨房に忍び込んでつまみ食いしよう
大食いで燃費が悪い呉はいつも何かを食べている。それだけなら
?
?
82
?
魔法をかけた
と云われている位だ。
だったら金銭で使われる金貨、銀貨、銅貨、更には装飾品に使われ
るダイヤモンドやルビーなんかの宝石を重宝したほうがいいだろう。
﹁しかしもったいない話だな⋮⋮俺たちの世界だったら各国が喉から
手が出る位に欲しがるものだってのに⋮⋮﹂
﹁まぁ、この世界で発見された資源は友好国を含めて分割するって話
﹂
でまとまったみたいですからね﹂
﹁中国のくそったれ共にもか
﹁そのことを公表したら案の定、中国と朝鮮がイチャモンを付けてき
たようです。なにも提供しない癖に資源は奪い取ろうとしてる⋮⋮。
頭に来たらしくて政府は3カ国に資源分割に名前を外したようです﹂
﹁当然だろうな。働かざるものは食うべからずって奴だ﹂
﹁あの国にマイナーメタルなんて勿体無い﹂
﹂
﹁よし、きな臭い政治の話はそこまでにしておけ。呉、確か北に向かっ
たらイタリカっていう街があるんだよな
︿04了解﹀
︿03了解です﹀
︿高雄02了解﹀
せよ﹂
﹂
﹁高雄01から各車。これより移動する。各車は不意の遭遇戦に注意
﹁了解です﹂
するぞ﹂
テッサリア街道とイタリカが双眼鏡で見えるらしいからそこで野営
﹁呉、地図によればいまいる谷を抜ければ森に入る。森を抜けた先に
﹁分かりました中尉﹂
だけにしておこう﹂
近くまではいくが街には入らないから遠くから双眼鏡で様子を伺う
﹁戦車1個小隊が堂々と街に入ったら街の人達を脅かすことになる。
つのようですが、俺たちも向かいますか
﹁はい、イタリカという街で穀倉地帯に囲まれた帝国を支える街の1
?
?
83
?
無線で僚車に指示したら、呉がアクセルを踏んで野営予定場所へと
向かう。穀倉地帯に位置するイタリカ。暫くしてから俺の運命が回
り始める⋮⋮⋮⋮⋮。
84
Mission19:運命の交差
穀倉地帯イタリカ。
帝国を食糧面で支える重要な地域の1つとされ、その豊富な水源や
豊かな地形で他の街と比べても非常に裕福とされる。しかも代々統
﹂
治しているフォルマル伯爵はヒト種以外の種族も積極的に雇い入れ
城壁に取り付かせるな‼
ていたこともあって街中には様々な種族がいた。
だが⋮⋮⋮。
﹁なんとしても抑えろ‼
やがて敵は今の段階で突破は困難だと判断し、損害が広がる前に退
にイタリカ住民から募った志願者部隊の指揮を執っていた。
イタリカに立ち寄っていた第3皇女のピニャは自身の腹心達と共
だが確実な戦術を駆使している。
的な突破口であるか判断し、そこを重点的に攻め込むといった基本的
を受けた正規兵。防御している勢力と実際に戦って、どこが最も有効
て敗走した連合諸王国軍の敗残兵だからだ。盗賊とはいえ元は訓練
いま襲って来ている盗賊はアルヌスの丘にて行なわれた攻防戦に
利だが今回は違った。
飛び交う矢に投げつけられる石。普通の盗賊ならば守備する側に有
そ の イ タ リ カ に 大 量 の 武 装 し た 盗 賊 団 が 戦 を 仕 掛 け て き て い た。
?
﹂
﹂
却命令を出し、盗賊達は素直に退却を開始する。それを見ながらピ
怪我はないか⁉
﹂
ハミルトン‼
ニャは後ろを振り向いて損害を確認する。
﹁ノーマ‼
﹁何とか生きてまーす‼
﹁ひ⋮⋮左に同じく無事です⋮⋮﹂
?
﹁薄情ですなぁ姫⋮⋮⋮小官の心配はして頂けぬのですかな
﹂
?
?
﹁貴様は無事だというのは分かりきってるからなグレイ﹂
﹁ははははははっ‼
?
85
?
?
?
階段を下りながら無傷のグレイに話し掛けるピニャ。確かに彼の
身体には全く傷がなく、肩に担がれたクレイモアには敵を斬り伏せた
際に付着した返り値でびっしりだった。
グレイという職業軍人は庶民の出身でピニャ達にとって父親のよ
うな存在だ。だが貴族でないという理由だけで騎士補という功績に
は不釣り合いの不遇を受けている。そこで長年の付き合いである皇
帝に幼少の頃からピニャに付き従って今に至る。
なぜアルヌスへの偵察に向かっているピニャ達がここで指揮をし
ているかというと、理由はピニャ本人の勘違いだ。
ここイタリカに武装勢力が出現したという情報を入手し、それがイ
タリカに侵攻してきた連合特地派遣団だと思い込んで、いざ来てみた
ら盗賊と化した連合諸王国軍の敗残兵だった。だが盗賊が出現した
ということには変わらないので、仕方無くピニャが指揮を執ることに
敵か⁉
お越し下さい﹂
﹂
グレイにそう言われてピニャは濡れた身体を拭き、急いで装備を身
につけると南門へと足を運んだ。そして先に南門にて覗き窓で外を
確認していたハミルトンに駆け寄った。
86
なったということだ。
ハミルトン達に馬防柵を復旧するように指示するとピニャは伯爵
邸に向かい、そこで簡単な食事を摂ると客間にて仮眠を取る。
﹂
だが暫くしてからピニャは叩き起こされることになる。
﹁きゃっ⁉
﹁どうした⁉
?
﹁分かりませぬ。はたして敵か味方か⋮⋮⋮とにかく身繕いをされて
?
レイにバケツを手にしているメイド長がいた。
思わず可愛らしい声を出しながら起きたピニャ。彼女の前にはグ
?
﹁どうしたハミルトン
﹁なんだあれは⋮⋮﹂
両群に誰何を始める。
﹂
車両が鉄であると判断したピニャ。すると城壁にいたノーマが車
﹁いや⋮⋮⋮あれは鉄だ﹂
﹁も⋮⋮木攻車ですかね
﹂
だが車両の存在を知らないピニャ達は困惑していた。
クに高機動車、軽装甲機動車、そして海兵隊のクーガーHEだ。
には緑色の物体3つと砂色の物体⋮⋮⋮自衛隊の73式小型トラッ
ハミルトンに言われてピニャも覗き窓から外を見る。するとそこ
﹁分かりません。外をご覧ください﹂
?
敵でないなら姿をみせよ‼
﹂
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
﹁何者か⁉
?
でワイバーンの鱗を売りに来たロゥリィと意識を取り戻したエルフ
のテュカの護衛と商取引の確認でイタリカにやってきたのはいいが、
イタリカ方向に煙が上がっていたことに気がつき、急いで駆け付ける
と戦があったようだ。
それを高機動車の助手席で俺は状況を確認する。
﹁完全に警戒してるなぁ⋮⋮﹂
﹁そりゃそうっすよ。この世界に車なんてないんですから⋮⋮ですけ
87
?
どうやら戦い自体は終わっているようだった。レレイのアイデア
?
他に街があるならそっちに向かおうか
どどう考えても戦闘があったみたいですね﹂
﹁あぁ。どうするレレイ
﹂
?
﹂
﹁あ そ こ に い る 男 ⋮⋮ ど う 考 え て も 帝 国 の 騎 士 だ。敵 が い る ん だ ぞ
話し掛けて来たが、その表情は少し怒りが見えていた。
レレイに話し掛けていると今回は俺たちと同乗しているエースが
﹁⋮⋮⋮⋮伊丹﹂
いい﹂
﹁ダメ。それに門なら東西にもある。ダメだったら他の門から入れば
?
﹁まぁ落ち着きなってエース。向こう側は俺たちのことを知らないみ
たいだし、手を出すのは流石に不味いって﹂
﹁だが敵であるっていうことは変わらん。クソ共を一網打尽にすべき
だと思うがな⋮⋮﹂
﹂
﹁今はダメ。戦いの直後で街の人達は苛立ってる。下手に刺激しない
ほうがいい﹂
﹁⋮⋮⋮いいだろう。だが街に入るのか入らないのかどうすんだ
﹁ここで待ってて。私が行って門を開けるように伝えてくる﹂
﹁あらぁ⋮⋮だったら私も行くわ。なんだか面白そうだし﹂
わ﹂
﹁だ っ た ら 私 も 行 く わ。一 応 は 矢 避 け で 風 の 守 護 魔 法 を か け て お く
?
﹂
そう言うとレレイ、テュカ、そしてロゥリィの順番で車外に出る。
﹂
再びエースを見てどうするか話しかけた。
﹁どうするんだ伊丹
﹁俺も行くべきだと思うんだが⋮⋮エースはどうする
﹁あの3人が心配だ。護衛として俺も同行する﹂
﹁了解です﹂
﹁了解。桑原曹長、車両隊はここで待機。指揮を任せた﹂
?
?
88
?
﹁リーパー00から01。これから城門に向かうが現在地で待機。だ
がいつでも反撃出来るようにしておけ﹂
︿リーパー01了解﹀
それだけいうとエースはM417A2を背中に預け、手にM870
MCSを持って後部から外に出る。俺も海兵隊から間借りしてる
M320A1を取り付けた89式小銃2型を手にして外に出る。
﹂
そしてレレイ達と共に城門に辿り着き、ノックをするが反応が無
かった。
﹁⋮⋮⋮⋮出ないな﹂
﹁苛立たせる奴等だ⋮⋮﹂
﹁短気なのは感心しないわねぇ﹂
﹁分かってる。帝国野郎が気に食わんだけだから気にすんな﹂
うテュカ﹂
﹁そうだろうな⋮⋮⋮もしも∼﹁よく来てくれた‼
﹂ぎゃんっ⁉
﹂
?
扉 が 直 撃。唖 然 と す る み ん な を 見 な が ら 意 識 が 遠 く な っ て い っ た
⋮⋮⋮⋮⋮。
89
﹁エース、分かってるとは思うけど変に刺激なんて与えんなよ
﹁見くびるな伊丹。部下達を危険に晒したくはないからな﹂
﹂
﹁了解⋮⋮⋮だけど中々出ないな⋮⋮⋮﹂
﹁どうしたのかな
?
もう一度ノックをしようとした矢先、いきなり扉が開いて俺の顔に
?
﹁戦闘があった直後だ。いきなり現れた俺たちに警戒してるだけだろ
?
Mission20:不本意の共闘
イタリカに到着した俺たち。だが到着する少し前まで盗賊団と戦
闘が行なわれていたようであり、その防衛の指揮を執っていたのが仇
である帝国だった。
エミリアを殺した敵が目の前にいる。
本当なら問答無用で奴等を八つ裂きにしてやりたい。しかも指揮
官が指導者である皇帝の帝国第3皇女だっていうんだから尚更殺し
てやりたい。だが軍人としての矜持がそれを許さないし、部下達を危
険な目に合わせられない。
頭では理解しているんだが心では非常に不満だ。
俺はクーガーHEにもたれ掛かりながら辺りを見渡していた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
柵を修復する住民に桑原曹長と話をしている帝国の男だ。
﹁戦線布告はしていなくて、正式に敵対してはいないが⋮⋮⋮憎むべ
﹂
き テ ロ リ ス ト が 目 の 前 に い る ん だ。そ れ を 拘 束 出 来 な い な ん て な
⋮⋮⋮﹂
﹁そうですな⋮⋮⋮⋮亡くなられた奥様のことでしょうか
﹁あぁ⋮⋮⋮妻を殺した奴等の仲間が目の前にいるってのに⋮⋮⋮く
?
90
﹁いかがなされましたかな中尉
﹁コーエンスか⋮⋮周りの状況はどうだった
﹁そうでしょうな⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁それほど街を守りたいんだろうな⋮⋮⋮﹂
は志願者のみ⋮⋮持ち堪えられているのが奇跡です﹂
﹁酷いもんです。正規軍は彼女達以外にはおらず、街を守っているの
?
?
﹁⋮⋮⋮曹長、お前は平気なのか
﹁何がでしょう
?
辺りを見ながらコーエンスに話し掛ける。周りには防御用の馬防
?
そ⋮⋮﹂
﹁とにかく落ち着いてはどうでしょうか
伊丹が帰ってきた。
﹁よぅ伊丹。お嬢さん方の収穫は
﹂
﹂
本心をコーエンスに打ち明けているとここの領主と話をしていた
⋮⋮⋮伊丹が戻って来た﹂
﹁⋮⋮⋮ ま ぁ な ⋮⋮ 次 に 来 る と き は 奴 等 を 拘 束 す る 時 だ と 信 じ よ う
終りましたら直ぐに引き上げることになりましょう﹂
﹁人という存在故の話でしょうな⋮⋮しかし少しの辛抱です。商談が
くなるばかりってことも理解はしてるが⋮⋮それでもな⋮⋮﹂
﹁頭では理解してはいるが⋮⋮無闇に戦闘ばかりしていたら治安が悪
?
た﹂
﹁⋮⋮⋮なに
﹂
﹂
﹁そ こ で だ ⋮⋮ 俺 た ち も 残 っ て 帝 国 の 姫 さ ん に 手 を 貸 す こ と に な っ
﹁みたいだな﹂
﹁今この町は臨戦態勢に入ってて、商取引処じゃないんだ﹂
﹁どうしたのでしか2尉
﹁あ∼⋮⋮⋮実はその事なんだがな⋮⋮﹂
?
﹁だから俺たちも残って南門を守備することになった。アルヌスには
﹂
連絡して朝に追加支援を受けれることに﹁伊丹﹂⋮⋮⋮やっぱり不満
なのか
を申し出たんだろ
﹂
だが納得出来ないのは帝国野郎に力を貸さなければならないことだ﹂
﹁それに関しては俺も賛成だ⋮⋮盗賊のしてることは許せない⋮⋮⋮
﹁あぁ、力の無い人達を守るっていうのは自衛官の基本概念だからな﹂
?
91
?
伊丹の言葉に思わず聞き直してしまう。
?
﹁お前のことだ⋮⋮⋮街の人達を盗賊から守りたいという理由で助力
?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
伊丹の考えは理解している。こいつはいざって時に自分を犠牲に
してでも誰かを守ることが出来る戦士だ。だからこそ敵に手を貸す
ことに理解できなかった。
﹁帝国は俺たちの敵だ。本来なら俺たちは第3勢力として両方の勢力
﹂
と戦わなければならない筈だ。なのに何故敵国の姫に手を貸さなけ
ればならないんだ
ろ
敵の敵は味方
テロリストに力を貸すことにお
敵に手を貸す屈辱を⁉
ってね﹂
﹁お前は何とも思わんのか⁉
の世界では奴等はテロリストだ‼
﹂
?
﹁なんだと
﹂
たら逆に思い切り見せつければいいんだ﹂
﹁街の人を守る為なら安い考えだ。それに力を貸すことになるんだっ
前は何とも思わんのか⁉
それに俺たち
﹁だが街の人達を守る為なら手を貸すしかない。それに昔からいうだ
?
﹂
?
はしておけ﹂
⋮⋮テロリストに手を貸したお前もタダじゃ済まされないから覚悟
奴等が少しでも妙な真似をしてきたら問答無用で奴等を撃滅させる
﹁お前の考えに敬意を表して⋮⋮今は帝国への刃を収めてやる。だが
2を手に取り、奴の直ぐ前に歩み寄った。
これ以上は無駄だと判断した俺は溜息を吐きながらHK417A
﹁⋮⋮⋮⋮いいだろう﹂
﹁あぁ。俺たちと喧嘩するより仲良くした方がいいってね﹂
﹁理解⋮⋮⋮だと
になる。だからあの姫さんに理解してもらうんだ﹂
湾軍も援軍を送るように頼むって言っておいたからかなり凄いこと
﹁アルヌスから追加支援で多分だけど第4戦闘団が来る。海兵隊や台
?
92
?
?
?
?
そ れ だ け は っ き り 伝 え る と 俺 は 持 ち 場 で あ る 南 門 の 城 壁 へ と 上
がった。
俺は復讐の鬼だ。
復讐を遂げなければならない相手が目の前にいるっていうのに何
もできない。しかも妻を殺した奴等に手を貸さなければならないな
んて信じられん。
だが俺は軍人だ。一般人を守らなければならないということも分
かってるし、盗賊がまた襲ってくるっていうのも分かりきったこと
だ。
今は伊丹に免じて不本意ながら共闘してやる。
だが俺は奴等を信用しない。絶対にな⋮⋮⋮⋮⋮。
93
Mission21:戦う理由
なんでこうも面倒に巻き込まれちゃうのかな
イタリカに到着してすぐ衝撃的な出会いとして帝国の第3皇女ピ
ニャ・コ・ラーダがいて、フォルマル伯爵邸で話をしたら俺たちも街
の防衛に力を貸すことになったけど、その後が問題だった。
同行してるエースは奥さんを殺されたことで酷く帝国を憎んでる
し、何とか説得したけど納得はしていない。おまけに万一にはすぐ姫
さんを射殺できるようにもしてるらしい。
奥さんを殺された気持ちは分かるけど、今はことを荒立てないで貰
いたいよ。
数は5∼600と
あれは間違い無く斥候だろ
そんなことを考えながら俺は城壁で双眼鏡を使って前方の森の入
﹂
り口付近を観測している。
﹁隊長、見えますか
﹁あぁ、森の切れ目付近にいる人影だろ
うな﹂
﹁数 は 4 騎 ⋮⋮ そ の 後 ろ の 森 に 本 隊 で し ょ う か
いった処でしょう﹂
﹁あぁ。だけどピニャさんからの情報では襲って来た賊の数は3,0
00程らしく、街を包囲するには少なすぎます﹂
﹁あの姫さんは南門から攻め込んで来るって踏んでるけど、俺は南門
この南門は一度突破寸前にまで損害を受けている
には来ないと踏んでる﹂
﹁何故ですか隊長
らしいですし、切り立った崖がある北側を除くとして残り3箇所の何
﹂
処かに戦力を集中させてくる筈⋮⋮普通に考えたら戦力が低下して
るここを狙うのでは
?
て⋮⋮敵は俺たちの存在を知ってる筈だからね﹂
﹁戦い方と恐ろしさを知ってるということですか
﹂
だって聞いて確信したよ。間違い無く敵は東西のどっちかに来るっ
﹁俺も初めはそう考えたさ。けど賊がアルヌスの丘で戦った敵の残党
?
94
?
?
?
?
?
﹁そう。あの姫さんは敵の思惑にまんまと引っかかっちゃってるって
訳だよ﹂
これを考えた敵の指揮官はなかなか優秀みたいだ。普通なら防備
が薄い箇所を攻撃するのに、俺たちの存在を知ってすぐに思考を切り
替えて、敢えて防備が厚い箇所を攻め込む。
普通なら俺たちも東西に戦力を分散させるべきだろうけど、目の前
に敵がいるんだから離れる訳にもいかない。実戦経験が乏しくて視
野が狭い姫さんには荷が重い相手だ。
﹁となると⋮⋮⋮我々はつまり⋮⋮﹂
﹁あぁ、俺たちは囮⋮⋮敵を誘い込む餌だ。一度は突破された城門か
ら敵を誘い込んで奥の2次防衛線を決戦場にするつもりだよ。あの
姫さんは⋮⋮⋮﹂
﹁なるほど⋮⋮⋮問題であるということに変わりはないですが、一番
の問題は⋮⋮﹂
﹁エースだな﹂
﹁アルヌスに攻めて来た一団の敗残兵だと聞いた中尉はあれからます
ます帝国への敵愾心を強めていられるようです﹂
﹁もし自分達が捨て駒だって知ったらあいつ間違い無く発狂するだろ
うな﹂
﹁ですね⋮⋮⋮自分は下にいってLAVのキャリバーを外す作業に向
かいます﹂
﹁了解﹂
そうすると富田は階段を降りて下に停車しているLAVへと向か
う。その入れ違いで今度は栗林がこっちにやってきた。
﹁隊長、V8B︵個人用暗視装置 JGVS│V8│B︶持ってきまし
た﹂
﹁おっ、サンキュー。古田、突撃破砕線は城壁に沿う形で。海兵隊にも
95
﹂
それに合わせてクレイモアを設置するようにってことも﹂
﹁了解﹂
﹁ねぇ伊丹
﹂
嵌らないな﹂
振り返るとロゥリィがこちらに振り向き、話しかけていた。
﹁なぜ敵側の姫様を助けるの
﹂
﹁エースにも言ったけど、街の人を守る為だよ﹂
﹁ふふっ。本気で言ってるの
﹁そういうことになってる筈だよ⋮⋮⋮ってあれ
﹁兜かして⋮⋮持ってあげる﹂
﹁おぉすまない﹂
置する。
﹁理由が気になるのか
﹂
ロゥリィの申し出に俺は88式鉄帽を預け、しゃがんでV8Bを設
?
?
?
﹁
﹂
﹁⋮⋮⋮この街の人達を守る。これは嘘じゃない⋮⋮けどもう一つ﹂
被らせて貰う。
ロゥリィの問い掛けに俺は軽く笑みを浮かべながら彼女に鉄帽を
から⋮⋮﹂
けど⋮⋮だから動機は本当に大切なの。偽りは魂を穢すことになる
﹁エムロイは戦いの神⋮⋮戦神は人を殺めることを否定しないわ。だ
?
さんに理解して貰う為さ﹂
﹁ふふっ⋮⋮気に入った﹂
全身から湧き出る恐怖を‼
あのお
?
﹂
恐怖‼
?
﹁へ
﹁気に入ったわそれ‼
?
?
96
?
﹁俺たちと喧嘩するより、仲良くした方が得だってことを⋮⋮あの姫
?
姫様に刻み込むのね‼
﹂
なにを勘違いしたのか、ロゥリィは嬉しそうに回りながら飛び回
り、停止するとスカートをちょんと摘んで軽くお辞儀をする。
というかスカートの中が見えてるよ
に当たる。そして交代で仮眠をとった後の0311、東門から戦闘開
なにはともあれロゥリィの協力を得れた俺は引き続き南門の警備
ロゥリィって実は天然じゃないのか
﹁い⋮⋮⋮いやぁ⋮⋮違うんだがな⋮⋮﹂
楽しみぃ♪﹂
﹁そういうことなら是非協力させて貰うわぁ♪私も久々に狂えそうで
?
?
始の火矢が降り注いだのを確認した⋮⋮⋮⋮⋮。
97
?
Mission22:ワルキューレ達の飛翔
アルヌス基地は慌ただしくなっていた。イタリカに赴いている第
3偵察隊の伊丹から支援要請を受けたからだ。
とLAV│25A2。
ライトタイガー
ア
と9
格納庫前では10数機のヘリが出撃準備を整えており、車両の停車
クーガー
場では第1混成戦闘団の89式装甲戦闘車
6式装輪装甲車
。
第2水陸戦闘団のAAV7A1/15式水陸両用装甲戦闘車
ムトラック
第3機甲戦闘団の74式戦車G型改 特地派遣団仕様と台湾軍の
M60A3TTSが暖機運転の状態で待機していた。
自衛隊が主力となる連合特別地域派遣団は合計で6つの戦闘団で
構成されており、全ての戦闘団に日米台の戦力がバランスよく配備さ
れている。台湾軍は戦車部隊のみの派遣であるから必然的に第3機
第3機甲戦闘団の徳田 健一1佐の志願に第4空中強襲戦闘団の健
軍 俊也1佐が静止させる。
98
甲戦闘団に編入されて連携もかなり取れている。
格納庫に集められた各戦闘団長は前にいる狭間陸将を休めの姿勢
で待機していた。
﹁現在、第3偵察隊がイタリカの代表ピニャ・コ・ラーダ氏からね要請
で追加支援を求めて来ている。敵は大規模な盗賊で、その前身は先の
﹂
戦いで発生した敗残兵で構成されているようであり、一般市民が危険
に晒されているとの報告がある﹂
﹂
?
すぐに出撃出来ます‼
敵を纏めて吹き飛
?
﹁ぜひ我等第1戦闘団に行かせて下さい‼
﹁第2水陸戦闘団編成完結‼
﹂
?
?
﹁火力で圧倒するならば我等第3機甲戦闘団を‼
﹂
ばしてみせます‼
﹁駄目だ‼
?
第1戦闘団の加茂 直樹1佐と第2水陸戦闘団の住谷 剛志1佐、
?
﹂
﹁地面をちんたら移動してたら到着に時間が掛かりすぎる‼
ぜひ我等の第4戦闘団の出撃を命じて下さい‼
陸将‼
?
﹂
﹁マリーンズはどうだ⁉
﹂
キーア中佐‼
﹂
﹂
?
﹂
﹁大音量スピーカーとコンポとワーグナーのCDを用意しています‼
?
ベトナムに返り咲いて見せましょう‼
﹁私達も準備完了‼
用賀2佐‼
﹁パーフェクトだ‼
﹂
カーネル健軍‼
?
?
?
﹁ありがとうございます‼
?
﹁感謝の極み‼
?
?
歯軋りして羨ましがっていた。
それが現実的な選択だからな‼
﹁第4空中強襲戦闘団に出撃を命じる‼
だから今は速度が必要だ‼
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
絶対に儂らもなんか
次回こそは是非とも我々に出番を下さい‼
?
﹁ぐぬぬぬ∼⁉
﹁ずるいで健軍‼
﹁陸将‼
流しながら進軍したる‼
儂かて暴れたいんやから‼
﹁という訳だ加茂、住谷、徳田。悪いが今回は留守番を任せたぞ
?
?
﹂
⋮⋮⋮
敵に我々の恐ろしさを今一度思い知らせて来ます‼
この後の展開が予想できるな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮こいつら⋮キルゴア中佐の霊に取り憑かれたのか
?
出撃命令を受けてヘリに次々と乗り込んでいく第4空中強襲戦闘
?
﹁了 解 で す ‼
盗賊に突入を開始する手筈になっている﹂
雄隊が戦車にて地形調査をしている。彼等も健軍の突撃に合わせて
﹁なお、幸いなことにイタリカから20km離れた場所に台湾軍の高
?
?
?
?
?
?
盗賊の再出現は時間の問題
に激励を飛ばす健軍1佐。それとは反対に加茂、住谷、徳田の3人は
準備万端でここに来た用賀2佐と海兵隊のウィリアム・キーア中佐
?
?
?
99
?
?
?
団隊員達の使う作戦を簡単かつすぐに予想出来てしまい、眉間を摘み
ながら小さく口にする。
調査と防衛を主体とする第5軽装戦闘団と比べて他の戦闘団は今
ま で 出 番 が 無 か っ た。だ か ら 今 ま で の 鬱 憤 を 晴 ら す 為 に 出 撃 し た
かったんだろうが、健軍も何だか嬉しそうに88式鉄帽を被ってUH
│1Jに乗り込んでいく。
シーナイト
、OH
が次々
に海兵隊所属機の
ブラックホーク
アパッチガーディアン ロングボ
そして狭間陸将達が見送る中、第4空中強襲戦闘団にて使用されて
いる自衛隊機のAH│64EJ
にUH│60J
カイユース
とCH│46
、OH│6D
スーパーコブラ
ニンジャ
ウレーダー非搭載仕様
│1B
AH│1W
と離陸していき、アルヌスから北西に機首を向けてイタリカへと急行
した。
そ の 姿 は ま る で 戦 乙 女 ⋮⋮⋮ ワ ル キ ュ ー レ の よ う だ っ た ら し い
⋮⋮⋮⋮⋮。
100
Mission23:戦乙女の騎行
アルヌス基地から離陸した健軍 俊也1等陸佐率いる第4空中強
襲戦闘団は進路を北に向けて飛行していた。
時刻は朝日が見え出した時間で東から見え出しており、奇襲を仕掛
けるには非常に有効な手段だ。下に見える穀倉地帯を飛行しながら
健軍の後ろで副官の用賀2佐が無線機を操作していた。
︿401。こちら3RCN﹀
﹁こちら401指揮官機。コールサインはワルキューレリーダー。送
れ﹂
︿報告する。敵は東門。既に城門内部で戦闘が発生中。目標は発色信
号で知らせる。送れ﹀
攻撃態勢を取れ
?
﹂
を背にしながら速度を高めていく。そして全ての機体が太陽を背に
後は2佐に任せる⋮⋮⋮音楽を鳴らせ‼
したら健軍が一斉に指示を飛ばした。
﹁朝日を背に突入‼
?
ナム戦争を象徴するかのような曲が響き渡る。
れている大音量スピーカーでも流され、穀倉地帯上空にかつてのベト
ていたCDを再生し始める。そこから連動して全ての機体に搭載さ
音楽を鳴らせという指示で用賀2佐がコンポの電源を入れ、挿入し
?
101
﹁了解。こちらは太陽を背にして突入する。到着まであと5分。交信
﹂
?
終わり⋮⋮⋮1佐、伊丹から報告です。既に東門内部で戦闘が行なわ
れているようです﹂
全機攻撃態勢を取れ‼
?
⋮⋮ワルキューレリーダーから全機へ‼
﹁10時の方向‼
﹂
﹁了解‼
‼
?
用賀の指示で全ての機体が一斉に10時方向に機首を向けて、太陽
?
ワルキューレの騎行
。
ウィルヘルム・リヒャルト・ワーグナー作曲ニーベルング指環第2
幕
かの有名なキルゴア中佐の代名詞としても、ヘリボーンの定番曲、
1944年7月20日にクラウス・フォン・シュタウフェンベルク参
謀大佐筆頭のヴァルキューレ計画において名前の由来ともなった有
名な曲だ。
周りのヘリに搭乗している部下達も曲に合わせて89式小銃2型
や89式小銃1型折曲銃床式仕様を軽く叩いたり、防弾チョッキ3型
や2型を下に敷いて急所を守る準備をしたり、機体側面に搭載されて
いるM2重機関銃を軽く振ったりと様々な反応を示す。
まずは先制でヘルファイアを叩き込め‼
﹂
そして戦闘が始まっていて黒煙が立ち上るイタリカめがけて突撃
していく。
14M
飛ばす。
ヘルファイアII
が城門付近に展開していた敵兵を吹き
周囲から聞こえていたワルキューレの騎行で動きを止めていた盗
賊達が展開している城門にしっかりと命中し、爆死、圧死する人間を
発生させた。
︿各機、こちらオスカー1。城門の中には味方がいる。外のみを掃討
せよ﹀
ヘルファイアⅡの爆発をスタートとして全ての機体が攻撃を開始
ハイドラ70
とM230A1 30mmチェーン
し た。ア パ ッ チ か ら は M 2 6 1 2.7 5 i n 1 9 連 装 対 地 ロ ケ ッ
トランチャー
102
︿こちらハンター1。目標を捕捉﹀
﹁ハンター1‼
?
先導機であるハンター1のアパッチに搭載されているAGM│1
︿了解。目標ロック。ヘルファイア発射﹀
?
ガン、UH│60Jからは機体両側面のM2 12.7mm重機関銃
と隊員達の89式小銃2型と1型。
海兵隊所属機のスーパーコブラからもヘルファイアⅡやハイドラ
70、M197 20mm3銃身ガトリングガン、シーナイトからは
機体右側面のM134D 7.62mm6銃身ガトリングガンと機
体後部ハッチのM240G 7.62mm機関銃で地上掃射を始め
る。
対空砲などあるはずが無い盗賊達はなす術なく次々と倒れていき、
逃げ出す敵が相次いで発生していた。そんな中で観測機として飛び
回っているカイユースからワルキューレ1に通信が入る。
目標を吹き飛ばせ‼
﹂
︿ストーカー1からワルキューレリーダー。城壁上に対空兵器。まだ
装填前です﹀
﹁ハンター1‼
︿ハンター1了解﹀
き飛ばされた。
﹂
?
︿脅威排除﹀
﹀
﹀
仕留めてやれ‼
戻ったらビールを奢る‼
認されたが、ハンター1がハイドラ70を撃ち込んでバリスタ共々吹
チが正面にまわる。そこには槍を装填しようとしていた敵2名を確
ストーカー1が発見した城壁上のバリスタにハンター1のアパッ
?
﹀
︿朝はコーヒーにナパーム弾の香りってな‼
日本野郎‼
﹀
盗賊の逃走ルートを遮断‼
?
?
︿やるじゃねえか‼
︿こちらガンファイター1│1‼
﹀
逃げない奴はよく訓練された盗賊だ‼
突入する‼
?
﹁よくやった‼
︿敵が逃げるぞ‼
︿こちらエリアス‼
︿逃げる奴はみんな盗賊だ‼
﹀
?
?
103
?
?
︿ガンファイター隊、援護してくれ。ゴールキーパー1は着陸して部
?
?
?
?
?
?
隊を展開させる﹀
︿こちら台湾軍所属戦車隊の高雄だ。戦闘地域に到着した。これより
俺らも
?
地上部隊を援護する﹀
ジャパニーズエアボーンに遅れをとるな‼
︿マリーンズ‼
﹀
高波に乗るぞ‼
﹀
!!
ていることと士気旺盛な隊員達によるやり取りだ。
﹂
余裕がある奴は城門内部を見てみろ‼
健軍は双眼鏡で城門付近を確認し、1人の少女を目撃した。
﹁こちらワルキューレ1‼
本物のワルキューレがいるぞ‼
?
か
﹀
︿本物のワルキューレがいるぞ‼
俺らも負けるんじゃねぇ‼
﹀
?
陸と空に舞うワルキューレ達、そこに賊の命運は完全に尽きていた
掃討していく。
キューレがいることに気が付いた隊員達の士気が更に高まり、残敵を
地 上 に ハ ル バ ー ト を 振 り 回 し な が ら 敵 を 次 々 と 吹 き 飛 ば す ワ ル
?
︿あれは⋮⋮たしかロゥリィ・マーキュリーとかいう女の子じゃねえ
?
?
健軍の無線機から聞こえてくるのは戦局が圧倒的にこちらに傾い
︿Hooah
?
⋮⋮⋮⋮⋮。
104
?
?
Mission24:無慈悲の鬼神
航空戦力による対地攻撃が開始された。東門からはヘリ部隊によ
る攻撃で爆音が鳴り響き、無線からは台湾軍の高雄隊も味方を支援し
始めたようだ。
これで城門の外側は問題はないだろう。伊丹の73式小型トラッ
クに乗り込み、M870 MCSを手にし、背中にM417A2を回
して後部座席に座っていた。先に暴走状態に陥っているロゥリィが
東門にて戦闘を実施しており、微かだが盗賊達の悲鳴が聞こえてきて
いる。
﹂
そして東門へと繋がる階段前で停車し、俺たちは武器を手に一気に
下車した。
﹁付け剣‼
伊丹の指示で栗林、富田の2人がそれぞれ89式小銃2型と64式
小銃に89式多用途銃剣2型と64式銃剣を着剣。俺もM870の
﹂
ポンプを引いてショットシェルをチャンバーに放り込む。
﹁でええええええええい‼
﹁あの馬鹿⁉
﹂
援護しろ‼
﹂
突撃にぃー‼
﹂
?
﹁伊丹‼
﹁分かった‼
前へ‼
栗林が身軽に階段を飛ぶように降りて、突撃を開始する。
?
前に広がった光景は壮絶だった。爆死した盗賊達の死体なんかはど
うでもいい。だがその周りには賊により殺された一般人。戦って死
んだ者もいれば無抵抗な女性の衣服が破られ、首を刎ねられた女性の
105
?
伊丹の援護射撃を受けながら俺も階段を駆け下りる。すると目の
?
?
?
?
?
死体もあった。
⋮⋮⋮⋮許さない。
その考えに達するには時間が掛からず、俺は先にロゥリィの下に駆
け寄って賊に格闘戦を仕掛ける栗林に続いて馬防柵を飛び越え、近く
﹂
﹂
にいた敵兵達に12ゲージショットシェルを撃ち込む。
﹁ぐはっ⁉
﹂
囲んで一斉に討ち取れ‼
﹁ま⋮⋮また来た⋮ぎゃっ⁉
﹁落ち着け‼
のままM870を投げ捨てるとホルスターからM45A1 CQB
きた賊の顔にM870をフルスイングで吹き飛ばし昏倒させる。そ
やがて7発のショットシェルを撃ち終わると剣で刺突を仕掛けて
て散弾をばら撒いて賊の死体を増やしていく。
斉に仕掛けてきた。落ち着いて12ゲージショットシェルを発砲し
敵の指揮官らしき男が指示を出し、それに従うかのように盗賊が一
?
﹂
﹂
PとM1070 CQBPを抜き取り、少し離れた敵に45,ACP
押し切れ‼
この男強すぎる⁉
弾を食らわす。
﹁くっ⁉
﹁怯むな‼
?
﹂
?
なんだこいつ⋮ぎゃっ⁉
?
﹁うらあぁあああああっ‼
﹁なっ⁉
﹂
カナイフを抜き取り、逆にこちらから斬り込む。
ガバメントをホルスターに戻し、背中に取り付けてある鞘からグル
2を使う必要はない。
すると好機とばかりに周りから連続で仕掛けて来るも、M417A
距離から頭に最後の1発を撃ち込んで始末する。
槍兵が纏めて仕掛けて来て突き出してきたがそれを回避して至近
?
106
?
?
?
?
?
?
﹂
﹁くたばれ⋮ごふっ⁉
﹁がはっ⁉
﹂
び込み、次々と敵兵の身体を刻み付けていく。
﹁まずいな⋮⋮あの3人のめり込み過ぎてる﹂
﹂
背後を守れ‼
?
﹁どうします
﹂
﹂
敵陣形はかなりガタガタとなり、その開いた大穴から一気に懐に飛
団の内側に手榴弾を投げ込み、盾の陣形を文字通り吹き飛ばした。
敵は態勢を組み直す為に下がり始めるが、栗林が大盾を構えた敵集
叩きつけると顔にグルカナイフを突き刺した。
槍兵の攻撃をかわして懐に飛び込み、そのまま背負い投げで地面に
き飛ばして直後に斬り裂く。
がらグルカナイフでまず短剣兵の首を刎ね飛ばし、続いて敵の剣を弾
向かって来るとは思っていなかった敵兵の懐に飛び込み、回転しな
?
﹁何があっても後ろに敵を回り込ませるな‼
﹁了解‼
?
?
﹁ぐはっ⁉
て来た。
く。だが敵の指揮官は睨むように俺を見下ろし、掴んだ腕を掴み返し
敵の指揮官を片手で吊るし上げ、掴んだ首を徐々に締め上げてい
﹂
が俺の傍に投げ出された。
すると城壁が航空戦力の攻撃により吹き飛び、そこから敵の指揮官
を高めて次々と敵の命を奪い取る。
が倒れて行き、背後の心配をしなくてもよくなった俺は更にスピード
開始した。離れた場所からこちらの背後に回り込もうとしていた敵
暫く攻撃を仕掛けていると伊丹と富田がこちらにきて援護射撃を
?
107
?
?
﹁み⋮⋮認めん⋮⋮き⋮貴様等のた⋮戦い⋮⋮など⋮⋮⋮戦いであっ
て⋮たまるか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁戦いを⋮⋮穢す⋮⋮⋮お⋮鬼⋮⋮⋮が⋮⋮﹂
﹁そうだよ⋮⋮⋮俺は復讐の鬼だ⋮⋮﹂
敵指揮官の遺言のような戯言を聞き、俺はグルカナイフを敵の腹に
突き刺し、そのまま力を込めてグルカナイフを振り上げるように指揮
官の上半身だけを2つに分ける。
返り血が俺の身体に付着し、屍と化した敵を睨みつけるように踏付
けた。
﹂
﹁⋮⋮⋮カビの生えたクソな考えなんざ、知ったことじゃねぇんだ﹂
﹁む⋮⋮⋮無慈悲の⋮⋮鬼神⋮⋮﹂
態勢を立て直せ‼
て盾を再び構え直す。
いいかげん鬱陶しい。
M417A2を取り出してフルオートでなぎ払おうとした瞬間、携
行無線機から通信が入った。
︿3RECON及びリーパー00。こちらハンター1、これよりカウ
﹂
ント10で門内を掃討する。至急退避されたし。繰り返す、これより
﹂
門内を掃討する。至急退避されたし﹀
﹁総員退避‼
﹂
自分で走るからぁ‼
早く退避しろ‼
?
108
﹁首領が⋮⋮﹂
﹁狼狽えるな‼
?
自分達の指揮官が死んだことで動揺するも、すぐに指揮系統を整え
?
﹁ちょっと降ろしてよ⁉
﹁エース‼
?
?
?
伊丹に退避するよう施され、敵に手榴弾を投げ込んで馬防柵に退避
?
した。
︿10、9、8、7、6、5、4、3⋮⋮⋮﹀
上空でホバリングするアパッチに賊を含めた全員が見上げ、そして
カウントが0になった瞬間、アパッチの30mmチェーンガンが盗賊
を襲った⋮⋮⋮⋮⋮。
109
﹂
Mission25:鉄の獅子と死の案内人
﹁撃て‼
俺の合図で林が発射スイッチを押して砲撃を行なう。イタリカで
発生した市民軍と盗賊団の戦いは夜襲を仕掛けたようで最初こそは
盗賊達の優勢で東門が陥落して防塁も陥落する一歩手前だったらし
い。
だが伊丹2尉とエース中尉達の参戦、更には空中強襲戦闘団の支援
により30分も経たない内に形勢が大逆転。
盗賊達は見たこともないヘリからの攻撃でパニックに陥ったよう
で、退路を遮断した俺たちに向かって逃げ出して来た。海兵隊もCH
│46Fから降りて素早く展開し、敵部隊に銃撃を開始している。
中にはM224 60mm軽迫撃砲を用いて敵を吹き飛ばしてい
く海兵隊もいて、盗賊達は近くことも敵わず次々と倒れていく。
一気に片付けてやれ‼
﹂
俺たち高雄隊も横一列になって混乱状態の盗賊にアウトレンジで
砲撃を続けていた。
﹁11時方向にまだいるぞ‼
﹂
﹂
前に
クソテロリスト共なんざ1匹残らず駆除してやる‼
﹁テロリスト共に情けをかける必要はねぇぞ林‼
﹁分かってる‼
俺たちも向かいますか⁉
高雄01から全車‼
?
﹂
海兵隊が前進を開始‼
まだまだ暴れ足りん‼
﹂
﹀
?
﹁中尉‼
﹁当たり前だ‼
海兵隊の前に出て鏃避けになるぞ‼
﹀
︿高雄02了解‼
﹀
︿高雄03了解‼
﹀
﹂
?
︿こちら高雄04了解です‼
前へ‼
?
出るぞ‼
?
敵のケツを蹴り飛ばしてやります‼
高雄隊前進‼
?
︿高雄05了解‼
﹁よし‼
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
110
?
?
?
無線で全ての僚車に前進を指示すると海兵隊の前に躍り出る。海
兵隊も意図を理解したようであり、すぐに俺たちの後ろに回り込んで
車体を盾にして前進する。
いつもどおり砲撃の判断を林に委託し、俺はハッチを開けてM2で
敵に銃撃を加える。
窪みに足を負傷して動けなくなった敵兵を確認したが、呉は一切躊
躇することなく踏み潰した。
普通なら抵抗があるが敵はイタリカにて一般人を無差別に殺害し
高雄01‼
﹂
﹀
どうかしたのか⁉
ちに部隊を配備しているのか⁉
﹁誰も展開していない⁉
﹀
聞こえるか⁉
﹂
︿三つ編み銀髪で死神鎌を持った女が交戦中‼
奴はそっちに向かってる‼
ようだ‼
もしかして⋮⋮﹂
﹁中尉‼
るな‼
それは味方だ‼
﹂
︿デスサイズ指揮官了解だ‼
﹀
﹀
こっちに敵意はない
繰り
その女性には攻撃す
﹂
接近中の女性は味方だ‼
接近中の銀髪をした女性は味方だ‼
﹁高雄01からオールマリーンズ‼
返す‼
そっ
た犯罪者だ。そんなクソ野郎なんかに情けをかける必要は全くない。
︿こちらデスサイズ隊指揮官‼
どうした⁉
?
︿こちらは南西に移動中だが進路上で戦闘が既に始まってる‼
﹁こちら高雄01‼
?
﹁⋮⋮ルフスだな⋮⋮⋮デスサイズ隊指揮官‼
?
味方であると伝える。
すると連絡し終わって暫くしてからM60A3の前に先ほど連絡
があった女性が立ち止まった。首にチョーカーを巻いていることを
除けば前に出会った服装と同じ格好をした女性⋮⋮ルフスだ。俺は
すぐにハッチから顔だけ出して存在を伝える。
111
?
?
オープンチャンネルで全ての海兵隊に連絡し、ルフスらしき女性が
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
﹁ルフス‼
﹂
﹁な⋮⋮谷殿か
﹂
﹁前と同じく突然の鉢合わせになっちまったな‼
﹂
﹂
詳しいことは言えないがな‼
﹁その鉄の獅子は⋮⋮貴公が操っているのか
﹁こいつは戦車っていう兵器だ‼
﹂
﹁これが兵器⋮⋮⋮なんと面妖な⋮⋮﹂
﹁それより君はなぜイタリカに⁉
﹂
?
?
﹁あぁ。イタリカに盗賊が現れたと聞きつけてな。賊の魂を冥界に誘
?
お前も乗れ‼
﹂
い、冥府にて裁きを受けさせるのが我等デュラハンの務め﹂
﹁務めって⋮⋮まぁいい‼
﹂
﹁いいのか
﹂
﹁構わん‼
?
?
﹂
狩りの時間だマリーンズ‼
﹁高雄01からデスサイズ隊指揮官‼
‼
︿デスサイズコマンダー了解だ‼
﹀
?
?
﹁谷殿﹂
﹂
?
﹁なんだ
﹂
﹁そなた達は何処の軍隊なのだ
﹁俺達か
﹁あぁ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮連合特地派遣団だ﹂
﹂
そんな光景をルフスと共に眺めながらそう感じていた。
もはや俺達の独壇場だ。
殴り、可能だったら踏み付けながら抑えつけて拘束していく。
銃撃を加える。足を負傷して動けなくなった敵にはストックで顔を
海兵隊が後方から一気に前方に展開し、そこから逃げ惑う盗賊達に
?
前に出て一気に決着をつけろ
ルフスに促し、彼女は鎌を担ぐとM60A3の車体に飛び乗った。
?
?
?
112
?
?
?
?
?
?
ルフスからの問いに答える。この後に自衛隊の健軍1佐から全て
の部隊に通信が入り、イタリカに展開していた盗賊は壊滅。次々と降
伏するものが相次いでいるらしい。
俺達封鎖部隊も戦闘を中止して武器を捨て降伏してきた敵を拘束
する為に降車した⋮⋮⋮⋮⋮。
113
Mission26:畏怖と恐怖
帝国第3皇女であるピニャにとってイタリカ攻防戦が初陣だった。
連合諸王国軍の敗残兵からなる盗賊団による襲撃を連合特地派遣団
による進撃だと勘違いし、だが民を守らなければならないということ
には変わらなかったので残って指揮を執る。
その最中で現れたのが伊丹率いる第3偵察隊とエース率いるリー
パー01だ。しかも同行者にはリンドン派聖魔道師レレイに精霊使
いでハイエルフのテュカ、極め付けはエムロイの使徒である死神ロゥ
リィ。
敵意はないということで味方に引きずり込んだピニャは彼等を南
門に配した。
⋮⋮⋮⋮捨て駒としてだ。
だが伊丹達が異世界の軍勢だということを知らず、南門に彼等しか
配備しないで奥に第2防衛線を設けたことにより東西の城壁が手薄
となり、しかも守っているのは軍歴のない市民。
伊丹達の戦い方を知っていた盗賊はその事を見抜いて、突破しかけ
ていた南門を放置して敢えて東門に仕掛けた。今回が初陣故に戦い
方を知らないピニャ達に対して元は正規軍だった盗賊達の方が戦い
方を熟知していた。
夜襲で火矢による先制攻撃を仕掛け、仲間の精霊使いによる風の加
護を受けた第1陣が城壁に梯子を用いて取り付き、内部に侵入して城
門を開放して本隊が突入。
敵情を把握した賊の前に次々と倒れていく志願兵。ピニャの兄の
ような存在だった騎士ノーマも討ち死にしてしまい、士気は完全に落
ちていた。
圧倒的不利の中、そこにロゥリィと栗林、そしてエースが増援に駆
け付けて敵を足止めし、たった3人に賊が狼狽える中でピニャ達に信
じられない光景が広まった。
第4空中強襲戦闘団による対地攻撃である。
空から圧倒的な力を持って賊を次々と撃ち倒し、逆に敵からの攻撃
114
を全く受け付けないヘリ部隊。そしてピニャとハミルトンの目の前
にて、門内にいた賊達を飛来してきたアパッチガーディアンが30m
mチェーンガンで薙ぎ払い、掃射が終わると2人は唖然としていた。
﹁⋮⋮⋮化け物﹂
ハ ミ ル ト ン の 言 葉 で ピ ニ ャ は 軽 く 震 え が 止 ま ら な く な っ て い た。
門内に展開していた賊は実に50人弱で、攻めれば勝てる数だが一瞬
で薙ぎ払うというなら別だ。
﹁⋮⋮⋮鋼鉄の天馬⋮⋮なんなのだあれは⋮⋮⋮⋮人が抗うことの出
来ない絶対的な暴力⋮⋮⋮全てを叩き潰す力⋮⋮誇りも⋮⋮⋮名誉
﹂
も⋮⋮⋮⋮全てを否定する⋮⋮﹂
﹁ひ⋮⋮姫様
⋮⋮⋮人は何て傲慢で⋮無価値で⋮⋮無
115
﹁これは女神の蔑みなのか
意味なのか⋮⋮⋮﹂
その殺気に満ちた視線にピニャは思わず震えてしまった。
が込められていた。
そしてエースとピニャの視線が重なり合うが、その視線からは殺気
いて、手にはグルカナイフがある。
達とは逆に、全身返り値を浴びて今も殺気を醸し出しているエースが
そう言うとピニャは城門を見る。そこには感謝を述べられる伊丹
﹁あれだけの盗賊が⋮⋮全滅⋮⋮⋮連合特地派遣団とは⋮⋮﹂
いく。
負傷した民間人や武器を捨てて降伏してきた盗賊を次々と拘束して
より自衛隊員が一気に降下を開始し、地上に降下したらすぐに展開。
やがて彼女たちの近くに飛来してきてロープを下ろしたヒューイ
?
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁終わりましたな⋮⋮﹂
暫く沈黙しているとピニャにグレイが歩み寄って来て話しかけた。
﹁はい⋮⋮我々の勝利です﹂
﹁いや⋮⋮勝利したのはエムロイの使徒ロゥリィに連合特地派遣団で
あって妾ではない﹂
﹁姫様⋮⋮⋮﹂
﹁そして奴等は⋮⋮聖なるアルヌスを占拠し続けている⋮⋮我等が敵
﹂
⋮⋮﹂
﹁⁉
﹁やはり⋮⋮⋮薄々は勘付いてはいましたが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮妾はイタリカを救う為に⋮⋮⋮更なる脅威を招いてしまった
のではないか⋮⋮⋮あの鋼鉄の天馬と強大な魔導がもし⋮⋮イタリ
カに向けられていたら⋮⋮⋮⋮妾も⋮⋮﹂
ピニャは頭の中で想像してしまった。連合特地派遣団が仮にイタ
リカを侵攻したら間違いなく街は陥落し、彼女たちも捕虜となってい
る。
﹁フォルマル伯爵公女ミュリ殿も妾も⋮簡単に虜囚となり、帝都を支
﹂
実際に街を救ったのは彼等だぞ
﹂
える穀倉地帯は敵の物となる⋮⋮⋮それを民は歓喜の声で出迎える
だろう﹂
﹁そんなことは⁉
﹁ないとは言い切れるか
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮⋮エース殿⋮⋮ですな
﹂
特に妾は⋮⋮⋮あの男が恐ろしい⋮⋮﹂
⋮⋮⋮足の甲にキスをしてしまうかも知れない⋮⋮⋮。
﹁も し 彼 等 が 開 城 を 要 求 す れ ば、あ る 者 は 取 り す が っ て 慈 悲 を こ い
?
?
?
116
?
﹁あ ぁ ⋮⋮⋮ あ の 狂 気 に 満 ち た 目 に ⋮ 敵 を 一 切 近 付 か せ な い 戦 い
﹂
⋮⋮⋮あの姿は⋮⋮﹂
﹁鬼⋮⋮⋮ですな
﹁⋮⋮⋮あの男はなんとしても怒らせてはならない⋮⋮もし逆鱗に触
れて仕舞えば⋮⋮妾達に待ち構えるのは⋮⋮⋮死だけだ⋮⋮﹂
ピニャは誇りが強い。死をも恐れない勇敢な心を有しているが、生
まれて初めて誰かに対して恐怖を抱いた。
恐怖を抱かせた相手は自分達と比べ物にならない位に強力な力を
身にしていて、敵に一切の情けを掛けない。しかもそんな殺意に満ち
た男がピニャ達に殺気を向けていたと考えるとピニャの震えはます
ます増えていた。
なんとしても怒らせてはならない⋮⋮⋮そう判断したピニャは伯
爵邸へと戻った⋮⋮⋮⋮⋮。
117
?
Mission27:怒りを抱く英雄
イタリカでの戦いは終わった。
ロゥリィと栗林2曹による無双と第4空中強襲戦闘団の対地攻撃
を前に盗賊達は完全に壊滅し、敗走した敗残兵も退路を遮断したデス
サイズ隊を筆頭とした海兵隊と台湾軍の高雄隊により駆逐された。
一応はイタリカ防衛に成功したが防衛戦に参加した志願者がかな
りやられてしまったというのもまた事実だ。
志願者の死亡は止むを得ないことだが、それでも損害を最小限に減
らすことも可能だった筈だ。
しかも戦いの後に判明したのだが、俺たちの後方にある小さな広場
付近に第2防衛線を設置していたようでバリスタなとの守城兵器を
集結させ、大量の兵器を使用して手負いの賊を全滅するつもりだった
らしい。
別に第2防衛線を張ること自体は正しい判断だ。兵力差のある防
衛戦においては敵の突破に備えて防衛線を設置するというのが陣地
構成の基礎だ。
だが奴等の戦術は非常に練度が低いものだった。
対して賊のとった戦術は理に適ったものだ。元々は俺たちが撃退
した連合諸王国軍の敗残兵だから俺たちの戦い方を目撃しているし、
少数だが俺たちの入城と単体で南門配置を目撃している。
賊の首領はそれを踏まえた上で守備側の兵力不足に守城兵器の移
動を斥候が発見したから南門の後方が決戦場であると察知した。
だから賊は不意打ちも兼ねて今まで手を出していなかった東門に
攻撃を仕掛けた。
姫様は相手が賊だから次も南門に攻め込んで来ると判断したのだ
ろうが敵は百戦錬磨の元正規兵だから実戦経験のない姫様にはあま
りにも荷が重過ぎた。
そんな姫に中庭で1人になっていたところで鉢合わせし、俺は対峙
している状態になっていた。
118
﹂
﹁エ⋮⋮エース殿⋮⋮﹂
﹁⋮⋮何の用だ
﹁その⋮⋮⋮き⋮救援に感謝する﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁貴殿等の救援でイタリカは守られ、妾達も死なずに済んだ⋮⋮本当
に感謝する﹂
﹁感謝する必要なんてない⋮⋮⋮俺は伊丹に頼まれて防衛に参加した
﹂
だけだ。だからあんたに礼を言われる筋合いなんてない﹂
﹁⋮⋮⋮随分と謙虚なのだな
﹁謙虚⋮⋮違う﹂
死なずに済んだ
﹁姫さん⋮⋮あんたは今
﹂
死ななかったらいいのか
﹁ど⋮⋮どういう⋮⋮﹂
ようとした﹂
﹁そ⋮⋮それは違う⁉
現にあんたが襲来を考えていた南門には俺たちし
?
﹁ぐっ⋮⋮⋮﹂
﹂
ら東西の守りをがっちり固める筈だ﹂
させてたことで東門に被害が拡大したってな⋮⋮信頼するんだった
﹁民兵に聞いた。実戦経験皆無のくせに第2防衛線に守城兵器を集結
﹁そ⋮⋮それはそなた達を頼りにしてだな⋮⋮﹂
うっていうんだ
かいなく、奥の第2防衛線に兵を集中させている。これのどこが違
﹁どこが違うんだ
﹂
で帝国に捨て駒にされ、今回も救援に駆けつけた俺たちを捨て駒にし
いうことだ⋮⋮盗賊になった連合諸王国軍敗残兵もアルヌス攻防戦
﹁あんた達帝国は助力した他勢力を捨て駒程度にしか思っていないと
と口にしたが、自分達が
うし、現に彼女の表情から恐怖が更に強まった。
ので振り向いた。恐らく今の俺の表情は怒りを露わにしているだろ
俺は側面を向けていたが、彼女の発言に気にくわないことがあった
?
?
?
119
?
?
俺の言葉に姫は言葉を詰まらせる。
﹁この際だからはっきり言わせてもらうぞ。民間人の救援は賛成だっ
たが帝国に力を貸すっていうことに俺は反対だった﹂
﹁なっ⋮⋮﹂
﹂
﹂
しかし手を取り合
なんで敵に力を貸さなきゃならん﹂
﹁俺たちが異世界から来たアルヌスにいる武装勢力だっていうことに
は気がついただろう
が‼
‼
﹂⁉
﹂
それなのに今更の謝罪だと⁉
﹂
ムカつくにも程があんぞ
貴様等のせいで⋮⋮貴様等のせいで俺も妻を亡くした‼
?
姿勢を作りながら彼女を睨み付けた。
だが俺はM45A1のグリップに手を伸ばし、いつでも抜き取れる
いながらも何とか制止させようとする。
それだけはっきりと伝えると俺は振り返って歩き出す。姫は戸惑
よ﹂
行して味方を簡単に捨て駒にする貴様等なんざ許せる筈がねぇんだ
﹁妻を殺した帝国主義者なんて俺は絶対に許さん⋮⋮虐殺を簡単に実
?
るんだ‼
今も伊丹の国では親族を亡くして悲しみに暮れている奴だってい
せいで何人の人生が狂わされたと思ってるんだ⁉
貴様等の
妾では身分が違うが陛下に変わってお悔やみ﹁今更遅いんだよクソ
﹁確かに異世界で妾達は貴国に無礼極まりないことをしてしまった‼
をしやがったクソ以下の帝国主義者が⋮⋮﹂
﹁さっきからご機嫌とりで馴れ馴れしくしやがって⋮⋮⋮日本で虐殺
﹁ア⋮⋮アホだと⁉
﹁⋮⋮⋮⋮ざけんじゃねぇぞアホ﹂
えればきっと⁉
﹁た⋮⋮確かに妾達は表向きでは敵対している‼
?
?
﹁伊丹のメンツもあるから抑えていたがもう我慢ならん‼
?
?
120
?
?
?
?
?
?
﹁お⋮⋮奥方を⋮⋮⋮亡くした⋮⋮﹂
?
﹁ま⋮⋮待ってくれ⁉
﹂
﹁近づくな⋮⋮⋮自衛隊が話し合いを望むなら俺は何も言わん。だが
これ以上の無礼をするっていうんなら⋮⋮⋮あんたも盗賊と同じ末
路を辿ることになるぞ。それだけは肝に銘じておけ﹂
M45A1のグリップから手を離し、背負っていたHK417A2
を担ぎ直すとその場を後にした。
その後に姫はレレイや健軍1佐達と対面を行ない、イタリカでのア
ルヌス共同生活組合の貿易特権と租税免除を確約させて捕虜数人を
情報収集目的での引き取りを承諾させたらしい。
それらが容認されたらすぐに部隊を退去させる。この世界での常
識なら街の接収が当たり前らしいが、向こうからしたらこちらがかな
り譲渡したことになる。
ある程度の瓦礫撤去に戦死者の埋葬などの戦後処理を行なったら
第4空中強襲戦闘団は次々とヘリに乗り込んでいき、台湾軍の高雄隊
も帝国に情報を与えないということで早急にアルヌス基地へ引き返
した。
俺もコーエンス達に先に帰るよう伝えてからレレイの商談が終わ
るまで街に残って、商談が終わると伊丹達と共にイタリカを後にした
⋮⋮⋮⋮⋮。
121
?
Mission28:騎士団との接触
面倒な事態がようやく終わったよ⋮⋮。
イタリカでの本来の目的だったワイバーンの鱗を売る商談は成立
したようで、金額は金貨が200枚と銀貨が1,000枚に為替2,0
00枚分、更には割り引いた1,000枚分の情報収集。
姫様からは貿易特権の取得と租税免除。アルヌス共同生活組合の
自活はアルヌスからイタリカ間でなら可能となったってことだ。だ
けど大変だったってことには全く変わらず、高機動車の助手席で俺は
眠気と戦っていた。
﹁ふわぁ∼⋮⋮眠いよ倉田ぁ﹂
﹁しかたないですよ。大変でしたから⋮⋮﹂
﹁ただの商談だった筈なのに⋮⋮な∼んでこんなに大変になっちゃっ
たかなぁ﹂
﹂
仮眠をして眠気を取っておけ﹂
﹁エースは平気なのか
﹁俺は大丈夫だ﹂
﹁そうか⋮⋮だったら頼むよ⋮⋮﹂
なく仮眠を取ってください﹂
﹁隊長、指揮は私とクレイグ中尉で担当しておきますから隊長は遠慮
?
122
﹁まぁ、後ろの姫君達の目的が達成されたからよかったじゃないです
か﹂
おやっさんの言葉に俺は後部座席を見る。そこには疲れてぐっす
りと眠ってるテュカ、ロゥリィ、レレイがいて、黒川が微笑ましくそ
れを見ていた。
﹂
そんな光景を眺めているとエースが話しかけてきた。
﹂
﹁伊丹、もういっそ仮眠をしたらどうだ
﹁そうするかな
?
﹁そんな眠たそうじゃ戦闘になったら迷惑だ。だったら少しだけでも
?
﹁ん⋮⋮⋮あっ⁉
﹂
俺がおやっさんとエースの勧めで軽く眠ろうとした瞬間、倉田が何
かを見つけて急ブレーキを掛けた。その反動で後ろの3人は雪崩れ
﹂
﹂
て寝ぼけながらも目を覚まし、寝ようとしていた俺も頭を思いっきり
ぶつけた。
﹁いって⁉
﹂
﹂
前方に煙が見えます‼
﹁どうした倉田⁉
﹁隊長‼
﹁ってまた煙か⁉
を見るがよく見えない。
﹁⋮⋮⋮煙が邪魔でよく見えない﹂
ティアラです‼
﹁規模から判断して馬群だな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮見えました‼
﹂
﹂
﹁ティアラねぇ⋮⋮⋮ってティアラ⁉
﹂
﹁金髪です‼
﹁金髪⁉
﹁縦ロールです‼
﹂
﹂
﹂
男装の麗人1‼
?
?
金髪縦ロール1‼
?
後方に美人多数‼
?
それを確認する為に俺と倉田とエースは双眼鏡を取り出して砂煙
のは3度目になるが今回は黒煙じゃなく砂煙がたっていた。
前方に煙があることに気がつく。これでこの世界で煙を見掛ける
?
?
﹁縦ロール⁉
﹁目 標 ‼
﹂
?
?
?
?
﹂
?
⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮薔薇だな⁉
﹁薔薇です‼
?
123
?
?
?
?
?
?
﹁お 前 ら な ぁ ⋮⋮⋮ ち ょ っ と は 別 の 箇 所 を 観 察 し ろ。例 え ば 旗 と か
?
﹁お前ら⋮⋮楽しんでないか
﹂
倉田が発見したのを確認する。そこにはアニメでしか見る機会が
ない筈の実物金髪縦ロールをした女性に銀髪のショートをした男装
した女性。後方からも女性が騎士団の装具を身につけ、馬に乗りなが
ら旗を掲げている。
﹁3色の薔薇⋮⋮﹂
﹁あの馬鹿姫がいっていた騎士団だな⋮⋮﹂
﹁俺⋮⋮縦巻きロールの実物なんて初めて見ました﹂
﹁ま⋮まるで歌劇団みたいな一団ですね﹂
﹁縦巻きロールが黄薔薇様で、ショートが白薔薇様ってとこだな﹂
﹁何をくだらないことを言ってる。一先ずは警戒態勢を取るぞ﹂
俺が接近してくる騎士団の様子を伺っていると、向こうも俺たちの
存在を察知したようだ。すると白い女性の背後から敵意みたいな視
線を突きつけている金髪の女性がいた。
﹁こちら3│1。警戒せよ﹂
﹁まっておやっさん。総員敵対行動は避けろ。協定違反になりかねな
い﹂
おやっさんの無線に俺は発砲を厳にする。すると先導車の73式
﹂
小型トラックに白薔薇が近付き、ドライバーをしている富田に話しか
けて来た。
﹁どこから来た
﹁何処へ
﹂
124
?
﹁あ∼⋮⋮我々イタリカから帰る﹂
?
﹁アルヌス⋮ウルゥ﹂
?
富田がアルヌスという単語を出した瞬間、白薔薇が鞘からスティ
﹂
俺も行く‼
﹂
異世界の蛮族か⁉
﹂
﹂
レットを抜刀し、黄薔薇も馬から降りて富田の襟を掴み、後方の騎士
貴様等‼
達もランスの矛先をこちらに向けてきた。
﹂
﹁アルヌスの丘だと⁉
﹁総員反撃準備‼
﹁まて‼
?
﹂
何しやがる⁉
﹁降伏なさい‼
﹁てめぇ‼
﹂
ま⋮⋮まぁ落ち着いて。話せば分かる﹁お黙りな
﹂ぐふっ⁉
?
﹁エースまった‼
さい‼
?
?
止させる。
逃げるんだ‼
﹂
﹂
?
﹁逃げろ‼
中尉‼
?
お前等は味方に状況を報告しろ‼
?
﹁隊長‼
﹁構うな‼
﹂
式を構える。勝本もM2の初弾を装填するがおやっさんが無線で制
0 CQBPを抜き取って構え、後ろでは下車していた古田達が89
説得しようとするめ黄薔薇が俺に平手打ちして、エースがM107
﹂
いきなりスティレットを突き出してきた。
なるべく落ち着かせる為にゆっくり口調で話し掛けるが白薔薇が
﹁えっと失礼。部下が何か致しましたかねぇ⋮⋮うっ﹂
説得の為に下車するとエースも下車して後ろを付いてきた。
?
絶対にこっちから手を出させないでよ‼
?
?
?
?
何処に⁉
﹁おやっさん‼
﹁伊丹‼
?
﹁とにかく説得してくる﹂
?
?
?
?
?
125
?
?
?
?
﹂
﹁しかし⁉
﹂﹂
﹁﹁行け‼
﹁貴様‼
﹂
﹁うわっ⁉
﹁伊丹⁉
俺も88式鉄帽を脱いで手にしながら両手を上げた。
思を告げる。
0をホルスターに戻したら負傷していない左手を上げて無抵抗の意
エースは舌打ちしながらも状況が圧倒的不利だと判断し、M107
﹁仕方ない⋮⋮⋮一先ずは武装解除した方がいい﹂
﹁ぐっ⋮⋮大丈夫だ。傷は浅い。だが⋮⋮﹂
﹁エース⁉
﹂
エースは負傷した箇所を抑えながらその場にひざまづいた。
の 右 腕 に ス テ ィ レ ッ ト が 貫 か れ た。す ぐ に 黄 薔 薇 は 抜 き 取 っ た が
ところでエースが押したことにより刺突を免れたが、代わりにエース
怒りに任せて黄薔薇がスティレットを突き出してきたがすんでの
﹂
﹂
に向けてきた。
そして砂煙が落ち着くと黄薔薇がスティレットを抜刀して鋒を俺
だ。
ので軍馬は慌てだし、騎士達も馬を落ち着かせるのに精一杯な状況
転換し、砂煙を上げながらエンジン全開で走り出す。いきなりだった
俺とエースが同時に叫ぶとおやっさんの判断で車両が一斉に方向
?
?
?
こりゃ面倒ごとは暫く続きそうだ⋮⋮⋮⋮⋮。
126
?
?
?
Mission29:協定違反の代価
攻防戦が行なわれたその日の晩、イタリカにピニャの薔薇騎士団が
到着した。薔薇騎士団は戦闘が既に終結していたことに戸惑ったが、
伊丹やエース達の活躍があったことを知らずに勝手にピニャの手柄
であったという間違った考えを有していた。
玉座にてピニャは自身の腹心であるボーゼス・コ・パレスティーと
パナシュ・フレ・カルギーを出迎えて、戦は終わってしまっていたに
しろ援軍に駆けつけたことに対して苦労を労っていた。
そこでボーゼスは敵の指揮官2名を虜囚にしたという報告をし、部
下 に 虜 囚 に し た 指 揮 官 2 名 ⋮⋮⋮ 伊 丹 と エ ー ス を 連 れ て 来 さ せ た。
そのぐったりした2名を見てピニャは驚愕し、やがて怒りを見せて
ボーゼスとパナシュに怒鳴りつけた。
﹂
るパナシュ。だがピニャを含めて副官のグレイは2名に軽いながら
も怒りを見せ、ハミルトンは連れて来られた2人に慌てて駆け寄っ
た。
そして意識がない2名を壁にもたれかからせながら必死に肩を揺
127
﹁なんてことをしてくれたのだ⁉
傷口から血が流れていた。
﹂
?
﹁⋮⋮えっ
﹂
我々が何をしたというのです⁉
馬鹿者共が⋮⋮⋮﹂
戦に間に合わな
がれていたワインはボーゼスに浴びせられ、更には額を切ったようで
そう怒鳴りつけるとピニャはボーゼスに盃を投げつけた。中に注
?
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮貴様等ぁ⋮⋮﹂
﹁ひ ⋮⋮ 姫 様 ‼
?
かったにしても指揮官を捕虜にしたのですよ⁉
﹁黙れ‼
?
?
ショックに座り込むボーゼスに額に手巾を当てながら理由を尋ね
?
クレイグ殿⁉
﹂
さぶりながら呼び掛けていた。
﹁伊丹殿⁉
できる状態だった。
﹁ハミルトン⋮⋮⋮2名の容体は
﹂
﹁そ⋮⋮相当に消耗されている様子です‼
﹂
?
クレイグ殿⁉
﹂
﹂
?
?
しっかり⋮⋮がっ⁉
﹂
しっかりしてください伊
ここに来るまでにどれだけの酷い仕打ちをされたのか容易に想像
出血していて、痛々しい姿だ。
た。ボーゼスがスティレットによる刺突で貫かれた傷口から未だに
まともに返事もできない状態だったが、酷かったのはエースの方だっ
2 名 と も 全 身 泥 だ ら け で あ ち こ ち に 打 撲 の 後 や 擦 り 傷 に 切 り 傷。
ハミルトンの呼びかけに返事がない2名。
?
﹁よかった⋮⋮クレイグ殿‼
?
丹殿⁉
﹁うっ⋮⋮﹂
﹁クレイグ殿⁉
?
怒りと殺意
﹁ぐっ⋮⋮﹂
に満ちた瞳に恐怖から動けなかった。
﹁あっ⋮⋮⋮あぁあっ⋮⋮⋮﹂
﹁この⋮⋮⋮クソ帝国共がぁ⋮⋮﹂
スの
が激しく消耗しているので逃げようと思えば逃げれるだろうが、エー
あまりにもいきなりだったのでハミルトンは膠着してしまう。だ
スは左腕を伸ばしてハミルトンの首を掴んだ。
の表情を浮かべて引き続きハミルトンは呼び掛けるが、いきなりエー
僅かに意識を取り戻したエース。ピニャとハミルトンは少し安堵
?
128
?
﹁うっ⋮⋮ハ⋮ハミル⋮⋮トン
?
?
最後の力を振り絞ってハミルトンの首を掴んだエース。だが力尽
きて再び意識を失ってしまう。解放されたハミルトンも恐怖のあま
り思考回路が回復せず、彼女の首にはエースが掴んだ際に食い込んだ
大丈夫か⁉
﹂
爪により若干血が流れていた。
﹁ハミルトン⁉
?
そして伊丹とエースが所属している連合特地派遣団には盗賊を一
は勝敗は火を見るよりも明らかだ。
ないピニャ達と、心技体に加えて経験も遥かに大きく上回るエースで
当たりにしている。もし彼の力が自分達に向けられたら実戦経験の
特にエースの帝国に対する凄まじい憎悪と無双を誇る強さを目の
しかしピニャが最も恐れたのは協定違反とエースの存在だ。
ても同じことがされたということをボーゼスはピニャに話した。
らせる。他には殴るや蹴りなんかは当たり前で、伊丹とエースに対し
いれば槍先で傷付け、剣の峯や鞭、時には棒で痛めつけて無理やり走
連行中にひたすら馬で追いかけ回し、疲れ果てて座り込んだ捕虜が
虐待することだ。
この世界に捕虜に対しての人道的配慮は存在せず、捕虜の扱いとは
その言葉にピニャは絶望に似た表情をする。
﹁えっ⋮⋮た⋮ただ普通に捕虜の扱いをしただけ⋮⋮です﹂
﹁貴様等⋮⋮⋮伊丹殿とエース殿になにをした⁉
﹂
2人に対して般若を彷彿とさせる表情で2人を睨みつけた。
かせる。それを見送ったピニャはボーゼスとパナシュに振り返るが、
同じ部屋にいたメイド長に伊丹とエースを託し、客室へと連れて行
﹁かしこまりました﹂
﹁メイド長⋮⋮2名を客室に連れて行って傷の手当を⋮⋮﹂
﹁えっ⋮⋮あ⋮⋮⋮だ⋮大丈夫⋮⋮⋮です⋮⋮﹂
?
瞬で滅却する近代兵器がこれでもかという位にある。協定違反を口
129
?
﹂
どうか
実に戦端を開かれたら間違いなくピニャ達は全滅し、最悪の場合は帝
国が滅んでしまう。
﹁伊丹殿達の部下はどうした⁉
﹁あ⋮⋮あの者達は逃げおおせました﹂
﹂
﹁姫様⋮⋮なぜ敵の指揮官を庇われるのか理解できません‼
納得出来るご説明を下さい‼
パナシュはピニャに説明を求め、ピニャも呆れながらも説明を始め
る。イタリカ攻防戦において劣勢状態であったピニャ達に加勢し、更
にはリンドン派聖魔導師に精霊使いのハイエルフ、エムロイ神殿の死
神ロゥリィ。
極め付けは第4空中強襲戦闘団の圧倒的な火力で盗賊は完全に壊
滅し、ピニャ達本人は何もできていない。
協定に関することとエースの戦闘力と帝国に対する凄まじい憎悪
を説明した頃には2名は自分達が何をしでかしたのかようやく理解
した。
加えて健軍1佐が提示した人道的扱いの確約を違反し、今のピニャ
達の立場は腹を空かせた龍の巣に片足どころか全身で踏み込んでし
まっている状態だ。
説明した後に2名の処分と今後の方針を決めたいのでボーゼスと
パナシュを退出させるとピニャは頭を抱えた。
﹁結んだその日に協定破りとは⋮⋮﹂
﹁こ れ を 口 実 に 戦 争 を 吹 っ か け る ⋮⋮ 帝 国 の 常 套 手 段 で は あ り ま す
が、彼等が同じことをしないとも限りませんな﹂
﹁そうなったら滅ぶのは我等だ﹂
﹂
﹁ですが幸いなことに此度は死人が出ておりませぬ。ここは素直に謝
罪されてみては如何か
るのではないだろうか
﹂
130
?
?
?
﹁だが伊丹殿とエース殿の受けた仕打ちを知れば、怒り狂って攻め入
?
?
﹂
﹁それを含めて謝罪するしかないでしょうな﹂
﹁妾に頭を下げろというのか⁉
あの天馬に魔導、そして死神ロゥリィにエース
そして去り際にグレイが口にした言葉の意味で伊丹の機嫌をどう
だがはっきりいえば勝算は薄い。
える可能性はある。
るのは目に見えており、まだグレイの方が新米のピニャ達より取り押
と向かう。今回の事態でエースの帝国に対する怒りは最高潮を迎え
グレイはそういうと万一の事態に備えてエースが運ばれた客室へ
かなるかも知れませぬな﹂
﹁まぁ、エース殿は難しいでしょうが伊丹殿のご機嫌次第ならどうに
で語った。
重過ぎる空気が流れる中、グレイは雰囲気を解すように戯けた口調
色を示していた。それ程までの相手だ。
歴戦の猛者であるグレイも相手が相手なので一戦交えることに難
殿を相手に⋮⋮。小官は御免被りたいですな﹂
﹁では戦いますかな
?
にかすれば何とかなるかも知れない。そう考えて協定違反の代価を
考えるのだった⋮⋮⋮⋮⋮。
131
?
MISSION30:イタリカへの潜入
伊丹とエースが捕まったという第3偵察隊の報告は瞬く間にアル
ヌス基地に広まった。往来の保証という確約をいただいた矢先に今
回の軍事的衝突に2名への虐待などで彼等にとっては何としても救
出しなければならない。
だが2名を拘束したというのがピニャの配下である薔薇騎士団と
いうことを考えれば間違いなく不幸な出来事で、騎士団も協定締結の
ことは知らされていなかった筈だ。
もし可能ならばなるべく穏便に話を解決させ、2名を奪還したい。
しかし虐殺を実行したり、捕虜に対して非人道的扱いを容認してい
る帝国が信用できないというのも事実であり、それらを踏まえたら少
数で潜入して密かに奪還するのが効果的であると狭間陸将は結論付
けた。
軍曹、フォーリー・マクダナソン伍長、クラーク・シェパード上等兵、
132
今度こそ出撃できると期待していた加茂、住谷、徳田の3人は出番
無しだと聞かされた時にはがっくりしていたが⋮⋮。
そこで白羽の矢がたったのはイタリカ付近に展開している第3偵
察隊と先に帰還していたリーパー隊だった。緊急任務を受けたリー
パー隊副官のビリーはすぐに装備を整え、CH│46Fにてイタリカ
﹂
近郊に出撃して陸路でM1161 ITV│LSVで第3偵察隊と
合流を果たした。
﹁敵の守備態勢は
﹂
?
茂みの中に身を顰めるビリーとリーパー02のシモンズ・ワークス
﹁あの⋮⋮私に任せて貰えない
ず制圧出来たらいいんだが⋮⋮﹂
﹁狙撃が出来る⋮⋮といいたいが後で面倒なことになる。静かに殺さ
こなしてはいますが篝火で位置ははっきり分かっていますね﹂
﹁我々に比べたらザルです。一応は騎士だからしっかりと監視任務を
?
フィリップ・ネイソン上等兵、更に第3偵察隊から栗林、富田、勝本、
倉田。通訳や魔法が使えるというテュカ、レレイ、ロゥリィの12名。
個性が非常に強いリーパー02だが同時にリーパー各隊の中で最
も実戦経験が豊富である。特にフィリップ・ネイソン上等兵はPMC
に在籍していた時期があったのでイラクにも派遣されて実戦をこな
している。
﹂
潜入手段を考えているとテュカが手を上げて手段の提示をする。
﹁なにかあるのか
﹁えぇ、相手を傷付けずに倒すんだったら眠りの精霊の力を借りれば
大丈夫よ﹂
﹁眠りの精霊⋮⋮⋮⋮なるほど⋮見張りを眠らしてしまうって訳か。
いいだろう﹂
﹁だったらテュカ。先に門から入って付近に魔法を使って制圧してく
れ。完了したらなにか合図をくれ﹂
﹁だったら私もいくわ﹂
﹁私もいく。能力補助の魔法を使えば見張りだけを眠らせれる﹂
﹁了解だ。テュカはロゥリィとレレイを連れて先行し、俺たちは合図
があるまで待機。射撃は極力避けたいが最後の手段として発砲しろ﹂
﹃了解﹄
簡単に打ち合わせするとテュカたちが南門へと向かう。普通なら
こんな夜中に門をくぐるなんて怪しすぎるがロゥリィがついている。
向こうは勝手に忘れ物かなにかしたのだろうと勘違いするという期
待がある。
すると案の定テュカたちは何の問題もなく門をくぐることに成功
し、暫くしてから薄い紫色の帯が周囲にいた見張りに向かっていき、
その帯を浴びた見張りはゆっくりと眠りについた。
そして眠ったことを確認したテュカはビリー達に合図代わりに手
を振った。
133
?
﹁どうやら⋮⋮制圧出来たみたいだな﹂
﹁よし⋮⋮行きますか﹂
制圧したのを確認したら全員が一斉にフラッシュハイダーにサプ
レッサーを装着し、音を立てずにゆっくりと茂みを抜けて確保された
城門をくぐった。
﹁よし。ここから二手に別れよう。富田2曹達は伯爵邸の西側から潜
入してくれ。俺たちは東側から潜入して捜索を開始。屋敷内で合流
だ﹂
﹁了解です﹂
アイスピッ
。互いの隊長のどちらかを見つけたらすぐに連
﹁無線は常にオープンにしておけ。衝突回避の合言葉は
ク フェニックス
絡しろ﹂
﹁了解﹂
﹁よし、行くぞ﹂
ビリーの指示で富田達は西側に移動し、リーパー02も反対側から
回り込む為に東側へと向かう。騎士団が到着したことにより警備態
勢は厚くなっているようだが、それはこの世界での警備態勢だから
だ。
ビリー達にとっては殆ど警備態勢は皆無のような位に緩い態勢と
なっていて大半が城門外に向いているので内部に関しては殆ど無警
戒のような状態だ。
暗い路地を前後左右上下で警戒しながら移動していると何かを発
見し、停止サインを出してリーパー02を停止させる。
ビリーがゆっくり姿勢を低くしながら覗き込むと雑談をしている
騎 士 が い た。幸 い に も 進 路 で は な い が こ ち ら を 向 い て い る 状 態 だ。
下手に飛び出したら見つかる可能性があるのでビリーは振り返って
シモンズ達に小声で指示する。
134
﹂
﹁コンタクト、20m先に騎士3名﹂
﹁どうしますか曹長。排除しますか
﹁下手に警戒させる必要もない。タイミングを見計らって反対側の路
地裏に飛び込むぞ。フォーリー、一緒に来い﹂
﹁了解﹂
M27 IARを手にしているフォーリーに来るよう指示して駆
け抜ける姿勢を整える。そして騎士が視線をずらした瞬間を突いて
静かかつ迅速に反対側に陣取った。
フォーリーに照準を合わさせるとタイミングを見計らった。
﹁スタンバイ⋮⋮⋮スタンバイ⋮⋮⋮ムーブ﹂
タイミングを見つけたら一気に3人が移動を開始。音を立てずに
素早く移動した3人はすぐ路地裏に入り込み、フォーリーの肩を軽く
叩くと移動を再開した。
潜入開始から20分後、何度か進路を迂回しつつも予定地点である
伯爵邸西側に辿り着き、壁に張り付いて鎧戸の状態を確認。しっかり
鍵が掛けられているようであるが問題はなかった。
﹁シモンズ、出番だ﹂
﹁了解。1分ください﹂
﹂
﹁リーパー00から3│2。こちらは西側に到着した。そっちはどう
だ
﹁こっちもだ。解錠が完了したら潜入﹁曹長。解錠完了﹂撤回する。解
錠 が 完 了 し た。こ れ よ り 内 部 に 潜 入 す る。内 部 で 会 お う。リ ー パ ー
00 out﹂
シモンズが鎧戸の鍵を解錠し、音を立てずに開けると窓を持ち上げ
て次々と内部に侵入していく。夜ということもあって蝋燭などは消
135
?
︿こちら3│2。こちらも東側に到達。いま鎧戸を解錠中﹀
?
されて暗く、月明かりが窓から注ぎ込まれている程度だ。
廊下を巡回している敵がいるなら尋問してエースと伊丹の居場所
を吐かせるつもりだったのだが仕方ない。ビリー達は武器を構えな
がら互いの位置を確認しあってゆっくりと捜索を開始。すると曲が
り角の先から足音が聞こえてきた。
﹁アイスピック﹂
﹁フェニックス﹂
ビリーが合言葉を口にした。すると返答のフェニックスが返って
﹂
きたので相手は富田達だということを確認して合流を果たした。
﹁状況は
﹁いまのところ収穫はなしです。隊長達は見当たらないです﹂
﹂
﹁よし、上の階に移動する。しっかりついて来い﹂
﹂
﹁了解⋮⋮⋮ん
﹁どうした
?
栗林の言葉にビリー達は近くの扉を見る。すると扉の隙間から微
かに光が漏れていたことに気がつく。誰かいると判断したビリー達
はすぐに扉の左右に張り付き、突入準備を整える。
富田がドアノブに手をやり、一気に開け放つとビリー、富田、シモ
ンズ、倉田の順で交互に突入。
M416A5+M26 MASS、M416A5+M320A1、
89式小銃1型と64式小銃の銃口の先にいたのは兎耳と猫耳をし
たメイドだった⋮⋮⋮⋮⋮。
136
?
﹁あそこの部屋から光が⋮⋮﹂
?
Mission31:黒髪の女性
痛い⋮⋮それが意識を覚醒させた第一の感覚だ。
あのクソッタレ騎士団に散々痛めつけられ、金髪の女に刺された傷
跡に対して何度も踏み付けられた。イタリカに到着してからはすぐ
に独房に放り込まれ、武器の使い方や兵力、警備の薄い箇所などを知
る為に奴等は拷問を始める始末だ。
そして意識が朦朧とする中、あの馬鹿姫がいる謁見の間に引き摺ら
れてハミルトンの首を掴んだ辺りで再び意識を失った。
痛みを感じながら俺はゆっくりと瞼を開けた。
﹁うっ⋮⋮あぁ⋮⋮⋮﹂
目の前に映ったのは天井。気がつくと俺は手当された状態でベッ
137
ドに寝かされていた。部屋は蝋燭の灯りで満たされ、朦朧する意識を
﹂
ゆっくり正常にしていくには十分だった。
﹁こ⋮⋮ここは⋮⋮﹂
﹁お目覚めになられましたか
?
﹂
﹂
い。するとイヌ耳の女性が慌てて手を差し伸べた。
俺はすぐに立ち上がろうとするが痛みが走っていうことが効かな
性はメイドをしているワーウルフということだ。
持ったワーウルフという種族が居るらしい。つまり目の前にいる女
た し か 事 前 情 報 で 判 明 し て い る 種 族 で 外 見 は 人 だ が 狼 の 特 性 を
尾が生えていた。
着た黒髪の女性だが耳が犬みたいに頭から出ていて、腰の辺りから尻
気がつくと少し離れた場所に1人の女性がいた。姿はメイド服を
?
﹁無理をなさっては駄目です‼
﹁貴様⋮⋮騎士団の奴か
?
﹁えっ
﹂
⋮⋮⋮やれるものならやってみろ‼
その時
﹁とぼけんじゃねぇ⋮⋮⋮協定違反を無かったことにしたいから俺を
殺しに来たんだろう
は貴様を道連れにして帝国をぶっ潰すきっかけにしてやる‼
﹁その根拠は
﹂
ので、ピニャ様の配下でも騎士団の一員でもありませんわ﹂
﹂
﹁ふふっ。ご心配なく⋮⋮私はミュリ様にお仕えしているメイドです
する。するとワーウルフの女は軽く笑いながら話しかけた。
帝国の刺客かも知れない彼女に対して殺気を見せつけながら威嚇
?
?
?
﹁⋮⋮⋮⋮名前は
﹂
ます。私はミュリ様の戦闘メイドをしておりますので⋮⋮﹂
﹁もし私が本当に刺客でしたら貴方様は既にお亡くなりになっており
?
﹂
になられませぬよう深く⋮⋮深くお願い致します﹂
﹁ただ⋮⋮⋮⋮どうか⋮どうかミュリ様にだけは怒りの矛先をお向け
﹁ただ⋮⋮なんだ
して助力をさせて頂きます。ただ⋮⋮⋮﹂
リカにいる全ての戦闘メイド⋮⋮⋮いえ、全てのワーウルフ族を召集
働いてしまいました。もしお怒りが収まらぬのでありましたら、イタ
﹁救いの手を差し伸べて下さった恩人に対して帝国の騎士達は無礼を
ミオと名乗るメイドは深々と頭をさげる。
ございます﹂
﹁この度は盗賊からイタリカをお救い下さいまして、誠にありがとう
﹁⋮⋮⋮どうやら本当のようだな﹂
す﹂
ご主人様のお世話をさせて頂きますミオ・ルカ・ヴォートスと申しま
﹁申し遅れました。私はミュリ様にお仕えしております副メイド長で
?
?
138
?
俺はミオの言葉と眼が誰かに似ていると思っていたがようやくわ
かった。
死んだエミリアと瓜二つだ。
その主を想う心に決意に満ちた瞳⋮⋮⋮本当に瓜二つだ。
﹁⋮⋮⋮⋮俺だって馬鹿じゃない。あんたらの主と今回の衝突は全く
の無関係だっていう事くらいは分かっている﹂
﹁じゃあ⋮⋮﹂
﹁心配するな。今回の一件は流石に報告はするが、イタリカやあんた
ご主人様‼
﹂
らの主を巻き込むことはさせるつもりなどない﹂
﹁ありがとう‼
オに質問してみることにした。
﹁それで2つ質問があるんだが⋮⋮伊丹はどこだ
﹂
﹁はい、伊丹様は隣のお部屋で休まれております﹂
﹁そうか⋮⋮⋮2つ目なんだが⋮なぜ呼び方をご主人様なんだ
﹂
か普通に可愛らしいな⋮⋮⋮だが俺はあることに気がついたのでミ
まるで子犬が失敗をしたかのように耳をシュンとさせる。という
﹁だ⋮⋮大丈夫だ﹂
﹁す⋮⋮すみません⋮⋮⋮ご主人様﹂
それに気がついた彼女も慌てて離れた。
ていた。あまりの痛さに俺は彼女の腕を何度か叩いて痛さを知らせ、
つまり彼女は無意識に俺にヘッドロックを掛けている状態になっ
フっていうのは戦闘種族で力も凄い。
にフサフサした尻尾を振っている。男なら嬉しい状況だがワーウル
付けてきた。彼女の胸は間違いなく巨乳で柔らかいし、犬や狼みたい
嬉しさのあまりミオが俺にいきなり抱きついてきて、顔に胸を押し
?
﹁はい。ご主人様はご主人様だからです♪﹂
?
?
139
?
﹁なんだそりゃ⋮⋮⋮﹂
若干天然の要素があるミオと暫く話を続けた。この異世界に来て
から初めて誰かとゆっくり会話し、穏やかな時間を過ごした。
帝国に対する怒りと恨みは未だに消えてはいないが今の時間だけ
はどうでもよく感じ、ミオと話をすることがなんだが楽しかった。エ
ミリアに似ているからかも知れないが、せっかくだ。少しの間だけで
もゆっくりさせて貰うとしよう⋮⋮⋮⋮⋮。
140
Mission32:動き出す各国
日本の首相官邸。
現 在 の 総 理 大 臣 で あ る 本 居 は ゲ ー ト の 扱 い に 多 忙 を 極 め て い た。
通常の派遣団からの報告書や炎龍との遭遇戦において500人近く
もの死者が民間人に発生したというのもある。だが最も大変なのは
国内外にいる獅子身中の虫達だ。
国内では共産党を主体とした野党からの批判や総理辞任などと連
日のように新聞や週刊誌に連載するよう胸糞悪いジャーナリスト共
に欺瞞情報を流し、本居の総理辞任を誘っている。
そんな中でタチが悪く姑息かつ陰湿な嫌がらせをしてきているの
が中国、韓国、北朝鮮の3カ国だ。
韓国と北朝鮮は歴史問題を吹っかけて日本からゲートの保有権を
自分達のものにする為に毎日のように領空、領海に軍を侵犯させて来
ており、数日前にはスクランブル発進したF│35Jに北朝鮮︵関与
を否定︶のMig│29Aが攻撃を仕掛けてきてMig│29Aを撃
墜するという事件もあった。
韓国に至っては日本はゲートから発見された資源で日本軍を再建
するつもりだという的はずれな言い掛かりをして来て領海内に蔚山
級フリゲートを侵犯させて民間輸送船に死者は出なかったにしても
砲撃するという暴挙に及んでいる。もちろん関与は否定されている。
群を抜いて悪質な中国は日本と台湾という国家は存在せず、あの島
は我々の領土なのだからすぐに出て行けという意味不明な馬鹿発言
をし、世界各国を呆れさせている。
こんな馬鹿連中が辺り一面にいることに胃が痛くなる状況だ。
昼食の後に胃薬を放り込むと本居は執務室に篭り、テレビ電話を
使ってアメリカと台湾に連絡していた。
﹁しかしそっちも大変だな本居﹂
﹁全くです。国内だけでも手一杯なのに共産主義共は的はずれな嫌が
らせを仕掛けてくる⋮⋮おかげで胃薬は今週に入って3本目を開け
141
ましたよ﹂
﹂
﹁こちらも全く同じです、中国のスホーイ擬きが領空侵犯してきてス
クランブル発進が後を絶たないです﹂
﹁ディレル、そっちはどうなのですか
﹁こちらはまだマシだよ。NATOが我々を通じてゲートの中に入れ
ろといってきて忙しいことを除いてだがな⋮⋮﹂
﹁しかしゲートか⋮⋮⋮あれのお陰で世界が動いているというのはあ
ながち間違ってはありませんな﹂
﹁世界中の国がゲートの覇権を狙っているのだ⋮⋮しかもマイナーメ
タルが大量に見つかったとなると欲しがるのは仕方がないこと﹂
ゲートからコバルトなどのレアメタルが発見されたという事実も
各国は掴み、アフリカの難民問題を抱えている小国は日本に援助を求
めて来ている。
収集した地下資源に関しては日本、アメリカ、台湾を中心に友好国
や難民問題を抱えている諸国にも配分されることは既に可決し、実際
に既に採掘された資源は中国、韓国、北朝鮮を除いてサンプル品が配
分されている。
﹁そういえば本居。確かドラゴンとの戦闘で発生した犠牲者に関する
﹂
現地人を交えた参考人招致が行なわれると聞いたのだが⋮⋮﹂
﹁確かに1週間後に控えていますが⋮⋮それがどうか
しいのだよ﹂
﹁面会ということですか
﹂
た人間というのに興味があるのだ。だから是非とも私も会わせて欲
﹁いやなに⋮⋮折り入って頼みがあるのだがな⋮⋮私も異世界から来
?
連絡したのですが⋮⋮﹂
﹁しかし⋮⋮こちらとしましても流石に急過ぎることです。国家とし
ての枠組みではなくプライベートでの対談でしたら何とかなるかも
知れませんが⋮⋮﹂
142
?
﹁ミスター本居。実は私も会ってみたいのです。今日はそのお願いで
?
﹁それで構わない。どうだろうか
﹂
﹁分かりました。でしたら緊急会談という形にしましょう。それなら
ば内外に説明し易い。時間は長くても2時間ほどでしょうが⋮⋮⋮﹂
﹁いつも無理をいってすまんな⋮⋮⋮極上のカリフォルニアワインを
土産にするよ﹂
﹁でしたら私もなにか土産を用意しておきます﹂
﹁会合の場所は横須賀にしましょう。あそこなら海上戦力を異世界の
方々にご覧頂けますし、美味い天麩羅の店を知っています﹂
﹁それは楽しみだ。妻や子供達にいい土産話が出来そうだ﹂
﹁私もです﹂
本居はディレルと周の頼みである異世界からの来賓との面会を容
認し、自分がまだ下積み時代から通っていた店での食事を提案した。
それから電話会談で中国、韓国、北朝鮮に対する経済制裁の強化と
特別地域における指揮系統の改善、台湾軍の派遣勢力増強などという
軍事協定を話し合い、20分後に会談は終了した。
対談を楽しみにする3カ国。だが来賓を狙う勢力が日本の西側よ
り迫っていた⋮⋮⋮⋮⋮。
143
?
Mission33:ひと時の休息
俺とエースが捕まって帝国の騎士団に酷い目に遭わされてから暫
く、痛みで目を覚ました俺は気が付けば4人のメイド達に囲まれてい
た。
しかも内の3名は頭にうさ耳があるヴォーリアバニーという人種
とネコ耳のキャットピープル、髪が蛇のメデューサといったオタク心
をくすぐる女の子達だ。なんでも身動きが取れない間、身の回りの世
話をしてくれるらしくて水を飲ませてくれたり食べ物を食べさせて
くれたりと至れり尽くせりだ。
そんな棚からぼた餅状態に倉田達がマミーナさんとペルシアさん
の案内で部屋に入って来て、落ち着いた雰囲気に唖然としてた。その
直後にワーウルフの副メイド長の案内を受けたエースも合流し、全く
の危険はないと分かったみんなは装備を外して休んでいた。
した♪﹂
﹂
﹁いやぁ∼♪それほどでも♪﹂
﹁この蛇、脱皮はどのように
﹁それは秘密デス﹂
﹁わかったわよぉ⋮⋮﹂
地がいいわ﹂
﹁仕組みはどうなってるか分からないけど、伸び縮みしてとても着心
﹁この生地、どうなってるの
﹂
ロイの慈悲深さの賜物で御座います♪﹂
﹁こうして再び聖下とお会い出来る栄誉を得られるとは⋮⋮偏にエム
?
?
144
それにレレイが回復系の魔法を掛けてくれたことで俺とエースの
傷が瞬く間に完治した。
﹂
21歳独身
お⋮お願いしみゃす‼
3等陸曹、倉田 武雄であります‼
趣味はア⋮アニメや同人誌鑑賞‼
﹁じ⋮⋮自分は‼
‼
?
?
﹁昨日の盗賊との鮮やかな立ち回り凄かったです♪見惚れてしまいま
?
?
﹁⋮⋮⋮ニャハ♪﹂
?
﹁すっごくモフモフしてて気持ち良いな﹂
﹁ワフゥ∼♪﹂
部屋の中では倉田達とメイド達が楽しく会話をしていた。倉田は
念願のネコ耳女性であるペルシアさんと知り会えて、栗林はさきの戦
いのCQCをマミーナさんから賛美されて照れ、レレイは興味津々で
アウネラちゃんに質問。
ロ ゥ リ ィ は エ ム ロ イ を 崇 拝 し て い る メ イ ド 長 ラ ム さ ん に 困 惑 し、
テュカはモームちゃんとファッショントークを楽しんでいた。
海兵隊のクラーク伍長に頭を撫でられているミオさんと海兵隊も
途中で様子を見に来た執事達とメイド達との対話で和んでいた。
﹂
俺はベッドで横になりながらその光景を眺めていた。
﹁なんだか和んじゃったな﹂
スはいいのか
﹂
﹂
に等しいし、彼女達の主人はミュイ殿だっていうことくらいは理解し
てる。
それに亜人は帝国じゃ迫害か奴隷の対象だって聞かされてるから、
寧ろ救出対象だ。そんな彼女達に敵意は向けたりはしないさ﹂
そういえば保護したコダ村の村人が話してたな。
145
﹁急いで脱出する必要は無くなりましたね﹂
﹁夜が明けたら曹長たち呼んで、普通に出ますか
情報を掻き集めるにはいいんじゃないか
﹁まぁな。それと伊丹、折角の機会だからメイドたちと仲良くなって
にはいかなかったです﹂
﹁いえ、道中で何度か見つかりそうになりました。流石に中尉のよう
だ﹂
﹁しかし、敵に見つからずここまで来れたなんて、流石はコーエンス
?
﹁あぁ。仲良くなるっていうのは悪いことじゃないしな⋮⋮ってエー
?
﹁あのなぁ⋮⋮⋮俺も馬鹿じゃない。彼女達は帝国への忠誠心は皆無
?
帝国は人間至上主義を掲げていて、亜人を雇用するのは構わないが
イタリカみたいに積極的じゃないし、場所によってはヴォーリアバ
ニーはキャットピープルなんかは愛玩奴隷や性奴隷としか捉えない
連中もいるらしい。
人種差別ってのは何処の世界でも面倒くさいものだな。
﹂
今夜は文化交流っつうことで♪﹂
﹁それでどうするんだ
﹁じゃ‼
?
﹂
﹁はい。記念撮影にですかな
﹁あぁ﹂
ちょっとの間だけの休息だろうが、息抜きには非常に友好的だし、
弾ませていた。
話や趣味、互いの世界の話で盛り上がり、エースもミオさんと会話を
そのあとは各自が携帯でメイドや執事達と一緒に写真を撮り、酒の
に集結する。そして倉田にカメラマンを任せて写真を撮った。
やシモンズ達かメイド達に軽く説明し、伊丹が横になっているベッド
それだけいうとコーエンスはみんなに記念撮影すると説明し、栗林
﹂
﹁そうだな⋮⋮⋮コーエンス。確か偵察任務用のデジカメがあったな
?
みんな楽しそうだ⋮⋮⋮⋮⋮。
146
?
?
Mission34:アルヌスへ
文化交流は早々に打ち切られてしまった。
文化交流をしている最中に俺の右腕を刺した金髪女が売春婦みた
いな格好で伊丹の部屋に入ってきていきなり平手打ちを伊丹にしや
がったからだ。
もちろん瞬間的に取り押さえられ、全員が一斉に武器を手にして銃
口を突きつけた。
事情を聞いてみたら条約違反を無かったことにしたいが為に伊丹
を籠絡すると同時に詫びという意味を込めてやってきたまでは良
かったのだが、交流で誰も気が付かなくて気が付けば平手打ちをして
いた。
呆れすぎてものもいえなかった。
﹂
そして俺たちは金髪女を連行し、ピニャがいる部屋に揃った。
ことはそちらで⋮⋮﹂
そしたら考
﹁まぁな。今回のこいつを張り倒したことには俺らにも責任はある。
朝食を一緒に摂ろう‼
?
だから呆れはするがお前らの好きにすりゃいい﹂
そうだ‼
?
てんだ。だからあんたのママゴトなんざに付き合う暇はないんだ﹂
147
﹁⋮⋮⋮⋮で⋮⋮その傷は
?
﹁あ⋮⋮あのぉ⋮⋮自分らは隊長達を連れて帰りますから、そちらの
﹁こ⋮⋮この始末⋮⋮⋮どうしてくれよう
﹂
くため息をしながら椅子に崩れるように座る。
金髪女のボーゼスが気まずく小さくそう口にするとピニャは大き
﹁⋮⋮私がやりました⋮⋮⋮﹂
?
﹁勝手に決めてもいい⋮⋮と﹂
﹂
﹁そ⋮それは困る⁉
えも‼
?
﹁悪いな姫さん。俺らは日本の国会に参考人招致で呼び出しを食らっ
?
﹂
﹁伊丹とエース達は日本の元老院に報告を求められている⋮と﹂
﹁元老院⁉
﹁ま⋮⋮待ってくれ‼
﹂
おう‼
では妾も‼
妾もアルヌスに道々させてもら
帰るってのに余計な荷物を抱えるなんざ
?
伊丹殿、エース殿﹂
よろしいな
エース何を⁉
﹂
?
Vの助手席に乗り込んで被っていたLWHを外した。
朝食を摂り終わるとすぐに車両に乗り込み、俺もM1161 IT
かガッツリとした組み合わせだった。
た。こちらの朝食はイギリスの朝食とよく似た組み合わせで、なかな
残りの部隊と合流を果たし、姫さんの提案で朝食を摂って朝を迎え
それだけの条件をつければ問題はないだろう。それから俺たちは
﹁分かった﹂
の防衛戦で証人が必要なのでな﹂
﹁もう1つはメイドの中から1名だけ俺たちと同行してもらう。今回
﹁あぁ。構わない﹂
含めた2名のみ。武器の持ち込みは許さない﹂
﹁まぁ任せておけ伊丹⋮⋮⋮まず同行する帝国騎士は1名とあんたを
﹁ちょっ⁉
﹁⋮⋮⋮⋮勝手にしろ。だが条件がある﹂
﹂
﹁ええっ⁉
?
﹁此度の協定違反⋮⋮ぜひ上位の指揮官に正式に謝罪しておきたい。
御免被るぞ﹂
﹁どういうつもりだ姫さん
?
を決意したかのようにピニャはこちらに歩み寄ってきた。
討伐を進言すると思い込んでいるだろう。いい気味だ。すると何か
恐らく今回の不手際に関する報告をして、国会の自衛隊による帝国
﹁だから⋮⋮すぐに戻らなければならない﹂
?
﹂
﹁えっ⁉
?
?
?
148
?
?
本当に鉄なんですね‼
そして後部座席には⋮⋮。
﹁わぁ‼
﹁あぁ。防御力は低いがな﹂
ないとかという理由だ。
﹂
?
﹂
﹁ミオ。危ないからあまり走行中は動くなよ
﹁そうなのですか
﹂
というか、彼女がいないとまた帝国に対して怒りが爆発するかもしれ
ただ裏は彼女を何だか放っておけないということもある。保護欲
ることは目に見えているから、彼女の存在が有効となる。
だから参考人招致で奴等が連合に何か適当な事を口にして批難す
いう記事を作るジャーナリストもいる。
けて批難し、中にはアメリカ軍は国内から日本を侵略しにきたなんて
奴等は俺たちアメリカ軍が国内で行動することを適当な理由をつ
ジャーナリストだ。
俺 が 日 本 で 嫌 い な の は 共 産 党 と 野 党、事 実 を 伝 え よ う と し な い
正当性を日本に証明する為の証人。
彼女を指定した理由として表向きは参考人招致における防衛戦の
た。
等兵、コーエンス曹長の他に俺の世話をしてくれたミオが同乗してい
ゲインフォート伍長、ハック伍長、ロックフォート上等兵、九条上
?
﹂
?
すると伊丹が搭乗しるジャパニーズハマーを先頭に車列が移動を
︿了解。3│1から全車。前へ﹀
﹁こちらリーパー00。客人は乗り込んだ。いつでも出発できる﹂
︿3│1からリーパー00﹀
﹁はい♪ご主人様♪﹂
らいい子にしていろよ
﹁あぁ。だが眺めはいい筈だから走行中の光景を楽しんでくれ。だか
?
149
?
開始した。アルヌスベースまでは実に数時間。距離的には300k
m程になるので途中で待機していた補給地点に立ち寄り、ガソリンを
補 給 し て か ら ア ル ヌ ス へ と 向 か う。す る と ア ル ヌ ス に あ と 少 し と
﹀
なんという速さだ⋮⋮﹀
アルヌスです‼
なった辺りで無線があった。
︿殿下‼
︿もう着いたのか⁉
いで俺は無線に耳を傾けた。
?
︿武器だと⁉
﹀
︿あれは魔導ではない。銃、あるいはライフルと呼ばれている武器﹀
︿あの杖⋮⋮連合派遣団の兵士は皆魔導師なのか
﹀
れをミオは身を乗り出して目を輝かしながら眺めているが、気にしな
団のアパッチとスーパーコブラがフライバンで飛行していった。そ
インカムを手にして注意しようとしたら、上空を第4空中強襲戦闘
﹁伊丹の奴⋮⋮⋮また無線を切り忘れているな﹂
﹁中尉⋮⋮﹂
?
?
︿鉄の天馬に⋮⋮鉄の象⋮⋮まさに異世界の怪物だ‼
﹁戦車が象ってねぇ﹂
﹀
3機甲戦闘団の74式戦車が砲撃をしながら前進していた。
そう考えていると少し離れた場所から戦闘速度で移動している第
負ける筈がない。
た話。中世ヨーロッパか古代ローマ時代に似た戦術しかない帝国に
無線の向こう側から聞こえてくるレレイの説明と馬鹿姫の驚愕し
︿だから帝国軍は大敗退した﹀
︿戦い方が⋮⋮⋮根本的に違う﹀
それらの特性を最大限に活かす戦術を持って、いまに至っている﹀
︿原理は簡単。鉛の弾を炸裂の魔法で封じた筒で弾き飛ばしている。
?
150
?
?
﹁言わせておけ。くだらん戯言だ﹂
︿なぜ⋮⋮こんな連中が攻めて来たのだ⁉
︿帝国は鷲獅子の尾を踏んだ﹀
﹀
︿帝国が危機に瀕しているというのに、その物言いはなんですか⁉
︿私は流浪の民。帝国とは関係ない。寧ろどうでもいい﹀
︿私もエルフよ。だから帝国とは何の関係もないわ﹀
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
は⋮箱から声が⁉
﹀
﹁さっきから聞いていたが⋮⋮⋮⋮おい馬鹿姫﹂
︿なっ⁉
﹀
?
?
興味津々に戦車隊を眺めているミオの頭を撫でながら俺も戦車隊
立つ。まだ自分達が犯した罪を意識していないようだ。
だろうが、攻め込まれる原因が帝国の侵略であるということには腹が
それだけ言うと無線機のスイッチを切った。今頃は沈黙している
姫﹂
⋮⋮⋮攻め込む覚悟があんなら攻め込まれる覚悟も持っていろボケ
﹁さっきの会話は筒抜けだ。先に攻め込んだのはお前達帝国だろうが
︿いけね。また送信しぱなしだった﹀
?
の演習を眺めていた⋮⋮⋮⋮⋮。
151
?
Mission35:谷とルフス
通信で伊丹2尉とエース中尉の2名が帝国側の手違いで拘束され
たって話を聞いた時には流石に焦った。しかもエース中尉は右腕を
負傷したらしいから救出部隊編成とイタリカ制圧の噂が流れたり、俺
たちが指揮下に入っている第3機甲戦闘団も再び臨戦態勢に入った
から大変ったらありゃしない。
だが朝を迎えてから誤解が解けて無事に2名は解放。今は帝国の
姫様を連れてアルヌス基地へと向かっているらしい。
第3機甲戦闘団指揮所の台湾軍敷地にて台湾軍派遣部隊指揮官の
﹂
趙 美琪中佐に呼び出され、そこで命じられた内容を持って難民キャ
ンプへ向かった。
﹁私を門の向こう側にだと
﹁あぁ。日本政府から要請があったんだ。炎龍との戦闘で発生した民
間人犠牲者に関する話と難民キャンプの現状証言が欲しいらしい﹂
﹁だが谷の国は別の国だった筈だが⋮⋮﹂
俺は難民キャンプに身を置いているルフスにコーヒーを飲みなが
ら伝えられたことを話す。日本政府から台湾政府に正式な要請で参
考人招致にてアメリカ軍と台湾軍の現地指揮官の証言も欲しいとい
うことで、中佐は俺を指名した。
難民キャンプから1名を連れて行くようにという追加内容もあっ
たので、ルフスを選んだということだ。
﹂
﹁日本は俺たちにとって恩がある国だからな。要請があればすぐに応
えるって訳だ﹂
﹁義心に溢れているな相変わらず⋮⋮⋮出発はいつなのだ
﹁異世界の国を観光か⋮⋮⋮実に楽しそうだ﹂
観光がある。楽しいぞ﹂
﹁明日の朝に出発する。そこで証人喚問が終わったら3泊4日の日本
?
152
?
﹁ただ、2日目はあって欲しい人達がいるんだ。向こう側がとうして
も会ってみたいって駄々を捏ねたらしくてな⋮⋮日本、アメリカ、台
﹂
湾のトップだよ﹂
﹁国の国王がか
﹂
?
﹂
?
﹂
﹁それでどうだろう
きてくれるなら助かるんだが⋮⋮﹂
者が何をしてくるか分からないから、彼女を同行させるのだ。
ルフスは濁らせるような回答に首を傾げる。俺が嫌いな共産主義
なんだよ﹂
﹁ややこしいというか何というか⋮⋮⋮ある一派が日本の中では嫌い
か
﹁少し大所帯だな。それほどまでに日本の政府とやらはややこしいの
しい﹂
人からはレレイにロゥリィ、テュカ、そしてイタリカからのメイドら
﹁自衛官の伊丹2尉に栗林2曹、富田2曹に海兵隊のエース中尉、現地
﹁私は問題ない。他に誰が向かうのだ
トップ達と食事してもらおうっていうのが頼みだ。大丈夫か
﹁国 王 じ ゃ な い ん だ が ⋮⋮⋮ ま ぁ 近 い も の か。せ っ か く だ か ら 国 の
?
の世界へと向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
うとして合流。コートを身に纏って制帽を被るとゲートをくぐり、元
丹2尉達と合流し、帝国第3皇女であるピニャ姫が一緒に日本へ向か
にした。そして次の日の朝、彼女を迎えに行ってからゲート前にて伊
それだけ伝えると俺は席を立ち、ルフスと別れて難民キャンプを後
くれ。すぐ自衛隊に用意させよう﹂
﹁ありがとう。明日の朝に迎えに行くから必要な物があったら言って
かせて貰おう﹂
﹁あぁ。私も異界の国家というのには興味がある。だから是非とも行
?
153
?
Mission36:ゲートの向こう側
後で知ったんだが帝国の馬鹿姫は毎日を記録するように日記が書
世界の境たるゲートの向こう側に抜けると、そこは摩天楼だっ
かれているれしい。その中身にはこう書かれていた。
た。かつて異世界の国家に攻め込んだ帝国兵は何を思っただろうか
自らの運命を予想できただろうか
私はこの巨大な建造物の谷間にあり、自らの力の無さを噛み締め
る。これほどの建造物を作り上げる国家を相手に戦争を始めた帝国
の命運に暗黙を感じた
確かに銀座は結構な繁華街だが、原宿や新宿、ニューヨークやロス
アンゼルスにいけば更に巨大なビルが幾つもあるというのに目の前
の12階建ビルで驚いてたらキリがない。
だがこいつらの建造物といえば宮殿や城壁くらいしかないから、銀
座の街並みで驚いていても不思議ではない。
もちろん姫さんと金髪女だけではない。
レレイやテュカ、ロゥリィ、ミオ、ルフスですら目を丸くして唖然
としていた。12月の銀座の寒さを忘れてしまう程の驚愕だったな
ようだ。
﹁見事なまでに予想通りな反応だな﹂
﹁あぁ。彼女達にとって初めての異世界で初めてのビルを見たんだ。
こっちの冬は寒いって⋮⋮﹂
⋮⋮うぅ∼⋮⋮本当に寒いのね﹂
予想は簡単だよクレイグ中尉﹂
﹁くしゅん⁉
﹁だから言ったでしょ
よかったらコートを借りてくるけど⋮⋮﹂
?
﹁ありがとう谷﹂
らな﹂
﹁本当に必要な時はすぐに言うんだぞ。風邪なんか引いたら大変だか
﹁ううん。平気よ伊丹﹂
﹁大丈夫かテュカ
?
?
154
?
?
﹁伊丹2尉﹂
予想より寒い環境に少し寒そうなテュカに心配する全員。すると
伊丹に誰かが歩み寄ってきた。
少し猫背でコートを身に纏った独特な雰囲気を醸し出す男だが雰
囲気は軍人じゃない。
﹂
⋮⋮⋮さすがは英雄だ﹂
﹁情報部より派遣された駒門です。皆さんのエスコートを仰せつかり
ました﹂
﹁お宅⋮⋮⋮公安の人
﹁ほぅ⋮⋮分かりますかな
﹁たまたまだよ﹂
﹁たまたまねぇ﹂
﹁公安ということは警察か
﹂
﹁あぁ。俺は総務課第10係の人間だよ﹂
警視庁公安部総務課第10係といえば、確か日本共産党、市民運動、
反グローバリズム運動、カルト・セクトなどを捜査対象としているポ
ジションだ。
最近では対中国や対朝鮮への調査も任されるようになったから、間
違いなく共産主義者を警戒している。そんな駒門はコートから手帳
を取り出してそれを広げた。
﹂
﹁実はあんたには悪いが履歴を調べさせて貰ったよ﹂
﹁何も面白味なんかなかっただろ
異動。やんわりと3尉に留め置かれていたが例の事件で2尉に昇進
部レンジャーに放り込まれて何とか修了して、その後なぜか習志野に
属。勤務成績は不可にならない程度に可。業を煮やした上官から幹
3尉任官後は兵庫県の伊丹駐屯地第36普通科連隊第1中隊に配
けが人が出たおかげでブービー。
﹁いやいや、実に面白かったよ。一般幹部候補生過程の成績は同期に
?
155
?
?
?
した⋮⋮⋮とね﹂
﹁はぁ⋮⋮よく調べたね﹂
﹁てか伊丹⋮⋮⋮なんとも強烈な軍歴じゃないのか
﹁あぁ⋮⋮別の意味でな﹂
S
なんかに
﹂
﹂
﹁くっくっくっ⋮⋮⋮月給泥棒、オタク、隊内ではコテンパンだねぇ
⋮⋮⋮⋮⋮そんなあんたがなぜ
駒門の言葉に伊丹は面倒そうな表情をし、栗林、富田は唖然とし、谷
はポカンとしていた。
Spesial Fo
⋮⋮⋮特殊作戦群、SFGp、特戦群とも呼ば
彼が口にしたSという言葉は、正式名称は
rce Group
れているグリーンベレー、SEALsと互角かそれ以上の実力を有し
﹁まぁ知ってたからな﹂
﹂
﹂
蟻ってのは怠けて
?
﹁怠け者が必要と
﹂
る個体を取り除いたら、また新たに怠ける個体が現れるらしい﹂
﹁はぁ⋮⋮本当によく調べてるな⋮⋮知ってるか
?
﹁﹁俺たちも
﹂﹂
﹁まぁ⋮⋮⋮クレイグ中尉と谷中尉の経歴も中々のものだよ﹂
﹁ただの屁理屈だったんだがな﹂
﹁特殊作戦群に転属となった⋮⋮﹂
﹁上官に叱られた時にこの話をしたら⋮⋮﹂
?
﹁海 兵 隊 入 隊 後 は 新 兵 育 成 過 程 の 成 績 を 悉 く 塗 り 替 え、特 殊 部 隊 の
俺たちの履歴も調べたなんてな⋮⋮。
?
156
?
?
ている日本で唯一の特殊部隊だ。日本の自衛隊にて最精鋭とされる
⁉
﹂
?
言葉を聞いた栗林が目を丸くしながら叫びをいれていた。
えぇええええええ‼
?
え
?
﹁あんたは驚かないようだねぇクレイグ中尉
?
﹁え
?
と⋮⋮⋮特殊作戦群⁉
﹁なっ⁉
?
フォースリーコンにも参加。そこで様々な実戦を経験したり要人救
出作戦にも参加。少尉任官後は教官を務めていたが事件にて6人の
﹂
テロリストを瞬く間に制圧した功績で中尉に任官した﹂
﹁⋮⋮どうやって調べたんだ
﹁さすがはクレイグ中尉だな﹂
﹁谷中尉は戦車兵学校を首席で卒業。中国軍による侵略の際にはたっ
た1両で海岸に上陸しようとした敵を撃退し、勇猛果敢な戦いようか
海岸の獅子
と云われるようになって英雄化。当時の曹長から
ら友軍、救援派遣された自衛隊とアメリカ軍、更には敵の中国軍から
は
中尉という異例の昇進を果たした﹂
﹁⋮⋮⋮あんたも中々の実績だな﹂
駒門の口にされた軍歴に富田はもちろん、気がつけば周りの自衛官
嘘よ⁉
嘘だと言って
が騒ぎ出す。すると頭を抱えていた栗林がいきなり奇声をあげた。
⁉
?
﹁あ⋮⋮あ⋮⋮あぎゃあぁああああ‼
?
﹂
クレイグ中尉や谷中尉はそうだろうけどこんな人がレンジャー
﹁⋮⋮⋮悪かったな﹂
な上に特殊作戦群⁉
⁉
?
を演じる精神を俺は尊敬するよ﹂
そういうと駒門は伊丹に対して敬礼し、俺たちも反射的に敬礼し
た。その後に駒門達公安部の護衛を受けながらバスに乗り込み、目的
地の国会議事堂へと向かった。
因みに⋮⋮⋮。
﹁嘘よ嘘よ⋮⋮これは夢⋮夢ったら夢よ⋮⋮ありえない⋮ありえない
⋮⋮⋮﹂
伊丹がSだという事実を聞いて、現実逃避をしている栗林がいた
157
?
﹁ふふふ⋮⋮⋮やっぱりあんたは只者じゃない。働き蟻の中で怠け者
?
?
⋮⋮⋮⋮⋮。
158
Mission37:波乱の参考人招致
レレイやテュカ達を連れて議会の参考人招致に挑む伊丹たち。道
中でテュカの服装だったシャツにジーンズからスーツショップへ向
かい、女性用スーツを購入、土産や帝国への技術を見せつける為に姫
様に1着ずつプレゼントし、それから時間があったので牛丼屋で昼食
を摂った。
それから国会議事堂に到着したら富田と栗林に表向きでは来日し
ていない姫様を任せ、伊丹たちは議事堂へと入る。
伊丹は後で知ったんだが今回の参考人招致は日本全国ところか世
界中が注目していて、特にエルフが来たという項目で視聴率が国会中
継で平均視聴率46%と非常に高かったらしい。
そして入室したと同時に議員、マスコミ、記者達がどよめき出した。
確かに目の前にエルフやイヌ耳メイド、ゴスロリ少女に魔導師、銀髪
?
159
戦士がいるんだからオタクにとって注目しない訳がない。伊丹たち
が着席したら静粛となって参考人招致が開始された。
﹁これより参考人に対する質疑に入ります。幸原議員﹂
﹁はい﹂
進行役がそういうと女性議員がフリップを手にして演説台まで歩
み寄り、フリップを見せてきた。そこに書かれていたのはコダ村の死
傷者数が書かれていた。こんなはっきりとした質問をしてくるから、
間違いなくこの人は共産党だ。
エースや谷中尉、伊丹自身も共産党は嫌いだ。
﹂
﹁単刀直入にお尋ねします。避難民から150名もの犠牲が出たのは
何故でしょうか
﹁伊丹 耀司参考人﹂
尊い命が失われたのですよ⁉
﹁はい。え∼⋮⋮それはドラゴンが強かったからです﹂
﹁なっ⋮⋮なにを他人事みたいに⁉
?
?
人命を守る存在だというのに何とも思わないのですか⁉
自分の責任だと仰られるのでしょうか
﹂
﹂
﹁質問を質問で返すのは申し訳ないのですが、ドラゴンが現れたのは
?
なんの問題が無かったかと聞いて
﹁私が言いたいのは指揮官であるあなたの能力や上官の能力とか⁉
今の民主主義政権の対応とか⁉
?
?
殴り飛ばしていいかな
と思う。流石に今の
死者を出した無能な指揮官なのにそれくらいは理解
いるのです‼
﹂
して下さい‼
?
︵落ち着けよエース︶
﹁はい﹂
﹁エース・クレイグ参考人﹂
﹁⋮⋮⋮分かりました。でしたら次は海兵隊の方を⋮⋮﹂
﹁幸原議員、発言を控えるように﹂
野党と共産党は不機嫌そうな表情をする。
与党議員がドラゴンの鱗に関する情報を提示すると、与党は頷き、
や一方的に無能呼ばわりをする方が問題ありと進言致します﹂
それなのにそんなものと戦って犠牲者をゼロにしろという言い方
の1。そんな鱗を持つドラゴンはいわば空飛ぶ戦車です。
ます。強度は強度9であるにも関わらず重量はダイヤモンドの7分
鱗はタングステン並かそれ以上の強度だということが判明しており
﹁議長。伊丹2等陸尉から提出されたサンプルによれば、ドラゴンの
パワードスーツや粒子砲なんかがあればいいなと感じましたよ﹂
2.7mm弾なんか豆鉄砲程度しか通用しませんでしたし、あの時に
﹁問題があったのは銃の威力です。5.56mmや7.62mm、1
した。
発言にはムカついているが、今は我慢すべきだと判断して冷静に解答
伊丹は心の中で
?
︵分かってるが約束は出来ないぞ伊丹︶
160
?
?
小声で起立したエースに話しかけるが、やっぱり今の発言にはエー
スも腹が立っていたようだ。
﹁ではまず、所属と名前をお願いします﹂
﹁アメリカ海兵隊第3海兵遠征群第31海兵遠征隊所属、リーパー隊
隊長のエース・クレイグ中尉﹂
﹁ではお尋ね致します。避難民が亡くなられた際にあなたは最後尾に
﹂
おられたと聞きましたが、どうお考えですか
見え隠れしているようだ。
﹁所属と氏名をお願い致します﹂
隊長の谷 劉郭中尉です﹂
﹁台湾陸軍第564装甲旅団高雄阿蓮駐屯基地隷下第6戦車小隊
雄隊
陸軍は難民キャンプの対応は問題ありではないのですか
﹂
﹁では谷中尉にお尋ねしますが、自衛隊と海兵隊、更にはあなた達台湾
高
今度は谷が起立し、演説台の前に歩み寄るが表情からは軽く怒りが
﹁はい﹂
﹁谷 劉郭参考人﹂
﹁⋮⋮⋮で⋮では次は台湾軍の方にお願い致します﹂
言し、それだけいうと早々に着席した。
質問が気に食わなかったのか、エースは言葉に怒気を込めながら発
です﹂
﹁⋮⋮⋮決してそのようなことはありません。私がいうのはそれだけ
ろうとしなかったのかと聞いています﹂
﹁はい。あなた達海兵隊と自衛隊が民間人を盾にして自分達だけ助か
﹂
﹁⋮⋮言っている意味がよく分かりませんが
?
﹁難民キャンプでは様々な支援や援助で可能な限り負担が無いように
?
161
?
﹂
生活して貰っています。特に自衛隊は難民を自分達の本当の家族み
たいに接しており、印象は限りなくよいものだと判断しています﹂
﹁では、避難民に犠牲者が出たことに対してはどう考えていますか
﹂
﹁レレイ・ラ・レレーナ参考人﹂
﹁はい﹂
﹁では日本語は話せますか
﹂
も切り上げた。そして次はいよいよレレイ達の番となった。
求めていた答えが全く無いと判断した幸原は少しイラつきながら
﹁⋮⋮結構です﹂
は目覚しい活躍をしたと判断します﹂
大な敵を前にして犠牲者を最小限に抑えた伊丹中尉とクレイグ中尉
﹁戦闘になりましたら犠牲者は必ず出ます。私から判断しましても強
?
は当たり前。ヒトは生まれながらにして自由ではない﹂
﹂
﹁では言い方を変えましょう。生活する際に何か不足しているものは
ありますか
たらキリがない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮結構です﹂
﹁次、テュカ・ルナ・マルソー参考人﹂
レ レ イ と 入 れ 違 う よ う に テ ュ カ が 前 に 出 る。見 た 目 は 美 少 女 で
ジーンズにシャツという格好で高校生にも見えたが、今のスーツ姿に
よって雰囲気が一新されてモデルのような美しさがあった。
162
﹁はい、少しなら話せる﹂
﹁今はどのような生活をされていますか
﹂
?
﹁不自由の定義が理解不明。自由ではないという意味合いならばそれ
﹁では不自由などはありませんか
﹁今は難民キャンプで共同生活をしている﹂
?
?
﹁衣・食・住・職・霊。全てにおいて必要は満たされている。質を求め
?
﹂
﹁私 は エ ル フ。ロ ド の 森 部 族 マ ル ソ ー 氏 族。ホ ド リ ュ ー・レ イ の 娘、
テュカ・ルナ・マルソー﹂
﹂
﹁えっと⋮⋮⋮失礼を承知でお尋ねしますが、その耳は本物ですか
﹁はい。自前ですよ、触ってみます
?
﹁静粛に‼
静粛に‼
﹂
達も思わず携帯を取り出して写真を撮るまでに至る。
その瞬間にマスコミ関係者からのシャッターが凄まじくなり、議員
に長く先が尖った耳をピョコピョコと可愛らしく軽く動かすテュカ。
そう言いながら綺麗な長い銀髪を捲り上げ、エルフ独特の笹みたい
?
して頂けませんか
﹂
﹁で⋮⋮ではテュカさん。あなたがドラゴンに襲われた際のことを話
?
﹁⋮⋮⋮はい
﹂
ン族にして死者の導き人﹂
﹁私はルフス・エム・ヴォーディッシュ。神エムロイに仕えるデュラハ
び掛かりそうな怒気を発していた。
伊丹、エース、谷は徐々に怒りを強めていき、特にエースは今にも飛
自分の求める答えがなく、扱いが雑になる幸原。その杜撰な対応に
﹁⋮⋮⋮結構です﹂
違いなく言えます﹂
⋮⋮でも連合は懸命に私や他の人たちを助けていたということは間
﹁よく⋮⋮覚えてない⋮⋮⋮あのとき私は井戸で気を失っていたから
?
失ってしまい、駆け付けた救護班に搬送されていく。
議員達が悲鳴を出し、その内の何人かはあまりの衝撃的光景に意識を
そういうとルフスは自身の首を外して脇に抱え込んだ。その瞬間、
ならば見せたほうが早い﹂
﹁我が一族は代々、自在にこの世とあの世を行き来できる。この場合
?
163
?
幸原に戻すように促されるとルフスは首を元に戻した。
﹂
﹁で⋮⋮ではルフスさんにお尋ねしますが、あなたは難民キャンプへ
保護といいながら実は強制連行されたということはありませんか
﹁私は自ら谷について来た。強制などではない。それに難民キャンプ
の子供達は笑顔で遊び回っている。強制連行されたのならそのよう
な笑顔など発しはしない。根も葉もない根拠を並べるのは相手に対
して無礼を働き、不快を与えるからあなたの発言は些か度し難い﹂
尤もな意見をするとルフスは自分の椅子へと戻った。帰って来た
ルフスの頭を谷が撫でるが、自分に都合が悪いことに対して逆ギレし
そうな表情をする幸原は次にミオを指名した。
ミオも普段の立ち振る舞いを見せてはいるが、彼女はワーウルフ。
表情では笑顔だが狼が怒りを見せる時のように毛が逆立っていて幸
原の失礼極まりない質問に不快を感じているようだ。
﹁私はミオ・ルカ・ヴォートス。フォルマル伯爵領イタリカの当主ミュ
イ様にお仕えしているワーウルフのメイドでございます﹂
﹂
﹁ではミオさん。あなたに質問しますが、自衛隊はあなた達を不当な
扱いをしたり、非人道的な行為をしてはいないでしょうか
カ海兵隊、台湾陸軍の方々はとても親切で困っている方を見捨てず自
ら危険を顧みないで手助けして下さっています﹂
﹂
﹁失礼ですが、その発言は派遣団に強要されているのではありません
か
訳ないのですが、あなた様の方がまるでご主人様方に不利な発言を強
要しているようにしか思えません。申し訳ありませんが、あなた様に
対しての返答はここで打ち切らせて頂きます﹂
これ以上話すことはない。そんな雰囲気を醸し出してミオはエー
164
?
﹁私は難民キャンプに到着して日が浅いです。しかし自衛隊やアメリ
?
﹁いえ、紛れもなく私の考えで発言させて頂いております。大変申し
?
スの隣に腰掛けた。今の段階で何一つ自分に都合がいい返答を得て
いない幸原。すると最後の1人となったロゥリィに思わず笑みを浮
かべた。
︵黒服にベール⋮⋮喪服ね⋮⋮⋮適当に誘導して死んだお馬鹿さんの
責任を自衛隊に押し付けてやればいいわ⋮⋮︶
そんなことを考えながらロゥリィを見る。
﹁では、あなたのお名前をお願い致します﹂
﹁ロゥリィ・マーキュリー﹂
﹁では、あなたのキャンプでの生活を教えて下さい﹂
﹁簡単よぉ。朝、目を覚ましたら生きる。祈る。命を頂く。祈る。夜
﹂
になったら眠る。その繰り返しよ﹂
﹁命を⋮⋮⋮頂く
﹁そう。例えば食べること。生き物の命を貰うこと。エムロイへの供
儀とか⋮⋮﹂
﹁分かりました⋮⋮ではあなたは見たところ大事な人を失ったようで
﹂
すが、その原因に自衛隊やアメリカ軍、台湾軍の対応に問題があった
のではないでしょうか
捨てたのではないのですか
﹂
あなたの大事な人を死へ導いた無能で臆病
﹂
さっきから黙って聞いていれば‼
?
?
さぁ話して下さい‼
?
いません。これは自身の命を最優先にし、その結果として民間人を見
わなければならない自衛官や軍人には死者どころか怪我人すら出て
﹁避難民には150名もの犠牲者が出たにも関わらず、身を挺して戦
リィに通訳し、質問の意味が分からないとだけ伝えた。
最初に頭を傾げたのは通訳をしているレレイだ。ひとまずはロゥ
?
?
165
?
な自衛隊やアメリカ軍、台湾軍の悪行を‼
﹁てめぇ‼
?
﹁落ち着けエース⁉
﹂
気持ちは凄く分かるが耐えるんだ⁉
ここで乱闘はマズイって⁉
﹁そうだクレイグ中尉⁉
﹂
?
?
﹁あなた‼
﹂
?
た。
?
ていた。
﹂
あなたはお馬鹿さんですかぁ
﹁い⋮⋮いま何と
﹁
ん﹂
と言ったのよ⋮⋮⋮⋮お嬢ちゃ
何気にダメージが大きいエースを他所に幸原は唖然としてしまっ
﹁あぁああ⋮⋮⋮俺⋮⋮昔からこの音だけは駄目なんだ⋮⋮﹂
﹁ま⋮⋮まだ耳鳴りが続いてるけどなんとか⋮⋮⋮﹂
﹁だ⋮⋮大丈夫か谷、エース
﹂
きなりだったので全員が耳を塞ぎ、特にエースは後ろに倒れてしまっ
ロゥリィの発言によりマイクから発せられる雑音。あまりにもい
お馬鹿ぁあっ⁉
るが、それはロゥリィ自身により鎮圧されることとなった。
うとするエースを必死に止める伊丹と谷。会場は瞬く間に混沌とな
幸原の言葉に対して遂に我慢の限界に達したエース。殴り掛かろ
?
?
的な愚か者を見下す蔑視の視線であった⋮⋮⋮⋮⋮。
かべてはいるが、その笑っていない目は目の前にいる馬鹿で自己中心
それだけいうとベールをたくし上げるロゥリィ。彼女は笑みを浮
?
?
166
?
あなたはお馬鹿さんですかぁ
と尋ねたのよぉ、お嬢ちゃん﹂
Mission38:真実の話
﹁
たいみたいじゃないのかしらお嬢ちゃん
彼等がいるからあなたみ
?
﹂
全く⋮⋮⋮やっぱり異世界は非常識な人間
それは私に言ってるのかしらぁ
よ、お嬢ちゃん
﹁お嬢ちゃん
﹂
所は初めてでしょうけど、この国では年長者を敬なければならないの
﹁⋮⋮⋮大人への口の利き方がなっていないわね⋮⋮。こういった場
する。すると幸原はロゥリィが気に入らないのか、すぐに反論した。
ロゥリィの発言に議長は注意するも、ロゥリィの睨みで黙り込んで
﹁参考人は口を慎んで下さい﹂
議員をしているのだから、この国の兵士も随分と苦労してるのねぇ﹂
そんなことも分からないなんて、あなたみたいなお嬢ちゃんが元老
るのよぉ。
たいなお嬢ちゃんが雨露凌いでただ駄弁っているだけの存在もいれ
兵士が自分の命を大事にして何が悪いの
違うわね⋮⋮伊丹とエース達は四分の三を救ったのよぉ。それに
四分の一が亡くなった
ことを讃えるべきでしょうにぃ。
寧ろ今まで力と紅蓮の象徴である炎龍を相手に戦って生き残った
?
﹁さっきから黙って聞いてたら、まるで伊丹達が責任放棄したと責め
していた。だがロゥリィは表現を変えずに幸原に答えを突きつける。
璧に近い日本語ではなく馬鹿という単語に議会にいる全員が唖然と
いきなりレレイを介さないで日本語で話し出すロゥリィ。その完
?
﹁随分と面白いことを言うわねぇ。たかが⋮⋮⋮﹂
しか居ないみたいねぇ。だから野蛮人は嫌いなのよ⋮⋮﹂
﹁他に誰がいるのですか
?
?
167
?
?
?
死神
の表情は今
そういいながらロゥリィはハルバートを隠している布を取り払お
うとする。その笑顔だが殺意が溢れ出している
にも目の前にいる虚栄心の権化を肉片が無い位に惨殺しようとして
いた。
ロゥリィの無双はエースをも上回る圧倒的強さだ。とっさにイタ
﹂
﹂
リカの二の舞が頭に過ぎった伊丹と谷とエースは流石に不味いと判
断して彼女を止めに入った。
﹁ちょっとぉ⋮⋮なんで邪魔するのよぉ
﹁いやいやいや⋮⋮それを出したら不味いからな⁉
﹂
幸原議員は重大な勘違いをされていますので発言させて頂
﹂
りも年長者なのです﹂
いったい幾つだというのです
になるわぁ﹂
﹁きゅ⋮⋮⋮900⁉
﹂
﹁女に年齢を聞くのは失礼だけどまぁいいわぁ。今年で私は961歳
﹁ふん‼
﹂
ありますが、こちらのロゥリィ・マーキュリーさんはここにいる誰よ
﹁感謝します。我々日本人は年齢を武器にしてしまうという悪い癖が
﹁伊丹参考人。発言を許可します﹂
く許可を‼
﹁議長‼
にするな⁉
﹁暴発しかけた俺が言うのもなんだが、ここでイタリカの再現は絶対
?
?
?
﹁165歳になるわ﹂
﹁じ⋮⋮じゃあテュカさんは⋮⋮﹂
議長よりも10倍以上の年月を生きている存在だ。
こそは12歳かそこらの可愛い少女。だが実際は70代後半である
帯の向こう側の人達は騒然となった。目の前にいるロゥリィは外見
ロゥリィの年齢を聞いて幸原、議員、マスコミ、更にはテレビや携
?
168
?
?
?
?
﹁因みに私は406歳になる﹂
﹂
﹁私は117歳になります﹂
﹁ま⋮⋮まさか⁉
﹁私は15歳﹂
ロゥリィは961歳でテュカは165歳、ルフスは406歳でミオ
は117歳と聞いて幸原は不安になってレレイにも聞くが、15歳と
きいて胸を撫で下ろした。
するとレレイがロゥリィに代わって解説を始めた。
﹁門の向こう側では様々な人種がいる。私達ヒト種は平均寿命は60
から70前後。テュカは不老長寿のエルフ。その中でも希少なハイ
エルフと呼ばれる妖精種であり、寿命は永遠に近い。
ロゥリィも元々はヒトだけど、亜神になったことにより肉体年齢は
固定された。通常は1,000年程で肉体を捨てて霊体となり、やが
ては神になる。
戦いの神エムロイの従者ともいえるデュラハン族のルフスもエム
ロイの加護を受け、使命である死者を冥界に導く代わりに寿命は存在
しない。戦闘種族のワーウルフであるミオは3人と比べて寿命は短
いが、それでも私達ヒト種と比べたら平均寿命が300歳前後と長
く、容姿も変わることはない。しかも特性で即死の攻撃を受けない限
りは治癒能力で即座に回復することも出来る﹂
﹁つまり、あなたの発言は矛盾しかないということよぉ﹂
﹁あぁ。しかも私達を野蛮人などと侮辱するとは⋮⋮子供のくせに口
を開くな﹂
﹁あなた様が望まれるのでしたら私も冷酷にやらせて頂く所存です﹂
そういいながらルフスも大鎌の布に手を伸ばし、ミオも握り拳を
作って小指、薬指、中指、人差し指の各間からカミソリ状の刃を僅か
に出す。
ワーウルフの最大の武器は治癒能力に加えて鋼鉄のような犬歯と
169
?
ワーウルフ族特有の理由は不明だが両手から出現するアダマンタイ
ト級の強度とあらゆる物を切り裂く非常に斬れ味がよい刃だ。
3人は怒気と殺意を溢れさせるが幸原は全く気付かず、とうとう口
と
これでは正当な証人
参考人招致にて異世界の人間を
なのに来たのはバケモノ‼
私達共産党は
にしてはならないことを口にしだした。
﹁ぎ⋮⋮議長‼
す‼
﹂
‼
﹂
我々共産党は後日に参考人招致の再開を進言しま
﹁⋮⋮⋮テメェ⋮⋮地獄に踏み入りたいのか‼
帰るぞ‼
とは非常に不愉快です﹂
﹁俺たちアメリカ軍もだ‼
こんなクソ野郎に話をするだけ時間の無
?
を乱暴に閉めた。
ろからは暴言を吐いた幸原が更に暴言を吐くが一切耳を傾けずに扉
3人がそういうとロゥリィ達を引き連れて議事堂を後にした。後
﹂
くれた海兵隊を⋮⋮知人であるエース・クレイグさん達を侮辱したこ
﹁俺たち自衛隊もです。震災で日本に対して復興支援に最も協力して
言をした共産党及び野党に対して後日正式に抗議させて頂きます﹂
﹁あぁ。今の発言は俺も我慢ならない。議長、我々台湾軍は先程の暴
?
﹁伊丹‼
﹂
谷‼
エースは気にも止めないで扉に歩き出した。
あまりにもいきなりの行動だったので議員達は唖然にとられるも
を立てて床に落ちる。
り飛ばされた椅子は破片を出しながら壁に叩き付けられて破損し、音
対して今迄にない怒声と殺気で座っていた椅子を蹴り飛ばした。蹴
自分のことはまだしも、亡くなったエミリアを侮辱し出した幸原に
?
もなりません‼
喚問は出来ませんし、自分の妻も守れない軟弱な海兵隊なんて参考に
申したのです‼
?
?
?
?
170
?
?
?
駄だ‼
?
?
これにより参考人招致は強制的に終了となったが結論から特地に
おける避難民への扱いは非常に良好で、このまま連合派遣団を特地に
派遣したままで話が進んだ。
これは後に決まることだが、日本政府から3人に多数の避難民を救
い出した功績を称えて旭日重光章、台湾政府から忠勇勲章、アメリカ
政府から功績軍団章が授与される運びとなる。
対して伊丹達やロゥリィ達特地からの参考人達に対して度が過ぎ
る暴言を吐いた幸原は謹慎処分として半年間の政治活動の一切を禁
じ、共産党や野党も更に活動範囲を狭まれることになる。更にはテレ
ビや携帯にて世界中から猛抗議が殺到し、街頭にて幸原の解雇と共産
党の解体を促す署名活動が行なわれるまでに至った。
日本にて英雄と称される伊丹、エース、谷は次の目的地へ向かう準
備をしていた⋮⋮⋮⋮⋮。
171
Mission39:逃走と隠密
波乱万丈の証人喚問を終えて俺たちは国会議事堂を後にした。正
面はマスコミや新聞記者、更には野次馬が大挙して押し寄せて来てお
り、正門からバスが出た瞬間にフラッシュがたかれるがそうは行かな
い。
本来ならば移動手段としてマイクロバスを利用して大統領達が待
つ横須賀に向かう手筈だったが、マスコミの中に共産国の手先が紛れ
込んでいるのは目に見えていた。だから警護主任の駒門は直前に移
動をバスから地下鉄に変更するという奇策を提示し、こっそりと裏門
から地下鉄へと乗り込んだ。
地下鉄丸ノ内線がホームに滑るように国会議事堂前駅に入って来
て、扉が開いたがルフス達は暫く唖然としていた。
早く乗らないと出発するぞ﹂
172
﹁⋮⋮開いた﹂
﹁開いたねぇ﹂
﹁何を馬鹿をやってるんだ
﹁あぁ。中国の連中が何かしてくるのかと思ってたが地下鉄を使用す
﹁そういうな。だが騒ぎにならないのが救いだな﹂
﹁⋮⋮これじゃあ怪しいタレント事務所のスタッフだな﹂
はない。そんな視線を浴びながら伊丹2尉は溜息を吐いている。
金髪、銀髪、黒髪の美女と美少女達を引き連れているのだから仕方
だが視線が痛かった。
幸いにも車内に乗っている乗客は国会中継を見ていなかったよう
出した。
が腕を引っ張って車内に乗り込ませたら扉が閉まり、ゆっくりと走り
リィだけは警戒するかのようにソロソロと乗ろうとする。伊丹2尉
クレイグ中尉に施されて全員が急いで地下鉄に飛び乗るが、ロゥ
﹁足下気を付けて。隙間があるから﹂
?
るなんて思わなかったようだ﹂
﹁だが警戒は緩めるな。コミュニスト連中は人命なんざ二の次なんて
考えを持つキチガイ連中だ。だから奴等が自爆テロを仕掛けてくる
可能性は十分に考えれる﹂
俺たちが警戒をしていると反対側からピニャ殿下とボーゼスさん
を引き連れた富田2曹と栗林2曹が私服に着替えてやって来た。
﹁隊長﹂
﹁よぅ﹂
このまま地の底まで連
﹁焦りましたよ。てっきりバスで移動するかと思ってましたけど急に
地下鉄に変わるんですから⋮⋮﹂
﹂
﹁まぁ合流できたから良かったじゃないか﹂
﹁後ろの姫は何をソワソワしてんだ
とかで⋮⋮﹂
﹁地下に入ってからずっとこうなんですよ。
れて行く気か
そんな会話をしていると電車が揺れて、思わずボーゼスさんが富田
2曹にしがみ付いた。少ししてから顔を赤くしながら離れて、富田2
曹も赤くしていた。
﹁し⋮⋮失礼⋮⋮﹂
﹁い⋮いえ⋮⋮﹂
そんな光景に2人は案外意識し合っているのではないかと思うが、
﹂
伊丹2尉の元にロゥリィが腕にしがみ付いていた。
﹁どうしたロゥリィ
?
﹂
173
?
﹁地下鉄も初めてだからなぁ⋮⋮まぁ仕方がないことか﹂
?
﹁地面の下はハーディの領域なのよ⋮﹂
﹁ハーディ
?
﹁たしか向こう側の冥府の神の名前だった筈でこっちだったらハデス
﹂
﹂
無理矢理お嫁にされそうなの‼
﹂
200年前からずっと、お嫁に来いってしつ
だったか⋮⋮それがどうかしたのか
﹁あいつやばいのよ‼
こくってしつこくって‼
﹁それで⋮何で伊丹にしがみ付くんだ
﹂
﹂
俺がそう言うが、ロゥリィは伊丹2尉にしがみ付いたままだ。
ってな﹂
﹂﹂﹂
ただの虫よけのカムフラージュな
?
できた。
﹁よう﹂
?
だろう。
﹂
このままいけば敵に情報を売り渡した馬鹿と主犯格を拘束できる
ている﹂
報漏洩の容疑者は二人に搾り取れた、今行き先を突き止める為泳がせ
﹁見事に引っかかったよ、移動の変更の手段を知らなかった時点で情
﹁バスはどうしたんです
﹁予定を早めて箱根へ向かうぞ、このまま東京まで行って乗り換えだ﹂
﹁どうやらそっちも上手くいったようだな
﹂
である霞ヶ関駅に到着して扉が開くと、そこから駒門さんが乗り込ん
俺とクレイグ中尉、栗林2曹が揃って2尉に引いた。すると次の駅
﹁﹁﹁気持ちわるっ⁉
んだから
か⋮勘違いしないでよねぇ‼
﹁しかしロゥリィ⋮⋮⋮ここは嘘でもいいからこう言ってくれ⋮⋮⋮
﹁あいつの事だからあり得なくはないのよ‼
﹂
あいつ男が嫌いだから、こうしてたら近寄って
?
﹁い⋮⋮いくら何でもこっちに来ることなんか無いんじゃないか
来ないかも知れないでしょう⁉
﹁ハーディ避けよ‼
?
?
?
?
?
174
?
?
?
?
?
!!
此処から出たいの‼
もう我慢出来ない∼‼
﹂
するとロゥリィが今にも泣きそうな不安の表情で伊丹を見上げて
いた。
﹁伊丹ぃ‼
﹂
?
尾行されていることに気が付いたようだ。
俺だけじゃなく伊丹2尉とクレイグ中尉もそれに対して自分達が
に隠れてしまった
見ると誰かが見ていたらしく、俺の気配に気づいたのかすぐに何処か
スを視線が感じた方角に向ける。そしてスッと横目で電車内の奥を
れ、伊丹2尉はコート、クレイグ中尉は手にしているアタッシュケー
時にある気配を感じとった。俺は着ているジャケットの中に手を入
ロゥリィは降りたがっていて、それに俺は苦笑いするしかなかった
﹁あぁ。尾行されてるな﹂
﹁感じたか
﹁あぁ。いい子だから我慢してくれ⋮⋮⋮⋮⋮伊丹、谷﹂
﹁もう少しだ、次の次で降りるから﹂
?
そして丁度次の駅である銀座に到着し、伊丹は怖がるロゥリィを連
れて電車を降りた。
﹁悪い、此処で降りるぞ﹂
ちょ⁉
おい‼
﹂
﹁よしみんな。ここで降りるよ﹂
﹁はっ⁉
?
?
﹁待てって⁉
﹂
アンタ等何勝手な事を言っているんだ⁉
段取りがあってなぁ⁉
こっちにも
?
﹁尾行ってな⋮⋮⋮﹂
﹁あのまま乗り続けている方が危険だ。間違いなく尾行されている﹂
?
?
175
?
?
駒門さんは俺たちの独断行動に驚き、伊丹2尉の肩を掴む。
?
駒門がそう言った時にアナウンスが流れる。
﹃お伝えします、現在丸の内線は銀座東京間で発生した架線事故の影
響で運休しています、運転再開のめどは立っておりません。現在丸の
内線は⋮⋮⋮﹄
いきなりの架線事故があったという放送を聞いた俺たち。駒門さ
んは伊丹2尉の肩を離して仕方なく駅から降りた。
外に出ると辺りはすっかり暗くなっており、ロゥリィはようやく外
﹂
に出れたことにより背伸びをしながら安心しているようだ。
﹁連中の目的はなんだと思う
﹁デモンストレーションだろうなぁ⋮⋮こっちはいつでも手を出せる
ことを知らしめたいんだろうさぁ﹂
﹂
﹁胸糞悪いコミュニスト共が⋮⋮⋮だがいくらなんでも先回りされ過
ぎてるんじゃないのか
た方がいいんじゃないのか
⋮⋮﹂
﹂
﹁は ぁ ∼ ⋮⋮⋮ な に や っ て ん だ あ ん た は ⋮⋮ や る な ら ち ゃ ん と や れ
る。
その事に呆れながらも駒門さんは歩み寄ってハルバートに手をや
バートの下敷きになるように倒れた。
男はハルバートの重さに耐え切れず、少しだけ走った辺りでハル
リィのハルバートは普通の人間では担ぐことすら難しいものだ。
た男がロゥリィのハルバートをひったくって逃げようとするが、ロゥ
そう話しながらロゥリィの方をチラリと見る。すると帽子を被っ
かりやすい行動をしてくる。例えば⋮⋮⋮﹂
﹁だが奴等はバスに電車、2回とも失敗している。次は間違いなく分
?
176
?
﹁あぁ。これはどう考えても作戦が筒抜けだ。情報管制はちゃんとし
?
﹁あっ⁉
﹂
﹂
﹁ちょっ⁉
それは⁉
⋮⋮なんだ
﹁待て‼
﹁あぁ
﹁ぎぎゃっ⁉
?
﹂
﹂
﹁では、そこに向かいますか
﹁いや、待ってくれ﹂
﹁秋葉原には行きませんよ﹂
﹁違うって⋮⋮⋮﹂
﹂
それを見送ると俺たちは今後の方針を話し合った。
それだけ言うと駒門さんは救急車に乗せられて病院へと直行した。
﹁と⋮⋮とりあえず今夜は市ヶ谷会館に⋮⋮﹂
﹁﹁以下同文﹂﹂
﹁普通の人間には無理﹂
﹁だらしないわねぇ。この位で⋮⋮﹂
れていく。
り犯人を連行していき、負傷した駒門さんはストレッチャーで搬送さ
暫くしてから通報を受けた救急車とパトカーが到着してひったく
俗にいう急性腰椎捻挫⋮⋮⋮ぎっくり腰である。
面に伏した。
腰に走る痛みに駒門さんは崩れるように両手で腰を抑えながら地
﹂
ようとした瞬間に立木の枝が折れるような音が彼から聞こえてきた。
俺たちが駒門さんを制止しようとしたが手遅れだった。持ち上げ
?
?
?
?
?
市ヶ谷会館にも何か仕掛けてくるのは目に見えてる﹂
﹁伊 丹 の 言 う 通 り だ。こ れ ま で 待 ち 伏 せ を 受 け て る ん だ。だ っ た ら
?
177
?
﹂
﹁ってことは別の場所に向かう必要があるか⋮⋮⋮だが心当たりはあ
るのか
﹁あぁ。性格にちょっと問題があるけど、そこなら追尾なんかは無い
筈だ﹂
﹁行ってみる価値はあるってことか⋮⋮仕方が無いからそこに向かう
方がいいだろう。クレイグ中尉、俺たちで背後を警戒しよう﹂
﹁了解だ﹂
そういいながら俺たちは伊丹2尉の案内を受けて駅前から離れた。
と書かれた部屋の前に到着
そして道中のコンビニで彼は食料を買うと離れた場所にポツンと建
つ一軒のアパートに到着し、 葵 梨紗
した。
最初は誰か分からなかったが2尉はなんの迷いも無く扉を開けて
﹂
室内に入っていく。俺たちが入り口前で顔を覗かせながら伺ってい
寒いぞ
?
ると人の気配。
﹂
﹁エアコンくらい付けたらどうだ
﹁ご⋮⋮ご飯‼
?
﹁ふへへへ∼⋮⋮⋮あったかい﹂
﹂
﹁あ∼⋮⋮伊丹⋮⋮まだ付き合ってたのか
﹁まぁな﹂
元嫁さん
﹁てか隊長⋮⋮⋮誰ですか⋮その人は
﹂
﹂
﹁あぁ、これは⋮⋮⋮俺の
﹁えぇ
﹁嫁⋮⋮⋮さん
〟だよ﹂
?
⁉
?
﹃えぇええええええええええええっ‼
?
﹄
ようやく言葉の意味を理解して目を大きく見開いた。
伊丹2尉の言葉にクレイグ中尉を除いて全員が理解不能に陥るも、
?
﹂
﹁はいはい、ちゃんと買って来たから⋮⋮⋮﹂
?
?
178
?
?
クレイグ中尉、レレイを除いて全員が驚きの声を出したが、肝心の
元嫁さんはようやく俺たちの存在に気が付いたようだった
⋮⋮⋮⋮⋮。
179
Mission40:墓参りと部下との再会
伊丹が提示した手段、それは確実にノーマークであろう奴の元妻で
ある葵 梨紗の住んでいるアパートに転がり込むというものだった。
彼女とは俺が留学していた中学時代の後輩で知り合い、奴と結婚し
た際には仲人を務めた。
離婚したというのは向こうで聞かされていたがまさかまだ関係が
あったとは思わなかった。しかも今は友達という形になっていて、寧
ろ夫婦時代と比べたら良好らしい。
もともと特殊な夫婦だったことは知ってはいたが本当に変わった
奴等だ。
そこで一晩を過ごし、朝になったらミオを梨紗に任せて単身で銀座
にいた。手にはオオアマナというユリ科の花を持ち、献花台の前にい
た。あの忌々しい事件で俺はエミリアを失い、多くの人たちが亡く
なって今でも行方が分からない人達もいる。
そして今でも俺と同じように献花台にて花束を置いて黙祷を捧げ
ている人達も多く、俺も全ての死者に対して哀悼の意を表して黙祷を
捧げていた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁隊長﹂
隊長と呼ばれて俺は後ろを振り返った。そこにはニット帽を被り、
こちらに対して敬礼をしていた。
名前はクワイゼル・ハイデッガー。
俺がフォースリーコンにいた時代で少尉だった俺の右腕として支
えた男だ。
﹁クワイゼルか⋮⋮久しぶりだな﹂
﹁はい。3年93日18時間ぶりです﹂
﹁相変わらず時間にうるさい奴だ。だが元気そうでなによりだ﹂
180
﹁少尉こそ⋮⋮って今は中尉でしたな
﹂
﹂
?
2年前からラ・シーアに身を置いています﹂
?
た﹂
﹁奴らが動き出したのか
﹂
﹁え ぇ。正 確 に は 対 テ ロ セ ン タ ー 所 属 で 本 来 な ら 韓 国 に い る 筈 で し
﹁カンパニーか⋮⋮⋮てことはパラミリタリーチームだな
﹂
﹁隊長がフォースリーコンから離れてから暫く残っていました。けど
﹁それで、お前は今は何処に所属してるんだ
﹂
トでクワイゼルはカプチーノを注文すると再び話し出す。
カフェに来店し、壁際の隅にある席に陣取る。俺はカラメルマキアー
部下との再会に対してクワイゼルと握手し、献花台から少し離れた
﹁少し歩くぞ。ここじゃ人目につく﹂
﹁何をいまさら⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮手間を掛けてすまんな﹂
す﹂
士官、そして海兵隊士官が行方不明になりましたから探していた処で
﹁はい。特地から来られた来賓方と護衛に就いていた自衛官、台湾軍
だ
﹁俺にとって階級なんざどうだっていいんだがな⋮⋮⋮それで何の用
?
﹂
クワイゼルの話で中国、韓国、北朝鮮の3国が動き出しているとい
てます﹂
工作員らしき不審船を何隻か拿捕して武器を押収したと連絡も入っ
﹁ラングレーはそう判断しています。日本の海上自衛隊も既に3国の
間違いなく彼女達だな
﹁装備は一流、腕は二流、人間は三流の三拍子揃った連中か⋮⋮目的は
です﹂
れだけじゃなく南京軍の飛龍、更には北の特殊部隊擬きも動いたよう
﹁まだ憶測の範疇ですがROKNSWFが動き出したらしいです。そ
?
?
181
?
うことは明らかだ。だが極度の経済不況と先軍主義による能力の低
下に食糧不足。あの国々はゲートの向こう側で発見された鉱物資源
や領土を自分達のものにすることで躍起になっていて、万が一にでも
ゲートを越えさせたりしたら間違いなく奴等は略奪と侵略を始める。
恐らくはミオ達を人質にしてゲートの管理権を寄越すよう脅迫す
るつもりだ。
﹁それでカンパニーエージェントのお前も部隊を引き連れて警護任務
にあてられたって訳か⋮⋮﹂
﹁そうなります。それに警備に当たるのは俺たちだけじゃありません
よ。SにTeam9の合同部隊も警備に参加することになります﹂
﹁日本で唯一の特殊部隊にTeam6を基盤とした9にラングレーの
パラミリタリー⋮⋮随分と豪華な面々だな﹂
﹁正式な編成が完了しましたら台湾軍の黒衣隊も参加します。それに
182
他国からも武官として数名が⋮⋮⋮﹂
その話なら噂程度で聞いたことがある。特地に派遣されている戦
闘団の中で第6戦闘団は特殊部隊で結成される予定で、日米台の複数
の特殊部隊が1つに纏まることになる。
﹂
しかも情報面で優秀なCIAのパラミリタリーチームも加わると
なればかなり強力な少数精鋭部隊となる。
﹁そういえば⋮⋮⋮お前の奥さんは元気か
﹁はい。シンディや子供達も元気ですよ﹂
﹁俺の心の支えですからね⋮⋮いつか会ってやってください。妻や子
﹁元気そうだな⋮⋮⋮いい笑顔だ﹂
いる彼の妻のシンディに3人の子供が写っていた。
入れてある写真を見せてくる。そこにはクワイゼルに肩を抱かれて
そう尋ねるとクワイゼルはポケットから財布を取り出し、その中に
?
供達も喜びます﹂
﹁あぁ。そうさせて貰おう﹂
クワイゼルの家族の話をしながら俺は頼んだカラメルマキアート
を口にする。それから暫く雑談をしながら寛ぎ、店を出るとクワイゼ
ルと別れた。
そして俺は東京駅で待ち合わせをしている伊丹達と合流し、次の目
的地である横須賀へと向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
183
Mission41:首脳達と英雄達
妨害を受けつつも伊丹の元妻である梨紗の家に押しかけるという
荒技を使用して、次の日の朝に息抜きを兼ねて午前中をそれぞれ好き
な場所でエンジョイした。
伊丹は秋葉原にて同人誌ショップに向かい、エースは銀座、谷はル
フスと一緒にスカイツリーで大パノラマを満喫して梨紗と栗林、テュ
カ、レレイ、ロゥリィ、ミオは買い物、富田はピニャとボーゼスの頼
みで図書館で休みを満喫する、
﹂
そして13時に東京駅で集合して横須賀へと向かった。
﹁な⋮⋮なんだあれは⋮⋮﹂
﹁島が⋮⋮鉄の島でしょうか
横須賀駅に到着した一同は横須賀海軍基地に停泊している船舶に
驚愕していた。
横須賀海軍基地は世界最強という呼び声が高いアメリカ海軍第7
シャイロー
むらさめ
いずも
に
に
、 チャンセラーズビ
にタイコンデロガ級イージス
艦隊の母港であり、そこには第7艦隊のシンボルであるニミッツ級原
に
ロナルド・レーガン
アンティータム
子力航空母艦
。
巡洋艦
ル
にむらさめ型護衛艦
更には海上自衛隊の第1護衛隊群のいずも形護衛艦
はたかぜ
が停泊していて、その勇姿を誇っていた。
はたかぜ型護衛艦
いかづち
ピニャ達帝国にも船団はあり、数は多いが大きくても精々40m弱
しかない。対してロナルド・レーガンは333mも誇る全長で8倍も
の巨大だ。しかも鉄で出来た船など存在する訳もなく、しかも甲板に
はF/A│18EやF│35C、いずもの甲板にもF│35BJが駐
機していて攻撃力は足下にも及ばない。
そんな海上戦力を見せつけられたピニャ達をよそ目に迎えに来た
マイクロバスに伊丹達は彼女等を乗り込ませて目的地の店へと向
184
?
かった。
﹂
それから数分後、横須賀海軍基地を一望できる料亭に到着すると数
人の男が入り口前にいた。
﹁エース・クレイグ中尉か
れ﹂
じゃあじゃあ‼
お酒もいいの⁉
?
の奢りだから好きなものを食べててくれ﹂
﹁やったぁ‼
﹁飲み過ぎない程度ならいいぞ﹂
?
統領と台湾の周大統領です﹂
居と申します。こちらにおられるのがアメリカ合衆国のディレル大
﹁改めましてようこそ日本へ。日本にて首相をやらせて頂いている本
側の座布団に座る。
個室にて鎮座している本居に施され、ディレル、周が座る席の反対
﹁ようこそ、遠路遥々お疲れ様です。さぁ中に入って下さい﹂
る。
の襖を軽くノックし、エース達が到着したことを知らせたら襖を開け
たエース達はグラハムの案内を受けて3階へと上がる。そして個室
紗に渡すと、彼女は店内にあるカウンターへと向かう。それを見送っ
そういいながら伊丹は財布からクレジットカードを取り出して梨
﹂
﹁あぁ、流石に民間人同行で首脳達と会うのはまずいからな。俺たち
﹁い⋮いいの
﹂
﹁分かった。じゃあ梨紗、すまないけど別席で何か適当に食べててく
﹁了解だ。さぁ、大統領閣下とご対面だ﹂
﹁カンパニーのグラハムだ。既に大統領達は店内にいる﹂
﹁あぁ。命令により特地からの来賓を連れてきた﹂
?
﹁ディレル・マックフォードだ。よろしく﹂
185
?
?
﹁周 登満です﹂
3人が自己紹介して軽く会釈するとピニャ達もつられて会釈する。
﹁大統領閣下。こちらが異世界より参られた方々でございます﹂
﹁私はレレイ・ラ・レレーナ﹂
﹁ハイエルフのテュカ・ルカ・マルソーです﹂
﹁私はロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神エムロイの使徒よぉ﹂
﹁ルフス・エム・ヴォーディッシュ﹂
﹁ミオ・ルカ・ヴォートスと申します。この度はお招き頂きまして誠に
ありがとうございます﹂
﹂
﹁い え い え ⋮⋮ こ ち ら こ そ 無 理 な 願 い を 聞 き 入 れ て 頂 い て 感 謝 し ま
す﹂
﹁それで⋮⋮そちらの御仁が帝国の皇女かな
﹁はい。帝国第3皇女⋮ピニャ・コ・ラーダと申します。こっちは我が
配下のボーゼス・コ・パレスティーです﹂
流石は騎士だ。目の前に3カ国のトップがいるというのに堂々と
している。だが内心では自分達より圧倒的な力を誇る国家の頂点に
君臨する存在故に怒らせてはならないと冷汗ものだ。
けほっ⁉
﹂
﹂
﹁だ か ら 言 っ た だ ろ 本 居。彼 女 達 に は 最 初 は ワ イ ン に す べ き だ っ て
⋮⋮﹂
﹂
﹁まぁ⋮⋮日本の酒を体験して戴くというのも良かったと思いまして
な⋮⋮﹂
﹁伊丹2尉等は飲まないのかね
?
186
?
店員が日本酒と前菜を持ってきて配ると御猪口を掲げて飲み干し
た。
﹁けほっ⁉
﹁はははっ。日本酒は初めてでしたか
?
﹁は⋮⋮はい。なんともキツイ酒です﹂
?
?
﹁自分達は護衛をしなければなりませんので、酒がまわってしまって
は任務遂行は困難になります﹂
﹁流石はクレイグ中尉だよ。海兵隊らしい忠誠心だ﹂
﹁恐縮であります。周大統領閣下﹂
﹁しかしロゥリィさん。昨日の共産主義者共の発言には誠に失礼いた
しました﹂
﹁本当よぉ。あなたの下の人間なんだからちゃんと躾をして欲しいわ
ねぇ﹂
﹁こら、ロゥリィ﹂
﹁構わないよ伊丹2尉。事実なんだからな。しかも彼女は私達よりも
遥かに年上だ。年長者の意見は受け取らなければな﹂
﹁しかし間近で見させてもらうが、本当にエルフなのですな⋮⋮しか
も美少女とはお見それしました﹂
﹁ありがとうございます﹂
というのがある﹂
187
﹁だが国会での共産党に対するロゥリィさんの一言には感服したよ。
日本を内から蝕む共産主義者共もすっかり戦意を喪失した。私は腹
を抱えて笑ったよ﹂
﹁別にぃ⋮⋮ただあのお嬢ちゃんが気に食わなかっただけよぉ﹂
ロゥリィの遠慮ない発言に伊丹は注意するが本居は事実であると
いって制し、周も初めてみるエルフに心が弾んでいた。するとピニャ
は何やら申し訳なさそうな表情で話し始める。
﹂
﹁⋮⋮⋮本居殿下﹂
﹁なんでしょうか
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮姫、我々の世界には
﹁国際⋮⋮戦争法
国際戦争法
損害を与えてしまった⋮⋮⋮本当に申し訳ありません﹂
﹁我が帝国は貴国に対して一方的な侵略を始めてしまい、幾ばくかの
?
?
ディレルの聞きなれない単語にピニャは聞き返してしまう。国際
戦争法とは戦争状態においてもあらゆる軍事組織が遵守するべき義
務を明文化した国際法であり、狭義には交戦法規を指す。
﹁我々には例え戦争状態に陥ったとしましても降伏者、捕獲者、負傷
者、病者、難船者、軍隊の衛生要員、宗教要員、文民、民間防衛団員
などの非戦闘員や衛生部隊や病院などの医療関係施設、医療目的の車
両及び航空機、歴史的建築物、宗教施設、食料生産設備、堤防のよう
﹂
な軍事に関係のない存在や建造物に対しては攻撃を仕掛けてはいけ
ないんですよ﹂
﹁つまり⋮⋮どういうことでしょう
﹁これらを守らなければ正式な国家として認知されず、本来は捕虜と
しての扱いは行われない。つまり現在捕まっている捕虜も本来はテ
ロリスト⋮⋮⋮単なる犯罪者ということになります﹂
﹁は⋮⋮犯罪者⋮⋮﹂
﹁こう思われても仕方がありません。貴方達帝国は日本に対して一方
的に戦乱を開き、そこで多数の民間人を殺害、軍事目的とは全く違う
建造物にも被害を出しています。更には我々以外の国から来た観光
客にも被害がありまして、一部では帝国に報復させろと言ってきてい
るのです﹂
﹁た⋮⋮他国の軍勢が⋮⋮﹂
﹁しかも大半がヨーロッパと呼ばれる地域の国でな、武闘派と云われ
ている強豪国を我々も何とか説得しているのだよ﹂
ピニャは現在の自分達が置かれている状況に暗くなる。日本、アメ
リカ、台湾が自分達にとって強豪国の更に上にある強豪国であるにも
関わらず、更に他国の強豪国も自分達に敵意を向けている。
しかもそんな自分達に何とか味方しようと手を貸してくれている
連合特地派遣団。彼等を本気で怒らせることは、こちら側の世界が自
分達の世界に押し寄せること。そんなことになったら帝国は一晩で
壊滅することも十分に考えれるのだ。
188
?
﹁しかもそこにいるクレイグ中尉は現に貴方達に奥様を殺害されてい
ます。日本国内にも貴方達を敵視している自衛官や市民もいます﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ですが⋮⋮貴方達の世界と我々の世界では戦いに関する条約が根本
的 に 違 い ま す か ら、今 回 に 限 り 正 規 兵 と し て の 扱 い を し て い ま す。
我々としましては賠償保証と再発防止に尽力して戴くことを要求し
ます﹂
﹁我々アメリカ政府もだよ。日本に攻撃を仕掛けなければ我々も帝国
に武力を行使はしない﹂
﹁台湾政府も同義です。しかし譲歩は期待しております﹂
﹁⋮⋮はい。必ず貴国の恩に報いてみせます﹂
﹁期待しておりますよ⋮⋮⋮さて。むさ苦しい政治話はここで終わり
にしましょう。今は互いの国や文化を語り合いましょう﹂
そう言いながらピニャ達は会食を始める。前菜に続いて吸い物、刺
身 、焼き物、煮物、酢肴、天麩羅、ご飯・止め椀、水菓子の順で会
食を楽しむ。
ピニャは自分達にない食文化に舌鼓をし、特に天麩羅をかなり気に
入ったようだった。
2時間の会食を終わらせ、首脳達を見送ると自分達も最後の目的地
である箱根へと向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
189
Mission42:タスクフォースナイツ
特地からの来賓を影から護衛する。それが俺たちの与えられた任
務だ。日本の国会で執り行われた証人喚問において今まで物語の中
でしか知らなかったハイエルフや魔法使い、亜神にデュラハンにワー
ウルフという存在を知って心が弾んだ。
そんな彼女達を護衛する。本当に素晴らしいことだ。箱根にある
温泉宿がある山中にて俺たちは銃を片手に活動していた。
﹁こちらセラフィム。タンゴダウン﹂
︿了解。セラフィムは速やかにポイントC3に移動してください﹀
﹁こちらセラフィム。了解、ポイントC3に移動する﹂
手にしたサプレッサー付のM4A1を片手に移動を開始するセラ
フィムとはこの俺、スティーブ・アルフレッド海兵隊上等兵のコード
ネームだ。
タスクフォースナイツ
という特殊部隊だ。
そして俺がいる部隊は第6特殊作戦戦闘団という特地に派遣され
る部隊の1つで通称
アメリカのMARSOC、SEALs Team9、CIAパラミ
リタリーチーム。日本の特殊作戦群に台湾の海軍陸戦隊特勤隊とい
う贅沢極まりない特殊部隊の合同部隊で、今は特殊作戦群とMARS
OC、CIAパラミリタリーチームだけだが向こう側に派遣されたら
正式に部隊として編成それる。
本来は特殊部隊員ではない俺が参加を許される筈はないんだけど、
かつて銀座で日本にいる父と待ち合わせした際に帝国の侵略に巻き
込まれた。
その時に俺はただ逃げるだけでなにも出来なかった。
だから危険を顧みずに民間人を救い出した伊丹2尉とクレイグ中
尉には嫉妬もあるけど羨ましかった。
その悔しさをバネにして必死に特殊部隊並の訓練をこなし、1週間
前に上官の推薦でタスクフォースナイツに参加したって訳だ。
190
物音を立てずに予定地点であるポイントC3に到着すると既にC
﹂
IAパラミリタリーチームが特殊作戦用カービンであるXM30E
1ハニーバジャーを手に身を潜めていた。
﹁状況報告﹂
﹁4名キル。全てヘッドショット﹂
﹁やっぱり海兵隊は違うな⋮⋮敵の装備はどうだった
﹁なにを考えてるか分かりませんが、AKS│47のサプレッサー装
着モデルに旧式のTT│33。両方にハングル文字が彫られてまし
た﹂
﹁はぁ⋮⋮間違いなく北朝鮮の奴等だな。なんでわざわざ旧式で自国
の存在が分かるような装備をするか分からん。こっちはQBZ│0
3にQSZ│92の5.8mm弾モデル。特殊作戦群ではMP5S
D6擬きのK7にP220擬きのK5を装備した連中を始末したみ
たいだ﹂
﹂
﹁韓国軍と中国軍か⋮⋮⋮というかあいつらは特殊作戦を舐めてるん
でしょうか
ういう。数年前なら中国軍、韓国軍、北朝鮮軍の特殊部隊は確かに優
秀だったが、今では軍部の不正や一方的な侵略した上の敗退。資源不
足による訓練不足は装備不足により特殊部隊の能力が低下している。
現にサプレッサーとの相性が悪いAKS│47や化石同然のトカ
レフ、欠陥だらけのQBZ│03やK7を改良しないで今回の作戦で
使用している。それに比べて俺たちは練度も装備の性能も高い。
そう考えていると無線が入った。
︿マスターから全サーヴァント及び全エンジェル。これまで交戦した
情報から襲撃者は韓国、中国、北朝鮮の3国であり、これらの目的は
来賓の拉致であると推測﹀
191
?
CIAパラミリタリーチームのリーダーであるハイデッカーがそ
﹁俺が知らん。知らん上にどうでもいい﹂
?
﹁それは分かりきってるんだがな⋮⋮﹂
﹁全くです﹂
。了解だマスター。これよりセラフィ
︿全部隊は敵を完全に壊滅せよ。繰り返す。敵はテロリストだ。全部
アークエンジェル
隊は敵を完全に壊滅せよ﹀
﹁こちら
ムと共にタンゴを殲滅する﹂
︿アーチャーからマスター。NKA3名を排除﹀
︿こちらランサー。CHA2名を排除﹀
︿アザゼルから報告。SKA4名をミハエルと共に排除。次のポイン
トに向かう﹀
無線から味方部隊によるタンゴダウン報告。だが来賓を拉致する
為だけに3国は異様なまでの数を投入しており、しかもこちらにより
仕留められている。
俺たちも待ち構えていると少し離れた場所にいたAKS│47を
装備した北朝鮮軍工作員を発見し、照準を合わせてセラフィムと共に
ヘッドショットを決めた。
﹁﹁タンゴダウン﹂﹂
ハミングして思わず笑みが零れる。そこから拳をぶつけ合い、マガ
ジンを交換。すると再びマスターから通信が入った。
︿全 隊 に 通 達。直 ち に 戦 闘 を 停 止 し て す ぐ 何 処 か に 隠 れ ろ。繰 り 返
す、直ちに戦闘を停止して身を隠せ﹀
﹁こ ち ら ア ー ク エ ン ジ ェ ル。指 示 の 内 容 が 理 解 で き な い。詳 細 を 求
む﹂
︿宿から来賓が3人飛び出した。既に敵性戦闘員と交戦を開始してお
り、巻き添えを食らう可能性がある。直ちに戦闘を停止して身を隠
せ﹀
192
その内容に意味が分からなかったが、暫くしてから立て続けに聞こ
えてきた悲鳴。方角を確認すると敵の工作員が3人の少女達に蹂躙
されている光景が広がっていた。
漆黒のゴスロリ服を纏った少女は見るからに重量があるハルバー
トを駆使して舞うように敵を斬りつけ、銀色の髪をした少女は死神が
持つような大鎌で次々と首を刈り取る。
メイド服の少女は両手から1m弱の合計6本もの刃を出現させ、目
にも留まらぬ速さで斬り裂いていった。
普通なら驚愕するような光景だが、なんだか俺は逆に興奮してき
た。
﹂
﹁あ り ゃ あ ⋮⋮⋮ ロ ゥ リ ィ・マ ー キ ュ リ ー に ル フ ス・エ ム・ヴ ォ ー
ディッシュにミオ・ルカ・ヴォートスだ⋮⋮﹂
﹁すっげぇ⋮⋮⋮⋮本物のヴァルキリーだぜ‼
﹁もっと見ていたいがさっさと隠れるぞ坊主。このままじゃ本当に巻
き添えを食らいかねん﹂
﹁了解﹂
確かに見ていたいが3人の殺気が凄まじく、本当に遭遇したらこっ
ちまで巻き添えを食らいそうな勢いだった。俺らはすぐに身に付け
ているフィールドバックから歩兵携行用の簡易偽装ネットを取り出
して急いで被るとその場に伏せた。
それから暫くして戦闘はして終了したが旅館周辺は地獄絵図に包
まれ、俺の視線の先には全身に返り血を浴び、余韻に浸っているヴァ
ルキリー達が月明かりに照らされて不気味ながらも神秘的な雰囲気
を醸し出していた。
彼女達が移動したのを見計らい、部隊は残敵を掃討する為に移動す
る⋮⋮⋮⋮⋮。
193
?
Mission43:エースとミオ
大統領達との会談を終わらせた俺たちはすぐ東京駅に引き返し、そ
こから最後の目的地である箱根の温泉宿に向かった。箱根の温泉と
いうのは世界的にも有名な温泉街であり、箱根駅に到着したら観光客
が多かった。
すぐに自衛隊共済組合が運営している温泉宿に到着し、ようやく休
息できたというわけだ。折角なので久々に温泉にゆっくり浸かり、日
﹂
俺は女の子が好きなんです‼
﹂
頃 の 疲 れ を 解 消 し て し ま い た い が、な に を 勘 違 い し た の か 富 田 が
⋮⋮。
﹁やめてください隊長⁉
﹁なにを勘違いしてんだ⁉
伊丹から逃げようとしていた。
﹁そうも言ってられんでしょう
﹂
﹁あ∼⋮⋮このまま年末までいて仕事を忘れたい﹂
た。
とりをしながら温泉をでると男子部屋にて浴衣姿になって寛いでい
だが富田⋮⋮伊丹は同性愛者じゃないから安心しろ。そんなやり
?
捨てて伊丹、富田、谷は懐に手を伸ばし、俺も近くに置いていたトラ
その直後、襖が勢いよく叩かれて俺らは持っていたトランプを投げ
7のペアを揃える。
を出せるという本来の姿を俺は知ってるから俺はなにも言わない。
いつは昔から面倒から逃げる傾向がある。だが何かの為になら全力
伊丹のボヤキを聞きつつ4人でトランプのババ抜きを楽しむ。こ
ペアだ﹂
﹁そうだ伊丹2尉。仕事が出来るから生きてられるんだ⋮⋮おっと、
﹁全くだ。相変わらず面倒が嫌いなんだからな⋮⋮⋮次は谷だ﹂
?
194
?
?
ンクを取った。
﹂
谷‼
﹂
?
とった先には⋮⋮。
ぢょっと顔だせやあ‼
﹂﹂
﹂
?
﹂
‼
﹁うう∼⋮⋮男共ぉ‼
﹁だせやあ‼
﹁﹁だっせやあ‼
?
識を失う羽目になった。
俺もミオに甘えられて抱擁されると首が無意識に締め付けられて意
されて最終的には手にしていたウォッカをガブ飲みさせられて撃沈。
谷は完全に出来上がったルフスに正座させられてグダグダと説教
栗林のアッパーを顎に食らってノックダウン。
り、伊丹は栗林にSの隊員を紹介するよう迫られ、了承すると喜んだ
富田はボーゼスにからかわれて部屋の隅で膝を抱えながら暗くな
する。だが本当の厄介はここからだった。
別に羽目をはずすのは構わないんだが、幾ら何でも外しすぎな気が
ラッパ飲みする梨紗だ。
ウ ィ ス キ ー を 手 に す る ボ ー ゼ ス。久 々 の 旨 い 酒 に 日 本 酒 の 豪 快 を
ジャーキーを食べながら片手にウィスキーを持つ姫さんに同じく
酔 い 潰 れ て 布 団 で 寝 て い る テ ュ カ に 看 病 を す る レ レ イ。ビ ー フ
に隣の女子部屋に連行されると益々カオスが広がっていた。
が高くなっているミオとルフスだった。そこから有無を言わされず
完全に酒に酔って凶暴化している栗林にロゥリィ、逆にテンション
?
?
?
身構えた瞬間、襖が勢いよく解き放たれた。俺たちが臨戦態勢を
﹁だったらまだいいかもな⋮⋮⋮﹂
?
﹁富田‼
エース‼
﹁はい‼
?
﹂
﹁敵か⁉
?
195
?
﹁いてててて⋮⋮⋮酷い目にあった﹂
﹁くぅん⋮⋮⋮申し訳ありませんご主人様⋮⋮﹂
暫くしてから意識を取り戻した俺は庭の長椅子にてミオに膝枕さ
れていた。最初に起きた時には恥ずかしかったが、ワーウルフである
彼女の毛並みが気持ちよく、頭を優しく撫でられていたから起きるの
を身体が拒んでいた。
軽く時計を見ると午前1時を少し過ぎた時間帯だったので外は寒
く、逆にミオの毛並みで暖かあ。
﹁だが⋮⋮若干だがミオの明るい姿を見れて役得だったぞ﹂
﹁ご冗談を⋮⋮⋮﹂
﹁普段は何処か他人に対して距離を置いたような口調だが、君も酒が
﹂
入るとあんな喋り方になっちまう。やっぱり君は面白いよ﹂
か
﹂
﹂
﹁姫さんか
﹂
に対して恨みを持たれるということは当然のことです﹂
﹁あぁ。仇を取らなければならないからな﹂
﹁ですが⋮⋮⋮その⋮⋮ピニャ様だけは許されては如何でしょう
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
?
196
﹁くぅん⋮⋮⋮﹂
﹁からかい過ぎたか
﹁なんだ
﹁⋮⋮⋮ご主人様﹂
た表情を見せる。
アとよく似ており、彼女もときどき膝枕をしてくれてからかうと困っ
耳を垂らしながらこちらを見下ろすミオ。やはり雰囲気はエミリ
?
﹁前から聞きたかったのですが⋮⋮⋮ピニャ様のことはどう思います
?
﹁はい⋮⋮ご主人様の奥方様は帝国に殺められたと聞きました。帝国
?
?
﹁ご主人様達と比べたら確かに見劣り致しますが、それでも民を賊か
ら守ろうとしたり、配下の兵を大事にしたりしておられます。それに
⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮分かってるさ﹂
﹁ご主人様
姫さんの話をしながら俺は身体を起こした。
﹁頭では理解している。俺の妻を殺したのは帝国であって、彼女じゃ
ないってな。だが俺の心が⋮⋮⋮帝国を許さないっていう心が姫さ
んを突き放していた﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁あいつは柔軟性に欠けるし、少し高飛車なところがある。だが祖国
への忠誠心や部下と民を想う優しさは本物だ。何事にも一生懸命だ
﹂
し、どこか抜けている箇所もある。それにな⋮⋮⋮﹂
﹁それに⋮⋮なんでしょう
﹂
い。君のような優しい人もたくさんいる。本当にありがとう﹂
﹁それを気付かせてくれたのは君だ。帝国にも悪い奴らばかりじゃな
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
いた非礼は詫びなきゃならん﹂
戦をさせる連中だ。だから今まで何の関係もないのに辛く当たって
﹁俺が真に復讐を果たさなきゃならないのはあいつじゃなく、帝国に
﹁ご主人様⋮⋮それでは⋮⋮﹂
﹁だからさ⋮⋮⋮⋮向こうに帰ったらあいつに謝ろうと思う﹂
﹁ご主人様⋮⋮⋮﹂
な⋮⋮﹂
なく、光に満ちている存在⋮⋮⋮実戦経験が皆無なのは仕方がないが
﹁⋮⋮⋮眩しすぎるんだ。俺みたいな復讐に生きている汚い人間じゃ
?
﹁⋮⋮⋮⋮私はワーウルフですよ
﹁そうだな﹂
?
197
?
そのことに可笑しかったのか、俺とミオは手を繋ぎながら笑い合っ
た。本当にエミリアと瓜二つだよ本当に⋮⋮。
そんな和やかな雰囲気を満喫していると不意に気配が強くなり、俺
は 立 ち 上 が っ て 気 配 の 方 角 を 見 る。ミ オ も 感 じ 取 っ た よ う で 拳 を
﹂
作って両手から刃を出現させると戦闘種族に相応しい表情をする。
﹁感じたか
﹁はい。距離は離れているようですが、徐々に近づいているようです﹂
﹂
﹁あぁ。どうやらお客さんのようだが歓迎している暇なんてない。早
くみんなを起こして逃げると⋮⋮なっ⁉
﹂
﹂
俺も伊丹達を叩き起こしてか
やっぱり戦うことになるのかよ⁉
してしまったようだ。
﹁くそっ⁉
﹂
悪いが2人を追ってくれ‼
﹁どうされましょうか
﹁ミオ‼
ら向かう‼
﹁御心のままに﹂
?
サイズを構えたロゥリィとルフスであり、敵の気配を感じ取って暴走
が、いきなり2人の人影が飛び出した。よくみるとハルバートとデス
敵の襲来を感じ取った俺は戦闘になる前に逃げることを提案する
?
⋮⋮⋮⋮⋮。
クリスK10サブマシンガンを取り出してミオ達の後を追った
俺も室内に戻って伊丹達を叩き起こして所有していたトランクから
そう頼むとミオは戦闘モードとなって飛び出した2人の後を追う。
?
?
198
?
?
?
?
Mission44:伊丹とロゥリィ
栗林によるアッパーを受けて気を失ってから暫く、痛む顎を摩りな
がら目を開けると見慣れぬ和式の天井。こんな夜中に目を醒ますこ
となんて滅多になどないんだが、妙な形で目を覚ましちまった。
というか、最近では何かと変に一撃を受けて気を失うことが多く
なったから身体が慣れてしまったのかもしれない。身体を起こそう
とするが何かが乗っかっていて思うように動けなかった。
﹁すぅ⋮⋮すぅ⋮⋮﹂
左側を見ると寝息を立てながらぐっすり眠っているレレイだった。
落ち着いて周りを見渡すと栗林や姫様達も布団で気持ち良さそうに
眠っているが、周囲には空になった缶や酒瓶が散乱していて気絶した
起きたのかしら
﹂
キーを片手に1人飲んでいたロゥリィの姿があった。その神秘的な
姿に俺は思わず見惚れてしまい、彼女の手招きに誘導されるがまま反
﹂
対側の椅子に腰掛けた。
﹁1人で飲んでたのか
沈黙の酒
って云
われていて風味に乏しく没個性的で、それを単体で飲むには不向き
ウィスキーという銘柄はサイレントスピリッツ
スを手渡し、気付け程度として俺も飲むことにした。確かグレーン
そういいながらロゥリィは俺にスコッチウィスキーが入ったグラ
だけど私は好きよぉ﹂
﹁だって眠れないんだものぉ。それにこのウィスキーってキツいお酒
?
199
後も宴会が続いていたことになる。
﹁あら
?
声がしたので窓際に視線を移すと、月明かりに照らされ、ウィス
?
だった筈だ。
エースもウィスキーを始めウォッカ、ジン、ビタース、ブランデー、
ラム、リキュールをなどのアルコール度数が高い酒を好んで飲むから
ある程度は知っている。
喉が焼けるような感覚に襲われながらも俺はスコッチを一口のん
だ。
﹁そういえばエースとミオの姿が見えないんだけど⋮⋮﹂
﹁ミオならエースを連れて夜風に当たりにいったわぁ。今頃は介護し
てる筈よ﹂
それよ
ロゥリィの20代を拝
﹁は は は っ ⋮⋮⋮ ミ オ に 首 締 め を 食 ら っ て た か ら な ⋮ 首 を 痛 め て な
﹂
きゃいいけど⋮⋮しっかし惜しいな﹂
﹁なにがぁ
﹁亜神ってのは肉体年齢が固定されてんだろ
肉体を捨てて神になったら姿なんて思い通りなのよ
﹂
おかげで身体が疼いちゃってるのに、なにもできないなんて
﹂
200
めないなんてな﹂
﹁あら
﹁なんだ
よぉ﹂
﹁な⋮⋮⋮なにを
﹂
?
?
﹁言わなきゃ分からない
てたのとかぁ
?
例えば⋮⋮⋮あのてれびってゆーのでやっ
﹁おかげで全然眠れないのよぉ。私に戦わせるか輝司がなんとかして
り届けることでようやく疼きが無くなる。
散方法ってのはイタリカでのリアル無双。敵を躊躇なくあの世に送
その言葉に俺は失笑しながら冷や汗をかいた。彼女のストレス発
蛇の嬲り殺しよぉ﹂
しょぉ
﹁お 酒 で 紛 ら わ せ て は い る け ど、離 れ た 場 所 で 誰 か が 戦 っ て る で
?
?
?
?
り輝司ぃ⋮⋮﹂
?
?
﹁って⁉
見たのかよ⁉
﹂
﹂
﹁ほんとうに⋮⋮こどもかなぁ
﹁見た目は子供だろ⁉
﹁あら⋮⋮⋮わたしがこどもぉ
﹂
﹁こ⋮⋮この国には児童福祉法ってのがあってだな⋮⋮﹂
体を密着させ、甘い言葉で話しかけてきた。
俺がロゥリィの言葉に戸惑っているといきなりロゥリィは俺に身
﹁そんなことはどうだっていいわぁ﹂
?
﹁⋮⋮⋮なんだ
﹁みんな起きろ‼
﹂
﹂
﹂
の後を追うように外へ飛び出した。
が、少ししてから同じようにルフスもデスサイズを手にしてロゥリィ
あまりにもいきなりなことだったので考えが追いつかないでいた
ていった。
に立て掛けてあったハルバートを手にし、窓を開けると外に飛び出し
そして身体が勝手に彼女を求めようとした矢先、いきなり彼女は壁
みの類に入る。
経験値は比べ物にならないし、彼女も十分に魅力的だし性格的にも好
歳のれっきとした大人だ。しかも人生経験は900年分もあるので
ぐ側に自身の顔を近づける。確かに見た目は子供だが彼女は961
そういいながらロゥリィは更に俺と身体を密着させていき、顔のす
?
?
?
スを見る。
?
﹁ど⋮どうしたんだ
﹂
トランクを手に戻ってきた。その声に全員が目を覚まし、一斉にエー
彼女達が飛び出していく入れ違いで襖を勢いよく開けてエースが
?
?
201
?
﹁ちょっと中尉⋮⋮夜中なんですから静かに⋮⋮﹂
﹂
﹂
中に銃があるから好きなものを使え‼
敵襲だ‼
﹁なにを寝ぼけている‼
﹁俺は彼女達の後を追う‼
﹂﹂
危ないからその場に伏せてるんだ‼
短機関銃を取り出して外に駆け出した。
﹁み ん な ‼
﹂
﹁﹁はい‼
﹂﹂
﹁要人警護を最優先‼
﹁﹁了解‼
﹂
﹁谷も彼女達についてやってくれ‼
﹁わかった‼
栗林‼
?
手にして初弾を装填すると迎撃態勢を整えた⋮⋮⋮⋮⋮。
retta Px4 StomeSDを携行させ、俺もHK45Cを
Glock21、谷はM1911A1、姫様とボーゼスさんにはBe
そういいながら富田と栗林はガンスミスであるエースが調整した
﹂
敵が来たら躊躇せず撃て‼
?
﹂
?
?
富田‼
れた複数の拳銃や短機関銃があり、エースはその中からクリスK10
そういうとエースはトランクを開ける。その中には厳重に固定さ
姫達にも護身用を持たせるんだ‼
?
﹂
﹁ちょ⋮⋮敵襲だって⁉
?
?
202
?
?
?
?
?
?
?
?
?
Mission45:アークエンジェル
敵の襲撃を察知して、飛び出したロゥリィとルフスを追ったミオに
追 い つ く 為 に 俺 も ク リ ス K 1 0 を 手 に し て 森 の 中 で 行 動 し て い た。
ふふふふ‼
﹂
そこに広がっていた光景は壮絶なものだ。
﹁はーははは‼
たら巻き添えを食らいそうだ﹂
﹁ロゥリィなら前にも見たがルフスとミオも凄い戦い方だ⋮⋮近付い
﹁あれが⋮⋮⋮異世界の女ですか中尉⋮⋮﹂
けるが瞬く間に傷口が塞がり、再生していく。
けるように次々と韓国軍工作員を切り裂く。更には銃弾を身体に受
ミオも両手から刃を出現させ、狼のような素早さを駆使してすり抜
りましたら容赦致しかねます﹂
﹁あなた方に恨みはありませんが、ご主人様方に仇なすというのであ
恐れを抱いて逃げ出す中国軍も現れるほどだ。
黒装束に加えて銀髪、更には赤い瞳は本当に死神を彷彿させ、彼女に
デスサイズにて次々と工作員の首を綺麗に刈り取るルフス。その
ぞ﹂
﹁我が主君エムロイよ⋮⋮⋮汝の力を我に与え死者を汝の下に導こう
れ、逆に身体や首を刎ね飛ばされていく。
くロゥリィ。敵は03式やK7などで応戦するも簡単に弾丸を防が
空を舞うように自由自在に飛び回り、次々と工作員を斬り伏せてい
?
﹁全くです⋮⋮リアルサーヴァントってところですね﹂
203
?
隣で北朝鮮の工作員に銃撃を加えるクワイゼルがそういう。確か
に彼女達の戦い方は伊丹が読んでいそうな漫画に出てくるキャラク
ターにいそうであり、美しさや可愛さに似つかわしくない圧倒的な無
双を誇る。
だが俺たちも負けてはいられない。俺はクリスK10、クワイゼル
はハニーバジャーで次々とこちらに逃げ込んでくる北朝鮮工作員を
射殺していく。
対して北朝鮮工作員は俺たちが2人であると察知したようで全力
で突破を試みようとして、サプレッサー付のAKS│47やAKS│
74Uで攻撃を仕掛けてくる。
だが動転した状態かつ欠陥だらけである奴らの銃では止まってい
る目標にも当てることは難しい。
﹂
そのことを知っている俺とクワイゼルは順調といっていいほど敵
を片付けていく。
あの時を思い出すな‼
﹂
ファニーヴァンプ、バーサーカーは右翼。ラファエル、ウリエル、ミ
カエル、ガブリエル、セラフィムは左翼から攻撃。アーチャーとアル
テミスは遠距離より攻撃せよ﹀
204
﹁クワイゼル‼
﹂
奴ら奇襲を仕掛けたらアラー
と叫びながらバンザイアタックを仕掛けてきましたね‼
りも格下だ‼
﹂
来やがれコミュニスト
﹁1人の精兵は100人の北朝鮮野郎を凌駕する‼
地獄に送ってやる‼
﹂
左右
中国と韓国は放っておいて大丈
﹁その通りだハイク︵ハイデッガーの愛称︶‼
‼
?
こちらはリーパー00と共に北朝鮮野郎と交戦中‼
﹁アークエンジェルからマスター‼
夫だ‼
?
︿こちらマスター、了解したアークエンジェル。セイバー、ランサー、
?
?
﹂
﹁あん時も2人で向かってきた奴らを始末したが、こいつらは奴らよ
?
﹁イラク北部のテロリスト共ですか⁉
?
?
?
?
から仕掛けて一気に殲滅させろ‼
?
?
?
?
そういいながら向かってくる北朝鮮工作員を排除していく。俺が
弾切れを起こしたらクワイゼルがカバーに入り、クワイゼルが手榴弾
を使うと投げ返されないように手に取った工作員を排除する。
連携が取れている一方でパニック状態に陥った敵は右往左往して
味方を前に出させて囮にしようとする。
﹂
﹂
﹂
北朝鮮工作員の能力低下は知っていたがこれ程とはな⋮⋮。
﹁奴ら下がり始めました‼
﹁こんなタイミングでか⋮⋮⋮﹂
伏せろ‼
﹁様子がおかしい⋮⋮⋮⋮くそっ⁉
﹁RPG⁉
?
?
近付いて来た敵に発砲する。だが数人を倒した辺りで1人に取り付
すかさずクワイゼルのレッグホルスターからP226を抜き取り、
た。
して爆風で俺たちの銃はどこかに吹き飛ばされ、探す暇などなかっ
だが突破の好機と踏んだ北朝鮮工作員は再び突撃を開始する。対
起こしたようであり、脈を図ると生きていることは分かった。
クワイゼルに話し掛けるが返答がない。どうやら衝撃で脳震盪を
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁くっ⋮⋮⋮無事か⋮⋮クワイゼル⋮⋮﹂
揺さぶる。
意識が朦朧とする中、吹き飛ばされたクワイゼルに近付いて身体を
された。
射出され、その場に伏せると辺りに爆風が発生して俺たちも吹き飛ば
てRPG│7を構え、攻撃を仕掛けて来た。気が付いた時には弾頭は
様子がおかしいと思ったら納得の理由だった。奴らは少し下がっ
?
かれてしまい、俺を抑え込むと旧式の6kh2で刺し殺そうとしてき
た。
205
?
‼
︵くたばれ‼
アメリカ野郎‼
︶﹂
?
﹂
?
?
‼
?
﹁ぐっ⁉
﹁
?
︿こちらセイバー。目標集団を捕捉﹀
くがクワイゼルの無線機に通信が入った。
敵が持っていたAKS│74Uを構えて近付く敵兵を排除してい
ヘッドショットを決めた。排除した敵兵は8名で残りは10人弱。
吹き飛ばされた敵兵からTT│33を引き抜いて近くの工作員に
た。
運がいいことに反動でRPGが射出され、敵兵を数人ほど始末され
の右目に投げ付けて排除。
い取ってそのまま離れた場所から再びRPG│7を構えていた敵兵
直後の敵には素早く後ろに回り込み、首をへし折ると6hk2を奪
せる。
射撃してきた敵の攻撃を敵の身体で防ぎ、そのまま投げ付けて転倒さ
着剣して突撃を仕掛けて来た敵のAKS│47を掴み、襟を掴んで
試練だなこれは⋮⋮⋮だが仲間を殺させる訳にはいかない。
このままではクワイゼルが危険に晒されてしまう。とんでもない
うかと思ったが弾切れを起こしているようであり、手榴弾もない。
元から折れてしまっている。敵が所有していたAKS│47を使お
銃はどこかに無くなったし、銃剣も振り払った際に岩にぶつけて根
兵がこちらに接近してきていた。
て排除した。そして崩れるように倒れこむ敵兵をどかすと次々と敵
その一瞬の隙を突いて6kh2を引き抜いて敵の声帯を切り裂い
せて距離を離す。
怯ませ、そのまま銃剣を地面に突き刺させると顔面に頭突きを食らわ
俺を刺殺しようとする敵は力を強めるが、腹に膝蹴りを食らわせて
???
︿ラファエルからマスター。攻撃する﹀
206
???
タスクフォースナイツが挟み撃ちにしたようであり、後方の敵兵が
次々と倒れていく。どうやら間に合ってくれたようで、あとは味方に
排除を任せよう。クワイゼルが負傷したことを伝えるとAKS│7
4Uを手に急いでミオ達との合流に向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
207
Mission46:瞬殺の具現者
旅館における敵性戦闘員による奇襲をロゥリィ達やクレイグ中尉、
予め待機していた護衛部隊の活躍もあり、無事に切り抜けられた。す
ぐに支度を済ませて武器を片手に旅館を後にした。
だがハンドガンが1つずつでは再び待ち伏せを受けた際には心持
たない。倒した敵の武器を鹵獲使用しようとは考えたが中国と北朝
鮮と韓国の兵器は欠陥が非常に多いことで有名だ。
だから俺たちは鹵獲しないで真夜中の道を警戒しつつ歩いていた。
﹁なんだか⋮⋮最近は逃げてばかりの気がします﹂
﹁あ ぁ ⋮⋮ 全 然 休 暇 に な っ て な い な。絶 対 に 年 末 取 り 直 し て や る
⋮⋮﹂
﹂
﹁けど隊長⋮⋮あの旅館が一般のじゃなくてよかったですね﹂
﹁それで奴等はどこの所属なんでしょうか
﹁今回の警護に日米合同部隊も動いていた。隊長の1人に聞いたが中
国南京軍飛龍隊に韓国のブラックベレー、北朝鮮の軽歩兵教導指導局
が動いたらしい。間違いなく奴等がそうだろうな﹂
﹁やっぱり⋮⋮だったら鹵獲使用しないで正解だったな﹂
﹁隊長⋮⋮前方に誰かいます﹂
富田が何かに気がついてすぐに隠れる。すると暗くてよく見えな
かったが武装した敵が数名ほどガードレールに隠れるように待ち伏
せしているのを確認できた。
﹁くそ⋮⋮待ち伏せか﹂
﹂
﹁引き返すのも危険だし⋮⋮突破するしかなさそうだ﹂
﹁なんだ⋮⋮どうしたミオ
﹁背後から何かが来ます﹂
208
?
ミオの察知で俺たちは銃を構えた。接近していたのは2台のフル
?
サイズバンだった。民間だと思ってヒッチハイクしようかと思った
がそのバンは俺たちの目の前で停車し、後部扉が開くとそこには武装
した人間。すぐに銃口を向けるがそのニット帽を被った人間はこち
﹂
﹂
らに手を差し伸べて来た。
﹁乗れ‼
﹁あ⋮⋮あんたは⋮⋮﹂
急げ‼
?
﹂
前方に敵兵‼
﹁説明は後だ‼
﹁大尉‼
?
﹂
﹂
?
た。
﹂
掴まって‼
囲みを突き破れ‼
﹁いいぞ乗った‼
﹁伯‼
﹁了解‼
?
けて来た。
﹁怪我はないか
﹁は⋮⋮はい﹂
﹂
?
?
ス﹂
﹁クレイグ中尉⋮⋮⋮知り合いなのか
﹂
﹁う る せ ぇ。こ っ ち も 書 類 の 手 続 き な ん か で や や こ し い ん だ よ エ ー
﹁全く⋮⋮⋮来るのが遅すぎるんじゃないのか
﹂
した。追撃がないと判断した隊長クラスの男は俺たち近づき、話しか
いた北朝鮮兵を跳ね飛ばし、そのまま銃撃を受けながらも突破に成功
全員がバンに乗り込んだら一気に走り出し、AKS│47を構えて
?
飛び乗り、俺もルフス、ミオ、クレイグ中尉と共に1台目に飛び乗っ
5を構えて反撃する。敵ではないと判断した俺たちは別れてバンに
えてきたが、バンに乗った連中も降りてかなり手が入ったMP5SD
話していると道を封鎖していた部隊がこちらに気が付き、銃撃を加
?
?
209
?
?
?
?
黒衣隊
と云われている劉大尉ですか
﹁腐れ縁だよ谷⋮⋮こいつは劉 王玲。台湾陸軍特殊部隊
の隊長だよ﹂
﹂
瞬殺の具現者
﹁劉 王玲大尉だ。よろしくな﹂
﹂
﹁劉 王玲って⋮あの
⁉
﹁谷、この者は戦士なのか
﹁俺たちの祖国が独立した直後に始まった戦争で1個小隊の戦力をわ
瞬殺の具現者
なんていう通り名まである程だ﹂
ずか1人、しかもナイフ片手で瞬く間に制圧した正真正銘の英雄だよ
⋮⋮敵味方問わず
﹁その噂⋮⋮⋮まだ広まってんのか⋮⋮確かにナイフだけで戦いはし
たが実際は7人だけだったし、残りの奴等が勝手に逃げ出したんだが
な⋮⋮﹂
﹁それを言ったら俺もですよ。あの時に1両で確かに戦いましたが、
連中は海岸で足をとられて身動きが出来なかっただけなんですから﹂
確か黒衣隊は本国で編成
そういいながら俺と劉大尉は苦笑いをしてしまう。
﹂
﹁それで、なんでお前らがここにいるんだ
中じゃなかったのか
?
﹂
?
﹁向こうも同じ考えだ。このまま迂回ルートを使って銀座に戻る﹂
始めた。そして連絡を終えた彼は再びこちらに話しかけて来た。
それだけいうとクレイグ中尉は携帯を取り出し、伊丹2尉と連絡を
る﹂
﹁いや、銀座には戻るが迂回した方がいいだろう。伊丹に確認してみ
﹁気にするな。それよりこのまま銀座に戻るのか
﹁大尉、救援に来てくださいましてありがとうございます﹂
たらお前らを見つけたって訳だ﹂
かってる途中で旅館が襲撃を受けたって情報を受けてな。急行して
﹁俺 た ち は 先 発 だ。タ ス ク フ ォ ー ス に 合 流 す る よ う 指 令 を 受 け て 向
?
210
?
?
確か今回
﹁了解だ。伯、ハイウェイを使って銀座に向かう。途中でサービスエ
リアがあった筈だからそこで夜食にするとしよう﹂
﹁了解﹂
﹁それで、敵はどうやって俺たちのことを嗅ぎつけたんだ
の行動は極秘事項だった筈だがな⋮⋮﹂
﹂
転覆と共産化だ﹂
﹁ですが、それとルフス達となんの関係が
﹂
を内部から混乱させようとしていたらしい。奴等の目的は現政府の
﹁それだけじゃない。奴等は問題を起こした自衛官を買収して自衛隊
﹁なに
いたようだ﹂
﹁その点なら洗い出しが済んでる。情報漏洩は日本共産党が行なって
?
し入れがあったんだ。その部隊は⋮⋮⋮
﹁驚くなよ⋮⋮⋮少し前に連合に正式にアドバイザーとしての協力申
ら返答してくれた。
に座っているルフスの頭を撫でてやる。すると大尉は軽く笑いなが
大尉の言葉を聞きながら共産党に対する怒りを強めつつもとなり
﹁それなら問題はないですね。ですがどこの部隊が⋮⋮﹂
てる。俺らが銀座に到着している頃には制圧が完了している筈だ﹂
﹁まぁ安心しろ。既に洗い出しで証拠は掴んでるから制圧部隊が動い
﹁薄々感づいてはいたが⋮⋮コミュニスト共が⋮⋮﹂
て筋書きた﹂
有権を支援している韓国、中国、北朝鮮のいずれかに明け渡させるっ
﹁大有りだ。来賓を奪われたという失態をネタにして脅迫し、門の所
?
第45独立特殊任務連隊⋮⋮⋮ロシアのスペツナズだ﹂
211
?
Mission47:スペツナズ
伊丹達が劉 王玲台湾軍大尉率いる黒衣隊に回収された丁度その
頃、渋谷千駄ヶ谷にある共産党本部では話し声が聞こえていた。共産
党は昨日の参考人招致にて幸原の発言が問題となって権力が低下し、
更には若手議員の共産党脱退や不祥事発覚による逮捕が僅か数時間
で多発していた。
その事に加えて議会では共産党解体が囁かれており、幸原を含めた
共産主義者達は現状打破に政府転覆、日本の共産化に日米安保粉砕を
どうするか考えていたが、全員が部屋の外や窓にある気配を全く気が
ついていなかった。
﹁ヴァローナ1からヴァローナ隊各員、報告﹂
﹁ヴァローナ2準備よし﹂
︿ヴァローナ3よし﹀
︿ヴァローナ4いつでもどうぞ﹀
︿ヴァローナ5からヴァローナ指揮官。目標のネズミは依然として室
内 に あ り。武 装 は 見 受 け ら れ ず ⋮⋮⋮ い や 撤 回 す る。1 人 だ け カ ラ
シニコフを装備したネズミがいる﹀
﹁了解だヴァローナ5。突入の際に催涙ガスを使う。突入と同時に狙
撃せよ﹂
扉の左右に張り付いている2名にラペリングロープにて構える2
名、少し離れたビルの屋上にて待機している1名。
そ の 手 に は ロ シ ア 軍 制 式 サ ブ マ シ ン ガ ン の P P │ 1 9 サ プ レ ッ
サー装着モデルに同じくサプレッサーを装着したSV│98があっ
た。全てロシア軍装備であると同時に扱う彼等もロシア兵。
最強の者が勝つ
。そしてそのヴァロー
を標語とする第45独
彼等はロシア軍精鋭部隊として名高いПобеждает
сильнейший
スペツナズ
立親衛特殊任務連隊⋮⋮通称
ナ隊を指揮しているのは歴然の兵士であるアーロン・リトヴィノフ中
212
尉だ。
本来なら彼等は日本にはいなかったがロシア政府第6代大統領の
ニキータ・セルゲイ・ジェガノフは特地の資源調査と流出監視、日本
との関係強化という名目で連合特地派遣団への少数部隊参加を表明
し、出動態勢が整っていたヴァローナ隊にタスクフォース ナイツへ
の合流と共産党拘束の協力が命じられた。
日本そのものに対してそれほど愛着はないが異世界である特地に
行けるアーロンは少し前に起こした上官とのトラブルに感謝してい
た。
タイミングを見計らい、扉を少し開けるとスタングレネードを投げ
﹂
込み扉を閉める。そして少ししてからバンという音がした直後がし
両手を頭の上にして膝をつけ‼
て一気に突入。
﹁動くな‼
床にはAKを手にした背広姿の死体、室内には幸原の他に秘書官、
?
目標を確保‼
目標を確保し
更には非常に変な服装をした中肉中背で目つきが悪い男がいた。
﹂
?
?
敵1人を排除した‼
﹁ヴァローナ指揮官からキャスター‼
た‼
?
ヴァローナ指揮官 o
﹂
こんな扱いが許される筈がな
速やかに撤収する‼
ている。目標のネズミを速やかにゲージに格納せよ﹀
﹂
﹂
私は国の代表なのよ⁉
﹁了解だキャスター‼
ut‼
﹂
﹁ちょっと⁉
いわ‼
殺すぞ⁉
?
口を閉じてろ共産主義の恥晒しが‼
﹁離せやコラァ‼
﹁うるさい‼
?
?
?
?
隠しを2人にしてその場にたたせた。そして入り口のすぐそばに停
213
?
︿こちらキャスター。了解だヴァローナ。回収部隊は既に外に待機し
?
アーロンは男の顎をストックで殴りつけて黙らし、部下が猿轡と目
?
?
?
?
?
車されている車のトランクに2名を無理やり押し込んだらヴァロー
ナ5と合流。そのまま目立たないように車を走らせた。
次の日の朝、ニュースでは幸原を始めとした共産党員、更には横領
や情報漏洩などの罪で中部方面群通信科の岩手 翔鹿陸士長と数人
の汚職自衛官と警官が外患罪で一生を刑務所で暮らしてもらうこと
となったということが伝えられ、主要メンバーを全員失ったことによ
り日本共産党は消滅した。
日本国内の害虫が1つ無くなったことによりヴァローナ隊を始め
とした連合特地派遣団は本来の動きをしていく⋮⋮⋮⋮⋮。
214
Mission48:未来の英雄
無事に敵の奇襲部隊からの追撃を腐れ縁である劉が指揮する黒衣
隊により切り抜けることに成功した。あれからパーキングエリアに
て昼になるまで休息を採り、簡単ながらも食事にして銀座に戻る準備
をしていた。
瞬殺の具現
と云われていて、尚且つ出世頭で収入は非常に安定している劉に
そこで特殊部隊員の彼氏を絶賛大募集である栗林が
者
アタックを仕掛けていたが、劉本人は既に結婚していて小学生の双子
がいると知ったらガックリと肩を落としていた。
そして梨紗と伊丹の妙案でミオ達が昼頃に銀座から異世界に帰る
ということを敢えてインターネットを駆使して大々的に公表し、言い
方は悪いが集まった群衆を盾にしてしまうことにしたが、銀座に到着
した時点で別の問題が発生してしまっていた。
車内に設けれている無線機からの通信を聞いてすぐに後ろを見た。
215
﹁⋮⋮全っ然動かないな⋮⋮﹂
﹁参ったなぁ⋮⋮まさかこんなに集まるなんて⋮⋮﹂
思惑そのものは成功してはいるのだが、予想を遥かに上回る数が銀
座に集結してきた。梨紗のオタク仲間たちがこれだけ大勢来てくれ
﹂
たことに感謝しているが、流石にこれ以上の人が来るとは思ってもい
なかったのだ。
﹁それでどうするエース。この人混みの中で行く気か
︿2号車から大尉﹀
﹁こちら指揮官。どうした
﹂
﹁その方がいいかも知れないなクレイグ中尉﹂
方がいいかもしれないな﹂
﹁⋮このままじゃ動く気配がないな⋮⋮⋮いっそのこと歩いて行った
?
︿問題が発生。ロゥリィ・マーキュリーが車を降りました﹀
?
すると後ろのバンからロゥリィが右手にハルバート、左手に献花台へ
捧げるオオアマナの花束を持って車外に飛び出た。
それに驚いたギャラリーが献花台まで道を開けるように一斉に立
ち退き、直後にファンからの熱い声援が聞こえてきた。
﹂
俺たちは本来は日本にいないことになってんだ
﹁あの馬鹿⋮⋮⋮やりやがるな﹂
﹁どうすんだエース
から姿を見せられないぞ
﹁仕 方 が 無 い ⋮⋮⋮ こ こ で 降 り て 銀 座 基 地 に 向 か う。ミ オ、ル フ ス。
ここからは歩きだ﹂
﹁畏まりました﹂
﹁あぁ﹂
﹁大尉。我々はここから歩いていきます。送って頂いてありがとうご
ざいます﹂
﹁気にすんな中尉。礼ならそこの馬鹿に請求するから心配ないぞ﹂
﹁誰が馬鹿だ誰が⋮⋮⋮まぁいい。向こうで酒でも飲むぞ﹂
﹁だったら無線機を持っていけ。別部隊に繋がってるから。俺らも編
成が完了したら特地に向かうから、美味い酒を用意しておかなきゃ承
知せんならな﹂
互いに冗談を言い合うと俺は扉を開けてミオとルフスと谷と共に
先に外へ出ていた伊丹達と合流。向こうは正面から警戒しており、俺
‼
﹂
﹂
こっち向いて∼‼
﹂
と谷も中央で移動するロゥリィ達にミオとルフスを一緒にして、後方
を警戒する。
﹁ロゥリィ様ぁ∼‼
﹂
﹁レレイ∼‼
﹂
﹁テュカ∼‼
?
216
?
?
?
ミオちゃ∼ん‼
﹁ルフス∼‼
﹁きゃー‼
?
?
?
?
?
?
周りからは彼女達に声援を送る熱狂的ファン。やがて妨害なく献
花台に到着したら花束を捧げ、彼女達は犠牲者に黙祷を捧げ始める。
﹁⋮⋮⋮すごい数だな⋮⋮﹂
﹁あぁ⋮⋮間違いなく万単位はいるだろうな。だが気をつけた方がい
いだろう。人を隠すなら街の中っていうし、警戒すべきは敵の工作員
だけじゃない﹂
﹁分かってる。激情に任せた遺族も何をしでかすかわかったものじゃ
ない﹂
︿こちらアークエンジェル。リーパー00どうぞ﹀
﹁こちらリーパー00。無事だったかハイデッガー﹂
︿中尉、西の群衆から赤いニット帽を被った少年が飛び出しました。
間も無くで到達します。こちらも向かいます﹀
﹂
で、恐らくはインターネットを使ってミオ達の到来を知り、ここに来
たのだろう。
お前らが来なきゃみんな死ななかったん
俺は抵抗して彼女達に殴り掛かろうとする少年を必死に抑え込む。
厄病神‼
?
﹂
?
217
無事だったハイデッガーからの無線を聞いて西側を見る。すると
殺人者‼
確かに赤いニット帽を被った12歳くらいの男の子が凄い剣幕をし
ながらこちらに走り寄って来ていた。
俺は正面に回り込んで彼を抑えた。
父さんと母さんを返せ‼
?
離せ‼
?
﹁おっと坊主、こっからは立ち入り禁止だぞ﹂
﹁うるさい‼
﹁なっ⋮⋮﹂
?
少年の言葉に俺は驚いた。この子は帝国に殺害された両親の子供
?
﹁この人殺し‼
だぞ‼
﹁よせ坊主﹂
?
﹁離 せ ⁉
﹂
離せよ‼
﹁うるさい⁉
﹂
こいつらにも同じことを味合わさせてやる‼
お前なんかに分かるもんか‼
﹂
仇を取らせろよ‼
?
も分からないこともない﹂
﹁だったら殴らせろよ⁉
﹂
ろう。その怒りが帝国に向けられ、矛先が彼女達に向けられるっての
﹁いいか聞け坊主。あの事件で確かにお前の坊主の両親は死んだんだ
した。
込む。谷は万一に備えて懐のM1911A1に手を伸ばすが俺が制
なかなか落ち着かない少年を俺は止むを得ず転倒させ、地面に抑え
﹁いいから落ち着け‼
?
﹁いいから落ち着け坊主。冷静になれ﹂
?
﹂
異世界から来たんならみんな敵なんだ‼
ける相手を間違っているんだ﹂
﹁うるさいうるさい⁉
んな共犯なんだよ⁉
﹁俺も事件で妻を殺された。だからお前の気持ちは凄く分かる﹂
み
﹁坊主。その怒りと悲しみをバネにして多くの人を救える大人になっ
﹁けど⋮⋮⋮けど父さんと⋮⋮母さんは⋮⋮﹂
るっていうことを俺は気がついたんだ﹂
に戦をさせる少数の人間。帝国の中にも平和を願っている人間もい
﹁本当に裁きを与えなきゃならないのは帝国そのものじゃなく、帝国
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
にし、仇打ちを果たしたいとも思った。だがそれは間違いな考えだ﹂
﹁俺も最初は帝国全てが敵だと考えていた。妻を殺した奴らを皆殺し
そして少年を起こして両肩に手を置いてじっと目を見させる。
エミリアを殺害されたことを口にすると、少年は大人しくなった。
?
﹁だがな⋮⋮彼女達は銀座事件に何も関わってなどない。怒りをぶつ
?
?
?
218
?
?
?
?
てみろ﹂
﹁バネ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁大丈夫だ。俺みたいな奴にも出来たんだ。だからお前が出来ない筈
もないし、それにお前の両親は⋮⋮⋮﹂
そういうと俺は少年の心臓辺りを軽く突いた。
﹁両親は常にお前の心の中で生きてる⋮⋮⋮だからお前は1人じゃな
い﹂
﹁くずっ⋮⋮⋮ふうぇ⋮⋮⋮﹂
﹁泣きたい時には泣き、立ち止まりたい時には立ち止まればいい。だ
がそれが済んだら前を向き、後ろを振り返らずに只管に進め。お前は
1人じゃない。それが出来たらお前は英雄だ﹂
﹁中尉﹂
219
﹁ハイデッガー⋮⋮⋮この子を家まで送り届けてくれ﹂
﹁了解です﹂
駆けつけたハイデッガーに涙を流す子供を託し、それを見送った。
悲しみに浸されていたがあの子の目は瑠璃色の瞳をした非常に透き
通ったいい目をしていた。
俺は道を示しただけで後はあの子次第となるが問題はないと確信
している。あの子は間違いなく将来は人を助けられるデカイ人間に
なる。
その少年を見送り、2時の鐘が鳴り止むと俺たちは銀座基地に入
り、群衆の熱が入った見送りを受けて迎えに来た倉田2曹とコーエン
スの高機動車とITVに乗り込み、ゲートをくぐって異世界に帰還し
た。
﹂
﹁ミオ、どうだった初めての異世界は
﹁それは良かった﹂
﹂
すっごく楽しかったです‼
?
﹁はい‼
?
?
隣にいる土産のお菓子と原宿で買った洋服を抱えながら楽しそう
にこちらを見るミオの頭を撫でてやる。
久々の日本は騒がしかったが、楽しかったというのは間違いない。
異世界に戻ってきた俺は気を引き締めて任務に取り掛かろうとしよ
う⋮⋮⋮⋮⋮。
220
Mission49:エース
異世界に帰還した俺たちはすぐに状況報告を求められた。狭間陸
将と海兵隊司令のシュガート大佐、台湾軍司令の趙大佐が集まった陸
将室にて箱根での中国、韓国、北朝鮮の襲撃や一時的な行方不明の経
緯、姫さんとボーゼスの拳銃所有理由などということなどだが、緊張
して仕方がなかった。
そしてその際に明日の朝にピニャはイタリカを経由して帝都ウラ・
ビアンカに帰還すると聞かされて、報告が終わるとすぐにピニャ達が
﹂
滞在している一室に足を運び、彼女を連れて幹舎屋上にやってきた。
﹁ど⋮⋮どうかしたのかエ⋮エース殿
﹁話を⋮⋮
﹂
﹁いやなに⋮⋮⋮ちょっとあんたと話をしたくてな⋮⋮﹂
?
﹂
﹁あぁ⋮⋮⋮ピニャ、単刀直入に聞くがあんたは初めての異世界を見
﹂
てどう思った
﹁思った
?
踏み込んだ軍人であるように、ピニャ自身も初めての異世界に足を踏
み込んで驚愕していた。
﹁俺は初めて異世界であるこの世界に足を踏み込んだ時に感じたのは
期 待 で は な く 怒 り だ っ た。よ う や く 妻 を 殺 し た 帝 国 に 復 讐 で き る
⋮⋮帝国兵を駆逐してエミリアの仇を討つ⋮⋮⋮俺が抱いた第1の
感情はそういった負の感情だ﹂
﹁負⋮⋮の感情⋮⋮﹂
﹁だがな⋮⋮⋮あんたやミオやロゥリィ、いろんな人間に会って、それ
がだんだん哀しくなって来ちまった。やろうとしてることは帝国兵
となんら変わらない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
221
?
ピニャの聞き返しに俺は頷く。俺たちは史上初めて異世界に足を
?
﹁だ か ら ⋮⋮⋮ あ ん た に 言 っ て お き た い こ と が あ る ⋮⋮ す ま な か っ
た﹂
俺が謝罪の言葉と同時に頭をさげるとピニャは驚愕した。この世
界において頭をさげるということは相手に対して弱みを掴ませるこ
とを意味しており、国同士の場合は相手国に対してかなり有利な状況
を作り出すことになる。
暫くしてから頭を上げると呆然としているピニャに話しかけた。
﹁今まで本当にすまなかった⋮⋮講和を求めて尽力してたあんたに辛
くあたってしまって⋮⋮﹂
﹂
わ⋮⋮妾達もエース殿に無礼を働いてしまっている
そ⋮⋮それに貴殿の奥方も⁉
﹁い⋮⋮いや⁉
のだ⁉
﹁⋮⋮⋮あぁ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮聞いてもいいか
﹂
身を置く妾にも責任がある﹂
の民を何人も殺めてしまった⋮⋮⋮例え関わっていなくとも帝国に
﹁だが⋮⋮妾達は勝手に戦争を始めてしまい、なんの関係もない日本
たんだが、それでもな⋮⋮⋮﹂
あんたは銀座事件になにも関わっていない⋮⋮⋮それは分かってい
﹁確かに妻を殺したのは帝国だ。だが殺したのは主戦派一党であって
?
?
かなく、力は新しい戦いを引き起こさせる。それは分かっているか
﹁ただ力を振るうだけでは平和にはならない。それは単なる暴力でし
全てを帝国のものとすることが許される。そう信じていた﹂
あると信じて来た。他国を力を持ってひれ伏させ、その国が持つもの
﹁妾達帝国は力こそが正義⋮⋮帝国こそがいかなる国家よりも上位で
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮正直にいえばまだ悩んでいる﹂
は帝国をどうしたいのかを⋮⋮⋮⋮﹂
にし、俺たちの世界に足を運んだ1人の人間として聞きたい。あんた
﹁だが聞きたいのは帝国の人間としてではなく、異世界を目の当たり
?
222
?
﹂
﹁妾も馬鹿ではない。だが帝国は数百年もの間に1度も負けたことが
ないのだ。危機はあったことはあったようだが⋮⋮⋮﹂
その話ならレレイから聞いたことがある。確か歴史上で帝国が敗
退したのは今から約1,000年ほど前らしく、古代魔導戦争という
こちらでいうところの第2次大戦。
正確には帝国の前身であるアマリオ王国が魔導主体の周辺国に制
圧されたのだが現在の騎士主体の編成で各地にて奮戦し、遂には逆
転。魔 導 師 達 を 皆 殺 し に し て 1 0 0 年 と い う 長 い 期 間 を 費 や し て
次々と諸侯を制圧。今の帝国を作り出したらしい。
会った当時の彼女や帝国史上主義を掲げる気狂いが生まれても仕
方がないということだ。
﹁確かに妾は陛下の娘だ。だが妾は戦争を止めたい﹂
﹂
﹁それは現皇帝どころか帝国全体の反逆者になりかねない。それでも
か
なく負ける。貴殿の世界の力の差も含め、兵士ひとりひとりの実力も
歴然だ⋮⋮⋮だがなにより⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁妾達に殴り掛かろうとしたあの少年⋮⋮⋮妾はあの少年が味わった
絶望を無くしたい⋮⋮⋮例えそれが⋮⋮父上や兄上達⋮⋮仲間全員
を裏切ることになろうとも⋮妾はなんとしてでも止めなければなら
ない﹂
その言葉を聞いて彼女の瞳をじっと見る。オッドアイの瞳から伝
わるのは決意に満ちた燃え上がるような迷いのないものだった。そ
﹂
のことに俺は嬉しくなり、彼女に手を差し伸べた。
﹁エース殿
?
223
?
﹁もし⋮⋮帝国と連合が本格的に戦うことになれば⋮⋮帝国は間違い
?
﹂
﹁公の場以外は呼び捨てで構わない﹂
﹁えっ
﹁そして約束してくれ。必ず講和を成功させると⋮⋮⋮必ず2つの世
界が手を取り合えるように尽力すると⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あぁ。約束しよう⋮⋮⋮エース﹂
ピニャも約束すると手を取り、俺と握手を交わした。
約束を守ると誓ったピニャに期待をし、彼女は翌朝に荷物を纏めて
出発。そして互いの文化や言葉を教えあう組合に薔薇騎士団も向か
わされ、俺も彼女達に言葉を教えてもらうこととなった。
願うことなら早く平和が来て欲しい。
現地歴687年、戦乱や動乱荒れ狂うその年はまだ半ばを過ぎよう
としていた⋮⋮⋮⋮⋮。
Capter 1 Completion.
224
?
第2章:炎龍編
Mission50:雨
連合特地派遣団がゲートを通り、異世界にやって来て3ヶ月が経過
した。伊丹とエースが連れてきたコダ村の避難民の自活を契機にし
て他の集落からも避難民や商人、更には傭兵などが仕事場を求めてア
ルヌスに集うようになっていた。
最初はプレハブ小屋だけの難民キャンプだったが急速に目覚まし
い発展を見せていき、キャンプではなく1つの町として大きくなって
いったが問題が無いわけじゃない。
急速な発展による慢性的な人手不足となる。そこにイタリカや出
稼ぎの亜人の美女達がやって来て、彼女達を一目見ようと通う自衛官
に海兵隊員、台湾兵など。
日本に特地のものを売って資金を作るレレイが責任者をする組合。
好景気でやってくる出稼ぎ美少女という無限ループとなっていて、治
安警備を指揮する台湾軍憲兵隊は頭を悩ませていた。
そんなアルヌスに1人の来客が来た。
銀髪のロングヘアに褐色の肌、スタイル抜群の長身に大胆な服装を
したダークエルフの美女。
名前をヤオ・ハー・ディッシュ。
ある依頼
を頼むためにアルヌスへやっ
旅をしながらアルヌスにいる連合特地派遣団の噂を聞いて遠路は
るばるやって来た彼女は
て来て、言葉に悩まされつつもようやく指揮官の狭間陸将、シュガー
ト大佐、趙大佐、武官達と対談を果たした。
今はソファーに腰掛け、陸将との話をはじめようとしていた。
﹁お待たせしました﹂
﹁こちらは自衛隊の狭間将軍、アメリカ軍のシュガート将軍、台湾軍の
趙将軍﹂
﹁此の身はヤオ・ハー・ディッシュ。シュワルツの森より遣わされた
225
ダークエルフです﹂
﹁お話は伺っております。我々になにやら依頼したいことがあるとか
﹂
﹁は⋮⋮はい﹂
狭間陸将に問われ、ヤオは腰につけていた袋を取り出して中身を見
せた。そこには人の頭くらいの大きさはあるであろう光り輝くダイ
ヤモンドがあり、転売したら一体いくらになるか計り知れない輝きを
放っていた。
巨大なダイヤモンドを目撃して狭間陸将達は驚いてしまうが、すぐ
に姿勢を整えてヤオの話を聞いてみた。
﹁今 よ り 数 ヶ 月 前 ⋮⋮ 此 の 身 の 故 郷 で あ る シ ュ ワ ル ツ の 森 に 片 手 を
失った手負いの炎龍が現れております﹂
﹁片腕を失った炎龍⋮⋮⋮﹂
﹁奴は我が集落を焼き払い、幾多もの同胞を殺めた⋮⋮⋮炎龍を討つ
べく武器を手に立ち向かった者も⋮⋮だれ1人帰ってくることなく
⋮⋮⋮﹂
﹁片腕を失った炎龍とは⋮⋮⋮間違いなく伊丹2尉とクレイグ中尉が
撃退した炎龍でしょうな﹂
﹁そうでしょうなシュガート大佐。それで⋮⋮我々にしたい依頼とは
﹂
﹂
﹁お願いです⋮⋮⋮どうか将軍達の軍勢を此の身の故郷に⋮⋮炎龍を
倒す助力を願います﹂
﹁助力⋮⋮⋮我々に炎龍撃破をして欲しいということでしょうか
このまま行けばヤオの一族は滅びの道を歩むのみであったが、無く
発生している。
とのない炎龍が彼女の森一帯を狩場とし始め、既に幾多もの犠牲者が
に襲われたのは今から2ヶ月前、本来は50年も冬眠から目覚めるこ
シュガート大佐がそう尋ねるとヤオは頷いた。ヤオの故郷が炎龍
?
226
?
?
なった炎龍の左腕に抉れた腹部を見たことに加えて、その手傷を負わ
せたのが緑の人⋮⋮⋮連合特地派遣団ということを掴んだ。
だからヤオは長老達の命に従い、こうして旅をしながらアルヌスを
目指していたということだ。
その悲痛な表情を目にした狭間陸将は設置されている地図を手に
取り、彼女がいうシュワルツの森の場所を探し始める。レレイの説明
もあり、シュワルツの森の位置は判明。距離的には助力そのものは可
能であり、遠征部隊を編成すれば彼女の依頼は遂行可能だ。
⋮⋮⋮ある一箇所の懸念事項を除けばだが。
依頼を引き受けてくれると信じているヤオは期待の表情を浮かべ
るが、それはすぐに終焉を迎えることとなる。
﹂
﹂
﹁ヤオ・ハー・ディッシュさん⋮⋮⋮⋮力になれず申し訳ない﹂
﹁な⋮⋮なんと言っている
﹁あなたの故郷であるシュワルツの森、地図によれば帝国との国境を
超えた隣国エルベ藩王国の領内にある。軍が相手国の断りなく国境
を越えるということはあなたならお分かりになるでしょう。それは
宣戦布告を意味するのです﹂
﹁諦めた方がいい。彼らの理屈は合っている﹂
緑の人は10人弱で炎龍を撃退
ですから将軍の軍勢からほんの少しだけご
﹁た⋮大軍でなくても良いのです‼
したと聞いています‼
助勢を⋮⋮⋮﹂
?
れが出来ないのです﹂
﹁あなたの国では領主が独自に軍を動かすことは出来ても、私達はそ
そのような命令を下すことなど出来ません﹂
﹁滅相もない⋮⋮⋮それでは部下に死んでこいと命じているも同然。
?
227
﹁協力できない⋮⋮と﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮えっ
?
レレイの通訳を受けてヤオは膠着してしまう。
?
﹁趙大佐の言う通りです。それに我々は現在、帝国との講和を進めて
いる最中。迂闊に軍を動かして刺激を与えてしまえば、あなたの故郷
のように何人もの人々が死ぬかもしれないのです﹂
趙大佐、シュガート大佐の追加の言葉にヤオは言葉を失った。狭間
陸将か懸念していたのはシュワルツの森が隣国のエルベ藩王国領内
であることで、残念ながらエルベ藩王国と連合特地派遣団の間に交流
は全くない。
エコー
が掴んだ情報によれば、先代の王が行方不
しかも第6特殊作戦戦闘団のハイデッガー率いるCIAパラミリ
タリーチーム
明になってから王太子が国の実権を握り、帝国や周辺諸侯に反旗を翻
そうとしている。
そのような状態の国と交流を持つということは帝国を刺激しかね
ないということだ。
それでも何とか助力を願うヤオだが、狭間陸将は先に発言をする。
﹁遠路はるばるおいでくださったのに⋮⋮申し訳ない﹂
﹁そ⋮⋮⋮そんな⋮⋮﹂
ヤオは絶望に満ちた表情で唖然としてしまう。だが最も辛いのは
狭間陸将達本人だ。
確かに自分達には炎龍を一切の損害なく一方的に撃破出来る兵器
を幾つも所有している。その力を持ってすればヤオの一族を救い出
すことは出来るだろうが彼等はれっきとした軍人だ。
特に義心を持つ狭間陸将はすぐにでも部隊を編成して1人でも多
くの人たちを炎龍から救い出したいと考えているが、同時に自分が1
人の自衛官であるということに板挾みされ、何も出来ない自分を悔や
んでいた。
それから暫くしてから対談は終了したがあまりにも後味が悪すぎ
で、雨が降る中、73式小型トラックでアルヌス市街地に向かうヤオ
と付き添いのレレイ。
228
何かを悟ったドライバーを任されている陸将補佐官の柳田2尉は
独り言のように口にし始める。
﹁⋮⋮⋮俺たちの世界の軍隊ってのは為政者が動かす暴力装置だ。個
人が独断で動かしちゃいかんものだ⋮⋮だが⋮⋮⋮伊丹、クレイグ、
谷ならやるかもな。あいつらが大切な物を救う為なら⋮⋮⋮﹂
﹁伊丹、エース、谷ならやるかもしれないと⋮⋮⋮﹂
﹁伊丹⋮⋮エース⋮⋮谷⋮⋮﹂
柳田の言葉を通訳するレレイ。ヤオは意気消沈しつつも3人の名
前を口にした。この時はまだ他愛も無かったが、この言葉が後に騒動
を巻き起こすきっかけとなる⋮⋮⋮⋮⋮。
229
Mission51:2つの平和
帝都ウラ・ビアンカ皇室庭園。
ここでは現在、ピニャと日本外交官の菅原 浩治とアメリカ大使の
アーノルド・ノイマン、台湾外交官の孔 徳羽による講和派貴族達の
家族を招いた園遊会が行なわれていた。
会場では第3偵察隊の古田とタスクフォース ナイツより派遣さ
れた劉が作った料理の他に栗林、富田、シンディ、クラークの4人に
よる女性向け護身術講座に黒川による化粧体験。
桑原曹長、コーエンスによるジャズバンド、その他に簡易ボーリン
グや輪投げ、的当てなど老若男女問わず様々な催しを用意して来賓達
を楽しませていた。
特に古田、劉の2名が作るマ・ヌガ肉焼きは大好評で、向こうから
持ってきたマスタードやケチャップ。更に刻みワサビといった薬味
230
なども揃えていて、食後のデザートには菓子作りが趣味としている第
2水陸両用戦闘団団長の住谷1佐が作ってくれていた実に200人
分ものクッキーが提供され、子供達もそれに大満足だ。
そんな会場の端にある草原には伊丹、エース、谷の他に第4偵察隊、
デスサイズ隊、台湾本土から増援で送られた第269機械化歩兵旅団
第334小隊射撃チームが2名ずつで89式小銃2型にM416A
5、91式歩槍を構えて25m先にある帝国兵の鎧一式に5.56m
m弾を叩き込んでいた。
﹂
﹂えっ⁉
自分達の装備を最も簡単に貫通する様子に驚愕する議員達に伊丹
達は話し掛けた。
﹂
こんなものどうやって作るのだ⁉
﹁いかがでしょう。これが銃の威力になり﹁売ってくれ‼
﹂
﹁いや⁉
﹁お⋮⋮落ち着いてください⁉
﹂
﹁詳しくは申せませんが、用途に合わせて1人1丁は装備していると
﹁この銃というものを貴方方はどの程度保有しているのだ⁉
?
?
?
?
?
?
お考え下さい﹂
エースの言葉に議員達は驚愕。驚きのあまり質問攻めを食らって
いた伊丹と谷は解放されて一息吐いた。
﹁続いて81mm迫撃砲をご覧下さい﹂
そういうと少し離れた場所に待機しているM252 81mm迫
﹂
﹂
撃砲を全員が見る。
﹁半装填‼
﹂
﹁半装填よし‼
﹁発射‼
?
いか
﹂
るそちら側の条件を教えて欲しい⋮⋮⋮が⋮1つだけ教えてくれな
﹁菅原殿、ノイマン殿、孔殿。堅苦しい挨拶は無しだ。講和交渉におけ
﹁これはデュシー公爵。晩餐以来でしょうか
﹂
様子を見にきていた菅原、アーノルド、孔に歩み寄った。
連合軍との戦いは帝国を滅亡に導く。そう判断したデュシー候は
﹁うむ⋮⋮⋮これ以上の連合軍との戦いが続けば我等は敗れる﹂
﹁⋮⋮デュシー候﹂
る迫撃砲に議員達は驚愕しきっていた。
100m弱だというのに自分達の10倍以上もの射程の長さを有す
せ、1kmほど先の地点に弾着させる。優秀な弓兵ですら最大射程が
特科の迫撃砲部隊がM252 81mm迫撃砲より榴弾を発射さ
?
?
﹁連合軍はなぜ講和を求めるのか
我等と戦えばこちらは一方的に敗
?
231
?
﹁我々に答えられる範囲内でしたらお答え致します﹂
?
走すると分かっているのに何故か
る条約となります﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
﹁そして4つ目は通商条約の締結⋮⋮⋮これらの4つが我々が掲示す
る﹂
クを連合特地派遣団に譲渡し、その外側10リークを非武装地帯とす
掘権を支払うこと。3つ目はアルヌスを中心とする半径100リー
﹁2つ目は帝国は賠償金として5億スワニもしくは相当の地下資源採
認めて謝罪し、責任者を処罰すること﹂
﹁はい。我々が求める条件は4つあります。1つ、帝国は戦争責任を
な条件を出すつもりか
が蹂躙される前に講和交渉が必要だろう。そちらは和平にどのよう
﹁これまで儂等は勝って与える平和しか知らなかった。連合軍に帝都
和だというのに真逆の意味が含まれている﹂
る平和は非常に美味で負けて与えられる平和は実に不味い。同じ平
﹁平和⋮⋮⋮か⋮⋮耳心地の実に良い言葉だ⋮⋮だが⋮⋮勝って与え
アーノルドの言葉にデュシー候は暫く彼らを見る。
らです﹂
﹁それは至って簡単です。我々が求めるのはただ1つ⋮⋮⋮平和だか
?
一応はこちらの相場を日本の額に合わせたのです
リカに関してはこれの何倍もの額が国家予算となってます﹂
5億スワニが連合の年間予算と同じであると聞き、議員達は唖然と
してしまっているが、特にピニャは改めて連合と帝国の差が天と地の
差であると悟って倒れてしまった。
だが菅原、アーノルド、孔の3人は絶対に言えなかった。
5億スワニという金額はただ単に賠償金額が決まっていないから
232
?
世界中から金貨をかき集めても到底届かぬ額だぞ⁉
﹁5億スワニ⁉
﹁無茶な⁉
﹁驚かれましたか
?
?
が、これでも我が国と台湾の年間国家予算を少し超える程度で、アメ
?
?
第2次大戦終結において日本への賠償金を参考にしただけ。
仮にそんな金額を支払われてしまったら間違いなく異世界の経済
は破綻するし、菅原達の世界でもそんな大量の金貨が来れば市場相場
が破綻して大混乱となる。
それにそんな金額が入ってきたら間違いなく中国、韓国、北朝鮮が
歴史問題をネタにして奪い取ろうとするのは火を見るより明らかだ。
だから賠償金かそれ相応の地下資源採掘権という内容を付け加え
たのだ。資源ならば金銀銅や宝石以外はあまり重宝されていないし、
手 付 か ず の 油 田 も あ る か ら 寧 ろ 菅 原 達 の 真 の 狙 い は こ ち ら な の だ。
混乱する議員達にあくまで提示額であるということを伝えると、伊丹
の無線機に通信が入った。
﹂
︿アベンジャー。こちらアーチャー、送れ﹀
﹁こちらアベンジャー。どうした
︿帝都方面より招待状のない騎馬の小集団が接近。招待客ではなさそ
うだが身なりが良く、盗賊の類には見えない。こちらで対処するか
﹀
﹁聴いてた。すぐにVIPを退避させた方がいいだろう。表向きでは
悪所
からがいいだろう。あそこは茂みの中だから
まだ接触していないことになってるからな﹂
﹁南東門がある
人目につかないし、門番も買収済みだ。俺は富田と一緒に車両を取っ
てくる﹂
﹁分かった。俺はナイツと合流する。伊丹は引き続き指揮を執ってく
れ﹂
﹁あぁ。だがその前に⋮⋮⋮﹂
﹁分かってる。手間の掛かる姫様だよ全く⋮⋮⋮﹂
そう言いながらあまりの金額に倒れたままのピニャを起こし、すぐ
233
?
﹁エース、谷。予約の無い客が来たみたいだ﹂
︿了解﹀
﹁アーチャー。監視を続行せよ﹂
?
に伊丹とエースにイタリカでの許しを乞うように謝るが、2人は全く
気にしていなかったから問題にはならない。
それからすぐにピニャに事情を説明し、講和派貴族を車両で脱出さ
せて彼女はすぐに園遊会会場に引き返させた。エースも密かに潜伏
していたスペツナズのヴァローナ隊と合流し、集音マイクを使って情
報収集を始めた。
﹀
?
今日はなんのご用でしょうか
︿兄上‼
﹀
?
︿ここに元老議員と敵の使節団は
﹀
︿おりませぬが、どうかなさいましたか
?
﹀
﹀
あぁ、マルクスに行ってみろって言われてな﹀
︿なんと言って
︿あ
?
﹁だが⋮⋮なんだか分からないが気に入らない奴だ﹂
奴がいるって話だ﹂
﹁確かゾルザルっていう名前だった筈だ。その下にディアボとかいう
﹁あれがピニャの兄貴か⋮⋮⋮年は俺と同じか下って処だろう﹂
のでしたから⋮⋮﹀
︿いえ、そういう訳では⋮ただ兄様はこのような催しには無関心なも
俺が来て迷惑だったか
︿なんだ
?
いうこともだ。
ピニャの兄であるゾルザルこそが主戦派を束ねる中心的存在だと
は既にタスクフォース ナイツが掴んでいる。
再びアルヌスに攻めこもうとしている主戦派一派がいるということ
団と帝国の間に和平を求めることを頑なに拒否し、各地から徴兵して
盗聴しながら双眼鏡で2人のやりとりを監視する。連合特地派遣
﹁抜かりはない。マルクスっていえば皇帝の右腕だ﹂
な名前があった筈だ﹂
﹁威力偵察⋮⋮⋮じゃなさそうだ。アーロン、確か主戦派の中にそん
︿気にするな。俺の勘違いだったみたいだ﹀
?
234
?
?
﹀
是非と
︿兄様。せっかくですから何か召し上がって下さいませ。マスタード
というソースをつけたマ・ヌガ肉がオススメです﹀
︿黄色のソース⋮⋮⋮不味そうだ﹀
﹁そう言うんだったら食うなよな⋮⋮﹂
﹀
それで誰が焼いたんだ
︿⋮⋮⋮ピニャ。これを作った料理人を紹介してくれまいか
﹀
も父上にも召し上がって頂きたい﹀
︿お気に召されたようですね
︿俺が料理に煩いのは知っているであろ
︿残念ですが少し前に帰られました﹀
︿そうか⋮⋮見かけたら俺の前に連れて来い。いいな
﹁⋮⋮⋮古田と劉が聞いたら喜びそうだな﹂
﹁データに記載しておく。何かに役立つだろう﹂
?
?
﹂
した伊丹達はそれぞれの車両に乗り込んで帝都のダウンタウンであ
それから園遊会はなんの問題もなく終了し、会場監視の任務を終了
た。
を得ることは出来ず、少ししてから土産に料理や酒を持ち帰っていっ
リ。それからピニャとゾルザルのやりとりからあまり有効的な情報
作するイワン、SVDを構えていつでも狙撃できる体勢をとるヴァシ
隣でエースと同じく双眼鏡で監視するアーロンに集音マイクを操
﹁まぁ初めての味だから仕方がないか⋮⋮﹂
ける馬鹿がいるか
﹁おいおい⋮⋮⋮いくら気に入ったからってあんなにマスタードをつ
?
?
?
る悪所へと向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
235
?
悪所
Mission52:セラフィム
帝都南東エリア
帝都の中でも一番低い場所にあるこの地区は帝都内において唯一
亜人が自由に行動できる場所である。だが同時に貧民街でもあり、種
族、民族、獣人の坩堝と化している。
その暴力と犯罪が日常茶飯事である悪所に帝都の一般市民は誰も
近づかないようだ。
そんな治安状況が最悪な場所を逆手に取って帝都における活動拠
﹂
点を数カ所確保した俺たちタスクフォース ナイツは確保した拠点
を中心に調査をしていたが⋮⋮。
﹁うっへ∼⋮⋮⋮本当に治安は最悪なんですね
﹁そうらしい。娼婦に奴隷商人、噂じゃあ人肉を売ってる肉屋まであ
るらしい﹂
﹁⋮⋮⋮この街じゃあ肉料理はやめておいた方がいいですね﹂
﹁死んでも持ち込みの物以外は食うなよ上等兵﹂
﹁分かってますよ﹂
ナインセラフ
所属のエドワード・フィン少尉と共に街を
そ う い い な が ら 俺 は 海 軍 特 殊 部 隊 N a v y S E A L s T e
am9
歩く。俺たちは方針に従って市街地戦闘を考慮に入れ、アメリカ陸軍
のACUパターンのコンバットユニフォームを身に纏っており、緑よ
りはマシだがそれでもかなり目立っていることには違いなかった。
﹁ここに来てから4日になるが、今の段階で判明したのは治安の悪さ
だけだなんてな⋮⋮⋮﹂
﹁しかも娼婦に声を掛けられるのが数歩歩く度だなんて⋮⋮⋮亜人に
興味はあるけどちゃんとした場面でのみにして貰いたいもんですよ﹂
﹁全くだ。美人揃いでスタイル抜群なんだがな。しかも薄着で露出度
が高くて目のやり場に困る⋮⋮⋮そういえば自衛隊の隊員が趣味の
236
?
写真で特集を組んでるらしいな
﹂
﹂
﹁えぇ。亜人を紹介する特集てなかなか好評らしいって話です。アル
﹂
ヌスでは出版本にして庶民向けに格安で販売してるみたいですね
﹁まぁな⋮⋮⋮分かれ道だがどっちに進む
﹁自分は路地を調べます﹂
?
﹂
この辺りじゃあ見ない顔だねぇ⋮⋮⋮どうだい
けて来た。
﹁あら
買って楽しいことしないかい
﹁そこのお兄さん、私を買っていかないかい
よ﹂
お姉さんを
いろいろ尽くしてやる
?
ぎゃっ⁉
﹂
﹁へへへっ⋮⋮にいちゃん。死にたくなかったら金目のもん全部⋮⋮
﹁そういうことは彼氏にしてあげなさい﹂
?
そんな路地裏にも娼婦がいて、俺に客引きしようと甘い声で話し掛
体などが平然と放置されたままだ。
んの骨か分からない骨、殺害されて日が経過していない虫が集った死
入り組んだ道となっているようであり、建物には生々しい血の跡やな
そういうと俺はM4A1を担ぎ直して路地に入る。路地は薄暗い
﹁了解です少尉﹂
許可する﹂
集合だが無駄な交戦は避けろ。だが緊急時の場合のみならば発砲を
﹁分かった。だったら俺はまっすぐ進む。1時間後にセーフハウスで
?
本当に治安が悪いんだと再認識していると路地を少し進んだ辺り
ちにした。
フを持った男が強奪しようとするも、腹に蹴りを入れてやって返り討
最初は龍人種の女性に声を掛けられ、次にハーピィ。最後にはナイ
﹁黙ってろ三下﹂
?
237
?
﹁すみません。まだ仕事中なものですから⋮⋮﹂
?
?
でなにやら揉め事が発生しているようだった。気になってしまった
ので注意しながら進むと4人の男に腕を掴まれて身動きが取れない
女性がいた。
見た目は普通の肌色に腰まで伸びた長い青色の髪。そしてアスラ
なにすんのさ⁉
﹂
族と呼ばれる4本腕を持った亜人の女性だが格好からして娼婦だろ
う。
﹁ちょっと⁉
?
﹂
?
金がないのに
?
てめぇは黙って相手をすりゃいいんだよ‼
﹂
?
﹂
﹂
俺様達をベッサーラ一味だってことを知ってい
﹂
こいつって噂の灰色の人じゃねぇか
て言ってんだろうな⁉
﹁おい⁉
﹂
確か緑の人っつう奴等の偽モンだっつう話だ‼
ぎゃははははは‼
﹁本当かよ⁉
﹁マジか⁉
?
?
み寄り、俺に話し掛けて来た。
だんだん腹が立って来た。するとリーダー格の男がゆっくりと歩
?
?
?
﹁んだとごらぁあ‼
﹁今すぐに彼女を解放しろ。さもなきゃあの世に送ってやる﹂
?
﹂
﹁動くな‼
?
⋮⋮⋮んだてめぇは
﹁あぁあん
﹂
P226を抜き取って照準を合わせた。
襲うっていう根性が非常に気に食わないと感じ、俺はホルスターから
しての話であり、俺は違う。1人の女性を大の大人が寄ってたかって
で誰も見て見ぬ振りをかますらしい。だがそれはこの街の人間に関
どうやら強姦のようだ。この辺りはそういったことも日常茶飯事
だ‼
﹁うっせぇな⋮⋮⋮俺たちが仕事が捗るように協力してやろうってん
あたいの肌に触れるんじゃないよ‼
﹁そういうことならちゃんと金を払ってからにしな‼
﹁いやなに⋮⋮あんたの仕事を手伝ってやろうと思ってな﹂
?
?
?
?
?
238
?
﹂
﹁兄ちゃん⋮⋮⋮俺らはお姉さんの仕事を手伝わなきゃならねぇんだ
よ。だからおとなしく帰ってくれねぇか
だぞ
お前らなんざあっという間に殺せるんだぜ
﹁最後の警告だ。その場に伏せろ﹂
﹁⋮⋮⋮殺れ﹂
いいのかよ
﹂
?
﹂
女性に手を差し伸べる。
﹁大丈夫かい
どこか痛いところは
﹁あっ⋮⋮あぁ﹂
﹁怪我はないか
﹂
周辺を制圧した俺はホルスターにP226を格納し、へたり込んだ
けて排除。
そして女性を逃さないようにしていた男の後頭部に銃口を押し付
トリガーを弾いて手下3人を排除した。
風穴が開いて倒れたのを見た下っ端共は唖然とするが、俺は引き続き
着しているから発砲音はかなり低くなっており、いきなり仲間の額に
た男に照準を合わせてトリガーを弾いた。先端にサプレッサーを装
警告に従わなかったので正式な敵性分子と判断した俺は先頭にい
んだろうが負けることなんざはなから考えていない。
み寄ってきた。おそらくは見下して俺を簡単に殺せると思っている
頭がそう指示すると下っ端はナイフを取り出して俺にゆっくり歩
?
﹁⋮⋮⋮⋮俺らに指図するってのはベッサーラ様に喧嘩売るってこと
﹁もう一度いう。すぐに彼女を解放しろさもなければ制圧する﹂
?
﹂
?
﹁なんで
﹂
﹁あたしはミーア。それよりあんた、早く悪所から逃げた方がいいよ﹂
フレッド。君は
﹁よかったよ。大事になる前に対処できて⋮⋮俺はスティーブ・アル
?
?
﹁あ⋮⋮あたいは何ともないよ⋮⋮﹂
?
﹁何故って⋮⋮⋮あんたが始末したゴロツキは顔役の1人のベッサー
?
239
?
ラの手下だよ
もしあんたが手を出したってことがバレたら奴等あ
んたの仲間を皆殺しにしちまうかもしれねぇ。
助けて貰ったのは感謝するし、出来るなら礼をしてやりてぇけど悪
いことはいわねぇ。すぐに街から逃げな﹂
彼女の言葉からCIAの情報を思い出す。ベッサーラはたしか悪
所を取り仕切る4大マフィアの1人で顔役の中では評判が最悪らし
く、かなり悪どいことをしているらしい。
だがそんな奴に負けるなど俺には考えられず、軽く微笑みながら返
答する。
﹂
﹁だったらなおさら出て行く訳にはいかないな。すまないがベッサー
あんた聞いてなかったのか⁉
?
危ないから﹁心配は
ラファミリーの事を俺の拠点で詳しく教えてくれないか
﹁な⋮⋮なぁ⁉
?
﹂
いらないよ。危険には慣れてる﹂⋮⋮⋮分かったよ。だけど1つだけ
いいかい
﹂
﹂
?
﹁そ⋮⋮それだけ
﹂
助けたかったから助けたんだ﹂
﹁困っている誰かを助けるに理由なんていらない。俺は女の子の君を
﹁あんた⋮⋮なんであたしを助けたんだ
?
ね﹂
﹁か⋮⋮可愛い⁉
始め、その日の晩にネズミが網に掛かった⋮⋮⋮⋮⋮。
アに精通しているアーロン中尉の助言を受けて対マフィアの準備を
その後にスペツナズのアーロン中尉とフィン少尉も到着し、マフィ
台湾軍の劉大尉に報告した。
れから俺はミーアを連れてセーフハウスに到達し、ことの成り行きを
本心を告げると彼女は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。そ
﹂
﹁あ ぁ。そ れ に 君 み た い な 可 愛 い 女 の 子 に 何 か あ っ た ら 大 変 だ か ら
?
?
240
?
?
﹁いいけどどうかした
?
Mission53:黒衣隊
スティーブ海兵隊上等兵がミーアという女性を保護してきた。な
んでもマフィアに強姦されそうになっている現場に鉢合わせし、救出
に踏み切ったとのことだ。
そのアスラ族のミーアからベッサーラファミリーについて教えて
もらい、奴らは間違いなく仕返しに来るらしい。仕掛けてくるんだっ
たら今夜辺りだろうし、金目が目的なら向こう側にとって一石二鳥
だ。
しかも自衛隊主体の第1セーフハウスでは周辺住民の退避を完了
させ、情報屋からの情報にあるベッサーラ直々の押入りに備えてい
る。
俺たち黒衣隊も黒一色の戦闘服に着替え、鎧戸を全て閉めて銃を手
に待ち構えていた。
︿こちらヴァローナ。武装した集団がセーフハウスに接近。数は30
から40と推測。屋根伝いにも何人かが移動している﹀
﹁こちらサッチ。赤外線反応でも確認した。ヴァローナ隊は引き続き
監視を続行。必要に応じて攻撃してくれ﹂
︿了解だサッチ。こちらは既に照準している。何時でも攻撃可能だか
ら任せてくれ。ヴァローナ1 out﹀
︿セラフィムからサッチ。こちらも狙撃位置にて待機中。命令を待ち
ます﹀
アーロン中尉の通信を終わらせると俺はKSC Kel│Tec
のポンプアクションを操作して12ゲージショットシェルをチャン
バーに送り込む。隣ではT│91を構える伯とMk18 Mod1
を構えるSEALs隊員。
2 階 に は M k 4 7 M o d 0 や M 2 7 I A R を 構 え て い る ガ
ナーがいて、周辺の建物には既に伏兵でAK│12やRPK│12、
RPG│32を装備したヴァローナ隊とM417A2、M416A5
241
を構えたMARSOC、離れた塔ではセラフィムことアルフレッド上
等兵と観測手が25mmライフルのXM109ペイロードライフル
を用いて待機している。
マフィアはそんな自分達が頭から罠に掛かっていることに気が付
かず、武器を片手に通りを我が物顔で行進していた。
︿同志大尉、なにやらハンマーを手にした大男が入り口前に向かった。
扉を破壊して突入するつもりみたいだ﹀
﹂
﹁正面から来るんだったら挨拶してやらないとな⋮⋮⋮俺が扉を開け
て一撃を見舞う。それを合図に攻撃開始だ了解か
︿ヴァローナ1了解﹀
︿ハルバート1、了解﹀
﹁よし伯。死神になるぞ﹂
﹁了解です﹂
通信を終わらせて素早く俺は腰に備え付けていた黒一色の仮面に
手を伸ばし、それを被った。俺たち黒衣隊の最大の特徴は黒一色の装
備に加えてこの鉄仮面を被るというものだ。
マスクを被り、ポンプにて最初のショットシェルを装填するとゆっ
くり扉を開けた。僅かに開けられた扉から見えたのはハンマーを構
えている間抜けなマフィアだった。そして搭載しているエイムポイ
ントT│1で照準を合わせてトリガーを弾いた。発射されたバック
ショットは男の顎から上を抉り取り、派手に身体を吹き飛ばした。
それを合図に鎧戸が一斉に解き放たれ、この時にマフィア達は自分
﹂
達が罠に掛かったことをようやく理解したが容赦はしない。
﹁撃て‼
弾や7.62mm弾、AK│12の5.45mm弾は的確にマフィア
達に直撃していき、広場には次々と死体が重なり合っていく。
242
?
俺の合図で一斉に銃撃が開始された。降り注がれる5.56mm
?
クソ野郎を始末しろ‼
﹂
︿セラフィムからサッチ。そちらを狙う弓兵を確認﹀
﹁セラフィム‼
?
アルフレッドのペイロードライフルによる狙撃で放たれた25
い。
﹂
﹂
?
﹁伯‼
⋮⋮⋮手榴弾‼
?
﹁大尉。Sから通信です﹂
︿セイバーからサッチ、送れ﹀
﹁こちらサッチ。そっちも終わったようだな
﹂
﹁こちらサッチ。敵の殲滅を確認。撃ち方やめ﹂
なっていた。
やがて殲滅し終わったのか、マフィア側に逃げ出す奴等は見えなく
逃げ出す奴等の背中に散弾を見舞っていく。
してから手榴弾の爆発と共にマフィアの断末魔が聞こえて、引き続き
伯に命じてM67破片手榴弾を窓から室内に投げ込ませる。少し
﹁了解‼
熱々のグレネードをプレゼントしてやれ‼
敵は恐れをなして味方がいない屋内に逃げ込んだが、そうはいかな
くにいたマフィアの顔を木っ端微塵とした。
59Bmm徹甲弾が直撃し、敵の身体を吹き飛ばした後に流れ弾で近
×
を加える俺に一矢報いようとするも、いきなり上半身が吹き飛んだ。
屋根からもマフィアがクロスボウを構えてKel│Tecで射撃
︿了解。狙撃します﹀
?
挨拶
に向かうが、そっちはどうする
︿了解。セイバー終わり﹀
で準備が終わる﹂
送れ﹀
﹁願ったり叶ったりだ。すまんが迎えに来てくれ。こっちも5分ほど
に
︿あぁ。ちょうどいい射撃訓練にはなった。これから奴等の親玉の家
?
?
243
?
?
﹂
︿こちらDのつく部隊。なんか面白そうなことを企んでるな
﹁まぁな。なんだったらお前達も来るか
﹀
わない理由は全くないと判断した俺も装備を簡単に纏めて迎えに来
ら仕返しをしに行くつもりのようだ。そんな楽しそうなことを向か
自衛隊のSからの通信では奴等の親玉であるベッサーラになにや
﹁了解だD。サッチ out﹂
ちも移動準備が出来てるから現地で合流する﹀
︿当たり前だ。その為にわざわざアメリカから来たんだからな。こっ
?
たセイバーこと剣崎3尉と合流し、そのまま奴の屋敷前に向かった
⋮⋮⋮⋮⋮。
244
?
Mission54:4番目の力
第1、第2セーフハウスがベッサーラとかいうマフィアに襲撃され
たって通信を聞いて敵が哀れに思っちまった。
ジャパニーズスペシャルフォースにアメリカのMARSOC、SE
ALs、カンパニーのパラミリタリーチーム、台湾の死神黒衣隊にロ
シア野郎のスペツナズで構成されちまったチート強豪戦闘集団に喧
嘩を売ったんだ。しかも通信じゃあ、敵は完全に壊滅したって話だ
し、残党にも討伐が開始されたみたいだ。
けど喧嘩を吹っかけて来たんだから容赦はしない。
予備の第4セーフハウスにて待機していたこの俺⋮⋮⋮ウィリア
デルタフォース
の特地特別派遣隊
ナイトメア
ム・テイラー1等軍曹が指揮するアメリカ陸軍第1特殊作戦部隊デル
タ作戦分遣隊
もそれぞれのライフルを手にベッサーラのでかい屋敷に到着してい
245
た。
﹂
﹁こちらナイトメア01。目標の建物裏口に到達した。そっちはどう
だ
﹁ナイトメア01了解。これより狩りを始める。 out﹂
ルー・リッジ。各員は行動を開始。派手に返してやれ﹀
︿了解だナイトメア01。サッチから全部隊。衝突回避の合言葉はブ
し、C4を設置して脱出する﹂
﹁了解。これより内部に突入して建物を制圧。可能ならば目標を排除
て動きはありません﹀
︿セラフィムから全部隊へ。こちらも狙撃位置にて待機中。現段階に
も突入してやる﹀
︿こちらヴァローナ1。ハルバートと共に東側より潜入した。いつで
︿こちらセイバー。西側の壁を乗り越えて中庭に到達。現在待機中﹀
始末した﹀
︿こちらサッチ。こちらも正面玄関に到達。見張りのチンピラ2名を
?
展開している部隊に対して通信を終えるとMk16 Mod1を
構えながら裏口を慎重に開けて敷地内部に潜入する。その後ろに部
隊員であるデイブ、コールが同じようにMk16 Mod1、ブラッ
クバーンがM870 MCSを構えて前進。
近くにあった扉に張り付くと俺はヘルメットを2回叩いた。それ
を確認したブラックバーンはドアノブにM870 MCSを構えて
ドアノブを破壊。それから蹴り破ると中にM84フラッシュバンの
ピンを引き抜いて投擲し、起爆したら一気に突入した。
そこには目をくらましたマフィアがいたがすかさず射殺してルー
ムクリアをする。
﹂
﹁右クリア‼
﹂
な部屋に突入したようだ﹂
室内で脱出を図る敵部隊と遭遇‼
?
︿了解だ。こちらも屋敷内に突入したが抵抗は微弱だ﹀
︿こちらハルバート‼
﹀
?
ぞ﹀
そうこうしていると目的の階段を見つけたが人の気配。ライフル
ナズという豪華な組み合わせのチームだから心配は無用だ。
が挟撃する為に向かっているようだし、何よりもTeam9とスペツ
側では運悪く敵部隊と鉢合わせしたようだ。だが日本の特殊作戦群
3チームも屋敷内に突入したようで、特にSEALsとスペツナズ
﹁任せたセイバー。こちらは階段を捜索して2階に向かう﹂
︿了解した‼
﹀
︿セ イ バ ー か ら ハ ル バ ー ト。そ っ ち に 向 か っ て い る。敵 を 挟 撃 す る
中‼
現在交戦
﹁こちらナイトメア01、屋敷内部に潜入した。どうやら兵舎みたい
﹁了解﹂
﹁ブラックバーン、先導しろ。デイブとコールは後方警戒だ﹂
﹁オールクリア‼
﹂
﹁左クリア‼
?
?
246
?
?
?
を構えて待ち伏せるが現れたのは使用人みたいだ。逃げようとして
壁によれ‼
﹂
放っておけ‼
﹂
﹂
両手には荷物があったが俺たちを見かけて震えだした。
﹁動くな‼
﹁非武装者だ‼
﹁どうします
﹂
﹁⋮⋮⋮どうやらジャックポットのようだな﹂
内の会話を盗聴する。
やがて両開きの扉の前に到着し、両端に張り付くと耳を澄ませて室
ベッサーラを探す。
か武装したマフィアを発見したが素早く排除し、危険を回避しつつ
駆け上がり、2階に出ると隊列を組んで廊下を突き進む。途中で何人
怒鳴りながら使用人に逃げるよう促すと俺たちは引き続き階段を
﹁逃がしてやるからとっとと失せろ‼
?
?
﹁突入‼
﹂
そして準備が終わると俺は点火器のスイッチを押して起爆させた。
でも使用されているC2爆薬をセットして点火器を手に少し離れる。
たちはすぐさま隣の部屋に移動し、適当な壁に突入用ツールとして今
正面からの突入ではなく、壁に穴を開けて突入することを選んだ俺
する﹂
トメア01からオールユニット。ジャックポットだ。これから突入
﹁不意打ちを仕掛ける。壁に穴を開けてから室内に突入だ⋮⋮⋮ナイ
?
女性に子供、更には妃らしきヴォーリアバニーが逃げる準備をしてい
た。俺たちは展開してライフルの銃口を向けた。
247
?
?
?
開かれた大穴から一気に室内へ突入し、室内には体格がいい大男と
?
﹁動くな‼
﹂
﹁なっ⁉
⁉
﹂
﹂
俺様をベッサーラだと知って⋮⋮がっ
両手を頭に回してその場に伏せろ‼
﹂
なんだ貴様らは⁉
﹁あっ⋮⋮あんた⁉
ナイフを持ってる‼
﹂
﹁くそっ⁉
﹁撃て‼
?
﹂
﹂
トを撃ち込み、女を壁に叩き付けた。
﹁クリア‼
﹁オールクリア‼
スペードの6
﹂
及び
を 排 除。タ ン ゴ ダ ウ ン だ。子 供 と ヴ ォ ー リ ア バ
﹂
?
れ。君の名前は
﹁⋮⋮⋮パルナ﹂
﹂
?
?
﹁旅をしていた時の一緒にいた2人のヴォーリアバニーの名前は
﹂
﹁そのまま、大丈夫だ襲ったりはしない。すまないが質問に答えてく
る女だ。
ニーを見る。特徴は黒髪のセミロングで瑠璃色の瞳、少し幼さが見え
デ イ ブ の 言 葉 に 俺 は 言 葉 を 抱 き な が ら 震 え て い る ヴ ォ ー リ ア バ
﹁なんだと
﹁隊長、このヴォーリアバニー⋮⋮⋮対象の子じゃないか
﹁了解だサッチ。これから脱出する。ナイトメア01 out﹂
員の亜人や奴隷と共に脱出したからお前たちも脱出しろ﹀
︿ナイトメア01、こちらサッチ。こちらもC4を設置した。非戦闘
ニーを保護﹂
ジョーカー
りかかろうとするも、ブラックバーンが照準を合わせてバックショッ
だと判断して頭に銃弾を撃ち込み、動揺した女がナイフを手にして斬
自らベッサーラと名乗った男は剣を抜いたが、その行為が敵対行動
?
﹁ナイトメア01からオールユニット。暗号名
?
?
?
248
?
?
?
?
?
?
?
﹁デリラと⋮⋮⋮グリーレ﹂
﹁隊長。間違いないぜ﹂
を見つけた﹂
﹀
﹁あぁ⋮⋮⋮ナイトメア01からサッチ。追加報告だ。
イーン
︿こちらサッチ。確かか
あの子は生きてるの⁉
﹂
?
ハートのク
パルナとベッサーラの娘をアルヌスに連れて行く為、次の日に俺た
フィアの扱いに長けたスペツナズに任せるとしよう。
フィアは俺たちに手を出そうなんて思わなくなるだろうし、後はマ
いいメッセージにもなったしデリラの依頼も達成出来た。これでマ
俺たちに手を出したベッサーラも排除出来たし、他のマフィアにも
を木っ端微塵に吹き飛ばした。
出を確認した特殊作戦群は建物内に仕掛けたC4を起爆させて屋敷
そう促しパルナという少女と子供と共に屋敷を脱出。俺たちの脱
﹁質問は後だ。屋敷を爆破するから脱出するから付いてきてくれ﹂
﹁デリラが⁉
に行くならパルナという子を見つけ出して保護してくれってな﹂
﹁俺たちはアルヌスから来た。デリラから依頼があってな⋮⋮⋮帝都
﹁あ⋮⋮あんた達は⋮⋮⋮﹂
出する。ナイトメア01 out﹂
﹁特徴も一致しているし、名前と質問も合致した。これから一緒に脱
?
ちナイトメア隊は一旦アルヌスに向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
249
?
Mission55:予知
ベッサーラファミリー壊滅から暫く、悪所にて連合特地派遣団は受
け入れられつつあった。残りの顔役達は連合の邪魔をしないという
ことを正式に通達してきて、更に連合を競合相手ではなく商売相手で
あると認知したようだ。
加えてマフィアの対応に最も慣れたアーロン中尉の活躍により連
合は報酬を払う見返りに、マフィア達は貴族達の中に自分達の配下の
人間達を紛れ込ませた諜報活動を開始。これにより悪所は景気が良
くなっていき、街に金が落ちるようになっていった。
だがある日の晩、自衛隊主体の第1セーフハウスでは何か動きがみ
られていた。
﹁いやぁ⋮⋮鳥目には助かるよ﹂
250
夜のセーフハウスにやって来た翼人種の娼婦⋮⋮⋮綺麗なブロン
ドの髪に純白の翼、黄色の瞳をした絶世の美女ともいえる大人の翼人
種であるミザリィ。
彼女の他にハーピィ、竜人族、ヴォーリアバニー、キャットピープ
ル、メデューサ、ワーウルフ、ジヴォージョニー、蛇人族といった亜
種の娼婦が一杯来ており、たまたま来ていたスティーブとミーアはな
にやら話をしていた。
私服姿で悪所において看護師を務めていた第3偵察隊の黒川は腰
に9mm拳銃2型をジーンズに挟み込みながら外の様子を伺い、危険
こんな夜中に大勢で⋮⋮﹂
が無いと判断したら扉を閉めた。
﹁ミザリィ、どうしたんですか
ミザリィの言葉に黒川はもちろん倉田やスティーブは手にしてい
アンカでなにをしようとしてるか薄々だけど感づいていた﹂
﹁あぁ⋮⋮⋮あたし達はあんたら連合が悪所で⋮⋮⋮いや⋮ウラ・ビ
?
たPDW│R、特殊作戦群指揮官の新田原3佐は11.4mm拳銃の
トリガーに指を掛けようとする。
﹁だけどねぇ⋮⋮なにも言わず聞かず見なかったで通してきた。あん
たらは顔役の大事な商売相手だし、この街ではそうするのが長生きの
秘訣だからね。けどそうも言ってられなくなったんだよ﹂
ミザリィはそういうと隣の少女を前に出す。プラチナブロンドの
髪をしたハーピィ族の少女だが表情はなにやら怯えているような感
じをしていた。
﹂
﹂
﹁この子は義理の妹で名前はテュワル。話を聞いてあたしらを助けて
欲しいんだ﹂
﹁お⋮⋮お願いです⋮⋮助けて下さい﹂
もうまどろっこしい‼
?
﹂
これからは
詳しく話して
あんたらがあたしらを助けてくれたら‼
表情で黒川達に訴えかける。
﹁つまりさ‼
あんた達の力になってやるって言ってんだ‼
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮分かった。じゃあテュワルちゃんだったね
くれないか
?
着かせてから話を聞いてみることにした。
急を要すると判断したら新田原はミザリィを椅子に座らせ、少し落ち
テュワルの様子にミザリィの言葉に焦りがみえたことにより事は
?
?
251
﹁助けるって何から⋮⋮ベッサーラみたいなマフィアから
﹂
﹁違います⋮⋮なんだか分からないけど寒気がして⋮⋮﹂
﹁それは病気か何かじゃないのかな
?
﹁ううん⋮⋮ここから逃げ出したくなるような寒気なの﹂
﹁あぁああ‼
?
中々話が進まないことに焦らされたミザリィが立ち上がり、必死な
?
?
?
﹂
怖い、逃げ
﹁あ⋮⋮あたいの故郷には火山があって、噴火の前には地揺れがある
って気持ちが強くなって⋮⋮⋮﹂
んです。今日も仕事の合間に⋮その時と同じ感じがして
なきゃ
﹂
﹁地揺れ⋮⋮地震のことか⋮⋮⋮この世界にも地震があるのかね
﹁地面が動くわけないでしょ
﹁そんナことになれバ世界の終焉﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁どうかされましたか新田原3佐
﹂
らないし、だからここに来たんだ﹂
いたらみんなも同じ気分になってたんだ。この街の男共は頼りにな
﹁あたしも最初は気のせいだと思ってたんだけど、テュワルの話を聞
?
スティーブの呼びかけに応じる形で新田原が先に話し出した。
駐屯地周辺で鳥や動物達が騒がしくなったことを思い出した。
は23年前の3等陸曹時代と7年前の1尉時代に、当時勤務していた
していた。そして90年から自衛隊に勤務している大ベテランの彼
翼人種とハーピィの遥か昔の先祖は鳥だと倉田は前に新田原に話
新田原は彼女達の話を聞いて考え出す。
?
⁉
﹄
﹂
した答えとは、95年に発生した阪神淡路大震災と11年に発生した
東日本大震災だ。
動物達は人間と比べて特殊な磁場を察知することが優れていると
いうことは判明しており、特に鳩など鳥類は卓越して優れている。
かつて2つの震災の前兆で動物達が一斉に騒ぎ出し、その数分後に
252
?
﹁以前の勤務地の時に鳥や動物達が激しく騒ぎ出したことがあった﹂
﹁以前の⋮⋮勤務地
?
﹁⋮⋮⋮⋮阪神と⋮⋮東北⋮⋮﹂
﹃‼
?
新田原の言葉を聞いてスティーブ達も察知した。新田原が導き出
?
起きたのが大地震た。
ミザリィとテュワルの言葉で彼女達の寒気が大地震が起きる際の
磁場を察知したことであると確信した新田原は一気に立ち上がり、大
きめの声で指示を出す。
﹂
もらっている﹂
急に飛び上がって震えだした。だから先にカトー老師に様子を見て
﹁そうロゥリィ。朝から少し様子がおかしかったのだが、少し前から
﹁ミオの
﹁起こしてすまない。だけどミオの様子がおかしい﹂
﹁ふぁ∼⋮⋮なんなのよぉ⋮こんな夜中にぃ﹂
でいた。
だったがレレイとテュカ、ルフスに起こされてミオの部屋に足を運ん
リ ィ の 部 屋。何 時 も の よ う に 自 身 の 部 屋 に て 眠 っ て い た ロ ゥ リ ィ
一方でウラ・ビアンカから約600km離れたアルヌスにあるロゥ
ばにある広場に装備を全てまとめた状態で避難していく。
纏め役であるミザリィがみんなを纏めだし、スティーブ達もすぐそ
﹁⋮⋮⋮信じるよ。聞いたねみんな、すぐに避難するよ﹂
みたいに⋮⋮﹂
が一斉に騒ぎ出したり逃げ出したりするんです。皆さんの今の状況
﹁私たちの世界では大きな地震⋮⋮⋮地揺れの時には前兆で鳥や動物
﹁ありがとう。けど地揺れが起きるってなんで分かるんだい黒川
﹂
各自5分で装備を纏め
間も無くで大規模地震発生の
?
我々も帝都外に避難する‼
?
﹁帝都各班及びアルヌスに緊急連絡‼
﹂
危険性あり‼
﹄
て備えろ‼
﹃了解‼
?
﹁ミザリィ、皆さんを帝都外に固まって集合させて下さい﹂
?
﹁ち ょ っ と 私 た ち じ ゃ あ ど う す れ ば い い か 分 か ら な い し、本 当 な ら
253
?
?
?
エースに頼みたかったけど今は帝都に行っちゃってるからロゥリィ
にお願いしたいの﹂
﹁分かったわぁ﹂
ミオの様子がおかしいと聞き、ミオの部屋の前に着くロゥリィ。
彼女達6人はアルヌス協働組合において代表者の地位にあり、それ
ぞれが複数の役割を全うしている。
レレイは総務・事業計画・営業・通訳担当。
ロゥリィは祭祀・宗教・治安維持担当。
テュカは農林産業・都市計画担当。
レレイの師匠であるカトーは児童教育・カウンセリング担当。
ルフスはアルヌス∼イタリカ間警務隊隊長・自警団顧問担当。
ミオは衛生・医療・食品製造担当。
これらにより彼女達の給料は日本円で26万円前後であり、この世
ロゥリィ聖下
らないような気がして⋮⋮⋮逃げなきゃいけない気がして⋮⋮﹂
⋮⋮確かにおかしいわねぇ⋮⋮﹁聖下‼
﹁逃げるぅ
﹂
﹂あら
?
今は警務隊に所属しているハーピィのミューティの姿があったがミ
呼ばれてロゥリィは扉を開けると、そこには彼女の副官でもあり、
‼
?
?
254
界のデナリ銀貨支給でも多くて5万程度の3枚に比べたら5倍ほど
の額となる。
ミオの部屋に着いて中に入るとそこには身体を掴んで震えている
﹂
ミオに、懸命に落ち着かせようとするカトーの姿があった。
﹁お師匠。様子はどう
本当に様子がおかしいわねぇ⋮⋮⋮ミオ、どうかしたの
?
らわかっておらぬみたいなのじゃよ﹂
﹁あらぁ
﹂
さそうじゃし、何かに完全に怯えとるようじゃが何なのかが本人にす
﹁おぉ、戻ったかレレイ。変わらずじゃよ⋮⋮見た感じでは病では無
?
﹁わ⋮⋮分からないのですロゥリィ⋮⋮逃げなきゃ⋮⋮逃げなきゃな
?
?
﹂
逃げなきゃいけないような気がするん
オと同じように何かに震えているようだった。
﹁どうしたのミューティ
﹂
﹁早くここから逃げないと⁉
です⁉
﹁あなたもなのぉ⋮⋮⋮﹂
た。
﹁住民の皆さん‼
繰り返します⋮⋮⋮﹂
地震⋮⋮地揺れの発生する危険性があります‼
直ちに火を消して野原に避難して下さい‼
?
ラック警務隊仕様車がサイレンを鳴らしながらゆっくり走行してい
ように外ではアメリカ軍のM1117装甲警備車と73式小型ト
た直後、いきなりアルヌス全体に警報が鳴り響いた。それに合わせる
あからさまにミューティもミオと同じく何かに怯えていると察し
?
?
に連れてきた。
?
﹁な ん だ と い う の だ こ ん な 夜 中 に ⁉
﹂
大地が揺れる訳がなかろう⁉
聞き、急いで装備を纏めるとピニャ達を屋敷の外、なるべく広い場所
田、古田、コーエンスは第1セーフハウスより齎された地震の予兆を
同じ頃、ピニャの屋敷に滞在していた伊丹、エース、谷、栗林、富
ヌス平原へと避難を始めた。
感じたロゥリィは震えるミオとミューティを連れて同じようにアル
放送を聞いて一斉に家から飛び出てくる住民達。只事ではないと
?
?
揃っているんだ﹂
﹂
﹁あぁ。それに何もなければそれはそれでいい。あってからじゃ遅い
んだ⋮⋮おっ
?
255
?
﹁か な り 可 能 性 が 高 い。俺 た ち の 世 界 で 地 震 が 発 生 す る 兆 候 が 全 て
?
﹁富田﹂
﹁えぇ、揺れています﹂
﹁来やがったな⋮⋮⋮﹂
伊丹が最初に感じ取り、それから徐々に揺れが強くなり始める。そ
のこともピニャも気が付いたようだが最初はなんなのか理解出来て
﹂﹂﹂
いないようだった。そして⋮⋮⋮。
﹁﹁﹁来るぞ‼
その夜⋮⋮⋮帝都は地震に見舞われた⋮⋮⋮⋮⋮。
256
?
Mission56:スティーブとミーア
帝都を突如として襲った大地震。
活火山が存在する地域を除き、地盤が極めて安定している特地の住
民達にとって恐怖に駆られるに十分な状況だった。逃げ惑い、冥府の
﹂
﹂
神であるハーディに怒りを鎮めるよう祈ったり、震えて動けなくなっ
﹂
﹂
﹂
もうおしまいよ⁉
た者が至る所に存在していた。
﹂
﹁きゃあぁあああっ⁉
﹁落ち着いて‼
﹁こ⋮⋮この世の終わりよ⁉
⁉
﹁落下物に注意してください‼
﹁黒川ぁあああ‼
﹁にゃあぁあああ⁉
ギブ⁉
﹂
?
し⋮⋮締まってるから⁉
﹂
?
きゃあぁあああ⁉
ギブ⁉
?
?
﹁テュワルさんには是非とも気象庁で勤務して貰いたいな⋮⋮⋮﹂
﹁お⋮⋮俺にはペルシアさんが⋮⋮けど今だけは⋮⋮﹂
?
?
?
﹁大丈夫よ。すぐに収まるわ﹂
?
﹁きゃあぁあああっ⁉
﹁ちょっ⁉
?
難誘導していた娼婦達もいきなりの地震に混乱していた。あまりの
怖さに抱き合ったり、近くの隊員に抱きついたりしているが、それで
も混乱はやまない。そんな中でミーアは身を屈め、4本の腕で頭を抱
えながら地震に身を震わせていた。
彼女が悪所にて娼婦をしているのには理由があった。幼い頃はア
スラ族の集落にて貧しいながらも平和に暮らし、誰もが一目で分かる
くらいの幸せな家族だった。
だが彼女が12歳の頃に帝国による亜人狩りで捕まり、家族も殺害
されて彼女自身も陵辱された後に奴隷として連行。逃げ出したのは
いいが亜人受け入れに積極的なイタリカに向かう道中で別の奴隷商
257
?
?
?
?
地震発生を確信させてタスクフォース ナイツと第3偵察隊が避
?
に捕まってしまう。
今度は奴隷になるまいと抵抗して連れて行かれる道中で商人を絞
め殺し、悪所に逃げ込んで生計を立てる為に娼婦を仕方なくしてい
る。
そんな不幸続きの彼女に同じ娼婦達は友人として接し、互いに生き
抜くよう励ましあったりしたが、彼女には家族という存在が欲しかっ
た。
自身の支えになる存在が欲しい。娼婦にとって夢物語であるが、彼
女にとって叶えたい願望だった。
﹁助けて⋮⋮父さん⋮⋮母さん⋮⋮誰か⋮⋮⋮誰か⋮⋮助けて⋮⋮﹂
この世の終わりだと錯覚し、今は亡き両親に思わず助けを求める
ミーア。身体を恐怖で震わせ、涙を流す彼女に誰かが歩み寄ってき
た。恐怖を和らげようとして抱き付こうとした矢先にその歩み寄っ
て来た人物が優しく包み込んで来た。
﹁大丈夫だ⋮⋮すぐ収まる⋮⋮⋮大丈夫﹂
そこにいたのはACU、MICH2000、CIRASアーマーベ
ストを身に付けて背中にM4A1を背負ったスティーブ。彼は地震
により怖がっているミーアをみかねて優しく包み込み、落ち着かせよ
うと頭を撫でながら落ち着かせようとしていた。
そんな彼に対して暫く唖然としていたミーアだが、近くに木材が落
下してくると彼にしがみ付き、怖いのを紛らわせようとする。
そんな彼女にスティーブは頭を撫で続けてすぐに収まると言い聞
かせる。
﹁大丈夫だ。ただの地震だから怖くはない﹂
﹁ス⋮⋮スティーブ⋮⋮⋮﹂
﹁大丈夫だから⋮⋮大丈夫⋮⋮⋮﹂
258
ミーアが見上げるとスティーブは屈託のない笑顔をして頭を撫で
続ける。やがてミーアの先ほどまでの恐怖は徐々に和らいでいくの
を感じ、落ち着きが取り戻しつつあることを感じた。
そして暫くしてからスティーブの言った通り地震が徐々に小さく
なっていき、やがては揺れなくなった。
﹂
﹁⋮⋮⋮終わった⋮⋮﹂
﹁ほらな
﹁こ⋮⋮怖かった⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁もう大丈夫だろう。だから⋮⋮その⋮⋮⋮﹂
﹁な⋮⋮なんだよ
わせていく。
﹂
﹁な⋮⋮こ⋮⋮⋮﹂
﹁こ
﹁この⋮⋮⋮エロエロ魔神‼
⁉
﹂
それを確認したミーアは徐々に顔を真っ赤にさせていき、やがて震
目が解けて彼女の身体が露出していた。
婦の服がスティーブの装具に引っかかったようであり、その際に結び
そういうとミーアは自身の服を確認。するとしがみ付いた際に娼
﹁そ⋮⋮そろそろ⋮⋮⋮身だしなみを直して貰いたいんだが⋮⋮﹂
?
な⋮⋮なぜ⋮⋮⋮﹂
?
に平手打ちをかましてしまう。それをまともに食らってしまったス
ティーブは軽く吹き飛ばされてしまい、頬にくっきりと手形を残しな
がら若干理不尽に思いながらも意識を手放した。
少ししてからスティーブの意識は回復したものの、仕事以外で裸体
を見られたミーアの機嫌は直らない。そんな気が締まらない話から
259
?
﹁あぶっ⁉
?
羞恥心が極限に達したのか、ミーアは身体を隠しながらスティーブ
?
?
次の日の深夜に伊丹達からのある無線で特殊部隊員としての表情に
変貌させていった⋮⋮⋮⋮⋮。
260
Mission57:衝撃的な真実
帝都をいきなり襲った地震。強さは伊丹達によると震度3か4ら
しく、その位なら地震大国とされている日本では結構な回数が発生し
ている。
だが帝国側にとっては未曾有の出来事らしく、ピニャを含めて恐怖
を感じているようだった。
地震自体は30秒ほどで収まり、見る限りではピニャの屋敷には石
像が倒れた程度の被害がなく、恐らく酷い状況になっているのは悪所
が中心となるだろう。
地震が収まって安心したピニャに俺たちと菅原、ノイマン、孔は彼
﹂
女にまだ早いと説明を始める。
﹁また揺れるだと⁉
﹁えぇ。大きな地震の後には大抵揺り戻しってのがあるんですよ﹂
﹁この世界じゃどうか分からないが、俺たちの世界では地面の地下深
くにプレートってのがあってな、地殻変動で伸縮や上下に動いたりす
るんだ﹂
皇宮に参るぞ‼
﹁そのプレートが元に戻ろうとする力が揺れになって地上に伝わるっ
て訳です﹂
﹁急 い で 父 上 に 知 ら せ ね ば ⋮⋮⋮ 着 替 え を も て ‼
﹂
?
﹁えっ
﹂﹂﹂
﹂
﹁﹁﹁えっ
﹁えっ⋮ではない⁉
﹂
一緒に来てはくれぬのか⁉
﹁一緒にって言っても⋮⋮なぁ
﹂
?
正論を俺は口にした。するとピニャは伊丹の迷彩服の裾をつまみ、
敵兵を招くっていうのは聞いたことがないぞ﹂
﹁あぁ、ピニャの父上っとなったら皇帝だ。緊急時とはいえ、交戦中の
?
?
?
261
?
?
﹁分かった。俺らは屋敷で待っているから、終わったら知らせてくれ﹂
?
俯いたまま口にする。
﹁お ⋮⋮ お 願 い だ 伊 丹 殿 ⋮⋮ エ ー ス ⋮⋮ 谷 ⋮⋮⋮ 妾 と 来 て た も れ
⋮⋮﹂
﹁うん⋮⋮⋮うん⋮⋮⋮﹂
﹁あ⋮⋮あの⋮⋮⋮わ⋮我等からもお願いします﹂
ピニャを始め、同じく寝間着姿のハミルトンや近衛兵までもが俺ら
に同行を申し出て来た。よく見ると全員が初めての地震が怖かった
ようであり、若干だがまだ震えていた。
﹂
それを見た俺たちは失笑してしまった。
﹁え⋮⋮えっと⋮⋮⋮どうする
﹂
﹂
﹁ま ⋮⋮ ま ぁ ⋮⋮⋮ 皇 帝 を 見 れ る 絶 好 の 機 会 な ん だ し ⋮⋮⋮⋮ な ぁ
がに酷なんじゃないか
﹁俺にふるな⋮⋮⋮だが幾ら何でもこのまま放っておくってのはさす
?
﹁コーエンス、すまないが残って指揮を頼む﹂
﹁了解です中尉﹂
﹁菅原さん⋮⋮ここには古田を残します﹂
﹁はぁ⋮⋮分かりました﹂
同行してくれると聞いて徐々に明るくなるピニャ。それから暫く
して騎士団の服装に着替えると皇宮へと向かう俺たち。道中には近
衛兵が確認されたが地震で完全に震えてしまっており、誰何の1つも
無かった。ピニャは小声で近衛兵の質の低下を嘆いていたがきかな
かったことにし、初めて訪れた皇宮にファンタジー小説に出てきそう
な魔王の城を彷彿させる薄気味悪さに圧巻となっていた。
それから暫くして玉座の間に案内され、俺は玉座に座る1人の男を
見据えていた。オールバックに髭を生やした帝国の皇帝でピニャの
262
?
﹁そうですね⋮⋮⋮分かりました殿下、同行しましょう﹂
?
﹂
﹂
まずは大臣や軍営達を招集して参集を命じるのだ‼
父親であるモルト・ソル・アウグスタスだ。
﹁良いか⁉
﹄
﹂
官は近衛兵を掌握し急ぎ皇宮の守りを固めよ‼
﹃はっ‼
﹄
﹁そなた達メイドは広場の片付けだ‼
﹃はい‼
⋮⋮⋮か⋮皮が剥けるような怪我はしておりませぬが
﹁ふふっ⋮⋮⋮一皮剥けたようだなピニャよ⋮⋮﹂
﹁はい
武
?
﹂
?
陛下、紹介致します。日本国、アメリカ合衆国、台湾
?
しておったな
何故ゆえこのような時にお連れした
﹂
?
﹂
﹁はい、陛下におかれましてもご機嫌麗しく﹂
﹁そうであるか⋮⋮⋮使節殿方、歓迎申し上げる﹂
﹁助言を求めようと同行して頂きました﹂
﹁なんと⁉
うで、これより揺り戻しがあると⋮⋮﹂
﹁はい、申し訳ありませぬ父上。この者達は地揺れに精通しているそ
?
﹁そなたらが異国から来た使節か⋮⋮⋮そういえばピニャが仲介役を
挨拶する。
ピニャが皇帝に俺たちを紹介すると菅原達は会釈、俺たちは敬礼で
国の使節であられる菅原殿、ノイマン殿、孔殿です﹂
﹁は⋮⋮はい‼
ほどからそちらに控えているのは何者か
﹁ま⋮⋮まぁそうであるな。怪我が無くて何よりだ⋮⋮ところで、先
れながらも話を続けた。
そんな真面目な返答が返ってくるとは思わなかった皇帝は少し呆
我のことだと勘違いしたピニャに思わず笑いかけた。
先ほどまで的確な指揮をしていたピニャに対して褒めた皇帝に怪
?
?
?
?
?
?
?
263
?
﹁いや、恥ずかしいが天変地異の直後に麗しい筈もない。だが娘の成
長した姿を見ることが出来た。嬉しいことだ。寧ろ感謝しておるぞ。
﹂
いつまで経っても戦ごっこをしておるじゃじゃ馬娘であると心配し
ておったからな﹂
﹁ごっこはとっくに卒業しました‼
なんというか、皇帝といっても実の娘には何処か甘い箇所が見受け
られる。皇帝も人だというのが印象だ。
﹁はははっ⋮⋮本来ならば盛大な宴で歓迎したかったのだが、今宵は
勘弁して貰いたい﹂
﹁心得ております﹂
﹁我がアメリカ政府も交渉の場を頂ければ十分でございます﹂
﹁台湾政府もまた然り⋮⋮⋮このようにお会いして頂けただけでも陛
﹂
下には大変感謝致しております﹂
﹁父上‼
兄であるゾルザル・エル・カエサルが武装した私兵達を引き連れて
入ってきた。
息子であり、臣下でもある奴だけなら何の疑問もなかったが、一番
衝撃的だったのが奴の左手の輪っかにつけられている鎖に繋がれ、引
きづられた全裸の女性達だった。
身体中傷だらけで意識が酸欠により朦朧としている女性も存在し、
﹂
伊丹達は目を開かせ、俺は静かにゾルザルに対して怒りを抱き始め
﹂
すぐにでもまた地
?
る。
﹁そんな悠長なことを言っている場合ではない‼
揺れが起こるとノリコとマミーナが言っておるのだ‼
?
?
早く安全な場所に参りましょうぞ‼
﹁ご無事でしたか父上⁉
?
いま主だった臣下に招集を⋮⋮﹂
﹁お待ちください兄上⁉
?
264
?
皇帝と話を進めていると扉が乱暴に開け放たれ、そこからピニャの
?
﹁ノリコ⋮⋮マミーナ
﹂
ゾルザルが口にしたノリコとマミーナという名前に疑問を感じた
がピニャは間髪入れずにその2名が誰なのか尋ねる。そしてゾルザ
ルは2本の鎖を引っ張り、俺はその2名を見て言葉を失った。
どう見ても日本人とロシア人だったからだ。だが間違いであると
いう可能性もあったので様子を伺っていたが、それを奴自身が露見さ
せた。
﹁こいつらだ。これがノリコとマミーナだ。門の向こうから攫って来
プツン
た黒髪と白肌の生き残りよ﹂
そういいながらゾルザルは黒髪の女性を踏みつけた。間違いなく
2名は俺たちの世界から拉致してきた人間であり、同時に我慢の限界
に達したのがよくわかった。伊丹も同じ状態のようですごい剣幕で
﹂
それに続いて俺が反対側に殴りかかり、最後に伊丹が真正面から殴り
飛ばした。
あまりのいきなりの行動だったのか、周りの人間は唖然としてしま
﹂
﹂
﹂
うも、目の前にいるクソ野郎は顔を摩りながら俺たちを睨みつける。
皇子たる俺を殴ったな⁉
皇子殿下に手をあげるとは‼
﹁き⋮⋮貴様等⁉
﹁無礼者共‼
生きて帰れると思うな‼
?
?
?
?
﹁一族郎党皆殺しの大罪だ‼
?
?
265
?
殴りかかるが、タッチの差で先に⋮⋮⋮。
﹁この‼
﹂
﹂
﹁クソ野郎が‼
﹁ぶっ殺す‼
?
意 外 に も 普 段 は 冷 静 で あ る 谷 が ゾ ル ザ ル の 右 頬 に 殴 り 掛 か っ た。
?
?
﹁﹁﹁黙ってろクソ野郎共が‼
けた。
﹁大丈夫
‼
﹂﹂﹂
﹂
﹂
?
でしょうか⁉
陛下‼
﹂
﹁ま⋮⋮待ってくれ菅原殿⁉
妾に免じて⋮⋮⋮﹂
﹂
ここは
?
我が身の罪深さを呪って死ぬがよいわ‼
かの蛮国かは知らぬが、今更慈悲を乞うても聞かぬ‼
全て貴様等の
﹁ピニャよ、もう遅い。こやつ等の国の命運は決した。貴様等が何処
てしまう。
何とか場を鎮めようとするピニャに俺は思わず彼女に怒鳴りつけ
?
?
﹁知らないでは済まされないんだよ‼
こ⋮これは何かの手違いだ⁉
﹁まさかこんな所に日本人とロシア人がいるとは⋮⋮⋮どういうこと
﹁ええ、絶対に連れ帰ってあげるか、安心して﹂
﹁た⋮⋮助けに⋮⋮きてくれたの
私達は陸上自衛隊よ。あなた達日本人とロシア人よね
ミーナという女性の首輪をCQCナイフで切り取り、彼女達に話しか
三 下 連 中 が 騒 ぎ 出 し た の を 怒 声 で 黙 ら せ る と 栗 林 が ノ リ コ と マ
?
?
?
﹂
試験的に提供している89式小銃2型+M26 MASSに初弾を
し、栗林は64式小銃1型に着剣し、富田は俺たち海兵隊が自衛隊に
m拳銃2型、谷はM1911A1のスライドを動かして初弾を装填
そういいながら俺は背中からグルカナイフを取り出し、伊丹は9m
﹁冷酷だがこいつ等に一切の情けは無用だ﹂
殺しろ﹂
﹁富田、栗林。彼女達の脱出を優先させる。各自の判断で手下等を射
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮ そ の 言 葉 ⋮⋮⋮ そ っ く り そ の ま ま 返 し て や る よ。ゴ ミ が
せいだ‼
?
?
266
?
?
?
?
装填。
﹁伊丹、今回は止めるなよ
﹂
﹁分かってる。こいつ等に情けはいらない﹂
‼
‼
?
﹂
﹁俺は外交官達を死守する。思いっきり暴れてこい﹂
﹁分かった⋮⋮⋮⋮覚悟はいいな貴様等‼
?
?
そういうと俺と栗林がゾルザルの飼い犬共に突撃を敢行。
害虫駆除の開始だ⋮⋮⋮⋮⋮。
267
?
Mission58:玉座での戦い
ゾルザルによる拉致被害者の奴隷化問題。俺は再び復讐の鬼とし
ての能力を使うことにした。
今まで復讐の相手は帝国そのものだと考えていたが、本当に復讐を
果たす相手は帝国に戦いを強いる主戦派であり、その中心である目の
﹂
前のクソ以下のゾルザルだ。奴は俺たちが勝てないと思い込んでい
左側を任せた‼
るようで、数人の手下をけしかけてきた。
右側はやる‼
﹁栗林‼
﹂
﹂
?
﹂
にグルカナイフを突き刺してなぎ払ってやった。
返り討ちに遭うぞ‼
?
串刺しにしてやるぞ‼
?
﹁う⋮迂闊に近づくな⁉
﹁隊伍を組んでまわり込め‼
﹂
動を与えて油断させ、素早くしゃがむと太腿を切って膝を付かせて口
そのまま盾を構えた敵に蹴りを浴びせて盾自体に痺れるような振
辺りに飛び散る返り血。
らわして怯ませ、そのまま声帯を切断してやった。
留めようとするが突き出した瞬間に懐に飛び込んで左手で裏拳を食
するとショートスピアーを持った敵がリーチの長さを利用して仕
た。
刺突を仕掛けて来た敵兵の右腕を叩き折り、そのまま首を跳ね飛ばし
断。立て続けに腹部に刃が貫通するほどの力で突き刺し、引き抜くと
を振りかざした男の攻撃を屈んで回避し、そのままこいつの右腕を切
軽口を叩き、同じように向かって来るバカに斬り込む。バデレール
﹁向こうの出方によるわ富ちゃん‼
﹁また廃棄にするなよ‼
﹂
﹁了解‼
?
右手に槍、左手に盾を構えた敵が隊列を組んで突撃しようとしてき
?
?
268
?
?
?
?
た。そのまま少し離れた敵にグルカナイフを投げ、額に命中させたら
背中に預けていたHK417A2を取り出してチャージングハンド
ルを引いて構える。
栗林も同じように64式小銃1型を構え、向かって来る敵兵にほぼ
同時にトリガーを弾いた。撃ち出される7.62mm弾は難なく盾
﹂
や胸甲、兜を貫通していき、周囲からは阿鼻叫喚の悲鳴が鳴り響いた。
降参す⋮﹂
﹁ま⋮⋮まさかこいつら⋮⋮⋮緑の人⁉
﹁や⋮⋮やめてくれ⁉
﹂
﹂
﹁さて皇子⋮⋮あなたは先ほどこちらの2名を生き残りだと仰った。
﹁ぐぐぐっ⋮⋮⋮﹂
める。
玉座には死体の山が築かれ、辺りには生々しい血の匂いが充満し始
ACP弾をプレゼントしてやった。
CQBPを抜き取って2丁撃ちにて残った10人程の敵全てに45,
lfrのマガジンを交換して右レッグホルスターからM45A1 始めるも容赦なんかしない。栗林に退がるよう伝えるとHildo
目の前で処刑された仲間を見て敵は青い顔をしながら後ずさりを
ネーブ協定には適応されなくなった。
者。しかも武装して仕掛けて来たからテロリストの条件が揃い、ジュ
を攫っただけではなく奴隷としていた時点でこいつらは単なる犯罪
普通なら大問題となる行為だがどうだっていいし、何よりも民間人
を向けると左目に45,ACP弾を撃ち込んだ。
取って額に銃口を突き付けてから射殺。すぐさまにもう1人に銃口
敵兵2名が降伏するも、俺はホルスターからHildolfrを抜き
20発を撃ち尽くしたマガジンを交換すると近くでもがいていた
?
それはつまり、他にも攫って来た者達がいるということですね
﹂
?
?
269
?
無礼な蛮族に答える義務などないわ‼
?
ここはお引きになって下さい⁉
?
﹁ふ⋮⋮ふん‼
﹁兄上‼
?
﹁黙れ‼
お前が此奴等を連れて来たのが原因だろう⁉
﹂
汚らわしい
この際ですから言わせて
妾の娘がいらぬことをしおって⋮⋮⋮恥さらしが‼
﹁な⋮⋮恥さらしはゾルザル兄の方です‼
?
﹂
ンを戻して歩み寄った。
﹁エース﹂
﹁分かってる﹂
﹁殺しちゃダメだからな
﹂
幾多もの無礼を働いたに
じゃなくなった伊丹は俺を手招きで呼び、俺もホルスターにハンドガ
ピ ニ ャ と 皇 帝 に 咎 め ら れ て も な お 口 を 割 ら な い ゾ ル ザ ル に 敬 語
に付き合っている程暇じゃないんだ﹂
﹁皇子⋮⋮困るんだよ⋮⋮⋮質問に答えて貰わないとこっちもあんた
率過ぎるぞ﹂
﹁⋮⋮⋮ゾルザル。娘は帝国のことを想って連れて来たのだ。些か軽
ませぬ‼
も関わらず罵声を浴びせるなど次期皇帝たる者のすることではあり
隷を禁止している異界の住民を奴隷化‼
頂きますが、我が友であるエース達の顔に泥を塗っただけではなく奴
?
?
何をする気だ⁉
?
グが欲しかったところだからな﹂
﹁き⋮⋮貴様⁉
﹂
﹁分かっている。半殺し程度に納めてやる。それに新しいサンドバッ
?
思っただけだ﹂
?
り慈悲深いだろ
﹂
﹁それの何処が慈悲深い⋮⋮ぶぼっ⁉
?
舞って吹き飛ばし、素早く襟元を掴んで裏拳、立て続けに鉄槌打ち。
それだけいうと腰を抜かしたままのゾルザルの顔に回し蹴りを見
﹂
﹁心配するな⋮⋮⋮骨の何本かを折られて貰う程度にしてやる。かな
﹁ま⋮⋮まさか皇子たるを俺に再び手を上げようなどと⁉
﹂
﹁新 し い サ ン ド バ ッ グ が 目 の 前 に あ る か ら 試 し に 使 っ て み よ う か と
?
?
270
?
?
?
﹂
貴様が彼女達に与えた苦痛に比べたら随分と優しいだ⋮⋮
そのまま正面から拳を数発ぶつけてから柱に奴を叩きつける。
﹂
﹁どうだ
ろ‼
﹁や⋮⋮やめ⋮⋮⋮話せば⋮⋮﹂
ぐがっ⁉
﹂
や⋮⋮やめてぇ⋮⋮⋮ぶぼっ⁉
﹁サンドバッグが喋るんじゃあ⋮⋮ねぇ‼
﹁ぐはっ⁉
﹁しらねぇな⋮⋮ふん‼
﹂
﹁ぎゃあぁあああああああっ⁉
﹂
﹁あっ⋮⋮う⋮腕はやめ⋮⋮⋮﹂
肩を踏みつけて、左腕を掴んだ。
それから再び同じ場所に蹴り飛ばし、必死に逃げようとする奴の左
塗れだ。
奴の顔は鼻が折れて歯も砕かれ、内出血を起こして腫れ上がって血
食らわしてから只管にゾルザルの顔を殴り続ける。
慈悲を乞うも一切聞き入れず、吊るし上げると腹に膝蹴りを何度も
?
⋮⋮⋮うっ⁉
ら震えていた。
﹁陛下⁉
﹂
を見開かせ、ハミルトンと侍女達はあまりの悍ましさに抱き合いなが
折れるような音が響き、ゾルザルの悲鳴にピニャは青ざめ、皇帝は目
掴んだ腕を俺は鉄槌打ちで関節を逆に曲げてやった。玉座に枝が
?
?
?
取って奴の前にしゃがんだ。
?
﹁さて⋮⋮喋りたくなっただろ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
目 の 前 の 惨 状 に 言 葉 を 失 っ た。俺 は 再 び H i l d o l f r を 抜 き
奴の腕をへし折った直後に扉から他の家臣達が到着したようだが、
?
271
?
?
?
?
?
﹂
﹁⋮⋮⋮ い い 加 減 に 答 え ろ よ ⋮⋮ そ れ と も 脳 を 辺 り に 撒 き 散 ら し た
いってか
喋らないゾルザルに向けたHildolfrのトリガーに指を掛
けた直後、誰かが間に割って来た。
身体中傷だらけだが白い肌に白い毛並み、血のように赤い瞳をした
ヴォーリアバニーだ。あまりにもいきなりな事だったがそれ以上に
彼女の妙な気配に俺は銃口をゾルザルから彼女に思わず向けていた。
﹁て⋮⋮テューレ⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮殿下を殺さないで﹂
一緒に銀座を歩いていたの⁉
わたし⋮⋮インターナショナルスクールの生徒で日本
裕喜はどうなったの⁉
﹁⋮⋮⋮⋮ 最 後 の 警 告 だ か ら し っ か り 答 え ろ。他 に も 攫 っ た ん だ ろ
﹂
﹁裕 喜 は ⁉
﹂
﹁弟もなの‼
?
﹂
しております﹂
衛兵‼
奴等を逃す﹁待て‼
﹂⁉
﹂
?
﹁⋮⋮⋮約束させて頂く﹂
待て貴様ら⁉
?
?
﹁栗林、先導しろ。富田は後ろを警戒﹂
﹁なっ⁉
?
てピニャ殿下、改めて彼等の返還についてお聞かせ頂けるものと期待
﹁陛下、宴は拉致被害者が無事に帰還してからに致しましょう。そし
皇帝を見る。
容体を確認する。辺りを制圧したら菅原達が少し怒気を込めながら
それだけいうとゾルザルは意識を失い、テューレという女性は奴の
﹁お⋮⋮⋮男は⋮⋮奴隷市場に流した⋮⋮⋮⋮後は⋮⋮知ら⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮おい
に遊びに来てた弟と一緒に捕まって⋮⋮﹂
?
?
﹁いい加減にせぬか⋮⋮これ以上この場で騒ぎを大きくするでない。
?
272
?
?
?
?
控えておれ﹂
騒ぎを大きくしたくない皇帝は捕らえようと立ち塞がる衛兵を待
機させる。
﹁確 か に 貴 国 達 連 合 は 恐 ろ し く 強 い。我 が 兵 が 子 供 に 思 え る 程 に な
﹂
⋮⋮⋮だが貴国達には大いなる弱点がある﹂
﹁弱点
俺たちを見据え、強力だが弱点があると口にする皇帝。それを静か
に耳にすると少ししてからその弱点を皇帝は口にした。
﹁⋮⋮⋮民を愛し過ぎることよ⋮⋮⋮﹂
273
?
Mission59:国の在り方
﹁⋮⋮民を愛し過ぎることよ⋮⋮﹂
皇 帝 の 言 葉 に 脱 出 し よ う と し て い た 伊 丹 た ち は 皇 帝 に 振 り 向 く。
先程までの驚愕した表情から一変し、指導者としての面構えで言葉を
発していた。
﹁仁に過ぎることは大いに煩わされ、義に過ぎることは敵に予測を立
て易くさせ、情に駆られるは大いに損をする。かつて遥か南側に位置
した帝国に次ぐ大国は貴殿等のように民を愛し過ぎ、高度な文明を持
﹂
ちながらも遂には蛮族に滅ぼされた﹂
﹁我々も同じ末路を辿ると
﹁民を愛するなとは言わぬ。しかし行き過ぎた仁は相手に隙を見せる
こととなる。貴殿等も心しておくがよい﹂
﹁⋮⋮⋮陛下。我が国々はその弱点を国是としております﹂
﹁ほぅ⋮⋮⋮﹂
﹁我 が ア メ リ カ に も か つ て 帝 国 と 同 じ よ う に 奴 隷 制 度 が 存 在 し ま し
た。貴族達による奴隷の酷使、差別、陵辱など肌の色が違うだけで虐
げられた⋮⋮しかしかつての指導者達が奴隷を無くし、全ての民が一
つの旗の下、愛国心を持って危機の際に国は民を支え、民は国を支え
る。旗に記された星々はそれを表しております﹂
﹁陛下、我が台湾もまた然り⋮⋮⋮かつて独裁国に虐げられた苦しみ
から日本とアメリカに助けられ、遂に長年の悲願であった独立を勝ち
取ったのです。だから我が国は日本の窮地には国民政府が一致団結
し、恩義に報いる⋮⋮⋮そしてそれを可能とする為に我が軍がありま
す﹂
﹁そして我々の軍⋮⋮⋮自衛隊やアメリカ軍、台湾軍はそれ等の国是
﹂
274
?
を守護する為に日々鍛錬しております。なんでしたらまたお試しに
なられますか
?
菅原達の脅しに近い返答に軽く身震いを起こす。彼等の試すとい
うことはつまり、真正面から当たって来てみろということであり、痛
い思いをもう一度味わってみろと言っているのだ。
この世界における外交とは恐喝と賄賂が基本。武力をチラつかせ
て優位な条件を獲得し、抱かす飲ます食わすの3つで反体制派を味方
に引き込む。
中国なんかがよい例だ。
日本、インド、台湾、ベトナム、タイなど今の中国は資源枯渇によっ
て他国のものを奪い取るために躍起になっていて、近年はロシアとの
領土問題にも発展させている。
﹁ふふっ⋮⋮なんの⋮⋮⋮そなた等に抗せる筈もなし。和平交渉を始
めるがよかろう﹂
﹁感謝します陛下。しかし我々も十分に弁えております。平和とは次
275
の戦争の準備期間であるということを⋮⋮﹂
﹁それに我が世界は帝国など足下にも及ばない血塗られた黒歴史で成
り立ち、我がアメリカにはウラ・ビアンカを一瞬で更地にしてしまう
兵器を幾つも所有しております。それを使われたくなければ我々の
怒りを買わないようにされた方がよろしいかと⋮⋮﹂
﹂
﹁和平交渉の最中に帝都を失うことを是非とも恐れて頂きたい﹂
﹁⋮⋮⋮だがそれでもそこもとらは交渉を拒否できぬ。違うか
﹁その言葉⋮⋮⋮我等を信じていると受け取った。今は難題だが我の
ここが引き際であると感じ、一歩引くことにしたのだ。
器の質、戦術の質なんかが自分達など遠く及ばないと察した。
ていたが初めて目の当たりにしたライフルの存在に対し、兵の質や武
しかもエースによるナイフファイティングや栗林のCQC、話は聞い
モルトが最も恐れているのは和平交渉の最中に帝都を失うことだ。
いものとなります。どうかお覚悟して頂きたい﹂
﹁確かに⋮⋮⋮それ故に虚言に対する鉄槌は目を当てられぬすさまじ
?
名において攫った民の消息と返還を約束しようぞ。我が愚息の奴隷
を み な 連 れ て い か れ よ。我 も 此 奴 の 奴 隷 の 扱 い に は 虫 唾 が 走 っ て
おったのだ﹂
﹁分かりました。こちらで保護させて頂きます﹂
﹁ではこれにて﹂
皇帝による拉致被害者問題解決を確立させ、睨みつける近衛兵を警
戒しながらエース達はテューレというヴォーリアバニーを除いた他
の亜人の奴隷を連れて玉座を出て行った。
実行を進言し、
が夜明け前に向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
報復
それから伊丹は無線機にて拉致被害者発覚をアルヌス駐屯地に報
空飛ぶ剣
告し、アルヌスの狭間陸将を経由して政府に
7つの
276
Mission60:ウォートホッグ
アルヌスを襲った地震が収まって少ししてから俺らに緊急司令が
下った。何でも二重橋の英雄と名高いルテナント伊丹が銀座事件直
前に拉致された民間人を救い出したって話だ。
この知らせを聞いて俺たち怒りを覚えた。それから間を置かずに
﹀
俺が所属する特地派遣独立混成航空隊に出撃命令が下り、愛機に跨っ
て帝都に向かっていた。
︿こちらホークウィンドー01。目標まで残り170km﹀
﹀
︿02から01。ペイブウェイは少ないんだ。大切に使えよ
︿分かってらぁ﹀
︿関羽01から02、そっちの用意はどう
︿いつでもいけます。派手に吹き飛ばしてやりますよ﹀
にある。
ルーデル
のA│10A・OA│10Aサ
ツを寄せ集めて整備用予備パーツとして2機を延命処置。今の大空
していることが分析官により判明し、退役を迎えたA│10Aのパー
10の優れた対地攻撃能力は特地において非常に有効的な性能を有
時期に合わせて退役が開始され、A│10も例外じゃない。だがA│
F│35シリーズの配備が軌道に乗り、F│16やF│15が製造
ンダーボルトⅡだ。
団第3対地攻撃飛行隊
リゾナ州デビスモンサン空軍基地から派遣された第355戦闘航空
そして編隊の左側にて飛行しているのが俺たちアメリカ空軍のア
イガーⅡ。
99戦術戦闘機連隊第41中隊の関羽隊が運用しているF│5Eタ
ムⅡ、その奥には台湾空軍女性パイロットの揚 丞琳中佐率いる第4
自衛隊の神子田2佐率いる第302飛行隊のF│4EJ改ファント
無線から聞こえてくる味方機の会話。俺たちから見て右側に航空
?
因みに本来だったら海兵隊のAV│8BハリアーⅡも参加する予
277
?
定だったが整備中に地震が発生した影響で今回は見送った。
﹂
﹁ルーデル01から03︵OA│10Aのコールサイン︶。なんだった
ら皇宮を爆撃してやってもいいんだが
国側に主戦派を増やす気か
﹀
︿勘弁してくれエメリッヒ。まだそこには講和派議員がいるんだ。帝
?
飛ばすだろ
﹂
︿関羽隊は西部にあるコロッセオって訳ね
屋敷があるって話だから精密に爆撃しないと⋮⋮﹀
﹀
︿んで、俺らが元老院堂を爆撃って訳だ。初めての航空作戦だ‼
かも俺らしかいない大空ってのは気分最高だ‼
﹁ははははっ。相変わらずだな神子田﹂
の距離にまだ小さいが帝都を目視。
A/B︵アフターバーナー︶点火‼
﹀
?
﹀
俺に続け‼
︿320‼
﹀
ばすぞ‼
︿320Copy
ルーデル01‼
﹂
?
﹀
エンゲージ‼
ショータイムだ‼
?
﹁了解だ‼
︿ルーデル02了解‼
?
?
︿こちらルーデル03。高度4│0を維持。航空管制を開始する﹀
エンゲージ‼
︿関羽01‼
エンゲージ‼
?
﹀
︿関羽02‼
?
かっ飛
陽の通信で俺たちは正面に集中した。ざっと100kmかそこら
︿こちら関羽01、タリホー。帝都視認﹀
まで降下。予定通りローパスで進入し目標へ向かえ﹀
︿お喋りはそれまでにしておけ。ルーデル03から全機。高度3│0
︿うっせぇ﹀
し
確か近くに講和派議員の
港で、軍の物資集積場にGBU│16を投下させて木っ端微塵に吹き
﹁ジョークだよジョーク。俺らの目標は北部にあるエトナ港湾内旧軍
?
?
?
?
!!
?
278
?
?
?
?
?
?
目標の帝都を発見し、ウォートホッグを除いてアフターバーナーを
点火させて一気に目標へ向かう。俺たちも高度を低空に維持しなが
らエトナ湾を目指し始める。だがターゲットを見つけてもすぐには
爆撃はしない。一度オーバーシュートしてから再度目標かどうか確
認し、確定させてから爆撃に移るのだ。
︿こちらCIAエージェントのパラミリタリーチーム。コードネーム
﹀
﹂
爆撃コースに入
はアークエンジェルだ。目標の倉庫に人影なし。LTLMで目標を
マーク済み﹀
﹂
﹀
一度通過してから旋回‼
しっかり誘導してくれよ‼
﹁こちらルーデル01‼
る‼
後に続く‼
目視はしたからしっかり頼んだぜ‼
︿了解だ。だが早く旋回しないと引き上げるぞ
﹁そいつぁ勘弁だな‼
︿こちらルーデル02‼
入る。前方に障害物なしで辺りには人はいない。完全にカモだ。
目標の倉庫を発見し、一度通過してから旋回し、再び爆撃コースに
?
爆弾投下‼
﹂
HUDにターゲット捕捉が表示されると俺は操縦桿のスイッチを
押した。
ターゲットロック‼
?
﹁こちらルーデル01‼
?
全に破壊した。
﹁ルーデル01から地上部隊‼
再突入の必要はあるか⁉
﹂
?
︿こちらルーデル03。目標の破壊をこちらでも確認した。それと同
要なし﹀
︿こちらアークエンジェル。目標は完全に廃墟と化した。再突入の必
?
た。続いてトドメの一撃でルーデル02が同じく投下して倉庫を完
り導かれたペイブウェイは倉庫に直撃し、辺り一帯に破片をばら撒い
爆弾を投下し、目標の頭上を通過。暫くしてからレーザー誘導によ
?
279
?
?
?
?
?
?
?
?
RTB︵Retur
トカゲの相手なんざつまらないからな⋮⋮⋮ルーデル0
時に竜騎兵駐屯地よりスクランブルを確認。引き上げたほうがいい
だろう﹀
﹁了解だ‼
1、02、03‼ ミッションコンプリート‼
n To Base/基地に帰還︶﹂
︿02Copy﹀
︿03Copy﹀
ルーデル03とタスクフォース ナイツが撮影した写真を後日受
ドー隊と関羽隊と合流してアルヌスへと意気揚々に帰途についた。
爆撃を完了させて俺たちは同じく爆撃を完了させたホークウィン
?
け取り、次の出撃に備えて俺たちは準備をするのだった⋮⋮⋮⋮⋮。
280
?
?
Mission61:2つの議題
特地における拉致問題発覚はすぐさま日本にもたらされた。連絡
を受けた本居はすぐにディレルと周に問題を知らせ、更に拉致被害者
の中にロシア人もいるということもあり、テレビ電話にてロシアを含
めた4カ国による緊急会談が執り行われていた。
﹂
﹁みなさん。特地の狭間陸将からの連絡で帝国元老院、旧軍港内倉庫、
コロッセオの爆撃と破壊が完了したようです﹂
﹁作戦成功だな。民間人に被害は出たのか本居
﹁いえ、精密爆撃により民間人に犠牲者はもちろん怪我人すら出てい
ませんよ﹂
﹁それは良かったです本居総理。いくら報復とはいえ民間人を巻き込
む訳にはいきませんからね﹂
﹁俺としたら優しい位だがな﹂
テレビ電話にて会談を行う本居、ディレル、周、ジェガノフ。先の
空爆で破壊した元老院、コロッセオ、軍港内倉庫と共通点がないよう
に見えるが実際には明確な理由があった。
元老院に対しては重鎮達を一瞬で全員を排除出来る、闘技が行われ
るコロッセオでは優秀な兵士を簡単に排除出来る、倉庫は様々な隠匿
された補給物資を灰に出来るといったメッセージが込められていて、
実際の人的被害は皆無。だが強烈なメッセージであるということは
明白であり、講和派議員を増やすと同時に主戦派議員を牽制する目的
が今回の爆撃の目的だった。
﹁向こう側の議員達には我々のメッセージが正しく理解されているこ
とを願うが、あまり期待は出来ぬだろうな﹂
﹁私もそう思います。先軍主義や奴隷承諾、一方的な侵略行為や搾取
を容認している連中ですし、中には未だに我々を弱者と見ている主戦
派議員も存在しているようです﹂
281
?
﹁だが本居、本当に人的被害を出さない空爆だけで良かったのかね
持ちました﹂
﹁より我々に有利な条件を提示させられるということだな
﹂
達の解放を約束しました。そこに今回の空爆が加われば⋮⋮⋮﹂
と拉致被害者捜索と返還、更にゾルザルにより捕らえられている奴隷
期皇帝最有力候補となっている皇太子で、現皇帝モルトは事態の終息
﹁その通りです。首謀者の名前はゾルザル・エル・カエサル。帝国の次
間を早期返還しなければ次は無いと脅しをかける﹂
力を見せつけて抑止力とするということが真の目的⋮⋮拉致した人
﹁俺は落ち着いているよディレル。今回の爆撃は帝国に我々の圧倒的
﹁まぁ落ち着いたらどうだねジェガノフ
﹂
に奴隷とされていたのですから、私も聞かされた時には帝国に怒りを
﹁ジェガノフの言いたいことも分かります。自国民が拉致された挙句
た方がいいと思うのだが⋮⋮⋮﹂
俺達としては主戦派議員共を一挙に空爆して奴等を排除してしまっ
?
﹁陛下にお尋ねしたい‼
キケロ卿によれば連合特地派遣団なる者達
急招集により集められていた。
一方で同時刻の帝都ウラ・ビアンカ元老院跡でも議員達が皇帝の緊
隊とスペツナズを2個小隊派遣することでまとまった⋮⋮⋮。
の増援でアメリカは兵員1,000名、台湾とロシアはそれぞれ黒衣
それから各国は特地派遣団の態勢について話し合い、日本は機甲科
まり条件を出せなくなる。
たく無ければこちらが提示する条件を飲まざる得ないし、向こうはあ
空爆により間違いなく帝国は動揺している筈だし、同じ攻撃を受け
かもしれない。
うまくいけばゾルザルを含めた戦犯者の身柄引き渡しも実現する
?
私も近々会合に
282
?
の使節は和平を望み、会合を重ねていたそうです‼
?
?
﹂
応じることとなっていましたが、これはどういうことか⁉
院が粉微塵にされなければ成らないのか⁉
なぜ元老
?
ルが問いかける。
﹁民は恐れているのです‼
今回の一件は神の怒りではないのかと⁉
玉座に腰掛けるモルトに対して実質上の講和派No.2のカーゼ
?
にも関わらず陛下がお答えいただけぬのでしたら私が話しましょ
?
﹂
う⋮⋮ことの発端は開戦前、門の向こう側より民を数人ほど攫ってき
たことにある﹂
そんなことが⁉
﹁なんと⁉
?
﹂
?
﹁しかも殿下を打擲した当人は我等が
という異名で
なぜ
なぜ当たり前に存在する奴隷の
恐れ、更には亜神の如くの強さを秘めた鬼エース・クレイグ‼
﹂
そのような者が怒り狂ったのか⁉
為に⁉
﹁カーゼル公爵。妾に説明させて頂きたい﹂
?
﹁妾が知っていることを述べさせて頂く。彼ら連合と初めて出会った
に立つ。
カーゼルの問いかけにピニャは挙手をして立ち上がり、玉座の中央
?
無慈悲の鬼神
れに思う処か逆に自業自得に思えるような表現で見下していた。
で包帯まみれになっているゾルザルがいたが、皇帝やピニャだけは哀
している大剣を杖代わりにしていて、エースにより散々殴られたこと
カーゼルがそういうと全員がゾルザルに振り向く。そこには愛用
下を打擲するに及んだ‼
﹁その事実を知った者達は大層怒り狂い、こともあろうにゾルザル殿
?
我が国ですらそのような暴挙を許せる筈もないというの
﹁馬鹿な⁉
﹂
?
に⁉
?
?
283
?
のはイタリカにおいて賊との戦いでだ。そこで妾は⋮⋮⋮﹂
それからピニャは自身のあったことを詳しく議員達に語る。イタ
リカにおける第4空中強襲戦闘団の力やエースの帝国に対する怒り
と憎しみ。
門の向こう側において自分達の技術や文化とは比べ物にもならな
い発展した街に帝国軍が束になっても傷を付けられるかも怪しい程
に強力な軍隊。
なにもかも帝国が格下の中の格下であるという事実に議員達は半
信半疑だが、ピニャはそれらを説明すると懐より紙束を取り出した。
﹂
﹂
﹁これはその折ニホンにより提供された我が軍の捕虜の名簿となる﹂
﹁なんですと⁉
﹁なぜそれを早く見せて下さらぬ⁉
ピニャより渡された名簿に群がる議員達。中には未だに出兵した
﹂
マオロの名を見なかったか⁉
孫が生きている‼
﹂
?
生きておるぞ‼
息子や孫の消息が分かっていない議員もいて、この時だけは本当に父
お前の息子の名前があった‼
親や親戚の表情となっていた。
﹁誰か⁉
﹁あったぞ‼
?
?
﹁お い モ ー リ ス ‼
﹂
?
?
いらぬと言っていた﹂
﹁ど⋮⋮奴隷が⋮⋮いない
﹂
﹂
﹁それは心配無用だ。向こう側の世界には奴隷はおらぬ上に身代金も
?
?
の身内を優先させて頂いたことを許されたい﹂
﹂
候補に漏れたもの達はどうなることやら⁉
﹁殿下はお狡い⁉
?
息子が奴隷に落ちるなど⁉
﹁その通りです⁉
?
284
?
?
﹁妾は見返りとして15人の身請けを許された。講和交渉に関わる者
?
?
﹁息子が⋮⋮儂の息子が生きておる⋮⋮﹂
?
﹁農奴もか
鉱山でもか
﹂
﹂
?
彼等は神か何かと言うつもりか‼
?
﹁そんな馬鹿な話があるか⁉
﹁綺麗事を‼
﹂
にしていると感じ、戦も国際戦争法なるものを設けていると知った﹂
湾の王達と話をする機会に恵まれ、そこで彼等は国民1人1人を大切
﹁そして妾は向こう側において連合に参加している日本、アメリカ、台
﹁信じられぬ⋮⋮よく生活ができるな﹂
?
議会は解散となる。そんななかゾルザルは連合に対する逆恨みを浮
派遣団蹂躙、全ての民の奴隷化など絵空事は全く取り入られないまま
割が支持するという形で決まり、主戦派の異世界再度侵略や連合特地
それから協議として連合特地派遣団との講和交渉推進が全体の8
達は唖然となった。
それだけいうとピニャは崩壊した元老院を指す。その光景に議員
の結果がこれだ﹂
れて彼等の怒りはまさに子を取られたグリフォンの如く怒り狂い、そ
らない奴隷を発生させてしまった⋮⋮⋮そんな状況で自国民が貶さ
しかも妾達は彼等が定めている掟を踏み躙り、尚且つ存在してはな
遇する寛大さ。
さにそこを理由としている。国民を大切にする義心や、捕虜でさえ厚
﹁そして妾は確信した。我が兄上に暴行を及んだエース殿の怒りはま
?
かべながら人知れず元老院を後にしていた⋮⋮⋮⋮⋮。
285
?
Mission62:烈火と豪火の騎士
ゾルザルが主犯となる拉致被害者発覚。奴等は日本人である望月
紀子とロシア人のマミーナ・シェスチェンコを拉致しただけではな
く奴隷にして痛めつけていた。PTSDの可能性も考えれてすぐに
アルヌスに帰還する必要があったのでエース率いるリーパー隊、耀司
﹂
率いる第3偵察隊はチヌークとの合流地点に向かった。
﹁よし。ヘリには全て乗せたな
﹁あぁ。帝都周辺の植物サンプルに鉱物サンプル、マフィアからの貴
族に関する記録にタスクフォース ナイツが撮影した帝国軍の建造
物の写真。全てリアカーに乗せてチヌークに積載したよ﹂
﹁解放した奴隷達もヘリに乗せているから、後は俺たちが乗ったらす
ぐに離陸だ﹂
﹁分かった。という訳だから見送りはここまででいいよ﹂
﹁そ う は い か な い。見 え な く な る ま で 見 送 る と い う の は 礼 儀 だ か ら
な﹂
﹁全くね。無礼なんて思われたらあの子に顔を合わせられないわ﹂
そういいながら俺は後ろにて見送りに来ていた薔薇騎士団2名に
話し掛ける。紫のショートヘアに性格的に竹を割ったようなさっぱ
りした印象が強い女性騎士と赤色のショートヘアにピニャ殿下やハ
ミルトンと比べたら細目だが胸が大きい隻眼の女性騎士がいて、前者
の名前はヴィフィータ・エ・カティで後者はプレデュー・ド・フィズ。
ピニャ殿下が指揮する薔薇騎士団の中ではグレイ・コ・アルドに続
く非常に数少ない実戦経験者であり、ピニャ殿下のことを呼び捨てに
出来る数少ない騎士だ。
薔薇騎士団が正式に設立されてからも騎士団の実績と指導教官育
成目的で複数の実戦や討伐戦に参加し、特にプレデューは右目を失っ
ても実戦に対して積極的に参加していたらしい。
2名とも双剣を得意としているようであり、バスタードソードを持
286
?
烈火の騎士
で、大剣を持つプレデューは
という異名があるようだ。
つことヴィフィータは
豪火の騎士
因みに前々から気になっていたんだが、彼女達の名前って大半が俺
たちの世界ではカクテルやワイン、ウィスキーといった酒の名前だよ
な
そうしていると救出した望月さんとマミーナさんが栗林と黒川に
﹂
付き添われてやってきた。
﹁準備はいいか
﹁ようやく母国に帰れると考えたら嬉しくて⋮⋮⋮﹂
﹁望月 紀子にマミーナ・シェスチェンコ⋮⋮⋮だったっけ
﹁は⋮⋮はい﹂
して彼女達に頭を上げるように説得して場を収めた。
﹂
下げた。それにはさすがの俺達も驚きを隠せなかったが状況を理解
簡単に自己紹介するといきなりヴィフィータとプレデューが頭を
かった﹂
﹁この度の非道な無礼⋮⋮ピニャに代わって謝罪させて頂く。すまな
ピニャ殿下の部下だ。ゾルザル達とは違うから安心して﹂
﹁望月さん、マミーナさん。この人達は俺達に協力して下さっている
﹁ボクはプレデュー・ド・フィズよ﹂
デュー﹂
﹁オ レ は ピ ニ ャ の 部 下 で ヴ ィ フ ィ ー タ・エ・カ テ ィ で こ い つ は プ レ
?
﹁構わないよ。民間人を守るっていうのは軍人の責務だからね﹂
﹁何から何までありがとうございます﹂
みたいです﹂
﹁服も私達のものを用意しましたし、ご飯も食べれてますから大丈夫
ん﹂
﹁はい。簡単な応急処置は終わりましたし、バイタルも問題ありませ
?
﹁オレ等騎士団は連合に助けられたっていうのに、その恩を仇にして
287
?
返すようなことをしちまった⋮⋮﹂
﹁ボクからも謝らせて⋮⋮⋮だけどピニャは本当に何も聞かされてい
なかったの⋮⋮だからあの子だけは許してあげて﹂
﹁そ⋮⋮そんな⋮⋮謝らないでください﹂
﹁確かに私達も初めはあなた達をすごく恨んだけど、今は違う⋮⋮ク
レイグさんや谷さん達に話を聞いてピニャ殿下って人は和平に尽力
してくれているって知ったから⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮そういって貰えると気が楽になるよ⋮⋮﹂
﹁全くだ。罪滅ぼしになるかどうかなんて分からないけど、あなた達
の恋人と弟君の消息は必ず突き止めるわ。約束する﹂
﹁2人とも、彼女達は信頼できる。だから安心してくれ﹂
﹁谷、そろそろ乗り込むぞ﹂
先に準備を進めていたエースがM416A5を手に呼びに来てく
﹂
と伝えてく
288
れた。
﹁じゃあ俺たちはこれで⋮⋮﹂
﹁あぁ。ピニャになんか伝えておきたいことはないか
﹁う∼ん⋮⋮⋮特にないな﹂
いきなり怒鳴ってしまってすまなかった
﹁右に同じく﹂
﹁だったら
れ。本当ならば直接伝えたいんだがな⋮⋮﹂
﹁承った﹂
陸していった。
乗り込み、後部ハッチがゆっくり閉鎖されると機体に振動が走り、離
ヴィフィータとプレデューの見送りを受けながら俺もチヌークに
ろう。
うであり、思わずカッとなってあんな怒鳴り声を挙げてしまったんだ
ことを謝罪として伝言を預けた。あれ以来エースは気にしていたよ
エースが発覚の際に思わずピニャ殿下に対して怒鳴ってしまった
?
俺は耀司やエースとは違って本来は戦車兵だ。だから次に帝都に
来るのはいつになるか分からないが楽しみにしておくのも悪くはな
いだろう⋮⋮⋮⋮⋮。
289
Mission63:悪夢の再来
ゾ ル ザ ル の ク ソ ッ タ レ か ら 虜 囚 と な っ た 望 月 紀 子 と マ ミ ー ナ・
シェフチェンコ及び奴隷となっていた亜種の女性を救い出してアル
ヌスに帰還した。
到着後すぐに彼女達は衛生班による診察を受けることとなり、すぐ
にアルヌスベースに設けられたアルヌス病院に連れて行ったが到着
してすぐ俺と伊丹と谷は情報部の柳田から信じられない話を聞いた。
それによれば望月 紀子は銀座事件の2ヶ月前に行方不明となり、
その行方を探る為に両親は銀座にてビラを配っていて、事件の時にも
ビラを配っていた。
そして遺体も確認されたらしい。
しかも彼女の実家は漏電により炎上し、彼女に帰る場所が無くなっ
たという。
せっかく帰ってこれたというのに彼女には帰る場所も帰りを待つ
家族もいないということに俺は言葉を失い、ささやかな願いだが同じ
く行方不明となっている彼女の恋人が無事であると本気で願った。
そして俺たち3人は夜に難民キャンプに向かっていた。
﹁あの馬鹿が⋮⋮現場のことを知らずに勝手なことを⋮⋮﹂
﹁まぁまぁ⋮⋮だけど現場を知らないってのは問題だよな﹂
﹁あいつの言いたいことも分かるが大事なのは人命だ。だから気にす
る必要はないよ﹂
その日の晩、俺は再び柳田に呼ばれてアルヌス街のデリラが給仕長
をしている店に行ったが奴の口にした言葉に腹が立った。
俺たちがいない間に炎龍に襲われたダークエルフが討伐を依頼し
てきて将軍が断ったらしいのだが、出没したのは膨大な石油や鉱物資
源が確認されたエルベ藩王国。
討伐自体ならば可能なのだが王国とは何の外交手段もないし、今は
帝国との講和交渉をしている最中で兵を無駄に死なせはできないと
290
いうことで依頼は断られた。
だが柳田は石油と鉱物資源を確保したいが故に部隊を率いて資源
調査という名前の炎龍退治を提示してきた。
エルフ娘のところに行ってみろ
と口にして、
奴は部下に死んでこいと言ってきたのだから腹が立つ。
だが奴は帰り際に
﹂
俺たちはなんだか嫌な予感がしてテュカの家に向かっているという
訳だ。
﹁だが⋮⋮奴は何でテュカのところに行ってみろと言ったんだ
﹁分からない。あいつは俺なんかよりも頭が回るし、何よりも腹黒い
⋮⋮⋮嫌な予感がしてきたよ﹂
﹁俺もだ⋮⋮⋮⋮着いた﹂
テュカの家に到着した俺たちは扉をノックして部屋に入ったが、そ
こにはレレイとロゥリィ、ミオ、ルフスがいて、テュカはベッドに腰
掛けて泣いていたのだ。
レレイ達の深刻な表情にますます嫌な予感がし、特に伊丹は一番嫌
﹂
﹂
な予感がしているようだ。そして恐る恐るテュカに話しかけた。
﹁テュカ
﹁どうしたんだ
と、そこから発せられた単語に驚愕した。
﹂
﹂
‼
﹂
﹁お父⋮⋮さん⋮⋮⋮﹂
﹁えっ
﹁なっ⁉
﹁お父さん‼
?
﹂むぐっ⁉
﹂
291
?
?
?
﹁テュカ⋮⋮伊丹はお父さんじゃ﹁口にするな‼
?
目を真っ赤にさせて泣いたままのテュカはゆっくりと伊丹を見る
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
?
?
?
?
いきなりテュカが伊丹のことをお父さんと言って、違うと言おうと
﹂
した谷の口を俺は慌てて塞いだ。だが抱きつかれた伊丹は状況が理
みんな冗談が過ぎるわ‼
解できず、テュカもレレイ達に振り向いた。
﹁ちゃんと帰って来たじゃない‼
﹁えっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
?
﹁うっ⋮⋮嘘つきダークエルフ
﹂
街から追い出してやるんだから‼
﹂
﹁あの嘘つきダークエルフ⋮⋮嘘をついてたのよ前々から⋮⋮絶対に
?
?
さん‼
﹂
﹂
みたい⋮⋮⋮目の前にいるっていうのに⋮⋮⋮そうでしょ⁉
お父
﹁あいつ⋮⋮⋮お父さんが炎龍に食い殺されたって言うのよ⋮⋮バカ
﹁敵討ち⋮⋮嘘⋮⋮いったい⋮⋮⋮﹂
もんですか‼
﹁連合に敵討ち断られたからってあんな嘘をついて⋮⋮⋮誰が信じる
?
?
テュカの心が壊れた
た。
﹂
ゆっくり吸って吐
そして伊丹は口を抑えながら外に飛び出して食堂で口にしたもの
﹂
を全て吐き出した。
﹁伊丹⁉
お父さん⁉
大丈夫だ‼
落ち着いて深呼吸しろ‼
﹂
?
﹁お父さん⁉
﹁伊丹⁉
﹂
水を持ってきてくれ‼
谷‼
?
﹁分かった‼
け‼
?
?
292
?
テュカは涙を流しながら伊丹を見るが、俺はその表情に恐怖を抱い
?
?
?
?
?
?
?
伊丹を落ち着かせようと谷に水を持ってこさせるとレレイが睡魔
お父さんが死んじゃう⁉
﹂
の魔法を使い、伊丹がゆっくりと意識を失って倒れた。
﹂
﹁とりあえず部屋に運ぼう﹂
﹁エース⁉
﹂
?
から死にはしない﹂
﹁大丈夫な訳ないじゃない‼
﹂
父さんは突然吐いたのよ⁉
て何か病気かも知れないじゃない⁉
もしかし
?
﹂
ドに寝かしつけた。
﹁⋮⋮⋮何があったんだ
﹂
﹁ルフス、何があったんだ
と考えるべきだ﹂
これはどう考えてもテュカの心が壊れた
起こさせて意識を失わせ、ミオは受け止めるとゆっくり反対側のベッ
ミオに指示するとミオはテュカの後頭部に衝撃を与えて脳震盪を
﹁はい⋮⋮すみません﹂
﹁ミオ﹂
﹁だけど⁉
ぶん飲みすぎだろう﹂
﹁落ち着いてテュカ。こいつはさっきまで俺たちと飲んでたんだ。た
?
?
﹁大丈夫だテュカ⋮⋮こいつは眠っただけだ。心拍数も安定している
お父さんは大丈夫なの⁉
りと寝かしたが、テュカは完全に落ち着きを失っていた。
俺は伊丹を担いでテュカの部屋に入り、空いているベッドにゆっく
?
﹁なにするのレレイ⁉
﹁でも⁉
﹁落ち着きなさいテュカ﹂
?
﹁大丈夫、眠っているだけ﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮ヤオよ﹂
?
?
293
?
?
﹁ヤオ
﹂
﹁炎龍退治を依頼しに来たダークエルフだ﹂
﹂
﹁話は聞いている⋮⋮⋮だがそれと伊丹が父親だっていうのと何が関
係してんだ
﹂
?
﹂
?
状だ﹂
﹂
?
﹂
﹁エース⋮⋮教えて﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あぁ﹂
何故自分が父親じゃないって否定しなかったか知ってるわよねぇ﹂
﹁この中で耀司と付き合いが最も長いのはあなたよぉ。だから耀司が
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁エース、話しなさいよぉ﹂
と全員が俺に視線を集中させて初めに沈黙を破ったのはロゥリィだ。
伊丹はパーソナル障害を見るのは初めてじゃない。そう口にする
ないからだ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮伊丹がパーソナル障害を目の当たりにするのは初めてじゃ
﹁その根拠は
﹁ありえなくはないが今回はパーソナル障害に間違いないだろう﹂
﹁PTSDの可能性は
のような行動をしていて、今回の一件だ﹂
﹁テュカは炎龍に父親を殺された。だが彼女は前々から父親がいるか
﹁なぜ分かる
﹂
痛、機能障害に陥っている。間違いなく古典的なパーソナル障害の症
﹁テュカの表情と言動ではっきりした。彼女は個人的崩壊や著しい苦
﹁ご主人様
﹁⋮⋮⋮パーソナル障害﹂
かったのかしらぁ
﹁そ う い え ば ⋮⋮⋮ 耀 司 は な ん で 自 分 が 父 親 じ ゃ な い っ て 否 定 し な
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁それは分かりかねます谷様﹂
?
?
?
294
?
﹁俺からも頼む。こいつとは既に俺も友達だから知っておいた方が解
決策が見つかるかもしれない﹂
﹂
﹁ご主人様、ご無理を承知でお願い致します。お話頂けませんでしょ
うか
﹂
﹁エムロイに仕える者としてではなく、私個人として願う。話しては
くれないか
ら話すが
﹂
想像を絶するし、こいつも過去を知られるのを嫌う。それでもいいな
﹁お前達は知っておいた方がいいだろう⋮⋮⋮だが奴の過去はかなり
?
伊丹の過去を⋮⋮⋮。
ち着かせると話し始めた。
する。それを確認した俺は机に置いてあったお茶を一口のみ、少し落
ロゥリィと谷が最初に承諾し、ミオとレレイ、ルフスも頷いて承諾
﹁あぁ。何か言われたら責任を取る﹂
﹁構わないわぁ﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮18年前、俺が日本にいた頃の話だ﹂
295
?
Mission64:壊された日常
いつの間にか眠ってた⋮⋮。
柳田に言われてテュカの家に向かえばエースと谷も含めて嫌な予
感が強まり、到着して泣いてるテュカに話しかけると彼女は俺に抱き
つき、父親と言った。
テュカの綺麗で透き通るような水色の瞳は虚ろで輝きに曇りが見
えたことで俺はテュカの最も恐れてたことが起こったって感じた。
テュカの心が壊れた。
出会った時から俺はテュカはまだ死んだ父親が生きてるって錯覚
しているということにすぐ気がついたが、俺は騒ぎにならないよう扱
いには慎重に慎重を重ねていたが結果的にテュカの心が壊れた。
レレイが掛けた眠りの魔法が解けて目を覚ますとエースを囲むよ
うにみんなが集まっていた。
﹁はぁ⋮⋮⋮遂に知っちまったか⋮⋮﹂
﹁すまない伊丹﹂
﹁エースは悪くない。話して欲しいと頼んだ俺が悪いんだ﹂ ﹁いや⋮⋮⋮別に秘密って訳じゃないから気にしてない。それに悪い
のはテュカを陥れた奴だ﹂
俺の過去を話してしまったことを謝るエースに、そのエースを庇う
谷。別に秘密じゃないんだからそんなに謝れたらこっちがなんだか
悪い気がする。
エースと俺は20年近く交流がある親友だ。だから18年前のこ
とも知っている。
俺がまだ中学生だった頃に俺とお袋は親父からの暴力に苦しんで
いた。親父はろくに仕事をしないで毎日ただただ酒を飲んだり、パチ
ンコに負けた腹いせに俺らを殴ったりとロクでもない奴だった。
そんな苦痛の日々に限界を感じたお袋がとうとう親父を刺し殺し、
正当防衛が適応されて罪にはならなかったが今思えば罪になってく
296
れた方がお袋のためだったかも知れない。
その日からお袋は自分を恨み続けた。
多くの親戚や知人、カウンセラーがお袋の心を救おうと励まし続け
たが全てが無駄に終わり、俺自身もかなり疲労が溜まってたけど唯一
の救いが親友が出来たこと。
エースだ。
中学2年の時にエースは交換留学生としてアメリカから来て頭脳
明晰で運動神経抜群。学校のヒーローにすぐなって俺ともすぐに意
気 投 合 し て 親 友 と な っ た。け ど お 袋 の 解 決 に は な ら な い の は 解 り
きってた。
親父はもう
と我慢できず思わず口にしてしまっ
そんな状態が高校に上がるまで続いて俺はある日に
いない。あんたが殺したんだ
た。
あの時に戻れたら⋮⋮あの時に俺も狂っていたらと何度も考えて
﹁⋮⋮⋮あぁ⋮⋮柳田が話してたあいつか⋮⋮⋮でもなんであいつが
﹂
﹁それは⋮⋮﹁それは此の身から話そう﹂⋮⋮﹂
297
いたが過去は過去だ。
そして俺がエースを連れて家に帰った際にお袋は自身の身体に油
を被って自殺を図った。一命は取り留めたが遂に知事からの指示で
精神病院にて隔離されることが決まり、必死に助けてくれるよう叫ぶ
お袋を置いてきてから実に18年も会っていない。
事情を知った大手貿易会社で勤務してるエースの親父さんが生活
費を出してくれたり、近所の人達が助けてくれたりもあったから俺は
大学を出た後に幹部になって今の2尉にいるって話だ。
﹁そ れ で ⋮⋮ テ ュ カ に 余 計 な こ と を 言 っ た ク ソ ッ タ レ は だ れ な ん た
﹂
﹂
?
﹁ほらぁ、デリラの店で私をガキって言ったぁ﹂
﹁だれ
﹁ダークエルフのヤオ・ハー・ディッシュって奴だ﹂
?
?
レレイか何か言おうとした矢先にいきなり扉がゆっくりと開けら
れた。そこにいたのは銀髪のダークエルフでテュカの心を壊した張
本人であるヤオだ。
こいつの出現でロゥリィはハルバート、レレイは杖、ルフスはデス
サイズを手にしてミオは爪を出現させる。
そしてヤオを見た瞬間に怒気を隠そうともしないエースと谷はヒ
ルドルブとM1911A1をホルスターから取り出して銃口をヤオ
に向けた。
﹁先日は誠に失礼した聖下。そして緑の人達よ﹂
﹁なんの用だテロ野郎﹂
﹁ここは貴様が来るような場所じゃない。テロリスト風情が⋮⋮﹂
﹂
﹁落ち着けってエース、谷⋮⋮⋮だがなぜテュカに余計なことを口に
した
﹂
﹂
﹁余計とは心外な⋮⋮⋮此の身は事実を伝えただけだ﹂
﹁⋮⋮⋮ふざけんじゃねぇぞカスが‼
﹁だから落ち着けってエース⋮⋮それでもなぜだ
﹁決まっている。悪意があったからだ﹂
‼
﹂
﹂⋮⋮﹂
﹁お前⋮⋮やっていいことと悪いことくらい﹁此の身も子供ではない
ろう
少の規則破りをも厭わないとも⋮⋮⋮ならば利用しない手はないだ
﹁御身方々はこの五方を大切にしていると聞いた。守るためならば多
ヤオの言葉に俺も徐々に怒りを積もらせていった。
?
?
此の身の同胞にはだれも手を貸してくれぬ‼
﹂
?
とは出来ない﹂
298
?
?
﹁丘の上には炎龍など敵ではない強大な力が唸る程あるというのに‼
?
﹁当たり前だ⋮⋮⋮俺ら連合は規律を重視する軍隊だ。勝手に動くこ
?
んなこと
貴様のやったことは賊とな
﹁それに目的の為に手段が無かったにしろ、貴様がやったのは民間人
﹂
﹂
そんな奴の願いなんざ誰が聞くか⁉
⋮⋮しかも炎龍被害者を陥れたんだ‼
んら変わらない‼
を承諾する部族なんざこの世から滅びてしまえ‼
とな‼
﹁だが拒絶した者どもは口を揃えてこう言う‼
なら
﹁⋮⋮⋮レレイ﹂
﹁通訳した﹂
﹁だから⋮⋮⋮だから壊したのだ﹂
﹂
﹂
伊丹、エース、谷
そのままエースも外に出てヤオの襟を掴んでヒルドルブの銃口を
の扉から外に吹き飛んだ。
り掛かろうとした直前にエースが先にヤオを殴り飛ばし、開いたまま
からは涙が流れ出すが、俺たちの怒りを買うには十分だった。俺が殴
テュカの心を壊したと宣言したヤオ。その悪意に満ちたヤオの瞳
?
?
?
こんな奴に弾の無駄だ‼
殺してやる‼
ヤオの額に突き付けた。
﹁テメェ‼
﹂
﹁やめろエース⁉
﹁くそっ⁉
?
うだ⁉
天災ならば神を呪うしかない‼
ならば炎龍ならばど
誰も捕ら
ならばこの怒りと憎しみは誰
敵は目の前にいるというのに手も足も出ない‼
?
﹂
愛する者を奪われた憎しみは誰に向ければよい
えることも罰することもできない‼
に向ければよい⁉
﹂
?
たせよう⁉
﹁愛する者を奪ったのが人ならば⋮その下衆を追い求めれば復讐を果
?
?
どうする⁉
?
緑の人達よ⁉
?
それとも武器を手にして立つか⁉
このままエルフを見捨
﹂
?
?
しかないぞ‼
てるか⁉
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
?
299
?
?
?
?
?
?
?
﹁だからってテュカを巻き込んでいい理由にはならないんだよ⁉
⁉
?
?
﹁あのエルフを救うには父親が炎龍に殺されたことを含めて敵を討つ
?
?
﹁自分勝手なのは分かっている⋮⋮⋮だが復讐は自らの鎮魂のために
必要な儀式だ⋮⋮⋮それを経て遺された者たちは明日を見ることが
出来る⋮⋮⋮此の身は全て伊丹殿に捧げる⋮⋮この場で八つ裂きに
しても慰みにしても構わない⋮⋮⋮だからお願いだ⋮⋮⋮﹂
エースの拘束から外されたヤオは今までにない悲痛な声で涙を流
しながら跪き、祈願し始めた。
﹁あの娘のついででいい⋮⋮⋮此の身の同胞を救って欲しい⋮⋮⋮﹂
﹁伊丹、付き合う必要はない。テュカの心は別の手段で救えばいい﹂
﹁エースの言う通りだ。端から見たらこいつは立派なテロリストだ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮えろ⋮⋮⋮﹂
﹁伊丹⋮⋮⋮﹂
﹁今すぐ俺達の目の前から⋮⋮⋮テュカの前から⋮⋮⋮﹂
300
﹂
俺は一呼吸すると叫ぶように言った。
﹁消えろ‼
テュカの心は絶対に救い出してやらなきゃならない⋮⋮⋮⋮⋮。
いつやこいつの部族なんてどうでもいいし、今はテュカが心配だ。
戻った。俺は普段はこんなことは口にしないが今回だけは違う。こ
そ れ だ け い う と 頭 を 下 げ た ま ま の ヤ オ を 放 置 し て テ ュ カ の 家 に
?
Mission65:出会いと決断
テュカの心が壊れて10日、俺は自衛官の伊丹 耀司とテュカの父
親であるホドリューという役をテュカの為にこなしていた。毎日を
テュカの家から出勤して帰ると可能な限りテュカと共に過ごす。
彼女の父親を演じることにより何とか心を引き留めてはいるが、何
かを思い出すかのように日を増す毎にテュカは頭痛が酷くなってい
る。
俺もテュカの父親を演じることで本物の父親と違和感がないよう
無駄なこと
と言われて
にするのに神経が磨り減っていき、昨日は全く眠っていない。
更にあれから1回だけヤオを見つけて
ますます危機感が強くなっていく。
だからあまりにも過度な為、病棟の心理カウンセラーに相談して今
はすぐそばのベンチにて考えていた。
﹁⋮⋮⋮復讐する相手を求める⋮⋮か⋮⋮﹂
パーソナル障害に関しては明確な治療法は見つかっていない。時
が来るのを待つか、もしくは目的を達成させて吹っ切れさせるしかな
いというのがカウンセラーの見解だが、復讐の相手は炎龍。
柳田はあれからエースにより殴られて、エース自身も規律を無闇に
乱したことによって2日間営倉に放り込まれた。
柳田の言いたいこともわかる。炎龍と戦って強さを知っているの
は俺たち第3偵察隊とエースのリーパー隊しかなく、いくら資源が豊
富だからってアメリカと台湾よりも多く資源を確保したいが故に焚
きつけた。あいつなりの愛国心で示したんだが、それなら自分が行け
ばいいとはっきり言ってやった。
俺は仲間を絶対に死なせたくはない。
おやっさんは娘さんが近い内に結婚するらしいし、定年になって孫
を抱くことを楽しみにしている。
仁科は尻に敷かれながらも帰宅を待ち遠しにしてくれているキャ
301
リアウーマンの奥さんがいる。
アルヌス警邏隊徒手格闘顧問をしている栗林はロシア軍から参加
しているアーロン中尉とデート。ジムでも自分より強いことをアー
ロン中尉が示して交際中。
黒川もテュカの一件で慎重になり、今は改めて心理学を勉強してい
て悪所でも娼婦の健康管理や相談役をしていて、薔薇騎士団短剣術顧
問の富田も秘密だけどボーゼスと恋仲に発展していて、既に熱い夜を
何度も過ごしているらしい。あれはいずれ結婚するだろう。
亜人交流関係のアドバイザーをしている倉田はペルシアと交際中
で相思相愛で、勝本は町の子供達に大人気で正式に育児教育顧問に抜
擢されている。
中世ヨーロッパの戦術に詳しい歴史家の東は陸曹過程が大詰めで、
夜中まで勉強中。戸塚も趣味で財テク運用があって、組合の経済顧問
に任命され、笹川も趣味の写真で特地の写真を使って報道担当も務め
てる。
古田も最近は特地の食材を使って捜索料理を研究し、タスクフォー
ス ナイツの劉大尉と共に駐屯地内食堂全体の料理長を務めている。
本当に個性的なメンツでアルヌスにおいて全員が重要なポジショ
ンにある。そんな奴等を死なせたくはないし、俺自身もあいつ等の隊
長をしていて誇りに思う。
そんなことを考えていると杖を突く音が聞こえてきて、振り向くと
そこには左目に眼帯をしていて白髪で髭。松葉杖をついた老人がい
た。
﹁若いの、そこを退くがよい﹂
﹁⋮⋮⋮⋮どうぞ﹂
﹁うむ、殊勝な心掛けじゃ。ここは儂が毎晩使っておる、以後気をつけ
よ﹂
そういって爺さんは譲った席に座る。身体は傷だらけで義手義足
をつけているから、第4偵察隊が見つけたっていう修道院にいた敗血
302
症で危険だった重傷者。本人は農民兵だと言っているけど実際はど
こかの王国貴族か将校かもしれないらしい。
実際に農民兵には無い威風堂々の雰囲気に歴戦の猛者にしか許さ
れない力強い瞳を有している。
﹂
﹁さて⋮⋮⋮ここは確かに月が綺麗に見える。だが若いの、何を迷っ
て黄昏ているのだ
﹁⋮⋮⋮爺さんには関係ないよ﹂
﹁話したくないならそれもよかろう。それにしてもこの義手と義足、
﹂
﹂
よく動くし皮とは思えぬ部品もある。お主等の世界では手足をなく
すと皆こんな高価なものをつけておるのか
﹁大抵はそうですね﹂
﹁走れるようになれるとも言っていたが本当か
もあるほどです﹂
﹁がっはっはっはっはっ‼
なんじゃお主、話せるではないか。その
﹁専用のものを付けると生身より速いですし、そういう人達の競技会
?
?
し、どっちを取っても何かを失う﹂
﹂
﹂
いて、仮に送り込んだとしても全滅は必至。本当は行くべきじゃない
﹁でもその敵が強いんです。しかも大部隊が送れないエルベ藩王国に
振ってうろつくなど、儂なら腸が煮えくり返るわぃ﹂
﹁なる程なぁ⋮⋮⋮確かに敵を討てば気も晴れるだろう。敵が大手を
を爺さんに話すことにした。
だから俺は爺さんにテュカのこととカウンセラーに言われたこと
なったし、なによりも爺さんになら相談できると感じた。
完全に爺さんのペースに持って行かれた。だがなんだか気が楽に
調子で黄昏ておった理由をこの老いぼれに洗いざらい喋ってしまえ﹂
?
﹁⋮⋮⋮若いの⋮⋮何か大きなものを忘れておらぬか
﹁えっ
?
303
?
﹁⋮⋮お主の心じゃよ﹂
?
﹁それで何とかなるなら苦労はしませんよ﹂
﹁若いの⋮⋮人生には危険だと分かっていても退くことが許されぬ時
もあろう。負けると承知していても進まねばならぬ時もあろう﹂
それに男には馬鹿をやらなけれ
爺さんは立ち上がり、俺の右肩に手を置いた。
﹁心では既に決まっている筈じゃろ
﹂
ばやっていけぬ。時には周りに囚われず自らの心に素直に従うとい
うことも大事じゃ。そうは思わぬか
それだけ言うと爺さんはその場を後にした。時に心に従うという
言葉に俺は感銘を受け、ようやく纏まった⋮⋮⋮⋮⋮。
304
?
?
Mission66:取り戻すための旅
テュカの心が壊れてから11日、爺さんに相談してから次の日の
朝。俺たち第3偵察隊は総監部からの指令に従って再び帝都に向か
うべく、チヌークに乗り込んでいた。
おやっさんが隣で今回の主任務である偵察および調査対象のゾル
ザルに関する資料に目を通している中、俺は89式小銃2型+M32
0A1をスリングに繋ぎながら窓の外を見る。
滑走路の端には見送りにやってきたロゥリィとレレイ、そして不安
そうな表情をしているテュカがいた。彼女にはすぐ帰ってくると約
束したが、その間にますます悪化する可能性がある。
それに男には馬鹿をやらな
そしてパイロットが離陸しようとしてローターの出力を高め始め
心では既に決まっている筈じゃろ
た矢先に昨日の夜の言葉を思い出した。
ければやっていけぬ。時には周りに囚われず自らの心に素直に従う
ということも大事じゃ。そうは思わぬか
﹂
?
﹂
﹂
心に従う。その言葉に俺は立ち上がり、おやっさんに振り向いた。
?
て俺もチヌークから飛び降りた。そしていきなり飛び降りた俺を見
る自衛官、アメリカ兵、台湾兵の視線を感じながらテュカに歩み寄っ
た。
305
?
俺降ります‼
﹁隊長、どうかしましたか
﹂
﹁すんませんおやっさん‼
﹁隊長⁉
﹁あと頼みます‼
?
おやっさんに部隊の指揮を委託すると俺は装具を機外に放り出し
?
﹁なんです⁉
?
﹂
?
?
﹁⋮⋮⋮どうかしたの
﹁いいの
﹂
﹂
﹁帝都に行くの⋮⋮やめたよ﹂
?
か
﹂
﹁旅に
﹂
﹂
お父さんと一緒なら喜んで‼
じゃあいちど帰って支度
﹁あぁ。南にあるエルベ藩王国までな⋮⋮⋮嫌
﹁ううん‼
してくるね‼
?
お前馬鹿か⁉
これでお前だけを派遣する状況を
あの娘と2人でドラゴン退治⁉
知った柳田が俺に駆け寄って来た。
﹁伊丹⁉
﹂
の隊員が見てる前で任務放棄⁉
考えろって正気かよ⁉
?
﹂
手配はしてやるか
スペツナズの増援部隊が別の
?
便で帝都に向かうからそれに乗って合流しろ‼
ら‼
?
﹁確かにそうだが悪いことは言わん‼
﹁あんたも元凶の1人なんだからその位はして貰わないとな⋮⋮⋮﹂
?
?
?
しかも他
な が ら 家 に 戻 っ て い く。す る と 直 後 に ヘ リ か ら 飛 び 降 り た こ と を
炎龍退治を伏せて旅に出るというとテュカは本当に嬉しそうにし
﹂
﹁ははっ⋮⋮それもそうだな。それよりテュカ、これから旅に出ない
﹁なに娘を口説いてるのよお父さん﹂
?
?
分かったよ‼
で、なにがいるんだ
﹂
?
だから今は心に従って動く﹂
﹁⋮⋮⋮チッ⁉
?
柳田と話していると誰かが別で話しかけてきて、振り向くと完全武
﹁車両だったら俺のを使うといい﹂
4爆薬75kg。それと車両と予備燃料だな﹂
﹁5.56mm徹甲弾に海兵隊から貰った40mmAPDS弾頭とC
?
る べ き こ と を 先 送 り に し た 結 果 の 後 悔 は 嫌 と い う 程 し て き た ん だ。
﹁それに決めたんだ。これ以上テュカが壊れる姿を見たくない⋮⋮や
?
306
?
?
?
?
?
装のエースと谷、それにいつものメイド服じゃなく黒と赤のアルヌス
警邏隊所属のガルフ族が使っている軽装鎧姿で腰に数本の投擲斧の
フランキスカのミオとロゥリィみたいなゴスロリの水色を着たルフ
スがいた。
﹁エース⋮⋮谷⋮⋮﹂
﹂
これって一応は命
﹁お前のことだ。命令違反をしてでも向かうことなんて分かりきった
﹂
ことだからな。予想し易かった﹂
﹁⋮⋮⋮ばれてた
﹁何年お前の親友をしてると思ってんだ
﹂
﹁そうだな⋮⋮⋮それより2人とも大丈夫なのか
令違反になるんだけど
﹁俺たちリーパー隊は独立部隊だ。だから独自行動の権利を認められ
ているし、何よりもあいつらは帝都にいる。指揮権はコーエンス曹長
に託したからなんの問題もない﹂ ﹁作戦計画書には国境周辺の単独調査としてあるから大丈夫だ。地形
調査も戦車乗りにとって重要な仕事だからね﹂
﹁そっちは用意周到って訳ね⋮⋮⋮ありがとう﹂
﹁いいってことよ。装備も用意できてるからな﹂
そういうとエースは自分の車である民間への払い下げとなったM
1038カーゴハンヴィーに連結されているトレーラーの防水マッ
トを開けた。そこにはどこから入手したのか分からないRPG│7
USAやPG│7VR タンデム式榴弾頭、40mmAPDS弾や
M15対戦車地雷に大量の銃弾とショットシェル。
車内のラックにもRPG│7 USAの発射機が4つにM79 40mm単発式グレネードランチャーが2つ、MAGPUL AKと
M870 MCSが1丁ずつ。
エースと谷が使うであろうM60軽機関銃とレミントンACRと
いった対炎龍のみを考えた重装備が敷き詰められていた。
最初は呆気に取られたが、よく考えたらエースはガンスミスの資格
307
?
?
?
?
や
Airtr
にも顔が利くって言っていたから、多分メー
Magpul Industries C
を持っていて色んな所に人脈がある。それを利用して
onic USA
orporation
カーに直接連絡して送って貰ったんだろう。
﹁工兵隊に頼んで地雷までは何とか確保できたがC4までは手が回ら
なかった。
本当だったらFIM│92かFGM│148を持って行きたかっ
たんだが、あれはロックオンにタイムラグがある。それと89式とS
﹂
IGは置いて行け。代わりにM4A1とM320A1とGlock
17を貸してやる。あとこれはお前が買い取れよ
?
﹁柳田、追加で食料を6人分で1週間、車両は員数外のアメリカがくれ
たM│ATVで﹂
﹁無視かよ⋮⋮﹂
﹂
﹂
?
⋮⋮⋮へっ⁉
突き刺さった。
﹂
﹂
改めて確認するとご立腹で仁王立しているロゥリィとレレイがい
た。
﹁ロゥリィ⁉
﹂
?
もりぃ
﹂
﹁すっごく楽しみぃ♪ぞくぞくしちゃう♪それともぉ最初から死ぬつ
﹁いや⋮⋮けど相手は炎龍だぜ
﹁女を火遊びに誘いたいんだったら素直にそう言いなさいよねぇ﹂
?
﹁伊丹、ロゥリィの戦闘力は俺たちより遥かに強力だ。連れて行って
﹁いや⋮⋮⋮けど⋮⋮﹂
?
308
﹁本当に6人でいいのか
﹁他に誰がいるんだよ
?
﹁あぁ∼⋮⋮因みに片足を上げることを勧めるぞ伊丹﹂
﹁谷
?
谷からのいきなり視線が空になり、いきなり何かが顔のすぐそばに
?
損はないだろう﹂
﹂
言うから腹を殴らないで本当に痛い
⋮⋮⋮ロゥリィ⋮⋮一緒に来てくれるか
分かった分かった‼
﹁さっさと言えってのおい﹂
﹁ぐっ⁉
から⁉
﹁お前は悪魔か⁉
いででででで⁉
﹂
そしてそのまま私の眷属になってもらうわぁ﹂
﹁大丈夫よぉ。耀司が死んだら魂を私が頂いて返してもらうからぁ。
﹁借りとく。返せるかわからんけどな﹂
﹁高いわよぉ﹂
れた。
の不機嫌な表情から明るい笑みをしてようやく俺の上からどいてく
なんか脅迫されたような⋮⋮⋮そういうとロゥリィは先ほどまで
?
?
﹂
レレイも⁉
﹁違う。2人分追加﹂
﹁って⁉
﹂
﹁な⋮⋮なぁ⋮⋮エース⋮⋮﹂
﹁えっ⋮⋮⋮ええっと⋮⋮レレイ⋮さん
﹂
﹁生還率を上げるには魔法は必要不可欠﹂
?
﹂
⋮⋮⋮どうなんの俺⋮⋮﹂
﹁お前ら薄情だな⁉
﹁え⋮⋮⋮ええっと⋮⋮⋮頑張れ﹂
﹁何があっても、俺達は友達だからな
﹁あ∼⋮⋮⋮伊丹⋮強く生きろよ﹂
﹁マジ完了
﹁ふふふっ♪契約完了ぉ♪﹂
いて、出てきた血をひと舐めする。
いた。すると間髪入れずにロゥリィは俺の右腕に思いっきり噛み付
物凄い爆弾発言に俺はもちろんエースも谷も柳田もドン引きして
?
﹁柳田ぁ♪1人分ご飯追加ねぇ♪﹂
?
?
?
?
309
?
?
?
?
﹁言うな⋮⋮⋮⋮本音は俺も怖い⋮⋮﹂
﹁此の身は只今より未来永劫御身のもの。なんなりと仰せつけくださ
い﹂
﹂
﹁やっぱりお前もなのね⋮⋮⋮まぁ道案内が必要だからな。責任とっ
て退治では手伝ってもらうからな
﹁一応は言っておくが、テュカの心が完全に壊れたらお前を殺す。お
前の部族も討伐するからな﹂
﹁結 局 食 料 9 人 分 か ⋮⋮ 中 身 は 適 当 に 詰 め て お く か ら 文 句 は な し だ
ぞ﹂
それから俺たちはすぐに動いた。アルヌス街にテュカを迎えに行
く。そして話を聞いた街の人達が一堂に集まり、炎龍討伐成功と無事
の帰還を祈ってくれて、柳田が用意してくれたM│ATVに乗り込む
と出発した。
目指すはエルベ藩王国シュワルツの森、テュカの心を救い出すため
俺たちの旅が始まった⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁若者が行ったか⋮⋮⋮﹂
儂があの若者に会った時の印象はどこにでもいる優男じゃと思っ
たが、話してみるとなかなか筋がある若者じゃった。
それにあやつを見た時に若い頃の儂を思い出してしまい、何となく
助言をしたくなった。その若者と奴を支える者達が藩王国に向かっ
﹂
また勝手に出歩いて困りますよ‼
それにここは
ていくのを連合の石でできた見張り台にて見送っている。
﹁デュランさん‼
立ち入り禁止って言ったでしょ⁉
?
310
?
?
?
﹁スマンスマン。リハビリじゃよリハビリ﹂
﹂
看護師に見つかってしまったわい。こ奴らは口うるさいが医術者
病室に戻ってください‼
として腕は本物で非常に献身的だ。
﹁さぁ‼
?
﹁えっ
﹂
﹁⋮⋮⋮すまぬが一番地位のある者を呼んでくれぬか
﹂
医術者にそう頼むと儂は杖を突きながら建物に戻る。
いう若者がおろう。其奴も連れてきてくれ﹂
﹁あぁ⋮⋮⋮儂のことで話しがあると。それと街の警邏隊にグラビと
﹁どうかされたのですか
﹂
﹁分かった分かった⋮⋮⋮じゃがその前に頼みたいことがある﹂
?
さて⋮⋮儂も若者の為に頑張るとするか⋮⋮⋮⋮⋮。
311
?
?
?
番外編:スペツナズの進撃
話は拉致被害者発覚から実に12日が経過した時期になる。
同志マミーナというロシア人女性がゾルザルとかいう奴の奴隷に
されていたことがヤポンスキーの同志伊丹、アメリカンスキーの同志
クレイグ、タイヴァンスキーの同志谷により救われて今はキャンプに
て治療とカウンセリングを受けているというのが少し前にアルヌス
から戻って来た志乃により聞かされた。
彼女とは同志ジェガノフの指示によりヴァローナ隊を引き連れて
ロシア軍特別特地派遣遊撃隊として派遣されてから暫く後になる。
年頃の彼女は絶賛彼氏募集中だったらしく、しかも条件っていうの
がCQCの専門である志乃より強く、尚且つ特殊部隊所属というもの
だ。はっきりいったら無茶苦茶な条件といえるもので、既に日本の特
殊部隊やアメリカのフォースリーコン、台湾の黒衣隊の猛者達が彼女
の揺さぶりに掛けられて敗北している。
アサシン
からの紹介で俺に来て、アルヌス街での
そ ん な 中 で 事 件 発 覚 か ら 1 ヶ 月 半 前 に 遂 に 日 本 特 殊 部 隊 所 属 の
コードネーム
デートを満喫した最後に組み込まれていた徒手格闘の模擬戦で勝負
することとなった。
活人
が無意識に組み込まれた完成度の高いものだ。
彼女の格闘技は柔道や合気道をベースとして、そこに侍の信念であ
る
しかも彼女は小さい上に素早い。始めは苦戦したが徐々に動きに
身体を慣れさせて攻撃パターンを見ていく。そして俺の得意なシス
テマで動きを封じ込めて勝利した。
確かに彼女のCQCは非常に強力だが実戦での使用が足りなかっ
たというのがあり、既に何度も特殊作戦において実用している殺人を
大前提とした俺のシステマには敵わなかった。
おかげで彼女に心底惚れられてしまい、彼女にとって幸いにも俺は
独り身だったから付き合ってみることとなり、それが縁となって今は
恋仲となった。
話を脱線してしまったので戻そう。
312
拉致被害者発覚から暫くして古い知人であるCIAのクワイゼル・
ハイデッガーが情報を齎してくれて、奴によれば奴隷市場に流された
マミーナの弟を売ったというゾルザルお抱えの奴隷商人を見つけ出
し、今も奴は帝都から実に北へ100km先の鉱山にてかなりの数の
奴隷を酷使させている。
しかもピニャ殿下配下の騎士による情報も日本人奴隷の1人がこ
こにいたという情報も挙げられた。
そこで同志ジェガノフは日本政府にロシア軍独自の奴隷商人一派
抹殺という報復実行を容認させ、新たに着任した増援部隊と表向きで
監視役として派遣された志乃も交えて目標の鉱山に近いセーフハウ
注目‼
﹂
スにて集まっていた。
﹁総員‼
われると聞いて彼女が目を輝かせながら
私も行く‼
私も行く‼
因みに何故彼女がいるかというと、ロシア軍による特殊作戦が行な
8を装備して最前列にいた。
女性兵士として参加する栗林も同じ装備とAK│12とGSh│1
カシュターニャ・レス︵ロシア語で栗と林︶という偽名でロシア軍
K│74M、SVUを手にしたスペツナズ隊員。
ブッシュハットを被ってAK│12やAK│12+GP│25、RP
を見に纏い、それぞれ水色ベレー帽かVKDOフィールドキャップ、
全員がM21デジタル迷彩服に同色の6sh105チェストリグ
まったヴァローナ隊員総数22名に号令を掛ける。
副官である先任軍曹のヴァローナ2ことユーリ・ヴィスティが集
?
と言いながら凄く強引に参加してきたのだ。
?
がそれを掲げると全員が同じようにウォッカを掲げ、一気に胃に注ぐ
とグラスを思い切り叩きつけて割った。
﹁同士諸君、鼠を網にいれた。予定に変更は無い、全て想定どおりだ。
313
?
俺たちは出撃前にウォッカが注がれたショットグラスを手にし、俺
?
現刻より状況を開始する﹂
俺の言葉に全員が一斉に耳を傾ける。
﹁勇敢なる同志諸君。 銀座での忌々しき虐殺により殺された2名の
民間人、ヴァチーフ・ジャスチェバフ及びシャミール・テオドル・
ベストゥージェフ=リューミンは我らの掛け替えのない大事な祖国
ロシア国民だった。そして奴等は彼等を殺害したことに飽き足らず、
マミーナ・シェスチェンコという同志を攫い出し、挙げ句の果て奴隷
にするという暴挙に及んだ﹂
シャミール・テオドル・ベストゥージェフ=リューミンという名前
を聞いて1人の隊員が涙を流し出し、隣の隊員が慰める。確か彼は犠
牲者の友人だったようで、ヴァローナ隊に志願したのも亡き友人の為
撃鉄を起こせ‼
‼
﹄
﹂
カラシニコ
?
﹂
掲げた。それを誇らしくみると俺は志乃に歩み寄り頭を少し荒々し
く撫でる。
﹂
もう暴れたくて仕方ない‼
﹁準備はいいようだな
﹁うん‼
?
んだ﹂
﹁心配ないわよハニー♪﹂
314
らしい。
同志諸君‼
﹁鎮魂の灯明は我々こそが灯すもの⋮⋮⋮亡き同志の魂で、我らの銃
は復讐の女神となる‼
‼
?
﹃ウラァアアアアアアアアアアアアアアッ‼
?
フの裁きの下、5.45ミリ弾で奴らの顎を食いちぎれ‼
?
俺がAK│12を高々と掲げると全員が一斉に雄叫びと共に銃を
?
?
?
?
﹁そうか⋮⋮⋮だが無理はするなよ。危険だと思ったらすぐに退がる
?
志乃は無垢な笑みを浮かべながらこちらを見る。普段の彼女は無
垢で人懐っこい、このように人前であっても甘えたがる猫みたいに甘
えてくる。
そして俺と志乃とユーリを先頭に部下達が後に続く。復讐心に満
ちたロシアの精鋭達の進撃は勇ましく、手にされたAK│12が黒く
輝いていた⋮⋮⋮⋮⋮。
315
Mission67:帰還する獅子
伊丹達がテュカの心を救い出すべく炎龍退治に向かってからすぐ、
見送っていたデュランは病室に戻る際に医務官に狭間陸将とシュ
ガート大佐、趙大佐、更に各国のアドバイザーを病室に来るように頼
み込み、ベッドで横になりながら全員を集めた。
﹁デ ュ ラ ン さ ん。私 が 連 合 特 地 派 遣 団 最 高 司 令 を 務 め て い る 狭 間 で
す﹂
﹁おお、よく来たな。儂がみなを呼んだデュランじゃ。忙しいだろう
が少しばかり付き合ってもらうぞ﹂
﹂
﹁構いません。しかし私達にあなたのことで話しがあると聞いており
ますが、如何なるお話でしょうか
﹂
﹁まぁ待て。最後の1人がまだ来ておらぬ。その者が来るのを待たれ
よ﹂
﹁あと1人ですか
﹁ちょっ⋮⋮⋮だから私はこれからイタリカへの商隊警護の打ち合わ
せに⋮⋮⋮⋮﹂
医務官に連れてこられたアルヌス警邏部隊軽装鎧を纏ったグラビ。
そして狭間陸将達が様子を伺う中で彼はベッドにいるデュランの姿
を見て動きが止まった。
﹂
それに対してデュランは表情を友人を迎え入れるかのような表情
でグラビに話し掛けた。
﹁⋮⋮⋮久しいな。少し痩せたようじゃが元気だったか
﹁陛下
﹂
﹁⋮⋮⋮あなたも⋮⋮⋮すっかり老われた⋮⋮⋮⋮⋮陛下﹂
?
て貰おう﹂
316
?
﹁失礼します。グラビさんを連れて来ました﹂
?
﹁あぁ⋮⋮⋮狭間とか言ったな⋮⋮こんな姿で悪いが改めて名乗らせ
?
陛下という単語に狭間陸将は戸惑うが、改めて名乗ろうとするデュ
ランはベッドで横になりながらも姿勢を正し、指導者としての力強い
表情に変えてから陸将達に話し出した、
﹂
﹁儂の名はデュラン。かつて帝国の隣国であるエルベ藩王国を束ねて
こ⋮⋮国王⋮⋮⋮失礼しました‼
いた国王だった男じゃよ﹂
﹁なっ⁉
﹂
国王陛下と知らなかったとはいえ、このような場
所におられてしまわれるなど誠に失礼致しました⁉
﹁とんでもない⁉
じゃ。気にする必要などない﹂
しまっているのだからな、それに端からみたら儂は虜囚のようなもの
﹁いやかしこまらなくてもよい。儂は其方等にかなりの借りを作って
横に振るった。
踵を鳴らして一斉に敬礼をする。だがデュランは片手で制して首を
デュランがエルベ藩王国の王だと言われ、狭間陸将達は慌てながら
?
﹁もう1つ、お主等に頼みたいことがある﹂
﹁もったいないお言葉で⋮⋮⋮﹂
れたことに感謝する﹂
儂の配下の生き残った兵達を助けてくれたこと、そして儂を救ってく
﹁まぁ冗談はさておき、今日お主等を呼んだのは他でもない。まずは
ませようとする。
デュランは戸惑う狭間陸将達に冗談交じりなことを言って場を和
がな﹂
を与えてくれたのだ。まぁ食事は味が薄いというのは不満じゃった
片足を失ったとはいえ、其方等は儂にこのような素晴らしい義手義足
﹁はっはっ⋮⋮⋮じゃから儂は気にしておらぬ。確かに敵対して片腕
?
?
317
?
﹁頼みたいこと⋮⋮⋮でしょか
﹂
﹂
かせば諸国が黙ってはおらぬ⋮⋮そういうことで動けぬのであろう
﹁しかし藩王国とはなんの交流もない故に軍は動かせない。下手に動
し前にダークエルフの女性が我々に救援を申し入れて来ました﹂
﹁⋮⋮はい。シュワルツの森にてダークエルフが全滅寸前となり、少
﹁うむ⋮⋮⋮藩王国にて炎龍が出没したという話は聞いておろう﹂
?
﹁なぜそれを⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁昨夜に儂が月夜を見るべく部屋を抜け出して、伊丹なる者から聞い
たのじゃ﹂
﹁伊丹がですか
復讐の鬼
とされる伊丹
とされる谷の3人組は
二重橋の英雄
ことエース、 海岸の獅子
そ ん な 連 中 が 現 地 協 力 者 と 共 に 単 独 で 炎 龍 退 治 に 向 か っ た の だ。
好国からも現代の3銃士とされている。
しかも各国の首脳達に良くも悪くもかなり注目されてもいるし、友
かなり有名で、一部からは3馬鹿と称されてもいる。
と
KOてもある連合特地派遣団の中で
狭間陸将、シュガート大佐、趙大佐は3人の行動に頭を抱えた。P
自行動権があるから文句はいえませんな﹂
武器の持ち込み申請をして来ましたが、おそらく炎龍退治に⋮⋮⋮独
﹁伊丹と谷が向かったということはクレイグも私物の車両持ち込みや
うという作戦計画書に目を通しましたが⋮⋮⋮あいつ⋮⋮⋮﹂
﹁そういえば谷が単身でエルベ藩王国との国境周辺の地形調査に向か
﹁なんと⋮⋮⋮﹂
と向かいおった﹂
﹁あやつはその炎龍を討つべく少し前に協力者と共にエルベ藩王国へ
﹁話だけならば聞いています。しかしなぜ陛下が⋮⋮﹂
イエルフを救い出したいが動けぬことに悩んでおってな﹂
﹁うむ。なんでも炎龍に同胞や家族を殺され、心に深い傷を負ったハ
?
頭を抱えても仕方が無かった。
318
?
﹁それで⋮⋮陛下が我々をここに呼んだ理由というのは⋮⋮﹂
﹁うむ。儂の生存が知れれば藩王国領主達は協力し、王太子より王国
を取り戻せようぞ。其方らに頼みたいことは儂をエルベ藩王国への
護衛を頼みたい﹂
﹁護衛ですか⋮⋮⋮しかし我々と王国とは何の交流も⋮⋮﹂
﹂
﹁百も承知だ。確かに今すぐは急過ぎて決定に戸惑うじゃろう。じっ
くり話し合って決断を下してもらえぬか
﹁⋮⋮⋮承知しました﹂
それから暫く話し合い、明日の夜に誰かを向かわせて返答をするこ
ととなった。
連合特地派遣団は伊丹、エース、谷という存在を中心に回り始めて
いることに狭間陸将達は感じ始め、デュラン陛下からの自国までの警
護依頼を本国に伝えて承諾か拒否かという話し合いをするのだった
⋮⋮⋮⋮⋮。
319
?
Mission68:馬鹿を救う決断
テュカの心を救う為、与えられた任務を桑原曹長に託すという形で
放棄。その考えを予想していたエース達と共に炎龍討伐に独断で向
かうこととなる。
このような暴挙は絶対に如何なる理由があるにしても許されるは
ずが無い。柳田に降格処分や僻地への左遷という可能性があるとい
う警告も振り払い、装備を返納した後にエースから貸し与えられた装
備を再装着してエルベ藩王国へと向かった。
一方で柳田も伊丹の正当性をでっち上げる為の理由を作り上げ、伊
丹の上司である檜垣3佐と自身の上司である今津2佐の承諾を得る
ことに成功し、同時に2人の考えや気持ちを聞かされた。
少し前にPXにて買い物をしていた檜垣3佐は泣きながら炎龍退
治を悲痛な表情で頼み込むヤオに対して何も出来なかったことと、人
は柳田を睨むように凝視するシュガート大佐に趙大佐、健軍1佐、加
茂1佐、住谷1佐、徳田1佐、キーア中佐、第3機甲戦闘団副師団長
ライトニング
の日系アメリカ人のジョーンズ・オオハラ少佐。
の白中佐に航空隊の神子田、久里浜、エメリッヒ、揚、海兵隊航空部
隊
更には各国のアドバイザーも集まっていて、柳田がなにをしたか
知っているから全員が柳田を睨む。しかし当人は全く理解が付いて
320
の可能性を示した伊丹達が羨ましいと聞かされ、今津2佐からは公に
は提案だが現地協力者で構成された特地資源調査隊を第5戦闘団の
偵察隊でできないかと実質は伊丹の逃げ道を示した。
⋮⋮⋮俺な
そして最後の署名が必要な為に柳田は狭間陸将の執務室に向かう
が、彼はそこで硬直することとなる。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
︶
︵な⋮⋮なんでこんな時に限ってお偉方が集まってんだ
にかヘマしたか
?
執務室にて柳田からの報告書に目を通す狭間陸将。そして部屋に
?
いなかった。
﹁伊丹とクレイグと谷達はなにを考えているんだ
﹂
﹂
連合特地派遣統合任務部隊最高司令部からの特地における
﹁それは表向きだろ
あのあたりには炎龍が確認されているし、伊丹
資源調査の重要性が伊丹2尉達の今回の理由となります‼
﹁はっ‼
?
の真の狙いはそこじゃないのか
﹂
﹁表も裏も伊丹2尉は資源調査、谷中尉は地形調査‼
は独自行動権を行使した両名の警護に同行しただけであります‼
﹁そうか⋮⋮﹂
?
?
?
﹁⋮⋮⋮らしいが諸君。どうするかね
﹁陸将の御心のままに⋮⋮﹂
﹁いつでもどうぞ﹂
﹁我々アメリカ軍も同じく﹂
﹁台湾軍もまた然りです﹂
﹂
加茂1佐
?
奴等を慕うのです﹂
﹁その通りだ諸君‼
あの3馬鹿を死なせてはならない‼
﹁はい。それに馬鹿だからこそ愛着が生まれる。だからこそみんなは
まい﹂
﹁馬鹿とはいえ大事な日本国民と同盟国民です。見殺しには出来ます
支える馬鹿が我々の中にもいたようだ﹂
は台湾を除いてほぼ皆無だ。どうやらそんな馬鹿をする者とそれを
﹁よろしい。我が日本は他国の戦争で他国の為に請われて戦ったこと
らば彼らは喜ぶでしょう﹂
﹁到着した第1即応混成火力戦闘隊も準備は完了しています。出撃な
?
実際はテュカを救う為だと察している狭間陸将。
冷や汗をかきながら考えた理由を述べる柳田に対し、伊丹の行動は
﹂
クレイグ中尉
CIAによればエルベ藩王国に何やら不穏な動きが見られるし、裏側
達と仲がいいエルフの少女に何があったのかは知っている。しかも
?
?
321
?
?
‼
﹂﹂﹂
住谷1佐‼
﹁﹁﹁はっ‼
﹂
備せよ‼
﹂
﹂﹂﹂
﹁﹁﹁了解‼
﹂
﹁健軍1佐‼
﹁はっ‼
﹂
﹂
それぞれ必要な戦力を抽出後、シラヌイとムラク
徳田1佐‼
﹂
﹁陸上部隊支援の為にヘリ部隊を待機させておけ‼
﹂
﹁了解‼
﹂
﹁神子田2佐‼
﹁はっ‼
﹂
﹂
趙大佐‼
航空支援を頼みたい‼
﹁了解‼
﹂﹂
﹁シュガート大佐‼
﹁﹁はっ‼
﹂
て現地支援を願いたい‼
﹁もちろんです‼
い‼
﹂
﹂
﹂
編成は任せる‼
モに続く新たな混成部隊を早急に編成し、あの3馬鹿の探査支援の準
﹁待機を命じる‼
?
?
?
必要ならば近接
持てる力を持っ
彼等の初陣に丁度良
﹁アメリカ軍および台湾軍にも協力を要請します‼
?
?
?
﹁航空隊はエルベ藩王国国境周辺の航空偵察実施‼
?
﹁陸軍のストライカーズも準備はできてます‼
?
?
?
?
?
﹂
﹁各国からのアドバイザーの皆さんにも助言役として同行願いたい‼
?
?
?
?
?
柳田は目の前で飛び交う命令に唖然となった。アメリカと台湾、更
には協定に署名した国々との間で確保した資源は均等に分け与えら
れるが柳田は少しでも日本に有利な状態に持って行きたいと策を練
り、ヤオを利用して日本しか動けない状況を作り出そうとした。
だが予想外でエースと谷も伊丹について行ってしまい、それにより
322
?
?
?
?
?
?
?
?
?
アメリカ軍と台湾軍も動けるようになった。
更に1番の予想外なのがあっさりと越境が決まってかなりの規模
の部隊が派遣確定。
しかも本土から試験導入として配備された16式機動戦闘車とM
シラヌイ
とストライカー戦闘旅団隷下第1中隊のM1126、
1128、CM│32の3両ずつで編成された第1即応混成火力戦闘
隊
第333機械科歩兵旅団第1大隊第2中隊のCM│33、中央即応連
ムラクモ
も伊丹達捜索の為に派遣されることとなった。
隊第1中隊の96式装輪装甲車B型で編成された緊急即応混成戦闘
隊
そんな虎の子部隊を動かしてまで伊丹達を支援しに行くといった
大盤振る舞いの状況で柳田は動かなくなってしまい、首脳陣達は意気
揚々と準備に取り掛かる。
﹁⋮⋮⋮こんなあっさりと越境できるならヤオを焚き付けないで普通
﹂
﹂
の越境許可も本土の承諾もその人物が名乗り出したからこそなのだ
よ﹂
﹁いっ⋮⋮⋮いったい誰なのでしょう
⋮⋮⋮⋮⋮。
柳田は狭間陸将から聞かされた名前に再び硬直することとなった
﹁⋮⋮⋮エルベ藩王国国王のデュラン陛下だ﹂
?
323
に進言した方がよかったような気が⋮⋮⋮﹂
実はある人物に会って来て欲し
﹁伊丹達が行動を起こさなかったら、あの方は名乗り出なかっただろ
う⋮⋮柳田2尉、特地語は使えるな
﹁あ⋮⋮⋮ある方
いのだが⋮⋮⋮まずは冷や汗を拭きたまえ﹂
?
﹁あぁ。今日の晩にこちらから人を送ると約束していてな、実は我々
?
番外編:スペツナズの進撃2
俺、アーロンとカシュターニャこと志乃を中心としたヴァローナ隊
による拉致被害者救出と奴隷商人一派抹殺が開始された。
作戦としたら主目的は見敵必殺。同志を奴隷にした外道野郎にな
んざ情けをかける必要なんざ全くないが、今回は被害者救出と奴隷解
放があり、今も奴隷達が雨夜の中で強制労働をさせられている。
奴隷達に与えられるのは奴隷服と鎖、手枷足枷、採掘に必要な道具
だけであり自由などは一切ない。しかも1日20時間は働かされて
休みは僅かな食事の時間と4時間の睡眠のみ。
あまりの過酷な環境下でかなりの割合で死者が出ているらしい。
食事もカビが生えたものや泥水なんかが大半で、中には土を食べざ
るを得ないものもいるらしいし、逆に商人一派は毎日贅沢な食事をし
ていると薔薇騎士団が教えてくれた。
だが同時に刑務所のような役割もあるようで、奴隷達の中には犯罪
奴隷もいて刑罰として死ぬまで働かせる刑罰の側面もあるようだ。
俺たちは22名のヴァローナ隊を2人1組に分け、6名の狙撃班は
採掘場を囲むように布陣。4名は脱出口の確保と同時に敵の唯一の
逃走ルートである山道に布陣してPKPを添えて待ち構えている。
残りはそれぞれ突入チームとして鉱山と商人一派の屋敷に突入を
仕掛ける手筈となっていて、俺と志乃も突入する為に屋敷に潜入して
いた。
﹁ヴァローナ01から全ヴァローナ突入チーム。状況報告﹂
︿こちらヴァローナ03。屋敷に潜入しました﹀
︿こ ち ら ヴ ァ ロ ー ナ 0 5。私 兵 詰 所 を 制 圧。私 兵 は 全 員 殺 害 し ま し
た﹀
︿ヴァローナ07から01。こちらも見張りの衛兵と貴族らしき男を
射殺。気づかれていません﹀
︿ヴァローナ19から報告します。脱出口を確保。そのまま現状を維
持します﹀
324
﹁了解だ。遭遇したカス共は容赦するな。ヴァローナ07は屋敷の爆
破準備に取り掛かれ。ヴァローナ03は合流してヴァローナ05は
予定通りの行動に移れ﹂
無線から部下達の報告に耳を傾け、志乃とともにサプレッサーを装
着させたCz│75とGSh│18を構えながら前に突き進む。す
ると通路の先に酒瓶を手に千鳥足になっている貴族がいた。事前情
報で今日はパーティの最中で、恐らく参加者だろうがかなり酒が回っ
ている。距離は3m。
こんな状態の奴に9mm弾は勿体無いと感じて俺はホルスターに
Cz│75を戻し、ナイフホルスターから仕込みナイフに入る弾道ナ
イフを取り出し、安全ピンを抜いて構え、照準を合わせるとトリガー
を弾いた。
強力バネで射出されたエッジは振り向いた酔っ払いの左目に命中
どうだ
﹀
る﹂
﹂
325
し、倒れる寸前で志乃が死体と酒瓶をキャッチし、物音がしないよう
にそっと降ろしたら、褒美代わりとして頭を撫でてやる。
撫で終わるとすぐにCZ│75を構え直し、宴会が行なわれてると
される部屋に向かう。幸いにも部屋の前には既にヴァローナ03こ
﹂
とユーリがAK│12+GP│25を手に待機していたからすぐに
わかった。
﹁先を越されたか
ません﹂
?
﹁ちょっと待ってくれレス⋮⋮⋮ヴァローナ01から05。そっちは
﹁ねぇねぇ。突入しないの
﹂
﹁全くです。貴族の馬鹿連中は今も宴会の真っ最中で誰も出てきてい
?
︿ラ ペ リ ン グ ロ ー プ に て 窓 縁 に 足 を 置 い て 待 機 中 で す。ガ ス で す か
?
﹁あぁ、窓から投げこめ。こっちも扉からプレゼントを投げ込んでや
?
︿了解です01﹀
﹁よし、ガスマスク装着﹂
突入準備に入るため、ポーチからガスマスクのGP│7VMを取り
出して被る。しっかりと機能しているか確認すると俺達は催涙ガス
手榴弾を取り出してから扉を僅かに開ける。
﹁投げろ﹂
短い指示で伝えると俺たちは扉から、ヴァローナ17は窓から内部
ゴホッ⁉
﹂
火事だ⁉
やれ‼
﹂
﹂
にガス手榴弾を投げ込んで3秒後に扉を蹴り開けてから突入した。
﹁ゴホッ⁉
﹁か⋮火事だ⁉
﹁情けをかけるな‼
?
﹁これがなんだか分かるな
只で済むと﹁うるせぇ﹂ぎゃあぁあああああ⁉
こんなことをして
﹂
?
?
﹁こ⋮⋮この儂はゾルザル様公認の奴隷商だぞ⁉
﹁そうだ。お前らが喧嘩を売ったアルヌスの連合軍だ﹂
﹁あ⋮⋮アルヌスの⋮⋮﹂
﹂
て再装填すると辛うじて軽傷だった男を掴んで銃を突きつけた。
やがて室内にいた連中は死に絶えたようであり、マガジンを交換し
マチェットを取り出して頭をかち割った。
もなく、こっちによろめきながら逃げて来た奴には背中に預けていた
中を射殺していく。貴族達はいきなりの攻撃で逃げ惑うが逃すわけ
俺達は脇溜めでAK│12とSAIGA12をぶっ放し、次々と連
祖国ロシアと日本に喧嘩を売ったんだ。
こいつらは自分達の欲の為だけに他人を虐げて来たんだし、何よりも
室 内 に 突 入 し た ら 煙 に 巻 か れ て 混 乱 し て い る 貴 族 達 と 商 人 一 派。
?
?
?
326
?
?
?
﹂
﹂
﹁お前と遊んでるほど俺たちは暇じゃないんだ。だから質問は短くさ
儂は知らん⁉
せて貰う。門の向こう側から攫ってきた人間は何処だ
﹁し⋮⋮知らん⁉
﹁ほ⋮本当に知らぬのだ⁉
?
確かにゾルザル様より門の向こう側から
﹁しらばっくれるな。さっさと白状しろ﹂
?
﹂
?
﹂
?
を抑えた﹂
﹁ま⋮⋮⋮まて⁉
殺さんでくれ⁉
﹂
金をやる‼
きな奴隷を好きなだけ連れてってもよい‼
なんじゃったら好
?
﹁こちらヴァローナ01﹂
やがて仕掛け終わると再び通信が入った。
せ、そこにそれぞれ起爆装置付きのテルミット爆薬を設置していく。
を奴の頭に撃ち込んだ。その後に死体を数カ所に分けるよう移動さ
命乞いする商人に耳を貸さず、額に銃口を向けると5.45mm弾
﹁ま⋮待て⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮⋮これは銀座で犠牲になった同志達の礼だ﹂
﹁初めから奴隷は解放するつもりだったからな⋮⋮⋮お前を殺してな
?
?
﹁了解だ良くやった⋮⋮⋮⋮聞き出す必要は無くなったな。管理名簿
ていました﹀
らしきものを発見しました。名前と監禁場所までしっかり管理され
︿強制労働中だった奴隷を解放。詰所を捜索した処、奴隷の管理名簿
ローナ11からヴァローナ01﹀こちら01だ。どうした
﹁だが何処に監禁されているか位は知っている筈だ。さっさと︿ヴァ
の販売や引き取りの交渉をしとっただけじゃ⁉
の奴らは受け取ったが奴隷の管理は部下に任せておったし、儂は奴隷
?
︿こちらヴァローナ19︵狙撃チーム︶、いい知らせが1つと悪い知ら
せが2つあります﹀
﹁いい知らせから﹂
﹂
327
?
?
︿マミーナ・シェスチェンコの弟を発見しました。生きてます﹀
﹁悪い方は
?
﹂
︿日本人拉致被害者は落盤事故により死亡が確認されたそうです﹀
﹁くそ⋮⋮間に合わなかったか⋮⋮⋮もう1つの悪い知らせは
達は約10分後﹀
﹁最悪だ⋮⋮⋮奴隷達はどうだ
﹂
︿武装した帝国兵が大量にこちらに向かってます。数は約500で到
?
﹀
﹁了解だ。出来るだけ急いでくれ﹂
﹁ねぇハニー。敵の特徴って分からないの
﹂
︿了解。西から敵が接近。こちらは15分後に到着する﹀
隊が接近している﹂
﹁ウィップラッシュ、これより第2回収地点に向かう。西から敵性部
︿いいぞ、はっきり聞こえる﹀
﹁ウィップラッシュ、ウィップラッシュ。こちらヴァローナ01﹂
俺は無線機を操作して回収チームに連絡を入れた。
収だがリスクが最も大きい。
予備は最後の手段であり、今いる場所にヘリを強行着陸させての回
ナイツの支援チームの1つが支援に駆けつけて回収してくれる。
第2回収地点は水路でアメリカ海軍が派遣したタスクフォース 出。
セーフゾーンに引き返し、そこから自衛隊が派遣したCH│47で脱
俺たちは作戦にて回収地点を3つに分けてある。本命は陸路にて
︿了解です﹀
﹁敵を可能な限り引きつけてから水路にて第2回収地点で向かう﹂
︿隊長は
支援班は人質の警護に就き、狙撃班は敵を足止めした後に合流せよ﹂
﹁了解だ。ヴァローナ02、03、04は俺と来い。05から14及び
るのが10人程﹀
︿60名程で子供が8人。既に監禁場所から出しましたが衰弱してい
?
いなく奴隷を買ったり売ったりしに来たんじゃないだろうし、わざわ
﹁完全武装した帝国兵が500人程ってこと以外は不明だ。ただ間違
?
328
?
ざ武装して大人数、しかも夜中に来る理由はない﹂
﹁ということは⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁奴隷問題を起こして尚且つここに門の向こう側から攫って来た民間
﹂
人がいて都合が悪い奴って言ったら
﹁ゾルザル⁉
﹁ヴァローナからウィップラッシュ﹂
ある川岸﹂
?
﹂
?
で持ち堪えてくれ﹀
﹁急いでくれ⋮⋮⋮⋮よし‼
移動するぞ‼
︿了解したヴァローナ。だが到着予定時間が更に5分掛かる。それま
速やかな脱出が必要となる﹂
﹁確かに言った。機動力があるなら逃げ切れる可能性に不安があり、
︿こちらウィップラッシュ、いま川岸といったか
﹀
﹁回収予定地点を変更する。新たな回収地点は炭鉱から300m先に
︿こちらウィップラッシュ、どうした
﹀
に少し不安があるので再びウィップラッシュを呼び出した。
くほど糞以下の外道野郎だ。だが500人だったら逃げ切る可能性
ゾルザルがどんな奴なのかは志乃から聞かされているが、聞けば聞
﹁奴等の狙いは証拠隠滅。他の奴隷共々拉致被害者を消すつもりだ﹂
?
?
に俺は罠の起爆装置を押した。
にして散開していく。そして帝国兵の1人がこちらを見つけた瞬間
それから暫くして門を騎乗した帝国兵達が突入していき、武器を手
として帝国兵が来るのを待ち構えた。
と共に罠を仕掛け、入り組んだ収容所のような監禁場所をバリケード
ヴァローナ05より上の隊員を護衛に就かせて俺は残った部下達
外してから全員を乗せていく。
隷商達が奴隷達を移送させる為の馬車が無傷であったので檻を取り
俺たちは敵が到達するまでに行動を完了させていく。幸いにも奴
?
329
?
その瞬間に目の前にいた帝国兵の最前列が爆風と共に消失し、屋敷
からもいきなり火災が発生。仕掛けたテルミット爆薬とセムテック
﹂
ス爆薬が起爆したのだ。
﹁攻撃開始‼
無線で合図を送ると敵兵に一斉射撃が開始された。なんの防弾対
策も出来ない帝国兵は次々と倒されていき、狙撃班もSVUにて次々
数が違い過ぎる⁉
﹂
とヘッドショットにて仕留めていくが流石に数が違う。
﹁まずい⁉
川
罠で奴等を仕留めるぞ
2人1組で建物やバリケードを活用して後退‼
﹂
MOH│50を仕掛けてこい‼
﹂
﹁撃ち続けろ‼
﹄
岸に向かうぞ‼
﹃了解‼
﹂
援護を頼みます‼
アメリカ式のタッチダ
?
?
﹁ユーリ‼
‼
﹁了解‼
﹂
ユーリの設置を援護しろ‼
ウンを決めさせてやれ‼
?
?
﹁準備完了‼
﹂
﹁志乃‼
﹂
志乃に預けてあった起爆装置を作動させ、前方から向かってきた帝
?
?
爆破‼
﹁了解‼
?
﹂
し、やがて一気に立ち上がってユーリが建物裏に隠れた。
そしてAK│12やRPK│74M、SVUやGP│25で援護
た。
MOH│50を手にして駆け出し、目標の手前でタッチダウンを決め
のは少し先にある作業用道具。ユーリは俺たちの援護を受けながら
ユーリに指向性対人地雷のMOH│50を準備させ、仕掛けさせる
?
﹁よし同志共‼
?
?
?
?
?
330
?
?
?
?
?
?
一気に川岸まで走れ‼
﹂
国兵に700個ものスチールボールが降り注いで一気に吹き飛ばし
た。
﹁いいぞ‼
く。
いま何処だ⁉
﹁ウィップラッシュ‼
﹂
あと少しだけ踏ん張れ‼
︿到着まであと2分‼
﹂
﹂
﹀
こっちは雑兵の群れとドンパチやってんだ⁉
﹂
﹁ぐあっ⁉
無事か⁉
ヴァローナ04被弾‼
﹁くそっ⁉
﹁ニコライ‼
﹂
?
﹁急げ‼
?
?
くそっ⁉
﹁肩に矢が刺さっただけです‼
﹂
﹂
気に駆け下りて川岸の溝に飛び込んで再びAK│12で発砲してい
敵が怯んだ隙を突いてスモークグレネードを投げ込み、そのまま一
?
?
奴等にロケットを見舞え‼
ボルゴノフ‼
?
﹁アンドレイ‼
?
?
できた、
まだか⁉
﹂
頭を下げろ‼
攻撃する‼
﹀
?
﹁ウィップラッシュ⁉
﹂
︿待たせたなヴァローナ‼
﹁全員伏せろ‼
?
?
通信で頭を下げた瞬間に向かって来ていた帝国兵が次々と木っ端
?
?
だがそれでも帝国兵の勢いは止まらず、矢が至るところに降り注い
風、金属片を撒き散らして帝国兵を吹き飛ばした。
1発は帝国兵部隊の足下、もう1発は建物に命中して辺りに瓦礫や爆
に備えて身を低くした直後に72.5mmHEAT弾が射出されて
いた使い捨て対戦車火器のRPG│22を構えさせ、バックブラスト
被弾した部下に駆け寄りつつ、ヴァローナ05と06に携行させて
?
?
?
?
?
?
?
331
?
?
?
?
微塵に吹き飛んでいく。川を見ると水飛沫を発しながらM134D、
Mk19 Mod3、M240Gにて攻撃を仕掛ける2隻のSOC│
Rで、アメリカ海軍にてそれを運用するSWCCだ。
そして1隻の援護を受けつつもう1隻が川岸に近付いて俺たちも
﹂
﹂
﹂
確認したら被弾したヴァローナ04を先に乗せ、俺も志乃に続いて最
後に飛び乗った。
﹂
死ぬかと思ったぞ⁉
﹁ギリギリだったな‼
﹁全くだ⁉
﹂
﹂
﹁間に合ったんだからいいじゃねえか‼
﹁名前は大尉‼
﹂
まずはこっから逃げ出すとするぞ‼
﹁ルイス・メディナ・シデン‼
﹁アーロンだ‼
﹁自己紹介はあとだ‼
﹂
パッケージ回収成功‼
敵にぶつけながら来た水路を引き返し、帝国の追撃を振り切る。流石
に水路を素早く移動できるSOC│Rは追撃不可能であり、敵は恐ら
く失敗の責任をゾルザルに取らされると考えて震えてるだろう。
ここでの任務は完了した。日本人拉致被害者を救出出来なかった
ことは残念だが、マミーナ・シェスチェンコの弟を救出できただけで
も良しとしよう。
疲 れ て 眠 る 志 乃 を 俺 に 寄 り 掛 か ら せ な が ら 俺 も 眠 る こ と に し た
⋮⋮⋮⋮⋮。
332
﹁頼む‼
﹂
ウィップラッシュだ‼
﹁全員搭乗確認‼
﹂
HQ‼
﹁よし‼
帰還する‼
?
俺たちの搭乗を確認したウィップラッシュはありったけの火力を
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
Mission69:流れるは涙と謝罪
﹁神よ⋮⋮⋮天地を支えし使徒よ。この身を供儀として祭祀の炎をく
べる﹂
アルヌス街にあるフォルマル伯爵家の連中が住む団地、その角にあ
る部屋にて1人の女性が儀式をしていた。茶色の髪と毛並み、その綺
麗な肌に模様を描いたヴォーリアバニーの女性で名前はデリラ。
彼 女 は フ ォ ル マ ル 伯 爵 家 か ら 連 合 の 要 請 を 受 け て 同 じ メ イ ド の
ドーラ、メルティエ、シーヴァ、そして親友であるグリーネと一緒に
アルヌスに派遣されたが、彼女には裏の顔があった。
それは連合の動向を探る為の密偵だ。
彼女としては凄く恩がある連合を騙すようなことで心苦しいが、自
身も日本語や英語を学ぶ必要性があったので任務を受諾している。
好奇心が旺盛な彼女はすぐに日常会話レベルまで不慣れながらも
学習し、年頃の女の子と同じく化粧にも興味を示し、今はロシア語と
台湾語、更には客で来てくれたベトナム軍アドバイザーからもベトナ
ム語を教えてもらい、中々の語学力を発揮している。
だが今の彼女は密偵として伯爵家より送られた指令を遂行しよう
としていた。
﹁戦いの神エムロイ⋮冥府の王ハーディ⋮盟約の神デルドート⋮復讐
の神パラパン⋮守護の女神ドリアーナ。あらゆる恐れ、慈愛、迷いか
ら我を守り給え。この身はこの時より敵たる者の命を奪う剣となら
ん。赤き血を受けてただ錆びゆく鋼となりしも、忠誠を誓いし我が魂
は不滅不変なり﹂
デリラは自身の愛刀である大型のククリにあたるヴォーリアソー
ズを掲げ、神々に誓いを立てていた。
彼女達ヴォーリアバニーは代々激しやすく淫乱な種族だと年代史
に記されてきていたが半分は当たっている。
333
かつて彼女達の国があった大陸北部の平原では毎日のように部族
同士で戦っていた。
更に彼女達には何故か男が滅多に生まれない。いるにはいるのだ
が1,000人に1人いればかなり高い確率になってしまう程までに
少ない。
その中で運のいいヴォーリアバニーは男とつがいとなり、純血種の
子を産む女王となる存在で、その時に王国を率いていたのはテューレ
だ。
﹁⋮⋮⋮テューレ⋮⋮貴様の命をハーディに引き渡し、貴様の血を大
地に吸い込ませるまで⋮⋮あたいは死なない。それが喩え、連合や伯
爵家から裏切り者とされても⋮⋮あたいは絶対に死なない﹂
彼女がそこまでして復讐を果たそうとするのは今から3年前にあ
る。
彼女の国に帝国の大軍が宣戦布告もなしに侵攻⋮⋮⋮高値で売れ
るヴォーリアバニーに奴隷狩りに来た。
勇猛果敢で一粟の3大戦士とされるデリラ、グリーネ、パルナを筆
頭に次々と攻め込んできた帝国兵を殺害していくが、数に押されて最
終的に本拠までに雪崩れ込まれた。
そして籠城を選択した彼女達に衝撃的な者を帝国は見せ付けた。
それこそが女王テューレの戦衣だ。
戦 意 を 消 失 し た ヴ ォ ー リ ア バ ニ ー は 奴 隷 に さ れ、抵 抗 を 続 け た
ヴォーリアバニーも皆殺しにされてデリラの母親も首を刎ねられた。
帝国兵の追撃を逃れ、テューレに復讐を誓った彼女達はパルナが途
中で挫けるも、フォルマル伯爵家当時当主のコルトに助けられ、他の
ヴォーリアバニー達と共に貧しいながらも安住の地で暮らせた。
そんな彼女が絶対に果たそうとするテューレへの復讐。親友であ
るグリーネとウィリアムにより救い出されたパルナが寝静まった夜
に音を立てずに連合派遣団のアルヌス病院に忍び込み、そこでタバコ
を吸いながら虚無の目をしている紀子を見つけた。
334
彼女のやろうとしていたこととは不可解な命令であったが望月 紀子とマミーナ・シェスチェンコを暗殺することだった。だがマミー
ナは既にロシアに送られていて、目標となるのは紀子のみとなる。
そして帰ってこられたが帰る場所も待っている人も無くなった紀
子は自暴自棄となっており、一種の精神障害に陥っていた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮いっそ死んじゃおっか⋮⋮﹂
﹂
﹁そっかぁ⋮⋮あんた死にたかったんだ﹂
﹁誰
手伝ってあげるよ﹂
死にたくない奴を殺すってのは気が引けてた
死のうという言葉を聞いて、デリラは彼女の前に姿を現わす。
﹁あんたが紀子だよね
んだけど、死にたかったんならいいよね
﹁⋮⋮⋮そっか﹂
﹁どっち
⋮⋮痛いのはやだなぁ﹂
べく痛くないようにするからね⋮⋮﹂
﹁ごめん⋮⋮ホントにごめん⋮⋮ちょっと痛いかもしれないけどなる
とっては嫌なことだ。
明るい。無抵抗な奴を手に掛けることに痛みを知っているデリラに
ラの本心はこんなことはしたくなかった。面倒見がよくていつでも
死を受け入れようとする紀子にデリラは剣先を突きつけるが、デリ
?
?
﹁⋮⋮⋮ぷっ﹂
﹂⁉
﹂
?
﹁わ⋮⋮笑わないでよ﹂
‼
?
﹁今のあなたってなんだかテューレさんみたい﹂
﹁⋮⋮⋮⋮いま⋮⋮なんて⋮⋮﹁何をしている‼
?
死にたいって奴が狩る相手だなんて思ってもなかったし⋮⋮⋮﹂
﹁ええ⋮⋮⋮⋮困ったなぁ⋮⋮痛くない殺し方なんて知らないし⋮⋮
?
335
?
紀子からテューレという名前を聞き、彼女に問いただそうとした矢
先、いきなり誰かに叫ばれてデリラが武器を構えながら振り向いた。
そこには9mm拳銃2型を構えている柳田がいた。彼は狭間陸将の
指示で入院していたデュランとの交渉を終えたばかりで、今回のこと
に鉢合わせしたということになる。
だがデリラにとって見られたからには排除するしかない。
柳田からの銃撃をかわしながら、、デリラは剣を振り下ろして仕掛
けるが回避され、柳田の前蹴りも回避して距離を稼いだ。
その瞬間に銃声を聞いて辺りが騒がしくなり、笛と共に武装した台
湾軍憲兵隊が迫って来ている。
この状況で紀子を暗殺することは不可能。ならばデリラに残され
た道は柳田を排除して逃げるしかない。
﹁⋮⋮⋮ごめん﹂
くそっ⁉
﹂
?
﹂
﹂
﹂
﹂
て全てを撃ち尽くして意識が無くなろうとした瞬間、柳田が見たのは
止血だ止血‼
応急処置したら直ぐに搬送しろ‼
悲しみに満ちたデリラの顔だった。
﹁急げ‼
﹁出血が酷い⁉
?
しっかりしてください‼
?
?
デリラさんの血液型とカルテを調べろ‼
柳田2尉‼
?
﹁輸血の用意だ‼
﹁2尉‼
?
?
?
336
一気に勝負を決めるべく柳田に仕掛け、照準を合わせる一瞬の隙を
くそっ⁉
突いて柳田の懐に飛び込み、そのまま剣を彼の左腿に突き刺した。
くそっ⁉
?
﹁がっ⁉
?
痛みに苦しみながらもデリラに至近距離から発砲する柳田。そし
?
?
?
﹁デリラさん‼
デリラさん‼
﹂
?
気をしっかりしてデリラさん‼
﹂
?
だが連合派遣団の一員と紀子が襲われたことはアルヌス中に広がり、
そ れ か ら 集 中 治 療 室 に 運 ば れ た 柳 田 と デ リ ラ は 何 と か 助 か っ た。
ことをしてしまったことを悔やみ、涙を流しながら謝罪している。
デリラは意識が無くなろうとしている中でも、自分が柳田にあんな
﹁ごめん⋮⋮⋮ごめん⋮⋮﹂
﹁しっかり‼
﹁ごめん⋮⋮柳田の旦那ぁ⋮⋮ごめん⋮⋮なさい⋮⋮﹂
び込む。
に意識不明の柳田と辛うじて意識があったデリラを集中治療室に運
銃声を聞きつけた台湾軍憲兵隊の通報を受けて連合医療隊は直ぐ
?
連合派遣団も躍起になって調査を開始するのだった⋮⋮⋮⋮⋮。
337
?
Mission70:CIA
望月 紀子暗殺未遂⋮⋮⋮連合特地派遣団の怒りをかうには十分
すぎるものだった。しかも暗殺を阻止する形で柳田は今も意識不明
であり、暗殺を実行したデリラを騙したことに対してもだ。
翌朝からすぐに台湾陸軍憲兵隊と警務隊、アメリカ軍治安維持部隊
による調査が行なわれ、デリラが働いている食堂や同僚、更には住居
にも捜索のメスが入れられている。仲間を傷つけ、デリラを騙したク
ソッタレに復讐することこそ彼等の願いだった。
そしてデリラの部屋を捜索していてから事態は好転した。
部屋にあったのは1枚の手紙で、望月 紀子を暗殺するよう指示を
出した指令書だということが判明したが一番の注目すべきものは指
令書の右下にあった。
イタリカを統治しているフォルマル家の紋章だ。
コルト様の書斎には誰でも入るこ
ているのです。これ以上痛めつけられたくなければ本当のことを仰
断じて私ではない‼
338
そのことを受けた狭間陸将達はフォルマル家と交わした条約に従
い、暗殺に関わっている可能性があるイタリカに即応部隊を派遣して
イタリカを閉鎖。ミュイ達を一時的に拘束して街のあらゆる門を閉
鎖して首謀者逃亡を食い止める。
そして事態は最悪の方向に進もうとしていると感知したメイド長
﹂
のラムは派遣されたハイデッガー率いるエコーチームを案内してイ
タリカの地下牢にいた。
﹂
﹁はぁ⋮はぁ⋮⋮し⋮知らん⋮⋮信箋の横流しなど⋮⋮あぐっ⁉
﹁⋮⋮ミュイ様の前でも同じことがいえるか⁉
?
﹁バーソロミュー、貴方が当家の信箋を横流ししたことは調べがつい
?
ピニャ殿下も滞在中に利用していたではないか
?
いなさい﹂
﹁知らん‼
﹂
とが出来るのだ⁉
⁉
?
?
﹁確かにそうです。しかし伯爵家の公印だけはバーソロミュー⋮あな
?
たが管理していましたね
﹂
地下牢には椅子に縛り付けられ、怒り心頭のペルシア、マミーナ、ア
ルヌスから海兵隊のCH│46にて帰ってきたグリーレとパルナに
フォルマル家執事長のバーソロミューが痛めつけられていた。
バーソロミューの言う通り書斎には誰でも入ることが出来る。気
付かれずに簡単な指令書を発行して不正を働くことも出来るが、伯爵
家による正式なものなら話は別だ。
信箋は伯爵家の存在を対象者に証明させる非常に重要度の高い超
一級品の宝物とさえされており、過去においては三国志時代の玉璽が
分かりやすい。
これ1つあれば私兵部隊を誰にも察知させずにクーデターに参加
させたり、不自然がられずに高級階級者を失脚させたりと奪われたら
やりたい放題となるもので、管理を任されているのは当主以外で従事
している者の中で最も位の高いもの⋮⋮⋮つまりフォルマル家にお
いてはバーソロミューしか信箋を使用できないのだ。
私達がやる‼
﹂
ある意味で宝石よりも値打ちがある宝物だ。
﹁ペルシア代われ‼
?
を叩きつけた。
﹁お前のせいでデリラが⋮⋮デリラが‼
﹂
﹁殺す⋮⋮よくもデリラを騙し、あんなことを‼
﹂
私達は疑われているのです‼
?
﹂
こいつは私達の仲間を騙して連合に危害を加えさせた‼
﹁おやめなさい3人共‼
﹁しかし⁉
﹂
げてグリーレが顔を何度も殴り、パルナもまた痛めつけると石柱に奴
ミーナが蹴り飛ばし、壁に叩きつけられたバーソロミューを吊るし上
ミーナ、グリーレ、パルナが一気に距離を詰めてバーソロミューをマ
同僚であり友達だったペルシアが再び殴り掛かろうとしたら、マ
?
339
?
?
?
?
?
?
いっそ殺して首を差し出した方が⁉
?
﹁メイド長、もう結構だし非効率的だ。時間の無駄だよ﹂
怒り心頭のマミーナ達を冷静にさせた直後、複数の証拠を手にした
ハイデッガーと彼の部下達が入ってきた。
﹁この男の身柄は我々に任せて頂く。容疑者であるあなた達なら口封
﹂
じをしかねないのでな⋮⋮﹂
﹁そんな⁉
﹂
﹂
?
﹁なぜ指を隠すんだ
明できるぞ﹂
自分が無実なら何の問題もないし、何よりも証
を作って指紋を隠してしまう。
跡があったと聞かされたバーソロミューは体を震わせて握りこぶし
ハイデッガーがそういうと部下のキムがインクを取り出した。痕
け取ったデリラのものだったが、残りの青丸と黒丸は誰のかな
つ人間は2人といないもので、さわった個人を識別できる。赤丸は受
が見つかってな⋮⋮それも3種類。この指紋ってのは同じ模様を持
﹁だったらよく見な。指令書を調べたら指紋という触った者の指の跡
﹁あ⋮⋮当たり前だ。便箋を横流しするなど⋮⋮⋮﹂
のだな
﹁Mr.バーソロミュー、あんたは本当にこの指令書に見覚えがない
証拠である指令書を突き付けた。
ハイデッガーがそういいながら痛めつけられたバーソロミューに
﹁便箋が出た時点で容疑者になったのです。致し方ないです﹂
?
﹁ちぃ⋮⋮まどろっこしい⋮⋮⋮グリーレ、パルナ。すまないがこい
﹁私ではない⋮⋮私では⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮いい加減にして指を出せ。さもなきゃ腕ごと切り落とすぞ﹂
﹁わ⋮⋮私ではない⋮⋮﹂
?
340
?
私ではない⁉
つの腕を押さえてくれ﹂
﹁ま⋮待て⁉
私ではない⁉
﹂
?
﹁ち⋮⋮⋮違う⋮私ではない⋮⋮⋮⋮私では⋮ない﹂
﹁⋮⋮⋮いい加減にしろよ⋮⋮仲間を傷付けたクソが‼
?
﹁ぎゃあぁああああああっ‼
﹂
に比べたら微々たるもんなんだよテロリストが‼
﹁や⋮⋮やめ⋮⋮﹂
﹂
だがな⋮⋮⋮貴様の痛みなんざ柳田やデリラが受けた傷
⁉
ナイフを取り出し、押さえつけられたままの右手に突き刺した。
あまりにも往生際が悪いバーソロミューにハイデッガーは腰から
﹂
﹁やはりな⋮⋮⋮残念だよバーソロミュー。完全な黒だったようだ﹂
重ね合わされて調べたが、結果は黒丸の指紋と合致した。
ロミューの指を無理やり開けさせて、何とか指紋を採取した。すぐに
デッガーはグリーレとパルナに取り押さえさせ、キムが暴れるバーソ
なかなか指紋を取らせないバーソロミューに対して苛立ったハイ
?
?
⁉
﹂
やめろぉお⁉
?
﹂
﹂
﹂
誰の指示で暗殺指令を出した⁉
やめてくれ⁉
首謀者は⁉
?
様の頭に銃弾が撃ち込まれてたんだからな‼
﹁ぎゃあぁあ‼
﹁だったら吐け‼
⁉
?
?
?
ロリストの貴様に人道的対処は適応されはしないんだ‼
﹁ぎゃあぁああああああっ‼
?
を取らせんじゃねえ﹂
﹁わ⋮⋮⋮⋮分かった⋮⋮言う⁉
言うからやめてくれ⁉
﹂
?
をしていく。あまりの痛さに耐えかねたバーソロミューが自白した
そのまま抉るようにナイフを動かし、バーソロミューに対して拷問
?
﹁こっちはなぁ⋮⋮お前と遊んでるほど暇じゃないんだ。だから手間
?
テ
﹁まだ俺だったから良かったんだ⋮⋮⋮クレイグ中尉だったら今頃貴
?
﹁痛むだろ
?
?
?
?
?
341
?
?
のはすぐだった。
それによるとバーソロミューは多額の借金と女癖の悪さ故行った
横領をばらすと脅迫され、望月 紀子の暗殺指令ををデリラに下した
公印付白紙便箋を主犯に渡したようだった。自白後ただちにイタリ
カ封鎖は解除されてミュイも解放された。
事情を説明してすぐに台湾憲兵隊とイタリカ守備隊による首謀者
拘束の為に宿に突入したが一歩遅く逃げられた後だった。
捨て駒だったバーソロミューはフォルマル家を陥れようとした罪
により斬首が可決され、数日後には断頭台にて刑が執行された。
諜報部の調査により首謀者の可能性が最も高いのは帝国皇太子ゾ
ルザルであるという結論に達し、暗殺失敗と連合外交団の帝都訪問と
いう情報を敢えて流し、情報の流出先を突き止めることとなった。
そしてその役割は帝都に潜伏している第3偵察隊とタスクフォー
ス ナイツが中心となり捜査される⋮⋮⋮⋮⋮。
342
Mission71:料理人のスパイ
帝都にて再び諜報活動を行い始めた第3偵察隊はすぐにリーパー
隊の面々と合流。別任務で栗林と古田はすぐタスクフォース ナイ
ツに一時配属となり、栗林はスペツナズのヴァローナ隊と共に特定さ
れた拉致被害者の救出と奴隷商人への報復。
そして古田も黒衣隊の劉大尉と共に貴族⋮⋮しかも料理に対して
﹂
﹂
妥協を許さないゾルザルが主催する無礼講の会場に料理人として潜
入し、会場の厨房にて料理を振るっていた。
﹁マ・ヌガ肉の香草焼き上がったよ﹂
揚げ物追加でお願いします‼
﹁はい、スープが出来たぞ。早く持っていってやりな﹂
﹁すみません古田さん‼
﹁あいよ。少し待ってくれ﹂
?
すぐ作るから待って貰ってく
貴族の方々が貝料理を気に入られたから追加して‼
仔︵牡蠣のモロミ炒め︶だな
?
?
の2人の共通点は非常に腕がいい一流料理人ということで、特に古田
は自衛隊入隊前は実際に料亭で職人をしていた。
劉も古田程ではないにしても店を出しても十分に通用する程の腕
前を有している。
﹁しかし貴族の連中⋮⋮よく食べますね﹂
﹁料理人としては気に入ってくれて嬉しい限りだが、目的はゾルザル
に近付くことだ。今回の無礼講は奴が主催してるから接触には絶好
のチャンスだ﹂
﹁分かってます。けど独裁性の強い奴が料理には煩く、しかも実際に
料理もするなんて⋮⋮⋮﹂
﹁意外性が強過ぎるな﹂
343
﹁劉さん‼
﹁蔭鼓
れ﹂
?
?
給仕役からオーダーを聞き、次々と料理を作っていく古田と劉。こ
?
これまでの調査でゾルザルに関することは判明しているが、特に注
目したのが奴もたまにだが料理をすることだった。
腐っても奴は帝国の重鎮であり職務はこなしている。それ故にデ
スクワークで忙しくて簡単な料理ならば自分で作るらしいし、一時期
は自身の作った料理を配下の人間に振舞っていた。そんな奴が対象
ならばならこの世界にて存在しない日本料理と台湾料理に食い付く
はずだ。
仔を作っている。
因みに今は現地の食材で代用して古田が和食の天麩羅、劉が台湾の
伝統料理である蔭鼓
そんな状態で料理をしているとホールに続く階段から誰かが降り
て き て マ・ヌ ガ 肉 を 焼 い た の は 誰 だ と 尋 ね て き た。振 り 返 っ た ら
テューレを引き連れているゾルザルだ。そしてゾルザルは2人を見
つけるとそのまま歩み寄ってきた。
﹂
﹂
﹂
﹂
2人は無意識に腰に隠しているGlock26に手を伸ばしてい
た。
﹁ばれたか
﹁⋮⋮⋮はい﹂
?
﹁お気に召しませんでしたでしょうか
﹂﹂
﹁そうか⋮⋮⋮探したぞ‼
﹁﹁えっ
?
?
話し始める。
﹂
﹂
?
少し前に顎を怪我したんだが、
﹁前に妹のピニャの宴席で料理をしていたであろう
﹁えっ⋮⋮は⋮はい‼
﹁俺はあの味が忘れられないんだ‼
?
?
344
?
﹁お前達があの料理を作ったのか
﹁分かりません⋮⋮﹂
?
そういうとゾルザルは2人の肩に手を置き、凄く嬉しそうな表情で
?
﹂
あのマ・ヌガ肉の焼き方といい、あのマスタードというソースは今ま
で食べた事がない位に柔らかいし美味かったぞ‼
﹁それは⋮⋮大変だったようで⋮⋮﹂
その怪我をさせたってのが自分達の仲間だということに気づかず、
素直に料理を讃えるゾルザル。
﹂
﹂
なにせあんな美味
だが料理人として称えられるっていうのは悪くはないと思ってた
﹂
名前はなんて言うんだ⁉
りしている。
﹁お前達‼
﹁じ⋮⋮自分は古田といいます‼
﹁私は劉。古田の相棒です﹂
﹂
﹁古田と劉か⋮⋮⋮お前達には感謝しているぞ‼
い料理を出してくれたんだからな‼
﹁あ⋮⋮ありがとうございます﹂
﹁そこでだ⋮⋮お前達は既に何処かの店で働いているのか
﹁そうか‼
﹂
だったら俺の処で料理人をしてくれ‼
用で抱えの料理人共も納得するだろうからな‼
﹂
明日の昼に屋敷まで来てくれ‼
﹁よろしいのですか
﹁あぁ構わぬ‼
﹂
お前達なら即採
?
いいな⁉
?
?
?
?
?
﹁あれは⋮⋮⋮﹂
﹁あ ん た の 隊 長 か ら の 報 告 だ っ た か
ゾルザルに付き従っている
そうに料理を持って行ったゾルザルの後を付いて行った。
しているテューレだ。対してテューレは軽く古田と劉を睨むと嬉し
パーティ用とまではいかないが奴隷にしてはしっかりした服装を
性に視線がいった。
ホールへと戻っていく。すると古田はゾルザルに付き従っている女
そ れ だ け 早 口 で 告 げ る と ゾ ル ザ ル は 出 来 上 が っ た 料 理 を 持 っ て
?
345
?
﹁い⋮⋮いえ⋮⋮⋮各地を旅しながら料理を振るっています﹂
?
?
?
?
?
?
?
ヴォーリアバニーの女性がいるって⋮⋮あいつがそうだろうな﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁どうした
﹂
?
﹂
?
﹂
﹂
?
に近付く絶好のチャンスを得られた古田と劉はすぐに新田原に報告
小声で話すと怪しまれないように料理を再び作り出す。ゾルザル
﹁そこまでは分からん。一応は伯に調べさせておこう﹂
﹁一体なにに復讐を
﹁俺は戦場で何度もあんな目を見たが⋮⋮⋮あれは復讐の目だ﹂
﹁大尉
をつけた方がいいだろう﹂
﹁隠すな隠すな♪⋮⋮⋮だがあのヴォーリアバニー⋮⋮分からんが気
﹁ち⋮違いますよ⁉
﹁はははっ⋮⋮一目惚れか
﹁い⋮⋮いえっ⋮⋮⋮なにも⋮⋮﹂
?
し、次の日の昼にゾルザルの屋敷に向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
346
?
Mission72:炎龍再び
テュカの心は徐々に壊れていっていた。俺を父親だと思い込んで
いる状態でM│ATVを運転してるんだが、急がないと本当に壊れて
しまう。
だから俺たちはヤオの案内を受けて炎龍の巣を知っている仲間が
隠れているというロルドム渓谷に向かうこととなった。
森というより樹海、ギアナ高地みたいなシュワルツの森を迂回して
次の日の朝、遂にロルドム渓谷に到着した。
﹁ここがロルドム渓谷かぁ⋮⋮⋮シュワルツの森がギアナ高地だった
らここはグランドキャニオンみたいだ﹂
﹁対空監視を怠るな。ここは炎龍の縄張りなんだからな﹂
﹁あぁ、RPG│7をいつでも使えるようにしておくさ﹂
347
﹁すまないがここで待っていてくれ。到着を知らせて荷物持ちを数人
﹂
ほど連れてくる﹂
﹁逃げるなよ
﹂
カがM│ATVから降りてきた。
﹁よぅテュカ。よく眠れたか
﹁うん♪とっても♪﹂
﹁テュカ、少し寝癖がついてるわ﹂
隠れ里だよ﹂
﹁シュワルツの森の先にあるロルドム渓谷って所だ。ダークエルフの
?
?
﹁ありがとうミオ。それでここどこ
﹂
把握を兼ねた対空監視をしているとレレイの魔法が解けたのか、テュ
M4A1+M320A1を肩に担いで、帰ってくるまでの間に地形
て谷底にはかなり急な川が流れているみたいだ。
やっぱり心を許してないようだ。谷もルフスと共に谷底を覗いてい
M 6 0 軽 機 関 銃 を 担 い で ヤ オ を 睨 む エ ー ス。マ シ に は な っ た が
?
﹁やっと着いたんだ
ろ
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
あのダークエルフを降ろせるわね﹂
ダークエルフってのも確か希少
﹁伊丹、適当にごまかすしか無い⋮⋮⋮⋮さぁ⋮なんでだろうな
﹁外敵から身を守るためじゃないか
?
﹂
﹂
種らしいから奴隷狩りを逃れるためとか⋮⋮﹂
﹁そうなのかな
﹁多分だがな⋮⋮⋮⋮⋮んっ
?
﹁谷⋮⋮誰かに見られている﹂
﹂
﹂
﹁ミオ、位置は分かるか
﹁⋮⋮⋮⋮後ろです‼
?
﹂
勢を整えた。
﹁動くな‼
﹁お前達何者だ⁉
﹂
51mmNATO弾仕様を構えて臨戦態
×
この渓谷に如何なる用だ⁉
?
0E4、ACR 7.62
もちろん俺とエース、谷もそれぞれM4A1+M320A1、M6
ルフスとロゥリィ、レレイもハルバートとデスサイズ、杖を構えた。
位置を突き止めたミオはすかさずフランキスカを取り出して構え、
?
﹂
﹁緑がほとんど無い⋮⋮⋮なんでこんな場所にわざわざ住んでるんだ
﹁どうしたんだ
﹂
そういいながらテュカも谷とルフスと一緒に谷底を覗いき始める。
?
多分は炎龍を警戒していた一団だろう。
姿はない。
ルフの集団だった。最初はヤオが連れてきたのかと思ったがヤオの
岩陰から現れたのは弓を構えてこちらに鏃を向けているダークエ
?
?
348
?
?
?
?
﹂
﹁なにしやがんだ⁉
﹂
?
さもなきゃ射殺するぞ‼
さもなくば射抜くぞ‼
﹁武装を解除しろ‼
﹂
﹂
﹂
﹁てめぇ等こそ武器を捨てろ‼
﹁⋮⋮⋮⋮⁉
﹁どうしたミオ
﹁まずい⋮⋮⋮来ます‼
?
﹁⋮⋮⋮炎龍⁉
﹂
をあげたことでそれが何かわかった。
﹂
ので呆気に取られたが食らいついたダークエルフを噛み切り、雄叫び
エルフの上半身に何かが食らいついた。あまりにもいきなりだった
ミオが何かを察知した矢先に呉鉤を手にして近付いていたダーク
?
?
﹂
制圧射撃‼
たテュカを捉えてしまった。
﹂
こんな時に⁉
やられるぞ‼
?
﹁逃げろテュカ‼
﹁くっそ⁉
﹁動くんだテュカ‼
﹂
く弾かれてしまう。そして隻眼となった右目が恐怖で動けなくなっ
いきなりの炎龍出現によりダークエルフも弓矢を射掛けるが虚し
?
﹁ハアァアアアアッ‼
ハッ‼
﹂
?
に浴びせる。
法を使って怯ませる。だが回避したら飛び立ってブレスをロゥリィ
炎龍の顔にロゥリィがハルバートで一撃を食らわせて、レレイが魔
?
べくゆっくりと近づくが、いきなり炎龍の身体が揺れた。
すぐ炎龍の顔に銃撃を加える俺たち。だが炎龍はテュカを捕食す
?
?
?
349
?
?
?
?
?
?
﹁シィッ‼
﹂
だがブレスをルフスがデスサイズで薙ぎはらって打ち消してロゥ
﹂
リィへの直撃を無くした。
﹁アォオオオオオッ‼
﹂
M79を奴の顔にぶち込んでやれ‼
﹂
だがまずは奴を地面に引きずり下ろさなきゃ直撃は難し
3人を援護しろ‼
とには成功した。
﹁谷‼
﹁了解だ‼
﹂
﹁とにかくぶっ放せ‼
いぞ‼
?
﹁よく見ろテュカ‼
あいつが炎龍だ‼
﹂
お前の村を焼き払い、父親
お前の父親の
だってお父さんは死んでない⋮⋮⋮だってお父さん
とお前の仲間を殺した仇の炎龍だ‼
﹁う⋮⋮嘘よ⁉
?
俺は伊丹 耀司‼
?
はここに⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁俺はお前のお父さんじゃない‼
⁉
?
?
中、俺はテュカの顔を炎龍に向けさせていた。
エースと谷もそんな3人を援護をする為に引き続き射撃を加える
?
が投擲。直撃はしなかったが顔への攻撃を嫌がる炎龍を怯ませるこ
狼の雄叫びを上げながらフランキスカを炎龍の右目目掛けてミオ
?
?
?
?
?
ホドリューじゃない‼
﹁‼
?
﹂
ていた混乱が一気に表面に現れてしまった。
いやぁああああっ⁉
?
﹁いやっ⁉
?
350
?
?
?
?
父親じゃないことを俺は明かした。だがテュカは今まで抑えつけ
?
﹂
﹂
じゃあ私のお父さんは何処よ⁉
﹁落ち着けテュカ⁉
﹁どこなの⁉
﹂
あいつは仇だ‼
あいつに‼
﹁お前の父さんは殺されたんだ‼
親と仲間を奪われた怒りを込めて⋮⋮⋮奴を討て‼
父
?
﹁テュカ‼
を弾け‼
﹂
⁉
目を開け‼
クソッタレを照準の中央に合わせて引き金
に攻撃する。だが炎龍も必死に振り払って飛び立ち始めた。
ランチャーを使うことを理解したみんなも炎龍を地面に留めるよう
どうやら奴は片腕を吹き飛ばされたことを覚えているようであり、
を見開かせて再び羽ばたき出した。
り向いた炎龍はRPG│7を見た瞬間に何かを恐れているように目
錯乱状態のテュカに俺はRPG│7を持たせようとする。だが振
?
﹂
﹂
しがみつくように泣き出してしまった。
⁉
⁉
﹂
?
わあぁああああああっ‼
なんでこんなことさせるのよお父さん‼
家に帰ろっ‼
﹁もう嫌ぁ⁉
いや⁉
﹁テュカ⋮⋮⋮ごめん⋮⋮﹂
?
泣き出したテュカに俺は心が痛くなった。
もう
この場合はアルヌスなのかコアンの森なのかは分からない。だが
?
?
だが撃退には成功したけどテュカは射出機を地面に落として俺に
恐れた炎龍は何処かに飛んで行ってしまった。
に直撃してしまった。辺りに破片と砂けむりが舞う中、ランチャーを
けどガク引きとなってしまって弾頭は奴の左側に飛んで行って岩
G│7VR 対戦車榴弾が撃ち出された。
恐怖で引き金が弾けないでいるテュカの耳元で叫び、その瞬間にP
?
﹁いやぁああっ‼
?
‼
﹁いいからぶっ放せ‼
?
?
?
?
351
?
?
?
?
?
?
?
?
?
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮谷﹂
﹁なんだ
﹁⋮⋮奴等の族長に1発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まん﹂
﹁⋮⋮俺もだ﹂
テュカをこんな風にしたダークエルフに対して怒りを隠そうとし
ないエースと谷。俺も同じでテュカにこんな辛いことをさせること
になったダークエルフは好きにはなれそうにもない。
暫くしてから唖然としていた生き残ったダークエルフをエース達
が 拘 束 し て い き、ヤ オ も 案 内 役 と 荷 物 持 ち を 連 れ て 戻 っ て き た
⋮⋮⋮⋮⋮。
352
?
Mission73:ダークエルフ
ロルドム渓谷に到着した俺たちは警戒中だったダークエルフから
の 洗 礼 と 炎 龍 の 奇 襲 を い き な り 受 け る 形 と な っ た。1 0 人 弱 い た
ダークエルフの内の4人が炎龍の餌食となり、炎龍出現により隠し通
せなくなった伊丹が事実を伝え、テュカは錯乱状態となってますます
心が壊れていった。
今まで我慢していたが爆発させても問題はないだろう。それは谷
と伊丹も同じで、迎えに来たヤオと数人のダークエルフに荷物を持た
せて奴等の族長が待つ広場に向かっていた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁こ⋮⋮ここが此の身達の長がいる洞窟だ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮そうかよ﹂
353
ヤオの言葉にも冷たくあしらう。俺は別にダークエルフが嫌いっ
て訳ではないがテュカの心を壊したこいつらが嫌いなだけだ。ヤオ
を先頭に広場に到着と蝋燭と焚き火が灯され、中には7人のダークエ
ルフの老人達がいた。
﹁伊丹殿、エース殿、谷殿。こちらにおられるのが我がダークエルフの
7賢人⋮⋮﹂
ヤオの紹介を無視して俺は族長の1人に歩み寄り、そのまま殴り倒
した。あまりにもいきなりだったのでその場にいたヤオや族長、更に
﹂
は周りのダークエルフ達が唖然となるが怒りを隠さず長老達を睨み
つけた。
﹂
族長様になんということを⁉
?
⋮⋮貴様⁉
﹂
?
﹁⋮⋮⋮次に殴り倒されたいのはどいつだ
﹁なっ⁉
?
﹁いくら緑の人でも無礼であろう⁉
?
?
俺が殴り倒したことで周りのダークエルフ達が一斉に呉鉤や弓、匕
首、偃月刀を構え、対する伊丹と谷もライフルを構えて一触即発の状
態となる。
だが殴り倒した族長がそれを片手でダークエルフ達を静止させる。
﹂
﹁よいのだ⋮⋮皆の者。武器を降ろすのだ﹂
﹁しかし⁉
﹁この御方等の怒りはごもっともな事だ⋮⋮武器を降ろすのじゃ﹂
族長にそう言われて若いダークエルフ達は渋々武器を降ろし始め、
俺たちはいつでも攻撃出来るように構えたままになる。
⋮⋮⋮貴様等は自分達の
﹁緑の人達よ。そなた等の怒りはヤオから聞いております。ダークエ
ルフの族長として謝罪申し上げますぞ﹂
﹁そんな程度で許されると思っているのか
﹂
の心を壊し⋮⋮更には伊丹にもまたあんな思いをさせたんだ‼
﹁谷殿⋮⋮⋮でしたかな
﹂
‼
助命の為に無関係⋮⋮⋮しかも炎龍に家族や仲間を殺されたテュカ
?
?
まれても当然です﹂
?
ましょう。しかし仁と情を兼ね備える者ならば、知己の為に自ら危険
﹁知・慮を兼ね備える者ならば、危険に際し他人を見捨てることもあり
﹁他人の心を土足で踏み荒らす奴等が今更道徳を語るのか
﹂
利益になり得る成果を出す。義心や仁心溢れる方々ならば我々を恨
﹁皆様の怒りはご理解できましょうぞ⋮⋮大事な仲間を陥れ、自らの
りませんし、どうでもいいことです﹂
炎龍を倒しに来た。自分自身もダークエルフの存亡などに興味は有
達を助けに来たのではありません。目的は自分達の仲間を救うべく
﹁台湾軍所属の谷と申します。まずは言っておきますが、我々は貴方
?
354
?
﹁エース、気持ちはわかるが落ち着くんだ﹂
?
﹂
に踏み入り、時に則を破りましょう﹂
﹁⋮⋮⋮⋮何が言いたいんだ
﹁例え如何なる不評を買おうとも、あらゆる手段を尽くすというのが
我らが美徳⋮⋮奸計大いに結構というのが我らの習わしなのです﹂
﹁随分とご立派な習わしだな⋮⋮⋮目的の為なら他人が幾ら死んでも
構わないってんだから、何人お前等の身勝手さに犠牲になったか知り
たいもんだ﹂
長老達の言葉に悪態をつきながら耳を傾けている。
﹁族長⋮⋮⋮自ら起こした行動に対する責任と代償は当然背負うべき
であり、それを覚悟しなければいけない⋮⋮例え死という結果であっ
たとしてもだ﹂
﹁ヤオにも話しました。一命を懸けてでも贖罪するということなどた
だ楽になりたいが為に逃げるだけと⋮⋮⋮﹂
﹁そ れ に ⋮⋮ ヤ オ に 手 段 を 選 ぶ な と 命 じ た の は 他 な ら ぬ 我 々 な の で
す。本当の償いとは長く険しく重い⋮⋮⋮我らもこれまでに幾多も
の犠牲を出しながら生きておるのは1人の罪を皆で償うため⋮⋮⋮
だから我々は生き永らえておるのです﹂
﹁⋮⋮⋮死者への⋮⋮手向け⋮⋮﹂
﹁緑の人達よ⋮⋮⋮確かに我々は申し訳ない事をした。許される筈な
どないことも自負致しております。されどどうか我等の心情も御理
解いただきたいのです。それなりの償いもします故に改めて祈願致
します。どうか我が一族を⋮⋮⋮我らダークエルフを御救いくださ
いお願い申し上げます﹂
そういいながら長老達は頭を垂れ、周りのダークエルフ達も武器を
置いて跪いた。その光景に俺たちは呆気にとられるも俺はため息を
吐きつつ、構えていたM60E4を肩に担ぎ直し、族長達を見直した。
﹁⋮⋮⋮条件を付ける﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
355
?
﹁まずは炎龍討伐に助勢すること。武器や道具に関しては用意してあ
る﹂
﹁無論です。最高の戦士を用意致します﹂
﹁次に伊丹だ。こいつは与えられた任務を放棄して勝手に抜け出した
﹂
からかなり不味い立場にある。面目が立つ手段を掲示しろ﹂
﹁ちょ⋮⋮エース⋮⋮﹂
﹁まぁ見てな⋮⋮⋮んで
﹁炎龍に苦しめられておる国や部族は多い⋮⋮共同で賞賛と感謝を贈
るよう使者を送り出しましょう。さすれば面目も立ちましょう﹂
﹁最後に⋮⋮⋮1つでも違えたりテュカが手遅れになった場合は炎龍
討伐に使う武装を貴様等に使うことになる。それだけは覚えておけ﹂
﹁分かりました﹂
それから俺は伊丹達を連れてロゥリィ達が待つカーゴハンヴィー
とM│ATVに戻った。それから渓谷に隠れ住むダークエルフ達に
召集が掛けられ、生き残ったダークエルフ達が集結した。
炎龍討伐前の宴が開かれて炎龍討伐に参加するダークエルフの若
者であるクロウ、メト、バン、フェン、ノッコ、コムと女性のセィミィ
とナユが紹介され、次の日の朝に全員にRPG│7 USA、M79、
A K │ 4 7 M A G P U L M 8 7 0 M C S の 使 い 方 を 説 明 し た
上で炎龍の巣があるとされるテュベ山に向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
356
?
Mission74:バカ達の翼
伊丹達がロルドム渓谷に到着した頃、帝国とエルベ藩王国の国境付
近上空にて航空隊が飛行していた。
﹁現在高度11,000。方位1│9│0。速度280kt。国境ま
であと10分、ターンヘディング⋮⋮⋮ナウ﹂
﹁了解﹂
︿ホークウィンドー02、旋回する﹀
︿ライトニング01 Copy﹀
︿ライトニング02、Copy﹀
国境に近付いたことで旋回する神子田のF│4EJ改とオオハラ
のAV│8B+。彼等航空隊に与えられた任務は国境付近の偵察と
﹂
﹀
?
度3,200﹀
﹁目標は針路1│8│8に向かって移動中、高度そのまま。距離は近
357
炎龍の捜索、可能ならば巣を特定することだ。
だから航空隊をルーデル隊と関羽隊の分隊とホークウィンドー隊
とライトニング隊の分隊に分けて偵察をしているのだ。
﹁今日で3日目だ、いい加減見つけたいね﹂
︿レーダーに引っ掛かってくれたらいいんだが、相手は生物だからな
⋮⋮⋮どういう反応になるか想像がつかん﹀
﹂
﹁それはそうと神子田、分かってると思うが目的は戦力評価だ。闇雲
に突っ込んだりするなよ
﹁うるせぇ⋮⋮⋮ん
浜、しっかりバカの手綱を握っておけよ
︿相 手 は 戦 車 並 か そ れ 以 上 だ っ て い う 硬 い 奴 な ん だ ぞ 神 子 田。久 里
るんだった﹂
﹁分かってるよ。だが親父さんに頼んでASMかロケットを積んで来
?
︿こちらライトニング02、レーダーコンタクト。方位1│2│7、高
?
6時方向から仕掛けるぞ﹀
いな⋮⋮レーダー反応率がF│22並だ﹂
︿要はVRでのドッグファイトだろ
な﹂
?
挑発してやる‼
ライトニング01‼
エンゲージ‼
?
﹀
︿そうらしいな⋮⋮⋮じゃあさっさと始めるとすっか。加速して奴を
歯が立たん。やるならA│10がいるぞ﹂
﹁手の内を見せる必要はない。それに20mmや25mmの豆鉄砲が
︿ライトニング01だ。ガンレンジインサイト、どうする
﹀
﹁派手な色で優雅に飛んでやがるぜ⋮⋮⋮50km先からでもわかる
﹁特地甲種害獣ドラゴン⋮⋮炎龍と確認﹂
﹁タリホー‼
﹂
間違いなく炎龍だ。
いが赤い色をした飛行物体を確認した。巨大な翼に赤い身体⋮⋮⋮
レーダー反応があった方角に神子田は視線を向ける。すると小さ
?
?
やっこさん怒ってやがるぜ‼
﹀
上スレスレを通過。いきなりのことで炎龍は体勢を崩したがすぐ立
そういうとオオハラのハリアーⅡが速度を上げて一気に炎龍の頭
?
ち直ってハリアーⅡの追撃を開始した。
︿ははっ‼
?
﹁まぁバカは放っておいて⋮⋮⋮羽ばたきなんだが意外に速度がある
な。しかも旋回半径がWWⅠの複葉機並かそれ以下だ﹂
︿こ ち ら ホ ー ク ウ ィ ン ド ー 0 2、身 体 が 自 由 に 曲 が る か ら な ぁ ⋮⋮
ドッグファイトは無理だな﹀
︿近付かれたら終わりだ。次は急上昇からの急降下を測定する﹀
追いつかれないように速度をあげつつ一気にオオハラは機体を急
上昇させ、捻り込みで急降下すると炎龍も翼を畳んで急降下する。翼
を畳むことで風圧を抑えることとなり、今にも右手と牙でハリアーⅡ
358
?
﹁くっそ∼⋮⋮⋮本当なら最初にやりたいもんだがな⋮⋮﹂
?
を捕らえようとしていた。
振り切れ‼
﹂
?
食い付かれるぞ‼
?
しっかり見てなよハリアーライダーの腕前をな‼
﹁チェックシックス‼
︿了解だ‼
﹀
?
?
だ﹂
﹁オオハラ、そっちの検査項目はおわりか
﹂
今度はこっちの番だな⋮⋮⋮⋮A/B点火‼
︿あぁ。大体わかった﹀
﹂
﹁んじゃ‼
るぜ‼
?
?
もある。
?
?
ウォオオオオオオオオオオッ‼
‼
テメェがど
国軍機37機を撃墜したりと実力のみで勝ち上がって来た撃墜王で
│22を相手に勝利してみせたり、台湾動乱でもJ│20を含めた中
リであり、実際に彼等はファントムⅡを駆り模擬戦では世界最強のF
航空自衛隊屈指の実力を有する彼等はエースという名前がピッタ
ムⅡが一気に炎龍に向かっていく。
オオハラのハリアーとすれ違い、今度は神子田と久里浜のファント
やってや
﹁ヘ リ 並 の 機 動 力 に ホ バ リ ン グ 能 力 も あ り。し か も 頭 も 回 る み た い
ま翼でホバリングして体勢を整える。
龍も翼を広げてエアブレーキを掛けることにより激突を免れ、そのま
後方に迫る炎龍を地上すれすれで機首を上げて振り切り、対する炎
?
?
﹁ドッグファイトってのはスピリットのぶつけ合いだ‼
﹂
?
炎龍とぶつかりあった⋮⋮⋮⋮⋮。
359
?
んなタマか見せてみやがれ‼
‼
?
そう勇敢に叫びながらシャークマウスが描かれたファントムⅡが
?
﹂
⋮⋮それから暫くしてのアルヌス基地滑走路。
﹁⋮⋮⋮⋮で⋮⋮これか
青 筋 を 額 に 描 き な が ら 帰 還 し た 神 子 田 と 久 里 浜 を 睨 む 整 備 班 長。
そ の 滑 走 路 に は 消 化 剤 ま み れ と な っ た ス ス だ ら け の フ ァ ン ト ム Ⅱ。
そんな状態で整備班がよく持ち堪えたことや電装系パーツが総取り
替えだと言っていたりしている。
それとも儂の息子を空中分解さ
あんの野郎‼
﹂
‼
ガチンコで火ぃ吐いたん
もう部品のストックも少ないし、耐用年数もギリギリ
﹁お前らは儂を過労死させたいのか
せるつもりか
﹂
?
漢らしくねぇじゃないっスかドチクショウ‼
?
なんだぞ
火ぃ‼
﹁し⋮⋮しかし親父さん⁉
スよ⁉
⁉
?
?
?
⋮⋮⋮ギャンっ‼
?
?
テメェ等2人もだ‼
デケェトカゲ野郎にんなこと分かるか⁉
田の頭に降り注がれた。
‼
﹂﹂﹂﹂
だい
﹂
?
﹂﹂
マリンコ野郎共も一緒に走って来やがれ‼
?
﹁バッカ野郎‼
﹁お前ら滑走路3往復‼
﹁﹁﹁﹁えぇええええええっ‼
﹂
⁉
?
?
﹁﹁えぇええええええっ‼
?
﹁因 み に 連 帯 責 任 だ ‼
﹁まったくだ⋮⋮触らぬ神に祟り無しってな⋮⋮﹂
﹁あ⋮⋮相変わらず日本の整備班長ってのは怖いな⋮⋮﹂
?
﹂
たいメスかもしれんだろうが⁉
?
?
﹁ぐぉおおっ⋮⋮﹂
西元‼
?
瑞原‼
⁉
?
?
?
?
360
?
?
?
?
なんとも子供みたいなことを⋮⋮そこに雷親父のゲンコツが神子
?
?
バカ
だという
結局ホークウィンドー隊とライトニング隊の面々は滑走路を走ら
されることとなった。
因みに航空隊の印象なのだが全員が満場一致で
ことは言うまでもない⋮⋮⋮⋮⋮。
361
Mission75:亡き者達の手向け
デュマ山とはエルベ藩王国の北部に聳え立つ活火山らしい。炎龍
は温かい場所を好んだり、他の龍や生物が卵を奪わないよう敢えて危
険な活火山に巣を作るとアルヌスでカトー教授に聞かされた。
古代の記録にて古代龍というのは炎龍の他に水場を好む水龍、空を
飛べないが森にて生息する地龍の3匹しかいないらしい上に繁殖率
が龍種の中で数百年に1度とかなり低いらしい。
しかも卵は非常に美味で生まれたばかりの新生龍も討伐が可能ら
しいし、実際に新生龍の段階で討伐される若しくは他の龍に捕食され
るというのがあったみたいだ。
だから古代龍達も子孫を残す為に外敵が寄り付かない場所に巣を
作るという手段を取る。
炎龍が恐れられている理由は力のみじゃなく、繁栄するための知力
も脅威とされている。ダークエルフのクロウから炎龍の巣があると
される洞窟に到達したら夜になるのを待ち、俺もM60E4を手にし
てミオと共に偵察に足を運んだ。
﹁火山なだけに暖かいな⋮⋮﹂
﹁そうですね⋮⋮⋮覆面をしていても硫黄の匂いが凄いです﹂
﹁マ ス ク の サ イ ズ が 合 っ て よ か っ た よ。と い う か 匂 い が 弱 点 と は な
⋮⋮﹂
﹁ワーウルフは狼が祖先ですから、匂いがどうしても苦手なのです﹂
偵察に来る前、俺はマスクをミオに被らせている。このマスクはス
カルフェイスマスクを彼女に貸したが目的は素顔を隠すためじゃな
い。
ワーウルフは匂いに敏感だということを失念していた俺はガスマ
スクを用意しておらず、洞窟前に到達した彼女は匂いに悩まされてい
たからマスクを貸した。
まぁ、匂いを消すことは不可能だが紛らわすことには成功している
362
みたいだ。
﹁それよりミオ、君の一族で炎龍に戦った奴はいるのか
いる。
﹂
﹁いつも身につけてるネックレスだが⋮⋮これが
﹂
﹁この首飾りは⋮⋮⋮私の姉の形見なんです﹂
﹁姉
﹂
﹂
として名を馳せ
込まれただけのネックレスだが、彼女は非常に大切そうに身につけて
た。透き通るような瑠璃色をした小さなアクアマリンの宝石が嵌め
そういうと彼女は身につけていたネックレスを取り出し、俺に渡し
﹁ミオ
龍退治に同行したのも別の目的があるんです﹂
﹁実は⋮⋮⋮私は皆様に黙っていたことがありまして⋮⋮⋮今回の炎
﹁そうか⋮⋮⋮﹂
炎龍に戦いを挑みましたが、誰1人⋮⋮﹂
﹁はい⋮⋮私達ワーウルフは戦闘種族でありますから、幾多の戦士が
?
そういうと彼女は俯いてしまう。彼女の同胞が炎龍に戦いを挑む
いたのが⋮⋮首飾りなのです﹂
﹁私もすぐに向かいましたが街は既に壊滅。街の瓦礫に引っかかって
﹁帰って来なかった⋮⋮⋮﹂
0年前の炎龍が冬眠に入る前に討伐に向かい⋮⋮⋮﹂
的な帝国も正規の兵として迎え入れようとした程でしたが⋮⋮⋮7
﹁姉は依頼を必ず遂行することで信頼を勝ち取り、亜種に対して差別
﹁優れた戦士って訳か⋮⋮⋮﹂
た傭兵で、帝国や諸国、様々な集落で雇われる存在でした﹂
煌銀狼
?
というのは予想していたが、まさか彼女に姉がいて、しかも炎龍に
よって殺害されたのは予想すらしていなかった。
363
?
﹁はい⋮⋮⋮姉は私達ワーウルフの中では
?
彼女の暗い話を聞いてしまったことに嫌悪感を抱いてしまった俺
﹂
は俯いたままの彼女をそっと抱き寄せた。
﹁ご⋮⋮ご主人様
﹂
腹を満たすといい﹂
﹁やった♪カレーは大好きです♪﹂
﹂
﹁だったら戻ったら君の好きなカレーのレーションがあった筈だから
﹁そうですね⋮⋮私もお腹が空きました﹂
﹁さぁ、どうやら炎龍はいないみたいだし戻って飯にしよう﹂
抱きしめていた力を緩めてミオの頭を撫でてやる。
銘の鬼に成り下がっていただろう﹂
ら間違いなく俺もヤオみたいに復讐の為なら手段を選ばない正真正
﹁前にもいったが、それに気が付かせてくれたのは君だ。いなかった
﹁⋮⋮⋮恐れ入ります﹂
も瓜二つだよ﹂
るし、瞳なんかは瓜二つだ。友達を本当に大事にするっていうところ
﹁笑い方や拗ね方、性格なんか本当に亡くしたエミリアによく似てい
﹁えっ
﹁ミオ⋮⋮⋮君はエミリアによく似ている﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
いた﹂
つては復讐に囚われていた。帝国の人間全てが敵だと認識すらして
しているが、君は誰も傷付けていないし、それを言い出したら俺もか
﹁そんなことはない。ヤオはテュカの心を壊して目的を遂行しようと
なんて⋮⋮⋮友達失格です﹂
のことは言えません。テュカの心を救うことを復讐の為に利用する
﹁いえ⋮⋮もう70年も前の話ですから⋮⋮それに私もダークエルフ
﹁すまなかった⋮⋮⋮辛い過去を思い出させてしまって⋮⋮﹂
?
﹁とにかく食べて炎龍を倒しに⋮うわっ⁉
?
364
?
この先に炎龍がいないと確認し、来た道を引き返し始めるが不意に
強風が吹き込んできた。俺はいきなりだったのでバランスを崩して
しまい、ミオの方に倒れてしまう。
彼女はなんとか踏ん張って倒れないようにしてくれたが受け止め
きれなくて身体が密着してしまう。ここまでならまだいい。だが問
題は今の状況だった。
目の前にはミオの見開いた瑠璃色の瞳が飛び込んできて、唇に何か
が当たっている柔らかい感触がある。
要するに俺はミオとキスしてしまっている状態だ。
あまりにも突然なことに脳が処理しきれず、暫くしてから離れたも
のの互いに恥ずかしがって背中を向けてしまった。
﹁す⋮⋮すまん⋮⋮⋮﹂
365
﹁い ⋮⋮ い え ⋮⋮ 事 故 な ん で す か ら ⋮⋮ 事 故 だ け ど ⋮⋮⋮ そ の
﹂
⋮⋮⋮⋮う⋮嬉しい⋮⋮かも⋮⋮⋮﹂
﹁エ⋮⋮エミリ⋮ア
﹂
まうも、思考を取り戻してから俺も洞窟を後にした⋮⋮⋮⋮⋮。
窟の外に向かって走っていった。取り残された俺は暫く硬直してし
凄い爆弾発言をした後に羞恥心からか顔を隠しながら一目散に洞
はお忘れ下さい⁉
﹁あらやだ⋮⋮⋮⋮わ⋮私ったらはしたないことを⋮⋮⋮⋮い⋮今の
?
?
Mission76:炎龍再編
遂にこの時が来た。
テュカの家族や仲間を殺し、更にはダークエルフにテュカの心を壊
すきっかけとなった炎龍の巣に到着した俺たちは警戒しながら巣が
ある岩棚にたどり着く。
そこには炎龍の巣を囲むように巣立ちしたらしい炎龍の子供の卵
の殻。周りには炎龍退治にやってきて返り討ちにされた勇者達の遺
留品の数々。カットラスやバスターソード、ハルバートや魔法が込め
られた武器などフェン曰く全てを人種が売ったら孫の代まで遊んで
暮らせるらしい。
宝探しをしたくなるが我慢しつつ足下に落ちてあった鞘に納めら
れたソードブレイカーを失敬して伊丹の指示に従う。
﹂
﹂
可塑剤が5.3%、結合剤が2.1%、界面活性剤が1.5%込めら
れている﹂
﹁えっと⋮⋮つまり
﹁うげっ⁉
﹂
﹁要するに毒が込められてるって訳だ﹂
?
だ新兵が病院送りになって、数日間も入院したという事案があった。
実際に我が台湾軍工兵部隊の訓練でも興味本位で口の中に放り込ん
吐や腹痛などを起こして病院送りになった将兵も結構いるみたいだ。
実際にC4は猛毒の塊といっても過言じゃなく、舐めただけでも嘔
成分配合を言ってから要約した伊丹の言葉で口から離した。
C4を小さくちぎって食べようとしていたコムをエースがC4の
?
366
﹁よし、持ってきた箱の包み紙を剥がしていってくれ﹂
﹁見た目は美味そうだな⋮⋮乳漿みたいだ﹂
なんで
﹁あ∼⋮⋮⋮言っておくが食うなよコム﹂
﹁へっ
?
﹁そいつはC4。中にRDXが91%に爆発物マーカーが0.1%、
?
そこから次々とC4起爆に必要なデトコードにM7型信管、セーフ
ティヒューズ、M60型発火具が納められた箱から取り出していき、
エースもM15型対戦車地雷を箱から取り出していく。
因みに発火具とデトコードをダイレクトに繋げたらピンを抜いた
瞬間に爆発する危険性があるから絶対にしてはならないし、信管に関
してもタイムヒューズを挿入する時に回しながらしたら摩擦で発火
する危険がある。
爆破自体に必要な機材は大まかに爆薬、誘爆薬、信管、導火薬、発
火具の5つと少ないが扱いには細心の注意が必要となる。
﹁よ し、バ ン と フ ェ ン と ノ ッ コ は 巣 の 中 心 に 腕 く ら い の 深 さ の 穴 を
掘ってくれ﹂
﹁俺はM15を設置する。ミオ、すまないが手伝ってくれ﹂
﹁分かりました﹂
な
﹂
谷だ。聞こえるか
﹂
﹁ちょっと待ってくれ⋮⋮⋮⋮ロゥリィ、外の様子は
︿⋮⋮⋮⋮⋮﹀
﹁ロゥリィ、聞こえるか
︿⋮⋮⋮⋮⋮﹀
﹁エース。すまないが対空監視を頼む﹂
﹁了解だ﹂
?
﹂
367
﹁他はこいつを捏ねてくれ。よく捏ねればそれだけ威力が上がる﹂
そういいながら俺もC4を次々と捏ねていくが流石に75kgも
あるから一苦労する。それからバン、フェン、ノッコが掘った穴にC
﹂
4を敷き詰めていき、伊丹は信管とデトコードを接続していく。
﹂
﹁谷、ロゥリィに連絡してみてくれないか
﹁通信不良か
?
﹁みたいだ。電波が岩で遮られてるみたいけど⋮⋮頂上にいないのか
?
﹁ダメだ。やっぱり遮られてる﹂
?
?
?
﹁こっちはその間にやっちまおう﹂
﹂
﹁ところで伊丹﹂
﹁ん
﹁今更なんだが⋮⋮無線つけたままで大丈夫なのか
﹁⋮⋮⋮⋮あっ﹂
﹂
俺が無線のことを思い出して無線機を外した。下手に火花が出て
いたら確実に爆発して俺たちは炎龍じゃなく炎龍の巣を道連れにす
るという間抜けなことをするとこだった。
暫くして俺と地雷を仕掛け終わったエースは只でさえ強力なC4
﹂
の威力を高める工夫で剣をこれでもかというくらいに敷き詰めてか
ら土をかぶせる。
﹁谷、この剣は意味があるのか
﹁抵抗があるか
⋮⋮⋮⋮分からなくはないが使えるものは何でも使
﹁だが死者の遺留品を使うのはな⋮⋮﹂
くんだ﹂
ば爆破エネルギーで辺りに飛び散って炎龍の土手っ腹にグサってい
衝撃波になって対象を体内から損傷を与えるものだ。こうしておけ
﹁あぁ。C4が爆発する時に爆破エネルギーってのが発生してな⋮⋮
?
M60型発火具に伊丹がセーフティヒューズを接続した辺りで俺と
設置開始から5時間後、全てのC4にデトコードをつなげて最後に
装していく。
そう互いにいいながら俺は最後の剣に願いを込めてから埋設し、偽
﹁⋮⋮⋮⋮相変わらず戦士の鏡みたいな奴だな⋮お前は⋮⋮⋮⋮﹂
てやりたい﹂
だ。炎龍の後には帝国が待ってるし、ソードブレイカーも戦いに使っ
﹁そ れ に ⋮⋮ ど ん な 方 法 で も 使 っ て や っ た 方 が 武 器 に と っ て も 本 懐
﹁⋮⋮⋮⋮だといいな﹂
う方がいいし、持ち主も炎龍が倒されるってんなら本望だろう﹂
?
368
?
?
﹂
ルフスも伊丹に合流した。
﹁伊丹、終わったか
﹁あぁ。エース、そっちはどうだ
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮伊丹﹂
﹁どうした
﹁⋮⋮最悪の事態だ﹂
﹂
?
が、炎龍がコムを睨んだ瞬間に⋮⋮⋮⋮。
⁉
?
﹁う⋮わぁあああああああああっ‼
﹂
﹂
?
﹂
エースの思った通り炎龍は睨みつけたままで仕掛けて来なかった
はデスサイズを構えてミオも両手から刃を出す。
スから借りたMk23 Mod0のホルスターに手を伸ばし、ルフス
そっと伊丹はGlock17、エースはHILDOLFR、俺はエー
USAを所有しているが俺たちは罠を作る為に武器を置いていた。
状況は瞬く間に最悪になっていく。ダークエルフ達はRPG│7
﹁⋮⋮⋮ゆっくり洞窟に下がるんだ⋮⋮少しずつ⋮⋮﹂
﹁誰も動くな⋮⋮⋮奴は動きに反応するみたいだ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮落ち着け⋮⋮﹂
ちを睨みつけていた。
着地した炎龍は唸り声を出しながら恐怖を与える黄色の眼で俺た
龍が戻ってきた。
テュカの父親であるホドリューにより射抜かれた赤い巨体⋮⋮⋮炎
ドのAT│4で脇腹、勝本のLAMで左腕を持って行かれ、左目を
理由がはっきりとした。そこには巣の主であり、かつてロックフォー
空を見上げていたエースとミオ。俺たちも同じく空を見上げると
?
?
?
伏せろ‼
?
369
?
やめろ⁉
﹁コム⁉
?
バン‼
﹁ナユ‼
?
恐怖に駆られたコムが後ろにナユとバンがいるにも関わらずRP
G│7を発射させた。それによりバックブラストでナユとバンは吹
き飛ばされ、熱風と衝撃波により身体は内外共に焼かれて絶命。
しかも厄介なことにもなる。RPG│7の弾頭は最初から飛翔す
るのではなく、撃ち出してから10mほど滑空してから推進剤に点火
して飛翔するのだ。
コムは慌てたから10m未満で使用したので弾頭は威力が発揮し
﹂
きれない状態で炎龍に命中してしまう。
﹂
伏せろ‼
﹁やった‼
﹁馬鹿‼
構えた。
﹁くっそ‼
﹂
﹂
﹂
とにかくぶっ放せ‼
結局こうなるのかよ⁉
E4、伊丹もM4A1+M203A2を急いで回収。初弾を装填して
戦闘回避不能となったのですかさず俺はACRでエースはM60
に激突して千切れ飛んだ身体がバラバラになって降り注いだ。
る術もなくコムの上半身が消え去った。そのままコムの上半身は壁
俺が叫んだが遅かった。振られた炎龍の右手がコムを襲い、回避す
?
奴を釘付けにしろ‼
﹁愚痴はいい‼
﹁牽制射撃‼
?
?
?
?
最初から俺たちに圧倒的劣勢の状態で開始された⋮⋮⋮⋮⋮。
そう叫ぶと一斉に炎龍に銃撃を開始する。炎龍との最後の戦いは
?
370
?
?
?
撃ちまくれ‼
﹂
Mission77:背水の陣
﹁撃て‼
援護を‼
﹁くそっ⁉
﹁谷‼
﹂
行くぞミオ‼
﹂
誰か弾を‼
﹁駄目だ効かない⁉
﹂
﹂
?
⋮⋮しまっ⋮⋮﹂
うわぁああっ⁉
﹁逃げろノッコ‼
﹁なっ⁉
くそっ⁉
﹂
﹁ノッコ⁉
﹁メト⁉
?
﹂
られてそのままメトが圧死した。
﹁畜生‼
‼
﹁このやろぉおおおおおっ‼
‼
﹂
﹁うぉおおおおおおおおっ‼
﹂
﹂
伊丹がメトのRPG│7を回収して10m以上の距離を稼いでか
﹁これ以上はやらせません‼
爬虫類が‼
?
﹁くたばれ‼
?
?
﹂
散らされた。親友の死に唖然となっていたメトにも尻尾が叩きつけ
炎龍の爪により切り裂かれ、地面と共に薙ぎ払われて剣が辺りに撒き
M79の40mmAPDS弾が効かず、仲間に弾を求めるノッコが
﹂
?
スケールが違いすぎる⁉
79やAK│47 MAGPULにて攻撃を仕掛ける。
既にコム、バン、ナユの3名がやられてクロウ、メト、フェンもM
いままで威力が不足していた。
で攻撃を仕掛けるが至近距離からの射撃なだけに推進剤の点火がな
RPG│7の射撃手を担当しているセィミィとノッコもRPG│7
M 6 0 E 4 を ぶ っ 放 し な が ら ダ ー ク エ ル フ に 指 示 を 出 す エ ー ス。
?
?
?
?
?
?
?
?
371
?
?
?
?
?
?
?
?
?
ら構え、エースも脇で構えながらM60E4を連射。
谷はACRを乱射しつつデスサイズと爪で斬りかかるルフスとミ
オを援護する。だが炎龍がブレスを吐き出して辺りを焼き払うが場
所がまずかった。そこにはエースが仕掛けていたM15が埋設され
ていて、強力なまでの高温を前に地雷が爆発した。
﹂
﹂
﹁きゃあっ⁉
﹁うごっ⁉
?
逃げろ‼
﹁伊丹⁉
﹂
効いてるぞ‼
﹂
斃せるぞ‼
﹂
?
﹁やった‼
斃せる‼
﹁このまま攻撃を続けろ‼
?
?
あると理解した炎龍がセィミィを咥えたからだ。
がっ⁉
?
放し⋮⋮あっ⁉
?
﹂
放して⁉
?
﹁セィミィ⁉
﹁いやっ⁉
﹂
彼女は絶望に変わることとなる。痛みを与えた張本人がセィミィで
攻撃を与えたセィミィも勝機を見出し希望を持ち始めるが、すぐに
?
手であったことが分かったらヤオ達は勝機を見出し始める。
取った。痛みによる悲鳴が火山口に響き渡り、炎龍に対して有効な一
だ が 弾 頭 は 運 良 く 右 足 の 太 も も 上 部 に 命 中 し て 肉 の 一 部 を 抉 り
射出されて衝撃波を浴びてしまう。
るセィミィ。すかさず制止しつつ横に逃げるが先にPG│7VLが
伊丹が見上げると、そこには後方確認をせずRPG│7を構えてい
?
?
ま⋮⋮待てバカ⁉
﹁なっ⁉
?
﹂
状態でエースが何かに気がついた。
爆風に巻き込まれたセィミィが伊丹に激突し、伊丹がむせてしまう
?
?
372
?
?
?
セィミィイイイイッ⁉
﹂
﹂
使え‼
鉄の逸物はもうないのか⁉
﹁セィミィ⁉
﹁くそっ⁉
﹂
フェン‼
﹂
﹂
﹂
?
?
?
﹁発射機は⁉
ヤオ‼
﹂
起爆母線が切れた‼
C4を起爆しろ‼
﹁残りは2つだ‼
﹁伊丹‼
﹁駄目だ‼
﹁こんな時に⁉
?
?
﹁クロウ‼
﹂
?
﹂
牽制しろ‼
完全に背水の陣となっている。
た。
も残り僅か。M79も戦闘で喪失してM870 MCSも破壊され
更にはエースのM60E4は弾切れとなり、谷のACRのマガジン
スも疲労が出てきていた。
ロウ、フェンを残して全滅し、攻撃が効かない炎龍相手にミオとルフ
戦闘開始から僅か5分弱で瞬く間に残ったダークエルフはヤオ、ク
龍は確実に怯んでいった。
し離れてからPG│7を射出。厚みがある首まわりに命中したが炎
次はヤオを噛みちぎろうとするが間一髪の処で転がって回避し、少
とはまた違う攻撃を仕掛ける。
流石の炎龍も伊丹達が自身を倒しかねないと判断したのか、先ほど
直したC4以外に勝ち目はない。
弾頭は残り3発しかなく、この攻撃が効かなかったら起爆母線を繋ぎ
急いで弾頭を装填した予備のRPG│7を谷が2人に渡す。だが
母線が切れてしまい起爆が出来ない。
それから危険を承知でエースがC4起爆を指示するが、C4の起爆
女は涙を流しながら息を引き取っていた。
ラスト受けて意識を失っていた伊丹がふらつきながら駆け寄るが彼
炎龍により身体を噛みちぎり、セィミィを殺害した。軽くバックブ
?
?
?
逃げろ‼
﹁フェン‼
?
373
?
?
?
?
?
?
?
?
﹁なっ⁉
﹂
伊丹殿‼
⁉
﹂
あと⋮頼みます‼
あぁああああああっ‼
﹁フェン⁉
﹁ぐぅうううっ⁉
﹂
?
?
谷‼
﹂
お前は起爆母線をとっとと直
奴の両目を失明させてやる‼
俺たちが奴を引き付ける‼
﹂
もうこうなったら破れかぶれだ‼
つけると再び発火具に接続し直し始める。
﹁合点だ‼
﹁伊丹‼
﹂
﹂
?
﹁馬鹿野郎が⁉
?
けの銃弾を奴の顔に見舞え‼
?
﹂
どうせ死ぬのでしたら歯の1本でも剥がしてやります
﹁エムロイの従者として一歩も引かん‼
﹂
?
?
ありった
それに伊丹はセーフティコードを手にして起爆母線を掘り起こし、見
力 を 振 り 絞 っ て P G │ 7 を 射 出 さ せ て 尻 尾 に 直 撃 弾 を 食 ら わ せ た。
炎龍のブレスをまともに喰らい、火達磨になってもフェンは最後の
?
?
﹁分かった‼
せ‼
?
?
﹁私もです‼
‼
?
丹の作業完了を援護するが炎龍を含めて全員が何かの気を感じ取っ
た。
それはテュカとレレイがいる洞窟からであり、一斉に振り向くとレ
レイの身体から水色の魔力が溢れ出しているのを確認出来た。
﹁⋮⋮⋮フフフ﹂
﹂
﹁な⋮⋮⋮なんだ⋮⋮﹂
﹁レレイ⋮⋮なのか
今のレレイに全員が戦々恐々となる。何時もの彼女は無表情なの
﹁フフフフフフフフフ⋮⋮⋮﹂
?
374
?
?
?
?
?
?
?
伊丹を援護する為、生き残ったエース達が最後の武装を手にして伊
?
だが不敵な笑みを浮かべており、更には笑みからは歴戦の猛者である
エースですら身震いを起こしてしまう程だ。
更には信じられないことも起こった。レレイが右手を掲げると辺
りに落ちていた遺留品の刀剣類が一斉に宙を舞いだし、鋒が炎龍を狙
うように向いていた。
クソッタレのトカゲ野郎‼
﹂
そして炎龍も何が起こったのか戸惑い、殺気に満ちたレレイがそれ
を命じた。
﹁クククククッ⋮⋮⋮死ね‼
みたいに柄が爆発して一気に加速し、炎龍を襲う。次々と炎龍の身体
その瞬間に奇跡が起きた。宙を舞っていた刀剣類達はまるで銃弾
?
に突き刺さっていき、銃弾と化した刀剣類は翼をズタボロにして炎龍
を地面に追い落とした⋮⋮⋮⋮⋮。
375
?
Mission78:Hessu│amnt
炎 龍 に よ り 散 っ て い く ダ ー ク エ ル フ。そ れ に 圧 倒 さ れ る 伊 丹 達。
その一部始終を目を覚ましたテュカと防御魔法で守っていたレレイ
は見守っていた。
そしてテュカはコアンの森にて起こった炎龍襲来と親友ユノ、そし
て父親ホドリューが死んだことを思い出し、涙を流していた。
自分のせいで父親が死んだ。あの時に自分も逃げずに立ち向かっ
ていたらと自分で自分を責め、強大な力を持つ炎龍に戦いを挑んだこ
とを後悔していたが、レレイがそれを振り向かずに否定した。
﹁わ ⋮⋮ わ た し の せ い だ ⋮⋮⋮ わ た し の せ い で 父 さ ん は ⋮⋮ ユ ノ が
⋮⋮﹂
﹁それは違う﹂
いたのは何を隠そうテュカ本人だった。
﹁私とて⋮⋮こいつに故郷を奪われ、多くの友人を失った。そして私
達は勝てるかどうかの分水嶺にいる。あなたは私があれを斃すのを
376
﹁レレイ⋮⋮⋮﹂
﹁あなたの父と故郷を奪ったのは炎龍。あなたではない﹂
﹁でも⋮⋮﹂
﹁伊 丹 達 は 間 違 っ て い る。こ の 先、永 遠 の 時 を 生 き 続 け る あ な た に
とって心の病など些細なこと。今そこにある問題をなんとかしなけ
ればと思うのは、命に限りがある人種の発想。
自分自
あんなのにどうやって勝て
あなたは炎龍を倒せないと決めつけ、怒りを向け易い自分自身にむ
けた﹂
﹂
勝てないんだったら誰を呪ったらいいの⁉
﹁だって⋮⋮勝てる訳がないじゃない⁉
ばいいのよ⁉
身を呪うしかないじゃない‼
?
?
炎龍に勝てない。そうレレイに心を打ち明けたテュカを苦しめて
?
?
指をくわえて見ていればいい﹂
珍しく口数が多いレレイ。そういうと詠唱魔法を唱え始め、近くに
あった剣を宙に舞わせて炎龍に加速をつけてから突き刺そうとする。
だが剣は炎龍の硬い鱗に遮られ、虚しく弾き返されてしまった。
そしてあることを思い出す。
それは伊丹と谷がC4爆薬を仕掛けた際に敷いていた剣の山。理
由として爆発の威力で炎龍の腹に突き刺さるようにということだが、
そこにレレイは方法を見出した。
異世界に行った際に買った科学の本にあった連環円錐だ。そして
再び炎龍目掛けて剣を飛ばして、その途中で別の詠唱魔法を発動。す
ると加速していた剣は柄の部分より爆発が起き、更に勢いを増して炎
﹂
龍の鱗を貫通。そのまま突き刺すことに成功した。
﹁刺さる⋮⋮⋮ふふっ⋮⋮刺さる‼
そして炎龍は攻撃を加えた炎龍を睨みつけるが、今のレレイを見て
脅威を感じ始めた。
﹁⋮⋮⋮ふふっ⋮⋮⋮ふふふふふ⋮⋮﹂
不気味に笑い出すレレイ。彼女が掲げた右手と左手に持たれた杖
から魔力が溢れ出し始めるが水色の魔力をしている彼女から発せら
れているのは黒いものだ。しかも今のレレイは笑ってはいるが眼が
笑っていない。
殺意だ。
今のレレイからは炎龍に対する殺意が溢れるように体外に流れ出
していた。
そして不気味な雰囲気を醸し出すレレイは両手を掲げて膨大な魔
力を放出させ、辺りに散らばっていた刀剣類をこれでもかと何時くら
いに漂わせる。
その見たこともない膨大な魔力もそうだが、まるで炎龍によって殺
377
?
﹂
された人々の意思を持つかのような刀剣類が一斉に炎龍を狙い、炎龍
クソッタレのトカゲ野郎‼
もレレイという1人の少女になにやら恐れを抱いていた。
﹁クククククッ⋮⋮⋮死ね‼
なく、レレイはその片方をやり遂げたのだ。
させるか、翼を破壊して飛び立てなくするかの2つしか有効的手段が
かった。ドラゴンを斃すにはまず尻尾を奪って身体のバランスを崩
それを間近で見ていたテュカも目の前の光景に対して信じられな
炎龍は痛みの呻きをレレイ達に聞かせることになった。
比較的柔らかい炎龍の翼を破いていき、身体中に剣が刺さった状態で
に迫り、次々と炎龍の身体を貫いていく。その豪雨のような剣の嵐は
レレイが叫んだ瞬間、宙に舞っていた刀剣類が一気に加速して炎龍
?
だが無理な魔力解放をしたのでレレイの魔力は枯渇。レレイはそ
﹂
のまま意識を手放した。
﹁レレイ殿⁉
﹂
?
身はカットラスにて炎龍に斬り込む。だがそれでも炎龍の鱗は硬く、
﹂
⁉
﹂
﹂
﹂
何とか突き刺すことには成功したが炎龍のブレスがクロウを襲った。
﹂
クロウ⁉
﹁ぐあぁああああああっ‼
﹁クロウ⁉
﹁やめろ行くな‼
﹂
クロウが⁉
死んだんだ‼
﹁放してくれ伊丹殿⁉
?
﹁まずい⋮⋮⋮奴がこっちに気付いた⁉
﹁奴は死んだ‼
?
?
?
?
378
?
俺は奴を‼
?
またとない好機と判断したクロウはレレイの保護をヤオに任せ、自
﹁魔法使いを頼む‼
?
ヤオを除いて最後のダークエルフだったクロウもブレスの前に命
?
?
?
?
?
を散らし、必死に助けようとするヤオを伊丹が腕を引っ張って引き止
める。
だが辛うじて致命傷を免れた炎龍が伊丹達を見つけ、それに気付い
﹂
た谷は洞窟に逃げるようみんなに促してブレスで焼き払おうとする。
﹁お父さんが⋮⋮⋮みんなが死んじゃう⁉
‼
﹂
?
﹁あぁあああああああああああっ‼
‼
を決意し、両手に魔力を集中させると⋮⋮⋮。
目の前で再び仲間が死ぬかもしれない。その光景にテュカは何か
?
さった刀剣類が避雷針ともなり、炎龍は苦しみ悶え始めた。
注ぐ高密な雷。だがその雷は炎龍にのみ降り注ぎ、身体中に突き刺
その瞬間、デュマ山上空に分厚い黒雲が広がり、そこから地上に放り
電 気 を 発 す る 魔 力 を 炎 龍 の 頭 上 ⋮⋮ デ ュ マ 山 上 空 に 打 ち 上 げ た。
?
異世界において天災だった炎龍の終焉の瞬間だった⋮⋮⋮⋮⋮。
379
?
Mission79:邪神と猊下の戯言
いったい何が起こったんだ⋮⋮⋮。
ダークエルフがヤオを残して全滅し、用意していたRPG│7も携
行していた7.62mm弾も撃ち尽くした。万事休すの状態にレレ
イから凄まじい殺気が溢れ出し、まわりの剣が宙を舞いだしたら一斉
に炎龍を襲い出し、仕上げとばかりにテュカが魔法を撃ち上げて辺り
に雷が降り注いだ。
その雷が炎龍に突き刺さった刀に浴びせられ、炎龍を内部からダ
メージを与えている。どんな生物にだって血は流れており、炎龍にも
膨大な水分が循環しているので感電。炎龍が苦しみ悶えている姿を
俺たちは呆気に取られていた。
を有する雷が炎龍に浴びせられ、その足下には75kgのC4があ
る。そんな状態でデトコードに伝わったら間違いなく誤作動を起こ
して起爆する。
そう感じながら走っていると炎龍の呻き声が盛大な爆発音により
打ち消された。恐らくはデトコードのすぐ側に電気を帯びた剣が落
ちて来て、それがデトコードを通じてC4起爆に繋がったのだろう。
炎龍を仕留めるには充分過ぎるが、同時に洞窟自体が崩落を始め
た。
380
﹁すげぇ⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
まずい⋮⋮すぐ逃げるぞ‼
C4に伝わる‼
﹂
?
﹁炎龍が⋮⋮死ぬ⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮はっ⁉
﹁ご主人様
﹁あんな大量の電気だ‼
﹂
?
?
﹁まずい⋮⋮⋮みんな逃げるんだ‼
﹁走れ‼
?
?
?
俺の言葉に全員が一斉に洞窟から外に走り出す。あれだけの質量
?
﹁走れ走れ‼
﹁テュカ⁉
下敷きになるぞ‼
﹂
﹂
﹂
﹂
⁉
﹂
だ⋮大丈夫だ‼
﹁いま引き上げる‼
﹂
?
﹁あぁ⋮⋮⋮﹂
﹁ち⋮⋮ちょっと待て⋮⋮ロゥリィは
﹁ちょっと⋮⋮⋮遅いわよぉ⋮⋮﹂
?
いた。
﹁ロゥリィ⁉
﹂
そこには夥しい血を流し、身体中ボロボロとなっているロゥリィが
が唖然となった。
ていつもより弱々しいロゥリィの声がしてきたので振り返ると全員
みんなが生存を表すとロゥリィがいないことに気がついた。そし
﹂
﹁けれど⋮⋮皆さんの仇は⋮⋮討てました﹂
﹁今回は流石に危なかった⋮⋮﹂
﹁損傷はたいしたことない﹂
﹁此の身もなんとか⋮⋮⋮﹂
﹁い⋮⋮生きてる⋮⋮﹂
﹁ぜ⋮全員無事か
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
を整えていた。
りながら洞窟の外に脱出。落盤に巻き込まれず脱出した俺たちは息
とルフスが腕を掴み、そのまま引き上げて再びテュカは伊丹の手を握
たことによりテュカが落下しかける。だが間一髪の処でヤオとミオ
崩落が始まった洞窟から脱出すべく走り続けるが足下から崩落し
﹂
きゃあぁあああ‼
?
?
﹁あっ⁉
?
﹁しっかり掴まえました‼
﹁ぐっ⁉
?
?
381
?
?
?
?
?
?
﹁ロゥリィ⁉
﹂
しっかりしろロゥリィ⁉
﹂
早くひっつけろ‼
﹂
軍の演習でもこれだけの負傷は即死ものなんだ
﹁腕が取れている‼
﹂
﹁こうすりゃいいんだ‼
その通り‼
﹂
?
﹁噛んだ﹂
﹁⋮⋮⋮噛んだな﹂
みぇ⋮⋮﹂
﹁まだそのような事を仰って⋮⋮⋮主人の妻となるのがお姉様のうん
﹁⋮⋮誰がハーディの嫁なんかになるもんですか﹂
間の雄なんかにお身体を触らせるなんて⋮⋮﹂
﹁お姉様⋮⋮おいたわしや⋮⋮⋮主上ので奥さんになられるお方が人
ゴスロリ服を身に纏い、デスサイズを担いだ龍人族の女性。
龍を従わせている青色の肌に銀髪、ロゥリィの神官服によく似た白い
k23 Mod0を引き抜いて構える。するとそこには2匹の新生
とM1070 CQBPを引き抜き、伊丹と谷もGlock17とM
辺りを警戒していたらいきなり笑い声がしてきて、俺はM45A1
﹁はははははははっ‼
﹁まだ近くにいる⋮⋮⋮ってことだ﹂
だ⋮⋮⋮﹂
﹁分からん。だかロゥリィがここまでやられるってことは相当な強さ
﹁いったい何が⋮⋮﹂
るが彼女の身体は元通りとなった。
再生されていく。そして他の傷口も再生されていき、息が乱れてはあ
が彼女を抱きかかえた際に落ちた右腕をひっつかせ、瞬く間に右腕が
普通なら生きている筈がない惨状に谷は軽く混乱するが、俺は伊丹
?
ぞ⁉
﹁だがどうやって⁉
?
?
﹁あぁ⋮⋮完全に噛んだな﹂
382
?
?
?
?
?
﹂
﹂
それにロゥリィをこんなにしたの
主上さんの妻になる人に気安く触んじゃねえ‼
﹁あぁ∼⋮⋮敬語使おうとしたらいっつもこうだ⋮⋮⋮おいヒト種の
雄‼
﹁仲間の手当てをしてなにが悪い
﹂
あんな女の妻に⋮⋮だれがなるもんですか⁉
﹂
私の主神はエムロイ⋮⋮⋮死と断罪と狂気⋮⋮そして
テメェ等だれに口きいてんのか分かってんのか⁉
はテメェか
﹁あん
﹁うるさい‼
戦いの神‼
?
に満ちた表情から本気で嫌がっていると悟った。
?
とな﹂
?
﹂
たき起こして水龍と番わせたんだからな﹂
つ等と炎龍が組めば勝てる亜神はいねぇ。その為に冬眠中の炎龍た
﹁そうと分かりゃあ手加減はなしだ。俺が手塩を掛けて世話したこい
のは本当だったみたいだ。
りアルヌスでロゥリィが一方的にやった伊丹を眷属にするっていう
俺は額を切っていて谷は腕を負傷しているにも関わらずだ。つま
り傷1つない。
型とチェストリグはところどころで破れているが激戦だったのに擦
ジゼルがそういうと伊丹は自信の体を確認する。すると戦闘服5
いたがよぉ⋮⋮⋮そこにいる奴が繋がってたせいじゃねぇか﹂
つうのに、キレは悪いし勝手に傷付くし⋮⋮⋮幾らお姉様でもムカつ
﹁バカかテメェ⋮⋮⋮よっぽどのことでもねぇ限りでよくて互角だっ
﹁ロゥリィを1人でここまで追い詰めたってのか
﹂
﹁あぁそうさ。せっかく見つけたんだ。主上さんの御意には従わねぇ
﹁⋮⋮⋮ロゥリィを拉致する為に戦ってたってのか
﹂
るがハーディとかいう神の妻になることを拒むロゥリィ。その拒絶
ハルバートを杖代わりにして、あれだけの回復で体力が消耗してい
?
?
?
﹁え⋮⋮炎龍を⋮⋮⋮起こした
?
383
?
?
?
?
?
﹁さてと⋮⋮⋮ちゃちゃっとやっちまっか﹁お待ち下さい‼ ﹂あん
﹂
ながら話しかける。
﹁猊下が⋮⋮⋮なぜですか⁉
餌になれというのがハーディのご意思だったと⁉
﹂
仕えてきた同胞への代償が⋮⋮炎龍という災厄だったと⁉
此の身らはハーディの信徒‼
主神に
デスサイズを構えて仕掛けようとするジゼルにヤオか左腕を抑え
?
炎龍の
?
りか‼
耳すら貸していなかったというのですか⁉
﹂
に⋮⋮⋮それなのに此の身の祈りに神々は応えてくれなかったばか
⋮⋮⋮その度に主神を想い⋮⋮希望を求めて旅に出た⋮⋮それなの
﹁さ ⋮⋮ 災 難 ⋮⋮⋮ 何 度 祈 り ⋮⋮ 何 度 問 い 救 い を 求 め 絶 望 し た か
を見開き、膝からガクリと地に伏せた。
俺がジゼルの言葉に対して徐々に怒りを蓄積していく中、ヤオは目
たら⋮あれテメェ等だったのか。そりゃあ災難だったな﹂
﹁んっ⋮⋮⋮あぁ⋮炎龍のやつがどっからエサを獲ってくると思って
?
?
?
?
葉をきいて怒りを見せるヤオはカットラスを手に斬り掛かるが⋮⋮。
詫びる処か変わらず炎龍のエサになれと言い放つジゼル。その言
サになってろってんだ﹂
﹁んなこと知ったことじゃねぇんだよ⋮⋮テメェ等は黙って炎龍のエ
たハーディに裏切られたんだ。
ダークエルフは冥界の王ハーディを崇拝しているのに、その信じてい
び声でハーディ信徒を意味するネックレスを引きちぎった。彼女達
ヤオは地面を何度も叩き、怒りのあまり血涙を流しながら悲痛な叫
?
384
?
﹁うぉおおおおおおおお‼
‼
‼
?
﹂
?
﹂
﹂
?
﹁はん‼
軟弱なヒトの分際で俺に刃向かうってのか
フで奴を攻撃し、鋒を奴に対して怒りと共にぶつけた。
俺はジゼルの薙ぎ払いを身を低くして回避し、そのままグルカナイ
前にして怒りを抑えるっていうのが無理だ。
はただ己の欲の為に無関係な人達を虐殺したんだ。そんな奴を目の
祈りを叶える叶えないかは神々の自由だ。だが目の前にいる龍人
に許せねぇ⋮⋮。
俺が先にグルカナイフを手にジゼルへ斬り込んだ。こいつは絶対
?
た⋮⋮⋮﹂
﹁本当の敵だって
﹂
﹁本当の敵は⋮⋮⋮邪神ハーディとそれに従う貴様だ‼
﹁⋮⋮⋮ざけんなねぇよクソ野郎が。ぶっ殺すぞ﹂
﹂
騙されていたことに気がつかなかった。本当の敵に気がつかなかっ
とに囚われ過ぎて、ダークエルフを敵愾視していた。ダークエルフも
﹁⋮⋮⋮俺は自分が恥ずかしい⋮⋮⋮ヤオにテュカの心を壊されたこ
﹁あん
﹁⋮⋮⋮黙れ﹂
?
﹁うはっ⋮⋮マジかよ﹂
構え直す。
やる。すると炎龍の巣を確認した新生龍が戻ってきてデスサイズを
グルカナイフを構えつつジゼルの後ろにいた新生龍に確認させて
やる﹂
﹁だったらそこのトカゲに確認させてみろ。そんだけの時間はくれて
﹁ありえねぇ⋮⋮⋮ヒトなんかが炎龍を殺せるかよ﹂
龍と同じ場所に叩き落としてやる﹂
﹁そっくりそのまま返してやる⋮⋮⋮貴様も貴様のペットと邪神も炎
?
?
385
?
﹁お前等も同じ状態にしてやる﹂
﹂
﹁炎龍をヒトが斃すなんてなぁ⋮⋮嬉しいねぇ。使徒になった甲斐が
あったぜ。おい、名前は
モゥト‼
みんなを連れて下山しろ‼
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
お姉様を確保する
﹁⋮⋮⋮エース・クレイグ。貴様を殺す復讐の鬼の名前だ﹂
﹁覚えておいてやるよ⋮⋮⋮トワト‼
?
?
こいつの相手はオレがしてやるからひっこんでな‼
谷‼
のは後だ‼
﹁伊丹‼
﹂
﹁⋮⋮⋮分かった‼
﹁ご主人様⁉
﹂
?
?
?
こいつをぶっ殺してから俺も向かう‼
﹁お前もいけミオ‼
﹁しかし⁉
﹁いいから行け‼
?
?
テメェが死ぬってのが決まっちまうぜ
﹂
﹂
それに貴
?
とするがルフスに引っ張られて下山を始める。
﹁いいのかよ
様にいい言葉を教えてやる﹂
﹂
血が流れるなら殺せる
﹁へぇ⋮⋮なんなんだ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮
だ‼
﹁ほざけ⋮⋮⋮そっくりそのまま返してやると言っただろ
?
ジゼルが指示すると2匹のトカゲが伊丹達に向かい、ミオは残ろう
?
?
?
神との戦いの幕が上がった⋮⋮⋮⋮⋮。
り下ろされたデスサイズと俺のグルカナイフが火花を散らし、俺の亜
ストを絶対に許しはしないし、生かしておく理由もない。ジゼルの振
そういいながら俺はジゼルに斬り込む。この神を名乗ったテロリ
?
?
386
?
?
?
?
?
‼
﹂
Mission80:猊下との戦い
﹁ウォオオオオオオオオオオ‼
﹂
蹴りを見舞うが、今度は左足を摑まれて投げ飛ばされる。
軸にしながら素早く連続で斬る、ジゼルの反撃を受け止めると左回し
受け身をしながらなんとか着地し、またすぐに斬りかかり、身体を
受け止め、そのまま押し返して俺を吹き飛ばす。
カナイフで斬りかかる。だがジゼルは余裕の表情を崩さないで柄で
俺はジゼルのデスサイズによる薙ぎ払いを屈んで回避するとグル
いうことで、こいつを許すことは出来ないということだ。
い。分かっているのは目の前にいるテロリストが虐殺を行なったと
何のために炎龍を叩き起こしたのかは分からないがどうだってい
だった。
るジゼルという冥界の神ハーディの指示を受けて行なわれた虐殺
炎龍を倒した直後に判明した事実。炎龍という厄災は目の前にい
?
テメェの命を代金にしてオレ様が戦いっての
を刎ね飛ばそうとする。後方に飛んで回避するがジゼルは尻尾を俺
﹂
の腹に叩きつけ、怯んだ隙に今度は前蹴りで俺を蹴り飛ばした。
﹁がはっ⁉
﹂
﹁もう諦めな。今なら苦しまずに殺してやってもいいんだぜ﹂
﹁⋮⋮誰が降伏するかテロリスト風情が‼
痛む腹に耐えながら俺は腰に取り付けてあったコンバットナイフ
?
387
?
どうしたその程度か⁉
﹂
?
﹂
﹁ははははっ‼
﹁ほざけ‼
を教えてやるよ‼
﹁動きが遅いんだよ‼
?
ジゼルは翼を羽ばたかせ、一気に距離を詰めてデスサイズで俺の首
?
?
?
?
を取り出して左手で逆手持ちで構え、一気に駆け出す。ジゼルは縦で
一刀両断にしようとしたが振り下ろしを横に飛んで回避し、一気に懐
に飛び込んでからグルカナイフを振り下ろす。
回避されてしまうがすかさずコンバットナイフで薙ぎ払い、勢いを
保ちながら回転して再びグルカナイフで斬りかかる。
だがジゼルは尻尾でグルカナイフを受け止め、弾き返すとデスサイ
ズを再び振り下ろす。
素早くグルカナイフとコンバットナイフを重ねて受け止め、力比べ
に発展するが俺は前蹴りを放ってジゼルを蹴り飛ばす。流石にジゼ
ルも予想外だったようで蹴り飛ばされたジゼルは後ろに飛んで距離
を稼ぎ、そのままにらみ合いとなる。
﹁へぇ⋮⋮⋮ひ弱なヒト種にしちゃあ中々やるじゃねぇか﹂
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮人間を⋮⋮舐めるな﹂
を後悔して死にな‼
﹂
状態だ。亜神としての力もそうだが龍人族というのは遥か昔から龍
はっきり言えば最初から亜神との戦いは俺の方が圧倒的に不利な
い素早い攻撃だ。
めて来た。デスサイズを力強く振り回し、俺に反撃する暇すら与えな
交渉は決裂し、ジゼルは再び翼を羽ばたかせてから一気に距離を詰
?
388
﹁だがどう足掻いたってヒトがオレに勝つなんて出来ねぇんだ。オレ
﹂
としちゃあこのままハーディの下に送るってのも有りなんだが、テ
メェは気に入ったぜ﹂
﹂
﹂
?
﹁へぇそうかい⋮⋮⋮だったら苦しみながら眷属にならなかったこと
﹁⋮⋮誰がテロリストの手下になるものか﹂
連れてくるっつうんだったら命は助けてやんぞ
﹁別にふざけちゃいねぇよ。オレの眷属になってお姉様をハーディに
?
﹁何を言っている
⋮⋮⋮オレの眷属にならねぇか
﹁おい⋮エースとか言ったな
?
﹂
﹁⋮⋮なにをふざけたことを
?
?
を先祖にする戦闘種で、龍としての能力と人としての思考、更には平
均寿命1,200歳という長寿が成す圧倒的実戦経験。
俺も実戦経験には自信があったが亜神に比べたら子供のお遊びの
ような僅かな経験でしかない上に、ジゼルの戦い方はまるで赤子の手
をひねるがの如く、俺を軽く凌駕するものだ。
攻撃を受け止め、回避していくが迂闊にも俺は足を取られてしま
い、バランスを崩してしまった、そこにジゼルのデスサイズが俺の左
腕を擦り、その痛みに耐えながらグルカナイフを振るうが、デスサイ
ズが振り上げられた瞬間に宙を舞うグルカナイフの破片。
﹂
武器を破壊されて唖然となってしまうが今度は腿を切られ、俺は地
いい眺めだな‼
﹂
面に倒れてしまった。
﹁がはっ⁉
﹁はははっ‼
﹂
?
そうすりゃ⋮⋮﹂
﹂
﹁黙れ⋮⋮⋮﹂
﹁あぁん
言ってんだろうが‼
﹂
﹁まだ立場ってのを分かっちゃいねぇみてぇだな
﹂
海兵隊の死に様っ
⋮⋮殺るならさっさと殺れ‼
クソッタレ以下のクソ神の犬が‼
らねぇ位までにバラバラにしてエサにしてやるぜ‼
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮やっぱテメェを眷属にするっつうのはやめだ。原型がのこ
?
﹁ぐぅうううっ⁉
?
て奴を見せつけつやるぞ‼
﹂
テメェこそ俺が怖いからさっきから馬鹿みてぇなこと
﹁黙れっつってんだトカゲ野郎‼
誰がテメェみたいなクソの手下に
﹁さてっと⋮⋮こいつが最後の警告って奴だ。オレの眷属になりな。
つけてくる。
ジゼルは俺の負傷した左腕を踏みつけ、尻尾を俺の腹に何度も叩き
﹁ぐあぁあああっ⁉
?
?
?
?
?
?
389
?
?
なるか⁉
?
?
?
どうやらここまで見たいだ。降り下ろされようとするジゼルのデ
スサイズに俺は死を覚悟した。
すまねぇな伊丹、谷、みんな⋮⋮⋮ミオ⋮⋮⋮。
奴のデスサイズが俺の喉を捉えようとした瞬間、いきなり声が聞こ
その純粋なまでの復讐心⋮⋮⋮あなたにしましょう
えてきた。
﹂
その声がした瞬間、俺は気が付いたら迫り来るジゼルのデスサイズ
⋮⋮⋮なんだと⁉
を片手で受け止めていた。
﹁なっ⁉
﹁⋮⋮⋮なにがどうなってるんだ
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮テメェ⋮⋮まさか⋮⋮﹂
イズをみると俺は構えた。
そして一瞬だが息が出来ないで咳き込むと柄だけとなったデスサ
るように止まった。
ほどまでの蹴りとは違い、ジゼルは地面を転がって岩に叩きつけられ
を込めてデスサイズを叩きおり、そのままジゼルを蹴り飛ばした。先
ジゼルが驚きを見せるが、俺はデスサイズを両手で掴むと一気に力
?
あまりにも予想外な行動にジゼルは2匹の新生龍に追撃を命じ、瞬
た道を急いで駆け出した。
ぐさま俺は唖然となっているジゼルを無視して伊丹達が走って行っ
その聞き慣れた音に、このままでは巻き込まれると直感が働き、す
うとするが、今度は別の音が聞こえてきた。
くるのを感じながら俺はコンバットナイフを拾い上げて斬りかかろ
俺自身も今の状態を理解できない。だが力が溢れるように湧いて
?
390
?
﹂
く間に追い付かれそうになるが、いきなり走っている方角から発砲音
こっちだ‼
が聞こえてきた。
﹁エース‼
俺は振り向きざまに新生龍目掛けてコンバットナイフを投げて岩
丹と谷。そしてテュカ達だ。
そこにいたのは岩かげに隠れながら援護射撃をしてくれている伊
?
﹂
﹂
かげに飛び込んだ。その瞬間に2匹の新生龍に何かが命中した。
﹁な⋮⋮なんだ⁉
﹁騎兵隊の到着だ‼
?
関羽隊のF│5Eとルーデル隊のA│10A、ライトニング隊のAV
M│3を発射したホークウィンドー隊のF│4EJ改に続くように
いきなりの爆発に俺が空を見上げると、そこには飛翔体⋮⋮⋮AA
?
│8B+が姿を見せていた⋮⋮⋮⋮⋮。
391
?
Mission81:旅の終わり
伊丹達を追う新生龍に命中した2発のAAM│3、それは神子田が
率いるホークウィンドー隊によるものだった。いきなりの攻撃で低
ガンズ‼
ガンズ
空を飛行していた新生龍は地面に叩きつけられ、それに関羽隊が立て
﹀
﹀
ガンレンジインサイト‼
ガンレンジインサイト‼
続けに攻撃態勢を整えて高度を落としていた。
︿初弾命中‼
﹀
?
︿こちら関羽01‼
ガンズ‼
︿ライトニング01‼
‼
?
?
1‼
座標013│351‼
榴弾装填‼
?
測射開始‼
?
方位30
﹀
?
?
撃を開始する⋮⋮⋮⋮トールハンマー指揮官から全隊‼
︿こちらトールハンマーFDC。了解したルーデル03。これより砲
弾をたんまりぶち込んでやれ﹀
︿ルーデル03からトールハンマー。ターゲットが動きを止めた。榴
とする。
AU│12U イコライザー 25mm機関砲ポッドで更に釘付け
0mmリヴォルヴァーカノン。ライトニング隊のAV│8B+がG
ホークウィンドー隊に続いて関羽隊のF│5EがM39A2 2
?
?
?
?
されているM114だ。命中精度は見劣りがある。
だが台湾軍の砲撃技術は非常に優秀で、 砲撃の神兵
とも云われ
自衛隊と海兵隊とは違って台湾軍のT65は第2次大戦より使用
次々とぶち込んでいく。
湾陸軍のT65 155mm榴弾砲が砲撃を開始し、新生龍に榴弾を
式155mm自走榴弾砲と海兵隊のM777 155mm榴弾砲、台
トールハンマーが全部隊に砲撃を指示し、待機していた自衛隊の75
O A │ 1 0 A を 操 る ラ イ ト ニ ン グ 0 3 の 指 示 を 受 け た 砲 兵 隊 の
?
392
?
ていて自衛隊やアメリカ軍も台湾軍砲兵隊には敵わないと口にして
いる程だ。
目標に命中確認‼
そっちは
﹀
効力射‼
﹀
頭八咫烏‼
放たれた榴弾は曲射を描きながら地上に動けないままの新生龍に
降り注いだ。
﹀
座標修正の必要なし‼
英雄3人達は確認出来るか⁉
初弾命中確認‼
︿こちらルーデル03‼
どうだ⁉
︿確 認 し た ‼
﹀
︿こちらFDC了解だ‼
生きている‼
﹀
ハンター
こちらは砲撃中止す
アパッチ隊を前に出させてくれ‼
︿弾着地点より500m下がった斜面にて確認‼
﹀
︿了解だ‼
る‼
目標赤‼
頭八咫烏からハンター1‼
﹀
︿了解だFDC‼
2は目標黒‼
︿了解した頭八咫烏。目標赤、発射用意。ヘルファイア発射‼
?
トドメは任せてくれ‼
目標捕捉‼
Mk
?
﹀
︿こちらルーデル01‼
84投下‼
?
なって横たわり、ジゼルはいきなりの状況に瓦礫に埋もれながら震え
り ま い た。こ の 一 撃 で 新 生 龍 は 身 体 中 を バ ラ バ ラ に さ れ て 死 骸 と
投下されたMk84はしっかりと新生龍に命中し、辺りに瓦礫を振
Mk84低抵抗汎用無誘導爆弾が投下されて機首を上げて急上昇。
上 げ と し て 待 機 し て い た ル ー デ ル 隊 の A │ 1 0 A が 急 降 下 を 開 始。
砲兵隊による砲撃、アパッチによるミサイル攻撃に続いて最後の仕
?
を喰らい続ける新生龍は徐々に動きを弱めていくが攻撃はまだ続く。
発射されたヘルファイアはまっすぐ新生龍へと向かっていき、直撃
自衛隊のAH│64EJからヘルファイアが発射された。
砲兵隊による続いていた砲撃が中止すると、低空にて待機していた
?
?
?
?
393
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
ていた。
﹂
﹁な⋮⋮⋮なんだこれは⋮⋮これが⋮⋮エース・クレイグの力だって
いうのか⁉
新生龍であるが炎龍の子供を瞬く間に撃破されたことをエースの
﹂
力だと誤解するジゼル。だが彼女にとってまだ続きがあった。
﹁ジ∼ゼ∼ルゥ∼。どこにいるのぉ∼
﹁げっ⋮⋮お⋮お姉様⋮⋮⋮﹂
存在している。
幽閉とは即ち
﹁えぇ⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁あぁ⋮⋮⋮みんなの仇は取ったんだよな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮終わったな⋮⋮﹂
の放心状態となっている。
だ。
新生龍撃破後、次々と到着する騎兵隊を眺めながらエース達は若干
イズを手にして見つからず、迅速にその場を離れた。
見つかったら間違いなく幽閉されることを知ったジゼルはデスサ
不死者に対する残酷を極めた拷問
れた禍神や同じくバラバラにされ、獣に腸や内蔵を食われ続けた神も
世界にはかつて陞神するまで身体をバラバラにされて各地に埋めら
ジゼルはロゥリィの幽閉という言葉に恐怖を抱いた。ジゼル達の
﹁幽閉してあげるからぁ⋮⋮出てらっしゃあ∼い﹂
?
﹁もぅ俺のこと父さんなんて呼ぶんじゃないよ
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮嫌﹂
﹁どして
﹁⋮⋮⋮⋮そっか﹂
?
394
?
﹁だって言い慣れちゃったんだもん﹂
?
今まで通り伊丹のことを父親とすると公言するテュカ。炎龍を倒
して父親や友達の仇を取ったことで吹っ切れたようであり、表情はか
なりすっきりしたものとなった。
それをエースは肩にもたれ掛かりながら疲れて眠っているミオの
頭を撫でていると、何かに気がついたロゥリィがエースに近付いた。
﹁エースゥ。あなたジゼルと戦って善戦したみたいねぇ。ヒトなのに
亜神と戦うなんて無茶なことなのよぉ﹂
﹂
﹁みたいだな⋮⋮⋮お陰で左腕を負傷したし、危うく死にかけたから
な﹂
﹂
こんなにパックリと⋮⋮⋮あれ
﹁左腕に傷なんてないわよ
﹁なにいってんだ
﹁ちょっ⁉
じゃないのか⁉
﹂
﹂
﹂
まさか伊丹と同じように俺も眷属にしたん
﹁いつ私があなたに噛み付いたのよぉ
﹂
﹁そういえばエース、お前いつ右腕に刺青なんかいれたんだ
﹁し⋮⋮刺繍
?
?
ロゥリィ⁉
この異様な状態にエースは慌ててロゥリィに問いかけた。
我などしていなかったような綺麗な状態となっている。
しかもよく見ると身体中の傷が全て消えており、まるで最初から怪
こには傷口などなく、裂けた迷彩服だけだ。
来ならば縫わなければならない傷口だったのだが、エースが触るとそ
ロゥリィの言葉に指摘されたエースは自身の左腕を確認する。本
?
?
?
するとロゥリィが再び話しかけて来た。
ない。
飛び出たような不気味な刺繍だがエース本人にまったく心当たりが
いが確かに刺繍が描かれており、女性のシルエットに背中から肋骨が
今度は谷が見つけたのですぐにエースは確認した。そこには小さ
?
395
?
?
?
﹂
純粋な復讐心
﹁エースゥ⋮⋮ジゼルと戦ってた時に何か変なことなかったぁ
とか⋮⋮⋮﹂
﹁変なこと⋮⋮⋮そういえば声が聞こえたな⋮⋮
あなたにしましょう
き出てきたでしょ
﹂
と
﹁なるほどねぇ⋮⋮あいつならやりかねないわ。その声の後に力が湧
か
?
﹂
?
よぉ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なに
﹁いやいやいやいや⁉
﹂
い以前にこの世界の人間でもないんだ‼
冗談じゃないぞ⁉
そもそも俺は信徒でもな
だが信徒ではないエースは慌てて否定した。
いう。
天空を司る神で彼女の亜神になるには純粋で綺麗な復讐心が必要と
たと話すロゥリィ。彼女によると復讐神パラパンは復讐と祈願成就、
エースは復讐神パラパンに気に入られて、その亜神になってしまっ
﹂
﹁一 言 で い え ば あ な た も 不 死 者 ⋮⋮ 亜 神 に な っ ち ゃ っ た っ て こ と
⋮⋮気に入られちゃったってどういう意味だ
﹁パラパン⋮⋮⋮確か復讐の神だったような⋮⋮⋮⋮⋮ちょっと待て
﹁あなた⋮⋮⋮パラパンに気に入られちゃったみたいよぉ﹂
﹁確かにそうだが⋮⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮⋮行けない距離だ⋮⋮﹂
はぁ∼⋮⋮⋮﹂
んなもん返すからどうに
﹁にひひっ⋮⋮⋮仲間仲間♪⋮⋮ぎゃんっ⁉
﹁うっせぇ‼
?
骨を降らした。
自分と同じ人間が出来たことに嬉しがる伊丹にエースは即座に拳
﹂
さいよぉ。パラパンの神殿は氷雪山脈の更に奥にあるわぁ﹂
﹁私に言われても困るわぁ。それにそういうことは本人に直接いいな
かしてくれ⁉
?
?
?
396
?
?
?
それから回収部隊がエース達と戦死したダークエルフ達の遺体と
炎龍の首を回収し、そのままアルヌス基地へと帰還。勝手な行動をし
たことにより3人は停職2週間、各隊長の任務を解除されて総監部付
を命じられた。
特にエースはシュガート大佐より拳骨が送られた後に本国ホワイ
トハウスへロゥリィと共に出頭するようにと命じられ、谷も本国に呼
び出しが食らい、物語は新たな局面を迎えた⋮⋮⋮⋮⋮。
Capter 2 Completion.
397
第3章:動乱編
Mission82:本国でのホームパーティー
炎龍を倒し、黒幕であったハーディの使徒ジゼルを撃退してテュカ
の心と結果的にダークエルフを救い出した。
あの後にアルヌス基地に帰還したが任務内容を逸脱していて不必
要な犠牲者を出したことによりシュガート大佐達から2週間の停職
と1ヶ月の減俸を申し付けられた。
これは覚悟していたことだし予想よりも小さい処分だったから気
にはしない。
だが予想外だったのが拉致被害者救出に多大な功績を残したこと
で狭間陸将から一級賞詞。ロシアからも名誉市民とロシア連邦英雄
等の栄誉称号が││本来はロシアで首相や大統領から授与されるが
││今回は特例中の特例でここアルヌスで授与された。
に向かった。
﹂
398
他にもエルベ藩王国国王デュラン陛下より勲章と卿の称号、ダーク
エルフ族長7賢人からも感状と名誉族長の称号。伊丹には短剣とダ
イヤで俺には黒一色の二本のシャシュカ。谷には二筋の装飾が施さ
れたジャマダハルを授与。
ド ワ ー フ の ル ペ 村 と い う 場 所 か ら 短 剣 と 感 状 で レ イ バ ゾ ム と ト
ルーテ村からも感状。デアビスとイタリカからも感状がありイタリ
カからは晩餐会の招待状がプレゼントされた。
つまり炎龍による被害があった場所から何かが贈られ、俺たちは特
地側にとって完全な英雄貴族となっているが悪い気はしない。
戦闘報告書を作成して、シュガート大佐から本国のワシントンに名
ある場所
誉勲章授与の為に出頭せよという命令に従い、次の日に俺は久々にア
メリカに帰国して
﹁ははっ、楽しんでいるかね中尉
﹁えぇ⋮⋮まぁ⋮⋮⋮﹂
?
俺 が い る の は ワ シ ン ト ン に あ る コ ー ド
ウ ィ ス キ ー・ホ テ ル
⋮⋮⋮つまりホワイトハウスの隣にあるプレジデンツパーク。表向
きではディレル大統領から2個目のメダルオブオナー授与式出席
だったのだが日本に戻っていきなり驚かされた。
なにせ大統領がわざわざエアフォースワンにて迎えに来たり、しか
もメダルオブオナーを授与した後、ディレル一族達ファーストファミ
リーによるホームパーティーに誘ってきたんだ。
加えて大統領はロゥリィのことを大層気に入ったようであり、授与
式の後にロゥリィにも友好の証としてわざわざロゥリィが着ている
ゴスロリ衣装とよく似たデザインのものを灰色で用意し、更にはアメ
リカの名誉市民として特別に税金を一切免除、留まることを知らず
ファーストファミリー、、つまりディレル一族の一員として招き入れ
ようというあり得ない状態にもなった。
まぁ、名誉市民は素直にロゥリィは受け取ったが流石にファースト
399
ファミリーの一員は辞退した。
そんなとんでもないことをやらかすディレイ大統領は焼き上がっ
たバーベキューとビールそれぞれを片手に賑わっているパーティー
の風景を座って眺めている俺の隣に座りながら話しかけてきた。
因みに余談だが大統領の食事は政府から予算が支給されるから実
質上タダなんだが、今回のホームパーティーや業務中に小腹が空いた
際のものは大統領の給料からしっかりと引かれる。
その時にシェフは使えないから大統領自らがホワイトハウス内部
のキッチンにて調理するから、歴代の大統領は簡単ながらも調理が出
来るという共通点がある。
﹁いやはや⋮⋮ロゥリィさんが娘達に気に入られてよかったよ﹂
﹁ロゥリィは子供が好きですからね⋮⋮向こう側でも街の子供達や孤
﹂
児達とよく遊んであげています﹂
﹁君も本土でも人気が高いぞ
﹁私としましては少し抵抗がありますが⋮⋮﹂
?
俺と大統領は子供達と楽しく遊んでいるロゥリィを眺める。その
周りにはファーストレディと親戚組が音楽に合わせながら手拍子を
して眺めていた。
﹂
﹁しかし我が軍に亜神となった英雄がいるというのも驚いたが、本当
に1,000年後に神になるのかね
﹁ロゥリィ曰くですが⋮⋮⋮試しに腕を切ってみたのですが瞬く間に
傷口が塞がって、岩を殴ってみたら木っ端微塵になったり、戦車と力
比べで綱引きをしたら途中で縄が引きちぎれると⋮⋮﹂
﹁はっはっはっ⋮⋮⋮まさにスーパーマンじゃないか﹂
﹁しかしこんな人外じみた能力なんかいらないですし、私は普通の人
間として暮らしたいです﹂
﹂
﹁まぁ⋮⋮それほど特地の人達といい仲になっている上にその地に適
応してきている、ということでいいのではないかね
﹁だったらいいんですが⋮⋮﹂
いる。
﹁それよりも特地であの姫様は元気かね
﹂
キスしたりと我ながら発展しているし、俺も特地はかなり気に入って
確かに特地の人間とは仲がいい。特にミオとは不可効力ながらも
?
こちらは問題ないでしょうが⋮⋮﹂
?
と見下し、こちら側に再び侵略しようとしているらしいです﹂
﹁そうなります。ラシーアが掴んだ情報では奴等は未だに私達を弱者
﹁問題は戦犯の王太子ゾルザル・エル・カエサルと主戦派だな
﹂
﹁ピニャ⋮⋮⋮姫とモルト皇帝は協定締結を約束してくれましたから
中々の交流だ﹂
士 団 ら し い し、我 が 軍 の 将 兵 に 特 地 の 言 葉 を 教 え て く れ て い る し、
﹁なんでもロシア人の行方不明者のことを教えてくれたのも姫様の騎
しているというのはボーゼス達から聞かされています﹂
﹁恐らくは⋮⋮最近は会っていませんが帝都で和平交渉に向けて尽力
?
400
?
﹂
﹁こういうのも何だが⋮⋮⋮ゾルザルは精神科に通わせた方がいいの
ではないか
﹁私もそう思います。しかもウラ・ビアンカでも分かったのですが、帝
国 は 未 だ に 人 種 差 別 を し て お り、女 性 も 娼 婦 を や ら ざ る を 得 な い
⋮⋮⋮帝国は内側からボロボロです﹂
﹁今後の交渉にもよるが、ゾルザルは何としてもA級戦犯として裁い
てやらねばな⋮⋮⋮﹂
﹁奴等は私達の触れてはならないことに触れてしまいましたから⋮⋮
特にゾルザルは私が引導を渡してやらなければ気が済みません﹂
俺は思わずゾルザルのクソッタレな顔を思い出してしまうが、目の
前に奴がいたら確実に45,ACP弾を額に撃ち込んでるだろう。
﹂
﹁まぁ、キナ臭い政治話は終わりにして、実は君に渡し忘れていたもの
があるんだ﹂
﹁渡し忘れ⋮⋮ですか
﹁⋮⋮⋮⋮階級章
﹂
礼をしながらこちらを見ていた。
2つある。その意味を理解した俺は大統領を見ると、大統領は軽く敬
を開けるとそこには銀色の2本のラインが入った金属製のパッチが
そういうと大統領はシャツのポケットから小さい箱を取り出し、中
﹁これだよ。開けたまえ﹂
?
大統領から渡された箱の中身は大尉の階級章。大統領からも大尉
﹁これからも頑張ってくれ。エース・クレイグ大尉﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ナイツの一員となる﹂
つまり大元の所属は第6特殊作戦戦闘団となって、タスクフォース ﹁それと停職が終われば君にはフォースリーコンへの復帰を命じる。
?
401
?
と呼ばれて俺は思わず敬礼で返した。それからホームパーティーは
男だったらグイっといかな
続き、大統領もバーベキューの腕前を振るって中々の美味に舌鼓を満
喫した。
因みにこの後⋮⋮⋮。
﹂
そうだぞクレイグ‼
﹁もっと飲みなさいよぉエースゥ♪﹂
﹁はははははっ‼
いかグイっと‼
﹁⋮⋮⋮誰か助けてくれ⋮⋮﹂
ビールを飲み比べして互いに酔っ払ったロゥリィと大統領にビー
?
ルジョッキを片手に更に飲まされていた⋮⋮⋮⋮⋮。
402
?
?
Mission83:台湾動乱の回想
久々に祖国台湾に帰って来た。
ご褒美
を高
大統領からの指示ですぐ大統領官邸にルフスと共に向かい、そこで
周大統領から忠勇勲章を授与して停職という名前の
雄で満喫することになった。
初めての日本以外の他国に足を踏み込んだことに心躍るルフスは
東帝士85國際廣場の展望スペースで絶景を満喫したり、夢時代にて
買い物、夜は六合夜市にて目を輝かしながら台湾の屋台やB級グルメ
仔煎や甜不辣などの屋台料理を満面の笑みで満喫
を大いに満喫している。
今も目の前で
しているルフスを見つつ、街中を見渡す。
ルフスと同じように屋台を満喫している国民や観光客でかなりの
賑わいを見せており、特に日本人とアメリカ人は屋台の亭主からサー
ビスされている。
ここまで活気に満ち溢れているが、2015年1月1日に独立を果
たした1ヶ月半後、中国軍南京軍が一方的に侵略してきた。
台湾動乱の開戦である。
中国軍は西海岸全域に大規模な上陸作戦を展開し、数の暴力で我が
海軍を蹂躙して捕らえた捕虜を殺害。俺も当時は曹長として台湾北
部にある桃園市の海岸にて中国軍上陸部隊を待ち構えていた。
2015年2月21日 台湾桃園市海岸地域 高雄隊第3小隊防
衛拠点
︿こ ち ら 3 0 1。中 国 軍 が 上 陸 部 隊 を 出 撃 さ せ た。各 戦 車 は 合 図 を
待って砲撃せよ﹀
﹂
﹁こちら321号車。了解です中隊長﹂
﹁戦車長。まだ撃たないのですか
ろっていう命令だ﹂
﹁落ち着け伍長。中国のカス連中が海岸に敢えて上陸してから攻撃し
?
403
?
﹁敵の逃げ場を無くしてから一網打尽にしろってことですね
黄島で旧日本軍が使った戦術だったような⋮⋮﹂
確か硫
﹁その通りだ。だが一番分からないのが、なんで俺たちしかいない場
所に主力が集中してるかってことだ﹂
︿本土防衛に参加した全ての将兵に通達。最高司令官よりメッセージ
が届いた。中継する﹀
︿こちらは台湾大統領の周 登満だ。いま我が国は中国のならず者集
団による攻撃を受けている。このならず者集団は自分達の欲をただ
満たすためだけに罪なき国民を殺害しようとしている。私は全ての
将兵にこの犯罪者共を迎え撃つよう命じた。自由を勝ち取った祖国
に傷がつけられる前に必ず迎え撃つようにと⋮⋮⋮。
今日は辛く困難な1日となるであろう。しかし我々は必ず乗り越
えられるだろう。祖国を護る勇敢な男女に伝えたい。成功を祈る﹀
台湾動乱の際に俺が指揮をする第2小隊は定数割れで2両のM6
0A3と1両のCM11しか配備されておらず、しかも沿岸には中国
海軍の074A型揚陸艇が停泊していて、そこから63式水陸両用戦
車と中国軍歩兵部隊を乗せた724型エアクッション揚陸艇がこち
らに接近しているのが確認できる。
この戦争は中国による圧政と内乱に端を発する。
先軍主義を掲げる中国共産党による13億人裕福化計画は国民の
生活を圧迫させるだけに終わり、逆に軍部や一部の共産党幹部に賄賂
や汚職を許すことになる。
デモが発生すれば、それを軍部が力で封じ込めて天安門事件のよう
なことが各地で起こり、そこで台湾の独立や内モンゴル自治区、広西
チワン族自治区、チベット自治区、新疆ウイグル自治区の大規模デモ
を許す。
だが中国の圧政は留まらず、遂に中国軍は台湾を除いた独立自治区
董卓軍の再来
とも
中国事変
と
に進軍し、テロ組織壊滅と称した中国軍による民間人への無差別爆
撃、略奪や殺戮が発生。後に
呼ばれる事件だ。
404
?
この一切の人権を度外視した事件で中国は世界中からの信用を失
い、それまでに無かった位に強烈な経済制裁や陸海空路全てを封鎖さ
れてしまう。だが変わらず領土問題を起こし、兵士の溜まった鬱憤を
晴らすためだけに南京軍による暴走が始まったというのが台湾動乱
だ
﹁⋮⋮徹甲弾を装填。目標は63式﹂
﹁了解﹂
﹁322及び323は榴弾を装填して322は揚陸艇。323は展開
を始めた中国軍を砲撃しろ。攻撃開始は敵が海岸に満たされてから
だ﹂
︿322から321。目標をマーク﹀
︿323から321。目標をマーク﹀
発の榴弾が撃ち出され、直撃を受けた前方の63式と後方のホバーク
﹂
ラフトは爆散。展開していた歩兵部隊も榴弾により吹き飛ばされた。
次弾装填急げ‼
見えた敵に対して自由に
状況に合わせて行動しろ‼
?
おい‼
﹁初弾命中‼
砲手‼
自由射撃許可‼
判断は任せる‼
﹁弾 幕 展 開 ‼
﹂
﹂
﹁3 2 2 と 3 2 3 ‼
?
?
ぶっ放せ‼
?
﹁了解曹長‼
?
?
?
?
?
?
405
322と323がそれぞれ指定された目標に照準を合わせ、俺も
キューポラで海岸の様子を見ながら敵部隊が展開して油断し始めた
﹂
のを確認すると無線機で叫んだ。
﹁砲撃開始‼
﹀
︿砲撃‼
?
目標が差し掛かった瞬間、3両のM60A3から1発の徹甲弾と2
﹀
︿撃て‼
?
?
﹂
︿︿了解‼
﹀﹀
砲手と322、323に対して自由射撃を命じると次々と敵に攻撃
﹂
敵は海岸での戦いに戸惑っている‼
このまま
を開始。俺も対空火器として搭載しているM2を操作して敵を牽制
していく。
﹁弾幕を絶やすな‼
いっきに畳み掛けてやれ‼
﹂
こっちに気がつきやがった‼
戦車排除を続行しろ‼
﹁前 方 に R P G を 構 え た 奴 が い る ‼
﹂
﹁そいつは任せろ‼
?
緩めない。
﹀
﹀
対空警報‼
脱出する⁉
直撃を受けた⁉
戦
俺たち
油圧低下‼
上空にJ│8Ⅱ接近‼
FCS停止‼
すると63式の攻撃が322に命中した。
︿こちら322⁉
闘続行不可能‼
︿323から321‼
を狙ってやが⋮⋮⋮うわっ⁉
?
孤立した⁉
﹂
脱出を確認出来ていないのでクルー4名は戦死した。
援 の 空 爆 で 射 出 さ れ た ロ ケ ッ ト ラ ン チ ャ ー を マ ト モ に 受 け て 大 破。
食らったことにより戦闘続行不可能となって脱出し、323は航空支
上空からのミグもどきは厄介だ。322は105mm砲の直撃を
?
?
していくが、こっちの数が少ないと判断したのか戦車隊は反撃の手を
往左往しながら的外れな場所を攻撃。俺もM2重機関銃で敵を排除
海岸での作戦展開に全く慣れていないのか、中国軍の歩兵部隊は右
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
﹁くそっ⁉
?
406
?
?
?
﹂
このままじゃやられるぞ⁉
﹂
敵機が戻ってきた⁉
﹁航空支援はまだか⁉
﹁まずい⁉
﹂
間に合わない⁉
﹁脱出しろ‼
﹁駄目だ‼
?
?
﹂
?
﹁な⋮⋮なんだ⁉
﹂
﹂
日本軍だ‼
日本軍が
?
﹁ファントム⁉
﹀
︿HQから321‼
助けに来たぞ‼
頼もしい増援が来た‼
た矢先、いきなり轟音と共にミグが木っ端微塵に吹き飛んだ。
さっきのミグが俺たちを叩き潰そうと旋回して爆撃コースに入っ
?
?
?
し、接近していた別のミグを撃墜した。
聞こえるか⁉
﹀
台湾軍戦
位置はIRビー
こちらは台湾軍戦車隊所属の谷曹長だ‼
残ったのは俺たちだけだ‼
こっちは4
︿こちら日本国航空自衛隊所属のホークウィンドー01‼
車隊‼
﹁助かった‼
名負傷で4名戦死‼
﹂
?
機‼
味方はIRビーコンで分かる‼
﹀
﹀
それ以外は全て敵だ‼
了解‼
やってやるぞ‼
︿こちらホークウィンドー02‼
︿ホークウィンドー03了解‼
﹀
?
F│4EJ改とF│15J。しかも来たのはアメリカ空軍との模擬
間一髪のところで駆け付けてくれた航空自衛隊第302飛行隊の
ます﹀
︿こちらホークウィンドー04。目標上空に到達。航空管制を開始し
?
?
?
︿了解だ。仇を代わりに取ってやる⋮⋮⋮680から302飛行隊各
コンでマーキングしている‼
?
?
?
?
が日本の主力機の1つであるF│4EJ改が空対空ミサイルを射出
そう言われて俺はハッチを開けて上空を見る。そこには旧式機だ
?
?
?
?
?
?
?
407
?
?
?
?
?
戦でF│22相手にF│4EJ改で勝利したっていうホークウィン
ドー01だ。
そんな相手に練度でも性能でも遥かに劣る中国軍機が敵うはずが
ない。
いきなりのエースパイロット出現で中国軍は慌てふためくが、また
我が国を救済すべく日本と
敵は完全に退路が遮断され
全ての地域にて中国軍は大打撃
最高司令部から通信‼
とない好機に俺は再びハッチを閉めて指揮に集中する。
︿こちらHQ‼
﹀
よく持ち堪えた‼
アメリカが中国軍に攻撃を開始‼
﹂
を受けている‼
﹁本当か⁉
﹂
間も無くで増援が到着するから引き続き敵を減らしてくれ‼
︿HQから321‼
た‼
﹀
?
?
?
?
?
そんなことを思い出しながら街中を見ていると食事を終えたルフ
世界各国からの援助で立て直し、経済発展国となる。
そんな動乱が過ぎ去って今の台湾は日本とアメリカを中心にした
すます中国は経済悪化が進むことになる。
虐殺した映像が報道されていたので中国は常任理事国から追放。ま
れ、台湾動乱を無かったことにしようとしたが全世界に戦闘と捕虜を
それから南京軍最高司令は口封じの為に国家反逆罪により処刑さ
害は僅かに収まった。
1万が戦死で4万人が負傷。5,000人が捕虜となって台湾軍の損
の上陸作戦失敗と東海艦隊全滅により中国軍の被害は20万の内に
無線から聞こえてきた声に俺は322クルーの救助に向かう。こ
﹁了解だ‼
?
スが話しかけて来た。
408
?
?
?
?
﹁谷、どうかしたか
こはあるか
﹂
﹂
﹁そういってくれて何よりだよ⋮⋮⋮⋮この後どこか行ってみたいと
﹁そうだな⋮⋮民を見ていて明るいことが本当によく判る﹂
﹁いや⋮⋮⋮昔のことを思い出して平和はいいなって思ってな﹂
?
﹂
﹁義大世界の観覧車だな⋮⋮⋮よし‼
﹂
﹁うむ⋮⋮⋮だが⋮﹂
﹁⋮⋮⋮どうした
﹂
﹂
?
く 思 い つ つ も 手 を 繋 い で あ げ て、夜 の 高 雄 を 歩 く の だ っ た
顔を赤くしながらルフスは手を出して来て、俺はそんな彼女が可愛
﹁えっ⋮⋮えっと⋮⋮⋮手を⋮⋮繋いでくれないか
行ってみるか‼
﹁う む ⋮⋮⋮ 途 中 で 見 か け た 円 卓 を 立 て た よ う な 場 所 に 行 き た い ‼
?
⋮⋮⋮⋮⋮。
409
?
?
?
?
Mission84:長距離偵察チーム
ゴースト
2週間における停職があっという間に終わり、復帰した俺たちはそ
れぞれの部隊に回された。伊丹は特地資源調査班第1チームの隊長
に命じられ、人選の自由でテュカ、レレイ、ロゥリィ、ヤオの4人が
奴に着いて行くことになる。
谷も台湾軍側からの特地資源調査班第2チームを命じられて副隊
長にルフス。後に3人のダークエルフとドワーフと人種の傭兵を雇
用して任務に当たることとなった。
1週間の訓練期間を終えてフォースリーコンに復帰した俺も新し
ゴースト
を率いて
い任務である各地における帝国の拠点状況と補給ルートを偵察する
タスクフォース ナイツ 長距離偵察チーム
東に向かっていた。
410
﹁いい天気だ。行軍には最高のコンディションだな﹂
﹁そうですね♪日向ぼっこをしたくなります♪﹂
ゴースト分遣隊で運用することとなった陸軍レンジャー連隊にて
使用されているRSOVの助手席にて晴天の暖かさを満喫するミオ。
この分遣隊にも他の部隊と共にミオを含めた4人を雇用しており、俺
は伊丹達と谷達と共にイタリカでの晩餐会に出席。
そこでメイドの仕事でイタリカに戻っていたミオを回収して伊丹
は北で谷は一旦アルヌスに引き返してからエルベ藩王国へと向かい、
﹂
俺もそのまま帝都に向かうように東へ向かう。
﹁お前達も乗り心地はどうだ
うだ﹂
﹁一度は乗って見たかったところだが、乗り続けると尻が痛くなりそ
﹁そうだニャ♪﹂
﹁少し狭いが荷車よりかは乗り心地はいいな﹂
?
RSOVを操縦しながら座席に座る3人に話しかける。俺が雇っ
たのは龍人族の青年で名前はヴァルキル。戦士にしては珍しい素手
で戦うモンクであり、赤い皮膚が表すように拳に炎を魔法で纏わせる
ことが出来るらしい。
その隣にいるのがキャットピープルのシャム。腰に身につけた短
剣が表すよう素早さの他に医学にも精通した衛生兵で怪我や病気に
おいては彼女の出番となる。
銃座にてM2重機関銃を構えているのが傭兵のメウル・ラー・クァ
ンジュ。背中に背負っている弓の実力もそうだが他に博学者として
も有能であり、彼にはガンナーとしてM2重機関銃の扱い方と整備方
法を教え込んでいる。
因みに彼はアルヌス攻防戦にも傭兵としてアルグナ国に雇われて
いて、契約解消後に暫くしてからアルヌス街にやってきたらしい。
な村がありますからそちらで宿を探された方が宜しいかと⋮⋮﹂
﹁分かった。だったらこの辺りで休憩だ。幸いにも川があるから魚で
も釣って昼飯にしよう﹂
﹁やった♪お魚は好物ニャ♪﹂
411
﹁しかし、炎龍退治に向かって生きて帰って来た人間と共に行動する
とはな⋮⋮⋮世の中分からないものだ﹂
﹁ホントニャ♪しかも炎龍も倒しちゃうだにゃんて凄いニャ♪﹂
﹁はっきりいってギリギリだったがな⋮⋮もし単独だったら間違いな
く今頃は炎龍の腹の中にいるし、あれは伊丹達がいたから成し得たこ
とだ﹂
﹂
﹁し か し 旦 那 等 の 力 っ て 間 違 い な く 帝 国 を 簡 単 に 殲 滅 で き る だ ろ う
し、手間取ったとしても1ヶ月位で達成するんじゃねぇのか
﹁⋮⋮⋮本気でそうなりそうだな﹂
﹁そうだ⋮⋮⋮ところでミオ。次の街までどの位だ
﹂
だ。もし本気なら最初の1週間で帝都を制圧してるさ﹂
﹁かも知れん。だが俺等の力は本土の戦闘力に比べたら微々たるもん
?
﹁はい。この速さでしたら到着は夜になってしまいます。途中で小さ
?
﹁流石はキャットピープル⋮⋮⋮魚になると目の色が⋮⋮⋮んっ
﹁ご主人様⋮⋮⋮こちらに近づいて来る一団があります﹂
方がない。
﹂
﹂
する。本来ならば可能な限り戦闘は避けたいが向かって来るなら仕
シャムも毛を逆立たせながら短剣を両手に持ち、メウルも弓を手に
ルキルも魔法で拳に炎を纏わせる。
黒一色のシャシュカを抜刀し、ミオも握り拳から爪を出現させてヴァ
そういいながらRSOVを停車させ、俺はダークエルフから貰った
らなるべく懐に飛び込んでから仕留めろ。道中は長いんだからな﹂
﹁戦闘用意。引き返してくれるんだったら問題ないが、戦闘になった
﹁ご主人様⋮⋮如何いたしましょうか
﹁ふぅううっ⋮⋮⋮お昼ご飯の邪魔されたニャ﹂
﹁付け加えたら全員が剣や槍を構えてこっちに向かって来てるぜ﹂
﹁うむ⋮⋮さらにはこちらに気が付いている﹂
﹁⋮⋮⋮盗賊団だな﹂
かって来る砂けむりを見つけて双眼鏡で確認する。
昼飯にしようと車を停めようとした矢先、離れた場所にこちらへ向
?
直ちに引き返せ
だけど警告だけはしておいた方がいいだろう。俺は増設してある
拡声器を取り出して騎馬隊に警告する。
﹂
?
る。もう一度やろうとした矢先、俺に目掛けて弓矢が飛んできたが素
早く反応してシャシュカで叩き落とした。
﹁撤退する気はなしか⋮⋮いい腕をしてるってのに勿体無いな﹂
412
?
こちらに敵意はない‼
さもなくば自衛も辞さない‼
﹁接近中の騎馬隊に警告‼
‼
?
?
警告をしてみるが騎馬隊はスピードを緩めずこちらに接近してく
?
﹁旦那の警告が逆に煽っちまったんじゃねぇか
けるぞ﹂
﹁承知した﹂
﹁ふぅううっ‼
﹂
﹂
﹂
?
る。容赦してやる必要は全くないからな
﹂
﹁構 わ な い。そ れ に 雰 囲 気 か ら 察 す る に 奴 等 は か な り の 村 を 襲 っ て
﹁殲滅しちまっていいんだな
ご飯を邪魔された恨みを晴らしてやるニャ‼
はここから防矢で止まった奴を狙い撃て。ミオは俺と一緒に畳み掛
﹁ヴァルキルとシャムで先陣を切って敵の陣形を乱してくれ。メウル
﹁御心のままに⋮⋮﹂
る訳にはいかなくなった。速やかに殲滅するぞ﹂
﹁そのようだ⋮⋮接近する騎馬隊を敵と認定。こちらの存在を知らせ
?
﹁ふっ⋮⋮⋮⋮さぁ行くぞ‼
﹂
﹁はい。ご主人様に私めの背中をお預け致します﹂
からな。俺の背中を任せたからな﹂
﹁だな⋮⋮俺等も向かうぞ。さっさと片付けて移動しなきゃならない
﹁はい。一癖も二癖もある方々ですが、味方なら心強い方達です﹂
﹁あいつら⋮⋮見込んだ通りいい動きをしてるな﹂
は一寸も狂わず眉間の中央に命中していく。
メウルも足を止めた敵の額に次々と弓矢を放ち、その放たれた弓矢
敵の声帯を切断していく。
ヴァルキルのストレートで敵は巻き込まれながら吹き飛び、シャムは
馬 隊 の 間 を 縫 う よ う に 駆 け る。だ が し っ か り と 敵 を 仕 留 め て い き、
敵の殲滅を指示するとヴァルキルとシャムが駆け出し、接近中の騎
?
銃を使っていないから仮に帝国兵が発見したとしても別の騎士団
体はそのままにしてRSOVに乗り込み、その場を後にした。
団に突撃する。この後に盗賊は何の抵抗も出来ないまま排除され、死
そういいながら互いに背中を預けた俺とミオも混乱している盗賊
?
413
?
?
や傭兵団が排除したと勘違いしてくれるだろう。
リーパー隊を離れたことには少し寂しいが、負けず劣らないゴース
ト隊と仲良くやっていきたい。そう感じながら俺はハンドルを手に
アクセルを踏んだ⋮⋮⋮⋮⋮。
414
Mission85:新たなる影
連合特地派遣団が特別地域にやってくることとなった銀座事件に
て 帝 国 軍 は か な り の 帝 国 兵 を 捕 虜 と さ れ て い た。本 来 な ら ば ジ ュ
ネーブ協定により彼等は捕虜ではなく単なる犯罪者となる。
だが日本の温情もあって1回限りで捕虜とすることになり、この日
は連合と帝国の講和交渉の足がかりとして釈放された15名の帝国
兵が帰還する祝賀会が行なわれていた。
そこには菅原やアーノルド、孔を始め白百合副大臣を長とした使節
団。各国からのアドバイザーも出席していた。
﹁なんか色々あったが、ようやくここまで漕ぎ着けれたな﹂
﹁全くだよ。本音を言えば宮殿に入った瞬間に人質にされると思って
たんだが、向こう側も外交ルールはしっかり守ってるからな﹂
いなく美人になるぞ。今から仲良くしときゃ玉の輿⋮⋮いてっ﹂
﹁だから私は結婚は興味ないって⋮⋮﹂
冗談をいいながら菅原を揶揄うアーノルドに菅原が小突き、それと
415
﹁本当だよ﹂
ワインを片手に祝賀会を見渡さす菅原、アーノルド、孔。先ほどま
で連合側と帝国側で戸惑いの溝があったのだが、菅原に好意を抱く
カーゼル候の類縁でテュエリ家令嬢のシェリー・テュエリがきっかけ
を作ってくれて使節団と帝国重鎮達が談話を楽しんでいる。
﹁まさか真面目一本の菅原にロリ趣味があったっていうのは笑ってし
まったがな﹂
﹂
﹂
﹁全くだ。関係に口出しはしないが法律には従えよな
﹁いや⋮⋮だから私にそのような趣味はないからな
﹁隠すな隠すな♪﹂
?
﹁そうだって。それにあの子は確かに上玉だ。あと数年すりゃあ間違
?
同時に大扉が開かれた。
﹂
﹁モルト皇帝陛下並びに皇太子ゾルザル殿下、皇女ピニャ殿下の後入
来‼
そこから現れたのは礼服に身を包んだモルト皇帝と側近。傍には
菅原達が追加の講和条件として身柄引き渡しと指名したA級戦犯の
ゾルザル、理由は分からないが付き従うヴォーリアバニーのテューレ
が入室してきた。
室内にいた重鎮達もすかさず臣下の礼をし、菅原達も会釈して出迎
える。
﹁相変わらずムカつく奴だな﹂
それに講和交渉が本格化したらあいつは裁か
﹁あぁ⋮⋮あれだけの犯罪をしておきながら威張るような態度をしや
がって⋮⋮﹂
﹁落ち着いたらどうだ
﹁ほぅ⋮⋮女性の大臣かな⋮⋮余が帝国皇帝のモルトだ。此度の我が
地問題対策副大臣の白百合 玲子と申します﹂
﹁陛下。お初にお目にかかります。連合特地派遣団日本国本居内閣特
た。
それを伺っているとピニャがモルト皇帝に白百合に話し掛けてき
致をなかったことにしたかった。
国兵が奴隷商を襲撃したっていうことも知っている。完全に奴は拉
もちろん真相はこちら側が先に拉致被害者を救い出し、武装した帝
返還すべく動いたが行方不明となっていたと説明してきた。
ゾルザルは自身の使者を遣わして自分は講和派で、捕らえた民間人を
ゾルザルに小声で悪態をつきながら睨みつける菅原達。あれから
れるんだ。遠かれな⋮⋮﹂
?
兵等の返還、誠に感謝しておる。これで漸く貴国等との講和会議を始
めることが出来る﹂
416
?
﹁はい、1日も早く平和が実現することを心から願っております﹂
白百合と話をして挨拶をする皇帝。すると扉が再び開かれ、そこに
現れたものに全員が息を飲んだ。
数人の戦闘奴隷が担ぐ神輿に乗せられ、瞳の色を完全に失った炎龍
の首だ。
この首は深夜の雨に乗じてタスクフォース ナイツの支援部隊で
ナイトストーカー
がテイラー率いるナイトメア隊の誘導を受けて帝都の大城門の
あるアメリカ陸軍第160特殊作戦航空連隊
ズ
掲揚台に設置されたものだ。
炎龍の首がゆっくりと床に降ろされて皇帝が歩み寄り、振り返ると
﹂
これを神々からの引き出物
長きに渡り民を苦しめて来た炎龍も遂に
もう恐る必要もない‼
見るがよい‼
高々と宣言した。
﹁皆の者‼
骸を晒した‼
として受け取り、今日の良き日を盛大に祝おうではないか‼
﹂
1人であるシャンディー・ガフ・マレアが歩み寄った。
﹁陛下﹂
﹁おぉピニャか⋮⋮そなた、何か知っておるのか
た﹂
﹁ロゥリィ
﹂
﹂
﹁はっ⋮はい‼
います‼
エムロイの使徒ロゥリィ・マーキュリー聖下でござ
の者達を見知っているシャンディー・ガフ・マレアを連れて参りまし
谷 劉郭、ロゥリィ、テュカ、レレイ、ルフス、ミオ、ヤオの9名。そ
﹁はい。此度の炎龍討伐に赴いたのは伊丹 耀司、エース・クレイグ、
?
の活躍は神々のものであるか
﹂
﹁おぉ⋮⋮あのお方が加われば炎龍討伐も納得がいく。となれば此度
?
?
417
?
?
その言葉に喝采が浴びせられ、暫くしてからピニャと彼女の部下の
?
?
?
?
?
﹂
﹁いえ。主力となったのは伊丹、エース、谷の3名となります﹂
緑の人
﹁エースとは確か⋮⋮⋮鬼神エース・クレイグのことか
﹂
シャンディーからの報告に耳を傾ける。
ルフでルフスはエムロイの従者であります﹂
その者です﹂
のダークエルフ。ミオはイタリカにて副メイド長をしているワーウ
﹁はい。テュカはロドの森氏族のハイエルフでヤオはシュワルツの森
の者は
﹁やはりあの者か⋮⋮⋮見ていて驚愕したがどこか清々しい者だ。他
﹁はい。以前陛下の御前にて兄様を打擲した
?
﹂
﹁最後にレレイ・ラ・レレーナ。こちらはルルドの末裔で賢者カトー老
﹂
カトー老師の弟子か‼
師の弟子となります﹂
﹁おぉ‼
﹁ご存知⋮⋮なのですか
?
がらぬのだ﹂
﹁如何致しましょうか
﹂
﹁我が幼き頃に教鞭を取っていただいてな。今でもあの方には頭が上
?
レレイ・ラ・レレーナ‼
炎龍を討ちたる者の名が分かったぞ‼
ぜひとも褒美と英雄の称号を﹂
﹁はい﹂
﹁皆の者‼
大賢者カトーの弟子‼
﹂
異世界よりやっ
それに手を貸した
?
のがエムロイの使徒ロゥリィ・マーキュリー聖下‼
て来た鬼神エース・クレイグなり‼
?
?
﹁くそっ⋮⋮炎龍を倒した程度で何をそこまで誉めたたえる⋮⋮。な
しばっていた。
に沸いた。だがその中で離れた場所にいたゾルザルだけは歯を食い
レレイ、ロゥリィ、エースの名前を聞いて会場にいた出席者が歓喜
?
その勇者の名は
﹁うむ。そのレレイなる者と彼の者達を必ずや帝都に招聘するのだ。
?
?
?
418
?
?
ぜこの場にいない愚民や蛮族を賞賛する⋮⋮⋮﹂
長らく討ち取られなかった炎龍を倒したという功績は国を倒した
という功績よりも高い。だがゾルザルはそれを認めず、嫉妬に駆られ
る。
祝おうではないか‼
我が帝国に更な
そんなことを知る由もなく、侍女が運んで来たワインを手にしてそ
﹂
用意はよいな⁉
れを掲げた。
﹁皆の者‼
る繁栄と栄光を‼
?
﹁がはっ⁉
け寄った。
父上⁉
父上ぇえええっ⁉
ただ。その光景に会場には悲鳴が響き渡り、ピニャが血相を変えて駆
ワインのグラスを落とし、口から血を流しながらその場に倒れたの
﹂
ワインを掲げ、それを口にした。だがそれは突然起こった。
?
しっかりしてください父上⁉
?
﹁父上⁉
﹂
?
を連れて行く。だがその光景に対してゾルザル、影に隠れながら見て
いたテューレは企みに満ちた笑みを浮かべていたというのは誰も気
がつかなかった⋮⋮⋮⋮⋮。
419
?
?
?
?
いくら揺さぶっても意識がなく、すぐに駆けつけた近衛兵達が皇帝
?
Mission86:圧政の始まり
帝都にて衝撃的な事態が発生した。
捕虜帰還を祝うパーティーに出席した皇帝が何者かの毒により倒
れ、意識不明に陥った。更には皇太子ゾルザルがその隙を突いて政権
奪取を実行。
帝都に展開していた軍団や龍騎兵大隊、近衛軍団を吸収して官庁街
制圧や全ての城門を制圧。閉鎖した後に皇太子府の設立を宣言。
その際に⋮⋮。
1つ:全ての臣民は帝国の命令全てに拒むことなく従うべし
1つ:夜間外出を禁ずる
1つ:如何なる理由があろうと集会や演説を禁ずる
1つ:許可なき者の帝都出入りを禁ずる
420
1つ:13歳以上の健康な男子は全て帝国軍に徴兵されること。さ
れど心的理由や身体不全の場合は国家奉仕で代用すること。
⋮⋮なんていう戒厳令を発した。
この余りにも一方的な法令に民間人は混乱し、特に悪所では普段は
臣民扱いしなかったのにこんな時だけ臣民扱いにするということで
暴動が発生し、1度は鎮圧部隊も回されたが亜人の高い能力により返
り討ちにされた。
俺は帝国軍の動きを把握する為にミーアが教えてくれた秘密の通
路を使って包囲された悪所を抜け出し、帝都南西部にあるアフォンダ
トーレの丘にある茂みの中にギリースーツを着用して偵察を行なっ
ていた。
﹂
﹁軍曹。11時方向に近衛兵﹂
﹁見えてる。数は30程だな
同じくウッドランドコンバットユニフォームの上からギリースー
?
ツを身に纏い、Bushnell社製45倍率単眼鏡を使って観測す
るデルタフォースのテイラー軍曹。
その隣で俺も傍に相棒のM4A1を置いてバイポッドで安定させ
たM40A5を構えてSchmidt & Bender社のM8
541 Scout Sniper Day Scope ︵SSD
S︶を覗き込む。
そのスコープに映し出されているとは講和派議員が住む家に突入
する近衛兵部隊。既に何人かの使用人が拘束されており、侍女も乱雑
に拘束されている。
﹁胸糞わるいな⋮⋮⋮無抵抗の人間に殴る蹴るなんてな⋮⋮﹂
﹂
﹁これがゾルザルとかいうクソのやり方か⋮⋮奴等は講和派議員だが
他になにか罪状はあったのか
﹁CIAのハイデッガー隊長によれば何もないらしいです。しかも悪
徳商人の逮捕や商業改正で功績を出した優秀な議員らしいですから、
あいつらが逮捕される理由ってのは本当にないようです﹂
﹁つまり⋮⋮ゾルザルの邪魔になるっていう理由で捕まってるって訳
か⋮⋮﹂
﹁他の議員は俺たちが賄賂を渡して買収されたっていうことで逮捕さ
れてるらしいですが、んなこと後から適当に付け加えただけです﹂
﹁独 裁 者 ら し い 発 想 だ ⋮⋮⋮ 待 て。そ こ か ら 右 上 に 4 度。9 0 0 m。
停まっている馬の傍に動きだ﹂
軍曹が何かを見つけたので俺もライフルを向ける。そこには父親
である議員が連れて行かれる子供を救おうと抵抗する姿。そして子
供も抵抗するが指揮官らしき黒い服装で剣を持った敵がなにか兵士
に指示を出し、それからすぐに取り押さえていた兵士が議員の首を刎
ね飛ばし、子供の方も身体に剣を突き刺して首を刎ねた。
⋮⋮ も う 我 慢 な ら ね ぇ ⋮⋮ こ っ か ら な ら 見 つ か ら な い
421
?
それから首を槍に突き刺して見せしめのように槍を地面に立てた。
﹁く そ っ ⁉
?
⋮⋮ぶっ殺してやる‼
﹁落ち着けアル﹂
﹂
﹁これが落ち着いていられるのかよウィル⁉
﹂
︿ナイトメア01、確かか
﹀
﹂
﹁報告する。監視地点から偵察中に帝国軍の民間人殺害を確認﹂
︿こちら1stスポット﹀
﹁ナイトメア01から1st.スポット﹂
いる光景を証拠写真として撮影。収めると無線機を取り出した。
は軍曹がポーチより偽装処置されたカメラを取り出して、いま見えて
M40A5のセーフティを掛けて再びスコープを覗き込む。隣で
つまりいい事なんか何一つないのだ。
は火を見るよりも明らかだ。
イツを駆り立てる為に亜人や悪所の住民が皆殺しにされるというの
それに潜伏先が悪所だと発覚されてしまってタスクフォース ナ
ター軍に大義名分を与えてしまい、使節団が危険に晒されてしまう。
が、軍曹の言う通り下手に手を出してしまえばゾルザル率いるクーデ
本当にスコープの中心に写るクソ野郎の頭を撃ち抜いてやりてぇ
しをする。
かったから仲が当時より良かったからプライベートではタメ口で話
タ メ 口 に な っ て い る が 俺 と 軍 曹 は 高 校 時 代 の 先 輩 後 輩 だ。家 も 近
トリガーに指を掛けて発砲しようとしたら軍曹が止めた。思わず
﹁くそっ⋮⋮⋮﹂
るんだ﹂
い。それにいずれ制圧作戦が開始されるだろうから、それまで我慢す
﹁気持ちは分かる。俺も同じ気持ちだし、奴等を皆殺しにしてやりた
﹁けどっ⁉
団が危ない﹂
﹁いま撃てば作戦に危険が伴う。そんなことになったら翡翠宮の使節
?
?
﹁証拠写真を抑えた。指示を乞う﹂
?
422
?
︿ナイトメア01。引き続き監視を続行し、夜になったら撤収して帰
還せよ﹀
﹂
﹁ナイトメア01了解だ。監視を続行する。 out﹂
﹁軍曹、向こうはなんと
﹂
まで監視を続行し、深夜になると俺たちはその場を後にして再び秘密
そのままクーデター軍に対して怒りを感じつつも必死に堪えて夜
﹁了解﹂
撃つなよ
﹁このまま夜まで監視を続行。その後に撤収だ。一応は言っておくが
?
の通路を使って悪所に帰還した⋮⋮⋮⋮⋮。
423
?
Mission87:ファントムチーム
ファ
は南に向かう為に予め用意させていた装備一式を受け取り
イタリカでの晩餐会に出席した俺たち台湾軍資源調査分隊
ントム
にアルヌスに引き返し、受け取ってすぐにエルベ藩王国へと向かっ
た。
アルヌス周辺は警戒部隊や現地の住民で構成されているアルヌス
﹂
警邏隊がしっかりと固めていて、帝国主戦派の偵察隊や盗賊の出現を
許さない。
﹂
﹂
追いつかれるぞ‼
﹂
30年前に来た時には何もおらんかったんじゃ‼
たしかここには何もいないんじゃなかったのかよ⁉
だがこちらの勢力圏を出てすぐの溪谷にて事態は変わった。
﹁ちょっ⁉
﹁儂 が 知 る か ⁉
﹂
?
本サンプルを採取していたらいきなり俺たちを追いかけて来ている
蟲と呼ばれる化け物が地中から出現してきた。
この蟲というのには数種類いるようで、カマキリ型やコウロギ型、
ゴキブリ型などがいて、今俺たちを追いかけてきているのは大型犬ほ
どの大きさをしたアリ型だ。1匹や2匹だけだったら問題ないのだ
が、それが10匹以上の団体で来たから逃げるしかない。
しかし俺は時々振り返ってウォーハンマーを担ぐドワーフ族の老
人テキラとリンドン派の杖を持つ闇魔導師のアブ・ソル・ベントを
エ ー ス か ら 貰 っ た カ ス タ ム 済 み の 7.6 2 m m ブ ル パ ッ プ 式 セ ミ
オートライフルのKel│Tec RFBで援護し、先頭にいた殺人
アリの頭部に徹甲弾を撃ち込んで仕留める。
だが奴らの装甲はかなりの強度と跳弾性があるようで、徹甲弾を連
424
﹁んな大昔なこと役に立つかよ爺さん⁉
﹁黙らんか若造‼
?
﹁くだらない漫才なんて後にして走れ‼
?
?
?
資源調査にて俺たちがロルドム渓谷の古い廃坑に入って、そこで標
?
?
?
射しても最初の数発は弾き返されてしまった、しかしそれで脆くなっ
たのか最後の何発かが貫通してそのまま動かなくなった。その間に
も奴らの数は増える一方であり、その1匹を仕留めたらすぐに逃げ
る。
アリは口から粘着性の高い液体を吐き出して俺たちを捕まえよう
﹂
とするが、幸いにも岩に当たってくれたので難なく外に出た。
﹂
後ろから熱狂的ファンが来やがるぞ‼
﹂
?
﹁どうした
﹁車に乗れ‼
運転頼んだ‼
?
坑道から離れる。
﹁坑道から出すかよ‼
﹁⋮⋮⋮うん﹂
ラエル‼
AT│4を‼
?
﹂
?
このKSGもエースが用意したものであり、軍のものはM1911
同じくラックに取り付けた。
即席ラックに取り付け、背中のKel│Tec KSGを取り出して
危機を脱したのを確認したらRFBのマガジンを取り外してから
としていたアリを纏めて下敷きにした。
AT弾が坑道内部に命中し、そのまま坑道は崩落を始めて外に出よう
バックブラストを抑える為の塩水が後ろに吹き出し、84mmHE
CSを構えて発射スイッチを押した。
を出し、彼女はハンヴィーの側面に積載していたM136 AT│4
このままアリを外に出すわけにはいかないので、俺はラエルに指示
?
運転席に飛び乗るとすぐにアクセルを踏み込み一気に速度を上げて
ヘアのラエルノアをM1152カーゴハンヴィーに押し込み、アブが
外で待っていたルフスと子供位の身長で紫のフワリとしたロング
﹁アブ‼
﹁あれ⋮⋮アンツィ⋮⋮﹂
?
?
A1だけだ。因みに耀司にもエースは武装を用意しており、彼にはレ
425
?
ミントンACRとUSP,45を渡していて、肝心のエースは使い慣
れた官給品のM417A2+M320A1とM870 MCSを装
備していってる。
ど う で も い い ん だ が エ ー ス は 確 か 知 り 合 い が 経 営 し て い る ガ ン
ショップにカスタム銃を納品しているみたいで、その副収入は軍の給
料である6,700ドルを上回る7,000ドルが契約金と売り上げ
の一部で入ってくるらしい。
だからこんな新型ライフルを私物で用意できるみたいだ。
﹂
ブッシュハットを脱いで一息つくとルフスが顔をヒョコと出しな
がら話しかけて来た。
﹁谷、目的のものはあったか
﹂
﹁あぁ。廃坑はもう使えないが、サンプルの鉱物は入手できた﹂
﹁しかし谷。こんなダイヤの出来損ないに価値などあるのか
るぞ﹂
﹂
﹁じゃったら谷よ。儂の生まれ故郷の鉱山の放棄場に山積みになっと
額で取引されるんだ﹂
の世界ではレアメタルなんて呼ばれてる位に貴重なもので、結構な金
﹁この世界じゃあコバルトの加工なんて出来ないからな。だが俺たち
?
﹂
それにまだ鉱山は使っとるから問題はない
﹁また蟲が出るんじゃねぇのか爺さん
﹂
﹁誰が爺さんじゃ若造‼
のじゃ‼
?
というとこなんじゃが、距離が離れ過ぎとる﹂
﹁確かに遠いな⋮⋮﹂
テキラさんの言葉にアームバンド式マップケースを開けて地図を
確認する。確かに地形は複数の山脈を超える必要があり、とてもでは
ないが陸路では行ける距離じゃない。だが重要な手掛かりにはなる
のでマルツァーという名前の場所に有力な場所を意味する黄色で丸
426
?
﹁テキラさん。その故郷はどこに
?
﹁それが問題なんじゃ。場所はリィグゥ公国の西側にあるマルツァー
?
?
﹂
を書くと、今度はラエルが顔を出してきて、頭頂部を少し突き出した。
﹁⋮⋮⋮どうかしたかラエル
﹂
﹁⋮⋮さっき外さないで当てた⋮⋮⋮だからご褒美⋮⋮﹂
﹁ご褒美って⋮⋮⋮それでなんで頭を
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ど⋮⋮どうしたんだ
﹁知らん⋮⋮⋮ふん﹂
﹂
を見ると何だか不機嫌そうな雰囲気を出していた。
だがラエルの頭を撫でているとルフスが後頭部を軽く小突き、彼女
める。
あげてラエルの頭を撫でてやると、ラエルと気持ち良さそうに目を細
坑を破壊したから褒美代わりとしてなら安いもんだ。望みを叶えて
ご褒美って⋮⋮⋮確かにラエルが放ったAT│4はしっかりと廃
﹁谷⋮⋮⋮ご褒美にラエルの頭⋮ナデナデする﹂
?
を開かなかった。仕方がないので暫く走行して休憩中に頭を撫でて
やったら少し機嫌を直してくれた⋮⋮⋮⋮⋮。
427
?
あからさまに不機嫌になったルフスは後部座席の端に座り、暫く口
?
Mission:88アングレイファー
工業都市ツォッツェン。ここは帝国の中でも随一の生産施設があ
り、軍民問わず様々なものが毎日のように新開発されている。その為
にラスベガスみたいに眠らない街としても有名で、市街地や繁華街は
夜になっても賑わいを見せていた。
宿に到着した俺たちゴーストはRSOVを預けてから息抜きと情
報収集を兼ねて街で一番有名な酒場に足を運んだ。
﹁ビールに比べたら軽いが相変わらず飲み易いな﹂
﹁俺はエールよりビールの方が好きだな。美味いっちゃあ美味いんだ
けど冷たさはやっぱ違うぜ﹂
﹁ニャア⋮⋮⋮シャムも日本のお刺身が食べたいにゃ﹂
﹂
﹁そう言うでない。だがワインに関してはイタリカ産がいいな﹂
﹂
で、帝国軍への鎧製造を受け持つ条件で独自の自治体が容認されてい
るのです。ですから様々な種族が行き来することが出来て賑わって
428
﹁ヴァルキルも人のことは言えませんよ
のか
﹁ミオ、この街に帝国兵の姿が見えないんだが⋮⋮イタリカと同じな
ダーデビルなどの多種多様な種族により賑わいを見せている。
見た手のひらサイズのピクシーやハイエルフ並の希少種であるエル
酒場にはドワーフや龍人族、キャットピープルやここに来て初めて
0キロカロリーとかなり高いものだが味付けは俺好みだ。
4世紀後半に該当するらしく、労働に備えて摂取カロリーは6,00
いろいろ食べたから判明したんだが、特地の庶民料理というのは1
料理が並べられている。
るエールやワイン、机には注文したマ・ヌガ肉やスープ、黒パン、魚
酒場にて晩飯にする俺たち。手には特地の代表的アルコールであ
?
﹁は い。ツ ォ ッ ツ ェ ン は イ タ リ カ と 同 じ 亜 人 受 け 入 れ に 積 極 的 な 街
?
おられます﹂
﹁ということは⋮⋮⋮この街には鉱山か銀山でもあるのか
﹁如何致しましょうか
﹂
だから特定はかなり困難だ。
﹂
﹂
だが監視者はかなり気配を消しているようであり、しかも場所は酒場
他 愛 な い 会 話 を 装 い な が ら こ ち ら を 監 視 し て い る 奴 を 探 し 出 す。
﹁ふぅうううう⋮⋮⋮またご飯の邪魔されたにゃ﹂
﹁かなりの使い手のようだ⋮⋮⋮僅かな気配だから特定が難しい﹂
﹁はい⋮⋮誰かに見られてます﹂
﹁確かに普通の弓矢と違って造りがしっかりして⋮⋮⋮⋮ミオ﹂
受けりゃ安上がりで済むんだ﹂
弓矢ってのは質がいいんだ。少し他に比べたら高いけど仕事を引き
﹁そりぁなぁ⋮⋮⋮俺も世話になった刀鍛冶はここの出だし、ここの
⋮⋮⋮⋮だがメウルはやけにここに詳しいんだな
﹁つ ま り、帝 国 軍 に と っ て こ こ は 生 命 線 の よ う な 街 っ て こ と か
な﹂
る。他にも農業用の桑や鎌、馬車などもここで作られているみてぇだ
﹁材料そのものは他から送られて来る真鍮を用いて鎧などを製造して
?
寄せるから怪しまれないようにヴァルキルは先にここを出てくれ﹂
﹁分かった﹂
﹁ミオは俺と一緒に来てくれ。シャムとメウルはここに残って引き続
き飲んでるように振舞ってくれ。つまり囮だ﹂
﹁かしこまりました﹂
﹁分かったニャ﹂
﹁あいよ﹂
そういうと話した通りヴァルキルは飲み代の銀貨を机においてか
ら酒場を後にする。それから5分程してから俺とミオも銀貨を置い
429
?
﹁用があるってんなら聞いてやるとしよう。俺が宿前の路地裏に誘き
?
てから宿へ向かう道を歩き出し、後ろからやはり誰かがつけて来てい
るのを感じる。
﹂
そして路地裏に入ったらいきなり出口付近に3人の人影が現れ、反
﹂
対側を追尾してきた2名によって塞がれた。
﹁俺らになんか用か
﹁⋮⋮⋮無慈悲の鬼神⋮⋮エース・クレイグだな
﹁あぁ﹂
﹁お前に怨みはないが、死んでもらう﹂
﹁そいつは困るな。任務の最中だからな﹂
﹁悪いがこっちも仕事なんでな⋮⋮⋮素直に殺されるっつうんなら仲
白状するんだったら見逃してやる﹂
間に手は出さねぇし、苦しまないようにしてやる﹂
﹁お前たちこそ誰に雇われた
﹁⋮⋮⋮殺せ﹂
をホルスターから抜き取り、早撃ち技の1つ
くなった暗殺者にM1873を構えながら歩み寄る。
3秒もかからない内に5名を排除して、腹に銃弾を食らって動けな
殺者2名の頭に命中し、1発は腹に命中する。
銃声は1発しか聞こえないが実際は3発発砲されていて、2発は暗
であるゲットオフ スリーショットで45,LC弾を撃ち出す。
ティーン アシトラ
3 シ ン グ ル ア ク シ ョ ン ア ー ミ ー シ ェ リ ブ ズ カ ス タ ム モ デ ル
俺も目の前にいる奴らに背中に新しく追加装備しているM187
飛び込み、一気に腹部へ刃を突き立てた。
達は唖然となるが、その一瞬の隙を突いてミオが剣を持った奴の懐に
首に腕を回してへし折ったからだ。いきなりの出現によって暗殺者
剣を構えた奴に屋根に待機していたヴァルキルが飛び降りて来て、
るが事態はすぐに俺たちが有利に傾くことになる。
り出してゆっくりと歩み寄る。ミオも両手から刃を出現させて構え
冷たい一言で目の前の3人はスティレット、後ろの奴は弩と剣を取
?
そしてターバンを剥ぎ取ると俺は男の顔に驚愕した。
430
?
?
ハリョ
﹁⋮⋮⋮こいつはなんだ
﹁⋮⋮どうやら
﹂
﹂
の一団みたいだ﹂
﹁ヴァルキル、ハリョってのは
﹁多種族の間に生まれた混血種のことです。どちらの種族からも蔑さ
れて追放となり、間違った思想を持つようになったと聞いておりま
す﹂
﹁それだけじゃない。中にはこいつらみたいな暗殺者や国家転覆なん
かを企む輩もいる﹂
﹁成る程な⋮⋮⋮兎に角はこいつから話を聞いてみることにしよう﹂
M 1 8 7 3 を 構 え な が ら 倒 れ た ハ リ ョ の 脈 を 測 る が 動 き が な い。
よく見ると男は舌を噛み切って自決しており、口から血が流れ落ちて
いた。
﹁くそっ⋮⋮⋮敵にしては思い切った奴だ﹂
﹁ご主人様﹂
﹁ミオ。メウルとシャムを連れて来てくれ。すぐに出発する﹂
﹁かしこまりました﹂
酒場に残しているメウルとシャムを呼びにミオを向かわせて、俺と
ヴァルキルはすぐにRSOVを動かす。そのまま待ち伏せを警戒し
ながらツォッツェンを後にした⋮⋮⋮⋮⋮。
431
?
?
Mission89:スニーキング
ゾルザルによるクーデターが行なわれてから数日が経過した。あ
れから連合との講和を目指していた講和派議員への弾圧が日を増す
毎に強くなっていき、市街地各所において摘発が続いていた。
しかも講和派議員の剥奪された役職は主戦派が引き継ぐこととな
り、講和の手段を潰しにかかっていた。
オプリーチニナ特別法
というのを公布し、実際に街中にお
そんな中で潜入している古田と劉が情報を掴む、それによると主戦
派は
いて狼の毛皮をかぶった黒一色で箒を持った連中が確認されている。
どうやら督戦隊のようだが、昔の祖国にもかつて似たような組織が
あった関係上、奴等の存在は非常に腹ただしい。敵の動向を探る為に
タスクフォース ナイツ指揮所はヴァローナ隊に出動を命じ、今回は
敵施設への潜入となるので俺のみが潜入することになった。
432
﹁こちらヴァローナ1。皇宮に潜入した﹂
︿オーバーロード了解した。改めて任務を確認する﹀
﹂
﹁敵に察知されることなくゾルザルの執務室へ潜入し、情報を入手。
同時に奴の計画を暴く、だろう
だけなのかは分からないが、敵兵の数が少ないんだったら好都合だ。
とに気がつく。敵は待ち構えているのか、それともただ単にマヌケな
VSSを構えながら前進しているが、近衛兵の数がやけに少ないこ
を搭載している。室内戦においてはAK│12よりも頼りになる。
にされているが、俺はマウントベースを交換してコブラダットサイト
るVSSを構えながら前進する。中距離から近距離での狙撃を念頭
簡単に任務内容を再確認すると、サプレッサーが標準装着されてい
﹁了解だオーバーロード。執務室へ向かう。ヴァローナ1 out﹂
が就いている、何か動きがあったら連絡が入る﹀
かっているから絶好のチャンスだ。奴の監視にはダッチとオールド
︿その通りだヴァローナ。現在ゾルザルは竜騎兵大隊駐屯地視察に向
?
接敵がないままゾルザルの執務室に到着し、ゆっくりと中の様子を
伺うがやはり無人だった。
﹀
﹁オーバーロード、こちらはゾルザルの執務室に到着した﹂
︿ヴァローナ、誰にも見つかっていないな
﹁心 配 す る な。寧 ろ 予 想 よ り 警 備 が 手 薄 で 楽 だ っ た。こ れ か ら 調 べ
る﹂
︿了解した﹀
到着すると大量の書類で埋め尽くされた机を調べる。一応はクー
デター前はかなり重要な職務を任されていたようで、机の上の書類に
は軍備再編成計画書や摘発者リスト、地震における修繕作業報告書や
出入り禁止となった商人のリストなどがある。
拉致被害者発覚の際にゾルザルは探したが行方不明になったと既
に救出した後だということを知らず説明した程の無能というのが第
一印象だが、書類を見る限りでは指導者としての能力はあるようだ。
賄賂を渡しにきた商人の出入り禁止や無能な将軍の追放、子飼いの
将校を重要な役職につけなかったり、能力や実績がある奴を登用した
りと兵站では問題なし。
命令系統も単純明快にして指揮系統の混同を未然に防いだりと軍
事関係だけならモルト皇帝を上回っている。
持ち込んだカメラに次々と収めていくと目的のものを発見して、す
ぐにオーバーロードに報告した。
﹁こちらヴァローナ。目的のものを見つけた。オプリーチニナ特別法
﹀
案の草案にオプリーチナを利用した準軍事行動の計画書だ﹂
︿なんと書いてある
を 始 末 す る 為 だ け の も の だ。帝 権 干 犯 や 私 的 外 交 罪 の 定 義 で オ プ
リーチニナが申し立てて主観的に判断。逮捕連行し、オプリーチニナ
が取り調べて裁判無しで裁き、処刑する。つまりオプリーチニナは現
433
?
﹁思った通りだ。オプリーチニナ特別法案はゾルザルに批判的な連中
?
地を歩き渡る法執行官みたいなもんだ﹂
﹀
︿つまり気に入らない奴を一方的に排除できる恐怖政治か⋮⋮⋮他に
はあるか
﹁あるが胸糞悪いな⋮⋮⋮連中はそのオプリーチニナを使ってアルヌ
ス周辺の集落に大量のゴブリンやオークを解き放ち、更に民衆の中に
紛れ込んでこちらに交遊的な態度を見せた奴を殺害。極め付けは俺
らに変装して略奪の限りを尽くすつもりらしい﹂
︿⋮⋮⋮どれも重大な戦争法違反だ。奴らはこっち側を見て学んだと
思ったんだが、違ったみたいだ﹀
﹁あぁ⋮⋮⋮いまの帝国は中国みたいに自己中心国家だ。他にも情報
があるだろうから、カメラに収めたらすぐに撤収する。それまでは無
線封鎖に努めるので注意せよ。ヴァローナ01 out﹂
安全を期する為、万一に備えて無線封鎖を開始する。その間にも重
要度の高い草案が現れて、次々とカメラに収めていくが、その中で1
枚の草案に目が止まった。
﹁⋮⋮⋮⋮翡翠宮の使節団を人質にアルヌスを無血占領⋮⋮翡翠宮に
モンスターをけしかけて使節団を抹殺⋮随分と物騒な計画書だな
⋮⋮これは⋮⋮﹂
書類を片っ端から撮影しているとある草案を見つけ、手にとって内
容を確認する。そのトンデモない内容に俺は驚愕したが、誰かが近付
いてくるのを感じ取り、写真をとると証拠を残さないで執務室を後に
した。
ピニャ・コ・ラーダの身柄拘束及び公開処刑に関する草案
その内容とは⋮⋮⋮
434
?
Mission90:届く願い
ゾルザル・エル・カエサルによるクーデターで和平交渉は停滞し
まっている。講和派議員が次々と拘束されていく中で引き継がれた
のは主戦派。一応は交渉をしてきてはいるんだが奴等の利益になる
ことばかりで、連合に不利益なことばかりを突き付けて来ている。
一応は協定を守ってはいるようで、こちらに協力的なピニャ殿下配
下の薔薇騎士団と老将部隊が駐留している翡翠宮周辺にて守備を固
めてくれてはいる。
だがある日の晩に事態は急変を迎えることとなった。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮そのお話はお断りした﹂
﹂
﹁分かってはいる。だがあの子はあんたを頼りにしてここまでやって
来たんだ。外交云々は抜きにしてみたらどうなんだ
﹁だからといって、私は外交官。私情に駆られて軽々と亡命希望者を
受け入れる訳にはいかないんです﹂
窓の外を見る菅原とノイマンと孔。そして翡翠宮の芝生の手前に
は必死に菅原を呼びかけるシェリー・テュエリの姿があった。
亡命受け入れを頼みに来たヴィフィータとプレデューの話によれ
ば、彼女の両親はオプリーチニナにより殺害され、家も焼き払われた。
更には自らも命を狙われており、重鎮の1人であるカーゼル公爵と
共に逃げてきたらしい。
カーゼル公爵は確かに連合側としても救い出したいが、仮に1人を
救えば2人、2人を救えば4人と際限が無くなり、クーデター軍も
黙ってはいないだろう。
それに門の向こう側でも問題になる。日本に対して嫌がらせをし
て来た韓国と北朝鮮は門の所有権獲得を諦めたらしいが、中国だけは
未だに所有権を明け渡すよう恐喝してきているし、日本国内でも旧共
産党員が国民の不安を煽って本居政権転覆を狙っている。
しかも噂では特地側にやってきたマスコミ関係者の中にも奴等の
435
?
しかもヴィ
雇われ記者がいるらしいから、正式な命令がない限りは受け入れられ
ない。
﹁だ が 菅 原 ⋮⋮⋮ あ の 子 の 悲 痛 な 叫 び を 聞 い た だ ろ
﹂
りなんてこと出来る筈もない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
というだろ
﹂
﹁それに⋮⋮心ではもう決まってる筈だ。昔から
るよりも、やって後悔する
やらないで後悔す
﹁それに⋮⋮⋮俺たちのしっている菅原は熱血漢だ。他人を見捨てた
在、中国並の下衆だ﹂
﹁必死に助けを求める少女を見捨てる⋮⋮⋮人としては下衆以下の存
﹁⋮⋮⋮⋮菅原。外交官としては申し分ない答えだ。だが⋮⋮⋮﹂
は絶対にしない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮俺は外交官だ。私情に流されて国益を損なうようなこと
んだぞ
なんて分かったものじゃない。無抵抗な市民を簡単に殺める奴等な
﹁このままいけば彼女は督戦隊に捕まって、どんな仕打ちを受けるか
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
フィータさんとプレデューさんからもあの子の家族のことも⋮⋮⋮﹂
?
まずいぞ⁉
﹂
き男がシェリーの腕を掴んで連れて行こうとしていた。
﹁くそっ⁉
﹂
このまま見捨てて全てを失うか⁉
助けるなら今だけなんだぞ⁉
﹁どうするんだ菅原‼
悔するか⁉
﹁⋮⋮⋮⋮⋮ありがとう﹂
助けて後
が薔薇騎士団のテントよりカーゼル公爵を連行しようとし、隊長らし
ノイマンと孔の言葉に戸惑う菅原。すると外ではオプリーチニナ
﹁しかし⋮⋮⋮﹂
﹁行ってこい。どうせ後悔するんだったらな⋮⋮⋮﹂
?
?
?
?
?
?
?
436
?
﹂
﹂
使節様のお許しが出たんだ‼
なにをする⁉
未来の旦那さんの
?
﹁彼女は16になるのを待って、俺と結婚することになっている﹂
るが菅原は怒気を醸し出しながら理由を述べる。
る菅原。隊長らしき男はどこか馬鹿にしたような口調で理由を尋ね
連れていかれそうになるシェリーを解放するよう歩きながら求め
を求めるのですかな
﹁はて、この娘は帝国臣民です。他国の官僚がどのような理由で解放
﹁その娘を解放してもらおう﹂
﹂
ノイマンの問いで菅原は礼をいいながら階段を駆け下り、扉を勢い
‼
よく解き放つと大声で叫んだ。
﹂
﹁その汚い手を放せ‼
﹁菅原様‼
?
﹁これはこれは使節殿。何の御用ですかな
?
?
そ ん な 屁 理 屈 が 通 る と で も ⋮⋮⋮ な っ ⁉
﹁菅原様⋮⋮﹂
﹁ふ ん ‼
﹂
﹂
﹁ほら嬢ちゃん‼
下に行きな‼
?
リーから突き放し、そのままシェリーの背中を押して境目である芝生
に踏み入らせた。
そしてシェリーはゆっくりと菅原に歩み寄り、菅原もシェリーを優
しく抱きしめてやった。
﹁⋮⋮⋮菅原様⋮⋮﹂
﹁シェリー⋮⋮⋮﹂
﹁申し訳ありません⋮⋮⋮せっかく頂いた真珠のネックレス⋮⋮⋮ぜ
んぶ使ってしまいました⋮⋮﹂
437
?
?
?
解 放 し な い 男 を 近 く に い た 薔 薇 騎 士 団 の 老 将 が 腕 を 掴 ん で シ ェ
?
?
?
﹁気にするな⋮⋮今度は税金じゃなくて俺の金で買ってやる﹂
﹁⋮⋮⋮⋮はい﹂
ようやく菅原の下にたどり着いたことに安堵するシェリー。だが
オプリーチニナは予想外の展開に身を震わせながらシェリーを捕ま
﹂
使節殿の許しを請わない者の侵入を
えにいこうとする。だがそれをヴィフィータとプレデュー達が立ち
塞がった。
﹁横隊組め‼
﹂
﹂
﹁我々の使命は翡翠宮の防衛‼
許してはならない‼
﹁命を懸けて防ぐのだ‼
﹄
﹃応っ‼
歯向かう女や年寄り共々
そもそも何故我々が蛮族共の戯言を守らな
﹂
構うことはない‼
ふざけるな‼
﹁ぐっ⁉
ければならないか⁉
翡翠宮内の奴等を皆殺しにしろ‼
﹂
﹂
抜刀‼
﹁オプリーチニナを敵と判断‼
﹁逆賊には容赦はせん‼
?
?
⋮⋮⋮⋮⋮。
イマンと孔は薔薇騎士団の勝利を願いながら見守っていた
ナがぶつかり合う。その光景に菅原とシェリー、後からやってきたノ
ヴィフィータとプレデューの雄叫びで薔薇騎士団とオプリーチニ
﹁﹁ウラァアアアアアアアアアッ﹂﹂
撃態勢を整えた。
騎士団もブロードソードやスコーピオン、ウォーハンマーを構えて迎
レール、プレデューも2対のフランベルジュを背中から抜刀し、薔薇
回 し て 仕 込 み 槍 を 展 開 さ せ る。対 す る ヴ ィ フ ィ ー タ も 2 対 の バ デ
オプリーチニナ達が一気に前に展開し、手にしていた箒の付け根を
?
438
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
Mission91:敵はウラ・ビアンカにあり
学問都市ロンデル。ここには伊丹が隊長を務めるレイス隊が駐留
している、学問に疎い奴がここにいる理由は最初は分からなかった
が、少し考えたらどうってことはない。
レレイが導師号に挑む為だ。
レレイは俺たちの世界に来て科学の本を買い漁り、ノイマン効果を
利用した魔法による爆轟を生み出した。いままでリンドン派は爆轟
を魔法に利用することが出来ず、攻撃系魔法は衰退していくかに思わ
れていたが、レレイの新魔法によって新たな可能性を見出した。
だが何度か暗殺者によって狙われていることを受けて俺たちゴー
ストチームと谷のファントムチームが司令部からの指示で合流を果
たし、今は設けて貰ったテントにいた。
﹂
439
﹁⋮⋮⋮⋮覚悟は出来てるんだろうな
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
て来た。
その隣でグレイが静観していると、天幕を開けながら伊丹達が戻っ
れた。
が死んだと錯覚したが、予め用意しておいた防刃プレートにより防が
だがノンナは陽動であり、本命はシャンディだった。一度はレレイ
で魔法が発動。そのまま拘束した。
たが噂を聞いた魔導師達が罠を予め仕掛けていて、正体を現した時点
レレイの番になるとノンナという女がレレイを狙い、暗殺しようとし
こ と の 発 端 は 学 会 に て レ レ イ を 狙 っ た 刺 客 を 拘 束 し た 後 に あ る。
ている薔薇騎士団のシャンディに突きつけていた。
俺は右手にヒルドルブを椅子に座らされながら両手を縄で縛られ
例え騙されていたにしてもな⋮⋮⋮﹂
﹁如何なる理由があったにしても、お前は仲間を殺そうとしたんだ。
?
﹁伊丹、学会はどうだったんだ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁ズルいです‼
よ‼
﹂
最初から用意してたんならそう言っておいて下さい
﹁それは⋮⋮⋮残念でしたな﹂
号は保留になった⋮⋮﹂
﹁内容は認められたよ。だけど周辺に問題を抱え過ぎてるから、導師
?
ディだろ
﹂
﹁⋮⋮⋮あっ﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮なんというか⋮⋮バカだよな
﹁あぁ。天然かつバカだな
﹂
﹁いや⋮⋮⋮用意しておいた方がいいって教えてくれたのってシャン
?
﹁バカだったあんたが悪いのよ﹂
﹁昔から備えあれば憂いなしというであろ
﹂
﹁襲われると分かっていて、用意しておくのは常識だ﹂
﹁騙されたのがおバカさんでよかったわぁ﹂
?
?
?
⋮⋮⋮﹂
﹁バカバカって連発しないで下さいです‼
﹂
﹁で⋮⋮⋮話を戻すが、なんであんなことをしたんだ
?
﹁ピニャ殿下をお助けする為に決まっています‼
﹂
﹁それで何でレレイが殺されそうにならなきゃならん
﹁だから⋮⋮レレイさんの首を献上することで、ピニャ殿下への忠誠
﹁⋮⋮あのクソ野郎か⋮⋮⋮まぁ容易に想像できるな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮レレイさんの命を狙っているのは⋮⋮ゾルザル殿下よ﹂
?
?
イを狙っているってんなら全く信じられんがな⋮⋮﹂
ピニャがレレ
を装填する。するとシャンディが少し沈黙した後に口を開いた。
けて、隣では谷がM1911A1のスライドを引いて45,ACP弾
一通りシャンディ弄りを終えると、俺は再びヒルドルブの銃口を向
﹂
﹁バ カ と い う も の は 愛 着 が あ り ま す か ら、私 は 好 き で ご ざ い ま す が
?
?
440
?
を示そうとしたのよ﹂
皇女殿下は危うい立場にあるの‼
﹁なるほど⋮⋮大いに騙されたって訳か﹂
﹁私は騙されてなんかない‼
翡
?
﹁翡翠宮で
﹂
法で裁かれて殺されてしまうわ‼
﹂
翠宮で戦端が開かれて、このままじゃピニャ殿下はオプリーチナ特別
?
﹂
を示せます﹂
あなたも殿下に忠誠を誓っているならレレイさん
﹂
橋を使って馬飛脚を呼んでおります﹁し⋮⋮失礼します‼
﹂おぉ、来
﹁ご心配はいりませぬクレイグ殿。こんなこともあろうかと修復した
が⋮⋮﹂
﹁困ったな⋮⋮⋮ツォッツェンは帝都から比較的近かったから通じた
所から離れ過ぎてる﹂
﹁いや⋮⋮郊外に出れば無線が通じる場所もあるんだが、流石に中継
﹁伊丹、司令部には通信がいったか
﹂
真っ直ぐな眼で確かな忠誠心を示しているグレイ。
ら迷わず姫様を小官は選びます﹂
﹁それが最も現実的ですし、姫様か皇太子殿下を天秤にかけるとした
﹁皇太子殿下に歯向かうというの⁉
﹂
﹁なにより、姫様への忠誠を誓うならば姫様を救い出す方が余程忠誠
﹁そんな⁉
はゾルザル殿下を信用しておりません﹂
方々を殺める方が姫様の忠誠を汚すことになりますし、何よりも小官
﹁お断りですな。私にとってレレイ殿や皆様は大恩ある方々。そんな
を討ちなさい‼
?
?
﹁グレイ騎士補‼
時に殺しておけばよかったか⋮﹂
﹁相変わらずあのクソが関わると黒くなるな谷は⋮⋮だが俺も、あの
か‼﹂
﹁あのクソ野郎⋮⋮⋮初めから協定なんか守るつもりはないと言うの
?
?
?
?
441
?
?
﹂
ピニャ殿下が‼﹂
たか。待っておったぞ﹂
﹁た⋮⋮⋮大変です‼
﹁ピニャがどうかしたのか
‼
れました‼
﹂
﹁殿下が⋮⋮⋮殿下が⋮⋮⋮ゾルザル殿下により捕らえられてしまわ
?
?
くそ‼﹂
?
?
てる﹂
﹂
自由の一撃作戦
﹁なんて言ってる
﹁⋮⋮⋮⋮⋮
﹂
﹂
﹂
?
﹂
仲間達をアルヌスに送り届け
出発するぞ‼
﹁自由の一撃⁉
﹂
﹁すぐに車両に乗り込め‼
﹂
行くぞルフス‼
すまんがここで別れる‼
﹁クレイグ殿⁉
﹁グレイ‼
てくれ‼
﹁俺のチームもだ‼
?
?
?
自由の一撃
を発動する。目
を救出。今後の講和の芽を護り、クーデター軍制圧の足がかりとする
的は翡翠宮に取り残された使節団及び理不尽に拘束された現地要人
ウラ・ビアンカに対して戦域攻勢作戦
隊は明日の明朝0630、総力を挙げてクーデター軍の支配下にある
︿特地駐留の各隊。こちらアルヌス司令部。連合特地派遣統合任務部
とした。
かった無線の内容は徐々によくなっていき、下された命令がはっきり
両に乗り込むとすぐに移動を開始した。そして先程までの雑音が酷
無線の内容を伝えると俺たちはヴァルキル達をグレイに預けて車
?
?
?
?
?
が発動された‼
﹁待て⋮⋮⋮無線が通信を拾った。雑音が酷いが最大出力で送信され
﹁遅かったか⁉
﹂
﹁なんだと⁉
?
ことにある。繰り返す⋮⋮⋮⋮﹀
442
?
?
?
Mission92;自由の一撃/空挺降下
アルヌスにて最高司令官を務めている狭間陸将のデスクに1本の
電話が掛かって来た。陸将が受話器を取って出ると相手は本居総理
だった。これまで手に入れたクーデター軍の情報やゾルザルによる
恐怖政治と国民への弾圧。連合に参加している主要国家との話し合
いで戦域攻勢作戦計画の発動が命じられ、受話器を置いた狭間陸将は
目を閉じながら暫く沈黙する。
そして執務室にいる健軍一佐や賀茂一佐、シュガート大佐や趙大佐
﹂
は固唾を飲んで陸将の言葉を待った。
﹁⋮⋮⋮⋮決行だ‼
その言葉にアルヌスが騒がしくなる。滑走路には連合特地派遣団
ハーキュリー
5機がエンジンを暖気状
の主力輸送機で日本、アメリカ、台湾で共有できるということで採用
されているC│130H
態で待機し、その近くでは第4空中強襲戦闘団が完全フル装備で待機
していた。
各種ライフルを収納したコンテナにバックパック、スタティックラ
イン、T│11メインパラシュート、パラシュートウェストバンド、リ
ザーブパラシュート、キャノピーリリース、ハーネスを1セットとし
た空挺降下用装具を身につけた第1空挺団、アメリカ陸軍第81空挺
連隊、台湾軍空降特戦隊だ。
そして時刻統制が終わった後に全員が一斉にC│130Hに搭乗
し、その機内にて第4空中強襲戦闘団の健軍1佐が訓示を述べてい
た。
︿銀座事件以来、理不尽に虜囚となった同胞や友人のみならず、新たな
平和の活路を見出すべく行動する現地政府要人の生命の如何は偏に
諸君等の双肩に掛かっている。細心に、そして大胆に空挺隊員として
の活躍を期待して訓示とする﹀
443
?
健軍の訓示に従うように航空支援を行うべくホークウィンドー隊、
ルーデル隊、関羽隊、ライトニング隊が先に離陸して、後に続くよう
にハーキュリーがウラ・ビアンカに向かって飛行していく。
自由の一撃作戦とは派遣当初から定められていた計画の1つで、帝
国に交渉の意思がない。もしくは戦争が避けられないかそれに相当
する理由の際に発動させられる。
作戦自体は大まかに3つの作戦で構築されている。 第1段階はバスーン監獄に囚われている講和派と翡翠宮に取り残
された使節団を救出する空挺降下及びヘリボーン作戦。その後に撤
退。可能ならば敵の将校を捕虜にする。
第2段階はクーデター軍による反撃を想定して敢えて正面から迎
え討ち、力の差を見せつけると同時に敵の戦力を削ぐ。
第3段階は機甲部隊を中心とした部隊で再びウラ・ビアンカに舞い
戻って残党を制圧。ゾルザルを拘束もしくは抹殺するというのが自
由の一撃作戦の全容だ。
そして作戦開始の0630。ウラ・ビアンカの北西部にある龍騎兵
大隊駐屯地側の森には偽装を施したハイデッガー率いるエコーチー
ムがLLDRを構えて待機していた。
﹁こちらCIAエコーチーム。準備いいぞ﹂
︿こちらルーデル01。目標捕捉、爆弾投下﹀
ハイデッガー達の誘導を受けてエメリッヒのA│10AがMk8
4を投下。投下されたMk84は駐屯地に直撃し、待機していた翼龍
共々吹き飛ばし、黒煙が上っていた。
﹁敵防空施設の排除を確認﹂
︿こちらホークウィンドー01。ターゲットロック。FOX2﹀
444
︿関羽01。FOX2﹀
上空にて待機していたF│4EJ改とF│5Eもスクランブル出
撃した龍騎兵に対してミサイルを射出し、命中した龍騎兵は空中で爆
散。別の敵に対しては機関砲にて攻撃を仕掛け、地面に叩き落とし
た。
︿ウラ・ビアンカの制空権を確保。脅威は排除された﹀
︿こちらルーデル03、確認したホークウィンドー01。ルーデル0
3から各隊。ファーストステージクリア。セカンドステージスター
ト﹀
制空権を確保した航空隊。一方で異変に気が付いた西門の兵士達
は大本営に伝令を出そうとするが、いきなり制圧される。ある者は額
に風穴があき、ある者は喉を斬り裂かれ、ある者は顔が粉微塵に吹き
飛んだ。
﹁こちらセラフィム。西門を制圧。これより警戒にあたります﹂
︿了解だセラフィム。こっちはナイトメアと共にバスーン監獄正門前
に展開﹀
︿こちらアーチャー。狙撃位置に到着﹀
周辺に待機していたスティーブ達が姿を現し、スティーブ自身もサ
プレッサーを装着させたM4A1に新しいマガジンを差し込む。
そして今度は内側のバスーン監獄正門前に展開するAK│12を
装備したアーロンのヴァローナ隊とウィリアムのナイトメア隊が通
用口手前の壁に張り付き、隊長のアローンとウィリアムがそれぞれ6
kh5とアーミーコンバットナイフを取り出して構えた。
﹁前に出過ぎるな。裏門には第3偵察隊とリーパー隊が展開してる。
動きに合わせて仕掛ける﹂
445
︿こちらアーチャー。反対側に敵兵2名。通用口から出てくるぞ﹀
アーチャーから敵兵が来る知らせを聞いて間もなく敵兵がアーロ
ン達の方にやってきた、通用口から敵兵が姿を見せた瞬間に左右から
それぞれナイフを突き刺し敵兵を無力化した。内側の扉にいた敵兵
はアーチャーの狙撃により排除。通用口を完全制圧し、そこからバ
スーン監獄に入り、詰所を目指す。
そしてウィリアムがハンドシグナルで指示を出すとブラックバー
ンがM84フラッシュバンを取り出してピンを抜き、僅かに開かれた
扉に投げ込んだ。
室内でフラッシュバンが炸裂したのを確認し、アーロンを先頭に雪
崩れ込み、いきなりの閃光と音響で立ち眩む敵兵に次々と5.45m
m弾と7.62mm弾を撃ち込む。
﹂
リーパー隊からも制圧完了という通信を確認。これでバスーン監獄
周辺と西門の制圧は完了し、遠くから小さいながらもエンジン音が聞
こえてきた。
﹂
空挺降下部隊を乗せたC│130Hだ。そして機内でも日米台の
﹂
﹂
混成部隊が降下準備に入っていた。
﹁降下6分前‼
お前達はなんだ⁉
﹄
﹄
だが貴様等は飛ばなきゃ何の役にも立たん‼
﹃泣く子も黙る空挺部隊‼
﹁そうだ‼
?
﹁よし‼
?
﹃我等の真価は空挺にあり‼
?
?
?
?
446
﹁報告‼
﹂
﹁クリア‼
﹂
?
詰所を制圧したアーロンとウィリアム。裏門にいた第3偵察隊と
﹁ルームクリア‼
﹂
﹁クリア‼
?
?
?
?
﹁勇 気 の な い 者 は 置 い て い く ‼
﹂
﹄
その意気だ野郎共‼
﹃いるはずなし‼
﹁よし‼
﹂
この中に勇気のない奴はいるか⁉
立ち上がれ‼
が機体側面ハッチを開けて降下態勢を整える。
高度よし高度よし‼
?
﹀
︿こちらマザーグース01‼
降下降下降下‼
用意用意用意‼
ヤーにスタティックラインフックを繋ぐ。そしてジャンプマスター
中隊長を務めるアメリカ軍大尉の号令で全員が立ち上がり、ワイ
?
?
?
出す。
﹁降下‼
?
行くぞ‼
﹂
止まるな‼
下を始め、空一杯にパラシュートが広がっていく。
行くぞ‼
迷うな‼
?
﹁行くぞ‼
﹂
どんどん行けぇ‼
?
﹁俺たちはナンバーワン‼
﹁行けぇ‼
?
?
スーン監獄へと向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
く、ライフルを取り出し異常がないかチェックし、すぐに構えてバ
降下部隊300名は地上に着地するとそれぞれの役割を遂行すべ
つけてから降下していく。
隊員が降下したのを確認したら中隊長もジャンプマスターに拳をぶ
中隊長に檄を入れられながら降下していく隊員達。そして最後の
﹂
シュートが開傘していく。まわりの機体からも次々と空挺部隊が降
そ の 言 葉 で 隊 員 達 が 一 斉 に 機 外 に 飛 び 出 し て い き、次 々 と パ ラ
﹂
やがて機内のランプが赤から緑に変わり、確認した中隊長が合図を
?
?
?
?
?
?
447
?
?
?
?
Mission92:自由の一撃/ヘリボーン
ファーストステージおよびセカンドステージはタスクフォース ナイツと第4空中強襲戦闘団により達成となった。バスーン監獄の
守備は無いに等しいものとなり、突入は容易だ。
ここで次はバスーン監獄内部への突入と制圧を目的とするサード
ステージが開始された。
空挺部隊展開直後に今度はアメリカから新しく導入されたタスク
ナ
と第75レンジャー連隊が監獄内部突入を担当
フォース ナイツの予備部隊⋮⋮⋮第160特殊作戦航空連隊
イトストーカーズ
することになった。
︿ルーデル03からホーネット2│1。バスーン監獄の包囲はタスク
フォース ナイツと第3偵察隊、およびにリーパー隊により完了し
﹀
?
448
た。サードステージ開始だ﹀
︿こちら2│1。了解だルーデル03。2│1から3│1。これより
低空で突入し、バスーン監獄内部に部隊を展開させる。展開中は無防
備だからしっかりと守ってくれ﹀
︿こちら3│1。任せてくれ﹀
︿ブラックホークダウンだけは御免だからな﹀
地上では降下を完了させた空挺部隊がバスーン監獄外部に展開し
ており、時々だが帝国兵と戦闘が発生している。レンジャーを乗せた
第1中強襲中隊のMH│60Lと支援機のMH│60L DAPが
バスーン監獄敷地内へと進入し、それを帝国兵は何とか阻止しようと
バリスタを構えるがMH│60L DAPのM134Dにより逆に
制圧された。
降下地点だ‼
?
︿こちらホーネット2│1。バスーン監獄屋上クリア。部隊を降下さ
﹂
せる⋮⋮レンジャー‼
﹁ロックンロール‼
?
屋上にてロープを垂らし、そこから次々とレンジャー隊員がファス
トロープで降下。合計で36名の隊員が降下した後にバスーン監獄
内部へと突入していく。
監獄内は薄暗く、階段の先には扉があったが隊員は蹴り破ると空挺
装備であるM416CA2を構えながら通路に突入。いきなりの出
現で敵は唖然となっているがすぐに胴体に5.56mm弾を撃ち込
んで射殺。
そのまま‼
﹂
﹂
助けにきました‼
﹂
36名を4人ずつにわけてから近くの部屋からクリアリングを掛
けていく。
﹁動くな‼
﹁要人発見‼
﹁そなた等は⋮⋮﹂
﹁我々は連合軍です‼
﹂
﹁うぁああああああっ‼
﹁ちぃ⁉
﹂
が、そこには敵が待ち構えていた。
かった扉のドアノブとヒンジを破壊し、蹴り破ると一気に突入した
いくレンジャー。M870 MCSを構えたポイントマンが鍵の掛
牢に閉じ込められていた講和派議員を見つけ出し、次々と解放して
?
?
?
8 レンジャーアックスを取り出して敵兵の頭をかち割る。
後ろにいた敵兵はM249を装備したガナーが掃射して倒し、ポイ
ントマンもM9A1をホルスターから引き抜いて9mmパラベラム
弾を頭に撃ち込んだ。
バスーン監獄はそれから暫くしてから完全に陥落し、獄長だった敵
も射殺した。捕らえられていた講和派議員達も次々と救出され、監獄
449
?
?
?
斬り掛かって来た帝国兵の一撃を回避するとポイントマンはM4
?
の外にある広場に集められていた。
そこに今回はそれぞれの部隊にて行動していた栗林とシンディが
64式小銃1型と+M320A1を抱えながら見回っていると、ソワ
﹂
あなた達だったのね迎えに来てくれたのは
あの人って⋮⋮﹂
ソワした婦人が2人を見つけた。
﹁あれ
﹂
シンディ‼
‼
!!
﹁キケロさんの奥様
﹁栗林‼
ありがとう
?
﹂
?
﹂
?
た。
﹂
﹁皆さん‼
す‼
置いてくよ‼
﹂
﹁みんな急いで‼
これから回収地点に向かいま
﹂
ぐずぐずしてると
帝国兵がいつ来るか分かんないんだからね‼
﹁乗った人も安心してないで奥に詰めてやんな‼
?
馬車に次々と議員達を乗せていく。今回は存分に余裕をもたせて
?
馬車に乗ってください‼
車を引き連れて黒川達とミザリィ、ミーア、悪所の住民達がやってき
キケロ卿婦人に感謝されている栗林とシンディ。そこに数台の馬
﹁イタリカまでお送りします‼
﹁いえ、我々が命じられたのはみなさんの救出です﹂
るってことは⋮⋮⋮もしかして帝国は戦争で負けちゃったの
﹁あなた達連合のおかげで助かったわ。けど⋮⋮こんなことになって
あるから娘みたいな感覚なのだろう。
気に入られているようであり、当人2名が元から人懐こいというのも
ディ。第3偵察隊とリーパー隊の中で特に交流がある2人はかなり
講和派重鎮の1人であるキケロ卿の妻に抱きつかれる栗林とシン
?
?
?
?
?
450
!!
?
?
?
?
いたので捕まっていた議員全員を載せることに成功し、第3偵察隊と
リーパー隊は議員達の護衛を務め、タスクフォース ナイツとレン
ジャーは翡翠宮に向かった部隊の脱出路確保の為に制圧したバスー
ン監獄に残る。
そして上空待機をしていたナイトストーカーズのホーネット2│
1は皇宮の写真を撮るために単機で接近していたが、地上には今回の
電撃戦で味方を圧倒している我々を唖然として見ているゾルザルと
側近達がいた。
﹀
︿こちらホーネット2│1。皇宮前にてゾルザルを発見。排除するか
﹀
︿こちらHQ。間違いないか
︿間違いない。ステーキを食うみたいに大口を開けてやがる﹀
︿⋮⋮⋮確認したホーネット2│1。まだ必要ではない。無視して飛
行コースに復帰せよ﹀
︿了解だHQ。だがメッセージは残しておく﹀
HQへの通信を終わらせたホーネット2│1。機体を少し斜めに
してM134Dのガナーとパイロット達は一斉にゾルザルを見て、中
≫
指を立てて思いっきり見せつけた。
≪俺らのケツを舐めやがれ‼
?
451
?
?
Mission93:自由の一撃/救出
バスーン監獄を陥落させ、無事に議員達を救い出すことに成功した
連合は次の段階へと進む。
確保したバスーン監獄を維持しつつ空挺部隊2個小隊が翡翠宮に
向かい、茂みに身を隠しながら攻撃準備をする。翡翠宮は陥落寸前で
あり、騎士団も包囲されて制圧は時間の問題だったようだ。
自衛隊が89式小銃2型折曲銃床式、アメリカ海兵隊がM416A
5、台湾軍が91式歩槍。ガナーもM249やM27 IARを構え
て一呼吸を置く。
﹂
﹂
そして小隊長の攻撃により一斉射撃が開始された。
﹂
﹁ぐあっ⁉
﹂
﹁がはっ⁉
﹁そ⋮側面だ‼
﹁な⋮なんで奴等がここに⋮ぎゃっ⁉
台湾軍は我々と共に右側方に展開‼
目標は
て小隊長は冷静に敵の状況を確認して何処を攻めるか見極めていく。
﹁海兵隊はそのまま‼
?
﹂
﹂
奴等がいなくなれば敵は総崩れを起
﹂
撃ちまくれ‼
﹂
日本と台湾に遅れるな‼
興奮してんだぜ‼
張り切ってやがるな‼
構うことはない‼
黒服のクソッタレ政治将校‼
こす‼
﹁日本の少尉‼
マリーンズ‼
﹁奴等は初めての実戦だからな‼
﹁よ し ‼
﹂
?
?
?
くって奴等を援護するぞ‼
﹁伏せろ‼
俺らも撃ちま
?
?
?
?
?
?
?
?
態勢を整えた弓兵部隊が斉射してきて、台湾軍兵士の1人の肩に矢が
海兵隊の援護を受けつつ右側方に展開する自衛隊と台湾軍。だが
?
452
?
予想すらしていなかった側面からの銃撃に混乱する帝国兵。対し
?
?
?
?
?
衛生兵‼
﹂
突き刺さった。
﹁ぐっ⁉
﹁くそっ⁉
来てくれ‼
﹂
敵を近付かせるな‼
﹂
出番だ‼
キャットと包帯で固定してくれ‼
︿こちらスレッジハンマー。パーティタイムだ﹀
ウィング1│1からスレッジハンマー‼
矢を抜くな‼
﹁衛生兵を援護しろ‼
﹂
待て⁉
﹂
?
?
﹁大丈夫か⁉
﹁ああ‼
﹂
﹁敵が接近‼
﹁させるかよ‼
﹂
?
?
?
スレッジハンマー
ひぃいいいっ⁉
していく。
﹁ひっ⁉
?
げ出していった。
?
﹁敵の撤退を確認‼
﹂
だ。
で、オプリーチナの幹部らしき男が逃げ出すと、他の敵兵も林道に逃
射出されたM433 HEDP弾で次々と吹き飛ばされていく中
﹂
止めた敵に対しては小隊のグレネーダーがM320A1で吹き飛ば
連動してMP5A4 Customで排除していき、不意打ちで足を
4人の最小単位で構成されたスレッジハンマー隊は小隊の攻撃に
SAS連隊
のフェイスマスクの上にガスマスクという格好のイギリス軍第21
まで屋根の上で息を潜めていた黒の戦闘服に黒のボディアーマー、黒
そこには自由の一撃作戦発動前にHALO降下で潜入し、小隊到着
根からいきなり銃撃が浴びせられる。
小隊長が通信を入れると接近してくる帝国兵に対して翡翠宮の屋
?
?
?
?
?
?
?
?
453
?
?
?
﹁逃がすかよ‼
﹂
翡翠宮前にあ
翡翠宮側から低空
ウィング1│1からルーデル01‼
る林道が見えるか⁉
︿こちらルーデル01。確認している﹀
﹂
﹁敗走した敵部隊が林道を抜けようとしている‼
で侵入して排除しろ‼
︿了解だウィング1│1。目標視認。攻撃を開始する﹀
塵に吹き飛ぶレベルではない。
だけでも身体を持って行かれてしまうそれが直撃されたら木っ端微
0mで38mmになるのにそれを近距離、しかも生身の人間は掠った
U│14/B 焼夷徹甲弾の貫通力は500mで69mm、1,00
対戦車戦闘を想定して設計されているかもの、それから放たれたPG
ジャー30mmガトリング砲の発射音により掻き消された。本来は
や が て 僅 か に 断 末 魔 が 聞 こ え て 来 た が G A U │ 8 ア ヴ ェ ン
空を通過して林道に差し掛かる。
上空待機していたルーデル01が高度を低くしていき、翡翠宮の上
?
この場合ならば消え去るが正しいだろう。まるでトマトジュース
のようになりながら
﹂
︿ターゲット排除﹀
﹁感謝する‼
る﹀
﹁了解だ‼
こちらは翡翠宮に突入して要人を確保する‼
﹂
?
合流し、翡翠宮内部に突入していく。そこには白百合副大臣に菅原と
シェリー、ノイマン、孔、救出されたカーゼル公爵がいた。
そして暫くしてから健軍とキーアがやってくる。
﹁よく来て下さいました﹂
454
?
?
?
?
︿ウィング1│1。ルーデル01は燃料がビンゴだ。これより帰還す
?
広場を確保した小隊は屋根から降りてきたスレッジハンマー隊も
?
﹁直ちにここを離れます。副大臣、持っていくものはありますか
﹁大丈夫です﹂
﹁お久しぶりですわ。健軍1佐、キーア中佐﹂
﹂
?
﹂
﹁ボーゼスさん⋮⋮だったかな⋮⋮⋮⋮我々はこれより民間人を連れ
てウラ・ビアンカを脱します﹂
﹁帝都の外までの道程は確保されているのですか
﹂
﹁あぁ。抵抗していた敵は掌握してある﹂
﹂
﹁ではお願いがあります‼
﹁あっ
?
﹁助かります‼
﹂
﹁大 丈 夫 な の で す か
⋮⋮⋮﹂
帰りのCH│47には乗せ切れませんが
﹁⋮⋮⋮⋮⋮分かりました。みなさんの身柄もお引き受けします﹂
﹁自力での脱出は困難でしょうな⋮⋮﹂
このまま残していくしか⋮⋮﹂
﹁それと⋮⋮負傷した仲間達をお預けしたいのです。私達だけでは、
健軍とキーアはボーゼスからの説明を受けて納得する。
﹁その後はイタリカへ⋮⋮⋮フォルマル伯爵の処へ向かいます﹂
﹁まぁ⋮⋮⋮構わないが⋮⋮﹂
﹁騎士団を⋮⋮帝都の外まで同行させて欲しいのです﹂
?
集結地点へと向かうこととなった⋮⋮⋮⋮⋮。
プレデューが追いかけるということになったが、健軍達は止むを得ず
えに行くといいながら単騎で皇宮へ向かい、その後にヴィフィータと
残った軽傷者を地上で集結地点に向かう中、ボーゼスがピニャを迎
くことが出来ない重傷者を載せて、それを離陸するまで警護。
要人と薔薇騎士団を無事に救出した小隊は到着したチヌークに歩
﹁了解です健軍1佐﹂
﹁大丈夫だ。重傷者は空路、軽傷者は陸路で連れて行く﹂
?
?
455
?
Mission94:自由の一撃/脱出
自由の一撃作戦が発動されて12時間が経とうとしていた。既に
捕まっていた講和派議員や危機に瀕していた使節団と亡命希望者、薔
薇騎士団のイタリカへの移送は完了している。
港においてはスナッチミッションが実施され、ルイス・メディナ・
シデン大尉率いるウィップラッシュ隊とSEALs Team9に
より実施され、港における責任者の拉致に成功した。
第3偵察隊とリーパー隊等のタスクフォースはウラ・ビアンカの悪
所に残り、引き続き情報収集にあたることとなる。
﹂
そんな中で部隊が次々と撤収をしていく中、健軍とキーアの本隊は
離陸しないで待機していた。
﹁彼女達は来るのでしょうかカーネル健軍
﹁知らん。だが作戦終了時刻まで若干だがある。ギリギリまで待つ﹂
﹁ですが⋮⋮﹂
そんな話をしながらキーアは時計の時刻を確認する。作戦終了は
18:00で、あと5分で時間になってしまうが健軍はボーゼス達を
見捨てることが出来ないでいた。すると西門から砂塵が見え始め、す
ぐに双眼鏡で確認したら馬に乗ったボーゼス、ヴィフィータ、プレ
距離200‼
デュー、それを追撃しているクーデター軍騎馬隊だ。
﹂
﹂
最悪だ‼
﹁追尾されてます‼
﹁くそっ⁉
敵騎馬隊先頭集団‼
﹂
?
式歩槍、M249、M27 IARを構えてトリガーを弾いた。射出
456
?
﹁しかも姫様の救出は失敗したようです⋮⋮﹂
目標‼
?
前方の女に当てるなよ⋮⋮⋮撃て‼
﹁1小隊射撃用意‼
単連射‼
?
?
?
?
健軍の指示で89式小銃2型、M416A5、M417A2、91
?
?
?
された5.56mm弾と7.62mm弾はヴィフィータ達の後ろを
追い掛ける騎馬隊へと吸い込まれるように命中していく。
射撃を加えながら交互支援で徐々に後退していき、健軍とキーアも
そろぞれ9mm拳銃2型とM9A1で援護する。すると彼女達を乗
せた馬が躓いてしまい、そのまま彼女達が投げ出されてしまう。
﹂
﹂
﹁キーア‼
﹁はい‼
﹁急げ‼
急げ‼
誰も残すな‼
﹂
﹂
?
?
置いて行かれるぞ‼
﹁チヌークに飛び乗れ‼
﹂
人員掌握‼
?
飛び移った。
﹂
﹀
早くこの地獄から抜け出せ‼
﹁全員乗ったな⁉
﹁パイロット‼
離陸します‼
?
?
﹁あ⋮⋮⋮あの⋮⋮⋮﹂
﹁ギリギリでしたね⋮⋮⋮﹂
﹁ふぅ⋮⋮間に合ったな⋮⋮﹂
いき、数百の敵を振り切って飛行を始めた。
全員の搭乗を確認したチヌークパイロットは徐々に高度を上げて
︿了解‼
﹂
フィータとプレデューを抱きかかえた健軍とキーアも後部ハッチに
離陸しようとするチヌークに隊員達が次々と飛び乗っていき、ヴィ
﹁各班長‼
?
?
プレデューを抱き寄せながら向かってくる帝国兵を攻撃していく。
機関銃手はフルオートで敵を薙ぎ払いつつ援護し、ヴィフィータと
ボーゼスも自衛官、海兵隊員、台湾軍兵士がキャッチ。
す ぐ に 健 軍 は ヴ ィ フ ィ ー タ、キ ー ア は プ レ デ ュ ー を 受 け 止 め て、
?
?
?
?
457
?
?
?
﹁ちょ⋮⋮⋮その⋮⋮⋮﹂
﹂﹂
﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂﹂
﹂
﹁﹁あのっ⁉
﹁えっ
﹁おっと⋮失礼⋮⋮⋮﹂
﹁ピニャ殿下ぁああああっ‼
た。
﹁健軍1佐‼
キーア中佐‼
﹁⋮⋮⋮⋮すまない﹂
⁉
﹂
殿下を助けて‼
﹁我々にはどうすることも出来ない﹂
?
﹂
直後に台湾軍兵士に抑えられながらボーゼスが悲痛な叫びをあげ
に気がついた2人がようやく降ろした。
な2人に顔を赤く染めながらヴィフィータとプレデューが促し、それ
ヘリに乗り込む為にお姫様だっこをしていた健軍とキーア。そん
?
?
?
﹁そ ⋮⋮ そ ん な ⋮⋮⋮⋮ 殿 下 ぁ あ あ あ あ っ ⁉
﹂
あぁあああああっ⁉
?
?
だが本隊が既に帰還していった中で何の作戦もなしに敵の中枢に飛
び込むというのは、幾ら健軍1佐達であっても危険極まりない。
言 い に く そ う に 救 出 は 不 可 能 だ と 言 っ た 健 軍 と キ ー ア の 言 葉 に
ボーゼスは泣き叫び、ヴィフィータとプレデューも辛い表情をしなが
ら肩に手を乗せる。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮伊丹達なら⋮⋮どうしただろうな⋮⋮﹂
﹁クレイグ⋮⋮谷⋮⋮お前達は何処にいるんだ
成功を収めた。だが一番肝心のピニャを救い出すことは叶わず、モル
アルヌスへ飛行していくチヌーク。自由の一撃作戦の第1段階は
?
458
?
?
ピニャを救い出して欲しいと悲痛な叫びと共に悲願するボーゼス。
?
ト皇帝も未だに奴等の手中にある。
講和派の最重要人物であるピニャの安否を優先して狭間陸将は作
⁉
﹂
ここから出してくれ‼
‼
も
戦の一時中断を可決し、クーデター軍による報復に備えて軍備を整え
頼む⁉
ることを優先とした⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁わぁあああああああっ⁉
う⋮⋮もうこんなところは嫌だ‼
?
思わず伊丹と谷とエースに助けを求めるピニャ。そんな中で自由
⋮⋮⋮⋮エース⋮⋮﹂
﹁頼む⋮⋮⋮誰かぁ⋮⋮助けて⋮⋮⋮⋮助けてぇ⋮⋮⋮伊丹殿⋮谷殿
してピニャは大粒の涙を流していた。
悪循環に満ちた狭い部屋にしゃがみ込み、理不尽極まりない扱いに対
狭い部屋に窓も無く、あるのは蝋燭の灯りと古いベッドのみという
つけられてしまった。
ターにより売国奴という位置付けをされ、ありもしない罪状をなすり
和を模索して帝国を守ろうとしたピニャだが、ゾルザルによるクーデ
帝国と連合の戦いになったら間違いなく帝国は敗北すると察し、講
いる。
いている内に手を切って出血し始め、精神も相当なまでにすり減って
両手には手枷を嵌められてとても皇女とは思えない。何度も扉を叩
皇宮にある独房に閉じ込められているピニャ。奴隷服を着せられ、
?
の一撃作戦発動を聞きつけた伊丹達は雷が鳴り響く雨の中、ウラ・ビ
アンカへ向かっていた⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
459
?
?
?
?
Mission95:義鬼と忠狼
ゾルザルのクソッタレに対抗する一大反攻作戦
自由の一撃
が
開始されたと聞き、俺たちは急いでウラ・ビアンカに急行した。帝都
に展開していたクーデター軍の戦力の約1割を喪失したことむあっ
てか、聞かされていた包囲網を簡単に突破し、今はタスクフォース ナイツの指揮所屋上にいた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ご主人様﹂
木箱に腰を下ろしながらコーヒーを飲んでいるとミオが話し掛け
て来た。今の彼女はアルヌス警邏部隊の標準甲冑じゃなく、いつもの
メイド服に着替えられていた。
﹂
460
﹁如何なされましたか
殺しにしたらしい。
自分の別荘を作るという理由だけで集落を襲って、暮らす民間人を皆
動物、もしくは単なる玩具としか見ず、情報によれば主戦派の一部は
させられる。血が違うという理由だけで人を人と見ずに奴隷や実験
ゾルザルのクーデター軍による各地での弾圧は本当に中国を連想
たって何度も思えるよ﹂
﹁ら し い な。本 当 に 胸 糞 悪 い 奴 だ。あ の 時 に 殴 り 殺 し と き ゃ 良 か っ
多数の無関係な方達が公開処刑に掛かって命を落としております﹂
﹁はい。亜人に対してますます圧力を加えてきている軍。それに既に
しい。絶対にそれまでに救い出さなきゃならない﹂
﹁アーロンが見つけた情報には、姫さんは近い内に処刑されちまうら
﹁ピニャ様⋮⋮⋮確かに心配です﹂
だったから、あのクソッタレに何をされているか⋮⋮﹂
﹁いや⋮⋮⋮姫さんのことを考えていてな⋮⋮講和派議員統括の立場
?
﹁ですがご主人様⋮⋮⋮本当に私は行けないのでしょうか
﹁あぁ。ミオには脱出路の確保に回って貰いたい﹂
﹂
﹁ですが西門には剣崎様達が向かいます。私が向かわなくても⋮⋮﹂
﹁仕方がない。君は潜入するよりも真っ向から立ち向かう戦士型だか
ら、今回の俺の役割には不釣り合いなんだ﹂
﹁⋮⋮⋮私はご主人様のお側にて従いたいです﹂
普段は真面目なイメージが強いミオは、耳をシュンとさせて軽く頬
を膨らましている。まるで飼い犬が構ってくれないで落ち込んでい
るような感覚だ。
そんな可愛らしい反応をするミオに失笑しながらも俺はミオの頭
を撫でてやる。
﹁そういうな。これはミオが信頼できるから任せられるんだ。だから
ワガママ言うんじゃない﹂
﹁クゥン⋮⋮﹂
﹁分かった分かった。だったらミオにはこれを預けておく﹂
そういいながら俺は左薬指に嵌めていた指輪を外してミオに手渡
す。この指輪は俺が大事にしているエミリアとの婚約指輪で、彼女が
殺されてからもずっと嵌めていた。
我ながら未練がましいもんだよ。
﹁それは俺の宝物だからな。無くしたら困るから君に預けておく。絶
対に無くさないでくれよ﹂
﹁ご主人様⋮⋮⋮﹂
﹁これは君にしか任せられない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
461
?
﹁俺は準備をしてくる。夜明け前に潜入しなきゃならないから﹁ご主
人様⋮⋮﹂⋮⋮なんだ
?
俺は夜明け前にかつての相棒であるハイデッガーと再びコンビを
組むこととなり、それの準備をしにいこうとする。だがミオに呼び止
められて振り向くとミオは俺に飛び込んで来た。
俺に密着するようにしっかりと抱きついて来て、俺も咄嗟にミオが
転ばないようしっかり抱き寄せてしまうが本当にいきなりだったの
﹂
で唖然としてしまう。
﹁ミオ⋮⋮
﹁ご主人様⋮⋮⋮お慕い致しております﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁お慕い致しておりますご主人様。メイドとしてではなく⋮⋮⋮女と
してご主人様をお慕い致しております﹂
﹁ミオ⋮⋮⋮﹂
﹁ご主人様がエミリア様を大事にされておられるということは周知致
しております。ですが⋮⋮どうしても⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁返事は求めません。しかしどうしても私の気持ちを⋮⋮ご主人様に
お伝えしたかったのです﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ミオ﹂
﹁ご主人様⋮⋮⋮きゃっ﹂
俺に告白するミオ。彼女の名前を呼んで顔を上げさせると少し強
引に彼女の唇に俺の唇を重ねる。体を強張らせていた彼女だが、暫く
してから無駄な力が抜けて、俺と深くキスをする。
﹁⋮⋮⋮ミオ⋮⋮好きだ﹂
﹁ご主人様⋮⋮⋮﹂
﹁確 か に 俺 は 今 で も エ ミ リ ア を 大 事 に し て い る。だ が ⋮⋮ ど れ だ け
想っても彼女が生き返ることはない⋮⋮⋮⋮⋮最初は君をエミリア
の代わりと思ってた。だが君は君だ。真っ直ぐで心優しく、それで少
462
?
し天然だ﹂
﹁か⋮⋮からかわないで下さい⋮⋮⋮﹂
﹁ふっ⋮⋮どうも君みたいな子を何となくいじめたくなるんだよ﹂
﹁⋮⋮⋮意地悪です﹂
﹂
﹁悪いな⋮⋮⋮まぁ褒美代わりといっちゃ変だが、先になにか渡して
おこう。なにかあるか
﹂
じ装備に加えて背中にM25 Mod1を背負うと夜明けになる前
装備にXM30E1を手に取り、再びコンビを組むハイデッガーも同
それから数時間後、タイフーン迷彩服に着替えてタイフーン迷彩の
た。
閉じると彼女とゆっくり、だがしっかりと想いを乗せて彼女とキスし
頬に軽く触れ、ミオも潤わせている瞳をゆっくりと閉じる。俺も目を
褒美の前払いでミオはキスを要求してきて、了承すると俺は彼女の
﹁⋮⋮⋮⋮あぁ﹂
﹁も⋮⋮もう一度⋮⋮⋮⋮く⋮口付けを⋮⋮⋮﹂
﹁
﹁で⋮⋮⋮でしたら⋮⋮その⋮⋮﹂
?
に、ミオに見送られながら皇宮へと密かに向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
463
?
Mission96:解放への戦火
ウラ・ビアンカの象徴でもある皇宮は静まり返っていた。連合によ
る一大反攻作戦が決行されたのだから仕方がないことだが、一部屋だ
けは違った。
数mはある巨大な扉が開かれ、そこに帝国兵によって引っ張られな
がら連れてこられた女性。奴隷服を着させられ、両手首には手枷が嵌
められたピニャだ、身体中に痣があり、碌な食事が与えられていない
のか少し痩せたようで、ゾルザルの彼女に対する扱いは酷いものだと
一目で理解できる。
﹂
玉座に座るゾルザルの前に連れて来られたピニャは睨みつけなが
ら兄に問いかけた。
﹁⋮⋮⋮いまさら妾に何の用か
﹁言わなくても分かっているはずです。あなたの騎士団がゾルザル殿
下に歯向い、逃亡した件です﹂
﹁薔薇騎士団の行動は皇帝陛下の決められた連合との条約に従ったの
﹂
み⋮⋮話を聞く限りでは条約に従わなかったのは兄上側であろうが﹂
﹁ならばこのウラ・ビアンカに敵を引き入れたのも⋮⋮ですかな
でゾルザル率いるクーデター軍に協力している。
12名の内の1人であり、あれから連合に雪辱を果たすという逆恨み
この側近はかつてピニャによって連合から解放してもらった捕虜
ニャに問いただす。
ゾルザルの側近の1人が連合によるウラ・ビアンカ電撃作戦をピ
?
﹂
貴女が連合と内通し、この事態を引き起こ
ピニャはこの愚か者を解放したことにひどく後悔していた。
﹁しらばっくれる気か⁉
夢でも見ていたのであろう⁉
本来ならば処刑されても可
?
464
?
した張本人だというのは分かっているのですぞ‼
﹁はん‼
?
?
笑しくなかったのを解放させたのに、それを逆恨みする貴様等ならば
?
﹂
有り得る話だな‼
売国奴の分際が‼
﹁調子に乗るな‼
﹂
?
﹂
騎士団はなぜ連合と逃げた⁉
るから仕方無く従っているのだ。
﹁言え‼
であろう⁉
﹂
騎士団が己の責務である使節団の死守を行なって何
それに売国奴は貴様等恥知らずの方であろうが‼
?
﹁ふざけるな‼
?
﹂
﹂
さないでおく。安心しろ﹂
り、日本やアメリカや台湾をひれ伏させる為にな⋮⋮⋮だから今は殺
﹁だがお前には交渉役という大事な役目がある。我々が連合を打ち破
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
して全ての責任はお前に降りかかることになる﹂
﹁だが騎士団は連合と共に脱した⋮⋮これは十分な謀反でもある。そ
﹁殿下⁉
て咎めるつもりはない﹂
﹁確かに騎士団はあくまで条約に従っただけだ。俺はその行動に対し
逆上してピニャに暴行を加えようとする側近をゾルザルは止めた。
﹁もうよい⋮⋮その辺にしておけ﹂
‼
﹁貴様みたいな下賤な連合にしっぽを振る敗北主義者とは違うんだよ
が悪い⁉
やましいことがあったから
だが口にすればオプリーチナによって殺されることを理解してい
のも少なくはない。
ているが、一般兵の彼等のようにゾルザルに対して不満を持っている
視線を逸らしたりする。近衛兵指揮官はゾルザルに忠誠を誓いはし
その光景に周りの帝国兵は辛そうな表情をし、中には目を閉じたり
せさせると蹴りや踏みつけなどの暴行を加え始める。
逆恨みを起こしている側近がピニャの髪を乱暴に引っ張り、床に伏
?
?
?
?
?
?
465
?
?
﹁正気で⋮⋮⋮言っておられるのか
﹂
それに蛮族共は必ずお前を救いに自ら罠に飛び込む‼
﹂
今は
何時で
?
モンスターの中でも群を抜いて凶暴なジャイアントオーガとマン
も掛かって来いと言いたいな‼
ジャイアントオーガやマンティコアを手懐けておるのだ‼
‼
﹁俺の目的は俺自身が最強だと証明することだ⋮⋮⋮連合を倒してな
?
ティコアを手懐けているというゾルザル。だがその余裕に満ちた表
﹂
情は一瞬で崩れ去ることとなる。
だったら遠慮なく‼
﹁あらぁ♪そぉ♪﹂
﹁ほう‼
?
スを見たゾルザルは恐れおののいていた。
谷殿‼
エース‼
﹂
﹁よう、久しぶりじゃねぇかクソ野郎﹂
﹁伊丹殿‼
?
﹂
なにしている⁉
?
﹁ピニャ殿下。遅くなって申し訳ありません﹂
?
﹁お⋮⋮お前等は⋮⋮⋮近衛兵‼
近付けるな⁉
こいつ等を俺に
あまりにもいきなりな乱入にゾルザル達は驚くが、それ以上にエー
使って降下したエースとハイデッガーだ。
爆 破 さ れ た 天 井 か ら は X M 3 0 E 1 を 手 に し て ダ ス ト ロ ー プ を
G RFBを構えた谷。
フス、杖を手にしたレレイ。M870 MCSを手にした伊丹とKS
扉から現れたのはハルバートとデスサイズを構えたロゥリィとル
部が爆発した。
その声が聞こえた瞬間、巨大な扉が簡単に吹き飛ばされ、天井の一
?
神パラパンの亜神となった無慈悲の鬼神エースに挑みたいのは
﹂
等のみ。そんな中で死神ロゥリィに死の導き人ルフス、そして復讐の
﹁外の帝国兵は既に制圧してある。いま戦闘可能なのはここにいる奴
?
?
?
?
466
?
?
?
伊丹の言葉にロゥリィとルフスはハルバートとデスサイズを構え
てポーズをし、エースもシャシュカを抜刀して殺気を帝国兵に浴びせ
る。
その光景に周りの近衛兵は戦意を喪失してしまっていた。
﹁懸命な判断だ﹂
﹂
オーガだ‼
ジャイアントオー
﹁心配するな。お前等が仕掛けて来なかったらこっちも殺さない﹂
﹁おのれぇ⋮⋮⋮あぁあああああ‼
ガとマンティコアを連れて来い‼
?
まっていた。
﹂
そいつ等を皆殺しにしろ‼
﹁こ⋮こんなものが城内に⁉
﹁やれ‼
﹂
本来はこんな場所に居るはずがない怪奇にピニャは唖然としてし
け物のマンティコアだ。
片方は獰猛な眼に獰猛な牙、ライオンに蠍の尻尾が生えたような化
手には巨大な棍棒を手にしたジャイアントオーガ。
来ていた。そして扉があった場所から覗き込むように鎧や兜で固め、
ゾルザルの叫び声から暫くして、少しずつ何かがこちらに近づいて
?
コアが一斉に襲い掛かる。だがゾルザルは完全に相手を見誤ってい
た。
ジャイアントオーガの一撃は最初にレレイに向けられたが、杖に魔
力を付属させて高速で移動し、着地と同時にレレイは爆轟魔法でジャ
イアントオーガの肩に命中させる。
そ し て 怯 ん だ ジ ャ イ ア ン ト オ ー ガ に ロ ゥ リ ィ と ル フ ス が 飛 び 上
がって仕掛けた。
467
?
?
?
ゾルザルの言葉に従うかのようにジャイアントオーガとマンティ
?
﹁すぐ気持ち良くしてあげるぅ‼
﹂
﹁せめての情けだ。一瞬で決めてやろう﹂
ロゥリィはすれ違いざまにジャイアントオーガの右腕を肩から斬
り落とし、ルフスも死神のように首を一閃。そしてその仕上げとばか
りにレレイが6発もの爆轟魔法を巨体に命中させて、ジャイアント
オーガの亡骸は音を立てながら床に倒れた。
一方でエースに襲い掛かるマンティコアだが、エースから発せられ
る殺気により怖気付き、恐怖を振り払うように尻尾で仕掛けてきた。
﹁ハイク。こいつは任せてくれ﹂
﹁了解です大尉﹂
ハイデッガーに待機を命じるとエースはシャシュカを納刀し、身構
える。そして爪で仕掛けて来たマンティコアに対して一瞬だけ抜刀
し、すぐ再び鞘に戻した。
そして鞘に戻した瞬間、マンティコアの身体が綺麗に真っ二つとな
り、血と内蔵を床にばら撒きながら倒れた。
亜神になったエースによる抜刀術だ。
﹁⋮⋮⋮天使とダンスでもしてな﹂
マンティコアとジャイアントオーガの両方を制圧した時間は僅か
15秒。たった15秒で帝国の化け物を軽々と制圧したエース達に
ゾルザルは思考が停止していた。
だが伊丹と谷は気にせずピニャへと歩み寄り、帝国兵を突き放すと
谷がKSG RFBで手枷を破壊し、伊丹も彼女を抱き寄せた。
﹁それでは、ゾルザルさん。時間だから俺たちは失礼するぞ﹂
﹁伊丹殿⋮⋮谷殿⋮⋮﹂
﹁お前は俺等の仲間だ。死なれちゃ困る﹂
468
?
﹁エース⋮⋮⋮﹂
﹁ま⋮⋮待て⁉
まだ戦いは終わってない‼
で正々堂々と勝負⋮⋮﹂
﹁さぁ⋮⋮行こう﹂
俺だ⋮⋮⋮俺とお前達
がないと判断されたら伊丹はピニャを背負うと振り返った。
それだけはっきり言うとゾルザルは床にへたり込んでしまい、危険
の頭に銃弾が届くことになる﹂
してピニャ殿下は渡してもらう。さもなければ⋮⋮⋮今度はあんた
ようにしっかり聞け。レレイ達の命を狙うのは止めてもらおう。そ
﹁あんたが何処にいようが、俺等の銃弾は届く。だから聞き逃さない
出来ず、伊丹はUSP,45を取り出すとゾルザルに銃口を向けた。
自分が狙われていると悟ったゾルザルは恐怖のあまり動くことが
力が必要となる。
目標の頬を敢えて掠めるようにするというのは相当な集中力と判断
2人の実力ならば500m程度なら余裕の距離だが、立ち上がった
ブの狙撃だ。
るタスクフォース ナイツのアーチャーとセラフィムことスティー
500mほど離れた塔にてM82A1とSR│25Mを構えてい
﹁よし。ビビらせてやった﹂
﹁目標の足下に着弾﹂
両頬からは掠めたような傷が出来ていた。
銃声が鳴り響いた。ゾルザルの足下には煙を出している銃痕、本人の
いまさら正々堂々という言葉を口にし、立ち上がった瞬間に2発の
?
ピ ニ ャ を 背 負 っ た 伊 丹 を 先 頭 に ロ ゥ リ ィ 達 が 後 に 続 い て エ ー ス、
469
?
谷、ハイデッガーがXM30E1とKSG RFBを構えながら玉座
を後にした⋮⋮⋮⋮⋮。
470
Mission97:The Revenge of
Battle
ピニャを救い出した俺たちは回収を担当する倉田とロックフォー
ドが運転するジャパニーズハンヴィーとクーガーHEとの合流地点
に向かっていた。すぐにハイデッガーが前衛を務めて、後ろに俺たち
が続く。
そろそろテュカの魔法の効力が切れて来て眠らせた帝国兵が目を
覚ます頃だ。可能なら奴等がまだ目を覚ましていない状態で脱出し
﹂
たいが、角を曲がった直後にハイデッガーが壁に叩きつけられた。
﹂
﹁がはっ⁉
﹂
﹁ハイク⁉
回復魔法を‼
﹂
471
﹁いたたたたっ⋮⋮⋮﹂
﹁レレイ‼
に出た。
?
﹁えぇ⋮⋮こうしてお会いするのは初めてね⋮⋮私はテューレ。お見
﹁⋮⋮⋮ゾルザルに従ってるヴォーリアバニーか
﹂
レレイがすぐに回復魔法を掛けると俺はXM30E1を構えて前
ろう。
している。おそらくはこの刀身でハイデッガーを吹き飛ばしたんだ
士が使う武器を2m弱にまで大型化した大剣を両手に1本ずつ手に
長身で細身の身体には似つかわしくないグラディウスという剣闘
とかいう奴だ。
にゾルザルをフルボッコにした際に奴を庇うように現れたテューレ
バニーが姿を現した。銀色のロングヘアに紅い瞳、垂れた兎耳。以前
ハイデッガーに駆け寄ると、影から現れるように1人のヴォーリア
?
?
﹁あらあら⋮⋮⋮随分と頑丈な身体のようね
?
?
?
知り置きを⋮⋮﹂
俺が問い掛けるとテューレと名乗るヴォーリアバニーは笑みを浮
かべながら会釈をする。だが隠そうとはしない殺気に俺はXM30
E1を背中に預けてシャシュカを抜刀する。
﹁あなた達には怨みなんてないけど、そこのお姫様が連合に行かれる
谷‼
先に行け‼
﹂
任せたぞ‼
いいから早く行け‼
﹂
﹂
﹂
と都合が悪いのよ⋮⋮だからあなた達にはここで死んでもらうわ﹂
﹁伊丹‼
﹁エースは⁉
﹁分かった‼
﹁奴を食い止めてから逃げる‼
?
﹁い い の か し ら
﹂
亜神になったとしてもまだ慣れてないのでしょう
収地点へと向かわせる。
前に出ると伊丹達に逃げるよう叫ぶと、伊丹達はピニャを連れて回
?
?
?
?
﹂
逆にテメェをバラバ
﹁随分と威勢がいいのね⋮⋮⋮不死の亜神はいったい何度身体をバラ
バラにしたら死ぬのかしら
﹁さぁな⋮⋮⋮やってみりゃいいんじゃねぇか
ラにしてやるがな⋮⋮﹂
﹁はぁ‼
﹂
﹁うらぁあああっ‼
﹂
瞬間に一気に駆け出し、刃をぶつけ合った。
暫く睨み合いをする俺とテューレ。そして1発の銃声が聞こえた
?
?
俺がテューレに薙ぎはらうと奴はグラディウスで逸らしてから左
?
?
472
?
?
?
?
﹁ほざけ⋮⋮海兵隊はぶっつけ本番が売りなんだよ﹂
?
手のグラディウスを突き出し、そのまま立て続けに薙ぎはらって来
る。
薙ぎ払いを屈んで回避したらすぐに振り上げを2連撃。そのまま
左右から順に斬りかかるが全て受け止められる。
連撃を受け止めたらシャシュカの太刀筋を逸らしてテューレは渾
身の力を込めてグラディウスを振り下ろす。俺は後ろに飛んで回避
するがいた場所は小さなクレーターが出来ており、辺りに瓦礫が飛び
散った。
ヴォーリアバニーが戦闘に特化した戦闘民族だということは把握
していたが、テューレは他のヴォーリアバニーの力を軽く上回る実力
だ。
一見すると力任せにも見えるが素早さや判断力、瞬時にどの角度か
ら斬ればいいのか判別して的確に俺が嫌な角度から仕掛けてくる。
接近してきたテューレを蹴り飛ばし、再び距離を置くとシャシュカ
473
を構え直した。
﹁亜神になったからやっぱり強いのね⋮⋮⋮普通なら保ち堪えられて
も数撃しかなかったのに⋮⋮﹂
﹁⋮⋮だろうな⋮⋮⋮なっちまった直後は嫌だったが戦闘補助が付く
んだからそれだけは感謝してる﹂
﹁ふふふっ⋮⋮⋮だけどあなたやあのお姫様、そしてあの英雄になっ
て る 男 達 に は 死 ん で 貰 わ な い と 困 る の よ ⋮⋮ 講 和 な ん か さ せ な い
帝国が束になって来ても俺たち連合に勝てないという
⋮⋮戦いは絶対に続けさせる﹂
﹁だが何故だ
﹂
それにお前がゾルザルに付き従う﹁貴様になにが分か
ことは想像できるわ﹂
ていって帝国は滅びの道を進む⋮⋮あなたが死ねば、連合は怒り狂う
﹁それこそが私が望むことよ⋮⋮⋮人同士が殺し合い、互いに疲弊し
ことは理解できる筈だ﹂
?
?
﹂くっ⁉
?
﹁⋮⋮なぜだ
る‼
?
ゾルザルに付き従うことを聞こうとした瞬間、テューレが斬りか
帝国が破滅へと向かうこの
あの愚かな男の下にいなければならないと
かってきた。先程までの斬撃とは違い、力を更に込めた素早いものと
なっている。
﹂
﹁あなたに何が分かる⁉
﹂
いう屈辱が⁉
﹁ぐっ⁉
‼
﹂
にも出会えず、誰にも理解されず孤独に侵食され、憎しみに心を捕ら
闇に拡大させる連中だということに気が付いた。だがテューレは誰
俺はミオ達と出会えて復讐を果たすのはゾルザルを始め戦争を無
感じ取れた。
なく帝国そのものが破滅に向かわせる位の憎悪を持っていることが
ザルに何をされたかは知らない。だが奴はテューレに自信だけでは
違和感というのは、かつて復讐に取り憑かれていた頃の俺だ。ゾル
﹁こいつは⋮⋮⋮俺だ⋮⋮﹂
た。
て憎しみに満ちた眼を見て俺は違和感がなんなのかすぐに気が付い
が、俺は目の前にいるヴォーリアバニーに違和感を感じていた。そし
再び彼女を蹴り飛ばしてOKC│3Sを鞘から抜き取って構える
ばされてしまった。
遂にシャシュカが両方ともグラディウスを前に刀身が砕かれ、弾き飛
シュカは徐々に悲鳴をあげ始めた。彼女の怒りが込められた一撃に
斬撃に対処していくが、対処出来ているのは俺の反射神経でシャ
今こそ復讐を果たす時
私から全てを奪ったあの男
﹁私はこの時をずっと待ち望んでいた‼
時を‼
もう誰にも邪魔をさせない‼
?
が死に足を踏み入れる時を邪魔させない‼
?
えられている。
474
?
?
?
?
?
?
もしかしたら俺もこうなっていたかも知れないと感じていると、武
装した敵兵が近付いていることに気が付いた。伊丹達も今頃は脱出
を開始した頃だと判断し、これ以上は足止めをする必要がないと判断
した俺はポーチからM84フラッシュバンを取り出して足下に投げ
つける。
耳を塞ぎながら振り向いて走り出すとM84が起爆。閃光と音響
﹂
﹀
俺は別ルートから脱出する‼
﹂
が鳴り響いてテューレの視界と聴覚を一時的に封じ込め、近くの窓か
﹀
聞こえるか⁉
ら外に飛び出して逃げ出す。
﹁伊丹‼
︿よく聞こえてる‼
﹀
﹁お前達はそのまま逃げろ‼
︿分かった‼
﹂
︿HQからファントム01。聞こえるか
﹁こちらファントム01‼
?
?
最悪だ‼
﹂
︿監視部隊が敵の増援を確認。あと数分でそちらに到達する﹀
﹁くそっ⁉
?
﹂
北のエトナ湾へ向かえ。待機中のウィップラッシュが回収する﹀
﹁了解だ‼
伊丹との通信の後に繋がったHQからの無線。すると少し離れた
場所からエンジン音が聞こえてきて、それが近付いてくると俺の目の
﹂
前に停車した。
﹁ご主人様‼
⋮⋮⋮⋮⋮。
ヴ ォ ー リ ア バ ニ ー の テ ュ ー レ ⋮⋮ 予 想 以 上 に 厄 介 な 敵 だ
はミオもバイクに乗ってミオに掴まるとバイクが走り出した。
現れたのはM1030 偵察バイクに乗ったミオだ。考えずに俺
?
475
?
?
?
?
?
?
︿そっちに回収要員を向かわせた。間も無くで到着する。合流したら
?
?
Mission98:脱出へのチェイス
ピニャの救出成功。本部からの要請でついでに軟禁状態だった皇
帝も黒川、ヤオが回収したので後は脱出するだけだったのだが、運悪
く行く手にテューレが立ち塞がる。
脱出の時間を稼ぎながら俺も隙を突いて皇宮から脱出。M103
﹂
君も無茶をする‼
﹂
それに劉様が導いてくれてましたか
0でやってきたミオと共に北部にあるSWCCの回収地点へ向かっ
ていた。
﹁全く‼
ら‼
﹁ご主人様程ではありません‼
?
﹂
﹂
﹁誰がマヌケだ誰が⁉
‼
それより相変わらずよくやる‼
?
今の状況を
︿こちらサッチ。聞こえてるぞナード︵マヌケ︶ゴースト﹀
チ‼
﹁あいつが⋮⋮相変わらずやってくれるな⋮⋮⋮ゴースト1からサッ
?
?
?
内してやらなきゃならな﹁いいからさっさと教えろ‼
﹂冗談だよ冗
?
﹂
談。いま皇宮の屋根に登って監視してんだが、さっきゾルザルが追撃
敵の数は⁉
?
の騎馬隊をそっちに差し向けた﹀
﹁根性なしにしてはいい判断だな‼
?
支援態勢はどうなってる⁉
﹂
︿不 明 だ。だ が 結 構 な 追 っ か け が 向 か っ て る。お 前 た ち は 人 気 者 だ
な﹀
﹁お前は芸能レポーターか⁉
?
﹂
続きエトナ湾港へ向かってSWCCと合流しろ﹀
前です‼
⋮⋮⋮ ミ オ ‼
このまま
︿タスクフォース ナイツが全力でバックアップする。お前達は引き
?
?
?
ゴ ー ス ト 1 o u t ‼
?
﹁ご主人様‼
﹂
﹁お 客 が 来 た ‼
突っ込め‼
?
?
?
476
?
?
︿そう褒めるな。麗しき姫様が馬鹿な王子に会いたがってたんだ。案
?
劉との通信を切ると、俺はXM30E1を構えて前方の封鎖線に攻
撃する。敵は大盾を構えて槍を隙間から突き出したテストゥド隊列
で防御を固めるが、この隊列は最前列の兵士の顔と脛ががら空きとい
う欠点がある。
フルオートで最前列の兵士どもを射殺し、敵は後ろに倒れたことで
1箇所だけ坂のようになった。ミオもそこに突っ込んでいき、隊列の
﹂
後ろにいた政治将校の頭を踏み潰しながら着地。そのまま速度を上
げて走り出した。
﹁ナイスだミオ‼
﹂
?
﹂
﹂
ミオ‼
めになるだろう。
次の角を左に曲がれ‼
﹂
?
そいつらを排除してくれ‼
﹂
?
いったら酷い目にあうぞ﹀
﹁バハムート‼
﹂
︿バ ハ ム ー ト か ら ゴ ー ス ト。前 方 5 0 0 m に 敵 の 防 衛 線。そ の ま ま
︿ゴースト1の通過を確認。これから離脱する﹀
﹁やるじゃないかヴァローナ‼
﹂
先頭を倒されたことで後ろの騎兵はつまづいて落馬。少しは足止
AK│12やRPK│74、PKPを構えて一斉に攻撃を開始する。
尾してきている騎馬隊も大通りに入るが、建物の窓からアーロン達が
アーロンの指示で俺たちは左に曲がって大通りに入る。後方を追
?
それに大通りを抜ければ最短距離だ‼
﹁大通りに出ちゃいますよ⁉
﹁任せた‼
︿次の角を左に曲がれ。そこで敵を足止めしてやる﹀
﹁了解だ‼
︿お前達の後方から騎馬隊が大挙で迫っている﹀
﹁いいぞヴァローナ‼
︿ゴースト1。こちらヴァローナ01﹀
?
﹁アーロン達が待機してる‼
?
?
?
477
?
?
?
?
︿任せろ。バハムート指揮官からセラフィム、ナイトメア、スレッジハ
ンマー。行動開始﹀
︿こちらスレッジハンマー。サイレントキルを仕掛ける﹀
︿こちらセラフィム。ターゲットインサイト。狙撃します﹀
︿了解だ。狙撃する﹀
少し離れた場所に次の防衛線を見つけたが、今度は脇道から現れた
SASのスレッジハンマーにより次々とナイフで喉を搔っ切られ、そ
れに気がついた敵兵も頭を吹き飛ばされたり、一寸の狂いもなく狙撃
されていく。
狙 撃 は 少 し 離 れ た 場 所 に あ る 塔 に て 待 機 し て い た ス テ ィ ー ブ と
ウィリアムがそれぞれXM109とM40A5を用いて実行。観測
手には確か悪所のミーアと彼女の知人がやってると聞いたことがあ
る。
回避しろ‼
﹀
追撃部隊の中に弓騎兵部隊がいる‼
敵が矢を射かけた‼
くタイヤに突き刺さってしまい、いきなりの振動でミオはコントロー
﹂
ルが狂ってしまって転倒してしまった。
﹁ぐあっ⁉
478
前方の敵防衛線を排除したスレッジハンマーはMP5A4 Cu
﹀
﹂
stomを構えながら警戒し、俺達が通過するとそのまま引き上げて
いった。
君達が見えたぞ‼
﹂
その一番端にある偽装した小型
何処にいる⁉
?
︿こちらウィップラッシュ‼
﹁ゴースト1からウィップラッシュ‼
︿そのまま進んだ先に桟橋がある‼
﹀
?
?
俺たちが乗ったらすぐ出港しろ‼
船が我々だ‼
﹁了解だ‼
?
?
︿こ ち ら バ ー サ ー カ ー ‼
⋮⋮⋮まずい⁉
?
?
?
?
?
自衛隊のバーサーカーの無線で後ろを確認。だが直後に矢が運悪
?
?
?
?
﹁きゃあっ⁉
﹂
建物に叩きつけられ、一瞬呼吸が出来なかったがXM30E1を手
にして構える。だが転倒した際に激しく何かにぶつけてしまったよ
ゴースト1‼
﹀
出港する
身体は大丈夫だがバイクがやられ
返事をしろ‼
うであり、XM30E1は破損してしまっていた。
︿ゴースト1‼
﹂
﹂
お姫様を抱えて走ってこい‼
﹁くそっ⋮⋮こちらゴースト1‼
た‼
﹀
﹂
立てるか⁉
︿敵が大挙で迫っている‼
‼
﹁ミオ‼
﹁大丈夫です‼
﹂
﹁よし、しっかり掴まってろ‼
﹂
﹁ご主人様なにを⋮⋮きゃっ⁉
?
﹂
一気に脱出する‼
?
﹂
こちらウィップラッシュ‼
?
﹁いいぞ乗った‼
﹁掴まれ‼
﹁HQ‼
﹂
?
?
?
たが、やがては聞こえなくなっていった。
ながら湾港を抜ける。追撃をしてきた敵兵は暫く野次を飛ばしてい
ウィップラッシュのルイス大尉は部下に出港を指示し、速度を上げ
︿了解だウィップラッシュ。すぐに離れろ﹀
保‼
ゴースト1とプリンセスを確
える。敵が怯んだ隙にSOC│Rに飛び込んだ。
ウィップラッシュが2連装のM240とM134Dで援護射撃を加
そ れ か ら す ぐ に 桟 橋 に 走 り、矢 が 降 り 注 ぐ 中 で 偽 装 を 解 除 し た
にM14テルミット手榴弾を投げ込んで焼き払う。
有無を言わせず、俺はミオを抱えた。念の為に大破したM1030
?
?
?
?
479
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
﹁ふぅ⋮⋮⋮何とかなったな⋮⋮﹂
﹁ご主人様。指輪をお返し致します﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮それは君が持っていてくれ﹂
﹁⋮⋮⋮よろしいのでしょうか
﹂
﹁構わない。君になら安心して渡せる。だが無くさないでくれよ
﹁⋮⋮⋮はい‼
﹂
ストーカーズが運用しているMH│47Gと合流。機体下部に繋げ
それから俺たちはウラ・ビアンカを脱出し、離れた場所にてナイト
は本当に大事そうに指輪を手にして喜んでいた。
俺はSOC│Rの甲板にてミオに再び指輪を持つよう頼むと、彼女
?
?
たらそのままアルヌスベースへの帰路についた⋮⋮⋮⋮⋮。
480
?
Mission99:英雄達
ピニャと皇帝、ハミルトンの3人を無事に救出し、俺もミオとタス
クフォース ナイツの助けもあってウラ・ビアンカより脱出すること
が出来た。
今の段階で甚大な被害を受けたゾルザル軍と称する武装集団は依
然として帝都に立て籠もっており、早急にウラ・ビアンカ奪還作戦で
ある第3段階を発動して貰いたいが、その前に俺らの力をもう一度奴
等に見せ付ける第2段階が待ってもいる。
しかも連合総監部は今回の講和派議員救出に対する報復として、連
合と繋がりが厚いイタリカへの侵攻や周辺の大小の集落に対するゲ
リラ攻撃や一般人に対する攻撃があると判断され、イタリカ防衛には
第1機械化戦闘団、敗走した敵部隊を壊滅させるのは第3装甲戦闘
団、第2水陸両用戦闘団と第4空中強襲戦闘団はウラ・ビアンカ解放
のためにアルヌスで待機、第5軽装甲戦闘団はアルヌス防衛と対ゲリ
ラ部隊迎撃で待機している。
俺が所属している第6特殊作戦戦闘団も解放戦で攻勢に出るため
悪所にて待機。今もイタリカには第1機械化戦闘団の96式装輪装
甲車やLAV│25A2、CM32が次々と到着し、周辺には塹壕が
掘られて武装集団の攻撃に備えられている。
イタリカに帰還した俺は先に到着していた伊丹と谷と合流し、東門
で腰を降ろしていた。
﹁無事にピニャを救い出せてよかったな﹂
﹁あぁ。講和派の議員達も無事だったし、これで帝国と話し合いがで
きるよ﹂
﹁ピニャ殿下とモルト皇帝の帝国とはだけだがね﹂
装備を外し、3人で久々に酒を飲む俺たち。西門から少し進んだ広
場では皇帝とピニャの救出成功を祝う帝国兵と連合兵士。悪所から
も第3偵察隊とリーパー隊が原隊復帰し、タスクフォース ナイツか
481
ら第5軽装甲戦闘団の指揮下に入ることになる。
その前夜祭としてヴァルキル、ミケ、メウル達ゴーストチームと谷
のファントムチームも一緒になって久々に騒いでいる。
﹂
﹁こうして見ると⋮⋮⋮本当に個性的な奴等ばかりだな﹂
﹁どうしたんだエース
﹁いや⋮⋮随分と遠くに来てしまったって思ってな⋮⋮⋮あの事件か
らあと少しで1年になるのか⋮﹂
﹁確かにな⋮⋮⋮俺もあの時同人誌即売会でゆりかもめを待ってて事
件に巻き込まれて⋮⋮⋮気が付けば2尉に昇格してた﹂
﹁俺たち台湾も事件を聞かされて騒いだよ。日本がテロを受けた⋮⋮
国中が日本の為に行動して俺も台湾からの連合初期派遣部隊の高雄
隊隊長。今は混成部隊を指揮してるんだからな⋮⋮人生ってのは本
当に分からないものだよ﹂
谷の言う通り人生というのは本当に何が起こるか分からない。1
年前の銀座事件で日本に楽しい旅行を満喫していたら、いきなりエミ
リアを失い、伊丹は数千もの民間人を救い出したことで英雄化。
で第3海兵遠征群のリーパー隊に着任。特地に派遣され
俺はあれから復讐心に囚われ、当時の第2海兵遠征群の教官から
話合い
てから伊丹の第3偵察隊とタッグを組んで炎龍を撃退し、気を失って
いたテュカを始めレレイやロゥリィたち500名の避難民を150
名の犠牲者を出しつつも救出。
イタリカでの攻防戦で今では仲良くしているが、前は俺が一方的に
敵愾心をぶつけたピニャと、俺が惚れるようになったミオ、谷の相棒
となるルフスと対面して、彼女達を連れて日本に戻る。
休暇のつもりだったが、結果的に共産主義者の嫌がらせを受けて休
暇にならなかったが、年末に仲良く休暇をとりなおして日本の正月を
満喫してやったがな⋮⋮。
それから特地で暫くは講和派議員達の調整に回ったが、ヤオがテュ
カの心を壊してしまったことで、俺の特地での運命が進みだした。
482
?
テュカの心と間接的にヤオの一族を救い出す為にデュマ山で炎龍
を倒し、立て続けのハーディの使徒ジゼルに殺されかけるが、なんで
か知らないが復讐神パラパンに気に入られ、何でか知らないがパラパ
ンの使徒になってしまった。
独断行動をしたことで俺たちは仲良く2週間の停職と1ヶ月の減
俸という処分という名前の褒美を受けて俺はロゥリィを連れて合衆
国、伊丹はレレイ、テュカ、ヤオを連れて日本、谷はルフスを連れて
台湾に帰国。
それから俺たちは偵察隊隊長を命じられ、各地を偵察してたがロン
デルで合流した時にゾルザルが反乱を起こしてピニャが捕まったこ
とを知らされて自由の一撃作戦が発動。
﹂
俺たちもピニャを救い出して、今の状態にある。
﹁それで⋮⋮⋮奴等はどう動くと思う
﹁奴等がマトモな戦いをしないっていうのは間違いないだろうな。数
に任せた人海戦術しかしない。しかもご丁寧にゴブリンをけしかけ
た り、こ っ ち の 迷 彩 服 を 作 っ て 民 間 人 を 殺 害 し ま く る ら し い か ら、
こっちが取る戦術は容易に選択できる﹂
﹁こっちにはゲリラ戦術に長けたベトナム軍のアドバイザーもいるん
だ。連中のカビが生えたママゴトなんて簡単に暴露できるさ﹂
﹁加えれば民間人攻撃や国籍と所属を偽ったテロでゾルザルの罪状を
更に追加できるって訳だ﹂
﹁しっかし⋮⋮本当にアメリカ軍や台湾軍が味方で助かるよ。おかげ
でこっちは楽ができるよ﹂
﹁お前は楽をし過ぎるがな⋮⋮⋮﹂
﹁全くだ。ちょっとは真面目にしてくれたらこっちもどれだけ楽にな
るか⋮⋮﹂
﹁うげ⋮⋮⋮それは言わないお約束で⋮⋮﹂
で乾杯をする。皇帝の正規軍との戦いには
他愛の無い話をしながら俺達は冷えたアメリカンビールの代名詞
サミュエルアダムス
483
?
終わりを迎えられそうだが、軍中枢をゾルザル率いるテロ集団により
掌握されている。
だが俺が今の段階で最も脅威と感じてるのがテューレ。
奴は俺に限りなく近い存在で、奴は帝国と連合の相打ちを狙ってい
るがそうはさせない。何としても奴の心を蝕む闇を払いのけなけれ
ばならないが、不可能ならば排除するしかない。
復讐心に囚われていた俺には彼女の心を解き放つ必要がある。
だが今は下でやられている馬鹿騒ぎにて楽しむとしよう。俺は瓶
ビールを片手に城壁の階段を下った⋮⋮⋮⋮⋮。
484
Mission100:GATE
ピニャとモルトがエース達により救い出されてから10日後、イタ
リカにて華々しい式典が執り行われていた。
赤
純白
晴れ渡った空に舞い散る色取り取りの花びら、フォルマル伯爵邸の
前にてレッドカーペットを挟むように掲げられた帝国の国旗
と薔薇騎士団の団旗
を掲げる薔薇騎士団の団員達。
の白地に十字と雄叫びをあげるドラゴン
を囲む白と黄の薔薇
そのレッドカーペットを歩く少女に全員が注目した。光り輝く鎧
を身に纏い、赤いマントを靡かせながら堂々とした覇気で階段を登る
雄叫びをあげる龍に光り
という一新された国旗を掲げる彼女の義妹の
ピニャだ。隣には青い服を身に纏い、手に
輝く日の丸と囲む星
ハミルトン。
そして階段の先に設けられた王座には救い出されたモルト皇帝と
彼の右腕であるマルクスがいた。
そして王座の後ろには連合特地派遣団の参加国家である日本、アメ
リカ、台湾、ロシア、ドイツ、フランス、イギリス、マレーシア、フィ
水生地に
リピン、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、カナダ、イタリ
という国連の旗。
ア、トルコ、ポーランドの国旗が掲げられ、その中央には
北極を中心とした地球儀とオリーブ
その皇帝の左右には式典に駆け付けた本居総理とディレル大統領、
周大統領、ジェガノフ大統領を始め参加国家の首脳たちが拍手で迎え
ていた。
そしてピニャが皇帝の前で跪くと皇帝は口を開いた。
﹁帝国皇太女ピニャ・コ・ラーダよ。本日をもって我が帝国正統政府の
全てを其方に託す﹂
帝国正統政府⋮⋮⋮それは救出された皇帝が連合特地派遣団と共
に創り上げた政府で、ゾルザルの新生帝国という紛い物を打ち砕く真
の帝国という名目で作られた。
485
しかも同時に連合から最も信頼されているピニャを皇太女に据え、
新しい帝国を彼女に作らせる。この式典は両方の世界の歴史に残る
だろう。
皇帝の言葉にピニャはしっかりと皇帝に視線を向けた。
﹁これからは⋮⋮お前達の時代だ⋮⋮⋮我は己が信じた道を突き進ん
だ。其方も思うがままに駆け巡り、其方の友と共に道を歩め。頼んだ
ぞ⋮⋮⋮ピニャ﹂
﹂
﹁⋮⋮我が心は常に帝国と共にあり。誠心誠意この国の為に尽力して
いきます⋮⋮⋮連合特地派遣団と共に‼
ピニャの言葉にボーンホルンの音色と共に真っ白な鳩が解き放た
れた。新しい帝国が誕生した瞬間に集まった連合特地派遣団将兵と
帝国軍将兵にイタリア・アルヌス街市民、悪所の住民が歓喜の拍手を
する。
﹂
﹂
その中で悪所から戻ってきたリーパー隊のシモンズは歓喜の余り
めでたしめでたしだな‼
涙を流していた。
﹁よかった‼
﹂
﹂
ぎょうぐらいいいじゃないか‼
﹁ちょっとシモンズ、なに泣いてるの
﹁うるぜぇ‼
﹁ところで⋮⋮⋮みんな何やってるの
察隊の面々が何かしていた。
﹁え⋮⋮えっと⋮実は⋮⋮⋮﹂
﹁実は私達⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁日本に戻って以来、ボーゼスさんとお付き合いさせて頂いてるんで
す‼
486
?
?
男泣きしているシモンズを見ていたシンディ。その側では第3偵
?
?
?
?
?
﹁今まで黙ってたけど⋮⋮実はお腹には子供が⋮⋮﹂
?
交際をしていたと暴露する富田とボーゼス。しかも彼女のお腹に
は新しい命がいるという。
﹁ハニーと一緒だったら向かうところ恋路の邪魔はないね♪﹂
﹁俺たちも本国に戻ったら結婚するんだ﹂
次は正式に結婚が決まっている栗林とアーロン。
﹁その⋮⋮気が付けば彼の優しさに触れてて⋮⋮﹂
﹁俺も⋮⋮彼女の優しさに惹かれていてな⋮⋮﹂
互いの優しさに惹かれ合っていた黒川とグラビ。
﹂
﹂
えながら気合を見せる健軍とキーア。
﹁あたいのせいで怪我させちまったね
﹂
﹂
﹂
﹁全くだ。治るまで面倒を見てもらうぜ
﹁お安い御用さ﹂
?
?
487
﹁あたしの心はもう倉田のものニャン♪﹂
﹁遂にネコミミ女性を射抜いたっす‼
﹁乗り越えてみせる‼
﹁言葉の壁なんて‼
﹁知り合ってね⋮⋮﹂
﹁お⋮⋮オレ達も最近⋮⋮﹂
頬ズリするペルシアに、交際することに歓喜の涙を流す倉田。
?
お姫様抱っこをされているヴィフィータとプレデュー、彼女達を抱
?
?
脚を負傷して車椅子の柳田と彼の面倒を見るデリラ。
デリラはあの暗殺未遂事件から裁判に掛けられていたが、利用され
ていたことに加えて彼女の成り立ちを知った本居達首脳陣が殆ど無
キ
理やりで彼女の襲撃をゾルザルの私兵がやったことにすり替え、更に
﹂
の隊長をして貢献することで許された。
は現地の住人で構成されたタスクフォース ナイツの混成部隊
メラ
﹂
﹁あたしの側から離れないでくれよな
﹁当たり前だろ
めていた。
連合だったが、文化交流ともう恋愛は止められないと悟って完全に諦
際を始める者も少なくなく、最初は恋愛関係になることを禁じていた
すでに1年近くなる特地での駐留で連合将兵と特地の住人達で交
抱きつかれてシェリーに頬ズリされて戸惑ってしまう菅原。
﹁ちゃんと⋮⋮法には従います故⋮⋮﹂
﹁菅原様とシェリーの愛は永遠ですわ♪﹂
首に腕を回され、背中からミーアに抱きしめられるスティーブ。
?
﹂
﹂
﹂
?
﹂
周りの人間達が次々と交際していたことにようやく気が付き、リー
﹂
﹂
いつのまにみんな⁉
パー隊の面々は目を見開いていた。
﹁なぁ⁉
﹁羨ましいですよみなさん⁉
?
﹁なんで私に言い寄って来る男がいないんですか⁉
⁉
?
﹁ずっと笛吹き男に騙されていたのだろ
﹂
?
?
488
?
そういえば隊長達は
なんで
?
?
?
?
﹁そうだった∼‼
﹁あれ
?
﹁いないっすよ﹂
﹁へ
?
カップル絶賛増殖中の事実を知ったシャンディを他所に、会場に伊
丹、エース、谷の姿がないことに気が付いた栗林。すると倉田が理由
を話し始めた。
﹁嫌だなぁ、伊丹隊長は仕事より趣味に生きる人間っすよ。あれっす
よ、あれ♪﹂
﹁因みにクレイグ大尉と谷大尉も伊丹2尉の後を追っていったようで
すよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮まさか⋮⋮﹂
﹁そのまさかさ⋮⋮けど今頃あいつは驚いてるだろうさ﹂
ここで整理しよう。銀座事件が発生したのはちょうど1年前で伊
丹 は 必 ず 毎 年 脚 を 運 ん で い る 場 所 に 向 か っ て い た。そ し て そ れ を
‼
﹂
思えば早1年⋮⋮ようやく夢のイベントが‼
﹂
ズリをしていた。もう分かると思うが、1年前の伊丹は東京ビッグサ
イトで毎年行なわれている同人誌即売会に向かう為に銀座にてゆり
かもめを待っていた。
だが銀座事件で即売会は中止となり、1年をひたすら耐えていたが
489
追っていったエースと谷。ピニャの正統政府樹立より優先させる伊
﹁長かったぜ‼
?
丹の目的は1つしかなかった。
﹁帰って来たあぁあああああ‼
?
鞄を背負った私服姿の馬鹿は銀座にいた。
?
伊丹は鞄から取り出した同人誌即売会販売カタログを取り出し、頬
?
今こそ雪辱を果たす時なのだ‼
﹂
だけどこのイベントだけは何がなんでも逃
遂に念願だった夏の即売会に迎えれるのだった。
﹁すまないピニャ殿下‼
すわけにはいかない‼
これからだぁああっ⋮⋮⋮ぎゃふっ⁉
﹂
?
何かに脚を引っ掛けられて転んでしまう。
﹁いててて⋮⋮⋮なんだ⋮⋮ってえええええっ⁉
﹂
﹂
﹁お父さんだけ楽しもうとするなんて、ズルいわよ
?
﹁伊丹、書店に連れて行って欲しい﹂
﹁此の身もいるのを忘れられたら困ります﹂
﹁な⋮⋮なんで⋮⋮お前等が⋮﹁俺達が連れて来たからだ﹂げっ⁉
﹁エース⋮⋮谷⋮⋮﹂
としていた。
﹂
いきなりの御馴染み仲良しメンバーが勢揃いしたので伊丹は唖然
が立っていた。
と谷、更には2人に買って貰ったであろう服を着ていたミオとルフス
を現し、そのまま背後を振り返ると私服姿の青筋を立てているエース
トを手にしたロゥリィで、周りを囲む様にテュカ、レレイ、ヤオが姿
駈け出していた伊丹の脚を引っ掛けたのは布で隠されたハルバー
?
目的地まで目前。会場に入る為に入口へと駈け出す伊丹だったが、
‼
﹁いろんな辛いこともあったが⋮ぜんぶ水に流そう♪大切なのはそう
東京ビッグサイト前に辿り着いた。
もめに飛び乗って、最寄り駅である国際展示場正門駅で降りるとすぐ
一応は出席できないことを詫びる伊丹だが、すぐに新橋からゆりか
?
?
?
﹁水臭いわねぇ。私達に内緒で出掛けるだなんてぇ﹂
?
490
?
﹁お 前 と い う 奴 は ⋮⋮⋮ 嫌 な 予 感 が し た か ら 休 暇 を 取 っ て こ っ ち に
戻って来てみたら⋮⋮﹂
﹁案の定だった⋮⋮俺も姫様の戴冠式は見たかったのに⋮⋮﹂
﹁エ⋮⋮エースって確か奥さんが命日だったんじゃ⋮⋮﹂
﹁4人を送り届けたら本国に戻るつもりだったんだよ。ミオと一緒に
な﹂
﹁はい♪ご主人様のご両親に会うのを楽しみにして参りました♪﹂
﹁俺もルフスを連れて台湾に帰国だ﹂
﹁私は谷とは恋仲だ。だから谷の両親に会っておく必要がある﹂
﹁柳田に頼んでぇ、特別に許可を貰ったのよぉ﹂
﹁もちろん伊丹が面倒を見るという条件付きで﹂
﹁狭間将軍からまた旅行を楽しんで来いって言われて旅費を出してく
れたのよ♪﹂
﹁その⋮⋮此の身も⋮⋮お⋮お洒落というものを⋮⋮⋮してみたいの
き⋮⋮急に言われても⋮⋮﹂
イ、ロゥリィ、ヤオ、ミオ、ルフスの存在に気が付いたギャラリーが
集まり出し、瞬く間に凄い人集りとなっていた。
﹁こ⋮⋮これは⋮⋮⋮ちょっとマズイかも⋮⋮﹂
﹁大尉、車の準備が完了しました﹂
﹁すまないなハイク﹂
﹁私もカンパニーに戻るつもりでしたから、軽いもんです﹂
﹁助かる。さて⋮⋮馬鹿騒ぎになってるから、さっさと移動するぞ﹂
人集りが強くなっていく中、私服姿のハイデッガーが現れてエース
491
だが⋮⋮﹂
﹁えっ⁉
⋮⋮⋮えぇええええっ⁉
?
﹁周りがこんなんじゃな﹂
﹁えっ
﹂
﹁因みに今からみんなを帰すのは無理だからな﹂
?
エースと谷の言葉に伊丹は辺りを見渡す。そこにはテュカ、レレ
?
えぇえ
に報告すると、伊丹はエースに引き摺られながら用意された黒一色の
﹂
ハンヴィーに乗せられる。
﹁な⋮⋮なんで
﹂
﹂
﹁い っ ま ♪ す っ ぐ ♪ メ イ ☆ コ ン ♪ メ イ ☆ コ ン ⋮⋮⋮ っ て ⁉
えっ⁉
﹁り⋮⋮⋮梨沙⋮⋮﹂
﹁あなたぁ⋮⋮⋮今度はなにしたの⁉
で涙を流しながら⋮⋮
﹂
?
これは⋮⋮ある世界と繋がったもう一つの世界の物語⋮⋮。
‼
伊丹はそんな元妻にエースの操縦で走り出したハンヴィーの車内
と、彼女は窓に張り付きながら尋ねる。
同人誌作者で東京ビッグサイトに来ていた梨沙が伊丹を見つける
?
?
2つの世界を繋いだ門を人々はこう呼んだ⋮⋮⋮⋮。
492
?
?
﹁俺は⋮⋮⋮同人誌が買いたかっただけなんだあぁあああああ‼
‼
?
心の悲しみを思いっきり叫んだ⋮⋮⋮⋮⋮。
?
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁
GATE
と﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
Capter 3 Completion.
493
第4章:総撃編
Mission101:新しい旅の始まり
ピニャがモルト前皇帝から正統帝国の全てを託されて正統な帝国
皇太女に据えられて半月後、戦局は刻々と動き出しつつあった。味方
を増やしていくというピニャの方針で連合特地派遣団を通じて正統
帝国は正式に国連加盟を表明し、今も門の向こう側では帝国の国連加
盟決議が話し合われている。
更に各国からそれぞれ得意な戦略を学ぶことでゾルザル率いる紛
い 物 の 帝 国 軍 と の 数 で の 不 利 を 練 度 で 埋 め る 対 策 が 施 さ れ て い る。
連合も薔薇騎士団を始め白兵戦を中心にした戦術を学ぶことにし、互
いに練度を高めていく。
﹂
タス
のゴースト隊を引き連れて各地のゾルザル率
ピニャを救い出してから俺は引き続き第6特殊作戦戦闘団
クフォース ナイツ
﹁分かったニャ﹂
﹁あいよ﹂
M417A2+M320A1に新しいマガジンを差し込んで息が
ある敵の額に7.62mm弾を撃ち込んでトドメを刺す。俺たちが
制圧したのはアルヌス周辺の集落を襲おうとしていたゾルザル軍の
オプリーチナだ。
手にしているのは剣や槍、弓などだが敵は着ている服装を緑や茶色
で色をつけた衣に砂色にした甲冑と俺たちの迷彩服や装具に模して
いる。
494
いる武装勢力の拠点を調査していた。
﹁ミオ、制圧したな
﹂
?
﹁その場で処刑だ。テロに情けなんか必要はないぞ﹂
﹁こちらも制圧した。生き残りはどうするのた
﹁はい。辺りに敵の姿は見辺りません﹂
?
前に掴んだ俺たち連合に扮して集落を襲うといったものだ。
それ以外にも民間人を盾にしたやり方やモンスターを嗾けて集落
を襲わせるといった特殊作戦だが、やり方が卑劣かつ杜撰だった。
迷彩服も俺たちが着用しているデジタル迷彩服ではなく単に色を
適当につけたようなものだし、ヘルメットを模した兜も形状がそのま
ま。襲う際に日本やアメリカや台湾なんて言いながら襲っているが、
民間人にもバレバレな上にベトナム軍から伝授されている対ゲリラ
戦術により集落が襲われる前に迎撃できている。
ゲリラ戦術を分かりやすくすれば、断続的に小規模な部隊で奇襲を
仕掛けて相手に物資を消費させて疲労させるというものだ。だから
ゲリラが民間人に扮して目標が来たら民間人の損害なんて構わずラ
イフルを乱射したり爆弾を起爆させたりすることなんかよくある。
ベトナム戦争にて有名なのがベトコンがやった旧サイゴンでの民
間人を狙ったテロ行為だ。
だがゲリラは民間人に反感を抱かれやすく、鎮圧側の解決策で徹底
した調査や現地住民の人心掌握、地方機関との連携、戦闘により発生
した民間施設への補修を行なうことでかなり有利に防げる。
連合ではタスクフォース ナイツのCIAエコーチームとスペツ
ナズを中心に調査が行われ、民間人への物資の無償提供、正統政府と
の合同作戦、工兵隊による補修作業を行なってゾルザル軍の活動を徹
底的に抑え込む。
現に前の村では厚遇を受けていたオプリーチナは村人の罠に気が
付かず酒の中に眠り薬を盛られ、気が付けば連合に引き渡されていた
らしい。
なお、実行側がゲリラ戦を認めたら正規兵としてジュネーブ協定に
該当し、国によっては愛国心に敬意を評して将校待遇とするケースも
あるが、これを否定したら単なる凶悪犯として該当しなくなり、即座
に処刑も認められる。オプリーチナはゲリラを否定しているから今
回は後者となる。
もっとも、それ以前にゾルザルの新生帝国は国として認められてい
ないから無秩序の武装勢力扱いで協定には該当しないんだがな⋮⋮。
495
ボディカウントをしているとRSOVに搭載してあるAN/VR
C│92に通信が入り、すぐに戻って通信にでた。
﹁こちらゴースト﹂
﹀
︿フォックスロット2からゴースト。そちらに向かってるんだが戦闘
音を確認している。そっちで何かトラブルか
﹁問題ない。イタズラしてたガキ連中に仕置をしてやっただけだ﹂
︿了解だ。そちらへの到着予定は5分後。そのまま待機してくれ﹀
﹁了解﹂
補給部隊所属のフォックスロット2からの無線を終わらせると、俺
たちはその場で待機する。するときっかり5分後にはLAV│25
A2とクーガーに護衛されているガントラック仕様のM923A2
が姿を現わす。
俺たちの前に停車したM923A2から補給部隊所属の海兵隊員
が降りて来て、補給物資である弾薬や食料、水、ガソリン、金貨、M
72A5対戦車ランチャーなどを受領。そのほかにも書類が幾つか
あったようで、受領書にサインするとフォックスロット2はすぐ別の
部隊の処へと車両を走らせていく。
1つは新しい偵察地点として氷雪山脈の先にあるヴォルシャンツ
の森に向かえという命令書だが、もう1つは何かの刻印が押されてい
た。
﹂
ミオにも故郷から手紙が届いていたようであり、母親からの手紙に
心を弾ませていた。
﹁エース、何か手紙か
そういいながら俺はミオに届いた手紙を見せる。黒一色でしかも
496
?
﹁あぁ。しかも中を見たんだが何も書かれてないんだ﹂
﹁黒一色の言伝ですか⋮⋮⋮﹂
﹁みたいだが⋮⋮心当たりが全くないんだ﹂
?
中身は全く書かれてもいない。イタズラか何かかと思って捨てよう
としたら、ヴァルキルがそれを止めた。
﹂
﹂
﹁エース、少し貸してくれないか
﹁ヴァルキル、何か分かるのか
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮これは魔紙だ﹂
﹁魔紙
?
﹁なぁ、魔紙って何なんだ
﹂
﹁それなら黒一色であることに納得です﹂
?
?
し、固くて筆が通らないニャ﹂
﹂
﹁だが⋮⋮そんなものが何で送られて来たんだ
書を読むんだ
それにどうやって文
﹁け ど 魔 紙 っ て 魔 力 が 無 い 奴 に は 扱 え な い ニ ャ。生 地 も 厚 み が あ る
昔前に敵国の密偵に対処する為に造られたと伺っております﹂
﹁魔紙とは、紙の製造過程で魔力を練り込ませた特殊な紙のことで、一
?
か
﹂
﹁つまり水か得意だったら青色になり、光だったら白になるってこと
意とするから赤色になるということだ﹂
﹁魔力の属性で出現する文字の色が違う。この場合なら俺は火炎を得
た。
流し込むと微かに光り出し、そこから赤色の文字が浮かび上がって来
ヴァルキルはそういうと右手に魔力を集中させ、魔紙というものに
﹁このようにな⋮⋮﹂
てくるんだ﹂
﹁そこで魔法使いの出番さ。魔力を紙に流したら文字が浮かび上がっ
?
﹁黒に黒だからな⋮⋮なんて書いてるんだ
﹂
﹁ファルリーム⋮⋮⋮聞いたことない名前だな﹂
﹁これは⋮⋮⋮ファルリームからの招待状ですね﹂
?
497
?
﹁因みに闇が得意なら黒になっちまって読めねぇがな﹂
?
﹁ファルリームは氷雪山脈の先にあるヴォルシャンツの森から更に先
にある半独立状態の都市です。私の実家がある集落の近くにありま
したから私も幼い頃に姉と遊びにいったことがあります﹂
﹁そんな都市から俺に招待状⋮⋮⋮そんな場所に知り合いなんていな
いんだがな⋮⋮﹂
﹂
﹁招待状には来訪の日付に指定はございませんが、如何致しましょう
か
﹂
﹂
﹁ヴォルシャンツの森での任務が終わってからだな。流石に公私混同
は出来ない﹂
﹁だがいいのか
﹁何が言いたいんだラウル
⋮⋮﹂
しかたなく
パラパンに会うんだ﹂
﹁もちろんミオのご両親にも挨拶に行く。この2つの
間もないから
種とも交流を持てるかもしれない。 に時
るし、上手くいけば上位ワーウルフ族でミオの種族であるハイウルフ
報がなかったんだ。半独立状態の都市なんだから調査する必要もあ
行かなきゃならないし、ファルリームという都市に関しても今まで情
別に嘘は言っていない。俺の恋人となったミオのご両親に挨拶に
ついで
﹁⋮⋮⋮ご主人様⋮⋮流石に無理矢理なお考えなような気もしますが
べるのも任務の1つだ﹂
にもいかん。それにファルリームの地形調査や街の流通なんかも調
﹁別に私用からじゃないからな。向こうは神様なんだし、待たせる訳
パラパンからの招待状だと聞き、俺は公私混同の概念を拭い去る。
切り替えが早いにゃ⋮⋮﹂
で、しょれにこれはパラパン直々の招待状﹁最優先で向かうぞ﹂⋮⋮⋮
﹁ラウルの言う通りだにゃ。ファルリームはパラパンの神殿がある街
?
?
俺の変わり身の速さに驚きつつも準備を済ませたらRSOVに乗
498
?
⋮⋮⋮⋮。
499
り込んで、北部の都市であるファルリームへと向かった。
⋮⋮⋮⋮別に能力を返上したいからじゃないからな
?
Mission102:カティラの悲劇
イタリカに駐留している俺たちファントムチームはM1151に
乗り込んで出動していた。なんでもPX イタリカ支店へ向かって
いた筈の輸送隊と警護に付いていたアルヌス第21警邏隊が次の日
になっても到着せず、行方不明となっていたからだ。
厄介なのが最近になってゾルザル軍の動きが活発化しており、特に
オプリーチニナの目撃証言があった場所の近くで行方不明となって
いる。
オプリーチニナの関与の可能性があるのだが、派遣できる部隊が
ファントムチームだけだということでM1151に乗り込んでカ
ティラと呼ばれる森林地帯へと急行している。
﹁ファントム01からHQ。捜索エリアに到着した。現段階で特に不
500
審な点は見当たらない﹂
︿了解だファントム01。付近にはオプリーチニナの目撃証言が報告
されている。十分に注意せよ﹀
﹁了解したHQ。交信終わり﹂
背中に携行している無線機のAN/PRC│77で報告すると、俺
は我が軍で配備が開始された最新型ライフルのXT97に初弾を装
填する。
T91の後継として開発されたXT97はベルギーのFN SC
AR│Lの流れが組み込まれている。XT97を手にしてルフス達
もそれぞれ自分の武器を手にして集合する。
﹁PXの商隊と第21警邏隊は昨日の夕方にイタリカに到着する予定
﹂
だった。だが予定時刻を過ぎてもイタリカに現れず、別の商隊がすれ
違うのを最後に消息を絶った﹂
﹁ふむ⋮⋮盗賊の類か何かかの
﹁そ れ も 考 え ら れ る が、1 番 の 懸 念 は オ プ リ ー チ ニ ナ が 目 撃 さ れ て
?
るってことだ﹂
﹁谷、奴等が噛んでいるということだな
﹂
﹁その可能性は十分にある。陣形は縦一列で捜索する。先頭はルフス
で次は俺、中衛はテキラさんでアブはテキラさんを援護。ラウルは殿
で後方を見張ってくれ﹂
﹁ん⋮⋮⋮みんなの背中⋮⋮ラウルが守る﹂
役目を与えるとそれぞれルフスはデスサイズ、テキラさんはウォー
ハンマー、アブは杖、ラウルは腰にソードブレイカー、手に他の国で
は分隊支援火器である75式班用機槍を構える。
最初はラウルのような小さい女の子に軽機関銃は扱い辛いだろう
という理由で小型で扱い易いT77を勧めたんだけど、どうやらラウ
ルが気に入ってしまったようであり、抱えて離そうとはしない上にお
ねだりする末っ子のような表情をされたからこっちが折れざる得な
かった。
因みにルフスはヤキモチを焼いて不機嫌になっていた。
それからすぐに森の中に入っていき、暫くしてから特地にも生息し
ていた鹿が数頭いた位で、何も見つからない。
﹂
﹂
するとルフスが何かを見つけたようで、俺は屈んで様子を伺う。
﹁ルフス、どうした
﹁谷、あれは馬車ではないか
馬車が確認されたが、車軸が折れているようで傾いていた。しかも何
だか幌がボロボロになっているようで明らかに様子がおかしかった。
ゆっくり近付いて馬車に近付くとやはり争った跡があり、馬車には
弓矢が突き刺さっていた。
だが商人の姿もないし、物資も見当たらない。
散開して俺はルフスと一緒に馬車を調べることにした。
501
?
そういうとルフスは指を指す。その先には確かにPXと書かれた
?
?
﹂
﹁どうやら襲われたようだな⋮⋮⋮物資が丸ごと無くなってる﹂
﹁谷、何を積んでいたんだ
かった﹂
う﹂
﹁旦那﹂
﹁アブ、何かあったか
﹂
﹁だったらまだ対処は楽なんだが⋮⋮⋮早く生存者を見つけるとしよ
﹁ならば盗賊がやったのか
﹂
の 金 貨 や 銀 貨 が あ っ た ら し い。軍 事 関 係 は 全 く 積 み 込 ま れ て い な
﹁あぁ。趙大佐によれば調理器具やベトナムのアオザイ、それに資金
?
?
﹂
﹁⋮⋮⋮あぁ﹂
べてくれ。敵がいたら容赦無く殺せ﹂
﹁⋮⋮⋮本部に連絡してくる。ルフス達は生存者がいないかどうか調
﹁⋮⋮⋮谷⋮⋮﹂
こんなことをした連中に対して怒りを見せていた。
その光景にアブは唖然となり、ルフスとラウルも表情を変えないで
されていて、中には年端もいかない少女の遺体もあった。
槍で突き刺されていたり、女性はさんざん犯された後に内蔵を抉り出
た第21警邏隊の遺体も確認されたがワーウルフは首を刎ねられて
商人の死体が転がっていたからだ。しかも一緒に行方不明となって
逃げられないように両手足を縄で縛られ、身体をバラバラにされた
葉を失った。
進んだら広場みたいに開かれた場所に到着するが、俺はその光景に言
アブとテキラさんが商人を見つけたようですぐに後を追う。少し
﹁言葉よりおぬしの目で見た方がよいじゃろう。こっちじゃ﹂
﹁どうした
﹁商人達を見つけたんだが⋮⋮⋮﹂
?
﹁よいじゃろう。儂もこんなことをした下衆を許せそうにもないから
のぅ﹂
502
?
﹁見つけたら粒子も残してやらねぇ﹂
﹂
﹁⋮⋮うん﹂
﹁谷﹂
﹁どうした
﹁気 持 ち は 分 か る。私 も こ の よ う な 暴 挙 に 出 た 輩 を 許 し て は お け な
い。今日の夜に私がエムロイの下にいって話しておく﹂
﹁⋮⋮⋮エースの気持ちが今なら凄く分かるよ⋮⋮今すぐにでも奴等
を皆殺しにしてやりたい気分だ﹂
﹁だから闇に身を任せるな。ひとたび闇に身を任せたら自身だけじゃ
なく、お前の大事なものまで破滅へと向かわせる。だから気をつける
ことだ﹂
﹁⋮⋮⋮ありがとう﹂
ルフス達に生存者の捜索を任せ、俺はRSOVに戻ってHQに報告
と緊急展開部隊の出動を要請する。
それから暫くして報告を受けた台湾軍第333機械化歩兵旅団の
CM│32が3両と護衛の陸上部自衛隊第8師団所属74式戦車改
G型2両と第103野戦病院隊所属の3 1/2大型トラック野戦
手術システム積載仕様が到着し、すぐに状況確認が開始される。
この非戦闘員に対する虐殺行為を聞きつけた狭間将軍とシュガー
ト大佐、趙大佐はすぐカティラの森に足を運び、遺体の埋葬と墓石設
置を命じ、更に本国へ報告した後に捕らえたゾルザル軍と称するテロ
リストの撃滅及び国際戦争法に該当しない犯罪者に対して1週間の
期間で捕らえ次第の処刑を全軍に命じた。
この虐殺行為は特地に来ていたマスコミにも公表され、世界中で事
実が伝えられることになるが今はどうだっていい。
ゾルザルの野望を止め、オプリーチニナの息の根を握り潰してやら
なきゃ気が済まない。
絶対に⋮⋮⋮⋮⋮。
503
?
ハロウィン番外編:特地でのハロウィン
10月31日ハロウィン。
古代ケルト人が起源と考えられている祭りのことで原点は秋の収
穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事であった
らしい。
特地に到着して1年が経過したある日、連合最高司令官である狭間
将軍の下にアルヌス組合から相談があり、それによれば組合が直営し
ている農園で南瓜が大豊作だったみたいだ。
もちろん南瓜なんて初めからこっち側にあるわけが無い。
アルヌス組合の前身であるコダ村難民組合へ無償援助の一環で俺
たちの農業に関する知識と野菜や果物の種や苗を与えて育てられた
からだ。
なお、南瓜の他に人参やキャベツ、レタス、イチゴ、トマト、スイ
﹄
る。最初はアルヌスベースの敷地内での開催だったのだが、ロゥリィ
が噂を聞きつけてアルヌス街にて大々的に執り行われる運びとなる。
もちろん露店は連合将兵達によるものだが、親しみを持たせるとい
うことで全員が仮装をしている。
子 供 達 の 元 気 な 光 景 を 見 な が ら 偶 々 休 暇 を 申 請 し て い た 俺 は 昔
やったゲームの暗殺者としても行動する海賊船長が主人公の衣装を
504
カなどが育てられていて、最初は米も検討されたが米自体は最初から
あったようなのでなくなった。
なお、特地の土との相性が良かったのか、全体的に甘みが強くなっ
ている。
大豊作だった南瓜を見てシュガート大佐がハロウィンを提案。す
‼
ぐにハロウィンの準備が連合特地派遣団主催で準備され、31日に本
番を迎えた
﹃トリック オア トリート‼
?
アルヌス街の夜に子供達が袋を片手に街中に並べられた露店を回
?
身に纏って、ミオと共に眺めていた。
﹁元気一杯でみんな楽しそうだな﹂
﹁はい、色んなお菓子のいい香りもして見てる私も楽しくなってきま
す﹂
そういいながら隣に座っている仮装をしたミオの頭を撫でる。
普段の彼女の服装はメイド服かアルヌス警邏隊ワーウルフ族用甲
冑 な の だ が、オ タ ク で あ る 伊 丹 と そ の オ タ ク 仲 間 で あ る 倉 田 と ス
ティーブが俺と釣り合うようにと面白がりながらアン・ボニーの衣装
を着ている。
元がスタイル抜群のモデルみたいなミオは非常に良く似合ってお
り、海賊らしく左目に付けられた眼帯と大きく開いた胸もとがより可
愛らしさを引き立てている。
話し掛けられて振り向いた先には同じように仮装をしたルフスと
同じく休暇を申請していた谷がいた。
2人の仮装は中国は嫌いなんだが中国の歴史は好きだということ
で谷は緑を基調とした初代蜀王の劉備 玄徳で両手には模造刀が持
たれている。
ルフスはその妻となる孫家の孫 尚香の仮装だ。
505
﹁ですが住谷1佐のクッキーはやはり美味しいです。甘すぎず苦すぎ
ず、外はカリカリで中身はフンワリと焼き上がって子供達にも人気が
高いです﹂
﹂
﹁だがやっぱり1番は古田と劉のコンビだな。マロンケーキを作ると
意気込んでただけある﹂
﹁ご主人様は何かお菓子をお作りになられたのでしょうか
﹁あぁ。とは言っても普通のチョコレートだがな⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮今度⋮私にも作って頂けませんでしょうか
?
﹂お菓子の話だ﹂
﹁あぁ。構わない﹁よぅ。2人で何の話をしてんだ
?
?
因みに伊丹は報告書が溜まっていたのでアルヌス組合事務所に缶
詰めとなっているから今回は不参加だ。
﹁ほ ぅ ⋮⋮⋮ そ っ ち は 三 国 志 で 攻 め て 来 た か ⋮ な か な か 似 合 っ て る
な﹂
﹁初めてのコスプレだからな。まだ少し恥ずかしくはなるな﹂
﹁ルフスも良く似合っているぞ﹂
そう言いながら俺は他のブースをみる。
意外に一番乗り気だったのがタスクフォース ナイツの面々であ
り、ヴァローナ隊には民族衣装であるサラファンとルバシカを身に
纏ってハルヴァを配る栗林とアーロン。
ナイトメア隊とスレッジハンマー隊の合同ブースではカウボーイ
に扮したテイラーと大英帝国時代の赤い軍服を来たスレッジハン
ロゥリィはいつも着ているのは神官の服装ということで仮装はし
ていないが、テュカはハイスクールのチアガールの格好であり、元か
ら高校生みたいな雰囲気を出しているテュカの明るさが服装と両手
のポンポンで更に強くなっている。
隣にいるヤオは青い服装の上に白銀の甲冑といういつもの民族衣
装とは違って露出度は低くなっている。だが戦士であるヤオの凛々
506
マーがポテトチップス。
C I A エ コ ー チ ー ム は 様 々 な 果 物 を 使 っ た フ ル ー ツ タ ル ト を 振
舞っていた
﹂
﹂
⋮⋮⋮どうでもいいんだが、特殊部隊の隊員が堂々とイベントに参
エースと谷じゃなぁい
加していていいのだろうか
﹁あらぁ
﹁らしいな⋮⋮って、予想通りの仮装だな﹂
﹁おっ、どうやらロゥリィ達も来たみたいだな
?
?
ロゥリィ達が来たようなので、俺たちは彼女達に振り向く。
?
?
しさが更に強くなって女性に受けが良さそうだ。
だけど俺はレレイをみて驚愕した。
﹁レレイは魔女っ子か⋮⋮⋮よく似合ってるじゃないか﹂
﹁⋮⋮まじかるれれいちゃん参上⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁ま⋮⋮まじかる
﹁れれいちゃん
被った
魔女っ子
まじかるれれいちゃん
だからだ。
というよりレレイが
﹁ごちーん﹂
﹁いたっ⋮⋮﹂
﹁エースがぼうってしてたから。大丈夫
﹁あ⋮⋮あぁ。すまない﹂
﹂
まじかるれれいちゃん
て伊丹がいってた﹂
﹁⋮⋮⋮ そ し て
⋮⋮﹂
﹁箒で頭を叩くってのはスティーブが教えた
﹁︵コクリコクリ︶﹂
﹂
確定だな。
トリック オア トリート
トリック オア ドロップキック
⋮⋮⋮あの3バカオタク⋮⋮後で
って教えたのは倉田で
﹁ハロウィンに参加するんだったら魔道士はみんなこの服装を着るっ
﹁それよりレレイ⋮⋮⋮その服装と台詞は⋮⋮﹂
?
そんなことを考えているとレレイが箒で俺の頭を叩いてきた。
って⋮⋮。
と頭に茶色の何だか被るとクラス分けをしてくれそうな魔女帽子を
官服にフリルを取り除いたような服と箒、左手にお菓子が詰まった籠
レレイの服装はいつもの水色魔道士の服装ではなく、ロゥリィの神
俺と谷の言葉にレレイは頷く。
?
そうしているとレレイはお菓子を貰いに移動を開始し、その後に
ならぬ
?
507
?
ロゥリィ達も続く。
﹁じゃあなエース。俺たちもハロウィンを満喫しにいくとするよ﹂
﹁あぁ。また夜に酒場で落ち合おう﹂
夜に酒場で待ち合わせを約束すると谷もルフスを連れて露店へと
向かう。
﹁ふふっ♪皆様楽しそうでしたね♪﹂
﹁全くだ⋮⋮⋮さて、俺たちもハロウィンを楽しむとしよう﹂
﹁はい♪﹂
座っていた椅子から立ち上がると、ミオに腕を抱きつかれながらア
ルヌス街に繰り出した。それから俺たちはリーパー隊のブースに顔
を出したり、街の子供達にお菓子をあげたりと特地でのハロウィンを
﹂
﹁問答無用‼
‼
﹂
纏めて吹っ飛びやがれ‼
ロップキック‼
⁉
﹂﹂﹂
ドロップキック オア ド
?
﹁﹁﹁いぃいいいいいいやぁあああああああ‼
?
?
キックの餌食としてやったことは言うまでもない⋮⋮⋮⋮⋮。
レレイに余計なことを吹き込んだ3バカオタクを纏めてドロップ
?
?
508
デートという形で楽しんだ。
﹂
﹂
﹂
偶にはこういうのも悪くないな⋮⋮⋮⋮⋮。
因みにこの後⋮⋮⋮。
お慈悲を⁉
エ⋮エース待てって⁉
﹁お∼ま∼え∼ら∼な∼‼
﹁ちょっ⁉
﹁た⋮大尉⁉
?
?
?
?
﹁だ ⋮ だ っ て レ レ イ ち ゃ ん の 魔 女 っ 子 姿 を 見 た か っ た ん で す か ら ⁉
?
?
?
Mission103:古田
俺がゾルザルの下に潜伏してから結構経つ。
初めはゾルザルに不快感を与えて3偵に早く戻りたかったんだけ
ど、劉大尉が俺を推奨したお陰ですっかりタスクフォース ナイツの
一員でエージェントとして行動している。
元は料理人だったこともあり、料理には人以上の自信があったので
今はゾルザルの雇われ料理長として情報収集に当たる。そして今も
夢があるなら早く陛下の下から独立すればいいの
宮廷内にて奴の食事を作っていた。
﹁あなたも大変ね
に⋮⋮⋮﹂
﹁そういう訳にはいきませんよ﹂
ゾルザルの昼食の準備をしながら、厨房に顔を出していたテューレ
さんとも話をしていた。実をいえばテューレさんもなんだかんだと
言いながら俺の料理を気に入ってくれているようであり、時々こう
やって厨房に来て少しだけつまみ食いをしていく。
古田を
現に今もゾルザルに出す昼食であるハンバーガーを1つ食べてい
る。
﹁その陛下も古田を帝都から逃がそうとして下さってるのよ
だけど流石にそれは忍びないので断ったが、だったら代案として皇
面倒を見るとまで言い出す程だ。
理に対しての探究心は本物で、俺と大尉の為に店を出すだけの資金の
この話は本当だ。独裁者であるゾルザルの唯一認められるのは料
⋮⋮こちらのお抱えの料理人達に私の技術を叩き込むって⋮⋮⋮﹂
﹁まぁ⋮⋮そうなんですが⋮⋮ゾルザル陛下とも約束しましたからね
す資金も用意して下さっているのに⋮⋮﹂
死なせたら二度と古田の料理を食べられないって言いながら店を出
?
509
?
宮のお抱え料理人達に知識を叩き込んでくれと頼まれ、任務のついで
という形で彼等に料理の知識を叩き込んでいくこととなった。
お陰で皇宮内の料理人達の腕前が格段に上がっているというのが
明らかに感じ取れた。
﹁あなたや劉の志⋮⋮国としては本当に理想的な在り方ね。陛下に殺
さ れ る か も 知 れ な い と い う の に、そ れ で も 自 分 の 夢 を 曲 げ な い
⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮ テ ュ ー レ さ ん に は ⋮ 誰 か 大 事 な 人 は い た り し な い ん で す か
﹂
﹁ふふっ⋮⋮⋮私は誰にも必要とされていないから⋮⋮利用価値があ
﹂
るのはこの身体だけ⋮⋮私達ヴォーリアバニーは昔から人間に愛玩
奴隷として狙われているから⋮﹂
﹁⋮⋮帝国による人種差別ですね
陛下﹂
にされるか無かった。その時の指揮をしていたのが⋮⋮⋮ゾルザル
は皆殺しにされ、降伏を選んだ者達も奴隷にされるか兵士達の慰め者
﹁だけどそれは⋮⋮⋮帝国の奴隷狩りにより奪われた。歯向かうもの
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ていた﹂
からそれは仕方がない。だけど私達は毎日を貧しいながらも過ごし
毎日のように争い、狩るか狩られるかの毎日⋮⋮戦士としての民族だ
﹁私はかつてヴォーリアバニーの集落にいた⋮⋮そこでは同族同士で
中している姿勢を見せながら耳を傾ける。
独り言という単語を使うテューレさん。俺は小さく頷き、料理に集
り言よ⋮﹂
﹁相変わらず怖いもの知らずではっきり言うわね⋮⋮⋮ここからは独
?
テューレさんの口から語られる話。これまで調べられた内容で帝
510
?
国は定期的に労働力確保や治安維持と称して他民族へ一方的に奴隷
狩りをしていて、特にヴォーリアバニーは見た目や性に対する執着心
で性奴隷として扱われることが多く、かつてテューレさんが暮らして
いた集落もそのゾルザルによる人種差別により滅んだとされる。
そしてテューレさん自身がその集落の長だったということも知っ
ているが、何度聞いても可哀想な話だ。
噂に聞いたんだけど、旅商人がその跡地を通るとヴォーリアバニー
の霊が出るというらしい。
﹁私 は ⋮⋮⋮ あ の 人 に 民 を 見 逃 し て 欲 し い と 全 て を 捧 げ て 頼 み 込 ん
だ。けどあの人は⋮⋮約束すると言っておきながら約束を無下にし、
私の全ては奪われた。大事な村も⋮民も⋮⋮みんな⋮⋮﹂
﹁テューレさん⋮⋮⋮﹂
﹁同族からも私は裏切り者と仕立て上げられ、同じヴォーリアバニー
か ら も 命 を 狙 わ れ る。毎 日 ⋮⋮⋮ 毎 日 の よ う に 私 の 命 を 付 け 狙 う。
笑 っ ち ゃ う わ ⋮⋮⋮ み ん な の 命 を 救 う 為 に 命 を 狙 わ れ る だ な ん て
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁つまらない独り言だったわ⋮⋮⋮聞かなかったことにしてくれたら
助かるわね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮料理の世界も似たようなものです﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁俺もかつて料亭にいました。だけど先代がご子息に店を譲ると方針
が違えて俺は店を飛び出しました。俺の料理は自らの想いを乗せ、客
に 満 足 し て 頂 く。だ け ど ご 子 息 の は 速 さ を 重 視 し た 利 益 に 固 執
⋮⋮⋮伝統もなにもあったものじゃありません﹂
﹁追 い 出 さ れ た ⋮⋮⋮ け ど あ な た 程 の 実 力 な ら 周 り が 止 め た 筈 じ ゃ
⋮⋮﹂
﹁周 り の 人 間 は ご 子 息 の 取 り 巻 き ば か り で し た か ら ⋮⋮ 味 方 は い な
かったんです。まぁ今となっては店は経営破綻で潰れたみたいです
から、寧ろ助かった位です。先代には申し訳ないですけどね⋮⋮⋮﹂
511
料理の世界もある意味で裏切りは日常茶飯事ともいえる。上が変
われば考えあるトップなら伝統に重んじて更なる高みを目指そうと
するが、逆に目先だけの利益だけを求めれば店は無くなる。
俺が求めたのはそんな利益じゃなく、時間を少し掛けてしまうが
真っ向から心の底から満足させられる料理を提供する。なんでもか
んでも早ければいいってものじゃないし、無闇に速くしたらそれだけ
心は籠らなくなる。
こちらをジッとみるテューレさんに俺は出来たばかりの日本から
取り寄せた鯛を使ったフィッシュバーガーを彼女に渡した。
﹁これは⋮⋮肉じゃないみたいだけど⋮⋮⋮﹂
﹁これは鯛という魚の身を使ったフィッシュバーガーといいまして、
魚の切り身を揚げて作ったものです。いつものバーガーもそうです
海老で鯛を釣る
﹂
という言葉もある。だからテューレ
512
けど、こちらはより出来立てが一番なんです﹂
﹁私が最初に食べてもいいのかしら
や
彼女には是非とも幸せを掴んで欲しい⋮⋮⋮⋮⋮。
さんにも幸せが訪れるようにという意味合いを込めて渡した。
でたい
テューレさんには言わなかったけど、鯛は縁起の良い魚で、 おめ
で、ハンバーガーを1つ手に取った。
その美味しそうに食べる姿を見ていたら何だか小腹が空いてきたの
一言そういうとテューレさんはフィッシュバーガーを食べ始める。
﹁⋮⋮⋮ありがとう﹂
せる筈ですから、1つお得です﹂
疑いになりせんよ。それに陛下なら確実にテューレさんにも食べさ
﹁まだまだたくさんありますからね⋮⋮1つくらい食べても陛下はお
?
Mission104:CQC
司 令 部 か ら 与 え ら れ た 新 た な 任 務 は ワ ー ウ ル フ 族 の 集 落 が あ る
ウォルシャンツの森の調査とワーウルフ族との関係構築。それとは
別に俺を使徒にしやがった復讐神パラパンからのファムリーフへの
招待状⋮⋮軍人としては任務を優先させるが、個人的には一刻も早く
パラパンに能力を返したい。
だけどいま向かっているのはミオの故郷。流石に両親に挨拶しな
いでファムリーフに向かう訳には行かないので、RSOVを走らせて
オルディノ村
です﹂
任務受諾から4日後、氷雪山脈を越えてウォルシャンツの森へと到着
した。
﹁見えてきましたご主人様。あれが私の故郷
513
身を乗り出しながらミオは村を指差す。周囲を森で囲まれ、更には
外敵に対して丸太で出来た柵で囲まれていて、集落というよりも砦が
相応しい。
見える街並みは中世ヨーロッパの田舎を連想させる佇まいで、イタ
リカの縮小版とも言える。
ミオから聞いたんだが、オルディノ村は傭兵家業が盛んであり、ア
ルヌス警邏隊のウォルフもオルディノ村の出身らしい。
そんな質が高い傭兵を次々と排出しているから必然的に傭兵を束
ねるギルドもあり、最初はワーウルフ族だけだったが今では様々な傭
兵団が各地に存在している。
RSOVを正門に走らせていると門番がこちらを見つけたようで、
武装した衛兵数人が制止を求めた。
商人関係者ならば西門
イタリカにいたんじゃないの
ここは傭兵団関係者用の門だ‼
﹂
なんでここに⁉
?
﹁止まれ‼
に回れ‼
ミオか⁉
?
﹁久しぶりねフロプト﹂
﹁って⁉
?
?
?
?
か⁉
﹂
﹁今はご主人様のメイドをしているのよ﹂
﹁ご主人様って⋮⋮⋮そっちの兄ちゃんがそうなのか
﹂
ミオの知り合いである門番は槍を手に俺を見ており、RSOVから
降りると敬礼で挨拶をする。
﹁アルヌスを拠点とする連合特地派遣団から派遣されたアメリカ海兵
隊のエース・クレイグ大尉だ。今日はここの領主殿へ信書を送りに来
たこととミオのご両親へ挨拶に来た﹂
﹂
﹁アルヌスって⋮⋮⋮確か異世界の軍隊がいるって聞いたが、その異
世界の軍隊なのか
目立って仕方がない。
﹁それでミオの家は何処にあるんだ
﹂
キャットピープルのシャム、ワーウルフのミオに人間の俺とラウル。
集 ま る。こ の 世 界 に は 無 い 車 両 に ド ラ ゴ ミ ュ ー ト の ヴ ァ ル キ ル、
入城料を払い、RSOVを街中に入れるとすぐに通行人から視線が
了承してくれた。
ると返そうとしたが、なら勤務終わりで仲間と飲んでくれと言ったら
そういいながら金貨を渡す。フロプトという青年は流石に多過ぎ
に入れて構わない﹂
﹁問題ない。金貨1枚を渡しておく。釣りはいらないからあんたの懐
1枚と銅貨3枚を徴収してんだ﹂
﹁あっ⋮⋮あぁ。だが入城料として1人1銅貨と馬車1台につき銀貨
﹁そういうことになる。すまないが通行を許可願いたい﹂
?
酒場があります。そこが私の実家なんです﹂
?
﹁そうよラウル。けどお父さんは引退してて傭兵団への仲介役をして
﹁傭兵団か⋮⋮⋮ということはご両親も傭兵をしてるのか
﹂
﹁はい。この先に広場がありまして、そこの近くに傭兵団の事務所兼
?
514
?
?
いるわ。そしてお母さんはその酒場を切り盛りしてるの﹂
軽くミオの両親の説明を聞きながらRSOVは目的の広場に到着
した。辺りは傭兵らしき人達がたくさんいて、やはりこちらを見てい
る。そしてミオが指差した酒場を見つけて馬小屋に停車。
俺がM417A2+M320A1、ラウルが俺の私物であるM10
﹂
﹂
﹂
サブマシンガン、シャムが短剣でミオは旅行用バッグを持って酒場へ
と入って言った。
﹁いらっしゃい。あら
お母さん‼
﹂
ミオが帰って来たわよ‼
あなた‼
﹁お父さん‼
﹁ミオ‼
よく帰って来たな‼
ミオ‼
?
?
?
を見つけて彼女をしっかりと抱きしめた。
ちゃんとご飯を食べてた
?
⋮⋮﹂
﹁は は は は っ ‼
﹂
様♪﹂
﹁そうだ‼
メーア‼
この人は私のご主人
俺らの娘なんだから心配は無用だて‼
﹂
紹介するわお父さん、お母さん‼
﹁それもそうね♪それで後ろにいる方達は
?
﹂
娘からの手紙で拝見させて貰ってるわ。私
はメーア・パラ・ヴォートス。この子の母よ﹂
?
﹁俺は父親のオーミ・エム・ヴォートスだ。よく来たな婿殿‼
?
﹁あなたがエースさんね
団アメリカ海兵隊所属のエース・クレイグ大尉です﹂
﹁初めまして、自分はアルヌスベースを拠点としている連合特地派遣
?
?
﹁も う お 母 さ ん っ た ら ⋮⋮ 私 は い つ ま で も 子 供 じ ゃ な い ん だ か ら
﹁元気にしてた
﹂
性と体格が非常に良く、何やら話をしていたワーウルフの男性がミオ
バーカウンターで酒を注いでいたミオによく似たワーウルフの女
﹁なにっ⁉
?
?
515
?
?
?
?
?
?
?
?
﹁む⋮⋮⋮婿殿
﹂
しております﹂
﹂
﹂
﹁そ り ゃ あ ⋮⋮⋮ ま ぁ い ず れ は そ う な る だ ろ う が ⋮⋮ な ⋮ な ん だ
⋮⋮⋮急に殺気が強く⋮⋮って⁉
﹁血祭りにあげてやんぞ⋮⋮﹂
﹁えっ⋮⋮えっと⋮⋮⋮なんだこいつらは
喧嘩なら外でやりな‼
がするんだが⋮⋮﹂
﹁おいオメェら‼
﹂
惑なんだよ‼
﹂
?
﹂
﹂
ちょっとツラ
﹁テメェをフルボッコにしてミオちゃんを取り戻してやる‼
貸せや‼
﹁ちっ⋮⋮大将には逆らえねぇからな⋮⋮おい人間‼
﹂
﹁は⋮⋮はい⁉
?
でに野次馬が集まっており、俺と親衛隊のどちらかが勝つか賭けもさ
親衛隊︵いま命名︶に従って酒場の外に出ることにした。周りにはす
いきなり過ぎる状況に思考が付いて行かなかったが、仕方なくミオ
?
?
?
店ん中でやられちゃあ迷
﹁お⋮⋮幼馴染って⋮⋮⋮なんだか殺気がドス黒いものになってる気
てくれてる子よ﹂
﹁この子達は傭兵をしてるミオの幼馴染達で、ミオのことを大事にし
?
﹁⋮⋮テメェ⋮⋮⋮よくも俺たちのミオちゃんを⋮⋮﹂
いるワーウルフの傭兵達が武器を手に立っていた。
から凄い寒気を感じた。ゆっくり振り向くと凄い殺気を醸し出して
ミオの大胆な言葉に少し照れながら回答していると、いきなり背後
?
?
﹁はい。しかしご主人様はいずれ私の旦那様になって頂けると自負致
ないか
﹁⋮⋮⋮⋮ミオ⋮⋮確かに君とは恋仲となってるけど、流石に早すぎ
⋮⋮﹂
﹁え ぇ。娘 か ら の 手 紙 に 書 い て い た の よ。私 の 未 来 の 旦 那 様 っ て
?
?
?
516
?
れているようだった。
﹁⋮⋮⋮なんだこれは
﹂
﹁傭兵の性って奴さ。欲しいものは実力を示して手に入れるってのが
ここの決まり事で、こいつらはまだガキだしな﹂
心配はねぇがミオを嫁にしたけりゃこ
﹁ガキと言われましてもオーミさん⋮⋮少なくとも俺よりは年上の筈
ですが⋮⋮﹂
﹂
﹁まぁ細かいことは抜きだ‼
いつらに勝ってみせな‼
﹁ご主人様⋮⋮﹂
?
﹂
武器の使用は一切禁止‼
降参と言わせたら勝ちとする‼
相手を気絶させるか
?
始め‼
﹂
﹂
﹁ヴァルキルもなかなか乗り気みたいだな⋮⋮⋮﹂
?
﹁規則は体術でだ‼
とを言うな⋮まぁやるからには負けないがな⋮⋮﹂
たらコテンパンにして頂いても構いませんよ♪﹂⋮⋮君も大概酷いこ
﹁ミオ⋮⋮やはり友達を傷つけて欲しくは﹁いいえ、死なない程度でし
?
﹁一瞬でカタを付けてやる‼
﹁それては‼
?
?
早速仕掛けて来た。右ストレートで仕掛けて来た奴の腕を右手で掴
み、そのまま懐に飛び込んでズボンを掴み、一気に持ち上げてから地
﹂
面に叩きつける。
﹁なっ⁉
達は驚いているが、すかさず隙だらけの奴の懐に飛び込んだ。
傭兵は反撃しようとするも俺は左手で相手の顎を押し上げるよう
に身を反らせ、腰に右手を添えて軸にしつつ同じように地面に叩きつ
けた。直後に蹴り技で仕掛けてくる傭兵には足を掴んで左手で頭を
517
?
?
いつのまにか司会をしているヴァルキルが手を振り下ろした瞬間、
?
一瞬で勝てると思っていたのか、瞬く間に1人を制圧した俺に傭兵
?
掴み、一気に叩きつけてやった。
これで3人制圧。あと1人だ。
だが時間を掛ける必要もないので、そのまま懐に飛び込んでまずは
顔に右フック、立て続けにボディブロー、そしてトドメでアッパーを
食らわして一気に倒した。
制圧までの時間は9秒で1人あたり2秒でCQCにて鎮圧したと
いう計算だ。辺りからは歓声と賭けに負けて残念がる群衆。そして
ミオは俺に抱き付いて来た。
﹂
﹁これで正式に私はご主人様のものですね♪﹂
﹁まぁ⋮⋮⋮勝ったからそうなるな﹂
流石は娘が認めた婿殿だ‼
﹁ふふっ♪若いっていいわねあなた♪﹂
﹁ははははっ‼
まだ私が残ってますわ‼
﹂
﹂⋮⋮⋮決
?
﹁ふっふっふっ‼
名になる⋮⋮ぎゃふっ⁉
﹂
このミムナ様が華麗にあなたを倒せば瞬く間に有
だが彼女では勝負にならないのは明白。その理由が⋮⋮。
きのワーウルフ達よりも自信満々な感じがしている。
インテールに緑色のワンピースを着た背中に羽が生えた女性で、さっ
まだ相手がいたようなので振り向くといたのは女性だ。サイドツ
闘を受けるのは締め切りなんだが⋮⋮⋮えっ
ので﹁ちょっと待ちなさい‼
﹁ありがとうございます。ひとまずはここの領主殿に信書を渡したい
?
?
?
う。
そのままミムナというピクシーは目を回しながら気を失ってしま
ので軽くデコピンで弾き飛ばしてやる。
ピクシーという名前でかなり希少な種族だった筈だが、身体が小さい
⋮⋮手のひらサイズの小人型妖精種だったからだ。確か種族名は
?
?
518
?
﹁きゅぅううう⋮⋮⋮﹂
﹁この小さいのも傭兵なのか
﹂
﹁えぇ。けどミムナちゃんはどちらかといえば森の調査を依頼として
る妖精種なのよ﹂
﹁まぁ戦闘には明らかに不向きでしょうからな⋮⋮﹂
そういいながら俺は改めて領主の居場所を聞き、すぐに向かって信
書を渡した。領主のワーウルフは非常に協力的でアルヌスに傭兵組
合の事務所を作り、交流関係に努めると約束してくれた。
そして俺たちは3日ほどミオの実家で厄介になることとなり、その
間で周辺の調査を開始するのだった⋮⋮⋮⋮⋮。
519
?
Mission105:歪んだ記事
資源調査とオプリーチニナ討伐の任務を受けていた俺たちファン
トムチームは補給を受ける為にアルヌスに戻っていた。あれから1
週間、俺たち連合軍はオプリーチニナ捕縛に力を注ぎ、捕まえたテロ
リスト野郎を次々と射殺、もしくは帝国のやり方にそって絞首刑とし
ていく。
相 手 は 民 間 人 や 非 戦 闘 員 を 簡 単 に 殺 害 す る ク ソ 以 下 の 人 の 皮 を
被った駄犬だ。だから容赦する必要はないし、する気もない。
アルヌス街の正門よりハンヴィーで帰還した俺たちはゆっくりと
アルヌス街を走行していた。
﹁アルヌスに戻るとなんだかホッとするな﹂
﹁あぁ。我が家に帰って来たような感覚だ。﹂
520
アルヌスを車内から伺う俺とルフス。街には連合将兵やアルヌス
街の住民、更には最近になって少数ながらも連合参加国からの記者達
が特地入りしていて、街の様子や連合軍との交流、更には帝国の今の
現状を取材している。
俺はどうもマスコミっていうのは苦手だ。
別に嫌いって訳じゃないんだけど、プライベートにまで首を突っ込
んで来る常識知らずな馬鹿がいるので、俺の中でマスコミっていうの
は評価はどうしても低くなってしまう。
俺の姿を見て手を振る民間人に挨拶していると、マスコミの一団の
中に見覚えのある姿を見つける。両名とも背広姿だが、左腕に従軍記
﹂
﹂
者を表す水色の腕章をつけていたが、俺は近くにハンヴィーを停車さ
せてその2名に話しかけた。
谷さん⁉
?
?
⋮⋮あっ⁉
﹁失礼⋮⋮望月 紀子さんとマミーナ・シェスチェンコさんか
﹁えっ
?
﹁お久しぶりです。谷さん﹂
?
そこにいたのはかつてゾルザルの下から救い出した日本人の望月
﹂
紀子とロシア人のマミーナ・シェスチェンコだ。
﹁2人とも元気そうだな⋮⋮⋮なんでこんな処に
﹁はい。私はマスコミグループと現地人との通訳として政府から協力
を求められたんです﹂
﹁私もです。大統領から特地とロシアの架け橋になって欲しいと願わ
れて、新設された外務省領域部署特別地域部の特別顧問をしていま
す﹂
﹁大した出世じゃないか⋮⋮だが元気そうな顔を見れて安心したよ。
特に望月さんはあんなことがあったのに⋮⋮﹂
﹁いえ⋮⋮それにあの人は私に何度も謝ってくれてましたし、悪い人
じゃないってすぐに分かりましたから⋮⋮﹂
あの人というのはデリラのことだろう。嫌々ながらも止む無く命
令に従わなければならなかった密偵のデリラはゾルザルの魔の手に
踊らされ、望月さんを暗殺しようとした。
だが結果は柳田の活躍により未然に防がれ、俺はPTSDにならな
いか心配していたが、何もなさそうだったので安心した。
﹁それより谷さんも大変だと聞いたのですが⋮⋮﹂
﹁えぇ。帝国の反乱軍とピニャ殿下の正統帝国の戦争で連合軍は正統
帝国軍に味方すると聞きました﹂
﹁詳しくは機密だから言えないが、ゾルザルの連中が攻め込もうとし
てるってのは間違いなさそうだからな⋮⋮﹂
﹁やはり⋮⋮⋮戦争なんですね⋮⋮早く終わればいいのに⋮⋮﹂
﹂
﹁確かにそうだな⋮⋮だが戦争をしなければウラ・ビアンカの人達を
解放﹁いや∼、実に殊勝な心掛けですなぁ﹂⋮⋮あんたは
望月さんとマミーナさんと話しているとカメラを首からぶら下げ
?
521
?
たジャーナリストが割り込んでくる。その目は相手を見下したよう
な視線を突きつけ、言葉の端々からも皮肉や無礼がこれでもかという
﹂
くらいに込められている。
﹁⋮⋮あなたは
﹂
﹁日本から派遣されたジャーナリストの古村崎だ。しかし本当に英雄
だけあって解放の為に戦う⋮⋮実に殊勝な言葉だ﹂
﹁褒め言葉として受け取っとくよ。それで俺に何か用事か
質問は答えて、俺の質問は拒否するってか
﹂
﹁⋮⋮⋮彼女達は知人だからだ。それにあんたは何が言いたい
取材拒否で明らかに態度が変わる古村崎。
﹂
﹁ほぅ⋮⋮⋮望月君やシェスチェンコ君のような自衛隊贔屓の新米の
の取材受け入れは拒否する﹂
﹁個人に対する取材は広報官を通じて許可を申請してくれ。それ以外
だよ﹂
下されてたんだけど、ちょうど目の前に現れたから直談判しにきたん
﹁いや、実はあなたに取材を依頼したくてねぇ。お偉方には何かと却
?
なんだし﹂
﹁演出だと
﹂
﹁まぁ拒否するのも当然だな。この村も所詮は演出するためだけの村
?
?
﹂
当は汚い内情があるからマスコミに知られたくない。俺たちを外に
出さないだけなんだろ
なきゃなにもできない馬鹿な集まりだしな﹂
ありゃしない。軍隊なんて俺たちジャーナリストがしっかり管理し
揃いに揃って寝転がってるし、あんたたち中国軍はだらしないったら
﹁綺麗事はいいって⋮⋮それに前に滑走路で自衛隊や海兵隊の連中は
﹁村にいるよう指示を出したのはマスコミ達の安全の為だけだ﹂
?
522
?
﹁あぁ。村の外には反乱軍がいるから危険だなんて言ってるけど、本
?
古村崎の言っているのは待機命令が出ていた第4空中強襲戦闘団
のことだろうが、目の前にいるマスゴミが批判的だっていうのはよく
分かった。それに待機していたのはアメリカ海兵隊じゃなくて陸軍
だし、俺たち台湾軍のことを中国軍とほざいた。
自衛隊や海兵隊の侮辱だけじゃなく俺たちを中国軍扱いしたこい
つには我慢ならない。文句を言おうとした矢先、背後から凄まじい殺
気と怒気が感じた。
振り向くとルフスがデスサイズを担いで古村崎を睨みつけており、
テキラさんとアブもウォーハンマーや魔道師杖、普段は銃火器を使う
ベルセル
を担いで容姿からは想像も出来ない殺気を古村崎に見せている。
ラウルもいつもはハンヴィーに括り付けてある斬馬剣
ク
﹁貴様⋮⋮⋮さっきから聞いていたら谷を侮辱するようなことばかり
を口にしおって⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
い き な い の 殺 気 に 腰 を 抜 か し た マ ス ゴ ミ 野 郎 か ら 望 月 さ ん と マ
ミーナさんを引き離す。気がつけば周りを野次馬が囲み出していて、
取材陣もなにがあったのか騒ぎ出す。
﹂
すると笛を吹きながら軽装備の警備部隊が駆けつけてきた。
﹂
下がって下さい‼
この騒ぎは⁉
﹁下がって‼
﹁大尉‼
?
﹁なんでもない伍長。それよりこの記者のカメラを没収しろ。無断撮
?
?
523
﹁儂等は自らの意志で連合に協力しとるんじゃ。それを侮辱するとい
うなら容赦せんぞ若造‼
﹁ひぃ⁉
﹁谷⋮⋮⋮侮辱すること⋮ラウルが許さない﹂
るってのはよく分かったぜ﹂
ストってのは何だかよくわかんねぇけど、あんたみたいなクズがい
﹁俺はなぁ⋮⋮今の待遇ってのは気に入ってんだよ⋮⋮⋮ジャーナリ
?
﹁望月さん、マミーナさん。こっちへ﹂
?
?
影をした可能性がある﹂
﹁またあんたか⋮⋮了解です大尉。こいつを詰所に連行します﹂
そういいながら我が軍の憲兵がマスゴミ野郎からカメラを没収し、
そのまま連行していく。去り際に奴は何かを叫んでいたがくだらな
いことなので無視することにした。
憲兵によれば奴は何度か無断撮影をしているようであり、その度に
カメラのフィルムとデータを没収されているようだ。このままいけ
ば強制送還だというのに懲りずに繰り返しているから迷惑している
とのことだ。
﹁望月さん、マミーナさん。すまないが俺たちは基地に帰還するよ﹂
﹁は⋮⋮はい。すみませんでした騒がしくしてしまって⋮⋮﹂
﹁私も紀子もあの人には迷惑してるの。スペツナズのみなさんを犯罪
者集団だって侮辱したこともあるんです﹂
﹁⋮⋮ 帰 っ た ら あ い つ を 強 制 送 還 す る よ う 進 言 し と く よ。ま た 何 か
あったら俺の名前を使って基地に来てくれ﹂
それだけいうとルフス達を宥めてハンヴィーに乗り込み、基地への
帰路についた。後で知ったんだが、マスコミの中に日本の旧共産党員
が雇った奴が紛れ込んでいるらしく、これまでに連合に対する批判的
な記事や無知丸出しの軍事的知識が週刊誌や新聞に記載されている。
恐らくだが奴がその元凶だろう。
けどそこからは俺の仕事じゃないので、後は情報部に任せるとしよ
う⋮⋮⋮⋮⋮。
524
Mission106:誓い
ミオの故郷であるオルディノ村に到着した俺たち。ミオの幼馴染
である傭兵達からの挨拶を受けはしたが他は問題なく村民と交流を
持つことに成功。領主に連合からの親書を渡したら、その日の晩に
オーミさんの酒場にて大々的な歓迎会が開かれた。
酒場にはミオの幼馴染達や村民、更には複数のミオと交流がある傭
といいなが
兵団が参加していて、昼間に俺に返り討ちにされた幼馴染も参加し
た。
兄貴
で手を打って貰った。
という名前に変えると言ってい
豪雪の銀狼団
銀狼エース団
どうも懐かれてしまったようで、俺のことを
ら傭兵団の名前を
たが、流石に恥ずかしいので
そんな屈強な傭兵団達による大歓迎を受けたその日の晩、俺はミオ
と2人きりとなっていたが⋮⋮。
﹂
525
﹁にへぁ∼⋮⋮ご∼しゅじ∼んしゃみゃ∼♪﹂
﹁はいはい、俺はここだからしっかり歩こうな
﹁ご主人しゃまのい∼い匂い∼♪﹂
して絶賛苦戦中となっている。
う訳だが、酔っ払って甘えてくるようになった彼女に抱き着かれたり
だから今は歓迎会後にミオを彼女の自室に連れて行っているとい
でも飲み過ぎだ。
いらしいから、大量に飲んでもこの程度で済んだから良かったがそれ
まぁ特地のアルコール度数がエールは2%でワインは7%程と低
カが3杯⋮⋮合計で26杯とはっきり言えば飲み過ぎだ。
にて購入しておいたハイボールが9杯に取り寄せたであろうウォッ
確か飲んだ量はエールが8杯にワインが6杯、交流用に途中のPX
安心したのか、ミオは酒を飲み過ぎて完全に酔っ払っていた。
久々に故郷に帰ってきたことと、両親と幼馴染達と再会したことで
?
﹁ほら、もうすぐ部屋だからしっかり歩きなさい﹂
﹂
﹁だ∼いじょ∼びゅですよ∼♪ひょっと廊下が斜めになってりゅだけ
でひゅから∼♪﹂
﹁それ⋮⋮重症だからな
﹂
﹁にへへ∼♪くらえ∼♪ご主人しゃま甘え甘えこ∼げき∼♪﹂
﹁はいはい。甘えてもいいけど今はしっかり歩こうな
なかった。
﹂
酔いを和らげる為にキャンティーンの水を渡すが、彼女は受け取ら
﹁う∼ん⋮⋮お水ぅ∼⋮⋮飲むぅ﹂
﹁ほら、水だ﹂
た。
甘えてくる彼女を支えながら部屋に入り、彼女をベッドに座らせ
ゼット、机、棚、沢山の小物入れがあって女の子らしい部屋だ。
た。広さは普通だけどしっかり整理整頓されていて、ベッドとクロー
やがてオーミさんに教えて貰ったミオの部屋に到着し、扉を開け
⋮⋮完全に出来上がってるな⋮⋮。
﹁いや∼だ∼♪もっとモフモフしましゅ∼♪ヒック♪﹂
?
⋮⋮だが飲んだ方が少しは楽になるぞ
﹁お水ぅ⋮⋮いい⋮⋮⋮﹂
﹁いらないのか
?
⋮⋮まぁ構わないが⋮⋮﹂
くれるなら⋮⋮お水飲むぅ♪﹂
﹁俺が
くが、それでも彼女は水を飲もうとはしなかった。するとミオは頬を
膨らませながらキャンティーンを奪い取った。
526
?
﹁いらなぁい⋮⋮⋮あっ♪だったらぁ∼⋮⋮ご主人しゃまが飲ませて
?
そう言われて俺はキャンティーンの飲み口を彼女の口に持ってい
?
﹂
﹁ちが∼うよぉ⋮⋮こうでしゅよぉ∼﹂
﹁ミオ⋮⋮んっ⁉
ミオは俺の口に水を含ませると俺の首に腕を回して抱き着き、その
まま唇を重ねてきた。確かに飲ませることに同意はしたが、まさか口
移しだとは⋮⋮。
﹁んくっ⋮⋮んくっ⋮⋮ぷはぁ⋮⋮﹂
﹁ミ⋮⋮ミオ⋮⋮﹂
﹁にへぁ♪ご主人しゃまに∼♪飲ませてもらいまひた♪﹂
﹁の⋮飲ませて貰ったってな⋮⋮﹂
﹁ご主人しゃま∼♪もっひょ∼♪﹂
﹁分かった分かった⋮⋮⋮﹂
彼女に強請られ、いつもと違う彼女の雰囲気に負けた俺は素直に口
の中に水を含ませ、それをミオに飲ませていく。ミオは俺に飲まされ
る度に尻尾を振って耳もパタパタと動かす。更には飲む時に俺の後
頭部に腕を回して深くキスするように密着し、口の中の水を掻き出そ
うと何度か舌も当たってしまっている。
やがてキャンティーンの水が無くなったのだが、それでもミオはキ
スを止めようとはしない。だが苦しくなって来たのか、ようやく唇を
離したが、俺は彼女の顔から目が離せなかった。
﹁えへへ∼⋮⋮ご主人しゃまと∼⋮た∼くさん口付けしちゃいまひた
∼♪﹂
﹁ミオ⋮⋮﹂
﹁ご主人しゃま∼⋮⋮だ∼い好きでしゅ∼⋮⋮⋮すぅ⋮⋮すぅ⋮⋮﹂
なかなかいい雰囲気になっていたのだが、いきなりミオが俺に身体
を預けて、やがて彼女から寝息が聞こえて来た。そんな展開に俺は溜
息を吐きつつも軽く笑い、彼女の頬を優しく触ると起こさないように
ゆっくりと彼女をベッドに寝かせる。
527
?
﹁まったく⋮⋮⋮若干その気だったんだがな⋮⋮﹂
﹁すぅ⋮⋮⋮ご主人様ぁ⋮⋮すぅ⋮⋮﹂
﹁はぁ⋮⋮⋮おやすみ⋮⋮⋮ミオ⋮⋮﹂
彼女の安心しきった寝顔を見ながら俺はそっと彼女とキスをし、起
こさないように物音を立てないで部屋を後にした。
ミオは俺にとって最早護りたい存在だ。
彼女の為ならば俺はどんな強敵だって討ち倒し、必ず彼女の下に
帰って来てみせる。だから俺は改めて違うことにした。
必 ず 戦 い を 終 わ ら せ、彼 女 が 笑 っ て い ら れ る 世 界 を 作 る と
⋮⋮⋮⋮⋮。
528
Mission107:カラスとハンマー
タスクフォース ナイツの当面の方針はゾルザル軍の弱体化と情
報収集、オプリーチニナの殲滅だ。
オプリーチニナは各地で破壊工作は民間人の虐殺、更には国籍を
偽ったテロ行為を行なっていて、更に許せないのは民間人を人質に取
り、他の民間人に連合を攻撃させているということだ。
俺たちヴァローナ隊とハンマー隊は連絡を受け、この許されるべき
じゃない作戦を指揮した奴に報復を行なうべく、オプリーチニナが占
拠したという集落に向かった。 ﹁こちらヴァローナ1、各隊報告しろ﹂
︿こちらヴァローナ2、ホテル・ヴォルゴグラード準備よし﹀
︿こちらヴァローナ4、ホテル・クルスク準備よし﹀
﹂
森の真ん中に放り出して自分達は奪った食料と酒で馬鹿騒ぎときた
⋮⋮情けはかける必要なんてないからな
隣で知人を殺害されたという志乃のAK│12を握る手が強まっ
たから⋮⋮絶対に許さないわ﹂
﹁分かってるわ。それに仲良しだったワーウルフの子も奴等に殺され
?
529
﹁ホテル・モスクワも準備完了だ。エングランスキー、そっちはどうだ
﹂
ら奴等の馬鹿騒ぎがよく聞こえる。
?
﹁あぁ。既に連中は村人を皆殺しにしたらしい。しかも死体を丁寧に
﹁ねぇハニー、民間人は本当にいないの
﹂
会場は奴等の宴会場となっているようであり、扉に張り付いているか
制圧していて、残っているのは集会場らしき建物だ。どうやらこの集
展開を完了させた俺たち。既に集落周辺にいたオプリーチニナは
︿スレッジハンマーだ。こちらも展開完了﹀
?
た。奴等はオプリーチニナと名乗っているが、ツァーリ時代の同じ名
前を持つオプリーチニキよりも悪辣だ。だからここにいる奴等には
十分な苦しみを味あわせてから始末してやる。
全ての準備が完了したので再び無線にて行動開始を通達すると俺
と志乃が指揮するホテル・モスクワはガスマスクを装着し、グレネー
ドポーチからあるものを取り出し⋮⋮。
﹁投げろ﹂
合図で一斉に中に放り込んだ。使用したのはドブロフカ・ミュージ
アムにて発生したモスクワ劇場占拠事件にて使用された無力化ガス
手榴弾のKOLOKOL│1。
3│メチルフェンタニルをハロタンに溶解したものをエアロゾル
として噴射するものだが、無力化という割には劇場占拠事件の際には
最終的に129名の民間人がガスが原因で命を落としたという、あま
り使いたくはない手榴弾だ。
なお、俺の親父もかつてアルファの隊員として劇場占拠事件と20
04年のベスラン学校占拠事件解決に関わり、惨劇を目の当たりにし
て2004年末に除隊している。
人質がいたら通常のCSガスで突入するつもりだったけど、今回は
いないので遠慮は無用だ。
4つの隊から合計12個ものKOLOKOL│1を中に放り込み、
奴等が苦しみながら慌てている時に扉を蹴破って突入した。
中には無力化されて倒れているオプリーチニナ、まだ倒れてはいな
いがガスによって苦しむ奴もいるが容赦は無用だし、する気もさらさ
ら無い。俺たちはAK│12やM4A1を構え、トリガーを弾く。
撃ち出された5.45mm弾と5.56mm弾はしっかりとオプ
リーチニナの身体に撃ち込まれていき、突入から僅か数秒で片が付い
た。
﹁モスクワクリア﹂
530
﹁ヴォルゴグラードクリア﹂
﹁クルスククリア﹂
﹁スレッジハンマークリア﹂
﹁室 内 ク リ ア。完 全 に 制 圧 し た。そ れ ぞ れ 分 か れ て こ こ を 捜 索 す る
ぞ。作戦計画書や機密文書、クソッタレに送る報告書なんか全部だ。
ユーリとレスはカメラで指揮官の顔写真を撮影しておけ。貴族の息
子だったら潰す口実にもなるからな﹂
﹁了解です中尉﹂
﹁うん、分かった﹂
それぞれ指示を下すと一斉に作業に取り掛かる。目的自体はオプ
リーチニナの排除で間違いないが、同時に奴等が何を企てているか調
べるというのも任務の1つだ。
ボディカウントをしてから死んでいれば懐を捜索し、虫の息である
﹂
﹂
531
なら頭に弾を撃ち込んでから捜索する。やがて志乃が何かを見つけ
て俺に手渡してきた。
﹂
﹁アーロン、指揮官みたいな奴からこんなの見つけたわ﹂
﹁命令書か⋮⋮そいつはどうだった
﹂
?
﹁やっぱりこいつら、ただの偵察じゃないわ。近い内にイタリカへの
かったのにな⋮⋮命令書ってのは何なんだ
﹁そりゃなんとも⋮⋮クソッタレに味方しないで改心してりゃ死なな
に指揮官っていうのが最初の捕虜返還で送り返された奴みたいよ﹂
﹁頭に散弾を受けたみたいで、脳みそが完全に吹き飛んでたわ。それ
?
攻撃準備でここにいたようね。それで命令書に気になるものがあっ
たわ﹂
﹁気になるもの⋮⋮⋮これか
?
志乃に指摘され、文章を見ると俺も気になった。
﹁怪奇使い⋮⋮⋮ダー
?
﹁怪奇使いっていうのは確か⋮⋮ゴブリンやオークみたいな化け物を
飼い慣らす調教師だっていうのは聞いたことがあるけど、ダーって
﹂
﹁ちょっと待て⋮⋮⋮ダー⋮ダー⋮ダー⋮⋮⋮Нет︵ロシア語でい
いえ︶⋮⋮じゃないな⋮⋮﹂
ダーという言葉に無意識にНетと口にしてしまうが、すぐに仕切
り直してロシア語版特地害獣表をポーチから取り出して調べる。
この特地害獣表とはその名の通り特地に生息している害獣の写真
や 特 徴 な ど を 記 し た 一 覧 表 で あ り、今 の 段 階 で ゴ ブ リ ン や オ ー ク、
オーガー、翼龍など連合がかつて交戦して悉く撃破したモンスター達
が記載されている。
以前は炎龍も記載されていたが、討伐が完了したのでисключ
ениеという赤文字が斜めに記されている。
名前がダーだからロシア語ではДаとなるのでДの項目を調べる
が、Дの項目には該当なしとしか書かれていなかった。
﹂
﹁資料には記載が無いな⋮⋮まだ見られていない奴か⋮⋮それとも単
なるプロパガンダか⋮⋮﹂
﹁或いは帝国が極秘裏に開発した新兵器⋮⋮とか
﹁分からないが可能性は無いとはいえない。一先ずは基地に帰還して
?
ハニーと一緒に飲みたいし、みんな
ダーとかいうモンスターについて調べて見るとしよう。何か分かる
かもしれんしな﹂
﹂
﹁だったら今日は飲みに行こ‼
に聞けるから一石二鳥よ‼
﹁いい子だ﹂
?
準備を済ませたら集会場に焼夷手榴弾を放り込んで俺たちがいた痕
やがてオプリーチニナ全滅を確認させたユーリ達を纏め上げ、撤収
に目を細めながら満喫していた。
無邪気にそういうと志乃の頭を撫でてやり、彼女は気持ち良さそう
?
532
?
跡を抹消する。
外にある死体も銃撃ではなく喉をナイフで斬り裂いているから発
に全員が乗
見されたとしても連合かゾルザルに反旗を翻した一派、手練れの盗
ティーグルM
賊、更には対立と特定を困難にしてある。
待機していたGAZ│233114
り込み、任務を完了させた俺たちは次の任務とダーに関する情報収集
のためアルヌス基地に向かった⋮⋮⋮⋮⋮。
533
Mission108:パラパン
ミオの故郷を訪れて3日後、ある程度の調査を終わらせて俺たち
ゴーストチームはファムリームに到着した。
北方のウラ・
と云われている栄えた街らしく、丘の上から眺める限りで
オルディノ村から聞いた話によればファムリームは
ビアンカ
は周囲を川で囲われ、街中が常に雪で覆われている星型城塞都市だ。
街に入るには周囲6箇所の橋を渡る必要があるみたいで本来は北方
からの侵略に備えられた要塞らしい。
だが400年も前に北の諸国も帝国の領土に加わってからは城塞
ではなく天文学が非常に盛んな街として栄えるようになり、他にも繊
維産業や屈強な傭兵家業なども街の自慢らしい。
街並みもそうだが産業関係なども含めてオランダにあるナールデ
ン城塞都市みたいな感じだ。
星狼亭
という宿にメーアさんの紹介状を携えて
ン様に魅入られ、異世界から来た最初の使徒と⋮⋮﹂
﹁別に魅入られた訳ではないんだがな⋮⋮⋮それと襲下
﹂
﹁ご主人様の敬称です。使徒にはそれぞれの神に因んだ敬称が存在し
?
534
ある程度の観察を終わらせて南東門からRSOVで入り、ひとまず
街の中で有名な
向かった。
﹁ようこそ星狼亭へ﹂
﹂
出迎えてくれたのは初老の女将で、全体的に大人の落ち着きを身に
纏ったワーウルフだ。
それとも食事ですか
?
﹁本日は宿泊ですか
﹂
?
﹁えぇ。私達パラパン様の信者の間では有名ですよ。短期間でパラパ
﹁⋮⋮⋮俺を知ってるのか
﹁畏まりました、エース・クレイグ襲下﹂
﹁あぁ。7日ほど滞在させてもらう﹂
?
て、ご主人様は復讐神パラパンの亜神ということで襲下となります﹂
そういえばロゥリィは聖下と呼ばれてるな⋮⋮。
﹁エース襲下にご宿泊いただけることは星狼亭にとって最高の喜びで
﹂
ございます。ですが⋮⋮﹂
﹁どうした
﹁大変申し上げにくいのですが、いま空き部屋が3部屋しかないので
す﹂
﹁そうか⋮⋮だったらミオとシャムを個室にして俺たちは3人で寝泊
まり﹁ご主人様と相部屋で﹂ちょ⋮⋮ミオ⋮⋮﹂
俺が羽ペンを取ろうとした瞬間、一足先にミオが署名をする。そし
て空き部屋の欄に俺とミオとヴァルキルとラウル、個室にシャムの名
前を記してしまうが、よく見ると名簿にはロゥリィの名前やジゼルの
名前もあり、38年も前には皇太子時代のモルト前皇帝も宿泊してい
たようだ。
そんなことを考えていたらすっかり手続きが終わってしまい、ミオ
は部屋の鍵を手にして俺に抱きついて来た。
﹂
﹁そ れ で は ご 主 人 様、早 く 荷 物 を 置 い て パ ラ パ ン の 神 殿 に 向 か い ま
しょう♪﹂
﹁それと襲下﹂
﹁な⋮⋮⋮なんだ
﹂
みされても問題ありませんよ♪﹂
﹁なに言ってるんだあんたは⁉
?
楽しむってなんなのニャ
?
﹁ふふっ♪﹂
﹁ニャッ
﹂
﹁部屋の全てに防音魔法を掛けておりますから、今夜は存分にお楽し
?
なんともぶっ飛んだ発言をする女将に俺は顔を赤くしてしまうが、
535
?
﹁君は知らなくてもいいよシャム⋮⋮﹂
?
ミオは俺の左腕に抱きついて尻尾を振る。
だ が 決 ま っ た 以 上 は 仕 方 が な い の で 部 屋 に 荷 物 を 置 い て シ ョ ル
ダーホルスターにMk45A1AとM45A1、ヒップホルスターに
ピースメーカーを格納し、フィールドキャップを被って先に待ってい
たヴァルキル達と合流した。
街は雪が降っているにも関わらず賑わいを見せており、外見はナー
ルデンだったが中は何処か本当に異世界を思わせる煉瓦造りで、いま
いる場所はノルマン横丁という4つある横丁の1つだ。
重なった棍棒
や傭兵の事務所を兼任して
街に入った時に親切に街の観光案内図をくれて、ノルマン横丁には
憩いの場でもあるパブ
、貴重な書物やアルヌスから入荷したであ
豪快な小人
いる居酒屋
ダンとボル書店
など。
ろう週刊誌を扱っている
他にも様々な店が記されているが、少しだけ気になった店があった
ので神殿でパラパンとの謁見が終わったら観光をしてみるのも有り
536
だろう。
やがてパラパンの神殿に到着したが、正門の神官にしっかり止めら
れてしまう。
﹁待て、ここから先はパラパン様の信者以外の立ち入りは禁止だ﹂
﹂
﹁あぁ⋮⋮⋮パラパンに呼ばれて来たエース・クレイグだ。パラパン
からの招待状もここにある﹂
﹁エース⋮⋮クレイグ⋮⋮⋮し⋮失礼致しました‼
ら気にしない方がいいだろう。
神聖な場所に本棚を置くのはどうかと思うが、本人がいいというな
パラパンは本が好きらしい。
されたが、中には様々な書物を並べた本棚が整頓されていて、何でも
それから神官達の案内を受けて神殿の一番奥にある礼拝堂に案内
反応を見た後に広げるフリをしたら面白い位に引っかかった。
垂れた。因みに悪戯心が芽生えてしまい、広げて閉じてを繰り返して
パラパンからの招待状を神官に見せると、神官達は跪いてこうべを
?
謁見を望むものは
そこで暫く待たされると神官長らしき女性が大声で叫んだ。
﹂
﹁これより我等がパラパン様がご降臨なされる‼
最上の礼にて出迎えられよ‼
?
﹁エミリア⋮⋮﹂
﹁お⋮お姉ちゃん⋮⋮﹂
﹁師匠⋮⋮﹂
﹁ミィ⋮⋮ミィなのかニャ
﹁お袋⋮⋮﹂
かべるとそっと彼女の額に手を当てた。暫く見ていたが、ロゥリィの
地上におりたパラパンは辺りを見渡し、やがてミオを見て笑みを浮
うだ。
ん。ヴァルキルは師匠でシャムは友達、ラウルは母親に見えているよ
つまり俺にはエミリアに見えて、エミリアには亡くなったお姉さ
取って神が現れると聞いた事がある。
ロゥリィから神との対面は、自身が大事にしている人物の姿を読み
俺の目の前に現れたパラパンの姿がエミリアだったからだ。前に
﹂
流れ込んで来たが、俺は言葉を失った。
をする。すると神殿の天井が光りが伸びて来て、そこから暖かい気が
そういうとミオ達は跪いて祈りを捧げ、俺も踵を鳴らしてから敬礼
?
待て⁉
﹂
ラパンは強い光を発しながら見渡しの身体に入って行った。それか
らすぐミオは床に倒れてしまって、俺はミオを抱き寄せた。
537
?
言葉を思い出す。神々は人の身体に宿って謁見を行なうと⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⁉
?
パラパンの行動を察した俺はすぐに止めようとしたが一足遅く、パ
?
﹁ミオ⁉
しっかりしろミオ⁉
﹂
?
﹂
﹁むぎゅ⁉
﹂
抑えながら立ち上がるも足がもつれてしまい⋮⋮。
そして再びミオは立ち上がるが、予想以上に痛かったらしくて顔を
のミオならば絶対にあり得ないことだ。
メイド服のスカートを踏んでしまい、顔から床に再び倒れた。普段
ン⁉
﹁あぁ⋮⋮⋮初めましてね私の使徒⋮⋮私が復讐を司る神パラパ⋮⋮
ミオは立ち上がり、ゆっくりと俺に歩み寄るが⋮⋮。
な気配になっていた。
そしてなによりもミオの雰囲気が穏やかなものから、少しやんちゃ
燃えているような赤色に変化していた。
髪型は前から確かにロングヘアだが、髪の色が綺麗な黒から真っ赤に
ミオはゆっくりと立ち上がるが、異変はすぐに感じ取った。ミオの
﹁いたたたたっ⋮⋮やっぱり慣れないことはしないことですね⋮⋮﹂
?
なさそうな表情で話しかけて来た。
﹁きゅうぅうううう⋮⋮⋮﹂
?
﹁こうなる⋮⋮と
﹂
⋮⋮ご降臨される度に⋮⋮﹂
﹁襲下⋮⋮実は⋮その⋮⋮⋮パラパン様は素晴らしいお方なのですが
﹁え⋮⋮えぇっと⋮⋮⋮誰か説明してくれないか
﹂
その光景に俺たちは唖然となってしまうが、神官長が本気で申し訳
れ、最後には倒れてきた本棚の下敷きになってしまう。
そのまま本棚に頭をぶつけ、頭から崩れてきた本の山に巻き込ま
?
?
538
?
天然、ドジっ子
と決めた⋮⋮⋮⋮⋮。
俺の回答に神官長は頷いた。あまりにも衝撃的な事態に俺のパラ
パンの印象が
539
Mission109:獣人種の習慣
なんだか久々にアルヌスに帰って来た。
ナイツを中心に情報収集が行なわれ、おやっさんからの話によれば
ゾルザル軍が近い内に動き出そうとしてるらしい。だからアルヌス
駐屯地とイタリカ駐留隊、更には各地に調査に出ている部隊に可能な
限り早期帰還するようにという命令も発令された。
だけどエースのゴーストチームは帰って来れるかどうか微妙だ。
な ん で も ミ オ の 故 郷 が あ る 氷 雪 山 脈 の 更 に 先 に あ る フ ァ ム リ ー
ムっていう都市にいってるらしくって、車でも1週間は掛かる距離
だ。
ダークエルフの集落にいた俺たちはすぐにアルヌスに戻って、元か
らあるアルヌス街の顧問として今は谷と一緒に巡回に出ていた。
?
540
﹁ふぁああああ∼⋮⋮まだ眠いよ∼谷ぃ⋮⋮﹂
﹁そ う い う な っ て ⋮⋮ 街 の 巡 回 も 顧 問 で あ る 俺 達 の 大 事 な 仕 事 だ ろ
﹂
とは済ませてるらしい。
何処もかしこも熱々だよ⋮⋮。
?
⋮⋮⋮一応だけど今は戦時中だから
﹁そういえば例の案件はどうなったんだ
﹁あぁ⋮⋮アルヌス祭のことか
﹂
たいって言ってるし、特にオタク仲間のスティーブは既にミーアさん
ようかと言ってたし、栗林もロシア国籍を取得してアーロンと結婚し
本当に富田とボーゼスさんも前に飲んでたら近い内に婚約を決め
らしい。
が進展していて、前に帰国した時に両親への顔合わせも済ませている
眠い俺とは対照的に眠気を全く感じない谷。最近ではルフスと仲
﹁お前は相変わらずだな⋮⋮⋮﹂
﹁それはそうだけどなぁ⋮⋮暖かい布団が恋しいよ⋮⋮﹂
?
な⋮⋮すぐっていう開催は無理だろうな﹂
﹁そりゃそうか⋮⋮みんな残念がるだろうな﹂
﹂
﹁そういうなって⋮⋮⋮それに勝ってから祭りをした方が嬉しさと楽
﹂
﹂
しさも2倍になるってもん⋮⋮⋮ん
﹁どうした
﹁なんだこれ
﹁ドーラ達はどうしたんだ⁉
﹂
﹂
﹁営業時間とっくに始まってんだぞ⁉
﹁誰かみんなを呼んできてくれ‼
﹂
戻るが、数時間後には騒動が始まっていた⋮⋮。
毛みたいな感じだけど、特に気には止めずにアルヌス自治体事務所に
た。それも1個や2個じゃなく大量にだ。手に取って見ると何だか
巡回をしていると、足元にふわふわした何かがあることに気がつい
?
﹁ロゥリィ、レレイ﹂
﹁耀司ぃ﹂
儂等も女の宿舎に向かっとるとこじゃ﹂
?
﹁それはないだろうヤオ。それに話を聞く限り尻尾がある従業員みん
﹁ただ寝過ごしているだけじゃないのか
﹂
﹁分からぬのじゃ谷よ⋮⋮ミューティに呼ばれておるからといわれて
﹁教授、何かあったのですか
﹂
ているロゥリィ達を見つけた。
かうが、途中でカトー教授の手を引っ張りながら同じく宿舎に向かっ
ただ事じゃ無いと悟った俺達は彼女達が暮らしている宿舎へと向
る筈なのに誰も来ず、アルヌス街各所の店は大混乱だ。
ら来ているメイド達や出稼ぎでやって来た獣人の子達が出勤してい
仕事の時間になるとパニックが起きていた。本来ならイタリカか
?
?
?
?
541
?
?
なが来てないっていうし、普通なら考えられないことだよ﹂
ヤオの言葉に谷はすぐ返した。確かに1人や2人程度ならさほど
気には止めなかっただろうけど、流石に全員がまだ来てないというの
はおかしすぎる。
そんな話をしてると女子宿舎に到着し、ロゥリィ達と一緒に中に入
﹂
もう仕事の時間だぞ
﹂
るとみんなベッドの掛け布団を被って丸まっていた。
﹁なんだ
﹁どうしたんだみんな
﹁お師匠、様子がおかしい﹂
﹂
てある直通電話で状況の報告と衛生隊の出動を要請。
考えるよりも早く谷にみんなを外に出させて、俺は事務所に設置し
けていた。
だが今の彼女達の尻尾は綺麗なものではなく、毛並みは乱れて、抜
けたりしたら恥とされている。
驚愕した。彼女達獣人種は自らの尻尾を誇りとしており、汚れたり抜
そういうとみんなが一斉にゆっくりと掛け布団を巡ったが、俺達は
﹁けど⋮⋮これじゃ恥ずかしくて外に出れないニャ⋮⋮﹂
⋮⋮﹂
﹁び⋮⋮病気かどうか分からないんです伊丹のダンナ⋮⋮谷のアニキ
した。
リラの同僚であるキツネ耳のフクスが掛け布団に隠れながら話し出
明らかに様子がおかしかった宿舎で、ようやく食堂で働いているデ
る。なんだか動物の毛によく似た感触をしている。
カトー教授が床に散らばっている毛を拾い上げ、俺もそれを確認す
﹁うむ⋮⋮何ぞ病気か⋮⋮⋮な⋮なんの毛じゃ
?
暫くしてからアルヌス街は封鎖され、駐屯地から化学防護隊が到
542
?
?
?
着。俺達もガスマスクを装着して指揮を執っていた。
﹁異世界だということを忘れるな。もしかしたら未知の病原菌の可能
性があるからな﹂
﹁黒川、みんなを見てやってくれ。それから化学防護班は抜け落ちた
毛をサンプルとして回収。分析に回してくれ﹂
﹁了解﹂
痒みは
﹂
同行している黒川にみんなを見てあげるよう指示し、すぐにフクス
の診察が開始された。
﹁フクスさん。尻尾には今も痛みはある
﹂
?
﹁どうだ
﹂
﹁抜けてない⋮⋮みんな尻尾の毛だけ抜けちゃったの⋮⋮﹂
﹁髪の毛は抜けたりしてないかしら
﹁痛くはない⋮⋮⋮けど痒みが少し⋮⋮﹂
?
たようなことが⋮⋮﹂
﹂
﹁谷殿、他を調べて来た﹂
﹁あぁ、どうだった
うな表情でこちらを見ていた。
﹂
﹁伊丹のダンナぁ⋮﹂
﹁メイアちゃん
﹂
ここだけのようだ。すると同じ感染者であるメイアちゃんが不安そ
谷はグラビに辺りを調べさせていたけど、どうやら本当に感染者は
以外に見当たらなかった﹂
﹁周りの獣人種を調べて来たんだが、ウォルフをはじめ感染者はここ
?
﹁もし病気だったら私達、街を追い出されちゃうニャ
﹁大丈夫だよ﹂
?
?
543
?
﹁体調には何の変化も見当たらないようです。しかし前に何処かで似
?
﹁嫌ニャ⋮⋮みんなと離れ離れになるなんて嫌ニャ⋮⋮﹂
泣きながら街を追い出されたくないと願うメイアちゃん。たとえ
本当に何かの感染症だったとしても、彼女達を放り出したりなんてし
ないし、下手をしたら更に感染者が拡大するかもしれない。
俺は彼女の頭を撫でながら安心させることにした。
﹁大丈夫だよメイアちゃん。俺達は困っている人達を見捨てはしない
し、黒川達がなんとかしてくれるよ﹂
﹁あぁ。それに俺達は病気だっていう理由だけで誰かを追い出したり
はしないさ﹂
﹂
﹁谷のいうとおりだよ。だから尻尾に何かしてたか教えてくれないか
な
﹁何か⋮⋮⋮でも手入れするときは別の水石鹸を使ってるくらいしか
﹂
してないニャ﹂
﹁水石鹸
まった。
﹁これは⋮⋮疥癬
﹂
いるっていうシャンプーを見せてもらい、目的のものを見つけてし
そしてシャンプーという単語を聞いた瞬間、俺達は彼女達が使って
い。
回の現象を見た記憶があるんだけど、なんだったのかが思い出せな
谷も何か悟ったみたいだ。実をいえば黒川が言ったように俺も今
﹁これは⋮⋮⋮もしかして⋮⋮﹂
﹁あぁ、シャンプーのことか⋮⋮⋮シャンプー⋮⋮﹂
?
﹂
?
ないわ⋮⋮﹂
﹁そうなのよグラビ⋮⋮ということはダニに近い何かとしか考えられ
ダニなんて見つからなかったぞ
﹁疥癬って⋮⋮あのダニが犬につく奴か⋮⋮だが彼女達の身体からは
?
544
?
﹂
﹂
﹁ええっと⋮⋮⋮ちょっといいかな2人共⋮⋮﹂
﹁隊長
﹁伊丹殿
﹂
﹁いや⋮⋮もしかして⋮⋮ただ単にこれが尻尾の毛に合わなかっただ
けじゃ⋮⋮ないかな
は普通のシャンプーを使ってるみたいだ。
その事実に唖然としながら俺達は⋮⋮。
?
﹄
?
﹁⋮⋮⋮この状況⋮⋮代表して口にしてもよろしいでしょうか
﹁⋮⋮⋮あぁ⋮⋮⋮﹂
‼
﹁俺も⋮⋮叫びたいな⋮⋮﹂
﹁谷殿に同じく⋮⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮紛らわしいわ‼
﹂
しかも一応は症状が出てない人達にも確認してみたけど、その人達
しい。
プーらしく、スーっとする感覚が癖になって尻尾用として使ってるら
ニックシャンプーを見せた。彼女達によると最近販売されたシャン
俺 は 彼 女 達 が 使 っ て い る と い う シ ャ ン プ ー ⋮⋮⋮ 強 刺 激 性 の ト
?
⋮⋮⋮ように見えるが⋮⋮⋮。
て、珍騒動は終わりを見せた⋮⋮⋮⋮⋮
それから販売されていたPXにてトニックシャンプーは返品され
を使って手入れをさせると、数日後には尻尾は元通りになった。
出してから警戒態勢は解除し、彼女達には普通のシャンプーと育毛剤
あまりにも阿呆らしい原因に全員が叫んだ。その後に報告書を提
?
545
?
?
﹁うぇええええん‼
﹂
⁉
﹁⋮⋮⋮誰か助けて⋮⋮⋮﹂
?
今度は生え過ぎたニャぁあああ‼
⁉
?
?
今度は育毛剤が効き過ぎて、彼女達の尻尾の毛が生え過ぎたという
のは別の話⋮⋮⋮⋮⋮。
546
?
番外編:2重のサプライズ
アメリカ海兵隊のアルヌス派遣群で初めて一部の部隊の交代が行
なわれた。
MV│22Bを運用している第31海兵遠征群第262海兵中型
ティルトローター中隊が第265中隊と正式に交代し、作戦に参加し
た隊員には特別休暇として1ヶ月が与えられ、オスプレイの機長をし
ているアラステア・ケンドリック少尉も休暇を利用してルイジアナ州
ニューオリンズに来ていた。
s Basketball T
理由は彼の大学生の息子が全米大学体育協会男子バスケットボー
ルトーナメント︵NCAA Men
ournament︶でケンタッキー大学チームのスモールフォワー
ドとして参加しているからだ。
更には妻と娘もスタジアムに観戦しに来ており、スタジアムは熱気
に満ち溢れていた。
だがアラステア少尉は家族に帰ることを秘密にしていた。
最終戦で優勝を果たしたケンタッキー大学の表彰式で彼が息子に
サプライズでメダルを掛けて上げたいから黙っているのだ。これを
知っているのはメダルを1人ずつ渡すことになっているNCAA会
長と司会者、一部の大会関係者のみだ。
アラステア少尉は入り口付近で身を隠し、合図を待っていた。
﹁続きまして、優勝したケンタッキー大学選手達にNCAA会長から
優勝メダルが授与されます﹂
順番は予め息子が最後になるように細工されている。メダルの数
が足りなくなり、アラステアがメダルを持って行くことというのがサ
プライズだ。彼はすぐに息子に駆け寄って抱き締めてやりたい衝動
があるが、グッと我慢している。
そしてNCAA会長が次々と息子のチームメイトにメダルを首に
547
'
掛けていき、息子の前でメダルが足りなくなったという芝居をしてく
れた。
そ の ア ク シ デ ン ト に 息 子 や 特 別 に 近 く で 表 彰 式 を 見 て い た 家 族、
チームメイトや会場にいる観客達も唖然となるが、ここで合図のアナ
ウンスが流れた。
﹁どうやらメダルが1つ足りなくなったようです。しかし皆座ご安心
下さい。優勝したスモールフォワードのロイナー選手にもしっかり
メダルが授与されます。最後はNCAA会長に代わり、スペシャルゲ
ストに授与して頂きましょう﹂
合図が流れた。アラステアは表彰台に向かって歩き出し、角度的に
家族からも死角となっている。
﹂
ゆっくりと息子に渡すメダルを手にしながら歩いていき、そして
パパ‼
と娘も彼をしっかり抱いた。そしてアラステアも家族をしっかりと
抱き締め、再会を心から感じた。
﹁ご来場の皆様、ロイナー選手へメダルを授与するのは日本に出現し
たゲートの先の特別地域に派遣されていました海兵隊少尉でロイ
ナー選手の父親、アラステア・ケンドリックさんです﹂
ア ナ ウ ン ス で 観 客 達 も 盛 大 な 拍 手 で 家 族 の 再 会 を 祝 福。更 に は
チームメイトや大会関係者、準優勝チームもその再会を心から祝福し
た。
﹁優勝⋮⋮⋮おめでとう﹂
548
⋮⋮。
﹁パパ⁉
?
アラステアの存在に気が付いた息子が泣きながら彼に抱きつき、妻
?
感動の涙を堪え、息子の首に優勝メダルを掛けてやった。
や
などと云われ、国中がこれを讃えた。
このサプライズは全米中で公表され、 2重の表彰
優勝プレゼント
最高の
それから特地から帰って来た軍人達は友達の為に戦ったヒーロー
して讃えられるようになり、彼等に憧れて軍を目指す若者が後を絶た
なかった。
彼等は再び特地に向かうことになる。だが守るべきものがあるか
ら彼等は戦える。アラステアもまたそんな愛国心に溢れる兵士の1
人だ⋮⋮⋮⋮⋮。
549
Mission110:使徒
強 い 希 望 だ っ た 復 讐 神 パ ラ パ ン と の 対 面 を 遂 に 果 た し た 俺 た ち。
その精神体がミオに宿り、更にはパラパン自身がかなりの天然かつド
ジっ子だというのには驚かされたが当初の目的は達した。
んぐっ‼
﹂
そして今は場所を移してパラパンの希望で神殿のテラス席にて食
はふっ‼
事をしてるんだが⋮⋮。
﹁むぐむぐ‼
?
﹁我ながらそう思うよ⋮⋮⋮って動くな﹂
ニャ♪﹂
﹁ニ ャ ン だ か エ ー ス っ て パ ラ パ ン 様 を 前 に し た ら お 母 さ ん み た い だ
なに汚して⋮⋮拭き取ってやるから動くな﹂
﹁そんなに急いで食べたら喉に詰まらす⋮⋮あぁあぁ⋮⋮口元をこん
憧れらしい。
れるというのだから女性にとって神に身体を貸すというのは一種の
しかも身長が伸びたり筋力が付いたり、更にはスタイル抜群にもな
なく栄養に変えられて身体を貸した当人が太ることはない。
欲を大満喫するというのは聞いたことがあるし、食べた分は太ること
確か神には食欲というものがなく、偶に誰かの身体に入ってその食
次々と運んでくる。
く。彼女の傍には重ねられた皿が積み上がり、信徒達も新しい料理を
ミオの身体を借りているパラパンは次から次へと料理を食べてい
﹁普段のミオからは想像がつかねぇ⋮⋮⋮﹂
﹁ニャンとも凄い光景だニャ⋮⋮﹂
﹁あっ⋮⋮あぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮凄い食欲だな⋮⋮﹂
?
シャムの言葉に俺はため息を吐きつつもパラパンの口元を拭いて
550
?
やる。すると満足したのかパラパンはワインをボトルで飲み干して
やっぱり食欲っていいものね♪﹂
ようやく一息ついた。
﹁ぷはぁ‼
﹂
﹁⋮⋮始めは神秘的だと思ってた自分に見せてやりたいよ⋮⋮パラパ
ンの素がこんなだなんてな⋮⋮﹂
﹁だって堅苦しいのは好きじゃない⋮⋮⋮ぎゃっ⁉
天然でドジっ子、更には開放的だなんて神の威厳が全く感じられな
しまう。
椅子にもたれ掛かると、パラパンはそのまま後ろにひっくり返って
?
﹂
い。だが精神体がミオの身体を借りた時点でパラパンは神だという
のは十分に理解できた。
﹁それで⋮⋮パラパン﹂
﹂
﹁いたたたっ⋮⋮⋮どうかした
﹁本題に入ってもいいか
?
私に返したいのよね
﹂
﹁いいわよ⋮⋮⋮確かあなた達がここに来たのは亜神としての能力を
?
﹂
﹁あぁ、そうだ。能力を返したい、すぐに返したい、今すぐ返したい‼
?
﹁す⋮⋮すまん⋮⋮﹂
﹂
﹁けど亜神だなんてそう簡単になれるものじゃないし、能力を返すっ
てことは寿命が尽きれば死んじゃうわよ
﹁俺は普通の人間として人生を全うしたいんだ﹂
?
俺は神の力になんて何の興味もない。そう伝えると何だか寂しそ
﹂
うな表情をしながら俺を見た。
﹁⋮⋮⋮どうしても嫌なの
?
551
?
﹁エース⋮⋮ひとまず落ち着け﹂
?
﹂
﹁あぁ⋮⋮だが1つ聞きたい。何で異世界から来た信徒でもない俺を
使徒にしたんだ
﹁⋮⋮⋮理由は3つあるわ﹂
﹁聞かせてくれ⋮⋮すまないがヴァルキル達は席を外してくれ﹂
雰囲気的に俺とパラパンだけになった方がいいと察し、ヴァルキル
はみんなを連れて神殿の中へと戻っていく。そして信徒も退場して
いったのを確認したら俺は彼女との話を聞き始める。
先程の開放的な雰囲気ではなく、神妙な表情でようやく神らしい表
情だ。
﹁あなたを使徒にした理由だけど、本来なら使徒になるには私を含め
た神のいずれかを信仰しなきゃいけないわ﹂
﹁だが俺は信仰していない以前にこの世界の住人ですらない﹂
純粋な復讐心
﹂
というのが必要なのよ﹂
﹁本当だったらね⋮⋮⋮だけど12使徒の1人である襲下⋮⋮つまり
私の使徒になるには別で
﹁⋮⋮⋮言っている意味が分からない⋮⋮﹂
﹁あなた⋮⋮向こうで帝国に奥さんを殺されてるわね
﹁⋮⋮あぁ﹂
た際にあなたは復讐を成し遂げられないことよりも仲間やこの子の
﹁そして決定打になったのがジゼルとの戦いよ。ジゼルに殺されかけ
いうことか⋮⋮。
つまりピニャに謝り、彼女と交流を持ち始めた時期から見ていたと
た自身が気が付いた。その時点で使徒の候補にしたわ﹂
あなたは色々な人と交流を持ち、あなたの捻じ曲がった復讐心にあな
﹁その時点ではまだあなたは使徒になる資格はなかったのよ。だけど
?
﹂
ことを思った。自らの復讐よりも仲間のことを想う⋮⋮⋮﹂
﹁それが⋮⋮⋮純粋な復讐心
﹁そう⋮⋮次に2つめだけど⋮⋮⋮頼まれたのよ﹂
?
552
?
﹁頼まれたって⋮⋮⋮誰にだ
﹂
関係があるんだ
神々に通じてる知り合いはロゥリィか
エミリアも俺と同じ異世界の人間だし、何よりも
﹁あぁ、ハーディ本人から聞いたからな。だがそれとエミリアに何の
ね
下に向かい、それ以外は冥神ハーディの下へ向かう。これは分かるわ
﹁死んだ者の魂は昇天し、勇敢で潔く戦った者の魂は戦神エムロイの
の意味を問う前にパラパンは話を進める。
エミリアに頼まれたと聞かされ、俺は驚きを隠せなかった。だがそ
﹁あなたの殺された奥さん﹂
ルフス位しかいないがな⋮⋮﹂
?
﹂
私 に 縛 ら れ な い で、自 分 の 幸 せ を 彼 女 と 掴 ん で 欲 し い
⋮⋮そう言ってたわ﹂
﹁⋮⋮⋮
うことか⋮⋮⋮⋮彼女は⋮⋮何と言っていた
﹁⋮⋮⋮俺の心を覗いている内に⋮⋮あんたはエミリアと会ったとい
けている。霊体としてね﹂
災いから護る守護霊⋮⋮⋮⋮つまりあなたの心の中に彼女は生き続
そして自身よりも他者の幸福を願い、その者の心に留まってあらゆる
を固着させて彷徨う生きる屍となって無作為に生きる者全てを襲う。
﹁だけどいくつか例外がある。余程の未練や怨念を持ち、この世に魂
こっちに来る前に死んだんだ﹂
?
そういいながら彼女は立ち上がり、俺の傍にやってくると⋮⋮。
﹁⋮⋮それで⋮⋮3つめなんだけど⋮⋮﹂
聞く。
れている優しさに目頭が熱くなったが、グッと堪えてパラパンの話を
人生を全うして欲しいというもの⋮⋮死んでも俺のことを案じてく
パラパンから伝えられるエミリアの願い。それはミオとの幸せな
?
553
?
﹂
﹁⋮⋮⋮あなたに惚れちゃったから♪﹂
﹁はぁ⁉
﹁ちょっ⁉
﹂
?
﹂
?
て将来は私のお嫁さんになって貰いたかったんだよ♪﹂
そこは婿だろ⁉
﹁つ⋮⋮つまり亜神は完全な好みでさっきの2つは全否定⁉
誰が嫁だ⁉
?
それに
みせる闇に惚れない女なんていないわよ♪だから亜神になって貰っ
﹁だってあなたカッコいいんだもん♪強くて優しくて男前だし、時々
パラパン⁉
まりにもいきなりだったので思考が追いついていなかった。
いきなり意味不明な言葉を口にし、俺の顔をミオの胸に埋める。あ
?
らし⋮⋮⋮いたっ⁉
﹂
﹁ぶはっ⁉
いたたたたた‼
⁉
﹀
﹂
それになに人
人の頭の中で暴れないでよ⁉
?
これは私の体です‼
ミオ・ルカ・ヴォートス⁉
﹁ちょっ⁉
?
﹂
︿誰の人の頭の中でしょうか⁉
?
?
の彼氏に手を出そうとしてるのですか⁉
?
は頭を抱えながら悶絶している。
﹀
?
﹂
このバカラパン‼
?
だから頭の中で噛まないで⁉
﹀
?
︿さっさと身体を返しなさい‼
﹁痛い痛い⁉
‼
?
分かったから噛むのをやめてぇ‼
⁉
?
︿ガルルルルルッ‼
﹁分かった分かった‼
?
?
﹂
何とも理解不能な状況に俺は唖然としてしまうが、やがてミオの身
?
だ。どうやら怒ったミオが頭の中で暴れているようであり、パラパラ
いきなりミオの言葉が頭の中に響き出すが、何だか怒ってるよう
?
?
?
﹁そんなことはいいじゃない♪このまま力を返さないで私と一緒に暮
?
?
554
?
?
?
体は大人しくなっていき、髪も元の黒に戻り、顔立ちも元のミオの穏
やかな顔に戻っていった。
だが何だかミオの背後にドス黒い靄が見えているように感じ、その
﹂
困惑するような状況に冷や汗が溢れ出てしまっていた。
﹁⋮⋮﹂
﹁ミ⋮⋮ミオ
﹂
﹁⋮⋮ご主人様﹂
﹁は⋮はい⁉
ミオはただいつも通りご主人様と呼んだのだが、その真っ黒な気迫
に思わず直立不動となってしまう。
﹁私という彼女がいるのに⋮⋮⋮な∼に他の女性に誑かされてるので
?
しょうか⋮⋮⋮それも外見は私ですから満更でもなかったようでし
たが⋮⋮⋮﹂
﹁あっ⋮⋮⋮いやぁ⋮⋮⋮その⋮⋮だな⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁ご主人様の⋮⋮ご主人様の⋮⋮⋮⋮ばかぁああああああああっ‼
‼
﹂
﹁べふっ⁉
‼
?
⋮⋮﹂
﹁な ⋮⋮ な ん だ か ⋮⋮⋮ 俺 に 災 難 ば か り の よ う な ⋮⋮⋮⋮ が く っ
た。
そして怒り心頭のミオは扉を激しく開けて外に出ていってしまっ
俺は柱に叩きつけられてしまった。
いた俺の頬にミオの渾身の平手打ちが炸裂し、それに吹き飛ばされた
識にいつもと違うミオと思い込んでしまっていた。もどかしくして
確かに外見がミオの身体だったから、顔を埋められていた時に無意
?
555
?
?
‼
﹁ふんっ‼
?
?
?
当初の亜神の力の返還は叶わなかったし、パラパラには惚れられて
しまうし、ミオには平手打ちをされてしまう。
なに1ついいことはないどころか災難ばかりの状況に俺は意識を
手放してしまった⋮⋮⋮⋮⋮。
556
Mission111:新たな闇
アルヌスに帰還して暫く、アルヌス街にて珍騒動があったが今の段
階ではアルヌスそのものに変わったことは見当たらない。
だがCIAチームによれば最近になってゾルザル軍の動きが活発
化していて、イタリカ付近に度々偵察と思わしき兵士が目撃されてい
る。間違いなく敵は大規模攻勢に転じると踏んだ狭間将軍は待機命
令を発令、厳戒態勢にて迎え撃つ用意をしていくよう厳命した。
俺もファントム隊を一時的に解散させ、盲腸で入院したという准尉
に代わって再び高雄隊の指揮を一時的に任されることとなり、今は情
報を集めるべくM60A3TTSで任務に就いていた。
﹁あれか⋮⋮報告にあった部隊ってのは⋮⋮﹂
﹁えぇ。数は300から400ってとこ⋮⋮大隊規模の戦力です﹂
557
丘に身を隠し、敵状を視察する俺と林。丘を下った先にいる連中は
間違いなくゾルザル率いる賊軍であり、正統政府の兵士だったら識別
で青色の鎧を身につけているはずだ。だが下にいる奴等は従来の赤
色を着用していて、檻の中には正統政府軍では使用されなくなったゴ
ブリンやオークが確認される。
敵わないってこと
反乱軍だとしても規律はしっかりしており、統制も取れていること
から敵の主力と思われる。
﹁間違いなく攻勢の準備段階ってとこだな﹂
﹁し か し 敵 さ ん は 学 習 能 力 は な い ん で し ょ う か
⋮⋮﹂
りかねないです﹂
﹁個人的には後者ですね⋮⋮陰気な政治将校とその親玉なら十分にや
まま闘わせてるかのどっちかだろう﹂
あるとしたら強制的にかき集めたか、俺たちのことを知らせず無知の
﹁さぁな⋮⋮危険を承知で志願してきた愛国者⋮⋮なわけはないな。
?
﹁同意見だ⋮⋮⋮写真は撮ってるか
︿了解です大尉﹀
﹂
﹂
﹂
﹁んじゃ⋮⋮さっさと帰ってメシに⋮⋮⋮ん
﹁どうした
﹁大尉、あれは
?
﹁⋮⋮民間人か
﹂
に映し出された光景に驚いてしまう。
林が何かに気がつき、俺もその方角に双眼鏡を向ける。するとそこ
﹂
﹁あぁ⋮⋮袁、これから戻る。見つからない内にさっさとズラかるぞ﹂
﹁撮影完了です﹂
ター音が小さくなりながら俺も双眼鏡で監視を続ける。
カメラに偽装を施しているが、やはりカメラは日本製に限る。シャッ
敵部隊の写真を撮らせる。情報を集めるという名目で私物の一眼
﹁ばっちり。けどさすが日本製だ⋮⋮⋮軽いしブレが全くない﹂
?
﹂
?
う奴だ﹂
?
そうな表情で後ろにいた部下から袋を受け取って古村崎に渡す。
も文字は読めなかった。だが中身を確認したオプリーチニナは満足
をオプリーチニナに渡した。300mほど離れているから双眼鏡で
双眼鏡を覗いていると古村崎は封筒から紙か何かを取り出し、それ
﹁知らん⋮⋮⋮手に持ってるのは⋮⋮⋮あの野朗⋮﹂
﹁いったい何をしてんてしょう
﹂
﹁あぁ。前に俺たちを中国軍とかほざいてた奴だ。確か古村崎とかい
﹁知ってる奴ですか
﹁それはいい⋮⋮⋮だが一番の問題はあいつだ﹂
ここは立ち入り禁止エリアだった筈だが⋮⋮﹂
﹁しかもこっち側じゃない。間違いなくジャーナリストですよ。確か
?
558
?
?
﹂
袋は何か重みがあるようで、古村崎はそれの中身を見て取り出し
た。
﹁あれは⋮⋮金貨か
﹂
﹁批判的ジャーナリストにオプリーチニナに変な紙に金貨⋮⋮⋮間違
いないな﹂
﹁な⋮⋮何が間違いないんで
た。
﹂
?
﹁長居は無用だ。さっさとズラかるぞ﹂
﹁賛成です。見つからな﹁そこで何をしている‼
﹂くそっ⁉
を2枚使用。同じ写真を撮影させて片方は俺が持っておくことにし
証拠として林に取引現場を撮影させ、万一に備えてメモリーチップ
報だろうが、敵に売り渡しているということには変わりようがない。
させる。恐らくは外側から見ただけの誰もが簡単にわかるような情
奴の一部始終の行動でオプリーチニナに情報を売っていると推測
だ﹂
﹁あ の 野 朗 ⋮⋮⋮ 連 合 か 俺 た ち の 世 界 の 情 報 を 敵 に 流 し て や が る ん
﹁まさか⋮⋮﹂
した⋮⋮⋮古村崎がやってるのは1つしかない﹂
隊のオプリーチニナと接触して笑顔で対談しながら紙と金貨を交換
﹁そんな奴が立ち入り禁止エリアに入ってて、しかも主力らしき敵部
﹁⋮⋮⋮⋮聞いてるだけでもロクな奴じゃなさそうですね﹂
らなかったら手のひら返してくるようなクズだ﹂
倒すマスゴミだ。しかも人種差別なんか平気でするし、思い通りにな
﹁林⋮⋮あの古村崎ってのは軍事に関して全くの無知なくせに威張り
?
は出来たがその銃声で他の敵に気付かれてしまった。
まったようだ。見つかったのでT77の照準を合わせて発砲。排除
さっさと移動しようとした矢先、運悪く巡回中の敵に見つかってし
?
559
?
よ﹀
﹂
﹂
敵が来る‼
これより脱出する‼
それより戦車に戻るぞ‼
﹁邪 魔 な 敵 だ け を 始 末 し ろ ‼
﹂
﹁分かってます‼
﹂
?
た。
﹁伯‼
﹂
残弾はあるか⁉
﹁残り2本‼
﹂
﹁こっちは拳銃で2本だけだ‼
﹂
﹂
﹂
後ろに下がりながら撃ちまくれ‼
﹁これを撃ったら走った方がいいのでは⁉
﹁賛成だ‼
?
?
?
?
﹁来やがれクソった⋮⋮⋮大尉‼
?
ている。
わせるが先に矢を放たれてしまい、数本がこっちにまっすぐ飛んで来
と、そこにはクロスボウを構えた数人の敵兵がいた。素早く照準を合
俺がマガジンを交換した直後、林が何かを見つけたので振り向く
?
﹂
ルスターからT75K1を抜き取り、素早く照準すると敵に発砲し
ある程度を排除しながら障害物を利用して移動。弾が切れたらホ
ガジンを交換している間に伯もT77で仕掛ける。
と敵がこちらに接近してくる。先頭にいた敵兵をT77で排除し、マ
運が悪かったのか敵は中隊規模で近くを移動していたようで、次々
どんどんきやがる⁉
くそっ⁉
?
?
戦車に飛び乗ればこっちの勝ちだ‼
︿こちらオーバーロード。了解だ高雄01。直ちに現区域より離脱せ
敵に気付かれた‼
?
﹁気付かれた‼
⋮⋮右に2人‼
﹁発砲したんだから当然だ‼
﹂
﹁了解‼
﹁高 雄 0 1 か ら 司 令 部 ‼
﹂
?
?
?
?
?
560
?
?
?
?
?
?
?
このまま身体に矢が突き刺さるのを覚悟するが、俺の前に誰かが割
﹂
り込んで来た。だがこんな状況で誰かはすぐ理解した。
林‼
﹁ぐっ⋮⋮﹂
﹁林⁉
﹂
﹁大尉‼
﹁袁⁉
﹂
んだ瞬間、いきなり敵がまとめて吹っ飛んだ。
このままでは追いつかれてしまう状況で、最後の9mm弾を撃ち込
かって来ている。
対して敵は好機と悟ったようであり、声をあげながらこちらに向
いように手首を握ると袁が待つM60A3TTSに向かう。
T75K1を発砲しながら動かなくなった林を肩に掴ませ、落ちな
た。
ロスボウを構えていた敵兵を薙ぎ払う。そのままガクリと膝をつい
身体に矢を受けながらも林はT77をフルオートで撃ちまくり、ク
割り込んで来たのは伯だ。
?
がら車内インカムで叫んだ。
全速力で離脱しろ‼
林が危ない‼
﹂
﹂
﹂
?
﹁呉‼
﹂
しっかりしろ林‼
﹁了解です‼
﹁林‼
﹁た⋮⋮大尉⋮⋮⋮ご無事⋮⋮で
?
?
?
?
上げて車内に引きずり込む。俺も急いで飛び乗り、林の傷口を抑えな
すぐそばに停車したら袁が飛び出して来て林の両脇を掴んで引き
mm弾を受けた敵兵は身体を粉々にされて吹き飛ばされる。
だ。恐らく袁がM2重機関銃をそうさしているようであり、12.7
木々を踏み倒しながら現れたのは呉と袁が乗るM60A3TTS
?
561
?
?
?
?
袁は敵を近づかせるな‼
﹂
﹂
林軍曹が攻撃を受けて重傷だ‼
銃座につきます‼
﹁無茶しやがって馬鹿野郎が⁉
﹁分かってます‼
﹂
﹁高雄01からオーバーロード‼
QRFを要請する‼
?
まわりの虫ケラを排除してくれ‼
﹂
?
助けが来たぞ‼
﹂
で外の奴らはQRFに任せ、重傷の林に叫んだ。
﹁林‼
﹁た⋮⋮大尉⋮⋮﹂
こんなとこで死ぬな‼
﹂
来するUH│1が確認された。外から聞こえてくる帝国兵の断末魔
開いたハッチから見えたのは74式小隊機関銃を発砲しながら飛
︿こちらブローラー2了解。先に周囲を制圧する﹀
﹁ブローラー2‼
︿高雄01、こちらブローラー2。目標エリアに到達した﹀
で到着する﹀
︿こちらオーバーロード。既にQRFがそちらに急行中だ。間も無く
?
?
?
﹁お前はヤワな身体をしてないんだ‼
﹂
?
?
本国に帰ったらたらふく食わせてやる‼
﹁林⋮⋮⋮林⁉
﹂
だから死ぬな‼
?
こんな時にふざけるんじゃねぇ⁉
﹂
日本食
?
﹁林⁉
を一緒に食うんだろ⁉
おい嘘だろ林⁉
林は俺の肩に手を乗せ、目を閉じたらその手はゆっくりと落ちた。
?
どれだけ揺すっても林の身体は動くことはなく、林の死に俺は考え
?
?
?
562
?
?
?
?
﹁大尉⋮⋮⋮ま⋮⋮また⋮⋮﹂
﹁またなんだ⁉
﹁あぁ‼
﹂
?
﹁り⋮⋮鈴⋮⋮⋮姉さんの⋮メシ⋮⋮⋮い⋮⋮一緒⋮に⋮⋮⋮﹂
?
?
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
?
られなくなってしまった。
駆け付けたQRFにより接近していた反乱軍は退却していき、俺た
ちは辛くもアルヌス基地へ帰還した。特地における戦闘にて最初の
KIAとなった林の遺体はすぐに本国に届けられ、准尉の昇格と国光
勲章が授与。自らの命と引き換えに俺を救った模範的英雄行動に敬
意を払って国葬が行われることになったが、俺は国葬には出られそう
にもない。
林が死んだ切っ掛けになった古村崎はあれからアルヌスに戻り、慌
てながら日本に戻っていったらしいが奴に復讐してやらないと俺の
気が収まらない。
俺は趙大佐に進言し、日本国内においての特殊作戦実行の為にGA
TEを潜った。
⋮⋮⋮待ってろよ林⋮⋮お前を死なせたクソ野朗を送ってやるか
らな⋮⋮⋮⋮⋮。
563
Mission112:ダー
ファムリームにてパラパンと対談を果たしたのは良かった。街の
情報と傭兵組合とのパイプライン構築を実行できたから連合として
は非常に有益なものだが、個人的には踏んだり蹴ったりだ。
パラパンには惚れられてしまった上に亜神の能力を返すことは出
来なかったし、不機嫌になったミオにはひっぱたかれるし夜は閉め出
されてRSOVで寝るわで散々だ。
あれから不機嫌だったミオの機嫌を丁寧に毛繕いしてやるという
こととアルヌスに戻ったらデートすることで何とか許して貰い、今は
﹂
ファムリームからの出発を早めて氷雪山脈の麓を移動していた。
﹁旦那、なんかあったのか
﹁昨日の晩に連絡が入ってな⋮⋮雑音が酷かったが主要任務について
いるもの以外の全部隊は可能な限り迅速にアルヌスかイタリカに帰
還せよってな⋮⋮﹂
RSOVを運転しながらM2の銃座についているラウルの言葉に
答える。この辺りは中継地点から離れているので通信状況が安定せ
ず、│聞こえて来たのは奇跡的に拾い上げられたものだ。
理由に関しては拾うことは出来なかったが、間違いなくクソッタレ
軍の奴等が動き出したんだろう。そうでなければ帰還命令だなんて
でるはずがない。
﹁憶測だがゾルザルが動き出したと考えるべきだろう。ちょくちょく
偵察隊と接触があったようだし、各地でオプリーチニナがテロを起こ
そうとして返り討ちにあってるからな﹂
﹁だがゾルザル軍は確かに数で連合や正統政府を圧倒しているが、実
質上で敵は孤立無援だ。無理な徴兵で民の信頼も落ちているようだ
し、何よりも一般兵の士気は低いまま⋮⋮⋮そんな状態で戦争に勝て
というのは無理な話だ﹂
564
?
﹁ヴァルキルの言う通りだ。だがアーロンがオプリーチニナから妙な
﹂
﹂
情報を入手してな⋮⋮⋮ダーとかいうものを投入するつもりらしい﹂
﹁ダー⋮⋮⋮ですか
﹁何か知ってるのかミオ
⋮⋮⋮あそこに誰かいるニャ﹂
﹂
がらもミオとシャムと一緒に子供に歩み寄り、話しかける。
﹂
お父さんとお母さんはどうした
﹁坊や、こんなとこでどうしたんだ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁口が聴けないのか
﹁⋮⋮エース⋮⋮⋮この子なんだか変ニャ﹂
﹁こんな場所に1人でいること自体が変だが⋮⋮どうかしたか
?
?
﹁臭い⋮⋮だと
﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮見た目は人間なんニャけど⋮⋮⋮臭いがしないニャ﹂
?
た場所に停車させるとM45A1を手にして下車。銃口を下ろしな
俺はみんなに武器を準備するよう指示し、RSOVを少しだけ離れ
と見ているが同時に何か不信感を抱く。
かりにくかったが、どうやら子供がいるようだ。子供はこちらをジッ
後部座席にいたシャムの指差した方角を見る。少し離れていて分
﹁ニャ
﹁いえ⋮⋮ただ何処かで聞いたことがあるような⋮⋮﹂
?
?
?
﹂
ミオ‼
横に跳ぶニャ‼
﹂
?
﹂
エース‼
?
笛
﹁⋮⋮⋮⁉
?
﹁なんでしょうか⋮⋮⋮僅かに甲高い微小な音が⋮⋮⋮これは⋮⋮犬
﹁どうしたミオ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
いがしないニャ﹂
﹁普通はどんな生き物でも特有の臭いがあるニャ。けどこの子から臭
?
?
がいた場所には焦げるような臭いがし、そこだけ草が無くなってい
565
?
シャムの言葉に反射的に俺とミオは横に跳ぶ。さっきまで俺たち
?
?
た。そしてM45A1を子供に向けるが子供の姿が無く、代わりに見
たことがない身体が白く目が無い3m弱の化け物がいた。
﹂
思い出しました‼
﹂
その悍ましい姿に俺は驚愕するが、すぐに思考を戻してショット
シェルをぶち込んだ。
﹂
あれがダーです‼
﹁ACPが効かない⁉
﹁ご主人様‼
﹁知ってるのか⁉
?
集落が1つ無くなる程なのです‼
﹂
﹁ラ ウ ル ‼
50口径を‼
﹂
﹂
この化け物1匹のせいで
厄介だ⁉
ヴァルキルも来い‼
﹂
﹁擬態能力に毒液に鋼みたいな身体か⁉
?
﹁悠長に解説してる場合じゃ無いニャ‼
?
まって死んだようだ。
化け物退治だ‼
ダーと思われる化け物は苦しみながら暴れるが、やがて動きが止
突き刺した。
で新しく用意しておいたグルカナイフを抜き取り、化け物の喉に深く
その好機を見逃さず、素早く奴に飛び乗って背中の鞘から向こう側
シャムが両膝にナイフを突き刺して身動きが取れないようにした。
化け物は立ち上がろうとするがミオが刃を出して左腕に突き刺し、
み、背負い投げで地面に倒す。
化け物の足が止まって、すかさずヴァルキルが化け物の右腕を掴
始める。
径は効いているようであり、着弾すると気味悪い緑色の血を吹き出し
ヴァルキルもこっちに来る。45口径は全く効かなかったが50口
考えてる暇は無い。ラウルにM2で援護するよう指示し、その間に
?
?
?
族に擬態して獲物を纏めて襲うのです‼
﹁70年ほど前に発見された擬態能力を持った異形のモノで、その種
?
?
?
﹁制圧確認﹂
566
?
?
?
?
?
﹂
﹁危なかったニャ⋮⋮いきなり臭いが強くなったかったら危なかった
ニャ﹂
﹁だがミオとシャム⋮⋮なんで気が付いたんだ
らニャ。それも死臭に近い臭いニャ﹂
?
﹁私は音が聞こえて来て⋮⋮なんだか笛みたいな感じでした﹂
﹂
﹁ミオには聞こえて俺たちには聞こえない⋮⋮⋮犬笛か何かか
﹁恐らくは⋮⋮⋮﹂
﹁シャム、他に臭いはするか
﹂
﹁さっきまで臭いがしなかったのに、いきなり臭いがきつくなったか
?
るなんてな⋮⋮﹂
﹂
﹁ラウルもいい援護だったぞ﹂
﹁ありがとよ旦那﹂
︿ゴースト1、こちらオーバーロードだ。聞こえるか
これを撃破。サンプルを採取した﹂
﹀
﹁それと報告する。未確認生物ダーと見られるモンスターと遭遇し、
︿現在位置を報告せよ。CH│53Eを派遣する﹀
リカ到着まで数日は掛かる﹂
﹁オーバーロード、こちらはまだ氷雪山脈を抜けた先の平原だ。イタ
イタリカに急行せよ﹀
︿ゴースト1。司令部からの緊急通達。直ちに現在の任務を中止し、
﹁こちらゴースト1。ノイズが入るが聞こえている﹂
インカムを操作して応答する。
チに包んでポーチの中に仕舞う。直後に無線機に反応があったので、
一通り褒めるとダーの肉を少しだけ採取し、それをひとまずハンカ
?
﹁あぁ。体術には自信があったが、力を加えないで効果的な技が使え
いて正解だっただろ
﹁ヴァルキル、見事な背負い投げだ。自衛官に柔道を教えて貰ってお
﹁しないニャ。どうやら1匹だけみたいニャ﹂
?
︿それはイタリカにて受け取る。現在イタリカ│アルヌス間にて敵の
567
?
大規模攻勢が発生しているが膠着状態にある。敵はダーを実戦に投
入したようで、味方に被害はないが民間人に死傷者が発生している。
ゴースト隊はイタリカにて守備隊と合流。現地にて防衛に当たって
いるリーパー隊と合流し、事態の収拾に当たれ﹀
﹁了解したオーバーロード。現在位置は⋮⋮﹂
司令部からの緊急通達で現在位置を報告。数時間後にCH│53
Eが到着してRSOVを機内に乗せてから俺たちもヘリに乗り込み、
すぐにイタリカへと向かった。
無線機の内容から判断して敵は俺たちには敵わないと悟って、ダー
を使用し、標的を民間人に変更して俺たちを動揺させることにしたよ
うだ。
そして混乱している隙に攻勢に転じるつもりだろうがやらせはし
ない。機内にてM417A2を手にしながらイタリカ到着を待つこ
とにした⋮⋮⋮⋮⋮。
568
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