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研究ノート> 経済発展と産業間労働力移動: インドネシ
Kobe University Repository : Kernel Title <研究ノート>経済発展と産業間労働力移動 : インドネシ アの労働力移動に関する分析への含意(Labor Migration between Agricultural and Non-Agricultural Sectors in and Economic Development Process:An Implication to Indonesian Economic Studies) Author(s) 本台, 進 Citation 国際協力論集,11(2):101-114 Issue date 2003-12 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher DOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00392451 Create Date: 2017-03-29 1 0 1 経済発展と産業間労働力 1.はじめに 労働移動に関する研究には大別して農業・ 移動 非農業聞の労働移動に代表されるように,産 ーインドネシアの労働力移動に関 業閣の移動を分析対象としたものと,農村・ する分析への合意- 都市聞の移動を分析対象としたものがある。 これまでに我が国において議論された研究は 主に前者であり,農業・非農業間二部門間移 動の分析と農業・工業・サービス業三部門間 本台 進* 移動の分析がある。後者の研究は高い失業率 が存在する途上国における都市への人口移動 を説明するのに適すると言われている。本稿 の課題は二つある。第ーの課題は,我が国で 行われた労働力移動の研究に関して,サーベ イすることである。第二は,我が国の産業間 労働移動に関する研究フレームが現在の開発 途上国における産業間労働移動を理解するの に適用可能であるかについて検討することで ある。本稿ではインドネシアにそのフレーム を適用し検討する。 最初に,農業・非農業部門間および農村・ 都市間労働移動を考察する場合の基本的な理 論フレームについて振り返ってみよう。その 理由は農業労働がいかなる状況の下で移動を 決意するかという基本的概念に「就業機会説J , 「所得格差説J ,およびそれら以外の説がある。 就業機会説は,非農業部門における就業機会 の有無が農民の意志決定を左右するというも のである。それに対して所得格差説は,農業 と非農業における所得格差が移動を決定する というものである。両者は全く相対立する仮 説ではないが,基本的な考え方についてかな *神戸大学大学院国際協力研究科教授 J o u r n a lo fI n t e r n a t i o n a lC o o p e r a t i o nS t u d i e s , V ol . 1 ! ,N O . 2( 2 0 0 3 1 . 2 ) り異なる。さらにそれら以外にも「主体均衡 1 0 2 国 際 協 力 論 集 第1 1巻 第2 号 説J ,I 期待所得説」がある。 ブーム以降の景気変動のボトムによる流出率 先ず,第一の就業機会説は古典派的アプロー チの経済発展モテールを基礎にした労働の需要 供給を基礎にしている。これは L e w i s( 19 5 9 ) 低下であると述べた。しかし, 1 9 5 0年以降 の純流出率の著しい上昇は,非農業部門での 労働需要が供給を大幅に上回ったことによる の経済発展モデ jレであって,農業から非農業 ものである。そして日本経済の転換点は,農 への労働移動は非農業での就業機会に依存す 業から非農業へ供給される労働力の供給弾力 るため「就業機会説」と呼ばれる。 L e w i sは 性が 1 9 5 0年以降に著しく低下し, 5 0年代後 経済発展の初期段階においては生存維持水準 半に達成され,二重構造が消滅したと述べた。 によって決まる賃金率が労働限界生産性を上 こうした古典派的アプローチの経済発展モ 回り,労働の過剰就業状況にある伝統部門 デルによる労働移動の分析に対して,第二の (農業部門)と,労働限界生産性がその賃金 所得格差説は新古典派的アプローチの経済発 率と等しくなるまで労働を雇用する近代部門 展モデルによる労働の需要供給を見る方法で (非農業部門)が併存するこ重構造理論を唱 ある。 えた。ここでは,非農業部門が拡大すれば, 8 7-1 9 1 7年データを利用し,古典派的アプ それは農業部門から過剰就業が無くなるまで ローチの経済発展モデルと,新古典派的アプ その賃金率で労働を雇用でき,部門聞に大き ローチのモテ、ルを独立に比較して,古典派的 な労働移動が生じる。すなわち,非農業部門 アプローチが実証結果と整合的でないと批判 における就業機会が拡大することにより,部 古 した。すなわち両モデルを比較すると, I 門聞に労働移動が生じる 典派的アプローチでは農業の実質賃金は一定 10 フェイ=レニス(19 6 4 ) は過剰就業状況に J o r g e n s o n( 1 9 6 6 ) は日本における 1 8 である。一方,新古典派的アプローチでは農 ある農業部門を持つ経済をさらに詳細に分析 業の実質賃金は可変である」となっている。 し,二重構造が消滅するメカニズムを分析し そして日本において, 1 8 8 7年から 1 9 1 7年に 1 8 8 8年から 1 9 3 0年 かけての農業実質賃金は上昇しており,古典 の日本に適用し,農業部門の雇用成長は 派的アプローチの特徴は当てはまらないと述 1 8 9 7年から 1 9 1 8年まで年平均 1 %のマイナ べられている。次に, I 古典派的アプローチ 1 9 1 8年以降には減 では,農業労働力は減少する。しかし,新古 た。彼らはそのモテゃルを ス成長を示していたが, 少率は低下し, 1 9 1 5-2 0年頃には過剰就業 が無くなったと述べた 典派的アプローチでは農業労働力の変化は, これに対して,南 増加,一定,低下のいずれでもよい」となっ ( 19 7 0 ) は農業部門の労働生産力,そこにお ており,労働移動が所得格差により起こるこ ける労働力の変動,それからの労働力純流出 とが示唆されている。そしてジョルゲンソン 1 9 1 8年以降 は「日本において農業労働力は確かに減少し には労働力流出率の減少率は第 l次世界大戦 たが,その減少はわずかであった」と指摘し o 率,さらに景気変動を分析し, 経済発展と産業間労働力移動 1 0 3 ている。こうした指摘は, 1 9 1 5-2 0年に過 失業率が存在する途上国の都市への労働移動 剰就業が無くなった転換点とした L ewisやフェ を説明するモデルとして構築された H a r r i s イ=レニスの分析に対する批判としては妥当 and Todaro ( 19 7 0 ) の農村での所得と都市 であると考えられる。その理由は農業労働力 での期待所得との差により労働移動が生じる 流出が 1 9 1 5-2 0年間とそれ以前にあまり差 という「期待所得説」である。 Masuiの主体 が無く, 1 9 1 5-2 0年の農業賃金率の上昇が 均衡説は期待所得説と類似な点がある。すな 著しいものではなかったためである。しかし, わち,両者は単に農工間賃金格差や非農業部 その指摘は 1 8 9 0年代から 1 9 6 0年代後半まで 門経済成長率によってのみ労働移動が引き起 のデータを基に,転換点が 1 9 5 0年代後半に こされるのではないという意味では共通して 達成されたという南の分析に対しては及んで いるが,主要な部分では異なっている。 e l l yand Williamson ( 1 9 7 4 )も いない。 K ハリス=トダロが労働移動を農村から都市 日本で生じたような労働の限界生産性格差は へという地域間移動と定義しているのに対し, 新古典派モデルにおいても生じる可能性はあ 増井は,梅村 ( 1 9 6 1 )と同様に農業から非農業 り得るとして,古典派モテ、ルを否定した。安 への産業間移動と定義している。またハリス= 8 0 ) も日本経済発展過程におけるデー 場(19 トダロにおいては,農村労働市場は競争的で タを分析し,新古典派的アプローチを支持し, あると仮定する。他方,近代的な企業は都市 1 9 1 0年代には既に二重構造は消滅していた で労働を雇用し,支払われる賃金は労働組合 と述べているが,農業労働の移動に関する十 の制限的な活動や政府の賃金政策により,市 分な分析を行っていない。 場決定水準よりも高く固定され¥都市での ここまでに見てきた分析は,労働移動をマ 期待所得は賃金率と失業率より計算される。 クロ経済成長率,非農業部門の労働需要,賃 Masuiの分析では,労働市場は競争的であり, 金率などのマクロ及びセクターの経済変数に 非農業部門の賃金率により労働移動の意思決 より説明しようとするものである。これに対 定がおこなわれるが,農業部門における個人 して,最後のフレームは二種類のものからな の属性の違いが労働供給価格に大きな影響を る。その一つは農業経営者の視点を重視し, 与えると想定している。 高い失業率が存在する途上国の都市への労 農業所得,農業外所得,移動費用,そして農 村と都市の生活費の違いにより,労働移動が 働移動を説明する有力なモデルとしてハリス= 生じるという「主体均衡説」である 3。これ トダロ理論は挙げられている。しかし, は Masui ( 19 6 9 ) によって理論的基礎が分 Williamson ( 2 0 0 0 ) はハリスニトダロモデ 析され,実証分析も試みられたが,労働移動 j 量や部門間の移動方向などをまだ十分に分析 が残っていると指摘している。そして都市へ することができていない。もう一つは,高い の労働移動の分析では,様々な社会的要因を レを実証分析に適用するにはまだ多くの問題 1 0 4 国 際 協 力 論 集 第1 1 巻 第2 号 内生的に考慮したモデルを使う必要があると 動は農業経済にまだ片足を残した出稼型であ 述べ,こうした分析の一例としてケリー=ウィ り,非農業に対する定着性は著しく希薄なも リアムソン・モデルを使い第三世界の都市化 のであると捉えた。その結果,労働力の離農 についてシミュレーションした 5。その結果, が本格的に遂行されず,景気変動に伴って需 9 8 5年頃が 第三世界の都市人口の成長率は 1 要が拡大すれば農業から流出し,不況の到来 ピークになっており,その後は低下傾向になっ とともに出稼ぎのルートを逆にたどって,帰 ているという推計結果を出した。 農するという就業機会説的なフレームワーク を出張した 6。この時点までの研究は流出元 2 . 我が国における既存実証研究の回顧 である農業における分析と,流出先である非 実証分析をする場合に基礎的分析フレーム 農業の労働需要の分析が個別に行われてきた。 を構築するが,日本において研究された労働 そうした流出元と流出先を一つのフレームの 移動に関する実証分析のフレームと内容を見 労働市場として捉え,その市場構造を分析し てみよう。実証的分析は大きく分けて,移動 5 4 ) である 7。 たのが氏原(19 量計測の研究,移動方向を識別する研究,移 後の研究との関連で重要となる農業から非 動要因を分析する研究がある。多くの研究は 農業への移動量を推計したのは並木 ( 1 9 5 6 ) 複数の目的を持つてなされてきたが,なかに である。並木は「農家人口一定説 J ,すなわ は一目的のみの研究もある。また日本におけ ち戦前期における農家人口の流出はその自然、 る研究は主に農業と非農業の産業間労働移動 増加率に等しく,景気変動とは無関係に一定 の研究が中心で,ハリス=トダロが対象とし であると主張した。それに対して南・小野 た農村都市間労働移動はほとんど研究されて ( 19 6 2 )は1 9 2 6年から 4 0年までの毎年の純 9 6 0年代以前の研究は主に農家人 いない。 1 流出量を計測し,それが景気変動と正の相闘 口の流出を問題にしたものがほとんどであり, があったという事実発見により並木を批判し 正確には産業間労働移動とは言えないが,農 た。これ以降,日本における分析は古典派ア 家の労働力は大多数が農業に従事していたと プローチの経済発展モテールに基礎をおいた見 考えられるため,それは産業間移動の一分野 方を強めるようになってきた。 と考えてよいであろう。 7 9 ) は轍密に労働力推計を行い, 梅村(19 農家労働力の移動に関しては第二次世界大 1 8 7 0年代から 1 9 6 0年代までの農業労働者数 戦以前に官公庁の公表資料を総合的に使用し を割り出し,その流出量を計算した。梅村が 3 8 ) の研究と,農村を訪問調査し た渡辺(19 明らかにしたもう一つの重要な点は,サービ て作成した資料にもとづいた野尻 ( 1 9 4 2 )の ス業部門は好況期,不況期に関係なく雇用成 5 2 ) 研究がある。戦後になると,大河内(19 長率はほぼ一定ということである。このこと は,日本における農業から非農業への労働移 は,好況期には農業部門から労働を吸収しな 経済発展と産業間労働力移動 1 0 5 がら工業部門へ供給し,不況期には農業から であった。こうした二部門間の労働力移動に 労働の吸収を非常に低く抑え,工業の雇用成 対し,牧野(19 8 0 )は1 9 3 0年代の農業,工 長率低下により発生した失業労働力を吸収す 業,サービス業聞の労働力純移動を推計し, る役割を果たしていたことを明らかにしたこ 次のような結果を得た。農業からの移動は工 とと,労働移動の方向をも明確にした。 業へ向かうよりサービス業へ向かつてより大 非農業の雇用成長率は,経済状況に左右さ 量に流出した。また工業へはサービス業から れる。すなわち,経済成長率が高い時には雇 の移動量が農業からのそれを越えていた。す 用成長率が高く,経済成長率が低いときには なわち,サービス業への労働供給源は農業, 雇用成長率も低い。この現象が最も顕著に現 工業への供給源はサービス業であった。景気 われているのが工業である。 1 9 2 0年から 3 0 変動に対して農業とサービス業はともに工業 年における不況期の工業雇用成長率は 4 . 6 9 % での雇用を調整した。こうした結論より,サー で , 1 9 1 0年から 2 0年における好況期の 5 3 . 3 4 ビス業は農業と同様に過剰労働をプールした %と比較すると大幅に落ち込んで,不況の影 ことが明らかになった。 響を大きく受けている(Umemura[1979])。 要約すると,日本における産業間労働移動 一方,農業では 1 9 2 0年から 3 0年の不況期に に関する実証分析の視点は農業・非農業二部 雇用成長率がマイナス 0.35%に対して, 1 9 1 0 門閉または農業・工業・サービス業三部門間 年から 2 0 年における好況期には雇用成長率が の移動を対象とし,景気変動に対する相互間 マイナス 1 1 .93%となり工業と逆の循環を示 移動を数量的に推計することであった。その 1 9 7 9 ] )。 している (OhkawaandTakamatsu[ 結果,移動の主な要因は非農業または工業の こうした指摘は Minami( 1 9 6 7 )の分析結果と 成長であり,不況期に農業およびサービス業 類似しているが,異なる点もあり,両者の差異 が過剰労働の調整を行うことが確認された。 は次の通りである。 Ohkawa=Takamatsuは 転換点分析より前に, I 農業労働の限界生 農工間賃金格差と経済成長が労働移動の誘因 産力上昇のうち,労働需要効果が労働供給効 になると考えた。他方,南は経済成長と農工 果を大幅に上回り, 1 9 5 0年以降の急速な労 間賃金格差が労働移動の誘因となるとしなが 働力流出は労働需要効果によるものである」 らも,経済成長率の変動の方が,工業賃金率 という仮説があり,移動要園を分析すること や農業賃金率の変動よりも,大きな労働移動 も一つの重要な項目であった。 Minami の誘因になると考えていた。 ( 19 6 7 ) は非農業における労働需要関数は非 Umemura ( 19 7 9 ) によって,サービス業 農業賃金率と経済成長率に依存し,他方,農 は好況期,不況期に関係なく雇用成長率はほ 業の非農業に対する労働供給関数は非農業賃 ぼ一定であることがわかったが,まだサービ 金率,農業賃金率,農業の成長率に依存する ス業の明確な位置づけと機能については不明 というモデルを構築し,統計的に分析し,次 国 際 協 力 論 集 第1 1巻 第2 号 1 0 6 のような結論を得た。第一に,農業から供給 谷[ 1 9 9 7,2 0 0 1],本台 [ 1 9 9 9 J ),農業と非農業 される労働に対する非農業の労働需要は経済 聞で二重構造的な経済発展が見られる九労 成長率に大きく依存しており,非農業賃金率 働移動・人口移動に関連して, A zis ( 1 9 9 7 ) が労働需要に与える影響はそれよりはるかに は地域間における都市人口移動を 1 9 8 0年代 小さい。第二に,非農業賃金率の上昇は,農 前半データにより統計的に推計し,地域の所 業から非農業への労働供給の拡大と,非農業 得水準は重要でなく,就業機会がより大きく の労働需要低下の両方に対する影響を与える。 移動に影響することを確認した。農業からの 総合すると,後者よりも前者の影響力の方が 労働力純流出に関して,経済成長率に依存し, 強く, 1 9 5 0年以降の農村から都市への労働 1 9 9 2 9 6年に約 7 8 0万人にもなり,そのうち 移動量の増加は当時の高い経済成長率が主な 約 40%は農村非農業部門へ流出している(本 要因であり,就業機会説を支持するものであっ 台[19 9 9 J )。このように大量の都市への労働 f こ 。 移動があったがインドネシアにおける都市で の失業率は,人口センサスデータで計算する 3 . インドネシアにおける農業からの労働力 流出と産業間労働移動 と , 1 9 8 4 / 8 5年に 5 . 7 %, 1 9 8 9 / 9 0年に 6 . 5 %, 1 9 9 4 / 9 5年には 7 . 0 %で徐々に高くなってい インドネシアに関するこれまでの労働市場 るが,極端に高い数値でなかった九さらに および労働移動に関する研究を回顧してみよ 経済危機の際にも,都市の失業が大きな社会 う。マクロの統計を駆使し労働市場の形成を 問題として浮上しておらず,失業した労働力 19 9 8 ) はそれが農村と 考察した Manning ( は農村へ還流したと考えられる。これより, 都市で二重構造的になっていることを証明し 古典派的アプローチが描く労働の需要供給構 たが労働移動に関しては特に言及してい 造であると考えられるが,農村・都市間およ ない九経済危機が労働移動および労働市場 び産業間労働移動に関しては,データ不足の へ及ぼした影響に関する Manning ( 19 9 8 ) ためまだ十分な分析はなされていない。そこ の考察は伝統的および近代的労働市場を区別 で , これまでの推計不足を補うため,産業間 し,後者で生じた失業者が前者において吸収 労働力移動をできるだけ統計的に見てみよう。 されたため,失業率が増大しなかったと分析 農業において増加した労働力のうち一部は した。 Islam( 2 0 0 1 )も経済危機の影響を分析 農業に就業するが,農業就業者数の伸びは労 したが,短期的変動に重点を置き,労働市場 働の自然増加率より一般的に市さい。インド の構造については言及しなかった。 ネシアにおいては 1 9 9 1年以降農業就業者数 時系列データおよびクロスセクション・デー の伸びは低下し 12 かなりの労働力が農業以 タの利用による労働限界生産性計測結果では, 外へ流出し,その一部は農村非農業に就業し 農業における過剰就業が確認されていて(新 ている。先ず,農業における労働の自然増加 経済発展と産業間労働力移動 107 率が全国水準と同じであると仮定し,農業労 くなり, 1995年には一時的であるが 10%近 働力の純流出数と純流出率を推計し 13 そこ くにもなった。しかし, 1998年には一転し から変化の動向を探ると 2点が読みとれる。 て 17%を記録した。 一つは農業労働力の純流出が 1980年代末か 農業から非農業へ流出している労働力が, ら大きくなることである。 1980年代後半ま どこに向かっているか流出量・流出率を観察 では,工業の成長は石油・ガス生産に依存し してみよう。表 1-1は 1975年以降 5年毎の ていたが,それ以降は労働集約的製品輸出へ 人口統計により,産業別の純流出を見たもの と政策転換し,製造業における雇用が拡大し, である九先ず,農業を見ると 1975/76年と 流出が加速されたと考えられる。他の一つは, 1984/85年の流出量・流出率が他の時期に比 特に近年において農業労働力の流出率と経済 べて小さい。これは両年が不況期であり,労 成長率との聞に相闘が見られることである。 働流出量が少なく,それ以外の年度において 即ち,農業労働力の純流出率は 1978-80年 好況期で流出が大きかったと考えられる。 に一時的に 2%を越えたことがあったが,そ 1975/76年が例外であるが,サービス業から れ以降低下し, 1988年まで 1%未満であった。 の 1984/85年流出量・流出率が他の時期に その後, 1989年から1.5%を越え次第に大き 比べて著しく小さく,農業と同様にサービス 表1 . 部門別労働力の流出 表 1・ 1 各部門から流出した労働力と流出率 農流業出率から(の%流)出者数(干人) 工業からの流出者数(千人) 流出率(%) 流 サ ー 出 率 ビ ス ( 業 % か )らの流出者数(千人) 1 ( 不 9 7 況 5 / 期 7 6 ) 1 ( 好 9 7 況 9 / 期 8 0 ) 1 ( 不 9 8 況 4 / 期 8 5 ) 1 ( 好 9 8 況 9 / 期 9 0 ) 1 ( 好 9 9 況 4 / 期 9 5 ) 7 4 8 . 1 2 . 2 1 7 1 . 5 3 . 8 1 4 2 4 . 3 9 . 9 1 5 1 7 . 5 5 . 6 2 2 7 . 3 4 . 2 4 8 0 . 6 3 . 6 9 3 0 . 3 3 . 0 2 7 3 . 7 3 . 3 .6 3 41 1 .9 1 6 6 8 . 3 5 . 1 3 0 0 . 8 3 . 2 5 9 9 . 5 3 . 0 1 9 9 6 . 6 6 . 1 4 4 9 6. 4 . 1 8 0 4. 4 3 . 1 1 9 7 9 / 8 0 4 87 51 .3 1 9 8 4 / 8 5 5 0 . 9 4 9 . 1 1 9 8 9 / 9 0 5 9 . 8 4 0 . 2 1 9 9 4 / 9 5 5 6 . 0 4 4 . 0 1 9 7 9 / 8 0 5 3 . 7 4 6 . 3 1 9 8 4 / 8 5 6 5. 4 3 4 . 6 1 9 8 9 / 9 0 61 .5 3 8 . 5 1 9 9 4 / 9 5 4 9 . 5 5 0 . 5 1 9 8 4 / 8 5 6 7 . 6 3 2. 4 1 9 8 9 / 9 0 6 1 . 8 3 8 . 2 表 1-2 農業から流出した労働力の流出先(%) 工業 サービス業 1 9 7 5 1 7 6 4 5 . 3 5 4 . 7 目 表 ト 3 工業から流出した労働力の流出先(%) 工業 サービス圭一一 1 9 7 5 1 7 6 6 8 . 6 3 1. 4 表 1-4 サービス業からの流出した労働力の流出先(%) 工業 サービス業 8 5 . 8 1 4 . 2 1 9 7 9 / 8 0 6 7 . 9 3 2 . 1 出所:BPS [ 1 9 7 6 ] .1 1 7 1 2 3 ;[ 1 9 8 0 J .1 8 0 1 8 6 ;[ 1 9 8 5 J .2 1 8 2 2 4 ;[ 1 9 9 0 ] .2 7 0 2 7 6 ;[ 1 9 9 5 ] .2 7 6 2 8 2 1 0 8 国 際 協 力 論 集 第1 1巻 第2 号 業の流出率は景気変動の影響を受けていると から後者への移動が拡大し,不況になると後 予想される。これより農業とサービス業にお 者の労働需要が縮小し,移動も縮小する。も いて不況期に流出率が低く,好況期には高く う一つは,サービス業から工業への移動は相 なることが観察できる。工業では好況期に雇 対的に小さく,農業からサービス業への移動 用が拡大し,純流出率は小さく,不況期には もやや少ない。これはサービス業が一部には その逆となる。すなわち表において,不況期 農業と同様な過剰就業にある伝統部門的な部 9 7 5 / 7 6年と 1 9 8 4 / 8 5年には農業より工 の1 分,また一部に工業と同様な限界生産性で賃 業の流出率が大きく,それ以外の調査期であ 金率が決定される近代部門の両方を持ってい る好況期には農業より工業の流出率が小さく るためと考えられる。 なっている。 農業から流出した労働力の流出先(表 1 このようなインドネシアでの労働移動の状 況は, O hkawa=Takamatsu ( 19 7 9 ) が日 2 ) を見ると, 1 9 8 4 / 8 5年までは半数以上が 本経済の発展過程で確認したことと類似であ サービス業であったが, 1 9 8 9 / 9 0年以降では る。すなわち,工業での労働力成長率は経済 工業への流出が半数以上になってきた。これ の長期成長波動と一致し,農業とサービス部 は , 1 9 8 0年代後半の労働集約的製品輸出へ 門の労働成長率はそれと全く逆であった。こ の転換により,工業への流出がより重要となっ うした現実は,農業と同様にサービス業も過 てきたと考えられる。次に工業から流出した 剰就業の状況であることを示していて,日本 労働力の流出先(表 1-3 )は1 9 7 5 / 7 6年に 経済の発展過程で確認したことと同様に,両 は6 8 . 6 %が農業, 3 1 .4 %がサービス業であっ 産業が過剰就業であるため,産業聞の労働移 たが, 1 9 9 4 / 9 5年には農業とサービス業がほ 動が比較的弾力的であったと考えられる。 ぼ同じとなった。最後にサービス業から流出 した労働力の流出先(表 1ーのを見ると, 0 % 以上が農業へ流 近年やや低下しているが 6 4 . インドネシアにおける労働移動の地域的 特徴 出し,工業への流出は 4 0 % 未満となっている。 農村の農業や非農業部門から流出した労働 こうした産業別の流出率と流出方向を総合 力の移動先地域,ある地域からの流出労働力 的に見ると,次の二点が明らかになる。その の移動先など,地域間でこうした労働移動の 一つは,好況期には農業とサービス業からの 規模や方向を示した資料はまったく存在しな 流出が高く,工業からの流出は低くなる。逆 い。労働力の自然、増加率が産業間および地域 に,不況期には農業とサービス業からの流出 9 9 1-9 6年 間で等しいという仮定の下で, 1 が低く,工業からの流出は高くなる。農業お の農村労働の純流出を地域別に推計してみよ よびサービス業と工業聞は,好況期には後者 う(表 2 )九農村外純流出がマイナス(純流 の労働需要が拡大するとそれに応じて,前者 入)となる地域が 1 3ある。これらを更に二つ 経済発展と産業間労働力移動 1 0 9 地域別労働力の流入および流出: 1 9 9 1 9 6年 農村農業へ 農村非農業 農村外への の純流入 への純流入 純流出 ブンクル 3 0 4 4 6 1 2 7 0 1 1 7 7 4 5 西カリマンタン 9 0 1 7 3 8 8 7 6 4 7 8 9 4 東カリマンタン 2 6 8 7 6 3 5 1 1 4 6 1 9 9 0 中部スラベシー 2 4 0 9 0 2 9 6 0 5 5 3 6 9 5 イリアン・ジャヤ ー1 9 7 7 9 7 1 0 9 3 5 1 3 1 4 表2 . 蜘 地域への 純流入 8 2 6 3 4 9 6 4 7 3 1 4 0 7 1 9 1 0 2 5 2 4 9 2 8 6 7 りアウ ジャンビ 南スマトラ 西ヌサトゥンガラ 中部カリマンタン 南カリマンタン 南スラベシー マルク 3 2 3 8 9 5 0 9 9 5 1 1 5 8 4 9 ー1 1 5 7 2 9 2 7 8 0 9 1 1 5 8 0 9 ー1 3 0 8 0 1 2 7 7 6 7 1 0 2 9 5 3 7 4 6 7 1 1 6 5 0 6 6 1 2 1 8 5 9 4 7 3 3 6 1 2 2 6 1 8 1 5 7 4 7 8 5 4 0 0 7 7 0 5 6 4 2 3 6 7 7 4 9 2 1 7 6 1 3 1 1 9 5 2 7 6 8 0 9 2 6 6 7 7 2 6 2 4 0 1 7 9 6 9 2 1 1 8 4 1 9 1 4 8 9 5 8 4 6 2 9 2 7 7 7 5 9 9 8 2 3 9 2 0 5 4 3 7 8 8 1 2 5 アチェ 北スマトラ 西スマトラ 東ヌサトゥンガラ 東チモール 北スラベシー 中南スラベシー ランプン 西ジャワ 中部ジャワ 東ジャワ 1 8 9 5 6 4 4 4 7 5 5 6 ー1 9 2 3 0 3 2 5 6 2 9 9 2 7 6 6 9 1 6 3 5 0 9 1 0 0 7 3 7 4 0 1 7 8 0 1 3 1 2 5 7 8 ー1 8 4 0 6 2 6 2 0 3 4 0 0 7 1 5 4 3 8 6 1 3 7 8 4 4 9 2 8 9 3 1 7 0 3 4 4 4 7 9 5 6 9 2 3 9 8 8 6 2 4 3 0 6 0 2 6 3 0 5 8 3 8 4 4 8 3 5 8 4 1 5 0 4 0 3 5 1 7 8 3 0 9 7 1 3 9 9 4 1 0 8 5 9 5 5 2 2 8 7 4 9 4 2 7 0 1 2 1 1 4 9 5 7 5 4 1 0 0 6 7 4 0 1 3 9 2 2 6 8 1 6 1 8 9 6 7 7 6 1 2 9 3 3 1 0 1 9 3 1 4 4 7 8 2 5 1 4 8 4 8 5 1 2 4 7 4 1 5 4 5 4 0 1 8 8 3 0 8 9 8 6 8 7 5 7 5 5 1 0 0 3 7 8 9 ジョクジャカルタ パリ ジャカルタ インドネシア 3 1 5 6 7 3 1 1 9 0 5 0 5 8 1 7 6 5 4 0 1 0 3 7 3 8 4 9 1 7 3 0 6 0 7 8 7 4 7 2 4 3 0 2 8 7 5 1 4 8 4 5 9 7 3 帽 戸 。 。 。 自 2 6 4 1 5 1 4 7 7 5 6 3 1 7 9 7 0 。 出所:BPS[ 1 9 9 1 J,2 1 1 2 1 4 ;[ 1 9 9 2 J,2 0 9 2 1 7 ;[ 1 9 9 3 J,9 6 1 0 0 ;[ 1 9 9 4 J,2 3 6 2 4 4 ;[ 1 9 9 6 J,2 3 6 2 4 4 . に分類すると,農業への純流入地域とそこか 労働力純流出地域も 2つのタイプに分かれ らの純流出地域がある。前者はスマトラ南部, る。その一つは,農村農業からの純流出が農 カリマンタン,スラヴェシ中音日,イリアン・ 村非農業の純流入を上回り,農村全体として ジャヤで,これらは全て人口密度が低く,一 の純流出となっている地域(西ジャワ,中ジャ 人当たり耕地面積も大きいところである。後 ワ,東ジャワを含む 1 1地域)である。他は, 者はスマトラ中南部,カリマンタンの 2地域, 農村農業と非農業から純流出しているジョグ 南スラヴェシ,西ヌサトウンガラ,マルクで ジャカルタ,パりである。これより農村非農 あり,人口密度が比較的高く,一人当たり国 業への純流入は,ジョグジャカルタ,パリ, 民所得が比較的高い地域である。ここでは農 イリアン・ジャヤ以外の全ての地域で起こり, 村非農業への流入が農業からの流出を上回り, それが農業労働力を吸収していたことがわか 地域全体として農村外流出がマイナス(純流 る。また農村非農業への純流入が農業からの 入)となっている。 純流出より大きい地域はジャワ島に隣接する 1 1 0 国 際 協 力 論 集 第1 1巻 第 2 号 周辺に位置し, ジャワ島だけでなく農村非農 業機会説的な労働移動が起こっていると予想 業による雇用が拡大していることが伺える。 できる。しかしこの推計は,労働力の自然増 地域への純流入(表 2最終列)を見ると, 加率が産業間および地域間で等しいという仮 マイナス(流出)になっている地域はジャワ 定のもとで行われているため,現実値との誤 中部および東部,北スラヴェシ,東ヌサトウ 差をさけることができなし、。また統計から得 ンガラ,パリ,東チモールだけであり,他は られる農村外純流出は,現実の純流出数と比 全部プラス(流入)となっている O そのうち 較して過小となっている。その理由の一つは, 流出量の大きいのはジャワ中部および東部だ 調査の際にはある一定期間以上の農村外での けで,流入量の大きいのはジャカルタを含む 就業を農村外流出と捉えるが,それに満たな ジャワ西部,南スラヴェシである。したがっ い者が存在するためである。他の理由は,農 て,労働移動のほとんどはジャワ島内の現象 村から近隣の都市へ在宅通勤している労働者 である。 がかなり存在していると考えられるが,彼ら 農村農業からの純流出を集計すると 7 8 7 . 5 を流出労働力と捉えているかは不明である。 万人に達し,その内 3 0 2 . 9万人は農村非農業 へ純流入していた。これらは同期間における 5 . おわりに 農村労働力約 3 , 8 5 0万人の 2 0 . 5 %と 7 . 9 %となっ これまでの日本における産業間労働移動の た。農村農業と非農業における純流出と純流 実証研究を見ると,過剰就業状況にある農業 入の差が農村外流出の 4 8 4 . 6万人となったが, 部門と労働限界生産性と賃金率が等しくなる 1 %の約 4 4 0万人はジャワ 4地域か このうち 9 まで労働力を雇用する非農業部門が併存する らの流出であった。したがって, ジャワ農業 二重構造理論フレームで捉えるのが中心であっ から多くの純流出があるが,それらはジャワ た。実証分析の結果は,非農業での就業機会 非農業へ流入し,全国レベルで農業から非農 が拡大すれば,農業から非農業へ労働が移動 業への労働移動が起こっているのではない。 し,移動量は経済成長率に大きく依存し,流 1 9 8 0年代末から農村外での労働力需要が 出先の所得水準が移動に与える影響は小さく, 拡大し,農村労働力が吸収され,農村労働市 労働移動の就業機会説を支持するものであっ 場が都市経済の影響を強く受けるようになっ た。過剰就業は無かったとする新古典派的ア た。しかし,この農業労働力純流出の多くは プローチの実証研究もあったが,その研究は ジャワ島内の移動が中心で,近隣都市への在 使用データの期聞が断片的,使用データ量が 宅通勤および季節的な出稼ぎと考えられる九 不十分,さらに継続的な研究がなく,確定的 こうした結果,純流出は非農業部門の成長に な成果が出ていなし、。さらに期待所得説フレー 左右され,経済成長率が高いときには大きく ムによる分析成果は皆無である。 なり,経済成長が低いときには小さくなる就 インドネシアの状況を見ると,農業には過 経済発展と産業間労働力移動 剰労働が存在し,日本の場合と同様に,不況 期には農業が工業の雇用調整を行った。農業 からの流出した労働力量は工業とサービス業 へほぼ半々づっ向かった。農業もサービス業 1 1 1 関してそれを経済に於ける平衡論と見倣す一般 の考え方から重大な偏差を示唆する。」と述べ, 農業の交易条件でなく,仕事の有無に依存して いると主張した。 2同じ時期に,工業部門の雇用成長率は 1 8 8 8年か も同じく過剰労働のプールであると思われ, ら1 9 0 0年までは年平均 3 . 5 %,1 9 0 0年から 1 9 2 5 不況期には工業から逆流し,工業の雇用調整 年までは年平均 2 . 5 %の成長した。 を行った。そうした結果,都市における失業 3従来このフレームに対して名称はついていない 1 9 6 9 J ) の「主体均衡論」 が,中嶋 (Nakajima [ 率は社会的に問題となるほど大きくはならな かった。農村非農業の雇用吸収力は非常に大 きく,農村内部において多くの労働力が農業 から非農業へ移動した。すなわち,日本で分 析されたようなフレームで,人口密度が高い を基礎にしているため, I 主体均衡説」と呼ぶこ とにした。 4失業があっても実質賃金率が下がらない理由と して次の様なことがある(高木 [ 2 0 0 2 J )。①途上 国においても,多くの国で最低賃金制が設定さ れており,賃金率は完全雇用を可能にする賃金 開発途上国でも労働移動を分析することは可 率より高い水準となっている。②カロリー摂取 能である。現時点のように労働移動がほぼジャ 量と労働効率の聞に正の関係があり,賃金率と ワ島内の移動に限定され,農村から近隣都市 カロリー摂取量との聞にも正の関係があると, へ在宅通勤がかなり存在する場合には,非農 企業は賃金率を低くするよりも賃金 1単位当た りの労働効率を最大化するような賃金率を設定 業での就業機会が拡大すれば農業から非農業 する方が合理的である。③労働者は一定の社内 へ労働が移動し,経済成長が低くなれば逆流 訓練をした後でないと使いものにならない。訓 が可能である。しかし労働移動が全国レベル 練には一定の費用がかかるので,賃金率を低く になると,農村から近隣都市へ在宅通勤は比 重が小さくなり,帰農先の無い労働移動が増 加する。こうした場合,二重構造論的フレー ムで分析できるかどうかは疑問である。こう なった場合には,先に述べた幾つかの問題点 に拘わらず,期待所得説が分析フレームとし て有効性を持ってくる可能性がある。 して頻繁に転職されるよりも,ある程度高い賃 金率を提供して定着率を高くする方が訓練費用 を節約できる。④労働組合の活動により賃金率 の下方硬直性が生じる。 8 ケリー=ウィリアムソン・モデルは一種の CGE モデルで,日本の経済発展の分析にも用いられ た ( K e l l yandWilliamson[ 1 9 7 4 J )。 6 隅谷 ( [ 1 9 5 7 J,1 5 5ページ)は実証的に従業者の 出身地を分析し, I 大企業において農家出身の比 率が重大であるということは,特に金属工業に ついていえることである。このような 4 頃向は同 [注] じ金属工業でも最大の独占企業である八幡製鉄 T 所についてみれば,一層顕著であって,北九州 1 が農 以外においては大体農村出身者を採用している 業人口を農場からつれ出し,或いは彼らにその から郡部の比率は七割以上に及んでいると考え まま止まることを要求する。このことは価格に られる。」と述べ,農業からの労働移動が大きかっ はなく,仕事の機会の存在一移動の機会 国 際 協 力 論 集 第1 1巻 第2 号 1 1 2 たことを示している。 [参考文献] ( [ 1 9 5 4 J,1 7 9 1 8 8 )は , 日本の労働市場の 氏原正治郎 [ 1 9 5 4 J1日本農村と労働市場」大谷省 特徴として,①労働供給が地域的に見て広範囲 三編『農村問題講座 E 農村社会構造』河出出版。 7氏原 にわたり, しかも孤立分散し,②労働市場は需 8労働市場の形成に関しては宮本 ( 2 0 0 1 ) の研究 もある。しかしこの研究は労働問題に重点をお いているため,本稿の研究目的である労働移動 1 9 9 0年代前半までを 対象としているため,高度の経済成長に伴う労 働市場の改革が積極的に評価され,楽観的な基 調で分析されている (Manning[ 1 9 9 8 J ) 。 1 0マクロレベル統計を使用した分析(新谷口 9 9 7 J ) とミクロレベルの調査データを使用した分析 2 0 0 1 J ) にわかれるが,両者とも過剰就業 (新谷 [ 状態が残っていることを証明した。 1 1人口センサス r 繁明期の日本労働運動』岩 波書庖。 シュルツ, T.W. [ 1 9 4 9 J r 不安定経済における農 業』群芳園。 1 9 9 7 J 1タイとインドネシアの経済発 新谷正彦 [ とは視点が異なる。 9 この分析は経済危機以前の 梅村又次 [ 1 9 6 1 J r 賃金・雇用・農業』大明堂。 5 2 J 大 河 内 一 男 口9 要独占である,と述べている。 ( B P S [ 1 9 8 0 J,1 8 0 1 8 6 ;BPS[1985J, r 展下の農業部門における過剰就業J 東洋文化研 3 4冊 , 1 9-4 2 0 究所紀要』第 1 一一一ー一[ 2 0 0 1 J 1インドネシア農業経営における 過剰労働投入一西ジャワ州スカブミ県チサート 郡の場合 Jr 西南学院大学経済学論集』第 3 6 巻第 l号 , 2 5 7-2 8 7 。 隅谷三喜男 [ 1 9 5 7 J1 賃労働の日本的特質」大河内 一男・隅谷三喜男編『日本の労働者階級』東洋 経済新報社。 r 開発経済学の新展開』有斐閣。 [ 1 9 5 6 J1 農家人口の流出形態 J r 農業総 2 1 8 2 2 4 ;B P S [ 1 9 9 0 J,2 7 0 2 7 6 ;B P S [ 1 9 9 5 J,2 7 6 - 高木保興 [ 2 0 0 2 J 2 8 2 ) のデータにより計算した。 並木正吉 1 2B PS[1991,1 9 9 2,1 9 9 3,1 9 9 4,1 9 9 6 J 。 1 3農業・非農業部門の区分はインドネシア中央統 計局の定義に従い,林業および漁業に従事する 労働力も農業部門の労働力に含める。 1 4 この人口移動は三種類の統計によって計算され 合研究』第 1 0巻第 3号 , 3月 。 r 1 9 4 2 J 農民離村の実証的研究』岩波書 野尻重雄 [ 居 。 本台 力流出と労働力需要Jr 国際協力論集』第 7巻第 た。最初は 1 0年毎に調査される人口統計 (BPS 9 9 0 J ),次は人口調査の中間に実施され [ 1 9 8 0,1 る人口センサス間人口標本調査 ( B P S [ 1 9 8 5, 進 [ 1 9 9 9 J1インドネシアにおける農村労働 2号 , 1 2月 。 牧野文夫 [ 1 9 8 0 J 1 1 9 3 0年代の労働力移動 Jr 経済 研究』第 3 1巻第 4号 , 1 0月 。 3 6 2 3 6 7 . 1 9 9 5 J ),最後が人口統計に基づく労働移動調査 南 亮進 [ 1 9 7 0 Jr 日本経済の転換点』創文社。 (BPS[ 1 9 7 6 J ) である。 南 亮進・小野旭 [ 1 9 6 2 J 1 農家人口移動と景気 1 5この推計には BPS[1991,1 9 9 2,1 9 9 3,1 9 9 4,1 9 9 6 J を使用した。 1 9 9 5年分については入手不能なた め , 1 9 9 4年分数値と 1 9 9 6年分数値の平均値を 1 9 9 5年分数値とした。 1 6宮本 ( 2 0 0 1 ) において詳しい。 r 変動との関係についての覚え書き J 季刊理論経 済学~ v ol . XII,n o . 3,J u n e . 宮本謙介 [ 2 0 0 1 Jr 開発と労働ースウハルト体制下 のインドネシア 』日本評論社。 安場保吉 [ 1 9 8 0 Jr 経済成長論』筑摩書房。 渡辺信一 [ 1 9 3 8 Jr 日本農村人口論』南郊社。 A z i s,Iwan J . [ 1 9 9 7 J目“ The I n c r e a s i n gR o l eo f t h e Urban Non-formal S e c t o ri nI n d o n e s i a : E m p i r i c a lA n a l y s i sw i t h i naM u l t i s e c t o r a l 経済発展と産業間労働力移動 F r a m e w o r k ; 'i nU r b a n i z a t i o ni nL a r g eD e v e l o p i n g ,l n d o n e s i a ,B r a z i l ,αndl n d i α C o u n t r i e s :C h i n a 1 1 3 CambridgeU n i v e r s i t yP r e s s,C a m b r i d g e . Yukio[ 1 9 6 9 ] ." T h e8 u p p l yP r i c eo fL a b o r : Masui, e d . byGavinW. Jon巴sandP r a v i nV i s a r i a, Farm Family Workers, "i nt h eA g r i c u l t u r e Oxford,C l a r e d o nP r e s s . αnd Economic G r o w t h : Jα , p α ns 'E x p e r i e n c e , 9 9 0 ] .Pendudukl n d o n e s i a( P o p u l a t i o n BP8[ 1 9 8 0,1 0 1lndonesia):HasilSensusPenduduk,SeireS .J a k a r t a . 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" 8 u b s i s t e n c e and CommercialFamilyFarms:80meTh巴o r e t i c a l 一一[ 1 9 7 6 ] .K e t e r a n g a nAngkatanK e r j al n d o n e s i a Models o f8 u b j e c t i v eE q u i l i b r i u m, "i nS u b - じ [ n d o n e s iαLα b o rF o r c e )Pendudukl n d o n e s i a s i s t e n c eA g r i c u l t u r e andEconomicD e v e l o p - ( P o p u l a t i o n 0 1 lndonesiα : ) : H ,αs i l S u r v e i PendudukAntarS e n s u s ,S e i r eSNumber2 . F e i, C . H . John and Gustav R a n i s[ 1 9 6 4 ] . mente d .byC l i f t o nR .Wharton,Jr .A l d i n e P u b l i s h i n gCompany,C h i c a g o Ohkawa, Kazushi and Nobukiyo Takamatsu D e v e l 口' p m e n t0 1theLαborSurplusEconomy: ・ [ 1 9 7 9 ] . " 8 e r v i c e s, " i nP a t t e r n s T h e o r y αnd P o l i c y , Homewood, I l li n o i s, E c o n o m i cD e v e l o p m e n t :日 Q u a n t i t a t i v eA p p r a i s a . l R i c h a r dD .I r w i n,I n c 巴 H a r r i s,JohnR .andM i c h e lP . Todaro[ 1 9 7 0 ] . " M i g r a t i o n,UnemploymentandD巴v e l o p m e n t : "A mericanEconomic ATwo8 e c t o rA n a l y s i s, ,v ol .6 0,n o .1 ,March,1 2 6 1 4 2 . Review 0 1 Japanese d . by K a z u s h i Ohkawa and Miyohei 8 h i n o h a r a . Y a l e U n i v e r s i t y P r e s s, New H a v e n .1 2 2 1 3 3 . Umemura, M a t a j i [ 1 9 7 9 ] . " P o p u l a t i o n and L a b o rF o r c e, "i nP a t t e r n s0 1JapaneseEconomic Jorgenson,Dal巴 W.[ 1 9 6 6 ] ." T e s t i n gA l t e r n a t i v e D e v e l o p m e n t :A Q u a n t i t a t i v e . A p p r a i s a l ,e d .by T h e o r i e so ft h e Development o f a Dual K a z u s h iOhkawaandM i y o h e i8 h i n o h a r a .Y a l e Economy, "i nTheT h e o r yαndD e s i g n0 1e c o - U n i v e r s i t yP r e s s,NewH a v e n .2 4 1 2 4 9 . nomicDevelopment e d . by 1 . Adelman and ∞ Wi 山 l l i 旧 a m s ω o 孔 n 1,G . J巴 e f f 仕 r e 町y臼 [ 2 00 0 町 ] E .T h o r b e c k e,J o h n sH o p k i n sP r e s s,B a l t i m o r e Ur 均b a n i 凶z a 瓜t i ぬ o 孔 n 1, "i nt h eHa 日 , ndb ω 0 ∞ o kザ 口 IDe 1 ω v e l o 旬 I [ J η m wnt Maryland,p p .4 5 6 0 . ,v ol .1 ,e d . by H . Chenery and E c o n o m i c s L e w i s,Arthur [ 1 9 5 4 ] ." E c o n o m i c Development w i t hU n l i m i t e d 8uppliωof Labor, " The M αn c h e s t e rS c h o o l ,Vo l .2 2N o .2 ,May K e l l y,A l l e nC . and J e f f r e yG .W i l l i a m s o n [ 1 9 7 4 ] .L e s s o n sIromJα , p αn e s eD e v e l o p m e n t : αn An αl y t i c a l Economic H i s t O T ッ Chicago Univ巴r s i t yP r e s s,C h i c a g o Manning,C h r i s[ 1 9 9 8 ] .l n d o n e s i αn L αb o u ri n Tr αn s i t i o n : Aπ East Asi αn S u c c e s sS t o r y ? T . N . 8 r i n i v a s a n,N o r t h H o l l a n d,Amsterdam. 国 際 協 力 論 集 第1 1巻 第 2 号 1 1 4 LaborMigrationbetweenA g r i c u l t u r a land N o n a g r i c u l t u r a lS e c t o r si nanEconomic DevelopmentP r o c e s s :AnI m p l i c a t i o n t oIndonesianEconomicS t u d i e s 日ONDAISusumu* A b s t r a c t There a r e two d i s t i n c t i v et h e o r e t i c a l frameworks t oe x p l a i nl a b o rm i g r a t i o n betweena g r i c u l t u r a l andn o n a g r i c u l t u r a ls e c t o r si nane a r l ys t a g eo fe c o n o m i c d e v e l o p m e n t . Ones a y st h a temploymento p p o r t u n i t yi samajorf a c t o rt oi n d u c e h i l et h eo t h e rs a y swaged i f f e r e n c ei sa t h em i g r a t i o nbetweent h etwos e c t o r s,w main f a c t o r .E m p i r i c a ls t u d i e s on J a p a n e s e economy show t h a t employment o p p o r t u n i t i e sh a v ee x p l a i n e dl a b o rm i g r a t i o nb e t t e r . Although we c a n n o t show t h emosti m p o r t a n tf a c t o ro fl a b o rm i g r a t i o nc l e a r l yi nl n d o n e s i a neconomyd u e t od a t al i m i t a t i o n,we c a no b s e r v eas i m i l a r movement a sJ a p a n e s ee m p i r i c a l s t u d i e sf o u n d . Ours t u d yshowst h a tl a b o ro u t f l o wfromt h ea g r i c u l t u r a ls e c t o r wasf a s t e rthant h a tfromt h emanufacturings e c t o rd u r i n gt h ee c o n o m i cboom h eformerwass l o w e rthant h el a t t e rd u r i n gt h ee c o n o m i cs l a c k p e r i o d s,whereast p e r i o d s .I ta l s oi n d i c a t e st h a tl a b o ro u t f l o wfromt h es e r v i c es e c t o ra l s oshowsa s i m i l a rp a t t e r na st h ea g r i c u l t u r a ls e c t o rd o e s . * P r o f e s s o r,GraduateS c h o o lo fI n t e r n a t i o n a lC o o p e r a t i o nS t u d i e s,KobeUnivri t y . 巴 日