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シーンの重要度に従った再生品質制御を行う携帯端末向け ビデオ

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シーンの重要度に従った再生品質制御を行う携帯端末向け ビデオ
シーンの重要度に従った再生品質制御を行う携帯端末向け
ビデオストリーミングシステム
孫タオ,玉井森彦,安本慶一,† 柴田直樹, 伊藤 実
奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 † 滋賀大学情報管理学科
Energy-aware QoS Adaptation for Streaming Video based on Importance of
Video Segments
Tao Sun, Morihiko Tamai, Keiichi Yasumoto,† Naoki Shibata and Minoru Ito
Grad. Sch. of Info. Sci., Nara Institute of Sci. and Tech. † Dept. of Info. Proc. and Man., Shiga Univ.
1
はじめに
近年,録画したビデオを MPEG-4 などの形式にトランスコー
ドし,インターネットを介してユーザ端末に配信できる製品や,
メモリーカードに記録できる製品が販売されるようになり,これ
らの機器を用いることで,無線 LAN ホットスポットや 3G 携帯
電話を用いて,録りためたビデオを,PDA,携帯電話,ノート
PC などの携帯端末を用いて出先で再生することが可能になった.
携帯端末においてビデオの再生を行う際に問題となるのは
バッテリの持続時間である.ニュースやサッカーの試合など,あ
らかじめ視聴したい時間が決まっている場合は,バッテリ残量
の範囲内で希望した時間,再生できることが望ましい.またこ
のとき,ビデオの全てを同じ品質で再生するのではなく,ユー
ザ(視聴者)にとって重要度の高い部分は他より高品質で再生
できることが望ましい.また,再生品質として,動きの滑らか
さと画像の鮮明さのどちらを重要視するかや,画像と音のどち
らを重要視するか,などは個別に指定できることが望ましい.
本論文では,携帯端末での無線 LAN を経由するストリーミ
ングビデオの再生において,バッテリ残量およびユーザが希望
する希望再生時間の制約を満たし,かつ,あらかじめビデオの
各セグメントに対応づけられたカテゴリと,各カテゴリに対し
ユーザが指定した重要度に基づいて,動的にビデオの再生品質
を制御する方式を提案する.
提案方式では,ビデオにおけるビデオセグメント(カットに
相当)はあらかじめ幾つかのカテゴリ(例えば,サッカーの試
合では,通常のプレイ,シュート場面,セットプレイ,観客の状
況,その他,など)に分類されていると仮定する.カテゴリの情
報は,MPEG-7 Annotation Tool [4] などを使って,MPEG-7
形式のメタ情報 (XML ファイル) として記述することが可能で
ある.文献 [5] で提案されているツールを使って自動生成した
MPEG-7 メタ情報を対象としても良い.次に,カテゴリ間で再
生品質に差をつけるため,ユーザは,各カテゴリの再生品質に
対し重要度を指定する.また,各カテゴリのビデオの内容は特
徴が異なるので,ユーザは指定したカテゴリのビデオセグメン
トを再生する際の,滑らかさ,鮮明さ,音の各項目について相
対的な重要度の比を指定する.
以上の情報から,バッテリ残量の範囲内で希望再生時間を満
足するための各カテゴリの再生品質を,与えられた重要度に従
い決定する.我々は,文献 [7],[8] で,PDA およびノート PC を
対象にバッテリ残量の範囲内で希望再生時間を満たすためのビ
デオのパラメタ値を決定するアルゴリズムを提案している.本
論文では,このアルゴリズムを拡張し,カテゴリ間の重みづけ
に従ってバッテリ残量の各カテゴリへの配分を行い,配分された
バッテリ量の範囲内で,ユーザの指定した重要度に応じたビデ
オパラメタ値を決定する.また,無線通信を行う携帯端末では,
利用可能帯域の制限により,バッテリ量が十分であるにもかか
わらず,高品質でのビデオの再生ができない場合がある.そこ
で,高品質での再生が指定された各セグメントのビデオデータ
を,そのセグメントが始まる前に先送りし,携帯端末側でバッ
ファリングしておくことで,利用可能なネットワーク帯域より
も大きなビットレートを持つビデオの再生を可能にする方法を
提案する.
提案方式に基づき,サーバからのビデオストリームを任意の
パラメタ値を持つビデオストリームに実時間変換するトランス
コーダと携帯端末で実行可能なプレイヤから構成されるシステ
ムを実装した.提案システムにより,重要度の高い場面の時間
的な割合が 30%程度以内のとき,重要度の高いセグメントの再
生品質を品質一定とした場合の数倍に向上できること,動的な
再生品質制御を行っても,希望再生時間と実際に再生可能であっ
た時間の差が 6%以内に制御可能なことなどを確認した.
1.1
関連研究
近年,ビデオの各断片の内容や意味に従い適切にトランス
コードを行うことで,携帯端末でのビデオ再生の効率化を計ろ
うとするセマンティックトランスコーティングが注目を集めて
いる [1, 3].
従来の画面サイズなどを小さくするトランスコードでは,画
面中のオブジェクト(サッカーにおける選手など)のサイズが
小さくなりすぎて明瞭に見えなくなるなどの問題があった.そ
こで,文献 [3] では,MPEG-21 DIA framework を用いて,画
面の中の注目したいエリアを指定し,その部分だけをトリミン
グし,表示することで画面サイズの小さな携帯端末でも明瞭に
見れるようにする方法を提案している.一方,文献 [1] では,ビ
デオを前景オブジェクト群と背景オブジェクト群のように別々
のクラスに分け,ユーザにとって重要なクラスあるいはオブジェ
クトの品質を保ち,重要でないクラスあるいはオブジェクトの
品質を下げることで,携帯端末へのストリーミングの制約を満
たそうとする方法が提案されている.
これらの研究は,どれも,画面サイズやビットレートの制約
を満たすための方法を提案しているものであり,バッテリの持
続時間に対する制約を満たす方法は提案されていない.
2
カテゴリ間での重要度の指定
本提案手法ではビデオに複数のセグメントを含むと仮定して
いる.各セグメントのコンテンツの特徴を表現できる特徴デー
タをカテゴリと呼び,カテゴリの集合を C = {c1 , · · · , cn } と
表記する.ここで,各カテゴリ ci は文字列で指定する.例え
ば,サッカーの試合を対象とする場合,シュート場面,通常プ
レイ,観客席の状況,その他を表すカテゴリ集合として C =
{shoot, play, audience, other} と指定することが考えられる.
特徴データの抽出と記述は MPEG-7 tool[4] などのツールを用
いて自動あるいは半自動的に作成できる.
提案手法では,与えられたビデオコンテンツにおいて,より
高品質で見たい部分をユーザが指定できるようにするため,カ
テゴリごとに重要度を指定する.カテゴリの重要度とそのカテ
ゴリに属するビデオセグメントの時間の総和にしたがって使用
可能なバッテリ量を配分することで,重要度の高いカテゴリの
再生品質を上げることが可能となる.カテゴリ ci ∈ C に対する
重要度を pi と表記する.pi は 1 以上の整数であり,1 を基準と
して,指定したカテゴリのビデオセグメントの再生時に,基準
値の何倍の電力を使用できるようにするかを指定する.
同じ電力を使った場合でも,画像サイズ,フレームレート,
ビットレートなどの割合により特性の異なる再生品質となる.そ
こで,各カテゴリにおける再生品質の特性を,滑らかさ,鮮明
度,音の 3 つの要因で表し,それぞれに対し重要度を 1 以上の
整数で設定する.カテゴリ ci に対するこれらの重要度をそれぞ
れ,spdi , vidi , sndi と表記することとする.
例えば,サッカーの試合で,C = {shoot, play, audience,
other} の 場合 に,shoot で は 重要度 4,play は 重 要度 2,
audience, other には重要度 1 を割り当て,また,音は全ての
カテゴリであまり重要でなく,カテゴリ shoot では,滑らかさ,
鮮明さともに重要であり,play では,滑らかさのみが若干重要
であり,audience, other では,鮮明さのみが若干重要であると
したい場合には,以下の表のように設定する.
category
shoot
play
audience
other
priority
4
2
1
1
spd
3
2
1
1
vid
3
1
2
2
snd
1
1
1
1
ビデオパラメタ決定アルゴリズム
3
3.1
各カテゴリの再生に割り当てる電力の決定
携帯端末のバッテリ残量を E0 とする.ビデオの再生時間を
T とする.ビデオを再生しないとき(何もしないときの,OS の
稼働やバックライトの点灯などにかかる消費電力)の携帯端末
の消費電力を w0 とする.以上より,長さ T のビデオの再生に
使えるバッテリ量は E = E0 − w0 T と表せる.w0 は,バッテ
リフル充電の状態から何もせず放置した場合に,バッテリが尽
きるまでの時間 T0 を計測することで,w0 = E0 /T0 として求め
ることができる1 .
各カテゴリ ci ∈ C について重要度と再生時間の積をそのカ
テゴリの仮想再生時間と呼び,Ti で表す.Ti = pi Ti である.全
T と表記する.今,
てのカテゴリに対する仮想再生時間の和を
T = c ∈C Ti = c ∈C pi Ti である.
i
i
提案方式では,各カテゴリ ci の仮想再生時間 Ti の総仮想再
生時間 T に対する割合に応じて,バッテリ量 E を配分するこ
T
ととする.カテゴリ ci に配分されるバッテリ量は,Ei = Ti E
で表される.
携帯端末で再生可能な最高の品質のビデオ(これ以上の品
質では,画面に収まらない,またはコマ落ちするなど)および
最低の品質のビデオ(これ以下の品質では,小さすぎて意味
がないなど)の特性をそれぞれ,vmax = (rmax , fmax , bmax ),
vmin = (rmin , fmin , bmin ) とする.ここで,r, f , b は,それぞ
れ,画像サイズ(画素数),フレームレート,ビットレートを表
すものとする.
我々は文献 [8] において,ビデオの再生電力 w は,
w = αrf + βb
(1)
で表せることを実験により確認している.ここで,α, β は端末
固有の定数であり,文献 [8] の方法により計測できる.
def
これより,Ei > (αrmax fmax + βbmax )Ti ( = Emax ), の場
def
合は,Ei は供給過剰であり,Ei < (αrmin fmin + βbmin )Ti ( =
Emin ) の場合は,Ei が不足していることが分かる.上記に当
てはまる場合は,Ei = Emax あるいは Ei = Emin に固定し,
E − Emax を新たな E とし,C − {ci } を新たな C として,上
記のアルゴリズムを再帰的に適用することでバッテリ量の再配
分を行う.以上より,各カテゴリ ci の再生に使用可能なバッテ
リ量 Ei を定数として求めることができる.
1 ただし,OS がバッテリ残量に応じた省電力制御を行わず,LCD
バックライトの輝度,CPU の動作速度等は常に同じであると仮定する.
3.2
各カテゴリの再生特性の決定
カテゴリ ci を再生するための電力 wi = Ei /Ti および,ci に
対する再生特性に対する重要度 (spdi , vidi , sndi ) をもとに,画
像サイズ ri , フレームレート fi , ビットレート bi を決定する. こ
こで,動きの滑らかさ spdi はフレームレートに,鮮明さ vidi
は,画像サイズに影響を与えると考えられるため,fi と ri の比
は,spdi と vidi の比に設定する.また、ビットレートは画像サ
イズ r とフレームレート f の以下の式を用いて算出することで,
量子化ノイズを目立たなくできることを実験により確認してい
る [8].
b = c0 rf + c1 r + c2 f + c3 ,
(2)
ここで, c0 , c1 , c2 と c3 は定数である.なお,簡単のため,以
下 sndi = 0 の場合について考える.
3.2.1
ストレージからの再生の場合
文献 [8] より,画像サイズ,フレームレート,ビットレート
が (r, f, b),長さ T のビデオの再生に必要なバッテリ量は,E =
(αrf + βb)T で表せる.今 Ei = (αri fi + βbi )Ti となる再生特
性 (ri , fi , bi ) を求めたい.送信元(ビデオ配信サーバ)におけ
るビデオの特性 (r0 , f0 , b0 ) を基準とし,これへの割合の比をも
とに新しいビデオの特性を計算することとする.すなわち,
ri fi
:
=x:y
r0 f0
(3)
とする.例えば,x : y = 1 : 2 の場合に,画像サイズ,フ
レームレートがそれぞれ 1/3,2/3 に減少することとなる.式
(2) と式 (3) を使うと,b と f は r の関数で表せる.上記の再生
に必要なバッテリ量を式 (1) に代入すると,ri に関する 3 次方
程式が得られ,ニュートン法などを使って,ri の値を求めるこ
とができる.
3.2.2
無線 LAN を用いたストリーミング再生の場合
無線 LAN によるストリーミング再生では,無線 LAN カー
ドによる消費電力も考慮する必要がある.われわれは文献 [8] に
おいて、転送速度 b での無線通信にかかる消費電力 wn が次の
式で表せることを確認している。
wn (b) = γ + δb
(4)
ここで,γ, δ は,それぞれ,無線 LAN カードでビットレートに
関係なく消費される電力,ビットレートに比例して消費される
電力の増加分を表す端末依存定数である.これらの定数は,文
献 [7, 8] の方法で計測可能である.
このため,利用可能帯域に余裕がある場合に,ビットレート
が b の動画のデータを一定の大きさ M ビットに区切り,各断
片を b より大きな伝送速度 B でバルク転送し(バルク転送の周
期は M/b になる),携帯端末ではバッファリングしたデータか
ら再生を行わせ,余裕のできた時間の間,無線 LAN カードへ
の給電を停止することで大幅な省電力化ができる [7, 8].本方
式を以後バッファリング再生と呼ぶ.バッファリング再生では,
k(= B/b) 倍の伝送速度でデータを送信すると,1/k の時間で受
信が完了することになるので,k の値を大きくできれば,理想
的には,ほとんどの時間 ((k − 1)/k の間),無線 LAN カードへ
の給電をストップできる.実際には,無線 LAN カードのオン・
オフにはある程度の時間 (ton/of f とする) が必要であり,この
間,無線 LAN カードではある程度の電力(τ とする)が消費さ
れる.
カテゴリ ci のビデオセグメント数を segi とする.ci の総ビッ
ト数は bi Ti であるが,各ビデオセグメントにおいて M ビット
ずつバルク転送するので,通信回数は最悪の場合(全セグメン
トで,データ量を M で割ったときに少しだけ余りがでる場合),
bi Ti
+ segi となる.実際には,+segi の部分は無視できる.
M
以上より,カテゴリ ci のビデオを無線 LAN でバッファリン
グ再生する場合に消費されるバッテリ量 Ei は,以下のように表
せる.
Ei = (αri fi + βbi )Ti + (γ + δB)
bi
bi T i
Ti +
τ ton/of f
B
M
式 (2),(3) を使うと,上記は ri に関する 3 次方程式に変換
できるので,ニュートン法などを使って,ri の値を求めること
ができる.
以上により,ri , fi , bi の値を定数として求めることができる.
ここで,ri , fi , bi のいずれかが,携帯端末で扱える最高の値を
超えてしまう場合,例えば,ri が端末の画面サイズ rmax を越
えた場合には,wi = αrmax fi + βbi とし,上記の方法により,
fi , bi を再計算する.最低の値を下回った場合も,同様の方法
で,パラメタを最低値に固定し,再計算を行う.
表 1: データの先送りを用いた場合のビットレートの増加
video
duration
(sec)
217
136
231
132
530
276
232
138
408
segment
(No.)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
4
priority
1
2
4
2
1
1
2
4
2
Exp1
bit rate
(Kbps)
210
369.8
655.3
369.8
210
210
369.8
655.3
369.8
Exp2
bit rate
(Kbps)
338.4
384
384
384
338.4
338.4
384
384
384
利用可能帯域が小さい時の品質改善
本章では,ビデオ再生開始前にデータを受信およびバッファ
リングし,再生開始後に受信したデータと合わせてビデオを再
生することより,一部のビデオセグメントについて,利用可能
帯域よりも高いビットレートでの再生を可能とする方法につい
て述べる.この方法においてはバッファ量の上限はないと仮定
する.したがって,WNIC はデータを帯域 bmax で継続的に送
信する (WNIC の ON,OFF は考慮しなくて良い).また、指定
された量のバッテリを使いきるよう動画パラメータを調整する.
ビデオが v1 , ..., vm の m 個のセグメントから構成されてお
り,各セグメントの重要度が pi ,長さが Ti であるとする.Pmin
は重要度が最低のカテゴリのビデオを再生する時の消費電力を
示す.D は開始遅延時間を示す.wN (b) は帯域 b で通信する時
の消費電力を示す.この時,次の式が成立する.
E0 − S · (D +
m
Ti ) − D · wN (bmax ) =
i=1
m
Pmin · pi · Ti (5)
i=1
Pmin の値が定まったら、各セグメントで使用可能な電力が
決まり,3.2 節のアルゴリズムよって,各セグメントに対する
ri , fi , bi の値が計算できる.また,ri , fi , bi の値から、次の式よ
り,開始遅延時間 D も計算できる.
D = M ax(
i−1
bj · Tj /bmax −
j=1
i−1
Tj ), i = 2, ..., n + 1
(6)
j=1
従って,D は Pmin の関数で表せる (詳細な式は複雑なため
省略する).上記より,式 (5) は Pmin の方程式となり,ニュート
ン法などを使って,Pmin の値を求めることができる.提案した
手法の有効性を検証するため,表 1 に示すように,9つのセグ
メント (それぞれ重要度を指定) からなるあるビデオ(640×480,
1150Kbps, 30fps,2300sec)に対し適用した結果,増加したビッ
トレートを表 1 の Exp1 に示す.なお,再生開始遅延時間 D は
59 秒となった.比較のため,本アルゴリズムを適用しない場合
の結果を表 1 の Exp2 に示す.
なお,bmax として 384kbps を設定した.表 1 の結果から,
ある一定の遅延 (59sec) を許される場合に,重要度が高いセグ
メント (No.3,No.8) のビットレートを大幅に増加可能であるこ
とが分かる.
5
システム
ストリーミングシステムを図 1 に示すように,動画プレイヤ
とトランスコードプロクシで実現した.トランスコードプロク
動画の保存場所
カテゴリ間重要度{p1....pn}
再生特性{<vid1,spd1,snd1>...}
再生希望時間
携帯
無線端末
トランスコードプロクシ
再生パラメタ
決定機構
トランス
コーダ
MPEG7 ファイル
動画配信
サーバ
オリジナルストリーム
図 1: 省電力ビデオストリーミングシステム
シは動画配信サーバ上あるいはネットワーク上の中間ノードで
動作させることを想定している.ユーザは,見たい動画の保存
場所と再生希望時間,2 章で述べたカテゴリごとの重要度,再
生時間,再生特性の優先度 {c1 , T1 , p1 , ..., cn , Tn , pn } を入力
としてトランスコードプロクシに与える.また,端末情報がト
ランスコードプロクシに送信される.これらの情報から,トラ
ンスコードプロクシは,動画配信サーバからのオリジナルスト
リームを 3 で述べた方法で計算した品質および特性を持つスト
リームへとトランスコードし,携帯端末に中継する.
動画プレイヤは,Berkeley MPEG Player[9] を利用し,ノー
ト PC および PDA 用に実装した.トランスコードプロクシに
は,3 章のアルゴリズムと,MPEG-1 ストリームのトランスコー
ド機能を実装した.トランスコード機能は,MJPEG Tools[6]
を使用し実現した.任意に設定した画像サイズ,フレームレー
ト,ビットレートを持つ MPEG-1 ストリームに変換可能である.
6
実験と評価
カテゴリ間の重要度を考慮した場合のビデオの品質
3 章のアルゴリズムと,2 章で与えたビデオのカテゴリ間の
重要度により,重要度の高いカテゴリに属するビデオの品質が
どれだけ向上し,重要度の低いカテゴリの品質がどれだけ劣化
するかを調べた.ここで,1800 秒のビデオをノート PC 上で再
生することとし,(r0 , f0 , b0 ) =(320 × 240, 29.7, 500Kbps) であ
るビデオを変換前の元ビデオとして用いた.また,ノート PC
の 30%のバッテリ (満充電から残量 70% となるまで) をバッテ
リ残量 E0 とした.
ここでは,ビデオを重要度が高いカテゴリ c1 と低いカテゴ
リ c2 の 2 つに分け,c1 の再生時間 T1 の総再生時間 T に対す
る比率を R(0.1 ≤ R ≤ 0.3) で表す.なお,カテゴリ内の重要
度を spdi : vidi = 1 : 1 に設定し,p1 の p2 に対する倍率を
M (1 ≤ M ≤ 4) で表すこととする.R と M の二つのパラメ
タの値を変化させ (R は 0.1 きざみ,M は 0.5 きざみ),c1 と
c2 の再生品質の変化を調べた.グラフ化したものを図 2 に示す.
ここで,図の x 軸と y 軸はそれぞれ M と品質 Q である.品質
Q は,再生可能な最高品質のビデオのパラメタ値を (r0 , f0 , b0 ),
カテゴリ i に属するビデオのパラメタ値を (ri , fi , bi ) とすると,
Q = ri /r0 = fi /f0 = bi /b0 で表される.また,カテゴリ間の重
要度を指定しない場合 (p1 = p2 ),すなわちビデオを一定の品質
で再生する場合には,ri /r0 = 0.58 である.
図 2 より,R の値が 0.2 以下,すなわち重要度の高いカテゴ
リの再生時間の割合が 2 割程度であれば,重要度の低いカテゴ
リの再生品質をそれほど落とすことなく,重要度の高いカテゴ
リの品質を大幅に向上させることができることが分かる (図 2 の
R = 0.2high, low の線を参照).また,重要度の高いカテゴリの
再生時間の割合が比較的高い場合(R が 0.3 程度)でも,重要
度の倍率 M を 2 倍以内に抑えることで,重要度の低いカテゴ
リの再生品質の劣化は 2 割以内に抑えることができることが分
かる (図 2 の R = 0.3high, low の線を参照).
カテゴリ内の重要度を考慮した場合のビデオの品質
提案手法では,カテゴリごとに再生品質を変化させる上で,
カテゴリの再生特性をも変化させることが可能である.そこで,
表 2 に示す 3 種類の設定 pref 2, pref 3,pref 4 を用いて,3 章
のアルゴリズムにより再生品質を算出した.表 2 より,カテゴ
リ内の重要度の比を指定することにより,ユーザの好みが反映
されていることが分かる.例えば,カテゴリ間の重要度として
同じ 2 が指定された c2 について考えると,pref 4(spdi と vidi
の比が 2 : 1) は pref 3(比が 1 : 1) に比べ,フレームレートが増
え,画像サイズが小さくなっている.
quality
1
0.9
セグメント
317x238,29.4fps,488kbps
(No.)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
302x226,26.7fps,430kbps
R=0.1 low
R=0.2 low
R=0.3 low
0.8
表 3: パラメタと得られた再生品質
320x240,29.97fps,500kbps
R=0.1 high
R=0.2 high
R=0.3 high
292x219,25fps,395kbps
0.7
232x174,15.8fps,219kbps
231x173,15.6fps,217kbps
0.5
214x160,13.4fps,177kbps
1
1.5
2
2.5
203x152,12fps,156kbps
3
3.5
4
M
図 2: 重要カテゴリでの再生品質向上度
表 2: 異なる再生特性の比に対する動画の再生品質
pref1
pref2
pref3
pref4
重要度
再生特性
画面サイズ
1
2
4
2
1
1
2
4
2
(vidi : spdi )
2:1
1:1
2:1
2:1
2:1
1:2
1:2
1:2
2:1
(pixel)
183×137
181×136
291×219
231×174
183×137
138×104
106×79
180×135
181×136
フレーム
レート
(fps)
4.9
9.6
12.4
7.8
4.8
11.2
6.6
19.0
9.6
ビット
レート
(Kbps)
58
117.3
199.9
108.7
58
125.6
65.5
235.8
117.3
245x184,17.6fps,250kbps (baseline quality)
0.6
0.4
時間
(sec)
188
176
222
181
160
286
131
160
296
cat.
c1
c2
c3
c1
c2
c3
c1
c2
c3
c1
c2
c3
(Ti , pi , spdi , vidi )
(678, 1, 1, 1)
(662, 1, 1, 1)
(460, 1, 1, 1)
(678, 1, 1, 1)
(662, 2, 1, 1)
(460, 4, 1, 1)
(678, 1, 1, 1)
(662, 2, 1, 2)
(460, 4, 2, 3)
(678, 1, 1, 1)
(662, 2, 2, 1)
(460, 4, 3, 2)
(r, f, b)
(245 × 184, 17.60, 250K)
(245 × 184, 17.60, 250K)
(245 × 184, 17.60, 250K)
(196 × 147, 11.26, 143K)
(240 × 180, 16.91, 238K)
(293 × 219, 25.06, 395K)
(196 × 147, 11.26, 143K)
(292 × 219, 12.47, 201K)
(320 × 240, 21.61, 365K)
(196 × 147, 11.26, 143K)
(196 × 147, 22.48, 288K)
(261 × 196, 29.97, 439K)
希望再生時間と再生可能時間のずれ
再生可能時間の予測精度を確認するため,ここで,表 2 に示
す 4 種類の設定 pref 1∼4 を用いて算出したカテゴリごとの再生
品質で実際にビデオを再生し,どれだけの時間再生が可能であっ
たかを計測した.計測した時間が希望再生時間 T に近ければ近
いほどアルゴリズムの精度が良いことになる.実験には,ノー
ト PC(Toshiba S4/275PNHW)と PCMCIAC IEEE802.11b
対応無線 LAN カード(GW-NS11S,Planex),トランスコー
ドプロクシは無線 LAN アクセスポイントと同一 LAN に接続
されている PC 上で実行した.
結果は,1800 秒の希望再生時間に対し,pref 1,pref 2,pref 3
と pref 4 に対し,それぞれ 1710 秒,1696 秒,1692 秒,1727
秒の再生が可能であった.誤差 ((|希望再生時間-再生可能時間
|)/希望再生時間) は 6%以内となっており,品質一定で再生した
場合の誤差と比較してもほとんど差はないことが分かった.な
お,我々は文献 [7] において,品質一定で再生する場合に,最大
約 6%以内の誤差となることを確認している.
さらに,複数の連続する短時間ビデオセグメントに異なる重
要度が設定される際には,再生品質の頻繁な変更に伴うオーバー
へッドのため,誤差が大きくなる恐れがある.そこで,希望再
生時間が 1800 秒のセグメント長が異なる 4 つのビデオを提案
システムを用いて再生した.各ビデオ中の一つのセグメントの
長さはそれぞれ 60 秒,120 秒,240 秒,1800 秒に設定した.結
果として再生可能時間はそれぞれ 1780 秒,1797 秒,1780 秒と
1764 秒となり,オーバーへッドが再生可能時間に与える影響は
ほとんどないことが確認できた.
先送りによるビットレート拡張を行った場合
4 章で提案したビットレート拡張アルゴリズムの有効性を確
かめるため,最大帯域を 128kbps に指定し,あるビデオ (320 ×
240, 29.97f ps, 500k) を用いて,再生品質と再生可能時間と希
望再生時間の間の誤差について調べた.実験のパラメタと得
られた再生品質を表 3 に示す. 実験は,ノート PC(Toshiba
S4/275PNHW)上で実行し,30%のバッテリを使用した.結果
は,1800 秒の再生希望時間に対し,1750 秒の再生が可能とな
り,利用可能帯域が小さい場合に,4 章で提案したビットレー
ト拡張を行っても,再生可能時間における誤差は 6%以内であ
ることが確認できた.なお,この場合の開始遅延時間は 29 秒で
あった.
主観評価
提案手法の有効性を確かめるため,あるサッカーの試合のビ
デオを品質一定(230 × 172, 15.51fps, 362Kbps)でフラットに
再生した場合と,提案方式によるカテゴリごとの品質適応を行
いつつ再生した場合について 4 名の被験者にビデオを見てもら
い,品質向上のインパクトに関し意見を求めた.
提案方式適用後のビデオについては,被験者全員が重要度の
高いカテゴリの品質の向上を知覚し,重要度の低いカテゴリの
品質を若干削減しても,重要度の高いカテゴリの品質を向上す
ることは価値があり,ある程度の満足を示した.特に,サッカー
の試合のような動きが速いビデオに対して再生特性を指定でき
ることは有効であるとの意見が多かった.マイナス意見として
カテゴリが変わるときに,画面の大きさが突然変わるのは違和
感がある,また,フレームレートの向上について,ある値以上
では,品質向上を知覚しにくいなどのコメントが得られた.
7
おわりに
本論文では,携帯端末でのストリーミングビデオの再生にお
いて,バッテリ残量,ユーザが希望する再生希望時間を満たし,
かつ,ユーザが設定したシーン毎の重要度,また,動きの早さ
と鮮明さの優先度に基づいた QoS 制御方式と提案方式に基づい
たストリーミングシステムの提案を行った.提案方式を用いる
ことで,限られたバッテリ容量しか持たない携帯端末でのビデ
オ再生において,ユーザの満足度を高められることを実験によ
り確かめた.
参考文献
[1] Cavallaro, A., Steiger, O. and Ebrahimi, T.: Semantic Segmentation and Description for Video Transcoding, Proc.
of the 2003 IEEE Int’l. Conf. on Multimedia and Expo.
(ICME2003), Vol. 3, pp. 597–600 (2003).
[2] Kassler, A. and Schorr, A.: Generic QoS Aware Media
Stream Transcoding and Adaptation, Proc. of the 13th Int’l.
Packet Video Workshop (PV2003) (2003).
[3] Lim, J., Kim, M., Kim, J and Kim, K.: Semantic Transcoding of Video based on Regions of Interest, Proc. of Visual
Communications and Image Processing 2003 (VCIP2003)
(2003).
[4] Lin,
C.-Y.,
Tseng,
B.L. and Smith,
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IBM
MPEG-7
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http://www.alphaworks.ibm.com/tech/videoannex
[5] Lin, C.-Y., Tseng, B. L., Naphade, M., Natsev, A. and Smith,
J. R.: MPEG-7 Video Automatic Labeling System, Proc. of
the 11th ACM Int’l. Conf. on Multimedia, pp. 98–99 (2003).
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Power Video Streaming for PDAs, Proc. of the 8th IEEE
Int’l. Workshop on Mobile Multimedia Communications
(MoMuC2003), pp. 31-36 (2003).
[8] Tamai, M., Sun, T.,Yasumoto, K., Shibata, N. and Ito, M.:
Enery-aware Video Streaming with QoS Control for Portable
Computing Devices, to appear in Proc. of the 14th ACM
Int’l. Workshop on Network and Operating Systems Support
for Digital Audio and Video (NOSSDAV2004).
[9] The Berkeley MPEG Player.
http://bmrc.berkeley.edu/research/mpeg/
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