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歯科医師3万8千人からのお願い
歯科医師 3万8千人からの お願い 国 民 医 療 の 向 上 をめざす はじめに 今日、歯科医療や口腔ケアの拡充は、健康に過ごす上でも、また療養・介護の効果 を高め、病状回復の上でも欠かせません。そして歯科医療や口腔ケアによって口腔状 態や咀嚼機能が改善すれば、生活習慣病をはじめ様々な疾患に良い効果を発揮するこ とも実証されてきています。 しかし政府の長期にわたる歯科医療軽視政策、医療費抑制政策により、歯科医療は 危機的状態におかれています。 本冊子は、今日の歯科医療危機の背景は何か、患者、国民の健康増進を高め、わが 国の経済活性化にも貢献させるために必要な歯科医療施策は何かを考えていくために 作成しました。 国政・地方政治に携わる国会議員、地方議員をはじめ多くの皆さんにご高覧頂き、 私達の要望の実現にご尽力賜りますようお願いします。 目 次 はじめに Ⅰ . 口腔の健康と医療費… ……………………………………………………… 3 Ⅱ . 歯周疾患の多さと歯科健診制度の未整備… ……………………………… 4 Ⅲ . 受診抑制の拡大と治療完了者の減少… …………………………………… 5 Ⅳ . 保険でできない治療… ……………………………………………………… 6 Ⅴ . 自費診療、混合診療とその限界… ………………………………………… 7 Ⅵ . 保険から削られる治療… …………………………………………………… 8 Ⅶ . 歯に優しく、抜かない治療の推進を… …………………………………… 10 Ⅷ . 長年にわたる歯科の低診療報酬、失われた 16 年………………………… 11 Ⅸ . 人権を無視した指導、監査の実態… ……………………………………… 13 Ⅹ . わが国の歯科技工と海外技工物… ………………………………………… 14 XI . 将来の歯科医療に大きな不安… …………………………………………… 15 XII.社会保障分野の経済波及効果… …………………………………………… 18 国民皆保険制度の維持・発展にむけて… ……………………………………… 19 ─2─ Ⅰ . 口腔の健康と医療費 ● 「8020(ハチマルニイマル) 」 達成など口腔の健康がきちん とされていると、 全体の医療費は減少に向かう 歯科治療、口腔ケアなどに努めて「8020」 (80 歳で自分の歯が 20 本残っている)を達成 した人は、食品が良く噛め、栄養摂取状態も良いなど健康にとって良い条件を持ち合わ せており、病気になっても全体の医療費が少なくて済むという結果が多数報告されてい ます。また、がん患者をはじめ入院患者の口腔ケアが在院日数の短縮に繋がっていると いう報告もされています。 口腔内の健康は全身の健康に深くかかわっており、 口腔内の健康を守るのは歯科医師 をはじめとする歯科医療従事者の役目です。 ■「8020」達成者の方が全体の医療費は少なくなる 「8020」達成者の方が全体の医療費は少なくなる 円 30000 25000 20000 15000 25,289 10000 20,912 5000 0 「8020」の達成者 「8020」の非達成者 (出典)兵庫県歯科医師会「8020 運動実績調査報告」 (2006) 兵庫県歯科医師会「8020 運動実績調査報告」 (2006)より作成 要望:私達は歯科医療の充実と拡大を求めています。 ─3─ Ⅱ . 歯周疾患の多さと 歯科健診制度の未整備 ● 症状があっても3分の1以上の国民が歯科受診できていない 放置すると歯が抜け落ちる病気、国民病といわれる糖尿病にも悪影響を及ぼす歯周 病。 およそ成人の 8 割にその兆候があり、 まさに歯周病は国民病です。 「歯が痛い」 (75 万 2 千人)、「歯ぐきのはれ・出血」 (47 万6千人)、「噛みにくい」 (21 万8千人)など、144 万 6 千人が最も気になる症状に歯科疾患をあげています。しかし、 そのうち歯科受診をしていない人は 48 万 7 千人もいます(厚労省「国民生活基礎調査」 (2004) ) 。 そのうえ労働安全衛生法に準拠した歯科健診が未整備であり、乳幼児期、学童期、壮 年・老年期といったライフステージに応じた健診制度も医科に比べて不十分なままで す。 歯科疾患の重症化を防ぐために早期発見・早期治療を促す歯科健診を充実させること が必要です。 ■ 医科に比べて歯科は健診制度が整備されていない 母子保健法 学校保健法 労働安全衛生法 健康増進法 法律に基づき実施されている健診制度 医科 歯科 妊婦健康診査 実施 制度なし 1 歳 6 ヶ月児健康診査 実施 実施 3 歳児健康診査 実施 実施 保育園健康診査 実施 制度なし 就学時健康診査 実施 実施 学校健康診査 実施 実施 就業時の健康診査 実施 制度なし 長期海外派遣労働者の健康診査 実施 制度なし 定期健康診査 実施 制度なし 産業(歯科)医の法的位置づけ 実施 制度なし 40 歳以上基本健康診査 実施 制度なし ― 努力義務 実施 ― 40、50、60、70 歳歯周疾患検診 40、45、50、55、60、65、70 歳骨粗鬆症検診 保団連で作成 要望:私達は医科に比べて立ち遅れている歯科の各種健診 の充実を求めています。 ─4─ Ⅲ . 受診抑制の拡大と 治療完了者の減少 ● 窓口負担増による歯科治療完了者の減少 2003 年 4 月に窓口負担が 3 割に引き上げられて、1999 年には 53.2%であった補綴(欠 けた部分を被せ物や入れ歯で補う治療)の完了者の割合が 2005 年には 48.0%に減少し、 治療が途中で終わる一部完了者が増加しています。 経済不況等により患者の経済的理由から治療を中断する事例は医科診療所よりも歯 科診療所でより多くみられます。 3 割への窓口負担増で歯科治療完了者が減少した ■ 3 割への窓口負担増で歯科治療完了者が減少した 03 年健保本人負担増 % 100 80 未完了者 53.2% 60 一部完了者 40 20 48.0% 補綴完了者 1957 1963 1969 1993 1999 2005 厚労省「歯科疾患実態調査」より作成 厚生労働省「歯科疾患実態調査」から作成 ■ 治療中断の事例は医科より歯科のほうが多い この半年間に、主に患者の経済的理由から、治療を中断または中止する事例はありましたか ● この半年間に、主に患者の経済的理由から、 治療を中断または中止する事例はありましたか 歯科診療所 あった なかった わからない 無回答 医科診療所 あった なかった わからない 無回答 病院 0% あった 20% なかった 40% 60% わからない 80% 無回答 100% 保団連「受診実態調査二次報告」(2010)より作成 保団連「受診実態調査中間報告」 (2010)から作成 要望:私達は患者さんの窓口負担の大幅軽減を求めています。 ─5─ Ⅳ . 保険でできない治療 ● 普及しているのに保険診療されていない技術は多く存在します。 口もとに天然色の歯を入れたり、丈夫で入れ心地の良い金属製の部分床義歯を入れた りすることなどは、未だに保険で給付されていません。 口元の歯はよく見えるところなので、 保険で主に銀色の歯しか入れられない ことは多くの患者さんの悩みの種に なっています。 金属部分床義歯 前装冠 義歯床(入れ歯の土台で咬む力を支える部分)を金属で作ると 薄くて割れにくい義歯を作ることができ、入れ心地も随分良く なります。 天然の歯の色に近い材質を金属製 の土台の上に焼き付けたもの。金 属冠と比べ、自然な感じになる。 品質や安全性が 確保され、 定着している 治療技術や材料でも 保険導入されて いない事例 要望:私達は、現在、保険給付されている前歯部前装冠が 小臼歯部まで拡大されることを求めています。 また、必要な患者さんには、金属部分床義歯も保険給付さ れることを求めています。 ─6─ Ⅴ . 自費診療、 混合診療とその限界 ― 過重すぎる患者負担 ― ● 患者さんは保険で十分な治療を望んでいます。 多くの患者さんは公的保険で歯科治療を受けています。自費診療 (保険外併用療養を 含む)で歯科治療を受けることができるのは、 歯科外来患者の 1 ~ 2%(歯科矯正を除く、 厚労省「患者調査」 (2008))です。 保険給付外の診療を受けることができる人は限られています。 保険給付が制限を受け たり、縮小されたりすると自費診療が増え、歯科治療を受けられない人がさらに増えま す。 健康保険のきかない歯科治療に対して 94%の患者が反対 ■ 健康保険のきかない歯科治療に対して 94%の患者が反対 その他 2.0% 賛成 4.2% 反対 93.8% 「保険で良い歯科医療を」全国連絡会「歯科医療に関する患者アンケート結果」(2008)より作成 保団連「歯科医療に関する患者アンケート結果」 (2008)より作成 要望:私達は患者さんに過重な負担を求める自費診療や混 合診療を拡大せずに、保険診療の拡充を求めています。 ─7─ Ⅵ . 保険から削られる治療 ● 保険の給付範囲から削られる治療 歯科の診療報酬改定では、ある診療行為を別の診療行為に含めて、個別の技術評価を なくし、 点数も引き下げられる包括化が行われています。 これは、 実質的に保険給付範囲 を削ることになります。 主だった包括化で歯科医療費のおおよそ 5%近く(年間の総診療報酬の 20 分の1)が 削減されました。 診断用の歯の模型(スタディモデル 50 点) 、治療用防護シート (ラバーダム 10 点)など が初・再診料に、義歯補強用の金属線(補強線 100 点)が有床義歯作製に係る技術評価に 包括され、無償提供を余儀なくされています。 改定のたびに基本診療に包括される診療項目 ■ 改定のたびに初・再診料へ包括される診療項目 1985 年改定時 初診料 再診料 160 点 20 点 2008 年改定時 初診料 再診料 182 点 40 点 2010 年改定時 初診料 再診料 218 点 42 点 口腔軟組織の処置 12 点 口腔軟組織の処置 12 点 口腔軟組織の処置 12 点 口角ビラン処置 口角ビラン処置 口角ビラン処置 TFix 監視加算 12 点 100 点 12 点 12 点 TFix 監視加算 100 点 TFix 監視加算 100 点 欠損補綴の監視 100 点 欠損補綴の監視 100 点 ラバーダム防湿法 10 点 ラバーダム防湿法 10 点 歯肉息肉除去手術 歯肉息肉除去手術 54 点 スタディモデル 50 点 54 点 歯科疾患管理料 20 点分 保団連で作成 保団連作成 ─8─ 補強線 補強線を入れた義歯 補強線を入れていない義歯 義歯が壊れるのを防ぎ補強する金属線(補強線 100 点)が包括化で 無償提供になっています(2002 年改定)。 主に、子供や障害を持つ人達の安全治 療にとって必要な治療用防護シート (ラバーダム 10 点)さえ包括化により 削られています(2008 年改定)。 要望:私達は診療行為を低い評価に包括化しないで、正当 に評価されることを求めています。 ─9─ Ⅶ . 歯に優しく、 抜かない治療の推進を ● 歯髄を残す治療の評価は長年極めて低いまま 硬いエナメル質、象牙質で取り囲まれている内部には歯髄と呼ばれる血管や神経が あります。硬い象牙質を養っている歯髄がなくなると歯は弱くなることがあります。そ の結果再び治療が必要になり費用も嵩んでいきます。 歯髄をできるだけ残すことはとて も大切な事なのです。しかし、この歯髄を残す治療の評価は長年極めて低いまま今日に 至っています。 また歯周病の予防にとって、歯の根に付着している汚染源を取り除くことが重要で す。そのため、それぞれの歯に手作業で行う汚染源を取り除く処置や歯髄を出来るだけ 残す治療など、「歯に優しく、抜かない治療」 を支える診療報酬を手厚くすることは丈夫 な歯を残すことにつながり、食生活を豊かにし、 健康づくりに貢献します。 歯の根の表面をきれいにする 診療報酬(点数)の推移 ■ 歯髄除去に比べ歯髄保存の点数は低い 600 歯髄を保護し、守って残す 点 500 400 300 抜髄 3根管 抜髄 2根管 抜髄 1根管 歯髄温存 療法 直接歯髄 覆罩 歯髄覆罩 歯髄を 除去 200 歯髄を 保存 100 0 70 974 977 980 984 986 990 994 998 002 006 010 1 2 1 2 1 1 1 1 1 2 1 19 厚労省「社会医療診療行為別調査」より作成 要望:私達は「歯に優しく、抜かない治療」がより高く評 価されることを望んでいます。 ─ 10 ─ Ⅷ . 長年にわたる歯科の低診療報酬、 失われた 16 年 ● 低空飛行を続ける歯科医療費 国民医療費が増加を続け歯科診療所が増加する一方、 歯科医療費は横ばいに推移して います。 国民医療費は、受診回数と個々の診療報酬 (点数) によって決まります。 窓口負担 増による患者さんの受診抑制が続き、 長期にわたり歯科診療報酬が低く抑えられたまま では歯科医療費は伸びません。 2010 年度歯科診療報酬改定は、32 年ぶりに技術料割合に応じて改定が行われたため に医科改定率を若干上回りましたが、それまでの累積で医科の 47.9%(1981 ~ 1997 年) に抑え込まれたマイナスが取り戻せず、 全てを背負い込んだまま今日に至っています。 ■ 歯科医療費は、長期にわたり横ばいで推移している 歯科診療医療費は、長期にわたり横ばいで推移している 兆円 40.0 120000 35.0 30.0 28.5 28.9 29.6 30.7 30.1 31.1 31.0 31.5 32.1 33.1 33.1 34.1 105000 90000 27.0 25.8 25.0 23.5 20.0 16.0 17.1 18.1 18.8 19.7 20.6 24.4 75000 21.8 60000 15.0 45000 10.0 30000 5.0 1.68 1.80 1.87 0.0 85年 87年 1.93 1.96 89年 2.04 2.12 91年 2.30 2.32 2.35 2.38 2.54 2.53 2.52 2.54 2.56 2.60 2.59 2.54 2.54 2.58 2.50 2.50 93年 95年 国民医療費 97年 歯科医療費 99年 03年 01年 05年 07年 15000 0 歯科診療所数 厚労省「国民医療費」より作成 厚労省「国民医療費」より作成 ─ 11 ─ ■ 歯科診療所(個人)の収支差額の平均値と最頻値に大きな差 全体の平均値に対してもっとも多く見られる値(最頻値)に大きな差 (月額:6月分) 万円 180.0 160.0 159.6 141.3 140.0 127.4 125.7 120.0 116.8 123.3 135.1 104.5 107.3 106.5 76.9 76.3 76.3 03年 05年 122.9 100.0 77.1 80.0 60.0 93年 平均値 95年 97年 中央値 99年 01年 07年 最頻値 中医協「医療経済実態調査」より作成 中医協「医療経済実態調査」より作成 収支差額 0 円以上 50 万円以上 100 万円以上 150 万円以上 200 万円以上 250 万円以上 300 万円以上 350 万円以上 400 万円以上 450 万円以上 500 万円以上 衝撃的な見出しが経済誌の表紙を飾り ました (これは右表より導き出したも の) 。歯科診療所の収支差額は月額 50 〜 100 万円を中心に分布し、この中から借 入金元金返済、生活費、院長の賞与・退職 金該当分などのやりくりをしています。 0 円未満 50 万未満 100 万円未満 150 万円未満 200 万円未満 250 万円未満 300 万円未満 350 万円未満 400 万円未満 450 万円未満 500 万円未満 全 体 個 人 23 100 158 138 97 50 40 17 4 7 2 6 642 中医協「医療経済実態調査」(2005)より 要望:私達は安心して歯科治療に専念できる診療報酬を求 めています。 ─ 12 ─ Ⅸ . 人権を無視した指導、 監査の実態 ― 行政手続法さえ守られない現場 ― ● 医療費抑制政策の一環として人権を無視した指導が横行 保険医療機関は健康保険法 73 条 (厚生労働大臣の指導)によって保険指導(行政指導) を受けることとされています。指導は、 「保険診療の質的向上及び適正化を図る」 ことを 目的とし、「保険診療の取り扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底さ せることを主眼とし、懇切丁寧に行う」という指導方針で行われるものと 「指導大綱」に 明記されています。 しかし実際の指導は、指導医療官(技官) による暴言や脅しなど保険医の基本的人権を 無視して行われる場合もあり、指導が原因と考えられる歯科医師の自殺事例があるほど です。 さらに、自主返還の強要や請求内容の正否の判断材料とする患者調査の実施など監査 (処分を伴うもの)まがいの指導が行われています。 これら行政手続法すら遵守しない指 導、 監査は保険医の萎縮診療を引き起こし、 不幸な事態も生んでいます。 保険医療機関の請求等の流れ 保険医療機関は診療代金の一部を窓口 で患者から受け取り、残りを保険者へレセ プト (診療報酬明細書)に基づき請求しま す。 レセプトは直接、保険者に行かず、審査 機関 (支払基金、国保連合会)で適正に請求 されているかの審査を経ます。 2007 年 11 月「東京新聞」より この診療報酬の請求等に対して、さらに 地方厚生 (支)局が保険医療機関に対し保 険診療が適切に運用されているかの指導 を行います。 要望:私達は行政手続法等に基づいて懇切丁寧に指導、監 査が行われることを求めています。 ─ 13 ─ Ⅹ . わが国の 歯科技工と海外技工物 ● 患者・国民に安全な技工物を “中国製義歯から有害物質検出”としてテレビ放映されました。それによれば、わが国 では 1985 年以降、発がん性や呼吸器障害をもたらすという理由で材料使用が禁じられ ているベリリウム金属が中国に委託製造された義歯から発見されたという衝撃的な内 容です。これは、海外では薬事法や歯科技工士法が適用されず、 無資格者でも製造できる からです。 安全性に問題のある海外技工物が横行するようになったのは、2005 年9月に厚労省 歯科保健課長名の「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」通知(平成 17 年 通知) 以降です。 通知では、海外委託の技工物は歯科医師の責任において行うこととしていますが、歯 科医師といえども診療現場で技工物の成分まで指示通りか確認することはできません。 海外へ歯科技工を委託する最大の理由は技工価格の安さにあります。 このような状態 が続けば国内の保険診療にも過剰なコスト競争の圧力がかけられ安全で良質な歯科技 工物の提供が懸念されます。 歯科医師が勧めても 7 割の方は ■歯科医師が勧めても患者さんの 7 割は 海外技工物の使用に同意していない 海外技工物の使用に同意していない 同意 する わからない 8.7% 18.0% 同意しない 73.3% 保団連「海外技工患者調査」 (2009)より作成 保団連海外技工患者調査(2009 年)より 要望:私達は安全性が保障された歯科技工物を提供できることを 求めています。 ─ 14 ─ XI. 将来の歯科医療に大きな不安 ● 歯科大学の更なる定員割れ 健康増進にとってその重要性が高まっている歯科医療に逆行して、 わが国の歯科医師 を養成してきた私立歯科大学・歯学部の多くで定員割れがおき、 歯科技工士、 歯科衛生士 の学校も定員割れや廃校が相次いでいます。日本の歯科医療の担い手の確保、質の低下 が危惧されています。 また、 歯科医師とともに歯科医療を提供する歯科衛生士や歯科技工士を医院経営上の 理由から必要でも雇用できないという事態も起こっています。 長年にわたって歯科医療 費が低く抑えられてきたことによります。 ■歯科大学・歯学部の 11 校が定員割れ 募集人数(人)入学者数(人) 充足率(%) 北海道医療大学歯学部 岩手医科大学歯学部 奥羽大学歯学部 明海大学歯学部 日本大学松戸歯学部 日本歯科大学新潟生命歯学部 神奈川歯科大学 鶴見大学歯学部 松本歯科大学 朝日大学歯学部 福岡歯科大学 96 48 50.0 70 42 60.0 96 32 33.3 120 95 79.2 128 97 75.8 96 58 60.4 120 76 63.3 128 76 59.4 80 35 43.8 128 106 82.8 96 81 84.4 「日刊歯科通信」(4 月 28 日)掲載の平成 22 年入学結果表より作成 ─ 15 ─ ● 立ち去っていく歯科技工士 日本歯科技工士会の「歯科技工士実態調査 2009」によれば、離職について「非常に感じ る」 「やや感じる」という歯科技工士は全体の40%を超えており、 、 その理由に 「給与」 「労 、 働時間」 、「将来性」があげられています。 歯科技工士の離職を防ぐためには、 何よりも診療報酬上で歯科技工士の技術と労働を 適切に評価し、補綴関連の診療報酬の抜本的な引き上げが必要です。 ■歯科技工士で離職を「非常に感じる」、 「やや感じる」は 4 割をこえる ●離業意向 ●離業意向 (%) % 全体 (2009) 1264 全体 (2009) 1264 11.3 11.3 勤務者 746 746 勤務者 12.6 12.6 30.5 30.5 33.4 33.4 9.5 自営者 518 518 9.5 自営者 全体 (2006)988 988 全体 (2006) 30.1 30.1 29.9 29.9 26.4 26.4 16.2 16.2 20.8 20.8 30.5 30.5 32.6 32.6 35.6 35.6 非常に感じる 非常に感じる 25.6 25.6 26.7 26.7 やや感じる やや感じる あまり感じない あまり感じない 3.4 3.4 1.0 1.0 20.3 20.3 全く感じない 全く感じない 2.4 2.4 1.1 1.1 不明 不明 ●離業したいと感じる理由 60 % 全体(2009) 45 勤務者 自営者 30 15 厚生面 雇用条件 健康面 将来性 その他 不明 仕事の 内容 労働時間 人間関係 給与 集計数 0 全体(2009) 529 54.8 50.7 4.0 10.6 21.7 33.8 6.0 8.5 4.2 0.2 勤務者 343 55.7 47.2 4.7 14.9 20.7 32.4 7.3 8.5 4.1 ─ 自営者 186 53.2 57.0 2.7 2.7 23.7 36.6 3.8 8.6 4.3 0.5 日本歯科技工士会「歯科技工士実態調査」 (2009)より作成 ─ 16 ─ ● 雇用できない、 長く勤められない歯科衛生士 歯科衛生士の約 9 割が歯科診療所に勤務し、歯科保健・予防や歯科診療の補助などを 行っています。 また、歯科衛生士は、2010 年歯科診療報酬改定時に新設された 「栄養サポートチーム 加算」の配置されることが望ましい専門職とされるなど、 病院・介護施設での活躍への期 待が高まっています。しかし、歯科診療所での歯科衛生士の充足率は常勤・パートをあわ せると 7 割にすぎず、3 割の歯科診療所では充足されていません。その理由は 「雇用した いが、経済的に無理があるため」が一番多く回答されています。 これは歯科衛生士の役割 に見合った診療報酬上の評価が低いことに最大の原因があります。 ■歯科診療所の 3 割で歯科衛生士が未充足、主な理由は経済的に無理があるため 歯科診療所の 3 割で歯科衛生士が未充足、主な理由は経済的に無理があるため ●歯科衛生士を雇用していない理由について 50 % 43.3 40 30 27.8 20 16.6 10.7 10 1.7 無回答 その他 募集して いるが 定着しない 雇用 したいが、 経済的に 無理が あるため 必要性が ない 0 保団連「開業医の実態・意識基礎調査」 (2008) 保団連「開業医の実態・意識基礎調査」 (2008)より作成 要望:私達は、これからますます重要性の増している歯科医療関 連職種の技術と労働に対する評価を高めることを求めています。 ─ 17 ─ XII. 社会保障分野の経済波及効果 ● 社会保障・医療への財政投入が 経済発展と雇用拡大をもたらす 厚労省も産業連関表を用いて社会保障分野の総波及効果を示しているように、 社会保 障分野は労働集約型産業として、経済波及効果は他の産業に比べて大きく、雇用効果も 大きいのです。 こうした経済波及効果が大きい分野の予算を増やす必要があります。 そのためにも全 体の医療費をOECD並に増やして、 歯科医療費を増大させることが重要です。 社会保障分野の総波及効果(産業連関表による総波及効果) 社会保障分野の総波及効果(産業連関表による総波及効果) ■社会保障分野の総波及効果(産業連関表による総波及効果) 4.7741 4.7741 全産業平均 全産業平均 4.0671 4.0671 3.5438 3.2207 3.5438 3.2207 4.1622 4.0076 4.1622 4.0076 4.2889 4.2332 4.1927 4.1149 4.2308 4.2889 4.2332 4.1927 4.1149 4.2308 4.2635 4.2635 医医 療︵ 療︵ 医医 療療 法法 人人 等等 ︶︶ 社社 会会 保保 険険 事事 業業 介介 護︵ 護︵ 在在 宅宅 ︶︶ 社社 会会 福福 祉祉 保保 健健 衛衛 生生 公公 共共 事事 業業 輸輸 送送 機機 械械 金金 融融 ・・ 保保 険険 農農 林林 水水 産産 業業 通通 信信 不不 動動 産産 全全 産産 業業 平平 均均 出典:財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構 出典:財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構 「医療と福祉の産業連関に関する分析研究報告書」 (2004)より、 「医療と福祉の産業連関に関する分析研究報告書」 (2004)より、 厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室作成 厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室作成 総波及効果とは 一般的に、ある産業に対する需要が増えるとその産業の生産が増加し、それにより原材料の購入等を通じて次々 と各産業の生産が誘発されるが、これを「波及効果」という。このような各産業における一次的な生産増の結果、 それぞれの産業で働く人々の所得の増加を呼び、所得増が消費を増大させ、消費増が更なる生産を増加させるが、 そのような波及効果が「追加波及効果」である。そして両者を勘案して算出したものが「総波及効果」である。 要望:私達は、医療・社会保障へのさらなる財政投入を通 じて、経済の活性化をはかることを求めています。 ─ 18 ─ ● ● ● 国民皆保険制度の維持・発展にむけて 医療・介護の経済波及効果に着目して、政府も“新成長戦略”の中で医療・介 護の施策を重視しています。しかし、これは公的保険の医療・介護の充実とい うより、公的保険外の医療・介護サービスの拡大・成長産業化など民間市場の 拡大をめざすものです。 2011 年度は国民皆保険制度が発足してから 50 年目にあたります。 国民皆保険制度を維持・発展させていくためには、公的保険の医療・介護の 更なる充実が必要となります。 日本の医療費における公的支出の対 GDP 比は 6.6%です。福祉大国のフラン ス・ドイツの水準と比較すると額にして 8.4 兆円足りないということになりま す。 医療における公的支出を増やすにあたっては再配分効果に留意する必要 があります。年金を中心とする現金給付等の公的移転による再配分効果では OECD 加盟 21 国中ワースト 3 位、税による再配分効果では最下位(内閣府「平 成 21 年度年次経済財政報告」)と報告されています。 社会保障分野への予算拡大や診療報酬の引き上げ、患者窓口負担の軽減な ど公的医療・介護を医療・介護従事者が提供し、患者がその医療・介護を享受で きるような施策を実現させていくことが大切です。 ─ 19 ─ 各保険医協会・保険医会一覧 (2010年12月現在) 団 体 名 電話番号 【FA X番号】 〒 北 海 道 保 険 医 会 011-231-6281 【231-6283】 060-0042 札幌市中央区大通西6-6 北海道医師会館3F 所 在 地 青 森 県 保 険 医 協 会 017-722-5483 【774-1326】 030-0813 青森市松原1-2-12 青森県保険医会館内 岩 手 県 保 険 医 協 会 019-651-7341 【651-7374】 020-0034 盛岡市盛岡駅前通り15-19 盛岡富国生命ビル8F 宮 城 県 保 険 医 協 会 022-265-1667 【265-0576】 980-0014 仙台市青葉区本町2-1-29 仙台本町ホンマビル4F 秋 田 県 保 険 医 協 会 018-832-1651 【833-6880】 010-0001 秋田市中通2-2-21 秋田フコク生命ビル2F 山 形 県 保 険 医 協 会 023-642-2838 【642-2839】 990-0043 山形市本町2-1-2 富国生命ビル2F 福 島 県 保 険 医 協 会 024-531-1151 【531-1153】 960-8252 福島市御山字中屋敷96番地 福島県保険医会館 茨 城 県 保 険 医 協 会 029-823-7930 【822-1341】 300-0045 土浦市文京町1-50 富士火災ビル3F 栃 木 県 保 険 医 協 会 028-622-0083 【627-0648】 320-0017 宇都宮市戸祭台29-17 群 馬 県 保 険 医 協 会 027-220-1125 【220-1126】 371-0013 前橋市西片貝町4-12-25 ロイヤルマンション西片貝103 埼 玉 県 保 険 医 協 会 048-824-7130 【824-7547】 330-0074 さいたま市浦和区北浦和4-2-2 アンリツビル5F 千 葉 県 保 険 医 協 会 043-248-1617 【245-1777】 260-0031 千葉市中央区新千葉2-7-2 大宗センタービル4F 東 京 保 険 医 協 会 03-5339-3601 【5339-3449】 160-0023 新宿区西新宿3-2-7 パシフィックマークス西新宿4F 〃 三 多 摩 分 室 042-325-1351 【325-1802】 185-0021 国分寺市南町3-25-9 カメダビル4F 東京歯科保険医協会 03-3205-2999 【3209-9918】 169-0075 新宿区高田馬場1-29-8 新宿東豊ビル6F 神奈川県保険医協会 045-453-2411 【461-0215】 221-0056 横浜市神奈川区金港町5-36 東興ビル2F 山 梨 県 保 険 医 協 会 055-227-5434 【227-5435】 400-0862 甲府市朝気1-3-19 オフィス.イン.コマツ 新 潟 県 保 険 医 会 025-241-8625 【241-4959】 950-0865 新潟市中央区本馬越2-17-5 富 山 県 保 険 医 協 会 076-442-8000 【442-3033】 930-0004 富山市桜橋通り6-13 フコクビル11F 石 川 県 保 険 医 協 会 076-222-5373 【231-5156】 920-0902 金沢市尾張町2-8-23 太陽生命金沢ビル8F 福 井 県 保 険 医 協 会 0776-21-1660 【21-1649】 910-0038 福井市三ツ屋2-704-1 長 野 県 保 険 医 協 会 026-226-0086 【226-8698】 380-0906 長野市大字鶴賀字七瀬629-1 長野東口ビル9F 岐 阜 県 保 険 医 協 会 058-267-0711 【267-0712】 500-8844 岐阜市吉野町6-14 三井生命岐阜駅前ビル6F 静 岡 県 保 険 医 協 会 054-281-6845 【281-7473】 422-8067 静岡市駿河区南町18-1 サウスポット静岡8F 愛 知 県 保 険 医 協 会 052-832-1345 【834-3512】 466-8655 名古屋市昭和区妙見町19-2愛知県保険医会館内 三 重 県 保 険 医 協 会 059-225-1071 【225-1088】 514-0062 津市観音寺町429-13 滋 賀 県 保 険 医 協 会 077-522-1152 【525-3093】 520-0047 大津市浜大津2-1-36 大津フコク生命ビル8F 京 都 府 保 険 医 協 会 075-212-8877 【212-0707】 604-8162 京都市中京区烏丸通蛸薬師上ル七観音町637 第41長栄カーニープレイス四条烏丸6F 京都府歯科保険医協会 075-431-2314 【441-9292】 603-8214 京都市北区紫野雲林院町18 京都視力センタービル5F 大 阪 府 保 険 医 協 会 06-6568-7721 【6568-2389】 556-0021 大阪市浪速区幸町1-2-33 保険医会館内1F 大阪府歯科保険医協会 06-6568-7731 【6568-0564】 556-0021 大阪市浪速区幸町1-2-33 保険医会館内3F 兵 庫 県 保 険 医 協 会 078-393-1801 【393-1802】 650-0024 神戸市中央区海岸通1-2-31神戸フコク生命海岸通ビル5F 奈 良 県 保 険 医 協 会 0742-33-2553 【34-9644】 630-8013 奈良市三条大路2-1-10 和歌山県保険医協会 073-436-3766 【436-4827】 640-8157 和歌山市八番丁11番地 日本生命和歌山八番丁ビル8F 鳥 取 県 保 険 医 協 会 0859-24-3063 【24-3066】 683-0853 米子市両三柳877-1 鳥取県保険医会館 島 根 県 保 険 医 協 会 0852-25-6250 【27-5724】 690-0044 松江市浜乃木4-4-1 久谷ビル1F 岡 山 県 保 険 医 協 会 086-277-3307 【277-3371】 703-8266 岡山市中区湊487-1 広 島 県 保 険 医 協 会 082-262-5424 【262-5427】 732-0825 広島市南区金屋町2-15 マニュライフプレイス広島4F 山 口 県 保 険 医 協 会 083-973-9630 【974-5900】 754-0026 山口市小郡栄町1-2 山口県保険医会館内 徳 島 県 保 険 医 協 会 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