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親子の対立と共適応
Parent-Offspring Conflict and Coadaptation Camilla A. Hinde, Rufus A. Johnstone, Rebecca M. Kilner Science 327, 1373 (2010) 1.はじめに (1)親子関係の進化に関する研究 とくに、「親の給餌をめぐる親子間の対立」問題 ・行動生態学者: 対立の進化的解決に注目 親による子への給餌量を決めるのはどちらか? 親の統制か、ベギングによる子の操作か? ・量的遺伝学者: 親子間の形質の共適応に注目 子の要求形質と親の給餌形質はどのように相関するか? どちらにどのような選択がかかれば、どのような 要求ー供給の相関が形成されるか? 行動的反応規準(Behavioral reaction norm)による Koelliker, 2005, 2010,Hinde et al., 2010 要求ー給餌場面の支配 選択 要求ー供給相関 子 親 負の相関 Parent food supply rate 最近の統合的考え方 Offspring begging rate Offspring begging rate Parent food supply rate Parent food supply rate 親 子 正の相関 負の相関 家族の平衡点 正の相関 Offspring begging rate (2)鳥類における研究の進歩 卵へ送られる物質による子のベギングへの効果 テストステロン、アンドロゲン、抗体、カロチノイド等 子が親を操作するときの親の正直な情報(親の能力、寛大さ)? 親が子からの操作に対抗するための補完的なもの? 卵物質の情報が補完的に利用され、親子間のコストー利益 のバランスが図られている.要求ー給餌場面をどちらが支 配していても、選択の結果、間接的な要因によって(卵物質 もその1つ)、親子間の平均生涯適応度に差は生じないと考 えられる(一生のフェーズの違いに過ぎないから)。 しかし、卵の情報を攪乱することによって、孵化後のヒナと 親の間で繰り広げられる要求ー給餌場面のやり取りをどち らがコントロールしているかを調べることができる。 つまり、Cross-Fostering(里親操作)をして、要求ー給餌の バランスを崩したとき、ヒナと親のどちらに悪い影響が出現 するか(どちらにしわ寄せ?)を調べればよい。要求ー給餌 場面をコントロールしていない方が適応度を下げるはずで ある。 2.モデル 給餌による、 子への適応度利益:b(n,y) 親への適応度コスト:c(q,y) y :親による給餌量 n :子の要求量 q :親の給餌能力 x :子のベギング率 ∂b/∂y > 0, ∂2b/∂y2 < 0, and ∂2b/∂y∂n > 0 ∂c/∂y > 0, ∂2c/∂y2 ≥ 0, and ∂2c/∂y∂q < 0 具体的な計算では、 b(n,y) = ny - y2/2, c(q,y) = 16y2/(1 + 8q), y(x) = 5x/8 シミュレーションの結果: 給餌量を、 子がコントロールし ている場合、親が 適応度を下げる. 親がコントロールし ている場合、子が 適応度を下げる. Fig. 1 Provisioning behavior and predicted consequences of exchanging young, under the offspring control and parental control models. 3.検証実験 材料:カナリア(Serinus canaria) 方法: ・26ペアを用意し、それらをランダムに組み合わせてクロス組を 13組つくる(卵数は調整) ・自分のブルードと里子ブルードを育てさせる ヒナのベギング率、ヒナの体重変化(子の適応度変数)、親の 給餌頻度を測定 ・翌年、最初の繁殖で各ペアの産卵数(親の適応度変数)を測定 給餌頻度をどちらが コントロールしているか? 里子のベギング率が実子よりも低 い範囲ではそれとともに: 親の翌年の産卵数は減少 里子の成長率は増加 里子のベギング率が実子よりも高 い範囲ではそれとともに: 親の翌年の産卵数は一定? 里子の成長率は低下 結論:親は一定の範囲内では里子 のベギングに合わせるが実子のレ ベル以上になると給餌を控え、その 結果、里子の成長率は低下すると 考えられる.よって,親がコントロー ルしているだろう. Cross-Fosteringは子の方に悪影響が現れる 白色棒は自分自身のブルード 灰色棒はフォスターブルード Fig. 3 The average effect of cross-fostering on correlates of nestling and maternal fitness. 結論: カナリアにおいては要求ー給餌場面の コントロールは親が行っている.