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航空サービスの規制緩和とその政策評価

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航空サービスの規制緩和とその政策評価
航空サービスの規制緩和とその政策評価*
一航空自由化・ JJ統合・羽田空港発着枠
津野孝一朗
名古屋市立大学"
この論文の目的は、日本で 2000年に実施された航空自由化政策が、航空運賃にど
のような影響を与えたかを明らかにすることである。この航空自由化の政策目標は、
規制緩和等の競争環境の整備により、航空会社聞の競争を促進させ、安全かっ低廉で
利便性の高い航空輸送サービスの提供を図ることであった。そして現在では、その政
.
1
1テロ発生に伴う劇的
策評価が求められている。しかし日本の航空自由化後には、 9
な外生的構造変化が発生し、航空サービス市場に大幅な影響を与えた。航空自由化政
策を評価するためには、これらの構造変化の影響を除去した上で、その成果を計測す
る必要がある。本稿では、航空政策の評価指標の一つで、ある航空運賃に注目して、航
空自由化および外生的構造変化の影響を数量的に検討した。本稿の分析から、航空自
由化により普通旅客運賃がエリア差別的な運賃設定になったこと、 JJ統合(日本航空
と日本エアシステムの経営統合)により、むしろ事前購入割引運賃の新規設定が促さ
れたことがわかった。
1
.
はじめに
日本の航空サービスは、 2000年 に 航 空 自 由 化 と 呼 ば れ る 規 制 緩 和 を 実 施 し て 、 そ
れ か ら 5年 経 過 し た 現 在 、 そ の 政 策 評 価 が 求 め ら れ て い る 。 こ の 政 策 実 施 後 に 効 果
や影響を測定して評価する作業は事後評価と呼ばれ、政策が意図したことを実現で
この論文は、日本経済学会・秋季大会(明治大学)報告論文「航空運賃における特別措置の役割一航
空機燃料税と空港・管制サービス利用料 j 、 「社会的規制改革の計量分析 j 研究会(日本経済研究セン
ター)での報告に基づくものである。本稿の作成において、浅田義久(明海大学)、井出多加子(成際
大学)、鈴木][(東京学芸大学)、瀬下博之(専修大学)、八代尚宏(国際基督教大学)、山崎福寿(上
智大学)の各氏、および学会セミナーの参加者より有益なコメントを頂いた。ここに記して感謝し、たし
ます。本稿中の誤りは、すべて筆者の責にあります。
"名古屋市立大学大学院経済学研究科
6
7
8
5
0
1 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字山の畑 l
〒4
T
e
l
:052-872-5754,F
a
x
:052-871-9429,E
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a
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a
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g
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y
a
'
c
u
.
a
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.
j
p
e
日本経済研究
N
o
.
5
3,2
0
0
6
.
1
13
きたか、そうでなければどこに問題があるかを明らかにする手法である(金本、
2
0
0
4
b
.)。このため事後評価においては、その政策は何を目標としたかを明確に定
義し、その予想される効果や影響を列挙して、利用可能な統計指標を用いて、数量
的に評価することが求められている。しかし日本では、政策評価の概念が十分に浸
透していない内に多くの政策が実施され、その後で政策評価の実施が求められてい
るという難題に直面している。日本の航空自由化政策も同様であり、事前の評価計
画や評価準備が十分でないままに政策が実施された。本稿では、これら政策評価の
流れを念頭において、日本の航空自由化政策が航空サービス市場に与えた影響を数
量的に評価しようと考えている。
まず政策評価において明確にしなければならない点は、その政策が何を実現しよ
うとしたかについてである。最近に公表された国土交通省による航空自由化政策の
2
0
0
5
)では、その政策の目的として「航空運送事業者
事後評価書である国土交通省 (
間の競争の促進による国内航空輸送の利便性の向上の要請に対応した、①事業への
参入の容易化、②多様なサービスの提供の促進を行う必要性 J を掲げ、その評価を
実施している。しかし航空自由化以前に公表された報道発表資料である「航空輸送
サービスに係る情報公開及び運賃・料金制度の具体的な運用の在り方について(運
輸省航空局監理部航空事業課、 1999年 1
0月 26日.)Jでは、「この航空法の改正は、
規制緩和等の競争環境の整備により、航空会社聞の競争を促進させ、もって「安全
かっ低廉で、利便性の高い航空輸送サービスの提供」を図ろうとするもの J と述べら
れている。このように政府が掲げる政策目標には、政策実施以前と以後では微妙な
ニュアンスの変化が含まれている。
次に明らかにしなければならない点は、どのような手法を用いて評価を実施する
かについてである。航空自由化政策は、規制緩和の範時に含まれる政策であり、そ
の規制緩和自体を数量的に評価するための手法を考案しなければならない。これま
で日本の規制緩和に関する研究と議論は、加藤 (
1
9
9
4
)、植草 (
1
9
9
7
)、八代 (
2
0
0
0、
2
0
0
3
)
が代表的である。また航空自由化政策についての議論は、戸崎(19
9
5
)、中条(19
9
6
)、
2
0
0
0
)、藤井 (
2
0
01)がある。これらの議論や先行研究は、規制緩和や航空自由
山内 (
化政策に関する平均的な見解を明らかにするために必要不可欠なものである。この
文献研究は、政策評価を構成する重要な一要素であり、津野 (
2
0
0
5
)ではその評価研
究を行った。そして得られた政策研究の成果および評価概要をもとに、政策を数量
的に評価することが求められる。
規制緩和の効果を数量的に評価する標準的な手法は、金本 (
2
0
0
4
a
)に示される消
14
日本経済研究
N
o
.
5
3.
2
0
0
6.1
費者余剰アプローチである。このアプローチは、まず規制緩和のあらゆる成果を消
費者の直面する価格の変動として捉え、その需要関数を測定し、消費者余剰の増加
の程度を金銭的に算定する。次に政策実施に伴うあらゆるコストを列挙し、その規
模を金銭的に集計する。最終的に消費者余剰の増加としづ便益が、政策実施に伴う
コスト総額に比して、十分に大きかった否かによって、その政策の有効性を事後的
3本の航空自由化政策の評価においても、この消
に評価しようとするものである。 1
費者余剰アプローチを用いて評価を実施することが望ましい。しかし事前の評価計
画やその準備、および評価のためのデータ整備の不備等の大きな問題があり、この
アプローチによる評価を行うことができない。加えて政府の掲げる政策目標は、航
空自由化以前と以後では微妙に変化している。このため本稿では、政府が掲げる政
策目標が変化を示した背景にある理由を、文献研究の中で明らかにした上で、当初
目的に掲げた「航空自由化による低廉な航空輸送サービスの提供 j が実現されたか
否かだけに着目して、その数量的な評価を行おうと考えている。
本稿の分析から得られた結論を要約すると、次のとおりである。日本の航空サー
ビス市場では、 9
.
1
1テロ発生に伴う劇的な外生的構造変化が発生しており、航空自
由化政策を評価するためには、この構造変化の影響を除去する必要がある。また航
空政策の評価指標の一つである航空運賃を利用した分析から、航空自由化により普
J統合(日本航空と日本エア
通旅客運賃がエリア差別的な運賃設定になったこと、 J
システムの経営統合)により、むしろ事前購入割引運賃の新規設定が促されたこと
がわかった。これまでの航空自由化政策に関する評価では、航空運賃の低下が示さ
れているが、今後には航空自由化政策の成果と、外生的構造変化の成果を厳密に識
別した評価を実施する必要があるものと考えられる。
本稿の構成は、次のとおりである。以下 2節では、日本の航空サービスにおける
規制緩和の文献研究を行い、その特徴をまとめている。 3 節では、日本の航空運賃
を決定する要因について、簡単なモデルを利用して説明している。 4節は、政策評
価を目的とした航空運賃関数の推定モデルについて説明し、 5 節ではその推定結果
を報告している。最後 6節は、本稿の結論の要約と今後の課題について述べている。
2
.
日本の航空サービスにおける規制緩和
日本の航空サービス及び空港の維持管理は、国土交通省航空局(以下では航空局
という)が担っている。この航空及び空港行政(以下では航空行政という)を規定
航空サービスの規制緩和とその政策評価
15
する基本法は、航空法(昭和 2
7年 7月 1
5 日法律第 2
3
1号)である。そして主に空
港整備や航空路整備に要する費用は、利用者負担の原則に基づく空港整備特別会計
によって賄われている。津野 (
2
0
0
5
)では、多岐にわたる航空行政とその政策の展開
に関して、規制緩和の観点から取りまとめた政策研究を行った。本節では、特に航
空サービスにおける経済的規制と社会的規制に注目して、その規制緩和の流れと政
策評価に関する先行研究の特徴を明らかにしている。
2
.
1 経済的規制とその改革 1一航空自由化以前の政策評価ー
経済的規制とは、経済活動の効率性を高めることを目的として、政府が企業参入
や価格、生産量に規制を課すことである。日本では、 2000年 2月に施行された改正
航空法を契機に、許認可による航空サービス規制から、原則として航空会社の自由
な経営判断に基づく路線運航と事後的な行政監視を重視する行政機能の変革が実施
された。この行政機能の変革は、一般的には航空サービスの規制緩和や航空自由化、
航空ビッグパンなどと呼ばれている。しかし航空局は、この 2000年 2月を契機に行
政機能の転換を急激に実施したのではなく、 1980年代後半から漸進的に改革を実施
していた(榊原、 200l
.)。以下では、 1986年の航空憲章 l (45-47体制)の廃止から
2000 年の航空自由化前までの期間を「漸進的な航空規制緩和時代 J
、それ以後の期
間を「完全な航空自由化時代」と呼ぶこととする。
この漸進的な航空規制緩和時代において、 1
9
9
7年のトラッキング基準(路線需要
に応じた就航社数を定める規制)の廃止は、羽田空港における既存の発着枠に関し
て、航空会社が自由にその行き先地を選択できるようになったため、参入規制は事
実上この時点で廃止された。また従来の運賃政策の経過から、航空運賃の設定に関
しても航空会社の裁量が大きくなっていた。このため 1997年 4月は、事実上の航空
9
9
8
.。
)
自由化が実現された時期として考えられている(金本ほか、 1
これら漸進的な航空規制緩和時代における政策評価研究として、新規参入政策の
評価は村上(1994,1
9
9
5
)、運賃政策の評価は高橋(19
9
6
)、山内(1997、2
0
0
0
)、新規参
入政策(トラッキング政策)と運賃政策(幅運賃制度)の両者を同時に考慮して評
価した研究は大橋ほか (
2
0
0
3
)、山口 (
2
0
0
5
)、空港使用料の特別措置 2の評価は津野
l 航空憲章とは、 1
9
7
0 (昭和 4
5
) 年の閣議了解と 1
9
7
2 (昭和 4
7
) 年の運輸大臣通達によって、国内線運
航に関して各航空会社に役割分担を規定するものである (
4
5
4
7体制)。しかしこの規制は、 1
9
8
5年の
運輸省政策審議会(航空部会)の最終答申によって廃止された。この答申の内容は、次のとおりである。
(
1
) 45-47体制の廃止、 (
2
) 全日空の国際線定期便参入、 (
3
) 日航の多客圏内ローカノレ線参入、 (
4
)日
9
5
a,
b
)を参照。
航の完全民営化。この期間における航空サービスの規制緩和については、山内(19
2 この空港使用料の特別措置は、経済特区効果の一種として考えることができる。経済特区効果の計量
16
日本経済研究
N
o
.
5
3,2
0
0
6
.1
(
2
0
0
4
a、b
)がある。これら評価研究において明確に合意された事実があるとは言え
ないが、参入政策は羽田空港の発着枠制約の存在から十分に発揮できているとは言
えないこと、運賃政策は航空運賃の多様化を通じて若干の低下効果があったこと、
空港使用料の特別措置は事実上の路線補助であり、航空運賃に与える影響は明確で
ないことが、その特徴としてあげられる。
2
.
2 経 済 的 規 制 と そ の 改 革 2一航空自由化の政策評価一
2000年の航空法改正を契機とする航空自由化の政策目標は、次のようにうたわれ
ている。「この航空法の改正は、規制緩和等の競争環境の整備により、航空会社間の
競争を促進させ、もって「安全かっ低廉で、利便性の高い航空輸送サービスの提供」
を図ろうとするものであり、改正航空法施行後は、航空会社においては、市場原理
のもと、市場の状況に応じた自由な経営判断に基づき、多様な運賃・サービスを設
航空輸送サービスに係る情報
定し、かっこれを随時変更することが可能となる。(r
公開及び運賃・料金制度の具体的な運用の在り方について J運輸省航空局監理部航
空事業課、 1
9
9
9年 1
0月 26日.)Jこの政策目標の実現を目的として、参入政策では
需給調整規定と呼ばれる経済的規制の撤廃、運賃政策では認可制度から事前届出制
移行による運賃規制が原則として廃止されることになった 3
0
しかしこの完全な航空自由化の時期において、言及しなければいけない重要な点
は、劇的な外生的構造変化が発生したことである。この構造変化とは、 9
.
1
1テロ勃
発及び米英軍イラク戦争、新型肺炎 SARS (重症急性呼吸器症候群)発生による劇
的な航空不況である。これら事件の発生は、航空利用客の大幅な減少(需要ショッ
ク)と航空機燃料価格の高騰による運航費用の増大(コスト・プッシュ)を招き、
航空会社の採算を大幅に悪化させることになった。この外生的ショックの発生によ
り、航空局の航空政策は、競争促進政策から既存企業の経営支援策に軸足が移るこ
とになる。この政策の一つが、「航空事業経営基盤強化総合対策プログラム(航空局
監理部航空事業課)Jである。このため参入政策と運賃政策とも、既存企業の経営状
態に配慮、した運営を行わざるを得ない側面があった。そして結果的に競争当局(公
正取引委員会、以下では公取委という)の役割が高まった(中条、 1
9
9
9
.、 2
0
0
5
.、
I
to、 2
0
0
3
.)
。
評価の手法については、鈴木 (
2
0
0
4
)がその詳細を説明している。
32
0
0
2年 9月には、更なる競争促進を目的として「我が国航空市場競争環境整備プログラム(国土交通
省航空局監理部航空事業課、 2
0
0
2年 9月 1
7日.) Jが打ち出されている。
航空サービスの規制緩和とその政策評価
17
このため航空自由化に関する政策評価は、このような外生的な構造変化の影響を
除去した上で、「安全かっ低廉で、利便性の高い航空輸送サービスの提供」が実現され
たかを評価しなければならないという難題に直面することになった。 2000年の改正
2
0
0
4
)と
航空法による航空自由化に関する政策評価としては、内閣府政策統括官編 (
国土交通省 (
2
0
0
5
)の 2つがある。内閣府政策統括官編 (
2
0
0
4
)では、航空サービスの
規制緩和に関して消費者余剰を計算し、 1993年度から 2002年度の累計で、圏内航
空運賃の低下によって 2739億円の余剰が発生したことを報告している。また国土交
2
0
0
5
)は、自ら実施した航空サービスの規制緩和に関する政策評価であり、そ
通省 (
の評価項目は多岐にわたっている。この評価結果では、「規制緩和後、特に大きな問
題は生じておらず、また、運賃の多様化や価格競争を通じて、利用者の利便の増進
につながっているものと思われる」とされている。しかしこの評価書においても、
劇的な構造変化となった航空不況の取扱いに苦慮していることが明記されている。
また公取委の関与の高まりに関する点については、特に明示的な分析はないままと
なっている。
2
.
3 社会的規制とその改革一運航・整備・乗員及び航空管制を中心に一
社会的規制とは、国民の安全・衛生・健康の確保、および自然環境保全などを目
的として、労働環境、製造方法や製品・サービスの品質などに規制を課すことであ
る。航空サービスにおける主要な社会的規制は、飛行方法を規制する運航関係、機
体の安全性を担保するための航空機安全関係、そして操縦者の資質を確保するため
の乗員関係の 3つで、ある。この社会的規制の緩和に関する政策評価として、 1997年
実施の航空機検査と 1
9
9
4
'
"
'
'
1
9
9
7 年実施の航空機操縦士資格に関する評価を行った
9
9
)がある。この評価研究から明らかになったことは、仮に社
運輸政策研究機構(19
会的規制の緩和が実施されたとしても、航空運賃に与える影響は非常に小さいとい
うことであった 4。
このため航空サービスにおける社会的規制の緩和は、価格対策(航空運賃対策)
よりも競争促進政策の観点から求められている。これは、過去の航空会社の保護育
成政策の結果、航空安全の担い手である要員・施設・ノウハウ等が既存の航空会社
に集中しており、それらの資源を新たに確保できないことが、企業の新規参入を阻
害する要因となっていると考えられているためである(中条、 1
9
9
9
.、 2
0
0
5
.
)。ま
社会的規制の緩和を計量的に分析し、その政策効果に関する評価研究は非常に少ない。近年、自動車
2
0
0
4
)がある。
検査制度の規制強化が、交通事故に与える影響を分析した非常に興味深い研究として斉藤 (
1
'
18
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o
.
5
3,2
0
0
6
.1
た日本の航空サービス市場において競争を阻害する最大の要因が、羽田空港の発着
枠制約の存在にあると考えられている。このため、航空管制の効率化という形で、
安全性を損ねない範囲で、発着枠の増設を行っているが、これも一つの社会的規制緩
和といえる。
このように日本の航空サービス市場は、競争的市場環境の整備が急がれており、
その中で規制緩和が実施されている。本稿では、競争政策の達成度を評価する一つ
の指標として航空運賃を採用し、その政策評価を実施することとする。次節では、
日本の航空サービス市場をモデル化し、航空運賃の決定要因を明らかにしている。
3
.
モデル
本節では、航空局が掲げた政策目標を評価するために、単純なモデルを利用して、
圏内航空サービス市場における航空運賃の決定要因を明らかにしようと考えている。
3
.
1 交通サービス需要と消費者による交通手段選択
一般的に交通サービス需要は、以下なるプロセスによって決定される。いまある
地点に住む消費者が、何らかの目的から他地域に移動する必要性がある場合を考え
る(トリップ目的)。このとき消費者は、その本来の目的を達成するために、交通サ
ービスを需要しようとする。すなわち消費者は交通サービスの需要自体から効用を
得るのではないので、交通サービスの需要は派生需要と呼ばれている。このため本
来的に移動の必要性を規定するトリップ目的が、交通サービスへの需要を規定する
ことになる。このトリップ目的は、大きく分けて商用 (
b
u
s
i
n
e
s
s
)と観光用 (
l
e
i
s
u
r
e
)
に分類されている。
次に移動の必要性を持つ消費者は、交通サービスの需要に際して、利用する交通
手段の選択を行う(交通モード選択)。このとき消費者は、なるべく移動費用を最小
にするような交通手段を選択しようとする誘因を持つ。このためある路線において、
複数の交通手段が存在する場合には、最小となる移動費用を提示できる交通手段が、
消費者によって選択される(輸送分担)。この消費者の負担する移動費用は一般化費
用とも呼ばれ、その内訳は交通機関を利用することに対して支払う運賃、移動に要
する時間的機会費用、そして特定の交通手段に対するリスク・プレミアムの 3つで
ある。これより国内航空サービスの市場規模やその特性は、路線の起点と終点周辺
における企業立地や観光資源、代替的交通手段の有無(新幹線・鉄道や高速パス競
航空サービスの規制緩和とその政策評価
19
合)、代替的交通手段との相対的な運賃水準と移動時間節約の程度、そして航空サー
ビスに対するリスク・プレミアムの程度から規定されていることがわかる。
3
.
2 ある路線における航空運賃の決定要因
いま航空自由化によって、航空会社がその裁量によって航空運賃が設定できるよ
うになった場合を考える。このとき先の国内航空サービスの市場特性を利用するこ
とで、航空会社が設定する航空運賃水準の決定要因を明らかにすることができる。
いま羽田空港(以下から羽田という)を入口に持つ東京を起点、ある地方空港を出
口に持つ地方を終点とする路線を考え、その交通サービス市場を考える。いまこの
起点と終点周辺に所在する企業立地や観光資源は一定として、あるトリップ目的を
持った交通サービス需要が一定規模存在していると仮定する。この交通サービス市
場には、航空サービスと鉄道サービスとの 2つの交通手段がある 5。いま消費者が航
a、時間的機会費用を w、航空サービス
空サービスを利用する場合、航空運賃を P
利用による移動時間をん、航空サービスに対するリスク・プレミアムを九とすると、
消費者の航空サービス利用に伴う移動費用 E。は、以下の通りである。
tEi
、
t
、
、
}
ノ
,
,
Ea=Pa+wta+九
また消費者が鉄道サービスを利用する場合、鉄道運賃をあ、時間的機会費用を w、
r、鉄道サービスに対するリスク・プレミアム
鉄道サービス利用による移動時間を t
を rとすると、消費者の鉄道サービス利用に伴う移動費用
E
rは、以下の通りであ
る
。
E
r=P
r+w
t
r+r
(
2
)
この交通サービス市場では、消費者が自由にその交通手段を選択することができ
る。いま消費者は、移動費用が最小になる交通手段を選択するとする。このとき航
空サービスの移動費用 E。が鉄道サービスの移動費用
E,よりも高ければ、消費者は
その移動手段として鉄道サービスを選択する。その逆の場合には
航空サービスが
選択されることになる。ここで航空会社と鉄道会社が乗客獲得のために競争してい
日本の航空サービス市場に関して、代替的交通手段(鉄道・船舶)の重要性に注目して、分析や議論
を行ったものとして、太田(19
81)、秋葉(19
9
3
)、高橋(19
9
6
)、遠藤 (
2
0
01)、榊原 (
2
0
01)がある。
5
20
日本経済研究
N
o
.
5
3,2
0
0
6
.1
るとすると、両企業はなるべく消費者の移動費用を小さくしようとする料金・サー
ビス競争を行う。この乗客獲得競争の結果、航空サービスの移動費用
ビスの移動費用
E
aと鉄道サー
E
rが等しくなることで均衡が実現される (
E
a=E
r
)。
いまこの路線において、鉄道会社が設定する運賃や路線設定、運行形体が一定で
あるとする。このとき航空と鉄道の乗客獲得競争における均衡において、航空会社
が設定可能である最高運賃額を計算することができる。いま均衡 (
ι
=Er)におい
て、航空運賃について整理して、その整理された航空運賃を設定可能な最高運賃 P
a
と呼ぶと、以下の通りである。
P
a=P
r+
w
(
t
rt
)
+
(
円一九)
a
(
3
)
いま鉄道サービスに関する変数は一定であるので、航空会社の設定する変数と航空
運賃の関係のみを検討する o 右辺第 2項目は、航空サービスを利用することによる
時間節約費用を示す部分である。この時間節約費用は、時間的機会費用
wと節約時
間t
(
,
ーん)から構成されている o 一般に商用途の交通サービス需要は、観光用途の
交通サービス需要より時間的機会費用が高いと考えられるので、この交通サービス
市場において商用途の需要比率が高ければ高いほど、航空会社は最高運賃に近い水
準の航空運賃を設定することができる。
また節約時間
(
t
rーリは、航空会社の設定する運航体制や方法、空港へのアクセ
スに依存する。この路線において、航空会社が高頻度の運航を行えば行うほど、消
費者の待ち時間が減少することを通じて、節約時間が拡大する。またダイヤに忠実
な運航を行えば行うほど(定時性・遅延便や欠航便の抑制)、消費者の移動時間を確
実にすることを通じて、節約時間が拡大する。また空港への確実なアクセスの確保
が進むことは、やはり節約時間を拡大させる要因である。これらの要因すべては「利
便性 j と呼ばれる要因であり、航空会社が設定する航空運賃を最高運賃に近づける
要素となっている。
右辺第 3項目は、(鉄道サービスと比較した)航空サービスを利用することのリス
ク・プレミアムを示す部分である。このリスク・プレミアムを規定する要因は、航
空サービスの「安全性 Jである。消費者は、航空サービスの利用において安全性に
ついて不確実性があると考える場合、その利用に際して追加的な心理的コストを支
払うこととなるため、安全性の低下はリスク・プレミアム九を引き上げる要因であ
る。このような安全性低下は、航空会社が最高運賃から大幅な割引を求められる要
航空サービスの規制緩和とその政策評価
21
因となる。このような消費者のリスク・プレミアムは主観的に決定されるものであ
るが、その形成要因となるのは航空安全指標(イレギュラー運航・重大インシデン
ト事故)や死傷者を伴う航空機事故、テロ・戦争等による空の安全不安などである。
このように航空会社の設定する運賃水準は、「利便性 j や「安全性 j と一定の関係を
有しているものと考えられる。
3
.
3 路線参入の効果と低コスト航空会社 (
L
C
C
)
最後に航空サービスと代替的な交通手段がない場合、もしくは鉄道サービス利用
による移動費用が禁止的に高く、交通サービス市場における交通手段が航空サービ
スのみに限定されている場合を考える。このときこの交通サービス市場は、航空会
社のみによって担われることになる。この場合、この路線の航空サービス市場(交
通サービス市場)において、何社の航空会社が就航するかを検討する必要がある。
まず l社独占の場合、独占的な航空運賃が設定される。しかし路線参入の自由が認
められている場合、他社による路線参入が進むことが考えられる 6。し、ま航空会社は、
路線収支が等しくなる航空運賃を基準に、路線参入を決定すると考える。つまり新
E
規に参入する航空会社が設定する航空運賃は、平均費用 AC に等しい水準である
と考える(平均費用による運賃形成原理)。
いま仮にこの新規参入の航空会社の平均費用が、 1 社独占の場合における独占的
な航空運賃よりも低ければ、路線参入が促進され、乗客獲得競争が発生する(複数
トラッキング化)。最終的な均衡は、路線参入の脅威がある以上、この路線の航空サ
ービス市場(交通サービス市場)における航空運賃は、既存もしくは新規参入の航
E
空会社の平均費用 AC に等しくなる。すなわち航空運賃は、航空会社の費用構造
から規定され、各航空会社が獲得する乗客数は航空会社のブランド間競争の優劣に
よって決定される(航空会社による棲み分け入
また近年では、航空輸送に関する技術革新を活用した低コスト航空会社 (LCC;
lowc
o
s
tc
a
r
r
i
e
r
)の参入の重要性が指摘されている。ここでこの航空会社の平均費用
L
E
を AC として、既存の航空会社の平均費用 AC よりも低いものと考え、この費用
構造を持つ航空会社を低コスト航空会社と呼ぶこととする。このとき低コスト航空
6
この点が、日本の圏内航空サービスに関する規制緩和(参入政策)の最大の問題点であった。従来、
羽田空港の発着枠は、行き先地を指定して配分されていた。この配分ルールは、 1
9
9
7年に見直しが実施
され、各航空会社は配分を受けた羽田発着枠に関して、行き先地を原則自由に決定することができるよ
うになった(金本ほか、 1
9
9
8
.)。現在では、各航空会社は自由に路線参入を決定することができる。た
だし政策枠や 3便ルールと呼ばれる特定発着枠は、その例外として取り扱われている。
22
日本経済研究
N
o
.
5
3,
2
0
0
6
.1
会社が、当該路線に参入している場合には、平均費用による運賃形成原理から、既
存の航空会社よりも低い水準の航空運賃を設定することができる。このため当該路
線では、既存の航空会社と新規参入の航空会社間で航空運賃競争が発生するので、
当該路線の航空運賃を引き下げる要因となる 7。このように航空サービスと代替的な
交通手段のない交通サービス市場では、路線における参入企業数と低コスト航空会
社の参入の有無が、航空運賃を規定する要因となる。次節では、これら航空運賃を
決定する要因を整理して、航空運賃に関する実証分析を行うこととする。
4
. 推定モデ、ル
本節では、航空サービスの規制緩和を評価する主要な指標として航空運賃を考え、
その決定要因を実証的に明らかにすることが目的である。以下では、はじめに航空
運賃関数の推定モデ、ルとその分析方法を説明し、その後に政策の評価指標である航
空運賃データに関する問題点を議論している。また本稿では、羽田空港を離発着す
る航空路線のみを分析対象とする。
4
.
1 推定モデルとしての航空運賃関数
本稿で考える航空運賃関数の基本形は、ある路線 iにおける航空運賃をあとする
と、以下の通りである。
h
o
k
Pi=α。
+LaliAr
ωi+a
r
e
q
i+α3S
2F
+
α4D
reg+L a
D
r
e
gxA
r
e
ai
)
+a
D
r
e
gxF
r
e
q
i
)
i
5(
6(
(
4
)
+a7J
J
i
t+αgFTCJ+ α9SK~
+alOS
e
a
ti
+α
1
1O
i
l
p+a12L
F
e
e
(
4
)式に示される変数名は、次のとおりである。
A
r
e
a
は、伊丹(大阪)-羽田路線
i
を基準として、当該データが路線 iであることを示すダミー変数である。伊丹(大
阪)-羽田路線は、東海道新幹線という高速鉄道サービスと競合している路線であ
り、航空サービスと鉄道サービスのどちらにも支配的な優位性はない(榊原、 2001
.
、
杉浦、 2001
.
、
7
I
to、2003.)。すなわち A
r
e
a
jは、最も航空サービスと鉄道サービス
同じく羽田空港の発着枠には、特に低コスト航空会社を念頭に置いた新規参入枠が設定されている。
航空サービスの規制緩和とその政策評価
23
が競合している伊丹(大阪)-羽田路線と比較して、当該路線の航空運賃がどの程
度だけ事離しているかを示す変数である。
F
r
e
q
iは、当該路線の
1 日あたり便数(一往復を 1便とする)であり、運航頻度
を示す変数である。この運航頻度が高まれば高まるほど、搭乗までの待ち時間や乗
り易さが高まるので、航空サービス利用の時間的機会費用を引き下げる要因である。
このためモデルから、航空運賃に与える影響である係数 a
2の予想される符号条件は、
プラスである。 S
hokは
、 9.11テロの影響がある期間は I、それ以外は 0を取る航
空不安ダミー変数である。この変数を航空サービスのリスク・プレミアムの代理変
数として考えると、係数 α3の予想される符号条件はマイナスである 8
0
(
4
)式の第 2行目は、 2000年の航空自由化後の変化を捉える変数群である。第 1
項目の D
regは
、 2000年の航空自由化後を 1、それ以外は 0を取る航空自由化ダミ
ー変数である。この変数の係数 a
4は、航空自由化によって、全路線共通に変化した
のクロス項の係数 a
、
regと A
r
e
a
航空運賃変化分を捉えている。第 2項目の D
i
i
5は
伊丹(大阪)-羽田路線を基準として、航空自由化によって、各路線固有に変化し
regとF
r
e
q
iのクロス項の係数引は、
た航空運賃変化分を捉えている。第 3項目の D
航空自由化後の運航頻度の追加的変化が、航空運賃に与えた影響の規模を示してい
る
。
(
4
)式の第 3 行目は、当該路線における参入の効果を捉える変数群である。第 1
項目の J
J
i
tは
、 2002年の日本航空 (JAL)と日本エアシステム (JAS)統合後を l、それ
以外は 0を取る JJ統合ダミー変数である。この JJ統合ダミー変数は、次なる 2つ
の効果を含んでいる。第 lは、路線における競争度の低下である。これは JJ統合
により、多くの国内各線において競合企業数が 1社減少することになるためである。
第 2は、公取委に統合承認条件である航空運賃(普通運賃)の一律 10%の 3年間値
7の符号条件は、両者効果の相対的規模の
下げの実施の効果である。このため係数 α
、 2003年に公取委が JJ統合条件の
大小関係から決定される。第 2項目の FTCJは
一つである航空運賃の取り決めに関して、その例外条件(急激な経済環境の変化)
を認めて、航空運賃(普通運賃)の値上げを容認した後を 1、それ以外は 0を取る
公取委改定認可ダミー変数である。第 2 項目の SK~ は、当該路線 i においてスカイ
ただし 9.11テロ発生による航空サービス不安と消費者のリスク・プレミアムの関係については、単純
に理解することは難しい側面がある。このような消費者心理と経済変数の関係に関する考察については、
近年に研究が進められている行動経済学 (
b
e
h
a
v
i
o
r
a
le
c
o
n
o
m
i
c
s
)などの分析手法が必要である。しかし
村上 (
1
9
9
4
)や山口 (
2
0
0
5
)では、 1
9
8
5年に発生した日航機事故発生に伴う航空不安について、ダミー変数
として定式化し実証分析に利用している例がある。このように航空機事故や空の安全不安が、消費者の
航空サービス需要に与える影響については、今後に研究が期待されるテーマと言える。
B
24
日本経済研究
N
O
.
5
3,2
0
0
6
.1
マークエアラインズが就航している場合をしそれ以外は 0を取るスカイマーク就
航ダミー変数である。仮にスカイマークエアラインズが
LCCの役割を果たしてい
8の予想される符号条件はマイナスである。
れば、係数 α
最後 (
4
)式の第 4行目は、航空会社の費用構造を示す変数群である。第 1項目の
は、路線 iにおける座席利用率(ロードファクター)である(村上、 1994、1995、
S
e
a
t
i
遠藤、 2
0
01
.)。航空サービスでは、座席の在庫を保有することができない財特性 O~P
時性および即地性)があるため、低い座席利用率は 1人あたり輸送効率を引き下げ
i
l
pは、単位あたり航空機燃料価格である。航空機燃料
る要因である。第 2項目の O
費は、運賃上限となる標準原価の約
7%を占めており、経費比率の高い費用項目で
9
9
8
.)。第 3項目の L
Feeは、空港使用料(着陸料・航行援助施設利
ある(井上、 1
用料・航空機燃料税)の特別措置が実施されている場合には 1、それ以外は 0を取
る空港使用料特別措置ダミー変数である。公租公課と呼ばれる空港使用料(航空機
燃料税を含む)は、運賃上限となる標準原価の約 16%を占めており、同じく経費比
率の高い費用項目である(井上、 1
9
9
8
.)。上記の費用構造が航空運賃に与える影響
は自明ではないため、統計的検定によって上記の費用項目と航空運賃との関係を明
らカ斗乙してし 1る
。
4
.
2 評価指標としての航空運賃とその議論
本研究の評価指標、並びに (
4
)式の被説明変数は、 1人あたり航空運賃である。こ
の評価研究に利用する航空運賃は、ある路線の乗客が平均的にいくらの航空運賃を
支払っているのかを示すデータ(乗客 1人あたり航空運賃)を利用することが望ま
しい。しかし現在の日本では、この航空運賃データは公表されていなし ¥9 このため
0
評価に利用できる航空運賃データには制約がある。ここでは、航空サービスの運賃
設定や日本の商習慣を明示的に考慮、して、乗客 1人あたり航空運賃の構成要素につ
いて説明し、本稿で利用する航空運賃データの特性について議論することとする。
日本の航空会社は、個人客向けと団体客向けに分けて、航空座席を販売する。い
ま個人客向けの販売戦略を考える。航空会社は、個人客向け販売に割り当てた座席
数について、ある一定割合は割引販売(事前購入割引など)や特典航空券の配布 (FFP
(マイレージサービス)や株主優待券)を実施、それ以外の部分は普通運賃で販売
ただし航空局において、データの収集は実施されている。このデータは、航空会社の営業戦略を示す
重要な指標として、その公開を行わず、また情報公開法においても非公開とする措置が実施されている
(r
航空輸送サービスに係る情報公開及び運賃・料金制度の具体的な運用の在り方について j 運輸省航
空局監理部航空事業課、 1999年 1
0月 26日.)
。
9
航空サービスの規制緩和とその政策評価
25
する。ここで普通運賃とは、航空会社が航空局に定期的に届け出る普通旅客運賃の
ことである。次に団体客向けの販売戦略を考える。航空会社は、団体客向けに割り
当てた航空座席については、旅行パック商品の材料として、大手旅行代理庖に卸売
り販売を行う。この卸売り価格は、当該路線の人気度や季節性、旅行代理店に対す
る販売奨励費の有無、航空会社と大手旅行代理屈の聞における交渉力の相対的な優
劣によって決定される 10。普通運賃は、航空座席の卸売り販売における基準価格で
ある。このように販売された航空座席に関して、ある路線における航空運賃総収入
を求めることができ、この総収入を乗客数で、害J
Iったものが乗客 1人あたり航空運賃
である。
この乗客 1人あたり航空運賃は、次なる構造によって特徴づけることができる。
当該路線における主なトリップ目的が商用途である場合、航空会社は個人向け販売
比率を高め、割引販売の実施比率を低めることになる。これは商用目的の消費者(ビ
ジネスマン)は、直前まで旅行計画を確定するのが難しく、また直前でも予約変更
が可能な航空券に強い需要があるためである。このためトリップ目的が商用途であ
る路線は、普通運賃による販売比率が高くなり、乗客 1人あたり航空運賃を普通運
賃に近づける要因となる。
また当該路線における主なトリップ目的が観光用途である場合、航空会社は団体
向け販売比率を高め、多くの乗客を獲得しようとして卸売り単価が低下する傾向が
ある。これは観光目的の消費者(観光客)は、比較的早い時期から旅行計画を立て
る傾向があり、旅行パック商品価格(団体航空運賃)に対して弾力的であると考え
られているためである。このためトリップ目的が観光用途である路線は、普通運賃
よりもかなり低い水準の単価で販売されることが多く、乗客 1人あたり航空運賃を
普通運賃から事離させる要因となる。
さらに航空券価格は、ピーク時とオフピーク時では大幅に変化する。連休・夏季・
年始年末・春季と移動の必要性が高まる時期には、個人向けの割引運賃は原則とし
て設定されず、団体向けの卸売り単価も普通運賃水準となる。このためトリップ目
的が観光用途である路線であっても、ピーク時の乗客 1人あたり航空運賃は普通運
賃と近い水準となる。このように普通運賃は、トリップ目的が商用途である路線や、
1
0 このように日本の航空サービス及び航空運賃を考えるにあたって、旅行代理屈の果たす役割は非常に
重要なものがあるが、その研究は十分なものであるとはいえない。特に JJ統合の際に公取委は、旅行業
界に与える影響を懸念して、ヒアリング調査及びアンケート調査を実施し、その見解をまとめている 日
本航空株式会社及び株式会社日本エアシステムの持株会社の設立による事業統合について(公正取引委
0
0
2年 3月 1
5日.) J)。しかし統合を認める際の声明においては、この旅行業界に与える影響
員会、 2
に関する見解は表明されなかった。
u
26
日本経済研究
N
o
.
5
3,2
0
0
6
.1
ピーク時の観光用途である路線の乗客 1人あたり航空運賃水準を近似しているもの
と考えられる。
5
. 推定結果
本節では、主に (
4
)式を基本推定式として、航空運賃データを利用した推定結果を
説明する。表 lは、分析に利用したデータの出所について、表 2は、分析に利用す
る変数名の定義についてまとめている。以下では、はじめに航空運賃として普通旅
客運賃を利用した分析結果について報告し、その後に割引運賃に関する分析結果を
説明している。最後に格安国内航空券の販売価格データを利用した分析を行い、先
の航空運賃に関する分析結果と比較している。これらデータを利用した分析から、
航空自由化・ JJ統合・羽田発着枠再配分等の航空政策の変化が、航空運賃にどのよ
うな影響を与えたかを明らかにしようと考えている。またここで分析に利用する航
空運賃データは、消費者物価指数を利用して実質化 (2000年基準)している。
表 1 データの出所
データ
普通旅客運賃
往復割引運賃
事前購入割引設定
(搭乗日の 21 日前までの予約条件)
格安航空券価格
運航頻度
座席利用率
航空燃油費
法王子
M1
,
欝
/、売物価統計調
総務省統計局 WJ
査年報』
7路線(羽田空港を発着する札幌・大
阪・福岡・那覇・函館・広島・宮崎)
報道発表資料「国内航空旅客運 46路線(羽田空港を発着する全路線)
賃の届出についてJ(
平
成 13年
度下期・平成 14年度上期・下期
分)、航空各社の時刻表
フス1) 5路線(羽田空港を発着する大阪・札
日本経済新聞 (NIKKEIフ。
幌・広島・福岡・那覇)
日本航空協会『航空統計要覧(各年版)~、航空振興財団『数字でみる航
空(各年版u
、報道発表資料「航空輸送サービスに係る情報公開 J(
平
成
1
2年度 平成 1
6年度分)
注1)航空運賃と航空燃油費は、消費者物価指数を利用して実質化 (2000年基準)している。消費者物価
指数データの出所は、総務省統計局『消費者物価指数年報』である。
航空サービスの規制緩和とその政策評価
27
表
2 変数名の定義
変 針4
!
i
1J
t
:
嘉
札幌路線ダミー
│札幌一羽田路線の場合 1を、それ以外の場合には 0をとるダミー変数
函館路線ダミー
│函館一羽田路線の場合 1を、それ以外の場合には 0をとるダミー変数
広島路線ダミー
│広島一羽田路線の場合 1を、それ以外の場合には 0を取るダミー変数
福岡路線ダミー
│福岡一羽田路線の場合 1を、それ以外の場合には 0を取るダミー変数
宮崎路線ダミー
│宮崎一羽田路線の場合 1を、それ以外の場合には 0を取るダミー変数
沖縄路線ダミー
│那覇一羽田路線の場合 1を、それ以外の場合には 0を取るダミー変数
運航頻度
│各路線の年間運航回数について、 1便あたり 2運航として、 l日あたり運航回数を求め
│たもの、単位は便
テロ後航空不況ダミー │国土交通省航空局が「航空機へのテロ等により第三者に損害が発生した場合の政府
として設定した措置の有効期間 (
2
0
0
1年 1
0月 2日から
の措置について(閣議決定)J
2
6月間、 2003年 1
0月 1日発表)に 1を、それ以外の期間は0を取るダミー変数
夏季ダミー
│夏季ピーク時の 8月は 1を、それ以外は 0を取るダミー変数
冬季ダミー
2月末は 1を、それ以外は0を取るダミー変数
│冬季ピーク時の 1
春季ダミー
│春季ピーク時の 3月末は 1を、それ以外は0を取るダミー変数
航空自由化ダミー
│航空自由化により航空運賃が改定された 2000年 4月以降は 1を、それ以外の期間は0
│を取るダミー変数
│日本航空 (JAL
池田本エアシステム (
J
A
S
)が経営統合した 2002年 1
0月以降は 1を、そ
れ以外の期間は0を取るダミー変数
JJ統合ダミー
公取委改定認可ダミー│公取委がお統合の認可要件とした航空運賃条件の改定変更を認めた 2003年 7月以
降は 1を、それ以外の期間は0を取るダミー変数
SKY福岡・羽田ダミー│福岡一羽田路線において、スカイマークエアラインズが参入した 1
9
9
8年 9月以降は 1
│を、それ以外の場合には0を取るダミー変数
ADO札幌・羽田ダミー│札幌一羽田路線において、北海道国際航空が参入した 1998年 1
2月以降は 1を、それ
以外の場合には0を取るダミー変数
ADO共同運航ダミー
│札幌一羽田路線において、北海道国際航空が全日本空輸(釧A)と共同運航を始めた
2003年 2月以降は 1を、それ以外の場合には Oを取るダミー変数
SNA宮崎・羽田ダミー│宮崎一羽田路線において、スカイネットアジア航空が参入した 2002年 8月以降は 1を
、
それ以外の場合には0を取るダミー変数
座席利用率
│輸送人員数を提供座席数で割ったもの、単位は%、各データは前年度のものを利用
航空機燃料費
│大手航空 3社(日本航空・全日空・日本エアシステム)の有価証券報告書記載の航空燃
油費を総飛行距離で割ったもの、単位は 2000年基準で実質化した円、各データは前
年度のものを利用
│那覇一羽田路線において、航空サービス関係の沖縄振興特別措置が実施された 1997
年 7月以降は 1を、それ以外の場合には0を取るダミー変数
沖縄振興措置ダミー
第 2種空港措置ダミー│第 2種空港(那覇を除く)を利用する路線について、着陸料割引が実施された 1999年
4月以降は1を、それ以外の場合には0を取るダミー変数
沖縄振興改定ダミー
│那覇一羽田路線において、航空サービス関係の沖縄振興特別措置が改定された 2002
年 4月以降は1を、それ以外の場合には0を取るダミー変数
着陸料改定ダミー
│着陸料の改定(那覇を除く)が実施された 2003年 4月以降は 1を、それ以外の場合に
は0を取るダミー変数
│各路線において指定された航路距離、単位は Km
区間距離
第 3種空港ダミー
│行先地の空港の設置管理者が地方自治体である場合(第 3種空港)に 1を、それ以外
の場合には 0を取るダミー変数
その他空港ダミー
│行先地の空港の設置管理者が防衛庁・その他である場合(その他飛行場)に 1を、それ
以外の場合には0を取るダミー変数
羽田再配分
│羽田発着枠の再配分を実施した 2005年 4月以降は lを、それ以外の場合には0を取る
ダミー変数
28
日本経済研究
∞
N
o
.
5
3,2 6
.1
5
.
1 推定結果 1-普通旅客運賃の決定要因一
表 3は、被説明変数に普通旅客運賃を利用して、航空運賃関数を推定したもので
OLS) で、サンプル期間は 1
9
9
7年 4月から 2
0
0
4年
ある。推定方法は最小二乗法 (
1
2月までである。多くの決定要因が統計的有意な変数となっているが、航空政策に
関する変数に限定して説明すると、以下のとおりである。航空自由化によって、ど
の路線に関わらず 4303円程度の運賃上昇となっているが、その大きさは路線によっ
て異なっている。この航空自由化に伴う路線固有の効果を捉えるものが、路線ダミ
ーと航空自由化ダミーのクロス項である。路線ダミーの基準は伊丹(大阪)路線な
ので、すべてのクロス項の係数は、航空自由化によって伊丹(大阪)路線の航空運
賃よりも、どの程度追加的に高まったかを示す指標となっている。推定結果からは、
0
5
6円で、最も小さいのが函館路線の 0円(係
最も上昇幅が大きいのが福岡路線の 4
数が統計的有意でないため)である。これらクロス項の推定結果は、羽田空港から
の距離に比例して運賃が上昇しているわけではないことを示しており、航空自由化
によってエリア差別的な航空運賃の設定が行われるようになったことを示している。
次は、新規航空会社の参入政策に関する点である。スカイマークエアラインズ
(SKY)が福岡路線に参入したことや、北海道国際航空 (ADO)が札幌路線に参入した
ことは、確かに当該路線の普通旅客運賃を引き下げる効果を持っていた。しかしそ
の規模は 5
0
0円程度と小さく、宮崎路線に参入したスカイネットアジア航空 (SNA)
の効果は明確ではない。これは既存の大手航空会社が、これらの新規参入に対して、
普通旅客運賃の設定を通じた対抗策を講じるのではなく、事前購入割引の設定や割
引運賃の再設定という形で、競争を行っているためである。このことは、消費者が利
用できる運賃種類によって、その受益が大きく異なっていることを示唆している。
一般に商用途から航空サービスを利用するビジネスマンは、直前まで旅程を確定
することが難しいため、予約の変更等の柔軟性を持つ普通旅客運賃の航空券に対す
る需要が強い。逆に観光用途から航空サービスを利用する旅行客は、時間的余裕の
ある人が多く、かなり前から旅程を確定することが多い。このため事前購入割引が
主なターゲットとする消費者は、後者の旅行客である。新規参入が普通旅客運賃に
与える効果は、観光用途の旅行客獲得に関する価格競争が激化した可能性はあるが、
商用途のビジネスマンにはその,恩恵が及んでいない可能性を示唆している。
最後は、航空自由化後に発生した外生的な構造変化(テロ後航空不況・ J
J統合・
公取委改定認可)の影響についてである。テロ後の乗客数の落ち込みに伴う航空不
航空サービスの規制緩和とその政策評価
29
表 3 普通旅客運賃の決定要因
差f
=
.
i
d
J
i
i
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$
;
若貨の'Ls
J
I
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t
A
若男変難 f
濯正吉才法ノ
1
9
9
7年 4月 "
'
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4年 1
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サンプル期間
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札幌路線ダミー
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函館路線ダミー
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*
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定数項
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o
J
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1
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本
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福岡路線ダミー
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宮崎路線ダミー
1
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J
沖縄路線ダミー
運航頻度
テロ後航空不況ダミー
1
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*
*
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夏季ダミー
1
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1
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4
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春季ダミー
6
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J
航空自由化ダミー
4
3
0
3
.
0
8
牢
本
5
.
5
1 *
[
.o
o
o
J
札幌路線ダミー*航空自由化ダミー
3
8
8
9
.
8
4
本
牢
3
.3
0 *
[
.
0
01
]
函館路線ダミー*航空自由化ダミー
2
2
2
.5
8
0
.
4
2
[
.6
7
3
J
広島路線ダミー*航空自由化ダミー
7
4
8
.5
4
牢
2
.5
2 *
[
.
0
1
2
J
福岡路線ダミー*航空自由化ダミー
4
0
5
6
.3
7
3
.
8
6
[
.O
O
O
J
*
*
*
宮崎路線ダミー*航空自由化ダミー
8
4
4
.
4
1
2
.
1
0 本*
沖縄路線ダミー*航空自由化ダミー
1
9
4
3
.1
3
本
申
9
.1
6 本
[
.O
O
O
J
運航頻度*航空自由化ダミー
1
2
6
.
9
4
本
牢
一2
.7
0 *
[
.
0
0
7
J
*
牢
3
.
2
9 *
[
.0
01
]
8
.5
3
[
.o
o
o
J
夏季ダミー*航空自由化ダミー
5
9
5
.5
8
春季ダミー*航空自由化ダミー
1
5
41
.5
2
*
*
*
[
.0
3
6
J
2
7
2
5
.
2
1
本
牢
2
4
.3
2 *
公取委改定認可ダミー
2
7
1
2
.
0
7
*
牢
2
2
.3
0 *
[
.o
o
o
J
SKY福 岡 ・ 羽 田 ダ ミ ー
5
7
7
.7
2
2
.3
0
[
.
0
2
2
J
ADO札 幌 ・ 羽 田 ダ ミ ー
5
8
7
.
2
7
ー2
.
5
1
ADO共 同 運 航 ダ ミ ー
5
2
7
.
4
8
1
.6
4
JJ統 合 ダ ミ ー
SNA宮 崎 ・ 羽 田 ダ ミ ー
*
*
*
*
[
.o
o
o
J
[
.0
1
2
J
[
.1
0
3
J
91
.8
9
0
.
4
9
座席利用率
9
.
2
3
O
.7
3
[
.
4
6
4
J
航空機燃料費
3
.
9
9
牢
牢
3
.
4
2 *
[
.0
01
]
4
5
9
4
.
0
6
牢
牢
1
2
.
5
1 *
[
.o
o
o
J
8
0
8
.
4
3
中
牢
5
.
2
7 *
[
.o
o
o
J
沖縄振興措置ダミー
第 2種 空 港 措 置 ダ ミ ー
5
8
8
サンプル数
被説明変数平均
2
6
6
0
4
.6
0
5
9
3
.
9
6
標準誤差
決定係数(自由度調整済)
0
.
9
9
4
5
7
3
.
8
6
対数尤度
注1)料牢は 1%
水 準 、 料 は 5%
水準、叫ま 10%
水準で、係数が有意であることを不している。
30
[
.
o
o
o
J
日本経済研究
N
o
.
5
3,2
0
0
6
.1
[
.
6
2
5
J
況は、普通旅客運賃を全路線で引き上げる効果を持ったが、その規模は 264円と非
常に小さい。このことは、テロ後に生じた消費者の航空不安がより高まって、航空
会社としては経営悪化を理由とした普通運賃の引き上げが容易で、なかった側面を示
している。また JJ統合と公取委の改定認可は、普通旅客運賃をベースに政策が実
施されているので、航空会社には裁量の余地はないものである。このため推定結果
でも、 JJ統合により全路線で 2725円運賃が低下したが、その後の改定認可によっ
て 2712円上昇し、その効果が相殺されたことが示されている。
5
.
2 推定結果 2
一割引運賃の決定要因ー
航空自由化によってもたらされた変化の一つは、航空運賃の多様化である。
では、多様な運賃形態のうち、データを利用することができる往復割引運賃と事前
購入割引設定の有無について、分析することとする。
表 4の左側の欄は、被説明変数に往復割引運賃を利用して、航空運賃関数を推定
したものである。往復割引運賃とは、同一人が有効期間内 (
9
0日間)に同一区間を
往復する場合に適用される運賃で、夏季・年始年末・春季ピーク期間以外は設定さ
れている運賃形態である。推定方法は OLSで、サンフ。ル期間は 2000年 4月から 2004
年1
2月までである。ここでは、航空自由化後に発生した外生的な構造変化(テロ後
航空不況・ J
J統合・公取委改定認可)の影響について注目する。まずテロ後航空不
況は、往復割引運賃には何の影響を与えていない。閉じく J
J統合も往復割引運賃
に影響を与えていない。しかし公取委改定認可は、全路線について 1205円航空運賃
を引き上げる効果を持っている。このことから航空自由化以後の構造的変化は、公
取委改定認可のみが往復割引運賃に影響を与えたことがわかる。
表 4の右側の欄は、被説明変数に事前購入割引運賃の有無を利用して、割引設定
関数を推定したものである。ここで分析対象とした事前購入割引運賃は、搭乗日の
2
1 日前までに予約および航空券の購入を行うことで割引の適用を受ける運賃で、原
則としてピーク期間の設定はなく、予約の変更はできず、取り消しについても高率
の手数料率が設定されている運賃形態である 11。推定方法はプロピット推定法
(
P
r
o
b
i
t
)で、サンフ。ル期間は 2001年 1
0月から 2003年 4月までで、推定結果の係数
f
f
e
c
t
)表示で、ある。同じくここで注目する要因は、航空自由
は限界効果 (Marginale
化後に発生した外生的な構造変化(テロ後航空不況・ JJ統合)である。まずテロ後
これ以外にも 2ヶ月間前や 7日間前や前日などの多様な事前購入割引運賃が存在するが、ここでは 21
日間前のものに限定して分析を行っている。
1
1
航空サービスの規制緩和とその政策評価
31
表 4 割引運賃の決定要因
ω
M
被説明変数(推定方法)
OLS)
往復割引運賃 (
被説明変数(推定方法)
サ障説罰法
回一
2
0
0
0年 4月 2
0
0
4年 1
2月
サンプノレ期間
i
e
n
t
Coe伍 c
V
a
r
i
a
b
l
e
t
s
t
a
t
i
s
t
i
c
サンプノレ期間
P
v
a
l
u
e V
a
r
i
a
b
l
e
zp印ω-NCOO-]{
1
2
6
5
9
.7
0
6
.
6
0
牢*牢
[
.o
o
o
J
定数項
札幌路線ダミー
9
4
2
3
.
0
3
1
2
.7
5
牢牢*
[
.
o
o
o
J
運航頻度
定数項
事前購入割引設定の有無 (
P
r
o
b
it
)
2
0
0
1年 1
0月 2
0
0
3年 4月
Marginale
f
f
e
c
t
t
s
t
a
t
i
s
t
i
c
一O
.1
4
0
一0
.
3
4
0
0
.
0
1
8
2
.
0
8
0
函館路線ダミー
6
8
4
5
.
5
1
1
5
.
3
8
**本
[
'
O
O
O
J
テロ後航空不況ダミー
広島路線ダミー
6
1
1
5
.
3
8
2
6
.
0
5
*牢牢
[
.
O
O
O
J
JJ統合ダミー
福岡路線ダミー
1
1
8
4
5
.
9
0
1
7
.
3
9
牢*本
[
.o
o
o
J
運航頻度 *JJ統合ダミー
宮崎路線ダミー
1
1
1
0
6
.
6
0
2
6
.
3
4
牢**
[
.O
O
O
J
区間距離
0
.
0
9
2
2
.
5
5
0
沖縄路線ダミー
1
4
0
8
5
.7
0
8
6
.9
5
**本
[
.
O
O
O
J
区間距離 2乗
ー0
.
0
1
9
一
1
.3
9
5
運航頻度
ー2
2
.4
9
0
.7
6
[
.
4
4
9
J
座席利用率
一0
.
0
1
2
1
.9
8
0
テロ後航空不況ダミー
1
.2
4
9
[
.
2
1
2
J
0
.
6
8
9
]
[
.
4
91
0
.
1
1
9
2
.
9
3
1
1
3
7
.9
9
1
.5
0
[
.1
3
5
J
第 3種空港ダミー
一0
.
2
0
6
2
.
5
0
0
4
5
.
1
1
[
.
0
0
0
]
その他空港ダミー
0
.
5
1
1
2
.
1
7
4
春季ダミー
1
3
3
2.
6
2
1
.1
8
1
JJ統合ダミー
公取委改定認可ダミー
ADO共同運航ダミー
SNA宮崎・羽田ダミー
座席利用率
0
.
6
6
0
.
0
1
[
.9
9
6
]
7
.7
9
[
.o
o
o
J
41
.2
9
O
.1
8
2
3
6
.
6
3
1
.2
3
1
4
.3
2
0
.
6
6
*
*
*
[
.
5
0
7
J
5
.
6
8
3
.
9
5
沖縄振興改定ダミー
3
3
4
.7
3
1
.6
8
牢
着陸料改定ダミー
1
3
8
.
4
4
0
.
8
0
3
3
6
サンプル数
2
5
1
7
0
.
3
0
被説明変数平均
[
.
o
o
o
J
[
.
0
9
4
J
[
.
4
2
6
J
サンプル数
1
3
8
変数平均
0
.
4
6
4
対数尤度
4
5
.
2
7
6
5
9
5
.
0
9
標準誤差
決定係数(自由度調整済)
0
.
9
8
2
6
1
3
.
5
9
対数尤度
注 1
)付*は 1%水準、
[
.
8
5
8
]
[
.
2
2
0
]
牢*牢
航空機燃料費
[
.
0
0
0
]
1
2
0
5
.
4
5
H
は 5%水準、吋土 10%
水準で、係数が有意であることを示している。
[
.
0
3
8
J
0
.
0
8
4
5
3
81
.2
9
*牢牢
[
.
7
3
4
J
キキ
0
.
0
8
6
夏季ダミー
*
*
*
P
v
a
l
u
e
牢**
[
.
0
0
3
J
*
*
[
.
Ol
1J
*
*
[
.
0
4
8
J
本*
*
*
[
.1
6
3
J
[
.
0
1
2
]
[
.
0
3
0
]
航空不況は、事前購入割引の設定確率に影響を与えていない。 JJ統合の効果は、運
航頻度と JJ統合ダミーのクロス項の係数で示されている。このことは、 JJ統合に
よって、各航空会社は万遍な〈どの路線にも事前購入割引を設定したのではなく、
運航頻度の多い路線について顕著に設定したことを示している。
これは、 JJ統合によって JALと JASの国内線ネットワークが拡大して消費者利
A
N
A
)が顧客流
便性が高まったことに対抗して、国内線最大手であった全日本空輸 (
出を防ぐために、多くの路線について事前購入割引の新規設定を行ったことが影響
している。これは JJ統合により、航空会社数は減ったにもかかわらず、実質的な
競争関係が逆に強まったことを示唆している。
5
.
3 推 定 結 果 3一格安圏内航空券価格の決定要因ー
以上の 3つの推定結果は、航空会社がどのような航空運賃を設定するかの側面に
注目した分析を行っていた。逆に消費者が、航空サービスを交通手段として選択し
て、当該地域の移動サービスに対して、いくらの支払い希望額を持っているかを分
析することは、比較分析の観点から意味あることである。ここでは、主に株主優待
券を利用した格安国内航空券の販売価格について、その決定要因を分析することと
する 12
0
表 5は、被説明変数に格安国内航空券価格を利用して、航空運賃関数を推定した
ものである。推定方法は OLSで、サンプル期間は 2
0
0
4年 4月から 2
0
0
5年 8月ま
でである。表の左側の欄が下限価格を、中側の欄が上限価格を、右側の欄が正規運
賃を被説明変数に利用したものである。まず伊丹(大阪)路線を基準として設定し
た路線ダミーについて、札幌・福岡・沖縄路線は統計的有意な差を持つが、東海道・
0
0
5年
山陽新幹線と競合する広島路線は統計的有意な差を持たないことがわかる。 2
4月に実施された羽田発着枠の再配分は、その運航頻度との交絡効果(クロス項)
を明示的に考慮しても、格安国内航空券価格に影響を与えていないことがわかる。
最後に当該路線の需要の強さを示す座席利用率の高さは、格安国内航空券価格を引
き上げる要因となっている。
ここで消費者は、ある移動サービスを需要するために、あらゆる旅行商品を比較
して、最も安価な商品を購入して、移動に利用すると考える。このとき消費者にお
1
2 ここで利用する格安国内航空券の販売価格は、日本経済新聞 (
NIKKEIプラス1)に毎月掲載される金
s
k
i
n
gp
r
i
c
eであり、厳密には消費者の支払
券ショップの庖頭価格である。このため利用するデータは a
い希望額とは一致しない。このような a
s
k
i
n
gp
r
i
c
eである家賃データを利用した研究として、大竹・山
鹿(
2
0
01)がある。
航空サービスの規制緩和とその政策評価
33
仏J
表 5 格安圏内航空券価格の決定要因
.
j
:
:
:
.
国勢郡司事詩
下限価格 (
OLS)
被説明変数(推定方法)
サンプノレ期間
V
a
r
i
a
b
l
e
2
0
0
4年 4月 '
"
'
'
2
0
0
5年 8月
Coe
伍c
i
e
n
t
t
.
s
t
a
t
i
s
t
i
c
ZD印一YNCOO-]{
2
5
2
6
.
5
2
0
.
2
6
[
.
8
0
0
J
2
0
4
1
4
.
0
0
2
.
8
9
2
.
2
0
[
.
0
3
2
J
9
4
9
7
.
8
2
2
.
6
9
広島路線ダミー
1
9
4
6
.
1
1
0
.
4
9
福岡路線ダミー
1
1
7
6
7
.
4
0
2
.1
7
沖縄路線ダミー
1
1
7
7
9
.1
0
4
.1
6
1
9
9
.
4
6
0
.
6
3
9
1
7
.
4
4
0
.
9
2
2
6
.
0
3
0
.
9
0
[
.3
7
0
J
運航頻度
羽田再配分
運航頻度*羽田再配分
夏季ダミー
1
1
4
5
.1
0
冬季ダミー
4
1
4
.7
9
0
.
6
2
座席利用率
1
8
6
.
5
5
4
.
6
5
[
.
6
2
8
J
2
0
6
6
.
0
7
O
.7
3
キキ
[
.
0
3
4
J
1
1
9
6
4
.
9
0
3
.1
0
*
*
*
[
.
o
o
o
J
6
0
9
9
.
8
6
3
.
0
2
[
.5
2
9
J
2
5
6
.
3
2
1
.1
4
[
.3
6
0
J
1
4
6
.5
2
0
.
2
1
6
.5
5
0
.
3
2
本
2
.
0
7 *
*
*
*
P
.
v
a
l
u
e Coe
伍c
i
e
n
t
t
.
s
t
a
t
i
s
t
i
c
1
0
8
8
9
.
9
0
*
*
2
0
0
4年 4月 '
"
'
'
2
0
0
5年 8月
2
0
0
4年 4月 '
"
'
'
2
0
0
5年 8月
P
.
v
a
l
u
e Coe伍 c
i
e
n
t
札幌路線ダミー
定数項
正規運賃 (
OLS)
上限価格 (
OLS)
[
.
0
4
3
J
1
2
0
5
.1
1
3
.
0
6
[
.5
4
0
J
1
7
6
.
8
5
一O
.3
7
[
.
O
O
O
J
9
7
.
0
4
3
.
3
9
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
[
.
0
0
5
J
1
5
4
6
2
.
2
0
[
.
0
0
9
J
1
1
4
41
.5
0
*
本
3
.
3
7 本
[
.
0
0
1
J
.o
o
o
J
4
.
9
8 本** [
[
.
4
7
1
J
7
1
8
3
.
6
2
3
.
8
9
[
.0
0
3
J
1
5
2
2
5
.
8
0
6
.
0
7
[
.
0
0
4
J
1
5
0
1
3
.7
0
1
1
.4
4
[
.
2
5
9
J
1
0
0
.
5
2
0
.
6
9
[
.8
3
7
J
6
7
7
.
6
0
1
.4
7
[
.1
4
6
J
[
.
7
5
1
J
3
.
2
8
0
.
2
5
[
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J
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一3
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7
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0
1
J
1
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.1
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72
72
被説明変数平均
1
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.
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標準誤差
1
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.
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.
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8
.
4
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一5
9
4
.1
2
5
6
3
.
0
1
決定係数(自由度調整済)
対数尤度
注 1
)付*は 1%水準、付は 5%水準、吋土 10%水準で、係数が有意であることを示している。
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
本
5
.7
6 *
7
2
サンプル数
P
.
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a
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2
1
3
J
[
.
o
o
o
J
ける旅行商品開選択によって、割高な商品は淘汰され、最終的には同じ旅行商品価
格に落ち着くことになる。この消費者選択による競争が効いているのならば、格安
国内航空券価格は当該路線の市場価格(消費者の支払い希望額)を形成しているこ
とになる。この価格形成を前提とすると、表 5の推定結果から言えることは、次の
とおりである。まず広島路線は、正規運賃については伊丹(大阪)路線よりも追加
的に 7
1
8
3円上乗せされているが、空港へのアクセスの不便さと東海道・山陽新幹線
という鉄道サービスとの競合の関係もあり、旅行商品価格(格安国内航空券価格)
では、その差が消滅している 13 2
0
0
5年 4月の羽田発着枠の再配分は、大幅に国内
0
線航空サービス市場に変革を与えるもので、はなかったので、旅行商品価格(格安国
内航空券価格)に影響を与えていない。
5.
4 政策評価:航空自由化政策とその帰結
本稿では、航空自由化が航空運賃にどのような影響を与えたかを数量的に明らか
にしようと考えていた。日本の航空サービスは、 1
9
9
7年 4月に航空自由化のための
環境が整備され(金本ほか、 1
9
9
8
.、
) 2
0
0
0年 2月の改正航空法により完全な航空自
由化が実施された(山内、 2
0
0
0
.)。本稿の分析から、航空自由化に関する航空政策
0
0
0年 2月の航空
が航空運賃に与えた影響をまとめると、次のとおりである。(1)2
自由化により、普通旅客運賃は従前よりもエリア差別的な運賃設定がなされるよう
2
)新規航空会社の参入促進策は、すでに 1
9
9
0年代後半より実施されて
になった。 (
いたが、普通旅客運賃や往復割引運賃に与えた影響は非常に小さく、その効果は山
2
0
0
0
)が示すように事前購入割引運賃の設定に顕著に現れている。 (
3
)2
0
0
5年 4
内(
月から実施された羽田発着枠の再分配政策は、実施後の十分なデータがないという
制約を考慮しでも、航空運賃に大きな影響を与えているとは言えない。
また日本の航空自由化以後には、劇的な外生的構造変化が発生し、航空サービス
市場に大幅な影響を与えた。この外生的構造変化(およびその対策)が航空運賃に
4
) テロ後の航空不況は、普通旅客
与えた影響をまとめると、次のとおりである。 (
運賃・往復割引運賃・事前購入割引の設定などに特に影響を与えるもので、はなかっ
た
。
(
5
)
J
A
Lと JASの J
J統合は、公取委の認可の関係から普通旅客運賃を引き下
げる要因となったが、往復割引運賃には影響を与えるもので、はなかった。しかし事
1
3 広島路線には、現在の空港立地と言うもう一つの問題がある。旧広島空港(現在の広島西空港)は、
広島市内にあったが、 2
0
0
1年 1月より共用された現在の新広島空港は、広島市内からかなり離れた場所
に建設され、それに伴い航空サービスの優位性が低下してしまった(空港アクセス問題)。
航空サービスの規制緩和とその政策評価
35
前購入割引運賃の新規設定を大幅に促す要因となった。
2
0
0
5
)にも示されているように、航空
航空自由化政策の評価書である国土交通省 (
k
m運送した際の旅客収入)は低下傾向にある。
自由化後のイールド(旅客 1人を 1
本稿の分析からは、航空自由化が普通旅客運賃や往復割引運賃に与えた影響は、運
賃を低下させる方向にはないので、イールドの低下傾向を説明する要因は、害 引運
I
J
賃の充実が大きな候補である 14。このとき事前購入割引の設定のみに注目すると、
0
0
0
.)と JJ統合が、その大きな設定要因となってい
新規航空会社の参入(山内、 2
た。しかし新規に参入する航空会社の路線数は多数ではないので、広範に事前購入
割引を設定させることとなった JJ統合による影響は非常に大きかったことになる。
当初、 JJ統合は競争政策の観点から、公取委により異議を提示された統合事案であ
った。しかしこの統合がもたらした効果は、市場構造を寡占から事実上の複占に移
行させることで、複占企業間の価格競争を激化させ(事前購入割引の設定)、結果と
して路線あたりの平均的な航空運賃を低下させたものであった。このことは、新規
参入による競争促進政策による成果とは異なるものの、航空自由化による運賃設定
の自由化に伴う成果の一つで、あったとも言える。ただし寡占から複占に移行するこ
とで価格競争が激化した理由については、今後に残された理論的研究の課題である
1
5
。加えて航空自由化以後は、事前購入割引運賃以外の多様な割引運賃が登場して
おり、航空運賃の構造は非常に複雑なものとなっている(日本経済新聞、 2003年 5
月3
1 日、朝刊.)。この運賃構造の問題は、航空運賃が差別価格となっていることを
示しており、この点も今後に検討が必要とされるテーマとなっている。
またイールドのみで、航空自由化が航空運賃に与えた影響を判断することの是非
も検討しなければならない。この評価方法は、航空サービス市場を一点経済として
考えた上でのものであり、空間的な(地理的な)構造を持つ交通サービス政策の評
価として妥当であるか否かについては議論の余地がある。特に日本の航空サービス
は鉄道サービスと競合する路線が多いので、そもそも航空自由化以前に消費者間の
選択によって、航空運賃は十分に低下している場合をも考えることができる。また
新規に参入する航空会社は、鉄道サービスとの競合度が弱い路線を選択して参入し
ており、この参入効果が割引運賃の充実という形の成果として結実している。そし
1
4 もう一つの大きな候補は、旅行代理府に卸売り販売する際の座席単価の急落である。しかしこのよう
なデータは、利用することができない。
1
5 全日空社長の大橋洋治氏は、インタピ、ュー記事の中で J
J統合に関して、 「その前年は創立五十周年
でもあり、『一日乗り放題一万円』キャンベーンなどで単価を下げて顧客を取りに行ったが裏目に出た。
JAL.JAS統合への焦りがあったかもしれない Jと述べている(日本経済新聞, 2
0
0
4年 5月 9日,朝刊.)
。
36
日本経済研究
N
o
.
5
3,2
0
0
6
.1
て JJ統合によって、(エリア差別的な)害IJ引運賃が設定されて、さらなる航空運賃
の低下に貢献している。上記 3つの要因は、それぞれ別個のものであり、個別に評
価検討されるべきテーマで、ある。
この評価研究のためには、路線別の乗客 1人あたり航空運賃データが必要である。
しかしこのデータの収集は実施されているものの、公表されていない。このデータ
は、航空会社の重要な営業戦略の内容を示すものであることを理由に、不開示情報
とされている(1航空輸送サービスに係る情報公開及び運賃・料金制度の具体的な運
0月 2
6日.)。この
用の在り方について J運輸省航空局監理部航空事業課、 1999年 1
理由は最もであり、不開示とする相当な理由であると考えられる。しかしこれらの
データを利用して、路線ごとの平均航空運賃の動向を示し、路線ごとの需要関数を
推定し、路線ごとの消費者余剰を算定して、その結果のみを公表することは可能で
あると考えられる。そこで上記 3つの要因を路線ごとに個別に計測し、各要因につ
いて全路線分を合計した消費者余剰の規模を計算することが可能である。この求め
られた余剰規模の比較を行うことで、航空自由化政策の帰結を正確に評価すること
ができるものと考えられる。
6
. 結論
この論文の目的は、日本で 2000年に実施された航空自由化政策が、航空運賃にど
のような影響を与えたかを明らかにすることであった。この航空自由化の政策目標
は、規制緩和等の競争環境の整備により、航空会社聞の競争を促進させ、安全かっ
低廉で利便性の高い航空輸送サービスの提供を図ることであった。そして現在では
.
1
1テロ発生に
その政策評価が求められている。しかし日本の航空自由化後には、 9
伴う劇的な外生的構造変化が発生し、航空サービス市場に大幅な影響を与えた。航
空自由化政策を評価するためには、これらの構造変化の影響を除去した上で、その
成果を計測する必要がある。本稿では、航空政策の評価指標の一つで、ある航空運賃
に注目して、航空自由化および外生的構造変化の影響を数量的に検討した。本稿の
分析から、航空自由化により普通旅客運賃がエリア差別的な運賃設定になったこと、
JJ統合により、むしろ事前購入割引運賃の新規設定が促されたことがわかった。こ
れまでの航空自由化政策の評価では、航空運賃の低下が示されているが、今後には
航空自由化政策の成果と、外生的構造変化の成果を厳密に識別した評価を実施する
必要があるものと考えられる。
航空サービスの規制緩和とその政策評価
37
最後は、今後に残された課題についてであり、主に次なる 3点が重要なポイント
として残されている 16。第 lは、航空サービスを含む規制緩和政策にかんする政策
評価のあり方に関する点である。これらの政策評価は、金本 (
2
0
0
4
a、b
)で示される
ように、消費者余剰アプローチによる評価がその基本である。しかし現在の日本で
は、この評価実施のための理論的・実証的手法の開発、およびデータ利用環境(特
に価格や需要量データの収集)は不十分なままである。規制緩和政策の実施におい
て、これら政策評価環境の整備を進めることは、今後に残された課題の一つである。
第 2は、日本の航空サービス市場における鉄道競合に関する点である。アメリカ
の航空サービス分析は、都市問輸送の交通手段が航空サービスのみに限定される(も
しくは道路輸送サービスの市場とは分断されている)状況を想定し、航空会社間の
寡占競争をモデル化して分析するケースが多くある。しかし日本の都市間輸送は、
鉄道サービスと航空サービスが競合しているケースが多く、日本の航空サービス市
場を航空会社聞の寡占競争だけでは捉えきれない側面が残されている。特に日本で
は高速鉄道サービスである新幹線と航空サービスの競合度が大きく、航空会社は新
幹線のダイヤ改正や整備新幹線の動向に強し、関心を持っている。東海道新幹線にお
ける「のぞみ号 j の設定や、伊丹(大阪)空港の離発着制限に関する分析など、こ
の点に関して残されたテーマは決して少ないものではない。
第 3は、航空サービスの質、および航空安全に関する点である。規制緩和政策は、
規制緩和以前の財・サービスの質を維持した上で、自由競争による効率性の実現(価
格低下による消費者余剰の増加)を図ることが目的である。この財・サービスの質
を企業に維持させる方法は、情報公開の促進による消費者監視と、監査・監督によ
る政府監視の強化による方法とがある。航空サービスに関する規制緩和政策および
改革では、情報公開の一層の促進は言うまでもないが、同時に監督官庁の権限強化
(規制強化)も含まれる必要がある。ただしその場合には、規制強化の成果を事後
的に評価し、その政策自体が再び評価対象となる。航空サービスにおいて、このよ
うな再規制や規制強化が必要であるか否かの議論も、今後に残された重要な課題で
あると考えられる。
1
6 本部分の議論は、
「社会的規制改革の計量分析 j 研究会(日本経済研究センター)における参加者と
の議論に拠るところが大きい。ここに記して感謝いたします。
38
日本経済研究
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琉球大学経済研究j] 6
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津野孝一朗 (
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航空運賃における特別措置の役割-沖縄観光を事例として J W
生活経済
学研究j] 1
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津野孝一朗 (
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日本における航空機騒音対策-那覇空港を事例として J W
オイコノミ
航空サービスの規制緩和とその政策評価
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カ(名古屋市立大学経済学会) ~ 4
1(
1
)
:7
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津野孝一朗 (
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0
0
5
)r
航空サービスにおける経済的規制と社会的規制-経済評価のための政策
研 究 J ~オイコノミカ(名古屋市立大学経済学会) ~ 4
2
(
2
)
:1
0
5
1
2
5
.
杉浦一機 (
2
0
01
) ~激突!東海道線
「のぞみ」対航空シャトル』草思社.
2
0
0
4
)r
構造改革特区をどのように評価すべきか一プログラム政策評価の計量手法か
鈴木亘 (
らの考察 J ~会計検査研究~ 3
0
:1
4
5
1
5
7
.
高橋望(19
9
6
)r
圏内航空運賃の規制緩和とその評価 J ~運輸と経済~ 5
6
(
1
2
)
:3
9
4
8
.
中条潮(19
9
5
)r
第8
章
送~
航 空 政 策 と 経 営 戦 略 の 今 後 の 課 題 J航空政策研究会編『現代の航空輸
2
1
1
2
3
6,動草書房.
9
6
) ~航空新時代』ちくま新書.
中条潮(19
中条潮(19
9
9
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圏内航空における新規参入と運賃競争 J~公正取引(財団法人公正取引協会) ~
5
8
3
:1
1
1
7
.
中条潮 (
2
0
0
3
)r
第6
章
運輸・交通の規制改革一利用者に便利な航空・道路交通へ」八代尚宏
編著『社会的規制の経済分析~.
1
6
9ー2
0
4、日本経済新聞社.
2
0
0
5
)r
新規参入航空会社をめぐる政策課題 J ~運輸と経済~ 6
5
(
5
)
:1
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.
中条潮 (
戸崎肇 (
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第4
章
通~
航空輸送」金本良嗣・山内弘隆編著『講座・公的規制と産業 4 交
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2、 NTT出版.
山内弘隆(19
9
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b
)r
第2
章
輸送~
航 空 輸 送 市 場 に 対 す る 規 制 政 策 J航 空 政 策 研 究 会 編 『 現 代 の 航 空
1
3
4
5、動草書房.
山内弘隆 (
1
9
9
7
)r
航空産業の規制緩和と残された課題 J ~経済セミナー~ 5
1
2
:2
5
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9
.
40
日本経済研究
N
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0
0
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山内弘隆 (
2
0
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) W航空運賃の攻防~ NTT出版.
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航空分野における政策効果の分析と行政マネジメント J W
交通学研究 (
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山口勝弘 (
年研究年報) ~ 2
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2
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航空サービス の規制緩和と その政策評価
41
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