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神奈川県
水産総合研究所
ISSN−1342−176X
神水研資料No.42
CONTENT
SHIMIZU T. : On the Resource of White-spotted Conger Conger myriaster in
Tokyo Bay. …………………………………………………………………………………………………
1
IZUKA T. : Motility and Fertilizing Capacity of Chilled Testicular Spermatozoa in
Wakasagi Hypomesusu nipponensis. ……………………………………………………………………
13
HARA H. : Study of Oral Vaccination against Cold-water Disease in Cultured Ayu,
Plecoglossus altivelis altivelis -Τ−Method of Oral Vaccination with Enteric-Coated
Microcapsules. ……………………………………………………………………………………………
17
神 奈 川 県 水 産 総 合 研 究 所 研 究 報 告
BULLETIN
OF THE
KANAGAWA PREFECTURAL
FISHERIES RESEARCH INSTITUTE
NO. 8
神奈川県水産総合研究所
研究報告 第8号
NAKATEGAWA H., USUI K. : Fundamental Study on Tissue Biosensor for Determination
Na+channel Blocker. …………………………………………………………………………………… 21
OGAWA S., USUI K., ISHII T., YAMAMOTO S., ISHII H., KATOU K., YAMAMOTO T.
and EGAWA K. : The marketing research about the fish image of the consumer in
Kanagawa Prefecture. …………………………………………………………………………………
25
FUNAKI O. : Effect of Oceanic Fluctuation on Sardin that comes over to off
Kanagawa Prefecture. …………………………………………………………………………………
33
ISHIGURO Y., GOTOH M. and AKINAKA K. : Development of transmission system for
underwater video camera picture and observation of fish schools in set-net. …………
39
NAKATEGAWA H., OGINO R. and NAGASHIMA T. : Study on transportation method of
live Japanese common squid Todarodes pacificus using the generator of oxygen. ……… 47
57
KODAMA K., SHIMIZU T. and AOKI I. : Possible Factors Causing the Fluctuation of
the Recruitment of Japanese Mantis Shrimp Oratosquilla oratoria in Tokyo Bay. ………
71
KODAMA K., YAMAKAWA T., AOKI I., FUKUDA M. and SHIMIZU T. : Multi-spawning
under rearing condition, and reduction in size at maturity of the Japanese mantis
shrimp Oratosquilla oratoria in Tokyo Bay. …………………………………………………………
77
TOIDA S. : Property of the observations by R/V SAGAMI's ADCP. ………………………
81
AKIMOTO S. SEZAKI K. MITANI I. and WATABE S. : The population genetic structure
of the alfonsino Beryx splendens around Japan as examined by DNA nucleotide
sequencing for the mitochondrial control region. ……………………………………………… 89
KANAGAWA PREFECTURAL FISHERIES RESEARCH INSTITUTE
MISAKI JAPAN
2003
2003
NISHI E., KUDO T. : Fauna of Polychaetous Annelids in Odawa Bay, Central
Japan. ………………………………………………………………………………………………………
第 8 号
KINOSHITA J., ISHIZAKI H. : Observation of behavior of juvenile Threeline grunt
Parapristipoma trilineatum passing through mesh. …………………………………………………
53
2003 年3月
神奈川県水産総合研究所研究報告
第 8 号
目 次
本
報
告
略
号
神
水
研
研
報
Abbreviation of this bulletin
東京湾のマアナゴ資源について(総説) ……………………………………………… 清水 詢道
冷蔵保存したワカサギ精巣精子の運動能と受精能の検討 …………………………… 井
1
−Bull. Kanagawa pref Fish. Res. Inst. −
隆 13
アユ冷水病に対する経口ワクチンの研究−Τ
ワクチン内包腸溶性マイクロカプセルの投与方法について ……………………… 原 日出夫 17
Na+チャンネル阻害物質測定用センサの実用化に向けた基礎条件の検討
…………………………………………………… 仲手川 恒・臼井 一茂 21
編
集
委
員
会
神奈川県下消費者の魚介類イメージに関する意識調査
…………………… 小川 砂郎・臼井 一茂・石井 隆之・山本章太郎
委 員 長 三谷 勇 石井 洋・加藤 健太・山本 貴一・江川 公明 25
委 員 高間 浩、中田 尚宏、石黒 雄一
海況変動がマイワシの本県沿岸への来遊に及ぼす影響 ……………………………… 舩木 修 33
井
隆、山田 敦、臼井 一茂
水中ビデオカメラ画像伝送システムの製作と定置網内の魚群観察
…………………………………… 石黒 雄一・五島 正晢・秋中 一允 39
酸素発生器を用いたスルメイカの活魚輸送法
…………………………………… 仲手川 恒・荻野 隆太・長嶋 智幸 47
平成15年3月31日 印刷
平成15年3月31日 発行
小イサキの網目通過行動の観察 ………………………………………… 木下 淳司・石崎 博美 53
発 行 所 神 奈 川 県 水 産 総 合 研 究 所
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相 ……………………… 西 栄二郎・工藤 孝浩 57
神奈川県三浦市三崎町城ヶ島養老子
東京湾におけるシャコ加入量の変動要因 ……………… 児玉 圭太・清水 詢道・青木 一郎 71
東京湾産シャコの最小成熟体長の低下と飼育下における複数回産卵
田 史郎 81
ミトコンドリア制御領域の塩基配列分析による日本周辺漁場における
キンメダイの集団遺伝構造の解析 ………… 秋元 清治・瀬崎啓次郎・三谷 勇・渡部 終五 89
城ヶ島沖浮魚礁ブイにおける流向流速の観測特性 ……………………………………
(046)
882−2311ࢋ
FAX.
(046)
881−7903
郵便番号
……………… 児玉 圭太・山川 卓・青木 一郎・福田 雅明・清水 詢道 77
調査船「さがみ」におけるADCP観測について ……………………………………
電話
田 史郎 99
238−0237
発 行 者 篠 田 厚
印 刷 所 ࢄ 葵 印 刷 所
1
神水研研報第8号(2003)
東京湾のマアナゴ資源について(総説)
清 水 詢 道
On the Resource of White-spotted Conger Conger myriaster in Tokyo Bay
Takamichi SHIMIZU*
はじめに
東京湾のあなご漁業の経過と現状
マアナゴの全国漁獲量が統計に記載されるようになっ
たのは1995年からである。95年の漁獲量は約13000t、
2000年には8400tで、減少傾向にある。減少が著しいの
は長崎県、福岡県、兵庫県、大阪府、香川県などである
が、宮城県、千葉県、神奈川県、山口県などでは減少の
程度は小さく、愛知県、島根県、大分県などでは増加傾
向にあり、漁獲量変動の傾向は一様ではない。東京湾の
マアナゴ資源は、漁獲量、生産金額、資源に依存する漁
業者数などからみて、きわめて重要な資源である。東京
湾ではマアナゴ漁獲量の80%以上があなご筒漁業によっ
て漁獲されており、東京湾は宮城県仙台湾とならぶ有数
の筒漁業海域である。1987年以降、筒漁業の漁獲努力量
は増加し、資源利用度はほぼ上限に達したと考えられ、
資源管理型漁業の導入が必要になった。
当所でマアナゴの資源管理研究が始まったのは1994年
だが、その時点でマアナゴに関する生物学的知見は少な
かった。当所のような機関での研究は、3∼5年程度で
一定の結論を出すことが要求されるため、生物学的知見
については既存のものを活用していかなければならない。
当所では全国の水産試験場を対象にアンケート調査を
行って情報収集に努めたが、さらに全国的な情報交換の
場を設定する必要性が認識された。様々な経過ののちに、
全国の水産試験場や大学の研究者、漁業者など広範囲の
人が集まって、1997年にアナゴ漁業資源研究会が発足し、
兵庫県水産試験場で第1回の研究会が開催され、以後、
98年には神奈川、99年大阪、2000年宮城、2001年山口
と主要な産地をまわる形で研究会が開催され、情報交
換・研究協力体制が整備され、依然として謎の多い種で
ありながらも、マアナゴに関する理解が飛躍的に進んだ。
マアナゴについて、現段階でわかっていることを整理
し、今後の研究・資源管理の展開について考察すること
は資源管理研究者の急務である。この認識に基づいて、
東京湾のマアナゴ資源について、総説という形式で本稿
をまとめることにした。
東京湾でのあなご漁業は、底びき網漁業と延縄漁業が
主体だったと考えられる。鈴木1)は、明治時代には、か
た洲、まえ洲、羽田浦で盛んに漁獲されたとしており、
底びき網として、シバエビ打瀬網、小雑魚打瀬網、碇手
繰網、あなご流し網(打瀬)
、藻流し網(打瀬)を、延縄
として、あなご底縄、うなぎ底縄、はぜ底縄、まこがれ
い底縄をあげている。神奈川県側にこのような資料はな
いが、1948年に水産研究会が実施した東京湾漁業生産実
態調査によれば、生麦(延縄)
、北方(打瀬、延縄)
、本牧
(打瀬)
、根岸(打瀬)
、屏風浦(打瀬、延縄)
、富岡(延
縄)、柴(打瀬)、横須賀(延縄)でアナゴが漁獲物とし
て記録されている2)。
このうち、延縄漁業は現在ではあなご筒漁業に完全に
置き換わっているが、この経過には神奈川県水産試験場
が深く関わっている。延縄漁業は、漁場選択や漁具の整
備など操業に技術を要するとともに、月夜には操業でき
ない、針を口中に残して切断するために活魚としてのい
きが悪い、などの問題があった。そこで神奈川県水産試
験場では横須賀漁業協同組合研究会の協力を得て、篭
網、筒漁具(竹製、ハイゼックス製)などの漁具を試作
して操業実験を重ね、漁獲成績、取り扱いの簡便さ、漁
船への積載量などを考慮して、ハイゼックス製の筒を最
適と判断した 3)。この筒はさらにいくつかの改良の後
に、1964年7月から横須賀漁業協同組合所属の漁業者に
よって操業に用いられた。柴崎4)によれば、7月には4
隻、延べ23日の操業だったが、12月には16隻、延べ244
日操業と大幅に増加した。一方、延縄漁業は7月には7
隻延べ1 3 3 日の操業が1 2 月には3隻延べ4 1 日に減少し
た。この期間の1日1隻あたり漁獲量・生産金額をみる
と、筒では22.4kg、5583円だったのに対して延縄では
13.1kg、2610円で、筒の効率がよいことが実証された。
筒の両端に用いられるロートは始めは竹製のものだった
が、竹製ロートは破損しやすい上に、生産数量が限ら
れ、高価だったため、安価で丈夫なロートの開発が必要
になった。神奈川県水産試験場は漁業者との協議をもと
2003. 2.12 受理 神水研業績 №02-103
脚注* 資源環境部
2
マアナゴ資源(総説)
にPP樹脂製のロートを開発製作した5)。このロートの単
価は竹製のものとほぼ同じだが、3年以上使用可能で、
漁具経費の節減に貢献した。東京湾に筒漁業が導入され
たのとほぼ同じ時期に、北海道噴火湾6)、宮城県表浜7)
でもプラスチック製の筒漁具が導入されている。この時
期の前後から、石油化学製品が大量生産されるようにな
り、漁具材料として使用可能になっていったという背景
があったと考えられる。
筒漁業が県内に本格的に普及したのは1970年以降であ
るが、この背景には、1973年の横浜市以北の漁業権の消
滅とそれに伴う漁業構造の変化があった。以下に、第3
次(1968年)から第10次(1998年)の漁業センサス8)を
もとに現在マアナゴを主要な対象種としている神奈川県
内の漁業地域別に漁業構造の変化の概略をまとめてみる。
生麦・子安地区(現横浜東漁業協同組合、生麦子安漁業連合組合)
生麦は、海苔養殖を主として、その漁閑期に延縄、
釣、刺網、採貝漁業などを営んだ地区であり、子安は底
びき網の周年操業がほとんどで、ごく一部が他に海苔養
殖を営んだ地区であったが、1973年の漁業権の全面放棄
によってほぼ100%が転業した。しかし、諸般の情勢の
変化によって、1 9 8 6 年に横浜東漁業協同組合が設立さ
れ、設立後の漁業種類は、延縄、その他の漁業(一部に
投網があるが、ほとんどは筒漁業)となっている。ただ
し、延縄は、統計上は営む経営体数の数値は大きいもの
の、実態としてそれほどあったとは考えにくく、内容は
筒漁業であると考えられる。つまり、漁協設立後の漁業
経営はあなご筒漁業が基本であり、ほぼ唯一のものであ
る。延縄漁業と筒漁業の統計上の混乱は金沢地区でもみ
られるが、第9次センサス(1993年)以後は筒漁業に統
一されている。なお、1997年に一部の漁業者が組合を脱
退し、任意団体として生麦子安漁業連合組合を組織して
いる。
金沢地区(現横浜市漁業協同組合柴支所、金沢支所)
柴は、海苔養殖を基本としてその漁閑期に底びき網、
刺網、採貝草漁業などを営んでいた。金沢では、海苔養
殖が基本であることは柴と同じだったが、柴のように海
苔一辺倒ではなく、延縄漁業も重要だった。1973年の漁
業権全面放棄後も、転業の比率は比較的低く9)、残存漁
業者は、柴では底びき網の周年操業、漁具敷設許可に基
づく海苔養殖、刺網を、金沢では海苔養殖、延縄、釣を
選択する場合が多かった。オイルショックに起因する雇
用情勢の変化などによって転業比率はさらに伸び悩み、
残存漁業者による新漁協設立が指向され、1981年に横浜
市漁業協同組合が設立され、柴は同漁協柴支所、金沢は
金沢支所として編成された。現在のこの地区は、柴の小
型底びき網漁業、柴・金沢のあなご筒漁業を基幹として
いる。
1983年(第7次センサス)以降、漁業構造の異なる2
つの地区が一括して扱われることになってしまったた
め、地区ごとの詳細が把握しがたくなってしまっている。
横須賀(現横須賀市東部漁業協同組合横須賀支所)
横須賀では延縄、刺網、釣、まき網、わかめ養殖な
ど、多様な漁業が営まれてきたが、1973年(第5次セン
サス)までウェイトの高かった延縄漁業は第6次センサ
ス以降には現れない。ほかの地区で比較的明らかな延縄
漁業から筒漁業への転換の過程が把握しがたい。前述の
ように、横須賀は筒漁業発祥の地だが、漁業権の放棄と
いう事態もなく、また漁場的に恵まれていることから、
他地区よりも選択肢が広く、筒漁業に執着する必要が少
なかったと考えられる。横須賀地区では「その他の漁
業」の中には、相当な割合でたこつぼ漁業が含まれてい
る。延縄漁業、わかめ養殖の割合が減少し、その他の漁
業の割合が増加した、とはいえ全体として大きな漁業構
造の変化はなかった、といえるだろう。
図1 漁業地域別にみた漁業構造の変化(第3次−第10次漁業センサス)
3
マアナゴ資源(総説)
神奈川県の東京湾におけるマアナゴ漁獲量の変化
神奈川県農林水産統計年報にマアナゴの漁獲量が記録
されるのは1967年以後である10)。また、それが漁業地区
別に記録されるのは1977年以後である。そのため、ここ
で用いる1967−76年の数値は正確には東京湾の漁獲量で
はないが、1977年以後の県全体の漁獲量の90%以上が東
京湾のものなので、1967−76年についても東京湾の漁獲
量の変化を示しているとみることができる。
漁業種類別漁獲量では、前述したように1970年代から
筒による漁獲量の割合が増加し、延縄漁業は80年代には
ほぼ100%が筒漁業に置き換わった。底びき網による漁
獲量は、漁獲量全体の10−20%に相当する。夏季に網目
の細かい「あなご網」の操業を行うか否かによって漁獲
量が変動するが、近年横浜市漁協柴支所の底びき網で
は、
「あなご網」の操業が主対象であるシャコ資源に悪影
響をおよぼすことを懸念して、
「あなご網」の操業を抑え
る傾向にある。全体の80%以上を漁獲する筒漁業の漁獲
量の変動は大きいが、特に1987年から92年にかけての急
激な増加は、漁獲努力量の増加による部分が大きいと考
えられる。努力量は、1986年の横浜東漁協の設立に伴う
操業隻数の増加、横浜市漁協柴支所の3種底びき網から
筒漁業への転換(主対象だったトリガイの不漁による)
、
などによって増加した。このことは、比較的未利用だっ
たマアナゴ資源の利用が、急速に高度化したとみること
ができる。9 3 年以後、筒漁業の漁獲量は減少傾向にあ
る。筒漁業の操業方法には通常操業とよいばき操業があ
る11)。1993年から実施している標本船調査の資料をもと
に、漁獲努力量の変動をみると、総投入筒数は減少して
いるが、明らかに通常操業からよいばき操業へ操業方法
がシフトしていることがわかる。通常操業とよいばき操
業とでは筒が海中に浸漬している時間が大きく異なるた
め、筒1本が同じ努力量を表現しているとはいえない。
同じ時期・同じ場所でのC P U E (筒1本あたり漁獲量)
を比較して、
CPUE 1=0.4407(CPUE 2)+0.04879
という関係が得られた。ここで、CPUE 1は通常操業の、
C P U E 2はよいばき操業のC P U E を表す。この関係は分散
が大きいが、回帰は有意であり、これを用いるとよいば
き操業における1本の筒は通常操業の筒2本以上に相当
することになり、通常操業換算で年間総投入筒数は約
70000本前後であまり変化していないことになる。努力
量が減少していない中での漁獲量の減少は、アナゴ資源
への関心を高め、漁業者の資源管理意識の向上につなが
り、後述する資源管理の展開につながったといえよう。
筒漁業の特長は、マアナゴに対する漁獲効率がきわめて
高い、ということである。標本船調査資料から計算され
た主漁期(4−10月)の漁獲率(漁獲量/漁期はじめの
資源量推定値)は60−86%となる。
このことは、毎年の資源の主体は新規加入群によって
構成されていることを意味している。
図2 神奈川県の漁業種類別漁獲量
図3 標本船の主漁期(4−10月)の投入筒数の推移
:通常操業 :よいばき操業
上段は投入実数
下段は操業効率を考慮して修正した筒数
4
マアナゴ資源(総説)
東京湾の地区別漁獲量をみると、既に述べたとおり、
87年以後の漁獲量の増加は、全地区でみられるものの、
主に横浜東漁協の漁獲量の増加によっており、努力量の
増加による漁獲量の増加、という判断を支持している。
93年から漁獲量は減少傾向にあり、特に横浜東での減少
が著しい。
図4 東京湾の地区別漁獲量
資源管理型漁業の展開
東京湾のマアナゴの生活段階は、葉形仔魚、幼魚1、
幼魚2、アナゴの4段階に便宜的にわけることができる。
幼魚1は、葉形仔魚が変態してから筒漁業による混獲
がはじまるまでの期間、幼魚2は混獲開始から出荷サイ
ズになるまでの期間、を意味する。幼魚2が成長して、
翌年4月に出荷サイズ(全長36cm)に到達し、その年の
資源の主体を構成する。したがって、幼魚2の混獲を極
力回避する必要があることは明らかである。西川ら12)は
小型底びき網におけるマアナゴの網目選択性について検
討し、漁獲サイズにあわせた網目を用いることが有効な
資源管理方策になると延べている。また鍋島ら13)は籠網
の網目選択性について検討し、資源管理上網目を拡大す
べきであることを提言している。筒漁具には漁労作業軽
減のために、多くの水抜穴があけてあるが、この水抜穴
には、底びき網や籠網の網目同様にマアナゴに対する選
択性があることが予想された。筆者は異なるサイズの水
抜穴を持つ筒を用いて調査船さがみによる操業実験を
行って、筒の水抜穴を拡大することによって、幼魚2の
混獲を回避する可能性を実証し11)、最適な水抜穴の直径
は1 6 m m であることを示した1 4 )。この結果は漁業者に伝
達・普及されたが、水抜穴の拡大によって出荷サイズの
マアナゴも筒から抜けてしまう、餌として使用されるカ
タクチイワシが抜けてしまう、などの懸念が漁業者間に
根強く存在したため、ごく一部の漁業者が試験的にとり
いれたにすぎなかった。神奈川県農政部水産課では専門
技術員活動の技術改良試験としてこの問題に取り組み、
様々なサイズの水抜穴を用いた操業実験を漁業者ととも
に行い、水抜穴拡大の有効性を漁業者間に普及すること
に努めた15)。また、東京水産大学では水抜穴の選択性に
ついての詳細な検討を行い16)、筒にカバーネットを取り
付けた操業実験によって拡大した水抜穴からマアナゴが
通過することを実証するとともに水中ビデオ撮影によっ
て水抜穴からマアナゴが通過する様子を視覚的に示した
17)
。これらの活動・研究の成果が漁業者に示されたこと
によって漁業者の認識が広がっていき、横浜市漁協柴支
所のあなご筒漁業者は1998年4月から、それまで用いて
いた9m m の水抜穴を1 3 m m 以上とすることを決定した。
この決定は周辺漁協にも拡大し、1999年4月から生麦子
安漁業連合組合から横須賀市東部漁協に至る全ての筒漁
業者が水抜穴の直径を1 3 m m 以上とすることが決定され
た。千葉県では1998年8月に内湾あなご筒漁業者連絡協
議会が結成されていたが、神奈川県の決定に同調し、
1 9 9 9 年4月から水抜穴の直径1 3 m m 以上とすることと
なった。2000年から開かれている千葉、東京、神奈川の
一都二県のあなご筒漁業者の交流会の席上で東京都の漁
業者に対しても、水抜穴を拡大するように要請され、東
京都では検討の結果、拡大した水抜穴をあける数によっ
て1 4 m m 、あるいは1 6 m m とすることが決定された(千
野、私信)
。これによって、水抜穴を拡大して幼魚2の混
獲を防止して漁獲対象資源を確保するという、資源管理
の第一歩が東京湾全体で始まった。直径1 3 m m 以上、と
いう決定は最適サイズとはいえないが、神奈川の一部の
漁業者はすでに1 5 m m を使用しはじめている。東京都の
取り決めも、数によっては最適サイズである。また、千
葉県木更津漁協ではほとんどが1 6 m m を使用していると
いう(内田、私信)
。資源管理の第一歩は着実に進展して
いるといえるだろう。
図5 幼魚1の採集例
マアナゴ資源(総説)
資源管理の次の段階として、前記の交流会では漁獲努
力量の調整(筒の数の制限)が話題になりはじめてい
る。しかし、マアナゴ資源に対する依存度には大きな地
域差があると考えられるため、努力量の調整はきわめて
デリケートな、難しい問題であり、我々のサイドの関与
するものではない。
「努力量の調整」という問題を「限ら
れた資源を漁獲するための効率の良い努力量の投入」す
なわち「投入努力の最適化」の問題と解釈すれば、投入
努力を最適化するためには資源分布の把握とともに資源
量の推定が不可欠であり、我々の役割は明確になる。資
源量の推定に関しては、神奈川県あなご漁業者協議会で
は2000年から11−12月に東京湾内の14点で幼魚分布調
査(幼魚2)を行い、翌年の漁期はじめの資源量の推定
を試みている。この調査によって得られたデータはまだ
少なく、精度の高い推定は難しいが、筆者の試みた資源
量の推定18)も含めて検討していくべき問題であろう。さ
らに、前に述べた生活段階ごとの、生活史モデルを導入
した検討が必要であろう。
図6 あなご漁業者協議会の行った分布調査の例
(2001年)
数字は筒1本あたりの採集尾数
マアナゴの生活史
1.成熟・産卵に関する知見
マアナゴの生態には不明な点が多い。特に、天然海域
で成熟した個体がほとんど採集されていないこともあっ
て、成熟・産卵生態には不明な点が多い。マアナゴの産
卵場についての知見は、高井19)、Mochioka et al. 20)、時
村21)によっている。高井19)はいくつかの間接的な証拠か
ら、南西諸島周辺の深海を有力な産卵場であると推定し
5
ている。Mochioka et al.20)は駿河湾で全長16mmの前期
葉形仔魚を採集し、駿河湾またはその隣接海域に産卵場
のひとつがある、と推定している。時村21)は東シナ海に
おける以西底びき網の操業記録と調査船による漁獲記録
から、東シナ海における主要な産卵場は北緯30°付近を
中心とする大陸棚斜面域であると推定している。高井の
説と時村の説は、これまでいわれてきた産卵場から葉形
仔魚が黒潮系または対馬暖流系の暖水によって各地沿岸
に輸送され、変態・着底・成長して資源として加入する
ことを説明しやすい。また、Mochioka 20)の説は、産卵場
がひとつではないことを示唆しており、このことは最近
発展しつつあるm t D N A を用いたマアナゴの集団構造に
関する研究成果22)と一致している。木村ら22)は福島、神
奈川、愛知でほぼ同時に採集した葉形仔魚のm t D N A を
解析して、マアナゴの集団構造として内部に産卵場の異
なる小集団と海流系に対応した大集団のふたつの階層を
有するメタ個体群のモデルを想定している。しかしな
お、産卵場から沿岸域への来遊経路・来遊条件などは明
らかになっているとはいえない。
成熟に関する知見は、主に宇藤ら、いらご研究所のグ
ループによって得られている。宇藤23)は、稚アナゴから
養成した魚を供試魚として生殖腺の発達を経時的に観察
し、雌の成熟は比較的低水温期に進行し、低水温から短
期間の水温上昇によって成熟が促進されることを明らか
にした。さらに宇藤23)はホルモン投与による催熟を行っ
て全長8.2mmの孵化仔魚を得ている。また、成熟の周期
性から、雄では複数年繁殖期を迎えていること、雌でも
卵母細胞の退行後に未熟な卵群が出現することなどから
産卵を複数回行っている可能性があることを指摘してい
る。これまで一生に1回の産卵と考えられてきたマアナ
ゴの産卵が複数回あるとすると、生活史に関する知見に
は大幅な変更が必要であり、資源評価・資源管理などに
大きな影響を及ぼすことになる。これらの研究がさらに
進展することが期待される。
2.葉形仔魚
これまでに採集されている葉形仔魚の最小は、
Mochioka 20)が駿河湾で採集した全長16mmの個体である
が、これに次ぐのは清水が1996年3月に神奈川県の小田
和湾で採集した全長6 2 m m の個体で2 4 )、その間の大きさ
の葉形仔魚の採集記録はない。一般に沿岸域では全長
9 0 m m 以下の葉形仔魚の採集例は少なく、沿岸域に来遊
する経路は不明である。一方、外洋域での採集は、リン
グネット、I K M T 、M O H T などのネット類によって行わ
れているが、採集例は少なく、沿岸域でのシラス、イカ
ナゴなどの船曳網に比べて採集効率はよくないと考えら
れるが、葉形仔魚の分布水深帯なども明らかでないため
にやむをえない面がある。外洋域で葉形仔魚を採集した
例として、東シナ海中央部でオッタートロールの袖網に
かかっていた例 2 5 )、東北沖合の黒潮親潮移行域で稚魚
ネットによって採集された例26)がある。特に、黒潮親潮
移行域での葉形仔魚の採集は、葉形仔魚の輸送に黒潮が
6
マアナゴ資源(総説)
関与していることを考えさせられる。望岡ら27)は、駿河
湾での葉形仔魚の採集状況から、葉形仔魚の輸送過程に
黒潮が関与しているとしながらも、湾内への加入には別
のメカニズムが存在していることを指摘している。外洋
域といってもよい仙台湾では暖水勢力の強い年には葉形
仔魚の来遊量が多く、2年後のアナゴ漁況はよくなる28)。
筆者が2002年2−3月に東京湾口でシラス船びき網を用
いて行った調査では、黒潮系の暖水が湾口部に波及した
と考えられる時には湾口部に葉形仔魚が出現し、成長し
ながら湾内にはいって変態を開始することが示唆され
た。筆者の調査は今後も継続される予定なので、東京湾
口への来遊条件、さらに湾内へ加入する条件などが明ら
かになることが期待される。このことについては稿を改
めて検討する。葉形仔魚の主要な餌は尾虫類のハウスや
糞粒である29)。黒木(未発表)は、東京湾の外と内で尾
虫類の分布を調査し、餌の量の多少が変態に至る過程に
どのように影響するかを、外洋生活期の栄養状態とあわ
せて明らかにしようとしている。
東京湾への葉形仔魚の来遊盛期は明らかではないが、
相模湾での来遊盛期から類推して、3−4月と考えられ
る。筆者の行っている調査はシラス船びき網によるもの
だが、毎年3月11日に相模湾のシラス漁業が解禁になる
ため、それ以降の調査が不可能になる。したがって、来
遊量の把握や来遊盛期の把握には、仙台湾などで行われ
ているソリネットなど、他の方法を用いた調査が必要に
なるが、その際には、シラス船びき網との採集効率の比
較検討もあわせて行う必要がある。
3.幼魚の分布と移動
東京湾のマアナゴ資源は、これまでに述べてきたよう
に、3−4月に葉形仔魚が来遊し、この年級が翌年4月
以降に全長36cm程度に成長して、漁獲対象として加入す
るが、来遊した年の9月、全長20cm前後から筒漁業によ
る混獲が本格的になる。東京湾での漁獲量の80%以上を
占める筒漁業は漁獲効率が高く、4月はじめの資源量の
70%以上を10月までの漁期間に漁獲してしまうと推定さ
1996.12 上旬
れている11)。したがって、幼魚の混獲を回避することが
資源管理上重要なことであり、そのためには筒の水抜穴
を拡大する必要がある30)と同時に、幼魚の主要な生息場
を明らかにしてそこでの漁獲努力量を規制するなどの対
策が必要である。特に、混獲が本格的にはじまる以前の
幼魚(幼魚1)の分布、主生息場についてはこれまで明
らかになっていない。清水11)は幼魚1の主要な生息場は
千葉県側にあるのではないか、と推測している。これを
確認するため、1994年から筒を用いた数回の調査を行っ
たが、その年に来遊したと考えられる幼魚1は採集され
なかった。しかし、2 0 0 1 年8月に千葉県木更津地先で
「よいばき」によって調査したところ、全長1 1 . 8 −
23.0cm(平均17.9cm)の2001年来遊年級(幼魚1)を
106個体採集することができた。また、2002年6月には
羽田沖で「よいばき」によって1 0 . 3 −1 4 . 5 c m (平均
12.3cm)の2002年来遊年級(幼魚1)を15個体採集す
ることができた。しかし、2002年6月の中の瀬、7月の
大間出し(柴支所の近く)では採集できなかった。東京
都水試では1999年から毎月1回、羽田沖の4定点で筒に
よる調査を行っているが、羽田沖では毎年7月から幼魚
1が採集されている31)。また、千葉県水産研究センター
でも2002年から木更津、富津などで幼魚1の分布調査を
開始している(永山、未発表)
。これらの調査を組織化し
て継続することによって、幼魚1の分布が明らかになる
ことが期待される。
神奈川県あなご漁業者協議会では2000年から翌年の初
期資源量を把握することを目的として、東京湾内の14定
点で幼魚分布調査を行っている。この調査は幼魚2のも
のだが、神奈川県側より千葉県側での分布量が多くなっ
ており、幼魚2でも主要な生息場は千葉県側にあること
が示されている。1994年から実施している標本船調査か
らも幼魚2の分布についての情報が得られる。操業の主
体はあくまでも出荷サイズを狙ってのものであり、幼魚
2の情報がすべて含まれているわけではないが、C P U E
(筒1本あたりの幼魚2の漁獲個体数で表示)の高い海
域はおおむね千葉県側にあるように考えられる。
中旬
図7 幼魚2の漁獲尾数の分布の例(標本船調査)
下旬
7
マアナゴ資源(総説)
幼魚期の湾内での移動を把握するため、これまで数回
の標識放流調査が行われてきた。1991年から93年にかけ
て、柴漁協研究会によって4回、計4 4 1 3 個体が放流さ
れ、147個体(3.3%)が再捕された。放流時期は10−12
月、漁港に持ち帰って標識作業をした後、採集された海
域周辺に運搬して放流した。放流場所周辺での再捕が多
いが、東方向(千葉県側)へ移動したものがかなりみら
れた。1997年には、横浜港埠頭公社が管理する環境整備
基金に基づく調査として、横浜東漁協・生麦子安連合組
合、横浜市漁協柴支所、横浜市漁協金沢支所がそれぞれ
主体となって、計9000個体が放流され、641個体(7.1
%)が再捕された。これらは、作業後に各漁港で放流し
たもので、放流場所周辺の再捕が多かったと同時に北上
または東への移動が顕著に認められた。作業にあたった
漁業者の多くが、獲れた場所にもどった、という印象を
強くもったようである。全体として、移動は湾内に限ら
れており、幼魚の段階で湾外に移動することは少ない、
といってよいだろう。この他、1993−94年に、同じく環
境整備基金に基づく調査として、宮城県、九州などから
東京卸売市場に出荷された中から小型のマアナゴを選ん
で購入し、東京湾内で標識放流した例がある。2年間で
12944個体を放流し、再捕は330個体(2.5 %)だった
が、この再捕魚の中に1個体だけだが、放流後6ケ月後
に相模湾に移動して再捕された例がある。ただし、供試
魚が湾外のものなので、湾内の幼魚の移動を考える上で
適当であるかどうかは不明である。
表1 東京湾における過去のマアナゴ標識放流
番号
放流年月日
放流場所
1
91.10.18
小柴埼沖
2
91.11.22
3
放流尾数
再捕尾数(再捕率)
供試魚の由来
921
23( 2.5)
東京湾内の幼魚
杉 田 湾
923
78( 8.5)
同上
91.12.21
根 先 沖
940
14( 1.5)
同上
4
93. 1.27
柴漁港内
1629
32( 2.0)
同上
5
97.10.29
金沢漁港内
3000
68( 2.3)
同上
6
97.11.12
柴漁港内
3000
104( 3.5)
同上
7
97.12. 1
瑞穂埠頭
3000
469(15.6)
同上
8
93.10.28
大丸出し
896
13( 1.5)
宮城県産
9
93.10.28
杉 田 湾
1131
11( 1.0)
同上
10
93.10.28
横浜港内
553
4( 0.7)
同上
11
93.11.18
大丸出し
969
9( 0.9)
宮城県及び九州産
12
93.11.18
中の瀬Dブイ
1007
9( 0.9)
同上
13
93.11.18
横浜バース
940
25( 2.7)
同上
14
94.10.27
杉 田 湾
2667
139( 5.2)
宮城県産
15
94.11.24
鶴見航路
2475
48( 1.9)
同上
16
94.12. 4
八 景 島
2306
72( 3.1)
同上
8
マアナゴ資源(総説)
図8 幼魚2の標識放流と再捕(1991年10−12月) ●:放流点 :再捕点
マアナゴ資源(総説)
図9 幼魚2の標識放流と再捕(1997年10−12月) ●:放流点 :再捕点
9
1 0
マアナゴ資源(総説)
4.マアナゴ幼魚の成長
これまでに得られている調査結果(水総研さがみ・江
の島丸の調査、漁業者による比較試験、神奈川県あなご
漁業者協議会による調査)から、月別に調査年、調査場
所を一括して、幼魚の平均的な成長について検討した。
6月に全長15cm未満のものが採集される。7月の採集例
はないが、8月には11.5−22.5cm(モード17.5cm)に
なる。9月以降、採集尾数は増加し、モードの推移をみ
ると9月2 4 . 5 c m 、1 0 月2 6 . 5 c m 、1 1 月3 0 . 5 c m 、1 2 月
30.5cm、1月32.5cmとなり、11月まではほぼ直線的に
成長するが、12月になるとやや成長が停滞する傾向がみ
られるようである。東京都水試が1999年から羽田周辺で
行っている定点調査のデータ32)では幼魚の出現は毎年ほ
ぼ7月からで、その後の成長はここで述べたものとほぼ
等しい。東京湾での出荷可能サイズ(全長36cm以上)へ
の加入は、きわめて成長が早いものではその年の11月に
加入するものがあるが、平均的には4月に加入、7月に
完全に加入すると考えてよいだろう。
図10 マアナゴの成長
おわりに
東京湾のマアナゴ資源について、これまでにわかって
いることをまとめてみたが、資源管理型漁業をさらに推
進するためには解決しなければならない問題点は多い。
今後、調査研究を要すると考えられる課題を整理して、
本稿を終わることとしたい。
葉形仔魚の来遊条件および来遊量の把握。
沿岸に来遊した葉形仔魚の生残の解明。
葉形仔魚期の餌生物の分布の把握。
幼魚1の生息場所、生息量、生残の解明。
幼魚2の分布量と初期資源量の関連の解明。
謝 辞
水産総合研究所近山通正前所長には本稿をまとめる
きっかけを示していただいた。東京水産大学の東海正教
授には貴重なご意見をいただいた。横浜市漁協柴支所の
斉田芳之さんには、筆者の計画したほとんどの調査に対
して熱心にご協力いただくとともに、長年にわたる標本
船調査資料を提供していただき、また貴重なご意見をい
ただいた。調査船さがみ、江の島丸の皆さんには調査に
全面的にご協力いただいた。資源環境部の皆さんには調
査への協力、貴重なご意見・ご批判をいただいた。心か
ら感謝する。
引用文献
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1 2
1 3
神水研研報第8号(2003)
冷蔵保存したワカサギ精巣精子の
運動能と受精能の検討
井 塚 隆
Motility and Fertilizing Capacity of Chilled Testicular Spermatozoa in
Wakasagi Hypomesusu nipponensis.
Takashi IZUKA*
緒 言
材料および方法
魚類の精子保存は冷凍と冷蔵による方法に大別され
る1,2)。前者は凍結速度や添加保護物質などについて比
較的多くの研究例があるものの3,4)、凍結および保存に
は−79℃以下の低温条件が得られる設備が必要であるな
ど、技術的に容易な手法とはいえない。しかしながら、
冷凍保存技術は優良品種の遺伝的形質の保存や、絶滅に
瀕した種・系統の遺伝的保護といった、遺伝子バンクと
しての機能が期待されている3)。
これに対して、後者の冷蔵保存は技術的・施設的な簡
便さから、種苗生産の現場では人工受精作業の効率化な
どにおいて実用的であるとされている1,2)。冷蔵保存に
関する研究は冷凍保存と比較して多くはないものの、主
にサケ Oncorhyncus keta5)、ニジマス O. mykiss1,6,7,8)、
アマゴ O. masou ishikawae1,9,10)、アユ Plecoglossus
altiveris altiveris 11)、クロダイ Acanthopagrus schlegeli 12)、
サワラ Scomberomorus niphonius 13)で断片的ながら検討
されている。しかし、ニジマスにおいては保存精子の運
動能だけでなく、その受精能についても調べられてお
り、その実用性が示唆されている8)。
ワカサギ Hypomesusu nipponennsisにおいては、岡本
他 14)が精巣精子の冷蔵保存時間と発眼率の関係について
検討しているが、保存時間は数時間と短いうえ、精子の
運動活性については触れられていない。また、井塚 15)は
精巣精子の冷蔵保存に適した希釈液を検討し、最長で35
日間の精子運動性の保存を認めているが、その受精能に
ついては言及していない。一般的に、精子の運動能と受
精能は相関すると考えられるが 16)、黒倉3)は両者の関係
はまだ十分に検討されておらず、運動精子の割合だけで
受精率を決定するのは危険であるとしている。
そこで、本研究ではワカサギの冷蔵保存した精巣精子
の運動能とともに受精能についても、その経時的変化を
明らかにし、本種の人工受精における保存精子の実用性
を検討することとした。
希釈液の調製
精子保存のための希釈液はシシャモの精巣液のイオン
組成 17)をもとに人工精巣液を調製して用いた。その組成
はNaCl 124.3mM、KCl 11.0mM、CaCl 2 0.7mM、MgCl 2
0 . 9 m M とし、さらに、N a H C O 3 とT A P S をそれぞれ
2 0 m M ずつ添加するとともに、精子の運動を抑制するた
めに1N-NaOHでpHを8.5に調整した 15)。
供試サンプル
供試魚は1997年に諏訪湖より導入したワカサギ発眼卵
から、当試験場において継代飼育している当年魚(継代
数5)を使用した。保存する精子は腹部を圧迫すると生
殖口から精液が放出する成熟雄魚の精巣精子を用いた。
その雄魚から摘出した精巣を50倍量の希釈液と共にハサ
ミで細かく切り刻んだものを、滅菌プラスチックシャー
レに5ml分注して、これを保存溶液とし、4℃のインキュ
ベーターにおいて冷蔵した。冷蔵保存実験には7尾の雄
魚から得られた精巣精子から個体ごとに7つの保存溶液
を作製して試験区とした。受精能を比較するための対照
区には、各実験日に3尾の雄魚から輸精管精子を搾出・
混合したものを用いた。また、卵は排卵後24時間以内の
雌個体5尾から採卵したものを混合して供試した。
保存精子の運動能
保存開始後、1∼3日毎に保存精巣精子の運動能につ
いて観察をおこなった。精子の運動を測定するための溶
液は、蒸留水をH E P E S 2 0 m M - N a O H でp H 7 . 5 に調整し
た Buffer solution(以下、BSという)を用いた 18)。各
保存溶液をマイクロピペットで3穴スライドグラスに分
注し、精液の最終希釈率が1200倍となるようにBSを添
加して、鋭利な木片で素早く攪拌した。作業は400倍の
光学顕微鏡下でおこない、鏡筒に接続したC C D カメラ
(HITACHI CCD color camera)から得た映像をビ
デオモニター(HITACHI CT-1450)に出力して精子の
運動を観察した。運動精子比は太田他 17)の方法により、
2003. 2.14 受理 神水研業績 №02-104
脚注* 内水面試験場
1 4
冷蔵保存したワカサギ精子の運動能と受精能
pH
9.0
8.5
n=7
Ave.±SD
8.0
motility score
5
4
Table 1 Hatching and eyeing rate (%) of eggs fertilized
by semen spermatozoa in each experiment.
表1 各実験日において搾出精子と受精させた対照区
の卵の発眼率とふ化率
days
stage
0
1
3
5
7
9
12
14
16
19
22
26
29
eyeing
86.4
78.2
84.6
88.2
88.0
76.8
79.4
82.6
68.7
65.8
86.9
87.5
74.0
hatching 86.4
74.8
82.4
87.6
85.0
73.5
78.6
81.8
63.6
63.7
86.1
82.6
74.0
relative eyeing rate
(%)
結 果
保存精子の運動能
冷蔵保存開始後の精巣精子のMS値を図1に示す。保存
開始日のM S は4+ ∼5+ であったが、翌日には上昇して
(P<0.05:以下同様)、5日目までは全ての試験区にお
いて5+を示した。7日目には4+∼5+に低下したもの
の12日目まで3+∼4+で横ばいに推移した。14日目で
2+∼4+と低下し、これ以降も下降傾向を示して19日目
で0∼2+となり、29日目には全て0であった。また、
これらの期間における保存溶液のpH平均値は8.4∼8.7の
間で推移した。
∼88.2%、ふ化率は63.6∼87.6%であり、両者とも各実
験日によって異なる値が得られた。このことから、保存
精巣精子と受精させて得られた各試験区の卵の発眼率と
ふ化率は、同日の対照区におけるそれらの率を100とし
て換算し、それぞれを相対発眼率および相対ふ化率とし
た。
精巣精子の保存経過日数にともなう相対発眼率と相対
ふ化率の変化を図2に示した。0日および1日目におけ
る平均相対発眼率はそれぞれ94.5%、91.1%であったが、
その後上昇して(P<0.05:以下同様)3∼12日目まで
は91%以上の横ばいで推移し、14日目以降低下した。14
日目で81.6%、19日目で39.1%、26日目で3.7%となり、
29日目では0%となった。また、平均相対ふ化率も同様
に推移し(P>0.05)、各実験日における試験区の平均ふ
化率と平均発眼率の比は0.88∼0.99(平均0.96)であっ
た。
120
100
80
60
40
20
0
120
100
80
60
40
20
0
relative hatching rate
(%)
6段階に区分して判定した(Motility Score:以下MSと
いう)。つまり、BSで希釈した後に運動する精子の割合
が目視で75%以上の場合を「5+」、50∼74%を「4+」、
25∼49%を「3+」、24%以下を「2+」、極めて少数の場
合を「1+」、すべて動かない場合を「0」とした。運動
精子比の測定は各保存溶液につき3回ずつおこない、最
も多く観察されたMS値を記録した。また同時に、保存溶
液を20μl採取して、pHメーター(HORIBA B-211)で
p H を測定した。
保存精子による人工受精
上記の運動能の観察と同日に精巣精子の受精能につい
ても検討をおこなった。人工受精は卵重量に対して1/
100量の各精液を受精させた。つまり、試験区では0.1g
の卵に対して50μlの保存溶液を混合した後、50μlの蒸
留水を添加して受精させた。対照区では搾出した輸精管
精子を希釈液で50倍に薄めたものを、0.1gの卵に50μl混
合した後、50μlの蒸留水を添加した。その後、それぞれ
の受精卵をスライドガラスに付着させて、流水下(水温
8.6∼9.6℃)で管理し、発眼率とふ化率を観察した。
n=7
Ave.±SD
0
5
10
15
20
25
30
days after storage
3
2
1
0
0
5
10
15
20
days after storage
25
30
Fig.1 Patterns of motility score of testicular spermatozoa
and pH of stock solution during chilled storage.
図1 冷蔵保存経過日数にともなう精巣精子の運動性指
数と保存溶液p H の変化
保存精子の受精能
保存精巣精子による人工受精実験は、全ての精子運動
活性が失活した29日目までの間に計13回おこなった。こ
れら各実験における、搾出精子と受精させて得られた対
照区の卵の発眼率とふ化率を表1に示す。発眼率は65.8
Fig.2 Patterns of relative eyeing / hatching rate of eggs
artificiallyfertilizedbystoredtesticularspermatozoa.
図2 精巣精子の保存経過日数にともなう相対発眼率と
相対ふ化率の変化
運動能と受精能の関係
冷蔵保存した精巣精子のMS値と、この精子で受精した
卵の相対ふ化率との関係を図3に示した。MSが5+, 4+
の場合では、それぞれ平均96.1±6.5%(84.2∼107.9%)
、
95.2±6.9%(80.8∼105.5%)の相対ふ化率が得られた。
一方、MSが3+では85.6±34.5%(41.4∼125.4%)、MS
が2+で66.7±32.6%(22.1∼100.4%)、MSが1+で28.5
±22.9%(3.9∼69.9%)となり、MSが3+以下になると
相対ふ化率は低下するとともに、ばらつきが大きくなる
傾向が認められた。
1 5
冷蔵保存したワカサギ精子の運動能と受精能
140
relative hatching rate
(%)
120
100
80
60
40
20
0
0
1
2
3
4
5
mortility score
Fig.3 Relationship between motility score of stored
testicular spermatozoa and relative hatching rate of
eggs fertilized. Result are shown as average (●),
standard deviation (transparent squares) and range
(verticalbars).
図3 保存精子の運動性指数と受精により得られる卵の
相対ふ化率の関係
考 察
野村7)はニジマスの遠沈した輸精管精子を5∼10℃で
保存し、7日目に57%のふ化率が得られることを認めて
おり、宇野他1)も同様に7日目でも生精子と同等のふ化
率を示すとしている。また、サケでは搾出精液中の輸精
管精子の冷蔵保存で、開始4日目に通常の人工受精と変
わらぬ96.9%の受精率が得られるが、7日目では半分の
53.8%に低下したとしている5)。これらの研究はいずれ
も精子を希釈していないが、冷蔵保存における希釈液の
利用は運動能を保持するための重要な条件とされている
9,
18)
。高橋他8)はニジマスを供試魚として希釈液の組成
と希釈法の検討をおこない、精巣精子の冷蔵保存で30日
後においても52±10.3%のふ化率を得ることに成功して
いる。一方、ワカサギでは、岡本他 14)がドジョウの人工
受精にも使用されるGPC-5(家畜精液保存液)で希釈し
た精巣精子を保存して、3時間まで受精能が保たれると
した。しかしながら、井塚 15)はシシャモ用人工精巣液を
希釈液とした実験で、10日前後にわたる高い運動能の保
存を明らかにし、本種への有用性を示唆した。本研究で
も、ワカサギの精巣精子をこのシシャモ用人工精巣液で
希釈、冷蔵保存し、精子の受精能について検討したとこ
ろ、開始12日目までは91%以上の高い相対発眼率が安定
的に得られること、19日目においても約40%が得られる
ことが明らかになり、本希釈液を使用する妥当性に証左
を与えたといえよう。また、本研究における保存開始後
の精子の運動性指数は、12日目までは高く横ばいに推移
したのち徐々に低下しており、これは井塚 15)が報告した
結果とほぼ同等である。このことは、本保存技術の高い
安定性を示唆するものと思われ、現場への実用性におい
ては利点になるものと考えられる。
冷蔵保存した精子を実際の種苗生産において利用する
際には、人工受精作業の前に精子の運動活性を確認して
予想されるふ化率などを予め捉えることにより、使用の
可否を判断する必要があろう。しかしながら、冷蔵保存
精子の運動能と受精能を同時に調べた研究は少なく1,5)、
さらに経時的変化を観察した報告についてはほとんど見
あたらない。本研究では、保存精子の運動能を示すMS値
と得られる相対ふ化率との関係を明らかにした。これに
よるとMSが5+, 4+の場合はいずれも平均96.1、95.2%、
最低でも80%以上の相対ふ化率が得られる。つまり、顕
微鏡下で半数以上が運動する保存精子であれば、通常の
搾出精子で受精した際の80%以上のふ化率が安定的に見
込めるということになる。しかしながら、MSが3以下に
なると、得られるふ化率がばらつく傾向が認められた。
これについては、人工受精に多数ロットの保存精子を使
用するなどの対処法が有用であると思われる。
本研究では、ワカサギ精巣精子の保存日数に伴う精子
の運動能と受精能の変化が明らかになった。今後は、生
産事業規模において保存精子を利用した場合の、作業効
率の低減や種卵生産目標の到達度などについても、その
有用性や汎用性を検討することとしたい。また、実用化
に際しては大量の精子を保存することが前提になると思
われるが、保存量や使用容器は精子の運動能に大きな影
響を与えるので1,8,10)、大量保存技術の開発も課題とな
ろう。
謝 辞
佐藤茂場長には有益な助言をいただき深謝申し上げま
す。また、奥村守氏、原かよ子氏には実験魚の飼育管理
や採卵作業において支援をいただき、心から御礼申し上
げます。
引用文献
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アマゴの人工受精への保存精液の利用−Ⅰ 液状保
存精液の精子活力と受精能力, 水産増殖, 34巻2号,
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2)太田博巳(1992):精子の凍結保存と精子活性, 養殖研
ニュース, No.24, 2-5.
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雄監修, 森沢正昭・星 元紀編)
」, 東京大学出版会,
東京, 238-246.
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育種, 8, 42-53.
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1 6
冷蔵保存したワカサギ精子の運動能と受精能
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Suisan Gakkaishi, 66(1), 88-96.
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10年度滋賀県醒井養鱒場業務報告, 40-41.
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度宮崎県水産試験場事業報告書, 402-407.
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場事業報告, 108-113.
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16)隆島史夫(1982):種苗生産,「淡水養殖技術
(野村 稔
編)
」
, 恒星社厚生閣, 東京, 104-121.
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動開始を導くイオン環境の変化, Nippon Suisan
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1 7
神水研研報第8号(2003)
アユの冷水病に対する経口ワクチンの研究−Ⅱ
ワクチン内包腸溶性マイクロカプセルの投与方法について
原 日出夫
Study of Oral Vaccination against Cold-water Disease in
Cultured Ayu, Plecoglossus altivelis altivelis −Ⅱ
Method of Oral Vaccination with Enteric-Coated Microcapsules
Hideo
はしがき
近年、全国的にアユ冷水病が発生し、その予防対策と
して、アユ冷水病ワクチン(以下「ワクチン」と記す)
の研究が進められている。これまでに、オイルアジュバ
ント添加ワクチンを注射により腹腔内へ投与する方法に
おいて、ワクチンの有効性が確認されている1,2,3)。
しかしながら、注射法は、乙竹4)によると0.5g以下の
稚魚への負担が大きいとされており、また、手間がかか
ることなどから、より簡便な投与方法が求められている。
簡便な投与方法として経口法がある。しかし、中西5)に
よると、一般に経口投与は注射法や浸漬法に比べ効果の
点で数段劣るとし、その主な原因として、胃の消化酵素
により抗原が変性してしまうためと考えられている。
NAKAMURA et.al6)はシラスウナギAnguilla japonicaに
ニワトリIgYを経口投与し、胃の発達に伴い経口投与さ
れたニワトリIgYの血中移行量が顕著に減少し、やがて
検出されなくなること確認している。
前報7)では、ワクチン内包魚類腸溶性マイクロカプセ
ル(以下「MC」と記す)を用いて、これをアユに経口投
与した結果、投与前には血中凝集抗体価(以下「抗体価」
と記す)は未検出であったが、投与後には検体の40%に
おいて、1:2∼1:8の抗体価が確認された。血中凝
集抗体(以下、
「抗体」と記す)は、抗原である異物と反
応し、その結果、1)
病原体の感染単位を減少させ感染力
を奪う、2)毒性を中和する、3)捕態の古典経路を活性
化させる、4)抗体のFc部がオプソニンとして働くなど
の効果により異物を効率よく生体内から排除するとされ
ている 8)。アユ冷水病の原因菌( F l a v o b a c t e r i u m
psychrophilum)に対する抗体の獲得割合および抗体価が
上昇することは、同病を予防するうえで重要と考えられ
2003. 2.14 受理 神水研業績 №02-105
脚注* 内水面試験場
HARA*
る。RAHMAN et.al9)によると、注射ワクチンについて、
ワクチンにオイルアジュバント(セピック社製
Montanidae ISA 763A(以下「763A」と記す))を添加
した場合、全検体で抗体価が1:16∼1:64に上昇し、
=(1-(mortality of vaccinated group/
有効率 10) (RPS(%)
mortality of unvaccinated control group))×100)は
60%であったと報告している。有効率が60%以上であっ
た場合、ビブリオ病ワクチンにおいては実用可能なワク
チンであると判断されている 11)。一方、経口ワクチンは
前報7)のとおり一定の効果は認められたものの、注射ワ
クチンと比較して抗体価は低く、有効率は未確認となっ
ている。今後、実用化を目指すために抗体価の向上、さ
らに有効率の確認が必要である。
楠田他 12)によると、アユのビブリオ病の経口ワクチン
では、ワクチンの効果はワクチンの投与量および投与期
間に比例するとされている。そこで本研究では、MCの投
与量および投与期間について検討したところ、抗体価の
向上が認められたので報告する。
材料および方法
供試魚
神奈川県水産総合研究所内水面試験場において継代
(24代)飼育された親魚から、2001年9月に採卵し、養
成した平均体重3.1gのアユを用いた。
ワクチンの調製
ワクチン原液は、滋賀県のアユから分離された冷水病
菌株SG990302株を改変サイトファーガ液体培地で96時
間振とう培養し、ホルマリンを0.3%濃度となるように添
加後、4℃で2 4 時間以上保存して不活化した(6 . 0 ×
1 0 8 C F U / m L )。注射ワクチンは、ワクチン原液と7 6 3 A
1 8
アユ冷水病の経口ワクチン研究
を容積比3:7でルアーロック式ガラスシリンジを用い
て混合し、763A添加ワクチンを調製した。経口ワクチン
は、ワクチン原液を4℃、5000rpm、30分で遠心分離し、
上清を除去後、原液の1/10容量となるよう滅菌PBS(-)
水溶液を添加混合し、10倍濃縮ワクチン液を調製した。
これを藤野・永井 13)の方法に準じてカプセル化した。
MCをpH6.8に調整して腸液を想定した液体 14)に混合後、
MCの崩壊によって放出される不活化菌体を光学顕微鏡で
観察し、内包を確認した。
ワクチン処理
ワクチンの投与開始を2002年5月21日とした。注射ワ
クチンは、オイゲノール(田辺製薬㈱製「 FA100」)で
麻酔したアユの腹腔内に25μL/尾注射し、これを対照区
とした。経口ワクチンは、配合飼料(日本配合飼料㈱製
「鮎アルファメガ2C」)に滅菌蒸留水を適量散布し、配
合飼料が柔らかくなった後MCを混合、先端をカットした
1 0 m L 容のシリンジにこれを入れ、カットした部分に目
合い約2m m ×2m m のナイロンメッシュをあてて押し
出した後、細断した。これをM C 相当量で1日魚体重k g
あたり0 . 1 g を1日で投与したものを経口1区とし、同
1.0gを1日で投与したものを経口2区とし、同0.2gを5
日間連続で投与したものを経口3区とした。経口1∼3
区は、14日後再度同様に投与した。
飼育管理
円型0.3t水槽に各100尾収容し、ヒートポンプによる
井戸水のかけ流しで飼育した。ワクチン処理後の水温は
19.9∼21.5℃とした。
ワクチンの評価
ワクチン処理後14日後と28日後に、2尾で1検体として
各区10検体ずつ、それぞれサンプリングし、マイクロタ
イター法 15)により冷水病菌に対する抗体価を測定した。
すなわち、アユ血清の2倍希釈系列にホルマリン不活化
冷水病菌(SG990302株)(6.0×10 8CFU/mL)を加え、
凝集の認められた血清の最高希釈倍率を抗体価とした。
測定に供する血清は、注射器を用いて尾柄部より採血し、
24時間、4℃で保存した。その後、4℃、4500rpmで20
分間遠心分離して得た。さらに、補体の非動化処理16)とし
て、血清を44℃のインキュベーター内に20分静置した。
抗体獲得割合および平均抗体価は、それぞれ次式によ
り算出した。
抗体獲得割合(%)=抗体価1:2以上の検体数/総検体数
平均抗体価=各検体の抗体価の和/総検体数
なお、予め供試魚群から10尾の抗体価を測定し、当該
魚群の供試の適否について確認を行った。
結 果
試験開始前に供試魚群からサンプリングしたアユにつ
いて抗体価を測定したが、抗体価は認められなかった。
初回ワクチン処理から1 4 日後の抗体価の測定結果を
Table1に、同28日後の測定結果をTable2に示した。
Table 1 Agglutinating antibody titers in sera of ayu 14days after vaccination.
表1 ワクチン投与14日後のアユの抗体価
Groups
Individual serum titers (1: )
Ave.
2, <2, 2,
2, <2, <2, <2, <2
Number Number
%**
0.8
≧2
4
<2
6
Oral-1*
<2, <2, <2, <2, <2, <2, <2, 2, <2, <2
MC:0.1g/kg(body weight)/day
0.2
1
9
10
Oral-2*
2, <2, 2,
MC:1.0g/kg(body weight)/day
0.8
3
7
30
0.2
1
9
10
0
0
10
0
Injection (cont)
<2, 2,
40
Oil-adjuvanted vaccine:25μL/fish
4, <2, <2, <2, <2, <2, <2
Oral-3*
<2, <2, <2, <2, <2, <2, <2, <2, <2,
MC:1.0g/kg(body weight)/5days
2
Pre-immunized fish
<2, <2, <2, <2, <2, <2, <2, <2, <2, <2
*:Booster was administered 14days after the first vaccination.
**:((Number≧2)/10)×100
Table 2 Agglutinating antibody titers in sera of ayu 28days after vaccination.
表2 ワクチン投与28日後のアユの抗体価
Groups
Injection (cont)
Oral-1
Oral-2
Oral-3
Individual serum titers (1: )
4,
<2,
<2,
2,
8, 4, 8,
2, 2, 2,
2, <2, 2,
2, 4, 2,
4, 8, 4, 16, 4,
2, 2, 2, <2, <2,
2, <2, 4, 2, 2,
2, 4, 2, 8, 4,
Ave.
4 6.4
2 1.4
<2 1.4
4 3.4
Number Number
≧2
10
7
6
10
<2
0
3
4
0
%
100
70
60
100
アユ冷水病の経口ワクチン研究
初回ワクチン処理から14日後の抗体獲得割合は、対照
区40%、経口2区30%、経口1区および経口3区10%で
あった。それらの抗体価について、対照区は1:2が4
検体で平均抗体価は1:0.8であった。経口2区は1:2
が2検体、1:4が1検体で平均抗体価は1:0.8であっ
た。経口1区および経口3区は1:2が1検体で平均抗
体価は1:0.2であった。
初回ワクチン処理から28日後の抗体獲得割合は、対照
区および経口3区100%、経口1区70%、経口3区60%
であった。それらの抗体価について、対照区は1:4が
6検体、1:8が2検体、1:16が1検体で平均抗体価
は1:6.4であった。経口3区は1:2が5検体、1:4
が4検体、1:8が1検体で平均抗体価は1:3.4であっ
た。経口1区は1:2が7検体で平均抗体価は1:1.4で
あった。経口2区は1:2が5検体、1:4が1検体で
平均抗体価は1:1.4であった。
考 察
アユ冷水病の予防対策として簡易なワクチン投与法の
開発が期待されている。前報 7)では、M C を用いること
により、一部の検体に経口ワクチンとしては初めて抗体
価の上昇が認められた。しかし、注射ワクチン9)と比較
するとその効果は低かった。そこで本研究では、経口ワ
クチンの効果向上を図るため、MCの投与量や投与期間に
ついて検討した。
試験開始前に供試魚群からサンプリングしたアユにお
いて抗体価は認められず、本研究に用いたアユは、供試
魚として適正であると判断された。
経口1区は、M C 初回投与1 4 日後における抗体獲得割
合は10%であった。前報7)では、この時点で抗体価の上
昇した検体は確認されていない。同28日後における抗体
獲得割合は70%に上昇した。前報7)では、この時点で初
めて40%の抗体獲得割合が確認された。このように、前
報7)と比較して経口1区は、抗体獲得時期の早期化およ
び抗体獲得割合の上昇が認められた。この理由として、
本研究においてカプセルに内包したワクチンはワクチン
原液を10倍濃縮したものを使用したことが考えられる。
楠田他 12)によると、アユのビブリオ病の経口ワクチンで
は、ワクチンの効果はワクチンの投与量に比例するとさ
れており、MCの経口投与においても、抗原量の増加によ
り効果が向上することが示唆された。しかしながら、対
照区と比較した場合、抗体獲得割合および平均抗体価と
もに低く、この条件では、注射ワクチンほどの有効性が
期待できないと思われた。
経口2区は、M C 初回投与1 4 日後において対照区とほ
ぼ同等の抗体の獲得割合を示し、平均抗体価は対照区と
同じ値となった。しかし、同28日後においては、抗体獲
得割合および平均抗体価ともに対照区に及ばず、平均抗
体価は経口1区と同じ値となり、抗体獲得割合は最も低
くなった。コイにおいて、GTHの経口投与により血中抗
体の誘導および投与の繰り返しによる抗体価の低下が確
1 9
認されており 17)、その原因として消化管における抗原の
特異的な吸収阻害能の獲得が確認されている 18)。経口2
区において2回目の経口投与で吸収阻害が生じたか否か
は不明であるが、経口2区は経口1区と比較してMCが10
倍量投与されたにも拘わらず、経口1程度の効果であっ
たことについて、この吸収阻害が可能性の一つとして考
えられ興味深い。
経口3区は、経口2区とMCの総投与量を同量とし、こ
れを5日ずつに分割して連続投与を行ったものである。
MC 初回投与1 4 日後において、抗体の獲得割合および平
均抗体価ともに経口2区に及ばず、経口1区と同じ値と
なった。しかし、同28日後においては、抗体の獲得割合
が経口2区を上回り、対照区と同様100%の抗体獲得割
合が確認された。さらに、平均抗体価は対照区の約半分
の値であるが、経口区の中で最も高い1:3.4となった。
抗体産生の個体間差は、投与される抗原量が少ない場
合、各個体に取り込まれる抗原量に個体差が生じること
が原因とされる 19),20)。経口2区および経口3区は投与さ
れる抗原量、すなわちMCの総投与量は同量であり、一日
当たりの投与量では経口3区の方が経口2区より少な
い。楠田他 12)は、アユのビブリオ病に対する経口ワクチ
ンにおいて、14日間以上の連続投与で高い有効性を認め
ている。これらのことから、MCを用いた経口ワクチンに
おいても、一定期間連続した投与を実施することで効果
が向上することが示唆された。
中島・近畑 21)は、アユのビブリオ病の経口ワクチン
で、ワクチンを配合飼料に吸着させて、15日間でワクチ
ン原液(1.3×10 9CFU/mL)に換算して340.1mL/kg
(Body Weight)のワクチンを経口投与し、初回投与後
30日後の抗体獲得割合は20%であったとしている。ワク
チンの種類が違うものの、経口3区は、5日間の反復投
与でワクチン原液(6.0×10 9CFU/mL)に換算して約
20.0mL/kg(Body Weight)のワクチンを経口投与し、
初回投与28日後の抗体獲得割合は100%であった。これ
らのことから、MCの経口投与では少量のワクチン原液で
も抗体の産生能力が確保されると思われた。
本研究において有望と思われたMCの連続投与法につい
ては、さらに、投与期間など効果的な投与方法の検討を
進めるとともに、経口ワクチンの効果を高めるアジュバ
ント 22)の検討を行い、早急に攻撃試験による評価を行う
必要がある。
最近、人工育成したアユは水温や密度などの飼育条件
によって、天然のアユと比較して胸腺の発達が悪くなる
ことがあると報告されている 23)。会田他 24)によると、
胸腺は免疫担当器官であり哺乳類の場合とほぼ同様な機
能を果たしていると考えられている。このことから胸腺
はワクチンによる疾病予防に重要な役割を果たしている
と思われる。胸腺の発達が悪いアユはワクチンの効果が
低くなる可能性が考えられ、今後、ワクチン効果と胸腺
の発達との関係も検討に加え、簡易かつ効果的なワクチ
ンの開発に継続して取り組む必要がある。
2 0
アユ冷水病の経口ワクチン研究
摘 要
本研究は、アユ冷水病の予防対策としてワクチン内包
魚類腸溶性マイクロカプセル(M C )の経口投与につい
て、投与量および投与期間について検討を行った。
経口1区では、MCを0.1g/kg(BW)/dayとして14日
間隔で反復投与したところ、初回投与28日後の抗体獲得
割合が70%であり、平均抗体価は1:1.4であった。
経口2区では、MCを1.0g/kg(BW)/dayとして14日
間隔で反復投与したところ、初回投与28日後の抗体獲得
割合が60%であり、平均抗体価は1:1.4であった。
経口3区では、MCを0.2g/kg(BW)/dayとして5日
間の連続投与を14日間隔で反復投与したところ、初回投
与28日後の抗体獲得割合が100%であり、平均抗体価は
1:3.4であった。
これらのことから、MCを用いた経口法において、一定
期間連続した投与を反復実施することによって効果が向
上することが示唆された。
謝 辞
本報告をまとめるにあたり、独立行政法人水産総合研
究センター養殖研究所病理部組織病理研究室の三輪理博
士には、英文の御校閲を賜りました。日本大学生物資源
科学部の松本憲治君には、試験魚の飼育管理等に御協力
いただきました。厚くお礼申し上げます。
引用文献
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神奈川県水産総合研究所業務概要,70-71.
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有効性等に関する研究,平成12年度魚病対策技術開
発研究成果報告書,91-100.
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水病防除技術等に関する研究,平成12年度魚病対策
技術開発研究成果報告書,101-110.
4)乙竹充(2001):アユの冷水病・細菌性出血性腹水病
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11)城泰彦(1991):ワクチンの有効性試験,水産増養殖
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12)楠田理一・川合研児・城泰彦・秋月友冶・福永稔・
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14)A N O N Y M O U S ( 1 9 7 6 ) :崩壊試験法,「第九改正日本
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修,(財)日本公定書協会編)
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賀清邦,
江草周三編)
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21)中島基寛・近畑裕邦(1979):アユのビブリオ病に対
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究,14(1),9-13.
22)酒井正博(2001):アジュバント等の開発,魚病研究,
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23)MIWA, S., A. SAKAI and M. NAKANE (2003):
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24)会田勝美・小林牧人・金子豊二(1991):内分泌,「魚
類生理学(板沢靖男・羽生功編)
」
,恒星社厚生閣,
東京,229-230.
2 1
神水研研報第8号(2003)
Na +チャンネル阻害物質測定用センサの実用化に向けた基礎条件の検討
仲手川 恒・臼井 一茂
Fundamental Study on Tissue Biosensor for Determination Na+channel Blocker
Hisashi
NAKATEGAWA*,Kazushige
はしがき
アサリやマガキなど食用二枚貝が毒化し、麻痺性貝毒
の原因となる渦鞭毛藻類のプランクトンは、近年全国で
発生が確認され、その発生海域も広域化傾向にある。
また、毒化した貝類が流通しないように、年間数十件
の出荷規制が行われ1,2)、漁業生産に大きな被害を及ぼ
すことがある。
本県では二枚貝の漁業生産は盛んではなく、また貝毒
原因プランクトンの大量発生等が周辺海域で確認されて
いないこともあり、貝類の毒化現象の報告は見られな
い。しかし、東京湾は国内でも最大級の赤潮発生海域と
され3)、相模湾も発生件数は増加傾向にあり、近年、本
県でも二枚貝類の養殖試験を実施している地区もあるこ
とから、今後貝毒原因プランクトンの発生による毒化現
象が懸念される。
現在、貝毒の検査にはマウス法やH P L C 法等が使われ
ているが、漁業生産現場において毒化前にその傾向を把
握でき、極微量の毒を簡便且つ迅速に測定できる装置の
開発が求められている。
麻痺性貝毒であるサキシトキシン等は、生体膜に含ま
れるNa + チャンネルの機能阻害を起こし、Naの透過を妨
げる。特にカエルの膀胱膜にはNa + チャンネルが多数存
在することが知られており、入手が容易であり大きく取
り扱い易いことから、カエル膀胱膜を用いたバイオセン
サでの測定が試みられている4)。その特徴として、極微
量の貝毒が測定可能であることから、貝毒原因プランク
トンの初期出現の早期発見や、大量発生等の予知が可能
と考えられる。
本報は、測定法として確立していないNa + チャンネル
阻害物質測定機器の開発に向けて、センサの実用化のた
めの最適な測定条件について検討した。
USUI*
告と異なりNa電極には、セルロース膜を付けずに膀胱膜
をセンサに広げて装着し、Oリングで固定してフローセ
ルに装着した(図2)
。また、装置全体を静電マット上に
配置し、株式会社イオン電極研究所社製の改良型エレク
トロメーターを使用した。
1. 緩衝液 2. 恒温槽 3. 注入口 4. Na+電極 5. エレクトロメーター
6. レコーダー 7. ペリスタポンプ 8. 廃液槽
図1 Na +チャンネル阻害物質測定用センサシステム
方 法
+
Na チャンネル阻害物質測定用センサは、Naイオン電
極、塩分濃度計、エレクトロメーター、レコーダー、マ
イクロチューブポンプから構成され(図1)、千4)の報
2003. 2.17 受理 神水研業績 №02-106
脚注* 企画経営部
※平成13、14年度重点基礎研究による
1. Na+電極 2. Oリング 3. 透析膜 4. カエル膀胱膜 5. フローセル
図2 Na +センサ電極
Na + チャンネル阻害物質測定用センサ
2 2
カエル膀胱膜は、国産の食用ウシガエルを飼育し、そ
の都度撲殺し膀胱膜を取り出した。保存液はN a C l
16.87g、1M KCl 2.5ml、0.1M CaCl 220ml、0.5M
HEPES 4ml、0.003% NaN 3を混合し、NaOHでpH7.2に
調製したものを、カエルの生息温度(常温)に調製し脱
血処理を行った。緩衝液はN a C l 濃度の異なる1、3、
5、8%に0 . 1 M のC H 3C O O H を含む溶液を用いた。p H
はN a O H 及びK O H によりp H 5 . 0 に調製した。測定時に
は、緩衝液の液温を30℃にし、流速を0.8ml/minとし
た。試料は(財)日本食品分析センター製造の貝毒標準
品のn e o S T X を用い、5 0 μl のマイクロシリンジで送槽
チューブに注射し測定を行った。
1.膀胱膜の機能維持
ウシガエルの膀胱膜は温度変化に敏感であり、保存液
との温度差が大きいと白濁や縮みが生じるため、センサ
として用いることは不可能であった。そこで、室温の保
存液に3∼5時間ほど浸漬し膀胱膜の脱血を促進するこ
とにより、薄く広げてNaセンサに装着することが可能と
なった。また、センサを緩衝液が通過するフローセルに
取り付けた後、測定値のベースラインが安定するまでに
数時間を要した。一方、緩衝液内にCaや防腐処理のため
のNaN 3を加えると、Naの排出によるものと思われるセ
ンサ値の低下が速やかに起こり、測定センサとしての機
能を果たさなくなった。上記の条件により摘出を行って
も、カエルの生理状態等により検出不能となる場合が
あった。
2.ベースラインの安定化
膀胱膜の内外の電位差を測定するガラス電極は、微量
の電気を検知する性質を持つため、測定値の出力機器や
緩衝液の温度調整に用いる電気機器等の影響を大きく受
けた。さらに、実験室内の湿度低下により発生する静電
気の影響も見られた。そこで対処として装置自体を静電
マット上に据え置き、電極部分を絶縁処理した改良型エ
レクトロメーターを使用した。電極ベースラインの振幅
の平均値は2mVから0.08mVに縮小し(図3)、微量濃度
の検知に必要な0.1mVを下回った。また、緩衝液のpH調
整にN a O H を用いるとベースラインが不安定になる場合
が生じたため、安定していたKOHを用いることとした。
従 来 : 振 幅 範 囲 2m V
改 良 : 振 幅 範 囲 0.08mV
結 果
図3 装置の改良に伴うベースラインの安定化
3.緩衝液の調整
緩衝液の塩分濃度調整及びK O H によるp H 調整を行
い、試料としてneoSTXを測定したところ、塩濃度の異
なる2種類の緩衝液によって、定量的な測定を行うこと
ができた。第一に5% NaCl-0.1M CH3COOH(pH5.0)
緩衝液により、neoSTXが33.5∼335fM/Lの濃度範囲
で測定できた。また、8%N a C l - 0 . 1 M C H 3 C O O H
(pH5.0)緩衝液により、neoSTXが3.35∼33.5fM/L
の濃度範囲で測定できた。それぞれの測定結果を図4,
5に示す。2種類の緩衝液による測定において、濃度と
検出値との間に高い相関を得ることができR −2乗値は
0.9を超えていた。
図4 強度の異なる毒に対する検出状況
Na + チャンネル阻害物質測定用センサ
5 %Na Cl-Buffer
25
y = 0.0175x + 0.0009
R2 = 0.9998
0.6
電位差(mV)
電位差(mV)
20
8 %Na Cl-Buffer
0.7
y = 0.0642x + 0.4452
R2 = 0.9985
15
10
5
2 3
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0
100
200
毒量(fM)
300
400
0
10
20
毒量(fM)
30
40
図5 毒量と電位差の関係(左:5%NaCl緩衝液使用時、右:8%使用時)
考 察
これまでに、カエル膀胱膜を利用したセンサの開発は、
複数の研究者により取り組まれてきた。千4)は緩衝液の
調整により5fg(fg=10 −15g)という極めて微量の毒量
を繰り返し測定することに成功しており、膀胱膜の長期
保存についても検証している。しかしながら、再現的な
測定に課題が残っており、他の機関でも成功の事例は乏
しい。本報は、装置の実用化に向けて、Na + チャンネル
阻害物質の検出条件の再構築に取り組み、低濃度の
n e o S T X の検出に成功した。
装置に用いたガラス電極は、その特性として微量の静
電気に大きく反応するため、湿度が低下した際に発生す
る静電気や装置に用いた機器等の影響を受け、ベースラ
インの振幅が大きくなりノイズが現れていた。今回、装
置自体を静電マット上に据え置き、電極部分の絶縁処理
を施した改良型エレクトロメーターを用い、接続する
コード等にも同様の処理を施すことにより、ベースライ
ンの安定化が図られ検出条件を向上させることができ
た。今までの測定では、ベースラインの安定度は湿度等
の外的な環境条件に大きく左右されることがあり、測定
値の変化がノイズよりも小さいと、検出不能となる場合
があった。しかし、この改良を施すことにより微細な電
位差の識別が確認でき、微量のneoSTXの検出が可能と
なった。
冬眠時期の体色が黒いカエルや、感染症等が原因で皮
膚に内出血を起こしたカエルでは、neoSTXの測定が不
可能であり、これはNa + チャンネルが正常に反応してい
ないためと思われる。個体差が第一の原因ではなく、セ
ンサに装着し緩衝液を流すまでに、Na + チャンネルの立
体構造が変化又は破壊され、Naの透過が阻害されたこと
が原因と考えられる。この立体構造の変化を把握するた
めに、摘出前にNa + チャンネルに阻害物を付着させ機能
を保持した構造で摘出し、緩衝液の塩濃度変化等により
脱着させることが考えられる。阻害物としてneoSTX等
の毒を用いることもできるが、標準品の入手が困難なた
め代用品としてウアバイン等の利用を試みることが考え
られる。仮に用いる膜によって反応の有無が生じるとす
れば、本抽出法の実用化は難しい。反応条件の更なる吟
味を行うと同時に、Na + チャンネルの指標化による機能
点検を行う等の方法を検討し、常時センサとして使用可
能なものとしていくことが必要である。
千4)の報告では、セルロース膜を膀胱膜の両面に挟み
込んで試験を行っているが、セルロース膜だけを装着
し、緩衝液にNa濃度の異なる緩衝液を注入したところ、
Naセンサの反応が極端に低下したので、直接膀胱膜を装
着することとした。しかし、微生物等からの保護ができ
ないために、センサの寿命が極端に短くなり、同報告で
は数日間の測定が可能であるのに対し、今回は2日間し
か測定はできなかった。超音波を用いた流路及び緩衝液
の洗浄を行い、更に新たな保護法を策定し組み合わせる
ことにより、測定期間を徐々に延長していくことは可能
と考えている。
本研究では、千4)の報告と同レベル濃度の毒の検出と、
相関の高い検量線の作成に成功した。しかし、時期によ
り検出が困難な場合も見受けられ、より安定した測定条
件の確立が必要である。本装置が実用化されると、貝毒
プランクトンやフグ毒の簡便、迅速な測定手法が確立し、
食品衛生分野に大きく貢献できるものと思われる。また、
未利用海藻や、漢方薬の原料となる陸上植物を測定する
ことで、神経細胞を刺激する未知の生理活性物質の発見
に繋がる可能性も有り、医薬分野における応用的な利用
も考えられる。
摘 要
麻痺性貝毒の原因となる貝毒プランクトンは全国各地
で発生しており、アサリやマガキといった濾過食性の二
枚貝類の毒化を引き起こす。毒化が基準値を超えると出
荷規制が実施され、風評被害も加わり、二枚貝類漁業生
2 4
Na + チャンネル阻害物質測定用センサ
産に与える影響は大きい。貝毒プランクトンに含まれる
毒は、Na+チャンネルの機能阻害を引き起こすことから、
Na + チャンネルを高密度に含みかつ伸展性に富む、カエ
ル膀胱膜を用いたNa + チャンネル阻害物質測定用センサ
が考えられている。しかし、現在までのところ実用化に
は至っていない。そこで、このセンサの実用化に向けた
測定手法として、緩衝液の塩濃度、pH等の検討を行った
ところ、neoSTXでは3.35∼335fMの間において、2種
類の塩濃度の緩衝液で測定が可能であることが明らかに
なった。また、この手法の検出感度は高く、現在主流と
なっているマウスアッセイ法やH P L C 法等よりも、簡
便、迅速に極微量の試料を測定できることから、有害プ
ランクトンの初期発生時の検出機器及び、食品中のTTX
やSTX等の毒性測定機器等としての利用の可能性が示唆
された。
謝 辞
本研究の実施にあたり、種々ご教示いただきました東
京水産大学の渡辺悦生教授に厚くお礼申し上げます。
引用文献
1)大島 泰克(1982):有毒プランクトン−発生・作用
機構・毒成分,恒星社厚生閣,73-87.
2)独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産
研究所(2002):平成13年度漁場環境保全関係試験研
究推進会議赤潮・貝毒部会議事要録.
3)清水 誠(1997):水産生物,東京湾の生物誌,築地
書館,24-44.
4)千 柄洙(1998):カエル膀胱膜を利用したNa + チャ
ンネル阻害物質測定用組織センサの開発とその応用
に関する研究,東京水産大学博士論文,1-58.
2 5
神水研研報第8号(2003)
神奈川県下消費者の魚介類イメージに関する意識調査
小川 砂郎・臼井 一茂・石井 隆之・山本章太郎・石井 洋・
加藤 健太・山本 貴一・江川 公明
The marketing research about the fish image of the
consumer in Kanagawa Prefecture.
Sunao OGAWA*, Kazushige USUI*, Takayuki ISHII*2,
Shoutarou YAMAMOTO*3, Hiroshi ISHII*4,
Kenta KATOU*5, Takakazu YAMAMOTO*6 and Kimiaki EGAWA*
abstract
Recently, the price of the fish is very low.
It is important to understand the consumer's consideration by doing the marketing research.
Therefore, the image with the fish and shellfish was investigated for the consumer in the Kanagawa
prefecture.
Moreover, the questionnaire survey of the item to which it attached importance when the consumer
bought the fish and shellfish was followed.
Statistical processing was done to the total consequence, and the difference of another consideration
was clarified at sex and the age.
はじめに
近年は魚価の低迷が著しく1)、漁獲量が増加しても水
揚げ額が減少するなど漁業者の経営に影響を与えてい
る。そのため水産物の販売においては消費者の購買意欲
を刺激し、かつ消費者の選択に勝ち抜けるよう、様々な
付加価値を付ける等の差別化によって、ブランド化を図
るといった工夫が行われている。しかし本県においての
ブランド化の取り組みは、神奈川県産品全体を対象とす
るか、あるいは漁港や地区毎、魚種毎といったレベルを
対象にするかといったことさえも十分検討されていると
は言い難く、総合的な取り組みは未だ行われていない現
状にある。
一方、最近は「地域で生産し、地域で消費する」という
「地産地消」の運動が各地で進められており、神奈川県
民に本県水産物をいかに消費してもらうかという視点で
施策を進めることが求められる。そのためには魚介類の
流通や販売を担う市場や仲買人だけでなく、漁業者も水
揚げ物に対し「商品」として強く意識することが重要で
あり、さらに、消費者がどのような意識やニーズを持っ
ているかを的確に把握しておく必要があると考えられる。
2003. 2.20 受理 神水研業績 №02-107
脚注* 企画経営部
*3
西湘地区行政センター水産課
*5
海洋情報部
*2
そのため本調査では、今後の神奈川県産品のマーケ
ティング戦略策定のため、県民が持つ魚介類に対するイ
メージや認知度、魚介類購入時に重要視している項目に
ついてアンケート調査を行い、性別や年代といった属性
毎にどのような意識を持っているかを明らかにすること
とした。
現在までも、大日本水産会2)や農林水産省3)が同様な
意識調査を行っており、本県においても長谷川他4)の魚
消費の地域性に関する調査や、江川他5)による朝市での
多獲性魚類に関するアンケート等消費に関する調査は実
施されてきてはいるが、本調査では特に県が行った地域
政策情報を収集するための調査を利用することで、県下
20歳以上の男女を対象に統計的に偏りが少なく、県民全
体の意識を反映していると考えられる方法でのデータ収
集が可能となった。さらに、県内で実施されている朝市
等でも同様のアンケートを行うことで、平均的な県民の
意識と魚介類等に対し積極的な購買意識を持つと思われ
る消費者層の意識の差を明らかにすることで、さらに具
体的な販売戦略についても検討することとした。
本報をまとめるにあたり、神奈川県水産総合研究所企
県庁水産課
横須賀三浦地区農政事務所水産課
*6
相模湾試験場
*4
2 6
魚介類イメージに関する意識調査
画経営部長高間浩氏にご校閲いただいた。小田原市漁業
協同組合出口理事をはじめ組合の方々には、朝市でのア
ンケート調査に快く御協力していただいた。独立行政法
人中央水産研究所経営経済部長平尾正之氏には調査を進
める上で貴重なご意見をいただいた。あわせて心から感
謝します。
方 法
アンケート調査は、平成14年6月に実施された神奈川
県広報県民課委託による時事通信社の地域政策情報調査
6)
に、著者らが作成した質問項目(図1)を盛り込むこと
で行った。層化二段無作為抽出法により抽出された県下の
20歳以上の男女1400名を対象とし、調査用紙は郵送法に
より回収された。質問項目以外の属性として性別、年齢
などもあわせて把握した(以下、県民アンケートという)
。
図1 県民アンケートの設問
2 7
魚介類イメージに関する意識調査
さらに10月5日に小田原市漁港で開催された朝市及び
三浦で行われた消費者の集まりである「大地を守る会」
の「三崎・海の勉強会」、10月12日横浜ベイシェラトン
ホテルでの市民健康フェア、10月17日三浦で行われたナ
チュラルコープ(生協)の「海の交流会」においてそれ
ぞれ同様の調査用紙を配布し、その場で記入されたもの
を回収した(以下、朝市等アンケートという)。
解析方法は、クロス集計を行うとともに、魚に関する
イメージについては数量化第三類を用いて性別、年齢に
よる属性毎のイメージのポジショニングを行った。魚の
購入時に重要視される項目については、因子分析を用い
ることで項目に対する意識の分析を行った。なお、因子
分析については主因子法を用い、バリマックス回転後の
スコアについて分析を行った。
県民アンケートと朝市等アンケートの結果の差につい
ては、購入時に重要視される項目について、回収場所毎
にグループの平均値の差についてカイ2乗検定を用いて
判別を行った。
結 果
魚のイメージ
県民アンケートの回収数は7 1 5 名で回収率5 1 . 1 %で
あった。ただし、回答が不完全なものを除いたため分析
には687名(49.1%)分を用いた。各項目の回答数を表1
に示す。また、年代毎の回答割合を図2に示した。
表1 魚のイメージに関する集計表
図2 年代別の魚に対するイメージ
回答割合が多かったものは、
「健康」で86.9%、次いで
「おいしい」「季節感がある」でそれぞれ70.9%、59.8%
であった。マイナスのイメージで回答が多かったのは、
「痛みやすい」(37.6%)であった。回答割合が低かった
ものは、
「高級感」
(3.2%)
、
「きれい」
(1.6%)
、
「触るの
が怖い」
(1.2%)であり、
「安全」も5.4%とかなり低かっ
た。
各項目の年代別の差を見ると、
「頭が良くなる」
、
「調理
が面倒」と回答している率は若い年代が多く、一方、
「安全」
「庶民的」と回答しているのは比較的高年齢層が
高かった。
年代、性別毎の回答している項目の割合についてカイ
2乗検定を行ったところ、属性毎に差があることが示さ
れた。そのため年代別、性別を違う属性として扱い、数
量化第三類によるプロットを試みた。
数量化第三類によるスコアを表2に示す。またそのス
コアをプロットしたものを図3∼4に示す。
2 8
魚介類イメージに関する意識調査
表2 数量化第三類による魚のイメージと属性のスコア
図4 数量化第三類による魚のイメージと属性
図3 数量化第三類による魚のイメージと属性
なお、数量化第三類等の多変量解析の場合、あまり回
答数が少ない項目を取り込むとかえって特徴が見にくく
なるため、回答数の少なかった「8 0 代」と「触ると怖
い」を除いて計算を行った。
図3に示したとおり、第1成分はプラス方向に「安
全」
、
「きれい」
、
「庶民的」
、マイナス方向には「ボリュー
ムが少ない」
、
「調理が面倒」
「匂う」という項目がみられ
た。第2成分はプラス方向に「高級感」「料理種類少な
い」、マイナス方向には「調理面倒」、第3成分ではプラ
スに「安全」「きれい」「頭良くなる」「ダイエット」、マ
イナスには「高級感」「高い」がみられた。
属性別には2 0 ∼3 0 代は第3象限に位置し、「調理面
倒」という項目の近くに位置する。40∼50代では、第2
象限に位置し「高い」や「料理種類が少ない」の近くに
位置する。60代では第4象限、70代では第1象限に位置
する。また、女性は第2象限、男性は第4象限に位置す
る。同様に図4でも年代の上昇に伴い、第2象限から第
3、第4を通り第1象限までプロットされる位置が変化
した。
県産魚介類の認知度
各魚種について知っていると回答があった割合を年代
別に図5に示した。知っていると回答があった割合が50
%を越える魚種は三崎のマグロ、小田原のアジ、東京湾
アナゴ、湘南シラスの4種であった。一人あたりの平均
回答種数を見ると、20代では2.9種類であるが、60代で
は5.2種類と年代が高くなるにつれ知っている魚種数が多
くなる傾向が見られた(図6)
。また、魚を三枚におろす
ところから料理できると回答した者の方が、魚料理がで
きないと回答した者より知っている魚種数は多かった。
魚介類イメージに関する意識調査
2 9
黒い四角は平均値で、バーは95%信頼区間を示した。
左側ほど重要度が高いことを示している。
「鮮度」は非常に重要と回答されており、「値段」と
「旬」も高い。次いで「今まで食べた事があるか」、
「国
産品」、
「天然」と続く。重要度が低い3以上を示すもの
は「頭、内臓がとってある」
「神奈川県産品」「マスコミ
で紹介」である。
これらの項目間の共通因子を見つけるため因子分析を
行った。計算により抽出した因子は固有値が1以上とい
う基準を設定することで、第1から第3因子までが解析
の対象として採用された。採用された3つの因子につい
てバリマックス回転後の因子行列を示す(表3)。これ
ら因子のスコアをプロットしたものを図8∼9に示す。
表3 バリマックス回転後の因子行列
図5 年代別の県産魚介類認知度
図6 年代別の認知種数
魚を購入するときに重要な項目
魚を購入の際の重要な項目のうち、
「鮮度」から「マス
コミで紹介」まで全ての項目に回答があるものを解析の
対象としたため、分析の対象者数は617名(44.1%)と
なった。
各項目の回答された平均値をSDグラフに示す(図7)。
図8 因子分析による魚の購入に際して重視する項目と
属性のプロット
図7 魚の購入に際して重視すること
図9 因子分析による魚の購入に際して重視する項目と
属性のプロット
3 0
魚介類イメージに関する意識調査
朝市等アンケートとの比較
それぞれの場所での調査用紙の回収数は小田原市漁港
朝市149人、大地を守る会36名、市民健康フェア17人、
ナチュラルコープ38人であった。
県民アンケートと朝市等アンケートを比較すると、
pearsonのカイ2乗の数値から、「鮮度」、
「価格」につい
ての重要度の差は見られなかったが、
「今まで食べたこと
がある」、
「天然」、
「頭、内臓がとってある」、
「旬」、
「国
産品」
、
「神奈川県産」
「マスコミで紹介」については統計
的に差があった(表4及び図10)。
「痛みやすい」とあるので『扱いにくさ』とした。第3
成分ではプラスに「安全」
「きれい」
「頭良くなる」
「ダイ
エット」とあるので『栄養バランス』
、マイナスは「高級
感」「高い」で『買いにくさ』とした。
解釈した結果と第1から第3成分までのスコア及び年
代、性別の各属性を示す(図11)。
表4 小田原朝市と県民アンケートの差の検定
図11 数量化第三類によるスコア及び各属性
図10 県民アンケートと朝市アンケートでの購入時に重
要な項目
考 察
魚に関してのイメージで「おいしい」、
「健康」という
言葉については全ての年代を通じて共通的な意識として
あるので、年代毎に特徴のある意識について見るため魚
のイメージに関しての数量化第三類のスコアから、新し
い軸の解釈を行う。
第1成分はプラス方向に「安全」、「きれい」、「庶民
的」とあるので『親近感』
、マイナスには「ボリュームが
少ない」、
「匂う」等があるため『素材のマイナス面』と
解釈した。第2成分はプラスに「高級感」
「料理種類少な
い」とあるので『高値感』
、マイナスには「調理が面倒」
20代では「頭がよくなる」を代表とした『栄養バラン
ス』のイメージが強いが、年代が上がるにつれ30代で実
際に料理をする機会が増えるからか「調理が面倒」、と
いった『扱いにくさ』
『素材のマイナス面』が目立つこと
となる。4 0 代から5 0 代になると『高値感』『買いにく
さ』という面が強調されるが、6 0 代、7 0 代では「庶民
的」、「安全」といった『親近感』面が重要視される。
厚生労働省が行っている国民栄養調査7)によると、一
人1日あたり魚介類摂取量は、年代が高くなるにつれて
増加し50代でピークとなっている。魚へのイメージの変
化が摂取量向上にもつながっているのではないかと思わ
れる。またこれは、県産魚介類の認知度が年代の上昇と
共に向上することとも一致している。
性別による差では、男性が第1成分での『親近感』側
に位置するのに対し、女性は『素材のマイナス面』に位
置する。これは女性が料理をする機会が多いと想定され
ることから、料理の材料としての魚を触る機会が多いた
め、
「調理の面倒さ」や「匂い」等のマイナス面もイメー
ジとして持っていると考えられる。
年代により魚に対するイメージが異なること、あるい
は近年のPOSシステムの利用により時間帯、曜日、天候
等毎の顧客の属性把握が可能となっていることから、顧
客の属性によって宣伝等の具体的な戦略を工夫すること
や、イメージとあわせる販売方法を展開することで、消
費者への強いアピールが可能となる。このような年代
別、性別毎の個別戦略はスーパーのように多用な客層が
一度に集まる場合にはその利用が難しいと思われるが、
飲食店などある程度年代を特定した営業を展開している
魚介類イメージに関する意識調査
場合には十分利用できると思われる。
「健康」、
「おいしい」
、
「季節感がある」については、
全ての属性で共通認識があるため、特に十分周知するこ
とが求められる。一方全体として「安全」というイメー
ジが低いため、安全であるという具体的な論証を展開
し、周知すべきである。
神奈川県産魚介類の認知度については、半数以上の方
が知っていると回答したものは16種の中で4種のみであ
り、その他の銘柄については認知度が低く、一般的に知
られているとは言い難いものであった。若い方より年
配、料理をしない者よりする者の方が認知度は高く、魚
に接する機会が多いと考えられる属性の方が高い傾向が
見られた。
流通経路や流通量の問題はあるにしても、地域毎、魚
種毎のブランド化を図るとなれば、魚種毎に個別の戦略
を立てる必要があると思われる。特に、小柴のシャコ、
松輪のサバ、長井のイワシなど神奈川県の水産に携わっ
ている者であればほとんどが知っていると思われる種類
であっても、一般県民からの認知度が低いということ
は、今までの販売戦略を見直す必要も検討しなければな
らない。小田原アジの知名度の高さはおそらく干物も含
めてのものと思われ、加工品を含めた形であってもいか
に消費者の目の届くところに商品を送り込むかというこ
とが重要である。
次に魚の購入動機における因子分析の結果について考
察を行う。
因子1は、プラスには「マスコミ」「神奈川県」から
『外見性』
、因子2は、プラスに「旬」
、
「天然」などがあ
ることから『付加価値性』と解釈する。
「神奈川県産」は「マスコミ」とほぼ同程度の『外見
性』を持つが、
『付加価値性』が「国産」
、
「天然」などよ
り低く、品質の評価を伴っていないということがわかる。
「頭、内臓がとってあること」は、
『外見的』な要素が
強く『付加価値性』が高いとはいえない。これは、頭、
内臓を取ってあることはすでに普遍的で、当たり前の
サービスになってしまっていることが推察される。
「値段」も重要なので、普遍的に重要な要素であり原
点近くに位置する。一方、値段をかけてでも求めたいも
のとして、
「鮮度」
、
「旬」
、
「天然」
、
「国産」という項目が
存在する。「旬」、「天然」、
「国産」が、「鮮度」より縦位
置で上にあるということは、
「鮮度」よりさらに『付加価
値的』な意味を持つと考えられる。農林水産省食品流通
局消費生活課の消費モニター調査3)においても、鮮魚購
入時に注意する点は、まず「鮮度や品いたみの程度」で
あり、次いで、
「品質等」
、
「価格」と続いており、同様の
傾向が見られる。
「旬」→「天然」→「国産」の順に「鮮度」からはな
れるので、品質としての評価はその順により『外見的』
なものになり、天然魚信仰、国産品信仰と言われる評価
の根拠の無さが原因となっている可能性はある。
「神奈川
県産品」についてはさらにその品質の評価はあいまいと
いうことができる。
3 1
図12 因子分析による購入時重要視される項目
図12に示した「取り組むべき施策の方向」に示したと
おり、
「神奈川県産品」は「旬、天然、国産品」より付加
価値的意味を持っていないと考えられることから「県産
品の安全度、味などを宣伝する」ことが今後の重要な戦
略である。従来から指摘されているように、漁業者は漁
獲物の一層の高鮮度化を図ることが重要であるが5)、こ
のような水揚げ現場での品質の向上や流通段階での工夫
と同時に、鮮度のよさ等を他産地のものと比較により評
価してもらうこと及びその結果を周知することが必要で
ある。このような販売段階での付加価値感を高めること
で「県産品」が魚介類購入の際の目安になることを目指
し、事業展開を行うべきである。つまり地産地消により
神奈川県産を売り込んでいくのであれば、神奈川県産品
を食べさせるという単なる魚食普及の事業でなく、他産
地産品との比較により品質の有意差を明確に示すという
戦略が必要であろう。
なお、この結果は神奈川県産品が劣るということでは
決してなく、
「神奈川県産」というブランドの理解が不足
しているということであり、今後輸入品や他県産との競
争から神奈川県産品を優位に立たせるためには十分に取
り組むことが必要である。
因子3は「食べたことがある」
「頭内臓が取ってある」
ということから『買いやすさ』と言える。
「鮮度」は買いやすいかどうかの選択ではなく、必須
条件である。その魚を食べたことがあるかどうかが『買
いやすさ』の指標となるのであれば、消費者に対し試食
させるか、あるいは調理方法を具体的に示す必要がある。
マスコミで扱われていれば、若干安心度が上がり買い
やすくなること、また「値段」はかならずしも『買いや
すさ』の決定要因ではなく、付加価値等との兼ね合いで
あるということが指摘できる。
著者らは、今後消費を増加させるためにはメディアを
用いた十分な宣伝を行うことが必要であると考えてい
る。その際は性別や年代という属性毎に魚介類に対して
のイメージが異なることから、メディアを利用している
対象毎に絞り込んだ形での具体的な働き掛けを行うとと
もに、マスコミで紹介されていることだけでは不十分で
あることから、単なる名称連呼型の宣伝方法ではなく、
「鮮度がよい」、
「安全である」といった具体的な機能に
3 2
魚介類イメージに関する意識調査
ついて強く訴えることではじめて宣伝の効果をあげるこ
とができると考えられる。
表4及び図10から、県民アンケートと朝市等アンケー
トとの比較では、
「鮮度」と「価格」については普遍的な
事項として重要度に差はなかったが、その他の項目では
違いが見られた。例えば、小田原朝市の結果と県民アン
ケートとを比較すると、小田原朝市に来ている方は、一
般県民に比べ「今まで食べたことがある」
「頭内臓が取っ
てあるか」
「マスコミ」について重要視しておらず、逆に
「天然であること」
「旬」
「国産品」
「神奈川県産」は重視
しているという結果となった。つまり魚の購入に関しては、
より品質のよいと思われるものにこだわり、さらに魚の
処理等煩わしい面については対処できるという、意識が
高いと想定される属性の客層が存在すると考えられた。
本報では、年代等属性毎の魚に関する意識を明らかに
してきた。このような取り組みは、現在直面している水
産物のマーケティングをどのように解決するかだけでな
く、今後来たるべき高齢化社会に向けたマーケティング
についても示唆を行うことができると思われる。
今後、漁業者も含め水揚げをするだけでなく、どのよ
うに売るかということまで踏まえた水産業界が一体と
なった取り組みが求められ、行政あるいは水産総合研究
所も流通を含めた総合的な施策に取り組んでいく必要が
ある。
摘 要
県内消費者に対し、魚介類に対するイメージ及び魚介
類購入時に重要視している項目についてアンケート調査
を行なった。集計結果に対し数量化第三類分析及び因子
分析を行い、性別、年代別の意識の差を明らかにした。
神奈川県産魚介類についての知名度は高いとは言え
ず、県産品の付加価値感を高めることが必要である。
朝市に訪れる消費者は、平均的な県内消費者より魚介
類購入に関して意識が高いことが想定される。
引用文献
1)農林統計協会(2002):図説水産白書平成13年度版,
177+58pp.
2)(社)大日本水産会(2001):水産物を中心とした消費
に関する調査・検討(小学4・5年生とその保護者
調査)
3)農林水産省食品流通局(2000):平成11年度食料品消
費モニター第3回定期調査結果 食料品の購行動に
ついて, 62pp
4)長谷川保・水津敏博・米山健・木幡孜(1981):神奈
川県下における魚消費の地域性に関する一考察,神
水試研報,3,79-86.
5)江川公明・小林良則・岩田静夫(1991):水産物の販
売促進−Ⅰ 多獲性魚に対する消費者ニーズ(マイ
ワシ、カタクチイワシ、マアジ),神水試研報,
12,83-92.
6)時事通信社(2002):地域政策情報2002年度(付)地域
住民ニーズ情報,38+12pp.
7)健康・栄養情報研究会編(2002):国民栄養の現状 平成12年厚生労働省国民栄養調査結果,第一出版,
187pp.
3 3
神水研研報第8号(2003)
海況変動がマイワシの本県沿岸への来遊に及ぼす影響
舩 木 修
Effect of Oceanic Fluctuation on Sardin that comes over to off Kanagawa Prefecture
Osamu
FUNAKI *
はじめに
結 果
相模湾の特徴としては、海溝が大きく切り込み海底の
起伏が激しいうえ、岩礁も多い。また餌となるプランク
トンが豊富である。この条件により、相模湾は昔からマ
イワシの好漁場となっている。本県の多くの定置網や中
型まき網は、漁獲物の多くをマイワシに依存してきた。
しかし、近年そのマイワシの漁獲量が激減し、漁業経営
上厳しい状況になっている。
マイワシの漁獲量は、数十年周期で大きく増減を繰り
返し、最近では全国で1988年に450万トンの大量漁獲を
記録した。しかし、2 0 0 1 年は1 8万トン弱まで激減し
た。2002年はさらに減少し5万トンであった。本県の漁
獲量も同様な減少傾向を示し、1984年の2万トンをピー
クに、2002年は僅か200トンしかなく深刻な事態となっ
ている。
全国的に資源量が大きく減少した90年代に入り、本県
では沿岸水が冷たくなる毎年11月から翌年4月まで、ま
とまった大羽マイワシの来遊が見られることは殆ど皆無
であった。しかし、この時期に大羽群が本県沿岸に大挙
来遊し、定置網やまき網に好漁をもたらすことがある。
今回、特異的な好漁で見られた1999年2月及び2001年
11∼12月におけるマイワシの来遊について、海況面から
検討した結果を報告する。
1999年2月の特異漁獲について
1991∼2001年のまき網によるマイワシ月別漁獲量を
表1に示す。1∼4月は殆どの年で水揚げが見られない
が、1999年2月は306トンの漁獲が見られた。それ以外
に2001年2月の8トン、3月の6トンが見られた。
材料と方法
漁獲管理情報処理システム(TACシステム)により得
られた水揚げデータを基に、関係各定置網経営者から入
網日及び当日の漁獲量を聞き取り、この値を日別の漁獲
量データとした。
中型まき網(横須賀市佐島地区3ケ統:以下、まき網
という)の日別漁獲量はTACシステムより、漁場は各船
の操業日誌から得た。
海況は、一都三県漁海況速報および人工衛星N O A A か
らの受信画像を用いた。
2003. 2.20 受理 神水研業績 №02-108
脚注* 資源環境部
表1 佐島地区中型まき網(3ヶ統)マイワシ(大羽)
漁獲量(トン)
年
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
1991 1992
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
183
38
455
226
916
351 1306
260
567
0
6
1993 1994
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
784
0 2263
530 1253
449 1453
100
524
0
0
1995 1996
0
0
0
0
0
0
0
0
50
191
1007 1166
1702
763
877 1714
1223 1803
1275
0
0
0
0
0
1997 1998 1999 2000
0
0
0
0
0
0
306
0
0
0
0
0
0
268
0
0
690
800
165
84
1660 2088 1331
872
1528
529 2182 1112
1177 1416 1113
816
481
850
225
16
1594
379
65
0
358
632
246
7
333
84
0
0
2001
0
8
6
0
1
804
161
0
0
0
1562
955
次に1999年2月における定置網及びまき網によるマイ
ワシの日別漁獲量を表2に示す。各定置網の漁場位置は
図1のとおりである。2月1日にまき網及び諸磯定置で
漁獲が始まり、まき網による漁獲は2月22日まで10トン
単位で断続的に続いた。漁場は相模湾の他に、2月1・
2日は東京湾でも行われていた。定置網では、相模湾東
部地区の諸磯∼大楠定置の4漁場において2月1日から
11日にかけ、断続的にトン単位の漁獲が見られた。諸磯
定置ではこれ以降まとまった漁獲が見られないが、初声
定置及び太田丸漁場では17日から22日にかけて再度まと
まった漁獲が見られた。大楠定置では1 4 日以降もまと
まった漁獲が継続し24日まで続いた。相模湾奥部に位置
する鎌倉漁場及び青和漁場では、2月14日までまとまっ
た漁獲が見られなかったが、15日から26日にかけて単発
的にトン単位の漁獲が見られた。
3 4
海況変動とマイワシの回遊との関係
表2 1999年2月における定置網及びまき網によるマイ
ワシ日別漁獲量(kg)
表
1999年
2月1日
2月2日
2月3日
2月4日
2月5日
2月6日
2月7日
2月8日
2月9日
2月10日
2月11日
2月12日
2月13日
2月14日
2月15日
2月16日
2月17日
2月18日
2月19日
2月20日
2月21日
2月22日
2月23日
2月24日
2月25日
2月26日
g
諸磯
3,007
初声
太田丸 大楠定置
27
0
鎌倉
青和
まき網
51,400
75,610
網入れ
1,476
4
26,720
20,137
6,654
39,400
173
11,408
12,270
28,101
6
4,373
6,720
68
505
1,070
43
470
158
120
1
1,424
134
2,207
12,577
1,500
10
2,580
359
17
152
12
130
15
0
10
2
10,000
34,550
20,990
10,310
4
5,382
12,750
20,360
655
50,660
132
7,150
63
15,570
211
7,500
1
8,800
28,242
5,533
14,453
0
279
5,500
50,905
33,650
125
10
11,934
8,808
39,766
11
1,643
105
10
35
250
1,435
504
32
3,007
図1 相模湾定置網位置図
この期間の海況を図2に示す。1月末から2月初旬に
かけて、黒潮流軸の北上部が三宅島あたりまで差し込む
形が継続した。また、北向きに強い反流が生じ、そのま
ま相模湾に黒潮系沖合水が流れ込む状況が見られた。
図2 一都三県漁海況速報図(1999年1月28∼2月4日)
3 5
海況変動とマイワシの回遊との関係
2001年11∼12月の特異漁獲について
表1を見ると、この時期の漁獲は殆どの年で春先から
継続して行われるが、2000年は9月以降漁獲がほぼ無く
なり、7トンの漁獲しか見られない。2001年は、北上群
の漁獲が6月から始まったが、7月上旬には漁獲が見ら
れず、10月まで大羽マイワシの漁獲は見られなかった。
しかし、その後大羽群が来遊し、11月に1,562トン、12
月に955トン漁獲が見られた。
次に2001年11月から12月における定置網及びまき網
によるマイワシ日別漁獲量を表3に示す。この事例では、
11月14日に77トンをまき網により漁獲が始まり、11月中
は200トン前後の漁獲が断続的に続いた。12月に入ると
11月に比べやや漁獲水準は落ちたが、100トン前後の漁獲
を維持し、28日まで断続的にまとまった漁獲が継続した。
定置網では、11月22日に相模湾奥部の鎌倉漁場で6トン
の漁獲が見られ、翌日の23日には初声定置及び大楠定置
で各々45トン、100トンの漁獲が見られた。24日及び25
日には初声定置で60∼70トンの漁獲があった。大楠定置
では28日にも60トンの漁獲があった。諸磯定置では25∼
26日にかけて20∼30トンの漁獲があり、太田丸漁場では
25日に80トンの漁獲があった。いずれの定置網も11月
22日から28日にかけての7日間にまとまった漁獲が集中し
たが、12月に入るとマイワシの漁獲は見られなくなった。
表3 2 0 0 1 年1 1 ∼1 2 月における定置網及びまき網に
よるマイワシ日別漁獲量(kg)
表
年
2001年
11月10日
11月11日
11月12日
11月13日
11月14日
11月15日
11月16日
11月17日
11月18日
11月19日
11月20日
11月21日
11月22日
11月23日
11月24日
11月25日
11月26日
11月27日
11月28日
11月29日
11月30日
12月1日
12月2日
12月3日
12月4日
12月5日
12月6日
12月7日
12月8日
12月9日
諸磯
初声
7
3
19
1
0
2
52
太田丸
大楠定置
11
79
1
41
7
1
5
1
1
122
33,158
20,724
152
1
45,720
60,960
68,579
2
2
0
3
3
101,251
79,820
60,731
23
288
104
5
0
228
1
鎌倉
青和
まき網
1
2
1
2
77,550
26,130
35,800
1
2
2
0
1
6,273
450
18
52
2
28
5
5
39
2
1,080
200,190
147,020
189,800
92
183,540
20
227,120
192,560
232,180
9
66,810
7,000
123,185
54,550
128,480
125,360
118,210
漁獲が始まった11月14日を含む11月10∼15日におけ
る人工衛星画像を図3に示す。これを見ると、当初相模
湾は18℃前後の水温帯で覆われていた。一方、10日に房
総半島沖にあった21℃前後の暖水が、翌11日に東京湾口
まで流入し、12日には相模湾の東側半分を覆い尽くす形
で流入が見られた。その後、徐々にこの暖水は沖へ離れ
ていく状況が伺えた。
図3 相模湾への暖水の流れ込み(2001年11月10日∼
15日:人工衛星画像)
考 察
まき網は漁業経営上、大羽マイワシを主体に漁獲を行
うので、その漁獲量の推移は本県沿岸海域への大羽マイ
ワシの来遊状況を知る良い指標となる。また、多くの定
置網では一度に大量の魚が入網すると、値崩れを防ぐた
め出荷調整をすることがある。今回のケースでも出荷調
整を行っていたことから、日別の水揚げ量データでは海
況との関係を直接比較検討することは出来ない。そこ
で、定置網については、水揚げ量ではなく漁獲量を用い
ることとした。
今回の2つの事例は、大羽マイワシが概ね本県沖合海
域に回遊しており、まとまった漁獲が期待できない時期
に起きた現象である。
1999年2月の事例(以下、前者という)は、時期的に
マイワシの産卵期に当たる。土佐湾周辺では11∼12月に
産卵する早期産卵群の存在が知られている1)が、伊豆諸
島周辺海域では概ね2∼4月に産卵が行われる。黒潮は
1月下旬から2月上旬にかけて、北上部が三宅島あたり
まで差し込む流型で推移していた。これにより、黒潮流
軸が三宅島まで上ってきてしまい、周辺海域の流れが非
常に速くなることになった。そのため、産卵のため伊豆
諸島周辺海域に滞留していた大羽マイワシ産卵群には、
産卵するのに不適な環境になったと思われる。そこで、
最適な産卵環境を捜索すべく他の場所へ移動が行われた
ところ、さらに北向きの強い流れに押し上げられる形で
相模湾への大挙来遊という現象となり、約1ケ月間の滞
留となったと考えられる。この時には、相模湾東部海域
では沿岸から内湾部まで広く分布し、その結果として、
定置網とまき網の両者ともに多獲することができたと考
えられる。
2001年11∼12月の事例(以下、後者という)は、時
期的に南下期に相当する。この時の海況は、房総沖から
3 6
海況変動とマイワシの回遊との関係
東京湾口を経て、11月12日に相模湾東部海域に暖水が流
入していた。この時の好漁はまき網による漁獲から始
まったが、その後7日間は定置網での漁獲が見られな
かったことから、相模湾に来遊はしていたが沖合海域で
滞留し、その後接岸したものと思われる。さらに、人工
衛星画像によれば暖水の先端が湘南地区あたりまで波及
していた。この波及の先端は、定置網のうち最奥部に位
置する鎌倉漁場に相当しており、暖水の流れにあわせて
群れの一部が移動し、沿岸部にも分布するようになった
と考えられる。その結果、22日に鎌倉漁場から始まり、
約1週間の間であったが、東部地区沿岸に分布が広く移
り漁獲が見られたと思われる。12月に入ると、群れは再
び沖合い寄りに分布するようになり、東部地区の定置網
からまき網に主漁業が移っている。この好漁は、11月12
日に相模湾に流入した暖水の動きにあわせて、大羽群が
移動し三浦半島周辺に、時間差なく大挙来遊したためと
思われる。さらに、来遊した大羽群は暫く湾東部に滞留
したことから、まき網では12月の暮れまで漁獲が継続し
たと考えられる。
今回の2つの事例は、いずれも湾東部のみに漁場が形
成されていたが、西部海域で漁場形成が見られない共通
点があった。一般にマイワシは北上期よりもやや沖合よ
りを南下する傾向にあるが、水深1 0 0 m 付近までを分布
範囲とすることが経験的にわかっている2)。岩田他3)は
相模湾内で湾東部から流入し湾西部から流出する反時計
回りの還流が卓越することを示唆している。また、東側
で海底傾斜が緩く、勾配は概略1/1 0 0 (1 0 0 m 沖に向
かって1m深くなる)であり、西部海域の小田原地先で
は1/15と急傾斜になっている。
小田原から真鶴地先間の一部の定置網では、まとまっ
たマイワシの入網が、太平洋系群全体の資源量が大きく
落ち込んだ90年代半ば以降こそ見られなくなったが、豊
漁期の80年代から資源量が減り始めた90年代初めにかけ
ては、秋冬期に相模湾東部に位置する三浦半島周辺の定
置網で殆ど漁がなくても、1ケ月で10トン単位で度々見
られいた。このことは、秋冬期において、湾沖合から還
流に乗って東側から相模湾に回遊してきたマイワシ群が、
三浦半島周辺の定置網が設置してある位置より5∼6km
も離れた沖合を回遊していくのに対し、西部海域では急
深なため、平本2)のいうところの分布範囲が狭くなり、
定置網の近くに回遊して来ているので、マイワシの一部
が入網しやすくなっていることを示すものと思われる。
しかし、今回の2つの事例においては、いずれも上述
の通常パターンと異なり、三浦半島周辺で漁場が形成さ
れ、西部海域では漁場が形成されなかった。後者の場合
は断水の波及範囲が東部中心だったことに起因すると示
唆されると思われるが、前者の場合には海況との関連が
はっきりとしない。マイワシが通常期と異なり、海況変
動により相模湾に来遊した場合は、1 0 0 m 線に沿って回
遊するという自分達本来の習性より、その時点における
海流の向き強さ等、その影響を受けやすいことは後者同
様考えられなくはない。しかし、この現象が特異性が高
いことから考えても、資源量全体の減少に由来するもの
なのか、マイワシの特性によるものなのか、今後精査す
る必要があると思われる。
最後に、後者のマイワシがどこから来たのか検証す
る。この年は夏場にマイワシ漁は途切れ、大羽マイワシ
の来遊は暫くなかったが、11月になり突然現れている。こ
の時、関東近海でまとまった大羽マイワシ漁があったの
は相模湾だけであったため、単価も浜値で1 0 0円/k g
前後と比較的高値で安定していた。時期的なことを考慮
すると、三陸・常磐海域からの南下群あるいは産卵準備
予備群と見るのが妥当であると考えられる。しかし、
この見方には疑問がある。この年には、9月中旬以降の
常磐・房総海域では、中羽マイワシ(2000年級群)の水
揚げはそこそこあったものの、大羽マイワシのまとまっ
た水揚げが殆ど無かったからである4)。南下群は犬吠埼
を越えると急速に密度が低くなるとはいえ、水揚げが殆
ど無かったということから考えるに、今回の群が南下群
と断定できるだけの根拠としては乏しいと思われる。そ
こで浮上してくるのが平本5)が規定した越夏群であり、
工藤6)により90年代前半の相模湾に、滞留群の存在が報
告されてはいるが、今後も検討する必要がある。
今回の事例を、マイワシ以外のアジ、サバをはじめと
する他の魚種について確認したところ、同時期に漁獲量
が大幅に増加したものはなかった。以上のことより、マ
イワシは他の魚と比べて、海況変動による影響を受けや
すいことが示唆された。
当研究所では、1983年から漁業者からの要望により隔
月で漁況予報を発行している。ここまで資源量が大きく
激減してしまった状況下で、最近の傾向からしても、
毎年11月∼翌年4月漁期にまとまった大羽マイワシの
来遊を期待・予測することは難しい。この時期の場合、
現状では沿岸海域に小羽もしくは中羽マイワシが、どの
程度残存するかを予測根拠として用いるため、漁獲予測
量としてはかなり小さくなってしまう。後者の場合も、
2ケ月で小羽マイワシ主体に10トンを予測値としたが、
実際には大羽マイワシが大挙来遊したことでこれを遙か
に上回る漁獲量となった。このような海況変動に伴う特
異的なマイワシの好漁が頻繁に起こることではないにし
ろ、資源量調査のみの研究だけでは限界があると思われ
る。やはり、海況変動に関する研究体制も充実させてい
かなければならない。黒潮の流型については、独立行政
法人水産総合研究センター中央水産研究所が地方水産試
験場の協力の下、半年先までの予測技術の開発に力を入
れ確立されつつある。相模湾に限って見れば、漁具等に
被害をもたらす急潮のような特に強い潮の流れ込みに対
しては、ブイの情報等を基に注意報、警報が出せる位予
測技術が確立されてきた。しかし、今回の事例のように
急潮ほど強くない暖水の流入に対しては、未だ予測技術
が確立されていない状態である。 精度の高い漁況予報を出すには、海況との関連も検討
していくことが重要であり、当研究所としてこの分野に
おける研究を一層充実させることが急務と思われる。
3 7
海況変動とマイワシの回遊との関係
摘 要
謝 辞
1.通常まとまった大羽マイワシの漁獲が見られない秋
冬期でありながら、1999年2月及び2001年11∼12月
に起きた好漁現象を海況面から検討した。
2.1999年の場合は黒潮、2001年の場合は暖水波及が
直接の原因と示唆された。
3.両事例ともマイワシだけが漁獲量が大きく増加し、
アジ、サバをはじめとする他魚種では変化が見られな
かった。このことから、マイワシは他魚種と比べて海
況変動の影響を受けやすいと示唆された。
4.海況変動により相模湾に来遊した大羽マイワシは、
湾内の還流により東側から来遊するが、全域に回遊す
るのではなく、その多くが東部海域で滞留する傾向が
見られた。
5.現在のような低水準期において、秋冬期の漁獲量を
予測する際、資源面からだけでは不十分であり、相模
湾に流入する暖水波及に代表される海況変動に関する
予測技術の開発が急がれる。
本研究を進めるにあたり、県内定置網経営者及び中型
まき網関係者の皆さんにはマイワシの漁獲量に関して多
くの情報を提供して頂いた。当所海洋情報部の中田尚宏
専門研究員及び加藤健太技師には人工衛星画像の処理の
際に御協力を頂いた。ここに記して、心から御礼申し上
げます。
引用文献
1)小西芳信(1980):土佐湾におけるマイワシ卵・仔稚
魚の補給経路,水産海洋研究会報. 36, 47-50.
2)平本紀久雄(1991):私はイワシの予報官,草思社,
東京,229-230.
3)岩田静夫・細田昌宏・松山優治(1980):相模湾沿岸
の流れの変動について−Ⅰ,神奈川県水産試験場研
究報告第1号,61-71.
4)千葉県水産情報通信センター、千葉県水産研究セン
ター(2002):漁海況旬報ちば,14-1.
5)平本紀久雄(1991):私はイワシの予報官,草思社,
東京,202-204.
6)工藤孝浩(1991):相模湾におけるマイワシ秋シラス
の急増について,神奈川県水産試験場報告第12号,
77pp
3 8
3 9
神水研研報第8号(2003)
水中ビデオカメラ画像伝送システムの製作と定置網内の魚群観察
石黒 雄一・五島 正晢・秋中 一允
Development of transmission system for underwater video camera picture
and observation of fish schools in set-net.
Yuichi ISHIGURO*, Masaaki GOTOH**, and Kazuaki AKINAKA***
緒 言
定置網内の魚群の状況を陸上に居ながらにして観察す
る道具として、魚群監視装置が市販され使用されている。
この魚群監視装置は、魚群探知機を使って魚群の状況を
観察する道具で比較的広い範囲を探査できるが、魚種の
判別はそのエコー形状等から経験的に判断しており、確
実な魚種判別は難しい。どのような魚が網内にいるかを
確認するためには、実際に海上に行き網を揚げて確認す
るか人間が潜って肉眼で観察しなければならないため、
海上に行く労力がかかり海が時化れば海上に行くことさ
えできない。一方、海上に行かなくても陸上に居て水中
の様子を映像として観察する方法は、水中カメラと数百
メートルにもおよぶケーブルを使って陸上で魚群を観察
した有線による事例1)や、画像を簡易無線で伝送し定置
網内の魚群行動を観察した事例 2)などが報告されてい
る。しかし、これらの方法はテレビ画像に近い高画質の
映像が得られるが、有線の場合はケーブルによってその
距離が限られ、簡易無線伝送もその電波の到達距離に限
界がある。近年IT技術が発達し、携帯電話さえ繋がれば
遠隔地の画像をどこにいても見ることが可能となってき
た。そこで、この技術を使って海上に行くことなく事務
所に居ながらにして定置網内等の魚群を観察する方法と
して、水中ビデオカメラ画像伝送システムを考案し実用
化を図ることを目的とした。
水中ビデオカメラ画像伝送システムの概要
全体の概要 本システムは、海上に設置されている定置
網内の魚群の様子を陸上など遠隔地でリアルタイムに観
察することを目的に製作した(図1)
。画像の伝送はパソ
コンから電話回線を使って海上ブイの携帯電話を呼び出
し、携帯電話のデータ通信を利用して画像(動画または
静止画)をパソコン画面に映し出すことができ、パソコ
ン内に記録できる。
図1 水中カメラ画像伝送システム構成概要図
構成 本システムは市販されているビデオカメラ画像伝
送装置を主体に、海上で使用できるよう機器を組み合わ
せて製作した。その主な構成は、海上部はビデオカメラ
画像伝送装置(日本電気エンジニアリング㈱製 Media
Point Mobile)
、携帯電話、携帯電話車載用アンテナ、こ
れらを格納する水密容器、浮子から成る本体ブイ、バッ
テリー(シール型鉛蓄電池、28Ah)、これを格納する水
密容器、浮子から成るバッテリーブイ及び水中カメラ
(㈱後藤アクアティックス製)から成る。水中カメラと
本体ブイとは40mのケーブルで接続した。電池の消耗を
少なくするため、遠隔操作により電源のON/OFFができ
るよう携帯電話を利用した電源制御器を本体ブイ内に取
り付け、さらに過剰放電を防ぐためバッテリーが10.5V
以下になると電力の供給を遮断する装置をバッテリーと
ビデオカメラ画像伝送装置の間に組込んだ。画像伝送の
ための通信速度は携帯電話(800MHz)を利用したこと
から9,600bpsである。なお、本システム製作当初は、
バッテリーをビデオカメラ画像伝送装置などと一緒に本
体ブイに格納していたが、バッテリー交換を海上で容易
に行なえるようにするため別の水密容器に格納しケーブ
ルで本体ブイと接続するよう改良した(図2)。
2003. 2.26 受理 神水研業績 №02-109
脚注* 相模湾試験場
**
㈱後藤アクアティックス 〒259-0201 足柄下郡真鶴町真鶴1160-5
***
元海洋情報部
4 0
水中カメラ画像伝送システム
図2 本体ブイの構成
定置網登網及び箱網内の魚群観察 水中カメラは、登網
内の観察には沖側で三枚口に近い場所に、箱網内の観察
には沖側の肘部または中央部に水平方向を撮影するよう
設置した(図3)
。水中カメラの設置水深は本体ブイ設置
位置との関係から水深6∼25mとした。水中カメラの観
察に加え当該漁場に設置された魚群探知機の映像を電波
で伝送する魚群監視装置(古野電気株式会社製テレサウ
ンダー TS-1200、送受波器:周波数50kHz、指向角42
°
)を随時作動させ、登網については沖側から登網内を横
向きに、箱網については箱網中央部で下向きに設置した
振動子で魚群分布状況を観察した。表1に示した期間水
中カメラ画像伝送システムを設置し、観察は昼間に特に
時刻、録画時間、録画回数は決めず随時行った。
方 法
性能試験(定置網金庫網内の観察) 製作した本装置で
魚群をどの程度観察できるかを試験するため、小田原市
米神沖に敷設された米神漁場定置網(一段落し網金庫網
付き)の金庫網内に本装置を設置し魚群の観察を行なっ
た(図3)
。水中カメラは図4に示す位置に取り付け、平
成12年4月19日から4月22日及び5月10日から5月12日
まで計7日間行なった。なお画像伝送装置の受信ソフト
は、動画を呼び出す際、画質優先か動き優先の画像か及
び高解像度か低解像度の画像かを設定でき、これらを随
時切り替えて観察した。
表1 登網及び箱網内観察のための水中カメラ画像伝送
システム設置期間
結 果
図3 定置網側張り図(★:水中カメラ設置位置)
図4 金庫網水中カメラ取り付け位置
性能試験(定置網金庫網内の観察) 得られた画像例を
図5に示した。いずれのカメラ位置でも漏斗先が映り金
庫網内を遊泳する魚を観察することができた。魚種が確
認できたものは、ボラ、スズキ、エイ類、カワハギ、ア
ジ類であった。ボラ、スズキといった比較的大型の魚類
は容易に判別できた。カワハギ、アジ類は魚群としては
認識できるが、カメラの直近を遊泳しない限り魚種の判
別は難しかった。また、得られた映像(動画)は携帯電
話のデータ通信速度の関係からコマ送りの動画となった。
その表示速度は画像を呼び出す画像伝送装置の受信ソフ
トの設定が、「画質優先」「高解像度」の場合1秒間に約
0.5コマと最も遅く、
「動き優先」
「低解像度」の場合1秒
間に約4∼6コマであった。バッテリーの持続時間は画
像伝送の使用時間にもより、また携帯電話の待受けにも
電源を供給するため概ね3時間の画像伝送使用で約1週
間程度であった。
図5 金庫網内映像例
(左図:漏斗と魚群、右図:漏斗とボラ)
水中カメラ画像伝送システム
定置網登網及び箱網内の魚群観察
1.水中カメラ設置位置:登網 1日の総録画時間、魚
群映像の有無、翌日の総漁獲量、主な漁獲物種類を表2
(1日の総録画時間が10分以上の日のみを掲載)にまと
めた。長時間観察するほど、また翌日の漁獲量が多いほ
表2 登網による魚群映像の有無
4 1
ど魚群映像を捕らえる確率が高った。映像からの確実な
魚種判別は難しかったが翌日の漁獲物から判断すると、
魚群映像を多く捕らえることができたのはマアジとカタ
クチイワシであった。
4 2
水中カメラ画像伝送システム
次に魚群探知機の映像と水中カメラによる魚群映像の
記録について表3にまとめた。その結果魚群探知機に反
応がないときは水中カメラでも魚群映像を捕らえること
はできなかったが、魚群探知機に反応があったとしても
表3 登網による魚群映像の有無と魚群探知機の反応
映る場合とそうでない場合があった。ただし水中カメラ
が深いところにある場合マアジの群れを確認できる確率
が高かった。
水中カメラ画像伝送システム
2.水中カメラ設置位置:箱網 1日の総録画時間、魚
群映像の有無、翌日の総漁獲量、主な漁獲物種類を表4
(1日の総録画時間が10分以上の日のみを掲載)にまと
めた。箱網沖側肘部に設置したカメラでは魚群映像を多
く捕らえることができた。特に翌日多くの漁獲があった
場合は映像としても捕らえることができた。箱網沖側中
央部に設置したカメラでは、漁獲物が少ない時期では
表4 箱網による魚群映像の有無
4 3
あったが魚群映像を捕らえることができた日もあった。
映像だけで魚種の確認は多くの場合難しかったが、その
中で魚種が確認できたのは大型魚であるカジキ、マンボ
ウ、特徴的な形態のウスバハギ及びカワハギであった。
また映像だけでは魚種判別は難しいが、翌日の漁獲物か
ら判断すると、ソウダガツオの魚群映像を捕らえること
ができた。映像例を図6に示した。
4 4
水中カメラ画像伝送システム
次に魚群探知機の映像と水中カメラによる魚群映像の
記録について表5にまとめた。事情により水中カメラで
の観察と魚群探知機での観察を同時に行えた回数が少な
かったが、箱網肘部に水中カメラを設置した場合、魚群
探知機に反応があってもほとんど映像で捕らえることが
できなかった。
図6 箱網内映像例
(左図:カジキ、右図:ソウダガツオの群れ)
表5 箱網による魚群映像の有無と魚群探知機の反応
考 察
今回製作したシステムは、水中カメラを使いその映像
を携帯電話のデータ通信を利用して陸上で水中の様子を
観察するものであった。そして、このシステムで魚群の
動きを追跡できるのか、魚種が判別できるのか、広い定
置網内の魚群を観察できるのかといったことを試験し
た。まず魚群の遊泳状況観察については、携帯電話の
データ通信を使って画像を伝送するため、動画はコマ送
りであり画質、解像度を良くすると1秒間に0.5コマとい
う速度であったが、魚1尾の遊泳行動を連続的に追うこ
とは難しいものの、上から下の方向へ左から右の方向と
いった遊泳行動は十分観察できた。金他3)がマアジ、ゴ
マサバ、カタクチイワシ群の定置網漁場周辺での遊泳速
度を観察したところ、多くの魚群が30cm/s以下のゆっく
りした速度で遊泳していると報告している。今回の動画
は最も遅くて0.5コマ/秒であり、この程度の遊泳速度で
あれば十分映像としてその動きを記録することができる
と考えられる。また携帯電話でなくP H S を使用すれば
データ通信速度が速くなりより滑らかな映像を受信でき
るが、今回のシステムでは市販されている車載用の外部
アンテナ等を使用したため、PHSの端子ではこれらに対
応していないこと、離岸距離や波浪による電波の受信に
不安があったことなどからPHSを利用せず携帯電話を利
用した。次に魚種判別であるが、スズキ、ボラといった
比較的大型の魚、またカワハギといった特徴的な形態の
魚は魚種判別できたが、イワシ類やアジといった小型で
いわゆる紡錘型の体型をした魚は映像だけの情報からで
はカメラの直近を魚が遊泳しない限り難しかった。この
点を克服するには高解像度の画像を高速通信で伝送でき
る機器が必要であり、季節的な出現魚種といったその他
の情報とを併せた推測が必要であろう。
海上に行くことなく水中の様子を観察することができ
るシステムであるが、1週間に1度程度はバッテリーを
交換する必要があり水中カメラのレンズ面には1∼2週
間で付着物が付いてしまう。しかしこれらのメンテナン
スは10分程度で行うことができ、通常の網の手入れ作業
中に用意に行うことができることから利便性には支障な
いものと考えられる。
4 5
水中カメラ画像伝送システム
次に定置網の箱網や登網での実用化について考えてみ
ると、水中カメラで映像を記録できるのは、高感度の暗
視カメラを使わない限り昼間に限られる。すなわち夜間
に魚群が入網・出網した場合は映像として記録できない
が、石黒 4)によれば昼間でも多くの魚群が定置網に入
網・出網していることが示唆されており、登網で魚群映
像を捕えることは可能と考えらえる。また今回使用した
漁場の箱網は長さ約120m、幅約50mという大きな網で
あり、また登網も三枚口で幅24m深さ30mある。水中で
の視認距離は浮遊物などによる透明度の低さや明るさな
どに左右され、カメラを通じて画像を捕えることを考慮
すると良くても十数メートルであることから、水中カメ
ラ1つで全体を把握することはできないが、設置場所を
工夫すれば観察可能ではないかと考えた。そこでまず魚
群が入網・出網する登網のなかで幅がもっとも狭い三枚
口近辺で観察を行なった。その結果マアジについては大
漁に入網したときに魚群として映像を捕えることができ
た。特に水深17mや25mに水中カメラを設置した時魚群
が映る頻度が多く、10mでは魚群探知機に反応があって
も映像として捕えることはできなかった。今回装置を設
置した定置網で毎日魚群探知機を見ている漁業者によれ
ば、昼間は比較的深いところに魚群反応があるとのこと
から、魚群の遊泳水深を考慮した水深10m以深にカメラ
を設置することにより魚群探知機に反応がある魚群を観
察できるのではないかと考えられる。
箱網は登網よりさらに広い網であり、その観察となる
と水中カメラの設置場所をどこにするかが問題となる。
箱網内に居る魚種や潮流や明るさなどといった環境面か
らも魚群の出現場所は様々であろうから、いつでも魚群
を観察できる場所はないであろう。今回最初に設置した
箱網の肘部は比較的多くの魚が滞留する場所と言われて
いる場所であり5)、また操業に支障のない場所というこ
とから選定した場所であった。そして漁獲量が多い時期
であったこともあり比較的多く魚群映像を捕らえること
ができた。箱網沖側中央部に設置した水中カメラでは、
漁獲量が少ない時期でも魚群映像を捕らえることができ
た。こちらは水中カメラを水深2 3 mの位置に設置した
が、魚群探知機の映像では魚群の遊泳水深が比較的深
かったことから魚群映像を捕らえることができたのでは
ないかと考えられ、水中カメラの設置水深は魚群観察の
ために重要な要素であろう。
非常に大きな網内において観察範囲が極限られた水中
カメラで魚群を陸上に居ながらにして観察できたことは
1つの成果であろう。魚種確認については前にも述べた
とおり大型魚または特徴的な形態の魚以外は難しいが、
その時期漁獲されている魚種という情報を加味して映像
を観察すれば、ある程度の判断は可能であると考えられ
た。以上のことから、携帯電話を利用した水中カメラ画
像伝送システムは定置網の箱網でも補足的に箱網内の魚
種確認に使用できるのではないかと考えられる。また、
金庫網や生簀網といった狭い範囲での魚群観察にも有効
利用することが可能であろう。
謝 辞
今回の調査を実施するにあたり、カメラ等の設置場所
提供について御協力いただいた小田原市漁業協同組合米
神漁場従業員の皆様に心から御礼申し上げます。また、機
器のメンテナンス等では調査船「うしお」船長榎沢春雄
氏、同乗組員鈴木征仁氏・渡辺泰行氏の方々及び相模湾
試験場の皆様に、機器製作では相模湾試験場小沢孝雄氏
に協力していただき感謝いたします。
引用文献
1)(社)日本定置漁業協会(1997):漁業新技術開発事業報
告書,33-41.
2)岩手県水産技術センター他(2000):固定式網漁具の
漁具構造と魚介類特性の関係に関する研究成果報告
書,1-28.
3)金文官・有元貴文・松下吉樹・井上喜洋(1993):定
置網漁場における魚群の移動行動,日水誌,59(3),
473-479.
4)石黒雄一(2000):魚群探知機による定置網箱網内へ
の魚群入網・出網時刻と漁獲量、神奈川県水産総合
研究所研究報告,6,77-80.
5)井上喜洋編(2002):定置網技術総覧、㈱北日本海洋
センター,412-414.
4 6
4 7
神水研研報第8号(2003)
酸素発生器を用いたスルメイカの活魚輸送法
仲手川 恒・荻野 隆太・長嶋 智幸
Study on transportation method of live Japanese common squid
Todarodes pacificus using the generator of oxygen
Hisashi
NAKATEGAWA*, Ryuta
OGINO**, and
はしがき
三浦半島の松輪地区及び長井地区では、日帰り操業で
出漁する沿岸イカ釣漁業が行われている。沖合漁業及び
遠洋漁業と異なり操業時間が約半日と短いため、漁獲物
を船内の魚艙内で活かし、帰港時に活魚で出荷してい
る。同漁業の主対象種であるスルメイカの場合、平成14
年7月10日から同年10月9日におけるみうら漁業協同組
合松輪支所の出荷時の平均単価は、鮮魚扱いでは1kg当
たり334円であるのに対し、活魚では1,372円と4倍以上
で取引されている。
スルメイカの盛漁期は夏場の高水温期と重なるため、
主漁場である三浦半島南沖は、一都三県漁海況速報1)に
よると7月中旬から10月中旬にかけて活漁輸送にとって
限界といわれる24℃以上2)の高水温になる。石井は、沿
岸イカ釣漁業の操業形態に合わせたろ過装置及び海水冷
却装置3,4)を導入し、この時期の活魚の生残率を向上さ
せた。しかし、漁獲量によっては活魚の魚艙への収容量
が限界に達することは多く、輸送量の更なる上積みが望
まれている。また、港への輸送中一旦スルメイカが死亡
し出すと連鎖的に広がり全滅する場合もあることから、
輸送量の限界値の把握は重要である。
スルメイカは、他の魚類又はコウイカやヤリイカと比
較して運動量が多いため、輸送の取り扱いが非常に困難
とされている5)。また、奈須他6)は飼育環境水の重要事
項として、アンモニア及び炭酸ガスの除去と、呼吸によ
り消費された酸素の補給を挙げている。アンモニアにつ
いては、海水冷却装置による換水により一定量の除去が
可能である。炭酸ガスの除去については、従来から行っ
ているエアレーションにより水中の二酸化炭素を気泡中
に拡散後、大気中に排出させることができるため、密閉
式の循環水槽を用いない限り問題は生じない。酸素の補
給については、エアレーションによる空気補給を行い、
同時に海水冷却装置を用いることによりスルメイカの代
謝を抑える措置が講じられている。しかし、大気中の酸
Tomoyuki
NAGASHIMA***
素濃度は約21%と低いことから、エアレーションで供給
される酸素量には限界がある。酸素ボンベの使用により
直接酸素を供給する方法があるが、重量物であること
と、急激な酸素濃度の上昇によるイカへの生態的な影響
が問題となっており5)、操業での適切な使用には技術を
必要とする。そこで本報は、医療用として開発され、養
殖現場や活魚トラック等水産業界での利用のために改良
された酸素発生器をスルメイカの輸送に用い、活魚艙内
の環境変化とスルメイカの収容量の関係について調査
し、酸素発生器の効果を明らかにしたので報告する。
調査方法
平成14年8月26日と同年10月10日の2回、みうら漁
協松輪支所所属のイカ釣り漁船である茶光丸4.9トンに乗
船し、操業にあわせて調査を行った。調査項目は、魚艙
内と漁場海面の表層の溶存酸素濃度、水温及び水素イオ
ン濃度(pH)とし、操業開始後10分間隔(8月26日の
pHは30分間隔)で測定した。同時にスルメイカの釣獲尾
数も計測した。魚艙内の溶存酸素濃度及び水温の測定に
はセントラル科学株式会社製U K - 2 0 0 0 型を、p H の測定
には株式会社堀場製作所製のpHイオンメーターF23をそ
れぞれ使用した。
海水冷却装置とエアレーションを装備している魚艙の
総容量は約1.7トンである。海水冷却装置は、魚艙の水温
が設定温度を2℃超えると作動し、設定温度に達すると
海水交換を行う仕様となっている。本調査では設定温度
を18℃とした。エアレーションのブロアーの出力は毎分
100Lで活魚艙の脇から排出させている。いずれも通常の
操業時と同条件であり、ともに操業開始時点から作動さ
せた。酸素発生器は株式会社商起産業の酸素発生器オー
ジネーター600を使用した。同器は、大気中の窒素をゼ
オライトで吸着させ酸素濃度を90%以上まで高めること
ができる。酸素流量は毎分6L 、電源A C 1 0 0 V 、消費電
力4 2 0 W 、サイズW 3 6 0 ×H 6 5 0 ×D 4 3 0 (m m )、重量
2003. 2.26 受理 神水研業績 №02-110
脚注* 企画経営部
**
横須賀三浦地区農政事務所
***
株式会社商起産業 〒229-1132 相模原市橋本台3-14-34
4 8
酸素発生器を用いたスルメイカの活魚輸送法
30kgである。本調査では、魚艙の酸素濃度(ppm)が漁
場海面の表層の酸素濃度と同程度の濃度にまで下がった
時点で作動させ、以後操業終了時まで供給を維持した。
茶光丸が記録した平成12年から14年の日別漁獲量、活
魚出荷量及び漁場水温のデータを用い、水温別の輸送量
の平均値及び酸素発生器の使用による経済効果を試算し
た。
魚艙の酸素濃度は8時30分頃の収容重量30kg前後の段階
まで回復した。その後再び低下したものの、同時刻の漁
場の酸素濃度よりも高い値で推移した。
魚艙のpHは、操業開始直後の5時10分に7.9でその後
徐々に減少し、終了時には7.1となった。
収容量(kg)
50
Do(ppm),ph/水温(℃)
9 27
イカ重量
漁場DO
漁場水温
45
活魚艙内DO
活魚艙内水温
魚艙内ph
40
結 果
8
25
7
23
6
21
5
19
4
17
35
Do(ppm),ph/水温(℃)
9 27
収容量(kg)
100
イカ重量
漁場DO
漁場水温
90
活魚艙内DO
活魚艙内水温
魚艙内pH
30
25
80
8
25
70
酸素供給開始
20
15
60
50
7
23
6
21
10
5
酸素供給開始
40
0
4:00
30
20
5
19
4
17
10
0
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
図1 水温、溶存酸素濃度及びスルメイカ漁獲量の経時
変化(平成14年8月26日)
1.平成14年8月26日
図1に、8月26日の操業時間と漁獲量、水温及び溶存
酸素濃度の推移を示した。操業は4時40分から14時10分
まで行われ、開始時の漁場水温は2 5 . 4 ℃、魚艙水温は
20.4℃であった。漁場水温は1日を通して25℃前後で推
移し、大きな変化は見られなかった。魚艙水温は海水冷
却装置の作動により、周期的に上昇下降を繰り返し、17
℃から20℃前後に保たれていた。漁場と魚艙との温度差
は平均6.3℃であった。1日の漁獲量は78kg (217尾)
であり、11時20分から12時20分の間等、漁獲が1時間
以上途切れる期間が見られ、魚艙に補給されるスルメイ
カの量は一定ではなかった。
漁場の酸素濃度は操業開始時に6.72ppmで6時20分ま
で6.7ppm前後で推移し、その後の10分間で0.54ppm低
下した後、10時50分まで6.3ppm前後で推移した。その
後は徐々に低下し13 時40 分に最低値4.56ppm を記録し
た。魚艙の酸素濃度は開始時に7.63ppmであり、漁場よ
り1ppmほど高い値で推移した後、漁場と同様に6時20
分から30分の10分間で1ppm低下し6.62ppmとなった。
その後は徐々に低下し、収容重量が26kgとなった8時に
一旦漁場の酸素濃度を下回る6.41ppmとなり、再度逆転
したが収容重量が34kgとなった8時50分以降には再び漁
場よりも低い値で推移した。その後、漁場の溶存酸素と
同様に低下し、酸素発生器の電源を入れる直前の収容重
量が71kgとなった13時10分に最低値4.9ppmとなった。
電源投入後、最初の10分間で1.58ppmの上昇が見られ、
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
図2 水温、溶存酸素濃度及びスルメイカ漁獲量の経時
変化(平成14年10月10日)
2.平成14年10月10日
図2に、10月10日の操業時間と漁獲量、水温及び溶存
酸素濃度の推移を示した。操業は5時30分から13時10分
まで行われ、開始時の漁場水温は2 3 . 4 ℃、魚艙水温は
19.2℃であった。漁場水温は徐々に上昇し8時10分及び
20分に最高値24.8℃となった。その後再び低下し、12時
50分に最低値22.0℃となり、操業終了時点では若干上昇
し22.9℃であった。魚艙水温は8月26日の調査時と同様
に海水冷却装置の作動により、周期的に上昇下降を繰り
返し、18℃から20℃前後に保たれていた。漁場と魚艙と
の温度差は平均4 . 2 ℃であった。1日の漁獲量は4 2 k g
(128尾)であり、8月26日に見られた1時間を越える漁
獲の途切れはなかった。6時台と10時前後に漁獲のペー
スが高まっていた。
漁場の酸素濃度は操業開始時に6.08ppmで、11時頃ま
で5ppm台後半で推移した。その後は徐々に低下し操業
終了時の13時10分には4.84ppmとなった。魚艙の酸素濃
度は開始時に6.75ppmであった。漁場より0.6ppmほど高
い値で相対的に推移し、9時30分頃からその差は徐々に
つまり、収容重量が34kgとなった10時50分には漁場と
同様に5ppm台後半となった。酸素発生器は11時40分過
ぎに作動させた。8月26日と同様に酸素濃度は上昇し、
10 分後には1 . 8 9 p p m の上昇が見られ、7 . 6 7 p p m となっ
た。この値は操業開始直後の5時40分の値7.17ppmを上
回った。その後はやや低下したものの、7ppm前後の高
い値で推移した。酸素供給開始後の漁場との濃度差は平
均1.94ppmであった。
魚艙内のpHは、操業開始時に8.3でその後徐々に減少
し、終了時には7.8となった。
4 9
酸素発生器を用いたスルメイカの活魚輸送法
図3 平成13年高水温期の日別活スルメイカ漁獲量と操業開始時の漁場水温
3.活魚輸送量の平均値
平成1 3 年7月から1 0 月の4ヶ月間の日別活魚漁獲量
と、操業開始時の水温を図3に示した。棒グラフの黒い
部分は活魚として出荷できた量(kg)を、白い部分は死
亡により鮮魚として出荷した量(kg)を表している。水
温は操業開始時の漁場の表面水温である。平成13年は、
水温が23℃を超えた7月20日から10月20日までの間、
操業日数に換算すると68日間、海水冷却装置が作動する
魚艙(容積約1.7トン)のみを使用し操業している。スル
メイカの死亡は7月10日から9月2日の間に19日間発生
し、死亡したため鮮魚として出荷した累計量は282.8kg
であった。この間の総漁獲量は2,619kgであるため、1
割以上の死亡が発生している。
次に、スルメイカの死亡が発生した際に活魚として出
荷できた活き漁獲量分と操業開始時の水温との関係を図
4に示した。前述した平成13年のスルメイカの死亡が発
生した時のデータ15日分と、平成12年の同データ8日分
を用いた。なお、スルメイカの胃内容物の未消化物によ
り魚艙の水質が悪化した5日分(平成12年9月26日、平
成13年7月10日、同年7月16日、同年7月25日及び同
年8月24日)のデータは、他の要因による死亡と推定さ
れるため排除した。漁場の水温と活き漁獲量との間には
負の相関が見られ、酸素発生器を用いない場合の活魚輸
送量の最小値は4 5 . 5 k g (漁場水温27.5 ℃)、最大値は
74.6kg(同23.8℃)、平均値は63kg(同25.6℃)であっ
た。図4の近似式から、茶光丸の水温別の平均値は23℃で
71kg、24℃で68kg、25℃で64kg、26℃で61kg、27℃
で57kgと算出された。
(kg)
80
y = -3.6855x + 156.56
2
R = 0.4205
70
活
き
漁
獲
量 60
50
40
23
24
25
26
27
28
水温 (℃)
図4 活き輸送量と操業開始時の水温との関係
(酸素発生器なしの場合)
平成14年の漁獲量を図5に示す。当年は7月18日から
海水冷却装置の作動と同時に酸素発生器を使用してい
た。この間スルメイカの死亡は見られず、漁獲量の最大
値は9月1日の88kgであり、この時の水温26℃における
輸送平均値61kgを27kg上まわった。また、全水温の平
均値63kgを超えて輸送できた日数は18日間であった。
図5 平成14年高水温期の日別活スルメイカ漁獲量と操業開始時の漁場水温
5 0
酸素発生器を用いたスルメイカの活魚輸送法
考 察
海水冷却装置の作用により低温に保たれた魚艙海水
は、漁場の表面付近より溶存酸素の飽和量が多いため酸
素が溶解しやすい6)。図1より、茶光丸の魚艙の場合、
8月26日にスルメイカが約34kg収容された際に漁場の酸
素濃度よりも低くなっている。図2より、10月10日の調
査時にも、収容量が34kg前後に達した時点で、魚艙内の
酸素濃度が漁場表面の酸素濃度に近づいており、この魚
艙のエアレーション及び海水冷却装置は、漁獲量にして
少なくとも34kg前後の収容増加能力を有していると推定
される。
(ppm)
1.2
海
面 1
と
魚 0.8
槽
内 0.6
の
溶
0.4
存
酸
0.2
素
濃
度 0
の
差-0.2
y = -0.4164Ln(x) + 1.4944
2
R = 0.8272
-0.4
0
10
20
30
40
50
60
70
80
活魚槽内スルメイカ重量(kg)
図6 スルメイカ重量と、漁場と魚艙との酸素濃度の差の関係
漁獲量が限界値以上に達した8月2 6 日のデータを基
に、スルメイカの収容重量と、漁場と魚艙との溶存酸素
濃度の差の関係を図6に示した。これにより以下の近似
式を得た。
Y=−0.4164Ln(x) +1.4944 R2=0.8272
これによれば、漁場表面と魚艙の溶存酸素濃度が等し
くなる収容重量は36kgと算出される。
次に、酸素発生器の仕様から収容増加の理論値を計算
する。機器の酸素供給能力は毎分約6Lであり、魚艙の
海水への溶解効率を10%とし、36kg収容時の溶解量を差
し引き、スルメイカの酸素消費量を水温18℃で個体重量
1kg当たり毎分12mgであると仮定すると6)、約31kg多
く活イカを収容できることになる。
次に実際の漁獲データから経済効果を考察する。平成
13年において、茶光丸の7月20日から10月20日までの
絞めスルメイカの出荷量は約282kgであった。理論値か
ら酸素発生器を用いればこの死亡したスルメイカを活魚
として輸送することは十分可能であり、活魚と鮮魚の価
格差をkgあたり1,000円とすると、28万円の水揚げ金額
のロスをカバーできたことになる。機器の3か月分の
リース料と電気工事による初期投資を差し引いても、そ
の効果を期待できる。
酸素発生器を使用し始めた平成14年は黒潮が接岸傾
1)
向 にあったため潮が早く、スルメイカの漁獲量は例年
より低調であり、輸送量の平均値を大きく超えた日が少
なかったため、酸素発生器の効果を確認しにくい年であっ
たといえる。しかし、酸素発生器を使用した7月18日以
降、死亡したスルメイカはなかった。平成13年の同時期
には19日間でスルメイカの死亡が確認されたことから、
酸素発生器の効果が表れたといえる。また、80kgを超え
て輸送できた日が平成13年は1度であったことに対し平
成14年は3度あった。
今回の調査では、酸素発生器の持続的な効力の発揮に
関して問題点が見られた。2回の調査ともに酸素発生器
による上昇の後、再び濃度低下が見られ、特に8月26日
は顕著であった。使用した酸素発生器は、元は医療用と
して開発された機器であり、改良を加えることで養殖現
場等での利用を可能としたものである。屋外環境での使
用をある程度想定しているものの、船上は振動が大きく、
湿気や塩分等の面で過酷な条件下といえる。茶光丸の場
合、本体を湿気と塩分から守るために、機関室に接した
狭く閉鎖された空間に配置している。酸素発生器は空気
中の窒素を取り除くことで酸素濃度を高めているため、
機関室のように酸素濃度が通常の大気より低い場所では、
魚艙に供給される酸素の純度が低下すると考えられる。
また、機器から排出される窒素が拡散せず再び発生器へ
流れればさらに純度は低下する。今後酸素発生器の出力
チェックを行い、仕様どおりに酸素が魚艙に供給されて
いるかを確認する必要がある。毎分6L発生させる機器は、
大きさが360×650×430㎜と大きく、新鮮な空気が供給
され、かつ悪条件下にさらされない適切な配置場所を船
内に設けることは困難である。なお、メーカーは小型で
扱い易い機器の開発を進めており、その動向が注視される。
今回は調査を8月26日と10月10日の2日間行ったが、
両日とも漁獲量が多くなかったため、酸素発生器を用い
た場合の輸送限界値を明らかにすることはできなかった。
豊漁時に再び調査を行い、魚艙内でスルメイカの死亡が
発生する際の収容量と酸素濃度及び水温の関係を明らか
にする必要がある。また、今回は酸素濃度のみに着目し
たが、スルメイカが排出するスミやアンモニア、海水の
水質状況等による影響を考慮した調査も必要である。更
に、茶光丸以外の魚艙での効果調査を行い、異なる条件
下での効果を確認する必要がある。
摘 要
1) 活スルメイカの収容量が増加すると、魚艙内の溶存
酸素濃度は低下し、茶光丸の場合、約34kg収容した際
に、漁場表面の溶存酸素濃度と同程度となった。
2) 酸素発生器の作動により、魚艙内の溶存酸素濃度の
大幅な上昇が確認された。
3) 酸素発生器を使用した平成14年は、スルメイカの漁
獲量が低調であったものの、その効果を十分に確認す
ることができた。
4) 限られた船内空間において、いかにして好環境下に
機器を配置するかが重要であり、機器の改良が望まれる。
謝 辞
本研究を進めるにあたり、みうら漁業協同組合松輪支
所所属の藤平正一指導漁業士には多大なるご協力を頂い
た。また、神奈川県横須賀三浦地区農政事務所の石井洋
氏には適切なご助言を頂いた。ここに感謝の意を表する。
酸素発生器を用いたスルメイカの活魚輸送法
引用文献
1)東京都・千葉県・神奈川県・静岡県(2000−2002):
2000年度−2002年度一都三県漁海況速報.
2)桜井泰憲・池田譲(1992):スルメイカの生態研究に
おける飼育実験法,イカ類資源・漁海況検討会議研
究報告(平成4年度),51-69.
3)石井洋(1996):スルメイカ活魚輸送法について,神
奈川県水産総合研究所研究報告1号,77−83.
5 1
4)石井洋(1997):ろ過装置を用いたスルメイカ活魚輸
送法について,神奈川県水産総合研究所研究報告2
号,69−76.
5)内田博道(1990):活魚大全,フジ・テクノシステム,
517−518.
6)奈須敬二・奥谷喬司・小倉通男(1996):イカ−その
生物から消費まで−,成山堂書店,217−235.
1 2
5 3
神水研研報第8号(2003)
小イサキの網目通過行動の観察
木下 淳司・石崎 博美
Observation of behavior of juvenile Threeline grunt
Parapristipoma trilineatum passing through mesh
Junji KINOSHITA* and Hiromi ISHIZAKI*
はしがき
材料および方法
定置網は待って獲る受動的漁具であるため,資源に悪
影響を与えにくい漁法であるが,時として幼稚魚を大量
に漁獲してしまう問題点があげられる1)。これを防止す
るためには,箱網の目合の一部を拡大し,そこから幼稚
魚を網外に逃避させることが考えられており,マダイ等
で試されている2,3,4,5,6)。
相模湾の定置網では,尾叉長が20cm以下の小型のイサ
キ(以下小イサキと記す)が,5∼6月および9∼11月
に多く漁獲されている1)。例を挙げると,平成11年10月
に神奈川県西湘地区の定置網で漁獲されたイサキの尾叉
長組成は,10cm程と17∼20cm程の2つの体長モードが
見られている(図1)
。これらの小型魚を漁獲せずに逃が
すことができ,さらに成長してから漁獲できれば,本種
の資源管理および定置網の水揚高の増大に有益であろう
と思われる。しかし、現在のところイサキの網目からの
逃避に関する既存の知見は見当らない。そこで本研究で
は小イサキの混獲を防止するための端緒として,1)
イケ
ス内行動の観察,2)網目通過行動の観察,および3)小
田原市地先の大型定置網漁場に試験的に導入された分離
網による,小イサキ分離実験を行ったので報告する。
なお本研究は,平成9∼1 1 年度水産庁国庫補助事業
「固定式網漁具の漁具構造と魚介類特性の関係に関する
研究」の一環として実施したものである。 実験1 イケス内行動の観察
小イサキの行動観察には,目合2 5 m m ,幅,奥行き,
深さが5mの正方形の試験用網イケスを用いた。イケス
は小田原市江之浦沖の蓄養実験用筏(20m四方)に設置
した。観察には、目視および水中ビデオカメラを用い
た。実験時間は各1時間であった。
イケスに収容した小イサキは300個体であり、その尾
叉長組成は14.0∼20.5cmの範囲で、16cm以上17cm未満
の個体が全体の60%を占めていた(図2)。 12%
10%
割合
8%
6%
4%
2%
0%
0
5
10
15
20
25
30
尾 叉 長 (cm )
図1 西湘地区定置網で漁獲されたイサキの尾叉長組成
(平成11年10月)
2003. 3. 3 受理 神水研業績 №02-111
脚注* 相模湾試験場
40%
割 合
30%
20%
10%
0%
13
14
15
16 17 18
尾 叉 長 ( cm )
19
20
21
図2 実験1,2および4-1に供した小イサキの尾叉長組成
実験2 水槽内の網目通過行動の観察
モデル試験として、水槽内での小イサキの網目通過行
動の観察を行った。実験に用いた仕切り網の目合は、
9 0 m m ,6 0 m m および5 0 m m の3種類であった。水槽は
小田原魚市場の活魚水槽(長さ2m,幅2m,深さ1m)
を用いて(図3)、水深70cmまで濾過海水を満たし,酸
欠を防ぐため図3において右から左の方向へ海水をかけ
流した状態で実験を行った。
小イサキは実験1と同一群を使用し、水槽にはそれぞ
れ53個体および41個体を収容した。小イサキを水槽の一
方に寄せたのち,仕切り網を水槽の中央に設置して実験
を開始した。その後1時間ごとに、仕切り網を通過した
個体を数えた。また網目を通過する際の行動を観察した。
5 4
小イサキ網目通過行動
実験時間は3または4時間であった。
網目と魚体サイズの関係は、相対体周胴長(最大体周
胴長と網内周長の比1))で比較した。
水深
70cm
水流
図5 分離網模式図
図3 実験2の模式図
実験3 イケス内の網目通過行動の観察
実験2の水槽の規模を拡大した実験を行うために、目
合9 0 m m および6 0 m m で、幅、奥行き、深さが3mのイ
ケスを,小田原市米神沖の大型定置網漁場内に設置した。
小イサキを可搬式の小型イケス内で30分程度馴致した後,
目合9 0 m m および6 0 m m のイケスにそれぞれ6 5 個体およ
び68個体を収容した。イケス内には吊り下げ式水中テレ
ビカメラを設置し,イケスの横に接舷した船外機の上
で,TVモニターにより3時間の連続観察を行った。そ
の後も小イサキをイケスに収容しておき,実験開始から
21時間経過後,最終的に残った個体を計数した。
実験に供したイサキは、小田原沖の定置網で漁獲され
た、尾叉長10∼11cm主体の小イサキ(図4)で、実験
を行うまでの間、小田原魚市場内の活魚水槽で飼育し、
餌料として週2回オキアミを与えた。
実験4−1 分離網予備実験
網目に追い込まれた小イサキが自身の体周胴長よりも
小さな網目を通過するか否かについて、水槽実験により
観察し、通過可能な網目の大きさを求めた。小イサキは
実験1、2と同一群を使用した。網地及び水槽は実験2
と同様の目合6 0 m m と5 0 m m のものを用いた(図6)。
水槽に仕切り網を張り,一方から重りをつけた目合
4 0 m m の網で約1分かけて供試魚を追いつめた。仕切り
網に羅網した個体について,体周胴長を測定した。
図6 実験4−1の模式図
40%
割合
30%
20%
10%
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
尾叉長(cm)
実験4−2 分離網を用いた小イサキ分離実験
今回は定置網の操業の都合上,分離網を箱網と金庫網
の間に設置するのではなく,分離網1を下にして定置網
漁場内でイケス状に張り実験を行った。小イサキは実験
3と同一群を使用し、分離網内に150個体を放して10分
静置した。その後、網の底面を3分かけて徐々に水面直
下まで引き上げる動作を3回繰り返した。この間,小イ
サキの網内行動および網目通過行動について観察を行っ
た。
図4 実験3および4-2に供した小イサキの尾叉長組成
結 果
実験4 小型魚分離網実験
小型魚分離網とは,小田原市地先の大型定置網漁場が
試験的に導入したもので,箱網の魚取り部と金庫網をつ
なぐ廊下の部分に設置する(図5)ものである。分離網
の箱網側(分離網1)が目合4 5 m m ,金庫網側(分離網
2)は目合3 0 m m となっている。分離網1を通過した小
イサキなどの小型魚は分離網間に留まり,さらに小型の
カタクチイワシなどは,分離網を通過して金庫網で漁獲
される。今回,この分離網を利用して実際に小イサキが
分離可能か否か試験を行った。 実験1 イケス内行動の観察
観察を行った日はいずれもサキシオ(南下流)であり,
5m四方のイケスは南西方向へ吹かれていた。実験時の
現場海域の流速は0.3ノット程度であった。魚群の網内行
動を観察したところ,次のような結果であった。
1.イケス内では,小イサキが群を形成していた。
2.水深3∼4mに分布する個体が多かった。底面(水
深5m)にも分布が見られた。
3.中層以浅には,小イサキの分布は見られなかった。
4.小イサキの群は向流行動を示し,一定の場所で遊泳
し,イケス内を旋回してはいなかった。
5 5
小イサキ網目通過行動
実験2 水槽内の網目通過行動の観察
実験に使用した目合9 0 m m ,6 0 m m および5 0 m m の網
目の網内周長を測定したところ,それぞれ1 6 4 m m ,
1 1 7 m m および9 9 m m であった。
これらの網目に対するイサキの相対体周胴長は,目合
90mmでは0.44∼0.64,60mmでは0.68∼0.97,50mmで
は0.80∼1.16の範囲であった(図7)
。また相対体周胴長
(Y:cm)は尾叉長(X:cm)に対して,次ような関係式
で表された。目合90mmでは,Y=0.058X+9E−15,目合
6 0 m m ではY =0 . 0 4 8 3 X ,目合5 0 m m ではY =0 . 0 3 2 2 X −
5 E −1 5 であった。実験結果を表1に示した。目合9 0 m m
の網目で水槽を仕切ったとき,水槽1では,1回目と2
回目の実験において,それぞれ最大で35%および23%の
個体が網目を通過した。水槽2では,1回目と2回目の
実験のどちらも,開始後2時間までは通過した個体は見
られなかった。1回目の実験では,3時間後に98%の個
目合90mm
目合60mm
目合50mm
相対体周胴長
1.25
1.00
0.75
0.50
0.25
0.00
12
14
16
18
20
22
尾叉長(cm)
図7 実験2に使用した小イサキの網目に対する相対体
周胴長
体が通過した。2回目は実験終了まで通過した個体は見
られなかった。
目合9 0 m m の網目と比べて目合6 0 m m では通過した個
体の割合は少なかった。水槽1では,最大23%,水槽2
では,1回目の実験では通過が見られず,2回目では2
時間後に34%の個体が通過したのが最も高い値であった。
目合5 0 m m の網目で水槽を仕切ったとき,網目を通過
した個体は見られなかった。
小イサキは網目を通過する際,そこに頭部を入れ,体
を左右に揺すりながら通過した。対面にいる小イサキに
続くように,連鎖的に網目を通過する場合があった。ま
た網目を何度も通過する個体がみられた。目合5 0 m m の
網目では,小イサキは水槽の片側を遊泳するばかりで,
頭部を入れて通過を試みる個体も観察されなかった。
実験3 イケス内の網目通過行動の観察
目合9 0 m m および6 0 m m のイケスでは,実験1の結果
と同様に,小イサキは底面で群れを形成していた。活発
に網内を旋回することはなく,潮の流れに対し向流行動
を示した。水槽実験で観察されたような,網目に頭部を
入れるような行動は見られなかった。各イケスにおい
て,3時間の観察中に網目を通過した個体は見られな
かった。しかし実験開始より21時間40分後の翌朝9時に
は,目合90mmのイケスにおいて個体数が38個体に減少
しており,全体の42%の個体が網目を通過していた。目
合6 0 m m では1個体も減少しておらず、網目を通過した
個体はなかった。
実験4−1 分離網予備試験
結果を表2に示した。目合6 0 m m の仕切り網へ向かっ
てイサキを追い込んだところ,20.5cmの個体が羅網した
ほかは,すべて仕切り網を通過した。
目合50mmの仕切り網には,尾叉長18.5cmの1個体,
18.0cmの2個体が羅網したほかは,すべて通過した。イ
サキの羅網は,相対体周胴長1.06以上で起こった。
表1 実験2における小イサキの網目通過率
水槽と目合
水槽1
目合90㎜
水槽2
目合90㎜
水槽1
目合60㎜
水槽2
目合60㎜
水槽1・2
目合50㎜
実験回数
1回目
2回目
1回目
2回目
1回目
2回目
1回目
2回目
1・2回目
1時間後
35%
8%
0%
0%
0%
4%
0%
0%
2時間後
25%
23%
0%
0%
2%
0%
0%
34%
3時間後
27%
10%
98%
0%
4%
0%
17%
網目通過個体は観察されず
4時間後
0%
23%
-
5 6
小イサキ網目通過行動
表2 実験4における小イサキ羅網個体の相対体周胴長
目合い(mm)
羅網個体
尾叉長(cm)
体周胴長(cm)
相対体周胴長
60
50
1
20.5
12.5
1.07
1
18.5
11.1
1.12
2
18
10.6
1.06
3
18
10.7
1.08
実験4−2 分離網を用いた小イサキ分離試験
分離網に放した小イサキは直ちに網の底部に移動し,
群を形成した。これは実験1および3と同様であった。
網を徐々に引き上げる間,群は常に底部に分布し,分離
網を通過する個体は見られなかった。網の底部が水面直
下に達し,イケス内の遊泳場所がほとんど失われた状態
で,初めて網目を通過する個体がみられた。3回目の揚
網終了時には,小イサキはほとんど分離網内に残ってい
なかった。実験の終了後,網の回収中に残存個体の一部
を逃がしてしまい,残存個体数とその体長組成が得られ
なかった。
考 察
網内行動
海上に設置した5m四方のイケスにおいて,小イサキ
はイケスの下層に群れで分布する傾向があった。イケス
内の行動をそのまま定置網に当てはめることはできない
が,定置網の網締め時に水中ビデオカメラを用いた魚群
行動の観察を行ったところ,小イサキは他魚種に比べて
箱網の底部に分布する傾向が顕著であった(石黒未発
表)
。また箱網内に設置された魚群監視装置(古野電気株
式会社製テレサウンダーTS-1200)の魚探映像から,イ
サキはソウダガツオやイワシ類といった旋回性の魚種と
比較して魚群監視装置に映りにくかった(石黒未発表)
。
これは魚群監視装置の探査範囲内を小イサキが遊泳せ
ず、箱網の隅や、網底面近辺の音波の残響内に分布して
いた可能性を示唆している。
網目通過行動
実験2から,人為的に刺激を与えなくても網目を通過
する小イサキの大きさを推定した。目合9 0 m m では1個
体を除き全て網目を通過した(通過率98%)。このため
目合9 0 m m の網目は,尾叉長2 0 c m 以下の小イサキに
とっては十分通過可能であると考えられる。目合6 0 m m
の網目を用いた実験において,網目通過率は最大34%で
あった。供試魚のうち小さいものから34%が網目を通過
したと仮定すれば,図2の尾叉長組成から、尾叉長
16cm,相対体周胴長0.77までの大きさの個体ならば,人
為的な刺激を与えずとも網目を通過する可能性がある。
海上に設置したイケス(実験3)では,供試魚が実験2
と比べてより小さい個体であったにもかかわらず,目合
6 0 m m のイケスにおいては網目通過個体がみられなかっ
た。実験2の水槽内における小イサキの密度が29∼37個
体/m 3 であったのに対し,実験3のイケスでは密度が
2.4∼2.5個体/m3と大幅に低かった。イサキの網目通過
にはイサキの密度が影響する可能性があろう。
分離網による小イサキ分離の試み
分離網1(図5)の網内周長は8 4 m m であったので,
実験4−1から,相対体周胴長1.05以下,尾叉長15cm以
下の個体ならば網目を通過できると考えられる。分離網
が海面付近まで引き上げられたとき,多くの小イサキが
同時に網目を通過したことから,実際の操業において
は,箱網が十分に絞られた段階で小イサキが分離網を通
過することが期待される。
網目を通過する際に魚は擦れを受けると考えられる。
マアジではタモ網で選別した際に多くの個体が擦れを受
けその後斃死した1)とされ,擦れはその後の生残に悪影
響を及ぼすと考えられる。本研究で使用した小イサキ
は,定置網で漁獲された際に網締めとタモで掬われたこ
とによる擦れを受けた。さらに実験4−1を行った後に
は多くの個体が腹部に環状の締め跡や内出血を生じた。
しかし翌日には跡が消えその後斃死した個体もみられな
かった。このことからも,本種が分離網や箱網の目合拡
大などの手法による不合理漁獲の防止と資源保護に適し
た魚種であるといえよう。
小イサキと同時期に漁獲される魚種のうち,分離網1
を通過する可能性が高い魚種はカタクチイワシと小型の
ヤマトカマスおよびマアジである1)。カタクチイワシは
分離網2(図5)により選別できる。マアジおよびヤマ
トカマスは現在のところ小イサキとの選別が困難であ
る。小イサキの漁獲が特に多い時期に限って分離網を使
用する等の工夫が必要であろう。
謝 辞
調査研究全般にわたりご支援をいただきました小田原
市漁業協同組合長椎野様(当時)と同漁協職員の皆様,
および同米神漁場松本大船頭ならびに従業員の皆様,小
田原魚市場様と小田原市水産海浜課様,日渉丸漁場様,
神奈川県漁業調査船うしおと相模湾試験場職員の皆様に
厚く御礼申し上げます。
引用文献
1)神奈川県,富山県,石川県,京都府(1997):定置網
漁業における混獲幼稚魚の適正管理に関する研究成
果報告書,204pp.
2)上野陽一郎(1998):ミニシンポジウム 沿岸漁業に
おける漁具の選択性− Ⅱ 定置網,日水誌,64(5),
896−897.
3)上野陽一郎(1997):大型定置網の資源管理Ⅰ−幼稚
魚の漁獲状況と網目選択性−,ていち,90,12-26.
4)上野陽一郎(1997):大型定置網の資源管理Ⅱ−経済
性の検討−,ていち,91,19-24.
5)上野陽一郎(1997):大型定置網の資源管理Ⅲ−目合
拡大のシミュレーション,ていち,92,48-59.
6)戸嶋孝・藤田眞吾(1997):箱網揚網実験によるマダ
イ幼魚の網目選択性,日水誌,63(3),333-339.
5 7
神水研研報第8号(2003)
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
西 栄二郎・工藤 孝浩
Fauna of Polychaetous Annelids in Odawa Bay, Central Japan
Eijiroh NISHI* ・ Takahiro KUDO**
Abstract
The faunal survey of the polychaetous annelids was conducted in Odawa Bay on the western coast
of Miura peninsula. Polychaete collections by sediment sampling were conducted during 2001 to 2002.
A total of 7881 polychaete specimens containing 37 families and 102 species were collected under 54
times of sampling. The dominant species are Scoletoma longifolia (Imajima & Kikuchi), Myriochele oculata
Zaks, Polydorid sp., Praxillella praetermissa (Malmgren), Heteromastus sp. and Chone sp.
はじめに
本邦産多毛類については,分類学的な研究とともに生
態や生活史に関する研究も盛んである。今島1)は日本産
多毛類の総数を930種以上と記述しており,近年も初記
録種や未記載種の発見が相次いでいる。多毛類の研究は
その生物学的価値ももちろんであるが,水産学的にも重
要であり,近年その必要性が議論されている。例えば魚
類や養殖海老の餌としての重要性が挙げられ,その基礎
としての多毛類の分類的,生態的知見の必要性が叫ばれ
ているのである。藻場の生態系の重要な構成員であるこ
の多毛類について,他の生物群と比較して本県沿岸では
これまでわずかな研究しか行われてこなかった。
相模湾に面する小田和湾の海草藻場は,関東近海で最
大の規模を誇り,アマモやタチアマモ,コアマモ,ウミ
ヒルモで構成されている2,3)。この場所において,古く
より様々な研究が行われ,生物相や生態系についての多
くの知見が集積されている 4)。底生生物についてはいく
つかの研究例があるものの5),種類数,現存量において
最大と思われる多毛類について,この藻場ではほとんど
研究されてこなかった。そこで今回我々は関東近海の海
草藻場において,その生態系に多大な貢献をしていると
予想される多毛類の分布と種組成についての基礎的な調
査を行ったので,ここに報告する。
調査方法
調査を行った小田和湾は三浦半島西岸,逗子市南方に
位置し,最大水深が10m前後と浅く,波当たりが弱い半
閉鎖型の小湾である3)。この湾内には広い範囲に海草藻
場が広がっている。その海草藻場の中に9地点の調査ポ
イント(St.1∼9)を設置し(図1),2001年5月28日,
10月12日,2002年5月23日に現地調査を行った。標本
の採集方法は水産庁漁場保全課が定めた調査指針6)に基
づき,エクマンバージ型採泥器(採泥面積1/44m2)を用
いて2回分の採取底泥をあわせて1サンプルとし,これ
を調査地点毎に2サンプルづつ採取した。採集した底泥
は船上において篩目1m m の篩で泥と底生生物を選り分
け,10%海水フォルマリンで固定した後,神奈川県水産
総合研究所の実験室内で多毛類を選別した。多毛類は属
または種レベルに同定し,湿重量を測り,70%エタノー
ルに移した後,各種ごとに保存した。今回分析した多毛
類標本のうち,各種1から数10個体は千葉県立中央博物
館分館海の博物館に登録・保管した。残りの標本は神奈
川県水産総合研究所と横浜国立大学に保存されており,
小田和湾海草藻場の調査が終了した際には,すべて上記
の海の博物館に登録する予定である。今回解析したのは
2001年と2002年のサンプルであるが,神奈川県水産総
合研究所に未同定のまま保管されている他のサンプルに
ついては,今回同定出来なかった標本とあわせて別途報
告する。
今回の解析に際して,多毛類(=多毛綱)全体の分類
体系と科名に関しては三浦・白山7),GLASBY et al. 8),
ROUSE・PLEIJEL 9),三浦 10)を参考にし,属の検索に
ついてはFAUCHALD 11)とDAY 12)を参考にした。個々の
科については以下の文献を元に属または種までの同定を
2003. 3. 5 受理 神水研業績 №02-112
脚注* 横浜国立大学教育人間科学部附属理科教育実習施設 〒259-0202 足柄下郡真鶴町岩61
**
栽培技術部
5 8
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
行った;イソメ科−MIURA 13),サシバゴカイ科−KATO
et al. 14),KATO・PLEIJEL 15),ゴカイ科,シリス科,チマ
キゴカイ科−今島 16),ハボウキゴカイ科,ミズヒキゴカ
イ科−内田 17),オトヒメゴカイ科−内田 17),PLEIJEL 18),
スピオゴカイ科−今島 16),SATO-OKOSHI 19,20),ケヤリ
ムシ科−I M A J I M A ・H A R T M A N 2 1 ),F I T Z H U G H 2 2 ),フ
サゴカイ科−内田 17 ),IMAJIMA・HARTMAN 21 ),カギ
ゴカイ科,ギボシイソメ科−今島6),モロテゴカイ科−
KITAMORI 23),ウミイサゴムシ科−KITAMORI 24),ヒ
トエラゴカイ科−T A M A I 2 5 ),オフェリアゴカイ科−
SAITO et al. 26),チロリ科−BOGGEMANN・FIEGE 27),
B O G G E M A N N 2 8 )。
結 果
今回採集した54サンプルから計37科102種がえられた
(表1)
。高頻度に出現したのはマナコチマキゴカイ,イ
トゴカイ科の1種 Heteromastus sp., ポリドラ類の1種
Polydorid sp.B, カタマガリギボシイソメ,ウリザネタケ
フシゴカイ,ミナミシロガネゴカイ,クシカギゴカイ,
ミズヒキゴカイ科の1種 Chaetozone sp., クビワケヤリ属
の1種などである(表1,2)。
海草藻場にみられた37科の中でもっとも種数が多かっ
たのはスピオゴカイ科で20種,ついでサシバゴカイ科の
9種であった(表1)。各St.では37∼51種が確認された
(表2)。各サンプルで8∼26種が確認され,平均で17
種であった(表3)。
出現個体数が顕著に多かったのはマナコチマキゴカイ
Fig.1
図1
と Heteromastus sp. であり,両種ともに1000個体以上が
出現し,次いでポリドラ類の1種とカタマガリギボシイ
ソメが600個体以上確認された(表1)。これら4種で総
個体数の6割以上を占める(表1)
。マナコチマキゴカイ
は2001年10月のSt.7-2においては482個体が採集さ
れ,100個体以上採集された地点が5カ所と,群居して
出現していた(表3)。
出現種の重量に関しては,フサゴカイ科の1種
Streblosoma cf. japonicaの総重量に占める割合が最も高
く,約27%,次いでカタマガリギボシイソメの約12%で
あった(表1)
。個体数の多いマナコチマキゴカイやイト
ゴカイ科の種よりも,1個体の体重が重いナガオタケフ
シゴカイやチロリ,フサゴカイ類やギボシイソメ類の占
める割合が大きい傾向がみられた(表1)。
2002年5月の調査では前年の2回よりも総個体数が減
少していたが,出現種数と総重量においてはほとんど差
がなかった(表2)
。また,個体数の多い上位5種の種組
成もほぼ同じであった(表2)
。各採集地点別では,北西
部のSt.6とSt.7で個体数が顕著に多い傾向があるが,総
重量では松越川の河口に近いSt.3とSt.4に現存量が多い
傾向がある(表2)。一方,出現種数,現存量共に最小
だったのは松越川河口のSt.8であった(表2)
.
なお,日本産多毛類をすべて網羅した文献はなく,ま
だ分類学的検討が行われていない分類群,例えばフサゴ
カイ科,ケヤリムシ科など,もあり,今回すべての標本
を種または亜種レベルで同定することは出来なかった。
Sampling point of polychaetous annelids in Odawa Bay.
小田和湾における多毛類調査地点
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
15
16
17
18
カギゴカイ
チロリ
ニカイチロリ
スピオゴカイ
13 カギアシゴカイ
14 シロガネゴカイ
12 サシバゴカイ
11 ギボシイソメ
10 オトヒメゴカイ
8 タンザクゴカイ
9 ノラリウロコムシ
7 ウロコムシ
5 セグロイソメ
6 シリス
4 ノリコイソメ
3 ナナテイソメ
2 ゴカイ科
1 イソメゴカイ
科 名
ヤリブスマ
(イソメゴカイ科の1種)
ヒメゴカイ
ツルヒゲゴカイ
オウギゴカイ
ヒンサイイソメ
スゴカイイソメ
ルドルフイソメ
ナガヒゲイソメ
(セグロイソメ科の1種)
ケナガシリス
ムラサキシマシリス
ユビシリス
(Typosyllis sp.)
テンケイウロコムシ
ヤスリウロコムシ
(ウロコムシ科の1種)
タンザクゴカイ
(ノラリウロコムシ科の1種A)
(ノラリウロコムシ科の1種B)
モグリオトヒメゴカイ
ミクロオトヒメゴカイ
(オトヒメゴカイ科の1種)
(Poderkeopsis sp.)
(オトヒメゴカイ科の1種)
カタマガリギボシイソメ
(Lumbrineris sp.)
ホソミサシバゴカイ
(サシバゴカイ科の1種)
(サシバゴカイ科の1種)
(Paranaites sp.)
(Phyllodoce elongata )
(Phyllodoce koreana )
(Phyllodoce longepes )
ライノサシバゴカイ
(Phyllodoce papillosa )
カギアシゴカイ
コクテンシロガネゴカイ
ミナミシロガネゴカイ
クシカギゴカイ
チロリ (Glycinde sp.)
ケンサキスピオ
ミミスピオ
ヨツバネスピオA型
(ポリドラ類の1種A)
(ポリドラ類の1種B)
ミミスピオ
ミツバネスピオ
ソデナガスピオ
標準和名*
Polydorid sp. A
Polydorid sp. B
Prionospio cf. casperi Laubier, 1962
Prionospio cf. krusadensis Fauvel, 1929
Prionospio depauperata Imajima, 1990
Scoletoma longifolia (Imajima and Higuchi, 1975)
Lumbrineris sp.
Eteone cf. longa (Fabricius, 1780)
Eumida sp.
Mysta ctena Kato et al., 2001
Paranaites sp.
Phyllodoce elongata (Imajima, 1967)
Phyllodoce koreana (Lee and Jae, 1985)
Phyllodoce longepes Kinberg, 1866
Phyllodoce maculata (Linnaeus, 1767)
Phyllodoce papillosa Ushakov and Wu, 1959
Paralacydonia paradoxa Fauvel, 1913
Nephtys neopolybranchia Imajima and Takeda, 1987
Nephtys polybranchia Southern, 1921
Sigambra phuketensis Licher and Westheide, 1997
Glycera cf. nicobarica Grube, 1868
Glycinde sp.
Aonides oxycephala (Sars, 1862)
Apoplyonospio dayi japonica Imajima, 1989
Paraprionospio sp. A
Hesionidae sp.
Eunice indica Kinberg, 1865
Eunice sp.
Neanthes caudata (delle Chiaje, 1828)
Platynereis bicanaliculata (Baird, 1863)
Nectoneanthes latipoda Paik, 1973
Kinbergonuphis sp. sensu Imajima, 2001
Diopatra sugokai Izuka, 1907
Schistomeringos rudolphi (Delle Chiaje, 1828)
Protodorvillea kefersteini (McIntosh, 1869)
Drilonereis robustus (Moore, 1903)
Langerhansia cornuta (Rathke, 1843)
Trypanosyllis taeniaformis (Haswell, 1886)
Exogone breviantennata Hartman-Schroder, 1959
Typosyllis sp.
Harmothoe cf. extenuata (Grube, 1840)
Harmothoe praeclara (Haswell, 1883)
Harmothoe sp.
Chrysopetalum occidentale Johnson, 1897
Sthenelais sp. A
Sthenelais sp. B
Ophiodromus angustifrons (Grube, 1878)
Micropoderke dubia (Hessle, 1923)
Micropoderke sp.
Poderkeopsis sp.
学 名
16
1
11
7
1
8
2
9
2
6
5
2
1
13
1
1
5
1
5
2
6
1
1
19
3
44
3
8
15
9
3
11
6
2
5
4
1
5
36
33
25
1
5
3
31
5
44
10
9
2
出現頻度
60
1
31
18
1
63
2
19
6
8
5
2
1
43
1
1
5
1
5
3
13
2
2
22
5
768
6
17
18
12
3
18
7
2
7
5
2
22
136
301
42
1
7
7
128
9
972
21
69
3
出現個体数
0.76
0.01
0.39
0.23
0.01
0.80
0.03
0.24
0.08
0.10
0.06
0.03
0.01
0.55
0.01
0.01
0.06
0.01
0.06
0.04
0.16
0.03
0.03
0.28
0.06
9.74
0.08
0.22
0.23
0.15
0.04
0.23
0.09
0.03
0.09
0.06
0.03
0.28
1.73
3.82
0.53
0.01
0.09
0.09
1.62
0.11
12.33
0.27
0.88
0.04
3.75
1.00
2.82
2.57
1.00
7.88
1.00
2.11
3.00
1.33
1.00
1.00
1.00
3.31
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.50
2.17
2.00
2.00
1.16
1.67
17.45
2.00
2.13
1.20
1.33
1.00
1.64
1.17
1.00
1.40
1.25
2.00
4.40
3.78
9.12
1.68
1.00
1.40
2.33
4.13
1.80
22.09
2.10
7.67
1.50
総個体数に占める% 個体数/出現地点
Table 1 Species list, abundance and biomass of polychaetous annelids in Odawa Bay.
表1 小田和湾の海草藻場に産する多毛類のリストと出現頻度,総個体数,総重量,総個体数または総重量に占める割合(%).
*
標準和名の無い種や種まで未同定の場合は( )内に学名,∼の1種または∼sp. と記した。
0.50
0.01
0.24
0.44
0.01
0.52
0.03
0.09
0.02
0.06
0.05
0.02
0.01
0.13
0.01
0.01
0.11
0.02
0.16
0.16
0.09
0.01
0.01
0.19
0.04
5.49
0.12
0.08
0.14
0.09
0.03
0.11
0.06
0.02
0.05
0.08
0.01
0.18
0.45
0.38
2.41
0.01
0.05
0.03
4.18
0.07
1.60
0.10
0.10
0.02
総重量(g)
1.10
0.02
0.53
0.97
0.02
1.15
0.07
0.20
0.04
0.13
0.11
0.04
0.02
0.29
0.02
0.02
0.24
0.04
0.35
0.35
0.20
0.02
0.02
0.42
0.09
12.11
0.26
0.18
0.31
0.20
0.07
0.24
0.13
0.04
0.11
0.18
0.02
0.40
0.99
0.84
5.32
0.02
0.11
0.07
9.22
0.15
3.53
0.22
0.22
0.04
総重量に占める%
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
5 9
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
ヒトエラゴカイ
タマシキゴカイ
ハボウキゴカイ
オフェリアゴカイ
37 カンザシゴカイ
35 カザリゴカイ
36 ケヤリムシ
33 ウミイサゴムシ
34 フサゴカイ
32 ミズヒキゴカイ
29 コブゴカイ
30 トックリゴカイ
31 ヒメエラゴカイ
28 ツバサゴカイ
24
25
26
27
22 ホコサキゴカイ
23 イトゴカイ
21 チマキゴカイ
20 タケフシゴカイ
19 モロテゴカイ
18 スピオゴカイ
科 名
標準和名*
エリタテスピオ
マクスピオ
イトエラスピオ
フタエラスピオ
(スピオゴカイ科の1種)
(Pseudopolydora sp.)
ヒゲスピオ
シュモクスピオ
ヤムシスピオ
チギレマクスピオ
マドカスピオ
エラナシスピオ
モロテゴカイ
(Magelona sp.)
ナガオタケフシゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
(Maldane sp. )
(Aschis sp.)
チマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
(ホコサキゴカイ科の1種)
イトゴカイ
(Heteromastus sp.)
(Mediomastus sp.)
(Notomastus sp.)
(Cossura sp.)
タマシキゴカイ
チロリハボウキゴカイ
ツツオオフェリア
カスリオフェリア
(ツノツバサゴカイ属の1種)
アシビキツバサゴカイ
アワコブゴカイ
トウキョウトックリゴカイ
サンカクヒメエラゴカイ
ニホンヒメエラゴカイ
(ミズヒキゴカイ科の1種)
ミズヒキゴカイ (Chaetozone sp.)
(Tharyx sp.)
ウミイサゴムシ
(Polycirrus sp.)
(フサゴカイ科の1種)
(フサゴカイ科の1種)
(フサゴカイ科の1種)
(Melinna sp.)
(クビワケヤリ属の1種A)
(クビワケヤリ属の1種B)
(ケヤリムシ科の1種)
(Potamilla sp.)
(Sabellasterte sp.)
エゾカサネカンザシ
多毛類の断片
Table 1 (continued)
学 名
総計
Hydroides ezoensis Okuda, 1934
Terebellidae sp.
Terepus sp.
Melinna sp.
Chone sp. A
Chone sp. B
Euchone sp.
Potamilla sp.
Sabellasterte sp.
Prionospio membranacea Imajima, 1990
Prionospio paradisea Imajima, 1990
Prionospio pulchla Imajima, 1990
Prionospio sexoculata Augener, 1918
Prionospio sp.
Pseudopolydora sp.
Rhychospio glutaea (Ehlers, 1897)
Rhychospio tuberculata Imajima, 1991
Scolelepis sagittaria Imajima, 1992
Scolelepis texana Foster, 1971
Spio filicornis (Muller, 1766)
Spiophanes bombyx (Claparede, 1870)
Magelona cf. japonica Okuda, 1937
Magelona sp.
Praxillella pacifica Berkeley, 1929
Praxillella praetermissa (Malmgren, 1866)
Maldane sp.
Aschis sp.
Owenia fusiformis Delle Chiaje, 1842
Myriochele oculata Zaks, 1922
Phyllo sp.
Capitela sp.
Heteromastus sp.
Mediomastus sp.
Notomastus sp.
Cossura sp.
Arenicola brasiliensis Nonato, 1958
Brada villosa (Rathke, 1843)
Armandia amakusaensis Saito et al., 2000
Polyophthalmus pictus (Dujardin, 1839)
Phyllochaetopterus sp.
Spiochaetopterus cf. okudai Gitay, 1969
Sphaerodoropsis minuta (Webster and Benedict, 1887)
Poecilochaetus cf. tokyoensis Imajima, 1989
Aricidea eximia Imajima, 1973
Paradoneis cf. nipponica (Imajima, 1973)
Caulleriella sp.
Cirriformia comosa (Marenzeller, 1879)
Chaetozone sp.
Tharyx sp.
Lagis bocki (Hessle, 1917)
Polycirrus sp.
Streblosoma cf. japonica Hessle, 1917
1
1
13
6
4
1
3
1
6
1
17
10
4
3
23
35
4
2
28
23
2
9
46
5
10
4
1
13
6
1
1
4
1
1
16
19
9
4
42
3
5
20
1
14
2
1
34
4
12
2
2
1
出現頻度
7881
1
1
36
13
6
2
4
1
7
2
41
16
4
8
82
424
19
6
61
1879
2
50
1122
23
14
4
1
27
15
1
1
5
1
1
101
219
19
5
325
10
10
125
1
64
3
1
186
6
18
2
2
1
出現個体数
0.01
0.01
0.46
0.16
0.08
0.03
0.05
0.01
0.09
0.03
0.52
0.20
0.05
0.10
1.04
5.38
0.24
0.08
0.77
23.84
0.03
0.63
14.24
0.29
0.18
0.05
0.01
0.34
0.19
0.01
0.01
0.06
0.01
0.01
1.28
2.78
0.24
0.06
4.12
0.13
0.13
1.59
0.01
0.81
0.04
0.01
2.36
0.08
0.23
0.03
0.03
0.01
1.00
1.00
2.77
2.17
1.50
2.00
1.33
1.00
1.17
2.00
2.41
1.60
1.00
2.67
3.57
12.11
4.75
3.00
2.18
81.70
1.00
5.56
24.39
4.60
1.40
1.00
1.00
2.08
2.50
1.00
1.00
1.25
1.00
1.00
6.31
11.53
2.11
1.25
7.74
3.33
2.00
6.25
1.00
4.57
1.50
1.00
5.47
1.50
1.50
1.00
1.00
1.00
総個体数に占める% 個体数/出現地点
0.01
0.01
0.13
0.06
0.04
0.01
0.03
0.01
0.06
0.01
0.17
0.09
0.04
0.04
1.55
1.29
0.04
0.02
1.25
0.98
0.02
0.09
1.45
0.13
0.10
0.03
0.03
0.44
0.06
0.01
0.01
0.04
0.01
0.01
0.23
0.20
0.09
0.31
0.67
0.06
0.23
12.16
0.0
0.15
0.02
0.01
2.77
0.04
0.34
0.03
0.04
0.01
0.90
45.34
総重量(g)
0.02
0.02
0.29
0.13
0.09
0.02
0.07
0.02
0.13
0.02
0.37
0.20
0.09
0.09
3.42
2.85
0.09
0.04
2.76
2.16
0.04
0.20
3.20
0.29
0.22
0.07
0.07
0.97
0.13
0.02
0.02
0.09
0.02
0.02
0.51
0.44
0.20
0.68
1.48
0.13
0.51
26.82
0.02
0.33
0.04
0.02
6.11
0.09
0.75
0.07
0.09
0.02
総重量に占める%
6 0
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
調査サンプル数
54
18
18
18
6
6
6
6
6
6
6
6
6
調査日,調査ポイント
2001年5月∼2002年5月
2001年5月
2001年10月
2002年5月
St.1
St.2
St.3
St.4
St.5
St.6
St.7
St.8
St.9
44
39
47
45
41
51
48
37
41
102
73
70
77
総出現種数
7,881
2,549
3,593
1,739
618
669
411
565
611
1,297
2,466
644
600
総出現個体数
45.34
13.15
15.15
17.04
5.00
3.57
10.20
8.31
2.50
3.45
4.46
1.63
6.22
総重量(g)
イトゴカイ科の1種
カタマガリギボシイソメ
マナコチマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
マナコチマキゴカイ
イトゴカイ科の1種
イトゴカイ科の1種
ポリドラ類の1種
イトゴカイ科の1種
マナコチマキゴカイ
クシカギゴカイ
クシカギゴカイ
イトゴカイ科の1種
カタマガリギボシイソメ
ウリザネタケフシゴカイ
カタマガリギボシイソメ
カタマガリギボシイソメ
マナコチマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
ポリドラ類の1種
イトゴカイ科の1種
イトゴカイ科の1種
イトゴカイ科の1種
ポリドラ類の1種
2
マナコチマキゴカイ
1
イトゴカイ科の1種
カタマガリギボシイソメ
フサゴカイ科の1種
ミズヒキゴカイ科の1種
ヒンサイイソメ
ニホンヒメエラゴカイ
イトゴカイ科の1種
ポリドラ類の1種
カタマガリギボシイソメ
ウリザネタケフシゴカイ
カタマガリギボシイソメ
マナコチマキゴカイ
ポリドラ類の1種
優占種*
3
Table 2 Abundance, specie diversity and dominant species of polychaete at seagrass bed of Odawa Bay.
表2 各調査ポイント,調査日ごとの出現個体数と総重量,出現種数.*優占種は個体数の多い上位5種.
ミズヒキゴカイ科の1種
ミズヒキゴカイ科の1種
ポリドラ類の1種
ヨツバネスピオA型
チマキゴカイ
カタマガリギボシイソメ
ウリザネタケフシゴカイ
ミズヒキゴカイ科の1種
サンカクヒメエラゴカイ
イトゴカイ科の1種
ポリドラ類の1種
カタマガリギボシイソメ
カタマガリギボシイソメ
4
マナコチマキゴカイ
ミツバネスピオ
クシカギゴカイ
クシカギゴカイ
ミズヒキゴカイ科の1種
クビワケヤリ属の1種
カタマガリギボシイソメ
イトゴカイ
フサゴカイ科の1種
ポリドラ類の1種
ウリザネタケフシゴカイ
ニホンヒメエラゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
5
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
6 1
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
カギアシゴカイ
コクテンシロガネゴカイ
ミナミシロガネゴカイ
クシカギゴカイ
チロリ Glycinde sp.
ケンサキスピオ
ミミスピオ
ヨツバネスピオA型
ポリドラ類の1種A
ポリドラ類の1種B
ミミスピオ
ミツバネスピオ
ソデナガスピオ
Phyllodoce papillosa
ライノサシバゴカイ
Phyllodoce elongata
Phyllodoce koreana
Phyllodoce longepes
ヤリブスマ
イソメゴカイ科の1種
ヒメゴカイ
ツルヒゲゴカイ
オウギゴカイ
ヒンサイイソメ
スゴカイイソメ
ルドルフイソメ
ナガヒゲイソメ
セグロイソメ科の1種
ケナガシリス
ムラサキシマシリス
ユビシリス
Typosyllis sp.
テンケイウロコムシ
ヤスリウロコムシ
ウロコムシ科の1種
タンザクゴカイ
ノラリウロコムシ科の1種A
ノラリウロコムシ科の1種B
モグリオトヒメゴカイ
ミクロオトヒメゴカイ
オトヒメゴカイ科の1種
Poderkeopsis sp.
オトヒメゴカイ科の1種
カタマガリギボシイソメ
Lumbrineris sp.
ホソミサシバゴカイ
サシバゴカイ科の1種
サシバゴカイ科の1種
Paranaites sp.
調査日時
調査地点
0.01
0.01
1
5
0.01
0.02
13
1
0.12
1
0.01
0.03
1
5
0.01
0.25
W
4
23
2001.05.
1-1
1-2
N
W
N
3 0.01
0.01
0.01
0.01
1
1
1
0.01
0.01
0.01
0.01
1
2
1
0.02
0.01
3
7
0.01
1
W
17
2-1
N
32
8
1
0.02
0.01
0.04
0.01
0.01
1
1
0.02
5
0.01
0.01
0.01
1
1
0.01
0.01
W
6
1
10
2-2
N
1
1
0.01
0.02
0.02
0.01
1
1
10
3
0.01
0.01
0.01
0.12
0.01
0.01
W
2
8
1
16
3-1
N
1
2
3
7
27
3-2
N
0.01
0.01
0.57
0.01
0.19
W
18
4
8
1
1
2
32
0.01
0.20
0.01
0.19
0.01
0.01
0.24
4-1
N
W
2
11
4
4
2
1
22
1
0.01
0.88
0.01
0.01
0.10
0.01
0.15
0.07
4-2
N
W
5-1
N
1
1
1
2
1
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
Table 3 Number of species and weight of polychaete at segrass bed of Odawa Bay.
表3 小田和湾海草藻場に産する多毛類.Nは個体数,Wは重量(g).
1
1
1
1
35
5-2
N
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
2
10
2
1
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
2
0.01
0.01
0.01
1
6
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
2
1
1
3
28
1
1
3
2
5
2
1
1
3
1
4
3
340
6-2
7-1
W
N
W
N
4 0.01
2 0.01
18
6-1
N
0.01
0.11
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
185
3
5
4
2
3
2
0.90
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
1
10
0.01
0.01
7
5
7-2
N
W
8-1
N
3
3
1
3
2
2
0.01
0.01
0.01
0.01
0.05
0.01
W
1
6
1
5
1
2
16
8-2
N
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
3
1
1
2
3
8
2
8
1
2
0.05
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.45
0.02
0.01
0.01
9-1
N
W
1
1
5
5
8
8
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
9-2
N
W
6 2
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
No.
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
エリタテスピオ
マクスピオ
イトエラスピオ
フタエラスピオ
スピオゴカイ科の1種
Pseudopolydora sp.
ヒゲスピオ
シュモクスピオ
ヤムシスピオ
チギレマクスピオ
マドカスピオ
エラナシスピオ
モロテゴカイ
Magelona sp.
ナガオタケフシゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
Maldane sp.
Aschis sp.
チマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
ホコサキゴカイ科の1種
イトゴカイ
Heteromastus sp.
Mediomastus sp.
Notomastus sp.
Cossura sp.
タマシキゴカイ
チロリハボウキゴカイ
ツツオオフェリア
カスリオフェリア
ツノツバサゴカイ属の1種
アシビキツバサゴカイ
アワコブゴカイ
トウキョウトックリゴカイ
サンカクヒメエラゴカイ
ニホンヒメエラゴカイ
ミズヒキゴカイ科の1種
ミズヒキゴカイ Chaetozone sp.
Tharyx sp.
ウミイサゴムシ
Polycirrus sp.
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
Melinna sp.
クビワケヤリ属の1種A
クビワケヤリ属の1種B
ケヤリムシ科の1種
Potamilla sp.
Sabellasterte sp.
エゾカサネカンザシ
多毛類の断片
総個体数,総重量
出現種数
調査日時
調査地点
0.01
0.01
0.06
0.05
0.01
0.01
0.04
0.01
0.01
0.31
0.02
0.01
0.94
1
1
18
3
8
8
1
1
5
2
3
3
118
22
2002.05.
1-1
N
W
Table 3 (continued)
132
18
7
5
3
10
3
20
1.41
0.03
0.72
0.02
0.02
0.12
0.01
0.02
0.09
1
30
0.01
0.01
0.01
1
1
W
2
1-2
N
0.53
0.01
1
145
21
0.01
0.01
6
9
0.01
0.01
1
1
0.02
0.01
1
2
0.01
0.03
0.24
3
40
5
45
2-1
N
W
113
18
5
9
1
1
5
5
1
18
5
30
0.59
0.01
0.01
0.01
0.01
0.05
0.01
0.02
0.01
0.05
0.19
2-2
N
W
0.01
0.02
0.01
0.03
1.44
0.01
0.05
0.03
0.07
0.01
0.01
0.10
0.01
0.01
0.50
77 2.25
26 1
3
1
1
7
3
7
1
9
1
1
1
2
3
3-1 N
W
98
21
4
2
8
2.74
0.01
0.01
1.45
0.02
0.02
0.01
0.01
1
10
14
1
0.13
0.02
0.51
0.01
0.01
6
8
2
2
1
3-2
N
W
92
13
1
5
2
2
1
19
4
1.71
0.10
0.66
0.01
0.01
0.01
0.06
0.01
4-1
N
W
72
14
1
1
1
18
3
3
1
0.79
0.01
0.01
0.01
0.04
0.03
0.01
0.01
4-2
N
W
131
14
1
1
1
3
0.48
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.13
0.03
5
85
2
0.01
2
5-1
N
W
87
15
3
2
2
1
1
0.33
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.06
0.02
0.01
0.01
1
1
2
62
0.01
1
5-2
N
W
1
3
1
138
22
35
17
20
2
18
6-1
N
0.87
0.58
0.03
0.02
0.03
0.01
0.01
0.01
0.01
W
191
21
20
1
1
2
1
1
10
10
2
50
1
11
6-2
N
0.81
0.29
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.02
0.03
0.02
0.01
0.01
W
1
4
3
1
1
1
2
21
14
7-1
N
0.19
0.01
0.02
0.01
0.02
0.01
0.01
0.03
W
2
6
1
14
6
7-2
N
0.06
0.01
0.01
0.01
W
4
42
11
2
2
9
1
10
8-1
N
0.38
0.26
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
4
1
1
2
20
21
9
8-2
N
0.03
0.10
0.02
0.01
0.02
0.01
W
15
113
22
2
2
3
0.05
0.95
0.01
0.02
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
3
1
9
0.27
0.01
0.01
W
7
8
1
1
22
9-1
N
1
4
4
1
1
12
136
23
1
4
3
12
3
2
20
9-2
N
0.06
0.95
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.12
0.01
0.01
0.01
W
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
6 7
No.
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
エリタテスピオ
マクスピオ
イトエラスピオ
フタエラスピオ
スピオゴカイ科の1種
Pseudopolydora sp.
ヒゲスピオ
シュモクスピオ
ヤムシスピオ
チギレマクスピオ
マドカスピオ
エラナシスピオ
モロテゴカイ
Magelona sp.
ナガオタケフシゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
Maldane sp.
Aschis sp.
チマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
ホコサキゴカイ科の1種
イトゴカイ
Heteromastus sp.
Mediomastus sp.
Notomastus sp.
Cossura sp.
タマシキゴカイ
チロリハボウキゴカイ
ツツオオフェリア
カスリオフェリア
ツノツバサゴカイ属の1種
アシビキツバサゴカイ
アワコブゴカイ
トウキョウトックリゴカイ
サンカクヒメエラゴカイ
ニホンヒメエラゴカイ
ミズヒキゴカイ科の1種
ミズヒキゴカイ Chaetozone sp.
Tharyx sp.
ウミイサゴムシ
Polycirrus sp.
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
Melinna sp.
クビワケヤリ属の1種A
クビワケヤリ属の1種B
ケヤリムシ科の1種
Potamilla sp.
Sabellasterte sp.
エゾカサネカンザシ
多毛類の断片
総個体数,総重量
出現種数
調査日時
調査地点
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.29
1
1
9
1
5
11
1
1
10
4
3
71
17
2001.05.
1-1
N
W
Table 3 (continued)
95
12
10
0.48
0.05
0.02
0.05
2
20
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
W
4
2
5
2
17
1-2
N
2
1
1
1
3
1
7
3
64
19
10
2-1
N
0.50
0.31
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
3
1
3
1
2
4
108
20
10
7
10
2-2
N
0.62
0.36
0.03
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
2
0.01
0.01
1
1
1.21
0.01
0.01
1
2
93
24
0.01
0.59
0.01
0.01
1
2
2
6
0.03
0.12
0.01
0.14
0.01
1
1
2
0.01
W
2
25
3-1
N
1
1
1
1
4
90
16
12
12
3
4
1
10
3-2
N
2.58
0.20
1.46
0.01
0.01
0.04
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
W
1.04
0.17
5
118
14
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.13
0.01
0.01
10
1
1
2
1
30
1
1
4-1
N
W
83
15
2
3
7
3
18
1
1
1.40
0.01
0.08
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.29
21
14
0.03
0.01
0.03
0.03
1
2
1
0.01
0.10
4
3
0.01
0.01
0.01
1
1
1
W
1
5-1
4-2
N
N
W
1 0.01
1
1
1
1
3
46
10
5-2
N
0.13
0.01
0.01
0.01
0.04
0.01
W
3
2
1
289
16
5
2
2
25
35
2
175
6-1
N
0.16
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
2
240
22
2
5
8
81
2
25
4
58
6-2
N
0.36
0.14
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
2
2
1
527
20
2
2
1
2
7
120
2
26
7-1
N
0.54
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.23
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
W
405
24
3
2
5
20
2
125
2
5
6
3
1
4
1.50
0.06
0.01
0.01
0.01
0.01
0.33
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
7-2
N
W
0.12
0.01
1
27
8
0.01
W
12
8-1
N
0.01
3
52
14
2
1
2
0.14
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
1
1
10
8-2
N
110
21
1
1
13
5
10
16
2
16
13
1
1
1.38
0.01
0.01
0.59
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.11
0.01
0.01
9-1
N
W
108
18
1
5
23
2
4
10
2
1
12
4
15
1
0.86
0.01
0.01
0.65
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.02
0.02
0.01
9-2
N
W
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
6 3
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
カギアシゴカイ
コクテンシロガネゴカイ
ミナミシロガネゴカイ
クシカギゴカイ
チロリ Glycinde sp.
ケンサキスピオ
ミミスピオ
ヨツバネスピオA型
ポリドラ類の1種A
ポリドラ類の1種B
ミミスピオ
ミツバネスピオ
ソデナガスピオ
Phyllodoce papillosa
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
2
3
1
2
1
0.01
1
1
2
2
1
18
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.10
1
5
1
3
8
25
0.01
0.01
0.01
0.02
0.02
0.33
5
1
1
1
1
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.27
0.01
0.01
1
10
2
0.01
8
2
1
2
1
0.01
0.01
0.01
0.01
0.25
3-2
N
1
3
1
15
0.03
0.01
0.20
0.01
W
3
10
10
6
1
1
1
1
2
1
0.01
0.40
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.14
0.01
4-1
N
W
1
ライノサシバゴカイ
1
0.01
0.32
1
34
0.01
17
W
Phyllodoce elongata
Phyllodoce koreana
Phyllodoce longepes
0.01
0.01
1
1
1
0.01
3-1
N
0.01
0.01
1
W
1
1
0.01
2
0.01
2-2
N
0.16
2
W
26
2001.10.
1-1
1-2
2-1
N
W
N
W
N
1 0.01
12 0.02
ヤリブスマ
イソメゴカイ科の1種
ヒメゴカイ
ツルヒゲゴカイ
オウギゴカイ
ヒンサイイソメ
スゴカイイソメ
ルドルフイソメ
ナガヒゲイソメ
セグロイソメ科の1種
ケナガシリス
ムラサキシマシリス
ユビシリス
Typosyllis sp.
テンケイウロコムシ
ヤスリウロコムシ
ウロコムシ科の1種
タンザクゴカイ
ノラリウロコムシ科の1種A
ノラリウロコムシ科の1種B
モグリオトヒメゴカイ
ミクロオトヒメゴカイ
オトヒメゴカイ科の1種
Poderkeopsis sp.
オトヒメゴカイ科の1種
カタマガリギボシイソメ
Lumbrineris sp.
ホソミサシバゴカイ
サシバゴカイ科の1種
サシバゴカイ科の1種
Paranaites sp.
調査日時
調査地点
Table 3 (continued)
2
10
1
2
1
29
1
1
1
0.02
0.16
0.01
0.01
0.01
0.30
0.01
0.01
0.15
4-2
N
W
5-1
N
1
8
1
3
0.01
0.02
0.01
0.10
0.01
0.01
1
1
0.01
2
1
2
1
10
1
0.01
0.01
0.01
0.06
0.01
5
6
6
1
1
2
15
1
1
1
5-2
6-1
W
N
W
N
1 0.01
3 0.06
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
0.07
0.01
0.01
0.01
W
10
8
27
2
1
3
6-2
N
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
81
8
8
13
2
25
15
2
2
7-1
N
0.05
0.03
0.02
0.01
0.01
0.20
0.04
0.01
0.01
W
65
6
10
35
1
1
1
1
2
1
2
1
1
69
12
14
4
0.06
0.03
0.01
0.01
0.47
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.42
0.06
0.01
0.02
7-2
N
W
11
4
1
1
3
1
1
4
0.01
0.04
0.01
0.01
0.01
0.01
0.15
0.19
37
4
2
10
30
2
5
1
1
1
1
1
4
8-1
8-2
N
W
N
11 0.05
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
0.05
W
2
1
10
1
14
1
0.02
0.01
0.01
0.01
0.2
0.01
2
10
2
13
5
2
0.01
0.25
0.01
0.01
0.01
0.01
9-1
9-2
N
W
N
W
1 0.01
6 4
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
No.
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
エリタテスピオ
マクスピオ
イトエラスピオ
フタエラスピオ
スピオゴカイ科の1種
Pseudopolydora sp.
ヒゲスピオ
シュモクスピオ
ヤムシスピオ
チギレマクスピオ
マドカスピオ
エラナシスピオ
モロテゴカイ
Magelona sp.
ナガオタケフシゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
Maldane sp.
Aschis sp.
チマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
ホコサキゴカイ科の1種
イトゴカイ
Heteromastus sp.
Mediomastus sp.
Notomastus sp.
Cossura sp.
タマシキゴカイ
チロリハボウキゴカイ
ツツオオフェリア
カスリオフェリア
ツノツバサゴカイ属の1種
アシビキツバサゴカイ
アワコブゴカイ
トウキョウトックリゴカイ
サンカクヒメエラゴカイ
ニホンヒメエラゴカイ
ミズヒキゴカイ科の1種
ミズヒキゴカイ Chaetozone sp.
Tharyx sp.
ウミイサゴムシ
Polycirrus sp.
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
Melinna sp.
クビワケヤリ属の1種A
クビワケヤリ属の1種B
ケヤリムシ科の1種
Potamilla sp.
Sabellasterte sp.
エゾカサネカンザシ
多毛類の断片
総個体数,総重量
出現種数
調査日時
調査地点
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.97
0.05
1.54
3
1
2
3
1
10
3
1
8
8
4
94
22
2001.10.
1-1
N
W
Table 3 (continued)
108
19
3
5
26
0.30
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
2
3
5
0.01
10
0.01
0.01
0.01
1
2
0.01
W
1
12
1-2
N
113
14
3
21
1
1
14
4
24
2-1
N
0.12
0.73
0.03
0.10
0.01
0.01
0.01
0.01
0.03
W
1
127
17
2
35
4
15
22
17
2-2
N
0.14
0.60
0.02
0.02
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
W
1
1
1
1
1
28
10
3-1
N
0.66
0.33
0.01
0.01
0.01
0.01
W
2
2
1
25
6
3-2
N
0.28
0.01
0.01
0.01
W
104
21
5
14
1.75
0.75
0.05
0.01
0.01
0.01
2
1
1
0.03
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
1
27
2
1
1
1
2
2
4-1
N
W
75
16
7
11
1
2
2
1
3
1.62
0.85
0.04
0.02
0.01
0.01
0.01
4-2
N
W
6
1
1
165
19
1
4
3
1
4
10
6
110
5-1
N
0.67
0.01
0.02
0.02
0.01
0.01
0.01
0.22
0.15
0.02
0.01
0.01
W
6
0.59
0.02
1
161
16
0.06
0.03
0.03
0.01
0.01
0.01
0.10
0.14
0.02
W
3
12
6
2
1
3
4
105
5-2
N
147
21
0.88
0.38
0.21
1
10
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.02
0.02
0.01
0.01
W
12
8
1
14
1
48
10
1
2
6-1
N
291
16
1
3
5
3
20
3
5
175
20
5
6-2
N
0.37
0.01
0.10
0.01
0.01
0.01
0.01
0.03
0.10
0.02
0.01
W
602
20
3
1
13
10
1
10
1
380
3
20
4
7-1
N
0.78
0.01
0.03
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.25
0.02
0.02
0.01
W
897
22
10
90
482
5
84
1.39
0.01
0.04
0.12
0.02
0.03
7-2
N
W
175
15
2
7
1
17
105
3
3
8-1
N
0.59
0.01
0.01
0.01
0.01
0.05
0.01
0.01
W
327
18
2
27
23
170
1
5
8-2
N
0.30
0.01
0.02
0.01
0.04
0.01
0.01
W
68
13
2
1
1
22
8
3
1
0.76
0.19
0.01
0.01
0.1
0.16
0.01
0.01
9-1
N
W
65
11
1.31
0.82
0.01
8
7
0.01
0.01
0.15
0.01
1
10
4
1
9-2
N
W
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
6 5
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
カギアシゴカイ
コクテンシロガネゴカイ
ミナミシロガネゴカイ
クシカギゴカイ
チロリ Glycinde sp.
ケンサキスピオ
ミミスピオ
ヨツバネスピオA型
ポリドラ類の1種A
ポリドラ類の1種B
ミミスピオ
ミツバネスピオ
ソデナガスピオ
Phyllodoce papillosa
ライノサシバゴカイ
Phyllodoce elongata
Phyllodoce koreana
Phyllodoce longepes
ヤリブスマ
イソメゴカイ科の1種
ヒメゴカイ
ツルヒゲゴカイ
オウギゴカイ
ヒンサイイソメ
スゴカイイソメ
ルドルフイソメ
ナガヒゲイソメ
セグロイソメ科の1種
ケナガシリス
ムラサキシマシリス
ユビシリス
Typosyllis sp.
テンケイウロコムシ
ヤスリウロコムシ
ウロコムシ科の1種
タンザクゴカイ
ノラリウロコムシ科の1種A
ノラリウロコムシ科の1種B
モグリオトヒメゴカイ
ミクロオトヒメゴカイ
オトヒメゴカイ科の1種
Poderkeopsis sp.
オトヒメゴカイ科の1種
カタマガリギボシイソメ
Lumbrineris sp.
ホソミサシバゴカイ
サシバゴカイ科の1種
サシバゴカイ科の1種
Paranaites sp.
調査日時
調査地点
0.01
0.02
0.01
0.01
5
7
1
0.01
1
1
0.20
28
0.02
0.01
1
13
0.01
2
0.02
0.01
0.02
1
10
1
0.01
0.02
0.12
1
6
20
0.01
0.01
2
3
3
1
8
3
0.01
0.01
0.03
0.01
0.06
0.01
1
6
0.01
2
1
3
5
1
1
19
1
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
0.14
0.01
0.01
0.01
0.01
1
0.19
0.02
0.01
3
2
3
4
1
0.09
0.01
0.01
1
1
7
0.02
0.01
0.02
2
5
4
0.01
1
10
2
2
4
9
6
1
2
3
0.03
0.01
0.01
0.35
0.02
0.06
0.01
0.02
0.02
2002.05.
1-1
1-2
2-1
2-2
3-1 3-2
N
W
N
W
N
W
N
W
N
W
N
W
5 0.09
10 0.15
2 0.01
2 0.01
1 0.02
Table 3 (continued)
6
6
6
8
1
31
0.01
0.57
0.03
0.01
0.01
0.22
4-1
N
W
4
3
2
8
2
1
24
0.01
0.33
0.01
0.01
0.10
0.01
0.20
4-2
N
W
10
1
1
1
1
16
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.20
1
1
1
1
7
0.01
0.01
0.01
0.01
0.13
5-1
5-2
N
W
N
W
1 0.01
0.01
1
2
0.01
0.01
0.02
0.02
0.01
1
0.01
0.01
0.01
2
3
1
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
W
1
1
2
1
1
1
20
4
6-1
N
2
1
40
1
3
3
0.04
0.01
0.01
0.01
0.02
0.23
0.01
0.01
7-1
W
N
1 0.02
3
27
6-2
N
2
1
1
1
1
1
1
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
W
7-2
N
3
1
1
0.01
1
1
1
1
10
8-1
N
0.01 ?1
0.01
W
8-2
N
0.01
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01 ?5
W
1
3
8
1
0.01
0.01
0.01
0.01
W
1
1
1
7
0.01
0.23
0.01
1
7
0.01
0.01
0.10
0.01
0.10
0.01
0.01
0.01
W
3
12
1
2
18
9-1
N
3
1
1
6
1
21
3
12
1
2
29
9-2
N
0.01
0.22
0.01
0.01
0.01
0.01
0.19
0.01
0.17
0.01
0.01
W
6 6
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
No.
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
エリタテスピオ
マクスピオ
イトエラスピオ
フタエラスピオ
スピオゴカイ科の1種
Pseudopolydora sp.
ヒゲスピオ
シュモクスピオ
ヤムシスピオ
チギレマクスピオ
マドカスピオ
エラナシスピオ
モロテゴカイ
Magelona sp.
ナガオタケフシゴカイ
ウリザネタケフシゴカイ
Maldane sp.
Aschis sp.
チマキゴカイ
マナコチマキゴカイ
ホコサキゴカイ科の1種
イトゴカイ
Heteromastus sp.
Mediomastus sp.
Notomastus sp.
Cossura sp.
タマシキゴカイ
チロリハボウキゴカイ
ツツオオフェリア
カスリオフェリア
ツノツバサゴカイ属の1種
アシビキツバサゴカイ
アワコブゴカイ
トウキョウトックリゴカイ
サンカクヒメエラゴカイ
ニホンヒメエラゴカイ
ミズヒキゴカイ科の1種
ミズヒキゴカイ Chaetozone sp.
Tharyx sp.
ウミイサゴムシ
Polycirrus sp.
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
フサゴカイ科の1種
Melinna sp.
クビワケヤリ属の1種A
クビワケヤリ属の1種B
ケヤリムシ科の1種
Potamilla sp.
Sabellasterte sp.
エゾカサネカンザシ
多毛類の断片
総個体数,総重量
出現種数
調査日時
調査地点
0.01
0.01
0.06
0.05
0.01
0.01
0.04
0.01
0.01
0.31
0.02
0.01
0.94
1
1
18
3
8
8
1
1
5
2
3
3
118
22
2002.05.
1-1
N
W
Table 3 (continued)
132
18
7
5
3
10
3
20
1.41
0.03
0.72
0.02
0.02
0.12
0.01
0.02
0.09
1
30
0.01
0.01
0.01
1
1
W
2
1-2
N
0.53
0.01
1
145
21
0.01
0.01
6
9
0.01
0.01
1
1
0.02
0.01
1
2
0.01
0.03
0.24
3
40
5
45
2-1
N
W
113
18
5
9
1
1
5
5
1
18
5
30
0.59
0.01
0.01
0.01
0.01
0.05
0.01
0.02
0.01
0.05
0.19
2-2
N
W
0.01
0.02
0.01
0.03
1.44
0.01
0.05
0.03
0.07
0.01
0.01
0.10
0.01
0.01
0.50
77 2.25
26 1
3
1
1
7
3
7
1
9
1
1
1
2
3
3-1 N
W
98
21
4
2
8
2.74
0.01
0.01
1.45
0.02
0.02
0.01
0.01
1
10
14
1
0.13
0.02
0.51
0.01
0.01
6
8
2
2
1
3-2
N
W
92
13
1
5
2
2
1
19
4
1.71
0.10
0.66
0.01
0.01
0.01
0.06
0.01
4-1
N
W
72
14
1
1
1
18
3
3
1
0.79
0.01
0.01
0.01
0.04
0.03
0.01
0.01
4-2
N
W
131
14
1
1
1
3
0.48
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.13
0.03
5
85
2
0.01
2
5-1
N
W
87
15
3
2
2
1
1
0.33
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.06
0.02
0.01
0.01
1
1
2
62
0.01
1
5-2
N
W
1
3
1
138
22
35
17
20
2
18
6-1
N
0.87
0.58
0.03
0.02
0.03
0.01
0.01
0.01
0.01
W
191
21
20
1
1
2
1
1
10
10
2
50
1
11
6-2
N
0.81
0.29
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.02
0.03
0.02
0.01
0.01
W
1
4
3
1
1
1
2
21
14
7-1
N
0.19
0.01
0.02
0.01
0.02
0.01
0.01
0.03
W
2
6
1
14
6
7-2
N
0.06
0.01
0.01
0.01
W
4
42
11
2
2
9
1
10
8-1
N
0.38
0.26
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
W
4
1
1
2
20
21
9
8-2
N
0.03
0.10
0.02
0.01
0.02
0.01
W
15
113
22
2
2
3
0.05
0.95
0.01
0.02
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
3
1
9
0.27
0.01
0.01
W
7
8
1
1
22
9-1
N
1
4
4
1
1
12
136
23
1
4
3
12
3
2
20
9-2
N
0.06
0.95
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.12
0.01
0.01
0.01
W
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
6 7
6 8
三浦半島小田和湾の海草藻場における多毛類相
考 察
今回採集された種のほとんどは砂泥中に棲管をつくっ
てその中に棲むスピオゴカイ科やフサゴカイ科,ケヤリム
シ科,チマキゴカイ科と棲管をつくらずに遊在するゴカ
イ科やサシバゴカイ科で占められていた。海草藻場に多
く産するシリス科は海草の葉上に多く見いだされる 29,30)。
今回シリス科は4種しか出現していないが,これは今回
の採集地点に海草が繁茂する地点が含まれておらず,葉
上性の分類群 31,32)が欠けているためであろうと考えられ
る。海草の根部にも多くの多毛類が生息していると思わ
れるが,これらについても今後の調査に含めて別途報告
する予定である。
小田和湾の海草藻場には,湾奥に下水処理場が建設さ
れるなど,環境悪化の進行が懸念されている。海草藻場
の環境悪化に伴って,アマモなどの海草の被度が減少す
ることにより,生態系内の生物相に変化が生じる可能性
がある 33)。海草藻場は沿岸生態系の中でも特に生物多様
性の高い場所として重要である。水産学的にも魚類など
の幼稚仔の生息場所として重要であり 31),その構成員と
しての多毛類の重要性は計り知れない。小田和湾の海草
藻場は相模湾最大の藻場で,関東近海でも最大級の規模
を誇る。この海草藻場内では,今回の報告で明らかに
なったように多毛類の多様性が高く,現存量も多い。一
方で環境の悪化に際して環境指標となる種,例えばヨツ
バネスピオA型なども見つかった。環境指標種としての
多毛類に関する研究は多く(例えばヨツバネスピオやイ
ソメ類など 34,35,36,37,38,39,40)),これらの研究を参考に海
草藻場の長期的なモニタリングとあわせて,今後も多毛
類などの底生生物のセンサスとモニタリングを行い,順
次報告していく予定である。
謝 辞
本調査を行うにあたり,以下の方々にお世話になった。
現地調査では,横須賀市大楠漁協佐島支所の福本三夫
氏,当所栽培技術部の今井正昭部長,滝口直之主任研究
員,一色竜也主任研究員,山田敦技師,原田穣技師,濱
田信行技能技師,現神奈川県水産課の相澤康主査,標本
の選別には青木朱見氏にご協力いただいた。多毛類相の
解析にあたり,北海道大学の加藤哲哉氏に一部の種群を
同定していただいた。ここに記して,深謝したい。本研
究の一部は,財団法人神奈川科学技術アカデミー
(KAST)からの助成(平成14年度,代表西栄二郎)を
受けて行われた。
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7 0
7 1
神水研研報第8号(2003)
東京湾におけるシャコ加入量の変動要因
児玉 圭太・清水 詢道・青木 一郎
Possible Factors Causing the Fluctuation of the Recruitment of
Japanese Mantis Shrimp Oratosquilla oratoria in Tokyo Bay
Keita KODAMA*1, Takamichi SHIMIZU*2, and Ichiro AOKI*1
Abstract
The associations between the recruitment of the Japanese mantis shrimp Oratosquilla oratoria and
environment variables were examined in Tokyo Bay. The catch data and CPUE calculated from
fishermen's logbook showed abrupt decline from 1991 to 1992, and has remained low thereafter.
Multiple regression analysis took relevant lag times into account suggests that the recruitment of O.
oratoria is significantly related with river runoff and surface temperature at the lag of three years.
Relationships between the recruitment of O. oratoria and these environmental variables are discussed.
はじめに
シャコは横浜市漁業協同組合柴支所の小型底曳網漁業
にとって最重要漁獲対象種である。近年、他の漁獲対象
種の漁獲量が減少し、シャコに対する依存度はより高
まってきている(Fig.1)。しかしながら、近年シャコの
漁獲量も減少してきている1)。特に2001年には資源状態
は極度に悪化し、一時は市場へ全く出荷できなくなる期
間も生じ、同漁業の経営に深刻な打撃を与えている。こ
のような状況においては、シャコの資源量変動要因を明
らかにし、精度の高い漁況予測手法を開発することが急
務である。
柴支所では独自に資源管理方策(出荷枚数制限、出漁
日数制限)を講じてきたが、シャコの資源量変動をコン
トロールするまでには至っていない。資源量を大きく決
定する要因は漁業の影響以外にあるものと考えられ、生
活史初期段階における環境要因の影響が加入量を規定し
ている可能性が考えられる。本研究では、漁獲量と環境
因子の関係について解析を行い、シャコの加入量に影響
を及ぼす要因についての論議を行った。
Fig.1 Annual catch of the small bottom trawl fisheries in the Shiba Branch, Yokohama City Fisheries Cooperative Association, between 1980 and 1999. Percentage of the catch of mantis shrimp is also shown.
2003. 3. 6 受理 神水研業績 №02-113
脚注*1 東京大学大学院農学生命科学研究科
*2
資源環境部
7 2
シャコ加入量の変動要因
材料と方法
漁獲量データ
1989年4月から2001年12月までの期間において、横
浜市漁業協同組合柴支所における小型底曳網漁船(全54
隻)から年間2∼4隻の標本船を設定し、漁獲調査日誌
の記帳を依頼した。この日誌より出漁した日についての
銘柄別生産枚数および操業時間についての情報を得るこ
とができる。柴支所における月別シャコ生産枚数と標本
船1隻あたりの生産枚数の間には強い相関関係がみられ
(r=0.97;P<0.01)
(Fig.2)
、標本船は柴支所全体の
操業状況をよく代表していると考えられる。
Fig.2 Scatterplot showing the relationship of the catch in number of packages between sample trawler and Shiba Branch.
各銘柄の1枚あたり尾数は決まっており(特大(LL);
8尾、大(L )、中(M );各1 0 尾、マル中(M S );1 1 尾)、
漁獲調査日誌に記録されている銘柄別生産枚数を尾数に
変換することができる。1989年から2001年について、
銘柄別に曳網1時間あたり漁獲尾数(C P U E )の年間平
均値を算出し、豊度指標とした。
東京湾においては神奈川県と千葉県の小型底曳網漁船
がシャコを漁獲している。この中でシャコを周年にわ
たって主漁獲対象としているのは横浜市漁協柴支所のみ
であり、統計でみると柴支所は神奈川県のシャコ漁獲量
の約90%以上を漁獲している。したがって、柴支所にお
ける漁獲量の推移は東京湾のシャコ資源量を反映してい
るものとみなした。
シャコは水揚後にボイル・むき身加工され、むき身の
サイズにしたがって各銘柄に区分し出荷される2)。加工
前のシャコの体長と加工後のむき身サイズの関係につい
ての報告はこれまでに無いため、各銘柄から年齢別漁獲
量を算出することはできない。各銘柄間でC P U E の相関
をとったところ、中とマル中のC P U E の間に強い相関が
みられた(r=0.87;P<0.01)
(Table 1)
。加工に用い
られるシャコの最小体長は1 1 c m であり、1 1 c m 以上の
シャコは2年級存在する2)。このことより、中およびマ
ル中の銘柄は加入1年目の同一年級群であると仮定し
て、中とマル中の年間平均C P U E の和を加入量指数とし
て定義した。
Table 1 Correlation coefficients between annual CPUE of
each market size categories.
シャコ加入量の変動要因
加入量予測モデル
シャコの漁獲量変動と環境変動の関係を調査するにあ
たり次の環境因子を考慮した:表層および底層水温
(℃)、底層 DO(mg/l)
(公共用水域水質データファイ
ル、国立環境研究所、1985−1998)
(観測点はKodama et
;河川流量(m3/sec)
(江戸川:流量年表、
al. 3)を参照)
日本河川協会、1985−1999);風速南北成分(m/s)(横
浜:気象庁月報、気象庁、1985−2000)。水温、河川流
量については年間平均値、DO、風速南北成分については
6−10月の平均値を算出し解析に用いた。
ある年(t)の加入量指数に対して1年から4年のタイ
ムラグ(t−1∼t−4)をとった環境因子との間で相関
係数を算出した。危険率5%以下の水準で有意な相関を
示した環境因子を独立変数、加入量指数を従属変数と
し、変数増減法による重回帰分析を行い、加入量予測モ
デルを作成した。モデルの妥当性を評価するためにクロ
スバリデーションテストを行った。
結 果
漁獲量変化
Fig.3aに柴支所における1986年以降のシャコの年間漁
Fig.3 Yearly changes in the annual catch of mantis
shrimp for market size categories in the Shiba
branch, Yokohama City Fisheries Cooperative
Association, between 1986 and 2001.
(a) Catch in number of individuals,
(b) Relative catch.
7 3
獲量の経年変化を示した。1986年から1991年にかけて
平均漁獲量は1 7 . 7 ×1 0 6 尾と高水準であった。しかし
1 9 9 2 年には1 9 9 1 年以前の平均漁獲量の6 3 . 5 % である
11.2×10 6尾まで急減した。1992年以降の平均漁獲量は
10.4×10 6尾と低水準で推移した。特に、2001年には年
間漁獲量は4.9×10 6尾と大きく減少した。
1989年以降のCPUEの年間平均値の変動傾向も概ね漁
獲量の変動とほぼ同様の傾向を示しており(Fig.4a)、
1991年までの平均CPUEは 332(尾/時)と高かったが、
1992年には急激に減少した。1992年以降は1993、1999
年に高い値を示すが、平均CPUEは 196(尾/時)と低い
水準で推移していた。さらに2 0 0 1 年にはC P U E は1 0 3
(尾/時)と大きく減少した。柴支所における漁獲量、
CPUEについて、1991年以前と1992年以降の平均値の間
において有意な差がみられた(Mann-Whitney test:漁
獲量;P<0.01,CPUE;P<0.05)。
銘柄別の変動をみると、漁獲量・CPUEともに1997年
までは銘柄組成に大きな変化はないが、1998年以降には
大型銘柄(特大、大)の占める割合が減少した(Figs 3b
and 4b)。
Fig.4 Yearly changes in CPUE (number of individuals caught per hour) of mantis shrimp four
market size categories between 1989 and
2001.
(a) CPUE, (b) relative CPUE.
7 4
シャコ加入量の変動要因
加入量と環境因子の関係
加入量指数(中・マル中のC P U E の和)と環境因子と
の相関解析の結果をTable 2に示した。t年の加入量指数
に対し、風速南北成分(t−2)、河川流量(t−3)、表
層水温(t−3)
、底層水温(t−4)において有意な相関
が得られた。
これら4変数を独立変数、加入量指数を従属変数とし
て変数増減法による重回帰分析を行い、加入量予測モデ
ルを作成した。その結果、風速南北成分(t−2)、表層
水温(t−3)
、河川流量(t−3)が加入量予測モデルに
組み入れられた(Fig.5)。モデルは危険率1%の水準で
有意であり(A NO V A ;P<0 . 0 1 )、決定係数(R2)は
0.77であった。モデルによる予測値は1995年から1997
年にかけてやや精度が悪いが、概ね実測値の変動を再現
した(Fig.5)。クロスバリデーションによる予測値も実
測値に近い変動を示しており、このモデルは加入量指数
の変動をよく再現していることが示された。偏回帰係数
の検定を行ったところ、表層水温(t−3)、河川流量
(t−3)が危険率5%の水準で有意であった。標準化回
帰係数は、表層水温(t−3)
、河川流量(t−3)ではと
もに−0.46と同程度の寄与を示し、風速南北成分では0.31
であった。
Table 2 Correlation coefficients between the recruiment
index (t) and the lagged environmental variables
(from t-1 to t-4).
Fig.5 Time series plots of observed and predicted recruitment.
The result of the cross-validation test is also shown.
7 5
シャコ加入量の変動要因
論 議
漁獲量、CPUEは1991年から1992年にかけて大きく減
少し、1 9 9 1 年以前と1 9 9 2 年以降で有意な差がみられ
た。清水1)は1985−1990年を好漁期、1992年以降を不
漁期と位置づけている。銘柄別の漁獲比率を見ると、
1998年以降には大型個体の漁獲比率が減少しており、近
年漁獲個体の小型化が進行していることが懸念される。
重回帰分析の結果、河川流量および表層水温が加入量
変動に寄与している可能性が示唆された。また、示され
たタイムラグは3年であることより、ある年に漁獲され
ている年級群の漁獲量は3年前の環境状態に左右される
ことを表す。このことはシャコが出生後3年目に加入完
了し漁獲対象となることを意味する。
柴支所によるシャコ漁業においては、漁獲対象となる
のは体長11cm以上のシャコである2)。これまでに東京湾
のシャコについて行われた成長解析では、出生してから
体長11cmに成長するまでに1年から2年かかることが報
告されている5、6)。このことは今回得られた出生後3年
目で加入完了するという結果と食い違っている。しかし
ながら、Hamano & Morrissy7)は、周防灘のシャコにつ
いて多量のサンプルを測定することにより体長ヒストグ
ラムの精度を高めた成長解析を行い、出生後3年目で体
長1 1 c m 以上となることを示している。またH a m a n o &
Morrissy7)は、中田5)の成長解析ではvon Bertalanffy式
を用いており冬季のシャコの成長を過大推定しているこ
とを指摘している。さらに大富 6)の成長解析について
は、使用した漁具の網目の目合が大きいため小型個体の
採集が不十分で、その結果成長が過大推定となっている
ことも指摘されている7)。もし周防灘のシャコの成長が
東京湾のものと同様であるならば、今回の解析から得ら
れた出生後3年目に加入完了するという結果と符合す
る。しかし、東京湾と周防灘では成長速度が異なる可能
性もあり、この点に関し検討を行う必要があろう。
また一方では、近年には東京湾においてシャコの成長
が遅くなっている可能性もある。浮遊幼生の出現盛期は
1 9 8 0 年代には6,7月であったが 8)、1 9 9 0 年代以降は
8,
9月へ遅まっていることが報告されている4)。幼生の
出現盛期の遅れは着底時期の遅れにつながると考えられ
る。Hamano & Morrissy7)の報告では、着底時期の違い
により体長に差があることが認められる。したがって着
底期の遅れは結果として加入の遅れにつながると考えら
れ、幼生出現盛期が遅くなった1990年代以降には加入ま
での期間が長くなっている可能性がある。
近年甲殻類についての新たな年齢査定法として、リポ
フスチンを年齢形質とした年齢推定が試みられている
9、10、11)
。今後、このような手法も導入し東京湾における
シャコの年齢と成長について再評価を行う必要があろう。
水温、および河川流量の影響がシャコの生活史初期段
階に及び、加入量を規定している可能性がある。しか
し、相関分析や重回帰分析の結果は直接的な因果関係を
示すものではないため、個々の環境因子が加入量にどの
ように影響を与えているかを調査する必要がある。ここ
では、考えうるメカニズムを提示し考察を行う。
河川流量の増加がシャコの浮遊幼生期間に影響を及ぼ
し、加入量が減少する可能性がある。メカニズムとして
は次の2つが挙げられる。(1) 幼生に低塩分耐性が無く、
河川から大量に淡水流入した時に生じる低塩分環境で生
残できない。(2) 河川水の流入量の増加により、表層に湾
外方向の密度流が生じ、表層に分布する幼生は湾外へ輸
送され、その結果として湾内漁場への加入量が低下する。
児玉(未発表)は (1) を検証するため、飼育下で幼生
の塩分耐性を調査し、塩分が15‰以下に低下した場合に
は幼生の生残率が低下することを明らかにした。しか
し、東京湾におけるシャコ浮遊幼生の主分布域は湾南部
神奈川県側であり8)、その水域において15‰以下まで塩
分が低下するとは考えにくい。だが、河川水が多量に流
入した場合には一時的に表層において塩分が極度に低下
する可能性もあるため、塩分の連続観測を行い同水域で
の塩分の下限を明らかにする必要がある。
(2) について、中田8)は幼生の鉛直分布の中心は6∼
7月には水深20∼30m層にあるが、8月には10m層に移
ることを示し、8月に出現する幼生は湾外に流出しやす
い可能性を示唆している。ただし、1980年代中期におい
ては幼生の出現盛期は6∼7月で、8月の出現量は少な
いため、8月に分布の中心が表層に移ることが資源に与
える影響は小さいと推察されている8)。しかし、1990年
代以降には幼生の出現盛期は8∼9月に移っており4)、
密度流が発達した場合に表層に分布する幼生が湾外へ流
出してしまう可能性が高まっていると考えられる。
水温も河川流量と同程度の寄与で加入量に影響してい
ることが重回帰分析から示されたが、シャコの加入量へ
どのように影響を及ぼしているかは現時点において不明
である。また、今回の解析においては漁業の影響を考慮
していない。加入前の小型個体の混獲も加入量に少なから
ず影響を及ぼすことが考えられる。今後は、加入量へ影響
を与えると思われる因子について因果関係を明らかにする
とともに、漁業の影響も評価した上で加入量予測モデルを
作成し、漁況予測の精度を向上させていく必要があろう。
要 約
1.漁獲量は1 9 9 1 年から1 9 9 2 年にかけて急激に減少
し、以降低水準で推移した。さらに2001年には漁獲
量は極度に低下した。
2.重回帰分析の結果、表層水温および河川流量が生活
史初期段階に影響し、シャコの加入量を規定してい
る可能性が示唆された。
3.近年東京湾のシャコは、加入までに出生後3年か
かっている可能性があり、成長の再評価が必要と考
えられた。
引用文献
1)清水 詢道(2002):東京湾のシャコ資源について
(総説)
−Ⅰ 資源利用の概観と生活史,神水研研報,
7,1-10.
7 6
シャコ加入量の変動要因
2)大富 潤(1991):東京湾におけるシャコの資源管理
に関する基礎的研究,東京大学大学院農学系研究科
博士学位論文
3)Kodama K, Aoki I, Taniuchi T. & Shimizu M. (2002):
Long-term changes in the assemblage of demersal fishes
and invertebrates in relation to environmental variations
in Tokyo Bay, Japan. Fisheries Management and Ecology.
9. 303-313.
4)清水 詢道(2000):東京湾におけるシャコ浮遊幼生
の生残率の推定,神水研研報,5,55-60.
5)中田 尚宏(1987):東京湾におけるシャコの初期成
長及び成長と年齢について,水産海洋研究会報,
51,307-312.
6)大富 潤(1988):東京湾における加入完了後のシャ
コの成長および寿命について,日水誌,54,19351940.
7)Hamano T. & Morrissy N. M. (1992):Growth of
Oratosquilla oratoria (de Haan, 1844)(Stomatopoda) in
the sea of Suo-Nada, Japan. Crustaceana. 63. 263-276.
8)中田 尚宏(1986):東京湾におけるシャコの幼生の
分布について,神水試研報,7,17-22.
9)Sheehy M. R. J. (1992):Lipofuscin age-pigment
accumulation in the brains of ageing field - and
laboratory-reared crayfish Cherax quadricarinatus
(vonMartens) (Decapoda : Parastacidae). J. Exp. Mar.
Biol. Ecol., 161. 79-89.
10)Sheehy M. R. J., Shelton P. M. J, Wickins J. F., Belchier
M. & Gaten E. (1996):Ageing the European lobster
Homarus gammarus by the lipofuscin in its eyestalk
ganglia. Mar. Ecol. Prog. Ser. 143. 99-111.
11)Bluhm B. A. & Brey T. (2001):Age determination in
the Antarctic shrimp Notocrangon antarcticus (Crustacea : Decapoda), using the autofluorescent pigment
lipofuscin. Mar. Biol. 138. 247-257.
77
神水研研報第8号(2003)
東京湾産シャコの最小成熟体長の低下と、飼育下における複数回産卵
児玉 圭太・山川 卓・青木 一郎・
福田 雅明・清水 詢道
Multi-spawning under rearing condition, and reduction in size at maturity
of the Japanese mantis shrimp Oratosquilla oratoria in Tokyo Bay
Keita KODAMA*1, Takashi YAMAKAWA*1, Ichiro AOKI*1,
Masaaki FUKUDA*2and Takamichi SHIMIZU*3
Abstract
Reduction in size at maturity, and multi-spawning of mantis shrimp O. oratoria in Tokyo Bay was
observed under rearing condition. Matured female of O. oratoria were collected in Tokyo Bay and were
reared in aquarium until spawning occurred. Five individuals spawned at size of less than 8cm, which
is smaller than the size at maturity in previous reports. Multi-spawning occurred in three individuals,
one of which spawned three times which had not ever been reported. In the present study, egg
cannibalism occurred frequently. Causes of egg cannibalism are discussed.
はじめに
シャコは東京湾の底生魚介類群集における最優占種で
あり1)、小型底曳網漁業の最重要漁獲対象種である2)。
1980年代中期から後期にかけて漁獲量は高水準であった
が、1990年代以降漁獲量は大きく減少しシャコ漁業に大
きく依存する漁業者にとって深刻な問題となっている2)。
シャコの漁獲量変化と同時期において、浮遊期幼生の出
現盛期の変化が観測されている。浮遊期幼生の出現盛期
は、1 9 8 0 年代には6月から7月であったのに対し 3)、
1990年代以降には7月から8月と遅くなっている4)。こ
のことは、1980年代の漁獲量高水準期と1990年代以降
の漁獲量低水準期の間で産卵生態に何らかの変化が起
こったことを示唆しており、資源量変化と産卵生態の変
化には何らかの対応関係があることが推察される。この
メカニズムを解明するためには、資源量水準の異なる時
期の間で産卵生態の比較検証を行う必要があり、漁獲量
が低下している近年の産卵生態についての知見の集積が
求められる。今回、飼育下において東京湾産シャコの産
卵生態について幾つかの興味深い結果が得られたので報
告する。
(2002年7月12日と9月1日)、および神奈川県水産総
合研究所の生物相モニタリング調査(2002年8月27日)
によりシャコの採集を行った。Hamano & Matsuura5)に
従い、尾節裏側より卵巣の成熟度合を目視観察すること
により産卵直前とみられる雌個体を選別し、中央水産研
究所海区水産業研究部(神奈川県横須賀市長井)へ搬送
し、底面に粗砂を敷いた4槽の1
t水槽に分けて収容し自
然海水流水下および自然日長下で飼育した。巣穴として
内径5 6 m m 、長さ4 0 0 −6 0 0 m m のアクリルパイプまたは
塩化ビニルパイプを水槽底面に配置した。パイプ1本あ
たり1個体が生息するようにした。産卵が確認されたら、
パイプの両端を、ポリエステル製ネット(目合1m m ×
1m m )、またはステンレス製ケージ(7 0 m m ×7 0 m m ×
1 0 0 m m 、目合2m m ×2m m )にてカバーした。これ
は、親個体の抱卵放棄や他個体による卵の食害を防ぐた
めの措置である。オキアミ、アサリ、多毛類を毎日給餌
した。産卵した個体について抱卵行動終了後に、Kubo et
3日に一度の
al.6)にならい体長の測定を行い、給餌は2,
頻度に減らして飼育を継続した。飼育期間中の水温は
23.4℃から30.0℃の間であった。
材料と方法
神奈川県横浜市漁業協同組合柴支所の小型底曳網漁船
結果と考察
飼育実験下において体長7.4∼12.4cmの個体が産卵し
2003. 3. 6 受理 神水研業績 №02-114
脚注*1 東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻
*2
中央水産研究所海区水産業研究部
*3
資源環境部
78
シャコ産卵生態に関する新知見
た(Fig. 1)
。採集されてから産卵に至るまでの間に脱皮
は起こらなかった。9cmクラス以下の小型シャコの産卵
が全産卵個体数の76.3%と大部分を占めた。東京湾にお
いてシャコの産卵期は体長サイズ別に異なり、10cm以上
の大型個体で5月前後、それ以下の体長の小型個体は7
月から8月にかけてである7)。今回の親個体の採集時期
は小型個体の産卵期にあたるため、小型シャコの産卵が
多かったものと考えられる。
Fig.1 Number of the spawning female of the Japanese
mentis shrimp Oratsquilla oratoria for each body
length classes between 7cm and 12cm. Results of
the egg nursing behaviour at given size classes are
also shown.
本研究では7cmクラスの体長のシャコが産卵すること
が観察された。東京湾産シャコにおいて、1980年代に報
告されている最小成熟体長は8cmであり7)今回の調査結
果から最小成熟体長が近年低下してきていることが明ら
かとなった。ただし、体長7cm台の成熟個体数の割合は
低く(児玉,未発表)
、成熟するのは一部の個体だけであ
ると思われる。資源量の低下と成熟体長の低下が同調し
て起こることが他の甲殻類で報告されている8,9)。東京
湾のシャコにおいても資源量水準の低下が成熟開始体長
の低下を引き起こしているのかもしれない。
大型の3個体(MS1, 2 and 3)について複数回の産卵
が観察された(Table 1)。10cm以下の小型個体では複
数回産卵は観察されなかった。M S 1 とM S 2 では2回、
MS3では3回の産卵が起こった。各産卵間の期間は25日
から35日であり、脱皮は起こらなかった。博多湾産シャ
コについても飼育下で2回産卵が起こったことが報告さ
れているが5)、産卵を3回行ったという報告はこれまで
にない。また、博多湾産シャコの多回産卵個体では1回
目の抱卵に失敗してから、2回目の産卵が起こったこと
が報告されている5)。しかし、今回MS2については1回
目の産卵で抱卵に成功し孵化まで至ってから、2回目の
産卵を行っている。この結果は、シャコは産卵期の間に
2回以上卵を孵化させることができる可能性を示唆して
おり、シャコの再生産能力を考える上で重要であると考
えられる。
Table 1 The state multi-spawning of the Japanese mantis
shrimp, Oratosquilla oratoria, under rearing condition.
今回の実験においては抱卵中に親個体による卵食
(Filial egg cannibalism)がかなりの頻度で生じた。
Hamano & Matsuura5)の飼育結果では、抱卵放棄された
卵が他個体により食われる(Hetero cannibalism)ことは
あるが、親個体による卵食(Filial egg cannibalism)は起
こっていない。このため、本研究で用いた供試個体、ま
たは飼育条件に何らかの問題があったためにFilial egg
cannibalismが起こった可能性が高い。原因としては給餌
量不足、飼育下でのストレス、卵質の問題などが考えう
るが、本研究の結果からは卵食の原因は明らかにし得ず、
更なる調査が必要である。
多回産卵を行った3個体については、2回目の産卵以
降全てのケースで卵食が起こった。通常シャコは抱卵中
にほとんど摂餌しないが5)、今回の飼育では2回目以降
の抱卵期間中には活発に摂餌を行うことが観察された。
MS2の2回目の産卵時には、卵食は数日置きに分かれて
起こり、抱卵中の卵塊が徐々に小さくなっていくのが観
察され、そして最後には完全に卵は食べつくされた。そ
れ以外の卵食のケースでは、一日のうちに全ての卵が食
われていた。抱卵を行うエビ類などでは、未受精卵のた
めに抱卵中に脱卵が起こることが報告されているが 10、11)、
卵食についての報告は見られない。一方、卵保護を行う
いくつかの魚類においては、Filial egg cannibalismは一般
的な現象であり、卵保護中に摂餌が制限される親個体の
エネルギー供給源として卵食が起こると考えられている12)。
今回の飼育では、産卵が終わった個体への給餌頻度を減
らしたため、2回目以降の産卵が起こるまでの間に与え
た餌料量はあまり多くなかった。そのため、多回産卵を
行ったシャコは、エネルギーを卵形成に集中的に投資し
たため、長期間にわたる抱卵行動に必要となる自らのエ
ネルギー蓄積が十分行われていなかったのかもしれない。
要 約
1.飼育下において東京湾産シャコの最小成熟体長の低
下、および多回産卵が観察された。
シャコ産卵生態に関する新知見
2.体長7cm台にて5個体が産卵することが観察され、
過去に報告されている最小成熟体長である8cmよりも
小さいサイズで産卵することが明らかとなった。
3.多回産卵が3個体について観察され、そのうち1個
体は3回の産卵を行った。これまでに本種にて3回の
産卵を行ったという報告はない。
4.今回の飼育では卵食が起こるケースが多かった。こ
の原因については本研究では特定できなかった。
謝 辞
サンプル採集にご協力いただいた横浜市漁業協同組合
柴支所の漁業者、神奈川県水産総合研究所調査船うしお
の乗組員の方々に厚くお礼申し上げる。飼育施設利用の
便宜を図っていただき、また研究に対する貴重なご助言
をいただいた中央水産研究所海区水産業研究部の研究者
の方々に深謝する。
引用文献
1)Kodama K., Aoki I., Taniuchi T. & Shimizu M. (2002):
Long-term changes in the assemblage of demersal
fishes and invertebrates in relation to environmental
variations in Tokyo Bay, Japan. Fish. Manag. Ecol. 9.
303-313.
2)清水 詢道 (2002):東京湾のシャコ資源について
(総説)−Ⅰ 資源利用の概観と生活史.神水総研研
報, 7, 1-10.
3)中田 尚宏 (1986):東京湾におけるシャコ幼生の分
布について. 神水試研報,7, 17-22.
79
4)清水 詢道 (2000):東京湾におけるシャコ浮遊幼生
の生残率の推定. 神水研研報, 5, 55-60.
5)Hamano T. & Matsuura S. (1984):Egg laying and egg
mass nursing behaviour in the Japanese mantis shrimp.
Nippon Suisan Gakkaishi. 50. 1969-1973.
6)Kubo I., Hori S., Kumemura M., Naganawa M., &
Soedjono J. (1959):A biological study on a Japanese
edible mantis-shrimp, Squilla oratoria de Haan. J.
Tokyo Univ. Fish. 45. 1-25.
7)大富 潤,清水 誠,Martinez J. A. (1988):東京
湾のシャコの産卵期について. 日水誌. 54. 19291933.
8)Polovina J. J. (1989):Density dependence in spiny
lobster, Panulirus marginatus, in the Northwestern
Hawaiian Islands. Can. J. Fish. Aquat. Sci. 46. 660-665.
9)Lipcius R. N. & Stockhausen W. T. (2002):Concurrent decline of the spawning stock recruitment,
larval abundance, and size of the blue crab Callinectes
sapidus in Chesapeake Bay. Mar. Ecol. Prog. Ser.
226. 45-61.
10)小笠原 義光 (1984):エビの生態, 「日本のエビ・
世界のエビ」
(東京水産大学第9回公開講座編集委員
会編)
,成山堂書店,東京,28-77.
11)出口吉昭 (1988):交尾・産卵−イセエビ,「エビ・
カニ類の種苗生産」
(平野礼次郎編)
,恒星社厚生閣,
東京,64-75.
12)Hishida Y. (2002):Egg cousumption by the female
in the paternal brooding goby Bathygobius fuscus.
Fish. Sci. 68. 449-451.
80
81
神水研研報第8号(2003)
調査船「さがみ」におけるA D C P 観測について
樋 田 史 郎
Property of the observations by R/V SAGAMI's ADCP.
Shiro TOIDA*
緒 言
ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler:音響
ドップラー流速計)は、超音波を海中に発射し、海水中
の懸濁物等からの反射音響のドップラーシフトを測定す
ることで、いくつかの層の流向流速を計測することがで
きる。A D C P の観測データは、船に対して一定の方向に
偏った系統誤差を含む場合がしばしばである。この系統
誤差は、トランスデューサの取り付け角の不整合が主な
原因として知られており、Joyce1)の方法により補正する
必要がある。
調査船「さがみ」には相模湾・相模灘における海洋構
造の立体的把握を目指し、多層観測が可能なSun West社
製のS W 2 0 0 0 が搭載された。しかしながら、S W 2 0 0 0 に
よる観測は、系統誤差を含め多くの問題を抱え、良好な
観測結果が得られていない。多層式A D C P の良好な観測
結果の多くはSun West社の競合メーカーであるRD社の
製品によるものであり、その誤差は輸入代理店が制作し
たパソコン用プログラムで補正されている2)。一方、3
層式のADCP である古野電気製のC I −3 0 は、東北ブロッ
クで共同開発したパソコン用プログラム「コンパス不整
合角演算ソフト」が配布され、系統誤差の処理が可能と
なった3)。このプログラムを用いることで、漁業指導船
「江の島丸」に搭載されたCI−30による観測結果につい
ても、系統誤差を検出し補正することが可能となった
(樋田,未発表)。
本報は、調査船「さがみ」におけるA D C P 観測につい
て誤差補正に至る検討経過を記録するとともに、A D C P
観測結果を「コンパス不整合角演算ソフト」に適用し誤
差補正を行なった観測結果について論じる。
方 法
ADCP観測
ADCP(Sun West社製,SW2000)による観測は、調
査船「さがみ」(2001年3月廃船)の各種航海において
実施した。沿岸定線観測以外の航海も多いが、観測位置
2003. 3.10 受理 神水研業績 №02-115
脚注* 企画経営部
の記述は定線観測の測点を準用し、図1に定線観測の測
点を示した。
図1 定線観測測点図
観測層厚及び反射信号強度に問題点が見いだされた
が、逐次観測条件を改善し、その経過を記述した。
系統誤差の補正
A D C P で収録されたデータは付属の変換プログラムに
より、バイナリ形式からテキスト形式に変換した。
Joyceの方法1)による補正定数α及び1+βは、「コン
「対水モード法」に
パス不整合角演算ソフト3)」を用い、
より算出した。
「対水モード法」において検討対象となる
往復航行あるいはそれに類似した航行によるデータ区間
については結果で示す。
「コンパス不整合角演算ソフト」による処理に供する
ため、テキスト形式に変換されたデータを新規にプログ
ラムを作成してデータの形式を変換した。この形式変換
では、速度等の単位換算の他、必要な入力データを整え
82
調査船「さがみ」のA D C P
るため次のとおりの処理を行なった。
「コンパス不整合角
演算ソフト」では、(1) 航法船速・航法真針路、(2) 基本
層船速・基本層針路、(3) 船首方位及び (4) 各層流速・流
向を要求するが、SW2000で得られるデータは (5) 航法船
速・航法真針路、(6) 船首方位及び (7) 各層流速(南北成
分・東西成分)となっており、(1) 及び (5)、(3) 及び (6)
ならびに (4) 及び (7) が対応し、(2) は対応が無い。(2) の
基本層船速・基本層針路はCI−30(古野電気)が音響で
観測した船速であり、
「コンパス不整合角演算ソフト」の
「対地モード法」において検討対象となり重要である
が、
「対水モード法」においては重要でないと考えられ、
本報では (1) 及び (2) に対してともに (5) を対応させるこ
ととした。
補正結果は、新規にプログラムを作成し、各速度を調
査船の運動を基準とした相対的な座標系におけるベクト
ルとして逆算し、
「コンパス不整合角演算ソフト」で得ら
れた補正定数αによりその座標系を回転させ、その後に
調査船の運動のベクトルを引くことで算出した。補正定
数1+βについては、1.00と見なした。
関連海況情報
関連する海況情報として、城ケ島沖浮魚礁ブイの観測
結果及び一都三県漁海況速報4)を参照した。
結果及び考察
観測条件の経過
本機の信号周波数は115kHzである。設置当初から観
測層厚は6mとしていたが、この周波数では層厚をより
厚くする必要があり、2000年8月に層厚を8mに変更し
た。それまでは、観測中に表示される生データが10m/s
を超える極端な異常値を示すことが多かったが、この変
更によりそのような異常値は目立たなくなった。
良好な観測結果が得られないもう一つの原因として出
力信号の異常が考えられた。反射信号強度を診断した結
果、出力信号が弱かったため、2000年8月に出力回路ユ
ニットを交換した。しかし、反射信号強度の改善はみら
れず、第4層以深のデータは使えないことが明らかと
なった。
2000年8月に層厚を6mから8mに変更したことで、
観測中に極端な異常データが目立たなくなったが皆無に
はならなかった。そこで、2 0 0 0 年1 0 月4日に層厚を
12mとした。その結果、観測中に表示される生データに
おいて、極端な異常値が大幅に減少した。全体的な異常
データの出現が減った一方、第1層に比べ第2、
3層で異
常値が多いことが読み取られ、反射信号強度が不足して
いることがここでも明確になった。
2000年11月末に調査船「さがみ」のドック入渠の際に
トランスデューサーを点検した。トランスデューサー表
面に防汚塗料が厚く塗り重ねられていることが明らかと
なり、トランスデューサー表面の塗装を全て落とし、そ
の後の防汚塗料の塗布は極力薄くした。ドック工事完了
後、2000年12月6日の航海において、観測中の生データ
の収録状況を観察したところ、2 0 0 m 層以深のデータも
見受けられ、反射信号強度の問題は一つ解決した。しか
し、2 0 0 m 層の観測は漂泊中に限られ、航行中にはおよ
そ1 0 0 m 層以深で極端な異常データがしばしば観察され
た。この現象は反射信号強度の著しい低下が原因と考え
られる。そのメカニズムとしては、船底の泡切れやトラ
ンスデューサー周辺の反響等の関与が考えられるが、そ
れらの解決には、設置状況の精密な調整が必要である。
系統誤差の検討
2000年10月以前は観測条件が大きく異なるため、本報
ではそれ以降の観測に基づいて検討した。2000年10月4
日以降で、
「コンパス不整合角演算ソフト」の「対水モー
ド法」による検討が可能な往復航行あるいはそれに類似
した航行が含まれている航海は、2 0 0 0 年1 0 月2 0 日、
2001年1月24日及び2001年1月31日であった(図2)。
なお、2000年10月20日は、観測条件の経過で示したと
おり、深い観測層のデータは反射信号強度が不足してい
るため、第1層のみを検討に供した。
2000年10 月20 日、2001年1月24日及び2001年1月
31日における往復航行部分について、「コンパス不整合
角演算ソフト」の「対水モード」による補正定数の算出
を行なった。同ソフトによる処理に供する観測データ
は、各往復航行部分についてそれぞれ、「範囲1」及び
図2 系統誤差の検討対象とした航海の航跡
矢印で示した区間のデータを検討の対象とした。
調査船「さがみ」のA D C P
「範囲2」の長さをいくつか変えて選択し、表1に示す
結果が得られた。
表1 系統誤差の検出
範囲1
範囲2
日付 開始時刻 終了時刻 開始時刻 終了時刻
2000/10/20
10:56
11:06
11:10
11:20
10:46
11:06
11:10
11:30
11:01
11:06
11:10
11:15
平均
2001/1/24
11:00
11:20
11:22
11:42
10:50
11:20
11:22
11:52
12:50
13:10
13:12
13:32
12:40
13:10
13:12
13:42
13:35
13:45
13:50
14:00
13:25
13:45
13:50
14:10
14:07
14:27
14:30
14:40
平均
2001/1/31
10:10
10:30
10:32
10:52
10:20
10:30
10:32
10:42
10:00
10:30
10:32
11:02
11:45
11:55
11:58
12:08
12:20
12:30
12:32
12:42
12:45
12:55
13:00
13:10
平均
第1層
α 1+β
3.7 1.00
3.6 0.99
3.6 0.99
3.6 0.99
4.6 1.02
3.8 1.01
3.5 0.97
3.5 0.97
3.3 1.00
3.3 1.00
2.9 1.00
3.6 1.00
2.8 1.01
2.7 1.00
2.6 1.00
3.2 1.00
3.5 1.00
3.3 1.17
3.0 1.03
第5層
α 1+β
第10層
α 1+β
第15層
α 1+β
4.6
3.8
3.6
3.5
3.3
3.3
3.5
3.7
2.8
2.9
2.6
2.6
3.8
2.9
2.9
4.0
3.7
3.9
3.5
3.3
3.3
2.9
3.5
2.4
2.6
2.5
2.8
2.9
2.7
2.7
5.0
4.1
3.1
3.5
3.3
3.3
2.9
3.6
2.8
2.8
2.6
3.2
3.3
3.1
3.0
1.02
1.01
0.97
0.97
1.00
1.00
1.01
1.00
1.01
1.01
1.00
1.02
1.00
1.00
1.01
1.02
1.01
0.98
0.97
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.01
1.00
1.01
1.01
1.02
0.97
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.01
1.00
第1層についてみると、2000年10月20日は α=3.6,
83
1+β=0.99、2001年1月24日は α=3.6, 1+β=1.00、
2001年1月31日は α=3.0, 1+β=1.03 であり、平均(及
び標準偏差)は、α=3.4 (0.3), 1+β=1.01 (0.02)であった。
第1層、第5層、第10層及び第15層の各層平均につい
てみると、2001年1月24日はα=3.6, 1+β=1.00、2001
年1月31日はα=3.3, 1+β=1.00であった。いずれも、標
準偏差はα=0.1、1+β=0.00であり、観測層の違いによる
補正定数の違いはほとんどなかった。
図3にα=3.4, 1+β=1.00として補正した様子を示し
た。補正前は不整合角に起因する左舷側に著しく偏った
観測結果が得られていたが、補正後はその傾向は解消さ
れた。図は異常データも削除せずに示した。船速が変化
した付近や浅い場所での異常データが目立つが、ほとん
どのデータは不整合角補正及びその後の移動平均処理に
より概ね良好な結果が得られた。
図3 系統誤差補正の様子
補正前と補正後の流速ベクトル図。(α=3.4,1+β=1.00)
84
調査船「さがみ」のA D C P
誤差補正を行なった観測結果及び考察
(1)2000年9月20日の例
2000年9月20日の観測結果を図4に示した。α=3.4,
1+β=1.00 で補正し、移動平均(n=5)を施した。異常
データは除去していない。大島東水道から相模湾中央に
かけて北西方向に概ね1ノット前後の流れがみられた。
図4 2000年9月20日の観測結果
補正前と補正後の流速ベクトル図。
(α=3.4,1+β=1.00)
よる海況を総合的に比較すれば、よく一致した結果で
あったといえよう。
(2)2000年10月20日の例
2000年10月20日の観測結果は図3に示したとおりで
ある。α=3.4, 1+β=1.00 で補正し、移動平均(n=5)を
施した。異常データは除去していない。相模湾の中央付
近で時計回りの順環流がみられた。平均的に反時計回り
の循環流の存在を指摘した既往の知見5,6)と異なってお
り、例外的な流れであると考えられる。
関連情報を図6に示した。城ケ島沖浮魚礁ブイでは、
この日は南北成分は南向きの流れのみ観測されており、
未明の3時頃に30cm/sに達したほかは概ね15cm/s以下
のゆっくりとした流れであった。
「さがみ」の航海中は南
から南東に向けて概ね10cm/s以下のごくゆっくりとした
流れのみが観測された。一都三県漁海況速報によると、
黒潮流路は著しく離岸しており、相模湾から伊豆諸島北
部にかけての海域は温度差が少なく等温線がきわめて疎
であった。
関連情報を図5に示した。城ケ島沖浮魚礁ブイでは西
北西に1ノット前後の流れが観測されており、翌9月21
日未明には1.4ノットを超えていた。一都三県漁海況速報
によると、黒潮流路は規模の大きな特異的なC型であ
り、蛇行北上部がS字状の形態を示し、房総半島で著し
く接岸していた。この蛇行北上部から伊豆諸島北部及び
相模灘にかけて黒潮系水が波及していた。
図6 2000年10月20日における関連情報
1城ヶ島沖浮魚礁ブイにおける流速ベクトル図
2一都三県漁海況速報
図5 2000年9月20日における関連情報
1城ヶ島沖浮魚礁ブイにおける流速ベクトル図
2一都三県漁海況速報
「さがみ」は浮魚礁ブイ付近を15:20ごろ通過してい
る。この時の観測値はそれぞれ、「さがみ」のADCPでは
33cm/s、浮魚礁ブイでは 19cm/sであり、完全には一致
しなかった。しかし、浮魚礁ブイの観測値は20分後には
37cm/sを観測している。この日全体を眺めてみると、上
記のとおり北西方向に概ね1ノット前後の流れがみられ
た。この付近における流れの構造の空間的な変動や潮汐
に起因する時間的変動については、流れの構造の時間
的・空間的平均場を解明していないため、詳細な議論は
できない。しかし、A D C P による観測結果と関連情報に
「さがみ」は10:05ごろに浮魚礁ブイに最も接近し、ブ
イから約1km北を通過した。その付近におけるADCPの
観測値は南に46cm/sであった。相模湾を東西に横断した
後、12:15ごろに再び浮魚礁ブイに接近したが、その時は
ブイから4キロ以上北を通過した。その付近における
ADCPの観測値は、北へ6cm/sであった。しかし、それ
より前は南へ向かう流れが観測されており、12:10ごろに
は南へ15cm/sと観測された。往路はADCPと浮魚礁ブイ
の観測結果とでは流速が大きく異なるが、復路の流速は
両者に大きな違いはなかった。浮魚礁ブイ付近の観測で
注目されるのは、復路の観測においてブイの付近で流向
がほぼ180°変わっている点である。この流向が変わる
前後(約4km隔てた位置)の流れのベクトルの差は、南
北方向に40cm/s程度に及んだ。往路ではADCPとブイと
で観測された流れは、南北方向に40cm/s程度の差を含み
一致しなかったが、復路でみられた流向が逆転する傾向
と一致する。つまり、流れのベクトルが復路以外でもブ
イの近くで大きく変化することを仮定すると、A D C P 観
測の結果とブイの観測結果は、往路においても一致して
いると考えられる。
調査船「さがみ」のA D C P
(3)2001年1月23日の例
2001年1月23日の観測結果を図7に示した。α=3.4,
1+β=1.00 で補正し、移動平均(n=5)を施した。異常
データは除去していない。大島東水道から北に向かう流
れ、大島北の相模灘では北東に向かう流れ、相模湾南東
部では西∼北西に向かう流れ、東京湾口では西に向かう
流れがそれぞれ観測された。流速の絶対値は概ね1∼1.5
ノットであった(第2層:水深26m)。また、定線観測の
定点19の南東近くを中心とする反時計回りの循環流の形
成が見られた。
図7 2001年1月23日の観測結果
補正前と補正後の流速ベクトル図。 (α=3.4,1+β=1.00)
第2層の結果を示した。
A D C P 観測時の表面水温及び関連情報を図8に示し
た。表面水温は、定線観測の定点22付近を中心に相模灘
南部で20℃を超え、定点19の南東に著しい水温ジャンプ
を伴う16℃以下の水温極小域が見られ、定点17、18及び
19の付近は比較的低温であった。一都三県漁海況速報に
よると、C型流路における蛇行北上部のS字状の上部屈
曲から黒潮の分枝が発生し、房総沖から大島東水道を
通って相模湾にむけて直接的に到達した。この日には、
85
大島東水道からの黒潮分枝に起因する大規模な急潮が相
模湾沿岸で発生した7)。
「さがみ」は14:45ごろに定点16付近を通過し、同日
の航程の中でもっとも浮魚礁ブイに近付いた。その時の
ADCP の観測値は7 2 c m / s 、ブイの観測値は1 0 c m / s であ
り大きく異なっていた。水温の水平分布及び鉛直分布
(図8)をみると、定点16と17の間の等温線が密であっ
た。また、A D C P 観測による流速は、定点1 6 は7 0 c m / s
程度であるのに対して、定点1 7 付近は4 0 c m / s 程度で
あった。これらのことから、定点16及び17の付近の狭い
範囲で流れの構造が著しく変化することが明らかとなっ
た。浮魚礁ブイは定点16の西北西、定点17の北東に位置
しており、「さがみ」がADCP観測した断面とは流れの構
造が異なる可能性がある。
同日の各層の観測結果を図9に示した。補正等の条件
は図7と同一である。まず、東京湾口の深い観測層を中
心として、船の進行方向に速い流れが示されているのが
目立つが、異常データであると推察される。この付近は
同日の航程上の他の場所よりも水深が浅いのが特徴であ
り、海底からの反射音響の影響が考えられる。本報で
は、比較的浅い場所の深い観測層は定性的に異常データ
として議論から外すこととした。第1層から第15層まで
の各層は、流速は第1層で著しく大きく、他は概ね上層ほ
ど大きく、流向はいずれの層も概ね一致している。定線
観測の定点22から19にかけての航程では、第6層以深は
移動平均(n=5)で1ノットを超えるデータがみられな
い。この航程の水温の鉛直断面をみると、水深50∼70m
付近で等温線が密になっており、この流速の変化との関
連が示唆される。定点19の南東近くの渦構造は、第15層
まで読み取れる。水温の水温の水平分布及び鉛直分布
は、周囲より著しく水温の低い水塊がこの付近に位置し
ていることが示されており、渦構造との関連が示唆され
た。
図8 2001年1月23日における関連情報
1表面水温分布図
2一都三県漁海況速報
3水温の鉛直断面図(樋田・中田,2002)
86
調査船「さがみ」のA D C P
図9 2001年1月23日の各層の観測結果
各層の流速ベクトル図。(α=3.4,1+β=1.00)
87
調査船「さがみ」のA D C P
まとめ及び総合考察
上述の結果及び議論から次のとおりまとめる。
・調査船「さがみ」に搭載されたA D C P の観測データ
は、不整合角の補正(α=3.4, 1+β=1.00)により使
用可能である。
・観測層に関らず同じ補正定数を適用可能である。
・2000年8月以前は、層厚の設定が異なる。本報の検
討結果が適用可能であるかは未検討である。
・2000年12月以前は、表層付近については良好な結果
が得られた。しかし、深い観測層については、本報
の検討結果が適用可能であるかは未検討である。
・非常に狭い範囲(浮魚礁ブイの付近を含む)で大き
く流れの構造が変化する例を明らかにした。
・相模湾における海況の短期変動予測(急潮予測等)
の精度向上には、浮魚礁ブイの観測結果と沖合水流
入の立体的構造を定量的に検討する必要があるが、
狭い範囲で大きく流れの構造が変化する例に注意を
払わねばならない。
・流れの構造を定量的に検討するためには、潮汐成分
除去が必要である。潮汐成分の除去には、長期間に
わたる詳細なA D C P 観測に基づく立体的な流れの平
均場の解明が前提となる。
謝 辞
海洋観測を支えてくださった調査船「さがみ」
(当時)
の奥村弘幸船長をはじめ乗組員の方々にお礼申し上げま
す。懇切なご助言を下さった、中央水産研究所 川崎清博
士、斉藤 勉博士、秋山秀樹博士、そして中央ブロック各
都県の海況調査担当の皆様にお礼申し上げます。有益な
プログラムをご提供くださった東北区水産研究所 清水勇
吾博士、そして東北ブロック各県の海況調査担当の皆様
にお礼申し上げます。
引用文献
1)Joyce, T. M. (1989):On in-situ "calibration" of shipboard ADCPs. J. Atmos. Oceanic Technol., 169-172.
2)中央水産研究所他(2002):海洋構造変動パターン解
析技術開発試験事業報告書(平成9∼13年度)
, 349573.
3)東北区水産研究所他(2002):海洋構造変動パターン
解析技術開発試験事業報告書(平成9∼13年度)
, 3316.
4)東京都・千葉県・神奈川県・静岡県(2000, 2001):
一都三県漁海況速報,No.3839, 3860, 3919.
5)宇田道隆 (1937):「ぶり」漁期における相模湾の海
況及び気象と漁況との関係. 水産試験場報告,8, 159.
6)岩田静夫 (1984):相模湾の流動特性. 水産海洋研究
会報,47・48, 100-102.
7)樋田史郎・中田尚宏 (2002): 2001年1月23日に急
潮をひきおこした相模灘における黒潮系暖水流入の
特徴,神水研研報,7, 109-115.
88
89
神水研研報第8号(2003)
ミトコンドリア制御領域の塩基配列分析による
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団遺伝構造の解析
秋元 清治・瀬崎 啓次郎・三谷 勇・渡部 終五
The population genetic structure of the alfonsino Beryx splendens around Japan as examined
by DNA nucleotide sequencing for the mitochondrial control region
Seiji AKIMOTO*, Keijiro SEZAKI**, Isamu MITANI* and Shugo WATABE**
ABSTRACT
The population structure of the alfonsino Beryx splendens was analyzed by mithochondrial DNA
sequence. Totally 29 samples were collected from three fishing grounds around Japan, off Boso
Peninsula, Tokara islands and Torishima. The mitochondrial DNA nucleotide sequences analyzed were
those of the full-length control region of 824bp. Although this region contained individual variations
and no identical sequence, the nucleotide diversity among samples collected at the same fishing
ground was not large(1.15∼1.19). While the nucleotide diversity in samples between any of the two
from the three fishing grounds (1.15∼1.24) was again not large and rather comparable to those within
samples from the same fishing grounds, the pairwise fixation index (Fst) was very low between any of
the two fishing ground groups(-0.016∼0.058), suggesting no genetic heterogeneity. The phylogenetic
tree based on the sequences determined also demonstrated that our sample consist of no geographical
population structure.
緒 言
ミトコンドリア16SrRNA塩基配列は種内変異が小さい
ことから種間あるいは属間の系統類縁関係を検討するた
めによく使われる1)。Akimoto et al 2)はキンメダイ属
3種、キンメダイBeryx splendens 、ナンヨウキンメ
B.decadactylus 、フウセンキンメB.mollis について
16SrRNAを分析し、その塩基配列の違いから種同定が可
能であることを報告するとともに、種間の塩基置換率お
よび分子系統樹から3種の近縁関係を明らかにしている。
キンメダイ属3種の中でも、キンメダイは世界中の熱
帯から温帯域の水深200∼800mの海山および大陸棚縁辺
部に広く分布している3)。日本では茨城県以南の太平洋
側の海山および大陸棚縁辺部に広く分布しているが4)、
とくに、相模灘、房総沖から三宅島、御蔵島、八丈島、
鳥島、小笠原列島に到る海域に散在する海山がキンメダ
イの良好な漁場となっており、一都三県(千葉県、東京
都、神奈川県、静岡県)の立縄釣りおよび底建延縄漁業
者にとって、最も重要な漁業対象種となっている。5,6)
上述の相模灘から小笠原列島にかけての対象海域にお
2003. 3.13 受理 神水研業績 №02-116
脚注* 資源環境部
**
東京大学大学院農学生命科学研究科
けるキンメダイ資源の再生産機構は十分に解明されてい
ないが、これまでの標識放流による成魚の移動様式7,8,9)
から、キンメダイ稚魚の再生産は本海域内だけで行われ
るのではなく、黒潮上流域からの資源加入の可能性が高
いことが報告されている7,8)。
集団遺伝学では同種内の地理的集団(系群)間の遺伝
的な差異は対立遺伝子の頻度の違いによって捉えられ、
その程度は集団の隔離後の経過時間に比例すると考えら
れている。一般にミトコンドリア遺伝子は核ゲノムに
コードされている遺伝子に比べて進化速度が大きい。ミ
トコンドリア遺伝子の中でも制御領域はとくに進化速度
が大きく、多くの個体変異を蓄積していることから集団
遺伝構造解析で頻繁に分析対象とされている1)。魚類に
おいても近年この領域を対象に、メバル属(Sebastes)10)、
マアナゴ(Conger myriaster)11)、ヒラメ(Paralichthys
olivaceus )12 ,13 )、マダイ(Pagrus major )14 )、アユ
(Plecoglossus altivelis)15)、ウナギ(Anguilla japonica)16)
などの集団遺伝構造が解析されている。
日本周辺海域に生息するキンメダイの集団遺伝構造解
90
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団構造
析の試みについては、久保島ら17)、瀬崎ら18)が、房総半
島沖、南西諸島沖、八丈島沖などからの採集試料を用い
て、それぞれ鱗のタンパク質の電気泳動分析およびミト
コンドリアの制御領域とcytochrome b遺伝子の塩基配列
分析を実施している。しかし、久保島らが沿岸域と沖合
域の2グループに分かれることを示唆したのに対し、瀬
崎らは地域的な遺伝的差異を示すまでには至らなかった。
本研究は、黒潮上流域の鹿児島県トカラ列島沖漁場、
房総半島沖漁場、鳥島沖漁場で採集したキンメダイ試料
を対象に、ミトコンドリア制御領域の塩基配列を用い
て、上述した研究結果を再検討し、従来の稚魚加入説に
若干の考察を加えた。さらに、ミトコンドリア制御領域
の塩基置換率および塩基配列を基に作成した分子系統樹
からキンメダイ属3種の近縁関係についても再度検討を
加えたのでその結果も合わせ報告する。
採集した成魚を1個体づつ用いた。種同定は中坊1 9 )に
従った。
Table 1 Details of fish specimens used
材料および方法
1)試料 キンメダイ試料の詳細および採集位置をTable 1、
Fig.1に示す。房総半島沖、鹿児島県南方トカラ列島沖、
鳥島沖、熊野灘および紀南礁の各漁場において採集した
成魚を、それぞれ13、11、5、1および1個体づつ用い
た。尾叉長、体重、生殖腺重量、形態的諸元を測定後、
試料よりDNA分析用筋肉組織を約3g摘出し、エタノー
ル(99.5%)中に4℃で保存した。さらに、分子系統樹
を作成する上で外群としたナンヨウキンメおよびフウセ
ンキンメは、それぞれ志摩半島沖および小笠原列島沖で
Fig.1 Sampling locations for Beryx species in the Pacific Ocean around Japan. 1, Boso Peninsula ; 2, Thorisima ; 3,
Ogasawara Islands ; 4, Shima Peninsula ; 5, Kumanonada ; 6, Kinan Seamount ; 7, Tokara Islands.
91
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団構造
2)DNA抽出およびPCR
上述の筋肉試料から約4 0 m g を分取し、DNA抽出
キット(Genomic PrepTM Cells and DNA Isolatin Kit,
Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ, USA)を用
いて全DNAを抽出した。さらに、フェノール・クロロ
ホルム処理後のエタノール処理によって得られたペレッ
トを同キット中のDNA Hydration Solution 100μLに溶
解した 2)。この全D N Aを鋳型として、プライマーにK I PR1-LおよびKI-PH1-Hを用い制御領域の全領域をPCRで
増幅した(Table 2, Fig. 2)
。ラベリングは前述のプライ
マーを用いて行い、5’および3’側から塩基配列を決定
するとともに、内部配列からプライマーKI-D1-Lおよび
KI-D4-Hを設計し(Table 2, Fig. 2)
、順次残りの塩基配
列を決定した。
Table 2 Nucleotide squences of primers for PCR amplification of the mitochondrial DNA control region
Kits(Applied Biosystems)により蛍光標識し、Applied
Biosystems 373型 DNA Sequencerまたは310型 Genetic
Analyzerにより、LおよびH両鎖の塩基配列分析を行った。
4)データ分析
キンメダイ試料の塩基配列データについては塩基の挿
入および欠失が少なかったため、GenBankに登録されて
いるキンメダイの同領域の配列(#AP002939 20))と比
較しつつ目視でアライメントを行った。また、ナンヨウ
キンメ、フウセンキンメおよびキンメダイの各種間では
変異が多かったため、Clustal W 21)を用いてアライメン
トを行った。
種々の海域から採集したキンメダイ試料については、
決定した塩基配列をもとに Phylip 22)のKimura's two
parameter methodにより遺伝的距離を求め、近隣結合法
23)
により分子系統樹を作成した。なお、外群にはキンメ
ダイ属のナンヨウキンメおよびフウセンキンメを用い
た。また、100回のブートストラップ解析を行った際の
分岐の再現性をパーセント表示した。
キンメダイ試料についてはさらに、漁場別個体群間の
遺伝的類似性を検討するため、Arlequin ver.2.000 24)に
より房総半島沖、トカラ列島沖、鳥島沖の各試料を対象
に漁場内、漁場間の平均塩基置換率と漁場間の純塩基置
換係数を算出するとともに、漁場別集団間の固定指数
(Fst)を求めた。
結 果
Fig.2 Schematic diagram of the mitochondrial DNA control
region and locations of oligonucletides used as primers for PCR and DNA nucleotide sequencing. See
Table 2 for DNA nucleotide sequences of primers.
PCRは、dNTPs 2.5nmol,フォワードおよびリバース
プライマー各20pmol,Tth DNAポリメラーゼ1unitおよ
び全DNA溶液5 μLを含む反応液2 5 μLを用いて行っ
た。GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems,
Foster City, CA, USA)を用い、反応液を94℃で2分間
保った後に、変性94℃で30秒、アニーリング58℃で30
秒、伸長72℃で70秒の反応を30サイクル行った。最後の
伸長反応は1分行った。
3)塩基配列分析
フェノール・クロロホルム法でP C R 産物を精製後、
Dye Terminator Cycle Sequencing AmpliTaq Polymerase FS
1)キンメダイ属3種間における変異
GenBank#AP002939 20)によればキンメダイの制御領
域は865塩基から構成されている。本研究では、解読で
きなかった5’および3’側のそれぞれ19および22塩基を
除く8 2 4 塩基について配列を決定した。ナンヨウキン
メ、フウセンキンメおよびキンメダイ(#AP002939 20))
の塩基配列をFig.3に示す。種間の比較で塩基の挿入・欠
失が6箇所みられ、3種全体の配列のアライメントでは
830塩基となった。3種間においては830塩基中、129箇
所で塩基置換がみられた(塩基置換率15.5%)。 Table 3
に示すように、種間別の塩基置換数および塩基置換率を
みるとキンメダイとナンヨウキンメ間で105箇所、12.7%
と最も塩基置換率が高く、これにナンヨウキンメとフウ
センキンメ間の94箇所、11.3%、キンメダイとフウセン
キンメ間の68箇所、8.2%が続いた。各種間の塩基置換に
おけるトランスバージョン、トランジション型変異数お
よび挿入・欠失数をTable 3に示す。キンメダイおよびナ
ンヨウキンメ間、ナンヨウキンメおよびフウセンキンメ
間ではトランジションがトランスバージョンを上回った
が、キンメダイおよびフウセンキンメ間は逆の傾向を示
した。
Table 3 Sequence variability in the control region between three Beryx species
92
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団構造
Fig.3 Partial nucleotide sequences of the mitochondrial DNA control region for the three Beryx species. Samples listed are
for B. splendens from the GenBank database #AP002939 20), and B. decadactylus (No.32) and B. mollis (No.33) cited in
Table 1. Dots indicate nucleotides identical to those of B. splendens.
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団構造
2)キンメダイ遺伝的相違度
上記830塩基中、異なる漁場から採集されたキンメダ
イの全31試料を対象に塩基置換がみられた箇所をFig. 4
に示した。なお、解読した823塩基に欠失の変異1箇所
を加えた計824塩基中、塩基置換は54箇所で、塩基置換
93
率6 . 6 % 、トランスバージョン型変異7 箇所、トランジ
ション型変異46箇所、トランスバージョン型+トランジ
ション型変異1箇所であった。また、分析したキンメダ
イ全31試料の全ては、それぞれ独自のハプロタイプを示
し、共通の配列を示すものはみられなかった。
Fig.4 Nucleotide variations among 31 specimens of B. splendens in the mitochondrial DNA control region. Refer to Fig. 3
for the sites of variation. The reference sequence at the top was cited from the GenBank database #AP002939 20).
Dots indicate nucleotides identical to those of the reference sequence.
94
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団構造
分子系統樹では、外群となるナンヨウキンメおよびフ
ウセンキンメ2種に比べてキンメダイ種内間の遺伝距離
は著しく小さかった(Fig. 5)
。また、キンメダイ試料の
ハプロタイプは漁場別にクラスタ−を形成することはな
かった。さらに、ブートストラップ値もほとんどが60以
下の低い値を示した。
房総半島沖、トカラ列島沖および鳥島沖の漁場で採集
したキンメダイの同一漁場集団内の平均塩基置換率は
1.15∼1.19%であった(Table 4)。異なる漁場間の比較
でも1.15∼1.24%と、同一漁場集団内の平均塩基置換率と
比較してほとんど差がなかった。さらに、純塩基置換係
数は異なる漁場集団間で-0.02∼0.07%と低い値を示した。
異なる漁場集団間の固定指数FstをTable 5に示す。房
総半島沖と鳥島沖の集団間では0.0583とやや高かったが、
房総半島沖とトカラ列島沖の集団間およびトカラ列島沖
と鳥島沖の集団間は-0.0166∼0.0213と非常に低かった。
また、いずれの漁場集団の組合わせにおいても固定指数
のP値は0.05を下回ることはなく、明白な遺伝的分化は
認められなかった。
Table 5 Pairwise fixation index Fst between samples from
defferentlocations
考 察
Fig.5 Molecular phylogenetic tree constructed by the neighborjoining method for Beryx splendens specimens collected from
different fishing grounds based on DNA nucleotide sequences the mitochondrial control region. Numbers in the
tree indicate bootstrap resamplimg values from 100 replicates. The bar indicates genetic distance. See Table 1 for
sample numbers. Sampling locations are indicated with abbreviations: KM, Kumanonada; KN, Kinan seamount; BS,
off Boso Peninsula; TK, Tokara islands; TR, Torishima.
Table 4 Nucleotide diversity (%) and net sequence divergence within samples from the same locations and
between samples from defferent locations
1)キンメダイ属3種の近縁性について
Akimoto et al 1)はキンメダイ属3種のmtDNA 16S
rRNA 492塩基を分析し、種間の塩基置換率がキンメダ
イとフーセンキンメ間で0.6%、ナンヨウキンメとフウセ
ンキンメ間で1 . 6 % 、キンメダイとナンヨウキンメ間で
1.8%であることを報告している。これに比べて、今回分
析した制御領域の塩基置換率はキンメダイとフーセンキ
ンメ間で8.2%、ナンヨウキンメとフウセンキンメ間で
11.3%、キンメダイとナンヨウキンメ間で12.7%と著し
く大きかった(Table 3)。しかしながら、種間別の塩基
置換率の大小の傾向は16S rRNA および制御領域でよく
類似し、キンメダイとナンヨウキンメ間で最も大きかっ
た。さらに、制御配列の塩基配列を基に作成した分子系
統樹も、16S rRNA 492塩基を用いて作成したものとよ
く傾向が一致した。以上の諸結果は、キンメダイ属3種
の中、キンメダイとフウセンキンメが最も近縁であるこ
とを示唆する。
Higuchi et al 10)は、日本周辺海域のメバル属(Sebates)
5種間の制御領域324塩基の塩基置換率が3.59∼18.32%
であったと報告している。キンメダイ属3種間の塩基置
換率は全てこの範囲内にあった。なお、形態的に酷似し
ているキンメダイとフウセンキンメ間の塩基置換率は8.2
%であり、側線鱗門数と体側上部斑紋形から 19)より同定
が容易な近縁種のウスメバル(Sebastes thompsoni)とト
ゴットメバル(S. joyneri)の3.59%よりも大きな値を示
した。このことは魚種間の形態的類似度と塩基置換率の
関係を考える上で興味深いものである。
2)キンメダイ漁場別集団間の遺伝的差異
日本近海の種々の漁場から採集したキンメダイ31試料
の塩基置換率は6.6%であった。この値はウナギ(17%,
n = 5 5 )1 6 )、マアナゴ ( 1 6 . 9 % ,n = 7 3 )1 1 )、ウスメバル
(1 7 . 3 % ,n = 2 0 )1 0 )、アユ(2 2 % ,n = 6 0 )1 5 )、ヒラメ
(36%,n=55)13)およびマダイ(24%,n=20)14)に比べ
て低かったが、トゴットメバル(5.2%,n=10)10)および
メバル(Sebates inermis)(5.9%,n=18)10)とは近かっ
た。キンメダイがウナギなどと比べて塩基置換率が低
95
日本周辺漁場におけるキンメダイの集団構造
かった原因としては、種の違いのほか、本研究のサンプ
ル数が少ないことが原因となっている可能性もある。
本研究の試料は、分子系統樹において漁場別にクラス
ターを形成することはなかった。また、分岐の信頼度を
表すブートストラップ値も低く、漁場間における明白な
遺伝的分化を見出すことはできなかった。
同一漁場内のキンメダイ試料間および異なる漁場から
採集したキンメダイ試料集団間の平均塩基置換率はいず
れも1.15∼1.24%と同程度であった(Table 4)。これは
ウスメバル(3.2∼3.67%)10)、ヒラメ(4.3%)13)、マダイ
14)
15)
およびアユ(2.2-3.2%)
に比べると低い
(2.7-2.8%)
16)
11)
が、ウナギ(1.1-1.6%) およびマアナゴ(1.6-2.2%)
と類似した。さらに、キンメダイ漁場集団間の純塩基置
換係数(- 0 . 0 2 ∼0 . 0 7 )および固定指数(- 0 . 0 1 6 6 ∼
0.0583)も低い値を示した(Table 5)。固定指数は日本
沿岸のアナゴ集団間の-0.0365∼0.001311)に比べてやや
高く、新潟と香川のメバル集団間の0.02 10)と同程度で
あった。以上、キンメダイ3漁場の集団間では遺伝的分
化は認められず 25,26)、本研究の結論は、瀬崎ら18)の結果
を支持した。
3)幼魚の浮遊生活と遺伝子流動
スズメダイ科Acanthochromis polycanthus、ウミタナゴ
科Embiotocidae jacksoni 、ヘビキンポ科Axoclinus
nigricaudusなど、幼生段階での浮遊生活期が全く認めら
れない、あるいはごく短い種については地域間の遺伝的
分化が明確にみられる 27)。一方、長い浮遊生活期をもつ
魚類の稚仔魚は、この期間、海流の影響で拡散しやすい
ことから、遺伝子流動(gene flow)が起こりやすい。こ
のような魚種では親魚が広大に分布していても地域間の
遺伝的差異は認められない 28)。キンメダイがどの程度の
浮遊期間をもつのかその詳細は不明である。これまでわ
ずかに採集された稚魚の採取水深は比較的浅く、29,30)さ
らに、キンメダイ漁場において海底近くを曳網するト
ローリングでは10cm未満の魚が採集されていない 31,32,
33,34)
。したがって、キンメダイは少なくとも10cm未満の
大きさまでは漁場に着底せずに浮遊生活をしている可能
性が高い。この場合、キンメダイは広大な分布域を示す
魚種であっても潮流の影響で遺伝的差異を示さなくなる
と考えられる。柳本ら 3 5 )は日本周辺海域の三宅島沖漁
場、中部太平洋海山海域の天皇海山、さらにはニュー
ジーランド海域のキンメダイ試料を用い、制御領域の
R F L P 分析によってこれらの漁場集団間において遺伝的
な差異がないことを明らかにした。また、日本近海の海
底山脈に起源をもつ卵稚仔が黒潮によって運ばれて加入
混入し、太平洋全体で混合していることを示唆してい
る。キンメダイは熱帯から温帯にかけての太平洋西海域
に広く分布しているが、黒潮の上流域のフィリピン沖に
も生息していることから3)、そこで産卵された卵・稚仔
が黒潮にのって日本周辺海域に運ばれている可能性も考
えられる。一方、Hoara et al. 36)は南西太平洋のニューカ
レドニア周辺海域、ニュージーランド沖、北東大西洋の
Galicia Bankの各キンメダイ試料につきチトクローム b 遺
伝子の塩基配列を分析しその集団内のハプロタイプの分
布様式を解析した。その結果からキンメダイは世界的な
規模で遺伝子の拡散が行われてきたことが示唆された。
本研究の結果からも、日本周辺の3漁場間で遺伝的分化
がみられなかった。キンメダイにつきより詳細な地域集
団間の遺伝的変異の有無を検討するためには、マイクロ
サテライトなどの核ゲノムDNAマーカーを用いる解析
が必要と思われる。
伊豆諸島周辺海域に生息するキンメダイの産卵期は6
∼10月であることが報告されている 37,38,39)。上部 40)は
伊豆諸島海域で採集したキンメダイにつき、耳石日周輪
数と採集日から、6∼10月以外の誕生日をもつ群がいる
ことを報じている。このことは、当該海域以外から卵稚
仔の補給があることを示唆している。残念ながら、伊豆
諸島周辺海域以外で産卵された可能性のある卵稚仔がど
こで生まれ、どのように移送され、どの程度伊豆諸島周
辺海域漁場に加入しているかは不明であるが、今後、遺
伝子を用いた集団構造解析にあわせ、黒潮上流域および
日本周辺海域の試料を用いて耳石日周輪の成長履歴を解
析する必要があろう。さらに、耳石の酸素同位体元素を
用いて生息水温履歴を解析することで、キンメダイの再
生産機構が明らかになることが期待される。
謝 辞
本研究の試料採集にあたって、鹿児島県水産試験場漁
業部久保満氏、みうら漁業協同組合所属の大井哲治氏
(大徳丸)
、石渡美根和氏(亀吉丸)および本研究所調査
船江ノ島丸の乗組員には大変おせわになった。また、東
京大学海洋研究所の木村呼郎博士には集団解析ソフト
Arelequin.ver 2.000の使用法につきご助言頂いた。ここ
に記して心から感謝申し上げる。
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99
神水研研報第8号(2003)
城ケ島沖浮魚礁ブイにおける流向流速の観測特性
樋 田 史 郎
Character of sea current observation by the buoy offing of Jyogashima in Sagami-bay
Shiro TOIDA*
緒 言
定置網漁業に大きな被害をもたらす急潮は、相模湾を
反時計回りに伝播することが多く、城ケ島沖浮魚礁ブイ
(以降浮魚礁ブイと呼ぶ)における観測によって予測さ
れるようになった1)。この浮魚礁ブイの観測値をキーと
した予測の的中率は高いといわれている 2)。しかし、
2001年1月23日から1月24日にかけて大規模な急潮が
発生したが、浮魚礁ブイによる観測では、これに先立つ
大きな流速の変化はみられなかった3)。2001年1月23日
に実施された調査船「さがみ」によるA D C P 観測によれ
ば、浮魚礁ブイの近傍で流れの構造が著しく変化してい
ることが見いだされ **、流れに関しては従来の予測パ
ターンに合致しない例であった。一方、浮魚礁ブイの観
測結果が実際の流速と合致しているか否かについては、
十分な検討がなされていない。
浮魚礁ブイは、水深7 4 0 m の海域に1本の繋留索で繋
止されており、浮体は自由に回転する。浮体の回転角に
よって、浮魚礁ブイの観測結果が浮体の構造に起因して
実際の流れを反映しない可能性が予察された。本報で
は、浮体の構造に起因すると考えられる流れの観測値の
変化を明らかにすることを目的として、浮魚礁ブイの蓄
積された観測結果のデータベース解析を中心に浮魚礁ブ
イの観測特性について論じる。
方位の相対的な角度(以降、「振れ角」と呼ぶ)を演算し
基準とした。
2002年3月19日に実施したブイのメンテナンスの際
に、可搬型電磁式流速計(ACM210-D:アレック電子)
による観測を行ない、振れ角による流速の測定値の変化
について検討した。観測は図1に示したとおり、30°,
0°,−45°,−90°の振れ角となる位置で実施した。測定
は10:22に開始し、それぞれ約1分間行なった。観測値
は、4∼14個得られ、それぞれ平均を求めた。流速計の
観測水深は、ブイの流速センサーと同一とした。その際は、
作業船(メンテナンスの際に用船された小型漁船)のブ
イにおける係止点が、ブイの潮流センサーの位置に対し
て偏っていた。このため、作業船が流れの抵抗となりブ
イの振れ角を決定し、その時の振れ角はおよそ−60°であ
り、観測中は大きな変動がなかった。可搬型流速計によ
る観測位置は、ブイの流速センサーの位置を基準とせ
ず、目視観測に基づくその場の流向とのなす角を基準と
して振れ角を評価した。
方 法
浮魚礁ブイで観測された流向、流速、及び「浮体方位」
をデータベース化した。浮体方位は、浮魚礁ブイのテレ
メーターシステムにおける一つの記録項目であり、浮体
の回転角を流速センサーの設置位置が向く方位によって
表現されたものである。データベース化に際しては、10
分単位の観測結果を1レコードとし、暦日単位の1日毎
にグループ化した。データの収録範囲は、1995年4月3
日(浮魚礁ブイの設置当初)から2002年12月16日まで
とした。いくつかの抽出条件に基づいてレコードを抽出
し、浮体方位と流向の関係及び流速別の観測特性を検討
した。いずれの抽出条件においても、流向に対する浮体
2003. 3.13 受理 神水研業績 №02-117
脚注* 企画経営部
図1 可搬型電磁式流速計による観測
(1)∼(4)の箇所で可搬型電磁式流速計による観測を行った。
結果及び考察
浮体方位と流向の関係
図2に振れ角に対する、観測レコード数の頻度分布を
示した。浮体方位は流れの下流側に偏っており、その傾
向は明白であった。最頻値は−30°以上−20°未満の階級
であった。つまり、浮体は流向に対して20∼30°程度の
100
城ケ島沖ブイの観測特性
角度をもって回転させられ、方向が決定付られている。
浮体方位が流向により決定されるということは、浮体の
流速計が設置されている側に何らかの流体的な抵抗があ
り、それが海水の流れを受けて風見鶏のように浮体の方
位が回転するものと考えられた。なお、振れ角の左右の
分布は異なっていたが、クエリー式の記述上の都合か
ら、本報では以降振れ角を絶対値で扱った。
図2 振れ角に対する全レコードの頻度分布
図3 各流速範囲ごとの振れ角の頻度分布
1 1日のうち全ての流速が20cm/s未満の群
2 1日のうち全ての流速が30cm/s未満の群
3 1日のうち全ての流速が50cm/s未満の群
4 1日のうちに50cm/s以上の流速を含む群
流速別の観測特性(1)
日別にデータをグループ化し、その日に含まれるレ
コードについて4種類の流速範囲を設定し抽出した。各
流速範囲ごとの、振れ角別頻度分布を図3に示した。
1日のうちの全ての流速が20cm/s未満である日は162
日あり、そのレコード数は合計23,322件であった(図3−
1)。1日のうちの全ての流速が30cm/s未満である日は
299日あり、そのレコード数は合計42,975件であった(図
3−2)。同様に、1日のうちの全ての流速が50cm/s未満
である日は1,238日あり、そのレコード数は合計178,255
件であった(図3−3)。1日のうちに50cm/s以上の流速を
含む日は495日あり、そのレコード数は71,203件であっ
。このレコード群と上記の3種類のレコード
た(図3−4)
群の間には重複がない集合となっていた。
20cm/s未満のみの日、30cm/s未満のみの日、50cm/s
未満のみの日、及び50cm/sを含む日について、各群にお
ける全レコードに対する20∼40°の階級の頻度は、それ
ぞれ22.85%、28.94%、35.30%、及び55.67%を占めてい
た。これらの頻度分布を見ると、流れが速い日ほど、振
れ角が20∼40°であるレコードの全レコードに占める割
合が高くなっていた。
流速別の観測特性(2)
1日のうち全てのレコードが50cm/s未満の群と、1日
のうちに50cm/s以上の例のある群とに全レコードを2分
し、それぞれの群において10cm/s未満のレコードを抽出
した。前者の群を図4−1、後者の群を図4−2に示した。
分布の形態は両者とも違いが見られなかった。両者とも
振れ角が90°以上の例、つまり浮体方位が流れの上流向
きの例は、それぞれ、19.698%及び18.650%であった。
このことは、流れが遅い場合にも浮体方位が流向の影響
を受けていることを示唆している。上述の図3−4で示し
た50cm/s以上の例がある日における全データ数に対する
振れ角が90°以上のレコードの占める割合は、4.760%と
極めて少なく、浮体方位と流向が無関係な例は流れが遅
い場合に多くなることが明らかとなった。
流速別の観測特性(3)
1日のうち全てのレコードが50cm/s未満の群と、1日
のうちに50cm/s以上のレコードがある群とに2分し、そ
れぞれの群において流速段階別に振れ角の頻度分布を抽
出した。前者を図5、後者を図6に示した。また、それ
ぞれの群における10m/s未満の流速段階の図は、それ
ぞれ既に示した図4−1及び図4−2に該当するので参照さ
れたい。
前者の群において、振れ角が2 0 ∼4 0 °の階級は、
10cm/s未満の中で24.3%、10∼30cm/sの中で34.3%、
30∼50cm/sの中で43.8%をそれぞれ占めていた。同様に
後者の群において、振れ角が20∼40°の階級は、10cm/s
未満の中で2 5 . 5 % 、1 0 ∼3 0 c m / s の中で4 3 . 8 % 、3 0 ∼
5 0 c m / s の中で6 5 . 0 % 、5 0 ∼8 0 c m / s の中で8 2 . 2 % 、
80cm/sの中で91.7%をそれぞれ占めていた。
1日のうちの全測値が50cm/sを超えない日を「流れが
遅い日」、1日のうちに50cm/sを超える観測値が含まれ
城ケ島沖ブイの観測特性
る日を「流れが速い日」と仮称する。
「流れが遅い日」及
び「流れが速い日」のいずれにおいても、流れが速い観
測例ほど振れ角が20∼40°となる率が高くなる傾向が見
られた。しかし、両者の群のそれぞれ30∼50cm/sの階
101
級を比較すると、「流れが遅い日」においては43.8%、
「流れが速い日」においては65.0%であり、この流速階
級では「流れが遅い日」と「流れが速い日」とでは、振
れ角の頻度が異なっていた。
図4 10cm/s未満のレコードの振れ角別頻度分布
1 1日のうち全ての流速が50cm/s未満の群
2 1日のうちに50cm/s以上の流速を含む群
図5 1日のうち全てのレコードが50cm/s未満の群にお
ける、流速段階ごとの振れ角の頻度分布
1 10cm/s以上30cm/s未満のレコード
2 30cm/s以上50cm/s未満のレコード
図6 1日のうちに50cm/s以上のレコードがある群にお
ける、流速段階ごとの振れ角の頻度分布
1 10cm/s以上30cm/s未満のレコード
2 30cm/s以上50cm/s未満のレコード
3 50cm/s以上80cm/s未満のレコード
4 80cm/s以上のレコード
102
城ケ島沖ブイの観測特性
振れ角の違いによる観測特性
2002年3月19日に実施した可搬型電磁式流速計による
観測結果を表1に示した。各振れ角における流速(及び
その標準偏差)はそれぞれ、3 0 °において8 . 6 c m / s
(3.5cm/s)、0°において4.7cm/s(0.5cm/s)、−45°に
おいて13.8cm/s(2.9cm/s)、−90°において30.3cm/s
(2.9cm/s)であった。なお、この時の、ブイの観測値は
21.1cm/sであった。振れ角が0°の時最も観測値が小さ
く、可搬式の流速計のセンサーが流れの陰に入っている
ことが示唆された。振れ角が90°の時は、観測値が最も
大きく、目視観測によると、流れの真横で流速が過剰に
大きくなっている場所の観測となった。ブイの流速セン
サーは振れ角が−60°に相当し、その観測値は、振れ角が
−90°と−45°におけるそれとの間にあり、この観測と一
貫した結果が得られた。
表1 振れ角の違いによる観測特性
総合考察
全般に振れ角が20∼40°となる観測例が多く、その傾
向は流速が大きいほど顕著であった。振れ角が0°に近
い場合、流れは浮体の陰にあたり、振れ角が大きい場合
の観測値より小さい流速となっていた。振れ角が0°に
近い観測例は、流速が小さいほど多く、その傾向は「流れ
が速い日」においても同様であった。流速が小さい観測
例は、実際に流速が小さい場合(a)のほか、振れ角が0°
に近いがためにブイの流速センサーが浮体の陰に入り観
測値が過小に評価される場合(b)が考えられる。この(b)の
現象は「流れが遅い日」と「流れが速い日」の別なく起
こる。この現象が「流れが速い日」に発生した場合は、
実際には大きい流速にもかかわらず流速の階級が一つ下
がる可能性がある。このことは、流速が大きい時に振れ
角が2 0 ∼4 0 °になりやすい傾向の一つの形成要因とし
て、(b)の現象が関与していることを示唆している。そし
て、流速が大きい時に振れ角が20∼40°になりやすい傾
向は、
「流れが速い日」に振れ角が0°付近で流速が過小
評価されることの傍証であることが示唆される。これら
のことから、
「流れが速い日」に、観測値が過小に評価さ
れる可能性が考えられた。
3 0 ∼5 0 c m / s の階級においては、「流れが遅い日」と
「流れが速い日」とでは、振れ角の頻度が異なってい
た。岩田他1)が示した急潮注意報の一つの重要な判断基
準として、浮魚礁ブイにおける観測値が50cm/sを超える
ことが挙げられている。50cm/sを超えるか否かは、日々
の監視において一つの関心事であるが、その直前の流速
階級における観測特性が「流れが遅い日」と「流れが速
い日」とで異なることは今後注意が必要であろう。
2001年1月23日から24日にかけて発生した大規模な
急潮に際して、城ケ島沖浮魚礁ブイではそれ以前の観測
値と比べ著しく速い流れが観測されなかった(樋田・中
。このことは、実際にはより速い流れが存在した
田, 3))
にもかかわらず、本報で示したような浮体の陰の観測と
なったために、過小な観測値が得られた可能性も考えら
れる。
浮魚礁ブイにおける流速計は、システムを2重化しな
い限り、可搬型流速計等による観測により比較検証する
必要がある。その作業は、浮魚礁ブイの流速計を持ち帰
るのではなく、現地で浮体に設置した状態で実施するの
が現実的である。この際には、浮体や調査船・作業船に
よる流れの陰に注意する必要がある。そして、点検の際
には、浮魚礁ブイの潮流計、可搬型流速計等及び浮体等
の相互間の位置関係、ならびに現場の実際の流れに対す
るそれらの関係を観測条件として確実に記録しなければ
ならない。それらの観測条件の記録をともなわない比較
検証においては、その観測結果の評価に十分な注意が必
要であることを本報は指摘する。
謝 辞
浮魚礁ブイを設置し、維持管理に尽力されている水産
課漁業調整・資源管理班の皆様、海洋情報部の皆様にお
礼申し上げます。
引用文献
1)岩田静夫・石戸谷博範・渡部勲・松山優治 (1998):
定置網の被害の実態と発生要因,急潮予報について.
水産海洋研究,62, 385-392.
2)石戸谷博範(2000):相模湾における定置網を急潮か
ら守るマニュアル.ていち,97, 1-23.
3)樋田史郎・中田尚宏 (2002):2001年1月23日に急
潮をひきおこした相模灘における黒潮系暖水流入の
特徴,神水研研報,7, 109-115.
脚注** 樋田史郎 (投稿中):調査船「さがみ」における
ADCP観測について.神水研研報,8.
103
神奈川県水産総合研究所研究報告投稿規定
以下の項目について改訂する。
内 容
報文は原著論文(一般報文、短報、総説)
、研究情報など、水産業振興や水族生態、水域環境などに関するものと
する。
原稿の受付
原稿の書き方に則しA4用紙で作成し、表紙、本文、図表を各3部と、水総研研報投稿カードをそえ編集委員に
提出する。
報文の受理
報文は編集委員会が承認した2名の校閲者から、掲載が可となったのち、Wordにて作成した表題、著者名、英文
表題、英文著者名、英文解説(Abstract:なくても良い)を現行印刷物のページ幅とし、本文と図表、摘要(なく
ても良い)、引用文献、英文摘要(なくても良い)を、2段組で1段25字×52行とした、そのまま印刷できる状態
のものを1部、および原稿を1部提出すること。
原稿の書き方
原稿はWordを用いてA4用紙に11ポイントで、和文では25文字×22行、英文では10語×22行で作成する。
また、全てのページにページ番号を付する。句点には「 。」を使い、読点には「 ,」または「 、」を用いる。
引用文献
本文中の文献引用は以下の例に従い、肩カッコで番号を半角で付ける。また、3名以上のものについては、
「…他」
「…et.al」とし、同文章での引用が複数の時は1,
2)の様にする。数値は1桁は全角、2桁は半角とする。
(例)
1.…山田・森 1)は、…Y A M A D A ・M O R I 1)は、…M O C H I O K A e t a l . 1)は
2.…と考えられる1,2)。
上記のような2種類の表示として、本文中に(山田1))のようにカッコを付けた標記はしない。
引用した文献の配列は引用順とし、順次番号を付け、同一著者の同一年の発表については年号の後にアルファベッ
トを付けて区別する。続いて引用する同一著者名は「─」のように、同じ雑誌が並ぶときも、同誌(ibid.)などと
略してはならない。
ただし、同一機関発行の同一文献を累年にわたって引用した場合は、以下のように略しても良い。
(例)
神奈川県水産試験場(1973-77):昭和47-51年度漁況海況予報事業結果報告.
各文献は次の形式にのっとり、下記の例にならって記載する。(年号)は半角とし、巻は太字とする。ページは
11-25の様にし半角で表示する。句点の「 ,」や「 .」は全角とする。
雑誌の場合 著者名(年号):論文表題,掲載雑誌名,巻(号),ページ. 単行本の場合 著者名(年号):執筆章名,「書籍名(編者等)」,出版社,出版地,ページ.
全文の引用は、編者(年号)
:書籍名,出版社,出版地,総ページ数.
104
神奈川県水産総合研究所研究報告投稿規定
(例)
1)山田一郎・田中明・鈴木正雄(1975):東京湾の水質について,水産海洋研究,20,25-32.
2)YAMADA I ,TANAKA A and SUZUKI M(1975):On the water quality of Tokyo Bay, Bull. Japan.
Soc. Fish. Oceanogr., 20,25-32.
3)阿部宏喜(2000):イカの呈味成分,「イカの栄養・機能成分(奥積昌世,藤井建夫編著)」,成山堂書店,
東京,61-85.
4)奥積昌世,藤井建夫編著(2000):イカの栄養・機能成分,成山堂書店,東京,214pp.
私信、未発表などは引用文献の項には記載しない。
規定の適用
この規定は神奈川県水産総合研究所研究報告第8号から適用する。
この規定の改定は、編集委員会の承認を得て行う。
105
神奈川県水産総合研究所研究報告投稿カード
整理番号
論文の種類
受付月日
受理月日
編集部会担当者
〔 〕一般報文 〔 〕短 報 〔 〕総 説
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