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がんと共に生きるための 心の持ち方と注意すべき症状

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がんと共に生きるための 心の持ち方と注意すべき症状
2015年4月24日
第8回乳がんシンポジウム@ニューヨーク
がん治療中と治療後の
メンタルヘルス
~自分たちでできること、医師に相談すべきこと~
大阪大学保健センター 精神科
谷向 仁
がんサバイバーシップとは
• がんを経験した方が、生活していく上で直面
する課題を、家族や医療関係者、他の経験
者と共に乗りこえていくこと
• つまり、「診断や治療を受けた後の人生を
生きていく プロセスのこと」
がん罹患後の様々な課題
・身体的: 倦怠感、記憶や集中力の変化、痛み、しびれや神経痛、
リンパ浮腫や腫張、口腔内や歯科的問題、体重変化や食事の変化、
嚥下困難、排泄の問題、更年期障害など
・精神的: 再発や病状悪化への不安や抑うつなど
・心理・社会的:人間関係(カップル、親子、友人など)、就学や就労、
経済的問題、ライフステージに関わる問題(恋愛、結婚、妊娠、出産、
育児、介護など)
・価値観:生きる意味など
診断、治療後に生じうる新たな“日常”への適応が
求められる
がんに対するこころの反応
病状に対するよくない
状況の予期
ストレスとの直面(告知、再発、病状進行など)
日
常
生
活
へ
の
適
応
通常反応
衝撃
否認
}
日常生活に支障なし
生活に支障の強い
不安やうつ病
絶望
怒り
0
2週
3 ヶ月
時間
山脇・内富, サイコオンコロジー, 1997
がん経験者の気持ちと身体状態変化
それぞれの時点での心身の状態を、「非常に良い(2)」、「どちらかというと良い(1)」、「どちらともいえない(0)」、
「どちらかというと不調(-1)」、「非常に不調(-2)」、「回答できない」として平均値を提示
N=619
多くの場合、心身の状態ともに、
診断前の状態に回復している。
何がこの回復に
必要なのか?
がんと診断され
る前
がんと診断され
てから最初の
入院までの間
最初の入院~
退院までの間
(放射線や抗が
ん剤など通院し
ての治療を行っ
た場合)治療中
現在
身体の状態
0.56
0.09
-0.16
-0.75
0.47
気持ちの状態
0.55
-0.49
-0.32
-0.67
0.44
「アフラック がん経験者の心の状態の変化に関するアンケート」
http://www.aflac.co.jp/news_pdf/20140711.pdf
自分自身ができること(1)
~気持ちの持ち方について考えてみる~
ストレスとそれに対する人の反応
ストレス
ストレス状態
ストレッサー
ストレスコーピング
人間関係の変化
社会的役割減少
不安
恐怖
強度の心配
疲労
痛み
など様々な問題
放置
ストレス反応(交感神経の活発化)
身体反応:頭痛、肩こり、嘔気など
心理反応:不安、イライラ、怒り、
集中力低下、無気力など
行動面の変化:多弁・多動、
飲酒量の増加など
放置
社会的引きこもり
精神的問題(不安や抑うつなど)
コーピングとは
・あるストレス状況に際して、それをどのように受け止めて、
どのように対処するかの一連の心理的・行動的なプロセス
・どのように受け止めるか?(認知)
・どのように対処するか?(行動)
(例)がん患者の場合のコーピング
がんの告知に対して、その事実を受け止め、対策をたてて、
どのように行動するという一連のプロセス
コーピングの種類
・問題焦点型コーピング
自分の経験や能力による努力、他者に協力を得るなどの方法による対処法
・情動焦点型コーピング
・悲しみ、苦しみ、怒り、不満などの感情を友人などに聞いてもらい、気持ちを整
理するなどの対処法。逆に、感情を心の中に閉じ込める対処をとる人もいる
・感情の表現が苦手、思っていることをなかなか口に出せないことなどでは、
抑うつになりやすいことがあり、過度に感情を抑えることは良くないこともある
・社会的支援型コーピング
家族・友人などに相談したり、アドバイスを求めたりする対処法
・気晴らし型コーピング
・カラオケ・スポーツ・趣味・レジャーなどによるストレス解消法
・過剰なアルコール摂取などは望ましくない
・その他
呼吸法、漸進的筋弛緩法、自律訓練法などのリラクセーション法も有効とされる
コーピングの違いによるがんへの影響
乳がんの患者さんのコーピングが生存率にどのように影響するか
調査した報告
現在のところ否定的となっている。
4つのコーピングによる比較
(根拠に乏しい)
①ファイティング・スピリット: 「がんになんて負けるもんか!」
②抑うつ・絶望的: 「がんになってしまった、もうダメだ…」
③真摯・真面目: がんになったことを真摯に受け止め、医師の指示
患者さんなりの対応、自然体でよいと
をちゃんと守っていこうと思っている
④否認:普段は、がんになったことを忘れている
考えられている
最も病気の経過が良好なのは
ファイティング・スピリットのグループ
Watson M, et al.:Lancet,354,1331-6,1999
Webアンケート調査
(2014年2月28日~3月17日)
• 有効回答数:
173名
• 協力者の属性:
女性:170名、男性:3名
平均年齢:50.8歳(SD=8.3, 34~79歳)
• 診断後の平均期間: 5年( SD=3.9, 0.2~25年)
BC ネットワークとジャムネット調査,2014
ストレスコーピング
・コーピングは人によって千差万別
・自分の好きなことをやる、
友人と会う などが多い
・少数ではあるが、お酒での
コーピングや見つかっていないと
いった回答もあり
BC ネットワークとジャムネット調査,2014
自分自身ができること(2)
~1人で抱え込まない~
サポートサービスの利用
約66%の方が何らかのサポートを利用している。
BC ネットワークとジャムネット調査,2014
利用したことのあるサポート
BC ネットワークとジャムネット調査,2014
利用した満足度
約74%の人が満足したと回答
BC ネットワークとジャムネット調査,2014
ピアサポート(peer support)とは
同じような立場の人によるサポート
同じ体験をした人との出会いが持つ意味
• 深い共感性
• 体験的知識(Experiential knowledge)
• ヘルパー・セラピー原則
(The helper-therapy principal)
体験的知識
(Borkman, 1976)
病気を持って暮らす中では、医療者に聞けないことや、
医療者が分からない問題も多くある!
• どこの病院?どの先生がいい?
• 仕事復帰したいのだけど・・・・
• 医師とどう接するのがいいの?
• 自分の今の状況を家族や親戚、友人にどう伝えれ
ばいいの?
• 医療保険は?
など
経験者の知識は、専門職の知識・技術と比べ、
より実際的・実用的かつ包括的である
「ヘルパー」・セラピー原則
(Riesman, 1965)
• 援助をする人が援助される人より、もっと多く
のことを得る
• 援助をする人がもっとも援助を受ける
援助する側になることで、自分の問題に向き合える
ようになったり、自尊感情を回復出来るようになる
“Helping you helps me”
(Karen Hill)
外傷後成長(Post traumatic growth )
強度のストレス(PTS:Post-Traumatic Stress )を経験した
のちに、生活の質(QOL:Quality of Life)を回復する過程に
おいて、トラウマを乗り越え、人間的な成長を遂げることに
よって、QOLを回復するという過程
好きなことをする
強大なストレス
コーピング
(人によって様々)
何か新たな
考えや価値観
を得る
自然に触れる
人と話す・相談する
コーピングと外傷後成長
・楽天家や希望を持っていることは、コーピングによって良好なQOLや
外傷後成長と関係する。
Ho S, et al. Oral Oncol 47(2):121-4, 2011, など多数
・そのような傾向は、周囲の支援をよく受け入れ、病気や病状を
受け入れ、問題を解決しようといった前向きなコーピングと関係している。
Carboon I, et al. Traumatology 11:269–283,2005, など多数
・身近な友人や治療チームからの支援を受け入れることは、外傷後成長
と関係する。
Bozo O, et al. J Health Psychol 14 (7):1009–1020, 2009, など多数
・配偶者から良好なサポートによる有効な関係性を持つ患者は、良好な
コーピングと外傷後成長と関係する。
Bozo O, et al. J Health Psychol 14 (7):1009–1020, 2009など多数
多くの場合、人とのつながりの中で生じている。
病気になって得たこと
BC ネットワークとジャムネット調査,2014
医師に相談すべきこと
~注意すべき症状と望まれる対応~
がん経験者の気持ちと身体状態変化
それぞれの時点での心身の状態を、「非常に良い(2)」、「どちらかというと良い(1)」、「どちらともいえない(0)」、
「どちらかというと不調(-1)」、「非常に不調(-2)」、「回答できない」として平均値を提示
N=619
多くの場合、心身の状態ともに、
診断前の状態に回復している。
しかし、現在も気持ち
が不調と回答した人
が22%存在した
がんと診断され
る前
がんと診断され
てから最初の
入院までの間
最初の入院~
退院までの間
(放射線や抗が
ん剤など通院し
ての治療を行っ
た場合)治療中
現在
身体の状態
0.56
0.09
-0.16
-0.75
0.47
気持ちの状態
0.55
-0.49
-0.32
-0.67
0.44
「アフラック がん経験者の心の状態の変化に関するアンケート」
http://www.aflac.co.jp/news_pdf/20140711.pdf
不安・抑うつの悪循環
不安・抑うつの増強
不安・抑うつ
症状の放置
症状の放置
悪循環!!
(日常生活への支障)
・意欲の低下
・集中力低下
・判断力低下
・物忘れ
・否定的な考え
・不眠 など
症状の放置
(治療への取り組みに影響)
・医師からの説明の理解
・治療や療養の場の選択
や取り組み、意思決定
など
乳がん患者さんが補助化学療法を
受ける割合は・・・・・
・抑うつがない場合: 92.2%
・抑うつがある場合: 51.3%
抑うつは、治療選択にも大きな
影響を与えます!
Colleoni M, et al. Lancet. 356(9238):1326-7,2000
こんな症状はありませんか?
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
ずっと気持ちがふさぎこんでいる
いままで楽しめていたことが、ほとんど楽しめていない
テレビや本の内容が頭に入ってこない
人と話したくない、会いたくない、独りでいたい
家事や仕事をするのに時間がかかるようになった
普段以上に疲れやすい
物忘れが増えた
自分を責めたり、いないほうがいいと考えたりする
いらいらして落ち着かない
食欲がない、好きな食べ物を味わえていない
• 夜眠れない、夢をよく見る(特にいやな夢)
など
これらはうつ病のサインかもしれません・・・・・・・
うつ病では身体症状も出現します
睡
眠
障
害
食
欲
不
振
頭
痛
立
全
身
倦
怠
感
痛
下
痢
長引く身体症状の背景にはうつ病が影響していることがあります
Psychiatry Res.126(2):151-8, 2004
40歳代 女性 乳がん
• X-1年Y月 左乳がんにて手術
その後、外来で化学療法を受けていた
• 漠然とした不安と不眠があり、主科より抗不安薬と睡眠導入剤
が処方されていたが、症状が継続しており精神腫瘍医を
紹介受診
経過
• ご本人からの訴え:
「夜眠れません」、「今後のことが不安です」
• 医師の診察の中で得られたもの:
抑うつ気分、興味や意欲、思考力の低下、罪業感、
食欲不振、不眠(寝つきが悪く、途中で目が覚め、
ぐっすり寝た気がしない。怖い夢を頻繁にみる)
「生きててもしょうがないと感じることもあります・・」
(診断):抑うつ状態
(治療)定期的な面談と睡眠を確保できる抗うつ薬の開始。
その後、悪夢が減り、睡眠が徐々に安定。抑うつ症状も軽減。
「頭がすっきりしてきました」
現在、復職に至る。
不安・抑うつに気付いたら・・・
•そのまま放置しておこうとは思わないこと
⇒様々な支障がひどくなることがあります。
•誰かに気持ちを話してみること
⇒話を聞いてもらうと多くの場合、気持ちが楽になります。
誰かと一緒に考えることで、自分の頭の整理にもつながることが
多くあります。
•勇気を出して専門家に相談してみること
(特にがん医療に詳しい精神科医や心療内科医、カウンセラーなど)
⇒自ら気付かなかった問題も含めて把握し、あなたと相談しながら、
適切な治療のお手伝いができます。
とにかく1人で抱え込まないことが大切です!!
患者さんのこころのケアは
精神科医だけで十分でしょうか?
がんの診断や治療を通して、どのようなことに
ついて悩みましたか?
痛み、副作用、後遺症などの
身体的苦痛
60.5
落ち込みや不安、恐怖などの
精神的なこと
59.3
これからの生き方、生きる意味
などに関すること
50.1
不安や抑うつには、いろんな
39.7
苦痛が影響しています!!
収入、治療費、将来への蓄え
などの経済的なこと
30.9
仕事、地位、人間関係などの
社会とのかかわり
夫婦間、子供との関係などの
家庭・家族のこと
(N=1446)
27.2
17.0
医師や看護師などとの関わり
その他
6.6
0
10
20
30
40
50
60
70
(%)
日本医療政策機構 「がん患者意識調査2010年」
不安・抑うつなどの心理社会的苦痛へのアプローチ
身体機能面
精神科医・心療
内科医・心理士
多要因が関与する!
リハビリテー
ションなど
不安
抑うつ
身体症状
(痛み・倦怠感など)
ソーシャル
サポート面
家族や医療
ソーシャル
ワーカー
担当医・看護師・
緩和ケアチーなど
総合的なアプローチが皆さんを支える力になります!
緩和ケアやこころの専門家への
扉は常に開いています!
悩み事があれば、一度相談してみてください!
謝辞
・BCネットワーク及びジャムズネットの関係者の皆様
・アンケートのご協力いただいた多くの患者様方
・松井智子先生(大阪大学 人間科学部)
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