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トウヒ属樹木の蛇紋岩土壌における適応機構の解明と環境修復に関する

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トウヒ属樹木の蛇紋岩土壌における適応機構の解明と環境修復に関する
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トウヒ属樹木の蛇紋岩土壌における適応機構の解明と環
境修復に関する研究
香山, 雅純
北海道大学 演習林研究報告 = RESEARCH BULLETIN OF
THE HOKKAIDO UNIVERSITY FORESTS, 63(1): 33-78
2006-03
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/21492
Right
Type
bulletin
Additional
Information
File
Information
63(1)_P33-78.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
(
2
∞6)
3
3
トウヒ属樹木の蛇紋岩土壌における適応機構の
解明と環境修復に関する研究
香 山 雅 純1
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by
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iK AYAMA1
要
旨
本研究は、樹木の成長が抑制される蛇紋岩地帯おいて、適応性の高いトウヒ属樹木を用いた環境修復技術を
確立することを目的とした。まず、複数のトウヒ属樹木の比較生理生態研究から、アカエゾマツとエゾマツの成
長特性を解明した。次に、アカエゾマツ、エゾマツおよびヨーロッパトウヒ苗を蛇紋岩土壌に植栽し、適応性の
高い樹種を選出した。さらに、蛇紋岩地帯のトウヒ属樹木の植林地を対象として調査を行い、環境修復の可否を
検討した。
野外調査の結果、エゾマツはアカエゾマツよりも成長量、光合成速度、葉内窒素濃度が高かったが、アカエ
ゾマツは針葉の寿命が長く、高い光合成速度を長期間維持することが解った。
植栽実験の結果から、アカエゾマツの成長だけが蛇紋岩土壊でも低下しないことが解った。この理由として、
アカエゾマツは外生菌根菌の感染率が高く、植物体中の有害な元素濃度も低いことから、蛇紋岩土壌に生育可能
な樹種であることが示唆された。
無立木地に植栽されたアカエゾマツの成長は、土壌中の養分濃度によって規定されていた。しかし、養分が
乏しく、成長の悪い南向斜面のアカエゾマツは、養分を新しい葉に移動させることによって生き延びていた。
キーワード:トウヒ,蛇紋岩土壌,葉の寿命,光合成特性,養分吸収特性
∞
年1
0月3
1日受理, AcceptedO
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12
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5
2 5
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1
6,8
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2
1 独立行政法人森林総合研究所九州支所,熊本市黒髪4-1
KyushuR
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,
Kumamoto
,
8
6
0
0
8
6
2
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
34
目
第 1章 緒 言
1
.1 荒廃地における環境修復の必要性
1
.2 活物材料としてのトウヒ属樹木の特性
1
.3 蛇紋岩土壌における植物の生育阻害要因と適応機構
1
.4 研 究 目 的 と 論 文 の 構 成
第 2章
トウヒ属 5
樹種の生態生理学的特性の把握
次
第 4章
トウヒ属樹木を用いた森林生態系の環境修復の試み
4
.1 修復のための基礎資料の収集
4
.2 環境要因と指標植物の解析
4
.3 導入樹種の成長と生態生理学的応答
4
.4 結 論
第 5章 総 合 考 察
5
.1 トウヒ属 3
種の環境応答能
5
.2 生態生理学的視点からの研究展望
2
.
1 研究目的
2
.2 材 料 と 方 法
5
.3 森林の修復と再生への展望
2
.3 実 験 結 果
2
.4 考 察
2
.
5 結論
謝辞
引用文献
第 3章
蛇紋岩土壌に育成させたトウヒ属苗木の成長解析
3
.1 研 究 目 的
3
.2 材料と方法
Summary
写真
Appendix (付表)
3
.3 実験結果
3
.4 考 察
3
.5 結 論
第1
章緒言
回復していない荒れ地において、再生が困難であって
1
.1 荒廃地における環境修復の必要性
21
) 4
1
) 1
2
4
) 1
却)
森林は自然災害ならびに人為的な要因から、たえ
も森林修復事業が実施され、一定の成果を挙げてきた
, , ,
日本にも、特殊土壌地帯において山火事後、原植
ず被害にさらされる可能性がある。特に、山火事は大
生が回復していない地域が存在する。その一例として、
規模な森林の損失を招く一要因であり、世界各地での
北海道北部には、数度にわたる山火事の影響を受け、
報告が多数ある m
未だに森林植生が回復していない地域が存在する
四) ,
4
4
)
トウヒ属樹木が分布する
亜寒帯地域もその例外でなく、山火事が頻発し多くの
森林が消失している 22)ω) 。
山火事後の植生回復に関しては、速やかに植生が
(
P
h
o
t
oI
) 86) ,112) 。 こ の よ う な 地 域 の 一 部 は 北 海 道
大学天塩研究林内にも位置し、寒冷強風地域であり、
かつ蛇紋岩土壌を立地環境とすることから、生育可能
回復し、遷移が進行していくにしたがって二次林が成
な 種 が 制 限 さ れ サ サ が 優 占 種 と し て 生 育 し て い る 52) ,
立するのが一般的である 22) ,叫。しかし、現状では山
問。 6
9
) 。さらに、この地域では蛇紋岩土壌がむき出し
火事後、数年を経ても植生の回復があまり進行してい
の地域も多く存在し、地すべりが多発している。この
1
9
8
8年に大規模な山火事に
ことから、北海道北部の蛇紋岩土壌の荒廃地において
ない地域も多く存在する。
遭遇したアメリカのイエローストーン国立公園でも、
も、森林を修復することが望まれる。実際に森林修復
未 だ に 植 生 が 回 復 し て い な い 地 域 が 存 在 す る 19) 。ま
に使用される樹種としては、土壌条件に対して適応性
た、山火事後の植生回復は土壌状態にも影響を受け、
の高い樹種で、北海道北部に生育していた樹種を用い
特に蛇紋岩土壌のような特殊土壌の地域では、植生の
ることが望まれる。トウヒ属樹木は、本来北海道北部
回復は極めて遅い 2) 剖
このように植生の回復が困難な地域においては、
における主要樹種であり刷、荒廃地を緑化する活物
材料としては妥当な種であると期待されてきた。
環境保全面および防災的側面から人為的に森林を再生
していく技術を確立することが急務である。蛇紋岩土
壌や鉱山跡地において植生が破壊され、未だに植被が
1
.2 活物材料としての卜ウヒ属樹木の特性
トウヒ属の樹木は、主に北半球の亜寒帯気候の地
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
3
5
域に約 6
0
種存在し 42) 、我が国では 7種が記載されて
N
iは原形質膜の極性、イオンの吸収および転流、細胞
いる 91)。本州では多くのトウヒ属樹種が現在ごく限
分裂の活性、および根への炭素分配に対して悪影響を
及ぼすとされる 18) 却) ,
7
6
) 則。その結果、根の成長は
N
iの吸収によって抑制されるお),
4
6
) 訂) ,
4
9
),
81
)お),
J
l
9
)
られた山岳地帯にのみ分布する種が多い。一方、北
P
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ag
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ni
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) とエゾマツ
海道ではアカエゾマツ (
(
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s
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s
) が広範囲に分布している 82) 。分布
特性から、活物材料としてのトウヒ属樹木は北海道に
1
2
9
) 。さらに、 N
iは葉内に吸収されると、光合成能力
の低下、および、クロロフィル濃度の低下を招く ω。47),則。
おいて汎用性の高い種であると考えられる O アカエゾ
また、高濃度の Mgは細胞外の Caと置換され、細胞壁
マツは遷移初期から出現する樹種であり、蛇紋岩土壌、
の安定性と原形質膜の透過性を変化させる η) 。しかし、
湿地、火山灰地、砂丘、岩礁地など貧栄養な環境、お
l4) 。一方、エゾマ
よび山火事跡地にも生育するJl3) ,J
蛇紋岩土壊に関しては、様々な生育阻害要因が複合的
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b
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ha
1
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s
)
ツは耐陰性が高く、 トドマツ (
はいまだに不明な点が多い 11) 。
に関わっているため、植物の成長を決定づける要因に
とともに発達した森林の構成種となる曲), 82) 。
上記のような特徴を持つ蛇紋岩土壌であるが、い
また、肥沃な褐色森林土を中心に分布していることが
くつかの種は耐性を獲得し、蛇紋岩土壌にも生育して
多い 43) 。アカエゾマツとエゾマツは同属の樹木であ
いる O 植物の有害元素に対する一般的な耐性機構は、
りながら分布域がやや異なる。アカエゾマツはエゾマ
元素の植物体内への吸収や移動を制限する植物種
ツ等の他の針葉樹とともに優占する群落は少なし上
述の地域に純林を形成する田),
J
l3) 。
だり、植物体内でキレート等の無毒化した形態に置換
アカエゾマツとエゾマツは、主に天然更新に関し
て戦前から詳細な調査が行われてきた 102) 。また群落
構造に関しでも多岐に渡った研究が行われている 79) ,
1
1
3
)
,幻)。アカエゾマツの光合成特性は、エゾマツと
比較して初期勾配が小さく、光合成速度が飽和に達す
る光合成有効放射が高いことから、光要求性が高い樹
種であることが示唆された 59) ,98) 。また、アカエゾマ
ツの光合成速度は 9月にピークに達するとされている
5
6
)
。さらに、土壌凍結、水ストレスと光合成速度と
の関係解析に関する研究例もあるJlI)。養分吸収特性
(
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c
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u
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r
) と、有害元素を蓄積して液胞に貯め込ん
a
c
c
u
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u
l
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t
o
r
) の2
種類に分けられるお,
できる植物種 (
4
)
,田)。一般的に a
c
c
u
m
u
l
a
t
o
rは重金属を含んだ土壌に
特殊化した固有種が多く、大量の重金属を体内に蓄積
可能である 11),
27)。これらの種は h
yperaccumulator
と記載され、葉内の液胞中に重金属を蓄積している
1
1
l,
9
4
)
一方、蛇紋岩土壌に分布する S
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a(
ナデ
シコ科マンテマ属)や P
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a(
マツ科マツ
iを蓄積せず、 excluder
属)は水耕実験によっても N
であることが示唆されている 28) ,
80 。また e
x
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rと
に関しては、蛇紋岩土壌と褐色森林土に分布する樹木
M
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s
) は、根から
考えられるススキ (
中の無機養分を分析した結果、蛇紋岩土壌下に生育す
有機酸を放出することで有害元素である Alとキレー
るアカエゾマツは特に Mg
濃度が低い傾向を示した 10)
5
7
)
。しかし、アカエゾマツの生理機能特性に関する
トを形成し、吸収しない機構を持つことが解明された
5
3
)
。さらに、特に木本に関しては、根と共生する外
実験生態学的研究は限定されている 43) 。
生菌根菌が大きな役割を果たしており刷、外生菌根
1
.3 蛇紋岩土嬢における植物の生育阻害要因
品) 1
菌を接種した苗では有害元素の吸収が抑制される 46) 。
北海道の南宗谷付近から日高にかけて分布する蛇
紋岩土壌は超塩基性土壌とされ、植生を構成する種に
も著しい特徴を持つとされている ω ,83) ,120) 。蛇紋岩
,沼)。蛇紋岩土壌に育成したアカエゾマツとエゾマ
iとMg濃度は高くない 10) ,57) 。この
ツは、針葉中の N
ことから、アカエゾマツとエゾマツは e
x
c
l
u
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e
rに相当
すると推察されている。
土壌は、カンラン岩等の超塩基性岩が変成を受けて形
成された蛇紋岩の風化によって形成される11)。蛇紋
i、C
r
等の重金属の含有、
岩土壌の特徴として、(1) N
(
2
) 高濃度の Mgの含有、
(
3
) N、P、K、Ca
等の
植物必須元素の欠乏が挙げられる11l重金属のうち、
rは主に 3
価の C
rで、あり、 6
蛇紋岩土壌中に含まれる C
価C
rと比較して植物に対する毒性は少ない 11) 。一方、
1
.4 研究目的と構成
本研究は、 トウヒ属樹木を用いた北海道北部の蛇
紋岩土壌地帯における森林環境修復技術の基礎情報に
資することを最終的な目的とした。
まず、北海道に広範囲に分布するアカエゾマツと
エゾマツの土壌環境に対する環境応答能を明らかにす
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
36
る必要がある。このために、アカエゾマツとエゾマツ
ウヒ属樹木の研究は多岐に渡るが、主要樹種の生育特
の成長特性を分布域の広い外国樹種 3種(ヨーロッパ
性については情報が乏しい。そこで、まず北海道にも
トウヒ、グラウカトウヒ、マリアナトウヒ)と併せて
導入されているトウヒ属樹木数種の比較生態生理学的
測定し、アカエゾマツとエゾマツの主に光合成特性の
調査を行った。
同属内における位置付けを明確化した。また、同じト
海外における代表的なトウヒ属樹木としては、ヨ
ウヒ属樹木間で成長反応を比較することによって、系
ーロッパトウヒが主に東欧、北欧地域を中心に広範聞
統聞の違いによる成長特性の差異を最小限に抑えるこ
に分布する曲)。北米大陸に分布するトウヒ属樹木と
とができるので、種間比較がより明確になる則。成
P
.glauca) とマリアナトウ
しては、グラウカトウヒ (
長特性としては、伸長成長、針葉の寿命、光合成特性
P
.mariana) が広範聞に分布する。一方、ヨ}ロ
ヒ (
および養分吸収特性に関して着目した。これらについ
ツパトウヒとグラウカトウヒが比較的乾燥した肥沃な
て、同一地域に植栽された個体で検討し、立地環境の
土壌に分布するのに対し、マリアナトウヒは永久凍土
類似した外国種と比較し検討した。そして、分布特性
上の貧栄養な立地に生育する ω 。
章
)
。
に裏付けられた生態生理的特性に関して解明した(第2
北海道ではアカエゾマツとエゾマツは天然分布域
アカエゾマツとエゾマツの生態生理的側面を明確
化した後に、特に北海道で広く植栽されているアカエ
がやや異なり、アカエゾマツが貧栄養土壌に分布する
のに対し、エゾマツは肥沃な土壌環境に分布する 43)
守
。しかし、両樹種の光合成特性や養分吸収特性は
種の初
ゾマツ、エゾマツおよびヨーロッパトウヒの 3
口3
)
期成長における蛇紋岩土壌への耐性と適応能力を検討
あまり解明されていない。生育環境に関しては、肥沃
した。このために、蛇紋岩土壌と非蛇紋岩土壌(褐色
な環境に生育するエゾマツは、ヨーロッパトウヒとグ
森林土) とにトウヒ属樹木苗3種を植栽し、両土壌間
ラウカトウヒに類似した特性を持ち、貧栄養環境に生
樹種の生態生理的特性を比較し検討した。
で育成させた3
育するアカエゾマツは、マリアナトウヒに類似してい
さらに、特に NiとMgに対する耐性機構に大きく関与
ることが予想される。
する外生菌根菌の感染状況に関しでも検討した。これ
土壌を中心とした環境への応答能力は、光合成特
らの生育試験の結果から、環境修復のための活物材料
性の評価を行うことから可能になる。とりわけ、トウ
としての適合性を調査し、蛇紋岩土壌の山火事跡に植
ヒ属樹木聞における様々な生育環境の利用の仕方は、
光合成特性から評価が可能である 95) 。描)。一般的に、
林する樹種の妥当性を検討した(第3章)。
最後に、北海道北部の蛇紋岩土壌地帯の山火事跡
の無立木地において実施された森林環境修復試験地の
植物の資源利用特性に関しては、生育環境によって 2
種類に区分することができる 17)65) ,72)O 一つは肥沃
事例解析を行った。まず、気候要素と土壌要素に関し
な立地に生育する植物種 (
a
) で、本論文では多資源
て特に微地形単位で検討し、試験地に生育するササを
F
a
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p
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c
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e
s
) 、他方は、貧栄養
多利用型 (
生物指標とするセーフ・サイトの解析例を示した。また、
b
) で、少資源効率利用型
な立地に生育する植物種 (
導入樹種に関して生育状況を詳細に検討し、成長に景簿
(
S
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s
) と呼称する (
F
i
g
上A
)。
章
)
。
を与える生態生理学的特性に関して検討した(第4
多資源多利用型の植物種は、高い光合成能力を短期間
これらの一連の研究結果より総合考察を行い、今
維持する特徴を持ち、少資源効率利用型の種は、低い
後の研究展望に関しでも検討した。また、導入された
F
i
g
.l
;B
) 。結果とし
光合成能力を長期間維持する (
樹木の生育を促進させ、蛇紋岩土壌地帯における森林再
b
) の方が
て、葉の生涯における光合成生産量は、 (
大きい量となる 24)、38) 。また、葉の寿命に関しては、
章
)
。
生を実施していく上での対策も併せて検討した(第5
多資源多利用型の種は寿命が短いのに対し、少資源効
第2
章
トウヒ属樹木の生態生理学的特性の把握
2
.1 研究目的
率利用型の種は低い光合成能力を補償するため長い寿
命を持った葉を持つ 57)、64)、附。さらに、光合成能力
は葉内の窒素濃度と正の相関を示すお)、刻、担)、刻、側、同)。
森林の修復と再生を行うには、その立地解析から
例えば、多資源多利用型の種は葉内の窒素濃度は高い。
環境収容力を把握するとともに、森林環境修復に用い
一方、少資源効率利用型の種では葉内窒素濃度は低い
る活物材料としての樹種の選定が、環境修復の成否を
傾向があるが、少ない窒素を光合成に有効活用する指
決定づける主要な要因である。本研究で対象としたト
標である窒素利用効率は高い傾向を示す 72) 。
トウヒ属の蛇紋岩土壊への適応機構(香山)
また、樹木個体における養分濃度、針葉の寿命、
および光合成能は、枝のレベルで評価することができ
る16) 、73)、103). 105) 。このことから、 トウヒ属樹木の
37
た。苫小牧研究林の土壌は、未成熟火山灰土壌とされ
ている却)。苫小牧研究林の年間平均降水量は1,16
1剛、
.
6 Cである却)。
平均気温は 5
0
成長反応に関して枝レベルで生育環境の違いが反映さ
れることが予想される。さらに、同じトウヒ属樹木聞
2
.2
.2 測定材料、産地
で成長反応を比較することによって、系統聞の違いに
対象樹木としては、北海道に分布するアカエゾマ
よる成長特性の違いを最小限に抑えることができるの
ツとエゾマツ、ヨーロッパに分布するヨーロッパトウ
で、種間比較がより明確になる田)。
ヒ、北米に分布するグラウカトウヒとマリアナトウヒ、
以上の知見から、トウヒ属樹木の生態生理的な機能
は、樹木の生育環境を反映すると予想できる。この予
計 5樹種とした。なお、これらの 5樹種の成長反応に
関しては、同一環境で調べられた例はない。
想を検証するため、同一地域に植林されたトウヒ属樹
木5種の成長反応、特に光合成特性、葉の寿命、およ
2
.2
.3 伸長量の測定
本研究では、成長量を代表する値として、 5年間
び窒素渡度を比較し検討した。
のシュート(枝と針葉を合わせた単位)伸長量を測定
2
.2 材料と方法
2
.
2
.1 謂査地域の概要
した。ここで5年間のシュート伸長量を測定する理由
本研究は、北海道大学北方生物園フィールド科学
は
、 トウヒ属樹木の針葉は高い光合成速度を最低 4年
間は維持することから 40).107) 、シュート伸長を測定す
1
2と4
0
9
センター森林圏ステーション苫小牧研究林の 2
ることによって、この聞の光合成産物量が評価できる
林班(北緯4
24
0
'
,東経1
4
14
1
'
,標高7
伽1
) において、
ものと考えたからである。生育期間の終期にあたる
1
9
8
2
年に植栽されたトウヒ属樹木を対象として実施し
1
9
9
9年 1
0月に 5
樹種から各 1
0
本の枝を採取し、シュー
0
0
ト伸長量を測定した。
:
詮
A
E
g
i
2
.
2
.
4 針葉の寿命
穫の針葉の寿命を評価するため、
トウヒ属樹木5
9
9
9年1
0月の成
枝の針葉の残存率の測定を実施した。 1
長が停止した時期に、トウヒ属樹木 5種から 3個体ず
三
g
つ枝のサンプリングを行った。 3本以上のシュートを
b
a
枝から葉齢別に分け、それぞれ 800 Cで 4 日間乾燥さ
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f開 田 山 田s(
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)
2,
せた。乾燥後、各業齢の実際の針葉数と葉痕の数をシ
~
ュート毎に数えた。針葉の残存率は、実際の針葉数と
B
5
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包
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Passageo
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A:Ther
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i
cc
a
p
a
c
i
t
y
葉痕の数から推定される本来の針葉数の比を計算する
ことで評価した 51)同) .57) 。
また、残存率の曲線から、実際の針葉の寿命の指
9
9
9年 1
0月に
標として針葉の半減期 57) を推定した。 1
0
本の主枝から、針葉の
採取したトウヒ属樹木5種の 1
半減期を測定した。半数の針葉が落葉した状態では
生理活性が大きく低下していることから、半減期を
「活力ある針葉の寿命」ととらえることが可能である開。
2
.2
.5 光合成速度測定
純光合成速度(=見かけの光合成速度)は、 トウ
ヒ属樹木5種の 2年生針葉に関して測定した。 2年生針
葉を用いた理由は、 トウヒ属樹木の針葉は最大光合成
能力に達するのに2年を要するからである 40).74) 。純
北海道大学演習林研究報告第 6
3
巻 第 1号
3
8
光合成速度は、 1
仰9
年 6月から 1
1月まで毎月 1問、各
クロロフィル濃度a
、bを以下の式から算出した 5) .1凹
)
。
Ch
.
l
a (μmol'
l
l
)=1
4
.
8
5A師 一 5
.
l4A醐
樹種に関して 3個体以上を対象に測定した。光合成速
Ch
Lb (μmol'
l
l
)=2
5
.
4
8A醐一 7
.
3
6A師
度の測定には開放系の携帯式赤外線ガス分析計
(H4
,
A ADC,U.K.)を用い、 C02
濃度は周囲と等しい
ここで、 Ch
.
l
a はクロロフィル a、Ch
.
l
bはクロロフィ
濃度の 360ppmで測定を行った。太陽光が十分に得ら
6
6
5、A醐は 665nm、648nmにおける吸光度を示
ルb、A
れないときは、補助光源にハロゲンランプ (WALZ,
す
。
E
f
f
e
l
t
r
i
c
h,Germany) を用いた。測定は高い光合成有
PPF) から何点か行い、低い PPFの測定にお
効放射 (
0
0Cで4日間乾燥させた。
残った針葉に関しては 8
T
I
1
o
o
;T
e
s
t
e
rI
n
d
u
s
t
r
y
乾燥させた針葉は、粉砕器 (
いては寒冷紗(クラレ,大阪)を用いて遮光を行った。
C
o
.
,Tokyo
,]
a
p
a
n
) を用いて粉末にした。窒素濃度は、
最後にチャンパーをアルミニウムホイルで被い、暗呼
CHNS/Oa
n
a
l
y
z
e
r (PE24 s
e
r
i
e
sI
I
,P
e
r
k
i
n
E
l
m
e
r,
l
U定後、針葉のサンプリングを
呼吸速度を測定した。 i
Norwa
1k,CT,USA) を用いて分析を行った。
,C
anon) で
行い、針葉の面積をスキャナー (FB636U
取り込み、影の部分を面積測定ソフト
(Area
.
00
,MYKAL
a
b
.,1
9
9
5
) で解析し、針
MeasureV
e
r
.1
葉の面積を算出した。また、針葉の面積と併せて
4) (全針葉面積に対する影になっている面積
STARI
∞
また、最大光合成速度と窒素濃度との関係を検討
するため、最大光合成速度を窒素濃度で割った瞬時的
6
)
.37) に関
な値である光合成窒素利用効率 (PNUE) 2
して検討した。光合成窒素利用効率は、光合成速度と
窒素濃度の単位に関して、ともに重量ベース、または
i
l
h
o
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t
t
en
e
e
d
l
ea
r
e
at
ot
o
t
a
ln
e
e
d
l
ea
r
e
a
)
の割合;S
面積ベースで比較する 2
6
)。そのため、これらの値を
に関しでも測定を行った。測定した光合成速度は針葉
算出するために比葉面積 (
S
p
e
c
i
f
i
cl
e
a
fa
r
e
a
; SLA)
の面積で割り、針葉の立体構造も反映できる葉面積ベ
を算出した。分析のために採取した針葉に関して、ス
ース(投影面当たり)の光一光合成曲線を以下の式で
求めた 118) 。
で4日間乾燥させた後に面積を求めた針葉の乾重量を
Pn=Pmax[
l
e
<
φ
I
/
P
m )]-R
日
ここで、 Pnl
ま純光合成速度、 Pmaxは光飽和時におけ
、
φは初期勾配、
I
日
ま
l
はPPF
値
、 R
I
立
はO
μmolm' 'lpPFにおける暗呼吸速度を示す。
る最大光合成速度、
キャナーで取り込んで面積を算出した。測定後、8O"C
'
l
) を算出した。そして、重
測定し、比葉面積Ccm2g
量ベースの光合成速度を算出し、光合成窒素利用効率
を検討した。
P
s
a
t
)を
、 2、
との光飽和時における最大光合成速度 (
2
.2
.7 統計分析
トウヒ属 5
種間における 5
年間のシュート伸長量、
3、4、6年生の針葉に関して測定した。 P
s
a
tの測定は、
針葉の半減期、および窒素利用効率の平均値に関して
前年の測定において光合成速度が安定していた8月に、
e
s
tを用いて多変量の有意差検定を行った
は
、 Tukeyt
各樹種3個体以上を対象として実施した。測定には携
(
S
t
a
tView5
.
0
;SASI
n
s
t
i
t
u
t
eI
nc
.
) F
i
g
.3
、Fig.9
における異なるアルファベットの値問には、 5%の範
囲で統計的に有意差があることを示している。
また、翌年にはトウヒ属樹木 5種における葉齢ご
0
2
5"
C
、 C02
濃
帯式赤外線ガス分析計を用い、葉温は 2
度は周囲と等しい約 360ppmの下で測定を行った。測定
0
した針葉はスキャナーで取り込んで面積を算出し、葉面
積ベースの最大光合成速度を算出した。
2
.3 実験結果
2
.2
.6 針葉中の化学分析
2
.
3
.1 シュート伸長量
5年間のシュート伸長量を測定した結果、トウヒ
針葉中のクロロフィルおよび窒素濃度の分析を行
9
9
9年9月にトウヒ属樹
った。クロロフィル濃度は、 1
5
属樹木5種の中でエゾマツが最も長い伸長量である 7
cmを示し、グラウカトウヒ、アカエゾマツ、マリア
種からそれぞれ3
個体の枝を採取して行った。採取
木5
F
i
g
.3
,
ナトウヒに対して有意に長い伸長量を示した (
した枝は葉齢別に分け、 1
、2、4
、6
年生の針葉に関し
p
<
0
.
0
5
) 。以下、ヨーロッパトウヒ (70cm) 、グラ
てクロロフィル濃度を定量した。クロロフィルは、針
5
8
c
m
) 、アカエゾマツ (
5
0
c
m
) と続い
ウカトウヒ (
葉を液体窒素により粉砕した後、ジメシルスルフォキ
5 cmと最も短く、他の樹種
た。マリアナトウヒでは 3
シド (DMSO) を用いて抽出し、分光光度計 (Type
pく 0
.
0
5
)。
と比較しでも有意に短い伸長量を示した (
必V,S
himadzuC
o
.
,K
yoto
,]
a
p
a
n
) を用いて測定し、
1
2
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
2
.3
.2 針葉の寿命
39
2
.3
.3光合成特性
古い針葉の落葉が始まるのは 10月中旬以降であっ
1999年の 6月から 1
1月まで測定した結果から、いず
た
。 1999年 1
0月初旬におけるトウヒ属樹木5種の葉齢
れの樹種においても光合成速度が安定していた 1999年
別の針葉残存率は、アカエゾマツとマリアナトウヒで
9月の測定結果に関して、 トウヒ属樹木5種の2年生針
は比較的長期間針葉を持続しており、 7年生針葉でも
葉を測定した結果を用いて光一光合成曲線を作成した
約45 %ほどの針葉を保持していた (
F
i
g
.
2
) 。一方、
(Fig.4)。光飽和時における光合成速度 (Psat) は
エゾマツ、ヨーロッパトウヒおよびグラウカトウヒは、
種と比較して落葉する時期がやや早く 7
年生針
先述の 2
葉はほとんど落葉していた。
また、同時期における針葉の半減年の測定結果か
ら、アカエゾマツとマリアナトウヒは他の樹種と比較
F
i
g
.3
.pく 0
.
0
5
) 。一
して有意に長い半減年を示した (
方、エゾマツ、ヨーロッパトウヒおよびグラウカトウ
ヒでは、上記の 2樹種と比較して半減年が短く、特に
話 80
~
"
'
E60
340
2
2
0
。
的
グラウカトウヒで短い傾向を示した。また、伸長量と
併せて比較すると、伸長量の短いアカエゾマツとマリ
アナトウヒにおいて半減年が長かった。一方、伸長量
の長いエゾマツとヨーロッパトウヒでは半減年は短かった。
言4
旦
3。
2
P
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S
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b
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9
9
9,Mean土 SE,
n
=
3
)
.
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
40
葉齢別の光飽和時における光合成速度は、エゾマ
また、同時期における針葉の半減年の測定結果か
ら、アカエゾマツとマリアナトウヒは他の樹種と比較
ツでは2年生針葉において最も高い光合成速度を示し
.
0
5
) 。一
して有意に長い半減年を示した (Fig.3,pく 0
F
i
g
.
6
) 。その後、加齢が進むにしたがって低下
た (
方、エゾマツ、ヨーロッパトウヒおよびグラウカトウ
した。ヨーロッパトウヒとグラウカトウヒも同様の傾
樹種と比較して半減年が短く、特に
ヒでは、上記の 2
向を示した。一方、アカエゾマツとマリアナトウヒは
グラウカトウヒで短い傾向を示した。また、伸長量と
2年生針葉の光合成速度はエゾマツと比較して高くな
併せて比較すると、伸長量の短いアカエゾマツとマリ
いが、加齢が進んでも比較的高い光合成速度を維持し
アナトウヒにおいて半減年が長かった。一方、伸長量
ていた。
の長いエゾマツとヨーロッパトウヒでは半減年は短かった。
エゾマツが最も高かった。一方、マリアナトウヒの
2
.3
.4 針葉中のクロロフィルと窒素濃度
樹木の生理活性が安定している 1999年9月初旬に
Psatは他の 4種より低かった。また、エゾマツ、グラ
ウカトウヒ、およびマリアナトウヒは約 800μmol
おける葉齢ごとの針葉中のクロロフィル濃度 (
a
+
b
)
2 1
m.
s
.のPPFで光合成速度が飽和に達するのに対し、
は、エゾマツ、ヨーロツノ tトウヒ、グラウカトウヒ、
1で光合成速
アカエゾマツでは PPFが 1400μmol mち.
およびマリアナトウヒではほぼ同じ濃度を示した
度が飽和した。さらに、アカエゾマツとマリアナトウ
ヒは光一光合成曲線の初期勾配に関しでも他の樹木と
(
F
i
g
.
7
) 。しかし、アカエゾマツは他の樹種と比較
して低かった。
また、葉齢ごとの針葉中の窒素濃度は、エゾマツ、
比較して緩い傾向を示した。
2年生針葉における最大光合成速度の季節変化を
みると、アカエゾマツとエゾマツでは 9月に光合成速
ヨーロッパトウヒおよびグラウカトウヒの 2年生針葉
F
i
g
.
8
) 。一方、アカエゾマツとマ
は特に高かった (
F
i
g
.
5
) 。一方、ヨーロッパト
度がピークに達した (
リアナトウヒは先述の 3種と比較して低い窒素濃度を
ウヒ、グラウカトウヒ、およびマリアナトウヒでは 6、
示した。さらに、 PNUE を算出した結果、アカエゾ
7月に光合成速度が高くなる傾向を示した。
F
i
g
.
9
) 。一方、エゾマツ、ヨ
マツ高い値を示した (
8
:
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戸司
Japan
6
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)
.
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
ーロッパトウヒおよびグラウカトウヒは、アカエゾマ
られる。
pく0
.
0
5
)。
ツと比較して有意に低い PNUEを示した (
比葉面積 (SLA) は、エゾマツ、グラウカトウ
ヒおよびマリアナトウヒはいずれも約 63cm2g~l を示し
4
1
一方、アカエゾマツとマリアナトウヒは、若い針
葉における光合成能力はあまり高くなかった。また、
これらの 2
樹種は針葉内の窒素濃度も低い値を示した。
た。ヨーロツパトウヒは約 72cm2g~l と高く、アカエゾ
このことから、特にマリアナトウヒに関しては、葉内
マツは約 48cm2 g~l と低い値を示した。 SLA が他の樹
の窒素濃度が少ないために最大光合成速度が低かった
種より特に高かったヨーロッパトウヒは、エゾマツや
と考えられる。また、光一光合成曲線の初期勾配も葉
グラウカトウヒより若干高い PNUEを示した。
内の窒素濃度と密接な関係があり、 15mmol cm~2以下
に窒素濃度が低下すると初期勾配も低下する却)訂)。
2
.4 考 察
マリアナトウヒに関しては面積ベースの窒素濃度が
エゾマツ、ヨーロッパトウヒおよびグラウカトウ
13mmol cm~2 と低いことから、初期勾配の傾きが小さ
ヒは、若い針葉において高い光合成速度を示した
くなったと推察される。さらに、アカエゾマツは光合
(
F
i
g
.
6
) 。特にエゾマツでは、 2年生針葉における高
F
i
g
.
4.
6
) 。外国産樹種に関し
い光合成能力を示した (
1
.
4
でも、ヨーロツ/¥トウヒは 7月に、グラウカトウヒは 6
月において高い光合成速度を示した。また、これらの
1
.
2
3樹種の針葉中の窒素濃度はいずれも高い濃度を示し
1
.
0
F
i
g
.8
) 。窒素濃度は最大光合成速度と正の相関
た (
お
),
9
5
) ,同)。このことから、これらの
を示すお).26) .32) ,
至。.
8
3樹種は多くの窒素を獲得することで高い光合成能力
を有し、その結果、シュートの伸長量も大きくなった
と推察される。さらに、これらの 3樹種は伸長量は
長いものの針葉の寿命が比較的短い傾向を示した
(
F
i
g
.
3
) 0 これらの 3
樹種は針葉のタ}ンオーバーを早
めて生理活性の高い新しい針葉の比率を高め、若い針
葉によって多くの光合成生産量を獲得していると考え
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O
.
0
5,
Tukeyt
e
s
t
)
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
4
2
成速度が飽和に達する P
PFも高く、アカエゾマツは強
トウヒではそれぞれ生態生理学的特性が類似している
光利用型の性質を持っていると推察される。本研究結
ことが明らかになった。また、エゾマツ、ヨーロッパ
果は、過去の光合成速度の測定結果からも支持される
トウヒおよびグラウカトウヒは、特に若い針葉中の窒
5
6
)
.5
7
)
.
6
0
)
.
9
8
)
素濃度が高いことから高い光合成能力を獲得でき、伸
アカエゾマツの針葉は葉内窒素濃度が低いうえに
長量も大きくなった。以上の結果から、エゾマツ、ヨ
比葉面積が小さく、クロロフィル濃度も低い値を示し
ーロッパトウヒおよぴグラウカトウヒは、多資源多利
た。比葉面積に関しでも最大光合成速度と正の相関を
示す 95).97) 。アカエゾマツは比葉面積が小さい厚い針
用型の樹種であることが考えられる。一方、アカエゾ
葉を持つために、他の樹種と比較して最大光合成速度
量も小さいが、針葉の寿命を延ばし、高い葉齢の針葉
は低いと推察される。
マツとマリアナトウヒは針葉中の窒素濃度が低く伸長
における光合成速度の低下を少なくし、
PNUEを高め
クロロフィル濃度に関しては窒素濃度と正の相関
ていた。これらの生態生理的特性によって、伸長量や
があり、特に窒素濃度が低くなるとクロロフィル bの
比葉面積が小さくても、一定の成長量が維持されてい
割合が減少する 37) 。クロロフィル bは特にチラコイド
たと考えられる。そして、アカエゾマツとマリアナト
Iの集光性クロロフィルタンパク質複
膜上の光化学系 I
合体 (LHCP
II)中に含まれているお)• 37) .75) 。本研究
ウヒは少資源効率利用型の樹種であることが考えられる。
結果ではアカエゾマツは他の樹種と比較して低いクロ
力の違いから樹種固有の生育立地環境への応答能を推
ロフィル b濃度を示した。アカエゾマツは LHCPIIの
定することができるものと考えられる。多資源多利用
濃度が低く、その結果、光を集める能力も低いことが
型の樹種であり、肥沃な立地環境に生育するエゾマツ
推察される。
とヨーロッパトウヒに関しては、多くの成長量を獲得
しかし、アカエゾマツとマリアナトウヒは、針葉
同じ地域に植栽された樹木においても、光合成能
し、すみやかに生育空間を獲得すると考えられる。一
の寿命が長く、加齢の進んだ針葉においても光合成速
方、少資源効率利用型の樹種であるアカエゾマツは、
度の低下は小さかった。このことから、アカエゾマツ
針葉の入れ替え速度を低下させることで、針葉が多く
とマリアナトウヒは葉の寿命を延ばし、加齢による光
生産できない貧栄養環境においても生育が可能である
合成能力の低下を小さくすることによって、若い針葉
ことが考えられる。
における低い光合成能力を補償していることが考えら
れる。また、針葉中の窒素濃度は低いが、
PNUEは高
い値を示していた。針葉中の窒素濃度は低くても、少
第3
章蛇紋岩土壊に育成させたトウヒ属苗木の成長
解析
ない窒素を効率的に利用して光合成作用を行っていた
が高いと考えられる O これらの種に関しては、特に春
3
.1 研究目的
前章の実験によって、同一の土壊環境に植栽され
たトウヒ属樹木においても、光合成特性や成長には樹
種特有の反応が認められた。トウヒ属の中で比較する
と、エゾマツは多資源多利用型の樹種であり、シュー
トの伸長量および若い針葉の光合成速度が高く、窒素
猿度も高い値を示した。一方、アカエゾマツは少資源
効率利用型の樹種であり、伸長成長は少ないが針葉の
寿命は長く、高い葉齢の針葉においても光合成速度が
先のまだ土壌が十分に融解しない時期から光合成を開
始することも報告されている 7) .20) 。
PNUEが高いことから、少ない窒素を効率よく利用し
ことが推察される。
また、国産種と外国種の生理特性に関して比較す
ると、光合成速度の季節変化は、ヨーロッパトウヒ、
グラウカトウヒおよびマリアナトウヒでは6、7月に光
合成速度が高くなるのに対し、アカエゾマツとエゾマ
樹
ツは 9月にピークに達した。この原因は、外国産の 3
種は本来の分布地域が高緯度地域であり生育期間が短
いことから、特に日長の長い初夏の時期に光合成能力
維持されていた。また、針葉の窒素濃度は低くても
ていることが分かった。
2
.5 結 論
本研究結果から、特に肥沃な土壌下に分布するエ
ゾマツ、ヨーロッパトウヒおよびグラウカトウヒ、ま
た貧栄養な土壌下に生育するアカエゾマツとマリアナ
これらの特徴を持つ両樹種で、あるが、貧栄養土壌
で有害とされる元素を含む蛇紋岩土壌下ではどのよう
な成長反応を示すのだろうか。蛇紋岩土壌にも分布域
を持つアカエゾマツは 113) • 115) 、成長量は小さくても
トウヒ属の蛇紋岩土壊への適応機構(香山)
4
3
針葉の寿命を延ばし、個体としても窒素利用効率を高
科学センター森林圏ステーション天塩研究林235林班
める環境応答を示すことが予想される。一方、エゾマ
6
',東経1
4
20 1
2
',標高110ma
.
s.l.)で行った。
(北緯4
500
ツは肥沃な土壌に分布することが多いが、養分要求性
は低い岨)。蛇紋岩土壌は貧栄養土壌でもあることから、
天塩研究林の蛇紋岩土壌が分布する地域ではアカエゾ
マツが優占している 87) .115) 。気候条件は、 30
年間の平
エゾマツは貧栄養環境に適応し、成長していくことが
均年間降水量は約1,200mm、平均最大積雪深は2.0m、
可能であると予想される。
平均、最高、最低気温は5
.
2
'
C、3
2
.
0"Cおよび3
3
.
5"
C
で
有害元素を含む土壌に生育する適応機構としての
ある(天塩研究林,未発表)。
ex
c
1uderの特徴に関して、特に蛇紋岩土壌に生育する
樹種には、外生菌根菌の感染が重要であることが指摘
3
.2
.2 苗畑の造成
本実験を行なうにあたり、天塩研究林235林班の
されている。事実、外生菌根菌を根に接種して高い
N
i濃度の土壌条件において育成させると、 Niは外生
蛇紋岩土壌と褐色森林土の地域にそれぞれ林間苗畑を
菌根菌の体内に保持され崎). 叫
.1
お)、根の成長は促進
新しく造成した。 235
林班には地質条件を分ける断層
岨
)• 47) .49) 。トウヒ属樹木が蛇紋岩土壌に生
される 23) .
が存在し、一方で、は蛇紋岩土壌に、他方では褐色森林
育するためには、細根に多くの外生菌根菌を感染させ
土
iや Mg
等の有害な元素を植物体中
ることによって、 N
ブロックの苗畑を蛇紋岩土壌と褐色森林土の地域にそ
に取り込まないようにし、耐性を獲得していることが
P
h
o
t
o
3
) 。この林間苗畑の大きさ
れぞれ造成した (
(壌土)に覆われている。 1
9
9
9年5月に、 2反復、 4
iは原形質膜の極性、イオンの吸収お
予想される。 N
は、幅が2m、長さが20mに設定した。双方の苗畑の
よび転流、細胞分裂の活性、および根への炭素分配に
対して悪影響を及ぼす 18) 必 ) • 76) .129) 0 N
iは葉内に吸収
距離はおよそ 100mであり、気候条件は双方の苗畑で
されると、光合成能力とクロロフィル濃度の低下を招
く13) .47) .129) 。また、 Mgは細胞外の Caと置換され、
等しいと考えられる。
3
.2
.3 苗木の育成
細胞壁の安定性と原形質膜の透過性を変化させる77J。
実験を開始するにあたり、アカエゾマツ、エゾマ
このことからも、 N
iや Mg等の有害な元素を植物体中
樹種の苗木を育成させ
ツおよびヨーロッパトウヒの 3
に取り込まないことは、蛇紋岩土壌下で生育するため
た。アカエゾマツとエゾマツの種子の生育地は、非蛇
には重要な要因と考えられる。
紋岩土壌が分布する富良野市の国有林からそれぞれ採
本章では、北海道の郷土種であるアカエゾマツ、
取した。ヨーロッパトウヒの種子はドイツ南西部に生
エゾマツと導入種のヨーロッパトウヒの環境応答能力
育する母樹から採取したものを使用した。これら 3樹
を比較、検討した。ヨーロッパトウヒは、成長量が大
種の種子は札幌市内の埴壌土の苗畑に播種した。移植
きく通直であることから、材木生産のために現ドイツ
前に、アカエゾマツとエゾマツの苗木は 4年間、ヨー
国周辺から導入され、北海道における重要な造林樹種
となった岨)• 71) 。また、ヨーロッパトウヒは養分要求
ロッパトウヒの苗木は 2年間育成させた。開芽前の
1
9
9
9年5月上旬に苗畑からそれぞれの苗木を 1
6
0
個体掘
性が高い 43) ことから、蛇紋岩土壌に植栽した場合、
り取り、天塩研究林に輸送した。そして、雪の中に 1
アカエゾマツとエゾマツとは異なる成長反応を示すこ
ヶ月の問苗木輸送用の袋に入れて保存し、林間苗畑周
とが予想される。
辺の積雪が消えるのを待った。 1
9
9
9年6月にアカエゾ
これらの予想を検証するために、 3樹種の首木を蛇
4
年生)、エゾマツ (
4
年生)、およびヨーロッ
マツ (
紋岩土壌と非蛇紋岩土壌(褐色森林土)に造成した苗
2年生)を 80個体ずつ蛇紋岩土壌および褐
パトウヒ (
畑に移植させ、成長、外生菌根菌の感染状況、光合成
色森林土の苗畑に植栽した。
能力、元素濃度を比較した 6J)。北海道の蛇紋岩土壌
における森林環境修復に用いる造林樹種として、 トウ
ヒ属 3樹種の適合性を評価した O
3
.2
.4 土壊分析
土壌の化学分析として、蛇紋岩土壌と褐色森林土
および各種元素濃度の分析を実施し
における土壌pH
3
.2 材料と方法
3
.2
.1 調査地の概要
本章の実験は、北海道大学北方生物園フィールド
た。双方の苗畑における深さ 0-10cmから各ブロック
から 4ヶ所ずつ土壌のサンプリングを行った。サンプ
の乾燥させていない土壌に対し25mlの
リング後、 10g
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
4
4
純水を加えて 1
時間振擾し、 1
時間以上静置した後に土
ここで、 FTNMは2
8月目の葉齢別針葉乾重量、 ITNM
壌 pHをpHメ ー タ - (HM30V.TOAE
!
e
c
t
r
o
n
i
c
sL
td
.
.
は各サンプリング時における葉齢別最大針葉乾重量、
Tokyo. J
a
p
a
n
) で測定した。土壌pH
測定後、土壌サ
INMは最大乾重量時の 1
本あたりの針葉の重量、 FNM
ンプルは 1
0
5Cで24時間乾燥させた。乾燥させたサン
は2
8月日の 1
本あたりの針葉の重量を示す。
0
プルは、 C、N量を CHNS/O a
n
a
l
y
z
e
r (PE 2400
n
.
e
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E
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.N
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a
!
k
.CT.USA) を用い
s
e
r
i
e
s P
て分析を行った。交換性Pに関しては、オルセン法90)
3
.2
.6 外生菌根菌の感染率の測定
を用いて抽出し、抽出液を得た。交換性塩基 (
C
a
.
と褐色森林土に生育させたトウヒ属樹木苗の細根にお
Mg.K
.Na) は
、 2
.
5
gの乾土に対して 50m!の1N酢酸
ける感染率を測定した。移植当時では、新しい根の生
外生菌根菌の感染率を測定するため、蛇紋岩土壌
アンモニウムを加え、 1時間振濯し、抽出液を得た。
育が未発達のため外生蘭根菌の観察が困難であった。
微量元素と重金属 (
M
n
.F
e
.C
u
.Z
n
.N
i
.C
r
)は
、 5
.
0
g
根の生育が充実した 1
7月日にサンプリングした苗木に
の乾士に対して 25m!のO.lN
塩酸を加え、 30"Cに温度
対して、外生菌根菌の感染率の測定を行った。 2
(
削年
時間振漫し、抽出液を得た。 P、塩
を保った状態で 1
1
1月に蛇紋岩土壌および褐色森林土の苗畑から採取し
基、微量元素それぞれの抽出液は、 ICP プラズマ発
たトウヒ属樹木3種の苗に関して、乾燥前に外生菌根
光分析機 (
I
R
I
S
.J
a
r
r
e
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s
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r
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n
k
l
i
n
.MA
.USA) を
菌の観察を行った。採取したトウヒ属樹木苗 1
6
個体は
1
0
本の側根を無作為に選び、側根から枝分かれした直
用いて分析を行った。
径 2mm以下の根を細根と定義した。全細根の根端部
3
.2
.5 苗木の成長測定
分に関して、双眼実体顕微鏡を用いて外生菌根菌の感
トウヒ属樹木3種の生育特性を定量するため、苗
染の有無を観察し、外生菌根菌に感染している根端お
木のそれぞれの器官の乾重量を測定した。 1
9
9
9年6月
、
よび感染していない根端の本数を数えた。そのあと、
2
0
0
0
年5月
、 2
0
0
0年 1
1月および2
0
0
1年 1
0月に(以下、 0
両根端数を合計し、以下の式から外生菌根菌の感染率
を算出した日必}。
月目、 1
1月目、 1
7月目、 2
8月日と表記する)、蛇紋岩
種の苗木
土壌と褐色森林土に育成したトウヒ属樹木3
感染率=[ESR/ (ESR+NSR) ]x 1
0
0
を各サンプリング時に各プロックから 4個体、計 1
6個
ここで、 ESRは外生菌根菌の感染した根端、 NSRは外
体をそれぞれ無作為に採取した。
生菌根菌の感染していない根端を示す。
また、 2000
年5月のサンプリング時には生存している
純光合成速度は、蛇紋岩土壌と褐色森林土に生育
苗木と枯死した苗木を数え、初めに植えた苗木の総数
するトウヒ属 3樹種の 2年生針葉に関して測定した。純
から生存している苗木の割合(活着率)を算出した。
光合成速度は、 2
0
0
1年9月に蛇紋岩土壌と褐色森林土
採取した苗木は、まず水道水で、次いで蒸留水を用い
に植栽された各ブロックのトウヒ属 3樹種の苗に関し
て洗浄した。洗浄後、苗木の樹高を測定し、その後、
て各ブロックからそれぞれ3個体以上を対象として測
シュート(針葉+枝、葉齢別)、幹、および根に分類
定した。光合成速度の測定は第2章と同様である。
0
した。それぞれの器官は乾燥機を用いて 80Cで4日間
また、蛇紋岩土壌および褐色森林土に生育するト
ウヒ属樹木3種における、光飽和時における最大光合
乾燥させた Q
乾燥後、シュートは針葉と校に分類し、針葉(葉
P
s
a
t
) を1
、2、3年生の針葉に関して測定を
成速度 (
齢別)、幹・枝および根の乾重量を測定した。また、
行った。 P
s
a
tは
、 2
0
0
1年9月に蛇紋岩土壌および褐色
苗木の地上部器官の生育指標のーっとして、樹高を地
森林士に生育するトウヒ属 3樹種に関して各プロック
上部乾重量(針葉+幹・枝)で割った弱さ度 100 に関
からそれぞれ3個体以上を対象として測定した。測定
しでも検討した。この値は苗木の地上部における充実
には携帯式赤外線ガス分析計を用い、葉温は 2
0
2
5"
C
、
度を示す指標としてよく用いられる。また、 2
8月日の
C02濃度は周囲と等しい約 360ppmの下で測定を行っ
サンプリングに関しては針葉の残存率も検討した。ト
た。測定した針葉はスキャナーで取り込んで、面積を算
ウヒ嵐の苗木は枝が細くて直接葉痕を数えてシュート
出し、葉面積ベースの P
s
a
tを算出した。
毎の針葉残存率を算出することが困難であったため、
以下の式より算出した 60。
3
.2
.B 植物体中の化学分析
∞
針葉残存率=(FTNM/ITNM)x(INM/FNM)x1
針葉中のクロロフィル濃度、および針葉および根
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
4
5
のN、P、K、Ca
、Mg
、およびfN
i
濃度の分析を行った。
2
8月日のサンプリングに関して主根と細根に分け、元
クロロフィル濃度は、 2
0
0
1年 1
0月に、蛇紋岩土壌
素分析を行った。 2
8月目のサンプリングしたトウヒト
樹種の苗に関
および褐色森林土に生育するトウヒ属 3
樹種の根は網目の径が2.0mmの円形ふるいを
ウヒ属 3
して各ブロックからそれぞれ4
個体の枝を採取した。
用いて分類し、主根(直径
採取した枝は葉齢別に分け、1. 2
.3
年生の針葉に関し
孟2
.0mm) および細根
(直径 <2.0mm) とした。これらの根に関してはそ
れぞれ湿式灰化を行い、 NiとMgの分析を行った。
てクロロフィル濃度を定量した。クロロフィルは、針
葉をハサミを用いて細かく分解した後にジメシルスル
3
.
2
.
9 統計分析
オキシド (DMSO) を用いて抽出を行い、分光光度
2
4
0
v
.ShimadzuC
o
.
.K
y
o
t
o
.J
a
p
a
n
) を用
言
十 (Type 1
土壌の化学成分、苗木の各乾重量、弱さ度、針葉
濃度を 2
章の式から算
いて測定し、クロロフィル aとb
出した 5
).
1
曲
)
。
残存率、外生菌根菌の感染率、葉齢別の最大光合成速
度およびクロロフィル濃度、針葉および根の各種元素
各種元素の分析に関しては、成長測定のために採
濃度の平均値に関しては、データを t
検定を用いて有
取した個体を用いた。元素分析には、光合成速度が最
意差検定を実施した (
S
t
a
t View 5
.
0
; SAS I
n
s
t
i
t
u
t
e
年生針葉 40) . 74) と根を用いた。乾燥させた
大である 2
I
n
c
.
) 。これらのデータはいずれも蛇紋岩土壌と褐色
針葉および根は、粉砕器 (
T
I
1
0
0
; Tester Industry
森林士の個体間で比較、検討した。それぞれの図表に
C
o
.
.Tokyo.J
a
p
a
n
) を用いて粉末にした。窒素濃度は
.1%の範囲で統計
おけるヘ"、仰の印は、 5%、 1%、0
CHNS/O a
n
a
l
y
z
e
rを用いて分析を行った。他の元素
的に有意差があることを示している。
(
P、 K、 Ca、 M g、 Ni)に関しては、 mlcrowave
濃度の平均値に関し
また、主根と細根の MgとNi
n
a
l
y
t
i
c
a
,l C
o
l
l
a
g
eS
t
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o
n
.
d
i
g
e
s
t
i
o
n system (0・IA
ては、 Tukeyt
e
s
tを用いて多変量の有意差検定を行っ
TX. USA) を用いて湿式灰化を行い、分解液を 50ml
た (
S
t
a
tView5
.
0
;SASI
n
s
t
i
t
u
t
eI
n
c.)。図 3.10にお
に定量した後、 ICP
分析機を用いて分析を行った。ま
ける異なるアルファベットの値聞には、 5%の範囲で
た、過剰になると植物成長に有害な元素とされる Ni
統計的に有意差があることを示している。
とMg
がとeの根系の部位に集積するかを検討するため、
T
a
b
l
e
.
l
.C
h
e
m
i
c
a
lp
r
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p
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r
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da
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1
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.*=p<
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*
*
*
*
*
*
*
本
*
北海道大学演習林研究報告
4
6
第6
3
巻
第 1号
3
.3 実験結果
体聞の乾重量の差が大きくなり、最終的に褐色森林士
3
.
3
.1 土壌の化学分析
倍も大きくなった。
の個体は蛇紋岩土壌の個体より 4
土壌の化学性に関しては Tablelに示した。蛇紋
各器官別の乾重量に関して検討しでも、アカエゾ
岩土壌の pHは6
.
7であり、褐色森林土 (
p
H
=
5
.
2
) と比
種類の土壌問でほとんど有意な成長の差は
マツでは 2
pく0
.
0
0
1
) 0 蛇紋岩土
較して有意に高い値を示した (
F
i
g
.
l2
) 。エゾマツは、特に針葉
認められなかった (
、Na、Ni、Znおよび Cr渡度は、褐色森林土
壌の Mg
および根の乾重量に関して蛇紋岩土壌の個体で有意に
p
<
O
.
o1)。特に、
と比較して有意に高い値を示した (
p
<
0
.
0
5
) 。ヨーロッパトウヒは、い
低い値を示した (
Mg
濃度は 20倍
、 Ni
濃度は 200倍も高い濃度を示した。
ずれの器官に関しでも蛇紋岩土壌の個体で有意に低い
濃度は、褐色森林土の方が蛇紋岩士壌よ
一方、 NとFe
p
<
0
.
0
5
)。
値を示した (
pく0
.
0
5
) 0 C、P、Ca、K、
り有意に高い値を示した (
弱さ度に関しでも、アカエゾマツでは 2種類の土
MnおよびCu
濃度に関しては、両土壌聞で有意な違い
壌聞でほとんど有意な差は認められず、成長とともに
が認められなかった。
値が低くなり、地上部が充実していくことを反映した
3
.3
.2 苗木の活着率と成長
ともに値が低くなったが、蛇紋岩土壌の個体は褐色森
(
F
i
g.
l3
) 。エゾマツとヨーロッパトウヒも、成長と
トウヒ属樹木3種の苗木の活着率は、褐色森林土
p
く0
.
0
5
)。
林土の個体と比較して有意に高い値を示した (
に植栽した個体ではいずれも 90%以上の高い値を示し
特にヨーロッパトウヒでは弱さ度が高く、地上部の充
F
i
g
.
lO
) 。一方、蛇紋岩土壌に植栽した個体では、
た (
実度が低かった。
アカエゾマツとヨーロッパトウヒはほぼ褐色森林土の
個体と同じ値を示した。しかし、蛇紋岩土壌に植栽し
たエゾマツは 55%と活着率が大きく低下した。
アカエゾマツの総乾重量は、蛇紋岩土壌および褐
80
色森林土の個体問で4回のザンプリングのいずれにお
(
pく0
.
01)。特にヨーロッパトウヒに関しては、生育
期聞が長くなるにつれて蛇紋岩土壌と褐色森林土の個
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リング時において有意に低い総乾重量を示した
。
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月日のサンプリング時において有意に低い総乾重量を
紋岩土壌に植栽した個体に関して 17と28月目のサンプ
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.
5
.
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.
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5
) 。ヨーロッパトウヒに関しでも、蛇
示した (
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) 。一方、
いても有意な差は認められなかった (
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(
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.
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5
) 。蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツの感
て高い葉齢の針葉においても高かった (
F
i
g.
l4
) 。特
.
0
1
;写
染率では、 80%と有意に感染率が高かった (
pく0
に、アカエゾマツの 2年生針葉に関しては、蛇紋岩土
真 5参照)。一方、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツは感
壌の個体において褐色森林士の個体より有意に高い値
.
0
5
) 。ヨーロッパ
染率が40%と有意に低かった (
pく 0
.
0
5
) 。一方、エゾマツはアカエゾマツ
を示した (
pく0
トウヒに関しては外生菌根菌の感染率は80%を示し、
と比較して落葉が早く、両土壌の個体とも 2年生針葉
両土壌聞で有意な差は認められなかった。
で半分以上の針葉が落葉した。また、蛇紋岩土壌の個
体において褐色森林土の個体より有意に低い残存率を
.
0
5
) 。ヨーロッパトウヒは褐色森林土の
示した (
pく0
3
.3
.4光合成特性
蛇紋岩土壌および褐色森林土に植栽したトウヒ属
個体で特に高い残存率を示し、 4年生針葉でも約 50%
3
樹種の2年生針葉における光一光合成曲線を作成した
の針葉が残存した。一方、蛇紋岩土壌の個体は2年生
結果、アカエゾマツでは両土壌の個体聞でほぼ同じよ
針葉から落葉が始まり、褐色森林土と比較して有意に
うな形状を示した (
F
i
g
.
1
6
) 。一方、エゾマツとヨー
.
0
5
)。
低い残存率を示した (
pく 0
ロッパトウヒは、蛇紋岩土壌に植栽した個体に関して
Psatが低い値を示した。また初期勾配は低く、光飽和
3
.3
.3 外生菌根菌の感染率
褐色森林土に植栽したアカエゾマツとエゾマツ
における外生菌根菌の感染率はおよそ 60%を示した
点は高くなった。
さらに、葉齢別の最大光合成速度に関しでも、ア
3
カエゾマツの個体は両土壌の個体聞で差が小さく、 2、
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 l号
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01
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
50
年生針葉では有意な差が認められなかった (
F
i
g
.
1
7
)。
濃度はおよそ 200μmol ピを示した。エゾマツ
根の Mg
一方、エゾマツおよびヨーロッパトウヒは、いずれの
とヨーロッパトウヒの細根の Mg濃度は、それぞれ
葉齢の針葉においても蛇紋岩土壌に植栽した個体に関
270μmol g
'
lおよびf
3
0
0
μ
m
o
lg
'
lと高い濃度を示した。
s
a
tを示した
して、褐色森林士の個体より有意に低い P
(
pく0
.
0
5
)0
3
.3
.5 針葉中クロロフィル濃度
また、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツの細根の
Ni
濃度は約 3
.
5
μ
m
o
lg
.
lを示した。一方、エゾマツとヨ
濃度は、それぞれ6
.
2
μ
m
o
l
ーロッパトウヒの細根の Mg
.
0
μ
m
o
l
g
.1と高い濃度を示した。
g
'
lおよび 7
蛇紋岩土壌および褐色森林土に植栽したトウヒ属
F
i
g.
l8
) 。その結果、クロロフィル濃度 (
a
+
b
)
った (
3
.4 考 察
3
.
4
.1 蛇紋岩土壊に植栽したトウヒ属3樹種の生育特性
は、蛇紋岩土壌に植栽した個体において、いずれの樹
蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツ苗は、他の樹
種も褐色森林土植栽の個体より有意に低い濃度を示し
種と比較して総乾重量と各器官の乾重量は低下してい
3樹種の各葉齢の針葉中クロロフィル濃度の分析を行
た。一方、クロロフィルbの濃度は、アカエゾマツの個
F
i
g.
l
l
, 1
2
) 。また、弱さ度に
ないことが分かった (
3年生針葉では
体では両土壌の倒体問で差が小さく、 2、
関しでも蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは褐色森
有意な差が認められなかった。一方、エゾマツおよび
F
i
g
.
1
3
)。
林土の個体と比較して有意差がなかった (
年生の針葉において
ヨーロッパトウヒでは、特に1. 2
弱さ度は、徒長苗を示す指標として育苗に用いられ、
蛇紋岩土壌に植栽した個体に関して有意に低い濃度を
地上部組織の充実状態を示す。また、
pく0
.
0
1
)。
示した (
が低いほど特に地上部組織の生育が充実している 101)。
「弱さ度」の値
このことから、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは、
3
.3
.6 器官ごとの元素濃度
2年生針葉中および根中の各元素濃度は、樹種間
褐色森林土の個体と同様に地上部組織の発達が充実し
A
p
p
e
n
d
i
x
,
l 2
.
であまり明瞭な傾向を示さなかった (
年生針
蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは、特に 2
3
) 。そこで、各元素濃度の中で、特に明確な傾向を
葉に関して褐色森林土の個体と比較して有意に高い値
ていると考えられる。さらに、針葉残存率に関しでも、
濃度と根中の Mg
、Ni
濃度に関して
示した針葉中の Ni
F
i
g.
l4
) 、針葉の寿命が延び
を示していることから (
比較し検討を行った。
ていると推察される。一般に、貧栄養環境においては
2年生針葉中の Ni濃度は、蛇紋岩土壌に植栽し
針葉樹では針葉の寿命が延長される釘)附ことから、
たアカエゾマツおよびエゾマツにおいて移植後に上昇
蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは、葉齢の延長に
1月目のサンプリングで高い濃度を示した (
F
i
g
し
、 1
よって貧栄養条件を補償していると推察される。
1
9
) 。その後、両樹種とも N
i
濃度は減少し、 28月日の
一方、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツとヨーロッ
サンプリングではアカエゾマツの濃度は 3樹種の中で
パトウヒでは、総乾重量、特に葉および根の乾重量が
0
.
3
μ
m
o
lg
'
lと最も低い濃度を示した。一方、蛇紋岩土
F
i
g.
l
l
, 1
2
) 。弱さ度に関しでも蛇紋岩土
減少した (
濃度は、
壌に植栽したヨ}ロッパトウヒの針葉中 Ni
壌に植栽したエゾマツとヨーロッパトウヒは、褐色森
0μmolg.1前後を示し、あまり濃度は変わらなかった。
1
.
F
i
g
.
1
3
) 。こ
林土の個体より有意に高い値を示した (
2
8月日のサンプリングにおいても蛇紋岩土壌に植栽し
のことからも、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツとヨー
.
8
μ
m
o
lg
'
lと最も高い濃度を示
たヨーロッパトウヒは 0
ロッパトウヒは、地上部の生育が抑制されていると考
した。
えられる。針葉残存率に関しでも、蛇紋岩士壌に植栽
28月日のサンプリングにおける主根と細根の Mg
したエゾマツとヨーロッパトウヒは 2年生針葉から有
および~i濃度を分析した結果、いずれの樹種において
F
i
g
.
l4
) 、針葉の寿命が短
意に低い値を示しており (
も蛇紋岩土壌に植栽した個体における細根の MgとNi
くなったと推察される。
濃度は、褐色森林土の個体より有意に高い濃度を示し
F
i
g
.
2
0
. pく0
.
0
5
) 。また、蛇紋岩土壌に植栽した
た (
個体に関しては、いずれの樹種も主根より細根の方が
3
.4
.2 蛇紋岩土壊に植栽したトウヒ属3樹種の光
合成特性
pく0
.
0
5
) 。蛇紋岩土壌に植
有意に高い濃度を示した (
蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツ苗は、褐色森
栽したトウヒ属 3樹種で比較すると、アカエゾマツの細
林土の個体と比較して 2年生針葉の光一光合成曲線は
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
ほぽ同じ形状をしており、葉齢別の Psatの低下量も小
Mg
さかった (Fig.16, 1
7
) 。一方、エゾマツとヨーロッ
4
0
0
Psatと初期勾配が低下した (
F
i
g
.
1
6
) 。葉齢別の Psat
3
0
0
に関しでも有意に低下した (
F
i
g
.16
,1
7
)。
2
0
0
がある。本研究では、蛇紋岩土壌に植栽したトウヒ属
樹木の針葉中の窒素濃度は、いずれの樹種においても
褐色森林土の個体と比較して有意に低下していた
(Appendix 1)。このことから、蛇紋岩土壌に植栽
したエゾマツおよびヨーロッパトウヒは、窒素濃度が
nunununununu
nunununununU
まず、 Psatや初期勾配は葉内の窒素濃度と密接な関係
(
芝OF
2
0
ε ユ)cgHgHcgcoo
・
このように、蛇紋岩土壌に植栽したトウヒ属樹木
Ni
143214
パトウヒの 2年生針葉における光一光合成曲線は、
の光合成能力が種聞で異なった原因に関して検討した。
5
1
。
b
P
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i
s
。
b
低いことから Psatおよび初期勾配が低下したと考えら
れる。しかし、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツに
関しては、窒素濃度が低いのにもかかわらず、高い光
合成能力を示していた。この点を考察するため、 2章
でも検討した Psatを窒素濃度で割った光合成窒素利用
3
0
0
2
0
0
1
0
0
。
効率 (PNUE) に関して検討した (Fig.21)。その結
Thi
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果、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは、褐色森林
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.
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北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
5
2
一方、エゾマツとヨーロッパトウヒの窒素利用効率は
中の MgとN
i
濃度が増加したと考えられる。また、針
両土壌間で有意な差は認められなかった。樹種間で比
iの毒性によって光合成速度が低下
葉に輸送された N
較すると、特にヨーロッパトウヒにおいて有意に低い
したと推察される。針葉の落葉に関しても、針葉に輸
PNUEを示した (
p
<
0
.
0
5
) 。このことから、蛇紋岩土
iの毒性によって促進されたことが可能性
送された N
壌に植栽したアカエゾマツは、特に低い窒素濃度で効
のーっとして推察される。以上の要因が複合的に関わ
率的に光合成作用を営む能力が高いと推察される。
ることによって、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツは成
また、クロロフィル濃度に関しでも、蛇紋岩土壌に
長が抑制されたと推察される。
植栽したアカエゾマツではクロロフィル bの濃度が低
一方、蛇紋岩土壌に植栽したヨーロッパトウヒは、
F
i
g
.
1
8
) 。このことから、蛇紋岩
下していなかった (
外生菌根菌の感染率が高いにもかかわらず、針葉と根
土壌に植栽したアカエゾマツではクロロフィル b中に
i濃度は高くなった (
F
i
g
.1
9,2
0
) 。蛇紋岩
のMgとN
多く含まれる集光性クロロフィルタンパク質複合体
土壌に植栽したヨーロッパトウヒは、特に針葉中の窒
(LHCP
II)量が低下していなかったことから、弱
A
p
p
e
n
d
i
x1
) 。外生菌根菌
素濃度も高い値を示した (
光域での光合成速度も一定値以下には低下しなかった
の一般的な役割として、宿主である樹木に窒素および
リンの吸収を促進させるはたらきがある弱).110) 。ヨー
と示唆される。一方、エゾマツとヨーロッパトウヒの
クロロフィル b濃度は有意に低下していた。蛇紋岩土
ロッパトウヒは外生菌根菌の高い感染率によって、窒
壌に植栽したエゾマツとヨーロッパトウヒは LHCPII
素濃度が高くなったと推察される。しかし、他樹種で
量が低下することによって光を集める能力が低下し、
は細根部位でブロックされる可能性が高かった Mgと
特に弱光域での光合成能力も低下した可能性が示唆さ
N
iは、ヨーロッパトウヒにおいて高い濃度を示した。
iとMg
濃
ヨーロッパトウヒが、他種に比較して高い N
れる
(
F
i
g
.
1
6
)。
度を示す理由に関しては不明である。いずれにせよ、
3
.4
.3 蛇紋岩土壌に植栽したトウヒ属3樹種の養
分吸収特性
蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは針葉中の
iの毒性
蛇紋岩土壌に植栽したヨーロッパトウヒは N
によって光合成速度が低下し、結果として乾重量が低
下したものと考えられる。また、アカエゾマツと比較
N
i
濃度が3
樹種の中で最も低かった (
F
i
g.
l9
) 。また、
i濃度に関しては、 3樹種とも細根より
根中の MgとN
F
i
g
.
2
0
) 。トウヒ属 3
主根の方が明らかに低かった (
収を抑制するはたらきが小さいことが可能性のーっと
樹種ともこれら有害とされる元素を細根に蓄積してお
して推察される。
して感染している外生菌根蘭の種類が異なり、ヨーロ
ッパトウヒに感染している外生菌根菌には重金属の吸
り、植物体内への移動を抑制していると推察される。
樹種間で比較すると、特にアカエゾマツの細根の Mg
3
.4
.4 トウヒ属樹木3樹種の蛇紋岩土壌における
とN
i渡度は、 3樹種の中で最も低い値を示した。アカ
活物材料としての適合性
iを植物体内に取
エゾマツは 3樹種の中で、特に MgとN
トウヒ属樹木3樹種に関して、蛇紋岩土壌におけ
り込まない能力が高いと考えられる。この原因として、
る造林樹種としての適合性に関して検討した。一般的
蛇紋岩土壊に植栽したアカエゾマツは外生菌根菌の感
に
、 トウヒ属樹木は外生菌根菌の感染なしでは貧栄養
F
i
g
.
1
5
) 、その結果、 MgとN
iの吸収を
染率が高く (
土壌において生育が悪い樹木であり、感染していない
首木はうまく活着できないことが多い 53) .曲) • 89) 。蛇
i濃度が低くなったことが考えら
抑制し、根の MgとN
れる 46) 。品) .128) 。また、針葉中の N
i
濃度も低いことか
紋岩土壌に植栽したアカエゾマツは外生菌根菌の感染
ら、光合成速度はN
iの毒性を受けないことで低下しな
率が高いことから、根を活着させる可能性が高いこと
i濃度が低い
なかったことが推察される。針葉中の N
x
c
1
u
d
e
rとし
が考えられる。しかも、アカエゾマツは e
原因に関しては、針葉中の窒素濃度が他種と比較して
ての能力が高く、光合成能力の低下が少なく、針葉の
A
p
p
e
n
d
i
x1
) ことから、 N
iの輸送も少なくな
低い (
寿命も長い傾向を示した。このことからも、アカエゾ
ったことが可能性のーっとして指摘できる。
マツは蛇紋岩土壌における環境修復に用いる活物材料
蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツは、外生菌根菌の
F
i
g
.
1
5
) 。外生菌根菌が感
感染率が低い値を示した (
iを吸収し、その結果、根
染していない根から MgとN
として、特に重要かつ有用な樹種であることが考えら
れる。
一方、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツは、外生菌
トウヒ属の蛇紋岩土壊への適応機構(香山)
根菌の感染率はかなり低い値にとどまった。この結果
5
3
土壌に対する適合性が低いと考えられる。
は、蛇紋岩地帯に導入する際に根が活着しにくいこと
も意味している。実際、アカエゾマツの移植時の活着
第4
章トウヒ属樹木を用いた森林生態系の修復への試み
率は約 90%であるのに対し、エゾマツは 55%であり、
F
i
g
.lO)。この結果は、
しかも半数の個体が枯死した (
外生菌根菌の感染率に反映されている可能性がある。
また、針葉の落葉も早く、エゾマツは蛇紋岩土壌にお
いては有用な活物材料ではないと考えられる。
蛇紋岩土壌に植栽したヨーロッパトウヒは、外生
4
.1環境修復のための基礎資料の収集
前章において北海道で広く植栽されているトウヒ
属3樹種(アカエゾマツ、エゾマツ、ヨーロッパトウ
ヒ)の苗木の成長特性を比較した結果、特にアカエゾ
マツの蛇紋岩土壌に対する高い適応能力が明らかにな
菌根菌の感染率が高い値を示した。実際、ヨーロッパ
り、蛇紋岩土壌に対して高い適合性を持った活物材料
トウヒの移植時の枯死率は 10%と低く、長期的に見る
であると推察された。本章では、アカエゾマツを用い
と貧栄養環境における森林生態系の修復に決して不向
て、蛇紋岩土壌地帯の荒廃地における森林生態系の環
きな樹種でないようである。しかし、有害な Niおよ
境修復方法を確立することを最終的な目的とする。
、
びMgの渡度が根および針葉中で高い濃度を示し、こ
れらの元素の過剰吸収による毒性をまともに受ける可
まず、本章では活物材料であるアカエゾマツを導
入する前に、気象条件と土壌条件に関して検討した。
能性が示唆された。ヨーロッパトウヒは活物材料とし
また、生育立地の微地形に注目したセーフサイト探索
ては不向きではないが、蛇紋岩土壌においてアカエゾ
のための生物指標として、優占度の著しく高いササの
マツのように高い成長量は期待できないであろう。
生育の調査を行い、評価を行った。その後、導入され
3
.5 結 論
寿命、葉内元素濃度、および葉の冬季の被害状況を測
たアカエゾマツの成長反応として、光合成特性、葉の
蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾマツ、エゾマツお
定し、ササの生育との関連を検討した。特に生育が悪
よびヨーロッパトウヒ苗の成長反応、光合成特性、お
いアカエゾマツ生育する地域に関しては、その原因を
よび元素分析の実験結果から、針葉中の Ni濃度と根
生態生理学的側面から検討した。そして、その生育環
のNi、 Mg濃度は 3種の中でアカエゾマツが最も低い
境を改善する補助作業を考案することによって、特に
濃度を示した。また、蛇紋岩土壌に植栽したアカエゾ
山火事跡の無立木地における順調な森林回復に必要な
マツは外生菌根菌の高い感染率を示し、その結果Ni、
条件を論じた。
Mgの吸収を抑制し、これらの元素の毒性を減少させ
ていたと推定できる。アカエゾマツは特に有害元素を
x
c
l
u
d
e
rとしての
取り入れないことで耐性を獲得する e
能力が高いと考えられる。
これらの結果から、蛇紋岩に植栽したアカエゾマ
4
.2 生育環境と指標植物の解析
4
.
2
.1 目 的
北海道北部の蛇紋岩土壌が分布している地域では、
0
0年間山火事が人為的な要因から相次いで発生
過去 1
ツは、褐色森林土の個体と比較しでほぼ等しい光合成
してきた 112) 。この地域の植生は、かつてアカエゾマ
能力を獲得し、乾重量も低下しなかったと考えられる。
ツがダケカンパを伴って優占していた 115) 。山火事の
以上の特性を持つアカエゾマツは、蛇紋岩土壌におい
発生後、
て高い適合性を持った活物材料であると考えられる。
パ類およびハンノキ類の二次林として回復した 112)
「中の峰」地区以外のほとんどの植生はカン
一方、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツとヨーロッ
しかし、この地域の中に原植生が回復せず、ササが優
パトウヒは、褐色森林土の個体と比較して有意に乾重
占する地域が存在する (
P
h
o
t
oI)。この地域は強風
量が低下した。また、針葉の寿命は短く、針葉中の
寒冷地であり、気候条件が極めて厳しい地域であるこ
N
i
濃度、根の N
iとMg濃度は高い濃度を示した。また、
とも、他の植物が成長しにくい原因と考えられている
光合成速度、クロロフィル濃度も大きく低下した。こ
が、原因を特定できる十分な情報が得られていない。
れらの原因が複合的に関与することによって、エゾマ
無立木地において優占している植物であるササは、
ツとヨーロッパトウヒは光合成生産量が減少し、成長
大部分がクマイザサ (
5
a
s
as
e
n
a
n
s
i
s
) であり、一部
が抑制されたと考えられる。また、アカエゾマツと比
5
.k
u
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l
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n
s
i
s
) を交える。ササは、耐
にチシマザサ (
較すると、エゾマツおよびヨーロッパトウヒは蛇紋岩
凍性に関する実態調査が進められ 45) 、クマイザサと
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
5
4
チシマザサは、寡雪地のササと比較して耐凍性が -15
方の斜面の地表から 2mの高さに 2個ずつ設置した。南
ー2
5
'
C、特に地下の芽は -5-一1O'Cと低く、積雪
向斜面と北西向斜面の日射量に関しては、日射計(ア
の被覆がないところでは凍害を受け枯死することが知
られている 99) 。しかし、実際に屋外に生育している
0
0
1年 5月から 1
1月の聞に測定した。なお、
設置し、 2
ササの生育状態に関する研究例は乏しい 70) .ω)。また、
これらの器具の機差を中心とした校正を事前に行った。
樹木限界付近では、特に微地形が樹木の成長と生存を
大きく左右する 36) 。
砧
)• 70) 。研究対象とした試験地は
1998年 1
2月から 1999年3月まで、 KADEC-KAZE (
コ
強風寒冷地であることから森林限界付近の環境と類似
ーナシステム社製,札幌)を用いて継続的に測定を行
ースサイエンス社製、東京)を雨斜面にそれぞれ 2個
風向、風速に関しては、調査地の頂上付近で、
しており、生育するササも積雪深、斜面方向、風向・
月から 4月にかけて、
った。積雪深に関しては、筑間年 1
風速、土壌などの様々な要因に成長が制限されると推
0ヶ所
調査地上部における南向斜面と北西向斜面の各4
察される。
で毎月測定を行った。
本研究では、ササの稗高、葉色および葉の被害状
況を通して、微地形による環境条件を把握する新しい
生物指標とすることを目的とした。またササの生育に
4.2.2.3 土壌の化学分析
土壌の化学性については、双方の斜面における土
影響を与える環境要因として、気温、地温、風向・風
壌深度、土壌 pH、および主要元素を分析した。 2000
速、積雪深の気候条件、および土壌状態に関して、異
年1
1月に、双方の斜面の A層と B層から 4ヶ所ずつ土壌
なる徴地形ごとに測定を行った。これらの結果をもと
のサンプリングを行い、 A層と B層の土壊深度も測定
に、アカエゾマツを環境修復として植栽する際に、具
した。化学分析の手順は第3章と同様である。
体的な環境生物指標として用いていく。
4.2.2.4 ササの生育測定
4
.2
.2 材料と方法
4.2.2.1 調査地域の概要
南向斜面と北西向斜面に生育するクマイザサの成
長を比較するため、両斜面にそれぞれ4ヶ所の調査区
調査地は、北海道大学北方生物園フィールド科学
を設定し、 1999年9月に調査を行った。それぞれの謁
センター森林圏ステーション天塩研究林「中の峰」地
本のクマイザサの稗を無作為に選出し、稗
査区から 30
区134と135林班(北緯45000¥ 東経 142007¥ 標高 1
5
0
-
高を測定した。また、成長期におけるササの生育状況
380m、総面積 3
0
0
h
a
) で行った。過去30
年間の平均年
の指標として、クロロフィル濃度に関しでも分析を行
間降水量は約 1.2oommである(天塩研究林,未発表)。
った。クロロフィル濃度は、両斜面に生育する各6シ
本地区は強風寒冷地であり、土壌は蛇紋岩土壌である
崩) .
1
1
5
)
中の峰」地区では、数度にわたる山火事の
用いて細かく分解した後、ジメシルスルフォキシド
r
後、クマイザサ (Sasasenanensis) が優占している
刷。則。
r
中の峰」地区には、南向斜面と北西向斜面
ュートのササの葉を採取した。採取した葉はハサミを
(DMSO) を用いて抽出を行い、分光光度計 (Type
種類の斜面が存在する。本研究は、特に南向斜面と
の2
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.,Tokyo
,]
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) を用いて測定し、
1
0
1
0
0,H
2章の式からクロロフィル濃度a
、bを算出した 5) 109)。
北西向斜面の環境要因、および両斜面に優占的に生育す
さらに、両斜面に生育する各6シュートのササの当年
るクマイザサの生育特性に関して比較し、検討した問。
4
.2
.2
.2 気候条件の測定
調査地内の冬季期間の気候条件に関しては、南向
斜面と北西向斜面の気温、地温、風向、風速、および
昆に関しては、 1
9
9
9
年1
1
積雪深を測定した。気温と地i
月から 2000年5月まで自記記録式の温度計 (Thermo
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i,RT-21S,Tabai Espec C
o
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.
,Osaka
,
]apan) を用いて測定した。さらに地温の測定のため
に、温度計は双方の斜面の地表から 5cmの深さに 2個
ずつ埋めた。また、気温の測定のために、温度計を双
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2
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トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
5
5
葉に対して、 F
i
g
.
2
2の図を元にして黄化した葉の割合
面より 25日遅れて 5月に入ってから上昇した。また、
を測定することで被害度を算出した。
1月までの総日射量
南向斜面と北西向斜面の 5月から 1
は、それぞれ 4400M]m-2、3790M]m-2であり、北西向
4
.2
.2
.5 統計分析
斜面では南向斜面と比較して日射量は14%少なくなった。
積雪深、ササの稗高、クロロフィル濃度、および
調査地では、南西方向の卓越風が多い頻度で吹い
被害度の平均値に関しては、南向斜面と北西向斜面の
F
i
g
2
4
) 。風速に関しては南西方向の風が特に
ていた (
検定を用いて有意差検定を実施した (
S
t
a
t
データを t
強く、平均風速は 7ms
e
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・
1
、最大瞬間風速は 12ms
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.
) 。それぞれの図表にお
を示した。
けるヘへ
のサインは、 5%、1%およびO.l%の範囲
月から 3
積雪深に関しては、南向斜面の積雪深は 1
月
で統計的に有意差があることを示している。また、土
F
i
g
.
2
5
) 。一方、北西向斜
にかけて 80cmを示した (
m
e
s
tを用いて多変量
壌の化学成分に関しては、 Tukeyt
面の積雪深は同じ時期において 160cmを示し、南向斜
S
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.
0
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の有意差検定を行った (
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.
0
0
1
) 。両斜面とも 3月
面より有意に高くなった (
I
nc
.
) 0 Table2における異なるアルファベットの値聞
下旬から融雪が始まり、 4月の積雪深は北西向斜面で
には、 5%の範囲で統計的に有意差があることを示し
60cm、南向斜面でlO
cmを示した。
ている。
4
.2
.3 調査結果
4
.
2
.
3
.1 斜面別の気候条件
月の終わりから 2
月まで氷点下の値を示
気温は、 1
N
F
i
g
.
2
3
) 0 3月に入ってから気温は次第に上昇
した (
し
、 5月には 20'tに達した。また、北西向斜面の気温
は南向斜面よりも 8-1O't低かった。両斜面における
5
.
5'
t
と1
8
.
9'tであった。地温は、
最高と最低気温は、 3
W
1月下旬から 4月上旬まで O't以上を保ち、
両斜面とも 1
E
F
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g
.
2
3
) 。南向斜面の地温
冬季でも凍結しなかった (
は4月に入ってから上昇を始め、北西向斜面は南向斜
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北海道大学演習林研究報告
5
6
4
.2
.3
.2 土犠の化学的特性
第6
3
巻
第 1号
4
.2
.4 考 察
土壌分析結果は Table2に示した。北西向斜面の
本調査の結果から、特に南向斜面では気候条件が
A層における C、N、P、Mg
濃度は、南向斜面と比較
厳しく、特に厳冬期における積雪深が低いことが分か
して有意に高い値を示した (p<0.05) 。特に、北西向
を示した。しかし、 A層における土壌 pHおよび他の
元素濃度は、両斜面闘において有意な差は認められな
。
旬
一
かった。また、 B層における土壌 pHと各元素濃度は、
いずれも両斜面問において有意な差は認められなかっ
(EO) EOBZE
倍高い値
斜面における A層の P濃度は、南向斜面より 3
200
150
100
50
た
。 A層における土壌深度は、北西向斜面において有
(
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)。
ュ.
目。一
2
+
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一
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意に南向斜面より厚い値を示した
また、 A層と B層の土壌分析値を比較すると、土
壌 pHは両斜面において B層の方がA層より高い値を示
4
﹂
濃度は、雨斜面
した。 C、N、P、 Ca、K、および、Na
O
6
において A層の方がB層より高い濃度を示した (pく 0.05)。
濃度は、両斜面聞で有意に濃度の違い
一方、 NiとMg
悶)
(JCSEωomwE
を示さなかった。
4
.2
.3
.3 斜面別のササの成長
。
回
北西向斜面に生育するクマイザサの稗高は、南向
斜面に生育するササより平均して 48cm高くなった
(
F
i
g
.
2
6,pく 0
.
0
0
1
) 。また、クロロフィル濃度 (a+b)
に関しては、北西向斜面のシュートで南向斜面のシュ
。
30
20
10
。S
slope
ートより 4倍 以 上 の 高 い 濃 度 を 示 し た (Fig.26,
pく 0
.
0
01)。さらに、ササの葉の被害度に関しては、
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) 。また、この調査地においては南西方
イル濃度は窒素濃度と正の相関を示す釘)• 75) 。ササの
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g
.
2
4
) 、主要な風
向から卓越風が吹いていたので (
葉内窒素濃度を分析した結果 (
A
p
p
e
n
d
i
x
4
) 、南向斜
向と斜面方向がほぼ一致していたことが考えられる。
面のササの葉は窒素濃度に関しでも有意に低い値を示
したがって、南向斜面においては風によって雪がとば
pく0
.
0
01)。また、南向斜面の A層の土壌中の
した (
され、結果として積雪深が低くなったことが考えられ
窒素濃度も低いことからも、南向斜面のササは窒素の
る。一方、北西向斜面においては主要な風向と斜面方
欠乏を起こしており、その結果クロロフィル濃度も低
向とが異なり、雪が貯められやすいことが推察される。
い値を示したと考えられる。窒素をはじめとした栄養
その結果、南向斜面と比較して積雪深が深くなったと
A
p
p
e
n
d
i
x
4
) 、南向斜
元素の欠乏症が出ていたため (
考えられる。また、南向斜面と北西向斜面は地形分類
面のササは被害率が上昇したと考えた。窒素は光合成能
力とも強い正の相闘があることからお)。お)。辺)• 33) .田) .
刷
、
が異なり、南向斜面が頂部斜面であるのに対し、北西
向斜面は谷頭凹地に分類できる 62)
谷頭凹地は周囲
光合成作用による生産性も低いと推察される。実際、
を谷壁斜面で固まれていることから 62) 、谷壁斜面に
光合成速度を測定しでも、特に南向斜面のササは
よって雪が遮られ、雪が貯められやすい地形であると
北西向斜面のササと比較しても低い値を示した
推察される。
(
A
p
p
e
n
d
i
x
5
) 。一方、南向斜面は日射量が北西向斜
調査地域における土壌の発達過程も、斜面方向で
面より大きく、気温、地温とも南向斜面の方が北西向
T
a
b
l
e
2
) 。特に、南向斜面で
大きく異なっていた (
斜面より高い傾向を示した。しかし、南向斜面に生育
は元素濃度が有意に低く、土壌深度も浅かった。この
するササの成長が悪く、高い光合成能力を持たないこ
原因として、強風による有機物の移動が、調査地内の
とから、日射量、気温、地温は、ササの生育に直接大
土壌発達に影響を与えたと考えられる。すなわち山火
きくは関与していなかったと考えられる。
事発生後、調査地内は無立木地となり 69) 、樹木と周
一般に、ササは1.0mの積雪を超えると倒伏する
囲の植生の炎上によって風を遮る障害物が無くなり、
が1側、南向斜面の積雪は1.0m
以下であったため、サ
有機物を貯められなかったと推察される。また、南向
サ植物体の一部は、冬季において積雪深の上に突き出
斜面においては、雪と同様に風の影響によって有機物
て、枯死していたことが観察された。ササの植物体は
が吹き飛ばされてしまったと考えることができる。し
積雪深より大きく生育することは困難であることが推
たがって、南向斜面における有機物の蓄積は少なくな
察される。
り
、 A層も薄くなったと考えられる。一方、北西向斜
本調査地では、南向斜面で特にササの生育が悪か
面では有機物が蓄積され、 A層も南向斜面に比べると
った。その原因としては、気候条件と土壌条件の 2種
厚くなったことが可能性のーっとして推察される。ま
類の要素が関与していることが考えられた。また、こ
た、風の影響以外にも、斜面を構成する微地形の違い
れらの要素がササの生育に反映されているため、気候
によっても土壌層の厚さは異なる 62) 。谷頭凹地であ
状態と土壌状態を示す生物指標として使用可能である
る北西向斜面は上部からの土層が崩壊するため、土壌
ことが考えられる。この結果から、環境修復として南
が発達しているという特徴がある 62) 。このことから、
向斜面における植林を行う場合、特に樹木の生育が困
北西向斜面では上部の土層が崩壊することによって、
難である場所がササの生育状態から予想できる可能性
A層が厚くなったと推察される。さらに、土壌の肥沃
が示唆された O
度に関して、植物遺体中のじ N比は微生物の分解によ
比が高いと無
る窒素の無機化速度に影響を与え、 C/N
機化速度は低下する 67) • 117) 。調査地内のササの葉内元
4
.3 導入樹種の成長と生態生理学的応答
4
.
3
.1 目 的
素中の C/N
比は、南向斜面は 3
7、北西向斜面は 2
0であ
調査地「中の峰」では、特にササの生育が悪い地
Appendix4
,p
く0
.
0
0
1
) 。このことから、南向斜
った (
域では積雪深と土壌深度が浅く、土壌養分濃度が低い
面では、窒素の無機化が遅いことが推察される。
ことから、植林した樹木の生育も抑制されることが予
ササの成長に関しては、南向斜面のササの稗高は
F
i
g
.
2
6
) 。ま
北西向斜面のササと比較して低かった (
た、南向斜面のササの葉内クロロフィル濃度も低く、
F
i
g
.
2
6
) 。クロロフ
葉の被害率は高い傾向を示した (
想される。
本調査地においては、蛇紋岩土壌の樹種であるア
カエゾマツを用いて山火事跡森林復元試験として全面
的に植林が実施された 69) 。一般的に、樹木の成長お
北海道大学演習林研究報告第6
3巻 第 1号
5
8
よび光合成能力は、主に日射量の違いから、日陰の斜
面の方が日向の斜面より低い 36) .刷。 122) 。また、樹木
4
.3
.2
.2 導入樹種の成長測定
の針葉は、冬季に風の影響に受けて乾燥し枯死するこ
とが多い担).ぉ) • 78) .120 .刷。そして、樹木個体におけ
アカエゾマツの成長を検討するため、南向斜面と
北西向斜面の各4ヶ所の調査区から、 3
0
個体のアカエ
る針葉のバイオマスも低下し、樹体全体の光合成生産
ゾマツを無作為に選出し、 1
9
9
9年9月に樹高と主枝の
量にも影響を与える。このことから、樹木の成長に関
節関長を測定した。そして、アカエゾマツの樹高の年
.2
章で明らかになった気候条件や土壌条件
しては、 4
変化とササの稗高との関係を検討した。なお、ササの
のほかに、日照不足、針葉の寿命、および冬季におけ
年間大きな変化がないことを仮定した。
稗高は、過去5
る針葉の傷害程度が関与していることが示唆される。
また、特に生育の悪い個体の針葉に関しては、冬季の
乾燥害を受けていたことも考えられる。
4
.3
.2
.3 針葉の寿命の測定
両斜面に導入されたアカエゾマツ個体の針葉の寿
さらに、樹木の成長には針葉の光合成能力が直接
命を評価するため、樹体の中間に位置する枝における
関与するため、特に生育の悪いアカエゾマツでは、光
9
9
9年9月に、アカエゾマ
針葉の生存率を測定した。 1
合成速度が低いことが予想される。また、成長期間に
0cm、北西向斜面は 130cm
ツの主枝を南向斜面では 5
おける乾燥ストレスに関しでも検討する必要がある。
の位置から 4
個体採取した。なお、採取した枝は厳冬
葉の気孔コンダクタンスは、大きく乾燥した環境下で
低下する 30 .33) .1同)ことから、乾燥ストレスを受けた
期の積雪面より下部の位置であり、日当たりのよい位
置の枝を選定した。測定方法に関しては 2章と同様で
個体は、気孔コンダクタンスが低いことが予想される。
そして、光合成能力は針葉中の窒素25) . お ) 泣 ) お ) 冊 目 )
ある。
とリン 9) .1刷 。
4.3.2.4 冬季における針葉被害の評価
1
1
6
)
との正の相関を持つ。また、クロロ
フィルも光化学系色素中に含まれ 75) 、光合成能力に
冬季における針葉の被害を評価するため、アカエ
大きく関与することが推察される。従って、生育の悪
ゾマツ主枝の半数の針葉が落葉する半減年と、アカエ
い個体に関しては、針葉内のこれらの養分濃度が低い
0
0
1年4月上旬
ゾマツ針葉の相対含水率を測定した。 2
と予想される。
に、双方の斜面に生育するアカエゾマツの枝を採取し
本節では、まず導入したアカエゾマツの成長に関
た。風による針葉の乾燥を比較するため、同じ個体の
して測定を行った。また樹木の成長に直接影響を及ぼ
積雪面より下、積雪面より上に位置する枝のサンプリン
す針葉の寿命、および冬季における針葉の被害状況に
グを行った。積雪面より上の枝は、南向斜面では耽m、
関して比較し、検討を行った。次いで、、アカエゾマツ
剖cm
の位置から採取した。なお、積雪
北西向斜面では 1
の光合成特性と針葉の元素濃度に関しでも調査を行い、
面より下の枝は、針葉の残存率における採取位置と同じ
環境応答能力の指標とした。
である。サンプリング後、それぞれの葉齢の針葉に関し
4
.3
.2 材料と方法
4
.
3
.
2
.1 調査地域
れ
、 5Cで2日間貯蔵した。貯蔵後、それぞれの針葉に関
て生重量を測定した。測定後、針葉はイオン交換水に入
9
8
2年から 1
9
9
7
年の聞に実
「中の峰J地区では、 1
施された「山火事跡地森林復元試験」として、
5
3
0
.
0
0
0
本を越えるアカエゾマツが導入された 69) 。サ
サの稗がアカエゾマツの生育を妨げることを防ぐため、
0
して飽和生重量を測定した。その後、針葉は剖℃で4日
間乾燥させた。乾燥後、葉齢別の乾重量を測定し、以下
の式から針葉の相対含水率を算出した制。
相対含水率(%)=
[(生重量一乾重量)/(飽和生重量一乾重量)]XlQO
植栽前にササを縞状に刈り取りアカエゾマツを植える
スペースを確保した。本研究ではアカエゾマツの生育
特性を検討するため、南向斜面と北西向斜面の標高
2
3
0
3
6
0mの地域の中で、 1
9
8
7年に植栽した地域に各4
ケ所の調査区(各50mX3
0
m
) を設定した。そして、
4
年目のアカエゾマツの調
調査区内の植栽されてから 1
査を行った 51
)
日
)
。
4
.3
.2
.5 光合成速度と気孔コンダクタンスの測定
純光合成速度は、南向斜面と北西向斜面に導入さ
れた積雪面下部のアカエゾマツの 2年生針葉に関して 3
個体以上を対象にして測定した。光合成のiJl
U
定方法は、
2・3章と同様である。
)
また、光飽和時における最大光合成速度 (Psat
トウヒ属の蛇紋岩土壊への適応機構(香山)
59
を、同様の方法で 2-6
年生の針葉に関して測定を行っ
北西向斜面のアカエゾマツの樹高の平均値は 224士
た
。 Psatは
、 2000年9月に両斜面に植栽したアカエゾ
47cmで、あった。
また、 5
年間の節開成長から、過去6
年間の樹高の
マツに関して3個体以上を対象として測定した。
また、 2-6
年生の針葉の気孔コンダクタンス(通
推移を算出した (
F
i
g
.
2
8
) 。その結果、北西向斜面に
(ADCH4a,パイサラ湿
おけるアカエゾマツは、積雪深より低い時期から南向
道性)は、携帯式ガス分析計
度センター内蔵, Finland) を用いて測定した。
斜面のアカエゾマツより樹高が高くなっていた。また、
積雪深よりアカエゾマツの樹高が高くなっても成長量
4
.3
.2
.6 針葉中の元素分析
は衰えなかった。一方、南向斜面のアカエゾマツは、
元素分析として、積雪面下部のアカエゾマツ針葉
中のクロロフィル、 N、P、K、 Ca
、 Mg
および'N
i
の分
1994
年の時点で積雪深より高くなっており、北西向斜
面の個体に比べて成長が悪かった。
析を行った。分析方法は第3
章と同じである。
4
.3
.3
.2 針葉の残存率
4
.3
.2
.7 統計分析
葉齢別の針葉残存率は、 2
年生針葉より古い針葉
アカエゾマツの樹高成長、針葉の残存率、針葉の
では、北西向斜面に植栽した個体の方が南向斜面に植
半減年、最大光合成速度、気孔コンダクタンス、クロ
栽 し た 個 体 よ り も 有 意 に 高 い 値 を 示 し た (Fig.29,
ロフィル濃度、および各種元素濃度の平均値に関して、
pく0
.
0
5
) 。北西向斜面に植栽したアカエゾマツの針葉
南向斜面と北西向斜面のデータを t
検定を用いて有意
は
、 4年生の針葉においても多くの割合で針葉が残存
差検定を実施した (
S
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.
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)。
4
内
計的に有意差があることを示している。
,
る異なるアルファベットの値聞には、 5%の範囲で統
4414
t
e
s
tを用いて多変量の有意差検定を行った
(
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.
0
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.
) 0 Table2におけ
内
-uE回日Z回-申Z 申申﹂↑
を示している。また、針葉の相対含水率に関しては、
-岡田E
(
E
U
)
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a由 刀 圭O E曲EコE
1%、および0.1%の範囲で統計的に有意差があること
Tukey
nυnUAUnU
FO
U
内
PDnu
それぞれの図表におけるヘ"、山のサインは、 5%、
5
0
0
1
9
9
41
9
9
51
9
9
61
9
9
7 19981999
・
--TTI eehheeiigghhtt(8slospleo)pe)
4
.3
.3 結 果
開
4
.3
.3
. 1 異なる方向の斜面に導入されたアカエゾ
ー骨ー
マツの成長
北西向斜面に植栽したアカエゾマツの樹高は、南
向斜面に植栽した個体よりも有意に高い値を示した
(
F
i
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.27
,pく 0
.
0
0
1
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) 。南向斜面のアカエゾマ
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北海道大学演習林研究報告
6
0
し
、 4年間針葉の残存率は減少しなかった。また、北
第6
3
巻
第 1号
4.3.3.4 光合成速度と気孔コンダクタンス
西向斜面に植栽したアカエゾマツは、 6年生針葉にお
アカエゾマツの2年生針葉の光一光合成曲線は、
いても 70%以上の針葉が残存しており、残存率も南向
F
i
g
.
両斜面に植栽した個体とも同様の形状を示した (
斜面の個体と比較して 55%も高い値を示した。一方、
31)。光合成速度 (Pn) は、雨斜面に植栽した個体
∞
南向斜面に植栽したアカエゾマツの針葉は、 2年生針
,
2 μmolm
ちl
で飽
とも PPF (光合成有効放射)が約 1
葉から落葉が始まり、半数の針葉が5年間で落葉した。
和した。光一光合成曲線の初期勾配は、北西向斜面に
最終的に、北西向斜面に植栽したアカエゾマツの針葉
植栽したアカエゾマツは、南向斜面の個体よりわずか
残存しているのに対し、南斜
は6年生の針葉でも 78%
に大きい傾向を示した。
面に植栽したアカエゾマツの針葉は 6年間でほとんど
葉齢別に光飽和時の光合成速度 (Psat) を測定し
た結果、両斜面の個体とも針葉の加齢に伴い減少した
の針葉が落葉した。
(
F
i
g
.
3
2
) 。北西向斜面に植栽したアカエゾマツでは、
4
.3
.3
.3 針葉の冬季の被害状況
アカエゾマツ針葉中の相対含水率は、両斜面に植
4
栽した個体とも積雪面上部の針葉の方が有意に積雪面
"
;
'
3
帥
.
01)。また、
下部の針葉より低かった (Fig.30,pく 0
E
e
5
ともに減少した。斜面で比較すると、積雪面上部のア
[0
カエゾマツ針葉の相対含水率は、当年生針葉のみ北西
:
o-1
向斜面において有意に低かったが (pく 0.05) 、2年生
2
針葉以降では有意な差は認められなかった。また、両
が認められなかった。一方、雪面下部の低い位置の相
対含水率は、葉齢に関わらず73-78%の一定した値を
品
" 2
積雪面上部の針葉の相対含水率は、両斜面とも加齢と
斜面聞の個体に関しでも、針葉中の含水率は有意な差
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(September2000,
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.
示し、斜面聞で有意な差は認められなかった。なお、
ング時における量が少ないため含水率を算出できなかった。
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Mean士 SD,
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.
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5,
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O
.
0
5,
Tukeyt
e
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)
.
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
P
s
a
tの減少が南向斜面に生育する個体より緩やかな傾
6
1
(
F
i
g
.
3
4
) 。アカエゾマツ針葉中の N濃度は、 3、4、5
向を示した。アカエゾマツの 3と4年生針葉に関して、
年生針葉において北西向斜面に植栽した個体の方が南
北西向斜面の個体の方が南向斜面の個体より有意に高
向斜面の個体より有意に高かった (
pく 0
.
0
5
) 。また、
、6年生針葉におい
アカエゾマツ針葉中の P濃度も、 5
pく0
.
0
5
)。
いPsatを示した (
g
s
)
光飽和時の葉齢別の気孔コンダクタンス (
は、両斜面に植栽した個体とも針葉の加齢に伴い減少
て北西向斜面に植栽した個体で有意に高い濃度を示し
p
く0
.
0
5
)。この2元素以外は斜面聞の差はなかった。
た (
F
i
g
.
3
2
) 。しかし、 gsの値は両斜面のアカエゾ
した (
マツ個体の間で有意な差は認められなかった。 gsの
4
.3
.4 考 察
21
.
2
m
o
l m'
s
'を示し、 3
値は両斜面の 2年生針葉とも約 0
21
1
ω
'
.
15molm.s
.を示した。
年生以上の葉齢の針葉では0.
4.3.4.1 導入樹種の成長
以上の結果から、ササの稗高と同様に、「中の峰」
地区に導入されたアカエゾマツは、南向斜面の個体の
4
.3
.3
.5 針葉中のクロロフィル濃度
F
i
g
.
2
7
,2
8
:P
h
o
t
0
5
)。
樹高が北西向斜面より低かった (
アカエゾマツ針葉中のクロロフィル (a+b) 濃度
また、特に南向斜面におけるアカエゾマツは針葉の寿
は、北西向斜面に植栽したアカエゾマツの 3、4、5年
F
i
g
.
2
9
) 。このことから、南向斜面
命が短かかった (
生針葉において有意に高い濃度を示した (Fig.33,
のアカエゾマツは、樹木全体の針葉量と光合成生産量
p
<
0
.
0
5
) 。この傾向はクロロフィル b濃度に関しでも
が少なくなると考えられ、樹高の違いに影響を与える
同様で、北西向斜面に植栽したアカエゾマツの3、4、
主要な要因であると考えられる。針葉の寿命は、一般
5年生針葉において、南向斜面の個体より有意に高い
的にある閥値を超えない範囲において、温度、光、土
pく0
.
0
1
)。
濃度を示した (
壌養分、水分状態等の様々なストレスによって延長さ
れる出)師)。
4
.3
.3
.6 針葉中の養分濃度
本研究では、針葉の寿命は日射量が少ない環境で生
アカエゾマツ針葉中の各種元素濃度に関しては
育しているアカエゾマツ(北西向斜面)において、明
Appendix 6に示した。その中で、特に両斜面に植栽
るい環境に生育する個体(南向斜面)よりも長い結果
した個体問で違いに見られたNとPに関して検討した
F
i
g
.
2
9
) 。光環境は、植物の生理反応に
となった (
冨1.0
0
.
8
0
.
6
.
30
.
4
a
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.
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2
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5
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.
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5,紳=p
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北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
6
2
おいて重要な要素であり、針葉の寿命は、一般に被陰
よって光合成能力が低下したと考えられる。以上の結
下において低い光合成生産能を補償するために延びる
刷。匝).同)則。 105) 。この針葉の寿命に関する傾向は異
果から、アカエゾマツの成長にとっては、土壌中の養
分濃度、特に窒素濃度が主な制限要因と考えられる。
なる光環境下に生育するトウヒ類とモミ類でも観察さ
れている曲)砧)• 105) 。この事実から推察すると、北西
寿命は、乾燥ストレスを受けてないのにもかかわらず
向斜面に植栽したアカエゾマツは、南向斜面の個体と
なぜ低下したのだろうか。南向斜面における葉齢の進
では、南向斜面に植栽したアカエゾマツの針葉の
比較して針葉の寿命が長いことから低い日射量を補償
s
a
tと窒素濃度は北西向斜面より有
んだ針葉における P
できると考えられる。一方、積雪面上部の針葉の相対
s
a
t
意に低下した。しかし、若い 2年生針葉における P
含水率は、高い成長の北西向斜面に植栽したアカエゾ
と窒素濃度は両斜面の個体と比較して、差は認められ
以下に大きく低下していた (
F
i
g
.
3
0
)。
マツにおいてω%
F
i
g
.
3
,
13
2
.3
4
) 。一方、土壌中の窒素濃度
なかった (
特に相対含水率が60%以下の針葉では、生存率が30%
は低いことから、南向斜面のアカエゾマツは、北西向
以下であったとの報告もあることから 34) 、冬季に積
斜面の個体と比較して、土壌から多くの窒素を吸収し
雪によって保護を受けなかったアカエゾマツの針葉は、
て、高い光合成能力を得ることはできないと考えられ
斜面方向やアカエゾマツの成長の違いにかかわらず、
る。南向斜面に植栽したアカエゾマツは、針葉中の窒
強度の乾燥ストレスを受けていると推察される。
素を葉齢の高い針葉から活動の盛んな若い針葉へと効
一方、南向斜面では、土壌中の養分が北西向斜面
率よく再移動していると推察される。実際に、南向斜
T
a
b
l
e
2
) 、針葉の寿命
より低く貧栄養であったが (
面の個体の古い針葉は NおよびP濃度が大きく低下し
F
i
g
.
2
9
) 0 一般に、針葉の寿命は土壌
は短くなった (
F
i
g
.
3
4図)。この結果から、南向斜面に植栽
ていた (
の肥沃度に強く影響を及ぼし、貧栄養の状態において
したアカエゾマツは、養分の再移動(樹体内転流)に
低い生産能を補償するための適応機構として理解され
てきた 15) • 57) .65) • 95) .師)。しかし、本研究結果は過去
個体と変わらない光合成能力を獲得したと考えられる。
の研究結果と一致しなかった。しかも、南向斜面に植
また、古い針葉は養分を再移動する過程で落葉が助長
よって若い針葉中の窒素濃度は増加し、北西向斜面の
栽したアカエゾマツの積雪面下部の針葉は、高い相対
されたことが考えられる。これは、貧栄養条件下で生
含水率を維持していることから、冬季の傷害によって
存するための適応機構の」っと考えられる。
寿命が短くなった原因ではないと推察される。従って、
また、これとは別に、特に北西向斜面に植栽した
成長期間の生態生理的特性にも注目して検討する必要
アカエゾマツは、クロロフィル濃度が増加する傾向を
がある。
示した。光に乏しい環境下で生育する植物は、光化学
系 Eの集光性クロロフィルタンパク質複合体
4
.3
.4
.2 導入樹種の生態生理的特性
「中の峰J地区に導入されたアカエゾマツの成長
(
L
H
C
P
I
I
)
が増加するため 75) 、L
H
C
P
I
I中に多く含まれるクロロ
フィル b
濃度は増加する 1) お) .37) .75) 。北西向斜面は南
期における気孔コンダクタンスは、両斜面問の個体問
向斜面と比較して日射量が少ないことから、北西向斜
F
i
g
.
3
2
) 。この結果から、
で有意な違いはなかった (
面に植栽したアカエゾマツは、光を集める能力を高め
成長期間における乾燥ストレスには斜面聞で大差はな
H
C
P
I
Iを増加させていると推察される。
るために L
かったものと考えられる。
s
a
tは南向斜面の個体に
一方、アカエゾマツの P
おける 3年生以降の針葉において有意に低下した
4.4 結 論
蛇紋岩土壌が卓越した天塩研究林「中の峰」地区
(
F
i
g
.
3
2
) 。さらに、 N濃度に関しでも、 P
s
a
tととも
は、南向と北西向の斜面に分類され、優占するササの
に南向斜面の個体において、 3年生以降の針葉におい
生育は特に南向斜面で悪かった。ササの生育が悪い原
F
i
g
.
3
4
) 。この原因として、南向
て有意に低下した (
因は、冬季における積雪深と土壌中の養分濃度が低い
T
a
b
l
e
2
)、
斜面は土壌中の窒素濃度が低いために (
ことが考えられた。
アカエゾマツの針葉中の窒素濃度も低下したと考えら
この地域に導入されたアカエゾマツも、ササの生
s
a
tには強い正の相
れる。また、針葉中の窒素濃度と P
関が存在するのであ)• 26) • 32) .33) .95) .刷、南向斜面のア
育と同様に南向斜面に植栽した個体の生育が悪かった。
カエゾマツは 3年生以降の針葉は、窒素渡度の減少に
斜面に植栽したアカエゾマツの生育はサザとは異なり、
さらに、針葉の寿命は短い傾向を示した。一方、南向
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
土壌有機物の蓄積過程と養分組成によって大きく規定
6
3
蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツとヨーロッパトウヒで
されていることが推察された。しかし、生育の悪い南
が低いため、光合成能
は、針葉中の窒素濃度と PNUE
向斜面のアカエゾマツは、窒素やリンなどの養分を新
力が大きく低下したと考えられる。これらの要因が複
しい針葉への再移動しており、その結果、光合成能力
合的に関わったことで、エゾマツとヨーロッパトウヒ
が低下した高い葉齢の針葉の落葉を助長し、針葉の寿
は、蛇紋岩土壌において成長が抑制されたと考えられる。
命が短くなったと考えた。この能力は、貧栄養状態に
以上のように、エゾマツとヨーロッパトウヒは蛇
おいてアカエゾマツが生育していくための適応機構と
紋岩土壌では生育が困難であるが、光合成特性に関し
考えられる。
てはアカエゾマツよりも優れている特徴も存在してい
第5
章総合考察
光合成速度が飽和に達する PPFも低い値を示した
た。この 2樹種では光一光合成曲線の初期勾配が高く、
蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツとヨーロッパトウヒは
(
F
i
g.4)。このことから、エゾマツとヨーロッパト
ウヒは、弱い光環境下において高い光合成能力を持っ
ており、耐陰性が高いことが推察される。そして、こ
の特性があるからこそ、遷移の後期も生存し光の乏し
い林床においても生育が可能であると考えられる。ま
た、肥沃な環境下では成長量が大きいことから、他の
樹種と競合する肥沃な土壊下においても生育可能であ
ることが考えられる。
一方、アカエゾマツは蛇紋岩土壌にも分布域を持
種の成長特性の測定結果
つ113) • 114) 。また、 トウヒ属 5
5
.1 トウヒ属3樹種の環境応答能力
蛇紋岩土壌に広大な分布域を持つアカエゾマツに
対し、エゾマツとヨーロッパトウヒは、ほとんど蛇紋
種
岩土壌に分布していない11l• 115) 。また、 トウヒ属 5
の成長特性の測定結果から、エゾマツとヨーロッパト
ウヒは多資源多利用型の樹種であることも明らかにさ
F
i
g
.l)。この現象は苗木の植栽実験の結果に
れた (
も反映され、良好な生育を示したアカエゾマツに対し、
生育が抑制された。特に、この 2樹種では葉の乾重量
から、アカエゾマツは少資源効率利用型の樹種である
xc
1uderとしての
が低下し、落葉が促進された。また e
ことも明らかにされた (
F
i
g.l)。これらの知見は苗
濃度もアカエ
能力も低く、針葉および、根中の MgとNi
木の植栽実験により確認され、蛇紋岩土壌に植栽した
ゾマツと比較して高い濃度を示した。
エゾマツとヨーロッパトウヒの針葉の落葉に関し
濃度が低く、
アカエゾマツでは針葉と根中の NiとMg
x
c
l
u
d
e
r
有害元素を体内に取り込まない特性を持った e
ては、窒素やリンが針葉内で再移動を行なった結果、
としても、高い能力を持つことが明らかになった。蛇
落葉が促進された可能性も考えられる。トウヒ属 3樹
紋岩土壌は有害な NiやMgを多く含んでいることに加
種に関して、苗木実験による針葉中の総窒素含有量の
T
a
b
l
el)。このため、低
えて貧栄養土壌でもある (
A
p
p
e
n
d
i
x
7
)、特にエゾマツは、
変化を検討した結果 (
い養分濃度の蛇紋岩士壊に生育するためには、針葉の
移植後に針葉中の総窒素含有量が低下した。このこ
低い生産性を補償するために、針葉の寿命を延ばす適
とは、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツは養分を回収す
応機構が重要であろう。しかし、実際にトウヒ属苗を
ることができずに落葉していることを示唆する。養分
蛇紋岩土壌に植栽した結果、針葉の寿命が延長された
を回収できない原因としては、針葉が蛇紋岩土壌中の
のはアカエゾマツだけであった。この結果は、成木に
NiとMgを多量に吸収したことによって毒性を受け、回
おいても確認されており、蛇紋岩地域に植栽したアカ
エゾマツにおいては特に針葉の寿命が長い 57) 。また、
収前に枯死したことが可能性のーっと考えられる。
また別の理由としては、苫小牧研究林の未成熟火
2章における同一地域に植栽したアカエゾマツにおい
山灰土壌に植栽されたエゾマツとヨーロッパトウヒを
ても、針葉の寿命が長い傾向を示した。また、寿命の
対象として考えると、針葉のターンオーバーを高め新
長い針葉を持つことに加えて、光合成能力も長期間に
しい針葉を多く生産していた。すなわち、この特性は
F
i
g
.
6
) 。この傾向は、蛇紋
わたって維持していた (
特に肥沃な環境で、針葉が多く生産可能であれば、よ
岩土壌に植栽された6
0年生の成木においても確認され
り多くの光合成産物の生産が可能となる。しかし、蛇
ている 57) 。さらに、低い窒素渡度でも効率的に光合
紋岩土壌に植栽したときにこの特性は負の効果をもた
F
i
g
.
9
.2
1
) 。これらの特性は、
成作用を行っていた (
らし、新しく針葉を生産する能力よりも針葉を落葉す
アカエゾマツが少資源効率利用型の樹種であることか
る量の方が上回ってしまったことも推察される。また、
らも裏付けられ、貧栄養土壌に生育する上で重要であ
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
64
たアカエゾマツは、外生菌根菌によって多くの光合成
ることが考えられる。
加えて、アカエゾマツの苗は特に蛇紋岩土壌にお
産物を消費されている可能性も予想される。今後の展
13Cなどの同位体をラベルした C 0 2を取り
いて早い段階で高い外生菌根菌の感染が認められた
望として、
(
F
i
g
.
1
5
) 。外生菌根菌は共生している宿主の樹木の
窒素およびリンの吸収を助長させることから 110) 、成
込んだときに、植物のどの器官に取り込まれるかを調
査するトレース実験を行ってみる必要があるだろう。
長の早い段階から感染すれば窒素やリンの吸収がより
x
c
l
u
d
e
rとしての働きに関しでも多くの
さらに、 e
順調に行われると考えられる。アカエゾマツにはこの
検討が必要と考えられる。本研究では細根中に多くの
特性があることから、貧栄養土壌である火山灰地など
MgおよびNiが蓄積されていたが、細根の中のどの部
にも先駆的に侵入、成長し 60) 、優占できると考えら
位に蓄積されていたのかは明らかにはなっていなし、
れる。さらに、 6
0年間蛇紋岩土壌に育成させたアカエ
実際に外生菌根菌の菌鞘に蓄積されているのかは、今
ゾマツは、褐色森林土に生育する個体より窒素とリン
後さらに検討すべきである。
濃度が有意に高い濃度を示した 57) 。これには、外生
加えて、針葉樹では高い葉齢の針葉の役割が重要
菌根菌が養分の獲得に長期間にわたって大きく貢献し
である。本研究から、特に窒素とリンが樹体内転流に
よりで再移動したことが推察された。今後、樹体内転
ていることを示唆する。
樹種と比
以上の結果から、アカエゾマツは他の 2
較すると、
(l)長い針葉の寿命、
長期間の維持、
(
2
)光合成能力の
(
3
)高い窒素利用効率、
(4)高い外
つの生態生理的特性を持
生菌根菌の感染率、という 4
流を検討するためには、同位体をラベルした元素を植
)
物に取り込ませて分析をする必要がある 8
本実験に
おいても、ラベルした窒素源を与えることで樹体内転
流を考慮する必要があるだろう。
光合成作用に関しては、蛇紋岩士壌に植栽したエ
っていた。これらの特性を持つことによって特殊な環
境への高い環境適応性を獲得し、他の樹木が生育困難
ゾマツとヨーロッパトウヒにおいて大きく低下した。
な様々な立地に分布が可能であると考えられる。
本研究では、赤外線ガス分析計を用いて二酸化炭素の
濃度差を測定したが、さらに光合成機能の評価は、ガ
5
.2 生態生理学的視点からの研究展望
ス交換以外にもクロロフィル蛍光反応を測定すること
本研究では、 3章で外生菌根菌の感染に関する調
Iの電子伝達系に関して評価をすること
で、光化学系 I
査を行った。今回は、根に感染した外生菌根菌の割合
が可能である。クロロフィル蛍光反応は、様々な環境
は定量できたものの、外生菌根菌の詳細にはなお不明
な点が多い 55), 68)。これは、我が国における主要な造
84)
ストレスを評価する指標として広く使われている 63) ,
。特に、蛇紋岩土壌に植栽したエゾマツやヨーロ
林樹種であるスギとヒノキの 2
樹種は内生菌根を持ち、
ッパトウヒは、クロロフィル蛍光反応のパラメータが
外生菌根菌の感染が無くても順調に生育することから、
低下することが予想されることから、今後の実験にお
特に外生菌根菌に関する研究例が少ないと考えられる
5
5
)。このために、まずトウヒ属 3
樹種の苗木にどのよ
いてクロロフィル蛍光反応に関しでも検討していきた
し
、
同
)
。
うな外生菌根菌の種が感染しているかを明らかにする
必要がある。また、蛇紋岩土壌と褐色森林土に植栽し
た各樹木に関して、外生菌根菌の種が異なるかどうか
も検討する必要があるだろう。
また、アカエゾマツは他の樹種と比較しでもとり
5
.3 森林の修復と再生への展望
本研究の結果を受けて、今後の展望を「中の峰J
を中心に考察した。成長が優れなかった南向斜面に生
育するアカエゾマツの成長を改善する対策には、どの
わけ光合成能力は低くないが、成長量はあまり大きく
ようなことをすればよいか。南向斜面に植栽されたし
ない。この原因として様々な原因が考えられるが、光
たアカエゾマツの成長が低下した最も大きな原因は、
合成産物が外生菌根菌に吸収される割合に関しでも無
土壌層の薄さと土壌中の養分濃度の低きであった。こ
視することはできないだろう。外生菌根菌は、樹木が
れらを改善するには、施肥を行うことが最も効果的で
光合成作用によって獲得した炭水化物を根系から得る
はある。また、本調査地においては特に風の強い地域
が、その量が寄主である樹木の光合成産物の 15-30%
にも達しているとの報告がある 110) , 123) 。このことか
能性もある。そのため液体やコーテイング肥料を添加
ら、特に早い段階から高い外生菌根菌の感染率を示し
することが必要になってくるであろう。しかし、いず
でもあるため、固形肥料では風にとばされてしまう可
トウヒ属の蛇紋岩土壌への適応機構(香山)
れの肥料においてもコストが大きくかかる O また、人
6
5
教授に、心から感謝の意を表す。本論文の作成に数々
工的な肥料を投与することによって、養分のアンバラ
の御指導を頂いた、北海道大学大学院農学研究科の大
ンスを生じさせ、環境が大きく改変されてしまうこと
崎満教授、北方生物園フィールド科学センターの笹
が予想される。このことから、あまり実用的な方法で
賀一郎教授、植村
ないものと思われる。
そのような中で、最近、特に炭の効果に関して着目
滋助教授の皆様方に深謝する。
ゼミ等の様々な場面において、貴重な意見を頂い
た北方生物園フィールド科学センターの秋林幸男助教
され研究がなされるようになった。本調査地は山火事
授、柴田英昭助教授、佐藤冬樹教授、日浦勉教授、
跡地であることから、多くの炭が土壌中に残っている
松田
彊名誉教授、野村睦助手、および高木健太郎
可能性がある。特に炭が多く存在する環境においては
助手の皆様方にも感謝の意を表す。また、森林総合研
外生菌根菌の成長が促進され 92) 、樹木の生育が促進
究所の丸山
される 125) 。このことから、山火事跡地での環境修復
および飛田博順氏にも厚い感謝の意を表す。
温博士、北尾光俊博士、松浦陽次郎博士、
において、炭は根圏環境における土壌改善を行う材料
現地の調査・研究においては、天塩研究林、苫小
として特に期待できる。しかし、炭の効果を実際に確
牧研究林、および南北管理部の技官と、森林技能補佐
認するために、今後は炭を添加した生育実験を行い、
員の方々には大変お世話になった。特に、苫小牧研究
炭の有無と樹木の成長との関係に関して検討する予定
林の奥山悟氏、石井正氏、札幌研究林の菅回定男
である。また、炭のどのような存在形態が生育に役立
氏、北管理部の杉下義幸氏、天塩研究林の北線元氏、
つのかは不明である。これらの研究を進めることで、
中川研究林の浪花彰彦氏、和歌山研究林の芦谷大太郎
実際に有機材料としての「炭」を応用していきたい。
また、冬季の風および氷雪から保護することも重要
である。そのために、積雪深および植物のリターを蓄
氏、雨龍研究林の中島満子氏、総括技術部の外崎勝美
氏、間宮春大氏には、様々な実験準備と調査に多大な
ご尽力を頂いた。ここに感謝の意を表す。
積させるような建造物を造ることが必要とされるだろ
ゼミを通して議論に加わられた北海道大学大学院
う。本調査地である「中の峰j においては、すでに耐
農学研究科北方森林保全学講座の大学院生の方々にも、
雪柵が設置されアカエゾマツの生育の改善が試みられ
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) 、残念ながら顕著な成果は現れて
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感謝の意を表す。特に、実験準備や、測定、分析など
いない。これからは、調査地の風向に関しでも考慮し、
大石真智子氏、北橋善範氏、武田佐知子氏、日月
特に卓越風に対して垂直な方向に耐雪柵を設置し、効
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謝する。また、日本学術振興会特別研究員の松木佐和
積雪深が増加すれば、アカエゾマツの針葉は雪に
子博士、高知大学農学部の市栄智明助教授、東京学芸
よって覆われ、冬季聞の過酷な気候条件から保護され
大学小泉研究室の皆様方にはゼミを通して貴重なご意
るだろう
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また、リターが強風によって吹き飛ばされ
見を頂いた。重ねて感謝の意を表す。
ず蓄積すれば、これらを分解する微生物の無機化作用
本研究の一部は、日本科学協会助成金「変動環境
によって養分の増加も見込まれる。さらに、ササやア
下におけるトウヒ属樹木を用いた山火事跡の森林修復
カエゾマツの生育が促進されれば土壌中の根の発達も
試験」、および日本学術振興会特別研究員奨励研究費
助長され、土壌深度の低い南向斜面においても、これ
「トウヒ属の環境耐性に関する生理特性と環境修復に
らの根の生物的風化作用により基盤の風化を促進させ、
関する研究」によって実施した。これらの研究支援に
土壌層を深くすることができるかもしれない。これに
も感謝の意を表す。また、アラスカ大学フェアパンク
よって土壌環境が改善され、アカエゾマツの成長が改
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教授らには、研究林における人
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善されると考えられる。もちろん、暗色雪腐れ病など、
工山火事実験から、生態系の安定性と山火事が与える
菌害対策も同時に考慮すべき課題ではある。
様々な環境要因の変化に関して学ぶ機会を頂いた。
最後に、私が研究に携わっていく中で、精神的、
経済的に多大なる支援を頂いた香山厚雅、房江両氏に
謝辞
本研究をまとめるにあたり、終始一貫して御指導
頂いた北方生物園フィールド科学センターの小池孝良
も、心から深く感謝の意を表す。
本論文は、北海道大学審査博士論文を基礎に改作
した内容である。
66
北海道大学演習林研究報告第6
3
巻 第 1号
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) 小池孝良・香山雅純・北尾光俊 (
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) :変動環
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) :山火事跡地森林復元試験の経
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北海道大学演習林研究報告第6
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