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ISO/IEC JTC 1/SC 29札幌会合レポート - ITU-AJ

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ISO/IEC JTC 1/SC 29札幌会合レポート - ITU-AJ
ISO/IEC JTC 1/SC 29札幌会合レポート
三菱電機株式会社 コミュニケーション・ネットワーク製作所 主管技師長
ISO/IEC JTC 1/SC29 国際議長
1.まえがき
あさ い
こう た ろう
浅井 光太郎
われているJPEG規格、さらにデジタルシネマなどで使われて
2014年7月、ISO(International Organization for Stan-
いるJPEG2000、JPEG XRの静止画符号化規格を策定して
dardization)とIEC(International Electrotechnical Com-
きた。MPEGは1988年に設立され、やはり世界中のデジタル
mission)の合同委員会、JTC1(Joint Technical Com-
放送やDVD、ブルーレイ、映像・音楽配信に用いられてい
mittee)の小委員会(Sub-Committee)の一つであるSC 29
るMPEG-1/2/4など一連の映像・音響符号化伝送に係る規
と傘下のWG(MPEG、JPEG)が札幌で会合を開催した。
格を策定している。さらに、検索やコンテンツ流通を想定し
本号で別に報告されているITU-T/SG 16会合と時期及び会
たMPEG-7/21の規格も策定している。その中で、MPEG-2
場を共にする開催である。ISO/IEC JTC1/SC 29とITU-
Videoや同Systems、MPEG-4 AVC、HEVCがITU-Tとの共
T/SG 16双方の共同チームであるJCT(Joint Collaborative
同作業による代表的な標準化成果である。映像符号化方式
Team)の会合も同時に開催された。筆者はSC 29の議長とし
の標準化において、両標準化組織が個別あるいは共同で検
て、これらの会合に参加した。本稿では、SC 29の活動を紹
討を行ってきた成果の歴史を図1に示す。MPEG-2の標準化
介するとともに、SC 29とSG 16の協力関係と札幌会合での
活動は実質的にMPEG会合にITU-Tメンバが参加する形で進
成果について報告し、最後にこれからの活動について述べる。
行したが、1999年以降はJVT(Joint Video Team)やJCTVC(Joint Collaborative Team on Video Coding)
、JCT-3V
などのチームを設立して共同運営を行っている。
2.SC 29とITU-Tの協力関係
ISO/IEC JTC1/SC 29は Coding of Audio、 Picture、
3.札幌会合
Multimedia and Hypermedia Informationというタイトルの
下、メディア情報の符号化に関する標準化を行っている。
3.1 札幌会合の成果
SC 29は1991年、前身のISO/IEC JTC1/SC 2/WG 8がSCと
札幌会合において、SC 29傘下のWGには300人を超える
して独立して設立された。現在活動しているWGはWG 1と
技術者が参加した。以下、3.2では札幌会合におけるSG 16
WG 11である。それぞれ、JPEG、MPEGと呼ばれることも
との共同作業を含めた標準化成果のトピックス、3.3では同
多い。SC 29の規格は符号化方式のみならず、メディア多重
時同一場所での国際会合を札幌で開催したこと自体による
化、ファイル形式、属性記述、プロトコル、APIなど、伝送
成果について紹介する。
と蓄積に係る周辺技術を含んでいる。
3.2 SC 29標準化の成果
メディア符号化に関するISOとITU-Tとの協力関係は1986
年、ISO/TC 97/SC 2/WG 8とCCITT SGVIIIによるJPEG
3.2.1 HEVC(High Efficiency Video Coding)
HEVCは ISO/IECで は ISO/IEC 23008-2( MPEG-H
設立に始まる。JPEGは世界中のWebやデジタルカメラで使
1990
1992
1999
1994
ISO/IEC
MPEG-1
MPEG-2
Twin Text
MPEG-4
H.261
TV電話
TV会議
2013
Twin Text
MPEG-4 AVC
MPEG-H
HEVC
H.262
ITU-T
2008
2003
Common Text
H.264
H.263
CD-ROM デジタル放送 アナログ電話
DVD
3G携帯
PCなど
3G携帯
インターネット
カメラ、プレイヤ
H.265
ワンセグ放送
ブルーレイディスク
IPTVなど
UHDTV
モバイル
高品質映像
図1.映像符号化方式の標準化
ITUジャーナル Vol. 44 No. 11(2014, 11)
11
トピックス
Part2)
、ITU-TではRec. H.265の番号を持つJCT-VC共同作
る。同技術は空間上のある点に到来する音の方向性を関数
業の成果である。第1版は2013年12月に出版済みであり、札
で展開し、その係数を符号化伝送して再生側での音場再生
幌会合では二つの拡張に関する作業を完了した。一つはスケ
を行う。札幌会合では、これまでの検討をVersion1の規格案
ーラブル拡張であり、もう一つは多視点映像への拡張である。
にするとともに、Version2の検討を開始した。Version1では
これらの拡張は2014年1月会合で成立した高品質拡張ととも
ビットレート256kbpsから1.2Mbpsで方式評価していたのに
に、第2版として統合される予定である。HEVCは世界で急
対し、今回は48kbpsから128kbpsでの提案評価を行い、方
速に適用が進みつつある。札幌会合でも、SG 16側のTech-
式の選定を行った。Version2は2015年6月に規格案となる予
nology Show Caseにおいて、8K映像の符号化再生デモが行
定である。
われ、SC 29側ではスマートフォンなどに向けた映像配信サ
ービスの現物紹介が行われた。いずれもHEVCを利用してお
り、同規格がモバイルから超高精細映像までの広い範囲の使
3.2.4 FTV(Free Viewpoint Television)
札幌会合ではFTVの公開セミナーを開催した。FTVは再
用に適していることが示された。次回2014年7月会合では、
生時に視点を自由にナビゲーションすることや多数の視点を
SG 16の専門家とともに、映像符号化に関するブレインスト
合成して高臨場感の立体映像再生を実現する技術である。
ーミングを行う予定である。例えば、これまで9∼10年ごと
セミナーでは超多視点ディスプレイを実現するプロジェクタ
に新たな規格によって圧縮率を倍加してきたが、今後はもっ
アレイや、無線でカメラを同期させた多視点映像の取得、多
と短い間隔で規格を策定すべきではないかという議論などが
視点映像のコンテンツ作成例など多くの事例が紹介された。
想定される。
MPEGとJCT-3Vでは立体映像について既に、多視点映像の
視点間相関を利用した符号化、被写体までの距離情報を表
3.2.2 MMT(MPEG Media Transport)
す奥行きマップの追加によって視点数を減らす符号化を標準
MMTはMPEG-HのPart1として標準化されているメディア
化しており、FTVはこれらに続くものである。FTVは他の項
トランスポート技術である。2014年6月に規格として出版さ
目より長期の課題であり、標準化を間に合わせるべき目標の
れており、現在は追加のパートについて標準化活動が進めら
一つと想定されているのは2020年の東京オリンピック・パラ
れている。MMTは複数の伝送路で伝送する映像や音声を同
リンピックである。
期して提示する仕組みを提供する。技術的には従来の
MPEG-2 TS(Transport Stream)が188バイト固定長のパ
3.2.5 JPEG XT
ケットと、同期用にTSごとの参照クロックを用いていたのに
JPEG XTは既存のJPEG規格に対するスケーラブルな拡張
対し、可変長のパケットと世界協定時(UTC)を用いる。
であり、後方互換性を確保した規格である。札幌会合では、
MMTは日本における次世代放送のトランスポート形式の候
多ビット拡張やHDR(High Dynamic Range)画像などにつ
補でもある。札幌会合では、MMTの公開セミナー(Devel-
いて委員会草案(CD)を作成した。最も普及しているJPEG
opers’ Day)を開催した。同セミナーでは四つの講演と七つ
規格はBaselineでビット精度が8ビットであり、多階調の撮
のデモが行われ、盛況であった。次回2014年7月会合で第2
像が可能な現在のセンサを活かしきれない。JPEG XTは9∼
回を開催予定である。
16ビットの精度、さらに浮動小数点の精度を提供する。後
方互換性により、既存のJPEGデコーダではJPEG XTの符号
3.2.3 立体音響(3D Audio)
立体音響はMPEG-HのPart3として標準化される音響符号
化技術である。同規格では高臨場感の音場再生を可能とす
化画像を8ビットの精度で復号可能であり、JPEG XT対応デ
コーダでは多ビット精度の復号が可能である。これらの拡張
は本年10月に規格案、2015年7月に標準化の予定である。
る3D音響をチャネルベース、チャネル+オブジェクトベース、
シーンベースに分類している。チャネルベースは例えば22.2ch
のマルチチャネルオーディオである。チャネル+オブジェクト
3.2.6 MAR RM(Mixed and Augmented Reality Reference Model)
ベースでは、特定のオブジェクトに対応する音をミックスせ
MAR RMはISO/IEC JTC1/SC 24とSC 29との共同作業
ずに符号化伝送し、再生側でバランスを制御できる。シーン
であり、札幌会合ではその委員会草案(CD)が完成した。
ベースはHOA(Higher Order Ambisonics)の技術を用い
MAR RMは物理的な現実(例えば実写映像)と仮想的な現
12
ITUジャーナル Vol. 44 No. 11(2014, 11)
実(例えばCG)と両者を複合(例えば実写映像にグラフィ
境と市場ニーズに即してタイムリーに規格を策定し、規格の
ックスを重畳又はその逆)した拡張現実(Augmented
内容を告知し、活用を支援することである。例えば3.2.1に記
Reality)システムの概念や構造、想定される応用例を記述
載の映像符号化に関するブレインストーミングは、市場と技
している。今後、MARを利用する新たな規格、アプリケーシ
術レベルのタイミングを検討する試みである。映像符号化以
ョン、サービスの参照モデルになることが期待される。
外にも、モバイル環境の進化と普及に対応したDASH
(Dynamic and Adaptive Streaming over HTTP)活用など、
3.3 同時・同一場所での会合開催による成果
提案・検討されている技術課題は多い。
札幌会合はSC 29とSG 16の共催でなく、同時・同一場所
ISO/IECはITU-Tと同様、de jure規格を担う組織の課題
(co-located)の個別開催である。両標準化組織はJCTの活
として、策定する規格の機能や性能だけでなく、誰もが使え
動もあり、参加者が重複している。同時・同一場所での会
る中立性、公平性や保守・更新の継続性を保証することが
議開催は参加者にとって効率が良く、会場費も抑制できる
期待されている。また標準化組織の社会的責任として、例
ため、参加側と運営側の双方にメリットがあった。個別開催
えばアクセシビリティの向上への貢献が期待されている。直
は各標準化組織の運営規則や国内の事務局、同会計が個別
接WG活動を行っているのはSC 29の上位委員会であるJTC1
なための措置である。同じ会場という設定を利用し、ジュネ
であるが、SCもこうした責任の一端を担っている。
ーブ以外ではほぼ交流の機会がない役職者の情報交換も期
共にメディア符号化を課題とするSC 29とSG 16は国際標
待したが、会期の中で共通の日時を設定することが困難で、
準化においてこれまで並走してきた。今後の課題についても
実現しなかった。
多くを共有している。同時に、共通点の多い標準化活動の
運営面について、SC 29側では会合参加者による準備委員
ライバルでもある。市場環境や技術課題の分析、個別あるい
会が結成され、国内事務局とともに、札幌会合の準備から
は共同で取り組むべき課題の認識、協力関係の仕組みや在
機材の提供、会期中の運営、後始末に至るまで、お世話を
るべき姿など、議論すべきことは多い。SC 29自身での議論
していただいた。SG 16側関係者の大変な御努力については
を行うとともに、SG 16と継続的に意見交換していくことを
ここで触れないが、札幌会合が大きな混乱なく開催できたの
期待している。
は双方関係者の御尽力の賜物である。双方の会合に関係す
る筆者の反省点として、国内関係者の情報共有に一層の充
実化の余地があったと感じている。
謝辞
札幌会合の開催に御尽力いただいた札幌会合準備委員
札幌会合は日本での同時開催や標準化会合の同時開催と
会、情報処理学会情報規格調査会諸氏、並びにITU-T/SG
いう側面のみならず、他国開催時や会合以外のイベント開催
16内藤議長と日本ITU協会、札幌会合に御協力いただいた
にとっても、複数の国際組織間で連携を行う機会であった。
方々に感謝いたします。
将来の活動に役立つような申し送り事項として関係者と整
理したいと考えている。
文献
SC 29 http://kikaku.itscj.ipsj.or.jp/sc29/
SC 29/WG1(JPEG)http://www.jpeg.org/
4.これからの標準化と協力関係
メディア符号化に係る標準化の今後について考える。1980
年代の後半に標準化活動が本格化したメディア符号化は21
世紀にかけて放送のデジタル化という変革をもたらし、デジ
SC 29/WG11(MPEG)http://mpeg.chiariglone.org/
“MPEG Press Release”、ISO/IEC JTC1/SC 29/WG11 N14537
(2014)
短期集中セミナー「画像・音声符号化伝送技術∼最前線と標
準化動向∼」情報処理学会(2014)
村上、浅井、関口「高効率映像符号化技術HEVC/H.265とそ
タルメディアを活用する多様なサービスを誕生させた。今日、
の応用」オーム社(2013)
映像音響コンテンツにとって、通信・放送・蓄積(パッケー
特集「立体音響技術」映像情報メディア学会誌、Vol.68、
ジ)の境界は従来よりも曖昧なものになり、メディアを活用
No.8、pp.601-624(2014)
するサービスの多様性が増している。
今後、注力していくことの一つは、多様化するサービス環
妹尾「MPEG会合(7月札幌)準備ノート」映像情報メディ
ア学会誌(2014掲載予定)
ITUジャーナル Vol. 44 No. 11(2014, 11)
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