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vol.
48 2009 July
http://www.hitachi.co.jp/soft/omr/
特集1
新しいインフラとして注目を集める
クラウドコンピューティング
特集2
コスト削減の主役
「柔軟で」
「賢い」運用管理ソフトが現場を救う
特集3
3D仮想空間を基盤とした次世代コミュニケーションの可能性
vol.
48 2009 July
Contents
特集1
新しいインフラとして注目を集める 3
クラウドコンピューティング
INTERVIEW
http://www.hitachi.co.jp/soft/omr/
COVER STORY
ドへの移行にはサイロ化した
4 クラウ
社内システムの整理が必要です。
ヒヨコにまつわるうんちく
早稲田大学大学院 情報生産システム研究科 客員教授 丸山不二夫 氏
ドの導入準備を支援する
6 ビジネスクラウ
日立オープンミドルウェア
9
日立が提案するSaaS 型帳票サービス
手軽なカスタマイズでビジネスの変化に即応
Coffee
Break
Open Middleware Report スタッフ便り 10
今回は、結構迷いました。
「×××にまつわるうん
ちく」
を
「ヒヨコ」
とするか「ニワトリ」
とするか…。私
の迷いのワケは…?
特集2
コスト削減の主役
「柔軟で」
「賢い」運用管理ソフトが 11
現場を救う
12 不況の今こそ運用管理を軸に
積極的なコスト削減を進める
14 クラウド時代を見据えた統合運用管理ソフト「JP1」
CASE
STUDY
Topics
18
日本発条株式会社
メールサービスで
JP1の最新情報を配信
20
特集3
3D仮想空間を基盤とした
次世代コミュニケーションの可能性
PARTNER's パートナーに聞く JP1で実現するecoな企業システム
株式会社 NTTファシリティーズ
Voice
はいたっく別冊
Open Middleware Report
vol.48[July/2009]
●発行 株式会社 日立製作所 情報・通信グループ
●お問い合わせ ソフトウェア事業部 販売推進部
TEL:03-5471-2592
http://www.hitachi.co.jp/soft/
不許複製
All Rights Reserved. Copyright c 2009, Hitachi, Ltd.
02 Open Middleware Report|vol.48
21
26
いつからニワトリって呼ぶの?
「ヒヨコとは、孵化して間もない鳥の子。特に、
ニ
ワトリのひな。」
(語源由来辞典より)
上記から分かるとおり、
「ヒヨコ」
は鳥類のヒナを
総じて呼ぶ言葉のようで、
「ニワトリ」以外の種に使
える可能性も感じます。でも、
日常的には、
ヒヨコ⇒
ニワトリですよね。
ところで…
Q1.ヒヨコはいつから
「ニワトリ」
になるのでしょう?
A1.羽が生え変わってトサカが生えたら
Q2.羽が生え変わり、
トサカが出かけている状態は、
何と呼ぶのでしょう?
A2.ニワトリになりかけのヒヨコ
…「成鳥」
として扱われて初めて、
「ニワトリ」
と呼
ばれるようですね。
動物の赤ちゃんシリーズでお送りしているこのコ
ラム、
「ネコの赤ちゃん」
「犬の赤ちゃん」の法則で
行けば、今回は
「ニワトリの赤ちゃん」
なので、
タイト
ルも
「ニワトリにまつわるうんちく」
なのでしょうが…。
やっぱりこの愛らしいフワフワは「ヒヨコ」
と呼ばせ
てください!
Information
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*Amazonは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。*FMACSはNTTファシリティーズの登録商標です。*Googleは,
Google Inc. の登
録商標です。*Java 及びすべてのJava関連の商標及びロゴは,
米国及びその他の国における米国Sun Microsystems, Inc.の商標または登録商標で
す。*Macintoshは,
Macintosh研究所の商標でApple Computer, Inc.へライセンスされています。*Macintoshは,
米国Apple Computer, Inc.の商品
名称です。*Microsoft、Hyper-V は、米国 Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標または商標です。*SAP,
R/3,
記載されて
いるすべてのSAP製品およびサービス名はSAP AGのドイツおよびその他世界各国における登録商標または商標です。*Salesforceは,
株式会社セール
スフォース・
ドットコムの商品名称です。*Second Life および Linden Lab はLinden Research, Inc. の商標および登録商標です。*UNIXは,
X/Open
Company Limited が独占的にライセンスしている米国ならびに他の国における登録商標です。*VMware、VMware ESX は,
VMware, Inc.の米国およ
び各国での登録商標または商標です。*Windowsは,
米国およびその他の国における米国Microsoft Corp.の登録商標です。*秘文は,
日立ソフトウェア
エンジニアリング
(株)
の登録商標です。*その他記載の会社名、
製品名は、
それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。
発行日◎2009年7月1日
本カタログは環境に配慮し、植物性大豆油インキを使用しております。
特集
1
新しいインフラとして注目を集める
クラウド
コンピューティング
「クラウドコンピューティング」
という言葉が広く知られるようになっ
てからずいぶん経った。
しかし、その実態がなかなか見えてこない
と思っている方も少なくないのではないだろうか。本当にメリットを
得るために、企業はどのようなことをするべきかを考えていこう。
vol.48 | Open Middleware Report 03
INTERVIEW
早稲田大学大学院 情報生産システム研究科 客員教授
丸山 不二夫
氏
クラウドへの移行には
サイロ化した
社内システムの
整理が必要です。
クラウドコンピューティングに関心が集まっている昨今だが、新たなプレイヤーの登場やオープン化の流れなど、さまざま
な変化が訪れている。現状のクラウドがどのような状況にあるのか、そのなかでユーザー企業は何を考え、どんなことに
取り組んでいくべきか。日本 Java ユーザ会会長として Java の普及にも尽力し、現在は早稲田大学大学院情報生産シス
テム研究科の客員教授として活動されている丸山不二夫氏に、クラウドの現状と今後についてお話を伺った。
エンタープライズでの
受容が進む
――現状のクラウドをどのように捉え
ていますか。
丸山 最初のクラウドの担い手となっ
ているのは、Amazon、Google などいわ
ゆる Web 2.0 のサービスを提供してい
るベンダーです。これら 2 社に、急速に
立ち上がってきた Microsoft を加えた 3
社が先行し、他社がそれにどう追随し
ていくかという様相になっています。こ
の状況を受け、コンシューマ分野で広
がってきたクラウド的サービスがエン
タープライズ領域にも拡大しつつあり
ます。
また、Google は、Google App Engine
で Java 対応版を提供しました。各社が
04 Open Middleware Report | vol.48
クラウドという市場でエンタープライズ
のユーザーを強く意識しています。また、
エンタープライズクラウドの、オープン
化の主張の登場にも注意が必要です。
――クラウドについてはパブリックに加
えプライベートクラウドも話題になりつ
つあります。
丸山 プライベートクラウドも第 2 の動
きとして注目すべきものです。このプラ
イベートクラウドをきっかけに、
日立をは
じめとする日本企業もクラウドに積極的
に取り組むのだという雰囲気が出てきま
した。とはいえ、現実的にはクラウドの
サービスで商業ベース利用できるのは
現状では Amazon くらいしかありませ
ん。クラウドは名前が先行しており、各
社のロードマップを見ても企業が実際
に使えるようになるのは 1 ∼ 2 年後にな
るでしょう。
スケールの変化と
経済的メリット
――クラウドが進展することにより、ど
のような変化があるでしょうか。
丸山 最も大きな変化は、スケールが変
わったことです。例えば、ある単語に対
して検索連動型の広告を表示する際に
は、実は裏で膨大な処理をしています。
巨大な規模のシステム、そしてそれが拡
大、
つまりスケールアウトしていくことが
特徴といえます。
クラウドの拡張性を確保するには、多
数のマシンが必要になりますが、マシン
の数が増えれば当然故障も増えます。拡
張性と同時に、可用性を確保する必要が
あるのです。クラウドに必要な拡張性と
可用性を両立させるところには、さまざ
まな技術が蓄積されているはずです。
――クラウドがもたらすメリットはどの
ようなものでしょう。
従来のシステムと異なり、コストを減
らせる要因がいくつもあります。都度要
求される処理に合わせてスペックを調
整できるのでピーク時に合わせ膨大な
ハードウェア投資をする必要がなくな
り、うまくすれば最低限の支出でシステ
ムをまかなえます。そのため、システム
部門よりもむしろ経営者層が関心を持っ
ています。
日本国内においてもクラウドは確実に
広がるでしょう。その結果、技術に対す
る考え方や見方も変わってくるはずで
す。かつては、金融業界では Java なん
て使えないと言われていましたがそん
なことはなかった。UNIX や Linux だっ
て同じです。クラウドは周辺から徐々に
使われてくるはずです。
ていなければなりません。そうでないと、
どのサービスをパブリックなクラウドに
移行するべきか、企業内のクラウドで利
用すべきか切り分けられないのです。
まずはサービスごとに切り出せるシス
テムを作り、コスト削減効果の高いもの
からクラウドに移行するべきです。どれ
くらいコスト削減ができるかを、じっくり
判断してからクラウドに参入しても遅く
はありません。ビジネスのバリューを生
み出しているところに投資するのだとい
うことを考えていれば、どこをクラウド
化するべきかが見えてきます。
――クラウドが利用されるようになった
ときにミドルウェアには何が求められる
のでしょうか。
丸山 サービスを必要に応じて利用す
る環境では、システム的には複雑化する
部分もあります。ある部分はパブリック
クラウドで、ある部分はプライベートで
使用されるので、それらを適宜連携させ
なければなりません。パブリッククラウ
ar
M
jio
Fu
――ユーザー企業ではクラウドをどう捉
えていけばいいのでしょうか?
丸山 クラウドのサービスはリソースの
ユーティリティ利用に向かうでしょう。
企業がパブリックなクラウドのサービス
を利用していく割合は増えていくでしょ
うが、現状は企業側でクラウドを利用す
る準備ができていません。企業のシステ
ムがいわゆるサイロ型のままでは、ス
ムーズにはクラウドに移行できないので
す。まずは、現状のシステムをきちんと
整理し、サービス化する必要がありま
す。これには SOA の技術を活用するこ
とになるのですが、この SOA のフェー
ズを飛び越えてクラウドにいくのはなか
なかうまくいきません。
クラウドに必要なのはサービスにも投
資するという考え方です。クラウドのメ
リットを享受するためには、企業のビジ
ネスプロセスをきちんとサービス化でき
uy
am
a
SOA推進は
クラウドの準備になる
ドにあるからと言って、運用管理や監視
を一切しなくていいということにはなり
ません。また、社内向けのクラウドを効
率よく運用していくには、日常的な運用
管理は極めて重要になるはずです。ミド
ルウェアや運用監視ツールの技術は、ク
ラウドの時代でも、引き続き重要です。
今後ベンダーは、パブリッククラウド
を利用したり、企業内クラウドを安全に
効率よく利用したりするための実例をど
んどん出していく必要があると思いま
す。その際には、運用監視ツールなどミ
ドルウェアの経済的なメリットについて
もきちんと言及する必要があるでしょ
う。SaaS のときもそうでしたが、クラウ
ドは、直接お金に換算できる部分も多い
ので、今までのバズワード的な技術より
は分かりやすいものです。SIer とは異
なって、ベンダーには、クラウド・サー
ビスの提供者としての役割の準備が必
要だと思います。日立の活躍と貢献に期
待しています。
OMR
vol.48 | Open Middleware Report 05
ビジネスクラウドの導入準備を支援する
日立オープンミドルウェア
コストの削減や運用負荷の軽減など、クラウドコンピューティングのメリットが報じられる機会は多い。
しかし、これらのメリットを得るには、導入企業の側にも SOA や仮想化など、システムの見直しと
下準備が必要になる。このような状況のなか、日立は企業のクラウド導入を支援する製品群を提供し
ている。
変化に柔軟に対応する
クラウドコンピューティング
稲場 淳二
Junji Inaba
日立製作所
ソフトウェア事業部
クラウドコンピューティング推進室 室長
クラウドコンピューティングに大きな
関心が集まっている。ベンダー各社はク
ラウド市場への参入を表明し、ますます
活況を呈している。
クラウドコンピューティングの最大の
メリットは変化に対する即応性だ。企業
を取り巻く環境は日々変化し多様化し
ており、企業はそれに柔軟に追随するこ
とを求められている。厳しいビジネス状
況の中にあっても、企業は常に自らの価
値を高め、持続的に成長し続けなければ
生き残れないという現状もある。
そのため、企業の抱える IT システム
はさらに重要な存在になっている。新た
なビジネスを始めようとしても、IT シス
テムが追随しなければそれもままならな
い。企業の課題を解決するには、IT シ
ステムの変化対応力や柔軟性がカギと
なるのだ。
業務に必要なリソースを迅速かつ低
コストに配備できることは、
クラウドコン
ピューティングの大きな強みだ。処理量
が急増しても対応できる拡張性があり、
かつ一時的なピークに備えて大量のリ
ソースを保持しなくてよいなどの利点を
挙げることができる。リソースの有効活
用によりスモールスタートが可能になる
こともメリットの 1 つだ。
パブリック、
プライベートを
適宜使い分ける
このような社外のリソースを利用する
といういわゆる「パブリッククラウド」が
注目される一方で、企業内のリソースを
クラウド的に構築しようという「プライ
ベートクラウド」に向けた動きも出てき
ている。クラウドコンピューティングの
現状を、
日立製作所 ソフトウェア事業部
の稲場淳二は次のように説明する。
「パブリッククラウドは、クラウドサー
図1 ■ パブリッククラウドとプライベートクラウド
サービス提供者
パブリッククラウド
プライベートクラウド
クラウドサービス事業者
企業等組織のIT部門
サービス利用者
一般利用者(個人・企業・その他)
組織内の業務部門
利用ITリソース
サービス事業者の所有するITリソース
組織内に散在する各種ITリソース
サービス提供媒体
インターネット
イントラネット
・ ユーザーメリットの観点から見た比較
パブリック
クラウド
06 Open Middleware Report | vol.48
TCO極小化
迅速なリソース配備
スケーラビリティ
極大化
初期投資削減
運用コスト削減
広い適用範囲
安全性、信頼性
可用性、応答性
ベンダー独立性
プライベート
クラウド
ビスの事業者がサービスを提供し、個人
や企業などが利用します。ITリソースは
サービス事業者が所有しており、ユー
ザーはインターネット越しにそれを利用
することになります。対してプライベー
トクラウドは、サービスの提供者は、企
業などの組織の IT 部門であり、サービ
スの利用者はその組織に所属している
部門や従業員ということになります。そ
して、大抵は用意されるリソースは企業
が所有していて、ユーザーはイントラ
ネット内でそれを利用します」
現実的にクラウドコンピューティング
を導入するには、全面的にパブリックク
ラウドに移行するのではなく、パブリッ
クとプライベートのクラウドを適材適所
で使い分ける必要があると稲場は説明
する(図 1)
。
パブリッククラウドの特長はマルチテ
ナントで TCO を削減する効果が高いこ
とで、スケーラビリティも極大化してい
る。反面、信頼性や安全性、インター
ネット越しのために応答性、さらには既
存システムとの連携性などの面で不安
もあるとされる。
一方プライベートクラウドでは規模的
な経済メリットは小さくなるが、イントラ
ネット内にクラウドの環境を置くので、
安全性、信頼性、可用性、応答性など
を、自らコントロールできるので安心し
て利用することができる。さらに、自社
の利用状況に合わせてカスタマイズも
可能だ。クラウドのサービス事業者に縛
られることもないので、ベンダーからの
独立性も高い。
「一般には、企業の IT システムの中で
もコモディティ化できるものはパブリッ
ククラウドに、ビジネスのコア部分につ
いてはプライベートクラウドや、場合に
よっては従来どおりのシステムで開発す
ることになります」
(稲場)
再利用性が高くコモディティ化して
いる部分は、パブリッククラウドに移行
すれば、クラウドコンピューティングの
メリットを引き出しやすい。
逆に、なるべく外部に情報を置きたく
なかったり、ビジネスの根幹に関わるよ
うな処理をする部分については、自社内
図2 ■ 問題解決のためのアプローチ
解決1
解決2
「物理的」束縛から解放
・ 仮想化によりハードウェア資源を物理的ハードから切り離す
→仮想サーバ単位でのシステムの移動やリソース配分の変更が容易に
「論理的」束縛から解放
・ SOAにより、各システムをコンポーネントに分解し、重複を排除
コンポーネントのサービス化とサービス間の連携を実現
→サービス単位での入れ替えや外部サービスとの連携が容易に
物流サービス
プライベート
クラウド
生産管理
サービス
顧客管理
サービス
(SaaS)
パブリック
クラウド
Enterprise Service Bus
社内・社外のリソースをサービスとして有機的に連携したハイブリッド型のクラウドコンピューティング環境の実現を目指す
でしっかりとコントロールできる環境に
置いておくべきだと判断することになる
だろう。
しかし、ここで大きな問題が生じる。
移行すべき業務を判断し実際に振り分
けるにはシステムがサービスごとに切り
分けられている必要がある。だが、その
ようになっている企業はあまり多くない
のではないだろうか。実際の企業システ
ムの多くは部分最適が進んでおり、企業
全体での最適化がなされていない。その
ため、何らかの変化に対応するには個々
のシステムに手を加えなければならず、
多大な手間とコストがかかってしまう。
最悪の場合、手間と時間をかけてシステ
ムの変更が終了した際には、時すでに遅
く、ビジネスを取り巻く環境がさらに変
わってしまうこともありうる。
いるケースが多く見られます。このよう
なシステムは、サーバやストレージなど
物理的なハードウェアに縛られていて
身動きがとれなくなっています。同時に、
個別最適化されたシステムでは論理的
にも制約があります。まずはこの状況を
解決することがクラウドコンピューティ
ングの前提になるのです(図 2)
」
多くのシステムは独自のアーキテク
チャで構築されているので、それぞれを
連携させることも難しい。また、各々の
システムで予測されるピーク時の処理
に合わせハードウェアのサイジングを
行っているため、普段のリソースの利用
率も低く無駄も多い。これらの既存シス
テムの課題を解決しないままクラウドコ
ンピューティングに飛びついても、成功
するのは難しいだろう。
クラウドへの移行に向けた
システムの見直しが必要
仮想化とSOAが
クラウドの下地に
パブリック、
プライベートともにクラウ
ドコンピューティングのメリットを得る
には現状のシステムをもう一度見直す
必要がある。稲場は企業はクラウドコン
ピューティングへの移行を考える前に、
自社のシステムを整理するところから始
めなければならないと指摘する。
「現状の企業システムは個別に部分最
適が進んだ結果、サイロ化してしまって
ハードウェア資源をより有効に活用
し、システムリソースを適切に配分する
には仮想化のテクノロジーを用いること
が有効だ。仮想化技術を用いることでシ
ステムの移動やリソースの変更が容易
にできるようにするのだ。
「同時に、企業活動において価値の源
泉でもあるコンテンツ即ち、データの管
理状況とアクセス性の検証を進めるこ
vol.48 | Open Middleware Report 07
図3 ■ 業務システムのクラウド化を支援する日立の製品群
3つのレベルにわたる総合的な取り組みが必要
業務
システム
レベル
企業内外に分散
した業務システム
の有機的連携
IT運用
レベル
仮想化されたITリ
ソースの効 果 的
運用
機器
レベル
フロント統合
外部サービス連携
プロセス統合
レガシーマイグレーション
■
SOAプラットフォーム Cosminexus
■
統合システム運用管理 JP1
情報統合
サーバ統合管理
性能・障害管理
ストレージ統合管理
バックアップ・DR
ネットワーク統合管理
データセンタ設備管理
サーバ仮想化
省電力化機能
ストレージ仮想化
モジュール型データセンタ
仮 想 化に基づく
企業ITリソースの
集約・再配分
ネットワーク仮想化
とも重要です」と稲場は指摘する。
一方、システムを論理的な束縛から解
放するには SOA の技術を活用する。各
システムをコンポーネントに分解し、重
複を排除する。そして、コンポーネント
のサービス化とサービス間の連携を実
現するのだ。ここまでできれば、
スパゲッ
ティ化したシステムもすっきりと整理さ
れ、クラウドコンピューティングに移行
する準備が整うことになる。
「このような見直しを行わないまま、サ
イロ化しているシステムの一部を無理
矢理クラウド化してもうまくいきませ
ん。結局は既存システムと連携できず、
その連携機能を新たに開発するといっ
た手間が発生してしまうのです。
まずは、
自社の既存システムがどのような状況
にあるかを見極めた上で、クラウドコン
ピューティングへの移行を考えるべきで
す」
(稲場)
日立が総合的に取り組む
クラウドコンピューティング
また、パブリッククラウド、プライベー
トクラウドが混在する環境を運用する
場合、これまで以上に運用管理の手間が
かかってくる可能性がある。
これらの環境を一元的に管理できる
ような統合的な管理ツールが必要にな
08 Open Middleware Report | vol.48
■ス
トレージ管理ソフトウェア
Hitachi Storage Command Suite
統合サービスプラットフォーム BladeSymphony
Virtage
■ VMware
■ Hyper-V
■ Hitachi Storage Solutions
■
■ 日立サーバ仮想化機構
る。パブリッククラウドのサービスだか
らと言って、運用管理はサービスプロバ
イダーに任せたままでいいわけではな
い。月に一度の稼働報告は得られるかも
しれないが、自社のシステムとも連携さ
せて利用すると言うのならば、日常的な
監視も必要になるはずだ。
「日立ではクラウドに向けて、業務シス
テム、IT 運用、機器の 3 つのレベルに
渡る、総合的な取り組みが必要だと考え
ています。日立は、それぞれのレベルに
応じたソリューションを用意しています
(図 3)
」
(稲場)
業務システムレベルでは、企業内外に
分散した業務システムの有機的な連携
を実現する必要がある。IT をコンポー
ネント化し、業務の切り分けをするため
には SOA のアプローチが不可欠になる
が、SOA プラットフォーム Cosminexus
を活用することでビジネスプロセスを統
合し、クラウドへの準備を進めることが
できる。
IT 運用レベルでは、仮想化された IT
リソースの効率的な運用が求められる。
この問題の解決は JP1 が支援する。JP1
ならば物理/仮想の混在によって複雑
化したシステムを一元的に管理できる
ため、障害発生時も業務への影響範囲を
明確にしながら対処することができる。
また、JP1 はジョブコントロールにも
長けているので、パブリッククラウドの
拡張性の高いリソースをうまく活用し、
効率的にバッチ処理を行うことも可能と
なる。日立がこれまで提供してきた多く
のミドルウェアは、
クラウドというある意
味で仮想化されたコンピュータリソース
が加わっても、
有効に活用できるはずだ。
機器レベルのクラウド化へのアプロー
チでは、
仮想化に最適な BladeSymphony
や Hitachi Storage Solutions が用意され
ている。これまで日立が培った仮想化の
ノウハウが詰まっているこれらの製品は、
クラウド環境でも強みを発揮する。
日立ではこれら機器をクラウドのサー
ビス事業者にも積極的に提供していく。
これによりプライベートクラウドのイン
フラとしてもお客様に提案することがで
きる。
日立では企業のシステムを柔軟に組
み替え、外部のシステムともシームレス
に連携できるようにする。そのためにク
ラウドを支えるミドルウェア群の提供は
もちろん、ハードからコンサルティング
サービス、そしてサポートサービスにい
たる総合的なソリューションを提供す
る。さまざまなパートナーとも協業し、
総
合的かつ全方位的なサービスを提供で
きることこそが、日立のクラウドコン
ピューティングにおける大きな強みなの
だ。
OMR
日立が提案する SaaS 型帳票サービス
手軽なカスタマイズでビジネスの変化に対応
SaaS は着実に普及しはじめているが、その多くが海外製のため、日本企業独自の要求に応え切れていないケースも見られる。そ
の代表的なものが帳票だ。日立はこのような状況に対応するため、日本企業ならではの視点から SaaS 型帳票サービスを新たに
提供する。
実稼働までの期間を短縮でき、初期導
入費用も抑えられるなど、SaaS のメリッ
トは多い。しかし、その多くが海外製の
サービスとなっており、日本企業が要求
する、きめ細かなニーズに合わないとこ
ろも出てきている。
日本企業では、欧米と比較して重要な
判断を下す際に帳票を重視する傾向が
強い。そのため、きめ細かな帳票機能が
SaaS においても求められる。また、
SaaS
を採用しても、帳票出力機能だけは別途
社内システムで構築し、SaaS と連携さ
せて対処する場合もある。これではその
仕組みの構築に手間もコストもかかり、
本来の SaaS のメリットである迅速かつ
安価にサービスを始められるというメ
リットも発揮できない。
このような SaaS の課題を解決する手
段として日立が提案するのが、SaaS 型
帳票サービスだ。このサービスでは帳票
ツール「uCosminexus EUR」で培った、
高品質な帳票を作成するノウハウを生
かし、美しい帳票を簡単に利用できるこ
とを大きな特長としている。
本サービスの最大の利点はポータル
サイトから既存の帳票様 式のテンプ
レートを選ぶことで、業務にマッチした
帳票をすぐに試し導入できることだ。
Salesforce.com などの既存の SaaS アプ
リケーションとも連携が可能となってお
り、すでに SaaS を導入した企業でも容
易に帳票機能を使えることもメリットの
1 つだ。業務サーバを保有しない SaaS
利用企業でも使うことができる。
本サービスでは、Web 上のポータル
サイトに豊富な帳票テンプレートが用意
される。ユーザーは専用ポータルにログ
イン後、登録したテンプレートの中から
必要なものを選択できる。
テンプレートは編集が可能なので、独
自の項目の記入が必要になる場合でも
対応できる。ユーザーは現状利用してい
る帳票に近いものを選び、適宜 Web 上
で編集すれば即利用できる。
さらに、より高度なカスタマイズやオ
リジナルのテンプレートが必要な場合は
日立のデザインチームが要求に応じサ
ポートする体制となっている。
今後、消費税率が変更されるなどの法
制度改正や企業統合などの環境変化で
ビジネスプロセスが頻繁に変更される
ことも予測される。このような場合、従
来の帳票では変更のたびに開発者に依
頼し新たな帳票をデザインしなければ
ならなくなる。このようなビジネス環境
の変化にも、
迅速に対応できるのが SaaS
型帳票サービスの強みだ。
また、Salesforce.com との連携機能も
備えている。Salesforce.com の管理画面
で SaaS 型帳票サービスを利用する設定
を行い、起動ボタンをドラッグ & ドロッ
プで設定すれば、ユーザーは普段利用し
ている Salesforce.com の画面で帳票機
能のボタンをクリックするだけでサービ
ス機能を呼び出し帳票を自動的に作成
することも可能となる。
SaaS 型帳票サービスは、2009 年秋に
はベータ版が一般公開される予定だ。
SaaS 型のサービスなので、クライアント
ソフトウェアのインストールなどは必要
なく、サイトにアクセスすればすぐに利
用できる。なお、2009 年 7 月に開催され
る日立 uVALUE コンベンションではビ
ジネスクラウドのテーマ内にブース出展
する予定だ。興味のある方は、実際に見
ていただきたい。
OMR
図 ■ 登録したテンプレートはユーザー専用のポータルに表示される。
テンプレートは自由に編集することが可能
テンプレートを
登録することで
編集が可能に
データを入れた
状 態の帳 票が
確認できます
※画面例は、開発中のものであり実
際のサービスでは異なった画面になる
可能性があります。
vol.48 | Open Middleware Report 09
コ ー ヒ ー ブ レ イク
Coffee Break
スタッフ便り
Open Middleware Report も48号。50号まであと少しというところまで参りました。
これも、日々ご感想を寄せてくださる読者のみなさまのおかげです!
これからも、
“みんなで作る”Open Middleware Reportであり続けたいと思います。
「 節目を目前にひかえて…」
第 9 回
Open Middleware Reportの制作現場では、
「もうすぐ50号」の話題で持ち切りです。
YMDさん :「50号を記念して、何をやるか考える必要があるね!」
OOBさん :「これまでの歴史を紹介するとか!?」
みなさん :「とにかく何かやってね!」
私 :「う∼ん…悩むなぁ…」
じゃあ、ここはひとつ読者のみなさまに聞いてしまおう!(手抜きじゃありません)
ということで…。
★ ★ ★ O p e n Mid dle wa re R e p o r t 創 刊 5 0 号 記 念 企画 ★ ★ ★
Q.
あなたが選ぶ創刊50号のスペシャル企画は?
Open Middleware Report Webには、皆様からのご意見・ご感想をいつでもお送りいた
だけるサイトをご用意しております。創刊50号にあたり、
「こんな特集をしてほしい」
「Open
Middleware Reportの歩みを紹介してほしい」など、下記サイトからご意見をお寄せくだ
さい。
回答はこちらから!
http://www.hitachi.co.jp/soft/omr/
(右側メニューエリア→「Open Middleware Reportへのご意見・ご感想をお寄せください」コーナー)
回答いただいた方の中から抽選で10名様に
「日立女子ソフトボール記念切手シート」を差し上げます。
ふるってご参加ください!
※Open Middleware Report Web公開:2009年7月2日∼
前回のこたえ:②
10 Open Middleware Report|vol.48
特集 2
コスト削減の主役
「柔軟」で「賢い」運用管理ソフトが現場を救う
「現場が求めるのは,仮想化やクラウド技術を取り込んだ積
極的なコスト削減策である」─。日立製作所の石井武夫は
そう指摘する。ただ,そうした取り組みを進めると,管理対
象が大規模化・複雑化し,運用管理の負担が重くなる。コス
コスト削減の主役
ト削減を進める上で,運用管理ソフトにはどのような機能が
求められるのか。統合システム運用管理ソフトウエアの新版
「JP1 Version 9」の新機能を紹介したい。
不況の今こそ運用管理を軸に
積極的なコスト削減を進める
◦日立製作所 石井
武夫
クラウド時代を見据えた
統合システム運用管理「JP1」
(写真:Getty Images)
vol.48 | Open Middleware Report 11
nterview
INTERVIEW
不況の今こそ運用管理を軸に
積極的なコスト削減を進める
世界的な不況に突入し,企業のIT投資には削減傾向が見られる。ユーザー企業は,
「仮想化」
や「クラウド」といった技術を取り込むことで,積極的なコスト削減を進めている。そこで重
要な役割を果たすのが運用管理ソフト。日立製作所の石井武夫は「運用管理ソフトこそが,全
体最適/コスト削減の主役になるべき」と強調する。
石井 武夫
コスト削減の主役
日立製作所 ソフトウェア事業部
システム管理ソフトウェア本部
本部長
─不況になってユーザー企業からの
「一律何%カット」という数字よりも,
コストダウンの圧力はありますか?
「IT投資の最適化」というキーワード
「一律,2割カット」というような…
が出てきています。
企業のIT投資の全体額は,この
─運用管理で,IT投資の全体額を削
不況を受けて前年度比マイナ
減するというのは,どういうことでしょ
スになっている傾向があ
う。
ります。ところが,運
多くの企業が注目しているのは,仮
用管理ソフト市場は
想化技術を中心としたサーバ統合で
前年度比プラスに
す。こうした取り組みにより,膨大な
なっているのです。
数のサーバを半分に削減できれば,大
今後もプラス成長
幅なコストダウンにつながります。
を維持するといわ
しかし,
「サーバ統合」や「仮想化」
れています。
こうした数字からは,
を実施すること自体がIT部門の目的
ではないですよね。それらによって,
運用管理をうまくやるこ
どれだけのシステム・リソースが節約
とで,全体のコスト削減を
され,それによってどれだけのコスト
図ろうとしている姿が想
を削減できたかが肝心なのです。
像できます。開発
そのためには,大雑把な勘定ではな
案件の規模を縮
く,仮想環境のリソースが本当に効率
小するといった
的に使われているかどうかを把握し,
話はあるでしょ
必要があればチューニングを図ってい
うが,IT部門は,
かなければなりません。IT部門はそ
サーバ統合や仮
こまでを行って,初めてコスト削減効
想化を推し進め
果を出すことができます。
ることで,もっと
こうした取り組みに欠かせないの
積極的なコスト
が,運用管理ソフトなのです。効率の
削減を進めてい
良い仮想環境を構築するには,リソー
る最中です。実
ス利用状況などを管理しなければなり
際,パートナー様や
ません。運用管理ソフトを使えば,統
お 客 様 か ら は,
合前のサーバがどの程度のシステム・
(写真:皆木優子)
12 Open Middleware Report | vol.48
リソースを使っていたのかを把握でき
き,個々のサーバがどの程度リソ ース
ます。また,統合後の仮想環境におけ
を利用しているか,ピークはどの時間
るサーバの稼働状況がどのようになっ
なのか,などをつかんでおく必要があ
ているのかも評価できます。
ります。
そうしたことを調べるために,
そうなると,運用管理も変わってき
それらのサーバにエージェントをイン
ます。今まで運用管理者は,自分が担
ストールするというのは現実的ではな
当するサーバなり,業務システムの
今 ま で は,サーバ を 個 別 最 適 に
いですよね。こういうケースを想定し
ジョブなりを管理すればよかったので
チューニングしていればよかったので
た機能です。
すが,統合されたサーバでは,複数部
すが,仮想化で集約されたマシンでは,
もちろん,エージェントを使う従来
門のジョブが一つのサーバ上で混在す
仮想環境全体のバランスを見てチュー
の監視機能もありますが,必要最低限
ることになります。グループ会社を含
ニングしなければなりません。個別最
の情報は,エージェントがなくても収
めた全社の運用管理を担うことにな
適ではなく全体最適を図る必要があ
集できるようになりました。
り,例えばジョブ管理一つとっても,
り,それは複雑で難易度の高い作業に
仮想環境で集約した後も,エージェ
それは大変なものです。
なります。
ントなしで情報収集できます。また一
JP1 Version 9では,これまで以上
しかも,こうした仮想環境のチュー
般に仮想化技術を用いると,1台の物
のスケーラビリティでジョブを運用で
ニングは,1回限りのことではありま
理サーバにいくつもの仮想マシンが搭
きるようになりました。処理能力も並
仮想化により複雑になる運用管理
いくというものです。
プライベート・クラウドに備える
合は,全社のサーバをまとめ
アップしています。夜間に多
て一括で移行することはまれ
で,様子を見ながら少しずつ
サーバ仮想化が進む
仮想化により統合化が進めば,システ
ムの運用管理はますます複雑化してい
く。運用管理ソフトはこれらを束ねて
いく主役となる。
行っていくことの方が多いで
す。そのたびに稼働状況を監
視して移行プランを立て,統
合後にチューニングし,さら
数のバッチ処理を実行させる
場合でも,朝の所定の時間ま
でに処理が完了します。しか
もジョブの進捗状況を把握し
て終了時間も表示できるよう
になりました。
に本番運用の監視が続く,というサイ
載され,最近では仮想マシンを移動さ
仮想化によるサーバ統合に伴って,
クルがあるわけです。そのプロセスを
せることが容易になってきています。
稼働しているジョブも引っ越さなけれ
続けるには,仮想環境向けの機能が充
仮想環境がどのような構成になってい
ばなりません。この作業は煩雑になり
実している運用管理ソフトが不可欠で
るかをきちんと把握するのは意外と難
やすいのですが,そうした作業を容易
す。
しいのが実情ですが,JP1 Version 9
にする機能も,運用管理ソフトには求
日立製作所がこのたびリリースした
では簡単に管理できるようになりま
められます。
統合システム運用管理「JP1 Version
す。
これからの運用管理ソフトは,仮想
9」は,仮想化技術によるサーバ統合
─「仮想化」以外にもメリットはあ
化やクラウドの環境をきちんとサポー
を実施する上で必要な機能を強化して
りますか。
トしていくことが求められます。そこ
います。
仮想化によるサーバ統合という流れ
でのキーワードは,Flexible&Smart
─どのような機能を備えているの
とは別に,大企業では「プライベート・
(柔軟性と賢さ)
。JP1 Version 9では
ですか。
クラウド」という潮流があります。今
そうした機能を備えており,コスト削
例えば,エージェントなしでサーバ
まで部門ごとに業務システムを抱えて
減を行いつつ,運用管理の全体最適を
を監視できる「エージェントレス」機
いたのが,自社のデータセンターへ集
図ることができます。
「コスト削減の
能があります。膨大な数の既存サーバ
約されて,グループ企業が使うクラウ
主役」と呼んでもいいのではないで
を仮想化技術で統合しようとしたと
ド・コンピューティングにシフトして
しょうか。
vol.48 | Open Middleware Report 13
コスト削減の主役
列処理を進めて多重性能が
せん。仮想化によるサーバ統
roduct review
PRODUCT REVIEW
クラウド時代を見据えた
統合システム運用管理「JP1」
日立製作所の統合システム運用管理ソフトウエア「JP1 Version 9」
(JP1 V9)がリリー
スされ,3年ぶりにバージョンアップされた。従来の業務レベルの視点に立った運用管理と
いうコンセプトをさらに推し進め,新版では注目を集める「仮想化」や「クラウド」といっ
た技術を想定した機能拡張が行われた。
JP1は,8つの管理ソフトウエア群か
らなり,運用管理の広い分野をカバー
している。新版のJP1 V9では,これら
コスト削減の主役
のソフトウエア群のすべてで機能強化
が施された。新機能で特に注目すべき
[ モニタリング ]
複雑な仮想環境を一括管理
エージェントレスでも状況把握が可能に
は,仮想化によるサーバ統合や,クラ
仮想化技術を用いて,1台の物理サー
で,どこにどのように影響するのかと
ウド技術の導入といった最近のトピッ
バ上に複数の仮想マシンを構成する
いったことを速やかに判断するのは極
クスに対応していることである。仮想
と,複数台の物理サーバを管理対象に
めて困難といっていいだろう。しかも
化やクラウドにより,運用管理は規模
するよりも複雑になる。仮想環境では
繰り返されるシステム変更に迅速に対
が膨らみ複雑さを増している。JP1
リソースの配分などがあり,その最適
応しなければならない。
V9ではそうした課題を解決する機能
化を巡って高度な運用が求められる。
JP1の統合管理製品「JP1/IM
(JP1/
が充実していることが特徴だ。ここで
また,
構成情報を常に把握することや,
Integrated Management)
」は,数多
はシステムの稼働状況をチェックする
リソースの利用状況を把握することな
くの物理サーバに加えて,サーバ上に
「モニタリング」と,
ジョブ管理の「オー
ども難しい。さらに,ひとたび障害が
ある仮想マシンの構成情報を一括して
起こると,それがどこで発生した問題
収集し,それを自動的に「監視ツリー」
トメーション」に注目する。
1 動的に変わる仮想環境をリアルタイムに監視できる
図
仮想化ソフトから,物理サーバと仮想マシンの構成情報を一括収集できるようになり,さらに仮想環境におけるサーバの構成管理や監視ツリー画面の設定が容易になっ
た
14 Open Middleware Report | vol.48
画面に登録できる。さらに「ビジュア
ル監視画面」を作成して,統合的な監
視に役立てられる(図1)
。仮想化技術
を用いて複雑になったシステム構成で
も,効率よく手間をかけずに監視でき
る。
“柔軟”で,かつ,
“賢い”機能といえ
るだろう。
効率の良い環境構築
システム全体の状況(メッセージ)
をモニタリングするには,監視対象の
トールするのが通例である。旧版の
2 イベント監視の大規模対応と操作性向上
イベント保管件数を従来の100万件から新バージョンになって1000万件と大幅に拡張し,日付けやスライダー・
バーによるイベント検索性も向上した。また,メッセージの形式や重要度を,用途に合わせて分かりやすい形
式に変換することもできる
コスト削減の主役
JP1 V8では,エージェントを導入して
どの項目を監視するかをエージェント
側で設定するか,マネージャ・ソフト
側から一つひとつのエージェントに対
してコマンドで設定しなければならな
かった。ところが,監視対象は増加の
一途なので,そうした方法では限界が
あった。そこでJP1/IMでは,エージェ
ントの監視項目を,マネージャ・ソフ
ト側からGUIで一括して設定できるよ
うにした。
検索・閲覧性を徹底的に改良
サーバ集約による規模拡大が進む
と,監視しなければならないイベント
数が増えてくる。JP1 V9ではJP1/IM
が保管するイベントの量を従来の10倍
サーバにエージェント・ソフトをインス
図
3 エージェントレス監視による導入・変更作業の削減
図
物理サーバや仮想マシンを追加しても,エージェントのインストールが不要なので,すぐに稼働状況を把握でき,
動的に変化するシステムでも監視できる。より詳しい情報を取得したければ,エージェントを併用することも可
能である
の1000万件に増やし,メッセージの内
容をカスタマイズする機能を加えた。
また,大量のイベントを監視するた
集約して閲覧しなければならない。英
できるようになった。
めに,
監視画面を見やすく強化した
(図
文だったり,分かりにくい表現だった
その逆のケースもある。あるアプリ
2)
。日付指定やスライダー・バーによっ
りする。数が多くなると,そういう状
ケーションが警告メッセージを発信し
て,目的のイベントを効率よく探し出
況では,障害発生などの重要なメッ
ていても,熟練の管理者が見ると重要
せるようになった。
セージを見逃してしまう可能性が高く
でないメッセージというものもある。
さらに,さまざまなサーバを集約す
なる。そうならないように,メッセー
そうしたメッセージの重要度を低く表
ると,いろいろなアプリケーションか
ジをカスタマイズしてスマートに表現
示できれば,真に重要なメッセージを
ら発信されるイベントのメッセージを
し,見逃しにくい表示に変えることが
捕捉できるようになる。
vol.48 | Open Middleware Report 15
roduct review
PRODUCT REVIEW
監視したらいいのか,その定義は大変
ていくだけで,しきい値などの項目を
である。そこでJP1 V9では,マニュア
設定できる。また,運用管理者ごとに
JP1の稼働監視製品JP1/PFM(JP1/
ルがなくてもガイダンスしてくれる機
監視すべき対象が違ってくるので,そ
Performance Management)のさら
能が備わっている。CPUやメモリーの
れらの監視対象を「フォルダ」という
に進んだ新機能として,エージェント
ような代表的な監視対象はテンプレー
ものに入れ,フォルダ単位でまとめて
レスによる監視機能が追加された(前
トを用意していて,それをクリックし
管理することが可能になった。
既存システムに手を加えず監視
ページの図3)
。仮想環境にサーバを集
約する場合,あらかじめどのサーバが
どの時間帯にどの程度のリソースを使
うかを把握しておかなければならな
い。だが,集約対象のサーバが多いと,
状況把握のためにエージェントをイン
[ オートメーション ]
クラウド時代を見据えた管理画面
ジョブネットの変更もノンストップで
コスト削減の主役
ストールするのは大変である。そうし
JP1のジョブ管理機能は,バッチ処理
ごとに変えられるようになっており,
た場合,JP1 V9であれば,エージェン
などの業務の一つひとつを「ジョブ」と
それぞれの権限に応じた操作制限をつ
トを入れなくても柔軟に状況を把握で
して定義し,複数のジョブを「ジョブ
けられる。大規模化・複雑化・多様化す
きるので,運用管理担当者の負担を大
ネット」と呼ぶフローにまとめて処理を
るシステムの運用管理を想定したもの
幅に軽減できる。
自動化できる。この機能を利用してい
で,
「プライベート・クラウド」時代の運
エージェントレスによる状況把握は,
るユーザーは多く,高い評価を得てお
用管理を想定した機能強化でもある。
物理サーバだけでなく,仮想マシンに
り,JP1の中心的な存在になっている。
グループ企業や企業内のサーバ群な
も適用できる。エージェントレスで把
今回のバージョンアップでは,ジョ
どをデータセンターに集約するプライ
握できるのは,CPUやメモリーなどの
ブ管理のソフトウエア・モジュールを
ベート・クラウドを進めると,部門の
システム・リソースの情報はもちろん
全面的に作り直し,評価の高かったジ
運用管理者とデータセンターの運用管
の こ と,O r a c l e D a t a b a s eやS Q L
ョブ管理機能にさらに磨きをかけた。
理者では管理内容が異なってくる。例
Serverなどの情報も収集できる。エー
強化のポイントは「利用者に合わせた
えば,部門の管理者は担当部門に関係
ジェントをインストールするとそれだ
直感的な操作」
「ジョブネット変更作業
するジョブの進行状況を監視し,デ ー
けシステム・リソースを占有すること
の自動化」
「処理性能向上による大規模
タセンターの管理者は仮想環境のサ
にもなるので,その点でもエージェン
対応」—の3点である。
ーバ・リソースの利用状況などシステ
トレスが有利ということもある。
常にエージェントレスがいいわけで
ジョブの進捗度と終了時間を予測
ム全体を監視することになる。どちら
も運用管理の対象だが,プライベート・
はない。エージェントをインストール
第1のポイントである直観的な操作
クラウド環境下ではこうした役割分担
すれば,サーバの詳細な稼働状況を把
は,ジョブ管理のビュー画面に表れて
が進むだろう。
握できる。そのほか,ネットワークに
いる(図4)
。操作画面の左側のペイン
そうなると,すべての情報を閲覧で
障害があってマネージャ・ソフトから
で利用目的に応じて機能を選択する
きてしまうと,かえって作業効率が悪
アクセスできない間も,エージェント
と,右上ペインに管理対象のジョブリ
くなる。そこで,関係のない情報を見
側でサーバの情報を収集しておき,後
ストが表示され,さらに右下ペインに
せず,関係のある情報のみを表示する
から分析できる。
個々のジョブの詳細情報が表示される。
ことで管理画面をスマートにし,作業
ほかにも,日々のサーバ稼働状況を
このように,選択した機能によって画
効率をアップして誤操作などのリスク
直観的に把握できるように,状況が一
面内容は異なり,利用目的に応じた自
を排除できるようにした。
目瞭然で分かるような管理画面を用意
然な操作が行えるようになる。
管理画面では,個々のジョブが何%
している。しかし,どのような項目を
左側のペインは,運用管理の担当者
の進捗度で,終了予定日時はいつごろ
16 Open Middleware Report | vol.48
になるかを表示できる。この表示は運
用管理者にとって非常にありがたいも
のだ。操作画面の前でジョブがいつ終
わるのか注視している必要がないの
で,精神的な負担が軽くなる。障害が
発生したり処理が遅延したりした場合,
その対応策を迫られるが,ジョブの進
捗度や終了予定日時の情報は対応策を
立てる上での判断材料になる。
ジョブネット変更もノンストップで
更を支援する機能である。
利用目的に応じて機能を選択でき,直観的に把握できるようになった。業務全体で複数のジョブを稼働させ
ているとき,個々の業務の進捗度や終了予定日時を表示できるようになった。いつ終わるのかが分かれば,シ
ステム管理者は次のアクションへの判断に役立つ
コスト削減の主役
旧版のJP1 V8では,定義したジョブ
ネットを運用し続けるのは便利であっ
たが,運用を開始してからジョブネッ
トの内容を変更する作業は煩雑で,ジ
ョブネットを一度止める必要があっ
た。具体的には,①運用中のジョブネ
ットのスケジュール実行登録を解除,
②名称変更してジョブネットを差し替
え(例えば「発注業務_改」
→
「発注業務」
など)
,③ジョブネットのスケジュール
実行を再登録 — といった一連の作
業を手動で行う必要があった。
これに対してJP1 V9では,ジョブ管
理の柔軟性を向上した。ジョブネット
のリリース日時を指定でき,自動的に
新しいジョブネットに切り替えられる
ようになった(図5)
。手動による誤操
作を避け,業務を止めずに計画的な運
第2のポイントは,ジョブネットの変
4 直観的になった操作メニュー
図
図
5 複雑な運用の切り替えを自動化
JP1/AJS2:JP1/Automatic Job Management System 2
JP1/AJS3:JP1/Automatic Job Management System 3
運用中のジョブネットを変更したいとき,変更版のリリース日時を指定することで,運用業務を止めずに切り替
えられる
用が可能になるという利点がある。
第3の処理性能の向上は,
大量のジョ
ブを実行できるようにしたものだ。ア
ーキテクチャを改良し,個々のジョブ
合)にもなったという。システムの大規
ステムを見据えた改良がなされてい
を分離したプロセスとして動作できる
模化や複雑化に伴って処理するジョブ
る。JP1をうまく使うことで,柔軟で賢
ようにした。こうしたことで,ジョブ・
も増大する。処理性能の向上は信頼性
い運用が実現できれば,単なる運用の
スケジューラの多重処理度がアップ
確保にもつながる。
効率化だけでなく,IT投資の最適化を
し,ジョブの処理性能は10倍(日立製
以上見てきたように,JP1 V9では今
図っていくこともできるのではないだ
作所の調査による。1:8多重実行の場
後ますます複雑化・大規模化するITシ
ろうか。
「日経SYSTEMS」2009年7月号掲載
vol.48 | Open Middleware Report 17
日本発条株式会社
ジョブ管理
毎日約1,400本ものジョブネットを安定稼働。
「JP1」の豊富な機能を活用し、
運用効率アップとともに内部統制も強化
世界トップクラスの“ばね”技術を中核に、幅広い事業を展開する日本発条株式会社(以下、
ニッパツ)では、ERP システムの「SAP ERP 6.0」へのアップグレードを契機に、日立
ブ レ ー ド シ ン フ ォ ニ ー
「日立ディスクアレイサブシステム」
の統合サービスプラットフォーム
「B ladeSymphony」や
を導入し、IT 基盤と運用体制を刷新。さらに、バッチジョブ運用の安定稼働と運用効率
アップを目的に、 日立の統 合システム運 用管 理「JP1」 のジョブスケジューラ「JP1/
AJS2」にジョブ管理ツールを統一。毎日約 1,400 本ものジョブネットの安定稼働と運用
効率アップに加えて、アクセス制御や証跡管理など、内部統制も強化した。
ERP のアップグレードを機に
IT 基盤と運用体制を刷新
自動 車 用 懸 架ばね、自動 車 用シート、
HDD 用サスペンションなど、ばねを中心とし
日本発条株式会社
企画本部
情報システム部長
石北 雅士 氏
CASE STUDY
18 Open Middleware Report | vol.48
大規模システムへの対応など
総合的に「JP1」を評価
従来のジョブスケジューラは、バッチサーバ
進を続けるニッパツ。 同社は、新規事業の
に共存する形で導入されていたため、バッチ
開拓とグローバル化への対応を目標に、基幹
の処理負荷が増大すると、バッチサーバのレ
システムに ERP
ある「SAP®
株式会社ニッパツサービス
情報システム部 主任
金子 茂 氏
新しました」と語る。
たキーパーツ製造などで、世界的規模の躍
パッケージ「SAP®
R/3」
を導入。2008 年 1 月には、その最新版で
株式会社ニッパツサービス
情報システム部長
五十嵐 祐二 氏
をスケジュール運用するジョブ管理環境も一
スポンスが悪化したり、バッチジョブが停止し
てしまう危険を抱えていた。
ERP 6.0」へのアップグレード
また、当日実行予定のジョブネッ
トが 1 画面
を果たした。その際に、
ERP のアップグレード・
に全て表示されてしまうため、画面をスクロール
コンサルティングやサーバとストレージシステム
して探さなければならなかった。さらに、ジョブネ
の更新、信頼性の高いデータセンターでの
ットのマップが自動生成されるため、マップが
基幹システム運用といった複数要件を一括し
日々変化してしまい、該当するジョブネットを特
て担当したのが、日立である。
定するのに時間を要していた。
同社のシステムの責任者である石北氏は、
「サーバのサイジングから、BCP(事業継続
そこで、このような課題を解決して、バッチ
ジョブ運用の安定稼働と運用効率アップを目
計画)を意識したデータセンター移行まで、
的に、以前からグループ企業のシステム運用
日立に一貫した対応をしてもらい、高信頼な
でも利用していた、日立の統合システム運用
システム環境を作り上げることができました」
管理「JP1」のジョブスケジューラ「JP1/
と評価する。
AJS2」にジョブ管理ツールを統一した。
また、システムをより安定して稼働させるた
「大規模システムに対応し、現在抱えてい
めに、ジョブ管理ツールの見直しも行った。
る問題を改善できる製品として、JP1 を選び
ニッパツグループのシステムを管理する株
ました。もうひとつ重視したのは、
拡張性です。
式会社ニッパツサービス(以下、ニッパツサ
ジョブ管理にとどまらず、監視を含めたさまざ
ービス)の責任者・五十嵐氏は、「『安心・
まな角度からの、統合的な運用管理ができる
安定』をキーワードとして、ネットワークやシス
点を評価しました」(五十嵐氏)
。
テム連携などを見直し、さらに、バッチジョブ
教育体制が整っていることも、JP1 が選ば
JP1
BladeSymphony
USER PROFILE
ニッパツ(日本発条株式会社)
www.nhkspg.co.jp
本 社 神奈川県横浜市金沢区福浦 3-10
設 立 1939 年 9 月
資 本 金 170 億 957 万円(2008 年 3 月末現在)
従業員数 17,324 名(連結、臨時従業員含む 2008 年 3 月末現在)
懸架ばね、自動車用シート、精密ばね、HDD 用サスペンション、
HDD 用機構部品、産業機器(ろう付製品、セラミック製品、配管
支持装置、ポリウレタン製品、プリント配線板、駐車装置)
、セキ
ュリティ製品などの製造販売を行う
サッカーやラグビーファンに親しまれる
「ニッパツ三ツ沢球技場」
れたポイントだ。
るようになった。
きる「JP1/AJS2 - Definition Assistant」
日立では「JP1 認定資格講座」を開催し
また、複数のジョブネットをネスト(階層化)
を活用。
ており、運用管理者がこの講座を受講するこ
させて、まとめるなどの整理統合により 12%
「大量にジョブ定義を修正する際、大幅に
とで、短期間で運用管理のポイントや JP1
程削減し、ジョブネット構成を適正化。各ジョ
作業工数を減らすことができました。この機
に関する知識とスキルを身につけて、JP1 の
ブ ID にコメント情報を加えることで、ジョブの
能は、ジョブ定義の管理資料作成やジョブ
導入をスムーズに進めることができた。
処理概要も把握しやすくなった。
定義内容のチェックにも活用しています」
(金
ニッパツサービスで運用管理を担当する
スケジュール管理を工夫したことも、可用
子氏)
金子氏は、「まず私自身が、認定講座の受
性の向上に貢献している。
講とその後の認定試験を受験し、JP1 認定
「当社のお客さまは、業界ごとにカレンダー
コンサルタントの資格を取得。さらに、アウト
が大きく異なります。従来は、取引先別のカ
ソーシング先の技術者にも講座を受講しても
レンダーを見ながら、ジョブの起動タイミングを
らい、技術力と JP1 に関する知識を同じレ
個 別に設 定していました。 そこで、JP1/
ベルにしてもらうことで、さまざまな運用ノウ
AJS2でカレンダー定義専用のジョブグループ
ハウを正確に伝えることができたのです」と
を作り、これを参照してジョブネットが起動す
語る。
る設定にしたのです」(金子氏)
。
ジョブネット構成を適正化
スケジュールミスも低減
現在、
JP1/AJS2 で業務を実行する対象は、
ERP 用に導入した日立の BladeSymphony の
ハイエンドモデル「BS1000」を中心とした約
これにより、ジョブネットごとのスケジュール
設定が不要となり、作業負荷が軽減。スケ
ジューリングを原因とするトラブルも激減した。
メール自動通知で運用効率アップ
ジョブ定義修正作業も大幅削減
アクセス制御と証跡管理で
内部統制も強化
従来は、担当するジョブの実行環境などは、
ジョブの制御や定義変更の権限をもつ、運用
管理者しか参照できなかった。JP1 では、グ
ループ単位など柔軟にアクセス権限を設定で
きるため、開発担当者に対しては参照権限の
みを設定することで、開発担当者にもジョブス
ケジュールを公開することが可能となった。
さらに 2008 年 9 月には、監査証跡管理
「JP1/NETM/Audit」を導入。ジョブ実行
履歴やジョブ定義変更履歴などの証跡を保存
し、内部統制の強化に役立てている。
30 台のサーバである。
運用効率も大幅に向上した。
「こうした効果は、JP1 の豊富な機能を活
運用管理サーバには、BladeSymphony
統合コンソール「JP1/IM」を用いて、各
用して、運用管理を総合的に刷新したからこ
の小型高集積モデル 「BS320」を採用。1
種イベントを統合監視。バッチジョブの異常
その成果です。今後も JP1 のさまざまな機能
台の予備サーバを複数のサーバで共有する
終了や実行遅延などの障害をメールで自動
を活用し、適用範囲を広げていきたい」(石
「N + 1 コールドスタンバイ」により、ERP
通知し、オペレータの負荷を減らすとともに、
北氏)
。
システムの安定稼働とともに、運用管理サー
作業漏れ削減にもつながっている。
世界的規模の躍進を続けるニッパツを、
バそのものの可用性も向上。 複数のサーバ
ジョブ定義の修正作業には、ジョブ定義を
JP1 と日立の総合力が支えていく。
間にまたがって動くジョブも安定して運用でき
Microsoft® Excel で編集し、一括定義がで
ERP:Enterprise Resource Planning JP1/AJS2:JP1/Automatic Job Management System 2 JP1/IM:JP1/Integrated Management
● SAP は、SAP AG のドイツおよびその他の国における登録商標です。
● Microsoft Excel は、米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における商標、または登録商標です。
●その他記載されている会社名、製品名は、それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。
お問い合わせ
記事に関しては、株式会社 日立製作所 ソフトウェア事業部 販売推進部 TEL.03-5471-2592
TEL.0120-55-0504(土、日、祝日を除く 9:00 〜 12:00
製品に関しては、HMCC(日立オープンミドルウェア問い合わせセンター)
13:00 〜 17:00)
www.hitachi.co.jp/jp1
「日経コンピュータ」2009年4月22日号掲載
vol.48 | Open Middleware Report 19
T
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メールサービスでJP1の最新情報を配信
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JP1最新情報 ネム子 レム男
ネム子とレム男がJP1の最新情報、旬なキーワードとJP1の関係、
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気軽に短時間でJP1が分かります!
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日頃忙しい情シス部門の皆さんをサポートします。
ネム子さん:レム男くん、
もうちょっと英語の勉強をしたほうがいいんじゃないの∼?
レム男くん:え!
? なんで急に?
ネム子さん:このあいだ会社で受けた英語のテスト、散々だったでしょ。
せめて平均
点くらいは取りたいわよねぇ。
レム男くん:いいんだよ! ペーパーテストはだめでも、会話力で勝負すれば♪
ていうか、
なんで僕のテストの結果知ってるの!
?
ネム子さん:結果通知が出力されっぱなしだったんだもん。
レム男くん:しまった! 印刷して取りに行くのを忘れてた!
! でも、受験番号しか
記載されてなかったよな…。
なんで僕が印刷したって分かったの!
?
ネム子さん:今月からJP1/秘文を使って、印刷するときに、印刷者のユーザー名
を
「透かし文字」
として入れるようにしたのよ。
続きはメールサービスで!
日立オープンミドルウェアメールサービスで配信しています。
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● バックナンバー ●
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20 Open Middleware Report | vol.48
vol.48 | Open Middleware Report 21
日立グループが提唱する新しい学習環境
“バーチャルリアリティラーニング”
ネット社会に強烈な
インパクトをもたらした
Second Life
リ ン デ ン ・ ラ ボ
る L $(Linden Dollars)によって行われ
る。幅広いユーザーがさまざまなテーマ
で自由に意見を交換できる場としても認
知されたことから、世界中の企業が新た
なプロモーションやマーケティングの場
として注目。一時は日本でも大企業がこ
ぞって SL 内にバーチャルオフィスや
ショップなどを開設し、大きな話題となっ
た。
2003 年に米国の Linden Lab 社が開
発し、
日本語版も提供されているSecond
Life(以下、SL)
。現在、グローバル規
模のアカウントが 1600 万を超えており、
多数のフォロワーが出現するまで SL は
仮想世界の代名詞だった。その世界観と
ユーザーエクスペリエンスがネット社会
に与えたインパクトは記憶に新しい。
SL には、Windows、Linux、Macintosh
などの環境から、専用のクライアントソフ
セカンドライフ・ビューア
ト「Second Life Viewer」を介してアクセ
※
スする。そこでユーザーは、アバター と
呼ばれる自分の分身を使い、広大な空間
内を自由に探索したり、他のユーザーと
テキストチャットや音声などで交流を図
ることができる。現実世界と同様にユー
ザー自身が建物や衣服、グッズなどを作
り出し
(もちろん 3DCG によるバーチャル
なものだが)
、相互に取引を行うことも可
能だ。制作物の著作権や所有権も認めら
れ、取引はリアルな US ドルとも交換でき
現在 SL は、教育・研修ビジネスや、
企業内コミュニケーションツールとして
の有効性も高く評価されるようになって
いる。それは近年、ユーザー間のコミュ
ニ ケ ー ション を 活 性 化 さ せ た SNS
(Social Network Service)以上に、ユー
ザー同士が同じ場と時間を共有できる、
より濃密なコミュニケーションの可能性
を SL が内包しているからにほかならな
い(画面 1、2)
。
参加者同士の相互刺激の方法が豊富
なことや、議論しながら 1 つの回答を導
画面 1 ◎カンファレンスの Web サイトから情報を
入手(出典:http://www.demo.com/)
画面 2 ◎カンファレンス会場で撮影した写真を見
ながら参加者と議論
教育・研修ビジネスでも
活用され始める
カンファレンスの Web サイトや参加者の報告書から一方通行の情報を入手する場合と異なり、仮想空間上で
は会場に足を運んだ参加者と直接意見を交わすなど、さまざまなコミュニケーションを実現できる
※仮想世界の中で自分の分身となるキャラクタ
22 Open Middleware Report | vol.48
き出せること、すべての行動履歴が残せ
るなどの特長から、海外ではすでに SL
を活用した企業内コミュニケーションが
模索され始めており、教育・研修はもと
より、遠隔会議、セミナー、サポートサー
ビスの場としての活用も進められてい
る。
日立グループ内でも早くから SL に着
目し、具体的な取り組みを開始していた
の が、企 業 の 人 材 育 成 や IT 研 修 ソ
リューションを担う株式会社 日立イン
フォメーションアカデミー(以下、日立
IA)研究開発センター 主任技師 梅崎達
也である。梅崎は自社の新しい教育・研
修用ツールに SL を活用できないかとい
う想いを具現化するため、デザイン本部
やシステム開発研究所、ソフトウェア事
業部などで、それぞれ SL の可能性を模
索していた有志を募り、2007 年夏にプロ
ジェクトチームを発足。約 1 年半をかけ
て、教育・研修用プログラムのプロトタ
イプを完成させた。
新しい学習価値を提供する
バーチャル
リアリティラーニング
「SL はあくまでも仮想空間を実現する
手段の 1 つです。そこで私たちは SL を
ベースに開発した新たな学習環境を
“バーチャルリアリティラーニング”と呼
んでいます」と梅崎は言う。
現在、多くの教育・研修機関が提供し
ている学習形態は、多数の受講者が 1 カ
所に集まる「集合研修」と、個々人が
ネット環境を利用して学ぶ「e-Learning」
に大別される。
集合研修は、汎用的にさまざまな目的
に対応できる学習形態で、すべての研修
の ベ ー ス と な る も の だ。 一 方 の
e-Learning は、情報やデータといった論
理的な内容を効率的に伝えることに優
れた学習形態といえるだろう。
これに対しバーチャルリアリティラー
ニングは、
「ユーザーが仮想空間の中で
直感的なストーリーや文脈を体験できる
e-Learning の一形態」と位置づけられ
る。e-Learning は基本的に 1 人で受講す
るスタイルをとる。一方、複数の受講者
が同時に仮想空間に集まるバーチャル
リアリティラーニングでは、モチベー
ションの維持にも高い効果が期待でき
る。バーチャルリアリティラーニングは
e-Learning を単に置き換えるものでは
なく、互いに補完しあう関係にあるのだ。
IT を使った新しい学習価値の提供につ
ながる可能性を、バーチャルリアリティ
ラーニングは秘めているといえるだろ
う。
仮想空間の中で知識や経験、
達成感までをも共有
バーチャルリアリティラーニングのプロ
トタイプとして、現在日立 IA で実証実験
が進められているのが「危険予知トレーニ
ング(KYT:Kiken Yochi Training)
」で
ある。このプログラムは、工場や職場内に
潜むさまざまな事故・災害などの危険性
を、複数の参加者が指摘し合い、安全性
を向上させる研修を仮想空間で実現する
ものだ。通常の KYT はイラストシートな
どを使って行われるが、その舞台が仮想
空間に移行することで、参加者が事故や
災害をバーチャルに“体験”できるように
なるのが大きなメリットだと梅崎は言う。
「例えばオフィス内で地震が起こった
とき、ロッカーの上に積み上げられてい
た品物がどう崩れ落ちてくるかはイラス
トだけでは実感できません。しかし仮想
空間の中ではアバターを介して、通常な
ら危険すぎて試せない状況も疑似体験
できるのです(画面 3、4)
」
危険性をリアルにイメージできれば、
事前に被害をどう回避すればいいのか
も直感的に判断、理解できるようになる。
天井の蛍光灯を交換する際、1 人に「脚
画面 3、4 ◎危険予知トレーニング
仮想空間でレクチャーを行うため、実際に体験できない危険なシチュエーションもトレーニングに組み入れるこ
とができる。同じ場所にいなくても、複数の人間が同じ体験を共有することが可能だ
vol.48 | Open Middleware Report 23
Second Life互換の
プライベート仮想空間 “OpenSim”
立の上に立つ役」
、もう 1 人に「脚立を
支える役」を割り振れば、2 人で相談し
ながら安全に作業を進めるためのチー
ムプレイも学べる。しかもこの 2 人は現
実世界で同じ場所にいる必要がない。そ
れぞれのオフィスから仮想空間にアクセ
スすれば、その中でコミュニケーション
しながら、互いの知識や経験、達成感を
も共有できるのである。
幅広い教育プログラムに
適用できるバーチャル
リアリティラーニング
今回のプロトタイプは、デザイン本部
が“直感性の高いユーザーインタフェー
ス”
、システム開発研究所が“災害など
のイベントのシナリオを実現するシステ
ムアーキテクチャ”
、日立 IA が“全体シ
ナリオ”をそれぞれ担当しながら作り込
んだ。そこにはリアルなシステム構築で
培われた日立のノウハウが随所に活か
されている。すでに高い完成度を誇って
いるが、今後はグループ内からモニター
を募り、ユーザーのさまざまな意見を
画面 5 ◎ホワイトボード
フィードバックしながら、数年後の実用
化をめざしたブラッシュアップを進めて
いくという。
「バーチャルリアリティラーニングは
抽象的な概念やコンセプトも視覚化で
きるので、将来的には IT 教育の分野に
も適用できると考えています。例えば、
メモリにデータが実装される仕組みや、
ネットワークにパケットが走る様子など
を、自らが装置の内部で俯瞰するといっ
た、従来なら想像力で補うしかなかった
状況を体験できるようになります。そん
なバーチャルリアリティラーニングなら
ではのコンテンツを開発し、集合研修、
e-Learning に続く第三の研修プラット
フォームに育て上げていきたいです」と
梅崎は熱く語る。
OpenSimを利用した
次世代ワークプレースの
構築
一方、ソフトウェア事業部 新分野事
業推進室 主任技師の高橋 亨は、今回の
プロジェクトチームにオブザーバーとし
画面 6 ◎プレゼンテーションパネル
OpenSim ではプレゼンテーションパネルやホワイトボードを備えたバーチャル会議室を作ることも可能。
Second Life のツールを使った経験があれば、比較的簡単に作成できる
24 Open Middleware Report | vol.48
て参加しながら、仮想空間の技術を使っ
たもう 1 つの可能性を模索していた。
「教育・研修や遠隔会議といった企業
内コミュニケーションに SL を適用する
には、セキュリティが大きな壁になって
いました。SL 内のコンテンツやチャット
ログなどは、すべて Linden Lab 社の
サーバに格納されるので、インターネッ
ト経由で社外秘の話は行いにくい。なら
ば自社のファイアウォール内で SL の
サーバを動かせないか――そんな理想
オープンシム
を実現してくれたのが、
OpenSim だった
のです」
2007 年 1 月、Linden Lab 社はクライ
アントソフトである Second Life Viewer
をオープンソース化した。これを受け、
公開されたプロトコルからサーバ側の構
造や動作を割り出し、SL 互換の仮想空
間サーバを独自開発するオープンソー
スプロジェクトが発足。コミュニティに
参加する世界中の技術者によって開発
されたのが OpenSim である。
OpenSim と Second Life Viewer を組
み合わせれば、誰でもファイアウォール
内にセキュアな仮想空間が構築できる。
SLの3Dオブジェクト作成機能などがそ
のまま使えるほか、SL にはない拡張機
能も備えている。このため、個人や企業
が容易に独自の仮想空間サービスを運
営できるのが OpenSim 最大の特長だ。
ソフトウェア事 業部内に OpenSim
サーバを構築した高橋らは、さっそく仮
想空間の環境を実際の業務に適用させ
るための実験を開始した。
「まずは会議室と、
そこで使うプレゼン
テーションパネルやホワイトボードなど
を作りました。これらのプログラミング
は SL のツールを使って何かを作った経
験があれば、それほど面倒な作業ではあ
りません」と高橋。OpenSim 内の会議
室では、遠隔地にいる参加者同士がオ
フィスソフトを使ったプレゼンや会議な
どを現実世界と同様に行うことが可能
だという(画面 5、6)
。
また米国で開催されたカンファレンス
参加者の社内報告会を、米国と日本国内
の 2 拠点を結んで実施したこともある。
この際には OpenSim 内に設営したパネ
ル展示施設を、米国にいる報告者と、日
本にいる参加者のアバター同士が一緒
に歩きながら質疑応答を行うスタイルが
採られた。
参加者からは、
「相手と同じ場を共有し
ている感覚や臨場感が得られる」
「現場
画面 7 ◎ OpenSim 上のパネル展示に集うアバター
画面 8 ◎仮想空間内展示施設の全景
ノウハウの蓄積で、
新たな
サービスや事業開発を追求
の雰囲気や詳細内容がわかりやすい」と
いった評価が得られたという
(画面 7、
8)
。
もちろん OpenSim を本格的なワーク
プレースとして活用するためには、クリ
アすべき課題はたくさんある。だが同じ
時間と場所を多数のユーザーで共有し
ながら、グローバルにコミュニケーショ
ンできる OpenSim の世界は、多様な働
き方を実現するワークスタイル改革の実
現や、新たなビジネスモデルの創造と
いった観点でも、既存の Web にはない
大きな可能性を秘めている。
「だからこそ、まずはその世界を体験
してみることが重要なのです。新しいア
イデアは体験を積み重ねないと出てきま
せん」と語る高橋。今後は、日立 IA や
他の事業部とも連携しながら OpenSim
の環境構築・運用・利用に関するノウハ
ウを蓄積し、具体的なサービス化や事業
化に向けた取り組みが進められていくこ
とになる。
OpenSim に準拠した仮想空間は、す
でに多くの企業で活用が始まっている。
SL に代表されるパブリックな仮想空間
と、OpenSim のプライベートな仮想空間
を相互に行き来できる環境の実現も期待
されるだけに、これからの展開しだいで
は、近い将来に新たな IT 革命の到来を
目にすることができるかもしれない。 OMR
OpenSim 環境内にパネル展示施設を設営し、米国派遣中の DEMO カンファレンス参加者による報告会を実施
した。サンタクララ、新川崎、戸塚からそれぞれログインし、リアルタイムに議論を進めた
vol.48 | Open Middleware Report 25
省電力とCO2 削減に貢献する運用管理基盤
IT機器とファシリティ、
相互の稼動状況をJP1で一元管理
株式会社 NTT ファシリティーズと日立は 2009 年 4 月、データセンターにおける省電力運用の全体
最適化を実現する基盤技術の開発に成功した。新システムでは、サーバの各種稼動情報をもとに空
調機出力の最適値を判断し、冷房や風力を制御することで消費電力を約 10%抑えることができると
いう。IT 機器とファシリティ、双方の稼動情報を収集・管理し、全体状況の「見える化」と、運用
ポリシーに沿った連係制御を担っているのが日立の統合システム運用管理「JP1」である。年間 7 万
トンの CO 2 排出量を削減できるという技術が誕生した背景と今後の展開について、NTT ファシリ
ティーズのキーマンに話を聞いた。
NTTファシリティーズ 取締役
データセンター環境構築本部 本部長
小泉 泰之
氏
Yasuyuki Koizumi
さらなる省電力化に向けた
全体最適のアプローチ
オフィスビルやデータセンター、高信
頼な電源・空調システムなどの企画・設
計から維持管理まで、幅広いファシリ
ティソリューションを提供する NTT
ファシリティーズ。同社は省エネ・環境
対策にも力を注いでおり、増加の一途を
辿るデータセンターの電力消費を削減
する取り組みを続けている。
「当社は、データセンター内で特に電
力消費の大きい空調と電源の効率化と
※
いう観点から、PUE を指標としたデー
タセンターのグリーン化に取り組んでき
ました。しかし空調や電源といったファ
シリティ単独での省エネには自ずと限界
が出てきます。サーバやストレージなど
の IT 機器とも連係した全体最適なアプ
ローチにまで踏み込まなければ、抜本的
な省エネ対策は見いだせないと考えて
いました」と語るのは、
同社取締役 デー
タセンター環境構築本部 本部長の小泉
泰之氏である。
従来のデータセンターでは IT 機器と
ファシリティがそれぞれ個別のシステム
で運用管理され、相互の連係が取れてい
ない。これまで以上の環境負荷の軽減と
省電力化を実現するには、両者を連係さ
せた全体最適化が必須の課題となって
いたのである。そこで 2008 年 7 月、
NTT
ファシリティーズと日立は協業を発表
し、互いのノウハウを駆使した新技術の
共同開発に着手。翌 2009 年 4 月に完成
させたのが、サーバと空調機、相互の稼
動状況を統合システム運用管理「JP1」
上で一元管理できる省電力運用管理基
盤システムだ。
運用情報の
「見える化」
と
連係制御までを実現
各機器を柔軟に制御している(図)
。
「IT 機器とファシリティ、双方の運用
情報を同一画面上で“見える化”できた
ことが最大のポイント」と語るのは、研
究開発本部 環境・エネルギー部門長の
植草常雄氏だ。これまで空調機は、セン
サーでフロア内の温度は感知できても、
その先にあるサーバやストレージがどの
ような稼動状態にあり、どの程度発熱し
ているかまでは知ることができなかっ
た。このため温度を適正に設定できずエ
ネルギーを浪費するケースが少なくな
かったという。
これに対し新システムでは、サーバ
ラック個々の温度や稼動状態を、空調機
側の情報も含めてビジュアルに統合監
視できる。このため問題箇所の容易な発
NTTファシリティーズ 研究開発本部
環境・エネルギー部門長
植草 常雄
氏
Tsuneo Uekusa
この基盤システムのプロトタイプで
は、
NTT ファシリティーズの高効率空調
エフマックス・ファイブ
機「FMACS-V」と、日立の統合サービ
スプラットフォーム「BladeSymphony」
の稼動状況を JP1 で一元監視し、
運用ポ
リシーに沿って制御する。両者から送ら
れる温度や風量、消費電力などの情報を
JP1 が SNMP(簡易ネットワーク管理プ
ロトコル)を使ってトータルに収集・管
理し、設定された運用ポリシーに沿って
※PUE
(Power Usage Effectiveness)
:データセンター全体の消費電力を、サーバやストレージなどのIT機器の消費電力で割った値。
データセンターの省電力化を推進する業界団体
「The Green Grid」などが推奨する指標の1つで、最も効率が良いデータセンターはPUEが1.0になる。
26 Open Middleware Report | vol.48
P a r t n e r
P r o f i l e
株式会社 NTT ファシリティーズ
100 年に及ぶ日本の電気通信の歩みをサポートしてきた
NTT ファシリティーズ。長年の経験と実績をもとに「IT
×エネルギー×建築」の 3 つの分野を融合し、地球環境
を考えた統合ファシリティサービスを提供している。
住所:東京都港区芝浦 3-4-1 グランパークタワー
TEL:03-5444-5660
URL:www.ntt-f.co.jp/
見と運用改善への迅速なアクションが
可能となるのである。
「サーバ側からの情報収集によって、
冷却すべき対象とタイミングがきちんと
見極められるようになりました。IT 機器
の負荷状況や業務スケジュールに応じ
た空調機の運転制御はもちろん、過剰な
設備投資の抑制などにも貢献できると
考えています」
(植草氏)
CO2排出量を
年間約7万トン抑制
運用ポリシーに沿った IT 機器とファ
シリティの連係制御でも、長年にわたっ
てシステムの自律運用を支援してきた
JP1 の強みが活かされている。例えば複
数のサーバルームがある場合、仮想化技
術などを利用して 1 室のサーバに負荷を
集中させることで、他の部屋のサーバと
空調機の運転を停止するといった運用
も実現できる。
こうして過剰な冷却や送風を抑制す
NTTファシリティーズ 研究開発本部
環境・エネルギー部門 主幹研究員
藁谷 至誠
Shisei Waragai
氏
ることで、空調機の消費電力は約 10%削
減可能と予想されている。既存のデータ
センターに適用すれば、CO2 排出量を年
間約 7 万トン抑制できる計算だ。この数
値は電力換算で約 1.2 億 kWh、一般世
帯なら約 3 万 4000 世帯が 1 年間に消費
する電力に相当する。
研究開発本部 環境・エネルギー部門
主幹研究員の藁谷至誠氏は、本プロジェ
クトがもたらすデータセンターの省電力
運用の展望を語る。
「IT ベンダーもファシリティベンダー
も、これまでは互いの設計思想を理解し
合う機会が足りませんでした。しかし今
回、それぞれの運用情報を 1 つの画面で
統合的に管理し、連係制御できる基盤が
できたことで、全体最適を図るためのシ
ナリオが徐々に明確になってきました」
(藁谷氏)
また、省電力運用管理基盤システムは
これから本格化する SaaS やクラウドコ
ンピューティングを支えるインフラとし
ても期待が寄せられている。データセン
ター環境構築本部 副本部長の手島周正
氏によれば、今後データセンターは仮想
化技術の進展も相まって、顧客のサーバ
を個々に預かり運用する形から、大きな
1つのコンピュータリソースをマルチに
提供する形態へ変わっていくという。
「今後は IT 資産やファシリティも含め
NTTファシリティーズ データセンター環境構築本部
副本部長
手島 周正
氏
Chikamasa Teshima
たデータセンター全体でのコスト低減と
運用の効率化が、さらに重要な課題とな
ります。今回の基盤技術はこうしたニー
ズに応える強力なポテンシャルを持った
ソリューションといえます」
(手島氏)
NTT ファシリティーズは、
国内のデー
タセンター環境構築関連の 30%以上に
携わってきたリーディングカンパニーで
ある。その実績と多様なソリューション
に、今回の日立との協業成果が加わった
ことで、日本のデータセンターにおける
グリーン化の流れが、一段と加速してい
くことは間違いないだろう。 OMR
図 ■ 空調機側、サーバ側の両方の情報をJP1上に統合し、一元的に温度や風量を管理できる
・ 消費電力
[kW]
・ 冷房能力
[kW]
・ 入気計測温度[℃]
・ 供給空気計測温度[℃] 統合システム運用管理 ・ 入気管理温度[℃]
・ 供給空気風量[m3/min]
・ 冷却ファン風量[m3/min]
・ 故障情報 等
・ 故障情報 等
高効率空調機
・ 温度設定
・ 風量設定
・ 運転/停止 等
・ 消費電力上限設定
・ 冷却ファン風量設定 等
統合サービスプラットフォーム
vol.48 | Open Middleware Report 27
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