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監査人の交代が会計政策に与える影響
矢澤, 憲一
一橋論叢, 132(5): 726-746
2004-11-01
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://doi.org/10.15057/15304
Right
Hitotsubashi University Repository
(144)
監査人の交代が会計政策に与える影響
7 - '".<". 患 ・
1 はじめに
相次ぐ会計不祥事により会計情報の信頼性を担保する会計監査への関心が高
まっている1).このため会計監査を行う監査人がいかに財務諸表の作成プロセス
に関わっており,それが会計情報の信頼性にどのような影響を与えるかを理論的
かつ実証的に明らかにすることが求められている.
いうまでもなく財務諸表には経営者と監査人双方の判断が反映されている.す
なわち経営者は時に会計政策2)を駆使し,会計数値を制御するー 対して監査人は
「一般に認められた会計原則(GAAP) -の準拠性」という観点から経営者の会
計行動を修正しうる立場にある3).たとえば事業環境の厳しいなかで経営者が過
度に積極的な会計方針をとれば,監査人は独立した立場からそれを分析・評価し,
必要に応じて代替的な会計処理を提示する.各種引当金の見積もりや最近では繰
延税金資産の資産性といった局面からもそうした監査人の役割がみてとれる.
ここで経営者が監査人の修正提案を受け入れず,会計処理を変更しなかった場
合,監査人は除外事項(正当でない会計処理の変更)を付した限定付適正意見を
表明することになる4).こうした状況に直面した被監査企業はどう行動するだろ
うか.被監査企業の経営者は,監査人によって提示された会計方針あるいは監査
意見を不服として監査契約を解除し,自社にとって望ましい監査意見を表明して
くれるような監査人に監査を依頼しようとするかもしれない.このような行為は
「オピニオン・ショッピング(opinionshopping)」と呼ばれる.
オピニオン・ショッピングはこれまで米国証券取引委員会(SEC)などが懸念
726
監査人の交代が会計政策に与える影響
(145)
してきた問題であり,監査人の交代がほとんど行われてこなかったわが国では関
心の薄かったテーマの一つであったといえる.しかし2003年7月,わが国でもこ
の問題が顕在化した.
人工雪事業・不動産関連事業を営むアドバックスは03年7月15日,監査人の交
代に関する情報開示が遅れたとして東京証券取引所に改善報告書を提出するよう
求められた.報告書には,同社が特許権の資産性をめぐり自社に都合のよい監査
を行ってもらうため,監査契約の解除を行おうとした経緯が詳細に記載されてい
た.
ここでアドバックスの事例を取り上げる理由は,それがわが国監査の直面する
問題を極めてシンボリックに示しているからである.改善報告書によれば,同社
は5月2日,監査を担当していた新日本監査法人から, 「これまで資産計上して
いた人工雪の特許権7J 万円を全額償却すべきである」と指摘された.これに
対しアドバックスは5月7日に取締役会を開催した.取締役会では特許権を資産
計上すべきとする意見が多勢を占め, 「特許権の資産性を評価してくれる可能性
がある監査法人に監査を行ってもらうべき」との意見が多勢を占めたという.そ
こで同社は5月13日,新日本監査法人に監査契約の解除を要請,一時会計監査
人5)として公認会計士2名を選任するという事態に至ったのである6).
最近わが国で起こったこの出来事は氷山の一角なのか,あるいは稀な出来事で
あったのかは明らかではない.さらに今後も起こりうるとすればどのような状況
でより起こりやすいか,またそれがわが国企業の会計政策にどのような影響を与
えるのかも定かではない.そこで本稿では,監査人の交代が会計政策へ与える影
響を実証的に分析する.
2 .監査人の交代をめぐる実証的論点
監査人の交代と会計政策に関して,その理論的基礎と先行研究について整理し
ておこう.わがEgではまったくといっていいほど当該分野に関する研究がないた
め7),ここでは主に米国で行われた研究をレビューする.
オピニオン・ショッピングを明らかにしようとする試みの一つが変更企業の監
727
(146) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
査意見を分析することである.もし経営者が限定付適正意見の付与を避けるため
に監査契約を解除するとすれば,限定付適正意見の表明された企業ほど,監査契
約の解除がなされる確率が高いと考えられる. Chow and Rice [1982]はこの
点を分析し,交代の前年に限定付適正意見を付されている企業ほど,監査人が交
代することを発見した.しかしDeAngelo [1982], Haskins and Williams
[1990], Schwartz and Menon [1985]やSmith [1986]はそうした関連性を
発見できなかった.
では限定付適正意見と監査人の交代との問に関連性はないのだろうか.そこで
Chow and Rice [1982]は交代後の監査意見の変化に着目した.つまり,もし
経営者が限定付適正意見を回避するために監査契約を解除したのであれば,かっ
その試みが成功していれば,監査人の交代後に被監査企業は「改善された」監査
意見を受け取っているはずである.しかし彼らは,限定付適正意見を受け取った
クライアントが監査人を交代させた後,そうした改善がみられないことを発見し
た.同様の点について分析したのがSmith [1982]である.彼は事例分析に
よって監査人の交代前後の監査意見を比較し,監査人と被監査企業のコンフリク
トを調査した.結果,限定付適正意見の後に監査人を交代した139社のうち,オ
ピニオン・ショッピングの可能性のあるものはわずか5社であった.
このように会計監査のアウトプットたる監査意見に着目し,オピニオン・
ショッピングを浮かび上がらせようとする試みは必ずしも成功していない.これ
は,経営者は直接的な監査意見の改善を意図して監査契約を解除するわけではな
いという事実を示唆する結果といえよう.
オピニオン・ショッピングを分析するいま一つの試みが,会計政策をめぐる経
営者と監査人のコンフリクトに着目するものである Antle and Nalebuff
[1991]は,監査人の交代をもたらす監査人と経営者の利害の不一致は次のよう
な状況で生じると論じた.すなわち監査人の提示した会計処理ないし方針が,経
営者の望む会計方針よりもより保守的なパフォーマンスの表示につながる場合に.
不一致による交代が生じうる.これはDeFond and Jiambalvo [1993]とも一
致する.彼らは,臨時報告書で報告される監査人と経営者の不一致がほとんど常
728
監査人の交代が会計政策に与える影響
(147)
に,経営者に好まれる会計方針より保守的な利益の計上に結びっく会計方針を監
査人が主張する場合に生じることを発見した.
この利益の保守性に着目したのがDeFond and Subramanyam [1998]であ
る.彼らは1990-93年に監査人を変更した503社を対象に監査人の保守性を検証
した.検証にあたっては,監査人交代前後の企業経営者による会計政策に注目し
た.その結果,交代の前年度に利益圧縮型の会計政策が行われていたことを発見
した.さらに後任監査人の初年度は,同じく利益を圧縮させる傾向があるものの,
前年度と比べてその幅は小さかった.これらの証拠は,監査人の変更が監査人の
保守性に由来することを示唆する.
またKrishnan [1994]は監査人の交代と保守主義について,限定付適正意見
が保守的な規準に基づいている場合,交代確率は,その他の場合よりも高いこと
を発見した.
ここで先述のアドバックスに視点を戻してみよう.同社と会計監査人の対立は
特許権の資産性の有無にあった.もし特許権を全額費用化することになれば,同
社の利益が減少することになる.この点でアドバックスの事例は,利益の減少を
きらう経営者と保守的な会計方針を提案した監査人との間に対立が生じたと解釈
することもできよう.
では会計監査人はなぜ保守的な会計方針を好むのだろうか.その理由の1つは
訴訟リスクである. DeFond and Subramanyam [1998]は次のように指摘す
る.すなわち監査人は,被監査企業の倒産後に株主その他から不適切な会計処理
(例えば,過度に楽観的な見積もりに基づく会計処理など)について訴訟を起こ
されるリスクを低下させるため,保守的な会計方針を選好するインセンティブを
3E)
翻ってアドバックスは01年3月期から一貫して営業損失に陥っており,大幅な
人員削減を含むリストラクチャリングを進めていた.その矢先で改善報告書の提
出が求められたのである.さらに新日本監査法人は交代の前年度,同社への監査
報告書で「収益構造の早期改善を図るための対策の状況によっては提出会社の次
期以降の財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす可能性がある」旨を表明し
,*J
(148) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
ていた.すなわち新日本監査法人は,将来の訴訟リスクを考慮にいれて,特許権
の資産性を評価した可能性がある.
こうした検討に基づき本稿では次の2つの仮説を実証的に分析する. 1つは監
査人が保守的な会計方針をとる場合,経営者がそれを不満として監査人の交代を
望むという仮説である.いま1つは,監査人は訴訟リスクに対処するために保守
的な会計方針を選好するというものである.
3 分析アプローチ
(1)サンプルセレクション
本稿では以下の規準に基づきサンプルを抽出する.
(9 1998年度から2002年度の5期間に監査人を変更している
② 各証券取引所に上場(ただし銀行,証券,保険,その他金融を除く)
③ 調査期間に決算期を変更していない
④ 調査期間に対等合併あるいはそれに順ずる合併をおこなっていない
⑤ 後述するデ-夕が入手可能
各企業の財務データは日経メディアマーケティング社の日経NEEDS Financial Questから入手した.サンプル数を最大化するため,本稿では個別財務デー
タを用いる.また監査人の変更については会社四季報により上場企業の監査人
データを手作業で収集した.さらに会社四季報からピックアップされた企業につ
いて,有価証券報告書,臨時報告書により確認作業を行った.その際,分析期間
の重複を避けるため,交代年度の2期前に監査人を交代している場合を除外した.
さらに監査法人の設立・合併に関連する交代,連結と個別での監査人の統一と
いったケースも除外した.この結果, 158杜が抽出された.
本稿では,新任監査人による初度監査を0期とし, -2期から0期までの3期
間を分析対象とする.そして監査人を交代した158社に対応するコントロールサ
ンプルを抽出し,両サンプルの比較分析を行う.なお,コントロールサンプルは,
交代企業と同一の会計年度,産業に属し,かつ企業規模が最も近い企業を抽出し
m
730
監査人の交代が会計政策に与える影響
(149)
(2)監査の質
本稿では監査人の交代をめぐる会計政策の代理変数として会計発生高(Accruals)を用いる.これまで実証的監査研究では会計上の見積もりや判断を総合的
に捉えることのできる会計発生高に着目し,監査上のいくつかの問題と会計発生
高との関連性を検証してきた.例えば,会計発生高の水準の高さは監査人への訴
訟(Heninger [2001], Lys and Watts [1994])や監査の失敗(Geiger and Raghunandan [2002])と正の関連性をもつ一方で,会計発生高の水準の低さは監
査人の保守性(監査の質の高さとして解釈される)と関連している(Becker et
al. [1998], Francis and Krishnan [1999]).
ここで会計発生高は,会計利益と営業活動からのキャッシュ・フローの差額と
して定義される.会計発生高には, GAAPのもとで必然的に発生する部分と企
業を取り巻く経済環境に応じて変動する部分が含まれており,この部分には経営
者の裁量が及ばないと考えられる.そこで会計発生高を経営者の裁量の及ばない
部分(以下,非裁量的会計発生高)と経営者の裁量が介在している部分(以下,
裁量的会計発生高)に分けることが必要となる.しかし非裁量的会計発生高と裁
量的会計発生高は通常外部からは判断できないため,各期の会計発生高を計算し,
それをもとに回帰分析によって非裁量的会計発生高を推定する.そして最後に各
期の会計発生高から非裁量的な部分を控除することで裁量的会計発生高を算出す
るという方法をとる.
本稿では,修正Jonesモデルを用いて非裁量的会計発生高を推定する.そこ
でまず各期のデータを用いて,企業の会計発生高を算出する.会計発生高は次式
によって求められる.
TAt/A卜1- (△CA -△CL -△Cash+△STD-DEP)/A,-i (1)
但し,
TA, 総会計発生高
Ag_1 :期首の総資産
731
(150) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
△CA :流動資産の変化額
△CL :流動負債の変化額
△Cash 現金および現金同等物の変化額
△STD 流動負債に含まれている借入金の変化額
DEP 減価償却費とその他償却費
なお,添字tは決算期を示す.
次に(1)式によって求められた総会計発生高を用いて,次式の各係数を推定する.
TAit/Ait-X-αUA4ォーi) +β1((△REVu-△RECuVAi卜1) +β :(PPEit/Ait-i) +」!(
・サl
但し,
TAit :総会計発生高
△pEVit :売上高の前年度からの変化額
ARECu :売上債権の変化額
PPEu 償却性有形固定資産の帳簿価額
tit 予測誤差
なお,添字tは決算期, iは個別企業を示す.
そして(2)式によって推定された非裁量的発生高を総会計発生高から控除するこ
とで,裁量的な発生高を導出する.本稿ではサンプル数が制限されているため,
時系列により推定を行った.その際,最低6期問の財務データが入手できる企業
を対象とした.
4 分析結果
(1)記述統計にみるサンプルの特徴
まずサンプルの特徴を記述統計により確認しておこう.交代企業の企業数を時
系列でみると図表1のようになる. 1999年度まで15社前後で推移していたが,
732
監査人の交代が会計政策に与える影響
(151)
図表1 監査人交代企業の推移
1 998 1 999 2000 2001 2002
2000年には前年比2倍強の32社に増加し,その後も増加傾向を示していることが
わかる.
図表2から4は交代企業の業種分布,上場部,企業規模を示している.業種の
分布をみてみると,特定業種に集中しているというような目立った特長はみられ
ない.また上場部はジャスダックが比較的多いことがわかる.それを反映して比
較的規模の大きくない企業が多いことがみてとれる.
図表2 業種の分布
(152) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
図表4 上場部
東証一部
東証二部
マザーズ
大阪一部
夫阪二部
名古屋二部
福岡一部
ジャスダック
狙 -Hm
6
100億以下
100億-500億
500億-1,000億
1,000億-5,000億
5,000億- 1兆
1兆超
轍sssォ
3
図表3 資産規模
また交代による監査人の変化を示したのが図表5である.大手監査法人のシェ
アが20%近く上昇し,共同監査,その他監査法人による監査が減少している.一
方で,筆者が上場企業3,265社を対象に調査した結果, 2002年度の大手監査法人
の市場シェアは80.2%に達している.つまり株式市場全体と比べた場合,監査人
を交代した企業では大手監査法人による監査が相対的に少ないことを示唆する.
さて,次に交代サンプルとコントロ-ルサンプルの財政状態および業績につい
て記述統計により確認しておこう.比較指標は総資産回転率,総資産当期純利益
率(ROA),売上高当期純利益率(ROS), FCF,時価簿価比率(PBR),負債
比率, SAF2002モデルによる倒産確率である.ここでSAF2002モデルとは白田
[2002]によって提示された倒産可能性を推定するモデルである.この数値が低
いほど,倒産の危険性が高いと判断される.そこで両サンプルについて,各期ご
図表5 監査人のシェア変化
監査人の交代が会計政策に与える影響
(153)
とに指標の平均値(中央値)を算出したのが図表7である.
まず図表7の上段からみていこう.効率性としての総資産回転率,収益性とし
てのROA, ROSは3期間通して有意に異なり,かつ一貫して交代サンプルの数
値が低いことがわかる.これは効率性,収益性の観点で監査人の交代したサンプ
ルとその他サンプルに違いがあることを示している.より詳しくみると,総資産
回転率は両サンプルとも低下傾向にある.またROA, ROSは交代サンプルでは
11期でもっとも落ち込んでいることがわかる.
次に図表7の下段に注目していただきたい.倒産確率は3期問通して交代サン
プルのはうが1 %水準で有意に低い. SAF2002モデルでは0.68を倒産するか否
かの判別の目安としている.交代サンプルの平均値は3期問とも0.68を下回り,
かつ低下傾向にあることがわかる.すなわち交代サンプルのほうが,コントロー
ルサンプルよりも倒産確率が高いことを示唆しているといえよう.
特別損益は両サンプルとも- 1期にもっとも落ち込んでいる.両サンプルで統
計的に有意な差があるのは- 1期のみであり,交代サンプルは監査人の交代前年
度に臨時・特別的な損失を計上していることがわかる.またFCF,時価簿価比
率,負債比率は両サンプルの間に有意な差がみられなかった.なお,本稿で得ら
れた特徴は, Carcello and Palmrose [1994], Lys and Watts [1994], Stice
[1991]などの研究結果とも整合している.
(2)裁量的会計発生高の分析
では会計発生高の分析結果を検討していこう.本稿の第一の仮説は,監査人の
保守的な会計方針が交代の一因であるというものである.もしこの仮説が妥当で
あれば,交代サンプルは- 1期に利益圧縮型の会計政策を行っており, 0期には
前年度に比して利益を捻出する方針へ転換すると考えられる.
図表8で交代サンプルとコントロールサンプルの会計発生高を示している.図
表の左側が総会計発生高の平均値(中央値),中央が裁量的会計発生高(絶対値)
の平均値(中央値),そして右側が裁量的会計発生高の平均値(中央値)を示し
ている.
まず左側の総会計発生高をみると, 3期問とも両サンプルに有意な差はなく,
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(154) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
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監査人の交代が会計政策に与える影響
(155)
かっ時系列で見てもはぼ横ばいとなっている.一方,中央の裁量的な会計発生高
(絶対値)では,交代サンプルのほうがコントロールサンプルよりも有意に大き
いことがわかる.つまり交代サンプルのはうが裁量的な会計処理が行われている
可能性を示唆しているといえよう.では果たしてそれは保守的なものであろうか.
そこで図表8の右側に目を転じていただきたい.もし交代の前年度において,
保守的な会計処理が行われているならば,裁量的会計発生高は- 1期に負の値を
示し, 0期には値が改善しているはずである.結果は,交代サンプルの-1期の
裁量的会計発生高の平均値(中央値)は-0.013 (-0.09)と3期間のうち最も
大きな負の値を示し, 0期には-0.003 (-0.06)と前年度と比べると利益を捻
出する方向へ転じている.しかしその差はコントロ-ルサンプルと統計的に有意
に異なるという結果は導き出せなかった.
(3)評価項目と会計方針の変更
次に予測・判断の入り込む個別・異体的な会計行動にフォーカスをあて,修正
Jonesモデルによる分析結果を補強しておこう.なぜなら前項で用いた修正Jonesモデルは会計方針の統合的な尺度であるという利点をもつ一方で,いくつか
の測定上の問題点も有しているからである.
図表8 裁量的会計発生高およびその絶対値の推移
会 計発生高
t
- 2
T 1
0
裁 量 的 会計 発生 高
(絶 対値 )
裁量的会計発生高
平均値
中央値
平 均値
中 央値
平均値
中央 値
交 代 サ ンプ ル
- 0 .0 2 3
- 0 .0 2 6
0 .0 5 1
0 .0 3 6
ー0 .0 0 6
-0 .0 0 1
コ ン トロI ルサ ンプ ル
p 値
- 0 .0 3 4
[0 .2 8 ]
- 0 .0 3 1
[0 .2 0 ]
0 .0 36
[0 .0 1 ]
0 .0 2 5
[0 .04 ]
- 0 .0 10
[0 .6 5 ]
-0 .00 5
L0 .6 6 "
交 代 サ ンプル
- 0 .0 3 3
- 0 .0 2 6
0 .0 4 8
0 .0 3 6
- 0 .0 1 3
一0 .0 0 9
コ ン トロI ル サ ンプ ル
p 値
- 0 .0 2 7
[0 .4 9 ]
- 0 .0 2 5
[0 .23
0 .0 3 6
[0 .0 2 ]
0 .0 23
[0 .0 6 ]
0 .0 0 4
[0 .1 8 ]
一0 .0 0 1
[0 .2 4 ]
交 代 サ ンプ ル
- 0 .0 2 3
- 0 .02 8
0 .0 5 1
0 .0 3 8
- 0 .0 0 3
-0 .0 0 6
コ ン トロ一ル サ ンプ ル
p 値
一0 .0 3 1
[0 .4 7 ]
- 0 .0 2 5
[0 .99 ]
0 .0 3 8
[0 .05 ]
0 .0 2 6
[0 .10 ]
0 .0 0 7
[0 .6 5
ー0 .0 0 7
[0 .9 8 ]
平均値のP値は母集団の平均値の差が0と等しいとしたt検定(両側),中央値のP値は母集団の
分布の位置の差が0と等しいとしたウィルコクスンの符号付順位和検定(両側).
737
(156) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
そこで第一に会計処理に予測・見積もりが混入し,かつ経営者と監査人の問で
意見の異なる可能性が高いと考えられる項目を調査した.分析対象は短期債権の
貸倒引当金繰入額,長期債権・投資に対する引当金繰入額,資産処分・評価損益
である.
監査リスクが高い企業ほど,監査人はこれらの評価項目に対してより保守的な
会計処理を提案すると考えられる.そこで当該項目について,交代サンプルの数
値からコントロールサンプルの数値を控除した数値の平均値(中央値)を示した
ものが図表9である.まず短期債権に対する引当金は統計的に有意とはならな
かった.これは両サンプルに差がないことがわかる.次に長期債権に関わる引当
金は, 12期のみ,平均値および中央値ともに有意に負の数値を示した.そして
資産処分・評価損益は,すべての期間において有意に負の数値を示した.かっ2期から-1にかけて大きく減少し, 0期は前年度比ほぼ横ばいとなっている.
つまり売掛債権や投資損失に関わる引当金では交代サンプルとコントロールサ
ンプルに統計的に有意な差を見出すことができない一方で,資産処分・評価損益
では両者の間に統計的に有意な差が発見された.これは通常のビジネスサイクル
で発生する価値の減少ではなく,固定資産などの資産価値の目減りに対して,積
極的にそれを認識しようとする監査人の姿を浮かび上がらせるものと解釈するこ
とも可能である.
図表9 評価項目の推移
貸倒 引 当金 繰 入 額
貸 倒 引当 金 . 投 資 損
失引当金繰入額
資産処分 .評価損益
平均 値
中央値
平均値
中央 値
平均値
中央 値
- 2
p 値
- 0 .0 10
[0 .29 ]
0 .0 0 0
[0 .4 5 ]
一0 .0 2 6
[0 .0 3 ]
0 .0 0 0
[0 .0 0 ]
- 0 .0 3 1
[0 .0 0 ]
-0 .0 0 6
[0 .00 ]
】1
p 値
0 .0 3 1
[0 .3 6 ]
0 .0 0 0
[0 .8 1 ]
】0 .0 16
[0 .5 0 ]
0 .0 0 0
0 .73
一0 .0 9 5
[0 .0 2 ]
- 0 .0 1 8
[0 .0 0 1
0
p 値
0 .0 0 3
[0 .3 9 1
0 .0 0 0
[0 .8 0 J
0 .0 0 8
[0 .5 5 ]
0 .0 0 0
[0 .0 1]
】0 .1 1 4
0 .0 1
ー0 .0 18
[0 .0 0 1
平均値のP値は母集団の平均値の差が0と等しいとしたt検定(両側),中央値のP値は母集団の
分布の中心の差が0と等しいとしたウィルコクスンの符号付順位和検定(両側).
738
監査人の交代が会計政策に与える影響
(157)
次に会計処理の変更を分析しよう.図表10は両サンプルの会計処理の変更につ
いて,それが純利益に与える影響を捻出と圧縮にわけて集計したものである.
まず両サンプルとも3期間通して利益捻出型より利益圧縮型の会計方針の変更
が多いことがわかる.そして交代サンプルとコントロールサンプルの母百分率の
差の検定を行ったところ,一1期において交代サンプルが10%水準で有意に利益
圧縮型の会計方針の変更を行っていることがわかった.一方,利益の捻出では両
サンプルに差がみられなかった.さらに時系列に着目すると,コントロールサン
プルは-3期から0期にかけて11ないし12件ではぼ横ばいで推移しているのに対
し,交代サンプルは-2期15件, -1期に20件となり, 0期には6件まで減少し
ている.また3期間合計では,交代サンプルとコントロールサンプルで利益の圧
縮,捻出とも有意な差がみられなかった.
総合すると,交代サンプルは- 1期に会計方針の変更によって利益の圧縮を
図った可能性がある.かつ0期に会計方針の変更が減少しており, -1期に将来
にわたる会計方針の変更オプションの前倒しが行われていた可能性がある.
次に交代サンプルのうち会計方針の変更を行った企業を対象に,会計方針の変
更が純利益に与えるインパクトを分析した.分析結果は図表11で示されている.
標準化のため,各会計方針の変更が純利益に与える金額を期首の総資産で除して
ある.これをみてみると,利益の圧縮は-2期から-1期にかけてすべて有意で
あり,かっ-1期がもっとも大きく, 0期は平均値,有意水準ともー1期を下
回っていた.また純額ベースでみた場合, 11期のみ有意に負の値を示した.つ
まり- 1期に利益圧縮型の会計政策がとられていた可能性がある.これは交代の
前年度は保守的な会計選好をもつという仮説と一貫するのではなかろうか.
(4)監査法人の保守性と交渉力
こうした結果は果たして監査人の会計選好を示しているのであろうか.中候
[1999]では業績低迷企業の経営者が利益を圧縮するインセンティブをもつこと
が発見されている.第二節の記述統計でみたように監査人を交代したサンプルは
コントロールサンプルよりも有意に業績が低迷している.よって交代サンプルに
みられた保守的な会計方針が,監査人の判断ではなく経営者の会計選好を映し出
'39
(158) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
図表10 会計方針変更の件数
交 代 サ ンプ ル
_ ・
)
コ ン トロI ル サ ンプ ル
p 値
交 代 サ ンプ ル
一1
コ ン トロー ル サ ンプ ル
p 値
交 代 サ ンプ ル
0
コ ン トロ】 ル サ ンプ ル
p 値
交 代 サ ンプ ル
計
コ ン トロー ル サ ンプ ル
p 値
利益圧縮型
利 益 捻 出型
N
15
ll
15 8
12
[0 .2 7 ]
10
15 8
[0 .4 1 ]
L'O
5
15 8
vi
[0 .0 7 ]
4
[0 .3 7 ]
15 8
6
3
15 8
ll
[0 . l l
6
15 8
0 .1 6
41
19
474
35
[0 .2 7 ]
20
[0 .4 4 ]
474
p値は交代サンプルの母百分率がコントロールサンプルの母百分率よりも大きくないとしたt
検定(上片側).
図表11会計方針変更の利益への影響
純額
】2
p 値
利 益 捻 出型
利益圧縮 型
平均 値
中央値
平均値
中央 値
平均値
中央値
- 0 .0 0 8
[0 . 15 ]
0 .0 0 0
0 .4 7 _
0 .0 0 5
[0 .0 0 ]
0 .0 0 4
0 .0 0_
一0 .0 2 2
ー0 .0 0 9
[0 .0 5 ]
[0 .0 0 ]
0 .0 0 7
- 0 .0 3 4
- 0 .0 1 1
一1
p 値
- 0 .0 2 2
ro .0 7 i
- 0 .0 0 6
[0 .0 1
0 .0 2 1
0 .2 6
0 .04
[0 .0 2 ]
[0 .0 0 ]
0
p 値
0 .0 0 1
[0 .9 2 ]
- 0 .0 0 2
0 .3 3 _
0 .0 3 0
0 .0 0 6
- 0 .0 1 1
- 0 .0 0 5
fO .3 8 1
[0 .l l
[0 .0 4 ]
[0 .0 2 1
平均値のP値は母集団の平均値が0と等しいとしたt検定(両側),中央値のP値は母集団の分布
の位置が0と等しいとしたウィルコクスンの符号付順位和検定(両側).
している可能性も否定できない.
この点を明らかにするため,本稿では監査人の属性に着目して追加的な分析を
行う.すなわちFrancis et al. [1999]をはじめとして先行研究では大手監査法
人ほど保守的であることが発見されている.そこで本稿では交代企業の監査人を
大手監査法人とそれ以外の監査人にわけ,裁量的会計発生高の違いを分析する.
まず大手監査法人をB,それ以外をNBと置くと, (前任が) B- (新任が) B,
B-NB, NB-B, NB-NBという計4パターンの組み合わせが考えられる.そこ
740
監査人の交代が会計政策に与える影響
(159)
で大手監査法人が保守的な規準で監査契約を行っているならば,監査契約の解除
に至るまでにその他監査法人よりも保守的な会計方針を提案していると考えられ
る.また新規の監査契約にあたっては大手監査法人のほうがより保守的な会計方
針を行っている企業を選好するはずである.この結果は図表12で示されている.
図表12 監査人の属性による裁量的会計発生高の水準
1
0
N
B- B
平均値
中央 値
B→ N B
平均値
中央値
N B→B
平均値
中央値
- 0 .02 0
ro .io i
- 0 .0 10
ro .lo i
ー0 .0 28
[0 .3 0 1
一0 .0 09
ro .2 51
0 ▼O il
ro .06 i
- 0 ▼01 0
ro .02 i
0 ー00 2
0 .02 1
[0 .25 ]
0 .0 18
[0 .4 1]
0 .0 16
[0 ▼
5 1]
0 .0 10
[0 ▼
3 6]
- 0 .0 18
[0 ー0 1]
▼0 .0 13
[0 .0 1]
38
24
56
N B→N B
平均値
中央値
汁
平均値
中央値
0 .0 00
- 0 .013
-0 .0 09
[0 .831
[0 .6 3
[0 .021
[0 .0 01
-0 .01 7
[0 .13]
- 0 .0 05
[0 .2 01
0 ー003
-0 .0 06
40
[0 ー
6 2]
[0 .2 1]
158
[ ]はP値,ただし平均値のP値は母集団の平均値が0と等しいとしたt検定(両側),中央値
のP値は母集団の分布の位置が0と等しいとしたウィルコクスンの符号付順位和検定(両側).
まず全サンプルでみた場合,交代の前年度は利益の圧縮を図っていることがわ
かる.詳細にみるとB-B, NB-Bの場合には有意に負の値を示している一方で,
B-NBとNB-NBは有意ではないことがわかる.この2グループを分ける点は,
新任監査人が大手監査法人かどうかという点である.すなわち新任監査人がB
の場合は交代の前年度に利益が圧縮されている一方で, NBの場合は交代の前年
度に統計的に有意な利益の圧縮がみられない.
これは,新規の監査契約にあたって大手監査法人のはうがより保守的な会計方
針を行っている企業を選択することを示唆する結果ともいえる.すなわち先行研
究と同様にわが国でも大手監査法人のほうが保守的な会計選好をもつと解釈する
こともできそうである.
次に交代の初年度(0期)に目を転じていただきたい.初年度において, NB
からB-の変更では利益の圧縮が継続的に図られている.これは, BがNBか
ら引き受けた顧客に対して保守的な会計選好を持っていることを示唆する.すな
わち大手監査法人は,自らの監査先企業よりも,中小・個人会計士によって監査
741
(160) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
されている企業のほうが監査リスクが高いと考えているものと推測される.
図表13 タイプ別SAF2002の値
B一
→B
平均値
中央 値
B→N B
平均値
中央 値
N B 一
十B
平均値
中央値
N B →N B
平均値
中央値
- 1
0 .7 6 0
0 .8 4 3
- 0 .4 2 7
0 . 14 6
0 .8 0 1
0 .8 1 8
0 .5 8 6
0
0 .7 3 8
0 .8 2 6
- 0 .8 4 9
0 .4 0 3
0 .8 0 0
0 .8 3 7
0 .4 4 8
N
38
24
56
0 .7 4 8
0 .7 17
40
ここで監査法人の交渉力についても指摘しておきたい.なぜなら実際に監査契
約を受諾するか否かは,監査人と被監査企業の交渉力に依存するからである.本
稿の結果は,大手監査法人は顧客基盤が安定しており交渉力が強いため,顧客の
選別ができる可能性が高いことを示唆しているとも解釈できよう.
最後にこれまでの分析を補強するデータを示しておこう.図表13をみていただ
きたい. NBが後任で監査を引き受ける場合は, Bが引き受ける場合に比べて倒
産リスクが高いことがみてとれる.なかでもBからNB-交代する場合は,檀
端に倒産リスクが高い.これらは大手監査法人の保守性と交渉力の一端を示唆し
ており,それが利益圧縮型の会計政策に結びついているといえる.これに関して
町田[2003]は,大手監査法人が監査できないほどに監査リスクが高い監査を中
小監査法人が監査リスクを看過ないし軽視して監査契約を締結している可能性を
指摘している.本稿の分析結果は,その一端を示しているともいえよう.
5 結びにかえて
本稿の発見事項は以下のとおりである.第一に監査人を交代した企業では交代
の前年度に保守的な会計処理が行われていることを示唆する証拠が得られた.第
二に監査法人に着目してみると,'保守性,監査契約の交渉力という点で大手監査
法人はその他監査法人よりもより保守的で,交渉力が強いことを示唆する証拠が
得られた.
本稿が何らかの貢献をなしえたとすれば以下の3点が挙げられよう.第一に監
742
監査人の交代が会計政策に与える影響
(161)
査人の交代をめぐる議論-の貢献である.監査人の交代は独立性を強化し監査の
質を向上させるといわれる.一方で,交代によって被監査企業に対するそれまで
の情報・スキルの蓄積が途切れ,初度監査に伴うコストが増大し,ひいては監査
の失敗につながりかねないともいわれる.これらのコストとベネフィットがどう
絡み合い,結果として監査の質がどう変化するのか未だ確固とした解は得られて
いない.本稿では監査人の交代企業では保守的な会計処理がとられており,かつ
大手監査法人とその他監査法人との間で保守性,交渉力に差がある可能性が示唆
≠it/こ.
第二にわが国監査制度の設計に対して示唆を得ることができる.わが国では
2004年4月施行の改正公認会計士法により担当会計士の7年交代制が導入された.
しかし監査法人を交代させるべきか否かについては意見がわかれている.その一
因は監査人の交代が監査の質にどのような影響を与えるのかが明らかになってい
ないことにある. Imhoff [2003]らも指摘するように,監査法人を強制的に交
代させることは,懇意的な監査人の交代を防ぐ手段として機能しうる.しかし本
稿の結果は,監査の引継ぎや初度監査に疑問を呈するものであり,これらへの十
分な配慮と対策の検討が必要となろう.
第三は,わがEgの監査研究ならびに会計政策研究に対する貢献である.欧米で
は先述したようにKrishnan [1994], DeFond and Jiambalvo [1993], DeFond and Subramanyam [1998]など監査人の交代と会計政策をめぐる実証的
証拠の積み上げが進んでいる.わが国でも町田[2003]や日本公認会計協会
[2004]など監査人の交代に関する調査・研究がなされっっあるものの8),いま
だ蓄積という域にも達していない.本稿はわが国実証的監査研究の発展に資する
ものであるといえよう.
ただし本稿の結論は以下の点で暫定的なものである.本稿では監査人の保守性
が監査人の交代の一因であるとした.しかし監査人の保守性が被監査企業に契約
を解除するインセンティブをもたらしたのではなく,監査リスクの増大に監査人
が反応し監査契約の解除を提案したという可能性も否定できない.わが国実務で
は監査人の交代が生じた場合,臨時報告書を提出しなければならない.しかしそ
743
(162) 一橋論叢 第132巻 第5号 平成16年(2004年) 11月号
こで監査人の交代の理由(監査上の意見の不一致があったかなど)が明らかにさ
れているケースはごく一部であり,今後のデータの蓄積が望まれる.
また本稿では監査人の会計選好を分析する際に裁量的会計発生高や各種の評価
項目に着目した.これらは従来,経営者の会計政策を分析するというコンテキス
トで活用されてきたものである.今後は監査人の会計選好をよりダイレクトに浮
かび上がらせるような手法の開発が必要となろう.これは筆者に課された責務で
ある.
1)伊藤[2003]を参照.
2)会計政策とは「経営者が一定の目的を達成するために,会計数値を戦略的に制御
する」ことをさす(伊藤[1996], 550貢).
3)監査基準「第一 監査の目的」.
4)除外事項を付した限定付適正意見の表明にあたって監査人は,除外事項を付した
不適切な事項及びそれが財務諸表に与える影響を記載しなければならない.また経
営者の採用した会計方針の選択及びその適用方法に関して不適切なものがあり,そ
の影響が財務諸表を全体として虚偽の表示に当たると判断した場合には,財務諸表
が不適切である旨の意見(不適正意見)を表明しなければならない. (監査基準
(第四 報告基準 四 意見に関する除外」)
5)会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合におい
て,遅滞なく会計監査人が選任されないときは,監査役会は,その決議をもって一
時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない. (商法特例法第6条
の4)
6)詳しい経緯は次のとおり. 5月9日一時会計監査人候補者に監査を要請, 13日新
日本監査法人と辞任に向けた調整に入る, 15日新日本監査法人より辞任するとの連
絡, 26日一時会計監査人候補者から一時会計監査人は受けられない旨の連絡, 27日
新日本監査法人に辞任の撤回を要請, 29日新日本監査法人から撤回はできない旨の
連絡,同日公認会計士2名を一時監査人に選任する.
7)わが国では町田[2003]や日本公認会計協会[2004]がこの分野の嘱矢といえる
が,彼らは監査契約の解除が行われる要因をアンケ-トあるいはヒアリング調査し
たものであり,必ずしも会計政策への影響を直接的に論じているわけではない.
8)監査人の交代以外にも,高田[2003]やMaeyama [2003]など監査を対象とし
た実証研究がなされつつある.
'44
監査人の交代が会計政策に与える影響
(163)
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746
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