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(2007.9.5) 産業企業情報 19−5
SCB
SHINKIN
CENTRAL
BANK
産業企業情報
19−5
w
(2007.9.5)
総合研究所
〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1
TEL.03-3563-7541 FAX.03-3563-7551
URL http://www.scbri.jp
団塊世代のライフスタイルと市場動向
−団塊世代市場に向けた中小企業等の取組事例−
視 点
団塊世代(47∼49 年生まれの約 806 万人層)の 07 年からの退職により高齢社会が本格化する。
そこで、本稿は団塊世代に注目し、わが国の高齢化の現状、団塊世代のライフスタイルや消費
行動の特徴と、団塊世代を中心とするこれからの高齢社会における商品・サービス市場の動向
を探ろうとするものである。 アクティブ・シニア が多いとみられる団塊世代が創造する新た
なライフスタイルに注目するとともに、団塊世代市場向けの取組みを行う中小企業等の事例を
取り上げたものである。
要 旨
z
戦後の結婚ラッシュ等によるベビーブームで誕生した、いわゆる団塊世代(1947∼49年生ま
れ)の出生数は約806万人に上り、06年時点(57∼59歳)でも677万人と総人口の5.3%を占
める。
z
「団塊の世代」とは、堺屋太一氏が76年に同名の小説を発刊したことから世の中に広まった
言葉である。団塊世代は、その数の多さゆえに、社会的に様々なインパクトを及ぼしてきた。
そして、そのライフステージごとに多様なネーミングを冠せられてきたが、07年の定年退
職・引退を機に、これまでの「男は仕事、女は家庭」といった性役割分業意識が見直される
など、特に団塊世代男性のこれからの生き方が問われている。
z
高齢社会の本格化を機に、戦後もっぱら経済成長を優先してきた政策から、高齢社会にふさ
わしい生活者優先の社会の構築に向けた政策へと転換することによって、日本社会が世界の
高齢社会の一つの有力なモデルとなる可能性を秘めている。たとえば、高齢者が多くなると
いうことは、それだけ高齢者の体力やライフスタイルの多様性などに合わせたゆとりある社
会を創造していくということでもある。
z
団塊世代の新たなライフスタイルとして、①多彩・多様化、②快適・安全・安心、③ゆとり・
スローライフ、④交流・仲間・地域貢献、⑤情報活用を取り上げた。活動分野としては、「趣
味・余暇」および「ボランティア、社会貢献」が大きなウエイトを占めるとみられる。また、
団塊世代市場として、衣・食・住の基本的な市場に加えて、遊ぶ・旅行、学習・教育、移動・
移住、地域貢献の各分野を中小企業等の取組事例とともに取り上げた。
キーワード
団塊世代、2007 年問題、高齢化、高齢社会、アクティブ・シニア、ライフスタイル
©信金中央金庫 総合研究所
目次
1.団塊世代とわが国の高齢化の現状
(1)団塊世代とは
(2)わが国の高齢化の現状
2.団塊世代のライフヒストリーと生計
(1)団塊世代のライフヒストリー
(2)団塊世代の地域分布
(3)団塊世代の生計∼総じて貯蓄が多く、消費支出も大きい
3. アクティブ・シニア による新たなライフスタイルの創造
(1) アクティブ・シニア と日本の高齢社会の変化
(2) アクティブ・シニア による新たなライフスタイルの創造
4.団塊世代市場に向けた中小企業等の取組事例
(1)衣生活の市場 (2)食生活の市場 (3)住生活の市場 (4)遊び・旅行の市場
(5)学習・教育の市場 (6)移動・移住の市場 (7)地域貢献
おわりに
1.団塊世代とわが国の高齢化の現状
(1)団塊世代とは
戦後の結婚ラッシュ等によるベビーブームで誕生した、いわゆる団塊世代(1947∼49
年生れ)の出生数は約 806 万人に上り、06 年時点(57∼59 歳)でも 677 万人と総人口
の 5.3%を占める。また、国勢調査(05 年)による団塊世代を含む年齢階級 55∼59 歳
でみると、1,026 万人に上るが、この人数は総人口の 8.0%を占め、直近上位 60∼64 歳
(854 万人)のシニア層に比べて 1.2 倍となる。このため、団塊世代が 65 歳に達する
2012 年以降は高齢者比率(65 歳以上の高齢者人口の総人口に占める割合)が大きく引
き上げられることになる。
図表1 高齢化の推移と将来推計 (備考)「平成19年版高齢社会白書」より抜粋
1
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(2)わが国の高齢化の現状
わが国の総人口は、06 年 10 月1日現在、1億 2,777 万人となった。前年の 05 年に戦
後初めてマイナス(前年比2万人減少)に転じた後、ほぼ横ばいとなっている。
65 歳以上の高齢者人口は、過去最高の 2,660 万人となり、高齢化率は 20.8%と、前
年(20.1%)以降2割を超えている。高齢者人口のうち、「前期高齢者」(65∼74 歳)
人口は 1,444 万人、「後期高齢者」(75 歳以上)人口は 1,217 万人となっており、後期
高齢者が前期高齢者を上回る増加数で推移してきている。高齢者人口は 2020 年まで急
速に増加し、その後は概ね安定的に推移する一方、総人口は減少することから、高齢化
率は今後も上昇を続け、2025 年には 30.5%、2055 年には 40.5%に達すると見込まれて
いる(図表1)。
都道府県別に高齢化率を
みると、3大都市圏で低く、
それ以外の地域で高い。05
年現在、最も高い島根県で
27.1%、最も低い沖縄県で
図表2 都道府県別高齢化率の推移
全国
2005年
北海道
青森
05→20年
岩手
20→35年
宮城
秋田
山形
福島
16.1%となっている。今後、
茨城
栃木
高齢化率は全ての都道府県
群馬
埼玉
で上昇し、2020 年には、全
千葉
国平均 29.2%に対し、最も
神奈川
東京
新潟
高い秋田県で 36.5%、最も
富山
石川
低い沖縄県で 22.6%に達す
福井
ると見込まれている。今後
長野
わが国の高齢化は、大都市
静岡
圏を含めて全国的な広がり
三重
を見せることになる(図表
京都
2)。
高齢化(高齢化率の上
昇)の要因は、平均寿命の
山梨
岐阜
愛知
滋賀
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島
上昇により高齢者数が増加
山口
徳島
する一方、少子化により総
香川
愛媛
人口が減少することにある。
高知
福岡
わが国の平均寿命は戦後大
佐賀
長崎
幅に伸び、05 年には男性が
78.56 年、女性が 85.52 年と
なっている。また、65 歳時
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄
0
の平均余命は、男性 18.13
5
10
15
20
25
30
35
40
45 %
(備考)国立社会保障・人口問題研究所「日本の都道府県別将来推計人口」(07年5
月)より信金中金総研作成
2
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年、女性 23.19 年となっており、男女とも、高齢期が長くなっている。一方、出生の状
況をみると、合計特殊出生率(女性が一生の間に生む子供の数の目安)は、第1次ベビ
ーブーム時に 4.54(47 年)∼4.32(49 年)を記録して以降急速に低下、75 年に 1.91
と 2.00 を下回った。05 年は 1.26 であり、過去最低水準となったが、06 年には 1.32 と
6年ぶりにやや上昇している。
わが国の高齢化の特徴は、「高齢化社会」(高齢化率7%をいう、70 年)から「高齢
社会」(同 14%をいう、94 年)への移行期間が 24 年と極めて短いことである。ちなみ
に、諸外国の移行期間はフランス 115 年、スウェーデン 85 年、比較的短いドイツでも
40 年と、日本に比べれば高齢化に時間がかかっている。
このように、団塊世代の定年年齢到達により、当面は前期高齢者を中心とする アク
ティブ・シニア
がわが国の高齢社会の姿を大きく変えていくものと予想される。
2.団塊世代のライフヒストリーと生計
(1)団塊世代のライフヒストリー
「団塊の世代」とは、堺屋太一氏が 76 年に同名の小説を発刊したことから世の中に
広まった言葉である。団塊世代は、その
図表3 団塊世代のネーミングの変遷
数の多さゆえに、社会的に様々なインパ
年代 ∼20代前後
ネーミング
第一次ベビーブーム
戦後民主主義の申し子
移動世代
全共闘世代
備考
受験戦争
男女同権の教育
集団就職
体制批判意識
20代∼30代
友達夫婦
ニューファミリー
近代家族
男女の年齢差が小さい
家族一緒に行動
専業主婦、性別役割分業
30代∼40代
会社人間
ポストレス時代
個人主義も同居
組織のフラット化
クトを及ぼしてきた。そして、そのライ
フステージごとに多様なネーミングを冠
せられてきた(図表3)。
成長期には、戦後民主主義の申し子と
して男女同権の教育を受け、この約 800
(備考)樋口美雄他「団塊世代の定年と日本経済」より信金中金総研作成
万人のコーホート(同時出生集団)は、高校や大学の増設を促すなど日本社会の既存の
仕組みを変えていく力となってきた。
社会人になってからは、高度成長期後期に就職し、企業の発展とともに過ごしてきた。
同年齢階層が多いことによって、賃金は多少抑えられ、出世も多少抑制されてきたが、
それほど大きなダメージを受けることなく 50 代に突入した。家庭生活では、彼らが結
婚する時には高度成長期を経て世の中が豊かになったころであり、男は「会社人間」と
して雇用者化が進み、妻は働きに出ずに「専業主婦」として家事や育児を支えてきた。
これが近代家族のモデルであり、「男は仕事、女は家庭」という性役割分業が一般化し
た時期であった。
しかしながら、50 代に入ってからは、バブル経済が崩壊し、企業のリストラが本格化
するなど、数の多い団塊世代が早期退職などを余儀なくされる場面も多くなってきた。
そのことが失業や賃金の低下に対する不安感を大きくしており、この不安感が老後費用
や介護問題への不安感につながっている。同時に、これまでの性役割分業意識が見直さ
れるなど、特に団塊世代男性は、退職・引退を機にこれからの生き方が問われていると
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いえよう。
(2)団塊世代の地域分布
団塊世代は、出生時点(1950 年)で
図表4 団塊世代人口の地域分布
(単位:人、%)
は、その 32.7%が三大都市圏(埼玉、
千葉、東京、神奈川、岐阜、愛知、三
重、京都、大阪、兵庫)に居住してい
たが、集団就職等による地方から都市
圏への集中によって 75 年には 51.6%
と半数を超え、05 年でも 49.2%を占め
ている。最近では、後述のように、団
塊世代の定年を機に、都会に生活する
団塊世代がふるさとである地方へ回帰
するのを支援する動きが活発化してい
る。
05 年の団塊世代の都道府県別分布
(団塊世代を含む 55∼59 歳 1,026 万人
が対象)を見てみよう(図表4)。多
い順に、①東京(938 千人)、②大阪(726
千人)、③神奈川(686 千人)、④埼玉
(595 千人)、⑤愛知(568 千人)、⑥
千葉(510 千人)、⑦北海道(473 千人)、
⑧兵庫(457 千人)、⑨福岡(403 千人)、
⑩静岡(309 千人)となり、ほぼ人口の
多い順と同様である。
しかし、総人口に占める割合で見る
と、高い順に、①富山(8.88%)、②
山口(8.75%)、③香川(8.71%)、
④石川(8.60%)、⑤高知(8.54%)
の順となり、他方、沖縄(6.02%)、
鹿児島(7.33%)、東京(7.46%)、
団塊世代
団塊世代
団塊世代 シニア世代
人口総数
/シニア世代 /総人口
55∼59歳
60∼64歳
10,255,164 8,544,629 127,767,994
1.20
8.03
473,433
378,499 5,627,737
1.25
8.41
116,476
92,399 1,436,657
1.26
8.11
106,347
87,665 1,385,041
1.21
7.68
177,938
138,786 2,360,218
1.28
7.54
94,755
74,545 1,145,501
1.27
8.27
93,296
73,494 1,216,181
1.27
7.67
157,706
124,515 2,091,319
1.27
7.54
243,946
199,993 2,975,167
1.22
8.20
165,715
127,311 2,016,631
1.30
8.22
167,753
135,869 2,024,135
1.23
8.29
595,169
516,538 7,054,243
1.15
8.44
510,283
439,334 6,056,462
1.16
8.43
938,669
813,422 12,576,601
1.15
7.46
686,087
596,060 8,791,597
1.15
7.80
196,432
153,649 2,431,459
1.28
8.08
98,774
78,320 1,111,729
1.26
8.88
100,957
78,251 1,174,026
1.29
8.60
65,184
51,950
821,592
1.25
7.93
66,683
56,176
884,515
1.19
7.54
169,279
146,555 2,196,114
1.16
7.71
172,929
143,383 2,107,226
1.21
8.21
309,000
260,868 3,792,377
1.18
8.15
568,332
486,305 7,254,704
1.17
7.83
149,085
126,595 1,866,963
1.18
7.99
106,688
85,330 1,380,361
1.25
7.73
220,675
184,054 2,647,660
1.20
8.33
726,275
652,442 8,817,166
1.11
8.24
457,257
389,368 5,590,601
1.17
8.18
120,511
103,792 1,421,310
1.16
8.48
85,602
73,992 1,035,969
1.16
8.26
48,068
37,384
607,012
1.29
7.92
61,086
47,102
742,223
1.30
8.23
158,662
133,242 1,957,264
1.19
8.11
238,977
197,846 2,876,642
1.21
8.31
130,578
107,894 1,492,606
1.21
8.75
68,375
52,004
809,950
1.31
8.44
88,193
66,332 1,012,400
1.33
8.71
123,199
97,767 1,467,815
1.26
8.39
67,977
54,481
796,292
1.25
8.54
403,526
316,417 5,049,908
1.28
7.99
66,206
50,928
866,369
1.30
7.64
116,589
90,226 1,478,632
1.29
7.88
140,118
109,918 1,842,233
1.27
7.61
99,462
80,101 1,209,571
1.24
8.22
92,452
71,006 1,153,042
1.30
8.02
128,556
101,544 1,753,179
1.27
7.33
81,904
60,977 1,361,594
1.34
6.02
全国
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
(注)シャドウ部分は相対的に高順位の都道府県
(備考)総務省「国勢調査(05年)」より信金中金総研作成
山梨(7.54%)、宮城(7.54%)など
が低くバラツキがみられ、これといった傾向は見出し難い。また、シニア世代(60∼64
歳)との倍率では、香川(1.33 倍)、徳島(1.31 倍)など総じて地方圏が高く、東京
(1.15 倍)、神奈川(1.15 倍)など都市圏で低くなっており、都市圏ではシニア世代
も相対的に多いことが推察される。
4
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(3)団塊世代の生計∼総じて貯蓄が多く、消費支出も大きい
家計調査により、全世帯の貯蓄残高
を年齢階級別に見ると、高い年齢層ほ
ど高い傾向がある(図表5)。団塊世
代に該当する 50 歳代後半世帯の貯蓄
残高は平均 2,011 万円と相対的に高い
図表5 世帯主の年齢階級別貯蓄残高の分布(全国・全世帯)
(単位:%)
平均貯蓄
5百万円
40百万円
年齢
5∼10
10∼20
20∼25
25∼30
30∼40
残高(万
未満
以上∼
円)
計
29.6
19.7
∼29歳
78.7
30∼39
54.0
40∼49
34.7
が、40 百万以上が 12.0%を占める一方、50∼59
22.3
6.7
4.9
6.2
10.7
1,778
14.1
4.8
1.2
0.0
0.0
1.3
402
24.3
15.7
2.4
1.7
1.2
0.7
717
24.8
24.2
5.2
3.5
3.8
4.0
1,220
25.3
19.7
25.0
8.8
4.8
6.8
9.6
1,805
(55∼59)
22.7
18.1
26.0
8.5
5.6
7.2
12.0
2,011
5百万円未満が 22.7%となっており、
60∼69
17.7
16.0
23.3
8.3
6.5
10.5
17.7
2,416
ばらつきは大きい。
70歳∼
16.5
15.7
23.8
7.9
7.8
7.5
(備考)総務省「家計調査年報(05年)」より信金中金総研作成
20.7
2,634
団塊世代の今後の消費動向を推
図表6 世帯主年齢階級別1世帯1人当たり家計支出額(2人以上の世帯)
測する意味で、高齢者世帯の消費
動向を見てみよう。世帯主の年齢
階級別に世帯1人当たりの消費支
出をみると、世帯主が 60 歳以上の
家計において1人当たりの消費支
出額が大きい(図表6)。また、
支出額の内訳を見ると、他の世代
(備考)「07年版中小企業白書」を基に信金中金総研作成
に比べて食料品への支出、書籍、
旅行などの教養娯楽に対する支
出が多いことがわかる(図表7)。
3.
(1)
アクティブ・シニア
図表7 世帯主の年齢階級別1世帯1人当たり家計支出額(2人以上の世帯)
単位:円/月
75 歳
全年齢階級
60∼64
65∼69
70∼74
平 均
以 上
消費支出
98,179
114,343
110,378
109,048
103,424
食料
22,228
26,869
26,813
26,747
25,972
教養娯楽
9,858
12,183
13,137
12,999
10,938
うち教養娯楽用品
1,887
2,251
2,210
2,089
1,946
うち書籍・他の印刷物
1,510
1,769
1,844
2,001
2,048
うち教養娯楽サービス
5,495
7,118
8,094
8,028
5,998
うち宿泊料
449
719
859
794
733
うちパック旅行費
1,524
2,689
3,304
3,435
2,289
資料:総務省「全国消費実態調査」(2004年)
(注)世帯人員1人当たり月額消費額(3ヶ月平均)
(備考)「07年版中小企業白書」を基に信金中金総研作成
による新たなライフスタイルの創造
アクティブ・シニア
と日本の高齢社会の変化
イ.「2007 年問題」への誤解
「2007 年問題」が喧伝される中で、団塊の世代が一斉に退職すると理解されがちだが、
団塊世代で 60 歳に退職する人は半数にも満たないといわれている。
まず、定年の制度的延長により勤務継続するものが多い。04 年6月、「改正高年齢者
雇用安定法」(「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」)(年
金の支給年齢を従来の 60 歳から 65 歳に引き上げるのと引き換えに、65 歳までの雇用継
続を企業に義務づける)が施行された。これによると、雇用を延長する年齢は、06 年度
から 62 歳までとなり、その後段階的に引き上げられ、最終的には 2013 年度に 65 歳ま
5
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での雇用が義務づけられる。また、早期退職が増加しているほか、別の企業で就業継続
する者もいる。
さらに、団塊世代のほぼ半分を占める女性の多くは、昔に退職しており、「2007 年問
題」はどちらかといえば団塊男性の問題であるともいえよう。
ロ.定年の意味の変容
これまでの「定年」=「引退」という構図が変容している。定年を機に「新しい人生
が開ける」、「自由な時間が増え、自分を取り戻す」などの肯定的なイメージも増加し
ており、この点で定年退職を第2のキャリア形成期と位置づけるような転機として前向
きに意味づけられるようになりつつある。また、定年を契機とする職業キャリアの展開
はボランティア活動や独立開業志向など多様性を持っている。働き方においても、「会
社人間」からの離脱現象がみられるなど多様化している。
ハ.団塊世代の高齢化による日本の高齢社会の変化
高齢社会への移行、すなわち高齢者の増加と少子化による高齢化率の上昇は避けられ
ない事実であり、我々はそれを正面から受け止めて、新たな将来設計を描きつつ、その
問題の処方箋を描き出していくことが必要である。生産年齢人口の減少は、経済成長に
とってマイナス要因の一つとなる。しかし、戦後もっぱら経済成長を優先してきた政策
から、高齢社会にふさわしい生活者優先の社会の構築に向けた政策へと転換することに
よって、日本社会が世界の高齢社会の一つの有力なモデルとなる可能性を秘めていると
もいえる。たとえば、高齢者が多くなるということは、それだけ高齢者の体力やライフ
スタイルの多様性などに合わせたゆとりある社会を創造していくということでもある。
幼児や障害者の生活はまた身体的能力が壮年期に比べてハンディがあるという点にお
いて高齢者の生活と共通している。高齢社会とはこのようなハンディを持ちながら日々
の生活を送る人々が増えることでもあり、その意味では、あらゆる人々の社会参加を可
能にする社会のあり方を再考するチャンスでもある。
このように、高齢者は一様に「弱者」として捉えられるべきでなく、社会を支える「市
民」というカテゴリーの中に積極的に位置づける発想は「アクティブ・エイジング」と
して重視されるようになっている。1
WHO(国際保健機関)によれば、「アクティブ・
エイジング」は「年をとっていく中で、生活の質を高めていくために、『健康』、『参
加』、『安全』のための機会を最大化するプロセスである」と定義されている。ここで
いう「アクティブ」とは、単に労働市場に参加したり、あるいは身体的にアクティブと
いうことのみならず、社会的、経済的、文化的、精神的な活動や市民活動への参加を継
続するという意味が含まれており、全ての高齢者の健康年齢を伸ばし、生活の質の向上
を図っていくことがアクティブ・エイジングの目的である、とされている。したがって、
アクティブ・エイジングの目的は
1
アクティブ・シニア
の創出にあるといえよう。
前田信彦「アクティブ・エイジングの社会学」
6
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(2)
アクティブ・シニア
による新たなライフスタイルの創造
以下では、 アクティブ・シニア によ
図表8 団塊世代の新たなライフスタイルと活動分野・成長市場
る新たなライフスタイルとこれに基づく
新たなライフスタイル
活動分野
主たる活動分野を取り上げるとともに、こ
1.多彩・多様化
2.快適・安全・安心
3.ゆとり・スローライフ
4.交流・仲間・地域貢献
5. 情報活用
ボランティア・社会貢献
うしたライフスタイルと活動分野に関連
趣味・余暇
する団塊世代向けの成長市場という順序
でみていくこととしたい(図表8)。
成長市場
新たなライフスタイルとして、①多彩・
衣生活、食生活、住生活、
遊び・旅行、学習・教育、
移動・移住
多様化、②快適・安全・安心、③ゆとり・
スローライフ、④交流・仲間・地域貢献、
(備考)信金中金総研作成
⑤情報活用、の5つのキーワードに整理してみた。また、主たる活動分野としては、後
述する団塊世代のアンケートでも見られるように「趣味・余暇」および「ボランティア、
社会貢献」が大きなウエイトを占めている。そして、団塊世代市場としては、「衣」・
「食」・「住」の基本的な市場に加えて「遊ぶ・旅行」、「学習・教育」、「移動・移
住」、「地域貢献」の各分野を団塊世代市場に向けた中小企業等の取組事例とともに次
章で取り上げたい。
イ.
アクティブ・シニア
による新たなライフスタイル
①多彩・多様化
「団塊世代は大きな塊」と見て、そのライフスタイルを均一・一様のものとする見方
は事実に反するだろう。「団塊世代」というネーミングが一般化した高度成長期には、
「会社人間」、「専業主婦」に代表される団塊世代特有のライフスタイルが目立ったが、
経済成熟期における団塊世代の消費行動は多様であり、団塊市場は「多様なミクロ市場
の集合体」であるといわれる。高度成長期を体現し、総じて、高い貯蓄を持ち、アクテ
ィブな世代とはいっても、人口が多いだけに、その生き方、価値観は多様であり、個性
化しているといえよう。ちなみに、60 代男性を「経済的余裕度(お金持ち)」と「時間
的余裕度(時持ち)」という消費行動と関係の深い2要素で4タイプに分類すると、両
方の要素を持つ「金時持ち」37.8%、お金を持つ「金持ち」4.9%、時間に余裕を持つ
「時持ち」39.6%、両方とも持たない「貧乏暇なし」17.7%となっている(博報堂生活
総合研究所、2002)。
②快適・安全・安心
消費欲求は、基本的に2つの方向性で構成されるといわれている。2
日常生活で欠
乏・欠落した部分を補う方向と、より多くの快を求める方向である。高齢化は「喪失」
を伴うものであり、喪失を遅らせるところに市場が生れる。また、衰えていくからこそ、
今を楽しみたいというニーズが生れる。快いこと、愉快なこと、快適であることを提供
2
関沢英彦「団塊世代の引退と消費行動」(樋口美雄他「団塊世代の定年と日本経済」)
7
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するところにも中高年の市場が生れる。こうした「不安を減らしたい」という欲求と「楽
しさを増やしたい」という欲求を軸に、後述するような衣・食・住を基本に遊び・旅行
など様々な市場を考えることが出来る。
③ゆとり・スローライフ
経済はグローバル化が進み、同時に情報化社会の進展により規模拡大による効率化と
スピードが求められてきた。しかし、定年年齢の 60 歳前後からの高齢者が迎える人生
は、多忙な社会的役割から自由になり、個人生活を取り戻せる時期である。大きさやス
ピードを競うのではなく、快適で深く落ち着いた居心地のよさが求められるであろう。
このため、むしろ「小さく、ゆっくり」をベースにしたものへのマーケティングが求め
られる。家電製品や車も効率重視の多機能なものよりも、簡便で快適、そして安全であ
ることが求められる。住宅も、子供が巣立ち、「標準世帯」から夫婦二人や単身世帯が
増える中で、バリアフリーで安心・快適を旨としたリフォームが一般化すると思われる。
④交流・仲間・地域貢献
団塊世代の定年・引退期における大きな変化の一つに、会社、あるいは家庭という集
団(「役割」)からの離脱、ということがある。「標準世帯」から夫婦二人や単身世帯
が増える中で、団塊世代は、夫婦で行動するケースが多いといわれるとはいえ、趣味・
嗜好には大きな違いもある。個人の生き方、価値観が重視されるライフスタイルが主流
となる中で、趣味・嗜好を異にする夫婦にも新たなライフスタイルが生れることも予想
される。仕事やボランティアの取組みとともに、家事の分担など夫婦間の役割が見直さ
れることになろう。夫婦も含めて、趣味や地域をベースにした交流・仲間作りが進むと
予想される。
また、団塊世代の多くが考えていると思われることは、就業という形をとるかとらな
いかは別として、地域や社会の役に立ちたい、貢献したいという思いをどう実現するか
ということである。この社会の役に立ちたいという思いは、生きがいを持つことに通じ
ると考えられるが、その大半は就業という形をとらずにボランティアという形をとると
予想される。地域の福祉や生活環境保全など団塊世代を地域社会に招じ入れるネットワ
ークなどが今後一段と活発化すると予想される。
⑤情報活用
団塊世代はITの活用に慣れ親しんだ世代である。団塊世代は、シニア世代と違って、
キーボードにアレルギーがない最初の世代と言われており、情報化社会に適応する能力
を持っている。携帯電話やパソコンの利用度も高く、ネット通販やサービスに対する受
容度は高いと見られる。また、ITの普及もあって、地域的な交友関係においても、従
来の伝統的な地域限定型(近所づきあい)から、友人を中心とした交友関係の拡大とい
う新しい社会関係が生み出されようとしている。既述のように、親子同居のような家族
形態の一方で、夫婦だけ、あるいは一人暮らしが増えていく状況になれば、高齢者の「個
人」を軸とした様々なネットワークの形成が一段と進むと予想される。
8
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ロ.活動分野
(イ)退職・引退後は「趣味]や「地域活動」など
「定年後、時間を費やしたい
こと」についての調査結果(日
図表9 定年後、時間を費やしたいこと
%
%
100
本ファイナンシャル・プランナ
60
90
全体 複数回答
50
80
ー協会、05 年 11 月、三大都市
最も生きがいを感じることができそうなもの 1つ
だけ (右目盛)
70
圏の団塊世代の会社員 900 人
40
60
50
が対象)によると、「定年後、
30
40
時間を費やしたいこと(複数回
30
答)」では、「趣味や興味関心
10
20
20
10
答
回
無
行
の
他
そ
の
孝
仕
へ
や
業
事
起
こ
す
親
や
得
取
ケ
ミュ
ニ
分
で
の
と
し
子
自
供
・孫
新
事
強
勉
シ
ョン
ー
産
資
で
の
コ
資
格
事
仕
活
動
会
先
社
い
就
職
ィア
な
ど
ボ
趣
(51.1%)がこれに続く。「ボ
ラ
ン
テ
ス
味
や
興
味
関
多く、「スポーツやレジャー」
ポ
ー
心
ツ
や
の
レ
あ
る
こ
ジ
ャ
ー
と
0
運
用
0
のあること」が 87.2%で最も
(備考)日本ファイナンシャル・プランナーズ協会「セカンドライフに関する意識調査」(05年11月)
より信金中金総研作成
ランティアなど社会活動」
(37.0%)、「新しい就職先での仕事」(36.8%)も比較的多くなっている(図表9)。
また、「最も生きがいを感じることができそうなもの」を1つだけ尋ねたところ、「趣
味や興味関心のあること」が 52.1%で最も多く、次いで「ボランティアなど社会活動」
が 11.1%で続いている。
なお、男女別では、「新しい就職先での仕事」が男性で 40.3%であり、女性(20.5%)
と比較して約 20 ポイント高い。一方、「子供・孫とのコミュニケーション」、「親へ
の孝行」では女性がそれぞれ 32.5%、20.5%と男性(同 19.1%、10.1%)に比べて高
くなっている。
(ロ)やってみたかったができなかったこと∼旅行・ロングステイ
同調査で、「日頃または若い頃
図表10 やってみたかったができなかったこと
やってみたかったことでできな
旅行、ロングステイ
かったこと」の有無を尋ねたとこ
違った職業
勉強
ろ、「ある」が 47.9%、「ない」
が 49.4%で、ほとんど差が見られ
習い事
菜園・農業・田舎暮らし
小説・エッセイ・芸術など創作活動
その他趣味
資格取得
なかった。「やり残したことはな
い」と約半数が回答していること
スポーツ
起業・店
登山・ウォーキング
になり、自己実現の高さがうかが
歴史・文化
資産運用
える。「できなかったのはどのよ
0
5
10
15
20
25
30
35
(備考)日本ファイナンシャル・プランナーズ協会「セカンドライフに関する意識
調査」(05年11月)より信金中金総研作成
40
%
うなことか」を尋ねたところ、
「旅行・ロングステイ」(36.9%)が最も高い割合を占め、「勉強」(12.4%)、「違
った職業」(12.0%)、「習い事」(9.8%)、「菜園・農業・田舎暮らし」(7.1%)
と続いており、定年後、やってみたいこと(前出)の「趣味・関心事」、「勉強・資格
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取得」、「起業」など項目が類似している(図表 10)。
4.団塊世代市場に向けた中小企業等の取組事例
団塊世代市場として、「衣」、「食」、「住」の基本的な市場に加えて、「遊ぶ・旅
行」、「学習・教育」、「移動・移住」、「地域貢献」の分野を中小企業等の取組事例
とともに取り上げたい。
(1)衣生活の市場
今後期待できる中高年向け商品として機能性衣服が挙げられる。寒暖の変化に対応し
て暖める、冷やすという機能をもった衣服は体温調節機構の衰えた年代に役立つ。同時
に、アウトドアスポーツ用の高機能商品も成長性が高いとみられる。また、衣生活との
関連で、高級な靴や時計、鞄など身の回り品にこだわる男性が増えてきたともいわれて
いる。
事例:㈱美光∼素材・機能にこだわった下着作り
(業種:インナーウエア製造
住所:東京都墨田区
従業員:40 人
年商:20 億円)
①事業内容・特色
当社は、ミセス、シニア向けを中心とする高級下着メーカーである。当社のミセス、
シニア向け下着、「癒しの工房」シリーズ製品(自然に近づき、生命を育む伝統の知恵
を生かしたモノ作り)は、保湿性、水分の吸収・発散、フィット感など、美容と健康を
実現するための素材・機能にこだわった製品である。なかでも、
最高級コットン「海島綿」を使用した女性用肌着を製造販売し
ているのが当社の特色である。「海島綿」とは、西インド諸島
のごく限られた地域でわずかにしか産出されない、カシミアの
ような肌触りと絹のような光沢を有する超長綿繊維である。そ
の供給はわが国では「西印度諸島海島綿協会」により管理され
ており、同協会から品目ごとに業界トップクラスから選定され
たメンバー企業のみが原綿の供給を受けることが出来るもの
である。当社は、5年前に有名百貨店の紹介により、女性用下
当社の製品例
着メーカーとして同協会からライセンスを受け、「海島綿」の商品を生産している。
このように素材と機能にこだわった高付加価値製品のため、商品単価は若者向けに比
べて約2倍と高く、特に材料費の高価な「海島綿」については2∼3倍と高いが、シニ
ア層の一部にニッチ市場を開拓している。
②高齢者市場開拓の取組み
創業以来、女性向けの高級下着の製造販売を行ってきたが、超高齢社会の到来を考え、
99 年からミセス、シニア向け市場に本格参入した。しかし、後発のため、既存メーカー
と差別化を図るため、機能と素材にこだわった高付加価値商品を手がけ、「癒しの工
房」シリーズとして固定客の確保を目指した。販路は、有名百貨店2割、通販会社6割、
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直販の通販2割である。直販については、JRの「ジパングクラブ」に広告を掲載し、
広告を通じて当社製品を購入した顧客に、商品カタログを年4回送付し、現在では高齢
者層を中心に約2万 3,000 人の顧客を獲得している。
③今後の課題
シニア層に求められる癒しや健康といった機能は今後とも変わらないと見られ、今後
は団塊世代向けに本物志向の製品を開発していきたいとしている。
一般に、衣料品業界は、海外生産へのシフトが進んでおり、中国などからの安価な輸
入品に市場が席巻される状況になっている。こうした中、当社は国内に有力縫製メーカ
ーをグループ化し、品質を重視した国内生産を大事にしている。また、現在のミセス、
シニア向け製品はデザインが比較的保守的なものである。しかし団塊世代が高齢化して
いくに伴い、現在の若者向けのデザインを取り込んでいくことが必要であると考えてい
る。販売チャネルについても、情報リテラシーの高い団塊世代向けにはネット販売の重
要性が高まっていくと考えており、ネットによる直販に注力していく意向である。
(2)食生活の市場
食生活は高年齢者にとって最も重要な生活分野といわれる。機能性食品、特定保健用
食品などの分野の成長も著しく、高齢化の中で今後とも発展していくと思われる。また、
健常者向けグルメ嗜好の料理や食品と同時に、高齢者や要治療者向けの食事サービスな
ども注目されよう。
事例:㈱秀栄∼高齢者食・治療食の宅配サービス
(業種:宅配食事サービス業
住所:東京都杉並区
従業員:60 人
年商:3億円)
①事業内容・特色
当社は、高齢者食(消化しやすく、栄養のバランスにも優れた食事)・治療食(糖尿
病や高血圧症の患者、人工透析を受けている人、脂
質をコントロールする必要がある人などを対象に
した食事)に特化した宅配食事サービス業者である。
特に、治療食を提供する企業は当社に限られるなど
ユニークな存在として顧客に好評を得ている。冷
凍・チルド商品を宅配する競合他社はあるが、常温
でそのまま食べられ、旬の食材を使った献立を提供
できることに当社の特色があり、合わせて、これを
可能とする短時間での宅配ノウハウが当社の強み
製造風景
となっている。また、高齢者食・治療食の提供のため、病院での食事相談の経験者を持
つ栄養士を抱えるなど高付加価値を追求できる人材と経験を有している。
②高齢者市場開拓の取組み
設立から約 20 年間は、企業向け弁当の製造・配送を手がけてきたが、91 年に、杉並
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区の福祉公社から高齢者向け宅配食事サービスを受注したことを契機に高齢者食市場
に参入した。その後、01 年には、より付加価値の高い分野を目指すべく治療食を手がけ
るとともに、渋谷区、練馬区など近隣地域への営業拡大を図ってきている。
顧客は、短いケースとしては1か月から2∼10 年の長期利用者まで様々であるが、常
時 2,000∼3,000 人を擁し、1日約 1,000 食を提供する。営業方法は、高齢者と接触す
る機会が多い病院や介護施設などを対象にパンフレットを定期的に送付し、ケアマネー
ジャーやヘルパーから退院後の自宅療養者や在宅要介護者等の紹介を受けるなど口コ
ミによるところが大きい。
③今後の課題
今後、団塊世代の高齢化に伴って、生活習慣病を持つ高齢者が増加すると予想される。
団塊世代は、「必要なもので、美味しければ、少々高くても使ってくれる」と期待でき
る。そうした変化に対応するため、高齢者食と治療食の双方の要素を有する献立の開発
をこれまで以上に進める予定である。また、団塊世代の多様なニーズに対応するため、
利用者個々のニーズに応じた献立を細かく調整できるようにしていきたいと考えてい
る。団塊世代は情報リテラシーも高いので、ネットでの受注体制を工夫する(検索時に
当社が上位にランキングされるなど)などの対応を行っている。
営業地域も拡大を図りたいが、常温の食事を短時間で効率よく宅配するには宅配のノ
ウハウが必要であり、土地勘のない地域での営業は容易ではない。このため、今後は、
縦(浸透度を高める)・横(隣接地域)の展開により、着実に顧客の増加を図っていき
たいと考えている。
(3)住生活の市場
バリアフリーや子供が巣立った家のリフォームは今後大きな市場である。また、都市
部の治安の悪化を背景に、住まいの安全機能を高めようとするニーズも強い。ユニバー
サルデザイン、地震対策などと組み合わせたセーフティネットを備えた住宅が成長する
可能性が高い。
事例:京葉システム技研㈱∼一人暮らしの高齢者の生活支援
(業種:コンピュータ関連機器製造
住所:千葉県千葉市
従業員:11 人
年商:約2億円)
①事業内容・特色
当社は 76 年に設立された京葉システム㈱(人事労務関係ソフトウエア開発)のハー
ドウエア開発部門として 89 年に設立されたもの。設立以来、人事管理に関連するハー
ドウエアである時間管理端末装置、入退出セキュリティ装置、音声発声装置、各種セン
サー等の開発を行ってきた。02 年には、発信者の情報表示や登録者への自動通報など、
電話とパソコンを連動させるコンピュータ・テレフォニー・インテグレーション(CT
I)システム「センシティ」を開発・発売した。このシステムは、販売管理や顧客管理
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に活用できるほか、同社の電話通報装置や音声発声装置「センスコール」と組み合わせ
ることで、セキュリティやリスク管理の総合システムが構築できる。
②「独居老人の異常通報」システムの開発
高齢者の単身世帯が増加する中で、周囲に住む人が一人暮らしの高齢者の生活を気に
かける場面が増えてくると予想される。こうしたニーズに応える支援システムとして、
当社は住宅用独居者異常通報システム「ひとりじゃない」を開発した。トイレや台所な
どに人感センサーを設置、一定間隔を越えて独居者の
検知がない場合には異常と判断し、家族らに電話で通
報する。人感センサー、音声発声装置、電話通報装置
などで構成され、あらかじめ録音した通報用のフレー
ズで合計6か所の連絡先に電話通報する。屋内におけ
る独居者の日ごろの生活を見守るのはもちろん、帰宅
が遅いと心配の通報も行う。家族の側からはセンサー 「独居老人異常通報システム」
を通じて得た安否情報を「2時間以内に行動がある」
などの音声で確認できる。独居者がヘルプボタンを押せば近隣住民らに助けを呼ぶこと
も出来る。なお、このシステムは、外出中に不審者が侵入すると、独居者や家族に知ら
せる防犯システム「防犯これ一番」と一体化し多機能化を図っている。
③今後の課題
これまでは人事関係を中心に企業向け製品を手がけてきたが、高齢者など家族の安全
と安心を守るセキュリティシステムは個人向け商品であり、マーケティングに工夫が必
要である。独居者異常通報システムについては、警備会社や介護事業者等と連携しつつ
学校、銀行、生協といった職域ルートの販路開拓を準備しているところである。また、
高齢者に対する販売活動を展開するには、製品に対する信頼性を高めることが重要と考
え、㈶テクノエイド協会(福祉用具の研究開発、普及等を目的に 87 年に設立された機
関)の福祉用具情報システムに登録した。また、製品開発を進める上で、公的機関の補
助金(千葉県経営革新支援対策費補助金)を活用したことを明示するようにしている。
(4)遊び・旅行の市場
先のアンケートでも見たように、団塊世代が「やってみたかったことでできなかった
こと」の筆頭が「旅行・ロングステイ」である。団塊世代の場合は海外旅行の体験も多
く、再訪も含めて、夫婦、友人とのグループ旅行など大きな成長が期待できる。
事例:㈱エス・ピー・アイ∼介護旅行サービスによる旅のユニバーサル化
(業種:旅行サービス業、人材派遣業
住所:東京都渋谷区
従業員:5人
年商:約2億円)
①事業内容・特色
当社は、国内唯一とみられる介護旅行サービスを専門に提供する旅行サービス業者で
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ある。当社の強みは、介護サービスがベースにあること、介護旅行のさきがけとして専
門性のあるスタッフを有し、ノウハウの蓄積や、介護・医療機関との人脈があることで
ある。
事業内容は、当社が主体となって推進している民間資格であるトラベルヘルパー(ホ
ームヘルパー2級以上の資格を持ち、国内・海外
旅行の身体介護とこれに付帯する業務を行うスタ
ッフで、全国に約 400 名の登録者を有する)の育
成・派遣(売上の約7割)、介護旅行サービス(自
宅を出るところから帰宅までのトラベルヘルパー
のサービスを提供)(同約3割)である。利用者
の大半は健康上何らかの不安を抱える 70 歳代後
半∼80 歳代の高齢者であり、価格は一般のパッケ
ージツアーより当然割高になるが、出来るだけ明
介護旅行の一場面
確な価格基準を設けることにより、利用者の納得性を高めている。
②市場開拓の取組み
91 年の設立当初は一般旅行者を対象とする旅行人材(ツアーコンダクター等)の派
遣・育成事業を行っていた。しかし、社長が、旅行会社の添乗員時代に 80 歳過ぎのお
ばあちゃんに「自分の荷物が持てなくなったら、旅行をやめる」といわれたことを振り
返り、「高齢化が進む中で、通常の添乗ではなく、もう一歩踏み込んだサービスを行え
ば、旅行を続けられるのではないか」と考え、介護旅行人材(トラベルヘルパー)の育
成を図るとともに、高齢者・障害者旅行の取り扱いを始めた。
98 年には、高齢者と高齢者を支える人との架け橋として、「あ・える倶楽部」(年齢
と障害を超えて、より活動的に、快適な日常を送れることを願う人のための会員組織で、
会員数は約 4,000 人)を設立した。また、06 年には、認知度の低い「トラベルヘルパー」
の資質向上と社会的役割を広めるため、NPO法人「日本トラベルヘルパー協会」を立
ち上げ、「誰もがいつまでも旅を楽しむことができる社会環境」という 旅のユニバー
サルデザイン化
を実現させるための活動を行っている。
③今後の課題
「もう、旅なんて出来ない、行きたいけど行けない」と考えている人に当社の存在を
知ってもらい、いかに情報を届けるかが課題である。そのため、「日本トラベルヘルパ
ー協会」、「あ・える倶楽部」の活動のほか、「旅は心身のリハビリ」との考えの下で、
日常と非日常をつなげる重要性から、旅行だけでなく、旅の前後を含めた介護旅行の ワ
ンストップサービス を目指している。既に介護・認知症予防のための教材開発や健康
旅行の企画、旅行前の健康づくりや介護予防の講座(認知症予防教室「ボケない脳は旅
で鍛える」)等に取組んでいる。こうした活動を通じて、介護旅行に加え、身近な外出
支援を事業のもう一つの柱にしていきたいとしている。
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(5)学習・教育の市場
女性を主な対象としてきたカルチャーセンターが、あらためて団塊男性にも注目し始
めている。また、本格的に再学習したいという団塊世代向けに大学・大学院は引退した
人を学生として受け入れる体制を整え始めている。
事例:たまがわ生活文化研究所㈱∼生活充実型カルチャーセンター
(業種:カルチャーセンター
住所:東京都世田谷区
従業員:44 人
年商:約 4 億円弱)
①事業内容・特色
玉川髙島屋ショッピングセンターを母体とする流通
系のカルチャーセンターで、「コミュニティクラブた
まがわ」を運営する。業界の草分けとして約 30 年の業
歴を持ち、ミセス向け生活充実型総合カルチャーセン
ターとして、地元密着の安定した事業基盤を有してい
る。地域住民のQOL(生活の質)向上を目指す約 300
カルチャーセンター作品例
講座を企画・運営し、会員は 50 歳代後半から 60 歳代
を中心に約 3,800 人を擁して、継続率も高い。
②高齢者市場向けの取組み
発足当初は玉川髙島屋ショッピングセンターの商圏内に居住するミセスを対象とし
ていたが、継続会員の高齢化に伴い、50 歳以上のシニア層をターゲットとして意識する
ようになった。相対的に所得階層の高い地域でもあり、一流とされる講師陣を招聘する
など質の高い講座の企画・提供を行ってきた。
③今後の課題
マスコミ系、流通系など同業者間の競争が激しくなっている中、会員数の増加だけで
なく、話題性のある魅力ある講座を企画して差別化を図ることが必要である。
2007 年問題については、余暇が大幅に増える団塊世代の男性の関心を集めようと業界
でも知恵を絞っているが、「カルチャーセンターは女性向けが主流」が定着しているだ
けに団塊世代の男性を呼び込むことは容易ではないとしている。料金とプライドの2つ
がネックとされるなど、成功例は今のところ少ないといわれている。
(6)移動・移住の市場
団塊世代の退職・引退を契機に、ふるさとへのUターン、Jターン、Iターンがあら
ためて注目されている。過疎化に悩む地方自治体は、都市部に居住する団塊世代の積極
的な誘致活動に取り組んでいる。また、政府としても、「再チャレンジ支援総合プラン」
3
のなかで、「UJIターンや二地域居住への支援」を打ち出すなどの取組みを進めてい
3
07 年 12 月 25 日に「多様な機会のある社会」推進会議が取りまとめたもの。「人生の各段階における働き方、学び方、暮らし方
について選択肢を多様化するため、高齢者・団塊世代の活躍の場や社会人の学び直しの機会の拡大、農林漁業への就業支援をはじ
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る。
事例:NPO法人「ふるさと回帰支援センター」∼都市生活者の地方移住支援
近年、地方暮らしを希望する都市生活者が増えている。こうした時代要請を受けて、
02 年 11 月、連合、JAなどが中心となってNPO法人「100 万人のふるさと回帰・循
環運動推進・支援センター(略称:ふるさと回帰支援センター)」が設立された。
「100 万人のふるさと回帰・循環運動」は、全国知事会や全国市長会をはじめとする
地方6団体などの後援のもとに、新しいライフスタイルの創造を視野に入れて、都市生
活者がUターン、Jターン、Iターン等を通じて、多様な形で地方・農山漁村に回帰・
循環し、健康で安らぎのある生活を創造しようという運動である。会員は福井県、和歌
山県、千葉県鴨川市、長野県上越市、鹿児島県霧島市など 32 自治体等団体、個人約 500
人である。
同センターは、帰農・就農、就労だけでなく、定年後に年金を糧に地方でのゆとりあ
る生活を希望する人や、都市生活者が一時的に地方に滞在し、自然の中でより豊かな生
活を楽しむことを考えている人等をも支援している。
このため、インターネットなどを活用した各種の情報提供、回帰のための研修などの
支援活動を行っている。また、東京銀座に、「ふるさと暮らし情報センター」を開設し
て、「ふるさと回帰支援センター」の活動や 200 を超える全国の自治体や団体の幅広い
活動を、会員および都市住民に紹介している。
地方自治体の先進的取組事例としては、長野県の飯山市ふるさと回帰支援センター、
福島県の小野町ふるさと回帰支援センターなどがある。
事例:飯山市ふるさと回帰支援センター
同センターは、NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の地方自治体会員の第1号
として、長野県飯山市とJA北信州みゆき、飯山市
観光協会などにより 03 年に設立され、都市部住民に
対する田舎暮らしについての情報発信や体験メニュ
ー提供を行っている。これまでに一部2地域居住を
含め 50 世帯、約 110 人の定住を実現させており、年
齢層は 30∼60 代と幅広いが7割は 50 代という。
支援メニューとして、「一時滞在」(手軽な農業、
自然体験)、「長期滞在」(農作業、田舎暮らしの 飯山市の風景
体験)、「定住」(空き家、住宅、建築等に関する情報提供)がある。「田舎体験プロ
グラム」として次のコースが用意されている。
①四季講座「飯山まなび塾」(年4回、2泊3日)
座学(農業、ふるさと暮らしなど)、体験(田植え、野菜収穫など)、交流などを行
めとするUJIターンへの支援や二地域居住への支援等を推進する(複線型社会の実現)」としている。
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い、四季を通じた飯山の生活、気候を体験してもらう。
②農的田舎暮らし「百姓塾」(5∼11 月、7回、1泊2日)
農業に興味のある人向けに、田畑を耕し、植え付け・管理・収穫を通じて農業の楽し
さや大変さを実感してもらう。
③ふるさとへの出発点(民宿素泊まり+畑 200 ㎡、20 泊∼100 泊)
田舎暮らしの第一歩として、長期にわたり農家民宿に泊まって 200 ㎡の畑で農作業を
自由に行い、田舎暮らしを実感してもらう。
定住者の体験事例を紹介しよう。
●K夫妻の事例
K夫妻は東京での仕事に追われる生活に疲弊
していたが、Kさん(東京・板橋出身)51 歳、妻
(神奈川・横浜出身)50 歳の時に早期退職し、長
野・豊田村(現中野市)に移住した。K夫妻が北
信州を訪れたのは 04 年 12 月。JAが展開する田
舎暮らしの支援プロジェクトをインターネット
で見つけ、すぐに資料請求した。斡旋対象の土地
建物を案内してもらった折に見た築 120 年の古民 古民家の一例
家に惚れ込んで即断即決した。翌年1月に再訪、2月に仮契約、5月に引越し、住みな
がらのリフォームに取りかかり、今では快適な生活に満足している。今のところ仕事は
していないが、地元のために何かしたいと考えている。暇にしていると、何かと仕事を
頼まれるようになるケースもあるようだ。
一般に、田舎暮らしは、厳しい環境に加え、人間関係が濃いことも多い。相互扶助の
意識を強く残す地方にあっては、区費を納めたり共同作業したり、守るべきルールがあ
る。都会の感覚をそのまま持ち込んだら、まず失敗するといわれる。K夫妻は、とりわ
けK氏が人間好き、子供好き、話し好きの性格が幸いして、近所の人に好感を持たれて
いる。
2人には、それぞれの原体験がある。Kさんは生れも育ちも東京・板橋だが、近くに
は宿場もあって、下町の情緒を残す土地柄だったという。「子供のころに出会った近所
の人たちの気さくで世話好きの人情が、いまこの地域の人たちと似ている気がする。」
という。妻も神奈川・横浜の 豊かな里山 の生まれで、K夫妻はいま、ふるさとに帰
ってきたような暖かさを感じている。
(7)地域貢献
一般的な流れとして、地方自治体は市民団体との協働に取り組んでいる。背景には、
①箱物の施設管理に手が回らなくなったこと、②これまで社会福祉協議会(社協)活動
の一環として福祉を重視してきたが、これを担うボランティアが不足してきたこと、③
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課題が福祉だけでなく、国際化、環境と広がってきたため、公設では手が回らなくなっ
ていることなどがある。そこで、団塊世代の退職・引退を契機に、地方自治体は積極的
に団塊世代の地域活動への取込みを図っている。
事例:八王子市民活動協議会、八王子市市民活動支援センター∼団塊世代の地域デビュ
ー支援
①八王子市民活動協議会、八王子市市民活動支援センター
八王子市は、NPO法(特定非営利法人活動促進法)の施行を受け、02 年2月に「行
政と市民活動団体(NPO)との協働のあり方に関する基本方針」を策定、これに基づ
き、市民活動を支援するセンターを開設することとし、運営を委託する市民組織として、
同年7月に「八王子市民活動協議会」が発足した。
同協議会は、市民、NPO、ボランティア、町会・自治会、企業、大学、行政などの
地域のネットワークを広げ、相互の連携をコーディネートする市民による市民のための
中間支援組織を目指し、市民活動の情報収集や発信、団体運営の相談、人材育成など、
自主・自立した市民活動の支援に取り組むこととした。なお、協議会は、指定管理者制
度導入の中で、05 年 12 月NPO法人の認証を取得した。
協議会の会員は、152 名(正会員 84(団体 49、個人 35)、賛助会員 26、協力会員 42)。
事業としては、市民活動支援センターの管理運営、市職員を対象とした協働研修、市
民を対象とした市民活動啓発講座など、市との協定に基づく事業のほか、自主事業とし
て、「NPOマネジメント講座」や定年退職等を迎えた方々を対象に地域活動のきっか
け作りを狙いとして「お父さんお帰りなさいパーティー」などを実施している。
八王子市市民活動支援センターは、公益的な市民活動の支援拠点として、03 年6月に
公設民営方式で開設した。開設当時は、市からの委託方式で管理運営を行っていたが、
06 年4月から 11 年3月までの5年間の指定管理者として協議会が管理運営を行うこと
となった。運営体制は、常勤のセンター長、副センター長のほか、セミ常勤スタッフ3
名、非常勤スタッフ4名(広報誌、HP、データベース、啓発を担当)の計9名で、市
民公募によるシニア世代で構成されている。
公設民営センターとして全国的に注目され、多数の地方議員や行政関係者の視察見学
来訪が多い。
②「お父さんお帰りなさいパーティー」
「八王子市民活動協議会」の主催により、定年退職等を迎えた方々を対象に地域活動
のきっかけ作りを狙いとしてこれまで6回開催してきており、NHKの全国放映(06 年
10 月 30 日「団塊世代が日本を救う」)などを機に知名度も高まっている。協議会の自
主事業として民間主導で行っている。07 年2月に実施した第6回では 166 名(一般参加
者 97 名、団体参加者 51 名ほか)が参加し、市民活動団体の紹介や体験発表、懇談・交
流などが行われた。
「お父さんお帰りなさいパーティー」を一過性のものとせず、参加者の今後の地域活
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動に結びつけるためには持続的な取組みが重要と考え、06 年9月から「地域デビュー講
座」(期間4ヶ月)を開催している。内容は、「地域活動、市民活動」、「八王子を知
ろう」から始まり、「地域団体運営のノウハウ」や実務研修、チーム研究発表まで実践
的なものになっている。
③八王子市の強み・特色
人口約 54 万人を擁する八王子市は、
東京都にあって自然豊かな郊外に位置しており、
学園都市(21 大学 11 万人の学生を擁する)として産学連携の推進に取り組むなど地域
活性化が進んでいる。こうした恵まれた環境に加えて福祉重視の施策もあり、高齢者向
きの地域といわれ、団塊ジュニアの定住などから人口も増加している。55∼64 歳が8万
人を数え、今後高齢化が急速に進む見込みである(65 歳以上 10 万人(18.4%)、55 歳
以上 18 万人(33.4%))。
八王子市は、上記の取組みに見られるように早くから団塊世代に向けた取組みを行っ
ている。市民活動推進部協働推進課を置き、課内には、「団塊世代等地域参加支援デス
ク」を設置して、団塊世代の地域参加の相談に乗っている。また、高齢者支援課でも、
「シニア元気塾・団塊世代対象コース」(55 歳以上)を開講するなどの取組みを行って
いる。
④地域の団塊世代に対する期待は大きい
雇用延長や年金給付年齢の引上げなどもあり、団塊世代の地元回帰にはしばらく時間
がかかるだろう。
しかし、いずれは地域活動へ参加してくると見られる。最初は趣味への関心・志向が
中心でも、やがて市民活動、ボランティア活動へと関心が広がり、ゆくゆくは有償での
事業、起業(株式会社)へと発展してくると思われる。その場合の課題は「受け皿」で
あり、先導役として団塊世代の上のシニア世代の役割が重要である。
シニア世代と団塊世代の大きな違いは、シニア世代は「体験がモノをいう」のに対し
て、団塊世代は「体験+情報力」、すなわち、ITを活用した情報力が大きな力を発揮
することである。団塊世代は職場でのリストラなど挫折経験なども地域活動のばねにし
ていく力を有していると見られ、会社で培った力を地域で活かせば、その潜在能力はき
わめて大きいとみられる。
おわりに
団塊世代が定年・退職時期を迎え、「2007 年問題」をはじめ様々な論議が盛んに行わ
れるようになった。団塊世代の高齢化により、高齢者人口の増加とともに、少子化によ
る人口減少から高齢化率が急速に上昇し、わが国の高齢化は一段と進展する。
そうした中、平均寿命の上昇により、「定年」=「引退」の構図はすでに崩壊してお
り、当面は、前期高齢者(65∼74 歳層)を中心とする
アクティブ・シニア
層が新た
なライフスタイルを創造していくと期待されている。その予想される活動分野は多種・
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多様であり、そこに創出される商品・サービス市場も「多様なミクロ市場の集合体」と
いわれている。
地域金融機関にとっても、都市生活者のふるさと回帰支援活動の動き等も含めて、地
域における団塊世代に向けた取組みなど「団塊世代」の動向を注視していくことが重要
であろう。
以
(平井
上
昌夫)
<参考文献>
・樋口美雄+財務省財務総合政策研究所『団塊世代の定年と日本経済』日本評論社(2004)
・前田信彦『アクティブ・エイジングの社会学』ミネルヴァ書房(2006)
・齋藤毅憲・藤野次雄他『アクティブ・シニアの消費行動』中央経済社(2003)
・桝添要一他『超「団塊」2007 年問題に立ち向かう!』宝島社(2005)
・原田泰・鈴木準+大和総研『2007 年団塊定年!』日本経済新聞社(2006)
・村田裕之『団塊・シニアビジネス』ダイヤモンド社(2006)
・高橋伸彰『少子高齢化の死角』ミネルヴァ書房(2005)
・日本経済研究センター『図説団塊マーケット∼巨大消費集団の未来を読む∼』日本経済新聞社
(2006)
・辻中俊樹『団塊が電車を降りる日』東急エージェンシー(2005)
・厚生労働省『高齢社会白書』(各年版)
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