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サービスデリバリープラットフォーム(SDP)
エンタープライズIT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ) 特集 サービス提供基盤(SDP)の技術動向とベンダー各社の取組み 総論 日本電信電話(株) サービスインテグレーション基盤研究所 所長 三宅 功 れらを明確にするには、誰がどのよ ととなる。このことが、SDP 自体 うなサービスを誰に提供するかを理 の明確な技術規定、実態をわかりに 解しておく必要があると考えられ くくしている原因であろう。そこで、 現在、わが国をはじめとして世界 る。一般的に SDP とは「固定系、 まず典型的な通信事業者とサービス 各国で次世代通信網(NGN)構築 移動系通信サービスプロバイダが、 プロバイダのサービス連携の実現例 に向けての構想の発表、技術開発及 インターネットサービスプロバイダ である、NTT ドコモの i-mode サー びトライアルといった動きが活発化 やコンテンツプロバイダと連携し ビスを例に SDP に対する機能要件 してきており、この NGN 構想の中 て、次世代のマルチメディアサービ を考えてみよう。 でサービスデリバリープラットフォ スを一般のコンシューマあるいは企 ーム(SDP)という技術が注目さ 業ユーザーに提供するための IT ソ れている。しかしながら、現状 リューション」と捉えることができ SDP 自体に技術的に明確な定義や よう。しかしながら、通信サービス 皆さんよくご承知のように、i - 規定が存在しているわけではない。 プロバイダが提供するどのようなサ mode サービスでは NTT ドコモが提 次世代通信網の中でネットワークキ ービス(音声通信、映像配信、イン 供するサイトを通じて様々なコンテ ャリアやサービスプロバイダ、ある ターネットアクセス等)と上位のサ ンツプロバイダに接続され、コンテ いはシステムベンダがそれぞれの立 ービスプロバイダが提供するどのよ ンツの提供が行われている。それと 場で SDP の位置づけや技術要件、 うなサービス(Web コンテンツ、E 同時に料金の代行徴収等のサービス 必要機能を活発に議論しているのが コマース、映像コンテンツ等々)を 連携が実現し、同様のサービスは他 現状である。そこで、本稿ではそも 連携させてエンドユーザーにサービ の移動系通信サービス事業者からも そも SDP がどのような背景から注 スを提供するかは、様々な組み合わ 提供されている。先に総務省より発 目され始めたのか、またどのような せが考えられる。 表された「モバイルコンテンツの産 はじめに i-mode サービスに見る SDP の雛形 また、今後の NGN の発展を考え 業構造実態に関する調査結果」※ 1 で ると、通信サービス自体もさらに多 は、2006 年時点でモバイルコンテ 様化、高度化し、かつその上位サー ンツ市場(着メロディ系、着うた系、 ビスもこれに呼応して新しいものが モバイルゲーム等)で 3,661 億円、 続々と生まれてくることが容易に想 モバイルコマース市場(物販系、サ 現在点でサービスデリバリプラッ 像される。したがって、両者を連携 ービス予約系、トランザクション系 トフォーム(SDP)自体の技術的 させてサービスを提供するとして 等)で 5,624 億円の市場規模となっ に明確な定義や規定、アーキテクチ も、その実現のための技術要件は提 ており、合わせて約1兆円の市場規 ャが確定しているわけではない。こ 供するサービスに応じて進化するこ 模が創出される結果が出ている。ま サービスの提供が考えられているの かを解説したいと思う。 そもそも SDP とは? 16 ビジネスコミュニケーション 2007 Vol.44 No.10 エンタープライズIT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ) 総論 ユーザー ID の交換手順や認証手順、 1. ユーザーID(uid)提供 コンテンツプロバイダに対し、ユーザー(電話番号)にユニークなIDを払い出す サービス提供に必要な情報(コンテ AタグあるいはINPUTタグでuid 〈INPUT TYPE-“ hidden”NAME=“uid” に“NULLGWDOCOMO”設定 VALUE=“NULLGWDOCOMO”〉 ンツの ID など)のやり取りといっ コンテンツ iモード サーバ uid=01xxxxxxxxxx uid=NULLGWDOCOMO 電話番号:xxxxxxxxxxx uidは12桁英数字 先頭2桁で PDC/FOMA判別 電話番号→ユニーク なuidへ変換 電話番号は専用 プロトコルで転送 たインタフェースを規定すると同時 コンテンツ プロバイダ に、双方で必要な処理を実現するた めのビジネスロジックやデータベー uidをCGIで 取り出し ス等を実装しなければならない。具 2. マイメニュー処理(登録・削除・ユーザー抹消メール) マイメニューに登録し、料金収納代行などを可能にする 体的に言えば、標準的なインタフェ マイページ登録画面 iモードパスワード入力 iモード サーバ 登録完了 ースとしてはインターネットの標準 http://w1m.docomo.ne.jp/cp/regist?ci=siteID &uid=NULLGWDOCOMO &nl=http://nexturl/ … ドコモ指定CGIを埋め込み として Web サーバへのアクセスに 利用されている http プロトコルを コンテンツ プロバイダ 登録用CGI呼び出し ベースとしたものが採用されている 確認応答 (図2)。 図 1 NTT ドコモの i-mode サービスの例 また、コンテンツ配信処理を含め た、市場の伸び自体も約 30 %と高 NTT ドコモネットワーク側とコン コンテンツプロバイダ側で必要なビ い成長率を維持している。さらに言 テンツプロバイダ側で一意に特定す ジネスロジックは Web サーバ、ア えば、現在 9000 以上のコンテンツ るためにユーザーの ID をやり取り プリケーションサーバ、データベー プロバイダが接続されており、通信 し、さらに、マイメニュー登録し料 スサーバといった Web 系サーバシ 事業者との連携サービスによって相 金代行徴収を行えるようにするため ステムを構築するのと、ほぼ同様の 互に Win-Win のビジネス連携が成 にパスワード確認などの認証処理を プラットフォームおよびミドルウェ 立してきていると言えるだろう。 行うことが必要になってくる。 アを利用したシステム構成になって i-modeサービスでは、エンドユー このように、通信サービスプロバ いる(図3)。このようなサーバ及 ザーはまず NTTドコモが提供する i- イダとコンテンツプロバイダが連携 びサーバ間のインタフェースの構成 modeサービスのメニュー画面にアク したサービスを実現するためには、 は、近年急速に普及している IT ソ セスし、そこからプロバイダのサイ コンテンツ NTTドコモ網 トを選択する。そこで、プロバイダ ユーザーID 管理 側のコンテンツで気に入ったものが 見つかればマイメニューに登録し、 からの料金請求に一括して支払い処 インターネット/ 専用線 コンテンツ プロバイダ 端末 理を行うことが可能となっている。 このようなサービスを実現するた iモード サーバ パケット 網 課金処理が必要な場合はNTTドコモ 個人認証 管理 電話番号、位置情報などの 伝送は専用プロトコル使用 サーバ間SSL利用は任意 Browser/ Mailer Compact HTML めには、例えば図1に示すような情 報のやり取りを NTT ドコモネット ワーク内の i-mode サーバとコンテ ンツプロバイダとの間でやり取りす る必要がある。まず、NTT ドコモ 加入者の誰がアクセスしてきたかを ビジネスコミュニケーション 2007 Vol.44 No.10 HTTP HTTP/ SMTP ※ HTTP/ SMTP TCP/IP TCP/IP TCP/IP L2/L1 L2/L1 L2/L1 HTTP ※ 専用 プロトコル L1 ※ 専用 プロト コル L1 図 2 i-mode サービスのインタフェースプロトコル 17 エンタープライズIT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ) 特集 サービス提供基盤(SDP)の技術動向とベンダー各社の取組み コンテンツ サーバ SMTPサーバ アプリWebサーバ 負荷 分散 装置 NTPサーバ アプリ DBサーバ スプロバイダや企業が使用 象としているという意味になる。あ するサービス機能へのオー えて誤解を恐れずに言えば、上記1) プンかつ安全なアクセスを ∼3)の要件を完全とはいかないま 状況に応じて提供。 でも「満たす」という観点で2章で などを挙げている。 述べた i-mode の例は“NTT ドコモ の i-mode ネットワークに対する FTPサーバ 図4にMoriana Reportで示 SDP”と言えるだろう。 されているSDPの機能アーキ 図 3 Web 系サーバシステムの構成例 リューションの1つである Web 系 システムのソリューションとみなす 事ができるだろう。 次世代通信網(NGN)と SDP もともと SDP という用語自体は、 テクチャを、また表1にそれ ぞれの機能の意味を示す。 それでは、NGN ではパブリック ネットワークとしてどのようなサー 一方、欧州における 3GPP の議論 ビス提供機能が想定されているかと の中から次世代のマルチメディアネ いうことになるが、これには次のよ ットワークのアーキテクチャとして うなものが挙げられる。 IMS(IP Multimedia Subsystem) 1)エンドエンドの音声サービスを のコンセプトが生まれ、このアーキ 提供するための VoIP サービスの テクチャが現在の NGN の母体にな 提供。 2003 年頃までに複数のベンダから っていると考えられる。現在活発に 提唱され始めたものだが、まだ一般 議 論 さ れ て い る S D P は 、“ N G N 的な概念にはなっていなかった。こ (もしくは IMS)上での SDP”と言 の状況を踏まえ、2004 年に米国の うことができ、図4に示したパブリ 調査会社(Moriana group)が各社 ックネットワークとして NGN を対 のサービスデリバリの考え方をまと 2)インターネットへの接続サービ スの提供。 3)TV 再送信やストリーム型の VoD サービスの提供。 4)情報家電制御やユビキタスサー WEB サービス めた調査レポートを、「サービスデ リバリプラットフォーム(S D P ) およびテレコム Web サービス」※ 2 AAA サービス公開レイヤ SCE というタイトルで発表したことで SDP というキーワードが世の中に OSS 定着してきたと考えられる。この中 サービス コンテンツ 実行 配信 プラットフォーム プラットフォーム SME で、SDP の狙いとして、 1)テレコム系サービスに対する付 加価値サービスの迅速な“作成”、 BSS インターフェース /コネクター ネットワーク・アブストラクション・ レイヤ インターフェース /コネクター コンテンツ “提供”、“実行”、“管理”、“課金” の提供。 パブリック・ネットワーク 2)音声やデータサービス、コンテ ンツ配信を基盤ネットワーク装置 に依存せずに提供。 3)ネットワークに接続されている 任意のユーザーから外部のサービ 18 SCE:Service Creation Environment SME:Small & Medium Size Enterprise AAA:Authentication Authorization Accounting OSS:Operations Support Systems BSS:Business Support Systems サービス生成環境 中小企業 認可・認証・課金 オペレーティングサポートシステム ビジネスサポートシステム 図 4 SDP の機能アーキテクチャ ビジネスコミュニケーション 2007 Vol.44 No.10 エンタープライズIT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ) 総論 ビスの提供。 http Webブラウジング SIP エンド−エンド型通信 このようなサービス提供機能を、 SIPサーバ Webサーバ IP ネットワーク上で実現するため の基本技術として、ネットワーク制 御やインタフェース規定に適用され るのが SIP(Session Initiation Webブラウジング 通信形態 インタラクティブ通信 機械 (サーバ) 通信相手 不特定多数の人間 (あるいは人が利用しているPC) http プロトコルに対して、SIP はエ 固定 相手IPアドレス ンドエンド型の通信を実現するため サーバが提示しユーザーが選択 利用APL 交渉の余地あり の基本技術であり、IMS でも http ユーザーが通信を起動する (発信あるいは回収型) 通信形態 通信が起動される場合もある (着信型もあり) 通常は常時通信可能 通信可能性 Protocol)である。今までの Web ブ ラウジングなどでよく使われている 不定 プロトコルと合わせて採用されてい (例 動的アドレス付与、別端末からの利用、 複数端末の同時利用) 不定 (例 電源断、離席中、作業中) る。両者の比較を図5に示す。SIP 図 5 SIP と http の比較 は VoIP や TV 会議だけでなく、 VoD などのサーバとユーザーの間 る Java のプラットフォームや.NET で通信に必要な機能や番組選択等の に加えて、テレコム系サービスの実 操作が頻繁に必要となる、一種のイ 時間処理に対応したサービスロジッ ンタラクティブ通信に適用すること クを実行する環境である JAIN 本稿では、SDP の位置づけにつ が想定されている。このような背景 SLEE(Service Logic Execution いての解説を試みた。冒頭にも述べ から、表 1 に示すように NGN を想 Environment ※ 3 )の適用も提案さ たが、SDP はどのようなサービス 定した際に各機能要素の実装のため れている。さらにサービス公開レイ をどのようなネットワーク上で、ま に必要なインタフェース、プラット ヤでも SOAP の適用が考えられ、現 た、通信サービスプロバイダとコン ※4 まとめ フォームが想定されている。ネット 在 Parlay-X の標準化が進んでい テンツプロバイダがどのように連携 ワークアブストラクションレイヤで る。以上のプラットフォームは、今 して提供するかによって技術要件が は SIP への対応が求められ、また、 後 NGN サービスの発展に対応して 異なっていく。今後の NGN の展開 サービス実行プラットフォームでは 様々なプロダクトとして実用化され に合わせて様々なネットワークサー 一般的な Web システムに適用され て行くと考えられる。 ビス、コンテンツサービスが考え出 され、様々なビジネス連携が行われ 表 1 SDP の機能アーキテクチャの説明 るだろう。このような状況を踏まえ 名称 要求される機能 利用されるプロトコル/ プラットフォーム(想定) サービス公開レイヤ (Service Exposure Layer) 第三者へのサービス機能の 提供(WEBサービス) サービス実行プラットフォーム (Service Execution Platform) 音声・データ系アプリケーショ J2EE、JAIN SLEE、 ン実行・開発環境の提供 .NET等 コンテンツ配信プラットフォーム (Content Delivery Platform) マルチメディア・コンテンツ の提供 ネットワークアブストラクションレイヤ IMSコアネットワーク・サー (Network Abstraction Layer) ビスに対する標準インタ フェースの提供 ビジネスコミュニケーション 2007 Vol.44 No.10 て SDP の技術開発も進められて行 くと期待している。 SOAP、Parlay-X等 コンテンツにより様々 なプラットフォームの 利用が想定 IMS標準インタフェース (http, SIP、Diameter等) 【参考文献】 ※ 1 総務省報道発表資料:http://www.soumu.go.jp/snews/2007/070724_2.html#bs ※ 2 Moriana Group THOUGHT LEADER Report; “Service Delivery Platforms And Telecom Web Service” 2004. ※ 3 http://www.jainslee.org/slee/slee.html ※ 4 http://www.parlay.org/en/specifications/ pxws_archives.asp 19