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電気通信事業のユニバーサルサービスに関する構造分析

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電気通信事業のユニバーサルサービスに関する構造分析
電気通信事業のユニバーサルサービスに関する構造分析
中央大学大学院経済学研究科 室勝弘*
中央大学経済学部 薮田雅弘
目 次
1. 分析の目的と課題
2. 情報通信分野における産業政策の展開
3. ユニバーサルサービスの展開
4. ユニバーサルサービスの先行研究
5. ユニバーサルサービスのモデルと厚生分析
6. わが国におけるユニバーサルサービスの実証研究−比較分析
1.分析の目的と課題
本稿の目的は,わが国の電気通信分野におけるユニバーサルサービス制度について,その理念と現実
を見据えた上で,理論的,実際的なデータ分析を通じて,現行制度を再評価し,あるべきユニバーサル
サービス制度がどのようなものかを検討することである.
電気通信の発展は,国内外を問わずめざましい発展を遂げている.電話を始めとする電気通信の効用
を広く国民に知らしめ,それを享受することが重要な課題である.そのため,電気通信の構築に「あま
ねく公平」の思想を取り入れたのがユニバーサルサービスである.わが国の場合,NTTの独占の下で,
ユニバーサルサービスが展開されてきたが,その後,競争政策の導入により現行ユニバーサルサービス
を維持することが困難になってきた.そのため 2002 年の法律改正により,ユニバーサルサービス基金制
度の導入を図って対処してきた.しかし,IT化の急激な進展は,現行の固定電話を中心とするユニバ
ーサルサービス制度では以下のような課題があり,現行制度の見直を迫られている.すなわち,
(1) 現行のユニバーサルサービスの効用に関する検証と制度に関する評価問題,
(2) 競争移行後のユニバーサルサービス制度の課題,ユニバーサルサービス基金のあり方,
(3) IT化のさらなる進展による現行ユニバーサルサービス対象業務の見直し,
などが火急の検討課題として,その分析と解決が求められている.
以上の点を検討するために,本稿は以下のような章構成からなる.まず第2章では,電気通信分野の
特質,公共性について論じる.第3章では,ユニバーサルサービスの概念,諸外国の実態,負担方法な
どを解説する.第4章では,ユニバーサルサービスの先行研究にふれ,第5章でユニバーサルサービス
のモデルを提示し,内部補助と基金の分析ならびにその厚生上の意味を検討する.第6章では,ユニバ
ーサルサービスの実証研究によって,現行ユニバーサルサービス制度の実態を示し,その評価を行う.
また,今後進展するであろう電気通信の動向について述べ,最後に政策的インプリケーションとして,
ユニバーサルサービスのあるべき姿について言及する.
2.情報通信分野における産業政策の展開
本稿の主題であるユニバーサルサービスは,一般的に公平性の観点からみて,本来の競争的市場に対す
る規制を意味する.単純に考えれば,現下の規制緩和の流れの中で,何故に規制政策が必要なのであろう
か.いわば,規制緩和と規制の共存は,どのようして合理的に説明しうるのであろうか.この問題を考え
るために,ここでは,情報通信分野における産業展開と,それに対する規制政策との関係を見ておこう.
2.1 情報通信産業の展開と特質
電気通信のように,莫大な設備投資を伴うもので,かつ国民生活に必要欠くべからざるものは,民間の
市場原理にのっとって設備拡張を図ることは困難である.電気通信設備は,固定的なケーブル,交換機な
どを伴い,サンクコストが大きく民間企業では取り組み難いものである.日本においては,戦後の日本国
の復興にとって電気通信の普及は必然的なものとして取り扱われた.同時に,日本国有鉄道,日本専売公
社なども公社化され,法律のもとに秩序ある建設投資を国内の全域に普及せしめた.政府の強い介入を許
容する公社制度は,全国をあまねく公平に国土を発展させるために有利な制度として機能してきた.しか
し,電気通信の発展に合わせて,公社規模が肥大化し,競争のない企業の業務改善にも弊害を感じ,利用
者に更なる料金値下げなどの利便を図るため競争導入を取り入れることとなった.
一方,電気通信の技術の進展はめざましく,諸外国との技術競争に直面し,行政サービス,企業活動を
はじめ国民生活に大きく影響する業種である.
2.2 公益事業としての情報通信産業
情報通信産業は,電気通信サービスを提供する産業である.これが公益事業と言えるのか,それとも一
般市場で競争分野にたつ単なる営利事業であるか否かについては,通常,不特定多数者への利益提供とあ
わせて営利を目的としないとする非営利性が要請される.独占を認める公社制度のもとで,そもそも,非
営利として登場し,
ユニバーサルサービスを不特定多数者への便益供与として全国展開してきた時代には,
公益事業としての位置づけが可能であったと思われる.しかし,非営利であることと,非効率な経営とい
う状況は明確に区別されるべきものである.高コスト体質のもとで,高価格が維持されたとしても,非営
利でかつ不特定多数者へのサービス供給は実行できる.しかし,そうした状況下では,必ずしも,サービ
スを享受する消費者にとって望ましい便益が得られているとは考えにくい.とくに,民営化されより効率
的な経営が求められるようになったばかりか,新規参入者との競争条件のもとで,一定の利益と技術革新
への投資が求められるようになって以降,市場原理にもとづく効率性重視の立場から,新たな公益性が求
められているといってよい.しかし,不特定多数者へのサービス提供の維持,あるいはユニバーサルサー
ビスという,あまねく公平に消費のチャンスを提供する機会の提供は,そうした競争状況にあっても必要
とされており,その意味では,依然として公益性を失っていないように思われる.
2.3 情報通信産業における規制緩和の展開
情報通信産業が,当初独占からスタートしたのは,大規模な初期投資を要したためである.一旦投資し
た設備は,サンクコストが大きく,他に転用できないものであるから,一般の企業では参入困難であった.
しかし,技術の進歩が早い情報通信産業においては,徐々に新規参入もやりやすくなり,また,独占企業
の業務改善への刺激もあり,独占から競争状態へ移行することで,社会的厚生は高まると期待された.し
かし,一方で,規制緩和することで競争が進展し価格競争が生じた結果,独占時には,当初企業内補填で
維持できたユニバーサルサービスが維持できなくなってきた.このような状態になっても,依然として規
制緩和を遂行し競争政策を打ち出しつつユニバーサルサービスを維持しようとする政策の根拠は,電話な
どの情報通信が,全ての人々にとって生活必需品となっているという公益性のほかに,消費者間でのネッ
トワークのもたらす相互便益−いわゆるネットワークの外部性−があるからである.
3. ユニバーサルサービスの展開
たとえ一般の財であっても,その財へのアクセス可能性は,集積度が大きく,人口密度の高い地域では
より大きく,そうでない地域では小さい.たとえば,都心には多くの物資が流入し消費も容易である反面,
過疎地域では,都心へ向かう費用などがかかり,結果として同じ生活を営む場合には相対的に高コストと
なる.だからといって,両地域の経済格差を埋めるために一般の財への補助が行われることは少ない.現
実には,交通インフラやここで論じている情報通信,あるいは電力などの生活インフラに関しては,そう
した格差を埋めるための施策が何らかの形で行われている.地域での情報通信へのアクセス可能性につい
て大きな格差があることは,一般的に望ましくないとされている.こうした考え方が,ユニバーサルサー
ビスの根底にある.ただし,そうした格差をどのように把握するか,その軽減手段をめぐっては,各国で
幾分異なる対応がとられていることも事実である.
ユニバーサルサービスの語源は,米国にあるといわれている.表1は,ユニバーサルサービスに関する
各国別の状況を一覧にしたものである.表1からわかるように,各国のユニバーサルサービスの対象分野
は,福祉的要素を相応に取り入れている米国を除きほぼ同様になっている.他方,携帯電話やブロードバ
ンド回線においてユニバーサルサービス化が進行している国は現状では対象となっていないものの,これ
らの設備を対象にするか否かの検討を行っている国はある1.また,あまねく公平なサービスの提供といっ
ても,範囲やサービスの内容に関する具体的なコンセンサスはない.実際には,表1にあるように,各国
ごとの地域環境や経済環境などの違いを反映して,定義にはかなりの幅がある.
表 1 主要国のユニバーサルサービス2
米国
制度創設
主な内容
1996
イギリス
1997
フランス
1996
イタリア
1997
韓国
日本
2000
1997
公衆網への音
電話,公衆,
電話,公衆,
電話,公衆,
電話,公衆,
電話,公衆,
声級アクセス
緊急サービス
緊急サービス
緊急サービス
緊急サービス
緊急サービス
緊急通報
番号データサービ
印刷及び電子
電話帳
番号案内
ス
加入者情報
番号案内
利用可能性
利用可能性
経済性
経済性
一部インターネット
定義(OEC
利用可能性
Dの報告書を
経済性
ベース)
品質の確保
EU 統一
EU 統一
EU 統一
品質の確保
同一料金維持
同一料金維持
福祉的性格
−
−
−
福祉的性格
同一料金維持
−
基金規模
4490億円
−
49億円
186億円
87億円
152億円
携帯電話
予定なし
予定なし
予定なし
予定なし
予定なし
予定なし
ブロードバンド
予定なし
予定なし
予定なし
予定なし
予定なし
予定なし
それらのうちで共通の定義の理解としては,1991 年の OECD 報告書にある,
①利用可能性,②経済性,③一定品質の確保,④同一料金の維持
という四つ概念が参考になると思われる.わが国では,全国津図浦々「申し込めばいつでも繋がる」設備
構築を行い,全国民に利用の機会を提供することを目標としたのであって,その意味では,インフラ設備
の有無をもって「ユニバーサルサービス」とし,また,利用料金に関しては,所得,地域,公的・私的機
関,企業・個人などの区別なく一律とした.利用可能性は,その上で,利用者の WTP に依存して決まる
ことになる.
1
2
総務省総合通信基盤局(2007)
『諸外国のユニバーサルサービス制度の現状』による.
総務省総合通信基盤局,同上参照.
他方,固定電話網に限定されず,アメリカでは,1996年改正の電気通信法のもとで,電話サービス
に加えてインターネットのアクセスについてもユニバーサルサービスが加わった.新しいユニバーサルサ
ービス政策では,高コスト地域,低所得者,農村,医療機関の補助システムもあるが,特に学校,図書館
向けのユニバーサルサービスプログラムは,規模も大きく便益受益者を大幅に拡大したと言われる3.他方,
EUも競争導入に合わせて,ユニバーサルサービスの見直しの方向にある.1つには,インターネットの
発展など,IT全体の発展を視野に入れて,従来のPOTSに限定されていたユニバーサルサービスの範
囲を拡大すること,もう1つは,競争進展に伴い,ユニバーサルサービスを確保するためのコスト負担の
仕組みを見直すことである.なお,ユニバーサルサービスの提供に関する資金的裏づけであるが,基金に
ついては米国が圧倒的に多く,日本は電気通信市場売上規模からみて少ない.
4.ユニバーサルサービスの先行研究
ここでは,ユニバーサルサービスの関する論調を整理しよう.まず,理論面からみた先行研究の整理を
しておこう.図1は,福家(2006)に従って,ユニバーサルサービス政策に関して,競争政策導入前後にお
ける内部相互補助の仕組みを説明したものである.図1において,横軸には加入者密度,縦軸には限界費
用ないし価格がとられている.加
入者密度が高いほど限界費用は逓
減するが,料金は加入者密度が高
いほど,限界便益が高く,人々の
WTP も高いと考えて逓増的にな
っているとしよう.このとき,競
争導入前は,△AEB で示される損
失を△CDE で示される超過利潤
で補填するが,仮に,競争導入後
に加入者密度の高い都市部で競争
が激化し,料金が EF まで下げら
れたとすると,超過利潤は,△
CDE から△FDE に縮小する.
この
ため,福屋(2006)では,現実に市内通信において競争が進んでいることをみると,加入者密度の低い地域
で必要とされる補助を一企業で負担することは困難となり,参入企業全体で負担する産業内相互補助方式
に移行する必要があると論じられている4.単純化されたモデルによる説明のもとで,ユニバーサルサービ
スと競争の関係が明確に論じられてはいるが,そもそも,純便益を最大化する社会的に最適なサービス水
準(点 E 以上の加入者密度をもつ地域へのサービス供給)を超えてサービスが行われる根拠が不明確であ
る点,競争の結果もたらされる余剰の創出分(この場合,△CFE)が価格低下による消費者余剰として実
現されることから,便益の主たる受益者である消費者の負担面が不明確な点,など分析すべき課題も残さ
れている.
他方,浅井(2001)では,ユニバーサル基金と競争との関係が論じられており,その論点を整理すれば次
3
清原聖子(2003)
「近年のアメリカ電気通信政策をめぐる政治過程」
(www.taf.or.jp/publication/kjosei_20/pdf/p224.pdf)参照.な
お,
改正では,
引き続き規制緩和と競争促進に重点を置いているが,
それとは別に新しくユニバーサルサービス政策を見直し,
貧困者,過疎地域移住者に対して,新たに学校,図書館といった公共機関が便益の受益者となった.この改正に当っては,従
来は大手電話会社であるAT&Aや業界団体がイニシアティブをとり,非営利団体や公共利益団体はあまり加わっていなかっ
た.今回の改正は,教育団体,図書館団体も加わり,インターネットの表現の自由からデジタルデバイド(情報格差)の問題
なども加えて議論された.
4 福家秀紀(200 ヤ)
『ブロードバンド時代の情報通信政策』NTT出版参照.
のようになる.電気通信産業のようなネットワーク産業においては,当初多大な投資を行って利用者を拡
大することで事業収支を確保している.電気通信の成長過程を見ると,加入者が増えるごとに,一加入当
り設備の負担が減少し費用低減の法則に従う.しかし,加入者の大部分が加入した後は過疎地や低所得者
層が残され,それらの加入者については,設備建設費が過大になる.このため「ユニバーサルサービス」
として設備建設のための費用が増加してその地域は赤字になる.低費用地域の限界費用を C1 とし,高費用
地域の限界費用を C2 とする.高費用地域の利用者比率をαとすれば,加重平均された限界費用は,C=αC2
+ (1 - α)C1, C2 >C>C1 となる.ここで,電気通信事業者が地域独占の場合を考える.ユニバーサルサービ
ス基金を S0 とし,ベンチマーキング価格を P*とする.この価格は,C2 >P*>C1 にあるものとする.ユニバ
ーサルサービス基金は,S0=C―P*となる.次に,低費用地域に新規事業者が参入しクリーム・スキミン
グがあるとすると,C2 >P*となるので,新規参入企業は,高費用地域での参入を行おうとはしない.一方,
P*>C1 であるので,新規参入企業は,P*よりも低廉な料金を設定することにより,低費用地域をクリーム・
スキミングできることになる.それらによって,既存企業は,新規参入企業のクリーム・スキミングを防
止するため,価格を C1 まで下げざるをえない.既存の電気通信事業者の利潤がゼロになる時の,ユニバー
サルサービス基金を S1 とすると,α ( p * + S1 − C 2 ) + (1 − α )(C1 + S1 − C1 ) = 0 が成り立つ.この左辺第
1 項は高費用地域からの純収入,第 2 項は低費用地域からの純収入を表している.これを変形すれば
S1 = α (C 2 − p*) となる.したがって,競争圧力がある場合のユニバーサルサービス基金 S1 は,地域独占
の場合の S0 より高いことになる.このことは,競争圧力が存在すると低費用地域の利用者から高費用地域
の利用者への内部相互補助が出来なくなり,その結果,より多くのユニバーサルサービス基金が必要とな
ることを示している5.このモデル分析では,社会の厚生水準が明示されているわけではないが,単純な分
析枠組みの中で,二地域に分けた分析を行っている点,またユニバーサルサービスのあり方が,低費用地
域における競争条件に依存していることを示した点は評価できる.
他方,ユニバーサルサービスについて実証分析という形での分析は,比較的マクロ数値のもの,現時点
からみると古くなった数値による文献は比較的多く,現在の課題を導くものは比較的少ない情況である.
たとえば,アメリカの電話料金,費用などのマクロ分析したもの,或いは,ユニバーサルサービスの補助
金などを分析推計したもなどはみられる.コスト把握と効用の把握について,米国のコストモデルを取り
上げた Grandall&Waverman(2001)では,都市部と過疎地を比較検討し,モデル間の差異の多くは,資本コ
スト,減価償却率,他の公益事業者との設備共用条件の差に起因するとしている.日本においてこのよう
な視点からの実証研究を捉えることができなかった.日本のユニバーサルサービスの実証研究としては,
内部補助によるユニバーサルサービスの状況を捉えるため,NTT有価証券報告書の財務諸表等の数値を
もって,地域別,利用者別に費用分析を行い,その妥当性を探ろうとする文献はある.たとえば,福家(2007)
では,ユニバーサルサービス基金の供出,基金からの補填額を年次推定,或いは,事務用,住宅用,級局
別などをマクロ分析している6.
このように,わが国の事例を対象に,ユニバーサルサービスの現状について,過疎地域や都市部,首都
圏や地方といった都道府県別の地域格差を明示して,ミクロ的な分析を行っている事例は少ないように思
われる.また,モデル分析についても,地域別に費用構造や需要構造が異なる場合に,明示的にそれを反映
させた厚生分析やユニバーサルサービスとその政策上のインプリケーションの分析は,必ずしも十分行わ
れてきたとは言いがたい7.
5
浅井澄子(2001)
『情報通信の政策評価』日本評論社を参照.
福家秀紀(2007)
『ブロードバンド時代の情報通信政策』NTT 出版を参照.
7
たとえば,浅井澄子・依田高典(2002)
「地域電気通信サービスの費用格差」
『公益事業研究』,54.3,pp.1-6,や浅井澄子・根
本二郎(2000)
『NTT 地域通信事業の生産性と技術進歩』郵政研究所ディスカッションペーパー・シリーズ No.2000-07 では,
NTT の地域通信事業部別の費用構造や効率性を計測している.とくに,前者では,大都市を含む地域における電話の平均費
6
5.ユニバーサルサービスのモデルと厚生分析
本章では,前章までで展開されたユニバーサルサービスに関する包括的な議論を受け,ユニバーサルサ
ービスのもつ意義を考察するために,
簡単なモデルを構築し分析する.
主たる帰結は以下のとおりである.
わが国におけるユニバーサルサービスの構成要件である「一律価格規制」を軸に,独占企業が地方と都
市部での差別価格政策をとる場合−すなわち,独占企業にとって厚生が最大化される状況,一律価格規制
が導入される場合,さらに,ユニバーサルサービス基金が導入されたケースを比較検討した結果,結論は
以下のようになる.
(1)一律価格政策については,主として都市部の消費者から地方(赤字地域)の消費者に厚生移転が生
じており,総余剰からみても,必ずしも改善が見られないケースが生じうる.
(2)ユニバーサルサービス基金制度についても同様に,都市部から地方への厚生移転に依拠する施策で
ある.都市部での競争条件や市場条件に依存するが,総余剰が減少するケースもありえる.
ここで,ユニバーサルサービスの制度創設根拠について述べる.電気通信サービスは生活必需品として
「あまねく公平」に取り扱われ,かつその利益を全ての利用者に享受させることにあるが,過疎地域にも
通信回線を進出することでネットワークの外部性が生ずる.つまり,電気通信事業者が,不採算地域にネ
ットワークを拡大することで,通話相手先が拡大し基本料収入,不採算地域内外の通話が増えるなど,メ
トカーフの法則にあるように効用が拡大する.このことは不採算地域の採算性の問題だけではなく通信回
線全体の効用が増え,社会全体の発展につながる.しかし,不採算地域に拡大するといっても費用が収益
を上回るようでは,新規事業者は参入しないだろう.にもかかわらずユニバーサルサービスを維持するの
は,
「あまねく公平」の思想により,林業,農業など地域密着事業があり,また,都市部へ一極集中するこ
との回避,過疎地も通信による行政サービス等が受けられるよう情報格差,地域格差の圧縮にある.
6.ユニバーサルサービスの実証研究−比較分析
ここでは,NTT東・西をはじめ電気通信事業者の競争条件を考慮し,その現状とユニバーサルサービ
スが果たしてきた役割を検証する.
データの制約はあるが,
都道府県別での費用構造の違いを明らかにし,
ユニバーサルサービスにおける全国一律価格制の展開とその意味,その下での,ユニバーサルサービスの
評価を行う.特に,もっとも費用の低いと算定される大阪府と逆に最高値を示した岩手県に注意を集中し
て比較分析を行う.
(なお,紙面の制約からモデル分析ならびに実証分析の詳細,政策的なインプリケーションについては,
当日配布予定のペーパーを参照されたい.
)
参考文献
総務省総合通信基盤局(2007)
『諸外国のユニバーサルサービス制度の現状』
清原聖子(2003)
「近年のアメリカ電気通信政策をめぐる政治過程」
(www.taf.or.jp/publication/kjosei_20/pdf/p224.pdf)
福家秀紀(200 ヤ)
『ブロードバンド時代の情報通信政策』NTT出版
浅井澄子(2001)
『情報通信の政策評価』日本評論社
浅井澄子・依田高典(2002)
「地域電気通信サービスの費用格差」
『公益事業研究』
浅井澄子・根本二郎(2000)
『NTT 地域通信事業の生産性と技術進歩』郵政研究所ディスカッションペーパー・シリーズ
No.2000-07
用が他地域よりも低いことが示されている.それによれば,電話の平均費用は,129.4(万円/千時間)であり,関東,関西
で 101-103 と低く,北陸,四国,東北(それぞれ,150,147,137)などでは高い.
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