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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み

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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み
NRI 技術創発
Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み
野村総合研究所
開発技術部 上級コンサルタント
岡本 章伺(おかもと しょうじ)
システムの利用品質向上に向け、ユーザ基点に立ったユーザフロント分析・設計を行なう
実行支援型のコンサルティングに従事。日本デザイン学会会員。NRI 認定システムアナリ
スト。
1.利用品質への関心の高まり .................................................................................. 19
2.ユーザ基点によるシステム設計手法 .................................................................. 20
3.ケーススタディ:プロジェクト事例.................................................................... 23
4.ユーザ中心設計プロセス導入にあたっての考察 ................................................ 35
5.まとめ ..................................................................................................................... 37
要旨
近年、Web システムにおいては「利用品質」が重要であると言われ始めている。Web 技術の発展に伴い Web シス
テム利用範囲とユーザ層が拡大した一方、システムを使えないユーザが増えているためである。
NRI では、Web システム構築プロセスにユーザ中心設計プロセスを導入し、利用品質向上を図っている。NRI での
導入事例を紹介し、導入にあたっての考察を述べる。
キーワード: 利用品質、ユーザビリティ、ペルソナ、ウォークスルー法、モックアップ
“Quality of usability” of Web systems is being under close consideration in recent years. It is due to the fact that while the
range of Web system user strata and fields are getting wider following Web technologies development, number of users
who are not able to use Web systems properly have been increasing.
NRI has introduced User Centered Design process in the developing process of Web system to improve the quality of
usability. In this article, an instance of implementation case is introduced and reviewed.
Keywords : Quality of Use, Usability, Persona, Walk through, Mockup
18
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み 1.利用品質への関心の高まり
める機能や処理性能は、ほぼ実現可能となっ
近年、Web システムにおいては、
「利用品
た。また、サーバサイドシステムでの配信が
質(Quality of Use)」が重要であると言われ
可能であり配布コストがかからないため、企
始めた。
業は販売機会拡大とコスト削減を目的に、
システムを利用して次のような思いをした
ことはないだろうか。
Web システムを顧客チャネルおよび社内シ
ステムとして活用した。
その一方で以下のような問題も生じている。
様々な機能を搭載したシステムでは、機能
¡
操作方法が分からない
¡
求める機能または情報が見つからない
が多すぎるため、ユーザが、今自分が必要と
¡
なぜエラーなのか理解できない
している機能を見つけられないといったこと
が起こる。また、高度な機能を使用するには
このようなシステムは「利用品質が低い」
複雑な操作が必要とされる。
と言われる。利用品質とは、
「特定の利用状況
さらに企業の Web システム利用範囲拡大
において、特定のユーザによって、ある製品
は、設計者がユーザのリテラシーレベル(シ
が、指定された目標を達成するために用いら
ステムが提供するサービス業務やシステム操
れる際の有効さ、効率、ユーザの満足度の度
作に関する知識などのレベル)と利用状況
合い」の品質である(ISO9241-11 :ユーザビ
(利用環境や目的など)を把握することを難
リティの国際規格)。ユーザビリティ品質と
も呼ばれ、システムに限らず人が使用する道
具全般に求められる品質である。
しくした。
このようなシステムの高機能化とユーザの
多様化によって、システムが提供している機
しかし、従来のシステムもユーザが利用す
能とユーザの間にはギャップが生じ、ユーザ
る目的を達成するために構築されてきたはず
がシステムを十分利用できないケースが増加
である。なぜ、今改めて言われるようになっ
している。
たのだろうか。その理由として、Web 技術の
従来、システムは、
「経理部署がその業務
発展を背景にした、Web システムの高機能
で使用する」といったように、
「一定のリテラ
化・企業のシステム利用拡大・ユーザのリテ
シーレベルのユーザがある特定の環境で使用
ラシーと利用状況の多様化が挙げられる。
する」ことを前提に設計されていた。そのた
Web 技術の発展は Web システムに様々な
め、設計する側の想定と実際のユーザとのギ
機能を搭載することを可能にした。システム
ャップはなく、あってもユーザにはシステム
構築のクライアント(以降、発注企業)が求
操作のための学習機会が与えられていた。し
19
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NRI 技術創発
かし、その前提が異なるシステムでは、ユー
システム構築においては、利用品質の仕様
ザとのギャップが生じやすく、ユーザがシス
は、発注企業、または SE(システムエンジニ
テムを利用することを難しくしている。
ア)の経験則で決定されるケースが多いと考
このように、ユーザに利用することを難し
える。しかし、多様なユーザと利用状況が対
くしているシステムは、必要な利用品質を満
象となる場合、発注企業と SE が想定したユー
たしていないといえる。ユーザはシステムの
ザと利用状況が実際と一致しているとは限ら
機能および性能が充実していても、利用品質
ない。システムの利用品質の満足度を高める
が低ければ、システム品質が低いと判断する。
には、実際のユーザと利用状況に適合するよ
うユーザ中心設計を行なうことが必要である。
これまでシステム構築においては、ユーザ
のタスク(業務)の目的を達成する機能の実
現という「機能品質」とシステムの安定稼動
2.ユーザ基点によるシステム設計手法
という「性能品質」を保証してきた。しかし、
(1) ユーザ中心設計とは
発注企業が求める機能はほぼ実現可能になっ
ユーザ中心設計とは、1986 年にドナルド・
たことで、機能における差別化は難しくなっ
ノーマン氏が著書「User Centered System
た。このような状況の中、利用品質レベルを
Design」で提唱した設計手法である。ノーマ
高めることは、新たな付加価値となりうる
ン氏の提唱後、様々な分野の専門家によって
進化を続けている。
(図1)
。
Web技術の発展
システム品質
差別化が難しい
システムの高機能
なぜ、
エラーなのか
理解できない
利用範囲の拡大
機能・性能品質
操作方法が
分からない
ユーザと
システムの
ギャップ!
差別化の要因
利用品質の
満足度が低い
ユーザと
利用状況に
適合させる!
求める機能・
情報が
見つからない
利用品質の
満足度が高い
利用する
ことに満足
ユーザと
利用状況の多様化
図 1 ユーザと利用状況多様化による利用品質ニーズ
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み その概要は、ユーザ調査結果に基づいてユ
高めることができる。
ーザモデルを明示し、そのユーザモデルから
また、ユーザとその利用状況に適合する設
想定されるシナリオに基づいて設計および評
計を行なうことで、複数のチャネルにまたが
価検証を行なうものである。ユーザとその利
って提供されるシステムにも有効である。
用状況は変化に合わせて見直しを行なう。
実際のプロセスについては、ISO13407(人
Web システムをはじめ、ユーザとのインタラ
間中心設計プロセス)によって定義されてい
クションが必要な ATM、キオスク端末、携
る。それは 1.利用状況の把握、2.ユーザと組織
帯電話、カーナビなど複数のシステム開発で
の要求事項の明示、3.設計による解決策の作
活用されている。
成、4.要求事項に対する設計の評価を目標達
ユーザ中心設計を導入することによって、
利用品質にかかわる決定段階でユーザに近い
判断が可能となり、ユーザとシステムとのギ
ャップを埋め、システムの利用品質レベルを
人間中心設計の
必要性の特定
成まで繰り返し行なうといったものである
(図 2)
。
ISO13407 は、ISO9000s(品質管理規格)の
よ う な 認 証 シ ス テ ム で は な い 。し か し 、
・想定するユーザのタスクを分析・記述
・想定するユーザの特性を分析・記述
・製品が使用される技術的環境を分析・記述
・製品が使用される物理的環境を分析・記述
・製品が使用される社会的・組織的環境を分析・記述
1 利用状況の把握と明示
システムが
特定のユーザ及び組織の
要求事項を満足
要求事項に対する
4 設計の評価
・評価計画を立案
・評価を実施
・評価結果を分析
・評価結果を適切なプロ
セスにフィードバック
3 設計による解決策作成
・ユーザと製品のインタラクション
を設計
・•製品の設計(機能設計/技術設計)
・プロトタイプの設計
・プロトタイプを使用した評価
・ユーザを含むステークホルダに
対する支援を設計
ユーザと組織の
2 要求事項の明示
・ 製品開発により達成できるユーザ
及び組織の目標を定め記述
・ ユーザを含むステークホルダを分
析・記述
・ 開発される製品がユーザ/ステー
クホルダに与える影響を分析・
記述
・ 開発される製品に対するユーザ/
組織の要求事項を分析・記述
・ 実現すべき利用品質を定め記述
図 2 ISO13407 標準プロセス 出所:『ISO13407 がわかる本』
(黒須正明、平沢尚毅、堀部保弘、
三樹弘之著 2001 年 12 月オーム社刊)に NRI が加筆して作成
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NRI 技術創発
アプリケーション ユーザフロント (ISO13407)
ISO13407 のプロセスを品質マネジメントシ
ステムと合わせ、システム構築のプロセスに
組み入れることでシステム全体の品質を高め
ることが可能と考える。
1
利用状況の
把握と明示
クライアントへのシステムの目標確認
要
件
定
義
クライアント業
務が実装でき
るシステム 機
能と性能品質
の定義
ユーザが利用
で きるシステ
ムの利用品質
の定義
機 能・性 能 を
実 現するため
の設計と開発
の標準化
システム の ユ
ー ザ フ ロント
設 計と開発 の
標準化
開発と
機能・性能の
品質管理
画面開発と
利用品質管理
安定稼動と
機能の拡充
利用状況の検
証と利用機能
の拡充
2
ユーザと組織の
要求事項の明示
(2) Web システム開発における
ユーザ中心設計
設
計
従来のシステム構築のプロセスでは、まず、
発注企業の要望するシステムの機能と処理性
能を満たすシステム要件を策定し、機能と性
開
発
能を実現するための設計を行なう。その後、
3
4
設
計
に
よ
る
解
決
策
作
成
要
求
事
項
に
対
す
る
設
計
の
評
価
機能設計に基づいて、どのようなユーザイン
ターフェイス表現とするかを検討する。この
プロセスでは、ユーザが実際にシステムを操
運
用
作して利用品質のレベルが分かるのはリリー
1
利用状況の
把握と明示
ス後である。リリース時にシステムの利用品
クリニック
手法
質を高いものにするには、設計段階において
ユーザとその利用状況に適合する設計と検証
ユーザビリティテスト
ユーザによる分析
アンケート
インタビュー
を行なうことが必要である。
分析・検証 エキスパートによ ヒューリスティック法
る分析
ウォークスルー法
①ユーザフロント設計プロセス
NRI では、多様なユーザと利用状況をター
ゲットとし、複数のチャネルに連動する Web
ツールによる分析
アクセスログ分析
動線分析
図 3 NRI ユーザフロント設計プロセス
システムのユーザフロント(ユーザが利用す
る機能および情報構造とそれらの仕様)設計
要件定義フェーズでは、まず、発注企業に、
のプロセスに、ユーザ中心設計の手法を取り
システムが実現すべき目標とターゲットユー
入れることで、Web システムの利用品質の向
ザを確認する。その後、ユーザのタスクと利
上を図っている。このプロセスは ISO13407
用状況を分析し、ユーザモデルとその利用シ
に適合するものと考える(図 3)。
ナリオを設定する。設定したユーザが、タス
クを効率的に遂行し、満足できるコンテンツ
と機能の要件を策定する。
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み 設計フェーズでは、ユーザの視点を考慮し、
ユーザ動線の設計とサイト構造および画面の
情報設計を行なう。さらに画面のユーザイン
ターフェイスデザインとその仕様の標準化を
3.ケーススタディ:プロジェクト事例
今回紹介する 2 つの事例は、インターネッ
ト取引サイトのリニューアルである。
企業がサイトを運営する目的は、販売機会
行なう。ここで固められた設計仕様と開発ル
拡大と顧客対応コストの削減である。また、
ールはデザインガイドラインにまとめ、開発
ユーザがサイトにアクセスする目的は、サー
フェーズの品質保持に使用する。
ビス利用である。ユーザと企業、両者の目的
開発フェーズでは個別の画面仕様データを
を達成するにはサイトの利用品質を高めるこ
作成し、アプリケーションプログラムの組み
とが必要である。サイトの利用品質が低けれ
込みに移行する。アプリケーションプログラ
ばユーザはサイトで目的を達成できず、サイ
ム実装テスト時には最終的なインターフェイ
トの利用をやめてしまう。そしてそれは、企
ス仕様での操作を確認し、利用品質が確保さ
業の販売機会損失、顧客対応コスト増大につ
れていることを確認する。
ながる。
また、各フェーズで「ユーザによる分析」
「エキスパート(ユーザフロント設計の専門
家)による分析」
「ツールによる分析」を活用
サイトの利用品質を高めるにはユーザの心
理、行動を想定し、提供すべきコンテンツ・
サービス・機能を探る必要がある。
し、設計とその成果の検証を行なう。
(1) 事例1:通販サイトリニューアル
②プロジェクト体制
事例1は大手通販 PC/携帯サイトリニュー
プロジェクトの体制は、発注企業の情報シ
アルである。プロジェクトは、発注企業への
ステム、マーケティングと NRI のアプリケー
ビジネス方針確認後、以下のプロセスで進め
ションシステム、基盤システム、ユーザフロ
られた。
ント担当から構成される。
ユーザフロント設計担当は、各フェーズに
1. 現行サイト評価分析実施
おいてアプリケーション設計担当と連携をと
2. 具体的な改善案作成
ってプロジェクトを遂行する。
3. 機能別の設計開発とリリース
「3.ケーススタディ:プロジェクト事例」で
このプロジェクトの目的は、
「ユーザが使
は、B2C の Web システム構築におけるユー
いやすく、利用価値があり、ユーザにとって
ザフロント設計の上流工程に焦点をあて、利
のメリットの大きいサイト」を実現すること
用品質向上のための活動事例を紹介する。
であった。目的達成のためには、ユーザフロ
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ントを根本的に見直すことが必要であると考
類した。さらにビジネスターゲットに合わせ
えた。
て 5 パターンのペルソナを設定した。
よって、
「どのようなユーザがどのように
次に、どのようにサイトを利用するかを考
サイトを利用するのか」を理解するため、ユ
えるために、ペルソナがサイトを利用する際
ーザ属性を組み合わせ、象徴的なユーザモデ
の「シナリオ」を設定した。ユーザがシステム
ル「ペルソナ」とその利用状況がイメージで
を利用する背景をドラマ仕立てのストーリー
きる具体的なシナリオを設定し、合わせて、
にしたものである。このシナリオからユーザ
その利用行動を設定した。
がサイトを利用する際のニーズを設定した。
また、現行サイトの評価分析では、エキス
これにより、プロジェクト関係者間で異な
パートレビューとユーザビリティテストを実
っていたユーザとその利用状況の認識を統一
施した。
できた。
エキスパートレビューは、ユーザフロント
また、買い物をする人は、
「認知 or 動機付
の設計実績やユーザビリティのマナーについ
け」
「情報収集」
「問題解決(疑問解決)」
「比較
て、知識を持ったレビューアがシステムの利
検討」を行なって、購入意欲を高め「購入」に
用品質を評価する手法である。
いたる。先のペルソナとその利用シナリオか
ユーザビリティテストは、被験者にテスト
タスク(システムを利用する目的)を与え、
らペルソナ別のサイト利用行動を策定した
(図 4)
。
操作する過程と操作中の発話から利用品質に
おける問題点を発見する手法である。
さらに設計段階においても、設計した内容
がユーザにとって利用できる仕様になってい
これにより、ユーザがサイトをどのように
利用しているのかについて、リアリティの高
い仮説が設定できた。
るかを検証するためにユーザビリティテスト
を実施した。
②現行サイト評価分析
前項で設定したペルソナが現行サイトを利
①ペルソナ・シナリオ・利用行動の設定
どのようなユーザがいるのか具体的にイメ
用する上で問題がないか、先に記した専門性
を持ったレビューアによる「エキスパートレ
ージするために、実際の顧客属性に基づく、
ビュー」を実施した。レビューアは、先の 5 パ
複数の「ペルソナ」を設定した。
ターンのペルソナ別利用行動に沿って、ユー
サイトで買い物をするスタイルはユーザに
よって異なる。そのスタイルを 3 タイプに分
ザのタスクを行なう「ウォークスルー法」に
よって、ユーザの行動障壁を発見する。
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み ■ 買物する人の行動
比較検討
認知
or
動機付け
購入
情報収集
疑問解決
■ ペルソナとシナリオ
基本タイプ1 自分らしさが大切
基本タイプ2 時間がない!とにかく効率的に!
!
図書館司書のBさんは何事もよく考えてから行
動に移すタイプ。
好きなアンティーク家具に囲まれてひとり部屋
でくつろぐ時間が大切。
流行やブランドには興味がなく、路面のセレク
トショップをあちこち廻って自分の気に入った
ものをよく吟味してから買い物するタイプだ。
インターネットの利用 : 特定のサイトを定期的に訪れることは少なく縦横無
尽に自分にマッチした情報を吟味する。
ネットショッピング : 気に入ったものをたくさん集めて比較し、最終的にどれ
を買うか決めるまでのプロセスを楽しむ。
重要ポイント
きめ細かい商品アプローチの手段
検討が多角的にできる詳細な商品情報
商品の魅力的な説明
ITベンチャーでプロジェクトマネージャーとして
働くA氏は仕事もプライベートも効率性が最も重
要。普段の買い物は通勤途中か客先の帰り道に
済ませることが多い。
せっかちで短気な性格なのでとにかく無駄・曖昧
さが嫌い。また、回りくどくなれなれしい店員もう
っとうしく感じる。直感的に良いと思ったものを
素早く買い物することが肝要だ。
インターネットの利用:5年。会社も家も無線LAN
ネットショッピング:気に入ったサイトはブックマークして繰り返し利用。
重要ポイント
効率よく情報収集
適格なリコメンド
支払・配送手段の豊富さ・きめ細かさ
■ ペルソナ別利用行動
基本タイプ1
基本タイプ2
リコメンド
Myページ
比較検討
認知
or
動機付け
情報収集
司書Bさん
購入
情報収集
購入
会社員A氏
疑問解決
図 4 ペルソナとシナリオから利用行動策定のイメージ
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この評価で発見された課題点は、画面ごと
定と同様にターゲットと適合する性別・年
にチェックし、また、競合他社のサイトを同
代・ネットショッピング経験の有無などの条
様に操作することで、発見された課題と比較
件によって選定した。その被験者に実際にサ
し、課題解決の糸口を探す。
イトで買い物をするというテストタスクを与
レビューアが評価するチェックポイント
えて操作を行なってもらう。その被験者の行
は、各買い物パターンおよびタスク別に次の
動を観察し、サイト上の利用品質に関する問
4 つの評価基準と照らし合わせ、受けた印象
題点を発見する。
を「強み・弱み」も含めて記載していく。
(表 1)
テストは、専用のテストラボで行なわれる。
テストラボは、被験者にできるだけ緊張を与
誘導性
コンテンツ、機能、特徴などの情報は容易
にアクセスできるか
明快さ、単純さ
明快な情報伝達ができているか。操作は単
純か
整合性、一貫性
全体的に矛盾なく一貫性が保たれているか
機能性
必要または便利な機能は備わっているか。
また、それらの機能面の特徴は分かりやす
く使いやすいか
表 1 エキスパートレビュー評価基準
えないような環境となっている。
被験者にはできるだけ自分の考えで操作を
行なってもらうが、操作に行き詰まったとき
や横道にそれたときのためにモデレータが側
につく。モデレータは、なぜその操作を行な
ったかの被験者の心理を聞き出す役割も持
つ。他の観察者は隣接する部屋からマジック
また、PC サイト、携帯サイトの両方に同
ミラー越しにテストを観察する。
様の評価分析を行なっているが、携帯サイト
本テストでは、観察ポイントを次のように
の場合、次のようなデバイス独自の評価視点
も必要となる。
定め、被験者の操作を観察した。
¡
画面表示サイズと文字数
¡
サイトへアクセスできる
¡
表現要素の制限
¡
商品・サービスを理解できる
¡
ナビゲーションの制限
¡
購入プロセスを理解できる
¡
キャリア(携帯通信会社)や製造会社と機
¡
商品を購入できる
種による操作性の違い
通信コストへの配慮
¡
また、サイトに対して抱く印象やサービス
利用意欲や機能へのニーズなどを、インタビ
次の評価分析として、
「ユーザビリティテ
ューした。
スト」を実施した。被験者は、ペルソナの設
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み テストによって発見された問題点を「複数
の被験者に共通する」
「一被験者によって発
注企業とシステム設計担当に提示して実施の
可否を確認し、優先度を決定した。
見され全体に影響する」
「一被験者によって
発見され全体に影響しない」の 3 タイプに分
<改善課題分類>
類し、主に前の 2 つに焦点をあて改善策を検
a ナビゲーション
討した。
b デザイン
被験者へのインタビューで収集された印象
c コンテンツ
やニーズなどは、発注企業における今後のサ
d 情報構造
ービス検討、機能コンテンツの見直しのため
e 文字、ラベル
の情報として活用した。
f システム機能
ユービリティテストの意義は、問題点の発
g 業務、サービス
見だけではない。テスト実施時には、できる
だけ発注企業と SE にも観察への参加を依頼
する。被験者は、しばしば彼らの想定と異な
③設計の検証
前項で作成した解決策を踏まえ、サイト構
る操作行動をする。彼らは、その様子を見て、
造、画面の情報と機能の設計、それに基づく
実ユーザが自分たちの想定する操作行動をな
画面デザインを行なった。そこで、設計内容
かなかとってくれないことに気付く。これに
の検証を行なうため、再度 2 回のユーザビリ
より設計段階では、ユーザにどのように機能
ティテストを実施した。
を認知、理解してもらい、操作してもらうか
という共通の課題意識が生まれる。
1 回目は、2 回目に対するプレテストと位
置付け、被験者 3 名にペーパーモックアップ
を使用して実施した。操作によって発生する
上記 2 つの分析から現状サイトの課題に対
インタラクティブな動作は、被験者がイメー
して「サイトアイデンティティ」
「ユーザビリ
ジできるようにモデレータが口頭で説明し
ティ」
「ユーザエクスペリエンス」という 3 つ
た。2 回目は、6 名の被験者に、1 回目の結果
の観点から改善施策を策定した。そして設
を反映した設計書を元にパワーポイントで作
計・開発段階では、初めてのお客様でもスム
成したインタラクティブなモックアップを使
ーズに商品が購入できるよう細部に渡って改
用して実施した。また、同時に複数の画面デ
善策を実施した。
(表 2)
ザイン仕様案に対しての印象をインタビュー
また、詳細の課題は、次の a ∼ g の項目別
に分類し、解決案を作成した。その内容を発
し、その回答は発注企業が画面デザイン仕様
を決定する際の参考意見とした。
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上記 2 回のテストにおいて、進行している
設計内容が目的としている改善課題をクリア
(2) 事例 2 :金融商品契約申し込み・
契約者サポートサイト
しているかを確認した。また、さらに判明し
本事例は PC サイトリニューアルを 2 回実
た課題については、その課題の改善策を設計
施したものである。ここでは 2 次リニューア
書に反映し、さらなる利用品質向上を図った。
ルで実施したプロセスに焦点を当てる。
2 次リニューアルのプロセスを説明する前
この事例では、ユーザとシナリオを明示す
ることで、プロジェクト関係者間での利用品
質に影響する仕様の判断基準が統一できた。
に、1 次リニューアルのプロセスと 2 次リニ
ューアルに至った理由を簡単に説明する。
1 次リニューアルでは、ユーザ設定と事例
1と同様のウォークスルー法によるエキスパ
ートレビューを行なった。
このプロジェクトのユーザ設定は、事例1
サ
イ
ト
ア
イ
デ
ン
テ
ィ
テ
ィ
課題
改善方針
トップページで品揃えや利用のメリットが把握しにくい
<メリット訴求の強化>
配送手段の豊富さ、配送料手数料のお得感をビジュアルや数字でイン
パクトで伝達する。またはシーンや事例比較等でイメージを喚起する
商品カテゴリによってジャンルの数やレベルが不揃いで <品揃えの検討>
把握しにくい
品揃え特性をどのように打ち出していくかを確認
<カテゴリ構造整理>
①ユーザが把握しやすく、階層を超えて一貫して横断的に移動しやす
い分類
②商品展開(運用)の過程で矛盾が起こりにくく、かつ拡張性がある
分類
商品を探しにくい
ユ
ー
ザ
ビ
リ
テ
ィ
ユ
ー
ザ
エ
ク
ス
ペ
リ
エ
ン
ス
<メニュー表現整理/効率化のための機能実装>
目的の商品へとスムースにたどり着けるための、アプローチメニュー
を検討。検索機能自体の強化と、新機能追加
カートから購入完了までのフローにおいて理解や操作が <ユーザ動線想定と構造設計>
スムーズにできない
想定されるタイプのユーザがどのようにサイト内で動くか想定して脱
落を防ぐためにきめ細かくフォローし、購入に導く
疑問解決フォローが十分でない
<明快な情報伝達を考慮した画面設計>
ビジュアルや数字を用いた平易で分かりやすい説明表現の採用
理解しやすいラベリングと情報配置を、画面ごとにきめ細かく検討
アクセシビリティに配慮し、色使いを見直し
思いがけない商品に出会う発見に乏しい
<ターゲットを考慮した情報提供>
想定されるタイプのユーザが必要とする情報を洗い出す
目的外の商品をつい、買ってしまう欲求喚起が起こりに <商品リコメンドの根拠の仕組みと関連づけ>
くい
売上・商品検索ランキングや購買履歴、閲覧履歴などを表示
ユーザレビュー、購入者コメント、バイヤーコメントなどを表示
<欲求喚起するための新たなサービスの検討>
ユーザからの商品リクエスト、オリジナル商品、限定コラボレーショ
ン商品開発 共同購入商品企画、など
表 2 事例 1 主な課題と改善方針の抜粋
28
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み ■ PCサイト想定ユーザ
■ 携帯サイト想定ユーザ
・30代の男性 サラリーマン。
・昼間は会社であまり自由な時間がない。
・帰宅後、自宅から夜に申し込む。
・商品やサービスについては一通りじっくり目を通し、
時には競合他社のサイトとの比較もする。
・利用目的は様々だが、それほど即時性は必要としていない。
・帰宅途中または土日にATMで契約する。
・それほど緊急にお金が必要なわけではないので、郵送契約
でも構わない。
・20代の男性 ガテン系(アルバイトなど含む)。
・昼間の空き時間に、出先から申し込む。
・商品やシステムについては、概要がざっとわかれば良い。
・生活費と趣味・遊興費に利用し、できれば早く手元にお金
がほしい。
・対面は好まずATMで契約を行う。
・外出していることが多いので、郵便契約より店舗へ行った
方が早い。
何時でも
余計な時間を
かけずに
できるだけ
便利な方法で
確実に
出先の近くで
新規顧客
A
B
手軽に
既存会員
C
D
1
E
欲求喚起
2
3
4
欲求喚起
サービス訴求
不安解消
サービス訴求
不安解消
DE
DE
申し込み
早く
ネット会員
欲求喚起
商品訴求
DE
人に会わずに
不安解消
登録
サービス利用
新規A:非常に利用意欲は
ある
あるが、不安もある。
C
少
多
B
レーションなどで
来訪者、または経験者。
新規E:非常に利用意欲があり、
即申し込みに至る。
既存2:ネット会員ではない
既存顧客。
少
なし
[X軸:利用意欲]
3
2
サービス利用意欲はある。
既存3:ネット会員だが、ネット
利用意欲が強まった
4
ネット利用に不安がある。
[Y軸:訪問回数]
新規D:B・C経由、シミュ
ある
既存顧客。
D
ないが、興味はある。
新規C:利用意欲がある。
既存1:ネット会員ではない
E
A
新規B:利用意欲はあまり
多
1
サービスへの興味は普通。
既存4:ネット会員でサービス
なし
利用意欲がある。
図 5 チャネル別ユーザ属性からの利用行動策定のイメージ
29
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NRI 技術創発
のような具現化したペルソナから導き出さ
トと競合他社サイトを評価分析し、その結果
れたものではない。PC と携帯サイトのユー
を比較するエキスパートレビュー、ユーザビ
ザを割り出し、利用するサービスや契約申し
リティテストおよびユーザアンケートを実
込みのニーズを把握するために行なったか
施した。
らである。このユーザ像の設定は発注企業の
エキスパートレビューにて競合他社サイト
顧客属性とアンケートデータを活用して作
との評価比較を行なった理由は、利用品質に
成した。
おいて競合他社サイトより弱い部分を導き出
また、利用行動は発注企業の商品性を考慮
すには、同じ基準で競合他社と評価の比較を
し、契約および利用に至るまでのユーザに生
行なう方法が最も有効と考えたためである。
じ得る不安や利用ニーズなどの心理状態に着
また、ユーザビリティテストは多様化したユ
目して策定した(図 5)。
ーザに対応するために実施した。
さらに、ネットチャネルを情報収集に利用
エキスパートレビューの結果判明した課題
し 、リ ア ル チ ャ ネ ル( 店 舗 窓 口 、郵 送 な ど
を踏まえ、サイト構造、画面の情報と機能の
Web 以外のチャネル)で契約申し込みを行な
設計、それに基づく画面デザインを行なった。
うユーザの実態を把握するため、チャネルの
そしてリニューアル完了後、サイトの利用者
利用ニーズ調査を主眼としたユーザアンケー
およびサイトでの契約申し込みおよび契約者
トを実施した。
の利用は倍増した。
その後、発注企業はよりユーザにとって利
①現行サイト評価分析
便性の高い商品とアクセス数拡大の施策を実
エキスパートレビューの対象は、競合他社
施した。この施策により、実ユーザは、1 次リ
4 社を含む 5 サイトとした。評価手法は一般
ニューアルの設定時よりも多様化した。また、
的なユーザビリティのルールや開発内容の評
競合他社のサイトリニューアルおよびアクセ
価項目を否定文で記載したチェックリストに
ス数拡大の施策実施に伴い、他社との利用品
答えていく「ヒューリスティック法」を用い
質における優位性がなくなった。このような
た。そのチェックリストは、
「明快さ」
「幅広
背景から 2 次リニューアルを実施することに
さ」
「整合性」
「簡易さ」
「表示速度」の 5 項目で
なった。
構成されている。その評価結果をスコア化し、
2 次リニューアルは、ユーザインターフェ
イスの改修を目的として行なわれた。
現状サイトの評価は、専門性を持ったレビ
ューアが評価チェック表に沿って現状サイ
競合他社と比較した。同じ基準で比較評価す
ることにより、サイトのウィークポイントが
導き出され、改善強化するポイントを導き出
すことができる(図 6)
。
30
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み 発注
企業
A社
B社
C社
D社
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
A. 明快さ
A−1. 全体構成
1
サイトの目的・メリットがトップページで明確でない
2
サイトの新規・更新部分がトップページに反映されていない
3
利用頻度の異なるコンテンツが同ページに混在している
4
利用ユーザの異なるコンテンツが混在している
5
情報内容の重複が散見される
6
情報と情報の区分けに画像を使用している
●
●
7
自サイトの弁別性を高めるデザイン要素が多すぎる
●
●
●
8
適切なページタイトルが付けられていない
●
●
●
9
商品リストページ等以外で、ページが長い
10
●
●
ページをまたいで記号や色の意味付けを覚える必要がある
A−2. レイアウト
1
ページ上部にタイトル・ページの目的・記載コンテンツが明記されていない
2
追加情報・更新項目箇所が明確でない
3
重要情報がページ上部に配置されていない
4
情報の主従関係欠如
5
情報のグルーピングが弱い
●
●
●
●
A−3. テキスト
1
欧文と日本文との接点への対処がされていない (半角スペース空ける等)
2
センタリングされ可読性に欠く
3
年号が統一されていない
4
属性が混在し可読性に欠く(書体・太字・斜体・下線・取り消し線・サイズ等)
5
文字修飾にアンダーラインを使用している(リンクと間違われる)
●
●
●
発注企業サイト
A社サイト
B社サイト
明快さ
明快さ
明快さ
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
表示速度
簡易さ
幅広さ
表示速度
簡易さ
整合性
幅広さ
表示速度
簡易さ
整合性
総合評価 69%
総合評価 77%
表示速度
簡易さ
D社サイト
明快さ
明快さ
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
幅広さ
整合性
幅広さ
整合性
総合評価 87%
C社サイト
総合評価 69%
●
表示速度
簡易さ
幅広さ
整合性
総合評価 85%
図 6 評価シートと他社比較のイメージ
31
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NRI 技術創発
発注企業のサイトでは「明快さ」
「整合性」
の中から選定した 6 名を対象に実施した。
本テストでは、被験者に「契約申し込みを行
が他社と比較して低いという結果が出た。
そのウィークポイントは次のようなもので
なう」
「契約者サービスを利用する」の 2 つの
ある。
テストタスクを与え、観察した。観察ポイント
を次のように定め、被験者の操作を観察した。
<明快さ>
¡
メニュー名が不明確
¡
商品、サービスを理解できる
¡
コンテンツ内容がアイコン画像およびイ
¡
契約までのプロセスを理解できる
メージ画像に反映されていない
¡
会員登録と会員サービスを利用できる
ローカルナビゲーションレベルでの移動
¡
ができない
¡
テストの結果、1 次リニューアル後に操作
リンクと非リンクの表現が差別化されて
に影響する画面仕様に問題があること、契約
いない
申し込み後のプロセス説明に問題があること
などが判明した。
<整合性>
メニュー名がサイト全体を通して統一さ
¡
れていない
記号の使用ルールがなく、分かりづらい
¡
インタビューでは、プレゼントなどの付加価
値サービスによる利用意欲について聴取した。
これらのテストを通してのモデレータによ
るインタビューからは、コンテンツとサービ
スに対するニーズなどを聞くことができた。
また、このヒューリスティック評価と同時
に、発見された改善ポイントを画面ごとにチ
ェックしている。
ユーザアンケート調査は、
「Web チャネル
で情報収集をし、リアルチャネルで契約する
顧客が多い。それに配慮した Web チャネル
蛇足になるが、この手法のチェック項目を
施策が必要である」という仮説を検証するた
減らし、アンケートによる定量調査を行なった
めリアルチャネルでの契約者に対して調査を
事例もある。
今回はより深い評価を行なうため、
実施した。調査の結果、リアルチャネル顧客
アンケートによる評価は実施していない。
でも事前にネット利用する割合が多いことが
裏付けられた。
次の評価分析のユーザビリティテストでは、
1 次リニューアル時よりも拡大したユーザ層
これらの分析と調査の結果、
「リアルチャ
ネル誘導の顕在化」
「操作に関する疑問解消
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み 機能を充実」
「情報提供機能を追加」などユー
にユーザ中心設計のプロセスを取り入れたも
ザの利用状況に適した情報の構造と提供方
のである。
法、および画面のユーザインターフェイス仕
システムに必要な機能決定の際、プロジェ
様に対しての改善方針と詳細な施策を策定し
クト関係者間でのユーザや利用状況への思い
た。
(表 3)
が異なり、議論が紛糾し、機能がなかなか決
定しないケースがある。事例 1 では、実際の
設計フェーズではこの方針と課題を解決す
顧客属性に基づき、ユーザをイメージできる
べく、アクセス動機とステータスの異なるユ
複数のペルソナとシナリオを設定した。これ
ーザがそれぞれの目的を達成できるようユー
によってリアリティの高いユーザ行動の仮説
ザ動線とサイト構造などの設計を行なった
が設定できた。加えて、ユーザとその利用状
況の認識および利用品質に影響する仕様の判
(図 7)
。
断基準をプロジェクト関係者間で統一でき、
(3) 事例における導入効果
客観的な視点からの検討が可能となった。
先に紹介した 2 つの事例は、利用品質を高
2 つの事例ともエキスパートレビューとユ
めることを目的に、現状評価および設計段階
ーザビリティテストによって現行サイト評価
課題
改善方針および詳細施策
メニュー名の一貫性、ナビゲーションとサイト構造との整合性がと <ナビゲーションの改善>
れていない
サイト全体を通してメニュー名を統一する。
ローカルナビゲーションが設置されていない
サイト構造と整合性をとる。
ローカルナビゲーションを設置し、コンテンツ間の移動を容易にす
る拡張性の高いナビゲーションにする。
ユーザに分かりやすい文言を用いる。
サイト内の画像・ボタンの仕様が統一されていない
<サイト内画像・リンクボタン仕様ルールを策定し、ユーザタスク
ボタンと同様の画像処理がされた非リンク画像があったり、ピクト の単純化を図る>
グラムまたはそれに近い画像が多用されている
再度ユーザの立場に立って、訴求度だけでなく、「使いやすさ」
「単純化」を視野にいれて画像の使用ルールを策定する。 「できる
こと/できないこと」が明確で迷いのない仕様にする。
トップページに掲載されている情報が会員向けなのか非会員向けな <情報を整理して表示> のか分かりにくい
会員と非会員の情報を分ける。情報の種類ごとにエリアを分ける
契約・申し込みのプロセスが分かりにくい
<新コンテンツ追加>
情報提供・サービス紹介コンテンツ、相談コンテンツ(問題解決コ
ンテンツ)を追加し、ユーザが疑問を解消できるようにする。
申し込みがスムーズに完了できない
<申し込みフロー内の画面仕様見直し>
申し込み入力のステップの表示を認知しやすくする。
ユーザが、入力前に凡例を確認するように、入力画面を設計する。
確認/訂正画面は、訂正箇所が目立つようにする。
ボタンは、押すと何が起こるのか予想できる仕様とする。
「リアルチャネルで契約・申し込みをする前にネットで情報収集し <リアルチャネルユーザを意識したコンテンツ提供>
たい」というユーザニーズがある。
リアルチャネル情報、リアルチャネルでの契約・申し込みのプロセ
ス、FAQ等の充実を図る。
表 3 事例 2 主な課題と改善方針の抜粋
33
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NRI 技術創発
を行なった。エキスパートレビューでは利用
事例1では、設計段階でその成果の検証を
品質における課題と解決の糸口を導き出し
目的としたユーザビリティテストを再度実施
た。ユーザビリティテストでは、ユーザが操
した。これにより改善目的と設計内容の乖離
作する際の障害およびその原因の洗い出しを
を縮め、利用品質の精度を高めた。
行なった。加えて、利用にあたってのコンテ
事例 2 のアンケートによる定量的な調査の
ンツや機能についてのニーズも把握すること
結果は、エキスパートレビューやユーザビリ
もできた。
ティテストによる定性的な分析の裏付けとな
認知チャンネル
アクセス動機
ユーザステータス
マスメディア
新聞
申し込みたい。
雑誌
新規A
相談する
テレビ
ラジオ
金利情報
興味があり、金利、
商品、ATM、店舗
情報を知りたい。
新規B
トップページ
便利なサービス
商品説明
インターネット広告
バナー
なんとなく興味が
あり、どういうも
のがあるのか知り
たい。
総合案内
新規C
メール広告
キーワード買い
アドワーズ
スポンサードサーチ
他社を含め比較
検討したい。
ATM・店舗情報
新規D
シミュレーション
その他サイト
検索エンジン
提携サイト(MSN等)
借入を行いたい。
返済したい。
借入状況を知り
たい。
契約者A
会員サービス
代理店(一括見積)
プロモーション
企業情報、IR情報、
採用情報、その他
情報を知りたい
ビジネスパートナー
投資家
求職者
社員
申込みトップ
会社情報
図 7 ユーザ動線設計のイメージ
34
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み るだけでなく、発注企業のチャネル戦略にも
活用した。
利用品質の高い Web システムは発注企業
に以下のようなビジネス効果をもたらす。
以上のように、現状評価および設計段階に
ユーザ中心設計のプロセスを導入すること
¡
Web チャネルによる売上拡大
は、利用品質向上にあたって有効であった。
¡
Web チャネルの利用率拡大
¡
利用に関する問い合わせ減少
4.ユーザ中心設計プロセス導入に
あたっての考察
また、ユーザ中心設計のプロセスは利用品
(1) 導入するメリット
質の問題点を改善するだけでなく、潜在化す
Web システム構築にユーザ中心設計のプ
るユーザニーズを導き出すための手法でもあ
ロセスを導入すると、サイトの目標とユーザ
る。システム化計画の段階でユーザがシステ
ニーズに適合する無駄のないコンテンツ・
ムを利用するメリットを高めるための機能・
機能が設計できる。加えて、開発、運用時に
コンテンツなどのシステムが提供するサービ
機能の仕様変更が発生するリスクが減る。ま
ス検討にも有効である。
た、
効果検証基準が明確になることによって、
以上のような点から、システムの利用品質
設計および運用時の検証を効果的なものに
を高めるには、ユーザ中心設計のプロセスを
できる。
システム開発の標準工程に組み込むべきで
ヤコブ ニールセン(Jakob Nielsen)博士の
ある。
レポートでは、42 件の Web サイトのリニュ
ーアルデザイン事例を分析した結果、平均
135 %の利用品質の向上が見られると報告し
ている(表 4)。
(2) 導入のための課題と対策
従来のシステム開発プロセスにユーザ中心
設計プロセスを導入することは、上流工程に
おけるタスクが増加し、プロジェクトの期間
および費用が増大する。だからといって、従
測定方法
プロジェクト全体
の平均改善率
来のシステム開発プロセスのままでは利用品
質に対する判断基準が曖昧であるため、リリ
売上/転換率
100%
トラフィック/訪問者数
150%
ユーザ目標達成/生産性
161%
特定(ターゲット)機能の利用率
202%
表 4 利用品質の改善率測定結果
出所: Jakob Nielsen 博士の Alertbox
http://www.usability.gr.jp/alertbox/
20030107.html
ース後に画面遷移、システム実装機能、入出
力手順などのアプリケーションロジックに影
響がある利用品質の課題が浮上して、改善の
ための費用が発生するリスクは軽減されない
であろう。
35
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NRI 技術創発
以降では、我々の経験を踏まえプロセス導
入の負荷を軽減する方法について述べる。
ネットユーザを被験者としたが、社内の普通
の会議室で実施した。
また、検証のためのプロトタイプを開発す
①プロセスのカスタマイズ
導入における負荷を軽減する方法として、
る負荷が発生する。しかし、プロトタイプは
各ユーザビリティテストの実施目的を明確に
まず、要件(期間、予算など)に合わせたプ
し、それが達成できるものであればよい。検
ロセスを策定して導入することが挙げられ
証に関係のない部分は簡素にすることで開発
る。前節で紹介した事例はユーザ中心設計の
の負荷は軽減できる。事例 1 の設計段階のユ
評価分析手法のすべてを実施したものでは
ーザビリティテストでは、画面のデザインを
ない。
要件に合わせて評価分析手法を選択し、
評価する段階ではなかったので、設計書をも
その実施段階および効果を十分に検討した
とにしたペーパーモックアップとパワーポイ
上で、実施した。各手法の効果を理解し、要
ントによるテストを実施した。また、テスト
件に合わせたプロセスを導入することで、負
報告書を作成せず、テストの結果を設計書に
荷を抑えることが可能と考える。プロセス策
反映することで、設計期間の短縮を図った。
定の際は、
「システム利用品質とその保証範
囲」について関係者間で合意しておくことが
③ノウハウの蓄積と標準化
機能と業務が類似するシステム間では、利
重要である。
用品質ための要求事項と検証項目等に共通
②実施内容の工夫
プロジェクトタスクにおいては工夫をする
ことで効率化を図ることができる。
設計段階にユーザビリティテストを複数回
点が多いことが想定される。このようなシス
テムでは、プロトタイプが流用できる可能性
が高い。また、ユーザビリティテストなどで
発見される利用品質への課題も共通するも
実施することは、利用品質の精度を高める。
のがある。以下は、これまでユーザビリティ
通常テスト実施には、被験者のリクルーティ
テストで見られた共通の被験者行動の抜粋
ングと専用のテストラボが必要である。しか
である。
し、テストの目的によっては簡易なもので済
む場合もある。被験者を実ユーザに近い社内
¡
エリアごとで情報を把握する。
の人材とし、社内環境でテストを実施するこ
¡
1 つの表示エリアに意識が集中する。
とで、この負荷を軽減した例もある。事例 1
¡
自分にとって必要なとき以外は、操作説
の設計段階のユーザビリティテストは、一般
明などの文章は読まない。
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Web システムにおけるユーザ中心設計手法への取り組み 文章のばらつき、発信者主体の文章表現
ステムは利用品質が高いということができ
を行なうと理解ができない。
る。それを実現するには、システムの利用品
¡
他で学習した操作と異なると迷う。
質の判断基準を明確にし、ユーザ基点で設計
¡
エラー箇所は明示化しないと気付いてく
することが必要である。
¡
れない。
ユーザ中心設計は、ユーザ調査を元にした、
ユーザとその利用状況の仮説と検証に基づい
これらのノウハウ蓄積をするとともに、プ
た、ユーザ基点の設計手法である。従来のシ
ロトタイプのための機能要素のオブジェクト
ステム設計プロセスに組み込むことによっ
化と仕様の標準化を行なうことができる。
て、企業のビジネスの対象ユーザに限定した
NRI では、標準化フォーマットを用意し、
機能の開発が可能になり、ユーザのシステム
画面の情報内容を検討している。これにより
品質に対する満足度を高めることができる。
画面設計書とプロトタイプの作成の負荷を軽
さらに利用品質改善のための保守の費用も軽
減させている。
減される。
開発段階においては、画面仕様デザインが
利用品質の高いシステムは、企業のシステ
決定された画面ソースにアプリケーションプ
ム利用の目的を達成させ、ユーザのシステム
ログラムをマージするプロセスが一般的であ
品質への評価を高めることになる。よって、
る。画面遷移を決定後、画面仕様デザインと
発注企業は委託先に対して、システム構築発
アプリケーションロジック設計を同時進行
注の際に利用品質のための方法の提示を求め
し、プログラムロジック画面にデザインをマ
ることが必要である。
ージする。これにより、画面仕様のユーザに
事例では対顧客チャネルである Web シス
よる検証期間を確保でき、プロセスへの負荷
テムを紹介したが、社内業務システムにおい
を軽減させた事例もある。
ても利用品質は重要である。社内業務システ
さらに、これらをシステム開発の標準工程
ムは業務効率の向上とコスト削減を目的とし
を支援するツールに組み込むことで、プロセ
て開発される。しかし、利用品質が低いとユ
ス導入を推し進めることができると考える。
ーザの業務効率は低下する。また、システム
の利用に関するユーザからの問い合わせが増
5.まとめ
企業のシステムは、ターゲットとするユー
え、その対応が発生する。2 つの面で人件費
コストが増加する。
ザとその利用状況に適合することが必要であ
インターネット普及を背景に、ユーザがシ
る。ユーザとその利用状況に適合しているシ
ステムを利用する機会は増え、利用品質に満
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NRI 技術創発
足するレベルは高くなってきている。2005 年
[4] Wiley Publishing, Inc.『ABOUT
には NPO 法人 人間中心設計機構が設立さ
FACE 2.0 THE ESSENTIALS OF
れ、利用品質向上のための研究および啓蒙活
INTERACTION DESIGN』 Alan
動が行なわれている。また、先進的な企業で
Cooper and Robert Reimann 著 2003
は、業務システムの利用品質の定義、ユーザ
年刊
インターフェイスの設計プロセス等に関する
[5] 翔泳社『コンピュータは、むずかし
社内標準を策定し、それに準拠することを委
すぎて使えない!』Alan Cooper 著、
託先のシステム開発会社に求め始めている。
山形浩生訳 2002 年刊
今後、高機能化した携帯端末での利用、地
[6] 共立出版『ユーザ工学入門∼使い勝
上波デジタルでの利用などでデバイスと利用
手を考える ISO13407 への具体的アプ
状況の多様化がさらに進むと想定される。そ
ローチ∼』黒須正明、伊東昌子、時
のため、高い利用品質へのニーズはさらに高
津倫子著 2000 年刊
まるだろう。NRI では、このような環境の変
[7] 共立出版『ユーザビリティテスティ
化とそれに伴う発注企業のニーズに応えるた
ング∼ユーザ中心のものづくりに向
め、ユーザ中心設計プロセスを組み込んだユ
けて∼』黒須正明著 2003 年刊
ーザフロント設計とアプリケーション設計を
[8] IT pro『使いにくい業務システムが
連携させ、
Web システム構築にあたっている。
生まれる理由』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/
●参考文献●
[1] Lawrence Erlbaum Assoc Inc.
『User Centered System Design:
OPINION/20050905/220619/
[9] @IT「Web アプリケーションのユー
ザーインターフェイス」
New Perspectives on Human-
http://www.atmarkit.co.jp/fwcr/
Computer Interaction』 Donald
rensai/usability01/01.html
Norman 著 1986 年刊
[2] オーム社『ISO13407 がわかる本』黒
須正明、平沢尚毅、堀部保弘、三樹
弘之著 2001 年刊
[3] 共立出版『シナリオに基づく設計』
[10]usability.gr.jp
http://www.usability.gr.jp/
index.html
[11]人間中心設計推進機構
http://www.hcdnet.org/
John M.Carroll 著/郷健太郎訳 2006
年刊
38
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