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タイ・ASEANビジネス環境 国際研修プロジェクト報告書

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タイ・ASEANビジネス環境 国際研修プロジェクト報告書
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース
金融プログラム 2008
タイ・ASEANビジネス環境
国際研修プロジェクト報告書
In collaboration with
IMBA
Thammasat Business School
2008年9月12日~21日
Sponsored by みずほ証券商学研究科研究教育助成金
THAMMASAT-HITOTSUBASHI International MBA Exchange
2008 HMBA Finance Program
International Training Program on Thailand and Its Business Climate
SEPTEMBER 2008
Mission
Thammasat University
Hitotsubashi University
HMBA financial program has a unique overseas training tour as an integral part of its
curriculum sponsored by Mizuho Securities Co. Ltd., intending to give an on-site
experience to enlarge perspectives of participants on global business and financial
network. In 2007, the tour went to Beijing, having lectures at Tsinghua University, and
visited several reputable corporations, both Japanese and Chinese.
In 2008, the tour will go to Thailand, the hub of Japan’s Asian Production Network
that consists of more than 8,000 Japanese firms. This tour is organized with a great
support by International MBA Program of Thammasat University. Participants will visit
important financial institutions including the Bank of Thailand, Japan Bank for
International Cooperation, Mizuho Corporate Bank Ltd., Capital Nomura Securities
Public Co. Ltd. as well as Bridgestone and Toyota Motor Thailand, after several
lectures at Thammasat University. Cultural visits to several historic sites in Thailand
are included.
Participants are expected to take a full advantage of this unique tour program that
is made possible by goodwill of many people and institutions, to strengthen a base for
them to serve for the enhancement of human welfare through their career as captains
of industry.
PROGRAM INFORMATION
Orientational Lectures
by Hitotsubashi Faculty Members
■ July 1st “Asian Bond for Asia”
Professor OGAWA, Eiji
■ July 7th “ Risk Management When Overseas “
Director, Office for the promotion of International
Relations HATTORI, Makoto
■ July 16th “ Economic Performance in Thailand “
Professor WATANABE, Hiroshi
■ July 22nd “ Corporate Governance in Thailand “
Visiting Professor HANAZAKI, Masaharu
Planning : Hitotsubashi University, Graduate School of
Commerce and Management
Planning Cooperation : IMBA Thammasat Business School
Risk Management Advice: Office for the promotion of
International Relations, Student Exchange Division
Venue : IMBA Thammasat Business School
Language of Instruction : English
Training Period : 10 days (September 12th to 21st)
No.of Trainees : 18 trainees and three accompanying
faculty members
To Participants :
For over a quarter century, Hitotsubashi University
has been enjoying a close exchange relationship with
Thammasat University as one of the oldest models of
academic exchange among faculty members. At the
time of the 70th anniversary of Thammasat University in
2004, we have renewed our exchange agreement
intending to further promote our mutual exchange
activities. Thammasat IMBA Japan tour in 2006 and 2007
hosted by Hitotsubashi was an important development
of our long history of exchange that should lead the new
trend of collaboration between our two leading
institutions in business education in each country.
In 2008, we have arranged an international training
program on Thailand for HMBA students. We believe
that this experience should enrich your perspective on
ever globalizing world.
Professor Yoshinori Shimizu, Ph.D.
Graduate School of Commerce and Management,
Hitotsubashi University
D
PM
SEP. 13 (SAT)
SEP.18 (THU)
SEP. 17 (WED)
ホテル発0645
09:00-11:00 企業訪問
ブリヂストン
各自
14.30 - 16.30 企業訪問
トヨタ
各自
14:00~15:30 企業訪問
みずほコーポレート銀行タイ支店
”タイ国概要およびタイ国投資環境”
昼食(タイ中央銀行より)
ホテル発0745
9:00~12:00 タイ中央銀行
「アジア通貨危機後のタイ金融改革」
BOT's Museum Tour
朝食
講演会(夕食)タイ財務省FPRI所長
Dr.Kanit Sangsubhan
朝食(早朝にホテルにて)
朝食
SEP. 14 (SUN)
SEP. 19 (FRI)
サマリーミーティング(夕食)
清水啓典教授・渡辺博史教授
16:30~18:00 国際協力銀行
14:30~16:00 タイ証券取引所
昼食 ( at Jg Ngor restaurant)
ホテル発1000
11:00~12:30 企業訪問
キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ
朝食
各自
ホテル発0800
ホテル発0800
00800 - 1500 バンコク視察
0800-1800 アユタヤ視察 (アユタヤ工業
(クロントーエイスラム・プラティープ財
団地を含む)昼食つき。
団見学を含む)昼食つき。
ホテル着1800
ホテル着1500
朝食
オリエンテーションミーティング
(夕食) 小川英治教授
8:30集合
タイ国際航空TG641便:11:00成
田発15:30バンコク着
L 昼食つき
AM
D
PM
L
AM
SEP 12 (FRI)
スケジュール
SEP. 15 (MON)
SEP. 16 (TUE)
朝食
18:30~ 如水会
如水会まで自由行動
SEP. 20 (SAT)
ホテル発早朝 0430
タイ国際航空TG676便 07:35バ
ンコク発 15:45成田着 解散
朝食弁当
SEP 21 (SUN)
各自
13:00~15:00 講義
「Logistics in ASEAN」
Ruth Banomyong准教授
14:00~16:00 講義
「Doing Business in Thailand」
Frederic William Swierczek准教授
各自
昼食(タマサート大学より)
ホテル発0830
10:00~12:00 タマサート大学院
生とのディスカッション:
「アジアにおけるグローバリゼー
ション VS ローカリゼーション」
朝食
昼食(タマサート大学より)
ホテル発0830
10:00~12:00 タマサート大学
スタディツアー
朝食
目次
◆
プログラム概要・日程表
◆
H-MBAバンコク派遣報告書
「相互信頼とつながりの輪の拡大」
清水啓典(一橋大学商学研究科教授)
◆
「新しいアジアとの接触」
渡辺博史(国際協力銀行経営責任者)
(一橋大学商学研究科教授2008年4月~9月)
◆
「HMBAバンコク派遣に付き添って」
小川英治(一橋大学商学研究科教授)
◆
参加者名簿
◆
研修レポート
・小川 毅
・佐々木哲夫
・高井昭良
・李 範煥
・一政利郎
・伊藤正啓
・小川正人
・久慈貴浩
・園部 誠
・高木大輔
・野田篤志
・幅 啓典
・松江 憲
・持田恭平
・渡部 薫
◆
(学年学籍番号順)
企業視察レポート
・タイ・ブリヂストン
・トヨタ・モーター・タイランド(バンポー工場)
・タイ中央銀行
・みずほコーポレート銀行
・キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ
・タイ証券取引所
・JBIC(国際協力銀行)
◆ 思い出の写真
以上
H-MBA バンコク派遣報告書
『相互信頼と繋がりの輪の拡大』
一橋大学大学院商学研究科教授
清水啓典
今回の「タイ・ASEAN ビジネス環境国際研究プロジェクト」は、昨年度の中国派遣に続
く2回目の海外研修であり、本年度からの H-MBA 金融プログラムの正式発足後、初の海
外研修プロジェクトでした。
たまたま今回は、出発直前にバンコク市内に非常事態宣言が発令されるという事態が発
生したため、大学が定めた危機管理手順を踏む最初の例となりました。参加者にとっては、
海外プロジェクトを遂行する際の情報収集・提供や危機管理、それに基づく参加の意思決
定、また、現地での状況視察と日本でのマスコミ情報との比較等々、一連のプロセスを実
際に経験する機会ともなりました。参加メンバーは、全く通常と変わりない平穏な現地を
見て、マスコミ情報ではなく、信頼のおける人達からの情報や相互信頼関係や経験が如何
に大切か、また大学側がどれだけの準備をして物事を進めているかを、身を以て感じたこ
とと思います。この経験自体は金融界の国際化の最先端を担う役割を期待されている
H-MBA 金融プログラムの履修生にとって、得難い実体験でした。
しかも今回は、米国金融危機が世界に伝播する最中に、タイ中央銀行や証券取引所を始
めとする現地金融機関を訪問し、それぞれのトップとアジア金融危機との対比などについ
て直接意見交換をする機会を得るという、貴重な経験もできました。とりわけ、今回の訪
問を契機に、その2週間後にタイ中央銀行の Bandid 副総裁がご夫妻で一橋大学を訪問され
て、タイ中央銀行を訪問した MBA の学生達と再び親しく話をされた上、兼松講堂や図書
館、古典資料センターなどの見学を通じて、一橋大学の歴史と実績に深く感銘されたこと
は一橋大学全体にとっても大きなイベントでした。また、Bandid 副総裁は一橋大学に在籍
するタイ人留学生とも面談され、帰国したら是非中央銀行にも就職するよう頑張って欲し
いとの激励の言葉も掛けられ、日本とタイとの繋がりの一層の強化にも貢献することにな
りました。このように、一つの活動が様々な人々との出会いを通じて多様な分野での人的
交流を促進させることは、大学はもちろんのこと一般企業においても、そこに所属する全
構成員の重要な役割でもあります。
日本の大学としては他に例を見ない、今回のようなプロジェクトが可能になったのは、
一橋大学が長年に亘って築いてきたタマサート大学との親密な交流連携関係、並びに多く
の教員・事務職員、如水会や OB、留学生達、企画運営を担当して頂いた UTS 国際教育セ
ンターの方々など、広範な支援ネットワークのお陰です。また、本海外派遣プロジェクト
に賛同して寄付金を提供して下さっているみずほ証券株式会社を始め、タイ中央銀行や企
業訪問を快くお受け頂いた現地企業の皆様のご厚意などによって支えられていた賜です。
この場をお借りして、本プロジェクトにご支援・ご協力を頂いた皆様方に厚く御礼を申し
上げておきたいと思います。
本報告書に収録されている個人レポートからも分かるように、参加メンバーは皆かけが
いのない、また学生時代でなければあり得ない貴重な経験をしてくれたでしょうし、タイ
の人々の心優しい国民性やおいしい食事など多くの魅力も理解できたろうと思います。こ
のプロジェクトに対する素直で客観的な感想は、如水会バンコク支部との懇親会の際、1
人の OB が言われた「約 50 万円の授業料で一橋の MBA で勉強できて、このような海外研
修にも来れるなど、とても信じられない!このような不公平があって良いのか!!」とい
う暖かい言葉に集約されているように思います。H-MBA のメンバーは、その「不公平」を
将来社会に還元する責任があることを自覚して、今回の経験を糧とし、より一層広い視野
を持ったグローバルに活躍できる有為な人材として成長して欲しいと願っています。
『新しいアジアとの接触』
国際協力銀行経営責任者
渡辺博史
(一橋大学商学研究科教授 2008 年 4 月~9 月)
全日程のほんの一部しか参加しませんでしたので、包括的なことは申し上げられません
が、日程最終日夜の「反省会」でもお話したように、ASEANの一国の活きた姿を、皆
さんが直接見られたことは良い経験になったと思います。
昔に比べれば、メディアを通じたこの地域についての情報は潤沢になっています。しか
し、皆さんの感想にもあったように、実際に見ることは、また、まったく違った印象を与
えるものです。現地の人、タイ国民とより多くの接触をしたかった、という要望を多くの
皆さんが持ったことは、心強く思いました。
ASEANは、その成立の経緯から、共産化ドミノ現象への抵抗軸という性格を強く持
っていました。そのため、当初は、ドミノの前の札が倒れても届かない距離にある島嶼国、
すなわち、フィリピン、インドネシアが先行して発展してきました。しかし、冷戦構造の
崩壊などの経過の中で、アジア大陸南縁であるインドシナ半島の重要性が高まってきてい
ます。ある意味では、東アジアにおいては、海洋国家中心の成長から大陸国家中心への発
展にと重心が動きつつあります。そこで、8千万人前後の人口を持つヴェトナムとタイの
持つ意味は大きなものになっています。
そのタイは、近隣国とは違い、社会主義、あるいは長期の軍政という道も歩まずに、ま
た、「父権的民主主義」という安定的な、人によっては「閉塞的な」とも表現する段階を踏
まずに、王制から一挙に大衆民主主義へ向かうという、アジアでは珍しい道を進んでいま
す。類似の先例が有るものならば、それを咀嚼しながら、失敗の反復という迂回をせずに
進めていくことは可能ですが、タイの場合には、その先例がありません。強いて言えば、
戦前の日本がその類型に入りますが、国際環境も含めた客観状況は大きく異なっています。
そういう歩みの中で、まさに皆さんのバンコック訪問の直前に『非常事態宣言』が出ると
いったハプニングもおこるわけです。
しかし、このタイのダイナミズムは東アジアの持続的発展の新たな類型にもなれるもの
と思います。タクシン氏という強烈な個性によるところは大きいのですが、東は日本から
西はペルシャ湾岸産油国までを視野に入れた対話の枠組みを、柔和かつ大人しい国民と言
われてきたタイが、提唱するような状況が既に始まっています。やや、地に足が着いてい
ないために、空回りしている面も多いですが、このように我々の隣国は大きく動き始めて
いるのです。
その中で、日本も、自ら発信を行っていく必要があり、そのためにも、受信側となる国々、
国民について、正しく、かつ自らの実感を伴った認識を持つことが肝要だと思います。
皆さんに訪問していただいたタイ中央銀行は、タイ最強の知的センターです。彼らが、
自らの国のみならず、近隣、そして世界の問題を自分の座標軸で真摯に考えていることが
お分かりいただいたと思います。それぞれの国が、そしてそれぞれの人が、自ら考えて途
を切り拓いていくことが不可欠な時代になっていると言って良いでしょう。
清水先生、小川先生のご指導で、今回の経験は単なる現地訪問よりも、はるかに豊かな
ものになったと思いますが、この経験から得られた知見をいっそう深めて自分のものとし、
次に、今度は皆さんが他の人に実感をこめてこの認識を伝えていくことが期待されていま
す。
(以上)
『HMBA バンコク派遣に付き添って』
一橋大学大学院商学研究科教授
小川英治
昨年の HMBA 北京派遣に引き続き、今年の HMBA バンコク派遣に付き添いました。今
年の HMBA バンコク派遣は、10 日間にわたって、タマサート大学における国際ビジネス・
スクールで講義を受講するとともに、企業訪問が企画されました。私は、この HMBA バン
コク派遣のスケジュールの前半に参加しました。
今年の HMBA バンコク派遣では準備の段階から、昨年の HMBA 北京派遣の反省を踏ま
えて、その充実に努めました。バンコクの出発の前には、服部先生による危機管理のレク
チャーの他、渡辺先生、花崎先生、そして、小川によるタイ経済、ASEAN の金融問題と通
貨問題に関するレクチャーが参加者に対して行われました。タイ経済は、ASEAN のなかで
中心的存在であることから、昨年の中国・北京の訪問に続いて、ASEAN のタイ・バンコク
を訪れることは、両者の類似点と相違点を体感しながら、理解することができる、とても
良い機会でした。
タイは、トヨタを代表とする、部品を日本や ASEAN 近隣諸国より輸入して、タイで組
み立てて、タイ及び ASEAN 近隣諸国、中国、さらには欧米へ輸出するという、いわゆる
プロダクション・ネットワークの中のハブとなっています。また、それを金融面でサポー
トする金融機関が、国内の金融機関のみならず、日系金融機関(みずほコーポレート銀行、
国際協力銀行、野村證券)を始めとする多数の外資系金融機関がバンコクに集中していま
す。このようなプロダクション・ネットワーク及びそれを金融インフラとして支える金融
機関を訪問する機会が得られたことは、大変良い勉強になったのではないかと思います。
また、バンコクに到着した翌日に企画した、タイ大蔵省の Fiscal Policy Research
Institute の Kanit 所長との夕食会においては、Kanit 所長より、タイ経済及びアジア債券
市場の取組みと進展についてレクチャーを受けたことは、その後のタマサート大学でのレ
クチャーや企業訪問の予備知識として大いに役立ったことでしょう。また、Kanit 所長より、
参加者一人一人の自己紹介を求められ、参加者が全員、英語で自己紹介をしながら、Kanit
所長と懇談したことは、海外派遣でしかえられない経験です。
私自身、HMBA バンコク派遣のスケジュールの前半のみ参加して、バンコクを離れたた
めに、企業訪問に付き添うことができなかったことは、心残りでありました。前述しまし
たように、参加者とともに、アジアにおけるプロダクション・ネットワークのハブである
トヨタなどを企業訪問して、プロダクション・ネットワーク及びそれに関係する外国為替
に関する話を聞きたかったです。渡辺先生にアレンジいただいたタイ中央銀行への訪問及
びタイ中央銀行副総裁との昼食会にも参加するチャンスを逃したのも残念でした。このよ
うに、今年の HMBA バンコク派遣は盛りだくさんの企画で、参加者は随分と満足されたこ
とでしょう。
最後に、Fiscal Policy Research Institute の Kanit 所長をはじめ、HMBA バンコク派遣
参加者の企業訪問を快くお引き受けいただき、アレンジを頂きました、各社の関係者の方々
には、お礼申し上げます。
参加者名簿
(学年&学籍番号順)
No.
氏名
所属
1
小川 毅
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
2
佐々木哲夫
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
3
高井昭良
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
4
李 範煥
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
5
一政利郎
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
6
伊藤正啓
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
7
小川正人
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
8
久慈貴浩
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
9
園部 誠
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
10
高木大輔
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
11
野田篤志
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
12
幅 啓典
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
13
松江 憲
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
14
持田恭平
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
15
渡部 薫
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
研修レポート
バンコク派遣研修レポート
小川 毅
1、タマサート大学での授業
タマサート大学内で行われた講義は 2 つあり、タイ経済全般の話とタイのロジスティックスについての話であっ
た。また「グローバリゼーション対ローカリゼーション」というテーマで現地の大学院生とのディスカッションが
行われた。タイの学生と日本の学生ではこのテーマの捉え方が大きく異なった。タイの学生は海外の製品をそのま
ま売ることをグローバリゼーションとし、海外製品の名前を現地語に変えて売ることをローカリゼーションとして
いた。我々は海外進出をグローバリゼーションとし、国内に留まることをローカリゼーションとして議論しようと
したため、何か違和感があった。タイは経済成長を遂げ、日系企業も多く進出しているが、タイ発の国際企業は生
まれていない。そうした背景がこの意識の違いを生み出しているように感じた。
2、企業訪問
○ブリヂストン、トヨタ
2 社とも工場見学をした後に、お話を聞く時間を設けていただいた。タイ経済では自動車産業の占める割合が高
く、その 9 割が日系メーカーである。タイに進出して長いこともあり、タイ人のマネージャー層も育っているよう
だ。日系企業がタイにしっかりと根付いていることが伺えた。
○タイ中央銀行
昨今の金融危機のニュースが世界を流れた直後の金融機関訪問ということで、非常に面白いタイミングでの訪問
となった。中央銀行は歴史ある建物で、厳かな雰囲気があった。そうした建物の中で、副総裁との会食をする機会
を得ることが出来た。これは学生だからこそ出来る貴重な体験であった。中央銀行を訪問する 2 日前に、タイ財務
省 FPRI 所長の Kanit 氏の話を聞く機会があった。Kanit 氏は非常に気さくな方で、我々の拙い英語に耳を傾けユ
ーモアある話をしてくれた。その時に、国を代表するような優秀な人は器も大きいと感じていた。タイ中央銀行の
副総裁とお会いした時も同様の印象を受けた。
○みずほコーポレート銀行、キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ、国際協力銀行
日本の金融機関は、現在のところタイに進出してきた日系メーカーを相手にしているウェイトが非常に大きいと
いう話であった。また、タイではネットワークが重要だという話であった。家族・知り合いといった関係を重視し
ているため、飛び込み営業は全く効果がないという。今後の発展を考えるならば、いかに現地企業とのパイプを作
っていくかが重要なのであろう。野村証券では、タイでの証券業は 2 つの理由で非常に難しいという話を聞いた。
1 つめは、ルールはしっかりしているが皆が守らないこと、2 つめは業界リーダーがいないために過度な競争に陥
りやすいことである。また、法律による規制もあって日系の大企業には上場メリットがなく、ほとんどが上場して
いないという。そのため、証券業もあまり拡大していない等、金融業としては難しい状況も抱えているようだ。し
かし、今後は日本の金融機関にビジネスチャンスが増えてくると思うので、今後の動向には注目していきたい。
また、国際協力銀行が保証供与などによって、日本企業を援助している話は興味深かった。新体制の銀行にも企業
支援や経済外交のツールとして、タイ金融市場および日系企業への影響を期待したいと思う。
3、研修全体を通じて
バンコクは渋滞がひどかったが、それは経済発展している証だろうと感じた。また、渋滞の中でもクラクション
を鳴らす人はほとんどなく、
タイ人の温厚な人柄が伝わってきた。
バンコクは明らかに大都市な様子を見せながら、
一方ではすぐ近くにスラムが存在するといった社会の歪みも垣間見ることが出来た。総じて日本人にはとても住み
やすい町と感じた。
タイ人は仏教徒である点・歴史的に反日感情がない点などから日本人には接しやすいという話も聞くことが出来
た。至るところでそれを感じることが出来たし、実際にオフィスの雰囲気などを見ると、昨年の研修で訪れた中国
の企業よりも日本人にとって仕事がしやすい環境にあるという印象を受けた。また、タイの学生は語学力が高かっ
た。外資を受け入れるには非常にいい土壌なのだろうと思う。語学の面では日本は負けていると感じた。今回の研
修は、私にとって英語を勉強する必要性を肌で感じさせてくれるいい機会となった。
以上
2008/10/17
CM070232:佐々木
哲夫
金融プログラム「タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト」
報告レポート
◆はじめに
◆タマサート大学での交流
◆企業訪問
◆おわりに
◆はじめに
今回のプログラムでは数々の貴重な体験を積むことができたと感じている。バンコクを
訪れている期間にリーマン・ブラザースの破綻が明らかとなり、その翌日にタイ中央銀行
へ訪問することができた。世界同時金融危機が起きている時期に一国の中央銀行副総裁か
ら話をお聞きできたことは大変得難い経験であった。その他にも、日本を代表する TOYOTA
や Bridgestone、Mizuho Securities などを訪問することができ、現地法人においてどのよ
うなビジネスが行われているかを垣間見ることができた。タイで最高水準の教育を行なっ
ているタマサート大学において、そこの MBA プログラムで学んでいる学生との交流も貴重
な体験となった。また、今回の滞在ではタイで有名な遺跡などの観光スポットを訪れるこ
とができた。その建造物の素晴らしさもさることながら、道々で目にするタイのローカル
な雰囲気や、いまだ根強く残っている貧富の差を見せつけられ、経済発展の重要性を再認
識した。
以下では、主なイベントであったタマサート大学と企業訪問の 2 点について述べ、最後
の「おわりに」でまとめとする。
◆タマサート大学での交流
同大学での内容は大きく 2 つに分けることができる。タマサート大学の教授による講義
と MBA プログラムの学生とのディスカッションである。
2 人の教授による講義は、タイにおけるビジネス環境について、そして ASEAN における
ロジスティクスについてであった。タイにおけるビジネス環境の講義において最も印象に
残っているのは政治的な汚職について熱く講義していた教授の姿である。使い慣れていな
い英語での授業、それもネイティブの英語ではないということで苦労したが、それでも教
授の熱心な講義を受けて好感を抱き、タイにおける汚職事件やそのことが経済発展を妨げ
ていることを学んだ。次に、ASEAN におけるロジスティクスに関する講義についてのべる。
現在進行している国境横断的なロジスティクス・プログラムの第一人者ということで非常
に詳しい内容を知ることができた。ロジスティクスという非常にスケールが大きくインフ
ラとして国家レベルでのプロジェクトでは、国家間の利害対立を克服することは容易なこ
とではないと感じた。少し話はそれてしまうが、日系企業が海外へ進出した際に進出先国
の FDI に対する考え方は非常に重要である。企業の立場から考えると、今回学んだロジス
ティクス計画における政府間での利害対立などを慎重に見極めたうえで進出先や時期を検
討することが重要であろう。今回講義していた内容はタイ特有のものであり、非常に勉強
になった。
次に、同大学の MBA プログラムの学生との交流について述べる。ディスカッションのテ
ーマがアバウトであったために、それ自体ではなかなか貴重な体験とは言い難かった。し
かし、実際に英語でのディスカッションや企業や国家のグローバリゼーションという難し
いテーマに関して少しながらもタイの学生の意見を聞くことができた。日本から見ると、
日本企業は海外に積極的に展開しているが、タイ企業はなかなか海外で活躍するようなグ
ローバル企業は育っていない。しかし、タイ側からみると、必ずしも企業自体が Made in
Thailand である必要はなく、外資系企業の中でタイ人が育ってくれればそれでも良いとい
う考えであった。
このタマサート大学では、初日に大学の構内を案内してもらうとともにタイや大学の歴
史についても話をいただいた。そのような経験から、タイの人々の国に対する気持ちなど
を推し量ることができ貴重な経験となった。
◆企業訪問
今回のプログラムでは日系企業を中心に訪問させていただいた。その中でも、TOYOTA
と Bridgestone の工場を見学できたこと、タイの中央銀行の訪問はとても印象的であった。
最初に、TOYOTA の工場の初見の感想はとても綺麗で最新の設備が整っていると感じた。
最初の社員の方からの説明では技術などに関する説明よりも、むしろ環境にいかに配慮し
ているかという点を強調していることが印象的であった。また、「現在考えられている最新
の工場というのは、最新のテクノロジーではなくて、生産高をどれだけフレキシブルに変
化できるかということ」という話は勉強になった。現在のように需要の予測が極めて変動
しやすい時代に利益を最大化させるかということは喫緊の課題であるのだろう。一方、
Bridgestone の工場は思ったよりも使いこんである感じがあり現地に溶け込んでいるよう
に感じた。日系企業の中でも比較的早い時期にタイに進出していることを感じさせるもの
であった。ここで興味をひかれたのは、現地人の管理職への採用が積極的に行われている
ことであった。このことは TOYOTA も同様であったが、経営を効率的に行なっていくに際
して現地人との協力関係は不可欠であるということであろう。しかし、タマサート大学で
質問を受けたように、タイ人の認識では日系企業は現地人を管理職に登用しないと思われ
ているようだ。2 社の状況しか把握できていなので何とも言えないが、タイに進出している
日系企業も「真の現地化」を目指すべきであろうし、タイの人々もイメージに流されず真
の日系企業の姿を認識する必要があるように思う。
タイ中央銀行での経験は今回のプログラム全体の中で最も印象的なものとなった。その
理由として、一つは世界同時金融危機が顕在化した時期と重なっていたこと、そしてもう
一つは副総裁と面会できたことである。中央銀行では、まず行員の方からアジア金融危機
時のタイの状況とその対策について、そしてタイ金融の現状と金融政策の中長期計画につ
いてお話しいただいた。質疑応答ではサブプライム問題に関する意見や、それがタイ経済
に与える影響についての話が出た。直接的な影響は軽微なものの、金融危機を起点とした
実体経済への影響の波及などを考えると楽観はできないという内容であったと思う。その
後、中央銀行の歴史や貨幣などについての展示を見せていただいた。最後の昼食では、副
総裁と一緒にいただき、その時の副総裁と清水教授・渡辺教授との会話が自分にとっては
非常に勉強になった。また、副総裁に付き添っていた若い青年の行員の方がいたが、将来
の幹部候補として側で仕えながら勉強しているのではと思った。実際に、中央銀行や民間
の金融機関などの中枢で働いている方々の意見をメディアを通して勉強することはできる
が、実際に行ってお会いしないと分からないような雰囲気や空気といったものは軽視でき
ないと考える。その点において、そのような雰囲気・空気を感じることができたことは非
常に貴重な経験であった。
◆おわりに
今回のプログラムを通して、東南アジアの中でも存在感を持つタイについて多少なりと
も知識・経験を深めることができ、改めて参加して良かったと思う。工場見学や中央銀行
の内部など、社会に出てからは入ることができない所を見学することができて良かったと
いう面ももちろんだが、観光地で見た貧富の差の現実や大学でのタイ人学生の姿など、す
べての事が勉強になった。この経験を将来に生かせるよう、日々の生活の中でも世界を視
野に入れ仕事に取り組んでいきたい。
最後に、このような貴重な経験の場を提供してくださった小川教授・清水教授・渡辺教
授や、MBA オフィスの大和田様、UTS の方々に感謝いたします。
以上
「タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト」
cm070239
高井 昭良
(総括)
今回の研修はタマサート大学での講義・工場見学・金融機関訪問・如水会と大きく分け
ることができると思いますが、どの場面においてもタイを代表するような方々がアテンド
してくださり、お話を聞くことができ、非常に勉強になりました。
このような経験は金融プログラムでないとできないことだと思いますし、一生の糧にな
ったと思います。以下、それぞれについて詳しく見ていくこととします。
(タマサート大学での講義)
タイを代表する大学において、タイを代表する先生方が我々のために直々にレクチャー
をしてくださる機会などそうそうはないと思いますし、タイの今後を考える上で非常に勉
強になりました。
また、講義以外においても、我々のために食堂の完成を急いでくださるなど至れり尽く
せりの対応をしてくださって非常に感謝をしております。
(工場見学)
企業の工場見学などは、企業に入ってからはなかなか自由にはできないものであり、そ
の中でもブリジストンとトヨタという、タイに多く存在する日本の自動車関連産業のなか
でも代表的な企業の工場を見ることができたのは非常な幸運でした。
特にブリジストンでは、工場長や財務・人事のタイ人で主要なポストに就いている方々
や日本人スタッフの多くの方々が我々のためにアテンドしてくださり、工場見学において
も我々の質問にも丁寧に答えてくださり得難い経験になったと思います。
(金融機関訪問)
ちょうど我々がタイを訪れていた時にアメリカの金融機関が破綻するなど、世界の金融
情勢が大きく揺れ動いていたのですが、そのような時に国際協力銀行・みずほコーポレー
ト銀行・野村證券という日本を代表する金融機関の方と、タイ中央銀行・タイ証券取引所
といったタイ金融の中枢を担う機関の方からそれぞれの立場からお話を聞けることができ
たことは一生の記憶に残ると思います。
(如水会)
タイの如水会では、さすが一橋と思わせるような方々が多くいらっしゃっていました。
立食パーティー形式だったので、企業訪問のときとは違いフランクな雰囲気のなかで会
話をすることができ、企業訪問のときには聞きづらいような質問もすることができ研修の
最後にそのような場を設けていただいて非常によかったと思います。
「タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト」
cm070268
李
範煥
今回の研修プログラムは、多少短い日程ではあったが、タマサート大学での講義および学生とのディ
スカッション、製造業や金融業など現地の企業訪問、タイ中央銀行訪問などかなり密な日程で行われた。
グローバル化する世界経済における東南アジア経済の現状、特にタイを中心とする ASEAN 経済を把握
する上で今回の研修は非常に有意義なものであった。
●タマサート大学での講義および学生とのディスカッション
タマサート大学では「Doing Business in Thailand」、
「Logistics Development in ASEAN」など、東
南アジア経済の中心を担うタイでのビジネスについてお話を聞くことができた。東南アジアといえば、
「途上国」という漠然としたイメージしか持っていなかったが、この講義を受けてグローバル化してい
る世界経済の中で普遍的な経済発展のプロセスをもう一度考え直すことができ、タイの経済発展プロセ
スを俯瞰することができた。また、途上国といえども、ASEAN の中ではタイは先頭に立っており、ベ
トナム・ラオス・カンボジアなど過去共産主義体制にあった国々を ASEAN 経済圏に取り入れようとし
ているのが垣間見えた。学生とのディスカッションでは、タマサート大学側の学生が少なすぎて十分な
ディスカッションはできなかったが、「グローバル化する経済」というテーマで話を進めるなかで双方
にかなりの視点の違いがあり、MBA コースの学生でも経済圏や国が違えばものの考え方がかなり違っ
てくるという教訓を得た。
●企業訪問
製造業としてはトヨタとブリヂストンを訪問した。従来の認識や事前調査から最初は日本人が重職を
占めていてタイ人はその下で働いているという認識だったが、実際組織図を見てみると、工場長をはじ
めとする生産現場の重職をほとんどタイ人が占めており、日本人はアドバイザーという形で働いていた。
一般的に日本の会社では日本人以外は重職につけないというイメージとは違い、日本企業もグローバル
化に向けてかなり努力している姿勢を見ることができた。とはいっても、実際の雰囲気としては日本人
の管理組織と現地人組織が分離されており、外資系グローバル企業のように本社と現地の人間が組織的
に混ざっているようには見えなかった。しかし、社内共通語が英語になっているなど、日本企業なりの
グローバル化へ向けた努力を垣間見ることはできた。
●タイ中央銀行や証券取引所
タイ中央銀行での講義からはタイ経済の現状をまとめて勉強することができた。特に 1997 年アジア
金融危機以来、タイの金融市場を安定化させつつも先進的なものに発展させようとする努力が感じられ
た。最近は外国企業の生産基地として発展してきたタイ経済が減速している中、次の成長動力育成に腐
心しており、資本市場や産業基盤整備にも注力していることがわかった。
以上のように、今回の研修では、東南アジアの産業や経済全般について勉強することができ、企業や
中央銀行などを実際見ることによって学校で学んだ理論をより具体的に理解するとともに経済を見る
視野を拡げることができた。最後に、このようなプログラムを提供して頂いた HMBA およびみずほ証
券に感謝したい。
タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト
学籍番号
cm080206
一政
利郎
はじめに今回の研修プログラムにご協力いただいたみずほ証券の関係諸氏、タマサート
大学の関係諸氏、訪問先企業の関係諸氏、清水教授、小川教授、渡辺教授(現・日本政策
金融公庫・副総裁)、大和田さんをはじめとする MBA オフィス各位に感謝申し上げます。
10 日間の有意義な研修を送ることができたのは、偏に皆様の協力があったからだと思いま
す。本当にありがとうございました。
今回の研修プログラムは、タマサート大学での講義と企業訪問を中心に構成されていた。
そこで大学での講義と企業訪問の概要と感想で本レポートを構成したいと思う。
○タマサート大学での講義について
タマサート大学でのプログラムは 2 日間にわたって開催され、講義のほかにタマサート
大学の学生とのディスカッションも行われた。講義はすべて英語で行われ、その内容はタ
イにおけるビジネスと政治の関係からアセアン地域全体を巻き込んだ GMS 計画を中心と
するロジスティックの話題までと多岐にわたるものであった。タイのビジネスにおける政
治的背景は日本人には想像がつかないものであり、国際進出する際には進出先の国との表
面上の違いだけでなく違いが生じる背景を根本的に理解することが大事であると感じた。
さらに学生とのディスカッションにおいてはグローバリゼーションとローカリゼーション
について有意義な意見交換ができた。自国の産業が乏しく世界の企業が生産拠点として進
出してきているタイの学生と生産資源が乏しく、世界に進出することが必須である日本の
学生との感覚の違いを認識することができた。
○企業訪問について
今回のプログラムでは日系企業を 5 社とタイ証券取引所、タイ中央銀行を訪問した。日
系企業を訪問して感じたことは、極力日本人スタッフを減らして現地スタッフで運営して
いることである。特にトヨタ、ブリジストン、キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ(CNS)
はその傾向が強く現地に根付き、地域社会に貢献している様子がうかがえた。グラーバリ
ゼ―ションとローカリゼーションの関係を実感できるものであった。その中で特に印象に
残っていることは CNS とみずほコーポレート銀行のスタンスの違いである。みずほ CB は
日系企業がタイに進出する際の手伝いを基本的業務としている。一方で CNS はタイのリテ
ールマーケットに焦点を当て、現地の営業部員を使いタイの個人投資家を狙った戦略を取
っている。本当の意味で「タイに進出」というのは CNS のようなスタンスの事業展開であ
ると感じた。同じ金融業界の会社でありながら、正反対の戦略をとる両者が今後どのよう
に発展していくかは見ものである。タイ中央銀行への訪問は、非常に貴重な体験となった。
タイ経済の中枢を担う機関を訪問し、現場の生の声を聞くことができたことは今後得るこ
とが難しいだろう経験となった。
○全体としての感想
研修全体を通して感じたことは、
「グローバル化」という視点である。訪問時期はちょう
どアメリカを発端とする金融危機が始まった時期であった。金融機関の方は皆その話題を
口にした。現在のビジネスの世界では、一つの国で起こったことは世界中に影響する。そ
のようなことを体感している中で、海外研修を行えたことは非常に有意義であった。金融
業から製造業まですべての産業においてグローバルな視点を持ち、どのように活動してい
くかを考えるきっかけとなった研修であった。
~タイ・ASEAN
ビジネス環境国際研修プロジェクトを終えて~
CM080207
伊藤 正啓
1.
タマサート大学での講義
タマサート大学は、タイで2番目に伝統のある大学である。政界に数多くの人を輩出している由緒
ある大学で講義が受講でき、とても有意義であった。その中でも、GMS(Greater Mekong Sub region)
プログラムについての講義が特に印象的であった。GMSプログラムは、メコン河流域6 カ国、すなわ
ち、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム、中華人民共和国雲南省の間の経済関係をよ
り緊密にし、経済協力を推進するものである。この6カ国をつなぐすべての道路が完成し、通関が整備
され各国の物流が活発になれば、大きな経済効果をもたらすだろう。これらひとつひとつの国の経済
力は日本や欧米諸国と比べ小さなものであるが、GMSプロジェクトが成功し、各国が自力での経済成
長に自信をつければ、今後、著しい発展を遂げていくに違いない。ミャンマーやラオス、タイでは政
治的リスクを抱えており、関税などの障壁をすべてクリアするためには課題も多いと思われるが、国
境を超え、各国の経済協力を推進するこのGMSプログラムの成功を大いに期待したい。
タマサート大学の生徒とのディスカッションも大変有意義であった。ただ、事前にどのようなディ
スカッションをするのか、詳細なスケジュールが分からなかったこと、私の英語力が未熟だったこと
もあり、意思疎通が思うようにできなかったことは非常に残念である。休憩時間に廊下を歩くと学部
生の授業が行われていたが、どの授業も英語で行われていた。タマサート大学での2日間は、自分の英
語のふがいなさと国際意識のなさを痛感した2日間でもあり、MBAでの在学中に英語力を含め国際意
識を身につけたいと強く思った。
2.
企業訪問
タイ中央銀行や証券取引所、バンコクに進出している日系企業を訪問した。その中でも一番印象に
残ったのは、TMT(トヨタ・モーター・タイランド)である。訪問したバンポー工場は2007年に生
産開始された最新工場であり、ピックアップトラックを生産している。驚かされたのはトヨタの将
来の自動車需要を見据えたフレキシブルな生産体制と環境意識の高さである。今後のフレキシブル
な増産体制に備え、例えば工場内を走る無人の運搬カートは、固定されたレール上ではなく、ICチ
ップを埋めたラインの上を走る構造になっているため、工場のレイアウト変更にも即座に対応でき
るようになっている。さらに、新たな生産ラインを増設するスペースもあり、トヨタの将来に向け
た強気の戦略がうかがえた。また、このバンポー工場を建設した後でも周辺の自然環境を建設前と
同じ状態にするために様々な取り組みを行っている。例えば、コージェネレーション、太陽光発電、
ウォータートリートメントプラント(工場排水の再利用)などのシステムを導入、また、日々の取
り組みとして、水溶性塗料の使用、工場敷地内における10万本の植林の実施(今後も継続)などに
力を入れているなど、モノづくりとしての貢献以外に、自然環境を大切にする同社の環境意識の高
さに感銘を受けた。
3.
研修を通して
バンコクの驚異的な発展には驚かされた。地下鉄の開通や高層ビル、高級デパートが乱立し、5年前
にバンコクに訪れた時と見違える程、市街地の姿がかなり変わっていた。また、英語の浸透度合いに
も驚かされた。タマサート大学の学生の英語力はもちろんのこと、英語が通じるタクシーも多かった。
この研修では、いかに自分の英語力が未熟であり、国際意識が薄いかを気づかされた。日本にいなが
らも今後は世界に目を向け、英語力を鍛え、国際感覚を養っていきたいと思う。
以上
●タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト レポート●
小川
正人(CM080214)
◆タマサート大学について
タマサート大学では、タマサート大学院生とのディスカッションを行い、タマサート大学教授によ
る「Doing Business in Thailand」と「Logistics in ASEAN」の講義を受講させていただいた。特に
興味深かったのは「Logistics in ASEAN」の講義の中での GMS(Great Mekong Sub-region)プロジ
ェクトについてであった。これは、メコン河圏の 6 カ国「タイ、ラオス、ミャンマー、ベトナム、
カンボジア、中国」の相互貿易と投資の促進を図るために、各国境間を繋げる大型道路、鉄道などの
インフラの整備を進めているプロジェクトである。このプロジェクトが成功し輸送インフラが整備さ
れれば、各地域間の貨物の輸送日数を大幅に軽減できるだけでなく、経済活動の活性化や情報・技術
の交流も促進され、新しい雇用機会の創出にも繋がるのではないだろうか。このように各国での新た
な投資や雇用の機会が生まれれば、貧困地域の発展も促進され、生活環境が改善されるなど経済社会
に与える影響は大きいと考えられる。しかし、大型の長距離道路といったインフラを整備するため、
このプロジェクトには莫大な費用が必要になることや、各国間での利益、不利益の格差が生まれてし
まうのではないかといった問題もあるように思う。輸送インフラが整備されることによる経済効果は
大きいが、このプロジェクトにより本来の目的である全ての国の発展に繋がるかどうかという疑問点
は残る。
◆企業訪問について
企業訪問は、製造メーカーのトヨタ、ブリヂストン、金融機関のみずほコーポレート銀行、タイ中
央銀行といった幅広い業種への訪問を行った。業種の異なる企業の話を聞くことにより、タイにおけ
るビジネスの取り組み方の相違などを学ぶことができた。
企業訪問の中で特に印象的であったことは、トヨタ、ブリヂストンの工場見学と、人材育成、環境
面への取り組みであった。工場見学について、工場内の生産工程はオートメーション化されており、
想像していたよりも従業員数が少ないという印象を受けた。しかし、製品の確認作業といった人の目
を必要とする作業工程には多くの人材が配置されていた。工場見学は現場の生の声を聞けるまたとな
い機会だったので、現場の労働者の方とコミュニケーションをとれる機会があれば良かったと思う。
人材育成面について、従業員のための訓練センターの設立や、必要な技術や知識を計画的に習得さ
せるための OJT など、人材の教育・訓練への積極的な取り組みを行っているという印象を受けた。
日本人スタッフの方から、タイ人の仕事への取り組み方は非常に真面目であるというお話を伺った。
実際に工場見学をしてみると熱心に作業を行う従業員の姿しか見受けられなかった。現在、創造的な
仕事については日本人のマネジメント層が行っており、今後の課題は、自ら未来を切り開いていける
ような創造的な仕事を行える人材、将来的にマネジメントを任せられる人材を育成するということで
あった。以上のことから今後の日系企業の成長にはマネジメントスキルを備えた人材の育成・確保が
不可欠であり、そのことがひいてはタイ国の発展にも繋がる重要な要素であると考える。
環境面について、各社の取り組みは非常に興味深いものであった。ブリヂストンでは産業廃棄物
への取り組みや完全ゼロ・エミッションへの取り組みを行っていた。また、トヨタでは「サステ
イナブル・プラント構想」を掲げ、工場の敷地内に苗木を植えるという緑化活動を行っていた。
トヨタの方の、
「一切 CO2 を出さず、空気も汚さない。工場が建設される以前の環境状態と全く
変わらない工場を目指している。」という言葉が特に印象的であった。それを実現するために、
今後は自分達が使用するエネルギーの多くを自然エネルギーで活用していく必要があるとのことで
あった。環境対策への取り組みは、社会的責任や企業イメージ向上といった表面上のものではない。
企業利益と社会全体の利益とを両立することができる企業こそ存在価値のある企業であり、企業
がどのような考え方で環境問題に取り組むべきか、現在行われている具体的な取り組みはどのような
意図があってのものか、また、今後の取り組み方についてどのような構想を描いているかなどについ
て今一度考えさせられた。
◆タイについて
モノレールや地下鉄、また、ショッピングモールなどバンコク都市部での経済成長には目を見張る
ものがあった。しかし、その一方で交通渋滞、大気汚染やスラムなどの問題が深刻化しているように
感じた。実際に朝夕の渋滞に巻き込まれ、渋滞のない時間帯に車を利用して 1 時間程度で到着する
場所へも渋滞時には 3 時間もかかった。交通渋滞や大気汚染の問題は、都市部への投資が集中した
ために人口が増加し、それが原因で引き起こされているものであろう。また、経済成長が著しい都市
部の中において、1 日数百バーツでの生活を余儀なくされている貧困層がスラムを形成しており、貧
富の格差という現実も目の当たりにした。このように近代化の裏には、多くの問題が残されていると
感じた。
◆その他
実際のプログラムは事前に想像していたもの以上に充実しており内容の濃い有意義な 10 日間であ
った。現地大学での講義を受講することや現地企業を訪問するといった経験は早々できるものではな
い。また、訪れた国を理解する上でその国の文化に触れることは非常に大切なことであり、今プログ
ラムには、王宮やアユタヤ遺跡への観光も盛り込まれていた。このプロジェクトは自身で体験してみ
て初めてその素晴らしさが実感できるものだと思う。この貴重な経験を自分の人生、今後のビジネス
に生かさなければならないと思う。
最後に、この研修プロジェクトを企画・運営・協力して下さった全ての方々へお礼を申し上げたい
と思います。本当にありがとうございました。
タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクトを終えて
CM080219
久慈
貴浩
【バンコク・アユタヤ視察】
今回の研修は、バンコク・アユタヤ視察から始まった。私は以前の仕事でアジア地域を
担当していたこともあり、バンコク訪問は今回が 2 度目であったが、じっくりと名所を視
察するのは初めてだった。近代化が急速に進むタイの新旧 2 つの都を実際に歩きながら体
感できたことは、タイの歴史と文化を理解する上で非常に役立ったとともに、有意義であ
った。
【タマサート大学】
タイの名門大学であるタマサート大学のビジネススクールは、設備・教授・学生の全て
の面において素晴らしい環境であった。ASEAN のロジスティックについての教授による講
義は非常に専門的な内容のものであり、すんなりと理解できるようなものではなかったが、
その分野の第一人者から具体的な話を直接聞けたことは貴重な経験であった。学生とのデ
ィスカッションでは、「アジアにおけるグローバリゼーション v.s.ローカリゼーション」と
いう議題について討論を行った。当初イメージしていたものとは異なる内容および展開で
はあったが、有意義な時間を過ごすことができた。2 日間という短い日程であったため、学
生同士でのフリーディスカッションをする時間があまりなかったことが、少々残念であっ
た。
【企業訪問】
3 日間の日程で、7 社を訪問した。総じてどれも非常に興味深い内容であったが、その中
でも特にトヨタ自動車とタイ中央銀行は有意義であった。以前、愛知トヨタの工場を何箇
所か見学したことがあるが、バンコクトヨタの最新工場であるバンポー工場は、設備面で
は愛知トヨタに勝るとも劣らない内容であった。タイ中央銀行については、HMBA に入学
していなければ、一生訪問する機会などなかったであろう。本当に貴重な経験であった。
唯一残念であった点は、今回の研修ではタイ生粋のローカル企業への訪問がなかったこと
である。欲張りすぎを自負した上で言わせていただくと、ローカル企業への訪問もあれば
タイのビジネスについて知る上でさらに参考になったのではないかと思う。
【バンコク如水会】
一連のスケジュールの締めくくりとなるイベントが、バンコク如水会であった。予想以
上に多くのバンコク在住の一橋 OB・OG の方々が温かく出迎えて下さり、終始和やかなム
ードで楽しい時を過ごさせていただいた。日本国内のみならず、海外においても強い結束
力を誇る如水会を目の当たりにし、その凄さを改めて実感することができた。
【その他】
4 年ぶりに訪れたバンコクは、至る所に発展が見られた。市街地の街並みは一層近代的に
なり、街を埋め尽くすようにはしる自動車も新しいものが多くなっていた。当時はまだ利
用者が少なかった BTS(スカイトレイン)も、今では利用者で溢れていた。発展を続けるバン
コクの活気は非常に心地よいものであり、残念ながら今の日本ではあまり感じることのな
いものであった。また数年後、この地を訪れてみたいと強く願うとともに、卒業後は日本
の豊かさだけでなくグローバルなレベルで豊かさの持続的成長に寄与していくことに少し
でも関わっていけるような、意義のある仕事をしたいと強く思った。
最後に、当プロジェクトの企画・運営をして下さった、清水教授、小川教授、MBA オフ
ィス大和田さんをはじめとする全ての関係者の方々に厚く御礼申し上げます。ありがとう
ございました。
<タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト>
学籍番号
氏名
1
cm080230
園部
誠
はじめに
本プロジェクでは、非常に有意義な経験をすることができた。バンコク・アユタヤ
視察、タマサート大学での講義及びディスカッション、企業訪問、如水会の方々との
交流など、すべてのイベントが充実したものであった。また、本プロジェクトが実施
された時期も一生の思い出に残るものとなった。本プロジェクトの直前には、タイ政
府と反政府市民団体との衝突があり、サマック首相が非常事態宣言を発令するという
異例の事態が発生した。世界経済では、リーマン・ショックが勃発し、米政府による
AIG の救済処置がなされた。政治面、経済面において非常に緊迫した時期に、本プロ
ジェクトに参加できたことは非常に貴重な体験だった。以下に本研修を通じて感じ、
考察したことを記述する。
2
バンコク・アユタヤ視察
バンコクに到着し、印象的だったことは、7年前に訪問した時に比べてかなり経済
発展が進んでいたことである。空港は新しくなり、レストランや免税店など様々な洗
練された設備が整えられていた。バンコクの中心部では、乗用車の数が急激に増え、
しかも、高級車の数がかなり増えていた。タクシーにもかなりきれいな車が使用され
ていた。(前回訪問したときは、古くてきたないタクシーが多かったような記憶があ
る。)通勤・通学ラッシュ時には、交通渋滞がひどく、バンコク市内の道路網が麻痺し
ていた。このような経済発展が進む一方で、マーケットでは、昔ながらのやり方で、
干物や香辛料など様々な食料が不衛生に陳列され、空き地には数多くの野良犬が徘徊
していた。また、スラム街には、貧しい子供たちを教育するための施設が世界各国の
様々な財団によって設立されていた。
このような状況から、タイという国の複雑さとタイが抱える様々なジレンマを垣間
見ることができた。経済発展とそれに伴う社会問題の狭間にタイは立たされているの
である。
3
タマサート大学での講義及びディスカッション
タマサート大学での講義および学生とのディスカッションで印象的だったことは、
次の二点である。第一は、タイの人々の産業発展に対する考え方である。第二は、東
南アジア地区における巨大なロジスティックス構想におけるジレンマである。
前者に関して、タイの産業は外国直接投資(FDI)への依存度が非常に高く、また、
タイ政府も自国産業を育てるよりも外資の受け入れに積極的である。具体的には、海
外からの投資を促進するため、タイ政府は税金の軽減などの多くのインセンティブを
設定している。その結果、自動車メーカー、自動車部品メーカーや電気・電子機器メ
ーカーなど、多くの日本をはじめとする外国の企業がタイに生産拠点を構築し、タイ
産業における重要な役割を果たしている。このように、外国企業をタイ国内に誘致す
ることによって、タイは産業発展を遂げてきた。そのため、タイは外国に依存するこ
とに慣れてしまっているように感じた。実際に、タマサート大学の学生も講師の方々
も、タイ経済の発展のための次の一手として、自国企業を育てることよりも、外国直
接投資をさらに増やすことを模索しているようであった。
後者に関して、タイはロジスティックス、特に、道路網の構築を積極的に推進して
いる。効率的なロジスティックスを構築し、ビジネス環境を整えることによって、中
国やインドなどの近隣諸国に対する競争優位をタイは構築しようとしているのである。
具体的には、GMS と呼ばれる、メコン河流域の5カ国2地域(タイ、ラオス、ベトナ
ム、カンボジア、ミャンマー、中国雲南省)における経済圏での道路網を強化する構
想が進んでいる。この構想が実現すれば、タイの首都バンコクは、東南アジアにおけ
る物流拠点になることができる。しかし、このことによって、巨大な交通の流れがバ
ンコクに押し寄せてくることになる。現時点で、タイ政府はバンコク市内の交通渋滞
に対処できていない。バンコク市内での交通渋滞の問題は、簡単には解決できないと
のことであった。つまり、タイは、GMS 構想とバンコク市内のロジスティック計画に
おいて、ジレンマを抱えているのである。
4
企業訪問
ブリジストン、トヨタ、タイ中央銀行、みずほコーポレート銀行、キャピタル・ノ
ムラ・セキュリティーズ、タイ証券取引所、国際協力銀行へ訪問した。
(国際協力銀行
は、キャピタル・ノムラ・セキュリティーズにて説明・質疑応答が実施された。
)タイ
中央銀行では、ヨーロッパ風の非常に赴きのある部屋で副総裁に面会していただき、
タイの金融改革についてご説明いただいた。みずほコーポレート銀行では、タイ経済
の様々なデータを説明していただき、また、リーマン・ショック直後の訪問であった
ため、金融市場が過去に例がないほど硬直している状況をご説明いただいた。キャピ
タル・ノムラ・セキュリティーズでは、タイ証券業界の概要と近い将来にやってくる
証券売買手数料自由化に向けた戦略を伺うことができた。国際協力銀行では、日系企
業を裏方でサポートするという重要な役割を当銀行が担っていることを知ることがで
きた。ブリジストン、トヨタ、タイ証券取引所については、以下のとおりもう少し詳
細に記述する。
4.1
ブリジストン
ブリジストン工場で印象的であったことは、次の3点である。
第一は、工場内の作業者の数の少なさである。発展途上国に工場を建設する一
つのメリットは、安価な労働力を調達できることである。そのため、多くの作業
者が働いている労働集約的な工場を私はイメージしていた。しかし、工場の製造
ラインはかなりの部分で自動化されており、作業者の人数が非常に少ないという
印象を受けた。
第二は、ローカライゼーションがかなり進んでいることである。従業員構成は、
3000 人中 15 名が日本人でそれ以外はタイ人であるとのことであった。管理職に
もタイ人が就任していた。タイの人々は親日家が多く、具体的な指示を出して教
育すればきっちりと仕事をこなす民族であるとのことであった。そのため、中国
などの工場を管理するよりも非常にやりやすいとのことであった。
第三は、タイヤビジネスは利益確保が難しいビジネスであるということである。
工場の設備は、比較的古いものが多いと感じた。設備は高温高圧の厳しい環境に
さらされるため、1~2ヶ月に1回のペースでメンテナンスが必要であり、毎月
交換しなくてはならない消耗品も多数あるとのことであった。また、設備の設計
はブリジストン自身が行い、設備メーカーと共同で開発するとのことであった。
したがって、製造設備は関係特殊的で、特定の設備メーカーから消耗品を定期的
に購入しなくてはならないため、ランニングコストが多くかかると推測できる。
おそらく、設備メーカーが、利益を確実に獲得しているのであろう。また、材料
費が高騰している状況や、売り手である自動車会社の交渉力も強いことから、タ
イヤビジネスは非常に難しいビジネスモデルであると感じた。
4.2
トヨタ
タイトヨタ工場で印象的であったことは、次の2点である。
第一は、近年の最新鋭工場の定義である。最新鋭の工場とは、変化のスピード
が速い近年のビジネス環境に合わせて、製造ラインをフレキシブルに改造でき、
生産量や機種を変更できる工場であるとのことであった。実際に、トヨタの工場
は、現在の2倍の生産量を拡張できるレイアウトになっており、また、建屋がシ
ンプルな構造になっているため、生産ラインを自由に改造できるようになってい
た。
第二は、タイ人の特徴についてである。ブリジストンのところでも述べたよう
に、タイの人々は非常に親日家で、従順で、技術力も非常に高いとのことであっ
た。しかし、クリエイティブな仕事や何かを企画するということに関しては、日
本人の方が長けているとのことであった。このことは、タイの経済発展が外国企
業に大きく依存してきたこととタイ人の国民性によるものであると思われる。タ
イの人々が外国直接投資に依存し、外国企業の指導を従順に受け入れることに慣
れてしまった結果、自国の企業を立ち上げようという企業家精神がタイ人から薄
れていってしまったのではないかと思われる。
4.3
タイ証券取引所
タイ証券取引所で非常に印象的であったことは、証券取引所がタイ国民の金
融教育を積極的に推進していることである。具体的には、証券取引所は独自の金
融情報 TV チャンネルを保有し、株式市場のタイムリーな情報を国民に提供して
いた。また、金融に関する知識を勉強するための図書館が証券取引所の横に併設
されていた。我々が訪問した時、その図書館は多くの人々であふれ、様々な年齢
層の方々が金融に関して勉強していた。これらのことから、タイは、アジア通貨
危機における苦い経験を生かし、2 度と同じことを繰り返さないようにするとい
うメッセージを受け取ることができた。また、日本国民は他先進国の国民に比べ
て金融知識が欠如しているといわれている。そのような国民を抱える日本も、タ
イの金融教育への取組みを見習う必要があるのではないかと感じた。
5
研修全体を通じての考察
タイは、長期的な発展のため、外国への依存を徐々に弱め、自国企業の育成を強化
する政策を推進する時期にあると考える。なぜならば、外国企業誘致の政策が、国民
の企業家精神を衰退し、自国企業が育成されにくい状況を作り出しているからである。
ビジネス環境は、その国の政策と国民性によって作られるものである。このことは、
本プロジェクトの様々な場面で感じることができた。製造業における外国直接投資の
獲得を積極的に推進することによって、タイは多くの外国企業の誘致を実現した。そ
れらの企業をサポートするために、多くの外資系金融機関や部品メーカーもタイに進
出している。製造業誘致にフォーカスすることによって、それに付随する多くの企業
の誘致を獲得できたのである。また、日本企業がタイにおいて存在感を高められた一
つの要因は、タイ人が非常に親日家で、従順で、ホスピタリティーに優れているとい
うことであった。多くの企業がその恩恵を受けているということを伺うことができた。
このように、タイは、その政策と国民性によって、外国企業と良い関係を構築し、経
済発展を遂げたのである。
一方で、このような国の政策がタイの人々の国民性をより強固なものにし、タイ人
の企業家精神を衰退させていると思われる。タイ人の従順さは、王国時代に築かれた
ものであろう。実際に、今日でも、国王の影響力は強く、多くの国民が国王を尊敬し
ている。国内で問題が発生した場合も、最後は、国王によって静められるということ
が過去にあった。民主革命後、経済発展の過程では、外国企業に技術やノウハウを教
えてもらい、様々なことを受け入れるという時代が長く続くことになる。そのため、
タイ人の従順さはさらに強化され、外国依存度が高められてしまい、企業家精神が薄
れていったと考えられる。その結果、タイにおいて自国企業が誕生しにくい状況にな
っていると思われる。
長期的な観点から考えると、外国直接投資に依存し過ぎ、自国企業が育成されない
ことは、タイにとって大きなリスクになると考える。なぜならば、多くの国が自国企
業の発展によって経済成長を遂げてきたという歴史があるからである。日本は、トヨ
タやソニーなど多くの自国企業の発展によって富を築いてきた経験がある。また、近
隣国である中国やインドは、外国企業の誘致と技術移転のバランスをうまくとること
によって、経済発展を遂げるとともに自国の企業の育成も果たしてきた。実際に、こ
れらの国の多くの企業が世界で頭角を現しつつある。今後、タイがさらに発展を遂げ
るためには、自国企業を育成させ、世界へ製品やサービスを発信できるようになるこ
とが必要であると思われる。そのボトルネックは、タイ国民の中に根付いた外国依存
症であり、それを解消することがタイには必要であると感じた。したがって、タイは
外国企業主導の経済発展から、自国企業主導の経済発展へ徐々にシフトするような政
策を掲げる時期にあると思われる。
6
最後に
今回のプロジェクトでは、本当に貴重な体験をすることができました。本プログラ
ムをサポートしていただいたみずほ証券株式会社様に厚く御礼申し上げます。また、
本プログラムを取りまとめてくださった、清水教授、小川教授、渡辺教授、MBA オフ
ィスの大和田さん、タマサート大学の皆様、タイの各企業・機関の皆様、如水会の皆
様、UTS の皆様、その他各関係者の皆様に心より感謝いたします。本当にありがとう
ございました。当プログラムで貴重な時間を共有できた M2 の方々、M1 のメンバー、
みんなと思い出の1ページを作り上げることができて本当に良かったと思っています。
最後に、当プログラムが継続的に実施され、多くの HMBA 生が今後もこのような貴重
な体験をすることができるように願っております。
以上
ビジネス環境国際研修プロジェクト
最終報告レポート
2008 年 10 月 2 日
高木 大輔(cm080231)
バンコク研修を終えて
1.本研修への参加背景
近年、日本の製造業は国際舞台での影響力を低下させている。私は、日本の製造業の復権を担
う人材になりたいという思いで HMBA への入学を決心した。今回のバンコク研修の目的もその
延長上にあった。タイの文化やそこで生活する人々、現地に進出した日本企業と直に触れ合い、
日本および日本企業が内外で抱える問題を多面的に捉えることで、自分の視野を広げたかったの
である。
国内では少子高齢化が進行し、次代を担う若者の数が減っている中で、高等教育を担う大学も
全入時代に突入した。AO 方式など必ずしも学力を必要としない入試方式も導入され、若者の学
力低下が社会的な問題となっている。外に目を向けてみると、サブプライム問題に端を発する資
源高・食料高の波が世界を襲っている。これ以外にも多くの要因が複雑に混在しているが、つま
りは、日本の国力は衰退に向かっている。この状況下で、BRICs や NEXT○○と言われる後発
国が急速に発展し、プレゼンスを拡大させている。BRICs や NEXT○○はその多くがアジア諸
国である。そうした国の学生や企業は、豊かな生活を求めることがモチベーションとなって、日々、
壮絶な努力をしている。この様は、アメリカに対して日本が行っていた、しかし、先進国となっ
た今の日本には欠けてしまっているものである。アジア諸国の中で中国に次いで有望視されてい
るタイに実際に足を運び、学生や企業の実情を自分の目で確認できる今回の研修は非常に恵まれ
た機会であった。なぜなら、日本には知識集約的な部門を残し、海外には労働集約的な部門を移
転させることで効率化を進めようとする日本企業にとって、タイは非常に重要な拠点だからであ
る。
私は、トヨタ・モーター・タイランド(TMT)の担当として今回の研修に参加した。したが
って、本レポートでも TMT およびタイの自動車社会について主に報告したい。
2.タマサートビジネススクール(IMBA)の学生とのディスカッション
「ローカリゼーション vs.グローバリゼーション」というテーマで IMBA 生とディスカッショ
ンを行った。ローカリゼーションとグローバリゼーションの定義に関して、我々と IMBA 生の
それは大きく異なった。我々の定義では、「国内企業が、その活動の場を世界に移し(グローバ
リゼーション)、長期的には現地人に権限を委譲し、自主自立した組織運営を行うことをローカ
リゼーションとする。したがって、ローカリゼーションとグローバリゼーションは対立するもの
ではなく、共存可能なものである。
(
“したがって~”以下は、実際の議論の場では、時間の関係
でそこまで伝えられなかった。
)」とした。一方、IMBA 生の定義は、
「企業が、自国の文化や習
慣などに合わせて商品を展開することをローカリゼーションとし、同一の商品を海外の文化や習
慣に合わせて海外展開することをグローバリゼーションとする。」としていた。例えば、ホンダ
が国内で“インスパイア”として販売している自動車を、タイでは“シビック”として販売して
いることを指して、グローバル/ローカルと表現していたのである。
タイには、現在、世界に誇れる程に成長した自国企業がない。自動車産業は GDP の 17%を占
め、国家にとって重要な産業にまで成長しているものの、日本メーカーが全体の 90%以上のシ
ェアを握っている。IT 関連機器に関しても、タイは重要な製造拠点となっているが、自国企業
にとってではなく、あくまでも外資にとってである。このように、タイは自国企業の成長による
ものではなく、外資参入による大規模な投資の結果として、これまで成長を遂げてきた。純粋な
タイの産業は現在でもやはり一次産業である。このような状況で、グローバル/ローカルを議論
すれば、IMBA 生の定義に行き着いてしまうことは当然である。また、タイでは現在でも王族
系企業が多く存在し、規模も影響力も大きい。政府との癒着も問題となっており、自国産業が育
ちにくい土壌が今もなお残っている。戦前日本の財閥が現在も脈々と続いていると考えて良い。
日本でも旧財閥系の名残は現在でも存在し、しばしば国内外で非難の的となっている。しかし、
それでも第二次世界大戦で敗北し、強制的に解体させられたことが契機となって、より透明性の
高い市場取引が確立し、国が成長した。今後、タイが国際舞台でさらに活躍し、先進国の仲間入
りを果たすためには、透明性の高い市場を作らねばならない。そうしなければ、教育の質や学生
たちの日々の議論も向上しないのではないかと感じた。同時に、いち早く先進国の仲間入りを果
たした日本の次代を担う我々は、将来的には、後発国が抱えるそうした社会問題に対してイニシ
アチブを発揮する義務があると感じた。
3.TMT の企業訪問
TMT の概況や TMT を取り巻く業界構造は、出発前に作成したレポートに詳細を記載してあ
るため、ここでは割愛する。
訪問したバンポー工場は、昨年に完成したばかりで、トヨタグループでは世界的に最先端の工
場である。コスト削減のため、工場には殆ど冷房設備はない。その代わりに、工場の両サイドが
完全に解放されていて風通しがよい。この時期はタイでは雨期であり、酷暑が毎日続いていない
ため、工場内は割と過ごしやすかった。しかし、夏季ともなると毎日 40℃前後まで気温が上が
り、湿気もひどいこの国で、従業員から不満が出ないのかは正直疑問の残るところだった。人件
費が安く上がるため、ラインのオート化は全体の 22%程度までしか進んでおらず、殆どの行程
を現地の従業員が行っていた。タイの国民は、良く言えばおおらか、悪く言えばおおざっぱな人
種だという印象を持っていたが、TMT の授業員は本当に良く働いていた。無駄話をしている様
子もなく、黙々と自動車を製造している様子は、日本の工場と全く遜色のない光景だった。
トヨタでは、今後、デザインや設計、開発など創造的な知識集約型の労働も現地化を進めよう
としており、現地のマネージャークラスを日本に呼び寄せて教育し、研修を終えたら現地に戻す
という活動を進めている。タイの国民は豊かな生活を求めてハングリー精神が旺盛だし、非常に
勤勉で、かつ労賃も安い。国の規制が撤廃/整備され、国民の教育水準も先進国の水準にまで向
上したとき、創造的な知的労働を行えるようになったタイ人を想像すると、日本にとって非常に
大きな脅威になる。日本の製造業の未来を考えるとゾッとする思いだった。しかし、日本の製造
業も知的労働をさらに進化させ、より付加価値の高い商品や技術を生み出さねばならない。我々
はその最前線を担うために HMBA に籍を置き、また担う義務があると強く感じた企業訪問だっ
た。
4.タイの自動車社会
タイでは、自動車はまだ贅沢品扱いである。しかし、都市部における印象としては、相当程度
にまで普及していると思われた。研修中に訪れたスラム街でも、真新しいカムリが道端に駐車さ
れていた。一橋に留学しているタイ人で、今回の旅行でも大変お世話になったフランさん曰く、
高校生は大学入学時にお祝いとして両親から自動車をプレゼントされることもあるようである。
急速な経済発展に伴い、モータリゼーションの最中にあるタイの自動車社会において、いま最
も問題となっているのは交通事故だと思われる。今回の研修中には、幸い、交通事故に遭った者
もその場に居合わせた者もいなかったが、恐らく日常的に交通事故は頻発していると思わざるを
得ない。斜線無視や車線変更無視、速度超過、車線逆走、積載超過など先進国であれば、まかり
通ることのない沙汰を日常的に目にする。歩行者、運転者の双方が十分に注意しているとはとう
てい思えないし、交通ルールが浸透していない。信号、横断歩道、歩道橋の設置も遅れている他、
歩道も十分に整備されているとは言い難い。交通安全対策が大きく遅れているのである。別の言
い方をすれば、経済発展に人々のモラル教育がついていっていないのである。
大学で高等教育を受け、企業に就職する上層クラスの人間がいる一方、適度な教育も受けられ
ず、道端の屋台で生活を営む人間がおり、タイの格差社会は日本の格差社会とは比べものになら
ない。宿泊したホテルの近くにスラムがあったり、繁華街の裏路地に乳飲み子を抱えた母親が物
乞いをしたりしている。それが現在のタイなのである。経済的な格差は教育の格差を生み、教育
の格差が国民のモラルの低下を招いている。それでも経済は発展し、人々は自動車を手にする。
その結果、皆が好き勝手に運転し、他の車や歩行者、旅行者を危険な目に遭わせている。GMS
などタイを中心に据えた流通経路の整備を進めているが、モラル教育にも力を入れるべきだと感
じた。モータリゼーションは、インフラや制度だけではなく、人々のモラル教育が伴わなくては
ならない。
5.最後に
今回の研修は、「日系企業約 8000 社が進出し、アジアにおける生産ネットワークのハブとな
っているタイで、企業訪問を通して、アジアにおける生産ネットワークの最新の展開を調査す
る。」という目的はもちろん、先に挙げた個人的な目的からも実りの多いものであった。また、
我々日本人が、国際人として何をすべきかを改めて考えさせるものであった。直接投資や企業進
出など経済面での貢献を、今までの日本は力を入れてきた。しかし、それだけではなく、心の育
成をはじめ教育面での支援など、まだまだできることはたくさんあると感じた。コースの性格上、
いつもビジネスにばかり心を奪われている我々だが、ビジネスで成功することだけを目標とした
のでは人生はつまらない。発展を目指している国に対して具体的に何が出来るかという課題に、
正直なところ答えはまだでいない。だが、日本人として、国際人として、参加者各々が「このま
ま、先進国側の傍観者ではいけない」と思ったはずである。様々な気づきを与えてくれた今回の
研修だった。
最後に、最初から最後まで、我々のために細部まで心配りのあるプログラムを提供いただいた、
大和田さんをはじめとした MBA オフィスの皆様に心より御礼を申し上げたい。
バンコク派遣全体レポート
タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクトを終えて
野田 篤志
今回のタイ研修は、私にとって初めての東南アジア訪問であった。今回の訪問の最大の
目的は、アジア通貨危機を乗り越え、近年急速に発展を遂げているタイという国あるいは
その国民の持つ成長過程特有のバイタリティを、肌身で感じることであった。そのような
期待を持つこととなった背景には、仕事で数回訪れた中国で味わった強烈な感覚の記憶が
鮮明に残っていたからである。私は中国で、民間開放政策のもと自らの手で急速に経済を
発展させている最中にある中国人から漲る自信と、さらなる成功を渇望する人々から溢れ
るバイタリティに圧倒され、大いに触発された。同じアジアにあり、急速な発展を遂げて
いるタイからも同じようなパワーやバイタリティを感じ、触発されることを期待して今回
の研修に臨んだのである。
結論から率直に言えば、私はタイという国やその国民から期待どおり圧倒されることは
無かった。ましてや中国から感じたような、タイが将来日本を脅かす存在になりかねない
という危機感を持つことも無かった。私がそのような感覚を持つに至った理由は、タイ人
の王族に対する極端な崇拝に象徴される。タイ人は王様が大好きである。街中のいたると
ころに王族の写真やモニュメントが配されており、それが学校やオフィスビルの中に自然
に溶け込んでいる。そのようなタイ人のイデオロギーそのものを異文化で育った人間が否
定することは出来ない。しかし、王族企業があらゆる産業の主要な位置を占めている現状
を知れば、大いなる疑問が湧いてくる。タイ証券取引所が 1999 年に開設した新興市場であ
るオルタナティブ・インベストメント市場における上場数は、わずか 48 社であるという。
また今回訪問した企業の方からは、新しいビジネスが莫大な資金力を持つ王族企業によっ
てほとんど牛耳られている現状も聞いた。批判を恐れずに言えば、権力によって利権を独
占する王族企業がタイ経済の発展を阻害しているように私には見える。今回の訪問中、タ
イは非常事態宣言下にあった。タクシン元首相をはじめとした利権を持つ政治家への不満
の蓄積が原因の一つであることは容易に想像出来る。政治家に対しては利権の独占に対す
る不満を行動にあらわすのに、王族は相変わらず崇拝されているという現状は、私にはと
ても奇異に思えた。
タマサート大学や企業訪問での経験は、この私の疑問をさらに増幅させた。タマサート
大学の施設は素晴らしく、また学生は国際色豊かで皆優秀であるという印象を受けた。学
生の一人は、タイでベンチャービジネスを起こすという目的を持って勉強しているという。
また訪問した企業の方々は、みな口を揃えてタイ人は勤勉で真面目であるという。事実、
タイブリヂストンもタイトヨタも、ほとんど日本人のマネジメントを必要とすることなく
タイ人の手によって運営されていた。タイ人が私の予想よりも遥かに勤勉で真面目であっ
たと感じた一方で、利権を独占する王族を崇拝する姿を目の当たりにするにあたって、私
の頭の中のクエスチョンマークは研修中、日を追う毎に大きくなっていったのである。
以上が私のタイ研修全体を通しての率直な感想である。しかし私の大いなる疑問は、私
の視野の狭さから来るものであるということは明白である。その理由は二つある。一つは、
今回の研修において直接対話する機会を持ったのは、タイ中央銀行の副総裁やMBAの学
生といったタイ国民の中でも一部のエリート層と、日系企業の日本人マネジャー層だけだ
からである。特にタイブリヂストンやタイトヨタにおいて、タイ人現地労働者と対話する
機会を設けて頂くよう事前に依頼しなかったのは今回の反省点である。実際にタイ経済の
底辺を担う労働者層と対話することが出来れば、私のタイ人に対する印象は変わったかも
しれない。彼らはもしかするとタイの社会構造に対して忸怩たる思いを持っているかもし
れないし、私が考えも及ばないようなモチベーションの源泉を持っているかもしれないか
らだ。タイ人の一部、あるいは表層からのみ得た印象だけでタイ人の国民性を決めつける
わけにはいかない。彼らと接することが出来れば、実は彼らが持つかもしれないギラギラ
とした側面に触れて触発されることがあったかもしれない。もう一つは、国家の成長の要
因を、私の知っているタイプにのみ当てはめて考えているからである。日本は戦後、GH
Qによって財閥が解体され、また農地解放が行われて基本的には国民が平等な条件の下で
競争を行うことによって発展を遂げてきた。そのような環境下において、何の特権も持た
ない松下幸之助や本田宗一郎といった名経営者や大企業が生まれてきた。これは独占を禁
ずることで世界一の国家となったアメリカ型の成功である。私は、企業の発展を基盤とし
た国家の発展の形態として、それを唯一絶対なものとして信じ込んでいる。タイがその形
態に当てはまらないからといって、タイが将来日本の脅威にはならないと決めつけるのは、
私の視野や料簡の狭さ故である。
タイは私にとって不思議な国であった。今回の研修において、疑問を持ち、自分の視野
の狭さを知ることが出来たことは、期待とは異なるものではあったものの私にとって大い
なる収穫であった。今後グローバルな環境下で働き、意思決定をしていくことを求められ
る過程において、異国や異国民の多様性を知っておくことは決してマイナスにはならない
であろうからである。最後に、私の英語力が決定的に不足していた点は、今回の大きな反
省点である。コミュニケーション能力の不備が、私の偏った思い込みに繋がってしまった
点は否定出来ない。そのことを肌身で感じることが出来た点も、今回の大きな収穫の一つ
であった。
以
上
「タイ・ASEAN ビジネス環境国際研究プロジェクト」
CM080237
幅
啓典
1. バンコク視察、アユタヤ視察
バンコク・スワンナプーム国際空港に到着してからしばらくの間、タイの近代的な建造
物に目を見張った。しかし、ガラス張りの空港、高層ビル、有名ブランドが軒を並べるデ
パートなど豪華な建造物のすぐそばにスラム街がある街並みにも驚いた。タイの急速な成
長を感じたとともに、格差社会が昨今の問題となっている日本よりも遥かに大きい格差が
あることを感じた。逆に日本はまだまだ一億総中流社会といえるかも知れない。
また、バンコクは世界有数の渋滞都市といわれているが、私たちももの凄い渋滞に巻き
込まれた。高架鉄道や地下鉄が徐々に開通しているが、交通インフラの整備はいまだに不
十分だと思われる。
2. タマサート大学
タマサート大学 IMBA で講義の受講と学生とのディスカッションを行った。講義ではタ
イのビジネス以外にタイの政治や GMS(拡大メコン地域)プログラムなどについて、説明
がなされた。ディスカッションでは、輸出先の国に合わせた商品を作成し販売することを
タイではローカリゼーションと定義しているなど、認識の違いを実感した。タイでは外国
資本を効果的に取り込み、経済を発展させてきた歴史がこのような認識をさせるのではな
いかと思われた。
3. ブリジストン、トヨタ
タイに進出している日系企業の工場見学を行った。どちらの企業も作業労働者ばかりで
なく、管理者の多くをタイ人が占めていた。事前の調査にて、タイ人には「マイペーライ」
(気にしない)という気質があることがわかっていたため、日本人とくらべて細部にまで
及ぶ品質保証に問題があるのではないかと疑問に思っていた。しかし、担当者の話による
かぎりは品質に問題はないとのことであった。日本においても優秀な労働者を確保するこ
とが困難になっていることもあるが、両者がタイに進出してから 40 年もの歳月をかけて品
質向上の教育などのノウハウを蓄えてきた結果であると感じた。
4. タイ中央銀行、タイ証券取引所
タイの公的金融機関にも訪問することができた。証券取引所の中には図書館やシアター
ホールだけでなく放送局をも備えていることに驚いた。市民と証券とを身近にし、透明性
を高めることにつとめている姿勢が伺えた。
また、どちらの機関においても多くの女性が重要なポジションを占めていた。先のタマ
サート大学は文系のキャンパスに訪問したが、そこでも女性が非常に多かった。女性が高
等教育を受けて、社会に出て、活躍しやすい環境がタイにはあるように推測された。
5. みずほコーポレート銀行タイ支店、キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ
タイに進出している日系の金融機関として、みずほコーポレート銀行の現地支店と野村
証券が出資している現地企業であるキャピタル・ノムラ・セキュリティーズに訪問した
みずほコーポレート銀行では、タイの金融システムや現在の状況について非常に丁寧な
レクチャーを受けることができた。同行の多くは、タイに進出している日系企業との取引
が中心であり、タイの現地企業との取引の割合は想像していた通り少なかった。収益でみ
るとその割合はさらに広がる。他の邦銀も同様と考えられる。
野村証券は、邦銀とは異なり現地企業であるキャピタル・ノムラ・セキュリティーズに
出資を行っており、日系企業以外との取引も盛んであるように感じた。帰国後リーマン・
ブラザーズのアジア部門の買収が発表されたことを含めて、今後を注目したい。
6. その他
プロジェクトとは別に、オーシャンライフ社に訪問した。オーシャンライフ社は私が所
属する第一生命保険相互会社が出資しているタイの生命保険会社である。
当社から出向している職員より、営業職員制度の導入、支部組織の立ち上げなどについ
て説明を受けた。販売している商品は養老保険が中心であるなど、タイの生命保険市場は
まだ誕生まもない時期であると感じた。タイでの販売チャネルはバンカシュアランスが拡
大している。現在は営業職員制度があまり活用されていないが、死亡保障ニーズの拡大し
た際に、営業職員制度を充実している生保がシェアを拡大する可能性があると感じた。し
かし、日本の生保の営業職員制度は女性の雇用を創出してきたのに対し、タイでは既に女
性の社会進出が盛んである。就業の選択肢が多いタイの女性を確保することが営業職員制
度の課題となると思われる。
7. 最後に
今回の有意義なプロジェクトを企画・運営いただいた一橋大学大学院 HMBA、タマサー
ト大学 IMBA、みずほ証券の皆様方および同行頂いた留学生のアムさん、プランさんに感謝
申し上げます。
以上
●「タイ・ASEAN
ビジネス環境国際研修プロジェクト」を終えて
CM080242
松江
憲
私は本研修に参加するまで、まったくと言っていいほどタイに関する知識を持ち合わせ
ていなかった。しかし、今回の研修に参加したことにより強烈な印象を刻みつけられた。
特に印象に残った点は以下の4点である。
○日本のプレゼンスの高さ
タイ経済における日本のプレゼンスは非常に高い。タイから見て日本は貿易額、投資額、
援助額で第一位であり、日本企業の進出も活発である。トヨタやブリジストンといった大
企業だけでなく部品や素材などの裾野産業も軒並み進出を果たし、一大生産基地として完
結するだけの能力を有している。ひとつの都市に滞在している邦人民間企業関係者の人数
が一番多いのはおそらくバンコクであろう、との話もあった。対日感情もアジア諸国では
珍しいほど良好であり、訪問した日系企業の方の「タイでは、他の国にはない日本や日本
人に対するリスペクトがある」という言葉がとても印象に残っている。政府の外資系企業
誘致政策に加えて、その良好な国民感情により日系企業が進出しやすい環境にある世界で
も指折りの国と言えるだろう。
○強力な王制
タイにおける王族へのリスペクトは非常に強いものであった。タイ国内での日本の投資
が旺盛なのもタイ国王が親日家であることと無縁ではない。また、国民から絶対的な支持
を得ている国王が存在していることにより、政府が不安定であっても国民に安心感を与え
ている。その一方、ビジネスの面では王族を中心とする富裕層ネットワークに入り込むこ
とがビジネスの成否を握っているとも言われている。そのネットワークの輪は狭く、外国
人ビジネスマンにとっては困難をきわめる。少なくともタイの人々にとっては国王の存在
が精神的にも日常生活にも深く浸透しており、タイの国民性や商慣習を理解する上で欠か
せない要素であると言える。
○人材資源
以下の 2 つの点から優秀な人材層の増加が見込まれると考えられる。第一に、勤勉な国
民性である。政府の積極的な外資誘致政策だけでなくタイ国民の勤勉な国民性があるがゆ
えに、日本企業は積極的にタイに進出を果たしているとのことである。第二に、徹底した
語学教育である。主に外資系企業などに就職するためには英語能力が必須となっているこ
ともあり、高等教育機関における英語教育が熱心に行われている。高学歴な人間は 2 ヶ国
語もしくはそれ以上の言語を操り、外資系企業が語学力に長けた人材を確保しやすい環境
が整備されつつあると感じた。以上の2点により外資系企業にとって、タイは投資するた
めの魅力を高めているといえる。Doing Business Ranking by World Bank によるとタイは
2007 年の 19 位から 2008 年は 13 位に順位を伸ばしている。
それに対して日本は 2007、2008
年ともに 12 位でありタイの追い上げを受けている。
○貧富の格差
バンコクの負の側面ともいえる貧富の格差が至る所で観察された。立派なオフィスビル
のすぐ裏手にスラムのような低所得者層の住宅地区が隣接している光景が何か所も見られ
た。その光景を見て、教育の機会均等が保たれているのかについて疑問が残った。タイに
おける中学校への就学率は 83%あるものの、高校は 54%、高等教育機関は 24%にとどま
っている。タマサート大学の学生も一定以上の生活水準を有した家庭の子息と思われた。
人材資源の面からも、高等教育機関には語学力に長けた人材を輩出する環境は備えている
ものの、そのような人材層は労働市場において絶対的に不足している。就学率の向上とそ
の受け皿となる教育機関の拡充はタイにおける課題のひとつであると感じた。
以上の4点が私がこの研修で強く感じたことである。優秀な人材を輩出する高等教育機
関を設け、政治的な安定もあり、対日感情も良好なタイは日本企業が進出しやすい環境を
備えた国であると感じた。また、高等学校や高等教育機関への就学率を高められれば、さ
らに多くの優秀人材層を輩出できる可能性を持っており、より競争力の高い国になるポテ
ンシャルを秘めていると考えられる。むしろ、競争力を高めつつあるタイに接したことで、
日本の将来的な競争力に対して強い不安を感じた。このような感情も外から日本を見たこ
とで得られたものであり、この研修の成果の一つなのかもしれない。
改めて感じたことは、海外でビジネスをするためには現地の文化や人、風習などを理解
することが重要であり、それは現地において肌で感じる必要があるということである。そ
の基礎の上にたたなければ、現地の人と商売をするにしても、現地の人をマネージするに
しても、成功はありえない。バンコクの文化に触れる機会を設けていただいた今回の研修
は、本当に有意義であったと感じている。
最後に、今回の有意義な研修を企画・運営していただいた一橋大学、タマサート大学お
よびみずほ証券の皆様方に厚く御礼申し上げます。
以上
タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクトに参加して
CM080244 持田恭平
【タマサート大学での講義】
タマサート大学では「Doing Business in Thailand」
「Logistics in ASEAN」の 2 つの講義を受
けた。その中で印象的だったのは、いずれの教授方も、「タイをさらに発展させるためには
何をするべきか」という意識を強く持っており、自身が考えているアイデアや構想を、大
きな熱意を持って学生に伝授しているということである。特に「Logistics in ASEAN」の中
での、GMS(Greater Mekong Subregion)プログラムを推進する第一人者である教授の講義
が興味深かった。
GMS プログラムとは、アジア開発銀行主導で行われている、メコン河流域諸国(タイ・
ラオス・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・中国雲南省)を対象とした地域開発支援プ
ロジェクトである。その目的は、道路等のインフラを確立させ、タイと中国雲南省を出入
口とした物流を活性化させることによって、この地域の経済成長、所得の増大等を図るこ
とである。このプロジェクトは、タイの経済発展には大きく寄与するものであり、インフ
ラの整備や国ごとの調整も進行中だという講義内容であった。しかし、現地の日系企業の
方々に聞くと、道路はできていてもインフラとして使えるような質ではなかったり、ラオ
スやミャンマーなど物流の中間にある国の協力が得られていなかったり、モノが国境を越
えるには書類のやり取り等で時間が非常にかかったりと、まだ機能するような状態ではな
く、先が見えないとのことであった。
日系企業に勤めるビジネスマンからの冷静で客観的な視点と、それでも貪欲に経済発展
に向けてプロジェクトの推進を目指すタイ人の姿とのギャップを感じた。しかし、国の発
展に対するこの貪欲さや熱意が、タイの発展を支えている源泉になっているのだろうと思
った。
【企業訪問】
トヨタやブリジストンの工場見学を通じて、改めて日本企業の製品が世界中で製造され、
販売され、使われているのだということを肌で感じた。実際に、タイの道路を走っている
車も日本車が殆どであった。金融機関のビジネスチャンスも世界中にあるはずだというこ
とを感じた。
日系金融機関へは、みずほコーポレート銀行と Capital Nomura Securities(野村証券の現地
法人)を訪問し、この 2 社からは大きな違いを感じることができた。みずほコーポレート
銀行バンコック支店における主な顧客、主な収益源は、日系企業との取引によるものだと
いうことであった。リスクマネジメントの難しさ等もあり、タイ現地の中小企業との取引
には進出していないそうである。私のわずか 5 年間の銀行員経験から考える常識からして
も、それが当然のことであろうと感じていた。おそらく 3 メガバンクの間にも、大きな差
はないものと思われる。しかし一方で、Nomura は完全に現地の証券会社の一つとして、タ
イの中で、タイ企業との取引を中心にして、そのプレゼンスを高めようとしていた。トヨ
タやブリジストンの工場では日本人マネージャーは数人で、ほとんどの人員はタイ人であ
った。銀行と証券の業態の違い、リスクの違いは当然あるものの、日本のメーカーのよう
に金融機関が真にグローバル化するためには、野村証券のこのチャレンジは、意義がある
ことかもしれないと感じた。
【最後に】
今回の研修へ参加したのは、視野を広げ、国際的感覚を少しでも身につけたいと思った
からである。私は今まで、会社の一社員、部内の一営業部員としての立場でしか物事を捉
えられない癖があり、HMBA に入学してからも度々その視野の狭さを実感することがあっ
た。そのため、今回の研修では、単にタイについての見聞を深めることだけではなく、よ
り幅広く様々な視点から物事を捉える癖をつけ、国際的な視野を持つための一助としたい
と思っていた。現地の企業や公的機関への訪問や、タマサート大学での講義、そして異文
化を肌で感じたことで、その目的は叶えられた部分も多く、非常に有意義で貴重な経験を
させていただいたと感じている。
ただし、タイ中央銀行への訪問、副総裁との昼食会や、タイ証券取引所の見学、タイ財
務省の研究所長との夕食会など、タイ経済の中心にいる方々との交流という、人生におい
て得がたい貴重な機会があったにもかかわらず、コミュニケーション力(語学力を含む)
や知識の不足によって、本来得られるべき収穫を 100%は得られなかったと思っている。そ
の場において非常に歯がゆい思いをしたこと、このままで国際的な視野を持ったビジネス
マンになれるのかという危機感を抱いたことも、今回の研修において大きく印象に残った
点である。このような危機意識も今後の成長の糧とできるよう、自己研鑽に励みたいと思
っている。
「タイ・ASEAN
ビジネス環境国際研修プロジェクト」派遣を終えて
渡部
薫
○企業訪問
企業訪問においては、ブリヂストンやトヨタ、みずほコーポレート銀行などの日系企業に加えて、タ
イ中央銀行やタイ証券取引所などタイの金融における中枢機関にも訪問させていただいた。
日系企業を訪問して印象的であったことは、各社ともタイに根差したビジネスを展開していることで
ある。その例として、ブリヂストンとトヨタにおける日本人とタイ人との信頼関係が挙げられる。訪問
前の個人的な想像としては管理業務を日本人が行い、生産業務をタイ人が担うと考えていた。しかし、
それは全くの誤りであり、両社とも日常業務の管理はタイ人マネージャーに委ね、日本人はアドバイザ
ーとして彼らをサポートする存在であった。これは両社ともにタイへ進出してからの 40 年に亘って、積
極的な活用と教育を行う中で人材が成長してきた成果であると思う。さらにタイ人の持つ真面目な気質
と日本人への友好的な感情も大きく寄与し、現在のような信頼関係が築かれていることも感じた。また、
与えられたことを真面目にこなす一方で、自ら考えて進める仕事はまだあまり得意ではないとのことか
ら、トヨタにおける同国での次の課題は現地の人たちによる創造的な仕事との話も聞くことができた。
みずほコーポレート銀行においてはタイの投資環境について話を伺うことができた。同国では国内企
業を育てたいとの思惑から外資の出資に対して出資規制があるものの、政府は実質的に外資が主導権を
握ることを認め、外資を呼び込んでいるとのことであった。タイにとって輸出相手国の第 2 位と輸入相
手国の第 1 位は日本であり、自動車産業を始めとした日系企業が同国の経済へ大きく貢献している。日
本にとっても民間企業の在留邦人がアメリカ、中国に次いで世界で 3 番目に多い国であるなど、日本と
タイがビジネスにおいて深く結びついていることを感じた。また、タイの商習慣について、同国では昔
からのつながりや人間関係を重んじる習慣があることから、人脈を築かなければビジネスは広がらない。
その点においても如何に現地の人を有効に活用し、タイでのビジネスを展開することができるかが重要
となると感じた。
新興国の投資について、賃金上昇によって中国やインド、ベトナムを安価な労働力を持つ生産拠点と
して注目している、という記事を新聞や経済誌で目にすることがあり、これまでは何の疑問もなくその
記事に納得してきた。しかしながら、現地の人の気質や親日感情、長年に亘って構築された企業間の関
係、政府の支援など、資金面のみでは図ることができない重要な要素があることを今回の訪問によって
気づくことができた。
○その他
タイを訪問することにより、自分が今まで抱いていたタイのイメージが大きく変わった。それはタイ
の文化や経済、政治、現地の人の気質、都市のインフラなど、紙面を見つめるだけでは得られなかった
情報が数多く存在したからである。これらに実際に触れることによって、今回のタイ訪問は私にとって
大変貴重な経験となった。さらに、出発の直前にタイで非常事態宣言が発令され出発が危ぶまれたこと
や、渡航中に金融危機の発端となる「リーマンショック」が発生するなど、私自身としても世界的な経
済上の出来事としてもこのプロジェクトは今後忘れ得ない時間となることを感じている。
最後に、この貴重な機会を与えていただいた一橋大学とみずほ証券の皆様に御礼申し上げます。
企業視察レポート
●タイ ブリヂストン●
担当:小川
訪問日時
:
2008年9月17日(水)
訪問場所
:
タイブリヂストン
訪問内容
:
9:00~
正人、渡部
薫
9:00~11:00
ノンケー工場
9:45
タイブリヂストンの概要説明、ビデオ鑑賞
9:45~10:45
工場見学
10:45~11:00
質疑応答
ブリヂストンの事業概要
ブリヂストングループは、タイヤ業界のグローバル・リーダーとして、主としてタイヤ・チューブの
製造・販売、タイヤ関連用品の販売及び自動車整備・補修を行う「タイヤ部門」と、化工品、スポーツ
用品、自転車の製造及び販売、その他各種事業など
の「多角化部門」によって構成されている。
事業セグメント別売上高構成比(2007 年)では、
タイヤ部門が 81%、多角化部門が 19%となってい
る。また、市場別売上高構成比(2007 年)では、日
本市場が 28%なのに対し、世界市場では 72%を占
めている。なお、タイヤ市場における世界市場シェ
アは右図の通りである。
ブリヂストンの近況
◇収益の悪化
同社を取り巻く環境としては、事業拡大を支えてきた日米の自動車用タイヤ市場の需要がガソリン
高などにより減退している。また、原料の天然ゴム価格の想定以上の高騰が原価率を悪化させており、
株式時価総額はピークから半減した。そのため、同社は原料高に負けない高付加価値商品中心の収益
構造に向けて大型投資に打って出ている。その投資額は 2008 年からの 5 年間で優に 1 兆円を超える計
画である。
◇好採算の建機タイヤに活路
同社の高付加価値商品の中心となる存在は、鉱山開発などで使用される超大型建設機械向け特殊タ
イヤである。この特殊タイヤの生産には温度や圧力など繊細な生産環境の管理が必要であり、その製
造技術を持つのは同社と仏ミシュランだけである。この製品の利益率(推定 27%)は一般タイヤの約
5 倍であり、新興国で需要が増えているため値上げも通りやすい。5 年後には、建機向けタイヤの生産
は現在の 1.6 倍になる見通しである。商品構成は大幅に刷新され、単純計算で全体の営業利益率も直近
の約 5%から 8%程度に上昇するとされている。
◇膨らむ減価償却費
同社の懸念点としては、大型投資の成果が出るまで「成長戦略が見えにくい」という点をアナリス
トから指摘されている。その要素としては、1200 億円を投じて買収した再生タイヤの米バンダグの活
用シナリオが見えてこないうえ、ここしばらくは投資で膨らむ減価償却費が収益を圧迫する。
◇タイの事業
タイにおける同社の子会社と主な事業内容は以下の通りである。
①Thai Bridgestone Co., Ltd. (自動車タイヤの製造及び販売)
②Bridgestone Tire Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.(自動車タイヤの製造及び販売)
③Bridgestone Natural Rubber (Thailand) Co., Ltd. (天然ゴムの加工)
同社の戦略商品である乗用車用ラジアルタイヤ(UHP(超高性能)タイヤやウィンタータイヤ)は、
中国をはじめとしたアジア圏や中近東を中心に需要増が見込まれ、そのグローバルな需要に対応する
ための輸出拠点としてこれらの子会社がタイに設立された。なお、タイのタイヤ市場におけるシェア
は同社とミシュラン社によって 8 割が占められている。
タイにおける設備投資について、同社は 2008 年 1 月に総額約 100 億円の投資計画を発表しており、
2010 年末までにノンケー市にある工場の生産能力を日産 6,000 本へ増強する。この投資計画によって
ノンケー工場の生産能力は合計で日産約 36,500 本となり、乗用車用ラジアルタイヤの生産能力が増強
される。このように同社はグローバル市場の動向を的確に捉えた戦略的な投資により、最適な生産供
給体制の整備を目指している。
◇質問
○資金面について
Q:工場運営においては多額の運転資金が必要になると思います。こちらの工場に必要なバーツはど
のようにして調達しているのですか?社債を発行するのですか?
2008 年 1 月に、日本円にして総額 100 億円にものぼる多額の投資をノンケー工場に行うと発表さ
れました。その資金においても同様に調達されたのですか?
A:Thai Bridgestone は非公開会社のため、公表されていないデータについてはお伝えすることは
できない。今回の投資は基本的に自己資金で賄っており、借入金などはない。
○生産・販売・戦略について
Q:タイヤの品質の維持やチェックを行う上で、タイ工場独自のシステムは何かありますか?もしあ
れば、そのシステムはどのようなものですか?
A:タイヤの品質は 2 回の工程で検査し、その検査は熟練の検査員によって行われている。検査の精
度が低い検査員は個別に指導を行うとともに、検査の精度が一定レベルの検査員においても何も
しないと精度はしだいに低下してしまうため、定期的に全員に研修している。
Q:生産計画や生産工程は誰が決定しているのですか?日本ですか?タイ現地ですか?
A:輸出用製品の生産計画は本社にて決定され、タイ国内向けの生産は需要を見ながら自分たちで決
定している。
Q:新しい技術(設備)を導入する際に、工場は部分的に増強できるのですか?全体でしかできない
のですか?
A:一度完成した工場の機械を大幅に入れ替えることはよほどの革新がない限り滅多にない。
Q:不良品の発生率はどのくらいですか? また、不良品が発生した場合、その活用方法は何かありま
すか?
A:不良品の中には補修などにより製品として出荷できるものがある。それも不可能な不良品は最終
的に 0.5~1%程度と思われる。
Q:原材料や部品はどのように確保されているのですか? 昨今、原油高による輸送コストや原材料の
高騰が問題視されていると思います。もし、他国や他社からの調達がある場合、上述の原料高に
加え、為替の問題も発生すると考えられます。これらの対策をどのように行っているのですか?
A:当社ではカーボンや天然ゴムなどの原材料から自社で供給する垂直統合形態をとって対応して
いる。為替については、為替予約によって変動リスクを回避している。
○人材・教育について
Q:2000 年にノンケー工場に販売訓練センター(Bridgestone/Firestone Training and Communication
Center)が設立されています。この施設がもたらした販売面や技術サービス面における変化はど
のようなものがありますか?
A:この訓練センターでは、初級者から上級者まで個々人のレベルにあった訓練が受けることが
できるため、個々人のスキルアップが製品の品質向上に繋がり、ひいては顧客のサービス向
上に繋がっている。
○工場立地について
Q:生産ネットワークを構築する上で、タイに工場を設立するメリットは何かありますか?
A:当社では垂直統合戦略をとっており、特にタイにおける原材料から生産に至るネットワーク
を強化している。外資企業については、タイ投資局から様々な恩典を受けられるため、他の
アジア諸国に進出するよりもメリットがある。また、タイに工場を保有している日系、欧州
の自動車メーカーへの供給を行い易く、利益面、コスト面においても有利となる。
○環境対策について
Q:近年、企業における環境対策が重要視されてきていると思われます。タイにおいても環境対策の
重要性は増してきていると感じられますか?また、こちらの工場において環境対策として実行さ
れていることはありますか?
A:1999 年に環境マネジメントシステムについて、ISO14001 の認証を取得している。産業廃棄
物の埋立量を発生量に対して 1%未満にするゼロ・エミッションへの取り組みについては、
既に達成しており、現在は、品目ごとに処理業者と再資源化の委託契約の締結を完了するた
めの完全ゼロ・エミッションへの取り組みを行っている。
◇訪問後の所感
同社を訪問して最も印象に残ったことは、日本人の管理者層が我々の予想よりもずっと少なかった
ことである。これは同社がタイに進出して以来 40 年間に亘って現地の人材の教育に積極的に取り組ん
できた成果であり、同社が現地に根付いていることの表れである。また、同社における日本人とタイ
人の信頼関係については、日本人スタッフがタイ人スタッフのことを「非常に真面目である」と評す
ることからも感じられた。
生産工程については、大規模な生産設備にもかかわらず工場内の人員が少ないことが感じられた。
これは工場内の整理と生産工程の自動化が進んでいるからだと考えられる。その一方で、タイヤの各
部品の組み付けや製品検査の工程など、熟練工による作業が不可欠である工程も見られた。同社の生
産量や品質の維持に対して、熟練工の育成や彼らの賃金上昇が今後の懸念材料として挙げられると考
える。
HMBA ビジネス環境国際研修プロジェクト
2008 年 10 月 1 日
企業訪問レポート
園部、伊藤、高木
1.研修概要
・日
時:2008 年 9 月 17 日(水)
14:30~16:30
・訪問先:トヨタ・モーター・タイランド(バンポー工場)
・担当者:二瓶様(Production Dept. Senior Division Coordinator)
・内
容:①会社概要説明
②工場見学
③質疑応答
2.事前研究
-1.タイの自動車市場の概要
トヨタ・モーター・タイランド(TMT)がまとめた 2007 年のタイ新車販売台数は前年比 7.5%
減の 63 万 1251 台で、乗用車が 11.3%減の 17 万 118 台、税率が低い 1 トンピックアップトラ
ックが 9.8%減の 40 万 5865 台だった。不安定な政局と景気の減速、石油価格の高騰などが影響
した。
TMT は 2.4%減の 28 万 2088 台を販売し、市場シェア 44.7%を占めた。シェア 2 位はピック
アップ市場 2 位のいすゞで 23.9%(15 万 1033 台、前年比 15.7%減)、3 位は乗用車 2 位のホン
ダで 9.3%(5 万 8525 台、12.2%減)。ピックアップが好調だった日産は 25.1%増、 日本車のシ
ェアは 92.6%だった。
図 2 TMTの生産・販売台数の推移
図 1 タ イの自動車市場の推移
単位:千台
800
600
700
500
600
単位:千台
販売台
数
400
500
400
300
300
200
200
100
100
0
0
2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
単位:千台
2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
-2.TMT の概要
表1
TMT の工場で生産されている車種等
会社名
トヨタ・モーター・タイランド(Toyota Motor Thailand Co.,Ltd.)
工場名
サムロン工場
ゲートウェイ工場
バンポー工場
生産開始
1964 年
1966 年
2007 年
生産能力
年間 25 万台
年間 20 万台
年間 10 万台
(定時)
生産車種
ハイラックス
カムリ、カローラ、
フォーチュナー
ソルーナヴィオス、
ハイラックス
ウィッシュ、ヤリス
2007 年生産実績
502 千台
従業員数
約 14,000 名(2008 年 5 月現在)
-3.トヨタの IMV 戦略(概要)
「IMV」。イノベーティブ・インターナショナル・マルチパーパス・ビークルの略でトヨ
タがアイエムブイと呼ぶ新たなグローバルカー戦略である。IMV は、2004 年にタイでのライ
ンオフを皮切りにインドネシア、アルゼンチンでも生産開始し、2005 までにマレーシア、ベ
トナム、フィリピン、インド、ベネズエラ、南アフリカ、パキスタンの世界 10 カ国全工場で
生産を立ち上げるという、かつてないトヨタグローバル生産供給の大プロジェクトである。ト
ヨタは、かつて ASEAN 諸国での分担協業によるアセアンカー構想を推進したことがある。
この IMV は、まさにグローバル化時代の拡大アジアカー構想として 2000 年代移行と共に浮
上したものである。「IMV プロジェクトは、世界初のビジネスモデルであり本当のグローバ
ルネットワークを活用した画期的なもの。これを成功させないと、本当のグローバル企業にな
れない」(トヨタグループ首脳)と言うものである。
IMV は、世界中での最適生産・最適調達を文字通り実践する革新世界戦略車だ。ピックア
ップトラック・ミニバン・スポーツ多目的車(SUV)の 5 車種が欧米を除く世界 10 カ国で生
産・供給されることになる。域内関税を引き下げる ASEAN 自由貿易地域(AFTA)やメルコ
スル(南米南部共同市場)を背景に現地の既存生産拠点を結び付け、効率的な開発や生産、部
品調達を追及すると言うトヨタグローバル化での新たな試みでもある。21 世紀トヨタグロー
バル戦略は、2010 年代に世界シェア 15%を狙うビジョンが描かれている。
-4.IMV 戦略に対する TMT の取組み
①自立化プロジェクトの推進
日本の親工場への依存度を低め、自己完結的に事業を推進できるようにした。日本の親
工場の水準に匹敵するほどの工場を目標とし、
「ルーチン的なもの造り能力」だけでなく、
「改善能力」
、
「進化能力」の構築を目指した。
②タイバーチャルカンパニーの設立
TMT 内において、IMV だけを製造するバーチャルカンパニー
「Thai Virtual Company」
が設立された。CEO には TMT の社長、Vice CEO にはサイアムトヨタの社長が就任した。
取締役会の下に「技術及び購買」や「生産統制及び物流」など9つの各機能別組織が設置
され、IMV プロジェクトをより円滑に推進できるような体制が構築された。
③サプライチェーン活動の展開
コストダウンとリスクマネジメントのため、「サプライチェーン活動」が展開された。
タイデンソー、タイ日野自動車、サイアムトヨタと共同で、各部品について原料レベルま
でブレイクダウンしたコストダウンやリードタイムなどを検討し、サプライチェーンの整
流化を実施した。
④品質関所「Quality Gate」の導入
トヨタ生産方式で従来実施されていた生産管理手法に加えて、生産工程内の各要所に
「品質関所 (Quality Gate)」と呼ばれる検査ポイントが設置された。また、検査要員に
は現場のベテラン作業員が配置された。これにより、最終の検査工程で見えなかった不具
合を見逃さない体制が構築された。その結果、トヨタ本社による品質監査において、TMT
はゼロディフェクトを達成している。トヨタの海外拠点では TMT とトルコトヨタだけで
あるため、TMT の国際競争力が一層強化されたことが伺われる。
-5.TMT の Five Forces 分析
タイの自動車市場における完成車業界を当該業界として Five Forces 分析を行った結果、
図 3 のような図が描けた。当該業界の HHI は 0.30 と非常に高く、寡占化が進行しているこ
とが分かる。これは TMT がタイの自動車市場で非常に大きなシェアを占めている(タイの自
動車市場全体:44.7%、乗用車市場:54.4%、商用車市場:41.1%、1t Pickup Truck:42.7%)
からである。TMT が圧倒的なリーダー企業であることが分かる。売り手である部品メーカー
は系列傘下の企業であるか否かに拘わらず、TMT との取引関係を構築できなければ、タイの
自動車市場で大きな利益をあげることはできないことを意味する。その一方で、ASEAN 域内
経済の成長および BRICs 経済の成長を受けて、域内の部品メーカーに対する需要が高まって
いる。タイ政府は、自国の産業振興のために、国内で生産される自動車に関しては部品の輸入
関税を減免する措置を採っているが、輸送コスト(金銭的、時間的)を加味すると、完成車メ
ーカーは FTA を利用して AFTA(ASEAN 自由貿易圏)内で調達した方が効率的である。し
たがって、TMT の場合、Aisin や Denso などの系列部品メーカーだけの供給で全量を賄えな
い場合は、他社系列部品メーカーや独立系部品メーカーから調達することになる。ここで部品
メーカーは供給量を意図的に制限することで自社の利益ポテンシャルを高められる立場にあ
るため、TMT に対して価格交渉力を保持できる。以上より、TMT と部品メーカーはお互い
に強い交渉力を持っている。ただし、会社の規模や完成車が売れないと部品も売れないことを
加味すると、相対的には TMT の方が力は強いと思われる。しかし、部品の品質が完成車の品
質を規定するため、TMT としてはコストダウンの圧力を与えつつも、共存共栄の道を歩まざ
るを得ない。
また、TMT はリーダー企業として安定調達・安定供給を達成するために、日本市場同様に
川上から川下まで垂直統合した形でビジネスを行っている。流通を担う系列販社(ディーラ
ー:119 店、ショールーム:229 箇所)をタイ全土に展開していて、この点でも他社を凌駕し
ている。ところが、サブプライム問題で行き場を失った投機マネーが資源市場に流れたことで
原油価格が高騰する事態が起き、最終消費者の財布を直に攻撃している。また、新興国の急成
長による資源需要の急増もこの事態をさらに悪化させている。経済発展中の ASEAN にもそ
の波が広がり、自動車から燃費効率のよいバイクに消費の関心が移ったり、トゥクトゥクや自
転車を利用したりする消費者が増えている。したがって、資源既得権益保有業者や最終消費者、
代替材から TMT は強力な圧力をかけられている。その結果、在庫リスクが増大する可能性が
あり、TMT は流通網の合理化・効率化が求められている。
近年、外資系完成車メーカーおよび部品メーカーの参入が相次いでいる。急成長する
ASEAN 圏内や近隣諸国に完成車や部品を供給することが目的である。ところが、TMT 及び
系列部品メーカーの影響力は非常に大きく、そう簡単に参入できるものではない。そこで彼ら
は以下のような方法で参入を試みている。完成車メーカー業界に関しては、日系完成車メーカ
ーと既に結びつきのある外資系完成車メーカーが、日系完成車メーカーが持つ既存チャネルを
利用して参入している。例えば、ルノーが日産の既存販売ルートを利用する場合がこれに該当
する。部品メーカー業界に関しては、日系完成車メーカーとの関わりを持たない外資系部品メ
ーカーが、TMT がグループ内で部品を調達できなくなった場合に、トヨタに部品を供給する
形で市場に入ってくる。トヨタとの取引を通じて市場の情報を収集し、その上で TMT 系列の
部品会社のブラインドスポットを突く方法である。外資の参入メーカーは TMT に限らず日系
企業との取引が非常に大切である。というのも、タイの自動車市場で日系メーカーは 9 割以
上の地位を占めており、07 年時点で外資系は僅か 1 割にも満たないからである。このように、
外資が新規に参入する場合、ニッチ市場を攻めるか、フォロワーとして部品などの川上から攻
めるか、日産-ルノーのような既存の提携を利用して参入するかなどの方法が一般的なのであ
る。さらに、関税の減免などで恩恵の大きな FTA も別の側面から見ると TMT にとって脅威
となりうる。インドと ASEAN 間の「ルックイースト政策」強化の一環として 2008 年 12 月
に FTA が調印される見方が強い。正式に調印されれば、タタが手がける 280,000 円自動車が
関税率 5%で ASEAN 域内に入り込んでくることが予想される。1 ヶ月の平均収入が 20,000
バーツであるタイで、ヤリスが 599,000 バーツ~749,000 バーツ(2,000,000~2,400,000 円)
の価格で売られている。これに対してタタ車は 82,000 バーツほどで売られることになる。新
興国での自動車販売における大きなボトルネックの一つは国民の所得である。タタ車はこのボ
トルネックを克服する可能性が高く、TMT にとってはエントリーポイントを獲得される大き
な脅威である。しかも、未だ自家用車を持たない消費者が新興国には膨大にいる。自動車は自
分で修理ができない商品であるため、ディーラーとの付き合いや取引実績は大きなスイッチン
グコストを生じさせる。通常買い換える場合は現有メーカーが発売する新車を購入することが
多く、エントリーポイントを奪われるとなかなか奪取することができない。低価格車は利幅が
狭く、大量にうりさばかないと利益が取れないが、新興国にはそれに見合う程の潜在需要があ
る上、今後経済が発展すればさらに上のグレードを購入してくれる人が爆発的に増える。利幅
が狭くとも、エントリーポイントを獲得できれば、生涯利益で考えた場合に相当程度に魅力的
な市場が存在している。したがって、タタなど新興メーカーからの圧力は相当に強く、この戦
いには必ず勝たねばならない。
日系完成車メーカーと外資系完成車メーカーとの関係において、前者にとって脅威となるも
う一つの要因は、後者による人材の引き抜きである。日本企業は古くからの付き合いや過去の
実績によって、取引先を選定することが多い。この点は日系メーカーと新たに関係を構築した
い外資系メーカーにとっては大きな参入障壁である。また、日本企業のビジネスシステムは、
マニュアルではなく、人と人との関わり合いの中で様々な知識や経験を蓄えていく傾向が強い。
日系メーカーから購買担当者や生産管理担当者をヘッドハンティングすることの目的は、彼ら
の古巣での取引実績や見えざる資産の獲得にある。事実、北米本社の幹部クラスがクライスラ
ーに引き抜かれている。TMT に限らず、世界中でこのような事態が今後増えるのはトヨタに
とっては大きな損失である。TMT でも人材育成と人材の維持に力を注がなければ、競争優位
の源泉が他企業に流れてしまう可能性がある。トヨタは販売や生産の現地への権限委譲の仕組
みをほぼ完成しているが、開発については地域差を残している。現在、開発も現地化を目指し
ており、スタッフ部門の人材育成と強化を進める上で、外資によるこの動きは大きな圧力であ
る。また、コストに占める人件費低減を図る上でも、大きな課題である。
図3
TMT の Five Forces 分析
3.質問に対する回答
1-Q.インドのタタ自動車が 10 万ルピーの自動車の発売を予定しています。ASEAN とインド
との FTA 合意によりタタ自動車の廉価自動車がタイに進出してくる脅威をどうとらえて
いますか?また、FTA 合意によって、TMT にとってどのような点が有利になると思われ
ますか?
1-A.タタ自動車を脅威とは捉えていない。サイドミラーが1つしかない、エアコンがついてい
ない、ワイパーが1本しかないので、大雨に対応できないなど、品質面で明らかに劣って
いる。低所得者層などにある程度普及すると思われるが、トヨタのシェアを奪うほどの脅
威とはなりえない。また、ターゲットセグメントが違うので、直接的に競合する相手では
ない。
2-Q.トヨタは IMV プロジェクトにより、世界戦略車として、ピックアップトラック、SUV な
どを生産しています。世界的な原油高の影響により、大型車の販売台数が大幅に落ち込
んでいる中で、世界戦略車を現在の車種から他の車種へ変更する予定はありますか?
2-A.現時点での変更はないが、将来的には分からない。当工場は生産ラインをフレキシブルに
変更できるよう設計しているので、変更が生じるとしても即座に対応が可能である。
3-Q.トヨタは「サステイナブル・プラント構想」を掲げ、CO2 回収技術の開発や太陽光など
の活用を模索している。バンポー工場は、「サステイナブル・プラント構想」のモデル
工場として、どのような取組みをしていますか?
3-A.トヨタがいま目指している姿は、工場を建設した後でも周辺環境が建設前と同じ状態で操
業することである。当工場ではその取り組みの一環として、コージェネレーション、太陽
光発電、ウォータートリートメントプラント(工場排水の再利用)などのシステムを導入
している。また、日々の取り組みとして、水溶性塗料の使用、10 万本の植林の実施(今
後も継続)などに力を入れている。植林活動は従業員やその家族、販売店スタッフ、近隣
住民と共に行っており、地域企業として根付けるような取り組みにしている。
4-Q.2007 年にバンポー工場でハイラックスを生産開始し、2009 年からカムリハイブリッドを
生産予定であると聞きます。こうした急速な生産体制の拡大によって、トヨタ系列の部品
メーカーだけではすべての部品を供給できないという問題が発生していませんか?また、
系列外の部品メーカーから部品を調達しなければならない場合、特にどのような点に注意
して取引されていますか?
4-A.日系の取引業者や関係子会社と共にタイ市場に進出してきている。部品メーカーが供給責
任をしっかりと果たしてくれているので、そのような心配はない。当社としても、部品メ
ーカーに生産体制の指導を行っており、当社の方針に同意してくれるような企業と取引し
ている。
5-Q.タイでは多くの外資系自動車メーカーが参入しています。優秀な社員や技術者がそのよう
な企業へ流出することを阻止するためにどのような対策を行っていますか?
5-A.特に対策は行っていない。当社を去りたいという人間を止めることはしない。結果的に、
当社を去りたいという人は、当社の企業理念に共感していなかったり、当社のことを理解
していなかったりするので、そういう人間が競合他社に移ってもノウハウは移らない。仮
に、ノウハウが移ったとしても 1 部だけを真似して当社と同じことをすることはできな
いので、当社には影響しない。
また、当社では、日常的に従業員にヒアリングを行っており、職場環境の改善に努めて
いる。例えば、夜間で働く人のために、蚊の駆除装置を設置したり、昼休みに遊休地をレ
クリエーションのために開放したりしている。
6-Q.従業員の教育・管理は、自動車の品質に大きな影響を与えると考えます。優秀な技術者を
育成するためにどのような育成プログラムを実行していますか?また、日本とタイにお
いて育成プログラムに何か違いはありますか?
6-A.グローバルでラインの教育プログラムがすでに完成しており、日本とタイというよりも、
全世界で標準的なプログラムに沿って教育している。
7-Q.タイの現地採用従業員に今後期待したいことは何ですか。
7-A.タイ人の従業員は、技術力では日本人と遜色ないし、給料水準も日本人に比べて格段に低
い。日本人と比べて競争力はかなり強いので、日本としても大きな脅威であると思う。だ
が、デザインや企画などクリエイティブな業務は現在でも日本主導で行っている。今後は
そのような業務も担えるように自立してもらいたい。
写真:TMT バンポー工場 エントランスにて
タイ中央銀行(Bank Of Thailand)
担
当
:
佐々木、松江、野田
訪問日時 : 2008 年 9 月 18 日 9:00~13:00
折しも今回のタイ訪問中、米証券大手のリーマン・ブラザーズ証券、同保険最大手アメ
リカン・インターナショナル・グループが経営破綻し、同証券大手メリルリンチ証券がバ
ンク・オブ・アメリカ傘下に入ることが事実上決定するなど、サブプライムショックを契
機とした金融機関の破綻が相次いだ。このような世界金融におけるメモラブルな時期に、
アジア金融危機を克服した経験を持つタイの中央銀行を訪問するという極めて貴重な機会
を得ることが出来た。
タイ中央銀行訪問の概要:
冒頭では、中央銀行副総裁から挨拶をいただき、その後に行員の方からプレゼンテーシ
ョンをいただいた。最初に、アジア通貨危機の際の状況やその問題に対してどのような対
応を行なったのかについて説明していただいた。次にプレゼンテーションの第 2 部として、
タイ中央銀行の中期計画における 3 つの期間について詳細に説明していただいた。今後、
タイの金融セクターが健全に発展し国際競争力を保持するための詳細な計画であった。第 3
部の Q&A では、世界の金融セクターが混沌とする時期の訪問ということもあり有意義な時
間を過ごすことができた。
タイ金融政策のフレームワーク:
タイの銀行法は第二次大戦中の 1942 年に施行された。同法は Bank Of Thailand が中央
銀行としての機能を果たす義務及び王立法で規定する種々の機能を規定している。同法で
は、中銀に対し銀行レートを決める権限、債券・為替の売買や金融機関に対する信用の延
長などの権限も与えられている。金融政策について明確な記述をしているわけではないが
実際問題として、長期にわたる持続的な経済成長にとって必要な金融・財政の安定維持を
中銀の最終目的とみなしてきた。
インフレ・ターゲット体制(2006 年~)
IMF のプログラム終了後、中銀は国内および海外の経済環境につき幅広く再評価を行い、
通貨供給目標はインフレ目標よりも効果が薄いと結論づけた。この目標に変えた理由は、
特に大きな危機を経験した後の時代、信用が拡大し急速に金融部門が変化している不透明
さの時代においては、通貨の供給と生産の伸び率との関係がより不安定になってきたこと
であった。2000 年 5 月、中銀はインフレ目標の導入を発表した。
インフレーション・ターゲッティング政策の特徴として、以下の 5 点を指摘できる。第一
に、中期における名目インフレーションをターゲットとすることである。第二に、インフ
レーション目標を達成するための、金融政策とコミットメントの第一義的で長期のゴール
としての、価格の安定を図るための制度化されたコミットメントということである。第三
に、多くの変動要素が意思決定に用いられる情報包含アプローチであるということである。
第四に、政策に関する戦略がより透明性を維持できるということである。第五に、中央銀
行の説明責任がより問われることになるということである。
次に、インフレーション・ターゲッティング政策のメリットとして、以下の 5 点を挙げ
る。第一に、インフレーション目標を達成するために一つの変動要素に依存することなく、
フレキシブルに対応できるということである。第二に、政策内容が明確であり、理解しや
すいということである。第三に、政策の時間的な一貫性が失われる罠(time-inconsistency
trap)に陥る可能性を減少させることができる。第四に、政策の透明性と説明責任を強調
することができる。第五に、強制的な決定権(constrained discretion)を与えることが
できるということである。
一方、インフレーション・ターゲッティング政策のデメリットとして、以下の 4 点を挙
げる。第一に、政策の結果としてのシグナルが表れるのが遅いということである。第二に、
政策の目標が硬すぎるということである。第三に、GDP の変動を増幅させる可能性を秘めて
いるということである。第四に、インフレーションを抑制(disinflation)している期間
において、経済成長が低く抑えられてしまうということを指摘できる。
質疑応答:
Q1:BOTはインフレ・ターゲッティング政策を採用し、コア・インフレーションを用い
ている。近頃、石油と穀物の価格が急激に上がっており、コア・インフレーションが適切
であるのかどうか分からない。その点についてどのようにお考えか?
-A.タイ経済では、以前はコア・インフレーション・レートとヘッドライン・インフレー
ション(総合物価指数)
・レートは非常に近い相関関係にあった。しかし、この関係は非常
に脆く壊れつつある。そのため、われわれはヘッドライン・インフレーション・レートへ
スイッチする計画を再調査している。しかし、コア・インフレーション・レートからヘッ
ドライン・インフレーション・レートへスイッチを実現する時間軸については確かではな
い。コア・インフレーション・レートからヘッドライン・インフレーション・レートへス
イッチしたら、もちろんパケット・レンジも変化する。
Q2:タイ経済におけるサブプライム危機の影響はどのようであったか?
-A.直接的な影響は最小限であった。なぜなら、このサブプライムのCEOや住宅ローン
に関わる銀行株に対して、タイはとても限られた関係しかもたなかった。私は、サブプラ
イム危機によるタイの銀行システムへの直接的なインパクトは銀行システムのマーケット
シェア全体の5%しかないと考えている。しかし、経済への間接的な影響については考え
る必要がある。つまり、グローバル経済/グローバル金融マーケットの影響を通ってくる
二次的な影響についてである。グローバル経済・金融マーケットの幅広い示唆によって、
アメリカ経済の深刻な景気後退とその後にくる世界的な景気後退を予測することができる。
サブプライムの直接的な影響は軽微だが、間接的な影響はタイだけでなく、その他のアジ
ア諸国にとっても深刻なものだ。
Q3:我々は今、アメリカ発の深刻な問題を抱えている。巨大な資本市場を抱える欧米の金
融システムはアジアのそれよりも効率的であると思っていたが、そうではないかもしれな
い。
この観点から、アメリカのシステムにおける巨大な資本市場と比較して、タイとアジアの
金融システムをどのように評価するのか?
-A.金融システムあるいは資本市場における銀行システムの最適な構造を評価するための
重要な基準は非常に難しい。
銀行システムに問題が起こり、景気が後退しても、巨大な資本市場の存在ゆえにアメリ
カでは問題は起こらないと考えられていた。しかし、アメリカと同規模の資本市場に問題
が起きた場合は、銀行システムは足を引っ張られる。なぜなら、銀行それ自身が市場で売
られている金融手法や深く理解されていないリスクに大きなエクスポージャーを行なって
いるからである。よって、キーポイントは市場の透明性であると思う。しかし、現在にお
いて、数年前まで良いと思われていた主要銀行のリスクマネジメント・システムは試練の
時にあり、金融テクノロジーやリスクマネジメントは非常に複雑化してきた。しかし、そ
れらがもはや素晴らしい効果など持っていないことが判明した。リスクマネジメントのシ
ステムは崩壊したといってよい。いま我々は、銀行が始めて予期したある種の損失を持っ
て終わろうとしている。そして、我々は銀行自身が新しい手法によるサービスであるサブ
プライムローン関連の金融商品への投資を望まなかったことは幸運だった。
以上
「みずほコーポレート銀行」
担当:高井昭良
訪問日時:2008 年 9 月 18 日(木)
幅啓典
持田恭平
14:00~15:30
訪問場所:みずほコーポレート銀行バンコック支店
タイの状況
タイは優秀な人材と安い生産コスト、インフラが既に整っており、対日感情が良く、裾
野産業も充実していることから多くの日本企業がこれまでにも進出してきた。今後もチャ
イナリスク回避のための新たな移転先(「チャイナプラスワン」)・既にある工場のライン増
強・生産可能品目の増強などで、生産拠点としての能力を更に高めることを見込む企業も
多く依然として生産拠点として有望な地域であると言える。
以下、業種別に詳しく見ていくこととする。
自動車関連産業
2007 年におけるタイでの自動車生産台数は、128 万 7 千台に達し、ASEAN 最大の生産拠
点になっている。2007 年には、初めて輸出台数が、国内販売台数を上回り、名実ともにタ
イは自動車の一大輸出拠点となっている。また、この動きは、同国政府のエコカー製作で
後押しされ、2010 年前半には、タイの自動車生産能力は、年産 200 万台を超えると見込ま
れている。「金属製品」でも日系企業が集積しているタイが評価されている。
化学産業
タイのシャム湾で天然ガス採れることから、それを利用して石油化学製品の基礎原料「エ
チレン」や「プロピレン」を生産する上流と、合成樹脂を生産する下流の両方が重化学工
業拠点として集積し、今や ASEAN 随一の石油化学基盤となっている。
非製造業(商社、運輸・倉庫・通信、情報処理/ソフトウェア、その他サービス)
販売拠点としても有望な地域であるとの調査結果が出ている。インフラ面の整備が比較
的進んでいることは強み。(インドなどは製造業では有望であるが、インフラや物流面での
整備が遅れていることから、サービス業等の普及はまだ難しい)
しかしながらデメリットも存在する。以下、列挙していくこととする。
・中国、ベトナムよりも製造原価は高くなること。
→特にベトナムは日越投資協定発効や WTO 加盟に伴い注目を浴びている。
・為替レートの変動が激しい。
→1997 年にはアジア通貨危機が発生しているが、現在も為替レートの変動が問題点とされ
ており、財務上の最重要課題となっている。
・労働者不足・人材確保が困難。
→タイの人口は 6000 万人と比較的規模が小さい。労働集約的産業の投資はタイ政府も歓迎
しておらず、それらはベトナム等へ流れる可能性が高い。むしろタイ政府は、高付加価値
型、技術集約型産業の外資導入を優先したい方針である。
・政治・社会情勢の不安定さ。
→2006 年 9 月にもクーデターが発生している。
・サービス分野などにおける出資比率制限などの外資規制
みずほとしてのアプローチ
不良債権の処理にめどがついたこと、サブプライムの影響が欧米の金融機関に比べて軽
微だったことから新たな収益源の確保のために邦銀の海外展開が進んでいる。みずほコー
ポレート銀行はみずほフィナンシャルグループの海外部門を担っており、2006 年にホーチ
ミン支店、2008 年に台中支店を開設するなど、ますますアジアに向けて注力を行っている。
その中でも、タイのみずほコーポレート銀行は、2008 年にタイ政府が進めるバンコク市
内の地下鉄や郊外幹線道路、水道設備などに総額 6 兆円規模のインフラ整備事業について、
タイ財務省とアドバイザー契約を結び、インフラ政策の立案やプロジェクトごとの資金調
達などを幅広く支援することとなった。邦銀が海外政府の広範なアドバイザーに就くこと
は珍しく、新たなビジネススタイルとして今後も注目が必要である。
質問項目と回答
・どのような形式で他国の支店と連携をとっていますか。バンコック支店では具体的にど
のような国と連携をとることが多いのですか。
→シンガポールにアジアの本部機能があるため、そこと連絡をとることが多い。
・タイで事業を進めていくにあたり、他の邦銀と外国の銀行、どちらをより意識していま
すか。そのなかで最大のライバルとしてどこを想定していますか。
→日系他メガバンクを最も意識している。外資では HSBC などを想定している。日系金融
機関を重視している理由としては、日系企業のサポートの方が主要な業務となっているか
らである(取引先 1800 社のうち日系企業が約 1600 社、地元企業が約 200 社)。
・先日、公共事業に関して政府と提携されましたが、どういう部署と連携をとりながらこ
ういった話をすすめていかれるのですか。
→東京本部のストラクチャードファイナンス部と行うことが多い。
・日系企業と現地企業・非日系企業の取引の割合は大体どれくらいですか。新規開拓の方
法や日本企業と現地企業の違い、タイの現地企業との取引に独特の商習慣についてもあわ
せて教えてください。
→割合は上述の通りだが、預金・為替という付随取引がとりこめているため、収益の中心
は対日系企業との取引によるものである。また現地企業の取引は上場している大手企業が
中心である。現地中小企業との取引は高リターンを期待できるかもしれないが、リスクも
大きいため、現段階では進出していない。
・顧客の企業から銀行にどういう情報が求められることが多いですか。日系企業と非日系
企業それぞれの場合について教えてください。
→日系企業からはマーケット情報・提携先・M&A・ビジネスマッチングの情報を求められ
ることが多く、現地企業からは日系企業の提携先に関する情報を求められることが多い。
・タイ自身の経済成長や人件費のより安いベトナムへの投資の高まり、FTA の締結などタ
イ内外において様々な変化が起こっています。それに伴い、タイに進出する企業が高付加
価値化・資本集約的な産業のものに変わってきているといった変化などはありますか。
→ベトナムはインフラ・サプライチェーンが未発達であるという問題を抱えているため、
投資には依然としてリスクはある。タイに進出する企業は、高付加価値化が進んでいる。
しかし BOI の規制があるため、製造業以外の卸売業や小売業などの進出は難しい。
・タイの債券市場は未発達な上、日系企業の知名度は必ずしも高くないので、バーツ建て
債券での資金調達は難しいのではないかと考えます。企業の資金調達手段が日本に比べて
少ない中で、タイにおける日系企業への資金支援をするために苦労している点、工夫をし
ている点、などはありますか。また、日本の大手企業の中には、金融会社を作り自分で資
金調達をしている日系企業も増えています。しかし、そうした企業でもバーツを調達する
ノウハウは不足しているのではないかと考えます。発行社債に銀行が保証を付与するなど、
それに対応するような動きはあるのでしょうか。
→タイの債券市場は 1100 億ドル・マレーシアは 1200 億ドル・シンガポール 800 億ドルと周
辺国に比べて小さくはないが、その 80 パーセントが政府系の起債であり、民間企業の起債
の割合は低い。民間企業の多くは借入での資金調達が中心で、起債するのはファイナンス
系の会社が多い。しかし広範な引き受け手がなく、相手を見つけてから起債する実質的な
私募債になっている。
・為替管理制度が実質的な変動相場制へと移行されたり、資本規制の緩和が行われたりし
ている中で、バーツを調達するにあたっての対応の変化はありますか。
→変化の対応は特にない。変動相場制に移行してからかなり経つが、中央銀行の介入が多
いので完全にフロートではない。
①【Capital Nomura Securities Public Co, Ltd】
②【タイ証券取引所】
担当:一政
訪問日時:①2008 年 9 月 19 日(金)11:00~12:30
②2008 年 9 月 19 日(金)14:30~16:00
1.
Capital Nomura Securities Public Co, Ltd(CNS)
1.1
企業の概要
1997 年の通貨危機は資金調達手段としての equity finance の重要性を企業にまざまざと
示した。それ以降株式市場に対する関心は高まり、現在でもタイの株式市場売買高は年約
3%のペースで成長を続けている。この様な状況の中で、日本法人で唯一タイ市場へと進出
したのが CNS である。
CNS は SET(タイ証券取引所)の承認を受けて以来、証券取引仲介業務を行う証券会社と
して活動を行ってきた。現在では証券の引受から貸借取引、投資アドバイザリーなどへと
業務範囲を拡大している。
1.2
CNS のビジネスモデル
1.2.1 ビジネスの概況
CNS が行っている事業は以下の 6 つである。
①証券取引仲介業務
②先物取引仲介業務
③証券トレーディング業務
④投資アドバイザリー業務
⑤証券引受業務
⑥証券貸借業務
1.2.2 収益構造
証券仲介手数料
先物仲介手数料
手数料またはサービス収入
証券売買益
受取利息または配当金
貸付金利息
その他の収入
合計
2007
売上高
466.85
24.41
91.62
10.72
111.22
59.87
4
768.69
表 1 CNS の売上高構造
%
60.73
3.18
11.92
1.39
14.47
7.79
0.52
100
2006
売上高
509.76
2.65
56.9
-2.33
92.47
53.46
3.69
716.6
%
71.14
0.37
7.94
-0.33
12.9
7.46
0.52
100
2005
売上高
647.5
0
37.63
33.63
42.5
58.85
6.04
826.15
%
78.38
0
4.56
4.07
5.14
7.12
0.73
100
(CNS AR2007 から抜粋後、表化・日本語へ翻訳)
表 1 から読み取れるように、証券の仲介手数料の売上高は年々減少してはいるものの、
依然として売上高全体の 6 割以上を占めている。一方、売上高に占める割合を伸ばしてい
るのが受取利息または配当金の項目である。また、売上高における証券売買益が占める割
合は非常に低い。以上の事から、CNS のビジネスモデルは証券取引仲介手数料を業務の中
核としている事がわかる。
1.3
市場の動向
タイの証券市場には現在 2 つのトレンドがある。1 つ目は、全売買高中の海外機関投資家
の占める割合が上昇していることである。表2にも表れているように、売買高において国
内機関投資家や個人投資家の占める割合が下落しているのに対して、海外機関投資家はバ
イサイド、セルサイドの両面において存在感を高めている。2 つ目は、銀行口座を利用した
店舗における取引から、オンライン口座を利用したインターネット取引への移行が始まっ
たことである。現在のところ、全体の約 15%を占めるに留まっている。しかしインフラや
ソフトウェアなどの環境整備が進めば、その割合は現在よりも上昇すると考えられる。特
にタイのように個人投資家が取引の大部分を占めている市場においては今後、コストの安
いオンライン取引の大きな成長性が見込まれる。
国内機関投資家
海外機関投資家
個人投資家
TOTAL
Buy
Amount %
520870
12.94
1435832
35.67
2068730
51.92
4025432
100.53
Sell
Amount %
525864
1343370
2156198
4025432
13.06
33.37
53.57
100
Total
Amount %
1046734
2779202
4224928
8050864
13
34.52
52.48
100
11.2
30.22
58.58
100
Total
Amount %
854689
2461014
4513884
7829587
10.92
31.43
57.65
100
(FY2007 SET 売買高比率)
国内機関投資家
海外機関投資家
個人投資家
TOTAL
Buy
Amount %
416373
1277886
2220533
3914792
10.64
32.64
56.72
100
Sell
Amount %
438315
1183126
2293350
3914791
(FY2006 SET 売買高比率)
表 2 SET における投資家タイプ別売買高比率(値は SET 統計資料より抜粋)
1.4
業界の状況
1.4.1
Capital Nomura Securities の地位
CNS の 2007 年度の市場シェアは 2.43%で、大手証券会社 38 社中 19 位である。(昨年の
市場シェアは 2.61%で 17 位)2005 年度の 6 位から順位・シェア共に落としている状況に
ある。
1.4.2 地位低下の要因
シェアを落としている理由として挙げられるのは、①当該業界の競争激化②ターゲットセ
グメントと市場トレンドの不適合の2つである。
① 当該業界の競争激化
タイの証券市場は現在年約 3%の成長を遂げており、今後も証券市場新興国として高い成
長が期待される。そのような状況の中、外資系証券会社の新規参入が相次いだ事により、
競争は激化している。そこでタイ証券市場の競争の熾烈さを示すため、タイ証券市場の HI
を計算した。その結果、HI は 0.038 であり、非常に厳しい競合状況であることが示された。
Ranking
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
NAME
KIMENG
ASP
PHATRA
SCBS
CS
UBS
KGI
BLS
BFITSEC
TNS
ZMICO
CLSA
TSC
JPM
DBSV
AYS
TMBMACQ
ASL
CNS
UOBKHST
PST
ASLS
TRINITY
SICSEC
FINANSA
KKS
BTSEC
GLOBEX
FES
IVG
US
SCIBS
KS
SYRUS
MERCHANT
KTBS
AIRA
CIMB-GK
Market SharMS*2
7.92
0.00627
5.86
0.00343
5.72
0.00327
5.68
0.00323
5.39
0.00291
4.69
0.00220
4.12
0.00170
3.62
0.00131
3.55
0.00126
3.51
0.00123
3.32
0.00110
3.29
0.00108
3.14
0.00099
3.04
0.00092
3.03
0.00092
3.02
0.00091
2.84
0.00081
2.65
0.00070
2.43
0.00059
2.18
0.00048
2.14
0.00046
2.11
0.00045
1.87
0.00035
1.7
0.00029
1.62
0.00026
1.39
0.00019
1.37
0.00019
1.27
0.00016
1.24
0.00015
1.07
0.00011
0.88
0.00008
0.82
0.00007
0.81
0.00007
0.79
0.00006
0.61
0.00004
0.61
0.00004
0.58
0.00003
0.12
0.00000
HI値
0.03831
(※一般に、HI が 0.15 以下で
あれば競争が激しいと考えら
れている。)
②
ターゲットセグメントと
市場トレンドの不適合
CNS の中核事業である証券
売買仲介事業における顧客セ
グメントを調べると、個人投資
家がほとんどを占めており、成
長セグメントである海外機関
投資家の占める割合は少ない
(表4)。1.3 において海外投
資家の存在感の上昇をタイ証
券市場の市場トレンドとして
取り上げたが、CNS はそのト
レンドに同調していない。この
対応に CNS のシェアの低下の
原因があると考えられる。
表 3 FY2007 タイの証券取引仲介業のシェアと業界の HI 指数
FY2007
FY2006
FY2005
Amount
%
Amount
%
Amount
%
個人投資家
145531
74.56
156573
76.8
212694
82.53
国内機関投資家
22131
11.34
24759
12.14
21085
8.18
海外機関投資家
27511
14.1
22549
11.06
23926
9.29
TOTAL
195173
100
203881
100
257705
100
表4
2.
CNS 証券売買仲介事業における顧客の割合(CNS AR’07 より数値を抜粋・日本語化)
タイ証券市場について
タイ証券取引所(SET)
SET は 1974 年タイ証券取引法に基づき 1974 年 5 月 20 日に設立され、1975 年 4 月 30
日より取引を開始した。上場数は 1986 年末で 89 社であったが、2007 年末には 475 社まで
上昇した。また SET には 3 つの姉妹市場があり、それぞれに以下の役割を担う。
•
オルタナテイブ・インベストメント市場(mai)—mai は 1999 年に取引を開始した。
高成長かつイノベテイーブなビジネスを行うための資金調達の機会を提供する市場
である。現在 48 社が上場している。新興市場として考えられている。
•
ボンド・エレクトロニクス・エクスチェンジ(BEX) -債券流通市場として 2003 年
に設立された。個人向け、機関投資家向けの市場をカバーする国債・社債の債券流
通市場である。
•
タイ先物取引所(TFEX)- 2004 年にデリバティブ取引市場として設立された。2006
年 4 月 28 日には最初の商品、SET 50 指数先物が導入された。さらに 2007 年 10
月 29 日には SET50 指数オプションが導入された。
証券会社
証券取引所のメンバーとなっている証券会社は現在 39 社ある。その多くが外資系の会社
である。日本の証券会社で現地法人としてメンバーになっているのは野村証券ただ一社で
ある。
外国人投資家への制限
・外国人投資家のためのフォーレンボード (Foreign Board for Foreign-owned Shares)
有価証券に直接所有権を希望する外国人投資家のために設立された。外国人の持ち株の条
件として、銘柄ごとにその上限が決められている。一般に外国人持ち株の上限は 49%であ
る。
・議決権預託証書(NVDRs) (Non-Voting Depository Receipts)
NVDRs は外国人投資家の制限をなくし取引を促進させるために 2001 年に導入された。
NVDRs は、議決権がない外国人向け株式となっている。それ以外の配当、株主割当増資、
新株引受権の権利は保証されている。 2007 年 1 月現在において NVDR に参加した有価証
券は上場全銘柄の 95%を占めている。
種類
ボード
ローカル株(L 株)
議決権
配当
流動性
居住者
外国人
居住者
外国人
ローカル
○
×
○
×
高
NVDR
ローカル
×
×
○
○
高
フォーリン株(F 株)
フォーリン
×
○
×
○
低
SET50 指数
SET で時価総額および流動性が高く、大株主への株式分配に関する規定に対して高いコン
プライアンス性を持つ 50 銘柄で構成される指数のことである。SET50 指数に構成された銘
柄は 6 ヶ月毎に修正される。
SET 指数
SET メーンボード全銘柄が対象となっている指数である。時価総額を基準時の時価総額と
比重比較し、その増減を示し市場全体の株価の動きを表す総合指標です。
3.
CNS への質問
Q1―海外機関投資家との関係について
CNS は成長セグメントである海外機関投資家について、現状ではトップ企業と比較して
不利な状況にあると思われる。今後タイの経済が発展を続けると、海外投資家との関係は
重要になっていくと考えられる。そこで海外機関投資家の取引を重視するという事は考え
ているか?
⇒通貨危機の際に事業を縮小しており、その影響が海外投資家のマーケットが手薄になっ
ている原因である。現在改善を施している最中である。しかし、CNS として 70%を占める
リテールを中心として考えて活動している。
(CNS はタイのローカルに根ざして活動してお
り、野村証券の海外事業の中でも唯一のモデルある。)
Q2―証券仲介業界の構造について
CNS の中核事業の一つに証券仲介業務がある。この業界では現在、多様なバックグラウ
ンドを持つ 39 社もの企業が熾烈な競争を繰り広げている。業界の競合状況は非常に厳しく
(※HI=0.038)、利益ポテンシャルを上昇させるためにはこの状況を打開する方策が必要で
あると考えられる。その打開策の一つして M&A が考えられるが、CNS の M&A について
の考えはどのようなものか?
Q3―M&A について
もし、M&A を行うとしたら、どの企業をターゲットとするか?
⇒営業員は完全なインセンティブ制であるため、M&A を行って会社を買っても営業員が付
いてこない可能性が高い。顧客は営業員についているため、M&A を行うことで単純に規模
が拡大していくものではない。そのため慎重に戦略を模索している。リテールを強化する
上では、銀行など証券会社以外の金融機関と連携をとることが効果的であると考えている。
Q4―取引のオンライン化について
現在タイの証券市場では、オンラインの株取引が普及し始めている。個人投資家が大き
な割合を占めるタイ証券市場では取引コストの面から判断してオンライン化は非常に魅力
的である。タイにおける証券取引オンライン化の発展について考えはどのようなものか。
⇒現在、インターネット取引の割合は上昇してきている。その中でシステムをどこから持
ってくるのかを検討中である。野村証券本体から導入するのか、また独自に開発するのか
を検討中である。またその規模がシステム導入のコストと見合うかも現在検討中である。
Q5―他社との差別化方針について
CNS は、未来の成長の為に①投資家へ提供する情報の質の向上②取引システムの改善と
いうポジショニングプランを持っているが、どのようなものか?
⇒投資家が求めるものとして、リサーチの質、企業へのアレンジ、セールスの質がある。
この様なものを総合的に高めていきたいと考えている。
Q6―証券市場の変遷について
これからの市場の変化について、どの様に予測しているか。また、その中で CNS はどの
様な役割を果たしていくのか。
⇒タイの企業は同族会社が多い。それらの企業は現在創業者から、その次の世代へと移り
変わってきている。次世代の経営者は海外の留学経験があり、国際的な経営感覚に優れた
世代である。このような世代が増えることにより、M&A や増資などが多く実施させること
になる。そのため、証券会社の役割も現在の証券仲介業務からアドバイザリー業務へと変
貌すると考えている。
JBIC( 国 際 協 力 銀 行 )
担当:小川・久慈・李
訪問日時
:
2008 年 9 月 19 日 (金 )
16:30~ 18:00
訪問場所
:
キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ
バンコクオフィス
( JBIC オ フ ィ ス 移 転 作 業 中 の 為 、 会 場 変 更 )
訪問内容
:
JBIC 御 担 当 者
16:30~ 18:00
:
会社説明および質疑応答
大参 主席駐在員
1.企業概要
JBIC( 国 際 協 力 銀 行 、Japan Bank For International Cooperation)は 、1999
年に日本輸出入銀行と海外経済協力基金を統合して発足した全額政府出資の特
殊 銀 行 で あ る 。 2008 年 に 予 定 さ れ る 組 織 改 編 に お い て 、 国 際 金 融 等 業 務 は 5
つの政府系金融機関が統合され新たに設立される政府系金融機関、株式会社日
本政策金融公庫に統合され、海外経済協力業務は国際協力機構に統合される。
日 本 政 策 金 融 公 庫 の 国 際 金 融 部 門 専 門 機 関 と し て 、 2008 年 10 月 よ り 新 JBIC
として日本の国際政策を担う機関となる。新会社は、従来の融資に加え、投資
銀行としてのイノベイティブな役割を担う政府系金融機関となる。
2.業務内容
JBIC の 業 務 は 主 に 国 際 金 融 等 業 務 と 海 外 経 済 協 力 業 務 の 2 つ で あ る 。
○海外経済協力業務
JBIC は 円 借 款 等 に よ り 開 発 途 上 国 の 経 済 社 会 基 盤 の 整 備 や 持 続 的 成 長 を 通
じた貧困削減を支援している。この有償資金協力(円借款等)は、日本の政府
開 発 援 助 ( ODA) の 柱 の 一 つ と な っ て い る 。 今 後 JICA に 移 管 さ れ る 。
○国際金融等業務
①輸出金融:日本から開発途上国へプラント・船舶の輸出を支援する融資。
② 輸 入 金 融:石 油 、LNG、鉄 鉱 石 等 の 重 要 物 資 の 日 本 へ の 輸 入 を 支 援 す る 融 資 。
③海外投資金融:日本企業が、海外において現地生産や資源開発などの事業を
行う際の資金に対する融資。
④事業開発等金融(アンタイドローン)
日本の貿易、投資等、海外経済活動のための事業環境整備を図るとともに、
国際金融秩序の安定のための開発途上国の構造調整等を支援する融資。
⑤保証:民間金融機関等の融資、開発途上国政府等の公債発行、および現地日
系企業による社債発行等に対する保証。
⑥出資:海外において事業を行う日系合弁企業や日本企業が参加するファンド
などに対する出資。
⑦ブリッジローン:国際収支上の困難を抱えた開発途上国政府の外貨資金繰り
を手当てするために必要な短期融資。
⑧調査:日本企業が期待する具体的なプラント輸出案件等について、フィージ
ビリティ・スタディ等の調査。
⑨ 「 プ ロ ジ ェ ク ト ・ フ ァ イ ナ ン ス 」・「 ス ト ラ ク チ ャ ー ド ・ フ ァ イ ナ ン ス 」
あるプロジェクトに対する融資の返済原資を、そのプロジェクトが生み出す
キャッシュフローに限定し、その担保を当該プロジェクトの資産等に限定す
る融資。資源や製品の輸出代金等の収入を担保に融資。
⑩中堅・中小企業を支援:中堅・中小企業向けの海外直接投資等の融資につい
ては、融資条件を優遇し支援。
3.タイでの海外経済協力業務
有償資金協力(円借款)によって、以下のプロジェクトを実施している。
・高速道路の整備
・教育関連施設(チュラロンコーン大学)
・国家計量基盤整備(国立計量機関)
・上水道の整備
・電力(変電所、送電線)
・空港の建設(バンコク国際空港、新バンコク国際空港)
・チャオプラヤ川の橋梁建設(13本)
・バ ン コ ク 地 下 鉄( チ ャ ラ ー ム ラ チ ャ モ ン コ ン 線 )の 建 設
・東部臨海地域の開発
← 2200 億 円 の 融 資
← 約 1788 億 円 の 融 資
4.タイでの国際金融等業務
○ ABMI へ の 取 り 組 み
90 年 代 後 半 の 通 貨 危 機 の 教 訓 か ら 、 ASEAN+ 3(日 中 韓 )諸 国 の 財 務 省 ・ 中 央
銀 行 は 、2002 年 12 月 以 来 、
「 ア ジ ア 債 券 市 場 育 成 イ ニ シ ア テ ィ ブ (Asian Bond
Markets Initiative、 ABMI)」 と い う 名 称 の 下 、 ア ジ ア に お け る 債 券 市 場 育 成
に 向 け た 包 括 的 な 検 討 を 行 っ て い る 。日 本 政 府 の 対 外 経 済 政 策 を 実 施 す る JBIC
も 、 ABMI 推 進 に 向 け 、 ア ジ ア の 現 地 通 貨 建 て で の 債 券 発 行 や 債 券 へ の 保 証 供
与等を行うことを通じて、債券市場の育成に貢献している。
出 処 : JBIC ホ ー ム ペ ー ジ
○タイ・バーツ建て債券の発行、保証の供与
タイでの具体的な業務は主に次の 2 つである。
① JBIC に よ る タ イ ・ バ ー ツ 建 て で の 債 券 発 行
アジア通貨危機の再発防止策として、まず高い貯蓄率を有するアジア域内の
資 金 を 域 内 の 投 資 に 振 り 向 け る 必 要 が あ っ た 。そ こ で JBIC は ABMI の 下 で ア
ジアの中で比較的債券市場が発達しているタイにおいて債券市場育成を支援、
さらには、調達した現地通貨の融資により、多様化している日本企業の資金ニ
ーズに柔軟に対応するためにタイ・バーツ建てでの債権発行を行っている。
② 日 系 FDI 主 体 に よ る タ イ ・ バ ー ツ 建 て 債 券 へ の 保 証 の 供 与
アジア各国に進出している日系現地企業は、為替リスク回避の観点から事業
資金を現地通貨建てで調達する必要があるところ、こうした国々の多くでは、
債券市場が未発達であるためにこれまで債券発行が困難な状況であり、資金調
達 手 段 が 限 ら れ て い る 。比 較 的 債 券 市 場 が 発 達 し て い る タ イ に お い て も 、現 状 、
信用力の高い日本企業であっても現地債券市場における知名度は必ずしも高く
ないため、円滑な債券発行のためには日本の政府系金融機関である当行の補完
が求められている。
5.企業訪問の内容
大参氏による説明
タ イ は JBIC に と っ て 最 重 要 国 の 1 つ で あ る こ と が わ か っ た 。 JBIC は 主 に
タイ政府からの要請により、タイ国内の日系・日系合弁、およびタイ企業への
融資や保証を行っており、事前調査に沿った内容、特に保証業務の仕組みにつ
いて詳細に聞くことができた。具体的には次の通りである。
日系企業が社債を発行する際に、邦銀が保証を行うことでその社債の格付け
が 上 が る ( 例 : BBB→ AA)。 JBIC が そ れ を 保 証 す る こ と で さ ら に 格 付 け が 上
が る ( 例 : AA→ AAA)。 そ の た め 、 発 行 体 の 資 金 調 達 費 用 が 安 く な る 。 JBIC
は 保 証 料 を 低 い 水 準 ( 1% 以 下 ) に す る こ と で 、 発 行 体 で あ る 日 系 企 業 を 支 援
している。
さ ら に 、 新 JBIC 体 制 下 で の 主 な プ ロ ジ ェ ク ト に つ い て 以 下 の 話 を 聞 く こ と
ができた。
・ 東アジアの国際事業ネットワークの拡大が加速的に進む中で、自動車や電
機・電 子 産 業 の 直 接 投 資 の 集 積 が 進 む タ イ に お け る 、本 邦 企 業 の 海 外 投 資 や
そ の 裾 野 産 業 を 積 極 的 に 支 援 す る 。具 体 的 に は 、鉄 鋼 炉 建 設 を 含 め た 工 業 団
地設立を検討中である。
・ ABMI の 更 な る 促 進 の た め 、継 続 的 な バ ー ツ 建 て 債 権 の 発 行 や 保 証 等 の 活 用
を行う。
・ 現 地 セ ミ ナ ー で の 講 演 や バ ン コ ク 日 本 人 商 工 会 議 所 の 役 員 受 任 等 を 通 じ 、引
き 続 き 現 地 進 出 企 業 の 投 資 環 境 を 非 金 融 面 で も サ ポ ー ト し て い く 。ま た 、タ
イ政府・政府機関側とのパイプ役として貢献していく。
質疑応答のまとめ
・ タイでの事業の重要度について
- 国 際 金 融 業 務 に か か る 同 国 向 け の 全 金 融 種 類 の 残 高 は 、 平 成 20 年 7 月 末
現 在 で 2136 億 円 で あ る 。 こ れ は 相 手 国 別 で 第 10 位 の 規 模 で あ る 。
・ 融資や保証の供与の対象企業について
-ほぼ日系企業だけだが、一部現地企業も対象にしている。
・融資全体に対する円建てと外貨建ての割合について
-一部バーツもあるが、ほぼ米ドル建てである。一部円建てもある。
・業務で得たバーツの扱いについて
-ほとんど手元に残さず、本国に円に換えて送金している。
・ タイへの円借款について
-円借款にはタイ政府の要請によるものと、日本政府の海外援助政策による
も の の 2 つ が あ る 。基 本 的 に 毎 年 円 借 款 を 実 施 し て い る が 、2006 年 は タ ク
シン政権の方針のもと、円借款がゼロ円であった。タイ国内における借款
の う ち 、円 借 款 が 60% 以 上 を 占 め て い る 。利 子 に つ い て は 無 償 も し く は 有
償があり、有償の場合はかなりの低金利である。場合によっては赤字にな
ることもある。
6.企業訪問を終えて
新 JBIC へ の 移 行 を 間 近 に 控 え た こ の 時 期 に 、 直 接 話 を 伺 う 機 会 を 得 ら れ た
ことは、非常に有意義であった。事前調査では知ることができなかった内容に
ついても知ることができた。事前調査ではかなり利益が出ているような印象だ
ったが、実際に話を聞いてみると扱っている融資金額の規模に対して利益はか
な り 低 い こ と が わ か っ た 。 今 ま で の JBIC の 事 業 は 利 益 を 出 す と い う よ り も 日
系 企 業 へ の 支 援 と い う 側 面 が 強 か っ た 。 JBIC は 新 組 織 へ の 移 行 に 伴 い 株 式 会
社化をするため、政府の援助に頼ることなく原資調達を独自に行うことが必要
となる。そのため今後の課題としては、日系企業への支援機能を残しつつ、収
益構造を見直して収益率を改善するという舵取りが必要であると考える。
以上
思い出の写真
H-MBA バンコク派遣
思い出の写真
タマサート大学
IMBA Thammasat Business School
講義風景
タイ財務省 FPRI 所長 Kanit 氏講演会
他
Thammasat Business School
清水教授・小川教授
Discussion with Thammasat students
H-MBA
思い出の写真
企業訪問
ブリヂストン
タイ中央銀行
キャピタル・ノムラ・セキュリティーズ
&
国際協力銀行
トヨタ
みずほコーポレート銀行
タイ証券取引所
H-MBA
思い出の写真
如水会
如水会(清水教授挨拶)
タイレストラン
バンコク市内観光
他
如水会(歓談風景)
タイレストラン
アユタヤ観光
タイ・ASEANビジネス環境国際研修プロジェクト報告書
2008年11月発行
発行者: 一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース
金融プログラム
〒186-8601 東京都国立市中2-1
マーキュリータワー3403室 TEL: 042-580-9105
タイ・ASEANビジネス環境国際研修プロジェクト、および、本報告書は、下記、HMBA金融プログラ
ムウェブサイトにも掲載予定です。http://www.cm.hit-u.ac.jp/mba/kinnyuu/index.html
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