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1961 年から 2011 年、オペレーション・ツイスト の差

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1961 年から 2011 年、オペレーション・ツイスト の差
みずほマーケットインサイト
みずほ総合研究所
高田 創
チーフエコノミスト
[email protected]
小野 亮
シニアエコノミスト
[email protected]
武内 浩二 シニアエコノミスト
[email protected]
2011/09/22
1961 年から 2011 年、オペレーション・ツイスト
の差はなにか
~50 年前は短期金利引き上げ、今回は長期の引き下げ~
○FOMC は 20-21 日の会合で保有国債の年限を長期化させるオペレーション・ツイストを決定。こ
の名称は 1961 年に導入した政策手段に由来するが、経済環境と意図は大きく異なる。50 年前
の狙いは国際収支赤字・ドル危機下での短期金利維持・引き上げ、今回はゼロ金利制約と下ぶ
れリスク深刻化の下での追加緩和(長期金利引き下げやポートフォリオ・バランス効果)。
○さらに今回は、インフレ等の副作用が懸念される中、バランスシートや超過準備の増加を抑え、
量的緩和批判を回避しつつ、金融緩和強化を図る必要性も背景に。
○FFレート据え置きのなか、2000 年代前半の日本銀行による時間軸・量的緩和政策に類似。
9 月 FOMC は“オペレーショ
9 月の連邦公開市場委員会(FOMC)は、
「景気減速が続いている」との判断を示し、
ン・ツイスト”(MEP)を
さらに「重大な」(significant)下ぶれリスクがあると指摘した(9 月 21 日)
。FOMC
決定
は、リスクの中でも特に、ギリシャ救済を中心とする欧州発の「国際金融市場の緊張」
に言及しており、経済・金融面における米国への波及リスクの深刻さを浮き彫りにし
た。
こうした判断に基づき、FOMC は所謂“オペレーション・ツイスト”を決定した。総
額 4,000 億ドル、期間は 2012 年 6 月末までとし、連邦準備制度理事会(FRB)が
保有する 3 年以下の米国債を売却する一方で、同額を 6 年~30 年までの中長期債の購
入に充当するという(図表 1)。特に今回は 20~30 年債への投資が大きい。
正式には「残存期間延長プログラム」(Maturity Extension Program、以下MEP)
と呼ばれているように、MEPの実施により、FRBが保有する米国債の平均残存期
間は現在のおよそ 75 カ月(6.25 年)からおよそ 100 カ月(8.33 年)に延びることに
なる。MEPの規模はQE2と比べると小さいが、平均残存期間の引き延ばしは言わ
ば“乗数効果”を持つため、長期金利に与える(潜在的・理論的な)影響という意味
では、QE2にほぼ匹敵するか、それ以上の可能性もある。
図表1 FRBによる長期国債購入
QE2
期間
規模
残存期間別の
購入割合
ポートフォリオ
の平均残存期間
2010/11~2011/6(8 カ月)
6,000 億ドル
(750 億ドル/月)
1.5-2.5 年
5%
2.5-4 年
20%
4-5.5 年
20%
5.5-7 年
23%
7-10 年
23%
10-17 年
2%
17-30 年
4%
TIPS(1.5-30 年)
3%
ほぼ変わらず
MEP
(オペレーション・ツイスト)
2011/10~2012/6(9 カ月)
4,000 億ドル
(444 億ドル/月)
3 年以下
(売却)
4-6 年
(対象外)
6-8 年
32%
8-10 年
32%
10-20 年
4%
20-30 年
29%
TIPS(6-30 年)
3%
75 カ月(6.25 年)から
100 カ月(8.33 年)に拡大
(資料)連邦準備制度理事会、みずほ総合研究所
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料
は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものでは
ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
1961 年のオペレーション・
ツイストとは何だったのか
オペレーション・ツイストは、50 年の眠りから覚めた金融緩和手段である。1960
年 4 月、米国の景気はピークをつけ、後退局面へと突入した。FOMC は同年 3 月時点で
インフレ的な信用拡大を抑制することに重点を置いていたが、5 月には景気重視姿勢
に転換した。一方、国際的な視野に立つと、米国は国際収支赤字という問題に悩まさ
れるようになった。海外の主要先進国経済はブームに沸いており、政策金利は引き上
げ方向にあった。内外金利格差の広がりは、米国からの資本流出(金流出)に直結し、
金=ドル本位制の維持に疑義がもたれるようになったのである。実際、1960 年 10 月
の FOMC では政策判断の一つとして国際収支問題が取り上げられるようになった。
国内的には、景気を刺激するために銀行システムに準備を供給し金融を緩和する必
要があり、他方、国際的には上述した資本流出を抑えるために短期金利の水準を維
持・引き上げる必要があるというジレンマへの対応策として、FOMC は 1961 年 2 月の
会合でオペレーション・ツイストを決定した。政策金利を維持し、海外への資本流出
(金流出)を防ぐ一方で、長期国債の購入によって銀行システムに準備を供給し、金
融の緩和を図ったのである。この政策は、結果として金利の期間構造の捻れ(短期金
利の維持・上昇と長期金利の低下。ツイスト)につながるものであったことから、オ
ペレーション・ツイストと呼ばれるようになった。
当時のオペレーション・ツイストが、果たして「利回り曲線や投資決定をどの程度
変化させたかは論争の種であるが、利回りに与えた影響はきわめて小さいという見解
が支配的である」
(アンマリー・ミューレンダイク(2000)
『アメリカの金融政策と金
融市場』東洋経済新報社。45 頁参照)
。なお最近では、サンフランシスコ連邦準備銀
行のエコノミストが、長期金利を 15bp 押し下げたとの研究結果を発表している。
今回の特徴
一方、今回のオペレーション・ツイストは長期金利引き下げを狙ったものだ。ただ
し、1961 年と同様に一定の制約が存在し、その制約がツイストにつながっている。
今回の制約要件は、
「2010-11 年のQE2が原油価格高騰の元凶である」といった、
量的緩和がもたらす副作用への批判や懸念である。かかる環境下、QE2と同様に長
期国債を購入し、長期金利引き下げを意図すると同時に、短期国債の売却によってバ
ラ ン ス シ ー ト や 超 過 準 備 の 拡 大 を 抑 え 、「 量 的 緩 和 」 の 色 彩 を 排 除 し
図表2 オペレーション・ツイストの比較
2011 年
1961 年
オペレーション
長期債購入・短期債売却
長期債購入・短期債売却
期待すること
長期金利低下
準備供給による金融緩和(結果
としての長期金利低下)
短期金利据え置き
制約要件
インフレ懸念
景気後退
QE2に対する批判(量的緩和の
国際収支赤字(固定為替相場制
イメージ排除)
(金・ドル本位制)の維持困難
化)
(資料)みずほ総合研究所
2
することで批判をかわそうとしていると考えられる。
さらに、1961 年のオペレーション・ツイストでは、短期金利水準の維持・引き上げ
が望ましかったが、今回は無論そのような意図はない。むしろ、今回はオペレーショ
ン・ツイストにおける短期債売却が短期金利の上昇につながらないようにする仕組み
を必要としている。そしてその仕組みこそ、すでに FOMC が 8 月に打ち出している「少
なくとも 2013 年半ばまで超低金利政策を続ける」というコミットメント(時間軸)
であり、昨日のオペレーション・ツイストは 8 月の時点ですでにバーナンキ議長の頭
の中にあったと考えることができるだろう。
さらに言えば、今回の売却対象は残存期間が「3 年以下」の米国債であり、およそ
2 年(ただし日々短期化する)の時間軸とのずれがある。バーナンキ議長が 3 年ゾー
ンの短期金利上昇を容認するとは思えず、今後は時間軸の方が変更されるのではない
かと思われる。すなわち、日本銀行のように具体的な経済事象に金融政策をリンクさ
せ、経済指標の特定水準を目標とするコミットメント政策への発展(インフレ率や雇
用・成長率等のターゲティングの導入)が考えられるだろう。
2000 年 代 の 日 本 の 量 的 緩
和・時間軸政策との類似性
日本銀行は 2001 年から量的緩和を行った「先進国」である。そのポイントは、当
座預金残高の目標を掲げてその積み増しに向けて長期国債買い切りオペを増額させ
る対応にあった。同時に、政策金利をゼロ金利政策とし、さらにその水準をコミット
する時間軸政策を導入した。
これに対し、今回のFRBの対応は、バランスシートの拡大を目的とするという意
味での量的緩和の性格を排除した(日本銀行の量的緩和は中央銀行のバランスシート
の負債サイド、FRBの量的緩和は資産サイドに焦点が当てられていることは論を待
たない)。しかし、保有国債の満期構成を長期化することで、実質的にはバランスシ
ートの拡大を伴ったQE2と同等か、それ以上の“規模拡大”政策と考えることがで
きる(図表 3)。さらに、金利政策における時間軸の維持や再投資政策を合わせれば、
日本銀行の金融政策(量的緩和+時間軸)との類似性が指摘できるだろう。
図表3 オペレーション・ツイストによるFRBの保有国債の概念図
国債保有残高
時間軸による
緩和効果の浸透
保有期間長期化で
面積の拡大
期間(時間軸)
(資料)みずほ総合研究所
3
また、図表4にあるように短期ゾーンは実質的に時間軸の効果が短期債売却効果を
上回ることになりやすい。こうしたイールドカーブでの状況は、結果として 2000 年
代前半の日本銀行による量的緩和・時間軸政策下の状況と類似したものと言える。
結局、日本のように自国通貨高で物価がデフレ状況にあるのと、米国のようにドル
安の自国通貨安もあってインフレ懸念が燻るのとでは、オペレーションの説明・見せ
方には相違点が存在する。ただし、1990 年代以降の日本と同様、2007 年以降の米国
も、バランスシート調整という課題を抱えており、一定の時間をかけながら時間軸を
用いた長期にわたる金融緩和策が必要であるという点では、金融政策にも共通点が生
じやすいことが示されていると考えられる。
図表4 オペレーション・ツイストの効果の概念図
長期債券購入
時間軸コミット
短期債券売却
(資料)みずほ総合研究所
市場へのインプリケーショ
ン
今回、市場での驚きは、従来のQE1、QE2のときと比べて、株高・金利上昇で
の反応がなかった点である。むしろ、FOMC の声明文に示された深刻化するダウンサイ
ド・リスクに反応した面も多かった。また、機関投資家の間では、FRBによる 10
年以上の長期債購入が増加したことにも注目が集まっている。
米長期金利の 2%割れ、国内
2007 年以降、米国経済がバランスシート問題を抱えるようになって以降の債券市場
長期金利の 1%割れの継続
はQE1、QE2を中心にしたカンフル剤の投与を期待して金利が低下し、実際の投
も視野に
与が行われると金利の反動上昇、株価上昇が繰り返された。しかし、今回の市場の反
応は、過去のような期待の反転を十分に行えなかったことを示し、米国での市場参加
者の先行き期待の屈折が生じている可能性を示唆している。今後の市場動向を見極め
る必要があるが、市場参加者としては高値警戒感をもってみていた水準である 10 年
金利の 2%割れ水準が続くことも視野に置いた対応を検討することが考えられる。
同様に、日本に目を向ければ、日本の 10 年金利も1%割れが続くことを年頭に置
いた対応が視野に入りやすいだろう。
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株価は当面神経質な展開が
続く公算
株式市場が大幅下落となった背景としては、上述のようにFRBの悲観的な景気見
通しを受けて景気後退のリスクを意識した面が強い。また、市場参加者の一部ではオ
ペレーション・ツイストに加えてプラスαを期待していた向きもあり、失望売りに繋
がった面もあろう。そもそも、QE2のような流動性の供給ということではなく、景
気浮揚効果も限定的とみなされている今回のオペレーション・ツイストは、株価にと
ってマイナスではないが、プラス要素は少ない。長期金利の低下はイールドレシオな
どバリュエーション面での株価の割安度を強めることから下支え要因とはいえるが、
米景気のリセッション入りの可能性や欧州債務問題の金融危機への波及リスクが意
識されている状況下では、バリュエーションを無視した投資家のリスク資産回避の動
きが続きやすく、株価は当面神経質な展開を余儀なくされるであろう。
当面の注目はオバマ大統領の景気対策の帰趨や EFSF の機能拡充も含めたギリシャ
向けの第二次支援策が有効に発動されるかであり、これらによって目先の景気後退や
金融危機が回避されれば、投資家心理が改善しよう。その場合、今回の追加金融緩和
も相乗効果として株価のリバウンドに寄与する可能性はあろう。
円高進行リスクは残存
為替市場では、オペレーション・ツイストの発表を受けて米短期金利が上昇したた
め、ドル高での反応がみられた。しかし、時間軸効果によって持続的な短期金利の上
昇は想定しづらく、仮にそうした状況が続いた場合にはFRBは時間軸の再強化に踏
み切る可能性が強まるであろう。いずれにしても、米追加緩和を受けたドル高の動き
は限定的と考えられ、むしろ徐々に円高ドル安バイアスが掛かってくる可能性も十分
にある。その場合には、日本銀行も追加緩和の検討を迫られることになろう。
以
5
上
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