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地球観測データ統合・情報融合基盤技術の開発

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地球観測データ統合・情報融合基盤技術の開発
重要課題解決型研究
事後評価
「地球観測データ統合・情報融合基盤技術の開発」
責任機関名:東京大学
研究代表者名:柴崎 亮介
研究期間:平成17年度~平成19年度
目次
Ⅰ.研究計画の概要
1.課題設定
2.研究の趣旨
3.研究計画
4.ミッションステートメント
5.研究全体像
6.研究体制
7.研究運営委員会について
Ⅱ.経費
1.所要経費
2.使用区分
Ⅲ.研究成果
1.研究成果の概要
(1)研究目標と目標に対する結果
(2)ミッションステートメントに対する達成度
(3)当初計画どおりに進捗しなかった理由
(4)研究目標の妥当性について
(5)情報発信 (アウトリーチ活動等)について
(6)研究計画・実施体制について
(7)研究成果の発表状況
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)サブテーマ1
(2)サブテーマ2
(3)サブテーマ3
(4)サブテーマ4
(5)サブテーマ5
(6)サブテーマ6
Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性
Ⅴ.自己評価
1.目標達成度
2.情報発信
3.研究計画・実施体制
4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性
5.中間評価の反映
Ⅰ.研究計画の概要
■プログラム名: 重要課題解決型研究 (事後評価)
■課題名:地球観測データ統合・情報融合基盤技術の開発
■責任機関名: 東京大学
■研究代表者名(役職):柴崎亮介(東京大学空間情報科学研究センター 教授)平成 18 年 2 月~終了
高木幹雄(芝浦工業大学大学院工学研究科 教授)開始~平成 18 年 2 月
■研究実施期間: 3年間
■研究総経費: 総額 1,066.1 百万円 (間接経費込み)
1.課題設定
研究開発活動を支える知的基盤整備
2.研究の趣旨
2.1 研究の目的
地球観測データを利用して,地球システムの理解を深め,その変動に対する予測能力と対応能力を高
めていくことが国際的に求められている.地球観測は,自然系および人間系の地球サブシステム,さらに
それぞれの相互作用や変動を対象としており,様々な情報源から得られる極めて多様なデータの取り扱
いが必要である.また衛星観測の活用機会が増大し,数値モデル出力の急増加を考慮すると,地球観測
で取り扱うデータは必然的に超大容量となり,2010 年に数 10 ペタ(ペタは 10 の 15 乗)バイトにも達すると
考えられている.
このように非均質情報源からの超大容量で多様な地球観測データから,科学的に有用な知見を引き
出すとともに,得られる情報を危機管理や資源管理等の政策や意思決定のために効果的に利用するた
めには,データへのアクセスと解析,利用を容易にするシステムの構築が必要である.そこで,体系化的
にデータを収集し,データのライフサイクルを考えて戦略的に管理し,データを効果的に統合し,得られ
る情報を融合することによって,科学的・社会的に有用な情報へと変換して,それを国際的に共有するた
めのシステムの構築が求められている.また,比較的容量の小さいデータに関しては,将来のデータ統
合・集中管理を考慮し,データ形式・プロトコル(利用手順)の統一化を図りつつ,ネットワークで結びつい
た分散型データシステムを整備することが肝要である.
本研究の目的は各種データの再配布サービスを行なうシステムの開発ではなく,いわば「地球観測デ
ータの調理場」の機能をもつシステムの開発である.多種多様で膨大な量の食材を適正に貯蔵し,必要
なときに必要な量だけ即座に取り出して日常の食卓に供したり,特別な日のために腕を振るったり,ある
いは不意の来客にも応えることのできる,データが食材であり,データ統合,情報融合,データ同化シス
テムなどが調理用具といえよう.もちろん出来上がった料理を暖かいうちにテーブルに運ぶ機能がなけれ
ばならないし,客の要望に応えて味加減を調整することのできる機能,すなわちネットワークを用いた情報
配信,ユーザニーズの発掘機能の実装も肝要である.
本研究では,情報科学技術分野,地球観測分野,災害や農業などの公共的利益分野を,それぞれ担
う機関や研究グループが相互に協力して,地球観測データを効果的,効率的に統合し,情報を融合して,
1
それを国際的に共有できるデータシステムの実証的なプロトタイプの開発を目的とする.
2.2 研究の必要性,国家的・社会的重要性,緊急性について
■研究の必要性
地球システムの理解を深め,その変動に対する予測能力と対応能力を高めて公共的利益につながる
政策や意思決定を支援していくためには,地球観測データの有効利用が不可欠であるが,現状では以
下の問題点がある.
(1)地球観測データの公開性,流通性,統一的利用性が十分ではない.
現業的な観測データについては気象や海洋等など国際的枠組みの下に相互利用性が図られている分
野もあるが,水資源管理や農業などデータの共有化が遅れている分野もある.研究的な観測データにつ
いては,計測方法やデータフォーマットが多様で,データの品質にも格差があり,統合的利用のボトルネ
ックになっている.予測などに必要なオンラインでのリアルタイム利用も遅れている.
(2)地球観測データの統合的利用が図られていない.
点観測と面もしくは3次元観測,連続観測とスナップショット観測など,時空間的特徴の違いが,観測デ
ータ相互の統合的利用を困難にしている.また,膨大なデータの取り扱いと解析のための人的資源の投
入とソフトウエア開発が不十分で,観測データの有効利用が図られないばかりか,データの収集,アーカ
イブすらできない可能性が懸念される.
(3)危機管理や資源管理等の政策や意思決定のための情報が共有されていない.
危機管理や資源管理では広域的変動に関する情報とローカルな情報,たとえば社会インフラの情報や,
人文・社会経済情報などとの結合が不十分なために,実際の管理ニーズにあわせた有用な情報が提供
できていない.現在この結合システムの開発が致命的に遅れている.
これらの解決には,国際的合意の下に,データの収集ネットワークの構築,品質管理,データフォーマット
の統一化を進め, データ提供側とユーザ側がともにデータ統合化,情報の融合化のメリットを共体験でき
るシステムが必要である.
○国家的・社会的重要性
2004 年 12 月 27 日第 42 回総合科学技術会議にて,わが国の『地球観測の推進戦略』(以降,我が国の
観測戦略)が決議された.この中では「地球観測システムの統合化」が特筆され,とりわけ「体系的な収集,
合理的な管理,データの統合,情報の融合によって,観測データを科学的,社会的に有用な情報へと変
換しそれを国際的に共有するシステムの構築が必要」と述べられている.本研究提案は,我が国の観測
戦略を具現化する第一歩として国家的に重要な研究と言える.
また,米国ワシントンにて 2003 年 7 月 31 日に開催された第1回地球観測サミットに引き続き,2004 年 4
月 25 日には第2回サミットが小泉総理出席のもと東京にて開催され,『地球観測 10 年実施計画』(以降,
10 年実施計画)の策定のフレームワークが決められ,さらに 2004 年 11 月 29-30 日の第5回政府間作業
部会(GEO-5)では, 53 の参加国,29 の国際機関の協議を経て 10 年実施計画が合意され,2005 年 2
月 16 日にブリュッセルで開催される第3回サミットにて決定される予定である.この国際合意に達した 10
年実施計画では,下記のとおり推進すべき3つの研究項目が特筆されている.
(1)地上,航空機,衛星による長期観測のための既存システムの改善と新規システムの構築
(2)ライフサイクルデータ管理,データ統合と情報融合,データマイニング,ネットワーク強化,設計最適化
研究
2
(3)地球,地域規模のプロダクト作成のための,数値モデル,データ同化,アルゴリズム開発
本研究提案は,(2)のデータシステムに重点を置き,関連する主要な研究,現業機関の協力に基づい
て既存の地球観測システムからのデータの流通性,相互利用性を向上させ,社会的に有用な情報へと
変換させるための予報モデルや同化システムの高度化を目指すことにより,上記項目の(1),(3)をも達成し
ようというものである.これらの 3 項目を有機的につなげる研究は単独の研究機関では実施できず,データ
システム開発,相互利用のための機能整備,データ提供,データ利用の各機関の研究協力が不可欠で
ある.つまり包括的(comprehensive)であることに意義があり,それによって観測されたデータを公共的利
益分野における政策決定に資する情報へと翻訳するための一貫したシステムの構築がはじめて可能とな
る.そこで本研究では,府省連携の下,情報科学技術分野,地球観測分野,農業や水管理などの公共
的利益分野を担うわが国の中心的な機関や研究グループが相互に協力する研究体制を提案する.した
がって参画機関数が5機関を超えるのは必然であり,これはいわゆる総花的な研究を意味するものでは
ない.
10 年実施計画は,2003 年エビアンで開催された先進8カ国首脳会議(G-8 サミット)での小泉総理のイ
ニシアティブで発案され,わが国は共同議長国として一貫して政府間作業部会を牽引してきた.また 10
年実施計画の執筆においてもわが国の専門家が中心的役割を担ってきた.本研究提案は,これまで払わ
れてきた努力に応え,わが国の強みを活かし,国際的リーダシップを発揮して我が国のプレゼンスを示す
国際的,国家的に重要な研究提案である.
■緊急性
地球規模の環境問題が政治・社会・経済問題として重要視され,調整され包括的で持続的な地球観測
及び情報によって政策決定や行動が行えるようにすることが,地球観測サミット開催の各国の共通した動
機であった.ワシントンサミット宣言文では,「地球の状態を継続的に監視し,地球の動態過程に関する理
解を高め,地球システムの予測の精度を上げ,国際的な環境に関する条約義務をさらに実行すること」と
いう目標を定め,「健全な意志決定の基礎となる,適時で,高品質の,長期にわたる,全球的な情報」の
必要性が規定された.東京サミットで採択された枠組み文書には,原理から実行へ移ること,すなわち,
「包括的,調整的,及び持続的な」ものでなくてはならない 10 年実施計画が必要である旨が書き加えられ
た.そして,わずか7カ月で 10 年実施計画の案文が政府間で合意に達し,2005 年 2 月のブリュッセルサミ
ットでの決定を受けて,実施に移されようとしている.
小泉総理がエビアンで発したイニシアティブから数えてもわずか1年8カ月で実行段階に移るための合
意が整った背景には,深刻化する地球環境問題の解決,影響緩和,被害回避の方策を見出すことが,
国際的共通の喫緊の課題として認識されていることが挙げられよう.国内においても,議論を開始してか
ら1年3カ月で我が国の観測戦略が総合科学技術会議で決定され,関係大臣に意見具申されたのは,
地球環境問題に対する国際的共通の危機感とともに,国際的リーダシップを担う意気込みの現われとみ
てよかろう.
国内外の準備は整えられた. 10 年実施計画のスタートともにその中核を担うべき本研究を実施に移す
ことは,科学技術的意味からも,国際的,公共的利益分野のニーズからも,科学技術立国としての国家的
戦略からも緊急の課題である.
■5年間の研究期間の必要性 (採択時のコメントにより,3 年間に短縮し,ミッションステートメントを変更
した.)
3
本研究の推進においては,国際的な枠組みで進められる 10 年実施計画の進捗状況と同調して進める
のが適切である.10 年実施計画では,10 年間を最初の 2 年間,6 年間,10 年間の三段階に分けてター
ゲットを設定しており,2 年ターゲットは計画・立ち上げ,6 年ターゲットは実行段階あるいは運用段階への
移行を基本としている.
そこで本研究はコアとなるデータシステムのプロトタイプの構築,すなわちデータ統合・情報融合システ
ムの開発研究,相互利用性・情報サービス機能の開発研究を先行させ,国際的チャネルを有する国内の
地球観測機関と協力して各観測機関とコアシステム間のデータフローの確立,メタデータ管理システムの
研究を進め,まず前期3年間で既に流通している地球観測データを国内の公共的利益分野に適用する
ための実証研究を実施し,その後の2年間に国際的に統合されていく地球観測の実施にあわせて, 地球
観測データの国際的な流通の促進,統合化,情報融合に貢献していく.後期2年では,観測密度が比較
的疎なアジア域の半乾燥地域や熱帯モンスーン地域においてシステムの実証研究を行い,その成果を
国際的にアピールし,データ統合化,情報の融合化のメリットを共体験する場を提供する.
このように3年+2年の研究戦略は,10 年実施計画の参加各国,国際機関が,計画・立ち上げ段階か
ら実行・運用段階へスムーズに移行するために大きく貢献できる.
2.3 政策目標(研究基盤の強化による国力の充実)の達成への寄与,経済社会への波及効果につい
て
地球の状態や変化に関する基礎的なデータを地球の将来の状態を予測する情報に変換し,包括的に
地球を理解する基礎として意思・政策決定に反映させることに対する社会からの要請が近年益々高まり
つつある.地球観測に対する社会的要請に応えるために,現在の地球観測の諸問題に鑑み,地球観測
データの収集・提供システムなどの整備と維持・管理,また観測技術の高度化に向けた研究開発を,包
括的,効果的,効率的に整備することが求められている.
また,国際的にも地球観測の新たな展開が求められ,国際協力による,包括的で調整された持続的な
地球観測システムの構築を目指した行動が進められている.2004 年 4 月に東京で開催された第 2 回地
球観測サミットでは国際協力による地球観測 10 年実施計画の枠組文書が採択され,現在,2005 年 2 月
に開催されることが予定されている第 3 回地球観測サミットでの合意を目指し,地球観測に関する 10 年実
施計画の本文が合意されたところである.
本研究の推進と成果は,国際協力による地球観測システムの構築を推進し,各国・地域との連携の下
に効果的,効率的な地球観測を推進することに多大な貢献を果たす.我が国の持つ技術や総合力の強
みを生かすこと,また,戦略的に重要な研究技術開発項目について重点的に取り組むことにより,我が国
の独自性を確保するとともに国際的リーダシップを発揮できる.
2.4 採択コメント
採択時に下記のようなコメントをいただき,研究期間を 3 年間に見直すと共に,ミッションステートメントを
変更した.修正後のミッションステートメントについては,「4.ミッションステートメント」を参照されたい.
○地球観測データ統合の基盤技術として、政府の方針に沿った重要な貢献を果たすことが期待される優
れた研究である。
(条件)
○研究終了後の継続性(データベースセンターの設立、維持や後継者育成)を確保すること。
4
○5年間の研究として提案されているが,政府として速やかに取り組むべき課題であることに鑑み,3年間
で成果を出すこと.
○まずデータベースの仕様設計等を固め、試験的にデータを入力するなどして,その有効性を評価する
こと。その上で、本格的なデータベース構築に移行すること。
○ミッションステートメントには,アウトリーチ活動について記載するとともに,修正したミッションステートメ
ントを提出すること.
3.研究計画
本研究は,データシステム開発,相互利用のための機能整備,データ提供,データ利用に関して,そ
れぞれ下記の4つのサブテーマを設定している.
(1)大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発
(2)相互利用性・情報サービス機能の開発研究
(3)地球観測データの収集・品質管理に関する技術の開発研究
(4)高度情報適用技術の開発研究
以下に,各サブテーマの研究内容を記述する.
(1) 大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発
地球環境データの統合アーカイブと柔軟な情報融合機構の構築は地球環境分野における研究基盤と
して極めて重要な役割を果たす.21世紀の地球環境研究は膨大且つ多様なデータの統合庫を自在に
探索するツールが独創的研究の成否を決める時代になると考えられる.本サブテーマでは,種々の研究
ニーズに対しタイムリーに対応可能な強固なデータ基盤を構築しようとするものである.このデータ基盤開
発研究は,超巨大アーカイブ,データ同化,高度可視化マイニング,進化に追従するXMLスキーマ,高
次ネットワーク,センサ融合のコア技術の開発から構成される.
①大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築
観測データ,シミュレーションデータを統合管理するペタバイト級超大容量ストレージシステム自身の
構築も容易では無く,近年のストレージコンソリデーション技術,SMIS標準化動向を睨んだ最新鋭の
システム設計を目指す.当該システムにおいては,データのライフサイクルに適合したティアードストレ
ージに格納領域が確保され,記憶の効率化を図るなど,大規模ストレージ空間の管理の自動化を試み
る.更には,ユーザ挙動把握に基づく個人化検索インタフェースを始めとする,最新のデータベース技
術を駆使したデータ抽出機構を実現する.
②データ同化・高度可視化マイニングシステムの構築
地上および衛星による観測データと,衛星観測原理である放射伝達モデル,地球システムを記述す
る数値モデルとを組み合わせることによって,観測データの空間的,時間的な代表性の限界を補うこと
のできる4次元データ同化手法を開発する.また爆発する量と多様性をもつ情報を研究者が巨視的に
把握することが可能な大規模ディスプレイウォールを用いた最新鋭の可視化マイニングツールを開発
する.
③XMLを用いたデータベーススキーマの設計・進化管理機構の実現
多様な地球観測データを長期に渡り継続的に収集,管理するために,特定のプラットフォームに依
存しないデータ記述言語として広く普及し始めているXMLを利用し,データベーススキーマの開発を
行う.収集データの品質を確保するためには,データ作成機関,作成時刻などの認証体系を構築する
ことが重要である.さらに,データ収集および利用機関の多様な権利が交錯するため,データのアクセ
ス権制御は必須であり,認証,権利情報をメタデータとして持つスキーマ進化型XMLデータベースシ
ステムの基盤技術を開発する.
④大規模データ収集・発信のための高次ネットワーク基盤の構築
広域に分散した多様な地球観測データや情報をネットワーク基盤を介して収集,統合化する効率を
5
最大化するために,実際に利用できるネットワーク帯域と遅延時間に応じた QoS 機能を有するネット
ワーク基盤技術の構築を行う.また,国際的に共有するために統合化情報を単一の情報発信システム
で提供することは,アクセスが集中することになり,発信システムの性能の高度化だけでは対応できな
い.高度な情報発信システムは,CDN 技術によるネットワークを跨いだ分散データ提供機構の開発が
不可欠であり,システムの運用状況に応じて詳細な検討を進める.
⑤アクティブデータベース型センサデータ格納融合基盤の構築
分散的な多数のサイトからのデータを効率よく取得し,必要な操作をリアルタイムに駆動するパブリッ
シュ・サブスクライブスシテムを開発する.センサデータベースは従来の古典的データベースとは異なり,
むしろ双対関係にある構造となる.旧来形の処理系では扱うことが容易でないことから,センサ指向の
データ収集,格納記述に関しての研究・開発を進める.ルール記述により多様なサービス基盤の構築
が可能となる.
(2)相互利用性・情報サービス機能の開発研究
農業,災害,生態系,生物多様性など多くの分野では,データの構造化はおろか用語や分類体系の
共通化,場所の記述方法の標準化なども進んでおらず,これらのデータの相互利用や分散的利用の障害
となっている.また衛星観測データについてもさまざまな利用ニーズに柔軟にしかも比較的手軽に対応で
きる分散的な利用システムの開発が望まれている.そこで本研究では,データ辞書,分類体系,シソーラ
スなどのオントロジー関連情報を収録・管理・比較できるオントロジーレジストリを開発し,それを用いたメ
タデータデザイン支援,データコンテンツの構造化支援,テキストマイニング支援,時空間データ解析な
どの高次データ処理・解析支援などの各種情報共有・利用支援サービスを構築する.そして,農業分野
のデータや衛星観測データをケーススタディとして取り上げ,その適用性を検討する.
①オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築
情報共有化のキーとなる情報として,メタデータのデザインやデータコンテンツの解析などにあたり頻
繁に参照されるデータ辞書や分類体系などのオントロジー関連情報を収録・比較・編集できるシステム
を開発するのと同時に,農業,水管理分野を中心として,実際のオントロジー関連情報を収集・蓄積す
る.
②オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築
上述のオントロジーレジストリを利用し,メタデータのデザイン,個別データ所有者によるメタデータ作
成支援,データ品質評価支援,テキストマイニング支援,データ解析・高次処理支援などの各サービス
を開発する.
③農業分野における分散型データ利用システムの構築
農業分野におけるデータの効率的共有・統合利用を目的として,気象情報,土壌情報,生物情報,
水利・水文情報,植生情報,農業情報など多種多様で比較的小規模な地上観測データ群を分散した
まま統合利用可能とする小規模分散データ利用技術の開発を,既存の気象データ仲介技術や,柔軟
で拡張性の高いメタデータベース記述やオントロジー構築技術と融合して行う.
④衛星データの分散型データ利用システムの構築
地球観測衛星データはその扱いが難しい場合が多く,フォーマットやデータ構造,さらには必要な
付加情報(衛星軌道情報や姿勢などの情報)についての説明やサポートが不足している.本システム
の試作においては,そうした衛星データの利用サポートに力点をおいて,各衛星データ保有機関とも
連携しながら分散環境で保管管理されている衛星データと,関連した利用数値モデルデータ,また地
上観測データ,データ検索・表示,簡易処理・表示などが可能な分散型データ利用システムの試作を
行う.
(3)地球観測データの収集・品質管理に関する技術の開発研究
地球観測によって供給されるデータは,衛星観測データおよびその高次処理プロダクツ,地上(陸域,
海洋)観測データである.衛星観測データに関しては,宇宙航空研究開発機構の衛星データ,衛星機関
間の国際協力で収集される衛星データに加え,長期間に渉る衛星データのアーカイブを重要視する.地
6
上観測データとして本研究では,洪水観測データ,海洋観測データ,研究地上観測データを対象として,
個別の機関で作成されているこれらのデータを収集し,データベース化することにより統合的に利用出来
る環境の開発研究を行う.
①衛星観測データの収集・処理手法の高度化
長期間の利用が可能な NOAA 及び GMS データを収集し,品質管理し,幾何補正等の一次処理を
施し,利用目的に応じて植生指標図,温度図等を作成すると共に,重ね合わせ画像,雲マスクを作成
する.さらに衛星観測データを有効に用いるためは,地上観測データを用いてその地点の衛星観測デ
ータの精度を検証し,その結果を用いて衛星データの2次元的利用精度を改善する.
②衛星観測データセットの作成
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する地球観測衛星の観測データから,公共的利益分野への
データの流通性,相互利用性の向上を目指したデータセットを作成する.本研究では先ずメタデータ
の共通化を目指すとともに,データのエンドユーザが汎用で利用できるようなフォーマット変換システム
等の検討を合わせて実施する.また国際調整による衛星観測データ相互利用体制の構築を目指して,
IGOS 水循環観測テーマ(IGWCO)を通じて,国際的合意の下に,データの収集ネットワークや,品質
管理,データフォーマットの統一化を進める体制の構築を目指す.
③洪水観測データの統合
水害は,ほとんどの場合,豪雨により河川が増水し,氾濫することにより発生する.豪雨や河川の水
位や流量は組織別に,施設管理者別に観測され,氾濫域や浸水深は必要に応じて観測されている.
洪水現象の分析のためには,これらの地上データを統合し利用する必要があるが,そのような統合化
システムは存在しないため,実質的にデータが活用されていない状況にある.そのため,日本国内お
よびアジア域におけるケーススタディを通して諸データを統合的に扱う統合データベースのプロトタイ
プを開発する.
④海洋観測データの統合
地球観測データフローのためのフォーマットやメタ情報の記載方法を整合させ,コアデータシステム
へのテストデータセット投入試験,品質管理方法などの検討を踏まえて,海洋観測データのフローを確
立する.また,研究観測者によるデータ提供における品質管理,フォーマット統一,メタ情報の最適化を
検討し,国際的にも相互交換性の高いデータセット構築についての実証開発を行う.また既存の海洋
データの国際交換システムを基盤とし,流通の遅れている研究観測データや生物化学的観測データ
の統合化に関する設計および観測データ統合化の効果検証を行う.
⑤研究地上観測データの統合
研究的な観測データについては,計測方法やデータフォーマットが多様で,データの品質,加工度
のレベル,精度にも格差があり,統合的利用のボトルネックになっている.そこで,本研究では先ずはメ
タデータの共通化を目指し,その上でデータ提供側のインセンティブを促すようなサービス(品質管理
支援やデータフォーマット変換支援を行うシステム等)を提供することによって,アジア域でのケーススタ
ディを通して,データ提供側とユーザ側がともにデータの統合的利用のメリットを共体験して,研究サイド
が積極的にデータを提供するインセンティブ作りを行う.
(4)高度情報適用技術の開発研究
地球システムの包括的な理解には,大気,陸域,海洋の物理系,生物系,化学系のプロセスと人間圏
の応答に関する観測データ,社会経済データを統融合し,データ同化やデータマイニングなどの新たな
手法の導入によって複雑系を解析する能力をつけることが不可欠であり,得られる包括的理解によってよ
り精度の高い予測が可能となる.また,公共的利益分野(災害,健康,エネルギー,気候,水資源,気象
予測,農業,生態系,生物多様性など)の政策や意思決定における地球観測分野からの貢献に対するニ
ーズの高さに鑑み,地球観測データを実際の管理ニーズにあわせた有用な情報へ翻訳し,地域的な特
性に依存したローカルな将来動向に関する情報を提供するための適用化技術を,特に日本国内とアジ
ア域を対象として開発する.
①数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
7
地球観測統合データ・融合情報によって数値気象予報モデルの物理過程の精度を体系的・総合的
に検証する手法を開発し,検証によって得られた情報を数値気象予報モデルの高度化に反映させる
仕組みを構築する.
②水管理のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
実務への適用を念頭に,衛星データ等による流域情報や衛星データ等の利用により精度向上が期
待される降水量予測情報を活用した分布型モデルによる流出量予測手法の開発を行う.
③農作物の適正管理のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
これまで主に比較的単純な地上観測データに基づいて開発された農作物適正管理のためのモデ
ルを,衛星データを含む多様な情報取り込みながら高度化する.とくに,アジア・モンスーン地域をター
ゲットエリアとして,フィールドサーバ・リアルタイムマルチセンサ情報など多様な地上観測情報と衛星
情報を統合するシステムを構築し,これを用いて地域内の河川が供給する農業用水量や根群域土層
全体の土壌水分量,作物生育量,外来害虫飛来時期などをこれまでより高精度に推定可能なモデル
を開発し実装する.
④気候情報の高度化のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
収集される各種の地球観測データ(気象観測・洪水観測・衛星観測・研究地上観測)を利用して,
JRA-25 長期再解析データおよび気候同化データ,温暖化予測結果の検証を行う.また,他参画機関
からのデータを用いて,他参画機関と共同で世界における農業分野などへの気候情報の利用可能性
を調査する.
4.ミッションステートメント
4.1提案時のミッションステートメント
本研究は,地球観測データから科学的に有用な知見を引き出すともに,危機管理や資源管理等の政
策決定に資する情報を提供するために,前期3年間でコアデータシステムのプロトタイプの構築,すなわ
ちデータ統合・情報融合システムの開発研究,相互利用性・情報サービス機能の開発研究と,国際的チ
ャネルを有する国内の地球観測機関とコアシステム間のデータのフローの確立,メタデータ管理システム
の研究を進め,地球観測データを国内の公共的利益分野に適用するための実証研究を行う.後期2年
間で,構築されたコアデータシステムのプロトタイプを用いて国際的な地球観測データの流通の促進,統
合化,情報融合を行い,観測密度が比較的疎な半乾燥地域や熱帯モンスーン地域におけるシステムの
実証研究を行う.
4.2変更後のミッションステートメント
採択時,以下2点のコメントを受けたため,提案段階の後期2年で行う予定であった目標を除き,アウト
リーチ活動について追記した.
○5年間の研究として提案されているが,政府として速やかに取り組むべき課題であることに鑑み,3年
間で成果を出すこと.
○ミッションステートメントには,アウトリーチ活動について記載するとともに,修正したミッションステートメ
ントを提出すること.
その結果,以下のようにミッションステートメントを変更した.
(変更後のミッションステートメント)
本研究は、地球観測データから科学的に有用な知見を引き出すともに、危機管理や資源管理等の政
策決定に資する情報を提供するために、コアデータシステムのプロトタイプの構築、すなわちデータ統
8
合・情報融合システムの開発研究、相互利用性・情報サービス機能の開発研究と、国際的チャネルを有
する国内の地球観測機関とコアシステム間のデータのフローの確立、メタデータ管理システムの研究を進
め、地球観測データを国内の公共的利益分野に適用するための実証研究を行い、その成果を国内外で
紹介する。
9
5.研究全体像
研究の全体像を図- 1 に示す。既に述べたように研究は大きく、4 つのサブテーマからなっている。
(サブテーマ 1)大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発
(サブテーマ 2)相互利用性・情報サービス機能の開発研究
(サブテーマ 3)地球観測データの収集・品質管理に関する技術の開発研究
(サブテーマ 4)高度情報適用技術の開発研究
「1.大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発」は、21世紀の地球環境研究を支える膨
大且つ多様なデータの統合庫、すなわち、種々の研究ニーズに対しタイムリーに対応可能な強固なデー
タ基盤を構築するものである.「2.相互利用性・情報サービス機能の開発研究」はデータ統合・情報融合
に不可欠なデータ・情報の定義や意味の共通化、といった観点から相互運用性を確保し、統合・情報融
合システムの開発を支援するのと同時に、分散的にばらばらに蓄積・管理されているデータ・情報をも統
合的に扱える環境を提供する。サブテーマ1と 2 は一体となって、「3.地球観測データの収集・品質管理
に関する技術の開発研究」において作成される多様なデータセットを集積・管理しつつ品質管理機能な
どを提供し、品質の高いデータプロダクトの生成や統合を支援する。一方、統合データセットや高次デー
タ同化機能の提供を通じて「高度情報適用技術の開発研究」が、地球観測データを実際の公共的利益
分野の政策や意志決定に資する有用な情報へ翻訳するための技術開発を支援する。
図- 1: 研究の全体構成
10
6.研究体制
図- 2 に研究体制をまとめた。また、研究参加者の一覧は表- 1 の通りである。
「大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発」や「相互利用性・情報サービス機能の開発
研究」のように先端的な情報技術を必要とする研究開発は、東京大学が主として実施し、「地球観測デー
タの収集・品質管理に関する技術の開発研究」においては,主なデータ生産者である宇宙航空研究機構
を品質管理手法や統合化手法の開発という側面から東京大学が支援する。また、地球観測データの統
合の公共利益分野への還元を目的とした技術開発を進める「高度情報適用技術の開発研究」において
は、気象庁を始めとして国土技術政策総合研究所(国土交通省)、農業・生物系特定産業技術研究機構
(農林水産省関連の独立行政法人)といった現業機関、あるいは現業機関の政策企画や決定、実施を支
援している公的研究機関が主たる役割を果たし、それを東京大学が支援する体制となっている。このよう
に公共利益分野における社会貢献をターゲットとした研究体制としては非常に強力なものとなっている。
コアシステム
1.大規模地球環境データ統合・情報
融合システムの開発
4.高度情報適用技術の開発
研究
東京大学
3.地球観測データの収集・品
質管理に関する技術の開発
研究
芝浦工業大学
衛星観測データの多次元デー
タ統合化手法の開発
東京大学
衛星・気象水文・海洋・地上観測
データのアーカイブ品質管理手
法の開発
宇宙航空研究開発機構
衛星観測データセットの作成
統合化
情報
データ
大容量かつ多様なデータの統合システ
ムの構築
農業・生物系特定産業技術研究機構
アクティブデータベース型センサーデー
タ格納融合基盤の構築
2.相互利用性・情報サービス機能の
開発研究
統合化
情報
国土技術政策総合研究所
水管理実務における活用シス
テムの開発
予測
ニーズ
東京大学
大気・陸面・河道結合モデルおよ
び土壌-植生系モデル統合手法
の開発,統融合情報による地球
温暖化現象の解析
東京大学
統合化
手法
オントロジーレジストリと情報利用サー
ビスの構築
農業・生物系特定産業技術研究機構
農業分野における分散型データ利用
システムの構築
宇宙航空研究開発機構
衛星データの分散型データ利用システ
ムの構築
分散的
利用
農業・生物系特定産業技術
研究機構
農作物管理のための統合的なデー
タ同化・統合手法の開発
気象庁
数値l気象予報の高精度かと気
候同化データの検証・利用
サブテーマで中心となる研究開発機関
その他の研究開発機関
図- 2: 研究体制
また、図- 3 にはデータ同化システムの開発(サブテーマ1)が、検証用データの提供(サブテーマ3)、
データの管理・提供サービス(サブテーマ1と2)を利用して、どのように開発され、サブテーマ4において
公共的利益分野(水資源管理・洪水防御)にどのように適用され成果を生んでいるのかを、研究グループ
間の連携の例として示している。また、この過程で東京大学や現業機関、公的研究機関の成果が統合さ
れている。上記のような研究体制を組んだ結果、こうした連携が実現したことは特筆できる。
11
図- 3: 研究課題間の連携の事例
12
表- 1: 実施体制一覧 (凡例
◎:代表者,○:サブテーマ責任者,☆:研究グループリーダー)
研 究 項 目
担当機関等
研究担当者
1.大規模地球環境データ統合・情報融合システ
ムの開発
(1) 大規模データアーカイブ・ストレージシステ
東京大学 生産技術研究所
○☆喜連川 優
根本 利弘
ムの開発とデータ統合基盤の構築
安川 雅紀
絹谷 弘子
(2) データ同化システムの構築
東京大学 大学院工学系研究
☆小池 俊雄
科
Yang Kun
筒井 浩行
藤井 秀幸
長谷川 泉
Mirza Cyrus Raza
Lu Hui
(3) 高度可視化・マイニングシステムの構築
東京大学 空間情報科学研究
☆生駒 栄司
センター
東京大学 生産技術研究所
喜連川 優
根本 利弘
安川 雅紀
(4) 大規模データ収集・発信のための高次ネ
東京大学 情報基盤センター
☆中山 雅哉
(独) 農業・食品産業技術総合
☆二宮 正士
研究機構
平藤 雅之
ットワーク基盤の構築
(5) アクティブデータベース型センサーデータ
格納融合基盤の構築
深津 時広
田中 慶
2. 相互利用性・情報サービス機能の開発研究
(1) オントロジー関連情報の収録・比較・編集
システム(オントロジーレジストリ)の構築
東京大学 空間情報科学研究
◎○☆柴崎亮介
センター
小口 高
高野 誠二
織田 竜也
吉田 英嗣
(2) オントロジーレジストリを利用した情報共
有・利用支援サービスの構築
(3) 農業分野における分散型データ利用シス
テムの構築
東京大学 空間情報科学研究
◎○☆柴崎亮介
センター
小野 雅史
(独) 農業・食品産業技術総合
☆木浦 卓治
研究機構
岩田 洋佳
法隆 大輔
(4) 衛星データの分散型データ利用システム
の構築
(独) 宇宙航空研究開発機構
☆三浦 聡子
地球観測利用推進センター
相澤 研吾
13
3.
地球観測データの収集・品質管理に関する
技術の開発研究
(1) 衛星観測データの収集・処理手法の高度
化
(a) 衛星観測データの多次元データ統合化手
法の開発
(b) 衛星観測データの自動収集、品質管
芝浦工業大学 大学院工学研
☆青木 義満
究科
東京大学 生産技術研究所
☆安岡 善文
竹内 渉
理、アーカイブシステムの開発
沖 大幹
鼎 信次郎
大吉 慶
赤塚 慎
(独)宇宙航空研究開発機構地
☆松浦 直人
球観測研究センター
梅沢 加寿夫
東京大学 大学院工学系研究
○☆小池 俊雄
科
谷口 健司
(4) 海洋観測データの統合
東京大学 海洋研究所
☆道田 豊
(5) 研究地上観測データの統合
東京大学 大学院工学系研究
☆谷口 健司
科
小池 俊雄
(2) 衛星観測データの収集・処理
(3) 気象水文データの統合
太田 哲
東京大学 空間情報科学研究
生駒 栄司
センター
東京大学 生産技術研究所
喜連川 優
絹谷 弘子
根本 利弘
4.
高度情報適用技術の開発研究
(1) 数値気象予報の高精度化のための地球
気象庁 予報部数値予報課
観測統合データ、融合情報の利用研究
☆小泉 耕
岡本 幸三
大和田 浩美
平井 雅之
江河 拓夢
(2) 水管理のための地球観測統合データ、融
合情報の利用研究
(a) 水管理実務における活用システムの
開発
国土交通省 国土技術政策総
☆柏井 条介
合研究所
多田 智和
土井 修一
(b) 大気、陸面、河道結合モデルの開発
東京大学 大学院工学系研究
☆小池 俊雄
科
BOUSSETTA
14
(3) 農作物の適正管理のための地球観測統
合データ、融合情報の利用研究
(a) 農作物管理のための統合的なデータ
同化・統合手法の開発
(独) 農業・食品産業技術総合
○☆二宮 正士
研究機構
木浦 卓治
岩田 洋佳
渡邊 朋也
松村 正哉
大塚 彰
冨久尾 歩
増本 隆夫
(b) 土壌-植生系モデル・統合手法の開
発
東京大学 大学院農学生命科
☆溝口 勝
学研究科
大政 謙次
吉田 貢士
沖 一雄
伊藤 哲
(4) 気候情報の高度化のための地球観測統
合データ、融合情報の利用研究
(a) 気候同化データの検証および利用の
研究
気象庁 地球環境・海洋部気候
☆釜堀 弘隆
情報課
大野木 和敏
原田 やよい
石水 尊久
太田 行哉
高谷 祐平
竹内 綾子
藪 将吉
(b) 統融合情報による地球温暖化現象の
解析
東京大学 気候システム研究セ
☆中島 映至
ンター
鶴田 治雄
井上 豊士郎
井口 享道
5.
研究運営委員会
東京大学 空間情報科学研究
◎○☆柴崎亮介
センター
6.
アウトリーチ
東京大学 空間情報科学研究
センター
15
◎○☆柴崎亮介
7.研究運営委員会について
下記のような研究運営委員会を設立し、研究の進捗管理、各サブテーマ、課題毎の連携確保を実現し
た。特に採択コメントとして指摘を受けた「まずデータベースの仕様設計等を固め、試験的にデータを入
力するなどして,その有効性を評価すること。その上で、本格的なデータベース構築に移行すること」に留
意し、データ統合の利用機関とシステム開発担当機関との間の情報交換、共有化を重点的に推進した。
また、アウトリーチ活動のあり方や、研究開発作業の進捗管理と平行した「研究終了後の継続性(データ
ベースセンターの設立、維持や後継者育成)を確保すること」(採択コメント)についても成果とりまとめなど
と併せて重点的に議論された。
表- 2: 研究運営委員会委員一覧 (◎:研究運営委員長)
氏名
所属機関
役職
◎柴崎 亮介
東京大学 空間情報科学研究セ
教授
ンター
喜連川 優
東京大学 生産技術研究所
教授
二宮 正士
(独) 農業・食品産業技術総合研
研究管理監
究機構
小池 俊雄
東京大学 大学院工学系研究科
教授
湯本 修一
文部科学省 地球・環境科学技
専門官
術推進室
大谷 敏郎
農林水産省 農林水産技術会議
企画官
事務局
山田 邦博
国土交通省 河川局河川情報対
室長
策室
福島 芳和
国土地理院 地理調査部
部長
永田 雅
気象庁 予報部数値予報課
課長
中静 透
東北大学 生命科学研究科
教授
運営委員会等の開催実績及び議題
(a) 運営委員会
第一回(平成 17 年 8 月 10 日)
議題:キックオフ会議
第二回(平成 18 年 3 月 28 日)
議題:初年度の研究成果について
第三回(平成 18 年 8 月 9 日)
議題:グループ間の連携について
第四回(平成 19 年 3 月 26 日)
議題:国際的な展開、アウトリーチについて
16
第五回(平成 19 年 7 月 30 日)
議題:最終成果の取り纏めの方向性について
第六回(平成 20 年 2 月 25 日)
議題:本課題の総括、実施期間終了後の取り組みについて
(b) 研究成果報告会
第一回(平成 17 年 8 月 10 日)
第二回(平成 18 年 3 月 28 日)
第三回(平成 18 年 8 月 9 日)
第四回(平成 19 年 3 月 26 日)
第五回(平成 19 年 7 月 30 日)
第六回(平成 20 年 2 月 25 日)
17
Ⅱ.経費
1.所要経費
(直接経費のみ)
研 究 項 目
(単位:百万円)
担当機関等
研 究
担当者
所要経費
H17
H18
H19
年度
年度
年度
合計
1. 大規模地球環境データ統合・
情報融合システムの開発
東京大学
喜連川優
12.5
78.1
72.6
275.9
(2) データ同化システムの構築
東京大学
小池俊雄
6.2
27.8
41.4
75.4
(3) 高度可視化・マイニングシステ
東京大学
生駒栄司
5.0
4.6
4.8
14.4
東京大学
中山雅哉
5.3
3.0
5.0
13.3
( 独 ) 農 業 ・ 食 品 二宮正士
9.8
11.6
8.3
29.8
柴崎亮介
20.1
19.2
12.5
51.8
柴崎亮介
11.7
13.1
17.4
42.1
(3) 農業分野における分散型デー ( 独 ) 農 業 ・ 食 品 木浦卓治
4.8
2.0
4.6
11.4
10.3
11.2
8.9
30.4
(1) 大規模データアーカイブ・スト
レージシステムの開発とデータ
統合基盤の構築
ムの構築
(4) 大規模データ収集・発信のた
めの高次ネットワーク基盤の構
築
(5) アクティブデータベース型セン
サーデータ格納融合基盤の構
産業技術総合研
築
究機構
2. 相互利用性・情報サービス機
能の開発研究
(1) オントロジー関連情報の収録・ 東京大学
比較・編集システム(オントロジ
ーレジストリ)の構築
(2) オントロジーレジストリを利用し
東京大学
た情報共有・利用支援サービ
スの構築
タ利用システムの構築
産業技術総合研
究機構
(4) 衛星データの分散型データ利
用システムの構築
(独) 宇宙航空研 三浦聡子
究開発機構 地球
観測利用推進セ
ンター
18
3. 地球観測データの収集・品質
管理に関する技術の開発研究
(1) 衛星観測データの収集・処理
手法の高度化
①衛星観測データの多次元データ統
芝浦工業大学
青木義満
8.1
5.6
5.1
18.8
東京大学
安岡善文
9.5
8.1
9.3
26.9
(独)宇宙航空研
松浦直人
9.7
19.8
18.0
47.5
合化手法の開発
②衛星観測データの自動収集、
品質管理、アーカイブシステム
の開発
(2) 衛星観測データの収集・処理
究開発機構地球
観測研究センタ
ー
(3) 気象水文データの統合
東京大学
小池俊雄
1.5
12.2
0.5
14.2
(4) 海洋観測データの統合
東京大学
道田豊
2.9
3.0
2.9
8.8
(5) 研究地上観測データの統合
東京大学
谷口健司
気象庁
小泉耕
6.6
2.9
2.0
11.5
国土交通省
柏井条介
11.9
10.8
9.3
32.0
東京大学
小池俊雄
5.0
14.5
15.1
34.5
二宮正士
7.8
8.0
6.6
22.4
溝口勝
4.0
4.3
4.6
12.8
釜堀弘隆
3.4
3.5
2.8
9.7
中島映至
3.1
2.3
2.3
7.6
4.高度情報適用技術の開発研究
(1) 数値気象予報の高精度化の
ための地球観測統合データ、
融合情報の利用研究
(2) 水管理のための地球観測統
合データ、融合情報の利用研
究
①水管理実務における活用システムの
開発
②大気、陸面、河道結合モデルの
開発
(3) 農作物の適正管理のための
地球観測統合データ、融合情
報の利用研究
①農作物管理のための統合的なデータ (独) 農業・食品
同化・統合手法の開発
産業技術総合研
究機構
②土壌-植生系モデル・統合手法
東京大学
の開発
(4) 気候情報の高度化のための
地球観測統合データ、融合情
報の利用研究
①気候同化データの検証および利用の 気象庁
研究
②統融合情報による地球温暖化現
東京大学
象の解析
19
5.
研究運営委員会
東京大学
柴崎亮介
0.0
0.0
0.0
0.0
6.
アウトリーチ
東京大学
柴崎亮介
0.0
5.5
0.0
5.5
278.0
280.0
262.0
820.1
所 要 経 費
(合 計)
20
2.使用区分
(単位:百万円)
サブテーマ1
サブテーマ2
サブテーマ3
サブテーマ4
サブテーマ5
サブテーマ6
233.0
9.3
18.8
7.5
0.0
0.0
268.6
試作品費
0.0
0.0
0.0
1.9
0.0
0.0
1.9
消耗品費
24.7
1.5
14.2
7.3
0.0
0.0
47.7
人件費
78.8
52.0
44.1
27.0
0.0
0.0
201.9
その他(H17,18)/
72.3
72.9
62.3
87.0
0.0
5.5
200.1
間接経費
122.6
40.7
41.8
39.2
0.0
1.7
246.0
計
531.4
176.4
181.2
169.9
0.0
7.2
1,066.1
設備備品費
計
(H17,18 年のみ)
業務実施費(H19)
※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください)
【装置名:購入期日、購入金額、購入した備品で実施した研究テーマ名】
①地球環境データアーカイブストレージファイバーチャンネルスイッチ:2005 年 12 月,15.1 百万円,サ
ブテーマ1
②データ統合・情報融合サーバ゙:2006 年 2 月,93.5 百万円,サブテーマ1
③地球環境データアーカイブストレージデスクアレイユニット:2006 年 2 月,11.3 百万円,サブテーマ1
④オントロジー参考情報蓄積システム:2005 年 9 月,5.7 百万円,サブテーマ2
⑤地球環境データアーカイブステージングストレージ:2007 年 2 月,53.5 百万円,サブテーマ1
⑥地上観測データ格納装置゙:2007 年 12 月,6.9 百万円,サブテーマ1
⑦シミュレーションデータ格納装置:2007 年 12 月,6.9 百万円,サブテーマ1
⑧衛星データ格納装置:2007 年 12 月,6.9 百万円,サブテーマ1
⑨解析処理データ格納装置:2007 年 12 月,15.8 百万円,サブテーマ1
⑩可視化処理データ格納装置:2007 年 12 月,14.0 百万円,サブテーマ1
21
Ⅲ.研究成果
1.研究成果の概要
本研究の成果は以下のようにまとめられる。
1.大規模地球環境データ統合・情報融合システムの基盤技術が開発され、これらを有機的に結合しデ
ータ統合・情報融合システムのプロトタイプを開発した。具体的には、①汎用性の高いセンサネットワーク
システムを実現する Web センサノードであるフィールドサーバ、収集した観測データの品質管理のための
データ品質管理システムなどのデータ収集関連技術、さらに、②地球観測データに対するデータマイニ
ングシステム、陸面および雲微物理過程のデータ同化を行うシステムなどのデータ解析技術、③大規模
で多様なデータを集中して管理する大規模アーカイブストレージシステム、および多種多様で不斉一な
センサデータを分散管理し、動的に処理するエージェントシステム、メタデータ管理システムなどのデータ
管理技術、③TCP コネクションを中継ノードにより分割することでデータ転送のスループットを向上させる
ネットワーク技術などである。
2.多様な地球環境データ・情報の相互利用性・情報サービス技術を開発した。
さまざまな分野等でそれぞれ作成された多様な地球環境データ・情報は、各専門分野特有の用語定
義、概念、分類体系、場所記述体系などに基づいて作成されており、分野間の「文化的違い」がデータ・
情報の統合的な利用にとって大きな障害となる。データ名称や定義,裏付けとなる専門用語とその定義
などについて、他との関連も含めて明示的に整備・公開し,緩やかな共通化とオープン化をすすめながら、
統合的利用を支援するオントロジーレジストリ技術と利用技術を開発した。さらにオントロジーも必要に応
じて利用しながらさまざまな場所,分野で分散的に蓄積・管理されている情報を横断的に利用する技術を
開発した.
さらに、他国語(タイ語)翻訳機能と連携した他国語情報の利用支援サービスや、その翻訳機能そのも
のをオントロジー情報(専門用語辞典)により強化することなども実現し、その成果がタイ国の情報技術専
門家や農業専門家の協力、本サブテーマの他の課題担当者(農業分野)との協力を通じて、タイの農業
ポータルサイトという具体的な形を取ることができた。また、分散情報の管理・利用技術を、さらに水循環
テーマに特化して発展させ、ベトナム・フォン川を対象として 2004 年洪水の例を利用した被害状況を把握
できるシステムとして利用実験を行うことに成功し、被害軽減や復旧活動に役立つ、また危険度の認知が
上がったなどの評価をベトナム側から得られた。
なお、メタデータのデザイン・管理・利用の側面で、成果1によるデータ統合・情報融合システムのプロト
タイプを、成果2の地球環境データ・情報の相互利用性・情報サービス技術が支援することが実現し、コ
アデータシステムの全体構想が実現した。
3.国内外の地球観測機関とコアシステム間のデータのフローの確立およびメタデータ管理システムの開
発を実現し、品質が保証された地球観測データをアーカイブした。そのデータはデータ統合・情報融合シ
ステムを通じて、水循環変動や気象予測などの各公共的利益分野に地球観測データを適用するための
実証研究を推進した。またこうした実証研究の成果が、アジアにおける水問題関連の研究者や実務者、
政策担当者を動かし、アジア水循環イニシアチブ(AWCI)が構築され、アジア 17 カ国が各国の河川流域
データを協力して統合化する実施計画の合意形成が成し遂げられた。
22
4.大規模地球環境データ統合・情報融合システム上にアーカイブされている多様な地上観測データ、
超大容量の衛星観測データ、さまざまな地球規模データセットを用いて、各公共的利益分野に資する実
証研究を実現し、成果を挙げた。具体的には、気象モデルの改良、気候同化データ(JRA-25)や気候形
成と温暖化現象のモデルシミュレーション結果の検証、降雨予測値から流出を予測する分布型流出モデ
ルの開発と多目的ダムの洪水調節最適化システムの開発、融雪流出への適用(パキスタン、インダス川
支流)や河川管理最適化システムの適用(フィリピン、アンガットダム)、水稲の大害虫であるウンカ類の飛
来予測モデルの精度向上、地上観測情報と土壌-植物系モデルのよる農作物管理支援システムのプロト
タイプを開発等である。
(1)研究目標と目標に対する結果
ミッションステートメントに記載された各目標について、その達成状況、成果を整理する。
①目標:データ統合・情報融合システムの開発研究
結果:大規模地球環境データ統合・情報融合システムの基盤技術が開発され、これらを有機的に結合
しデータ統合・情報融合システムのプロトタイプを開発した。具体的には、①汎用性の高いセンサネットワ
ークシステムを実現する Web センサノードであるフィールドサーバ、収集した観測データの品質管理のた
めのデータ品質管理システムなどのデータ収集関連技術、さらに、②地球観測データに対するデータマ
イニングシステム、陸面および雲微物理過程のデータ同化を行うシステムなどのデータ解析技術、③大
規模で多様なデータを集中して管理する大規模アーカイブストレージシステム、および多種多様で不斉
一なセンサデータを分散管理し、動的に処理するエージェントシステム、メタデータ管理システムなどのデ
ータ管理技術、③TCP コネクションを中継ノードにより分割することでデータ転送のスループットを向上さ
せるネットワーク技術などである。この点において当初の目標を達成したと判断する。
さらに、データ統合・情報融合システムのプロトタイプを地球観測データ利用研究者に供し、早い段階
で農業データの分散管理(サブテーマ 2)や農作物管理支援システム(サブテーマ 4)に対してフィールド
サーバのデータを提供することが出来たと共に、地球環境データマイニング統合環境を用いた処理実験
による水循環研究に関する新たな知見を得ることが出来た。これは当初の目標以上の成果である。
②目標:相互利用性・情報サービス機能の開発研究
結果:多様な地球環境データ・情報の相互利用性・情報サービス技術を開発した。すなわち、データ名
称や定義,裏付けとなる専門用語とその定義などについて、他との関連も含めて明示的に整備・公開し,
緩やかな共通化とオープン化をすすめながら、統合的利用を支援するオントロジーレジストリ技術と利用
技術を開発した。さらにオントロジーも必要に応じて利用しながらさまざまな場所,分野で分散的に蓄積・
管理されている情報を横断的に利用する技術を開発した.この点において当初の目標を達成した。
なお、メタデータのデザイン・管理・利用の側面で、成果1によるデータ統合・情報融合システムのプロト
タイプを、成果2の地球環境データ・情報の相互利用性・情報サービス技術が支援することが実現し、コ
アデータシステムの全体構想が実現した。
さらに、他国語(タイ語)翻訳機能と連携した他国語情報の利用支援サービスや、その翻訳機能そのも
のをオントロジー情報(専門用語辞典)により強化することなども実現し、その成果がタイ国の情報技術専
23
門家や農業専門家の協力、本サブテーマの他の課題担当者(農業分野)との協力を通じて、タイの農業
ポータルサイトという具体的な形を取ることができた。また、分散情報の管理・利用技術を、さらに水循環
テーマに特化して発展させ、ベトナム・フォン川を対象として 2004 年洪水の例を利用した被害状況を把握
できるシステムとして利用実験を行うことに成功し、被害軽減や復旧活動に役立つ、また危険度の認知が
上がったなどの評価をベトナム側から得られた。これらは当初の目標以上の成果である。
③目標:国際的チャネルを有する国内の地球観測機関とコアシステム間のデータのフローの確立
結果:国内外の地球観測機関とコアシステム間のデータのフローの確立およびメタデータ管理システム
の開発を実現し、品質が保証された地球観測データをアーカイブした。そのデータはデータ統合・情報
融合システムを通じて、水循環変動や気象予測などの各公共的利益分野に地球観測データを適用する
ための実証研究を推進した。この点において、当初の目標は達成された。
またこうした実証研究の成果と積極的なアウトリーチ活動が、アジアにおける水問題関連の研究者や実
務者、政策担当者を動かし、アジア水循環イニシアチブ(AWCI)が構築され、アジア 17 カ国が各国の河川
流域データを協力して統合化する実施計画の合意形成が成し遂げられた。これは当初の目標以上の成
果である。
④目標:メタデータ管理システムの研究
結果:XML による地上観測データや衛星画像データなどのメタデータを定義するとともに、定義したメタ
データの管理に必要とされる機能を明確化し、メタデータ管理システムの設計を行った。同時にメタデー
タの設計成果であるスキーマを、用語定義などのオントロジー情報と関連づけて登録し、検索・比較を可
能とするプロトタイプシステムをオントロジーレジストリの一環として開発した。また、メタデータ登録支援シ
ステムのプロトタイプを開発した。この点において、当初の目標は達成された。
加えて、メタデータ登録支援システムとデータ品質管理システムとの連携を実現するなど、当初目標以
上の成果を得ることができた。
⑤目標:地球観測データを国内の公共的利益分野に適用するための実証研究を行う
結果:大規模地球環境データ統合・情報融合システム上にアーカイブされている多様な地上観測デー
タ、超大容量の衛星観測データ、さまざまな地球規模データセットを用いて、各公共的利益分野に資す
る実証研究を実現し、成果を挙げた。この点において当初の目標は達成された。
これらの成果に加え、数値気象モデルの改良が予想より早く進み、シミュレーションデータを
地球環境データ統合・情報融合システムに提供でき、データ統合基盤の拡充に貢献した。
また、分布型流出モデルと連動した多目的ダムの洪水調節最適化システムについては、パキス
タンにおける融雪流出へ適用や、フィリピンにおける河川管理最適化システムの適用が実現した。
ウンカの飛来予測については、データの統合的な分析を通じて、飛来源の分布やウンカの飛来
特性について、本研究以前にはなかった新知見が得られた.
農作物管理支援システムについては、本システムの導入により農作物管理と気象・土壌水分等
の状況の関連付けが容易になり、農地と作物管理に関する新しい発見があった。また、元となる
観測されたデータ(気象・土壌データと画像データ)は地球環境データ統合・情報融合システム
に投入され、データ統合基盤の構築に貢献した。さらに,プロトタイプ開発にとどまらず地元農
24
民による実評価にまで至った。
以上の成果は当初の目標以上の成果である。
⑥目標:成果を国内外で発表する
結果:既に述べたように、本研究における実証研究の成果と積極的なアウトリーチ活動が、アジアにお
ける水問題関連の研究者や実務者、政策担当者を動かし、アジア水循環イニシアチブ(AWCI)が構築さ
れ、アジア 17 カ国が各国の河川流域データを協力して統合化する実施計画の合意形成が成し遂げられ
た。それら以外にも、シンポジウム(3回)、一般公開への参加(4回)、原著論文(査読付き。筆頭著者:14
報、共著者:37 報)、上記論文以外による発表(国内誌:12 報、国外誌:17 報、書籍出版 1)、口頭発表
(招待講演:18 回、主催講演:17 回、応募講演:148 回)、受賞件数(4 件)、プロモーションビデオの作成
など、国内外での成果発信を行った。目標を達成したと判断した。
25
(2)ミッションステートメントに対する達成度
ミッションステートメント
主な達成内容
当初目標以上の成果
未達成
達成度
◎○
△×
①データ統合・情報融 大規模地球環境デー データ統合・情報融合システム 該当無し
合システムの開発研究
◎
タ統合・情報融合シス のプロトタイプを地球観測デー
テムの基盤技術が開 タ利用研究者に供し、早い段階
発され、これらを有機 で、フィールドサーバのデータ
的に結合しデータ統 を提供することが出来た。、地
合・情報融合システム 球環境データマイニング統合環
のプロトタイプを開発 境を用いた処理実験による水
した。
循環研究に関する新たな知見
を得ることが出来た。
②相互利用性・情報サ 多様な地球環境デー 他国語(タイ語)翻訳機能と連 該当無し
ービス機能の開発研究
◎
タ・情報の 相 互利用 携した他国語情報の利用支援
性 ・ 情 報 サ ー ビ ス 技 サービスなどを実現した。デー
術を開発した。
タの分散利用技術を、水循環テ
ーマに特化して発展させ、洪水
被害軽減や復旧活動に役立
つ、また危険度の認知が上がっ
たなどの評価を得た。
③国際的チャネルを有 国内外の地球観測機 ア ジ ア 水 循 環 イ ニ シ ア チ ブ 該当無し
◎
する国内の地球観測機 関とコアシステム間の (AWCI)が構築され、アジア 17
関 と コ ア シ ス テ ム 間 の デ ー タ のフロ ー を 確 カ国が各国の河川流域データ
データのフローの確立
立 し 、 品 質 が 保 証 さ を協力して統合化する実施計
れた地球観測データ 画の合意形成が成し遂げられ
をアーカイブした。各 た。
公共的利益分野に地
球観測データを適用
するための実証研究
を推進した。
④メタデータ管理シス メタデータ管理システ メタデータ登録支援システムと 該当無し
テムの研究
ムの設計、メタデータ データ品質管理システムとの連
スキーマの管理シス 携を実現した。
テムのプロトタイプ開
発を実現した。また、
メタデータ登 録支援
26
◎
システムのプロトタイ
プを開発した。
⑤地球観測データを国 大規模地球環境デー
数値気象モデルの改良、分 該当無し
◎
内 の 公 共 的 利 益 分 野 タ統合・情報融合シス 布型流出モデルと連動した多
に適用するための実証 テ ム を 用 い て 、 各 公 目的ダムの洪水調節最適化シ
研究を行う
共的利益分野に資す ステムの海外への適用、ウン
る実証研究を実現し カの飛来予測の改善、農作物
た。
管理支援システムの改善・適
用が実現した。
⑥成果を国内外で発表 シンポジウム、論文公 該当無し
する
該当無し
○
表を多数実現し、プ
ロモーションビデオを
作成した。
(3)当初計画どおりに進捗しなかった理由
該当無し
(4)研究目標の妥当性について
平成 18 年度から、5 年計画で地球観測データの統合システムの開発・運用を目的とした国家基幹技術
プロジェクト(データ統合・解析システム)がスタートした。国家基幹技術プロジェクトの目指す方向
は、本研究とほぼ同じであるため、実システムの開発・運用を目指す国家プロジェクトの 1 年前か
ら関連する機関が緊密に連携しながら基盤技術開発を先導的に進めてきたことは非常にタイムリ
ーであり、3 年間という研究期間と研究目標が妥当であったことを示している。
国際的にも同じく平成 17 年に GEO(地球観測グループ)が設立され、GEOSS(全球地球観測
システム)の検討がスタートしている。GEOSS もデータの統合や社会利益分野への貢献を目指
している点で同じ方向性を有しており、本格的な構築が平成 19 年度より立ち上がっていることを
考えると、ここでも本研究の研究目標がきわめて妥当であったと言え、本研究の成果が今後、国
家基幹技術などを通じて大いに国際的に貢献することが期待される。
(5)情報発信 (アウトリーチ活動等)について
本研究課題は、世界的最高レベルにあるわが国の地球観測およびデータ統合、情報融合の技術を
もとに、わが国の研究活動を支える知的基盤整備を目指すものであり、これを広く国民に紹介し、また中
学、高校生に分かり易く解説することは、国民の理解と支持を得て、科学技術立国としての将来の基礎を
築く上で、非常に重要である。
そこで、研究の計画、進捗状況、成果の紹介シンポジウムを、年度毎に行った。平成 17 年度には、平
成 18 年 3 月 28 日(火)、東京大学小柴ホールにて公開シンポジウム「「地球観測データ統融合が拓く安
心・安全社会
地球は元気?」開催した。平成 18 年度には、平成 19 年 1 月9日(火)10 日(水)、東京
27
大学小柴ホールにて「第2回アジア水循環シンポジウム」を開催し、本研究課題を一般市民へ紹介するた
めの講演会を英語・日本語の同時通訳で実施した。平成 19 年度には、平成 19 年 12 月 2 日(土)~4 日
(月)、大分県別府市にて「第3回アジア水循環シンポジウム」を開催し、一般市民へ紹介するための公開
を英語・日本語の同時通訳で実施するとともに、作成したプロモーションビデオを上映し、希望者には
DVD として配布した。
プロモーションビデオは、専門性が高い地球観測およびデータ統合、情報融合の技術や、一般メディ
アで報道されにくいアジア各国における水・気象・農業の問題などを、一般向けのみならず中・高教育の
副教材としても使えるような内容を目指し、わかりやすく編集した。
さらに、参画機関の一つである東京大学にて毎年開催される一般公開・オープンキャンパスにて、主に
中・高校生を中心に、研究内容の面白さを伝えるよう努めた。東京大学のオープンキャンパスは毎年開催
されており、学生・社会人・専門家など幅広い層が来場する注目度の高い行事である。
以上の当初予定していた計画に加え、さらに追加の活動として、18 年度・H19 年度の秋には、代表者
柴崎がセンター長をつとめる東京大学空間情報科学研究センターが主催する年次シンポジウム(CSIS
DAYS 2006、 207)にて、本課題の紹介と研究成果の発表を行った。本シンポジウムには、空間情報、
GIS、位置情報、地図情報といった、近年社会的に注目度が高まっている分野に関心をもつ学生・社会
人・専門家等が数百名ほど集まるイベントである。さらに、H19 年度の 6 月 20-22 日には、パシフィコ横浜
で開催された「全国測量技術大会2007」にて、ポスター発表をすることにより本課題の紹介を行った。
(6)研究計画・実施体制について
システム開発者と利用者が組んで行う大規模な研究開発プロジェクトでは、開発者と利用者の意思疎
通が十分でなく、できあがったシステムが利用者のニーズと大きく食い違うこと、システムの完成が遅れた
結果、研究期間内にシステムの利用研究を実施する時間がほとんど取れなくなること、といった大きな問
題が生じがちである。採択コメントにあった「まずデータベースの仕様設計等を固め、試験的にデータを
入力するなどして,その有効性を評価すること。その上で、本格的なデータベース構築に移行すること」に
も留意し、データ統合システムの開発機関とデータ利用機関との意見交換、情報共有をサブグループ分
科会、データ分科会などの名称で集中的に実施し、必要なデータ、必要な機能を優先順位付きで選定し、
開発ロードマップ上に位置づけることを行った。これにより段階的な開発・整備と利用を実現することがで
きた。またこうした開発・利用のスケジュールは形骸化しないよう、定常的に見直された。こうした進捗管理
とそれを支える実施体制が有効に機能したと考える。
28
(7)研究成果の発表状況
1)研究発表件数
原著論文発表(査
左記以外 の 誌面
読付)
発表
口頭発表
合計
国
内
28 件
12 件
70 件
110 件
国
外
24 件
18 件
113 件
155 件
合
計
52 件
30 件
183 件
265 件
2)特許等出願件数:該当なし
3)受賞等: 4件
①
Toshio Koike: Meraj Khalid Award 2006-7,「Pakistan-Japan Joint Seminar at Lahore Collage for
Women University」,2008.1
②
Toshio Koike: Contribution to the IPCC Novel Peace Prize, 「WMO and UNEP」,2008.3
③
小林弘和、中山雅哉: 研究奨励賞,インターネットコンファレンス 2006 実行委員会, 2006.10.24.
④
Ryosuke Shibasaki: Contribution to the IPCC Novel Peace Prize, 「WMO and UNEP」,2008.3
4)原著論文(査読付)
【国内誌】(国内英文誌を含む)
① T. Nemoto, T. Koike and M. Kitsuregawa:「Data Analysis System Attached to the CEOP
Centralized Data Archive System」, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 85A,
pp.529-543, (2007).
② 根本利弘,小池俊雄,喜連川優:「地球水循環データアーカイブシステムにおける異種データ相
互解析機能とその実装」,日本データベース学会 Letters,Vol. 6, No. 1, pp.157-160, (2007).
③ 生駒栄司,玉川勝徳,小池俊雄,喜連川優,「大規模地球観測データを対象としたデータクオリテ
ィコントロールシステムの構築とその有効性の検討」,日本データベース学会(DBSJ) Letters.,
Vol.4 No.1,57-60,(2005)
④ Eiji Ikoma , Katsunori Tamagawa , Tetsu Ohta , Toshio Koike , Masaru Kitsuregawa. ,
「 QUASUR:Web-based quality assurance system for CEOP reference data 」 , Journal of
meteorological society of Japan,Vol.85A No.0,461-473,(2007)
⑤ Eiji Ikoma,Kenji Taniguchi,Toshio Koike,Masaru Kitsuregawa,「Display wall empowered visual
mining for CEOP data archive」,Journal of meteorological society of Japan,Vol.85A No.0,
545-559,(2007)
⑥ Kun Yang,Mohamed Rasmy,Surendra Rauniyar,Toshio Koike,Kenji Taniguchi, Katsunori
Tamagawa,Petra Koudelova,Masaru Kitsuregawa,Toshihiro Nemoto,Masaki Yasukawa,Eiji
Ikoma,Michael G. Bosilovich,Steve Williams,「Initial CEOP-based review of the prediction skill
of operational general circulation models and land surface models 」,Journal of meteorological
society of Japan,Vol. 85A No. 0,99-116(2007)
⑦ Tobias GRAF, Toshio KOIKE, Hideyuki FUJII: 「TOWARDS THE DEVELOPMENT OF A LAND
29
DATA ASSIMILATION SYSTEM FOR SNOW」, 水工学論文集 50 巻, 1-6, (2006)
⑧ Hui LU, Toshio KOIKE, Nozomu HIROSE, Masato MORITA, Hideyuki FUJII, David Ndegwa
KURIA, Tobias GRAF, Hiroyuki TSUTSUI: 「 A BASIC STUDY ON SOIL MOISTURE
ALGORITHM USING GROUND-BASED OBSERVATIONS UNDER DRY CONDITION」, 水工学
論文集 50 巻, 7-12, (2006)
⑨ 筒井浩行・小池俊雄・Tobias Graf・兒玉裕二・青木輝夫:「地上マイクロ波放射計を用いた地上積
雪観測に基づく積雪量推定衛星アルゴリズム検証」,水工学論文集 50 巻, 433-438, (2006)
⑩ Kun YANG, Takahiro WATANABE, Toshio KOIKE, Xin LI, Hideyuki FUJII, Katsuroni
TAMAGAWA, Yaoming Ma and Hirohiko Ishikawa : 「 Auto-calibration System Developed to
Assimilate AMSR-E Data into a Land Surface Model for Estimating Soil Moisture and the Surface
Energy Budget」, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol.85A, 229-242, (2007)
⑪ Hiroyuki TSUTSUI, Hiroyuki TSUTSUI and Tobias GRAF:「Development of a dry-snow satellite
algorithm and validation at the CEOP Reference Site in Yakutsk」, Journal of the Meteorological
Society of Japan, Vol.85A, 417-438, (2007)
⑫ Hui LU, Toshio KOIKE, Hiroyuki TSUTSUI, David Ndegwa KURIA,Tobias GRAF, Kun YANG and
Xin LI : 「 A LONG TERM FIELD EXPERIMENT FOR RADIATIVE TRANSFER MODEL
DEVELOPMENT AND LAND SURFACE PROCESSES REMOTE SENSING」, 水工学論文集 52
巻, 13-18, (2008)
⑬ T.Fukatsu, M.Hirafuji:「Field Monitoring Using Sensor-Nodes with a Web Server」,Journal of
Robotics and Mechatronics,17(2),164-172,(2005)
⑭ T.Fukatsu, M.Hirafuji, T.Kiura:「An Agent System for Operating Web-based Sensor Nodes via the
Internet」,Journal of Robotics and Mechatronics,18(2),186-194,(2006)
⑮ Yu X., A Yamakawa, T Kiura, T Hasegawa, S Ninomiya:「CROWIS: A System for sharing and
integrating crop and weather data」,農業情報研究, 16(3),124-131, (2007)
⑯ Yu X., M Laurenson, T Kiura, S Ninomiya,「RIAS: an Approach to provide Internet-accesible image
analysis service」, 農業情報研究, 16(4),212-218, (2007)
⑰ 今井龍一,金澤文彦,高尾稔,石井邦宙,柴崎亮介:「建設分野における地理空間情報基盤の構
築に向けた地名辞典に関する研究」, 土木情報利用技術論文集, 16, 63-70, (2007)
⑱ 竹内渉, 根本利弘, 金子隆之, 安岡善文:「WWW を利用した MTSAT データ処理・可視化・配信
システムの構築」, 写真測量とリモートセンシング, 46(6), 42-48, (2007)
⑲ 大吉慶, 竹内渉, 安岡善文:「植物フェノロジー観測における時系列 NDVI の雑音除去手法」, 写
真測量とリモートセンシング, 47(1), 4-16, (2008)
⑳ Michida, Y., H. Hasumoto and T. Suzuki:「Archaeology and rescue for marine plankton data
collected by universities in Japan」, Proceedings of Techno-Ocean2006/19th JASNAOE Ocean
Engineering Symposium, P-44,(2006)
21 Ahmad, B., D. Yang, T. Koike, H. Ishidaira, Ch. Li and T. Graf: 「Remote Sensing based Snowmelt
Runoff Model coupled with Distributed Hydrological Model in Upper Yellow Rriver Basin」, Annual
Journal of Hydraulic Engineering, JSCE, Vol.49, 331-336,(2005)
22 Oliver SAAVEDRA, Toshio KOIKE, Dawen YANG: 「 APPLICATION OF A DISTRIBUTED
30
HYDROLOGICAL MODEL COUPLED WITH DAM OPERATION FOR FLOOD CONTROL
PURPOSES」, 水工学論文集 50 巻, 61-66, (2006)
23 Surendra Prasad RAUNIYAR, Mohamad RASMY, Katsunori TAMAGAWA, Kun YANG, Toshio
KOIKE:「PREDICTION SKILL ASSESSMENT OF NWP MODELS IN SIMULATING DIURNAL
CYCLE OF PRECIPITATION」, 水工学論文集 51 巻, 97-102,(2007)
24 Mohamed RASMY, Surendra Prasad RAUNIYAR, Katsunori TAMAGAWA, Kun YANG, Toshio
KOIKE : 「 ASSESSMENT OF ENERGY BUDGET IN WEATHER FORECASTING GENERAL
CIRCULATION MODELS」, 水工学論文集 51 巻, 1-6,(2007)
25 Hai, Pham Thanh, Takao Masumoto and Katsuyuki Shimizu: 「Evaluation of Flood Regulation Role
of Paddies in the Lower Mekong River Basin Using a 2D Flood Simulation Model」, Annual Journal
of Hydraulic Engineering, JSCE, Vol. 50, pp.73-78 (2006)
26 清水克之・増本隆夫:「メコン川流域における農地水利用の分類とマップ化」,地形,第 27 巻第 2
号,pp.235-244 (2006)
27 Inoue, T., M. Satoh, H. Miura, B. Mapes, 2008: 「Characteristics of cloud size of deep convection
simulated by a global cloud resolving model over the western tropical Pacific」, J. Meteor. Soc.
Japan, accepted,2008
28 An Ngoc Van, Mitsuru Nakazawa, Yoshimitsu Aoki:「High accurate geometric correction for NOAA
AVHRR data considering elevation effect and coastline feature」, IEICE Trans. On Communications,
Vol.E91-B, No.9, pp.2956-2963, (Sep. 2008)
【国外誌】
① M. Yasukawa, M. Kitsuregawa, K. Taniguchi, and T. Koike: 「PVES: Powered Visualizer for Earth
Environmental Science」, IEEE Systems Journal, (2008). (採録決定)
② Ikoma E,Taniguchi K,Koike T,Kitsuregawa M,「Development of a data mining application for
huge scale earth environmental data archives」,Proceedings of DNIS2005 (Fourth International
Workshop on Databases in Networked Information Systems),171-185,(2005).
③ C.R.Mirza, T.Koike, K. Yang, T. Graf:「Retrieving cloud parameters over oceans from AMSR-E
data by developing and 1-D cloud microphysics data assimilation system (CMDAS).」, Journal of
Hydroscience and hydraulic Engineering, Vol. 24, No.1., 57-72, (2006)
④ David Kuria, Toshio Koike, Hui Lu, Hiroyuki Tsutsui and Tobias Graf: 「 Field-supported
verification and improvement of a passive microwave surface emission model for rough, bare and
wet soil surfaces by incorporating shadowing effects」, IEEE Transactions on Geoscience and
Remote Sensing, Vol. 45, No.5, 1207-1217, (2007)
⑤ S. Boussetta, T. Koike, T. Graf, K. Yang, M. Pathmathevan: 「 Development of a coupled
land-atmosphere satellite data assimilation system for Improved local atmospheric simulations」,
Remote Sensing of Environment, DOI 10.1016/j.rse.2007.06.002., (2007)
⑥ Mirza, C. R., T. Koike, K. Yang, and T. Graf:「The Development of 1-D Ice Cloud Microphysics
Data Assimilation System (IMDAS) for Cloud Parameter Retrievals by Integrating Satellite Data」,
IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 46, No.1, 119-129, (2008)
31
⑦ Hashimoto, A., Oguchi, T., Hayakawa, Y., Lin, Z., Saito, K., Wasklewicz, T.A.:「GIS analysis of
depositional slope change at alluvial-fan toes in Japan and the American Southwest 」 ,
Geomorphology (in press), (2008)
⑧ Saito, K. and Oguchi, T.:「Slope of alluvial fans in humid regions of Japan, Taiwan and the
Philippines」, Geomorphology, 70, 147-162, (2005)
⑨ SAWANO S, T HASEGAWA, S GOTO, P KONGHAKOTE, A POLTHANEE, Y ISHIGOOKA,T
KUWAGATA, H TORITANI:「Modeling the dependence of the crop calendar for rain-fed rice on
precipitation in Northeast Thailand」, Paddy and Water Environment, 6(1) 83-90, (2008)
⑩ An Ngoc Van, Yoshimitsu Aoki:「Precise error correction method for NOAA AVHRR image using
the same orbital images」, Transactions on Electrical Eng., Electronics, and Communications, vol.5,
no.2. 127-136, (2007)
⑪ Preesan Rakwatin, Wataru Takeuchi, Yoshifumi Yasuoka:「Stripe noise reduction in MODIS data by
combining histogram-matching and facet filter」, IEEE transactions on geoscience and remote
sensing, 4(6-2), 1844-1856, (2007)
⑫ L. WANG, T. KOIKE, K. YANG, D.YANG, Z. WANG:「Improving the hydrology of SiB2 and its
evaluation using a biosphere hydrological modeling approach」, submitted.
⑬ Hai, P.T., T. Masumoto and K. Shimizu: 「Modeling of Flooplain Inundation Process in Low-lying
Areas, Advances in Geosciences」, World Scientific Publishing, Vol.4, pp.83-88, (2006)
⑭ Shimizu, Katsuyuki, Takao Masumoto and Thanh Hai Pham: 「Factors impacting yields in rain-fed
paddies of the lower Mekong River Basin」, Paddy Water Environ, 4(3), pp.145-151 (2006)
⑮ Matsuno, Y., K. Nakamura, T. Masumoto, H. Matsui, T. Kato and Y. Sato: 「Prospects for
Multifunctionality of Paddy Rice Cultivation in Japan and other Countries in Monsoon Asia」, Paddy
Water Environ, 4(4), pp.189-197(2006)
⑯ Masumoto, T., T. Yoshida and T. Kubota: 「An index for evaluating flood-prevention function of
paddies」, Paddy Water Environ, 4(4), pp.205-210 (2006)
⑰ Masumoto T., Pham T. Hai and K. Shimizu:「Impact of Paddy Irrigation Levels on Floods and Water
Use in the Mekong River Basin」, Hydrological Processes, DOI: 10.1002/hyp.6941 (2008)
⑱ Tsujimoto K., T. Masumoto and T. Mitsuno:「Seasonal Changes in Radiation and Evaporation
Implied from the Diurnal Distribution of Rainfall in the Lowe Mekong」, Hydrological Processes,
DOI: 10.1002/hyp.6935 (2008)
⑲ Pham T. Hai, T. Masumoto and K. Shimizu:「Development of a Two-dimensional Finite-Element
Model for Inundation Processes in the Tonle Sap and its Environs」, Hydrological Processes, DOI:
10.1002/hyp.6942 (2008)
⑳ Masumoto T., H. Toritani, M. Tada, and A. Shimizu:「Assessment of changes in water cycles on
food production and alternative policy scenarios」, Paddy and Water Environment, 6(1), pp.5-14
(2008)
21 Hayano M., et al.:「Features of the AFFRC Water-Food model for evaluating the relationship
between water cycle and rice production」, Paddy and Water Environment, 6(1) , pp.15-23 (2008)
22 Kazuo Oki, Lu Shan, Takuya Saruwatari, Tomoyuki, Suhama, and Kenji Omasa:「Evaluation of
32
supervised classification algorithms for identifying crops using airborne-hyperspectral data」, Int. J.
Remote Sensing, vol.27, No.10 pp.1993-2002 (2006)
23 Goto, D., T. Takemura, and T. Nakajima, 2008: 「Importance of global aerosol modeling including
secondary organic aerosol formed from monoterpene 」 , J. Geophys. Res., 113, D07205,
doi:10.1029/2007JD009019, 2008.
24 Nakajima, T., S.-C. Yoon, V. Ramanathan, G.-Y. Shi, T. Takemura, A. Higurashi, T. Takamura, K.
Aoki, B.-J. Sohn, S.-W. Kim, H. Tsuruta1, N. Sugimoto, A. Shimizu, H. Tanimoto, Y. Sawa, N.-H.
Lin, C.-T. Lee, D. Goto, and N. Schutgens1, 2007: 「Overview of the Atmospheric Brown Cloud
East Asian Regional Experiment 2005 and a study of the aerosol direct radiative forcing in east
Asia」, J. Geophys. Res., 112, D24S91, doi:10.1029/2007JD009009,2007.
5)その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Web等)
① Web 公開: http://shiba.iis.u-tokyo.ac.jp/~integration/
② 公開シンポジウム:「地球観測データ統融合が拓く安心・安全社会」,東京大学小柴ホール,
2006.2.28
③ 公開シンポジウム:「第2回アジア水循環シンポジウム 一般講演会」,東京大学小柴ホール,
2007.1.10
④ 公開シンポジウム:「第3回アジア水循環シンポジウム 一般講演会」,大分県別府市,2007.12.4
⑤ 一般公開:「高校生のための東大オープンキンパス2005」,東京大学本郷キャンパス,2005.8.2
⑥ 一般公開:「生研公開 2006」,東京大学生産技術研究所,2006.1-3
⑦ 一般公開:「東京大学 駒場リサーチキャンパス 一般公開」,東京大学生産技術研究所,
2007.5.31-6.2
⑧ 展示会:「全国測量技術大会 2007」,パシフィコ横浜,2007.6.20-22
⑨ 一般公開:「東京大学 柏キャンパス 一般公開」,2007.10.26-27
33
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)サブテーマ1:大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発
(分担研究者名:喜連川 優、 所属機関名:東京大学)
1)要旨
地球環境データの統合アーカイブと柔軟な情報融合機構の構築は地球環境分野における研究基盤と
して極めて重要な役割を果たす。21世紀の地球環境研究は膨大且つ多様なデータの統合庫を自在に
探索するツールが独創的研究の成否を決める時代になると考えられる。本サブテーマでは、種々の研究
ニーズに対しタイムリーに対応可能な強固なデータ基盤に関する基礎研究とその基盤構築を試みるもの
である。このデータ基盤開発研究は、大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合
基盤の構築、データ同化システムの構築、高度可視化・マイニングシステムの構築、大規模データ収集・
発信のための高次ネットワーク基盤の構築、アクティブデータベース型センサーデータ格納融合基盤の
構築から構成される。
大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築においては、超大容量ア
ーカイブストレージシステムを構築し、地上観測データ、数値気象予測モデル出力、衛星観測データを
投入した。これらのデータを対象とした軽快なデータ検索、表示、解析インタフェースを実装するとともに、
より詳細な解析を可能とする三次元可視化システムを開発した。また、データ品質の向上のため、地球環
境データの品質管理システム、地上観測メタデータ登録支援システムの開発を行った。
データ同化システムの構築においては、多様な地上観測データ、超大容量の衛星観測データ、数値
気象予測モデル出力を用いて、物理的に整合性のある全地球規模からローカルな規模の水循環を記述
できる陸面および雲微物理のデータ同化システムを開発した。さらにこれらのデータ同化システムと、メソ
スケール数値気象予測モデルとを組み合わせた降雨予測の基本システムを開発した。
高度可視化・マイニングシステムの構築においては、地球環境データを対象としたビジュアルマイニン
グツールの開発を行い、併せて一般ユーザが容易に利用なWEBベースインターフェースの実装を行っ
た。また、この処理結果を大規模ディスプレイウォール上で高速に視覚化するビジュアリゼーションツール
を開発することで、先進的な視覚化装置上で条件指定から結果表示まで可能な統合環境の構築を行っ
た。
大規模データ収集・発信のための高次ネットワーク基盤の構築においては、世界各地で観測される地
球観測データを効率的に収集するために、TCP コネクションを中継ノードを用いて分割することでデータ
転送のスループットを向上させる方式を提案し、プロトタイプを用いた実証実験結果からその有効性を明
らかにした。また、統合処理システムで利用者の要求に合わせて生成された融合情報を複数の利用者で
共有する際の効果的な情報発信機構の提案を行い、プロトタイプを用いた実証実験を行った。
アクティブデータベース型センサーデータ格納融合基盤の構築においては、従来のセンサネットワーク
技術を発展させ、拡張性が高く複雑で高度な管理を自律的に行えるエージェントシステムを構築する事
により、多種多様で不斉一な大量のセンサデータを安定的に収集・蓄積し、利用者の要望に応じて効率
良く提供できるアクティブセンサーデータベースを実現するための基盤技術を開発した。
34
2)目標と目標に対する結果
1. 大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築
目標:コアシステムの一つである大規模データアーカイブ・ストレージシステムを開発し,データ統合基
盤を構築する.
結果:超大容量アーカイブストレージシステムを構築し、課題 3-5「研究地上観測データの統合」のグル
ープと協力して収集した地上観測データ、数値気象予測モデル出力、衛星観測データ,あるいは課題
1-5「アクティブデータベース型センサーデータ格納融合基盤の構築」のグループから提供されたフィー
ルドサーバのデータなど,様々な地球観測データを投入した。また,これらのデータを対象とした軽快な
データ検索、表示、解析インタフェースを実装するとともに、より詳細な解析を可能とする三次元可視化シ
ステムを開発した.さらに,メタデータ管理システムの研究(XMLを用いたデータベーススキーマの設計・
進化管理機構の実現)として、課題 2-1「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジー
レジストリ)の構築」、課題 2-2「オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築」の
グループと協力し、XML による地上観測データのメタデータを定義するとともに、定義したメタデータの管
理に必要とされる機能を明確化し、メタデータ管理システムの設計を行った。また、課題 3-5「研究地上観
測データの統合」のグループと協力し、地上観測メタデータ登録支援システムのプロトタイプを開発した。
目標を上回る成果:データ統合・情報融合システムのプロトタイプを地球観測データ利用研究者に供し、
早い段階で課題 2-3「農業分野における分散型データ利用システムの構築」のグループや課題 4-3「農
作物の適正管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究」のグループらに対してフィールド
サーバのデータを提供することが出来たと共に、課題 1-3「高度可視化・マイニングシステムの構築」のグ
ループと共同で地球環境データマイニング統合環境の構築,あるいはメタデータ登録支援システムと地
球環境データ品質管理システムとの連携を実現することができた.さらに,この地球環境データマイニン
グ統合環境を用いた処理実験により,水循環研究に関する新たな知見のきっかけを与える等の相乗効果
にも成功し、当初目標以上の成果を得ることができた。
2. データ同化システムの構築
目標:データ同化システムを構築する.
結果:多様な地上観測データ、超大容量の衛星観測データ、数値気象予測モデル出力を用いて、物理
的に整合性のある全地球規模からローカルな規模の水循環を記述できる陸面および雲微物理のデータ
同化システムを開発した
目標を上回る成果:課題 1-1「大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の
構築」,課題 1-3「高度可視化・マイニングシステムの構築」らの他グループの成果などを受けて,陸面お
よび雲微物理過程のデータ同化システムとメソスケール数値気象予測モデルとを組み合わせた降
雨予測の基本システムを開発することができた.さらに,本システムで用いた地球水循環統合デ
ータセットについては、サブテーマ2「相互利用性・情報サービス機能の開発研究」によるメタ
データ整備の支援を得つつ、サブテーマ3「地球観測データの収集・品質管理に関する技術の開
発研究」で品質チェック、フォーマット変換、アーカイブし、また本システムを用いた洪水管理
への利用のためのシステム開発については、サブテーマ4「高度情報適用技術の開発研究」にお
いて、洪水流出予測ならびに河川管理の最適化の要素と結合し、公共的利益に貢献するシステム
の開発を行っている。このように、本課題全体のサブテーマ間をつなぐ鍵となるシステムの開発
35
研究を行うことで,サブテーマを横断する相乗効果にも成功し,当初目標を超えた成果を挙げる
ことができた.
3. 高度可視化・マイニングシステムの構築
目標:高度可視化・マイニングシステムを構築する.
結果:地球環境データを対象としたビジュアルマイニングツールの開発を行い、併せて一般ユーザが容
易に利用なWEBベースインターフェースの実装を行った.また,課題 1-1「大規模データアーカイブ・スト
レージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」のグループと協力して,この処理結果を大規模ディスプ
レイウォール上で高速に視覚化するビジュアリゼーションツールを開発することで、先進的な視覚化装置
上で条件指定から結果表示まで可能な統合環境の構築を行った.
目標を上回る成果:開発したインターフェースを実際に研究分担者である小池グループの実研究に利
用してもらい,そのフィードバックを受けながら拡張を進めていった.その結果、当該分野の専門家からも
高い評価を受け,研究分担者の小池グループを始め当該分野の専門家がこの環境を利用して多くの新
たな知見の創出に至った。
4. 大規模データ収集・発信のための高次ネットワーク基盤の構築
目標:大規模データ収集・発信のための高次ネットワーク基盤を構築する.
結果:世界各地で観測される地球観測データを効率的に収集するために、TCP コネクションを中継ノード
を用いて分割することでデータ転送のスループットを向上させる方式を提案し、プロトタイプを用いた実証
実験結果からその有効性を明らかにした.また,統合処理システムで利用者の要求に合わせて生成され
た融合情報を複数の利用者で共有する際の効果的な情報発信機構の提案を行い、プロトタイプを用い
た実証実験を行った.
5. アクティブデータベース型センサデータ格納融合基盤の構築
目標:アクティブデータベース型センサデータ格納融合基盤を構築する.
結果:従来のセンサネットワーク技術を発展させ、拡張性が高く複雑で高度な管理を自律的に行えるエー
ジェントシステムを構築する事により、多種多様で不斉一な大量のセンサデータを安定的に収集・蓄積し、
利用者の要望に応じて効率良く提供できるアクティブセンサーデータベースを実現するための基盤技術
を開発した.
3)研究方法
まず、アーカイブ用ストレージシステム、ならびに、データ統合・情報融合サーバ系のシステム設計を進
め、基本システムを導入すると共に、データ同化、可視化マイニング、高次ネットワーク、センサ融合のシ
ステムソフトウエア構築に向けての概念・方式設計を行った。次に、アーカイブ用ストレージシステム、なら
びに、データ統合・情報融合サーバ系の詳細設計を進め、システム拡張を進めると共に、データ同化、可
視化マイニング、高次ネットワーク、センサ融合のシステムソフトウエア構築に向けての部分的実装を行な
い、実利用者からのフィードバックを受けつつ改良を重ねた。その後、各種国内におけるデータを投入し、
利用実証を開始した。データ統合・情報融合システムの実利用時における有効性を確認するとともに、デ
ータ同化、可視化マイニング、高次ネットワーク、センサ融合のシステムソフトウエアのコンポーネントの結
36
合試験を進めた。
4)研究結果
1. 大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築
(分担研究者名:喜連川 優、 所属機関名:東京大学)
1.1 超大容量アーカイブストレージシステムの構築とデータの投入
膨大な地球観測データをアーカイブ・管理し、解析処理に利用するため、サーバ、ディスクア
レイ装置、テープライブラリ装置を導入し、データの投入を行った。投入したデータは、2006 年
度以降に提供された CEOP 地上観測データ、CEOP 数値モデル出力データ、CEOP 衛星画像デー
タ、JRA-25 長期再解析プロジェクトによるデータ、米国 EROS(Earth Resources Observation
and Science)データセンターによる NOAA 衛星原データおよび、(1)-⑤の二宮 G と(4)-③-2 の溝
口 G が Field Server(農学センサーシステム)を用いて取得している圃場における気象データや
土壌水分データ,デジタルカメラによる画像データ等(約 1600 万シーン)である。アーカイブ
した各データのデータ量を表- 3 に示す。
表- 3: アーカイブデータ量
データセット
データサイズ
CEOP 地上観測データ
3GB
CEOP 数値気象モデル出力データ
7.6TB
CEOP 衛星画像データ
13TB
JRA-25 長期再解析データ
9.1TB
米国 EROS データセンターによる NOAA 衛星原データ
3.3TB
Field Server データ
1.4TB
1.2 機動的な検索ならびに解析を可能とする検索・解析システムの開発
投入したデータのうち、観測期間、観測領域が重なっている CEOP による地上観測データ、数値気象
モデル出力データ、衛星画像データ、JRA-25 長期再解析データを対象に、データの検索、解析機能を
提供するシステムの実装を行った
1)
。データ検索・解析システムはデータサーバとクライアントによって構
成される。データサーバは、クライアントに対して、システムへのログイン、指定した条件に基づくデータの
検索、検索されたデータの解析機能を提供する。データサーバはクライアントから指定された条件により
データを検索し、オリジナルデータから検索結果データをサーバ上の利用者用データ領域に切り出す。
また、サーバは切り出されたデータを解析対象とし、利用者からのリクエストに応じて、統計量の計算など
の解析処理をおこなう。クライアントは利用者とのインタフェースであり、データ検索・解析のためのパラメ
ータの入力、およびデータの表示を行う。データ検索・解析システムは、対象とする地球観測データが多
種多様であるため、以下の機能、特徴を有する 2)。
高効率なデータ構造によるデータ管理
地球観測データは、データごとに次元が異なるが,データサーバ内部においては,検索され、解析対
37
象となったデータをすべて,時間,鉛直方向,南北方向,東西方向の 4 つの軸を有する 4 次元配列として
表現し,この 4 次元配列にデータの情報,および 4 つの各軸の目盛値,および各軸の情報を付加して管
理する.例えばある 1 地点における地上気温の時系列データは,時間軸方向のみ n のサイズを持ち,鉛
直軸,南北軸,東西軸のサイズが 1 である,n×1×1×1 の配列となる.配列の各要素には,物理量を表
す数値に加え,そのデータのクオリティを表すフラグが付与される.データの情報には,データの種類,
単位,データが検索された際に指定された条件,データ作成時刻等により構成され,また,軸情報は,軸
の種類や目盛値の単位等により構成される.各軸の目盛値は,範囲の指定も可能としている.これは,そ
の値が示す物理量が,ある範囲の総和や平均値といった明確な 1 点ではなく,ある範囲における値であ
る場合にも対応するためである.この表現法はアーカイブ対象となる地球観測データのフォーマットをほ
ぼ包含しており,この表現法をシステム内部で用いることにより,データの種類を区別することなく,統一
的に検索されたデータを扱うことが可能となる.このデータ表現は利用者には隠蔽されており,利用者は
データ表現については意識をする必要はない.
データ検索
対象となるデータは、データの種類、時刻、位置によって決定され、データ検索・解析システムにおい
てもこれらの3つのパラメータをメニュー形式で指定することにより検索を行う。利用者はこれら 3 つのパラ
メータを指定することにより,すべてのデータを同様の手順で検索することが可能である.データの種類に
よってデータが存在する期間や位置が異なるが,データが存在するパラメータの組み合わせをデータサ
ーバにおいてデータベース化しており,データ検索時には利用者がクライアントにおいてあるパラメータ
を指定すると,指定されたパラメータのデータの存在に関する問い合わせメソッドを実行して,データの存
在するパラメータの組み合わせを取得する.この情報に基づき,他のパラメータの選択メニュー内のデー
タが存在しない項目の文字の輝度を下げ,データが存在しないパラメータの組み合わせが利用者に分か
るようにしている。これにより利用者はデータが存在しない検索条件を指定することがなくなり、効率的に
データの検索を行うことが可能となる。
フォーマット変換
地球観測データは、データごとに異なるフォーマットを持つ。データ検索・解析システムを用いて解析を行
う場合には,データサーバがそれぞれのフォーマットを自動的に判断して読み込むため,利用者はデー
タフォーマットの差異を考慮する必要はない.一方,利用者が自身のプログラムや独自の解析ツールで
データを利用するために,データ検索・解析システムでは, ASCII テキストファイルもしくは気象学,海洋
学などで一般的に使用されている NetCDF フォーマットに変換してクライアント側のマシンに保存する機
能を提供する.クライアントは,データの転送メソッドを発行し,データサーバより統一的データ表現形式
の保存対象データを受け取り,要求されたフォーマットに変換して保存する.
単位の変換
地球観測データは,データの種類やデータ提供機関ごとに,同じ物理量が異なる単位で与えられてい
る場合がある.これら単位の異なるデータを直接比較するためには,統一された単位に変換する必要が
あるが,データ検索・解析システムでは,一般的に用いられる単位の変換は,クライアントでメニューを選
択することのみで実行できる.また,メニューに登録されていない単位の変換に関しても,利用者が変換
式を入力することができ、様々な単位の変換に対応している。
時空間軸の変換・整合
地球観測データは,データごとに時空間分解能や座標系が異なり,そのままでは相互に比較すること
38
はできない.このために,時空間の分解能や座標系を変換し,データ間の時空間軸を整合させる機能が
必要とされる.データ検索・解析システムにおけるデータサーバは,最近隣値,線形補間値,最大値,最
小値,平均値によって再サンプリングする方法により,利用者が定義する新たな時間軸に既存データを
整合させるメソッドを提供する.また,既存のあるデータの時空間軸に他のデータを整合させるメソッドも
提供し,この場合には,最近隣法,線形補間法が適用可能である.これらの時空間軸変換・整合処理時
には,データが瞬時値のようにある 1 点の物理値ではなく,ある範囲における集約値である場合も自動的
に考慮される.例えば,3 時間毎の平均降水量に関して,0 時の値として 0~3 時までの降水量の平均値
が記載されているデータの場合,これを 1 時間毎のデータに変換する際には,単純に最近隣法を適用す
ると 2 時のデータは 3 時として記載されている値となるが,実際には 0 時に記載されている値をとらねばな
らない.データ検索・解析システムでは,変換元データのメタデータに従い,自動的に適切な値を選択す
る.クライアントより,時空間軸変換・整合メソッドが発行されると,データサーバは利用者領域に新たなデ
ータとして,時空間軸変換・整合を行ったデータを作成する.これにより、時間軸の異なる複数のデータの
相互比較を容易に行うことが可能となる。
演算・解析機能
データ検索・解析システムでは,複数のデー
タの相関係数,回帰係数を,メニューの係数
表示コマンドを選択することにより表示するこ
とができる,さらに,複数のデータを選択して
メニューから演算操作を選択することで,図4 のようなウインドウが表示され,利用者が四
則演算や算術関数によって構成される任意
の数式を入力することにより,直接提供され
ていない物理量の他の物理量からの導出,
比較対象となる 2 つの物理量の差分や比率
の計算など,様々な演算が可能である.演
算メソッドが実行されると,データサーバは指
定された演算を実行し,演算結果は利用者
領域に新たなデータとして作成される.図- 4
図- 4: 演算式入力ウインドウ
の例では,3 地点における降水量の加重平
均を求めている.
データ表示機能
データ検索・解析システムにおいては、複数のデータの比較、解析を容易に行うことを可能とするため、
複数データの単一グラフへの表示、複数データの散布図、回帰直線の表示、画像データの重ね合わせ
表示を可能とした。また、グラフ、画像データをスライドバーでアニメーション表示を行う際、複数グラフ、
画像間でスライドバーの同期を行うことが可能である。
データ検索・解析システムは、地球観測データ利用研究者に公開され、地球観測データの効率的検
索、対話的な解析、相互比較環境を提供している。
39
1.3 高次三次元可視化システムの開発
ユーザによる新しい知見の発見を支援することを目指し、3 次元データが一括管理されたデータ統合・
情報融合システム上に高価値な知的基盤を構築するため,3 次元データ可視化システムを開発した 3).
プラットフォーム
図- 5 に 3 次元データ可視化共通プラット
データ提供者、ユーザ
Web Browser / VRML Plug-in / Java
HTTP Server
フォームを示す.本可視化システムは,
3次元データ可視化エンジン
様々な 3 次元データに対して可視化が行え
メインスクリプト
るように,共通プラットフォームを構築した。
VRML作成部
・VRML合成スクリプト(時系列処理、重ね合わせ)
・VRML作成(1シーンの切り出しデータ)
・VRML基本パーツ作成(軸、凡例、タイトル、地表面図、標高)
データ提供
これにより、そのため,3 次元データのフォ
ーマット・仕様さえわかれば,どのデータに
対しても共通の可視化が行える.
まず,様々な 3 次元データを予めデータ
統合・情報融合システムにアーカイブし、メ
タデータ等をデータベースに登録する.3
画像処理部
・データ画像化スクリプト生成
3次元データ
(フォーマット:BSQ、
netCDF、GRIB)
メタデータ:
時空間範囲、
時空間解像度、
層数、変数情報等
幾何処理部
・任意曲面計算
登録
・データ画像化(GrADS)
・画像加工
・データリサンプリング
DBMS
投入
Storage Management System
図- 5: 3 次元データ可視化共通プラットフォーム
次元データ可視化におけるクライアント-
サーバ間の通信は HTTP に基づいている.3 次元データは容量が大きくクライアント側で可視化処理を行
うには負荷が高いので,サーバ側で処理を行う.Web を介したユーザの要求に対して,DBMS からデータ
を検索し,ストレージ管理システムからデータを引き出し,可視化処理を行い,VRML (Virtual Reality
Modeling Language)で記述された可視化処理済データを Web ブラウザに表示する.
3 次元データ可視化エンジンの内部では様々な処理がモジュール化されており,ユーザに柔軟な可視
化環境を提供する.また,モジュール化により様々なデータの可視化に対応できる.可視化エンジンは,
メインスクリプト部,VRML 作成部,画像処理部,幾何処理部で構成される.
可視化機能
システムにおいて 3 次元データのための 3 つの可視化機能を有する.いずれの機能も他の可視化ソフ
トにはないものである.
z
z
z
3
3 次元データのナイーブな表示
3 次元データからの任意断面の切り出しとその表示
任意断面と他の気象データとの重ね合わせ表示
次元データのナイーブな表示では,3 次元データの格子の値毎に色付きの球あるいは立方体を
VRML で記述し仮想空間内に表示する.データと位置の関係を分かり易くするために,3 次元データと地
形データを重ね合わせる.
3 次元データからの任意断面の切り出しとその表示では,ユーザが入力する曲面上の点の座標情報を
用いて連続した曲面を計算し,この曲面と 3 次元データを使って値の曲面への再配列を行い,面上の値
から色付けがなされ,曲面を VRML で記述し仮想空間内に表示する.
任意断面と他の気象データとの重ね合わせ表示では,上記のように任意曲面が計算され,風やジオポ
テンシャル高度等の格子状の 3 次元気象データから矢印や等値線図等が作成され,上記を VRML で重
ね合わせて記述し仮想空間内に表示する.
対象データ
例として取り扱ったデータは,Aqua 衛星の AIRS (Atmospheric Infrared Sounder)データ,NCEP
(National Centers for Environmental Prediction) / NCAR (National Center for Atmospheric Research)再
40
解析データ,JRA-25 (Japanese 25-year ReAnalysis)データ,ARPS(Advanced Regional Prediction System)
出力データである.
主な可視化例
可視化システムを構築し,様々な 3 次元データに適用し,データの可視化を行った.データ検索ペー
ジでは,対象期間,任意断面データの種類,任意断面を切り取るための断面上の点の緯度経度,重ね
合わせのためのデータの種類,その気圧層等を選択あるいはテキスト入力する.条件を入力し,実行ボタ
ンを押すと,上記の可視化処理が行われ,結果が Web ブラウザに表示される.
図- 6 は AIRS データを可視化した結果である.図- 6 (a)では AIRS データのナイーブな表示を実現した.
格子状のデータについて,水蒸気量を球の大きさ,気温を球の色で表現することにより,2 種類のプロダ
クトを同時に表示することができた.図- 6 (b)では AIRS データから切り出した水蒸気量の任意断面と
NCEP/NCAR 再解析データの重ね合わせ表示を実現した.NCEP/NCAR 再解析データについて,風を
矢印,ジオポテンシャル高度を等値線図で表現した.再解析データのような気象データの重ね合わせに
よって,当時の気象を参考にしながら観測データにおける現象を理解することが可能である.VRML によ
り,ユーザは仮想空間中の関心領域に接近し,任意の角度・距離からデータを確認できる.
図- 7 は JRA-25 データを可視化した結果である.図- 7 (a)は JRA-25 データの各変数を重ね合わせて
表示した.比湿は任意曲面,風は矢印,ジオポテンシャル高度は等値線図である.このように再解析デー
タの様々な変数を重ね合わせることができる.図- 7 (b)は AIRS データの水蒸気量の任意曲面と JRA-25
データの比湿のカラー陰影図とを重ね合わせた結果である.カラー陰影図は透過型画像とし,比湿の下
の地形が見えるように工夫した.また,ARPS 出力データについても上記と同様の可視化を実現すること
ができた.このように、多様なデータを一元的に可視化可能とする点が開発したシステムの大きな特徴の
一つと言える。
(a) AIRS の気温と水蒸気量の表示
(b) AIRS 水蒸気量の任意曲面と NCEP/NCAR 再解
析データ(風およびジオポテンシャル高度)の重ね
合わせ
図- 6: AIRS データの可視化結果
41
(a) JRA-25 データの表示
(b) AIRS 水蒸気量の任意曲面と JRA-25 比湿の重
ね合わせ
図- 7: JRA-25 データの可視化結果
実績
システムは,平成 17 年度に基本プラットフォームの開発および AIRS データ可視化機能の開発,平成
18 年度に AIRS データと JRA-25 データの統合表示機能の開発,H19 年度にプラットフォーム拡張・共通
プラットフォーム化および ARPS データ可視化機能の開発を行った.また,平成 17 年度よりシステムを逐
次公開し,ユーザのフィードバックによって機能拡張および改良を重ねた.
小池グルーブをはじめとする気象の研究者がシステムを利用し,チベット高原や 2004 年新潟・福井集
中豪雨における水蒸気流入解析で新しい知見が発見された.これにより,システムは 3 次元データを用い
た研究を促進するための効率的かつ有用なシステムであることが示された.
1.4 データ品質管理システムの開発
本研究では、取得された地球環境データの品質管理システムを構築し、実運用を行った上でさまざま
な機能高度化を進め、多様なデータへの対応を可能としたシステムの開発を行った。
まず、本システムにおける観測データの品質管理は図- 8 に示す流れで行った。各地の観測者によっ
て観測された生データは、アジアデータセンター側にFTPあるいは e-mail 等の手段で送られ、データクレ
ンジングツールと呼ばれるシステムに投入するための前処理が実施される。
図- 9: 観測データアップロードシステム
図- 8: データ品質管理の流れ
42
その処理が行われたデータはそのシステム上で観測者自身の目でチェックが行われ、統一フォーマット
に変換が行われた後にCEOPデータセンターに送られ一般公開に向けた作業が進められる。
本システムは研究開始当初から実データを投入し運用を行ったのであるが、その運用の過程において
浮上した様々な問題点や改善が必要であると思われる点が下記の通りである。
1.
データ投入における作業の省力化
2.
効率的なメタデータの管理
3.
データ検索時の操作性の向上
4.
データチェック時におけるデータ間比較機能の向上
以上 4 点に関し、その改善手法の検討を開発・実装した成果を以下に述べる。
まず、1点目のデータ投入の省力化に関しては、従来のシステムではアジアデータセンター側の担当
者が手作業で1ファイルずつ形式変換やメタデータの確認を行っていたため、データが提出された後に
品質チェックが開始されるまで膨大な時間が必要とされていた。そこで本システムでは、WEBベースのデ
ータアップロードシステムを開発し、さらに同時に一部のメタデータの入力支援機能も実装することで非常
に効率的なデータローディング支援システムのプロトタイプを作成した。
本システムでは、観測者がローカルに持つファイルを、そのデータフォーマットが持ついくつかの形式
情報(区切り文字や時間表記手法等)の入力とともにアップロードを行うことで、図- 9 に示すように各カラ
ムのデータがどの観測要素を示しているのか入力可能な画面が表示される。そこでその観測要素を指定
して行うことで、実際のデータを含めた確認画面の表示後、データクレンジングツールに格納可能な型式
に自動変換されデータベースに送られる仕組みになっている。
また、そこで入力された観測要素や時間情報に関するメタデータは、データ投入後にも利用が可能な
ようにデータベース化され、後述するメタデータ入力システムとの連携も可能な構造になっている。
この支援ツールの開発によって、データ投入作業の省力化・短期間化に加え、データをローディング
する際の人為ミスの減少、2 点目の問題となっていたメタデータ管理の効率向上等、さまざまな成果を挙
げることとなった。
また、3 点目のデータ検索時の操作性に関しては、従来の日時、観測要素、観測地点に関して多次元
的に検索可能なインターフェースをさらに改良し、データ階層の表示やその選択機能、タイムゾーンの指
定機能等を実装することで、観測者にとってより柔軟で効率的な操作性が可能となった。
4 点目のデータチェック時におけるデータ間比較機能の向上に関しては、従来の同一グラフ上に複数
データを重ね合わせて表示する機能を高度化し、各軸を指定値あるいは最大・最小値幅で正規化する
機能の実装を行った。図- 10 はその例を示したものであり、左の正規化されていないグラフに比べ右の正
規化されたグラフはデータ間の比較が一目瞭然であり、品質チェックを行う上で非常に有用であった。
43
図- 10: Y 軸を正規化した例-気温と気圧の比較-(左:正規化なし、右:最大・最小値で正規化)
また、従来から有していたQC済のデータダウンロード機能もさらに高度化させ、複数のデータを一括で
ダウンロード可能とすることでデータ間比較がクライアント側でも容易に実施することが可能となった。
以上、本研究においては、データ品質管理システムの構築と運用を行い、そこで得られた知見を元に
よりシステムの高度化を行うことで、さらに効率化した品質管理システムの提供を実現出来、観測データ
の取得から公開までの時間短縮や品質の向上等、多くの成果を上げるに至った。
1.5 メタデータ管理システムの設計、研究地上観測メタデータ登録支援システムの開発
図- 12: 地上観測データメタデータ構造
図- 11: メタデータ管理システム概要
地球観測データを解析,統合利用するために必要なメタデータ構造とメタデータ管理システムについて
長期間の運用に耐えるメタデータ管理手法を調査分析し,本プロジェクトにおけるメタデータ管理システ
ムを設計した.(図- 11)
異なった観測環境や観測機関からのデータを比較検討するためには,メタデータの内容や形式には一
貫性を持たせることが重要である.そのためメタデータ形式や内容を標準化する作業が行われている.課
44
題 2-1、2-2 のグループと協力しメタデータの標準化規格 ISO19115, ISO19139 を拡張する形式の XML
スキーマとして地上観測データに対するメタデータを定義した.
図- 12 は,われわれの観測データを管理する上で必要なメタデータ間の関係である.特に色付の部分
は長期的な管理においてメタデータの履歴を管理する上で重要な要素である.このメタデータ構造を管
理するために我々が必要とするメタデータ処理システムの機能を分類した.データ構造と必要な機能に
基づきメタデータ管理システムの設計を行い、XML で表現されているメタデータの格納方式、本システム
における実装すべきアーキテクチャを提案した.
さらにメタデータの入力作業は観測データの品質検査とリンクすることによって長期的に安定した運用
が可能となるため,その有効性を確認するために課題 3-5 のグループと共同で研究地上観測データとメ
タデータの登録支援システムのプロトタイプを開発した.その過程においてメタデータ登録支援システムと
データ品質管理システムとの連携を実現するなど、当初目標以上の成果を得ることができた。
加えて地球観測データに関するメタデータを記述する語彙としてオントロジーを利用したモデルを調査
し,オントロジーとして米国 NASA にて地球環境変動マスターディレクトリ(GCMD)をもとに作られ、すでに
いくつかの地球科学プロジェクトでの利用実績がある SWEET(Semantic Web for Earth and Environmental
Terminology)を利用,拡張する形で統合検索フレームワークを構築した.オントロジを利用しメタデータ管
理システムの中核となるメタデータデータベースのスキーマを設計することにより,データの統合利用可能
性の判断を半自動的に行うとともに,オントロジの拡張により多様な観測データに柔軟に対応可能な枠組
みを構築した.また,課題 2-3 のグループと協力し、MetBroker が収集しているデータのメタデータを用い
てデータ取得可能性やデータの統合可能性などを考慮した検索インタフェースを実装し,統合検索フレ
ームワークのプロトタイプを構築し,我々が開発しているメタデータモデルの有用性を検証した。
2. データ同化システムの構築
(分担研究者名:小池 俊雄、 所属機関名:東京大学)
2.1 はじめに
本研究課題の目的は、本サブテーマ「大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発」の一環
として、多様な地上観測データ、超大容量の衛星観測データ、数値気象予測数値モデル出力を用いて、
衛星観測原理である放射伝達モデルと大気-陸域間のエネルギー・水循環物理プロセスを記述する数
値水循環モデルを組み合わせることによって、観測データの空間的、時間的な代表性の限界を補い、物
理的に整合性のある全地球規模からローカルな規模のデータ同化システムを開発することにある。
当課題分担研究者は、これまで科学技術振興調整費(先導的研究等の推進)「地球水循環インフォマ
ティクスの確立」(平成 15-17 年度)や戦略的創造研究推進事業(CERST)「水の循環系モデリングと利用シ
ステム」研究領域における研究課題「水循環系の物理的ダウンスケーリング手法の開発」(平成 15-20 年
度)を通して、マイクロ波帯での放射伝達モデル、水循環モデル、データ同化手法の開発などに取り組ん
できた。図- 13 はこれまでの成果をまとめたものである。これらの各要素をそれぞれ高度化することに加え、
個々に開発された各要素を相互に結合させるとともに、大規模データアーカイブ・ストレージシステム上の
地球水循環統合データセットを入力として用いたり、システムの出力の検証として利用できるようシステム
化を進めることは、水循環変動の理解の向上のみならず、洪水被害の軽減、水資源管理や農業などへの
情報提供など、公共的利益への貢献も大きい。
45
図- 13: データ同化システム化のための各要素
そこで本研究では、上記要素の中で積雪のマイクロ波放射伝達モデルの高度化を図るとともに(図- 14
のピンク部分)、2つのシステム開発研究を行った。第一は、陸面でのマイクロ波放射伝達モデル、陸面ス
キームとを組み合わせた陸面データ同化手法とメソスケール数値気象予測モデルとを組み合わせ、地球
水循環統合データセット用いて降雨予測システムを開発することであり、図- 14 の赤で示される要素の結
合である。第二は、大気のマイクロ波放射伝達モデル、雲微物理スキームとを組み合わせた雲微物理デ
ータ同化手法による大気初期値を用いたメソスケール数値気象予測モデルによる降雨予測システムを開
発することであり、図- 14 の青で示される要素の結合である。
なお、本システムで用いる地球水循環統合データセットについては、サブテーマ2「相互利用性・情報
サービス機能の開発研究」によるメタデータ整備の支援を得つつ、サブテーマ3「地球観測データの収
集・品質管理に関する技術の開発研究」で品質チェック、フォーマット変換、アーカイブし、また本システ
ムを用いた洪水管理への利用のためのシステム開発については、サブテーマ4「高度情報適用技術の開
発研究」において、洪水流出予測ならびに河川管理の最適化の要素と結合し、公共的利益に貢献する
システムの開発を行っている。このように本研究課題は、本研究全体のサブテーマ間をつなぐ鍵となるシ
ステムの開発研究である。
46
図- 14: 本研究課題でのターゲット
2.2 積雪のマイクロ波放射伝達モデルの高度化 9),11),14)
西東京市にある東京大学農場にて、地上マイクロ波放射計のフットプリントをカバーする人的操作可能
な土壌水分、土壌粒径、表面粗度を対象に均質砂を用いて標準観測面を作成し、複数の深度において
その体積散乱の影響を観測し、それらの応答特性を把握することにより、砂層内のマイクロ波放射伝達モ
デルを開発し、検証した。このモデルを用いて、積雪のマイクロ波放射伝達過程を、理想状態に管理され
た砂に置き換え把握することに方針を変えることで、積雪層内のマイクロ波放射伝達過程に対してモデル
の高度化をおこない、積雪観測データを用いて検証した。
衛星搭載センサ(AMSR/AMSR-E)と同様の性能を持つ地上設置型マイクロ波放射計(GBMR)を東京
大学農場(西東京市)の実験圃場に設置して、砂層を対象として、その厚さや含水量、砂層の下層境界条
件を変化させて観測実験を実施した。土壌水分と地温は6本のTDRと10本の白金センサを用いて、鉛直、
空間分布を計測し、地表面温度は赤外温度計を用いて計測した。なお、実験時には土壌のサンプリング
を行い、土壌水分土壌密度を計測した。また、地表面粗度の影響を詳しく調べるために、規則的な矩形
断面を有する粗度造形器を製作し、放射計の観測方向に対して垂直もしくは平行になるように砂層表面
に凹凸の縞模様を造形し、そのサイズを変化させて観測実験を実施した。
一方、北海道大学低温科学研究所圃場にて、積雪深、積雪粒径、積雪層位、積雪密度、雪質、積雪
等価水量、雪温などの積雪パラメータとともに、 土壌密度、土壌温度、土壌水分などの土壌物理量と、マ
イクロ波放射輝度温度を計測したデータを検証に用いた。
47
図- 15: 西東京市での実験風景
図- 16: 札幌市での実験風景
まず、砂層を均一な媒体と仮定して4ストリーム放射伝達モデルを適用し、表面散乱には AIEM を、土
壌粒子の体積散乱の計算には稠密媒体の放射伝達モデルを用いた。また、観測角によって生じる陰が
引き起こす地表面反射率の低下(Shadowing 効果)を地表面粗度と関連付けて表面散乱モデルに取り入
れた。砂層内での体積散乱の効果をモデルがどの程度表しているかを検証するために、乾燥条件下で、
下層境界条件として輝度温度の低い鉄板を用いたデータと比較したところ、モデルの妥当性が示された。
これを札幌市での観測結果に適用したところ、気温・雪面温度共に 0℃以下の条件や、朝・夕の気温変
化の影響を受け易い浅い積雪では、乾雪の状態が保持されているため、本放射伝達モデルを元に開発
したアルゴリズムにおいて、図- 17 に示すように比較的整合性の良い結果が得られた。
120
推 定 値 (cm)
100
80
60
Feb.02 12:42
Feb.02 11:51
40
Feb.01 13:48
Feb.01 14:59
Feb.01 16:29
Dec.09
Dec.09
Dec.09
Dec.09
20
10:37
10:55
09:50
15:03
Dec.08 17:54
0
0
20
40
60
80
100
120
観 測 値 (cm)
図- 17: 積雪深推定結果(放射伝達モデルの検証
2.3 陸面データ同化を用いた降水予測システムの開発 10),13),15),16),18)
まず、一次元の陸面スキーム、放射伝達モデル、最適化手法を組み合わせた陸面データ同化システ
ムを領域、メソスケールの大気-陸面相互作用を記述できるメソスケール数値気象予測モデルに組み込
んだ。陸面スキームとしては汎用性が高く、世界の多くの数値予報モデルで利用されている SiB2 を、放射
48
伝達モデルは土壌の鉛直プロファイルを考慮できるモデルを用いている。また乾燥した土壌に対しては、
土壌中の体積散乱を考慮できるモデルとなっている。一方、最適化手法としては、誤差関数の非線形性
や連続条件にとらわれずに最小化できるシ simulated annealing 法(焼きなまし法)を用いている。
このシステムに全球大循環モデル(GCM)の出力を通常のネスティング手法で挿入し、衛星観測データ
で同化させることによって陸面状態の最適な初期を推定して1日分予測し、その結果を陸面の初期値とし
て用い、さらに大気側は(GCM)の出力をネスティングして翌日の衛星データを用いて同化-解析サイク
ル計算を行うという手法を開発した。
本研究では、熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載されているマイクロ波放射計(TMI)を用いて、
1998 年に実施された集中観測研究 GAME の再解析結果を GCM 出力として用いて、まず湿潤期およ
び観測期のチベット高原にて2次元的に適用して、同化-解析サイクルを組み込まない結果と比較
した。その結果、湿潤期では同化-解析サイクルを組み込んだ方では陸面が現実と類似して、湿潤
かつ不均一な土壌水分分布が保たれるため、活発な対流がより頻繁に発生し、全体的により現実
に近い結果が得られた。また乾燥期における違いは湿潤期ほど大きくないことが分かった。次に
湿潤期において3次元の数値計算を行い、地形効果と土壌水分分布がそれぞれ局所対流に与える
影響を同時にしかも相対的に比較し、地形に加え土壌水分分布が局所対流およびそれに伴う降水
分布に大きな影響を与えていることが明らかになった。
図- 18: 降水の日周変化(左列:午後、中列:夕-夜、右列:夜中-朝)の観測結果(上段:地上レーダ)
と予測結果(中段:本システムを利用、下段:陸面データ同化を含まない)16)
49
図- 18 は、地上観測レーダデータを用いた降水予測システムの検証結果で、陸面データ同化を組み
込まない場合は降水の日周変化はほとんど見られないが、本システムは観測された降水の日周変化特
性とよく一致する予測降水パターンの予測に成功している。
2.3 雲微物理データ同化を用いた降水予測システムの開発 12),17)
暖かな雲のための効率的な 1 次元変分法による雲微物理同化システム(W-CMDAS)と冷たい雲のた
めの 1 次元変分法による氷晶プロセスを含んだ雲微物理過程の同化システム(I-CMDAS)を開発し、てい
る。これらのシステムでは、積算雲水量と積算水蒸気量を同化パラメータとして考慮し、それぞれ、ケスラ
ーによる暖かなスキームとリンによる雲氷微物理過程モデルとをモデル操作子(Model Operator)としてい
る。
これらふたつのデータ同化システムは共に大気中での4ストリームマイクロ波放射伝達モデルと Shuffled
Complex Evolution(SCE)という発見的な誤差最小化手法を組み込んでいる。計算量が大きくなることによ
る負荷を下げる目的で、雲微物理過程以外の外部の力学的な環境についての同化は現段階では含ま
れていない。
W-CMDAS および I-CMDAS の二つのシステムは、冬の日本海沿岸域に適用され、人工衛星 Aqua 搭
載のマイクロ波放射計 AMSR-E によって観測された 89GHz 水平偏波と 23。0GHz 水平偏波の輝度温度
を用いて、雲の空間分布の算定可能性を示した。これは同じ衛星に搭載されている可視赤外センサであ
る MODIS による雲頂画像による雲の構造とも良い対応がみられた。ふたつのシステムは、全体の場を記
述している全球解析データに不均一性を入れ込むことによって、雲微物理の性能を大いに向上させ、結
果として大気に関する初期値を改善した。また I-CMDAS は全てのタイプの大気水象を考慮することが可
能なため、W-CMDAS と比較して良い結果を得るということも結論付けられた。図- 19、図- 20 は、それぞ
れ I-CMDAS の雲水の予測結果と MODIS による雲頂温度図であり、両者がよく一致していることが示され
ている。
図- 19: I-CMDAS による積算雲水量分布
図- 20: MODIS による雲頂温度分布
50
図- 21: ベトナムでの豪雨予測事例(左:衛星赤外データ、右:本システムによる降水予測結果)
本システムを 2004 年 11 月のベトナム洪水事例に適用したところ、雲微物理データ同化を含まない降雨
予測は、散在した積雲対流による降雨の予測となっているのに対して、本システムの結果は衛星赤外デ
ータが示す組織化された雲システムに対応する豪雨の3時間予測に成功している。
2.4 まとめ
本研究では、マイクロ波帯での放射伝達モデル、水循環モデル、データ同化手法の高度化と、これら
の要素を相互に結合させるとともに、大規模データアーカイブ・ストレージシステム上の地球水循環統合
データセットを入力として用い、システムの出力の検証として利用できるシステムの開発研究を進めた。
具体的には、下記の3点である。
1) 積雪のマイクロ波放射伝達モデルの高度化
2) 陸面でのマイクロ波放射伝達モデル、陸面スキームとを組み合わせた陸面データ同化手法とメソスケ
ール数値気象予測モデルとを組み合わせ、地球水循環統合データセット用いて降雨予測システムの
開発
3) 大気のマイクロ波放射伝達モデル、雲微物理スキームとを組み合わせた雲微物理データ同化手法
による大気初期値を用いたメソスケール数値気象予測モデルによる降雨予測システムの開発
上記のように、本研究は当初目標を達成するとともに、わが国のみならず、ベトナムへの洪水事例への
適用にもいたっており、当初の目標を上回る成果を得ている。これらの成果は、アジアの各国においても
本システムの利用の可能性を示唆しており、アジアモンスーン域の水循環変動の理解の向上および、同
地域での洪水被害の軽減、水資源管理や農業などへの情報提供など、大きな国際貢献が期待される。
3. 高度可視化・マイニングシステムの構築
4)~7)
(分担研究者名:生駒 栄司、 所属機関名:東京大学)
・背景と目的:
地球観測データの解析に関しては、従来、仮説を立て、その後に検証を行う所謂仮説検証的なアプロー
チが取られてきた。しかし、近年の観測技術の発展によるデータ量の爆発的な増加や解析手法の多様化
51
によって、既存の手法ではその解析が十分に尽くされないのが現状である。
また、昨今のコンピュータ技術の発展により、膨大なデータを高速で処理するシステムや、巨大な表示装
置で従来では表示不可能であった様々なデータの視覚化が可能となりつつある。そこで本研究では、大
規模データベースと連携したデータマイニング技術に加え、研究分担者である東京大学生産技術研究
所 喜連川教授の研究室に既設の超大型ディスプレイウォール上における高次ビジュアリゼーションを行
うことにより、視覚的な側面からの解析を実現する手法の研究を行うこととした。
また、これらを用いて従来には無い地球水循環変動解明と予測に関する最新鋭のマイニング支援システ
ムを開発し、デジタルウォール上での統合環境の構築を目標とした。
・成果の概要:
3.1 地球環境データを対象としたマイニングツールの開発
気象学の分野において統計解析的な手法で現象間の関連抽出が行われてきた例はあるが、本研究
で想定するような地球環境に関する大容量データを対象とする場合、上述のような汎用ソフトウェアで処
理するのは非常に困難である。また、本研究で対象としているデータは、単純な 2 データの相関計算にと
どまらず、時間・空間・変量を超えた相関性を持つ可能性があるため、柔軟な条件指定で大容量データ
を扱った解析を実現するツールが必要である。
そこで本研究では、大規模データアーカイブシステムと連携し、時間・空間・変量に加え時間解像度や
空間解像度などを柔軟に指定して相関解析が可能なツールを開発した。
本ツールでは、現象は常に同時に起こるとは限らず,数日の遅れをともなって発現する場合がある(時
間ラグ)ことを想定し、時間に差を与えたデータ間で解析を行うラグ相関解析の機能も実装している。
本手法では、図22 に 示 す よ う に ま ず
計算元となる元デー
タの一定領域の時系
列領域平均を計算す
る。そして、その時系
列データと、別のデー
タの全球全点の同期
間時系列データとの
相関計算を行い、そ
の結果の相関係数値
を導出する。続いて、
図- 22: 地球環境データを対象としたデータマイニング処理手法
対象側のデータの時
系列情報を前後等に
ずらすことで、上述したラグ相関解析処理を行い、同様に相関係数値を導出する。さらに、対象データの
種類を変えることで、別のデータとの計算も行うことが可能となっている。
52
また、本ツール
マイニング処理実行時間
はそれぞれの計算
を複数のCPUを
4500
用いて並列的に実
4000
行することによって、
3500
地球環境データの
3000
実行時間(sec)
ような非常に膨大
な座標間のデータ
計算を短時間で行
データ3,ラグ3
データ3,ラグ5
データ3,ラグ9
データ6,ラグ3
データ6,ラグ5
データ6,ラグ9
2500
2000
1500
うことが出来る機能
1000
も実装した。その
結果が図- 23であ
500
る。横軸が計算処
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
CPU数(個)
理に用いたCPU
数、縦軸に実行時
間を示しており、対
図- 23: CPU数を増加させた際の対象データ数・ラグ数ごとの実行時間の推移
象とするデータの
種類数および時間ラグの数を変化させた場合を測定したところ、特に4CPUまでは用いるCPU数の増加
によってその処理時間は非常に短縮されるという結果が得られ、本ツールの有効性が示された。
3.2 データマイニングツールを利用するためのユーザフレンドリなインターフェースの開発
上述したデータマイニングツールは、本研究で対象としている地球環境データを必要とする研究者、す
なわち情報工学関連の研究者のように計算機に利用に習熟したユーザが使うとは限らないため、ユーザ
フレンドリなインターフェースが求められる。そこで本研究では、図- 24に示すような汎用性が高く、その操
作方法が広く周知されているWebベースのインターフェースを開発した。
本インターフェースでは、基準となるデータ、相関係数を求める対象となるデータの選択、相関を求め
る期間の指定、規準となる領域の指定、ラグの指定、データ処理が終了次第電子メールによる通知機能
を利用するかどうかの指定、表示する相関係数の閾値の指定をマウスおよびキーボードから行う。その指
定・入力後実行すると、入力されたパラメータがCGIを経由してマイニングツールに渡され、適切なCPU
数での計算処理が行われた後、その結果がそのインターフェース上でビジュアライズして表示される(図24)。
本インターフェースを開発したことで、ユーザはUNIX等高度なOSの知識を全く必要とせず、ユーザ
側の利用環境にインターネットに接続されたWebブラウザさえあれば容易に本マイニングツールを利用す
ることが可能となった。
本インターフェースは研究分担者である東京大学小池グループの実研究に利用され、当該分野の専
門家からも高い評価を受けた。
53
図- 24: WEB ベースのデータマイニングツールインターフェース
3.3 高解像度デジタルウォール上における大規模データビジュアリゼーションシステムの開発.
本研究で対象とした地球環境データ画像は、そのデータ数の多さや解像度の高さ故に、一般的な視
覚化ツールあるいは視覚化デバイスを用いることは不可能、あるいは非常に困難である。
しかし、地球環境データに関する研究を行う際には、高解像度視覚化装置を用いることで大きく2つの
利点が考えられる。1つには、超高解像度の画像(1 画像に非常に多くの画素を含む画像)を一度に視覚
化し確認することで、視点の平面的・垂直的移動が容易になり、従来の手法では発見が困難であった離
れた場所間の相関性の把握やマルチスケールな視点での情報の把握が実現される。もう1つには、同時
に数多くの画像を閲覧することで、その差分の把握が容易に行うことが出来、多次元的な変化量の把握
が容易になることである。
そこで、本研究課題の分担者である喜連川グループと連携し、高解像度デジタルウォール上における
大規模ビジュアリゼーションシステムの開発を行った。
地球環境データは表示対象となる地域が限られ、その時間的変化や観測項目の変化など、非常に類
似した(画像間の差あるいは画像内でのピクセル間の差が小さい)情報が連続する特徴を有している。本
システムの視覚化ツールではその点を考慮し、時間的・空間的に並列して差分計算を行った結果を用い
てデータ転送量を抑えることで、ピクセル数が多い画像や画像数が多い画像のビジュアリゼーションを高
速に実現した。
本研究の実験では、超高解像度の気象衛星画像の視覚化等を当該研究者と協力して行ったところ、
雲や台風の大局的な移動と局所的な移動の相関性を検討するに至るケースや、局所的な事象を誘引す
54
る大局的な事象に関する検討を行うケースがあった。
また、多年に渡る週単位の時系列データを縦方向に観測年、横方向に各年の週単位データを配置し
視覚化したところ(図- 25)、週単位ごとの差分のみならず各年の間の変化量の差異に関しても注目が集
まり、新たな研究の方向性を検討するに至ったケースもあった。
図- 25: ディスプレイウォール上で多数の時系列データを視覚化した例
3.4 地球環境データを対象としたマイニングシステムを高解像度デジタルウォール上で利用が可能な統
合環境の構築
本研究で開発したデータマイニングツール、インターフェース、ビジュアリゼーションツールを
デジタルウォール上で結合し、ユーザが平易な操作で高度なマイニング処理を簡単に実行が可能で、そ
の結果をデジタルウォール上で高速かつ効率的に確認することが可能な統合環境の構築を行った。
その構成は図- 26 のようになっている。データマイニング処理を行う対象となるデータは、データローデ
ィングツールによって喜連川グループに設置されている超大規模アーカイブシステムに蓄積される。ディ
スプレイウォールに表示された Web ブラウザを前に、ユーザはインターフェースシステムを通してデータマ
イニング処理部に処理要求を送る。データマイニングシステムは必要なデータをデータアーカイブシステ
ムから取得し、マイニング処理を実施した後、出力結果を視覚化処理部に送る。視覚化処理部はディス
プレイウォールの持つ高解像度表示に対応した効率的な処理を行い、Web ブラウザ経由でユーザに結
果を示す。
55
図- 26: 統合されたデータマイニングシステム構成図
この統合環境は本研究の集大成とも言える成果であり、研究分担者の小池グループを始め当該分野
の専門家がこの環境を利用して多くの新たな知見の創出に至った。
4. 大規模データ収集・発信のための高次ネットワーク基盤の構築
(分担研究者名:中山 雅哉、 所属機関名:東京大学)
本サブテーマでは、広域に分散した場所で観測される地球観測データの統合処理を行うために、ネッ
トワーク基盤を介して効率的に収集するための「ネットワークを介した大規模データ収集機構の研究」と、
統合処理された融合情報を各種の利用者が効果的に活用するための「ネットワークを介した大規模デー
タ発信機構の研究」を行った。
4.1. ネットワークを介した大規模データ収集機構の研究
地球観測データは日本国内だけでなく世界各地で観測されることになり、それらの観測データを統合
処理するためにはネットワーク基盤を介して収集する必要がある。しかし、各観測地点や中間経路のネッ
トワーク環境は大きく異なるため、観測データをリアルタイムで統合化システムに集約するためには、中間
経路を通じて利用できるネットワーク帯域やデータ転送に要する遅延時間などのネットワーク環境の違い
を考慮した高次ネットワーク基盤の構築が必要となる。本研究では、観測データの収集網における高次ネ
ットワーク基盤で必要となる機能に関して検討を行い、プロトタイプシステムを実装して広域ネットワーク上
で実証実験を行った。
最近では、インターネットが世界中で利用可能なネットワーク基盤として広く利用されており、遠隔ホスト
56
間でのファイル転送には、ftp や scp などの TCP プロトコルをトランスポート層に用いた応用プログラムが
主として用いられている。しかし、TCP プロトコルには、パケットの到着確認 (ACK) 制御に伴う帯域遅延
積の法則(制約)があり、データ転送を行うホスト間の転送スループットの上限 (Th Mbps) は、受信側ホス
トの Window Size (w kB)とホスト間の往復遅延時間 RTT (r ms)、ならびにホスト間の最小リンク間帯域 (z
Mbps) を用いて以下の(4-1-1) 式で近似されることが知られている。
Th = min(z, 8 * w / r)
(4-1-1)
従来の研究では、(1)データ転送を行うホスト同士で複数の TCP コネクションを確立して相対的に転送
スループットを向上させる方法や (2) 受信側ホストの Window Size をデータ転送に適した大きさに設定
して転送スループットの上限を向上させる方法などが検討されてきた。
しかし、(1) の方法では、複数の異なるデータ転送が同時に実行されると、各々のデータ転送の干渉に
より最少リンク間帯域を超えた通信要求が出ることがあり、かえってスループットが低下する場合が生じる
問題がある。また、(2) の方法では、通常はデータ転送を行うホスト同士が予め定まっていないため、デー
タ転送要求に応じてホスト間の RTT 値が変化するため、受信側ホストの Window Size の適正値を事前
に定められないという問題がある。
そこで本研究では、図- 27 に示す様に送信ホスト(S)と受信ホスト(D)の間で行われるデータ転送を
RTT 値が小さくなる中継ホスト(R)を仲介してデータ転送を行うことで全体のデータ転送スループットを向
上させる方式について検討を行った。
図- 27: 分割データ転送手法の概要
図- 27 に示すホスト S と ホスト R の間の RTT (RTTsr) および ホスト R と ホスト D の間の RTT
(RTTrd) が、ホスト S と ホスト D の間の RTT (RTTsd) よりも小さくなる中継ホスト R が存在し、その中
継オーバーヘッドが十分に小さければ、中継ホスト R を介したデータ転送のスループットは max(RTTsr,
RTTrd) (< RTTsd) を用いて (4-1-1) 式で算出され、直接ホスト S からホスト D にデータ転送した場合よ
りスループットが向上することになる。特に RTTsr = RTTrd = RTTsd/2 であれば約 2 倍のスループット
が得られる計算になる。
提案方式の有効性を検証するために、JGN2 ネットワーク上で RTT 値が 約 10ms、20ms、40ms とな
る様に国内拠点間をループさせた VLAN を各々 2 セットずつ用意し、3 台の PlanetLab 環境の計算機
を用いて RTT 値を 10ms~80ms と変化させた時のスループットを評価した(図- 28)。
57
図- 28: JGN2 ネットワークを用いたスループット特性の評価
この評価結果から、中継ホストを介したデータ転送のオーバーヘッドは十分に小さく、理想的なネットワ
ーク環境では RTTsr = RTTrd = RTTsd/2 となる中継ホストを選択できれば、スループットを約 2 倍にする
ことができることが明らかとなった。
中継ホストの選択手法には、送信ホスト S と受信ホスト R から ping コマンドを用いて直接 RTT 値を
測定して中継ホストを選定する手法と送信ホスト S から traceroute コマンドを用いて適切な中継ホストの
絞り込みと選定を行う手法について検討を行った。
中継ホストの選択手法について、実際のインターネット上に配置された PlanetLab 環境を用いて比較
した結果、ping コマンドを用いて中継ホストを選定方式の方が選定に要するオーバーヘッドも低くスルー
プット向上に寄与する効果が高いことが明らかとなった。
図- 29 は、欧州と米国に置かれた 50 ノードの PlanetLab 環境のうち、送信ホストを 8 ホスト、受信ホス
トを 7 ホスト選定し、それぞれで 10 回ずつ直接データ転送を行った場合と中継ホストを用いてデータ転
送を行った場合のスループットの変化を示した結果である。また、図- 30 は、アジアと米国に置かれた 45
ノードの PlanetLab 環境のうち、送信ホストを 4 ホスト、受信ホストを 4 ホスト選定し、同様に 10 回ずつ直
接データ転送を行った場合と中継ホストを用いてデータ転送を行った場合のスループットの変化を示した
結果である。
図- 29: 欧州と米国の PlanetLab ノード(50 ホスト)を用いた実験
58
図- 30: アジアと米国の PlaneLab ノード(45 ホスト)を用いた実験
図- 29 に示した欧州と米国の PlanetLab ノードを用いたデータ転送実験では、平均で 20% のスルー
プット向上が得られた。また、図- 30 に示したアジアと米国の PlanetLab ノードを用いたデータ転送実験
では、平均で 68% のスループット向上が得られた。
両実験結果から、世界各地で観測される地球観測データを統合処理するための観測データ収集網では、
各地に配置された中継ノードをうまく選定する高次ネットワーク基盤を用いることで高いスループットでの
データ転送を実現することが可能となることを示すことができた。
4.2. ネットワークを介した大規模データ発信機構の研究
世界各地で観測された地球観測データは、観測データ収集網で統合処理システムに集約され、各利
用者のニーズに合わせた融合情報処理が行われた後、再度、各地の利用者のもとにネットワークを介し
て配信されることになる。この際、統合化された情報が単一の情報発信システムから提供されると、インタ
ーネットを介して多数の利用者からのアクセスが一極に集中することになり、情報発信システム近くのネッ
トワークに輻輳が生じるなどの問題が生じることになる。そこで本研究では、情報発信システムを複数箇所
で連携して動作させた分散データ提供機構の仕組みに関して検討し、広域に分散した利用者からのアク
セス集中を回避するネットワーク制御方式の実証実験を行った。
地球観測データには、世界各地で観測された洪水観測データや海洋観測データなどの環境データに
加え、地球観測衛星による観測データなども含まれるが、データの特徴として一度観測(生成)された情
報は更新されることがないことが挙げられる。このため、複数の地球環境データを用いて利用者のニーズ
に沿って生成される融合情報も更新を必要としない。そこで、複数の利用者から望まれる統合化情報に
関しては、最初の利用者からの要求に基づいて生成した融合情報を再利用する様に情報発信システム
を構築することが可能となる。
利用者からの要求に応じて効果的に情報発信を行うためには、利用者ノードの近くに配置された情報
発信システムが利用される様にアクセス制御を行う必要がある。従来の研究では、(1) 融合情報の提供を
行う情報発信システムに同一の IP アドレスを付与し(Anycast Address)、利用者から最も近い経路にある
情報発信システムが利用できるように制御する方法や (2) 利用者からの情報発信システムの IP アドレス
59
問合せに対して、利用者の IP アドレスに応じた最寄りの情報発信システムを応答する DNS を用いる方法
などが検討されてきた。
しかし、(1) の方法は、世界各地に設置する情報発信システムが同一の IP アドレスでアクセスできるよう
に各 ISP と経路制御調整を行う必要がある。また、(2) の方法では、情報発信システムが設置された ISP
から他のネットワークへの経路情報を把握している必要がある。即ち、両方法とも誰もが容易に実施できる
手法ではなく ISP との連携が不可欠な方式である。
そこで本研究では、利用者からの要求は、融合情報処理が行われる統合処理システムが一旦受け付
け、利用者ノードの IP アドレスと要求された融合情報に基づいて決められる情報発信システムを指定する
方式について検討を行った。この方式では、利用者ノードから最寄りの情報発信システムを ISP との連携
を行わないでも動的に選定することが可能となり、ある要求条件に沿った融合情報が局所的に再利用さ
れるほど効率的に情報発信を行うことができる。
図- 31 は、統合処理システム(o) に対して 4 つの利用者ノード(u1, u2, u3, u4) から同一の融合情報に
対する要求があった時に、2 つの情報発信システム(c1, c2) を介して利用者ノードに情報発信が行われ
る手順(1)~(14)を概説したものである。
図- 31: 提案データ発信機構の概要
(1) 利用者ノード1(u1) から統合処理システム (o) にある要件の融合情報を要求する
(2) 統合処理システム (o) から利用者ノード 1 (u1) に情報発信システム 1 (c1) を介して情報発信する
ことが通知される
(3) 統合処理システム (o) から情報発信システム 1 (c1) に融合情報が転送される
(4) 情報発信システム 1 (c1) から利用者ノード 1 (u1) に融合情報が転送される
(5) 利用者ノード 2 (u2) から統合処理システム (o) に (1) と同じ融合情報を要求する
(6) 統合処理システム (o) から利用者ノード 2 (u2) に情報発信システム 2 (c2) を介して情報発信する
ことが通知される
(7) 統合処理システム (o) から情報発信システム 2 (c2) に融合情報が転送される
(8) 情報発信システム 2 (c2) から利用者ノード 2 (u2) に融合情報が転送される
(9) 利用者ノード 3 (u3) から統合処理システム (o) に (1) と同じ融合情報を要求する
(10) 統合処理システム (o) から利用者ノード 3 (u3) に情報発信システム 1 (c1) を介して情報発信する
ことが通知される
60
(11) 情報発信システム 1 (c1) から利用者ノード 3 (u3) に融合情報が転送される
(12) 利用者ノード 4 (u4) から統合処理システム (o) に (1) と同じ融合情報を要求する
(13) 統合処理システム (o) から利用者ノード 4 (u4) に情報発信システム 2 (c2) を介して情報発信する
ことが通知される
(14) 情報発信システム 2 (c2) から利用者ノード 4 (u4) に融合情報が転送される
この提案手法のプロトタイプを実装し、同一の融合情報を複数の情報発信システムを用いて多数の利用
者に対して提供する実証実験を行った。
4.3 考察・今後の発展等
「大規模データ収集・発信のための高次ネットワーク基盤の構築」では、世界各地で観測される地球観
測データを効率的に収集するために、TCP コネクションを中継ノードを用いて分割することでデータ転送
のスループットを向上させる方式を提案し、プロトタイプを用いた実証実験結果からその有効性を明らか
にした。また、統合処理システムで利用者の要求に合わせて生成された融合情報を複数の利用者で共
有する際の効果的な情報発信機構の提案を行い、プロトタイプを用いた実証実験を行った。
今後、情報発信機構に関しても PlanetLab などの広域実験環境でも実証実験を行い、その有効性を検
証する予定である。
61
5. アクティブデータベース型センサーデータ格納融合基盤の構築 19),20)
(分担研究者名:二宮 正士、 所属機関名:(独)農業・食品産業技術総合研究機構)
センサネットワークを用いて地球上の環境データを高密度かつ大量に収集し,既存の地球観測データ
と統合的に利用することができれば,地球温暖化等気候変動の解析,地球シミュレータ等数値計算モデ
ルによるシミュレーションのための初期値データ,あるいは衛星リモートセンシングで必要となるグランドト
ゥルースデータとして活用でき,地球環境研究を飛躍的に加速することができる。従来の観測技術で得ら
れる地球環境データは,あらかじめ決められたスケジュールでデータが収集されているが,センサネットワ
ークではユーザやアプリケーションの要求に応じてデータの収集頻度や処理内容を動的に変更すること
ができるため,研究の進捗や利用ニーズの変化に柔軟に対応することができる。ただし,センサネットワー
クによるデータの収集量は通信回線の容量や通信のコンディションによって変動し,通信回線が不安定
な地域においてはデータ収集が突然停止する場合もあり得る。
一方,アプリケーション側から見ると,ユーザやアプリケーション開発者がセンサネットワークのハードウ
ェア機能の詳細や運用方式の違い等に関わることなく,アプリケーションの実行に必要なデータをリクエス
トするとそのデータを返してくれるブラックボックス的なデータベースすなわちアクティブデータベースであ
ることが望ましい。
本研究では,センサネットワークをそのようなアクティブデータベースとして利用するための基盤技術を
開発した。即ち,フィールドサーバをセンサノードとするセンサネットワークをテストベッドとして構築し,本
研究で開発された高機能なエージェントによってセンサネットワークの機能(フィールドサーバの動作制御
及びデータ収集の仕方)をユーザのリクエストに応じて動的に変更できるようにした。さらに複数のエージ
ェントの動作をメタレベルで制御し,スケーラビリティとロバスト性を備えたアクティブデータベースとして機
能するようにした。
5.1 汎用性の高いセンサネットワークシステムを実現する Web センサノードの開発
従来のワイヤレス・センサネットワークは Zigbee 等小電力通信による無線通信が可能な範囲で構築され
る小規模なものがほとんどであるが,本研究では無線 LAN 及びインターネットによる広域通信とエージェ
ントによるセンサノードからのデータ収集及びセンサノードの制御を組み合わせて世界全体をカバーでき
るセンサネットワーク技術を開発し,テストベッドを構築してその検証を行った。テストベッドでは,世界各
地のセンサノードの機能を日本にあるエージェントが自律的に操作し,センサネットワークによる観測機能
を長期間維持する。
計測用 Web サーバ(多チャンネルのセンサデータを Web 上で表示する),ネットワークカメラ,画像認識
モジュール,無線 LAN 通信モジュール等はそれぞれ Web サーバ機能を有するモジュールであり,これら
複数の Web サーバモジュールから構成されるフィールドサーバをセンサノード(以下,Web センサノード)
とした。即ち,Web センサノードは Web サーバモジュールの集合体であり,各 Web サーバモジュールは,
ユーザが Web ブラウザを用いてインタラクティブに操作できると同時に,エージェントがユーザの代わりに
各 Web サーバモジュールを自律的に操作する。
まず,各地の環境や通信環境(電波法)にあわせて Web センサノードを製作し,国内(つくば,長野)及
び海外(ハワイ,フロリダ,ヒマラヤ)に設置してテストベッドを構築した(図- 32)。このテストベッドを用いて,
62
様々な環境において安定的にデータを収集し,アプリケーションにデータを提供できるエージェントの開
発を行った。各地に設置した Web センサノードには,操作方法や計測内容が異なるカメラやセンサを搭
載した。Web センサノードのハードウェア仕様の違い,通信速度の変化,回線の不定期な切断,センサや
Web サーバモジュールの部分的故障,センサ交換時における接続ミス,エージェント自体の故障等の
様々なトラブルの影響を受けても,エージェントはできる限り,正常に稼働する Web センサノードからデー
タを収集して,アプリケーションからは見かけ上,常に安定的にデータを提供し続けるアクティブデータベ
ースとして機能するようにした。
電源設備がない場所では Web センサノードは太陽電池のみで稼働しなければならない。エージェント
は大きな演算能力を必要とし大電力を消費するため,Web センサノード内の CPU 上ではなく,中央農研
(つくば市)にある PC クラスタ上で稼働させた。また,エージェントは Web サーバモジュールの電源をアク
セス時のみ ON にして,Web センサノード全体の消費電力を削減する制御を行う。ヒマラヤでは,外気を
取り込むファンの稼働及び照明用 LED による発熱を利用して,夜間,放射冷却で冷えた筐体内部の電
子回路を結露や低温から保護する必要があるが,ファンを稼働させるべき条件と LED を ON にすべき条
件は環境条件(筐体内気温,筐体内湿度,外気の温度・湿度等)に依存するため,エージェントに制御を
行わせた。さらに,新たなフィールドサーバの追加,データの収集動作の変更,センサの追加・変更など
を適宜行い,このような条件下でも安定してデータ収集が行えるエージェントを開発した。このようにして
開発・改良されたフィールドサーバ及びエージェントは課題 4-3 などで利用された。
フロリダ
ハワイ
長野
ヒマラヤ
図- 32: テストベッド用センサネットワークは世界各地に設置されたフィールドサーバからなる
5.2 複雑で多様な Web センサノードの管理を自律的に行うエージェントシステムの開発
多種多様な機能を備えた Web センサノードを利用者の要望や状況の変化に応じて効率的に管理する
ため,遠隔地からインタラクティブにやり取りが可能なエージェントシステムを開発した(図- 33)。エージェ
ントシステムのメインプログラムは,XML 形式で統一的に記載された設定ファイル(プロファイル)に基づい
て Web サーバを内蔵した計測機器やインターネット上に存在するデータ,Web アプリケーションなどを分
け隔てなく扱うことができる。
従来のセンサネットワークではハードウェアの制約により複雑な自律動作機能を組み込むことが出来な
かったのに対し,このエージェントシステムでは Web センサノードの知的処理部分を遠隔地に分離して実
現できるため,制約を受けることなく高度で複雑な処理を行うことができるという特長を有している。
63
図- 33: エージェントシステム
プロファイル内は複雑で柔軟な動作を実現するため,設定された単純なコマンドを組み合わせる事で
利用者の要望に応じた汎用的な動作が行えるよう設計されている。またプロダクションルールに基づく動
作制御機能を実装し,状況に応じた適切な動作を個別に実現することができる。プロダクションルールは
複数の IF-THEN ルールを組み合わせることで様々な動作制御を行うことができ,単純に各コマンドの動
作を判断するものから,複数のプロファイルに記述された動作内容を状況に応じて切り替えるといった複
雑な内容も扱うことができる。
例えば図- 34 では 2 種類の定期的な環境計測動作を記述したプロファイルと 3 段階の監視・警報動作
を記述したプロファイルを用意し,これを時刻などの設定条件やセンサなどの値に基づいたルールベー
スによって切り替えを行っている。更に監視動作時により緊急性の高い動作を行う必要があるとエージェ
ントが判断した場合には,利用者にメールを送信して最終判断を入力させることで従来の自律システムで
は難しかった細かな判断や誤作動の回避を行うことができ,柔軟なシステムを構築することができる。
図- 34: プロダクションルールによる動作制御の例
エージェントシステムでは各 Web センサノードのプロファイルを与えることで,エージェントの処理能力
64
の範囲内において多数の Web センサノードをそれぞれ独立に管理することができる。また各エージェント
の内部に Web インターフェースを持たせることで,本システムではエージェント自身をひとつの Web セン
サノードとして扱えるよう設計を行った。そのためエージェントが他のエージェントを制御する階層的な構
造やエージェントが連携して協調動作を行うマルチエージェントシステムを構築することができ,多数の
Web センサノードを効率的に扱うことができる。
例えばデータの欠損を防ぐため,単純にひとつのWebセンサノードに複数のエージェントを同時にアク
セスさせると,輻輳や消費電力の増大を招くといった問題が生じる。このような場合,エージェント間に優
先順位を設定して「上位のエージェントが停止した場合のみ下位のエージェントが管理を引き継ぐ」という
メタルールに基づいて協調動作させることで安定したデータ収集が可能となる(図- 35)。また複数のエー
ジェントを用いて多数のWebセンサノードを管理する場合,エージェント間の負荷が均一になるよう調整す
ることでより多くのWebセンサノードを管理することができる。この場合,エージェント間で互いのタスクの量
をモニタリングしながらやり取りを行うようメタルールを設定することで,効率的な運用が可能となる(図- 36)。
このようなエージェント間における協調動作アルゴリズムは,プロファイルにルールベースを記述すること
で実現することができ,スケーラビリティやロバスト性を大幅に向上させることができる。
図- 35: マルチエージェントによるバックアップ動作の例
図- 36: マルチエージェントによるタスク分配動作の例
Webセンサノードでは,多くのセンサに対応できるよう生データはセンサの電圧出力などで表されてい
るため,エージェントシステムでは収集時にこれを各プロファイルに記述された換算式に基づいて変換を
行っている。これらの結果はXML形式でデータベース化してインターネット上に保存することで,大量の
65
データを容易に扱うことができる。これらは様々なアプリケーションから利用することができ,課題2-3など
に対してデータ提供を行っている。またストレージサーバ上に保存されたデータは,アプレットやWebサー
ビスによってグラフ形式やタイムラプスムービーとしても表示可能であり,利用者が効率的に閲覧できるよ
うアプリケーションツールを開発した(図- 37)。
図- 37: 計測データ表示用アプリケーション
5.3 収集したデータを効率的に利用するためのアクティブデータベース機能の開発
エージェントシステムでは任意の Web サーバにアクセスできる機能を活用し,必要に応じて Web アプリ
ケーションを呼び出してデータを処理するアーキテクチャを構築した。Web アプリケーション上でデータの
解析を行わせることで,処理を分散して負荷を軽減できると共に解析処理機能を共有化して効率的に運
用することが可能となった。また新たな機能を追加する場合でもエージェントシステム自身は変更する必
要はなく,適切な Web アプリケーションのみを用意してプロファイルを書き換えることで,簡単に機能が拡
張できる。
例えばエージェントによって Web センサノードから画像データを取得する場合,得られた画像から必要
とする情報を抽出する Web アプリケーションに対してデータをインターネット経由で送信し,その解析結果
を取得することで動的にデータ解析を行うことができる(図- 38)。画像解析などは様々な手法が存在する
が,連携する Web アプリケーションを切り替えるだけで様々な手法を試すことができ,プロダクションルー
ルと組み合わせることで複雑なデータ処理を状況に応じて自動的に実行できるようにした。
66
図- 38: Web アプリケーションを利用したデータ解析機能の拡張
これらのエージェントシステムの機能は,プロファイルを適切に記述することで効果的に利用することが
できる。そこでプロファイルの円滑な作成やエージェントの基本的な管理を支援する Web インターフェー
スを開発し,エージェントシステムを利用者が容易に扱えるようシステムの拡張を行った。プロファイル内
には対象となる Web センサノード固有のパラメータやセンサがもつ基本属性値,設置場所の環境情報,
エージェントが行う動作内容およびルールベースが記述されている。そこでこれらの各要素に対して幾つ
かの基本テンプレートを用意し,これを Web 上で選択していくことでプロファイルの設定からエージェント
の起動,Web センサノードへのアクセス,データ解析,提示などをシームレスに行うことができるシステムを
構築した。テンプレートはネットワーク上で共有できるよう設計され,最新の Web センサノードの種類や動
作内容を容易に追加・利用できるようにすることで,専門的な知識や細かい設定を必要とすることなく利
用が可能となる(図- 39)。
Web インターフェースを活用することで,エージェントシステムは利用者が必要とする情報を望む形で
動的に取得・提示することができる。そのため本システムは全体をひとつのデータベースとして見ることで,
利用者がアクセスすることで常に利用者に応じた有用な情報をリアルタイムに返すことができるアクティブ
データベースとしての構造を実現している。
67
図- 39: エージェント支援 Web インターフェース
また本研究では,テストベッドにて Web センサノードと共にエージェントの評価が行えるよう,エージェン
トシステム,データストレージ,Web サーバ,ネットワーク管理機能などを組み込んだエージェントボックス
を作成し,アクティブデータベースの 1 ノードとして構築した。エージェントボックスを用いたスケーラビリテ
ィの評価では,Web センサノードをエミュレートする仮想環境マシンを用いて 100 台のデータ収集を行わ
せた結果,安定して動作することが確認された(図- 40)。
さらに,マルチエージェントによるロバスト性の向上を評価するため,10 台のエージェントが 100 台の
Web センサノードを管理している状態からランダムに 5 台のエージェントを停止・追加するシミュレーション
を行った。その結果,エージェント間の協調動作が適切に機能して安定したデータ収集が行えることが確
認された。またエージェントボックスを運用形態やネットワーク環境などが異なるテストベッドの各サイトに
分散配置し,実際に相互協調運用のための稼働テストを行わせた場合も長期に安定してデータの収集・
利用が行えることが明らかになった。
これらの結果から,Web センサノードによるアクティブデータベースシステムを構築するための基盤的技
術が確立できたことを確認した。
68
図- 40: エージェントボックスによる性能評価
5)考察・今後の発展等
本研究において、要素技術の開発のみでなく、それらを結合し、データ基盤として地球観測データ統
合・情報融合システムのプロトタイプを構築し、その利用により水循環に関する新たな知見が得られるなど、
大きな成果をあげることができた。今後、観測技術や計算機環境の向上により、地球観測データはますま
す大規模化、多様化し、それに伴い、データ基盤の重要性も増していくと想定され、本研究で培った技術
を基盤にして、より大規模、多様なデータに対応したデータ基盤開発へ発展的に継続させていく所存で
ある。単なるシステムの高速化、大規模化のみではなく、大規模化に伴う管理コストの削減や、一人当たり
の研究者の扱うデータの大容量化、多様化に対する、研究者の思考支援といった研究もより重要度が増
すと考えら得る。同時に、長期的、安定的な運用のための技術の開発、改良はもとより、運用のためのノウ
ハウの蓄積や運用体制の整備などに対しても検討を進める必要があると考えている。
6)関連特許
該当なし
69
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
20 報 (筆頭著者: 9 報、共著者: 11 報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌: 3 報、国外誌: 2 報、書籍出版: 冊
3. 口頭発表
招待講演: 4 回、主催講演: 3 回、応募講演: 48 回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
3件
1. 原著論文(査読付き)
1)
T. Nemoto, T. Koike and M. Kitsuregawa:「Data Analysis System Attached to the CEOP
Centralized Data Archive System」, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 85A,
pp.529-543, (2007).
2)
根本利弘,小池俊雄,喜連川優:「地球水循環データアーカイブシステムにおける異種データ相
互解析機能とその実装」,日本データベース学会 Letters,Vol. 6, No. 1, pp.157-160, (2007).
3)
M. Yasukawa, M. Kitsuregawa, K. Taniguchi, and T. Koike: 「PVES: Powered Visualizer for
Earth Environmental Science」, IEEE Systems Journal, (2008). (採録決定)
4)
Ikoma E,Taniguchi K,Koike T,Kitsuregawa M,「Development of a data mining application for
huge scale earth environmental data archives」,Proceedings of DNIS2005 (Fourth International
Workshop on Databases in Networked Information Systems),171-185,(2005).
5)
生駒栄司,玉川勝徳,小池俊雄,喜連川優,「大規模地球観測データを対象としたデータクオリ
ティコントロールシステムの構築とその有効性の検討」,日本データベース学会(DBSJ) Letters.,
Vol.4 No.1,57-60,(2005)
6)
Eiji Ikoma,Katsunori Tamagawa,Tetsu Ohta,Toshio Koike,Masaru Kitsuregawa.,
「QUASUR:Web-based quality assurance system for CEOP reference data」,Journal of
meteorological society of Japan,Vol.85A No.0,461-473,(2007)
7)
Eiji Ikoma,Kenji Taniguchi,Toshio Koike,Masaru Kitsuregawa,「Display wall empowered visual
mining for CEOP data archive」,Journal of meteorological society of Japan,Vol.85A No.0,
545-559,(2007)
8)
Kun Yang,Mohamed Rasmy,Surendra Rauniyar,Toshio Koike,Kenji Taniguchi, Katsunori
Tamagawa,Petra Koudelova,Masaru Kitsuregawa,Toshihiro Nemoto,Masaki Yasukawa,Eiji
Ikoma,Michael G. Bosilovich,Steve Williams,「Initial CEOP-based review of the prediction skill
of operational general circulation models and land surface models 」,Journal of meteorological
society of Japan,Vol. 85A No. 0,99-116(2007)
9)
Tobias GRAF, Toshio KOIKE, Hideyuki FUJII: 「TOWARDS THE DEVELOPMENT OF A
LAND DATA ASSIMILATION SYSTEM FOR SNOW」, 水工学論文集50巻, 1-6, (2006)
10) Hui LU, Toshio KOIKE, Nozomu HIROSE, Masato MORITA, Hideyuki FUJII, David Ndegwa
KURIA, Tobias GRAF, Hiroyuki TSUTSUI: 「A BASIC STUDY ON SOIL MOISTURE
ALGORITHM USING GROUND-BASED OBSERVATIONS UNDER DRY CONDITION」, 水工
70
学論文集50巻, 7-12, (2006)
11) 筒井浩行・小池俊雄・Tobias Graf・兒玉裕二・青木輝夫:「地上マイクロ波放射計を用いた地上
積雪観測に基づく積雪量推定衛星アルゴリズム検証」,水工学論文集50巻, 433-438, (2006)
12) C.R.Mirza, T.Koike, K. Yang, T. Graf:「Retrieving cloud parameters over oceans from AMSR-E
data by developing and 1-D cloud microphysics data assimilation system (CMDAS).」, Journal of
Hydroscience and hydraulic Engineering, Vol. 24, No.1., 57-72, (2006)
13) Kun YANG, Takahiro WATANABE, Toshio KOIKE, Xin LI, Hideyuki FUJII, Katsuroni
TAMAGAWA, Yaoming Ma and Hirohiko Ishikawa:「Auto-calibration System Developed to
Assimilate AMSR-E Data into a Land Surface Model for Estimating Soil Moisture and the Surface
Energy Budget」, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol.85A, 229-242, (2007)
14) Hiroyuki TSUTSUI, Hiroyuki TSUTSUI and Tobias GRAF:「Development of a dry-snow satellite
algorithm and validation at the CEOP Reference Site in Yakutsk」, Journal of the Meteorological
Society of Japan, Vol.85A, 417-438, (2007)
15) David Kuria, Toshio Koike, Hui Lu, Hiroyuki Tsutsui and Tobias Graf: 「Field-supported
verification and improvement of a passive microwave surface emission model for rough, bare and
wet soil surfaces by incorporating shadowing effects」, IEEE Transactions on Geoscience and
Remote Sensing, Vol. 45, No.5, 1207-1217, (2007)
16) S. Boussetta, T. Koike, T. Graf, K. Yang, M. Pathmathevan: 「Development of a coupled
land-atmosphere satellite data assimilation system for Improved local atmospheric simulations」,
Remote Sensing of Environment, DOI 10.1016/j.rse.2007.06.002., (2007)
17) Mirza, C. R., T. Koike, K. Yang, and T. Graf:「The Development of 1-D Ice Cloud Microphysics
Data Assimilation System (IMDAS) for Cloud Parameter Retrievals by Integrating Satellite Data」,
IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 46, No.1, 119-129, (2008)
18) Hui LU, Toshio KOIKE, Hiroyuki TSUTSUI, David Ndegwa KURIA,Tobias GRAF, Kun YANG
and Xin LI:「A LONG TERM FIELD EXPERIMENT FOR RADIATIVE TRANSFER MODEL
DEVELOPMENT AND LAND SURFACE PROCESSES REMOTE SENSING」, 水工学論文集52
巻, 13-18, (2008)
19) T.Fukatsu, M.Hirafuji:「Field Monitoring Using Sensor-Nodes with a Web Server」,Journal of
Robotics and Mechatronics,17(2),164-172,(2005)
20) T.Fukatsu, M.Hirafuji, T.Kiura:「An Agent System for Operating Web-based Sensor Nodes via
the Internet」,Journal of Robotics and Mechatronics,18(2),186-194,(2006)
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1)
深津時広,平藤雅之:「インターネットを活用したユビキタス・モニタリングシステム”フィールドサー
バ”」,ARIC情報,79,11-15,(2005)
2)
平藤雅之:「フィールドサーバ」,画像ラボ,*,63-67,(2006)
3)
平藤雅之:「ワイヤレス・センサネットワークによる農業生産及び地球環境のモニタリング」,計測と
制御,46(2),128-132,(2007)
71
国外誌
1)
T.Fukatsu, M.Hirafuji, T.Kiura:「Agent Program for Providing Seamless Management to
Web-based Monitoring System」,MACMILLAN Advanced Research Series,*,581-589,(2006)
2)
T.Kiura, T.Fukatsu, M.Hirafuji:「Developing a Virtual Test Environment for Scalability of Field
Servers」,MACMILLAN Advanced Research Series,*,590-594,(2006)
3. 口頭発表
招待講演
1)
Toshio KOIKE:「Remote Sensing and Data Assimilation of Hydrological Components in the
Coming Era of Earth Observation」, Tsukuba,Hydrology delivering Earth System Science to
Society, 2007.3.1
2)
Toshio Koike:「Asian Water Cycle Initiative (AWCI) Contributing to Global Earth Observation
System of Systems (GEOSS)」,Bangkok, Distinguished Lecture, Hydrological Science Session, the 4th
Annual Meeting, Asia and Oceanic Geophysics Society (AOGS) , 2007.7.31.
3)
Toshio Koike:「Atmosphere and land surface monitoring by AMSR-E」, Atami, AMSR/GLI PI
Workshop2008, 2008.1.23
4)
小池俊雄:「陸面-大気データ同化(Land-atmosphere coupled data assimilation)」,東京, 2008土
壌水分ワークショップ, 2008.3.26
主催・応募講演
1)
根本利弘,小池俊雄,喜連川優:「地球水循環データアーカイブシステムにおける異種データ相
互解析機能の実装」,広島プリンスホテル(広島市),第 18 回データ工学ワークショップ,
2007.3.2
2)
安川雅紀, 谷口健司, 小池俊雄, 喜連川優:「多種データの柔軟な重ね合わせ機能を有する
AIRS データ可視化システム」, 沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市), 電子情報通信学
会第 17 回データ工学ワークショップ 第 4 回日本データベース学会年次大会(DEWS2006),
2006.3.3.
3)
E. Ikoma and M. Yasukawa:「Development of Data Analysis Tools for CEOP Data Archive」, The
National Academy of Sciences, Washington, DC, USA, Joint CEOP/IGWCO Planning Meetings,
2007.3.13.
4)
Ikoma,E,Taniguchi,K,Koike,T,Kitsuregawa,M.:「Development of a visual data mining
application for earth environmental data」,CEOP/IGWCO Joint Meeting,2005
5)
Katsunori Tamagawa, Eiji Ikoma, Tetsu Ohta, Masaru Kitsuregawa, Toshio Koike,:
「Intoroduction to the CEOP data management」,Washington,D.C.,6th CEOP science meeting
and 3rd IGWCO planning meeting,2007.3.
6)
絹谷弘子,生駒栄司,高橋慧,吉川正俊,喜連川優:「地球観測データに対するメタデータ処理
システムの設計」, 電子情報通信学会 第 19 回データ工学ワークショップ,第 6 回日本データベ
ース学会年次大会,C9-6,(2008)
72
7)
Kun Yang, Mohamed Rasmy, Surendra Rauniyar, Toshio Koike, Kenji Taniguchi, Katsunori
Tamagawa, Michael G. Bosilovich, Steve Williams: 「CEOP-based Diagnosis of Prediction Skill of
Current Operational General Circulation Models and Land Data Assimilation Systems」, Paris,
CEOP/IGWCO Joint Meeting, 2006.2.26-3.4
8)
Hui LU, Toshio Koike, Hiroyuki Tsutsui, Tobias GRAF, David Ndegwa KURIA, Hideyuki Fujii,
MasatoMorita: 「A radiative transfer model for soil media with considering the volume effects of
soil particles: field observation and numerical.」, Denver, IEEE IGARSS2006, 2006.8.1
9)
Kun Yang, Takahiro Watanabe, Toshio Koike, Xin Li, Hideyuki Fujii, Katsunori Tamagawa ,
Yaoming Ma, Hirohiko Ishikawa:「Land Data Assimilation-Derived Spatial Distributions and
Seasonal Variations of Water and Energy Fluxes in Tibet.」. Lhasa,1st International Workshop
on Energy and Water Cycle over the Tibetan Plateau, 2006.9.4
10) T Mirza, C. R., Toshio Koike, Kun Y., and Tobias G:「The development of an 1-D Cloud
Microphysics Data Assimilation (CMDAS) to retrieve the cloud parameters over the ocean by
integrating satellite data.」, Austria, EGU General Assembly 2006,2006.4.5
11) Hiroyuki Tsutsui, Toshio Koike, Tobias GRAF:「Snow satellite algorithm development and
verification based on the ground snow observation using a ground microwave radiometer」,
Denver, IEEE IGARSS2006, 2006.8.1
12) David Kuria, Hui Lu, Toshio Koike, Hiroyuki Tsutsui, Tobias Graf:「An inproved radiative
transfer model for soil considering both volume and surface scattering phenomena」, Beijing, An
Earth System Science Partnership Global Environmental Change Open Science Conference,
2006.11.10
13) Hui Lu, Toshio Koike, David Kuria, Tobias Graf, Hiroyuki Tsutsui, Hideyuki Fujii:「Improving
the accuracy and applicable range of soil moisture measurement by spaceborne passive
microwave remote sensors」, Beijing, An Earth System Science Partnership Global Environmental
Change Open Science Conference, 2006.11.10
14) Toshio Koike :「Atmosphere-Land Coupled Data Assimilation by Using Satellite Microwave
Radiometers」, Tokyo, Third WCRP International Conference on Reanalysis, 2008.1.31
15) 深津時広,平藤雅之,木浦卓治:「分散モニタリングを実現するためのインターネットを活用したエ
ージェントシステム」,神戸,ロボティクス・メカトロニクス講演会 2005,*,2P1-S-005,(2005.6.11)
16) 深津時広,平藤雅之,竹澤邦夫:「さまざまセンサデータを組み合わせることで対象計測値を推定
するフィールドサーバ運用システム」,農業環境工学関連学会 2006 年合同大会,*,S061203,
(2006.9.12)
17) 平藤雅之,深津時広,田中慶,世一秀雄,胡浩明,喜多泰代,福井和広,二宮正士:「高機能フィール
ドサーバの開発とその機能」,農業環境工学関連学会 2007 年合同大会,*,E21,(2007.9.12)
18) M.Hirafuji, H.Yoichi, M.Wada, T.Fukatsu, T.Kiura, H.Shimamura, H.Hu, S.Ninomiya:「Field
Server: Multi-functional Wireless Sensor Network Node for Earth Observation」, Proc. of the 3rd
International Conference on Embedded Networked Sensor Systems,*,304,(2005.11.2)
19) T.Fukatsu, M.Hirafuji, T.Kiura:「A Distributed Agent System for Managing a Web-based Sensor
Network
with
Field
Servers 」 ,Proc.
of
73
4th
World
Congress
on
Computers
in
Agriculture(WCCA),*,223-228,(2006.7.25)
20) K.Tanaka, T.Fukatsu, M.Hirafuji:「Data and Image Viewer Application for FieldServer」,Proc. of
SICE-ICASE International Joint Conference,*,4852-4855,(2006.10.20)
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
1)
Toshio Koike, Meraj Khalid Award 2006-7,「Pakistan-Japan Joint Seminar at Lahore Collage for
Women University」,2008/.1
2)
Toshio Koike, Contribution to the IPCC Novel Peace Prize, 「WMO and UNEP」,2008.3
3)
小林弘和、中山雅哉: 研究奨励賞,インターネットコンファレンス 2006 実行委員会, 2006.10.24.
74
(2)サブテーマ2:相互利用性・情報サービス機能の開発研究
(分担研究者名:柴崎 亮介、 所属機関名:東京大学)
1)要旨
サブテーマ1で構築されるようなデータ統合システムに投入・蓄積されたさまざまなデータを,利用者が
発見するためには,それぞれのデータに関する説明情報(これをメタデータという)を検索する必要がある.
メタデータはいわば個別データの「書誌情報」に相当するが,データについてもっとも詳細な情報を持っ
ているデータ作成者自身が,メタデータを作成するのが常である.結果的に,メタデータには専門用語が
用いられ,その分野の知識が理解の前提となる.データを統合することを目的に専門分野の異なる専門
家がデータを発見しようとする際,大きな困難が想定される.たとえば,水資源データに関するメタデータ
は,水文学や気象学の用語を駆使して作成されるため,専門の異なる利用者が必要なデータを発見でき
ない場合がある.ある河川について洪水時にどの程度の流量が想定されているのかを調べるために「洪
水時想定最大流量」と検索しても全くヒットしない.「基本高水(きほんこうすい)」という専門用語を入力し
なければならない.同様に海外の研究者が作成したデータが,英語ではなく現地語で解説されているケ
ースも少なくない.この場合も現地語による専門用語を正しく選択することが必要になるが,容易ではな
い.
こうした問題を解決するためには,データの名称や定義,解説に利用されている専門用語が具体的に
どのような定義に基づいているのか,他の用語とどのような関連を持っているのかなどの情報を整備・可
視化し,メタデータの検索を助ける必要がある.またメタデータを作成する研究者に対しては,専門用語
を使用するたびにどの用語,どの定義を参照したのかを明示できるようにするなど,作成作業の支援も必
要になる.なお、使用される用語、概念などが分野を越えて統一されれば以上のような問題は生じないが、
非常に多様な研究者・実務者コミュニティが地球環境情報に関連していることを考えると、統一は非現実
的である。そこで、各分野の用語や概念、分類体系などを登録し、互いに「見える化」し、比較・検討でき
ることを通じて、メタデータの定義や構造も含めて緩やかに共通化できる可能性がある。
データの作成や定義などに利用される専門用語,概念は,辞書,分類体系,シソーラスなどの形でこ
れまで蓄積,維持されてきているため,その蓄積・維持のサイクルがうまく回るように支援しながら,上記の
ような利用を可能とすべくデジタル化、登録、視覚化する技術、それを利用する技術を開発することが,
本サブテーマの主な目的となる.辞書,分類体系などの形を取って記述される用語,概念は「オントロジ
ー情報」とも呼ばれていることから,本サブテーマは,まず,①オントロジー関連情報の収録・比較・編集
システム(オントロジーレジストリ)を構築し,その内容を無理なく整備・維持でき,同時にさまざまな利用に
用いることができるようにすること,ついで②オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービ
スを構築すること,さらにオントロジーも必要に応じて利用しながらさまざまな場所,分野で分散的に蓄積・
管理されている情報を横断的に利用する技術を,対象分野をより絞って具体的に開発することを目標とし
ており、対象分野をそれぞれ③農業,④衛星データとその関連データ,とした.以下に研究成果の概要
をテーマ毎に述べる.
1. オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築
情報共有化のキーとなる情報として、メタデータのデザインやデータコンテンツの解析などにあたり頻
繁に参照されるデータ辞書や分類体系などのオントロジー情報を、各分野の利用者との意見交換を重ね
75
て絞り込んだ上で、対象となる分野について用語や概念の定義、その関連などを既存の辞書情報などか
ら収録する。それらをオントロジー情報として収録・比較・編集できるシステム(オントロジーレジストリ)を開
発した。農業、水管理分野を中心として、実際のオントロジー関連情報を収集・蓄積し、レジストリの利用
実証も実施した。
2. オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築
オントロジーレジストリを利用し,情報共有・利用支援のための各サービスを行うための技術開発、サー
ビス機能開発を行うことが目的である。具体的に研究を進めるために、海外における総合的な農業調査・
研究という具体的な利用シナリオを想定し、その流れに沿ってオントロジーを利用したデータや情報の統
合的利用支援サービスを構築した。すなわち,オントロジー情報の「逆引き」も含んだ総合的なオントロジ
ー検索支援サービス,関連する語・概念などの可視化サービス,データの相互比較による品質評価支援
サービス,地名辞典による位置・場所座標提供サービス,メタデータの作成や利用支援サービス,テキス
トマイニング支援サービス,さらにそれらを連携させた高次処理としてのウェブからの情報収集や要約の
自動化サービス,外国語専門サイトの翻訳・検索支援サービスなどである.
3. 農業分野における分散型データ利用システムの構築
気象、土壌から作付け慣習まで幅広いデータ・情報の利用が必要となる農業分野において、現
地調査などの小規模分散データ利用技術の開発を、既存の気象データ仲介技術、メタデータベー
ス記述,オントロジー構築技術と融合して行うことを目的としている。具体的には、タイ国にお
ける稲作調査・分析をターゲットとして検討を進めており、気象データ統合用のオントロジーを
多言語化や、タイ国独特の肥料や稲の品種データ等に関するオントロジー作成を通じて、農業向
けの語彙収集・オントロジー構築基盤を整備し、さまざまな現地調査データの統合を可能とした。
さらに地名辞典を利用して、気象データ、現地調査データ(栽培データなど)や土地利用データ
を、位置をキーにして重ね合わせる技術を開発した。またリアルタイム情報を現地から得るため
に現地のセンサ(フィールドサーバ)からのデータを重ね合わせることも可能とした。このよう
に、気象情報,土壌情報,土地利用情報、生物情報,水利・水文情報,植生情報,農業情報など
多種多様で比較的小規模な地上観測データ群(ポイントデータやポリゴンデータ)を分散したま
ま重ね合わせ、統合利用を可能とする小規模分散データ利用技術を開発した。
4. 衛星データの分散型データ利用システムの構築
地球観測衛星データはその扱いが難しい場合が多く、フォーマットやデータ構造、さらには必要な付
加情報(衛星軌道情報や姿勢などの情報)についての説明やサポートが不足している。本システムの開
発においては、そうした衛星データの利用サポートに力点をおいて、各衛星データ保有機関とも連携しな
がら分散環境で保管管理されている衛星データと、関連した利用数値モデルデータ、また地上観測デー
タ、データ検索・表示、簡易処理・表示などが可能な分散型データ利用システムの試作を行った。水循環
テーマに特化した発展システムとして、ベトナム・フォン川を対象として 2004 年洪水の例を利用した被害
状況を把握できるシステムを構築した。
76
2)目標と目標に対する結果
1. オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築
目標:オントロジー関連情報を収集・蓄積し,オントロジー関連情報を収録・比較・編集できるシステムを
開発する.
結果:本課題の中で共通に利用のニーズが高いと判断された土地利用,水利用,農学,生物・生態学な
どを中心に代表的な辞典,辞書,ハンドブック,マニュアル類を専門家へのヒアリングによりリストアップ,
デジタル化することで,オントロジー関連情報のコンテンツをできるだけ網羅的に収集したうえで、それら
の用語や概念の定義・解説を中心とした Semantic MediaWiki をベースとした「辞書的」システムを開発し
た。さらにより複雑な分類体系や観測データのスキーマなども取り込めるオントロジーレジストリを作成し,
さらに互いを連携させることで,利用しやすく改訂もしやすいオントロジー情報の収録・比較・編集・利用
環境を構築した.これらから目標は達成されたと言える。
2. オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築
目標:オントロジーレジストリを利用し,情報共有・利用支援のための各サービスを開発する.
結果:データ・情報の統合的な利用が必要でありながら困難も多いケースとして、タイ国を対象とした稲作
調査という具体的な利用シナリオを想定し、その流れに沿ってオントロジーを利用したデータや情報の統
合的利用支援サービスを構築した。すなわち,オントロジー情報の「逆引き」も含んだ総合的なオントロジ
ー検索支援サービス,関連する語・概念などの可視化サービス,データの相互比較による品質評価支援
サービス,地名辞典による位置・場所座標提供サービス,メタデータの作成や利用支援サービス,テキス
トマイニング支援サービス,さらにそれらを連携させた高次処理としてのウェブからの情報収集や要約の
自動化サービス,外国語専門サイトの翻訳・検索支援サービスなどである.これらから目標は達成された
と言える。
目標を上回る成果:当初目標にしていた一連の支援サービスだけでなく,他国語(タイ語)翻訳機能と連
携した他国語情報の利用支援サービスや、その翻訳機能そのものをオントロジー情報(専門用語辞典)
により強化することなども実現し、その成果がタイ国の情報技術専門家や農業専門家の協力、本サブテ
ーマの他の課題担当者(農業分野)との協力を通じて、タイの農業ポータルサイトという具体的な形を取る
ことができたことは、目標を上回る成果であると言える。
3. 農業分野における分散型データ利用システムの構築
目標:農業分野における小規模分散データ利用技術の開発を、既存の気象データ仲介技術、メタデ
ータベース記述,オントロジー構築技術と融合して行う。
結果:サブテーマ2の他の課題と連携して、気象データ統合用のオントロジーを多言語化や、タイ国独特
の肥料や稲の品種データ等に関するオントロジー作成を通じて、農業向けの語彙収集・オントロジー構築
基盤を整備し、さまざまな現地調査データの統合を可能とした。さらに地名辞典を利用して、気象データ、
現地調査データ(栽培データなど)や土地利用データを、位置をキーにして重ね合わせる技術を開発し
た。またリアルタイム情報を現地から得るためにサブテーマ1「アクティブデータベース型センサデー
タ格納融合基盤の構築」と連携して、現地のセンサ(フィールドサーバ)からデータを得て、重
ね合わせることも可能となった。このように、気象情報,土壌情報,土地利用情報、生物情報,水利・
水文情報,植生情報,農業情報のような多種多様で比較的小規模な地上観測データ群(ポイントデータ
77
やポリゴンデータ)を分散したまま重ね合わせ、統合利用を可能とする小規模分散データ利用技術が開
発され、目標は達成された。
4. 衛星データの分散型データ利用システムの構築
目標:分散環境で保管管理されている衛星データ、利用数値モデルデータ、地上観測データの、データ
検索・表示、簡易処理・表示などが可能な分散型データ利用システムの試作を行う.
結果:試作システムの構築により、分散的に保管されているデータをユーザが意識することなく利用する
環境についての十分な技術実証をすることができ、研究開始時の目標を達成することができた.
目標を上回る成果:水循環テーマに特化した発展システムとして、ベトナム・フォン川を対象として 2004 年
洪水の例を利用した被害状況を把握できるシステムを構築した。ベトナムの河川管理者から入手したフエ
市の GIS(地図情報)及び洪水ハザードマップに類する情報を提供するとともに、過去の洪水の要因とな
った雨量、それに基づく流水量なども確認できるようにし、被害軽減や復旧活動に役立つ、また危険度の
認知が上がったなどの評価が得られた。
3)研究方法
分科会等サブグループ間の情報交換を通じて,横断的な情報利用が多い分野として,農業・水管理
分野や衛星データ利用分野を選定した.そしてオントロジー情報のレジストリシステムの基本設計を行い,
農業・水管理分野や衛星データの共有に必要なオントロジー関連情報を収集し, 農業や水管理データ
や衛星観測データの相互利用体制の構築準備を進めた.同時に分散型データ利用システムの仕様を検
討した.
オントロジー関連情報の収録・管理の中核となるレジストリシステムについては,オントロジーの登録部
分を中心に開発を始めた。農業・水管理分野,衛星データだけでなく,関連して頻繁に参照される土地
利用・生物・生態系など他の分野についても収録を拡大した.その後、タイ国の農業調査支援を事例に、
オントロジーを利用するユースケース(利用シナリオ)を作成し、それに従ってオントロジーを利用したデー
タの共有や統合支援サービスを検討、実装し、実験的に評価した。
これらと平行して、農業・水管理分野データ,衛星観測データを対象として,それぞれ多様・小規模分
散データの利用システムおよび衛星データを中心とした分散型データ利用システムを試作した。
農業・水管理分野における分散型データ利用システムの試作にあたっては、、タイ東北部の稲作を対
象に具体的な稲の品種や肥料などの調査項目のオントロジーを作成・補強し、現地調査支援システムを
作成した。一方、各国で分散管理された気象データを横断的に利用するために、気象観測データ統合シ
ステム MetBroker のオントロジーを多言語化した。同時に現地のセンサ(フィールドサーバ)から気象デー
タをリアルタイムに取り込むために、サブテーマ1「アクティブデータベース型センサデータ格納融合基盤
の構築」と連携して、フィールドサーバの気象データを MetBroker のオントロジーを利用してアクセスでき
るようにした。一方、現地調査データについては、その場所を明らかにするために、サブグループ内で共
同して地名辞典の地名と位置データを取得し、多言語で地名を取り扱うシステムを開発した。また衛星デ
ータを取り込むために、データ取得インタフェースを Java で開発した。最終的には、取得したデータの位
置情報を利用して、データを統合表示する環境のプロトタイプを開発した。農業環境技術研究所より提供
を受けた土地利用データ(面的に広がりのあるポリゴンデータの例として)とさまざまな現地調査データ(点
78
的なポイントデータの例として)をシステムに登録し,統合的な利用ができることを確認した。
また、衛星データの分散型データ利用システムについては、地球観測衛星データが、フォーマット
やデータ構造、さらには必要な付加情報(衛星軌道情報や姿勢などの情報)についての説明やサ
ポートが不足している点に力点を置いて、各衛星データ保有機関とも連携しながら分散環境で保
管管理されている衛星データ、さらに関連した利用数値気候モデルデータ、また地上観測データ
を対象に、データ検索・表示などが可能な分散型データ利用システムの試作を行った。さらに水
循環テーマに特化した発展として、ベトナム・フォン川を対象として 2004 年洪水の例を利用した被害状況
を把握できるシステムを構築した。ベトナムの河川管理者から入手したフエ市の GIS(地図情報)及び洪
水ハザードマップに類する情報を提供するとともに、過去の洪水の要因となった雨量、それに基づく流水
量なども確認できるようにし、被害経典や普及字の活動に役立つ、また危険度の認知が上がったなどの
評価が得られた。
4)研究結果
1 オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築1),
2)
(分担研究者名:柴崎 亮介、 所属機関名:東京大学)
1.1 概要
オントロジーとは、地物や事象・現象に関する概念や定義、さらに概念・定義などの相互関係を記述し
たものであり、近年、どのような概念や定義に基づいて作成されたのか定かでないデータ・情報が氾濫す
るようになり、注目されはじめた。すなわち、データや情報がどのような定義、概念、相互関連の下に作成
されているのかを明示的に記述することで、データや情報の持つ意味をより正確に利用者に理解させ、
将来はコンピュータ自身がデータや情報の意味を理解して適切な処理ができるようにしようというものであ
る。地球観測データに関しては、基本的に専門用語事典、分類体系,シソーラスなどに現れる概念や用
語とそれらの関係を表現しておくことで、データや情報の基本的な意味解釈を十分支援することができる
と考えられる。もちろん、言葉や文章の完全な意味理解には、たとえば常識と呼ばれるような幅広い知識
が必要とされるが、地球観測データのように専門家集団の中でおもに流通・利用されるものについては、
専門的な用語や概念の解釈・理解を要因することで、データや情報の統合的な利用における大きな障害
は除去できると期待される。
そこで、「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築」の研究で
は,情報共有化のキーとなる情報として頻繁に参照されるデータ辞書や分類体系などを収集し,オントロ
ジー関連情報として収録・比較・編集できるシステムを開発することを目的としている. これらのオントロジ
ー関連情報は、メタデータの作成や利用・解釈、データコンテンツの解析などに利用されることを想定し
ている。
オントロジーとは,非常に厳格に概念の整理方法を規定し,概念間の関係に至るまで厳密かつ体系的
に構築するものから,自然言語処理に使うための用語集,語法集レベルのものまで幅広く作成されている
が,本研究では用語集レベルものを目指している.これは、厳格なオントロジーの体系は、専門家が誰で
も合意するレベルのものを構築することがきわめて困難であるだけでなく、その維持更新が一層難しいこ
と、また現段階ではそうした厳格なオントロジーの体系を使いこなせるだけの利用者やソフトウェア技術が
79
十分育っていないことなどが理由である。一方、用語事典などをベースとしたものは、学会などが事典な
どの編纂を定常的に行っており、それをベースとする限り、オントロジーの構築や維持更新にそれほどの
困難は伴わないこと、むしろ電子化を進めることで事典などの作成・更新・利用が容易となり、さらにオント
ロジー情報として新しい利活用方法が広がるために、事典などを「オントロジー化」する動きを加速できる
と考えられることと言った利点がある。なお、用語としては既存の学術的な用語辞典を対象としており,収
録内容や定義など専門分野においてそれぞれ十分高いレベルの標準性と権威を有していると考えられ
る.
1.2 オントロジー関連情報の収集
○辞書的なオントロジー情報の収集と作成
土地利用,水利用,農学,生物・生態学などを中心に代表的な辞典,辞書,ハンドブック,マニュアル
類を専門家へのヒアリングによりリストアップ,デジタル化することで,オントロジー関連情報のコンテンツを
作成した.作成手順としては,①冊子をページごとにスキャナーによって PDF ファイル化し,②OCR ソフト
を利用して文面をデジタル化した.誤字などは適時修正を加え,含まれる画像や写真は単独の画像ファ
イルとして保存した.収集・作成対象となった資料の例は以下の通りである.
地学辞典,土壌物理用語辞典,Physical Geography,作物学用語辞典,Human Geography ,熱帯農
業事典,水文・水資源ハンドブック,農学大事典,International Glossary of Hydrology,農業気象学用語
解説集,生態の事典,環境保全型農業事典,森林立地調査法,作物栽培の基礎,生態学辞典,農業の
基礎,生態学事典,野菜栽培の基礎,Dictionary of Natural Resource Management,国際協力用語集,
疫学辞典,Remote Sensing for Natural Resource,医学統計学ハンドブック,Imaging Radar,Dictionary of
Epidemiology,Remote Sensing for the Earth Science,土木用語大辞典など.
○分類体系の収集
日本語で記述された農業,土地利用,水利用を中心としたオントロジー関連情報のうち,とりわけ土地
被覆(Land Cover)や土地利用(Land Use)といった土地分類体系に関わる情報についてデジタル化・デ
ータベースへの登録を行った(図- 41).これは、土地被覆や土地利用が多くの分野で頻繁に利用される
にもかかわらず、分類体系が国によっても、作成組織によっても異なることが多く、統合的な利用を実現
するために分類クラスのオントロジー情報が必要だという要望が高かったためである。
80
図- 41: 調査対象地域
当初からの予測どおり,各国で作成された分類体系情報はローカル性が高く、現地調査が重要となる
ことが認識された.そこで各国の研究機関を直接訪問し,インタビュー調査や文献調査を通じて情報を収
集した.オントロジーレジストリに収録する土地分類体系の基礎データを収集するために,各国の研究機
関を訪問し,現地の状況を調査した.そこで得られたデータは可能な限り日本に持ち帰り,それぞれの特
徴を分析した.具体的な調査状況は以下の通りである.
①イギリス
生態学水文学研究センター(CEH: Centre for Ecology and Hydrology)訪問し,土地分類に関わる地図
や資料を調査・収集.Helen P. Jarvie 研究員と研究交流を行った
②アメリカ合衆国
南イリノイ大学(South Illinois University)の Dr. Michael Grossman の来日の機会に,アメリカ合衆国の土地
利用や土地被覆に関する地図や資料を入手・調査した。
③インド
プネ大学(the Univ. of Pune)地理学科を訪問し,Dr. Vishwas Kale と Dr. Veena Joshi の協力のもと,主に
国家アトラス・主題図作成機関(NATMO: National Atlas & Thematic Mapping Organisation)によって刊行
された,アトラスや各種地図とそれらに関連するモノグラフを調査・収集した。
④イタリア
i)軍事地理研究所(Istituto Geografico Militare)を訪問し,当該機関作成の地図を調査・収集.ダヌンチ
オ大学(Universita degli Studi G.D'annunzio)を訪問し,小松吾郎教授と研究交流した。
ii)ローマ大学(Universita degli Studi di Roma),カリアリ大学(Universita degli Studi di Cagliari),サッサリ
大学(Universita degli Studi di Sassari)を訪問し,土地分類に関わる地図や資料を調査・収集した。
⑤フィリピン
国土地理・資源情報庁(NAMRIA : The National Mapping and Resource Information Authority),農業省
土壌・水管理局(Bureau of Soils and Water Management, Department of Agriculture),住宅土地仕様規
81
制委員会(Housing and Land Use Regulatory Board),フィリピン大学(University of Philippines)を訪問し,
土地利用,土地被覆や都市計画に関する情報を調査・収集した。
⑥タイ
タイ土地開発局(Land Develop Department)を訪問し,当該機関作成の土地分類に関わる地図や資料を
調査・収集.タイ開発調査研究所(The Thailand Development Research Institute Foundation),タイ王立
測量局(Thai Royal Survey Department)を訪問し,土地分類に関わる地図や資料を調査・収集した。
⑦オーストラリア,ニュージランド
オーストラリアの連邦科学産業研究機構(CSIRO : Commonwealth Scientific and Industrial Research
Organisation),農林水産省地方第一次産業局(Bureau of Rural Science, Department of Agriculture,
Fisheries and Forestry),ニュージーランドのランドケアー研究所(Landcare)を訪問し,土地利用や土地
被覆に関する資料を調査・収集した。
⑧スペイン
バ ルセ ロ ナ大 学 ( Universitat de Barcelona ) ,カタ ル ー ニ ャ地 図 学 研究所 ( Institut Cartografic de
Catalunya)を訪問し,土地分類に関わる地図や資料を調査・収集した。
○デジタル化された地名辞典データの収集
現地で収集される様々な地球観測情報を地図上に記録するためには,地名と緯度経度の対応表(地
名辞典)が必要になる.そこでデジタル化された地名辞典の現況を調査した.一般に Gazetteer と呼ばれ
る地名辞典(Alexandria Digital Library,Geographic Names Information System,GEO net Name Server,
Getty Thesaurus of Geographic Names,Geo Cross Walk,Canadian Geographical Names Data Base)の階
層構造を調査し,地名に関するデータを収集した.
1.3 オントロジーレジストリの開発
○辞書データの収録・比較・編集システム
辞書・辞典などから作成されたオントロジー関連情報を,ウェブブラウザを使って閲覧し,同時にその関連
や解説内容などをチェックすることのできるシステムのプロトタイプを開発した.本システムにより,膨大な
オントロジー関連情報を語句の関連などから追跡し,異なる分野での解説文の違いを比較検討できるよう
になった.本研究では,収集した辞書的なオントロジーを蓄積するために,一般的に辞書作成・共有ツー
ルとして利用されている Semantic MediaWiki をベースにシステムのプロトタイピングを行った.Semantic
MediaWiki では,見出し語(概念クラス)とその定義を記述すると同時に,語と語の関係(意味リンク)を定
義できる.図- 42 に収集した時を登録した Semantic MeidaWiki を示す.主に辞書的なデータを収録した
が,Semantic MeidaWiki では,地名や分類体系に関しても,階層を構造化して,関連をタグとして埋め込
むことで利用できる.すなわち、一般的な辞書のように使えるため,オントロジーという概念になれていな
い利用者でも簡単に利用できる一方で、語と語、概念と概念の間にある関係(上位、下位など)も明示的
に表現できることから、複雑なオントロジーにも適用できる。
82
図- 42: Semantic MediaWiki
○土地分類体系のデータベース化
土地分類に関する情報は世界各地に多様な形式でストックされている.異なった土地分類体系(Land
Classification System)を相互に比較・参照するためには,メタデータを作成し,一元的なデータベースを
構築することが望ましい.そこで,収集する情報項目を検討しつつデータベースの設計を行い,収集した
土地分類体系の一部を入力した.英語圏の土地分類体系について,作成者や作成時期などを一元的に
閲覧可能なデータベースを作成した.
○土地分類体系の OWL 化
従来の土地分類体系は,作成機関や作成目的によって規格や基準が異なるため,相互参照性が低く,
比較が困難であった.たとえば諸機関で作成された土地被覆の分類体系は個別に凡例が異なり、また分
類体系の深さや構造も異なる.こうしたオントロジー相互の比較には Wiki などの辞書的な表現が適してい
ない。そこで視覚化ツールなどが整備されている OWL(Web Ontology Language)を利用した.具体的に
は,各国の研究機関が作成した土地分類体系の凡例(legend)を収集し,オントロジーエディタを用いて
OWL(Web Ontology Language)による記述に変換した(OWL 化). OWL を用いた視覚的な表現によっ
て,従来の方法ではわかりにくかった異なる土地分類体系間の関係性を相互に参照し,比較・考察する
ことが容易になった.なお、OWL 表現のために、オントロジーエディタには protege(スタンフォード大学)
を利用し、OWL Viz による土地分類体系の階層構造化を行った (図- 43)。また、Onto Sphere による土
地分類体系の 3D 画像化を行った (図- 44).こうしたアプローチは土壌分類など他の分類体系,シソーラ
ス体系にも有効である.
83
図- 43: OWL Viz による土地分類体系の階層構造
図- 44: Onto Sphere による土地分類体系の 3D 画像
○土壌分類体系の OWL 化
土地被覆や土地利用に加えて,農業分野での利用ニーズの高い土壌分類体系(Soil Classification
System)の情報を収集した.最近の代表的な土壌分類体系(日本の統一的土壌分類体系第二次案,農
耕地土壌分類第三次改訂版,USDS Soil Taxonomy,World Reference Base for Soil Resources)を取り上
げ,異なる分類体系間の相互参照の可能性を探った.これらの体系は,厳密な概念規定,定量的な分類
基準を設定し,従来の分類法の曖昧さや恣意性を払拭している.高次レベルにおいては土壌分類体系
も階層構造をもつと捉えられ,オントロジーを利用した視覚化は参照手法として有効であることを明らかに
した. 他方,一定数のクラスを複数の語彙が修飾することによってカテゴリーが決定される体系も存在す
ることから,体系を構成する凡例そのものや定義の同一性・類似性,専門家による既存の対比表などに着
84
目した検討も必要であることがわかった.
○オントロジーレジストリ
図- 45 にオントロジーレジストリの機能構成を示す。本システムにおけるオントロジーの登録はファイル
単位を基本とし、登録の汎用性を維持するために XML ファイルを登録対象としている.これにより,Wiki
に蓄積された用語情報から分類体系のような階層的ツリー情報,さらに複雑なデータスキーマ(たとえば,
UML(Unified Modeling Language)などによるデータスキーマ)をすべて取り込むことができる。個別のオン
トロジー情報ファイルを管理する情報として、①個別オントロジーの解説データ(メタデータ)となる情報を
記述した XML 文書,②オントロジーの仕様をより詳細に示した仕様書があれば,そのデータ仕様書ファイ
ル,③オントロジーの構造を表す XML ファイル,④さらに,そのオントロジーが用語や構成要素(分類の
凡例など)などの定義情報として、他のオントロジーを参照している場合には,その出典情報を記述した
XML 文書,⑤その他参考になる情報があれば,すべて関連ファイルとして登録できる.
検索にあたっては,登録されたメタデータに対してフリーワード検索を行えるほか,オントロジーの構成
要素の中で利用されている用語,概念などに対してもフリーワード検索を行うことができる.またオントロジ
ー情報の視覚化に際しては, OWL viz などの既存の視覚化ツールを用いる.
また,このレジストリは Semantic MediaWiki をベースに構築された辞書データの収録・比較・編集システ
ムに収録されたオントロジー情報も取り込むことが可能であるが,システムを試行的に利用したところ,分
類体系のように概念や用語の間の関連構造に重きがあるオントロジー情報は,このオントロジーレジストリ
の検索機能などが使いやすく,用語の解説に重きのある「辞書的な」オントロジーは Semantic MediaWiki
をベースとしたシステムの方が,直感的で使いやすく,また編集・変更も楽であることがわかった.そこで
オントロジーレジストリから「出典情報」の形で,Semantic MediaWiki をベースとした「辞書的」システムを参
照する構造で運用している.
図- 45: オントロジーレジストリの概要図
85
1.4 収集したデータの比較
オントロジーレジストリや辞書システムなどを利用試行実験と,収集したデータの有用性確認のために,
いくつかの活用事例を検討した.複数の機関によって作成された異なる土地分類体系を,オントロジーと
GIS を用いて比較し,統合すべく考察を行った.英国の生態水文センターによる LCM2000(Land Cover
Map)と欧州環境庁による CLC2000(CORINE Land Cover)を使用し,対象地域をデータが重なり合う英
国のブリテン島に設定した.まず分類体系の凡例を OWL によって記述してオントロジー的に可視化,さら
に ArcGIS を用いて空間的に可視化した (図- 46).次に ArcGIS を用いてラスターデータをオーバーレイ
し,凡例データを統合することで LCM と CLC 間における分類体系の相違を定量的に明らかにした.また
こうした国際的な土地被覆・土地利用分類体系の比較成果にさらに地形解析データも加えることで,日本
やアメリカ,台湾,フィリピンなどを対象により総合的な地域比較研究を実施することができた.
図- 46: 異なる土地分類体系の比較
次に GIS とのデータ共有の手法を考察するために,ペンシルヴァニア州立大学の Fonseca らが提唱す
るオントロジー駆動型 GIS(ODGIS)の可能性を検討した.その結果,オントロジーを装備した GIS の実現
によって,多義的で不定形的な内容が中心となる人文・社会科学情報を,効果的に GIS に統合する可能
性が開けることが明らかになった.情報入力者の視点が明示される ODGIS には,情報共有の面で優れた
特徴がある.オントロジーの導入は研究者同士のデータ交換において相互理解を促進し,地図情報の作
成者と閲覧者との間に共通の知識を提示することになることがわかった.GIS のユーザーをより広範囲に
拡大し,既存データの有効活用と新規データの GIS への入力を促進するためには,オントロジーレジスト
リの開発と並行して,ODGIS ソフトウェアの開発を進めることが有効である.
デジタル辞書の作成や土地分類体系の OWL 化に伴って,語彙の解説や凡例の定義など,テキストデ
ータの効率的かつ分散的な処理が必要となることが明らかとなった.オントロジーレジストリは将来的に,
世界各地の体系的な情報が有機的に連携するシステムを想定している.自然科学分野のみならず,人
文・社会科学分野においても利用されることが望ましい.個別の専門知識に関する辞書や各国の土地分
類体系などの OWL ファイルも,そうした世界各地の情報と連携することでより有意義に活用される.した
がって将来的な連携可能性を確保する必要から,不定形なテキストデータを扱う人文・社会科学,とりわ
け文化人類学分野の状況を検討し,テキストデータの標準化を検討した.
86
1.5 まとめ
地球観測データはそれ自身非常に多くの分野を含んでいるために,情報の共有化や統合化の必要性
はきわめて高いと言える.そのために,関連する分野の辞書的なデータ,地名,分類体系に関する情報
や知識を,オントロジー情報として共通に利用・参照可能な形で集積し,共通の資産として利用する仕組
みを開発した.本研究は、用語や概念の定義・解説を中心とした Semantic MediaWiki をベースとした「辞
書的」システムと併せて,より複雑な分類体系や観測データのスキーマなども取り込めるオントロジーレジ
ストリを作成し,さらに互いを連携させることで,利用しやすく改訂もしやすいオントロジー情報の収録・比
較・編集・利用環境を構築した.
なお,オントロジーの構築は,情報の「権威性」を持たせることが非常に重要である.学会のような専門
家グループと連携し,正確性や厳密性など品質の維持や保証に注意する必要がある.また今回蓄積され
たオントロジー情報は本サブテーマの他の関連課題でも非常に有効に利用できることがわかったものの,
著作権の制約から本サブテーマに関連する研究者のみの利用となった.しかし,この実験を通じて,従来
から作成されている専門用語辞典などを Semantic MediaWiki をベースとした「辞書的」システムに移行す
ることで,オントロジーとしてデータや情報の流通や統合を支える新しい利用が拡大すること,さらに作成
や更新の作業や閲覧などが非常に容易になることなどが明らかとなった.今後,学会などに働きかけ,用
語辞典などの作成・改訂時には本システムを採用することを推進したい.
また,レジストリの利用面に関して地球環境問題の広がりを考えると,自然科学分野ばかりでなく,人
文・社会科学分野においても有効に利用されることが望ましい.現状ではこうした要求の全てに応える時
間的余裕はなかったため,今後,人文社会分野のオントロジー蓄積と利用を促進する必要がある.
2 オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築6)
(分担研究者名:柴崎 亮介、 所属機関名:東京大学)
2.1 概要
「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築」の研究で、用語・
概念の定義やその関連や分類体系、シソーラスなどのオントロジー情報を収集し、登録、管理、比較でき
るようなプラットフォームを作成した。「オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構
築」では、オントロジー関連情報の収録・比較・編集システムをベースにして、様々な人・組織が作成した
オントロジー情報を利用し,さまざまなデータや情報の統合・融合的利用を支援するサービスの構築を行
う。すなわち,タイ国における総合的な農業調査・研究を利用シナリオとして,次のような一連の支援サー
ビスを実現した.すなわち,オントロジー情報の「逆引き」も含んだ総合的なオントロジー検索支援サービ
ス,関連する語・概念などの可視化サービス,データの相互比較による品質評価支援サービス,地名辞
典による位置・場所座標提供サービス,メタデータの作成や利用支援サービス,テキストマイニング支援
サービス,さらにそれらを連携させた高次処理としてのウェブからの情報収集や要約の自動化サービス,
外国語専門サイトの翻訳・検索支援サービスなどである. なおここで開発された地名辞典による位置・場
所座標提供サービスの考え方は、国土交通省における建設分野での地名辞典の考え方にも展開され
た。
87
2.2 オントロジーの利用の詳細設計
オントロジー情報の利用方法は多岐にわたるため,さまざまなデータや情報の統合・融合的利用を支
援するという視点から,その利用方法をユースケースとして整理し,重要と考えられる支援サービスの内容
を絞り込んだ.ユースケースの対象としては,同じサブテーマのもとで行われている「農業分野における分
散型データ利用システムの構築(分担研究者名:木浦 卓治、 所属機関名:(独)農業・食品産業技術総
合研究機構)」を選んだ.このテーマはタイ国における農業を扱っており,外国語で表現された専門用語
を検索する必要があること,また土壌や土地利用から水資源,気象,災害,衛星画像まで非常に幅広い
情報を統合する必要があることが理由である.
オントロジーを利用したタイの農業に関する利用場面として、図- 47 の 4 つの場面を想定し、オントロジ
ーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの詳細設計をおこなった。
図- 47: オントロジーの利用場面
○場面 1:検索支援
検索は、キーワードを用いた情報源の検索から始まる.主な対象は,論文,レポート,タイに関連する
研究機関・大学,政府機関などのウェブページ,農業情勢や災害の状況に関するニュース,雑誌,新聞
情報などである.ここではまず日本語,英語で表現されている情報源を想定する.プロセスは,題名・著
者・分野・文献・雑誌・新聞名・Web page などの情報源の特定、情報の収集・把握・理解へと進む。検索を
行う場合、適当な見出し語を入れないと、必要とする検索結果を得ることが難しい。その専門分野の素人
が正しい見出し語を入れるのは非常に困難であるので、内容を表すキーワードをいくつか入れると、それ
を含んだ概念(専門的な見出し語,専門用語)を得ることができるような検索支援を検討する。
○場面 2:タイ語サイトの検索支援
タイで栽培されているイネの気象応答特性など詳細な農業情報を把握するためには、「天水田」、「気
象応答特性」などの専門用語の情報はもとより、地名、土地被覆・土地利用、気象・水文・土壌特性などの
タイの地理的情報、品種特性などの情報が必要となる。一般的な内容は、その多くが英語に翻訳されて
いるが、詳細は現地語(タイ語)で記述されていることが多く、現地語辞書、翻訳システムの重要性は高い。
これにより、現地情報の把握と理解が促進される。タイの研究グループで農業のオントロジーの研究を行
88
っているグループがあるので、これらのグループと協力しながら、タイ語-英語の翻訳サービスや、タイ語
の形態素解析などを利用し、タイ語の検索支援の検討を行う。
○場面 3:現地調査支援
現地調査支援では、農業の専門家がタイの現地調査の下調べをする際に、収集したオントロジーや地
名データをもとに、タイのニュースサイトをクロールし、蓄積された記事から関連する専門用語が含まれる
もの自動抽出し、視覚化するアプリケーションを開発し、運用する環境を構築する。多量のテキストの中か
ら、必要な情報を探し出すテキストマイニングにおいて、オントロジー情報を効果的に使うことで、それぞ
れのオリジナルのテキストの意図していなかったあたらしい情報発見の可能性を検討する。
○場面 4:メタデータの作成支援
現地調査やデータ分析の結果得られたさまざまなデータを発信する際には,そのデータの解説情報で
あるメタデータをデザインし,入力する必要がある.メタデータのデザインに際して一般的でないデータ項
目名などを利用すると,検索が困難になるケースがある.たとえば,メタデータではデータ作成者を表す
ために,”Data provider”と言う言葉を一般的に使っているにもかかわらず,”Data Sakusei-sha”とすると,
そのメタデータは検索に引っかかりにくくなってしまう.既に作られたデータ仕様、データモデルやメタデ
ータを参考にして、「一般的」な項目名を選んだり,データの名称や定義を決める際にその分野で標準的
に用いられている専門用語辞典(Semantic Media Wiki で構築されていると想定)を参照できるようにする
など,新たにメタデータやデータ仕様を作成する際の支援方法を検討する。たとえば,データ要素や用語
や定義の乱立を避けるために、レジストリで利用可能な要素・用語を検索する。開発したデータ仕様を普
及させるために、レジストリに登録する。このとき、参照にした既存の仕様がある場合は、リンクさせて登録
する。また、データ仕様及びデータの利用者の理解促進と利便性を考慮し、データ仕様にかかわる専門
用語をレジストリに登録する。類似のデータ仕様をレジストリで検索し、項目間の比較及びマッピングをお
こない、相互運用可能性を評価する。
2.3 検索支援
「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築」で収集された情報
を利用し、検索支援を行う。これらの情報は MediaWiki に収録されており、ここで記述されている見出し語、
その解説、同義語、類義語、さらに上位語や下位語などの参照情報は、すでにある程度構造化されたオ
ントロジー情報を構成していると考えられる。ここではまず MediaWiki を「正引き」の辞書として利用する。
すなわち,見出し語(専門用語)を入力して,その定義や写真などを検索する。図- 48 に MediaWiki に収
録したリモートセンシングオントロジーによる、「ALOS」に関する情報検索の結果を示す。MediaWiki では、
見出し語(概念クラス)とその定義を記述すると同時に、語と語の関係(意味リンク)を定義する。
89
図- 48: MediaWiki による情報検索
また、見出し語を入れて検索するだけでは関連語の状況を把握しがたい.そこである専門用語を中心
に、まわりの情報を俯瞰的に把握するために,オントロジー関連情報を概念・用語間のネットワークとして
可視化するインターフェイスを開発した。図- 49 に「NOAA」という地球観測衛星を中心にした俯瞰した図
を示す。この専門用語の関連を俯瞰的にみることで、「NOAA」がどの機関で管理されているものなのか?
また、何という衛星の後継機なのか?どんなセンサを搭載していて、どのような利用方法があるのか?な
ど全体像を把握することができる。また,この機能を利用することで関連するデータを網羅的に拾い出す
ことができ,データ相互の比較も可能になる.その結果,メタデータなどに記載してある「データ品質」を他
のデータとの相互比較を通じてチェックすることが可能となった.また後述するが,地名辞典を利用するこ
とで周辺で観測・計測されたデータを発見することも可能になり,近傍データとの比較による品質評価も
可能になる.
また、利用者が正確な専門用語を知らない場合、思いつきの単語群から専門用語を推定する類似度
検索システム(逆引き辞典システム)を構築した。例えば、「ALOS」とい専門用語を知らない場合、Wikiに
登録されている「ALOS」に関する解説文の類似度を計算するための情報として利用する。例えば、「だい
ち」などの呼び名や、また「森林火災や都市のマッピングに利用されている」などの「思いつき語」を入力
すると、解説文との類似度を計算し、「ALOS」という専門用語を候補を得ることができる。「PRISM」、
「AVNIR-2」、「PALSAR」といったセンサを搭載しているなどの関連情報も参照できる。一般に、データ項
目の名称は専門性が高いため、その名称を知っているユーザ、あるいは正確に暗記した上で一言一句
間違いなく入力できるユーザは限られる。しかし、類似度検索システムにより、ユーザは完全に正確な名
称の入力を強制されることなく、柔軟にデータ項目を参照することができるようになった。
このシステムには農業やリモートセンシングのオントロジー情報を収録し、同じサブテーマの下で進めら
れている「農業分野における分散型データ利用システムの構築」や「衛星データの分散型データ利用シ
ステムの構築」のグループと連携し、それぞれの利用システムの中で、専門用語を提供して検索の支援を
行っている。
90
図- 49: オントロジーの可視化ツール
2.4 タイ語サイトの検索支援
タイ語で書かれた稲作に関する詳細な情報の検索を行う際に、例えば、利用者が「
」(Rice
Blast)という稲作の病名のタイ語を知っている場合は、Wikiを利用し、写真などの情報を得ることができる。
しかし、タイ語に精通している研究者は少なく、また、思いつきの単語から専門用語を推定する類似度検
索システムにおいても、タイ語の思いつき単語を入力することは難しい。そこで、図- 50 に示すように、
「 rice disease cause by insect 」 と い う 英 語 の 思 い つ き 単 語 を 入 力 す る と 、 そ れ を 、
」と翻訳し、これらの単語とタイ語で書かれた解説文の類似度
「
を推定し、「
」という検索結果を得られる。「
」の定義から「Gall Dwarf Disease」ということが
わかるので、利用者はこれらの情報を利用することができる。
タイ語のローカルな情報は、「Rice Knowledge Bank」(タイの稲作研究所)を収録し、英語-タイ語の翻
訳には、タイ科学技術省傘下の研究開発機関であるタイ国家電子コンピュータ技術センター(NECTEC)
で開発されたタイ語・英語の相互のコーパスをベースにした辞書「Lexitron」の Web サービスを利用してい
る。また、類似度を計算するための形態素解析においては、タイ国のカセサート大学で開発された「KU
Wordcut」というツールを利用した。
図- 50: タイ語の検索支援
91
2.5 現地調査支援
現地調査支援では、前述した Wiki や専門用語の推定システムを利用して、より地域を絞ったりしながら
情報を事前に収集するとともに、タイ語の地名辞典やタイのローカルなサイトを検索し、有用な情報の抽
出を行う。現地の観測データは場所,地名と結びついていることが多く,その正確な位置がわからないと
他の観測データや衛星画像との統合は困難である.そこで,地名辞典の構築及び管理を支援するシステ
ムの開発をした。現地調査に入った際にも、現地の農家の人々が正確な位置座標を分かっていることは
少なく、インタビューの中で得られた地名の情報を位置座標に置き換えることが必要になることは多い。本
研究における地名辞典とは、地名と位置座標との対応表をデータベースとして備えた Web 上で利用可能
なサーバを指し,地名を位置座標に自動変換する。なお,地名はローカルなもの,俗称なども多く大変幅
広いため,精度の高い地名-座標の対応データを備えた Web 地名辞典サービスを立ち上げるだけでは
なく、誰でも地名辞典を新規に構築・更新できるといった地形辞典の作成・更新支援環境を整えることも
目的の一つとした。図- 51 に地名辞典構築のための方法論の検討、および試作システムを示す。
図- 51: 地名辞典構築システムの概要
また、新聞などによる調査事前情報や農業事情などの収集支援のために,タイの英字ニュースサイト
(Bankok Post/The Nation/ETNA TNA English NEWS/Bankok NEWS/Business Day)から農業に関
する専門用語とタイの地名の双方が含まれるものを自動抽出し要約するサービスも実現した.このサービ
スを実現するために,記事の自動収集(クロール)システムの構築から始まる一連のテキストマイニング機
能の開発・実装を行った.すなわち、連用語の定義体修正、共起データの集計、ニュース一覧の視覚化、
解析に必要な専門用語のアップロードシステムである。タイの英字ニュースサイトを対象にクロールしたニ
ュース記事(2007/9/10-25 の 2302 記事)からあらかじめ辞書に登録した土地利用に関する専門用語と地
名(74,652 ワード/国:30,地域:46,535,農業用語含む名詞:28,087)を自動抽出し、キーワード間の関連
判定(19,142 対)を行うシステムの構築を行った。これらのシステムは、ニュース記事からキーワードを自動
抽出し解析、キーワードをデータベースに格納し関連判定のための事前処理、関連語の判定データから
視覚化する機能を有している。図- 52 に「Thailand」という地名と「Rice」と言うキーワードをもとにした、情報
の抽出結果を示す。「Price of Vietnamese rice higher than Thai rice」や「Hawker stalls, restaurants seek
92
ways to cope with rice prices」といったニュース記事やコラムを抽出することができる。これにより、現地調
査に関して、事前に現地のニュース記事などの情報を容易に得ることができる。
図- 52: ニュースサイトの抽出
2.6 メタデータ作成支援
これまでに、それぞれの研究機関において様々なメタデータが作成されてきたが、その数が増えるに
つれ、今までにどのようなメタデータが作成されてきたのかを把握することが困難になりつつある。これに
より、類似したメタデータが重複して作成され、存在しているといった問題も起きている。また,同じようであ
りながら異なるデータ項目名などが採用されている結果,横断的に全体を検索できないといった課題も生
じている.今後、情報のデジタル化が進むにつれ、さらに様々なメタデータが出現することが予想され、問
題は一層深刻になることが予想される.これに対し標準メタデータをトップダウン的に半ば強制するという
方法もあるが,さまざまな研究者コミュニティを対象にすると実現可能性が高いとは言えない.そこで現在
個別に管理しているメタデータをそのまま収録することで,その内容及び構造を一覧的に検索できるよう
にし、目的に合ったメタデータを利用でき,またどのメタデータが「主流」か,よく使われているのかを見え
るようにすることで,自然に「収束」させるような仕組みを構築する必要がある。
一方、メタデータ作成者にとっては、作成したメタデータが限られた分野やコミュニティで利用されてい
るにとどまることが多く、分野を超えて普及・流通させることはなかなか難しいのが現状である。また、メタ
データを作成しても公開する機会が得られず、他の研究者には利用されないままのモデルを眠っている
ことも多い。この点からも作成したメタデータを登録・公開し、分野やコミュニティを超えて評価を得られる
仕組みを構築する必要がある。さらに、被参照頻度などからメタデータを評価する仕組みを利用してメタ
データが更新され,より最適なメタデータが構築されていくことも期待される。
本研究では,様々なメタデータを共有する仕組みとして、さまざまなメタデータを収録し、目的に合った
メタデータを検索することを可能とするサービスを構築することで、メタデータの作成や利用を支援するこ
とを行った。たとえば,メタデータ項目の設計時には既存のデータ項目や用語辞典を参照できる環境とな
っている.今回の実験では,農業、土地利用、水利用といった分野に関する専門用語辞書システムを整
備しておき、これにより、登録済みの名称や定義などを参考にしながら、メタデータやデータを作成できる
ようにした。図- 53 にシステムに登録されている河川・流域メタデータのクラス図を示す。河川の研究者は、
これを参照し、メタデータを作成することができる。本システムにより、メタデータ作成者は、既存のメタデ
ータを参考に,効率良くメタデータを作成し、内容の類似する複数のメタデータの関係を把握し、作成し
たメタデータを登録,共有,普及,流通させることができる。データ利用者は、作成/利用するデータの構
93
造や意味を詳しく知ることができる。また、利用したいデータの分野には、どのようなメタデータがあるのか
把握できる。
図- 53: 河川・流域メタデータのクラス図
2.7 まとめ
多様な地球観測データや地上観測データ,現地調査データなどの整備が進みつつあり,これらの情報
を連携させてより高度な利用を実現するためには,データフォーマットに代表されるデータ形式の標準化
だけでは不十分であり,データの表す意味内容を相互理解可能にするオントロジー情報を蓄積・管理す
ることが不可欠である.しかしオントロジー情報を利用するサービスが十分でなければ,オントロジー情報
はその効果を発揮しないし,逆にオントロジーの整備・更新を進めるインセンティブが生まれない.整備車
と利用者が共に利益を得ることができように,本研究課題で構築するオントロジーレジストリを利用した情
報共有・利用支援サービスでは、地球観測データ統合を目的としたオントロジーの利用を支援するそれ
ぞれのツールの開発を行ってきた。このような各種のオントロジー情報やツールを横断的に管理し利用で
きるサービスとして、農業に関するポータルサイト(図- 54)のプロトタイプを構築した。またこれらの過程で
は、同時に Global と Local の知識・情報を結びつけられ、新たな情報が生み出されると期待される。
図- 54: タイの農業ポータル
94
3 農業分野における分散型データ利用システムの構築3)~5)
(分担研究者名:木浦 卓治、 所属機関名:(独)農業・食品産業技術総合研究機構)
【概要】
具体的な目標として「タイ東北部における稲収量予測」を設定し、「農林水産データの収集とオントロジ
ー構築および応用プログラムの開発」と「農業向け地上観測データと衛星データ統合利用基盤の開発」と
を行った。
前者では、気象データ統合用のオントロジーを多言語化した。対象地域の調査データを精査しながら
XML 形式で整備した。「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構
築」が開発したオントロジーデータ作成支援システムから、肥料や稲の品種データを取得し、肥料や品種
データや調査項目のオントロジー作成し、それらをまとめて現地調査アプリケーションを開発した。気象デ
ータ統合用のオントロジーを拡張し、予測データや平年値データなどの統計データも取り扱えるようにし
た。「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築」と連携して、農業
向けの語彙収集・オントロジー構築基盤を整備した。地名をキーとしたデータ統合のために,同課題で開
発された地名辞典の構築と連携して、多言語で地名を取り扱うためのシステムを開発した。稲の収量予測
のための単純なモデルを実装し必要なデータを整備した。さらに、同課題と共同で農業用語を収集し、農
業向けの語彙収集・オントロジー構築環境を整備した。また、統合した気象データと統合した栽培データ
とを位置をキーにして統合した。これらにより、オントロジーによるデータ統合のための基盤的な技術が開
発できた。
後者ではサブテーマ1「アクティブデータベース型センサデータ格納融合基盤の構築」におけるの課題
と連携して、センサネットワークのデータをセンサのネットワークのメタデータと気象観測データのオントロ
ジーを関連づけて統合できるようにした。衛星データ源に接続して統合利用基盤に必要なデータを取得
するプログラムの枠組みを設計し、一部の機能をテスト実装した。ネットワーク上にある地上観測データ源
と衛星データ源に接続してデータを取得するインターフェースを改良して、Google Maps や Google Earth
に表示できるようにした。これらのデータをサーバサイドで重ね合わせるための環境を整備した。
図- 55: 本研究の全体像
95
【目標と目標に対する結果】
本研究では、具体的な応用分野を設定して農業分野のデータを調査・整理しインターネットから利用で
きるようにするとともに、既存の気象データ仲介技術や柔軟で拡張性の高いメタデータベース記述、オン
トロジー構築技術をこれらのデータを取り扱えるように融合させて、多種多様で比較的小規模な地上観測
データ群を分散したまま管理する小規模分散データ利用技術の開発を行うこと、すなわち様々な応用を
可能とする農業分野におけるデータの効率的な管理・共有・統合利用システムを構築することが目標であ
る。
サブテーマ2の他の課題と連携して、気象データ統合用のオントロジーを多言語化や、タイ国独特の肥
料や稲の品種データ等に関するオントロジー作成を通じて、農業向けの語彙収集・オントロジー構築基
盤を整備し、さまざまな現地調査データの統合を可能とした。さらに地名辞典を利用して、気象データ、
現地調査データ(栽培データなど)や土地利用データを位置をキーにして重ね合わせる技術を開発した。
またリアルタイム情報を現地から得るためにサブテーマ1「アクティブデータベース型センサデータ格
納融合基盤の構築」と連携して、現地のセンサ(フィールドサーバ)からデータを得て、重ね合
わせることも可能となった。このように、気象情報,土壌情報,土地利用情報、生物情報,水利・水
文情報,植生情報,農業情報など多種多様で比較的小規模な地上観測データ群(ポイントデータやポリ
ゴンデータ)を分散したまま重ね合わせ、統合利用を可能とする小規模分散データ利用技術が開発され、
目標は達成された。
【研究方法】
農業環境技術研究所よりタイ東北部の稲作のデータの提供を受け、これを XML 化するとともにデー
タベース化し、ネットワークからデータにアクセスできるようにした。このデータを元に、調査項目のオン
トロジーを作成した。現地で利用されている具体的な稲の品種や肥料については、2-(1)のデータ作成
支援システムと協力してデータを整備し、現地調査アプリを Java で作成した。
気象観測データ統合システム MetBroker のオントロジーに多言語プロパティを導入し、タイ語・日本
語のプロパティを作成した。また、観測データではないが、準平年値や気象庁の GPV などの予測デー
タを利用できるようにオントロジーに統計値項目や、予測値項目を追加した。
「オントロジー関連情報の収録・比較・編集システム(オントロジーレジストリ)の構築」の地名辞典の地
名と位置データを取得し、地名を Wikipedia(http://www.wikipedia.org/)で検索して、そのページから他
言語へのリンク情報を取得してデータベース化し、多言語で地名を取り扱うシステムを開発した。
同課題と連携して農業・生物系特定産業技術研究機構が出版した「最新農業技術事典」を OCR で
テキスト化し、Semantic Extension を追加した MediaWiki に登録した。さらに農林水産省農林水産技術
会議事務局筑波事務所より「農林水産技術用語集」の提供を受けてデータを追加し、語彙収集・オント
ロジー構築環境を整備した。
MetBroker を利用して日照と気温データを取得して動作する収量推定モデルを Java で実装した。
衛星データの提供元は多くの場合 Web 経由でリクエストを受けてデータを提供している。これらのサ
イトに接続してデータを取得するためのインタフェースを Java で開発した。
サブテーマ1「アクティブデータベース型センサデータ格納融合基盤の構築」と連携して、MetBroker
のオントロジーにある観測項目をフィールドサーバのメタデータ内の観測タグとを関連づけるプログラム
を開発し、フィールドサーバの気象データをリアルタイムに MetBroker のオントロジーを利用してアクセ
96
スできるようにした。
取得したデータの位置情報を利用して、データの位置(URL)と形式を指定することで、データを統合
表示する環境のプロトタイプを MapServer (http://www.agmodel.org/metbroker/demo.html) をベース
に開発した。農業環境技術研究所より提供を受けた土地利用データ(面的に広がりのあるポリゴンデー
タの例として)と現地調査データ(点的なポイントデータの例として)をシステムに登録し,統合的な利用
ができることを確認した。
【研究結果】
現地調査アプリについては現地に投入することはできなかったが、テスト的にオントロジーを日本語化し
てダミーデータを登録したところ、一部の項目や選択肢が日本語になり、日本語でデータを登録できた。
また、XML データベースのデータとして日本語が登録されていても、データベースには影響はなく、タグ
を元にデータを区別することなく検索できた。現地調査データについては、Google Maps でも表示できた
(http://zoushoku.narc.affrc.go.jp/cropcalendar/index.html)。
MetBroker のオントロジーの多言語化により、多言語で MetBroker からデータを取得できた。デモ
(http://www.agmodel.org/metbroker/demo.html )の Demo1 では、MetBroker のオントロジーの階層構造
を、Demo2 ではオントロジーを利用した多言語データ検索を動作が分かる形で見せている。オントロジー
の多言語化により、気象データの検索を多言語化できた。また、オントロジーの拡張とドライバの実装によ
り、GPV データを MetBroker を通して提供できた。
多言語での地名検索では多言語で地名を検索して、他のデータへの関連づけを行えた。デモプログラ
ム(http://pc110.narc.affrc.go.jp/geowiki/)では、元となったデータのサイト(Wikipedia)のデータに関連づ
けているが、もちろん別のデータソースに関連づけることが可能である。
農業向けの語彙収集・オントロジー構築環境は、機構内で共有してデータの追加・編集などが行えるよ
うになっている。また、追加した「農林水産技術用語集」は、FAO のシソーラス Agrvoc との関連を持ってお
り、Agrovoc とも連携できるようになった。現在の登録語数は 30,000 語であり、そのうちの約 8000 語に言
葉の意味の説明が付いている。
日照と気温データからのみ収量を推定する簡単なアプリケーションを作成した。平年値のデータや GPV
のデータが MetBroker から取得できることから、このアプリケーションは予測にも用いることができた。
農林水産省農林水産技術会議筑波事務所農林水産情報センターの農林水産衛星画像データベース
(SIDaB)からデータを取得できた。
フィールドサーバのメタデータと MetBroker のオントロジーを関連づけることで、フィールドサーバの気象
データを取り扱えるようになった(http://www.agmodel.org/OntDemo/pages/main.jsf)。Create Metadata
でフィールドサーバのメタデータと MetBroker のオントロジーを対応づけることで、Search FieldServer data
でフィールドサーバのデータにアクセスできるようになった。
データの統合表示環境では、ローカルファイルとして登録したポイントデータ(現地調査データ)とポリゴ
ンデータを自由に重ねて表示できた。結果として気象情報,土壌情報,土地利用情報、生物情報,水
利・水文情報,植生情報,農業情報など多種多様で比較的小規模な地上観測データ群(ポイントデータ
やポリゴンデータ)を分散したまま重ね合わせ、統合利用を可能とする小規模分散データ利用技術が開
発された。
97
【まとめ、今後の展望など】
MetBroker ではオントロジーを利用することで、複数の方法で提供されている気象データを、柔軟に統
合し検索できることが示されていた。今回、現地調査アプリにオントロジーを応用することで、既存のデー
タだけでなく、今後生じるデータについても、オントロジーをベースに考えることで、アプリケーションの地
域化が可能であること、地域化されたデータのままでデータを統合可能であることが示された。しかしなが
ら、具体的な記述についてはまだ現地語のままであり、利用者には簡単に理解できないデータとなる。自
動翻訳が発達すれば、これらの記述も多言語で理解できるようになると思われる。既に先鞭は、「オント
ロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築」における翻訳システムとの連
携についている。
MetBroker のオントロジーの多言語化では、インターフェースでなくデータの検索のリクエスト自体が多
言語化できるとともに、柔軟にデータを検索できることが示された。平年値などの統計的なデータや予測
値データの統合では、MetBroker でデータを提供することができ、これにより実装した収量推定モデルを
予測モデルとして利用できるようになった。しかしながら、MetBroker のインターフェースは気象観測デー
タの提供を目的に提供されており、観測値とこれらの値を繋ぐ手法を持っていない。MetBroker のオントロ
ジーは観測項目を元に作成されており、これに統計値や予測値などの項目を直接追加している現在の
方法はスマートな方法ではない。MetBroker のオントロジーを参照した別のオントロジーとして整備するな
どの改良が必要である。
農業向けの語彙収集・オントロジー構築環境は農業・食品産業技術総合研究機構内で共有し、内容の
充実を機構全体で行うなどの環境整備が必要であり、今後も実現に向けて活動を行ってゆきたい。
多言語地名検索サーバは実装して機能を確認したのみであり、MetBroker のデータ検索の地点名入力
や別の課題で作成した稲の栽培データ(稲の複数のエクセルファイルに保存された栽培データを、スタイ
ルシートを利用することでデータを統合するとともに、栽培地の位置データを元に、MetBroker の気象デ
ータと組み合わせてデータを解析できるようになっている。http://www.agmodel.org/RiceDB/ 非公開)の
地名検索、「オントロジーレジストリを利用した情報共有・利用支援サービスの構築」のニュース
検索などと組み合わせてライブデータとの結合を行えるようにする、複数地点の観測データからの衛星画
像のシーンの切り出しなどの応用が可能である。また、システム自身は例えば「コンケン」や「コーンケー
ン」などの地名表記の揺らぎにも対応しているが、データが入っていない。データを充実させることによりよ
り性能を発揮できるようになる。プログラムによる自動抽出を行っているため、ゴミデータが入っているが、
これらも人手を掛けることで対応可能であると思われる。
衛星データの取得に関しては、取得するためのメタデータの収集に多くの労力がかかることが分かった。
今回はインタフェースの構築のみに終わり、連携の実証実験までは行えなかったが、サブテーマ2「衛星
データの分散型データ利用システムの構築」との連携も行えるように検討したい。
データ統合表示環境は、URL とそこにあるデータをジオリファレンス化するシステムであり、URL にある
データを取得して重ね合わせることができる。例えば、MetBroker の観測地点データを現地調査データと
一緒に表示して検討する、収量推定モデルなどを MetBroker の地点で実行したデータも同時に表示して
検討するなどが可能となるため、これらも併せて実装の検討を進めたい。
98
4 衛星データの分散型データ利用システムの構築
(分担研究者名:三浦 聡子、 所属機関名:(独)宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)
地球観測衛星データはその扱いが難しい場合が多く、フォーマットやデータ構造、さらには必要な付
加情報(衛星軌道情報や姿勢などの情報)についての説明やサポートが不足している。本システムの試
作においては、そうした衛星データの利用サポートに力点を置いて、各衛星データ保有機関とも連携しな
がら分散環境で保管管理されている衛星データと、関連した利用数値モデルデータ、また地上観測デー
タ、データ検索・表示、簡易処理・表示などが可能な分散型データ利用システムの試作を行った。
対象データとしては、表- 4 に示す 3 ヶ所のデータセンターに保管されている 4 種類のデータとし、ユー
ザがデータの保管場所やデータ種類が異なることによるフォーマット等の違いを意識することなく同じ操
作で簡単に検索、切りだし、取得できるようにした。本システムで提供している機能について、表- 5 に示
す。
表- 4: 対象データ一覧
データ保管場所(データセンター)
データ種類
*1
東京大学
衛星データ
ドイツ マックスプランク研究所
時系列数値モデルデータ、全球数値モデルデータ
米国 大気研究大学連合(UCAR)
現場観測データ
*1
:サブテーマ(3)テーマ 2.「衛星観測データの収集・処理」において作成され、サブテーマ(1)テーマ 1.
「大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」で開発したコアシステム
に投入されたデータを利用している。
表- 5: 機能一覧
機能名
データ検索機能
データの切り出し機能
データ出力方式の指定機能
データ表示機能
フォーマット変換機能
比較機能
詳細
データの種類の選択機能
リファレンスサイト(現場データ観測地点)の選択機能
データセットの指定機能
物理量の指定機能
日付/期間検索の指定機能
深度/高度の指定機能
バンド指定機能
ブラウザもしくは E-mail によるデータの出力方式の選択機能
Email によるデータ準備完了通知送信機能
GIF 画像作成機能
(グラフ(1 次元)or 画像(2 次元))
アニメーション画像作成機能(衛星、モデルアウトプット)
テキスト表示機能
CSV ファイルへの出力
NetCDF ファイルへの出力
データセットの指定機能
物理量の指定機能
比較用 GIF 画像作成機能
99
2008 年 3 月現在、登録ユーザ数は約 130 名となっている。図- 56 から図- 61 に衛星データを検索・表
示する場合の例を示す。1st 画面:リファレンスサイトの選択
図- 56: 1st 画面:リファレンスサイトの選択
ユーザは、左サイドもしくはリファレンスサイトマップから希望するリファレンスサイトの番号をクリックする。
図- 57: 1st 画面:プロダクトの選択
リファレンスサイトを選択すると右横に該当するリファレンスサイトの地図(Google Map)が表示されると共に下段に該当す
るプロダクトの選択テーブルが表示される。本画面では、衛星/センサ/プロダクト名までを選択する。プロダクト名はプロ
ダウンメニューより選択する。
100
図- 58: 2nd 画面:物理量、検索期間の選択
上部に前画面までに設定された検索条件が表示される。中央部に物理量と検索期間の設定メニューが表示される。物
理量は、プルダウンメニューから選択をする。検索期間は、「Select a Start and End time」ボタンをクリックし、別ウィンドウに
表示されるデータ観測日から開始と終了を選択すると自動的に検索開始時間と終了時間に値が代入される。
図- 59: 2nd 画面:検索期間の指定
図- 60: 3rd 画面:バンド、出力方式の選択
検索期間の開始日と終了日を選択す
上部に前画面までに設定された検索条件が表示される。中央部にバン
る。
ドと出力方式の設定メニューが表示される。バンドは、プルダウンメニュ
ーから選択をする。出力方式は、ウィンドウ上に表示するか、データ処理
が終了後メールにて連絡を貰うかを選択する。補助情報として要求され
たプロダクト数とデータ処理にかかる予想時間を表示している。
101
図- 61: 4th 画面:検索結果、ブラウズ画像表示
上部に前画面までに設定された検索条件が表示される。下部にブラウズ画像の縮小版とその他の表示メニューが表示され
る。その他の表示メニューを以下に示す。
① バンド選択:プルダウンメニューより選択する。選択すると該当のバンドデータが表示される。
② GIF 画像表示
③ GIF アニメーション表示(複数バンドを選択した場合のみ)
④ テキスト表示
⑤ NetCDF フォーマットでのデータのダウンロード
本試作システムは、対象データが水循環、気候変動といった 4 種類(衛星データ、時系列モデルデー
タ、モデルアウトプットデータ、現地観測データ)の異なるフォーマットで観測物理量の異なるデータがあり、
かつ東京大学(日本)、UCAR(米国)、MPI(ドイツ)と 3 か所に分散保存されているという状況において、
データを如何に効率よく、検索、表示し、統一的なフォーマットで提供するかという課題に取り組み、それ
をウェブベースでブラウザがあれば、誰もがアクセスできかつ直観的に簡単に操作できるシステムを構築
できたと考える。また、システム利用のためのチュートリアルムービやマニュアルの作成を行ったことにより、
ユーザへの情報提供、利用促進に役立てることができたと考える。
上記の特定のテーマに依存しない「一般的なプロトタイプ」に対して、特定の利用テーマ(水循環)に特
化した、衛星データの検索・アクセスシステムのプロトタイプの構築も実施した。
水循環テーマに特化したプロトタイプシステムについては、対象地域をアジアの中で洪水被害が顕著
102
で、かつ、河川管理関連データの入手が可能であったベトナムにしぼり、2004 年のフォン川洪水の例を
利用した被害状況を把握できるシステムを構築した。ベトナムにおける洪水の状況及び洪水危機管理な
どの分野で、研究者利用に限らずより幅広い実利用のためのデータ提供を考えた場合、被害軽減または
被災後復旧時の活動に役立つ情報の提供が有用と考えられる。そこで本システムの目的を、2004 年の
洪水被害を実例としてユーザが洪水時の浸水地域やその時の降雨量等を把握し、今後の危険度の認知
を高められるようなサービスを提供できることとして、ベトナムの河川管理者から入手したフエ市の GIS(地
図情報)及び洪水ハザードマップに類する情報を提供するとともに、過去の洪水の要因となった雨量、そ
れに基づく流水量なども確認できるようにした。
なお、本試作システムよりアクセスできるデータのリストを表- 6、機能を表- 7 に示す。
表- 6: データリスト
データ項目
現在整備されているデータリスト
ベースマップ
(1)ALOS/AVNIR-2 画像(True color 、False color)
(2) ALOS/PALSAR 画像
主な地理情報
河川、道路、鉄道、駅、主要な建物、人工密集地域等
人口密度
Population Density
NDVI
AVHRR より算出した NDVI データ(2000 年 1 月)
浸水域のデータ
0~4m まで 1m 毎の浸水地域を表すデータ
降雨量
・PR3B42 データ(画像)
・PR3B42(時系列)
・NCEP RAIN(時系列)
・NCEP Atmos column Precipitable water(時系列)
流量
現地観測データ、モデルデータ等のグラフ(画像)
表- 7: 機能一覧
機能名
データサーバへのアクセス機能
概要
異なるインタフェースのサーバにアクセスし、データを取得
する機能
データ選択機能
表示するデータをチェックボックス及びプルダウンメニュー
より指定することができる機能
データ表示機能
重ね合わせデータの表示
1 次元データのグラフ表示
衛星データとモデルアウトプットデータの比較グラフ表示
テキストダンプ表示
103
図- 62~図- 67 に本試作システムの画面例を示す。
図- 63: 凡例表示画面
図- 62: 初期画面
図- 64: 流量の観測所の位置を表示した画面
現地の流量の観測場所を地図上に表記し、合わせて流量のグラフを別ウィンドウに表示した(図- 65 参
照)。これにより、急激な流量の増大が確認できる。
104
図- 65: 流量のグラフ
図- 66: 衛星データとモデルアウトプット
データによる降雨量比較のグラフ
図- 67: 各データの降雨量のグラフ
TRMM3B42、NCEP モデルアウトプットデータが時系列にグラフ表示される。テキストダンプも表示され、実際のデータ
値の確認が可能
実利用テーマに沿ったシステムは、それに必要なデータを整備することが、まず、大きな問題となるが、
本試作システムにおいては表- 6 に示すデータ整備の実施により、洪水被害に関わる様々なデータを提
供することができ、かつ洪水ハザードマップに類する情報の提供というようにサービスを規定したことで、
それに必要な機能、情報の絞り込みを行え、ユーザにとってわかりやすいシステムとなったものと考える。
また、本試作システムは、ユーザ自身が表示するデータを選択できるため独自の主題図の作成が可能
であり、ユーザ自身が必要な情報厳選して表示し、より自分のために必要な情報を得ることが可能とな
る。
本試作システムを利用することにより、現地住民は、自分の居住地の浸水域を確認できると共
に、実際の被害時の降雨量等を、洪水ハザードマップと一緒に確認することができ、どのくらい
の降雨量で洪水となる可能性があるのかユーザが危機意識をもつための一助になるものと考える。
105
これらの試作システムの構築により、分散的に保管されているデータをユーザが意識することなく利用
する環境についての十分な技術実証をすることができ、研究開始時の目標を達成することができたと考え
ている。
5)考察・今後の発展等
詳細テーマ1においてオントロジー関連情報の収録・比較・編集が可能なオントロジーレジストリを構築
した.このレジストリシステムをもとに詳細テーマ2において利用支援サービスを構築した.こうした枠組み
をもとにして詳細テーマ3において農業分野にケーススタディとして適用した.また詳細テーマ4において
は分散管理された衛星データを利用できるシステムを構築した.こうして,ユースケースを想定しながら有
効性を検証しつつ,基盤となるような各研究開発を進めていくことによって,ミッションステートメントにある
相互利用性・情報サービス機能の開発研究という当初の目標は十二分に達成することができた.
オントロジーの重要性、有効性は今回明らかとなったが、蓄積、維持管理していくことが最も重要である。
今回各国を巡ってオントロジー関連情報を収集したように,ある意味では地味な活動を今後も継続してい
く必要があるだろう.
加えて,詳細テーマ1,2を担当した東京大学,詳細テーマ3を担当した農業・食品産業技術総合研究
機構,詳細テーマ4を担当した宇宙航空研究開発機構地球観測研究センターといった,異なる研究機関
との間でこうして連携・協力体制を整えることができたことは,直接の研究成果としては表面化しにくい部
分であるが,今後の発展にとって期待できる成果の一つであると考えている.
なお,ここで生まれた研究成果は基本的に国家基幹技術「データ統合・解析システム」に引き継がれる.
今後は,ここで開発したプロトタイプの完成度を高めつつ,オントロジーを整備・更新する活動を広げなが
ら、地球観測データの統合的利用を促進する基盤として、政策課題の解決支援など社会貢献をより明確
な形とする予定である.
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
6 報 (筆頭著者: 0 報、共著者: 6 報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌: 3 報、国外誌: 6 報、書籍出版:1 報
3. 口頭発表
招待講演: 1 回、主催講演・応募講演: 31 回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
1件
1. 原著論文(査読付き)
1)
Hashimoto, A., Oguchi, T., Hayakawa, Y., Lin, Z., Saito, K., Wasklewicz, T.A.:「GIS
analysis of depositional slope change at alluvial-fan toes in Japan and the American
Southwest」, Geomorphology (in press), (2008)
106
2)
Saito, K. and Oguchi, T.:「Slope of alluvial fans in humid regions of Japan, Taiwan and the
Philippines」, Geomorphology, 70, 147-162, (2005)
3)
Yu X., A Yamakawa, T Kiura, T Hasegawa, S Ninomiya:「CROWIS: A System for sharing and
integrating crop and weather data」,農業情報研究, 16(3),124-131, (2007)
4)
Yu X., M Laurenson, T Kiura, S Ninomiya,「RIAS: an Approach to provide Internet-accesible
image analysis service」, 農業情報研究, 16(4),212-218, (2007)
5)
SAWANO S, T HASEGAWA, S GOTO, P KONGHAKOTE, A POLTHANEE, Y
ISHIGOOKA,T KUWAGATA, H TORITANI:「Modeling the dependence of the crop calendar
for rain-fed rice on precipitation in Northeast Thailand」, Paddy and Water Environment,
6(1) 83-90, (2008)
6)
今井龍一,金澤文彦,高尾稔,石井邦宙,柴崎亮介:「建設分野における地理空間情報基
盤の構築に向けた地名辞典に関する研究」, 土木情報利用技術論文集, 16, 63-70, (2007)
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1) 小 花 和 宏 之 ・ 高 野 誠 二 ・ 織 田 竜 也 ・ 近 藤 恵 美 ・ 鬼 頭 美 和 子 ・ 小 口 高 ・ 柴 崎 亮 介 ・ Michael
Grossman・Helen P. Jarvie:「土地被覆・土地利用分類体系のデータベース化 ―米国・英国資料の
収集と分析」,ディスカッションペーパー No.80,東京大学空間情報科学研究センター,(2006)
2) 吉田英嗣:「『オントロジー』を用いた地理的情報群の相互利用」,GIS NEXT,22, 61-61,(2008)
3) 長井正彦, 立塚滋充,柴崎亮介: 「地球環境情報のためのオントロジー構築」,第 15 回生研フォー
ラム「宇宙からの地球環境モニタリング」論文集 東京大学生産技術研究所, pp.86-89, (2006)
国外誌
1)
Ninomiya, S, M. Laurenson and M. Hirafuji:「An approach to agricultural information system based
on Grid concept」, EFITA/WCCA2005 Proceedings ISBN972-669-646-1, 1092-1100,(2005)
2)
Rafoss, T., M. Grntoft, M. Laurenson, S. Ninomiya, I. Thysen and T-E. Skog:「Draft proposal
standard: XML-schema for agrometeorological data 」 , EFITA/WCCA2005 Proceedings
ISBN972-669-646-1, 490-497, (2005)
3)
Kiura,T., H. Toritani, D. Horyu, A. Yamakawa, S. Ninomiya : 「 Application of Web ontology to
harvest estimation of rice in Thailand」, Proc. AFITA2006, MACMILLAN Advanced Research
Series: 740-744., (2006)
4)
Ninomiya, S. and M. Hirafuji : 「 Grid Architecture for Agricultural Decision Support 」 ,
Proceedings of International Conference on Research Highlights and Vanguard Technology on
Environmental Engineering in Agricultural Systems Joint Meeting on Environmental Engineering in
Agriculture 2005 Supplement 2 ISSN 1880-2087, 111-116. (2005)
5)
Ninomiya, S., T. Kiura, A.Yamakawa: 「 New implementation of MetBroker based on Web
ontology」, Computer in Agriculture and Natural Resouces, Proc. the 4th WCCA:38-42, (2006)
6)
Ninomiya, S., T. Kiura, A. Yamakawa, T. Fukatsu, K. Tanaka, H. Meng, M. Hirafuji: 「Seamless
Integration of Sensor Network and Legacy Weather Databases by MetBroker」, Proc. of Practical
107
Applications of Sensor Networking, SAINT2007, Hiroshima, JAPAN, CD-ROM, (2007)
7)
Shibasaki, R and Pearlman, J. 「System-of-Systems Engineering (SoSE) of GEOSS」, in SYSTEM
OF SYSTEMS ENGINEERING, ,Wiley Series in Systems Engineering and Management, Edited by
Mo Jamshidi, (forthcoming in 2008)
3. 口頭発表
招待講演
1) Ryosuke Shibasaki:「Developing Ontological Information to Help Integrate Global Observation
Data」, 20th International CODATA Conference, Session: Integrating Heterogeneous and Very
Large Datasets for Global Water Cycle Studies: a Case Study for GEOSS, 2006.10.23
主催・応募講演
1) 高野誠二・小花和宏之・織田竜也・鬼頭美和子・長井正彦・小口 高・柴崎亮介:「オントロジーを
用いた地球観測データの統合にむけて ―土地被覆図・土地利用図における分類基準の調査」,
埼玉大学,日本地理学会 2006 年春季学術大会,2006.3.27-30
2) 織田竜也・小花和宏之・高野誠二・鬼頭美和子・長井正彦・小口 高・柴崎亮介:「Analytical
method for the land cover data using Ontology and GIS: A comparison of classification systems for
Great Britain 」 , 幕 張 メ ッ セ , 日 本 地 球 惑 星 科 学 連 合 Japan Geoscience Union Meeting,
2006.5.14-18
3) 織田竜也:「オントロジー駆動型 GIS(ODGIS: Ontology-Driven GIS)の現状と展望」,日本大学文
理学部,日本GIS学会第 15 回研究発表大会, 2006.10.17-18
4) 高野誠二・小口 高・JOSHI, Veena・KALE, Vishwas・柴崎亮介:「インドにおける土地利用図の作
成状況とその分類基準」,東洋大学,日本地理学会 2007 年春季学術大会, 2007.3.20-22
5) 織田竜也:「オントロジーと GIS を利用したローカル・ナレッジ・ドメインの構築」,幕張メッセ,日本地
球惑星科学連合 2007 年大会, 2007.5.19-24
6) 高野誠二・織田竜也・小口 高・柴崎亮介:「フィリピンにおける土地利用図の作成状況とその分類
基準」,獨協大学,日本地理学会 2008 年度春季学術大会, 2008.3.29-31
7) 吉田英嗣・小口 高・PATANAKANOG Boonruck・高野誠二・織田竜也・柴崎亮介:「タイの土地利
用分類体系 ―オントロジーの観点から」,独協大学,日本地理学会 2008 年度春季学術大会,
2008.3.29-30
8) 吉田英嗣・織田竜也・高野誠二・小口 高・柴崎亮介:「地理情報の利活用に向けた土地分類体系
のオントロジー的考察」,幕張メッセ,地球惑星科学合同大会, 2008.5.25-30
9) Kiura, T., M. Hirafuji, A. Yamakawa and S. Ninomiya: 「Sensor Networks -Field Servers and
MeBroker 」 ,
PRAGMA
9
Workshop
,
Oct
26-28,
2005,
Hyderabat,
,
http://202.41.85.117/pragma/pragma9htmfiles/SensorNetworks.ppt, (2005)
10)
Toritani H., T. Kiura, M. Suto: 「Developing Analyzing Method for Crop Production using Web
Ontology
」
,
Asia-Pacific
Advanced
Network,
21th
meeting
in
Tokyo,
http://www.apan.net/meetings/tokyo2006/proposals/nr.html#hag, (2006)
11)
木浦卓治、鳥谷均(農環研)、法隆大輔、二宮正士(2006.9), Web オントロジー技術の現地調査
108
ソフトウエアへの応用, 農業環境工学関連学会 2006 年合同大会(要旨 CD-ROM).
12)
Kiura T., A. Yamawaka, X. Yu, S. Ninomiya: 「Accessing Distributed Meteorological Data using
Ontology
」
,
22nd
APAN
Meeting
in
Singapore,
http://www.apan.net/meetings/singapore2006/presentations/ontology/ninomiya.ppt, (2006)
13)
三浦聡子:「DISTRIBUTED DATA INTEGRATION WTF-CEOP」、米国/ワシントン D.C., THE
SIXTH
INTERNATIONAL
IMPLEMENTATION
PLANNING
MEETING
FOR
THE’
COORDINATED ENHANCED OBSERVING PERIOD (CEOP), 2007.3.12-14
14)
三浦聡子:「Distributed Data Integration Prototype System for Satellite, In-situ and Model
Data」,スペイン/バルセロナ, 2007 IEEE International Geoscience And Remote Sensing Symposium
(IGARSS 2007), 2007.7.24.
15)
Masahiko Nagai, Shigenobu Tachizuka, Ryosuke Shibasaki, Takashi Oguchi, Hiromichi Fukui,
Iichiro Suzuki: 「Developing Ontological Information to Integrate Global Observation Data」, 21st
Asia-Pacific Advanced Network Meeting (APAN), Akihabara, Japan, 2006.1. 23-26
16)
Shigenobu TACHIZUKA, Masahiko NAGAI, Ryosuke SHIBASAKI: 「 Implementation of
Semantic Network Dictionary System for Global Observation Data」, 5th Conference of Asian
Federation for Information Technology in Agriculture, Bangalore, India, 2006.11.9-10
17)
Masahiko Nagai, Shigenobu Tachizuka, Ryosuke Shibasaki, Takashi Oguchi, Hiromichi Fukui:
「Integrating global observation data by ontology development」, 22st Asia-Pacific Advanced
Network Meeting (APAN), Singapore, 2006.7.17-21
18)
Ryosuke SHIBASAKI, Masahiko NAGAI, Shigenobu TACHIZUKA, Takashi OGUCHI,Hiromichi
FUKUI:「Developing Ontological Information toIntegrate Global Observation Data」, Beijing, China,
20th International CODATA Conference Session: Integrating Heterogeneous and Very Large
Datasets for Global Water Cycle Studies a Case Study for GEOSS, 2006.10.23
19)
鳥谷 均, 長谷川利拡, 桑形恒男, 石郷岡康史, 後藤慎吉, 大野宏之, 坂本利弘, 石塚直
樹, 澤野慎治, 早野美智子: POLTHANEE Anan, KONGHAKOTE Pisarn:「2004 年から 2006 年
の 3 年間の現地調査から明らかになったタイ東北部の水環境と稲作」, 東京農工大学, 農業環境
工学関連学会 2007 年合同大会講演, 2007.9.11-14
20)
鳥谷均, Konghakote Pisarn, 長谷川利拡, 桑形恒男, 石郷岡康史, 後藤慎吉,早野美智子,
澤野真治, 大野宏之, Polthanee Anan:「 東北タイ天水田地域のイネの栽 培暦(crop calendar)と
モンスーン変動」, 日本農業気象学会, 日本農業気象学会 2008 年度全国大会, 2008.3.20-21
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
1) Ryosuke Shibasaki, Contribution to the IPCC Novel Peace Prize ,2008.3
109
(3)サブテーマ3:地球観測データの収集・品質管理に関する技術の開発研究
(分担研究者名:小池 俊雄、 所属機関名:東京大学)
1)要旨
本サブテーマでは、地球観測データから科学的に有用な知見を引き出すともに、危機管理や資源管
理等の政策決定に資する情報を提供するために、国内外の地球観測機関とコアシステム間のデータのフ
ローの確立およびメタデータ管理システムの研究を進め、データ統合・情報融合システムの開発研究、相
互利用性・情報サービス機能の開発研究と連携してデータの品質管理、アーカイブを行い、水循環に関
わる公共的利益分野に適用するための実証研究の推進を支援した。
本サブテーマで対象とした地球観測データは、衛星観測データおよびその高次処理プロダクツと、地
上(陸域、海洋)観測データである。衛星観測データに関しては、わが国の宇宙航空研究開発機構およ
び気象庁、米国の大気海洋庁および航空宇宙局のデータで、長期間に渉る衛星データのアーカイブも
重視した。地上観測データとしては,国際プロジェクト統合地球水循環強化観測期間(CEOP)プロジェク
トデータおよび漂流ブイや海洋生物科学的データを対象とした。さらに、アジア域の河川流域データの統
合化を目指すアジア水循環イニシアチブ(AWCI)についても、その国際協力の枠組みを構築した。
これらのデータを対象として本サブテーマで取り組んだ技術開発研究は下記の通りである。
A. 地球観測データの収集
a) 国際共同研究体制の確立(課題 2「衛星観測データの収集・処理」、課題 3「気象水文データの統
合」、課題 5「研究地上観測データの統合」、サブテーマ1,2と共同)
b) インターネットを通じた衛星データの自動収集システムの開発(課題 1-2「衛星観測データの自動
収集、品質管理、アーカイブシステムの開発」)
c) 衛星データセット仕様の策定(課題2「衛星観測データの収集・処理」、サブテーマ2と共同)
d) 海洋プランクトンデータのディジタル化によるデータの発掘・救済(課題4「海洋観測データの統
合」)
e) 地上観測研究データのデータ登録・生データのアップローディングシステムの開発(課題5「研究
地上観測データの統合」、サブテーマ1と共同)
B. メタデータの設計と登録
a)
衛星データのメタデータ設計と実装(課題2「衛星観測データの収集・処理」、課題3「気象水文デ
ータの統合」)
b)
地上研究観測データのメタデータ設計と登録システムの開発(課題3「気象水文データの統合」、
課題5「研究地上観測データの統合」、サブテーマ1,2と共同)
c)
海洋漂流ブイ間の挙動の違いを表すメタデータの基本的な考え方の取りまとめ(課題4「海洋観測
データの統合」)
C. データの品質管理(衛星データ。課題 1-1「衛星観測データの収集・処理手法の高度化」、課題 1-2
「衛星観測データの自動収集、品質管理、アーカイブシステムの開発」)
a)
画像エラー(走査線雑音を含む)検出と補正
b)
標高を考慮した幾何補正
c)
雲マスクと雲雑音の除去
(課題 1-1 は主として手法の確立、課題 1-2 は主として自動処理システムの開発)
110
D. データの品質管理(地上観測データ)
a)
大気-陸面水循環研究観測データの品質管理システムの開発(課題3「気象水文データの統合」,
課題5「研究地上観測データの統合」、サブテーマ1と共同))
b)
海洋漂流ブイ間の挙動の差がデータ品質に及ぼす影響の調査(課題4「海洋観測データの統
合」)
E. データ配布・解析システム
a)
衛星データの配布システム(課題1-2「衛星観測データの自動収集、品質管理、アーカイブシ
ステムの開発」、課題3「気象水文データの統合」、サブテーマ1と共同)
b)
集中型データ統合システム(課題3「気象水文データの統合」、サブテーマ1と共同)
c)
分散型データ統合システム(課題3「気象水文データの統合」、サブテーマ2と共同)
2)目標と目標に対する結果
本研究全体のミッションステートメント遂行における本サブテーマの役割は、サブテーマ1、2と連携し
て、国内外の地球観測機関とコアシステム間のデータのフローの確立およびメタデータ管理システムの開
発を通じて、品質が保証された地球観測データのアーカイブを行い、そのデータがサブテーマ4における
高度情報適用技術の開発に利用されることである。本研究は、サブテーマ1、2との連携により前項の各
技術開発研究課題において十分な成果を挙げ、各項目における目標の達成に加え、得られた気象・水
文に関わる衛星および地上観測データ、数値モデル出力をサブテーマ1における統合化研究に効果的
に利用し、その成果をサブテーマ4に提供して、水循環変動や気象予測などの各公共的利益分野に適
用するための実証研究を推進し、本プロジェクト全体の目標達成に貢献した。
さらに、本プロジェクトの遂行と時期を同じくして、これらの技術開発状況をアジア各国に紹介し、アジア
における水問題解決に地球観測データ統合・情報融合基盤技術を利用する価値を示した。このアウトリ
ーチ活動の結果、アジア水循環イニシアチブ(AWCI)が構築され、アジア 17 カ国が各国の河川流域デー
タを協力して統合化する実施計画の合意形成が成し遂げられた。科学技術外交としての本プロジェクトの
意義が発揮され、目標を超える成果を得た。
3)研究方法
1.1 衛星観測データの多次元データ統合化手法の開発:
長期間の利用が可能な NOAA 及び GMS データを収集し、品質管理し、幾何補正等の一次処理を施し、
重ね合わせ画像、雲マスクを作成する高精度画像生成システムの研究開発を行なった。さらに衛星観測
データを有効に用いるために、地上観測データを用いてその地点の衛星観測データの精度を検証し、そ
の結果を用いて衛星データの2次元的利用精度を改善した。
1.2 衛星観測データの自動収集、品質管理、アーカイブシステムの開発:
近年入手可能になってきた多種多様な衛星観測データへの多種多様なユーザニーズに応えるた
め、時間軸、空間軸、波長軸に着目し、特長の異なる複数のセンサから得られるデータを自動的
に収集、処理、保存し、データの配布を効率的かつ親和的に行うためのシステムを構築し、サー
ビスを稼動させた。
111
2. 衛星観測データセットの作成:
公共的利益分野への衛星観測データの流通性、相互利用性の向上を図るため、ユーザグループと調
整を行い、作成する衛星観測データセットの詳細仕様を決定し、その仕様に基づきデータセット作成用ソ
フトウエアの作成および維持改訂を行った。作成されたデータセットおよびメタデータは約 27 万シーンに
達した。
3. 気象水文データの統合:
サブテーマ間の連携の下に、ローカル~グルーバルな水循環をカバーする統合地球水循環強化観測
データセットを世界で始めて作成するとともに、サブテーマ間の相互協力でこれらのデータを本研究の水
循環統合研究に利用した。さらに、アジア17カ国と連携して、各国の洪水、渇水、水質汚染の問題解決
のために、本研究で開発した地球観測でデータ統合技術利用する国際協力の枠組みを創設、牽引し、
アジアにおける科学技術外交の重要な役割を担った。
4. 海洋観測データの統合:
国際的な枠組みにおけるデータの相互利用を図るために、近年さまざまな仕様のものが使われるよう
になった漂流ブイデータを取り上げ、複数のブイを同時に放流する試験的観測を行ってブイ間の挙
動の違いを記述し、メタデータの設計に反映する基礎研究を行うとともに、流通の遅れている海洋プラン
クトンデータを取り上げ,研究観測データとしてデータセンターのネットワークに乗っていないデータを発
掘し,紙ベースのデータをディジタル化して流通させる具体の研究を実施し、これらの研究活動の潮流を
築いた。
5.研究地上観測データの統合:
研究地上観測データの観測者各々が自身の観測生データに対して品質管理や統一フォーマット変換
することを支援するため、サブテーマ1と連携して、データの品質管理支援やデータフォーマット変換支
援を行うシステムにおいて、「データ選択機能」の強化やオーバレイウィンドウにおけるデータ正規化表示
機能の付加を通じて、システムのバージョンアップを行った。また、生データに含まれるエラーのパターン
の分析を実施し、観測生データを半自動的にローディングするシステムを視野において、研究地上観測
データメタデータ登録・生データ Upload システムを構築した。
4)研究結果
1. 衛星観測データの収集・処理手法の高度化
1.1 衛星観測データの多次元データ統合化手法の開発
(分担研究者名:青木 義満、 所属機関名:芝浦工業大学)
1.1.1 背景
本研究課題では、長期間の利用が可能な NOAA 及び GMS データを収集し、品質管理し、幾何補正等
の一次処理を施し、利用目的に応じて植生指標図、温度図等を作成すると共に、重ね合わせ画像、雲マ
スクを作成する。さらに衛星観測データを有効に用いるためは、地上観測データを用いてその地点の衛
星観測データの精度を検証し、その結果を用いて衛星データの2次元的利用精度を改善する。又、これ
112
らの衛星データは直接受信されるので、各受信局に散在している。これらの衛星データを収集し、NOAA
衛星の場合には、軌道毎に最良な部分を繋ぎ合わせたデータセットを作り、1980 年代からのアーカイブ
を作成する。又、アジア域のデータを収集し、アーカイブすることにより、アジアの地域研究に利用できる
体制を整えることを目的としている。
本研究課題では、衛星データ、地上観測データ等をコアシステムに投入するために、入って来るデータ
の品質管理を行い、幾何補正等の一次処理を施し、利用目的に応じて高品質な重ね合わせ画像、雲マ
スクを作成する。さらに衛星観測データを有効に用いるため、地上観測データを用いてその地点の衛星
観測データの精度を検証し、その結果を用いて衛星データの2次元的利用精度を改善するフロントエン
ドのシステムを開発する。
1.1.2 NOAA・GMS データの収集
本課題においては、衛星観測データに関しては、宇宙航空研究開発機構の衛星データ、衛星機関間
の国際協力で収集される衛星データに加え、長期間に渉る衛星データのアーカイブを重要視しているこ
とから、国内外における衛星データのアーカイブ状況などを調査した上で必要なデータの収集作業を行
った。国内、国外の NOAA データの収集状況を調査した上で、EROSデータセット等、主にアジア域のデ
ータセットを作成するのに必要なデータの収集を行った。また、GMS データについては、東京大学生産
技術研究所で受信されたもの以外のデータの調査を実施し、主に国内の研究機関の協力を得てデータ
収集を行った。日本周辺、東南アジア、アジア太平洋域の NOAA 及び GMS データに関して、東大、AIT、
東北大、東海大、北見工大、千葉大、京大、EROS (30E-170W、80N-45S) などのデータを調査、収集し
た。
1.1.3 NOAA データの品質管理
1.1.3.1 目的
東京大学生産技術研究所に蓄積されている NOAA データ、及び、収集された NOAA データの品質管
理手法を開発し、同一パスデータ上の複数データを用いて最良な繋ぎ合わせを作成する手法を検討す
る。まず、タイムコードチェックによりライン抜け、ピクセル抜けを検出し、補間することで品質のチェックを
行う。更に、同一パスの複数データから、重複領域の検出と、最良データの選択アルゴリズムを実装する
ことで、高品質な衛星画像データを生成する手法を確立する。
1.1.3.2 NOAA データのエラー検出及び補正処理
東京大学生産技術研究所に蓄積されている NOAA データ、及び、収集された NOAA データの品質管
理手法、同一パスデータ上の複数データを用いて最良な繋ぎ合わせを作成する手法を考案し、実装行
なった。更に参照するリファレンス画像を多地点の衛星から得た上で、最適な画像中の重ね合わせ領域
を判定し、補間を行う手法を考案、実装した。
まず、タイムコードチェックによりライン抜け、ピクセル抜けを検出し、補間することで品質のチェックを行
う。ピクセル抜けについては、既知パターンを利用してピクセル誤り率を評価し、誤りピクセルの場合につ
いては周辺画素データとの統計的比較処理により、データの訂正を行う。ライン抜けに関しては、同一パ
スの複数データから重複領域の検出及び最良データの選択を行い、ライン抜けの検出及びデータ補正
を行った 1)。
113
1.1.3.3 補正処理の結果
複数画像の重複領域判定及び重ね合わせ画像作成結果を図- 68、図- 69 に示す。また、定量評価し
た結果及び処理時間を表- 8 にまとめる。タイムコードを利用した以上の2つの補正処理により、NOAA デ
ータの品質管理及び品質改善を実現できることが分かった。また、処理時間についても、オフラインで処
理する上で現実的な処理時間にて結果を出力することが可能であった。以上のシステム開発、及び定量
評価により基本的なシステムの処理性能を評価し、手法の有効性を確認することができた。
図- 68: タイムコードと複数地点 NOAA 画像データを用いたエラー検出及び補正処理結果
1(Tokyo-Bangkok, Ulaanbaatar)
図- 69: タイムコードと複数地点 NOAA 画像データを用いたエラー検出及び補正処理結果
2(Tokyo-Bangkok, Ulaanbaatar)
114
表- 8: 補正結果の定量評価及び処理時間
Image's index
Before correction After correction
Time(sec)
ET
EB
ET
EB
1
214
224
1
0
35
2
32
114
0
1
35
3
43
113
1
0
37
4
207
376
0
1
39
5
233
412
0
1
34
6
122
123
0
0
34
7
112
249
1
0
37
8
547
632
0
1
37
9
154
365
0
1
37
10
21
131
0
0
37
11
854
1034
0
0
37
12
233
232
0
0
35
13
34
132
2
1
36
14
17
65
0
0
37
15
214
223
0
0
37
16
262
554
0
0
37
17
345
482
0
0
38
18
134
225
0
0
34
19
1125
1387
0
0
37
20
238
242
0
0
37
Total
5141
7315
5
6
727
Errors remaining
0.09%
0.08% Ave.36.35
1.1.4 NOAA データの幾何補正及び重ね合わせ
1.1.4.1 目的
NOAA データを、衛星の位置、姿勢の変動、画像上の各地点の標高を考慮して、地図座標系で 1 画素
以内の精度を保証する精密幾何補正アルゴリズムを検討し、開発を行う。 GCPの計算及び高信頼度G
CP選択、幾何補正を施すことで、標高差を考慮したより精密な幾何補正を行う。標高差は GTOPO30 の
標高データを効率的に活用し、地表面の標高差の複雑度を観測、適応的に分割ブロックの大きさを決定
しながら、幾何補正を行う手法を考案し、そのアイデアに基づきプログラムを実装、手法の効果を確認す
る。
1.1.4.2 標高を考慮した高精度幾何補正システムの開発
NOAA データを、衛星の位置、姿勢の変動、画像上の各地点の標高を考慮して、地図座標系で 1 画素
以内の精度を保証する精密幾何補正アルゴリズムを検討し、開発を行った。 GCPの計算及び高信頼度
GCP選択、幾何補正を施すことで、標高差を考慮したより精密な幾何補正を行うことができるのが特徴で
ある。図- 70 に標高差による幾何補正誤差への影響の様子を示す。
115
図- 70: 標高による幾何学的誤差の発生
本研究における最大の成果は、GTOPO30 の標高データを効率的に活用し、地表面の標高差の複雑
度を観測、適応的に分割ブロックの大きさを決定しながら、幾何補正を行う手法を考案し、そのアイデア
に基づきプログラムを実装した点にある.標高データとGCPを考慮した地形分割処理を図- 71 に示す。
図- 71: 標高を考慮した地表面の領域分割
特にできるだけ多くの信頼性の高い GCP を用意することが高精度幾何補正における精度向上につな
がるため、海岸線上で局所領域内のエッジ画素数をカウントし、より多くの境界線を含む領域を GCP とし
て選択する手法を提案した。図- 72 に GCP 生成の結果を示す。
図- 72: GCP 生成結果
116
GCP 同士の対応探索はテンプレートマッチングにより行い、変換ベクトルを求める。それ以外の点の変
換ベクトルについては、Radial Basis Function Transform(RBFT)を用い、近傍領域の既知の変換ベクトル
から推定を行なう。RBFT は、移動量既知の近傍点の複数の移動量から、移動量未知の点の移動量をロ
バストに推定するための手法として著名であり、それを本課題において適用した。
図- 73: Radial Basis Function Transform(RBFT)による変換ベクトルの推定
以上の処理により、画像座標系から地図座標系へのマッピングにおける高精度な幾何補正システムを
構築した。
1.1.4.3 処理結果及び幾何補正精度検証
開発した高精度幾何補正システムによる処理結果を図- 74 に示す。実験対象は標高4千メートル以上
の地点の画像であり、左が小野、高木らにより提案されていた GCP を用いた幾何補正アルゴリズムの処
理結果である。標高による影響を全く考慮していないため、実際の海岸線と幾何補正後の結果(白線)に
ズレが生じている。一方、標高を考慮した本システムにおいては、図- 74 右に示すように非常に高い精度
での幾何補正を実現していることが分かる。
幾何補正の精度を定量評価するため、幾何補正処理の結果を平均誤差と最大誤差で評価した結果を
表- 9 に示す。従来手法より、提案手法の精度が上回っていることから、提案手法及び開発した幾何補正
システムの有効性を示すことができた。
117
図- 74: 高精度幾何補正処理の結果(左:従来手法, 右:提案手法)
表- 9: 高精度幾何補正処理の精度検証(従来手法 vs 提案手法)
Image
Value
Average
AH14060402222944 Maximum
Precise Method Proposed Method
Latitude Longitude Latitude Longitude
0.52
0.64
0.15
0.19
1.00
1.00
1.00
1.00
Minimum
0.00
0.00
0.00
0.00
Average
0.31
0.61
0.11
0.15
AH1611060244118 Maximum
1.00
2.00
1.00
1.00
Minimum
0.00
0.00
0.00
0.00
Average
AH16110702183721 Maximum
0.38
0.42
0.10
0.14
1.00
2.00
1.00
1.00
Minimum
0.00
0.00
0.00
0.00
10
0.42
0.49
0.11
0.15
200 NOAA images
1.1.5 GMS データの高精度雲マスク作成
GMSデータを用いた雲マスク作成は、衛星画像データの高次利用を想定した場合の前処理として非
常に重要な役割を果たすものである。雲マスク作成のための画像処理アルゴリズムを検討し、特に雲マス
ク作成については、海域における処理に加え、従来抽出が困難であった陸域でも適用可能なアルゴリズ
ムの考案、開発を行った。具体的には、下記のような手法を適用した。
従来研究において、昼と夜の輝度値変化が少ない海域部分では高い精度で雲域を抽出することができ
ている。しかし、陸域における雲域の抽出は、時間における輝度値の変化が大きいことから正確に雲域を
抽出することが困難になっている。そのため、輝度補正を行った可視画像から雲が存在しない陸域合成
画像を作成し、対象画像との差分から雲域を抽出する手法や、2 つの異なる波長で観測された赤外画像
の差分を用いて雲域を抽出する手法などが提案されている。しかし、雪・氷などが存在する場所では、輝
118
度値の変化が小さいため正確に雲域を抽出することができないといった問題がある。本研究では、GMS
(気象衛星ひまわり)から得られる可視画像 VIS(0.55~0.75[μm])・赤外画像 2 チャンネル IR1(10.5~
11.5[μm])・IR2(11.5~12.5[μm])を用いて雲域の抽出を行う。従来の単一雲域抽出処理を逐次処理に
変更し結果動画を作成、動画から問題点となる部分を探り、処理の改善を行い高精度な抽出処理を実現
した。処理結果の例を図- 75 に示す。
提案手法により、このような高精度な雲マスクの作成が可能となった。目視による定性評価においては
従来手法よりも精度が向上していることが確認できている。
図- 75: 高精度雲マスク生成結果
1.1.6 衛星画像管理・処理システム(統合システム)の開発
上述の、「NOAA データの品質管理システム」、「NOAA データの高精度幾何補正システム」、「GMS デ
ータからの高精度雲マスク作成システム」の3つのサブシステムを統合し、NOAA、 GMS データを入力と
した上で、品質管理、幾何補正処理による高品質・高精度な NOAA 画像データの生成、GMS データから
の雲マスク生成が可能な統合システムの開発を行なった。プロトタイプ的なシステムではあるが、GUI を加
えることでほぼ完成するという段階まで至っている。
1.1.7 まとめ
本研究課題では,長期間の利用が可能な NOAA 及び GMS データを収集し,品質管理し,幾何補正等
の一次処理を施し,重ね合わせ画像,雲マスクを作成する高精度画像生成システムの研究開発を行なっ
た。さらに衛星観測データを有効に用いるためは,地上観測データを用いてその地点の衛星観測データ
の精度を検証し,その結果を用いて衛星データの2次元的利用精度を改善した。
具体的には、NOAA データの品質管理システム、高精度幾何補正システム、GMS データからの雲マス
ク生成システムの3つのサブシステム及びその統合システムとしての衛星画像管理・処理システムの研究
開発を行い、一定の成果を得た。これまでのところでシステムをオンライン稼働するところまで達してはい
119
ないが、システムのコアの部分の研究開発は終了しており、GUI 等の開発を加えれば、高品質・高精度の
衛星画像を必要とする地球観測アプリケーションにおいて実利用可能なシステムになると考えている。
1.2 衛星観測データの自動収集、品質管理、アーカイブシステムの開発
(分担研究者名:安岡 善文、 所属機関名:東京大学)
本サブサブテーマの目的は、近年入手可能になってきた多種多様な衛星観測データの自動収集を行
い、 品質管理を視野に入れたアーカイブシステムの開発を行うことである。 今後の地球観測においては、
データの入手量の膨大な増加に伴い多種多様な用途での応用がますます広がると予想される。そこで、
増大するユーザのニーズに応えデータの配布を効率的かつ親和的に行うために、時間軸、空間軸、波
長軸に着目し、特長の異なる複数のセンサから得られるデータを自動的に収集、処理、保存、配布する
ためのシステムを構築し、サービスを稼動させた。
1.2.1 グリッドコンピューティングシステムの構築及び運用
平成 17、18 年度の 2 年間で衛星観測データの自動収集、品質管理、アーカイブシステムの核となる大
容量の衛星観測データ処理に必要なグリッドコンピューティングシステム(図- 76)を構築し、運用を開始し
た。
平成 17 年度は、グリッドコンピューティングシステムに最も重要な基盤となる、高速データ転送連結装
置であるファイバーチャンネルスイッチの導入を行った。現在東京大学生産技術研究所において衛星デ
ータの処理を行っているコンピュータシステムは、グリッドノードを構成しているメインマシンが計算処理の
みならず、ファイルサーバとしての役割を担っているため、衛星データのように非常に大きなデータ容量
を扱う計算の際に、ハードディスクへの読み書きが計算速度および効率においてボトルネックになってい
た。そこで、ハードウェアにおけるこれらのボトルネックを根本的に解決する仕組みを構築した。ファイバー
チャンネルスイッチおよびディスク増設の結果、データの書き込み容量はこれまでのおよそ 4 倍である 30
テラバイトとなり、グリッドを構成するすべてのノードマシンから同一のディスク領域にアクセスが可能となっ
た。
平成 18 年度は、現在稼働中である衛星データの収集、処理、管理を行っているグリッドコンピューティ
ングシステムのディスクの増強を行った。昨年度、グリッドコンピューティングシステムを増強したことにより、
データ処理能力が従来のおよそ 3 倍にまで高められたが、その結果、ディスク容量の不足が懸念された。
そこで、計算に必要な容量を確保するためのストレージを拡張するためにデータ格納ディスクの導入を行
った。ディスク増設の結果、データの書き込み容量はこれまでのおよそ 2 倍である 60 テラバイトとなり、グリ
ッドを構成するすべてのノードマシンから同一のディスク領域にアクセスが可能となった。これにより、大容
量データ処理のために必要な計算機環境が大きく改善された。
120
図- 76: グリッドコンピューティングシステム
平成 19 年度は構築したグリッドコンピューティングシステムを用いて、東京大学生産技術研究所で受
信したおよそ 15000 枚(30TB)の衛星観測データに対して 1 年かけて放射量補正・精密幾何補正・モザイ
ク処理を実施した。図- 77 に処理後の画像の一例を示す。
図- 77: MODIS データの合成画像
1.2.2 衛星データの自動収集及びアーカイブ
今後の地球観測では、データの入手量は膨大に増加し、多種多様な用途での応用がますます広がると
予想される。増大するユーザのニーズに応えデータの配布を効率的かつ親和的に行うためには、これま
では別々に扱ってきた異なる時間分解能、空間分解能、波長分解能を有する様々なセンサの衛星デー
タを一元的に管理しデータの品質を確保することが必要である。そこで、時間軸、空間軸、波長軸に着目
121
し、特長の異なる複数のセンサで得られるデータの一元的な閲覧検索システムを開発するために、様々
なデータの自動収集及びアーカイブを行った。
平成 17 年度から 19 年度までの 3 年間で表- 10 に示す 8 つのセンサから得られるデータを自動収集し、
構築したグリッドコンピューティングシステム及びサブテーマ 1-1「大規模データアーカイブ・ストレージシ
ステムの開発とデータ統合基盤の構築」において開発されたアーカイブシステムに保存した。極軌道気
象衛星 NOAA AVHRR データは 1983 年から東京大学生産技術研究所(IIS)において、1997 年からアジア
工科大学院(AIT)において受信され、Terra/Aqua MODIS データは 2001 年から IIS、AIT で受信されてお
り、ネットワークによるデータの受信・処理・保存・配信システムが運用されている。今回さらに 2006 年 10
月 1 日から東京大学地震研究所(ERI/UT)において受信が開始された、運輸多目的衛星 MTSAT データ
をこのシステムに新しく取り入れ、NOAA AVHRR、 Aqua/Terra MODIS、 MTSAT による準リアルタイム
データ配信システムが複合的に利用可能となった(図- 78)。また、それ以外の各データは米国雪氷デー
タセンター(NSIDC)、米国地質調査所(USGS)、宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター(JAXA
EORC)、資源・環境観測研究解析センター(ERSDAC)がアーカイブしているものを収集し、公開した。アー
カイブデータは http://webmodis.iis.u-tokyo
.ac.jp/、http://webpanda.iis.u-tokyo.ac.jp/、http://webgms.iis.u-tokyo.ac.jp/において公開している(図
- 79)。
東京大学生産技術研究所において 1995 年から使用していた NOAA AVHRR データ受信システムを平
成 20 年 1 月に更新することによって、米国の極軌道気象衛星 NOAA に搭載された AVHRR センサのデ
ータだけではなく、欧州の極軌道気象衛星 MetOp に搭載された AVHRR センサのデータを受信すること
が可能となり、データ受信の継続性を確保した。
表- 10: 収集を行った衛星データの一覧
(AIT(アジア工科大学院)、ERI/UT(東京大学地震研究所)、ERSDAC (資源・環境観測研究解析セン
ター)、IIS(東京大学生産技術研究所)、JAXA EORC(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、
NSIDC(米国雪氷データセンター)、USGS(米国地質調査所))
衛星・センサ名
Aqua AMSR-E
時間分解能
空間分解能
0.5日
低分解能(10km)
観測波長帯 データ取得機関
マイクロ波
NSIDC
NOAA AVHRR
IIS・AIT
ADEOS-II GLI
JAXA EORC
Terra/Aqua MODIS
0.5時間~4日
中分解能(250m~1km)
可視・赤外
MTSAT
ERI/UT
Terra ASTER
JERS-1 OPS
IIS・AIT
ERSDAC
16日~44日
高分解能(15m~90m)
Landsat ETM+/TM/MSS
可視・赤外
ERSDAC
USGS
122
図- 78: 東京大学生産技術研究所におけるネットワークによる受信・処理・保存・配信システム
図- 79: アーカイブデータ公開サイトのトップページ
(http://webmodis.iis.u-tokyo.ac.jp/, http://webpanda.iis.u-tokyo.ac.jp/, http://webgms.iis.u-tokyo.ac.jp/)
1.2.3 衛星観測データの処理・配布システムの開発及び品質管理 2)
2006 年 10 月 1 日から受信を開始した MTSAT データの処理・配布システムを開発し 2006 年 10 月 17
日から運用を開始した。
MTSATデータの処理・配布システムは、1)データ受信・保存、2)データ処理、3)データ配布、の3 つに
大別される。データの受信は、東京大学弥生キャンパスの地震研究所に設置されたアンテナによって行
われ、受信後ただちに光ファイバーネットワークを通じて東京大学駒場キャンパスの生産技術研究所へと
転送される。クイックルック画像の作成、FTP を通じた配布の準備をディスク上で行ったのち、最終的に
はサブテーマ1-1「大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」におい
て開発された東京大学生産技術研究所喜連川研究室のアーカイブシステムに保存される(図- 80)。一連
の手順はすべて自動化されており、現在のところデータの公開までに受信からおよそ2 時間を要する。
123
データ処理は、1)放射量補正、2)幾何補正、3)指定範囲の切り出しの 3 つに大別される。放射量補正
は、受信と同時にダウンリンクされる補正係数を基に行われ、可視チャンネルは大気上端の反射率に、赤
外チャンネルは大気上端の輝度温度値に変換される。幾何補正は、システム情報を基にして MTSAT 画
像の座標系である Normalized Geostational Projection (NGP) から等緯度座標系への変換によって行わ
れ、標高に起因する倒れ込み誤差の補正を考慮して処理される。最後に、ユーザからの指定範囲を切り
出して FTP サイトに格納する。MTSAT データの処理・配布システムのグラフィカルユーザインターフェー
スを図- 81 に、地図化された MTSAT の可視画像の例を図- 82 に示す。以上に示した放射量補正、幾何
補正、切り出し機能は、パッケージソフトウェア mtsatgeo としてとして、無償利用できるようにオンラインで
配布している。
本システムの構築により、NOAA AVHRR、 Aqua/Terra MODIS、 MTSAT による準リアルタイムデー
タ配信システムが複合的に利用可能となり、東京大学生産技術研究所で処理された一連の衛星データ
は、東京大学地震研究所、国立情報学研究所、千葉大学環境リモートセンシングセンター、高知大学へ
とネットワークを通じて転送されている。
図- 80: MTSAT データの処理・配布システム構成
124
図- 81: MTSAT データの処理・配布システムのグラフィカルユーザインターフェース
図- 82: 地図化された MTSAT の可視画像
1.2.4 衛星観測データの品質管理
アーカイブした衛星データから種々の主題図を作成することでデータの品質評価を行い、品質を向上さ
せるため、走査線と雲とに起因する雑音の除去手法をそれぞれ開発した。
走査線雑音とは、打ち上げ時の衝撃等による影響のために走査線に生じるデータ欠損のことを指す。こ
れにより当初期待されていた変数や現象の観測が必ずしも十分に行われていないものも少なくない。大
気、陸域、海洋における環境や気候に関する変数を広域・高頻度で観測することを目的に設計された地
球観測センサ、特に MODIS では、雲の検出に有効といわれていたバンドに検出器ごとの感度の違いなど
による走査線雑音が発生し、大きな雲検出誤差が生ずることが指摘されている。現在までに、これらの走
査線雑音が、検出器の違いによるもの、回転鏡によるもの、ランダムな走査線雑音の三種類に分類される
ことが知られており、ヒストグラムマッチング法(以降、HM 法)と、繰返し重み付け最小二乗ファセットフィル
125
ター法(以降、FF 法)を結合することにより、前述の 3 種類の走査線雑音を効果的に低減する新たな手法
を開発した 3)。HM 法は、検出器の違いによる雑音と回転鏡による雑音を低減し、FF 法はランダム雑音を
低減する。開発された手法を MODIS データに適用した結果、本手法によってオリジナルデータの画質を
損なうことなく、走査線雑音を低減することが示された(図- 83)。
雲に起因する雑音とは、広範囲を高頻度で観測可能な AVHRR や MODIS のような光学センサにおいて
発生し、解析対象地域が雲に覆われていると地表面の状態を観測することができないことを指す。そのた
め、陸域を観測対象とする際には、合成画像処理によって擬似的に雲域が除去された雲なし合成画像を
解析に用いることが一般的である。しかし、雲被覆や観測日間隔の不均等に起因する雑音が雲なし合成
画像に含まれているため、解析を行う前にあらかじめこれらの雑音を除去することが必要となる。そこで、
植物活動の観測に適した高品質な時系列正規化植生指標(NDVI)データセットを構築することを目的と
し、これらの雑音を除去する手法を開発した。
前後の時期の観測データを用いて雲被覆の影響を補正する BISE 法と、合成画像処理において選択し
た画素の観測日情報を利用して観測日間隔の不均等を補正する MVI 法を統合することで新たな雑音除
去手法を開発した。その結果、BISE 法と MVI 法を統合することで、雲被覆と観測日間隔の不均等に起因
する両方の雑音が除去できた。本手法と個々の雑音除去手法を評価したところ、本手法の雑音除去効果
が最も良好であり、植物活動において重要である展葉や紅葉・落葉時期で特に効果が顕著であった。し
たがって、開発した雑音除去手法は、植物活動観測に適した時系列 NDVI データセットの構築に有効で
あることが示された(図- 84)4)。
(a)オリジナルデータ
(b)雑音除去後のデータ
図- 83: MODIS Band6 データの雑音除去処理の結果
126
(a)雑音除去無し
(b)BISE 法
(c)MVI 法
(d)統合化手法(BISE+MVI)
図- 84: 各雑音除去手法を適用したデータセットにおける 1 年間の NDVI 変動の比較
1.2.5 WWW を利用した衛星観測データの一元的管理システムの開発
今後増大すると予想されるユーザのニーズに応え、衛星観測データの配布を効率的かつ親和的に行う
ことを目的として、管理者及び利用者が WWW 上で大量の衛星データを容易に検索・閲覧することができ
る WWW を利用した衛星観測データの一元的管理システムを構築した。
これまでに開発してきた個々の衛星観測データ処理・配布システムを一元的に管理できるシステムは、
管理者にとっては個々のシステムの稼働状況を効率的に監視できるという利点があり、一般の利用者にと
っては目的のデータを効率的に検索できるという利点がある。そこで、東京大学で受信している NOAA
AVHRR、Terra/Aqua MODIS、MTSAT の観測データを対象とし、時間を検索キーとして任意の月日に観
測されたこれら3種類の観測データを一度に検索・閲覧できるシステムを開発した(図- 85)。なお、本シス
テムは、それぞれの衛星観測データ処理・配布システムと同期しており、最新のデータが受信され個々の
システムでの処理が終了すると、自動的に本システムにおいても最新データの検索・閲覧が可能となる。
システムの稼動により 2 年間でおよそ 200 万シーンのデータがネットワークを通じて利用者に提供された。
127
図- 85: 特徴の異なるセンサにより観測された多様な衛星データの一元的管理システムのグラフィカ
ルユーザインターフェース及び検索結果の例
2. 衛星観測データセットの作成
(分担研究者名:松浦 直人、 所属機関名:(独)宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)
2.1.
仕様の検討
2.1.1. メタデータの拡張
平成 16 年度度までに整備した「地球水循環データ統合化のための衛星観測データセット」の
メタデータに対して見直しを行い、以下のように項目を追加することとした。
2.1.1.1. バイトオーダー
バイトオーダーとは、2 バイト以上の数値データ型を記録するときに、各バイトを記録する順番
のことである。最上位のバイトから順番に記録する方式を「ビッグエンディアン」、最下位のバイト
から順番に記録する方式を「リトルエンディアン」という。ちなみに、SGI、SUN マシンはビッグエン
ディアン、LINUX マシンはリトルエンディアンで記録される。追加する項目名と値は以下の通りと
した。
項目名:ByteOrder
値:BigEndian/LittleEndian
2.1.1.2. データオーダー
データオーダーとは、ライン毎(レコード毎)の記録順を指す。全球のバイナリマップがあった
として、北から南の順で記録するか、または南から北の順で記録するかの違いである。一般的
に、衛星データ利用の分野では前者を、モデル研究の分野では後者を採用する事が多いが、
128
個人によっても認識が異なる。よって、この記録順を明確にする項目が必要である。追加する項
目名と値は以下の通りとした。
項目名:DataOrder
値:NorthToSouth/SouthToNorth
2.1.2. ALOS データセットの仕様検討
TRMM や AMSR-E に比べ、ALOS は非常に高分解能であり、観測幅は狭い。そのため CEOP
リファレンスサイト(250x250km の矩形)や AWCI 河川流域に対して 1 シーンのサイズが小さく、モ
ザイク処理を行う必要がある。モザイク処理の方法については、別途東大で開発を行っている大
規模サーバーマシンで使用することを考慮し、解像度は落とさずパス単位でのモザイクを行うこと
とした。モザイクに使用するデータは ALOS 標準プロダクトとし、PRISM、AVNIR-2 は L1B2G、
PALSAR は L1.5G を使用した。また、光学センサに関しては、パス内に雲量 0-10%のシーンが一
つでもあればそのパスは採用することとした。表- 11 にデータセットの仕様を示す。また、パスモ
ザイクの概念図を図- 86 に示す。
表- 11: ALOS データセット仕様
Sensors
Observation mode
PRISM
OB2(Nadir35km)
/OB1(Nadir70km)
AVNIR-2
PALSAR
Obs
FBD
PLR
WB1(SCAN)
0
34.3
12.5
27.1
Pointing Angle/
±1.2(OB2)or
Offnadir Angle(°)
0(OB1)
Product Level
1B2G(UTM)
Parameter
Radiance
Radiance
Amplitude
Amplitude
Amplitude
Spatial Resolution(m)
2.5
10
12.5
12.5
100
70
70
35
350
Swath (km)
35(OB2)
or70(OB1)
1B2G(UTM) 1.5G(UTM) 1.5G(UTM)
Processing
Path Mosaiced
Format
BSQ
129
1.5G(UTM)
図- 86: パスモザイク概念図
2.2.
データセット作成用ソフトウェアの開発・維持改訂
2.2.1. AMSR データセット作成用プログラムの拡張
AMSR データセットに、輝度温度のモンスーンおよび全球領域のデータを追加するよう、プログ
ラムの機能付加を行った。今回追加したデータセットの仕様を表- 12 に示す。
表- 12: AMSR 追加データセットの仕様
入力データ
Level3輝度温度プロダクト
格子分解能
0.25degree
時間分解能
Daily
対象領域
モンスーン領域/グローバル
2byte int
データセット データ型
チャンネル数 AMSRは28、AMSR-Eは24 (*1)
バイトオーダー Big endian
データオーダー North->South
プロダクトコード 3BRTEM
*1)Level3プロダクトは周波数Ch.、軌道方向別にファイルが分かれてい
ため、以下のように低周波数Ch.からAscending、Decsendingが交互に
並ぶようマージする。
6G-V(Asc)、6G-V(Dec)、6G-H(Asc)、6G-H(Dec)…89G-H(Dec)
2.2.2. ALOS データセット作成用ソフトウェアの開発
ALOS データのモザイクにあたっては、ENVI 関数“MOSAIC_DOIT”を使用することとした。
ENVI4.4 では“ENVI_OPEN_DATA_FILE”にて ALOS データを読み込み可能となっており、2つの
関数を組み合わせることによって、プロダクトに格納されている幾何情報を用いたモザイク処理す
ることが可能である。ENVI メニューからもデータ読み込み/モザイク処理は可能であるが、大量シ
130
ーンを効率的に処理するために ENVI/IDL ベースのスクリプトを作成した。
また、スクリプトを用いて作成したモザイクデータの、シーン接合面に幾何的なギャップ、輝度
差が無いかチェックを行い、問題が無いことを確認した。
メタデータについては、AMSR-E や TRMM のメタデータを参考として作成することとし、観測日
時や緯度経度情報等、必要な情報を Summary.txt から抽出して作成した。
処理フローを図- 87 に、作成したスクリプトの一覧を表- 13 に示す。
開始
GzipTar ファイル解凍
CopyGzipTar
イメージファイル読
ENVI_OPEN_DATA_FIL
座標系変換
MosaicImagesForCeop
(基準ゾーンへ)
ConvertImageProjection
モザイク情報取得
MosaicImages
(モザイク前処理)
GetMosaicImageInfo
モザイク処理
MOSAIC_DOIT
終了
図- 87: 処理フロー
131
表- 13: モザイク処理用ソフトウェア一覧
ツール名称
MosaicImagesForCeop
MosaicImagesForCeopPsr
概要
入力ファイル(gzip)リストのデータをモザイクし、ファイルに出力
する。(光学用)
入力ファイル(gzip)リストのデータをモザイクし、ファイルに出力
する。(PALSAR 用)
イメージデータファイルリストのデータをモザイクし、ファイルに
MosaicImages
出力する。
各イメージデータから、モザイク処理に必要な情報を取得す
GetMosaicImageInfo
ConvertImageProjection
CopyGzipTar
CopyGzipTarPSR
2.3.
る。
イメージデータの UTM ゾーンを変更する。(座標変換・リサンプ
リング)
gzip ファイルを指定したディレクトリに解凍し、イメージファイル
名を取得する。(光学用)
gzip ファイルを指定したディレクトリに解凍し、イメージファイル
名を取得する。(PALSAR 用)
データセット作成
2.3.1. TRMM データセットの再処理
TRMM/PR の 2A25 オリジナルプロダクトのバージョンが Ver5 から Ver6 へアップされた。それ
に伴い Ver6 を用いてリファレンスサイトおよびモンスーンデータセット(Level2)の再処理を行った。
データセットの処理対象期間は EOP3,4 の 2002 年 10 月から 2004 年 12 月までの 27 ヶ月分であ
る。処理結果シーン数とファイル容量(gz 圧縮)は下記の通りである。
モンスーン領域データセット:39550 シーン、合計約 17Gbyte
リファレンスサイトデータセット:9601 シーン、合計約 140Mbyte
2.3.2. AMSR データセットの拡張
AMSR データセットの仕様拡張に伴い、EOP3,4 期間における AMSR-E 輝度温度のモンスーン
およびグローバル領域データセットを作成し、AMSR-E データセットを拡充した。時間空間的に
平均されたデータセットであるため、CEOP のデータセットのレベル定義では Level3 に相当する。
処理結果の例を図- 88 に示す。処理結果シーン数とファイル容量(gz 圧縮)は下記の通りであ
る。
モンスーン領域データセット:8543 シーン、合計約 4Gbyte
グローバルデータセット:1751 シーン、合計約 21Gbyte
132
図- 88: AMSR-E データセット(上:6GHz-V モアジアンスーン、下:6GHz-V グローバル)
2.3.3. AMSR 等データセット(CEOP フェーズ 2 対応)の作成
平成 18 年度までに整備したデータセット作成用ソフトウェアを用いて、AMSR-E、TMI、PR およ
び SSM/I データセットを作成した。作成対象期間は CEOP Phase2 に対応した 2007 年の 1 年間
分とし、対象領域は衛星切り出し位置が確定している CAMP32 地点、モンスーン領域 5 箇所、お
よび全球である。センサ、データセットレベル毎の処理結果シーン数を表- 14 に示す。ファイル圧
縮(gz)後の全容量で約 31G バイトであった。
133
表- 14: AMSR-E 等データセット作成結果
Level1
Level2
Level3
AMSR-E
16584
139972
15792
TMI
15286
34145
72
18613
72
PR
SSM/I 13
14508
SSM/I 14
14912
SSM/I 15
14797
合計 269,956 シーン
2.3.4. ALOS データセットの作成
CEOP Phase2 のリファレンスサイトは 51 サイトであるが、本研究では優先度の高い 4 箇所
(Mongol/Mandalgobi, Mongol/Ulannbaator, Tibet/Naqu, Tibet/ Gaize)について処理を行うこと
とした。データ取得シーン数及びモザイク処理後のパス数を表- 15 に示す。また、作成したデー
タセットの例を図- 89 から図- 91 に示す。
また、CEOP/AWCI の河川流域サイトは 18 サイトであるが、RS サイト同様、優先度の高いサイ
トから処理を行うこととなった。対象サイトは Vietnum/Huong, Bangladesh/Meghna の 2 河川であ
る。
表- 15: データ取得シーン数及びモザイク処理パス数
Site Name
PRISM
AVNIR-2
OB1/OB2
OBS
PALSAR
FBD34.3
PLR21.5
Scene Path Scene Path Scene Path Scene Path
WB1(Scan-SAR)
Scene
Path
Total
Scene Path
Mandalgobi
75
9
42
10
30
6
20
4
5
3
172
32
Ulannbaator
72
9
22
6
25
8
31
10
8
4
158
37
Naqu
52
8
38
8
29
6
49
11
2
2
170
35
Gaize
57
6
33
6
7
2
10
2
9
7
116
23
Vietnam
Huong
16
5
8
4
21
8
4
3
34
21
83
41
Bangladesh
Meghna
232
18
133
16
243
30
133
16
38
14
779
94
504
55
276
50
355
60
247
46
96
51
1478
262
Mongolia
RS
Tibet
RB
Total
134
図- 89: モンゴルのサンプル画像 1
(左: PRISM 2007 年 6 月 19 日観測 OB1(Nadir 35km swath) 右: AVNIR-2 2007 年 6 月 15 日観測 (R:G:B)=(4:3:2))
図- 90: モンゴルのサンプル画像 2
(左: PALSAR 2007 年 4 月 22 日観測、右:PALSAR 2007 年 6 月 5 日観測 (Scan-SAR モード))
135
図- 91: ベトナム、フォン川流域のサンプル画像
(AVNIR-2 2007 年 10 月 7 日観測)
2.4.
まとめ
本研究においては、公共的利益分野へのデータの流通性、相互利用性の向上を図るため、関
連会議への出席等を通してユーザグループと調整を行い、作成する衛星観測データセットの詳細
仕様を決定した。また、決定した仕様に基づき、データセット作成用ソフトウエアの作成および維持
改訂を行った。
作成したデータセットは、別途東大にて整備中のデータベースに登録され、関連する研究等で
利用される。
ALOS データセットでは詳細仕様が確定し、優先度の高い RS の4サイトと RB の 2 サイトについて
パスモザイクデータセットの作成及びメタデータの作成を行った。AMSR-E、TMI、PR および SSM/I
データセットでは PR のアルゴリズム改訂に伴う再処理や AMSR データの新規データセット追加、
CEOP Phase2 期間における CAMP26 サイト 32 地点、モンスーン領域 5 箇所、および全球のデータ
セットおよびメタデータの作成を行い、約 27 万シーンが得られた。
ALOS データセットでは、詳細仕様が確定したことが大きな進展であり、今後のユーザによる評価
を経て、利用の拡大に結びつけることが重要である。一方、平成 18 年度までに作成した AMSR-E、
136
TMI、PR および SSM/I データセットの仕様変更が特に必要なかったことは、これまでに作成したデ
ータセットが十分に練られた仕様であったことの証であり、今後は定常的に同一仕様でデータセット
を提供することで、更なる研究の進展に資することが期待される。
3. 気象水文データの統合
(分担研究者名:小池 俊雄、 所属機関名:東京大学)
3.1 はじめに
世界各地で水不足、洪水被害が増大し、水質汚染や生態系の破壊など水に関わる深刻な環境問題
が発生している。これらに起因する食糧難や伝染病の蔓延など、その影響は開発途上国においてますま
す拡大している。これらの水問題の背景には、急激な人口増加による水需要の増大や、都市開発、産業
発展などの社会的要因があることはいうまでもないが、これら水問題の深刻さを増幅させ、破局的な被害
をもたらす要因のひとつは水循環の大きな変動性にある。水利用、水処理の効率向上を目指した低コス
トの技術開発とその普及や、水資源開発、下水道整備などの社会基盤整備に加え、水循環変動の予測
精度の向上し、その情報を国際的に共有できるシステムを構築することは、水危機回避の最も有望な手
段の一つである。
地球-大気システムは、大気運動と海流による水とエネルギー輸送によって結合されており、異なる場
所での諸現象が時間的ずれを伴って相互に関連している。したがって、ある場所での水循環の変動現象
が離れたところのしかも季節が異なる現象と密接な関連性を有している場合がある。これらの現象の理解
に相関解析などの統計的手法を用いることは研究の初期段階としては必要なステップであるが、システム
の複雑性、非線形性を考慮すると、そこに介在する物理プロセスを理解し、定式化して、予測モデルに組
み込み、予測に必要な観測データを取得する努力を払わないと、水計画および管理のための有効な情
報とはならない。そのためには、ローカル~グローバルな水循環現象を統合的にカバーする観測データ
の収集、メタデータの作成、品質管理の上で、アーカイブすることが必要である。本研究は、図- 92 にある
ように、世界気候研究計画(WCRP)の統合地球水循環強化観測期間プロジェクト(CEOP)を通して得られ
る地球水循環データと、サブテーマ間での相互協力を通じて、水循環観測データを統合し、他の様々な
情報と融合して、水管理に利用できる情報を提供できるシステム開発に貢献するものである。
137
図- 92: 気象水文データ統合とその利用
3.2 地球水循環強化観測データの統合
水循環変動に関わる諸課題に総合的に取り組む最初の国際プロジェクトとして、統合地球水循環強化
観測期間プロジェクト(Coordinated Enhanced Observing Period(CEOP))が実施された。CEOP とは、地上
観測研究グループ、衛星機関、気象機関が協力して、局所的~地域規模~地球規模の全水循環過程
のデータセットを作成し、それを用いて水・エネルギー循環プロセスの理解と予測研究、モンスーンシステ
ムの研究、ダウンスケーリングの研究を行う国際プロジェクトであり、2002 年 10 月 1 日より 2004 年 12 月
31 日までの 2 年 3 ヶ月間に及ぶローカル~グローバルスケールの気象水文観測データが収集された。
本研究課題は、サブテーマ1と協力して、データのアーカイブ、統合的利用システムの開発を進め、図92 にあるようにマイクロ波帯での放射伝達モデル、水循環モデル、データ同化手法の高度化(サブテー
マ1との相互協力)、河川最適管理システム開発とその利用(サブテーマ4との相互協力)の入力情報や検
証データとして利用された。また、これらの CEOP データには ISO 基準に沿ってメタデータが付与されて
いるが、これはサブテーマ2との相互協力で開発された。また、サブテーマ1との協力で進められる集中型
データ統融合システム 5),6)に対して、各データセンターとネットワークを介してデータの相互のやり取りを通
じてデータを解析する分散型データ統融合システムをサブテーマ2との相互協力で開発した。
(1)地上水循環強化観測データの収集,アーカイブ
地球規模の気候多様性をカバーする地上での水循環データ収集のために、世界各国の大気-地表
面相互作用に関する地上観測研究グループが協力して、図- 93 に示す世界 35 箇所のリファレンスサイト
において、水・エネルギー循環に関する詳細な観測が進められている。CEOP では世界各地で実施中も
しくは計画中の個々の観測研究を相互に調整することによって、地球規模の観測ネットワークを構築した。
しかし、これら 35 地点のリファレンスサイトで収集されるデータは多様であり、フォーマットもバラバラである。
138
そこで全てのリファレンスサイトデータは観測研究者による品質チェックの後、統一フォーマットに変換し、
研究者が相互に使いやすい形で公開した。本課題はその国際調整を担当し、アジア域のリファレンスサ
イトデータの収集、品質管理、フォーマット変換は、サブテーマ 3 の第 5 課題「研究地上観測データの統
合」が担当した 8)。
図- 93: 35 箇所の CEOP リファレンスサイト
このようにして収集されたデータは、最終的に米国大気研究センタ(NCAR)にてチェックされ、国際的
に公開され、本課題もサブテーマ1と相互協力して同等のものをアーカイブし、本研究の水循環統合研
究に利用した。CEOP データアーカイブでは、2002 年 10 月~2003 年 9 月を EOP3、2003 年 10 月~2004
年 12 月を EOP4 としたが、品質が確認されて最終的に公開されたデータセットは下記の通りである。
図- 94: 公開された地上気象水文データセット
139
(2)衛星データの収集・アーカイブ
既存の衛星に加えて、2002 年中に5機の大型衛星による地球水循環の包括的な観測態勢が整った。
これは 1980 年代後半に計画された宇宙機関共同による極軌道観測プラットフォーム(POP)構想が具体
化したもので、米国航空宇宙局(NASA)の Terra(2000 年)と Aqua(2002 年)、欧州宇宙機関(ESA)の
ENVISAT(2002 年)が打ち上げられており、わが国の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の ADEOS-II が
2002 年 12 月 14 日に打ち上げられた。
ただし、各宇宙機関ではそれぞれの衛星ミッションにあわせた観測データセットを作成するのであって、
統合的な地球水循環データセットを作成する機能はない。そこで CEOP では、宇宙機関で構成される地
球観測衛星委員会(CEOS)の協力を得て、各衛星機関からデータの提供を受け、これらを統合化して衛
星による地球水循環データセットを作成する。観測次元、時空間サンプリング、地図投影法、データフォ
ーマットがそれぞれ異なる、200 テラバイトにものぼる多量の衛星データは、本研究課題と各衛星機関と
の相互協力によりアーカイブ、公開するとともに、本研究の水循環統合研究に利用した。なお、衛星デー
タの公開のために、図- 95 に示すユーザインターフェースがサブテーマ1との相互協力で作られた。
図- 95: 衛星データ公開システム
(3)数値気象予測モデル出力の収集、アーカイブ
CEOP リファレンスサイトでは、時間的連続性のある大気-地表面相互作用の詳細な観測が実施され
ているが、得られるデータは一点から 100km 程度のメソスケール領域のデータをカバーするのみである。
衛星は広域観測が可能であるが、時間的連続性は衛星回帰日数に依存し、センサーによっては十数日
に一回というものもある。そこで CEOP では数値気象予報モデルの出力を地上や衛星データと組み合わ
140
せて用いることによって、時空間的に変動の激しい現象を捉えることを目指している。そこで、気象庁
(JMA)、米国大気海洋庁環境予報センター(NCEP)、英国気象局(UKMO)、オーストラリア気象局(BoM)、
ブラジル気象局(CPTEC/INPE)、欧州中期気象予報センター(ECMWF)、インド中期気象予報センター
(NCMWF)、NASA データ同化センター(DAO)など、世界の各気象機関の協力を得て、現業の気象数値
予報モデルの出力を収集、アーカイブした。
各気象機関より提供されるモデル出力の一つは、MOLTS(Model Location Time Series)と呼ばれる1時
間程度の高い時間分解能で大気-地表面プロファイルを表現する出力値で、全ての CEOP リファレンス
サイトに最も近いグリッドデータが蓄積されている。また全地球スケールの大気3次元グリッドや地表面2
次元グリッドの出力も6時間ごとに蓄積されている。これらは現業のモデル出力であるが、現業観測デー
タに加えて、利用可能な全観測データを吟味し、数値予報計算を再度行って精度の高い数値モデル出
力を得る再解析データ、NCEP、ECMWF、NASA/DAO、JMA によって行われ、これらのデータも収集、ア
ーカイブされた。
本課題は、2月に1度の割合で国際電話会議を開催し、モデル出力仕様を記述するドキュメントの作成、
MOLTS フォーマットの統一化など、この国際調整を担当し、これらの調整を経て気象機関のモデル出力
が、すべてドイツのマックスプランク研究所(MPI)にてアーカイブ、公開され、本課題もサブテーマ1と相互
協力して同等のものをアーカイブし、本研究の水循環統合研究に利用した。図- 96 は現在公開されてい
るモデル出力の一覧である。
図- 96: 数値気象予測モデル出力のアーカイブ、公開状況
3.3 気象水文データの統合の国際的リーダシップ
2005 年 2 月の第3回地球観測サミットで合意された複数のシステムからなる地球観測システム(GEOSS)
10 年実施計画では、水循環分野で国際的な気象水文データ収集、アーカイブのための計画立案の議
論が開始されている。
本研究課題は CEOP を通したデータ収集、アーカイブ、公開システムの強化を図り、GEOSS10 年実施
141
計画に資する気象水文データの統合に関する国際的な議論をリードする基盤をつくり、2007 年 3 月の国
際実施計画会議(ワシントン、米国科学アカデミーで開催)で、その総括を行って成功裡に終了した。
また本研究課題は、GEOSS の枠組の下で、2005 年 11 月第1回アジア水循環シンポジウムを開催し、
アジア域の水利用、水害などの問題点についての各国報告を取りまとめて、「アジア水循環イニシアチ
ブ」を設立した。その後、2006 年 9 月にバンコクにてタスクチーム会合を開催して、気象水文データの収
集可能性の評価とデータポリシーの草案を作成し、2007 年 1 月の第2回アジア水循環シンポジウムにて、
データ収集体制、データポリシー、デモンストレーション、スケジュールを含む基礎計画(baseline)を取り
まとめた。さらに、2007 年 9 月のバリでの国際調整グループ会議での協議を経て、2007 年 12 月の別府市
にて開催された第3回アジア水循環シンポジウムにて、デモンストレーションプロジェクトの実施計画を合
意し、アジア 17 カ国から1カ国1河川を指定して、それぞれの流域の気象水文データを収集、アーカイブ
して、洪水、渇水、水質汚染などの問題に対して統合的に対応するデータシステムの開発と利用を決定
した。本研究課題はその推進役をにない、第3回アジア水循環シンポジウムではプロモーションビデオを
作製し、アウトリーチにも努めた。図- 97 は本研究課題とともに起案から合意形成に協力した「アジア水循
環イニシアチブ」関連の会議の参加者である。
図- 97: 本研究課題が中心となって進めたアジア水循環イニシアチブの議論の参加者
142
3.4 まとめ
本研究課題は、サブテーマ間の連携の下に、世界の水循環フィールド研究のコミュニティ、衛星機関、
数値気予測センターと協力して、ローカル~グルーバルな水循環をカバーする統合地球水循環強化観
測データセットを世界で始めて作成するとともに、サブテーマ間の相互協力でこれらのデータを本研究の
水循環統合研究に利用し、本研究課題の目標を達成した。さらに、GEOSS の枠組みの下で、アジア17
カ国と連携して、本研究で開発した枠組みを、アジアにおける洪水、渇水、水質汚染の問題解決につな
げる国際協力の枠組みを創設、牽引し、アジアにおける科学技術外交の重要な役割を担った。
4. 海洋観測データの統合
(分担研究者名:道田 豊、 所属機関名:東京大学)
4.1 研究の目的
海 洋 観 測 デ ー タ の 管 理 に 関 し て は 、 1960 年 代 に 設 立 さ れ た ユ ネ ス コ 政 府 間 海 洋 学 委 員 会
(Intergovernmental Oceanographic Commission: IOC)の主導により、国際的なデータ交換の枠組みが存
在する。これは、国際海洋データ情報交換(International Oceanographic Data and Information Exchange:
IODE)と呼ばれる活動で、40 年以上の歴史を持ち、各国に設置された海洋データセンターのネットワーク
を中核として、さまざまな計画、プロジェクト等で得られた海洋観測データを国際的な協力のもとで管理す
るものである。我が国でも、1965 年に日本海洋データセンター(Japan Oceanographic Data Center:
JODC)が海上保安庁の一部局として設立され、それ以来、国際的な海洋データ交換の日本の窓口として、
国内の各機関等が行った海洋観測データの保管管理を担当している。
地球規模の諸問題への対応のため、地球観測を充実させようとする GEOSS の構築が国際社会の重要
課題のひとつとして進められる中、IOC/IODE 側もこれに積極的に貢献しようとしており、GEOSS における
データシステムの設計において、海洋観測データについては IODE など既存の仕組みを十分に活用する
ことが期待される。
こうしたことを背景として、地球観測データの統合化を図ることを主眼とする本研究計画において、海洋
観測データについては、IODE など既存の国際的な枠組みにおける検討との整合、またその枠組みを通
じた我が国の的確な貢献の重要性に鑑み、主として以下のような課題に取り組んだ。
・より効果的なデータ流通に向けたメタデータについて、近年さまざまな仕様のものが使われるようにな
った漂流ブイデータを取り上げて、検討する。
・流通の遅れている海洋観測データとしてプランクトンデータを取り上げ、研究観測データとしてデータ
センターのネットワークに乗っていないデータを発掘し、流通データ化する。
4.2 研究の方法
(1) 漂流ブイデータに関するメタデータの検討
漂流ブイは、1980 年代から広く用いられるようになった海流計測手法の一つで、海流に乗って変
化する位置を、多くは衛星によって追跡することで海流データを得る。1990 年代以降、気象衛星
NOAA のデータ収集システム-アルゴスシステム-を利用する漂流ブイが普及し、1990 年から 2002
年にかけて実施された国際共同観測計画 WOCE(World Ocean Circulation Experiment)およびそ
143
れに先行する TOGA(Tropical Ocean and Global Atmosphere)においては、主要な観測項目の一
つとして漂流ブイが大量に放流された。これらのブイは、米国スクリップス海洋研究所の Niiler 博士
のグループが開発した国際標準仕様のものが用いられた(Michida and Yoritaka, 1996 など)。海面
を漂う浮体に作用する海上風の風圧流効果を減殺するため、海面下(標準仕様では海面下 15m)
に円筒形の(円筒の側面にいくつか穴をあけ holey sock 型と呼ばれる)抵抗体が付けられている。
既往の研究(Niiler et al., 1987 など)により、海面下部分の断面積が海上部の約 40 倍以上であれ
ば、実用上風による風圧効果は無視することができるものとされている。
これら TOGA および WOCE の国際標準仕様の漂流ブイのほか、最近では GPS によって位置計
測を行うさまざまなタイプの漂流ブイが使われるようになっている。アルゴスシステムの位置決定精度
は約 300m 程度とされており、特に沿岸海域における海流計測では要求される精度水準を満たして
いない。また、計測したい観測層も目的に応じて多様である。国際標準仕様の漂流ブイデータにつ
い て は 、 準 リア ル タ イ ム の デ ー タ 管 理 を 米 国 の AOML ( Atlantic Oceanographic and Meteorology
Laboratory, Miami)が担当し、最終保管はカナダの MEDS(Marine Environmental Data Service)が担当し
て、国際的な枠組みが確立している。しかし、前述の多様な漂流ブイについてはデータ流通が遅れてい
る。
国際標準仕様のブイのように規格が定まっている漂流ブイについては、データ交換にあたって抵抗体
等仕様の差異によるブイの挙動の違いを意識する必要はないが、さまざまな規格のブイについてデータ
管理を行う場合には、特に抵抗体の深度によるブイの挙動の違いに注意する必要がある。しかし、抵抗
体の深度が異なる場合にブイの運動にどのような影響があるかという点について、条件をコントロールして
検討した例はほとんどない。そこで、本研究では、高精度でその位置を追跡できる GPS 搭載漂流ブイを
用いて、抵抗体の深度だけを変えた複数のブイを同時に放流する試験的観測を行い、挙動の違いを記
述することとした。その結果をもとに、漂流ブイデータの管理に関して国際的にリードしている米国 NOAA
の大西洋海洋研究所の技術者とメタデータの設計について意見交換を行った。
(2) プランクトンデータおよび関連データの流通データ化
プランクトンは海洋における一次生産の担い手として、生物資源管理の観点から重要であるのみ
ならず、近年の地球の温暖化をはじめとする地球規模の環境変動においても一次生産活動を通じ
て地球規模の炭素循環に大きな影響を及ぼしているという視点から極めて重要な要素の一つとな
っている。プランクトンの現存量や組成については古くから海洋生物学の重要課題の一つであり、
数多くの観測が行われてきた。研究的な観点ばかりでなく、特に資源を支える主体であるという位置
づけから現業観測機関においても基本的な観測の一つとして実施されている。しかし、対象が生物
であるためデータの標準化が本質的に困難であることは否めず、他の物理的な量に関する海洋観
測データ(水温、塩分、海流など)に比べてデータ管理体制の整備が遅れている実態がある。
それでも、いくつかの先進的な国においては海洋プランクトンデータの管理についての取り組みが
早くから進められている。例えば英国データセンターでは、大西洋を横断する観測線でのプランクト
ン量のモニタリング観測のデータを標準化して保管し、国際的なデータ交換に供している。我が国
でも、日本海洋データセンター(JODC)が 1980 年代から海洋生物データコード体系の確立に着手
し、世界の海洋データセンターの中でも比較的早くから海洋生物データの取り扱いを行っている。
基本的なデータ管理の体制はそれなりに整っているといえる。
しかし、実際にデータセンターで管理されているデータは、観測されたデータのごく一部に留まっ
144
ているのが現状である。我が国では、気象庁その他の現業観測機関が非常に組織化された観測網
を維 持 しており、日 本 近海 は世界 でももっとも海洋 観 測 データが充 実 した海 域 となっている。海洋
生物データ(プランクトンデータ)も例外ではなく、気象庁や水産関係機関の定期観測線において
は海洋生物観測が基本的な観測項目となっている。これら現業観測機関が取得したプランクトンデ
ータは、観測から一定の期間を経た後に日本海洋データセンターに送付されている。2005 年現在
日本海洋データセンターで保有する数万点のプランクトンデータのほとんどは、こうした現業観測機
関から提供されたものとなっている。大学その他の研究機関等が多様な研究目的のために実施す
る海洋生物観測のデータも相当量存在するものの、そのうちデータセンターを通じて利用可能なも
のは皆無といってよい状態となっている。
このような、大学その他の研究機関に保管されているプランクトンデータは非常に貴重であるにも
関わらず、そのほとんどすべてが当該研究機関に保管されたままとなっており、このまま放置すれば
研究室主宰者の交代などによって滅失してしまうものと危惧される。そうした事態を防いで貴重なプ
ランクトンデータの流通データ化 を図 り、ひいては地 球規模の環境変 動に関 する研究 の進展 に資
するため、本研究の一環として、研究機関に紙媒体などに保管されているプランクトンデータのデジ
タル化に取り組むこととした。
具体的には、学術研究船「白鳳丸」によって取得され、紙媒体で保管されていたプランクトンデー
タを整理してデジタル化した(平成 17 年度)ほか、広島大学において同様に紙媒体で保管されてい
たデータを発掘してデジタル化した(平成 18 年度)。また、東京海洋大学において保管されていた海
洋生物化学データについて発掘しデジタル化した(平成 19 年度)。これらの処理にあたって、国際
的な海洋データ管理コミュニティの活動との整合を確保するため、IODE プロジェクト事務局・フラン
ダース海洋研究所(ベルギー)、英国海洋データセンターの担当者との意見調整を行った。
4.3 研究の成果
(1) 漂流ブイデータに関するメタデータの検討
実験に用いたブイは、Michida et al. (2004)の設計によるもので、沿岸海域において多角形状に数個の
ブイを放流することによって収束発散場や拡散係数を評価するといった研究において実績がある
(Michida et al., 2006 など)。ブイの浮体には GPS データロガー(Fukuda et al., 2004 による)または GPS
携帯電話(Ishigami et al., 2006)が取り付けられ、5-10m の精度で位置を決定することができる。
抵抗体水深の違いによる漂流ブイの挙動の差異に関する基礎データを蓄積するため、岩手県大槌湾
において抵抗体の深度を 1、 5、 10、 15mに調節した GPS 搭載放流ブイ複数個を一組として2箇所で
放流し、数時間それらの位置を追跡した。
実験結果の例を図- 98 に示す。いずれのブイとも、大局的には東~東北東方向に流れたという点は共
通しているが、その速度は抵抗体の深度によって大きく異なる。いずれの組とも、漂流速度の大きい順に、
抵抗体深度が 1m、 15m、 10m、 5m となっている。抵抗体深度が深いほど運動が遅いというわけではな
い点が注目される。大槌湾における海水循環の特性が反映されたものと考えられるが、当該湾の海洋環
境変動について論じることが本研究の主目的ではないため、ここではこれ以上の検討は行わない。
MEDS の管理する漂流ブイデータベースには抵抗体深度に関する情報が含まれるようになっているが、
必ずしもすべてのブイについてその情報が収録されているわけではない。今回の実験結果は抵抗体深
度に関する情報の重要性を示しており、特に今後多様な仕様の漂流ブイデータの交換を推進する際に
145
は、少なくとも抵抗体深度の情報は必須と思料された。また、抵抗体の形状や海面上/海面下の断面積
比も重要な情報であると思われた。
同様の実験的観測を平成 18 年度および 19 年度にも引き続き行って試験データを蓄積し、そのデータ
を携えて、平成 19 年度、漂流ブイデータの国際的一次処理を担当している米国 NOAA の大西洋海洋研
究所(AOML)を訪問し、抵抗体水深の異なる種々の漂流ブイデータの管理手法について意見交換を行
った。その結果、AOML においても近年ごく表層の詳細な流速場を計測することを目的とした漂流ブイの
観測が盛んに行われるようになったことから、そうした非標準仕様の漂流ブイデータの管理について検討
を開始していることが明らかとなった。最終的なメタデータデザインについては検討が継続されているが、
抵抗体の材質、形状、水深、断面積比については少なくとも記述することは不可欠である点については
基本認識において一致している。
図- 98: 2005 年9月 14 日 12:45-15:30 岩手県大槌
湾における GPS 搭載漂流ブイの放流実験.(上)放流
の様子 (下左)1組目4個 (下右)2組目4個.抵抗
体深度は,1m (黒),5m(青),10m(緑),15m(赤).
上記の成果のうち、抵抗体水深の違いによる漂流ブイの挙動の差異に関しては、国際学会を含む複
数の学術集会等において口頭発表またはポスター発表を行った。
146
(2) プランクトンデータ及び関連データの流通データ化
平成 17 年度はプランクトンデータの流通改善に関する取り組みの第一歩として、学術研究船「白
鳳丸」によって取得され保管されているプランクトンデータについてデジタル化を行った。
まず、学術研究船「白鳳丸」で過去に実施された動物プランクトン採集観測の野帳および記録台帳の
有無を航海毎に整理し、内容を確認したのち全て PDF 形式で保存した。続いて、整理した野帳および記
録台帳を基にデータ入力を実施した。記載様式が航海毎に異なっていたため、必要なデータ・情報の漏
れがないように項目を選択してフォーマットを統一した。入力項目の一覧を表- 16 に示す。データはカン
マ区切り(CSV)で、一行目に航海名などを入力し、二行目および三行目をヘッダ行として、四行目以降に
データを入力した。ただしサンプルの残っていない航海については観測位置・日時等のみ入力した。入
力後は品質管理として、位置、日付、データ値などを検査訂正し、また野帳や記録台帳の記載が不明瞭
な個所は観測担当者らと協議の上で入力値を確定した。また、入力した情報を基に測点図を全航海およ
び航海毎に作成し、測点図に描かれた航跡から観測位置に間違いがないか検査を行った。
表- 16: プランクトンデータデジタル化入力項目
項目
説明
Station Name
測点名
Location
ネットを投入または回収した位置(緯度経度)
Date
採集日付
Time
ネットを投入または回収した時刻
Weight(kg)
重量(単位:kg)
Net type
プランクトンネット(NORPAC)のタイプ
Mesh size (mm)
プランクトンネットの網目サイズ(単位:mm)
Wire out (m)
ワイヤーの繰り出し長(単位:m)
Sampling layer (m)
採集層(単位:m)
Vol. Water Filt (m^3)
フィルター通過水量(単位:m3)
Wire angle (Deg)
ワイヤー傾角(単位:度)
Flowmeter
濾水計のタイプ
Settling Vol. (ml)
沈殿量(単位:ml)
Settling Vol. (ml/m^3)
沈殿量(単位:ml/m3)
Wet Weight (mg)
湿重量(単位:mg)
Wet Weight (mg/m^3)
湿重量(単位:mg/m3)
Depth
水深
Remarks
注釈
Towing method
採集法
Flowmeter No.
濾水計番号
こうしたデジタル化とそれに続く品質管理処理により、全部で 34 航海、合計約 1、000 観測点のプランク
トンデータが新たに電子計算機で処理可能な形態に整理され、データセンターを通じて広く利用可能と
147
なった。発掘され、新たに利用に供されることとなった白鳳丸のプランクトンデータの測点図を図- 99 に示
す。
平成 18 年度は前年度の所在情報調査の結果を踏まえて広島大学に紙媒体で保管されていたプランク
トンデータ、平成 19 年度は東京海洋大学に保管されていた海洋生物化学データの発掘・デジタル化を
行った。結果を図- 100 に示す。
図- 99: 新たにデジタル化された学術研究船「白鳳丸」のプランクトン観測点
図- 100: 新たにデジタル化された広島大学の動物プランクトン観測点
上記のデータはデータセンターを通じて広く国内外の研究者の利用に供されることとなり、または利用
148
に供される準備が整った。これら研究成果は、過去に観測されたデータの流通データ化というものであり、
従来必ずしも学界における科学的研究成果として認められない傾向があることは否定できない。しかし、
新たな科学的知見を示したものでなないものの、その海洋学に対するプラスの影響の重要性が認められ、
国際学会において原著論文として採録された
8)
。また、流通の遅れているデータの発掘の重要性を示す
ため、多くの学会等で口頭発表またはポスター発表を行った。
さらに、期待された以上の成果、波及効果の例として、津田ほか(2008)を挙げておく。これは、白鳳丸の
プランクトンデータが整理されデジタル化されたことを契機として、プランクトン研究者が中心となり、本研
究においてデジタル化された計測データに留まらず、倉庫に保管されていた採集試料との対応付けを行
ったものである。この結果は、2008 年度日本海洋学会春季大会で口頭発表された。データの流通隘路を
除去することによって、貴重なサンプルの有効活用に向けた活動を研究者自ら行うきっかけを作ったもの
として特筆に価するものと思料する。
4.4 今後の課題
国際的なデータ管理の仕組みが一応整っている海洋観測データであるが、本研究で取り組んだような
流通の遅れているデータの発掘・救済(archaeology and rescue) を継続的に行う必要がある。そうした活
動は地味で、ともすれば学術的な場で評価が得られにくい傾向がある。本研究の成果については、上述
の通り学界においても一定の評価が得られたが、この経験を埋もれさせることなく、海洋のみならず広く地
球観測データを扱う学会、機関等において継続的な取り組みが望まれる。
【文献】
Fukuda, A., K. Miwa, E. Hirano, S. Suzuki, H. Higuchi, E. Morishita, D. J. Anderson, S. M. Waugh and R.
A. Phillips, BGDL-II –A GPS data logger for birds, Mem. Natl. Inst. Polar res., Sp. Issue 58, 234-245,
2004.
Ishigami, K., Y. Michida, T. Komatsu and K. Tanaka, Accumulation mechanism of drifting seaweeds in the
eastern Suruga Bay based on surface drifter, Techno-Ocean 2006/19th JASNAOE Ocean Engineering
Symposium, P-113, 2006.
Michida, Y. and H. Yoritaka, Surface currents in the areas of Indo-Pacific Throughflow and in the Tropical
Indian Ocean observed with surface drifters, J. Geophys. Res., 101, 12475-12482, 1996.
Michida, Y., H. Aoyagi, M. Inada and H. Otobe, Development of GPS tracked drifters and application for
observation of coastal circulation, Proc. 1st Joint Seminar on Coastal Oceanography, 1-6, 2004.
Michida, Y., R. Takimoto, P. Sojisporn and T. Yanagi, Divfergence/convergence field observed with GPS
tracked drifters in the Upper Gulf of Thailand, Coastal mar. Sci., 30(1), 27-35, 2006.
Niiler, P. P., R. E. Davis and H. J. White, Water-following characteristics of a mixed layer drifter,
Deep-Sea Res., 34, 1867-1881, 1987.
149
5. 研究地上観測データの統合
(分担研究者名:谷口 健司 (H18 年 10 月~H20 年3月)、玉川 勝徳 (H17 年 4 月~H18 年 9 月)
5.1 研究背景と目的
研究的な地上観測データは、現業観測から得られる地上観測データと異なり、研究者それぞれの研究
目的にあわせた高度な観測項目が含まれている。対象とする現象や環境に合わせて、計測方法やデー
タフォーマットが多様で、データの品質、加工度のレベル、精度にも格差がある。このような多種多様なデ
ータを衛星データや数値予報モデル出力結果などと統合的利用をするためには、統一した品質管理の
実施や統一フォーマットへの変換が必要であり、研究者個々でこれらの作業を実施することは非常に困
難であり統合的に利用をする上でのボトルネックになっている。
そこで、本サブサブテーマ:「研究地上観測データの統合」では、これらの研究的な地上観測データに
対して、メタデータの共通化を目指し、その上でデータ提供側のインセンティブを促すようなサービス(品
質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステム等)を提供することによって、アジア域でのケー
ススタディを通して、データ提供側とユーザ側がともにデータの統合的利用のメリットを共体験して、研究
サイドが積極的にデータを提供するインセンティブ作りを行うことを目的とした。
5.2 研究の目標
研究地上観測データの観測者各々が自身の観測生データを、品質管理や統一フォーマット変換する
ことを支援するため、本研究では次に示す 2 項目を目標として実施した。
z
質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムのバージョンアップの検討
z
研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload システムの検討
5.3 研究方法
5.3.1 品質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムのバージョンアップの検討
科学技術振興調整費:「地球水循環インフォマティクス」で構築された、Web ベースの研究地上観測デ
ータ品質管理支援・フォーマット変換支援システムを、国際研究プロジェクト「統合地球水循環強化観測
期間プロジェクト(CEOP)」のアジアモンスーン研究グループ(CAMP)の研究地上観測者に使用していた
だき、システムに対する要求事項を整理する。これらの要求事項を、システムを担当する「1-(1) 大規模デ
ータアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」グループと連携を取りながら議論を
重ね、実装可能性を精査しバージョンアップを検討する。
5.3.2 研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload システムの検討
研究地上観測データ品質管理支援、フォーマット変換支援システムを使用するためには、観測生デー
タを、品質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムに投入する必要がある。既存のシステ
ムではこれらの投入作業は、観測者とデータマネージャが個別にコンタクトをとり、メールや FTP で生デー
タとそれに関連するメタデータを送付いただいた後、データベースへローディングを行っていた。この生
データと関連するメタデータの Upload を、Web を通して観測者が直接実施できるシステムを、「1-(1) 大
規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」グループと連携を取りながら
議論を重ねシステム構築を検討する。
150
5.4 研究成果
5.4.1 質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムのバージョンアップの検討
5.4.1.1 質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムの概要
本研究で対象とした Web ベースの研究地上観測データ品質管理支援・フォーマット変換支援システム
の一部を図- 101 に示す。このシステムの初版は、科学技術振興調整費:「地球水循環インフォマティク
ス」研究課題において、システムを担当する研究グループと共同で開発した。この品質管理システムは自
身の観測データの品質をチェックするためのシステムであるため、他人がアクセスすることができない。自
分が観測したデータにアクセスするためには、USER ID、Password を入力しログインする(図- 101 (a))。ロ
グイン後に、データ選択機能(図- 101 (b))、データ表示機能(図- 101(c))、エラー値指摘機能、参照デー
タ表示機能、データ更新機能、フラグ更新機能を用いて、データをグラフ化し、観測データ個々に国際標
準の品質管理データフラグを附加することにより、自身のデータの品質管理を実施する。品質管理のデ
ータフラグを表- 17 に示す 7)。
(a)ログインウィンドウ
(b)データ選択ウィンドウ
(c)データプロットウィンドウ
図- 101: Web ベースの研究地上観測データ品質管理支援・フォーマット変換支援システム(一部)
表- 17: 品質管理フラグ
Flag Value
Definition
C
minus precipitation or Abnormal value(通常取
りえない値のデータ)
M
Missing(データ欠損)
B
Bad(悪いデータ)
I
Interpolated(内挿したデータ)
D
Dubious/Questionable(疑わしいデータ)
G
Good(良いデータ)
U
Unchecked(未チェックデータ)
5.4.1.2 品質管理システムを使用したアジアのリファレンスサイト
品質管理支援やデータフォーマット変換支援のインタフェースのバージョンアップを行うためには、実
151
際に使用したユーザからの要望を収集する必要がある。本研究では、国際研究協力 CEOP(統合地球水
循環強化観測プロジェクト)のアジアモンスーン研究グループ(CAMP)の研究地上観測者に使用していた
だき、感想やシステムに対する要求事項についてヒアリングを行った。CAMP の地上観測サイトの分布を
図- 102 に、また、それぞれの観測サイトにおける観測項目を表- 18 に示す。
表- 18: CAMP サイトにおける観測項目
サイト名
図- 102: CAMP 地上観測サイト
観測地
点の数
観測項目
1
Eastern Siberian Tundra
1
Tower
2
Eastern Siberian Taiga
7
3
Mongolia
18
4
5
6
Tongyu
Korean Peninsula
Korean Haenam
2
1
1
7
East Tibet
13
8
9
West Tibet
Himalayas
1
5
Tower
AWS, ASSH,
Radar
Tower
Tower
Tower
AWS, Tower,
SMTMS
AWS
AWS
10
Northern South China
Sea - Southern Japan
25
AWS, STMS,
Sonde
11
12
13
14
Chao-Phraya River
North-East Thailand
Western Pacific Ocean
Equatorial Island
1
1
2
1
Tower
Tower
AWS
AWS
AWS:
Automatic Weather Station
ASSH :
Automatic Station for Soil Hydrology
SMTMS:
Soil Moisture Temperature Measurement System
STMS:
Soil Temperature Measurement System
5.4.1.3 質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムのバージョンアップ
これらの観測サイトにおける観測者と E-mail や電話などでコンタクトを取り、システムに対する要望を収
集し整理を実施した。その結果「データ選択機能」に関して4件、「グラフ表示機能」に関して6件、「値・フ
ラグの更新機能」に関して8件、「データダウンロード機能」に関して2件の要望があった。これらの要望の
中から必要性や実装可能性について「1-(1) 大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデー
タ統合基盤の構築」グループと議論を行い優先順位を決めシステムに反映した。
特にユーザから強い要望があったのは、「データ選択機能」の強化である。当初のバージョンでは、品
質管理を実施しようとする要素を、[期間]・[サイト名]・[要素]から絞り込み、品質管理を実施する要素を選
んでいた。その要素の品質管理後、別の要素選択するためには、「Back」機能を複数回押して、対象デ
ータまで遡らなければならななかったが、本研究課題では QC を実施している(選択している)データまで
「パス」を表示し1クリックで品質管理を行うデータを選択できるよう改良した(図- 103)。その他の要望とし
て、
152
・
品質管理をする際、リファレンスデータを一気に選ぶボタン「Select All」の機能
・
オーバレイウィンドウにおいて、縦軸を、「実際の値」と「正規化した値」いずれかの表示パターンを
選択可能にする機能
・
時間軸を UTC と Local Time とで切り替えることができる機能
・
フラグ「B」が付加された場合、その値はグラフ上で表示されないようにする
などのユーザからの要求に対応し、品質管理システムのバージョンアップを実施した。
図- 103: バージョンアップ後のデータプロットウィンドウ(着目している要素までのパスが画面上部に表示され、
ユーザはそのパスを1クリックすることで、着目している要素まで遡ることができる。また、リファレンスウィンドウ
の下部(図の右下)には、Y 軸を「実際の値」・「正規化した値」で表示するかの選択肢がある。)
5.4.2 研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload システムの検討
5.4.2.1 アジアのデータ管理の流れ
研究地上観測データ品質管理支援、フォーマット変換支援システムを使用するためには、観測生デー
タを、支援システムに投入する必要がある。既存のシステムではこれらの投入作業は、観測者とアジアの
データマネージャが個別にコンタクトをとり、メールや FTP で生データとそれに関連するメタデータを送付
いただいた後、データベースへのローディングを行ってきた。この生データと関連するメタデータの
Upload を、Web を通して観測者が直接送付できるシステムを、「1-(1) 大規模データアーカイブ・ストレー
ジシステムの開発とデータ統合基盤の構築」グループと連携を取りながら議論を重ねシステム構築を検討
した。アジア地域におけるデータ管理の流れの概念図を図- 104 に示す。
153
(a) 既存のシステムの流れ
(b)システム更新後の流れ
図- 104: アジア地域におけるデータ管理の流れ(観測者が観測生データをデータセンターに送付する
プロセスが、既存システム(a) では FPT/E-mail であるのに対し、システム更新後(b)では、Web
Interface を用いている)
5.4.2.2 研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload システム
Web を通して、研究地上観測データメタデータの登録や生データ Upload をするため、まず、システムに
要求される機能の検討を行った。図- 102 に示したように、CAMP 地上観測サイトにおける観測生データ
のフォーマットは多種多様であるため、これらの多様なフォーマットに柔軟に対応可能な生データローデ
ィング支援システムを開発することとした。本研究では、観測生データのメタデータとして、
1)区切り文字の指定
2)観測要素のカラム数指定
3)観測時刻のフォーマット指定
4)欠測値の指定
5)要素名の指定
6)観測機器設置高度の指定
7)観測要素の単位指定
の情報を Web 上から入力し、このメタデータ入力後に Web 上から生データを Upload するシステムを作成
した。研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload インタフェースの一部を図- 105 に示す。
(a)観測要素のカラム数指定
(b)要素名の指定
(c)データの Upload
図- 105: 研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload インタフェース(一部)
154
現バージョンでは、各サイトの観測者が本研究課題で開発したインタフェースを用いて研究地上観測
データメタデータと観測生データを登録すると、メタデータ情報と観測生データの格納場所がアジアデー
タセンターの担当者に連絡されることになっている。その後、アジアデータセンター側でデータベースに
入力する形にフォーマット変換を行いデータベースへローディングされ、品質管理インタフェースを用い
た品質管理が可能となる。
5.4.2.3 観測生データ半自動ローディング機能強化のための検討
4.2.3 に示すように、現バージョンでは観測生データを品質管理システムへローディングする際の生デ
ータフォーマット変換作業を人的に行っていた。これは、限られたサイトであるならば対応可能であるが、
サイト数が増えた場合、相当な人的負荷が想定される。そのため、4.2.2 で説明したインタフェースを用い
て入力された生データとメタデータを用いて、半自動的にローディングを行うための検討を行った。その
際に問題となるが、生データ自身に含まれている予期せぬエラーである。本研究では、国際研究プロジェ
クト「統合地球水循環強化観測期間プロジェクト(CEOP)」のアジアモンスーン研究グループ(CAMP)の枠
組みで取得した、CEOP Phase1 (2002 年 4 月 ~ 2004 年 12 月)のアジアにおける研究地上観測データ
の生データをチェックし、自動ローディングの際に不都合を及ぼすエラーパターンの抽出を行った。それ
ぞれの具体的な事例を図- 106 に示す。
事例 1:カラムずれのエラーパターンである。記録されているデータが突然 6 行目から1列右にずれている。
事例 2:収録項目数が途中で変化したエラーパターンである。6 行目以降の項目数が突然増えている。
事例 3:カラムが統合されててしまったエラーパターンである。CSV 形式データで保存されている場合、本
来カンマがあるべきところにデータが書かれてしまったため、2 つのデータがつながったり、別の数字に変
わったり、時には文字列が混入しているケースもある。
事例 4:時刻飛びのエラーパターンである。3 行目と 4 行目の間に時間的ギャップがあるり、本当に時間的
ギャップがある場合と、A 列のみギャップがある(データは連続している)場合がある。
事例 5:時刻重複のエラーパターンである。3 行目と 4 行目の時間が同じであるが、単純に同じ行が続いて
いる場合と、A 列のみ重複している(データは連続している)場合がある。
観測生データを半自動的にローディングするシステムを構築していく上で、本研究で検討した過去のエラ
ーパターン分析結果はとても重要な情報である。今後これらの情報をもとに、事例1~5 のようなエラーを
含んだデータが Upload された時にワーニングをユーザに出すようなシステムの構築を検討していく。
155
【 事例 1 】 カラムずれ】
【 事例 4 】 時刻飛び
【 事例 2 】 収録項目数が途中で変化】
【 事例 5 】 時刻重複。
【 事例 3 】 カラム統合
図- 106: 自動ローディングの際に不都合を及ぼすエラーパターンの事例
156
5.5 まとめ
本研究課題では、研究地上観測データの観測者各々が自身の観測生データに対して品質管理や統
一フォーマット変換することを支援するため、質管理支援やデータフォーマット変換支援を行うシステムの
バージョンアップ、研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload システムの構築を実施した。本
研究課題の成果の概念図を図- 107 に示す。
品質管理システムのバージョンアップでは、特に「データ選択機能」を強化した。品質管理を実施して
いる(選択している)データまで「パス」を表示させ品質管理実施中のデータを明確にするとともに、そのパ
ス上の要素を選択することにより容易にデータ選択ができるようになった。また、オーバレイウィンドウにお
いてデータを正規化表示する機能を付加し、グラフの挙動から品質チェックを効率的に実施できるように
なった。
研究地上観測データメタデータ登録・生データ Upload システムの構築にあたっては、CEOP で扱って
きたアジア各国の研究地上観測データの生データのデータフォーマットの分析を行いフォーマットの違い
にも柔軟に対応可能なメタデータ登録、観測生データ登録支援システムを開発した。また、生データに含
まれるエラーのパターンの分析を実施し、観測生データを半自動的にローディングするシステムを構築す
るための第一歩を踏み出した。
これらの研究成果は、システムを構築するコンピュータサイエンス側の「1-(1) 大規模データアーカイ
ブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」グループとシステムを使用している観測者(ユー
ザ)とのコラボレーションによるものであり、両者の信頼関係の下、綿密に連携をとりながらシステムを進化
させてきたことで、当初の目標であった研究サイドが積極的にデータを提供するシステムを構築すること
ができた。
図- 107: 研究成果の概念図
157
5)考察・今後の発展等
本研究は、サブテーマ1、2との連携により、地球観測データの収集、メタデータの設計と登録、データ
の品質管理、データ配布・解析システムの開発において、それぞれ目標通りの成果を得ている。また、気
象・水文に関わる衛星および地上観測データ、数値モデル出力をサブテーマ1における統合化研究に効
果的に利用し、その成果をサブテーマ4に提供して、水循環変動や気象予測などの各公共的利益分野
に適用するための実証研究を推進し、サブプロジェクト間での協力体制を確立して、本プロジェクト全体
の目標達成に貢献した。さらに、アジアにおける水問題解決に向けて、地球観測データ統合・情報融合
基盤技術を利用する価値が広く共有され、アジア各国が協力して河川観測データを収集し、統合的に利
用する枠組みができたことは、目標を超える成果であり、本研究の全体のアウトリーチとして、科学技術外
交の面から意義深い。
本プロジェクトの成果は、第3期科学技術基本計画の中で、国家機関技術「海洋地球観測探査システム」
のデータ統合・解析に受け継がれ、国家プロジェクトとして継続的に発展している。また、地球観測に関
する政府間部会の中でも、研究コミュニティである世界気候研究計画(WCRP)の中でも、中心的役割を担
っている。本サブテーマで研究、開発した地球観測データの効果的利用のための各要素を、これらの枠
組みのなかで効果的に利用するとともに、他の分野にまで拡張する取り組みが望まれる。
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
8報 (筆頭著者:2報、共著者:6報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:該当なし、国外誌:該当なし、書籍出版:該当なし
3. 口頭発表
招待講演:3回、主催講演:14回、応募講演:31回
4. 特許出願
出願済み特許:該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
1) An Ngoc Van, Yoshimitsu Aoki:「Precise error correction method for NOAA AVHRR image using the
same orbital images」, Transactions on Electrical Eng., Electronics, and Communications, vol.5, no.2.
127-136, (2007)
2) 竹内渉, 根本利弘, 金子隆之, 安岡善文:「WWW を利用した MTSAT データ処理・可視化・配信シ
ステムの構築」, 写真測量とリモートセンシング, 46(6), 42-48, (2007)
3) Preesan Rakwatin, Wataru Takeuchi, Yoshifumi Yasuoka:「Stripe noise reduction in MODIS data by
combining histogram-matching and facet filter」, IEEE transactions on geoscience and remote sensing,
4(6-2), 1844-1856, (2007)
4) 大吉慶, 竹内渉, 安岡善文:「植物フェノロジー観測における時系列 NDVI の雑音除去手法」, 写真
測量とリモートセンシング, 47(1), 4-16, (2008)
158
5) Toshihiro Nemoto, Toshio Koike, Masaru Kitsuregawa:「Data Analysis System Attached to the CEOP
Centralized Data Archive System」, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 85A,
529-543, (2007)
6) Eiji Ikoma, Masaru Kitsuregawa, Kenji Taniguchi, Toshio Koike:「Display Wall empowered Visual
Mining for CEOP Data Archive」, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 85A, 545-559,
(2007)
7) Eiji Ikoma, Katsunori Tamagawa, Tetsu Ohta, Toshio Koike, Masaru Kitsuregawa:「 QUASUR Web-based Quality Assurance System for CEOP Reference Data」, Journal of the Meteorological
Society of Japan, Vol. 85A, 461-473, (2007)
8) Michida, Y., H. Hasumoto and T. Suzuki:「Archaeology and rescue for marine plankton data collected
by universities in Japan」, Proceedings of Techno-Ocean2006/19th JASNAOE Ocean Engineering
Symposium, P-44,(2006)
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
該当なし
3. 口頭発表
招待講演
1) Toshio Koike:「Architecture Overview.」, Beijing, IEEE GEOSS Workshop - The User and the
GEOSS, 2006.5.22
2) T. Koike: 「CEOP Phase 1 Achievements and the Implementation Plan for Phase 2」, Fall Meeting of
American Geophysical Union (AGU), 2006.9.11-15
3) Toshio Koike:「Coordinated Enhanced Observing Period (CEOP) Phase 1 and 2」, Beijing, An Earth
System Science Partnership Global Environmental Change Open Science Conference, 2006.11.10
主催・応募講演
1) An Ngoc Van, Yoshimitsu Aoki:「Error correction for NOAA AHVRR data using reference data」,
Asian Conference on Remote Sensing 2006, Ulaanbaatar, Mongolia, November 2006.
2) An Ngoc Van, Yoshimitsu Aoki:「High accurate Geometric Correction for NOAA AVHRR data
considering elevation effect」, IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium 2007,
Barcelona, Spain, 23-28 July 2007.
3) An Ngoc Van, Mitsuru Nakazawa, Yoshimitsu Aoki:「High accurate geometric correction for NOAA
AVHRR data considering the variation of elevation effect and Radial Basis Function Transformation」,
SPIE, Florence, Italy, September 2007.
4) Hiroshi Hiranaka, An Ngoc Van, Yoshimitsu Aoki:「A cloud area estimation method for GMS image」,
159
Asian Conference on Remote Sensing 2007, Kuala Lumpur, Malaysia, 12-16 November, 2007.
5) An Ngoc Van, Mitsuru Nakazawa, Yoshimitsu Aoki:「"High accurate geometric correction for NOAA
AVHRR data considering the relationship between errors and the variation of elevation 」 ,
International Workshop on Advanced Image Technology 2008, Hshinchu, Taiwan, 7-8 January, 2008.
6) 赤塚 慎, 安岡 善文:「NOAA/AVHRR データによる陸域可降水量の空間変動評価」, 東京大学生
産技術研究所(東京), 第17 回生研フォーラム宇宙からの地球環境モニタリング, 2008.3.18
7) 大吉慶, 竹内渉, 安岡善文:「MTSAT による陸域モニタリングのためのデータ補正手法の検討」, 東
京大学生産技術研究所(東京), 第17 回生研フォーラム宇宙からの地球環境モニタリング, 2008.3.18
8) Preesan Rakwatin, Wataru Takeuchi, Yoshifumi Yasuoka:「Destriping MODIS data by facet model and
histogram matching 」 , Kanazawa, Japan, International Symposium on Space Technology and
Science(ISTS), 2006, Jun. 6.
9) Wataru Takeuchi, Toshihiro Nemoto, Takayuki Kaneko, Yoshifumi Yasuoka : 「 Development of
MTSAT data processing, distribution and visualization system on WWW」, Jeju, South Korea,
Internaional Remote Sensing Symposium (ISRS), 2007 Nov. 1.
10) Wataru Takeuchi, Yoshifumi Yasuoka:「Development of MTSAT data processing, distribution and
visualization system on WWW」, Kuala Lumpur, Malaysia, 28th Asian conference on remote sensing
2007 (ACRS), 2007 Nov. 14.
11) Kenji Taniguchi: 「Centralized Data Integration System + Demonstration」, Asian Water Cycle
Symposium, 2005.11.2-4
12) Katsunori Tamagawa, Eiji Ikoma, Tetsu Ohta, Masaru Kitsuregawa, Toshio Koike :「Introduction to
In-situ Data Management and Quality Control System in Asia」, Bali, the 7th CEOP International
Implementation Planning Meeting, 2007.9.7
13) Michida, Y., H. Hasumoto and T. Suzuki:「Archaeology and rescue for marine plankton data collected
by universities in Japan」, Kobe Japan, Techno-Ocean2006/19th JASNAOE Ocean Engineering
Symposium, 2006.10.17-20
14) Michida, Y., H. Hasumoto and T. Suzuki:「Archaeology and rescue for marine plankton data」, Trieste
ITALY, The 19th Session of International Oceanographic Data and Information Exchange,
2007.3.12-16
15) Suzuki, T., Y. Michida, S. Nishida, H. Hasumoto and S. Uye:「Zooplankton data archaeology and
rescue by universities in Japan」, Hiroshima JAPAN, 4th International Zooplankton and Production
Symposium, 2007.5.28-6.1
16) Michida, Y., K. Ishigami, K. Tanaka and T. Komatsu:「Accumulation processes of drifting seaweeds in
Suruga Bay, Japan」, Bangkok THAILAND, 4th Annual Meeting of Asia Oceania Geosciences Society,
2007.7.31-8.3
17) Nakajima, M. and Y. Michida:「Observational estimation of depth dependence of horizontal eddy
diffusivity using GPS tracked drifters」, Mombetsu JAPAN, 23rd International Symposium on Okhotsk
Sea and Sea Ice, 2008.2.16-22
160
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
161
(4)サブテーマ4:高度情報適用技術の開発研究
(分担研究者名:二宮 正士、 所属機関名:(独)農業・食品産業技術総合研究機構)
1)要旨
地球システムは様々な事象が相互に関連している.それを包括的に理解し社会経済分野に貢献する
ためには,多様な地球観測データや社会経済データとモデル群の統融合が必要である.しかし実際には,
データはばらばらに所有され,有効利用されていないのが現状である.
本サブテーマは,地球観測データを国内の公共的利益分野に適用するための実証研究として,サブ
テーマ1、2や3と連携しながら、多様なデータを同化・統合し,高度情報とすると同時に,それを翻訳して
実際の利益分野へ適用するために効果的な技術開発を行い,実際の意思決定など管理ニーズへの要
求に応えることを目的としている.
本サブテーマは合計7項目の詳細テーマに分かれる.以下に各詳細テーマの研究内容及び研究成果
の要約を記す.
1.数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
従来は検証が困難であった数値気象予報モデルの陸面過程を検証してその改良に資するために、サ
ブテーマ(3)テーマ5 「研究地上観測データの統合」にて収集される研究地上観測データを利用して数
値気象予報モデルの検証を行う仕組みを構築した。また、サブテーマ(1)テーマ2「データ同化システムの
構築」で作成された陸面状態の情報を数値気象予報モデルの下部境界として使用することにより、大気
の予報に影響があることを確認した。改良された数値気象予報モデルの予報値を、サブテーマ(1)テー
マ1「大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」のコアシステムに提
供できるようになった。
2.数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
2.1 水管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
筑後川上流域、吉野川上流域、阿賀川上流域の3流域を対象に、検討に用いる分布型流出モデルの
構築、分布型流出モデルの再現計算による精度確認、降水短時間予報(VSRF)の精度評価、降水短時
間予測雨量を利用した予測計算を行った。また、分布型流出モデルのダム管理への活用例を示した。
2.2 大気、陸面、河道結合モデルの開発
大気-陸面の水・エネルギーフローを記述し、降雨予測基本システムに組み込まれている陸面スキー
ムを分布型流出予測システムに組み込み、降雨予測値を入力として用いた分布型流出モデルの出力を
用いて、多目的ダムの洪水調節を最適化するシステムを開発した。また、このシステムの拡張を図る目的
で、洪水流出に加え融雪流出への適用するシステムを開発し、パキスタンのインダス川支流に適用した。
さらに、本システムをフィリピンの主要河川に適用し、その有用性を示した。
3.農作物の適正管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
3.1 農作物管理のための統合的なデータ同化・統合手法の開発
統合的なデータの利用方式として,メコン河と長江の現地データの収集と解析を行い,MODIS温度情
報を利用した水田域・水利用形態の判定,衛星データで水田域の抽出,各種農地水利用方式の分類に
162
関する各種方法を提案した。また,農業用水利用モデルの開発に関連して,低平水田域氾濫モデルと農
地水利用を考慮した分布型水循環モデルを開発し流域内任意地点・時点での農業用水利用可能量の
推定が可能となった。また,ウンカ飛来予測モデルについて,飛来源となりうる水田が中国南部の省の全
域に分布していることなどの新知見とを利用して,飛来予測シミュレーションモデルの飛び立ち条件を改
良して精度向上を目指した。
3.2土壌-植生系モデル・統合手法の開発
群馬県嬬恋村にあるキャベツ畑に、農地情報モニタリングシステムを設置し、圃場画像・日射量・気温・
湿度・風向・風速・降水量・土壌水分量をインターネット経由でリアルタイム観測できるようにし畑の土壌水
分量など農地と作物管理に関する新しい発見があった。また,AVNIR-2データを用いたキャベツ生育モ
デルを評価する地上観測データとして同モニタリングシステムの画像が利用できることを示した。
4. 気候情報の高度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
4.1 気候同化データの検証および利用の研究
衛星観測により求められたユーラシア北部の植生活動は明瞭な季節変化をしており、その年々変動は
地上気温の年々変動により説明できる。その説明のため、JRA-25 の地上気温解析が観測と同等の品質
を持つデータとして利用可能な事が分かった。 このような高品質の JRA-25 データの利用により、地上気
温のほか多様な地上気候要素と農産物生産との統計的な関係を、限られた農産物が対象ではあったが
調査することが出来た。今回の調査では、日本の米と 8 月の地上気温が正、米国のコーンと 8 月の地上
気温が負、米国の小麦と 3 月の地上気温が弱い正という、多様な関係が統計的に見出された。
4.2 統融合情報による地球温暖化現象の解析
共生プロジェクト等における大規模な温暖化シミュレーション結果を、ユーザが利用できる形に整備した。
また、温暖化シミュレーションにおける大きな不確定性要因のひとつであるエアロゾルと雲の微物理特性
に関するモデル部分を改良した。これらを利用して、エアロゾルと雲に関する衛星と地上観測データをモ
デル結果と比較するシステムを作った。比較の結果、観測されたエアロ ゾルと雲場の関する特徴をモデ
ルで再現できることがわかった。
2)目標と目標に対する結果
1.数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
・
目標:本研究のサブテーマ(3)テーマ5「研究地上観測データの統合」で整備される研究用の特別観
測データを利用することで、通常は検証が困難なプロセスの検証を行い、その結果に基づいてプロ
セスの調整を行う仕組みを構築することを目指した。
・
結果:改良された数値気象予報モデルの予報値を、サブテーマ(1)テーマ1「大規模データアーカイ
ブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」のコアシステムに提供できるようになり、当初
の目標を達成することができた。
・
目標を上回る成果:本研究のサブテーマ(1)テーマ1で構築されるコアシステムに数値気象予報
モデルのデータを提供することは計画されていなかったが、モデルの改良が進み、様々な応
用分野での利用にも堪えられるものになったためデータを提供できるようになり、今後さま
ざまな高次利用が期待される。
163
2.数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
2.1 水管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
・
目標:衛星データ等の利用により近年精度が向上している気象庁の降水量予測情報を活用した、分
布型流出モデルによる流出量予測手法の開発を行う
・
結果:地球温暖化が進行しており、すでに影響が各地で現れていることから、洪水予警報、ダム等河
川管理施設の操作運用等、実務への適用を念頭に、降水量予測情報に基づく合理的な水管理を行
うことで、洪水・渇水被害の軽減を図るための基盤的情報を提供するという当初の目標を達成でき
た。
2.2 大気、陸面、河道結合モデルの開発
・
目標:大気、陸面、河道結合モデルの開発
・
結果:本研究では、「高度情報適用技術の開発研究」の一環として、大規模地球環境データ統合・情
報融合システム上にアーカイブされている多様な地上観測データ、超大容量の衛星観測データ、さ
まざまな地球規模データセットを用いて、次の4項目の研究開発を実施し、モデル開発という当初目
標を達成することができた。
①
大気-陸面の水・エネルギーフローを記述し、降雨予測基本システムに組み込まれている陸
面スキームの分布型流出予測システムへの導入
②
降雨予測値を入力として用いた分布型流出モデルの出力を用いて、多目的ダムの洪水調節
を最適化するシステムの開発
・
③
融雪流出へ適用するシステムの開発と適用(パキスタン、インダス川支流)
④
河川管理最適化システムの適用(フィリピン、アンガットダム)
目標を上回る成果:システム開発という当初目標を達成するとともにパキスタンやフィリピンでの適用
にもいたっており、当初の目標を上回る成果を得ている。
3.農作物の適正管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
3.1 農作物管理のための統合的なデータ同化・統合手法の開発
・
目標:農作物の適正管理を目的として,これまで比較的単純な地上観測データに基づいて開発され
てきた流量データについて衛星データを含む多様な情報を取り組みながら高度化し,流域内の河川
が供給する農業用水量の推定を高精度に行う水利用モデルを開発する.
・
結果:ウンカ類が日本に向けて飛び立つがこれまで情報が無かった中国等の水田域を衛星画像や
水稲生育モデルなどを組み合わせることで高精度に判定するなどして飛来予測モデルの精度向上
をはかることなど当初の目標を達成することができた.
・
目標を上回る成果:ウンカが薄明薄暮に飛び立つことと,飛来源となりうる水田が中国南部の省の全
域に分布していること,それから台湾が6月下旬から7月にかけて飛来源とは考えられないことなど,
本研究以前にはなかった新知見が得られた.
3.2 土壌-植生系モデル・統合手法の開発
・
目標:地上観測情報を土壌-植物系モデルに受け渡し、農作物の管理に役立つ情報に翻訳するシス
テムのプロトタイプを開発することをめざした。
・
結果:,実際のフィールドに農地情報観測システムを設置して各種システムを開発するなど,実践的
164
に当初の目標をほぼ達成した。
・
目標を上回る成果:本システムを導入したことにより、農作物管理と気象・土壌の状況の関連付けが
容易になり、キャベツで覆われている収穫前には降雨があっても畑の土壌水分量はあまり変化しない
が収穫後の畑では蒸発による乾燥と降雨による浸潤による土壌水分の変化が激しいなど、農地と作
物管理に関する新しい発見があった。また、ここで観測されたデータ(気象・土壌データと画像デー
タ)は課題3.1「農作物管理のための統合的なデータ同化・統合手法の開発」との連携により、(独)農
業・食品産業技術総合研究機構のサーバに蓄積され、さらには課題1「大規模データアーカイブ・ス
トレージシステムの開発とデータ統合基盤の構築」のコアシステムに投入され、本プロジェクトのメイン
テーマであるデータ統合基盤の構築に貢献した。さらに,現地画像・観測データ・予測値等のデータ
をWeb上に統合して比較できるようにし、それを地元農家の方に評価してもらった。
4.気候情報の高度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
4.1 気候同化データの検証および利用の研究
・
目標:気候同化データを他機関から提供される地上観測データ・衛星観測データを利用して検証す
る。さらに他機関から提供される産業データ等と気候同化データとの関係を調査することにより、産業
への利用可能性を検討する。
・
結果:衛星による植生活動観測データを用いて、JRA-25の地上気温の検証を行い、その品質の高さ
を示す事が出来た。このような高品質のJRA-25の各種気象要素と農作物の収量との関係を見いだ
す事が出来た。この関係を季節予報モデルと組み合わせる事により、ある特定の年に最適な作物・品
種等の予測可能性を見いだすことが出来た。
4.2 統融合情報による地球温暖化現象の解析
・
目標:各種地球観測データ(気象観測・衛星観測・研究地上観測)や気候データを利用して、気候形
成と温暖化現象のモデルシミュレーション結果の検証を行う。
・
結果:データとモデル結果を整備することができた。両者の比較により、エアロゾルと雲場に関する観
測結果の特徴をモデルが再現できることがわかった。
3)研究方法
1. 数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
数値気象予報モデルの物理過程のうち、大気と地面状態との相互作用を記述する陸面過程の検証を
行うため、研究地上観測で得られる短波・長波放射量、顕熱・潜熱フラックス等とモデル予報値を比較で
きるよう、モデルからこれらの物理量を算出する仕組みを作った。また、データ同化で得られた地面状態
(土壌温度・土壌水分)を、モデルの下部境界として、従来の気候値等と差し替えて利用できるよう、数値
気象予報モデルのプログラム改変を行った。
2. 水管理のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
2.1 水管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
筑後川上流域、吉野川上流域、阿賀川上流域の3流域を対象に、検討に用いる分布型流出モデルの
構築、分布型流出モデルの再現計算による精度確認、降水短時間予報(VSRF)の精度評価、降水短時
165
間予測雨量を利用した予測計算を行った。
2.2 大気、陸面、河道結合モデルの開発
本研究では、これまで開発してきた陸面スキームや分布型流出モデルと、本研究サブテーマ1「大規模
地球環境データ統合・情報融合システムの開発」において開発したデータ同化システムとメソスケール数
値気象予測モデルとを組み合わせた降雨予測の基本システムとを河川管理に効果的に用いて、洪水災
害軽減を図る河川の最適管理を支援する情報システムの基本開発を行った。
3. 農作物の適正管理のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
3.1 農作物管理のための統合的なデータ同化・統合手法の開発
農業用水量推定モデルの精度を向上させるために,地上観測データと衛星データを利用して広域に
利用できる水田域の判定や水利用形態の判定方式の開発を行った。また,各種の農業用水利用を組み
込んだ分布型水循環モデルの開発を行った。
イネウンカの移出場所となる水田ついて東アジア地域の水田分布図は1970年代の古いものであり,精
度も高くない。そこで最新の水田分布図を衛星画像解析で作成した。また,イネウンカ類の水田からの移
出時期の推定のために,それと関連した水稲の生育ステージを衛星画像より推定した。これらの情報と地
上調査の情報を統合し飛び立ち域の高精度化を測る.また,これらの統合情報をもとに飛来予測モデル
の高精度化をはかった。
3.2 土壌-植生系モデル・統合手法の開発
農作物管理に必要な情報のうち、土壌・作物に関する農地情報を取得するために、我が国の代表的な
高冷地野菜産地の畑に農地情報観測システムを設置した.また地上収集情報の解析結果と衛星情報に
よる解析結果の融合をはかると同時に,土壌・植生モデルへの統合手法を開発する.また,気象データ
や土壌水分・地温などの一次データを衛星データと融合させ、モデルを介して農作物管理に有用な情報
に翻訳するための農作物管理情報翻訳システムを開発した。
4. 気候情報の高度化のための地球観測統合データ,融合情報の利用研究
4.1 気候同化データの検証および利用の研究
収集される各種の地球観測データ(気象観測・洪水観測・衛星観測・研究地上観測)を利用して,
JRA-25長期再解析データおよび気候同化データ,温暖化予測結果の検証を行う.また、他参画機関か
らのデータを用いて、世界における農業分野などへの気候情報の利用可能性を調査した.
4.2 統融合情報による地球温暖化現象の解析
地球温暖化研究に係る気象場と、エアロゾル、雲場に関する諸物理量をデータベースの形で整備する。
対象として共生プロジェクト等による温暖化シミュレーション結果、SKYNET 地上観測網観測データ、
MIDORI/GLI、TERRA/MODIS、CLOUDSAT/CALIPSO 衛星データを取り上げる。平行して、MIROC 大
循環モデルに組み込まれた SPRINTARS モデル、NHM+HUCM 領域雲モデルの改修を観測データを出
力するように改修する。これらを利用して両者を比較した。
166
4)研究結果
1. 数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
(分担研究者名:小泉 耕、 所属機関名:気象庁)
1.1. 研究地上観測データを用いた数値気象予報モデルの検証と改良
数値気象予報モデルはコンピュータシミュレーションによって大気の未来の状態を予測するものである
が、シミュレーションを構成する各プロセスには様々なチューニングパラメタが含まれており、これらを適切
に設定することが気象予測の精度を高めるためには必須である。パラメタの調整はモデルの予報結果を
観測データと対照させることで行うしかないが、モデルに含まれる詳細なプロセスの一つ一つについて対
照すべき観測が得られるとは限らないのが実状である。そこで、本研究のサブテーマ(3)テーマ 5「研究地
上観測データの統合」で整備される研究用の特別観測データを利用することで、通常は検証が困難なプ
ロセスの検証を行い、その結果に基づいてプロセスの調整を行う仕組みを構築することを目指した。
先行する研究では「統合地球水循環強化観測計画(CEOP)」で得られた特別観測データとモデル予報
値を比較することで、数値気象予報モデルで使われているプロセスの一つである陸面モデル(大気と陸
面状態との相互作用を記述するプロセス)の問題点が明らかになった。本研究ではサブテーマ(3)テーマ
5 において CEOP 第 2 期の特別観測データが収集されることになっており、CEOP 第 1 期と比べてはるか
に多くの観測地点のデータが取得されるため、これと数値気象予報モデル予報値とを比較することにより、
陸面モデルの問題点の地域特性など、より詳細な情報が得られると期待された。そこで、CEOP 第 2 期の
観測データとの比較によってモデルの検証を行う手法を開発し、比較のための数値気象予報モデル予
報値データセット作成を進めた。
結果的には本研究期間中には CEOP 第 2 期の観測データ収集は開始されなかったが、下記のように先
行研究で得られた知見を加えることで、CEOP 第一期のデータを用いてモデルの改良を進めた。その結
果、整備した数値気象予報モデル予報値データセットは 1.3 で述べる提供データの一部として利用され
るなど、将来の研究のための基盤整備を行うことができた。
また、この間、先行研究で得られた知見を陸面モデルの改良に反映させる仕組みを構築した。具体的
には、現在の陸面モデルには、(i)融雪の進行が速すぎる、(ii)地上気温の日変化の位相が遅く、特に積
雪域の日最高気温の出現が遅い、(iii)凍土域・積雪域における地面付近の温度の日変化が過小という問
題があることが先行研究によって判明したので、これを改善するために、土壌・積雪に関する過程を中心
に大幅に精緻化した新しい陸面モデルを開発した。
現行の陸面モデルと新陸面モデルのそれぞれを採用し、低解像度の数値気象予報モデルを用いて長
期積分実験を行った結果を示す。長期積分の初期時刻はユーラシア大陸や北米にほとんど雪のない
2006 年 9 月 1 日とし、8 年間の積分を行って、8 年分の月別平均気温予報値を気候値と比較した。図108 に、ヤクーツク(ロシア/東シベリア)、スルグト(ロシア/北シベリア)、ウランバートル(モンゴル)、ハル
ビン(中国)の比較結果を示す。冬季の月別気温予報を見ると、新陸面モデルを採用することにより、現
行の高温バイアスを解消できることが分かる。1~12 月の月別気温の平方根平均 2 乗誤差を見ると、新し
いものの方が現行よりも地上気温の再現性が良い。
今後、CEOP 第 2 期の観測データとの比較が可能になれば、より多くの地点でこの改良の妥当性を評
価し、陸面モデルの更なる精緻化を進めることができる。
167
現行陸面モデル
新陸面モデル
気候値
スルグト
ヤクーツク
ウランバートル
20
30
25
15
20
20
10
10
0
0
-5
-10
0
-20
-5
-30
-20
-40
-25
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
5
-10
-15
20
15
10
5
15
10
5
0
-5
-10
-15
-10
-15
-20
-50
-20
-25
-25
1
2 3 4
5 6 7
8 9 10 11 12
ハルビン
30
25
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
1~12月の月平均気温RMSE
1~12月の月平均気温RMSE
1~12月の月平均気温RMSE
1~12月の月平均気温RMSE
現行陸面モデル :4.28℃
現行陸面モデル :6.59℃
現行陸面モデル :2.72℃
現行陸面モデル :1.65℃
新陸面モデル
新陸面モデル
新陸面モデル
新陸面モデル
:2.77℃
:3.12℃
:1.53℃
:1.30℃
図- 108: 長期積分実験における月別平均気温の予報値(灰色実線は現行陸面モデルを採用した場合の予報、黒破線
は新しい陸面モデルを採用した場合の予報)と気候値(黒実線)。1~12 月の月別平均気温の気候値に対する平方根平
均 2 乗誤差も合わせて示す。
1.2. データ同化成果物を数値気象予報モデルの下部境界に利用した場合の影響評価
数値気象予報モデルは大気の未来の状態を予測するものなので、陸面の状態(土壌水分や地面温
度)は大気のシミュレーションにとっては下部境界条件としての役割を持つ。陸面の状態を直接観測した
データは極めて少ないので、数値気象予報モデルでは植生毎に決められた平均的な状態や陸面モデ
ルによる予報値を陸面状態として採用する場合が多く、いずれの場合でも相当程度の誤差が含まれるこ
とは避けられない。
本研究のサブテーマ(1)テーマ 2 では、衛星データを利用したデータ同化によって陸面の状態を解析す
る技術が開発されているので、これによって得られた陸面状態を数値気象予報モデルの初期値の下部
境界として反映させる手法を開発し、その効果を調べた。
2003 年 6 月 20 日 21 時(日本時)を初期値とする数値気象予報モデルの実行に際し、チベット周辺に
データ同化で得られた土壌水分分布を与えた。データ同化で得られた土壌水分を使った場合とそうでな
い場合とで、3 日予報における地表付近の気温の差は最大で 10 度近くになった。これは、データ同化に
よる土壌水分量は気候値と比べて多く、予報の進行とともに蒸発することで気温の上昇が抑制されたため
である。こうした地表気温の違いは大気の安定度の違いにつながり、降水分布にも違いが現れた。
ここでは、土壌水分が与えられたのが他の観測データの少ないチベット域であったために、予報された気
温や降水量が現実とどの程度整合していたかについては検証できていない。データ同化の技術開発が
進み、より広い領域で土壌水分や地面温度が算出されるようになれば、数値気象予報へのインパクトもよ
り実質的なものになり、その影響の妥当性についても詳細に調査することが可能になると期待される。
1.3. 数値気象予報モデル予報値の整備と提供
数値気象予報モデルの予報値は、地球大気の状態についての推定値である。そこには様々な要因に
よる予報誤差が含まれているから観測データと同列に扱うべきものではないが、観測の全く無い場所につ
168
いても何らかの推定値を与えることができることや、データが 3 次元的に整列した格子点値として与えられ
ることなど、観測データよりも扱いやすい面もある。
当初の計画では、本研究のサブテーマ(1)テーマ 1 で構築されるコアシステムに数値気象予報モデルの
データを提供することは計画されていなかったが、モデルの改良が進み、様々な応用分野での利用にも
堪えられるものになったため、データの提供を開始した 1) 2)。本研究で提供したデータは、過去にたとえば
CEOP 第 1 期のために提供したものと比較して、予報時間を 6 時間から 72 時間に延長し、また、時系列
データの算出地点数も 41 地点から 184 地点に拡大するなど、仕様が拡張されており、より幅広い応用が
可能なものになっている。
数値気象予報モデルの予報値が実際の現象を的確に表現している例を示す。図- 109 は 2007 年 7 月
21,22,23 日をそれぞれ初期値とする、1~3 日予報の地上気温の分布である。このとき、中欧では 7 月 25
日をピークとする摂氏 40 度を超える異常高温の状態となっていたが、26 日にはこの高温状態が解消して
いる(実際の気温の推移の例としてギリシャのラリサにおける気温変化を図- 110 に示す)。図- 109 では
25 日にかけてのギリシャを中心とする高温傾向と 26 日の高温状態の解消がいずれも的確に表現されて
いる。
7 月 22 日
7 月 23 日
7 月 24 日
7 月 23 日
7 月 24 日
7 月 25 日
7 月 24 日
7 月 25 日
7 月 26 日
20
25
30
35
40 [℃]
図- 109: 数値気象予報モデルによる中欧の日最高気温分布。2007 年 7 月 21 日(上段)、22 日(中段)、
169
23 日(下段)をそれぞれ初期値とする 1 日予報(左列)、2 日予報(中列)、3 日予報(右列)。添えられてい
る日付は予報対象日を表す。7 月 25 日にかけてギリシャを中心に摂氏 40 度を超える異常高温が現れ、
26 日には高温状態が解消していることがわかる。
図- 110: ギリシャのラリサにおける実況の日別気温の時系列。赤線は日最高気温、緑線は日平均気温、青線は日
最低気温。
2. 数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
2.1 水管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
(分担研究者名:柏井 条介、 所属機関名:国土交通省)
【背景及び目的】
地球温暖化が進行しており、すでに影響が各地で現れていることから、洪水予警報、ダム等河川管理
施設の操作運用等、実務への適用を念頭に、衛星データ等の利用により近年精度が向上している気象
庁の降水量予測情報を活用した、分布型流出モデルによる流出量予測手法の開発を行い、降水量予測
情報に基づく合理的な水管理を行うことで、洪水・渇水被害の軽減を図るものである。
【研究内容】
本研究では、筑後川上流域、吉野川上流域、阿賀川上流域の3流域を対象に、検討に用いる分布型
流出モデルの構築、分布型流出モデルの再現計算による精度確認、降水短時間予報(VSRF)の精度評
価、降水短時間予測雨量を利用した予測計算を行った。
2.1.1 分布型流出モデルの構築
検討に用いる実用面を考慮した分布型流出モデルの構築に当たっては、①流出の再現性が良いこと、
②計算時間が短いこと、③パラメータの同定が容易なこと、④既存のデータをもとに容易にモデル化でき
ること、という要件を満たすことが必要であり、これらの要件を満たす、早川・陸・小池によって提案された
分布型流出モデルを基本モデルとした。地形メッシュは 250m メッシュとした。擬河道網を作成するための
各メッシュの平均標高は数値地図 50m メッシュ(標高)(国土地理院)より算定した。土地利用データは、国
170
土数値情報(1/10 細分メッシュ土地利用)をもとに、水田、樹林、宅地、その他(丘陵、畑、ゴルフ場、公園)、
河川・ダムの 5 分類で整理した。洪水流量曲線の構成概念図を図- 111 に、モデルのフローチャートを図112 に示す。
図- 112: モデルのフローチャート
図- 111: 洪水流量曲線の構成概念図
2.1.2 分布型流出モデルの再現計算による精度確認
構築した分布型流出モデルを用いて、筑後川上流域、吉野川上流域、阿賀川上流域の3流域を対象
に、過去の洪水における再現計算を行い、モデルの精度を確認した。対象流域を図- 113 に示す。筑後
川については 2001 年 6 月洪水、吉野川については 2004 年 10 月洪水、阿賀川については 2002 年 10
月洪水を対象に、地上雨量を用いて、飽和雨量と基底流量をパラメータとしてトライアル計算を行い流出
解析を行った。筑後川については、小渕地点の流量が実測流量 1587m3/s に対し計算流量 1606 m3/s、
吉野川については、早明浦ダム地点の流量が実測流量 3634m3/s に対し計算流量 3862 m3/s、阿賀川に
ついては大川ダム地点の流量が実測流量 2344m3/s に対し計算流量 2467 m3/s の結果となり、ピーク時
間、ピーク流量ともに、比較的精度良く再現できていた。再現計算結果を図- 114 から図- 116 に示す。
171
小渕
0
5
雨量(mm/h)
10
15
20
1 7 .7
25
雨量
30
35
40
3000
計算流量
実績流量
2500
流量(m3/s)
2000
1587
1500
1694
1000
500
0
6/28
0 :0 0
6/28
1 8 :0 0
6/29
0 :0 0
6/29
6 :0 0
6/29
1 2 :0 0
6/29
1 8 :0 0
6/30
0 :0 0
6/30
6 :0 0
6/30
1 2 :0 0
6/30
1 8 :0 0
7/1
0 :0 0
0
0
10
20
30
40
雨量
50
6000
10
20
30
40
50
流入・放流量(m3/s)
流入量
計算流入量
5000
4000
流量(m3/s)
6/28
1 2 :0 0
図- 114: 再現計算結果(筑後川:2001 年 6 月洪水)
流域平均雨量(mm/hr)
流域平均雨量(mm/h)
図- 113: 対象流域
6/28
6 :0 0
大川ダム上流域平均雨量
3000
大川ダム流入量(実績)
2500
大川ダム流入量(計算)
2000
3000
1500
2000
1000
1000
0
10/18
00:00
500
10/18
12:00
10/19
00:00
10/19
12:00
10/20
00:00
10/20
12:00
10/21
00:00
10/21
12:00
10/22
00:00
10/22
12:00
0
2002/9/30 2002/9/30 2002/10/1 2002/10/1 2002/10/2 2002/10/2 2002/10/3 2002/10/3 2002/10/4
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
0:00
10/23
00:00
時刻
図- 116: 再現計算結果(阿賀川:2002 年 10 月洪水)
図- 115: 再現計算結果(吉野川:2004 年 10 月洪水)
2.1.3 降水短時間予報(VSRF)の精度評価
予測降水量を用いて流出量予測を行う前に、降水短時間予報(VSRF)の精度評価を行った。筑後川で
は 2002~2004 年の7洪水、吉野川では 2004~2005 年の 3 洪水、阿賀川では 2002~2004 年の 3 洪水
を対象に精度評価を行った。予測雨量と実測雨量の相関分析を行ったところ、いずれの流域についても、
1 時間予測は精度が高いものの、2 時間予測以降では、精度が低下していた。なお、降水短時間予報は、
2006 年に格子間隔が 5km から 1km に高密度化されており、筑後川流域で 2006 年の2洪水を対象に精
度評価を行ったところ、予測精度が向上している状況が見られた。また、実績雨量が大きい場合は、予測
雨量が実績よりも小さく予測されていた。各流域の予測時間毎の相関係数を、表- 19 に示す。
172
表- 19: 予測時間毎の相関係数
【筑後川】下筌ダム上流域(2002 年~2004 年:5km メッシュ、2006 年:1km メッシュ)
相関係数
1 時間予測
2 時間予測
3 時間予測
4 時間予測
5 時間予測
6 時間予測
2002 年~2004 年(7 洪水)
0.46
0.39
0.20
0.12
0.16
0.15
2006 年(2 洪水)
0.86
0.60
0.56
0.41
0.29
0.16
【吉野川】早明浦ダム上流域(5km メッシュ)
相関係数
1 時間予測
2 時間予測
3 時間予測
4 時間予測
5 時間予測
6 時間予測
2004 年 8 月洪水
0.953
0.832
0.779
0.899
0.878
0.723
2004 年 10 月洪水
0.895
0.638
0.662
0.725
0.690
0.614
2005 年 9 月洪水
0.945
0.815
0.775
0.908
0.873
0.764
平均
0.931
0.762
0.739
0.844
0.814
0.700
【阿賀川】大川ダム上流域(5km メッシュ)
相関係数
1 時間予測
2 時間予測
3 時間予測
4 時間予測
5 時間予測
6 時間予測
2002 年 7 月洪水
0.880
0.527
0.647
0.753
0.649
0.763
2002 年 10 月洪水
0.898
0.299
0.220
0.759
0.539
0.143
2004 年 10 月洪水
0.948
0.646
0.655
0.859
0.791
0.652
平均
0.909
0.491
0.507
0.790
0.660
0.519
2.1.4 降水短時間予報(VSRF)を利用した予測計算
各流域を対象に、過去の洪水における降水短時間予報(VSRF)を利用した予測計算を行った。筑後川
では 2006 年 7 月洪水、吉野川では 2004 年 10 月洪水、阿賀川では 2002 年 10 月洪水を用いた。計算
結果を図- 117 から図- 119 に示す。いずれの流域においても、ピーク流量付近で、予測流量が実績流量
に比べて大きく予測されたり、ピーク流量となる時刻が予測できない結果が得られた。
173
図- 117: 降水短時間予測雨量を利用した予測計算
図- 118: 降水短時間予測雨量を利用した予測計
(筑後川:2006 年 7 月洪水)
算(吉野川:2004 年 10 月洪水)
上段の青いバーが雨量、下段は流量変化を表す。
図- 119: 降水短時間予測雨量を利用した予測計算
(阿賀川:2002 年 10 月洪水)
2.1.5 分布型流出モデルのダム管理への活用例
現在の降水短時間予報(VSRF)の予測精度では、正確な流出量の予測が困難であるため、ダム管理へ
の適用の可能性は小さいと考えられるが、今後、予測精度の向上により、以下のようなダム操作への適用
が考えられる。
(1)事前放流
時間と共に更新される降雨予測情報を活用して、事前放流の実施・中断の判断として活用すること
が可能となる。長時間の降雨予測を活用し、事前放流の実施を決定した後も、常に、更新され続ける
最新の長時間及び短時間の降雨予測情報により、事前放流量の調整や終了の判断が可能となる。
(2)ただし書き操作
従来型の流入量予測モデルでは、ただし書き操作(計画規模を超える洪水時に放流量を増やす操
作)が必要であると判断されるようなケースでも、降雨予測情報を活用した分布型流出モデルにより、
流入量が速やかに減少すると予測されたケースでは、ただし書き操作の必要性はないと判断すること
174
が可能になり、通常のダム操作により洪水調節の実施が可能となる。また、分布型流出モデルにより
ただし書き操作が必要であると判断された場合にも、早期の情報提供が可能となる。
2.2 大気、陸面、河道結合モデルの開発1)~5)
(分担研究者名:小池 俊雄、 所属機関名:東京大学)
2.2.1 はじめに
本研究課題の目的は、本サブテーマ「高度情報適用技術の開発研究」の一環として、大規模地球環
境データ統合・情報融合システム上にアーカイブされている多様な地上観測データ、超大容量の衛星観
測データ、さまざまな地球規模データセットを用いて、洪水流出を予測し、洪水被害低減のための最適な
ダム管理の実現に有効な情報を提供できるシステムの開発にある。
当課題分担研究者は、これまで科学技術振興調整費(先導的研究等の推進)「地球水循環インフォマ
ティクスの確立」(平成 15-17 年度)や戦略的創造研究推進事業(CERST)「水の循環系モデリングと利用シ
ステム」研究領域における研究課題「水循環系の物理的ダウンスケーリング手法の開発」(平成 15-20 年
度)を通して、陸面スキーム開発、分布型流出モデルの開発などに取り組んできた。これらの研究開発成
果を踏まえ、さらに、本研究サブテーマ1「大規模地球環境データ統合・情報融合システムの開発」にお
いて開発したデータ同化システムとメソスケール数値気象予測モデルとを組み合わせた降雨予測
の基本システムを河川管理に効果的に用いて、洪水災害軽減を図る河川の最適管理を支援する情報
システムの基本開発を行った。具体的には、大気-陸面の水・エネルギーフローを記述し、降雨予測基
本システムに組み込まれている陸面スキームを分布型流出予測システムに組み込み、降雨予測値を入
力として用いた分布型流出モデルの出力を用いて、多目的ダムの洪水調節を最適化するシステムを開
発した。本研究の骨格は図- 120 の赤で示される要素の結合である。
本研究では、さらにこのシステムの拡張を図る目的で、洪水流出に加え融雪流出への適用するシステ
ムを開発し、パキスタンのインダス川支流に適用した。また、本システムをフィリピンの主要河川に適用し、
その有用性を示した。
なお、本システムで用いる地球水循環統合データセットについては、サブテーマ2「相互利用性・情報
サービス機能の開発研究」によるメタデータ整備の支援を得つつ、サブテーマ3「地球観測データの収
集・品質管理に関する技術の開発研究」で品質チェック、フォーマット変換、アーカイブされたものを利用
した。このように本研究課題は、本研究の全サブテーマ間をつなぎ、公共的利益に資する情報を社会へ
するシステムの開発研究と位置づけられる。
175
図- 120: 本研究課題でのターゲット
2.2.2
分布型流出モデルへの陸面スキームの組み込み 2, 5)
水循環はエネルギーフローとあわせて地球気候システムを形成する重要なサブシステムであり,
全球規模,地域規模の水循環が流域規模の水文現象と密接に関係している.つまり,流域規模の降
雨や河川流出は全球規模,地域規模の水循環変動の影響を色濃く受けている.したがって,たと
え河川流域規模の水問題に対応する場合にも,全球規模,地域規模の大気の水循環変動予測情報
を効果的に河川流出予測情報に結合させる手法の開発が急務となっている.そこで、ここでは数
値気象予測モデルと分布型流出モデルとを物理的に結合する手法を開発した。
本研究では、河川流出モデルに組み込まれている各グリッドでの水の鉛直、水平フローを
表す機能と、大気-陸面結合モデルに組み込まれている陸面スキームが有する機能とを兼ね
持つ新たなスキームを開発した。陸面スキームとしては多くの数値気象予測モデルで利用され
ており、全地球規模の展開可能なスキーム(SiB2)を、河川流出モデルとしては流域斜面での地
表水、土壌水、地下水の挙動を物理的に表現できる分布型流モデル(GBHM)を採用しており、
汎用性を有している。
176
図- 121: 陸面スキーム(SiB2)を組み込んだ分布型流出モデル(GBHM)
本研究で開発されたモデルの特徴は、地表面での水収支のみならずエネルギー収支を分布型流
モデルのみの場合に比べてより正確に算定するため、流域からの蒸発散や土壌水分分布を精度よ
く表現できる。さらに、長期の無効期間後の洪水の再現や、低水流出の再現性において、再現性
に優れており、年間を通して,低水から洪水まで河川流量を一貫して表現することが可能である。
本結合システムの利点を整理すると以下の3点のとおりである。
1)
陸面スキームのパラメータ特性を、河川流出量という積分値(観測可能な値)で検証すること
が可能である。パラメータ特性はポイントでは直接観測から可能であるが、流域内の分布
情報を得ることは不可能に近い。
2)
図- 121 に示すように本陸面スキームは陸面データ同化システムに組み込まれているものと同じシ
ステムを用いており、陸面データ同化と組み合わせた降雨予測システムの出力を物理的整合性を
保った状態(土壌水分や放射、乱流フラックスなど)で利用できる。
3)
陸面データ同化システムにより常時適切な土壌水分値が与えられているので、洪水予測を行うと
きの流域の乾湿に関わる初期条件がリアルタイムで適切に得られる。
2.2.3 降雨予測値を用いた河川管理(ダムによる洪水操作)の最適化支援システムの開発 2)
近年、集中的な豪雨による被害が国内外で顕著となっており、また温暖化などによる気候変動下で豪
雨派生頻度の増加が懸念されている。一方、環境への配慮や地域住民との合意形成の難しさから、洪水
制御のためのダムなどの貯留施設の新設が滞っている。ここでは、このような自然科学的課題や社会から
の要請に応えるため、現在利用可能な降雨予測情報を効果的に用いて、既存のダムの最適管理するこ
とによって、洪水軽減、水資源の効率的利用を図る手法を開発した。
本論文では、まず河川流域の標高、地質、土地利用などの空間分布情報や降雨の時空間分布を効率
的に利用できる分布型流出モデルを基本としてシステム開発を行なった。本研究で用いた分布型流出モ
デル(GBHM)は、降雨の表面流出、土壌中の鉛直浸透、地下水流出を表現できる物理的モデルである。
本研究ではモデル中の多くのパラメータを同定するために、Shuffled Complex Evolution(SCE)法を組み合
わせたパラメータの最適化手法を導入した。さらに、河道流出部分にダムによる流出制御システムを導入
177
して、SCE 法を組み合わせたダム操作パラメータ推定法を提案した。
つぎに、このダム操作機能を組み入れた分布型流出モデルに、現業の数値気象予報値を入力して、
ダム下流の洪水流量を一定値以下に抑える条件、ダムの現在の貯留容量と最大貯水能力、洪水後の効
果的な水利用などの目的を達成するための目的関数を設定して、その効用を最大化するためのダム操
作の最適化システムを開発した。システムの構成は下記のとおりである。
図- 122: 降雨予測を効果的に用いたダム最適操作
入力とする数値気象予報値として、本開発研究段階では、気象庁から提供されているメソスケールモ
デルのグリッドポイント値(GPV)を用いた。これは、6 時間ごとに更新される 18 時間先までの毎時降水量
の予報値が 0.125 度グリッドで利用できる。そこで、1-6 時間予報値、7-12 時間予報値、13-18 時間予報
値の3種類について、降水量の観測値と予測値との誤差の逆数を最適化の重みとして用いることによって、
それぞれの予測値を入力として用いてダムの最適操作情報を提供できるシステムを開発した。また、ダム
貯水量を洪水イベント前の状況に戻せるような最適化モデルを用いることにより、本システムが洪水だけ
でなく水資源利用の効率化においても有用な手法であることを示した。
2.2.4 融雪流出モデルの導入とインダス川への適用 1, 3, 4)
パキスタンはその中心をインダス川が貫くように流れ、北部は 7000m 級の山が連なるヒンドゥクシュ・カラ
コルム山脈を持ち、南部・西部はインダス川の沖積作用によって形成された半乾燥帯の平原がひろがる。
インダス平原においては年間降水量が 250mm 以下であるのに対し、上流域はアジア・モンスーンが山脈
にぶつかり降らせる雨と冬季の豊富な降雪に恵まれている。このように、インダス川中・下流域は半乾燥
帯でありながら上流域からの融雪水を水資源として使える潜在性を持っているのである。そこで、本研究
は、南アジアのパキスタン・インダス川上流域を対象とし、融雪水を効果的に用いて効果的な水資源管理
を行うための情報提供を目的としている。
本研究では、インダス川上流の Gilgit 流域を対象に分布型流出モデル(GBHM)に融雪モデルを組み込
み、NOAA/AVHRR の衛星画像から推定した積雪分布と、地上観測データを用いてキャリブレーションを
行った。この結果、図- 123 にみられるように、融雪期においては非常に高い再現性が確認されたが、夏
178
季の降雨流出については、山岳地域での降雨観測の不十分さから、観測流出量との間に大きな差が見
られた。
図- 123: 融雪流出解析を含んだ分布型流出モデルの適用(200 日目までの融雪期は精度がよいが、そ
れ以降は降雨観測精度が落ちるため流量推定値も精度が低下する)
2.2.5 フィリピンマニラ市を対象とする統合水資源管理への適用
深刻な水資源問題を抱える国の 1 つとしてフィリピン共和国では、大都市圏メトロマニラにおける慢性
的な水不足の問題は社会的にも経済的にも解決が望まれており,統合的水資源管理の早期の実現が期
待されている.しかし,新たな水資源の開発は財政的にも社会情勢的にも難しく,既存施設の有効活用
が望まれている.このような背景において,本研究では GEOSS と,アジアにおいて GEOSS のもたらす地
球観測情報を最大限活用して連携し合い,統合的水資源管理を実現しようとする国際プロジェクト
AWCI(Asian Water Cycle Initiative:アジア水循環イニシアチブ)の枠組みの下,「大規模地球環境データ
統合・情報融合システム」上で駆動できる本システムを用いて、全地球統合水フィリピンメトロマニラの水
需要を担う多目的ダム,アンガットダムの効果的な操作の最適化手法を検討する。
アンガットダムの抱える問題及びそのダム操作のニーズは下記の通りである。
1)
特にメトロマニラへの都市用水の供給を重視するが故の利水優先のダムではあるが,その
利水を最大限優先させつつ,洪水制御のニーズもある。
2)
乾季の水需要に備えるべく,雨季と乾季の変わり目には最大限高水位を保ち,貯水池に水
を貯めておきたい.
3)
洪水制御として放流を行う場合にはなるべく必要最低限の水だけを流したい.
そこで、「大規模地球環境データ統合・情報融合システム」上で、ダム操作モジュールを組み込んだ分
布型流出モデルに、衛星観測データや全球数値予測モデルの出力値を入力し,現地調査によって得ら
れた知見に基づくダム操作規則のニーズを反映するシミュレーションを行って、本システムによる統合的
水資源管理の実現可能性を検討する。
対象とするのは台風による集中豪雨の事例は乾季と雨季の境目の時期である 2004 年の 11 月 29
日から 12 月 3 日の事例で、後に述べるように洪水被害も生じており,現地のニーズを反映するよ
うなシミュレーションを行うのに適したケースであると言える.現地で得られた,雨量計での降
179
雨量の観測データ及びダムへの流入量,ダムからの放流量,水位変化の記録資料もこの時期に当
たる.ただし、洪水直前の現実のダム貯水位は 209.2mで十分な洪水調節容量があったため、最
適操作の初期水位を現実よりも高くして、つまりダム操作としては厳しい条件下で、本ダム操作
最適化システムの有効性をシミュレーションによって検討した。図- 124 は、その2ケースを図示
したものである。
図- 124: 貯水量が大きい場合のダム操作最適化(アンガットダム)
212m の場合は、操作1日目に事前放流を行っており、洪水の生じる2日目以降は、必要最低
限の水需要分しか放流を行っていない。満水位である 217mから始まる場合は、3日目に水位が
217mを超えるため流入量をそのまま放流している。ただし、そのピーク流量は、実際の洪水ピー
ク流量を下回っており、最も厳しい条件であるにもかかわらず、事前放流によって洪水被害が分
散できている。
本研究では、気象庁の全球モデルの GPV と、それを非静力学メソスケールモデル(ARPS)のネスティン
グでダウンスケーリングした予測降雨を用いた。これらの予測降雨の再現性は大変低く,29 日の集中豪
雨については全く捉えられていない。そこで、この過小評価の予降降雨を用いて、予測降雨の精度が低
かった場合にどのようにダム操作の最適化は行われるのかを評価した。図- 125 はその結果を図示したも
ので、予測降雨が過小であるために事前放流はできず、降雨の開始とともに 500 ㎥/s を一定放流(赤線)
している。一方、現実の管理では放流が遅れ、最大で 1000 ㎥/s を放流することになっており、予測降雨
が必ずしも十分な精度を有していないときは、観測降雨を用いた最適運用となり、過小評価の場合は洪
水に対して安全度の向上が図られていることが示された。
180
図- 125: 過小の予測降雨を用いたときの洪水管理(アンガットダム)
2.2.6
まとめ
本研究では、「高度情報適用技術の開発研究」の一環として、大規模地球環境データ統合・情報融合
システム上にアーカイブされている多様な地上観測データ、超大容量の衛星観測データ、さまざまな地
球規模データセットを用いて、下記の4項目の研究開発を実施した。
1) 大気-陸面の水・エネルギーフローを記述し、降雨予測基本システムに組み込まれている陸面ス
キームの分布型流出予測システムへの導入
2) 降雨予測値を入力として用いた分布型流出モデルの出力を用いて、多目的ダムの洪水調節を最
適化するシステムの開発
3) 融雪流出へ適用するシステムの開発と適用(パキスタン、インダス川支流)
4) 河川管理最適化システムの適用(フィリピン、アンガットダム)
上記のように、本研究はシステム開発という当初目標を達成するとともに、パキスタンやフィリピンでの適
用にもいたっており、当初の目標を上回る成果を得ている。これらの成果は、アジアの各国においても本
システムの利用の可能性を示唆しており、アジアモンスーン域の水循環変動の理解の向上および、同地
域での洪水被害の軽減、水資源管理や農業などへの情報提供など、大きな国際貢献が期待される。
181
3. 農作物の適正管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
3.1 農作物管理のための統合的なデータ同化・統合手法の開発6)~17)
(分担研究者名:二宮 正士、 所属機関名:(独)農業・食品産業技術総合研究機構)
3.3.1 農業用水量高精度推定水利用モデルの開発
農業水管理のための流量データについて衛星データを含む多様な情報を取り組みながら高度化する。
とくに,アジアモンスーン地域をターゲットエリアとして,水位情報に加えて流量情報を瞬時に得られるセ
ンサーと,既存の比較的安価な環境モニタリング装置であるフィールドサーバを組合せて得られる情報と
衛星データから得られる情報を統合して,流域内の河川が供給する農業用水量の推定を高精度に行う
水利用モデルを開発することを目標とする。
1 年目には,リモートセンシングデータを農業の各種モデルと統合し,モデルの精度を向上させるため
に,まず,農業用水量推定について地上観測データと衛星データを利用して広域に展開する手法を検
討した。特に,そのモデル化の基本となる水田域の特定と水利用の基礎となる農業水利用パターンの特
定を行う作業を行った。対象はメコン河流域とし,衛星データとして MODIS の中の地表面温度情報を用
いるとともに,地上観測データとして,カンボディアの都市域,水田域,湖面域の総合観測データを用い
た。次に,同メコン河と長江の水利用データの資料収集を行った。具体的には,実績のあるメコン河に加
えて,中国南部長江流域の調査を行い,水利用データの資料収集を試みた。長江流域に関しては,調
査対象を中国南部長江中流水田域とし,武漢市・長沙市等の揚子江中流域の湖南省を中心として,水
資源開発,水管理の現状および衛星データ利用の際に必要となる水利用に関する地上観測データの有
無などについて調査を行った。
2年目には,1 年目の検討を継続するとともに,洪水を利用した灌漑方式の検討,長江関連衛星データ
の入手と解析,同庭湖周辺と四湖流域等の現地調査等を行った。まず,農業用水量推定に関しては,そ
のモデル化の基本となる水田域の特定と水利用の基礎となる農業水利用パターンの特定を行う作業を行
った。特に,アジアモンスーン特有の洪水を利用した灌漑方式の検討を行い,対象としているアジアモン
スーン域のメコン河流域下流域では,MODIS データの温度情報を利用した水田域の判定や水利用形態
の判定方式の開発に着手した。ただし,地上観測データとして,カンボディアの都市域,水田域,湖面域
の総合観測データを用いた。さらに,中国長江流域においては,中国長江水利委員会からの関連情報
の収集,衛星データの入手と解析,同庭湖周辺と四湖流域等の現地調査を行って水田水利用や水稲生
育についてのグランドツルースデータの収集を行った。1 年目には武漢市と長江右岸の洞庭湖ならびに
湖南省長沙市等を中心として調査を行ったが,2年目は長江左岸の湖北省潜行市,荊州市周辺に,水
資源開発,水管理の現状および衛星データ利用の際に必要となる水利用に関する地上観測データの有
無などについて現地調査を行った。
3年目には,衛星データの用いた水田判定方式の開発と農地水利用を考慮した分布型水循環モデル
の完成を目指した。ここでは,農業用水量推定ついて,洪水を利用した灌漑方式のモデル化を行うととも
に,各種農業用水利用を組み込んだ分布型水循環モデルを開発した。また,メコン河流域の下流では,
MODIS データの Aqua と Terra の両者の地表温度情報を同時に使って水田域の判定を行う方式を提案し
た。さらに,中国長江流域については,各種データを印刷物から GIS データを作成するとともに(逆解析),
得られた衛星データと組み合わせて同庭湖や四湖流域における水田と洪水の関係について検討した。
まず,統合的なデータの利用方式として,メコン河と長江の現地データの収集と解析を行って,i)
182
MODIS 温度情報を利用した水田域・水利用形態の判定,ii) 衛星データで水田域の抽出,iii) 各種農地
水利用方式の分類に関する各種方法の提案ができた。次に,農業用水利用モデルの開発に関連して,
低平水田域氾濫モデルと農地水利用を考慮した分布型水循環モデルが開発でき,目標とした流域内に
おける任意の地点と任意の時点での農業用水利用可能量の推定が可能となった。個々の結果について
は,以下のように纏められる。
第一に,効率的な水利用計画への基礎資料作成を目
的として,農地の営農パターン分類を MODIS 時系列デ
ータを用いて実施した。具体的には,水の比熱・熱容量
が,地表被覆材料のなかでは相対的に大きいことから,
昼夜温度差に大きな影響を与えているのではないかと仮
定し,昼夜温度差変化から利水状態の把握を行った。ま
た,植生被覆密度の変化から,農地の営農時期の把握を
行った。使用画像は MODIS-LST 画像である。今回は雨
季・乾季を考慮したうえで,最低限すべての時期におい
て,陸域のデータを 90%以上補完できるよう,昼夜それ
ぞれで最大値合成を行った。合成時期は,雲域を低減す
るため2~3ヶ月の単位となった。このため時系列の温度
図- 126: 7時期の温度差特性分布画(15 ク
画像のデータセットは,下記の7時期を準備した。7時期
ラス分類)
の昼夜温度差の空間的な分布を把握するために,7 時期
表- 20: 農地水利用の分類
の昼夜温度差画像を説明変数として,K-means 法により,
教師なし分類を実施した。その結果を図- 126 に示す。こ
れまで得られている営農形態分布図(4 時期の組合わ
分類
せ)と7時期の温度差分布クラスとの照合をおこなった。こ
河川(重力)
関連した情報抽出の可能性が認められ,農地の水利環
地表水
ることが分かった。
非灌漑
境を広域的に把握するためのモニタリングとして期待され
河川(ポンプ)
貯水池
コルマタージュ
地下水
水利用
季節変化情報を付加することにより,利水状態の変化に
灌漑
温度差の情報の合成により,農地の水利用状態の差が
地表水
の照合の結果,類似した作付けスケジュールの農地でも,
推定できることが分かった。営農形態別に昼夜温度差の
干潮灌漑
灌漑施設
により分類
井戸
天水
雨水貯留
洪水
183
農地
水田
地形標高
により分類
畑
第二に,水田域の抽出に関しては,水利用と
密接に結びついている水田と水循環の実態を再
現・推定する手法を確立するため,各種衛星デ
ータや既存の地図データ等を収集するとともに,
各種衛星データを利用して,水田の抽出と農地
の水利用形態の類型化を行った。利用したデー
タは,NOAA/AVHRR や MODIS/TERRA データ,
(a) メコン河に営農形態別土地利用分布
Landsat/ETM+データや既存の土地利用図等で
あり,陸域と水域とに分別し,陸域では MODIS
Surface Reflectance データセットと EC-JRC 土地
利用図より参照し抽出した森林域マスクデータを
用い農地,森林域,裸地に分類を行った。水域
は RADARSAT データを用い湛水域の抽出を行
った。RADARSAT データで抽出することができ
なかった地域に関しては,MODIS Land Surface
Temperature /Emissivity(以後 MODIS-LST)デ
ータセットを用い湛水・湿潤域として抽出した。各
(b) 長江の土地利用
種情報を合成し,2000 年のメコン河流域と長江
流域同庭湖付近における土地被覆,土地利用
図- 127: 衛星データを用いた水田域の抽出
図を作成した(図- 127)。
次に,現地調査等により,アジアモンスーン域にお
ける天水田の水利用形態を降雨依存水田,雨水貯
留水田ならびに特徴的な水稲栽培法である洪水利
用水田に分類した(表- 20)。降雨依存水田は,従来
から考えられているように補助水源がなく,水稲作は
水田上に降る降雨のみによって成り立っている形態
である。この方式では,稲の播種,植え付け,生産等
は稲作期間内の降雨量や降雨パターンに依存する
ことになる。雨水貯留水田は,天水田の大半を占め
る方式で,ため池やダムなどの灌漑施設は持たない
が,同一水田域内の微地形から生じる低位部湛水
(小ため池,道路沿い,くぼ地など)として貯まった水
を利用する方式である。洪水利用水田は,カンボディ
アのトンレサップ湖周辺およびプノンペン近郊の氾濫
域では,水田が受け持つ氾濫貯水量は全氾濫量の
図- 128: 灌漑水田の水利用方式
約 20%にもなる。また,この水田に蓄えられた氾濫水
は,減水期稲作や下流の灌漑水として利用されていることから,洪水と農業には密接な関係があるといえ
る。一方,灌漑は,灌漑施設から河川(重力,ポンプ),貯水池,コルマタージュ,潮汐灌漑,地下水利用
184
に分類できる(表- 20,図- 128)。
さらに,農業用水利用の推定に関しては,まず,
氾濫湛水に関わる水利用であるコルマタージュ
(灌漑)と洪水(非灌漑)を利用したものの検討を
行い,水田と洪水氾濫との関係を定量的に解析し
た。特に,その中の洪水を用いた農業水利用に
ついては,FEM による氾濫湛水と灌漑形態のモ
デル化(トンレサップ湖および周辺域全域,周辺
灌漑域)を行い,2000 年(洪水年)に加えて 2003
年(渇水年)の解析を行った(図- 129)。特に,解
(a)メッシュ分割
析の途中で,本川(メコン河,バサック川,トンレサ
ップ川)の河道標高について Geographic Atlas を
元にした正確な河川断面の挿入と氾濫域におけ
る道路ならびに河川橋の組み込みを行った。さら
に,1996~2003 年の連続計算を行って,日単位
メッシュデータの作成を行った。ただし,長期解析
のためのトンレサップ湖と氾濫域の浸透量,蒸発
散量の組み入れに関しては,浸透量はゼロと仮定
し,蒸発散量と降雨量はそれぞれ上記水循環モ
デルによる推定値と実測値を利用した。また,水
(b)最大氾濫時の湛水水深
管理の効果については,送水効率などのパラメー
タとして取り込むことになる。
Pakse
相対誤差 29.9%
40000
推定
実測
30000
2003/7/1
2003/1/1
組み込んでいる。メッシュ内では,作付時期・作
2002/7/1
0
2002/1/1
用に関しては,表- 20 の分類毎の水利用解析を
2001/7/1
10000
1999/1/1
他),水域に分類した面積割合で表し,農地水利
2001/1/1
20000
2000/7/1
流量(m3/s)
向を求め最上流から最下流メッシュまでの逐次
(図- 128 参照),天水農地,森林,市街地(その
150
50000
ばメコン河流域では 6,926 メッシュ),標高から流
計算を行った。各メッシュの土地利用は灌漑農地
100
2000/1/1
分布型流出モデルであり,メッシュに分割し(例え
0
50
1999/7/1
デルを開発した。このモデルは,0.1°メッシュの
降雨量(mm/d)
また,各種農業水利用を組み込んだ水循環モ
図- 129: 2 次元 FEM による氾濫解析
付面積推定モデル,農地水利用モデル,流出モ
図- 130: 実測流量と推定流量の比較
デルにより各諸量が算定される。Pakse 地点での
実測流量と本モデルによる推定流量を比較した
(1999 年-2003 年,Pakse 地点)
(図- 130)。年による推定精度のバラツキはあるも
のの,5 年間を通して低水時の流量ならびに雨期
初期の流量増加,雨期後半の流量低下などは精度良く再現できた(全相対誤差 29.9%)。また,水田地帯
185
での雨水貯留効果をモデルに導入したことで,水田面積率が大きい地域の流出量の推定精度を大幅に
向上させることができた。なお,1999 年や 2002 年は他年に比べて誤差が大きくなった。さらには,水田地
帯の実験観測施設(Kandal Stung)で実測された蒸発散量)と本モデルで推定された実蒸発散量を月積
算で比較検討し,その精度も検証した。その結果,水田作付状況を考慮して推定された実蒸発散量は,
現地で観測された蒸発散量の期別変動を再現できていることが確認された。以上より,本モデルを利用
することにより,任意の地点・時間の実蒸発散量,米の作付時期,作付面積,収穫面積,必要農業用水
量,利用可能水量等の算定が可能となった。
3.3.2 イネウンカ類の飛来予測シミュレーションモデルの高精度化
イネを加害する害虫であるイネウンカ類(主にセジロウンカ,トビイロウンカ)はわが国では越冬できず,
毎年梅雨期を中心に海外から長距離移動により水田に侵入する。この長距離移動には梅雨期の下層ジ
ェット気流が関与していることが明らかとなったことから,数値予報モデルと3次元粒子拡散モデルを応用
したイネウンカ類の飛来予測シミュレーションモデルが作成された。本モデルの飛来予測精度の高度化
には,飛来源と想定される地域におけるイネウンカ類の発生場所(基礎となる水田分布),発生時期,発
生量の把握が必要であるが,最新で詳細な発生情報は十分に公開されていない。一般にイネウンカ類の
水田からの増殖と移出は水稲の生育ステージに依存している。そこで,ベトナム,中国,台湾における水
田分布,水稲生育情報と発生情報を人工衛星リモートセンシングデータと地上調査データ等を統合して
獲得し,イネウンカ類の移出地域や移出時期を推定する手法を開発し,そこで得られた情報を用いてイ
ネウンカ類飛来予測シミュレーションモデルの改良を行い,わが国への飛来の予測精度を向上させる。
イネウンカ類は水稲の単食性であり,移出場所として具体的な水田分布を求める必要がある。これまで
得られていた東アジア地域の水田分布図は 1970 年代の古いものであり,精度も高くなかった。そこで最
新の水田分布図を作成した。台湾については,人工衛星 MODIS の光学センサーデータ(水平分解能
1km)を用いて教師付き分類を行って水田分布を求めた。台湾で地上調査を実施し教師データを取得し
た。中国とベトナムについては,水田が冠水する時期の LANDSAT の光学センサーETM データを用いて
教師付き分類を行って水田分布を求めた。各地で地上調査を実施し教師データを取得した。
次に,イネウンカ類の水田からの移出時期の推定のために,それと関連した水稲の生育ステージを推
定した。人工衛星データは MODIS の光学センサーを用い拡張植生指数 EVI の時間変化から生育を推
定した。EVI は水稲移植時期に低い値をとり,出穂期に最大となり,登熟にかけて低下する。この EVI 変
化パターンを求めた。同時に中国とベトナムで水稲栽培の作期を調査し検証した。
186
また発生情報を収集した。台湾では嘉義農業
試験分所(中部の嘉義市)でライトトラップ(夜間
に電球などの光によって誘殺するもの)とネットト
ラップ(10m の支柱の先に口径 1m の円錐状ネット
で飛翔昆虫を捕獲するもの)による日別モニタリ
ングデータがあり,それを入手し発生状況を把握
した。さらに一般水田圃場で発生調査を行った。
中国では,福建省と江西省で 6,7月に水田発生
調査を行った。また福建植物保護総合ステーショ
ンでの聞き取り調査と,中国南部諸省の植物保
護機関のインターネットホームページから発生状
況を把握した。ベトナムでは,北部紅河デルタの
一般水田圃場での発生調査を行った。さらに明
け方と夕方の圃場からの一斉飛び立ちの捕獲調
査を行い飛び立ち時刻を調査した。また,国立
植物保護研究所より提供された,デルタ東部ハイ
フォン市のライトトラップによる日別捕獲データに
より発生推移を調査した。
以上の解析と調査から発生源での水田分布,
水稲作期,飛び立ち時刻と発生状況の概要が判
図- 131: MODIS を用いた台湾水田分布図
明したので,それらの知見を基に飛来予測シミュ
領域が水田。台湾西部が主要な水田地帯である。
水色の
レーションモデルを改良した。旧モデルでは,イ
ネウンカ類が飛び立つ場所(飛び立ち域)は 50km の矩形であった。この飛び立ち域をおよそ 300km 間隔
で,中国の主要なライトトラップの近傍に配置していた。旧モデルの飛び立ち時間は,おおよその日の出
と日の入りの時間とし,中国南部一帯で固定していた。改良では結果に示すように飛び立ち域と飛び立
ち時間を変更した。その後新モデルでの予測精度の評価を行った。評価は 2004 年から 2007 年の 6 月 1
日から 7 月 16 日の梅雨時期に日別の飛来予測を行い,佐賀と熊本のネットトラップと鹿児島の吸引トラッ
プの捕獲数で評価した。飛来予測有り/無し,かつ捕獲有り/無しを的中とし,評価期間での的中率を
求め,旧モデルと比較した。
台湾の水田分布の特徴は,主要な水田が台湾の台中や嘉義を中心とした西部に分布していることで
ある(図- 131)。この主要地域では水稲は 2 期作で,2 月移植,6 月中旬収穫の早稲と,7 月移植,11 月
収穫の晩稲である。嘉義農業試験分所によると,例年早稲でのイネウンカ類の発生は,ヒメトビウンカ>セ
ジロウンカの順でトビイロウンカの発生は問題とならない,また台湾東部のイネウンカ類の発生は少ないと
のことであった。日本に飛来するイネウンカ類は 6 月下旬から 7 月上旬に飛来ピークを迎えるが,この時
期は台湾では早稲収穫後にあたり,台湾は飛来源とはならないと考えられた。ただ,西日本では 6 月上旬
にウンカの飛来があることもあり,その場合台湾は飛来源となり得ると考えられた。本研究以前では,台湾
は梅雨期の飛来源のひとつと推定されていた(大塚他,2006)ため,本結果は新知見となった。
187
中国南部の水田分布の特徴は,開けた低
地だけでなく,山地の谷筋にも水田が分布し,
各省の省内全域に水田が分布していた(図132)。そのため旧モデルの離散的な飛び立
ち域設定では実態を反映しないと考えられた。
中国南部の植物保護機関への聞き取り調査
などによると,作期は,福建省,広東省,江西
省では 4 月移植,7 月収穫の早稲と 7 月末移
植,11 月収穫の晩稲の 2 期作か,6 月移植 10
月収穫の中稲一期作である。日本に飛来する
個体群の主要な移出源は早稲であると考えら
れた。こうした作期については,リモートセンシ
ング手法の拡張植生指数 EVI の推移からも確
認された。例えば,福建省福州市の水田圃場
図- 132: LANDSAT ETM の合成図
水色の領域が
の EVI は 2 山ピークの変化を示し,移植時期
水田と河川を表す。右下から左上へ走る幅のある水色
(年初から 100 日と 220 日)に値が小さく,出穂
が河川。細い筋状の分布が水田である。
期に最大となり,登熟から収穫に掛けて値が
小さくなった(図- 133)。
発生情報について,広西自治区,広東
省,江西省,福建省などの植物保護機関が
インターネットで公表した情報によると,侵
入は 3 月から 4 月に始まるが,飛来量は多く
ない。4 月下旬から 5 月上旬に多量の飛来
があり,広西ではライトトラップの日別捕獲
数が数万頭になることもあり,広東省では北
部ほど飛来量が多い。広西と江西省で同時
に飛来があることがあった。この時期は南西
風が卓越しており,広東省の情報によると,
ベトナム北部が主要な飛来源であると考え
られていた。
飛来個体群は早稲の上で1,2回世代を
図- 133: 福建省福州市の水田における MODIS の拡張植
生指数 EVI の推移
繰り返し,5 月下旬から 6 月上旬,または 6
2つの山型の変化を示し,2 期作に
対応している。
月下旬から 7 月にかけて移出すると考えら
れた。実際に,福建省の植物保護機関によれば,福建省では全域で 6 月上旬にセジロウンカ主体の飛来
があり,とくに北西部で多かった。これらの飛来源は広東省や広西自治区であると考えられており,4 月下
旬から 5 月上旬に飛来する個体群の第一世代が移動したのではないかと推定された。さらに飛来第二世
代が発生する時期は,早稲は登熟から収穫時期に当たり,これらの世代が移出し易い状況になっている
と考えられた。江西省万安のライトトラップでのセジロウンカ捕獲数によれば,6 月初めと 7 月初めにピーク
188
があり,それぞれ 5 月初めの捕獲数のおおよそ 10 倍と 100 倍であった。これらの捕獲ピークは,それぞれ
飛来第一世代と第二世代によると推測された。
ベトナムでの調査結果をまとめる。水田分布
はベトナム北部では紅河デルタ全域で水稲が
栽培されている。作期は,1 月から 2 月に移植さ
れ 6 月に収穫される冬春作と,7 月に移植され
る夏作の 2 期作である。冬春作の生育について
は,坂本ら(2006)の MODIS の EVI を用いた解
析によると,紅河デルタ東部の 3 省(ハイフォン,
ハイドン,タイビン)で他地域より 2 週間ほど水
稲の生育が進んでいた。2007 年 5 月初めにデ
ルタで行った調査でも登熟の進展による葉色
変化を確認した。こうした圃場での発生調査で
は,長距離移動性の長翅型成虫がセジロウン
図- 134: ベトナム・ハイフォン市の水田におけるセ
カ,トビイロウンカともに多数捕獲された。それ
ジロウンカの飛び立ち
稲穂の上部をすくい取りで
捕獲した。日の出時刻は 5 時 21 分。
ぞれの種の捕獲される圃場の水稲品種は異な
っていた。ハイフォンのライトトラップでは 4 月下
旬から 5 月上旬にセジロウンカとトビイロウンカが多数捕獲されていた(図- 134)。これらは圃場から移出し
た個体群の一部であると考えられた。移出時刻を調査するために,ハイフォンの一般水田圃場で 2007 年
5 月初めに日の入りと日の出のころにネットによるすくい取りを実施した。その結果,明け方と夕方(照度
100 ルックスの前後の時間)に圃場からセジロウンカが飛び立つことが分かった。同様にトビイロウンカも薄
明薄暮に飛び立つことが報告されている(大久保&岸本,1971)。
衛星リモートセンシングと地上調査の結
果を統合してまとめると次のようになる。ベ
トナム北部では 4 月下旬から 5 月上旬に
冬春作上で増殖した個体群が移出すると
考えられた。圃場からの飛び立ちは日の
出前や日の入り後の薄明薄暮に起こった。
同時期に中国南部の広西自治区,広東
省,湖南省,江西省や福建省などでは飛
来があり,ライトトラップで多数が捕獲され
た。この時期は中国南部では早稲が栽培
されており,飛来侵入したウンカは早稲上
で増殖すると考えられた。水田分布は各
図- 135: 江西省からの飛び立ち
省とも省全域に分布しており,全ての地域
月 2 日標準時 21 時 32 分から 34 分に飛び立ったウンカの
が飛来源となりえた。台湾は 6 月下旬以降
分布。緑がそれまでに飛び立ったウンカの分布を表す。
飛来源となるとは考えられなかった。
189
黄色の部分が 2004 年 7
以上の新知見の内,ウンカが薄明薄暮に飛び立つこと
表- 21: 新旧モデルでの的中率の比較結果
と,飛来源となりうる水田が中国南部の省の全域に分布し
ていること,それから台湾が 6 月下旬から 7 月にかけて飛
来源とは考えられないことを利用して,飛来予測シミュレー
年
的中率(%)
新モデル
旧モデル
2004
83
84
2006
67
71
時刻を計算し,2 分間隔の同時線を求め,2つの同時線で
200
71
69
囲まれた領域からウンカを飛び立たせた(図- 135)。最後
200
70
69
ションモデルの飛び立ち条件を改良した。まず飛び立ち域
を多角形で設定できるように変更し,省ごとの飛び立ち域
を設定した。また,太陽軌道から,正確な日の出日の入り
に 6 月以降については台湾の飛び立ち域を除いた。この
改良を行った新モデルと,旧モデルの予測精度を比較し
た結果を表- 21 に示した。新モデルと旧モデルの的中率はほぼ同程度であるという結果となった。
3.2 土壌-植生系モデル・統合手法の開発
(分担研究者名:溝口 勝、 所属機関名:東京大学)
これまで我が国の農業における農作物管理は天気予報と農家の経験的な技術に依存することが多く、
一部の先進的な農家が単純な地上観測情報を農作物管理に利用する程度だった。本研究は、地上観
測情報を土壌-植物系モデルに受け渡し、農作物の管理に役立つ情報に翻訳するシステムのプロトタイ
プを開発するものである。 こうした管理情報翻訳システムは従来型の農学と情報科学との単純な組み合
わせだけでは不可能であり、水文・気象学、土壌学、作物学等の中から農作物管理に必要なセンシング
可能な情報を抽出した上で、衛星によるセンシングが可能な領域内の農地情報を時系列的に取得し、衛
星情報と統融合を図る必要がある。そして、この統融合された情報を土壌-植物系モデルとリンクさせるこ
とにより、農作物の管理ニーズに対応した農地の根群域土壌水分量などの有用な情報に変換することが
必要である。そこで、本研究では実際のフィールドに農地情報観測システムを設置し、土壌と作物に関す
る情報を取得する。そして、その情報を衛星情報とあわせて土壌-植生系モデルに受け渡すシステムを構
築し、最終型として農作物管理に役立つ管理情報翻訳システムを提案する。
3.2.1 農地情報モニタリングシステムの設置
群馬県嬬恋村にあるキャベツ畑に、農地情報モニタリングシステムを設置し、圃場画像・日射量・気温・
湿度・風向・風速・降水量・土壌水分量をインターネット経由でリアルタイム観測できるようにした。(図136) 図- 137 に農地情報モニタリングシステムによって測定された気象観測データの一例を示す。本シ
ステムにより、現地のキャベツ生長過程における気象条件(気温・湿度・日射量・風速等)をリアルタイムで
誰もがインターネット上から見られるようになった。図- 138 は、農作物管理によって変化する畑の状況に
対応した土壌水分動態のモニタリング結果である。本システムを導入したことにより、農作物管理と気象・
土壌の状況の関連付けが容易になり、キャベツで覆われている収穫前には降雨があっても畑の土壌水分
量はあまり変化しないが収穫後の畑では蒸発による乾燥と降雨による浸潤による土壌水分の変化が激し
いなど、農地と作物管理に関する新しい発見があった。
190
なお、ここで観測されたデータ(気象・土壌データと画像データ)は課題 3.1「農作物管理のための統合
的なデータ同化・統合手法の開発」との連携により、(独)農業・食品産業技術総合研究機構のサーバに
蓄積され、さらには課題1「大規模データアーカイブ・ストレージシステムの開発とデータ統合基盤の構
築」のコアシステムに投入され、本プロジェクトのメインテーマであるデータ統合基盤の構築に貢献した。
今回システムを設置した場所では 100V の商業電源が利用でき、通信速度は必ずしも速いとはいえな
いが ISDN 回線のインターネットが利用できた。しかし、アジアをはじめとする世界の農地を対象にした場
合、そこには電源もなければ通信インフラも望めないことが考えられる。本システムをアジア地域に展開す
る場合には、こうした基本的なインフラ(電源とインターネット)を確保することが重要である。
図- 136: 群馬県嬬恋村のキャベツ畑の衛星画像(左)と設置した農地情報観測システム(右)
この地区は農林水産省の嬬恋開拓建設事業(平成 13 年完了)により約 585ha のキャベツ畑が整備さ
れた日本有数のキャベツ産地である。写真右の装置は、左から電源ボックス、土壌水分観測装置、画像
観測装置、気象計、雨量計である。キャベツの生長過程の画像と気温・湿度・日射量・降水量・土壌水分
量・地温等の農作物管理に必要なデータがインターネット経由でリアルタイムに観測できる。
0
0
0:
0
12
:0
7/
2
0:
0:
7/
1
7/
3
時刻(2006)
00
200
00
1
00
00
0:
0
12
:0
7/
2
0:
7/
2
12
:0
0
00
0
7/
1
0:
00
10
400
7/
2
20
気温
湿度
600
2
0
15
風速
日射量
12
:0
40
風速(m/s)
20
3
湿度(%)
気温(℃)
60
800
7/
3
80
25
7/
1
4
日射量(W/m2)
100
7/
1
30
時刻(2006)
図- 137: 農地情報観測システムによって測定された気象観測データの例
現地のキャベツ生長過程における気象条件(気温・湿度・日射量・風速等)をリアルタイムで見ることが
できる。
191
図- 138: 畑の状況に対応した土壌水分動態のモニタリング
キャベツで覆われている収穫前には降雨があっても畑の土壌水分量はあまり変化しないが、収穫後の
畑では蒸発による乾燥と降雨による浸潤による土壌水分の変化が激しい。
3.2.2 衛星情報との統融合手法の開発
人工衛星は広域を瞬時に観測できるという利点があるが、センサの特性や観測条件の影響を受けると
いう問題があるため、取得されるリモートセンシングデータには、様々な情報が混在している。それらのデ
ータは、地表面の状態だけではなく、そのデータを取った際の対象地域の地形状況などに大きな影響を
受ける。本研究では、AVNIR-2 データを用いてキャベツの生長に応じて変化する畑の被覆率を推定する
アルゴリズムを構築した。AVNIR-2 の空間分解能は 10×10m であるが、観測される画像の一画素内には、
キャベツと土壌のカテゴリが含まれている。そこで、ミクセル分解手法を用いて画素内のカテゴリの被覆率
を推定し、キャベツ被覆率マップを作成した。図- 139 は本手法で作成したキャベツの被覆率マップであ
る。図中の円中のエリアは、農地情報観測システムで観測された地上観測画像のエリアに対応している。
円中内で推定されたキャベツの被覆率は、キャベツ画像から判断して高精度に推定された。このことは、
本研究の方法が 585ha という広大なキャベツ畑を有する嬬恋地区の広域の農作物管理情報の提供に使
える可能性があることを示唆している。
192
図- 139: 衛星画像と地上観測画像の融合。AVNIR-2 画像(左列)をミクセル分解することにより推定したキャ
ベツの被覆率(列中央)とその時の地上の被覆状況(右列)。列中央の図中の赤丸は地上観測点の位置を示
す。上段:収穫後(2007 年 10 月 22 日) 下段:生長期(2007 年 8 月 12 日)
3.2.3 土壌・植生モデルとのリンク手法の開発
実験対象にした嬬恋地区には傾斜したキャベツ畑が多く分布する。傾斜畑の農地管理では農作物の
生産に加えて土壌侵食の防止も重要な課題である。土壌侵食には土壌表面の被覆状態が大きく関係す
るために、土壌侵食量を推定する物理的モデルには作物生長モデルを組み込んだものも存在する。本
研究では農地管理という観点からいくつからある作物生長モデルモデルから、土壌侵食量の推定に展開
可能な WEPP(Water Erosion Prediction Project)を選び、その中の作物生長モデルを改良して用いた。
この作物生長モデルに必要なデータは、気温・日射量・降雨量などの気象データと、作物に固有の栽
培に関する情報である。キャベツ生育の適温は 15℃から 20℃で高温に弱く、植後の生育期間は約 80 日
である。嬬恋地区では 6 月~9 月がこの時期にあたる。そこで、本研究では、8 月植え付け 10 月収穫の秋
キャベツを対象とし、(1)の農地情報観測システムで得られた気温・日射量・降雨量データを用いて、キャ
ベツ畑の被覆率変化、結球時期、収穫量を計算した。図- 140 は改良した作物生育モデルによって計算
した秋キャベツの生長量と被覆率である。実際、キャベツ農家は結球重量が飽和に達したと予測された
日の数日後に収穫作業を行っており、モデルの妥当性がわかった。しかし、キャベツは品種によって生長
速度もことなることが知られており、今回はたまたま結果が一致したともいえる。今後は、品種ごとに生長
量を予測できるようモデルを改良すると共に、観測した画像データからキャベツの生長量を実測するアル
ゴリズムを作ることも必要である。
120
140
20
0
0
10月24日
20
10月12日
40
9月30日
40
9月18日
60
9月6日
60
8月25日
80
8月13日
100
80
8月1日
Rainfall
Evaporation
Available
root zone
Percolation
図- 140: 2007 年の観測データをもとに作物生育モデルによって計算した秋キャベツの生長量
計算に用いた生育モデルの概念図
193
Irrigation
Transpiration
120
100
7月20日
重量(t/ha)
160
全生体重量(t/ha)
結球重量(t/ha)
被覆率(%)
140
被覆率(%)
160
右図は
3.2.4 農作物管理情報翻訳システムの開発
図- 141 は本研究で開発した農作物管理情報翻訳システムである。このシステムでは現地画像・観測
データ・予測値等のデータを Web 上に統合して比較できる。このシステムを農作物管理情報ツールとして
仮運用したものを地元の農家に紹介し、本システムを評価してもらった。その結果、結果の表示として本
システムは有効かも知れないが、むしろ気温と降水量に関する数ヶ月先の気象予測(特に長梅雨になる
か、台風がいつ来るか等)を公開してほしいとの要望があった。
図- 141: 試作した農作物管理情報翻訳システム(左)と地元農家の方とのシステムの評価会合(右)
。
現地画像・観測データ・予測値等のデータを Web 上に統合して比較できるようにし、それを地元農家
の方に評価してもらった。
4. 気候情報の高度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
4.1 気候同化データの検証および利用の研究
(分担研究者名:釜堀 弘隆、 所属機関名:気象庁)
(a)独立衛星データによる気候同化データの検証
気候同化データは長期間にわたる均一なデータで、きわめて多数の変数を擁しているため、さまざまな
分野に適用可能な基盤データである。ただし、観測データそのものではないので、利用に際しては検証
を行っておく必要がある。ここでは、衛星観測による植生データにより、気候同化データの気温の検証を
おこなった。
今回、検証データとして使用したのは、千葉大学環境リモートセンシングセンター
(ftp://dbx.cr.chiba-u.jp/data/TWO)が作成した規格化植生インデックス(NDVI)である。この NDVI は
194
NOAA 衛星の可視光および近赤外観測から求められた植生活動度を示す指数であり、以下の式で定義
される。
NDVI=(Ch1-Ch2)/(Ch1+Ch2)
ここで、Ch1 は可視光(波長 0.58-0.68μm)の反射率、また Ch2 は近赤外(波長 0.725-1.1μm)の反射率
である。これは1〜−1の値をとる無次元の指数であり、1に近いほど大きな植生活動、逆に植生が全く無
い場合0となる。これは、植物に含まれる葉緑素が可視光を吸収しやすいのに対して、近赤外を反射しや
すいためである。図- 142 は NDVI 分布の4〜6月の平均の気候値(左)および全球帯上平均の季節変化
の気候値を示している。
図- 142: 4〜6月平均の NDVI 気候値の地理的分布(左)、および全球帯状平均 NDVI 気候値の季節
変化(右)
。
アマゾン、中央アフリカ、海洋大陸 0 インドシナ半島といった熱帯雨林の発達した地域には、非常に大
きな植生活動が年間を通して見られる。それ以外に植生活動の活発な領域として、ユーラシアおよび北
米の高緯度地帯が上げられる。熱帯の植生活動が年間を通して見られるのに対して、北半球高緯度の
植生活動は夏期のみに限られるのが特徴的である。
JRA-25 の4 06月平均の地上気温気候値(左)および、4 06月平均の積雪深の気候値を図- 143 に示
す。摂氏0度の等温線は北緯70度付近にあるのに対して、融雪線は北緯50度付近に位置している事が
分かる。大まかには、ユーラシアや北米では地上気温5 010度程度の地域が融雪領域と一致している。
図- 143: 4~6月平均の JRA-25 地上気温気候値分布(左:単位摂氏)、および積雪深分布(右:単位
m)。
195
4〜6月平均の NDVI と JRA-25/地上気温との相関係数を図- 144 に示す。ユーラシア北部および北米
に大きな正相関域が分布している。特に北緯50〜70度付近には大きな正相関域がある。他のほとんど
の領域には負相関が広がっているが、いずれも有意な値ではない。
図- 144: 4~6月平均の NDVI と JRA-25 地上気温との相関係数分布。
なぜ、北半球の高緯度域に正の高相関域が集中しているのかを見るため、相関係数の季節変化を調
べた。図- 145 に、ユーラシア西部(東経40〜80度)における NDVI と地上気温との相関係数の帯状平均
を示す。また、図- 146 に同領域における積雪深および地上気温の帯状平均気候値を示す。
図- 145: ユーラシア西部(東経40度から80度)における NDVI と地上気温との相関係数の帯状平
均季節‐緯度断面図。
196
図- 146: ユーラシア西部(東経40 080度)における積雪深(単位 m)および地上気温(単位摂氏)
の帯状平均気候値季節 "緯度断面図。
図- 145 には、春から初夏にかけて北へ移動する正の高相関域があり、場所によっては相関係数 0.8 を
超える極めて高い相関である。また秋以降、今度は北から南に移動する正の高相関域がある。図- 145 の
高相関域と図- 146 の融雪線を比較すると両者はほぼ一致している。従って、この高緯度地帯における
NDVI と地上気温の相関は、季節進行に伴う融雪/積雪に伴う植生活動の活発化/衰退を反映している
と考える事ができる。すなわち、春〜初夏の気温が高い年には、融雪が早く、植生活動の活発化も早まる。
独立データである衛星観測 NDVI と JRA-25 の地上気温がこのような高い相関関係を示し、それを合理的
に説明できるという事は、両者の品質の高さを示している。特に、JRA-25 の地上気温データは観測に匹
敵する精度を持つデータとして利用できる事が分かる。
(b)農産物生産と気候の統計的な関係の調査
気候と産業との関係を調べるための基礎気象データとして JRA-25 を使うが、そのメリットは、定常的にか
つ長期間にわたって、さらに広範囲に観測することが難しい気象要素データを容易に利用できることであ
る。ここでは、気候ともっとも関係が深いと考えられる農業の生産高と、JRA-25 データの地上気候要素(月
平均の地上気温・地上湿度・地上日射・降水量・土壌水分)との関係を、1980 年から 2004 年の 25 年間の
相関係数を計算し統計的に調査した。統計的な有意性は、相関係数の大きさが約 0.4 以上である。当然
ながら、JRA-25 データのこれらの要素は、地上観測データを使って検証されるべきであり、すでに紹介さ
れているように今回の研究においても検証されているし、またこれまでも CEOP 地上観測データ等を使っ
て検証している(Ose,T. and H.Kamahori, 2008)。
今回、農業生産活動を気候の影響が大きい産業活動として取り上げたが、国内自給率が低い現在の日
本の農業事情を考慮して、国内の農業のみではなく世界の農業生産を対象として考えることとした。した
がって、国内の農産物輸入とその加工産業、さらには食料の安定供給という問題も意識した調査とも言え
る。実際には統計データの取得が容易であるうえ、世界有数の農業輸出国で日本の食糧依存率も高い
米国における農産物生産を対象として考えた。なお、日本国内の資料・データについては、農林水産省
197
の「農林水産統計情報総合データベース」ウェブページ(http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/toukei)から
取得した。米国内の資料・データについては、米国農務省(USDA)の「米国農業統計サービス」ウェブペ
ージ(http://www.nass.usda.gov/)から取得した。
具体的には、国内自給率 100%である日本産の食料用米の他、金額ベースの輸入実績の高い米国産
のとうもろこし・豆類・小麦を対象とした。わが国のとうもろこし(多くは家畜飼料用)の国内自給率は約 0%
である一方、日本が輸入するとうもろこし量のほぼ 100%は米国からの輸入となっている。日本の小麦の自
給率は 14%であり、日本が輸入する小麦に対する米国からの輸入比率は 56%である。大豆の自給率は約
5%で、米国からの輸入率は約 80%である。ここで、自給率統計は 2005 年、輸入統計は 2006 年の農水省
によるデータに基づく。
手法の有効性の確認を兼ねて、日本国内の代表的農産物である食料用米(国内自給率100%)につ
いて、地上気温との関係を調査した。図- 147 に、日本の米の総生産高(単位は 1000 トン)の 1980 年から
2004 年までの年々の推移を黒線と左側縦軸の目盛りで示す。1995 年以降、総生産高は減少傾向を示す。
農業産業の動向や農業技術の発展に伴う長期変動を取り続くため、5 年ランニング平均からの差を対象
とした。図- 147 では、陰影の付いた棒グラフと右側縦軸の目盛りで示している。図- 148 は、図- 147 で示
した日本の米の総生産高の 5 年ランニング平均からの差と日本を中心とした東アジアの JRA-25 による月
平均地上気温との時間相関係数分布図を、1 月から 12 月まで月別に示す。8 月平均の地上気温との 0.6
を越える高い相関関係が、米生産高の多い北陸から東北地方にかけて分布している様子が確認できる。
米国平均の単位面積あたりのコーン生産高の推移を図- 149 に示す。実線が示すコーン生産高の推移
には、農業技術の改良によると思われる生産性の伸びが見てとれるが、5 年ランニング平均からの差であ
る棒グラフ(陰影)ではその影響は取り除かれている。図- 150 は、北米の地上気温と米国平均の単位面積
あたりのコーン生産高との時間相関係数の分布を示す。大きさにして 0.6 を超える高い負の相関関係が、
8 月のイリノイ州など五大湖の南方に大きく広がっている。これらの地域は、コーンベルト地帯と大まかに
一致するところから、地理的にも見ても意味のある相関関係であると理解できる。日本における米生産と
地上気温の関係と全く逆の関係、すなわち低温であればコーン豊作という関係が高い相関係数で成り立
っているのは興味深い。相関関係の高い地域がコーンベルト地帯に比べてやや南東部に広がっている
のは、気候的に気温が高い地域で年々の気温変動の影響を受けやすいのが理由かもしれない。
図- 147: 実線と左側縦軸は、1980 年から 2004 年の日本の食用米総生産高(単位 1000 トン)。棒グラ
フと右側縦軸(1 メモリ=500×1000 トン)は、その 5 年ランニング平均からの差。
198
図- 148: 1980 年から 2004 年の日本の食用米総生産高の 5 年ランニング平均からの差と、日本域の月
別 JRA-25 地上気温との時間相関係数分布。1 月が左上で、下へ 2 月 3 月と続く。4 月が二列目上、7
月三列目上。
図- 149: 実線と左側縦軸は、1980 年から 2004 年の米国平均の単位面積(1 エーカー)コーン生産高
(単位ブッシェル)。棒グラフと右側縦軸は、その 5 年ランニング平均からの差。
199
図- 150: 1980 年から 2004 年の米国平均の単位面積コーン生産高の 5 年ランニング平均からの差と、
北米域の月別 JRA-25 地上気温との時間相関係数分布。月の配置は、図- 148 と同じ。
図- 151: 1980 年から 2004 年の米国平均の単位面積コーン生産高の 5 年ランニング平均からの差と、
北米域の月平均 JRA-25 地上日射(一列目)
・土壌水分(二列目)・地上湿度(三列目)・降水量(四列目)
との時間相関係数分布。上段は 6 月、中段は 7 月、下段は 8 月の場合。
200
図- 152: 実線と左側縦軸は、1980 年から 2004 年の米国平均の単位面積(1 エーカー)小麦生産高(単
位ブッシェル)。棒グラフと右側縦軸は、その 5 年ランニング平均からの差。
図- 153: 1980 年から 2004 年の米国平均の単位面積小麦生産高の 5 年ランニング平均からの差と、北
米域の月別 JRA-25 地上気温との時間相関係数分布。月の配置は、図- 148 と同じ
図- 151 に、6 月-8 月の月別の地上日射・土壌水分・地上湿度・降水量と米国平均の単位面積あたり
のコーン生産高との相関関係分布を示す。地上気温に見られたような高い相関関係は見られないが、地
理的に見て意味があると認識できるのは、7 月-8 月の五大湖の南で見られる高い地上湿度の傾向である。
この傾向は、低温の夏にコーンの生産高が多いという上記の統計的関係と矛盾しない結果である。
図- 152 に、米国平均の単位面積あたりの小麦生産高の推移を示す。実生産高は、年代とともに増大
している。ここでも、5 年ランニング平均からの偏差を対象に気候要素との関係を調べた。図- 153 は、
1-12 月の北米各地の月平均気温と小麦生産高との時間相関係数分布を示す。米国農務省の資料によ
れば、小麦の生産域は、カンザス州を中心とした冬小麦生産の盛んな地域と、ワシントン州からノースダコ
201
タ州にかけてのカナダとの国境州の春小麦の生産が盛んな地域に分かれる。これらの地域の相関係数
分布を見ると、ワシントン州や隣のモンタナ州で、3 月に 0.4 以上の正の相関関係が見られる。収穫の季
節とはかなりずれているが、消雪が早いと種まきなど農作業も早く開始されて十分な生育期間が確保でき
るという説明も可能である。詳細な調査が必要であるが、夏でなく、収穫期でない春の地上気温と関係が
見られるという点で興味深い。他の月や他の要素では、意味のあるらしい統計関係は見られなかった。
豆類については、夏季の干ばつなどとの関係が考えられるものの、今回の調査では、意味のあるらしい
統計的関係は見られなかった。豆類をひとまとめにした粗い調査であることが関係しているのかもしれな
い。
(まとめ)
衛星観測により求められたユーラシア北部の植生活動は明瞭な季節変化をしており、その年々変動は
地上気温の年々変動により説明できる。その説明のため、JRA-25 の地上気温解析が観測と同等の品質
を持つデータとして利用可能な事が分かった。
このような高品質の JRA-25 データの利用により、地上気温のほか多様な地上気候要素と農産物生産と
の統計的な関係を、限られた農産物が対象ではあったが調査することが出来た。今回の調査では、日本
の米と 8 月の地上気温が正、米国のコーンと 8 月の地上気温が負、米国の小麦と 3 月の地上気温が弱い
正という、多様な関係が統計的に見出された。
(考察)
日本への輸入が多い米国農産物生産高と気候との関係を調査したところ、代表的な 3 種類の農産物と
月平均気候との調査にもかかわらず、念頭においていた日本における米生産高と気候との関係と異なっ
た多様な例を示した。それぞれの関係について、各農産物の生育過程からも理解が進めば、気候情報
や季節予報を提供しようとする側にとって有効な調査資料になると思われる。日本にとって重要な世界各
国の穀物生産に適用することも考えられるが、米国以外の国や地域、特に発展途上国では、農業生産デ
ータの取得と整理には労力を必要とするかもしれない。
地上気温以外の要素について、今回の調査内では高い相関関係は見出せなかったが、今後は、
JRA-25 のこれらの気候要素の品質や農産物生育とこれらの気候要素との生理的な関係なども考慮して、
調査を進めていく必要がある。
4.2 統融合情報による地球温暖化現象の解析18)~20)
(分担研究者名:中島 映至、 所属機関名:東京大学)
目的:
本課題では,各種地球観測データ(気象観測・衛星観測・研究地上観測)や長期再解析気候データを
利用して、気候形成と温暖化現象のモデルシミュレーション結果の検証を行う。特に、温暖化評価の中で
最大不確定性要因の一つであるエアロゾル・雲・放射収支に焦点をあて、地上観測網(SKYNET)の解析
システム、エアロゾル・雲微物理過程のモデル化、CLOUDSAT/CALIPSO データの解析などを開発・統
合することにより、放射強制力の高精度な算定に貢献できる.
202
研究計画と年度別成果の概要
H17 年度:各種地球観測データや長期再解析気候データの収集・内容と構造を調査した。各種モデルの
データ構造と改修を検討した。
H18 年度:大循環気候モデリング結果の整備とウェブへの入力準備を行った。エアロゾルと雲の微物理特
性のモデル改修と衛星データの解析法を確立した。
H19 年度:気候モデリング結果を他分野で利用可能にするための最終整備を行った。エアロゾルと雲に
関するモデルの計算結果と衛星観測データとの比較を行った。
全体の成果まとめ
■気候シミュレーションデータの整備
共生プロジェクトの結果の整備、および多目的利用のために統一的な出力形式による多くのデータセッ
トの作成を行った。表- 22 に WCRP(World Climate Research Programme)/CMIP3(Coupled Model
Intercomparison Project phase 3 プロジェクトに提供したデータを示す。このデータを用いて、世界の研究
者がモデル結果を解析することが可能となり、IPCC の第 4 次報告の結論に非常に大きく貢献した。
MIROC は水平解像度の異なる二つの実験結果を提供している。地球シミュレータの計算資源を最大限
に活用した高解像度実験の結果は、CMIP3 で公開された世界各国計 23 のモデルのうち最も解像度の高
いモデルであり、IPCC の報告にも反映されている。このようなデータ提供を通して、バックグラウンドの異
なる様々な視点からモデルデータが解析されることや、他のモデルとの比較を通じて気候モデルのさらな
る改善につながる。
また、他分野(農業,水産,防災,経済など)での気候モデルの高度利用を目的として、国内のコミュニテ
ィーや民間機関に気候モデルのソースプログラムおよび温暖化予測結果のデータ提供を行った。ここで
は、MIROC による各種計算データのほか、気象の専門家以外を想定したデータ解析用のサンプルプロ
グラムなども参照することができる。これにより、温暖化に代表される気候変化が人間活動へどのような影
響をもたらすのかという影響評価を可能にし、必要な政策や提言を行うことが可能になる。表- 23 に主な
データセットの概要を示す。
表- 22: CMIP3 マルチモデルデータベース
・ウェブ:https://esg.llnl.gov:8443/home/publicHomePage.do;
http://www-pcmdi.llnl.gov/ipcc/data_status_tables.htm
・モデル;miroc3_2_hires(高解像度), miroc3_2_medres(中解像度)
・時間間隔;3 時間値, 日平均値, 月平均値, 年平均値
・ラン数;3(miroc3_2_medres), 1(miroc3_2_hires)
・シナリオ;
1%/year CO2 increase experiment to doubling (1pctto2x)
(miroc3_2_medres, hires)
1%/year CO2 increase experiment to quadrupling (1pctto4x) (miroc3_2_medres)
Climate of the 20th Century experiment (20c3m)
(miroc3_2_medres, hires)
203
2xCO2 equilibrium experiment (2xco2)
(miroc3_2_medres, hires)
AMIP experiment (amip)
(miroc3_2_medres, hires)
Committed climate change experiment (commit)
(miroc3_2_medres)
Pre-industrial control experiment (picntrl)
(miroc3_2_medres, hires)
Slab ocean control experiment (slabcntl)
(miroc3_2_medres, hires)
720 ppm stabilization experiment (sresa1b)
(miroc3_2_medres, hires)
SRES A2 experiment (sresa2)
(miroc3_2_medres)
550 ppm stabilization experiment (sresb1)
(miroc3_2_medres)
・主な変数
東西風,南北風,鉛直速度,気温,比湿,ジオポテンシャル高度,10m 高度東西風,10m 高度南北風,
2m 気温,2m 比湿,地上気圧,海面更正気圧,蒸発量,顕熱フラックス,降水量,正味短波放射,正味長
波放射,下向き短波放射,下向き長波放射,雲量,OLR,降雪量,対流有効位置エネルギー,対流抑
制,地表面温度など
表- 23: 気候モデリングデータベース
・ウェブ:(http://157.82.240.168/~project/ryoiki/index_J.htm)
・モデル;miroc3_2_hires(高解像度)
・時間間隔;3 時間値, 6 時間値, 日平均値, 月平均値
・領域;全球,日本域(日平均値のみ)
・データ形式;フラットバイナリ,MIROC 独自形式(gtool3)
・シナリオ;
Climate of the 20th Century experiment (20c3m)
(miroc3_2_hires)
720 ppm stabilization experiment (sresa1b)
(miroc3_2_hires)
・主な変数;東西風,南北風,鉛直速度,気温,比湿,ジオポテンシャル高度,10m 高度東西風,10m 高
度南北風,2m 気温,2m 比湿,地上気圧,海面更正気圧,蒸発量,顕熱フラックス,降水量,正味短波放
射,正味長波放射,下向き短波放射,下向き長波放射,雲量,OLR,降雪量,対流有効位置エネルギ
ー,対流抑制,地表面温度,など
■衛星データの整備
気候モデルの性能を評価するために各種衛星データを収集し、ウェブに整備し、その一部を公開して
いる。さらに、GMS および NOAA についてはオリジナルデータから独自の手法で二次データ(雲型分類)
を作成した。また、SKYNET からのエアロゾルデータの解析システムを構築した。表- 24 に整備した衛星
データの概要を示す。
204
表- 24: 衛星データの概要
衛星データ
期 間
CloudSat
2006-2007
GMS (MTSAT)
2004: 2006.12-2007.1
ISCCP D2
1983-2005
TRMM PR 3G68
1998-2005
QSCAT
2000-2004
CALIPSO
2006-2007
NOAA
1981-1994
TRMM TMI
1998-2005
TRMM PR 2A25
1998-2005
■モデル整備とデータ利用
整備した観測データとモデル結果を比較・解析した。そのために、MIROC 以外に、全球雲解像モデル
(NICAM)と非静力学雲微物理モデル(NHM+HUCM)を観測データと比較できるように改良した。以下の
その成果の概要をまとめる。
MTSAT-1R の赤外輝度温度と全球雲解像モデル(NICAM)の OLR を用いて西部熱帯太平洋における
対流活動の比較を行った。図- 154 に MTSAT-1R の輝度温度と NICAM の OLR の空間分布を示す。ま
た、図- 155 に海洋大陸域での 208K および 253K 以下の雲域の6日間の時間変化を示す。上層の氷雲
は温室効果を持つ唯一の雲である。図には示さないが CLOUDSAT や CALIPSO 衛星データとの比較も
おこなった。その結果、NICAM は衛星で観測された雲場の特徴を概ね再現しているが、格子間隔が
3.5km のほうが、日変化も含めて現実の対流活動を良く表現していることがわかった。
観測船みらいに搭載された雲レーダーおよび雲ライダーデータを使って、気象庁非静力学モデルによ
って計算された雲の鉛直構造の検証を行った。今回の対象期間は 2001 年 5 月 22 日と 23 日で、日本近
海で行われたみらい観測航海 MR01/K02 の一部である。図- 156 はそれぞれレーダー反射因子強度とラ
イダー後方散乱係数の時間-鉛直分布図であり、実際に観測で得られた値とモデル結果から計算したも
のを比較している。このモデルではビン法雲微物理過程という粒径ごとの雲・氷・降水粒子の濃度を直接
に計算する手法を採用しており、従来の手法よりも直接的にレーダーライダーの観測量と比較可能にな
っている。図ではおよそ高度 4km が氷雲と水雲の境界となっており、4km 以下の水雲の層では観測量を
モデルはよく再現しているものの、4km 以上の氷雲の層ではレーダー反射強度が全体的に過大評価であ
る等、定性的に不整合な点が確認された。現在、全観測データの比較を進めており、ウェブにも公開して
いる。
205
MTSAT の TBB と NICAM の OLR の比較
図- 154: MTSAT-1R の輝度温度と NICAM の OLR の積算分布図(右上、右下)から輝度温度と OLR を
対応させた雲の空間分布を示す(左上、左下)。モデル値は格子サイズが 3.5km のものを示す。
対流雲の面積の日変化(Maritime Continent)
208K
253K
図- 155: 90E-150E の熱帯域における対流の面積の日変化。衛星輝度温度
(○)、3.5km モデル外向き赤外放射量(□)
、同 7km モデル値(◇)
。
206
図- 156: 観測船みらい搭載レーダーライダーデータによる JMA-NHM+HUCM モデルの雲の鉛直構
造の評価。
■まとめ
本研究によって、地球温暖化現象の理解に役立つ気候研究にとって重要なデータセットを整備する方
向性を見いだすことができた。今後は、収集した観測データのなるべく多くをシミュレーションする予定で
ある。また、これまでは、シミュレーションと観測データの単なる比較を行ってきたが、大気組成の物理化
学特性を含めたモデル同化技術を導入して、モデルの改善や観測データの補完を行う必要がある。
5)考察・今後の発展等
1.数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
本研究のサブテーマ(3)テーマ 5「研究地上観測データの統合」で整備される研究用の特別観測データ
を利用することで、通常は検証が困難なプロセスの検証を行い、その結果に基づいてモデルの調整を行
う仕組みを構築した。観測地点が非常に多い CEOP 第 2 期の観測データの提供が開始されなかったため
本研究では観測データの充実によるモデルの改善は実現できなかったが、今後、CEOP 第 2 期の観測デ
ータとの比較が可能になれば、より多くの地点で今回のモデル改良の妥当性を評価し、陸面モデルの更
なる精緻化を進めることができる。
207
2.数値気象予報の高精度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
2.1 水管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
本研究では、筑後川上流域、吉野川上流域、阿賀川上流域の3流域を対象に、検討に用いる分布型
流出モデルの構築、分布型流出モデルの再現計算による精度確認、降水短時間予報(VSRF)の精度評
価、降水短時間予測雨量を利用した予測計算を行える手法を実現し、精度の検証を行った。今後、予測
精度が一層向上すれば、事前放流の実施・中断の判断やただし書き操作(計画規模を超える洪水時に
放流量を増やす操作)のようなダム操作への適用が考えられる。、降水短時間予測雨量を利用してダム操
作を行えると社会的な便益は非常に大きく、その予測精度の向上が期待される。
2.2 大気、陸面、河道結合モデルの開発
本研究で得えられた成果は、アジアの各国においても本システムの利用の可能性を示唆しており、今
後手法の改良を進めながら、さまざまな流域に適用を続けていくことで、アジアモンスーン域の水循環変
動の理解の向上および、同地域での洪水被害の軽減、水資源管理や農業などへの情報提供など、大き
な国際貢献が期待される。
3.農作物の適正管理のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
3.1 農作物管理のための統合的なデータ同化・統合手法の開発
本研究では人間活動(農業)が流域の水循環や農業生産に及ぼす影響の評価を行うこと実現したが,
今後は開発したモデルを気候変動や地球温暖化にともなう水循環や農業生産への影響度予測に利用
できる可能性が広がった。なお、モデルに利用しうるデータの収集に際して,中国長江流は多くの地上観
測情報はあるものの,その入手については大変困難を極めた。しかし,詳細な印刷された地図情報から
必要な情報を逆解析で発生させる検討を行い,その有用性も明らかにした。今後は,逆解析で得られた
データを一連の解析の中に取り入れて,データの統合化にどのように役立つかを検討していく。
一方、イネウンカ類は長距離移動に関しては,ウンカが移出する最新の水田分布を把握する必要があ
った。衛星画像解析より得られた水田分布図の特徴は,中国南部諸省で全域に分布していたため,飛来
予測シミュレーションモデルの飛び立ち域を省単位に変更することや,ウンカの飛び立ちが日の出,日の
入り前後に限定的に起こるため,日の出,日の入り時刻から2分間にウンカが飛び立つように変更すること
で予測精度の向上を図った。今後もウンカの生物学的特性をさらにモデルに組み込むなどして予測精度
を改善していきたい。
3.2 土壌-植生系モデル・統合手法の開発
本研究では嬬恋のキャベツ畑に農地情報観測システムを設置し、畑の画像・日射量・気温・湿度・風
向・風速・降水量・土壌水分量をインターネット経由でリアルタイム観測できるようにした。また、これらのデ
ータを衛星データと融合させ広域の農作物生育あわせて、土壌-植生系モデルに受け渡し、最終的に管
理情報翻訳システムとして提案した。アジアをはじめとする世界の農地を対象にした場合、そこには電源
もなければ通信インフラも望めないことが考えられる。本システムをアジア地域に展開する場合には、こう
した基本的なインフラ(電源とインターネット)を確保することが重要である。今後は、品種ごとに生長量を
予測できるようモデルを改良すると共に、観測した画像データからキャベツの生長量を実測するアルゴリ
ズムを作ることも必要である。本研究により、農作物管理のための基盤技術を示すことができたが、その具
208
体的な運用に関しては実際に利用するユーザとのコミュニケーションを図り、より使い易いシステムにして
ゆくことが重要である。
4.気候情報の高度化のための地球観測統合データ、融合情報の利用研究
4.1 気候同化データの検証および利用の研究
日本への輸入が多い米国農産物生産高と気候との関係を調査したところ、代表的な 3 種類の農産物と
月平均気候との調査にもかかわらず、日本における米生産高と気候との関係と異なった多様な例を示し
た。それぞれの関係について、各農産物の生育過程からも理解が進めば、気候情報や季節予報を提供
しようとする側にとって有効な調査資料になると思われる。日本にとって重要な世界各国の穀物生産に適
用することも考えられるが、米国以外の国や地域、特に発展途上国では、農業生産データの取得と整理
には労力を必要とするかもしれない。地上気温以外の要素について、今回の調査内では高い相関関係
は見出せなかったが、今後は、JRA-25 のこれらの気候要素の品質や農産物生育とこれらの気候要素と
の生理的な関係なども考慮して、調査を進めていく必要がある。
4.2 統融合情報による地球温暖化現象の解析
地球温暖化現象の理解に役立つ気候研究にとって重要なデータセットを整備する方向性を見いだすこ
とができた。今後は、収集した観測データのなるべく多くをシミュレーションする予定である。また、これま
では、シミュレーションと観測データの単なる比較を行ってきたが、大気組成の物理化学特性を含めたモ
デル同化技術を導入して、モデルの改善や観測データの補完を行う必要がある。
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
20 報 (筆頭著者: 6 報、共著者: 14 報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌: 6 報、国外誌: 9 報、書籍出版: 該当なし
3. 口頭発表
招待講演: 10 回、主催・応募講演: 38 回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
2件
1. 原著論文(査読付き)
1) Ahmad, B., D. Yang, T. Koike, H. Ishidaira, Ch. Li and T. Graf: 「Remote Sensing based
Snowmelt Runoff Model coupled with Distributed Hydrological Model in Upper Yellow Rriver
Basin」, Annual Journal of Hydraulic Engineering, JSCE, Vol.49, 331-336,(2005)
2) Oliver SAAVEDRA, Toshio KOIKE, Dawen YANG:「APPLICATION OF A DISTRIBUTED
HYDROLOGICAL MODEL COUPLED WITH DAM OPERATION FOR FLOOD CONTROL
209
PURPOSES」, 水工学論文集 50 巻, 61-66, (2006)
3) Surendra Prasad RAUNIYAR, Mohamad RASMY, Katsunori TAMAGAWA, Kun YANG, Toshio
KOIKE:「PREDICTION SKILL ASSESSMENT OF NWP MODELS IN SIMULATING DIURNAL
CYCLE OF PRECIPITATION」, 水工学論文集 51 巻, 97-102,(2007)
4) Mohamed RASMY, Surendra Prasad RAUNIYAR, Katsunori TAMAGAWA, Kun YANG, Toshio
KOIKE:「ASSESSMENT OF ENERGY BUDGET IN WEATHER FORECASTING GENERAL
CIRCULATION MODELS」, 水工学論文集 51 巻, 1-6,(2007)
5) L. WANG, T. KOIKE, K. YANG, D.YANG, Z. WANG:「Improving the hydrology of SiB2 and its
evaluation using a biosphere hydrological modeling approach」, submitted.
6) Hai, Pham Thanh, Takao Masumoto and Katsuyuki Shimizu: 「Evaluation of Flood Regulation
Role of Paddies in the Lower Mekong River Basin Using a 2D Flood Simulation Model」, Annual
Journal of Hydraulic Engineering, JSCE, Vol. 50, pp.73-78 (2006)
7) 清水克之・増本隆夫:「メコン川流域における農地水利用の分類とマップ化」,地形,第 27 巻第 2
号,pp.235-244 (2006)
8) Hai, P.T., T. Masumoto and K. Shimizu: 「 Modeling of Flooplain Inundation Process in
Low-lying Areas, Advances in Geosciences」, World Scientific Publishing, Vol.4, pp.83-88,
(2006)
9) Shimizu, Katsuyuki, Takao Masumoto and Thanh Hai Pham: 「Factors impacting yields in
rain-fed paddies of the lower Mekong River Basin」, Paddy Water Environ, 4(3), pp.145-151
(2006)
10) Matsuno, Y., K. Nakamura, T. Masumoto, H. Matsui, T. Kato and Y. Sato: 「Prospects for
Multifunctionality of Paddy Rice Cultivation in Japan and other Countries in Monsoon Asia」,
Paddy Water Environ, 4(4), pp.189-197(2006)
11) Masumoto, T., T. Yoshida and T. Kubota: 「An index for evaluating flood-prevention function of
paddies」, Paddy Water Environ, 4(4), pp.205-210 (2006)
12) Masumoto T., Pham T. Hai and K. Shimizu:「Impact of Paddy Irrigation Levels on Floods and
Water Use in the Mekong River Basin」, Hydrological Processes, DOI: 10.1002/hyp.6941 (2008)
13) Tsujimoto K., T. Masumoto and T. Mitsuno:「Seasonal Changes in Radiation and Evaporation
Implied from the Diurnal Distribution of Rainfall in the Lowe Mekong」, Hydrological Processes,
DOI: 10.1002/hyp.6935 (2008)
14) Pham T. Hai, T. Masumoto and K. Shimizu:「Development of a Two-dimensional Finite-Element
Model for Inundation Processes in the Tonle Sap and its Environs」, Hydrological Processes,
DOI: 10.1002/hyp.6942 (2008)
15) Masumoto T., H. Toritani, M. Tada, and A. Shimizu:「Assessment of changes in water cycles on
food production and alternative policy scenarios」, Paddy and Water Environment, 6(1), pp.5-14
(2008)
16) Hayano M., et al.:「Features of the AFFRC Water-Food model for evaluating the relationship
between water cycle and rice production」, Paddy and Water Environment, 6(1) , pp.15-23
(2008)
210
17) Kazuo Oki, Lu Shan, Takuya Saruwatari, Tomoyuki, Suhama, and Kenji Omasa:「Evaluation of
supervised classification algorithms for identifying crops using airborne-hyperspectral data」, Int.
J. Remote Sensing, vol.27, No.10 pp.1993-2002 (2006)
18) Inoue, T., M. Satoh, H. Miura, B. Mapes, 2008: 「Characteristics of cloud size of deep
convection simulated by a global cloud resolving model over the western tropical Pacific」, J.
Meteor. Soc. Japan, accepted,2008
19) Goto, D., T. Takemura, and T. Nakajima, 2008: 「Importance of global aerosol modeling
including secondary organic aerosol formed from monoterpene」, J. Geophys. Res., 113, D07205,
doi:10.1029/2007JD009019, 2008.
20) Nakajima, T., S.-C. Yoon, V. Ramanathan, G.-Y. Shi, T. Takemura, A. Higurashi, T. Takamura,
K. Aoki, B.-J. Sohn, S.-W. Kim, H. Tsuruta1, N. Sugimoto, A. Shimizu, H. Tanimoto, Y. Sawa,
N.-H. Lin, C.-T. Lee, D. Goto, and N. Schutgens1, 2007: 「Overview of the Atmospheric Brown
Cloud East Asian Regional Experiment 2005 and a study of the aerosol direct radiative forcing in
east Asia」, J. Geophys. Res., 112, D24S91, doi:10.1029/2007JD009009,2007.
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1) 増本隆夫・丹治 肇・小川茂男・堀川直紀・力丸 厚・久保純子・宗村広昭・ファム タイン ハイ・ラ
ウション カマール:「アジアモンスーン地域における農業水利用変化予測モデルの開発」,農村工
学研究所報告,46,pp.67-90(2007)
2) 増本隆夫・辻本久美子・宗村広昭:「トンレサップ湖畔と周辺都市・水田域における総合水文気象
観測とデータ解析」,農村工学研究所技報,206,pp.219-236(2007)
3) 松村正哉:「長距離移動性イネウンカ類の近年の発生動向」,九防協年報 2006,11-15, (2007)
4) 大塚彰,松村正哉,渡邊朋也:「海外におけるイネウンカ類の近年の発生状況」,植物防疫,
61(5)249-253,(2007)
5) 渡邊朋也,松村正哉,大塚彰:「トビイロウンカの近年の発生状況と多発生要因」植物防疫,61(5)
245-248,(2007)
6) 釜堀弘隆、尾瀬智昭、高橋清利、千葉長、山崎信雄:「再解析に表現される陸域降水量と土壌水
分」, 日本気象学会2007年度春季大会講演予稿集, Vol91, 346-346,(2000)
国外誌
1) Masumoto, Takao: 「Assessment of changes in water cycles on food production and alternative
scenarios」, Proceedings of the International Conference on “Mekong Research for the People of
the Mekong”, Chiang Rai, pp.17-25, (2006)
2) Pham Thanh Hai, Takao Mausmoto and Rowshon Kamal: 「 A 2D Flood Simulation and its
Application for Evaluating flood Prevention Roles of Paddies in Cambodian Floodplains 」 ,
Proceedings of the International Conference on “Mekong Research for the People of the Mekong”,
Chiang Rai, pp.214-222, (2006)
3) Shimizu, Katsuyuki, Takao Masumoto and Tomoyuki Taniguchi: 「Development of a distributed
211
hydrologic model for assessing effects of agricultural water use on water circulation in
paddy-dominant basins」, Proceedings of the International Conference on “Mekong Research for
the People of the Mekong”, Chiang Rai, pp.103-109, (2006)
4) Rowshon M.K., Amin. M.S.M. and Masumoto, T.:「New Indicators for Characterizing Rice Irrigation
Delivery Performance」, Proceedings of the International Conference on “Mekong Research for the
People of the Mekong”, Chiang Rai, pp. 170-176, (2006)
5) Masumoto, Takao, Tomoyuki Taniguchi, Katsuyuki Shimizu, Naoki Horikawa and Takeo Yoshida:
「 A Distributed Hydrologic Model for Characterizing and Assessing Human Interaction in
Agricultural Water Use」, PAWEES 2007 6th International Conference, Soul, pp.88-107, (2007)
6) Masaru Mizoguchi, Shoichi Mitsuishi, Tetsu Ito, Seishi Ninomiya, Masayuki Hirafuji, Tokihiro
Fukatsu, Takuji Kiura, Kei Tanaka, Hitoshi Toritani and Kiyoshi Honda: 「 Soil Information
Monitoring using Field Server at Agricltural Fields in Asia」, Proceedings of Eighth Conference of
the East and Southeast Asian Federation of Soil Science, ESAFS 8, 275, Tsukuba,(2007)
7) Masaru Mizoguchi, Shoichi Mitsuishi, Tetsu Ito, Kazuo Oki, Seishi Ninomiya, Masayuki Hirafuji,
Tokihiro Fukatsu, Takuji Kiura, Kei Tanaka, Hitoshi Toritani, Hiromasa Hamada, and Kiyoshi
Honda: 「Real-time monitoring of soil information in agricultural fields in Asia using Field server」,
Proceedings of 1st Global workshop on High Resolution Digital Soil Sensing and Mapping, 19,
Sydney-Australia,(2008)
8) Ose, T. and H. Kamahori: 「Verification of JRA-25 land surface with CEOP data」, Extended
Abstract for 3rd WCRP International Conference on Reanalysis , (2008)
9) Kamahori, H., T. Ose, K. Takahashi, M. Chiba, and N. Yamazaki: 「Relationship between Surface
Temperature in JRA-25 and Vegetation 」 Extended Abstract for 3rd WCRP International
Conference on Reanalysis, (2008)
3. 口頭発表
招待講演
1) Toshio Koike:「Asian Water Cycle Initiative (AWCI) Contributing to Global Earth Observation
System of Systems (GEOSS)」,Bangkok, Distinguished Lecture, Hydrological Science Session,
the 4th Annual Meeting, Asia and Oceanic Geophysics Society (AOGS) , 2007.7.31.
2) 増本隆夫:「アジアモンスーン地域における水資源変動と水田農業の持続可能性」,日本農業
気象学会 2007 年石垣大会シンポジウム『東南アジアから視る九州沖縄農業の多様性と持続的
発展』,日本農業気象学会, pp.115-119,(2007)
3) 増本隆夫:「地球規模の水循環変動が農業用水に及ぼす影響と対策」,農業農村工学会公開
シンポジウム「地球温暖化と農業資源」,星陵会館,pp.49-59,(2007)
4) 大塚彰,松村正哉,渡邊朋也,Dinh VT:「An analysis of the first step migration of the East
Asian population」,熊本市,International Workshop on Forecasting and Management of Rice
Planthoppers in East Asia: Their Ecology and Genteics,2007.12.5
5) 渡邊朋也,松村正哉,大塚彰:「Recent occurrences of long-distance migratory planthoppers
and factors causing the outbreaks in Japan」,熊本市,International Workshop on Forecasting
212
and Management of Rice Planthoppers in East Asia: Their Ecology and Genteics,2007.12.5
6) 松村正哉:「Recent status of insecticide resistance, virulence to resistant rice varieties, and
wing-form ratio in Japanese immigrants of the brown planthopper」,中国杭州市浙江大学,
International Symposium on Rice Planthoppers: New Development in Ecology and Management,
2006.5.16
7) 渡邊朋也:「Recent occurrences and problems of rice planthoppers in Japan」,中国杭州市浙江
大 学 , International Symposium on Rice Planthoppers: New Development in Ecology and
Management,2006.5.16
8) 松村正哉,大塚彰,渡邊朋也:「Migration prediction and monitoring of rice planthoppers in
Japan 」 , 糸 満 市 , International Symposium on Area-Wide Management of Insect Pests ,
2006.10.2
9) Masaru Mizoguchi: 「Current Status and Prospect for Real-time Soil Information Monitoring by
Field Server 」 , Sunchon National University, Korea , 韓 ・ 日 u- 農 業 共 同 ワ ー ク シ ョ ッ プ ,
2006.10.30
10) Onogi, K. 「 The JRA-25 Reanalysis 」 , 東 大 生 産 技 術 研 究 所 、 3rd WCRP International
Conference on Reanalysis. 2008.1.28
主催・応募講演
1)
K. Yang,T. Koike, P. Stackhouse, C. Mikovitz:「Evaluate the accuracy of surface radiation
budget of satellite products and GCM outputs in the Tibetan Plateau.」, Austria, EGU
General Assembly 2006,2006.4.4
2)
T. Koike: 「Toward Comprehensive Understanding of the Roles of the Tibetan Plateau in the
Asian Monsoon」, Lhasa, International workshop on energy and water cycle over the Tibetan
Plateau, 2006.9.2-11
3)
Kun Yang, Toshio Koike, Hirohiko Ishikawa, Joon Kim, Xin Li, Huizhi Liu, Shaomin Liu,
Yaoming Ma, Jieming Wang:「Surface Flux Parameterization Schemes for Bare Soil Surfaces」,
Chiang Mai, Physics and Scheme Evaluation, Asia Flux Workshop2006, 2006.11.30
4)
Kun YANG, Mohamed RASMY, Surendra RAUNIYAR, Toshio KOIKE:「An Assessment of
Prediction Skill of Operational General Circulation Models and Land Surface Models」, San
Francisco, AGU Fall Meeting 2006, 2006.12.12
5)
Toshio Koike:「Downscaling Coupled with Satellite-based Data Assimilation」, Bangkok,
AOGS2007 4th Annual meeting, 2007.7.31
6)
M. Hirai: 「JMA's contribution to CEOP in an NWP aspect」, バリ(インドネシア), CEOP 第
7 回実行計画会議, 2007.9.7
7)
大塚彰,松村正哉,渡邊朋也:「イネウンカ類長距離移動シミュレーションモデルの改良」,
熊本市,第 75 回九州病害虫研究会,2008.1.31
8)
大塚彰,冨久尾歩:「MODIS を用いたイネウンカ類飛来源地域の情報(1)台湾の水田分布
図作成」,横浜市パシフィコ横浜,日本測量学会年次学術講演会,2006.7.6
9)
大塚彰,松村正哉,渡邊朋也,Dinh Van Thanh:「イネウンカ類のベトナム北部からの移出
213
移動の解析」、広島大学,第 51 回日本応用動物昆虫学会大会,2007.3.28
10) Masaru Mizoguchi, Masayuki Hirafuji, Tokihiro Fukatsu, Takuji Kiura, Kazuya Fujisawa,
Mitsuru Wada, and Seishi Ninomiya:「Spatial and Continuous Soil Information Monitoring by
Field Server」,Philadelphia, 18th World Congress of Soil Science,2006.7.9
11) Masaru Mizoguchi, Kosuke Noborio, Kazuo Oki, Kiyoshi Honda:「Monitoring of Soil Water
Movement in a Hilslope Cabbage Field using the Field Server System」,Indianapolis,The
ASA-CSSA-SSSA International Annual Meetings, 2006.11.14
12) 溝口勝・三石正一・沖一雄・林和男: 「フィールドサーバによる畑のリアルタイム土壌情報モ
ニタリング」, 札幌,第 48 回土壌物理学会シンポジウム, 2006.10.14
13) Sakamoto, M.:「A follow study of the TOVS application for the Japanese Climate Reanalysis;
JRA-25」、イタリア・マラテア, The 15th International TOVS Study Conference、2006.10.7
14) Harada, Y.:「The relationship between MJO and extra-tropical atmospheric circulation and
climate in Japan」、米国・ボルダー、NOAA 31st Annual Climate Diagnostics and Prediction
Workshop, 2006.10.26
15) Tanaka, S.: 「 Weather and climate information services for socio-economic benefit:
challenges in Japan」,米国・シアトル,Climate Prediction Application Science Workshop,
2007.3.21
16) Takaya, Y.: 「 Seasonal Prediction Skill in the New ENSO Forecast System at Japan
Meteorological Agency」, スペイン・バルセロナ、WCRP Workshop on Seasonal Prediction,
2007.6.7
17) Harada, Y.:「Analysis of large scale circulation inducing heavy rainfall in Japan, July 2007」、
米国・タラハセー、NOAA 32nd Annual Climate Diagnostics and Prediction Workshop,
2007.10.25
18) 釜堀弘隆、尾瀬智昭、高橋清利、千葉長、山崎信雄:「再解析に表現される陸域降水量と
土壌水分」,国立オリンピック記念青少年総合センター,日本気象学会2007年度春季大会,
2007.5.15
19) Nakajima, T., M. Mukai, K. Suzuki, T. Takemura, D. Gotoh, T. Iguchi:「Climate Forcing by
Anthropogenic Greenhouse Gases and Aerosols.」Beijing, Proc. Third China-Korea-Japan
Joint Conference on Meteorology, 83-83, 2007.11.14-16.
20) Iguchi, T., Nakajima, T., Khain, A., Saito, K., Takemura, T., Okamoto, H.,and Nishizawa,
T.:「A Simulation of Vertical Structure of Frontal Cloud Using a Bin Cloud Microphysical
Model」Norfolk, USA、Atmospheric Radiation Measurement (ARM) Science Team Meeting、
2008.3.10-14
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
1) Toshio Koike, Meraj Khalid Award 2006-7,「Pakistan-Japan Joint Seminar at Lahore Collage for
214
Women University」,2008.1
2) Toshio Koike, Contribution to the IPCC Novel Peace Prize, 「WMO and UNEP」,2008.3
215
(5)サブテーマ5:研究進捗管理
(分担研究者名:柴崎 亮介、 所属機関名:東京大学)
研究運営委員会を研究実施者から5名(1名逝去のため18年度2月から4名),外部有識者から6名で組
織し,年2回の運営委員会を開催して,成果を評価するとともに,次のステップの方向性を議論した.また,
必要に応じてデータ統合分科会を開催し,各分野の研究進捗度を確認し成果の取り纏めを実施した.
なお,採択時に「まずデータベースの仕様設計等を固め、試験的にデータを入力するなどして,その
有効性を評価すること。その上で、本格的なデータベース構築に移行すること」というコメントをいただいて
いたことから,初年度,2年度目にはデータの利用研究者の要望を体系的,網羅的にくみ上げ,かつ優先
順位を明確にすることに時間を割いた.具体的には初年度にはサブテーマ3と4に関して合同分科会を
集中的に開催し,システム整備担当者(主にサブテーマ1と2)も交えて,必要となるデータ,その重要性,
整備の緊急度などを議論し,合意形成を行い,システムの仕様決定や設計に反映させた.2年度目には
データ分科会と名称を変えつつ,データの作成や投入の進捗状況,システムの開発状況などとの調整な
ども行った.その結果,2年度までにほぼこうした調整が収束し,3年度目にはシステムの実装や実証実験,
成果のとりまとめなどに集中することが可能となった.
このように途中で研究代表者の死去という試練はあったものの研究計画に支障をきたすことはなく,当
初の計画に従って研究運営を非常に順調かつ円滑に進めることができた.
研究運営委員会委員一覧
氏名
所属機関
備考
故 高木 幹雄
芝浦工業大学 大学院工学研究科
平成 18 年 1 月まで
◎柴崎 亮介
東京大学 空間情報科学研究センター
(研究実施者)
喜連川 優
東京大学 生産技術研究所
小池 俊雄
東京大学 大学院工学系研究科
二宮 正士
(独) 農業・食品産業技術総合研究機構
(外部有識者)
渡邊 康正
文部科学省 地球・環境科学技術推進室
平成 17 年度
中谷 誠
農林水産省 農林水産技術会議事務局
平成 17 年度
藤山 秀章
国土交通省 河川局河川情報対策室
平成 17 年度
丸山 弘通
国土地理院 地理調査部
平成 17 年度
露木 義
気象庁 予報部数値予報課
平成 17 年度
中静 透
東北大学 生命科学研究科
平成 17~19 年度
坂本 修一
文部科学省 地球・環境科学技術推進室
平成 18 年度
小泉 健
農林水産省 農林水産技術会議事務局
平成 18 年度
湯本 修一
文部科学省 地球・環境科学技術推進室
平成 19 年度
216
大谷 敏郎
農林水産省 農林水産技術会議事務局
平成 19 年度
山田 邦博
国土交通省 河川局河川情報対策室
平成 19 年度
福島 芳和
国土地理院 地理調査部
平成 19 年度
永田 雅
気象庁 予報部数値予報課
平成 19 年度
◎研究運営委員長
会議一覧
会議
開催日
開催場所
平
第 1 回全体会議,運営委員会
平成 17 年 8 月 10 日
東京大学生産技術研究所
成
サブテーマ3関連グループ分科
平成 17 年 9 月 27 日
芝浦工業大学
17
会
年
サブテーマ3・4合同分科会
平成 17 年 11 月 24 日
芝浦工業大学
度
第 2 回全体会議,運営委員会
平成 18 年 2 月 28 日
東京大学小柴ホール
平
第 1 回全体会議,運営委員会
平成 18 年 8 月 9 日
東京大学生産技術研究所
成
第 1 回データ分科会
平成 18 年 11 月 16 日
東京大学工学部
18
第 2 回データ分科会
平成 18 年 12 月 27 日
東京大学工学部
年
第 3 回データ分科会
平成 19 年 2 月 5 日
東京大学工学部
度
第 2 回全体会議,運営委員会
平成 19 年 3 月 26 日
東京大学生産技術研究所
平
第 1 回全体会議,運営委員会
平成 19 年 7 月 30 日
東京大学工学部
成
第 2 回全体会議,運営委員会
平成 20 年 2 月 25 日
東京大学生産技術研究所
19
年
度
<平成17年度>
○第1回全体会議,運営委員会
年度当初計画した研究計画を実施に移すための議論を行うため、研究参画者と運営委員による、
全体会合と運営委員会を兼ねたキックオフ会議を開催した.
○サブテーマ3関連グループ分科会
本研究課題で集めることが可能なデータの検討を目的に,サブテーマ3のグループに所属する担
当者との間で議論した.
○サブテーマ3・4合同分科会
データの提供グループ(サブテーマ3)とそのデータを実利用へ適用化する研究グループ(サ
ブテーマ4)との合同分科会を平成17年11月24日に芝浦工業大学で実施した.
217
○第2回全体会議,運営委員会
本年度の研究成果を発表する場として、東京大学小柴ホールにて公開研究会を行うと同時に運
営委員会を開催した.
<平成18年度>
○第1回全体会議,運営委員会
各分担研究担当者からの個別の研究成果に関する報告の後,個別の技術開発を進める一方でグ
ループ間の連携により単独では出せない成果を挙げる方法について議論した.
○第1回データ分科会
グループ間の連携にあたり,データ提供者とデータ利用者の間でニーズの吸い上げと調整を行った.よ
り具体的には,実際にデータを通信するにあたり,フォーマット,変換をどうするかといった議論を行った.
○第2回データ分科会
前回の分科会で挙がったアクションアイテムについて整理し,それに対する各担当者の対応状況につ
いて報告した.特定の担当者に限らず,全体として共通する問題については,全員で意見を出し合い議
論した.
○第3回データ分科会
グループをまたいだ共通の活動,例えば特定のデータの連携あるいは今後開催されるシンポジウムな
どについて,意見を交換した.
○第2回全体会議,運営委員会
各研究グループ,各分担研究テーマの研究進捗状況について報告するとともに,プロジェクト
をとりまく国内外の状況についてメンバー全体で意見交換,情報共有をした上で,今後の方針に
ついて議論した.
<平成19年度>
○第1回全体会議,運営委員会
全体会議では、グループ1~4の研究進捗調整と成果の取り纏めを行った.研究運営委員会で
は,外部有識者を交え,本課題の研究開発内容についてレビューし,これまでに得られた成果に
ついて評価した後,今後の方向性を明確にした.
○第2回全体会議,運営委員会
全体会議では、各分担研究担当者からの成果の報告の後,本課題全体としての成果の取り纏め
の方針について議論した.研究運営委員会では,研究実施者,外部有識者のそれぞれから本課題の
総括を行った後,実施期間終了後の取り組みについて話し合った.
218
(6)サブテーマ6:アウトリーチ
(分担研究者名:柴崎 亮介、 所属機関名:東京大学)
1)要旨
本研究課題は、世界的最高レベルにあるわが国の地球観測およびデータ統合、情報融合の技術をも
とに、わが国の研究活動を支える知的基盤整備を目指すものである.そこで本サブテーマでは、アウトリ
ーチ活動として,これを広く国民に紹介し、また中学、高校生に分かり易く解説する。
2)目標と目標に対する結果
① 目標:公開シンポジウムの開催
結果:各年度に公開シンポジウムを開催し,当初の目標を達成した.
② 目標:一般市民を対象とした情報発信活動
結果:東京大学本郷キャンパス,東京大学生産技術研究所,柏キャンパス等で開催される一般公
開・オープンキャンパスを中心に,一般国民に情報発信活動を行った.中高生による数百名規模の
見学ツアーも盛んに訪れ,研究の面白さを伝えることができた.
目標を上回る成果:平成19年11~12月にかけて南アフリカ・ケープタウンでGEO(地球観測グループ.
全球地球観測システムの母体となっている国際機関)が主催した大臣サミットで各国の高官,報道機
関に対して上記プロモーションビデオが上映されるなど,有効な情報発信を行うことができた.その他,
東アジア各国からの参加者も多い,我が国最大級の測量・画像計測技術のイベント「測量設計システ
ム展2007」(参加者約2万人)にも参加し,測量・画像計測技術とも深く関わる本研究について紹介し
た.これらのことにより,当初の目標以上の成果を挙げることができたと考える.
③ 目標:プロモーションビデオの作成
結果:衛星データ、地上観測データやモデル出力データの多様な地球観測に関わるデータや河川
管理情報や地理情報などと統合して得られる情報を融合させ、科学的・社会的に有用な情報へと変
換する内容のデモンストレーションビデオを作成し、一般市民を対象としたアウトリーチ活動の場で上
映、また、配布を行った。このような活動により、当初の目標を達成できた。
3)研究方法
研究の計画、進捗状況、成果の紹介シンポジウムを各年度に開催する。また、参画主要機関の一つで
ある東京大学で毎年開催される一般公開の折に、地球観測データを実社会に利用する事例などの紹介
を通して、研究内容を広く一般に紹介する。高校生にはオープンキャンパスの機会に研究室を公開し、
研究内容の面白さを伝える。さらに、中・高教育の副教材になるようなプロモーションビデオを企画し、作
製する。
4)研究結果
219
1. 公開シンポジウムの開催
<17年度>
○一般講演会 「地球観測データ統融合が拓く安心・安全社会」
平成17年度はアウトリーチ活動として、一般市民を対象に、平成18年2月28日に、東京大学小柴ホール
にて本研究計画の紹介を目的とした一般講演会を実施した。
発表者と発表タイトルは次のとおりである。
一般講演会 「地球観測データ統融合が拓く安心・安全社会」
1.「地球観測データ統合・情報融合基盤技術の開発」
柴崎 亮介 (東京大学 空間情報科学研究センター)
2.「爆発的に増え続ける巨大なデータとの戦い:ITの先端と地球環境研究の融合」
喜連川 優 (東京大学 生産技術研究所)
3.「世界の気象データベースとつなぐ」
二宮 正士 ((独) 農業・生物系特定産業技術研究機構)
4.「洪水に挑む地球観測」
小池 俊雄 (東京大学 大学院工学系研究科)
参加者は、本研究の関係者はじめ、民間企業や他の大学を中心に全体で56名であり、
本研究課題の目的や必要性を十分に示すことができた。
図- 157: 一般講演会 「地球観測データ統融合が拓く安心・安全社会」ポスター
<18年度>
○第2回アジア水循環シンポジウム
本シンポジウムは,地球観測に関する政府間会合(GEO)とわが国の関係機関が協力し,様々な地球
観測データ,モデルを組み合わせて,水分野の意思決定に反映できるアジア域でのデモンストレーション
220
プロジェクトの紹介・提案とそれらの構造化について議論し,同時に観測データの交換と共有のためのポ
リシーづくりを行うことを目的として行なわれた.参加者には,アジア地域を中心に世界29ヶ国から,研究
者・政策決定者などが含まれている.
シンポジウムでは,まず,アジア18各国(バングラディシュ,ブータン,カンボジア,中国,インド,インド
ネシア,日本,韓国,ラオス,モンゴル,ミャンマー,ネパール,パキスタン,フィリピン,スリランカ,タイ,ウ
ズベキスタン,ベトナム)における水に関わる,災害(洪水・地すべり),水不足,水質,河川・水管理,気候
変動への影響などの問題や国家レベルでのプロジェクトの紹介が行われた.
次に,既存の水循環にかかわる国際的な研究プロジェクトとして,12件(「水災害・リスクマネジメント国
際センター(ICHARM)」,「国連大学(UNU)」,「メコン川委員会(MRC),「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」,
「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」,「地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁(OCCCO)」,「全地
球水システムプロジェクト(GWSP)」,「統合地球水循環強化観測プロジェクト(CEOP)」,「モンスーンアジア
水文気候研究計画(MAHASRI)」,「モンスーンアジアにおける持続的社会達成のためのプログラム
(MAIRS),「非観測流域における水文予測(PUB)」,「地球観測システム構築推進プラン(JEPP)」」の紹介が
行われた.
そして以上の問題を解決するために,地球規模で観測されている衛星観測・地上観測データや数値
モデル出力を統融合し,各国が直面している水問題に対して政策決定者の判断材料となる有用な情報
を生み出すことが可能な本科振費研究プロジェクトの紹介と本プロジェクトで開発したシステムの紹介を
行い,参加各国への本研究プロジェクトの宣伝,普及をおこなった.
以上の状況は165名が参加した一般講演会として,同時通訳により一般国民に向けて公開・宣伝され
た.本課題の研究成果が国内のみならずアジア地域における科学的・社会的要求に大きな貢献を果たし
ていることに対して,わが国の一般国民から深い理解と広い共感を得るためである.
本シンポジウムのために作成し,公開・配布したポスターを以下に記す.
図- 158:第 2 回アジア水循環シンポジウム一般講演会ポスター
221
<19年度>
○第3回アジア水循環シンポジウム
大分県別府市にて開催された、第1回アジア・太平洋水サミットのオープンイベントとして、「第3回アジ
ア水循環シンポジウム」を開催した。このシンポジウムには、アジア地域を中心に世界19ヶ国から84名の
研究者・技術者・政策決定者等の参加を得た。
本シンポジウムでは,現在アジアの各国が直面している「水」に関する問題を解決するために、地球規
模で観測されている衛星観測・地上観測データや数値モデル出力のデータを統融合し、各国が直面し
ている水問題に対して政策決定者の判断材料となる有用な情報を生み出すことが可能な本科振費研究
プロジェクトの紹介と本プロジェクトで開発したシステムの紹介を行い、参加各国代表者間において、共
同研究に対する連携体制を固めた。同時に、アジア各国代表、洪水・旱魃・水質汚染の各ワーキンググ
ループ共同議長、国連大学、宇宙航空研究開発機構、東京大学などの代表からなる国際調整グループ
によって、取りまとめ作業をおこなっていた、アジア水循環イニシアチブ(AWCI)実施計画文書のさらなる
議論の後、文書の採択が行われ、さらに、各国間で連携しつつ、能力開発のワークショップの枠組みなど
を議論していくことで、能力開発の実行計画についても、合意を得た。
以上の模様を日英・英日同時通訳の一般講演会として公開することによって,本シンポジウムは84名
の参加者があり,参加した一般市民に対して,水・食料・災害などの問題を通して,現在地球規模で何が
起こっているのかについて理解を深めてもらうことができた.特に,第1回アジア・太平洋水サミットの影響
もあり,大分県内四大学(大分大学、日本文理大学、別府大学、立命館アジア太平洋大学)の学生の参
加などが目立った.
また,アウトリーチの一環として作成したデモンストレーションビデオを配給することによって,専門的で
難しくなりがちな本課題の内容について,わかりやすく紹介することができた.希望者に対しては,DVDを
配布することによって,普及活動にも努めた.
本シンポジウムのために作成し,公開・配布したポスターを以下に記す.
図- 159: :第 3 回アジア水循環シンポジウム一般講演会ポスター
222
2. 一般市民を対象とした情報発信活動
<17年度>
○東京大学オープンキャンパス
平成17年8月2日(火)に本郷キャンパスで実施された「高校生のための東大オープンキンパス2005」
において、河川研究室の公開を行った。午前2回と午後2回における研究室ツアーの場において、100
名を超える高校生に、小池教授からパワーポイントとポスターを用いて地球観測データ統融合研究の目
的・必要性を紹介した。
(参考URL: 東京大学学内広報No.1319: http://www.u-tokyo.ac.jp/gen03/kouhou/1319/no1319.pdf)
<18年度>
○東京大学 生産技術研究所 一般公開(平成18年6月1日-3日)
東京大学の駒場リサーチキャンパスに立地する生産技術研究所にて開催された一般公開・オープンキ
ャンパス(生研公開2006)にて,研究参加者の中で本研究所に在籍するメンバー(本課題の分担研究担
当者である喜連川,柴崎,安岡の所属研究室のメンバー)を中心に,本課題の研究内容に関するポスタ
ーを展示して説明を行った.生研公開は例年平日に行われていたが,今年は土曜日も加えた3日間開
催となり、家族連れなど従来にはあまりいなかった層の訪問者が増えたのが特徴となっている.
また,所内の教職員と学生によるグループSNG(Scientists for the Next Generation !)の企画により,15
校319 名の中学生、高校生が訪問していた.ゆえに,公開期間中は,制服姿の学生が研究室を見て回り,
メモを片手に説明係の学生や先生方に質問している姿をあちこちで見掛けることができる.こうした,科学
技術に関心を持つ中学生、高校生に向けて本課題の研究内容を紹介できたことは大きな成果だと考え
ている.
(参考URL:生研ニュースNo101:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/topics/IISNEWS/IISNEWS101.pdf)
○東京大学 空間情報科学研究センター 第9回年次シンポジウム(平成18年10月4日,5日)
東京大学の柏キャンパス内で開催された空間情報科学研究センター第9回年次シンポジウム(CSIS
DAYS 2006)にて,本課題「地球観測データ統合/情報融合基盤技術の開発」紹介用の特別セッションを
設け,研究参加者の中で本研究所に在籍するメンバー(空間情報科学研究センター所属の柴崎,小口,
生駒の所属研究室のメンバー)を中心に,本課題の研究内容に関する発表およびポスター展示を行った.
公式ホームページによると,参加者が300名以上と発表されている.
(参考URL:CSIS DAYS 2006:http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/sympo2006/)
<19年度>
○東京大学 駒場リサーチキャンパス 一般公開(平成19年5月31日-6月2日)
東京大学の駒場リサーチキャンパスに立地する生産技術研究所にて開催された一般公開・オープンキ
ャンパスにて,研究参加者の中で本研究所に在籍するメンバー(本課題の分担研究担当者である喜連川,
柴崎,安岡の所属研究室のメンバー)を中心に,本課題の研究内容に関するポスターを展示して説明を
行った.
19年度より生産技術研究所だけでなく,先端科学技術研究センターとも相談し,「駒場リサーチキャン
パス公開」として一元的な共同開催となった.公開されている生研ニュースNo.107によれば,電車(小田
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急線)での中吊り広告などの新しい試みがなされた結果,来訪者は昨年より2,000名以上増加したとのこと
である.また,19年度の中高生の来場者数は,中学・高校10校と個人の参加を合わせ3日間で約380名と
発表されている.
(参考URL:生研ニュースNo107:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/topics/IISNEWS/IISNEWS107.pdf)
○全国測量技術大会2007(平成19年6月20日-22日)
全国測量技術大会は,測量技術の重要性および意義に対する一般の理解と関心を得るため,「測量
の日」(6月3日)の関連行事として,毎年6月頃開催されている.主催は(社)日本測量協会,(社)全国測
量設計業協会連合会,(中)日本測量機器工業会,(財)日本測量調査技術協会の4団体.それから,関
連する協会・学会など,24機関が協賛するイベントである.なお,同大会には,アメリカ/イギリス/ドイツ/カ
ナダ/韓国/中国などの海外メーカーも出展しており,この展示会は東アジア地域でも最大級のものであ
る.特に韓国や中国からの来場者数が年々増加しており,公式ホームページによれば,3日間の来場者
数は21,067名と発表されている.
同大会において,測量/地図/空間情報関連の76の出展企業や団体により,空間情報に関する新しい
機器やシステムの展示が行われる「測量・設計システム展2007」のブースにて, 本課題の概要を紹介す
るポスター発表を行った.規模の大きなイベントであるため,限られた専門家のみならず,広く一般市民に
紹介することができ,非常に有意義な活動であったと考えている.
(参考URL:http://www.jsurvey.jp/geoforum2007.htm)
○東京大学 柏キャンパス 一般公開(平成19年10月26日-27日)
東京大学柏キャンパスにて,宇宙線研究所,物性研究所,新領域創成科学科,気候システム研究セン
ター,空間情報科学研究センター,高温プラズマ研究センター,人工物工学研究センターらが合同して,
それぞれの研究内容について一般公開を行った.
この東京大学柏キャンパス一般公開において,研究参加者の中で柏キャンパスに在籍するメンバー
(本課題の分担研究担当者である柴崎,生駒の所属研究室のメンバー)を中心に,本課題の研究内容に
関するポスターを展示して説明を行った.
(参考URL:http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/japanese/news/OpenCampus2007.pdf)
○東京大学 空間情報科学研究センター 第10回年次シンポジウム(平成19年11月1日,2日)
東京大学の柏キャンパス内で開催された空間情報科学研究センター第10回年次シンポジウム(CSIS
DAYS 2007)にて,研究参加者の中で本研究所に在籍するメンバー(空間情報科学研究センター所属の
柴崎,小口,生駒の所属研究室のメンバー)を中心に,本課題の研究内容に関する発表およびポスター
展示を行った.
(参考URL:CSIS DAYS 2007:http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/csisdays2007/)
3. プロモーションビデオの作成
平成17年度、平成18年度と各サブテーマ代表者とともにデモンストテーションビデオのストーリーやコン
テンツについて構想を練り、平成19年度に具体的に素材を収集し作成しデモンストレーションビデオ
(DVD)を作成した。平成19年11~12月にケープタウンで実施された、GEO の大臣サミットと全体会議,
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アジア水循環シンポジウムの場でも政府高官から報道機関,一般市民と言った幅広い聴衆向けに上映さ
れるとともに、一般市民を対象としたアウトリーチ活動の場で、上映・配布を行うなどこれらの活動を通して、
本研究課題の普及に貢献した。
なお,中高生に効果的に配布できる機会は毎年6月,10月に開催されるキャンパス一般公開であるた
め,課題終了後の平成20年度にも引き続きプロモーションビデオ配布と研究成果の展示ブース開設を行
う予定である.
5)考察・今後の発展等
近年,気候変動に対する関心が非常に高まっている.特に,水問題,さらには穀物価格の急騰に起因
する食糧問題などに対する関心が高い.関心の高まりは歓迎すべきことではあるが,センセーショナルか
つ断片的に取り上げる報道も少なくなく,対症療法としての短期的な対応策にのみ関心が向いたり,単な
る流行として関心がフェードアウトする危険性も懸念される.気候変動に関する課題は多くの側面が絡み
合った複雑なシステムを構成しており,その因果連鎖,全体構造がどうなっているのかを解明するために
は,継続的な地球観測とその統合が不可欠であることを継続的に分かり易く訴え続けることが必要である.
衛星画像などの視覚的なインパクトに加え,本研究の成果として得られた大規模データの視覚化手法や
大規模データアーカイブ,データ同化手法による予測精度の向上効果などは,複雑な地球環境問題を
体系的かつビジュアルに示すことのできる非常に優れた材料である.そこでプロモーションビデオだけで
なく,マスコミと連携した特集番組などの検討を継続的に進めていく必要があろう.
一方,地球環境問題は将来に渡る長期間の問題でもある.そのため,次世代に情報発信することは極
めて重要である.東京大学等のオープンキャンパス等を通じて,教育機関が中・高校生に向けてこのよう
な問題に真剣に取り組んでいるという姿勢を見せることは,社会的にも大きな貢献を果たすことになる.こ
のような活動は今後も継続する.
また,地球環境問題に関する国際的な検討の枠組みも,GEOを始めとして数多く立ち上がってきてお
り,その枠組みをどう作るか,その中でどう振る舞うかが国益に深く関連するケースも多くなってきている.
地球観測データの統融合を目的とした組織横断的な大型ナショナルプロジェクトを実施している国は,我
が国以外になく,GEOなどを中心としてこうした国際的な枠組みの中で,プレゼンスを向上し,リーダシッ
プを発揮するために,情報発信だけでなく,本システムに海外の機関を取り込むような取り組みへと発展
させることが必要である.本プロジェクトではその技術的な基礎が構築され,さらに国家基幹技術による
「データ統合・解析システム」へと引き継がれることから,この点に関しても今後の成果が期待される.
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Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性
データの蓄積、管理やシステムの改良・運用、利用者の拡大などを継続的に進めていくためには、い
わゆる研究開発組織だけで進めることは適切ではなく、定常的な運用組織にゆだねることが必要である。
採択コメントにある「研究終了後の継続性(データベースセンターの設立、維持や後継者育成)を確保す
ること」はこうした状況を懸念してのことと推察される。
しかし利用ニーズの高度化・多様化・拡大化、データの量・質などデータ環境の急激な変化、技術環
境の急激な高度化なども同時に予想されることから、単に利用者のニーズに基づきシステムやデータの
改善を段階的に行うだけの運用組織では、地球環境科学の発展や課題解決のための政策的意志決定
を支える基盤を、長期にわたり持続的に維持することはできないと思われる。
持続的発展的に基盤を維持・運用するためには、絶え間なく高度化するデータ環境や技術環境のな
かで、データ統合・情報融合基盤を常に発展させ、進化させることのできる研究開発組織と、そうした知識
と経験のある人材を供給し続けることのできる教育組織が、継続的なデータ作成や品質管理、利用者支
援などに強みのある定常運用的機関と共に連携して、データ統合・情報融合基盤を支える体制を築くべ
きであるというアイディアが、本研究の参加機関を中心として本研究の開始時点から議論された。
東京大学では、地球観測分野、情報科学技術分野、災害や農業などの公共的利益分野を担う部局の
研究グループが相互に協力して連携研究機構を組織し、地球観測データを効果的、効率的に統合し、
情報を融合する実証的なデータシステムを開発し、地球環境変動の理解、予測、対応策におけるブレー
クスルーとなる研究成果を世界に先駆けて発信し、国内外の研究、技術開発、現業機関と協力して、公
共的利益分野への適用事例を拡張、展開するとともに、情報を定常的に利用するシステムを開発する組
織として、学内7部局が協力する地球観測データ統融合連携研究機構が平成 18 年 4 月に発足させた。
また、平成 18 年度からはじまった第3期科学技術基本計画の策定に当たっては「海洋地球観測システ
ム」が国家機関技術として推進されることになったが、本研究課題で進める海洋地球観測データの公共
的利益への利用の重要性が認識され、衛星による地球観測、深海掘削や探査を含む海洋観測と並ぶ重
要なコンポーネントとして「データ統融・解析システム」の研究開発が文部科学省プロジェクトとして開始さ
れた。そこで、本研究の主要参加メンバである東京大学、宇宙航空研究開発機構、農業・生物系特定産
業技術研究機構が同プロジェクトに参加し、海洋研究開発機構などと共同して、データ統合の実システム
の開発を進めることとなった。データ統合・解析システムに要求される機能やサービスは、本研究で目標
とされた機能・サービスと方向を一にしており、本研究の基盤技術開発成果、利用技術成果は、試験運
用の経験、利用の経験と共に、同プロジェクトに円滑に移転され、実システムとして実現すると期待され
る。
一方、国際的には GEOSS(全球地球観測システム)の構築が本格化しつつあり、本研究プロジェクトや
国家機関技術の成果を通して我が国が目に見える国際貢献を行う非常によい機会を提供している。研究
代表者の柴崎、分担者の小池らは、文部科学省参与として、それぞれ構造とデータ委員会共同議長、執
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行委員会国メンバーの重責を担い、その運営に当たっている。この活動の重要性は、日米、日欧の首脳
会談で言及されるばかりでなく、平成 19 年のハイリゲンダムでの G8 サミットでの共通認識となり、平成 20
年7月の洞爺湖 G8 サミットでも言及される予定である。また、渡海文部科学大臣の参加のもと GEO 設立
以来はじめて開催された平成 19 年 11 月の第4回地球観測サミットは、本研究プロジェクトのアウトリーチと
して進めたアジア水循環イニシアチブ(AWCI)が GEOSS の早期達成成果として高く評価され、各国閣僚
の出席の中でそのプロモーションビデオが披露された。今後とも、国家基幹技術プロジェクトを経由して、
本研究の成果を具体的なシステムやデータセットの形で国際的に貢献できると期待される。
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Ⅴ.自己評価
1.目標達成度
ミッションステートメントに記載された目標のうち、「成果を国内外で発表する」以外のすべての目標に
ついて、当初の目標以上の成果が挙げられており、達成度は高い。
2.情報発信
シンポジウムやプロモーションビデオなどの一般市民向けの情報発信から、論文出版、口頭発表まで
幅広い情報発信を行っており、当初の目標は達成されている。
3.研究計画・実施体制
研究計画については、データ統合・情報融合の基盤技術開発を進めながら、地球環境データセットの
作成、公共的便益分野における統合データの利用技術開発、実証などを実現しており、非常にバランス
がよいと考える。また、こうしたプロジェクトにありがちな基盤技術・システム開発と、データ作成、利用実証
の乖離を防ぐために、研究参加機関・研究者間の情報交換、共有化を進め、データ作成や機能整備の
優先度を確認しながら、3 年間の間に目に見える成果が出るように、実施体制が組まれ、進捗管理が実
施されており、プロジェクトマネジメントは良好であった。
4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性
本研究で目標としていたような、地球環境科学の発展や政策的意志決定を支える情報基盤を、長期に
わたり持続的に維持・運用するための体制として研究開発組織と教育組織、定常運用的機関が連携する
という構想を、本研究の開始時点から議論し、平成 18 年度から 5 カ年計画で文部科学省が立ち上げた
国家基幹技術プロジェクト(データ統合・解析システム)に、本研究の主要参加メンバである東京大学、宇
宙航空研究開発機構、農業・生物系特定産業技術研究機構が参加している。国家基幹技術プロジェクト
(データ統合・解析システム)に要求される機能やサービスは、本研究で目標とされた機能・サービスと方
向を一にしており、本研究の基盤技術開発成果、利用技術成果は、試験運用の経験、利用の経験と共
に、同プロジェクトに円滑に移転され、実システムとして実現し、一層発展するとすると期待される。
国際的にも構築が本格化しつつある GEOSS(全球地球観測システム)に、研究代表者の柴崎、分担者
の小池らは当初より参加しており、国家基幹技術プロジェクトを経由して、本研究の成果を具体的なシス
テムやデータセットの形で国際的に貢献できる。
5.中間評価の反映
本研究は 3 年プロジェクトのため、中間評価は実施されなかった。
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