...

4 色素増感型太陽電池セルの作成とその能力向上について

by user

on
Category: Documents
27

views

Report

Comments

Transcript

4 色素増感型太陽電池セルの作成とその能力向上について
<第58回鈴木賞
4
1
準賞>
色素増感型太陽電池セルの作成とその能力向上について
目的
19 9 1年 、ス イ ス、 ロー ザ ンヌ 工科 大 学の グレ ッ ツェ ル教 授 は、 光合 成 と同 じ原 理 で発 電す
る「 色素 増 感型 太陽 電 池」とい う 電池 を発 表 した 。こ の 電池 は現 在 太陽 電 池の 主流 と いえ る、「 シ
リコ ン 太陽 電池 」 に比 べて 安 価で 、し か も、 有機 物 を使 用す る ため 環境 に 優し い。 ま た、 製作 も
容易 で 実験 室で も 十分 に製 作 でき る。
そこ で 、私 たち は 実際 に製 作 し、 その 能 力向 上の た めに 作成 の 方法 や材 料 につ いて 検 討し た。
2
方法
基 本的 なセ ル の作 成方 法 およ び計 測 方法 を以 下 に示 す。
(1) 主 な材 料… 電 気伝 導性 ガ ラス (- 極 )、 ステ ン レス 板( + 極) 、二 酸 化チ タン 粉 末、
酢酸 、 色素 (私 た ちは ハイ ビ スカ ス、 コ ーヒ ーな ど の天 然色 素 を使 用し た 。) 、
黒鉛 ( 黒鉛 筆) 、 電解 液( ヨ ウ素 液) 、 クリ ップ
(2) 作 成方 法お よ び計 測方 法
① 二酸 化 チタ ン、 酢 酸 、水 を 練っ てペ ー スト 状に す る。
② 電気 伝 導性 ガラ ス の 導電 面 にペ ース ト を塗 布す る 。
③ 電気 炉 を用 いて 焼 き 付け る 。
④ 色素 で 染色 する 。 ( -極 の 完成 )
⑤ ステ ン レス 板( ま た は電 気 伝導 性ガ ラ ス) に黒 鉛 筆で 黒鉛 を 付け る。 ( +極 の完 成 )
⑥ +極 と -極 の間 に 電 解液 を 流し 込み 、 クリ ップ で 挟む 。
⑦ テス タ ー( ヤガ ミ
YDM-20D) を用 いて 、 電 流と 電 圧を 測定 す る。
二酸 化 チタ ンペ ー スト 焼き 付 け後 の- 極
ハイ ビ スカ ス色 素 で染 色し て いる 様子
- 41 -
100m m ×25m m ( 4 連 結 ) セ ル を 組 み 立 て た 様 子
電流 電 圧測 定の 様 子
(3)ペ ー スト の材 料 と 調整 方 法の 検討
①2010.1.14~ 1. 21の 二酸 化 チタ ンペ ー スト
2009.11.7よ りペ ー ス トの 混 合割 合に つ いて 検討 し、最 もよ か った も のは 以 下の 割合 で あっ た。
TiO₂: CH₃COOH:H₂O=0.30:3.0: 3.0
( g)
②2010.2.4
文献 を 参考 に、 ポ リエ チレ ン グリ コー ル を加 えて ペ ース トの 配 合も 変更 し た。
TiO₂:CH₃COOH:H₂O: ポリ エ チレ ング リ コー ル= 0.40: 1.0:1.0: 0.20
(g)
2010.1.21と2010.2.4の比 較
数値 的 にみ ると 表 1の 通り 、ポ リ エチ レ ング リコ ー ルの 入っ て いな い2010.1.21の方 が よ く
発電 し てい ると い える 。
しか し2010.2.4は、 ペー ス ト塗 布面 の ひび 割れ が あり 、発 電 量は 小さ い もの の、 光 に敏 感
に反 応 する よう に なっ た。 ( 手で 覆っ て 光が 当た ら ない よう に する と電 流 計の 数値 は 減少 、再
び光 が 当た るよ う にす ると 数 値は 上昇 し た。 )
また 、 見た 目に も 色素 の吸 着 がか なり 良 かっ た。
これ を 踏ま え、 ポ リエ チレ ン グリ コー ル が他 の材 料 とよ く混 合 でき るよ う 、あ らか じ め水 ・
酢酸 と 混ぜ 合わ せ てか ら二 酸 化チ タン 粉 末を 加え て ペー スト を 作っ たの が2010.2.5であ る。
③2010.2.5
ペー ス トの 配合 は2010.2.4と同 じ 。
2010.2.4の ペー ス トで は二 酸 化チ タン ・ 水・ 酢酸 ・ ポリ エチ レ ング リコ ー ルを 、一 度 にか き
混ぜ て いた が、2010.2.5か らは ポ リエ チレ ン グ リコ ー ル・水・酢 酸を 先に 混 ぜ合 わせ て から 二
酸化 チ タン 粉末 を 加え るこ と にし た。
2010.2.4と2010.2. 5の 比較
上記 の 変更 によ り 二酸 化チ タ ン薄 膜の ひ び割 れ、 欠 落は 減少 。
数値 も 大幅 に上 昇 し、 光へ の 反応 もは っ きり と表 れ るよ うに な った 。
④2011.1.28~2011.3.19
別の 文 献に 基づ い て、 酢酸 の 代わ りに ア セチ ルア セ トン (数 滴)を加 え、 他 の成 分の 配 合割 合
も変 更 した 。ま た 、か き混 ぜ る際 に乳 鉢 を使 用し 、30~ 60分 間 練り 合わ せ た。
また 、 超音 波洗 浄 機を 用い て 、5 分間 振 動さ せた 。
TiO₂:H₂O:ポ リエ チ レ ング リ コー ル= 3.0:7.0:1.0
(g )
2010.2.5と2011.1. 28~ 3. 19の比 較( 前 者 は50mm幅×2 , 後者 は100mm幅×1)
セル の 形状 が異 な るた め、 単 純比 較は で きな いが 、 発電 量は 大 きく 増加 し た。
- 42 -
日
時
電流 値
2009.1.21
1.93mA
2010.2.4
0.04μA
2010.2.5
2.77mA
2011.3.16
3.36mA
表1 : ペー スト の 改良 結果
(平 均 値)
(2)ペ ー スト 塗布 方 法 の検 討
① 2010年 時点
電気 伝 導性 ガラ ス の導 電面 の 端に マス キ ング テー プ を貼 って 段 差を 作り、ペ ース ト をの せ
てガ ラ ス棒 で押 し て塗 る。 乾 燥は 自然 乾 燥さ せた 。
② 2011.1.28~
まず 塗 布面 のホ コ リを 除去 す るた めに 、超 音 波洗 浄 器を 用い て 水洗 いし 、エ タ ノー ル で表
面を拭き取った。また、マスキングテープからそれよりも薄いメンディングテープに変更。
塗布 後 はホ ット プ レー トを 用 いて 瞬間 的 に乾 燥さ せ た。
さら に ペー スト は 作成 後、5分間 超 音波 洗 浄器 にか け、二酸 化 チタ ン の粒 子 を拡 散さ せ た。
その 結 果、 2011.1.28~の セ ルで は二 酸 化チ タン の ひび 割れ 、 欠落 がほ と んど 見ら れ ず、
きれ い なセ ルが 出 来上 がっ た 。
日付
平均 値 (m A)
2010.2.5
2.77
2011.2.2
3.53
表2 : 塗布 方法 の 変更 によ る 結果
(3)色 素 の検 討
色素
ハイ ビ スカ ス、 コ ーヒ ー、 カ シス 飲料 の 3種 を用 い て
電流 (m A)
ハイ ビ スカ ス
行っ た 。各 実験 の 最高 値を 表 3に 示す 。
6.44
(2010.1.21)
どの 色 素も 一晩 染 色し た。 一 番発 電し た のは ハイ ビ
コー ヒ ー
スカ ス であ った 。
2.62
(2010.4.15)
( こ のた め、 2011年 度の セ ルで はハ イ ビス カス の みを
使用 し た。 )
カシ ス ジュ ース
また 、 見た 目上 あ まり 色素 が 吸着 して い るよ うに は 見
1.72
(2010.4.19)
られ な かっ たコ ー ヒー でも 比 較的 大き な 値が 得ら れ た。
表3
(4)セ ル のサ イズ の 検 討
・ 2010.1.14
100mm×25mm
( 4連 結 )
・ 20101.21~ 2010.2.5
100mm×50mm
(2連 結)
・ 2011.1.28~2011.3.19
100mm×100m m
色素 別の 結 果
(連 結 無し)
各実 験 の最 高値 は 表4 のと お りで ある 。
サイ ズ
最高 値 (m A)
100mm×25m m
0.416
100mm×50mm
6.44
100mm×100m m
6.53
セル が 大き く、連 結す る数 の 少な いセ ル の数 値の ほ
うが 大 きか った 。
表4
- 43 -
セル のサ イ ズ別 の結 果
(5)電 解 液の 検討
( 2011年 度で の比 較 )
電解 液 は既 製の も のと 手作 り のも のの
2種 類 を用 いた 。
既製 の もの
既製 電 解液
(ヨ ウ 化カ リウ ム 0.5mol、ヨウ 素0.05mol
無水 エ チレ ング リ コー ル
※ 全体 で15mL)
手作 り のも の
電流 最 高値
電圧 最 高値
(m A)
(V)
6.53
0.432
(2011.3.11)
(2011.2.2)
5.43
0.439
(2011.3.16)
(2011.3.16)
電解 液 の種 類
手作 り 電解 液
(水 20mL、ヨ ウ化 カ リ ウム 3.0g 、
表5
電解 液の 検 討に よる 結 果
ヨウ 素 0.1g)
各実 験 の最 高値 を 表5 に示 す 。
電流 の 値に は差 が 見ら れた が 、電 圧に は 大き な変 化 は見 られ な かっ た。
ただ し 、手 作り の 方は 電解 液 の劣 化が 速 く( 電解 液 の色 が透 明 にな った ) 、既 製の も のに 比
べて す ぐに 発電 量 が減 少し た 。
3
結果
以上 の 検討 の 結果 を踏 まえ て 作成 し たセ ルを 用い て 測定 し た電 流と 電圧 の 値は 以 下の 通り であ る 。
ハイビスカス 既製電解液 日光 100mm×100mm
2月1日
2月2日
3月10日
経過 2/1 mA
2/1 V 2/2 mA 2/2 V 3/10 mA 3/10 V
時間(分)
0
3.38 0.425 4.97 0.423
3.9
0.409
5
2.37
0.42
4.78 0.419 4.15 0.361
10
2.15 0.404 3.85 0.432 3.58 0.347
15
1.62 0.393 4.12 0.423 3.43 0.331
20
0.79 0.367 3.77 0.409 2.77 0.287
25
3.45 0.401 1.86 0.228
30
2.47 0.374 1.45
0.18
平均値
2.06
0.40
3.92
0.41
3.02
0.31
3月11日
3月17日
平均
3/11 mA
3/11 V
3/17 mA
3/17 V
平均 mA
平均V
6.53
4.17
3.73
2.78
1.76
4.03
3.73
3.82
0.412
0.384
0.36
0.267
0.166
0.372
0.351
0.33
5.18
3.66
2.48
1.82
1.03
2.41
1.03
2.52
0.39
0.329
0.298
0.216
0.14
0.298
0.127
0.26
4.79
3.83
3.16
2.75
2.02
2.35
1.74
2.95
0.41
0.38
0.37
0.33
0.27
0.26
0.21
0.32
ハイビスカス 日光 手作り電解液 100mm×100mm
1月28日
3月16日
3月17日
平均
経過
1/28 mA 1/28 V 3/16 mA 3/16 V 3/17 mA 3/17 V 平均 mA 平均 V
時間(分)
0
2.82
0.429
5.43
0.437
5.18
0.39
4.48
0.42
5
1.83
0.42
3.62
0.381
3.66
0.329
3.04
0.38
10
1.48
0.372
3.28
0.357
2.48
0.298
2.41
0.34
15
1.42
0.372
2.43
0.243
1.82
0.216
1.89
0.28
20
1.15
0.355
3.66
0.356
1.03
0.14
1.95
0.28
25
1.28
0.355
3
0.277
2.41
0.298
2.23
0.31
30
1.14
0.34
2.27
0.181
1.03
0.127
1.48
0.22
平均値
1.59
0.38
3.38
0.32
2.52
0.26
2.50
0.32
電流 、電圧 と共 に 最初(0分)の値 が 最も 高 く 時間 を 追う ごと に 両者 とも 減 少し てい く 。お よそ
20分 経 過後 に電 解 液を 再び 注 入す ると 、0分の 値の 近 くま で回 復 する が、この 後 再び 減 少し て いく 。
⇒耐 久 性が 実用 化 に向 けて の 課題 であ る 。
4
考察
(1) ペ ース トの 材 料と 調整 方 法の 検討
①
2010.2.4
セ ルに つい て
ポリ エ チレ ング リ コー ルは 焼 き付 けの 際 に焼 失す る ため 、二 酸 化チ タン 薄 膜内 に空 洞 を作 り
出す 。そ れ によ り色 素 の 吸着 が 良く なっ て、光 に 敏感 に 反応 する よ うに なっ た と考 えら れ る。
ただ し2010.2.4のセ ルは 二 酸化 チタ ン 薄膜 のひ び 割れ 、欠 落 が目 立っ た 。こ れは ペ ース ト
作成 の 際に ポ リエ チレ ング リ コー ル が十 分に 混ぜ 合 わさ れ てい なか った た めだ と考 え られ る 。
- 44 -
②
2010.2.5
セ ル につ い て
先に ポ リエ チレ ン グリ コー ル を酢 酸、 水 に混 ぜる こ とに より 、 ポリ エチ レ ング リコ ー ルが 十
分に 拡 散さ れた た め、 ペー ス トの 欠落 、 ひび 割れ が 減少 し、 数 値が 上昇 し たと 考え ら れる 。
③
2011.1.28~2011.3.19
セ ル につ いて
アセ チ ルア セト ン の添 加に よ り二 酸化 チ タン 粒子 が より 拡散 さ れた ため と 考え られ る 。
(2)ペ ー スト 塗布 方 法 の検 討
①
超 音波 洗浄 器 を用 いて 水 洗い し、 エ タノ ール で 表面 を拭 き 取る こと で 、塗 布面 の ホコ リ
が除 去 され た。
②
マ スキ ング テ ープ から そ れよ りも 薄 いメ ンデ ィ ング テー プ に変 更す る こと によ り ペー ス
トが う すく 、均 等 に塗 布さ れ た。
③
塗 布後 にホ ッ トプ レー ト を用 いる こ とに より 、 乾燥 の際 に 生じ るム ラ がな くな っ た。
④
ペ ース トの 作 成後 、5分 間超 音波 洗 浄器 に かけ た こと によ り 、二 酸化 チ タン の粒 子 がよ り
拡散 さ れた 。
これ ら によ りペ ー スト のひ び 割れ およ び 欠落 が減 少 し、 電流 値 が大 幅に 上 昇し た。
(3)セ ル のサ イズ の 検 討
セル サ イズ を大 き くす ると 電 圧電 流と も 上昇 した 。
連結 部 分が 電気 抵 抗に なっ て いる と考 え られ る。
(4)電 解 液の 検討
( 2011年 度で の比 較 )
電解 液 が透 明に な った のは 電 解液 中の ヨ ウ素 が減 少 した ため で ある 。
電解 液 中の ヨウ 素 濃度 は既 製 のも のは 3.3mol/Lだ った の に対 し、手作 りの も のは 0.039mol/L
であ っ た。手 作 りの も の はヨ ウ 素の 量が 不 足し てい た ため すぐ 発 電量 が減 少 した と考 え られ る。
( 5) ま とめ
手探 りで ス ター トし た 実験 であ っ たが ペー ス トの 作成 方 法 、塗布 方 法の 検討 、色 素 の検 討、
セル サ イズ の検 討、電 解液 の 検討 など を 通し てデ ー タを 積み 重 ねる なか で、光に 敏 感に 反 応
し、 安 定し て高 い 電流 、電 圧 値を しめ す セル を作 る こと がで き た。
5
謝辞
研究 の 初期 段階 に おい て、 東 京大 学先 端 技術 セン タ ー特 任准 教 授、 内田 聡 先生 に貴 重 なア ドバ
イス を いた だき ま した 。重 ね てお 礼申 し 上げ ます 。
また 、 自然 科学 部 化学 班顧 問 、西 野宏 治 先生 には 、 研究 の最 後 の最 後ま で 親身 にな っ ての ご指
導を い ただ きま し た。 本当 に あり がと う ござ いま し た。
6
参 考文 献
・よ く わか る、 お もし ろ理 科 実験
― 身 近な 現象 の 探究 から 環 境問 題へ の アプ ロー チ まで ―
川村 康 文 ・著
・色 素 増感 型太 陽 電池 を作 ろ う
―手 作 り太 陽電 池 のす べて ―
若狭 信 次 ・著
・知 っ てお きた い 太陽 電池 の 基礎 知識
齋藤 勝 裕 ・著
・内 田 聡先 生に よ る「 色素 増 感太 陽電 池 ホー ムペ ー ジ」
(
http://kuroppe.tagen.tohoku.ac.jp/~dsc/cell.html
- 45 -
)
Fly UP