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劇症肝不全と人工肝臓 - J

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劇症肝不全と人工肝臓 - J
●特集 「人工臓器と救急・集中治療」
劇症肝不全と人工肝臓
滋賀医科大学医学部救急集中治療医学講座
江口 豊
Yutaka EGUCHI
る。しかし,臨床で普遍的に行えるまでにはまだ時間を要
1. はじめに
するものと思われる。
集中治療を要する急性の肝機能不全は劇症肝不全と呼ば
急性血液浄化法の目的は,水に溶解している毒性物質や
れており,広範囲な肝細胞壊死に伴う黄疸,凝固異常およ
アルブミンに結合している毒性物質〔アルブミン結合性毒
び脳症を呈する予後不良の疾患である。肝移植によりその
素(albumin-bound toxins; ABT)〕をも除去することであ
死亡率は劇的に改善しているものの,本邦では脳死肝移植
る。前者に対しては濾過量(QF)や透析液流量(QD)を大
の実施症例は極めて少なく生体肝移植に頼っているのが現
幅に増量した血液濾過透析法が,後者には molecular ad-
状であり,欧米ではドナー不足で約 1/3 の症例が移植を受
sorbents recirculating system(MARS)5) をはじめとするア
けることなく亡くなっているなどの問題が生じている。そ
ルブミン透析の発展型が行われている。我々は膜型血漿分
こで,ドナーが得られるまで,あるいは移植が受けられる
離器と少量の新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)を用
状態まで回復させる bridge to transplantation として人工肝
いて,ABT を除去・廃棄しながら同時に拡散による溶質除
補助療法(artificial liver support; ALS)が行われている。一
去を行う plasma dia-filtration(PDF)法 6) を考案し,良好な
方,約 40%の症例では,肝移植をすることなく肝再生によ
結果が得られ,現在多施設で検討中である。
り 回 復 し て い る 1)
。ALS が 移 植 を 受 け ず に 救 命 で き る
bridge to regeneration として機能することが望まれる。
急性肝不全で生じる多彩な病態のうちで最も予後に関与
2. 血漿交換+血液濾過透析法
ALSとして,血液吸着療法より血漿交換(plasma exchange;
するのは,劇症肝炎の診断基準に含まれている出血傾向と
PE)あるいはその組み合わせの方が治療成績がよいこと 7),
意識障害である。したがって,まず ALS に求められること
PE では FFP の大量投与に伴う電解質の異常などの副作用
は,患者の昏睡からの覚醒と出血傾向の是正である。これ
があること 8),脳症に係わる低分子量物質を除去できるこ
に対し,本邦では急性血液浄化法が積極的に行われている。
となどの理由により,現在は PE と持続的血液濾過透析療法
血液浄化法の作用は中毒物質の除去と凝固因子の補充であ
(continuous hemodiafiltration; CHDF)の併用療法が行われ
り,500 を超える多機能を有する肝機能の補助には不十分
ている 9) 。さらに,病態の悪化にサイトカインの関与が考
であるものと考えられる。したがって,現在,全肝機能を
えられる 10) ことから,サイトカイン除去目的の観点からも
有する extracorporeal whole liver perfusion(ECLP)2),肝細
CHDF との併用療法は有用 11) と考えられ,現在では PE の
胞や肝類似細胞をモジュールに組み込んだ extracorporeal
効率を高める目的で緩徐式 PE(slow PE)との組み合わせ
liver assist device(ELAD)3) や bioartificial liver(BAL)4),さ
で行われている。さらに,CHDF の治療効率を上げる目的
らに骨髄細胞の移植などが臨床治験レベルで行われてい
で,濾過量や透析液流量を増加させる方法が行われている。
1)High flow dialysate CHDF 12)
■著者連絡先
滋賀医科大学医学部救急集中治療医学講座
(〒 520-2192 滋賀県大津市瀬田月輪町)
E-mail. [email protected]
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CHDF の透析液量を個人用透析ベッドサイドコンソール
を用いて 300 ∼ 500 ml/min に増加させ,アンモニアの有意
な低下と意識覚醒率の有意な向上が報告されている。
人工臓器 37 巻 1 号 2008 年
図 1 MARS のフロー図
図 2 Prometheus のフロー図
2)High flow-volume large size PMMA-HDF: high
performance
3)Molecular adsorbents recirculating system(MARS,
図 1)5)
HDF 13)
大膜面積(2.1 m2)の poly-methylmethacr ylate(PMMA)
アルブミン液を透析液として用いた hemodialysis であ
膜を用いて透析液流量が 400 ml/min,濾過量 1.5 l/h で 10
り,ABT を選択的に除去可能である。ビリルビンなどの
時間施行するものである。IL-6 の有意な低下や単球上の
ABT の除去効果だけでなく,30 日生存率の改善,中枢神経
HLA=DR 抗原の発現の増強が認められている。意識清明な
系機能や循環動態の臨床改善効果が報告され,acute on
状態を維持でき,全身状態を良好に保つことが可能である。
chronic 型 の 劇 症 肝 不 全 で は そ の 有 効 性 が randomized
3)PE + HDF 14)
controlled trial(RCT)の形で示されている。しかし,meta-
PE と HDF を並列回路とし,置換液量を 20 l/ 回以上,透
analysis の結果からは死亡率の相対的危険率は 0.56(P =
析液流量を 500 ml/min で行う。
0.11)で,標準的な治療に対して死亡率を改善する効果は
いずれの場合でも,アンモニアなどの低分子量物質をは
じめ,より大きい分子量物質をも効率よく除去し得ること
で,高い覚醒率が報告されている。しかし,その高い覚醒
認められなかった。
4)Prometheus(fractionated plasma separation and
adsorption,図 2)17)
率に比し予後の改善は得られていないこと,また覚醒率が
患者血漿を分離し ABT を吸着・除去すると同時に high
上がることで肝移植の適応が遅れることとなり,結果的に
flux dialyzer で透析して水溶性毒素も除去するものである。
移植後の予後が悪化することが報告されている。今後,こ
総ビリルビンの低下(reduction rate 21%)が認められ,
れらの高効率な血液浄化法施行時の肝移植の適応を見直す
RCT の形での発表はないものの acute on chronic 型の肝不
必要があるものと思われる。
全症例の 30 日生存率は 36%であったと報告されている。
3. アルブミン透析法(extracorporeal albumin dialysis)
4. Selective plasma filtration therapy
1)Single-pass albumin dialysis(SPAD)15)
PE や slow PE では,凝固因子や肝細胞成長因子などの
2 ∼ 4%のアルブミンを用い,使い捨ての形で dialysis を
生体にとって必要な高分子量領域の物質も除去してしまう
透析液流量 700 ∼ 2,000 ml/h で行うものである。肝移植へ
こと 18) から,必要な分子量領域のみを選択的に除去する目
の bridge use として用いられ,ビリルビンと銅の低下が認
的で,selective plasma filtaration 法 19) の有用性が動物実験
められている。
レベルで示された。
2)Continuous albumin purification system(CAPS)16)
個人用透析器,高性能血液透析膜,ビリルビン吸着筒お
よび活性炭吸着筒を用いた 24 時間連続施行可能なシステ
ムである。
1)SEPETTM Liver Assist Device(Arbios System, Inc.,
USA)20)
Sieving cut-of f 100 kDa の filter を用いて 6 時間で 2,500
ml の血漿成分を処理し,FFP で補う方法である。ブタを用
いた実験では生存率の向上と脳圧の維持が可能で,アンモ
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(3)重症肝障害症例の検討
まず,本学救急・集中治療部と西京都病院外科の 2 施設
で,重症肝障害 8 症例に延べ 49 回 PDF を施行した。28 日
後の生存率は 50%で,そのうち 1 例は生体肝移植となり生
存できたことから,PDF は bridge to transplantation として
も有用であると考えられた。引き続き,多施設(5 施設)に
おいて T.Bil が 7 mg/dl 以上の重症肝障害 32 症例で検討し
た結果,28 日後の生存率は 53%と良好な結果が得られた。
(4)クリアランスの測定
Blood urea nitrogen(BUN)やクレアチニンのクリアラ
ンスは 20 ml/min 前後で,アルブミンに結合している T.Bil
図 3 PDF のフロー図
は 5.6 ml/min であった。これらの値は,in vitro の結果から
推定された値とほぼ同じであったことから,生体でも PDF
が予想どおりに機能しているものと考えられた。また,サ
ニアをはじめとする血清学的な改善も得られた。Acute on
イトカインのクリアランスは約 18 ml/min で十分な除去性
chronic 型に対し Phase Ⅰで安全性と有効性が確認され,
能を有しているものと考えられた。以上より,PDF は BUN
simple で cost-effective なことが特徴である。
やクレアチニンのような低分子量物質から,ABT やサイト
2)PDF
カインのような中分子量物質まで効率よく除去できるもの
6)
(1)PDF の概要
と考えられる。2008 年 5 月には遺伝子組換えアルブミン製
PDF の概要は,膜型血漿分離器エバキュアーEC-2A(ク
剤が製品化される予定である。現在の PDF の発展型として,
ラレメディカル,膜面積 1.0 m2)で PE を行いながら,同時
FFP は 凝 固 因 子 不 足 分 と し て 最 小 限 の 輸 注 に と ど め,
に中空糸の外側に灌流液を循環させるものである。1 本の
plasma filtration の置換液としてアルブミンを用いた PDF が
膜型血漿分離器を用いて,PE や slow PE 時の FFP 使用量
有用と考えられる。さらに,遺伝子組換え肝細胞増殖因子
の約 1/2 ∼ 1/3 で slow PE + CHDF と同等の効果があるこ
(rh-HGF)の臨床治験が開始されており,PDF は HGF を保
とを報告した。コストが 1/2 以下となること 21) からも,医
持できることから,rh-HGF 投与+ PDF 療法が bridge to
療経済的にも slow PE + CHDF に代わり得る治療法として
regeneration として効果を発揮することが期待できる。
位置づけし,現在多施設で検討しているところである。
P D F では肝不全時に生体にとって有用な高分子量領域
5. Cell-based liver support therapy
の 物質は保持されることから,PDF の概要は,selective
1)ELAD 3)
plasma filtaration 法に透析を組み合わせた“selective plasma
Hollow ファイバーにヒト hepatoblastoma の cell line を詰
filtration with dialysis”と言える。
めたもので,血漿交換に比し,アンモニア・芳香族アミノ
(2)PDF のフロー図
酸の選択的除去をはじめとする有害物質除去に優れてい
図 3 に PDF のフロー図を示す。施行条件は,血液流量
(QB)60 ∼ 100 ml/min,QF 600 ml/h,QD 600 ml/h で,
除水量は最大 450 ml/h まで可能である。エバキュアー
た。イギリスにおける急性肝不全の RCT では有効性は認
められなかった。現在 cell car tridge を 1 個から 4 個に増や
して phase Ⅰ/Ⅱが行われている。
EC-2A の血漿分離特性,つまりアルブミンの篩係数は約 0.3
2)Modular extracorporeal liver support(MELS)23)
である 22) ことから,使用する FFP は 1 クール当たり 15 U
ヒト肝臓とほぼ同重量に相当するブタの肝臓 650 g を用
で,その終了直後に拡散によって漏出したアルブミンを補
いて,急性肝不全 8 例全例が bridge to transplantation に成
う目的でアルブミン製剤 25% 50 ml の投与を行う。通常 1
功した。その後,ヒト肝細胞を用いて SPAD との組み合わ
クールを約 8 時間で 1 回 / 日として施行する。なお,症例に
せで 7 ∼ 144 時間の維持と神経学的改善が認められた。し
より 1 本のフィルターで連続 3 クールまで行う連続 PDF
かしながら,bioreactor 作成に 2 ∼ 3 週間かかり,装置が複
(sequential PDF; sPDF)や,8 時間での濾液と灌流液を増加
雑で高 cost である。また現在,ブタ肝細胞が用いられてお
(QF 750 ml/h,QD 1,400 ml/h)した high flow-volume PDF
り,ヒトへの感染の報告はないものの,内因性の retrovirus
のプロトコールも作成し,施行を開始している。
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の感染の問題がある。
人工臓器 37 巻 1 号 2008 年
図 4 HepatAssistTM のフロー図
3)HepatAssist TM Cell-Based Liver Assist System
(Arbios Systems, Inc., USA)
(図 4)24)
Bioreactor としてブタ肝細胞 7 兆個が用いられている。
32 例の劇症肝不全に対して神経学的異常の改善が認めら
れ,肝移植あるなしを含めて 84%が生存できた。Phase Ⅱ/
Ⅲの臨床治験では 30 日後の予後を改善しなかったが,肝移
植前の死亡率が有意に改善された 25) 。
6. まとめ
劇症肝不全の治療戦略として,血液浄化法と BAL を組み
合わせたハイブリッド型システムが臨床応用として期待さ
れている。しかしながら,最終的には肝移植に頼らざるを
得ないことから,内科的療法と hHGF 投与などの再生医療,
さらに血液浄化法を発展させて,萎縮した肝臓が早期に再
生できることが理想である。
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