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泡の不思議 - LIXIL

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泡の不思議 - LIXIL
特集
15
vol.
季刊
2010
春
泡の不思議
04
日本文化の泡を探る
vol.
大地から、宇宙の彼方へ
[ 特集 ]
これからの催し
08
表紙写真
円相を読み解けば
芝生広場でひとしきり遊んだ
あと、父と子が「トンネル窯」
に入ってきました。そこは早
春のあたたかな光が満ちる
外とは別世界。全長16mの
タイムトンネルです。
LIVE RE PORT
開催報告
悟りは、
「泡 」
を超えて 庄司信洲さん
撮影:村山直章
関連イベント
泡を食べる、泡を飲む ―「美味しい泡」の秘密、その味わい―
数多くのやきものをつくってきた常
滑 で は、そ れ ら の 再 利 用 も 盛 ん に 行 わ
れ て き ま し た。街 の い た る 所 で 見 か け
全体に使用したすごい家が多屋地区に
あります。
常滑では江戸時代末期から鯉江家に
よ っ て 土 管 製 造 が 始 ま り、明 治 中 期 に
は 量 産 体 制 が 確 立、街 な か の 工 場 で も
製 造 が 始 ま り ま し た。右 端 の 写 真、左
は 明 治 中 期 に つ く ら れ、東 京 都 品 川 区
の 仙 台 坂 遺 跡 か ら 発 掘 さ れ た も の、
土管です。
土管製造の普及と入手が容易であっ
た か ら か、常 滑 の 墓 地 に は 陶 器 製 の 墓
標 が 数 多 く あ っ た そ う で、市 内 に あ る
鯉江方寿の墓標は一見の価値がありま
す。現在どの程度の陶製墓標があるか
興 味 を 持 ち、あ る 墓 地 を 散 策 す る と、
所 有 仏 に 7 碑、無 縁 仏 に 6 碑 あ り ま し
た。写 真 は 無 縁 仏 に あ っ た、威 風 漂 う
︵ものづくり工房 スタッフ︶
2碑の墓標です。
伊藤 肇
※ INAXが生まれ育った常滑のやきものや土に関わる人、
風景、できごとなどを、INAXライブミュージアムのスタッフが伝えます。
る 焼 酎 瓶、土 管、ダ ン マ を 利 用 し た
た。最近の例では、電纜管 を土台や壁
でんらんかん
時中には格子状の溝蓋もつくられまし
塀・土 台・擁 壁 な ど。鉄 が 不 足 し た 戦
*1
*2
右は金型を使用した近代のマンガン釉
*3
(2010.2.21)
企画展 泡と湯気 ― 愉楽の発見―
春
季刊
2010
15
時空を超える泡の旅 増永浩彦さん
02
関連講演会 バラの魅力とその文化史 上田善弘さん
関連イベント バラのヴィクトリアンタイル絵付け体験
春のデコ・モザイク体験
LIVE SCHEDU LE
空気のように当たり前のものとして、
誰も気に留めることのない﹁泡﹂。
しかし、はかなく消えていく泡は、
暮らしの中で、科学の世界で、書やお茶の世界で、
時に、なくてはならない存在として、私たちの目の前に躍り出る。
あらためて、泡の世界を見つめてみた。
vol.15
01
企画展 タイルに咲いた憧れの花・バラ
―19世紀ヴィクトリアンタイルから―
07
抹茶の泡は、おもてなしの心 庄司宗文さん
06
泡の不思議
[特集]
※
常滑から
14
陶器製丸型墓標
*1:石炭窯の基礎を築いたり出入口を塞いだりするために使われた煉瓦の塊 *2:電話や電力用地下ケーブルを保護するための管路 *3:仙台藩の下屋敷の遺跡
うたかた
泡 沫 の ゆ く え
石鹸水に浸したストローを持ち上げ
ながら、少女は一瞬ためらいを見せる。
少しでも気が急くとたちまちシャボ
ン玉が弾け散ってしまうことを、子ども
く現れては消えてゆく可憐な泡のはか
なさは、どこか日本人の美学に訴える魅
力があるのかもしれない。
MASUNAGA Hirohiko
増永 浩彦
しかし泡沫は時として、途方もない歳
う。アイス・コアの間隙にひそむ気泡は、
た 微 小 な 空 気の 泡に、細心の 注 意 を 払
名古屋大学 地球水循環研究センター 准教授
月を超え極寒の大地の深淵に眠り続け
太 古 の 記 憶 を
呼 び 覚 ま す
用にしかし細心の注意を払いながら、く
れて氷床の内部に忍び込んだ、いわば地
いにしえの大気のひとひらが積雪に紛
は子どもなりに学びつつあるのだ。不器
わえたストローにそっと息を送り込んで
くのは、極地の氷床から長大な氷の杭を
ることがある。その永い眠りをそっと解
シャ ボン玉 の 歴 史 は、思 いの ほ か 古
見つめ、飽きることがない。
少女は吸い込まれるようにシャボン玉を
くその繊細な輝きにすっかり魅せられ、
なく宙へ漂い始める。淡い虹色にゆらめ
ばかりのモンシロチョウのようにぎこち
呼ばれる氷柱には、道端の露頭に顔を出
氷床から掘り出されるアイス・コアと
ある。
されて形づくられた、広大な氷の大地で
が永い年月にわたり自身の重みで凝縮
グリーンランドの氷床は、降り積もる雪
は数キロメートルの深さに及ぶ南 極や
切り出 す 科 学 者 たちだ。厚いところで
がえらせることもできる。
された氷期・間氷期の絵巻を連綿とよみ
かに超え、過去数十万年にわたり繰り返
件 が 良 けれ ば、数 千 年の有 史 時 代 を遥
当 時の気温を 復元 する。サンプルの条
体比を分析し、過去の地球の大気成分や
取したわずかな空気の化学組成や同位
球大気の化石だ。科学者は、気泡から採
かんげき
みる。すると透きとおった小さな球体は
い。日本史の記録にシャボン玉が登場す
くい
みるみる膨らんでゆき、やがて羽化した
世紀 ︵江戸 時 代 中 期︶だという
から、私たちは300年以上前からシャ
知る手 がかりが 刻み 込まれている。気
す地層の断面のように、遠い昔の地球を
抱 強いミクロの使 者 だ。太 古の気 候 を
じ込められた小さな気泡は、とびきり辛
運 命のいたずらにより雪の一片に閉
るの は
ボン玉と戯れてきたわけだ。泡沫という
記録した手紙を託されたその日から、封
候学者は、アイス・コアに閉じ込められ
美しい言葉が象徴するとおり、絶え間な
が解かれる永遠に近い未来を、氷の底で
じっと待ち続けている。
銀 河 系 に
思 い を 馳 せ て
明るい都 会の夜空で天の川を目にす
ることはかなわないが、街の灯から遠く
離れて満天の星空を見上げれば、地球が
巨大な銀河 系の一部であることを体 感
することができる。そして私たちの天の
川銀河は、さまざまな姿をした無数の銀
河とともに、さらに広大な宇宙をつくり
上げている。夜 空をのぞむ望 遠 鏡の感
おびただ
度が充分に高ければ、レンズの向こうに
銀河のモザイク画が広がる。
は夥しい数の渦巻や楕円体が織りなす
1980年代以降、根気よく銀河の分
布地図をつくり上げた天文学者たちは、
宇宙の構造に想像を絶する規模の秩序
が存 在 することを発見した。銀河は夜
空にばら撒かれた砂のようにランダム
に点在するのではなく、多数の銀河が壁
状に集まる﹁グレート・ウォール﹂と、壁
と壁の間に広がる巨大な空白地帯を形
全容は、点の濃淡で対象の輪郭を浮かび
づくっていたのだ。銀河のモザイク画の
特大のシャボン玉がいくつもつながった
上がらせる点描画さながら、総体として
ような泡構造が立ち現れる、壮大なタペ
ストリーなのである。
夜空に君臨する天の川は、さしわたし
一億光年に及ぶ﹁泡﹂の一つ、その縁のど
ぎない。その銀河系の辺境に浮かぶ、頼
こかに浮かぶありふれた銀河の一つに過
りないほど小さな天体の上で、 億の人
増永 浩彦
(ますなが ひろひこ)
68
1972 年生まれ。東京大学大
学院理学系研究科博士課程
修了、博士(理学)
。宇宙開発
事業団(現・宇宙航空研究開
発機構)宇宙開発特別研究
員、コロラド州立大学研究員
などを経て、2006 年より現
職。専門は気象学・気候学。
衛星観測データ解析により
雲や雨をめぐる気候の仕組み
を解明することに主に取り
組んでいる。
類は今日も身を寄せ合うように生きて
いる。
撮影/西村拓也
02
vol.15
vol.15
03
17
時空を
超える
泡の旅
大 地 か ら 、 宇 宙 の 彼 方 へ
日本文化のなかで、泡や湯気はどう意
識されてきたのだろう。
日本文化の
泡を探る
円相を読み解けば
私は、その原点は枯山水にあると思っ
ている。
枯山水は、日本の庭園様式の一つであ
り、その発展の背景には鎌倉時代の武家
政権の成立と、禅宗の隆盛が大きく影響
している。禅宗は、境地 悟りを得た心
境を重んじる思想であり、禅僧の生活の
場である寺院、その庭園のつくりも修行
に大きな役割を果たしている。
そうした枯山水には、禅の精神を映し
は さ ぼん
だそうとする僧たちの思いも込められ
が、禅宗では、壁に囲まれた枯山水の庭
ている。米を盛った容器を破沙盆という
園 を、この破 沙 盆に見 立て、その 時、白
砂 は 米 粒 となる。それは人 間にとって
﹁食﹂が 大 切 な もの で あ り、感 謝 して天
地の恵みをいただくことに通じている。
当然、米粒のままでは腹は満たされな
い。かまどで炊き、ぷくぷくと泡が立ち、
唾 液 が口に広 がる。そうして炊 かれた
おいしいご飯となる。その匂いをかげば
米を喜びを持っていただき、次に排出す
る。枯山水の庭園というのは、人が生を
る僧侶がそれに面すれば、そこに命の原
つなぐ循環を表すのであり、悟りを求め
点を見出し、みずみずしい心を保つこと
につながったのではないだろうか。
そういう意味で、米は炊かれ泡を吹か
せ、人は唾液で命をつなぐ。
﹁泡﹂とは変
(談)
泡が変化する過程は、どこかぬくもりが
化の象徴と言ってもいいかもしれない。
あって人の心を満たしてくれる。
くら
ここにある一枚の書画。
﹁これ具ふて 茶のめ﹂とある。その言
葉の横に図形の丸。
まあるい人の心を表しているのか、茶
碗に生まれた泡粒を表しているのか、は
たまた、人を拒 まず、相 和して、ひと時
りんさいしゅう
を共有するお茶の精神を表しているのだ
ろうか。
せんがい ぎ ぼん
この書画は、江戸時代に臨済宗の再興
歳で法席を退いて隠棲
を果たした仙厓義梵 ︵1750∼1837︶
の作品である。
権威を嫌い
し た 後 は、人々に 詩 文 や 書 画 を 描 き 与
境地をわかりやすく説き明かし、軽妙洒
え、仙厓和尚として愛された人物。禅の
えんそう
いちえんそう
脱、ユーモアに富んだ作品は、今も人々を
魅了する。
仏教の世界では、円は、円相、
一円相と
も言い、宇宙の究極の姿を指すと言われ
水、地﹂の5つの要素。これをひと筆で表
ている。万物の根源となる﹁空、風、火、
現したものが﹁円﹂
。欠けることのない真
理を表し、森羅万象の宇宙を最も簡潔に
その円相を描いて、
﹁茶を飲め﹂とは。
描く。
円相の解釈は、見る人に委ねられ、さ
まざまに広がっていく。
今の時代の人々が、どんなふうに思い
を巡らせるのか、仙厓和尚が、どこかか
らほくそ笑んで見ていることだろう。
抹茶の泡について語るなら、まずはお
しゃかしゃかと茶筅の音。それはおいし
る 程 度 混 ざった ら 泡 を 細 か く 整 え る。
筅を振る。そうして空気を送り込む。あ
せん
私は、気︵心︶を入れて少し強めに茶
ちゃ
なしの心。いかに喜んでいただくかだ。
おもて
﹁和敬清寂﹂︱茶の湯の本意とは、
わけいせいじゃく
という思いから始まったのではないか。
お客様においしく、楽しく差し上げたい
おいしいと気づいてしまったのだろう。
らない。高邁な理由ではなく、その方が
こうまい
なった。誰が、なぜそうしたかは、わか
できるだけ細かい泡を立てて飲むように
は泡を立てないが、江戸時代になると、
安土桃山時代に完成された。当時のお茶
後、武野紹鴎、その弟子、千利休によって
たけのじょうおう
道元によって持ち込まれた抹茶は、その
鎌倉時代、日本に禅宗を伝えた栄西や
えいさい
と時は、まさに癒しの時間である。
っている。目で楽しみ、触れて楽しむひ
茶というのは、五感で味わうものだと思
と驚かれるだろう。私は、泡を立てたお
いただくといい。これほどに違うものか
く同じ湯の温度、同じ抹茶の量で試して
ろん、まろやかで甘い。科学実験のごと
く 泡の微かな音 も聞こえる。味はもち
ければ柔らかな感触、はかなく消えてゆ
顔を近づければ、ほのかに香り、口をつ
表面をふわっと緑が覆っている。茶碗に
がある。一方、泡を立てたお茶は、茶の
口の中にざらっとした触感が残り、苦味
わりに言うならば、泡を立てないお茶は
誌面ではままならない。そこで、私が代
茶を飲んでもらうのが一番。とはいえ、
庄司 宗文 SYOJI Soubun 裏千家教授
いお茶の始まりである。
(談)
‖
04
vol.15
vol.15
05
62
庄司 信洲 SYOJI Shinsyu 嵯峨御流いけばな教授 万葉いけばな研究家
悟りは、
「泡」を超えて
さ が ごりゅう 抹茶の泡は、おもてなしの心
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