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単体開示の簡素化について - 同志社大学会計学研究会OB会

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単体開示の簡素化について - 同志社大学会計学研究会OB会
平成 27 年秋季
会計学研究会 OB 会
財務部門
「単体開示の簡素化について」
2013年度生
5
1
松田
留衣子
論文構成
第一章
5
第一節
わが国における法定開示
第二節
連結開示と単体開示
第三節
開示コストの増加
第二章
10
簡素化導入の背景
単体開示の簡素化
第一節
『当面の方針』における簡素化
第二節
『内閣府令』による簡素化
第三節
簡素化における問題点
第三章
第一節
単体開示の簡素化における今後の展望
単体開示は今後どうすべきか
15
結論
参考文献・論文・資料
20
25
2
序論
わが国で旧商法が導入されて 1 世紀以上が過ぎた。その間に、金融商品取
引 法 (以 下 金 商 法 )の 導 入 や 会 社 法 制 定 、連 結 開 示 の 導 入 な ど 財 務 情 報 の 作 成
5
規 定 が 時 代 と と も に 増 加 し 、近 年 で は 非 財 務 情 報 や IFRS が 追 加 さ れ た 。そ れ
につれ財務諸表作成のコストが増加してきたと言える。一方、財務諸表利用
者のニーズも変化しており、諸所に開示における改正はみられるが未だに有
用でない情報を開示している場合が否めない。すなわち、従来のままの開示
では不具合が生じており、抜本的な改革が必要ということである。
10
こ う し た 状 況 の 中 2 013 年 6 月 19 日 、 金 融 庁 企 業 会 計 審 議 会 に よ り 『 国 際
会 計 基 準 (IFRS)へ の 対 応 の あ り 方 に 関 す る 当 面 の 方 針 』
( 以 下 『 当 面 の 方 針 』)
が 提 出 さ れ た 。本 書 は 、わ が 国 の IFRS 適 用 へ 向 け た 今 後 の 方 針 を 取 り ま と め
ているが、第5章にて「単体開示の簡素化」と題し、金融商品取引法による
単 体 開 示 の 抜 本 的 な 簡 素 化 に 向 け て の 方 針 を 公 表 し た 。こ の 方 向 性 に 基 づ き 、
15
2014 年 3 月 26 日 、
『 財 務 諸 表 の 用 語 、様 式 及 び 作 成 方 法 に 関 す る 規 則 等 の 一
部 を 改 正 す る 内 閣 府 令 』 (以 下 『 本 内 閣 府 令 』 )を 公 布 し 、 簡 素 化 を 行 っ た 。
なお、
『 本 内 閣 府 令 』は 公 布 の 日 か ら 施 行 さ れ 、簡 素 化 に 関 す る 規 定 等 は 2014
年 3 月 31 日 以 降 終 了 す る 事 業 年 度 に 関 す る 財 務 諸 表 に て 適 用 さ れ る 。
これより、本稿では簡素化以前のわが国における開示制度の問題点、簡素
20
化の概要について述べ、今後のより有用な法定開示のあり方について、財務
諸表作成者のコストや財務諸表利用者のニーズ等の観点も踏まえ、考察を行
う。
3
第一章 簡素化導入の背景
第一節 わが国における法定開示
5
わが国における企業情報の開示制度には、法に基づく強制力を持つ法定開
示、証券取引所規則により行われる適時開示、会社が自主的に投資判断に有
用だと思われる情報を開示する任意開示の三種類が存在する。このうち、法
定開示によりわが国の上場会社は金商法と会社法により規制を受けている。
なぜ、こうした二つの異なる法により規制を受ける必要があるのか。これよ
10
り、双方の開示制度に焦点を当て、法を巡る諸問題について述べる。
まず会社法とは、会社の設立、組織、運営及び管理について定めることを
主旨とした法である
1
。 桜 井 (2013 )に よ れ ば 、 会 社 法 と は 個 々 の 経 済 主 体 の
利益を基礎として、これら相互間の利益の調整をはかることを目的としてい
る
15
2
。これに則り一般的な株式会社は、事業年度毎に計算書類、事業報告、
それに付属する情報として付属明細書を作成しなければならない。このうち
計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記
表から構成するものである。一方、事業報告とは株式会社の状況に関する重
要な事項、取締役及び使用人業務の体制の整備における決定や決議、株式会
社の支配者の在り方に関する基本方針を記載している。また、それぞれの付
20
属明細書により、報告内容がより明確になるよう補足されている。
次に金商法とは、企業内容等の開示制度の整備や金融商品取引所における
適切な運営や公正な取引等を行い、それにより国民経済の健全な発展及び投
1
2
会社法 第一条
櫻 井 勝 久 (2013)『 財 務 会 計 講 義 第 14 版 』 中 央 経 済 社
4
p13
資者の保護に資することを目的とした法である
3
。これに則り、金商法は有
価証券の流通市場と発行市場のそれぞれについて情報提供を行っている。発
行市場に関しては、有価証券届出書と目論見書により提供される。流通市場
に関しては、毎決算期ごとの有価証券報告書、3ヶ月おきに提出される四半
5
期報告書、および臨時報告書により提供される。このうち有価証券報告書に
は、金商法に基づいて作成される財務諸表の記載が義務づけられている。内
容は以下の通り、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッ
シュ・フロー計算書、付属明細書である。
こうしてわが国の法定開示は、異なる性質を持った二つの法により、適切
10
な情報開示や公正な取引を可能にし、投資者のみならず、企業外部に存在す
る多種多様で無数の利害関係者との関係を維持している。しかし、法定開示
がこうした多くの利益をもたらすと同時に大きな問題を引き起こしている。
開示内容の重複である。
重複した開示として、まず会社法と金商法の財務情報が挙げられる。上場
15
会 社 が 作 成 す る 財 務 情 報 に は「 金 商 法 に 基 づ い て 作 成 さ れ る 財 務 諸 表 」と「 会
社法に基づいて作成される計算書類」の二種類がある。上記の二種類の書類
には、基本財務諸表としてともに貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動
計算書を記載している。しかし、様式や項目の区分に多少の差異はあるもの
の内容はほぼ同一であると言える。また金商法における付属明細書、会社法
20
における事業報告、注記表、付属明細書といった補足情報に関しても、金商
法にのみ開示が求められている項目や記載が多い項目があるものの、開示水
準は大きく異ならないものも存在する。他にも、有価証券報告書における非
財務情報と注記の内容が重複している。
かねてよりこうした状況に対し、法務省法制審議会会社制部会は「開示情
3
金融商品取引法
第一条
5
報 の 内 容 面 に つ い て は 、 会 社 法 (事 業 報 告 等 )、 金 商 法 、 証 券 取 引 所 規 則 で 内
容 の 重 複 が あ り 整 理 さ れ て い な い 」 4と 問 題 を 指 摘 し て い る 。
わが国では、昭和22年に米国制度を範に証券取引法が創設、昭和24年
に企業会計原則が公表され、証券取引法に基づく財務諸表規則がこれを採用
5
し て 以 来 、会 社 法 の 計 算 規 定 と 証 券 取 引 法 の 企 業 会 計 原 則 と の 調 整 が 始 ま り 、
証券取引法を元に金商法が導入された現代も調整が続いている
5
。情報提供
機能の面で開示内容に差異をつけるべきでないとする考えもある。しかしな
がら筆者としては、開示内容の重複は財務諸表作成者にとって不必要な負担
となっていると考える。また財務諸表利用者の立場からみても、重複した情
10
報の有用性には疑問符がつく。
次節にて連結開示、個別開示のアプローチからわが国の開示制度について
述べる。
第二節
連結開示と単体開示
15
前節にて述べたように、わが国の開示制度の見直しは、重複開示の観点か
ら必要であるとしたが、もう一点、見直しを促す要因があった。連結開示に
よる二重の開示である。
簡 素 化 導 入 以 前 、わ が 国 の 規 定 の 企 業 は 法 定 開 示 に よ っ て 、先 に 述 べ た「 金
20
商法に基づいて作成される財務諸表」と「会社法に基づいて作成される計算
書類」にて、単体開示と連結開示双方の開示が義務付けられていた。これよ
り、連結開示と単体開示に関する歴史について述べ、考察を行う。
4
上 村 達 男 「 会 社 法 と 金 融 商 品 取 引 法 –そ の 現 状 と 課 題 –」 『 法 務 省 法 制
審 議 会 会 社 法 制 部 会 第 8 会 議 』 2010 年 p1
5 和久友子「わが国上場企業の開示制度における課題」
『 企 業 会 計 』 Vol.67
2015 年 p71
6
本来、企業は一つの独立した会社であったが、時代を経るにつれ、親会社
が幾つもの子会社を従えて企業集団を形成するようになった。言わば、企業
の集団化が顕著になったのだ。こうして従来の伝統的な個別開示による会計
情報だけでなく、企業集団を一つの企業実体とみなした連結開示の会計情報
5
の提供が必要とされた。
連 結 財 務 諸 表 の 発 生 自 体 は 1870 年 代 、米 国 の 鉄 道 会 社 に よ る も の で あ る が 、
制 度 と し て 導 入 さ れ た の で は な く 、自 然 発 生 的 に 経 営 者 の 意 思 に よ り 企 業 が
自発的に連結財務諸表を開示することにより会計制度として確立していった
6
10
。一方、わが国における導入は米国のように 自然発生的に生じ、それを企
業が自発的に導入したものを制度と確立したのではなく、国家主導のもとで
制度として導入されてきた
7
。
わが国で導入されたことの理由として、企業の集団化以外に、粉飾決算へ
の 対 策 が 挙 げ ら れ る 。連 結 決 算 導 入 以 前 の 1 960 年 代 に は 子 会 社 を 利 用 し た 粉
飾決算が相次ぎ、多くの会社の倒産が起きた。こうした情勢も踏まえ、連結
15
財務諸表の導入が検討され始めたのだ。しかしながら、連結開示にかかる作
業は単なる個別開示の合算ではなく、企業集団を単一の組織体とみなした特
殊の会計上の手法を必要とした
8
。その結果、連結開示による情報を提供可
能になると同時に、財務諸表の作成に大きなコストを負うことになった。
導 入 に 向 け た 最 初 の 動 き は 、1967 年 に 提 出 さ れ た『 連 結 財 務 諸 表 に 関 す る
20
意見書』である。本意見書の公表後、連結決算導入に関して多くの意見が寄
せられるも、本意見書はあくまで検討段階のものとし、制度化へは至らなか
っ た 。 そ の 後 、 1975 年 6 月 、 企 業 会 計 審 議 会 が 公 表 し た 『 連 結 財 務 諸 表 の 制
6
半 澤 繁「 企 業 集 団 の 財 務 諸 表 開 示 に 関 す る 一 考 察 」
『 研 究 年 報 』第 17 号 2013
年 p5
7 同上
p7
8 山 本 嘉 彦 (1979)『 現 代 会 計 実 務 シ リ ー ズ ○
1 2 連 結 決 算 』同 文 館 出 版 株 式 会 社
p4
7
度 化 に 関 す る 意 見 書 』に て 、よ う や く 制 度 化 が 検 討 さ れ た 。こ れ に よ る と「 企
業内容開示制度における連結財務諸表としては、わが国における会計慣行の
現状からみて、当面、個別財務諸表を補足して企業集団に関する財務諸表を
提供する観点から、有価証券報告書及び有価証券届出書の添付書類として提
5
出 す る 方 法 に よ る こ と が 適 当 で あ る と 考 え る 」 9と 述 べ て お り 、 当 初 、 連 結
財務諸表は金商法のもと、個別財務諸表を補足する資料として導入すること
が目的とされ、位置付けられた点から現在と比較するとあまり重要視されて
いなかったことがうかがえる。金商法のみで連結開示が導入された理由とし
て、金商法の投資者保護の観点から連結開示が投資者の意思決定にとって不
10
可欠な情報であると判断されたためである。
同年、
『 連 結 財 務 諸 表 原 則 』翌 年 、『 連 結 財 務 諸 表 の 用 語 、様 式 及 び 作 成 方
法 に 関 す る 規 則 』が 公 布 さ れ 、1977 年 4 月 1 日 よ り 連 結 決 算 制 度 が 導 入 さ れ
た 。そ の 後 、1985 年 に 企 業 会 計 審 議 会 第 一 部 会 小 委 員 会 が 公 表 し た『 証 券 取
引 法 に 基 づ く デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー 制 度 に お け る 財 務 情 報 の 充 実 に つ い て (中
15
間 報 告 )』に て「 最 近 の 企 業 の 多 角 化 、国 際 化 等 を 反 映 し て 連 結 財 務 諸 表 の 重
要性がますます認識されるようになったため、その取扱いについて見直しの
必 要 性 が 高 ま っ て い る 。」1 0 と し て 連 結 財 務 諸 表 の 提 出 期 間 の 特 例 の 廃 止 や 内
容の拡充が行われた。だが、連結財務諸表の役割は添付資料としての位置付
け を 維 持 し た ま ま で あ っ た 。と こ ろ が 、連 結 重 視 の 気 運 は さ ら に 高 ま り 、1992
20
年 3 月期、それまで添付書類であった連結財務諸表が個別財務諸表と共に有
価証券報告書の本体に記載されるようになった
11
。
さ ら に 1997 年 、企 業 会 計 審 議 会 に よ り『 連 結 財 務 諸 表 制 度 の 見 直 し に 関 す
9
大 蔵 省 企 業 会 計 審 議 会 (1975)『 連 結 財 務 諸 表 の 制 度 化 に 関 す る 意 見 書 』
大 蔵 省 企 業 会 計 審 議 会 第 一 部 会 小 委 員 会 ( 1985)『 証 券 取 引 法 に 基 づ く デ ィ
ス ク ロ ー ジ ャ ー 制 度 に お け る 財 務 情 報 の 充 実 に つ い て (中 間 報 告 )』
11
松 村 勝 弘 、徳 能 常 弘「 連 結 財 務 諸 表 中 心 へ の デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー 制 度 改 定
の 問 題 点 」 『 立 命 館 経 営 学 』 第 42 巻 第 2 号 2003 年 p23
10
8
る意見書』が公布された。本書によると「国際化による企業の側において連
結経営を重視する傾向が強まるとともに、投資者の側からは、企業集団の抱
えるリスクとリターンを的確に判断するため、連結情報に対するニーズが一
段 と 高 ま っ て い る 。」
5
12
として、かねてより行っていた個別財務表中心のディ
スクロージャーから連結財務諸表の中心のディスクロージャー制度へ移行す
る こ と を 提 言 し た 。2 000 年 3 月 期 、つ い に は 連 結 決 算 中 心 へ と 移 行 し 、過 去
の位置付けとは完全に逆転した。こうして連結と個別の財務諸表に関して、
現在と同様の構図が出来上がったのだ。
一 方 で 、会 社 法 で は 長 ら く 連 結 開 示 は 採 用 さ れ な か っ た 。そ の 理 由 と し て 、
10
会社法は経営者・株主・債権者の間の私的な権利義務関係の調整や確定のた
めに会計を利用しているから、これまで法律上の個々の企業を会計単位とす
る個別財務諸表を中心としていたためである
13
。し か し 、株 主 等 に 対 す る 情
報 開 示 の 充 実 を 図 る た め 、 2003 年 『 商 法 等 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 』 に よ り 、
大会社かつ有価証券報告書を提出している会社に対して、連結計算書類の提
15
出が義務付けられた。会社法の場合、配当規制が基本的には親会社単独の計
算書類に基づく分配可能額によって行われるなど単体開示に機能を持たせて
いるため
14
、財 務 諸 表 の よ う に 単 体 開 示 の 地 位 を 落 と し て は い な い と 考 え ら
れる。
連結財務諸表のニーズが高まって以来、経団連をはじめ多くの会計機構に
20
て個別財務諸表の簡素化あるいは廃止が幾度も議論の対象となった。特に
2013 年 6 月 、経 団 連 に よ り 提 出 さ れ た 提 言『 今 後 の わ が 国 の 企 業 会 計 制 度 に
関 す る 基 本 的 考 え 方 』に て 以 下 の 三 点 に ま と め ら れ る
12
13
14
15
15
。① 親 会 社 単 独 の 財
金 融 庁 企 業 会 計 審 議 会 (1997)『 連 結 財 務 諸 表 制 度 の 見 直 し に 関 す る 意 見 書 』
桜 井 久 勝 (2013)『 財 務 会 計 講 義 第 14 版 』 中 央 経 済 社 p328
同 上 p328
日 本 経 済 団 体 連 合 会 (2013)『 今 後 の わ が 国 の 企 業 会 計 制 度 に 関 す る 基 本 的
9
務諸表は、重要性が低下しており、連結ベースでなければ、ステークホルダ
ーに対する十分な情報提供は行えない。②資本市場における企業のディスク
ロージャーは、連結財務諸表であり、国際的な比較の面からも単体開示は意
味を持たない。③開示内容の国際的な整合性が重要になるなか、わが国企業
5
にのみ単体情報に係る過重な負担を求めることは作成者にとって極めて不合
理である。よって金商法上の開示は連結開示のみに絞り、単体開示について
は会社法のみの開示に絞るべきとしている。筆者としても経団連の考えに賛
成であるが、開示の簡素化により財務諸表利用者にとって有用な情報が提供
されなくなる事態の無いよう双方にとってよりよい形式を目指し、十分に検
10
討した上で開示の簡素化をすべきであると考える。
第三節 開示コストの増加
これまでの節にて、わが国における情報開示が非効率かつ、二重開示の負
15
担 を 伴 っ て い る こ と を 述 べ た 。 こ う し た 状 況 に 対 し 、 2010 年 7 月 20 日 、 日
本 経 済 団 体 連 合 会 (以 下 経 団 連 )は『 財 務 報 告 に 関 わ る わ が 国 開 示 制 度 の 見 直
しについて』にて「わが国の開示制度は過剰である」
16と 問
題視している。
現在こそ過剰開示と言われているが、当初はそうではなかった。時代ととも
に情報開示拡充の気運が高まり、同時に財務諸表作成者の負担も増大したの
20
だ。これより近年における情報開示の拡充について述べる。
近年における情報開示の拡充は、報告書自体の増加と報告項目の増加の二
つ 種 類 が あ る 。 ま ず 、 報 告 書 の 増 加 は 、 CSR報 告 書 、 ア ニ ュ ア ル レ ポ ー ト 、
コーポレートガバナンス報告書等の任意開示による非財務情報が挙げられる。
考 え 方 』 p11
1 6 日 本 経 済 団 体 連 合 会 ( 2010)『 財 務 報 告 に 関 わ る わ が 国 開 示 制 度 の 見 直 し に
ついて』
10
これらの報告書は、従来の財務諸表のみでは提供できなかった企業の意志や
投資方針など、投資者にとって有用な情報が提供できることため、近年、関
心が高まっている。また報告書の増加において、作成に最も負担となってい
る の が IFRSで あ る 。 な ぜ な ら 、 IFRSで は 会 計 処 理 を め ぐ る 予 測 や 見 積 も り
5
の要素が拡大し、より会計処理の前提や基礎的な考え方を説明することが求
め ら れ る た め で あ る 。こ の 結 果 と し て 、IFRSの 導 入 を 行 っ た 企 業 は 従 来 と 比
べて開示しなければならない情報量およびコストが飛躍的に増大した
17
。し
か し な が ら 、 IFRS導 入 は 海 外 企 業 と の 比 較 可 能 性 向 上 や 世 界 経 済 か ら 遅 れ を
と ら な い た め に も 導 入 は 必 須 で あ る 。 IFR S導 入 に 関 し て 、 わ が 国 に は 問 題 が
10
山 積 し て い る が 、 経 団 連 は 「 IFRS導 入 に 向 け た 整 備 の 観 点 か ら 、 開 示 制 度 全
般に対する抜本的見直しを実施する必要がある」
18
と し 、 IFR S 導 入 の 観 点 か
らも単体開示の簡素化を推奨している。
次 に 、開 示 項 目 の 拡 充 で あ る 。わ が 国 に お け る 拡 充 は 有 価 証 券 報 告 書 の「 第
一 部 企 業 情 報 」 の 「 第 2 事 業 の 状 況 」 に て 「 事 業 等 の リ ス ク 」「 財 政 状 態 及
15
び経営成績の分析」および「コーポレートガバナンスの状況」等の記述開示
項目が拡充された。これらの開示は数値では表せない知的財産に関する情報
であると言え、非財務情報と同様、財務諸表で表せない情報に関心が高まっ
ている。
本章にて、わが国の開示が過剰であること、財務情報利用者のニーズが変
20
わってきていることについて述べた。こうした開示は会社にとって非効率的
に大きな負担がかかる上に、財務諸表利用者からしても、開示量が多すぎる
為に有用な情報を見落とす可能性がある。よってより有用な財務諸表のあり
17
加 賀 谷 哲 之 「 IFRS 導 入 が 日 本 企 業 に 与 え る 経 済 的 影 響 」『 国 際 会 計 研 究 学
会 』 臨 時 増 刊 号 2010 年 p8
18
日 本 経 済 団 体 連 合 会 (2010)『 財 務 報 告 に 関 わ る わ が 国 開 示 制 度 の 見 直 し に
ついて』
11
方を模索していくべきであると考える。
第二章
5
単体開示の簡素化
第一節 『当面の方針』における簡素化
2013 年 6 月 19 日 、 企 業 会 計 審 議 会 に よ る 『 当 面 の 方 針 』 に て 、 以 下 の 考
えのもとで金商法における単体開示の簡素化の枠組みを公表した。内容を整
理 す る と 、次 の よ う に 述 べ ら れ る
10
19
。 (1)本 表 (貸 借 対 照 表 、 損 益 計 算 書 及 び
株 主 資 本 等 変 動 計 算 書 )に 関 し て は 、 開 示 水 準 が 大 き く 異 な ら な い た め 会 社
法の要求水準に統一することを基本とする。注記、附属明細表、主な資産及
び負債の内容に関しては、会社法の計算書類と金商法の財務諸表とで開示水
準が大きく異ならない項目については会社法の要求水準に統一することを基
本とする。また、金商法の連結財務諸表において十分な情報が開示されてい
15
る 場 合 に は 、 金 商 法 の 単 体 ベ ー ス の 開 示 を 免 除 す る こ と を 基 本 と す る 。 (2)
上記以外の項目については、その有用性、財務諸表等利用者のニーズ、作成
コスト、国際的整合性、監査上の観点等を斟酌した上で、従来どおりの開示
が 必 要 か 否 か に つ い て 検 討 す べ き で あ る 。(3)単 体 開 示 の 簡 素 化 に 当 た っ て は 、
単体開示の情報が少なくなることへの懸念に対応しつつ、金商法の単体財務
20
諸 表 と 会 社 法 の (単 体 )計 算 書 類 の 統 一 を 図 る 観 点 か ら 、 例 え ば 、 連 結 財 務 諸
表におけるセグメント情報の充実や、注記等の記載内容を非財務情報として
開 示 す る こ と な ど に つ い て 検 討 す べ き で あ る 。(4)単 体 開 示 の み の 会 社 に つ い
ては、連結財務諸表の作成負担がなく、単体の簡素化に伴い代替する連結財
19
金 融 庁 企 業 会 計 審 議 会 (2014)『 国 際 会 計 基 準 (IFRS)へ の 対 応 の あ り 方 に 関
す る 当 面 の 方 針 』 pp7 〜 9
12
務諸表の情報もないため、仮にこういった会社に対してまで簡素化を行うと
した場合には、連結財務諸表を作成している会社との間で情報量の格差が生
じてしまうおそれがある。
上 記 の 内 容 を 考 察 す る と 、(1)に て 、金 商 法 上 の 開 示 は 単 体 開 示 を 廃 止 。さ
5
ら に 、か ね て よ り 経 団 連 が 主 張 し て き た 内 容 と 同 等 事 項 と 同 等 で あ る と 言 え 、
「連結財務諸表の開示が中心であること
重の負担になる
21
20
」、
「作成者である企業にとって二
」 こ と を 考 慮 し た 結 果 と し て い る 。(2)(3)に て 、 今 後 検 討
してくべき項目が書かれており、さらなる簡素化が進められる可能性が示唆
さ れ て い る 。ま た 、( 4 )に て 今 回 の 簡 素 化 が 連 結 財 務 諸 表 作 成 会 社 の 負 担 を 減
10
らすことを重視している旨を表している。
第二節
『内閣府令』による簡素化
以 上 の『 当 面 の 方 針 』を 踏 ま え 、企 業 会 計 審 議 会 は『 内 閣 府 令 』を 公 表 し 、
15
一定の単体開示の簡素化を図った。今回の改正により、連結財務諸表作成会
社は個別財務諸表にて以下の項目について単体開示を免除した。リース取引
に 関 す る 注 記 (第 8 条 の 6)、事 業 分 離 に お け る 分 離 元 企 業 の 注 記 (第 8 条 の 23 )、
資 産 除 去 債 務 に 関 す る 注 記 (第 8 条 の 28)、 引 当 金 の 表 示 (第 2 0 条 ,第 34 条 )、
減 価 償 却 累 計 額 の 表 示 (第 26 条 )、減 損 損 失 累 計 額 の 表 示 (第 2 6 条 の 2)、事 業
20
用 土 地 の 再 評 価 に 関 す る 注 記 (第 42 条 )、た な 卸 資 産 及 び 工 事 損 失 引 当 金 の 表
示 (第 54 条 の 4 )、企 業 結 合 に 係 る 特 定 勘 定 の 注 記 (第 56 条 )、一 株 当 た り 純 資
産 額 の 注 記 (第 68 条 の 4)、工 事 損 失 引 当 金 繰 入 額 の 注 記 (第 7 6 条 の 2)、た な
卸 資 産 の 帳 簿 価 格 の 切 下 げ に 関 す る 記 載 (80 条 )、 研 究 開 発 費 の 注 記 (86 条 )、
20
日 本 経 済 団 体 連 合 会 (2013)『 今 後 の わ が 国 の 企 業 会 計 制 度 に 関 す る 基 本 的
考 え 方 』 p11
21
同 上 p11
13
減 損 損 失 に 関 す る 注 記 (95 条 の 3 の 2)、 企 業 結 合 に 係 る 特 定 勘 定 の 取 崩 益 の
注 記 (95 条 の 3 の 2)、 企 業 結 合 に 係 る 特 定 勘 定 の 取 崩 益 の 注 記 (95 条 の 5 の
3)、 自 己 株 式 に 関 す る 注 記 (107 条 )。 以 上 の 情 報 の 開 示 免 除 を 行 っ た 理 由 と
して、連結開示によって十分な情報開示がなされていると判断されたもので
5
ある。また、非財務情報での開示で代替できるとして、配当制限に関する注
記 (旧 68 条 の 2 )、 有 価 証 券 明 細 表 (121 条 の 3 )、 開 示 の コ ス ト ベ ネ フ ィ ッ ト
が 見 合 わ な い と す る 観 点 か ら 固 定 資 産 の 再 評 価 に 関 す る 注 記 (旧 4 2 条 )、 製
造 原 価 明 細 表 (7 5 条 )、主 な 資 産 お よ び 負 債 の 内 容 (企 業 内 容 等 開 示 府 令 第 2
号 様 式 記 載 上 の 注 意 7 3)が 開 示 免 除 さ れ た 。
10
さ ら に 、金 商 法 開 示 に て 会 社 法 計 算 書 類 の 開 示 水 準 に 統 一 す る 項 目 と し て 、
貸 借 対 照 表 (様 式 第 5 号 の 2)、損 益 計 算 書 ( 様 式 第 6 号 の 2)、株 主 資 本 等 変 動
計 算 書 (様 式 第 7 号 の 2)、 有 形 固 定 資 産 等 明 細 表 (様 式 第 11 号 の 2)、 引 当 金
明 細 表 (様 式 第 1 4 号 の 2)、 重 要 な 会 計 方 針 の 注 記 (8 条 の 2)、 表 示 方 法 の 変
更 に 関 す る 注 記 (8 条 の 3 の 4)、会 計 上 の 見 積 り の 変 更 に 関 す る 注 記 (8 条 の 3
15
の 5)、親 会 社 株 式 の 注 記 (18 条 、32 条 の 2 )、関 係 会 社 に 対 す る 資 産 の 注 記 (39
条 )、 担 保 資 産 の 注 記 (43 条 )、 関 係 会 社 に 対 す る 負 債 の 注 記 (55 条 )、 偶 発 債
務 の 注 記 (58 条 )、 関 係 会 社 に 係 る 売 上 高 に 注 記 (74 条 )、 関 係 会 社 に 係 る 営 業
費 用 の 注 記 (88 条 )、 関 係 会 社 に 係 る 営 業 外 収 益 の 注 記 (91 条 )、 関 係 会 社 に 係
る 営 業 外 費 用 の 注 記 (94 条 )が あ る 。
20
し か し 、今 回 の 改 正 で 会 社 法 に 統 一 す る こ と が 認 め ら れ た 会 社 は 、
「連結財
務 諸 表 を 作 成 し て い る 」、「 会 計 監 査 人 設 置 会 社 で あ る 」、「 別 期 事 業 を 営 む 会
社ではない」以上3つを満たす場合のみとした。こうした会社は「特例財務
諸表提出会社」と規定される。特例財務諸表提出会社を会計監査人設置会社
に限定した理由として、金融庁は「会社法では、会計監査人設置会社以外の
25
会社に求められる注記項目は、会計監査人設置会社と比べて大幅に免除され
14
て い る 。」 2 2 ま た 、
「会計監査人設置会社以外の会社が作成する計算書類をそ
のまま金商法の財務諸表に記載れば足りるとした場合、結果として開示され
ない注記項目が生じることとなり、投資者保護の観点から、適切ではない」
23
5
とした。
今回の簡素化により、財務諸表作成者のコストは減り、それを評価する意
見も多い。だが、その一方で今回の簡素化は未だ十分とはいえないとする意
見もある。
第三節
簡素化における問題点
10
今回の簡素化に対する批判的な意見として大きく二つある。
第一に内容が重複しているにも関わらず、継続して単体開示を要求してい
る 項 目 が あ る 点 で あ る 。有 価 証 券 に 関 す る 注 記 (8 条 の 7 )と 税 効 果 会 計 に 関 す
る 注 記 (8 条 の 12)で あ る 。 有 価 証 券 に 関 す る 注 記 と は 、 有 価 証 券 を 保 有 目 的
15
区 分 ご と に 分 類 し た 結 果 、 そ の 保 有 目 的 区 分 ご と に 特 価 等 (取 得 原 価 、 時 価 、
評 価 差 額 等 )ま た は 含 み 損 益 に 関 す る 情 報 を 行 う と と も に 、売 却 損 益 や 保 有 目
的区分間の振替えに関する情報も合わせて記載したものである
24
。一 方 、税
効果会計に関する注記とは、①繰延税金資産および繰延税金負債の発生の主
な原因の内訳 ②法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との
20
差 異 が あ る と き は 、当 該 祭 の 原 因 と な っ た 主 な 項 目 別 の 内 訳 ③ 法 人 税 等 の 税
率の変更により繰延税金資産および繰延税金負債の金額が修正されたときは、
22
金 融 庁 (2014)『「 財 務 諸 表 等 の 用 語 、 様 式 及 び 作 成 方 法 に 関 す る 規 則 等 の
一 部 を 改 正 す る 内 閣 府 令 (案 )」 等 に 対 す る パ ブ リ ッ ク コ メ ン ト の 概 要 及 び そ
れ に 対 す る 金 融 庁 の 考 え 方 』 p3
23
同 上 p3
24
み す ず 監 査 法 人 (200 7)『 新 版 有 価 証 券 報 告 書 の 記 載 実 務 』 中 央 経 済 社
p151
15
その旨および修正額 ④決算日後に法人税等の税率の変更があった場合には、
その内容および影響。以上の4つの項目を注記しなければならないとするも
のである
25
。
二 点 の 開 示 を 継 続 し た 理 由 と し て 、金 融 庁 が 公 表 し た『 財 務 諸 表 等 の 用 語 、
5
様 式 、 作 成 方 法 に 関 す る 規 則 等 の 一 部 を 改 正 す る 内 閣 府 令 (案 )』 等 に 対 す る
パ ブ リ ッ ク コ メ ン ト の 概 要 及 び そ れ に 対 す る 金 融 庁 の 考 え 方 』(以 下『 金 融 庁
の 考 え 方 』)に よ る と 前 者 は「 子 会 社 株 式 ・ 関 連 会 社 株 式 の 時 価 に 関 す る 情 報
は、連結財務諸表での開示を求められていない」
26
後者に関しては「金商法
と 会 社 法 で は 、法 令 上 要 求 さ れ て い る 注 記 の 開 示 水 準 が 異 な っ て い る (会 社 法
10
で は 発 生 原 因 の み 開 示 が 求 め ら れ 、内 訳 金 額 の 開 示 は 要 求 さ れ て い な い )た め 、
会社法の要求水準に統一することは適当ではない」
27と し て
いる。しかし、
前者における子会社株式・関連会社株式は売却による投資の回収を想定して
お ら ず 、時 価 情 報 の 情 報 価 値 は 乏 し い
28
と 言 え 、後 者 に お け る 差 異 は 内 訳 金
額の開示が要求されていないことのみであり、そもそも連結財務諸表で詳細
15
な開示がなされている
29
。よ っ て こ の 二 項 目 は 、開 示 免 除 を 検 討 す べ き で あ
ると考える。
第二に、製造原価明細表の省略である。製造原価明細表とは、売上原価の
う ち 当 期 製 品 製 造 原 価 に つ い て 、 材 料 費 、 労 務 費 、 間 接 費 (ま た は 経 費 )な ど
の内訳を記載の上、金商法における単体固有の開示項目として損益計算書に
25
同 上 p718
金 融 庁 (2014)『 財 務 諸 表 等 の 用 語 、 様 式 、 作 成 方 法 に 関 す る 規 則 等 の 一 部
を 改 正 す る 内 閣 府 令 ( 案 )』 等 に 対 す る パ ブ リ ッ ク コ メ ン ト の 概 要 及 び そ れ に
対する金融庁の考え方』
27 同 上
28
山 床 眞 一 「 財 務 諸 表 作 成 か ら 見 た 意 義 と 課 題 」『 企 業 会 計 』 2014 年 Vo66
p115
29
同 上 p115
26
16
添付するものである
30
。
今回の改正で連結財務諸表のセグメント情報の開示が行えていれば、添付
を原則免除することにした。同明細書の省略に関して、金融庁は「作成に要
する負担の大きさに比してその有用性が低下しているため廃止を希望する意
5
見 と 、廃 止 し て し ま う と 製 造 原 価 に 関 す る 情 報 が 全 く 開 示 さ れ な く な る た め 、
「多角的に事業展開する
開 示 の 維 持 を 希 望 す る 意 見 」 31が あ る と す る 一 方 で 、
会社が多くなってきている現在、複数の事業に関する原価の発生を合算して
一つの明細書で開示しても、投資情報としての有用性は低い」
32
として、原
則開示免除とした。しかしながら、製造原価明細表には、付加価値分析や損
10
益分岐点分析といった企業分析に必要不可欠な情報があるため一概に有用性
が 低 下 し て い る と は 、言 い 切 れ な い
33
。よ っ て 、筆 者 は 個 別 開 示 に お け る 製
造原価明細表の省略を改正すべきであると考える。また今回の簡素化は導入
されて間もないため、作成者の立場から、今回開示免除された項目が有用で
あると判断した場合は非財務情報に載せるなど臨時の対応が必要であると考
15
える。
30
丹 野 慎 太 郎 、佐 藤 光 伸『 金 融 商 品 取 引 上 の 単 体 開 示 簡 素 化 に 伴 う「 財 務 諸
表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」等の一部改正』 『企業会計』
2014 年 Vol.66 p65
31
金 融 庁 (2014 ) 『「 財 務 諸 表 等 の 用 語 、 様 式 及 び 作 成 方 法 に 関 す る 規 則 等 の
一 部 を 改 正 す る 内 閣 府 令 ( 案 )」 等 に 対 す る パ ブ リ ッ ク コ メ ン ト の 概 要 及 び そ
れ に 対 す る 金 融 庁 の 考 え 方 』 p3
32
同 上 p3
33
貝 増 眞 「 財 務 諸 表 利 用 者 か ら 見 た 単 体 開 示 の 簡 素 化 」『 企 業 会 計 』 Vol.6 6
2014 年 p121
17
第三章 単体開示の簡素化の展望
第一節 単体開示は今後どうすべきか
5
単体開示の簡素化は、かねてより議論の対象となっていたものの、実務に
導入が開始されたばかりである。よって今回の開示で簡素化が実施されたも
のの、前述のように不十分である点も多い。ゆえに今後、実務の状況に応じ
て簡素化が変化していくことは容易に想像できる。このように流動的な環境
であるが、一つ言えることは、第二章にて述べたように金融庁は今後とも、
10
簡素化に関する取り組みを続けていく予定であるということである。
簡素化に対する意見の中に、会社法と金商法双方とも財務情報が組み込ま
れ て い る た め 、財 務 情 報 の 提 供 は 一 方 で よ い の で は な い か と す る 意 見 が あ る 。
しかし、筆者としてはこの意見に反対である。なぜなら、会社法と金商法で
はそれぞれ目的とする提供者が違うためである。このように、簡素化には法
15
律の問題が内包されており、さらに財務諸表利用者、作成者の立場も踏まえ
て議論を進めなければならず、一筋縄にはいかないことも多い。
しかし、本稿にて述べたこと同様、過剰な開示は財務諸表作成者および利
用者双方にとって負担になると考える。その理由は、財務諸表作成者にとっ
て 作 成 の コ ス ト が 増 加 す る 昨 今 、ニ ー ズ の 低 い 情 報 に コ ス ト を か け る こ と は 、
20
非効率であることである。また、財務諸表利用者にとっても、ニーズの低い
情報や重複した情報より、ニーズの高まっている情報や単一のまとめられた
情報の方がより有用であると考えられるためである。
しかしながら、ニーズの高い情報のみ開示をするのは財務情報の意義に反
している。財務諸表の本来の意義は、利害調整や投資の意思決定に資する情
25
報を与えることである。したがって、製造原価明細表など意思決定に必要と
18
される情報は残しておき、さらに財務諸表作成者よりも利用者の意見を優先
して、簡素化に取り入れるべきであると考える。
5
10
15
20
25
19
結論
本稿では、単体開示の簡素化について考察してきた。
5
まず第一章にて、簡素化導入の背景として法定開示や連結開示導入による
過 剰 開 示 が 起 こ っ て い る 現 状 、ま た 、近 年 IFRS や 非 財 務 情 報 の 導 入 に よ り 財
務諸表作成者のコスト増加していることや利用者のニーズの変化について述
べた。その結果、慎重に検討する必要はあるものの、単体開示の抜本的な簡
素化を主張した。
10
次に、第二章にて今回行われた簡素化の概要と問題点について述べた。こ
の簡素化により、財務諸表作成者のコストは減ったといえるものの未だ不十
分であるとした。理由としては、内容が重複しているにも関わらず、開示を
継続している項目がある点と有用でないと言い切れないにも関わらず、開示
を免除した項目がある点だ。これらに関して、財務諸表利用者にとってより
15
良いものとするために、改正の議論を検討すべきであると考える。
最 後 に 第 三 章 に て 、今 後 の 簡 素 化 に 関 し て 考 察 を 行 っ た 。筆 者 の 見 解 で は 、
現在の簡素化は評価的な面もある一方、未だ不十分であり、今後も引き続き
簡素化を進めていくべきであると考える。今後も簡素化がすすめられ、財務
諸 表 利 用 者 、作 成 者 に と っ て よ り よ い 作 成 規 定 が 検 討 さ れ る こ と を 期 待 す る 。
20
25
20
参考文献
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http://www.fs a.go.j p/news/25/son ota/20 140326-1/01.p df(201 5 年 4
月 20 日 取 得 )
15
23
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