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径 15 mm 以下肺野微小腺癌の CT 画像の解析 ―病理形態学的分類と

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径 15 mm 以下肺野微小腺癌の CT 画像の解析 ―病理形態学的分類と
672
日呼吸会誌
●原
36(8)
,1998.
著
径 15 mm 以下肺野微小腺癌の CT 画像の解析
―病理形態学的分類との比較検討を中心に―
清水 邦彦1)2) 山田 耕三2)
野田 和正2)
要旨:肺野末梢微小腺癌の質的診断を高める目的で,その CT 画像所見と病理所見との比較検討を行った.
対象は最近 5 年間に切除された肺腺癌 46 例であり,病理形態学的分類は野口分類に基づいた.CT 画像は
充実型と含気型に大別し,さらに含気型は肺野条件画像を縦隔条件画像に変換時に完全消失するもの(完全
型)と一部残るもの(不完全型)に分類した.野口分類との対比は充実型 21 例では粘液産生性の A 型 1 例
を除き,B 型 2 例,C 型 11 例(52.3%),D 型 4 例(19.0%)
,F 型 3 例(14.2%)であった.完全型 12 例
は A 型 11 例(91.6%),C 型 1 例で,不完全型 13 例は A 型 4 例,B 型 9 例(69.2%)であった.また,含
気型では内部にスリガラス陰影を 25 例中 24 例(96%)に認め,肺血管との関係では全例で複数の肺血管
が巻き込まれていた.以上から CT 画像所見の解析が質的診断,病理所見の解析にも寄与する可能性が示唆
された.
キーワード:肺腺癌,診断,薄層スライス CT,野口分類
Adenocarcinoma of the lung,Diagnosis,Thin-section CT,Noguchi's type
緒
または X-Vigor であり,通常 CT 画像は造影剤 60 ml を
言
X 線 CT(以下 CT と略す)画像は濃度・空間分解能
Table 1 Histologic typing of small adenocarcinomas
of the lung
に優れており,最近では胸部単純 X 線写真では指摘さ
Type
れずに CT にて初めて発見されるような濃度の淡い径
A
B
C
D
E
F
10 mm 前後の微小病変が注目されている.東京から肺
癌をなくす会の報告1)によると通常の胸部単純写真のみ
による検診では肺癌発見数は 10 万人対比 163 であるの
に比し,胸部 CT を用いた検診では 393 と増加を認め,
しかも早期肺癌の発見数が増加したとされている.この
報告がなされて以来,胸部 CT を肺癌の一次検診や二次
Description
Localized bronchiolo-alveolar carcinoma(LBAC)
LBAC with foci of collapse of alveolar structure
LBAC with foci of active fibroblastic proliferation
Poorly differentiated adenocarcinoma
Tubular adenocarcinoma
Papillary adenocarcinoma with compressive
and destructive growth
Noguchi, et al : CANCER, Vol 75,1995
2)
検診に導入する試みがなされている .今回我々は画像
による質的診断を向上させる目的で,最近 5 年間に当セ
注入しながら全肺野を撮影し(120 kvp,200 mA)
,TS-
ンターで切除された径 15 mm 以下の肺野末梢微小腺癌
CT 画像は造影剤 30 ml を注入しながら,深吸気保持下
の Thin-section CT(以下 TS-CT と略す)画像を解析し,
に病変領域を helical scan 法で CT 寝台を 2 mm 秒で動
病理所見と対比検討したので報告する.
かして撮影した(120 kvp,200 mA)
.画像の描出は肺
研究対象及び方法
野条件:WL-600 HU,WW 1600 HU,縦隔条件:WL 40
HU,WW 400 HU に統一し,通常 CT 画像は 10 mm 厚,
対象は最近 5 年間に神奈川県立がんセンター外科にお
10 mm 間 隔 で,TS-CT 画 像 は 2 mm 厚,2 mm 間 隔 の
いて開胸または胸腔鏡下切除術が施行され,固定後の切
高分解能条件とした.いずれの症例も術前 1 週間以内に
除標本で最大腫瘤径が 15 mm 以下の肺野型腺癌 46 症例
CT 検査が施行され,切除肺は可能な限り CT 方向に割
である.使用した CT 機種は東芝製 TCT-900 S,HELIX
を入れ画像所見と病理所見の比較検討を行った.なお,
〒143―0015 東京都大田区大森西 6―11―1
1)現東邦大学大森病院第 2 内科
2)神奈川県立がんセンター内科第 3 科
(受付日平成 9 年 12 月 26 日)
病理所見における微小肺腺癌の形態学的分類は野口らの
.
報告3)に基づいた(Table 1)
画像解析は以下の分類と所見の定義に従い,統計学的
な解析は Fisher の直接確率法により行い,p<0.05 を有
CT 画像における 15 mm 以下肺野末梢微小腺癌の解析
意とした.
673
Table 2 Characteristics of patients with small adeno carcinomas of the lung
[Thin-section CT 画像の解析]
(a)病変の内部構造
充実型(solid-density type)
:肺野条件画像を縦隔条
件画像に変換した際に病変の面積の変化が 50% 未満の
もの.
含気型(air-containing type)
:肺野条件画像を縦隔条
件画像に変換した際に病変の面積の変化が 50% 以上の
もの.
No. of patients
Age
(median)
Sex
Smoking history
Detection
Pathological stage
Differentiation
Noguchi's type
46
26―78
(64)
Male/Female : 21/25
Yes/No : 28/18
Xp/CT : 21/25
¿/À≦ : 42/4
Well-Mode/Poor : 42/4
A/B/C/D/F : 16/11/12/4/3
さらに含気型を次のように二分した.
完全消失型(complete air-containing type):肺野条
件画像を縦隔条件画像に変換した際に病変陰影が完全に
消失するもの.
不完全消失型(incomplete air-containing type):肺野
条件画像を縦隔条件画像に変換した際に病変陰影が部分
的に残存するもの.
次に充実型,完全消失型,不完全消失型それぞれにお
いて病変内部のスリガラス状陰影(ground glass opacity:以下 GGO と略す)の全体の中で占める割合を 50
%以上 100%,0 から 50%,0% の 3 群に分類した.
その他:石灰化巣,空洞,病巣内気管支透亮像の有無.
(b)辺縁の性状
長さ 1∼2 mm 前後の索状もしくは棘状の陰影(spiculation),肺血管や気管支による辺縁の分葉(notching),
胸膜陥入像(pleural indentation)の有無.
(c)肺血管の関与
肺血管は前後のスライスをトレースすることにより同
定し,病巣内部に巻き込まれる血管(involved
vessel)
について動脈か静脈かの区別を行った.肺血管の関与形
態は動静脈両方の関与と動脈・静脈単独の関与に分け,
肺血管が病変の中に入り込み貫通するものを『貫通関
与』
,また動脈もしくは静脈の 1 本の枝から枝分かれし
てそれらが病巣内に複数関与するものを『枝分かれ関与』
Fig. 1 a) Complete air-containing type. A thin-section
CT image of an air-density lesion with ground-glass
opacity visible in almost all areas. b) Noguchi type A.
A photomicrograph of a well-differentiated adenocarcinoma (tumor size : 9×8 mm).
とした.
成
績
1)症例の背景因子(Table 2)
2)読影結果(Fig. 1∼4)
TS-CT 画像と野口分類の対比(Table 3,
4)
含気型に分類されるものは 25 例であり,type
Cで
年齢は 25∼78(中央値 64)歳で男性 21 例,女性 25
あった 1 例を除き type A,B が 96% を占めた.一方,
例,喫煙者は 28 例(61%)であった.発見動機では,
充実型は 21 例であり,うち type C,D,F は 18 例(86
胸部 X 線単純写真で異常を認められた例が 22 例と,CT
%)と多かった(p<0.01)
.また,含気型 25 例は完全
で初めて異常を認められた例が 24 例であった.病理組
消失型 12 例,不完全消失型 13 例に分類され,前者では
織の分化度は高∼中分化型が 42 例,低分化型は 4 例で
type C であった 1 例を除き残りはすべて type A であっ
あり,術後病期は病変径 10 mm 以下 28 例では 1 例が II
た.後者では 4 例は type A,9 例は type B であり,こ
期である以外はすべて I 期であり,11∼15 mm の 18 例
の type B は前者には全く認めなかった.腫瘍径別にみ
では II 期以上の 3 例以外は I 期であった.野口分類に
ると 10 mm 以下は 28 例,11∼15 mm は 18 例であり,
よると type A は 16 例,type B は 11 例,type C は 12
10 mm 以下の群では type A,B が 20 例(71%)
,type
例,type D は 4 例,type F は 3 例であった.
C,D,F が 8 例(29%)であり,11∼15 mm の群では
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,1998.
Fig. 3 a) Solid-density type. A thin-section CT image
of a solid-density lesion with ground-glass opacity at
the periphery. b) Noguchi type C. A photomicrograph
of a moderately differentiated adenocarcinoma with
active fibroblastic proliferation (tumor size : 15×15
mm).
が 7 例で,全く認めないものが 4 例であった.type D,F
Fig. 2 a) Incomplete air-containing type. A thin-section
CT image of an air-density lesion with ground-glass
opacity containing focal areas of increased density.
Some air-bronchograms are present. V6a can be seen
within the tumor. b) Noguchi type B. A photomicrograph of a well-differentiated adenocarcinoma with a
collapsed alveolar structure (tumor size : 12×10 mm).
は 7 例の全てが充実型であり,また GGO は全く認めら
れなかった.
内部構造,辺縁の性状(Table 6)
内部構造においては空洞や石灰化巣は認められなかっ
た.気管支透亮像は腫瘍径 11∼15 mm と 10 mm 以下で
は各々 33%,43% に認めた.辺縁の性状は spiculation
は 腫 瘍 径 11∼15 mm と 10 mm 以 下 で は 28%,7%,
type A,B が 7 例(39%),typeC,D,F が 11 例(61
notching は 47%,25% であり,胸膜陥入像は 50%,29
%)で A,B に比べ多かった(p<0.01)
.
%に認めた.
次に野口の分類と GGO の割合を検討した(Table 5)
.
肺血管の関与(Table 7)
type A では含気型 15 例,充実型が 1 例であり,含気型
肺血管と病変との関係では,病変の大きさには関係な
は完全消失型(C)11 例,不完全消失型(I)4 例に分
く複数の肺血管の関与を全例に認め,この中で肺動脈と
けられた.GGO の病巣に占める割合をみると,前者で
肺静脈の両者が巻き込まれる例は 40 例(87%)
,残りは
は 11 例全てで GGO が 50% 以上を占めており,後者で
複数の肺動脈のみ,または肺静脈のみが巻き込まれる例
は GGO 50% 以 上 が 2 例,50% 未 満 が 2 例 で あ り,充
が 6 例(13%)であった.肺血管の病変への関与の仕方
実型には GGO は認められなかった.type B では含気型
は,『枝分かれ関与』が 21 例(46%)に認められ,うち
が 9 例,充実型が 2 例で,含気型は全て不完全消失型で
肺動脈のみが関与した 3 例はいずれも『枝分かれ関与』
あり,GGO 50% 以上が 4 例,50% 未満が 5 例で,充実
であった(Fig. 5)
.肺血管の『貫通関与』は 13 例(28
型には GGO は認められなかった.type C では含気型は
%)に認められ,肺静脈のみの 3 例はすべて『貫通関与』
完全消失型の 1 例のみで,残りの 11 例が充実型を呈し,
であった(Fig. 6)
.
GGO の占める割合 50% 以上のものはなく,50% 以下
CT 画像における 15 mm 以下肺野末梢微小腺癌の解析
675
Table 4 Correlation of Noguchi classifications and
adenocarcinoma tumor size
n = 46
Noguchi types
Tumor size
(mm)
A
B
C
D
F
2
5
7
3
1
39 %
14
6
5
61 %
1
2
11―15
≦ 10
71 %
29 %
p < 0.01
Table 5 Correlation of Noguchi classifications and
internal texture of small adenocarcinomas
n = 46
Noguchi types
Internal texture
GGO
(%)
50 ≦
0 < < 50
0
A
B
C
D/F
C
I
S
I
S
C
S
S
11
0
0
2
2
0
0
0
1
4
5
0
0
0
2
0
0
1
0
7
4
0
0
7
GGO : Ground glass opacity ; C : Complete type ; I : Incomplete type ; S : Solid-density type
Table 6 Marginal and internal analysis
( ):%
Fig. 4 a) Solid-density type. A thin-section CT image
of a solid-density lesion without ground-glass opacity
at the periphery. b) Noguchi type D. A photomicrograph of a poorly differentiated adenocarcinoma (tumor size : 8×8 mm).
Table 3 Correlation of Noguchi classifications and CT
findings for small adenocarcinomas
CT findings
Spiculation
Notching
Pleural indentation
Air-bronchograms
Air-containing
Complete
Incomplete
Solid-density
A
B
C
D
F
11
4
1
0
9
2
1
0
11
0
0
4
0
0
3
考
察
(
2 7)
(
7 25)
(
8 29)
12
(43)
(
5 28)
(
8 47)
(
9 50)
(
6 33)
( ):%
CT findings
Noguchi types
10 <<
_ 15
Table 7 Involvement of vessels
n = 46
CT findings
Tumor size mm
<
_ 10
Artery 2 ≦
Vein 2 ≦
Artery + Vein
Branching
Penetration
Tumor size mm
≦ 10
10 <≦ 15
(
2 7)
(
3 11)
23
(82)
14
(50)
(
8 29)
(
1 6)
0
17
(94)
(
7 39)
(
5 28)
Type A-Type F の 6 型に分けている(Table 1)
.それ
によると,Type A,B の腺癌はリンパ節転移および血
最近,野口ら3)は病理形態学的な立場から微小肺腺癌
管や胸膜への浸潤がなくかつ核異型度も低く,5 年生存
を既存の肺胞構造を置換しつつ増殖する腫瘍と非置換性
率は 100% であり,Type C-F とは違いがあるとしてい
に増殖する腫瘍の 2 群に分類し,それぞれの群をその組
る.また野口は異型腺腫様過形成と Type A,B をあわ
織型の特徴か ら 3 つ の 亜 型 に 分 類 し て,全 体 と し て
せて肺末梢気道上皮細胞由来の上皮内腫瘍とみなし,末
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Fig. 5 A thin-section CT image of a solid-density lesion with three branched vessels (V8a).
型腺癌は,主として充実型に相当したものであった.
Type A の 1 例に充実型を呈するものを認めたが,これ
は粘液産生性であるためと考えられた.また,腫瘍の大
きさと野口分類との関係をみると,径 10 mm 以下では
Type A,B が多いのに比して,11∼15 mm では type C,
D,F が多かった(p<0.01)
.これは,野口らの報告で
は上皮内腫瘍である type A,B が進行癌である type C,
D,F に進展していくと推定していることを推測させる
ものと考えられた.
次に,含気型病変を TS-CT 画像上で肺野条件から縦
隔条件に変換した際の所見の変化から,完全消失型と不
完全消失型に分けてみると,完全消失型では Type C の
1 例を除き全例 Type
A であり,かつ TS-CT 画像上で
の GGO の割合が全例で 50% 以上を占めており,不完
全消失型ではその辺縁部に GGO を認めるものも内部に
Fig. 6 A thin-section CT image of air-density lesion
penetrated by V3a.
は一部充実性の部分がみられた.病理学的に Type A と
B の違いは腫瘍中心部での肺胞の虚脱の有無にあり,肺
胞虚脱を伴わない Type A では TS-CT 画像上,全例で
梢発生の腺癌の初期組織像とする見方が今後一般的とな
GGO が 50% 以上を占める傾向にあるが,Type B は不
ると予想しており4),Type A,B 群の CT 画像上の特徴
完全消失型でしかも GGO の占める割合が 50% 以下で
を明らかにすることが課題であると思われる.したがっ
ある例が 5 例(62.5%)であった.一方,Type C は充
て,微小肺腺癌を Type
A,B 群と C,D,F 群に分け
実型ではあるが GGO の占める割合が 50% 以下の例が 7
て TS-CT 画像所見と対比検討することは,今後の CT
例(70%)に認められ,Type D,F では GGO は全く認
検診の普及やその評価のためにも必要であると考えられ
められなかった.これは腫瘍の中心部の線維化巣が膠原
る.
線維の活発な増生を伴うことより,腫瘍の内部はほとん
今回最近 5 年間に当センタ−で切除され,TS-CT 画
ど充実性の部分となるが,その辺縁にはまだ GGO が残
像とその病理所見が対比可能であった 15 mm 以下の肺
るためと考えられた.瀬戸ら5)が 20 mm 以下の肺腺癌の
野型微小腺癌を retrospective に検討した.結果は肺腺
検討で Type C は CT 画像上,中心部に充実性濃度部分
癌の過半数を占める置換性増殖型―Type A,B,C と de
を有し,その辺縁部にスリガラス濃度部分を認めるとし
novo 発癌の可能性のある Type D と特殊型の Type F
ており今回の検討と一致した.これに対し Type D,F は
が認められた.Type A,B は主として TS-CT 画像では
肺胞上皮を非置換性に増殖するために GGO は認められ
含気型に,Type C,D,F は TS-CT 画像では充実型に
ないと考えられた.GGO に関しては X 線学的には周囲
分類できた.このことは病理学的な増殖形態に符合する
の肺血管の濃度より低く,均一な肺胞濃度の上昇を示す
ものがあると考えられる.すなわち高分化型腺癌に代表
ものであるが,病理学的所見と TS-CT 画像を対比する
されるような肺胞上皮を置換性に増殖し線維化巣を持た
と,肺胞上皮を単層に腫瘍細胞が置換性増殖していく高
ないものは,TS-CT 画像では主として含気型に,また
分化型腺癌の所見を反映するものと考えられた.
肺胞腔を充填または破壊増殖を示す乳頭状腺癌や低分化
辺縁の性状についても,spiculation,notching,pleu-
CT 画像における 15 mm 以下肺野末梢微小腺癌の解析
ral
677
indentation は 15∼40% に認められた.これらの辺
Type A,B を上皮内腫瘍と考えられるならば CT 画像
縁所見は,径 10 mm 以下の微小腺癌では径 11∼15 mm
で含気型の肺癌を発見することは意義があると思われ
に比べ出現頻度が減少した.病理学的にはこれらの辺縁
る.将来的には消化管癌における粘膜切除術と類似して,
所見は腫瘍増殖とともに中心部に線維化を伴って瘢痕収
含気型肺癌の治療が胸腔鏡による肺区域切除あるいは部
縮してゆく際に認められる所見であると考えられ,径 10
分切除で十分根治が望める可能性もあり,今後さらに症
mm 以下の肺腺癌の病理組織像では線維化巣を有するよ
例を蓄積し,予後を含めた prospective な検討を行うこ
うな完成された病変が少なく,またそのほとんどが高分
とが大切である.
化型であることが,辺縁の変化に乏しい原因のひとつと
考えられた.
肺血管の関与については,helical
謝辞 本研究は厚生省がん研究助成金『微小肺がんの診断
および治療法の開発に関する研究』班(西脇班)から援助を
scan 法による TS-
受けた.なお,病理所見の分類(野口分類)の際にご指導い
CT 画像によって血管(肺動脈・肺静脈)の同定ならび
ただきました筑波大学医学専門学群病理学教授 野口雅之先
に病変への関与についての詳細な判定が可能である.肺
生に深謝いたします.
癌は肺の区域に関係なく進展するため区域間の境界であ
稿を終えるに当たり,御校閲を賜りました東邦大学医学部
る肺静脈を巻き込み,小葉単位に病変が進展する炎症性
内科学第 2 講座,磯貝 庄教授に深甚なる感謝の意を表しま
病変では病巣が肺静脈で境されることになると考えら
す.
れ,肺癌と炎症性病変が鑑別できると我々は報告してき
文
た6).また TS-CT 画像による小型肺癌において複数の肺
献
血管が関与すること,肺静脈の関与が病変の辺縁ではな
1)柿沼龍太郎,大松広伸,森山紀之,他:東京から肺
いこと(
『貫通関与』
)
,非癌性病変では全く認められな
癌をなくす会,ヘリカル CT 検診の結果.胸部 CT
かった『枝分かれ関与』などを重要な所見と報告してき
検診 1996 ; 3 : 73―75.
た が,今回検討した径 15 mm 以下の微小肺癌例におい
2)Kaneko M, Eguchi K, Omatsu H, et al : Peripheral
て,全例肺静脈を含めた複数の肺血管が関与し,『枝分
lung cancer : Screening and Detection with Low-
7)
かれ関与』は 46%,『貫通関与』は 28% に認められた.
このような肺血管と病変の関与形態に関しては,辺縁所
見と同様に病変が小型になればなるほど『巻き込み』か
『辺縁の通過』かの判断に迷う傾向にあるが,今回の検
Dose Spiral CT versus Radiography. Radiology
1996 ; 201 : 798―802.
3)Noguchi M, Morikawa A, Kawasaki M, et al : Small
adenocarcinoma of the lung. Histologic characteristics and prognosis. Cancer 1995 ; 75 : 2844―2852.
討で『枝分かれ関与』は径 11∼15 mm では 39%,径 10
4)野口雅之,下里幸雄:肺腫瘍の病理 I:肺癌の発生
mm 以下で 50% に認められ,
『枝分かれ関与』がみられ
をめぐって 前癌病変,発生母地:肺末梢腺癌と末
れば『巻き込み』ありと判断できるものと考えられた.
梢気道上皮の異型過形成(上皮内腫瘍)
.病理と臨
今回検討した径 15 mm 以下の肺腺癌では径 11∼15
床 1996 ; 14 : 41―45.
mm の 3 例と径 10 mm 以下の 1 例の計 4 例が術後病期
5)瀬戸真由美,栗山啓子,木戸尚治,他:小型腺癌の
I 期ではなかった.その 4 例の内訳は 3 例は進行癌であ
thin-section CT と野口らの病理組織学的分類との比
る type C であり,1 例は低分化型腺癌(Type D)で CT
較検討.肺癌 1997 ; 37 : 841―848.
画像上,充実型として認められた.現時点までに前述の
6)磯部威,山田耕三,尾下文浩,他:1.5 cm 以下肺野
野口らが報告した以外に TypeA,B についての予後を
末 梢 型 肺 癌 切 除 例 の CT 診 断.肺 癌 1995 ; 35 :
CT 画像を含めて詳細に検討した報告はないが,当セン
タ−では CT 画像上で含気型を呈した径 10 mm 以下の
Type A,B の微小腺癌は観察期間は最長で 4 年である
ものの,現在まで再発なく生存中である.病理学的に
891―899.
7)清水邦彦,山田耕三,野田和正,他:Thin-section
CT 画像による CT で発見されるような 10 mm 以下
の肺野微小病変の解析―CT 画像と病理所見の対
比.臨床放射線 1998 ; 43 : 9―18.
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Abstract
Computed Tomography Analysis of Resected Small Adenocarcinomas of the
Lung Less Than 15 mm in Diameter
―Correlation of Radiologic and Histologic Characteristics―
Kunihiko Shimizu1)2), Kouzo Yamada2), Kazumasa Noda2)
1)
The Second Department of Internal Medicine, Toho University School of Medicine.
6―11―1, Omori-Nishi, Ota-ku, Tokyo, Japan.
2)
Department of Thoracic Disease, Kanagawa Cancer Center,
To analyze the radiographic characteristics of small adenocarcinomas of the lung that can be detected by
computed tomography (CT), 46 resected small peripheral adenocarcinomas measuring less than 15 mm in diameter were retrospectively reviewed, and the marginal and internal findings and surrounding vessels of the tumors
as shown on thin-section CT images were correlated with six histologic classifications (types A-F) as defined by
Noguchi et al. The adenocarcinoma CT images were classified into two patterns : a solid-density type (n=21) and
an air-containing type (n=25). The lesions of the air-containing type were further divided into two different
growth patterns : a complete air-containing type (n=12) and an incomplete air-containing type (n=13). The soliddensity adenocarcinomas shown in the CT images fell mainly into the C, D, F and Noguchi clasifications. Although
one sample in the complete air-containing category was type C, the rest were type A. The incomplete aircontaining category included 4 type As and 9 type Bs. The CT findings for the 24 adenocarcinomas in the aircontaining category (96%) showed an opaque ground-glass internal texture. Plural vascular involvement was observed in all 46 adenocarcinomas examined. Our results suggest that thin-section CT findings can play an important role in differentiating lung cancer and increasing our knowledge of the radiologic and pathologic correlations.
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