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①
‘
5
誓
イヌにおける穂性脳
幹反応の臨床応用に
関する研究
字塚雄次
目次
第
1章 序 論
2章
21
2-2
2-3
2-4
2-5
第
第
3i
手
1
イヌの聴性脳幹反応
(ABR)の 波 形 に 関 す る 基 礎 的 検 討
10
11
14
17
20
緒言
供試動物および実験方法
実験結果
考察
小t
舌
イヌの穂性脳幹反応記録
(ABR) に 影 響 を お よ ぼ す 各 種
要因に関する基礎的検討
3-7
第
4章
緒言
各 種 刺 激 音 に 対 す る ABR
波形の出現性について
ABRに お よ ぼ す 刺 激 音 の 強 度 の 影 響
ABRに お よ ぼ す 麻 酔 深 度 の 影 響
ABRに お よ ぼ す 体 温 の 影 響
考察
括
3-1
3-2
3-3
3-4
3-5
3-6
32
33
38
40
42
・
.44
47
実験的聴覚障害犬の作出ならびに聴性脳幹反応
(ABR)
による聴党機能評価
4-1
4-2
57
緒言
カナマイシンの単回投与により生じる急性
聴 器 障 害 に お け る イ ヌ の ABRの 変 化
4-3
附値の変動
にみられる ABR
4-4
4-5
第 5~立
考察
小f
舌
61
64
67
聴覚機能Ill
i
;筈 な ら び に 中 厄 神 経 系 I
4
l
i
筈の症例に対する聴性
脳幹反応
5-1
5-2
5-3
59
カナマイシンの反復投与による聴覚障害犬
(ABR)の 臨 床 応 用
緒言
74
供試ill)
J
物ならびに検査方法
75
76
検査結果
5-4
5-5
第
6章
78
82
考察
小括
94
総合考察ならびに結論
謝辞
e
・
98
99
引用文献
1
1
第
1章
序論
獣医学領減においては、脳の機能を非侵婆的に調べる方法として
これまで主として脳波検査が用いられてきた。しかし、一般に普
及している脳波は大脳皮質表面の電気的活動をとらえているのに
すぎないことから、大脳深部や脳幹の機能を明らかにするために
は、別の手法が必要であり、そのーっとして誘発反応が用いられ
始めた。誘発反応とは感覚刺激によって誘発される脳の一過性の
電位活動のことで、一定の刺激に対して定型的な潜時の一定した
反応を得ることができる。この手法は、大脳深部の機能を調べる
のに有効であり、感覚の大脳への投射経路や感覚の局在性の決定
などに大きく貢献してきた [
7
4
]。
誘発反応、は 1875年 Catonの 「 脳 の 電 気 の 流 れ 」 と い う 報 告 の 中 で
初 め て 述 べ ら れ た [1
4
]。 こ の 報 告 は 視 覚 誘 発 反 応 に つ い て 述 べ ら
徳党誘
れたものであったが、 1898年 に は Larionovが 音 叉 を 使 っ た i
発反応の記録に成功した [
5
1
]。 そ の 後 写 真 法 の 確 立 に よ り 、 1913
年 に は Pr
avdi
c
hNemi
nskyが 誘 発 反 応 の 写 真 を 娠 影 し [
7
0
]、より
客観的なデータを示すことができるようになった。しかし、頭皮
上から記録される誘発反応はその仮闘が小さく、背景脳波に隠蔽
されるのでその識別は長い間困難であった。
2
0
]、 1954年 に は さ
そこで、 Dawsonは 1947年 に 重 畳 法 を 開 発 し [
ら に 進 ん だ 平 均 加 算 法 を 用 い た 誘 発 反 応 加 算 装 置 を 発 表 し た [21]。
平均加算法によれば、刺激条件を同ーにした何回かの反応波形の
瞬時値を刺激開始時を基準にして、その後の各時点毎に加え合わ
せて )
J
日t
?
:波 形 を 作 っ た 時 、 一 定 治 1寺 で 出 現 す る 反 応 は 加 算 回 数 に
比例して大きくなり、逆に自然脳波のようなランダムな波形はお
互いに相殺されて収童文していくので、両者が混在するような場合
2
-
に は 誘 発 反 応 だ け が 鉱 大 さ れ た 形 で 記 録 さ れ る 。 1960年 代 に は 現
在のものと同様のデジタル型反応平均加算装置が作られ、誘発反
応の研究が広がってきたが、装置の分解能が低く、研究対象とな
るのは長い潜時を持つ反応に限定されていた。
しかし、 1970年 代 以 後 は コ ン ビ ュ ー タ ー の 著 し い 進 歩 に よ り 、
i
e
l
d potential) の 記 録 も 可 能 に な っ
短 い 潜 時 の 遠 隔 電 場 電 位 (farf
た。このため、大脳誘発電位の基礎研究、並びに応用への展開が
急速に進み、それによって脳幹、なかんずく中脳、橋のような脳
深部の機能の変化を解明することが可能になった。現在までのと
ころ、これは脳の深部や脊髄の機能変化を知ることのできる数少
ない手法のーっと言うことができ、しかも被験者に何ら侵襲を加
えることなく実施することが可能なため、ヒトの神経機能検査法
として、広範に利用されるようになってきている 。
近年では、実験動物及びイヌ、ネコのような小動物の神経機能の
検査にも用いられてきている。一般に大脳誘発電位には、その刺
激する感党器及び神経の種類により、主なものとしては聴覚誘発
電 位 (auditoryevoked potenti
a
l :A E P) 、 視 党 誘 発 電 位
(visual evoked potential V E P) 、 体 性 感 覚 誘 発 電 位
(somatosensory evoked potential
SE P) の 三 極 類 が 挙 げ ら
れる [
76]。
聴 覚 誘 発 電 位 (AEP) と は 、 音 に よ っ て 聴 覚 を 刺 激 し 、 感 党 受
容器の蛸牛に発生したインパ J
レスが、大脳皮質側頭集の聴中継に
速するまでの聴党伝将路、あるいはこれに関係する部分から生じ
る電位変動を頭部においた氾極によって記録したものであり、取'~1
党 電 気 反 応 (auditory eleclric response) あ る い は 聴 覚 誘 発 反 応
3
-
ー
(auditory evoked response:A E R) も同義に用いられている。
聴覚誘発電位は、潜時の上から短潜時 (0~10msec) 、中潜時
(10~75msec) 、長潜時 (50~ 1,OOOmsec) 成 分 に 分 類 さ れ る
[54]。 当 初 は 長 潜 時 成 分 に つ い て 研 究 さ れ て い た が 、 技 術 の 進 歩
にともない、 1970年 Jewettが ネ コ に お い て 初 め て 短 潜 時 成 分 の 記
録 に 成 功 し て 以 来 [39]、 ヒ ト お よ び 動 物 で の 短 潜 時 聴 覚 誘 発 電 位
の研究が盛んになってきた。短潜時聴覚誘発電位は、動物の種差
に関係なく通常 5~7 個の波形成分からなり、その発生源は脳幹と
推 測 さ れ て い る た め 脳 幹 聴 覚 誘 発 電 位 (brain-stemaudiiory
evoked potent
i
a
l :B A E P) あ る い は 聴 性 脳 幹 反 応 (auditory
brainstem response A B R) と 呼 ば れ て い る が 、 本 邦 で は 呼 称
として後者が通常使用されている。
聴性脳幹反応
(ABR) は 通 常 陽 性 波 を 波 形 成 分 と し 、 そ れ を ロ ー
マ数字で表示されている。その各成分の発生源は、モルモットや
ネコでの中継核の破壊実験 [
2, 11,96,96]や 深 部 記 録 [
1, 13,53,
8
3
]により、
I波 は 第 8聴神経、 E波は腕牛神経核、 E波 は 台 形 体
を交叉する二次ニューロンの線維路とその投射核で:ある上オリー
ブ核、 W 波は両側性の外{j[lj毛帯とオリーブ核前部付近の橋部勝党
路
、 V波 は 反 対 側 中 脳 の 後 丘 と 推 測 さ れ て い る が 、 未 だ 完 全 に 研
究 者 聞 に お け る 合 芳 、 を み て い る わ け で は な い (Fig. 1-1.) [92]。
ABRの 発 生 機 序 に つ い て は 、 こ れ ま で 多 く の 研 究 者 に よ っ て 検
討 さ れ て き た 。 そ れ ぞ れ の 波 形 成 分 の 発 電 休 (generator) を 解 明
することは、脳幹病変の部位診断に役立つだけでなく、
ABRの
臨床応用に際し基礎的↑1
3報 を 与 え る 。 現 在 ま で マ ウ ス [32-34]、 ラッ
ト[24,40,69]、モ Jレモ y ト[9597]、 ネコ [
1,2,39,40,44,53]、
4-
サl
レ[
3, 65)が 研 究 対 象 と し て 使 用 さ れ 、 こ れ ら の 中 継 核 の 破 壕 実
験や深部記録により、 A B R波 形 と 発 電 体 の 位 置 と の 対 応 が 研 究
されてきた。
(53)や
こ の 発 生 機 序 に つ い て は 、 発 見 当 初 の Levと Sohmer
Buchwaldと Huang(11)の 研 究 に 代 表 さ れ る よ う な 、 各 波 と 特 定 の
解 剖 学 的 構 造 と が 1:
1に 対 応 し て い る と い う 意 見 と 、 こ れ を 否 定 す
るさまざまな意見が あ る 。 LevとSohmerは I波は鯛牛神経、 E 波
は鍋牛神経核、 E 波 は 上 オ リ ー ブ 複 合 体 、 W 波 は 外 側 毛 帯 腹 側 部
(外側毛帯腹側核および、 preolivary region) 、 V 波 は 下 E に 起 源
する波であると結論づけている。その後の研究で、これら発生起
源と考えられている部位が必ずしも妥当でないとする意見 [
1,2,
24)や 、 各 波 形 と 1個 の 解 剖 学 的 構 造 は 1
1に 対 応 す る も の で は
な く 、 多 く の 部 位 の 誘 発 反 応 が 重 な り あ っ て A B R波 形 が 形 成 さ
れ る と す る 意 見 が 出 さ れ た が [44,72)、 今 日 に 至 る ま で こ れ ら の 対
立点はいまだに解明されていない。
イ ヌ を 用 い て の A B Rの 研 究 報 告 は 1
980年 代 中 期 よ り み ら れ 始
めたが、発電体との関係を追及した研究はほとんどみあたらない。
現在のところ、他の動物の波形パターンとその呼称とをそのまま
イヌに適用している例もあるが、それが適当であるかどうかにつ
いては十分吟味されていない。実際、波形の命名法は各研究者に
よ り 異 な っ て お り 、 例 え ば Simsら (78)が P Vと し て い る コ ン ポ
ー ネ ン ト は Bodenhamer や Kayらでは P Nと さ れ て い る [
9,43)0
以 上 の こ と か ら 、 イ ヌ に お け る A B Rの 発 生 機 序 を 追 求 す る こ と
は、各波形の命名法を l
舵立するための手助けとなるばかりでなく、
獣 医 学 領 域 に お け る A B Rの 応 用 の 町 四 を 広 げ る こ と に な る で あ
5
-
ろ う 。 そ こ で 、 今 回 の 実 験 で は 、 イ ヌ を 用 い て 下 E破 緩 や 外 側 毛
帯 の 切 断 実 験 を 行 い 、 イ ヌ の A B R波 形 に そ の 発 電 体 の ー っ と 思
われる下丘がどのように関与しているかについて検討した。そし
て そ の 知 見 を も と に イ ヌ の A B Rの 波 形 の 命 名 法 に つ い て 考 察 し
た ( 第 2章)。
A B R波 形 は 刺 激 に 関 す る さ ま さ ま な 要 因 の な か で 、 と く に 刺 激
音 に よ る 影 響 を 強 く 受 け る こ と が 知 ら れ て い る [62]。 し か し 、 イ
ヌ に お け る A B Rの 研 究 は ク リ ッ ク 音 刺 激 に よ る も の が ほ と ん ど
であり、この点に関しての検討は全くなされていない。とくに、
聴 覚 機 能 評 価 と い う 面 を 考 慮 し た 場 合 、 A B Rに は 刺 激 音 に よ る
i
;
'
e
で
は
周 波 数 依 存 性 が 存 在 す る も の と 思 わ れ る 口 1]。 そ こ で 第 3:
種 々 の 刺 激 音 に 対 す る A B R波 形 の 相 違 に つ い て 調 べ た 。 さ ら に 、
その他問題になりうると考えられる記録条件のうち、刺激強度、
麻 酔 深 度 、 体 温 に つ い て 着 目 し 、 こ れ ら と A B R波 形 と の 関 係 に
ついても検討した。
また A B Rの 記 録 か ら 聴 覚 機 能 を 評 価 す る 場 合 、 A B Rの 各 波 形
成 分 の 変 化 に 注 目 す る よ り も 、 A B R波 形 の 閥 値 を 問 題 に し た 方
がより有効であると考えられる [
27]
。そこで、つぎに実験犬に聴
器毒性をもっ抗生物質を連日投与し、周波数の異なる刺激音に対
する A B R閥 値 の 推 移 に つ い て 検 討 し た ( 第 4i
;
r
)
。
1経 機
本 検 査 法 は ヒ ト 医 学 で は 聴 覚 機 能 検 査 の 函 と 同 等 に 脳 幹 の や1
能 検 査 と し て も 活 用 さ れ て い る 。 そ こ で 、 第 5常 で は 実 際 の 臨 床
1経 機 能 検 査 法 と し
例 に お け る 患 畜 に A B R記 録 を 応 用 し 、 そ の 事 1
て の 可 能 性 に つ い て も 病 理 学 的 所 見 や Magnet
icResonance
I
maging ( M R 1) 検 査 所 見 と 組 み 合 わ せ て 検 討 し た 。
6
-
ー
以 上 の よ う に 、 本 研 究 は イ ヌ に お い て A B R検 査 法 を 導 入 す る
ために基礎的ならびに応用の立場から種々の検討を行った。すな
わ ち 、 イ ヌ に お け る A B R波 形 の 命 名 の 確 立 と 記 録 条 件 の 吟 味 を
行ったうえで、実際に実験的聴覚障害犬ならびに臨床例への応用
を試み、獣医学領域でのその有用性を実証することを研究の目的
とした。
7
-
t
r
a
p
e
z
o
i
d
nucleus
geniculate
cortex
r
a
d
i
a
t
i
o
n
outerh
a
i
rc
e
l
l
Heschl's
gyrus
i
n
n
e
rh
a
i
rc
e
l
l
organ01Corti
¥
1^
)
¥
A
NN
RepresentativeABRwavepatterni
nadog
1
. Thea
u
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i
t
o
r
ypathwayandanexample0
1ABRwavelormi
na
F
i
g
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1ABRi
ndogusedt
h
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t Each
dog. Thenomencleture0
wavesuspected1
0begeneratedbycorrespondenlp
o
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l
i
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n0
1neuron
0
1uppera
u
d
i
t
o
r
ypathway.
第 2章
イ ヌ の 聴 性 脳 幹 反 応 (AB R)
の波形に関する基礎的検討
2-1
緒言
A B Rについては Jewe
t
tの 報 告 以 来 、 多 く の 研 究 が な さ れ て い る 。
その発生機序についても、これまで多くの研究者によって検討さ
れてきた。現在までマウス口 2
-34)、ラット [24,40,69)、モ J
レモッ
1,2,36,39,53)、サ Jレ[
3, 65)な ど が 研 究 対 象
ト[95-97)、ネコ [
として使用され、これらの中継核の破援実験や深部記録により、
A B R波 形 と 発 電 体 の 場 所 と の 対 応 が 研 究 さ れ て き た 。 し か し 、
イヌを対象とした研究はこれまであまりみられない。
イ ヌ を 用 い て の A B Rの 研 究 は 1980年 の Haung[37)が 最 初 で あ
る 。 そ の 後 1980年 代 中 期 よ り イ ヌ の A B Rに 関 す る 文 献 が み ら れ
るようになったが [
9,27,43,57,78,90)、 こ れ ら の 研 究 は す べ て
記録法や正常波形に関するもので、発電体に関する研究はほとん
どみあたらない。現在までのところ、他の動物の波形パターンと
その呼称をそのままイヌに適用しているが、それが適当であるか
-l.)。
ど う か に つ い て は い ま だ に 不 明 な 点 が 多 い (Fig. 2
そこで本章では、イヌを用いてクリック音刺激により誘発される
A B Rを 記 録 し 、 下 丘 破 域 や 外 側 毛 帯 の 切 断 実 験 を 行 い 、 イ ヌ の
A B R波 形 に そ の 発 電 休 の 一 つ で あ る と 考 え ら れ る 下 丘 が ど の よ
う に 関 与 し て い る か 、 ま た そ の 知 見 を も と に 他 の 動 物 の A B Rと
比 較 し て イ ヌ の A B Rを ど の よ う に 命 名 す べ き か に つ い て 検 討 し
た
。
10
-
ー
2-2 供 試 動 物 お よ び 実 験 方 法
2-2-1 供 試 動 物
イ ヌ の 正 常 な A B R波 形 を 求 め る た め に 、 供 試 動 物 と し て 体 重 7
-16kgの 成 熟 し た ピ ー グ Jレ犬 10頭 お よ び 雑 種 成 犬 13頭 を 試 験 に 供
し た 。 こ の う ち ピ ー グ ル 犬 4頭 と 雑 種 2頭 を 破 壕 実 験 に 用 い た 。 な
お、これらのイヌは行動学上なんら聴覚異常は示さず、また外見
上臨床的に健康なものと見られるものであった。
2-2-2
麻酔
麻酔前投与薬としてキシラジン(セラクタール⑧;バイエルジャ
パ ン ) 2mg/kgと 硫 酸 ア ト ロ ビ ン ( ア ト ロ ビ ン 注 @ ; 扶 桑 薬 品 )
0.05mg/kgを皮下注射し、その 10-20分 後 に ぺ ン ト パ Jレビタール・
ナ ト リ ウ ム ( ネ ン ブ タ ー Jレ@;ダイナボット) 10mg/kgの 静 脈 内
注 射 を 行 っ た 。 手 術 開 始 直 前 、 お よ び 手 術 ま た は A B R記 録 中 は
必 要 に 応 じ て 初 回 投 与 量 の 3分 の l盤 を 静 脈 内 に 追 加 投 与 し た 。
眼球には乾燥を防ぐため、 I
浪軟膏を塗布した。
2-2-3 記 録 お よ び 測 定
,
!
¥
'を モ ニ タ ー し 体 温 を 3
8
'
(
;
イヌを伏臥保定し記録を行った。直腸 i
に保つために必要に応じて湯タンポまたは使い捨てカイロを用い
て 保 温 し た 。 記 録 電 極 は 大 脳 出j縁 か ら 大 孔 ま で の 距 離 の ほ ぼ 中 央
正中部に、基準電極は背刺激と同側の耳 J:'~ に、 f産地 i氾極は王fi f
f
l
1
1
T
側皮下に置いた (
F
i
g
. 2-2.) 0 ~l1極は先端部の被Jl.l を剥した 径の
太さ 120μmの エ ナ メ ル 銅 線 を 25Gの注射事│に通した釣り針沼極を
1
1-
ー
皮下に刺入して使用した。
電磁装着後、左右の耳にヘッドホンを直接当て、外耳部に密着す
るように伸縮ベルトで巻いて固定した。音刺激には、音刺激措置
(日本光電工業製
SSS-3100) を 用 い ク リ ッ ク 音 で 刺 激 し た 。 刺
激 強 度 は 110dBSPLと し た 。 刺 激 頻 度 は 10/secと し 、 マ ス キ ン グ
は行わなかった。刺激音の位相は、毎回同ーにしている報告者も
9,41,42,57]、 同 ー に す る と 嫡 牛 マ イ ク ロ フ ォ ン 電 位 や 電
多いが [
磁誘導雑音が加算されるため、特別の理由がないかぎり、刺激音
は 通 常 一 回 毎 に 位 相 を 逆 転 さ せ て 与 え ら れ る [55]。 そ こ で 本 実 験
で も 刺 激 音 の 位 相 は rarefaction と condensation を交互に与えた。
A B Rの 記 録 方 法 は 次 の と お り で あ る 。 ま ず 生 体 電 気 用 前 置 増 幅
器(日本光電工業
AVB-11) の ( +)端子に記録電極を、
(ー)
端子に基準電極を、接地端子に接地電極をおのおの接続して反応
を 増 幅 (50,000倍増幅、周波数千持減 0.
5-3000Hz、 帰 引 速 度 1
msec/cm) し 、 万 能 現 象 用 メ モ リ ー オ シ ロ ス コ ー プ ( 日 本 光 電 工 業
VC-11) 上 に 表 示 さ せ た 。 反 応 は オ シ ロ ス コ ー プ に よ る モ ニ タ ー
と 同 時 に 、 シ グ ナ ル プ ロ セ ッ サ ー (NE C 三 栄 製
誘発反応加算装置(日本光電工業
7T17) または
DAT-1100) に よ っ て 平 均 加 算
したものをフロッピーディスクに記録し、実験終了後分析した。
記録は手術前と小脳除去後、そして脳幹の部分破壊後に一定の時
間 (1~ 12時 間 ) を 置 き 波 形 の 安 定 を 確 認 し て か ら 行 っ た 。
2-2-4 破 駿 実 験 の た め の 手 術
正 常 な A B Rを記録した後、 j
悩の浮腫を│紡ぐためにデキサメサソ
ン(コ lレソン@;武田薬品工業) 4mgを大ft"i
より硬 I
J
央下肢に役与し、
1
2
-
イヌを伏臥状態で脳定位固定装置(成茂製作所製)に頭部を保定
した。後頭部を切皮後、後頭骨後稜に付着している筋肉を電気メ
スを用いて付着部より切り離し、ついで電気ドリルを用いて後頭
鱗 に 直 径 約 1.5cmの 円 状 の 切 り 目 を い れ 、 メ ス ホ ル ダ ー の 柄 で 上 側
より大孔にかけて後頭鱗をもちあげ、除去した。小脳が露出した
ら、硬膜を限科欽により切除し、下丘が肉眼的に確認できるとこ
ろまでサッカーで小脳を吸引除去した。下丘を確認した後、下丘
を 吸 引 し て A B Rを 記 録 し た 後 、 ス パ チ ュ ラ を 用 い て 下 丘 尾 側 で
外側毛帯を切除し、 A B Rを記録した。
2 2-5 破 壊 病 変 の 確 認
司
実 験 終 了 後 、 イ ヌ を ネ ン ブ タ ー lレの静脈内投与により安楽死させ、
摘 出 し た 脳 幹 を 10%ホ Jレ マ リ ン で 固 定 し た 。 脱 水 お よ び パ ラ フ ィ
ン包埋した後、 25mmの 綴 断 函 連 続 切 片 を 10枚に 1枚 の 割 合 で 標 本
とし、 lレ ク ソ ー ル フ ァ ス ト 背 染 色 ( ク リ ュ ー パ ー - パ レ ラ 染 色 )
を 施 し た (Fig. 2-3.) 。 破 壊 損 傷 部 の 確 認 は 、 肉 眼 的 お よ び 切 片
標本を用いて組織学的に行った。組織学的な部位の同定は、
Sniderの. A STEREOTAXIC ATLAS OF THE CATBRAIN'
(
82)と照らしあわせて行った。
1
3
-
2-3 実 験 結 果
2-3-1
正常犬に見られる
ABR波形
Fig. 2-4 は 、 今 回 の 実 験 で 記 録 さ れ た 正 常 犬 に 見 ら れ る
ABR
の典型的な波形を表している。 4つ の 振 幅 の 大 き な コ ン ポ ー ネ ン
トにつづいて、
5番 目 に 振 幅 の 小 さ い 緩 や か な コ ン ポ ー ネ ン ト が
認められた。これらのコンポーネントを潜時の短いものから順番
に I 波 ~V 波とした。
23 頭 46 耳中、
20 耳で田波が 二 峰性に出現し
たが、この場合は i
l
l
a波、 i
l
l
b波として扱った。また、 Fig. 2-4.で
は見られないが、 V 波 に つ づ い て 振 幅 の 小 さ い コ ン ポ ー ネ ン ト
(VI波)がしばしば見られた。
2-3-2 下 丘 吸 引 お よ び 外 側 毛 衛 切 断 後 、 各 個 体 で 見 ら れ た A
BR波 形 の 変 化
下 丘 吸 引 お よ び 外 側 毛 帯 切 断 実 験 に よ る ABR波 形 の 変 化 は 、 個 々
の イ ヌ で の 破 壊 損 傷 部 の 位 置 と と も に Fig. 2-5 から FIg. 2-10 に
示した。
NO.1で は 、 左 外 側 毛 帯 は l
吻側から尾側に至るまで切断されてお
り、オリーブ核と下丘との連絡は完全に断たれていた。右側外側
毛裕も尾側の切片で切断が確認された。この伺体における
ABR
波 形 の V波 は 、 左 耳 刺 激 で は 外 側 毛 市 切 断 後 に は 完 全 に 消 失 し た
が、右耳刺激では外側毛 f
!
?切 断 後 も 明 I
l
h
tな 形 で 現 わ れ て い た
(Fig. 2-5.) 。
NO.2で は 、 組 織 切 片 か ら 、 下 丘 の l
吻側は残っていたが、尾側で
はその 3/4の 深 さ ま で 吸 引 さ れ て い る の が 舶 認 さ れ た 。 V波 は 振
1
4
-
幅の低下は認められるものの、下丘吸引後も両側とも残っていた
(Fig. 2-6.) 。
NO.3で は 、 脳 幹 の か な り 深 部 ま で 吸 引 さ れ て お り 、 下 丘 は 完 全
に除去されていた。 V 波 は 両 側 と も 消 失 し て い た (Fig.2-7.) 。
NO.4で は 、 下 丘 の 吸 引 除 去 で は 下 丘 の 吻 側 が わ ず か に 残 っ て い
た 。 こ の 時 点 で の A B Rで は 、 左 右 刺 激 と も に V 波はみられたが、
左 耳 刺 激 で は 大 き く 波 形 が 乱 れ 、 V波 は 正 常 時 に 比 べ て 娠 幅 が
75%減 少 し て い た 。 外 側 毛 帝 の 切 断 で は 、 左 下 丘 の 吻 側 部 を 損 傷
し た だ け で あ っ た 。 こ の 段 階 で 、 左 耳 刺 激 の A B Rの V 波 は ほ と
ん ど 消 失 し た が 、 右 耳 刺 激 で は 明 際 に 残 存 し て い た (Fig.2-8.) 。
NO.
5で は 、 下 丘 吸 引 除 去 時 点 で 右 側 の 下 丘 が わ ず か に 残 っ て い
たが、外側毛帯切断により、外側毛帯と下丘の連絡は完全に断た
れ て い た 。 下 丘 吸 引 後 の A B Rには、両側とも V 波はみられるが、
娠 幅 の 減 少 が 認 め ら れ た 。 外 側 毛 帯 切 断 後 、 右 耳 刺 激 の A B Rは
V 波 が 明 瞭 に 残 っ て い た が 、 左 耳 刺 激 の A B Rで は N波 の 下 降 脚
に 重 な る よ う な 波 形 を と っ た (Fig. 2-9.) 。
NO.6で は 、 左 側 は 完 全 に 下 丘 の 吸 引 除 去 が 行 わ れ た が 、 右 側 下
丘 で は 吻 側 が わ ず か に 吸 引 さ れ て い な か っ た 。 V波 は 、 右 耳 刺 激
では下丘吸引後は存在が不明│政となったが、左耳刺激では外側毛
郁 切 断 後 ま で は っ き り と み ら れ た (Fig. 2・ 1O
.)
。
2-3-3 陰性 W 波 (NN波 ) の 消 失
N波と V波 の 聞 に あ る 陰 性 波 (NN) の ピ ー ク は 、 背 京 脳 波 を M
線として考えた場合、通常、主主総よりもかなり陰性に現われる。
小脳除去後および下丘 l
吸引後もピークはやはり陰性にあったが、
15-
外在m毛 帯 を 切 断 し た 後 で は 、 基 線 付 近 あ る い は 基 線 よ り も 陰 性 と
な る 傾 向 に あ っ た 。 こ の NNの 消 失 あ る い は 振 幅 の 減 少 は 、 5例中 4
例 (No.3.4.5.
6
) (Fig.2-7..2-8..2-9..2-10.) でみられた。
16-
2-4 考 察
ラ ッ ト 、 モ ル モ ッ ト 、 ネ コ に お い て は 、 一 般 的 に A B Rの コ ン ポ ー
ネ ン ト は I波 か ら
N波 は 比 較 的 振 幅 が 大 き く 安 定 性 が あ る の に 対
し
、 V波 以 降 の コ ン ポ ー ネ ン ト は 幅 の 広 い 低 振 幅 の 波 で 、 非 情 に
不安定なものであるとされている [
3
6
]。 本 実 験 に 供 し た イ ヌ か ら
記 録 さ れ た A B Rでも、 V波 は す べ て の 例 に お い て 出 現 し て い る
が
、
I波 か ら
N波 の コ ン ポ ー ネ ン ト に 比 べ 、 振 幅 は 小 さ く 、 幅 も
広く、形のうえからは他の動物種に類似している。このはっきり
と 現 わ れ る A B Rの 5つ の コ ン ポ ー ネ ン ト に 潜 時 の 短 い も の か ら 順
に I波 か ら V波 ま で の 呼 称 を あ て は め る と い う 本 実 験 の 見 解 は 、
Bodenhamerらや kayら と 一 致 す る も の で あ る [
9, 43]0 m
波は時折
二~性のコンポーネントとして現われるが、
は、これを
Sims らや Haagen らで
E波 お よ び N 波とし、 W波 は し ば し ば E波 と の 彼 合 波
と な り 、 は っ き り と 識 別 で き な い こ と が あ る と し て い る [27,78]。
また、 M
arshallは ヒ ト の A B Rの 命 名 に 類 似 さ せ て 、 E波 の 後 半
の波と N 波 を 一 緒 に し て N-V波 complexと し て い る [
5
7
]。しかし、
E波 が 二 峰 性 に 出 現 す る 傾 向 に は 恒 常 性 が な く 、 ま た 同 一 個 体 に
おいて、単~性であったものが、二峰性に変化したりする場合も
あ る の で 、 ラ ッ ト や ネ コ の A B Rの 命 名 法 に 準 じ て 、 我 々 は こ れ
を
m
a波、 m
b波 と し た 。 こ の よ う に 研 究 者 に よ っ て 呼 称 が 定 ま ら
な い の は 、 イ ヌ に お い て A B Rの 起 源 が ほ と ん ど と い っ て い い ほ
ど明らかにされていないというのも一つの理由であろう。
A B Rの 起 源 は 、 ラ ッ ト や モ Jレ モ ッ ト 、 ネ コ な ど で は あ る 程 度 報
告されているが、各コンポーネントに対応する起源がそれぞれど
こであるかという怒見は、研究者によって少しずつ異なっており、
1
7
-
これらすべての対立点を解明する報告はいまだ発表されていない。
I波 お よ び E波 は そ れ ぞ れ 腕 牛 神 経 ま た は 第 V
I
I
I脳 神 経 お よ び 蛸 牛
神経核に起源しているとほぼ意見が一致しており、また田波も上
オリーブ t
夏、またはオリーブ複合体周辺が関与しているという報
告 が 多 い [11,33,36,96,97]。しかしながら、 W 波 お よ び V 波 の
起源に関しては意見が多様に分かれている。多くの研究者が、 N
波 お よ び V 波 は 、 聴 覚 経 路 の 1つ の 部 位 の 活 動 を 反 映 し て い る の
ではなく、多くの部位の誘発反応が重なりあって形成されると推
察しており [
1,2,44,72]、 こ の た め 起 源 を ど こ に す る か で 意 見 が
分かれるものと思われる。
本実験では、下丘の吸引除去、あるいは下丘への刺激信号の入力
を遮断するための外側毛帯の切断後でも V波が明瞭に出現した例
が 5例 ほ ど あ っ た が (No.1R,2LR,4R,5LR,6L) 、このことは、
下 Eが V 波 の 発 生 に は さ ほ ど 重 要 な 役 割l
をはたしていないことを
推察させる。しかしながら、対側下丘の除去により、明らかに娠
帽 の 低 下 を 示 し た 例 が み ら れ た こ と か ら 、 下 丘 が V波 の 発 生 に ま っ
たく寄与していないとはいえないであろう。この娠闘の減少は、
下 丘 unitは V 波 を 倒 成 す る 要 紫 の 一 部 で あ る が 、 V 波 は 必 ず し も 下
丘 全 体 の actlvltyを 直 銭 反 映 し て い る と は い え な い と い う 、 他 の 聴
党 伝 導 路 活 動 と の 関 係 を 示 唆 し た 木 村 の 推 測 [46]を 支 持 す る も の
と考えられる。
外 ~!IJ 毛市切断により|陰性 W 波 (NN) の振幅の減少、あるいは消
失がみられた。一般に
ABRは│場性波のみをコンポーネントとし
てとらえ検索に用いるが、 I
I
A性 j
放もコンポーネントとして分析す
る 方 法 が よ り 有 効 で あ る と し た Achorらや Wadaら の 研 究 [
2,96]で
-18-
は、本実験と一致する結果が得られている。本実験においても、 N
Wの 減 少 が み ら れ た 、 に も か か わ ら ず 、 そ れ に と も な う 振 幅 の 減
少 し た V波 が 消 失 す る こ と な く 観 察 さ れ る 傾 向 が あ り 、 こ れ は 外
側 毛 帯 切 断 が 1つ の 陰 性 波 成 分 で あ る N Nだ け に 影 響 を 及 ぼ し た こ
と を 示 し て い る 。 外 側 毛 帯 切 断 に よ る N Nの 減 少 と V波 の 残 存 、 そ
し て 下 丘 の V波 へ の 関 与 が わ ず か で あ る こ と が 推 察 さ れ る こ と か
ら 、 イ ヌ の A B Rにおいても、 V 波 の 起 源 に は 、 外 側 毛 帯 の 神 経
線維が下丘に到達するまでの経路、または、外側毛帯以外から下
丘に入力する経路における電位変化の関与が示唆された。また、 N
N以 前 の コ ン ポ ー ネ ン ト の 起 源 は 、 下 丘 よ り 末 梢 で あ る と 考 え ら
れた。
1
9
-
2-5 小 括
イヌにおける波形の命名法については、ヒトや他の動物とは異な
り基本的見解がなく、さまざまな報告者がそれぞれの立場で、波
形を命名している。その理由のーっとしては、他の動物のように
破壊実験のような基礎的実験結果が見られず、波形の形態学的観
点からのみの命名が行われているためと考えられる。そこでまず、
イ ヌ に お け る A B Rの 発 生 源 に つ い て 調 べ る た め に 、 ビ ー グ ル お
よ び 雑 種 成 犬 6頭 を 用 い 、 脳 幹 の 下 丘 お よ び 外 側 毛 帯 を 破 壊 す る
実験を行った。そしてその見解をもとに、イヌの聴性脳幹反応の
命名法について考察した。
正 常 犬 に お け る A B R波 形 は 他 の 動 物 と 同 様 に 最 初 の 四 つ の 大 き
な成分とその後の長い下降脚に続く小さな五つ目の成分からなっ
て い た 。 他 の 報 告 者 に よ る と 、 初 め の 大 き な 成 分 は V波 ま で を 形
成し、あとに続く小さな波は V
I波 だ と す る 説 が 多 い 。 し か し 、 こ
の 呼 称 に よ れ ば イ ヌ の 場 合 W波 以 降 の 命 名 が 他 の 動 物 と は 全 く 途
うものとなる。
また、本実験の結果では、下丘除去による聴性脳幹反応の波形の
変化は一般に考えられているほど大きくなく、下丘の五つ自の成
分への関与はそれほど強いものではないと考えられた。さらに外
側毛帯から下丘への入力経路が│陰性 N 波 の 形 成 に 強 く 関 与 し て い
る こ と が わ か っ た 。 こ れ は モ ル モ ツ ト に お け る Wadaら の 実 験 結 果
と 同 級 で あ り 、 こ の こ と は イ ヌ の A B Rの 命 名 は Kayら の 報 告 と 同
僚 に 初 め の 大 き な 4つ の 波 を I、 E、 阻 お よ び N 波 と し 、 長 い 下
降l
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の後に続く小さな陰性波を│陰性 W波 、 そ の あ と の 陽 性 波 を V
波とするのが適当であると考えられた。
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第
3章
イ ヌ の 聴 性 脳 幹 反 応 (AB R)
記録に影響をおよぼす各種要因
に関する基礎的検討
3
1
-
3-1 緒 言
A B R波 形 を 問 題 に す る 場 合 に は 各 波 形 成 分 の 出 現 応 答 や そ れ ら
の潜 l
侍が重要となる。しかし、 A B R波 形 は 今 ま で の 多 く の 研 究
により、その波形に影響をおよぼす様々な変動要因があることが
38,62]。 こ れ ら の 要 因 の 中 で 最 も 大 き な 位 鐙 を 占 め
知られている [
るものは刺激条件であると考えられる。この音刺激に関わる種々
の条件は各研究者によりまちまちであり、研究者自らが規定でき
る も の で あ る 。 と こ ろ が 、 イ ヌ に お け る 過 去 の A B Rの 報 告 は そ
の全てがクリック音刺激により得られた波形について述べられて
9,27,43,57,63,78]、 し か も 刺 激 強 度 も 研 究 者 に よ り ま
おり [
ちまちである。
そこでまず初めに変動要因の中で最も影響を持つと,恩われる音刺
激条件の各種要因に着目して調べてみた。次に、獣医学領減では
記録に際しでほぼ必須のものと考えられる麻酔と波形の関係につ
いて調べた。さらには、麻酔に伴う体視低下がどの程度、波形潜
時に影響を与えるかについて検討した。
3
2
-
3-2 各 種 刺 激 音 に 対 す る A B R波 形 の 出 現 性 に つ い て
刺 激 音 の 種 類 が 変 わ る こ と に よ り A B Rの 波 形 に 大 き な 変 化 が 生
じることについては良く知られている [
5,28,89,93]。そこで、
こ こ で は イ ヌ に お い て ど の よ う な 刺 激 音 が A B R記 録 に 際 し て 適
切かどうか、また正常犬における標準値を決定するために実験を
行った。
3-2-1 供 試 動 物 な ら び に 実 験 方 法
(1)供試動物
供試動物として雌維の別なく雑種成犬 15 頭(体重 7.0~16.0kg)
を使用した。それぞれのイヌに対しては両耳を試験に用いたため
検 査 例 数 は 30耳 と な っ た 。 供 試 犬 は い ず れ も 行 動 学 上 特 に 異 常 は
認められず、臨床上神経学的障害を持たないものを用いた。
(2) 実 験 方 法
1)麻酔
麻酔前投与薬としてキシラジン(セラクタール@;バイエルジャパ
ン) 2 mg/kg と 硫 酸 ア ト ロ ビ ン ( ア ト ロ ビ ン 注 ⑧ ; 扶 桑 薬 品 )
0.05 mg/kg を 皮 下 注 射 し 、 鎮 静 効 果 の 現 わ れ た 10~20 分後に椀
側 皮 静 脈 よ り ぺ ン ト パ Jレ ビ タ ー ル ( ネ ン ブ タ ー ル ⑧ ; ダ イ ナ ポ ッ ト )
10mg/kgの静脈内注射を行った。│恨球には乾燥を f
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2) 記 録 お よ ひ 測 定
電 気 的 に シ ー ル ド さ れ た BOX内にイヌを伏臥保定し記録を行った。
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3
3
-
基 準 ・ 接 地 電 極 と も に 、 直 径 120μmの エ ナ メ J
レ線の先端部の被援
をはがして 25~26
Gの 注 射 針 に 通 し 、 剥 離 し た 部 分 を 約 2mm折り
返して作った釣針電極を用いた。記録電極は大脳前縁から大孔ま
での距離のほぼ中央正中部に、基準電極は刺激と同側の耳裂なら
びに軸椎の練突起上に、接地電極は頚部背側皮下に刺入した。電
極装着後、左右の耳にヘッドホンを直接当て、外耳部に密着する
よ う に ベ ル ト で 巻 い て 固 定 し た (Fig. 3
-1.)。
音刺激にあたっては、音刺激装置(日本光電工業製
SSS-3100)
を 用 い 4kHの 立 ち 上 が り 時 間 を 持 つ ク リ ッ ク 音 な ら び に 、 立 ち 上 が
り 立 ち 下 が り 時 間 2msec、 プ ラ ト 一 時 間 1msecの 8kHz'4kHz'
2kHZ' 1kHz.O
.5kHzの ト ー ン パ ー ス ト 音 で 刺 激 し た 。 刺 激 は 単
耳刺激とした。なお、マスキングは行わなかった。
ま ず 、 刺 激 強 度 を 5dB pe SPL単 位 で 変 化 さ せ 、 最 小 反 応 出 現 強
度 (ABR関値)を求めた。 A B R閥 値 は 波 の 出 現 応 答 を み な が
ら
、 E波 も し く は N 波 が 現 れ る 最 低 限 の 刺 激 強 度 と し た 。 次 に ク
リック音、 8kHz'4kHz・1kHzの パ ー ス ト 音 刺 激 に よ り A B R波
形 を 記 録 し た 。 刺 激 強 度 は 閥 値 プ ラ ス 60 dB [39,99] (但し、
閥 値 が 50dB以 上 の も の は 110 dB) と し た 。 刺 激 頻 度 は 10/
secと し 、 平 均 加 算 の 際 、 刺 激 音 の 位 相 は rarefactionと
condensationを交互に与えた。
A B Rの 記 録 は 、 第 2掌 で 述 べ た と お り で 、 入 力 は 2チ ャ ン ネ ル
とし、基準電極を刺激と同側の耳 b'~ に白いた記録と、同 11与に制h f
W
J和R 突起上に泣いた記録を図示させた。反応、は、平均加 ~Î: してフロッ
ピーディスクに記録したものを、実験終了後分析した。
3
4
-
3-2-2
実験結果
(1) 波 形 の 命 名
F
i
g
.3
2
.に ビ ー グ ル で 見 ら れ る 典 型 的 な A B R波形を示した。
上から 1
1
碩に刺激強 度 110 dB p
eSPLの ク リ ッ ク 音、ト ー ン パ ー ス
ト音 8、 4、 1kHzの 刺 激 に よ り 得ら れ た イ ヌ の A B R波 形 で あ る 。
各々の刺激に対してふたつの基準電極を用いて記録してある。陽
性波をとるか陰性波をとるかの問題はあるが、通説に従い陽性波
に着目 す る と 、 イ ヌ の A B Rは 5-7個 の 陽 性 波 よ り な る こ と が
わ か る ( 第 2章参照)。しかし、 1kHzトーンパースト 音刺 激 で は
通 常 の A B R波 形 と は 異 な り 、 そ の 波 形 は 周 波 数 追 随 反 応
(
f
r
e
q
u
e
n
c
yf
o
l
l
o
w
i
n
gr
e
s
p
o
n
s
e FFR) と二 相 性 の 陽 性 一陰
性緩反応が重量した反応となった。他の刺激音により得られた A
B R波 形 は 、 潜 時 の 短 い も の か ら 順 に 第 2章 同 様 に I波、 E波、
直波、 N 波 、 以 下 V 波
、 V
I波とした。なお、 V
I波 以 降 は 出 現 性 に
一 貫 性 が あ ま り 認 め ら れ な か っ た た め 解 析 は V波までとした。
基準電極を 4
幼 稚 腕 突 起 上 に 白 い た 記 録 で は I波が峰別れを起こし、
I波と E波 の 聞 に 小 さ な 波 が 現 わ れ る こ と が 多 く (30{
9
j
l中 15例)
この波を 1a波 と ラ ベ ル し た 。 ま た 、 個 体 に よ り あ る い は 同 一 個 体
内 で も 連 続 し た 記 録 の な か で E波 が 二 的 性 に 変 化 す る こ と が あ り 、
これを i
l
l
a波、 i
l
l
b波 と 命 名 し た ( 第 2主主参照) 。 こ の 場 合 、 解 析
時の潜時の計測はすべて i
l
l
a波の{直をもって代表させた。
(2) 各 刺 激 音 に 対 す る A B R閥 値
色 々 な 刺 激 音 に 対 す る ABRI
制 値 は 一 般 に ク リ ッ ク 音と 4kHzト
3
5
-
ーンパースト音を刺激に用いたとき、その閥値が最も小さかった
(Fig. 3-3.) 。 そ れ に 続 き 2kHz、 8kHz、 1kHz、 0.5kHzトーン
パ ー ス ト 音 の 順 に 閥 値 は 高 く な っ た 。 し か し 、 30耳中 1耳 で は
4kHzトーンバ
ス ト 刺 激 よ り 8kHz音 刺 激 の 方 が 閥 値 が 低 か っ た 。
ク リ ッ ク 音 刺 激 に 対 す る 関 値 の 平 均 と 標 準 偏 差 は 56.38:
t10.51
dBであった。また、
トーンパースト音のそれは各周波数に対して
t15.57、 4kHz: 55.34:
t9.44、 2kHz:
そ れ ぞ れ 8kHz:67.17:
61.17:
t9.44、 1kHz:71.33:
t7.06、 0.5kHz: 89.83:
t7.71であっ
た 。 分 散 の 検 定 を 行 っ た と こ ろ 、 8kHzト ー ン パ ー ス ト 音 で は 他 の
刺激音に比べ有意に分散が大きかった。
t
e
s
t ま た は cochran-coxt
e
s
tを 用 い て 各 刺 激 音
次に student's t
間の閥値について平均値の差の検定を行ったところ、クリック音
と ト ー ン パ ー ス ト 音 4kHz、 お よ び 2kHzと の 問 に 有 意 差 は 認 め ら れ
ず
、 8kHzと 2kHzお よ び 1kHzトーンバ
スト音刺激の間にも有意
差 が 無 か っ た 。 そ れ 以 外 は 、 4kHzと 2kHzの 聞 で p < O
.05の 有 意
差 が 、 そ の 他 で は す べ て P <0.01の 有 意 差 が 認 め ら れ た 。
(3) 各 波 形 成 分 の 潜 時
各 波 形 成 分 の 頂 点 潜 時 に つ い て I波から V 波 ま で の 測 定 と 刺 激 音
聞の比較を行った。その結果、クリック音による各波の潜時はそ
れ ぞ れ I波
1.
27:
t0.139、 E波 : 2.07:
t0.125,
0.12、 N 波 : 3.78:
t0.160, V 波
一方、バ
m波 : 2.79土
5.18:
tO.350 msec であった。
ス ト 音 刺 激 で は 4kHzと 8kHzで は そ れ ぞ れ I波
1.
56
:
t0.167および1.70:
t0.131、 E波 : 2.33土 0.180お よ び 2.47土
0.167、 E波
3.
06:
t0.179お よ び 3.27士 0.187、 N 波 :4.10:
t
-36-
0.167お よ び 4.34:
t0.193、 V 波 : 5.44:
t0.365お よ び 5.69:
t
0.414 msec で あ っ た (Fig. 3-4.) 0 1kHzト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激
では二相性の緩徐波を重畳する
FFRが 現 れ た の で 、 各 波 の 同 定
が困難となり、頂点潜時は計測できなかった。
これら 3種 類 の 刺 激 音 に よ る 各 波 形 成 分 の 頂 点 潜 時 間 に は い ず れ
の 場 合 に も 、 有 意 差 が 認 め ら れ た (p<0.01) 。
-37-
3-3 A BRに お よ ぼ す 刺 激 音 の 強 度 の 影 響
ABR記 録 に 際 し 、 音 の 種 類 と 同 様 に 重 要 な 要 因 と し て 刺 激 音 の
強度がある。 A B R波 形 は 刺 激 強 度 に よ り 影 響 を 受 け る こ と が 知
られており、これについては多くの報告がなされている [
1
6
.3
2
.
4
0
]。イヌにおける ABRで も い く つ か 報 告 が 見 ら れ る の で [
9
.7
8
]、
ここでは刺激音の強度に関する検討を行った。
3-3-1 供 試 動 物 な ら び に 実 験 方 法
(1) 供 試 動 物
供 試 動 物 と し て 雌 の 雑 種 成 犬 4i
'
I
J
'
{ (体重 7.5~1 1. 5kg) を用いた。
供 試 犬 に は 行 部j学 上 な ん ら 聴 党 異 常 は 認 め ら れ ず 、 臨 床 的 に も 健
常なものを用いた。
(2) 実 験 方 法
1)麻酔
麻酔は前節と同様の方法で行った。
2) 記 録 お よ び 測 定
記録、解析方法も前節に述べたとおりである。
音刺激は、音刺激装置(日本光電工業製
SSS-3100) により、
4kHzの 立 ち 上 が り 時 間 を 持 つ ク リ ッ ク 音 ( 一 波 長 の 正 弦 波 ) を 用
い て 行 っ た 。 刺 激 は 単 耳 ( 左 耳 ) 刺 激 と し た 。 刺 激 頻 度 は 10/sec.
とし、刺激の位相は rarefaction と condensation を交互に与えた。
マ ス キ ン グ は 行 わ な か っ た 。 刺 激 強 度 は 10 dB pe SPL 単 位 で 変 化
させた。
38-
ー
3-3-2 実 験 結 果
Fig. 3-5.に は 基 準 電 極 を 刺 激 同 側 耳 認 に 置 き 、 刺 激 強 度 を 変 化
さ せ 、 刺 激 頻 度 10Hzの ク リ ッ ク 音 で 刺 激 し た 時 の A B R波 形 を 示
した。いずれの場合にも
5から 7偲 の 陽 性 波 が 認 め ら れ た 。 こ れ
ら の 波 形 を 潜 時 の 短 い 順 に I波、 E波、 E波、 W波、 V波 と 同 定
した。 3番 目 の 陽 性 波 は 、 個 体 に よ り 二 峰 性 を 示 す も の が 見 ら れ
たので、そのような例では潜時の短い方を l
l
i
a波 、 後 に 来 る 方 を E
b波とした。 V波 ま で は ど の 個 体 で も 認 め ら れ た が 、 V
I波 以 降 は 必
ずしも出現するとは限らなかった。
4頭 の イ ヌ に お い て 刺 激 頻 度 10/sec.、 ク リ ッ ク 音 立 ち 上 が り
4KHzて、刺激音の強度を 110dB peSPL から 10dBず つ 低 下 さ せ て
い っ た 時 の A B R変化を調べたところ、 Fig. 3-5に 示 す よ う に 強 度
を 低 下 さ せ る に し た が い 、 ピ ー ク が 不 明 瞭 に な り 、 と く に V 波の
同定できない個体がみられるようになった。
刺 激 強 度 50 dB pe SPL 以 上 の I波 か ら V 波 ま で の 各 波 形 の ピ
ー ク 潜 時 の 平 均 値 な ら び に 標 準 偏 差 を Fi
g
. 3-6 に 示 し た 。 各 波 形
のピーク潜時は強度を低下させるとほぼ直線的にいずれも同じよ
うに延長した。したがってピーク間潜時には刺激強度によりほと
んど相途が認められなかった。
3-4
A B Rに お よ ぼ す 麻 酔 深 度 の 影 響
ヒトの場合、 A B Rを 含 む 大 脳 誘 発 電 位 は 安 静 時 ま た は 自 然 睡 眠
下で記録されるのが一般的である。しかし動物においてはこのよ
うな条件を設定することが難しく鎮静剤や麻酔剤の使用が前提と
な る 。 ま た 、 逆 に 誘 発 脳 波 、 と く に A B Rは 麻 酔 時 の 神 経 機 能 を
評 価 す る の に 有 効 と さ れ て お り [29,99]、 こ の 方 面 へ の 応 用 も 期 待
されている。
そこで、誘発電位記録に麻酔がどの程度影響をおよぼすかについ
て調べておく必要がある。ここでは、ペントパルビタール麻酔後
の A B Rの 時 間 経 過 に 伴 う 変 化 に つ い て 検 討 し た 。
3-4-1 供 試 動 物 お よ び 実 験 方 法
(1) 供 試 動 物
.5-11
.5kg) を 用 い て 実 験 を 行 っ た 。 供
雑 種 成 犬 雌 4顕 ( 体 重 7
試犬には行動学上なんら聴覚異常を示さず、臨床的に世~IW なもの
を用いた。
(2) 実 験 方 法
キ シ ラ ジ ン 、 ア ト ロ ビ ン の 前 投 与 、 約 10分 後 に ぺ ン ト パ ル ピ タ
ー Jレ・ナトリウム(ネンブタール@;夕、イナボツト)を 1
2.
5
mg/Kg 静 脈 内 投 与 し 、 前 投 薬 投 与 時 点 か ら 20分 後 よ り 10分 間 隔 で
麻 酔 が 覚 醒 す る ま で ( 自 発 的 体 却jが 生 じ 、 誘 発 脳 波 の 記 録 が 不 能
に な る ま で ) A BRの記録を行った。 A B Rの 記 録 は 刺 激 に ク リ ッ
ク音を用い、記録方法は先に述べたとおりである。
U
Jに 入 っ た 後 直 ち
動物は、休泊の低下を防止するため、外科麻酢 J
に毛布で槌い、直腸!ffi'
tの 欧 視 を 行 っ た 。 体 協 の 低 下 が 認 め ら れ る
4
0
-
場 合 に は 、 湯 た ん ぼ と 使 い 捨 てカイロで保温し、 実 験 中 の体 温変
化を 0.4'c以内に抑えた。
3-4-2 実 験 結 果
F
i
g
.3
7
.に 麻 酔 後 120分 ま で の ピ ー ク 潜 時 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 を
示した。
1{
9
J
J
で は 麻 酔 50分 後 か ら V 波が消失した。 W波 ま で の
ピーク潜時は麻酔薬投与後の時間経過に対してどの個体にも変化
は見られなかったが、 V 波 の 潜 時 は 時 間 が 経 過 す る に つ れ て 若 干
短縮する傾向にあった。しかし、有意な差ではなかった。またピー
ク問潜時にも有意な変化は認められなかった。
3-5 A BRに お よ ぼ す 体 温 の 影 響
神経機能と体温との関係については種々の報告があり、神経伝導
速度の低下やシナプス伝達時間の遅延が広く知られている [
6
. 12)。
誘発反応と体温との報告もヒトでは数多くみられ、潜時が遅延す
ることが知られている。それゆえ、誘発電位記録にあたっては、
体温の維持に気をつけなければならない。そこで体温の変化がイ
ヌの A B Rの 潜 時 に ど の よ う な 影 響 を お よ ぼ す か に つ い て 検 討 し
た
。
3-5-1 供 試 動 物 な ら び に 実 験 方 法
(1) 供 試 動 物
供試 I
D
J
J物 と し て ビ ー グ l
レ成犬の雄 4頭 ( 体 重 1O
.O~ 14.Okg) を
実 験 に 供 し た 。 供 試 犬 に は い ず れ も 行 部J学 上 な ん ら 聴 党 呉 市 を 示
さず、臨床的に健常なものを用いた。
(2) 実 験 方 法
キシラジン、アトロビンの前投薬投与後、ぺントパルビタール・
ナトリウムを静脈内投与し、
20分 後 か ら 15分 間 隔 で A B Rの
記 録 を 行 っ た 。 必 要 に 応 じ て ぺ ン ト パ lレ ピ タ ー ル ・ ナ ト リ ウ ム を
初 回 投 与 量 の 1/3:!i!:を追加投与した。室温を 20"Cに設定し、動
物に氷袋を援触させ、体温を低下させた。この問、動物の体温と
しては食道混と直腸温の測定を行った。得られたデータは各波の
潜時と体混との間で散布図を作成し解析に供した。
3-5-2 実 験 結 果
Eと直
今回の実験では、動物を徐々に冷やしていったため、食道 j
4
2
-
腸温はほぼ同様の推移をたどり、測定値も近似していた。したがっ
て、今回の解析には体温の代表として一般的に臨床的に用いられ
ている直腸温をとりあけ.た。
Fig. 3-8 は直腸温と 1つ め の コ ン ポ ー ネ ン ト (1波 ) の 潜 時 の
相 関 図 で あ る 。 図 に 示 す よ う に 、 直 腸 温 が 28"
C
と 38・
Cの 間 で は 潜
時はほぼ直線的に直腸温の低下とともに遅延していった。同様に
今 回 調 べ た 他 の 三 つ の コ ン ポ ー ネ ン ト (I、 E お よ び N波 ) に つ
いても全く同じ結果が得られた。以上より、
ABRの 各 コ ン ポ ー
ネントの潜時は体温と直線的な負の相関を持つことがわかった。
4
3
-
3-6 考 察
A B Rは 様 々 な 面 で 臨 床 応 用 さ れ て お り 、 ヒ ト 医 学 で は 脳 幹 障 害
[75,88]、 聴 神 経 腫 疹 [
5
9
]、 他 党 的 聴 力 検 査 [19]、 脳 死 判 定 [
4
9
]な
どに利用されている。
一方、獣医学領域では基礎的な波形の報告が多く、応用的な報告
としてはダルメシアンの聴党異常 [
58]、 ウ マ の 耳 の 損 傷 に 対 す る
A B R検 査 [
5
6
]が あ る 。 そ の ほ か 、 神 経 障 害 の イ ヌ に 対 す る 検 査
6
4
]、 S
t
e
i
ssら [86]が報告している。 A B Rは 、 オ ー
結果を Myersら [
ディオメトリーが利用できない動物の世界では、安全性試験の糠
党機能モニターの重要性が摘すにつれ、とくに他党的聴力検査法
としてその有用性を高めていくものと思われる。
そこでまず、本実験では刺激音に周波数特異性を持たせるために
ト ー ン パ ー ス ト 音 を 使 用 し た 。 ク リ ッ ク 音 に 対 す る A B R波 形 に
つ い て は kayら [
4
3
]、 Simsら [78]な ど の 報 告 が あ る が 、 波 形 に つ い
ては皆同様の型が得られており、波形の命名に若干の相違がみら
れる程度である [
9,5
7]。
今回得られた波形も以前に報告されたものと同様で、クリック音
刺 激 で も ト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 で も 5から 7個 の 陽 性 波 が 得 ら れ
た。ただし、 1kHzト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 に な る と F F Rが 顕 著に
観 察 さ れ る よ う に な っ た [25,81]0 F F Rは 2kHz以 下 の 刺 激 音 に
対 し て 出 現 し や す い と 言 わ れ て い る が [60]、 今 回 用 い た 刺 激 音 の
中 で は 1kHz刺 激 に 対 し て の み 見 ら れ た 。 こ の 刺 激 に 対 す る A B R
は F F Rに 遮 蔽 さ れ 、 陽 性 緩 徐 波 だ け が 判 別 可 能 で あ っ た 。
刺 激 音 に 対 す る 閥 値 は ク リ ッ ク 沓 お よ び 4kHzト ー ン パ ー ス ト 音
において最も低く、 4kHzか ら 周 波 数 が 離 れ る に つ れ 閥 値 は 次 第 に
高くなった。トーンパースト音刺激により誘発される
ABRが果
してどれだけの周波数情報を与えてくれるかについてはよくわかっ
て い な い が 、 少 な く と も Heffnerが 4 頭 の イ ヌ を 使 っ て 条 件 反 射 を
利 用 し て 調 べ た 自 覚 聴 覚 閥 値 [31]と、 今 回 の 閥 値 曲 線 と は 類 似 し
ていた。音の周波数特異性を問題にする場合は音の立ち上がり時
間 を 緩 や か に し た 方 が 良 い と 一 般 に 言 わ れ て い る が [48]、 立 ち 上
が り 時 間 の 延 長 に と も な い 、 と く に 5msecか ら は 各 波 成 分 の 識 別 が
困 難 に な っ て く る こ と が 知 ら れ て い る [62]。 こ れ ら の こ と か ら 今
回用いたト ー ン パ ー ス ト 音 は 周 波 数 情 報 を 得 る こ と と
ABR波形
を得ることの両方を満足させるために適切な刺激音であったと考
えられた。
各刺激音に対する頂点潜時には有意差が認められた。これはクリッ
ク音は他の二つのト ー ン バ ー ス ト 音 に 比 べ 音 の 立 ち 上 が り が 急 な
ためと思われた。音の立ち上がり時間が速ければ潜時が短縮する
こ と は 、 今 ま で に も 何 人 か の 報 告 者 に よ っ て 記 載 さ れ て い る [66,
68]。また 4 kHz 刺激 音 の 方 が 8 kHz 音 刺 激 よ り 潜 時 が 短 か か っ
た思由としては、 8kHz 音 刺 激 で は 4 kHz 音 刺 激 に 比 べ 相 対 的 に
閥 値 が 高 か っ た た め 110 dBの 刺 激 強 度 で は 十 分 な 刺 激 強 度 が 得 ら
れなかったことが原因していると考えられる。
クリック強度を減弱していくと、ピーク潜時は延長していったが、
ピーク間潜時にはほとんど変化が認められなかった。このことは
9, 15,78]、 ピ ー ク 港 時
これまでの報告とだいたい一致しており [
に 対 す る 影 響 は I波までに受けることを示唆している。これはij¥¥
牛基底部と<IJ
l
:
牛先端部の刺激を受ける昔の迎いによるものであろ
!
D は強い音に、蛸牛先端部は
う。すなわち、蛸牛基底部(中耳fJ
45-
ー
弱い 音 に 対 し て 反 応 し 、 ヒ ト で は そ の 活性 化 さ れ る 部 位により 聴
神 経 輿 奮 開 始 時 聞 が 異 な り 、 底 部 と 先 端 部 で は 活 性 化 に 5-7ms
e
c
の差があるとされている [
2
2
]。 そ の た め 、 刺 激 強 度 が 強 く な る と
ピーク潜時が短縮するものと考えられる 。 この説明はピーク問潜
時には各刺激においてあまり 差 が無いという事実と矛盾しない 。
イ ヌ で は 無 麻 酔 で A B Rを記 録 す る こ と は ほ と ん ど 不 可 能 な の で 、
A B R検 査 の 応 用 に あ た っ て は 麻 酔 の 影 響 を 調 べ て お く こ と が 必
要 で あ る 。 麻 酔 後 、 時 間 経 過 を 追 っ て A B Rの ピ ー ク 潜 時 を 調 べ
た今回の実験では、それらにほとんど変化が認められなかった 。
これは従来から指摘されているように [
8,17]、 他 の 大 脳 誘 発 電 位
とは異なり、 A B Rが 麻 酔 の 影 響 を 受 け に く い こ と を 示 唆 し て い
る。 し か し 、 聴 覚 誘 発 反 応 の 中 潜 時 成 分 は 、 麻 酔 に よ り 消 失 す る
と言 われており [
79, 84]、 V波 に 若 干 の 潜 時 の 変 化 が み ら れ た こ と
は 、 こ の よ う な A B Rの 遅 い 成 分 へ の 麻 酔 の 影 響 を 現 し て い る の
かもしれない。
体 泡 の 低 下 が 神 経 職1索 の 伝 将 時 間 ] を 延 長 さ せ、 シ ナ プ ス に お け る
伝 達 物 質 の 放 出 を 低 下 さ せ る こ と に よ り、 シ ナ プ ス の 伝 達 1寺聞を
遅延させることはよく知られている [
6,12]。 刺 激 か ら 波 形 の ピ ー
c以 上 か か る 他 の 大 脳 誘 発 脳 波 に 比 べ て 、 A B R
ク ま で が 10mse
は 短 潜 時 成 分 で は 約 5msec ま で に そ の 全 て の 成 分 が 出 現 す る の で
潜時のわずかな遅れも解釈に亜大な影響を与える。すなわち、 A
B R記 録 に 際 し て は で き る だ け 厳 密 な 体 温 コ ン ト ロ ー lレが必要と
考えられる。
46-
3-7 小 括
ABRの 波 形 の 検 討 に あ た っ て は 各 反 応 成 分 の 出 現 応 答 や 潜 時 が
問題とされる。そこで、ここでは波形に影響をおよぼす要因の中
で最も大きな割合を占める刺激音の影響について検討した。さら
に刺激系の要因に限らず、記録条件の影響として、麻酔深度なら
びに体温の変化に伴う
ABRの 変 化 に つ い て 実 験 を 行 っ た 。
ト ー ン パ ー ス ト 音 を 刺 激 に 用 い た と き の ABRの 波 形 は 1kHz音
刺 激 を 除 い て は 、 若 干 の 潜 時 の 途 い は あ る も の の 、 基 本 的 な 5か
ら 7個 の 陽 性 波 か ら な る 、 ク リ ッ ク 音 刺 激 で 得 ら れ る そ れ と 同 様
な波形を示した。 1kHz音 で は 周 波 数 追 随 反 応 と 恩 わ れ る 波 形 が 優
位 に 出 現 し た 。 刺 激 音 に 対 す る 闇 値 は 4kHz音 で 最 も 低 く 、 低 周 波
数音では閥値が高くなる傾向にあった。
刺激強度を変化させていくと、刺激強度の滅弱にともない各波の
ピーク潜時は延長していくが、ピーク問潜時にはあまり変化が認
められなかった。
今 回 用 い た キ シ ラ ジ ン 、 ぺ ン ト バ Jレビター Jレ に よ る 注 射 麻 酔 で は
麻酔後、時間が経過しでも
ABR波形のピーク潜"寺にはほとんど
変化が認められなかった。すなわち記録に際しては麻酔深度につ
いてそれほど配慮する必要が無いものと思われた。
一 方 、 体 温 低 下 の 影 響 は ABR波 形 の ピ ー ク 治 時 に 大 き な 影 響 を
与え、異常判定の基準となると思われる潜時延長の霊安な原因と
なることが実証されたことから、記録に際して厳密な体温管理が
必要であろう。
-47-
F
i
g
.3
1
.S
t
i
m
u
l
a
t
i
o
nmethodb
ytheuseof
headphonewhenthes
t
i
m
u
l
u
ssoundwas
a
p
p
l
i
e
dt
oad
o
g
.
4
8
-
号里里里里里里ー
.- ~9
lmsec./di
v
F
i
g
.3
2
. Example 0
1 auditory brainstem response (ABR) i
n
a dog under pentobarbital anesthesia a
f
t
e
r sedation with
xylazine and a
t
r
o
p
i
n
e
. Stimulations were administered
n
t
e
n
s
i
t
y0
1 110 dB peak
monaural a
tar
a
t
e 10/sec and an i
equivalent sound pressure l
e
v
e
l(
p
e SPL). Four kinds 0
1
stimulation were used. Each p
a
i
rt
r
a
c
e was recorded a
t
t0
1 relerence
t
h
e stimulated i
p
s
i
l
a
t
e
r
a
l pinna 0
1 placem巴 n
electrode i
n upper t
r
a
c
e and over t
h
ea
x
i
si
n the neck 0
1
replacement 0
1 relerence electrode i
n lower t
r
a
c巴. The
abscissa 0
1 lowest horizontal l
i
n巴 i
n
d
i
c
a
t
e
st
h巴 time course
Irom acoustic s
t
i
m
u
l
i
.
49-
ー
(∞刀 )OJO工
STIMULUS
S0 UND
TONE BURST
0
.
5k
H
z 1k
H
z 2k
H
z 4k
H
z 8k
H
z
帯
CL
lCK
,
lll
a
Fig.3・3
.ABRthresholdsa
g
a
i
n
s
teachstimulussoundi
n15dogs,
or30e
a
r
s
. Meanvaluesandstandardd
e
v
i
a
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i
o
n
sa
r
erepresented
byc
i
r
c
l
e
sandbarsr
e
s
p
e
c
t
i
v
e
l
y
.
ω凶広工ト
0
ゴ
守
40y
l・
l
u、
。
50
60
70
80
9
0
100
110
・
マ
T4 i
γ
4ム
2
T
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3
ー
1
一
一
ー
十
一
一
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ー
ー
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占
{
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曲目白)
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第
4章
実験的聴覚障害犬の作出ならび
に 聴 性 脳 幹 反 応 (ABR)に よ る
聴覚機能評価
4.1 緒 言
ABRは 神 経 後 能 検 査 法 と し て 有 効 な だ け で は な く 、 車E党 機 能 l
f
価のうえでも有力な検査法である。その理由としては、第一に被
験者に対し非佼襲的に実施できること。第二に各波の発生源が一
定 の 局 在 住 を 有 す る こ と い 1,95・97)。 第 三 に 意 識 レ ベ ル や 全 身 麻
静の影響がほとんど見られない [
8,1
7
)ことである。言い換えれば、
被験者の状態の刈何にかかわらずほぽ一定した波形が得られるの
で、正常時に対する変化として典獄がとらえやすいことになる。
それゆえ、アミノ配事者体系抗生物質による内耳障害を得価するの
に 有 効 で あ る と し て 極 々 の 報 告 が な さ れ て い る い 6,26,71,88)。
また、ヒトにおいて意志表示のできない幼児や約神隠答者の客観
的 な 聴 力 検 査 法 と し て の 研 究 も 成 さ れ て い る が い 9)、 こ の こ と は
ABRの 1
獣医学鋲成における応用の可能性を示唆している。
アミノ配給体抗生物質は聴覚器移性や腎母性がよく知られている
むなグラム陰性菌感染症や気管支肺炎、民主 I
血症等:の疾!J.
lに
が、虫1
有効で臨床上利用する効.皮ももたして少なくない。そのため、ヒト
[7,71)、 ラ ッ ト (67)、モ l
レモット [
4,73)、ネコ [10,45,52)にお
けるこの薬剤の聡党器移住の研究は数多く行われ、
ABRの 変 化
と関連づけた報告も多い。しかし、俄医臨床上重要な位置を占め
る イ ヌ に 関 す る 報 告 は 未 だ 少 な い (63)。
ま た 、 イ ヌ に お い て は ABRの 綴 告 は ク リ ッ ク 普 刺 激 に よ る も の
がほとんどを占めているが、際立機能評価を考えた地主合、
ABR
に は 刺 激 音 に よ る 周 波 数 依 存 性 が 存 在 す る も の と 忠 わ れ る (31)の
で、そのことを配胤した管刺激条件を設定する必袈がある。また、
ABRの 各 波 形 成 分 の IDJlf
I
i
]
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l
iうよりも、 ABR凶{自の検討を行
-57-
う こ と が 聴 覚 機 能 評 価 に 有 効 で あ る と 考 え ら れ る [27]。
そこで、本章ではアミノ配糖体抗生物質の一種であるカナマイシ
ンをイヌに投与し、その時の聴覚機能の変化を
ABRの 閥 備 を 指
標として検討した。また、刺激音としてはクリック音と併用して
トーンパースト音を用い、周波数特異性が認められるかどうかに
ついても検討した。
5
8-
4-2 カ ナ マ イ シ ン の 単 回 投 与 に よ り 生 じ る 急 性 聴 器 障 害
に お け る イ ヌ の A B Rの 変 化
4-2-1実 験 材 料 お よ び 方 法
(1) 供 試 動 物 な ら び に 供 試 薬 剤
供 試 動 物 と し て 、 臨 床 的 に 健 常 な 雑 種 成 犬 雄 1頭 お よ び 雌 2頭
(体重 7.5~10.5kg) を用いた。主観的判断ではこれらのイヌは正
常な聴力を持ち、明瞭な神経学上の異常は認められなかった。
供試薬剤jと し て は カ ナ マ イ シ ン ( 硫 酸 カ ナ マ イ シ ン 明 治 ③ ; 明 治
製菓)を用い、実験的に急性の聴党機能異常を生じさせるために、
100 mg/kg の カ ナ マ イ シ ン を 1分 間 で 静 脈 内 に 投 与 し た と き の A
B Rの経時的変化を調べた。
(2) 実 験 方 法
カ ナ マ イ シ ン 投 与 前 に 左 右 の 単 耳 刺 激 の A B R閥 値 を 調 べ 聴 党 に
異惜の無いことを確認し、 A B R波 形 を 記 録 し た 後 カ ナ マ イ シ ン
、
を投与し (100mg/kg, i.v.) 、 投 与 l分
10分、 20分、 3
0分、 45分、 1時間、 2時間、 4時間、 6時間、 24時間後に
左 耳 刺 激 お よ び 右 耳 刺 激 を 行 っ た 時 の A B Rを記録した。
麻酔は最初キシラジン 2mg/kg (セラクター lレ@;バイエ lレ・ジャ
パン)と硫酸アトロビン(アトロビン@;扶桑薬品)を前投与薬と
して筋肉内注射し、
5~ 10分 後 ぺ ン ト パ lレビター lレナトリウム
(ネンブタール@;ダイナボット)を的脈内に投与した。またこの
時、留位針を用いて的脈を
保し、以後の麻酔楽投与に例えた。
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2時 間 以 後 は 記 録 の 都 度 、 イ ヌ の 麻 昨 状 態 に 応 じ て キ シ ラ ジ ン と
ケ タ ミ ン ( ケ タ ラ ー ル 50@;三共)の
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9
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派内投与により追加麻酔を
行った。
麻酔を行ったのち、周囲の交流波などの影響を取りのぞくためイ
ヌを電気的シールドボックスに移し、伏臥位保定した。直腸温を
モニターし、湯たんぼと使い捨てカイロを用いて体温の維持に努
めた。
ABRの 記 録 方 法 は 第 2章と同様で、
4kHzの 立 ち 上 が り 時 間 を
持つクリック音で、 110dBpeSPL の 刺 激 強 度 で ABR波 形 を 観
察した。
4-2-2 実 験 結 果
Fig.4-1
.
, A.,
B に は カ ナ マ イ シ ン 100 mg/kg を 1分 間 で 静 脈
内 投 与 し た 時 の ABR波 形 の 変 化 を 示 し た 。 今 回 の 実 験 に お い て
は 3頭中
1頭 が ABRに 異 常 を き た し た 。 そ の 個 体 で は 波 形 の 異
慣 は 左 右 両 側 性 に 見 ら れ た 。 こ の 例 で は カ ナ マ イ シ ン 投 与 後 1分
から明らかな振幅の減少と潜時の延長が認められたが、
I~N 波
間 の ピ ー ク 間 潜 時 に は ほ と ん ど 変 化 は な か っ た 。 投 与 後 2時 聞 か
時はそれほど回
ら 6時 間 ま で の 問 に 娠 幅 は 徐 々 に 回 復 し た が 、 潜 l
復 し な か っ た 。 し か し 、 こ の 変 化 は 投 与 後 24時 間 に な る と ほ ぼ
元の状態まで回復した。
Fig.4-1.,C
.はカナマイシン投与によって
ABRの 変 化 を 示 さ
な か っ た 例 で あ る 。 こ の よ う に ABR波 形 の 変 化 の 出 現 に つ い て
は個体差が見られた。
4-3 カ ナ マ イ シ ン の 反 復 投 与に よ る 聴 覚 障 害 犬 に み ら れ る
A B R関 値 の 変 動
4-3-1 供 試 動 物 お よ び 実 験 方 法
(1)供試動物ならびに供試薬剤
供 試 動 物 と し て 臨 床 的 に 正 常 な 雑 種 成 犬 雄 6頭 お よ び 雌 3頭 ( 体
重 7.0-12.0kg) を用い、 18耳 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 主 観 的 な
臨床診断ではこれらのイヌは正慣な聴力を持ち、明瞭な神経異常
は認められなかった。供試犬は個別にケージ内で飼育され、飼育
条件は同等とした。
供試薬剤Jと し て 硫 酸 カ ナ マ イ シ ン ( カ ナ マ イ シ ン 明 治 @ ; 明 治 製
薬)を用い、 100mg/kg を 筋 肉 内 に 連 日 投 与 し た 試 験 群 と 、 対 照
実 験 群 と し て 生 理 的 食 温 水 2.0ml を 連 日 筋 肉 内 注 射 し た 2群 を 設
定 し 、 そ れ ぞ れ 6頭 お よ び 3頭 を 使 用 し た 。 投 与 期 間 は 全 て 9週
間とした。
(2) 実 験 方 法
カナマイシン投与前に A B R波形を記録し、その閥値を測定した。
以後 1日 l回 カ ナ マ イ シ ン ま た は 生 理 的 食 温 水 を 筋 肉 内 注 射 し 、
投 与 開 始 か ら 1週 間 毎 に A B Rを 記 録 し た 。 以 上 の 処 置 を 9週間
継続した。 A BR記 録 時 に は 、 ア ト ロ ビ ン 0.05 mg/kg とキシラ
ジン 2mg/kg の 筋 肉 内 校 射 に よ る 前 投 与 後 、 ペ ン ト パ ル ビ タ
ー ル ナ ト リ ウ ム 8mg /kg を 的 脈 内 役 与 し て 麻 酔 し た 。 記 録 方 法
は第 3主主実験 1と問様である。
6
1-
4-3-2 実 験 結 果
カ ナ マ イ シ ン 100mg/kgを 1日 1回 9週 間 に わ た り 反 復 投 与 し
た実験期間中、供試犬の全身状態には肉眼的にみて異常は認めら
自!体重の変化にも著変はみられなかった。
れなかった。また、このl
F
i
g
. 4・2.は 8kHzの ト ー ン パ ー ス ト 刺 激 音 に 対 す る A B Rの 変 化
の l例を示した。この図は同一{肉体の投与前と投与後 5、 6、 7、
8iIM附の A B R波 形 を 表 し て い る 。 投 与 期 間l
の延長によって各波
形成分は不明僚となり、次いで等徳性の波形が記録されるように
M
]で急激に進行した。 8.kHz トー
な っ た が 、 そ の 変 化 は 2-3 遡 1
ンパースト管刺激による反応においては他の刺激によるよりも比
較 的 早 く 綴 幅 の 減 少 が 現 わ れ 、 と く に I波 の 消 失 が 顕 著 で あ っ た 。
早 い も の で は 投 与 後 4週 間 で 閥 他 の 上 昇 が 起 こ り 、 早 い 伺 体 で は
6週 間 で 刺 激 音 に よ っ て は ほ と ん ど 反 応 が 見 ら れ な く な り 、 最 終
的には投与後 9 週間で全個体が全ての刺激務に対して 1ft~ 反応となっ
た。
F
i
g
. 4・3
.にはカナマイシン役与犬におけるクリック笥・に対する
A B R附 悩 の 変 化 の 推 移 を 示 し た 。 投 与 開 始 後 2迎 聞 で 一 次 的 に
1
剥 憾 の 有 怒 な 減 少 を 認 め た 。 ま た 7週回からは投与前(自に比べ、
平均{砲が有意に上昇しており、
9週目では会ての個体で│制{直は 110
立が 110dBpeSPL以 上 の
dBpeSPL を越えていた。 A B R閥 1
も の は 聴 覚 機 能 消 失 と し て す べ て 110dBpeSPLで処理した。 5
週目以降際準備z
1が大きくなっているのは、個体ーにより│調 I
I
I
Tの 上
界がこの頃から見られ始めるからである。対照尖!験 i
洋には切らか
掬仙の変化は見られなかった。
な ABRI
F
i
g
. 4・
4 お よ び 4・5
.は A B R附 似 の 変 化 を 刺 激 周 波 数 ご と の 平
6
2
-
均値を用いて、対照群、実験群のそれぞれについて三次元的に表
したものである。対照群においてはほとんど関値の変化がみられ
な か っ た が (Fig. 4-4.) 、カナマイシン投与群では、 A B R閥値
はすべての周波数において投与後一時的に低下した後、上昇を続
け た 。 最 終 的 に は 投 与 9週 間 で は 、 全 て の 個 体 で ど の 刺 激 音 に 対
し て も 刺 激 強 度 110dB で は 反 応 が 見 ら れ な か っ た (Fig. 4-5.) 。
実験群についてよくみると、 8kHz ト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 に よ る
A B R閥値の上昇が最も早かった。また、 1kHzお よ び O.5kHz
ト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 に お い て は 投 与 前 の A B R閥 値 が 高 か っ た
が、閥値の変化はそれより高音の刺激に対するものに比べて遅く
現れた。
6
3
-
4-4 考 察
アミノ配糖体系抗生物質による聴覚機能障害はよく知られており 、
その投与により鯛牛の有毛細胞が基底部から損傷を受け、基底部
に関与の大きい高周波音に対して選択的に難聴になることが知ら
れている。この聴覚機能障害 には急性的なものと慢性的なものが
あることが知られているので、今回イヌにカナマイシンを単回投
与 し た 時 と 9週 間 に わ た り 反 復 投 与 し た 場 合 の 影 響 に つ い て 、 A
BRを 指 標 と し て 聴 器 毒 性 の 発 現 を 検 出 で き る か ど う か 調 べ た 。
Gueritら[26)、 Ramsdenら[71)は ア ミ ノ 配 糖 体 抗 生 物 質 投 与 に よ
る一過性の聴覚器毒性の例を報告している。この報告によれば、
薬剤jの 一 回 投 与 に よ っ て 血 中 抗 生 物 質 波 度 が 高 く な る と 、
ABR
波 形 に は 振 幅 の 減 少 お よ び I波 の ピ ー ク 潜 時 延 長 が お こ り 、
から
I波
N波 に わ た る ピ ー ク 間 潜 時 は 正 信 の ま ま か 、 も し く は 短 縮 す
る と さ れ て い る 。 今 回 の 実 験 で は I波 か ら N 波 の ピ ー ク 間 潜 時 の
短縮は確認できなかったが、他の変化は彼らの報告と類似してい
た。波形の変化に麻酔薬の影響を否定することはできないが、館
用 量 の ぺ ン ト パ ル ビ タ ー Jレ や キ シ ラ ジ ン で は 、 波 形 に ほ と ん ど 影
響がみられないという報告があり [
9, 17)、 今 回 認 め ら れ た 波 形 変
化はカナマイシン投与によるものと判断した。体温が波形に影響
を与える要因であることは前述の実験でも述べたとおりであり、
1~ 6時 間 後 に か け て の ピ ー ク 潜 時 の 延 長 は 体 損 の 低 下 に よ る も
のと考えられた。なぜならば、
24時 間 後 に 体 温 が 正 常 に 復 す る
にともない波形のピーク潜時も回復したからである。
レ モ ッ ト に お い て カ ナ マ イ シ ン 400 mg/kg を
Russelらが、モ J
投 与 し て も 即 時 性 の 反 応 は 現 れ な か っ た と し て い る こ と [73)、 今
6
4
-
回の突験で
3例中 1例 だ け に 波 形 の 変 化 が み ら れ た こ と 、 Gueril
ら が 片 耳 だ け の 即 時 的 聴 党 陣 容 を 指 嫡 し て い る こ と [26)などから
みて、アミノ配街体抗生物質による聴党障害には動物種差や例体
笈があるものと考えられる。
イヌにおけるアミノ配糖体抗生物質長期投与による聡党峻能隙筈
の報告は、 Morganの ネ オ マ イ シ ン に つ い て の も の が あ る が (63)、
こ れ に よ れ ば ネ オ マ イ シ ン (80mg/kg/day i.v.) 投 与 後 約 3週間
で ABR波形が変化し始め、
48後には害事1[性の波形を示すよう
.m.)
に な る と さ れ て い る 。 今 回 の カ ナ マ イ シ ン (100mg/kg/day i
役与の結果では、
ABR波 形 の 変 化 は 投 与 後 5週間目から起こり、
早 い 個 体 で は 1- 2迎聞で等賞1f:l:の波形が記録されるようになっ
た。これらのことは程度の援はあるものの、波形が急激に変化す
るという点、においては一致している。
Morgan は さ ら に こ の 変 化 の 過 程 に お け る I波 の 飯 偏 の 著 明 な 減
少 を 報 告 し て い る が [63)、今回の尖!験においても 8kHz トーンパー
ス ト 音 刺 激 に よ る ABR波 形 に お い て 問 機 の 変 化 が み ら れ た 。 こ
の原因については明らかではないが、 Leake-Jonesも言及している
ところである [52)。 し た が っ て こ の 一 過 性 の 変 化 は 、 抗 生 物 質 役
与時の聴党総懲役を予兆させる箆裂な指際となりうる可能性があ
る
。
ところで、 Morgan自身が言うように彼の実験はクリック音・によ
る刺激のみについて行われたことに注怒しなければならない。ク
リック音は低周波から向周波までの純管が混ざってできており、
特定の周波数による反応を湖べることができない。今回のトーン
パ ー ス ト 皆 を 用 い た ABRI
剥!
r
l
iの 検 査 で は 、 カ ナ マ イ シ ン 投 与 に
・6
5・
より 8 kHz 刺激{I'による閥値上昇が必も 早 く 、 周 波 数 の 低 い 刺 激
務ーになるほど閥値変化は遅かった。 Aranらの f
i
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dclickを用い
た 実 験 で は や は り 8kHz付 近 の 周 波 数 帯 域 の 刺 激 か ら 聴 党 陣 容 が
起 こ り 始 め た と 報 告 し て お り (4)、 こ れ は 今 回 の 著 者 ら の 結 果 と 一
致 し て い る 。 こ の こ と は ト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 に よ る A B R記 録
でも十分に高音際容の判別が可能であることを示している。
ヒ ト に お い て は derivedresponse と 呼 ば れ る ク リ ッ ク 音 と ホ ワ
イトノイズを用いた精度の高い周波数特異的聴党綴能検査が行わ
れ て い る が (47)、 装 訟 や 技 術 的 な 問 題 か ら 、 獣 医 学 領 減 で は そ の
実施は困難と恩われる。しかし今回の成果により、比較的簡単に
行 う こ と の で き る ト ー ン パ ー ス ト 管 刺 激 に よ る A B Rの記録は、
総党綴能検査においてかなり有効な指麟になるであろうことが示
唆された。とくに閥{誌の変化を調べることは、ピーク潜時や綴輔
の測定といった煩雑で時間のかかる手技を必要としないし、周波
数 特 異 性 に つ い て も 言及が可能であろう。
-66-
4-5 小 括
A B Rは 客 観 的 に 聴 覚 機 能 を 評 価 で き る こ と か ら 、 今 後 実 験 動 物
による安全性試験や動物の聴党検査にも応用されるものと考えら
れる。そこで、イヌに聴器毒性を有する抗生物質を単回投与また
は 9週 間 連 続 反 復 投 与 し て 、 試 験 的 に 聴 覚 器 障 害 を 惹 起 し 、 A B
Rに よ り そ の 聴 器 障 害 を 評 価 で き る か ど う か に つ い て 検 討 し た 。
供試薬剤としては硫酸カナマイシンを利用し、静脈内単回投与に
よる急性障害と筋肉内長期反復投与による慢性聴覚障害を作出し
た 。 単 回 投 与 に よ る 急 性 障 害 で は A B R波 形 の 変 化 が 認 め ら れ 、
一時的な聴覚器障害が推測された。この波形の変化は一過性の可
逆的変化であり、
24時 間 後 に は 元 の 正 常 波 形 に 復 し た 。
一 方 、 長 期 反 復 投 与 で は A B R閥値の変動を追跡することにより、
その障害が検出できた。アミノ配糖体系抗生物質の聴器毒性は蛸
牛有毛細胞の損傷が原因で高音領域から聴覚障害が生じることが
知 ら れ て い る 。 そ こ で ト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 を 利 用 し て A B Rの
閥値を調べることにより、聴党機能 1
1
;
;
i警 の 評 価 に 対 し て 周 波 数 情
報も得られることがわかった。これらの結果は、イヌにおける聴
覚 機 能 評 価 は ト ー ン パ ー ス ト 音 刺 激 に よ る A B Rを 記 録 す る こ と
により行なうことができることを示唆している。
67-
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第
5章
聴覚機能障害ならびに中枢神経
系障害の症例 に対する聴性脳幹
反 応 (AB R) の 臨 床 応 用
7
3
-
5-1
緒言
聴 覚 誘 発 反 応 (ABR) は 、 前 主
主で述べたように他覚的聴覚機能
検査法として有用であるが、同時に、臨床面においてはとくに脳
幹を中心とした神経機能検査法の一手段としても役立つことが期
待される。このことはヒト医学における脳死判定の基準に ABR
が利用されていることからも容易に推察される [
4
9,7
7
]。 脳 幹 病 変
としては腫蕩、変性疾患、炎症、血流障害などがあげられるが、
近年非侵袈的に画像診断を行える
CTス キ ャ ン や 磁 気 共 鳴 イ メ ー
ジング (Magnet
i
cResonanceImaging M R 1) が 獣 医 臨 床 に も
導 入 さ れ つ つ あ り、 今 後 ま す ま す こ の 方 面 に お け る 機 能 検 査 が 必
要になると思われる。とくに
CTス キ ャ ン で は 、 庫童話語以外の病変
は な か な か 検 出 が 難 し い と さ れ て い る た め 、 A B R検 査 を 併 用 す
る価値が十分にあると考えられる。
そ こ で 、 本 章 で は 実 際 の 臨 床 例 に A B R検査法を応用し、 X線
、
MRIお よ び 病 理 検 査 所 見 と 対 比 す る こ と に よ り 、 A B Rの 臨 床
応用の可能性について検討した。
7
4
-
5-2 供 試 動 物 な ら び に 検 査 方 法
(1)供試動物
1987 年 4 月より 1994 年 3 月までに山口大学段学部付属家~病院に
忠苗として来院した聴力隊答犬
3頭 ( 症 例 No.1-3) 、 神 経 症 状
を 呈 し て い た 忠 犬 4畷 ( 症 例 No.4-7) を 対 象 に 検 貨 を 行 っ た 。
病ffi1や主訴、症状、診断は Table5-1 に 示 す と お り で あ る 。
(2) 検 査 方 法
刺激はすべてクリック音で行った。記録方法は、まず刺激強度を
徐 々 に 低 下 さ せ A B R閥 l
iHを求め、波形の記録は A B R閥 飽 プ ラ
ス 60dB を 基 本 と し た が 、 実 際 に は 50dB未 満 の ABRI
副総を
持 つ 対 象 は い な か っ た の で す べ て 110dBpeSPLの 刺 激 強 度 と し
た。刺激管は左耳、右耳1j!耳刺激、両耳刺激の
低
3種 類 の 刺 激 を 最
2回 の 反 復 に よ り 波 形 の 再 現 役 を 縫 認 し な が ら 記 録 し た 。 基 準
電極は、刺激悶側の耳介背部にti'
t
いた。接地活極、 ~2 録方法は自íj
宣言で述べたとおりである。
7
5
-
5-3 検 査 結 果
(1)
聴覚障害犬
3例 ( 症 例 No. 1~3.)
3例 の 病 歴 は Table5-1. に示すとおりである。 No. 1 お よ び
No. 2
. の 2例 に つ い て は ほ ぼ 先 天 的 障 害 と 考 え ら れ た 。 し か し 、
No. 3
. の症例については徐々に遂行した後天的なものと考えられ
た の で 、 形 態 学 的 異 常 の 有 無 を 調 べ る た め に 、 MRI検 査 を 併 用
したが、 MRI画 像 か ら は は っ き り と し た 病 変 は 確 認 で き な か っ
た
。
こ れ ら の 聴 覚 障 害 犬 は い ず れ も A B R波 形 が 全 く の 無 反 応 で あ っ
た
。
(Fig.5-1.)
(2)
症 例 NO.4
本 症 例 は 旋 回 運 動 に 始 ま り 、 主E
聖壁、昏隆といった一連の神経症状
の進行を呈した例である。神経障害をなぜ呈したのか、さらにな
ぜ 遂 行 し て い っ た の か 不 明 で あ っ た た め 、 A B R検査を実施した。
こ の 例 で は 、 片 側 性 に A B Rが 消 失 し て お り 、 反 対 側 の A B Rも
波 形 が 不 明 瞭 で あ っ た (Fig. 5-2.) 。 そ こ で 脳 全 体 に 問 題 が 生 じ
ているが、病気としては非対称性の疑いが持たれた。最終的には
昏 眠 状 態 と な っ た た め 安 楽 死 が 行 わ れ 、 自l
検により一側性のIa脱
下 出 血 が 確 認 さ れ た (Fi
g
. 5-3.) 。
(3) 症 例
NO.5.
こ の 症 例 は 、 運 動 失 調 と 旋 回 述 邸jを 呈 し て 開 業 動 物 病 院 に 通 院 し
ていたが、症状が進行し、起立不能に 1
(
(1ったために本学家畜病院
に 転 院 し た も の で あ る 。 こ の 例 で も 、 非 対 称 性 の A B R波 形 が 得
ら れ た 。 右 耳 刺 激 で は ほ ぼ 正 日 な 波 形 パ タ ー ン で あ っ た が 、 E波
以降の成分は仮帽の減少が認められた。、異常はとくに左耳刺激
7
6
-
で顕著で、 E波 以 降 の 振 閥 減 弱 が 明 ら か で あ っ た
(
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4.
)。
MRI検 査 に よ り 、 中 脳 に 存 在 す る 腫 宿 病 変 が 生 前 診 断 さ れ た
(
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.5
5
.
)が 、 生 検 の 結 果 除 去 す る こ と は 困 難 と 判 断 さ れ 安 楽
死された。
(4) 症 例 NO.6.
本症例も旋回運動と不全麻簿を主訴とし、開業動物病院から本学
家畜病院に紹介された例である。
が生前に診断されたが
(
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6
.
) 、患、 {
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の ABR波 形 は E波 以
降がほとんど消失していた
反 対 側 の ABR波 形 は
MRI検 査 に よ り 脳 幹 部 の 腫 揚
(
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7
.
)。それに対し、病変部と
E波 ま で が ほ ぼ 正 常 で あ る の に 対 し 、 E波
以降は振幅の低下が著しかった。。
(5) 症 例 No.7
.
この症例は知覚異常と疲惨を主訴として本学家畜病院に上診され
たものである。
MRI検査で異常を認めず、 X線 所 見 に よ り 後 頭
骨形成異常と診断された
だ不明の点が多く、
(
F
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g
.5
8.
)。 本 症 例 の 発 症 機 榊 は い ま
ABRが ど の よ う な 変 化 を し て く る の か 予 測
できないが、この例に限って言えば異常は見られなかった。
-77-
5-4 考 察
先 天 性 難 聴 は ダ lレ メ シ ア ン 犬 と 白 猫 で 詳 し く 研 究 さ れ て い る が
[23]、 そ の ほ か に イ ヌ で は SimsとSelcerが イ ン グ リ ッ シ ュ ・ セ ッ
ターで報告している [80]。また、 Hayesらは 272例の疫学調査から、
夕、ルメシアン、イングリッシュ・セッタ一、オーストラリアン・
シ ェ パ ー ド 、 ボ ス ト ン ・ テ リ ア な ど の 7品 種 で 発 症 の 危 険 率 が 高
い こ と を 証 明 し て い る 口 0]0 A BRを 利 用 し た 同 様 な 難 聴 犬 に つ
い て の 検 査 に 関 し て は Marshallが ダ ル メ シ ア ン 犬 の グ ル ー プ に お
い て 両 側 性 及 び 片 側 性 の 聾 犬 の 報 告 を し て い る [58]。 今 回 の 例 で
は、夕、ルメシアン犬種は l例 だ け で 、 他 の 犬 種 は シ ェ ッ ト ラ ン ド
シープドッグ種、およびマルチーズ種であった。
初 め の 2例 に つ い て は 、 若 年 時 か ら の 機 能 障 害 が 認 め ら れ た こ と
か ら 、 先 天 的 な 異 常 、 特 に A B R波 形 が 全 く 出 現 し な か っ た こ と
から、聴覚受容器の異常(例えば中耳骨の欠損など)が強く疑わ
れた。それに対し、 3番 目 の 例 で は 成 年 l
侍に呉市が進行している
ことから後天性の異常が考えられたが、その原因については M R
I検 査 を 実 施 し た に も か か わ ら ず 推 測 で き な か っ た 。 し か し 、 A
B Rが 全 く 出 現 せ ず 、 し か も 異 常 が 両 側 性 で あ っ た こ と か ら 、 や
はり受容器レベルでの異常が強く示唆された。
Col
letら は 頭 骨 刺 激 に よ る 誘 発 反 応 は 聴 覚 由 来 の 反 応 で 、 A B R
も 記 録 で き る こ と を 証 明 し た が [1
8
]、 St
r
a
i
nら は 近 年 、 イ ヌ に お い
てこの頭骨刺激による略党誘発反応を報告している [
90]。 し た が っ
て、この方法を利用することにより今後、外耳、中耳に原因を持
つ 伝 音 性 難 聴 と 、 内 耳 よ り 中 偲 側 に 、 す な わ ち 事 11経 学 的 に 原 因 の
ある感音性難聴との区別が可能になると思われる。
78-
ー
ヒ ト 医 学 領 減 で は A B Rが さ ま ざ ま な 面 で 神 経 機 能 検 資 と し て 利
用 さ れ て お り 、 脳 死 判 定 [77,99) 、脱髄性疾怨 (87). 脳梗 ~(94) な
ど の 疲 例 に お け る 適 用 が み ら れ る 。 今 回 対 象 と し た 症 例 は 4例 で
l
l騒 l例 、 脳 斡 の 飯 癒 病 変
あり、硬駅下 u
2例 、 後 頭 骨 形 成 不 全
(ヒトの Arnold-Chi
a
r
imalformation に 栂 当 す る と 考 え ら れ て い
3
5
)1例であった。
る) (
硬膜下血l般 の 例 で は 、 生 前 診 断 が で き な か っ た が 、 A B Rの 波 形
興?苦から中継伎の障害を判定することができた。このような広範
な 病 変 で は 、 波 形 全 体 の 変 形 が 著 し く A B Rの評価が費t
rじくなり、
それゆえ病変の局在化が困難になる。ヒト医学でも脳~., w 忠者に
おいて同様のことが言われており、 subtracti
on や デ ジ タ Jレフィル
タ ー を 利 用 し て A B R記 録 を 行 い 、 こ れ ら の 難 し さ を 改 良 す る よ
う な 努 力 が な さ れ て い る (61)。
Kawasaki と Inada はイヌの A B Rに 対 し て ア ナ ロ グ
フィ J
レター
の 使 用 に よ り 徐 波 成 分 が 検 出 で き た と 述 べ て お り [41)、 ま た パ ワ ー
訟にすることによって、
スペクト 1レ 分 析 を 行 い 、 周 波 数 成 分 を 明 E
波 形 の 再 現 性 が 日 ま る と 報 告 し て い る (42)。 し た が っ て 、 本 症 例
iる の で は な く 、 こ の よ う な フ ィ
は波形の評価を形態学的な視妻美に i
ルターや周波数分析の利用による客観的狩価を必袈とすることを
示唆する症例であったと考えられた。
症 例 5、 6で は MRI検査により病変が明らかになった例である。
今までの実験動物を伎・った多くの破主主実験や中継内直後記録の方
法により 、 ABR彼の発生源は、
I波 : Jf~!神経、 E波, !納付ユ級 、
班波;オリーブ銭、 W波;外側毛市、 V絞 ; 下 伝ときわれている。
認められ、 A B R波 形
疲 例 5で は 、 左 側 オ リ ー ブ 桜 周 辺 に 服 絢 が i
7
9
-
も煙、側で E波 以 降 に 影 響 が 現 わ れ て い る 。 ヒ ト で は 橋 髄 内 腫 湯 で
、 V 波 の 異 常 と と も に E波 の 抑 制 な い し は 消 失 が み ら れ る
はN波
といわれており [
9
9
]、 こ の 症 例 で は ほ ぼ そ の と お り の 結 果 が 得 ら
れた。
症 例 6で は 、 腫 蕩 病 変 は 位 置 的 に 前 庭 神 経 核 を 侵 し て い た と 思 わ
れ、鍋牛神経核をも病変に巻き込んでいる可能性があり、病変部
と 同 側 の 刺 激 で は E波 以 降 が 消 失 し て い た 。 ま た 病 変 と 反 対 側 の
刺激でも E波 以 降 に 影 響 が 生 じ て い る こ と は こ れ ら の 発 生 源 が 反
対側からの影響をも受けていることを示唆しており大変興味深い
知見である。
い ず れ に せ よ 、 今 回 の 2症 例 に お い て は 病 変 の 位 置 と A B R波形
の異筒i
との関係は、誘発電位の発生源としてこれまで推測されて
きた神経経路とほぼ一致した結果が得られたことになる。しかし、
和田の総説によれば、発生起源の理論に矛盾すると思われる臨床
例がヒトで多数見つかっており、さらに検討が必要であると結ん
でいる [98]。 し た が っ て 、 イ ヌ に お い て も さ ら な る 症 例 の 蓄 積 が
必要であろう。
症例 7の 後 頭 骨 形 成 5
宅 街 と 診 断 さ れ た イ ヌ に お い て は A B R波形
に巽簡は見られなかった。この疾患の発症機榊は不明の点も多く、
脳内圧の異幣から障害が発生すると言われているが、脳幹部にお
ける障害はあまり強くないものと忠、われた。
神経系疾!忠のイヌに対する A B Rに つ い て は Mayerら
、 St
e
i
ssら
がすでに報 告しているが [
64, 8
6
]、 今 回 の よ う な 形 態 学 的 異 常 と の
詳 細 な 比 較 は な さ れ て い な い 。 St
e
i
ssら は や は り は じ め の I波や E
波 だ け が 残 っ た A B Rを み て い る が [
8
6
]、 こ れ ら は す で に 昏 限 状
8
0
-
態の動物で、脳死刑l
定に盛点が偉かれており、今回のような発生
源との闘与にはほとんど触れていない。
田原らは7]<頭症犬の手術後の神経綴能回復の指標として ABR
検
9
1
]、 Steissら も 言 う よ う に 脳 幹 機 能 の 客 観 的
査を利用しているが [
却価と同時に、炎主主や脳死状態といった形態学的に判定しきれな
い 症 例 で は ABR
検査が必要になる。その意味からも今後獣医学
領域においても大いに応用すべき検査法であると考えられる。
8
1・
•
_
_
←
白圃・
5-5 小 括
A B Rは 、 聴 覚 機 能 検 査 法 で あ る と 同 時 に 、 有 力 な 神 経 機 能 検 査
法でもあり、その有用性はヒト医学領域で脳死判定の一基準とし
て欠くことのできないものとなっていることからも容易に推察で
き る 。 そ こ で 、 臨 床 獣 医 学 に お け る A B Rの 応 用 を よ り 推 し 進 め
るために、自然発生例の聴覚機能欠損犬や中枢神経系降害を持つ
イ ヌ に お い て A B Rの 検 査 を 行 い 、 そ の 検 査 結 果 を 病 理 学 的 検 査
や MRI検 査 な ど の 形 態 学 的 検 査 と 照 ら し 合 わ せ て 考 察 し た 。
第一に聴覚欠損は聴性脳幹反応の波形が等電性となり、客観的な
判定ができる。とくに、他の報告によると片側性の聴覚隙害をも
判別することが可能であることから、従来の検査法に比べると、
より有効な検査法であると考えられた。
つぎに神経系疾患の症例では、聴性脳幹反応の異市と形態学的検
査には相関が見られ、脳幹の神経機能検査としての有用性が確認
さ れ た 。 症 例 に よ っ て は MRIに よ る 病 変 か ら A B R波 形 の 発 生
源を推測できる例も有り、このような例では他の動物でこれまで
知 ら れ て い る A B R発 生 経 路 が 少 な く と も E波 ま で は イ ヌ の 場 合
も同様であるということを示唆するものであった。したがって、
イ ヌ に お い て も A B Rは 神 経 機 能 検 査 法 と し て 有 用 で あ る と 考 え
られた。
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2
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2
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第 6章
総合考察ならびに結論
臨床的に中枢神経系を機能的に調べる方法が脳波を除いて今まで
ほとんど発達して来なかった。その理由として一つには獣医学領
域では神経系疾患があまり取り上げられなかったことが考えられ
る。しかし、小動物臨床の対象が伴侶動物と呼ばれるようになり、
小動物臨床がより盛んになるにつれ獣 医学のなかでも神経系疾患
に取り組んでいかなければならない必要性が増していくものと思
わ れ る 。 と く に 非 侵 襲 的 な 形 態 学 的 検 査 が 、 C Tス キ ャ ン や M R
I検 査 の 導 入 に よ り 発 展 す る に と も な い 中 枢 神 経 系 の 機 能 検 査 法
の発達も望まれている。
原
E党 誘 発 反 応 は 電 気 生 理 学 的 に 聴 党 機 能 を 客 観 的 に 評 価 す る 方 法
であり、また中枢、とくに脳幹の機能検査法として優れたものと
言える。そこで、 この検 査 法 を イ ヌ に 応 用 す べ く そ の 命 名 法 に つ
い て 、 発 生 機 序 の 面 か ら 検 討 し た 。 過 去 の イ ヌ の ABRの 報 告 で
は
、
I波 か ら V波まで が 大 き な 陽 性 波 で 、 V
I波 が 長 い 下 降 脚 の 後
に 続 く 小 さ な 陽 性 波 で あ る と の 報 告 が 多 い [57,78]0 Wadaらはモ
皮 の 陰 性 波 の 発 生 に 外 側 毛 干f
lか
ル モ ッ ト を 用 い た 破 壊 実 験 で 、 Ni
ら下丘への信号入力が大きく関与していることをつきとめた
[95-97
]。
今 回 の イ ヌ を 用 い た 実 験 で も 同 級 に 、 4番 目 の 陰 性 波 の 発 生 に 外
側毛市から下丘への入力が大きく関与していることが明らかになっ
た。 こ れ は す な わ ち 、 イ ヌ に お い て も
ABRは 長 い 下 降 脚 の i
i
jま
で が 四 つ の 成 分 で 、 そ の 後 に 続 く 小 さ な 波 が 第 V波 に 相 当 す る と
いうことになり、この命名法だと、他の動物との相似性の点でも
何 ら 問 題 が な い 。 実 際 、 イ ヌ の ABR波 形 の 命 名 に は 不 統 ー な と
ころがあり、今回の結果をもとに波形の命名を行うことにより、
9
4
-
他の動物のデータとも互換性を持った一貫した呼称が適用できる
と考えられた。
次 に イ ヌ の ABR波 形 を 再 現 性 良 く 記 録 す る た め に 、 そ の 記 録 条
件について、 4つ の 点 か ら 検 討 を 行 っ た 。 ま ず 第 l点 は 、 刺 激 音
に 関 し て で あ る 。 今 ま で の イ ヌ の ABR波 形 の 報 告 は す べ て ク リ ッ
ク音刺激のものであり、
による
トーンバースト音またはトーンピップ音
ABR波 形 に 関 し て の 情 報 が 乏 し か っ た 。 今 回 の 実 験 か ら
1kHzト ー ン パ ー ス ト 音 を 用 い た 刺 激 で は 周 波 数 追 随 反 応 (FF R)
が出現すること、
ABR閥 値 は 自 覚 関 値 と パ ラ レ ル な 関 係 に あ る
ことが確認された。
第
2点 と し て は 、 刺 激 強 度 と ABRの ピ ー ク 潜 時 と の 関 係 で あ る
が、これについては今までにもいくつかの報告がある [
9,78]。 今
回の結果は今までの知見と一致しており、刺激強度の増加に伴い
潜 時 は 短 縮 す る こ と が わ か っ た 。 こ れ は 蛸 牛 レ ベ lレでの活性化に
要する時間が潜時に反映されるためで、それゆえピーク間潜時に
は あ ま り 影 響 が 見 ら れ な い も の と 思 わ れ た [22]。
第 3の 点 と し て は 、 麻 酔 深 度 に 関 わ る 問 題 に つ い て 検 討 し た 。
Bobbinら
、 Cohenらは ABRは 麻 酔 の 影 響 を あ ま り 受 け な い と 述
べている [
8,17]。 今 回 の 成 制 で も 麻 酔 導 入 後 、 党 限 直 前 ま で の ピ ー
ク 潜 時 へ の 影 響 は ほ と ん ど 見 ら れ な か っ た 。 こ れ は ABR記 録 に
麻酔深度をあまり考慮する必要がなく、臨床応用がしやすいとい
うことを示唆するものと思われた。
第 4の 点 と し て 、 体 損 と
ABR波 形 の ピ ー ク 潜 l
時との関連につい
て調べたところ、過去に他の動物で報告されている結果と同級に
体 温 低 下 は ABRi
波形のピーク潜時を著明に延長させることが旬]
9
5
-
かとなった。
ABRは約 6-7msecの柿1
に出現してくる反応であ
I
U
Mとなるため、その;t!, 味で、
ることから、小さな浴時の延長が I
改めて ABR記 録 時 の 体 温 管 理 の 血 盟 性 が 再 認 識 さ れ た 。
次にイヌの聡党機能汗倒i の此みとして、
ABR を利用した聡党~~
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J性 を お す る 抗 生 物 質 を 役 与 し た イ ヌ の 聴 覚 機 能 の 評 価 を 行 っ た 。
このような報告はヒトやモルモットで行われているが、イヌでは
久 世 や Morganの 報 告 が 見 ら れ る 程 度 で あ る [50.63)。
変化についてはイヌではまったく報告がないが、
一 過 伎 の ABR
Guerit、Ramsdenらのようにイヌでも飯綱の低下が一時的に生じ、
24時 間 後 に は ほ ぼ 完 全 に 回 復 す る と い う パ タ ー ン が 見 ら れ た (
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6
.
71)。これは、抗生剤の聡党~~ /
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とを示唆する所見であると思われた。また、トーンパースト[Y!lI
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与による蛾牛有毛細胞の F
の呼仰に有効であることが今回の実験から証明されたものと .
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られた。これはヒトで利JTlされる derived re sponse 法などの粉J'~
な機 2it を必~とせず、一般的な ABR 記 録 装 置 で 判 定 が 可 能 な た
め、似医学鎖岐において草lj 党機 tìË の周波数約報を~!}るために今後
将及していくべき方法であると J
7えられた。
波形を記録し、病変との関連
級 後 に 尖 際 の 臨 床 例 に お い て ABR
について
3及したが、
C Tス キ ャ ン や MRIと 言 っ た 形 態 学 的 検
1f.と併せて利用することで、より J
下納な客観的約綴を '
Jえ て く れ
る!悩仲間i
の機能検査であることがJ
正l
リ
lされた。
Steiss は脳波所見と、 CT スキャンや自11 検時の病~3'i1 との|対iWに
つ い て 論 じ て い る が (85)、 こ の よ う な 機 能 而 と 形 態 凶 と の 同 )jの
・9
6-
分野から障害を揃えていくことが検査法の進展とともに今後必要
と な ろ う 。 そ の 点 で A B Rは 現 在 献 医 学 で 利 用 で き 得 る 数 少 な い
中枢の機能検査法であり、とくに脳幹の機能を調べていくときに
は欠かせない検査法といえる。
以 上 、 イ ヌ の A B Rに つ い て 基 本 的 記 録 法 の 検 討 、 聴 覚 障 害 犬 を
用 い た 聴 党 機 能 評 価 の 試 み 、 臨 床 例 に お け る A B Rの 脳 幹 機 能 の
検査を行い、 A B Rが 俄 医 学 綴 域 に お い て も 応 用 可 能 且 つ 導 入 す
べき検資法であることが本研究から結論付けられるものと思われ
た。今後この検査法は俄医臨床における神経機能検査として、な
らびに臨床現場と薬物の安全性試験におけるイヌの聡党機能評価
として大いに応用されるべきものと考えられた。
謝辞
終わりに臨み、*~文をまとめるにあたり、終始御懇!cなるご続
滞をいただき、また御校閲を脳りました東京大学政学部獣医学科
比較完結態生JlJ!.学教官教授、作野
茂先生に謹んで感謝の ~J をぶし
ます。
本研究を遂行するにあたり、研究の場を与えていただき、深い御
理解と激励を脳りました山口大学J;:!学部、松本治政教授、徳 j
J申
?
~教綬、大 jlljll 文教段、応(
行総助教授に深謝いたします。故後
に~験にご協 )J 、御 m 助を賜りました山口大学J;:!学部家畜内科学
研究室の理事業生、ヲ 1
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の符総にJfl.く御礼申し上げます。
-98-
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[
1
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] Henry,K.R
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)Sourceo
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