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109
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
《研究ノート》
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
植 村 正 治
本稿では,工学教育のうち,その基礎科目でもあり当時実用性が高いと考えられて
いた理学(物理学)教育がどのような内容であったかを,当時のシラバスを通して検
討した。イギリス人理学教師エアトンは,理学授業にとって実験や実習が必須である
と考え,これに適したテキストとして,フランス語の原著を英訳した理学テキストを
選んだ。彼の作成したシラバスの多くの項目はこの理学テキストから引用したことが
確認できる。また,授業開始期に作成されたシラバスは,当時の日本人学生の知識レ
ベルにあわせるために,実物事例を多く取り上げようとした。しかしシラバスの最初
の授業科目は抽象度の高い運動学,静力学,動力学であったので,1 年後に改正された
シラバスでは,その最初に一般的な自然現象や諸機械類の解説を行うこととなった。そ
のあとに上記の諸科目の授業を行う段取りであったが,実際にはシラバス通りではな
く,授業内容を実験により証明することが比較的容易な流体力学や空気力学の科目か
らはじめ,理学に関する一定の知識を得たのち,熱力学,光学,電磁気学を経て,運
動学にもどる手順となった。さらにその 1 年ほどあと,再びシラバス通りに授業が行
われることになった。理学授業を通して工部大学校の学生たちは各種工学部門の基礎
知識を得ることができ,直接,理学知識を実用化することもできた。
は じ め に
本稿は,次のようなレイアウトの下に配置した。
まず,近代の経済発展の根源は,地下資源利用技術の進化であったという,問題関心
からはじまり,後発国における経済発展は,先進国で開発されたこの種の技術移転によ
るものであったと考えた。技術移転の媒介手段として,人,物,文献が考えられる。よ
り具体的には,科学者・教師・技術者・技能工,技術を体化した機械・道具類,図面・数
式・文字などで表現された科学技術文献があげられよう。これらの移動による技術移転
は時代や地域を超えて普遍的に見いだされる。近代に入ると,3 種類の媒介手段を相互に
関連づけながら効率よく移転を行うことのできる,技術提携や学校教育などが普及して
110
社会科学 第 43 巻 第 4 号
いった。
筆者の一連の印刷物では,後者の学校教育,とくにその中で高等工学教育を取り上げ
た。すなわち,明治初期に設立された工部大学校(工学寮)における工学教育の具体的
内容を検証しようとしてきた。工部大学校の最終年(1885 年)に設置されていた学科は,
土木学,機械工学,造船学,電気工学,造家学,製造化学,鉱山学,冶金学の 8 学科で
あった。その多くは地下資源利用技術に関連する学科であったことがわかる。ただし,能
力と時間の関係からすべての学科の工学教育について検証することは不可能なので,こ
れらの学科教育に必要不可欠な教科であり,当時としては実用性 1)の高い教科と考えら
れていた理学(物理学)を取り上げ,理学教育に必要な各種資材について検証してきた。
(1)実物器具などを利用して実験・実習を行う実験・実習室,(2)図面・模型・実物用
具および,これらを収納する器具室や展示もあわせて行う博物場,
(3)図書および図書
館である。
(1)と(2)は上記の機械・道具類,(3)は科学技術文献に対応し,それぞれ
前稿において不十分ながら検討を加えてきた 2)。
本稿では,これらの資材を利用してどのような理学教育が行われたかを垣間見るため
に,今まで利用されることが少なかった工部大学校シラバス(授業概要)を検討する。
1 エアトンの理学教育方針
表 1 のように,1873(明治 6)年 6 月,エアトン 3)
(W. E. Ayrton)は,
「電信及理学教
師」として工学寮に着任した。彼は当初テキストを使用するかどうか迷っていたが,英
語力が足りない日本人学生にとってテキスト使用が不可欠であると考えた 4)。テキストを
使用しない場合,学生が講義から適切にノートを取ったとしても,手短に書き取ってい
るため数年後には参考にすることができなくなるのに対して,良いテキストを使用した
場合,一度マスターすると,貴重な参考書となるとしている。エアトンが選んだテキス
トは,イギリス・ベルファストのクィーンズ・カレッジ理学(natural philosophy)教
授,エベレット(J. D.Everett)がフランス語テキストを英訳した「Elementary Treatise
on Natural Philosophy」であった 5)。原著はフランスのリセ・ルイ=ル=グランの物理
学(physics) 教 授, デ シ ャ ネ ル(A. P. Deschanel) が 1868 年 に 出 版 し た「Traité
Élémentaire de Physique」である。この図書を選択した理由として,同書には実験・実
習用器具のすぐれた図版が含まれており,工部大学校においてこれらの器具が少なかっ
た場合,学生たちにとって大いに役立つこと,1 年生と 2 年生では異なる理学分野を学習
111
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
表 1 工部大学校(工学寮)における主なイギリス人教師の職名・月給・雇用期間
人 名
職名 1
月給 1
(円)
職名 2
Henry Dyer
都検兼土木及機械学教師
660 都検兼工術博士
David H. Marshall
理学教師
350 数学博士
Archibald King
模型師
George Cawley
機械学助教師
141.18
200 助手
W. E. Ayrton
電信及理学教師
500 窮理学博士
Edward Divers
1882.07 以降教頭兼化学教師
500 化学博士
John Perry
土木学助教師
John Milne
金石地質及鉱山学教師
333.33 工学助教
350 地質兼鉱学博士
Josiah Conder
造家学教師
350
月給 2
結約年月日 解約年月日
(円)
620 1873.06.03
1882.06.01
333.33 1873.06.03
1881.03.26
1873.06.03
1875.06.18
150 1873.06.19
1878.06.18
500 1873.06.30
1878.06.29
333.33 1873.07.01
1885.12.00
333.33 1875.09.09
1879.03.31
333.33 1876.03.08
1885.12.00
1877.01.28
1882.01.28
Frank Brinkley
数学教師
350
1878.07.01
1880.12.31
Arthur Watson Thomson
土木及測量学助教師
234
1878.08.04
1881.06.30
William Moore Angas
機械学助教師
234
1878.08.04
1881.06.30
Thomas Alexander
土木学教師
350
1879.03.19
1885.12.00
James Main Dixon
英語教師
300
1880.01.01
1885.12.00
Charles Dickinson West
機械学教師
350
1882.08.16
1885.12.00
注:解約年月日欄の日付が「00」とあるのは,別の官庁に雇用されたことを示す。たとえば「Edward Divers」は文
部省に移籍。
出所:大蔵省編『工部省沿革報告』
(409 ページ)。職名 2 と月給 2 は,「工部省第一回年報」(1875 年)による。
するため,4 巻に分冊されていることは利便性が高いことをあげている。
さらに,エアトンは授業用実験を重視し,
「Class Report 6)」の中で次のように指摘し
ている。
Although lecture experiments, whether performed by the Professor or by the
students themselves, are far less valuable than the original work carried on in
the laboratory(for an account of which see under Laboratory)still the
comprehension of the description of an experiment and details of apparatus &c. is
rendered far easier if the student sees the experiments actually performed, and
his recollection of the methods employed remains much more vivid, than if he
merely acquires his knowledge from verbal description.
授業用実験は,教授もしくは学生たちが行おうとも実験室で行われるオリジナルな研
究に比べると重要性は低いが,実際に行った実験を観察することによって,実験に関す
る説明や器具などの詳細を容易に理解することができ,携わった実験手順の記憶は文字
から得られた知識よりも一層鮮明に残る,とした。
実験や実習は物理学教育に不可欠なものとされているが,当時のイギリスでは必ずし
もそうではなかった。エアトンは,授業用実験に批判的なケンブリッジ大学の数学教授
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社会科学 第 43 巻 第 4 号
の見解に論駁した。エアトンの同僚で,当初数学を担当していたマーシャル(D. H.
Marshall)
(表 1)が彼の数学テキストを使用していたこともあって名指しを避けたもの
と思われるが,旧態依然とした教育方法を支持し,実用主義的教育に批判的であったト
ドハンターと考えられる 7)。彼は,授業用実験は,公表された成果や教師の説明に対する
学生たちの信頼を失わせ,もしわずかな実験上の誤りが見過ごされた場合,よく知られ
た法則と矛盾する結果をもたらす,とした。これに対して,エアトンは,授業用実験の
機能は証明することではなく,例証することであると論駁する。また,実験の詳細は書
籍に十分に論述されているため,学生たちは実験を通して,起こりうる結果を予見する
ための想像力や,予期しない困難を克服するための建設的独創性を触発されない,それ
ゆえ授業用実験は言葉の厳密な意味で実験とは言えない,とする批判に対して,エアト
ンは学生たちが勉学により知識を吸収することと,独創的な研究により知識を広げるこ
ととの違いにたえず注意していれば問題はない,とした。
このようなエアトンの実験もしくは実習を重要視する姿勢は,多数の実験・実習用器
具の蒐集 8),ひいては,1877(明治 10)年 9 月の工部大学校理学研究棟新設へとつながっ
ていった。当時のイギリスのケルビン(トムソン)研究所にも劣らない新理学研究棟 9)に
は,実習室(階段教室),試験室,電気実験室,各種実験・実習用器具を収納する器具室
などが整備されていた。第 2 期電信学科入学生の岩田武夫はエアトンが理学研究棟の設
計に関わったことを指摘している 10)。岩田が「虎の門の校門を入つて突き当りの建物の
右に突き出た所は理科のラブラトリー実験室」としているのが,階段教室の実習室にあ
たる 11)。
「其間取諸設備は先生の設計で建てた」のであった。残念ながら,
「余り天井が
高くて談話すると其音響が恐ろしくやかましく響くので講義の妨となり,これには先生
も大に閉口されて種々考案の末天井と床との中間に小径の銅線を縦横に架渡し」たとい
う。
2 1873(明治 6)年 10 月英文シラバス
シラバスは,「工部大学校(工学寮)学課並諸規則」(以下,諸規則とする),英文の
「Imperial College of Engineering, Calendar(1883 年以降,
The Calendar of the Imperial
College of Engineering)」(以下,Calendar とする)の後段に添付されている。表 2 は,
存在が確認できた両者の年月とシラバスの有無を表示したものである 12)。まず英文の
Calendar が作成され,日本語に翻訳された諸規則が出版されたとみられる。1873 年 10
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シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
表 2 諸規則,Calendar の存在確認年月とシラバスの有無
年 代
諸規則
シラバス有無
1873(明治 6)年
Calendar
シラバス有無
10 月
○
1874(明治 7)年
2 月,12 月
○
1875(明治 8)年
6月
○
1876(明治 9)年
3月
○
10 月
○
1877(明治 10)年
3月
○
10 月
○
1878(明治 11)年
12 月
×
10 月
○
1879(明治 12)年
10 月
○
1880(明治 13)年
10 月
○
4月
○
4月
○
1881(明治 14)年
1882(明治 15)年
2月
×
1883(明治 16)年
4月
○
1884(明治 17)年
4月
○
1885(明治 18)年
4月
○
注:Calendar と 1883 年以降の諸規則については,学年歴開始の月を示した。それ以外の月は規則が改
正された月を示す。
出所:Calendar(本文参照)は,東京大学情報理工学図書館蔵。1874 年の 2 つの諸規則(本文参照)は
「法令全書」に収録。1875 年の諸規則は「明治九年五月印行,布達全書第二号,工部省」に収録。
いずれも国立国会図書館近代デジタルライブラリーに依拠。1876 年以降の諸規則は国立公文書館
蔵。
月の Calendar に対応する諸規則は 1874 年 2 月のものである。両者のシラバス(諸規則
では「学課條目略」)は,英学(English),図画(Drawing),数術初業(Elementary
Mathematics), 高 等 数 術(Higher Mathematics), 理 学(Natural Philosophy), 化
学(Chemistry), 測 量 平 準 法(Surveying and Levelling), 礦 物 学(Mineralogy),
地 質 学(Geology), 造 家(Architecture), 工 業 経 営(General Construction)
,機
械 経 営(Construction of Machinery), 機 械 諸 力 ノ 相 合(Combinations)
,機械諸力
(Mechanical Powers),機械運動(Motions of Machines)
,動物諸力(Prime Movers)
,
造船諸式(Principles in Naval Architecture),工業ニ用ユル諸器械(Machines used in
Engineering),工業専課(Special Construction),属水工業(Hydraulic Engineering),
船用機械術(Marine Engineering),堀礦(Mining)
,鎔鋳(Metallurgy)からなる。
これらのうち,理学の和文シラバス(以下,74 年 2 月和文シラバスとする)は,次の
通りである。
一 理学
理学課中ノ生徒ヲ二等ニ分ツ,初年ノ生徒ヲ初等トシ,第二年ノ生徒ヲ二等トス,生
徒互ニ交換シテ局中授教時間試験ヲ助ク,此局ニテ所教ノ課目如左
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社会科学 第 43 巻 第 4 号
動作ノ理 キネマチツキス
勢力ノ理 動
法 水
理 水
勢
理
大気論 ニユーマチツキス
熱
マグネチスム
コルレント,エレキトリシテー
電気
エレクトロ,マグシチスム
マグネート,エレキトリシテー
電信
幾何視学
光線ノ曲折反射ノ理
ジヲメトリカル
造鏡法燈明器
ヲブチツキス
究理視学 フイジカル,ヲブチツキス,色論
音声学 アコースチツキス
天文 アストロノメー
第三四年ノ生徒ハ右條目ニ載スル理学諸課ノ高等ナル者ヲ数術及ヒ実上ニ就テ受教
スヘシ
一方,Calendar に収録された英文シラバス(以下,73 年 10 月英文シラバスとする)
は次の通りである。同シラバスの中に和文シラバスの用語を組み入れ,個々の専門用語
については現代の専門用語に直した 13)。専門用語の次に記したページ数は,その専門用
語もしくは関連する記述がエベレット英訳書に掲載されている個所を示す。また,アン
ダーラインを付した英文は,必ずしもすべてが一致するとは限らないが,和文シラバス
に対応する英文シラバスの個所である。かっこ内には和文シラバスで使用された用語と
現代用語を書き入れ,「同」とあるのは,現代用語とほぼ同一であることを示している。
①∼⑩の番号は説明の便宜のために付したもので,原資料には記載されていない。
NATURAL PHILOSOPHY.
There will be a Junior and a Senior class in Natural Philosophy. First year s
students will form the Junior and second year s students the Senior class.
This course will comprise : ―
① Kinematics, or the theory of motion(動作ノ理=運動学 キネマチツキス)―
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
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Velocity, uniform and accelerated(等速運動と加速運動,p.44, p.50)― motion in a
circle(円運動,p.75)― angular velocity(角速度,p.75)― harmonic and parabolic
motion(調和運動と放物運動,p.68, p48)― strain(歪み)― motion of machines
(機械運動,pp.18-20).
② Dynamics.(勢力ノ理=力学)
(1.)Statics.(静力学)― Definition of force(力の定義,p.9)― absolute and
gravitation measurement(絶対測定と重力測定,p.54)― composition, resolution
and equilibrium of forces(力の合成・分解・平衡,pp.11-18)― stays and struts(支
柱と筋交い)― centre of inertia(慣性中心,p.72)― stable, unstable and neutral
equilibrium(安定・不安定・中立平衡,p.36)― mechanical powers, lever, wheel
and axle, inclined plane, wedge, screw, pulleys(機械動力,てこ,車輪と車軸,斜
面(p.41),楔,ねじ,滑車)― European and Japanese balances(ヨーロッパと日
本の天秤)― compound weighing machines(二重秤量天秤,p.81)― friction(摩
擦,p.79)―principles to be observed in the construction of buildings(建築物建設
に関する遵守原則).
(2.)Kinetics.(動
法=動力学)― Laws of motion(運動法則,p.9, p.53)―
momentum(運動量,p.76)― impact(衝撃)― theory of work(仕事の理論,p.18)
― energy, potential and kinetic(位置エネルギーと運動エネルギー,pp.76-79)―
measurement of work done by machines(機械の仕事量測定,p.20)― conservation
and dissipation of energy, with especial reference to machinery(機械に関する,エ
ネルギーの保存(p.79)と散逸(p.466)
).
(3.)
Hydrostatics.
(水
理=流体静力学)― Distribution and transmission of
fluid pressure(流体圧の分布と伝達)― lock-gates(水門)― hydrostatic bellows
(水圧鞴)― hydrostatic press(水圧プレス,p.93)― equilibrium of floating bodies
(浮体の平衡,p.108)― stability and instability of ships(船の安定と不安定,p.109)
― specific gravity(比重,p.86)― mode of determining it(比重の測定法,p.88)
― its application to practical questions(測定法の実地問題への応用,pp.87-121)
― capillary attraction(毛管引力,pp.122-139)
.
(4.)Hydrokinetics(水
勢
理=流体動力学)― Flow of water in pipes(パイ
プ内水流)― syphons(サイフォン,p.235)― pumps, lifting, forcing, centrifugal
&c., Archimedean screw(吸上ポンプ(p.215)
,押上ポンプ(p.221)
,渦巻きポンプ,
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社会科学 第 43 巻 第 4 号
アルキメデススクリュー)― hydraulic ram(水撃ポンプ)―turbines(タービンポ
ンプ)
.
③ Pneumatics.(大気論=空気力学 ニユーマチツキス)― Connection between
volume, density and pressure of gases and vapours(気体や蒸気の体積・密度・圧
力間の関係,p.170)― pressure of atmosphere(大気圧,p.105)― barometers(気
圧計,p.140)― air pumps(空気ポンプ,p.184)― balloons(軽気球,p.209)―
steam engines(蒸気機関,p.467).
④ Heat.(熱=同)― Sources(熱源)― temperature(温度,p.255)― amount of
heat(熱量,p.255)― conduction(伝導,p.414)― convection(対流)― radiation
(放射,p.386)― absorption(吸収,p.394)― expansion by heat(熱膨張,p.265)
― thermometers(温度計,pp.249-259)― pyrometer(高温計,p.261)― regelation
(復氷,p.315)― connection between temperature, pressure and volume, of gases
and vapours(気体や蒸気の温度・圧力・体積間の関係,p.375)― liquefaction(液
化,p.322)― vaporization(気化,p.317)― latent heat(潜熱,p.303)― specific
heat(比熱,p.372)― dew-point(露点,p.365)― hygrometer(湿度計,p.366)
― ventilation(換気,p.299)– thermo-electricity(熱電気,p.652)― elementary
principles of thermo-dynamics applied to air engines, steam engines &c.(空気機
関,蒸気機関等に応用される熱力学の基礎原理,pp.467-492)
⑤ Magnetism.(マグネチスム=磁気)― Magnets(磁石,p.612)― poles(磁極,
p.616)― formation of magnets(磁石の形成,p.614)― induction(誘導,p.617)
― the earth(as 脱か。エベレット英訳書に「as」あり)a magnet(磁石としての地
球,p.616)― inclination(伏角,p.615)― declination(偏角,p.615)― intensity
(磁気強度,pp.623-641)― exact methods of measuring magnetic force(正確な磁
気力測定法,pp.623-641)― diamagnetism(反磁性,pp.639-641)
.
⑥ Electricity.(電気=同)
(1.)Static.(静電気)―Sources(電源)― dual character(二重性,p.507)―
insulation(絶縁,p.507)― condensers(コンデンサー,p.567)― specific inductive
capacity(誘電率,p.577)― electric machines(電気機械,p.533)― electrometers
(電位計,p.591).
(2.)Current-electricity.(コレント,エレキトリシテー=電流)― Conduction(伝
導,p.648)― resistance(抵抗,p.666)― electro-motive force(起電力,p.643)
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
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― different kinds of batteries(各種バッテリー,pp.645-650)― determination of
rules for arrangement of cells(電池配置方式の確定,pp.671-673)― generation of
heat(熱の発生,pp.699-709)― action of currents on currents(電流の相互作用,
pp.750-766)― thermo-electricity(熱電気,p.652)
.
(3.)Electro-magnetism, and Magneto-electricity.(エレクトロ,マグシチスム
=電磁気学)
マグネート,エレキトリシテー=磁気電気)― Laws of(諸法則)―
electro-magnetic engines(電磁石機関,pp.710-712)― the exact measurement of
currents, resistances and electro-motive forces(電流,抵抗,起電力の正確な測定,
pp.643-665)― absolute system of units(絶対単位系,p.54)― other systems(他
の単位系)
― practical application of electricity to blasting, torpedoes, clocks, bells,
&c.(電気の爆破,水雷,時計(p.736),ベル(p.714)等への実地応用)
(4.)Telegraphy.(電信=同)― Different forms of telegraphs compared(各種電信
機比較,
p.713)
― construction of lines, offices
(電信線
(p.716)
,
電信局の設営)
― rules
to be observed regarding thickness of wire, sending and receiving instruments,
and arrangement of batteries(ケーブルの太さ,送受信機(pp.720-723)
,バッテ
リー配置(p.715)に関する遵守規則― insulators(絶縁体,p.715)― testing for
and removal of faults(漏電試験と除去)― submarine cables, construction, laying,
working, testing(海底ケーブル,設営,布設,作業,試験,pp.733-735)― speed
of signalling(通信速度,p.735).
⑦ Optics(Geometrical)
(幾何視学=幾何光学 光線ノ曲折反射ノ理 造鏡法燈明
.
器)― Photometry(測光法,p.811)― reflection(反射,p.883)― refraction(屈
折,p.910)― the eye(目,p.946)― telescopes(望遠鏡,p.951)― microscopes
(顕微鏡,p.951)― lighthouses(灯台).
⑧ Optics(Physical).(究理視学=物理光学 フイジカル,ヲブチツキス)―
Undulatory theory(波動説,p.1012)― connection between colour and wave-length
(色と波長との関係,p.1008)―solar spectrum(太陽スペクトル,pp.974-991)―
spectrum analysis, with its practical applications
(スペクトル分析とその実地応用,
pp.973-994)― velocity of light(光速,pp.873-880)― interference(干渉,p.1013)
― Newton s rings(ニュートンリング,p.1030)― diffraction(回折,p.1024)―
polarization(偏光,pp.1031-1045).
⑨ Acoustics.(音声学=音響学 アコースチツキス)― Nature of sound(音の特
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社会科学 第 43 巻 第 4 号
質,p.785)― mode of propagation(伝播形態,p.793)― velocity(速度,p.793)
― reflection(反射,p.806)― echo(エコー,p.807)― rules to be observed in
building lecture halls(講義室建築に関する遵守規則)― the ear(耳,p.810)―
musical tones(楽音,p.816)― connection between note and wave-length(音調と
波長との関係,p.841)― musical instruments(楽器,p.818)― notes that can be
produced by each(楽器の音調,p.818)― harmonics(和声学,p.832)― diatonic
scale(全音階,p.818)― chords(弦,p.788)― interference(干渉,pp.810-813)
― singing flames.(発音炎,p.789)
⑩ Astronomy.(天文=同 アストロノメー)― Definitions(定義)―astronomical
instruments(天文学用器材,p.958)― day and night(昼と夜)― the seasons(季
節,p.494)― tides(潮汐,p.465)― trade winds(貿易風,p.500)― gulf stream
(湾流,p.169)― climate(気候,p.495)― determination of latitude and longitude
(緯度・経度の測定,p.33, p.878)― solar, sidereal, and civil reckoning of time(太
陽時,恒星時,常用時の計測)― eclipses(食,p.870)― general description of
solar system(太陽系の概要,p.74).
Note.― An advanced class will be held for the third and fourth year s students,
for the higher mathematical and practical development of the above subjects.
まず,
74 年 2 月和文シラバスとの対応関係から見ていこう。73 年 10 月英文シラバスに
は「生徒互ニ交換シテ局中授教時間試験ヲ助ク」が含まれていない。授業や試験に際して
は学生が交代で教師を助けるという意味であろう。当初,
教師すべてはイギリス人であっ
たため,和文シラバスの内容を知るよしもなく,日本側で勝手に追加したものと考えられ
る。同様のことは,諸規則全体についてもいえる。たとえば,同年の Calendar の「Ⅷ .
Duties of Professors &c.」に「The management of College and the superintendence of
the studies are vested in the Principal」とあるのが,1874 年 2 月の諸規則には「校中ノ
総管学問ノ規則ハ寮長都検ノ責任トス」とある。これ以外の個所でも「寮長」
(1877 年 1
月,工学寮が工部大学校に改称され,工作局の監督下におかれた後は「局長」)が都検の
前に挿入されている。学校の管理運営に関しては,和文と英文は微妙に食い違いを見せ
ている。ただ,細かな専門的内容については,ほぼ Calendar に沿って翻訳されている。
和文シラバスについてみると,英文シラバスの科目表題ごとに掲げられている項目に
ついて言及しているのは,
「幾何視学」の「光線ノ曲折反射ノ理 造鏡法燈明器」だけで
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
119
あった。他は英文シラバスの下線部表題のみを日本語に翻訳しているにすぎない。②の
「
(1.)Static」については,表題すら和文シラバスから省かれている。和文シラバスが活
字になったのは 1874 年 2 月であるので,シラバス原稿が作成されたのは,まだ理学授業
が本格化していない時期であったはずである。学生がこれを作成したとは考えられない。
工学寮撰輯課 14)あたりが,後の参考用和漢書 15)に当たる文献などに依拠して翻訳したも
のと推測する。
次に,英文シラバスとエベレット英訳書との対応関係を検討しよう。エベレットはも
ともと 1 冊からなるデシャネル原著を 4 分冊とした。表 3 は,各巻の章構成と章題を示
したものである。
表中の part1 のかっこ内の
「Mechanics, Hydrostatics, and Pneumatics」
は,英訳書の表紙に記されていたもので,原著にはない 16)。part2 の Heat は,原著で
Chapter19 ∼ 34 を総轄する見出しとして Chapter19 の前に記された Chaleur の英訳で
ある。part3 では,原著と同様に Chapter35 ∼ 52 を総轄する見出しの Électricité を,
「Electricity and Magnetism」 と し て 表 紙 に 記 し た。 エ ベ レ ッ ト は 自 身 の 判 断 で
Chapter45 以降の諸章を「Current Electricity」という表題で括ったが,表紙には掲載し
ていない。part4 については原著の Acoustique(Chapter53 の手前に記載),Optique
(Chapter57 の手前に記載)という見出しを同巻表紙に「Sound and Light」として掲げ
た が, 英 訳 書 の 本 文 内 で は Acoustics,Optics を 使 用 し て い る。 エ ベ レ ッ ト は ま た
Chapter39A のように「A」を添付した Chapter を書き加え,Chapter61 以降では,原著
の「ChapitreLXI. ―Dispersion」,
「ChapitreLXII. ―Vision et Instruments D Optique」
を表 3 のように 5 つの Chapter に区分した。
さらに,Chapter14 の原著では「Loi de Mariotte」とあるのを「Boyle's Law」と変更
している。原著ではフランス人のマリオットを使用していたが,英訳書ではイギリス人
のボイルに変更した。Chapter18 に関し,原著では「Règle de Torricelli」としていたの
に対して,英訳書では,表 3 のようにイタリア人トリチェリの名前を表題から削除した。
本文内容に関しても「英訳書の目的がイギリス人の読者に役立つことであったため,多
くの場合,正確な翻訳を犠牲にして実効的翻訳を優先することに躊躇しなかった 17)」と
しており,原著から乖離している個所も多く見うけられる。
英文シラバスの①∼③がエベレット英訳書の part1 に対応し,④は part2,⑤と⑥は
part3,⑦∼⑨は part4 に対応していることがわかる。⑩については理学の分野から離れ
ており,授業では取り上げられなかった可能性がある。取り上げられたとしても,英文
シラバスの個別項目ページを見てもわかるとおり,エベレット英訳書に断片的に記され
120
社会科学 第 43 巻 第 4 号
表 3 「Elementary treatise on Natural Philosophy」の各巻の章構成と章題
part
part1(Mechanics,
Hydrostatics, and
Pneumatics)
part2(Heat)
part3(Electricity and
Magnetism)
part4(Sound and
Light)
chapter
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
39A
40
41
41A
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
56A
57
58
59
60
61
62
63
64
65
chapter head
Preliminary Notions
Mechanics
Constitution of Bodies
Gravity
Laws of Falling Bodies
The Pendulum
The Balance
Hydrostatics
Principle of Archimedes
Application of the Principle of Archimedes to the
Determination of Specific Gravities
Vessels in Communication. Capillarity
The Barometer
Variations of the Barometer
Boyle's Law
Air-Pump
Upward Pressure of the Air
Pumps for Liquids
Efflux of Liquids
Thermometry
Formulae relating to Expansion
Expansion of Solids
Expansion of Liquids
Expansion of Gases
Fusion and Solidification
Evaporation and Condensation
Ebullition
Measurement of Tension and Density of Vapours
Hygrometry
Radiant Heat
Conduction of Heat
Calorimetry
Thermo-Dynamics
Steam and Other Heat Engines
Terrestrial Temperatures
Introductory Phenomena
Electrical Induction
Measurement of Electrical Forces
Electrical Machines
Various Experiments with the Electrical Machine
Electrical Potential and Lines of Electrical Force
Electrical Condensers
Effects produced by the Discharge of Condensers
Electrometers
Atmospheric Electricity
General Statement of Facts and Laws
Experimental Details
Galvanic Battery
Galvanometer
Ohm's Law
Electro-Dynamics
Heating Effects of Currents
Electro-Motors ―Telegraphs
Electro-Chemistry
Induction of Currents
Production and Propagation of Sound
Numerical Evaluation of Sound
Modes of Vibration
Analysis of Vibrations. Constitution of Sounds
Consonance, Dissonance, and Resultant Tones
Propagation of Light
Reflection of Light
Refraction
Lenses
Vision and Optical Instruments.
Dispersion. Study of Spectra
Colour
Wave Theory of Light
Polarization and Double Refraction
章題
予備的考察
力学
物体の構造
重力
落体の法則
振子
天秤
流体静力学
アルキメデスの法則
アルキメデ法則の比重測定への応用
相互に通じる容器 . 毛細管現象
気圧計
気圧計の変動
ボイルの法則
空気ポンプ
空気の上昇圧力
液体用ポンプ
液体の流出
温度測定
膨張の公式
固体の膨張
液体の膨張
気体の膨張
融解と凝固
蒸発と凝縮
沸騰
蒸気圧・密度の測定
湿度測定
輻射熱
熱伝導
熱量測定
熱力学
蒸気機関と他の熱機関
地上温度
基本的諸現象
電気誘導
電気力の測定
電気機械
電気機械による諸実験
電位と電気力線
電気コンデンサー
コンデンサー放電による作用
電位計
空中電気
事実と法則の概説
実験詳細
ガルバニ電池
検流計
オームの法則
電気力学
電流の熱効果
電動機 , 電信機
電気化学
電流誘導
音の生成と伝播
音の数値的評価
振動モード
振動分析 . 音の構造
協和音,不協和音,結合音
光の伝播
光の反射
屈折
レンズ
視覚と光学機器
分散,スペクトル研究
色
光の波動説
偏光と複屈折
出所:A. P. Deschanel, Elementary Treatise on Natural Philosophy(by J. D. Everett), D. Appleton and Company,
New York, 1878.
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
121
ているので,他の理学科目授業の中で付論された程度であったろう。
前 述 の よ う に, エ ベ レ ッ ト は part1 の 副 題 と し て「Mechanics, Hydrostatics, and
Pneumatics」を掲げた。1880 年に大幅に改訂されたエベレット英訳書では 18),part1 に
おいては Dynamics(力学)を取り上げ,このうち固体を扱う分野を Mechanics,液体は
Hydrostatics,気体は Pneumatics としている。イギリスにおいて 1830 年代に編纂され,
1870 年代に『百科全書』として翻訳された「Chambers s Information for the People」で
も,力学に関しては同様の分類法を使用していた 19)。
いずれにしても part1 は力学全般を扱うテキストであるが,英文シラバスにおいて①の
Kinematics が配置されているのが特徴的であった。これはエアトンの恩師であるトムソ
ン(W. Thomson)の影響とみられる。彼とテイト(G. Tait)との共著には 20),Dynamics
を,静止を保ち運動変化を妨げる力の作用,すなわち力の平衡状態を研究する Statics と,
運動を生み出し,変化を引き起こす力の作用を研究する Kinetics に分類する一方で,運
動する物体,運動を生み出す諸力,運動により引き起こされる諸力との関連を考慮せず,
単なる運動の諸状況を考察する純粋数学の領域に属する分野を Kinematics とした。力,
質量,化学的組成,弾性,温度,磁気,電気のような物理学概念との関連を全く考慮せ
ず,運動,変位,歪みの諸特徴を考察する,ともしている。また,トムソンとテイトが,
力の作用を研究する分野を Mechanics と呼称することに否定的であったことから,エア
トンもこの用語を使用せず,Dynamics を採用した。
Kinematics に関し,当時の日本語訳として「動作ノ理」が当てられているが,個々の
用語のかっこ内のページ数から明らかなように,エベレット英訳書の Mechanics に当た
る Chapter1 ∼ 7(表 3 の「予備的考察」から「天秤」まで)にそれぞれの記述が見いだ
せる。抽象的内容なので,学生のほとんどが初心者であったことを考えると,シラバス
に沿って授業が行われたのかどうか疑わしい。②の「勢力ノ理」と訳された Dynamics の
(1.)∼(4.)については,エベレット英訳書に記載されている理学専門用語がシラバス
個別項目として掲げられているが,同書に記載されていない項目も多く見いだせる。(1.)
では,機械動力,ヨーロッパと日本の天秤,建築物建設に関する遵守原則,(3.)では,
水門など,
(4.)では,パイプ内水流,アルキメデススクリューなどである。いずれも実
物に即して説明でき,初心者でも理解しやすい内容だったと想像できる。これらのうち,
機械動力などに関しては,理学参考書として利用された 21)「Elementary Treatise on
Physics」
(フランス人ガノー(A. Ganot)原著 22))のうち,Book Ⅰの「Chapter3 On
Force, Equilibrium, and Motion」において,lever 以下すべてについて図版をともなっ
122
社会科学 第 43 巻 第 4 号
た説明がなされていた。エベレット英訳書を補っていたことが確認できる。
Statics の科目において「建築物建設に関する遵守原則」が授業項目として掲げられて
いるが,1873 年 12 月に完成した工学寮小学校用校舎が 74 年 1 月に大学校用校舎に転用
されたことと関連していよう 23)。早くもこの段階で,エアトンは同校舎の理学関係教室
の設計にも関与していたことがうかがえる。
③の Pneumatics 以降については,エベレット英訳書との対応関係が密接であることを
うかがわせているが,1873 年 10 月に授業が開始されて間もない時期であるので,実際の
授業はここまで進んでいなくて,エアトンはエベレット英訳書から必要項目を選択しつ
つあった段階と考えられる。ただ,興味深いのは,⑨の Acoustics において「講義室建築
に関する遵守規則」が取り上げられていることである。教師の講義を聴き取りやすくす
るための壁面素材や空間設計に関する講義が行われる予定であったのであろう。
3 1876(明治 9)年 10 月英文シラバス
諸規則が 1874 年 12 月に改正されるに応じて,同諸規則に添付された和文シラバスは,
74 年 2 月和文シラバスとの違いを見せた。前者シラバスと 1875 ∼ 77 年の諸規則に添付
の和文シラバスは同一内容であった。表 2 のように,1874,1875 年の Calendar を見い
だすことができなかったが,これら和文シラバスと 1876,1877 年の Calendar に添付さ
れた英文シラバスとが対応していることから,両年の英文シラバスの内容はすでに 1874
年 12 月以前に作成され,これに基づいて 1874 年 12 月の和文シラバスが作成されたもの
と見ていいであろう。
以下,これらの資料を利用して,1873 年 10 月の英文シラバスがどのように変化したか
を検討する。まず 1874 年 12 月の諸規則に添付された和文シラバス(以下,74 年 12 月和
文シラバスとする)から見ていこう。
理学
理学ノ教授ハ講義ト実験トヲ以テス
第一夏期中ニハ理学ノ階梯トシテ,昼夜ノ別,寒温ノ理,夏冬,風,雨,電雷,潮
汐ノ淵源等,尋常造化ノ現象ヲ説キ,然ル後大小時辰儀,蒸気機関,
(印刷器械),電
信器ノ如キ切要普通ノ機関運用ニ関スル原理ト,一般諸器械ノ功用ヲ叙論ス
次ニ生徒ヲシテ物体ト勢力トノ殊異ト,体ニ固形流動気状ノ諸体有リ,性ニ重性,惰
123
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
性,分性,孔性,縮性,弾性ノ数性有ルヲ考究セシム,又物ノ長短,大小,軽重ヲ
量ルニ同一規ノ度量権衡ヲ要スルト,其通常ノ用法,及ヒ遊尺ノ原理其他実験ト数
理トノ差別ヲ講究セシム
第一期第二期ノ間冬期中生徒ノ攻脩スヘキ課目,左ノ如シ
甲 称 水
学
次ニ空気ニ重力有リテ之ヨリ生スル各般ノ作用ヲ証スルニ,
「リフチング」及ヒ「フ
ヲーシング」両種ノ「ポンプ」,風雨鍼,軽気球ヲ以テシ,及ヒ空気ノ圧力ハ四方八
面行ク所トシテ同一ナルヲ証スルニ,
「アネロイド」ノ験気器並ニ,排気鐘,「サイ
ホン」ヲ以テシ,又瓦斯体ニハ圧力ト太容ト踈密ト始終互ニ相関係スル所以ヲ示ス
甲 熱
,
甲 幾
何
視
学
甲 磁 気
甲 電
気 一 ステツクス 二 流電気
甲 運 動 学
甲 勢力ノ理 甲 一 原
理 甲二 動
法 甲三 スタテツ
クス
甲 音 声 学
第一夏期第一冬期中ハ教授ノ法大概実験ニ係リ,又第二ノ冬期ハ実験ト数理ト相半
ス,第三回ノ冬期ニ至リテ究理学中数理ト通常各般ノ学科ニ渉リ,稍高尚ニシテ初
学ノ生徒ニ授ク可ラサルモノヲ教授ス,其課目左ノ如シ
乙 磁 気
乙 電
気
乙 運 動 学
乙 勢力ノ理 一 動
法 二 スタテツクス 三 水 勢 ノ 理 四 水
理
乙 熱
,
乙 幾
何
視
学
,
乙 究 理 視 学
,
乙 量
地
,
,
用
,
,
天
文
1876 年 10 月の英文シラバス(以下,76 年 10 月英文シラバスとする)は次のようになっ
124
社会科学 第 43 巻 第 4 号
ている。下線部,①∼
の数値などについては前述の通りである。
NATURAL PHILOSOPHY.
The knowledge will be imparted by lectures combined with practical
instruction in the physical laboratory.
① During the first summer session there will be given as introductory to the
study of Natural Philosophy the explanation of familiar natural phenomena
(尋常造化ノ現象=一般的な自然現象の説明), for example ― day and night
(昼夜ノ別=同)― heat and cold(寒温ノ理≒同)― summer and winter(夏
冬=同)― wind(風=同)― rain(雨=同)― lightning and thunder(電雷
=同)― the tides(潮汐=同).
② Then will be described the elementary principles on which depend the action
of important familiar machines, viz.― clocks and watches(大小時辰儀=掛け時
計,懐中時計)― steam engines(蒸気機関=同)― the telegraph(電信器=同)
― the printing press(和文シラバスには無記載)― and the object of machines
generally(一般諸器械ノ功用=同).
③ Next the students will be led to consider the difference between matter and
force(物体ト勢力トノ殊異=物質と力との違い)―the properties of matter, weight,
inertia, divisibility, porosity, compressibility, elasticity(性ニ重性,惰性,分性,孔
性,縮性,弾性ノ数性有ルヲ考究セシム=物性,重量,慣性,可分性,多孔性,圧
縮性,弾性,pp.21-27)― the various states in which matter can exist, the solid,
liquid, and gaseous(体ニ固形流動気状ノ諸体有リ=物質が存在しうる各種形態,個
体,液体,気体,pp.21-22)― the necessity for a uniform measurement of length,
volume, and weight, and the methods commonly employed(物ノ長短,大小,軽重
ヲ量ルニ同一規ノ度量権衡ヲ要スルト=長さ,体積,重量の統一的測定の必要性と
一 般 的 測 定 方 法,p.10) ― the graphical method of compounding and resolving
forces(力の合成と分解の図式法,p.12)― the action of gravity(重力の作用,p.31)
―experimental methods of determining the centre of gravity(重心決定の実験的
方法,
p.33)― the laws of the pendulum, and of falling bodies(振子と落体の法則,
p.56, p.40).
During the first and second winter sessions will be studied.
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
125
④ Dynamics.(A.)(甲 勢力ノ理=力学)
1. Fundamental(A.)
( 甲一 原
理)First law of motion(運動の第一則)
― inertia(慣性,p.9)― measurement of time(時間の計測)― definition of force
(力の定義,p.9)― momentum(運動量,p.76)― second law of motion(運動の
第二則,p.69)― absolute and gravitation measurement of force(力の絶対測定と
重力測定,p.54)―third law of motion(運動の第三則,p.28, p.74)
.
2. Kinetics.(A.)
( 甲二 動
法=動力学)Simplest cases of the motion of
bodies constrained to move under the action of certain forces, for example,
pendulums(一定の力の作用の下に動きを制約された物体運動のもっとも簡単な事
例,振子,p.56)― centrifugal force(遠心力,p.62)― elementary ideas regarding
energy(エネルギーに関する基礎知識,pp.75-79)― the mechanical advantage of
simple machines estimated from the principle of the conservation of energy(エネ
ルギー保存則(p.79)から推定された単純機械の機械的利益(p.224)
)
.
3.Statics.(A.)(甲三 スタテツク=静力学)Equilibrium(平衡,p.35)―
simplest cases of forces producing relative rest(相対的静止を生み出す力の最も簡
単な事例)― couples(偶力,p.16)― centre of gravity(重心,p.33)― stable,
unstable, and neutral equilibrium(安定・不安定・中立平衡,p.36)― the mechanical
powers treated as cases of forces producing equilibrium, lever, wheel and axle,
inclined plane, wedge, screw, pulleys(平衡を生み出す力の事例としての機械動力,
てこ,車輪と車軸,斜面(p.41),楔,ねじ,滑車)― elementary ideas of friction
(摩擦の基礎知識,p.20, p.79, p.93).
⑤ Hydrostatics.(A.)(甲 称
水
学=流体静力学)Elementary principles on
which depend the action of the hydrostatic press, hydraulic wire testing
machines(水圧プレス(p.93, p.223),油圧式ワイヤー試験機の作用に関する基礎原
理)― the floating or sinking of bodies in liquids, from whence will be derived the
ideas of specific gravity, the methods for measuring it, and its practical utility(液
体中における物体の浮沈。このことから比重に関する知識,比重測定の方法,その
実地的有用性が導かれよう。pp.87-121)― the principle of the level and its use in
surveying(水準器の原理と測量における利用,pp.123-127)
.
⑥ Next will be shown the proof that gases have weight and the effects
resulting from this(次ニ空気ニ重力有リテ之ヨリ生スル各般ノ作用ヲ証スルニ≒
126
社会科学 第 43 巻 第 4 号
同,p.140)― pumps, lifting, forcing(リフチング=吸上ポンプ,フヲーシング=押
上ポンプ,pp.215-221)― barometers(風雨鍼=気圧計,p.140)― balloons(軽気
球=同,
p.209)
― the pressure of air is the same in all directions at the same point
(空気ノ圧力ハ四方八面行ク所トシテ同一≒同,p.105)― aneroids(「アネロイド」
ノ験気器=アネロイド気圧計,p.157)― siphons(サイホン=同,p.235)― airpumps( 排 気 鐘 = 空 気 ポ ン プ,p.184) ― the connection between the pressure,
volume, and density of a gas(瓦斯体ニハ圧力ト太容ト踈密ト始終互ニ相関係スル
=気体の圧力・体積・密度間の関係,p.170)
.
⑦ Heat.(A.)(甲 熱 =同)Difference between temperature and amount of
heat(温度と熱量の違い,p.255)― sources(熱源)―effects; expansion of solids,
liquids, and gases, change of state(諸効果;固体・液体・気体の膨張,状態変化,
p.264)― convection, draught, ventilation, land and sea breezes, trade winds,
currents(対流(p.284),通風(p.297),換気(p.299)
,陸風と海風(p.499)
,貿易
風(p.499),気流(p.499))― thermometers ; standard, ordinary, maximum, and
minimum(温度計;標準温度計,普通温度計,最高最低温度計,pp.249-259)―
coefficients of expansion, their determination(膨張係数,その計測,p.265)―
pyrometers(高温計,p.261)― correction for temperature of barometer(気圧計
の温度補正,pp.266-268)― readings(示度)― unit of heat, specific heat(熱量の
単位,比熱,p.304, p.372)― maximum density of water(水の最高密度,p.277)―
melting and solidification(融解と凝固,p.302)― expansion of water on freezing
(凍結時における水の膨張,p.311)―latent heat of liquids(液体の潜熱,p.303)―
freezing mixtures( 寒 剤,p.305) ― evaporation( 気 化,p.317) ― pressure of
vapour(蒸気圧,p.320)― vapour-density(蒸気密度,p.321)― saturation(飽
和,
p.321)― dew(露)― rain(雨)― rain-gauges(雨量計,p.382)― dew-point
(露点,p.365)― hygrometers(湿度計)― liquefaction of gases(気体の液化,
p.322)― climate how affected by warm wet winds(暖湿風に気候がどのような影
響を受けるか)― boiling(沸騰,p.334)― latent heat of steam(蒸気の潜熱,p.372)
― the spheroidal state, and its possible connection with some boiler explosions
(スフェロイダル状態と,ボイラー爆発との関連の可能性,p.344)― freezing by
evaporation(気化による凍結,p.329)― great artificial cold(強力な人工的冷気,
p.306)― radiant heat(放射熱,p.386)― cold of mountains(山の寒さ,p.378)
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
127
― burning glasses(天日レンズ,p.390)― reflection of heat and its practical uses
(熱の反射と実地利用,pp.390-391)― conduction of heat(熱伝導,p.414)― warmth
of clothes(衣服の暖かさ,p.423)― preservation of ice(氷の保存,p.419)― miner s
safety-lamp(鉱山の安全灯,p.418)― methods of artificially producing great heat
(人工的に高温を生み出す方法,p.445).
,
⑧ Optics.(Geometrical).(A.)(甲 幾
何
視
学=幾何光学)Rays of light
straight in a uniform medium(光線は一様な媒質中において直線,p.1013)―
shadows(影,p.870)― intensity of illumination inversely proportional to square
of distance(照度は距離の二乗に逆比例,p.881)― photometers(光度計,p.811)
― laws of reflection(反射の法則,p.883)― the sextant(六分儀,p.892)― artificial
horizon(人工水平儀,p.884)― simplest consideration with reference to the images
formed by plane, concave, and convex mirrors(平面鏡,凹面鏡,凸面鏡により形成
された画像に関する若干の考察,p.883)― the kaleidoscope(万華鏡,p.890)― use
of reflectors to increase the light of lamps(灯火を明るくするための反射鏡の利用,
p.904)― laws of refraction(屈折の法則,p.910)― simplest ideas regarding prisms
and lenses(プリズムとレンズに関する基礎知識,pp.920-929)― the camera lucida
and camera obscura(カメラルシダとカメラオブスクラ,p.916, p.942)― telescopes
(望遠鏡,
p.958)― microscopes(顕微鏡,p.944)― the eye(目,p.946)― defective
vision how remedied(視覚障害を矯正する方法,p.952)―the stereoscope(立体
鏡,p.948).
⑨ Magnetism.(A.)( 甲 磁
気=同)Magnets, natural, artificial(天然磁石,
人工磁石,p.612)― poles and neutral parts(磁極と中立部,p.616)― induction
(誘導,
p.617)― formation of magnets(磁石の形成,p.614)― the earth a magnet
(磁石としての地球(73 年 6 月英文シラバス参),
p.616)― declination(偏角,p.615)
― inclination(伏角,p.615).
⑩ Electricity.(A.)(甲 電
気=同)
1. Static.( 一 ス タ テ ツ ク ス = 静 電 気 )― Sources( 電 源,p.609) ― dual
character(二重性,p.507)― electroscopes(検電器,p.516)― insulation(絶縁,
p.507)― induction(誘導,p.513), specific inductive capacity(誘導率,p.577)―
electrophorus(電気盆,p.543)― condensers(コンデンサー,p.567)― electrical
machines(電気機械,p.533)― distribution of electricity on conductors(導体上
128
社会科学 第 43 巻 第 4 号
の電気分布,p.528).
2. Current.(二 流電気=電流)― Definition of an electric current(電流の定
義,p.512)― properties of ; magnetic, heating, chemical(磁流,加熱電流,化学
電流の特性)― galvanoscopes(検流器)― galvanometers(検流計,p.656)―
voltameter(ボルタメーター,p.738)― practical applications of current electricity
to telegraphy, blasting, chemistry, electrotyping, electroplating(電流の電信機,爆
破,化学,電鋳,電気メッキへの実地応用,pp.714-746)― conduction(伝導,p.648)
― resistance(抵抗,p.666)― electromotive force(起電力,p.643)― electrometers
( 電 位 計,p.591) ― Ohm s law( オ ー ム の 法 則,p.665) ― different kinds of
electrometers compared( 各 種 の 電 位 計 比 較,pp.591-598) ―batteries, Volta s,
Smee s, Daniell s, Grove s, Bunsen s &c., magneto-electric machines(ボルタバッテ
リー(p.645),スミーバッテリー,ダニエルバッテリー(p.649)
,グローブバッテ
リー(p.650),ブンセンバッテリー(p.650)等々,磁気電気機械(p.706)
)― secondary
currents(二次電流,p.752).
⑪ Kinematics, or the science of motion.(A.)
( 甲 運 動 学 = 同 )Velocity
uniform, and accelerated(等速運動,加速運動 ,p.44, p.50)― motion in a circle
(円運動,p.75)― angular velocity(角速度,p.75)― composition of velocities(速
度合成,p.52).
⑫ Acoustics.(A.)(甲 音 声 学=音響学)Nature of sound(音の特質,p.785)
― mode of propagation(伝播形態,p.793)― velocity(速度,p.793)―wave-length
(波長,p.793)― reflection(反射,p.806)― echo(エコー,p.807)― the ear(耳,
p.810)― loudness(音の大きさ,p.816)― pitch(音の高さ,p.816)― resonance
( 共 鳴,p.833) ― character or timbre of the sound( 音 色,p.817) ―musical
instruments(楽器,p.818).
⑬ During the first summer and winter sessions the instruction will be given
almost entirely by means of experiments― during the second winter session it
will be partly experimental and partly mathematical― during the third winter
session will be taught those branches of Natural Philosophy which, from the
amount of mathematical or general scientific knowledge required, cannot be
treated in an elementary class ;― viz :
⑭ Magnetism.(B.)(乙 磁
気=同)Unit pole(単位磁極,p.758)― lines of
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
129
force(力線,p.560)― magnetic potential(磁位,p.618)― importance of knowledge
of magnetic field in practical telegraphy(実際の電信における磁場(p.620)に関す
る知識の重要性)― coefficients of magnetic induction(磁気誘導係数,p.617, p.781)
.
⑮ Electricity.(B.)(乙 電
気=同)Exact measurement of electric quantity,
density, resultant force, potential, electromotive force, capacity, currents, and
resistances(電気量(p.528),密度(p.528)
,合力(p.560)
,ポテンシャル(p.559)
,
起電力(p.643),容量(p.565),電流(pp.656-664)
,抵抗(p.665)の正確な計測)―
lines of force, and equipotential surfaces(力線と等電位面,p.561)― electrostatic
and electromagnetic systems of units(静電気と電磁気の単位系,p.779)― other
systems( 他 の 単 位 系 ) ― measurement of the action of currents on magnets,
magnets on currents, and currents on currents(電流の磁石に対する作用,磁石の
電流に対する作用,電流の相互作用の測定,pp.750-766)― electrodynamometers
(電流動力計)― thermo-electricity, neutral points(熱電気(p.652)
,中立点).
⑯ Kinematics.(B.)( 乙 運 動 学 = 同 )Projectiles( 発 射 体,p.50) ― total
acceleration( 総 加 速 度 ) ― the hodograph( ホ ド グ ラ フ ) ― composition of
accelerations(加速度の構成,pp.56-71)― tangential and normal components of
acceleration(加速度の切線成分と法線成分).
⑰ Dynamics.(B.)(乙 勢力ノ理=力学)
1. Kinetics.(B.)
(一 動
法=動力学)Impact(衝撃)― moment of inertia,
radius of gyration(慣性のモーメント(p.74)
,回転半径)― D Alembert s principle
(ダランベールの原理)― motion of the centre of gravity of a system of particles
(質点系の重心の運動,p.60)― rotation round a fixed axis(固定軸の周りの廻転,
p.74)― reciprocal relation of the centres of oscillation and suspension(振りの中
心とつりの中心の互換性,p.60)― the ballistic pendulum(弾道振子)― centre of
percussion(打撃の中心,p.76).
2. Statics.(B.)
(二 スタテツクス=静力学)Resolution of forces along axes(軸
沿いの力の分解)― equation of equilibrium(つりあい方程式)― calculation of the
position of the centre of gravity of solids( 固 体 の 重 心 位 置 の 計 算,p.34) ―
conditions of sensibility and stability of balances(天秤の感度と安定性の条件,
p.80)― investigations of the effects produced by friction in the mechanical
advantage of machines(機械の機械的利益(p.224)に関して摩擦がもたらす影響の
130
社会科学 第 43 巻 第 4 号
研究)― strength of materials(材料力学)― alteration of form, and rupture by
stress(応力による形状変化と破壊)― the catenary(懸垂線).
3. Hydrokinetics.(B.)
(三 水 勢 ノ 理=流体動力学)The few questions that
can be treated without the aid of the differential and integral calculus(微積分を
援用しないで取り扱える二,三の問題).
4. Hydrostatics.(B.)
(四 水
理=流体静力学)Centre of pressure(圧力
中心,p.102)― metacentre(メタセンター,p.110(脚注)
)― capillarity(毛管現
象,pp.122-139)― barometer-corrections(気圧計補正,p.150)― determination
of heights from the variation of barometric pressure(気圧変化による標高測定,
p.161).
⑱ Heat.(B.)
(乙 熱 =同)Laws of cooling(冷却法則,p.386)― different kinds
of heat rays(各種熱線,p.395)― specific heat at constant pressure, or at constant
volume( 一 定 圧 力 下 も し く は 一 定 体 積 下 に お け る 比 熱,p.427) ― elementary
principles of thermo-dynamics, first and second laws(熱力学の基礎原理,熱力学
の第一,第二則,pp.445-448)― application to air and steam engines.(空気機関
や蒸気機関への応用,p.467)
,
⑲ Optics(Geometrical).(B.)(乙 幾
何
視
学=幾何光学)Investigations
regarding spherical aberration, how avoided in optical instruments(球面収差およ
び,光学器械における防止方法の研究,pp.894-939)― oblique pencils(斜光束,
p.936)― comparison of the magnifying power of telescopes, microscopes(望遠鏡,
顕微鏡の倍率比較,p.951)― application of the principles of optics to the
construction of lanterns for lighthouses &c.(灯台等の灯火室建設への光学原理の応
用,p.769)
,
⑳ Optics(Physical).(B.)(乙 究 理 視 学=物理光学)Spectrum analysis,
use in chemistry(スペクトル分析,化学における利用,pp.973-994)― chromatic
aberration, how to avoid(色収差とその防止方法,
pp.994-997)― polarization, and
its use in chemical analysis(偏光と化学分析における利用,pp.1031-1045)― double
refraction(二重屈折,p.926)― diffraction(回折,p.1024)― undulatory theory
(波動説,p.1012)― connection between colour and wave length(色と波長との関
係,p.1008).
,
Astronomy as applied to Geodesic Survey.(B.)
( 乙 量
地
,
,
用
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
,
131
,
天
文 = 測 地 へ の 応 用 の た め の 天 文 学 )Description of instruments
employed, sextant, theodolite &c., artificial horizon( 使 用 道 具 の 記 述, 六 分 儀
(p.892),経緯儀(p.971)等,人工水平儀(p.884)― definition of terms(用語の定
義)― solar, sidereal, and civil day, and conversion of time reckoned in one system
into time reckoned in accordance with either of the other two(太陽日,恒星日,常
用日と,一つの暦法で計算した時間を他の 2 つの暦法に従って計算した時間への転
換)― corrections for refraction, parallax &c.(屈折補正,視差補正等,p.1021, p.986)
― determination of latitude, local time, longitude(緯度(p.33)
,地方時,経度の
測定(p.878)
)― finding the direction of the meridian, and the variation of the
compass(子午線の方向と羅針盤の偏差を調べる,p.615)
.
During the third session each of the students will only attend those portions
of the above course that have especial connection with the profession he has
chosen.
前述のように,エアトンは,この英文シラバスと同一内容のシラバスを 1874 年 12 月
以前に作成していたはずである。和文シラバスに「第一夏期中(During the first summer
session)
」とあるのは,4 月から 6 月までの授業期間のことであり,第 1 期入学生だけが
1873 年 10 月入学(卒業は 6 年後の 1879 年 11 月 24))で,第 2 期(1874 年 4 月入学)以
降は 4 月入学(5 月卒業)であったことを考慮すると,英文シラバスは 1874 年 4 月頃に
は完成していたのではなかろうか。
1874 年 2 月,12 月の諸規則および 1873 年 10 月の Calendar によると,修学年数 6 年
間を 2 年間ごとに予科学(General course),専門学(Technical Course)
,実地学(Practical
Course)に区分し,最初の 4 年間は,半年交替で実地研修と修学をくり返し,最後の 2
年間は連続して実地研修を行うというカリキュラムであった。2 ∼ 4 年生の場合,修学は
10 月から翌 3 月まで,実地研修は 4 月から 9 月までとしたが,1 年生については,4 ∼ 6
月を「諸術ノ初歩ヲ教へ修学正季ニ入ルノ階梯」とし,7 ∼ 9 月は「休課」ではあるが学
内工作場で実地研修を行うこととした。つまり実際には,予科学段階では 1 年半ちかく
を修学に費やしたのである。このようなカリキュラムに基づいて,入学時から理学教育
もはじまった。また,和文,英文シラバスともに 2 年生夏期(第二夏期)に関する修学
内容が記されていないのは,この期間,実地研修を行うことになっていたからである。
シラバスの最初にエアトンの方針通り,講義と並行して実験を行うことを明記してい
132
社会科学 第 43 巻 第 4 号
る。73 年 6 月英文シラバスは難解な運動学からはじまることになっていたが,74 年 12 月
和文シラバスおよび 76 年 10 月英文シラバスは,自然科学に関する一般常識の説明から
はじまっている。後者シラバス①は自然現象の解説,②では当時のイギリスで日常的に
目にすることのできる諸機械類の説明を行った。エベレット英訳書にいくつかの項目に
関する記述が見いだせるが,エベレット英訳書に依拠する必要はなかったと考えられる
ので,引用シラバスにはとくに記述ページを記載していない。
③のうち物性(the properties of matter)に関する記述のうち,重量や慣性について
は,エベレット英訳書のいくつかの箇所で指摘されているので,この順番どおりではな
いが,可分性から弾性までに関してエベレット英訳書でもこの順番で記述しているし,こ
れら以外に多数の物性があるにもかかわらず 25),シラバスは同書に掲げた物性しか示し
ていない。エベレット英訳書に依拠したことは明らかである。度量衡については,エベ
レット英訳書には特に説明はないが,
同書本論の直前に「French and English Measures」
として,メートル法とポンド・ヤード法とを比較した一覧表を掲載している。この個所
以降,74 年 12 月和文シラバスの「及ヒ遊尺・・・」と,76 年 10 月英文シラバスの「the
graphical method of ・・・」とは対応していない。
ここまでの授業を 1 年生の夏期授業とした。全体に初歩的な内容だったので,一定の
日本語訳が行われているが,
「第一期第二期ノ間冬期中」以降のシラバス内容は,一部を
除いて断片的な翻訳に終わっている。74 年 12 月和文シラバスでは第 1 期冬期授業の最初
に「称水学」(流体静力学)が配置されている。76 年 10 月英文シラバス⑤の科目表題だ
けが翻訳されているにすぎず,内容項目の翻訳は見いだせない。
「称水学」に続く「次ニ
空気ニ重力・・・」が⑥に当たる。英文シラバスでは断片的な記載で理解しにくいが,文
章化された 74 年 12 月和文シラバスは,空気に重量があることやその作用を証明するた
めにいくつかの器具を使用することを指摘している。さらに同一地点における空気の圧
力はすべての方向で同一であることを証明するための器具を紹介し,気体の圧力・体積・
密度の関係を検証する,としている。例外的にわかりやすい表現となっている。これら
の内容は,73 年 10 月英文シラバス③の Pneumatics(空気力学)に当たるはずだが,76
年 10 月英文シラバスに科目表題が付されていないのに応じて,74 年 12 月和文シラバス
にもその記載がない。
これ以降,74 年 12 月和文シラバスにおいては,76 年 10 月英文シラバス⑦,⑧,⑨,
⑩− 1・2 を連続引用し,そのあと,73 年 10 月英文シラバスでは最初の①に配置されて
いた Kinematics(運動学)が⑪の位置に変更された。続いて,④「Dynamics.(A.)(甲
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
133
勢力ノ理)
」の 1,2,3 に戻って,⑫「Acoustics(A.)(甲 音声学)」に飛ぶ。いずれ
も科目表題の羅列にすぎない。
両シラバスの記載順序が一致していないのは,初心者にとって器具などを利用して行
われる,エベレット英訳書記載の流体静力学や空気力学の方が理解しやすく,これらを
最初に教え,理学の本質がある程度理解できるようになるに応じて,難易度の高い磁気,
電気の順に授業を進め,2 年生の最終段階で力学(固体)の授業を行おうと,当初意図し
たためかもしれない。
「甲 音声学」までが,1 年生夏期・冬期,2 年生冬期の授業内容であったが,両シラ
バス(英文シラバスでは⑬)によると,前者期間においては実験を中心に授業が行われ,
後者では実験や数学を交えて授業し,3 年生冬期には,多くの数学的知識や総合的科学知
識を必要とするため,初等授業では取り扱えない理学分野の授業を行う,としている。74
年 12 月和文シラバスでは,
「乙」を冠している科目がこれにあたり,英文シラバスでは
(B.)が付せられている。両シラバスともに記載順序は一致している。また英文シラバス
最後の
では,3 年冬期の学生は(B.)の教科のうち,彼らが選択した専門分野と関連す
る科目のみを受講するとしている。
次に 73 年 6 月英文シラバスと 76 年 10 月英文シラバスとを比較してみよう。表 4 は,
両シラバスの主科目表題(たとえば Dynamics)や副科目表題(たとえば(1.)Statics)
に含まれる項目数を掲げたものである。ただし,
1 つの項目に多数の複数項目がある場合,
その数を記入した。73 年 6 月英文シラバスの例をあげると,
「Velocity, uniform and
accelerated」の場合,2 項目とした。
エベレット英訳書で part1 にあたる力学についてみると,73 年 10 月英文シラバスでは
Pneumatics(気体力学)は Dynamics(力学)から独立して配置されている。力学を固
体,液体,気体に分ける場合,Pneumatics がこの中に含まれていなければならない。76
年 10 月英文シラバス(A.)では,Hydrostatics も Dynamics から独立しているが,
(B.)
では,すべて Dynamics に包含されている。
73 年 10 月英文シラバスは Pneumatics を除いてエベレット英訳書と対応していない個
所も多く,
同書 part1 で多くのページを費やした重力や振子理論に関する項目が見いだせ
ない。このシラバスが実際にどの程度実行されたかはわからないが,前述のように実物
による授業を重要視しようとしたことの現れであろう。項目数は 73 年 10 月英文シラバ
スが 69 であったのに対して 76 年シラバスは 58 と少ないが,1 年生夏期の項目(表 4 の
「the properties of matter etc.」の欄に記入)を含めると,80 項目に達する。ちなみに,
134
社会科学 第 43 巻 第 4 号
表 4 73 年・76 年の英文シラバス表題対照表
英訳書
巻数
73 年 10 月英文シラバス
Kinematics
Dynamics
part1 (1.)Statics
(2.)Kinetics
(3.)Hydrostatics
(4.)Hydrokinetics
Pneumatics
part2 Heat
Magnetism
Electricity
(1.)Static
part3 (2.)Current-electricity
(3.)Electro-magnetism, and
Magneto-electricity
(4.)Telegraphy
Optics(Geometrical)
part4 Optics(Physical)
Acoustics
Astronomy
項目
数
8
―
24
8
13
8
8
23
10
―
7
8
10
15
7
10
17
76 年 10 月英文シラバス(A.)
① familiar natural phenomena
② familiar machines
the properties of matter etc.
Kinematics(A.)(77 年 10 月)
Dynamics(A.)
1. Fundamental(A.)
3. Statics(A.)
2. Kinetics(A.)
Hydrostatics
項目
数
8
6
22
5
9
15
7
9
同シラバス⑥に対応
13
Heat(A.)
Magnetism(A.)
Electricity(A.)
1. Static
57
9
―
10
2. Current.
項目
数
Kinematics(B.)―3
Dynamics(B.)―4
6
―
2. Statics(B.)―6
1. Kinetics(B.)―5
4. Hydrostatics(B.)―8
3. Hydrokinetics(B.)―7
11
10
5
1
Heat(B.)―9
Magnetism(B.)―1
Electricity(B.)―2
8
5
19
Optics(Geometrical)
(B.)―10
Optics(Physical)(B.)―11
6
11
Astronomy as applied to
Geodesic Survey(B.)―12
15
25
Optics(Geometrical)(A.)
22
Acoustics(A.)
12
16
76 年 10 月英文シラバス(B.)
注:76 年 10 月英文シラバスでは「Optics(Geometrical)(A.)」は Heat の後ろに配置。
(B.)欄の表題末尾の数値
は,シラバス記載順番である。
出所:東京大学情報理工学図書館蔵の Calendar(本文参照)。
エベレット英訳書では運動の第 1 ∼ 3 則という用語を使用していない。76 年 10 月英文シ
ラバスに書き入れたページ数は,たとえば慣性の法則に関する記述があった個所を「運
動の第一則」に関連するページとした 26)。
両シラバス掲載の Heat(熱)に関する項目の多くはエベレット英訳書に見いだせるが,
73 年 10 月英文シラバスでは 23 項目にすぎなかった。Heat はエベレット英訳書では第 2
巻目にあたり,豊富な内容であったので,76 年のシラバスでは 57 項目に増えている。前
者項目の多くは後者項目に一致しているので,エアトンはより細かく必要項目を選択し
たということになる。エアトンが何らかの系統的意図の下に項目を選択したかどうかに
ついては,専門分野の研究者の判断にゆだねたい。
Magnetism(磁気)と Electricity(電気)については,項目内容も項目数もほぼ対応
しており,1873 年 10 月以降,両科目表題内の項目に関してほとんど変更されなかった。
ただし,若干の副科目表題の変更が見られる。表 4 のように,73 年 10 月英文シラバスの
Electricity の(2.)
・
(3.)は,76 年のシラバスでは Electricity(A.)の「2. Current」に
含 ま れ て い る。「(4.)Telegraphy」 が 76 年 の シ ラ バ ス に 掲 載 さ れ て い な い の は,
「Telegraphic Engineering」というシラバスが別に作成されたからである。74 年 12 月和
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
135
文シラバスでは「電信学」とあった。
part3 に含まれる Optics(光学)のうち屈折,反射などを扱う幾何光学は,76 年 10 月
英文シラバスでも(A.)で取り上げられている。73 年のシラバスの項目数はわずか 7 で,
内容的にも初歩的なものであったが,76 年のシラバスでは 22 へと増加し,幅広い内容に
なった。波動説など,光の本質を考察する物理光学については(B.)に移動した。両シラ
バスの項目には一致しないものもあるが,関連項目として捉えると,シラバスを見る限
り同じ内容だったとみなせる。Acoustics(音響学)に関しても,両シラバスの掲載項目
からほぼ同じ内容だったと考えられるが,76 年のシラバスの項目数が減少しており,同
科目の重要性が低下したのであろう。
最後の Astronomy(天文学)については,73 年 10 月英文シラバスにおいて常識的内
容の天文学を教えることを意図したのに対して,76 年のシラバスでは,測地のために最
小限必要な天文学を教えようとした。エベレット英訳書では,特定の科目として天文学
を取り上げていない。
76 年 10 月英文シラバス(B.)は,同(A.)や 73 年の英文シラバスに比し,高度な内
容であったことはいうまでもない。項目についても前 2 者と同じ項目が若干見いだせる
が,ほとんど新しい項目であった。エベレット英訳書を超える内容のものが多かったも
のとみられる。エアトンは「For the third year s class on Heat Prof. C. Maxwell s book
has been employed27)」と,Heat の授業ではマクスウェルの著書が使用されたとしてい
る。工部大学校書房所蔵図書のうち教科用洋書に分類した中に,彼の著書「Theory of
Heat」が 1878 年段階で 27 部所蔵されていた 28)。高度な内容であったため,3 年生段階
の理学は高等理学(Higher Natural Philosophy)と称され,土木学科,機械学科,電信
学科(1882 年段階では造船学科が加わった 29))所属学生の受講科目であった。他の学科
については受講科目から除外されていた。
表 5 − 1・2 は,1876 年の Calendar に掲載の予科学 1,2 年生用の時間割である 30)。数
学,英語とともに理学が重要視されていたことがわかる。1 年生段階の理学授業時間は,
理学実験を含めると週 7 時間であった。全授業が 27.5 時間なので 25.4%を占め,2 年生
でも全授業 28.5 時間のうち 6 時間,21.1%を占めている。前述のシラバス内容を消化す
るのに十分な時間が与えられていたと考えられる。
表 5 − 3 は,1876 年土木学科 3 年生の時間割表である。高等理学授業は水曜日午後 3
時から 4 時までのわずか 1 時間しか開講されていない。機械学科,電信学科についても
同じ時間帯になっている。表 4 の(B.)のコースを修学するにはあまりにも少ない時間で
136
社会科学 第 43 巻 第 4 号
表 5-1 1876 年予科学 1 年生用時間割(Genral Course ; First Year)
8:00-9:00
月
火
水
木
金
数学
数学
数学
数学
数学
英語
英語
英語
英語
英語
図学
理学実験
(Natural Philosophy
Laboratory)
図学
理学実験
(Natural Philosophy
Laboratory)
図学
9:00-10:00
10:00-11:00
11:00-12:00
13:00-14:00
14:00-15:00
15:00-16:00
理学(Natural
Philosophy Class)
理学(Natural
Philosophy Class)
理学(Natural
Philosophy Class)
理学(Natural
Philosophy Class)
出所:表 5-1 以下の各表は,東京大学情報理工学図書館蔵の各年の Calendar に依拠。
表 5-2 1876 年予科学 2 年生用時間割(Genral Course ; Second Year)
8:00-9:00
月
火
水
木
金
英語
英語
図学
英語
英語
理学 [Natural
Philosophy(Class
and Laboratory)]
理学 [Natural
Philosophy(Class
and Laboratory)]
理学 [Natural
Philosophy(Class
and Laboratory)]
理学 [Natural
Philosophy(Class
and Laboratory)]
数学
化学
数学
数学
数学
化学
図学
化学
図学
化学
9:00-10:00
10:00-11:00
11:00-12:00
13:00-14:00
14:00-15:00
15:00-16:00
表 5-3 1876 年専門学土木学科 3 年生用時間割(Technical Course ; Civil Engineers ; Third Year)
月
8:00-9:00
火
地質学
水
木
地質学
金
地質学
9:00-10:00
10:00-11:00
11:00-12:00
Engineering Class
13:00-14:00
測量
Engineering Class
測量
Engineering Class
Engineering Class
測量
測量
Engineering Class
測量
14:00-15:00
15:00-16:00
高等数学
注:図学,書房は授業の間に行う,とある。
高等理学
高等数学
137
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
表 5-4 1877 年専門学土木学科 3 年生用時間割(Technical Course ; Civil Engineers ; Third Year)
8:00-9:00
月
火
水
木
金
地質学
応用数学
地質学
応用数学
地質学
Engineering Class
Engineering Class
Engineering Class
Engineering Class
Engineering Class
測量
測量
9:00-10:00
10:00-11:00
11:00-12:00
13:00-14:00
測量
測量
測量
14:00-15:00
高等数学
15:00-16:00
高等数学
高等理学
注:図学,書房は授業の間に行う,とある。
表 5-5 1878 年専門学土木学科 3 年生用時間割(Technical Course ; Civil Engineers ; Third Year)
8:00-9:00
月
火
水
木
金
地質学
高等理学
地質学
高等理学
地質学
9:00-10:00
10:00-11:00
11:00-12:00
13:00-14:00
14:00-15:00
Engineering Class
Office
Engineering Class
Office
15:00-16:00
Engineering Class
Office
高等数学
高等理学
Engineering Class
Office
Engineering Class
Office
高等数学
注:図学,書房,理学実験は授業の間に行う,とある。
ある。時間割表の誤植とも考えられるが,エアトンは「Class Report」において 3 年生の
理学授業が「consisting of but some twenty-two lectures」として,是非ともより充実す
べきだとしている。他のイギリス人教師の「Class Report」から,lecture というのは 1
回の授業と解せられる。冬期修学期間は 10 月から翌 3 月までの 6 カ月間なので,月 4 週
の授業とすると 6 × 4 = 24 回となる。学校行事を考慮すると,22 回は週 1 回の授業に当
たると見ていいであろう。
しかし,1877 年になると,若干の変化が見られ,表 5 − 4・5 のように,火曜日と木曜
日に応用数学が入り,1878 年には応用数学の代わりに高等理学が挿入されている。それ
まで週 1 時間であった理学授業が 4 時間に増えた。また,予科学 2 年生の時間割でも 1877
年に,月曜日 9 時 30 分∼ 10 時 30 分と,水曜日 10 時 30 分∼ 12 時に応用数学が入れら
れた後,1878 年には後者時間帯に理学が挿入された。1878 年 6 月にエアトンは工部大学
138
社会科学 第 43 巻 第 4 号
校を退職するが,彼の「Class Report」
(1877 年 10 月)において都検ダイアー(表 1)に
理学授業の充実を訴えた効果があったと考えられる。また,エアトンを高く評価してい
た学生たちが 31)工部大学校事務官僚らを動かした可能性もあったろう。
4 1875(明治 8)年和文シラバス
「工部省第一回年報 32)」に「明治八年夏期修業学課」および「明治八年ヨリ九年ニ至ル
冬期中修業学課」と題する資料が見いだされた。数学,英語,化学,理学,電信学,図
学,測量のシラバスが集録されている。理学に関する記述は次のようになっていた(以
下,75 年和文シラバスとする)。
明治八年夏期修業学課
(中略)
理学課 教師理学博士ダブリユ,イ,エルトン
第一年生徒ノ学課ハ左ノ如シ
第一夏期中ニハ理学ノ階梯トシテ,昼夜,寒温,夏冬ノ別,風雨,電雷,潮汐ノ理
等,尋常造化ノ現象ヲ説キ,然ル後大小時辰儀,蒸気機関,電信機,印刷器械ノ如
キ切要普通ノ機関運用ニ関スル原理ト,一般諸器械ノ功用ヲ講シ,次ニ生徒ヲシテ
物体ノ重性,惰性,分性,孔性,縮性,弾性ノ数性アルヲ考究セシメ,又物ノ長短,
大小,軽重ヲ量ルニ一定ノ度量権衡ヲ要スルノ理,並ニ其通常ノ用法,勢力ノ分合
画測ノ法,重力ノ作用,重心ヲ求ムルノ実地法,遊尺及ヒ落体ノ原理ヲ講究セシム
第二年生徒ノ学課ハ,熱学及ヒ幾何視学ナリ
四五六月中電信学及ヒ高等数学ノ二課ヲ,河口武一郎,志田林三郎ニ教授シ,別ニ
弧三角及ヒ天文学ノ課ヲ設ケ毎夜之ヲ教授セリ,此場ニ上ル者ハ,去冬期本課試験
ニ於テ満点ノ半数以上ヲ得シ三年生徒ニ限レリ
七月中ハ,総生徒ヲシテ理学試験局ニ於テ実際経験セシメタリシニ,皆自ラ奮励シ
テ其益ヲ得ル者亦タ頗ル居多ナリトス
(中略)
明治八年ヨリ九年ニ至ル冬期中修業学課
(中略)
理学課 教師理学博士タブリユ,イ,エルトン
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
139
理学ノ教授ハ講義ト実験トヲ以テス
第一年生
甲 運動学 同一速力,漸加速力,環形運動,角形運動,結合速力
甲 勢力ノ理
一原理 運動第一則,惰性,暦法,力論,運動学,運動第二則,力度ヲ量ル「ア
ブソリユート」及ヒ「グラビテーシヨン」ノ二法,運動第三則
二動法 時辰儀等ノ揺擺ノ如ク,他ノ力ニ依リテ運動スル態,遠心力,勢力,原
意,勢力ニ就テ器械ノ利益
三スタチックス 平均重力,
「レラーケブレスト」ヲ生スル力ノ摸様,「コープル
ス」,重力ノ中心,動不動中ノ三重力,捍,輪軸,斜面,䦪,螺旋,滑車
ニ用ル勢力ヲ生スル器械力,摩軋ノ原意
乙 称水学 水䰅器械ノ理,流動体中物ノ浮沈,並ニ之ニ因テ比重ヲ知ルコト,及
ヒ其実地ニ要用ナルコト,水平器ノ理,及ヒ之ヲ測量ニ用ルコト,次ニ
空気ニ重力アリテ,是ヨリ生スル各般ノ作用ヲ証スルニ,「レフチンク」
及ヒ「フォーシング」両種ノ「ポンプ」,風雨鍼,軽気球ヲ以テスルコト
第二年生
丙 熱 流動体ノ潜熱,氷体,蒸発気,蒸気ノ圧䰅,蒸気踈密,
「サチユレーシヨ
ン」,露,雨,雨度,結露点,験湿器,瓦斯溶觧,温湿風ニ因テ気候ノ変
遷,沸湯,蒸気ノ潜熱,長円体並ニ仝形ノ滊釜破裂スルコト,蒸気ニ依
テ氷体ヲ造ルコト,人造寒気,発光熱,山上寒気,焼硝子,熱ノ反射及
ヒ其実用,熱気ヲ導クコト,衣服ノ温暖,氷ヲ儲フルコト,鉱山中安全
灯,人力ヲ以テ大熱ヲ生スル法
丁 幾何視学 仝質中ノ直光線,影,距離ノ倍数ニ反対シテノ光輝度ノ減スルコト,
度光器,返射規則,六円儀,人造水平,平面凸凹ノ三鏡ニ写ル影像,万
花灯,灯光ノ光輝ヲ益スニ反射鏡ヲ用ルコト,光線屈折ノ規則,三角鏡
並ニ透鏡ニ就テノ略説,
「カメラルサイド」,照物筐,望遠鏡,顕微鏡,眼,
視力乏シキ眼ヲ療治スルコト,双眼鏡
戊 磁気 自然生人造,両極中ノ三部,磁気誘移,磁石製造,地球ハ一磁石,稍䫩,
偏向
已 電気 スタチック,源理,両箇ノ性質,電気ヲ起セシムル器,引分クルコト,伝
導スルノコト,一種ノ伝導スルノ性質,
「イレクトルポロース」
,
「コンデ
140
社会科学 第 43 巻 第 4 号
ンセルス」,電気器械,「コンダクトル」ニ電気ノ配分
庚 窮理視学 「スペクチユルーム」「アナライジス」
第三年生
此級ニ於テハ「テルモダイナミツクス」ヲ教授セリ
電信学専門生,志田林三郎,河口武一郎ハ益々理学ノ智識を拡張シ,尚ホ講義ノ法
ヲ熟知センカ為メ,各隔日ニ電信寮生徒ニ理学初歩ノ学科ヲ講授シ,更ニ自ラ電信
試験及其器械室ニ於テ用法ヲ修学セリ,又工作場ノ職工ヲ指揮セシメ器械製造等ヲ
担当シ又書類ヲ管掌シ,以テ漸々実地ニ事ヲ処スルノ法ヲ知ラシメタリ
1875(明治 8)年 6 月の諸規則改正にともなって工学寮カリキュラムの変更があり,
「初
二年ハ寮中ニ於テ修学」することになった。2 か月のタイムラグがあるが,第 2 期入学生
については 1875 年 4 月から 9 月までの間は実地研修期間であったのが,学内修学期間に
なったと考えられる。このため「明治八年夏期修業学課」の「第二年生徒ノ学課ハ,熱
学及ヒ幾何視学ナリ」としている。シラバスの準備が十分でなかったようで,具体内容
が記されていないが,2 年生冬期の授業が前倒しされたのであろう。
前掲の 74 年 12 月和文シラバスと,この 75 年和文シラバスとを比較しよう。1 年生夏
期については,ほぼ同内容であるが,若干の修正が施されている。前者で印刷器械が脱
漏していたのが,後者では挿入され,前者の「体ニ固形流動・・・」が後者では省略,「軽
重ヲ量ルニ同一規」が「・・・一定」に変更されている。同じ段落の最後の「其通常ノ
用法」以降の文章は,全く異なっている。前述のように前者は英文シラバスと対応しな
い内容となっていたが,後者では英文シラバスにほぼ沿っていた。ただ pendulum を「遊
尺」としている。「遊尺」はバーニヤ(vernier)の日本語訳で,長さをより精密に測定す
るための補助器具である。この頃まだバーニヤを「遊尺」と翻訳していなかったと考え
られるので 33),後段で使用されている「揺擺」と同じように,振子の意味として使用し
たのであろう。
1 年生冬期授業は「甲 運動学」からはじまっている。前述のように,1874 年 4 月か
らの授業では,この分野の授業が後回しにされたと判断したが,1875 年から再び,当初
の計画通りの授業手順に戻ったのである。1874 年 12 月以前に作成されていた英文シラバ
スと同内容と推断した 76 年 10 月英文シラバスは,1877 年 10 月英文シラバスとほとんど
同一であったが,唯一異なる点は,後者では「Kinematics(A.)
」が④「Dynamics.(A.)
(甲 勢力ノ理)」の前に配置されたことであった。このことからもエアトンが Kinematics
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
141
の扱いに悩んでいたことがうかがわれる。
1 年生冬期の「甲 運動学」の各項目は,前掲の 76 年 10 月英文シラバス⑪の各項目に
対応している。これに続く,
「甲 勢力ノ理」の「一原理」,
「二動法」,
「三スタチツクス」
に含まれる各項目についても④のそれぞれの英文項目に対応している。
当然のことであるが,75 年和文シラバスの項目用語の多くは,英文シラバスに書き入
れた現代用語と一致しない。たとえば angular velocity(角速度)を「角形運動」として
いるし,「
「アブソリユート」
」及ヒ「グラビテーシヨン」」
,「レラーケブレスト」,
「コー
プルス」などのカタカナで表現している。
「三スタチツクス」に続いて「乙 称水学」に
進む。ここでも「リフチング」,
「フヲーシング」というカタカナ表記が見いだされる。英
語の意味を的確に表す日本語を模索していたことがうかがわれる。さらに 74 年 12 月和
文シラバスに掲載されていた「「アネロイド」ノ験気器」以降の記載が省略されている。
「丙 熱」の授業は 2 年生冬期からとなっているが,前述のように 75 年 4 月から 2 年
生夏期も学内修学となったので,2 年生夏期から開始され冬期に続いたはずである。また
「丙 熱」
では 76 年 10 月英文シラバスの後半部分の和訳が添付されているのみであった。
「温度と熱量の違い」から「凍結時における水の膨張」までが省略されている。
「丁 幾何視学」については,
和文シラバス項目は英文シラバス項目に対応しているし,
わかりやすい内容であったためか,
「カメラルサイド」や「双眼鏡」を除いて全体的に意
味を理解することができる。「戊 磁気」,
「已 電気」以降,難解な内容になってくるの
で,カタカナ表記が多くなる。電気については「スタチック」で終わっているし,2 年生
最後の授業である⑫「Acoustics.(A.)」にたどり着いていない。また 3 年生で授業予定
の⑳「Optics(Physical).(B.)」が「庚 窮理視学」として掲げられ,その最初の項目
のスペクトル分析のことを「
「スペクチユルーム」
「アナライジス」
」としていた。3 年生
夏期は実地研修となるので,3 年生冬期から 76 年 10 月英文シラバスの⑭以降の理学授業
がはじまるが,この和文シラバスでは⑱の熱力学にあたる「テルモダイナミツクス」
(thermo-dynamics)だけが配置されている。
75 年和文シラバスを作成したのは,志田林太郎と川口武一郎ではなかろうか。同シラ
バスの「明治八年夏期修業学課」と「明治八年ヨリ九年ニ至ル冬期中修業学課」の最後
に,川口(河口)と志田の名前が掲げられている。志田は電信学科卒業後イギリスに留
学し,帰国後の 1883 年 8 月に工部大学校教授に就任した人物である 34)。川口は志田と同
じ電信学科に進むが,卒業前に病死する。彼は「はじめから大学教授になる希望であっ
た為先生に専属して研究をやった 35)」人物であった。彼らは第 1 期入学(1873 年 10 月)
142
社会科学 第 43 巻 第 4 号
であり,夏期において半年間の実地研修を行ったとみられるので,1875 年 3 月までに 1
年間ほどエアトンから英語で理学を学んだことになる。両者とも優秀な学生でエアトン
の信頼も厚く,75 年和文シラバスによると,1875(明治 8)年夏期に特別に電信学と高
等数学を教えられ,夜間には孤三角や天文学も教えられた。これらの授業を受ける資格
のある学生は,試験で好成績を得た「三年生徒ニ限レリ」とある。ちなみに,
「三年生徒」
としているのは,1875 年夏期(4 ∼ 6 月)段階で彼らは 2 年目最後の期間であったが,
1875 年 4 月に第 3 期入学生が入学していたからである。同シラバスの最後に「各隔日ニ
電信寮生徒ニ理学初歩ノ学科ヲ講授シ」とあるように,
エアトンの代講をしたほどであっ
た 36)。しかし,彼らは,1875 年 9 月で 2 年間の予科学を終えることになるので,3 年生
の授業はまだ受けていない。このため,76 年 10 月英文シラバスの 3 年生用授業(B.)の
和文シラバスを作成することができなかったと推測する。
内容的に豊富な 75 年和文シラバスは諸規則には掲載されず,断片的な記載しかない 74
年 12 月和文シラバスが 1877 年の諸規則まで添付され続けた。他の教科についてもシラ
バス変更は行われていない。1878 年以降の数年間,諸規則からすべての教科の和文シラ
バスは削除されることになる。
お わ り に
本稿では,工部大学校(工学寮)における理学教育内容を,1873 年 10 月の授業開始か
ら 1878 年 6 月のエアトンの辞職までについて,シラバスを通してうかがおうとした。
検討の素材となったシラバスは,表 2 に掲げた 3 つの和文シラバス(1874 年 2 月,1874
年 12 月,1875 年)と,3 つの英文シラバス(1873 年 10 月,1876 年 10 月,1877 年 10 月)
である。前者は諸規則,後者は Calendar に添付されていた。和文シラバスは英文シラバ
スに依拠していたため,前者は後者に時間的に遅れている。73 年 10 月英文シラバスに対
応するシラバスが 74 年 2 月和文シラバスであった。1874,75 年の英文シラバスを見いだ
すことができなかったが,76 年 10 月英文シラバスと 74 年 12 月和文シラバスとが対応関
係にあるので,76 年 10 月英文シラバスは,1874 年 4 月頃には作成されていたと推断で
きる。77 年 10 月英文シラバスも,Kinematics(運動学)の配置を除いて 76 年 10 月英
文シラバスと同一であった。1875 年和文シラバスは,
「工部省第一回年報」に見いだされ
た別系統の資料である。
エアトンは理学テキストとしてエベレット英訳書を選択したので,同テキストの影響
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
143
がシラバスに現れている。73 年 10 月英文シラバスが,どの程度実際の授業に反映された
かわからないが,エベレット英訳書に記載されていない機械や設備の事例が比較的多く
シラバス項目に掲げられていることから,理論的内容を排して実物教育からはじめよう
としたと考えられる。
74 年 12 月和文シラバスおよび,それ以前に作成されたとみられる英文シラバス(76 年
10 月英文シラバスと同一)では,それまでの授業手順と異なり,科学知識の少ない日本
人学生に理学を理解しやすくするために,一般的な自然現象や諸機械類の解説からはじ
まった。1 年生冬期以降の授業については,74 年 12 月和文シラバスと 76 年 10 月英文シ
ラバスの記載配列が異なっていた。本稿では和文シラバス配列が正しい授業手順と判断
して,授業内容を実験により証明することが比較的容易な流体静力学や空気力学の授業
からはじめ,一定の理解に達した段階でより難解な分野に進めようとしたと理解した。
75 年和文シラバスの記載配置から,再び 73 年 10 月英文シラバスもしくは 76 年 10 月
英文シラバスに記された授業手順にもどったと判断できる。74 年 2 月・12 月和文シラバ
スは,不完全なものであったのに対して,75 年和文シラバスは豊富な内容であった。日
本語訳が十分であったとはいえないものの,76 年 10 月英文シラバスにより忠実であった。
そして予科学 2 年で終える予定の Acoustics.(A.)のすぐ前に配置された Electricity.(A.)
の Static まで進んだ。本来のシラバスであれば Acoustics.(A.)まで記載する必要があ
るが,そこまで記載していないのは,実際に 2 年生末段階で授業が中途半端に終わった
ことを示していよう。
本稿では,紙幅の関係でエアトンが工部大学校で行った理学教育までをシラバスを通
してうかがってきた。今後,エアトンが 1878 年 6 月に退職した後,彼に代わって理学教
育を担当したマーシャル,そしてマーシャルが 1881 年 3 月に退職した後,理学授業を担
当する日本人教師がどのような理学教育を行ったかを,表 2 に掲げた 1878 年以降の和文,
英文シラバスに依拠して検討していく。
注
1 )福沢諭吉は「物理学とは,
・・・人事の用に供するの学」,「欧州近時の文明は皆,この物理
学より出でざるはなし。彼の発明の蒸汽船車なり,鉄砲軍器なり,また電信瓦斯なり」(「物
理学の要用」
『時事新報』1882 年(『福沢諭吉教育論集』岩波文庫,2011 年,210 ∼ 213 ペー
ジ)としている。寺田寅彦も「物理学は基礎科学の一つ」と位置づける一方で,
「物理学は
単に机上の学問ではなくて,到る処に活用の途のある学問だという事を忘れず,新しい応
用方面の開拓に尽力されたいものである」
(「物理学の応用について」
『理学界』1913 年(『寺
144
社会科学 第 43 巻 第 4 号
田寅彦全集』第 5 巻,岩波書店,1997 年,3 ∼ 8 ページ)と,物理学の実用性に目を向け
ている。
2 )本文の(1)と(2)に対応する前稿は,植村正治「明治初期における工学教育機関の設立」
(『社会科学』(同志社大学人文科学研究所)第 40 巻 3 号,2010 年),
「工部大学校理学研究
棟について−研究ノートに代えて」(『同志社商学』第 63 巻 5 号,2012 年),
「《研究ノート》
工部大学校(工学寮)における博物場・器具室と実習用諸器具について」
(『社会科学』(同
上)第 42 巻 2・3 号,
2012 年)である。
(3)に関しては「工部大学校書房と図書分類」
(『流
通科学大学論集』経済・情報・政策編,第 21 巻第 2 号,2013 年),「工部大学校書房所蔵
の理学図書−研究ノートに代えて」(『流通科学大学論集』経済・情報・政策編,第 22 巻第
1 号,2013 年)である。
3 )エアトンについては,高橋雄造氏の詳細な研究がある(「エアトンとその周辺」『技術と文
明』7 巻 1 号,1991 年)。
4 )Imperial College of Engineering(KOBU-DAI-GAKKO), Tokei. Class Report by the
Professors for the Period 1873-77, p.21. 東京大学情報理工学図書館蔵。
5 )A. P. Deschanel, Elementary Treatise on Natural Philosophy(by J. D. Everett), D.
Appleton and Company, New York, 1878. Web 検索ホームページ「Internet Archive」で
は,著作権の切れた文献を検索できる。ハーバート大学所蔵の本書はグーグル社がデジタ
ル化したもので,同ホームページを通してダウンロードした。この外,マイクロソフト社
などがデジタル化した文献も検索できる。同書の出版年はエアトンが離日した 1878 年と同
じ年で,しかも 1 冊にまとめられているので,エアトンは同書を利用することはできなかっ
たが,この年以前に分冊発行された各巻を,同ホームページを介して見いだすことができ
た。1872 年版の 1 巻∼ 3 巻および 1874 年版の 4 巻と,本稿で使用した 1878 年版と同一で
あることが確認できた。
6 )op. cit.(注 4), p.27.
7 )エリック・アシュビー(島田雄次郎訳『科学革命と大学』中央文庫,59 ∼ 60 ページ。E.
Ashby, Technology and the Academics, Macmillan & Co., London, 1958, p.42)は,「しか
し,教条主義はなかなか死なない。ケンブリッジの数学者たちさえ,科学時代からどんな
に遠くはなれていたことか,それを諸君は,あの偉大なトドハンターの言から知ることが
できるだろう。彼にしてなお,
(学校における実験物理学という問題についての)実験的証
明は少年たちの精神的退廃をもたらす(has a demoralising influence―植村による原著か
らの引用),彼らは教師の言葉を信ずるべきである,といっているのである」と指摘してい
る。授業用実験の場合,テキスト通りにならないことも多いので,少年たちの意欲をそい
だという意味とも解される。寺田寅彦は,「物理学実験の授業について」(前掲『寺田寅彦
全集』第 5 巻,87 ∼ 88 ページ)において「簡単な実験でも何遍も繰返すうちには四囲の
状況は種々に変化するから,結果に多少の異同や齟齬を来すのは常の事である・・・この
場合に結果を都合のよいようにこじつけたり,あるいは有耶無耶のうちに葬ったり,ある
いは予期以外の結果を故意に回避したりするような傾向があってはならぬ。
・・・教員の全
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
145
知全能を期待するような傾向があるとすれば,なおさら教員の立場は苦しい訳であろう」と
指摘した。トドハンターが述べた実験物理学の弊害が現れる背景と考えられる。寺田は続
けて「一通りの知識と熱心と忍耐と誠実があらば,そうそう解決のつかぬような困難の起
る事は普通の場合には稀である。そのうちに生徒の方でも実験というものの性質がだんだ
ん分って来ようし,教員の真価も自ずから明らかになろうと思う」とする。解決策として
知識は当然のこととして,熱心・忍耐・誠実の精神面の重要性を強調するのみであった。さ
らに続けて「これに反して誤った傾向に生徒を導くような事があっては生徒の科学的の研
究心は蕾のままで無惨にもぎ取られるような事になりはしないかと恐れるのである」とし
ている。
8 )実験・実習用器具については,前掲論文「《研究ノート》工部大学校(工学寮)における博
物場・器具室と実習用諸器具について」で検討した。
9 )理学研究棟については前掲論文「工部大学校理学研究棟について」で検討した。
10)岩田武夫「エルトン先生に関する談話」(加藤木重教編『日本電気事業発達史』後編,電友
社,1918 年),1441 ∼ 1442 ページ。
11)前掲論文「工部大学校理学研究棟について」,221 ページ。
12)Calendar は,東京大学情報理工学図書館蔵。1874 年の 2 つの諸規則は「法令全書」に収
録。1875 年の諸規則は「明治九年五月印行,布達全書第二号,工部省」に収録。いずれも
国立国会図書館近代デジタルライブラリーに依拠。1876 年以降の諸規則は国立公文書館蔵。
13)現代用語への翻訳に際しては,佐藤瑞穂『物理学』1 ∼ 3(培風館,1975 年版)
,『理化学
英和辞典(研究社,1998 年),
『科学技術 45 万語対訳辞典』
(ロゴヴィスタ株式会社,1999
年)を参照した。
14)前掲論文「明治初期における工学教育機関の設立」,32 ページ。
15)前掲論文「工部大学校書房所蔵の理学図書」,51 ∼ 55 ページ。
16)A. P. Deschanel, Traité Élémentaire de Physique, Librairie L. Hachette et, 1869. 以下,外
国文献については前掲「Internet Archive」から検索。
17)op. cit.(注 5), Translator s Preface, p.5.
18)ibid., Blackie & Son, Old Bailey, EC, London, 1880.
19)前掲論文「工部大学校書房所蔵の理学図書」,53 ページ。
20)W. Thomson and P. G. Tait, Elements of Natural Philosophy, The Clarendon Press,
Oxford, 1873, p.1.
21)前掲論文「工部大学校書房所蔵の理学図書」,42 ∼ 47 ページ。
22)A. Ganot, Elementary Treatise on Physics(by E. Atkinson), William Wood and Co., New
York, 1875. フランス人ガノー(A. Ganot)著「Traité Élémentaire de Physique」をイギ
リスの陸軍士官学校の実験科学教授アトキンソン(E. Atkinson)が英訳したものである。
23)前掲論文「明治初期における工学教育機関の設立」,37 ページ。
24)大蔵省編『工部省沿革報告』(『明治前期財政経済史料集成』第 17 巻ノ 1,明治文献資料刊
行会,1964 年(1890 年刊行)),347 ページ。
146
社会科学 第 43 巻 第 4 号
25)明治初期において啓蒙書的な役割を果たしたカッケンボス(G. P. Quackenbos)の著書で
は 19 種類の物性が掲げられた(岡本正志「Quackenbos Natural Philosophy の物性論」
『大阪女子短期大学紀要』第 15 号,1990 年)。
26)これら 3 則はニュートンの法則と称されていることから,フランス人であるエベレット英
訳書の原著者デシャネルがこの用語を使用することを回避したのではなかろうか。前掲の
ガノー著書でもこの用語を使用していない。1880 年に大幅改訂されたエベレット英訳書(注
18)では,エベレットの判断で運動の第 1 ∼ 3 則という用語を使用している。
27)前掲「Class Report」(注 4),p.21.
28)前掲論文「工部大学校書房所蔵の理学図書」,46 ページ。
29)明治 15(1882)年 2 月改正諸規則,25 ページ。
30)1876 ∼ 1878 年の Calendar に依拠。
31)高橋前掲論文,
『旧工部大学校史料附録』(旧工部大学校史料編纂会編『旧工部大学校史料』
虎之門会,1931 年)
,加藤木編前掲書(第 2 章第 2 節)から学生たちがエアトンを高く評
価し敬愛の念を抱いていたことがわかる。卒業生の回顧録の中に出てくるエアトンの名前
の頻度数からイギリス人教師の中で最も高い評価を得ていたとみていいであろう。また,表
1 の月給欄に示されたように,エアトンは,都検ダイアーに次いで 2 番目に高い月給を得
ていたことから,学校組織からも高い評価を得ていたことがうかがわれる。Edward Divers
の月給 500 円は,ダイアー退職後,彼が教頭に就任したことによろう。
32)「工部省第一回年報 自明治八年七月 至同九年六月」,国立公文書館アジア歴史資料デー
タベース(レファレンスコード,A07062254700)。文字の不鮮明な部分については国立公文
書館で筆写。
33)山川健次郎『Vocabulary of Physical Terms in the Four Languages, English, Japanese,
French and German』(博聞社,1888 年(
『近代日本学術用語集成』第 4 巻,龍溪書舎,
1988 年),89 ページ)では,「ヴェルニエー」としているにすぎない。野村龍太郎・下山秀
久著『工学字彙』(丸善株式会社,3 版,1894 年発行(初版 1886 年)
。近代デジタルライブ
ラリー)では「遊標」とある。
34)前掲論文「工部大学校理学研究棟について」,233 ページ。
35)岩田前掲談話(注 10),1439 ページ。
36)川口らは,この年から「講義ノ法ヲ熟知」するためにエアトンの代講をはじめたが,1877
年 10 月段階でも代講を行っていた。エアトンは前掲「Class Report」
(p.29)において「Two
of the present fifth year s students, Messrs Kawaguchi and Shida, have been trained to
lecture in Japanese on elementary Physics, and they have given much assistance
during the last two years in the teaching of the elements of the subject to a class of
Student-Signallers belonging to the Telegraph Department, and attending this
College」と報告している。彼らが初歩物理学の授業を日本語で行う訓練を受けてきたこと,
電信修技校から受け入れた学生たち(前掲『日本電気事業発達史』の編者・加藤木重教も
その一人であった。同書,1475 ページ)のための授業を手助けしたことが記されている。
シラバスを通して見た工部大学校の理学教育
彼らは 1877 年 10 月で 5 年生に進学していた。
37)堀岡正家編『工学博士浅野応輔先生伝』電気日本社,1944 年,8 ページ。
38)瀬川秀雄編『工学博士藤岡市助君伝』電気日報社,1932 年,64 ページ。
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