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京都カナリヤ会 会報 第8号

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京都カナリヤ会 会報 第8号
京都カナリヤ会 会報 第8号
2012年1月
「京都カナリヤ会」はいつでも、誰もが、発症する危機を報知し
有害物質による健康被害者の支援と予防活動を推進する市民の会です。
目 次
1.
新年のご挨拶......................................................................................................................................4
2.
活動報告 ............................................................................................................................................4
2.1.
要望書の提出(京都市・国会議員) 京都弁護士会より招聘を受け実態説明へ
2.2.
ラジオ講座 2011 「地球と生命について∼水から環境を考える∼」
2.3.
学習会案内
2.4.
学習資料の送付 脱原発賛同署名の案内と集約
2.5.
有害物質 SOS 受信 実態調査
2.6.
京都ロータリークラブ寄贈品 PM2.5 授与・有害物質から環境を守る活動の紹介・役員会の開催
2.7.
「きれいな空気」の施設探索 ・ 受動喫煙の実態調査
活動の成果 ........................................................................................................................................6
3.
3.1.
測定機 PM2.5 の贈呈を受けました
3.2.
京都新聞に掲載されました
3.3.
京都府に受動喫煙防止条例制定  決定
特別寄稿
4.
4.1.
蓄積する化学汚染と見えない人権侵害――次世代へのリスクを考える .................................7
特別寄稿 1 「健康で安全な環境で生活する権利」の実現のために
弁護士 飯田 昭
4.2.
特別寄稿 2 「禁煙の場はどの範囲が適切か?」
産業医科大学 教授 大和 浩(医学博士)
講座抄録 ラジオ講座 「地球と生命について∼水から環境を考える∼」 .................................................11
5.
講師 東京大学大学院 教授 山室 真澄 氏
ゲスト 環境学博士 松永 光平 氏
ネットワーク紹介 「中皮腫・アスベスト疾患」患者と家族の会 .................................................................16
6.
「クボタショック」から 6 年
会長代行 古川 和子
放射性物質問題・内部被曝 ...............................................................................................................18
7.
7.1.
大震災: 福島第 1 原発事故 暮らしの中の対策 被ばく、どう防ぐ
7.2.
敦賀原発 建設開始見送る方針
7.3.
国内の原発 90%近く停止へ
7.4.
内部被曝を考える 1 ― 放射線測定メール
7.5.
内部被曝を考える 2 ― アスベストとタバコの煙に放射線
∼中皮腫の原因はアスベスト(石綿)吸引でラジウム蓄積∼
化学物質問題
8.
原発問題の陰に隠れた流出農薬はどこへ ..................................................................22
不用農薬の定期的調査・回収処理の実施支援
特定非営利活動法人(NPO)教育研究機関化学物質管理ネットワーク(ACSES*)
代表(理事長)
木下 知己
消費者問題 情報 .............................................................................................................................24
9.
9.1.
集団食中毒事件 ∼5 人の死者を含む 181 人の患者 4 割に脳症併発∼
9.2.
「茶のしずく」石けん事件 ∼重篤 66 人 アレルギー症状 569 人に~
2
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
10. タバコ問題 情報 ...............................................................................................................................26
10.1. 京都府、受動喫煙防止で条例制定へ 禁煙・分煙を義務化
10.2. 京都市、路上禁煙区域拡大も 財政難 指導員増員せず
10.3. 京都市長へ提出した要望書の内容
10.4. 『タバコに放射性物質』
10.5. 放射性物質ポロニウムがタバコに含有
10.6. タバコの煙=微小粉塵 PM2.5 と環境基準値
10.7. タバコとアスベスト ∼喫煙と石綿による発がんリスクの増大∼
10.8. 敷地内完全禁煙が必要な理由
10.9. 厚生労働省 受動喫煙防止対策についての通達
11. 有害物質 SOS 受信 訪問記録 .........................................................................................................30
11.1. 自宅にタバコ臭と香臭-咽頭炎と副鼻腔炎が続いて更に重症に
11.2. 路上喫煙、歩行喫煙、店頭喫煙の実態 (京都市内にて)
11.3. ダウニー被害について
11.4. 慢性の口内炎、舌に潰瘍・・・体調不良の原因はパラジクトイレ剤とダイオキシン類似物質
12. 会員便り ...........................................................................................................................................32
12.1. 遺伝子組み換え食品と食物アレルギー
12.2. 9 月の学習会*に参加して
12.3. こどもたちにセンスオブワンダー育む環境を
12.4. 小児ガンと宣告されたわが子は 3 歳に
13. お知らせ ...........................................................................................................................................36
13.1. 11 月 9 日 京都ロータリークラブ様より授与された寄贈品と誉のことば
13.2. 住宅困窮 弱者への支援と人権啓発の窓口紹介 2 件
13.3. 若狭大飯原発-運転再開に反対―署名用紙を同封しています。
13.4. 11 月 9 日授与式挨拶文と資料
13.5. 「きれいな空気」の施設推薦・啓発活動
14. カナリヤの視点 ..................................................................................................................................38
15. 危機を予告した科学者 ........................................................................................................................39
「反原発の市民科学者」として一生を貫徹された高木 仁三郎 氏に学ぶ
TOPIC: 明日への希望
自然再生エネルギー
地熱発電は火山国・日本の恵みであり、安定して発電ができる純国産エネルギーとして注目
八丁原地熱発電… 阿蘇くじゅう国立公園に位置する国内最大規模の地熱発電所()

再生可能エネだけで自給自足、全国に 52 市町村 千葉大
(2011 年 12 月 30 日 asahi.com)
再生可能エネルギー自給率の状況―地域の暮らしに必要なエネ
ルギーを、太陽光や風力、地熱、ダムを造らない小水力発電な
どの再生可能エネルギーで 100%まかなえる自治体は全国に
52 市町村あることが、千葉大と NPO による昨年 3 月時点の統
計データの分析でわかった。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
3
1. 新年のご挨拶
会員の皆さま、ご支援を頂いています皆様にはお健やかに新年をお迎えのことと存じます。
昨年は 3 月の震災および原発事故、秋の紀伊半島の大洪水など、日本が大きな災害に直面した
1 年でした。被害に遭われた皆様には心からお見舞いを申し上げ、ご無事を祈るばかりでございます。
放射能汚染への危機感が高まり、署名や集会など原発停止を求める運動が大きな広がりを見せています。
このような状況下で、目に見えない有害物質を予防する当会の活動への認知も徐々に高まって参りました。各地
の市民が空気や水、土を測定し、安全を自ら確かめ、自治体を動かす原動力となったように、大きな犠牲から生ま
れた民主主義の芽が、より一層成長する年になるよう期待したいと思います。世界でも、「アラブの春」に見られたよ
うに、民意が社会を変える力となりつつあります。
2012 年、私たちの目標は節電と、空気・水・土を汚さない暮らし方を進め社会の認識を変えることです。
放射性物質も化学物質も人体への有害性という観点で同様に考えるという立場から、『自分とこどもを放射
能から守る』(ウラジーミル・バベンコ著
辰巳 雅子訳 チェルノブイリからのアドバイス:世界文化社)を推薦図書として紹介します。
当会は昨年、その活動の成果が認められ、測定機の寄贈を受けました。本年も生活環境の保全を基本
とし、公共的施設を中心に巡回を進め、受動喫煙ほか空気汚染の防止に取組んで参ります。一層のご理
解、ご協力をお願い申し上げます。
4 月の定例総会は、設立から 5 年目を迎え、新たなネットワークと共に「有害物質から環境と健康を守る」事業の
審議終了後、映像による学習と茶話会を予定しております。是非ご出席下さいますようご案内いたします。
本年が良い年なりますように、皆さま方のご健勝を願って新年のご挨拶を申し上げます。
世話人代表 広瀬 晴美
平成 24 年度 定例総会のお知らせ

日時
平成 24 年 4 月 21 日(土)14 時∼16 時

会場
こどもみらい館 4 階 (中京区間之町通竹屋町下る楠町 601−1)
2. 活動報告
2.1. 要望書の提出(京都市・国会議員) 京都弁護士会より招聘を受け実態説明へ

「化学物質対策基本法案」成立請願
当会は、設立年度から化学物質政策基本法を求めるネットワークが提案する化学物質政策基本法制定
を求める署名運動に参加してきました。昨年 7 月に民主党化学物質政策 PT において「化学物質対策基
本法案」の骨子が発表されたのを機に、化学物質を一元管理し、市民が安全に暮らせる社会を実現する化学
物質政策基本法制定に向けた緊急行動の要請を受け、当会も賛同請願の要望書を民主党衆議院議員と京
都府・京都市議会各派に届けました。

京都弁護士会―化学物質部会での報告 (講師料を頂きましたので会の運営費に納入しました)
京都弁護士会の化学物質部会・第一回開催に際して招かれ、活動と空気汚染被害の説明を行いました。

脱原発署名
会として 3 回、賛同の案内と集約を実施しました。ご協力ありがとうございました。会員の皆様と支援を頂いていま
すノートルダム修道院の皆さまが大きな輪を広げて下さいました。

「公共的施設の空気汚染対策」の要望提出
京都市長あてに「公共的施設の空気汚染対策」の要望提出、住宅・職場など組織を通じた啓発を要請。
受動喫煙・殺虫剤、消毒剤、芳香剤などの被曝による健康被害の実態と各自治体の取り組みを紹介。
4
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
2.2. ラジオ講座 2011 「地球と生命について∼水から環境を考える∼」
(講座抄録は P11~15 に掲載)
10 月 22 日(土)

ラジオ本放送日

講 師
東京大学大学院教授 山室 真澄 氏

ゲスト
環境学博士 松永 光平 氏

講座概要
地球の誕生から 46 億年、地球の歴史を 1 年に例えると、18 世紀
の産業革命以降の人類の歴史は、1 秒ほどです。わずかの間に地
球の姿は人間によって大きく変えられ、今や人間自身の持続可能
性にも疑問が持たれています。地球に住む生物の一員として人はどのように生きればよいのでしょう。
2.3. 学習会案内
外部講座へのお知らせをご案内しました。会場の空気質も査察できました。
 京都大学国際フォーラム「知の統合に向けて」、京都府立医科大学「化学物質とこどもの脳への影響」 ほか
( 抄録は、http://www.kyotokanariya.com/katsudou-houkoku/20111015_kyodai_script.pdf をご参照下さい)
2.4. 学習資料の送付 脱原発賛同署名の案内と集約
冊子『未来に続く命に原発はいらない』 アヒンサー2 号
(「原発がどんなものか知ってほしい」の著者、平井憲雄さんの寄稿が掲載された冊子です)
2.5. 有害物質 SOS 受信 実態調査
2.6. 京都ロータリークラブの審査と寄贈-授与・有害物質から環境を守る活動の紹介・役員会の開催
活動方針は来年も下記のとおりです。

室内の空気質の評価―計測機を伴い公共的施設を中心にー要請があれば住宅にも査察を実施する。

実態調査により解決の糸口を見出し、行政ほか関連先への要請と被害者支援に向ける。

目標は人が生活する空間の空気質の安全―住宅・学校・職場の空気質の向上、そのための意識啓発。

「新たなシックハウス」対策として、建物・建材に由来しない空気汚染の実態を調査し研究者に繋ぐ。

空気の次に水を考える。汚染されない水を求め、空気と共に水を汚さない暮らし方を啓発する。
2.7. 「きれいな空気」の施設探索 ・ 受動喫煙の実態調査

PM2.5(微粒子測定機・詳細は次ページ参照)を用いて測定に着手しました。

試用テストを経て、PM2.5 の測定データ第 1 号は府庁 1 号館ロビーにて収録しま
▲PM2.5 測定器
した。後日その結果を所轄の役職員に報告しました。
建物の奥の入り口に設置されている喫煙所と建物内 1 階ロビーで測定した受動喫煙の実態を可視化し
た PM2.5 のデータによってご理解を頂き、早速、対策を講じて下さることになり、幸先の良いスタート
を切ることができました。
<基準値>
0.15 ㎎/m3
▲測定時の様子(左:喫煙所/右:ロビー)
▲測定結果グラフ
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
5
3. 活動の
活動の成果
3.1. 測定機 PM2.5 の贈呈を受けました
(11 月 9 日の贈呈式にて、念願の測定機を授与され、会の趣旨・活動内容を報告させて戴きました。詳細)
国際ソロプチミスト京都-北山クラブ様が「見えない有害物質から健康と環境を守る京都カナリヤ会」の活動を推
薦下さり、9 月に京都ロータリークラブ社会奉仕部-環境委員会の審査を受けて寄贈が決定しました。
誉の授与式、当日は京都の名士 180 人のメンバーが集う盛大な京都ロータリークラブ例会にて紹介されました。
「有害物質から
有害物質から環境
から環境と
環境と健康を
健康を守る」当会の活動紹介(プレゼンテーション)と受動喫煙対策の専門家で産業医科大
学の大和 浩 教授の講演「
「京都にも
京都にも受動喫煙防止条例
にも受動喫煙防止条例が
受動喫煙防止条例が必要な
必要な理由」
理由」が実現しました。
資金も人手も脆弱な私たちの活動に両奉仕団体からご理解と大きなお力添えを頂き、日本の市民団体では初
めて当会がこの TSI 社製の測定機を配備することができました。感謝と共に大きな変革の時を認識した次第です。
*PM2.5 計測機は、粒径が 2.5µm 以下の空気中の超微粒子(喘息や気管支炎の発症要因となるタバコの煙や
ディーゼル排ガスなど)を測定することができます。PM2.5 の計測データによって曝露実態が証明され、肺がんや心
筋梗塞など重大な健康被害につながる健康影響のリスクコミュニケーションと予防活動が前進します。
3.2. 京都新聞に掲載されました
『微粒子測定器を
微粒子測定器を「京都カナリヤ
京都カナリヤ会
カナリヤ会」に寄贈』
寄贈』
(2011 年 11 月 22 日 京都新聞)
タバコの煙に含まれる微小粒子状物質「PM2.5」の測定器を、京都ロータリークラブ
(京都市中京区)が市民団体「京都カナリヤ会」(下京区)に寄贈した。
排ガスにも含まれる PM2.5 は、ぜんそくや、気管支炎を引き起こし、肺がんや呼吸
器疾患の原因になるとされる。
贈られたのは、小型で軽量の米国製。約 60 万円。
3.3. 京都府に受動喫煙防止条例制定 決定
『京都府、
京都府、禁煙・
禁煙・分煙を
分煙を義務化 受動喫煙防止で
受動喫煙防止で条例制定へ
条例制定へ』
(2011 年 12 月 5 日 京都新聞)
京都府の山田啓二知事は 5 日の 12 月定例府議会代表質問で、受動喫煙防止のた
め公共施設や飲食店などに禁煙や分煙を義務化する条例を制定する方針を明らかに
した。違反した事業者や喫煙者への罰則導入も視野に、規制対象施設などを来年度
から検討する。飲食業界などから反発も予想され、議論を呼びそうだ。
*当会は 2008 年の設立時から会員交流会の場所として府庁旧館会議室を利用さ
せて頂きました。当初、芳香剤やタバコ臭が苦痛である旨をメールでご連絡したところ、対処に関する丁寧なお返事
を頂き、その後も庁舎内を次々と改善して下さいました。一昨年、条例制定の要望書も提出しています。
6
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
4. 特別寄稿
4.1.
特別寄稿 1
蓄積する化学汚染と見えない人権侵害――次世代へのリスクを考える
「健康で安全な環境で生活する権利」の実現のために
弁護士 飯田 昭
∼菓子工場からの「甘いにおい」を原因に周辺住民の損害賠償請求を認容した事案∼
(京都地裁 2010 年 9 月 15 日判決より)

判決の概要と意義
本判決は、違法操業の菓子工場(以下「会社」といいます)により周辺住民が臭気や騒音に 3 年 3 ヶ月間さらさ
れ続けたことに対し、周辺住民 17 名と 1 法人が会社と京都市に対し損害賠償請求を求めた事件(請求額合計約
2100 万円)で、周辺住民の工場に対する損害賠償請求を一部認容(1 人 16 万 5000 円、総額 280 万 5000 円)
したものです。
判決は、住宅地で 50 ㎡以上の工場は認めらない地域で、建築確認は「倉庫・事務所」で取得しておきながら、意
図的に工場へ転用した業者の悪質性を指摘しました。
そして、法規制の定められていない菓子工場の「クッキーの焦げたような臭い」や騒音規制値を上回らない騒音
についても長期間さらされ続けることは相当な苦痛であることを認め、業者の悪質性に鑑みれば受任限度を超える
としたことは評価できます。
他方、使用制限命令を出すことを長期間怠り、制限命令の期間経過後も業者が移転を表明しているとして刑事
告発に踏み切らなかった京都市の責任は否定していることは不当です。
本判決は、「甘いにおいに賠償命令」等の見出しで、新聞、テレビで大きく報道されました(なお、本件は大阪高裁
で 2011 年 2 月 14 日、和解により終結しています)。

紛争の経過
現地(京都市南区)は第 2 種住居地域の住宅街で、床面積が 50 ㎡を超える工場は、建築基準法(48 条 6 項)
上も認められません。
もと駐車場(敷地面積 1690.85 ㎡)であったところに、「倉庫、事務所」として、建築確認が取得され、確認上は、
その「変更」により、50 ㎡の範囲で工場を併設するとされていましたが、実際は、延床面積(変更後 1611.76 ㎡)の
大半を菓子工場として営業を開始したのです(2005 年 2 月)。
菓子工場からの「におい」については、種類によりバリエーションはありますが、が、「クッキーの焦げたような臭い」
が周辺住宅地に漂います。
これは短時間であれば問題なくても、毎日・長時間さらされると、苦痛に感じる者にとっては、相当な苦痛です。殊
に、洗濯物に「甘いにおい」が付着すると、干せません。昼間干していた布団から、夜寝るときに、「もわーっ」と甘い
においがただよってくる状況を想像してみてください。また、工場からの機械騒音(ハンマー音、コンプレッサーのベル
ト音及びシューという音、ダクト音等)や搬入(出)業者の車両の騒音も、住宅地の真ん中の(違法)工場であるため、
相当な苦痛でした。
周辺住民は、当初から京都市に対しても何度も工場の違法性を指摘して、やめさせるように指導を求めてきました
が、京都市は 2005 年 11 月に機械の一部を別の工場に移転させたものの、形式的な指導だけでこれを放置し、会
社は「たいしたことない」と指導を無視し続けました。住民は京都市議会でもこれを問題にした結果、京都市は 2006
年 9 月になって、ようやく同年 10 月末を期限とする「使用制限命令」(建築基準法 9 条 1 項)を発動しました。とこ
ろが、期限が過ぎても会社は、「移転先を探しているのでもうしばらく待って欲しい」と違法操業を継続し
京都市は形式的な指導を続けるだけで、刑事告発もしませんでした。

京都府公害調停の利用と提訴
そこで、会社と京都市の双方を相手方として、京都府公害審査会の公害調停を利用して、「使用制限命令」の実
行と損害賠償を求めました(2007 年 11 月 8 日申立)。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
7
調停中、業者は、「移転先が見つかった。今、移転の準備を進めているが認許可や建築にしばらく時間がかかる」、
京都市は「移転を求めている。移転先が決まった」と弁明し、なお操業が続きましたガ、ようやく 2008 年 6 月に工場
の移転がなされ、被害の継続は終わりました。
残るは、「損害賠償」問題で、最終的に調停委員から解決案が出されましたが、当方の了解できるものではなく、
公害調停は一定の目的は果たしたものの、不調に終わり、前記裁判に至ったものです。
以上
<飯田 昭 弁護士> 1982 年京都大学卒業 1984 年 弁護士登録 所属:京都第一法律事務所
開発・環境・景観・まちづくり・マンション問題・消費者問題、事件を担当 (現在)日弁連公害対策・環境保全委員
会委員(大気・都市環境部会長)
著書「歴史都市京都の保全・再生のために」(飯田昭・南部孝男著 文理閣)
ほか
*∼菓子工場からの「甘いにおい」を原因に周辺住民の損害賠償請求を認容∼これまでにない、臭気に対する判
決として、新聞、テレビでも報道された本事案に関して、日本環境法律家連盟「環境と正義」2011 年 8・9 月号に掲
載された内容を当会報用に書き下ろしをお願いしました。全国的に同様の問題が集団、個人間で発生しており、明
白な証拠が取れない空気汚染は解決が困難なため、長期に亘って健康被害を受け続ける難題となっています。
4.2.
特別寄稿 2 「禁煙の場はどの範囲が適切か?」
産業医科大学 教授 大和 浩(医学博士)
(2011 年 8 月 5 日)

概要
建物内の喫煙室からのタバコ煙の漏れを防止することは不可能であり、受動喫煙防止対策として不適切である。
また、ベランダや出入口の近くで喫煙した場合も、屋内にタバコ煙が浸入すること、喫煙場所の近くを歩く人に受動
喫煙が発生することから不適切な対策である。建物から離れた屋外の喫煙場所であっても風下側で受動喫煙が発
生する。つまり、喫煙するのに適切な場所、というものは存在しないことについて、実測データを用いて解説する。喫
煙場所を削減することは、喫煙者にとって一見厳しい対策のように思われるが、喫煙場所が無くなることによって禁
煙企図が高まることが知られている。非喫煙者の健康を守り、かつ、喫煙者が喫煙を継続することを諦めるような無
煙社会をつくっていきたいものである。

はじめに
2003 年に施行された健康増進法第 25 条により
1)、郵便局や銀行の窓口、関東の私鉄が全面禁煙となった。
2006 年、禁煙治療に医療保険を適用する必要条件の 1 つに「構内(敷地内)禁煙」が盛り込まれ、すでにほとんど
の病院が敷地内禁煙となった 2)。2010 年、厚生労働省から発出された「受動喫煙防止対策について」(健発 0225
第 2 号、平成 22 年 2 月 25 日)で 3)、「少なくとも官公庁や医療施設においては、全面禁煙とすることが望ましい」
とされたことで、今後、公共空間の禁煙化は加速されるであろう。
2005 年に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の第 8 条「たばこの煙にさらされることからの
保護」に関するガイドラインでは、「100%禁煙以外の措置(換気、喫煙区域の使用)は、不完全である」「すべての
屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである」と述べられている 4)。すでに諸外国ではレ
ストランやバーなどのサービス産業も全面禁煙となっている。その結果、国民の心筋梗塞が 17%減少した、また、
喫煙率が低下したことも報告されている 5,6)。
8
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)

屋内の喫煙室はまったく不適切
厚生労働省が 2004〜2005 年に示した「一定の要件を備えた喫煙室」では 7)、図 1 のようにタバコ煙の漏れを防
止できないことから、不適切な対策であり屋内の喫煙室は使用するべきではない。家庭内であれば、キッチンでの
喫煙も同様に居間まで拡散する。屋内の喫煙は許可するべきではない。
図 1.喫煙室からの漏れ(筆者測定)

屋外喫煙も不適切

軒先、ベランダ、玄関
図 2 のようにベランダで喫煙した場合、窓が閉まっていてもサッシの内側の粉じん計の濃度が上昇する。平面レー
ザーを当てるとサッシの下のレールの隙間から屋内に大量のタバコ煙が浸入してくる様子が確認できる(図 3)。玄
関などのドアの外で喫煙した場合も同様である。窓やドアはわずかな隙間があるから開くのである。
窓が開いている場合には、さらに大量のタバコ煙が入ることになる。居間で喫煙出来なくなりベランダで喫煙する人
が増え、その煙のために隣接する家庭では窓が開けられない、という問題が発生してる。集合住宅のベランダでサ
ンマを焼く人は居ない。ベランダはロビーや廊下と同じ共用空間であり、禁煙とすべき場所である。実際、そのような
集合住宅も増え始めている。

喫煙場所はどこまで離すか?
健康局長通知「受動喫煙防止対策について」により、多くの官公庁が喫煙室を廃止して禁煙となり、灰皿を建物
の外に出した。建物周囲の受動喫煙が問題となり、2010 年 7 月、「出入口付近の受動喫煙を防止するために喫煙
場所は出入口から極力離すべきである」ことを周知する事務連絡が追加された 8)。
図 2.ベランダで喫煙した場合のタバコ煙の浸入(筆者測定)

図 3.サッシの隙間から浸入する煙粒子
階下の喫煙
1 階の階段下まで降りて喫煙しても、階段を伝わり、2 階の玄関、さらにその内側にまでタバコ煙が浸入する様子を
図 4 に示す。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
9
図 4.1 階のタバコ煙が 2 階の玄関内に浸入(筆者測定)
JR 某駅の出入口の喫煙場所周囲の受動喫煙の状況を示す(図 5)。歩道手前(建物側)の喫煙場所のタバコ煙
は、歩道の反対側、さらには 5m 離れた場所にも達しており、この場所を利用するすべての人が受動喫煙に曝露さ
れていた。このような場所に喫煙場所を設けてはならない。なお、この喫煙場所はこの測定の後、人通りの少ない場
所に移動された。
図 5.駅の出入口周囲の喫煙場所の周囲で発生する受動喫煙(筆者測定)
建物からどの程度離せば良いのかを確認するため、屋外喫煙場所の風下側 3m、10m、17m の場所でタバコ煙
の濃度を測定した。図 6 に示すように 17m 離れていても粉じん計で十分に検知できる受動喫煙が確認された。
図 6.空港の屋外喫煙場所の風下側で発生する受動喫煙(筆者測定)
都会では建物内禁煙の職場が増えたことで、喫煙場所と化している児童公園も多い。敷地内禁煙となった医療
施設では、その周囲の路上の受動喫煙が問題となっている。ここで示したように風下側にはかなりの距離まで受動
喫煙の害が及ぶことを根拠として、屋外であっても禁煙の空間を増やしていく活動をせねばならない。

おわりに
筆者は、条件が揃えば風下 100m 離れていてもタバコの臭いを感じる。ヒトの嗅覚は粉じん計以上に敏感であるが、
そのような低レベルの受動喫煙を測定結果として示すことは困難である。例え低濃度ではあっても、隣家や路上、
駅ホームの喫煙が原因となる受動喫煙により日常生活に支障を来している化学物質過敏症の患者さん達は確実
に存在する。周囲に誰も居ない空間などわが国には存在しない。つまり、本稿のタイトル「禁煙の場はどの範囲が適
10
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
切か?」に対する回答は、「そのような範囲を示すことは出来ない。屋外も含め、すべての場所の禁煙化が必要」とな
る。
喫煙場所が削減され、禁煙の空間が増えることにより、禁煙を企図する者が増えることが期待される。喫煙者の
健康のためにこそ、喫煙場所を廃止していこう。
参考文献
1) 健康増進法. http://www.ron.gr.jp/law/law/kenko_zo.htm
2) 厚生労働省「受動喫煙防止対策について」(健発 0225 第 2 号、平成 22 年 2 月 25 日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000004k3v-img/2r98520000004k5d.pdf
3) 「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」第 2 回締約国会合(概要)
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/jouyaku/071107-1.html
4) 厚生労働省「受動喫煙防止対策について」(事務連絡、平成 22 年 7 月 30 日)
http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000023170.pdf
<大和 浩 教授>
昭和 61 年 産業医大卒。呼吸器内科(6 年間)を経て、労働衛生工学研究室にてアスベスト
代替繊維の生体影響、効果的で安価な作業環境改善、職域の喫煙対策、社会全体の受動喫煙対策の調査と評
価について研究。平成 18 年より現職。受動喫煙の実態を PM2.5 計測機によるデータと特殊カメラにより可視化する
方法で人体への影響を実証した。全国の自治体から受動喫煙防止対策と条例施行に関する委員会に招聘され、
研究と講演活動に多忙。
当会も昨年から PM2.5 測定調査に実習として特別参加させて頂き、11 月 9 日には
京都ロータリークラブフォーラムで「京都にも受動喫煙防止条例が必要な理由(わけ)」と
題して講演して頂きました。(右写真は 11 月 9 日の講演後のもの)
5. 講座抄録 ラジオ講座 「地球と生命について∼水から環境を考える∼」
国際ソロプチミスト京都-北山賞-受賞記念事業
講師 東京大学大学院 教授 山室 真澄 氏
ゲスト 環境学博士 松永 光平 氏
(2011 年 10 月 22 日 放送)(当会 Web サイトよりインターネット放送で随時お聴きいただけます)

講座概要
東日本を襲った地震、津波、原発事故、そして各地で台風や洪水と、
大災害が続きましたことから、被災地の皆様の無事を祈願し、空気と共に
私たちの命を繋ぐ水の安全について考えるラジオ講座に東京大学大学院
教授自然環境学専攻、陸水学、生物地球化学の研究者で理学博士の
山室真澄先生にお願いして実現いたしました。また、山室教授に博士論
文の審査を受けられた環境学博士の松永光平さんをゲストにお招きしまし
た。
講座のタイトル「水から環境を考える」は山室先生のブログから頂きました。水の惑星と呼ばれる地球と生物の現状
について、次の二つの項目からお伺いしました。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
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① 今、一体、地球に何が起きているのか。
② 私たちの命を守る水の安全性について。
各事項について、現状と問題点をお話しいただきました。

はじめに∼ 「水から環境を考える」の意味∼
(▼山室先生)
私のブログの紹介がありましたので、「水から環境を考える」の意味からお話ししたいと思います。水は生命を考え
る上で私たちの生活の基本となるものですから、「水」を通じて環境を考えることはとても重要です。もうひとつ、「自
ら」(みずから)という言葉を掛けています。同じ環境であっても、その時によって、また生い立ちによって受ける側の
反応は異なります。だから「誰かがこう言っている」からではなく、自分の体験と、自然科学が積み重ねてきた基本的
な知見を合わせて、自分の頭で合理的に考えて、これから生きていく上での身の回りの環境を考えることが大切で
す。今日お話することも「そういう考え方もある」という参考として聞いて頂ければと思います。

地球だけに存在する水
地学の立場から水を考える時、まず、宇宙に想いを馳せます。約 150 億年前に起こったとされるビッグバンの後、
元素の形成は核融合によって進みました。水素(原子量 2)と水素が合体してヘリウム(原子量 4)ができる核融合と
いう反応が起きます。太陽程度の大きさの恒星ではヘリウムまでしかできないのですが、太陽よりも重い恒星ではヘ
リウムが 2 つ集まってベリリウム(原子量 8)が合成されます。これは不安定な物質ですぐに崩壊しますが、恒星内部
にヘリウムが蓄積され十分大きな密度と温度になると、ベリリウムが崩壊するまでのわずかな間にヘリウムが融合し
て炭素(原子量 12)が合成されます。炭素(原子量 12)とヘリウム(原子量 4)の融合は酸素(原子量 16)を合成し
ます。こうして、水を構成する水素と酸素がうみだされます。
こういった元素生成の過程は宇宙全体で共通しているのに、今のところ液体の水が確認されている惑星は地球だ
けです。太陽系について言えば、太陽からの距離と重さの関係で、地球だけが水が存在できる環境だからです。太
陽に近い順に水星、金星、地球、火星があり、最も太陽に近い水星、金星では水は気体でしか存在できず、様々な
過程を経て大部分が重力圏外に出てしまっています。また地球より太陽から遠い火星では、寒いので凍りついてし
まいます。
地球は水で青く見えるのですが、その 97%が海水です。一方で、私たちが飲料水や生活水として必要な水は海
水ではなく淡水です。地球上には、この淡水が 3%しかありません。この 3%のうちの 7 割が南極の氷河などで、凍っ
ています。残りの 3 割は地下水で、飲料水や生活用水に使いやすい、川や湖沼の水は 0.3%しかありません。人類
や地球上の生物は、この貴重な水が海から蒸発し、雲を作り、雨になって地上に降り、川となって海に下るという循
環を繰り返す中で水を利用して命をつないできました。液体の水があるという奇跡的な惑星の中でも、さらに貴重な
淡水は、だからこそ健やかな形で受け継ぎ、健やかに伝える必要があると思います。

地球資源、命の水-希少の飲料水を汚すもの
生きて行く上で一番大切なのは空気です。空気がなければ数分で死亡しますから、カナリヤ会でも空気を重視さ
れています。かつては光化学スモッグなど広域で大気汚染が発生した時期がありましたが、幸いなことに最近は突
発的・局所的な事故が大部分になりました。それで私は、環境問題として次に考えなければいけないのは水だと思
いました。
先に話しましたとおり、私たちが飲料にできる水は非常に少ない。この水は有毒物質を蓄積することなく循環を繰り
返してきた資源です。水は偏在する資源であると同時に、地域によって、例えば砂漠地帯とか豪雨地帯とかによっ
て使い方も異なる、地域性が強い資源です。どの国でもどこでも同じではないことから、数学のように普遍的に当て
はまる原理だけでは解決できない問題があります。このような特性にも、環境問題の原点があると思いました。
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京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
ところで、何億年という地球の歴史を考えるとその異様さが目立つのが、人間が人工的に作った化学物質です。
冒頭で、宇宙にはいろいろなものがかなり同じ割合であると言いましたが、例えばダイオキシンが一日、もしくは一年
に何万トンも発生して環境中に存在する惑星は、宇宙の中でも地球だけではないでしょうか。かなり特殊な条件でし
か発生しない毒性の強い物質が地球には何でこれ程あるのかと、高度な文明を持つ宇宙人が地球を眺めて、不思
議に思っているかもしれません。

質問③:砂漠の研究者、松永先生は現在の地球環境についてどのように捉えておられますか。
(▼松永先生)
私は、これまで中国の黄土文明の発祥の地で砂漠化がどのように起きてきたかを研究してきました。大都市の生
活を支えるために、その周辺の緑豊かな土地が砂漠になったことを知りました。
現在、私たち日本人の生活を支えるために私たちの見知らぬ諸外国の人々が、またその土地が犠牲になって砂
漠化が進むことが起きています。自らの欲望を満たすための生活は地球全体の砂漠化をもたらすのではないかとい
う恐怖を抱いています。私たち一人一人が食糧、水、空気、土、木材など生きるために本当に必要なものだけを見
極めて使う生活を考える時ではないかと思います。

質問④:私は琵琶湖の近くで生まれて育ちました。私たちの飲料水となる琵琶湖の水をきれいに保つためにヨ
シを植えたりしていますが、湖の水を汚さないために、どうすれば良いのでしょうか。
(▼山室先生)

湖の水の汚れは、大きく 2 種類に分けることができます。
一つは、有機汚濁や富栄養化といわれるもので、窒素やリンなど、陸上では肥料として作物に与える成分が湖水
で増えると、植物プランクトンが増えます。アオコはラン藻という植物プランクトンが集積した状態です。植物は有機物
でできています。これが死んで湖底でバクテリアなどによって分解されるときに、酸素が使われる。そうすると湖底が
酸欠になって、魚や貝に影響するわけです。
ですので、水を汚さないために家庭でできることとしては、天ぷら油などの有機物を流さないことや、植物プランクト
ンの栄養になる窒素やリンを減らすことです。無リン洗剤が使われるようになったのも、そのためです。
先ほど、湖岸にヨシを植えると水はきれいになるのか、というご質問がありました。ヨシは湖岸にあって、入ってくる窒
素やリンを使ってくれるので、その点からは効果があります。しかし枯れたヨシが湖に入ると、ヨシも有機物ですから有
機汚濁となります。
水草の中でも、ヨシのように根が水面下の土の中にあり、草体が
「里湖モク採り物語」より
水上にあるタイプを抽水植物と呼びます。また根が土の中にあり、
葉が水面を覆っているタイプを浮葉植物と呼びます。根が土にあ
り、草体が水面下にあるタイプを沈水植物と呼びます。欧米や日
本の湖沼では、かつては沈水植物が水草の大部分を占めていま
した。しかし富栄養化によって植物プランクトンが増えることで湖
底まで光が届かなくなって沈水植物が減り、植物プランクトンが
増えやすくなりました。欧米ではこういったことから、沈水植物を
再生することが水環境の保全において重要だとしています。

水の汚れは・・・沈水直物が消えた 1950 年半ばから
ところで日本では、なぜか全国的にほぼ同時期、1950 年半ばに、平野部の湖沼から沈水直物が一斉に消えまし
た。早い時期に都市化した手賀沼と、過疎地域の湖沼で同時期に富栄養化が起こったわけでないので、欧米と違
って富栄養化が原因ではない可能性が高い。1950 年半ばとは、高度経済成長の始まりに伴い、農業人口を工業
に移動させる必要があった時期です。農薬・化学肥料・機械化が全国的に進められた時期です。
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実は日本では、沈水植物を肥料として湖から刈りだしていました。そこで 1950 年代半ばまで水草の刈りだしを行っ
ていた農家の方から当時の状況を伺ったり、消失当時の水質データを検討したところ、除草剤を使い始めた時から
沈水植物が減ったことが共通していました。つまり、富栄養化によって植物プランクトンが増えたから沈水植物が消
えたのではなくて、化学物質によって沈水植物が消えた。それで赤潮やアオコが増えたことが、私たちの研究で判っ
てきました。先に汚れには 2 種類あると説明しましたが、もう一つの汚れが、この除草剤などのような化学物質です。
化学物質は循環しません。多くが食物連鎖を経るごとに濃縮します。そして生物の健康を損ねます。窒素やリン、
有機物といった食物連鎖によって循環する物質と、循環しない化学物質とは区別する必要があります。

受け継がれた知恵で湖の水を守る
沈水植物が消滅したのが既に 1950 年代だったので、それ以前の湖の状態を知っている人は今は 70 歳以上で
す。「公害列島」と言うほど日本中で公害が深刻化したのが 1970∼80 年代で、多くの湖沼ではこの頃になってよう
やく、湖のどこにどのような水草があるのか調査が始まりました。霞ヶ浦も 1980 年代以降しか記録がありません。そ
の記録は、霞ヶ浦のアオコが最も深刻になった時のものです。それをよりどころに、アサザという浮葉植物を植栽する
「自然再生」活動が行われています。しかしそれは湖の水質が最悪だったときの状態であること、もともと霞ヶ浦は沈
水植物と二枚貝に代表される湖だったことが、この活動では無視されています。霞ヶ浦のように浅くて広い湖は波が
高く、浮葉植物であるアサザが繁茂できた面積は限られていました。例えば宍道湖という浅くて広い湖の終戦直後
の空中写真では、浮葉植物は全く繁茂しておらず、水草は全て沈水植物でした。公害列島といわれた 1980 年代の
記録を再生目標とすることで、本来は沈水植物が生えていたところを、人工的に浮葉植物帯にしてしまう危険もある
わけです。何が本当に自然再生なのか、その基本に自然科学が伴わない市民運動は、環境への影響を考慮して
いないと批判された公共事業に勝るとも劣らない危うさがあります。
▼ありがとうございました。お話を聴かせて頂いて今まで湖の水面のことしか知らなかっ
たので、これからは見えない部分を知ることから始めたいと思います。

湖の環境保全とは、人がどう関わっていくかが大切
(▼山室先生)
滋賀県は除草剤減量に取組み空中散布を止めたこともあって、琵琶湖の南湖では、一度は消滅した沈水植物
が復活しました。ただし、かつてはその沈水植物を肥料用に刈り出していましたが、今は放置されているので、枯れ
た沈水植物が岸に漂着し、悪臭を放つなどして問題になっています。先ほど話題になったヨ
シも、葦簀(よしず)にするために刈り取ったり、枯れたヨシを春先に焼いて有機物を除去して
いました。このような人間の営みが、湖に有機物がたまるのを防いでいたと考えられます。
湖の環境保全とは、何かを植えるだけで完結するものではなく、人がどう関わっていくかが大
切であることが分かります。ヨシ焼きや、モク採りと呼ばれた水草の肥料利用は、長い間の試
行錯誤の結果、その土地にあるもので持続的に生活することを可能にした知恵の結晶であ
り、1950 年代半ば以前の日本には、その知恵がまだ受け継がれていたと思います。
<災害から命を守る住宅について>

質問⑤:松永先生、砂漠化された地域で暮らす人々はどのような住宅に住んでいるのでしょうか。
(▼松永先生)
中国の黄河地方では、地下に穴を掘って入り口に障子を張っていて、土が化学物質を吸収する快適な住宅でし
た。私が研究している黄土高原に横穴式住居があります。通気性が良く、外からの砂塵を防ぐのです。日本の住宅
もこのようにシンプルに作れたら良いのにと思います。
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京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)

山室先生: 高校では全員、地学を学んでほしい!
私が皆さんに訴えたいことは、必ず地学を学んで下さいということです。地学の基礎知識があれば、その土地に活
断層があるのか、液状化しやすいのかなどが気になりますので、危険なところに家を建てないで済みます。被害を軽
くすることもできます。今回の震災で私のところは震度 6 でした。私が家を建てる時に最初にしたことは、地盤の固さ
を調べることでした。軟弱な土地でしたからベタ基礎工事をしました。これをしていなければ今回の震災は屋根瓦が
落ちるなど、被害が大きかったと思います。近くの土浦でもかなりの被害がありました。
ところで私は、化学物質を使わない家造りを考えました。木の無垢材にしてワックスも塗りませんでした。正倉院は
木が呼吸をしていると言われています。木が呼吸をするのであれば有害な物質も吸収してくれるのではないかという
単純な発想でした。ですから私の家は太陽熱で床暖房の高気密住宅ですが、換気は一切していません。それでも
VOC が溜まらないのです。
原発事故の時も、暖房をしていれば普通は換気が必要ですが、床暖房なので窓も一切開けず換気なしでもよく、
こどもたちに室内にいなさいと言って 3 日間外に出しませんでした。
▼貴重なお話をありがとうございました。今、日本中の人々が必要を感じている安心の住宅ですが、山室先生は、
今回の災害に対応する住宅を 12 年前に建てられて先端を行っておられますね。
◆ 誰でもできることですよ。エコクロスにして、無垢材にして、床にワックスを塗らないことと、床暖房にしただけです。
メーカーハウスでも工夫をすればできることです。メーカーハウスは化学物質を減らす目的で換気を重視しますが、
換気すると逆にお隣のタバコや公園の消毒など外気の化学物質が入ってくる可能性もありますから、換気に頼らず
屋内で VOC が発生しない方法を考えることが大事だと思います。またこれは原理的には
できることなので、夏も床冷房にすればよいと思います。現時点で家は床冷房ではないの
で締め切りにはしていません。しかしひさしを長くしたので陽ざしが入らず、どの方向にも風
が通るように窓を配置したので、夏は窓を開けることでエアコンなしで過ごせます。
ただ我が家でも浴室のトリハロメタンは減らせませんでした。トリハロメタンは VOC なので、
お風呂のように暖められると気体になって浴室に充満します。低濃度だから心配ないとの
考えもありますが、数多くの消毒副生物に赤ちゃんのときから出産する年齢まで曝露して
次世代に影響があるのかないのか、実験で示すことは不可能です。むしろ風呂用の水まで塩素消毒が必要か、トイ
レの水も塩素消毒など必要なことか、水使用の在り方から検討すべき時期にあるのではないかと思います。
<講師:山室真澄 氏 プロフィール>
1984 年東京大学理学部卒業・東京大学大学院博士課程修了(理学博士)。2007 年 4 月から現職。
[研究]: 自然環境学専攻/陸域環境学コース/自然環境構造学分野
[大学院教育]: 水環境論・環境計測論
[所属学会]:日本陸水学会(評議員)、環境ホルモン学会(評議員)、水環境学会、応用生態工学会、など。
[著書]: 「里湖(さとうみ)モク採り物語(生物研究社)・地質学ハンドブック」(朝倉書店) ほか
[共訳書]: 「レイト・レッスンズ
14 の事例から学ぶ予防原則 欧州環境庁 編」(七つ森書館)
<受講メモ>これから必要なことは「温故知新」、昔の人の知恵を今の知恵と合わせて更に発展させること。
有害化学物質が人と生態系に及ぼす影響を事実から知ること。地学を学び、地震・津波・など自然災害と原発問
題を考える。今、生きている人々が歴史に学び、限りある地球資源を守ることが人類の存続を可能にする。
山室先生は換気に頼らない住宅を考案されて原発事故の時も窓を開けずに過ごせたお話の中で、床冷房が可能
になればと仰いました。その床冷房は、ある工務店が受注を始めたと昨年末に山室先生からお知らせを頂きました。
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6. ネットワーク紹介 「中皮腫・アスベスト疾患」患者と家族の会
「クボタショック」から 6 年

会長代行 古川 和子
アスベスト(石綿)を吸い込んで肺がんに
2005 年 6 月 29 日の毎日新聞夕刊で報道されて始まったアスベストの恐怖「クボタシ
ョック」は、私の夫が「悪性胸膜中皮腫」と診断され 1 年後に亡くなってから、4 年目のこ
とでした。
65 歳まで頑張って働くからと元気に働き続けていた夫が、ある日、息苦しいと言って
受診して、突然に治療法もない病名を宣告されたのです。1 年間の闘病を続ける中では、
胸に刺したチューブから真っ赤な胸水を出し、咳と共にその血水は口からも溢れるという厳しい場面もありました。
夫の仕事は関西電力の火力発電所内の作業を行う下請け会社でした。仕事中に取り扱ったアスベスト(石綿)と
いう物質が原因であると医師から聞かされても、労働災害である事を認めてもらえなくて、老後の希望を断たれまし
た。
しかし「なんでこんな病気に」と苦しんで逝った夫を想うと、涙がこみ上げる私の孤独な戦いは続きました。苦しい
闘病生活の中「人は誰でも、何故、自分が死ななければいけないのか、ということを知る権利がある」という信念のも
とに頑張り、夫の病気の原因はアスベストであることを労働基準監督署に認めさせました。そして、夫の死亡原因が
解剖の結果「アスベスト肺がん」であったと通知されたのです。病名は変わっても、原因はアスベストでした。

「アスベスト禍」の発生源を突きとめた奇跡的な出会い
夫の死後、同じようにアスベストで苦しんで亡くなっている人はいない
か。あるいはタバコによる「肺がん」と診断された人の中にも、アスベスト
(石綿)曝露した方がいるかもしれないと考えていました。
ある日、ラジオ番組でアスベストの事を聴いたという映像メディアの方
からの電話があり、その出会いがクボタショックに繋がる大きな動機とな
りました。
取材に訪れた女性ディレクターが、取材を行う過程で女性の中皮腫
患者と出会いました。この患者さんは仕事上でアスベスト曝露が無く、し
かし 20 歳まで尼崎市内に居住していたことが解りました。この患者さん
が、クボタショックの引き金になった故土井雅子さんでした。
発病原因を知りたいという彼女の希望に応えるべく、ディレクターと二人で尼崎市内を調査しました。事件記者さ
ながらに、聞き込みを行い、何処でも訪問しました。その様な中で新たな中皮腫患者さんと出会う事が出来たので
す。
この奇跡的な発端がクボタショックの激震に至りましたが、この因果を共に突きとめて下さる人々との出会いがあり
ました。それは尼崎市には労働安全衛生センターという市民団体があり、この問題に関わって下さる市会議員がク
ボタとの交渉に絶大な力を注いで下さったこと、クボタ周辺の居住者からの情報と医師や研究者、マスコミも応援し
て下さったことが原因究明への大きな動きとなったのです。
しかし、出会った患者さんの多くが次々と帰らぬ人となっていく現実は変わりません。

胸の中にサボテン-針の刺さる痛み
尼崎のクボタ工場の近くに住んでいて発症した故前田恵子さんは、初めて出合った時から「これは公害です」と訴
えて、その病状を「胸の中にサボテンが入っていて針で刺される痛み」と語った。
クボタショック報道の最初の記者会見に出席して下さったその前田さんは、H18 年 3 月 27 日の石綿新法の施行
日に逝ってしまいました。「ひとりひとりが一丸となって火の玉の如くに熱く燃えて向かってゆかなければいけない」との
言葉を遺して。
16
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)

夫の遺志を受け継いで
私の夫は若い頃から、ただ一筋に働いてきた職場で溶接作業の時に使用していたアスベスト(石綿)を 35 年間も
吸い込み肺に溜まって発病したことなど、当初は全く知り得ないことでした。
「この病気は効果的な治療法はありません。抗がん剤もこれといった有効なものはありません」と告げる医師の言
葉に治療への道を断念せざるを得ませんでした。ただひたすら死を待つ主人に「最期の思い出を作ってあげなさ
い・・」と医療関係者の方は皆が口を揃えて言います。しかし、真っ黒なトンネルの中にいる者にとってはそれどころで
はなく、診断されてから 1 年前後には「死」が確実に迫ってくるというのに自分がどんな病気かさえも解からなかった
のですから。
この様な災害の医療現場に携わる医師たちは、患者の身体だけではなく心のケアにも対処する必要があると強く
思います。病を負った人々は心の中からも鮮血が噴出しているのです。
幸いにも私達は以前からの主治医によって心のケアはされてきましたが、私達では理解できない病気だから、な
おさら苦しんだのです。その思いはどこにぶつければよいのか、私は出来る限りの知恵を絞って図書館で本に出会い、
必死の思いで関係先やアスベストの研究者、数少ない専門医などへ問い合わせました。そして次々と判ってきまし
た。その方々に会うために上京して、協力も得られるようになりました。しかし、この病気は診断を受けてから 1 年前
後の余命であることは変わらず、救済されませんでした。そして、労災認定を受けることもまた大変なことでした。

石綿救済法 制定―H18 年 3 月 27 日 (夫が目指した 65 歳の誕生日に)
夫が亡くなって一年が過ぎた頃に、私は石綿対策全国連の総会に招待されて、初めて関東在住の遺族の方と
出会いました。夫を亡くして以来、お互いに一人ぼっちが、初めて「同じ境遇の仲間」に出会えたのです。そしてそれ
が患者と家族の会の原点になった。一人ひとりの人間同士が繋がってゆき、大きな輪になり、それが更に大きな流
れになってアスベスト公害を社会に問題提起することとなった。そして、そのまた一年後には「中皮腫・アスベスト疾
患・患者と家族の会」が誕生したのです。
夫の死により、この活動を始めた私にとっては、夫が目指していた 65 歳の誕生日である H18 年 3 月 27 日に石
綿救済法が制定された事はただの偶然では無いような気がしています。

体内に蓄積するアスベス粒子-発症は遅発-クボタショックは続く
クボタショック以後の最も大きな出来事は、石綿救済法が制定された事は勿論だが、今までは潜在的にしか語ら
れていなかった各地の環境被害者が声を挙げたことでしょう。
日本で最初の中皮腫患者を出したといわれている大阪府泉南地方。古くからのアスベスト使用により多くの被害
者を出していました。それでも、このクボタショックが起こるまでは社会的にも多くは語られてはいなかったのです。
岐阜県羽島市にあるニチアス羽島工場近隣でも多くの被害者を出していました。大阪府河内長野市でも然り。
H18 年の 1 月、私達患者と家族の会は石綿対策全国連と共に「アスベスト対策基本法」の制定を求めて要請行動
やデモ行進を行ないました。そしてそれから一年経過した H19 年 3 月には、全国各地からの環境公害被害の住民
達が集まってきました。アスベスト被害は労働災害だけに留まらない公害史上最悪の「複合型ストック公害」であると
判明したのです。

被害はアスベストを使用する工場の従業員とその近辺の居住者のほか、建物解体現場でも
当初から私は「クボタに始まって、クボタに終わってはいけない」と訴えてきました。残念ながら、私が予測した以
上に被害は深く深刻です。アスベスト問題は深く、広く広がっています。
多数の被害者を出したアスベスト関連工場の周囲には必ず、住民の被害が発生しるという事実があります。そし
てアスベストを吸った場所により「労働災害」と「環境被害」と呼び名が変わっていることも解りました。しかし、考えて
みるとそのこと自体が問題なのではないだろうか。同じものを吸って、同じ病気になる。苦しみも悔しさも無念さもみな
同じなのに補償が違うのです。
労災以外の方の救済のために 2006 年 3 月に石綿による救済法が制定されましたが、その中身はお粗末なもの
です。それでも、何も無かった当時から見ればマシだ、という人もいる。確かにクボタショックが起こるまでは「なぜこん
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な病気に…」と言いながら本人も家族も苦しい闘病生活を余儀なくされていたからです。毎月の治療費の重みに耐
えかねて、安心して療養をする事も出来なかったと語る方もいました。

危険を承知で使用させてきた国の責任を問う
日本の産業の発展を支えてきた人たちがアスベスト(石綿)の被害に蝕まれてゆく事に対して、アスベスト(石綿)
を輸入し、危険が判ってもなお使用し続けた国は、どの様に考えているのでしょうか。以前に放送のあった NHK の
番組では「アスベスト(石綿)の危険は昭和 35 年頃から指摘されていた」と言っています。その危険を承知で使用さ
せてきた国に責任は無いのでしょうか。
労働災害、環境被害と呼び名は違えども、間違いなく国と企業の犠牲になってきたアスベスト公害の被害者。人
類史上、例を見ない悲惨な公害は、その曝露原因を問うことなく、全ての被害者に心からの謝罪をしなければいけ
ない。そのうえで全ての被害者を平等に補償しなければいけない。
クボタショックが、海外にまでアスベスト問題を波及したことの意味の大きさを噛みしめ、今後の犠牲者を減らし、
一人でも多くの被害者を救済できる活動に繋いでゆきたいと願っています。
*昨年の 5 月頃、NHK ラジオで、アスベスト被害者の会と古川さんを知りました。発症から 1 年前後で壮絶な死に
至るというアスベスト疾患について、包み込むような優しい声で語っておられた古川さんに是非お会いしたいと思い、4
か月後に、会報の取材としてお目にかかることができました。初めてお会いして 3 時間余りの対談で、大きな発見があ
りました。この甚大な被害を突きとめる起点となったのは、夫の死の原因を探し求めた古河さんと報道制作の女性と
の疫学的な調査であり、その後、堰を切ったように発生源との交渉が進展し、企業や国を動かし、「救済法」に至った
ことを知りました。古川さんは、全国のアスベスト患者連絡会や国会への請願など多忙な日々の中で、ご寄稿と悲嘆
に暮れた 1 年間の日記をお送り下さいました。その記録に感動し人の心を動かす真実を知ることができます。
その後、アスベストによる肺の痛みは、長期に亘る受動喫煙による肺の痛みに通じることも判りました。
7. 放射性物質問題・内部被曝
7.1.
大震災: 福島第 1 原発事故 暮らしの中の対策 被ばく、どう防ぐ
(毎日新聞 2011 年 9 月 8 日 東京朝刊 より抜粋)
東日本大震災で発生した東京電力福島第 1 原発事故は、誰も想像したことがなかった大量の放射性物質をま
き散らした。水素爆発などで舞い上がった放射性物質は、福島県内外に飛散し、土地や食べ物を汚染した。汚染
は除去できるのか、健康への影響はどこまであるのか。目に見えない放射性物質と暮らすことを余儀なくされた今、
科学的に「分かっていること」と「分かっていないこと」を整理し、放射線の影響を下げるためにできることを考えた。
文部科学省は 8 月末、福島第 1 原発から 100 キロ以内の約 2200 地点で土壌の汚染濃度地図を公表。チェル
ノブイリでは 1 平方メートルあたり 148 万ベクレル(妊婦とこどもは 55 万 5000 ベクレル)以上の地域を強制移住させ
たが、今回の調査では、34 地点でこの数値を超えた。
ネット上の地図検索サービス(http://www.geocoding.jp/など)を使えば、地図上の位置が分かる。

土壌からの「間接汚染」が問題
土壌から農作物への汚染が心配されるが、経路は 3 通りに大別される=
イラスト<右>。

農作物: 出荷制限、ほとんど解除
消費者が大きな関心を持っているのが食品の放射能汚染だ。一部の
食品では放射性物質が国の暫定規制値を超え、出荷制限の対象になった
が、食品汚染は実際、どこまで広がっているのだろう。厚生労働省が 9 月 1 日にまとめた調査によると、福島原発事
18
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
故以降、全国で野菜、肉、水産物など計 1 万 6829 件が検査され、放射性ヨウ素とセシウムが規制値を超えたのは
677 件(4%)だった。うち 473 件は福島県だった。農作物で規制値を超えた時期は 3∼6 月に集中。7 月以降は放
射性ヨウ素が規制値を超えた例はほとんどなくなった。

調理法: 水洗い、酢漬け、煮込み有効
大半の野菜や牛肉が規制値を下回り、出荷制限が解除されているのが現状だ。
しかし、少しでも放射性物質の取り込みを減らしたいと望む場合、家庭でもできる
方法がある=イラスト<右>。
原子力環境整備促進・資金管理センターが 94 年にまとめた除去実験でも、
野菜などは水洗いで半分前後を除去できることが明らかに。また、ジャガイモや
ニンジンは皮をむくと放射性物質が約半分に減ることや、キュウリは酢漬けにする
と約 9 割除去できることも分かった。肉類については、「焼く」「蒸す」調理法だと約
1∼3 割しか減らないが、「煮込む」ことで放射性物質は約半分になるという。ただ
酢漬け後の酢や煮汁は放射性物質が溶け出しており、捨てなければいけない。
大桃洋一郎・前環境科学技術研究所理事長は「野菜の葉の内部に放射性物質が吸収された場合でも、煮込め
ば減る。牛肉はいったん凍らせてから解凍するとよい。牛肉のセシウムは細胞内に含まれており、肉の細胞が壊れ
てセシウムが肉汁に溶け出すためだ。牛肉なら、すき焼きよりしゃぶしゃぶがよい」と話す。

魚: 淡水魚のセシウム汚染、目立つ
原発事故直後、コウナゴから規制値を超える放射性ヨウ素が検出されたが、魚の状況はどうだろう。 厚労省の
調査では、9 月 1 日までに、福島、茨城両県を中心に約 1600 件の水産物が検査され、92 件が規制値を超えた。
うち 86 件が福島県。海産物ではコウナゴ、アイナメなど、淡水魚ではウグイ、アユなど。規制値超えは、当初の放射
性ヨウ素ではなく、セシウムが中心になっている。セシウムは海の沖に拡散して底に沈むため、「海底にすむヒラメ、ア
イナメ、ウニなどに規制値を超えるものが出てきた。福島沖以外の魚の汚染は低い」(独立行政法人・水産総合研
究センター)という。

乳幼児、妊婦は特に注意必要 低線量リスク、データなく
短時間で大量の放射線を浴びると、被ばく直後に目に見える健康被
害が起きる。体の大量の細胞が死ぬことによる脱毛や出血などの急性
障害で、ときには死をもたらす。
このため、被ばく線量の上限には目安がある=図<右>。
今、私たちが直面するのは、急性障害は出ない少ない被ばく。心配
なのは、がんになる確率だ。
気になるのは、こどもへの影響だ。残された人生が長く放射線で細
胞の DNA が傷ついた後に何らかの健康被害が出るまで時間がある▽
成長に伴う細胞の分裂が盛んなため、傷ついた細胞が増えやすい−
−などの背景があるからだ。
このほか心配なのは、水や食料を通じて放射性物質を体内に取り込
む「内部被ばく」だ。ヨウ素は甲状腺、プルトニウムは肺などに蓄積しやすい=イラスト<次ページ・右上>。
原爆症認定訴訟のうち、2008 年の大阪高裁などで内部被ばくによる健康被害の可能性を認める判決が出てい
る。内部被ばくに対し、体の外から放射線を浴びることを外部被ばくという。ICRP は外部と内部の健康影響を等しく
とらえるが、北海道がんセンターの西尾正道院長は「内部被ばくは長期間、周囲の細胞に影響を与え続ける。内部
と外部の影響を同等にみなすのは疑問だ。外部被ばくについても、原爆被爆者の中に低線量で、がんになった可能
性のある人がいる。いろいろなデータを注意して見ることが必要だ」と語る。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
19

ことば
ベクレル、シーベルト
ベクレルは放射性物質が出す放射線の強さを表す単位で、1 秒あたりの原
子核の崩壊数を示す。シーベルトは放射線が人体に与える影響を表す単位。
放射線や放射性物質の種類によって影響の程度が異なる。
7.2.
敦賀原発 建設開始見送る方針
(12 月 22 日 NHK ニュース)
原子力発電所の建設に向けた工事が各地で先送りされるなか、福井県に建
設される計画の、出力が全国で最も大きい敦賀原発の 3 号機と 4 号機につい
て、日本原子力発電は、福島第一原発の事故の影響で国の審査が中断して
いることから、予定している来年 3 月の建設開始を見送る方針を固めました。
7.3.
国内の原発 90%近く停止へ
(12 月 19 日 5 時 59 分
NHK ニュース)
国内の原子力発電所は、今月下旬に九州電力の玄海原発 4 号機が定期検査のために停止すると、90%近くが
止まるという異例の状態で、本格的な冬を迎えることになります。
関西電力では、今月 16 日、福井県にある大飯原発 2 号機が定期検査のため停止し、原発 11 基のうち 10 基が
止まりました。また九州電力では、今月 25 日、佐賀県にある玄海原発 4 号機が定期検査のため停止する予定で、
原発 6 基のすべてが止まることになります。電力会社ごとに見ますと、すでにすべての原発が止まっているのは、東
北電力の 4 基、中部電力の 3 基、北陸電力の 2 基、日本原子力発電の 3 基となっています。玄海原発 4 号機の
停止で、国内の原発は 54 基のうち 90%近くに当たる 48 基が止まるという異例の状態で、本格的な冬を迎えること
になります。一方、運転の再開に向けては、再開の判断の前提となる安全評価「ストレステスト」が、定期検査で止ま
っている各地の原発で実施され、これまでに北海道電力、関西電力、四国電力、それに九州電力の 7 基のテストの
結果が国の原子力安全・保安院に提出されています。しかし、原子力安全・保安院の審査が終わったケースは 1
つもありません。また運転を再開するためには、地元の自治体の了解を得なければなりませんが、自治体の多くは、
再開に慎重な姿勢を崩していません。来年になっても運転を続けている 6 基は、1 月以降春までに順次、定期検査
で停止する見通しで、運転を再開する原発がなければ国内のすべての原発が止まることになります。
7.4.
内部被曝を考える 1 ― 放射線測定メール
(埼玉県さいたま市中学校理科教諭 川根眞也さん*からのメール 紹介)(京都市 J.S)
*川根さんは、「内部被ばくを考える市民研究会」代表。
Web サイト  http://www.radiationexposuresociety.com/
測定データに基づき真実を知らせる講演会活動とメールマガジンによる情報発信中。交信している会員さんからの投稿より。
学校給食を変えるために 文科省 40 ベクレル/kg 以下を 17 都県教育委員会に通知(11 月 30 日)

文科省はついに 11 月 30 日、小中学校の学校給食に含まれる放射性物質を「1 キログラムあたり 40 ベクレル以
下」とする安全の目安を定め、東日本の 17 都県に教育委員会に通知しました。
まず、これは一歩前進と言えます。学校給食の食材は国の暫定基準 500 ベクレル/kg までは OK という状態で、
500 ベクレル/kg までの食材はフリーパスでした。それどころか、食材は全品検査をしていないため、7 月から大騒
ぎになったセシウム汚染牛肉のように、検査されていたのはほんの一部で、500 ベクレル/kg を超え最高 4350 ベ
クレル/kg のセシウム汚染牛肉が流通していました。横浜市では小学校、中学校の給食でこの 500 ベクレル/kg
越えの牛肉が使われました。多いところが 3 回使われた学校>もあります。
20
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
現在、福島市大波地区の新米(玄米)から 630 ベクレル/kg の新米(玄米)が見つかったのを機に大波地区全
戸調べたところ、1270 ベクレル/kg の新米(玄米)が発見>されています。(中略)
週刊ダイヤモンド 9 月 10 日号によれば、福島県内で、栃木県農協等々の農協の検印が押された米の空き袋(一空
袋−いちあきたい)がホームセンターで大量に売られているといいます。「他県の一空袋がこんなに並んでいるのは
見たことが今までないし、売れ>行きもすごい」と書かれています。この記事が 8 月末の段階で書かれたものです。
マネーロンダリングならぬ、新米ロンダリングがすでに始まっています。恐らく、大手スーパーや米屋の一部でセシウ
ム汚染牛肉に匹敵する新米が他県産の古米(22 年度米となって販売されているはずです。
もはや、大手スーパーで安心して食品を変える時代は終わりました。文科省は今回 17 都県にだけ限り、40 ベクレル
/kg 以下の学校給食にするよう通知を出しましたが、危険なのはその 17 都県以外です。その筆頭は沖縄でしょう。
関東産の野菜等が大量に沖縄に流入しています。放射線量は非常に低くとも、食材は関東で売れない野菜ばか
り、沖縄に避難した方々からは「沖縄に避難したのに、外食と学校給食で内部被曝してしまう」と悲鳴に近い声が届
いています。学校給食の食材を大手流通業者や各市町村の市場に丸投げするのではなく、良心的な生産者と 1 対
1 の関係を作りあげることが早急に必要です。

内部被爆の初期症状
放射性物質がもたらす鼻血について
11 月 19 日に来日された、ベラルーシの医師、スモルニコア・バレンチナ
先生は、鼻血について以下のように語っています。
1.
吸い込んだ事での直接鼻粘膜への影響
空気中の放射性核種→ 土壌→ 浮遊→ 鼻→ 炎症→ 鼻血
2.
吸い込み+食事で、体内に回り細胞膜が破壊されることでの影響
食べ物→ 胃→ 腸→ 肝臓→ 血管破壊(血管がもろくなる)→ 鼻血
上記の 1. 2. とも鼻血が出る可能性があります。空気中に放出されたストロ
ンチウムなどの核種はいったん、土に落ちて、風に舞って浮遊して、鼻から入っていきます。

鼻血の危険性
鼻血が出るということは、鼻から肺に入り、肺がんの危険性もあります。血管がもろくなっている可能性もあり、循環
器系の疾患になる可能性もあります。なので、あまく見てはいけないのです。
父が広島で被爆した被爆 2 世の方は、「広島ではこどもが鼻血を出すと親は本当に心配した」と語っています。肥
田舜太郎先生は「鼻血と下痢の 2 つがあったら、内部被曝を疑った方がよい」と語っています。
まずは、40 ベクレル/㎏以上の学校給食を出さないために、すべての食材を数ベクレル/kg 以下にするべきで
す。NaI(TI)シンチレーション検出器で、検出限界が 3.7 ベクレル/kg のという AT1320 という機械があります。市
民放射能測定所(crms)が導入し、郡山市、福島市、神奈川県、等々で市民の力で食品の検査を行っている実績
がすでにあります。
7.5.
内部被曝を考える 2 ― アスベストとタバコの煙に放射線
∼中皮腫の原因はアスベスト(石綿)吸引でラジウム蓄積∼
(2009 年 7 月 28 日 読売新聞)
アスベスト(石綿)の吸引や喫煙などにより、強い放射線を出すラジウムが濃縮され、肺に蓄積することを、岡山
大の中村栄三教授(地球宇宙化学)らが突き止めた。
放射線が細胞の DNA を傷つけることで、悪性中皮腫や肺がんを引き起こすと見られ、新たな治療法や診断法
に結びつく可能性があるという。27 日、東京都内で発表した。
中村教授らは、悪性中皮腫の患者から切除した肺組織から、鉄を含んだ直径数十マイクロ・メートルのたんぱく質
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
21
の塊(フェリチン)を採取。塊に含まれる成分を調べたところ、海水の数百万∼1000 万倍も高い濃度のラジウムが含
まれていることがわかった。アスベストやたばこの煙に含まれる鉄分が肺の中に吸入されることで、フェリチンの生成
が促され、体内に極微量含まれるラジウムが濃縮されると見られる。
8. 化学物質問題
原発問題の陰に隠れた流出農薬はどこへ
不用農薬の定期的調査・回収処理の実施支援
特定非営利活動法人(NPO)教育研究機関化学物質管理ネットワーク(ACSES*)
代表(理事長)

木下 知己
化学物質(薬品)が関わる問題、事故等の再発防止に向けて
化学物質(薬品)の多くは、私たちの生活にとって必要なものであり、現代文明になくてはならないものです。一方、
温暖化問題をはじめとする多くの環境問題や、労働災害、事故の原因には、化学物質が関わっています。絶えるこ
となく、公害問題、薬害、薬禍問題、関連事故などが繰り返されています。すべての化学物質は、使用方法を誤る
と、有害、危険となりえます。化学物質が関わる問題、事故等の再発を防ぐには、化学物質の取り扱いに際して、
①安全、適正な使用方法に限定し、②使用量は極力減らすとともに、③廃棄の際には無害化処理が欠かせません。
これらの三原則が肝心です。
化学物質によるリスクを下げるための ACSES の支援活動

特定非営利活動法人(NPO)教育研究機関化学物質管理ネットワーク(ACSES*:アクセス)は、全国の主な大
学等が協力して、化学物質が関わる、繰り返される環境問題、労働災害事故等の具体的な再発防止に向けて、
①化学物質の安全適正管理の実施促進と、②化学物質管理の重要性に関する教育、指導(安全適正管理意識
を持った社会人の育成)の実践を支援、補助する活動を行っています。

不用な農薬の調査・定期的回収処理の実施支援
図. 農薬の流れ:不用農薬の発生と処理
ACSES は、活動の一環として、「農家の不用農薬の定期
的回収処理の仕組み立ち上げ支援事業」を 2009 年から、京
製造物責任
農薬メーカー
変大きな役割を果たしていることは言うまでもあるません。安
行政
使用
農家
全安心できる農業、田畑仕事の持続的発展のためには、表
未使用
土・水資源の保全、生態系の保全に対する配慮が、これまで
以上に求められており、農薬に関わる環境リスク低減が重要
です。2011 年 3 月 11 日の東日本大震災・巨大津波の際の
福島原発事故に伴う深刻な放射性化学物質の大量流出拡
散問題は、きわめて甚大な被害を、広範囲に、非常に多くの
ACSES-IT企業-情報機関
連携 → 農薬情報等
ノウハウ 提供
指導・監督
都地域から始めています。食料の安定確保のため、農業は大
空容器:要回収処理
放置
使用不可
使用禁止 等
リスク低減化
安全安心環境
安全安心農産物
モデル地域
(京都地域)
不用農薬
調査
ACSES
連携組織
+
?
処理企業
定期的
回収処理
安全適正処理
関西地域
全国へ展開
ACSES-廃農薬処理企業
連携 → ノウハウ提供
人々に、しかも長期にわたって及ぼす結果となっています。この原発問題の陰に隠れた感がありますが、巨大津波
で甚大な被害を受けた東北地方では、流出、放置された工業用化学物質や農薬類による二次的被害が危ぶまれ
ています。このような自然災害のリスク対策としても、普段から不用な化学物質の保有を可能な限り削減し、潜在的
なリスクを減らす努力が肝要です。国土の狭いわが国では、とくに、農作業に関わる化学的環境−とりわけ農薬に
関係する環境負荷―に対する配慮が必要と考えられます。農薬登録制度の下、農薬の管理が行われていますが、
①農作業者の健康、環境安全に関する農薬等のリスク情報が農家を含む農薬使用者に充分理解されているとは
言えないこと、②回収処理体制が整っていないため、相当量の不用農薬が放置されていることが、本法人によるこ
れまでの断片的な予備調査でも確かめられています。農薬等の使用法についての情報はよく知られていますが、そ
22
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
のリスクについては、わかりやすい情報の積極的な提供、学習の機会が充分に用意されているとは言えません。無
効農薬や不法農薬の使用禁止が指導されていますが、それらの回収処理は制度化されていません。
不用な農薬の放置は、消費者の農作物に対する不安要因となるだけでなく、農作業者の健康・安全に対するリスク
要因になりえます。このような現状を踏まえ
ACSES は、(1) 正確・明快なリスク情報を農家や一般市民を含めた農薬使用者が知り、学ぶ機会を提供し、(2)
不用農薬の調査、適正回収処理を支援する事業を、京都市の協力の下、京都地域 JA や農家グループと連携し
て始めています。

不用農薬の発生は?
不用農薬は主に次の原因により発生します。①登録農薬の失効による使用禁止、②栽培農作物の変化による
使用不可(農薬の使用農作物作柄の規定に基く)、③購入農薬の変質、効能切れ、④余剰農薬。したがって、不
用農薬は、次から次へと発生していることになります。

不用農薬の調査
京都地域では、近年、JA による不用農薬の回収が行われ、外部委託処理業者による処
理が実施されるようになっています。ACSES では JA への聞き取り調査を 2009 年から行っ
ています。同時に、不用農薬の実地調査も、京都市との連携下で、モデル農家グループの協力を得て行っていま
す。2009 年度は、環境省の助成の下で行いました。農薬の安全使用、環境配慮に努力されている農家でも、量の
多少はありますが、不用農薬があることが確かめられています。したがって、全国の農家には、相当量の不用農薬が
あり、しかも、営農に伴い、毎年、新たな不用農薬が生じていると推定されます。

不用農薬の調査・回収方法の改善、試行
多くの農家の不用農薬の調査、効率的集計には、パソコンの活用が望ましいのは言うまでもありませんが、これま
での JA 等による調査集計には、パソコンはあまり活用されてきません。そのため、集計に長い時間と労力が費やさ
れることになっており、頻繁に実施する妨げになっています。農薬の保管現場でのパソコンへの入力が難しい環境下
での調査回答データのパソコンへの入力方式について、可能なさまざまな方式を ACSES がモデル農家と相談しな
がら検討の結果、「マークシート方式用紙調査」(MS 調査)を考案しました。農家には、保有する不用農薬の名前
(登録番号)と量等を、調査用紙の該当欄にマークを記入してもらい、回収された調査用紙を読み取り機で読み取り、
パソコンに入力する方式です。調査回答データをパソコンで処理するには、農薬データベースが必要ですが、適切
なものがないため、ACSES で新たに試作し、使用しています。この MS 調査方式は、2010 年、京都地域 JA の一
つでの不用農薬調査に試用され、実際に有効に役立つことがわかりました。従来に比べて、集計の時間と労力の大
幅な削減が可能となりました。この試行調査結果に基いて、実際に不用農薬の回収が JA と回収処理業者により行
われ、回収処理業者により適正処理されました。まだ、不用農薬を搬出された農家は、全体の一部ですが、この方
式を利用すれば、不用農薬の定期的回収の頻度を増すことが出来、これまで、時期的に回収に応じにくかった多く
の農家の回収に効果を上げるものと期待されます。この簡便な調査集計方式による容易な調査回収実施を他の
JA に紹介し、不用農薬の回収処理の効率化の推進を支援しています。
同時に、農薬のリスクに関する学習会や情報提供にも支援を行っています。
これらは、持続的な事業として、地域的には、全国的に展開の計画です。さらに、将来の不用農薬回収処理の制
度化に向け、行政への提言、働きかけにも努める考えです。この事業は、これまで、環境省、京エコロジーセンター
から助成され、現在、三井物産環境基金の活動助成を受けています。
■家庭用の不用な化学物質類の調査、適正回収処理に向けてまた、一般家庭の菜園、園芸用の不用になった農
薬やその他さまざまな化学物質類は、これまで回収困難物として、行政による回収対象から除かれ放置されてきま
した。行政による安全、適正な回収処理の実施を働きかけ、協力する取り組みも、京都から始めています。皆様の
ご協力をお願いいたします。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
23
* NPO 教育研究機関化学物質管理ネットワーク
ACSES(アクセス):Advanced Chemicals Database Network System of Educational and Scientific
Institutions
連絡先:〒600-8813 京都市下京区中堂寺南町 134 番地(KRP)(財)京都高度技術研究所(ASTEM)内
9. 消費者問題 情報
昨年の代表的な事件として、外食や日用品の安全性と国の管理体制が問われた 2 事例をピックアップしました。
9.1.
集団食中毒事件 ∼5 人の死者を含む 181 人の患者 4 割に脳症併発∼
2011 年 4 月 21 日以降、「焼肉酒家えびす」の富山・福井・神奈川の店でユッケなど
を食べた客が病原性大腸菌 O-111・O-157 による食中毒になり、5 人の死者と 24 人の
重症者を含む 181 人の患者を出した(11 月 15 日時点)。
えびす集団食中毒、4 割に脳症 HUS 患者 (2011 年 12 月 22 日 共同通信)

生食用牛肉出荷ゼロ「加熱用、生で提供」常態化
(2011 年 5 月 4 日 読売新聞)
富山県などの焼き肉店で発生した集団食中毒に関連し、原因とみられているユッケなどの材料として、厚生労働
省の基準で定められた生食用牛肉が、少なくとも 2008∼09 年度にかけて国内で一切出荷されていなかったことが
3 日、分かった。
当時、国内の飲食店で提供された生の牛肉は、厚労省の基準では「加熱用」だったことになる。
消費者庁や厚労省は、現在も焼き肉店などでこうした基準外の生肉の提供が常態化しているとみており、基準の
改定を視野に入れ、現状把握に乗り出す。
「牛角」食中毒、富山県 2 年半立ち入り検査せず

(2011 年 6 月 4 日 YOMIURI ONLINE)
焼き肉チェーン大手の「牛角」高岡店(富山県高岡市あわら町)で 20 人が下痢などを発症した集団食中毒で、
富山県が過去 2 年半にわたって同店を 立ち入り検査していなかったことが、わかった。「焼肉酒家えびす」の 集団
食中毒で死者 3 人が出た砺波店(同県砺波市となみ町)でも、2 年間立ち入り検査が 行われておらず、県の監視
指導のあり方があらためて問われそうだ。
厚労省の「生食用食肉の衛生基準」は 1998 年に設けられた。96 年、レバーの生食などによる腸管出血性大腸
菌 O(オー)157 の食中毒で 8 人が死亡したことに対応し、生の牛肉を出荷する場合、食肉処理施設に生食専用の
設備を備えることや、温度 10 度以下で加工することなどを求めた。

生食用牛肉、罰則付き新基準告示…レバー対象外
(2011 年 9 月 12 日 読売新聞)
「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件を受け、厚生労働省は 12 日付の官報に、生食用牛肉に関する罰則付き
の新基準を告示した。
10 月 1 日から施行される。牛の生レバーは新基準の対象外だが、厚労省は提供そのものの禁止も含め年内に
検討を始めるとしており、それまで生レバーを提供しないよう呼びかけている。
24
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
食品衛生法に基づく新基準は、生食用とするブロック牛肉を熱湯などで表面から深さ 1 センチの部位を 60 度、2 分
以上加熱処理するよう加工業者らに求めている。飲食店は処理済みの肉をユッケや牛刺しとして提供できるが、未
処理の牛肉は生食用として提供できない。
2011 年(平成 23 年)9 月 12 日厚生労働省告示第 321 号「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件」
http://www.mhlw.go.jp/stf/kinkyu/2r9852000001bbdzatt/2r9852000001q4z1.pdf#search
9.2.
「茶のしずく」石けん事件 ∼重篤 66 人 アレルギー症状 569 人に~
2010 年 12 月までインターネット等で通信販売されていた洗顔石鹸「茶のしずく」
の購入者が、次々と小麦アレルギーを発症したことが明らかになりました。

「茶のしずく石鹸」旧製品 1000 人超被害 集団提訴へ
(2012 年 1 月 8 日 産経新聞より抜粋)
■業者と行政、水に流せぬ対応遅れ
福岡県のせっけん製造販売会社「悠香」が販売した「茶のしずく石鹸(せっけん)」の旧製品による小麦アレルギー
の深刻な状況が次々と明らかになっている。これまでに少なくとも 569 人が発症、ほかにも被害を訴えた人は 1 千人
を超えた。被害拡大の背景には、悠香や関係機関の対応の遅れがあったと指摘されている。被害対策弁護団が結
成され、年度内に集団提訴する見通しとなっている。
アレルギーの原因となったのは、保湿効果を高めるために使われた「グルパール 19S」という成分。小麦のタンパ
ク質を人工的に分解したもので、化粧品原料として流通していた。今回は、せっけんを使ううちに皮膚などを通じ体
内に入り発症したとみられる。
最初に気づいたのは、国立病院機構相模原病院の福冨友馬医師だった。平成 20 年 12 月以降、通常の小麦ア
レルギーとは異なるまぶたの腫れがある患者を相次いで診察。患者らが茶のしずくを使用していることを突き止めた。
21 年 10 月、日本アレルギー学会の席上、商品名は伏せた上で初めて「せっけんで小麦アレルギーが起きる」として
健康被害を報告した。
だが、その後の対応は後手に回った。厚生労働省は 22 年 10 月、小麦由来成分を使うメーカーに注意喚起を通
知したが、悠香が自主回収を始めたのは、半年以上もたった 23 年 5 月だった。
健康被害に関する国への届け出が遅れた疑いも浮上している。薬事法では製品の安全性に関わる研究報告を
知った場合、30 日以内に厚労相へ報告するよう定めている。
*【用語解説】茶のしずく石鹸
人気女優のテレビ CM が話題になり通信販売でヒットした。旧製品は延べ約 467 万人に約 4650 万個が販売され
た。顔のかゆみや目の周りの腫れのほか、呼吸困難や一時意識不明になる重症例も多く報告された。日本アレルギ
ー学会が製造販売会社から受けた報告では、診断書のある発症者は 569 人、症状を訴えた人は 1254 人に上る。
22 年 12 月に小麦由来成分を除いた商品に変更されている。

消費者庁「茶のしずく」報告見過ごす 注意喚起に遅れ
(2011 年 11 月 16 日 朝日新聞)
悠香(福岡県)の「茶のしずく石鹸(せっけん)」の旧商品で小麦由来成分によるアレルギー症状が多発している問
題で、消費者庁が昨年 10 月、厚生労働省から被害発生を伝えられていたにもかかわらず、見過ごしていたことが
わかった。事態の把握は 7 カ月後の今年 5 月、注意喚起は 6 月にずれ込み、被害を拡大させた恐れがある。
省庁や地方自治体は、消費者庁に対し、商品やサービス側に原因がある事故を通知するよう消費者安全法で義
務づけられている。事故情報を 1 カ所に集めて分析、公表することで、被害のいち早い発見や拡大を防ぐ狙いがあ
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
25
る。 同庁によると、厚労省からこの問題の通知があったのは昨年 10 月 15 日。事故情報の担当者に届いた文書に
は、小麦由来成分を含んだせっけんを使っていた 30 代女性がパンを食べてテニスを始めた 15 分後、目や顔、手
が腫れ、血圧低下や腹痛、下痢などの症状が出て入院した――など三つの症例が記されていた。
当時、厚労省には 21 人の発症例が医療機関から報告されていたが、同省は「公表対象の事業者の利益や信用
を考慮した」として、文書では事故の日時や場所、商品名や症例数などのデータを伏せていた。
消費者庁では、この文書は事故情報の担当者間で共有されたものの、消費者安全法上の通知とは扱われず、公
表もされなかった。データが不足していたためとみられるが、厚労省に問い合わせたかどうかは「担当者が覚えてい
ない」としている。
補正予算の 84 億円余る/国民生活センター交付金

(2011 年 12 月 7 日 西日本新聞)
会計検査院は 7 日、国民生活センターが地方自治体の消費者行政支援のため、2008 年度補正予算で国から
受け取った運営費交付金約 98 億円のうち、10 年度末時点で約 84 億円が余っていると指摘した。約 58 億円は今
後も使う見通しがないとして、返還を求めた。
10.
タバコ問題 情報
10.1.
京都府、受動喫煙防止で条例制定へ 禁煙・分煙を義務化
(2011 年 12 月 6 日 京都新聞)
■公共施設や飲食店など 違反者に罰則導入視野
府では有識者会議の部会が昨年 2 月に条例化を求める提言をまとめ
た。府は 10 月に立ち上げた「がん対策推進府民会議」に医療団体や
飲食業界らの部会を設置し議論を進めている。
代表質問で山田知事は「部会で行動指針を策定し、それを踏まえて
条例への準備をする。京都には外国人が多く訪れるため、先進的な内
容になるよう検討する」と答弁した。
部会では本年度中に府民や事業者に対し、自主的な受動喫煙防止
策を求める指針を決め、府は対象施設や罰則などの規制を検討する。
10.2.
京都市、路上禁煙区域拡大も 財政難 指導員増員せず
(2011 年 12 月 9 日 京都新聞)
京都市は、来年 2 月から路上喫煙の禁止区域を京都駅周辺と清水・祇園地区に拡
大することに伴って指摘されていた指導員不足について、増員せずに現行の 9 人態勢で
臨む方針を決めた。財政難が理由で、違反者からの罰則金の徴収権を持たない啓発
推進員を 3 倍に増やし、マナー向上を訴えていく。府警 OB と制服はほぼ同じだが、違反
者から千円の過料は徴収できない
右写真: 路上喫煙を見回る京都市職員(京都市中京区)
26
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
10.3.
京都市長へ提出した要望書の内容
(2011 年 12 月 京都カナリヤ会提出)
きれいな空気の京都の環境を守り、こどもや空気汚染弱者を保護するための市民への啓発と、空気汚染源の削
減に関する施策を願い、届け出ました。

受動喫煙防止対策-要望 1

「公園を禁煙に」∼こどもをタバコの煙から守るために∼
受動喫煙防止対策のあり方に関する検討会報告書(平成 21 年 3 月・厚生労働省)に
おいて、厚生労働省は以下の点を認めています。
∼[以下、抜粋]∼
特に、屋外であってもこどもの利用が想定される公共的な空間では、受動喫煙防止のための配慮が必要である。
受動喫煙が死亡、疾病及び障害を引き起こすことは科学的に明らかであること。
受動喫煙は、乳幼児突然死症候群、こどもの呼吸器感染症や喘息発作の誘発など
呼吸器疾患の原因となること。受動喫煙によって、急性の循環器への悪影響があること。
また、以下のとおりはっきりと公園における受動喫煙対策の重要性を認めています。
II.2.(2)より
屋外であっても、公園、遊園地や通学路などの空間においては、こどもたちへの受動喫煙の被害を防止する措置
を講ずることが求められる。そのためには、国や地方公共団体はもちろんのこと、様々な分野の者や団体が取組に
参画し、努力する必要がある。
屋外であっても、こどもや多数の者の利用が想定される公共的な空間(例えば、公園、通学路等)での受動喫煙
防止対策は重要である。しかしながら、路上喫煙禁止等の措置によって喫煙者が公園において喫煙するという状況
がみられる。受動喫煙防止対策の基本的な方向と対策を推進する際には、第一にこどもに被害が及ばない措置を
検討する必要がある。
受動喫煙防止について(平成 22 年 2 月 25 日健康局長通知)において、自治体にこどもの利用する場所での受
動喫煙防止策を義務付けています。
タバコの煙と残留煙は「不快なにおい」や「好き嫌い」の問題ではありません。呼吸器ほか身体に痛烈な被害を及
ぼす受動喫煙は極めて有害であることは厚生労働省や自治体も認めて周知を図っています。
<参考 1>
千葉県柏市は 23 日、450 の公園を含めた市有の公共施設 589 カ所の敷地内を全面禁煙にすると発表した。世界
禁煙デーの 5 月 31 日から実施する。(2010 年 4 月 24 日)
<参考 2>
「こどもをタバコの害から 守る」
日本小児科学会・日本小児保健協会・日本小児科医会の禁煙宣言
こどもは国の宝です。そのこどもたちの健康を守るために、煙害の恐ろしさを正しく、国民に理解していただく運動を
進めます。

受動喫煙防止対策-要望-2

公共施設の敷地内禁煙、住宅地の受動喫煙防止啓発

路上喫煙禁止区域とバス停での禁煙徹底

市民、観光客への受動喫煙防止策の周知徹底
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
27

室内空気汚染防止―殺虫剤・防虫剤・除菌剤・芳香剤の使用に関する対策

公共的施設、住宅地域、一般家庭から発生する空気汚染源の排出規制を促す啓発の策

全国の自治体の取り組み資料を添えて届出
10.4.
『タバコに放射性物質』
(日経サイエンス 2011 年 4 月号)(オリジナル:Scientific American Magazine 2011 年 1 月号)
(原題:Radioactive Smoke
著者:Brianna Rego)
放射性同位体ポロニウム 210 は,多くの人が考えているよりもずっと身近なところにまで広がっている。世界で年間
に 6 兆本近いタバコが吸われているが,その 1 本 1 本が少量のポロニウム 210 を肺に送り込んでいるのだ。
植物のタバコには低濃度のポロニウム 210 が蓄積する。その大部分は肥料に含まれている天然の放射性元素か
ら生じたものだ。喫煙者が吸入したポロニウムは肺の“ホットスポット”に定着し,がんを引き起こす原因となりうる。ポロ
ニウムはタバコの煙に含まれる発がん物質として主要なものではないだろうが,それでも米国だけで年間に数千人が
このせいで死亡していると考えられる。
そしてポロニウムが他の発がん物質と異なるのは,これらの死が単純な対策によって避けられたはずだという点だ。
タバコ産業はタバコにポロニウムが含まれていることを 50 年近く前から知っていた。私はタバコ産業の内部文書を調
べ,メーカーがタバコの煙に含まれるポロニウムの濃度を劇的に減らすプロセスを考案までしていたことを発見した。
しかし巨大タバコ企業はあえて何もせず,その研究を秘密にすることに決めた。結果として,タバコは現在もまだ半世
紀前と同量のポロニウムを含んでいる。
しかし,状況は変わろうとしている。2009 年 6 月,オバマ大統領は「家族の喫煙予防とタバコ規制法」に署名した。
この法律によって,タバコは初めて米食品医薬品局(FDA)の管轄下に置かれ,FDA はタバコの特定の成分を規
制できるようになった。タバコの煙からポロニウムを除去するようタバコ産業に義務づけるのが,タバコの害を少しでも
和らげる最も明快な方法だといえるだろう。
10.5.
暗殺に使われた放射性物質ポロニウムがタバコに含有
1 日 1∼2 箱の喫煙で胸部レントゲン写真 300 枚分の被曝

「Puffing On Polonium(邦訳:ひとふきのポロニウム)」(2007 年 1 月 14 日 ニューヨーク・タイムズ記事より抜粋)
2006 年 11 月、ロシアの反体制活動家であったリコビネンコ氏が毒殺され、遺体から大量の放射性物質 210(ポロ
ニウム)が検出されて話題になった。このニュースで衝撃が走ったのは、タバコ業界である。遅くとも 1960 年以来、
理由は不明だがタバコにかなりのポロニウムが含有されていることはわかっていた。daughter products であるウラ
ニウムは土壌に自然に存在しており、それが選択的にタバコの木に吸収され、そこで崩壊して放射性ポロニウムとな
る。高濃度のリン酸を含む肥料は、ウラニウムがリン酸と結びつくことからさらに事態を悪化させる。
1968 年、米国タバコ会社はどのくらいの量のポロニウムが含まれているかを調べるため、精密な分析技術を用い
て調査したところ、タバコ 1 本平均 0.04 ピコキュリーのポロニウム 210 を喫煙者が吸引していると判明した。しかも、
フィルターはほとんど役に立たない。
1 兆分の 1 キュリー(ポロニウムを発見したマリー&ピエール・キュリーにちな
んでつけられた放射線量の単位)というごくわずかな数字であるため、たいした
量に感じられないかもしれないが、忘れてはいけない。われわれは、長崎に落
とされた爆弾のプルトニウム以上の率でアルファ粒子(肺癌でいえば最も危険)
を放出する放射性核種の話をしているのだ。ポロニウム 210 の半減期は 138
日で、初期の原爆の核燃料より何千倍も強い放射性物質なのだ。
また、世界中には毎年 5 兆 7 千億本ものタバコが喫煙されていることも忘れ
てはならない。地球から太陽まで往復して戻れるくらいの、そして、余りで火星
28
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
(左)平常時、(右)亡くなる前、のリトビネンコ氏
右の写真では、頬もこけ、髪も抜け落ちている
にも立ち寄れるほどの本数である。もし、1 本 0.04 ピコキュリーのポロニウムであれば、世界で最も有毒な放射能が
年間およそ 1/4 キュリー吸引されているのである。1 箱半吸う愛煙家では、1 年で X 線検査を 300 回受けるに等し
い被爆量となる。
これでも、英国の政府が言ったように、少ないといえるのか?リコビネンコ氏に特別に調達されたのならその見解も
よかろう。しかし、ロンドンの喫煙家(および間接喫煙者)を全体としてみた場合、元スパイの寿司に入れられたポロニ
ウム 210 以上の量が毎日吸引されているのである。
(中略)
タバコ業界はもちろん、タバコ煙に含まれるさらに他の毒に注目が集まるのを避けたいだろう。ヒ素、シアン化合物、
ニコチン、どれも非難に値する。しかも放射線とは・・。この金のなる葉の謎がますます明らかになったために、もはや
タバコ業界は自分たちをキャンディーやコーヒー企業と同列に扱って経営を維持することが難しくなっているだろう。
数々の訴訟でも明らかなように、タバコの危険性は周知の事実である。しかし、危険性を認識した喫煙家たちでさえ、
タバコの煙が放射能を浴びていることを知ったら驚くのではないだろうか。そして、毒殺された KGB スパイから湧き
上がった意外な恐怖は小さなモグラ塚に過ぎず、目の前に屹立するのは「癌」という大山であるのかもしれない。
著者 Robert N. Proctor 氏は、スタンフォード大学の科学史教授である。
10.6.
タバコの煙=微小粉塵 PM2.5 と環境基準値
(2009 年 9 月 9 日 環境省)
環境省 「微小粒子状物質に係る環境基準について告知」 によれば、
微小粒子状物質に係る環境基準は、
1 年平均値が 15μg/m3 以下であり、かつ、1 日平均値が 35μg/m3 以下。

(日本の基準値は WHO の 6 倍)
PM2.5 基準値は 15μg/m3(0.15 ㎎/m3)

発症は 4μg/m3
タバコ煙濃度と健康影響 (日本禁煙学会ファクトシートより)
受動喫煙の程度
PM2.5測定値

わずかにタバコ臭を感ずる
1μg/m3

目・鼻・喉の刺激症状出現
4μg/m3
10.7.
タバコとアスベスト ∼喫煙と石綿による発がんリスクの増大∼
(独立行政法人 環境再生保全機構 Web サイト アスベスト(石綿)関連疾患より抜粋)
(http://www.erca.go.jp/asbestos/what/higai/index.html)
石綿健康被害救済制度の対象となる疾病は、中皮腫と石綿による肺がんです。石綿関連疾患は石綿ばく露開
始から発症までの潜伏期間が長いことが特徴です。
石綿ばく露
肺がん発生の最大の要因は喫煙であり、石綿と喫煙の両方のばく露を受け
ると、肺がんの危険性は相体的に高くなることが知られています。喫煙しない
なし
あり
人の肺がんの危険性を 1 とすると、喫煙者は 10 倍、石綿ばく露者は 5 倍、喫
非喫煙者
1
5.17
煙をする石綿ばく露者は約 50 倍とする報告があります。肺がん発生の危険性
喫煙者
10.85
53.24
を減らすためには、禁煙することが大切です。
石綿ばく露と喫煙が肺がん死亡の相対危険度に及ぼす影響
Hammond & Selikof(1979)
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
29
10.8.
敷地内完全禁煙が必要な理由
(日本禁煙学会 受動喫煙ファクトシート 2 より)
(http://www.nosmoke55.jp/data/1012secondhand_factsheet.html)
アスベストと比べ規制の緩い受動喫煙―タバコ臭知覚限界濃度で、10 万人中 100 人∼600 人死亡。国の

受動喫煙規制はアスベストよりも 1600 倍ゆるく罰則なし。

ごくわずかにタバコ臭を感知できるレベルの受動喫煙環境はすでに、アスベストの規制基準を二桁越えた致死
的汚染環境である。

敷地内完全禁煙化だけが法の下の命の平等を担保できる唯一の受動喫煙対策である。
「ほんの少しタバコの臭いがする」とき、そこはアスベスト敷地境界基準を 100 倍越えた危険区域となっている。

微小粉塵 PM2.5 とは
1.
肺の組織をただれさせてむくみをもたらす
2.
ウイルスや細菌が肺の中で病気を起こしやすい環境を作る
3.
肺や気管支の病気をさらに悪化させ、急速に肺の働きを落とす
4.
肺の炎症を悪化させ、心臓の働きを妨げる化学物質の発生を増やす
5.
血液をドロドロにする化学物質を放出して心筋梗塞の危険を高める
【出典】Particulate Matter Air Pollution and Health Risks(ジョンズホプキンス大学公衆衛生学部資料)
残留農薬やアスベストの害から私たちの命を守る対策と同じレベルの対策を、受動喫煙に関しても実行してほし
いのです。
10.9.
厚生労働省 受動喫煙防止対策についての通達
(2010 年 7 月 30 日 厚労省健康局総務課生活習慣病対策室長 通達)

施設の出入り口付近にある喫煙場所の取扱について
法第 25 条では、「受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」ことと規定して
いる。
法第 25 条の「受動喫煙」には、施設の出入り口付近に喫煙場所を設けることで、屋外から施設内に流れ込んだ
他人のたばこの煙を吸わされることも含むため、喫煙場所を施設の出入り口から極力離すなど、必要な措置を講ず
るよう努めなければならないところである。
なお、施設を訪れる人が、その出入り口において、たばこの煙に曝露されることも指摘されているところであり、この
点についても、ご配慮頂きたい。
11.
有害物質 SOS 受信 訪問記録
11.1.
自宅にタバコ臭と香臭-咽頭炎と副鼻腔炎が続いて更に重症に
(京都市 N.O)
私は相当にひどいのでしょうか・・。
今日から京都へ母がきてくれたのですが、母がきていた服でさえ、においがきつくてた
えられず、違うものにしてもらいました。生協の洗剤なので、そんなに悪いものではないと
思うのですが、それさえもだめなのです。
体調がとてもよくないとは思っていましたが、かなり悪いようですね。
それと、季節柄の話ではないのですが、お伝えするのをすぐに忘れてしまうので、追記します。
30
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
先日ご一緒させていただいたホテルですが、玄関で蚊取り線香を使われていました。
私には蚊取り線香もかなりきつく、のどが絞まります。タバコなみにきついのです。なので、もしよければ、
こんなものもあるので、ご検討いただければ幸いです。(http://www.binchoutan.com/blackhole/)
実家で使っていますが、効果はてきめんです。初めは文句を言っていた家人も、蚊取り線香より効率
がよいと喜んでいました。
*居室訪問の際に強いタバコ臭と香臭が室内に侵入する実態を確認、面談で家族全員に症状が出ていることも判明、実
家に暫く滞在するとすっかり回復したとのこと。しかし遠方なので、最悪の場合の一次避難先として 10 月半ば、全館禁煙
ホテルへ案内したのです。在宅中の近隣からの空気汚染による健康被害は、発生源を防げなければ解決しない難問題
です。
11.2.
路上喫煙、歩行喫煙、店頭喫煙の実態 (京都市内にて)
(「他地域から訪れた人も、息を止めて走るように通り過ぎている」という「つぶやき」より)
京都の大通りでは、コンビニの前や飲食店やビルの道路際などに、概ね 100 メートル毎に設置されている喫煙所
から、タバコの煙が吹き出され、常に残留ガスが漂っています。

道路から 1 センチ入れば敷地内であるという見解が通用しているということです。

京都市路上喫煙禁止地域も路上喫煙、歩行喫煙がまかり通っています。

路上喫煙禁止取締指導員の姿を見たことは未だありません。
11.3.
ダウニー被害について
(メールフォームに寄せられたお便りから)
初めまして。化学物質過敏症の事を調べていて、カナリヤ会様のことを知り、メールさせて頂きました。
私は化学物質過敏症を発症し、あらゆる微量の化学物資へ反応を起こしている状況ですが、その中でも毒性が
明らかにはなっていない点で、非常に危惧している物に、柔軟剤のダウニーがあります。
隣人がダウニーを使用しており、窓を開ければ隣人宅のダウニー臭で頭痛や、イライラ等気
分不良が起き、自由に換気もできない状況です。
ダウニー臭に反応するのは、私のように過敏症を発症した人だけでないようで、私の主人は
過敏症ではありませんが、頭痛・吐き気・めまい・イライラ等、私と同様の症状が出現します。
ネットで調べてみると、このようにダウニー臭による健康被害を受けている人は非常に多いよう
で、アメリカでは毒物が入っているとされているとの意見も出ていました。
ダウニーの使用者もたばこ喫煙者と同様で、他人に害を与えているのですが、たばこと違う
のは、ダウニー使用者は自分自身が毒物を他人にふりまいている(自分も暴露している)という認識が皆無という事
です。
輸入品のダウニーは日本の水質に合うような改良を施されていないという点で問題があると、消費者センターの
方もおっしゃっておいででしたが、街や公園でダウニー使用者に遭遇する頻度が高く、その臭いが自身に付着し、自
宅へ持ち帰ってしまうほど、強烈です。(中略)
現在、学級崩壊寸前または、しているクラスが多数あると聞きますが、背景にダウニー等による化学物質の連続
的な暴露が関係しているのではないかと危惧しております。
ダウニー使用や輸入を制限される事を望んでおりますが、どこへ意見を伝えたら良いかわからず、今回、メールさせ
て頂いた次第です。何か良いお知恵を拝聴できましたら、幸いです。
*<返信> 当会会員も殺虫剤・消毒剤・除菌剤と同様に強い香料含有製品の使用による空気汚染の健康被害を
訴えています。長時間を過ごす住宅居室に侵入する空気汚染の被害はタバコと同様にダウニーも慢性中毒の症状
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
31
となると考えられます。香料が強いため、臭いに弱い人、とみなされますが、まずは界面活性剤、そして何種類もの化
学物質で合成した香料と共に影響していると考えられます。
タバコ対策と同様に受動被曝防止通知が出るように、体調が悪くなった時の場所と状況を記録して、(時には主治
医の診断も)、国民生活センターへその都度、届ければ被害が記録され、多数となれば国の対策に繋がると考えて
います。当会の会員の場合は、VOC 測定機持参で現場に出向いて実態を確認の上、会として所轄先へ届け出ま
す。以上、ご参考までに申し上げます。 お大事になさって下さい。
11.4.
慢性の口内炎、舌に潰瘍・・・体調不良の原因はパラジクトイレ剤とダイオキシン類似物質
(京都市内会員宅訪問)
症状を伺って、2 度の訪問をしました。最初は敷地内、室外で殺虫剤の痛みを、室内ではタバコの
残留煙のような痛みを感知しました。2 度目は VOC 測定機を持参して確認しました。窓を開けてい
た時、室内に入って計測すると基準値より高い数値が出ました。しばらくして窓を閉めると VOC の値
が下がり基準値に近くなりました。しかし、閉めた後に微かにタバコのような目、鼻、のどへの刺激を感
知しました。敷地内外の状況や前日の生活などを伺いました。
結果として、外から入って来る VOC は隣家のトイレ排気口からのパラジク剤、窓を閉めても残留していたのは大
量の焙煎による燃焼ガス=フランではないかと判断しました。どちらも発ガン性物質です。
筆者もタバコの煙、残留ガスほか化石燃料などの燃焼ガス臭に曝され続けると同様の症状があらわれます。
*フランは煮たり、焙煎したりする加熱工程で生成されるとされています。「フラン類」は塩素
化ジベンゾフラン類の略語として用いられ、ダイオキシン様の性質を持つ環境汚染物質です。
*<参考資料>食品安全委員会 食品安全総合情報システムよりフランファクトシート
ドイツ連邦リスク評価研究所(BFR)、フランに関する Q&A を公表 2011 年 11 月 22 日
http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03480030314
12.
会員便り
12.1.
遺伝子組み換え食品と食物アレルギー
(京都市 T.N)
この春、入会させていただきました 2 人の息子をもつ母です。
アレルギーの会で、京都カナリヤ会主催の講演会を知り、過去に何度か参加させていただきました。
化学物質のみならず、電磁波や金属アレルギーなど、私自身にとって大変、興味深い情報をいつも発信して下さ
るカナリヤ会はとても心強い存在です。今回は初めての投稿にあたり、家族のアレルギーと、そこから見えてきたこと
について書かせていただこうと思います。
我が家は夫のアレルギーが軽いので、主に 2 人の息子と私の症状に右往左往しながら、そこから多くのことを学び
つつ年をかさねてきました。
まずは、長男。(現在高校 1 年)。生まれて間もない頃からアトピー皮膚炎が全身に広がり、卵、乳、豆、小麦、米、
魚など多種の食物アレルギーであることが判りました。母乳育児を続けるために私も一緒に食事療法を始め、日々
の除去食づくりに追われながらの子育てでした。
この時、私たち家族の食生活は激変したわけですが、限られた食材とシンプルな調理から、素材そのものの味わ
いが分るようになり、身体に合った食べ方、食の安全、どこでどのような思いでつくられたものなのか等に、しっかりと
32
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
目を向けるようになりました。実際に土に触れる機会も増え、『いただきます』の意味を知りました。
「除去」という意識が強かった時は、涙が出そうになった経験も度々ありましたが、「選択」という感覚にスイッチを切
り替えることができてからは、その時に出会った食材やモノ、つながり、経験を生かした暮らし方を選べるようにもなり
ました。
食の安全に目を向けると、自然に、土、水、空気などの環境にも意識が広が
り、その頃「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」のことを知りました。
わずか数年のうちに 3 度も新築・改築家屋への入居をくり返していた私自身が
シックハウス症候群の症状をかかえていることに気付きました。
長男が 3 才の頃、緑に囲まれた築 30 年近い中古住宅に移ったのちに、食物
アレルギーの症状は次々とよくなり、化学物質がアレルギーの発症の大きな背
景として存在していることを実感しました。
幼稚園や学校では、ワックスがけや教材・消毒液・トイレの芳香剤などの使用
について相談をしながら、できる範囲で配慮をしてもらい、体質とつきあいながらも元気に通うことができました。
私自身もふりかえってみると、実家にシロアリが発生し、駆除剤を散布した頃に結膜炎や鼻炎などの症状が出て、
初めてアレルギーの診断を受けていました。その後の様々な不調に、タバコ・殺虫剤・香料をはじめ身近に発生して
いる多種類の化学物質が関連していることにも気付きます。
一度、排ガスや化学物質の少ない環境に身をおくと、身体に合わないものがとてもよく分るようになり、食以外の暮
らしの中のものも、できる限り環境に優しく安心できるものを選ぶようになりました。
次男(現在小学 6 年)は、1 才をすぎた頃から、中耳炎や下痢・じんましんをくり返し、アレルゲンも症状も変動的で
した。皆と違うことにストレスを感じる性格だったので、メンタル面を重視しながら、アレルギーとつきあってきました。
そんな次男にとって、何よりも難題だったのが、「遺伝子組み換えトウモロコシ」のアレルギーでした。他はわりと軽い
症状ですんでいたのですが、コーンだけは、わずかな量でもきつく反応することがあったので、数年間は除去をしてい
ました。その時に、日本の食卓には遺伝子組み換え作物が様々なカタチに姿を変えて入っていることを知りました。
コーンひとつをとってみても糖類(ぶどう糖・液糖・果糖・オリゴ糖・水飴・粉糖)・油脂(植物性油脂・マーガリン・ショ
ートニング)・でんぷん(コーンスターチ・デキストリン)・アルコール(酒・ビール・みりん)酵母エキス・蛋白加水分解
物・アミノ酸・クエン酸 等々…。
しょうゆ・みそ・酢・ソース類にいたるまで、大手メーカーの調味料にはコーン
由来の成分があらゆる形で入っているので、和洋菓子類・ジュース・加工食
品・外食はまずコーンはさけられません。うっかり食べた塩コショウや餅とり粉で
症状が出たりしました。コーン由来の成分はほとんどの治療薬や点滴にも入っ
ています。普通の日常からは、遺伝子組み換え食品はさけることが出来ない
という現状を知りました。
「遺伝子組み換えでない」と表示のあるものでも、実際には数パーセントの混
入が認められているので、アレルギー症状が出てしまったこともあります。また
飲み物や菓子類に多用される糖類などには表示の義務さえありません。
混入を認めざるを得ない状況の背景には、防ぐことのできない遺伝子汚染の現実があります。種や花粉は、風や
虫や鳥たちに運ばれ、命を増やします。日本でも認可されていないナタネが自生していた現実があり、また食用とし
て認可されていない飼料用コーンが食品から検出されるという想定外の過ちが、息子のアレルギーにもつながりまし
た。 卵や乳製品のアレルギーと違って、遺伝子組み換え作物のアレルギーは、周りの理解がほとんどなかったこと
も、長男の時と全く異なった大変さがありました。
殺虫成分をもつ作物が、繁殖をするという面では、農薬以上の怖さを感じます。放射能汚染と同じく、人の手で完
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
33
全に管理できるものではない現実がありながら、日本でも次々と認可は進むばかりで、残念でなりません。様々な生
き物の生態系におよぼす影響も大きく、種の違いをこえて命を操作する人間よがりな技術は、地球全体の命を考え
た時に必要のないものと私は強く感じています。
こんな風に、子育てとともに、「なぜ?」「どうしたらよいの?」で始まる日々の学びが、今もなお続いているところです。
おかげ様で、息子たちはひとつひとつハードルを飛び越えては、元気に成長する姿を見せてくれています。家族ひと
りひとりが、心地よい時間や好きなこととのバランスをとりながら、無理なく暮らせる方法で、自分のこころと身体とうま
くつきあってゆけるように、これからもカナリヤの声に耳を傾けながら、人を健やかに育む生活環境を見出していきた
いと思っています。
9 月の学習会*に参加して
12.2.
(大阪府 T.H)
*2011 年 9 月 11 日 京都府立大学大学院医学研究科教授 伏木信次先生の講演
「こどもの脳を環境化学物質から守る」
私は今年の夏から京都カナリヤ会に入会しました。
早速、外部学習会の案内が届いて、勉強させて頂きました。
6 年前、私の住む住宅地の近くに廃プラスチック処理施設ができました。その後、
私はここから発生する大気汚染が引金となって体調不良が続きました。そして昨年 6 月に化学物質過敏症と診断
されて通院していますが、化学物質が人体にどのような影響を及ぼすのか、もっと知りたくて講演会に参加しました。
講演の内容は、プラスチックなどの原料となるビスフェノール A がこどもの脳に及ぼす影響についてでした。
こどもの脳は、胎児期から生後 1 年までに作られる、その間に母体を通じて化学物質の曝露を受けると脳に何ら
かの影響を及ぼす。暴露はこどもの食事、呼吸、皮膚を通じて生じ、又、体重比の体表面積は大人に比べて大きい
ため、一段と化学物質への曝露が多くなり、こどもたちは将来にわたって発病するリスクが高くなる。又、母親に蓄積
された化学物質は母乳からこどもに移動する。ビスフェノール A のマウス実験では 4 代まで継世代影響があると聴き
ました。
環境中の化学物質は、煙草、農薬、薬物、食品添加物、プラスチック素材、重金属、メチル水銀、PCB などがあ
り、1950 年頃から急速に増え続けて、現在 10 万種以上となって大量に生産されている。これらの化学物質がタバ
コの煙や排ガスの他、プラスチック製品や食品トレーとして使用し廃棄され、また燃やされた時、または農薬、塩素
剤などの薬品が複合的に作用した時、猛毒ダイオキシンが発生する。
ビスフェノール A は、当初、内分泌系や生殖器系への影響が注目され思春期早発や乳腺、前立腺、行動障害へ
の影響が懸念されていたが、近年では神経系への影響に関するデータが報告されている。
また、プラスチック製造に使用されたビスフェノール A が溶け出る為、人体への影響と大気や水質の汚染を予防す
るためにプラスチックに代わる代替品を見つける事が急務であると言われましたが、一日も早く代替品が見つかる事
を祈りたいと思いました。
今年から始まったエコチル調査も、調査結果の取り纏めは 13 年後であり遅いので、暮らしの中で環境に関心を持
って見つめる事が必要と感じます。学習会に参加して、京都カナリヤ会が活動されている重要性が良く解りました。
*2011 年 8 月 2 日から建物内全面禁煙を実施した後の京都府立図書館 3 階会議室が
学習会の会場でした。講演開始 20 分後辺りから強い目、鼻、のど、頭痛が始まり、場内
で数人が咳始めて以後 90 分程、この状態が続きました。タバコの煙のような刺激臭であ
ったため、敷地内喫煙所に面した会議室であった可能性があります、次回 PM2.5 で測定
し確認したいと思います。
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京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
12.3.
こどもたちにセンスオブワンダー育む環境を
(京都市 M・T)
我が家は、緑が目に心地よく四季の感じられる舟山のそばの賀茂川沿いで景観の良い所で
す。ところが 体にとっては良好ではなく…、田畑やゴルフ場に囲まれ農薬に汚染された環境で
ある事に、こどもの体を通して気づきました。
初夏には沢山いたオタマジャクシやカエルが、ある日を境にいなくなる田んぼがあったり、田
んぼからの水が流れこむ小川があったり、その小川で遊んでいた息子の足指の皮がひどくむけ
るので医療機関を受診しました。診断の結果は当時、出回ったばかりのネオニコチノイドによるも
のだと言われました。数年前のことです。
先日、生後 7 ヶ月の末っ子と散歩がてらに賀茂川で遊ぶこども達の様子を見に行きました。
とても楽しそうに遊んでいたのに急にそれぞれが声を荒げてもみくちゃになり遊びを終了してし
まいました。いつも穏やかな子ばかりなのに…と気になりました。
帰宅してすぐに末っ子は顔が真っ赤になり、その夜は眠れずひどい下痢が続きました。
最近は化学物質への感度もそれほどでもなかった上の子達も胸の痛みや、
お腹の具合が悪くなりました。賀茂川で何か影響を受けたのではと思います。
末っ子の下痢はその後の受診で CS 症状とわかりました。
外で遊ぶ事が何より大好きなこども達です。何も知らないまま、今でも『花
が咲いてたよ―!』と かわいい花束を持ち帰ってくれたり『ハートの石を見つ
けたよ!』と石にメッセージを書いてプレゼントしてくれる長男。次男は家で広
告の紙でくるくる棒を作りながら『木の枝は太い方が強くて折れへんやろう?
くるくる棒は細い方が強くて折れへんのは なんでやろうなぁ…』と不思議そうに考えていました。
レイチェル.カーソンの『センスオブ ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性』って こんな
事かなと感じたある日の息子たちのつぶやきでした。
こどもたちの好奇心を刺激して五感を育てるには良好な環境が必要です。それは、こどもたちの
発想力、創造力へとつながります。 小さな頃から山の中を歩き、自然の中の美しいものを美しい
と感じ、小さな草花をあちこちで見つけ、美味しい実を味わい、寒い時は痛いくらい寒い事を知り育
ってきたこども達が、外遊びに手足を目一杯のばして存分に楽しめる環境であってほしいと願う日々です。
12.4.
小児ガンと宣告されたわが子は 3 歳に
(京都市 N.T)
平成 21 年 1 月に 370g のこどもを帝王切開で早産しました。産まれてすぐの我が子は手のひらにのる大きさでし
た。医師からは、3 日∼1 週間がやまですと宣告され、涙が止まりませんでした。何が原因だったのだろうか、カナリ
ヤ会の講演会に参加して森千里先生の「へその緒が語る体内汚染」で知った環境ホルモンやタバコの影響を疑い
ました。まさかわが身に降りかかるとは思っていませんでした。
いろいろな困難を乗り越えて 1 歳間近になった我が子に肝芽腫が発見され抗癌剤の治療に入りました。副作用に
耐えての治療も暫くして薬か効かなくなったので、こどもの肝臓を全部摘出して入替える生体肝移植を勧められまし
た。しかし、全身麻酔で命の保障が出来ない怖さに手術を断念し退院しました。生まれてから初めての退院生活に
喜びと不安を持っていました。こどもの体に聞きながら、温灸・マッサージ、リハビリをして自然食を摂っ
たり、本を読んだり歌ったりして聴かせています。そして余命 3 カ月と見放されたわが子は今も元気で
す。こどもに良かったことは家族全員で試して皆元気です。
これも今まで関わって下さった沢山の方々のおかげと感謝しています。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
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13.
お知らせ
13.1.
11 月 9 日 京都ロータリークラブ様より授与された寄贈品と誉のことば
「見えない有害物質から健康と環境を守る」京都カナリヤ会
プレゼンテーション表紙

贈呈目録
寄贈品 PM2.5 微粒子測定機
贈呈式にて下記のとおり、当会の活動に誉のことばを頂きました。
<京都ロータリークラブ社会奉仕事業−環境問題への指針>
3.11 の福島原子力発電所の事故で、我々は突如として放射性物質という、日頃あまり意識していなかった存在
を突きつけられました。何が起こるのかという恐怖に日本だけでなく世界が震撼しました。
「世界中の空気も水も循環し国境はないのだ」ということを思い知らされました。次世代の遺伝子にまで長期にわ
たり影響するのにも関わらず、放射性物質は目に見えにくく、不安だけが膨らみます。
現代、我々は大量且つさまざまな「目に見えないもの」の脅威に晒されて生きています。文明と共に激増した化
学物質は相乗的に我々の環境を取り巻き、次世代の生命や、共生している他の生物たちをも脅かしています。そ
れゆえ今年度は、環境問題の対象に「目に見えないものの影響」を取上げたく思います。他の委員会とも連携し、
多くのロータリークラブの会員に学びの機会を持っていただき、様々な事業を営んでいる会員の立場から、環境に配
慮した商品開発・流通・サービスのあり方などを考える良い機会になればと思います。
「京都カナリヤ会」という市民の会があります。会員の中には「目に見えない有害物質」に過敏に反応するあまり、
通常の生活の困難な方達がいます。
「京都カナリヤ会」は、その方達の支援活動と共に、専門家の協力を得て原因を探り、知識を深め広く広報し、予
防活動を地道に行っておられます。専門家の方々も会員もすべてボランティアです。
地道な活動が今までもメディアで取上げられましたが、最近は「クリーンな京の施設どこ?」という活動が京都新聞
に掲載されました。
会員と施設と一般社会が協力してゆくと、未来のこどもたちにも良い環境が与えられます。「目に見えない有害物
質」を知ることは、自分と家族のみならず、周囲の人たちもお互いに安全な配慮をすることになります。
しだいに「目に見えない有害物質」は淘汰されてゆくでしょう。
今年度は「京都カナリヤ会」に学び、支援の対象にしたいと考えます。
*京都ロータリークラブ―国際的な社会奉仕連合団体―
世界初の奉仕クラブ団体「国際ロータリー」のクラブとして 1925 年設立。
国際ロータリーは 200 以上の国と地域に 33000 近くのクラブを擁し、会員数は 120 万人以上。職業奉仕(会員の職
業倫理を高めること)と、そこから広がる社会奉仕および国際親善を目的とする団体。
*資金も人手も僅かな私たちの活動に設立から 5 年を前にして思いがけないサンタクロースのように念願の測定機を
授けて下さり、カナリヤの声に耳を傾けて下さったことは、大きな支援であり社会貢献であると感謝しています。
36
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)

PM2.5 測定機による受動喫煙の実態調査について
公共的施設を中心に巡回し、データは受動喫煙防止対策の改善を促すための資料とします。
会員からの依頼または紹介により、個人住宅における受動喫煙の実態調査にも赴きます。
13.2.

住宅困窮 弱者への支援・人権啓発の窓口紹介 2 件
1.人権侵害を許さない社会へ
「許されません!住まいに関する差別」 京都府知事 山田 啓二
(府民ニュース 12 月号で案内されました。)
賃貸住宅に関する入居問題 : 家主から入居を断るように言われたことはありますか?
府内の宅地建物取引業者を対象に「人権問題についてのアンケート」を実施。同和地区や高齢者、障がい者など
に対する、住まいに関する差別の実態が明らかに。不動産購入の際に同和地区の所在地などを問い合わせたり、
高齢者や障がい者、外国人であることを理由に賃貸住宅への入居を断ることは許されない行為です。一人ひとりが
自分自身に関わる人権の問題としてとらえ、正しい理解を深めましょう。
[問い合わせ先]
人権啓発推進室
TEL:075-414-4271
FAX:075-414-4268
建築指導課
TEL:075-414-5341
FAX:075-451-1991
*化学物質に感度の高い人が契約を拒否され、または入居しても虐待にも等しい空気汚染(タバコの煙や殺虫剤、
揮発剤等)によって健康被害が続いて住居を追われるというケースがあります。

2.マンション・集合住宅における受動喫煙被害の撲滅に向けて
(公益社団法人 受動喫煙撲滅機構)
当機構は、神奈川県の受動喫煙防止条例を県とともに県民に周知し、受動喫煙被害をなくす為に活動する公益
社団法人です。マンション・集合住宅等におけるタバコの煙に関する受動喫煙被害等の問題は、昨今、社会問題化
しています。当機構では、その実態を把握し、具体的に被害をなくす為の是正措置を講じる為に、被害の実態を下
記の内容で記載された届出の書面にて受け付けています。
1.
近隣からのタバコの煙で困っている内容と受動喫煙問題に関するご意見などもお聞かせ下さい。
2.
住宅管理組合や自治会に受動喫煙防止対策を願い出ましたか。
3.
その対応はいかがでしたか。
届け出の送付先は、下記の FAX 宛に送り下さい。 (住所・氏名・年齢・電話・居住状況を明記の上)
[連絡先]
〒231-0015 横浜市中区尾上町 1-4-1 ST ビル 10F
TEL
045-228-8523
FAX
045-228-8475
公益社団法人 受動喫煙撲滅機構 理事長 田中 潤
13.3.
若狭大飯原発-運転再開に反対―署名用紙を同封しています。
13.4.
11 月 9 日授与式挨拶文と資料(赤ちゃんに放射能の危険) ― 同封しています。
13.5.
「きれいな空気」の施設推薦と啓発活動
「きれいな空気」啓発活動では引き続き、優れた施設に表彰プレートを配布しています。
京都市内で空気質の管理に優れた施設の推薦をお願いします。
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
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14.
カナリヤの視点
私たちは今、発ガン物質の海に生きている。
3.11 以降、日本列島全体が多かれ少なかれ放射能に覆われ、人々は不安の中で暮らしている。
自然災害は繰り返し被害の爪痕を残すが、一過性のもの。一方、人災∼放射能∼は持続的に被害をもたらす。
【原発事故】・・・人間を含むあらゆる生物と自然環境に、破滅的な影響をもたらしたのは誰か。
今回の原発事故が発生しなければ、私たちは日本に原発が 54 機も設置されていたことやそのリスクについて無
知だっただろう。2 度も原爆を投下された国の民として、為政者はもとより、学術団体・科学者は一体何をしていたの
か、50 年余りに亘ってどのような経緯で原発が導入されたのかを検証しなければ、日本の本当の夜明けは来ない。
【平気でウソをつく人たち 】 と、リスクにどう向き合うか。
原発の「安全神話」が崩壊し、政府や専門家への信頼が揺らぎ、原子力技術に対する視線は厳しくなった。放射
線被曝の不安の中で、市民自らによる放射線量の測定活動や、原発廃止のデモ・署名活動が全国に広がった。
この危機を乗り超えるためには、被災現場で専門家と市民が連携できるような科学技術を導入する必要がある。
今回の原発事故から出た大きな犠牲によって、市民が目覚め、民主主義が育ち、「市民社会に春」を予感させる
新しい方向性が見えている。しかし、【放射性物質にも劣らない有害化学物質や煙草の危険性】については叫ばれ
ていない。
放射性物質と化学物質は、暴露、有害性、症状、除染等に関して類似項が多く、ほぼ同様の対処が望ましい。
原発事故の影響は空間的、時間的に長大で、地球と生物にもたらす損失は計り知れない。他方、津波で流された
農薬等の化学薬剤も目に見えない放射性物質と同様、気流や海流に乗って拡散し、長い年月、消えることがない。
近年、世界で多発している自然災害やテロの脅威は、我々の身近にも迫っている問題であり、また、そこに介在
する放射性物質・化学物質の危険性と相互作用を考えれば、これらの対策は並行して取り組むべき課題である。
市民がこの危機を知って行動する時、「化学物質弱者にも春」の到来が期待できよう。
2011 年、当会はラジオ講座で 「地球と生命について∼水から環境を考える∼」を制作・放送した。
講師の山室真澄教授は“水から”は、“自ら” 考えるという意味を掛けていると話し下記のように論を展開された。
地球環境を破壊する有害化学物質、放射性物質など、ヒトの活動による環境汚染物質の排出量を抑える社会
への転換に向けて、排出規制、浄化技術など科学技術が重要である。同時に、自然環境の再生に必要なことは、
温故知新、つまり、原点に立ち返って市民と科学者・研究者、国と自治体が充分な科学的思考と手法に基づき合
意形成を行うこと。また環境教育を見直し、人々の暮らし方についても、市民が真実を知るよう努め環境意識を高
めることが必要である。
私たちは、今後のテキストとして、「沈黙の春」と共に、欧州環境庁編の 14 の事例から学ぶ予防原則『レイト・レッ
スンズ』で学び、広める。
命あるものをこんなひどい目にあわせる行為を黙認しておきながら、人間として胸の張れるものはどこにい
るであろう?――事態はいまやきわめて複雑だ。さまざまな形態の放射線や、あとをたつことなくつくり出されてくる化学
薬品の流れ、この先どうなるのか、見通すこともできない。直接、間接的に、個別的、集合的に押し寄せる化学薬品――
私たちの世界は化学物質の波をかぶってずぶぬれだ。私たちが身の回りにまき散らしている化学薬品には染色体を打ち
壊すだけの力が潜んでいる。放射線や、放射線と同じような性質の化学物質に身をさらすと、たいてい白血病にかかる。
ストロンチウム 90 と同じように、特に骨髄に引き寄せられるものがある。殺虫剤の溶剤に使われるベンゼンは、骨髄にたま
り、20 か月たっても消え去らない。突然変異誘発物で癌の原因となるものには、ほかにウレタンがある。ウレタン系の化合
物が胎内で胎児に影響を及ぼし、腫瘍ができることがある。カーバメイト系であるウレタンは、除草剤 IPC や CIPC に近い。
カーバメイトは,殺虫剤、除草剤、殺菌剤に広く使われ、ほかにもいろいろな可塑剤、薬品、衣類、断熱材などにも入って
いる。物理的因子と化学的因子が相互に作用しあうこともある。
38
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
――レイチエル・カーソン『沈黙の春』より
15.
危機を予告した科学者
「反原発の市民科学者」として一生を貫徹された高木 仁三郎 氏に学ぶ

高木 仁三郎 (1938 年 7 月 18 日 - 2000 年 10 月 8 日)
物理学者・理学博士(専門は核化学)
政府の原子力政策について自由な見地からの分析・提言を行うため、原子力業界から独立したシンクタンク「原子力資料情
報室」を設立、代表を務めた。原子力発電の持続不可能性、プルトニウムの危険性などについて、専門家の立場から警告を発
し続けた。(著書多数)
特に、地震の際の原発の危険性を予見し地震時の対策の必要性を訴えた他、脱原発を唱え、脱原子力運動を象徴する人
物としても活躍。原子力発電に対する不安、関心が高まった 1980 年代末には、新聞、テレビ等で度々発言が取り上げられた。
地震による原子力災害への警鐘
1995 年『核施設と非常事態 ― 地震対策の検証を中心にー』
(高木 仁三郎 「日本物理学会誌」 Vol.50 No.10, 1995)
【概要】
「地震」とともに、「津波」に襲われた際の「原子力災害」を予見した論文。「地震によって長期間外部との連絡や外
部からの電力や水の供給が断たれた場合には、大事故に発展」するとして、早急な対策を訴えた。福島第一原発
について、老朽化により耐震性が劣化している「老朽化原発」であり、「廃炉」に向けた議論が必要な時期に来てい
ると (1995 年の時点で) 指摘。 加えて、福島浜通りの「集中立地」についても、「大きな地震が直撃した場合など、
どう対処したらよいのか、想像を絶する」と その危険に警鐘を鳴らしていた。
【以下、引用】
『考えられる事態とは、(中略) 地震とともに津波に襲われたとき 』
『原子炉容器や 1 次冷却材の主配管を直撃するような破損が生じなくても、 給水配管の破断と 緊急炉心冷却系
の破壊、非常用ディーゼル発電機の起動失敗といった故障が重なれば、メルトダウンから大量の放射能放出に至る
だろう。』
『「原発は地震に対して大丈夫」という言い方は、上述のような疑問や不確かさに対して、すべてを楽観的に解釈し
た場合にのみ成り立つもの(中略)。 国や電力事業者は、「原発は地震で壊れない」ことを前提にしてしまっている
ため、そこから先に一歩も進まず、地震時の緊急対策を考えようとしない。』
友へ 高木仁三郎からの最後のメッセージ
(原子力資料情報室 http://cnic.jp/takagi/ より)
残念ながら、原子力最後の日は見ることができず、私の方が先に逝かねばならなくなりましたが、せめて「プルトニウ
ムの最後の日」くらいは、目にしたかったです。でもそれはもう時間の問題でしょう。すでにあらゆる事実が、私たちの
主張が正しかったことを示しています。なお、楽観できないのは、この末期症状の中で、巨大な事故や不正が原子
力の世界を襲う危険でしょう。JCO 事故からロシア原潜事故までのこの 1 年間を考えるとき、原子力時代の末期症
状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物が垂れ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、
今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。後に残る人々が、歴史を見通す透徹した知力と、大胆に現
実に立ち向かう活発な行動力をもって、一刻も早く原子力の時代にピリオドをつけ、その賢明な結局に英知を結集さ
れることを願ってやみません。私はどこかで、必ず、その皆さまの活動を見守っていることでしょう。
<編集後記>
昨年の米タイム誌「今年の人」は「抗議する人」であり、「アラブの春」が盛んに報道されました。
2012 年、再生に向かう日本は市民が立ち上がる転換期と捉え、表紙に「真水」の情景を載せて復興を祈願しました。今号で
は紹介できなかったジョン・ロールズの「正義論」∼最も不遇な人たちを助けるような社会の実現こそが正義∼に因み、空気汚
染を被って安息・安住を阻害され、彷徨う私たちが今こそ伝えたい内容をお届けします。
(表紙の写真は、山室真澄教授の撮影による富士五胡です)
京都カナリヤ会会報第 8 号 (2012 年 1 月)
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Kyoto Kanariya
2012
空気質向上キャンペーン
きれいな空気は健康と環境を守ります。
カナリヤが安息できるきれいな空気
Air Quality Sensor Kyoto Kanariya
発行日
発 行
2012 年 1 月 15 日
京都カナリヤ会 (編集責任者:広瀬晴美)
発
発
行
600-8127 京都市下京区梅湊町 83-1 ひとまち交流館 2 階
京都市市民活動総合センター メールボックス No.57
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発
発
行
行
行
行
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