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連続スペクトルを処理して合成する光の実験

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連続スペクトルを処理して合成する光の実験
高 校 物 理
連続スペクトルを処理して合成する光の実験
神奈川県立秦野南が丘高等学校
塚 本 栄 世*
目 的
光の連続スペクトルを処理して合成することにより
光の色および波長による光の性質の違い等に関する一
連の演示実験を行うこと。
概 要
従来、光のスペクトルは生徒一人一人が交代で分光
器を使って観察されることが多かったが、非常に能率
が悪かった。それに対して、スライドプロジェクター
の白色光を単スリットを通して回折格子レプリカフィ
ルムに入射させる(写真 1)と鮮明で大きな連続スペ
クトルを表示することができ、さらにそのスペクトル
をフレネルレンズ(写真 2)で集めることで光の再合
成が可能となる。この方法を使うと生徒全員が同じ光
のスペクトルを観察するので、能率的に実験を行うこ
とができる。また、2 つのスペクトルを比較しながら
実験を進めることは重要であるが、左右の一次の回折
光を使うとそのことを容易に実現できる。例えば、白
色光を連続スペクトルに分解しその一部を遮って再合
成することで自由にいろいろな色の光をつくり出し、
色フィルターによる光の吸収や、夕焼けがなぜ赤いか
青空がなぜ青いか、葉っぱはなぜ緑色か等の身近な色
に関する生徒の疑問に答えることができる。また、連
続スペクトルの一部を取り出して単色光をつくり、光
の干渉や回折と波長との関係を実験を通して示すこと
ができる。
写真 2 フレネルレンズ
教材・教具の製作方法
ø.製作に用いる材料
回折格子レプリカフィルム(ñ光洋 TEL 03-32131571、1mm あたり 905 本の溝)、フレネルレンズ(シ
ートレンズ U-5、A4 サイズ、シンワ測定ñ、DIY の店
で 1,350 円)、ホログラムシート(東急ハンズ、1mm
あたり約 200 本の傷が直角方向につけられている回折
格子シート)、裏が黒い工作用紙(クロワシ、4 切)、
レーザーポインター(秋月電子通商 TEL 03-32511779、670nm、800 円)。
¿.実験装置の製作
すべて装置は位置ずれ防止のため釣り用の重り(コ
イン 25 号)を取り付けてある。
1.単スリット
0.1mm 厚の剃刀刃をペンチで割り、約 1.2mm の隙
間を開けてスライドプロジェクター用のマウントに黒
のビニールテープで固定する(写真 3)。
2.レーザーポインターを固定する台
断面が 25mm × 40mm、長さ 5cm の木の棒に木工ド
リルを使って 13.5 φの貫通穴を開ける。この穴の中に
レーザーポインターを入れると側面のスイッチが押さ
れた状態になる(写真 4)
。
写真 1 実験装置の配置
*
つかもと えいせ 神奈川県立秦野南が丘高等学校 教諭 〒 257-0013 神奈川県秦野市南が丘 1-4-1
@(0463)82-1400 E-mial [email protected]
5
写真 3 スライドプロジェクター用のマウントに
固定した単スリット
写真 4 スライドプロジェクターからの光の出口付近
3.光のスポットを整える治具
水ようかんの容器の底に穴を開け、さらに縦 28mm、
横 6mm の長方形の窓を開けた工作用紙を貼り付けて
L 字金具で板に固定する。この治具をつけないとスク
リーンにスライドプロジェクターのコイルの形が映っ
てしまうが、この治具を付けるとコイルの一部だけを
見ることになり光のスポットが自然なものに見える
(写真 4)
。
4.回折格子レプリカフィルムを固定した台
縦 14cm、横 10cm のベニヤ板に縦 8.5cm、横 6.0cm
の窓を開け、長さ 10cm の角棒に固定する。棒の裏側
には直進する白色光を遮る縦 14cm、横 1.5cm のベニ
ヤ板を固定する。窓に回折格子レプリカフィルムをフ
ィルムに刻まれた溝が縦になるように固定する(写真
5)。
写真 5 回折格子レプリカフィルムを固定した台
6
5.フレネルレンズを固定した台
縦 25cm、横 32cm のベニヤ板に縦 20cm、横 27cm の
窓を開け、長さ 32cm の角棒に固定する。窓にフレネ
ルレンズを固定し、その上から縦 18cm、横 24cm の窓
を切り抜いた裏が黒い工作用紙を貼る。さらに、スペ
クトル観察用の板目紙 2 枚(縦 4cm、横 32cm のもの
と縦 8cm、横 32cm のもの)を工作用紙に貼る(写真
2、2 個製作)。
6.スクリーン
白ペンキを塗った縦 26cm、横 35cm のベニヤ板を角
棒に固定する(写真 1、2 個製作)
。
7.スクリーン用の棒
2 個のスクリーンの間隔が机の幅より大きいため、
長さ 1.3m の角棒を使う。
8.実験装置位置決め用台紙
模造紙を実験台の上に置き、その上にスライドプロ
ジェクター、レーザーポインター固定用の台、回折格
子レプリカフィルムを固定した台、フレネルレンズを
固定した台(2 個)、スクリーン用の棒を正しい位置に
置いて、紙の上に印をつける。また、分度器を拡大コ
ピーしたものを台紙の上に貼り(写真 6)、回折格子レ
プリカフィルムに入射した光の回折した角度θおよび
光の波長λを記入する。なお、λの値は d sin θ =n λ
の式に n=1、d=1/905[mm]、θ(分度器の目盛)を
代入して求める(表 1)。
写真 6 分度器の拡大図を貼り付けた台紙
θ λ[nm] θ λ[nm] θ λ[nm] θ λ[nm]
11 ゜ 211
21 ゜ 396
31 ゜ 569
41 ゜ 725
12 ゜ 230
13 ゜ 249
22 ゜ 414
23 ゜ 432
32 ゜ 586
33 ゜ 602
42 ゜ 739
43 ゜ 753
14 ゜ 267
24 ゜ 449
34 ゜ 618
44 ゜ 768
15 ゜ 286
16 ゜ 305
25 ゜ 467
26 ゜ 484
35 ゜ 634
36 ゜ 649
45 ゜ 781
46 ゜ 795
17 ゜ 323
18 ゜ 341
27 ゜ 502
28 ゜ 519
37 ゜ 665
38 ゜ 680
47 ゜ 808
19 ゜ 360
20 ゜ 378
29 ゜ 536
30 ゜ 552
39 ゜ 695
40 ゜ 710
表 1 回折角θと波長λの関係を示す表
9.窓を開けた工作用紙
光を通過させるための窓を開けた各種工作用紙を製
作する(写真 7)
。
写真 7
¿.白色光を連続スペクトルに分解する実験
スライドプロジェクターの白色光を単スリットを通
して回折格子レプリカフィルムに垂直に入射させ、そ
の一次の回折光をフレネルレンズを固定した台に映す
と、赤→橙→黄→緑→青→藍→紫と連続的に変化する
美しい連続スペクトルが観察され(各色の波長は台紙
に数値が記入されているので直読できる)、同時にス
クリーン上には白色のスポットが観察される(写真 9)。
裏が黒い工作用紙を用いた台紙
(写真は光の三原色の実験用)
10.各種フィルター
色セロハン、色の付いたプラスチック板、ゼラチン
フィルター等の各種フィルターを作る(写真 8)
。
写真 9
連続スペクトルを再合成して元の白色光に
戻す実験
¡.連続スペクトルの一部を遮って再合成する実験
1.夕焼け、青空についての実験
連続スペクトルの紫、青、緑の部分を裏が黒い工作
用紙で遮り残りの光を再合成するとオレンジ色(夕焼
け)になり、赤、橙、黄の部分を遮り残りの光を再合
成すると青みを帯びた色(青空)になる(写真 10)
。
写真 8 各種フィルター
学習指導方法
ø.実験前の調整(写真 1)
1.スライドプロジェクターに単スリットを入れ、台
紙の上にスライドプロジェクター、フレネルレンズ
を固定した台、スクリーン用の棒、スクリーンを置
く。
2.光のスポットを整える治具をスライドプロジェク
ターのレンズの前にセットし(写真 4)、暗幕を閉め
てスライドプロジェクターのスイッチを入れ、その
レンズを出し入れしてフレネルレンズと同じ距離で
正面に置いたスクリーンの上に単スリットの像が鮮
明に映るようにピントをあわせる。
3.レンズの下にレーザーポインター固定用の台を入
れてレンズが下がらないようにし、回折格子レプリ
カフィルムを固定した台を置く(写真 4、6)。
4.スクリーン上の光のスポットが白色になるように
左右のスクリーンの位置を微調整する。
写真 10 夕焼け、青空の色の実験
2.植物の葉が緑色に見えることを説明する実験
植物の葉が緑色に見える理由は葉緑素が光合成のエ
ネルギー源として白色光の中の赤と青の光を強く吸収
するためであるが、連続スペクトルの赤と青の光を遮
り残りの光を再合成すると緑色になる。
3.色フィルターによる光の吸収の実験
連続スペクトルの一部を遮り再合成すると自由にい
ろいろな色の光をつくることができ、例えば、青や赤
のセロハンを透過した光や赤紫色のプラスチック板を
透過した光(連続スペクトルの中には含まれていない
人工的な光)をつくることができる(写真 11、12)
。
7
¬.光の回折の実験
フレネルレンズの裏側にホログラムシートを当て、
連続スペクトルから取り出す単色光の波長を連続的に
変化させる(縦長の長方形の窓を開けた工作用紙を横
にずらす)と、スクリーン上の回折縞の間隔が色の変
化と同時に変化する。従って、d sin θ= n λにおける
λとθの関係を直接示すことができる(写真 14)
。
写真 11 赤セロハンおよび青セロハンの透過光と
そのスペクトル
写真 14 600nm(橙)と 410nm(紫)の
単色光を入射させたときの回折縞
√.レーザーポインターを用いた実験
連続スペクトルの上にレーザーの回折光を重ねると
点に見えるので、レーザー光の波長の幅が非常に狭い
ことが一目瞭然となる。なお、レーザー光の波長を台
紙に記入された数値で直読すると 665nm であった。
写真 12 白色光の連続スペクトルから人工的な
色(赤紫)をつくる実験
4.色の三原色および補色に関する実験
写真 7 のような工作用紙をフレネルレンズに当て、
色の三原色および補色に関する実験をすることができ
る(写真 13)
。
実践効果
ø.鮮明で大きな連続スペクトルを生徒全員が同時に
観察するので能率よく数多くの実験を行うことがで
き、生徒の光に対する興味を引き出すことができた。
¿.白色光を連続スペクトルに分解するだけでなく、
生徒自身の手でそれを再合成して元の白色に戻した
り、連続スペクトルの一部を遮って色が付くことを確
認したりすることで色に対する理解が深まった。
その他補遺事項
ø.生徒の反応
実験終了後の生徒の感想は「色の仕組みが分かった
ような気がする。」、「光を自由に料理するようで面白
かった。」、「光の回折縞の間隔が波長によって変化す
るのがよく分かった。」、「これからもいろいろな実験
を見せてほしい。」等、好意的なものがほとんどであ
った。
¿.研究の動機
写真 13 色の三原色に関する実験
8
「夕焼けと青空を再現する光散乱の実験」(「平成 8
年度東レ理科教育賞 受賞作品集」参照)をさらに分
かりやすく印象深い実験にするために白色光の連続ス
ペクトルの一部を遮って再合成し、夕焼けや青空の色
を再現する必要に迫られた。このことが本研究推進の
原動力となった。
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