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インド総選挙結果とシン政権二期目の課題

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インド総選挙結果とシン政権二期目の課題
平成 21 年(2009 年)7 月 2 日
NO.2009-14
インド総選挙結果とシン政権二期目の課題
インドでは、4 月から 5 月の 1 カ月にわたり下院総選挙(定数 545)が実施され、
国民会議派を中心とする与党連合が予想を大幅に上回る圧勝を果たした。5 月下旬に
は、現職のマンモハン・シン首相による第 2 次シン政権が発足し、今後の成長と改革
の加速に対する内外の期待が高まっている。
本稿では、今回の選挙結果を踏まえたうえで、第 2 次シン政権の経済政策と課題に
ついてまとめてみたい。
1.
総選挙結果と第 2 次シン政権の概要
(1)総選挙結果~与党連合が圧勝
5 月 16 日、任期満了に伴うインド下院総選挙(定数 545)(注)の一斉開票が行わ
れ、国民会議派(以下、会議派)を中心とする与党連合・統一進歩同盟(UPA)が、
事前の予想を大幅に上回る圧勝を果たした(第 1 表、第 1 図)。
UPA の獲得議席数は 262(改選前 181)と、野党連合・国民民主同盟(NDA)の 159
(同 176)を大きく引き離した。選挙後、第三勢力などから新たに与党連合への参加
が増加し、与党連合で 274 議席と過半数を確保、閣外協力と合わせて下院議席の 6 割
(323)に達した。会議派は、単独でも 206(同 145)と大幅に議席数を拡大、約 25
年ぶりに単独の政党が 200 議席を上回る快挙となった一方、
最大野党の BJP は 116(同
130)と伸び悩んだ。また今回の選挙で勢力拡大が予想されていた「第三勢力」と称
される左派共産党やその他の地方政党については、79(同 101)と予想外の苦戦とな
った。特に、西ベンガル州やケララ州、ウッタル・プラデシュ州などの地方で、左派
共産党や大衆社会党などの政権政党が伸び悩む一方、会議派を中心とする与党連合の
躍進が目立った。
(注)下院 545 議席のうち 2 議席は大統領が任命。電子投票方式で地域ごとに 4 月から 5 月にかけて 5 回に分け
て実施。有権者数は約 7 億 1 千万人。投票率 58.43%。下院議員の任期は 5 年。
1
第 1 表:インド下院総選挙結果
前回
今回
(2004年) (2009年) 前回比
181
262
81
【与党連合】統一進歩同盟(UPA)
145
206
61
国民会議派(INC)
全印草の根会議派(AITC)
2
19
17
ドラヴィダ進歩同盟(DMK)
16
18
2
9
9
0
民族主義会議派(NCP)
9
10
1
その他
176
159
▲ 17
【野党連合】国民民主同盟(NDA)
138
116
▲ 22
インド人民党(BJP)
8
20
12
ジャナタ・ダル(統一派)(JD[U])
12
11
▲1
シブ・セーナ(SHS)
18
12
▲6
その他
101
79
▲ 22
第三勢力
59
24
▲ 35
左派勢力
43
16
▲ 27
インド共産党左派(マルクス主義)(CPI-M)
10
4
▲6
革命社会党
3
2
▲1
前衛党(AIFB)
3
2
▲1
19
11
3
9
85
36
24
2
21
14
3
17
43
23
4
2
2
3
0
8
▲ 42
▲ 13
▲ 20
0
545
545
0
インド共産党(CPI)
大衆社会党(BSP)
ビジュ・ジャナタ・ダル(BJD)
ジャナタ・ダル(世俗主義)(JD[S])
その他
その他(無所属を含む)
社会主義党(SP)
民族ジャナタ・ダル(RJD)
大統領指名
総議席
(資料)各種報道等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
JD[S]3+その他9=
計12議席の合流に
より、UPAは最終
的に274議席まで
拡大
BSP21+SP23+
RJD4+その他1
=計49議席が閣
外協力
第 1 図:インド下院勢力図
過半数ライン(272)
2004年
222
59
解散時
228
49
274
今回選挙後
0
50
与党連合(UPA)
100
150
200
250
社会主義党など
80
59
184
39
49
24 39
300
350
左派勢力
170
159
400
その他
450
500 (議席)
野党連合(NDA)
(注)2004年5月の第1次シン政権発足時は、左派勢力が閣外協力関係にあったが、米国との原子
力協定締結を巡り、2008年7月に協力関係を解消。代わって社会主義党などが閣外協力に参加。
(資料)各種報道等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2
(2)シン政権の政策運営が幅広い支持を獲得
今回の総選挙戦では、従来、選挙戦で多くみられた現職批判や、カーストや宗教な
どを前面に出したキャンペーンは得票に結びつかず、政権運営の実績が厳正に評価さ
れる結果となった。
会議派は、シン政権による過去 5 年間の実績を強調、平均 8.5%の経済成長率のほ
か、農民債務の免除や農村部の失業者に対する雇用保障政策など貧困・低所得層に配
慮した政策運営が評価された。また、シン首相の清廉なイメージに加え、ソニア・ガ
ンジー総裁の長男で将来の首相候補と目されるラフル氏(38)が全国遊説を展開、若
年層や貧困層、幅広いカースト集団などへの支持拡大に成功した。
他方、最大野党 BJP は、バジパイ政権下(1999~2004 年)で副首相を務めたアド
バニ氏(81)を首相候補として擁立、昨年末のムンバイ・テロ事件など政府のテロ対
策を批判する一方、貧困層に対する食糧支援や経済自由化の加速などを掲げ政権奪回
を狙った。しかし、経済政策の内容では会議派と大差ない一方、急進的な改革路線や
イスラム教徒など少数派宗教との対立を煽りかねないヒンズー至上主義に対する警
戒感などから、支持拡大には繋がらなかった。
インドでは、地方政党の台頭に伴う多党化などを背景に、下院選挙で一つの政党が
単独過半数を確保することが難しく、1990 年代以降、連立政権による政権運営が続い
てきた。今回の選挙戦でも、UPA もしくは NDA のいずれも過半数に及ばず、その他
の共産党左派や大衆社会党などの第三勢力が選挙後のキャスティング・ボードを握る
とみられていた。しかし、UPA が過半数を上回り、政策方針の異なる政党の閣外協力
が不要となったことで、政権の安定化が図られ、政策運営の自由度が高まったといえ
る。2004 年 5 月の UPA 政権発足当初は、国営企業民営化や外資規制緩和などに否定
的な左派勢力が閣外協力関係にあったため、政権運営上の大きな制約となった。
週明け 18 日のインド株式市場では、与党圧勝による改革加速への期待などから株
価が急騰(SENSEX 株価指数終値は、前週末比 17.34%高の 14248.21 ポイント)、為替
相場も 1 ドル=47 ルピー台までルピー高が進み、いずれも昨年 9 月のリーマンショッ
ク以前の水準を回復した(第 2 図)。
第 2 図:株価・為替相場の推移
(ルピー/ドル)
38
(ポイント)
22000
20000
18000
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
02
SENSEX 株価指数
40
為替(右逆目盛)
42
44
46
48
50
52
03
04
05
06
07
08
09
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
3
(3)第 2 次シン政権の概要
5 月下旬には第 2 次シン政権が発足した。インドで首相が 2 期務めるのは、初代ネ
ルー氏以来約 60 年ぶりのこととなる。閣僚 32 ポスト中、国民会議派が 27(第 1 期目
は 28 ポスト中 18)と、会議派色がさらに強まった(第 2 表)。財務相には、前政権で
国防相、外相兼財務相を歴任したプラナブ・ムカジー氏が就いたほか、チダンバラム
内相、アントニー国防相など、留任ないしは再入閣が多く、総じて手堅い布陣といえ
る。また、WTO 交渉などで強硬姿勢が目立ったカマル・ナート前商工相が陸運・高速
道路相に転じる一方、後任の新商工相には、アナンド・シャルマ前外務副大臣が就任
するなど、シン首相がよりリーダーシップを発揮し易い環境が整ったとみることがで
きる。
第 2 表:第 2 次シン政権主要閣僚名簿
役職
首相
内務相
財務相
外相
国防相
商工相
人的資源開発相
農業、食糧・供給、消費
者、公共配給相
氏名
◎ マンモハン・シン
政党
主な経歴等
INC 前首相、元財務相、元中央銀行総裁
◎ P.チダンバラム
◎ プラナブ・ムカジー
S.M. クリシュナ
◎ A.K. アントニー
○ アナンド・シャルマ
○ カピル・シバル
◎ シャラド・パワール
INC
INC
INC
INC
INC
INC
NCP
前内相、元財務相
1982年~84年財務相、国防相、前外相兼財務相
カルナタカ州前首相
前国防相
前外務担当国務相
前科学・技術相、前地球科学相
前農業、食糧・供給、消費者、公共配給相、NCP総
裁
法務・司法相
ヴィーラッパー・モイリー
INC 元カルナタカ州首相
労働・雇用相
マリカルジュン・カルゲ
INC 元国民会議派カルナタカ州支部長
石油・天然ガス相
◎ ムルリ・デオラ
INC 前石油・天然ガス相
◎ A.ラジャ
通信・IT相
DMK 前通信・IT相
繊維相
○ ダヤニディ・マラン
DMK 元通信・IT相
陸運・高速道路相
○ カマル・ナート
INC 前商工相
鉄道相
◎ ママタ・バナジー
TMC 元鉄道相
電力相
◎ S.K.シンデ
INC 元電力相
化学・肥料相
M.K.アラギリ
DMK NMKの南部地域責任者
(注)INC:国民会議派、NCP:民族主義会議派、DMK:ドラビダ進歩同盟、TMC:トリナムール会議派。
◎:留任、○:第1次シン政権からの再入閣。内閣は、閣内大臣32名のほか、閣外大臣45名の計77名で構成。
(資料)各種報道等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2.
第 2 次シン政権の経済政策
第 2 次シン政権の具体的な経済政策の内容は、7 月初旬に発表予定の 2009 年度
(2009
年 4 月~2010 年 3 月)予算案を待つ必要がある。もっとも、シン首相は、当面は景気
回復を最優先に取り組むほか、選挙マニフェストのなかで、今後の政策方針として、
「より速い、全ての人々に恩恵が行き渡るような包括的な成長(faster and more
inclusive growth)」を目指し、貧困・農村支援や教育・人材育成など社会政策の継続・
拡充、インフラ整備の加速、国内治安の強化などに取り組む方針を掲げている。また、
外資政策については、国内産業の発展および輸出の促進につながるような対内直接投
資を奨励する方針を示している。
4
(1)農村・貧困支援策の継続・強化
インドの GDP に占める農業の比率は、1990 年度の 30%から 2008 年度には 17%と
低下傾向を辿ってきた。しかし、農村人口は約 12 億人の全人口の約 7 割、かつ約 7
億人の有権者の約 6 割を占める。さらに農村は、約 3 億人に上る全インドの貧困者(注
1)の 4 分の 3 を抱えることからも、農村・貧困層対策は政治的・経済の両面から重
要視されている。前回 2004 年の総選挙では、経済自由化による高成長を実績をとし
て前面に掲げたインド人民党(BJP)を中心とする与党連合(当時)が敗北し、農村・
貧困層対策を公約として掲げた野党・国民会議派が勝利し政権復帰を果たしたことで、
政権維持のためには、農村への配慮が不可欠であることを内外に印象付けた。
シン政権は、2004 年の政権獲得以来、これまでに農村・貧困層の支援策を強化して
きた。具体的には、農民や貧困層を対象とした死亡・障害保険制度や医療保険制度な
ど社会保障制度の整備を進めたほか、農村部の失業者に対する年間最低 100 日間の雇
用を保証する「農村国家雇用保障政策(National Rural Employment Guarantee Scheme:
NREGS)」や農村部における灌漑、住宅、飲用水、道路、電化、電話の 6 分野を整備
する「農村インフラ建設(Bharat Nirman)計画」(注 2)、農民債務の免除等を実施し
た。第 2 期目では、マニフェストで公約として掲げられた食糧補助金の増額などを含
め、これらの政策は継続・拡充される見込みである。
(注 1)インドの貧困線(Poverty Line)は、99 年度価格基準で 1 人 1 日 10 ルピー(農村部)~15 ルピー(都
市部)、この水準を下回る層を貧困者(BPL:Below Poverty Line)と定義される。
(注 2)灌漑施設整備(1,000 ヘクタール)、貧困者向け住宅建設(600 万戸)、飲料水供給(7 万 4,000 の村落)
、
電力供給(12 万 5,000 の村落/2,300 万世帯)
、電話線敷設(6 万 6,822 の村)。
(2)インフラ整備の加速
インドでは、道路、鉄道、港湾、空港、電力などインフラの未整備が従来から成長
制約要因として指摘されてきた。インドの道路網や鉄道網は全長の規模では世界最大
級を誇るものの、老朽化に加え、モノや人の移動量の増加に能力増強が追いついてい
ないことなどが、共通の問題として指摘されている。世界の企業経営者によるインド
の投資環境に対する評価では、市場規模に対する期待が高い半面、インフラの不足を
最大の問題点として指摘されており、国際競争力改善のためにはインフラ整備が不可
欠であることが窺える(次頁第 3 図)。
このためシン政権は、産業発展や外国直接投資の前提として、1 期目からインフラ
整備に積極的に取り組んできた(p.7 第 3 表)。道路・交通網では、主要 4 都市(ニュ
ーデリー、ムンバイ、チェナイ、コルカタ)を結ぶ幹線道路「黄金の四角形(Golden
Quadrilateral: GC)」
(約 6,000km)がほぼ完成しているほか、
「南北東西回廊(North-South
& East-West Corridors: NSEW)」(約 7,000km)の整備、ナショナル・ハイウェイの 6
車線化(6,500km)などが進行中である。また、デリー首都圏地域では、市内と周辺
工業団地を結ぶ国道の整備で進展がみられるほか、2010 年のコモンウェルスゲーム
(注)開催に向け、地下鉄(デリー・メトロ)の拡張工事、空港整備などが急ピッチ
で進められている。
(注)旧英連邦に所属する 53 カ国・地域が参加し 4 年毎に開催される総合競技大会。
5
このほか、今後の大規模インフラ・プロジェクトとして注目されるのが、日本政府
の提案による「デリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)」構想である。同構想は、ニ
ューデリー・ムンバイ間の 6 州(ウッタル・プラデシュ、ハリヤナ、ラジャスタン、
グジャラート、マディヤ・プラデシュ、マハラシュトラ)の工業団地や港湾を貨物専
用鉄道・道路で結び、港湾や物流基地の開発などにより一大産業地域の形成を目指す
もので、投資や生産の拡大、雇用創出効果などが期待されている。また、ラジャスタ
ン州には、同州政府と JETRO の協力により、インド初の日本企業専用工業団地(ニ
ナムラ工業団地)が実現し、日本企業の集積が進展しつつある。
他方、電力不足については、州・地域により差はあるものの、依然、深刻な問題で
ある。インドでは 5 カ年計画に基づき電源開発が進められているものの、開発実績は
当初の目標を下回り、需要増(年平均 7~8%)に供給(同 4~5%)が追いつかない
ため、ピーク時の電力不足は深刻である。2008 年度については、年度後半の成長ペー
ス鈍化により、電力需給逼迫の状況はやや緩和されたとみられるものの、今後、成長
ペースの加速に向けて、電源開発の加速は急務である。4,000MW 級の大型火力発電
所を国内 12 カ所に建設する「ウルトラ・メガ・パワー・プロジェクト(UMPP)」に
ついては、グローバル金融危機の影響による資金調達の難航などもあり、これまでに
事業者の選定が完了したのは半分以下にとどまっている。
なお、これまでインド政府は、財政規律維持のため官民パートナーシップ(PPP)
を中心にインフラ整備を進めてきた。しかし、昨今のグローバル金融危機の影響を背
景にした資金調達環境の悪化などによる進捗の遅れを踏まえ、2 期目では、国庫から
の拠出拡大によりインフラ整備を加速する方針を示している。
第 3 図:インドビジネス上の問題点
インフラの不足
非効率な官僚主義
政治腐敗
規制の多い労働法
税制
インフレ
不安定な政策
労働者の教育水準
税率
現地労働者の労働倫理の低さ
資金調達
外貨規制
政治の不安定・クーデター
窃盗その他の犯罪
回答率(%)
0
5
10
15
20
25
(資料)世界経済フォーラム「国際競争力報告書」より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
6
30
第 3 表:主な大型インフラ・プロジェクトの例
分野
都市交通
道路
鉄道
空港
プロジェクト名
事業内容
完成予定・進捗
都市高速輸送システム建設 首都デリーにおける地下鉄、地上・高架鉄道からなる大量高 2006年3月末に第1フェーズ
計画(デリー・メトロ)
速輸送システム(全区間約198.5km、総工費1057億ルピー) 全面開通、現在第2フェーズ
進行中(2010年完成予定)
バンガロール・メトロ建設 バンガロール市における総延長約33kmの地下鉄及び地上・高 2010年完成予定
計画
架による大量高速輸送システム
ムンバイ・メトロ建設計画 ムンバイにおける全長146.5km(9路線、地下32.5km、地上
第1期:2011年まで、第2期:
114km)の大量高速輸送システム(予算総額1,952億ルピー) 2016年、第3期:2021年までの
運行開始
コルカタ・メトロ
1984年に開通し、現在延長中(現在の総延長16.45km、総工
費182億ルピー)
「黄金の四角形(Golden
デリー・ムンバイ・チェナイ・コルカタの4大都市を結ぶ高 2009年1月時点で98%完成
Quadrilateral:GQ)」
速道路建設計画(全長5,846kmの4車線化)
「南北・東西回廊(North- インド大陸を南北・東西に結ぶ高速道路建設計画(全長
2009年12月完成予定
7,300kmの4車線化)
South Corridor, East-West
Corridor)」
インド貨物専用鉄道建設計 ムンバイ~デリー(1,350km)およびデリー~コルカタ
2010年度末完成予定。2008年
画(DFC)
10月、第1次工事(西側のうち
(1,450km)を結ぶ、総延長距離2,800kmの高速貨物鉄道計
画。
約920km)に対する日本側の支
援を決定(4500億円)
デリー空港近代化計画
ターミナルビル改修などで年間対応可能乗降客数を現在の
2010年3月第1期工事完成予
1,280万人から2025年には8,000万人に拡大する計画。不動産 定
大手GMRグループやインド空港局など5つの会社・団体が出
資(総事業費:約889億ルピー)。
ムンバイ
バンガロール新国際空港
コルカタ
チェナイ
港湾
国家海事開発計画
(NMDP)
電力
「ウルトラ・メガ・パ
ワー・プロジェクト」
年4,000万人の利用者規模の空港整備計画(700億ルピー)
年間1,100万人の旅客能力。外資などによるBOT方式(期間30
年)(247億ルピー)
年間2,000万人の利用可能な設備、総合ターミナルビル建設お
よび空港関連設備(194億ルピー)
第2滑走路の延長を含む空港関連設備と、1,300万人の利用者
増加に対応できる内外ターミナル拡張(181億ルピー)
主要港の荷役取り扱い能力の拡大・効率性向上のため、主要
港整備(276件)、海運・造船・内水輸送など計387件のプロ
ジェクトを実施。
2014年完成予定
2008年5月開港
2010年6月完成予定
2010年6月完成予定
2011年度までに完成予定。
2009年2月時点で、276の港湾
事業のうち、6港38事業が完成
(合計5,460万トンの処理能力
が増強)。
出力4,000メガワット(MW)級の大規模火力発電所を国内12 これまでに3件のプロジェクトの
事業者(デベロッパー)の選定
カ所に建設し、2012年までに国内の電力供給能力を約9万
が終了、2012年頃に運転開始
MW増強する計画(投資額:1カ所当たり1,500億ルピー)
予定
総合
デリー・ムンバイ間産業大動 デリー・ムンバイ間の6州(ウッタル・プラデシュ、ハリヤ
2017年完成目標
脈(DMIC)構想
ナ、ラジャスタン、グジャラート、マディヤ・プラデシュ、
マハラシュトラ)の工業団地や港湾を貨物専用鉄道・道路で
結びつけ、一大産業地域の形成を目指す(日本政府提案)。
総投資額900億ドル。
(資料)各種報道等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(3)外資誘致のための規制緩和
インドでは、中国や ASEAN など他のアジア諸国に比べ、対外開放の時期が遅かっ
たことや、インフラの未整備、外資に対する優遇措置の少なさ、その他後述するイン
ド特有の参入規制などから、対内直接投資(FDI)の導入が遅れていたが、近年は、
高成長に伴う国内市場拡大を睨み、拡大傾向がみられる(次頁第 4 図)。
累積投資額を国・地域別でみると、キャピタル・ゲイン送金が非課税となるモーリ
シャス(シェア 40%)が最大の投資国であるほか、シンガポール(8%)、米国(7%)
などが続き、日本(3%)は 6 番目の投資国となっている(注 1)。また、業種別では、
金融・保険などを中心とするサービス(20%)、コンピューターソフトウェア・ハー
ドウェア(10%)、通信(7%)に加え、近年の不動産ブームを受け、住宅・不動産(5.9%)
、
建設(5.6%)の投資拡大が目立つ。製造業では、自動車関連が 4%を占める主要投資
7
分野である。
日本企業の対印投資についても、これまでの主力投資分野である輸送機器、化学な
どに加え、近年は、家電、食品など投資分野が広がりつつある。2008 年は大手医薬品
メーカーによる現地企業の買収(約 3,500 億円)を背景に計 56 億ドルと、中国や NIEs、
ASEAN に迫る水準へ急増した(第 5 図)。進出日系企業数も着実に増えつつあり、2008
年 10 月時点では 550 社と、5 年間で 2 倍以上に拡大した。
インド政府は、これまで段階的に外資規制の緩和を進め、現在では大半の製造業に
ついては 100%出資が可能となっている。しかし、サービス業については個別に出資
比率の上限が設けられているほか(注 2)、国内産業保護を狙った既存提携先同意書
(Non-Objection Certificate: NOC)規制(注 3)、労働者保護の色彩が強い労働法制な
ど、インド特有の参入障壁は少なくない。1 期目では、閣外協力関係にあった左派勢
力の抵抗などで、いずれも小幅の自由化にとどまった。NOC 規制については、2005
年 1 月以降の新規進出企業に限って適用除外(既進出企業については不変)となった
ほか、2006 年 2 月には、単一ブランドの商品を販売する小売業に限って出資比率 51%
まで認められるなど、部分的な緩和がなされたが、依然改善の余地は大きい。
(注 1)モーリシャスは、インドとの二国間租税協定により、キャピタル・ゲイン送金に対し非課税措置が適用
される。シンガポールについても、2005 年 6 月のインド・シンガポール包括的経済協力協定(CECA)
により、キャピタル・ゲインが非課税扱いとなった。
(注 2)個別分野の出資比率上限は、保険と軍需が 26%、航空 49%、銀行と通信が 74%。小売業については、
単一ブランドの商品を販売する小売業に限って出資比率 51%まで可能。
(注 3)既に合弁または技術提携のパートナーが存在する場合には、同一業種への新規投資については原則事
前承認に加えパートナーから同意書(Non-Objection Certificate: NOC)の取得が求められる。
第 4 図:対内直接投資
(10億ドル)
40
第 5 図:日本の対外直接投資の推移(フロー)
(10億ドル)
対内FDI(再投資)
9
対内FDI(株式取得)
30
20
8
対外FDI
7
FDI(ネット)
6
中国
ASEAN
NIEs
インド
ベトナム
5
10
4
3
2
-10
1
FY00
01
02
03
04
05
06
07
08
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
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07
20
08
-20
(資料)財務省より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(4)中長期的な財政再建に向けた道筋
今後、第 2 次シン政権にとって、農村・貧困層対策の強化、インフラ整備の加速
などで財政負担の増大が懸念されるなか、中長期的な財政再建の道筋をいかに示す
かが、大きな課題となろう。
これまでインド政府は、「財政責任及び予算管理法(Fiscal Responsibility and
Budgetary Management Act, 2003)
」(以下、財政責任法)のもと、課税対象の拡大や
8
徴税システムの IT 化など税収増に重点を置いた財政ポジションの改善に取り組み、
財政赤字(対 GDP 比)は、2007 年度(2008 年 3 月末)には▲2.7%と同法で目標と
する▲3.0%以下を達成した(第 6 図)。しかし、2008 年度については、翌年の総選
挙を控え、農民向け債務免除や公務員給与引き上げ、減税など積極的な景気刺激策
により財政バランスが急速に悪化、財政赤字(見込み)は同▲6.0%まで拡大した。
第 6 図:財政赤字と公的債務の推移
(GDP比、%)
-8
公的債務(中央・州連結)(右)
95
財政赤字(中央政府)
-7
90
-6
85
-5
80
-4
75
-3
70
-2
65
-1
60
-
55
FY90 92
94
96
98
00
02
04
06
08
10
(注)2009年度以降は暫定予算案。
(資料)インド政府資料より三菱東京UFJ 銀行経済調査室作成
当面の財政赤字補填の財源としては、国営企業民営化に期待が高まっている。1 期
目では、閣外協力関係にある左派勢力の抵抗により、国営企業民営化の動きは停滞し
た。シン政権は、無制限の民営化については否定的ながらも、部分的な株式公開につ
いては前向きな姿勢をみせており、民営化第一弾の対象としては、発電、石油、投資
信託などの企業が候補にあがっている模様である。
また、2010 年 4 月に予定されている「物品・サービス税(Goods and Service Tax:
GST)」の導入についても、財政ポジション改善との関係で注目される。これまで段
階的に物品税やサービス税、販売税など既存の複雑な間接税の整理・統合が進められ
てきた。州レベルでは、従来の州毎に非課税品目や税率の異なる州売上税に代わり、
2008 年 1 月までに全ての州で付加価値税(州 VAT)
(基本税率 12.5%)の導入が完了
した。サービス税(現行 10%)についても、1994 年度の導入以来、税率の引き上げ
と課税対象分野の拡大が段階的に進められ、課税対象となるサービス分野は、導入当
初の 3 分野から約 100 分野超まで拡大された。今後、いかにスムーズに物品税(基本
税率 8%)やサービス税など中央税と州 VAT など地方税の単一の中央税(GST)への
統合が図られるかがポイントとなろう。
中長期的には、歳出面での改革も不可欠である。財政赤字の背景としては、税収基
盤の弱さという歳入面での問題ばかりでなく、歳出面で、利払いや国防費のほか、食
糧・肥料などに対する補助金など義務的支出の割合が大きいという構造的問題がある。
歳出に占める利払い・国防費・補助金の割合は、足元 4 割程度と 2000 年度の 5 割か
9
ら低下しているとはいえ、依然、大きなシェアを占め財政硬直化の要因となっている。
補助金については、公約とする農村・貧困対策の強化もあり、短期的に削減すること
は難しいとみられるが、拡大を抑えつつ、現在は歳出の 3 割程度にとどまるインフラ
整備などへの支出割合を高めていく必要があろう。
国内貯蓄の有効活用という点でも財政赤字の削減は不可欠である。これまで財政赤
字のファイナンスに対して、国内の金融セクターが大きな役割を果たしてきた。国内
商業銀行は、法定流動性準備率(Statutory Liquidity Ratio: SLR)により預金総額の一
定割合(2009 年 6 月時点:24%)を公債で運用することが義務付けられていることな
どから、国内金利が高止まりし、民間部門にとって国内での資金調達がコスト高とな
っている。低コストの資金調達手段として、対外商業借入(ECB)を通じた海外から
の資金調達が活用されるなど、国内貯蓄の有効活用には至っていない。
3.
今後の展望~農村・貧困対策と経済改革の着実な前進
今回の総選挙で、与党が歴史的な圧勝を果たしたことで、シン政権のリーダーシッ
プによる改革加速に対する内外の期待が高まっている。今後 5 年間は、インドにとっ
て、中長期的なインドの潜在成長力を高めるうえでの好機であり、どこまで経済の自
由化・効率化を進めることができるか、シン政権の手腕が問われよう。目先に限って
みても、海外からの投資資金の回復により、企業の資金調達環境の改善、インフラ投
資の加速など経済成長にとって追い風となろう。
一方で、期待が先行している点には留意する必要がある。会議派は、本来、最大野
党 BJP に比べ改革に対しては漸進主義のスタンスをとっている。また、将来のラフ
ル・ガンジー政権を視野に、強固な政権基盤を維持する必要があることからも、どこ
まで踏み込んだ改革が実現できるかは不透明である。第 2 次シン政権は、有権者の期
待に応えるため、まずは農村・貧困対策を最優先に取り組みつつ、緩やかな改革の推
進を目指すのが現実的と考えられる。
他方、海外投資家にとっては、改革加速に対する期待と現実に一喜一憂することな
く、長い目でみたインド戦略が求められよう。これまでインフラ整備や税制改革など
インドの経済改革は、遅れながらも後退することなくほぼ着実に前進してきた。今後
も計画比遅れる可能性があることを十分に想定しつつ、中長期的なインド市場の成長
性を睨んだ投資戦略の策定が求められよう。
以 上
(H21. 6.30 福地 亜希 [email protected])
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