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平成23年度~平成25年度 成果報告書 - 測地部

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平成23年度~平成25年度 成果報告書 - 測地部
衛星データを用いた
地震・地盤変動データ流通及び
解析ワーキンググループ
(地震 WG)
平成 23 年度~平成 25 年度
成果報告書
平成 26 年 3 月
地震 WG 事務局
国土地理院
地震 WG 成果報告書
衛星データを用いた地震・地盤変動データ流通
及び解析ワーキンググループ(地震 WG)
平成 23 年度~平成 25 年度
成果報告書
目次
1.
2.
3.
地震 WG の概要 .............................................................................................................. 3
1.1.
設置の目的と経緯 .................................................................................................... 3
1.2.
枠組み及び参加機関................................................................................................. 3
活動報告 .......................................................................................................................... 5
2.1.
観測要求(一部平成 22 年度のものも含む) .......................................................... 5
2.2.
データ取得実績 ........................................................................................................ 6
2.3.
会合開催状況............................................................................................................ 7
2.4.
外部公表実績............................................................................................................ 8
個別課題研究の成果報告............................................................................................... 13
01 国土地院........................................................................................................... 14
02 防災科学技術研究所……………….................................................................... 26
03 京都大学………………….................................................................................. 34
04 北海道大学………………….............................................................................. 44
05 北海道大学………………….............................................................................. 52
07 宇宙航空研究開発機構………………..........................................................….. 58
08 気象庁…………………...................................................................................... 65
09 日本電気株式会社………………….................................................................... 76
10 東北大学………………….................................................................................. 83
11 公益財団法人地震予知総合研究振興会………………....................................... 90
2
地震 WG 成果報告書
1. 地震 WG の概要
1.1.
設置の目的と経緯
国土交通省国土地理院は,
「陸域観測技術衛星を用いた防災利用実証実験の協力に関する
取り決め」に基づき,独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下,
「JAXA」という.
)の協
力のもと,陸域観測技術衛星(以下,
「ALOS」という.
)データを用いた地震・地盤変動に
関する防災利用実証実験を推進するため,平成 20 年 4 月に衛星データを用いた地震・地盤
変動データ流通及び解析ワーキンググループ(以下,
「地震 WG」という.
)を設置した.
地震 WG の活動内容は,次のとおりである.
① ALOS データ流通システムの構築及び試行運用
② 発災時における ALOS の緊急観測要求
③ 地震・地盤変動のメカニズム解明のための ALOS データ解析・検討及び評価
平成 23 年 4 月には,平成 23 年度~平成 25 年度(3 ヵ年)における防災利用実証実験の
実施計画書を策定し,活動を実施してきた.平成 23 年 5 月の ALOS 運用終了後は,緊急観
測は実施できなくなったが,アーカイブデータを利用した課題研究を実施してきた.
本報告は,3 ヵ年の実施期間の満了を迎えるに当たり,取りまとめたものである.
1.2.
枠組み及び参加機関
地震 WG 事務局(国土地理院測地部宇宙測地課)は,参加機関(表 1)の観測要求や成
果を取りまとめ,JAXA に報告する役割を担う(図 1)
.
地震発生時には,参加機関からの観測要求を取りまとめたうえで観測要求依頼書を JAXA
へ提出する.要求が認められ,観測が実施されると,事務局は速やかにデータをダウンロ
ードし,データサーバへ格納することで参加機関へ配信する.SAR 干渉解析に必要な地震
発生前のデータも合わせて配信する.
上記事務局から配信される緊急観測データ以外に,参加機関は課題研究実施のため,年
間最大 50 シーンの ALOS データを無償で取得できる.
参加機関の成果は地震調査研究推進本部や地震予知連絡会,衛星データ解析小委員会等
へ提出され,利用される.衛星データ解析小委員会は,提出された解析結果の検討を行う
とともに,SAR 解析手法及び表現の標準化を目的として,地震調査委員会の下に平成 19
年 8 月に設置された.その後,平成 23 年 10 月に「合成開口レーダーによる地震活動に関
連する地殻変動観測手法について」の報告書を取りまとめて,解散となった.
3
地震 WG 成果報告書
表 1. 参加機関一覧
管理
番号
01
02
参加機関
国土地理院
防災科学
技術研究所
03
京都大学
04
05
北海道大学
北海道大学
産業技術
総合研究所
宇宙航空
研究開発機構
気象庁
日本電気
株式会社
06※1
07
08
09
10
11
12※2
東北大学
公益財団法人
地震予知総合
研究振興会
京都大学
代表研究者
小林
知勝
小澤
拓
橋本
学
研究課題名
地殻活動に伴う地殻変動の詳細把握
地震に伴う地殻変動の検出を目的とした緊急観測データの解析
村上 亮
古屋 正人
沈み込み帯における応力蓄積・拡散過程と内陸地震の発生機構に
関する研究
海溝型地震の発生メカニズムの解明
陸域プレート境界周辺の地殻変動様式の解明
児玉
信介
衛星画像を用いた地殻変動情報抽出技術の開発
島田
正信
青木
元
ALOS アーカイブデータを使った,過去の地震活動に伴う地殻変
動・地表変状検出
地殻変動の詳細把握
木村
恒一
スキャン SAR 干渉による広域地殻変動検出
太田
雄策
ALOS PALSAR と GPS データに基づく東北地方歪み集中帯の変
動場に関する研究
松浦
律子
ALOS 立体視画像による活断層の詳細位置特定の精度と効率の
向上の可能性調査
林
愛明
2008 年四川大地震の震源断層のセグメテーションと断層活動性
※1. 平成 24 年度以降不参加
※2. 研究対象地域の ALOS データが観測されなかったため、成果報告書は無し
地震 WG
国土地理院
JAXA
観測要求
事務局
観測要求
測地部
防災利用
システム室
データ提供
成果報告
参加機関
宇宙測地課
データ提供
要求・成果の取りまとめ
データ管理
解析実施
成果報告
データサーバ
成果
地震調査研究推進本部
衛星データ解析小委員会
成果の検討・評価
図 1. 地震 WG の枠組み
4
地震 WG 成果報告書
2. 活動報告
2.1.
観測要求(一部平成 22 年度のものも含む)
東北地方太平洋沖地震関連(表 2),ミャンマー北東部の地震(表 3)
,ニュージーランド・
クライストチャーチ地震(表 4)に対する観測要求を提出した.
表 2. 東北地方太平洋沖地震関連(平成 23 年 3 月 11 日,M9.0)
パス
フレーム
モード
オフナディア角
観測日
観測
55
2800~2900
FBS
34.3
2011/03/21
○
56
2780~2920
FBS
34.3
2011/04/07
○
57
2780~2920
FBS
34.3
2011/04/24
×※
2
58
2780~2920
FBS
34.3
2011/03/26
×※
1
59
2780~2920
FBS
34.3
2011/04/12
○
60
2800~2900
WB1
27.1
2011/03/14
○
61
2800~2900
WB1
27.1
2011/03/31
○
62
2800~2900
WB1
27.1
2011/04/17
○
63
2800~2900
WB1
27.1
2011/03/19
×※
64
2800~2900
WB1
27.1
2011/04/05
○
65
2800~2900
WB1
27.1
2011/04/22
×※
400
770~820
FBS
34.3
2011/04/13
○
2011/03/15
○
401
750~820
FBS
34.3
2011/04/30
×※
1
2
2
402
730~810
FBS
34.3
2011/04/01
○
403
700~810
FBS
34.3
2011/04/18
○
404
690~800
FBD
34.3
2011/03/20
○
405
690~760
FBS
34.3
2011/04/06
○
406
690~760
FBS
34.3
2011/04/23
×※
2
407
680~740
FBS
34.3
2011/03/25
×※
1
408
680~740
FBS
34.3
2011/04/11
○
※1. 他機関との競合のため
※2. 4 月 22 日に電力異常が発生したため
5
地震 WG 成果報告書
表 3. ミャンマー北東部の地震(平成 23 年 3 月 24 日,M6.8)
パス
フレーム
モード
オフナディア角
観測日
観測
126
3200~3210
FBS
34.3
2011/04/01
○
486
390~400
FBS
34.3
2011/04/03
○
表 4. ニュージーランド・クライストチャーチ地震(平成 23 年 2 月 22 日,M6.3)
パス
フレーム
モード
オフナディア角
335
6290~6310
FBS
34.3
630
2.2.
4500
WB1
観測日
観測
2011/02/25
○
2011/04/12
○
2011/02/26
○
2011/04/13
○
27.1
データ取得実績
平成 23 年 5 月に ALOS の運用が終了し,新たなデータが観測されなかったため,データ
取得数は平成 22 年度以前と比べて少なくなった(表 5)
.
表 5. AUIG からのデータ取得実績
管理
FY23
FY24
期間
FY25
機関
番号
PSM
AV2
PSR
計
PSM
AV2
PSR
計
PSM
00
事務局
44
44
0
01
国土地理院
4
4
0
02
防災科研
0
0
03
京都大学
04
北海道大学
0
05
北海道大学
0
06
産総研
0
07
JAXA
0
0
08
気象庁
0
0
09
日本電気
16
16
10
東北大学
2
11
振興会
12
京都大学
50
4
計
4
2
2
116
AV2
PSR
合計
計
0
44
8
12
0
0
42
140
0
0
0
0
0
0
―
0
0
0
3
3
49
0
65
2
0
0
2
6
0
0
6
0
0
0
0
0
6
50
6
48
―
―
―
49
0
6
0
97
8
48
―
0
42
―
―
―
3
0
0
53
地震 WG 成果報告書
2.3.
会合開催状況
第7回
日時
平成 23 年 5 月 24 日(火)13:00~14:00
場所
幕張メッセ国際会議場 201A
議題
1.
最近の緊急観測概況・事務連絡(事務局)
2.
東北太平洋沖地震解析事例(01 国土地理院,03 京都大学,04・05
北海道大学)
3.
質疑応答
4.
だいち観測停止への対応(JAXA)
第 8 回(第 9 回火山 WG 会合と合同開催)
日時
平成 24 年 5 月 23 日(水)12:30~13:30
場所
幕張メッセ国際会議場 102A
議題
1.
地震 WG 活動紹介(事務局)
2.
平成 23 年度地震 WG 課題研究成果発表(01 国土地理院,04 北海
道大学)
第9回
3.
火山 WG 活動紹介(事務局:気象庁)
4.
平成 23 年度火山 WG 課題研究成果発表
5.
ALOS-2 計画について(JAXA)
6.
今年度の活動計画について(各事務局)
7.
その他
日時
平成 25 年 10 月 28 日(月)14:00~16:30
場所
地震予知連絡会小会議室(九段第 2 合同庁舎 8 階)
議題
1.
これまでの経過報告(事務局)
2.
研究課題成果発表(01 国土地理院,02 防災科研,03 京都大学,
07JAXA,08 気象庁,09 日本電気)
3.
ALOS-2 について(JAXA)
4.
地震 WG の今後の予定について(事務局)
5.
その他
7
地震 WG 成果報告書
第 10 回
2.4.
日時
平成 26 年 2 月 26 日(水)14:00~16:10
場所
地震予知連絡会小会議室(九段第 2 合同庁舎 8 階)
議題
1.
研究課題成果発表(03 京都大学,04・05 北海道大学,11 振興会)
2.
成果報告書案について(事務局)
3.
地震 WG の今後の予定について(事務局)
4.
ALOS-2(だいち 2 号)について(JAXA)
5.
その他
外部公表実績
01 国土地理院(表 6)
,02 防災科学技術研究所(表 7)
,03 京都大学(表 8)
,05 北海道
大学(表 9)
,08 気象庁(表 10)
,09 日本電気株式会社(表 11)
,10 東北大学(表 12)
,11
公益財団法人地震予知総合研究振興会(表 13)が成果の外部公表を行った.
表 6. 外部公表実績(01 国土地理院)
表題
平成 23 年(2011 年)3 月 19 日茨城県北部の地震(M6.1)に関する合
成開口レーダー解析結果
平成 23 年(2011 年)4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)に伴う
地殻変動
平成 23 年(2011 年)4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)に関す
る合成開口レーダー解析結果
平成 23 年(2011 年)3 月 19 日茨城県北部の地震(M6.1)に関する
合成開口レーダー解析結果
合成開口レーダー(SAR)と電子基準点(GPS 連続観測点)の融合
解析による地殻変動(暫定)
東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動を面的に把握
平成 23 年(2011 年)4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)に関す
る合成開口レーダー解析結果
平成 23 年(2011 年)3 月 12 日長野県・新潟県県境付近の地震 (M6.7)
に関する合成開口レーダー解析結果
ALOS/PALSAR データにより検出された 2010 年イラン南東部の地
震に伴う地殻変動
「だいち」(ALOS)を利用した地殻・地盤変動監視
-東北地方太平洋沖地震- 地震による地殻変動
Estimation of coseismic deformation and a fault model of the 2010
Yushu earthquake using PALSAR interferometry data
2011 年 2 月 22 日ニュージーランド南島の地震に関する合成開口
レーダー解析結果
平成 23 年(2011 年) 3 月 19 日茨城県北部の地震 (M6.1)・3 月 23 日
福島県浜通りの地震(M6.0)に関する合成開口レーダー解析結果
「だいち」(ALOS)を利用した地殻・地盤変動監視
局所的大変位を伴う地殻変動計測のためのピクセルオフセット解析
平成 23 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震による地盤変状と SAR
干渉画像との関連
8
発表先
発表日
第 224 回地震調査委員会
2011/04/11
国土地理院HP
2011/04/25
第 190 回地震予知連絡会
2011/04/26
第 190 回地震予知連絡会
2011/04/26
第 190 回地震予知連絡会
2011/04/26
国土地理院HP
2011/04/28
第 226 回地震調査委員会
2011/05/11
第 226 回地震調査委員会
2011/05/11
日本地球惑星科学連合
2011 年大会
第 40 回国土地理院報告会
2011/05/24
2011/06/03
第 40 回国土地理院報告会
Earth and Planetary
Science Letters, Vol. 307
2011/06/03
第 191 回地震予知連絡会
2011/06/13
第 191 回地震予知連絡会
2011/06/13
国土地理院東日本大震災
調査報告会
測地学会誌 第 57 巻第 2
号
日本第四紀学会 2011 年
大会
2011/06/08
2011/06/23
2011/06/25
2011/08/26
地震 WG 成果報告書
表題
発表先
4 月 11 日福島県浜通りの地震に係るいわき市内陸部における SAR
干渉画像(2011.3.3-2011.4.18)に見られる変位の不連続の分布
平成 23 年4月 11 日福島県浜通りの地震による被害状況と地形・地
質との関連
日本地質学会第 118 年学
術大会 プレス発表
日本地質学会第 118 年学
術大会
日本地理学会 2011 年秋
季学術大会
2011 年長野県北部地震における被害分布の特徴
Crustal deformation map for the 2011 off the Pacific coast of Tohoku
Earthquake, detected by InSAR analysis combined with GEONET
data
SAR 干渉解析から得られた東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸
地震の地殻変動と震源断層モデル
ALOS/PALSAR データで捉えた平成 23 年(2011 年)東北地方太平
洋沖地震に伴う地殻変動
SAR 干渉解析から得られた東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸
地震の地殻変動と震源断層モデル
ALOS/PALSAR データで捉えた平成 23 年(2011 年)東北地方太平
洋沖地震に伴う地殻変動
The Crustal Deformation and Fault Model of the 2011 off the Pacific
Coast of Tohoku Earthquake
東北地方太平洋沖地震により誘発された地震の被害の特徴
衛星合成開口レーダーを用いた平成 23 年(2011 年)東北地方太平
洋沖地震に伴う地殻変動の検出
干渉 SAR のコヒーレンス変化から見る平成23年(2011年)東
北地方太平洋沖地震に伴う液状化地域
Seismic gap and a series of large earthquakes along the Sunda
trench and the Sumatran fault
GPS- and InSAR-derived crustal deformation and estimated fault
models of the 2011 Tohoku earthquake and the induced inland
earthquakes
InSAR-derived coseismic deformation of the 2010 southeastern Iran
earthquake (M6.5) and its relationship with the tectonic background
in the south of Lut Block
2011 年3月 12 日長野県・新潟県県境付近の地震に伴う災害の特徴
東北地方太平洋沖地震による地すべり性地表変動の SAR 干渉画像
による観測
2011 年3月 12 日長野・新潟県境付近の地震に伴う地盤災害の特徴
干渉 SAR のコヒーレンス変化から見る平成23年(2011年)東
北地方太平洋沖地震に伴う液状化地域
アジア太平洋地域における地殻変動監視
Rapid assessment of high seismic intensity areas of the 2008 Mw
7.9 Wenchuan earthquake using satellite SAR data
次なる SAR 観測研究に向けて ~地殻変動観測ツールとしての有効
性と課題の再
確認
2011 年(平成 23 年)東北地方太平洋沖地震に伴う地震時および地
震後の地殻変動と断層モデル
Crustal deformation map for the 2011 off the Pacific coast of Tohoku
Earthquake, detected by InSAR analysis combined with GEONET
data
9
発表日
2011/08/31
2011/09/10
2011/09/24
Earth, Planets and
Space, Vol. 63 (No. 7)
2011/09/27
日本地震学会 2011 年度
秋季大会
2011/10/13
第 116 回日本測地学会
2011/10/26
第 116 回日本測地学会
2011/10/26
第 55 回宇宙科学技術連合
講演会
Bulletin of the GSI (Vol.
59)
第 21 回環境地質学シンポ
ジウム
国土地理院時報 第 122
集
国土地理院時報 第 122
集
第1回アジア太平洋大規
模地震・火山噴火リスク
対策ワークショップ
第1回アジア太平洋大規
模地震・火山噴火リスク
対策ワークショップ
Bulletin of the GSI
60)
(Vol.
国土地理院時報 第 123
集
日本地球惑星科学連合
2012 年大会
日本地球惑星科学連合
2012 年大会
日本地球惑星科学連合
2012 年大会
日本地球惑星科学連合
2012 年大会
Seismological Research
Letters, 83(4)
2011/12/01
2011/12/01
2012/01/24
2012/02/01
2012/02/01
2012/02/23
2012/02/23
2012/05/01
2012/05/15
2012/05/20
2012/05/20
2012/05/23
2012/05/25
2012/07/26
平成 24 年度京都大学防災
研究所一般研究集会
2012/09/12
地震第 2 輯
号
2012/10/26
第 65 巻第 1
日仏セミナー地震・津波
2012/11/13
地震 WG 成果報告書
表題
発表先
InSAR-derived crustal deformation and fault models of normal
faulting earthquake (Mj7.0) in Fukushima-Hamadori area
2011 年長野県・新潟県県境付近の地震に伴う地盤災害の分布特性
2008 年岩手・宮城内陸地震による地すべり性地表変動の SAR 干渉
画像による観測
地殻変動観測における Along-track InSAR の有効性の検討
Characteristic of foundation disaster distribution caused by a strong
inland earthquake in fold region- Experience with the
Nagano-Niigata border Earthquake in 2011
SAR 干渉画像で検出した 2011 年東北地方太平洋沖地震と 2008 年岩
手・宮城内陸地震における地すべり性地表変動
The 2011 Tohoku Earthquake and the Related Disasters Observed
by InSAR Using ALOS/PALSAR: Mainshock, Induced Inland
Earthquakes, and Liquefaction
Earth, Planets and
Space, Vol. 64 (No. 12)
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
発表日
2013/01/28
2013/05/20
2013/05/21
2013/05/22
IGU 2013
2013/08/06
日本地形学連合 2013 年
秋季大会
2013/09/13
APSAR 2013
2013/09/26
表 7. 外部公表実績(02 防災科学技術研究所)
表題
発表先
発表日
SAR 干渉解析による東北地方太平洋沖地震に関する地殻変動
第 224 回地震調査委員会
2011/04/11
SAR 干渉解析による東北地方太平洋沖地震に関する地殻変動
第 190 回地震予知連絡会
日本地球惑星科学連合
2011 年大会
第 227 回地震調査委員会
2011/04/26
SAR 干渉解析による東北地方太平洋沖地震に関する地殻変動
SAR 干渉解析による東北地方太平洋沖地震に関する地殻変動
SAR 干渉解析による東北地方太平洋沖地震に関する地殻変動
SAR 干渉解析による東北地方太平洋沖地震に関する地殻変動
ALOS/PALSAR Images of the 2011 Tohoku Earthquake
(I):Coseismic deformations and Tsunami affected area
第 191 回地震予知連絡会
第 10 回衛星データ解析検
討小委員会
国際測地学・地球物理学
連合 2011 年大会
2011/05/26
2011/06/09
2011/06/13
2011/06/17
2011/07/02
表 8. 外部公表実績(03 京都大学)
表題
発表先
2011 年東日本大震災:本震・誘発地震・情報
ALOS/PALSAR ScanSAR で捉えた 2010 年チリ・マウレ地震の地震
時・余効変動
ALOS/PALSAR で捉えた 2010 年ニュージーランド南島の地震
2008 年岩手宮城内陸地震に伴う余効変動:続報
InSAR による誘発された内陸地殻変動の検出
Evaluation of the capability of ALOS/PALSAR to detect secular
crustal deformations in subduction zones
Analysis of crustal deformation associated with the 2008 Wenchuan,
China earthquake using ALOS/PALSAR data
Imaging of Interseismic Deformation With ALOS/PALSAR And the
Effect of Traveling Ionospheric Disturbance
Co- and postseismic deformation associated with the 2010 Maule,
Chile earthquake detected by ALOS/PALSAR ScanSAR-ScanSAR
interferometry
10
自 然 災 害 科 学 Vol. 30
(No. 1)
日本地球惑星科学連合
2011 年大会
日本地球惑星科学連合
2011 年大会
日本地球惑星科学連合
2011 年大会
日本地球惑星科学連合
2011 年大会
発表日
2011/05/13
2011/05/23
2011/05/24
2011/05/26
2011/05/27
28th ISTS
2011/06/07
28th ISTS
2011/06/07
IUGG 2011
2011/06/30
IUGG 2011
2011/07/02
地震 WG 成果報告書
表題
発表先
ALOS/PALSAR images of the 2011 Tohoku earthquake (II):
deformation associated with the induced activities
Coseismic deformations of the 2011 Tohoku, Japan, Earthquake and
triggered events derived from ALOS/PALSAR
ALOS/PALSAR has changed the earthquake science
2011 年東北地方太平洋沖地震に誘発された東北日本弧火山の地殻変
動
2011 年 4 月 11 日いわき地震(Mw=6.6)の地表地震断層と断層モデ
ル
2011 年東北地方太平洋沖地震に誘発された火山性地殻変動
InSAR データを用いた 2010 年 El Mayor-Cucapah 地震のすべり分布
の推定と余効変動の解析
2011 年 4 月 11 日いわき地震(Mw=6.6)のすべり分布インバージョ
ン
InSAR データを用いた 2010 年 El Mayor-Cucapah 地震のすべり分布
の推定と余効変動の解析
2011 年東北地方太平洋沖地震によって誘発された火山性地殻変動に
関する洞察
Coseismic and Postseismic Deformation Due to the 2010 El
Mayor-Cucapah Earthquake Detected by ALOS/PALSAR Data
Complex Ruptures of the 11 April 2011 Mw 6.6 Iwaki Earthquake
Triggered by the 11 March 2011 Mw 9.0 Tohoku Earthquake
SAR データを用いた 2010 年メキシコ・バハカリフォルニア地震に
伴う地殻変動解析
Observations of the 2011 Tohoku-Oki earthquake with
ALOS/PALSAR
PALSAR データを用いた微小地殻変動検出
InSAR で見る内陸地震の複雑性:ハイチ・ニュージーランド地震を
例にして
これまでの研究のレビューと今後への抱負
Crustal Deformation Associated
Earthquake: An Overview
with
the
2011
Tohoku-Oki
地震と火山の相互作用に関する考察
Surface Movements During the 2011 Great Tohoku-Oki Earthquake
Detected by ALOS/PALSAR
2011 年東北地方太平洋沖地震によって誘発された火山性地殻変動:
続報
Megathrust earthquakes in Japan and Chile triggered multiple
volcanoes to subside
PALSAR データを利用した西南日本変動マップの作成
2011 年東北地方太平洋沖地震に伴う火山性地殻変動と地殻 内高温
物体
2010 年ニュージーランド・ダーフィールド地震再訪
Volcanic subsidence triggered by the 2011 Tohoku earthquake in
Japan
Volcanic subsidence triggered by the 2011 Mw 9.0 Tohoku
earthquake
11
発表日
IUGG 2011
2011/07/02
FRINGE 2011 Workshop
2011/09/21
APSAR 2011
日本火山学会
秋季大会
日本地震学会
秋季大会
日本地震学会
秋季大会
日本地震学会
秋季大会
2011/09/27
2011 年度
2011 年度
2011 年度
2011 年度
2011/10/04
2011/10/13
2011/10/13
2011/10/14
第 116 回日本測地学会
2011/10/27
第 116 回日本測地学会
2011/10/27
第 116 回日本測地学会
2011/10/28
2011 AGU Fall Meeting
2011/12/06
Bulletin
of
the
Seismological Society of
America Vol. 13 (No. 2B)
日本地球惑星科学連合
2012 年大会
IGARSS 2012
2012/04/11
2012/05/23
2012/07/27
平成 24 年度京都大学防災
研究所一般研究集会
平成 24 年度京都大学防災
研究所一般研究集会
平成 24 年度京都大学防災
研究所一般研究集会
Earthquake Spectra Vol.
19 (No. S1)
東京大学地震研究所地震
研究所金曜日セミナー
2012/09/12
Technical Report of IEICE
2012/10/10
第 118 回日本測地学会
2012/11/02
2012 AGU Fall Meeting
2012/12/03
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
Nature Geoscience (Vol.
6)
IAVCEI 2013 Scientific
General Assembly
2012/09/11
2012/09/11
2012/09/17
2012/09/28
2013/05/22
2013/05/24
2013/05/24
2013/07/01
2013/07/21
地震 WG 成果報告書
表題
発表先
発表日
Chapter 2: "Coseismic deformations of the 2011 Tohoku, Japan,
earthquake and triggered events derived from ALOS/PALSAR" in
"Studies on the 2011 Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake"
Natural Disaster Science
and
Mitigation
Engineering:
DPRI
reports
2013/10/11
第 120 回日本測地学会
2013/10/31
DPRI Newsletter No.70
2013/11/00
巨大地震が火山に与える影響
COMSOL
CONFERENCE TOKYO
2013
2013/12/06
Application of InSAR to the Detection of Interseismic Deformation of
Subduction Zones:A Case Study of Southwest Japan
2013 AGU Fall Meeting
2013/12/11
巨大地震に伴う火山の沈降
ニュースレターJGL Vol.
10 (No. 1)
2014/02/00
InSAR 時系列解析と GPS データを用いた跡津川断 層周辺の地殻変
動の検出
東北地方太平洋沖地震に伴う火山の沈降を検出-巨大地震が 火山活
動に与える影響の解明に向けて-
表 9. 外部公表実績(05 北海道大学)
表題
発表先
Conjugate earthquake rupture associated with two recent intraplate
Earthquakes
APSAR 2011
発表日
2011/09/28
表 10. 外部公表実績(08 気象庁)
表題
地震波による震源過程と SAR 干渉画像の比較
陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)PALSAR を用いた合成開口
レーダ(SAR)の干渉解析
気象庁における SAR データを活用した地震・火山活動の把握と大気
補正手法について
発表先
発表日
平成 24 年度京都大学防災
研究所一般研究集会
2012/09/12
気象庁技術報告
2012/12/28
平成 25 年度京都大学防災
研究所特定研究集会
2013/08/22
表 11. 外部公表実績(09 日本電気株式会社)
表題
発表先
Extraction
of
Wide-Ranging
Crustal
Movement
ALOS/PALSAR ScanSAR Interferometry
Improvement of ScanSAR Interferometric Processing
Using
発表日
IGARSS 2011
2011/07/26
IGARSS 2013
2013/07/22
表 12. 外部公表実績(10 東北大学)
表題
発表先
InSAR 時系列解析による 2008 年岩手・宮城内陸地震震源域におけ
る地震後非地震性すべりの検出とその特徴
PS-InSAR 時系列解析による 2008 年岩手・宮城内陸地震後の長期的
非定常地殻変動
PS-InSAR および GPS 時系列にもとづく 2008 年岩手・宮城内陸
地震後長期的非定常地殻変動
PS-InSAR 時系列解析による 2008 年岩手・宮城内陸地震後の粘弾性
緩和と局所的余効変動の検出
平成 24 年度京都大学防災
研究所一般研究集会
日本地震学会 2012 年度
秋季大会
12
発表日
2012/09/12
2012/10/18
第 118 回日本測地学会
2012/11/02
日本地球惑星科学連合
2013 年大会
2013/05/21
地震 WG 成果報告書
表 13. 外部公表実績(11 公益財団法人地震予知総合研究振興会)
表題
発表先
福島盆地中部,飯坂付近における福島盆地西縁断層帯の不連続部に
ついて
3. 個別課題研究の成果報告
次ページ以降参照.
13
活断層研究 38 号
発表日
2013/04/06
地震-2301
地殻活動に伴う地殻変動の詳細把握
PI:国土地理院 地理地殻活動研究センター 小林
知勝
CI:国土地理院 地理地殻活動研究センター 飛田
幹男
CI:国土地理院 測地部 山中 雅之・大坂 優子・森下 遊
CI:国土地理院 測地観測センター
矢来 博司 1
1. はじめに
本実証実験では,地殻活動に伴う地殻変動や地表面変動の詳細な把握を通じて,地震発生メカニズ
ムの解明,地殻活動の監視,地震・地盤被害の把握・軽減に資することを目指し,PALSAR データの
SAR 干渉解析により,地殻変動等の分布図を作成することを目的としてきた.これら地殻変動分布図
や干渉解析データをもとに構築した震源断層モデルなどの成果は,国土地理院のホームページ,地震
学関連の専門委員会,学術論文等を通じて公開されてきた.本成果報告書では,2節で解析成果の概
要について,3節で成果の公表について報告する.
2. 解析成果
■ H23 年度
1)2011 年 3 月 11 日 東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)
2011/3/11 に発生した東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)に関して,SAR 干渉法を用い地震に伴
う地殻変動を検出した.予測軌道情報(RARR)による干渉結果には,地震性の地殻変動とは異
なる長空間波長の位相変化が重畳したが,GNSS データを利用した統合解析手法を適用すること
により,長波長ノイズを低減し,地震のメカニズムと調和的な地殻変動を検出することができた.
このことは,予測軌道情報しか使用できない観測直後においても,より正確な面的地殻変動分布
を迅速に獲得し,提供することができることを意味する.
2)東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸誘発地震
・3 月 12 日長野県・新潟県県境付近の地震(M6.7)
2011/3/12 に長野県栄村付近で発生した地震(M6.7)に関して,SAR 干渉解析を行い地震に伴
う地殻変動を検出した.現地調査によって得られた被害集中域を SAR 干渉画像上に重ねると,
被害が SAR 干渉縞の不連続部分や縁辺部に分布していることがわかった.
・3 月 19 日茨城県北部の地震(M6.1)
2011/3/19 に茨城県北部で発生した地震(M6.1)に関して,SAR 干渉解析を行い地震に伴う地
殻変動を検出した.干渉画像をもとに推定した震源断層モデル(2 枚のセグメントを仮定)から,
①南西傾斜の断層面(傾斜角 60~70°),②北北西(北西)-南南東(南東)方向の走向,③正
断層型の断層運動,④最大変位域の直下のごく浅部に局所的な滑り,等の特徴が得られた.
・3 月 23 日福島県浜通りの地震(M6.0)
2011/3/23 に福島県浜通りで発生した地震(M6.0)に関して,SAR 干渉解析を行い地震に伴う
地殻変動を検出し,震源断層モデルを構築した.①西傾斜の断層面(傾斜角 70°)
,②南北方向
の走向,③正断層型の断層運動(滑り角 250°)の特徴を持つ震源断層が推定された.
・4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)
現所属:1文部科学省
14
地震-2301
2011/4/11 に福島県浜通りで発生した地震(M7.0)に関して,SAR 干渉解析を行い地震に伴う
地殻変動を検出した.
塩ノ平断層の西側に最大約 2.2 m の衛星-地表間距離の伸長が観測された.
干渉画像には地表地震断層と対応する数条の変位の不連続が認められた.すべり分布モデルのイ
ンヴァージョン解析結果は,塩ノ平・井戸沢・湯ノ岳断層とも西傾斜で正断層型の断層運動を示
した.
3)コヒーレンス値低下を利用した液状化発生域の判読の試み
干渉解析におけるコヒーレンス値の低下域と,東北地方太平洋沖地震に伴う液状化の発生域と
の空間的な対応を調べた.利根川下流域および東京湾岸を調査領域としたところ,液状化発生が
確認されている場所では,対応する領域でコヒーレンス値が有意に低下しており,その空間分布
も現地調査による液状化範囲と概ね調和的であった.
■ H24 年度
1)MAI 法の試行
2008 年岩手・宮城内陸地震や 2010 年イラン南東部の地震等の PALSAR データを用いて,
Multiple Aperture Interferometry (MAI)解析を試験的に実施した.MAI はピクセルオフセット
より高い空間解像度と高い計測精度をもって地殻変動を抽出可能であることが確認された.南
行・北行両軌道の衛星視線方向および衛星進行方向の地殻変動成分を抽出し,InSAR データによ
る 3 次元変位場の作成を行った.
■ H25 年度
1)干渉 SAR 時系列解析による微小規模の地盤変動抽出
①越後平野及びその周辺
PSI 法を PALSAR データに適用し,新潟-神戸ひずみ集中帯(越後平野およびその周辺)に
おいて経年的に進行する地盤変動の抽出を試みた.その結果,地盤沈下が進行していることで知
られる阿賀野川河口周辺に,最大約 1 cm/年の速度で衛星から遠ざかる変化が南行・北行両軌道
から確認できた.また,衛星から遠ざかる変動は燕市・三条市付近にも見られた.一方,長岡平
野の一部(長岡市)には,顕著な衛星視線方向距離の短縮が見られた.なお,同地域を撮像した
1992-1998 年の ERS 衛星データによる解析結果からも,上記の特徴が同様に見られた.
②フィリピン・ミンダナオ島
PSI および SBAS 法を PALSAR データに適用して,フィリピン・ミンダナオ島北東部のフィ
リピン断層帯の地震間地殻変動の検出を試みた.両手法(解析ソフトウェアはそれぞれ,StaMPS
および GIAnT を使用)の結果とも明瞭な地殻変動は現在のところ捉えられていないが,Butuan
(ブトゥアン)周辺の平野部では,地盤沈下と推測される顕著な沈降性の変動が捉えられた.
3. 成果の公表
○ウェブ上での公開
東北地方太平洋沖地震(M9.0)
http://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/uchuusokuchi40010.html
http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/sar/result/sar_data/urgent/20110311_tohoku_taiheiyo.html
4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)
http://www.gsi.go.jp/cais/topic110425-index.html
15
地震-2301
○地震予知連絡会・地震調査委員会への報告
国土地理院,平成 23 年(2011 年)3 月 19 日茨城県北部の地震(M6.1)・3 月 23 日福島県浜通りの
地震(M6.0)に関する合成開口レーダー解析結果.(第 191 回地震予知連絡会,2011/6/13).
国土地理院,平成 23 年 2011 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)に関する合成開口レーダー解
析結果.(第 226 回地震調査委員会,2011/5/11).
国土地理院,平成 23 年(2011 年)3 月 12 日長野県・新潟県県境付近の地震 (M6.7)に関する合成開口
レーダー解析結果.(第 226 回地震調査委員会,2011/5/11).
国土地理院,合成開口レーダー(SAR)と電子基準点(GPS 連続観測点)の融合解析による地殻変動
(暫定).(第 190 回地震予知連絡会,2011/4/26).
国土地理院,平成 23 年(2011 年)3 月 19 日茨城県北部の地震(M6.1)に関する合成開口レーダー
解析結果.(第 190 回地震予知連絡会,2011/4/26).
国土地理院,平成 23 年 2011 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震(M7.0)に関する合成開口レーダー解
析結果.(第 190 回地震予知連絡会,2011/4/26).
国土地理院,平成 23 年(2011 年)3 月 19 日茨城県北部の地震(M6.1)に関する合成開口レーダー
解析結果.(第 224 回地震調査委員会,2011/4/11).
○論文への発表
「査読付論文」
T. Kobayashi, The 2011 Tohoku earthquake and the related disasters observed by InSAR using
ALOS/PALSAR: Mainshock, induced inland earthquakes, and Liquefaction, APSAR
proceedings, TH3.R1.1, 2013.
T. Kobayashi, M. Tobita, M. Koarai, T. Okatani, A. Suzuki, Y. Noguchi, M. Yamanaka, and B.
Miyahara, InSAR-derived crustal deformation and fault models of normal faulting earthquake
(Mj7.0) in Fukushima-Hamadori area, Earth Planets Space, 64, 1209-1221, 2012.
水藤 尚,西村 卓也,小林 知勝,小沢 慎三郎,飛田 幹男,今給黎 哲郎,2011 年(平成 23
年)東北地方太平洋沖地震に伴う地震時および地震後の地殻変動と断層モデル,地震,65,95-
121,2012.
T. Kobayashi, M. Tobita, T. Nishimura, A. Suzuki, Y. Noguchi, and M. Yamanaka, Crustal
deformation map for the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, detected by InSAR
analysis combined with GEONET data, Earth Planets Space, 63(No. 7), 621-625,
doi:10.5047/eps.2011.06.043, 2011.
小林 知勝,飛田 幹男,村上 亮,局所的大変位を伴う地殻変動計測のためのピクセルオフセット
解析,測地学会誌,57,71-81,2011.
M. Tobita, T. Nishimura, T. Kobayashi, K. X. Hao, and Y. Shindo, Estimation of coseismic
deformation and a fault model of the 2010 Yushu earthquake using PALSAR interferometry
data, Earth Planet. Sci. Lett., 307, 430-438, doi:10.1016/j.epsl.2011.05.017, 2011.
「査読無し論文」
T. Kobayashi, M. Tobita, A. Suzuki, and Y. Noguchi, InSAR-derived coseismic deformation of the
2010 southeastern Iran earthquake (M6.5) and its relationship with the tectonic background in
16
地震-2301
the south of Lut Block, Bulletin of the GSI (国土地理院報告),60,7-17, 2012.
中埜 貴元,小荒井 衛,乙井 康成,小林 知勝,2011 年 3 月 12 日長野県・新潟県県境付近の地
震に伴う災害の特徴,国土地理院時報,123,35-48, 2012.
小林 知勝,飛田 幹男,小荒井衛,乙井康成,中埜貴元,干渉 SAR のコヒーレンス変化から見る
平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震に伴う液状化地域,国土地理院時報,122,143-151,
2011.
T. Imakiire and T. Kobayashi, The Crustal Deformation and Fault Model of the 2011 off the
Pacific Coast of Tohoku Earthquake(平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震による地殻変動
と断層モデル), Bulletin of the GSI (国土地理院報告),59,21-30, 2011.
山中 雅之,野口 優子,鈴木 啓,宮原 伐折羅,石原 操,小林 知勝,飛田 幹男,衛星合成
開口レーダーを用いた平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動の検出,国土地
理院時報,122,47-54, 2011(平成 23 年).
○学会等への発表
T. Kobayashi,The 2011 Tohoku earthquake and the related disasters observed by InSAR using
ALOS/PALSAR: Mainshock, induced inland earthquakes, and Liquefaction.(APSAR(第4回ア
ジア太平洋合成開口レーダー学会),つくば,2013/9/23-27)
T. Nakano, M. Koarai, Kosei Otoi, and Tomokazu Kobayashi,Characteristic of foundation disaster
distribution caused by a strong inland earthquake in fold region- Experience with the
Nagano-Niigata border earthquake(IGU(国際地理学会)
,京都,2013/08/02-04)
小林 知勝,地殻変動観測における Along-track InSAR の有効性の検討.(STT57-11,地球惑星科学
関連学会合同大会,東京,2013/5/19-25)
中埜 貴元,小荒井 衛,乙井 康成,小林 知勝,2011 年長野県・新潟県県境付近の地震に伴う地
盤災害の分布特性.(HSC25-07,地球惑星科学関連学会合同大会,東京,2013/5/20)
T. Kobayashi,Crustal deformation map for the 2011 off the Pacific coast of Tohoku
Earthquake,detected by InSAR analysis combined with GEONET data,
(日仏セミナー地震・
津波,東京(仏大使館,2012/11/13)
小林 知勝,
次なる SAR 観測研究に向けて ~地殻変動観測ツールとしての有効性と課題の再確認~,
(京都大学防災研究所一般研究集会「SAR 研究の新時代に向けて」,宇治(京大防災研),
2012/09/12)
小林 知勝,飛田 幹男,小荒井衛,乙井康成,中埜貴元,干渉 SAR のコヒーレンス変化から見る
平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震に伴う液状化地域,
(HSC24-P02,地球惑星科学関連
学会合同大会,東京,2012/5/23)
中埜 貴元,小荒井 衛,乙井 康成,小林 知勝,2011 年3月 12 日長野・新潟県境付近の地震に
伴う地盤災害の特徴,
(HDS25-P14,地球惑星科学関連学会合同大会,東京,2012/5/20)
T. Kobayashi, M. Tobita, T. Nishimura, S. Ozawa, H. Suito, and T. Imakiire, GPS- and
InSAR-derived crustal deformation and fault models of the 2011 Tohoku earthquake and the
induced inland earthquakes,(First Workshop of Asia-Pacific Region Global Earthquake and
Volcanic Eruption Risk Management (G-EVER 1) 第 1 回アジア太平洋大規模地震・火山噴火リ
スク対策ワークショップ,つくば(産総研)
,P7, 2012/2/22-24(CoreTime: 2/23))
17
地震-2301
T. Kobayashi, and M. Tobita, Seismic gap and a series of large earthquakes alogn the Sunda
trench and the Sumatran fault,(First Workshop of Asia-Pacific Region Global Earthquake and
Volcanic Eruption Risk Management (G-EVER 1) 第 1 回アジア太平洋大規模地震・火山噴火リ
スク対策ワークショップ,つくば(産総研)
,P8, 2012/2/22-24(CoreTime: 2/23))
小荒井 衛,中埜 貴基,岡谷 隆基,小林 知勝,乙井 康成,東北地方太平洋沖地震により誘発
された地震の被害の特徴,
(第 21 回環境地質学シンポジウム,東京(早稲田大学)
,2012/1/24)
(Proceedings of the 21st Symposium on Geo-Environments and Geo-Technics. 2012, 105-110)
山中 雅之,野口 優子,鈴木 啓,宮原 伐折羅,小林 知勝,飛田 幹男,石原 操,ALOS/PALSAR
データで捉えた平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動(Crustal deformation
of the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake detected by ALOS/PALSAR)
,セッショ
ン:B-05 東日本大震災における人工衛星の貢献,
(第 55 回宇宙科学技術連合講演会,松山,
2011/11/30-12/2)
小林 知勝,飛田 幹男,SAR 干渉解析から得られた東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸地震の
地殻変動と震源断層モデル,
(日本測地学会,高山,2011/10/26-27)
山中 雅之,野口 優子,鈴木 啓,宮原 伐折羅,小林 知勝,飛田 幹男,ALOS/PALSAR で捉
えた平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動,
(日本測地学会,高山,2011/10/27)
小林 知勝,飛田 幹男,SAR 干渉解析から得られた東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸地震の
地殻変動と震源断層モデル,
(日本地震学会,静岡,2011/10/12-15)
中埜 貴元,小荒井 衛,乙井 康成,小林 知勝,2011 年長野県北部地震における被害分布の特徴,
(日本地理学会,大分,2011/9/23-25)
小荒井 衛,岡谷 隆基,小林 知勝,飛田 幹男,脇坂 安彦,佐々木 靖人,阿南 修司,平成
23 年4月 11 日福島県浜通りの地震による被害状況と地形・地質との関連,
(地質学会,水戸,
2011/9/9-11)
小荒井 衛,岡谷 隆基,小林 知勝,飛田 幹男,脇坂 安彦,佐々木 靖人,阿南 修司,平成
23 年4月 11 日福島県浜通りの地震による地盤変状と SAR 干渉画像との関連,
(第四期学会,徳島,
2011/8/26)
小林 知勝,飛田 幹男,鈴木 啓,野口 優子,ALOS/PALSAR データにより検出された 2010 年
イラン南東部の地震に伴う地殻変動,
(STT057-04,地球惑星科学関連学会合同大会,東京,
2011/5/24)
18
地震-2301
図 1. ALOS/PALSAR の北行軌道データの干渉処理により得られた 2011 年(平成 23 年)東北地方太平洋沖地震に伴う
地殻変動.拡大図は,内陸地震に伴う地殻変動を示す.
19
地震-2301
図 2. ALOS/PALSAR の南行軌道データの干渉処理により得られた 2011 年(平成 23 年)東北地方太平洋沖地震に伴う
地殻変動.拡大図は,内陸地震に伴う地殻変動を示す.
20
地震-2301
図 3. 2011 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震(Mj7.0)に伴う地殻変動と InSAR データから推定された断層面上の滑り
分布の 3 次元鳥瞰図.写真は,干渉画像中の A,B 点で撮影されたもの.図下は,測線 X-X’に沿った変位プロファイル.
変位の不連続が幾つか確認される(一部,地表地震断層)
.
21
地震-2301
図4. (a)現地調査による利根川下流域の液状化発生領域.赤色及び青色のマスク領域はそれぞれ液状化範囲,非液状化範
囲を示す.(b)2010/12/18-2011/2/2のコヒーレンス画像と2011/2/2-2011/3/20のコヒーレンス画像によるコヒーレンス差
画像.コヒーレンスが低下したことを示す紫~黄色が部分的に見られる.(c)および(d) (a)の点線枠内における液状化の現
地調査結果とコヒーレンス差画像の拡大図.
22
地震-2301
図5. MAIにより抽出された2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動.南行・北行両軌道データを利用することにより,
干渉解析による3次元地殻変動図が獲得できる.ピクセルオフセットの3次元変動データと組み合わせることにより,低
干渉領域も含めた高S/N比の3次元変動データが獲得できる.
23
地震-2301
図6. PSIにより検出した越後平野およびその周辺の微小地盤変動.
24
地震-2301
図7. フィリピン・ミンダナオ島北東部のPALSARデータにSBAS法を適用した解析結果.ブトゥアンの付近に沈降性の地
表変位が見られる.
25
地震-2302
地震に伴う地殻変動の検出を目的とした緊急観測データの解析
PI:防災科学技術研究所・地震・火山防災研究ユニット 小澤 拓
1. はじめに
本課題の目的は,本地震 WG を通じて実施される合成開口レーダー(SAR)による緊急観測のデー
タを解析し,地震に伴う地殻変動を検出することである.また,地殻変動が検出された場合には,そ
の断層モデルの推定を試みることも目的の一つである.本研究期間においては,2011 年 3 月 11 日に
東北地方の太平洋沖で発生した東北地方太平洋沖地震(MW9.0)に関して,陸域観測技術衛星「だい
ち」の PALSAR による緊急観測が実施された.本報告においては,その解析結果について述べる.
東北地方太平洋沖地震は太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込む領域(気象庁一元化震源:
北緯 38 度 6 分 12 秒,東経 142 度 51 分 36 秒,深さ 24km)で発生したプレート境界型の地震であ
り,防災科研の F-net によれば,東南東-西北西方向に圧縮軸を持つ逆断層型のメカニズムをもつ.
国土地理院の日本全国 GPS 観測網(GEONET)によっては,北緯 36 度から 40 度の広範囲において,
1m を超える地殻変動が観測された.また,東北地方の GPS 観測点は地震時におおよそ東に変位し,
太平洋の海岸に近付くほど沈降量が増加する傾向が見られた.最大変位は牡鹿半島で観測され,その
水平変位は約 5m,上下変位は約-1m であった(3 月 18 日までの余効変動を含む).また,日本海の
海岸付近でも 1m を超える変位が検出された.
地震に伴う大きな地殻変動や地震動は,本震の断層面から離れた場所での地震や火山活動の変化,
地盤沈下等を誘発する場合がある.一般的に,海溝沿いの断層すべりに起因する地殻変動は,陸域で
は 100km オーダーの空間波長を持つが,地震に誘発された現象に起因するより空間波長の短い地殻
変動が重畳していると考えられる.前述したように,地震に伴う地殻変動は,GEONET によって詳
細に捉えられているが,GEONET の観測点設置間隔はおおよそ 20km であり,そのような短波長の
地殻変動を検出する目的においては,必ずしも十分な空間分解能を有しているとは言えない.
一方,合成開口レーダー(SAR)は,数 10m の空間分解能で地殻変動情報を求めることが可能で
あり,そのような空間波長の短い地殻変動の検出に威力を発揮する.そこで,本研究では,PALSAR
データを用いた SAR 干渉解析を実施し,
火山周辺でどのような地殻変動が生じているかを調査した.
なお,この結果については Ozawa and Fujita (2013)に述べており,本報告はその要約である.
2. InSAR 解析
本地震発生直後に,地殻変動調査を目的とした PALSAR による緊急観測要求が本地震 WG から
提出され,7 つの北行軌道および 3 つの南行軌道からのストリップマップモードによる観測が実施さ
れた.このうち,本研究では,7 つの北行軌道および 2 つの南行軌道から観測された PALSAR データ
について SAR 干渉解析を行った.他の軌道についても観測要求を行ったが,4 月 22 日に発生した
ALOS の異常によって運用が停止されたため,残念ながら,それ以降の観測は実施されなかった.ま
た,ディセンディングの 4 軌道における ScanSAR 観測も実施されたが,ScanSAR-ScanSAR の干渉
ペアについては,軌道間距離やバースト同期の問題により十分な干渉性は得られなかった.
SAR 処理および SAR 干渉処理には GAMMA SAR Processor を用いた.地殻変動成分の抽出にお
いては 2 パス差分 SAR 干渉法を用い,地形成分の計算には,国土地理院が公開している 10m メッシ
ュの地形標高モデル(DEM)と EGM96 から作成した 50m 格子の数値楕円体高データを用いた.軌
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地震-2302
図 1. PALSAR データを用いた SAR 干渉解析結果.(a)北行軌道データの解析結果.(b)南行軌道データの解析結果.
道成分および地形成分の計算においては,level1.0 データに格納されている高精度軌道情報を用い,
SAR 干渉解析においては軌道間距離の補正量は推定していない.また,小澤・清水(2010)の方法
を用いて,気象庁メソスケール気象モデルの解析値(10km メッシュ)から大気遅延量をシミュレー
トし,大気遅延誤差を軽減した.
図 1 は,SAR 干渉解析によって得られた地殻変動を示す.SAR 干渉解析によっては,解析に用い
た 2 枚の画像の観測間に生じた地殻変動による衛星-地表間距離(スラントレンジ)の変化が得られ
る.これは地表変位ベクトルとレーダー波の入射方向(LOS: Line-of-sight)の単位ベクトルとの内
積値に等しく,北行軌道と南行軌道のシーン中央部における LOS ベクトルはそれぞれ(東西,北南,
上下)成分で(0.62, 0.11, -0.78)と(-0.62, 0.11, -0.78)である.これは画素の位置によって若干異
なるが,その差異は 5 度程度である.スラントレンジ変化は牡鹿半島沖付近を中心とするように分布
しており,北行軌道の干渉画像においては牡鹿半島に近づくにつれてスラントレンジ伸長が大きくな
り,南行軌道においては短縮が大きくなる変化が見られる.例として,三沢市付近に対する牡鹿半島
付近のスラントレンジ変化量を見ると,北行軌道では 4m のスラントレンジ伸長,南行軌道では 3m
の短縮が得られた.これは牡鹿半島が三沢市付近に対して,東進かつ沈降する成分を持つことを示し
ている.また, GEONET による地殻変動から計算される三沢観測点に対する女川観測点のスラント
レンジ変化は,北行軌道に関しては 3.3m の伸長,南行軌道に関しては 2.2m の短縮であった.軌道
27
地震-2302
誤差に起因する長波長の非地殻変動成分が含
まれることを考慮すれば,これらはおおよそ
一致していると言える.得られた地殻変動に
は,広域的に長波長成分が卓越しているが,
そのような長波長成分の大部分は,海溝に沿
う断層のずれと若干の軌道誤差に起因する成
分によって説明できると考えられる.この地
殻変動結果から,本研究が目的とする局所的
な地殻変動の調査は困難であるが,本研究が
検出対象とする地殻変動の波長は長くても数
10km 程度であり,陸域における海溝沿いの
断層すべりに起因する地殻変動の空間波長と
は大きく異なるため,比較的容易に分離でき
ると考えられる.本研究においては,得られ
た地殻変動を良く説明する本震に関する断層
モデルを求め,その残差から火山周辺におけ
図 2. 断層すべり分布推定結果
る局所的な地殻変動の調査を試みる.
3. 断層すべり分布の推定
断層モデルの推定においては,まず,太平洋プレートの沈み込みの形状(downloaded from MRI
Hirose’s homepage (http://www.mri-jma.go.jp/Dep/sv/2ken/fhirose/index.html) after Kita et al.
2010, Nakajima and Hasegawa, 2006, Nakajima et al., 2009)に沿って,30km×30km の大きさの
断層セグメントを配列した.そして,干渉画像を良く説明する各セグメントのすべりベクトルを,
Okada (1985)の逆解析により推定した.この時,断層面上でのすべり分布は滑らかであるという拘束
条件を付与した.その強さは,Jónsson et al. (2002)の方法を用いて決定した.得られた地殻変動には,
衛星軌道情報に起因する誤差が重畳していると考えられるため,その成分∆ρnon-def を
∆ρnon-def = a0 + a1x + a2y + a3xy + a4x2 + a5y2
として,未知数 a0~a5 も推定パラメータに加えた.ここで,x,y はそれぞれ東西,南北方向のピクセル
位置である.解析に使用した地震後の SAR データは,3/15 から 4/18 の間に観測されており,1 ヵ月
以上の差がある.GEONET によっては,大きな余効変動が観測されているので,観測パスごとに含
まれる余効変動の大きさが異なると推測される.しかし,
本論文の目的は断層モデルの推定ではなく,
本震断層や余効すべりによる空間波長が長い地殻変動を除去することが目的であり,そのような観測
日の違いによる影響は短波長の地殻変動には寄与しないと仮定して,その影響を無視した.
図 2 は SAR 干渉解析結果から推定された断層すべり分布を示す.震央付近を中心とする海溝に近
い浅部に顕著な断層すべりが求まり,そのすべり方向はおおよそ 90 度である.モーメントマグニチ
ュードは 9.0 と求まった.10m を超すすべりは,海溝に沿っては,おおよそ 36 度から 40 度の間に求
まった. 最大すべり量は震央付近に求まり,その大きさは 29m であった.この断層すべりモデルに
ついては,必ずしも最適とは言えないかもしれないが,図 3 および図 4 に示すように,海溝沿いの断
28
地震-2302
図 3. SAR 干渉解析から求まった地殻変動と推定された
図 4. GEONET によって観測された地殻変動
断層モデルからの計算した地殻変動との差
と推定された断層モデルからの計算した地殻
変動との差
層すべりで説明されるような長波長の成分は 9 割以上除去できており,さらに,モデリング誤差は短
波長の地殻変動にはほとんど影響しない.よって,地殻変動の長波長成分を除去する目的には十分に
用いることができるモデルと考えられる.SAR 干渉画像に関する残差をみると,各所に 100km 程度
の空間波長を持つ数 cm 程度の残差が見られるが,それらのほとんどは海溝に沿う断層のずれによっ
ては説明不可能であり,ほとんどは大気や積雪等に起因する見かけのスラントレンジ変化と推測され
る.
4. 地殻変動の有意性
断層モデルによるスラントレンジ変化量を観測されたスラントレンジ変化量から減算した残差画像
(図 3)において,内陸で発生した誘発地震の震央付近に注目すると,地震に伴う顕著な地殻変動シ
グナルが見られる.例えば,3 月 12 日に発生した長野県北部の M6.7 の地震,3 月 19 日に発生した
茨城県北西部の M6.1 の地震,4 月 11 日に発生した福島県東部の M7.0 の地震である.茨城県北部の
地震についての SAR 干渉解析結果は Kobayashi et al. (2011)で取り扱われているし,他の地震につい
ても複数の研究機関によって調査を進められているところである.これらの地殻変動については本論
文のトピックとは外れるので,上記のような簡単な記述に留め,本論文では火山周辺の地殻変動に注
目する.
SAR 干渉画像解析結果の残差画像において秋田駒ケ岳,栗駒山,蔵王山,吾妻山,那須岳周辺に注
目すると,5~12cm 程度のスラントレンジ伸長を示す残差が見られる(図 3 および図 5)
.その幅はお
およそ 10~30km である.このようなスラントレンジ変化は大気電波伝搬遅延による擾乱に起因する
場合が多く,火山以外の領域においても同程度のスラントレンジ変化が見られるので,それが実際の
地殻変動を示すシグナルであるかどうかを注意深く考察する必要がある.前述したように,本解析に
おいては気象庁メソ客観解析の結果から大気遅延量を計算する手法(小澤・清水,2010)を適用し,
大気遅延誤差を軽減している.この手法によっては,1σでおおよそ 1cm の地殻変動検出精度が得ら
れることが確かめられており,得られた残差はそれよりも有意に大きい.しかし,山岳域においては,
地形に起因する局所的な気象状態が生じる場合があり,それがこのような振幅の大きい局所的な残差
29
地震-2302
図 5. SAR 干渉解析から求まった地殻変動と推定された断層モデルからの計算した地殻変動との差.
画像範囲は,図 3 の図中に示す.(a)秋田駒ヶ岳周辺の拡大図.(b)栗駒山周辺の拡大図.(c)蔵王山周
辺の拡大図.(d)吾妻山周辺の拡大図.(e)那須岳周辺の拡大図.
図 6. SAR 干渉解析から求めたスラントレンジ変化の残差と GEONET の地
殻変動に関する残差ベクトルから計算したスラントレンジ変化量との比較.
30
地震-2302
を生じさせる可能性がある.よって,このような経験的な精度のみによって,この残差が局所的な地
殻変動を示すものかを結論付けるべきではない.その有意性を示すためには,異なる観測から同様の
地殻変動が見られるかを調べることが重要である.
本解析で用いた PALSAR データの観測幅は,隣の軌道の観測幅と 10~20km 程度重なっており,局
所的なスラントレンジ変化が見られた領域は隣り合う 2 軌道の観測画像に含まれている.そこで,そ
れらの異なる観測日に得られた独立な干渉ペアから得られた地殻変動を比較する.図 5 は,それぞれ
の火山周辺の残差画像拡大図であり,どの火山においても,同様のスラントレンジ変化分布が見られ
た.偶然にも,前述した地形等の要因による局所的な気象状態が異なる観測日に同様に分布する可能
性は完全には否定できないが,
そのような偶然が異なる 5 か所で現れる可能性は極めて低い.さらに,
より堅固にこの有意性を検証するために,GEONET による地殻変動についても調査した.栗駒山,
蔵王山,吾妻山においてスラントレンジ変化が求まった領域に注目すると,その領域には 1~2 点の
GEONET 観測点が設置されているので,これらの観測点においては,周りの観測点と異なる地殻変
動が検出されるはずである.そこで,GEONET による地殻変動に関する残差に注目すると,局所的
な沈降を示す残差が求まった.さらに,GEONET から求まった残差ベクトルをスラントレンジ変化
量に変換すると,その量は SAR 干渉解析結果に見られる残差と良く一致する(図 6)
.
以上のように,独立の干渉ペアから同様の局所変化が見られることや,その地殻変動域に設置され
ている GPS から,調和的な局所変動が求まったことから,得られた地殻変動はノイズではなく,実
際の地殻変動を示すシグナルであると考えられる.
5. 推定された局所変動の発生メカニズム
局所地殻変動は地震に関連して生じたと考えられることから,この地殻変動は地震に伴う伸長変動
に関係すると推測される.また,一般に,火山下にはマグマに関連した高温の媒質が存在すると考え
られる.そのような媒質は,周辺の媒質よりも変形しやすく,より大きく伸長すると考えると,その
直上付近で局所的な地殻変動が生じるという可能性が考えられる.この仮説の検証のため,有限要素
法を用いた数値実験を試みた.本数値実験においてはアドバンスソフトウェア社の有限要素法ソフト
ウェア FrontSTR を使用した.計算領域は 100km×100km×30km とし,1km 間隔の格子を設定し,
各側面と下面の境界の要素に,推定した断層モデルから Okada (1992)によって計算される変位を与え
た.その媒質のポアソン比は 0.25,ヤング率は 72GPa とした.さらに,その中心の直下 10km に半
径 5km,ヤング率 1GPa の媒質が含まれる場合についても計算し,一様媒質で計算した場合との差か
ら,局所的な地殻変動を計算した.つまり,長波長の地殻変動を除去した図 3 および図 4 に相当する
地殻変動分布である.図 7 は,各火山について計算したものであり,火山周辺に局所的な沈降が生じ
ることが確かめられた.また,その沈降域は,主ひずみの短縮軸方向に延びるような分布をしており,
これは SAR 干渉解析から得られた地殻変動分布と調和的である.一方,数値実験から求まった沈降
量が数 cm であるのに対して,観測されたスラントレンジ変化量は 5~12cm 程度である.数値実験に
よって,観測された地殻変動を再現するためには,巨大なやわらかい媒質を,極めて浅い領域に設定
する必要があり,現実的ではないように思われる.この地殻変動を説明するためには,複数のマグマ
だまりの存在や,
減圧に伴うマグマの流下による収縮変動の可能性も考えられる.
このような成分は,
力源の収縮によって説明することができるので,数値実験により求まった断層走向方向には収縮,直
交方向には膨張の成分を持つという特徴と異なる.よって,より密な 3 次元地殻変動情報があれば,
これらを分離することができるかもしれない.
31
地震-2302
図 7. 有限要素法による数値実験結果.挿入図は水平主ひずみを示し,赤は伸長,青は短縮を示
す.(a)秋田駒ヶ岳周辺.(b)栗駒山周辺.(c)蔵王山周辺.(d)吾妻山周辺.(e)那須岳周辺.(f)数値
実験において設定した媒質の概略図.
6. まとめ
本研究においては,SAR 干渉解析および GEONET による地殻変動データを用いて,2011 年東北
地方太平洋沖地震に伴う火山周辺での局所地殻変動の調査を行った.その結果,秋田駒ケ岳,栗駒山,
蔵王山,吾妻山,那須岳周辺において,沈降傾向の局所地殻変動が検出された.異なるデータから同
様の地殻変動が検出されたことから,ノイズではなく,実際の地殻変動シグナルを示すものと考えら
れる.そのような地殻変動が生じる要因の一つとして,火山下に存在するマグマなどの変形しやすい
媒質が,地震に伴う伸長に対して周りの媒質とは異なる変形をすることに起因すると推測される.た
だし,すべての地殻変動を説明するためには,マグマ移動等も含めた,複合的な地殻変動メカニズム
を考慮する必要があるかもしれない.
謝辞.本研究で用いた PALSAR データは,防災利用実証実験地震 WG から提出された観測要求に基
づ い て 観 測 さ れ た も の で あ る . ま た , 使 用 し た デ ー タ は , PIXEL (PALSAR Interferometry
Consortium to Study our Evolving Land surface)において共有しているものであり,宇宙航空研究
32
地震-2302
開発機構(JAXA)と東京大学地震研究所との共同研究契約により JAXA から提供されたものである.
本研究の一部は,東京大学地震研究所共同研究(B)「SAR を用いた地震火山活動に伴う地殻変動の
検出」で行われた.PALSAR データの所有権は経済産業省および JAXA にある.また,本研究にお
いては GEONET データ(F3 解)および気象庁一元化震源データを使用した.
参考文献
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Kita, S., T. Okada, A. Hasegawa, J. Nakajima, and T. Matsuzawa (2010), Anomalous deepening of a seismic belt in the
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thermal shielding caused by subducted forearc crust materials, Earth Planet. Sci. Lett., 290, 415–426.
Kobayashi, T., M. Tobita, T. Nishimura, A. Suzuki, Y. Noguchi, and M. Yamanaka (2011), Crustal deformation map for
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subducted Pacific slab beneath Kanto, Japan: Reactivation of subducted fracture zone?, Geophys. Res. Lett., 33,
L16309, doi:10.1029/2006GL026773.
Nakajima, J., F. Hirose, and A. Hasegawa (2009), Seismotectonics beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Effect
of slab-slab contact and overlap on seismicity, J. Geophys. Res., 114, B08309, doi:10.1029/2008JB006101.
Okada, Y. (1985), Surface deformation due to shear and tensile faults in a half-space, Bull. Seism. Soc. Am., 75,
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Okada, Y. (1992), Internal deformation due to shear and tensile faults in a half-space, Bull. Seism. Soc. Am., 82,
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小澤拓・清水慎吾 (2010),数値気象モデルを用いた SAR 干渉解析における大気遅延誤差の軽減,測地学会誌,56,
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Ozawa, T. and E. Fujita (2013), Local deformations around volcanoes associated with the 2011 off the Pacific coast of
Tohoku Earthquake, J. Geophys. Res., 118, doi:10.1029/2011JB009129.
33
地震-2303
沈み込み帯における応力蓄積・拡散過程と内陸地震の発生機構に関する研究
PI:京都大学・防災研究所 橋本学
CI:京都大学・防災研究所 福島洋・高田陽一郎
1. はじめに
我々は,沈み込み帯における応力蓄積・拡散過程と内陸地震の発生メカニズムの関連性を探るため
に,主として西南日本を中心に「だいち」(ALOS)搭載合成開口レーダー(PALSAR)画像の解析を
行なって来た.実施した研究は,以下の3つに大別される.
(1)四国全域の平均変動速度の把握
(2)東北地方太平洋沖地震に伴う東北日本弧内陸における地殻活動
(3)海外の事例の調査
以下に,これらの実施内容および結果を述べる.
2. 四国全域の平均変動速度図の作成
四国地方は,沖合の南海トラフにおいてフィリピン海プレートが沈み込みを行い,顕著な地殻変動
が生じている.GNSS の観測によると,西北西方向の水平変位が卓越し,南から北に向かう変動勾配
があることが確かめられている(図 1(a)).この変位場は,東西方向の変位に感度が高い人工衛星搭
載型 SAR による観測に適している.この観察に基づいて,我々は四国を対象に平均変動速度を
ALOS/PALSAR を用いて検出することを試みて来た.観測機会の多い北行軌道の画像を主に解析して
来たが,観測時期によっては電離層擾乱によると考えられる見かけの変動(peak-to-peak で最大 4〜
50cm 程度)が認められるため,これらを目視により除去し,スタッキングを行なった.図 1(a)が,
四国をほぼカバーする 4 パスの画像の解析結果であるが,明らかに東西に大きな変位速度勾配を持つ
結果となり,GNSS の観測結果(図 1(b))とあわない.また,中国地方でのパス間の不連続が顕著で
ある.このため,依然系統誤差が残っていると考えられる.
最終年度にあたり,系統誤差がどの程度の大きさであり,そしてどのような空間分布を持っている
のかを知るために,
GNSS の変位と干渉画像の視線距離変化を直接比較し,
その誤差評価を行なった.
手順は,次の通りである.
(1)特定の ALOS/PALSAR 画像ペアに対して,その撮像領域内に位置する GEONET 観測点を抽
𝑃
)に変換する.
出し,マスター・スレーブ撮像期間の変位 3 成分を求め,視線距離変化(𝛿𝜑𝐺𝑁𝑆𝑆
𝑃
)を抽出する.
(2)当該の干渉画像(𝛿𝜑 𝑜𝑏𝑠 )から,GEONET 観測点での視線距離変化(𝛿𝜑𝑆𝐴𝑅
(3)GEONET 観測局毎に GNSS 観測および干渉画像から得られた視線距離変化の差を計算する
𝑃
𝑃
− 𝛿𝜑𝑆𝐴𝑅
)
.
(∆𝛿𝜑 𝑃 = 𝛿𝜑𝐺𝑁𝑆𝑆
.あわ
(4)GEONET 観測局での視線距離変化の差(∆𝛿𝜑 𝑃 )を曲面で近似・内挿する(∆𝛿𝜑 𝑖𝑛𝑡𝑒𝑟𝑝)
せて,平均・標準偏差や緯度・経度・標高依存性を調べる.
.
(5)
(4)で得られた近似曲面を観測干渉画像に加える(𝛿𝜑 𝑐𝑜𝑟𝑟 = 𝛿𝜑 𝑜𝑏𝑠 + ∆𝛿𝜑 𝑖𝑛𝑡𝑒𝑟𝑝 )
図 2 に 1 例を示す.図 2(a)はパス 419 の 2010 年 4 月 11 日と 5 月 27 日のペアによるアンラップ干渉
画像である.
同じ日の GEONET の変位ベクトルとこれから計算される理論干渉画像が図 2(b)である.
GEONET の変位からは,46 日間ということもあり,ほとんど変動が期待されない.しかし,PALSAR
干渉画像には,四国において東西で±20cm 以上の視線距離変化が認められる.また,中国地方にお
34
地震-2303
いても顕著な舌状の視線距離短縮領域が見られる.この干渉画像に対する手順の(3)および(4)
の結果が,図 2(c)である.GEONET 計算値から干渉画像を引いているので,図 2(a)のパターンを正
負逆転したパターンが得られる.干渉画像中には 36 点の GEONET 観測点がある.これらの観測点
における視線距離変化の差の標準偏差を計算すると,7.8cm となる.平均は-1.7cm であるが,
GEONET 観測点は ITRF2005,干渉画像はアンラップ時のサンプル点(画像のほぼ中心)に相対的
なものとなるため,平均そのものには意味はない.GEONET 観測点の緯度・経度・標高に対する視
線距離変化の差をプロットしたものが,図 3 である.緯度・経度に対して 2 つのグループに分けられ
る.すなわち,北緯 34°を境に分布が異なる.明らかに線形関数では視線距離変化の差を近似するこ
とはできない.ここでは,GMT の Surface コマンドを用いて,近似・内挿した.最後に図 2(a)の観
測干渉画像に図 2(c)の視線距離変化の差の内挿図を足し合わせることにより,補正干渉画像(図 2(d))
を得る.全体的に黄色くなり,GEONET の変位分布に沿うようになった.ただし,波長 20km 程度
の変動は依然残っている.
図 4 は,視線距離変化の差の標準偏差が 2.1cm と小さいペアの例である.マスターは 2008 年 1 月
4 日,スレーブは 2010 年 2 月 24 日と,2 年間の変動に関する情報を含んでいるはずである.しかし,
図 4(a)の干渉画像には東西方向の変位勾配が認められ,図 4(b)の GEONET の F3 解から計算される
視線距離変化と空間分布が異なる.図 1(a)のパス 419 のスタッキング干渉画像を作成する時,干渉性
が高く,かつ大きな見かけの変動を含まないものを選んで用いた.しかし,Gamma の Stacking 関数
は時間基線長の長いものに大きい重みを与えるので,図 4(a)のような変動パターンが卓越する結果と
なったと考えられる.図 5 に視線距離変化の差の経度,緯度および標高に対する分布を示した.図 3
とは縦軸のスケールが小さくなっているが,やはり図 3 と同様に北緯 34°を挟んで異なるパターンを
示す.
このパスの解析には 4 シーンを結合して解析している.
Gamma の軌道計算関数 phase_sim_orb
を用いているが,多数のシーンを結合した場合,軌道計算に系統誤差が生じるのかもしれない.
その他のペアについても同じ手順で解析した.図 6 は解析したペアについて視線距離変化の差の標
準偏差をプロットしたものである.
最も小さい標準偏差は 2009 年 1 月 6 日と 2 月 21 日のペアで 1.2cm,
最大は 2010 年 5 月 27 日と 7 月 12 日のペアで 18.9cm である.24 ペア中,2cm 以下は 3 例,2〜4cm
は 8 例,4〜6cm は 6 例,6〜8cm は 3 例,8〜10cm が 2 例,10cm 以上が 2 例となっている.中央
値は 4.4cm となる.隣接するパス 418(GEONET 観測点 30 点)では,解析した 25 ペアに対して,
標準偏差の最小は 1.6cm,最大は 19.8cm,中央値は,4.7cm である.電離層擾乱も含めた PALSAR
干渉画像の持つ誤差評価として,一つの目安となるであろう.
その他のパス(417,418 および 420)にも同じ手順を適用し,四国全体をカバーする補正干渉画
像を作成した(図 7)
.概ね GEONET の変位場に整合的な結果が得られた.ただ,東端のパス 417
の補正干渉画像が,中国地方において隣のパス 418 と不連続が生じている.パス 417 では,垂直基線
長の長いペアが他のペアより含まれる.垂直基線長が長い場合,山岳部において干渉性が低下するこ
とから,GEONET 観測点で視線距離変化が得られないことがある.その場合,平野のデータのみで
補正せざるを得ず,系統的な誤差が残る結果となったと考えられる.
35
地震-2303
(a)
(b)
図 1. (a)四国〜中国地方をカバーする 2006 年から 2010 年までの ALOS/PALSAR のスタッキング干渉画像.
(b)
GEONET の F3 解による 2007 年〜2008 年の 1 年間の変位から計算した視線距離変化
(a)
(c)
(b)
(d)
図 2. パス 419 の 2010 年 4 月 11 日と 5 月 27 日のペアの干渉画像の補正.(a)補正前の干渉画像.(b)GEONET の
F3 解から計算される視線距離変化.(c)(a)と(b)の GEONET 観測点における視線距離変化の補間結果.(d)(a)と(c)の和
として得られた補正干渉画像
(a)
(b)
(c)
図 3. パス 419 の 2010 年 4 月 11 日と 5 月 27 日のペアの ALOS/PALSAR 干渉画像と GPS による視線距離変化の差
の分布.(a)経度依存性.(b)緯度依存性.(c)標高依存性.北緯 34°を境に南北でシンボルを変えて表示している.
36
地震-2303
(a)
(d)
(c)
(b)
図 4. 2008 年 1 月 4 日と 2010 年 2 月 24 日のペアの干渉画像の補正.(a)補正前の干渉画像.(b)GEONET の F3 解か
ら計算される視線距離変化.(c)(a)と(b)の GEONET 観測点における視線距離変化の補間結果.(d)(a)と(c)の和として得
られた補正干渉画像
(a)
(b)
(c)
図 5. パス 419 の 2008 年 1 月 4 日と 2010 年 2 月 24 日のペアの ALOS/PALSAR 干渉画像と GPS による視線距離変
化の差の分布.(a)経度依存性.(b)緯度依存性.(c)標高依存性.
図 6. パス 419 の全解析ペアに対する GEONET 観測点における ALOS/PALSAR 干渉画像と GPS による視線距離変
化の差の標準偏差
37
地震-2303
図 7. GEONET 変位を用いて補正したスタッキング干渉画像
38
地震-2303
3. 東北地方太平洋沖地震に伴う東北地方内陸の地殻活動に関する研究
3.1. いわき地震の研究:断層運動の複雑性に関する研究
2011 年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震;Mw 9.1)は,東日本の広範囲に大きな応力変化
をもたらした.その結果,福島・茨城県境付近や新潟・長野県境付近などで地震活動が活発化し
た.福島・茨城県境付近では,東北沖地震以前には地震活動が非活発であり,歪変化レートも日
本列島内の他地域と比べて非常に小さかった.しかしこの地域では,東北沖地震の後に,日本で
は珍しい正断層型の地震が群発的に発生した.また,Mw 5.0 を超える比較的規模の大きい地震
が 13 個発生した.
この福島・茨城県境付近の地震活動のうち,2011 年 4 月 11 日に発生した最大規模の地震(い
わき地震,Mw 6.6,Mj 7.0)の解析を詳細に行った(Fukushima et al., 2013)
.地震 WG を通
じて取得した 2011 年 3 月 3 日と 4 月 18 日の ALOS/PALSAR データペアを用いて差分干渉解析
を行い,さらに東北沖地震による長波長の変動シグナルを除去したところ,図 8a のような複雑
な干渉画像が得られた.この干渉画像では,いわき地震のほか,3 月 23 日の地震(Mw 5.8)に
よる地殻変動も捉えられている.位相不連続が認められるトレース(黒線)がいくつもあり,複
雑な断層運動があったことが一目瞭然である.なお,井戸沢断層と湯ノ岳断層に沿って地震断層
が出現したことは現地調査からも明らかにされている(Toda and Tsutsumi, 2013)
.
この干渉画像をアンラップした後,インバージョンにより断層モデルを推定した.この際,井
戸沢断層を二枚の断層,湯ノ岳断層を一枚の断層でモデル化した.断層の上端は主な地表断層の
位置に固定した.井戸沢断層のすべり角は純粋正断層型と仮定し,湯ノ岳断層のすべり角と各断
層の傾斜,すべり分布(断層面上の各小領域のすべり量)をモデルパラメタとした.なお,井戸
沢断層の東側(図 8 中 Ib)はある深さで傾斜が変わると仮定し,その深さと深部の傾斜角もモデ
ルパラメタとした.
インバージョンの結果,すべての断層が西に高角(60〜70 度)で傾斜しており,井戸沢断層
の東側の断層面は深さ 5km 程度で低角に変化するという断層モデルが得られた(図 8b)
.井戸沢
断層の二枚の断層面が深部で収斂しており,これらがほぼ同時に活動したと考えられる.すべり
量は井戸沢断層西側の地表付近で一番大きく,約 2.8m であった.
この解析結果は,地震科学の観点から,二点の重要な示唆を与える.一点目は,複数の断層が
ほぼ同時にすべったという明瞭な証拠が得られたことである.共役な配置にある断層の活動が誘
発されたことを示唆する例はこれまでも得られていたが,いわき地震の場合,井戸沢断層と湯ノ
岳断層の走向は約 30 度違い,これらが同時に活動することは簡単な理論では説明できない.二
点目の示唆は,地形との不一致性に関してである.井戸沢断層と湯ノ岳断層の間が谷になってい
るが,いわき地震により,井戸沢断層の西側の山岳域が沈降し,谷の地域が隆起した.このよう
な地形との不一致は,2011 年ハイチ地震についても見られたが(Hashimoto et al., 2011)
,これ
らの事例は地形から将来的に起こりうる地震を推定することの困難さを示しており,長期的な地
震発生予測にとって重要な示唆を与える.
39
地震-2303
図 8. (a) 2011 年 4 月 11 日いわき地震(Mw6.6)と 3 月 23 日の地震による地殻変動を示す差分干渉画像.黒い実線
は位相不連続が確認できる箇所であり,地表断層あるいは地変に対応するが,井戸沢断層(Ia と Ib),湯ノ岳断層(Ya
と Yb)に沿う不連続線が顕著である.破線は県境を表す.
(b)インバージョンにより得られた差分干渉画像を説明す
る断層モデル.西側の井戸沢断層が地表付近で二条に分岐しており,浅部は高角,深部は低角で西側に傾斜している.
東側の湯ノ岳断層も高角に傾斜しているが,深部の形状の詳細は分解能の問題で不明である. Fukushima et al. (2013)
から改変.
40
地震-2303
3.2. 東北地方太平洋沖地震に伴う火山の沈降
2011 年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震;Mw 9.1)にともない,東北地方の複数の火山地
帯が沈降したことを発見した(Takada and Fukushima, 2013). 地震 WG を通じて取得した東
北沖地震前後の ALOS/PALSAR データを用いて差分干渉解析を行い,さらに東北沖地震による
長波長の変動シグナルを除去したところ,図 9 のような干渉画像が得られた.この干渉画像では,
次の 5 つの火山地域で局所的なレンジ伸張が見られる:秋田駒ヶ岳・栗駒山・蔵王・吾妻・那須.
これらの沈降域は南北に楕円形を呈し,非常に広い(南北 15~20 km)
.また沈降量も 5 cm(那
須)から 15 cm(吾妻)と大きい.
蔵王と吾妻については沈降域内部に GEONET 点が存在し,そのデータが示す局所的な沈降量
と InSAR 解析の結果は調和的である.また,GEONET 点の時系列データは,この沈降が1日以
内という短時間で完了したことを示している.
沈降した地域はいずれも地熱活動が活発であり,地温勾配および泉温が高い地域と良く一致す
る.また,埋没カルデラがクラスタリングする領域でもある(Yoshida et al., 2001).このこと
から,沈降域の下には高温で強度の低い岩体が存在し,東北沖地震に伴う引張応力の増加によっ
てこの領域に変形が集中した結果,地表沈降が引き起こされたと考えられる.高温岩体の形状を
三軸不等楕円体で近似し,蔵王と栗駒山を除く 3 つの沈降域について数値シミュレーションとイ
ンバージョン解析を行い,干渉画像を良く説明する高温岩体の位置と形状を推定した(図 10).
その結果,高温岩体の上端は数 km と浅く,長軸は地震による引張応力の主軸とほぼ直交する方
向に長く(10 km 以上)伸びる楕円体を呈することが示された.
チリで 2010 年に発生した Maule 地震(Mw 8.8)についても火山の沈降が引き起こされてい
たことが明らかになり,沈降域のパターンと大きさは我々の東北沖地震の解析結果と酷似してい
る(Pritchard et al., 2013)
.これらの事例は逆断層型巨大地震による火山の沈降が普遍的な現象
である可能性を示すものであり,巨大地震が引き起こす地殻変動に関する重要な知見である.
41
地震-2303
図 9. InSAR 解析の結果.長波長トレンドは除去してある.(a) 東日本全体の解析結果.ピンク色の領域は東北地震に
伴う断層すベり域.(b-f) 各沈降域の拡大図.黒丸は GEONET 点.黒四角は地熱発電所.
図 10. 秋田駒,吾妻,那須についての観測デー
タ(左),インバージョン結果(中),およびそ
れらの残差(右)の比較.カラーバーは衛星視
線方向の変位を示し,単位はメートル.黒線は
インバージョンで求まった楕円体の地表投影.
42
地震-2303
4. 海外の事例の調査
2011(平成 23)〜2013(平成 25)年度においては,ALOS の運用停止もあり,海外の大地震
に伴う地殻変動の解析はできなかった.このため,過去の地震の画像の再解析や地震前の地殻変
動の時系列解析などを実施した.このうち,2010 年 4 月 4 日のメキシコ・バハカリフォルニア
の地震について測地学会や AGU など学会発表を行なうとともに,大学院学生の修士論文として
まとめた(岡本,2012)
.また,2010 年のニュージーランド南島の地震の前の地殻変動検出を試
みた(橋本,2013)
.
参考文献
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解析,京都大学大学院理学研究科修士論文,82pp.
Fukushima, Y., Y. Takada, and M. Hashimoto (2013), Complex ruptures of the 11 April 2011
Mw 6.6 Iwaki earthquake triggered by the 11 March 2011 Mw 9.0 Tohoku earthquake,
Japan, Bull. Seismol. Soc. Am., 103, 1572–1583, doi: 10.1785/0120120140.
橋本学(2013)
,2010年ニュージーランド・ダーフィールド地震再訪,地球惑星科学関連学会2013
年大会,SSS29-15.
Hashimoto, M., Y. Fukushima, and Y. Fukahata (2011), Fan-delta uplift and mountain
subsidence during the Haiti 2010 earthquake, Nature Geoscience, 4, 255-259, doi:
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Pritchard, M.E., J.A. Jay, F. Aron, S.T. Henderson, and L.E. Lara (2011), Subsidence at
southern Andes volcanoes induced by the 2010 Maule, Chile earthquake, Nature
Geoscience, 6, 632-636, DOI: 10.1038/NGEO1855.
Takada, Y., and Y. Fukushima (2013), Volcanic subsidence triggered by the 2011 Tohoku
earthquake in Japan, Nature Geoscience, 6, 637–641, DOI: 10.1038/NGEO1857.
Toda, S., and H. Tsutsumi (2013), Simultaneous reactivation of two, subparallel, inland normal
faults during the Mw 6.6 11 April 2011 Iwaki earthquake triggered by the Mw 9.0
Tohoku-oki, Japan, earthquake, Bull. Seismol. Soc. Am., 103, 1584–1602, doi:
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Yoshida, T. (2001), The evolution of arc magmatism in the NE Honshu arc, Japan, Sci. Rep.
Tohoku Univ., 36, 131–149.
43
地震-2304
海溝型地震の発生メカニズムの解明
PI:北海道大学地震火山研究観測センター 村上 亮
CI:北海道大学地震火山研究観測センター 奥山 哲
1. はじめに
火山の山体崩壊や大規模地すべりは,自然災害の中でも際立って大きな損害を社会にもたらす.我
が国では,比較的頻繁に火山が山体崩壊を起こしており,最近の例を挙げても,北海道駒ヶ岳(1640
年),雲仙眉山 (1792 年),磐梯山(1888 年)において大規模な山体崩壊が発生し,多くの犠牲者を出し
ている.特に,最初の 2 例では,津波も伴ったこともあり,多大な人命が失われた.歴史記録の残っ
ていない他の多くの火山においても,
流れ山に代表される過去の山体崩壊の地形的痕跡が残っており,
普遍的な現象であると考えられる.また,大規模地すべりも低頻度であるが,損害は甚大で,2008
年岩手宮城内陸地震に伴って栗駒山山腹の荒砥沢ダムの周辺で発生した巨大な地すべりが最近の事例
である.これらの現象は,発生頻度が小さいため,近代的観測によるデータの蓄積が乏しく,発生メ
カニズムの詳細はよくわかっていない.
2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震は,東日本の地盤を広範囲に長時間強く振動さ
せたため,多くの土塊移動を発生させた.我々は,ALOS データの解析により,鬼首カルデラに近接
した花山カルデラ,および鳴子カルデラ付近で,ブロック状土塊移動現象が発生していたことを発見
した.これらの土塊移動は,明らかに地震性強震動によって発生したものである.この地域は,短期
間の間に 2008 年岩手宮城内陸地震 M7.2 と 2011 年東北地方太平洋沖地震 M9.0 の強い揺れに相次い
で襲われた,地球上でも稀な地域である.データを精査したところ,花山カルデラでは,2008 年岩手
宮城内陸地震時にも,同様の土塊運動が発生していたことが確認された.この土塊運動は,火山の山
体崩壊現象や大規模地すべり現象との高い関連性があると考えられる.その詳細な解析は,これらの
小頻度大規模災害要因の発生メカニズムの理解へのヒントを与ると期待され,我々は,花山カルデラ
および鳴子カルデラで発生した土塊移動について,そのメカニズムを検討した.
なお,本研究は,開始当初,北域の海溝型地震の発生メカニズムの解明を目的としたが,北海道お
よび北方領土周辺では ALOS の運用期間中に顕著な海溝型地震が発生しなかった.そのため,対象を
変更し,海溝型地震の発生に伴って生じる可能性のある山体崩壊や大規模地すべりという,防災の対
象として,極めて重要な大規模地震の第二次災害の発生メカニズム解明を研究目的とした.
2. 研究対象領域の概要
調査地域は,図 1 に示すように,日本の本州弧の北東部の中心軸に沿って伸びている若い造山帯で
ある奥羽山脈の東麓に位置する.この地域の大構造は,数回の大規模なテクトニックな過程を経て形
成され,複数回の大規模火山活動を伴っている(吉田ほか,1999;吉田ほか,2005).火山活動は,
大規模なカルデラのクラスターも形成した.この地域の現在のテクトニクス的状況は,沈み込む太平
洋プレートと大陸プレートとの間の典型的な収束プレート境界として理解される.ほぼ南北の方向に
走る日本海溝に沿って,M8 を超えるクラスの巨大スラスト地震が繰り返し発生する.最も破壊的な
地震の例は,2011 年 3 月 11 日の太平洋東北沖地震(M9)である.多くの活断層のクラスターが存
在し,内陸地震の活性度も高い.GPS 連続測定により帯状の東西圧縮領域が明らかにされているが,
それに沿って,M6 クラスを超える多くの内陸地震が発生している.
44
地震-2304
今回の土塊ブロック運動の発生場は,後述するように古いカルデラであるが,主として 13Ma 以降
に形成されたこれらの新生代カルデラは,現在は,更新世の凝灰質湖底堆積物や第四紀の火砕岩で満
たされている.一部のカルデラは,火山フロントに沿って整列する現世の火山活動の結果生成された
溶岩や降下物などで構成される火山体で覆われている.カルデラが埋没している場合でも,地形や重
力測定によりその構造を追跡することができる.本研究の対象地域の地形は,基本的には,火山の山
麓の丘陵地の緩やかな斜面で,それが急峻な峡谷により開削されブロック状に分割されており,ブロ
ックが隣り合いながら並列する形状を典型とするものである.この地域は,大規模な地すべりの発生
地域としても知られている.地すべり地形はテラス構造から認識され,多くの場合,特に第四紀の埋
葬カルデラ上に形成されていることが特徴的である.研究領域には,多くの活火山や地熱地域が含ま
れるが,特に,栗駒火山,鳴子火山,鬼首地熱地域が現在活動的な火山活動地域である.
3. 第四紀カルデラと地すべりの関係
過去の大規模な地滑り発生と東北における古カルデラ間には強い関係があり,地形学的研究に基づ
いて,大八木(2000)により次のように要約されている.
1 )典型的な地質学的構成は,上部の溶岩や火砕流堆積物,下部に湖底堆積物が堆積したものである.
2 )数 km サイズの大規模地すべりの多くは,埋没カルデラ表面に分布する.崖の形状は,しばしば,
半円形または半楕円形である.滑り面の傾斜角度は浅く, 5-10 度である.
3 )過去の大規模地すべりのすべり面は,厚い火砕流や溶岩層が載った湖底堆積物内の層で,平らな
平面として連続している.
4 )大規模な地すべりのタイプは横方向の並進滑りである.方向は,地形的に開いている方向と整合
的で,地形の開削方向に誘導される傾向が強い.
大八木は,上記の地質学的言及や地形の条件が満たされている領域での,大規模地すべりの再来を
予見していた.実際,2008 年岩手宮城内陸地震では,栗駒山山麓のカルデラ内の荒砥沢で大規模地滑
りが発生した.ところが,ALOS データを精査すると,2008 の地震時に発生していた地すべりは,
これが唯一の例ではないことが分かった.以下で説明するように,近接した別の埋没カルデラである
花山カルデラでも,2008 年に数 10cm の大規模土塊移動が発生しており,同じブロックが 2011 年の
巨大地震時に再活動したことになる.解析の結果この二つのブロック移動は,ほぼ同じメカニズムで
発生しており,これらの詳細な検討は,大規模地すべりや火山の山体崩壊を理解する重要なヒントを
与えると期待される.
4. ALOS データ解析
図 2 に示した ALOS のデータペアで東北地方の 2011 年地震に伴う地殻変動を含む干渉図を作成し
た.M9 地震の主要断層運動による空間的に長波長の地震時地殻変動成分を除去し,より短波長の地
殻変動を反映する位相変化を抽出した.図 2 の右図で示すように,パッチ上に様々な地殻変動が現れ
ているが,本報告では,黄色枠で囲んだ位相変化フリンジに注目する.
5. 花山カルデラの土塊移動
図 3 の左の 2 枚の図は,北行・南行両軌道からの 2011 年地震を挟むペアの干渉結果について,花
山カルデラ周辺を拡大したものである.鬼首カルデラの北東にある緩傾斜地において,広がりがおよ
45
地震-2304
そ 7km の領域の水平移動を示唆する明瞭な位相変化が現れている.衛星視線方向の移動量は 10cm 程
度であるが,移動方向は,若干の南北成分を含んでいる可能性が高いことから,絶対的な移動量はさ
らに大きかったと推定される.移動領域は,目玉状に分布する低ブーゲー重力異常地域(花山カルデ
ラ)と見事に一致しており,カルデラを埋没させた後世の他火山起源の噴出物と古いカルデラ構造の
境界が弱面になって土塊移動が発生し,それによる地表の移動を反映した位相フリンジが現れたもの
と推定される.なお,図 3 の右 2 枚の図で示すように,同じ地域が 2008 年岩手宮城内陸地震時にも
同じように動いていたことも確認できた.
変動の空間分布の詳細を理解するため,図-4 に LOS の三次元表示を示す.LOS は西を南から北に
飛行する衛星からほぼ 35 度の入射角で東方を見下ろした地表までの距離変化を Z 軸にとったもので
あり,その 2 次元分布を立体化して南東方向から見ている.
空間分布の特徴を際立たせるために,広域除去フィルタをかけてより簡略化した立体モデルを図-5
の左に示す.変動範囲は 2011 年地震時の変化と 2008 年地震時でほぼ共通で,同じ場所が動いたこと
がわかる.また,北東ブロック(A)と南西ブロック(B)の 2 つのサブブロックで全体が構成されて
いることも,二回のイベントに共通である.A,B ブロックの地形への投影を示すが,ブロックの境
界は,地形の谷と一致しており,地形の起伏と移動現象メカニズムも関係しているようにみえる.
図 5 の右には,図 4 の測線に沿った位相変化(衛星からの距離変化)を示す.移動量の大きさの比
率は,イベント間で逆転している.全体的に 2008 年の方の滑りが大きい.サブブロック内での変位
分布がほぼ一様であること,サブブロックの境界のフリンジのエッジの立ち方がシャープであること
から,深い領域での断層運動などではなく,ブロックの内部変形を伴わないで浅い平面上の滑り面を
平行移動的に水平移動した現象であった可能性が高い.
2008 年の地震と 2011 年の地震の地震波形は,全く,独立したものであったはずであり,それにも
かかわらず,結果として類似した滑りが発生していることは,滑り面の配置や形状は共通で,移動方
向は滑り面の傾斜方向や地形の開削方向を反映した向きに規制されていた可能性を示唆している.こ
こで北東方向のフリンジのエッジが特にシャープであることと,地形の傾斜量も北東方向に最大値が
あることに注目し,ブロック運動の移動方向を北東方向への水平移動であったと仮定する.図 4 の a-b
は,その方向に設定した測線である.
また,側線の a に近い鳴子カルデラでも,2008,2011 共通に東向きの変化が表れている.この場
所の地形的傾斜も東向きに下っており,ここでも,重力を駆動力として傾斜の向きに小さなブロック
移動が発生していた可能性が高い.ここもカルデラであり,カルデラ堆積物がブロック滑りを起こす
性質は,普遍的なものであると考えることができる.
なお,このブロック滑り現象の地震時以外の発生可能性を確認するために,地震を挟まない期間に
ついても,干渉性の良好なすべての組み合わせについて干渉処理を実行したが,特に変動が見られな
かった.このブロックの移動は,地震時のみ移動していた可能性が高い.
6. ブロック運動メカニズムの検討
地震動によって不安定化された傾斜土塊が重力を駆動力とした移動現象を解析する,標準的な手法
である Newmark 法(Cornforth, 2004)で,ブロックすべりの発生状況を解析した.入力するシグナル
は,NIED の K-Net のシグナルを用いる.花山のブロック滑りの特徴は,数 km 程度の空間領域が内
部変形なく一様にコヒーレントに移動している点である.強震動の加速度による力が広い領域の滑り
をトリガするためには,それらが全領域にコヒーレントに作用する必要がある.高周波成分は,ブロ
46
地震-2304
ック内で,地震波の位相がずれるため押しと引きが打ち消しあうことから,正味の駆動力にはなりえ
ない.したがって,長い空間波長によるコヒーレントな入力を考慮する必要がある.そのため空間波
長の長い低周波成分に注目する.原強震動加速度データを LPF にかけ,1Hz 以下の成分を取り出し
て計算コードに入力した.InSAR の感度がある EW 方向の滑りが確認されていることから,入力に
は EW 方向の加速度を用いる.強震動観測点は,近接の MIY004 である.2008 年と 2011 年の地震
の強震動データを使用し,臨界摩擦力を 0.01g,0.04g,0.1g,0.4g(ただし g は重力加速度)と変化
させて,地震波加速度によって励起される滑り量を計算した.結果のサマリを図 6 に示す.
観測されたブロック移動量である 10-50cm に近い値を最もよく再現した臨界摩擦力は,0.04g で
ある.この摩擦力は,地下の摩擦状態としては異常に低い値である.花山カルデラの地形を考えると,
滑り面の傾斜角度は大きくても 5 度程度以下であろう.荒砥沢では,地すべりによって表出した滑り
面の観察から,同様に数度以下の傾斜角であったと推定されている.土の静止摩擦係数値として通常
よく使われる 0.3 を採用すると,滑り面の傾斜角が 5 度程度の場合,接線方向の静止摩擦力は 0.3g 程
度であったと考えられる.Newmark 法で推定された臨界摩擦力の値 0.04g は,それに比べて有意に
小さい.花山地域のブロック運動の境界面では,強い震動の作用を受けて,液状化などの何らかの弱
化プロセスを経て,接戦方向の摩擦保持力が 0.04g 程度に低下し,ブロック移動が開始したと考えら
れる.花山において地震後にブロック移動が停止した理由として考えられる可能性の一つは,静止摩
擦力の回復である.強震動停止後に静止摩擦力が 0.04g より大きい値に回復すれば,滑りはそれ以上
進展しない.摩擦の復元機構は,現時点では仮説であり,その詳細は不明である.一方,滑り面の傾
斜角が小さければ,摩擦力の回復が無くても,地震終息後に滑りが停止することが可能である.一般
に,傾斜角が 2.3 度以上であれば,重力による接戦方向の成分(滑りの駆動力)は,0.04g 以上とな
る.したがって,もし,滑り面の傾斜角が 2.3 度以上で,強震動によって励起された摩擦力低下状態
が強震動停止後も持続した場合は,重力による駆動力が常に摩擦力を越えるため,破壊が一気に進行
すると考えられる.しかし,滑り面の傾斜が 2.3 度より小さければ,地震による接戦方向への駆動力
が収束した後は,重力による接線方向の駆動力が保持力を越えず,滑りが停止した可能性がある.し
かし,ボーリングデータ等が存在せず,滑り面の傾斜角が不明であるため,停止機構がどちらであっ
たのか,現時点での確認ができない.なお,地すべりの発生した荒砥沢では,強震動の終了後も,滑
り面付近の摩擦力が回復されることなく,一方的に,本格的な地すべりに発展したと考えられる.
このように,Newmark 法による解析の結果,地すべりに発展した荒砥沢においても,また,2 回
の地震でブロック運動を繰り返した花山も,その原因は,強震動によって数 km×数 km の広域の領
域の滑り面の静止摩擦力が極度に低下したためであることが強く示唆される.強震動終了後は,花山
では,摩擦力が回復したか,滑り面の傾斜角度が極めて小さかったため,ブロック運動がそれ以上発
展しなかった可能性が高い.荒砥沢では,摩擦力が回復せず,強震動が終了しても,重力の作用によ
って滑りが継続し地すべりに発展したと考えられる.
地震の強震動によって,広域の土塊ブロック運動が発生する実例が,ALOS によって初めて確かめ
られた.今回は,ブロック運動が停止して地すべりには発展しなかったが,テクトニックな背景から
考えると,この地域は,繰り返し強い地震が襲うことは確実であるので,ブロック運動が今回発見さ
れた場所には,将来地すべりを発生させる可能性があり,地下構造調査や,ボーリングによる滑り面
の性状調査を実施した,災害発生ポテンシャルの有無を明らかにする必要があると考える.
7. まとめ
47
地震-2304
2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震は,東日本の地盤を広範囲に長時間強く振動さ
せたため,多くの土塊移動を発生させた.ALOS データの解析により,鬼首カルデラに近接した花山
カルデラおよび鳴子カルデラ付近で,ブロック状土塊移動現象が発生していたことを発見した.これ
らの土塊移動は,明らかに地震性強震動によって発生したものである.花山カルデラでは,2008 年岩
手宮城内陸地震時にも,同様の土塊運動が発生していたことが確認された.Newmark 法による解析
の結果,地すべりに発展した荒砥沢においても,また,2 回の地震でブロック運動を繰り返した花山
でも,その原因は,強震動によって数 km×数 km の広域の領域の滑り面の静止摩擦力が極度に低下
したためであることが強く示唆される.強震動終了後は,花山では,摩擦力が回復したか,滑り面の
傾斜角度が極めて小さかったため,ブロック運動がそれ以上発展しなかった可能性が高い.一方,荒
砥沢では,摩擦力が回復せず,強震動が終了しても,重力の作用によって滑りが継続し地すべりに発
展したと考えられる.
このように,地震の強震動によって,広域の土塊ブロック運動が発生する実例が,ALOS によって
初めて確かめられた.今回は,ブロック運動が停止して地すべりには発展しなかったが,テクトニッ
クな背景から考えると,この地域は,繰り返し強い地震が襲うことは確実であるので,ブロック運動
が今回発見された場所には,将来,破壊的な大規模地すべりが発生する可能性があり,地下構造調査
や,ボーリングによる滑り面の性状調査を実施した,災害発生ポテンシャルの有無を明らかにする必
要があると考える.
8. 謝辞
解析に用いた PALSAR データは地震ワーキンググループ等の枠組みにより JAXA から提供された
ものである.PALSAR データの所有権は経済産業省および JAXA にある.解析には,国土地理院に
よる 10m メッシュ数値標高データを用いた.
強震動データは,
防災科学技術研究所から提供を受けた.
9. 参考文献
Derek H. Cornforth, Landslides in Practice, Wiley, Hoboken, Jew Jersey, p.256, 2004.
大八木規夫,東北地方北部における地すべり地形と後期中新世−更新世のカルデラ,深田地質研年
報, No.1,p112~127,2000.
吉田武義・相澤幸治・長橋良隆・佐藤比呂志・大口健志・木村純一・大平寛人:東北本州弧,島弧
火山活動期の地史と後期新生代カルデラ群の形成,月刊地球,号外 27,p.123~129,1999.
吉田武義・中島涼一・長谷川昭・佐藤比呂志・長橋良隆・木村純一・田中明子・Prima,O.D.A・大口
健志:後期新生代,東北本州弧における火成活動史と地殻・マントル構造,第四紀研究,vol44,
No.4,p.195~216,2005.
48
地震-2304
図 1. 研究領域のテクトニクス的背景.左から,東北地方の活火山の位置,花山カルデラ及び周辺
の埋没カルデラ群(星は土塊運動の発生個所)
,東北地方の埋没カルデラ分布,荒砥沢地すべ
りの空中写真.
図 2. 解析した ALOS データ
49
地震-2304
図 3. 2011 年及び 2008 年の地震を挟むペアの花山カルデラ周辺の干渉図
図 4. 2011 年及び 2008 年の地震を挟む花山カルデラ周辺の位相変化.左は 2011 年地震,右は 2008 年地震に対応す
る.鳥瞰図は,アンラップした LOS の位相変化を立体化した分布図.右端は,地形起伏
図 5. 位相変化の立体モデル.白黒表示は地形.右のグラフは図 4 の測線に沿った LOS の位相変化.
50
地震-2304
図 6. Newmark 法による接戦方向摩擦力の実効的値の推定結果.
51
地震-2305
陸域プレート境界周辺の地殻変動様式の解明
PI:北海道大学・理学研究院自然史科学部門 古屋正人
1. はじめに
陸域プレート境界やその周辺で発生した国内外の内陸地震に伴う地殻変動を,合成開口レーダー
(SAR)で検出することによって,速報的に得られる震源情報からは予想出来ない意外な地殻変動シグ
ナルが得られるようになった(例えば,Takada et al., 2009; Kobayashi et al., 2009; Furuya et al.,
2010; Furuya and Yasuda, 2011)
.地震断層の実態が点状の震源で表されるほど単純ではないことは
予想がつくものの,現実のデータに即してこのことを実証することは,特に海外の地震については
SAR データがあってこそ可能である.地震断層の幾何学的な複雑性の実態を認識しておくことは,地
震防災上も有益であると考えられる.しかしながら,内陸地震の断層運動の実態を解析した事例はま
だ多くはない.このような背景から,本課題では,2010 年以降に発生した地震に伴う地殻変動の検出
と断層モデリングの解析事例を積み上げた.ただし,ALOS/PALSAR 運用の停止もあったため,地震
WG を通じた解析事例は以下の一例にとどまった.
2. 成果概要
イラン南東部において,2010 年 12 月 20 日に Mw6.5,2011 年 1 月 27 日には Mw6.2(Mw はとも
に Global CMT による)の地震が発生した(図1).これらのそれぞれの地震に伴う地殻変動を,
PALSAR および EnvisatSAR データによる干渉処理で検出し,断層モデルを作成した.
図 1. Iran 南東部での 2010 年 12 月,2011 年 1 月の地震
2010 年 12 月の地震
図 2 に,12 月の地震に伴う地殻変動を得るために用いた PALSAR データの概要を示した.
Ascending は Stripmap モード,Descending は ScanSAR モードで得られた.図 3 に震源近傍を拡大
した図を示している.ここで用いた干渉ペアは 1 月 27 日を含んでいないので,12 月の地震に伴う地
殻変動だけを抽出することができている.以下の干渉画像の作成には,Gamma remote sensing のソ
52
地震-2305
フトウェアを用いた.
図 2. 2010 年 12 月の地震の解析に用いたデータ
図 3. 2010 年 12 月の地震に伴う地殻変動の InSAR 画像. 左が Ascending 軌道の Stripmap mode で得られたもので,
右は ScanSAR mode の Swath2 で得られてもの.
53
地震-2305
図 4 に,地殻変動の観測値,断層モデルによる計算値,それらの残差を示した.断層モデルの詳細
は図 5 に示した.ここでは断層形状の非平面性も考慮するために,三角形要素を用いた反無限均質弾
性体における断層モデルを作成した(Furuya and Yasuda, 2011).また,InSAR データ以外に,
Pixel-offset 法によって,南北方向の変位感度の高い Azimuth offset データも得られており,これも
断層モデルの推定に用いた.
断層走向は N50°E と読みよれる.Global CMT の深さは 14.8km となっているが,得られた断層
モデルからは,最大滑り量は 5-6km 付近に求まっている,
図 4. 12 月の地震に伴う地殻変動の観測値(左列),断層モデルに基づいて得られた計算値(中列),残差(右列)
図 5. 断層モデルと滑り分布,左が右横ずれ,右が縦ずれ成文を示し,滑り量の単位はメートルである.
54
地震-2305
2011 年 1 月の地震
図 6 に 1 月の地震に伴う地殻変動を得るために用いた PALSAR データと Envisat データの概要を
示した.ともに Stripmap モードである.図 7 に震源近傍を拡大した図を示している.
図 1 に示したように,12 月と 1 月の地震は震源メカニズムが似ていて 10km 程度しか離れていな
い.しかし,1 月の地震の断層走向は 12 月の地震とは明らかに異なっていることが分かる.
図 6. 2011 年 1 月の地震の解析に用いたデータ
図 7. 2011 年 1 月の地震に伴う地殻変動を含む InSAR 画像.左が ALOS による Ascending 軌道,右が Envisat によ
る Descending 軌道で得られた.ともに 2010 年 12 月のシグナルは含まない.
55
地震-2305
図 8 に,地殻変動の観測値,断層モデルによる計算値,それらの残差を示した.断層モデルの詳細
は図 9 に示した.断層モデルにおいて,底面付近に Dip スリップが求められているが,これは観測値
における空間スケールの大きな「ノイズ成分」を“説明”するために得られた Artifact であろう.
断層走向は N145°E と読みよれる.Global CMT の深さは 14.3km となっているが,得られた断
層モデルからは,最大滑り量は 5-6km 付近に求まっている,
以上の結果から,近接した二地点で発生した M6 クラスの地震で震源メカニズムがほぼ同様に求ま
っていても,断層の走向方向がほぼ 90 度の互いに「共役」な断層面で発生していたことが分かった.
SAR データを用いた観測がなければ得られなかった重要な知見である.
図 8. 1 月の地震に伴う地殻変動の観測値(左列),断層モデルに基づいて得られた計算値(中列),残差(右列)
図 9. 断層モデルと滑り分布,左が右横ずれ,右が縦ずれ成文を示し,滑り量の単位はメートルである.
56
地震-2305
3. 成果公表
孫碩帥,古屋正人,Co-seismic Deformation and Fault Source Modeling of the Two Recent
Earthquaks (Mw6.5 and Mw6.2) in SE Iran, 2011 年 10 月 27 日,日本測地学会 第 116 回講演会
S. Sun, N. Serizawa, M. Furuya, Conjugate earthquake rupture associated with two recent
intraplate Earthquakes, APSAR2011, Seoul, September 28, 2011.
孫碩帥,北海道大学理学院自然史科学専攻修士論文(2012 年秋) "SAR-based observations and fault
source modeling of the co-seismic deformation: The 2008 Zhongba earthquake (M6.7) and the
2010/2011 SE Iran earthquakes (M6.5 and M6.2)
4. 参考文献
Takada, Y., T. Kobayashi., M. Furuya, and M. Murakami, Coseismic displacement due to the 2008
Iwate-Miyagi Nairiku earthquake detected by ALOS/PALSAR: preliminary results, Earth Planets
Space, vol. 61, no. 4, e9-e12, 2009.
Kobayashi. T., Y. Takada, M. Furuya, and M. Murakami, Location and types of ruptures involved
in the 2008 Sichuan Earthquake inferred from SAR image matching, Geophys. Res. Lett., 36,
L07302, doi:10.1029/2008GL036907, 2009.
Furuya, M., T. Kobayashi, Y. Takada, and M. Murakami, Fault Source Modeling of the 2008
Wenchuan Earthquake Based on ALOS/PALSAR Data, Bull. Seismo. Soc. America, vol 100. No.
5B, 2750-2766, doi: 10.1785/0120090242, 2010.
Furuya, M., and T. Yasuda, The 2008 Yutian Normal Faulting Earthquake (Mw7.1), NW Tibet:
Non-planar Fault Modeling and Implications for the Karakax Fault, Tectonophys., 511, 125-133,
doi:10.1016/j.tecto.2011.09.003, 2011.
57
地震-2307
ALOS アーカイブデータを使った,過去の地震活動に伴う地殻変動・地表変状検出
- 時系列干渉 SAR を用いた中央カリマンタンにおける泥炭森林地の地盤沈下量の推定
について PI:宇宙航空研究開発機構・地球観測研究センター 島田政信
CI:防災科学研究所・地震火山研究部
宮城洋介
1. はじめに
L-band SAR の信号は植生に対する透過性が優れており,DinSAR の感度が高く,様々な地殻変動
処理に使用されている.しかしながら,電離層と大気擾乱に伴う位相の変動は DinSAR の位相を変動
させ,得られた結果に対する信頼性を劣化させている.近年,干渉 SAR の時系列解析が,地盤変化
(隆起や沈降)速度と時間変化を抽出する可能性があることから期待が集まっている.代表的な解析
手法としては,Persistent scatterer InSAR(PSInSAR)や the small baseline subset(SBAS)[1][2]
が挙げられる.前者は,画像の中から安定な点(明るい孤立点)を選び出し,その位相情報だけを解
析に使用するものであり,信頼性の高い手法であり,市販ソフトウェアや無償公開ソフトウェアも利
用可能である.後者は,前者の孤立点が少ないことを是正する為に,基線長の小さい画像間では安定
な干渉点を増やすことができることに目をつけた方法である.
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では,L-band SAR の利用性の拡張を目的として,時系列 InSAR
のスタッキング手法を開発した.本手法を採用した理由は,精度的な問題はあるものの,まず理解が
容易なことと問題点の把握が可能であり,将来の拡張性を有していることである.本手法の基本的な
考え方は,各干渉画像が 1)電離層の影響を受けてないものを選別された後に,2)地上基準点を用い
て位相校正されることにある.
インドネシア国の中央カリマンタンは泥炭層の沈降の影響を広く受けている.考えられる地盤沈下
の理由は,地下水位の沈下か地球温暖化に伴う泥炭層の乾燥である.全体の温室効果ガスの排出量は
地盤の沈降速度と実験的に求める各土地利用分類の関係式を用いて求められる.このことから,沈降
速度の推定は非常に重要である.
2. 方法
繰り返し干渉 SAR は衛星と地表間の距離の時間変化を求めることができる(1 式).沈降速度はア
ンラップされた位相の時間変化で与えられる(2 式).軌道誤差と同じように,電波伝播媒質の屈折
率の非一様性はこの計測精度を劣化させる.この補正は非常に困難であるものの,時系列-空間平均し
た DinSAR は対象物の沈降分布を推定することが可能である(3 式及び 4 式).
(1)
(2)
VI =
1
GI
λ
∑ 4π (ϕ
i
US ,i
+ ϕ offset ,i )
1
γi
cos θ ⋅ T,i
GI = ∑ γ i
i
58
(3)
地震-2307
(4)
ここに, φ は干渉位相差,Bperp と Bpara は垂直,水平基線長, R はスラントレンジ,θ は入射角,
V は沈降速度(垂直成分のみ考慮)
,T は干渉ペアの時間差, ∆φatm+ion は大気擾乱や電離層擾乱に
,
よる位相誤差, φoffset は干渉 SAR が結果として含む位相誤差(オフセット)
は時刻 T における
平均沈降速度, γ は干渉性である.
ここの計算では,以下の 2 点を考慮した.1)干渉位相の GCP を用いた校正,2)重み関数の選択
である.なお,∆φatm+ion の補正は困難であり,この解析では補正していない(影響が多いデータは除
去している)
.
3. 実験
3.1. 評価領域と軌道データ
対象領域として,インドネシア国カリマンタン地方のパランカラヤを含む PALSAR の 70 km×200
km の領域を選んだ(図 1 の赤枠内).この地方は,主として,泥炭層,泥炭層状の森林,農業域で
構成されており,地盤沈下が顕著に現れるところとして有名であった.ALOS/PALSAR [3] により
20070106 から 20110404 までの間,26 回にわたり,繰り返し観測されているが,その間の軌道の状
況は表 1 と図 2 に示される通りである.垂直基線長(Bperp)の最頻値と標準偏差は, -0.109 km と
0.632 km であり,干渉ペアの数は時間間隔(画像ペアの観測時刻の差)とともに単調減少すること
がわかる.ここの解析では,HV(水平偏波送信の後に垂直偏波で受信することをこのように表す)
ではなくて HH を用いた.理由は,SN が高いことと植生に対する植生透過が高いことが期待される
からである.
図 1. 評価領域
59
地震-2307
表 1. PALSAR 軌道の RSP422 の特性
Duration
January 6, 2007–March 4, 2011
Number of orbits
26
Combinations
378
Node of Bperp
-0.109 km
Standard deviation
0.632 km
Averaged temporal baseline
534 days
図 2. 画像ペア数の垂直基線長と時間基線長経の依存性
3.2. 干渉性解析
SAR 干渉性は 2 枚の SAR 画像の電磁気的類似度であり,垂直基線長(Bperp)と時間基線長(Bt)
に依存する.
図 3 は干渉性の時間基線長への依存性をカリマンタンの 3 カ所で計測したものである
(場
所は,RSp423 である.また,評価領域の SAR 画像と干渉性を図 4 に示す).この図より,時間干渉
性は高い干渉性が確認される事例では 600 日で,低干渉事例でも 400 日で最低値に落ち着く.その間
は,直線で減少している.これより,時間基線長 365 日以内のものを干渉有りと判断して,時系列解
析に使用可能と判断できる.干渉度は 3 式及び 4 式に見られるように,重み関数に使用でき,位相の
平均化処理は,はずれ分(out liner)を除いて処理可能である.
3.3. 処理
全ての画像ペアについて,Bt,Bperp を計算し,対象とする処理時間において設定範囲内のデータ
は平均化処理に回される.
干渉処理が終了した後に,各画像は基準点を使用して校正される.基準点としては,人口点像,大
型構造物の橋が使用される.軌道補正は,位相の平滑化処理の一環として使用された.
60
地震-2307
図 3. カリマンタン島の 3 カ所における時間干渉性
図 4. 中央カリマンタンのテストサイトにおける振幅画像(上半分)と干渉性(下半分)
図 5. 干渉ペア数と打ち上げ後の通算日数
61
地震-2307
図 6. PALSAR 画像と代表的な変動量分布を示したもの.1 例を示したものであり,+は隆起を-は沈降を示す.大部分
は沈降を示す.
3.4. 結果
解析結果を図 6 から 9 に示す.図 6(左)は振幅画像であり,3 カ所の白丸は基準点である.ここ
では,橋を用いた.図 6(右)は地盤沈下の代表例を示す.図 5 は移動窓の窓関数を示している.こ
の図は移動窓における平均個数を示しており,処理対象とする時間によって変化し,最大で 20 に達
する.図 7(a) は平均年間沈降速度を,図 7(b) は衛星観測開始から計測した積算沈降量を示す.平均
年間沈降速度の断面図と積算沈降量の断面図はそれぞれ図 8 に示すが,この領域では地盤沈下がすす
んでいることが示される.A,B,C,D における沈降の時間変化は図 9 にある.図に示されるように,
この地域は時間とともに線形的に沈降がすすんでいる.その平均沈降速度は-2.02 cm/yr と見積もるこ
とができる.
図 7. 年間平均沈降速度分布 (a) (cm/year) と 3 年間の総沈降量分布
62
(b).線 A 上の変化プロファイルを図 7 に示す.
地震-2307
図 8. 平均年間沈降速度のプロファイル(上)と 3 年間の積算沈降量プロファイル(下)を示すが,共に,図 7 内の線
A に沿ってのものである.
図 9. 図 5 内の 4 点,A,B,C,D における沈降量
4. 結論
26 シーンの時系列 PALSAR データを用いて,インドネシア国・中央カリマンタン島のパランカラ
ヤ近郊 2007-2011 の 3 年間の地盤沈下傾向を計測した.この地域は,主に泥炭層で構成されており,
地球温暖化に関連して地盤沈下が進行している.差分干渉処理結果を移動窓でスタッキング処理し,
この地方の地盤沈下速度を推定した.画像内から位置が安定と思われる校正点を 3 点選び(橋梁を選
定)
,一連の DinSAR 画像を校正し,年平均の沈降速度として 2.02 cm/yr を算出した.
63
地震-2307
参考文献
[1] Bernardino, P., Fornaro, G., Lanari, R., and Sansosti, E., “A new algorithm for surface
deformation monitoring based on small baseline differential interferograms,” IEEE Transactions
on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 40, No. 11, pp. 2375–2383, 2002.
[2] Ferretti, A., Prati, C., and Rocca, F. “Permanent Scatterers in SAR Interferometry,” IEEE
Trans. on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 39, no. 1, pp. 8-20, 2001.
[3] Shimada, M., Tadono, T., and Rosenqvist, A., “Advanced Land Observing Satellite (ALOS) and
Monitoring Global Environmental Change,” P. IEEE, vol. 98, no.5, pp.780-799, May (2010).
64
地震-2308
地殻変動の詳細把握
PI:気象庁・地震火山部管理課 青木 元
CI:気象庁・地震火山部地震予知情報課 岩切一宏
CI:気象庁・地震火山部火山課 中村政道
CI:気象庁・地震火山部火山課 三浦優司
CI:気象庁・地震火山部火山課 長尾 潤
CI:気象研究所・地震火山研究部
上野 寛
CI:気象研究所・地震火山研究部
高木朗充
CI:気象研究所・地震火山研究部
安藤 忍
1. はじめに
本課題の目的は,
「地震に伴う地殻変動の把握による地震発生メカニズムの解明」及び「東海地域の
定常的な地殻変動の把握」である.地震に伴う地殻変動を検出するため,地震発生時に実施された
ALOS/PALSAR の緊急観測データを解析した.さらに,検出された地殻変動と地震波形データから推
定されたモデルの比較等を行った.また,東海地域の定常的な地殻変動の把握のため,東海地域にお
ける ALOS/PALSAR データの時系列解析を行った.これらの結果について報告する.
2. 成果
2.1. 大規模地震に伴う地殻変動
大規模な地震が発生した際に緊急観測等により取得された PALSAR データについて,SAR 干渉解
析を行い,地殻変動の検出を行った.また,近地強震波形データを用いた震源過程解析結果から予想
される干渉パターンとの比較等を行った.
○2011 年 3 月 11 日東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)
複数のパス‐フレームにおける SAR 干渉解析により,東日本の陸域全体にわたって震央方向を中
心とした同心円状の干渉縞が検出された(図 1)
.青森県八戸市付近を基準とした場合の相対的な地殻
変動量を計算すると(図 1,図 2)
,北行軌道における解析結果では,盛岡市付近で約 60cm,山形市
及び福島市付近で約 120cm,仙台市付近で約 180cm,牡鹿半島の先端で約 4m の衛星から遠ざかる方
向の地殻変動が得られた.南行軌道の解析では,牡鹿半島付近で最大約 3m の衛星に近づく方向の地
殻変動が得られた.また,盛岡市付近や水戸市付近で東西方向の変動縞が検出されたほか,千葉県で
約 60cm の衛星から遠ざかる方向の地殻変動が得られた.
近地強震波形データを用いた震源過程解析結果から予想される干渉縞(図 3)と SAR 干渉解析結果
(図 1)は,概ね傾向は合っているが,特に南行軌道の宮城県付近で異なっている.その理由として,
震源過程解析では比較的長周期の波形を用いたために,短周期の波が励起されたといわれている
down-dip 側(初期破壊開始点の西)でのすべりがほとんど推定されなかったことや,余効変動の影
響等が考えられる.
○2011 年 3 月 19 日茨城県北部の地震(Mw5.8)
北行軌道においては,推定断層面の南西領域で最大約 50cm,北東領域で約 6cm のいずれも衛星か
65
地震-2308
ら遠ざかる方向の位相変化が検出された(図 4 左上)
.南行軌道においては,南西領域で最大 40cm 程
度の衛星から遠ざかる方向の位相変化が,また北東領域では最大約 12 cm の衛星に近づく方向の位相
変化が検出された(図 4 右上)
.発震機構解は東北東-西南西方向に張力軸を持つ正断層型であり,
SAR 干渉解析結果から西傾斜の断層が動いたと考えられる.
発震機構解などを参考にフォワード法による矩形断層の一様すべりモデルを推定した.推定した断
層モデルによる干渉縞(図 4 下)をみると,干渉パターンは大局的には再現されている.
北行軌道と南行軌道の 2 方向からの干渉画像を組み合わせることにより,この 2 つの衛星視線方向
が作る平面(LOS-plane)上の 2 次元的な地殻変動を求めた(2.5 次元解析,図 5)
.LOS-plane 上で
は東西方向(図 5 左)よりも準上下方向(図 5 右)において大きな地殻変動が生じており,その変動
量は最大で約 30 cm の沈降であることが分かった.この結果は正断層型の発震機構解と調和的である.
○2011 年 3 月 23 日福島県浜通りの地震(Mw5.7)
南行軌道において,震央付近の南で最大約 15 cm 程度の衛星から遠ざかる方向の位相変化が,また
震央のやや東側においては約 5cm 程度の衛星に近づく方向の位相変化が検出された(図 6 左)
.発震
機構解は西北西-東南東方向に張力軸を持つ正断層型であり,図 7 左の湯ノ岳断層の東の領域にみら
れる北行軌道における干渉縞と併せて考えると,西傾斜の断層が動いたと推定される.
発震機構解などを参考にフォワード法による矩形断層の一様すべりモデルを推定した.推定した断
層モデルによる干渉縞(図 6 右)をみると,干渉パターンは大局的には再現されている.
○2011 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震(Mw6.7)及び 4 月 12 日福島県中通りの地震(Mw5.9)
北行軌道において,最も西の領域では最大 2m 超,中央付近では約 80cm の衛星から遠ざかる方向
の位相変化が検出された(図 7 左)
.干渉縞には,位相変化が不連続な場所が線状に分布している(図
7 左の白点線)
.西側の 2 本の位相不連続線は井戸沢断層及び塩ノ平断層,東側の位相不連続線は湯ノ
岳断層にそれぞれ対応している.4 月 11 日の地震の CMT 解は正断層型であり非ダブルカップル成
分が非常に大きく,複数の断層面が活動したことを示唆する.干渉縞の間隔や位相不連続線を考慮す
ると,西傾斜の断層(西領域で沈降,東領域で東進に富む)が動いたと考えられる.なお,湯ノ岳断
層の東にみられる変動縞は 3 月 23 日の地震(図 6)によるもの,また,図 7 左の南西部に見られる
変動縞は 3 月 19 日の地震(図 4)によるものである.
断層運動による地表変位が現地調査(例えば,阿南・他,2011)により確認された塩ノ平断層と湯
ノ岳断層に対応する位相不連続線を参考に,4 月 11 日の地震について,2 枚の断層面を設定して,
近地強震波形データを用いた震源過程解析による震源断層モデルを求めた(図 7 中,右)
.塩ノ平断
層の浅い場所の大きなすべり(図 7 中)は,干渉縞で塩ノ平断層の中央付近の地表変位が大きいこと
(図 7 左)と整合する.湯ノ岳断層のすべりは主に深い場所にあり(図 7 中),これは干渉縞で湯ノ
岳断層の地表変位が比較的小さいこと(図 7 左)と整合する.両断層上のすべりの規模はそれぞれ
Mw6.57 と 6.58 であり,同程度であった.すべりは塩ノ平断層で始まり,その 5.9 秒後に湯ノ岳断層
でも始まり,両断層とも破壊継続時間は 10 秒程度であった(図 7 右)
.
○2011 年 3 月 12 日長野県北部の地震(Mw6.3)
北行軌道において,震央の南西で局所的に約 8cm の衛星に近づく方向,震央周辺で約 8cm 程度の
衛星から遠ざかる方向の位相差が検出された(図 8).発震機構解は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆
66
地震-2308
断層型であり,これに概ね整合的な結果であった.
○2011 年 3 月 15 日静岡県東部の地震(Mw6.0)
北行軌道及び南行軌道ともに,大気に起因すると考えられるノイズ以外は特段の地殻変動は検出さ
れなかった(図 9 上)
.近地強震波形データを用いて解析した非一様断層すべりモデルから計算した
干渉縞(図 9 下)によれば,この地震に伴う衛星視線方向の地表変位は小さかったと考えられる.
○2011 年 2 月 22 日ニュージーランド,南島の地震(M6.3)
発震機構解に調和的な,西南西-東北東走向の右横ずれ成分が卓越した干渉縞が得られた(図 10)
.
局所的な地殻変動量は最大約 50cm であった.大局的には右横ずれであるが,震央のすぐ北では位相
の逆転がみられ,複雑な地殻変動が生じたと考えられる.震央の北では,液状化が原因と考えられる
干渉性が悪い領域がある.
2010 年 9 月に発生した Mw7.0 の地震の SAR 干渉解析結果と比較すると,
大きな地殻変動が生じた領域は重なっていないため,今回の地震は,2010 年 9 月の地震の余震では
なく,東に隣接した地域で発生した別の地震であると考えられる.
○2011 年 3 月 24 日ミャンマーの地震(Mw6.8)
発震機構解の横ずれ断層型の 2 枚の断層面のうち,地震時に破壊が生じたのは,東北東-西南西走
向の断層面であることが分かった(図 11)
.
2.2. 東海地域の定常的な地殻変動
静岡県掛川市から御前崎市周辺の ALOS/PALSAR データを解析し,フィリピン海プレートの沈み
込みに伴う定常的な地殻変動の検出を試みた.変動の定常成分(時系列)を得るため,ここでは,撮
像日間隔の異なる多数の画像ペアに対して干渉処理を行い,各干渉画像における衛星視線方向の変動
量から,46 日毎(衛星回帰日数)の平均変動量を計算した(スタッキング)
.スタッキングにより,
電離層等に起因したノイズの影響が低減され,変動検出精度の向上が期待できる.
解析したデータは,2007 年 1 月~2010 年 10 月の北行軌道(パス 409,フレーム 680)の 23 シー
ン,2006 年 10 月~2010 年 9 月の南行軌道(パス 60,フレーム 2920)の 19 シーンである.Bperp
が約 1km 以下の北行軌道 101 ペア(図 12(a)の直線で結ばれたペア)及び南行軌道 79 ペア(図 13(a)
の直線で結ばれたペア)について干渉処理を行った.図 12 に北行軌道,図 13 に南行軌道の干渉解析
結果を示す.得られた干渉画像(図 12(b),図 13(b))に対して電子基準点「掛川」を無変動地点とし
てアンラップ処理を行い(図 12(c),図 13(c))
,これに気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)による
大気遅延補正を施して(図 12(d),図 13(d))
,全てのペアの衛星視線方向の変動量を求めた.
大気遅延補正済みの干渉画像(図 12(d),図 13(d))を用いて,図 14 に示すように,干渉処理した
ペアの期間内で変動は一定と仮定した上で,46 日毎(衛星回帰日数)に衛星視線方向の平均変動量を
計算した(スタッキング)
.ペアによって撮像日の間隔が異なるため,平均処理に用いるサンプル数が
異なるが,重み付けは行わなかった.大気遅延補正済みの干渉画像(図 12(d),図 13(d))には,電離
層等の影響と考えられる東西方向に勾配のある顕著な変動(ノイズ)がみられるものがあり,このよ
うな干渉画像を,
北行軌道については 13 枚,
南行軌道については 37 枚除いてスタッキングを行った.
スタッキングにより得られた 46 日毎の衛星視線方向の変動量について,北行軌道は 2007 年 1 月を
起点とした積算の時系列を図 16 に,南行軌道は 2006 年 10 月を起点とした積算の時系列を図 17 に
67
地震-2308
示す.なお,積算変動量のカラースケールは,図 16 と図 17 で異なる.北行軌道の積算変動量の時系
列(図 16)で定常的な変動がほとんどみられないのは,北行軌道では,衛星視線方向に対して解析領
域の変動方向(GNSS による,図 15)がほぼ垂直であり,変動検出の感度が低いためと考えられる.
一方,南行軌道では,衛星視線方向と解析領域の変動方向がほぼ平行であるため,変動検出の感度が
比較的高いと考えられる.南行軌道における積算変動量の時系列(図 17)では,御前崎付近を中心に
衛星から遠ざかる定常的な変動がみられ,GNSS による変動ベクトル(図 15)と調和的である.なお,
2009 年 8 月 11 日の駿河湾を震央とするフィリピン海プレート内の地震(Mw6.3)による影響はみら
れなかった.
謝辞
本解析で用いた PALSAR データの一部は,国土地理院が中心となって進めている防災利用実証実
験(地震 WG)に基づいて,宇宙航空研究開発機構(JAXA)により観測・提供されたものである.
また,一部は PIXEL で共有しているものであり,JAXA と東京大学地震研究所との共同研究契約に
より JAXA から提供されたものである.PALSAR に関する原初データの所有権は経済産業省および
JAXA にある.なお解析には,JAXA の島田政信氏により開発された SIGMA-SAR を使用した.
68
地震-2308
図 1. 2011 年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の SAR 干渉解析結果.
(左)北行軌道,
(右)南行軌道.
北行軌道
図 2. 2011 年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)における
アンラップ処理による地殻変動分布.
(左)北行軌道,
(右)南行軌道.
69
南行軌道
図 3. 2011 年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0),
M7 クラスの 3 つの余震(3/11 15:08 岩手県
沖 Mw7.4,3/11 15:15 茨城県沖 Mw7.7,
4/7 宮城県沖 Mw7.1)について,近地強震
波形を用いて解析した非一様断層すべりモ
デルから計算した干渉縞.
(左)北行軌道,
(右)南行軌道.
地震-2308
図 4. 2011 年 3 月 19 日茨城県北部の地震(Mw5.8)の(上)SAR 干渉解析結果,
(下)
一様断層すべりモデルから計算した干渉縞.
(左)北行軌道,(右)南行軌道.
図 5. 2011 年 3 月 19 日茨城県北部の地震(Mw5.8)における 2.5 次元解析に
よる(左)東西方向及び(右)準上下方向の地殻変動分布.
図 6. 2011 年 3 月 23 日福島県浜通りの地震(Mw5.7,図の中央付近の干渉縞)
の南行軌道における(左)SAR 干渉解析結果及び(右)一様断層すべりモデ
ルから計算した干渉縞.
70
地震-2308
Mo=1.83E+19Nm
(Mw=6.77)
図 7. 2011 年 4 月 11 日福島県浜通りの地震(Mw6.7)
,4 月 12 日福島県中通りの地震(Mw5.9)の北行軌道における
(左)SAR 干渉解析結果,
(中)近地強震波形を用いた震源過程解析で得られた 4 月 11 日の地震の断層すべり分布
及び(右)震源時間関数.中図の赤星は初期破壊開始点,青星は湯ノ岳断層(2枚目の断層)に設定した破壊開始
点,灰丸は 4 月 11 日の地震から 24 時間以内に発生した M2.0 以上の余震の震央を示す.右図はモーメント解放履
歴を示しており,赤線は塩ノ平断層(1 枚目の断層),青線は湯ノ岳断層(2 枚目の断層)
,灰色部分は 2 枚の断層全
体に対応する.
図 8. 2011 年 3 月 12 日長野県北部の地
震(Mw6.3)の北行軌道における SAR
干渉解析結果.
図 9. 2011 年 3 月 15 日静岡県東部の地震(Mw6.0)の(上)SAR
干渉解析結果,
(下)近地強震波形を用いて解析した非一様断
層すべりモデルから計算した上図点線枠内の領域の干渉縞.
(左)北行軌道,
(右)南行軌道.
71
地震-2308
位相が逆転
している所
GCMT
図 10. 2011 年 2 月 22 日ニュージーランド,南島の地震(M6.3)の北行軌道における(左)SAR 干渉解析結果
及び(右)アンラップ画像.星は米国地質調査所(USGS)による震央.
CMT 解
図 11. 2011 年 3 月 24 日ミャンマーの
地震(Mw6.8)における 2.5 次元解析
による東西方向の地殻変動分布.
72
地震-2308
(c)
(a)
北行軌道
(b)
(d)
図 12. 掛川市~御前崎市周辺における北行軌道の SAR 干渉解析結果.(a)撮像日と Bperp の関係,(b)Bperp 約 1km 以内
のペア((a)の直線で結ばれたペア)の干渉画像,(c)アンラップ画像,(d)大気遅延補正したアンラップ画像.画像の並
び順は,右または下の画像に行くほど,干渉処理に用いたマスター画像の撮像日が新しく,マスター画像の撮像日が
同じ場合は撮像日間隔が長い.
(c)
(a)
南行軌道
(b)
(d)
図 13. 掛川市~御前崎市周辺における南行軌道の SAR 干渉解析結果.(a)~(d)の説明は図 12 と同じ.
73
地震-2308
上下
水平
図 14. 46 日毎の変動量の計算の説明.撮像日間の変
動は一定と仮定して,46 日毎(衛星の回帰日数)
の変動量の平均を計算する.
図 15. 2006/1/1-2006/2/1~2009/1/1-2009/2/1(3 年間)
の東海地域における GNSS の変動ベクトル.掛川(+
印)固定.
(上)上下成分,
(下)水平成分.
←衛星から遠ざかる
衛星に近づく→
図 16. 掛川市~御前崎市周辺における 2007 年 1 月 15 日を起点とした 46 日毎の衛星視線方向(北行軌道)の積算変
動量の時系列.画像の並び順は,右または下の画像に行くほど積算期間が長く,最後の画像(右最下部)は 2007 年
1 月 15 日~2010 年 10 月 26 日(1380 日間)の積算変動量を示す.
74
地震-2308
←衛星から遠ざかる
衛星に近づく→
図 17. 掛川市~御前崎市周辺における 2006 年 10 月 16 日を起点とした 46 日毎の衛星視線方向(南行軌道)の積算変
動量の時系列.画像の並び順は,右または下の画像に行くほど積算期間が長く,最後の画像(右最下部)は 2006 年
10 月 16 日~2010 年 9 月 11 日(1426 日間)の積算変動量を示す.
75
地震-2309
スキャン SAR 干渉による広域地殻変動検出
PI:日本電気(株)・誘導光電事業部 木村 恒一
CI:日本電気航空宇宙システム(株) 宮脇 正典
日本電気航空宇宙システム(株) 山口 志野
1. はじめに
近年,地震等による地殻変動検出の手段として差分干渉 SAR の手法が広く用いられており,多く
の成果をあげている.これまでの差分干渉 SAR による成果はストリップマップモードによる観測デ
ータを用いている.
ストリップマップモードは観測幅が 70km 程度(ALOS/PALSAR の場合)であり,
地殻変動領域が 100km 以上の広範囲に及ぶような巨大地震による地殻変動検出を行うためには,1
パスではカバーできず,複数パスの結果を合成する方法が用いられている.しかし,データ取得に時
間がかかる点や,観測時期のずれによる干渉縞の不連続等の問題が生じる.一方,スキャン SAR モ
ードは 350km 程度(ALOS/PALSAR の場合)の広い観測幅を有しており,この観測データを用いた
差分干渉 SAR が実現できれば,巨大地震による広域地殻変動の検出において非常に有効な手段とな
りうる.
そこで,我々は,平成 21 年度~平成 22 年度で ALOS/PALSAR のスキャン SAR モードの観測デー
タを用いたスキャン SAR 差分干渉解析による巨大地震等の広域地殻変動の検出を実施し,スキャン
SAR 干渉のための条件の整理および問題点の抽出を行った.平成 23 年度~平成 25 年度は,2011 年
東北地方太平洋沖地震の観測データを用いたスキャン SAR 差分干渉解析を実施し,さらに,干渉縞
の質の改良について試行した.本報告書では,その結果を報告する.
2. これまでの成果の概要
NEC 独自研究および平成 21 年度~平成 22 年度における本 WG において,ALOS/PALSAR スキャ
ン SAR モード観測データによる差分干渉 SAR 解析を実施した.その中で,2008 年中国四川大地震
(2008/5/12, Mw7.9),
2010 年チリ地震(2010/2/27, Mw8.8)等のスキャン SAR 差分干渉解析を実施し,
これらの地震による地殻変動パターンの検出に成功した.2008 年中国四川大地震のスキャン SAR 差
分干渉解析結果を図 1 に,2010 年チリ地震のスキャン SAR 差分干渉解析結果を図 2 に示す.[1]
また,ALOS/PALSAR のさまざまな干渉条件の干渉ペアについてスキャン SAR 差分干渉処理を実
施した.その結果,良好な干渉結果が得られる干渉条件として干渉ベースライン(Bperp)700m 以
内,バースト間オーバーラップ率 30%以上という目安を得た.ALOS/PALSAR のスキャン SAR 干渉
条件と干渉結果の質の関係を図 3 に示す.
スキャン SAR 差分干渉解析における課題として以下を抽出した.
・山地での干渉性が悪い
・大気遅延,電離層遅延の影響の補正
76
地震-2309
図 1. 2008 年中国四川大地震のスキャン SAR 差分干渉解析結果
図 2. 2010 年チリ地震のスキャン SAR 差分干渉解析結果
77
地震-2309
図 3. ALOS/PALSAR におけるスキャン SAR 干渉条件と干渉結果の質の関係
3. 平成 23 年度~平成 25 年度の研究成果
3.1. 2011 年東北地方太平洋沖地震のスキャン SAR 差分干渉解析
2011 年 3 月 11 日に東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)が発生し,東北・関東地方に甚大な被害をも
たらした.地震 WG より ALOS/PALSAR スキャン SAR モードでの緊急観測を要求し,スキャン SAR
モード観測データを取得していただいた.この直後に ALOS は運用停止となってしまったが,この貴
重なデータを活かすべく,スキャン SAR 差分干渉解析を実施した.残念なことに解析データペアは
干渉ベースライン Bperp が 2km 以上と非常に大きくスキャン SAR 差分干渉解析を行うには非常に厳
しい条件であった.解析データの諸元を表 1 に示す.また,スキャン SAR 差分干渉解析結果を図 4
に示す.本処理は,再生処理はフルアパーチャ方式による.また,地震後データの軌道データは予報
値を使用している.
表 1. 2011 年東北地方太平洋沖地震のスキャン SAR 差分干渉解析データの諸元
78
地震-2309
図 4. 2011 年東北地方太平洋沖地震のスキャン SAR 差分干渉解析結果
3.2. スキャン SAR 差分干渉解析品質向上の試み
2011 年東北地方太平洋沖地震の差分干渉解析結果は,干渉条件が悪いため品質の良い干渉縞を得る
ことはできなかった.特に,山間部ではほとんど干渉していない.ここで,干渉条件の悪いデータの
干渉品質を向上することはできないかと考え,以下の試みを行った.
・時間領域再生処理により,再生処理において地形起伏補正の実施(従来はフルアパーチャ方式に
より画像再生を実施)
・レンジフィルタの適用(ground reflectivity shift を考慮し,オーバーラップ帯域のみを使用)
・アジマスフィルタの適用(バーストがオーバーラップしたデータのみ使用)
図 5 に適用したレンジフィルタおよびアジマスフィルタの概念図を示す.
解析領域の地形情報および強度画像を図 6 に示す.再生処理における軌道データは高精度軌道デー
タを用いた.また,地形情報(DEM)は国土地理院基盤地図情報 10m メッシュ標高を使用した.
スキャン SAR 差分干渉解析結果を図 7 および図 8 に示す.図 7 はレンジフィルタおよびアジマス
フィルタを適用しない場合の差分干渉縞およびコヒーレンスを,図 8 はレンジフィルタおよびアジマ
スフィルタを適用した場合の差分干渉縞およびコヒーレンスを示す.
(本解析においては軌道誤差の補
正は実施していない.
)
結果としては,時間領域再生処理(再生時に地形起伏の補正を実施)によるスキャン SAR 差分干
渉縞の品質向上はほとんど見られなかったが,レンジフィルタおよびアジマスフィルタの適用により,
干渉エリアの拡大(例として北上盆地,仙台平野,房総半島)およびコヒーレンスの向上(干渉して
いるエリアについてコヒーレンス値 2 倍以上に向上)の効果が認められた.ただし,山間部における
干渉性の向上に関しては効果が認められなかった.
79
地震-2309
図 5. レンジフィルタおよびアジマスフィルタの概念図
図 6. 解析領域の地形情報および強度画像(エレベーションアンテナパタン補正無)
80
地震-2309
図 7. 差分干渉縞およびコヒーレンス(レンジフィルタおよびアジマスフィルタ適用無)
図 8. 差分干渉縞およびコヒーレンス(レンジフィルタおよびアジマスフィルタ適用有)
81
地震-2309
3.3. まとめ
ALOS/PALSAR スキャン SAR モード観測データを用いた差分干渉 SAR 解析により,2011 年東北
地方太平洋沖地震による広域地殻変動検出を試みた.干渉条件が悪く,品質の良い差分干渉縞が得ら
れなかった.特に,山間部ではほとんど干渉しなかった.
差分干渉縞の品質向上のため,以下を試みた.
・時間領域処理により,再生処理において地形起伏の補正を実施
・レンジフィルタ(ground reflectivity spectrum shift を考慮)を適用
・アジマスフィルタ(バースト間オーバーラップデータのみ使用)を適用
結果としては,山間部の干渉性の向上は見られなかったが,平野部の干渉品質向上(コヒーレンス
向上)の効果は見られた.
スキャン SAR 差分干渉解析において,干渉品質向上のため,レンジフィルタ,アジマスフィルタ
の適用は平地において有効であることが確認できた.ただし,山間部においてはこれらフィルタの効
果は認められなかった.山間部を含めた干渉縞を得るためには,干渉ベースライン条件,バースト間
オーバーラップ率条件を考慮した観測を行うことが重要であると思われる.
4. 発表実績
本研究成果は,下記において発表を行った.
[1] Masanori Miyawaki, Shino Yamaguchi and Tsunekazu Kimura,
“Extraction of wide-ranging crustal movement using ALOS/PALSAR ScanSAR interferometry”,
IGARSS 2011, pp. 1187-1190, July 2011, Vancouver, Canada.
[2] Masanori Miyawaki and Tsunekazu Kimura,
“Improvement of ScanSAR interferometric processing”,
IGARSS 2013, pp. 334-337, July 2013, Melbourne, Australia.
5. 謝辞
本研究において,防災利用実証実験に基づいて提供されたデータを解析に使用させていただいた.
また,地震 WG 内のディスカッション,各種情報提供をいただいたことに関しここに感謝の意を表す.
82
地震-2310
ALOS PALSAR と GPS データに基づく
東北地方歪み集中帯の変動場に関する研究
PI:東北大学大学院・理学研究科地震・噴火予知研究観測センター 太田雄策
CI:東北大学大学院・理学研究科地震・噴火予知研究観測センター 三 浦 哲
1. はじめに
東北地方は,太平洋プレートが年間 80-100mm/年の速度で沈み込み,多くのプレート境界型地震が
発生するプレート収束境界に位置している.さらに上盤側プレートに位置する東北地方では主に上部
地殻で発生する内陸地震も数多く発生している.Miura et al. (2004) は国土地理院 GEONET データ
および東北大学の連続 GPS 観測データから,プレート収束方向に直交する東北地方奥羽脊梁山脈に
そったひずみ集中帯を見出した.さらに,見出されたひずみ集中帯の分布と,内陸地震の震央分布が
よい一致を示すことを指摘している.このように内陸地震発生過程を理解する上で,測地データから
得られるひずみ分布は極めて重要である.一方で,GEONET による GPS 観測においては,その観測
点間隔が約 20km 程度であり,それよりも細かい空間スケールの現象を見出すことが難しい.そのた
め東北大学では GEONET を補完するように,
主に東北地方中央部において連続 GPS 観測を実施し,
奥羽脊梁山脈周辺におけるより詳細な地殻変動場の理解を進めてきた.このような背景の中で,発生
した内陸地震が 2008 年岩手・宮城内陸地震である.
2008 年岩手・宮城内陸地震は 2008 年 6 月 14 日午前 8 時 43 分に岩手県と宮城県の県境付近で発
生した地震である.震源の深さ 8 km,マグニチュードは気象庁マグニチュード Mj 7.2 で,発震機構
は西南西-東南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型であった.震源の位置等から,東北地方奥羽脊梁山地
のひずみ集中帯で発生した内陸地震と考えられている.地震時変動と地震後変動の先行研究はこれま
でに数多く存在する.地震時変動に関して,例えば Ohta et al. (2008) では地震時の kinematic GPS
データと余震分布から 2 枚の西に傾き下がる (西傾斜) 矩形震源断層を推定した.また,Takada et al.
(2009) では InSAR の結果と余震分布から,西傾斜断層だけではなく東に傾き下がる (東傾斜) の断
層も本震時に同時に活動した可能性を示した.Abe et al. (2013) では,より詳細に東傾斜断層の存在
について検討を行った.彼らは断層形状の推定およびその断層面での詳細なすべり分布の推定を
InSAR データ,SAR ピクセルオフセットデータ (ピクセルオフセットは異なる時期に取得された2枚
の SAR 強度画像のピクセル間のずれをサブピクセルの精度で計 測 す る 技 術 ( 例 え ば , 飛 田 他 ,
2001)) ,ならびに GPS データを用いて行っている.その結果,東傾斜断層と西傾斜断層それぞれ
で解放されたエネルギー (モーメント・マグニチュード) がほぼ同一で,東傾斜断層の寄与率が地震
時すべりにおいて大きいことを示唆している.地震後の余効変動は,地震後に観測される地殻変動の
総称である.その原因は大別して 3 つに分けることができ,余効すべり (例えば,Bürgmann et al.,
2002,Iinuma et al., 2009) ,間隙弾性反発 (例えば,Jónsson et al., 2003),粘弾性緩和 (例えば,
Pollitz, 1997) が挙げられる.そもそも地震という現象は巨大な岩石実験であると考えられ,地震に
伴う応力変化に伴って発生する余効変動はリソスフェアの強度 (レオロジー) に関する情報を含んで
いると考えられる.すなわち内陸巨大地震後の余効変動を時空間的に詳細に調べることによって,当
該地域 (本課題の場合は奥羽脊梁山脈ひずみ集中帯) の地下構造等の情報を引き出すことが可能であ
る.たとえば Iinuma et al. (2009) は,地震後 1 か月の定常観測網と臨時観測網の GPS データの解
析にもとづき,地震時すべりの大きかった部分の浅部延長および,本震では動かなかった震源断層北
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地震-2310
側の出店断層において余効すべりが発生していることを見出した.彼らは地震後 1 ヶ月のデータセッ
トから得られる余効変動の空間パターンはほぼ余効すべりで説明が可能であり,間隙弾性反発および
粘弾性緩和では説明ができないことを示している.高田 他, (2011) は 2008 年から 2009 年末の
ALOS/PALSAR データの InSAR 解析を用い,パス 402 (北行軌道) の画像では栗駒山東麓において,
パス 53 (南行軌道) の画像では国見山東麓および雨田森において,それぞれ短波長の余効変動と考え
られる変位を検出した.彼らは栗駒山東麓および国見山東麓における余効変動に関しては断層すべり
で説明が可能であることを示したが,
雨田森における余効変動に関する詳細な議論は行なっていない.
また,彼らは通常の 1 ペアの画像による InSAR 解析による結果によって議論を行なっており,その
時間発展は明らかになっていない.
より長期の余効変動については,Ohzono et al. (2012) による GPS データにもとづく先行研究があ
る.彼らは東北日本の GPS データを 2.2 年間の期間にわたって解析をし,それらから広域に渡る特徴
的な地殻変動を見出し,それら余効変動が粘弾性緩和に起因していることを示唆した.具体的には球
殻2層構造モデルによる粘弾性緩和モデル (Pollitz, 1997) にもとづいて,粘性緩和を駆動する地震時
断層モデルには Ohta et al., (2008) を用いて予想される粘性緩和による余効変動量を計算し,GPS
観測値と比較を行った.その結果,震源域から数十 km 以上離れた領域では地殻変動場を説明できる
ものの,震源域近傍では観測値とモデル計算値が大きく乖離する結果となった.彼らはその原因とし
て次の可能性を指摘している.1 つは,震源域近傍の粘弾性構造が,東北日本の広域的な粘弾性構造
と異なる可能性である.すなわち,震源域近傍は奥羽脊梁山脈の下部に当たるため,その周囲と比較
して弾性層が薄いもしくは,粘性層の粘性係数が小さく,その結果粘性緩和による影響が大きく,変
位量が大きい可能性である.もう一つは GPS 観測点の付近で局所的な余効すべりが発生している可
能性である.しかしどちらの原因であっても,震源域付近は山間部となっており,GPS 観測点を設置
可能な場所が極めて少なく,GPS データからのみで震源域近傍の変動要因を推定することは極めて困
難である.また,地上設備が不要な InSAR を用いた解析でも解析領域が山間部に当たり,冬季の積
雪等の影響を受けて干渉度が低下し,解析が難しいという問題があった.
このような背景のもと,本実証実験課題は,ALOS PALSAR データと GPS データを統合解析する
ことによって,東北地方奥羽脊梁山脈におけるひずみの時空間変化を詳細に捉えることを目的とし,
研究期間を通してこれまで解析を進めてきた.本報告ではその概要について述べる.
2. PS-InSAR 時系列解析による余効変動解析結果
InSAR データにはALOS/PALSAR データを用い,本震発生後の 2008 年 6 月から 2010 年 10 月
までの南行軌道 13 シーン,および北行軌道 9 シーンを用いた.本報告書では紙面の関係で南行軌道
のデータの結果のみを示す.地震後の地殻変動場を時空間的に推定するために,PS法によるInSAR 時
系列解析パッケージであるStaMPS (Hooper et al., 2007) を用いた.数値標高データにはSRTM4 を
用いた.
南行軌道のマスター画像は 2009 年 6 月のデータを,
北行軌道のマスター画像は 2009 年 9 月
のデータをそれぞれ使用した.また,初期PS 候補点抽出の閾値である振幅安定度 (D A ) の値は
StaMPSパッケージによる解析で標準的な値である 0.4 を採用した.南行軌道データの解析の結果,
震源断層上盤側でLOS短縮(隆起もしくは東向き変位)
,下盤側でLOS伸長(沈降もしくは西向き変
位)のパターンが見られ,上盤側では本震発生後,2010 年 10 月までの期間に最大 0.22 m程度の累積
変位による短縮域が確認された (図 1,図 2).
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図 1. 南行軌道画像の解析結果.2008 年 7 月 16 日を基準とする各グリッドの累積変位.長矢印:衛星進行方向,短矢
印:視線方向,青:LOS 伸長 (沈降もしくは西向き変位),赤:LOS 短縮 (隆起もしくは東向き変位).Ohta et al. (2008)
で推定した 2 枚の矩形断層 (本震震源断層) を併記.カラースケールは変動が最も小さいと考えられる 2008 年 8 月撮
像時データにおける断層下盤側領域から計算したノイズレベル (3σ) 以上の値を持つ部分のみに色を付けている.
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図 2 に 2010 年 10 月までの累積変位量と,得られた変位時系列を示す.これを見ると,大局的には下
盤側で沈降もしくは西向きの水平変位,上盤側で隆起もしくは東向きの水平変位という傾向が確認で
きる.特に下盤側の変動の時間発展を見るとほぼ等速に変動が進行しており,これは Ohzono et al.
(2012)で指摘された粘弾性緩和による余効変動の結果と矛盾しない.さらにこうした長波長の変動の
他に,特に上盤側において短波長の特徴的な変動が存在していることが分かる.それらは主に高松岳
および雨田森に位置し,さらにその時間発展を見ると,下盤側と同様に地震発生後からほぼ等速で変
動が進行しているように見える.しかし,断層上盤側の時系列は下盤側と比較してノイズレベルが高
く,変位時系列が減衰しつつ進行している可能性も否定できない結果となった.
また精度評価のために直近の GPS 時系列との比較を行った.図 2 (右図)に断層上盤側 2 箇所の GPS
観測点(GEONET および東北大学観測点)の日毎の 3 成分座標時系列を ALOS PALSAR 南行軌道の衛
星視線方向 (LOS)に変換したものと,PS-InSAR 時系列の結果の比較を示す.両者を見ると数十 mm
程度の範囲内で一致しており,今回得られている最大で 200mm を超えるような変動を考える上では,
十分な精度が得られていることが分かった.
図 2. 2010 年 10 月における PS-InSAR 時系列解析結果(上図)および,局所的 LOS 短縮域および下盤側における時系列
(下図)とその領域.標準偏差をエラーバーで示す.太破線:LOS 変位のピボットラインを示す.上左図の高松岳,雨田
森,
本寺における周辺 3×3 グリッドの平均から各シーンの変位値を計算し,
それを時系列にしたものを下左図に示す.
(右図): GEONET 0913 観測点および東北大学 ICNS 観測点における 3 成分座標時系列を ALOS PALSAR 南行軌道の衛
星視線方向 (LOS)に変換した時系列(黒色)および,PS-InSAR 時系列解析によって得られた GPS 観測点に隣接する 9
ピクセルの変位量を平均した結果 (緑色).
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3. 得られた余効変動場の解釈
図 1,2 のように,南行軌道では長波長成分で見ると震源断層を境界に LOS 伸張,短縮が分かれる
変動パターンを示した.1章で既に述べたように,地震後の長期 (地震後 2.2 年) 余効変動に関して
は Ohzono et al. (2012) による先行研究が存在する.彼らは地震後の GPS データの解析から東北日
本弧中央部全体に変位がおよぶ水平変動および震源域周辺の特徴的な沈降を見出し,そうした長期・
広域にわたる変動が地震に伴う応力擾乱の下部地殻もしくは上部マントルにおける粘性緩和によって
説明可能であることを示した.本研究領域以外でも,地震後に長期にわたって広域で地殻変動が検出
される例は多いが,数年におよぶ変動はやはり粘性緩和によって説明可能である場合が多い.以上の
先行研究等を考慮すると,本研究で得られた震源断層を挟んでの特徴的な LOS 変位のパターンには
粘性緩和の影響が少なからず含まれていると考えられる.そこで,その影響を以下で評価した.まず,
南行軌道画像の結果に合わせて,
2008 年 7 月 16 日から 2010 年 10 月 22 日の間の累積変位について,
同期間の Ohzono et al. (2012)の粘弾性緩和モデルから期待される累積変位を図 3 (左)に示す.ここで
示す値は LOS 変位に変換済みである.次に,それを本研究で得られた南行軌道の解析結果から差し
引いた結果を図 3 (右)に示す.GPS データによって推定された粘弾性緩和モデルは大局的には震源断
層下盤側で LOS 伸長,上盤側で LOS 短縮の傾向を持ち,本研究において PS-InSAR 解析によって得
られた LOS 変化のパターンと調和的であり,特に下盤側の長波長変動のほとんどは説明が可能であ
る.そのため断層下盤側の変動は粘弾性緩和によるものと結論付けることができる.
次に上盤側の短波長変動,特に雨田森付近の LOS 短縮について検討を行った.2008 年 岩手・宮
城内陸地震では地震時に西傾斜の逆断層だけでなく,東傾斜の逆断層が同時に動いた可能性が指摘さ
れている (Takada et al., 2009;Abe et al., (2013)).Abe et al. (2013) では東傾斜,西傾斜の両断層
について SAR ピクセルオフセットデータ,InSAR,GPS データから非平面形状の断層モデルを推定
し,地震時のすべり分布インバージョンを行った. その結果,地震時の SAR データを説明するため
には東傾斜断層の存在が必要で,本震時のモーメント解放は西傾斜・東傾斜の両断層がともに同程度
であることを示した.このような背景のもと,仮に東傾斜の断層面で非地震性すべりが継続的に発生
していると考えたフォワード計算を行った.その結果,Mw5.9 程度の規模の非地震性すべりがあれば,
おおむね雨田森付近の変動を説明できることが分かった.一方で単純な矩形断層では短波長変動の全
ては説明できず,より複雑なモデル構築が今後必要になるものと考えられる.
図 3. (左図): 震源域近傍の粘弾性緩和モデル (Ohzono et al., 2012).2008 年 7 月 16 日を起点とする 2010 年 10 月 22
日までの累積変位を南行軌道の LOS に変換したもの.(右図):南行軌道の LOS 変位 (2008 年 7 月 16 日から 2010 年
10 月 22 日までの累積変位) から図 1 で示した同期間の粘弾性緩和を差し引いたもの.下盤側の変動を概ね説明できて
いることが分かる.
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4. まとめ
本実証実験課題では ALOS/PALSAR データに PS-InSAR 時系列解析を適用し,2008 年岩手・宮
城内陸地震 (以下,本震) 発生後の余効変動を詳細に調べ,内陸地震の地震後のひずみ解消過程を明
らかにすることを目的として研究を行った.南行軌道解析の結果から,震源域近傍は震源断層を挟ん
だ長波長の変位と,震源域近傍に特徴的な短波長の変位が複合して発生していることが明らかとなっ
た.特に,特徴的な短波長の変位として局所的 LOS 短縮域が震源断層上盤側の栗駒山北側の雨田森
付近および栗駒山西側の高松岳付近の2箇所で明瞭に検出された.雨田森付近の局所的 LOS 短縮域
の最大 LOS 変位は 0.22m 程度であった.雨田森付近の変動は先行研究によって 2009 年までの変動
が指摘されていたが,本研究では本震から 2.2 年経った 2010 年後半においても,ほぼ減衰せずに一
定速度で LOS の短縮が継続していることを明らかにした.また,高松岳付近の変動は本研究で初め
て見出された変動である.さらに,本震震源断層を境界とする長波長の LOS 変位のパターンが粘弾
性緩和によって説明可能なことを示した.長波長の LOS 変化を適切に除去することで,震源断層上
盤側の短波長成分をより明瞭に抽出することに成功した.さらに断層上盤側における短波長変動のう
ち,雨田森付近の局所的 LOS 短縮域について検討を行い,非地震性すべりが生じていた可能性を示
した.
謝辞:
本研究で用いた SAR データは,
「衛星データを用いた地震・地盤変動データ流通及び解析ワーキン
ググループ」 (地震 WG) および PIXEL 共有データを通じて提供を受けました. PALSAR データ
の所有権は経済産業省および宇宙航空研究開発機構 (JAXA) にあります.また,国土地理院
GEONET 観測点の GPS データを使用しました.また Andrew Hooper 博士には StaMPS 解析ソ
フトウェアを提供して頂きました.記して感謝いたします.
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ALOS 立体視画像による活断層の詳細位置特定の精度と効率の向上の可能性調査
PI:
(公財)地震予知総合研究振興会・地震調査研究センター 松浦 律子
CI:
(公財)地震予知総合研究振興会・地震調査研究センター 田力 正好
(公財)地震予知総合研究振興会・地震調査研究センター 松田 時彦
東北大学・理学部 今泉 俊文
岩手大学 工学部名誉教授 横山 隆三
1. はじめに
本研究は,政府の地震調査研究推進本部の総合基本施策に基づき,日本全国の活断層詳細位置を特
定する作業に,ALOS 立体視画像を活用することによって,判読精度や判読作業効率が向上する手法
を開発する目的で,ALOS の過去に蓄積された可視光画像の中から可能な限り画面中全域が晴天時を
選び出し,立体視画像を作成して既知の明瞭な活断層位置や伏在とされる活断層位置に関しての比較
検討など,活断層判読作業への ALOS データの活用手法を検討するものである.本研究の着想時点に
は,ALOS データを用いることによって,一辺 35km と,これまで高々数キロ毎の範囲を航空写真判
読で狭い範囲毎に探索されていた地下の活断層を,地震の原因となるテクトニクスを考慮しながら探
索できる範囲で一度に見られる利点が予想されていたが,実際に本研究によって,これまで見落とさ
れていた活断層や,活断層と誤認されていた大規模地すべりなどの発見という成果があがり,ALOS
立体視画像は活断層の探索に大変有用であることが判った.
2. 目的
日本国内の活断層の詳細位置特定を行いながら,ALOS 立体視画像の活用によって,地表に現れた
地下の断層運動の痕跡を見落とさないように抽出する,変動地形判読の精度や作業効率が向上する手
法を開発する.必要に応じて海外の活断層周辺の画像を検討して,衛星データによる立体視画像によ
って活断層の見え方の事例を蓄積する.
3. 方法
ALOS が過去に蓄積してきた対象地域の可視光画像データの中から,プレビュー画像を用いて出来
るだけ晴天部分が広い画像を見つけ出す.全領域雲が無い画像が取得できていない部分に関しては,
活断層が存在する可能性が高い領域と既知の活断層が分布する領域に雲が少ない最良の画像を選択す
る.選択した画像の二方向の可視光データを用いてオルソ変換したパンシャープンカラー立体視画像
を作成する.これに既知の活断層トレースを重ね合わせ,活断層と判定されている変動地形が,地下
にある震源断層の形状を考慮しながら地表に変動地形として見落としている部分がないか,或いは既
存の活断層トレースが無理につなげられている,或いは逆に途中で断ち切られている部分がないか,
注意して判読作業を実施する.
4. 結果
地域によって ALOS による立体視画像が非常に有効であることが判った.例えば東北地方は南北方
向に延びた逆断層が数多く分布していので,南北に近い方向で飛ぶ衛星からの視差によって段差や撓
曲が認識し易いことが判った.そのため,これまで東北地方の脊梁山脈を挟んで東西両山麓部に寒暖
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層が分布しているが,北端に近い山地西側の花輪東断層に対応する山地東側の断層は確認されていな
かったが,立体視画像によって極めて活動度は低いものの,活断層が存在することが発見された(図
1)
.
図 1. 新活断層の発見例
花輪東断層に対応する東北地方脊梁山地東側の診断層トレース
さらに,火山堆積物によって通常は活断層が見つかりにくい岩手山の山麓部にも,地下の活断層の
存在を推定させる部分が存在していることが判った.この結果雫石盆地西縁断層帯は従来より長さが
延びて,岩手山を越えて北側の八幡平まで延びていることが確認された(図 2)
.
一度に広い範囲を立体視できるため,例えば図 2 に示した福島県飯坂温泉付近で,これまで一つな
がりの断層トレースとされていたものが,二状の雁行する活断層と,中間の大規模地すべり地形の末
端部とに分かれることが明瞭に確認できた(図 3)
.
91
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図 2. 火山山麓に見つかった活断層の例
岩手山山麓を挟んで連続する断層トレース
92
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図 3. 大規模地すべりが活断層トレースと誤認されていた例
飯坂温泉付近の雁行する活断層トレースと地すべり末端部の撓曲
しかしながら,中国地方のように主として東西方向に延びる横ずれ断層が卓越している地方に置い
ては,ALOS 衛星の軌道方向の制約から,長い断層を異なる日付の画像をつないで見ることになり,
色調の違いなどが,画像を背景として判読結果を表示した際に,一般に対しては印象が変わる可能性
もある.ALOS 画像の得意部分を生かした活用が必要である.
海外に関しては,現地調査を行えたニュージーランドに関して,現地調査による変動地形と,ALOS
画像での見え方との比較を行えた.例えばニュージーランド北島の Mahia 半島附近の地震による隆起
海岸地形は,地質構造を断ち切る方向に隆起海岸が形成されている様子が,ALOS の画像から良好に
認識できることが判った.ニュージーランドのように人工改変による地形擾乱の影響がない領域が広
大な地域に関しては,ALOS 画像は活断層判読の重要なツールとなる.今後判読作業が行われる北海
道地域に関しては,
人口密度が低く,
また変動地形の波長が本州などより長いことが予測されるので,
ALOS 画像の活用が,活断層の判読効率化に寄与することが期待される.
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図 4. 海外の変動地形の現地状況と ALOS 画像比較例
ニュージーランド北島の Mahia 半島における完新世地震性隆起海岸の隆起ベンチと地質構造
5. おわりに
以上のように,本研究によって ALOS 可視光データは,地下の活断層の抽出の重要な手段となるこ
とが確認された.また,北方四島のように,航空写真が利用不可能な国土に対しても,あるいは外国
で地震断層を比較のために判読するなどの研究には,ALOS 画像は重要な手段であることは論を待た
ない.しかし現在は稼働中の衛星の不在によって立体視画像の作成に必要な新たな画像が得られない
状態が 3 年に及ぼうとしている.代わりに東日本大震災などを契機に航空機レーザー測量による5m
DEM データや2mDEM データの取得が国土交通省の色々な部局で進みつつある.今後は,活断層判
読に関しては,DEM データがまず活用され,詳細 DEM 取得できない地域をカバーする手段として
の地表から見つけ出す作業に ALOS データを活用するという方向が主流となると予測される.しかし
詳細 DEM データが国土の全域をカバーするにはまだ相応の期間を要するであろう.また,大地震の
超低頻度発生率を考える時,研究事例を増やす重要な手段として海外での大地震前後のデータを取得
する手段として,ALOS の可視光データは重要である.PALSAR 以外にも地震研究の衛星データニー
ズがあることは,忘れないで頂きたい.
本ワーキングで衛星データを利用する機会を得られたことを,国土地理院,JAXA,地震調査研究
推進本部はじめご関係の皆様に感謝申し上げる.
6. 印刷成果
水本匡起・田力正好・松田時彦・松浦律子, 2013, 福島盆地中部,飯坂付近における福島盆地西縁断
層帯の不連続部について, 活断層研究, 38, 29-40.
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