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災害に強い電子自治体に関する研究会報告書

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災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
目次
はじめに .............................................................................. 2
災害に強い電子自治体に関する研究会構成員名簿 .......................................... 3
災害に強い電子自治体に関する研究会実施状況 ............................................ 4
1
東日本大震災の教訓と現状認識 ...................................................... 6
1.1
東日本大震災の事例 .............................................................. 6
1.2
東日本大震災から得られる教訓 - ICT-BCP の重要性 - ............................... 13
1.3
東日本大震災から得られる教訓 - ICT 利活用の重要性 - ............................. 14
2
ICT-BCP 普及の必要性と課題 ....................................................... 24
2.1
初動を支える ICT の重要性 ....................................................... 24
2.2
ICT-BCP 普及状況 ............................................................... 24
2.3
普及を妨げる要因と対策の方向性 ................................................. 27
2.4
ICT-BCP 初動版の構成 ........................................................... 28
2.5
ICT-BCP とその意義の提供 ....................................................... 29
2.6
ICT-BCP 初動版サンプルの提供 ................................................... 29
2.7
ICT-BCP 初動版解説書 ........................................................... 31
2.8
訓練事例集の提供 ............................................................... 31
2.9
普及施策の検討 ................................................................. 32
3
災害時におけるさらなる ICT 利活用に向けて ......................................... 41
3.1
外部とのコミュニケーション基盤の備え(衛星通信等の活用等)...................... 42
3.2
グループウエアや SNS 等を活用した情報発信手段の備え ............................. 48
3.3
クラウド等の活用を可能とする標準の備え(中間標準レイアウトの推進等) ............ 54
3.4
自治体 Web サイト等による情報発信ノウハウ・リテラシの強化 ....................... 56
3.5
民間の情報発信(SNS 等)に対する自治体側に必要な ICT リテラシ強化 ................ 60
3.6
災害時の情報流通に関する民間等との連携・協力 ................................... 62
1
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
はじめに
東日本大震災のような大災害や大規模なサイバー攻撃が発生した場合、地方公共団体の業務継続
を確保するとともに、地域住民に対して適切かつ迅速なサービスの提供が行われることが重要であ
る。
そこで、総務省では平成 20 年 8 月に「地方公共団体における ICT 部門の業務継続計画(BCP)策
定に関するガイドライン」
(以下 ICT-BCP ガイドラインという。)を公開し、地方公共団体における
BCP 策定の促進に努めているところであるが、平成 23 年 4 月現在、市区町村における「ICT 部門の
業務継続計画(ICT-BCP)
」の策定率は全体で 6.5%と決して高いものと言えない。
そのような中、平成 23 年 3 月、東日本大震災が発災し、自治体の庁舎機能が完全に失われるなど
当初想定を超える未曾有の被害が発生したところである。
そこで本研究会ではこの東日本大震災の教訓を踏まえつつ、
1. ICT-BCP ガイドラインの改訂・強化、普及施策の検討
2. 災害時における ICT 部門の情報セキュリティ対策のあり方の検討
3. 災害時の ICT 利活用に向けた自治体の取り組みへの提言
を行うものとした。
検討に当たっては「ICT 部門の業務継続・セキュリティワーキンググループ」、
「ICT 利活用ワーキ
ンググループ」の 2 ワーキンググループを組織し、上記 1、2 を ICT 部門の業務継続・セキュリティ
ワーキンググループで、3 を ICT 利活用ワーキンググループでそれぞれ検討を行った。
以下、1 章では東日本大震災において得られた教訓を整理し、2 章で ICT-BCP の改訂・強化と普及
策の検討を、3 章で ICT 利活用に向けた提言と情報セキュリティのあり方についてまとめる。
2
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
災害に強い電子自治体に関する研究会構成員名簿
(敬称略、50 音順)
1 研究会
伊藤 毅
NPO法人事業継続推進機構副理事長
久住 時男
新潟県見附市長
國領 二郎
慶應義塾大学総合政策学部教授
佐々木 良一 東京電機大学未来科学部教授
須藤 修
東京大学大学院情報学環長
田村 圭子
新潟大学危機管理室災害・復興科学研究所(協力)教授
中貝 宗治
兵庫県豊岡市長
丸谷 浩明
国土交通政策研究所政策研究官兼東京工業大学都市地震工学センター特任教授
2 ICT利活用WG
今井 建彦
仙台市総務企画局情報政策部長
川島 宏一
佐賀県特別顧問
齋藤 義男
東日本電信電話株式会社理事ビジネス&オフィス事業推進本部公共営業部長
白木 貞二郎 京都市行財政局防災危機管理室防災課長
須藤 修
東京大学大学院情報学環長
前田 みゆき 株式会社日立製作所自治体クラウド推進センタ長
光延 裕司
日本マイクロソフト株式会社公共営業本部長
3 ICT部門の業務継続・セキュリティWG
浅見 良雄
伊藤 毅
埼玉県小鹿野町総合政策課副課長
NPO法人事業継続推進機構副理事長
今井 建彦
仙台市総務企画局情報政策部長
大高 利夫
藤沢市総務部参事兼IT推進課長
小屋 晋吾
トレンドマイクロ株式会社戦略企画室統合政策担当部長
佐々木 忍
日本電気株式会社サービス事業本部グローバルサービス事業部シニアエキスパート
佐々木 良一 東京電機大学未来科学部教授
林 繁幸
丸谷 浩明
防災・危機管理アドバイザー(元松江市消防長)
国土交通政策研究所政策研究官兼東京工業大学都市地震工学センター特任教授
●オブザーバ
伊駒 政弘
財団法人地方自治情報センター研究開発部主席研究員
小林 弘史
総務省消防庁国民保護・防災部防災課災害対策官
鳥枝 浩彰
総務省消防庁国民保護・防災部防災情報室課長補佐
長尾 友夫
総務省情報流通行政局地方情報化推進室課長補佐
百瀬 昌幸
財団法人地方自治情報センター自治体セキュリティ支援室主任研究員
3
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
災害に強い電子自治体に関する研究会実施状況
1 (平成 24 年 1 月 31 日)「第 1 回研究会、第 1 回合同 WG」
議題 1:本研究会の進め方について
議題 2:地方公共団体における ICT 部門の業務継続計画(BCP)策定に関するガイドラインについて
議題 3:東日本大震災における仙台市の対応
議題 4:東日本大震災における日立の対応
2 (平成 24 年 2 月 21 日)「第 2 回合同 WG」
議題 1:第 1 回災害に強い電子自治体に関する研究会合同 WG における主な意見・論点
議題 2:藤沢市における BCP の概要及び災害時の ICT 利活用について
議題 3:小鹿野町における BCP の概要及び災害時の ICT 利活用について
3 (平成 24 年 3 月 26 日)「第 2 回研究会」「第 3 回合同 WG」
議題1:東日本大震災における地方公共団体情報部門の被災時の取組みと今後の対応のあり方に
関する調査研究について(國領構成員)
議題 2:東日本大震災における NTT 東日本の取組みについて(齋藤構成員)
議題 3:現場現実の事業継続マネジメント(伊藤座長代理)
4 (平成 24 年 4 月 23 日)「第 4 回合同 WG」
議題 1:「防災対策推進検討会議 中間報告」について
議題 2:「東日本大震災における地方公共団体情報部門の被災時の取り組みと今後の対応のあり
方に関する調査研究(現地調査報告書)」について
議題 3:東日本大震災(モデルケース 3 市町(宮古市、陸前高田市、双葉町))の教訓を踏まえた論
点整理(1)
議題 4:実証実験について
5 (平成 24 年 5 月 28 日)「第 5 回合同 WG」
議題 1:東日本大震災の教訓を踏まえた BCP ガイドラインのあり方に関する論点整理
議題 2:「東日本大震災における日本マイクロソフトの活動」について
6 (平成 24 年 6 月 25 日)「第 6 回合同 WG」
議題 1:「東日本大震災の教訓を踏まえた BCP ガイドラインのあり方に関する第 4 回、第 5 回合同
WG 報告書」について
議題 2:「実証実験」について
7 (平成 24 年 7 月 23 日)「第 3 回研究会」「第 7 回合同 WG」
議題 1:「ICT-BCP ガイドラインの改訂の方向性」について
議題 2:「災害に強い電子自治体に関する研究会」の今後の進め方について
議題 3:実証実験について
8 (平成 24 年 9 月 27 日)「第 8 回 ICT 部門の業務継続・セキュリティ WG」
議題 1:
「災害発生時の業務継続及び ICT の利活用等に関する調査」にかかる補足調査につい
て
議題 2:ICT-BCP ガイドライン見直しの全体像について
4
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
9 (平成 24 年 11 月 12 日)「第 8 回 ICT 利活用 WG」
議題 1:ICT 利活用 WG の検討の方向性について
議題 2:検討の主な論点について
議題 3:川島構成員報告
議題 4:実証実験中間報告
10 (平成 24 年 11 月 26 日)「第 9 回 ICT 部門の業務継続・セキュリティ WG」
議題 1:初動版 ICT-BCP サンプルについて
議題 2:ICT-BCP 策定に向けた首長向けメッセージについて
議題 3:既存 ICT-BCP ガイドライン見直しについて
議題 4:その他(災害時における情報セキュリティの課題について、訓練事例集について)
11 (平成 24 年 12 月 25 日)「第 9 回 ICT 利活用 WG」
議題 1:ICT 利活用 WG の親会向け報告書について
12 (平成 25 年 1 月 17 日)「第 4 回研究会」
議題 1:災害に強い電子自治体に関する研究会検討状況について
議題 2:研究会最終報告書構成案について
13 (平成 25 年 2 月 19 日)「第 10 回 ICT 部門の業務継続・セキュリティ WG」
議題 1:ICT-BCP 初動版関連資料のご報告
議題 2:訓練事例集について
議題 3:ICT-BCP の普及施策について
議題 4:研究会最終報告書等について
14 (平成 25 年 3 月 11 日)「第 10 回 ICT 利活用 WG」
議題 1:ICT 利活用WG報告書(案)について
議題 2:災害に強い電子自治体に関する研究会最終報告書(案)について
15 (平成 25 年 3 月 27 日)「第 5 回研究会」
議題 1:災害に強い電子自治体に関する研究会検討経過について
議題 2:
「災害に強い電子自治体に関する研究会報告書」
(案)について
5
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
1
東日本大震災の教訓と現状認識
本章では ICT-BCP の重要性や災害時の ICT 利活用の重要性を理解するために、東日本大震
災の貴重な事例を分析する。
1.1 では ICT-BCP の必要性を検討するに当たって参考となる被災状況の異なる被災三自治体
の事例を整理する。1.2 では ICT-BCP の意義を主に発災直後の初動対応に焦点を当てて事例か
ら学ぶ。1.3 では ICT 利活用の観点から東日本大震災での ICT 活用事例等を整理する。
1.1 東日本大震災の事例
以下、ICT-BCP の必要性を整理するに当たって、被災内容が特徴的に異なる東日本大震災で
の三自治体の事例を整理する。
整理に当たっては、「第 4 回 ICT 利活用ワーキンググループ」、「第 4 回 ICT 部門の業務
継続・セキュリティワーキンググループ」合同会議において提示された「宮古市、陸前高田
市、双葉町の各被災地に関する調査報告」(以下「LASDEC 調査」という。)を参考にしてい
る。
(1) 宮古市の例
本庁舎は被害を受けたものの、機能不全にいたる状況はまぬがれ、情報シ
ステム機器への被害が部分的なケース
(2) 陸前高田市の例
本庁舎が機能不全にいたる被害を受け、情報システム機器も壊滅的な被害
を受けたケース
(3) 双葉町の例
本庁舎も情報システム機器も無事であったが、住民ごと移動を余儀なくさ
れたケース
(1) 宮古市の例 (LASDEC 調査より)
宮古市では本庁舎とは別拠点である新里総合事務所に大型の非常用発電装置があったため、
住民情報システム等のサーバを移設することで比較的早く窓口業務を再開できている。(今
回のケースの様に有事の際の移設作業が起こり得ることは市で事前に検討されおり、迅速な
決断が下せた)また、その実行には外部事業者の協力があって実現できており、燃料不足は
新里総合事務所近辺での電力回復に結果的に助けられた面もある。
外部との連絡は発災後 2 週間程度、満足な通信手段が無く、早期の応援要請等に支障があ
ったものと思われる。
6
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
ICT資源
被災の状況と復旧の過程
・本庁舎が停電のため、大型の非常用電源設備のある新里総
合事務所に住民情報システムなどのサーバを移設して、稼動
させた
・本庁舎複電(3/26)ともにサーバを本庁舎に再移設し
て、稼動させた(すべて本来のシステムを使って対応したた
め、データ整合性が保たれた)
・前日分を本庁舎1階金庫室内に保管していた。金庫内の
バックアップデータは無事
・地震発生直後、市内全域で停電、3/26に複電
・本庁舎に小型の非常用発電装置(2台)あったが、照明等
に給電
・田老総合事務所と新里総合事務所に大型の非常用発電装置
があり、新里総合事務所は代替拠点となった
・新里総合事務所は3/13から燃料が問題になりはじめた
が、結果的に新里総合事務所近辺が複電したため、難を逃れ
た
・田老総合事務所ではスタンドアロンのPC用に非常用発電
装置を使用したが、追加の燃料確保に1週間を要した
・地震発生直後使用できない。複電後、使用可能になる
情報シス システム
テム・
データ
データ
電源
電気・通
信インフ
庁内ネットワーク
ラ
・専用回線はつながっていたが、停電のために使用できず
複電後、使用可能になる
地域イントラ
固定電話(IP電話)
携帯電話
衛星電話
ファクシミリ
インターネット
コピー機、パソコン端末
ハード
ウェア
ホストマシン・サーバ
空調設備
電算室・執務室
設備・人
員
ICT担当職員
ICT関連外部事業者
・地震発生直後使用できない。復旧は4月以降
・地震発生直後から、つながりにくい状況が続く
・配備無し、後に数台調達し、市災害対策本部で利用
・固定電話に同じ
・地震発生直後使用できない。複電後、使用可能になる
・1階にあった端末は流失、全壊した
・外部事業者からセキュリティ設定済みのPC100台の提
供を受け、貸し出し期間終了後はリース契約により利用継続
・ボランティア団体から提供を受けたPCはセキュリティの
設定が無く、使用できず、避難所へ回した
・上層階にあったため、水没は免れた
・本庁舎が停電のため、大型の非常用電源設備のある新里総
合事務所に移設して、稼動させた(移設もありうることは震
災以前から検討していたことにより、スムーズにできた)
・本庁舎複電(3/26)ともにサーバを本庁舎に再移設
・水没を免れ、無事
・1階が水没したものの、電算室は上層階にあり、被災を免
れる
全員無事
・契約書に災害時の対応に関する条項はなかった
・3/13に外部事業者と連絡が取れ、新里総合事務所への
サーバ移設の対応依頼ができた。その日のうちに外部事業者
が駆けつけ、移設作業を実施(事業者が協力的であったため
対応できた)
結果
・新里総合事務所にて3月14日から窓口
業務を再開、再開当初は金融機関に提出す
る住民票、保健書(本人確認資料)が多
かった、1週間後から罹災証明書発行
・3月27日には本庁舎での業務が再開
・外部との連絡ができない状況が続いた
・他の総合事務所はネットワークがつなが
るまでは、紙で新里総合事務所とやりとり
して処理した、ネットワーク復旧後(3月
28日)は各窓口でオンライン処理が再開
・外部との連絡ができない状況が続いた
・外部との連絡ができない状況が続いた
・外部との連絡ができない状況が続いた
・外部との連絡ができない状況が続いた
・外部との連絡ができない状況が続いた
・外部事業者から提供されたPCにより、
流失、全壊したPCを補填でき、業務を継
続できる状態になった
・新里総合事務所にて3月14日から窓口
業務を再開
・3月27日には本庁舎での業務が再開
宮古市のケース
被害 : 津波により本庁舎一階水没 震度5強
住
住民
民の
の
安
安否
否確
確認
認
経過日数
3/11
3/12
3/14
3/20
3/26
3/27
3/28
4月
5月中旬
5月下旬
発災当日
1日
3日
9日
15日
16日
17日
1ヶ月
2ヶ月
2.5ヶ月
・市内全域の公共施設に避難所を設置
各
各 種
種
証
証明
明事
事務
務
3/12 総合窓口部署から住民情報シ
ステムの稼働要請があり3/14 に再開。
再開時には金融機関へ提出する本人
確認書類として住民票又は保険証の発
行業務が多数を占める。
・データ損失なし
(B/Uを本庁舎金庫に保管)
・出先事務所にサーバ移転
※大型非常発電機あり
(証明発行再開)
・他の施設はスタンド
アローンPCで受付
・本庁窓口業務再開
・本庁舎へ移転
窓口復旧作業
・全窓口オンライン
異動処理再開
・被災者支援システム構築運用
・義援金交付(4回目以降)
外
外部
部と
との
の
連
連絡
絡手
手段
段
・り災証明発行開始
(手書き処理)
・本庁舎電話復旧
・固定電話不通
・衛星携帯なし
・携帯電話(通話困難)
・衛星携帯数台調達
住
住民
民へ
への
の
情
情報
報提
提供
供
備考
考
備
・停電
・停電により本庁舎NW停止
・復電
・庁内LAN復旧 ・FOMA網のVLAN仮設事務
所へ移転施設で回線確保
遠隔地のバックアップが使えない。
データの取り出し方法が課題
7
5/20,5/25,6/1
イントラ復旧
・各総合事務所
・各出張所
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(2) 陸前高田市の例(LASDEC 調査より)
陸前高田市では非常時のマニュアルは、震災前から存在しており、市庁舎内には、非常用
発電装置、無線、衛星携帯電話が常備されており、1960 年のチリ地震津波の経験から、毎年
5 月 24 日前後の日曜日に、災害対応についての訓練を行っていた。非常時には、市災害対策
本部が市庁舎に設置され、市内の 11 コミュニティに置かれている地区本部へ、無線や衛星携
帯電話で指示を送り、地区本部の担当者は張り付きで、市災害対策本部との連絡にあたるこ
とになっていた。ただし、ICT 部門に特化したマニュアルは、特になかった。
ところが、東日本大震災では想定外の規模による大津波により、市庁舎は壊滅的な被害を
受け、頼りにしていた電源、通信インフラが使えなくなり、主要システムのサーバやバック
アップデータも水没した。これら多くの ICT 資源を喪失したことにより、初動における地区
本部を含む外部との連絡、住民の安否情報の把握や提供、行政機能の復旧、復興などに多く
の時間と労力を要する結果となった。
○市災害対策本部は高台にあり津波の被害をまぬがれた学校給食センターへ移動し、翌日
には、配給活動などの支援活動や安否確認などの作業を始めた。しかし、市災害対策本部
の通信手段は、消防救急無線など、非常に限られたものしかなかった。市内数か所に定め
られた地区本部同士の連絡は無線により行われたが、地区本部と市災害対策本部との間は
連絡手段が無い状況であり、被害状況の把握は、大変困難であった。
○住民の安否確認は停電や住民情報の喪失により、手作業からはじめ、その後、復電や情
報システム事業者による 2 月末時点の住基台帳データの提供などもあり、発災後 1 週間の
18 日頃から住民安否について、職員がデータベースを参照しながら問い合わせを受けるこ
とが可能となった。
(それまでは手書きの紙を学校給食センター(災害対策本部の臨時の設
置場所)の壁に張り出して対応)
○バックアップデータもサーバ室内の同じロッカーに保管していたため、水没して利用で
きず、2 月末時点の住基台帳データにより、外部事業者から借り受けたサーバを用いて、23
日から住基システムや財務会計システムの仮運用を始めた。その後、ハードディスクから
の復旧作業を事業者に依頼したり、管轄法務局において保存していた戸籍の副本等に基づ
き再作成し、復元を試みたものの、復旧できないデータもあり、この穴埋めが重要な課題
となった。
○情報システムの復旧対応は仮庁舎やサーバ室などの建設や応援職員の支援などもあり、7
月 25 日には各種情報システムが再稼動した。
8
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
ICT資源
被災の状況と復旧の過程
結果
・住民基本台帳システムや税システム、戸籍システム、財務
会計システムなどはサーバ室が水没したため利用不可
・回収したハードディスクから住民基本台帳システムおよび
・7/25に、各種システムが稼働開始
税システムのデータを復旧
・3/23から仮サーバを活用し、住民基本台帳システムと財
務会計システムの仮運用開始
・住民基本台帳システム、福祉システム、
・すべてのデータをテープへ保存し、サーバ室で保管してい
税申告データは復旧できたが、それ以外の
たが、津波によりサーバと共に水没
データは復旧できず
・4月下旬以降に、ICT事業者が復旧させたデータを受け取
・戸籍情報は管轄法務局において保存して
り
いた戸籍の副本等に基づき再製データが作
・サーバ室から、サーバのハードディスクを回収。バック
成
アップ用のDATテープなどロッカーに保管していたものは
・テープからデータの復旧が出来なかっ
流出せずに回収できた
た、且つテープだと定期的な交換作業が必
・3/18にデータベースが稼働し業務システムが稼働
要になるため、現在はデータのバックアッ
・テープからはデータの復旧ができなかった
プにテープは使用していない
・地震発生直後、市内全域で停電したが、市庁舎の非常用発
電機が稼働し必要な電力は確保。
・5/29に高圧受電が開始され、電気が通
・3/14に高台に設置した災害対策本部付近は復電
常通り利用できるようになった
・仮庁舎内にサーバ用に発電機を設置
・津波被害により、不通状態
・3/20に、市職員がLANケーブルを仮敷設し、プリンタや
・7/23にネットワークを切り替えて、運
関連システムのネットワークを復旧
用開始
・6/15に、無線LANによる災害対策本部、仮設庁舎、仮設
システム
情報シス
テム・
データ
データ
電源
庁内ネットワーク
消防本部のネットワークを構築
・津波被害により、不通状態
・地震発生直後、NTT東日本の陸前高田ビルが水没したた
め、利用不可
地域イントラ
電気・通
信インフ 固定電話(IP電話)
ラ
携帯電話
・9月以降に復旧
・地震発生直後は、通話はつながりにくいが、メールは可能
衛星電話
ファクシミリ
インターネット
コピー機、パソコン端末
ハード
ウェア
・衛星携帯電話を除いて利用不可
・地震発生直後、NTT東日本の陸前高田ビルが水没したた
め、利用不可
・地震発生直後は利用不可
・3/29に、総務省の支援による衛星携帯電話によりイン
ターネット接続が可能になった
・6/15に、無線LANによる災害対策本部、仮設庁舎、仮設
消防本部のネットワークを構築
・コピー機、パソコンは、津波により水没、または流失
・3/14の災害対策本部付近での複電後は、学校給食セン
ターにあったノートパソコンを活用
・震災直後から停電していたため、コピー機は使用できず
ホストマシン・サーバ
・サーバ室が津波により水没
・サーバ自体の流出はせず
空調設備
・地震発生直後、市内全域で停電したため、利用不可
電算室・執務室
・津波により全壊状況にあり、5/16以降に建てたプレハブ
の仮庁舎を設立
・3/18に応急復旧し、通信可能エリアが
随時拡大
・7月下旬になって、サーバ、通信機器、
パソコン等のハード面は震災前とほぼ同等
の水準に復帰
・7月下旬になって、サーバ、通信機器、
パソコン等のハード面は震災前とほぼ同等
の水準に復帰
・7月下旬になって、サーバ、通信機器、
パソコン等のハード面は震災前とほぼ同等
の水準に復帰
・7/7にサーバ室の受電開始
・7/3にサーバ室が完成し順次ハートウェ
アなどの取り付けを実施
・7/25に、各種システムが稼働開始
・総務部総務課が行政情報化を、企画部協働推進室が地域情
報化を担当しており、それぞれ4名が担当
・地震後から情報システムの復旧に携わっ
・震災時に、総務課の情報システム担当者1名がなくなり、
ていた前前任の担当職員が5/1付で正式に
3名で対応。
着任
・4/22に名古屋市から2名、5/1に岩手県八幡平市から1
名の派遣を受け入れ
・ICT関連外部事業者と災害時の対応に関する契約はなく、
契約書も津波で流出したため、契約内容の詳細がすぐには確
認できない状態
・3/15に、2月末時点の住基台帳を紙に印刷したものと
データの入ったCDを持参
設備・人 ICT担当職員
員
ICT関連外部事業者
陸前高田市のケース
被害 : 津波により庁舎壊滅 震度6弱
経過日数
3/11
3/12
3/14
3/15
3/18
3/20
3/29
4/15
4/27
5/29
発災当日
1日
3日
4日
7日
9日
18日
1ヶ月
1.5ヶ月
2.5ヶ月
住
住民
民の
の安
安否
否確
確認
認
・仮設庁舎設置
・災害対策本部設置
・津波発生後学校給食セ
ンターに移設
・D/B構築 ・簡易な安否照会システムの運
(フリーソフト)用
・避難所設置
・名簿記入依頼
・壁に掲載
(手作業、紙の表)
・突合作業
2月末の住基台帳
(業者➣紙、CD)
終
了
3/23
・住基システム、財務会
計システム仮運用
・入力
ノートPC(エクセル)
各 種
種
各
証明
明事
事務
務
証
住民データの速やかな入手が課
題。
復旧不可能なデータ
の確保が課題
・住民票
・死亡届
外部
部と
との
の
外
連
連絡
絡手
手段
段
・住基,税B/Uデータ
取り出し(HDD)
復旧(業者)
・衛星移動携帯2台
(本部に運び込み)
・携帯電話一部復旧
住
住民
民へ
への
の
情
情報
報提
提供
供
・市広報臨時発行(1枚紙)
自衛隊員が避難所へ配布
(ほぼ毎日)
・携帯のワンセグ
・ラジオ(電池が続く限り)
5/24
・住民異動
5/10
・印鑑登録
5/16
・支援金義援金申請受
付
(独自システム)
・通信衛星インターネット接続機器(本
・衛星移動携帯 部)
インターネット接続機器
(仮設庁舎に設置 総務省より貸与)
・税関係証明
4/5
・戸籍謄本抄本
・り災証明
・エリア拡大
・HP再開
(一関市の協力)
備考
考
備
・停電
停電時のB/Uが課題
7月
・90台PC支援
(必要台数300台)
・本部周辺復電
+非常用発動
発電機で補助
8月
・住基NWと接
続
9
4/22
名古屋市2名応
援
・通電(通常)
(高圧)
5/1
八幡平市1名応
援
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(3) 双葉町の例(LASDEC 調査より)
双葉町では、停電した地区もあったが、市庁舎では停電等も発生せず関連システム等も正
常稼働していた。通信系も地域イントラを除いて、携帯電話がつながりにくいなどの障害は
あったが、大きな問題はなかった。
しかし、福島第一原子力発電所の事故の発生により、住民が川又町、さいたまスーパーア
リーナ、旧埼玉県立騎西高校など避難を繰り返すことになったため、移転先での応急業務の
立ち上げに追われることになった。
情報システムの復旧においては、他の自治体、外部事業者の協力に助けられたところが多
い。
・移転先でのプリンタやパソコンの提供支援(3/19)
⇒避難者名簿の作成にとりかかる
・外部事業者に 3/10 に渡していた住民情報の提供(3/20)
⇒エクセルでのデータ閲覧が可能になり、突合せによる被災証明書の発行を開始
・町ホームページ(災害版)の立ち上げ支援(3/20)
・仮サーバの立ち上げによる仮復旧支援(4/18)
・埼玉支所といわき市内の情報システム委託事業者のデータセンター間のネットワーク
接続支援(9 月)
またデータは自衛隊の協力のもと 3 月末と 4 月上旬に 2 時間の制約の中で一部の機器とバ
ックアップデータを持ち出すことができたが、ラック内のサーバまでは無理だった。地震の
影響で戸棚が開かず持ち出せない書類もあった。(長期に渡って戻れない状況までは想定し
えず、着の身着のままに避難した経緯がある)
4 月には仮業務システムを復旧、9 月には ICT 関連外部事業者の DC とネットワーク接続が
可能になったものの、避難先での生活がいつまで続くのかが不透明なこともあり、サーバ室
を設置することができないなど、制約下での行政業務の遂行が続いたと想定される。
10
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
ICT資源
システム
情報シス
テム・
データ
データ
電源
・庁舎内は停電等は発生せず
庁内ネットワーク
・問題は発生せず
地域イントラ
電気・通
信インフ 固定電話(IP電話)
ラ
結果
・4/18より、税証明、住民票、戸籍関係、
印鑑証明発行業務が開始
・3月末と4月初旬に、自衛隊の協力があり
2時間という制限のもとで、業務に必要な
データはほぼ持ち出すことが出来た
・双葉町内では停電した地区もあったが、
庁舎内は停電せず。
・埼玉に避難後も問題なし
・問題は発生せず
・埼玉支所内のネットワークの構築は4月
初旬、9月には埼玉支所といわき市内のDC
が接続
・サーバ室内の光メディアコンバータのランプが消えている
等目視による異常を確認したが、状況の把握はできず
・問題は発生せず
・問題は発生せず
・避難先の備え付けの固定電話を活用
携帯電話
・地震発生直後は、メールによる通信は途切れ途切れ可能で
あったが、通話は全く機能せず
・1週間後から順次つながりだした
・震災後1週間後から順次つながりだした
衛星電話
・衛星携帯電話は整備せず
ファクシミリ
・問題は発生せず
インターネット
・震災から2時間にわたり利用不可
コピー機、パソコン端末
ハード
ウェア
ホストマシン・サーバ
空調設備
電算室・執務室
設備・人
員
被災の状況と復旧の過程
・停電等は発生せず、システムは地震発生後も正常稼働
・3/12に避難開始し、4/18に仮サーバを立ち上げて仮復旧
・3月末と4月上旬に持ち出したバックアップデータにより、
住民情報システムや戸籍システムなどを仮サーバ上で構築
・毎日テープにバックアオップをとり、テープはサーバ室内
で保管
・情報システム担当者は、バックアップ用のテープをセット
してから避難を開始
・3月末と4月初旬に、自衛隊の協力があり2時間という制限
のもとで、必要なものを取りに戻れる機会があり、ラック外
の財務サーバ、住民情報システム、戸籍システム、ファイル
サーバの保存データを持ち出し、業務に必要なデータはほぼ
持ち出すことが出来た
ICT担当職員
ICT関連外部事業者
・埼玉に避難後、通信事業者から貸与の申
し出があったが、行政機能を複数回移転し
たため、支援を受けられず
・問題は発生せず
・埼玉支所内のネットワークのインター
ネットへの接続は4月初旬
・利用上の障害となる大きな被害はなかった
・埼玉県の避難所に異動した際に、パソコン、プリンタ10台
が新潟県刈羽村から調達される
・民間業者、一般の方からの支援もあり、
・そのほか、民間事業者から、事務用として40台、避難者貸
特に問題はなかった
出し用として40台の寄贈あり
・一時的に双葉長の役場庁舎に戻った際に、業務に使ってい
たパソコンを持ち出し
・いつまで埼玉の避難先で活動するか不透
・サーバラックやファン等は無事で、異常もなかった
明であるため、サーバ室は避難先では設置
せず
・いつまで埼玉の避難先で活動するか不透
・問題は発生せず
明であるため、サーバ室は避難先では設置
せず
・いつまで埼玉の避難先で活動するか不透
・問題は発生せず
明であるため、サーバ室は避難先では設置
せず
・5/1付で震災前から情報システムを担当
・震災前から一人で対応しており、震災後3/12に住民と共に
していた職員が異動したため、総務課の職
避難
員が引き継いだ
・通常の運用保守契約であり、特に災害時を想定した条項は
含んでいない。システムトラブルの際は、通常であれば1~
2時間程度で、情報システム委託事業者が役場庁舎に駆けつ
ける
・役場機能の移転について、通信事業者や
・3/20に情報システム委託事業者が持参したデータをもとに 民間事業者が支援
住民情報の閲覧が出来るようになった
・4月に復旧した仮業務システムと、9月に情報システム委託
事業者のDCとの間をNWで結ぶ
11
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
※上記3団体の事例では無いが、被災した団体には住民情報を確保するために、金庫やサーバ室
に保管されていたバックアップデータを持って避難しようとした情報担当の職員が津波に襲わ
れ亡くなったと思われるケースがあった。情報システムや住民情報などのデータを守る使命感
のあまり、尊い命が犠牲にならぬように ICT-BCP を検討する際に心に留めておきたい。データ
の確保やシステムを安全にシャットダウンするために逃げ遅れが生じないように事前の備えを
実施しておくことが重要と思われる。
12
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
1.2 東日本大震災から得られる教訓 - ICT-BCP の重要性 (1)初動対応の重要性
1.1 の事例から、災害の発生直後においては、必要な資源が失われている中で、住民の安全
確保や平常時の業務への早期復旧を図るため、平常時とは異なる初動業務の対応が求められ
ていることが分かる。また、初動対応(発災後概ね 72 時間以内)が十分にできるかどうかが、
その後の復旧、復興に大きく影響する事態が発生していることがうかがえる。このことから、
災害直後の初動対応は迅速かつ適切に行われる必要があり、初動業務の業務継続性の確保は
最重要事項であるといえる。
業務
発災
目標復旧曲線
現状復旧曲線
100%
初動部分
②早期復旧・
復興を図る
②
①
①初動業務の
実効性を高め
概ね72時間
時間
(2)代替拠点まで考えることの必要性
1.1 の事例にあるように東日本大震災は未曾有の規模で発生し、事前の備えも十分に機能し
得ない団体があった。この想定外の事象を今後最小限に抑えるために、現状の庁舎や関連す
る施設、設備が機能不全に陥った場合も想定して、代替拠点での復旧も検討しておく必要が
あると思われる。
代替拠点
実効性の高い
初動業務を
行うには
現場
被害状況確認
現場で復旧の
行動計画
代替拠点での復旧の
行動計画
上記の(1)、(2)いずれの場合においてもいかに ICT 環境を早期に復旧させるかが重
要であったことが 1.1 の結果から分かる。
13
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
非常に多くの初動時の対応業務が ICT に依存しており、さらにはその後の復旧期において
はさらに ICT の重要性が増すことを考えれば当然のことと言える。ICT の復旧はそれ自身の復
旧にとどまらず、それに依存して行われる多くの業務の復旧に直結する要と言える。
つまり、東日本大震災の教訓からは初動時の対応などを中心に早期の ICT 復旧を図るため
の ICT-BCP 策定の必要性を見いだすことができる。ICT-BCP の普及については 2 章で改めて整
理する。
1.3 東日本大震災から得られる教訓 - ICT 利活用の重要性 東日本大震災はインターネットやそれを活用したソーシャルメディア(以下「SNS」という。)
を日常的に利用している「ネット社会」が広く普及した時代に起こった大規模災害であった。
その意味で、不幸な災害の中でも様々な形で ICT が活躍した。それらは貴重な経験・ノウ
ハウである。同時に、その際 ICT を活用可能とした要因や更なる活用のために必要と考えら
れる追加的課題を整理することは、今後起こるかもしれない災害の発生時にこれまで以上に
ICT を活用可能とするために極めて重要な意義がある。
本章では東日本大震災における ICT の活用事例を、自治体における活用と民間等における
活用にわけて整理し、今後に向けてどのような備えが必要であるかを明確化する。
活用事例の整理に当たっては、本 WG において各構成員から報告された内容を中心に、これ
までの他の調査結果なども参考にしながら整理することとする。
(1)自治体における ICT 利活用
東日本大震災では被災地自治体においても様々な形で ICT が活用された。本 WG における構
成員報告からも次のような ICT の活用状況が見られる。
例:仙台市
今井構成員報告 ISN セミナにおける仙台市説明資料より抜粋
7.3 仙台市公式ホームページ
(1)災害発生直後、ネットワークが不通状態となり、仮サーバを立て、暫定
サイトを立ち上げた。
(2)公式ホームページは、15日に復旧し、震災関連情報を掲載している。
7.4 メール配信サービスの活用
(1)被災した市民に対し、ライフライン等に関する迅速・詳細な生活関連情報
の提供が必要となったため、市民のニーズや状況の変化に応じて次のよう
な情報を配信。
●給水所(翌日の給水所の場所・時間帯)
●都市ガス開栓作業(翌日の開栓対象地域)
●がれき撤去作業(翌週の作業予定地域)
(2)登録アドレス数が、約3千から1万5千に急増。
14
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
ここでは公式 Web サイトの迅速な復旧や、メールを活用した住民向け情報発信が有効に機
能している状況が説明されている。
他にも、総務省等において公表している「東日本大震災に関するクラウドサービス利活用
事例集」によると次のようなサービスが自治体によって利用され、効果を発揮している。
●NTT東日本等
福島県南相馬市等
ブロードバンド回線「フレッツ光」とテレビ電話端末「フレッツフォン」を利用
したヘルスケア、メンタルケアの遠隔健康相談を無償提供
首都圏の医師・保健師が、避難所の被災者に対してテレビ電話を通してヘルスケア・
メンタルケアの健康相談を行う。
<導入効果>
被災者に生活の場から移動せずに、医師等に直接相談してもらうことで「安心」を
提供し、長期化する仮設住宅での「孤独死」、「災害関連死」等を未然防止。
遠隔医療相談により利用者の健康上の問題を一定程度解決することで、現地医療機
関の負担軽減を図る。
●NTT東日本
被災地域
被災地域の教育委員会及び学校を対象に、校務支援システムを無償にて提供。
学校業務全般の一元化より教職員の行う校務処理を支援。
人・教科・スケジュールなど学校の基本情報を核とした学校業務全般(教員名簿、
生徒名簿、出席状況の管理や成績管理、文書管理、備品管理、保健管理など)の一元
化により教職員の行う校務処理を支援。
<導入効果>
手作業や個別システムで行っていた煩雑な処理を一元化することで教員の校務の負
担を軽減
各学校間、各学校と教育委員会との間での情報共有の円滑化
児童生徒の転出入処理等の学籍管理等の校務を支援
15
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
●日本マイクロソフト 被災自治体等
クラウドサービスを活用した、避難所の運営をスムーズにできるソリューション
「震災復興支援システム」を無償提供。
避難所起点の被災者支援情報管理。避難者・避難所管理、支援団体管理、支援物資
管理をクラウドで提供。
<導入効果>
避難所単位で避難者のデータを管理することが可能。
避難所に関連した、避難者、家族/関係者、収容人数、支援物資、支援団体のデー
タを管理することが可能。
●日立情報システムズ 被災地域自治体
避難者情報の把握や救援物資の管理等が可能な「被災者支援システム」をクラウ
ド型/導入型サービスで提供。
(財)地方自治情報センターの「被災者支援システム」を自治体の要望に合わせて
クラウド型/導入型サービスにて提供。
避難者情報などの把握や救援物資の管理、罹災証明や家屋り災証明の発行など、災
害時に必要な行政業務を早期に立ち上げることが可能。
<導入効果>
短期間でのシステム構築により、避難住民の迅速な把握が可能。
災害状況に合わせて、クラウド型/導入型を選択可能。
住民の情報はデータセンタで管理、再被災に伴うデータ損失のリスクを軽減。
16
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(2)民間等における ICT 利活用
東日本大震災においては民間企業も多くの被害を受けた。その中で先進的な BCP の取り組
みを行った企業もある。
本 WG では次のような事例が報告された。
日立製作所
前田構成員の報告の要点 (第 1 回 WG 資料 5 より)
(ポイント)
トップの指示による BCP 策定が行われていた。
様々な状況を想定した訓練を毎年実施していた。
災害発生後、15:10 には日立グループの対策統括本部設置、15:40 には全社
に第一報を発信している。
全データセンタは安定稼働であった。
(ICT の活用)
シンクライアントによる業務継続。
シンクライアントを日ごろから利用し、定着していた。(グループ全体で約7万台)
メールなどのグループウエア活用。
携帯メールベースの安否確認システム。約 28 万人の 80%が即応。
おおむね一日で確認完了。
日本マイクロソフト 光延構成員の報告の要点 (第 5 回 WG 資料 3 より)
(ポイント)
毎日活用し、慣れ親しんでいるコミュニケーションツールで迅速な対応。
質問にはわかる人が回答し、その情報を全員で共有。
(ICT の活用)
総務部門スタッフは、電話がつながらない中、地震発生直後からチャットを活用し、
安否確認/状況把握/震災対策本部(社長室)との連携を実現。
各フロア・対策本部にノート PC 持参で移動。対応できる社内インフラ(プレゼンス、
インスタントメッセージ、IP 電話、メール、予定表など)を活用。
17
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(3)事例から学ぶ教訓
これら ICT 利活用の事例からは災害時にそれを可能とした要因や、一層の備えがあればよ
り広範囲な ICT 活用が可能であったかもしれない追加的課題など、学ぶべき教訓がある。
被災地の多くの努力や苦心から学び、ICT 活用のための備えという観点で以下の 4 つの論点
について、その教訓を整理することとする。
① 外部とのコミュニケーション基盤
② グループウエアや SNS 等の多様な情報発信手段
③ クラウド等の活用のための標準化
④ 自治体・住民に必要な ICT リテラシ
教訓の整理に当たっては前述(1)(2)の活用事例に加え、第 4 回 ICT 利活用 WG におい
て提示された宮古市、陸前高田市、双葉町の各被災地に関する調査報告(以下「調査報告」
という。)を参考にした。
① 外部とのコミュニケーション基盤に関する教訓
例えば、前述の仙台市の取り組みにおいて、仙台市役所ではサーバ設備を含め ICT 機材そ
のものの被害は少なく、庁内の ICT インフラは比較的迅速に復旧できたことが ICT 活用の大
きな助けになったといえる。それでも、
3.1.2 仙台市公式ホームページ
(1)震災直後、東京とのネットワークが不通状態となり、東京に仮サーバ
を立て、暫定サイトを立ち上げた。
(仙台市 今井構成員資料 第 1 回 WG 資料 4 より)
などは、外部との通信手段に問題が生じた際の対応がいかに重要であるかを表している。
この例では暫定のサーバを設置することで対処されているが、一般的にそのような対応は容
易なことではなく、サーバと外部とのネットワーク確保が肝要であることわかる。
①通信インフラが喪失した地域が発生した。
■自治体内部の音声及びデータ通信が不通
■地域外の関係機関とのホームページや電子メールなどによる連絡調整、情報提
供・収集が円滑にいかなかった。避難所との連絡調整、情報提供・収集が円滑
にいかなかった。
■庁舎が復電後も地域外との通信ができず、1カ月程度インターネットが使えな
かった。
■住民も固定・携帯電話、インターネット網が使えず、連絡や情報収集が困難。
18
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
■衛星データ通信による地域外とのインターネットによる情報のやり取り、地域
内の自治体庁舎・避難所間のインターネットによる情報のやり取りは有効。
(仙台市 今井構成員報告 第 9 回 WG
資料 2 より)
この報告からも、被災自治体においては大変な努力で通信手段を確保し、様々の対応を実
現されており、通信手段の確保の重要性と喪失時の影響の大きさが見て取れる。
調査報告においても、地区本部と災害対策本部との間の通信手段喪失や、外部への情報発
信手段の喪失などが報告されている。
「被災していない地域が素晴らしい通信手段を持っていても、通信インフラが破壊された
被災地では、何も使うことができなかった」との報告も見られた。
また、IP フォンの復旧に時間を要したことや、携帯電話を衛星回線対応の基地局を設置し
て復旧させても回線数が限られ、全庁での利用が難しかったなどの報告が見られる。
総務省の支援による衛星携帯電話によりインターネット接続が可能となったが、通信速度
が遅く、利用はメールの閲覧に限られたといった報告もある。
光ファイバ網だけでなく、無線をバックアップとして整備する、ソーラー電源を整備する
等、停電に強いシステムを構築するのが望ましい、二重三重にネットワークを重層化したい
などの意見もあった。
構成員報告にある民間における活用の例においても、データセンタや社内インフラが頑強
であったことが ICT 利活用による迅速な対応を可能とした理由の一つであった。
特に様々なサービスを巧みに使いこなして作業を行うに当たっては通信インフラが正常に
機能することが重要な要素となっている。
また、本 WG の下で実施された下記実証実験「複数団体による証明の発行」においても、拠
点間のコミュニケーション手段の重要性について多くの指摘があった。
実証実験「複数団体による証明の発行」の概要
災害時の住民票の写し発行などの処理を、受付は避難場所の近くに設置された臨時
の窓口で受け付け、実際の発行処理は被災地外に設置する代替拠点である発行センタ
において行うという処理形態で実証を行った。
受け付けた情報は電子申請 ASP サービスを応用した仕組みを利用して臨時窓口から
発行センタに届けられる。臨時窓口と発行センタの間のコミュニケーション手段はこ
の ASP サービスを利用したもののみとし、実質的に臨時窓口で職員が入力する申請情
報と備考欄に追記する注釈に限定されている。
19
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
この実証に参加した自治体職員の意見の中には、住民の詳しい状況を確認しつつ十分なサ
ービスを行うには両拠点間のホットライン(電話)などのコミュニケーション手段が不可欠
というものがあった。実務上は上述の構成で処理を実施できたが、多くの手間や困難を伴い、
双方の意思疎通を十分に図るコミュニケーションツールがあれば非常に有効と考えられると
の意見であった。
また、住民からの申請情報は窓口職員が電子申請 ASP サービスを利用して入力することと
していたが、手間がかかること、発行センタでの詳細な審査には住民直筆の申請書が望まし
いこと、代理人による申請においては委任状の確認が望ましいことなどから、申請書などの
画像データを取得して添付データとして送信したいとの意見があった。
理想的にはスキャナ等で読み取った申請データなどの画像資料を確認しつつ、臨時窓口と
発行センタでコミュニケーションを取り合えるツールがあれば、多くの問題が改善されると
思われる。
しかし、この際に課題となるのがセキュリティである。住民の個人情報が流れる以上、一
定水準のセキュリティ確保は必須と言える。今回の実証において、住民基本台帳システムを
直接操作する環境は一定のセキュリティ確保が必要であろうとの考えから臨時窓口ではなく
発行センタを別に設けたのもそのためである。
つまり、一定水準のセキュリティを確保しつつ円滑なコミュニケーションを可能とする手
段を確保できれば、より円滑に処理が実施できたと評価できる。
ここまでの教訓から、ICT の多彩な活用を可能とするための備えとしてとして、
「外部とのコミュニケーション手段が確保されていること」
がまず挙げられる。
② グループウエアや SNS 等の多様な情報発信手段に関する教訓
次に、重要な備えとして考えられるのが情報発信手段の多様化である。
仙台市においても Web サイトだけでなくメールによる情報発信が効果的であったことが報
告されている。また、民間による取組み例では実に多くの手段が組み合わされ適材適所に利
用されたことが迅速な対応を可能としていた。
例えば日本マイクロソフトでの取組みではチャットの活用やプレゼンス機能の活用、日立
製作所の取組みでもグループウエアの活用など、社員間の情報発信・連携を可能とするツー
ルの活用が重要な位置を占めている。
調査報告においても、Web 会議システムを連絡手段として利用していくなどの対応を考えた
いとの意見があった。
これらのツールが提供する機能は住民間においては近年急速に普及している SNS 等によっ
て実現される機能に相当するものと考えられる。このため、広く住民への情報発信や連携を
20
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
考えるに当たっては、多彩な SNS 等などをうまく活用できること、つまり
「グループウエアや SNS 等の多様な情報発信手段が利用できること」
が必要となる。
(※)なお、SNS の定義については多様な考え方があるが、この報告書では Web ページやメ
ール以外のインターネットを用いた各種情報共有手段、例えばブログや会員制サービスなど
を総じて「SNS 等」と呼ぶこととする。
③ クラウド等の活用のための標準化に関する教訓
近年では上記②でも指摘したグループウエアや SNS 等のような情報共有、発信手段など多
彩な機能が「クラウドサービス」などの名称で提供されている。そこで、災害時の ICT 利活
用の点ではそれらを活用できる準備が整っていることが要件となる。
このクラウド活用のために検討すべき観点としては、クラウドは庁内のシステムと違って
共有されることが一般的であり、特に災害時の備えという点では多くの自治体で共通して利
用可能なものを準備することが有効となる点が挙げられる。
そこで問題となるのが自治体ごとの仕様の違いである。典型的な課題が、利用している情
報項目の違いであり、同じ業務のバックアップデータであっても自治体ごとに情報項目が異
なり、互換性がないのが現状である。
しかし、クラウドを用いて業務継続を図るには機能を準備するだけでなく、その活用に必
要な情報資源が準備されている必要がある。例えば職員の連絡先や、業務継続に必要な最低
限の住民データなどが利用可能となっていることが必要である。
これを解決し、クラウドの活用を一層推進するために重要となるのがデータの標準化に代
表される標準化の取組みである。
これについては、クラウド間のシステム移行に利用される「中間標準レイアウト」の検討
など先行する標準化の取組みがあり、これらの利活用の重要性が本 WG の議論でも取り上げら
れている。つまり、
「クラウドの一層の活用のために情報項目等の標準化を推進し、標準に準拠すること」
が可能となってきている。
④
自治体・住民に必要な ICT リテラシに関する教訓
上記のような取組みに加えて、さらに重要な準備として指摘されているのが、十分な訓
練を事前に実施していたことや、日ごろからそれらグループウエア等を利用しており、そ
21
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
れらに慣れ親しんでいたという点である。
日立製作所、日本マイクロソフト双方とも、グループウエアなどを日ごろから利用して
いること、職員がそれらのツールを十分に使いこなせるようになっていたことを成功要因
に挙げている。
これは一言でいえば、職員のメディア活用リテラシが十分に高かったこと、また、その
ように訓練されていたことだといえる。
一方で、事前に十分な知識や経験がないことが迅速な対応の妨げとなり得る。例えば、
調査報告では、問い合わせ履歴が残るコールセンターシステムを導入したものの、結局、
役場職員にとって日ごろ利用に馴染んでいる表計算ソフトを用いて情報管理を行っている
といった事例が報告されている。
さらに、自治体と住民との関係、特に SNS 等によって双方向に情報共有される近年の状
態を想定すれば、従来の一方的に住民へ向けて情報を発信するためのノウハウだけでなく、
双方向の情報交換に関するノウハウやリテラシをもった職員が必要であると言えよう。
次に、民間の情報発信力の重要性も指摘されている。例えば第 5 回 WG における日本マイ
クロソフト光延構成員の報告では、自動車の通行実績データ(プローブカーデータ)を元
に通行可能ルートを示すトヨタ G-BOOK 「通れた道マップ」や、Twitter のつぶやきを地図
にマッピングし、被災地域のニーズを把握する「現地のこえ」などの事例が報告されてい
る。
これらの事例からも、災害時には行政だけでなく民間からの情報発信も極めて重要な位
置づけを持つことがわかる。そして、それらの活用のためには自治体職員や住民に対して
それらの意義や重要性について十分な啓発が必要となる。
特に官民の協力については平時の行政中心、行政主体の考え方では大規模災害を乗り切
ることは困難であり、事前に ICT や情報受発信に関する協力体制や考え方、ポリシについ
て十分に整理しておく必要がある。
つまり、
「SNS 等多様なメディア活用のノウハウやリテラシがある職員が育成されていること」
「SNS 等による民間の情報発信に関する職員や住民への啓発がなされていること」
「災害時の情報流通に関する官民協力体制について考え方が整理されていること」
が必要な備えと言える。
以上4つの論点から整理した教訓について、ICT 利活用促進のための施策として、再整理
を行うと、以下となる。
22
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
【次なる大災害に向けた ICT インフラの備え】
(第3章参照)

外部とのコミュニケーション基盤の備え

グループウエアや SNS 等を活用した情報発信手段の備え

クラウド等の活用を可能とする標準の備え
【災害時の情報流通に関する自治体の備え】(第4章参照)

自治体 Web サイト等による情報発信ノウハウ・リテラシの強化

民間の情報発信(SNS 等)に対する自治体側に必要な ICT リテラシ強化

災害時の情報流通に関する民間等との連携・協力
以上で災害時に ICT を利活用するために必要となる代表的な備えをまとめることができ
た。
ただし、これらの備えについて、具体的施策を検討するに当たって忘れてはならない検
討観点として、セキュリティの論点ある。例えば、災害復旧のために準備された端末に関し
ての調査報告において、庁内で使用するにはネットワークへの接続や OS の設定変更等を行
う必要があり、また、機器の性能や OS・オフィスソフトのバージョンが合わないなど、そ
のままでは利用できないものもあったといった報告や、あらかじめ定めた仕様(セキュリテ
ィソフトや設定など含む。
)に合わせて調達したパソコンのみ庁内 LAN に接続可能で、寄附
された PC を庁内 LAN に接続して使用するには設定変更等に費用がかかり、新たに調達する
場合と金銭的にあまり変わらなくなってしまうといった報告があった。
つまり、災害時においても平時のセキュリティーレベルやセキュリティーポリシをその
まま維持しようとすることが緊急性に応じた柔軟な対応を阻害しているともいえる。
従って、3 章以降の具体的な施策を検討するに当たってはセキュリティ対策、セキュリテ
ィ緩和への標準的な考え方が整理されていることも重要なポイントとなる。この観点につい
ては、本研究会の「ICT 部門の業務継続・セキュリティワーキンググループ」において、論
点整理がなされており、その議論に留意する必要がある。
23
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
2
ICT-BCP 普及の必要性と課題
2.1 初動を支える ICT の重要性
1 章の 1.1、1.2 の結果として初動が重要であることを述べたが、実際に 1.1 の事例をみる
と、被災地において、津波などにより庁舎が壊滅的な状況に陥るなどして、電源を含む情報
通信環境(通信機器、情報システムなど)が機能しなかったことが、
①津波の情報が十分に伝わらず、避難行動が進まない地域もあった。
②住民に対する安否情報をはじめとする各種情報提供に時間を要した。
③避難所運営に際し、生活物資の供給が十分に行き届かなかった。
など、人命に関わる影響を及ぼす要因の一つとなっていることが伺える。このように、業
務への ICT 活用の依存度が高い今日においては、ICT の利活用の有無が初動業務の迅速性に大
きな影響を与えることが想定され、ICT 資源は全庁の欠かせないインフラの一つであるといえ
る。
そのためには災害時においても ICT を活用できるように平常時から備えておく必要があり、
それを支える ICT-BCP が極めて重要である。
2.2 ICT-BCP 普及状況
(1)ICT-BCP 策定状況の実態調査
市区町村における「ICT 部門の業務継続計画(ICT-BCP)」の策定率は全体で 6.5%である
(平成 23 年 4 月現在)
市区町村における策定状況(H23年度)
ICT-BCPの策定率の推移
50.0
(出展)
「地方自治情報管理概要」
、
「災害発生時の業務継続及び ICT 利活用等に関する調査」結果報告書より
ICT-BCP 未策定の理由は「必要性は認めるが、ICT 部門などの要員不足」の回答が最も多い
(61%、186 件) 。また、小規模団体になるほどこの回答割合が高くなっている。
一方で、ICT-BCP 策定済みの団体は「職員のみで策定した」団体が 63%(67 件)と最も多く、
この傾向に団体規模による差は認められなかった。
24
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
未策定団体の策定していない理由
27件
策定済み団体の策定した時の外部活用
11件
33件
28件
47件
11件
67件
186件
n=106
n=304
(出展)
「災害発生時の業務継続及び ICT 利活用等に関する調査」の追加調査(平成 24 年度)より
ICT-BCP の策定を推進させる有効手段は、
「ICT-BCP のサンプル提供」、「ICT-BCP の意義、
地域防災計画との関係性の明確化」を挙げている団体が多い(それぞれ、 80%・242 件、67%・
205 件)。
ICT-BCP策定に有効な手段
(20件)
【複数回答可】
(242件)
(47件)
(205件)
n=304
(出展)
「災害発生時の業務継続及び ICT 利活用等に関する調査」の追加調査(平成 24 年度)より
25
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(2)訓練の実施状況の実態調査
ICT-BCP を策定した団体における訓練の実施率は 44%(47 件)。団体規模が小さくなるほど、
未実施率は高くなっており、未実施の理由として「負担の多さ」を挙げている団体が最も多
い(78%、46 件) 。
訓練の実施状況
訓練の未実施の理由
17件
(15件)
47件
(46件)
(9件)
42件
n=59
n=106
(出展)
「災害発生時の業務継続及び ICT 利活用等に関する調査」の追加調査(平成 24 年度)より
一方で、「訓練のやり方がわからない」と回答した団体は 15%(9 件)である。
訓練実施を活性化させる有効な手段は「訓練のやり方を解説したガイドラインの提供」
(90%、
53 件)、 と「訓練時に使用するサンプルの提供」(81%、48 件)を回答した団体が多い。
訓練実施の活性化に有効な施策
(6件)
(48件)
(53件)
n=59
(出展)
「災害発生時の業務継続及び ICT 利活用等に関する調査」の追加調査(平成 24 年度)より
また、ICT-BCP の策定において外部事業者を活用した団体の方が、職員のみで ICT-BCP を策
定した団体より訓練を実施している割合が多い。
26
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
ICT部門におけるBCP訓練の実施について
5件
12件
22件
12件
22件
30件
n=39
n=67
(出展)
「災害発生時の業務継続及び ICT 利活用等に関する調査」の追加調査(平成 24 年度)より
2.3 普及を妨げる要因と対策の方向性
(1)要因分析
○ICT-BCP の策定
単純に要員数が不足していることが未策定の理由であれば、ICT-BCP 策定済みの小規模団体
において、「職員のみで策定した」割合より、「外部事業者の支援を活用した」割合の方が
多くなると思われるが、実際には、小規模団体でも「職員のみで策定した」割合の方が多い。
このことから、「要員不足」には単純な要員数の少なさの課題だけではなく、別の課題が潜
んでいることがうかがえる。
ICT-BCP 策定を推進させる有効手段についての回答では「ICT-BCP サンプルの提供」、
「ICT-BCP の意義、地域防災計画との関係性の明確化」が主に挙げられている。このことから
も、「要員不足」の中でも特に課題となっているのは「要員のノウハウ不足による勉強も含
めた負荷」、「ICT-BCP の必要性や位置づけについて要員が理解できていないこと」であると
考えられる。
○訓練の実施
訓練未実施の理由として「負担の多さ」が主な理由として挙げられ、「訓練のやり方がわ
からない」との回答は 15%(9 件)のみであったが、訓練実施を活性化させる有効な手段とし
て、 「訓練のやり方を解説したガイドラインの提供」、「訓練時に使用するサンプルの提供」
が挙げられている。このことから訓練未実施の主な理由である「負担」というのは、ノウハ
ウ不足等による手間のことで、訓練を実施しない実質的な理由は「やり方がわからない」と
いうことであると考えられる。
ICT-BCP の策定を職員のみで策定した場合に比べ、外部事業者を活用して策定した場合の方
が訓練の実施割合が多いことからも、訓練の実施を推進するに当たってノウハウの蓄積が重
27
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
要であることがうかがえる。
(2)対策の方向性
(1)の分析結果を受けて、WG では次のような意見が出された。
「要員のノウハウが不足していること」との課題に関しては、「ICT-BCP サンプルの提供」
も有効であり、既に平成 20 年 8 月に ICT-BCP ガイドラインにて ICT-BCP サンプルを総務省か
ら提供しているが、同サンプルは小規模な自治体にとって負荷が大きいため、もう少し負担
感を減らしたサンプルを提供する必要がある。また、ICT-BCP の策定のノウハウを伝授できる
地域アドバイザーの活用も有効であると考えられる。
「ICT-BCP の必要性や位置づけについて要員が理解できていないこと」との課題に関しては、
東日本大震災の教訓を提示することで ICT-BCP の必要性を再度認識してもらい、その教訓か
ら言えることとして初動が特に重要であり、地域防災計画の応急業務を支える位置づけとし
て ICT-BCP があることを訴求していく必要がある。なお、初動については既存の ICT-BCP で
詳細が触れられていないため、初動に特化したサンプルを提供することが有効である。
訓練については、目的に応じて様々な手法をとることができるため、訓練の目的に応じた
「訓練事例集」を提示することが、訓練実施のノウハウの蓄積に有効と言える。また、訓練
実施のノウハウを伝授できる地域アドバイザーの活用も有効であると思われる。
2.4 ICT-BCP 初動版の構成
初動に特化したサンプル(以下、ICT-BCP 初動版サンプル)の提供にあたっては、具体的な
サンプルの提供と伴に、その理解を助けるために、ICT-BCP 初動版を策定するための手順を解
説した「ICT-BCP 初動版の解説書」及び首長向けに必要性を訴求するための資料として
「ICT-BCP とその意義」を併せて用意することとした。
ICT-BCP初動版の構成
なぜ、必要か
必要性の理解
何を作るのか
成果物イメージの理解
どうやって作るのか
策定手順の理解
ICT-BCPとその意義
ICT-BCP初動版
サンプル
(代替拠点も考慮)
ICT-BCP初動版
解説書
(10手順で策定)
(必要性を自己診断)
首長
策定
指示
ICT部門責任者、担当者
ICT-BCPの必要性を認識
これならできると実感できるガイドライン
・初動が重要である
・地域防災計画を支える
・防災基本計画で要請されている
・ICTは欠かせないインフラ
・初動業務に範囲を絞り込む
・出来上がりをイメージできるサンプル
・策定手順を簡素化する
28
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
2.5 ICT-BCP とその意義の提供
ICT-BCP の必要性を首長に理解してもらうためのメッセージとして「ICT-BCP とその意義」
を用意した。首長に読んでいただけるように内容はシンプルに東日本大震災での事実に触れ、
ICT-BCP の存在意義の説明と自己診断で内容を構成している。
《ICT-BCPとその意義》
東日本大震災では未曾有の災害により、住民の生命や生活に大きな被害を
及ぼしました。
被災地では、地震や津波などにより庁舎が壊滅的な状況に陥るなどして、電源
を含む情報通信環境(通信機器、情報システムなど)が機能しなかったことに
より、
《あなたのまちの自己診断》
以下の確認項目の中に一つでも不安があれば、ICT-BCP
の策定、見直しを担当責任者に指示してください。
チェック
①津波の情報が十分に伝わらず、避難行動が進まない地域もあった。
②住民に対する安否情報をはじめとする各種情報提供に時間を要した。
③避難所運営に際し、生活物資の供給が十分に行き届かなかった。
1
など、人命に関わることにも影響を及ぼしました。
あなたのまちで、災害時に迅速な対応を可能とする情報通信環境の備え
(ICT-BCP)は十分でしょうか?
初動の
重要性
東日本大震災では、多くの地方公共団体において住民情報の津
波による喪失や通信手段の損壊など、ICT資源の喪失により
初動対応(発災後概ね72時間以内)が十分にできず、その後の
復旧、復興に大きく影響する事態が発生した。初動対応が重要
であるという認識が高まっている。
地域防災
の支え
ICT-BCP(ICT部門の業務継続計画)とは、災害時に
自庁舎が被災しても、ICT資源を利用できるよう準備してお
き、応急業務の実効性や通常業務の継続性を確保する計画であ
り、地域防災計画を支え、また、地域防災計画の想定を超える
災害にも備える計画である。
防災基本
計画の要請
防災基本計画においても、「地方公共団体等の防災関係機関は
,災害発生時の災害応急対策等の実施や優先度の高い通常業務
の継続のため,(中略)業務継続計画の策定等により,業務継
続性の確保を図るものとする。」と定められており、ICT-
BCPはその一部である。
ICTは
重要インフラ
ICT資源は全庁の重要なインフラの一つである。全庁的なB
CP作成がすぐにはできない場合でも、ICT部門だけでも先
行してBCPを作成することは可能であり、むしろ、ICT-B
CPを先行して作成することで、災害時に活用できるICT資
源が明確になり、全庁のBCP検討を行いやすくなる。地方公
共団体でICT-BCPを策定することは災害に対する首長の
欠かせない備えである。
72時間以内の対応(初動対応)如何が、市民
の生存を大きく左右することが明確になってき
ました。住民の命を守るためにICT-BCP
が必要になることを理解されているでしょう
か?
初動業務を確実に実行するために、ICTの活
2 用が欠かせなくなっています。その確保の責任
を負う部局は明確になっているでしょうか?
3
初動業務に使用するICTの災害対策は十分で
しょうか?
十分でない場合、その要因を把握できているで
しょうか?
4
東日本大震災では庁舎が機能不全になるという
想定外の被害を受けた地方公共団体がありまし
た。あなたのまちに同程度の被害が発生した場
合、迅速かつ適切な対応は可能でしょうか?
(ICT-BCP策定済みの場合)
職員が初動業務を計画どおり実行できるよう、
5 ICTの利用を可能とするための訓練、評価は
実施できているでしょうか?
6
(ICT-BCP策定済みの場合)
今、災害が起きても初動業務にICTを活用で
きるよう、ICT-BCPは更新されているで
しょうか?
2.6 ICT-BCP 初動版サンプルの提供
ICT 部門が検討する上で参考となるように極力具体的に表記したサンプルを提供すること
とした。また、東日本大震災の教訓を踏まえ、以下の点を踏まえた内容としているところが
従来の ICT-BCP ガイドラインとの大きな相違点である。
① 初動(被災直後 72 時間以内)」に関する ICT-BCP 策定範囲の拡大
ICT 部門とそれ以外の部門といった組織の縦割りよりも、初動期は、庁内の ICT 関連部門が
相互に連携・協力して ICT の作動に最善を尽くすべきとの考え方から、初動においてはシス
テム担当課業務から全庁(防災関係部門などを含む)の ICT 利活用業務へ対象とするよう業
務範囲を変更した。
これに伴い、ICT 部門以外でも重要な情報システム(例えば、消防、防災に関する情報シス
テムのように地震、風水害等の広域災害において早急に必要となる情報システム等)や防災
29
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
無線など、それらを管理する部門も ICT-BCP の取組みに積極的に参加し、ICT 部門と連携して
検討すべきであるとの考えから、検討体制についても、ICT 部門に閉じず、地域防災計画の応
急業務(特に初動)のインフラとなる全庁の ICT をカバーする体制としている。
② 業務継続方針/戦略の追加
南海トラフの巨大な地震・津波の被災想定や東日本大震災における被災状況から、庁舎が
機能不全になる被災が今後も起こりえることが憂慮されている。そのため、業務継続計画を
検討するにあたり、代替拠点による復旧戦略なども視野に入れて検討できるように、業務継
続方針/戦略の検討を追加した。
○ICT-BCP 初動版サンプルの目次構成
1.○○市ICT部門の業務継続計画・基本方針
(1)○○市ICT部門の業務継続計画
(2)基本方針
2.平常時における推進体制と維持管理
(1)推進体制と役割
(2)運用
3.業務継続方針
4.被害想定
(1)被害想定の考え方
(2)「現庁舎継続利用の場合」(現庁舎で復旧の想定)
(3)「代替拠点移行の場合」(代替拠点で復旧の想定)
5.重要業務、重要システム・インフラ
6.リソースの現状(脆弱性)と代替の有無
7.被害を受ける可能性と事前対策計画
(1)現状の脆弱性と対策の実施計画
(2)対応検討中の問題点一覧
8.緊急時対応・復旧計画
(1)緊急時対応体制
(2)発動の流れ
(3)全体フロー
(4)行動計画(参集)
(5)行動計画(現庁舎復旧)
(6)行動計画(代替拠点復旧)
(7)添付資料(抜粋)
○様式集
様式 1:
様式 2:
様式 3:
様式 4:
様式 5:
様式 6:
様式 7:
様式 8:
様式 9:
様式10:
様式11:
様式12:
様式13:
様式14:
様式15:
様式16:
様式17:
システム・インフラ一覧、情報システム一覧
外部事業者(復旧支援事業者)との関係整理
庁舎(建物)の状況把握結果
システム機器設置場所の状況把握結果
電力供給、通信手段に関するリスクの把握結果
代替拠点選定要素チェックシート
初動検討ワークシート
持ち出しリスト
緊急連絡先一覧
参考文献一覧
被害チェックシート 簡易版
被害チェックシート 詳細版
復旧対策シート
進捗報告チェックシート
訓練計画
業務継続計画の更新チェック
持ち出しリスト点検事項一覧
30
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
2.7 ICT-BCP 初動版解説書
ICT-BCP 初動版サンプルを参考として活用しながら、初動業務における ICT-BCP の策定がで
きるように、ICT-BCP 初動版サンプルの内容についてと地方公共団体において ICT-BCP の初動
版を策定するための手順についての解説書を用意した。
初動検討に最低限必要な 10 の手順を切り出し、策定手順を簡素化することにより、各地方
公共団体における策定負荷を軽減するものとした。
手順①
手順②
検討体制
の整備
手順③
業務継続
方針決定
被害想定
の確認
手順④
重要業務の
選定
手順⑥
手順⑤
対象とする
業務・ICTの
調査と被害
を受ける可
能性の検討
ICTの業務継
続に必要な資
源の洗い出し
手順⑦
対策の検討と
業務継続
戦略の決定
手順⑧
対策決定と
行動計画の
作成
手順⑨
教育、
訓練の
実施
手順⑩
業務継続
計画の維
持・管理
対策の
実施
2.8 訓練事例集の提供
BCP 策定時は策定段階に応じて適切な BCP 訓練を実施し、策定後の維持管理においては、定
期的(1,2 回/年)にその時の訓練目的に応じて適切な訓練を実施、継続していくことが望ま
しいことから、ICT-BCP の一連の策定作業及び策定後の維持管理において、各段階の目的に応
じた訓練の有り様を示し、それぞれにおいて適切な手法と事例を紹介するものを用意するこ
ととした。
BCP活動の
PDCAサイクル
検討準備
BCP策定時
(
初年度)
①検討 メンバーの
基礎教育 ・
訓練
方針
実施及び運用
計画
調査・分析
(影響度分析)
・計画の運用
(教育・訓練・監査)
・事前対策の実施
業務継続計画
の策定
事前対策の実施
(災害に関わる
ICTの導入等)
組織・要員の
変更
発生時など
③手順を理解、
習得する訓練
(理解度向上)
31
さらに訓練
レベルを上
げて
⑤全庁BCP
/地域防 災
など関連計画との
総合確認 の訓 練
②手順の実効性
を検証する訓練
(課題抽出)
④様々な状 況での
要員の対応力 を
向上させる訓 練
内外環境の
内外環境の
変化
変化
手順/対策
の見直し
発生時など
③手順 を理解、
習得する訓練
(
理解 度向上 )
BCP維持管理
( 年目以降)
2
③手順 を理解、
習得する訓練
(
理解 度向上 )
②手順 の実効 性
を検証 する訓練
(
課題 抽出 )
その時の目的に応じ
て、適切な訓練を1,
2回/年程度、定期
的に行っていくこと
が望ましい。
点検及び
是正処置
課題
管理表
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
目的
概要
訓練の手法
実施段階(効果)
①検討メンバーの
基礎教育・訓練
BCP策定前に検討メンバーに対し、BCPの取組み必要性に対する意識
高揚を図る。災害時においてどんな事が起きて、どんな状況判断に迫られ、
どのような行動が必要になるのか、社会インフラの機能停止などの制約化
の中で計画的な行動を起こすことの難しさを共有認識する。
気付き演習
BCP検討前に、メン
災害模擬訓練
バーの理解度向上が
(セミナー、モック、
見込める
イメージアップ教育訓練)
②手順の実効性を
検証する訓練
(課題抽出)
作成した計画書の実効性を検証する。社会インフラや自組織が被害を受
けている中で、特に初動における行動計画が実行できるかを確認する。ま
た、復旧活動においても、復旧に向けた必要資源の確保等について策定
時に気づかなかった課題等を明確にする。(洗い出された課題の対策を検
討し、計画書に織り込でいくことで計画書としての完成度をあげていく)
手順確認訓練
(ウォークスルー)
実効性確認訓練
(シミュレーション)
現状の課題を明確に
し、対策を織り込むこ
とで実効性のある行
動計画が明確になる。
③手順を理解、習得
する訓練
(理解度向上)
BCP策定時に検討した行動手順やルール、また、災害時にICTを活用す
る際の操作手順など、実効性を確認すると伴に、何度も繰り返し、訓練す
ることで決められた行動や操作が行えるように身に付ける。
-連絡訓練、安否確認訓練、チーム・要員参集訓練、バックアップシステ
ム稼動訓練、避難・消火・応急手当等の訓練、本部設置訓練、業務再開
訓練、備品等の取扱訓練 など
反復訓練
(ドリル、テスト)
行動手順や災害時
に使用するICTなど
の操作を体得し、
実効性が高まる。
④様々な状況での
要員の対応力を
向上させる訓練
策定したBCPに基づき、一定の状況の中で、対応や意思決定する内容
等を確認する。あらかじめ検討した状況と異なる事象が発生しても、策定
したBCPを用いて要員が柔軟に対応できる様にする。
-情報収集・管理、本部運営、チーム運営 など
反復訓練
実効性確認訓練
要員の状況に応じ
た判断力の向上が
見込める
⑤全庁BCP/
地域防災など
関連計画との
総合確認の訓練
関係者を全員参加させるなど、できるだけ現実に近い状況下を作り出し、
総合的な訓練を行う中で、組織間の整合性や実効性を確認する。
-模擬負傷者の救護、搬送や代替事務所への移動、目標復旧時間内の
業務再開 などを総合的に行う。
実効性確認訓練
総合演習
(フルスケール
エクササイズ)
関係部門も含めた、
BCPの全体的な確
認、見直しができる
2.9 普及施策の検討
(1)ICT-BCP 普及の課題
地方公共団体への ICT-BCP の普及を図るため、平成 20 年に「地方公共団体における ICT 部
門の業務継続計画(BCP)策定に関するガイドライン(以下「ICT-BCP ガイドライン」という。)
を発行したが、平成 23 年 4 月の調査では策定率は 6.5%であり、更なる普及が望まれる。
ICT-BCP ガイドラインは地方公共団体の取り組み易さに配慮し、
3 部 20 ステップで構成し、
ボトムアップにより作成する方式を採用した。これは、一定の成果はあったものの、多くの
小規模団体において策定が進んでいない。
東日本大震災を経て、取組みの機運は高まっているものの、更なる普及拡大を図るために
は、トップダウンによる推進、つまり、首長の ICT-BCP に対する理解を向上させていくこと
により、小規模団体をはじめとした各地方公共団体での取組み意欲を一層高めていく必要が
あると考える。
東日本大震災での経験を踏まえ、
初動や ICT 利活用の重要性、
そのための備えとして ICT-BCP
が必要であることなどを今回策定した ICT-BCP 初動版サンプルを通して訴求していくことを
柱に普及施策を検討することとする。
32
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(2)ICT-BCP 普及のために
BCP を策定している組織は民間の例を見てもトップの強い指示、または担当者の強い思いか
ら策定に至るケースがあり、地方公共団体への普及においても、トップダウンとボトムアッ
プの両面からのアプローチで連携して施策を推進することが有効と考える。
トップダウンアプローチ
ボトムアップアプローチ
首長のICT-BCPの
必要性の理解向上策
ICT部門など担当者のICT-BC
Pの必要性の理解向上策
民間の例では、実際に被災した企
業の被害(企業存続の危機)を目の
当たりにして、経営者が危機感を強
め、自社での取り組みを指示する
ケースが多い。
民間の例では意識の高い担当者
がトップを説得するための材料(競合
他社の取組み状況、取引要件化し
ている実態など)を集め、策定の指
示を促すケースが見られる。
連携
同様に地方公共団体においても、
首長に東日本大震災など被災した
事例からの教訓として、住民を守る
ために初動の重要性、初動における
ICT利活用の必要性、そのための備
えが急務であることを伝える場を設
け、啓発を図ることが必要である。
ICT部門などの担当者においてもI
CT-BCPの必要性について啓発
を図ると同時に、担当者が首長や関
連部門の理解を求めるための材料
となる情報を提供していくことも一
助となるのではないかと考える。
33
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(3)トップダウンアプローチ
初動の重要性、ICT 利活用の必要性、そのための備えとして ICT-BCP の策定が急務であるこ
とへの理解、また、今回策定した ICT-BCP 初動版を幅広く認知してもらうために、首長の集
まる機会に啓発を図ることが効果的と思われる。そのためのツール(説明資料)を準備し、
アプローチを図る。
○その他の首長の集まる機会
地場産業の活性化などを目的とした産学官の連携する取組み(共同研究など)が、各地域
において、地元の大学や民間企業などの共同機関によって運営されており、首長が参画する
シンポウジウムなどが開催されているケースがある。この様な機会において、防災や事業継
続計画なども研究テーマとしている機関に ICT-BCP を取りあげてもらうことも有効ではない
かと考える。
事例1:香川大学による危機管理研究センターの取組み
大学及び地域の自治体や企業向けの業務継続計画(BCP)策定手法の開発や、災害時の地域
社会における業務継続の在り方の検討、災害復旧の法制度の在り方についての研究などを実
施。徳島大学環境防災研究センターと連携して、地元建設業の BCP 策定支援の取り組みも行
っている。
(http://www.kagawa-u.ac.jp/csmrc/index.htm)
事例2:立命館大学による防災フロンティア研究センターの取組み
実効性ある防災対策の提案、有事(地震・集中豪雨など)の際の地域における防災調査、
防災教育などを実施。地元行政とも意見交換などを行っている。
(http://www.ritsumei.ac.jp/research/center/disa_fro/)
34
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
事例3:弘前大学地域共同研究センターの取組み
弘前大学地域共同研究センターによって「産学官連携による地域政策」と題した首長シン
ポジウムが開催され、津軽地域から5名の市長・町長を招き、自治体の産学連携による地域
政策の現状と課題、長期的な視点から地域活性化に貢献するために必要な課題や政策などに
ついて討論がなされた。
(http://www.cjr.hirosaki-u.ac.jp/)
(4)ボトムアップアプローチ
地方公共団体向けの各種セミナーなどを通して ICT-BCP の必要性を理解しもらうための啓
発の機会を設ける。また、パイロット団体による ICT-BCP 初動版の策定の体験談をまとめる
など、ICT 部門が防災担当の協力のもと上位への説得が行える様な後押しする情報を総務省か
ら提供していく。
・講義に必要な資料(講師で準備)
・ICT-BCP初動版サンプル
・ICT-BCP初動版解説書
(ICT-BCP初動版の導入ガイド)
首長や防災担当に働きかけるための情
報提供
・策定団体による首長、防災担当メッ
セージ
・総務省による定期的なICT-BCP
策定状況の調査及び情報提供
地域情報化
アドバイザー
の活用など
講師の育成、
確保
◎LASDECセミナー
LASDECと調整し、ICT-BCP初動版の策
定テーマ又は訓練テーマ(BCP訓練体験、訓
練シナリオの策定など)のセミナーを企画し、参
加団体を募集する。
◎都道府県における各種セミナー
都道府県に働きかけ、上記同様のセミナーを
企画してもらう。
◎事業者に対する宣伝
BCP策定支援を実施する事業者に対して、初
動版の活用促進を依頼する。
◎防災担当の協力のもと、ICT部門によるI
CT-BCPへの取組みの提案
◎パイロット団体によるICT-BCP初動版の策定
ICT-BCP初動版を策定いただく意欲的な団体をパイロットとして、ICT-BCP初動版を策定しても
らい、首長や防災担当から経験に基づいたICT-BCPの必要性や取り組みやすさなどを広く発信す
る。また、情報システムを共同利用している団体であれば、一度に複数団体でICT-BCP初動版を策
定してもらうことができる。
35
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(5)セミナー施策
○LASDEC 等のセミナー 訓練テーマのセミナー企画による普及
民間のセミナーでは、BCPの訓練をテーマにした場合、自治体の職員を含めて参加者が
多く、非常に関心が高い。BCPの訓練のやり方をテーマにしたセミナーを地方公共団体向
けに企画し、その中で ICT-BCP 初動版を題材にすることも効果的と思われる。
また、その訓練テーマのセミナーでは、訓練を通して BCP の必要性を十分理解できるプロ
グラムとすることで、ICT-BCP の取組み意欲の向上が図れるようにする。
事例1:某社の訓練シナリオセミナー企画
訓練シナリオの作り方をテーマにしたセミナーを企画し、参加者を募集したところ、定員
120 名に対して 435 名の応募があった。自治体職員からも参加応募あり。
○都道府県主導によるセミナー、BCP 推進
都道府県主導による市町村への BCP 策定を推進している事例などを元に県主導による取組
みスキームのモデルを広く各県に紹介し、防災部門との連携のもと、ICT-BCP についても同様
に取組まれるようにしていくことも考えられる。
事例2:鳥取県での事業継続計画に対する取り組み
鳥取県では、各分野(企業、銀行、IT、医療、福祉、市町村)との連携を図り、オール
鳥取県で計画策定を進めるため、鳥取県版業務継続計画(BCP)策定推進会議を平成 23 年 8 月
30 日から設置し、一層の計画策定を推進。
WG の中に市町村 WG があり、県とともに策定する上で課題等を討議している。
○自治大学校等による研修
地方公共団体のICT部門向けの研修として、ICT-BCP について取り上げることが考えられ
る。
(6)事業者に対する宣伝
ICT-BCP 初動版の導入に向けた人材層を拡充していくためには、地元コンサル事業者や情報
システムに関わる外部事業者などを活用していくことも考えられ、これらの事業者に対して、
地方公共団体向けの ICT-BCP 初動版策定に関するセミナーを実施することが考えられる。
36
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(7)パイロット団体による ICT-BCP 初動版の策定
首長が防災の取り組みに意欲的であるが、ICT-BCP をまだ策定していない団体にパイロット
団体として策定に取組んでもらう。また、情報システムを共同利用している複数の団体に取
組んでもらえれば、より効果的である。パイロット団体に対する支援として、専門家の委託
支援や都道府県、他の地方公共団体や関連団体等との協力関係の構築に関する支援などが考
えられる。
ICT-BCP共通部分
A市 B町 C町 D村
固有 固有 固有 固有
(8)防災担当の協力のもと、ICT 部門による ICT-BCP への取組みの提案
ICT 部門や防災部門において、ICT-BCP への取組み意識を高め、積極的に首長等へ提案でき
るような支援策として、提案に資する情報提供をしていくことも考えられる。
○策定済み団体による情報提供
ICT-BCP 策定済みの団体に普及に関する協力を要請し、策定上の課題や経験や工夫など、
これから策定する団体への情報提供を行っていくことも有効と考える。
○ICT-BCP の取組み状況
全国の地方公共団体における ICT-BCP への策定や訓練の実施状況など定期的にアンケ
ートを行い、広く情報公開していくことも有効ではないかと考える。
○情報共有の手段について
情報共有の手段として、SNS 等の活用により、ICT-BCP 策定団体間で共通の課題に対す
る対応方法などを共有する場を用意していくことも考えられる。
37
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(9)ICT-BCP の必要性を啓発していくためのツール
首長や ICT 部門担当者向けに ICT-BCP の必要性を啓発していくための資料として、以下を
整備する必要がある。
38
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(10)ICT-BCP 普及を図る人材層の拡充
ICT-BCP 策定の指導者を育成する。

対象となる人材には地域情報化アドバイザーや地場のコンサルタント事業者などが
考えられる。

求められる人材として、必要なスキルセットを提示することも有効ではないかと考
える。

地域情報化アドバイザー又はコンサルタント事業者向けに ICT-BCP 初動版の存在と
今後自治体で普及させることの必要性を訴えるセミナーを実施することも有効と考
える。
求められるスキルセットの例
 地方公共団体に関する基礎知識
地方公共団体における行政サービス、業務、情報システム、地域防災計画など基礎的
な知識又は業務経験を有していること。
 事業継続計画に関する実践経験
事業継続計画を策定するプロセスや訓練について十分な理解があり、策定又は策定指
導した実績を有していること(地方公共団体における経験があればなお良い)。
 プロジェクト管理に関するノウハウ、実戦経験
計画どおり、BCP 策定作業が進むようにプロジェクトを管理する能力、特に ICT 部門と
業務部門間の課題解決に向けた調整能力を有していること。
《参考》BCP関連資格
分類
認定組織
BCAO
(事業継続推進機構)
(http://www.bcao.org
/index.html)
国内
海外
認定資格
スキルセット/要件 など
事業継続に関して実務に必要な基本的知識を身につけている
初級管理者
自社で事業継続の構築する上での知識及び担当者としての役
割を理解している
自社で事業継続の構築の実務を担える知識を身につけている
准主任管理者
主任管理者
BCI
(Business Continuity
Institute)
(http://www.bcijapan.
jp/)
※英国の組織
AMBCI(Associate Member BCI)
業継続を支える戦略的マネジメントシステムとリスクマネジメント
に関する、実践的知識を身につけている
1.BCMの定義と考え方
2.BCMが求められる背景
3.BCMを巡る国際的動向
4.BS25999に準拠した事業継続マネジメントプロセス
実務経験が1年以上ある
SBCI(Specialist BCI)
実務経験が2年以上ある
MBCI(Member BCI)
AMBCIを取得したのち、さらに実務経験が2年以上ある
FBCI(Fellow BCI)
上級責任者として実務経験が3年以上ある
DRI
(Disaster Recovery
Institute)
(http://drijapan.org/index.htm)
※米国の組織
ABCP(Associate Business Continuity Professional)
日本リスクマネジャー&
コンサルタント協会
(http://www.rmcaj.net BCM-RM(事業継続経営リスクマネジャー)資格
/www/index.htm)
CBCV(Certified Business Continuity Vendor)
CFCP(Certified Functional Continuity Professional)
CBCP(Certified Business Continuity Professional)
MBCP(Master Business Continuity Professional)
39
業界での経験が2年以下で、DRIIの「プロフェッショナ ル・プラク
ティス」において、エントリー(入門)レベルの実力を持つ
業界のベンダーとしての経験が2年以上で、「プロフェッショナル・
プラクティス」の知識を持つ
(※ 日本では未開設)
知識があり、2年以上の業務経験があり、且つ、「プロフェッショ
ナル・プラクティス」のサブジェクト・マター・エリアのうち、3分野に
おいて、実践的な経験がある
知識があり、2年以上の業務経験があり、且つ、「プロフェッショ
ナル・プラクティス」のサブジェクト・マター・エリアのうち、5分野に
おいて、実践的な経験がある
知識があり、5年以上の業務経験があり、且つ、プロフェッショナ
ル・プラクティス」のサブジェクト・エリアのうち、7分野において、
実践的な経験がある
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
(11)その他の普及施策
本研究会構成員、研究会活動の中で実施した地方公共団体のアンケートから以下の意見も
あった。
○人的・財政的支援策
-策定費用に関する財政的援助、人的援助
-策定団体が何らかインセティンブを得られる制度など
○法制化による義務付け
-策定推進についての法的根拠や法的義務。
40
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
3
災害時におけるさらなる ICT 利活用に向けて
1.3 において東日本大震災の教訓から、災害時に ICT を活用することの重要性と、それを可能とす
る要件を整理した。
災害時に ICT を活用するための要件を具体的な取り組み、ICT 利活用のための備えという観点で表
すと、次のようになる。
【次なる大災害に向けた ICT インフラの備え】

外部とのコミュニケーション基盤の備え

Web や SNS 等を活用した情報発信手段の備え

クラウド等の活用を可能とする標準の備え
【災害時の情報流通に関する自治体の備え】

自治体 Web サイト等による情報発信ノウハウ・リテラシの強化

民間の情報発信(SNS 等)に対する自治体側に必要な ICT リテラシ強化

災害時の情報流通に関する民間等との連携・協力
本章では災害時におけるさらなる ICT 利活用を推進するべく、ICT 利活用 WG における議論から、
これらの備えについて具体的な内容を整理するとともに、取り組み時に留意すべき与点について提
言としてまとめる。
41
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
【次なる大災害に向けた ICT インフラの備え】
3.1 では代表的な供えの中で特に機能上の備えとして準備すべき、

外部とのコミュニケーション基盤の備え

グループウエアや SNS 等を活用した情報発信手段の備え

クラウド等の活用を可能とする標準の備え
についてどのような点に留意して対応すべきか、その要点をまとめる。
3.1 外部とのコミュニケーション基盤の備え(衛星通信等の活用等)
現代における ICT 利活用はほとんどの場合、
情報通信ネットワークなくしては成立しない。
多くのサービスが域外のデータセンタなどから提供されるいわゆる「クラウド」の構成をと
っていることからも、この傾向はさらに強くなっている。
よって、ICT 利活用において外部とのコミュニケーション手段、つまり通信路の確保は死活
問題であり、1 章 1.3 で言及した多くの取り組みも、大前提として外部とのコミュニケーショ
ン手段が確保できた後の ICT 利活用である。
外部とのコミュニケーション手段確保の取り組みについては本 WG では構成員の NTT 東日本
斉藤委員より詳しい報告がなされた。
NTT 東日本
斉藤構成員の報告の要点
(第 2 回 WG 資料 5 より)
<被災直後からの対応>
●緊急時の通信確保の取り組みとして、ポータブル衛星装置や衛星携帯電話を
避難所等に設置すると共に、移動電源車についても、NTTグループ各社の
支援のもと広域に配備。
ポータブル衛星装置
39 台
衛星携帯電話
218 台
移動電源車
101 台
●避難所等に特設公衆電話、無料インターネット接続環境を整備・提供
<今後に備えての対応>
● 津波により甚大な被害を受けた通信ビルに対する応急復旧として、建物内の
仮修繕や BOX を設置。
● 損壊が著しいビル、高潮時に冠水し通信設備の維持・保守に支障が生じてい
るビル、既存局舎の流出等により暫定的に BOX を設置しているビルを、高
台へ移設し信頼性の向上を図る(19 ビル対象)。
● 津波により流出した中継ケーブルの応急復旧として、仮架空等により 2 ルー
ト化を確保。
42
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
● 橋梁が流された区間の本格復旧では、河川の下越しに管路を新設し、中継ケー
ブルを敷設することで、信頼性向上を図る(9 区間対象)。
●広域長時間停電に備えた対策強化
通信ビルの燃料タンク拡充、備蓄燃料庫の確保
非常用発電機故障対策(予備発電機設置、近隣ビルからの電源供給)
移動電源車、タンクローリによるオペレーション強化
●通信ビルの水防強化
自治体のハザードマップに合わせた水防強化
● 新型ポータブル衛星の導入
迅速かつ安定的なサービス提供
- 装置の小型化
- 衛星自動捕捉/追尾
- 遠隔開通機能
● 可搬型 Wi-Fi 装置の導入
Wi-Fi 対応端末へインターネット提供
柔軟なアクセスポイントの構築
- 光ケーブル等配線不要
- 車両搭載可能
●安否確認等の連絡手段の速やかな提供に向け、非常用の電話及びネット環境
を事前に準備しておく情報ステーション化の推進をしているが、推進には自治
体等の団体と連携が必要であり、順次協力をお願いしている。
●他事業者伝言板との相互連携や、登録内容をメールや音声で通知する機能を追
加する等、災害用伝言サービスの利便性向上に取り組む。
これらの取り組みは自治体単独で実現できるものではなく、通信事業者との密な連携はも
ちろんのこと、国・県とも協調した事前の備えが肝要となる。
総務省の「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」が発表して
いる「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について-最終取りまとめ」におい
ても、通信路確保に取り組む上での国の積極的な役割が述べられている。
自治体と深くかかわる部分では
●災害時には、国、関係事業者及び自治体が保有する情報の集約・共有・伝達等を
適切に行うことが、輻輳対応や迅速な応急復旧対応に不可欠であるため、この観
点から、国、関係事業者及び自治体間の情報共有・伝達体制等の在り方につい
て、見直しを行うことが必要である。その際、非常時における重要な通信の円滑な
確保を目的とする非常通信協議会の在り方も見直しが必要である。
43
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
●災害時に、被災地等で早期に通信手段を確保するためには、発災後に必要な通
信手段を提供するだけでなく、避難場所として想定される場所や重要拠点(自治
体施設等)には、あらかじめ必要な通信手段を整備することも重要である。
●この点、今回の震災では、公衆電話、無線 LAN、衛星端末等が有効な通信手段
として機能したと考えられる。
●特に公衆電話は、全数が災害時優先電話として扱われており、今回の震災にお
いて首都圏で生じた帰宅困難者の通信手段としても重要な役割を果たしたこと
等を踏まえ、現在情報通信審議会電気通信事業政策部会において災害等緊急
時における有効な通信手段としての公衆電話の在り方についての検討を行って
いるところであり、関係主体においてはその検討結果を踏まえ、必要な取組を進
めていくべきである。
●また、震災時に有効に機能した無線 LAN については、避難情報を含む地域情報
等の通信手段として重要であることから、国等がこうした災害に強い無線システ
ムをはじめとする情報通信ネットワークを地域の特性に応じて整備・展開した地
域づくりを支援することが適当である。
●今回の震災では、各事業者は、携帯電話端末・衛星携帯端末の無償貸与、MC
A 無線機の無償貸与、特設公衆電話の設置、避難所等におけるインターネット接
続環境の無償提供、公衆無線 LAN エリアの無償開放など、被災地や避難場所
等における通信手段の確保・提供を積極的に行ったところである。
●発災直後は、安否確認や復旧作業等のために、衛星携帯電話等の音声通話手
段のニーズが高かったが、その後は、避難所等での情報収集や自治体機能の
回復等のために、インターネット接続環境のニーズが高くなった。
などがある。
ほかにも本 WG 構成員意見から
●庁舎間、庁舎・避難所間の音声・データ通信の確保
●インターネット網との通信確保
→庁舎間、庁舎・避難所間の通信、インターネット網との接続を早期に復
旧する対策が必要であるが、対応は自治体や事業者に委ねられている。衛星
データ通信や携帯電話網などを駆使した対策が必要。有効性を担保するため
には、国が主導し、事業者・自治体との連携による枠組み作りが進むことを
期待したい。事前に訓練を行う必要がある。
(仙台市 今井構成員報告 第 9 回 WG 資料 2 より)
といった意見が寄せられている。
44
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
以上からみられる特徴的な傾向として
衛星端末、無線 LAN など無線通信の活用
避難場所や重要拠点における通信手段確保の必要性
を挙げることができる。
無線通信に関しては、NTT 東日本報告、総務省資料の双方でたびたび提言されている。
有線による通信路の複数ルート化による信頼性・堅牢性向上が重要であることは当然で
あるが、東日本大震災のような甚大な災害では庁舎被害の水準にとどまらず、地域全体が
大規模な被害を受ける事態となっている。
この様な状況では有線による通信経路は壊滅的な被害を避けられず、その際には衛星通
信などの無線手段が有効に機能している。
また、庁舎など施設内の LAN も大きく破壊される状況では Wi-Fi などの無線 LAN による
対応が迅速な復旧作業の助けとなっている。
当然、これらに必要となる衛星通信機材や電源機材等の全てを単独自治体が独自に準備
し、所有することは困難である。共同利用や事業者との協力関係構築など、様々な手段で
対応する必要がある。
その際に、上述の総務省資料に見られる
●さらに、東日本大震災においては、被災地等のニーズを適時適切に把握できな
かったため、提供可能な通信手段があっても、迅速に提供できなかったとの意見
も示されたことから、被災地の需要と事業者側の供給が適切にマッチングできる
ように、国や関係自治体等との情報共有・連携を行う体制の整備も必要である。
のように、情報共有不足から通信手段の迅速な提供ができないといったような状況が生じ
ることのないように十分な事前協議、準備が肝要となる。
例えば、衛星通信の役割が重要であることは上述のとおりであるが、多くの場合において
衛星通信の機能については必ずしも十分に理解されていない。
提供可能なサービスに関しても
音声通信のみ
音声・データ等
によって必要な伝送容量等も異なる。
具体的な検討項目として、後述するように代替拠点での対応のように仮庁舎での復旧を考
える場合、電話回線だけでなくインターネットコネクティビティも必要となる。その場合、
45
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
データ通信も可能な基地局が必要となる。また、ポータブル衛星基地局の通信容量は大きく
ないので、限られた容量を何に適用するのかを事前に検討、整理することが必要となる。
さらに、遠隔避難の途上など、移動しながらの通信が必要であれば、日本列島に電波をフ
ォーカスしたものや移動に耐えうる自動追尾機能付車載型衛星通信システムが必要となる場
合もある。
外界との通信に係る即時復旧には衛星は有効であるが、安定的に通信をするにはやはり有
線等のブロードバンド通信等が必要であり、その復旧までの間の繋ぎとしての衛星通信を意
識した計画が必要となる。
つまり、衛星通信、有線ブロードバンドなど、各方式の特性を踏まえた上で、十分に必要
性を理解し、事前に活用に備えることが重要といえる。
以上をまとめ、ここでは

通信路確保の必要性を十分に理解し、その備え、対策を検討する

国や関連機関、事業者との情報共有・連携体制を構築、強化する
を提言したい。
次に、避難場所や重要拠点における通信手段確保についての検討である。
避難場所などにおける情報取得ニーズの高まりに応えるためにも各拠点の通信手段確保は
必要である。同時に、通信経路と一定程度の情報処理能力を具備した施設を被災時の代替拠
点として確保することが対災害性能向上のためには非常に重要であることから、代替拠点の
ための取組みとしても各方式の特性を踏まえた通信手段の確保は必要となる。
例えば、上述の総務省資料では
●このほか、災害時における避難所等としての役割を果たしている多くの学校施設
において、平時に授業で使う ICT 環境を、災害時には緊急避難的対応の代替方
策として、設定変更等必要な作業があるものの、安否確認をはじめとした情報収
集等に活用することが可能と考えられる。
と言及されている。
東日本大震災で見られたように庁舎が壊滅的な被害を受ける可能性が否定できないため、
庁舎への通信経路確保を基本とした災害対策だけでは不十分といえる。
最悪の場合、代替拠点に避難し、そこで最低限の業務継続や情報収集・発信など災害対
応を実施できる備えが必要となる。つまり、上述の一定程度の情報処理能力、具体的には
通信機器はもちろん、パソコンやプリンタなどの機材が備えられていることが望ましい。
一方で、災害時のみの利用のためにこれらの資産を保有することは多くの自治体にとっ
ては重い負担と言わざるを得ない。
その一つの解決方向性として上記の言及にあるように学校等で平常時利用されている環
46
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
境を災害時に代替拠点設備として活用することが考えられる。
本 WG と並行して開催されている「ICT 部門の業務継続・セキュリティワーキンググルー
プ」の議論においても、
1 東日本大震災(3 市町のケース)の教訓の総論
1.1 被害想定については、各地方公共団体がそれぞれの実情に応じて定める
必要があるものの、陸前高田市のケース(本庁舎の倒壊、データの喪失、代替
拠点での暫定的サービス提供、電源及びネットワークの喪失)を最悪のケース
として考えて良いか。
1.5 ICT-BCPガイドラインでは、行政コストや職員の習熟度の観点か
ら、災害対応時のみの活用を前提としたICTの活用を記述するのは現実的で
はなく、通常業務で活用されているICTツールの活用を原則とすべきではな
いか。
第4回 ICT 部門の業務継続・セキュリティワーキンググループ
資料4 「東日本大震災(モデルケール3市町(宮古市、陸前高田市、双葉町))
の教訓を踏まえた論点整理」 より抜粋
と代替拠点の整備の必要性が指摘されている。
外部とのコミュニケーション手段の確保と合わせて、これら代替拠点の確保と活用を視野
にいれた BCP 策定、そのための備え、対策を検討する必要がある。つまり、
 外部とのコミュニケーション手段を備えた代替拠点の必要性を十分検討する
ことを提言したい。
改めて提言をまとめると、
 通信路確保の必要性を十分に理解し、その備え、対策を検討する
 国や関連機関、事業者との情報共有・連携体制を構築、強化する
 外部とのコミュニケーション手段を備えた代替拠点の必要性を十分検討する
となる。
47
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
3.2 グループウエアや SNS 等を活用した情報発信手段の備え
いわゆるインターネット社会において、住民向けの情報発信・共有手段としてグループ
ウエアや SNS 等のインターネットを活用した手段が有効であり、また求められていること
は論を待たない。
総務省による「災害時における情報通信の在り方に関する調査結果」においても災害発
生直後から住民が非常に多彩なメディアを利用していたことが見て取れる。
出典:「災害時における情報通信の在り方に関する調査結果」最終とりまとめ
発災直後の即時情報においてはラジオの位置づけが高いが、同様に携帯メールなど ICT の利用も
極めて重要であることがわかる。さらに、4 月末までの回答に見られる行政機関、報道機関ホームペ
ージの需要の伸びは地域ごとのきめ細かい情報や詳細な情報の入手における ICT の優位性を端的に
表していると評価することができるだろう。
時系列に見える行政機関ホームページ需要の飛躍的な伸びと、近年のインターネットにおける情
報拡散のありかたを踏まえれば、行政ホームページから公開された情報は個人の SNS 等を通じて二
次的、三次的に発信され、グラフに見られる以上の効果を上げていると考えることもできる。ここ
では一次情報としての行政ホームページ内容の正確性と、人間が読むだけでなく機械的な処理に適
48
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
した形態で提供するなど、それを二次利用する側への配慮などが課題となる。
さらに、総務省の「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について-最終取りまとめ」
においては、SNS 等の重要性が論じられている。
「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について-最終取りまとめ」よ
り抜粋
●近年の通信インフラ・ネットワークの発展により、インターネットを利用した
多彩なサービス・アプリケーション(ソーシャルメディアサービス、動画配信
サービス、動画投稿サイト、クラウドサービス等)が登場しており、今回の震災
においては、インターネットを利用した安否確認、情報共有等の新たな取組が見
られた。
●例えば、ソーシャルメディアサービスについては、震災直後の音声通話・メー
ル等が繋がりにくい状況において、安否確認を行う手段の一つとして個人に利用
されるとともに、登録者がリアルタイムに情報発信するものであることから、震
災に関する情報発信・収集のための手段として、個人や公共機関等に利用され、
その有効性が示された。
●また、各自治体から発表されている避難者名簿等の情報を集約し検索可能とす
るサイト、道路情報と地図情報を組み合わせるなどインターネット上の様々な情
報を組み合わせたサービス、ボランティアや支援物資の送り手と受け手のニーズ
を引き合わせるマッチングサイトなどインターネットを利用した付加価値のある
各種サービスが提供された。
●さらに、被災した自治体等に対してホームページ・メールサービスの提供や避
難所の運営支援ツールをクラウド上で提供することも行われ、業務運営の確保や
情報の保全にクラウドサービスが活用された。
●その他、放送事業者が動画配信サイトに震災関連ニュースを提供し、インター
ネット上で配信した事例や個人が動画中継サイト上で被災地の様子をリアルタイ
ムで配信した事例も見られた。
もちろん、これらの情報発信手段は住民向けのみならず職員への情報発信や情報共有に
おいても強力な手段となりうる。特に職員の安否確認や非常参集の支援ツールとして極め
て有効である。
49
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
次ページの「災害時における情報通信の在り方に関する調査結果」最終とりまとめの結
果からも携帯メールの役割の大きさは明確であり、多くの住民が ICT を活用して家族・親
戚等の安否確認を行っていたことがわかる。
多くの住民が避難時に携帯電話を持ち出しているが、今後、携帯電話の中でスマートフ
ォンの占める割合が高まっていくこと考えれば、Web や SNS 等といった ICT を避難民が利活
用可能となるインフラは相当レベルで確保されてきている。
避難場所での Wi-Fi 整備が大きな効果を上げたことなどからも、安否確認情報をはじめ
とした各種情報の ICT による発信が住民ニーズとも合致していると考えることができるだ
ろう。
50
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
例えば・・・ 利用アイデア
出典:「災害時における情報通信の在り方に関する調査結果」最終とりまとめ
51
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
では、SNS 等の様々な ICT を情報発信手段として活用するにはどのような備えが必要とな
るかについて検討することとする。
これら情報発信に用いる Web サーバやメールサーバなどを自庁内に設置する場合もあり
得るが、災害時への備えとしては、庁外のデータセンタに設置する方法や、少なくとも災
害時のバックアップとなる仕組みをクラウド上に確保することが望まれる。さらに、被災
時には多くの住民が情報を求めて Web サーバへの負荷が上がる場合もあり、ミラーサイト
を用意するなど可用性への配慮も求められる。そのような備えを持った上で、前述(1)
に述べた外部とのコミュニケーション手段を確保することが重要となる。
例えばミラーサイトに関する取組みについて
■重要な情報を発信するサイトを守るクラウドを活用したミラーサイト構
築
アクセスが集中して情報提供が困難になった Web サイトをクラウドに複製
して
負荷分散(平均構築時間 2-3 時間)
・岩手県庁
・いわて防災情報ポータル
・栃木県庁
・NHK 字幕情報
・東京電力の計画停電情報(msn での情報提供)
・クラウドの可用性、拡張性
(日本マイクロソフト 光延構成員報告 第 5 回 WG 資料 2 より)
といった活用事例が報告されている。
しかし、情報発信手段をクラウドなどの外部に準備し、それとのコミュニケーション手
段を確保すればすぐにこれらを有効に活用可能となるわけではない。
例えば、住民の安否確認やそれに必要な情報の提供に関しては ICT 利活用に先立ち、
■津波の被害が大きい地域ほど、携帯電話などの通信手段が使えなくなっ
たので、多くの被災者が避難所などで家族を探し回ったり、張り紙をし
て連絡を取ろうとした。
■避難所で住民の申請、公表への同意を得て、避難者情報を収集し、HP
で公開した自治体があった。
■被災地の状況により、安否情報への自治体の対応には幅があった。
■現状では、安否情報とは何かの定義がなされていないので、個人情報保
護の観点もあり、自治体ごとにバラバラの対応になると想定される。
●安否情報の定義を明確にし、どのような内容の情報をどのようなや
52
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
り方で収集提供するのかを明確にする。
→被災自治体の対応を精査し、安否情報を定義し、収集内容、提供
方法を統一化する必要がある。
→避難所に避難した住民(他の市町村からの避難者を含む)が申請
した情報を合意を得て、HP上に公表することが現実的。公表す
る内容・申請様式を統一化しておくと運用がスムーズに行くと思
われる。
→安否情報、避難者情報の収集、入力機器、ネットワークについて
具体的な手順を検討し、地域防災計画や避難所開設のマニュアル
に、記載する必要がある。 (自治体ごとの対応)
(仙台市 今井構成員報告 第 9 回 WG 資料 2 より)
のように、被災者の安否情報の定義や、収集・提供についての方針が自治体ごとに異な
っており、統一・整理されていないことが問題であるとの指摘がある。
逆に言えば、どのような情報をどのようなツールで発信すべきかを事前に整理すること
ができれば、住民の安否情報など多様な情報について ICT を十分に活用することができる
といえる。
以上をまとめ、ここでは

災害時に備え、どのような情報をどのような ICT ツールで発信すべきかを事前に整
理することが必要
を提言したい。
53
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
3.3 クラウド等の活用を可能とする標準の備え(中間標準レイアウトの推進等)
「東日本大震災に関するクラウドサービス利活用事例集」に見られるように東日本大震
災に際しては非常に多彩なクラウドサービスが提供され、復旧・復興の大きな手助けとな
った。
この様なサービスは一般的に複数の自治体で協同で利用されるものであり、個別に特定
自治体専用に構築されるものではない。このため、それぞれのサービスが必要とする情報
項目と実際に自治体が利用している情報項目との差が問題になることがある。
自治体の業務の多くは法令に基づいて実施されており、おのずと利用・管理されている
氏名や住所などといった情報項目は共通している。しかし、自治体それぞれの運用に関す
る考え方の違いや、業務システムの作り方の違いなどから、詳細にこれらの情報項目を見
ると自治体ごとに差異が生じている。
クラウド上のサービスの利用に当たっては、この差異について調整したのち利用するこ
ととなり、迅速な対応の妨げとなる。
もし、自治体の持つ情報項目が標準化されていれば、このような手間を排除することが
でき、災害時の対応を省力化できる上に、多様なクラウドサービス提供の助けともなる。
データ形式の標準化については既に総務省の「自治体クラウドの円滑なデータ移行等に
関する研究会」によって「中間標準レイアウト仕様」が制定され、公開されている。
「中間標準レイアウト仕様」とは、自治体業務システムの切り替えに伴うデータ移行時
に、データ移行費用の低減を図るため、データ項目やその表現形式等を統一した全国の自
治体が共通的に利用できる標準レイアウトである。
地域情報プラットフォーム標準仕様や戸籍、後期高齢者医療等の標準仕様など、既存の
各種標準を反映して作成されており、22 業務について標準化されている。
中間標準レイアウトにおける移行ファイルは XML 形式で作成され、広く様々なシステム
で利用可能なものとなっている。すでにいくつかの自治体では業務システムの調達仕様に
中間標準レイアウトへの対応を記載するなど、普及が進んでいる。
中間標準レイアウトを移行ファイル形式に適用することで、移行前後の両ベンダは事前
にデータ移行に必要な準備を行えることなどから、導入経費の削減につながるとされてい
る。
このように、本来クラウドシステム間のデータ移行の円滑化を目指した「中間標準レイ
アウト」であるが、これを災害対策のバックアップデータの標準レイアウトに応用するこ
とが考えられる。
システム移行のためのデータフォーマットである以上、システムが動作するための必要
最低限の情報はそこに含まれていると考えることができる。よって、これを上述の災害時
における必要最低限の業務を実現するクラウドシステム(以下「バックアップシステム」
という。)を動作させるためのデータとして活用することができる。
バックアップシステムが実装すべき機能やそれに必要なデータについては今後精査が必
要であるが、おおよそ必要となる情報は中間標準レイアウトに含まれていると考えること
54
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
ができるだろう。
同時に、中間標準レイアウトが XML 形式で作成されている点も注目に値する。テキスト
データとして可読な XML 形式によって保存されることで、バックアップシステムすら準備
できない状況であっても、直接内容を確認することが可能となる。
ワープロや表計算ソフトのような OA アプリケーションを利用して臨時の対応を行う場合
など、この可読性は極めて有効な性質である。
ここでは、クラウドをさらに活用可能とする備えとして、中間標準レイアウトを活用し
うる現状を踏まえ、

クラウドの円滑な活用を可能とするため標準化を推進すべき

中間標準レイアウトをバックアップデータの形式として活用することが可能

標準化されたバックアップ形式を前提として様々な利活用手法の検討が可能
を提言したい。
55
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
【災害時の情報流通に関する自治体の備え】
次に、3.4 では、

自治体 Web サイト等による情報発信ノウハウの強化

民間の情報発信(SNS 等)に対する自治体側に必要な ICT ノウハウ・リテラシ強化

災害時の情報流通に関する民間等との連携・協力
についてどのような点に留意して対応すべきか、その要点をまとめる。
3.4 自治体 Web サイト等による情報発信ノウハウ・リテラシの強化
3.2 では、グループウェアや SNS 等を活用した情報発信手段の現状と課題について整理し、
自治体が災害時に備えて情報とツールの関係を整理することを提言したが、その後は、どの
ような形でそれらを活用すべきかを判断する情報発信ノウハウが必要である。すなわち実際
にそれらの情報発信手段を活用し情報を発信するためのリテラシが重要になる。特に SNS 等
においては住民からの情報発信との双方向な関係性が不可欠であり、旧来の一方的な情報発
信とは異なる情報リテラシが必要となってくる。
「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について-最終取りまとめ」において
もリテラシの重要性が次のように言及されているところである。
「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について-最終取りまとめ」よ
り抜粋
●今回の震災においては、避難所等の運営関係者(自治体職員やボランティア
団体関係者など)が、インターネットでのマッチングサイトの効果などを十分に
認識していないことやそもそも平時からインターネット等に親しんでいないな
どのために、避難所等でのインターネット接続環境が回復しても、十分にイン
ターネットが利用されていなかった。
●この点については、平時から、e ラーニングも組み合わせた自治体職員の人
材育成を継続的に行っていくこと、避難所等の運営関係者に必要な情報リテラ
シーの整理(ICT を利用することによって何を行う必要があるのか)を行うこ
とに加え、地域の NPO や地元大学と連携したサポート体制を構築することや、
自治体間で ICT 担当者のネットワークを構築すること、事前訓練等によりあら
かじめ連携しておくことなどが必要である。
●平時から、自治体職員や避難所運営関係者の情報リテラシーの涵養を図る
ため、国や事業者団体等においては上述の取組を引き続き進めていくととも
に、情報リテラシーの涵養に関するベストプラクティスを収集し、共有を図って
いくこと等により、自治体の取組を支援していくことが必要である。
本 WG の検討と並行して実施された実証実験「住民へのシームレスな情報提供」(以下「情
報提供実証」という。)でも、被災時に発信される情報が非常に多様であることがまとめら
56
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
れた。そして、これらの情報をニーズの変化に柔軟に対応しつつ、迅速に提供できる適切な
手段の検討が必要であることが報告された。
これに対して、自治体職員は必ずしも SNS 等の ICT 活用に熟練しておらず、また、住民が
置かれている環境も様々であるので、それぞれの状況に合わせて対応すべきではないか、さ
らに、対面による住民への直接サポートも不可欠であり、住民への届きやすさに配慮した適
材適所の多面的対応が必要ではないかといった議論がある。
主要な論点として
 情報特性に合わせた ICT の活用
 自治体ごとの状況に合わせた ICT の活用
 住民への届きやすさに配慮した ICT の活用
を挙げることができる。
各自治体はそれぞれの状況を理解しつつ、これらの論点について十分に整理、検討を進め
る必要があることを提言したい。
●情報特性に合わせた ICT の活用
災害時に被災者が必要とする情報は多種多様である。例えば、情報提供実証において、
災害時の情報発信方法の確認のためにフィールド自治体の地域防災計画などから整理した
情報だけでも表1のようなものがある。
これらの情報にはそれぞれに適した情報発信方法や発信頻度があるといえる。一方で、
どのような情報をどのような住民が必要とするかは時間とともに変化する。
ニーズの動的な変化に柔軟かつ迅速に対応する手段としてグループウエアや SNS 等など
多様な情報発信方法を組み合わせることが重要になっている。
●自治体ごとの状況に合わせた ICT の活用
一方で、自治体職員は必ずしも SNS 等の活用に慣れているとは言えない。職員の情報リ
テラシ向上が重要であることはもちろん、不慣れな層へ配慮したユーザーインターフェー
スの一層の向上も望まれる。
一律に SNS 等を導入するのではなく、SNS 等のサービスごとの特徴、使い易さ、普及の度
合いなどや、職員の ICT リテラシなどを踏まえて導入を進める必要がある。
同時に、住民の ICT リテラシなど自治体ごとの取り巻く環境は異なっており、ICT 利活用
に対する考え方については自治体ごとにそれぞれの状況に合わせて検討する必要がある。
●住民への届きやすさに配慮した ICT の活用
自治体の取組みは全住民のことを考えて進める必要がある。そこでは「届きやすい情報
発信」という考え方が重要となる。
自治体ごとの事情に合わせた ICT の活用を検討しながら、同時にそれが十分に住民に届
57
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
くのか、住民のニーズに合致しているのかについて十分に検討する必要がある。
特に、被災住民への支援に関しては対面による対応は不可欠かつ重要な取組みである。
ICT の活用による効率的な情報発信や支援と合わせ、職員による直接のサポートを組み合わ
せた多面的な対策の検討が必要となる。
58
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
項
情報
項
情報
1
緊急支援情報
9
道路情報
1.1
避難指示・勧告
9.1
高速道路
1.2
帰宅困難者支援
9.2
国道
2
安否確認
9.3
県道
2.1
本人確認情報
9.4
市町村道
2.2
避難所別収容状況
10
災害復旧情報
2.3
犠牲者情報
10.1
電気復旧情報
2.4
行方不明者情報
10.2
ガス復旧状況
2.5
負傷者情報
10.3
水道復旧状況
2.6
要援護者情報
10.4
通信復旧状況
3
火災情報
10.5
計画停電情報
4
地震情報
10.6
医療機関状況
5
津波情報
10.7
行政サービス情報
6
その他警報・注意報
10.8
学校・公共施設状況
7
避難施設等情報
10.9
金融機関情報
7.1
避難場所設置状況
10.10 店舗営業状況
7.2
遺体安置所情報
10.11 給水・配給
7.3
行方不明者届先情報
10.12 炊き出し
7.4
収容先情報
11
義援金情報 (申し出)
7.5
臨時宿泊施設情報
12
救援物資情報
8
公共交通機関運行情報
12.1
救援物資の申し出情報
8.1
JR
12.2
救援物資の提供情報
8.2
小田急電鉄
13
8.3
江ノ島電鉄
13.1
8.4
相模鉄道
13.2
災害ボランティア募集情報
8.5
湘南モノレール
14
仮設住宅情報
8.6
横浜市営地下鉄
15
り災証明情報
8.7
神奈川中央交通バス
16
融資・助成、義援金交付
8.8
藤沢神奈交バス等
17
家屋解体相談・家屋再建相談
ボランティア
災害ボランティア申し出情報
藤沢市のタクシ会社
8.8
寒川町のタクシ会社
8.9
東海道新幹線
表 3-1 情報提供実証で整理した自治体から被災時に発信される情報の例
59
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
3.5 民間の情報発信(SNS 等)に対する自治体側に必要な ICT リテラシ強化
災害時の情報の収集、発信に関しては、民間との協力関係も重要なテーマとなる。全て
の取組みを行政だけで実行することは大規模災害時においては現実的ではない。民間との
有効な協力関係が必要となる。
事項で詳しく見るが、情報提供実証における自治体職員の意見からも、災害時において
様々な情報の収集・発信において民間との協力が必要と考えられていることが分かった。
情報収集・発信の官民協力に際して ICT が重要な役割を果たすことは議論の余地がない
が、一方で、ICT における民間との協力関係の実現には自治体職員側の ICT リテラシ、特に
SNS 等に対応するリテラシが必要となる。
SNS 等の ICT は極めて高い情報発信力を持つため、情報内容に対するプライバシなどへの
配慮は特に慎重を要する。また、民間からの発信内容には誤報やデマが含まれる場合もあ
る。このような特有の課題に対応するには相応の経験やリテラシが必要となる。
合わせて、住民側のリテラシも重要となるが、活用可能な住民と困難な住民との間で情
報格差が広がる恐れもあり、行政としては情報弱者への対応が重要な役割となる。
これらから、自治体が検討を進めるべき論点として以下をまとめることができる。

要綱やガイドラインを整理し、SNS 等への理解、活用を進めてゆく努力が必要

情報の正確性やプライバシへ配慮した情報発信が必要

情報弱者な住民に、官民協力の上で手を差し伸べることが行政の役割
●要綱やガイドラインを整理し、SNS への理解、活用を進めてゆく努力が必要
非常時の対応手段は、日常業務に溶け込ませておかないと、いざという時に役に立ちづ
らい。日ごろからいかに活用するか。非常時の利用の観点にとどまらず、通常業務の範囲
で十分に利活用を進め、非常時にも柔軟に活用可能とすることが望まれる。
そのためにも要綱やガイドラインを整理し、SNS 等への理解を深め、活用を進めてゆく努力
が必要となる。
●情報の正確性やプライバシへの配慮など注意点
民間を活用した情報収集や発信を促進するに当たっては、情報の正確性やプライバシへ
の配慮など自治体のみで対応する場合とは異なる注意点がある。
プライバシに関しては、情報提供実証においても被災者の安否情報、例えばどこの避難
場所に誰が避難しているといった情報の取り扱いについては議論があった。
一つの方向性としては、避難場所で名簿を作成する際に公開に関する本人同意を確認し、
同意されたものだけを公開するといった考えが出された。
しかし、避難民は住民だけとも限らず、また、名簿についてはどのような内容をどのよ
うな目的で整理するといった方針についても検討が必要であり、簡単に結論づくものでは
60
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
なく、慎重な検討が必要である。
情報の正確性に関しては、民間などが Web 等で発信する情報には間違いがある可能性も
あり、それらを自治体の Web ページにリンクなどする際に注意が必要であるとの議論があ
った。これについては次項で整理する。
●情報弱者な住民に、官民協力の上で手を差し伸べることが行政の役割
ICT リテラシを持った住民との協力関係構築も重要な要素となる。例えば、消防防災では
地域における消防防災のリーダーとして民間の協力を得て消防団が組織されている。他に
も地域に密着した様々なサービスが民間との協力で地域主体的に実施されている。
ICT に関しても、一定の ICT リテラシを持った住民と事前に協力関係を構築し、地域での
リーダーシップをとる自主的な組織として編成するといった取組みも考えられる。
一方で、ICT の活用という観点ではリテラシの高い住民とそうではない住民とで置かれる
状況に大きな差が生まれるという問題がある。
情報提供実証の討議においても、情報収集や発信が可能な ICT リテラシの高い住民やボ
ランティアなどの組織は自主自立的に情報の収集や発信が可能であり、自助に一定程度ゆ
だねることができる、一方で、それらが困難な住民については目が届きにくく、そこに行
政としていかに支援できるかが重要との意見が交わされた。
これら情報弱者といえる住民に、官民の協力関係を活用しつつ、手を差し伸べることこ
そ行政の大切な役割と言えよう。
61
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
3.6 災害時の情報流通に関する民間等との連携・協力
ここまでの東日本大震災の教訓や実証実験結果に関する考察の中で、災害時の情報収
集・発信について、民間等との連携の在り方について整理することが SNS 等の ICT 利活用
の観点で非常に重要であることが指摘された。
例えば、3.2 グループウエアや SNS 等を活用した情報発信手段の備え で見たように、東
日本大震災においても情報源として自治体発信の Web サイトが重要な役割を果たしたのは
もちろんであるが、テレビ・ラジオを始め SNS 等様々な民間の情報リソースが住民に利用
されていたことがわかる。
また、情報の流通チャネルとしても、例えば安否情報の交換に、携帯メールを使ってブ
ログに自分の安否情報を発信した、友人が自分の安否情報を Google Person Finder にあげ
てくれた、といった事例が報告されている。
そこで、民間等との連携に向けてどのような形で取組みを進めるべきかをここまでの議
論も含めて全体として以下に整理する。
災害時に、住民が必要とする情報は刻々と変化する。発信する情報内容、対象者、情報
の収集、発信方法(ツール)を時系列で整理する必要がある。また、その時々の情報特性
に合わせて適切な情報発信方法を選ぶことが大切となる。それらを全て被災自治体が行政
の責任として行うことは、実態として、相当困難であり、民間等の情報収集・発信の能力
を活用することが適当と考えられる。
例えば、不通道路の情報などは、単に路線名だけであると、まずその路線名が具体的に
どこの道路のこと指しているのか分からないし、さらにその路線のどこが通れなくなって
いるのかも分からないという問題が生じる。この場合には地図に不通部分が載っていれば、
理解しやすい。
しかし、国道など主要道だけならまだしも全ての道路を行政だけで確認することは現実
的でない。また、地図を用いた発信にも民間の能力に一日の長がある。第 5 回 WG の報告に
あるトヨタ G-BOOK 「通れた道マップ」などが典型的な取組みと言えよう。
62
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
第 5 回 WG 報告 トヨタ G-BOOK の概要
自動車の通行実績データ(プローブカーデータ)を元に通行可能ルートを示す
発注~構築=5 日間、クラウドでの開発の迅速性
また、大規模災害時には被災後、行政と民間が連絡を取り合うことすら困難となる。そ
の際に、一定の取組みについては行政からの指示・合意がなくとも民間が自主的に動ける
ようにしなければならない。そのために、事前の全体方針や協定等の制定、協力体制の確
立が望まれる。
すなわち、ここでは、災害時の情報流通に関する被災自治体と民間等との連携・協力に
ついて、以下のとおり、2つの大きな考え方を提示したい。
① 被災自治体が行政の責任で全ての情報流通を管理するという考えでなく、必要に応
じ、民間等の情報収集・発信能力を活用することが、被災住民へのサービス向上に
つながる
② 自治体は災害時に備え、①のための全体方針・協定などを準備し、事前に情報流通
に関する官民連携のための協力体制が確立されていることが望ましい
もちろん民間等の情報収集・発信については、行政に比べて公平性や正確性・信頼性の
観点で課題がありうる点は、3.5 民間の情報発信(SNS 等)に対する自治体側に必要な ICT
リテラシ強化 で述べたとおりである。
それでもなお、情報特性に合わせた ICT の活用、住民への届きやすさに配慮した ICT の
活用といった観点や、なによりも迅速性といった点と合わせて検討し、積極的な活用を考
えてゆくべきであると考えられる。
以下、上記2つの大きな考え方に沿って、それぞれ、具体的に、先進的と考えられる事
例と実際の取組みにあたっての課題等を紹介することとする。全国の自治体において、こ
63
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
れらの事例等も参考にしながら、それぞれの地域の実情に応じた災害時の情報流通に関す
る官民連携の検討が進むことを期待するものである。
● 民間等の情報収集・発信能力の活用事例
情報の収集に関しては官民協力して情報の調査・収集を行うことも考えられるが、行政
視点では情報の収集とは被災地からの情報発信であり、例えば避難場所など支援を求める
住民など民間側からの積極的な情報発信が重要となる。
行政からの目が行き届きづらい部分からの自主的な発信である「支援を受ける側の情報
発信力」が高まれば、必要とされる情報が流通し、必然的に行政の情報収集力が高まるこ
ととなる。
時には被災自治体からの支援が間に合わず、他地域やボランティアなど他の支援組織へ
被災者側から直接情報を発信することも考えられる。つまり、行政からの指示や協力がな
くとも被災側からの自主的・主体的な情報発信が行われれば、より迅速な支援が可能とな
る場合も考えられる。また、住民が自主的に避難場所を設置した場合や、その他自主的な
取組みに関する情報も行政では把握しきれず、住民からの直接発信が望まれる。
これらの論点に関する参考事例として、避難所を中核とした住民主体の情報連携体制が
整備されている「京都市避難所運営マニュアル」の事例を紹介する。
京都市の事例紹介
京都市では避難所の開設は区災害対策本部長(区長)であるが、運営は地域住民
による自治に委ね、地域住民と施設管理者により構成する「避難所運営協議会」が行
うこととされている。避難所運営協議会は避難所における課題への対応、災害対策本
部などとの連携を行う。
避難所を単位に避難所運営マニュアルを策定し、運営は概ね小学校の通学区を範
囲とする地域の住民で構成される自治連合会や自主防災会,社会福祉協議会などが連
携して行うこととされている。
情報の収集や発信活動については次のようになっている。
●情報の収集
・避難者情報
避難所の避難者の情報は管理班が集約する。
・地域情報
避難所を中心に概ね小学校区単位の被災状況や生活状況、復旧状況に関連
する情報を地域住民が協力して収集し、避難所で集約される。
例:
発災初期において,地域住民は町内会(概ね 100 世帯程度で構成)で定めた
「地域の集合場所」に集まり、災害時要配慮者の救出、救助や地域内の出火確
64
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
認・初期消火、救出・救護活動、安否の確認などを行う。
これらの情報が避難所で集約され、避難所で掲示、行政機関等に連絡される。
・行政機関等の外部情報について
区・支所災害対策本部や災害ボランティアセンター、外部からの問合わせ情報
を管理。
●活用するツール
発災当初は,避難所(学校等)に設置されている電話
電話不通時には避難所に設置している防災無線を使用。
避難所安定期以降、電力や通信が復旧すれば施設管理者や通信事業者の協力を
得てインターネット使用も想定される。
避難所運営を住民主体で行うので避難所によってはフェイスブックやツイッタ
ーを使用されることもあると考えられている。
●情報の正確性や責任分担
避難所情報、地域情報ともに住民自身が収集・整理するので正確性は担保され
ているものと考えられている。
その際のプライバシ等への配慮は避難所を運営する避難所運営協議会が基本的
に判断する想定。避難所運営マニュアルに「個人情報の取扱いに注意してくだ
さい。」と記載されている。
●避難所からの情報発信
避難所運営協議会の総務班を、区・支所災害対策本部や関係機関等の外部との
情報発信を含む連絡調整窓口とされている。
避難者等の名簿について第三者への提供は避難所運営協議会が判断することは
想定されている。安否情報として公開することを前提に提供する想定。
第三者に対して避難所の避難者情報や在宅被災者等の名簿を京都市で一括して
情報提供することについては,国が行っている災害救助法等の改正状況を勘案
しながら検討していくこととされている。
避難所で不足する物資等の支援要請について,避難所運営協議会が外部に発信
することも想定されている。
地域住民で構成する運営協議会が判断したものについては,行政が関与するも
のではないと考えられている。
それに応えて外部から支援がある場合、人的支援(災害ボランティア)につい
ては総務班が住民から要望を受付け、集約して区災害ボランティアセンターに
65
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
連絡することとされている。
したがって、ボランティアが直接避難所に来訪することがあっても、一旦区災
害ボランティアセンターでボランティアの登録とボランティア保険への加入
(確認)を促すこととされている。
避難所避難者、在宅被災者の名簿や地域の被害状況等については避難所運営協
議会から区災害対策本部に情報伝達し、災害対応や被災者支援等への活用する
こととされている。
●災害時情報流通の官民連携体制に関する調査・事例
災害時の情報発信という観点では、情報発信行為をどのように自治体と民間が分担しあ
えるかが課題となる。行政が積極的に情報を収集、発信することは当然であるが、できる
だけ広く様々な方法で情報を届けるためには民間との協力や分担が必要となる。
今回、本 WG の下で実施された情報提供実証において、このような情報の収集、発信に関
する官民協力の在り方についてアンケート調査及びディスカッションを行った。
実証実験において発信対象となる様々な情報について、その情報は行政、とりわけ被災
地の自治体単独で収集できるものなのか、民間や他の組織と協力すべきなのか、また、そ
の発信においても自治体で独占的に実施すべきなのか、民間等と協力すべきなのかを情報
種別ごとにアンケートを取り、さらにその結果に基づき討議を実施している。
実証実験とアンケート結果の概要は以下のとおりである。これはあくまで実証実験用に
各フィールド自治体の状況に合わせて準備したテスト情報に対しての、各自治体職員から
の意見である。
その意味で、この結果は一般的に正しいとか、このようにあるべきといった性質のもの
ではない。しかし、このような観点の情報整理が必要であることを示す好例といえる。
アンケート結果における情報ごとの官民連携の方向性を概略したものが別表1とな
る。ここでは横軸におおよその情報発信時期、縦軸に官民の役割分担を取っている。
アンケート自体は職員の意見を収集したもので定量的な評価ではないため、表の各
軸はおよその定性的な傾向を図示したものであるが、全体としての傾向を見て取るこ
とができる。
全体として情報の収集に関しては自治体側で責任を持って行うと判断される傾向に
ある。民間や他組織と協力すると判断された情報は、他組織に決定権があったり、住
民の自主的な活動など自治体側で全てを把握するのが困難なものであったりが大半で
ある。逆に、自治体側に決定権がある、例えば避難指示や行政サービスに関する情報
は行政で独占的に対応すると判断されている。
情報発信については収集よりやや民間などと協力する方向に倒れている。しかし、
66
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
全体としての傾向は収集と同じとみてよいだろう。
民間に一定レベルで協力を求めなければならない情報としてはボランティアの活動
や自主的な避難者に関する情報などが挙げられる。
例えば、炊き出しにしても、行政が行うものであれば当然把握しているが、ボラン
ティアが独自に行うものについては全てを把握するのは難しい。避難場所についても
公設の避難場所についての情報はあるが、自主的に避難場所を設置している場合など
は自宅避難と同様に、状況を完全につかむことは難しい。このような情報に関しては
民間の協力を求めるべきとの傾向がでている。
上記の実証実験アンケート結果からは、
「民間等による情報を全て被災自治体が確認し保証することは困難」という課題がある
ことがわかる。
例えば行政の Web サイトで民間の情報を利用する際、どのように行うかが議論となった。
単純にリンクを張るだけにしても民間のサイトで公表されている情報が本当に正しいのか、
いちいち確認することは現実的に不可能である。リンクされた側にとっては行政にリンク
されることで信頼感を増す効果があろうが、張る側の行政としては十分な責任が持てない。
公共交通機関や電気、ガスなどのインフラといった公的性質の強い民間や、知名度が高
く社会的に一定の信用が置かれている民間とそれ以外では可能となる対応も異なってくる。
一つには平常時から関係性を構築し、十分な信頼関係を持つことが重要であるが、他方
での解決案として、民間発信の様々な情報を取りまとめているサイト等と協力関係を構築
し、そこへのリンクを設置する、すなわち間接的に情報源とつなげる案が出された。
その場合、それらの協力関係や協定といったものは平時から構築されている必要があり、
良好な関係を維持継続する必要がある。
また、自主的な避難者からの発信などに関して、公平性に関する議論があった。行政か
らの支援は全ての被災者に平等に行き渡ることが求められる。情報にしても物資にしても
広く平等に提供されるよう最大限の努力がなされる。一方で、被災時の現場では全ての被
災者ではなく、可能なところから順次対応することも必要となる。
一旦、行政側で情報を収集しコントロールすることは、これらの公平性への配慮として
は有効であるが、同時に迅速性やできるところからといった臨機応変性の点では大きく劣
るところがある。
いずれにせよ、これらの判断に関しては被災時の混乱の中でも的確に判断を下し、行動
に移せるよう、しかも、中央集中のコントロールだけでなく現場での判断による初動行動
も可能とするよう、事前に全体方針や判断基準が整理されており、周知されている必要が
ある。
67
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
これらの論点に関する参考事例として、藤沢市保健福祉部と NPO 法人藤沢災害救援ボラ
ンティアネットワークとの連携関係について、以下、紹介する。
藤沢市の事例紹介
藤沢市では災害時のボランティア受け入れなどの作業を NPO 法人 藤沢災害救援
ボランティアネットワーク(FSV)と分担する体制がとられている。
FSV は災害時に救援活動をするボランティアに対して、他の地域ボランティアとネ
ットワークを介して連携を図り、互いに助け合う市民社会の形成を目指す事業を行い、
災害時において、効果的な活動ができる体制づくりに寄与することを目的に結成され
た組織である。日ごろ災害情報員、市民レポーター、災害情報コーディネーターの育
成や防災訓練への参加など様々な活動を展開している。
市と FSV は平時から協力関係を樹立しており、保健福祉部が毎月 FSV の定例会に
参加するなど連携を密にしている。
災害時には、保健福祉部、市社会福祉協議会の支援センターと共に災害ボランテ
ィアセンターを開設しボランティアの受け入れを行う。
その際に外部のボランティア向けの情報発信や連携に FSV が協力する体制がとら
れており、協定が整備されている。
68
災害に強い電子自治体に関する研究会報告書
【災害発生時の情報収集に関する考察】
取り得る「備え」
の方策例
16
自治体
中心
1
5
6
7
21
避難
指示
火災
情報
地震
情報
津波
情報
救援物資
情報
9
2・3
避難者名簿
等安否情報
8
犠牲者等
情報
公設避難所
設置情報
23
仮設住宅
情報
助成金
義援金等
20
公営の
給水・炊き出し
情報
18
道路
情報
26
金融機関
情報
8‘
自主的避難
在宅避難情報
13
民間や
他機関と
協力
24
罹災証明
発行情報
25
行方不明者
届出受付情報
4
行政サービス
情報
家屋再建
等相談
17
医療機関
情報
 被災者・住民の
ニーズにあった
情報収集の検討
10・11
20‘
ボランティア
給水・炊き出し等
情報
 情報収集の協力
を得る民間等対象
者の選定・必要な
事前協議等
22
ボランティア
申出・募集等
12
14
19
交通機関
情報
電気・ガス等
復旧情報
店舗営業
等情報
一週間
発災直後
【災害発生時の情報発信に関する考察】
1
5
避難
指示
火災
情報
13
道路
情報
2・3
民間や
他機関と
協力
避難者名簿
等安否情報
行政サービス
情報
救援物資
情報
行方不明者
届出受付情報
6
24
23
罹災証明
発行情報
仮設住宅
情報
助成金
義援金等
20
公営の
給水・炊き出し
情報
18
26
金融機関
情報
7
4
17
15
犠牲者等
情報
学校・公共施設
等情報
医療機関
情報
 WebやSNSなど多
様な情報発信ツー
ルの検討
家屋再建
等相談
津波
情報
 被災者・住民の必
要とするタイミング
で、ニーズの高い
情報発信を行うこ
との検討
8‘
自主的避難
在宅避難情報
10・11
臨時宿泊所
等情報
民間等
中心
 自治体職員のICT
リテラシの向上
25
8
公設避難所
設置情報
地震
情報
取り得る「備え」
の方策例
16
21
9
自治体
中心
 日頃からの住民と
の協力関係構築
(例:地域の住民
組織活用等)
学校・公共施設
等情報
15
臨時宿泊所
等情報
民間等
中心
 情報収集ツールの
確認・再検討
20‘
ボランティア
給水・炊き出し
情報
12
14
19
交通機関
情報
電気・ガス等
復旧情報
店舗営業
等情報
22
ボランティア
申出・募集等
一週間
発災直後
情報提供実証アンケート結果の方向性
69
 情報発信の協力
を得る民間等対象
者の選定・必要な
事前協議等(情報
の正確性やプライ
バシへの配慮に
留意)
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