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第 Ⅰ 部 留学生別科日本語プログラムの概要

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第 Ⅰ 部 留学生別科日本語プログラムの概要
◆
第
Ⅰ
部
◆
留学生別科日本語プログラム
留学生別科日本語プログラムの
プログラムの概要
1.
外語大における
外語大 における留学生
における 留学生教育
留学生 教育の
教育 の 位置づけ
位置 づけ 1
神田外語大学は 1987 年、関東地区の私立では唯一の外国語学部単科大学
として千葉県の幕張新都心に開学した。2010 年現在、学部には、「英米語学
科」、「中国語学科」、「スペイン語学科」、「韓国語学科」のほかに、タイ語・
インドネシア語・ベトナム語・ポルトガル語の4カ国語と英語と同時に専攻
語として学習できる「国際言語文化学科」、言語能力だけでなくコミュニケー
ション能力とコンピュータ操作能力を総合的に備える「国際コミュニケーシ
ョン学科」の6学科が開設され、3,582 人の学生が在籍している。
外国語学習を通して将来国際舞台で活躍したい外語大生の中に、自分の専
攻する言語(専攻語)以外に、フランス語、イタリア語、アラビア語、ロシ
ア語、ドイツ語などを選択外国語科目として履修したり、「日本語教員養成プ
ログラム」に入り、日本語の教授法や教育理論を学んだり、また、卒業後日
本語学・日本語教育学専攻の大学院プログラムへの進学を希望する学生がい
る。しかし、多くの学生にとっては、4年間の在学期間中、条件がそろえば
国外留学を是非経験したいというのが現状である。
このような背景をもとに、留学生別科(以下「別科」と略す)は 2000 年 9
月に開設され、学部生の国外留学を促進するために外国人留学生を受け入れ、
神田外語大学の日本語教育が正式に発足した。定員は 50 名でスタートした
が、2010 年現在 65 名の定員で交換留学生と交換協定校からの推薦留学生を
受け入れている。
(1)交換留学生:
神田外語大の学部生が学内の「海外留学制度」を利用し、交換留学
を提携した大学へ留学する場合、先方大学から原則として同じ条件
で学生を神田外語大へ派遣し、別科に配属する。交換留学生は 4 月
と 9 月に入学ができ、別科正規の一年間日本語プログラムを修了し
たあと帰国し母校で勉強を続ける。
(2)推薦留学生:
上記 (1)交換留学生とは別に神田外語大学の交換協定校が推薦する
私費留学生を受け入れる。留学中の費用を個人で負担する以外、在
籍中の扱いは上記交換留学生と同様である。
1
第 I 部での紹介は神田外語大学留学生別科( 2006)の一部を更新、修正したものであ
る。また、ファンほか( 2007)、ファン編( 2009)も参考にしている。
- 13 -
2.
海外交換協定校
学部生のほとんどは英語を専攻しているため、交換協定校も英語圏、また
は英語を媒介語として授業を受けられる地域が圧倒的に多い。別科発足時か
ら継続的に交換留学生を派遣する大学は、アメリカのミネソタ州立大学ムー
アヘッド校、ノースセントラル大学、フロリダ国際大学や、ニュージーラン
ドのオークランド工科大学や、韓国の韓国外国語大学校、蔚山大学校や、フ
ィンランドのユバスキュラ大学や、デンマークのオーフス大学などがある。
2001 年より国際言語文化学科の新設に伴い、タイ、インドネシア、ベトナム、
ブラジルなどの大学との交換が開始し、いわゆる環太平洋地域の留学生が増
えつつある。2005 年秋はスペインのバルセロナ自治大学、2006 年春は台湾
の文藻外語学院と静宜大学からの交換留学生を受け入れるようになり、学部
6学科はすべて交換協定校を有することが実現された。
次の表1では、神田外語大学と海外の大学との学術交流と交換留学協定等
の歴史をまとめた。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
西暦
1998
1999
1999
1999
1999
2000
2000
2000
2000
2001
2001
2001
2001
2001
2001
2001
2001
2002
2002
2002
表 1: 海外の
海外の大学との
大学との学術交流
との学術交流・
学術交流・交換留学協定等の
交換留学協定等の歴史
月
9
2
2
11
12
3
4
4
4
1
3
4
4
6
7
8
8
3
3
4
大学名
エセックス大学
ミネソタ州立大学ムーアヘッド校
オークランド工科大学
フロリダ国際大学
韓国外国語大学校
蔚山大学校
ノースセントラル大学
オーフス大学
ユバスキュラ大学
北京語言大学
上海交通大学
北京第二外国語学院
天津外国語学院
首都師範大学
慶熙大学校
コンコーディア大学
アトマジャヤ大学
ベトナム国家大学ホーチミン市
人文社会科学大学
ベトナム国家大学ハノイ人文社
会科学大学
ダートマス大学
- 14 -
交換 推薦
国・地域 学術
交流 留学 留学
イギリス
○
アメリカ
○
ニュージーランド
○ ○
アメリカ
○ ○
韓国
○ ○
韓国
○ ○
アメリカ
○
デンマーク
○ ○
フィンランド ○ ○
中国
○
中国
○
中国
○
○
中国
○
中国
○
韓国
○ ○
アメリカ
○
インドネシア ○ ○
ベトナム
○ ○
ベトナム
○
アメリカ
○
21
22
23
24
25
26
27
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30
31
32
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34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
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46
47
48
49
50
51
2002
2002
2002
2003
2003
2004
2004
2004
2004
2004
2005
2005
2005
2005
2005
2005
2005
2005
2005
2005
2006
2006
2007
2007
2008
2009
2009
2009
2009
2009
2010
5
7
12
3
10
4
6
7
9
10
1
3
4
5
5
6
7
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2
2
10
10
10
3
6
8
9
9
11
漢陽大学校
ペルージャ外国人大学
ブラパー大学
インドネシア国立芸術大学デン
パサール校
ジュイス・デ・フォーラ連邦大学
トンプキンス・コートランド・コミュニティカレッジ
アイオワ大学
アワ・レディ・オブ・ザ・レイク大学
チェンマイ大学
バース・スパ大学
アルカラ大学
アルゴマ大学
ハノイ大学
バルセロナ自治大学
文藻外語学院
金剛大学
ワッカムコミュニティカレッジ
静宜大学
グアダラハラ大学
コンコーディア大学 アーバイン校
セントラルランカシャー大学
グアダラハラ自治大学
中国文化大学
マディソン地域工科大学
クイーンズランド工科大学
リア外国語大学
国立ラプラタ大学
ハイラインコミュニティカレッジ
ロンドリーナ州立大学
上海大学
マドリード自治大学
3.
IES 全米大学連盟東京留学センター
全米大学連盟東京留学 センター
韓国
イタリア
タイ
インドネシア
ブラジル
アメリカ
アメリカ
アメリカ
タイ
イギリス
スペイン
カナダ
ベトナム
スペイン
台湾
韓国
アメリカ
台湾
メキシコ
アメリカ
イギリス
メキシコ
台湾
アメリカ
オーストラリア
インドネシア
アルゼンチン
アメリカ
ブラジル
中国
スペイン
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○
○
○
○
○ ○
○ ○
○ ○
○
○
○ ○
○
○ ○
○ ○
○ ○
○ ○
○ ○
○
○ ○
○
○ ○
○ ○ ○
○ ○
国際交流課資料より
(正式名称 “Institute for the International Education of Students”、
または、「IES 全米大学連盟」)は 1950 年アメリカ・シカゴに Institute of
European Studies として発足した非営利的な海外留学派遣組織である。
2011 年現在 19 カ国 34 の都市に約 95 のプログラムを運営しており、全米
200 校を越える加盟大学の協力を得て、学生を世界各国に送り出している。
「IES 全米大学連盟東京留学センター」(通称、「IES 東京センター」)は、
世界 19 カ国にある IES センターの一つとして、全米の大学生を対象に「IES
IES
- 15 -
東京プログラム」を運営している。このプログラムは「日本語」、「日本地域
研究」、「日本社会組織研究&社会体験」の3領域に分かれ、授業は協定先で
ある神田外語大学で行われている。留学生別科は正規の別科生と別に「IES
日本語プログラム」を新たにデザインし、IES 東京センターを通して来日し
たアメリカ人大学生に日本語教育を提供している。
IES 日本語プログラムの履修者は別科発足前の 2000 年春学期では 16 名だ
ったが、その後毎学期学生数が増加し、2005 年秋学期では 64 名に上った。
2006 年より明海大学と2つに分けて受け入れる体制が整い、近年の神田外語
大学の平均受講者数は 30 名から 40 名程度である。2010 年秋学期はペンシ
ルバニア州、ワシントン州、インディアナ州を中心とした 23 校からの学生
41 名を受け入れた。
4.
受講生
上で述べたように、別科では海外交換協定校と IES 東京センターを通して
毎年春と秋2回留学生を受け入れている。2010 年度の別科プログラムを受講
した留学生は以下の表2と表3でまとめた通りである。
表 2:
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
12
13
14
15
2
国(地域)別
アメリカ
韓国
台湾
タイ
イギリス
インドネシア
デンマーク
フィンランド
ブラジル
ベトナム
ニュージーランド
メキシコ
スペイン
香港
合計
2010
年春学期受講生数
交換生プログラム
人数
%
8
9
9
5
4
3
2
2
2
2
2
2
1
0
51 2
15.7%
17.6%
17.6%
9.8%
7.9%
6.0%
3.9%
3.9%
3.9%
3.9%
3.9%
3.9%
2.0%
0.0%
100.0%
IES 生プログラム
人数
%
26
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
28
92.8%
3.6%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
3.6%
100.0%
国際交流課資料より
本学期は、これ以外に 6 名の韓国からの交換留学生は日本語能力試験 1 級に合格した
ため、別科所属ではなく、特別聴講生として学部の科目を履修していた。
- 16 -
表 3:
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
国(地域)別
アメリカ
韓国
台湾
タイ
インドネシア
ブラジル
ベトナム
イギリス
スペイン
中国
ニュージーランド
メキシコ
ウクライナ
フィンランド
リトアニア
香港
ロシア
合計
2010
年秋学期受講生数
秋学期受講生数
交換生プログラム
人数
%
IES 生プログラム
人数
%
12
18.5%
36
87.8%
17
26.2%
2
4.9%
8
12.3%
0
0.0%
5
7.7%
0
0.0%
4
6.2%
0
0.0%
3
4.6%
0
0.0%
3
4.6%
0
0.0%
2
3.1%
0
0.0%
2
3.1%
0
0.0%
2
3.1%
1
2.4%
2
3.1%
0
0.0%
2
3.1%
0
0.0%
1
1.5%
0
0.0%
1
1.5%
0
0.0%
1
1.5%
0
0.0%
0
0.0%
1
2.4%
0
0.0%
1
2.4%
65
100.0%
41
100.0%
国際交流課資料より
まとめると、次のようになる。
2010 春学期: 合計 15 カ国・地域の 79 名(交換生:51 名;IES 生 28 名)
2010 秋学期: 合計 17 カ国・地域の 106 名(交換生:65 名;IES 生 41 名)
5.
別科日本語
別科 日本語プログラム
日本語 プログラムの
プログラム の 目標:
目標 :「インターアクション
「 インターアクションのための
インターアクション のための日本語
のための 日本語」
日本語 」
別科の留学生は国内の日本語学校に多く在籍している進学希望の留学生と
異なって、半年または1年間という短い日本語のプログラムを終えてから帰
国することになっている。彼らの留学目的は日本語学習ではあるのだが、中
には次のようなタイプの学生が少なくない。
(1)日本語が主専攻・副専攻ではない人
(2)日本語をまったく学習した経験のない人
(3)短期留学が終わってから日本語の勉強を続けるつもりのない人
学力も学習環境も整っているが、日本語学習が必ずしも唯一の留学目的で
はないこうしたタイプの留学生に対して、彼らにふさわしい日本語のプログ
ラムをデザインする際にどのようなことが最優先されるべきであろうか。
- 17 -
ネウストプニー
れている。
(1995)
では新しい日本語教育の方向性が次のように描か
「現代社会における日本語教育は、語学教育だけでは十分ではない。インタ
ーアクション教育でなければならない。(中略)つまり、私たちは、(1)単な
る語学(言語能力)から、 (2)コミュニケーション(言語能力プラス社会言
語能力)教育へ、またさらに広い (3)インターアクション(言語、社会言語
および社会文化能力)教育へと移行してきたわけである」(ネウストプニー
1995:10-11)
本別科の日本語プログラムの基本理念は、ネウストプニーの提唱する「イ
ンターアクションのための日本語教育」に基づいている。具体的には、日本
語が場面の主要言語である場合、日本語母語話者とのコミュニケーションを
行うのに必要な学習者のインターアクション能力を促進させることを最終目
標としている。
この目標に向かって現場での教育実践と平行に、理論研究も積極的に行わ
れてきた。
まず、教育実践の方は、インターアクション教育を目指す「実践日本語」
というコースの開発と実施を挙げることができる。このコースの開発に当た
って、ネウストプニーらの主張する言語管理理論を柱とし、言語問題を「訂
正過程」と見なし、「解釈」、「練習」、「実際使用」といった一連のプロセスに
よって実現されることを教育理念の中心とする。この教育理念をもとに、特
定の教科書にこだわるのではなく、教授者があらかじめ教育目標を学習段階
ごとに設定し、まとまりのあるトピックを洗い出し、教室で十分に学習者に
練習・理解させたあと、そのトピックにふさわしい実際使用場面をデザイン
して、実施する。実践日本語の方針は特に次の3点によって特徴づけられる。
(1)対象言語の適切な習得、使用には社会、文化に関する知識も不可欠
であるという理念のもと、言語知識のみならず言語文化、社会文化の
領域も学習対象に組み込んでいる。
(2)日本の社会、文化に関わる比較的大きなトピックを設定し、より実
際的な場面での日本語運用能力の向上を目指す。
(3)教師主導型の硬直化した教授スタイルを廃し、日本人ビジターを教
室に招く、あるいは日本人家庭や地域社会と積極的に交わるなど、日
本人とのインターアクションを 重視 する。
インターアクション教育についての研究は留学生別科が設 立 されて 以来 、
- 18 -
任講師、非常勤講師による共同研究が継続的に行われて
きた。いままで 完了 された 共 同研究プロ ジェ クトは 以下 の通りである。
別科長をはじめ、専
1
)研究課題:「留学生支援システム構築のための International Encounter Group
の可能性」
神田外語大学異文化コミュニケーション研究所共同研究費
研究代表者:サウクエン・ファン(同研究所研究員)
共同研究者:堀内みね子、徳永あかね、高崎三千代( H13);堀内みね子、
徳永あかね( H14,15)
研究期間: 平成 13 年度~ 15 年度 研究経費: 950,000 円
研究成果: 『留学生支援システム構築のための International Encounter
Group の可能性 研究成果報告書』(共著、 2004 年刊行済)
http://www.kuis.ac.jp/icci/publications/pj_results/ieg.htm
2
)研究課題:「外語大における多文化共生 ―留学生支援の実践研究」
神田外語大学異文化コミュニケーション研究所共同研究費
研究代表者:サウクエン・ファン(同研究所研究員)
共同研究者:遠山千佳、徳永あかね、堀内みね子、村上律子
研究期間: 平成 16 年度 研究経費: 500,000 円
研究成果: 『外語大における多文化共生 ―留学生支援の実践研究 研究
成果報告書』(共著、 2005 年刊行済)
http://www.kuis.ac.jp/icci/publications/pj_results/ssp.htm
)研究課題:「留学生別科における日本語教育のカリキュラム開発」
佐野学園特別研究補助金
研究代表者:サウクエン・ファン
共同研究者:菊池民子、倉持益子、遠山千佳、徳永あかね、村上律子
研究期間: 平成 17 年度 研究経費: 500,000 円
研究成果: 『外語大における日本語教育の実践:留学生別科開設5周年
を記念して』(共著、 2006 年刊行済)
4)研究課題:
「短期留学日本語プログラムのためのハンドブック:アクティビテ
ィーから考える日本語クラスのデザインと実施」
神田外語大学研究助成(共同研究費)
研究代表者:サウクエン・ファン
共同研究者:稲葉和栄、菊池民子、倉持益子、徳永あかね、中川康弘、
村上律子、吉田千春
研究期間: 平成 18 年度~ 19 年度 研究経費: 1,200,000 円
研究成果: 『アクティビティーから考える日本語クラスのデザインと実
施 研究成果報告書』(共著、 2007 年刊行済)
3
- 19 -
5
)研究課題:「インターアクションのための日本語教育:実践日本語におけるシ
ラバスデザインの理論と実際」
神田外語大学研究助成(共同研究費)
研究代表者:サウクエン・ファン
共同研究者:上原由美子、菊池民子、細井和代、 Rabinder Malik、
中川康弘、村上律子、吉田千春
研究期間: 平成 19 年度~ 20 年度 研究経費: 1,500,000 円
研究成果: 『インターアクションのための日本語教育:実践日本語にお
けるシラバスデザインの理論と実際 研究成果報告書』( 共著、
2009 年版行済)、 『異文化コミュニケーション研究 特集』第
21 号、(共著、 2009 年刊行済)
http://www.kuis.ac.jp/icci/publications/kiyo/21.htm
6.
カリキュラムの
カリキュラム の 特徴
ゼロからスタートした本別科は、教える側の教員達にとっても現実的、か
つ 充 実した日本語教育の現場を目指して、実践と研究を 繰 り 返 し 試み る場で
あった。カリキ ュ ラム ・デザ インに関しては特に 次 の 点 を 心掛 けている。
総
平行して、スキル別およびアプローチ別にも科目を設定し、
多 角 的な日本語学習を促すこと。
日本語プログラムは一般に、国内国外を 問 わ ず 、いわ ゆ る 統 合的な
(integrated) 、または 直線 的な (linear) カリキ ュ ラム ・デザ インを 採用 す
ることが多い。つまり、時間の 軸 で学習者の日本語 総 合 能 力を 積み上 げ
る方 式 である。本別科では、ま ず 日本語科目を 必修 と 選択必修 の2 種類
に大きく分けるが、この2 種類 は学習のアプロー チ に 違 いがある。 必修
日本語は「インターアクションのための日本語」の基 礎 を学習すること
を目的としており、スキル別に「日本語 演 習」、
「会 話 」、
「 漢字 」、
「 CALL」
に 細 分化し、 そ れ ぞ れの 授 業を通して学習者の日本語文 法読解能 力、会
話能力、語彙能力、コンピュータを通しての日本語学習能力を養う。一
方、選択 日本語では、ネウ ストプ ニ ー (1995)の 主張 する「 ジャパ ン・リ
( 1) 合科目と
テラシー」という日本語教育理念をもとに、インターアクションの目的
能力強化科目群、社会言語能力強化科目群、社会文化能
力 強 化科目 群 、専 門能 力 強 化科目 群 の 4 本 柱 でインターアクション教育
を 徹底 することを目指している。
によって、言語
- 20 -
レースメントを徹底すると同時に、履修体制を柔軟に対応させ、現
実に合った日本語学習の 土台 を 整 えること。
毎学期授業開始前のオリエンテーション期間内、別科の主教材に基づ
いてプ レ ースメント ・ テストを 行 い、 レベ ル分けをする。 そ の 結果 、学
生は 7 つの 親 クラス に 配属 され、授 業を受ける。一方、学生の文化 背景
( 漢字圏 、非漢字圏等 )、スキル別の 能 力 差( 読み書 き 能 力、会 話能 力 等 )、
留学の目的(語学留学、異文化体験、進 学 等 )、在留期間(短期留学 後帰
国、日本で 進 学 等 )、日本語学習の目的(自 由選択 、専 門 科目 等 )などの
要素も考慮し、2週間の科目履修登録の猶予期間を設ける。猶予期間中、
個別面談、再試験により履修指導を行い、日本語学習の土台を整える。
( 2)プ
3
室の環境を実現させ、教室活動の活性化を図ること。
大学との交換協定で入学する「交換生」はさまざまな国や 地域出身 で
ある一方で、
「 IES 生」はす べ てアメリカから 来 日している。これら異な
る文化 背景 を 持 つ学習者間で生まれるクラス・ダ イ ナミ ックスの 効果 は、
日本語に 限 ら ず 、 第 2言語習 得 の実践からすでに指 摘 されて 久 しい。別
科では学生の 所属 プログラムにこだわら ず 、交換生、 IES 生が 共 通して
履修できる科目をあらかじめ設定し 、多文化教室の環境を実現させ、教
室活動の活性化を図る。
( 3)多文化教
4
( 4 )外語大という学習生活
環境を体系的に取り入れることによってシラバ
充実させること。
英語を始め、さまざまな外国語を専攻して国際交流に興味を持つ一般
学生が 身 近にいるだけでなく、外国語学習の設 備 が 整 っているという外
語大特 有 の 環境 を留学生の日本語学習に 役立 てている。しかしながら、
大学の組織 上 、別科は大学の 他 部 署 との 連携 がないため、体 系 的に一般
学生と交流できるような体制を 整 えておかなければ自 然発 生的な交流を
期 待 することはできない。 そ のため 地域 交流を促 進 し、 維持 することに
より、別科と学内 他 部 署 との人的 ・物 的な交流基 盤 のもとに、留学生と
一般学生との 個 人 ネ ット ワ ーク 作 りが促されるような 仕 組 み を構 築 した。
スを
3
4
週4コマの「日本語演習」になる。詳しくは第7節「科目紹介」で後述する。
「実践日本語」は IES 生の必修科目だが、交換生にも開放している。また、「社会学」、
「社会言語学」、「大衆文化」、「現代史」などの社会文化能力強化科目も IES 生の履修が
認められている。
- 21 -
徴を日本語学習環境の一部として取り入れることに
より、学部生や 地域 住民とのインターアクションを 可能 にした。これに
より、 従来 の文 法説明 、 練 習といった教 室 活動から一歩 進 んだ「実際使
用場面のアクティビティー」の実施をシラバスへ取り入れることを可能
こうした外語大の特
としている。
ュラムが修正できるようなシステムを試みること。
日本語プログラムの受入れ学生の種類や人数は世界情勢と日本国内外の言
語政策に左右されやすい。これは、カリキュラムをデザインする際に無視で
きない点である。さらに、契約制による教員の異動や、時代に伴う教授法・
言語教育理念の変遷や、教材の多元化なども、カリキュラムの計画立案者は
常に視野に入れておかなければならない。別科では各科目について運営の方
針、科目の概要、履修の細目を明文化し、プログラム参加者である運営者、
教授者、学習者の全員が共有できるようにすると同時に、参加者からのフィ
ードバックを受け取るシステムを設ける。これによって、科目の新設や廃止、
レベルの調整を始め、解決すべきことについて解決法を見出し、すぐに解決
できない問題への対処を考えるという、現実に合ったカリキュラムの軌道修
正を行っている。具体的には、別科科目を担当する教員を対象とした、プロ
グラムの開始時期、中間、終了の各段階で実施する会議、報告、反省会の他、
教員研修ワークショップを実施している。また、学習者を対象としたもので
は、個人面談、進路・進学相談、生活相談の他、学習者側からの授業に対す
る評価として、学期末アンケートを実施している。
( 5)カリキ
7.
科目紹介
秋学期現在の別科開講科目は、必修科目と選択科目とに大別される。
必修科目は「日本語 演習」、「会話」、「漢字 」、「 CALL (Computer Assisted
Language Learning)」の 4 科目合 計週8コマ から 成 る。選択 科目はさらに 各
科目の学習目的別に関 連 科目をまとめた 4 つの科目 群「言語 能 力 強 化科目 群 」、
「社会言語 能 力 強 化科目 群 」、「社会文化 能 力 強 化科目 群 」、「専 門能 力 強 化科
目 群 」から 成 る。 そ れ ぞ れの科目 群 はさらに レベ ルと内 容 別に 週1 、2 コマ
開 講 の科目で構 成 される。
なお、 2011 年度からは 必修 科目の 見直 しを 行 い、「日本語インターアクシ
ョン」、「日本語 演 習」、「 漢字 」の 3 科目 へ と変 更予 定である。
2010 年
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表4:
2010
年秋学期開講科目一覧
単位 各学期取 前期・後
科目名
数 得単位数 期合計
日本語演習基礎
3
日本語演習1-5
4
日本語演習6
2
必修科目
8 単位
16 単位
会話
2
漢字
1
CALL
1
プロジェクト
3
スキルアップ(自律学習
1.
A 、自律学習 B 、読解、
言語能力強化科目
聴解、文型、語彙、発音、 2
口頭表現、文章表現)
2.
6
社会言語能力強化科目 実践日本語
現代史
6 単位
12 単位
社会言語学
以上
以上
3.
2
社会学
社会文化能力強化科目 大衆文化
社会体験
日本語教育入門
4.
2
外国語教授法
専門能力強化科目
ビジネス・コミュニケーション
14 単位
28 単位
単位合計
以上
以上
2010 年度留学生別科パンフレットより
選
択
必
修
科
目
8.
8.1
運営体制
授業担当者
員兼任の別科長以下、准教授1名、専任講師5名と准専任
講師 1 名が配置されている。別科科目の授業のうち、日本語関係は別科専任
教 員 と 非 常 勤 の教 員 が 担 当しており、社会文化 能 力 強 化科目(日本事情科目)
は 主 に学部 所属 の教 員 が 担 当している。
別科には学部教
8.2
事務担当者
手続きを担当する部門は教務部国
際交流課におく。外国語学習や海外経験のある専 門職員 が実務だけでなく、
留学生が 心 おきなく 勉 学に 励 むことができるように 授 業 以 外、生活全般に関
しても様々な 相談 に 応 じる。
学生の入国から入学までさまざまな事務
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8.3
別科の
別科 の 内部組織
別科の
各日本語プログラムの運営に当たって、次の 3 つの運営体制が組織
行われている。
(1) レベ ル ・コ ー デ ィ ネ ーター( 担任 )
上で述べたように、正規の別科生はオリエンテーション期間に行われ
るプ レ ースメント ・ テストの 結果 によって 7 つの レベ ルに分けられ、
週4回の「日本語演習」を担当する教師が該当クラスの学生の担任に
なる。 担任 はす べ て専 任 教 員 が自分のクラスにいる学生の事情を 把握
し、 必要 に 応 じて同じ レベ ルの ほ かの関 係 者に 連絡 を 取 る。
され、
コーディネーター
第7節で紹介した各科目群に1名のコーディネーターが配置され、同
じ科目 群 にある レベ ル間 ・ 科目間の 調整 を 行 う。 レベ ル ・コ ー デ ィ ネ
ーターをつとめるクラス 担任 は 横 の ネ ット ワ ークを 結ぶコ アと 考 えれ
ば、科目 コ ー デ ィ ネ ーターは 縦 の コミュニケ ーションを 図 る 役割 を 果
(2) 科目
たす。
(3) 業務
コーディネーター
2011 年より日本語教育の現場をサポートする目的で別科専
記の業務範囲を確定し、分担する。
( 1) 主任
( 2)交換プログラム コ ー デ ィ ネ ーター
( 3) IES プログラム コ ー デ ィ ネ ーター
( 4)メ デ ィア コ ー デ ィ ネ ーター
( 5)学習支援 担 当
( 6)教 室 支援 担 当
( 7) 地域 交流 担 当
8.4
別科の
別科 の 運営
別科は
次のような定期会議によって運営される。
- 24 -
任 教 員が 下
1
2
3
表5: 別科の
別科の運営体制
会議名
運営会議
開催者
メンバー
別科長 別科長、専任全員(准教授、専
任講師、准専任講師)
学部教員による運営会議委員、
学部教員によるオブザーバー、
国際交流課スタッフ
人事委員会 別科長 別科長、教務部長、主任、
学部教員による運営会議委員
コーディネ 主任
ーター会議
4
専任会議
―
5
準備会議
主任
6
科目会議
科目コ
ーディ
ネータ
ー
7
8
9
引き継ぎ会 主任
議
カリキュラ 主任
ム会議
そのほか 別科長
招集・
招集・
資料手配
別科長
(国際交
流課経
由)
会議
スケジュール
学期中毎月1
回(前期後期
合計9回)
別 科 長 随時
(国際交
流課経
由)
交換プログラムコーディネーター、 主任
原則として週
IES プログラムコーディネーター、
1回開催
(議題によってほかのコーデ
ィネーターも出席)
専任全員
持ち回り 毎週月曜日4
限(運営会議
の週を除く)
授業期間外は
必要に応じて
臨時会議開催
別科長、教務部長、専任全員、 主任
春: 3 月末
非常勤講師全員、国際交流課ス
秋: 8 月末
タッフ、IES センタースタッフ、
補佐
関係する専任、非常勤、(別科 科目・業 必要に応じて
長、主任、プログラムコーディ 務コーデ 学期中または
ネーターは任意参加)
ィネータ 学期末開催。
ー
1科目につ
き、1学期2
回まで。
別科長
プログラ 原則として 2
主任
ムコーデ 月上旬
関係する専任、非常勤
ィネータ
ー
専任全員
議題提案 不定期的
(別科長は任意参加)
報告者
必要に応じて、教務部長、国際 別科長 不定期的
交流課長、主任、IES センター
長、学部関係者と会議を開催
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参考文献
神田外語大学留学生別科 (2006). 外語大に於ける日本語教育の実践―留学生
別科開設 5 周年を記念して 神田外語大学共同研究プロジェクト 研究
成果報告書(研究代表者 S. K. ファン)
ネウストプニー、 J. V. (1995). 新しい日本語教育のために 大修館書店
ファン、 S. K. ほか (2007). アクティビティーから考える日本語クラスのデ
ザインと実施 研究成果報告書(研究代表者 S. K. ファン)
ファン、 S. K. (2009). 序 接触場面とインターアクションに基づいた日本語
教育の試み 異文化コミュニケーション研究, 21,神田外語大学異文化
コミュニケーション研究所, 1-5.
ファン、 S. K.編 (2009). インターアクションのための日本語教育:実践日本
語におけるシラバスデザインの理論と実際 神田外語大学共同研究プロ
ジェクト研究成果報告書(研究代表者 S. K. ファン)
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