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APPLICATION NOTES PUBLISHED BY INTERNATIONAL RECTIFIER, 233 KANSAS STREET, EL SEGUNDO, CA 90245,(310)322-3331 AN-984J IGBT の短絡保護 G. Castino, A. Dubashi, S. Clemente, B. Pelly 訳:アイアールファーイースト株式会社 要 約 IGBT の短絡耐量 短絡耐量の最も高い絶縁ゲート型バイポーラトランジ 図 1 は IGBT の短絡耐量を規格化するための試験回路で スタ(IGBT)は、一般に飽和電圧と動作損失が高くなり、 す。大容量コンデンサから供給する“固定”電圧を、被試 またその逆も成り立ちます。このアプリケーションノー 験素子のコレクタ・エミッタ間に直結します。 トでは、中程度の短絡耐量を持った IGBT が、システム全 体の強さに関して妥協することなく効率が高くコスト的 にも引き合う条件を満足しながら、負荷短絡に対し充分 低い繰り返しレートでゲートにパルス電圧を印加すると、 “負荷短絡”電流パルスが流れます。負荷短絡時間 tsc を素 子の破壊が起きるまで徐々に増やしていきます。ある一定 保護できることを示します。 のコレクタ・エミッタ間電圧、ゲート電圧、初期温度に対 する許容短絡時間は、こうして決まります。 この簡単な試験回路は、ある IGBT の短絡耐量に関する最 はじめに 初の評価が得られるので便利です。ただし、IGBT をラッチ アップに導く動作時の dv/dt が印加されないので、実際の IGBT はモータの速度制御装置、無停電電源(UPS) 、高周 応用での負荷短絡条件と完全には一致しません。より実際 波熔接機などに使用するバイポーラトランジスタやダーリ の状態に近い試験回路は後述します。 ントンの置き換えになります。IGBT を使うと、一般に同等 かより低い電力損失、より高い動作周波数、駆動回路の単 この負荷短絡試験では、IGBT の様々なメーカや素子のタ 純化がはかれます。 イプによって結果が異なります。一般に、IGBT の飽和電圧 VCE(SAT)が高いほど許容負荷短絡時間が長くなります。 IGBTを使用したシステムは、大幅な小型化、効率の増大、 バイポーラトランジスタより遥かに良好な動特性が得られ 異なるタイプの IGBT に対する許容負荷短絡時間を図 2 に ます。 示します。このデータは、実用上の最小値に近い通常の方 和電圧を保つのに充分なゲート電圧が印加されるものとし、 このような利点を可能にする IGBT の特性を活かすのに、 短絡期間中も同じゲート駆動電圧が保持されています。 新たな設計上の考え方が必要になります。効率を最大にす るように設計した IGBT は比較的高い利得を持つので、回路 短絡電流はバイポーラで観測される値より相当大きくなり ます。従って、回路短絡時の IGBT の電力密度は、バイポー ラトランジスタよりもかなり高くなり得ます。 通常の負荷条件での電力損失が最小になるように設計し た IGBT は、バイポーラトランジスタである以上継続的な負 荷短絡を処理することができません。つまり、IGBT は事故 時の過酷な条件に対する裕度を内在的に持っているわけで 図1 はないので、“鋭敏な”保護回路を必要とします。 1 一般的な IGBT の短絡試験 図2は飽和電圧の代表値が2V以下のIGBTの許容負荷短絡 時間が 5μs 以下であることを示しています。飽和電圧が 4 ∼ 5V の IGBT では 30μs 台の負荷短絡時間を有します。 (こ れは代表的なバイポーラトランジスタと同じ位です。しか しここでの飽和電圧はバイポーラより高くなります。 ) 過電流保護に対するシステムの考察 異なるタイプの過電流条件が実際の応用では存在します。 最もありふれたタイプの過負荷は、モータの起動時、フィ ルタのインラッシュ電流、負荷の瞬間的変化などです。 それに対応するため素子自体の短絡耐量に頼って、こう した状況で起きる“厳しい力”に対処することは、普通ト 図2 ランジスタ(いかなる種類でも)では実現できません。こ 代表的 IGBT の短絡耐量対飽和電圧 V CE(sat) の種の過負荷は、普通トランジスタ自身の短絡耐量で規定 される時間より相当長く続きます。過負荷は他の手段によ て強固な保護回路を用意することです。この回路は本物の る適正な制御で止める必要があります。 スイッチングの瞬間に変更を加え、出力電流を規定のレ 事故に対しては信頼性の高い保護機能を持ち、スパイクや “誤動作によるアラーム”に対しては反応しないようにする 必要があります。 ベルまで“引き戻す”ために駆動パルス・タイミング信号 に働き掛ける閉ループ制御を普通使います。この制御ルー プの応答は、普通モータやフィルタのインダクタンスで制 限を受ける電流変化率に遅れないようにする必要があり、 IGBT の短絡時間を引き伸ばす それが唯一の要件です。 飽和電圧が最小の最も高率の良い IGBT は、一般的に 5μs この種の過負荷は、上記のように制御すれば IGBT を損な 以下の短絡耐量です。適正な安全余裕を見込めば、保護回 う恐れはありません。 路は最大でも1ないし2μs以内に応答するようにします。そ 第 2 に、地落や不注意から生じた端子間の短絡のような、 の一つに、図 3(a)の波形に示すように 2 秒後に完全にゲー “事故”による過酷で急激なタイプの過負荷があります。こ ト駆動を取り除くという方法があります。これは確かに こでの事故電流はモータやフィルタのインダクタンスをバ IGBT を保護しますが、1 ∼ 2μs の期間は一般的に真の事故 イパスし、トランジスタ内で大変急激に上昇します。 と“誤動作のアラーム”とを適正に識別するには短すぎま す。図 3(b)に示すように厄介なトリップが起きることにな 通常の PWM 制御ループは、このタイプの事故に対する保 ります。 護には無効です。保護は最初の瞬間からトランジスタの短 絡耐量に頼らねばならず、引き続き事故の高速センシング 回路短絡時間は、ゲート電圧を下げるという簡単な手段 を行ない、それが許容短絡時間以上持続するようなら駆動 で大幅に引き伸ばすことができます。図 4 に示すように、 電圧を遮断します。 ゲート電圧を下げると短絡電流は大幅に減少し、短絡時間 はそれと反対に増加します。 “事故状態”が過渡的なもので、素子の許容短絡時間に達 する以前になくなるならトランジスタは導通状態のままに もちろんゲート駆動電圧を減らせば、通常の導通状態で しておくべきであり、ターンオフさせるのは不必要で“厄 は許容できないほど V CE(sat)は増加します。 介な”トリップを引き起こすだけです。 目的は“短絡”が生じた時だけゲート駆動電圧を減らす ダイオードの逆回復電流は、無視しても良い過渡的な過 ことです。これを図 5(a,b)の動作波形で図示します。こう 電流の例です。 して短絡期間は“引き伸ばされ”て“事故検証”期間も延 長し、その期間の終わりに事故状態がまだ存続しているな 図2のIGBTの特性によれば、回路設計者の仕事は、VCE(sat) ら IGBT をターンオフする必要があります。 が最小つまり tsc が最小(但し効率は最高)の IGBT に対し 2 図 3 に示した IGBT は、15V のフルゲート駆動電圧で短絡 時間が約 5μs、10V のゲート駆動電圧ではおよそ 15μs で す。ですから、事故を検出したらすぐゲート電圧を 10V ま で下げれば、 “事故検証”期間を約 10μs まで延長でき(約 5 μs の安全余裕を許容し) 、過渡的な事故状態と誤動作に よるアラームを“排除”する充分な時間が得られます。動 作については図 5 の波形に図示します。 事故状態が 10μs 以上続いたら、IGBT をターンオフしま す。その時間以内に事故状態が解消したら通常のフルゲー ト電圧を再印加し、ほとんど何事もなかったように動作が 続行します。 表4 ゲート電圧 V G' 短絡回路電流 ISC' および短絡耐量の一般的な関係 (IRGPC40F) IGBT の保護方法(手法 2) IGBT の保護方法(手法 1) λ 通常では全ゲート電圧を印加しておく λ 通常では全ゲート電圧を印加しておく λ 事故が起きたら急速にゲート駆動電圧を遮断する λ 事故が起きたら急速にゲート駆動電圧を下げる λ ディレー時間の後、事故が続いているならゲート 駆動電圧を遮断する 図 3a 通常の導通損失が最小に なる。高速事故電流遮断 図 5a 通常の導通損失が最小になる。 事故電流が減少する。遅延型事 故電流遮断 図 5b 過渡的な事故状態の面倒な遮断 が防げる 図 3b 過渡的な事故状態でも面倒 な遮断が起きる 3 図 7 のように、およそ 100μs の入力オンパルスを被試験 実際の保護回路 素子の駆動/保護回路に印加します。このオンパルスのほ 保護回路の機能を表す回路を図 6 に示します。通常の導 ぼ中間で、ある制御された期間負荷を短絡する大型の IGBT 通期間では IGBT の飽和電圧は基準電圧 Vref 以下です。コ への駆動パルスを印加します。 ンパレータの出力は Low で、小型 MOSFET Q1、Q2 はオフし こうなると、保護回路はただちに反応し被試験素子ゲー ています。IGBT のゲート駆動電圧には変化がありません。 ト電圧を下げる働きをします。タイマーがタイムアウトす 過負荷が発生すると IGBT のコレクタ・エミッタ間電圧は る以前に事故状態からの復帰があれば、フルゲート電圧を Vref 以上に上昇し、コンパレータの出力は High になりま 再印加しますが、その状態がさらに続くならタイマーの時 す。これによりタイマーが起動すると共に、Q2 がターンオ 間切れが来た時点でゲート電圧を止めます。 ンして IGBT のゲート電圧をゼナー電圧 Vz まで減らします。 タイマーで規定された時間以前に事故状態が解消すると コンパレータの出力は Low になり、Q2 がオフすることに 試験結果 よってフルゲート電圧が再印加され通常動作が続行します。 図8から図13の波形は、保護回路の性能を表しています。 事故がタイマーで決まる時間を過ぎても続いていると、 図 8 では 110μs 幅で約 40A の通常電流パルス、および導 タイマーの出力は High になって Q1 がオンし、IGBT のゲー 通期間の中央部で発生した約 10μs 幅の負荷短絡が重畳し ト電圧が無くなってオフします。 ています。負荷短絡電流は初め約 220A まで上昇しますが、 保護回路の働きで約 60A まで急速に引き戻されます。この 例では、ゲート電圧は約 8V まで引き下げられています。約 保護回路の性能 10μs の後、負荷短絡はなくなり電流は通常負荷の値に戻 り、被試験 IGBT にはフルゲート電圧が再印加されます。 試験回路 図9は図8の電流波形に対応したコレクタ・エミッタ間電 図 6 の保護回路を米 IR 社の IRGPC40F 型 IGBT で試験しま 圧です。電源電圧はおよそ 370V です。 した。図 4 に示すように、この IGBT は Vcc=350V、VGE=15V の 負荷短絡が発生すると、IGBT に加わる電圧は電源電圧と ときの短絡耐量は約 5μs です。 同じ高さまで上昇します。事故状態がなくなると IGBT 電圧 図 7 に保護回路の動作を評価するのに使用した試験回路 は通常の導通電圧まで落ち込みます。 全体を示します。 図6 図7 IGBT 用短絡保護機能付き駆動回路図 4 IGBT 用負荷短絡試験回路 図8 過渡的な事故電流が重畳された負荷電流 (IRGPC40F) 図9 被試験素子(IRGPC40F)に過渡的な 事故電流が重畳された時のコレクタ・ エミッタ間電圧波形 図 10 過渡的な回路短絡時に予想される短絡 電流(ゲート電圧の低減がない場合) (IRGPC40F) 図 11 過渡的な回路短絡時にゲート電圧を 15V から 8 V に低減した時の実際の事故電流。ゲート 電圧低減なしの場合の予想電流を併記。 (IRGPC40F) 図 12 過渡的な回路短絡時にゲート電圧を 15V から 10V に低減した時の実際の事 故電流。ゲート電圧低減なしの場合の 予想電流を併記。 (IRGPC40F) 図 13 過渡的な回路短絡時にゲート電圧を 15V から 8V に低減した時の実際の事故電流。ゲート電 圧低減なしの場合の予想電流を併記。回路短 絡は恒久的で 10μs 後に駆動を遮断。 (IRGPC40F) 5 ソフト・ターンオン 図 10 は“予想される”負荷短絡電流です。これは保護回 路の働きを止め、事故期間中もゲート電圧を 15V に保ち続 ダイオードクランプ付きの誘導性負荷で IGBT がターン けたとき IGBT を流れる事故電流です。 オンした際の尖頭ダイオード逆回復電流は、 ターンオン時 負荷短絡電流のピーク値は約280Aです。 印加される負荷 のゲート駆動電圧に制限を加えることで抑えることができ 短絡の時間幅は、15Vのゲート電圧でのIGBTの短絡耐量を ます。 超えないよう約 5 μs に狭められているのに注意して下 この方法を使うと全ターンオンエネルギーが増加するの さい。 は避けられませんが、望ましい場合がよくあります。 図 11 は、図 8 および 9 とほぼ同一条件で時間幅を広げた この効果を証明する試験回路を図14 に示します。IGBT の ときのゲート電圧とコレクタ電流です。予想される短絡電 ゲート駆動回路は、全駆動電圧に立ち上げるまえにターン 流と比較して、保護回路の極めて効果的な電流制限動作に オンの初期 1 ∼ 2μs の間ゲート電圧を制限する装置を持ち 注目下さい。 ます。 図 12 は図 11 に似た事故状態での波形ですが、事故期間 図 15 はゲートに 15V を印加してターンオンしたときの のゲート電圧の低減を 10V にしています。 IGBT の電圧電流波形です。ダイオードの尖頭逆回復電流は 図13は負荷短絡の時間が保護回路の制限時間を超えた時 およそ 100A になり、IGBT の全ターンオン電力損失は 22mJ の保護回路の動作です。制限時間の終わりにゲート電圧が です。 止められています。 図 16 はゲート駆動電圧を最初の 2μs を 10V で加え、その 後 15V にステップアップしたときの同様な波形です。ダイ オードの尖頭逆回復電流は約 30A に減っています。しかし、 全ターンオンエネルギーは2倍以上の52mJに増えています。 まとめ このアプリケーションノートは、平均的な短絡耐量を持 ちそれに付随して飽和電圧が低く効率も高い IGBT に対し、 信頼に足りる短絡保護が可能なことを立証しています。こ うしてシステムの総合的な強さに対して妥協せずに、最も 効率の良い IGBT を利用することができます。 図 14 ソフト・ターンオン試験回路 図 15 ターンオン時のコレクタ電圧電流 波形 Vg(on) = 15V、(IRGPC40F) 図 16 ターンオン時のコレクタ電圧電流波形 Vg(on) = 10V、(IRGPC40F) 6