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自 TAF (Thought-Action Fusion) と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響

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自 TAF (Thought-Action Fusion) と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響
Hirosaki University Repository for Academic Resources
Title
Author(s)
自TAF(Thought-Action Fusion)と思考抑制が強迫傾
向に及ぼす影響
加藤, 由佳
Citation
Issue Date
URL
2012-03-23
http://hdl.handle.net/10129/4635
Rights
Text version
author
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
研究題目
TAF(Thought-Action Fusion)と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響
弘前大学大学院教育学研究科
学校教育専攻学校教育専修臨床心理学分野
10GP108
加藤 由佳
(指導教員 田上 恭子)
目
次
はじめに
1
第1章
1
第2章
第3章
第4章
問題と目的
第1節
強迫性障害とは何か
1
第2節
OCD の説明理論 ~認知行動理論を中心に~
4
第3節
OCD の認知行動モデルを巡る実証研究
11
第4節
本研究の目的
17
研究 1: TAF の尺度の再検討と強迫傾向との関連についての追試的検討
19
第1節
問題と目的
19
第2節
方法
19
第3節
結果
20
第4節
考察
26
研究 2: TAF と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響について
28
第1節
問題と目的
28
第2節
方法
31
第3節
結果
32
第4節
考察
42
総合的考察
49
第1節
TAF と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響:
症状別モデルについて
49
第2節
治療法への示唆
50
第3節
本研究の意義と課題
51
引用文献
53
謝辞
56
はじめに
日常生活のなかで「ガスの元栓は閉めただろうか」
,
「家の鍵をかけ忘れていないだろうか」
と感じ,ガスの元栓や家の鍵を確認することは,誰にでもあることだろう。しかし,このよう
な確認行為にとらわれるようになると,苦痛を感じたり,確認行為に時間が割かれるようにな
る。このような確認行為がより頻繁に行われ,苦痛を伴い日常生活に支障をきたすと,強迫性
障害となる。強迫性障害に似たような症状は健常者でも起こるものであり,適応状態が悪くな
ると強迫性障害に発展すると考えられている(松永, 2009)
。
強迫性障害は有病率が高いことが示されているが,病院への受診率が低いことが指摘されて
いる(松永, 2009)
。しかし,強迫性障害の研究は,まだまだ日本では少なく,その治療法の発
展につながるような強迫性障害のメカニズムの研究が求められていると考えられる。
第1章
第1節
問題と目的
強迫性障害とは何か
強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: 以下 OCD)は,強迫観念(obsession)と強迫行
為(compulsion)の 2 つの症状から成り立つ障害である。成田(1992)によれば,強迫観念と
は,何らかの思考,ことば,心的イメージなどが患者の意思に反して意識の中に侵入してくる
もののことで,強迫行為とは,様々な強迫体験に付随して起こる呪術的行為のことである。こ
れらが,自分にとって無縁で無意味であるとわかっていて,それに悩まされることを異常と認
め,気にすまい,考えまい,行うまいと努力するにもかかわらず,そうすればそうするほどか
えって心に強く迫り,それをやめると著しい不安が生じるため,それにとらわれてそうせざる
をえない状態に陥ることであり,こうした強迫観念,強迫行為が患者にとって主観的に重大な
苦痛の源泉となっているか,あるいは社会的機能ないし役割機能の妨げになっていて,しかも
他の精神障害(うつ病,統合失調症,脳器質疾患など)に起因しないものを「強迫性障害」と
呼ぶ。
DSM-IV-TR(American Psychiatric Association, 2000a 高橋・大野・染谷訳 2002)の OCD の
診断基準を Table 1-1 に示す。これを簡潔に表すと,強迫観念または強迫行為の2つの症状から
定義され,どちらかの症状を持ち,その症状に不合理さや過剰さを感じており,かつ強い苦痛
を伴い時間が費やされ,その人の正常な生活習慣,職業(学業)機能,社会的活動,対人関係
に著しい障害をきたしている場合に,OCD と診断される。
以上から,OCD は強迫観念,強迫行為のいずれかまたは両方の症状を持ち,その症状につい
て,自分でも無意味さを感じているが,そうせざるをえない状態に陥ることで,長い時間強迫
症状を行うことに時間を費やし,日常生活に困難をきたすもの,かつ患者自身が苦痛を感じて
いるという障害であると考えられる。
強迫症状について,DSM-IV-TR(American Psychiatric Association, 2000b 高橋・大野・染谷
訳 2002)では,主要な症状を 4 つに分類している。一つ目は,汚染に対する強迫観念であり,
結果として手洗いあるいは汚染されたと考えられた対象に対する強迫的回避である。
二つ目は,
1
Table1-1 DSM-IV-TR の強迫性障害の診断基準
(American Psychiatric Association, 2000a, 高橋・大野・染谷訳 2002, pp.177-179)
A. 強迫観念または強迫行為のどちらか.
(1),(2),(3)および(4)によって定義される強迫観念:
(1) 反復的,持続的な思考,衝動,または心像であり,それは障害の期間の一時期には,侵入的
で不適切なものとして体験されており,強い不安や苦痛を引きこすことがある.
(2) その行為,衝動または心像は,単に現実生活に問題についての過剰な心配ではない.
(3) その人は,この思考,衝動,または心像を無視したり抑制したり,または何か他の思考また
は行為によって中和しようと試みる.
(4) その人は,その脅迫的な思考,衝動,または心像を(思考吹入の場合のように外部から強制
されたものではなく)自分自身の心の産物であると認識している.
(1)および(2)によって定義される強迫行為:
(1) 反復行動(例:手を洗う,順番に並べる,確認する)または心の中の行為(例:祈る,数を
数える,声を出さずに言葉を繰り返す)であり,その人は強迫観念に反応して,または厳密
に適用しなくてはならない規則に従って,それを行うよう駆り立てられていると感じている.
(2) その行動や心の中の行為は,苦痛を予防したり,緩和したり,または何か恐ろしい出来事や
状況を避けていることを目的としている.しかし,この行動や心の中の行為は,それによっ
て中和したり予防したりしようとしていることとは現実的関連を持っていないし,または明
らかに過剰である.
B. この障害の経過のある時点で,その人は,その強迫観念または強迫行為が過剰である,または
不合理であると認識したことがある.
注:これは子供には適用されない.
C. 強迫観念または強迫行為は,強い苦痛を生じ,時間を浪費させ(1 日 1 時間以上かかる)
,また
はその人の正常な生活習慣,職業(または学業)機能,または日常の社会的活動,他者との人
間関係を著明に障害している.
D. 他のⅠ軸の障害が存在する場合,強迫観念または強迫行為の内容がそれに限定されない(例:
摂食障害が存在する場合の食物へのとらわれ,抜毛癖が存在している場合の抜毛,身体醜形障
害が存在している場合の外見についての心配,物質使用障害が存在している場合の薬物へのと
らわれ,心気症が存在している場合の重篤な病気にかかっているというとらわれ,性嗜好異常
が存在している場合の性的な衝動または空想へのとらわれ,または大うつ病性障害が存在して
いる場合の罪悪感の反復思考)
.
E. その障害は,物質(例:乱用薬物,投薬)または一般的疾患の直接的な生理学的作用によるも
のではない.
▶該当すれば特定せよ
洞察に乏しいもの 現在のエピソードのほとんどの期間,その人は強迫観念および強迫行為が過剰
であり,または不合理であることを認識していない.
2
疑念という強迫観念であり,確認するという強迫行為がそれに伴うものである。三つ目は,強
迫行為を伴わない侵入的な強迫観念である。通常患者にとってとがめるべき性的あるいは攻撃
的行為についての反復的思考である。四つ目は,対称性や正確さに対する欲求であり,こうし
た欲求から強迫行為に時間を費やすようになる。患者は実際に何時間もかけて食事をしたり,
髭をそったりすることである。
つまり,OCD は,強迫観念,強迫行為の内容は,様々な種類が見られるが,よく見られるも
のとしては,汚染・病気などに関する強迫観念と,それを取り払うための洗浄・清掃などの行
為,自分に対する疑念とそれを取り払うために行われる確認などの行為,性的あるいは攻撃的
な思考,ものごとを正しくしなければならないという正確さ,対称性への欲求と,それに伴う
行為がある。
成田(1992)によれば,アメリカの NIMH(National Institute of mental Health)は,OCD の一
般人口における生涯有病率は,2~3%と推定されている。また,松永(2009)によれば,精神
科外来患者のうち OCD はおよそ 10%と推定している研究者がおり,
この数字に基づくと,
OCD
は恐怖症,物質関連障害,大うつ病性障害についで 4 番目に多い障害であることが示されてい
る。更に,日本での一般人口中の OCD の有病率に関するデータは乏しく,また 9 ヶ所の総合
病院精神科において調査した結果では,1.75~3.82%であった(松永・切池・大矢, 2004)
。しか
し,松永(2009)は,日本での OCD の医療機関への受診率の低さを指摘し,未治療のまま患
者や家族に深刻な症状が生じている場合も,少なからずあると述べている。つまり,OCD は,
発病率は高いが,医療受診率は低く,実際強迫症状で生活に困難を感じている者は,数値より
も多いと考えられる。Rachman & de Sliva(1978)は,健常者においても OCD 患者で見られる
ような強迫的な行動や思考と似たようなものが認められると述べ,精神科患者の強迫症状は最
も頻度が高く,著しい苦痛をもたらすが,強迫という現象は,正常な精神生活においても実際
によく見られるとしている。例えば,
「鍵を何度も確認するという行為」を頻繁に行うことは,
私たちもよく行うであろう。
正常に機能する強迫的な行動から,OCD 患者の強迫症状に至るまで,Salzman(1973 笠原・
成田訳 1985)はスペクトラムとして捉え,いくつかの分かれる中間段階は量的なものにすぎ
ず,社会適応の度合いによって差異が生じるとし,健常者の強迫症状を「強迫傾向」と呼んだ。
健常者における強迫的な症状は,生活における順応と適応がうまく行かなくなると増大し,
OCD の状態に至ると強調し,後に発症しやすい脆弱因として扱っている。OCD の発症契機は,
仕事の挫折,過労,結婚上の問題,学業・進学などの生活ストレスが多いと言われており(成
田, 1992)
,健常者で見られた強迫が何らかのストレスイベントによって OCD に発展すると考
えられる。
つまり,健常者と OCD 患者とでは,頻度,困難度には違いが見られるものの,同じ様な強
迫症状が見られる。そして,健常者における強迫傾向は連続体を成しており,あるストレスイ
ベントにより OCD に発展することがある。本研究では,Salzman(1973 笠原・成田訳 1985)
に倣い,強迫を健常者に見られる強迫傾向が,OCD 患者に強迫をスペクトラムとして捉える。
また,健常者に見られる,OCD 患者と比較して軽度の強迫症状を「強迫傾向」と定義する。
3
第2節
OCD の説明理論 ~認知行動理論を中心に~
OCD の説明理論は,生物学的説明や,心理社会的説明など多岐にわたっている。このような
説明理論を基に,様々な立場から治療・研究が進められてきた。
心理社会的説明理論としては,フロイトに始まる古典的な精神分析における説明がひとつに
挙げられる。成田(1992)によれば,強迫神経症(obsessive-compulsive neurosis)の発症は,エ
ディプス状況に関連した不安,葛藤から肛門期への退行が生じ,性的・攻撃的衝動が出現する
と,それに対して否認・抑圧などの防衛機制が発動することによるとされている。その後,サ
リヴァンは対人関係論の立場から,強迫を安全保障感の欠如を克服しようとする試みとして理
解し,サルズマンは強迫を,コントロール喪失を防ぐための方策であると理解している。人間
学派は強迫を時間と空間の概念の歪曲や死と実存という観点から理解し,強迫は腐敗や嫌悪感
情に対する方策であるとみなしている。学習理論では,不安喚起的条件刺激との結びつきによ
って,元来は中立的であった観念が不安を引き起こすようになったものが強迫観念となり,さ
らに,ある行為が不安を軽減することを人が見つけると,それが学習されて強迫行為になると
いう。森田理論は,強迫神経症は神経質に含められ,ピトコンドリー性基調を持つ人がある機
会に身体的・精神的変化に気づき,それにとらわれ,それに注意することによってますますそ
の感覚が鋭敏となり,それに注意することによってますます注意がその方に惹きつけられ,感
覚と注意が交互に作用し症状を発展固定させ,ついに神経症という病的症状ができあがると主
張している(成田, 1992)
。
以上のように,様々な理論があるが,近年の心理学領域では認知行動理論に基づく研究が盛
んに行われている。本研究でも,認知行動理論に基づく研究を行う。
認知行動理論では,Salkovskis(1985)のモデルが,最も包括的で明確な強迫性障害のモデル
とされている(杉浦, 1996)
。このモデルは,侵入思考それ自体は中性的な刺激とみなし,それ
に対する認知的評価とその評価によって動機づけられる対処行動という 2 つの要因が,病理的
発展を左右すると考えるモデルであり,侵入思考の処理を維持することに寄与する 2 つの過程
について言及している(Wells & Matthews, 1994 箱田・津田・丹野監訳 2002)
。
このモデルは,基本的にはベックの認知理論に沿いながら,Rachman の一連の侵入思考の研究
の知見を取り入れ作られた(杉浦, 1996)
。はじめに,背景となった Beck の認知理論と,Rachman
の侵入思考の研究について説明する。
(1) Beck の認知理論
ここでは,Beck の認知理論(Beck, 1976; Beck, Rush, Shaw & Emery, 1979)を要約した,杉浦
(1996)
,Salkovskis(1996 坂野・岩本監訳 1998)にもとづき紹介する。
Beck の認知理論は,S-R 理論の刺激と反応の間に,媒介として認知をおいた理論であり,個々
の人間は現実世界をありのままに客観的にではなく,その人なりのフィルターを通して受け取
っているという考え方と,人間が現実世界に関する関わり方やそれに対する情緒的な反応に主
観的判断過程が大きな役割を果たしており,その判断過程を修正することによって情緒的反応
を適応的なものに変えるという考え方が内包されている(Figure 1-1)
。
更に Beck は,認知を①スキーマ→②推論の誤り→③自動思考という 3 つのレベルに分けた
(Figure 1-2)。①スキーマとは,個人の信念体系,あるいは認知構造であり,活性化された状態
4
刺激
感情
条件づけモデル
刺激
無意識の衝動
感情
精神分析モデル
刺激
意識的な意味
感情
認知モデル
Figure 1-1 感情を説明する 3 つのモデル
(Beck, 1976, p.55 を訳した)
5
自動思考
抑うつ症状
抑うつ認知の
(抑うつ気分)
3 大徴候
体系的な
推論の誤り
ネガティブな
ライフイベント
(ストレス)
抑うつスキーマ
幼児期から作られた
潜在的信念
(抑うつの素因)
Figure 1-2 Beck の抑うつの認知理論
(坂本, 1996, p.118 を改変)
6
で個人の情報処理に影響を与ええるものである。スキーマが不適応な場合は,スキーマによる
働きかけの結果認知プロセスに歪みが生じ,推論の誤りが起こる。推論の誤りとは,具体的に
は極度の一般化や,白黒思考などである。推論の誤りの結果として,自動思考が生じる。自動
思考とは,評価の結論であり,この結論の内容にどのようなテーマがはらんでいるかで,病理
に違いが出ると考えられている。
以上が Beck の認知理論であるが,刺激→認知(スキーマ→推論の誤り→自動思考)→反応
という流れであり,ある刺激が生じた場合,スキーマが不適応に活性化された場合は,認知プ
ロセスが歪んで推論の誤りが生じ,その結果自動思考が生じるということである。Salkovskis
(1985)のモデルは,侵入思考という刺激を中性的な刺激とみなし,それに対する評価,つま
り認知を問題として扱ったところに意義があると考えられる。
(2) Rachman の侵入思考の研究
次に,Rachman の一連の侵入思考の研究について紹介する。そもそも侵入思考とは,一言で
言えば正常な強迫観念のことである(Kent, 1991 大六訳, 1996)
。健常者に見られる正常な強迫
観念が研究されるようになり,後に正常な強迫観念が侵入思考と呼ばれるようになった。
Rachman(1971)は,害のない形での強迫観念は,すべての人に経験されている普遍的な現象
であることを前提に考え,強迫観念についての説明を試みた。この前提を実証的に確認しよう
とする試みから,侵入思考の研究が始まった(杉浦, 1996)
。
はじめに Rachman は強迫観念の研究を行っていた。今では,強迫観念が OCD 患者のみでは
なく,健常者でも同様に体験されると考えられているが,以前は,健常者と OCD 患者では強
迫観念の内容に差異があると考えられ研究が行われてきた。しかし,Rachman(1971)が,強
迫観念の内容の差異ではなく,馴化(habituation)の理論によって強迫観念を説明し,侵入思考
の研究を盛んに行っていった。これらの実証研究から,健常者と OCD 患者との違いは,侵入
思考の内容に差異ではなく,侵入思考を中性の刺激とみなす考え方が示され,Salkovskis のモ
デルもその影響を受けていると言えよう。
(3) Salkovskis(1985)のモデル(Figure1-3)について
前述のように,このモデルは,侵入思考それ自体は中性的な刺激とみなし,それに対する認
知的評価とその評価によって動機づけられる対処行動という 2 つの要因が,病理的発展を左右
すると考えるモデルである。Beck と Rachman の 2 つの知見から,侵入思考を中性的な刺激と
みなし,認知(スキーマ)を重視した点で,強迫観念という問題への理解・支援が進んだこと,
強迫観念と強迫行為を包括的に捉えた点で,Salkovskis(1985)のモデルは意義があると考えら
れる。
Salkovskis(1985)のモデルでは,前述したとおり,侵入思考に対する認知的評価と,評価に
よって生じた不安などを軽減するための無効化という過程が重要である。
はじめに,認知的評価過程とは,ある侵入思考を個人がどのくらい重要に評価するかという
過程である。健常者と OCD 患者との違いは,健常者は侵入思考を重要ではないものとして忘
れてしまったり,気にしたりしないので,処理はそこで終わる。しかし,OCD 患者は,侵入思
考に対して実際に起こるのではないかと考える。さらに,実際に何かが起きた時の責任が自分
にあると評価してしまう。Wells & Matthews(1994 箱田他監訳 2002)によれば,ケーススタ
7
引き金となる刺激
1: 侵入思考 = 強迫観念
2: 強迫的スキーマ(信念)
① 自己責任性の信念
② 自己非難的信念
③ 自己コントロールへの信念
3: 自動思考
↓
苦痛(不安・抑うつ)
4: 中和反応 = 強迫行為
Figure 1-3 Salkovskis(1985)の OCD の認知モデル
(大六, 1996a, p.68)
8
ディの結果で,病的な強迫観念を持つ人は,その観念を受容しておらず,
「こんなことを考える
なんて,きっと自分は邪悪な人間なのだ」などと,自分をネガティブに評価していた。つまり,
強迫観念そのものが苦痛を与えるのではなく,強迫観念に対する反応が苦痛をもたらすと考え
られる。このような,強迫観念に対する評価は自動思考と呼ばれ,正常な人は強迫観念を気に
しないのに対して,強迫性障害の人はネガティブな意味付けをしてしまい苦痛が生じる。その
ため,侵入思考が個人にとって重要なものになり,健常者のように侵入思考を忘れることがで
きない。そのような評価をする際に重要なものが,強迫的スキーマであろう。強迫的スキーマ
は,侵入思考に対する評価を,活性しやすい状態で保持している。侵入思考に対する評価は,
ネガティブな自動思考という形をとる。自動思考の内容は,将来に起きる悲惨な結果と,それ
に対する個人の責任をめぐるものである。
次の過程としては無効化がある。無効化過程は様々見られ,ネガティブな思考の代わりにポ
ジティブなことを考える,というような内的なものかもしれないし,病気への感染を恐れて繰
り返してしまうという外的なものかもしれない。Salkovskis(1989)は,無効化は短期的には不
安は減少するものの,長期的には侵入思考の頻度・不快さを増加させることを明らかにした。
以上を要約すると,強迫観念は健常者でも病理を抱える人にも現れるものだが,強迫的スキ
ーマを持っているかどうかで,強迫観念に対する評価である自動思考が起こり,苦痛が生じる
ということである。例えば,女性という刺激に対して,性的なことを思い浮かべるという強迫
観念の場合,それ自体は問題がないと言える。しかし,ある人が例えば自己責任性の信念とい
う強迫的スキーマを持っている場合には,
「こんなことを考えるなんて,自分は性的倒錯者であ
る」と評価し,苦痛を生じるのである。そして,苦痛に対して,苦痛を和らげようと強迫行為
を行ったり,場面から逃避したりしようとすることを中和反応と呼ぶ。
さらに,杉浦(1996)によれば,中和反応を行うことにより,苦痛から一時的に解放され,
中和反応が強化されること,中和を行わなかった時のフィードバックが与えられないこと,中
和反応の結果,侵入思考はより顕在化され頻度と不快感が増すことが述べられ,そのため対処
行動は反復的になり,やめることが困難,病理化するという悪循環が生まれるという。
(4) モデルの発展と TAF
Rachman(1993, 1997)は,Salkovskis(1985)のモデルを基に,Clark(1986)のパニック障
害の認知モデル(Figure 1-4)を取り入れ,新たなモデルを提案した。このモデルで Rachman
は,TAF(Thought- Action Fusion)という認知バイアスを重要視した。
このモデルは,Salkovskis(1985)のモデルを発展させたものであり,侵入思考に対する評価
に重きを置いている。この評価について,OCD 患者の臨床観察から,侵入思考を評価する際に,
侵入思考それ自体を重要と考える認知(破局的認知)によって,不安は引き起こされ,侵入思
考を個人的に重要なものであると破局的に認知する人は,著しく多くの侵入思考を経験し,そ
れによって更に苦しみ中和する必要を感じると考えた。そして,OCD 患者に見られるような侵
入思考を重要であると大げさに解釈する際に用いる認知バイアスを TAF(Thought-action fusion)
と呼んだ。TAF は侵入思考研究の中で,OCD 患者が,不快で,容認できない考えが,世界の出
来事に影響を与えると信じていることが明らかとなり,TAF は道徳的規範に関連するものと,
危険性に関連するものの 2 種類の現象として確認された。もともと,TAF は Salkovskis(1985)
が責任の概念を明確化し,定義をしようとした信念の 1 つである。この認知バイアスは
9
引き金となる刺激
脅威の知覚
二次的不安
身体感覚を
軽い不安
「破局的」と認知
不安の
身体感覚
Figure 1-4 Clark(1986)のパニック障害の認知モデル
(大六, 1996b, p.62)
10
Salkovskis(1985)の臨床観察でも見られているが,責任性を高める認知バイアスの一つである
として取り上げられていたが,Rachman(1993)では,責任性の中の構成概念として取り上げ
るのではなく,TAF を,責任性を巡る概念の中でも特に重要な概念であるとしモデルに汲みこ
んでいる点で,Salkovskis(1985)とは異なっている。
TAF とは,
“ある行為について考えをもつことは,その行為を行うことと同じである”とい
う思い込みのことである(Rachman, 1993)
。Rachman, Thordarson, Shafran, & Woody(1995)は,
責任と強迫との関連を調べた。その結果,責任という概念を構成する因子の中で強迫との関連
が見られたものは TAF だけであった。そのため,TAF と OCD の関連を見る研究が盛んに行わ
れるようになった。
Shafran, Thordarson, & Rachman(1996)は,責任性の中でも TAF を単一概念として取り上げ,
測定する尺度を作成した。その結果,TAF が 3 因子で構成されることを見出した。一つ目は,
「道徳(TAF-Moral)
」で,ある行為についての思考は,その行為を実際に行うことと道徳的に
は同等であるという認知のゆがみである。例えば,もし私が誰かを傷つけたいと考えたら,そ
れは実際に傷つけるのと同じくらい悪いと考えることがあげられる(代田, 2005)
。二つ目は,
「他人に何かが起こる見込み(TAF-Likelihood-Others)
」で,家族や友達に関するある行為につ
いての思考は,その行為の起こりやすさを上昇させるという認知の歪みである。例えば,もし
私が,身内や友人が交通事故に遭うことを想像したら,実際にその人が交通事故に遭う危険性
が高まることがあげられる(代田, 2005)。三つ目は,「自分に対する何かが起こる見込み
(TAF-Likelihood-Self)
」で,自分のある行為についての思考は,その行為の起こりやすさを上
昇させるという認知のゆがみである。例えば,もし自分が交通事故に遭うことを想像したら,
実際に自分が病気になる危険性が高まると考えることがあげられる(代田, 2005)
。
杉浦(1996)は,OCD のメカニズムにおいては,思考の意味や重要性を誤って評価・解釈す
る認知の歪みが重要視されてきたが,TAF はそのような認知の歪みの中でも,特に重要視され
ているもののひとつであると述べており,TAF が強迫傾向と重要な概念であるということは明
らかである。
TAF を測定する尺度が開発されたことで,TAF と OCD との関連を検証しようとする実証研
究が急増した。次節では近年盛んになっている認知行動モデルを巡る実証研究について概観し
たい。
第3節
OCD の認知行動モデルを巡る実証研究
OCD の認知行動モデルを巡った研究は,いくつかの流れに大別できる。例えば,責任の評価
を巡る研究と侵入思考の研究,思考のコントロールの逆説的効果を巡った研究の 3 つに分類す
る立場(杉浦, 1996)もあれば,侵入思考への評価としての「責任性」と,対処としての「思考
抑制」の研究の 2 つに大別している立場(Berle & Starcevic, 2005)もある。本研究では,基本
的には後者の立場に立つが,責任性の中でも TAF に着目し,TAF と思考抑制の 2 つの流れにつ
いて概観する。
(1) TAF に関する研究
これまでの多くの実証研究から TAF と OCD との関連は示されてきている。Shafran &
11
Rachman(2004)がまとめた TAF と OCD の関連を検討した実証研究を Table 1-2 に示す。これ
までの実証研究から以下 3 点が明らかになっている。一つ目は,調査対象者が OCD 患者に限
らず健常者でも TAF という認知バイアスがあることである。
もともと,
TAF はSalkovskis
(1985)
の臨床観察から,OCD 患者において TAF という現象が見出され,
「道徳」と「見込み」という
2 種類のバイアスが見られた。しかし,調査対象者が大学生である Rachman et al.(1995)でも
TAF バイアスが見られ,
TAF 得点が高いと強迫傾向が高まることが示されている。
ふたつ目は,
TAF と OCD と関連は,調査研究だけでなく,実験研究でも示されている。Rachman, Shafran,
Mitchell, Trant, & Teachman(1996)は,TAF を低下させるような文章を被験者に記述してもら
い,
TAF を操作する実験を行い,
TAF の高さが不安と中和行動への衝動性を高めることを示し,
OCD への影響を示唆した。3 点目は,TAF は強迫傾向全体との関連が見られ,MOCI,PI とい
った異なる強迫傾向を測定する尺度でも一貫して強迫傾向との関連が見られている。以上のよ
うに,TAF は,研究手法の違いや被験者,測定尺度に関係なく,一貫して OCD と中程度の関
連が見られる概念である(Shafran & Rachman, 2004)
。ただし,TAF 尺度は因子の構造は研究に
よって異なっており,因子構造も必ずしも一貫しているとは限らないため,尺度の検討の必要
があると考えられる。
(2) 思考抑制と OCD
侵入思考をコントロールする研究は多く見られ,中でも思考抑制は結果に一貫性があり理論
的にも充実している研究である(杉浦, 1996)
。思考抑制とは,望まない侵入思考への対処戦略
に焦点を当てた理論である(Wells & Matthews, 1994 箱田他監訳 2002)
。Wegner, Schneider,
Carter, & White(1987)は,思考を意図的に抑制しようとする働きが,その思考の頻度を増すこ
とを明らかにした。このような効果を「思考の逆説的効果」と呼ぶ。この効果の理由として,
思考を意図的に抑制するときには,抑制しようとする思考(ターゲット思考)から気をそらす
ために,何か他のこと(ディストラクタ)を考えようとする。被験者は,他のことを考えよう
として,記憶内からディストラクタを探そうとする過程で,ターゲット思考を考えないという
課題を検出してしまい,その結果,ターゲット思考を思い出してしまう,と説明している。つ
まり,もともとはターゲット思考から気をそらすためのディストラクタが,逆にターゲット思
考と連合してしまい,結果としてディストラクタがターゲット思考の想起手がかりになってし
まうのである。このことから,認知の回避方略として逆効果であることが明らかとなった(Wells
& Matthews, 1994 箱田他監訳 2002)
。Shafran & Rachman(2004)によれば,Wergner(1989)
は,思考抑制が強迫観念を強める一因になると述べた。これまでの思考抑制と OCD 実証研究
から,OCD と思考抑制が関連することが示されている。Rassin, Diepstraten Merckelbach, & Muirs
(2001)は,健常な大学生と OCD 患者において TAF と思考抑制が関連が見られることを示し
た。そのため,OCD との関連は調査対象者による違いが見られず一貫しており,強迫傾向との
相関が高い。
(3) TAF と思考抑制と OCD
今までみてきたように,TAF と思考抑制という 2 つの変数と,OCD の関連は実証研究で明ら
かにされているが,TAF と思考抑制,更には 3 つの変数間の関連はどのような位置づけとなる
のだろうか。
12
Table 1-2 TAF の研究(Shafran & Rachman, 2004, pp.89-93 に基づき作成)
研究の説明
サンプル
結果
著者
OCD,大うつ病性障害,パニック障害,GAD,社会恐怖, 精神障害を持つ成人 95
健常者の TAF 尺度の得点の比較
名,健常者 25 名
Amir et al. (2001)
出来事が他者に起こるという見込みのサブスケールや,
責任の重要度,思考の損害を含むために変更された TAF
尺度を用いた横断的研究。
ポジティブな項目も含む。
調査1:学生 126 名を
OCD 症状の高低に分け
た
調査2:学生 298 名を
OCD 症状の高低に分け
た
Barrett & Healy (2003)
7~13 歳の子どもの TAF 尺度の得点の比較
OCD の子ども 28 名,他
の不安障害の子ども 17
名,健常者の子ども 14
名
学部学生 171 名
13
Abramowitzet al. (2003)
Clark, Purdon
(2000)
&
Byers
Coles et al. (2001)
Einstein & Menzies (2004)
評価の違いが,望まない性的,非性的な侵入思考の知覚
されたコントロールに関連づいた調査研究に基づく横断
的質問紙調査
横断的な質問紙調査に基づく。 TAF が強迫的特徴と心
配とで区別できるかどうか調査した。
TAF と幸運の信念,呪術的思考との関係を調査した研究
に基づく横断的質問紙調査
心理学専攻の学生 173 名
OCD 患者 61 名
うつの得点は道徳と関連していた。不安の得点は見込み
と関連していた。グループ間で TAF-道徳での違いは見ら
れなかった。OCD は非患者,社会恐怖,うつの群と見込
み-他者で異なり,見込み-自己で社会恐怖と非患者群と
異なっていた。見込み-他者が大うつ病を特徴づけるので
はなく,不安やうつのレベルが,見込み-他者における
OCD 患者とその他のグループの違いを説明することが
わかった。OCD に特定でないその TAF が結論づけられ
る。
高 OCD 得点者は,見込み-他者,見込み-自己(研究 2 の
み),見込み-ポジティブ事象生起の評価が有意に高かっ
た。これは,思考が害を避けるだろうという評価の高さ
と事象についての思考の結果と考えられる。TAF の道徳
では群間差は有意ではなかった。筆者は,TAF が一般的
な「呪術的思考」の特別な型であるかもしれないと結論
づける。
OCD をもつ子どもは,非臨床の子どもより,TAF 得点が
高く,最も高い評定だった。しかしながら,彼らは,不
安な子どもたちとは有意差がなく,非臨床の子どもとの
有意差も見られなかった。
TAF-見込みは,応答者の最も動揺させるような性的で非
性的な侵入思考の知覚された可制御性の重要で特有の予
測因子だった。
見込み-自己と見込み-他者,道徳は,心配の効果を統制
した後でさえ,強迫的な特徴にすべて関連した。強迫的
な特徴が統制された後で,TAF のサブスケールは心配に
関連しなかった。強迫的な特徴については一貫しており,
心配は異なった構造概念であると筆者らは結論づけてい
る。
TAF と OCD の関係は,呪術的観念により説明される。
TAF が呪術的観念の1つの型であることが示唆された。
(Table 1-2 つづき)
著者
研究の説明
サンプル
結果
Hazlett-Stevens et al. (2002)
横断的な質問紙調査に基づく。TAF と GAD/心配の関係
を調査した。
心理学専攻の学生 494 名
Muris,Meesters,Rassin,Merc
kelbach & Campbell (2001)
横断的な質問紙調査に基づく。TAF の適合している尺度
を使用し 10 代の健常者における TAF を調査した。
中学・高校生 427 名
Muris
(2003)
TAF と失調型,幻想傾向の関連を調査した。
調査1:学部学生 77 名
調査2:学部学生 64 名
参加者に,
“私は○○が 24 時間以内に自動車事故に遭う
ことを望んでいる”(“文章パラダイム”)という文章の
記述を求めるという実験的操作を行った。実験室条件で
TAF を誘発し,不安,統制,害の可能性,責任性,中和
への効果を検討した。
知覚された責任性,すなわち TAF のアセスメントのサブ
スケールの質問紙を開発するための心理測定の研究
高い TAF 得点の学生 63
名
心配の測定と見込みのサブスケールとでのみ有意な関連
がある。部分的でも完全でも GAD をもつ人々は,見込
みでかなり高い点をとったが道徳ではそうではなかっ
た。見込みは GAD 状態の特定の予測因子ではない。
適合している測定の因子構造は見込みと道徳に対応し
た。TAF と特性不安,OCD 症状とうつとの有意な相関関
係がみられたが,道徳より見込みの方が強かった。
TAF と失調型の側面との正の相関は,幻想傾向を統制し
た後に,有意ではなかった。筆者は,非臨床の集団では,
TAF と失調型とのどんな関係でも幻想傾向に帰すること
ができると結論づけた。
参加者が TAF を活性化させるために文を書くように求
められた後に,不安と中和する衝動は増加した。尺度は
見込み-他人の予測的妥当性があった。道徳は操作によっ
て喚起された変数に関連しなかった。
Rassin & Koster (2003)
TAF,強迫的な不平と宗教の相関研究
学部学生 100 名
Rassin (2001)
TAF と思考抑制の相互作用を調査するために,文のパラ
ダイムを用いた実験操作
学部学生 40 名
&
Merckelbach
Rachman et al. (1996)
14
Rachman et al. (1995)
研究1:学生 291 名
研究2:学生 234 名
(道徳と見込み-他人を査定する)TAF 尺度の4項目は,
強迫と罪,うつと相関があった。相関はうつを統制した
とき,有意なままであった。
信心深さは,見込み-他人,見込み-自己ではなく,TAF道徳と関連していた。相関のパターンは,カトリックと
プロテスタントでは異なった。
文のパラダイムは TAF を引き出すために用いられた(た
だし,そのパラダイムが中和への衝動を喚起するかどう
かを確認するための操作チェックは行わなかった)
。文を
書いたあと,半分の被験者は関連する思考を抑制し,半
分は抑制するよう教示されなかった。予想に反して,苦
痛を和らげるために現れる抑制は,事故が起こる可能性
を低く評定し,道徳的に誤っていることを少なくとらえ
ていた。
(Table 1-2 つづき)
著者
サンプル
OCD 患者と OCD ではない不安障害の患者の治療の前後
の TAF と思考抑圧の得点の比較
OCD 患者 24 名,OCD 以
外の不安障害の患者 20
名
Rassin et al. (2001 b)
横断的な質問紙調査に基づく。TAF 尺度の心理測定の特
性を報告し,精神障害のグループの得点を比較する。
Rassin et al. (1999)
強迫的な侵入の病因において TAF が役割を果たすとい
う仮説を調べるための実験研究
Rasin et al. (2000)
TAF,思考抑圧,OCD の関係を調査するため,構造方程
式モデリングを用いた横断的な質問紙調査
横断的な質問紙調査に基づく。TAF 尺度の心理測定の特
性を報告する2つの研究
15
研究の説明
Rassin et al. (2001 a)
Shafran et al. (1996)
結果
OCD 患者と OCD 以外の不安障害の患者における TAF の
得点に違いはなかった。OCD 患者と OCD 以外の不安障
害の患者のどちらも,TAF と精神障害の間で有意な相関
があった。治療により TAF 尺度における変化は,MOCI
は比較的小さく変化していたが,強迫の症状の測定にお
いて変化は相関がなかった。TAF と思考抑圧の測定でも
相関は見られなかった。
学部学生 285 名(3 カ月 TAF の見込み(他者/自己)と道徳という構成概念に 2 因子
後に 98 名が再度回答)
, 解と 3 因子解が相当した。時間間で有意な相関がみられ
OCD30 名,他の不安障害 たが,3 か月後の TAF の平均得点は減少した。TAF 見込
みと強迫症状との間で有意な相関がみられたが,道徳で
41 名,健常者 20 名
はみられなかった。OCD 患者とその他の不安障害の患者
との TAF 得点の違いは見られなかった。
実験群の高校生 19 名が, 結果は仮説に支持を与えるものとして解釈された。仮説
「りんご」という言葉を は,実験群はターゲットとなる思考の頻度が高く,不快
考えることが別の人に感 感がより高く,侵入へより抵抗をするので,侵入思考を
電をもたらすだろうと教 TAF が促進するというものである。
示された。統制群は高校
生 26 名。
心理学専攻学生 173 名
結果から,TAF が思考抑圧を誘発し,次に,思考抑圧が
強迫症状を誘発することを示唆した。
調査1:強迫的な問題を 研究 1:学生において,TAF は見込み-自己,見込み-他者,
抱える 147 名,学生 190 道徳の3つの構成要素を持つ。強迫的な問題を持つ人々
において,TAF は道徳と見込み(自己と他者)2つの要
名
調査2:強迫的な問題を 因を持っていた。強迫的な問題を抱える人々は,TAF の
抱える 118 名,学生 272 道徳と見込み-他者において,学性よりも有意に得点が高
名,地域のボランティア かった。見込み-自己では,学生と強迫的な問題を持つ
人々との間に違いは見られなかった。ポジティブ項目と
122 名
ネガティブ項目との区別は支持されず,ポジティブ事象
についての見込み-他者では有意差があったが,見込み自己では有意差はなかった。
以下略
(Table 1-2 つづき)
著者
Smári
(2001)
&
Hólmsteinson
Tallins (1994)
研究の説明
サンプル
TAF,責任性,思考抑制,強迫的な訴えの関係を調査す
る研究に基づく横断的な質問紙調査
TAF の2つの事例報告
大学生 211 名
16
van den Hout et al. (2002)
中和を調査するために,文のパラダイムを用いて実験的
操作
van den Hout et al.(2001)
文のパラダイムを使用した実験操作
Zucker et al. (2002)
短期的介入が TAF によって引き出された不安に影響を
及ぼすことができるかどうか調査するために,文のパラ
ダイムを使用した実験的操作
結果
TAF は責任性(r=0.47),MOCI(r=0.37),思考抑制(r=0.29)
に関連していた。
OCD 患者 2 名
これらの2つのケースの強迫的な問題で TAF の特徴は
顕著で,特定の形成の学習経験によって説明することが
出来る。
学部学生 120 名
先行研究より,引き出された TAF のレベルは低かった。
見込み-他者と時間経過に伴う不安の変化の間の関連が
なく,実験によって引き出された不安に,TAF 見込み他者の調整効果が及ぼされた。見込み-他者と自発的中和
の関連が調整された。
特にTAFの傾向がない学 Rachman et al. (1996)の調査結果を再現した。TAF によっ
生 77 名,大学職員 2 名
て誘導される不安と中和への衝動は,サンプルの違いに
もかかわらず,研究間で同程度であった。実験的操作の
効果は,TAF 得点と相関しなかったが,TAF 得点は報告
されなかった。中和教示が与えられない場合,苦痛が減
少している。
72 名の心理学入門学生。 被験者の半分が TAF を引き出す文を書く前に,TAF と侵
TAF 尺度で平均から 1SD 入思考に関する教育的なメッセージを聞いた。半分はス
以上の得点の者。
トレスに関するメッセージを聞いた。実験群は中和の衝
動の減少のために,現在不安は少ないと報告した。
TAF と思考抑制の関連ついて,Rachman(1998)は,認知理論の中では TAF と思考抑制との
相互作用が,OCD の悪循環の形をとると述べ,TAF と思考抑制の両方が相互に関連することに
より強迫観念を増加させ,TAF が思考抑制を活発で激しい試みにするとし,思考抑制の結果生
じる侵入思考の増加が,更に思考の重要性を高めることを示唆した。また,Rassin et al.(2001)
では,OCD 患者において思考抑制と TAF との関連を検討したが,2 ッ変数間に相関は見られな
かった。理論的には,TAF と思考抑制の相互作用と強迫との関連が指摘されているが,TAF と
思考抑制の相関は見られず,また 3 変数間を実証的に検討した研究は少ない。Rassin, Muris,
Schmidt, & Merckelbach(2000)は,これまで実証的に検討されていなかった,TAF,思考抑制,
強迫傾向という 3 変数の関連を明らかにした。侵入思考の機能として「TAF」と「思考抑制」
の 2 つの変数をモデルとして統合し,OCD のより包括的なモデルを作成することを試み,検証
した。結果から,TAF は思考抑制のきっかけで,思考抑制が強迫症状を促進するということが
示唆された。また,Rassin et al.(2000)は,TAF が思考抑制の引き金になり,思考抑制の努力
は OC 症状を重くすることを明らかにしているが,TAF が思考抑制に直接影響を及ぼしている
のかが明確でないことを指摘している。更に,Altin & Gençöz (2011)は,Rassin et al.(2000)
が,TAF が思考抑制に直接影響を及ぼしているのかが明確でないことを示したことを受け,更
に 3 変数間の関連を検討した。その結果,TAF の「見込み」が「思考抑制」に影響を及ぼし,
「思考抑制」が「強迫観念・行為」に影響を及ぼすことを明らかにした。
以上のように,
OCD には TAF,
思考抑制という2 変数が関連していることは示されているが,
TAF と思考抑制という 2 変数間の関連,更には OCD を加えた 3 変数間の関連の結果は一貫し
ていない。
第4節
本研究の目的
前述のとおり,これまで強迫に影響を及ぼす要因であると考えられる TAF,思考抑制と強迫
との関連を検討する研究が多くなされてきた。TAF という認知バイアスは,侵入思考をより不
快に感じさせ,不安や中和行動への衝動性を高めたり,結果の責任を増加させたりすることに
より,強迫を強めると考えられる。また,思考抑制も不快な侵入思考の増発を生むものであっ
た。しかし,TAF と思考抑制,更には TAF,思考抑制,OCD という 3 変数間の関連を検討し
た研究は多くは見られない。また,3 変数の関連を検討した結果は,一貫していない。そのた
め,更に知見を蓄積していく必要があるだろう。変数間を統合した OCD のより詳しいモデル
を作成することにより,更により良い治療法の発展の土台になるかもしれない。また,Rassin et
al.(2000)では,3 変数間のモデルを作成はしているが,モデル作成の根拠が著者も指摘して
いる通り,直観的妥当性に基づいており,仮説モデルに疑問が残る。そのため,本研究では,
これまでの Salkovskis(1985)の OCD の認知モデルを巡る研究の知見に基づき,モデルを作成
して検討を行う。
更に,Salkovskis(1985)の OCD の認知行動モデルは,これまで奇異に見られていた強迫観
念や強迫行為を包括的にまとめたモデルであり,強迫的な行為としては思考抑制などの認知面
と,洗浄や確認などの行動面がまとめられ,症状によるメカニズムの違いを想定しないモデル
であると考えられる。しかし,杉浦(1996)は,OCD の症状によってはメカニズムが異なるこ
とを示唆しており,近年の研究ではこのような傾向になりつつあることを指摘している。従っ
17
て,症状によるメカニズムの違いを検討することが必要だと考えられる。
以上より,本研究の目的は,これまでの実証研究から OCD に影響を及ぼすと考えられる TAF
と思考抑制の 2 変数を用いて認知モデルを作成し検証することである。また,強迫症状により
メカニズムが異なることを想定し,
“確認強迫”
,
“洗浄強迫”という 2 つの症状に焦点をあて,
モデルの検討を行う。
これに先立ち,前述した通り TAF の尺度の再検討を行う必要がある。そこで,研究 1 として,
まず TAF の再検討と,TAF と強迫傾向との関連を追試的に検討する。そして,研究 2 として,
TAF と思考抑制の 2 変数がどのように強迫に影響を及ぼすのかを明らかにするという認知モデ
ルを検証する。
18
第2章
第1節
研究 1:TAF の尺度の再検討と強迫傾向との関連についての追試的検討
問題と目的
TAF は“ある行為について考えをもつことは,その行為を行うことと同じである”という思
い込みのことである。Salkovskis(1985)は OCD 患者の臨床観察から 2 種類の現象として見出
した。一つ目が,道徳的規範に関するものであり,二つ目が危険性に関する認知バイアスであ
る。その後,Rachman(1993)により,この認知バイアスは「思考と行為の混同(TAF)
」と呼
ばれるようになった。
Shafran et al.(1996)は,TAF を測定する尺度を作成した。その際,TAF において,
「道徳
(TAF-Moral)
」
,
「他人に何かが起こる見込み(TAF-Likelihood-Others)
」
,
「自分に対する何かが
起こる見込み(TAF-Likelihood-Self)
」という 3 因子構造であることが示された。
しかし,第一章で論じてきたように TAF の尺度得点の用い方や因子構造が研究によって異な
る。
TAF 尺度を分析に用いる際に投入される方法としては,
TAF を合計値として扱う
(e.g., Rassin
et al, 2000)
,尺度作成時同様 3 因子で扱う(e.g., Shafran et al., 1996)
,TAF を「道徳」と,他
人に対するものと自分に対するものを一つにした「見込み」に分類し,2 因子として扱う(e.g.,
Rassin et al., 2001)という 3 つの方法が行われている。わが国では,鈴木・代田(2004)によっ
て,TAF 尺度を翻訳した TAFS 翻訳版が作成され,そこでは Shafran et al.(1996)同様,3 因子
構造と成っている。
しかし,TAF 尺度の因子構造は未だ明らかではなく,因子構造を検討した研究は我が国では
少ない。また,TAF と強迫傾向との関連を検討した研究はほとんど見られないことに加え,症
状との関連についても検討する必要があると考えられる。そこで,本研究では,①TAF の尺度
の再検討をすること,②TAF と強迫傾向及び「確認強迫」
,
「洗浄強迫」との関連を検討するこ
とを目的として研究を行う。
第2節
方法
(1) 調査対象者
大学生 170 名(男性 88 名,女性 82 名)を対象とした。
(2) 質問紙構成
フェイスシート(年齢,性別,学年の記入を求めた)
,強迫傾向尺度,TAFS 翻訳版から構成
された。
【強迫傾向を測定する尺度】
井出・細羽・西村・生和(1995)による強迫傾向尺度を用いた。項目内容は,
「自分をコント
ロールできなくなって,困ったことをしてしまうのではないかと心配になる」
,
「ガスや水道の
栓,ドアの鍵などを何度もチェックしてしまう」など 24 項目から成る。今回は,より広く強迫
傾向を取り上げるために,井出他(1995)が尺度の簡易性を高めるために削除した項目を含め,
計 47 項目で調査を行った。
「1:あてはまらない」から「5:あてはまる」までの5件法で回答し
てもらった。井出他(1995)では,
「侵入的思考」
(13 項目)
,
「確認強迫」
(11 項目)
,
「不決断」
19
(13 項目)
,
「洗浄強迫」
(10 項目)の4つの因子に分かれることが示されている。
【思考と行為の混同(TAF)を測定する尺度】
鈴木・代田(2004)による TAFS 翻訳版を用いた。項目内容は,
「もし私が友達について冷た
い考え方をしたら,それは冷たい行動をとるのと同じくらい不誠実だ」
,
「もし自分が病気にな
ることを想像したら,実際に自分が病気になる危険性が高まる」などの 16 項目からなる。
「0:
まったくあてはまらない」から「4:完全にあてはまる」までの5件法で回答してもらった。鈴
木・代田
(2004)
では,
「道徳
(TAF- Moral)
」
(9 項目)
,
「他人に何かが起こる見込み
(TAF-LikelihoodOthers)
」
(3 項目)
,
「自分に何かが起こる見込み(TAF- Likelihood- Self)
」
(4 項目)の3つの因
子に分かれることが示されている。
(3) 手続き
2010 年 6 月中旬,心理学系の講義終了後,集団的に実施した。その場で質問紙を配布し,即
時回答および回収を行った。
第3節
結果
(1) 強迫傾向尺度の探索的因子分析について
強迫傾向尺度 47 項目に関して,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った。1
度目の因子分析の後,井出他(1995)を参考に,固有値の変化の仕方,解釈のしやすさから因
子数は 4 因子解が適切であると判断し,因子数を 4 に設定して 2 度目の因子分析を行った。次
に,因子負荷量が.30 以下の項目を削除し,3 度目の因子分析を行った。結果を Table 2-1 に示
す。その結果,固有値 1 以上の因子からなる 4 因子構造が得られた。この因子構造は,井出他
(1995)とほぼ同様の因子構造となったため,因子の命名は井出他(1995)に倣い行った。
第一因子では,
「小切手や書類など,書き落としや間違いがないか何度もチェックする」
,
「手
紙を出す前には,何度も注意深くチェックする」などの計 11 項目からなり,確認行動について
の項目であったため,
“確認強迫”と命名した。第二因子は,
「不愉快な考えが心に浮かんでき
て,
毎日わずらわされているような気がする」
,
「不愉快な考えが自然と頭の中に浮かんできて,
止めることができない」などの計 16 項目からなり,侵入思考についての項目であったため,
“侵
入的思考”因子と命名した。第三因子は,
「汚いと思う物にさわったら,すぐにきれいにしない
と気がすまない」
,
「誰かが前にさわっていた物に触れるのは嫌だと思う」などの計 10 項目から
なり,清潔,汚染などに関する項目であったため,
“洗浄強迫”因子と命名した。第四因子は,
「レストランで注文する時,なかなか決められない」
,
「物事を決めるのは早いほうだ」などの
計 8 項目からなり,決断についての項目であったため,
“不決断”因子と命名した。
(2) TAFS 翻訳版の探索的因子分析について
TAF 尺度 16 項目に関して,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った。因子
数は,鈴木・代田(2002)を参考に,固有値の変化の仕方,解釈のしやすさから 2 因子解が適
切であると判断した。結果を Table 2-2 に示す。その結果,固有値 1 以上の因子からなる 2 因子
構造が得られた。この因子構造は,鈴木・代田(2002)は 3 因子構造で,異なる因子構造とな
った。鈴木・代田(2002)では,
「見込み(likelihood)
」が,他人に対するものと自分に対する
20
Table 2-1 強迫傾向尺度の因子分析結果(最尤法,プロマックス回転)
確認
強迫
項 目
侵入的
思考
洗浄
強迫
不決断
「確認強迫」(α=.87)
小切手や書類など,書き落としや間違いがないか何度もチェックする
.82
-.36
-.02
.00
手紙を出す前には,何度も注意深くチェックする
.81
-.31
.01
.07
手紙は,出す前に何度も繰り返してチェックする
.74
-.30
-.06
.14
私は必要以上に物事を確認しすぎる
.72
.20
.03
.03
何かしたときには,必ず 2,3 回以上チェックする
.70
-.06
-.06
.07
私は物事を確認しすぎだと思う
.69
.12
.05
-.02
ガスや水道の栓,ドアの鍵などを何度もチェックしてしまう
.66
.16
-.01
-.16
ドアや窓,引き出しなどがきちんと閉まっているか,確かめに戻ることがよくある
.65
.14
-.06
-.17
ガスや水道の栓をきちんと閉めていても何回も確認してしまう
.56
.10
.06
-.13
マッチやタバコの火がちゃんと消えているか,確かめに戻ることがよくある
.49
.06
.07
-.14
毎日多くの時間を,何かをチェックすることに費やしている
.35
.21
.14
-.14
不愉快な考えが心に浮かんできて,毎日わずらわされているような気がする
-.09
.86
-.06
-.01
不愉快な考えが自然と頭の中に浮かんできて,止めることができない
-.04
.76
.08
-.07
いやな考えが浮かんできて,頭から離れないことがよくある
-.03
.64
.11
-.03
頭が勝手にものを考えて,自分のまわりで起こっていることに注意が向けられない
-.09
.64
-.02
.07
最も重要な事を優先させることができなくて,仕事が長引いてしまう
-.04
.60
-.06
.14
自分をコントロールできなくなって,困ったことをしてしまうのではないかと心配になる
-.03
.59
-.00
.02
理由もなく,物を壊したり傷つけたりしたくなる時がある
-.12
.51
-.04
-.05
不幸な出来事を聞くと,なぜか自分のせいだと思ってしまう
.14
.46
.04
.04
いつもしている簡単なことでも,ひどく疑ってかかる
.24
.45
.02
.14
-.10
.42
.18
-.15
わいせつな言葉や汚い言葉が心に浮かんできて,止められない
.05
.42
-.12
.28
ちょっとしたミスや注意不足のせいで,取り返しのつかない結果を招くと思うことがよくある
.15
.40
.03
.05
知らずに他人を傷つけてしまっている,と心配し続けることがある
.27
.39
-.17
.00
-.03
.35
-.13
.31
.17
.35
-.04
.02
-.18
.31
.04
.19
-.15
「侵入的思考」(α=.86)
何から始めるか決められなくて,仕事を時間内に終えることができない
決定は,なるべく遅らせようとする
自殺や犯罪の話を聞くと,ひどく動揺して頭から離れなくなる
時間どおりにできなくて,遅れることが多い
「洗浄強迫」(α=.83)
汚いと思う物にさわったら,すぐにきれいにしないと気がすまない
.07
.07
.70
-.06
-.01
.69
.03
.01
.15
.59
-.16
お金を触っても汚いとは思わない
-.14
-.19
.59
.30
他人の汗,唾液などに少しでも触れると,服がひどく汚れて,何か体に害があるように感じる
-.05
.05
.56
-.01
お金にさわると手が汚くなったように感じる
誰かが前にさわっていた物に触れるのは嫌だと思う
動物にさわったら汚い気がして,すぐに手を洗ったり着替えたりしたくなる
-.07
-.13
.55
.28
病気やバイ菌をそれほど気にするほうではない
.13
-.08
.53
.02
私は潔癖症ではない
.05
.01
.50
.05
セッケンを人よりたくさん使ってしまう
.26
.04
.43
.21
病気やバイ菌について,よけいな心配をしてしまう
.34
.20
.38
-.07
レストランで注文する時,なかなか決められない
-.15
.03
.09
.73
物事を決めるのは早いほうだ
-.17
.02
.06
.71
重要でないことでも,決心するのが難しい
.21
.21
-.14
.59
気軽に決心することができる
.13
-.12
.04
.58
つまらない事を決めるのにも,たくさんの時間を使っていると思う
.21
.26
.01
.47
-.25
.01
.06
.47
.09
.15
-.03
.39
-.04
.02
.04
.33
―
.32
―
「不決断」(α=.79)
何かを決定するような状況におかれるのは嫌いではない
一度決めた事は,後になって悩んだりしない
自分が何を望んでいるかは,いつもはっきりとわかっている
因子間相関
確認強迫
侵入的思考
洗浄強迫
不決断
21
.26
.30
.14
―
.28
.11
―
Table 2-2 TAF 尺度の因子分析結果(最尤法,プロマックス回転)
項 目
道徳
見込み
.83
.78
.78
.77
.73
.68
.66
.60
.55
.06
-.03
.01
.03
-.11
-.02
-.04
.04
-.03
-.05
-.03
.01
.04
-.01
.07
-.05
.94
.90
.87
.78
.76
.69
.34
―
.38
―
「道徳」(α=.90)
友人をひどく批判するのを想像することは,実際にそう言うのと同じくらい私にとっては許しがたい
暴力的な考えを抱くことは,暴力的な行動と同じくらい私にとっては許しがたい
もし私が誰かに対してひどい考えを抱いたら,それはひどい行動を実行するのと同じくらい悪い
もし私が誰かを傷つけたいと考えたら,それは実際に傷つけるのと同じくらい悪い
親密な関係の人をだますのを考えることは,実際にだますことと同じくらい私にとって不道徳だ
誰かをののしるのを想像することは,実際にののしるのと同じくらい私にとっては許しがたい
もし私が誰かにわいせつな言動をすることを想像したら,それは実際にそうするのと同じくらい悪い
もし私が友達について冷たい考え方をしたら,それは冷たい行動をとるのと同じくらい不誠実だ
もし私が嫉妬深い考えを抱いたら,それは嫉妬深いことを言うのと同じだ
「見込み」(α=.86)
もし私が,身内や友人が交通事故に遭うことを想像したら,実際にその人が交通事故に遭う危険性が高まる
もし私が,身内や友人が職を失うことを想像したら,実際に彼らが職を失う危険性が高まる
もし私が,身内や友人が病気になることを想像したら,実際にその人が病気になる危険性が高まる
もし私が,身内や友人が転んで怪我をすることを想像したら,実際にその人が転んで怪我をする危険性が高まる
もし自分が交通事故に遭うことを想像したら,実際に自分が交通事故に遭う危険性が高まる
もし自分が転んで怪我をすることを想像したら,実際に転んで怪我をする危険性が高まる
もし自分が病気になることを想像したら,実際に自分が病気になる危険性が高まる
因子間相関
道徳
見込み
22
ものの 2 因子に分けられていたが,本研究では,その 2 因子がまとまり 1 因子となった。その
ため,因子構造は異なるが,因子の内容は類似しているため,命名は鈴木・代田(2002)に倣
い行った。
第一因子では,
「友人をひどく批判するのを想像することは,実際にそう言うのと同じくらい
私にとっては許しがたい」
,
「暴力的な考えを抱くことは,暴力的な行動と同じくらい私にとっ
ては許しがたい」などの計 9 項目からなり,道徳的な規範に関する項目であったため,
“道徳”
因子と命名した。第二因子では,
「もし私が,身内や友人が交通事故に遭うことを想像したら,
実際にその人が交通事故に遭う危険性が高まる」
,
「もし私が,身内や友人が職を失うことを想
像したら,実際に彼らが職を失う危険性が高まる」など計 7 項目からなり,自分あるいは誰か
の危険性を見積もる項目であったため,
“見込み”因子と命名した。
(3) 各尺度得点の平均,標準偏差,及び各尺度得点間の相関
各尺度得点の平均及び標準偏差を Table 2-3 に示した。また,強迫傾向の下位尺度と TAF 尺
度の下位尺度の関連を検討するために,各尺度得点間の相関係数を算出した(Table 2-3)
。
各尺度内の相関は,強迫傾向尺度の「確認強迫」では,
「侵入的思考」
(r =.30, p<.01)
,
「洗浄
強迫」
(r =.33, p<.01)
,
「不決断」
(r =.25, p<.01)との間で相関が見られた。
「侵入思考」では,
「洗浄強迫」
(r =.18, p<.05)
,
「不決断」
(r =.40, p<.01)との間で相関が見られた。
「洗浄強迫」
では,
「不決断」
(r =.22, p<.01)との間で相関が見られた。また,TAF 尺度の「道徳」は「見込
み」と相関が見られた(r =.33, p<.01)
。
強迫傾向の合計得点及び下位尺度得点と TAF 尺度の下位尺度得点間の相関は,強迫傾向(合
計)と TAF 尺度の「道徳」
(r=.24, p<.01)
,
「見込み」
(r=.31, p<.01)との間で正の相関が見られ
た。強迫傾向尺度の「確認強迫」で TAF 尺度の「道徳」
(r =.23, p<.01)
,
「見込み」
(r =.23, p<.01)
との間で正の相関が見られた。
「侵入的思考」は,
「道徳」
(r =.19, p<.05)
,
「見込み」
(r =.29,p<.01)
との間で相関が見られた。
「洗浄強迫」は,
「道徳」
(r =.02, ns)
,
「見込み」
(r =.08, ns)共に相
関は見られなかった。
「不決断」では,
「道徳」
(r=.19,p<.01)
,
「見込み」
(r =.20,p<.01)との間
で正の相関が見られた。
(4) TAF が強迫傾向・症状に与える影響~重回帰分析を用いた検討~
TAF 尺度の 2 つの下位尺度(
「道徳」
,
「見込み」
)が,
「強迫傾向」および「確認」
,
「洗浄」
という 2 つの強迫症状に与える影響を検討するために,
「強迫傾向」
,
「確認強迫」
,
「洗浄強迫」
を従属変数,
「TAF-道徳」
,
「TAF-見込み」を独立変数として重回帰分析を行った。結果を Table
2-4 に示す。
「強迫傾向」及び「確認強迫」では,
「TAF-道徳」
,
「TAF-見込み」どちらも標準偏回帰係数
が有意であった(強迫傾向: β=.15, p<.05; β=.26, p<.01; 確認強迫: β=.18, p<.01; β=.18,
p<.01)
。しかし,
「洗浄強迫」では,
「TAF-道徳」
,
「TAF-見込み」どちらも標準回帰係数は有意
ではなかった(β=-.01, ns; β=.09, ns)
。つまり,第一に強迫傾向及び確認強迫には TAF の道徳,
見込みどちらも影響を及ぼしていること,第二に洗浄強迫は TAF の影響が見られないことが示
された。
23
Table 2-3 各尺度得点間の相関及び平均値と標準偏差
強迫傾向
強迫
傾向
強迫傾向
確認強迫
侵入的思考
洗浄強迫
―
確認
強迫
侵入的
思考
**
.72
―
**
TAF
洗浄
強迫
不決断
**
**
道徳
見込み
**
M
SD
**
128.04
23.66
.76
.60
.62
.24
.31
.30**
.33**
.25**
.23**
.23**
34.48
9.54
―
**
**
**
**
.18
―
不決断
.40
.19
.29
43.35
11.32
.22**
.02**
.08**
24.19
7.59
―
**
**
.20
26.03
6.01
.33**
15.22
7.84
―
6.82
5.51
.19
TAF
道徳
―
見込み
*p<.05
24
**p<.01
Table 2-4 重回帰分析の結果
従属変数
独立変数
強迫傾向
**
確認強迫
洗浄強迫
**
-.01**
TAF-道徳
.15
.18
TAF-見込み
.26**
.18**
.09**
.12**
.08**
.01**
R2
**
p<.01
25
*
p<.05
第4節
考察
本研究では,強迫傾向と TAF との関連について明らかにするために,第一に TAF 尺度の因
子構造を明らかにすること,第二に,TAF の「道徳」
,
「見込み」が強迫傾向及び強迫症状の「確
認」
,
「洗浄」に及ぼす影響について検討することを目的とし,研究を行った。
はじめに,TAF の因子構造について検討をした結果,
「友人をひどく批判するのを想像する
ことは,実際にそう言うのと同じくらい私にとっては許しがたい」などの道徳的な規範に対す
る項目である,
“道徳”と,
「もし私が,身内や友人が交通事故に遭うことを想像したら,実際
にその人が交通事故に遭う危険性が高まる」などの自分あるいは誰かの危険性を見積もること
に対する項目である“見込み”の 2 因子が得られた。本研究で得られた因子構造は,鈴木・代
田(2004)の因子構造とは異なっていた。本研究では,
“道徳”
,
“見込み”という 2 因子が得ら
れ,これは Shafran et al.(1996),鈴木・代田(2004)で見られた“他人に何かが起こる見込み”
と“自分に何かが起こる見込み”との 2 つの因子が一つにまとまった因子であった。2 因子構
造は,Rassin et al.(2001)でも見られており,明示的には妥当であると考えられる。
強迫傾向及び強迫症状と TAF との関連を検討した結果からは,強迫傾向に関しては,TAF の
「道徳」
,
「見込み」どちらも有意な影響を及ぼしていることが示された。先行研究においても
両者の関連はほぼ一貫して認められているが,
これまで指摘されてきたように,
強迫傾向に TAF
が影響しているということはかなり強固な現象であると考えられる。
次に症状別に検討した結果,確認強迫では,
「道徳」
,
「見込み」どちらも確認強迫に及ぼす影
響が有意であり,TAF が確認強迫に影響を及ぼしていることが示された。確認強迫は,手紙を
出す前に,
「書き落としや間違いがないか何度もチェックする」や,
「ガスや水道の栓をきちん
と閉めていても何回も確認してしまう」などの項目から成り立つ因子である。例えば,カギや
元栓を確認する際に,
「道徳」バイアスが強い場合は,
“確認を怠ったことで泥棒に入られたり,
何らかの危害にあったりしたら,自分は泥棒と同じくらい悪い”と考え,確認行動をより頻回
にさせるのかもしれない。また,
「見込み」のバイアスが強い場合は,
“家事や泥棒への危険性
が高まる”と考え,その危険を回避しようとする確認行動をより行うのかもしれない。TAF の
道徳,見込みというどちらの認知バイアスの影響を受けて確認行動をとる可能性がある。
一方,
「洗浄強迫」では TAF の「道徳」
,
「見込み」の影響は見られなかった。Shafran & Rachman
(2004)は,TAF の実証研究をレビューし,TAF は強迫傾向と低度から中程度の関連が見られ
ると述べた。しかし,
「洗浄強迫」と TAF との関連は見られなかったことから,一つ一つの強
迫症状と TAF との関連の仕方は異なり,症状別に TAF との関連を検討していくことが,OCD
の強迫症状のメカニズムの違いについて明らかにする可能性が示唆された。このように TAF が
強迫傾向全体を扱かった場合と強迫症状を単一で見た場合とで影響が異なった理由としては,
強迫傾向尺度が認知的要因を含んでいることが考えられる。
「侵入的思考」は,TAF の「道徳」
,
「見込み」どちらとも相関が見られた。
「侵入的思考」は,
「不愉快な考えが心に浮かんできて,
毎日わずらわされているような気がする」
という侵入思考への苦痛度を測定している項目から,
「わいせつな言葉や汚い言葉が心に浮かんできて,止められない」
,
「ちょっとしたミスや注意
不足のせいで,取り返しのつかない結果を招くと思うことがよくある」など道徳的規範や悲惨
な結果の見積もりに関する項目があり,項目内容が TAF の内容と類似している部分もあった。
侵入的思考に困難さを感じていると,TAF の得点が上がるというのは,TAF が侵入思考に過度
26
の意味づけをさせ,
より侵入思考の苦痛度を上昇させるというこれまでの知見と一致している。
「不決断」は,
「道徳」
,
「見込み」と相関が見られた。
「不決断」は,
「レストランで注文すると
き,なかなか決められない」
,
「物事を決めるのは早い方だ」などの,決断に関する項目である。
Frost & Shows(1993)は,不決断を強迫の認知的症状として指摘している。
「道徳」と「見込み」
という侵入思考への過度の意味づけが,何かを決断する際に不安にさせる要因という可能性も
あるだろう。
「侵入的思考」
,
「不決断」ともに認知的変数,あるいは認知的な変数の影響を受け
やすい変数であり,こうした認知変数が認知バイアスの影響を受けて高まることによって,よ
り強迫症状を強めると考えられるだろう。
本研究の結果からは,
「確認強迫」は TAF の影響が見られたが,
「洗浄強迫」では見られなか
った。そのため,強迫症状の違いにより TAF を介さないプロセスがあると考えられ,TAF とい
う信念を用いずに,他の変数の影響により洗浄強迫が起きていると考えられる。そのため,確
認強迫と洗浄強迫では,強迫行為に至るメカニズムに違いがある可能性もうかがわれよう。
本研究では,TAF と「確認強迫」
,
「洗浄強迫」という 2 つの変数間での検討しか行っていない
が。しかし,第一章で述べたように思考抑制が強迫傾向と関連することが示されている。また,
他にも強迫と関連があると考えられる変数もあることが指摘されている(李, 2005)
。症状によ
るメカニズムの違いを明らかにするには,こうした変数を加えたより詳細な検討が必要である
だろう。
27
第3章
第1節
研究 2:TAF と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響について
問題と目的
研究 1 の結果では,
「確認強迫」は TAF の影響が見られたが,
「洗浄強迫」では見られず,強
迫症状の違いにより TAF を介さないプロセスがあることが示唆された。TAF という認知バイア
スが強迫症状に直接影響を及ぼさないこともあるという可能性が考えられ,他の変数の影響に
より洗浄強迫が起きていることが考えられる。確認強迫と洗浄強迫では,強迫行為に至るメカ
ニズムに違いがある可能性もうかがわれた。
これまで,TAF と強迫症状(Rachman et al., 1995)
,思考抑制と強迫症状(Rachman, 1998)と
の関連はいくつかの実証研究から示されているが,この 3 変数の関連を検討した研究はあまり
見られない。
第 1 章で述べたように,
この 3 変数の関連を検討した研究には,
Rassin et al.
(2000)
,
Altin& Gençöz(2011)などがある。
Rassin et al.(2000)は,健常者で見られる強迫観念・行為という現象が,臨床の現象へどの
ように発展するのかを調査することを目的とした。そして,強迫症状が侵入思考の機能である
ことに注目し,侵入思考を強める要因として TAF と思考抑制に着目した。大学生を対象に質問
紙調査を行い,モデルを作成,検証を行った。Rassin et al.(2000)の複数のモデルを Figure 3-1
(モデル 1, 2, 3, 4, 5)に示す。この結果から,モデル 2,4,5 の適合度が高かった。以上より,
思考抑制は TAF の先行要因であり,TAF は思考抑制よりも強迫に対する根本的要因であること
が示唆された。しかし,このモデルは理論や今までの知見を基に作成されたモデルではない。
Rassin et al.(2000)では,Model 2 の適合度が高かったが,このモデルは彼らが指摘しているよ
うに,直観的な妥当性に基づいて“見込み”から思考抑制へパスを引いたモデルである。
「見込
み」バイアスを持つ人は,自分と他者の危険性を高く評価してしまうが,他者の危険を回避す
るために取る対処行動は,個人の認知方略である思考抑制という方法はとらずに,より他者を
危険から遠ざけるような具体的な行動をとるだろうという考えから作成したモデルである。し
かし,これまでの実証研究の知見を踏まえると,
“見込み”と思考抑制の関連が示されており
(Clark, Purdon, & Byers, 2000; Altin & Gençöz, 2011)
,
“見込み”から思考抑制へパスを引くこと
が適切である可能性もある。
また,Altin& Gençöz(2011)は,TAF と強迫症状の間の責任と思考抑制の媒介的な役割を調
査することを目的とし,大学生に質問紙調査を行い,媒介分析を用いて検証した。Altin & Gençöz
(2011)の複数のモデルを Figure 3-2 に示す。その結果から,
「TAF-道徳」
,
「TAF-見込み」は強
迫傾向へ異なるパスに続くことが示され,
「TAF-道徳」は責任性と,
「TAF-見込み」は思考抑制
とつながり,強迫傾向を増加させていることが示された。
以上の 2 つの結果から,TAF の種類によっては強迫傾向へのパスに違いが見られることが示
唆された。しかし,2 つの結果では,
「思考抑制」につながるものとして「道徳」
「見込み」と
違いが見られ結果は一貫していない。
また,Altin& Gençöz(2011)では,TAF を責任感覚の前提としてモデルに組み込んでいる。
しかし,TAF は責任性という信念の下位概念である認知バイアスであり,責任性の前提として
TAF をモデルに組み込むのかは検討の余地がある点である。
28
モデル 1
TAF
χ2=9.77, p=0.00
.12
強迫症状
.39
AASR=0.12
AIC=7.77
思考抑制
CFI=0.78
χ2=2.54, p=0.11
モデル 2
.24
TAF
思考抑制
.41
AASR=0.04
強迫症状
AIC=0.54
CFI=0.96
モデル 3
χ2=7.69, p=0.02
.21
TAF
強迫症状
.38
思考抑制
AASR=0.05
AIC=3.69
CFI=0.86
モデル 4
見込み
χ2=5.73, p=0.06
.17
.11
思考抑制
.41
強迫症状
道徳
AASR=0.04
AIC=1.73
CFI=0.94
モデル 5
χ2=1.87, p=0.39
見込み
AASR=0.03
.17
AIC=-2.13
道徳
.21
思考抑制
.38
CFI=1.00
強迫症状
Figure 3-1 Rassin et al.(2000)のモデル(Rassin et al., 2000, p.893,895 より作成)
29
.24, p<.001
強迫症状
TAF-道徳
.02, p>.05, n.s.
.52, p<.001
.40, p<.001
責任感覚の増大
Reduced model
Full model
F(3,279)=28.43, p<.001
F(4,278)=35.48, p<.001
2
R2=.34
R =.23
.14, p<.001
強迫症状
TAF-見込み
.07, p>.05, n.s.
.16, p<.001
.31, p<.001
思考抑制
Reduced model
Full model
F(3,279)=28.43, p<.001
F(4,278)=30.48, p<.001
2
R2=.30
R =.23
Figure 3-2
Altin& Gençöz(2011)の媒介分析の結果
(Altin& Gençöz, 2011, p.106, 108 より作成)
30
そもそも,責任性とはどのようなものなのだろうか。Rheaume, Ladouceur, Freeston & Letarte
(1995)は,責任の重要性について,責任の評価における決定的な影響という側面があること
を述べている。つまり,強迫症状を喚起しうる状況への評価には,責任の評価という点の他に,
自分がある事態に対して決定的な影響を持つと考える態度があるとした。つまり,責任には重
大な決定的影響を持つと考える態度と,実際に責任感覚を増大させるような信念を持ち合わせ
るという 2 つがあると考えられる。Salkovskis, Wroe, Gledhill, Morrison, Forrester, Richards,
Reynolds, & Thorpe(2000)は,責任性を,本人があらかじめ持っている責任的な態度(assumptions)
と,責任の増大感覚を高める評価(appraisals)の 2 つの側面に分けている。そのため,責任性
という言葉は一概に捉えるのではなく,2 つの側面をふまえて検討していく必要があるだろう。
TAF は責任性の概念の中でも,ある出来事を重要だとみなす際の評価に関わる認知バイアスで
あった。そのため,appraisal に相当するだろう。本研究の目的として,第一に,Rassin et al.(2000)
の追試的検討を行う。第二に assumptions としての責任性と appraisal としての TAF との関連を
検討したうえで,研究 1 の結果をふまえ,TAF から強迫症状へ至るモデルが症状によって異な
ることを想定し,責任性と TAF との関連や,これまでの実証研究をふまえて,探索的にモデル
を作成し症状ごとに検証することを目的とする。
なお,研究 1 では,井出他(1995)の強迫傾向尺度を用いたが,研究 2 では Hodgson & Rachman
(1977)の Mausley Obsessive Complusive Inventory の日本語版である Mausley ObsessiveComplusive Inventory(MOCI)邦訳版を用いた。その理由としては,TAF,思考抑制,強迫傾向
の 3 変数間の関連を検討した研究では,MOCI 尺度が用いられていたためであり,直接的に比
較は検討することが出来ないが,モデルの適合の比較を行うために,尺度を同様のものとし検
討を行う。
第2節
方法
(1) 調査対象者
大学生 148 名(男性 47 名,女性 101 名)を対象とした。平均年齢は 20.35(SD=0.95)歳で
あった。
(2) 質問紙構成
質問紙は,フェイスシート(年齢,性別,学年の記入を求めた)
,MOCI 邦訳版と TAFS 翻訳
版,非機能的思考体験質問紙,Responsibility Attitude Scale 翻訳版,WBSI から構成された。
強迫傾向を測定する尺度
MOCI 邦訳版(吉田・切池・永田・松永・山上, 1995)を用いた。項目内容は,
「毎日のよう
にいやな考えが意思に反して湧き上がってきて困っています」
,
「日常のなんでもないことをし
ていても,これでいいのかひどく疑問に思ってしまいます」など 30 項目から成り,
「はい」
,
「い
いえ」の 2 件法で回答してもらった。吉田他(1995)では,
「確認(Checking)
」
,
「清潔(Cleaning)
」
,
「優柔不断(Slowness)
」
,
「疑惑(Doubting)
」の 4 つの因子に分かれることが示されている。
思考と行為の混同(TAF)を測定する尺度
鈴木・代田(2004)による TAFS 翻訳版を用いた。項目内容は,
「もし私が友達について冷た
い考え方をしたら,それは冷たい行動をとるのと同じくらい不誠実だ」
,
「もし自分が病気にな
31
ることを想像したら,実際に自分が病気になる危険性が高まる」などの 16 項目からなり,
「0: ま
ったくあてはまらない」から「4: 完全にあてはまる」までの5件法で回答してもらった。
思考抑制を測定する尺度
White Bear Suppression Inventory 邦訳版(以下 WBSI; 松本, 2008)を用いた。項目内容は,
「自
分には考えたくないことがある」
,
「ときどき,自分は,なぜそのような考えを持っているのか
と思う」などの 15 項目からなり,
「0: まったくあてはまらない」から「4: 完全にあてはまる」
までの5件法で回答してもらった。
自動思考を測定する尺度
非機能的思考体験質問紙(杉浦・丹野, 1998)を用いた。項目内容は,
「人前でひんしゅくを
買うようなことを起こすのではないかという考え」
,
「仕事などで何か重大なミスを犯す/あるい
は犯したのではないかという考え」など 55 項目からなり,
「全くない」から「いつもある」の
4件法で回答してもらった。杉浦・丹野(1998)では,
「危険」
,
「衝動」
,
「自己像」の3因子に
分かれることが示されている。ただし本研究では,この尺度得点は分析では用いなかった。
責任性の信念を測定する尺度
Responsibility Attitude Scale 翻訳版(以下,RAS; 杉浦・杉浦・丹野, 2007)を用いた。項目内
容は,
「何かがうまくいかないと,自分の責任があると感じることがしばしばある」
,
「危険が起
こるかもしれないのを予見できたにもかかわらず,何もしなかったら,いかなる結果も私のせ
いである」など 26 項目からなり,
「0: 全く当てはまらない」から「5: とてもよくあてはまる」
までの5件法で回答してもらった。
(3) 手続き
心理学系の講義終了後,その場で回答および回収を行った。
第3節
結果
(1) 尺度の検討
MOCI の探索的因子分析及び確認的因子分析
MOCI30 項目に関して,探索的因子分析(最尤法,バリマックス回転)を行った。1 度目の
分析の後,吉田他(1995)を参考に,固有値の変化の仕方,解釈のしやすさから因子数は 4 因
子解が適切であると判断し,因子数を 4 に設定して 2 度目の因子分析を行った。次に,因子負
荷量が.30 以下の項目を削除し,3 度目の因子分析を行った。その結果,固有値 1 以上の因子か
らなる 18 項目 4 因子構造が得られた。第一因子は,
「細かいことまで,あれこれ考えすぎて困
っています」
,
「日常のなんでもないことをしていても,これでいいのかひどく疑問に思ってし
まいます」など,疑惑に関連する項目であり,吉田他(1995)に倣い“疑惑”とした。第二因
子は,
「ガスの元栓や,水道の蛇口,ドアの鍵などを閉めたかどうか何度も確認しないと気がす
みません」など,確認行動についての項目であり,
“確認強迫”因子とした。第三因子では,
「多
量に消毒剤を使うことはありません」
,
「私はそれほど潔癖症ではありません」など,清潔,汚
染などに関する項目であり,
“洗浄強迫”因子とした。第四因子は,
「バイ菌や病気などのこと
は特に気になません」
,
「お金に触れると手が汚くなるとは思いません」など,清潔に関する項
目が多かったため,
“清潔”因子とした。
32
この結果に基づき,確認的因子分析を行った。結果を Table 3-1 に示す。適合度指標は,χ2=
156.79(p<.01)
,GFI=.90,AGFI=.85,CFI=.93,RMSEA=.05 であった。また,因子間相関の推
定値は,因子 1“疑惑”-因子 2“確認強迫”間で r=.86,因子 1-因子 3“洗浄強迫”間 r=.28,
因子 1-因子 4“清潔”間 r=.34,因子 2-3 間 r=.37,因子 2-4 間 r=.33,因子 3-4 間 r=.48 であった。
TAFS 翻訳版の確認的因子分析
TAF 尺度 16 項目に関して,研究 1 に基づいた因子について確認的因子分析を行った。結果
を Table 3-2 に示す。χ2=271.11(p<.01)
,GFI=.82,AGFI=.76,CFI=.91,RMSEA=.11 であった。
因子間相関の推定値は,r=.41 であった。
WBSI 翻訳版の確認的因子分析
松本(2008)に基づき,1 因子構造として確認的因子分析を行った。結果を Table 3-3 に示す。
χ2=189.76(p<.01),GFI=.85,AGFI=.76,CFI=.89,RMSEA=.10 であった。
RAS 翻訳版の確認的因子分析
杉浦他(2007)に基づき,1 因子構造として確認的因子分析を行った。結果を Table 3-4 に示
す。χ2=688.17(p<.01),GFI=.72,AGFI=.67,CFI=.77,RMSEA=.09 であった。
(2) 各尺度得点間の相関
各尺度得点は因子及び尺度の平均値の平均及び標準偏差,および各尺度得点間の相関係数を
算出した(Table 3-5)
。なお MOCI については,研究 2 で検討する確認強迫と洗浄強迫の得点及
び合計得点のみを用いた。強迫傾向(MOCI 合計値)は,WBSI と RAS で中程度の相関が認め
られた(r=.47, p<.01; r=.51, p<.01)
。確認強迫及び洗浄強迫については,前者は WBSI と RAS
との間で有意な相関が認められたが(r=.31, p<.01; r=.28, p<.01)
,後者については認められなか
った(r=.10, ns; r=.14, p<.10)
。TAF については,強迫とはほとんど相関は有意ではなかったが,
TAF 道徳と RAS で中程度の相関(r=.45, p<.01)が,TAF 見込みでは WBSI と RAS の両方との
間で有意な相関が(r=.23, p<.01; r=.27, p<.01)認められた。WBSI と RAS との間では中程度の
相関が認められた(r=.51, p<.01)
(3) Rassin et al.(2000)のモデルの追試的検討
上述の Rassin et al.(2000)の 5 つのモデルについて,強迫症状に MOCI の合計値,TAF には
TAFS の合計値,思考抑制には WBRI 得点を入れ,追試的な分析を行った。結果を Figure 3-3
に示した。
(4) 新たなモデルの作成と症状別検討
TAF と責任性との関連に関する検討
はじめに,TAF の道徳,見込みと責任性との関連を捉えるため,それぞれを従属変数として
重回帰分析を行った。Figure 3-4 は結果をパス図に表したものである。
まず,TAF-道徳を従属変数,TAF-見込み,責任性を独立変数とし,分析を行った。その結果,
TAF-見込み,責任性ともに有意な影響を及ぼしていた(β=.28, p<.001, β=.37, p<.001)
。次に,
TAF-見込みを従属変数,TAF-道徳,責任性を独立変数とし,分析を行った。その結果,TAF道徳は有意に影響を及ぼしていたが,責任性の影響は見られなかった(β=.32, p<.001, β=.14,
ns)
。最後に,責任性を従属変数,TAF-道徳,TAF-見込みを独立変数とし,分析を行った。そ
33
Table 3-1 MOCI の確認的因子分析結果
標準化
係数
Mean
SD
疑惑
22.
私は何度も確かめる方ではありません。
0.74
0.45
0.50
18.
細かいことまで,あれこれ考えすぎて困っています。
0.72
0.39
0.49
8.
毎日のようにいやな考えが意志に反してわき上がってきて困っています。
0.54
0.28
0.45
2.
いやな考えに取りつかれて,それからなかなか離れられません。
0.53
0.51
0.50
日常の何でもないことをしていても,これでいいのかとひどく疑問に思ってしまいます。
0.44
0.38
0.49
私は,非常に融通のきかない人です。
0.42
0.25
0.43
ガスの元栓や,水道の蛇口,ドアの鍵などを閉めたかどうか何度も確認しないと気がすみません。
0.85
0.32
0.49
28.
何度も確かめるので,毎日ひどく時間がかかってしまいます。
0.59
0.14
0.35
12.
何度も繰り返してやり直さないと気がすまないので仕事が遅れることがあります。
0.58
0.19
0.40
10.
7.
確認強迫
6.
洗浄強迫
17.
私はそれほど潔癖症ではありません。
1.11
0.14
0.35
27.
多量に消毒剤を使うことはありません。
0.80
0.09
0.29
13.
石鹸は普通の量しか使いません。
0.47
0.16
0.37
偶然,誰かとぶつかるかどうかと過剰な心配をすることはありません。
0.26
0.24
0.43
24.
お金に触れると手が汚くなるとは思いません。
0.62
0.32
0.47
25.
普通の時に,数を確認しながらすることはありません。
0.50
0.47
0.50
21.
バイ菌や病気などのことは特に気になりません。
0.40
0.68
0.47
不潔だと思うので,公衆電話は使わないようにしています。
0.34
0.02
0.14
朝の身支度にそれほど時間はかかりません。
0.26
0.40
0.49
9.
清潔
1.
16.
2
χ =156.79(p<.01),GFI=.90,AGFI=.85,CFI=.93,RMSEA=.05
34
Table 3-2 TAFS 翻訳版の確認的因子分析結果
標準化
係数
Mean
SD
道徳
2
もし私が友だちについて冷たい考え方をしたら,それは冷たい行動をとるのと同じくらい不誠実だ
0.66
0.17
1.07
3
誰かをののしるのを想像することは,実際にののしるのと同じくらい私にとっては許しがたい
0.75
1.59
1.02
4
もし私が嫉妬深い考えを抱いたら,それは嫉妬深いことを言うのと同じだ
0.54
2.14
1.16
5
もし私が誰かを傷つけたいと考えたら,それは実際に傷つけるのと同じくらい悪い
0.75
1.91
1.18
6
もし私が誰かにわいせつな言動をすることを想像したら,それは実際にそうするのと同じくらい悪い
0.78
1.66
1.05
10
親密な関係の人をだますのを考えることは,実際にだますことと同じくらい私にとって不道徳だ
0.79
2.10
1.13
11
もし私が誰かに対してひどい考えを抱いたら,それはひどい行動を実行するのと同じくらい悪い
0.85
1.77
1.13
13
友人をひどく批判するのを想像することは,実際にそう言うのと同じくらい私にとっては許しがたい
0.74
1.59
1.11
16
暴力的な考えを抱くことは,暴力的な行動と同じくらい私にとっては許しがたい
0.81
1.59
1.08
見込み
1
もし自分が病気になることを想像したら,実際に自分が病気になる危険性が高まる
0.54
1.48
1.10
7
もし私が,身内や友人が病気になることを想像したら,実際にその人が病気になる危険性が高まる
0.86
0.98
1.01
8
もし私が,身内や友人が交通事故に遭うことを想像したら,実際にその人が交通事故に遭う危険性が高まる
0.90
0.97
1.04
9
もし自分が交通事故に遭うことを想像したら,実際に自分が交通事故に遭う危険性が高まる
0.89
0.99
1.07
12
もし私が,身内や友人が転んで怪我をすることを想像したら,実際にその人が転んで怪我をする危険性が高まる
0.90
0.83
0.90
14
もし私が,身内や友人が職を失うことを想像したら,実際に彼らが職を失う危険性が高まる
0.91
0.85
0.94
15
もし自分が転んで怪我をすることを想像したら,実際に転んで怪我をする危険性が高まる
0.81
1.08
1.08
2
χ =271.11(p<.01),GFI=.82,AGFI=.76,CFI=.91,RMSEA=.11
35
Table 3-3 WBSI 翻訳版の確認的因子分析結果
標準化
係数
Mean
SD
1
自分には考えたくないことがある
0.61
4.05
0.88
2
ときどき,自分は,なぜそのような考えを持っているかと思う
0.70
3.84
1.11
3
とめることができない考えを持っている
0.52
3.46
1.13
4
忘れることができないイメージがある
0.44
3.95
1.06
5
よく 1 つの考えにこだわる
0.43
3.32
1.14
6
「ある考えを止めることが出来たら良いのに」と思う
0.67
3.57
1.16
7
ときどき,自分の心は,ある考えをとめようとすればするほど活発に働く
0.62
3.24
1.17
8
いつも,問題を考えないようにする
0.20
2.67
1.08
9
頭の中をぐるぐるまわる考えがある
0.71
3.60
1.11
10
ときどき,考えないようにするために忙しくする
0.64
3.09
1.33
11
考えないようにしようとするものがある
0.74
3.66
1.16
12
ときどき,自分の考えから気をそらすことがある
0.63
3.36
1.14
13
自分がさけようとする考えがある
0.67
3.50
1.08
14
私には,私が避けようとする考えがある
0.72
3.42
1.12
15
ときどき,この考えを止めることができたらと思う
0.78
3.37
1.25
χ2=189.76(p<.01),GFI=.85,AGFI=.76,CFI=.89,RMSEA=.10
36
Table 3-4 RAS 翻訳版の確認的因子分析結果
標準化
係数
Mean
SD
0.47
4.00
0.83
2 危険が起こるかもしれないのを予見出来たにもかかわらず,何もしなかったら,いかなる結果も私のせいである
0.53
3.43
0.99
3 私は,問題への責任を感じることに対して,過敏である
0.60
3.71
0.98
4 もしも私が好ましくない考えを抱いたら,悪い行為をしたことと同じである
0.54
2.49
0.98
5 私は,自分が何かをしたり,しなかったりした結果どうなるかについてとても悩む
0.63
3.56
0.99
6 私にとっては,悲惨な事態を防ぐための行動をとらないことは,その事態を起こしたことと同じである。
0.53
3.02
1.04
7 たとえ考えにくいことであっても,何らかの被害が起きる可能性があるときは,私は常にそれを防ぐ努力をしなくてはいけない
0.58
3.50
0.91
8 私はどんなにささいなことをするときでも,その結果どのようになるか十分に考えなくてはならない
0.69
3.30
0.98
9 私は,他の人が私のせいでないということでも,責任を取ることが多い
0.62
2.87
1.02
10 私がすることなすことすべてが,深刻な問題につながる可能性がある
0.68
2.59
1.04
11 私は,すんでのところで,被害を起こしかけることがよくある
0.48
2.68
1.08
12 私は,他の人が危害をこうむらないように守らなければならない
0.67
3.25
1.01
13 私は,他の人にわずかな迷惑さえかけてはならない
0.62
2.70
1.10
14 私のすることは糾弾されるだろう
0.61
2.46
0.94
15 私のすることが,少しでも何らかの不都合につながる可能性があれば,私はそれを防ぐために行動しなければならない
0.64
3.43
0.93
16 私にとっては,悲惨な事態が生じる可能性がごくわずかなものであっても,それを防ぐための行動をとらないことは,その事態を起こしたことと同じである
0.74
2.83
1.01
17 他の人に迷惑になる可能性があれば,私には,わずかな不注意さえゆるされない
0.63
2.95
1.04
18 私が何かをしなかったために,故意に悪いことをしたときと同じくらい悪い影響が出るような状況は毎日の生活にあふれている
0.52
2.71
1.04
19 私は,たとえありそうもない危害に対しても,常にあらゆる犠牲を払って防ぐ努力をしなければならない
0.68
2.41
1.02
20 ひとたび,自分が危害を引き起こしたかもしれないと考えると,私は自分を許すことができない
0.71
3.03
1.12
21 私は,いままで,他の人に危害が及ばないように,多くのことをしてきた
0.57
2.82
0.98
22 私は,自分のすることが他の人にわずかな影響でも与えないように,十分確かめなくてはいけない
0.66
2.93
0.99
23 だれも私の判断に頼ってはならない
0.45
2.29
1.02
24 自分に非がないことを確信できなければ,私は罪悪感を感じてしまう
0.63
2.97
1.19
25 私が十分に注意していれば,どんな災難も防ぐことができる
0.21
1.86
0.86
0.51
2.52
1.12
1
何かがうまくいかないと,自分に責任があると感じることがしばしばある
26 私が十分に注意していなければ,悪いことが起こると思うことがしばしばある
2
χ =688.17(p<.01),GFI=.72,AGFI=.67,CFI=.77,RMSEA=.09
37
Table 3-5 各尺度得点間の相関及び平均値と標準偏差
MOCI
合計
MOCI(合計)
確認強迫
洗浄強迫
―
確認
強迫
**
.73
―
TAF
洗浄
強迫
**
.52
**
.30
―
道徳
見込み
†
15
**
**
.17
**
WBSI
M
RAS
**
.47
**
SD
**
9.26
5.10
**
.51
-.01
.02
.31
.28
0.65
0.98
-.04**
.10**
.10**
.14†
0.63
1.03
―
.37**
.13**
.45**
16.85
7.59
―
**
**
7.24
6.13
.51**
52.15
11.01
―
76.25
16.16
TAF
道徳
見込み
.23
―
WBSI
.27
RAS
†
p<.10
38
*p<.05
**p<.01
モデル 1
TAF
χ2=7.74, p=0.01
.10
強迫症状
.44
思考抑制
AIC=17.74
GFI=0.97
CFI=0.80
RMSEA=0.22
χ2=1.62, p=0.20
モデル 2
.23
TAF
思考抑制
.46
強迫症状
AIC=11.62
GFI=0.99
CFI=0.99
RMSEA=0.07
χ2=3.68, p=0.06
モデル 3
.20
TAF
強迫症状
.46
思考抑制
AIC=13.68
GFI=0.98
CFI=0.93
RMSEA=0.14
モデル 4
TAF-見込み
χ2=1.67, p=0.43
.36
.12
思考抑制
.21
強迫症状
TAF-道徳
モデル 5
AIC=17.67
GFI=0.99
CFI=1.00
RMSEA=0.00
χ2=6.15, p=0.05
TAF-見込み
.16
TAF-道徳
AIC=-22.15
GFI=0.98
CFI=0.93
RMSEA=0.12
.06
思考抑制
.45
強迫症状
Figure 3-3 Rassin et al.(2000)のモデルの追試的検討結果
(有意ではないパスは破線とし,誤差変数は省略した)
39
TAF-見込み
.28***
.37***
R2=.21
責任性
TAF-道徳
.32***
.14***
TAF-見込み
R2=.16
責任性
TAF-道徳
TAF-道徳
.39***
.13***
責任性
R2=.27
TAF-見込み
Figure 3-4 TAF と責任性との関連に関する重回帰分析結果
(***p<.001 有意ではないパスは破線とした)
40
の結果,TAF-道徳は有意に影響を及ぼしていたが,TAF-見込みの影響は見られなかった(β=.39,
p<.001, β=.13, ns)
。
新たなモデルの作成
強迫症状を TAF の道徳,見込み,思考抑制,責任性がどのように説明し得るか,先行研究の
知見(Rassin et al., 2000; Altin & Gençöz, 2011)
,相関分析,Rassin et al.(2000)の追試的検討,
TAF と責任性の関連の検討結果などに基づき,共分散構造分析によって検討するモデルを作成
した。手順としては,まず両症状に共通すると考えられるモデルの原型を考え,それに基づい
て症状特有の関連を加えたモデルの作成を行った。
①モデルの原型の作成
まず,先行研究では思考抑制,責任性の先行要因として TAF をモデルに組み入れていること,
そして本研究の相関分析で TAF-道徳,TAF-見込みどちらとも確認強迫,洗浄強迫との関連は
見られなかったことから,TAF がそれぞれの強迫症状に直接影響を及ぼしている可能性は低い
と考えられる。そこで,TAF-道徳,TAF-見込みとそれぞれの強迫症状の媒介として思考抑制,
責任を想定し,TAF-道徳,TAF-見込みから責任,思考抑制,そして強迫症状とつながるように
変数を配置することとした。
次にパスの向きについて,TAF と責任性の間については,重回帰分析の結果から,TAF-道徳
と責任性に相互の影響が見られたことから両変数間に双方向にパスを引くことにした。TAF と
思考抑制との間については,TAF-見込みと思考抑制との間に相関が見られたため,見込みから
思考抑制へパスを引くことにした。見込みは認知バイアスであり,思考抑制は認知方略である
ため,概念的な因果関係考えると,思考抑制から TAF-見込みのパスは不適切であると判断し,
双方向のパスとはしなかった。なお,TAF-見込みと責任性,TAF-道徳と思考抑制間については,
Altin & Gençöz(2011)の媒介分析の結果と,重回帰分析及び相関分析で有意な関係が認められ
なかったことから,パスを設けないこととした。責任性と思考抑制との間については,有意な
相関は認められたが,概念的な因果関係も不明確であるため,双方向にパスを設けるモデル(原
型 1)
,責任性から思考抑制へのパスのモデル(原型 2)
,思考抑制から責任性へのパスのモデル
(原型 3)をそれぞれ検討することとした。なお,TAF-道徳と TAF-見込み間は相関が高く,誤
差変数に双方向のパスを設けることとした。
以上は,確認強迫,洗浄強迫どちらにも共通していると考えられる。これに基づいて症状別
モデルを作成する。
②洗浄強迫を説明するモデルについて
先の相関分析において,洗浄強迫と思考抑制との相関は有意ではなく,責任性との間で有意
傾向が示されたことに基づき,洗浄強迫へは思考抑制からのパスは設けず,責任性からのパス
のみを設けることとした。したがって,上述の 3 つの原型モデルに責任性から洗浄強迫へパス
を加えたものが洗浄強迫を説明するモデルとし,それぞれモデル W1,W2,W3 とした。
③確認強迫を説明するモデルについて
確認強迫においては,責任性とも思考抑制とも有意な相関がみられており,両変数からのパ
スを設けることとした。原型モデルに責任性と思考抑制の両方から確認強迫へパスを加えたも
のが確認強迫を説明するモデルとし,それぞれモデル C1,C2,C3 とした。
41
モデルの症状別検討
作成した 6 つのモデル全てを,確認強迫と洗浄強迫それぞれについて共分散構造分析によっ
て検討した。また Rassin et al.(2000)の追試的検討で用いた MOCI 合計値を強迫傾向とし,そ
れについて同様に検討した。
①洗浄強迫のモデルの検討
モデル W1~W3,C1~C3 の 6 つのモデルについて,強迫症状に洗浄強迫を投入し,共分散構
造分析を行った。パス図及び結果を Figure 3-5 に示す。洗浄強迫を説明するために作成した
W1~W3 の3 つのモデル全てにおいて,
TAF-道徳から責任性への標準化係数は有意であったが,
洗浄強迫につながる責任性からの標準化係数は有意ではなかった。比較のために検証した確認
強迫を説明するために作成したモデル C1~C3 については,すべて W モデルと同様,TAF-道徳
から責任性への標準化係数は有意であったが,責任性及び思考抑制から洗浄強迫への標準化係
数が有意とはならなかった。なお,各モデルの適合度指標については Table 3-6 に示した。
②確認強迫のモデルの検討
洗浄強迫のモデルの検討と同様,6 つのモデルについて強迫症状に確認強迫を投入し共分散
構造分析を行った。パス図と結果を Figure 3-6 に示す。C1’~C3’のモデル全てにおいて TAF-道
徳から責任性へ,責任性から確認強迫への標準化係数が有意であった。また,モデル C3’では
TAF-見込みから思考抑制,そして責任性へ至るパスも有意となった。比較のために検証した洗
浄強迫を説明するためのモデル W1’~W3’については,全て TAF-道徳から責任性へ,責任性か
ら確認強迫への標準化係数が有意であった。また,C3’と同様,W3’モデルで TAF-見込みから
思考抑制,そして責任性へ至るパスも有意となった。なお,各モデルの適合度指標について,
Table 3-6 にまとめた。
③強迫傾向(MOCI 合計得点)でのモデルの検討
先行研究や Rassin et al.(2000)の追試的検討と合わせてモデルについて検討するために,参
考までに強迫傾向(MOCI 合計得点)を強迫症状に投入して,同様の 6 つのモデルについて共
分散構造分析を行った。パス図と結果を Figure 3-7 に示す。W1”~W3”のモデルに関しては確認
強迫における結果とほぼ同様であった。C1”~C3”については,全て TAF-道徳から責任性へ,責
任性から強迫傾向へ,また思考抑制から強迫傾向へのパスが有意であった。加えて C3”では同
様に,TAF-見込みから思考抑制へのパスも有意となった。各モデルの適合度指標については,
Table 3-6 に示した。
第4節
考察
本研究では,研究 1 やこれまでの知見をふまえ,探索的にモデルを作成し,確認強迫,洗浄
強迫というそれぞれの強迫症状へ至るプロセスを検討することを目的とし,はじめに尺度の検
討を行い,Rassin et al.(2000)の追試的検討,次に TAF と責任性との関連の検討を行った。そ
れらを踏まえ,新たなモデルを作成し,モデルの検証を行った。
(1) 尺度の検討結果について
まず,MOCI 邦訳版の探索的因子分析の結果,
「疑惑」
,
「確認強迫」
,
「洗浄強迫」
「清潔」の
4 因子構造が得られたが,多くの項目が削除され,吉田他(1995)の「清潔」因子が 2 つに分
42
モデル W1
.56**
.14**
責任性
TAF-道徳
洗浄強迫
χ2=1.06, p=0.79
洗浄強迫
χ2=3.45, p=0.49
洗浄強迫
χ2=1.69, p=0.79
洗浄強迫
χ2=0.98, p=0.61
洗浄強迫
χ2=3.37, p=0.34
洗浄強迫
χ2=1.61, p=0.66
-.23**
.30**
TAF-見込み
.11**
.23**
思考抑制
AIC=25.06
GFI=1.00
AGFI=0.98
CFI=1.00
RMSEA=0.00
モデル W2
.68**
.14**
責任性
TAF-道徳
-.33**
**
.48
**
TAF-見込み
.07
思考抑制
AIC=25.45
GFI=0.99
AGFI=0.96
CFI=1.00
RMSEA=0.00
モデル W3
.34**
.14**
責任性
TAF-道徳
.08**
**
.45
**
TAF-見込み
.19
思考抑制
AIC=23.69
GFI=1.00
AGFI=0.98
CFI=1.00
RMSEA=0.00
モデル C1
.56**
.13**
責任性
TAF-道徳
-.23**
.30**
TAF-見込み
.11**
.23**
.03**
思考抑制
AIC=26.98
GFI=1.00
AGFI=0.98
CFI=1.00
RMSEA=0.00
モデル C2
.68**
.13**
責任性
TAF-道徳
-.33**
**
.48
.03**
**
TAF-見込み
.07
思考抑制
AIC=27.37
GFI=0.99
AGFI=0.95
CFI=1.00
RMSEA=0.03
モデル C3
.34**
TAF-道徳
.13**
責任性
.08**
**
.45
.03**
**
TAF-見込み
.19
思考抑制
AIC=25.61
GFI=1.00
AGFI=0.98
CFI=1.00
RMSEA=0.00
**
p<.01
Figure 3-5 洗浄強迫についての 6 つのモデルのパス図
43
*
p<.05
モデル W1’
.56**
.29**
責任性
TAF-道徳
確認強迫
χ2=6.02, p=0.11
確認強迫
χ2=8.41, p=0.08
確認強迫
χ2=6.65, p=0.16
確認強迫
χ2=2.57, p=0.28
確認強迫
χ2=4.96, p=0.18
確認強迫
χ2=3.20, p=0.36
-.23**
.30**
TAF-見込み
.11**
.23**
思考抑制
AIC=30.02
GFI=0.98
AGFI=0.91
CFI=0.97
RMSEA=0.09
モデル W2’
.68**
.29**
責任性
TAF-道徳
-.33**
**
.48
**
TAF-見込み
.07
思考抑制
AIC=30.41
GFI=0.97
AGFI=0.90
CFI=0.95
RMSEA=0.09
モデル W3’
.34**
.28**
責任性
TAF-道徳
.08**
**
.45
**
TAF-見込み
.19
思考抑制
AIC=28.65
GFI=0.98
AGFI=0.93
CFI=0.97
RMSEA=0.07
モデル C1’
.56**
.20**
責任性
TAF-道徳
-.23**
.30**
TAF-見込み
.11**
.23**
.18**
思考抑制
AIC=28.57
GFI=0.99
AGFI=0.94
CFI=0.99
RMSEA=0.05
モデル C2’
.68**
.20**
責任性
TAF-道徳
-.33**
**
.48
.18**
**
TAF-見込み
.07
思考抑制
AIC=28.96
GFI=0.99
AGFI=0.93
CFI=0.98
RMSEA=0.07
モデル C3’
.34**
TAF-道徳
.20**
責任性
.08**
**
.45
.18**
**
TAF-見込み
.19
思考抑制
AIC=27.20
GFI=0.99
AGFI=0.95
CFI=1.00
RMSEA=0.02
**
p<.01
Figure 3-6 確認強迫についての 6 つのモデルのパス図
44
*
p<.05
モデル W1”
.56**
.52**
責任性
TAF-道徳
強迫傾向
χ2=10.33, p=0.02
強迫傾向
χ2=12.72, p=0.01
強迫傾向
χ2=10.96, p=0.03
強迫傾向
χ2=0.27, p=0.87
強迫傾向
χ2=2.66, p=0.45
強迫傾向
χ2=0.20, p=0.83
-.23**
.30**
TAF-見込み
.11**
.23**
思考抑制
AIC=34.33
GFI=0.97
AGFI=0.85
CFI=0.94
RMSEA=0.14
モデル W2”
.68**
.52**
責任性
TAF-道徳
-.33**
**
.48
**
TAF-見込み
.07
思考抑制
AIC=34.72
GFI=0.96
AGFI=0.86
CFI=0.93
RMSEA=0.13
モデル W3”
.34**
.52**
責任性
TAF-道徳
.08**
**
.45
**
TAF-見込み
.19
思考抑制
AIC=32.96
GFI=0.97
AGFI=0.88
CFI=0.95
RMSEA=0.12
モデル C1”
.56**
.38**
責任性
TAF-道徳
-.23**
.30**
TAF-見込み
.11**
.23**
.27**
思考抑制
AIC=26.27
GFI=1.00
AGFI=0.99
CFI=1.00
RMSEA=0.00
モデル C2”
.68**
.38**
責任性
TAF-道徳
-.33**
**
.48
.27**
**
TAF-見込み
.07
思考抑制
AIC=26.66
GFI=0.99
AGFI=0.96
CFI=1.00
RMSEA=0.00
モデル C3”
.34**
TAF-道徳
.38**
責任性
.08**
**
.45
.27**
**
TAF-見込み
.19
思考抑制
AIC=24.90
GFI=1.00
AGFI=0.99
CFI=1.00
RMSEA=0.00
**
p<.01
*
p<.05
Figure 3-7 強迫傾向(MOCI 合計得点)についての 6 つのモデルのパス図
45
Table 3-6 症状別の 6 つのモデルの適合度指標の比較
χ2
df
p
AIC
GFI
AGFI
CFI
RMSEA
モデル W1
1.06
3
0.79
25.06
1.00
0.98
1.00
0.00
モデル W2
3.04
4
0.22
25.45
0.99
0.96
1.00
0.00
モデル W3
1.69
4
0.79
23.69
1.00
0.98
1.00
0.00
モデル C1
0.98
2
0.61
26.98
1.00
0.98
1.00
0.00
モデル C2
3.37
3
0.34
27.37
0.99
0.95
1.00
0.03
モデル C3
1.61
3
0.66
25.61
1.00
0.98
1.00
0.00
モデル W1’
6.02
3
0.11
30.02
0.98
0.91
0.97
0.09
モデル W2’
8.41
4
0.08
30.41
0.97
0.90
0.95
0.09
モデル W3’
6.65
4
0.16
28.65
0.98
0.93
0.97
0.07
モデル C1’
2.57
2
0.28
28.57
0.99
0.94
0.99
0.05
モデル C2’
4.96
3
0.18
28.96
0.99
0.93
0.98
0.07
モデル C3’
3.20
3
0.36
27.20
0.99
0.95
1.00
0.02
洗浄強迫
確認強迫
強迫傾向(MOCI 合計得点)
モデル W1”
10.33
3
0.02
34.33
0.97
0.85
0.94
0.14
モデル W2”
12.72
4
0.01
34.72
0.96
0.86
0.93
0.13
モデル W3”
10.96
4
0.03
32.96
0.97
0.88
0.95
0.12
モデル C1”
0.27
2
0.87
26.27
1.00
0.99
1.00
0.00
モデル C2”
0.45
3
0.45
26.66
0.99
0.96
1.00
0.00
モデル C3”
0.20
3
0.83
24.90
1.00
0.99
1.00
0.00
46
かれたり,解釈が難しい因子のまとまりとなったりするなど,先行研究と同様の結果は得られ
なかった。確認的因子分析からは,χ2 値が有意ではあったものの,全体的には適合度指標は許
容範囲にある結果が得られてはいると考えられるが,望ましい結果とは言い難い。
これまでの MOCI 翻訳版の因子構造について,吉田他(1995)
,李(2004)が尺度の因子構
造が不安定なことを指摘している。児玉(2007)は,MOCI 翻訳版の因子構造の検討として先
行研究の因子構造を整理し,因子構造が調査対象者や性別により異なることを示している。し
たがって,
本研究の対象や目的,
検討に適した尺度の十分な吟味が必要であったと考えられる。
さらに,項目分析などを丁寧に行っていくことも必要であっただろう。今後,強迫傾向や強迫
行為,症状を測定する尺度についてはさらに十分に検討する必要があると考えられる。
TAFS 翻訳版,WBSI,RAS については,確認的因子分析の結果,いずれもχ2 値が有意であ
り,RMSEA も高く,適合度指標は十分な値を示さなかった。この理由としては,不適切な項
目が含まれていたことがひとつに考えられる。項目分析や探索的因子分析など,さらに尺度の
検討を行うことが必要であると考えられる。
(2) Rassin et al.(2000)のモデルの追試的検討結果について
追試的検討の結果,χ2 値が有意であったため,必ずしも適切なモデルとはいえないとは考え
られるが,これらの中では,適合度指標からモデル 2,4 が比較的良好なモデルであると考えら
れる。この結果は,Rassin et al(2000)の結果と一致している。
モデル内で一貫して有意なパスが見られたのは,思考抑制から強迫症状へのパスと,TAF,
特に TAF-見込みから思考抑制までのパスであった。このことから,TAF は強迫症状へ直接影響
を及ぼさないこと,TAF-見込みが思考抑制へ影響を及ぼすことが考えられ,TAF は思考抑制の
先行要因であり,TAF という認知バイアスが思考抑制へと影響を及ぼし強迫症状につながって
いることが示唆される。
(3) 新たなモデルの作成と症状別検討結果について
Rassin et al.(2000)
,Altin & Gençöz(2011)の知見や理論的な因果関係,予備的分析を踏
まえて,洗浄強迫,確認強迫それぞれモデルを作成し,検討を行った。
洗浄強迫においてモデルを検証した結果,6 つのモデルの適合度指標はいずれも良好であっ
た。しかし,洗浄強迫へ至る有意なパスは示されず,今回作成したモデルはいずれも洗浄強迫
へのプロセスを説明するものではないと考えられる。洗浄強迫については,責任的な態度では
ない他の変数が影響している可能性が考えられる。今後は他の変数を加えて検討していく必要
があるだろう。
確認強迫においてモデルを検証した結果,中でもモデル C1’,C3’の適合度指標が良好であっ
たと考えられる。モデル C1’,C3’共に TAF-道徳から責任性,そして確認強迫へのパスが一貫
して有意であり,道徳的な規範に対しての認知バイアスが高いと,一般的な責任態度や責任を
取ろうとする感情を高め,確認という強迫症状が高まることが示された。
モデル C3’では,見込みから思考抑制,思考抑制から責任性へのパスが有意であった。見込
みという認知バイアスが思考抑制を高め,それが責任性の態度を高めることで確認強迫につな
がることが示唆される。自分や他者が危険な目に遭うことを想像したら,現実場面での危険性
も高まると考えやすい人は,自分や他者の危険性をなくすために,危険な目に遭うような思考
47
を抑制しようとするだろう。このように思考抑制という認知的方略をとることにより,自分や
他者の危険性に対しての過剰な責任を取り続けることが,結果として更に責任的な態度を強め
るのではないかと考えられる。
参考までに行った強迫傾向(MOCI 合計得点)においての 6 つのモデルの検証からは,確認
強迫とほぼ同様の結果が認められ,C1”~C3”のいずれも良好なモデルであることが示されたが,
中でも C3”がより適切なモデルであると考えられる。ただし,確認強迫での結果とは異なり,
思考抑制からのパスも有意となった。確認や洗浄といった行動上の症状のみに対しては思考抑
制は直接影響は及ぼさないが,今回取り上げていない MOCI の側面である認知的症状が加わっ
た場合には,思考抑制が強迫傾向を高めることが示唆される。
(4) 研究 2 のまとめ
Rassin et al.(2000)の追試的検討から,TAF は直接強迫傾向に影響を及ぼすのではなく,思
考抑制を媒介して影響を及ぼすことが示された。また,TAF と責任性の関連の検討,相関分析
から,Altin & Gençöz(2011)同様,TAF-道徳が責任性に,TAF-見込みが思考抑制に影響を及
ぼすことが示された。以上より,思考抑制と責任性が TAF から強迫症状へ至る媒介要因として
考えられ,本研究のモデルは Rassin et al.(2000)をベースとし,Altin & Gençöz(2011)が見出
した TAF の種類によって異なる媒介モデルを一つのモデルとしてまとめた形となった。
症状別のモデルの検証の結果,洗浄強迫へ直接至るパスは有意ではなく,洗浄強迫を説明す
るモデルは見られなかった。一方,確認強迫へは責任性からのパスが,責任性へは TAF-道徳か
らのパスが有意であり,道徳性に関する認知バイアスが責任をとろうとする態度を強め,確認
行為の頻度が増すことが示唆される。加えて,TAF-見込みの認知バイアスがかかると思考抑制
という方略を取る傾向が強まり,更に責任性を高めるということが示唆される。
以上より,洗浄強迫と確認強迫とではメカニズムが異なると考えられる。確認強迫において
は,責任性や責任性に影響を及ぼす TAF が,強迫行為を強める要因であると考えられるが,洗
浄強迫の場合は責任的な態度ではない他の変数の影響が考えられる。そのため,今後は他の変
数を加えて検討していく必要があるだろう。
48
第4章
第1節
総合的考察
TAF と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響: 症状別モデルについて
本研究は,洗浄強迫,確認強迫という症状に着目し,症状別の強迫行為に至るモデルを検討
することを目的として,研究 1 では,TAF 尺度の再検討と TAF と強迫との関連を追試的に検討
した。研究 2 では,研究 1 の結果から TAF 以外に思考抑制,責任性という変数を加えて,2 つ
の変数がどのように強迫症状に影響を及ぼすのかを,これまでの知見や理論的根拠をふまえて
モデルを作成し,検証した。
研究 1 の結果から,TAF-道徳,TAF-見込みは強迫傾向,確認強迫に影響を及ぼしており,洗
浄強迫は TAF の影響を受けていないことが示された。すなわち,確認強迫と洗浄強迫では TAF
による影響に違いが見られたことから,症状によるメカニズムの違いが示唆された。TAF の影
響が直接みられなかった洗浄強迫については,TAF と強迫症状をつなぐ媒介変数を加えて検討
することにより,TAF の間接的な影響を検討することができると考えた。
研究 2 では,TAF と強迫症状をつなぐ媒介変数として,Rassin et al.(2000)
,Altin & Gençöz
(2011)で検討されている,思考抑制と責任性を加えてモデルを作成し,検証した。その結果,
研究 1 同様,洗浄強迫は TAF と関連しておらず,また洗浄強迫へ至るプロセスを示すモデルは
見られなかった。
研究 1,2 から洗浄強迫については,TAF を介さないモデルが示唆される。また,責任性や
思考抑制の影響も見られないため,新たな変数を加えてモデルを検討していく必要があると考
えられる。
一方,確認強迫では,確認強迫へ至るプロセスを示すモデルが示され,責任性が確認強迫に
影響を及ぼしており,責任的な態度が強迫傾向を強めることが示された。これは,Altin & Gençöz
(2011)と同様の結果である。責任的な態度が確認強迫を強める理由としては,責任的な態度
が強い人は,過剰に責任を負い,だれ一人にも迷惑をかけないようにしようとする思いから,
自分の行動・言動が正しいものか何度も確認するというような行動につながるからだと考えら
れる。また,責任性の項目には「ほかの人に迷惑になる可能性があれば,私には,わずかな不
注意さえ許されない」
,
「私は,自分のすることが他の人にわずかな影響でも与えないように,
十分確かめなくてはならない」などがあり,この項目内容からも責任性が高いと判断される一
つとして,注意したり,確認したりするということが挙げられていることが示されている。
また,TAF-見込みが思考抑制に影響を及ぼしている場合は,思考抑制が更に責任性に影響を
及ぼし,結果として確認行為を増加させることにつながることが示された。TAF-見込みとは,
自分や他者に関する行為についての思考が,その起こりやすさを上昇させるという認知バイア
スである。これは,自分の思考が,過剰に自分や他者に影響を及ぼすと考えるバイアスとも言
えるだろう。そのような認知バイアスが働いた場合は,その思考を考えることが自分や他者に
危害を及ぼすと考えるため,危害が加わらないように思考を抑制しようとする方法で,危害を
回避しようとする。しかし,そのような認知方略は結果として,自分や人に対して過剰に責任
を負うことにつながる。また思考を抑制することで危険を回避しているので,回避方略をとら
なかったことに気づくことが出来ず,さらに過剰に責任を負う方向へ働くと考えられる。この
結果は,Rassin et al.(2000)
,Altin & Gençöz(2011)で作成されたモデルを複合的に合わせて
49
作成したことにより示された新しい知見であり,思考抑制が責任性を高めることにより確認強
迫が高まることが示されたのは,非常に興味深い結果である。Rassin et al.(2000)
,Altin & Gençöz
(2011)
,Salkovskis(1985)では,思考抑制が強迫症状に直接影響を及ぼしていると考えられ
ていた。しかし本研究の結果からは,思考抑制がさらに責任性に影響を及ぼし,確認強迫に至
る可能性が示唆され,責任性を高めるような認知バイアスや認知的方略が,より確認行為を高
めることにつながる可能性が考えられるだろう。すなわち確認強迫では,責任性が症状に直接
影響を及ぼしていると考えられるため,重要な概念であると思われる。前述の通り,Salkovskis
(1985)の OCD の認知モデルでは,強迫には責任というテーマが重要であることが考えられ
ており,
これまでの実証研究でも示されている。
本研究の結果は,
確認強迫については Salkovskis
(1985)のモデルを支持する結果となったといえるだろう。
しかし,洗浄強迫には直接責任性の影響が見られなかった。Salkovskis(1985)のモデルは症
状の違いを想定していないが,本研究の結果からは,症状によって強迫行為を強めるプロセス
が異なり,洗浄強迫の場合は,責任性というテーマ以外の重要なテーマを孕んだメカニズムで
ある可能性や Salkovskis(1985)のモデルでは説明できない可能性も伺われる。
OCD はこれまで,Salkovskis(1985)の認知モデルを基に研究が進められてきた。そもそも,
OCD は強迫観念,行為から定義され,どちらかの症状を持ち社会的困難が生じている場合に障
害として認められる。前述の通り,OCD は症状の種類は異なっても,そのメカニズムは同様で
あり,ある行為を過剰に行い苦しむことが指摘されている。しかし,本研究の結果から洗浄強
迫と確認強迫では,症状に至るプロセスの違いが示唆された。これまで,認知モデルにおいて
は症状の違いは想定されていなかったが,症状によっては異なったモデルが必要であると考え
られる。
ただし,本研究結果からは,洗浄強迫のメカニズムは確認強迫と異なる可能性があること,
思考抑制,責任性,TAF の影響をうけていないことのみが示された。症状によるメカニズムの
違いについては知見が乏しいこともあり,今後知見を蓄積していく必要があると考えられる。
第2節
治療法への示唆
今日,OCD には認知行動療法,特に暴露反応妨害法(Exposure and Response Prevention Therapy:
以下 ERP)が有効であると考えられ,その効果を示す研究も盛んに行われている。しかし,患
者にかなりの苦痛を伴わせる方法のため,治療抵抗の問題が指摘されている(松永,2009)
。そ
もそも,ERP は,行動理論を応用した治療法であり,行動療法の影響を大きく受けて,OCD の
治療法は進んできたと考えられる。Rescorla(1988)は,なぜ,その行動を行うのかという意図
を分析し,何を回避しようとしているのかを理解することに基づいて,回避行動と認知の間の
結びつきを考えていくことが,従来の行動理論からの発展であるとし,行動療法からの発展と
しての認知行動療法の重要性を述べている。クライアントとセラピストとの間で,強迫行為の
意図や不自然さを理解した上で,ERP という苦痛を伴う治療法に臨むことで治療への抵抗が軽
減すると考えられる。
OCD では,Salkovskis(1985)のモデルからも指摘されているように,強迫行為を行うこと
で,強迫行為をしなかったときのフィードバックが得られないことが問題である。Salkovskis
(1996 坂野・岩本監訳 1998)は,OCD 患者が強迫行為を行うことによって毎回危険を防止
50
するための手立てをとるのに成功をしており,強迫行為をとらなかった場合に,どのような結
果が待ち受けているかはわからないと指摘している。また,ERP が行っているのは,破局的解
釈の妥当性の否定を目的としていると述べた。つまり,ERP が行っているのは,自分の認知の
歪みに気付くことであると考えられる。
本研究の結果から,確認強迫では,責任性の高さが影響を及ぼすことが示された。責任性の
高さに影響を及ぼすのは,TAF-道徳と思考抑制と考えられる。つまり,確認強迫を持つ人は,
この 2 つの認知的側面が高いと考えられる。今後の治療法としては,TAF-道徳,思考抑制に焦
点を当てた治療法が有効である可能性が考えられるだろう。
例えば,TAF-道徳バイアスが OCD を有するクライエントのなかで,どのような状態であり,
どのように対処行動に影響を及ぼしているのかを明らかにしていくことは,セラピスト‐クラ
イエント間で,強迫行為の背景を理解したり,問題を共有したりする際に役立つだろう。他に
も,TAF を直接低下させる方法は見つかっていないが,TAF の低下に直接働きかけるような認
知変容技法が有効な可能性あるだろう。
確認強迫においては,TAF,思考抑制という認知的側面が重要であることが示唆されたため,
従来の認知行動療法が,確認強迫においては有効であると考えられる。しかし,洗浄強迫にお
いては,症状に至るプロセスが示されなかったが確認強迫とは異なり,責任性以外の変数が関
与していると考えられるため,そのプロセスを明らかにして,新たな治療法を探る必要性もあ
るだろう。
第3節
本研究の意義と課題
本研究の症状別検討の結果から,確認強迫,洗浄強迫という強迫症状ではプロセスが異なる
ことが示唆されたといえる。しかし,それぞれの強迫症状に至るプロセスを示すことはできな
かった。
これまでの先行研究の知見では,OCD の症状の違いによるメカニズムの違いについて指摘は
されているものの(細羽・内田・生和,1992; 杉浦,1996)
,症状の違いによりメカニズムを探
る研究は少なかった。
本研究では,
それを実証的に研究した点では意義があると言えるだろう。
研究結果から,プロセスの違いはあるが,強迫行為には認知の変数の影響が見られ,Salkovskis
(1985)のモデルで,確認強迫については説明をすることができると示唆された。このように,
従来のモデルで説明できる症状と出来ない症状を考えていくことにより,より症状に即した治
療法への示唆が出来ると考えられる。
このような示唆を得たことも本研究の意義と考えられる。
ただし,本研究の課題としては以下のようなことが考えられる。第一に,本研究は OCD を
スペクトラムとして捉え,健常者を対象に研究を行ってきた。しかし,健常者で得られた知見
を,そのまま OCD のメカニズムにあてはめることには問題がある可能性があるだろう。本研
究では,健常者で見られる強迫を,OCD 患者でみられるものより軽度なものとし,症状内容の
違いは概ね同一とし,研究を進めてきた。しかし,確認や清潔は健常者においても見られるが,
時間的緩慢という行動に時間がかかるという因子は,強迫症状が重い OCD 患者特有の症状で
あることが示され(井出他, 1995)
,症状により健常者には見られにくいものがあることが指摘
されている。そのため,今回の知見をそのまま OCD 患者のメカニズムに当てはめることには
問題があると考えられる。また,Salkovskis のモデル,本研究で作成したモデルどちらも,強
51
迫観念,強迫行為を上手くつなぎ合わせ,強迫症状を維持する際のモデルとしては有用ではあ
るが,OCD の生起メカニズムを表しているモデルではあるとは言えない。健常者を対象に,強
迫症状の維持を現したモデルの検証を行うことには限界があると考えられ,慎重に健常者で見
られた強迫傾向のモデルと OCD 患者で見られたモデルを検討していく必要があると考えられ
る。
二点目としては,本研究では確認強迫,清潔強迫という,健常者にみられやすい行動レベル
の強迫症状に焦点をあて研究を進めてきた。これは,健常者において見られる強迫行為では,
確認,清潔が多く見られること,行動レベルの症状に焦点を当てたため,2 つの行為しか検討
できていない。しかし,強迫症状には様々種類はある。また,本研究では強迫行為,TAF,思
考抑制という変数しか検討していない。他の認知変数を加え,モデルを洗練させていく必要が
あると考えられる。
本研究では,健常者を対象に行った研究を OCD モデルとして発展させることの限界,モデ
ルに他の認知変数を組みこめなかったこと,OCD 患者の事例に沿った形でのモデルの作成の必
要性などが問題点として考えられる。しかし,OCD の認知行動モデルについて,症状の違いに
よるメカニズムの違いを示唆したこと,またモデルを作成し,見込みから思考抑制に影響が見
られ,
思考抑制から責任性,
責任性から確認強迫に影響を及ぼすことを明らかに出来たことは,
これから更にモデルを作成していく上で意義のあることであると考えられる。より,変数間の
知見を積み重ね,認知行動アプローチによる,OCD の症状別のモデルを作成することが期待さ
れる。
52
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55
謝辞
本研究を進めるにあたり臨床心理学分野准教授田上恭子先生には,指導教員として,研究遂
行にあたり終始熱心にご指導をいただき,日々ご討論いただいたことに,ここに深謝の意を表
します。主査の同分野教授豊嶋秋彦先生には数々の貴重なご指摘ご助言をいただき,深くお礼
申し上げます。また,副査の同分野准教授田名場忍先生にはご助言を頂くと共に,文章や統計
について細部にわたりご指導いただき深く感謝申し上げます。
教育心理学分野教授平岡恭一先生には,本研究の実施の機会を与えてくださったこと,また
統計についてご指導いただき,ここに感謝の意を表します。
広島大学大学院総合科学研究科准教授杉浦義典先生には,
突然の問い合わせにもかかわらず,
尺度に関してご助言を頂き,項目についてもお知らせいただきました。心よりお礼申し上げま
す。
また,臨床心理学分野准教授花屋道子先生,教育心理学分野准教授吉中淳先生には,研究を
遂行するにあたり有益なご助言をいただき感謝致します。
最後に,本研究を実施するにあたって,質問紙調査にご協力いただいた皆様に,心から感謝
申し上げます。また,研究を進めるにあたり議論をしていただいた同専攻同期にお礼申し上げ
ます。
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