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案 - 電子政府の総合窓口e

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案 - 電子政府の総合窓口e
産業構造審議会情報経済分科会
人材育成WG報告書中間とりまとめ(案)
-次世代高度IT人材像、情報セキュリティ人材、
今後の階層別の人材育成-
平成
年
月
日
経済産業省 商務情報政策局
情報処理振興課
目次
はじめに
第1部
-人材育成ワーキンググループの開催・検討について- ........... - 3 次世代高度IT人材像............................................ - 4 -
1.次世代高度IT人材の定義と職種ごとの役割 ................................. - 5 (1)「新製品・新サービスの創出プロセス」とタスク ........................... - 6 (2)次世代高度IT人材像の職種 ............................................. - 8 (3)次世代高度IT人材像の定義と役割 ...................................... - 10 2.次世代高度IT人材に求められる能力と知識 ................................ - 12 (1)次世代高度IT人材に必要な能力 ........................................ - 12 (2)次世代高度IT人材の教育に必要な知識項目 .............................. - 16 3.次世代高度IT人材とスキル標準等で定義されているIT人材との関係 ........ - 19 (1)共通キャリア・スキルフレームワークとの対応関係 ........................ - 19 (2)次世代高度IT人材の特徴 .............................................. - 20 (3)「次世代高度IT人材能力・知識モデル」(仮称)の検討の方向性 .......... - 21 (4)次世代高度IT人材の育成の指針 ........................................ - 21 (5)評価軸の必要性 ........................................................ - 23 -
第2部
情報セキュリティ人材........................................... - 24 -
1.情報セキュリティ人材の多様化と高度化に向けて ............................ - 24 2.対象とする情報セキュリティ人材 .......................................... - 25 (1)情報セキュリティ人材の整理 ............................................ - 25 (2)検討対象となる情報セキュリティ人材 .................................... - 27 3.情報セキュリティ人材の育成 .............................................. - 28 (1) 情報セキュリティ技術の突出した人材 .................................. - 28 (2) 情報セキュリティ人材にかかる3スキル標準の見直し .................... - 28 -
第3部
今後の階層別の人材育成......................................... - 30 -
1. 中高年技術者の活用 ..................................................... - 30 (1) 既存技術者 .......................................................... - 30 -
-1-
(2) 地域、各界が協力した人材育成の体制作り .............................. - 30 2.若手層の育成 ............................................................ - 33 (1)次世代高度IT人材の知識分野・知識項目の整理とカリキュラム ............ - 33 (2)「次世代高度IT人材能力・知識モデル」(仮称)と大学等の教育との連携 .. - 33 (3)産学連携による実践的教育講座の拡大 .................................... - 33 (4)若年層育成の取組 ...................................................... - 34 3.グローバル人材について .................................................. - 35 (1)グローバル化の定義 .................................................... - 36 (2)グローバル人材の要素 .................................................. - 36 (3)IT産業におけるグローバル人材育成 .................................... - 37 -
第4部
現在の高度IT人材のスキルを評価する仕組みの検討 .............. - 41 -
1.3スキル標準の検討 ...................................................... - 41 2.情報処理技術者試験の見直しの方向性 ...................................... - 41 (1)情報セキュリティ関係 .................................................. - 41 (2)3スキル標準、CCSFの見直しの反映 .................................. - 41 (3)情報処理技術者試験の知識、スキルの継続的な研鑽のあり方 ................ - 41 (4)高度IT人材を評価する仕組み .......................................... - 41 -
別紙-1
次世代高度IT人材の職種別役割固有能力 ...................... - 45 -
別紙-2
次世代高度IT人材の育成のための7つの指針 .................. - 52 -
-2-
はじめに
-人材育成ワーキンググループの開催・検討について-
2011年8月に開催された産構審情報経済分科会での中間とりまとめでは、
「スマー
ト社会を切り拓く融合人材と教育」において、「IT融合を生み出す人材の不足」が課
題として挙げられ、
「従来からの『高度IT人材』自体の位置付けを見直すことが必要」
であり、また、「我が国の情報系人材を含む理系人材の減尐や実践的教育の不足感によ
り質の高い若手人材の輩出環境が悪化している」ことも指摘された。
これらの課題に対し、「IT融合を生み出す『異端人材』のプロファイルと人材育成
システムの検討、IT融合を生み出す次世代高度IT人材像の具現化と育成」も重要で
あり、「IT融合により時代のニーズを踏まえたビジネスをデザインできる次世代の高
度IT人材について、人材像の具現化を行い能力・スキルの見える化を行うとともに、
育成・評価のフレームワークを見直す」よう提言された。
併せて、昨年の東日本大震災以来、国内・外のサプライチェーンの在り方が問われ、
急激な円高も相まって日本企業の海外展開の在り方が問われ、グローバル化が一層進展
する中、IT産業の対応とそれに必要なグローバル人材の育成が緊近の課題となってい
る。
さらに、情報セキュリティ上の脅威がこれまで以上に高度化・多様化している中、こ
のような急激な変化に対応することができる人材が十分確保できていないことから、情
報セキュリティ政策会議(2011年7月)において、普及啓発・人材育成専門委員会
を設置し、必要とされる人材の明確化、求められる知識や技能の体系化・共通化、資格
制度・処遇・キャリアパスの関係の明確化、インセンティブ付与のあり方等について具
体化の検討を行った。
また、2007年7月に本人材育成ワーキンググループ(WG)でとりまとめられた
報告書「高度IT人材の育成をめざして」では、「向こう10年後を見据え、IT人材
についての将来展望と戦略」を描いた。現在行われている施策はこの報告書を基に実施
されているが、報告書発表から5年が経ち、先に述べた社会環境の変化等を踏まえ戦略
の見直しを行う時期に来ていると考えられる。
こうした状況を踏まえ、本人材育成WGでは、次の視点から検討を進めた。
① 新たなIT活用時代における高度IT人材の人材像はどのようなもので、その育
成はどのように行われるべきか。
② 高度化・多様化した脅威に対応できる情報セキュリティ人材に様々なスキルが求
められる中、どのように類型化を行い、どのように育成していくべきか。
③ 国境をまたぐ情報サービスの提供が可能となった今日において、海外展開を行う
IT産業に必要とされるグローバル人材、さらには各世代における人材育成はどう
あるべきか。
本「中間とりまとめ」(案)は、本WGで検討してきた課題について、今後さらに内
容を深め検討するため、また、具体化を進める際の方向性を示すため中間のとりまとめ
を行い整理したものである。
-3-
第1部
次世代高度IT人材像
平成24年6月に開催された産業構造審議会新産業構造部会では、我が国の経済を長
らく覆う「閉塞感」の背景には、経済状況の構造的な行き詰まりがあるとし、『第一が
「企業戦略・産業構造」の行き詰まりで、規格化された製品の大量生産で成長を目指す
従来のモデルで新興国と競っても、賃下げ・値下げの「やせ我慢」に陥る一方である。
第二が「就業構造」の行き詰まり。右肩上がりの成長が終焉した今、高度経済成長期に
形成された「終身雇用・正社員・男性中心」の就労モデルも限界を迎えている。それど
ころか、正社員は守りの姿勢でハングリー精神を失う一方、意欲があっても正社員にな
る機会を逸した人は不公平感を抱く弊害も生じているとの指摘もある。』と二つの行き
詰まりをあげている。
そして、この2つの行き詰まり打開のため、「国家としての成長と個人の豊かさを再
接合」し、「成長のための成長」ではなく「豊かさを実感できる成長」へ転換すること
を提案している。これは、「経済成長のビジョン」と「人を活かす社会ビジョン」の2
本柱から成り、その中の「人を生かす社会ビジョン」では、「国民一人一人が、置かれ
た環境と能力に応じて、価値創造に参画し、成長を分配することで、活き活きと働く人々
が増える経済」を実現し、そのためには「多様な人的資本」による「価値創造」の実現
に向けた環境整備、経済産業政策を進め「誰もが豊かさを実感できる経済社会」の実現
に取り組んでいく、としている。
また、情報サービス・ソフトウェア産業においても、今後の国内IT市場の大きな拡
大は望めない状況であるとの指摘や、情報サービス業の技術者の高齢化の実態もあり、
同様な「閉塞感」「行き詰まり感」がある。
-4-
情報サービス産業の技術者の年齢構成比(平成 18 年と平成 23 年)
(出所)賃金構造基本統計調査(厚生労働省)
こうした中で、従来のITが既存の産業のビジネスの効率化を主に追求してきたのに
対し、最近では、電力とITの融合によるスマートグリットなどに見られるように、I
TはIT関連産業の枠を超え、他産業・分野との融合によってイノベーションを起こし、
新たなサービスを創造する役割を担いつつある。このような異分野とITの融合領域に
おいてイノベーションを創出し、新たな製品やサービスを自ら生み出すことができる人
材=「次世代高度IT人材」を育成することが喫緊の課題となっている。
そのため、「次世代高度IT人材」の「人材像」、それに求められる「能力/スキル・
知識」、育成のあり方を明らかにすることが求められている。
1.次世代高度IT人材の定義と職種ごとの役割
次世代高度IT人材の人材像の検討に当たっては、現在の先進ビジネス事例(注1)を収
集し、当該事例において活躍している人物等について可能な範囲で把握し、それぞれの
人物からヒアリング調査(注2)する際の基礎資料とした。また、収集された先進ビジネス
事例は、適用分野、担い手、IT活用の革新性により整理し、ITサービス・ライフサ
イクルフレームに関する検討および次世代高度IT人材の人材像の検討に資する形で
取りまとめた。また、その中でそれらを担う人材の役割を整理した上で、次世代高度I
T人材とはどのような人材なのかを検討した。
注1:先進ビジネス事例の内容

新製品・サービスが生み出された事例

新事業を立ち上げた事例
(新たなサービスの立ち上げや新規事業分野進出、海外展開など)

ビジネスモデルの変革に成功した事例

既存のビジネスを変革するための新たな取組を進めている事例
(新しい価格モデルの採用など)
-5-
注2:人に対するヒアリング調査項目

新たな製品・サービス等を生み出す取組について
取組の経緯や背景
(新たな製品・サービスに対するニーズを把握した経緯)
取組における対象者の役割
取組の過程で発生した課題と、その課題をどのように乗り越えたか

対象者のキャリアと求められる能力・経験について
対象者のキャリア(略歴)
新たな製品・サービス等を生み出すために必要な経験・能力・知識
対象者にとっての仕事の魅力や面白さ、仕事に対する取組み方

新たな製品・サービス等を生み出せる人材の育成について
新たな製品・サービス等を生み出すために必要な(効果的な)環境
新たな製品・サービス等を生み出す人材の育成方法に関する意見
など
(以上の調査結果については、以下のURLの「次世代高度IT人材モデルキャリア開発計画
事業報告書」を参照。
URL
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/FY23_ITJinzaiIkusei.htm
)
(1)「新製品・新サービスの創出プロセス」とタスク
新事業や新たな価値、新製品・新サービス等を生み出す際のプロセスについて、収集
した事例等の検証や先進ビジネスをリードしている人材からのヒアリングを通して分
析した結果、「価値発見段階」「サービス設計段階」「事業創出段階」に分けることがで
きた。そのため「新製品・新サービスの創出プロセス」を「価値発見段階」「サービス
設計段階」「事業創出段階」として分類し、その中における次世代高度IT人材の果た
す役割を抽出しまとめた。
なお、「新製品・新サービスの創出プロセス」の中では、これらの役割を 1 人の人材
が全てを担う場合もあるが、また、1 人の人材が複数のタスク・役割を担うこともあり、
チームとして推進していく場合もある。
以下、各段階の定義と発生するタスクである。
①
価値発見段階-潜在的価値の発見-
社会やユーザに対する観察・分析・洞察や、価値が顕在化していないところへの仮
説の設定・試行の繰り返しによるイノベーションの創出によって、市場や顧客の隠れ
たニーズを発見する段階で、「潜在的価値の発見」を発掘する段階である。
ここでは、顧客やユーザと接する現場や市場を深く観察することで、隠れたニーズ
(注)
を発掘する「フィールドアナリティクス」
や顧客やユーザに関するデータの分析・
解析によって、隠れたニーズを発掘する「データアナリティクス」というタスクが含
まれる。
注:
「アナリティクス」
(analytics)という言葉は、
「解析」を意味する用語であり、最近では“Business Analytics”
などの形で用いられている。本報告書では、旧来より行われていた一般的な分析(analysis)よりも、一段
と幅広い事象や大規模なデータに対してより深い洞察が求められるという意味を込めて、
「アナリティクス」
という言葉を用いた
-6-
②
サービス設計段階-価値実現方法の具体化-
把握されたニーズを満たすための具体的なサービス及びビジネスモデルを検討し、
それらをITによって実現する段階で、
「価値実現方法の具体化」を行う段階である。
ここでは、把握されたニーズを満たすための具体的なサービスの内容を企画・設
計・実現する「サービスデザイン」が、また、企画されたサービスをビジネスとして
成立させる仕組み(ビジネスモデル)を構築・実現するという「ビジネスモデルデザ
イン」というタスクが含まれる。さらに企画されたサービスをITを用いて設計・実
装し、実現する「ITデザイン」というタスクもある。
③
事業創造段階-新たな価値の実現・創出-
試行錯誤を繰り返して考えた仕組みを実現し、新たな価値を実現するビジネスを創
り出す段階で、「新たな価値の実現・創出」する段階である。
ここでは、責任を持って事業のリソースをアサインする「リソースアサイン」や、
責任を持って新しい事業の創出を完遂する「サービスビジネスプロデュース」、また、
責任を持って新しい事業におけるITの仕組みを実現する「ITプロデュース」とい
うタスクが含まれる。
以上の新事業・サービスの創出プロセスと各プロセスに含まれるタスクを図で示す。
新製品・新サービスの創出プロセスとタスク
新事業・新サービスの創出プロセス
各プロセスに含まれるタスク
潜在的価値の発見
価値発見

社会やユーザーに対する
観察・分析・洞察によって、
市場の隠れたニーズを
発見する
価値実現方法の具体化
サービス
設計

把握されたニーズを満たす
ための具体的なサービス
およびビジネスモデルを検
討し、それらを ITによっ
て実現する
新たな価値の実現・創出
事業創出

フィールド
アナリティクス
顧客やユーザーと接する現場や市場を
深く観察することで、隠れたニーズを
発掘する
データ
アナリティクス
顧客やユーザーに関するデータ等の分
析・解析によって、隠れたニーズを発
掘する
サービス
デザイン
把握されたニーズを満たすための具体
的なサービスの内容を企画・設計・実
現する
ビジネスモデル
デザイン
企画されたサービスをビジネスとして
成立させる仕組み (ビジネスモデル)
を構築・実現する
ITデザイン
企画されたサービスを ITを用いて設
計・実装し、実現する
プ
ロ
デ
ュ
ー
ス
試行錯誤を繰り返して考
えた仕組みを実現し、新
たな価値を実現するビジ
ネスを創り出す
-7-
リソースアサイン
責任を持ってプロジェクトのリ
ソースをアサインする
サービスビジネス
プロデュース
責任を持って新しい事業の創出を
完遂する
ITプロデュース
責任を持って新しい事業における
ITの仕組みを実現する
(2)次世代高度IT人材像の職種
「新製品・新サービスの創出プロセス」及びそこに含まれる「タスク」を主として担
当する典型的な役割例(=役割モデル)として、次世代高度IT人材像(デザイン)の
職種の定義を試みた。以下、次世代高度IT人材像の職種定義を示す。
① 価値発見段階での職種
 「フィールドアナリスト」
価値発見段階では、顧客、市場、データなど様々な分析を行うフィールド及び
データアナリティクスがあるがそれを担う人材
② サービスデザイン段階での職種
 「ITサービスデザイナ」
サービス設計段階では、サービスやビジネスそのものの企画や、ITを活用
したサービスの企画・設計などのタスクがあるが、そのうちサービスに係る具
体的なサービスの内容を検討する人材
 「ビジネスデザイナ」
サービス設計段階でのタスクのうち、企画されたサービスをビジネスとして
成立させる人材
 「ITサービスアーキテクト」
サービス設計段階でのタスクのうち、企画されたサービスをITを用いて設
計・実装し、実現する人材
 「イノベーティブエンジニア」
企画・設計されたサービスを高い技術力を活用して、差別化できる独自性の
高いITサービスを実現する人材
③ 事業創出段階での職種
 「プロデューサー」
試行錯誤の段階から、価値発見段階、サービスデザイン段階、そして事業創造
段階と各段階を通して、新しい事業における全体を統括する人材であり、事業全
体の中心をなす職種
-8-
事業創造プロセスとタスク、職種モデル一覧
新製品・新サービスの創出プロセス
プロセス
各役割モデル(=職種)の活動局面
プロセス内のタスク
プロデューサー
フィールド
アナリティクス
ITサービス
アーキテクト
イノベーティブ
エンジニア
ビジネス
デザイナ
★
データ
アナリティクス

★
サービスデザイ
ン
★

★



ビジネスモデル
デザイン
★




★
ITデザイン
★


★
★

★





★





(リソース
アサイン)
事業創出
ITサービス
デザイナ
★
価値発見
サービス設計
フィールド
アナリスト
(サービスビジネス
プロデュース)
(IT
プロデュース)
★
プ
ロ
デ
ュ
ー
ス
 その他にも主に参加する活動局面
★ 中核となる活動局面
また、新しい事業・価値(サービス)を創出するプロセスと次世代高度IT人材の人
材が係わり合う場面を「プロデューサー」が中心として回っているとした上で、そのプ
ロセス上で活躍する次世代高度IT人材を表したのが以下の図である。なお、「イノベ
ーティブエンジニア」を二重線で表現しているが、これは図中の吹き出しに示されたよ
うな重要な役割を随所で担う「イノベーティブエンジニア」の重要性を示している。
「サ
ービス設計」や「事業創出」のプロセスにおいては、他の人材像と協業しながら「イノ
ベーティブエンジニア」が、迅速なプロトタイピング(=ラピッドプロトタイピング)
や突出したプログラミング技術を活かした開発により、新しいITサービスの差別化を
担うことが期待される。
ビッグデータ
エンジニア
ラピッド
プロト
タイピング
イノベーティブ
エンジニア
フィールド
アナリスト
価値発見
従来型
IT人材
ITSM
サービス
運用・改善
スーパー
プログラマ
イノベーティブ
エンジニア
デザイナ
プロデューサ
事業創出
イノベーティブ
エンジニア
ITサービス
デザイナ
ITサービス
アーキテクト
サービス
設計
ビジネス
デザイナ
ITA
ITS
イノベーティブ
エンジニア
APS
従来型
IT人材
-9-
従来型
IT人材
ラピッド
プロト
タイピング
(3)次世代高度IT人材像の定義と役割
「新製品・新サービスの創出プロセス」及びそこに含まれる「タスク」に基づき次
世代高度IT人材像、職種を以下のとおり定義した。
次世代高度IT人材像は、「顧客やユーザとともに新たな事業を創出する/新たな
価値(サービス)を生み出すことを主体的に担える人材(群)」として定義し、人材類
型は、新事業・価値の創造を担うことから「事業創造系」として、人材像は、新たな
事業・価値を描く「デザイナ」として整理した。人材像の「デザイナ」は、さらに前
述したように6職種に整理した。
そして、それぞれの職種(人材像)が担う役割は以下のとおり。
①
フィールドアナリスト
「新製品・新サービスの創出プロセス」の中でも「価値発見」プロセスを主な活躍
の局面とする人材である。現在活躍している人材からのヒアリング等では、顧客のニ
ーズを発見するためのデータ解析を役割とするビッグデータエンジニアや、デザイン
手法を駆使してユーザのニーズを明らかにすることを役割とし、「価値発見」プロセ
スを専門とする役割を担う人材。
その他にも、事業化が可能なニーズに最初に気付いた人材と、その具体化や事業化
を実際に担当した人材が異なる場合、最初にニーズに気付いた人材も「フィールドア
ナリスト」に分類した。
なお、「価値発見」プロセスの役割を担う人材とその後のプロセスを担う人材が同
一であるケースも実際には多く見られ、「フィールドアナリスト」が専門的に担うこ
とも可能な役割を、他の職種が兼ねている場合もある。
②
ITサービスデザイナ
「フィールドアナリスト」によって発見されたニーズを満たし、これまでにない新
しい価値をユーザに提供するためのサービスについて、その具体的なサービス内容を
発案し、企画する役割を担う人材。発見されたニーズを満たすITサービスの具体的
な内容を企画・検討することを役割とする人材である。
③
ITサービスアーキテクト
発見されたニーズを満たし、これまでにない新しい価値をユーザに提供するための
サービスについて、その内容を企画するとともに、ITを用いて実現する具体的な仕
組みを設計する役割を担う人材。ITサービスの内容についての検討からIT面の技
術的な設計等までの役割を担当する。なお、「ITサービスデザイナ」は、サービス
の内容面やアイディアの詳細化・具体化の役割を重点的に担うが、「ITサービスア
ーキテクト」は、よりIT技術面からの設計という役割を受け持つ。
④
イノベーティブエンジニア
通常のITエンジニアより高い技術力を有し、ITサービスの差別化において重要
な役割を担う人材。WEB ビジネスなどの領域においては、きわめて高い技術力を持
ったエンジニアの存在が、ITサービスの内容面や機能面での勝敗を分ける重要な要
因になりつつある。他では実現できない水準のITサービスを実現し、ユーザにこれ
- 10 -
までにない価値を提供する上で、「イノベーティブエンジニア」の存在はきわめて重
要なものとなっている。
なお、「イノベーティブエンジニア」は、迅速なプロトタイピングや実装・開発の
役割を担う人材としているが、「どのような機能が実現できるか」という点はITサ
ービスの具体的な内容にも直結すると考えられるため、「ITサービスデザイナ」と
「ITサービスアーキテクト」、
「イノベーティブエンジニア」は、ITサービスの企
画・設計・実装の段階において、一体となって担われることも想定される。
⑤
ビジネスデザイナ
「ITサービスデザイナ」などと同様にITサービスの企画・設計段階において重
要な役割を果たす人材であるが、実際のビジネスモデルの立案やビジネスの仕組みの
構想、それらの実現という、他の人材とは明らかに異なる役割を担う人材。ビジネス
モデルの立案のみを専門的に担うケースは、実際には尐ないと考えられるが、ビジネ
スモデルの立案・実現は、新製品・新サービスの創出の成否を分ける重要な役割であ
ると考えられるため、今回は独立した人材とした。実態としては、後述する「プロデ
ューサー」がこの「ビジネスデザイナ」の役割も兼ねているケースが多いと推定され
る。
⑥
プロデューサー
新製品・新サービスの創出プロセスに責任を持ち、各プロセスを主導・牽引するこ
との役割を担う人材。今回は、独立した人材としての定義を試みたが、実際には、他
の人材によって表現した役割を兼ねていることも多いと考えられる。また、「価値創
造」プロセスに始まる全てのプロセスを主導している場合もあれば、途中のプロセス
から責任を負う場合まで、責任の及ぶ範囲は多様である。
なお、分類したこれらの職種は前述のとおり、典型的な役割例(=役割モデル)で
あり、これは新製品・新サービスの創出プロセスにおける“役割分担例”である。こ
れらの役割は、場合によっては1名ですべてを担う場合から数名で担う場合、さらに
大規模な人数で1つの役割を担う場合など、様々なケースが考えられる。
しかし、いずれのケースにおいても、今回人材像で示した役割は、新製品・新サー
ビスの創出プロセスに必須の役割であり、チーム内のどこかに(兼任であっても)そ
のような役割を果たす人材が必要である。また、複数の人材を組み合わせることで役
割分担を柔軟に変え、それによって多様なチーム構成を表現することも可能である。
また職種をどのように考えるかは、以後示す能力や役割とも関係するので、今後、
これらを踏まえて総合的に検討したうえで、再度整理することが必要である。
- 11 -
2.次世代高度IT人材に求められる能力と知識
(1)次世代高度IT人材に必要な能力
次世代高度IT人材に必要な能力を「IT関連能力」「事業創造能力」「その他の基
本能力」に整理した。
次世代高度IT人材に求められる能力の定義
IT関連能力
IT活用力
高度な水準でITを活用した事
業・サービスを生み出すために必
要な能力
IT技術力
ITを駆使してシステム・ソフト
ウェアを創り出すために必要な能力
(=実装・開発力)
ITサービス・製品を
生み出すために求められる
ITに関連する知識・能力
共通能力
事業創造能力
新たな事業・サービスを
生み出すために
求められる能力
役割固有能力
その他の基本能力
次世代高度IT人材に共通して
求められる能力
新たな事業・サービスを
生み出すために
求められる基本能力
次世代高度IT人材の各人材像
(役割)に求められる固有の能力
•ロジカルシンキング
•クリエイティブシンキング
•プレゼンテーション
•ネゴシエーション
•ファシリテーション
•リーダーシップ
•コミュニケーション
①
IT関連能力
「IT関連能力」は、ITを用いて新たな製品・サービスを生み出す次世代高度IT
人材には必須の能力として位置づけられる。ただし、ITを用いて新たな製品・サービ
スを生み出す場合も、ベンチャー企業などに見られるように自ら開発・実装からプロデ
ュースまでを手がける場合もあれば、前述の次世代高度IT人材の6つの人材像に表現
されているように、専門化された役割分担体制のもとで開発・実装等を自身は手がけな
い場合もある。前者の場合は、自ら開発できるという意味での技術力が求められるが、
後者の場合は、同様の意味での高い水準の技術力は必ずしも求められない。このように
考えると、次世代高度IT人材には、ITに関する能力が必須であったとしても、すべ
ての人材が高い技術力を備えていることが求められるわけではなく、ITに関する“知
見や洞察力”を有していればよい人材も含まれると考えられる。
このような認識に基づき、「IT関連能力」を「IT活用力」と「IT技術力」に区
分する。
ア.IT活用力
「IT活用力」は、ITに関する“知見や洞察力”に相当するものである。ITを
用いて新たな製品・サービスを生み出す人材には、開発・実装を自ら行わないとして
- 12 -
も、ITを活用してどのようなサービスを生み出せるのか、また、どのような技術が
注目されているのか、など、ITを効果的に活用する上でのベースとなる基本的な知
識や動向については十分に理解しておくことが必要である。また、ITを効果的に活
用する上では、技術の本質やその可能性などについての洞察力も必要である。こうし
た観点から、「IT活用力」は、ITに関する基礎的な知識や動向を含む「IT知識」
及び「技術洞察力」とで構成されるものとして定義した。
「IT知識」に示されている知識は、次世代高度IT人材の育成のための「教育の
対象となる知識項目」の「IT」の領域に定義されている知識と同様の内容である。
これらの内容の基本的な知識を習得することは、次世代高度IT人材として活躍する
ための土台として位置づけられる。
また、「技術洞察力」は、「IT知識」を備えた人材がITという領域における技
術の限界や可能性を洞察し、より高度に活用するための力である。この力は、技術の
性質や将来動向を見抜く力でもあり、こうした力を高い水準で有していることが次世
代高度IT人材の活躍の前提になるといえる。
なお、「技術洞察力」は「事業創造能力」にも通ずる部分でもある。
技術洞察力の内容
技術洞察力
概念理解力
•
その技術や用語の概念が示すものを
正確かつ迅速に理解する力
技術効用理解力
•
その技術によって何が可能になるのか
を理解する力
•
その技術が有する効果がユーザーや
関係者にどのような影響を与えるのか
を推察する力
技術適用力
•
その技術をどこに適用するのか効果
的かを見抜く能力
限界推察力
•
その技術の限界を見抜く能力
課題発見克服力
•
その技術によって新たに生じる課題
を発見し、新たな課題を克服する力
•
その技術が個人の生活や社会・産業
にどのような影響を与えるのか、技術
によるアウトカムを推察する力
•
その技術の影響によって個人の生活
や社会・産業がどのように変わるのか、
技術による動向の変化を洞察する力
影響推察力
アウトカム推察力
動向変化洞察力
イ.IT技術力
新たなIT製品・サービスの創出にあたっては、システムやソフトウェアを詳細に
- 13 -
企画・設計し、実際に創り出す工程が含まれる。このため、これらの工程を担うこと
ができる力としての「IT技術力」は、重要な能力である。しかし、前述のとおり、
次世代高度IT人材の各職種(役割)によって求められる「IT技術力」の水準は大
きく異なると考えられるため、こうした点を踏まえて、職種に求められる「IT技術
力」を以下の図で示した。
「IT技術力」の領域と水準
IT技術力
人材像
(=役割モデル)
領域
水準
活
かI
しT
や技
す術
い力
役を
割
スタンダード
レベル
IT
プロフェッショナル
レベル
イノベーティブ
レベル
■
■
■
■
■
■
○
-
■
■
※
◎
-
-
■
※
■
■
■
■
■
■
分析
企画
設計
実装
フィールドアナリスト
◎
○
○
ITサービスデザイナ
○
ITサービスアーキテクト
○
◎
イノベーティブエンジニア
○
◎
ビジネスデザイナ
○
PM
○
プロデューサー
※
◎:必ず必要とされる能力を示す
○:必要とされる場合もある能力を示す
■:その人材像に期待される役割を十分に果たすことが可能なIT技術力の水準を示す
※:IT技術力を活かしやすい役割(人材像)を示す
上図では「IT技術力」を「領域」と「水準」の2つの観点から整理している。
「領域」は、「IT技術力」の種類や用途を示すものであり、「分析」「企画・設
計」「実装」「PM」(プロジェクト・マネージャー)の4つに区分している。「分
析」はデータの分析・解析等に関する技術力、「企画・設計」はシステムやソフトウ
ェアの企画・設計に関する技術力、「実装」はシステムやソフトウェアの開発・実装
に関する技術力、PMはシステムやソフトウェアの企画・設計から開発・実装の際の
プロジェクトマネジメントを担当できる力を指している。PMは、「技術力に含まれ
ないのではないか」という見解もあり得るが、システムやソフトウェアを生み出す過
程において重要な力であると考えられるため、「IT技術力」に含めた。
- 14 -
「水準」は、「領域」に示された用途で発揮する「IT 技術力」の“高さ”を示す観点
である。
これは、以下のように定義した。
ス タ ン ダ ー ド レ ベ ル:ITを特に専門としない一般的な社会人人材が有す
る技術力の水準である。
ITプロフェッショナルレベル:ITを専門とする人材が有する技術力の水準。現在
のIT 人材が有する技術力を想定。
イ ノ ベ ー テ ィ ブ レ ベ ル:ITを専門とする人材の中でも突出した水準の技術
力を想定。技術的なイノベーションを創出できる力を
有しているという意味で「イノベーティブ」と表現。
②
事業創造能力
事業創造能力は、次世代高度IT人材での新事業・価値(サービス)の創造という点
では、従来のIT技術者にはあまり求められてこなかった能力の一つである。ここでは、
次世代高度IT人材が共通として求められる事業創造能力を「共通能力」と「役割固有
能力」に分けて定義した。
ア.事業創造能力における「共通能力」
次世代高度IT人材のすべての人材像に共通する「共通能力」としては、以下のよ
うな能力を定義した。
事業創造能力における「共通能力」の説明
共通能力
説明
既存の価値観にとらわれない
自由な思考力・発想力
既存の価値観や文化・慣習等にとらわれず、自由な視
点から柔軟に思考・発想することができる。
多様性や異なる価値観に
対する受容性・理解力
自身にとって馴染みのない領域における顧客やユー
ザの価値観や文化・慣習等を偏りのない公平な姿勢で
受容し、適切に理解することができる。
(グローバルな観点での異文化を含む。)
社会的課題や業務課題に
対する問題意識
社会における一般的な課題に対して興味や問題意識
を有している。併せて、自身が関係する事業や業務に
対する高い問題意識を有している。
現状変革・貢献志向
現状や今の社会を変革・改善し、それによって貢献し
たいという意欲を有している。
協業・連携志向
必要に応じて柔軟に他者/他社と効果的な協業・連携
関係を築きたいという意欲を有している。
未来ビジョン構築力
今後目指すべき未来ビジョンや理想像を明確かつ具
体的に描くことができる。
ここであげた「自由な思考・発想」、「多様性の受容・理解」、「(各)課題に対する
問題意識」、
「現状変革」、
「協業・連携」、
「未来ビジョン」のこれらのキーワードを次
- 15 -
世代高度IT人材のすべての人材像に求められる「共通能力」として定義し、重要な
キーワードとして挙げた。
「自由な思考・発想」、
「多様性の受容・理解」、
「(各)課題に対する問題意識」は、
多様な価値観を受け入れながら、既存の価値観にとらわれずに柔軟に発想することが
できる能力であり、次世代高度IT人材が生み出す新製品・新サービスに独創性を与
える力である。
「協業・連携志向」は、新しい取組を成し遂げる上で、従来にはなかった新しい多
様なパートナーや協力者と広く協業・連携する前提となるものであるが、これも独創
的な新しい新製品・新サービスを生み出す上では必須の能力として位置付けられる。
そして、次世代高度IT人材が生み出した新しい製品やサービスを、単に独創的な
だけではなく、現状の諸課題を解決し、社会にとって有益であるものとするのが、
「現
状変革・貢献志向」であり、「未来ビジョンの構築力」であるといえる。
「未来ビジョンの構築力」は、新しい製品やサービスを生み出すことによって、現
存する諸課題を解決し、我が国の社会・産業の未来を切り拓くという次世代高度IT
人材に強く期待される“使命”の核となる能力であるともいえる。
イ.事業創造能力における「役割固有能力」
次世代高度IT人材の人材像として6つの職種を定義したが、各職種に求められる
固有の能力を「役割固有能力」として定義した。
前項に示した「共通能力」と各人材像の「役割固有能力」を合わせたものが、各人
材像に求められる「事業創造能力」となる。
なお、6職種毎の「役割固有能力」については、別紙-1にまとめたので参照され
たい。
③
その他の基本能力
次世代高度IT人材に求められる「その他の基本能力」は、新たな事業・価値(サ
ービス)を創造し、イノベーションを生むために求められる基本能力であり、ロジカ
ルシンキング」、「クリエイティブシンキング」、「プレゼンテーション」、「ネゴ
シエーション」、「ファシリテーション」、「リーダーシップ」、「コミュニケーシ
ョン」の7つの能力をあげることができる。これらは、ITスキル標準に定義されて
いる「パーソナルスキル」を拡張したもので「IT関連能力」や「事業創造能力」な
どの他の種類の能力を最大限に発揮する上での前提として位置づけることができる。
(2)次世代高度IT人材の教育に必要な知識項目
ここでは、次世代高度IT人材の「教育に必要な知識項目」として、「IT関連能
力」における「IT活用力」で求められる「IT知識」として出された知識項目を教
育機関向けの事例調査等の結果に基づき、次世代高度IT人材を育成するための教育
の対象とすることが望まれる知識分野及び基本的な知識項目として整理した。
その結果、次世代高度IT人材を育成するための教育の対象となる知識領域として、
「ビジネス」「イノベーション」「IT」、「パーソナル」「グローバル」の5つの領域
を定義した。既存の教育課程に当てはめると、MBA、MOT、情報系など、既存の
学問領域を横断する広範な領域が含まれるが、これは、様々な融合分野における柔軟
- 16 -
な活躍が期待される次世代高度IT人材は、既存の幅広い知識を習得しておくことが
期待されるとの認識に基づくものである。
①
ビジネス
「ビジネス」は、新事業の創造に携わる人材にとって必須とも言える知識領域であ
る。この領域において習得すべき知識項目は、MBA課程において重視される「経営・
事業戦略」のほか、近年重要性が認識され始めたMOT課程の対象となる「技術戦略」、
ITを用いた経営展開などのCIO的な視点を学ぶ「情報化戦略」、その他、ビジネ
ス人材としての基本となる「業界・市場動向」などに区分されている。なお、ITを
活用した新たな価値創造の事例やプロセスなどを知識としても学ぶべきであるとの
観点から、「情報化戦略」の中に「ITイノベーション」という項目を明示的に含め
た。
②
イノベーション
「イノベーション」は、新事業の創造に携わる人材にとって必要性の高い知識領域
である。ここには、「イノベーション戦略」のほか、近年発展と深化を続ける「サー
ビスサイエンス」や美術や意匠の分野に留まらない広義の「デザイン」領域に関する
知識を含めた。
③
IT
「IT」には、ITを駆使する次世代高度IT人材に必要不可欠であると考えられ
るIT領域の基本的な知識項目を網羅している。なお、「IT」領域においても、明
示的に「ITイノベーション」を1つの区分として独立させた。ここでは、「ビジネ
ス」領域における「ITイノベーション」よりもさらに詳細に、様々な産業でITを
活用して生み出されている新サービスに関する動向などを学ぶことが期待される。
④
パーソナル
「パーソナル」は、現行のITスキル標準に定義されている「パーソナルスキル」
を基に、新たに「クリエイティブシンキング」など、次世代高度IT人材を育成する
場合に求められるスキルを加えたものである。
⑤
グローバル
「グローバル」は、グローバル市場における海外企業との競争下での活躍を期待さ
れる次世代高度IT人材の基礎力ともいえるスキルを定義したものである。
- 17 -
育成のための教育の対象となる知識項目
領 域
中項目
経営・事業戦略
技術戦略
ビジネス
情報化戦略
領域
小項目
経営戦略・経営分析
マーケティング
財務・会計
人的資源管理
組織戦略
オペレーションマネジメント
技術開発戦略
製品開発戦略
標準化戦略
知的財産マネジメント
産学連携・アライアンス戦略
情報システム(IS)戦略
業務分析手法/業務改革手法
全体最適化手法
業務継続計画
IT活用イノベーション
IT
中項目
コンピュータ
システム
コンピュータの構造と原理
プログラミング言語/アルゴリズム
ハードウェア/ソフトウェア
個別要素技術
ネットワーク/データベース
セキュリティ
ヒューマンインタフェース
マルチメディア
WEB関連技術/その他先端技術
情報システムの
開発と運用
システム開発手法
プロジェクトマネジメント
システム運用
ITサービスマネジメント
情報システムの
活用
情報システムの構成要素
情報システムの役割
情報システム活用戦略
(IT活用による新価値創造戦略)
業界・市場動向
イノベーション
戦略
関連産業動向
関連製品・サービス市場動向
国内政治・経済情勢
イノベーションマネジメント
イノベーションプロセス
オープンイノベーション
アントレプレナーシップ
先端技術動向
技術・業界動向
デザイン
(例)クラウド関連技術、ビッグデータ処理
技術、モバイル関連技術
IT関連産業動向
多様な産業におけるIT活用動向
ITイノベーション
(例) ITを活用した新サービスの動向
IT融合の現状と事例
IT活用イノベーション
(IT活用による新価値創造戦略)
(起業・ベンチャービジネス論)
イノベーション サービス
サイエンス
小項目
サービスビジネスモデル
サービスモデリング
サービスイノベーション
認知科学、行動科学
心理学、行動経済学
パーソナル
ロジカルシンキング
クリエイティブシンキング
プレゼンテーション
ネゴシエーション
ファシリテーション
リーダーシップ
デザイン戦略・デザイン思考
ビジネスエスノグラフィ
人間中心デザイン
人間工学、感性工学
グローバル
語学
グローバル市場動向
世界政治・経済情勢
- 18 -
3.次世代高度IT人材とスキル標準等で定義されているIT人材との関係
次世代高度IT人材の人材像及び人材に求められる能力や知識、育成のポイントなど
を示した。次世代高度IT 人材の人材像や人材に求められる能力には、従来の人材とは
大きく異なる部分も多い。特に「共通キャリア・スキルフレームワーク」(以下、「C
CSF」という。)との違いは、その活動領域にある。IT融合分野での活躍が期待さ
れる次世代高度IT 人材の活動領域は、現行の「CCSF」に定義されている現在のI
T人材はIT分野での活動が主であるに対して、IT分野とビジネスが融合する、創出
される場が想定されるため、現在のCCSFで定めている人材類型とも人材像とは別の
人材像であり、その能力/スキル・知識体系も別に描くこととした。
一方、既存の人材であっても、今持っている技術を活用し、さらに磨き、加えて、こ
れまで示してきた次世代高度IT人材の能力や知識を習得するならば、次世代高度IT
人材に成長できる可能性を秘めているのも事実である。
3スキル標準と共通キャリア・スキルフレームワーク(CCSF)
ベンダー技術者 →
ITスキル標準(ITSS(IT skill standard))
2002年に制定。ITベンダ技術者のIT関連能力を職種や専門分野ごとに明確化・
体系化しIT人材に求められるスキルやキャリア(職業)を示した指標である。ITサービ
スの分野11職種35専門分野で、要求される業務経験や実務能力、知識を定義。
ユーザ企業のシステ
ム部門技術者 →
情報システムユーザースキル標準(UISS
(Users Information Systems Skill
Standards))
2006年に制定。一般の企業などが、日々の経営・業務にITを活用するに当たって、組
織として備えるべき情報システム(IS)機能※と、それを遂行する人材の対応関係を体系
的に整理したリファレンスモデル。 ※ UISSでは、ISを「組織の活動に必要な情報の収集、
蓄積、処理、伝達、利用に関わる仕組み」と定義し、コンピュータシステム以外のものを
含む。
組込み技術者 →
組込みスキル標準(ETSS(Embedded
Technology Skill Standards))
2005年に制定。組込みスキル標準は、その組込みソフトウェア開発に必要なスキルを
明確化・体系化したものであり、組込みソフトウェア開発者の人材育成・活用に有用な
「ものさし」(共通基準)として次の3の要素(「スキル基準」「キャリア基準」「教育
カリキュラム」)を提供。
(1)共通キャリア・スキルフレームワークとの対応関係
次世代高度IT人材像は、人材体系としてはCCSFを参考としているため、CC
SFとの対応関係を整理した。また、次世代高度IT人材像の策定の取り組みは、I
T関連産業及びユーザ企業においてIT関連業務を担う現在のIT人材の将来像を視
野に入れたより発展的なIT人材育成施策の一環として実施されているのである。よ
って、次世代高度IT人材像を、その施策の枠組みである「CCSF」とどのような
関係にあるかということも明確にする必要がある。
- 19 -
活動領域はIT領域を含む「IT融合」
(IT領域+ビジネス領域)とし、人材類型
は、CCSFの基本戦略系、ソリューション系、クリエーション系、その他に対応す
る人材類型として「事業創造系」とした。
そして、CCSFで人材像の「ストラテジスト(基本戦略計)、システムアーキテク
ト、PM、テクニカルスペシャリスト、サービスマネージャ(以上ソリューション系)、
クリエータ(クリエーション系)」に対応するものとして、「デザイナ」(事業創造系)
とした。さらに各スキル標準の職種/人材に対応するものとして、次世代高度IT人
材の職種を「フィールドアナリスト」「ITサービスデザイナ」「ITサービスアーキ
テクト」
「イノベーティブエンジニア」
「ビジネスデザイナ」
「プロデューサー」に分類
した。以下、次世代高度IT人材とCCSFの対応関係図である。
次世代高度IT人材像と共通キャリア・スキルフレームワークとの対応
次世代高度IT人材
共通キャリア・スキルフレームワーク
IT融合
(IT+ビジネス領域 )
IT
活動領域
事業創造系
基本戦略系
デザイナ
ストラテジスト
SA
PM
TS
SM
8
3
5
10
7
6
職種数
ソリューション系
クリエーション系
人材類型
クリエータ
人材像
○ITスペシャリ
○カスタマサービ
スト
○マーケティング
○ITアーキテク ○プロジェクトマ ○アプリケーショ ス
ITSS
○セールス
ンスペシャリスト
○ITサービスマ
ト
ネジメント
○コンサルタント
○ソフトウェアデ ネジメント
ベロップメント
○フィールドアナリスト
○ITサービスデザイナー
○ITサービスアーキテクト
○イノベーティブエンジニア
○ビジネスデザイナ
○プロダクトマ
ネージャ
○ドメインスペ
シャリスト
○ソフトウェアエ
○プロジェクトマ
ンジニア
ネージャ
○システムアーキ
○開発環境エンジ
○ブリッジSE
ニア
テクト
○開発プロセス改
○QAスペシャリ
善スペシャリスト
スト
○テストエンジニ
ア
ETSS
職種/
人材
○プロデューサー
○ビジネスストラ
テジスト
○ISストラテジ
○ISアーキテク ○プロジェクトマ
スト
ト
ネージャ
○プログラムマ
ネージャ
○ISアナリスト
○アプリケーショ
ンデザイナー
○システムデザイ
ナー
○ISオペレー
ション
○ISアドミニス
トレータ
UISS
○セキュリティア
ドミニストレータ
○ISスタッフ
○ISオーディタ
SA:システムアーキテクト、PM:プロジェクトマネジメント、TS:テクニカルスペシャリスト、SM:サービスマネージャ
(2)次世代高度IT人材の特徴
次世代高度IT人材(群)の目指すところが新たな事業・価値(サービス)を生み
出すことが可能となる能力、スキルの習得と考えるならば、そのレベルは、一定程度
高いレベルに到達していると考えられ、CCSFでのレベル5前後と想定される。し
かし、必ずしも知識や技術レベル、あるいは能力レベルが高いからといって新事業・
価値(サービス)やイノベーションが生み出されるものとは限らず、個人の技術力や
能力を超えた要素が介在するという点が特徴といえる。
また、次世代高度人材の活動領域がIT領域に留まらず、異分野との融合領域、ビ
ジネス領域に多く出てくることも考えられ、必ずしも従来のIT系人材類型ではない、
いわゆる経営的視点を持つ人材類型のからのアプローチも考えられる(ただし、この
- 20 -
場合の人材は、情報リテラシーのレベルが高いことが期待される)。
次世代高度IT人材においては、このようにレベルと成果が必ずしも一致しないと
いう面があり、育成に必要な到達目標としてのレベルを設定するのは難しいことを踏
まえ、その育成対象は、CCSFのレベル2からレベル4の技術者とし、既存のIT
技術に事業創出やイノベーションに係る能力、スキルを加え、習得することで、新事
業・価値(サービス)を生むことができる可能性をもたらす総合的能力を持つことが
できると考える。
技術者が目指す人材像=到達目標として、次世代高度IT人材が位置づけられるこ
とにより、より技術者の質が高められることになり、ITを基礎とした異分野融合、
新たな事業・価値(サービス)の創造、イノベーションが多くの分野で実現していく
ものと考えられる。
(3)「次世代高度IT人材能力・知識モデル」(仮称)の検討の方向性
① 職種・呼称などの整理
「次世代高度IT人材像」の職種を整理する場合は、既存の3スキル標準との比較
等を行ったうえで体系化していく必要がある。また、「次世代高度IT人材能力・知
識モデル」(仮称)の呼称についても、有識者の意見を参考にしつつ検討する。
次世代高度IT人材の能力・知識についても、今後「次世代高度IT人材能力・知
識モデル」(仮称)として、人材像(「デザイナ」)の職種別及びレベル別に体系化し
て示す必要がある。
また、知識項目に関しては、大学などの教育機関での教育に必要な基礎的な知識と
して項目を整理したものであり、職種別及びそのレベル別に必要な知識項目としてさ
らに精査する必要がある。また、教育機関においても、これらの知識項目をさらに精
査しカリキュラムとして整理する必要がある。
②
共通キャリア・スキルフレームワークの比較と差分の抽出
CCSFでまとめられている人材像、または対応する各スキル標準の職種における
能力/スキル・知識項目をこれから整理される「次世代高度IT人材能力・知識モデ
ル」(仮称)での職種の能力/スキル・知識項目と比較し、対応する職種を整理した
上で、CCSFの職種と「次世代高度IT人材能力・知識モデル」(仮称)の職種の
差分を明らかにする。
CCSFとの能力/スキル、知識の差分についての整理により、その結果、CCS
Fに加えるべき能力/スキル・知識項目が整理されることになれば、CCSFの人材
像、対応する3スキル標準の職種等について必要があれば見直しを検討する。
なお、CCSFの人材像は、時代の変化に対応したものにしていく必要があるため、
適宜必要な見直しを行っていくものとする。
(4)次世代高度IT人材の育成の指針
次世代高度IT人材の育成に関する検討にあたり、その人材像や能力を明らかにす
ることと併せて、
ア.イノベーションや異分野融合を促進するための国内外の企業における取組事例
の収集、注目すべき事例を選定し、取組に関するより詳細な情報を把握するため
- 21 -
のヒアリング調査の実施
イ.次世代高度IT 人材の重要性や、その前提となる問題意識に相当する新製品・サ
ービスの創出に対する重要性の認識などをテーマとして、WEBアンケート調査
を実施し、新製品・サービスの創出や次世代高度IT人材の育成等に関する現在
の産業界の実態把握
ウ.高等教育機関を視野に入れた次世代高度IT 人材の育成方法に関する検討に向
けて、イノベーションや異分野融合の促進を重視した国内外の高等教育機関のカ
リキュラムに関する事例の収集、注目すべき事例を選定し、取組に関するより詳
細な情報を把握するためのヒアリング
などを実施した。
(以上の調査結果については、以下のURLの「次世代高度IT人材モデルキャリア開発計画事業報告書」を参
照(再掲)
。URL
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/FY23_ITJinzaiIkusei.htm
)
上記ア.及びイ.の結果を踏まえて、高等教育機関を視野に入れた次世代高度IT人
材の育成フレーム(育成のあり方)を整理し、育成のあり方として「育成の指針」の
形で7つのポイントとして取りまとめた。
新事業やイノベーションを自ら創出できるような高度な人材を計画的に育成する
ことは、極めて難しいといわれている。
しかし、育成が難しいからこそ、そのような人材の育成・成長やそのための環境整
備に向けたヒントとなるべき情報が望まれている。これまで不可能であった「暗黙知」
の「形式知」化に取り組んでこそ、その意義も高まると考えられる。
先進的な事業等を展開している企業とその事業を指導している人材にヒアリング
等の調査を実施し次世代高度IT人材を育成するポイントを検討し、それらを「育成
の指針」の形で整理した。なお、これらは、次世代高度IT人材の育成に活用しよう
とする各社の人材育成部門が検討する際に、その手がかりやヒントとなり得る情報と
して提示するものであり、決して十分条件ではないことに留意が必要である。
次世代高度IT人材の育成のための7つの指針
① 一定の能力や資質を有する人材の選抜を基本とする
② 新事業の創出や変革に向けた強いインセンティブを与える
③ 大きな視点から物事を考えさせる
④ 多様な価値観に触れさせる
⑤ 現場に入り込み、課題を発見させる
⑥ 非日常的な場を与え、発想を熟成させる
⑦ 一定の失敗が許される挑戦・実践を繰り返す
なお、別紙-2では、7つの指針の説明に加えて、各種調査において把握された産
業界や教育機関における事例を参考例として示す。
- 22 -
(5)評価軸の必要性
次世代高度IT人材(群)は、3スキル標準を相互に参照できるようにしたCCS
Fと活動領域、能力・スキル領域が異なるものという整理を行ったため、従来とは違
った新しい切り口での人材評価軸が必要となる。次世代高度IT人材を目指す候補生
を見出し次世代高度IT人材の人材像「デザイナ」に育成するためには、候補生を知
識、技能の到達段階毎に到達レベルをしることができる仕組みが必要である。技術者
個人の研鑽により、到達目標として「次世代高度IT人材」(仮称)を目指すために
持っている能力や知識の到達点を知るための評価軸が必要である。
また、経営的な事業創造に係る知識、技能等をも測ることができ、レベルを測るこ
とができる試験等の創設が次世代高度人材を育成していく上でも求められる。人材類
型を経営系の分野まで広げることにより、経営戦略をも含む事業創造できる、もしく
は、イノベーションに係る専門的な知識・技能を測ることができる新たな仕組みが必
要となる。
その際、次世代高度IT人材の評価のための制度設計は、既存試験との棲み分け、
レベルの整合性などを勘案しながら行っていく必要がある。各領域に係る知識・技能
を見ることができるプロジェクト、プログラム、ポートフォーリオなど事業規模、部
門間、企業間の事業構築の知識・技能を測ることができるとともに、レベル判定がで
きるようなものとすることが求められる。なお、新しい制度設計に当たっては、IP
AやITコーディネータ協会(注)などのノウハウを活用するとともに、制度設計に関
心を示す民間や団体からの意見も踏まえ、検討していくものとする。
注:ITコーディネータ協会
ITコーディネータ制度は「経済産業省推進資格」として2001年に創設。現在約6500名のITコー
ディネータが様々な業種分野、職域で活躍している。当制度創設時からの主要事業であるIT活用による中小
企業の経営革新(IT経営)を推進し、また、新たなIT利活用潮流であるSaaS、クラウドコンピューテ
ィング分野においても、他団体、企業と連携し「中小企業支援SaaS利用促進コンソーシアム(SPCS)」
や「みんなのビジネスオンライン」等の活動を展開。
同協会では、企業がIT経営を推進する際の基本的な考え方を、多様な業種・業態、規模・成熟度の企業に
も適用可能な汎用的な形で、
「基本原則」と「プロセス」として取りまとめた「ITコーディネータプロセスガ
イドライン」等を策定している。
- 23 -
第2部
情報セキュリティ人材
1.情報セキュリティ人材の多様化と高度化に向けて
昨今サイバー攻撃が高度化し、愉快犯から確信犯へ、また標的型による特定対象を
狙った攻撃が増加している。情報セキュリティ人材の重要性は以前から指摘されてい
たが、主にウィルス対策や監視、セキュリティポリシーの構築・運用など、いわゆる
セキュリティ対策を行う際に必要な技術や手法を技術者が備えているかが重要な視点
であった。
しかしながら、情報セキュリティに適切に対処するには、もはや対処療法的な対策
にとどまらず、情報システム、ひいては業務設計、ビジネスモデル設計の段階からビ
ルトイン型の対策が設計できるかどうかが重要であることから、情報セキュリティの
専門的なエンジニアを育てるだけではなく、情報システムに関わるそれぞれのエンジ
ニアがセキュリティの要素を備えることが求められている。さらに、ビジネスやシス
テムのライフサイクル上全ての段階で運用面も含めて情報セキュリティを考慮に入れ
た対応が可能な総合的な視点を持つ人材が求められる。
- 24 -
2.対象とする情報セキュリティ人材
「情報セキュリティ人材」と言っても、その求められるスキルは対象となる人の属
性によっても多種多様であり、それぞれの属性における現状認識や、育成のアプロー
チが異なることから、まず情報セキュリティの能力や知識が必要とされる人材を整理
し、本人材育成WGで対象とする人材を示す。
(1)情報セキュリティ人材の整理
情報セキュリティ人材についてはIPAの平成23年度情報セキュリティ人材育
成検討委員会の検討を参考に、システムライフサイクルに着目して①~④の人材に分
け、次のように整理した。
①情報セキュリティ技術の突出した人材
②セキュリティ分野ビジネスを営む人材
③システム企画・設計・構築・適用・更新・運用に活躍する人材
④一般人としてのセキュリティの基礎スキル
情報セキュリティ人材全体図
(「平成 23 年度情報セキュ
リティ人材育成検討委員会」
(IPA)資料より)
①
情報セキュリティ技術の突出した人材
情報セキュリティに関する逸出した技術を持つ人材である。
- 25 -
これらの人材は、二つの人材に分類できる。
ア.情報セキュリティの能力や知識をほとんど熟知したうえで、全く新しい攻撃手法
であっても、過去の経験等からかなり精度の高い新しい対策を考案できるトップク
ラスの人材。またその知識・技能を使って新たなビジネスを創出できる人材。
イ.情報セキュリティのある分野の技術で、特別の才能を示す人材。経験等を積むこ
とで、情報セキュリティ分野での活躍が期待できる人材。
② セキュリティ分野ビジネスを営む人材
主に情報セキュリティベンダー企業で働く技術人材である。それぞれの社会システ
ム、ビジネスプロセス・モデル、情報システム等を構築していく際にどのように情報
セキュリティを組み込むかについて、現状を的確に把握しつつ、考案し、設計できる。
このような人材は各企業において、ビジネスモデルを考案するとき、社内の体制
を構築するとき、または情報システムを設計する際に、業務プロセスの情報セキュリ
ティ上の現状や問題点を把握しつつ、それを指摘し、改善する方法を技術的な手法に
限らず提供できる人材である。さらに、運用を実施する際にも根源的に情報セキュリ
ティ対策が施された形での運用形態を、各組織単位で適切なカスタマイズを行った上
で提供することもできる。
③ システム企画・設計・構築・適用・更新・運用に活躍する人材
ア.情報セキュリティの能力/スキル・知識が業務の中で必要である技術者
ユーザ企業における情報部門の技術者、情報システムベンダ企業の技術者、制御シ
ステム・組込み分野の技術者、ユーザ企業における情報システム部門の技術者、セキ
ュリティ監査などセキュリティマネージメント分野の人材である。
例えばプロジェクトマネージャ、システムエンジニア、ネットワークエンジニア
等が、自らの担当分野において活動を行う際に、どのような情報セキュリティを加味
すべきかを理解している人材。
このような人材は、情報セキュリティとは別に技術的に達成しなければならない
ミッションを負っているとしても、適切な情報セキュリティ対策をミッションの一部
としてとらえ、達成することが求められる人材である。
イ.一般の技術者
製品などを提供する技術者で、情報セキュリティに係る最低限の一般的知識の取
得が求められる人材である。
様々な製品やサービスを提供していく際に、もはやは必須のツールとなっている
ことから、情報セキュリティへの相応の理解が求められ、専門的ではないが初歩的な
情報セキュリティ対策を加味することが求められる人材も含む。
④
一般人としてのセキュリティの基礎スキル
ITを利用する際に、必要な情報セキュリティに関する基礎スキル・知識を保有
していることが求められる。
- 26 -
(2)検討対象となる情報セキュリティ人材
本人材育成WGで対象とする情報セキュリティ人材は、一般的な普及啓発を中心と
したリテラシーの向上が基本的な課題となる一般の技術者、一般のユーザではなく、
人材育成WGの検討の主な対象分野である情報サービス・ソフトウェア産業及びユー
ザーの中でセキュリティを担当する者に対象を絞り検討する必要があるため、上記
「①~③のア.」を対象とすることとする。
(「③のイ」及び「④」にかかる施策としては、
「情報セキュリティ人材育成プログラムを踏まえた2
012 年度以降の当面の課題等について」が内閣官房情報セキュリティセンターより2012年5月
31日に発表されているので、参照されたい。
(URL:http://www.nisc.go.jp/press/pdf/jinzai_kadai2012_press.pdf))
- 27 -
3.情報セキュリティ人材の育成
情報セキュリティ人材に係る能力/スキル・知識については、既存のスキル標準では
十分とは言えず、今後の整備を行って、職種毎の育成の方向を検討していくものとする。
以下その具体化の方向性である。
(1) 情報セキュリティ技術の突出した人材
① セキュリティ・キャンプの充実
情報セキュリティに関するトップ人材の輩出には、若年層の頃からの才能の発掘
が重要だといわれている。そのため、現在行われている官民協働のセキュリティ・キ
ャンプを今後も充実させていく。
②
CTF大会など情報セキュリティ関連コンテストの開催への支援
実践的な情報セキュリティ人材の発掘と育成に、そして情報セキュリティに関心
を広げるという点で有効であるといわれているCTF(Capture The Flag)の実施や、
その他の発掘、育成事業などについて、今後、国としてどのような支援が可能か検討
する。
③
若年層の育成・活躍の場の創設
上記の取組で輩出した若年層については、実践的な総合的な知識、スキル経験を
積むことにより、情報セキュリティに関わる才能を伸ばすことができるため、例え
ば、学生やCTF大会などで見いだした社会人を対象とした半年又は1年以上の長
期的なインターンシップなどの場を産学協働で創り出し教育するようなことを検討
することが重要である。
また、セキュリティ・キャンプなどで見いだしたハイスキルを持った人材が活躍
できる場やその後の研鑽の場がなかなか見いだせていないのが現状である。今後、
切れ目なくハイスキルをもった情報セキュリティ人材の輩出を促すためにそうした
活躍の場・育成・研鑽の場をどのように創り出していくかが重要であるため、そう
した場の創設が官民双方にとっての課題である。
一方、これらの見いだした人材を自主的なコミュニティなどを組成し、情報や技
術交流ができるような場を創設することも重要である。
(2) 情報セキュリティ人材にかかる3スキル標準の見直し
前項で整理した「セキュリティ分野ビジネスを営む人材」と「システム構築・適
用・更新・運用に活躍する人材」については、今後、各スキル標準の職種・人材毎に
必要とされる情報セキュリティ人材に係る能力/スキル・知識の詳細化とその範囲及びそ
のレベルを明確にする必要がある。その結果、3スキル標準についても見直しが必要とな
る場合は、見直す。情報セキュリティがITSS、UISS及びETSSの3スキル
標準の中でより明確化され強化された形で位置づけられることにより、これらの標準
を参照する企業における人材の育成において、情報セキュリティに係る知識、スキル
を普及させるよう取り組む。
- 28 -
また、ITSS及びETSSにおける検討の際、情報セキュリティ人材を職種とし
て位置付けることについて検討を行う。
また、ビジネスや情報システムの構築、ライフサイクルの中で情報セキュリティに
関するコンサルティングができる人材についても検討を行う。
なお、これらの作業を実施していく際、民間等で既に体系化されているものについ
ては、それを参考として検討し、屋上屋にならないよう配慮する。
- 29 -
第3部
今後の階層別の人材育成
1. 中高年技術者の活用
情報サービス業の従業者の年齢構成比についてリーマンショック前の平成18年と
平成23年を比較すると(P5 の図「情報サービス産業の技術者の年齢構成比」参照)、平
成23年は、39歳以下の割合を約 10%ポイント減らし、約6割となり、25歳~29
歳は約1/4を占めていたのが、2割を切る 17.2%となった。
また、平成23年は、45歳以上が約1/4を占め、平成18年と比べると、約 10%
ポイントの増加となり、情報サービス業従業者の高年齢化が進んでいることが伺える。
このような中、今後、成熟期を迎える情報サービス業の中において、新たな事業・価
値(サービス)の創造を図るというIT融合において、高度IT技術を有する中高年技
術者をどのように活用するかも重要な課題である。
中高年技術者の活用には、中高年技術者の流動化、若年技術者の教育・交流、ユーザ
技術者との交流、初中等教育との連携によるITリテラシーの向上などについても課題
となっており、これらの課題ともあわせ検討していくことが必要である。
(1) 既存技術者
① 次世代高度IT人材へ
まず、中高年技術者が自ら次世代高度IT人材=新たな事業・価値(サービス)を
創造できる人材になることである。高度IT技術者としてのスキル、経験を元に次世
代高度IT技術者の人材像をよく理解し、自らがその人材に近づくために新たな知
識・技能を身につけるよう自己研磨し、新たな峰を追求することである。
②
次世代高度IT人材の育成者へ
また、自らの高度IT技術及び経験を若手技術者に伝えるとともに若手技術者を次
世代高度IT人材に育成する役割を担うことも一つの方向である。リーダー、又はマ
ネージャとしての資質を身につけ、若手技術者が持つ柔軟な豊かな発想を活かし、新
ビジネスの創出やイノベーションの創出を導く人材としての役割を担うことは重要
である。
(2) 地域、各界が協力した人材育成の体制作り
① 地域でのIT産業界の連携した講習会
ITと異分野との融合による新たな事業・価値(サービス)創造やクラウドコンピ
ューティングの進展による「新たなサービス化」に対応すべく、また、中小ITベン
ダの下請構造からの脱却のため、経済産業省では中小ベンダ企業と技術者向けに業態
転換を図る方向性を示したテキストをこれまでに作成し(注)、全国の都道府県で講習
会を開催してきた。中高年技術者は、事業の中心を占め、最新知識・技術習得の機会
等もかなり限定されている状況があるため、技術者の近くでの講習開設が必須である。
こうした取組を参考に地域と業界、企業、大学、教育ベンダが一体となって、新たな
知識・技能を学べる場を用意していく必要がある。
地域において新たな事業・価値(サービス)を創造できる人材を育成し、地域経済
の活性化を促していくことが何よりも求められ、日本経済の再生に寄与していくこと
- 30 -
となる。
なお、そうした地域における講習等の履修技術者に対し、「受講ポイント」を付与
し、一定のポイントに達すると単位又は、学位が付与できるような制度を検討し、そ
うした研修が社会的認知度を高め、技術者がインセンティブを感じることができるよ
う検討する必要がある。
注:経済産業省平成 23 年度「中小ITベンダの新ビジネス創出に向けた普及基盤整備事業」の「中小 IT ベン
ダが今後のクラウドビジネス等に対応したサービス供給力を強化するための教材コンテンツ」を参照。
②
大学又は、専門学校等での講座
中高年技術者と学生の共同講座での学習を通し、社会人技術者は最新の知識・技術
を学び、学生は、社会経験を積んだ技術者と交流することにより実践力を習得でき、
経験と若さが結合することにより、新たな事業創出に結びつく機会を創出できる。
また、技術者の近くにある大学における教育の例として、米国の各大学が運営する
エクステンションスクール(オフィスの近くに開設するサテライト大学院)がある(日
本でも一部の情報系専門大学で実施例がある)。このように技術者の近くで最新知識、
技術を習得できる環境の創設が次世代高度IT人材の育成につながり、今後一層重要
性を増してくるため、整備する必要がある。
<日本の社会人教育の例>
(「次世代高度IT人材=融合型人材像の策定とその育成について(案)」P55(第 2 回人材育成WG資料)より)
⑧
社会人教育
ある程度企業で業務経験を積んだ学生を教育対象とすることによって、実際のビジネスに即したケースス
タディや PBL などにおいて、より密度の濃い教育を行うことが可能である。
また、概して意欲の高い社会人学生がゼミ等の議論の場に参加することによって、他の参加者に対し業務
経験に基づいた知識やスキルの提供のみにとどまらない知的刺激を与え、参加者同士が相互に知識や能力を
高める効果が期待できる。
 教育機関における取組事例から ~ 社会人教育
【東京工業大学大学院
イノベーション・マネジメント研究科】
同研究科のイノベーション専攻は、技術開発や技術経営についての経験が豊富な社会人を主な対象
に,指導教員とのゼミ形式の講究を行い,自身がもつ実務経験に基づく学問的な体系化や理論研究を
遂行する。ゼミを平日の夕刻や週末に実施し、入学時の成績や研究実績によっては短期間での学位取
得を可能とするなどの工夫により、社会人学生に対する便宜を図っている。
【北陸先端科学技術大学院大学
技術・サービス経営コース】
入学資格に大学卒業者またはそれと同等以上で、かつ 3 年以上の社会経験を有することを挙げて
いる。様々な業種に属する社会人学生と教員との議論の場を、講義内外で提供している。
「いしかわ
技術経営(MOT)スクール」では、東京と北陸の社会人学生、実務家、JAIST 本校生が活発な議論
を繰り広げている。
③
ユーザのIT利活用力向上に向けた仕組みの構築-ITベンダ技術者の流動化
IT融合による新たな事業・価値(サービス)の創造の中で、ユーザ側のIT利活
用の向上が重要であるが(注1)、ITベンダに属する高度IT技術者を、ユーザの情
報システム部門または、経営戦略部門へ登用することにより、ユーザのIT利活用力
を強化することが可能になる。これにより、ユーザ企業の生産性の向上、競争力の強
- 31 -
化が図られるだけではなく、高度IT技術と経営若しくは事業がより密接に結びつき、
新たな事業・価値(サービス)の創造の可能性を高めることに繋がる。日米の生産性
の比較をみてもユーザ企業のITに係る人材面での投資の強化が求められる(注2)。
このような観点から、ITベンダ・ユーザ双方でのベンダの高度IT技術者の流動化
の仕組みの検討が必要である。
注1:人材育成WG報告書(平成19年7月)P3より
「企業内の各種プロセスについての専門知識とIT知識の融合化が課題となっている。この意味でのIT人
材は、IT産業側に必要なだけでなく、むしろユーザ産業サイドの経営企画等中核人材の中にも求められるこ
とになる。」
注2:日米の非ITセクタの生産性比較研究では、元橋一之氏(東京大学/経済産業研究所)の「ITと生産性に関
する実証分析:マクロ・ミクロ両面からの日米比較」(2010年11 月)がある。同分析では、「日本経済の成長
率を米国と比較したときに「両国の経済成長率の違いではITセクタと非ITセクタに分けてみると、生産性の伸
び率の違いは非ITセクタで大きい。IT資本ストックについて量的な面では日米企業で大きな違いはないものの、
質的な面(IT利活用の方法)で格差が表れている。IT経営に関する国際比較調査を行ったところ、日本企業は、
米国企業と比べてITと経営の融合度が低いこと、専任のCIO(最高情報責任者)を置いている企業の割合が小さ
いこと、情報系システムに対する投資が遅れていることなどが明らかになった。また、定量分析の結果、ITと
経営の融合度が低い企業においては生産性の伸び率が低いという結果が得られ、日米企業のIT経営の違いが生
産性格差の原因になっている。」とITと経営の融合度合い、情報システム部門への投資の遅れなどが、日米の
非IT部門の生成性の違いの原因と分析している。
④
ITコーディネータ等との連携
次世代高度IT人材が新たな事業を創出のために経営とIT双方の領域に長けた
知識・技能が求められるが、経営からITまでの幅広い知識を身につけているという
意味で、ITコーディネータは、尐なくともその要素の一部を備えていると考えられ
る。もちろん現在のITコーディネータが会得している知識等に加え、事業を創造す
るための知識やイノベーションを起こすに必要な知識・技能などを更に獲得しなけれ
ばならないのは言うまでもないが、そうした必要な知識・技能を身につけた場合に即
戦力として、幅広い活躍が期待できる。
日本の企業数の99%以上を占め、日本経済を支えているのが中小企業であり、そ
の競争力の強化を図ることが日本経済にとって喫緊の課題であって、中小企業経営の
IT化は、思うように進んでいない現状のもとで、ITコーディネータは、中小企業
のIT経営を促進する重要な役割を担い、中小企業のIT化を進めてきた実績を持つ。
ITコーディネータが次世代高度IT人材に求められる知識・技能を身に付け、指導
していけるようになることで、中小企業がITと異分野の融合による新たな事業・価
値(サービス)を生み出す可能性が拡大していく。高度IT技術者が、経営的知識を
身につけることにより技術者としての幅を広げ、ITコーディネータに限らず、IT
コンサルタントや、起業家としての道も開けていくこととなり、また、異分野融合に
よる新たなビジネスの創出や価値を生み出すことの可能性も拡大する。
ITコーディネータや中高年技術者が次世代高度IT人材を目指せるよう必要な知
識・技能の体系と育成モデルが求められ、育成のためにそのレベルを測るに必要な評
価軸について、検討することが必要である。
- 32 -
なお、前述の「地域でのIT産業界の連携した講習会」による「中高年技術者の新
技術の習得」にしても「大学又は、専門学校等での講座」による「中高年技術者の活
用」にしても、それらが機能していくには、ビジネスとして回っていくことが重要で
あり、ビジネスとして成り立つ為の条件をどのように整備するか、また、どのように
ビジネスモデルを構築するかが求められる。
2.若手層の育成
(1)次世代高度IT人材の知識分野・知識項目の整理とカリキュラム
新たな事業・価値(サービス)の創造やイノベーションは、必ずしも知識・技能が
高いレベルにあるからといって生み出されるわけではない。むしろ、柔軟な発想やひ
らめきを持つ若い人材に多くの可能性が秘められていると考えられる。
また、次世代高度IT人材の育成で若い世代の育成を考えるとき、日本の舞台に限
るのではなく世界を見据え、世界で通用する技術力を身につけるにはどのようにすべ
きかを検討していく必要がある。
それには、IT産業そのものを支える基盤技術やソフトウエア、アプリケーション
開発力、また、社会インフラとなったITに求められる「頼りがい=dependability」
を提供する技術を保有し、社会に活かしていける人材の育成を行っていくことが必要
である。先に示した教育の対象とすることが望まれる知識分野及び基本的な知識項目
をさらに精査し、大学生などを対象とする教育機関向けのカリキュラムと社会人向け
のカリキュラムを整備する必要がある。
(2)「次世代高度IT人材能力・知識モデル」(仮称)と大学等の教育との連携
大学教育では、上記の知識カリキュラムを今後策定される「次世代高度IT人材能
力・知識モデル」(仮称)の各レベルに沿ったものにし、大学等での教育修了者のレ
ベルが図ることができるよう工夫することが求められる。そうすることによって、企
業側が採用する前に学生の事業創出力・イノベーション力のレベルを知ることができ
るため、採用後の企業内教育の参考とすることができ、スムーズな人材育成ができる
ようになる。
また、次世代高度IT人材の育成を行うには、教育界と産業界が連続して人材育成
を行えるようITスキル標準や組込スキル標準のレベルに沿った大学教育の検討や
各スキル標準との情報系専門教育カリキュラム標準J07(注)の整合性を図るなど、
教育体系の整備が必要である。
注:情報系専門教育カリキュラム標準J07
世界標準である米国IEEE/ACMのCC2001-CC2005を土台として、日本の情報専門教育の状況に対応した見直
しを行い、コンピュータ科学(J07-CS)
、情報システム(J07-IS)
、ソフトウェアエンジニアリング(J07-SE)
、
コンピュータエンジニアリング(J07-CE)
、インフォメーションテクノロジ(J07-IT) の5つの領域と、広
く情報について学ぶ内容を定めた一般情報処理教育GEについて、一般社団法人情報処理学会がまとめたカリ
キュラム標準。幅広い情報教育分野のなかで、各知識領域について体系的に学んでいくべき指針となるカリ
キュラム構成や最低限習得させるべき項目をコアと指定している。
(3)産学連携による実践的教育講座の拡大
(注)
今後、IPAが事務局である「産学連携推進委員会」
が進める大学や専門学校等
- 33 -
の実践的教育講座の取組を一層拡大させ、実践力のある次世代高度IT人材の候補と
なる人材を育成する。とりわけ、地域における大学等の教育機関と企業との連携を強
める取組が求められる。それは、地域から新事業・価値(サービス)とイノベーショ
ンを起こせる人材を輩出し、地域経済を活性化させることが日本経済再生の鍵である
からである。
また、実践的教育の場では、情報分野だけでの講座ではなく、情報+音楽、情報+
文学、情報+哲学など、異分野との交流を意識的に追求し、若いときからそうした環
境で豊かな発想を育むことが次世代高度IT人材を育成する下地となるため、「実践
的」に加え「異分野との出会い」の場を創設することが重要である。
注:産学連携推進委員会
第11回「産学人材育成パートナーシップ情報処理分科会」(2012年5月11日開催)の結論を受け
て、今後産学連携による取組の推進・拡充等を図っていくため、産業界及び教育界の関係機関で構成し、I
PAが事務局となり2012年6月5日に発足した。経済産業省、文部科学省、総務省、内閣府がオブザー
バー参加している。
(4)若年層育成の取組
若い世代の育成で世界を見据え、世界で通用する技術力を身につけさせることが大
事であるが、そのためには、早い段階から才能ある若者を見いだすことが重要である。
そのため、U-20プログラミングコンテスト(経済産業省事業)、2011年度ま
で経済産業省及びIPAでは産学連携実践的教育講座の開設(経済産業省事業)、I
PAと民間との協働事業であるセキュリティ・キャンプ、未踏事業(IPA事業)の
若年層の4事業注を実施してきた。各事業の主な課題を挙げると、以下のとおりであ
るが、各事業の課題の検討と併せて、それぞれの特質を活かし、一体的に取組み、相
互に高めあう取り組みにしていくことが求められる。そして、一体的取組により、そ
れぞれの社会的認知度を上げるための効果的な普及活動が期待される。その結果、こ
うして育成した若者達が活躍する場(就職等)等の創出と結びつくことが、望まれる。
 U-20プログラミングコンテスト
→他コンテストとの連携を図ること、今後の実施の在り方など。
 産学連携実践的教育講座の取組
→自立的事業として確立され、地域での取組が拡大していくこと。
 セキュリティ・キャンプ
→民間との協働による継続、CTFなどカリキュラムの検討。
 未踏事業
→ハイレベルプログラム・マネージャーのコミュニティ化、若手技術者との交流の追求、
より頂の高い技術の発掘を目指すための体制等の検討。
 共通課題
→輩出、育成した若者と企業等との出会い、活躍する場(就職等)の提供。
- 34 -
若年層事業の一体的取組の追求(イメージ図)
取組の方向:若手育成は、一
これまでは、METI、
IPAとそれぞれで実施
体となった取組みが求められる
のではないか
・U-20プログ
ラミングコンテ
スト
METI
・U-20プロ
グラミングコ
ンテスト
・産学連携実践
的講座
一体的取組
を追求
IPA
・セキュリティ
キャンプ
・未踏事業
・産学連携実践的
講座
・セキュリティ
キャンプ
・未踏事業
課題:育成した若者と企業等
との出会い、雇用される仕組み
の構築(出口)
・他のコンテスト
との連携を図るこ
と、今後の実施の
在り方を検討
・自立的取組の確
立、地方での普及
・民間との協働に
よる継続、ITFな
どカリキュラムの
検討
・ハイレベルPMの
コミニティ化、若手
技術者との交流の追
求
・より頂の高い技術
の発掘を目指すため
の体制等を検討
一
体
的
取
組
たに
めよ
にり
効、
果社
的会
な的
普認
及知
活度
動を
の上
追げ
求る
注:若年層の4事業
•
U-20プログラミングコンテスト(主催;経済産業省):高度なソフトウェアプログラムを作成する技術
を有する若者を表彰することにより若者のITに対する関心を高めるとともに、次代を担う高度なIT人材の
発掘・育成を目的として実施する、20歳以下の若者を対象としたプログラム提出型のコンテスト。1979
年から開始し、今年で33回目を迎える。
•
産学連携実践的教育講座の取組:平成21年度よりIT人材育成強化加速事業として文部科学省との協力関係
のもと、産業界、教育界が連携した実践的な教育により、高度IT人材を育成。24年度から16大学2地域
で、実践的教育講座を展開。今後は、産学連携推進協議会(事務局;IPA)が中心となって推進。
•
セキュリティ・キャンプ(主催;セキュリティ・キャンプ実施協議会)
:「若年層の高度なセキュリティ人材
の発掘・育成の場として、夏期に合宿形式で、産業界、教育界の第一線で活躍する技術者を講師とし、セキュ
リティに関する高度な講習会を開催するもの。2004~2007年は、「セキュリティ・キャンプ」として
経済産業省が主催、2008年~2011年「セキュリティ・プログラミングキャンプ」としてはIPA主催
で実施。2012年からは、セキュリティ・キャンプ実施協議会を立ち上げ、官民連携により実施。
•
未踏事業(主催;IPA)
:2000年度からIPAの「未踏ソフトウェア創造事業」として開始。独自性・
革新性のあるアイディア・技術で社会的インパクトを与える若い潜在的な人材を、経験豊富な産学の一線級プ
ロジェクトマネージャの指導の下で開発プロジェクトを実践して育成を行う。2011年度からは「未踏本体」
と「未踏ユース」を一体化して公募対象を25歳未満とし、より若いクリエータの発掘育成に重点を移してい
る。
3.グローバル人材について
日本経済のグローバル化の状況を見ると、次世代高度IT人材の育成はグローバル化
を踏まえた取組が必要となる。情報技術の発展がインターネット環境やクラウドコンピ
ューティングによる仮想化環境の発展を押し進め、情報技術を生活の隅々にまで浸透さ
せ、社会活動等の一層のグローバル化をもたらした。IT産業だけでなく、日本経済自
体がグローバル化のまっただ中にあり、新たな技術や製品が一瞬にして世界を駆けめぐ
- 35 -
る状況下、次世代高度IT人材の育成についてもグローバル化を踏まえたものでなくて
はならない。
グローバル人材を検討するに当たっては、グローバル化の定義やグローバル人材に求
められる要件、そしてIT産業のグローバル人材における要件面での他分野との差異は
何か、また、当該要件がある場合、一般的なグローバル人材の要件に加え、何が必要か
などを踏まえる必要がある。
(1)グローバル化の定義
グローバル人材を検討するにあたって、まず、
「グローバル化」とは何かを明確にし
ておく必要がある。
グローバル化については、国における様々な検討の場で定義されてきたが、「グロ
ーバル人材育成戦略」(「グローバル人材育成推進会議 審議まとめ」(2012年
6月4日)(注))では、「 (主に前世紀末以降の)情報通信・交通手段等の飛躍的な技
術革新を背景として、政治・経済・社会等あらゆる分野で「ヒト」「モノ」「カネ」
「情報」が国境を越えて高速移動し、金融や物流の市場のみならず人口・環境・エネ
ルギー・公衆衛生等の諸課題への対応に至るまで、全地球的規模で捉えることが不可
欠となった時代状況を指すもの」と定義されている。
また、2006年版通商白書では「経済のグローバル化とは、様々な経済活動の『舞
台』が地球規模に拡大していくことであり、その本質は、市場の力を活用して国際的に資
源配分の効率化(限界生産性の均等化1)を図る動きである。これを現象面から見ると、ヒ
ト、モノ、カネ、技術、情報といった経済活動に関わる資源の国際的移動の活発化である。」
と定義している。
グローバル化とは、「『ヒト』『モノ』『カネ』『技術』『情報』などあらゆるもの
が地球規模で移動し、活発化している状況」と整理できる。
注:グローバル人材育成戦略(「グローバル人材育成推進会議
審議まとめ」(2012年6月4日))は、以下の
URLを参照。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf
(2)グローバル人材の要素
グローバル化の進展の中でのグローバル人材とは、どのような人材を指すのか、先の
「グローバル人材育成戦略」では、グローバル人材の要素を以下のように整理している。
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
こうしたグローバル人材の要素を外国の文化の異なる人々と事業を創造していく
という面から、次世代高度IT人材で必要な要素を抽出すると、「言語力」「異文化
理解力」、そして「交渉力」にまとめることができる。
「言語力」(注) はいうまでもなく、異文化の人々のとのコミュニケーションを図る
上で必須であり、「異文化理解力」は、日本人としてのアイデンティティーを確立し
なからも、多様性を認め理解する能力で、「異なったもの」を受け入れることができ
なければ何も始まらないため、当然持っていなければならない能力である。「交渉力」
- 36 -
はいうまでもなく、事業創造をしていく上で物事をリードしていくことが必要であり、
それを実現させるために相手を理解させていく上で必要な能力である。
注:ここで「語学力」ではなく「言語力」と使っているのは、「語学力」では、「外国語を使う能力」など狭
くとらえられてしまうためあえて「言語力」とした。グローバル人材には、強いリーダーシップや説明能力
が求められ、それは外国語話せるだけでなく、新たな事業展開など物事を進めるためには自国の人々を説得
し、リードしていく能力を含め必要があるため、これらを内包する「言語力」という言葉を使った。
一方こうした次世代高度IT人材に必要なグローバル化に係る能力を「言語力」
「異
文化理解力」「交渉力」とみたとき、IT産業に限らず、ユーザ企業においても、そ
れぞれの能力は、それぞれの分野の人材にとって基礎的能力として必要な能力であり、
各産業界や個社で育成できる能力とは言い難い。むしろ、社会全体でそうしたグロー
バル化における必要な能力=ヒューマンスキルとして育成していくことが求められ
る。政府の今後のグローバル人材育成の具体策は、先の「グローバル人材育成戦略」
に示されているので参照のこと。
(3)IT産業におけるグローバル人材育成
① ビジネスモデルの明確化とグローバル人材
IT産業におけるグローバル人材は、他の分野のグローバル人材と違った要素を抽
出するのは、難しい。仮に当該要件がある場合、ヒューマンスキル的なグローバル人
材の要件(言語力、交渉力、異文化理解力)に加え、何が必要か今後さらに検討して
いくことが必要である。
産業界としてグローバル人材育成の取組は、一般社団法人情報サービス産業協会
(JISA)において、海外ビジネスを行う上での注意点とグローバル人材育成のヒ
ントをまとめ、普及啓発を行うなどの取組が見られるものの、まだIT業界全体とし
ては不十分といわざるを得ない。
産業界や企業でのグローバル人材の育成では、それぞれのグローバル戦略を具体的
に示すことが何よりも重要であり、その具体的な戦略に沿ったビジネスモデルにはど
のような人材を育成すべきか明確にする必要がある。
IT産業におけるグローバルビジネスには、以下のようなモデルが考えられる。
◆外国企業・関連会社等へのオフショア(ソフトウェア生産含む)
◆当該国におけるシステム等の受託開発
◆当該国・地域におけるソフトウエア・アプリの販売
◆当該国を生産拠点としたソフトウエア・アプリの販売
◆クラウド・SaaS等のネットワーク経由で国内から国外へのビジネス展開
こうしたモデルの中で、留意する必要があるのは、インターネット環境の発達によ
り、海外に出て行くことだけがグローバル化ではなく、国内にいてもグローバルビジ
ネスの展開が可能であることなど、多様なグローバル化の形態があることを踏まえる
必要がある。また、他分野との違いを挙げるとするならば、例えば、製造業は設備の
建設から現地での稼働まで、相応の時間が必要であるが、IT産業は、装置がない分
スピーディに事業展開できることがあげられる。これらの点が、IT分野でのグロー
- 37 -
バル人材育成を行っていく上で、考慮しなければならない点である。
加えてグローバル化での取組では、組織力、チームワーク力は日本の強みであり、
組織力、チームワーク力、人の輪を活かせるよう取組を実施していくことが、大事で
ある。
当面、産業界ができるグローバル人材の育成では、以下のような施策の具体化を図
る必要がある。
◆海外留学者の積極的採用
◆外国人留学生の積極的活用
◆外国語(英語など)による専門分野の教育(海外研修の実施含む)
◆技術者の英語論文の推奨
◆技術者間の異文化交流の場の積極的創設
◆海外企業への技術者のインターシップの奨励
②
グローバル化への技術者の意識
海外へ留学する日本人学生の数が減尐しており、また、一部の若い世代の「内向き
志向」を指摘する声もあり(「グローバル人材育成戦略」)グローバル化に対応する
には早急な人材の育成が必要であるが、一方、技術者の意識はどうなっているか、見
ておく必要がある。
IT人材白書2012(IPA)のアンケート調査では、自社がグローバル化の影
響を強く受けると回答した技術者は約26%で、どちらかといえばという回答を含め
ると約3/4が何らかの影響を受けると考えている。
IT技術者のグローバル化に対する意識
-IT人材白書2012(IPA)-
自社がグローバル化によって
影響を受けると思うか
自社がグローバル化によって
影響を受けるか→強く思うは、
約26%。
「どちらかと言えば」を加え
ると約3/4。
- 38 -
そして、その影響が自分自身へ有利になるという技術者は約3割で、語学力向上の
取組を行っている技術者も約3割となっており、グローバル化に対する準備を行って
いる技術者は、有利と考えていることが伺える。
グローバル化の
自分自身への影響
自分自身への影響で、有利に
なると考えている人は、約3
割。
語学力向上への取組の状況
語学力向上の取組を行って
いるのは、約3割。
- 39 -
③
グローバル人材育成に係る技術者へのアプローチ
これまで見てきたように既存の技術者のグローバル化に対する意識は、決して低い
とは言えない。
技術者は、経営層から企業等のグローバル化の方針を示されたとき、またグローバ
ル化していく過程において、様々な不安な気持ちを抱いており、それが不安として技
術者の意識に残らないよう、経営層は日頃から重要性を把握し育成していくことが重
要である。
グローバル施策に係る技術者へのアプローチ
グローバル化の取
組で、技術者側か
らみた企業にやっ
て欲しいことのい
くつかの例
「グローバル化」の本
気度(経営者の気まぐ
れ?)
インセンティブの付与
グローバルビジネスモデルを明確に示す
<IT産業におけるグローバルビジネスモデルの例示(再掲)>
 海外企業・関連会社等へのオフショア(ソフトウ
エア生産含む)
 当該国におけるシステム等の受託開発
 当該国・地域におけるソフトウエア・アプリの販
売
 当該国を生産拠点としたソフトウエア・アプリの
販売
 クラウド・SaaS等のネットワーク経由で国か
ら国外へのビジネス展開
グローバル化などダイバーシティに係る日常的な
取組
どうして自分が・・・
各世代をとして引き継がれるような計画的な育成
ローテーションの遵守
(約束は?)
グローバル人材の評価軸の明確化
長期現地駐在化
多様性を配慮したキャリアパス
サポートはしてもらえ
るか不安
会社としてのサポート体制の明確化
- 40 -
グ
ロ
ー
スバ
キル
ル人
及材
び像
育・
成
計
画
の
明
確
化
技
術
者
へ
の
ア
プ
ロ
ー
チ
←
いきなりグローバルと
いわれても・・・
-グローバル人材育成の視点-
技
術
者
は
待
っ
て
い
る
第4部
現在の高度IT人材のスキルを評価する仕組みの検討
1.3スキル標準の検討
情報セキュリティ人材による3スキル標準の見直し及び「ビジネスや情報システム
の構築、ライフサイクルの中で情報セキュリティに関するコンサルティングができる
人材像」の検討には、IT企業、ユーザ企業など産業横断的な検討が必要になること
から、現在の3スキル標準そのものの在り方について、平行して検討する。なお、検
討の際には、現在3スキル標準を活用している企業等の人材育成に混乱がないよう、
また、各界の活用目的に適うよう配慮しながら進めるものとする。
併せて、CCSFの人材像についても、情報セキュリティ人材の検討や時代に合っ
た人材像の検討により、必要があればCCSFの人材像についても適宜改訂していく
ものとする。
2.情報処理技術者試験の見直しの方向性
(1)情報セキュリティ関係
「情報セキュリティ人材」の拡充等によるスキル標準等への反映などの結果につ
いては、各試験の情報セキュリティに係るシラバス、出題数、問題範囲の見直し、高
度試験の情報セキュリティスペシャリスト試験などについては、他の民間資格も含め
高度試験との整合性を考え出題内容等を検討する。
(2)3スキル標準、CCSFの見直しの反映
「情報セキュリティ人材」のスキル標準の拡充による3スキル標準、CCSFの見
直しの結果については、必要に応じて各試験に反映させていく必要がある。各試験の
情報セキュリティに係るシラバス、出題数、問題範囲を見直し、高度試験の情報セキ
ュリティスペシャリスト試験については、今後の情報セキュリティの人材の知識、ス
キルに係るスキル標準等での拡充を踏まえ、また、他の高度試験との整合性を考え検
討する。
(3)情報処理技術者試験の知識、スキルの継続的な研鑽のあり方
技術進歩が著しいIT分野における試験合格後の知識、スキルの継続的な研鑽につ
いては、技術者の研鑽に係るガイドライン等をIPAが示すことにより、技術者が自
らのキャリアアップを行っていくという手法が考えられる。
また、その際、試験の更新制についての導入をすべきという意見があるが、本試験
は、技術者の知識とスキルレベルを測り認定する試験であることから、本資格要件を
判断する者が、技術者の合格年を知ることによって、最新の知識とスキルを反映して
いるかどうか判断できるものであり、また、本試験が本試験を合格しないと業務に従
事できないという必置資格ではないことから、更新制は必要ないと考える。なお、上
記に示したIT分野における試験合格後の知識、スキルの継続的な研鑽のガイドライ
ンの提供や試験等の活用に係るガイドライン等について検討する。
(4)高度IT人材を評価する仕組み
2009年4月から実施されている情報処理技術者試験は、原則としてCCSFに
- 41 -
準拠した体系として設計されている。
CCSFでは、レベル評価について、そのレベル1に対応する試験を「ITパスポ
ート試験」、レベル2に対応する試験を「基本情報技術者試験」、レベル3に対応する
試験を「応用情報技術者試験」としている。レベル1~3については、各レベルに応
じた情報処理技術者試験への合格を、当該レベルにおけるエントリ基準として各レベ
ルで期待される必要な能力に到達しているものと見なすことができるとしている。
レベル4の評価は、当該高度試験の結果の他、面接等を併用するなど業務経歴の確
認と実績を各スキル標準の評価基準等によって、各企業等において確認し判断される
ものとしている。
このようにレベル4までは、情報処理技術者試験が評価軸となってレベルの評価が
行われており、IT分野では情報処理技術者試験が共通の評価軸としてレベル評価に
使われている。
一方、CCSFでのレベル5以上については、レベル5のように「プロフェッショ
ナルとしての貢献等も含めて経験と実績等を確認するとともに、上位のレベル又は同
レベルのピアレビュー等を通じて各スキル標準の評価基準によって判断する」となっ
ており、共通する評価軸がなく、個社での評価となっている。
例えばレベル5の定義では、「高度な知識・スキルを有する企業内のハイエンドプ
レーヤ」であり、プロフェッショナルとして豊富な経験と実績を有し、社内をリード
できる人材となっており、試験では測ることができないものであること、個社の貢献
度が評価軸の一つになっており、個社の実績等への貢献度の評価を国が行うことは、
国としての行為に馴染まないことから、直接の評価という点でこの間、国は関与して
こなかった。
レベル5以上の評価は、CCSF第一版にあるとおり「レベル5以上については、
プロフェッショナルとしての貢献等も含めて経験と実績等を確認するとともに、上位
のレベル又は同レベルのピアレビュー等を通じて各スキル標準の評価基準によって
判断する」というように、それぞれの分野のニーズに基づき、自主的な「プロフェッ
ショナルコミュニティ」などにより相互認証するような、自主的取組により行われる
ことが望ましい。
- 42 -
共通キャリア・スキルフレームワークのレベルと新情報処理技術者試験の対応
(「共通キャリア・スキルフレームワークス(第一版)
」より)
- 43 -
レベル
共通キャリア・スキルフレームワークのレベル定義
定義
レベル7
「高度な知識・スキルを有する世界に通用するハイエンドプレーヤ」
業界全体から見ても先進的なサービスの開拓や事業改革、市場化などをリ
ードした経験と実績を有し、世界レベルでも広く認知される。
レベル6
「高度な知識・スキルを有する国内のハイエンドプレーヤ」
社内だけでなく業界においても、プロフェッショナルとしての経験と実績
を有し、社内外で広く認知される。
レベル5
「高度な知識・スキルを有する企業内のハイエンドプレーヤ」
プロフェッショナルとして豊富な経験と実績を有し、社内をリードでき
る。
レベル4
高度な知識・スキルを有し、プロフェッショナルとして業務を遂行でき、
経験や実績に基づいて作業指示ができる。またプロフェッショナルとして
求められる経験を形式知化し、後進育成に応用できる。
レベル3
応用的知識・スキルを有し、要求された作業についてすべて独力で遂行で
きる。
レベル2
基本的知識・スキルを有し、一定程度の難易度又は要求された作業につい
て、その一部を独力で遂行できる。
レベル1
情報技術に携わる者に必要な最低限の基礎的知識を有し、要求された作業
について、指導を受けて遂行できる。
(「共通キャリア・スキルフレームワークス(第一版)」より)
- 44 -
別紙-1
次世代高度IT人材の職種別役割固有能力
職種毎の役割固有能力について、以下のとおりまとめた。
 フィールドアナリスト
「フィールドアナリスト」の「役割固有能力」の説明
役割固有能力
説明
行動観察・理解力
ユーザの行動を徹底的に観察し、行動の原理や背景を理解する
ことができる。
情報収集力
観察やデータ収集などによって、ユーザを理解するために必要
な情報やデータを収集することができる。
仮説構築力
収集された情報やデータについての分析・解析を行う際に、有
意義な仮説を構築することができる。
結果分析力
収集された情報を的確に分析し、有意義な結果を導き出すこと
ができる。
データ解析力(※)
収集された数値データを各種分析手法を用いて解析し、有意義
な結果を導き出すことができる。
対象共感力
ユーザが置かれた状況や要求を理解し、ユーザの立場・目線か
らニーズを考えることができる。
ニーズ洞察力
ユーザの行動を観察した結果や収集されたデータに基づき、ユ
ーザが有する潜在的なニーズを具体的に分析・洞察することが
できる。
論理的説明力
自らの分析・解析や洞察の結果を、論理的に説得力を持って説
明することができる。
課題発見力
情報収集及び分析・洞察の結果から、ユーザにとって改善を要
する課題を発見することができる。
改善志向・意欲
現在、ユーザが置かれている状況に対して改善したいという積
極的な意欲や改善すべきという使命感を有している。
理想構築力
ユーザにとっての理想像を理解し、描くことができる。
行動変化想像力
現存しないサービスが実施された場合のユーザの行動の変化
や満足度を予測・想像することができる。
(※)は「データアナリティクス」のタスクで主に求められる能力
- 45 -
 IT サービスデザイナ
「IT サービスデザイナ」の「役割固有能力」の説明
役割固有能力
説明
市場動向分析力
対象となる事業やサービスの市場の動向(既存のサービ
スの動向等)を常に把握し、分析することができる。
現状分析力
ユーザが置かれた現状や課題を分析することができる。
課題発見力
情報収集及び分析や洞察の結果から、ユーザにとって改
善を要する課題を発見することができる。
改善志向・意欲
現在、ユーザが置かれている状況に対して改善したいと
いう積極的な意欲や改善すべきという使命感を有してい
る。
対象共感力
ユーザが置かれた状況や要求を理解し、顧客・ユーザの
立場・目線からニーズを考えることができる。
理想構築力
ユーザにとっての理想像を理解し、描くことができる。
解決方法探求・試行力
ユーザの課題を解決し、理想像に近づけるための方法を、
試行錯誤を繰り返しながら探求し、突き止めることがで
きる。
転換発想力
ユーザの課題を解決する方法を、従来とは異なる発想で
考えることができる。
アウトカム推察・設定力
新しい事業やサービスによってもたらされる市場や社会
の変化(アウトカム)を推察することができる。また、
目指すべきアウトカムを自ら構築・設定することができ
る。
具体化実現力
ユーザの課題を解決する方法を、現実的な方法に具体化
し、実現することができる。
「フィールドアナリスト」と同様の能力も含まれているが、
「ITサービスデザイナ」
にとっては、「転換発想力」や「アウトカム推察・設定力」などがきわめて重要な能力
として位置づけられる。これらの能力が、従来とは異なり、顧客や社会にとっても有益
な製品・サービスを発案する上での基礎になる能力と位置づけられる。
- 46 -
 ITサービスアーキテクト
「ITサービスアーキテクト」の「役割固有能力」の説明
役割固有能力
説明
ニーズ理解力
ユーザのニーズやIT化の目的を十分に理解するこ
とができる。
理想構築力
ユーザにとっての理想像を理解し、描くことができ
る。
全体像構築力
ユーザのニーズと理想像を踏まえた上で、サービスの
全体像を構築することができる。
IT適用力
サービス全体においてIT化すべき部分や適用すべ
き技術を的確に判断することができる。
差別化実現力
高い構想力・技術力によって、差別化が可能なITサ
ービスを実現することができる。
迅速実現力
スピーディな開発手法やプロトタイピングによって、
IT化のニーズに迅速に応えることができる。
解決方法探求・試行力
ITによってユーザの課題を解決し、理想像を実現す
る上での方法を、試行錯誤を繰り返しながら探求し、
突き止めることができる。
アウトカム推察・構想力
新しいITサービスによってもたらされる市場や社
会の変化(アウトカム)を推察することができる。ま
た、目指すべきアウトカムを自ら構想することができ
る。
IT実現力
ユーザの課題を解決する方法、ITによって実現する
ことができる。
「ITサービスアーキテクト」にとっては、「全体像構築力」や「IT適用力」、「I
T実現力」などが重要な能力として位置づけられる。これらの能力が、ITサービスを
実現するITの仕組みを設計する上での基礎的な能力である。
- 47 -
 イノベーティブエンジニア
「イノベーティブエンジニア」の「役割固有能力」の説明
役割固有能力
説明
情報収集・解析力
観察や分析などの行動を通じて、ユーザを理解するため
に必要な情報を収集することができる。
ニーズ理解力
ユーザのニーズやIT化の目的を十分に理解すること
ができる。
迅速実現力
スピーディな開発手法やプロトタイピングによって、I
T化のニーズに迅速に応えることができる。
活用可能性探求力
既存の技術はどのように使えるのかを探求し、技術の新
たな活用法を考えることができる。
革新的活用力
既存の技術を革新的に活用することによって、これまで
にない機能等を実現できる。
技術限界突破力
既存の技術に関する課題を克服し、その技術の限界を突
破することができる。
不可能実現力
標準的な水準をはるかに上回る高い技術力によって、従
来不可能であったことを可能にすることができる。
ニーズ超越力
場合によっては、ユーザやIT化のニーズを有するチー
ムメンバーの期待をはるかに超える水準でIT化を実
現することができる。
技術による社会変革志向
技術によって社会やライフスタイルを変えたいという
意欲を有している。
新技術創造力
必要に応じて新たな技術を生み出すことができる。
「イノベーティブエンジニア」には、ITを活用した新しい製品・サービスを迅速に
実現するための「迅速実現力」のほか、ITという技術を最大限に活用するための「活
用可能性探求力」や「革新的活用力」が求められる。さらに、通常の技術者では実現で
きない水準で技術を駆使するための能力として、既存の限界を突破する「技術限界突破
力」や、これまで不可能であったことを可能にする「不可能実現力」なども必要とされ
る。このような高い技術力の活用が、「ニーズ超越力」に示されているような期待をは
るかに上回るものを実現する能力の前提となる。
なお、
「イノベーティブエンジニア」は、
「技術による社会変革志向」を有しているこ
とも重要である。高い技術力を変革志向に基づいて活用することで、現状にはない新し
いものが生み出される可能性を高めることができる。
- 48 -
 ビジネスデザイナ
「ビジネスデザイナ」の「役割固有能力」の説明
役割固有能力
説明
コスト分析・把握力
企画したサービスを実現する場合に実際に必要とな
るコストを分析し、正確に把握することができる。
市場ニーズ把握力
収益の源泉となる市場やユーザのニーズを正確に把
握し、潜在的なマーケットの規模を見積もることが
できる。
ステークホルダー把握分析力
サービスの実現に関わる数多くのステークホルダー
を正確に把握することができる。
ステークホルダー関係構想力
サービスの実現に関わる数多くのステークホルダー
と Win-Win の関係を構造することができる。
ビジネスモデル立案力
サービスの実現に必要なコスト及び収益を予測し、
ステークホルダーがメリットを享受できるようなビ
ジネスモデルを立案することができる。
ビジネスシミュレーション力
立案したビジネスモデルの中長期的な成否を予測す
ることができる。
ビジネスモデル実現構想力
立案したビジネスモデルを実際に実現する方法を考
えることができる。
市場動向予測力
対象となる市場やユーザの今後の動向を予測するこ
とができる。
予測変化対応力
予測される今後の動向に対する対応を、市場に先回
りして立案することができる。
「ビジネスデザイナ」に求められる能力は、他の人材像とは大きく異なる能力として
表現できる。ビジネスモデルを立案する能力は、これまでも事業化などの際には必要不
可欠であった能力と考えられる。そのため、表に示した能力は、独創的な新しいものを
実現するという観点よりも、ビジネスとして成立し得るビジネスモデルを実現できると
いう観点を重視した構成となっている。
なお、本事業では、これから求められるビジネスにおいては、自社と顧客という単一
方向の Win-Win 関係に留まらず、サービスに関わる数多くのステークホルダーと多方
向での Win-Win 関係を構築することが重要であるというポイントが把握されている。
表の「ステークホルダー関係構想力」などは、これらのポイントを想定した能力となっ
ている。
- 49 -
 プロデューサー
「プロデューサー」の「役割固有能力」の説明
役割固有能力
説明
未来ビジョン発信力
現存しない新事業(新製品・新サービス)の実現にあ
たり、その意義や必要性のほか、目指すべき説得性の
ある未来ビジョンを自ら構想し、それを周囲に発信で
きる。
未来ビジョン具現化力
未来ビジョンをプロトタイプや小さな成功事例などの
形で具現化し、その必要性や意義を実際に示すことが
できる。
説得力・感化力
新事業(新製品・新サービス)の必要性や意義につい
て社外も含めた関係者を説得し、感化することができ
る。
リソース調達力
新事業(新製品・新サービス)の実現に必要な人的・
資金的リソースを調達することができる。
外部調整力/内部調整力
新事業(新製品・新サービス)の実現に向けて、外部
/内部関係者との利害関係等を調整することができ
る。
実行力・信念体現力
自ら構築した未来ビジョンの実現に向けて必要な手段
を選択し、実行することができる。また、それを通じ
て、自らの信念の実現に対する真剣さを体現すること
ができる。
リスク許容力
新事業(新製品・新サービス)の実現の過程で発生し
得るリスクへの対処法を考えることができる。また、
それにより、幅広いリスクを許容することができる。
既存の価値観や仕組みの
破壊力
新事業(新製品・新サービス)の実現にとって必要で
あると判断された場合に、既存の価値観や仕組みを創
造的な視点で破壊することができる。
信念継続力
自らが信じる価値観や進むべき社会の方向性に対する
信念を継続的に抱き続けることができる。
「プロデューサー」は、次世代高度IT人材の中でもきわめて重要な役割を担ってい
るといえる。次世代高度IT人材の「共通能力」として、「未来ビジョン構築力」を示
したが、「プロデューサー」には、未来ビジョンを構築する力に加えて、自らの内に構
築した未来ビジョンを強く発信し、他人に影響を与えるための「未来ビジョン発信力」
や、構築したビジョンを実際に実現し、その必要性を現実に示すための「未来ビジョン
具現化力」が求められる。
「リスク許容力」なども、最終責任を負う「プロデューサー」に強く求められる能力
である。新しいものを生み出す取組においては特に、リスクを予見する力以上に、予期
せぬリスクに対処する力や、一定のリスクを予め許容し、スムーズに対処できるような
- 50 -
力が求められる。
「既存の価値観や仕組みの破壊力」も、新しいものを生み出す過程において重要な能力
であり、特に「プロデューサー」という内外の調整を担い、取組を牽引する役割に強く
求められる能力といえる。
「信念継続力」は、本事業において実施されたヒアリング調査などにおいて、重要な
能力として指摘された能力である。信念を抱くのみならず、それを継続的に抱き続ける
力など、新しいものを生み出す取組を牽引する役割には、どれもきわめて重要な能力で
あるといえる。
- 51 -
別紙-2
次世代高度IT人材の育成のための7つの指針
①
①
一定の能力や資質を有する人材の選抜を基本とする
②
新事業の創出や変革に向けた強いインセンティブを与える
③
大きな視点から物事を考えさせる
④
多様な価値観に触れさせる
⑤
現場に入り込み、課題を発見させる
⑥
非日常的な場を与え、発想を熟成させる
⑦
一定の失敗が許される挑戦・実践を繰り返す
一定の能力や資質を有する人材の選抜を基本とする
新事業の創出を担当できる人材には、比較的高い水準の能力や資質が求められる
ことから、次世代高度IT人材の育成に取り組む場合は、現在すでに活躍している
高度IT人材などから、適性のある人材を育成の対象とすることが最も効果的であ
ると考えられる。よって、今回はこの点を第一の原則として掲げる。なお、新事業
の創出などの業務においては、その他の業務とは異なる適性が求められることも多
いため、従来の業務において異質とされてきた人材にも可能性をひらくことが望ま
れる。
 本事業で把握された事例から
【シャープ株式会社】
独自技術を駆使した特長商品の早期事業化に向けて、全社関連部門より優先的にメンバーを選出
し、社長直轄の「緊急開発プロジェクトチーム」を編成する。開発期間は一年から一年半程度で、
プロジェクト自体がリーダーシップや説明能力の養成の場であると同時に、人材抜擢、選抜の見極
めの場として機能している。電子システム手帳や左右開き冷蔵庫などのヒット商品もこのチームか
ら生まれている。
【IBM】
全世界の IBM から選出された技術系プロフェッショナルをメンバーとする「IBM アカデミー」は、
特定テーマに関する深い調査・検討と、それに基づいた IBM の技術的方向付けなどに関する経営
層への提言を目的として活動している。この活動は通常業務とは別に、メンバーの自主的意志に基
づいて行われるため、部門の利害を超えた IBM 全体の将来に対する提言、および自立的なプロフ
ェッショナルリーダーの育成に貢献している。メンバーの選出も自主的な選挙によって行われてい
る。
【東京大学工学系研究科 i.school(イノベーション・スクール)】
i.school は通年生を全学(原則的には大学院生)から分野を問わず募集し、書類審査と面接審査の
二段階の選抜によって決定する。書類審査の内容は、主に志望動機と自己PRである。ワークショ
ップは課外での作業などを必要とする負荷の高い内容であるにもかかわらず、学位の授与や単位の
付与を行わないこともあり、ワークショップの内容に関心を持つ意欲の高い学生が集まる。
- 52 -
②
新事業の創出や変革に向けた強いインセンティブを与える
従来と変わらない状況で新事業を創出することは難しい。新事業の創出に本格的に取
り組みたい場合は、アイディア創出の義務化やルール化、または新事業創出をミッショ
ンとするなどの何らかの強いインセンティブが必要である。アイディアコンテストなど
の取り組みを実施する場合も、応募を義務付けるなどの工夫が成功の鍵となる。
 本事業で把握された事例から
【株式会社リクルート】
新規事業提案制度「New RING」において、グランプリに輝いた企画は実行に移されると同時に、
取得チームには数百万円の賞金が授与される。加えて、参加者全員に参加賞として2万円相当の商
品が授与される。入社年次によらず全ての社員が参加できることに加え、こうした提案チャレンジ
を促進する工夫により、同制度は 2011 年度で 22 回目を迎え、毎年 300 件以上の応募が集まる社内
の一大イベントとなっている。
【Google】
「20%ルール」により、研究者だけでなく全てのエンジニアが、社内で過ごす時間の 20%を担当業
務以外の業務や分野に使うことを義務付けられている。優れたサービスや技術はプロジェクトで採
用され、新たなチームが組織されるなど本務での仕事として移行する。Google の新技術、新サービ
スの半数程度が 20%ルールから生まれたと言われており、イノベーションによる企業の成長の促進
を実現している。なお 20%ルールにおける成果は人事評価の対象となる。
③
大きな視点から物事を考えさせる
社会に大きなイノベーションを起こすような変革は、社会的な課題に対する問題意識
を持つところから始まる。また、新たな事業のきっかけとなり得る新たなニーズは、現
在社会に潜む諸課題と関連していることが多い。よって、現代社会が有する課題などの
大きな視点で物事を考え、その解決策として自社の事業を位置づけることで、社会に必
要とされている新事業が創出できる可能性が高まる。
 本事業で把握された事例から
【株式会社博報堂】
「博報堂大学」内の「構想サロン」にて、外部知を導入する講演会とゼミを開催している。講演会
は同社の主要業務である広告・マーケティング業界以外の業界から多様なキーパーソンを招聘。ゼ
ミでは外部講師にコーディネータを依頼し、「人口減尐」や「脱石油社会」といった社会の大きな
変化や潮流を扱う。また、「構想サロン」で得た気付きを実現するための場として「構想ラボ」が
あり、既に様々なプロジェクトが実際に企画・運営されている。
【スタンフォード大学
Hasso Plattner Institute of Design at Stanford (d.school)
】
途上国向け製品開発のクラス「Entrepreneurial Design for Extreme Affordability」では、学際的
なチームによって、貧しい人々の課題を解決する新製品のプロトタイプと事業計画、ユーザエクス
ペリエンスをデザインし、実践する。これまでに安価な LED ライトや未熟児向けの寝袋状保育器
など、様々な製品が開発され実際に成果を挙げている。
【東京大学
工学系研究科 i.school(イノベーション・スクール)】
個別の社会問題ではなく社会問題全体を「イノベーションの機会」として捉え直すことをフィロソ
- 53 -
 本事業で把握された事例から
フィーに掲げている。ワークショップのテーマは毎回異なっており、
「日本の農業の未来」
「高齢者
の外出を支援する」「仕事の未来」など、現代の社会問題に関わる多岐にわたるテーマを設定して
いる。各ワークショップで、エスノグラフィや広範囲のデータ収集・整理を通じて問題への理解を
深めた上で、新製品やサービスのアイディア創出、プロトタイピング、ビジネスモデルの設計など
を行う。
④
多様な価値観に触れさせる
新事業として、既存の価値とは異なる新たな価値を生み出す上では、現存する多様な
価値観を知っておくことが前提となる。多様な環境や人材に触れながら、多様な知識や
価値観を吸収することで、新たな事業を生み出す発想の基盤が形成される。よって、新
事業を生み出せるような人材を育成する上では、意図的に多様な業務を経験させたり、
異業種の人材に触れる機会をつくることなどが重要である。
 本事業で把握された事例から
【IBM】
全世界全社規模のネット会議「イノベーション・ジャム」にて、全社の社員だけでなくその家族、
大学、主要な取引先やビジネスパートナーを巻き込んだ、協業的イノベーションを生み出すことに
取組んでいる。2006 年には 75 カ国、15 万人以上の参加者を集めて開催され、約 3 万 7000 件の意
見を得た。その結果、輸送、エネルギー、水、医療などのシステムに関わる 10 件の新規事業が生
まれ、現在 7 億ドル以上の収益を IBM にもたらしている。
【一般社団法人日本情報システム・ユーザ協会】
「イノベーション経営カレッジ(IMCJ)における学びの場「プログラム」では、現役の CEO/CIO
や学識者を招いて議論を行い、イノベーションリーダーの生の体験から学ぶ経験を提供している。
また受講生と講師陣の交流の場である「コミュニティ」では、イノベーションリーダー同士の所属
企業を超えた人脈の形成が可能である。
【カリフォルニア大学バークレー校
(CHESS)】
Center for Hybrid and Embedded Software Systems
CHESS は組み込みソフトウェアに関する研究開発と研修プログラムを提供している。非常に学際
的な組織であり、政府や企業からの多くの研究開発プロジェクトに対応し、学内はもとより、学外
からもプロジェクトにふさわしい人材を集めている。分野は航空宇宙や自動車、医療機器など多彩。
独立系研究所であり、教育課程を有さないため、大学院生は学内外の別の専攻に所属しながら
CHESS のプロジェクトに参画する。様々な分野の教員と、所属の異なる様々な学生が集い、研究
を推進する場となっている。
⑤
現場に入り込み、課題を発見させる
ここでの「現場」とは、ユーザのニーズが実在する場であり、これはすなわち、ユー
ザと直接触れ合う場や機会を指している。ユーザと直接接したり、ユーザを間近で観察
したりすることは、ユーザが有する潜在的なニーズを洞察する上できわめて重要なポイ
ントとなる。また、潜在的なニーズの洞察や課題の発見のためには、常に課題発見に向
けた強い意識を持って現場に臨むことが重要である。
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 本事業で把握された事例から
【富士通株式会社】
同社の「フィールド・イノベータ育成プログラム」では 40 代の幹部社員を選抜し、集合研修と「現
場にある事実の見える化と課題解決の実践」を通じて、企業革新に必要なスキルとマインドを習得
する。一年間の基礎教育後にある社内実践フェーズでは、現場の声を聞き、プロセスを見える化す
ることに取組む。育成プログラム終了後には、社内改革プロジェクトへの参加等により富士通グル
ープ自らの革新を推進するとともに、顧客の業務改革プロジェクトへ直接参加することを目指す。
【パナソニック株式会社】
同社の「EMP プロジェクト」では、新興国の現地法人や生産拠点に 30 歳前後の若手社員を2年程
度派遣し、現地で業務改革や業務改善、システム構築等を担わせる。変化に対応する力を養うため
に難易度の高い実際のプロジェクトにあえて取組ませている。同社の市場開拓の重点地域である、
バルカン地域9カ国の業務改革を主導するなどの成果がみられている。
【慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科】
同研究科では「共生・共力システム」などのテーマを毎年設定し、それに沿ったプロジェクトテー
マを企業や NPO 等の組織から募集する。応募のあったプロジェクトテーマに関連するプロダクト
あるいはサービスについて、問題の定義、利害関係者の要求の把握からはじまり、システム要求の
定義、概念設計、アーキテクチャを提案し、試行を繰り返しながら、その検証を行う。海外三大学
との連携で開発した独自のシステムデザイン・マネジメント技法を用いる。
⑥
非日常的な場を与え、発想を熟成させる
普段とは異なる環境で実施される研修や大学等の教育機関で実施される教育プログ
ラムへの参加のほか、海外への業務派遣や留学など、普段の業務とは異なる非日常的な
場を経験することは、発想の促進や思考の熟成などの面で大きな効果をもたらす。この
ような非日常的な場にあえて身を置くことで、新事業に関する発想が促進される。
 本事業で把握された事例から
【北陸先端科学技術大学院大学
技術・サービス経営コース】
入学資格に大学卒業者またはそれと同等以上で、かつ3年以上の社会経験を有することを挙げてい
る。様々な業種に属する社会人学生と教員との議論の場を、講義内外で提供している。「いしかわ
技術経営(MOT)スクール」では、東京と北陸の社会人学生、実務家、JAIST 本校生が活発な議
論を繰り広げている。
【東京海上日動システムズ株式会社】
同社に設置された「フューチャーセンター」では、特別に設計された空間・環境の中で、社員から
持ち込まれたテーマを題材に、未来を想像しながら対話によってその課題を検討する。通常の会議
室とは異なる会議室の設置、社員が設計するワークショップ、ワークショップを運営するファシリ
テーターなどによって、自由に想像力を働かせられる非日常的な空間を創出している。
【Samsung】
同社の「地域専門家制度」では、参加者は一年間特定の国で生活しながら、現地文化の体験、社会
やライフスタイルの調査、人脈の拡大、現地語の習得など、自主的なプログラムを行う。一年間仕
事の義務はなく、給与も保障されている。入社3年目から課長代理クラスまでの社員の中から、特
定の基準で数十~数百人が選抜されて参加する。派遣先国についての「プロ」となる人材の育成、
および様々な国や地域の研究とその全社的な共有に役立っている。
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⑦
一定の失敗が許される挑戦・実践を繰り返す
実践を通じた失敗と挫折を繰り返すことで、知識や経験が蓄積され、新事業の創出に
取り組む人材の経験値や能力が向上する。特に新事業の創出のような、確立されたノウ
ハウよりも未知の要素が多い領域では、実践こそが最も効果的な育成となる。
新事業を創出できるような人材を育成する側は、成功の前提には数多くの挑戦と失敗
が必要であることを認識し、そのような挑戦や失敗が一定程度可能な仕組みを整えるこ
とが必要である。企業側には、成功は数多くの失敗の中からしか生まれないという寛容
な姿勢が求められる。
 本事業で把握された事例から
【サイバーエージェント:CAJJ プログラム】
CAJJ(サイバーエージェント事業&人材育成)プログラムは事業の育成と、社員に事業立ち上げ
から事業拡大までを経験させることで、経営者、起業家に必要な能力の育成を目的とする取り組み。
全事業を3つのリーグに分け、リーグごとの業績目標と達成期限を明確化。月額粗利益額、黒字化
などによって昇格基準などが定められている。粗利益が昇格基準額を下回り、再建案も提示できな
ければ降格や撤退、売却、責任者交代となるが、事業が失敗しても、次の事業に積極的に挑戦する
ことが評価されている。
【カヤック:14%ルール】
14%ルールは、カヤックに所属する WEB クリエイターの総リソースの 14%を翌年以降の新規事業
の研究開発に当てるルール。各社員が均一に自分のリソースの 14%を研究開発に当てるのではな
く、あくまで組織全体のリソースの 14%分として定める。この制度により当社は、最初から事業計
画ありきのプロジェクトだけではなく、
「技術的に面白そうだから作ってみた」といったものや、
「サ
ービスのβ版を出してみて、反応がよかった」といったものを、プロジェクト化し、後から事業戦
略を加えるといった形での新事業立ち上げをも可能としている。
上記の事例にも示されているように、特に新規事業の創出の機会が多い WEB ビジネ
ス関連の企業においては、新しい事業の創出に対する挑戦を奨励するような環境が整備
されているケースも多い。しかしながら、大手企業等においては、そのような挑戦に対
する敷居が比較的高い傾向にあったり、そうした取り組みに携わる人材に対する正しい
評価が難しい場合もある。既存の事業を担当する数多くの人材の中から新しい事業を創
出する人材を輩出しなければならない企業においては、従来の概念や枠組みにとらわれ
ない新しい環境や新しい評価基準を新たに生み出すような努力が求められるが、これが
多くの企業にとっての最大の課題であるといえるだろう。
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