...

資料No.3「2003年度 復興の総括・検証報告書(案)」(PDF形式

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

資料No.3「2003年度 復興の総括・検証報告書(案)」(PDF形式
平 成 1 5 年 1 2 月 1 7 日
第5回神戸市復興・活性化推進懇話会
資 料 № 3
平成 15 年度「復興の総括・検証」
報
告
書
(案)
平成 15 年 12 月
神戸市復興・活性化推進懇話会
目
次
第1部 総括・検証とその背景
第1章 「復興の総括・検証」の目的及び方針
第1節 目的及び基本方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第2節 実施方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2
第2章 データでみる神戸の動き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
第3章 震災5年時点で指摘されていた課題とその後の状況・・・・・・ 26
第1節
第2節
第3節
第4節
第2部
市民生活分野・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
都市活動分野・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すまい・まちづくり分野・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
安全都市分野・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
33
39
43
分野別検証
第1章
市民生活分野…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第6節
第2章
市民の地域における自律と助け合い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
市民一人ひとりの健康づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
高齢者・障害者が安心して暮らせるまち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
子どもがいきいきと育ち、育てられるまち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外国人市民が暮らしやすいまち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ボランティアやNPO・NGOが活躍するまち・・・・・・・・・・・・・・・
51
58
62
72
80
84
都市活動分野…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第6節
第7節
産業復興対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91
新たな産業活力づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97
中小企業・生活文化産業の活性化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104
地域社会と連携した産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109
神戸港などの広域交流基盤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
文化・芸術の振興・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120
集客観光都市づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126
第3章
すまい・まちづくり分野…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第4章
復興まちづくりの中にみる知恵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135
安心して暮らせるすまい・地域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140
次世代につなぐ魅力ある都市空間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145
環境にやさしい都市のすがた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150
市民主体の総合的な地域づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155
安全都市分野…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・160
第1節
第2節
第3節
第4節
個人・地域での安全・安心の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164
都市安全マネージメント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・170
安全都市基盤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・176
将来起こり得る災害への備え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181
第3部 全体的・分野横断的検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187
第1章 全体的検証∼「神戸の今」と震災との関わり∼・・・・・・・・・・・188
第2章 分野横断的検証∼震災と復興過程の教訓を生かしていくために∼・・・198
第1節 震災と復興過程から学ぶべき教訓・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・198
第2節 教訓の継承・発信のしくみ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・211
第3節 市民・事業者と協働する行政のかたち・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・215
第3章 これからの神戸づくりの方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・219
附属資料
○神戸市復興・活性化推進懇話会委員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○市民参画実施状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○阪神・淡路大震災 被災状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○平成11年度「復興の総括・検証」の提言書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○「神戸市復興計画推進プログラム」の構成図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○中間報告で提言された「震災10年神戸からの発信」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第1部
総括・検証とその背景
第 1 章 「復興の総括・検証」の目的及び方針
第 1 節 目的及び基本方針
1.目
的
「神戸市復興計画」(平成7年6月策定)が平成 16 年度に最終年度を迎えるにあたり、
これまでの復興過程を経て築き上げられた「神戸の今」を総括・検証することによって、
○ 復興状況の把握や残された課題を整理し、復興の総仕上げに反映する。
○ 震災を契機に生まれた新たな取り組みや仕組みを、これからの神戸づくりへ継承・
発展させる。
○ 復興過程で得た経験や教訓を次世代に継承するとともに、被災地の責務として広く
国内外に情報発信する。
2.基本方針
(1)協働と参画による総括・検証
幅広く市民各層に対して、ワークショップ、インタビュー、アンケートなどを実
施して、様々な意見を聞き、協働と参画によって総括・検証を進める。
(2)神戸市復興・活性化推進懇話会が主体となった総括・検証
「神戸市復興・活性化推進懇話会」(平成 10 年6月設置)において検討し、平成
15 年秋頃までに、市民参画などで得られた結果をもとに中間報告を行うとともに、
年度末までに最終的な報告をとりまとめ、市長への提言を行う。
(3)懇話会のもとに「専門部会」
「作業部会(ワーキングチーム)」を設置
懇話会のもとに、課題を専門的に検討する「専門部会」を設置するとともに、「専
門部会」のもとで分野別に具体的な調査を行う「作業部会」(ワーキングチーム)を
設置する。
(懇話会の役割)
(専門部会の役割)
○「復興の総括・検証」の基本方
○懇話会での基本方針等を受け、具体的
針や視点、進め方等の検討
な検証項目や市民参画手法等を検討
⇒
○市民参画で得られた意見や統計デー
○復興状況と今後の方向について
タ等による復興状況の分析
の市長への提言
↓
作
市民生活部会
業
部
会
経済・港湾・
すまい・まち
文化部会
づくり部会
1
安全都市部会
第2節 実施方針
1.総括・検証の対象
震災から区切りの 10 年が目前に迫った中で進めていく今回の「復興の総括・検証」では、
復興状況を把握するだけでなく、これからの神戸づくりにつながるものとしていく必要がある。
このため、平成 11 年度に市民とともに実施した前回の「復興の総括・検証」で明らかに
なった課題や、その後の復興の取り組みの中で明らかになった新たな課題等を踏まえなが
ら、これまでの復興過程を経て築き上げられた「神戸の今」を総括・検証の対象とする。
なお、震災直後の緊急対応・応急対策や都市基盤・港湾の復旧など、復興の初期段階に
おける諸問題は、震災の教訓として重要なものであるが、前回の「復興の総括・検証」で
とりあげているため、基本的には今回の対象としていない。
【総括・検証の対象:前回の総括・検証との比較から】
前回(平成 11 年度)
今回(平成 15 年度)
震災後 5 年間の神戸
神戸の今
(震災から 5 年目までの復興過程)
(震災から 8 年余りを経た今の段階の神戸)
※震災直後を含む 5 年間の復興過程の
※今の断面で神戸を見る。今の目線で、震災・復
中で神戸を見る。
興や社会経済情勢の変化との関わりを見ていく。
2.総括・検証の進め方
今回の総括・検証では、4つの作業部会ごとに実施する分野別の検証を行うとともに、
分野別の検証の成果を踏まえて、作業部会の枠を越えた全体的・分野横断的検討を専門部
会中心に行う。
【第 1 ステップ:分野別の検証】
平 成 11年 度 に実 施 し た「 復 興 の 総 括・検 証 」の 結 果 を もと に、「 神 戸 市 復 興 計 画 」
の 後 半 5ヵ年 間 に重 点 的 に取 り 組 む べ き施 策 を と り ま と め た「 神 戸 市 復 興 計 画 推 進
プ ロ グ ラ ム 」( 平 成 12年 10月 策 定 )の 分 野 別 施 策 体 系 を 踏 ま えて 、市 民 生 活 、都 市
活 動 、すま い・ま ち づ く り 、安 全 都 市 の 4 つの 分 野 ごと に検 証 項 目 を 設 定 する。項
目 別 に、「 復 興 レポー ト」な どの 統 計 デー タを 活 用 し たり 、関 係 者 への イン タ ビ ュ
ー 等 の 市 民 参 画 で得 ら れ た意 見 を 盛 り 込 みながら 、現 状 把 握 と その 分 析( 評 価 )を
行 い、 これ から の 取 り 組 み( 方 向 性 ) を 整 理 す る 。
【第2ステップ:全体的・分野横断的な検討】
今 回 の 総 括・検 証 では、「 神 戸 の 今 」の 全 体 像 を 把 握 し 、「 これか ら の 神 戸 づ く
り 」の 方 向 に つ いて より 重 点 的 な提 案 を 行 って いく ため 、第 1 ステ ッ プの 分 野 別 の
検 証 結 果 を 踏 ま えて 、 全 体 的 ・ 分 野 横 断 的 な検 討 を 行 う。
2
検証の作業フロー
第2ステップ
第1ステップ
(分野別)
震災から5年の
総括・検証
(平成 11 年度)
インタビューなど
都市活動
分
野
①1万人アンケート
②経済関連のデータ
③プロフィールの変化
市民・専門家の意見
すまい・まちづくり
分
野
安全都市
分
野
・全市ワークショップ
分析
(評価)
復興
レポート
(平成12 年度)
震災・復興と
の関わり
社会経済情勢
の変化
・政策提言会議
震災の教訓
復興過程の教訓
など
教訓の継承・
発信のしくみ
協働する行政
のかたち
言
(しみん しあわせ 指標)
1万人アンケート
震 災 と 復 興 過 程 か ら 学 ぶ べ き 教訓
復興計画推進
プログラム
市民生活
分
野
提
Ⅰ.生活再建
ワークショップ
こ れ か ら の神 戸づ くり の 方 向 性
Ⅱ.安全都市
市民参画
﹁ 神 戸の 今 ﹂ と 震 災 と の 関 わ り
Ⅲ.住宅・都市再建
5年目の課題とその後の状況
3
震災とその後の取り組み
Ⅳ.経済・港湾・文化
神戸の今
(全体的・分野横断的)
3.スケジュール
(1)平成 15 年 4 月 22 日の第 1 回懇話会で「復興の総括・検証」の進め方を決めた。
(2)専門部会・作業部会で市民参画の中での意見を踏まえて、中間報告(案)を作成し、懇
話会での検討を経て、10 月 8 日に中間報告の市長への報告を行った。
(3)中間報告については、手紙、FAX、Eメール等で 10 月 16 日から 11 月 17 日にかけて
市民意見の聴取を行い、その結果を踏まえて最終報告(案)をまとめ、懇話会での検討を
経て、最終的に確定し、市長に提言を行う(平成 16 年 1 月中旬予定)
。
なお、 (財)神戸都市問題研究所で別途、復興関連制度の検証を行っている。
平成 14 年度
平成15年度
4∼6月
復興・活性化
推進懇話会
2/3
10∼12 月
7∼9月
4/22
7/8
8/29
10/1 10/8 12/17
○
総括・検証
進
進
骨
中
中
最
市
の実施決定
め
捗
子
間
間
終
長
方
状
案
報
報
報
へ
検
況
検
告
告
告
の
討
報
討
検
提
検
提
討
出
討
言
告
8/22
専門部会
1∼3月
4/25
12/12
9/22
作業部会
(
(ワーキングチーム)
(1)統計データ等によ
る復興状況の分析
(2)ワークショップによる意
見交換、インタビュー、
アンケート
(3)とりまとめ
(中間報告に関する市民
意見の聴取を含む)
4
随
時
開
催 )
第2章 データでみる神戸の動き
市民生活、都市活動、すまい・まちづくり、安全都市の4つの分野別に検証をする前に、
それらの分野に共通するデータ等を整理する。
1.人
口
【全市人口・区別人口等】
○ 神戸市の人口は,震災直前には 152 万人台に達していたが,震災後は 142 万人台にまで
減少した。その後増加に転じ平成 15 年 11 月 1 日現在 1,516,620 人と震災直前の 99.8%
となっている。
表Ⅰ-1
人 口 の 状 況 H7.1.1
H7.10.1
H12.10.1
震災直前推計 7年国勢調査 12年国勢調査
(a)
(b)
(c)
全
市
1,520,365
1,423,792
1,493,398
東 灘 区
191,716
157,599
191,309
灘
区
124,538
97,473
120,518
中 央 区
111,195
103,711
107,982
兵 庫 区
117,558
98,856
106,897
北
区
217,166
230,473
225,184
長 田 区
129,978
96,807
105,464
須 磨 区
188,949
176,507
174,056
本 区 78,908
63,255
70,016
北須磨 110,041
113,252
104,040
垂 水 区
237,735
240,203
226,230
西
区
201,530
222,163
235,758
H15.11.1
震災直前(a)との比較
推計人口
(d)
増減(d‐a)
比率(d/a)
1,516,620
△ 3,745
99.8%
201,141
9,425
104.9%
125,876
1,338
101.1%
113,304
2,109
101.9%
107,931
△ 9,627
91.8%
224,970
7,804
103.6%
104,418
△ 25,560
80.3%
173,099
△ 15,850
91.6%
71,777
△ 7,131
91.0%
101,322
△ 8,719
92.1%
224,966
△ 12,769
94.6%
240,915
39,385
119.5%
注)「推計人口」とは,直近国勢調査結果を基礎に,毎月の住民基本台帳及び外国人登録の届出数を
加減し算出したものである。
○ 被害の大きかった東灘区から須磨本区の既成市街地において、区別にみると,東灘区,
灘区,中央区が震災直前人口を上回っている。東部と比べテンポが遅いものの兵庫区,
須磨本区でも人口増が続いており,長田区も人口減に歯止めがかかっている。
・東灘区は平成 12 年 11 月に震災直前人口を回復し,中央区,灘区もそれぞれ平成 14 年
6 月,9 月に震災直前人口を回復した。平成 14 年中の 3 区の増加数は市全体増加数の
約 9 割を占め,今年も,依然,3 区とも増加基調にある。
・兵庫区・須磨本区では平成 11 年以降増加が続いており,今年も増加傾向に変わりはな
い。長田区では,平成 13 年に 39 年ぶりに社会増加数がプラスに転じ,平成 14 年も社
会増が続いたが,今年は現時点でマイナスとなっている。
5
表Ⅰ-2 区別人口増加数の推移
年 次
中央区
兵庫区
692 △ 1,246
△ 1,283
人口増加数(人口動態)
△ 1,411
4,447
△ 1,752
平成7年 △46,841 △17,330 △12,078
8年 △ 1,115
521 △
732
9年
6,357
5,826
1,819
10年
5,756
4,076
2,731
11年
7,751
2,990
1,576
12年
8,921
4,780
2,417
13年
9,562
4,638
1,987
14年
6,179
2,263
1,551
15年
4,813
1,896
941
△ 6,029
△ 1,781
△
304
826
1,989
1,590
1,743
1,658
1,698
△ 9,121
△ 1,337
△
275
△
305
241
861
413
116
356
△
93
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
534
260
231
321
312
156
281
215
185
震災前平均
全市
東灘区
10,446
灘 区
北 区
長田区
須磨区
須磨本区
99
△
北須磨
垂水区
西 区
720
819
664
10,235
△7,181
△ 975
△ 251
△ 682
222
47
849
304
79
451
△ 915
△1,390
△ 670
△1,832
△1,077
△ 903
△ 958
△ 739
135
△ 2,594
△ 3,477
△ 1,371
154
△ 1,590
△
581
△
449
10
11,499
8,211
6,916
3,523
3,184
3,051
1,873
1,780
1,040
61
672
1,368
999
960
953
857
696
495
626
348
382
288
927
1,120
1,075
910
907
893
822
829
635
704
9,236
△
825
△ 3,547
△ 4,334
△ 2,067
△
341
△ 2,216
△
929
△
831
△ 278
10,572
7,091
5,841
2,613
2,277
2,158
1,051
951
405
(平2∼6年)
7,174
2,539
377
23
△
96
△ 678
△ 240
11
46
△14,361
△ 4,052
△ 2,884
△ 2,395
△
677
△
480
△
217
△
97
△ 514
△ 6,730
△ 1,890
△ 1,641
△ 1,352
△ 1,610
△ 1,030
△
54
△
654
△ 660
自然増加数(自然動態)
474
719
△
393
611
△
△
8
420
327
277
266
148
270
141
119
△
△
△
△
546
58
42
37
29
△
52
55
11
△
2
538
478
369
314
237
200
215
130
121
△
512
△
659
147
△6,635
△ 917
△ 209
△ 645
193
99
794
293
81
△
87
△1,393
△1,759
△ 984
△2,069
△1,277
△1,118
△1,088
△ 860
(1∼10月)
震災前平均
3,372
705 △
71
(平2∼6年)
平成7年 △ 2,488 △
972 △ 1,087
8年
2,692
452
14
9年
2,500
458 △
25
10年
2,277
748
37
11年
1,991
771
56
12年
2,314
836
141
13年
1,814
823
139
14年
1,859
1,005
125
15年
1,118
715
9
△ 1,058
△
472
△
307
△
312
△
372
△
355
△
208
△
277
△ 265
619
736
656
516
405
418
195
148
197
△ 1,335
△
271
△
310
△
274
△
225
△
237
△
294
△
279
△ 395
(1∼10月)
7,074 △
社会増加数(社会動態)
937
3,728
△ 1,359
13 △ 1,176
△ 1,190
△
平成7年 △44,353 △16,358 △10,991
8年 △ 3,807
69 △
746
9年
3,857
5,368
1,844
10年
3,479
3,328
2,694
11年
5,760
2,219
1,520
12年
6,607
3,944
2,276
13年
7,748
3,815
1,848
14年
4,320
1,258
1,426
15年
3,695
1,181
932
△ 5,495
△ 1,521
△
73
1,147
2,301
1,746
2,024
1,873
1,883
△ 8,063
△
865
32
7
613
1,216
621
393
621
震災前平均
△
(平2∼6年)
6,555
1,803
△
279
△
493
△
501
△ 1,096
△
435
△
137
△ 151
△13,026
△ 3,781
△ 2,574
△ 2,121
△
452
△
243
77
182
△ 119
△ 6,722
△ 2,310
△ 1,968
△ 1,629
△ 1,876
△ 1,178
△
324
△
795
△ 779
(1∼10月)
注)ここで述べている人口増加数(人口動態)は,すべて住民基本台帳法及び外国人登録法の規定に基づく出生・死亡・転入・転出の
届出を集計したものである。
自然増加数=出生数−死亡数 社会増加数=転入数−転出数 人口増加数=自然増加数+社会増加数
・北須磨地区・垂水区は,平成 8 年以降人口減の傾向となり,特に垂水区は平成 9 年に
は 3,000 人を超える減となった。その後も減少傾向にあるが,減少幅は縮小しつつあ
る。
・北区は,震災前は毎年 4,000 人を超える人口増が続いていたが,平成 11 年に減少に
転じた。平成 14 年はわずかであるが増加した。今年は現時点でマイナスとなってい
る。西区では,震災前には毎年 10,000 人を超える人口増加が続いていたが,平成 8 年
以降増加幅は縮小の傾向にある。
・なお、いわゆる市外避難者については、市の広報紙の市外郵送サービスの利用者でみる
と、平成 15 年 11 月号発送分で 1,125 世帯となっている。
6
【年齢別人口】
○ 平成 12 年には、65 歳以上人口割合が 15 歳未満人口割合を上回るなど、全国と同様、高
齢化が進展している。区別では、兵庫区、長田区、中央区、灘区、垂水区において、65
歳以上人口割合が全国を上回っている。
図Ⅰ-1 年齢(3区分)別割合の推移(神戸市)
0∼14歳
昭和60年
図Ⅰ-2 年齢(3区分)別割合の推移(全国)
15∼64歳
65歳以上
69.3
10.1
昭和60年
11.5
平成 2年
18.2
13.5
7年
15.9
20.5
0∼14歳
15∼64歳
65歳以上
68.2
10.3
21.5
69.5
12.0
平成 2年
17.4
7年
15.7
12年
13.8
69.2
16.9
12年
14.6
67.9
17.3
15年
13.4
68.2
18.4
15年
14.1
66.9
19.0
0
70.4
70.7
20
40
60
80
100
注)国勢調査結果。ただし,平成15年は8月末の住民基本台帳(外
国人登録を含む)の数値である。
0
20
40
14.5
60
80
100
注)国勢調査結果。ただし,平成15年は8月1日推計人口
の数値(概算値)である。
図Ⅰ-3 区別 年齢(3区分)別割合(平成15年)
図Ⅰ-4 区別 65歳以上人口割合の推移
15歳∼64歳
65歳以上
兵 庫 区 10.3
65.1
24.6
長 田 区 11.0
64.5
24.5
中 央 区 9.6
69.9
0∼14歳
69.4
20.5
(%)
25
兵庫区
20
垂水区
長田区
中央区
灘区
須磨区
灘
区 12.1
67.7
20.2
垂水区
13.5
67.2
19.3
須磨区
12.9
68.3
18.7
北
区
14.8
68.3
16.9
東灘区
14.2
69.4
16.3
西
16.4
北区
15
東灘区
西区
10
全市
5
区
70.5
13.1
(%)
0
昭和60
0
20
40
60
80
平2
7
12
15年
100
注)国勢調査結果。ただし,平 成15年は 8月末の住民基本台帳(外
国人登録を含む)の数値である。
注)平成15年8月末の住民基本台帳(外国人登録を含む)の数値。
7
【人口の動きの変化】
○ 神戸市周辺との人口の動きは,震災前までは神戸市から東播臨海部などへ人口が流出す
る傾向にあり,震災直後はそれが拡大したが,平成 11 年からは逆に東播臨海部などか
ら神戸市への人口の流入がみられる。また,人口の動きの変化が神戸市内でもあり,平
成 11 年を境にこれまでみられなかった郊外から市街地への人口の流入がみられる。
図Ⅰ-8 神戸市と東播臨海部の人口移動状況
20,000
15,000
神戸市→東播臨海部
10,000
5,000
東播臨海部→神戸市
0
55年
57年
56年
59年
58年
61年
60年
63年
62年
2年
元年
4年
3年
6年
5年
8年
7年
10年
9年
12年
11年
14年
13年
資料:住民基本台帳法,外国人登録法に基づく届出数(図Ⅰ-15まで同じ)
図Ⅰ-13 神戸市内の市街地と郊外の人口移動状況
30,000
市街地→郊外
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
郊外→市街地
0
61年
63年
62年
2年
元年
4年
3年
6年
5年
8
8年
7年
10年
9年
12年
11年
14年
13年
【人口の入れ替わり状況】
○ 平成 15 年 8 月現在の神戸市民について、震災直前の居住地をみると、移動のない人は
半数にとどまり、市外からの転入と出生により新たに市民になった人は 4 分の 1 に達し
ている。区別にみると、東灘区・灘区・中央区で市外から転入した人が占める割合が高
い。
平成15年8月1日居住者の震災直前の居住地別構成比
東灘区
43
灘区
43
中央区
42
14
12
14
14
16
54
長田区
6
30
17
49
兵庫区
7
23
6
26
4
13
18
16
11
11
5
6
須磨区
57
13
11
垂水区
56
14
8
15
6
7
16
6
58
北区
西区
51
全市
51
0%
20%
移動なし
12
9
13
14
40%
19
10
60%
区内
市内
13
5
19
80%
市外
7
6
100%
出生
(注)「区内」は同一区内での移動を表す。「市内」は他区からの移動を表す。
9
2.経
済
【市内総生産】
○ 神戸市内の総生産額は、平成 12 年度で 6 兆円強であり、全国の約 1.19%を占める。全
国に占める割合は、震災後、平成8年度より減少し続けている。
市内総生産(名目)の推移
(10億円/%)
神戸市
4年度
6,312
5年度
6,272
6年度
5,932
7年度
6,339
8年度
6,503
国内シェア
1.31
1.29
1.21
1.27
1.26
1.23
1.22
1.19
1.19
483,607
487,891
491,640
501,038
516,729
521,153
514,418
510,687
515,478
国
9年度
10年度 11年度 12年度
6,410
6,253
6,101
6,142
出所)神戸市企画調整局調べ
市内総生産(名目)の国内シェアの他都市比較
1.40
%
1.30
1.20
1.10
仙台市
川崎市
京都市
神戸市
福岡市
1.00
0.90
0.80
0.70
0.60
4年度
5年度
6年度
7年度
8年度
10
9年度 10年度 11年度 12年度
【経済成長率】
○ 実質経済成長率をみると、全国・大都市平均の成長率を下回る状況が続いている。
(6 年度の震災のダメージによる後退、7 年度の震災からの回復による伸びを除く)
実質経済成長率の推移
8.0
6.0
4.0
2.0
神戸市
0.0
大都市平均a)
全国
△ 2.0
△ 4.0
△ 6.0
△ 8.0
4年度
6年度
8年度
10年度
12年度
(単位:%)
a)単純平均である。
出典:国民経済計算年報(内閣府)
、県民経済計算年報(内閣府)
【市民所得】
○ 平成 12 年度の一人当たりの市民所得を大都市で比較してみると、神戸市は 2,927 千円
となっており、北九州市、広島市に次いで3番目に低い数値となっている。
1人あたり市民所得の推移
3年度
6年度
(単位:千円)
9年度
12年度
神
戸
市
3,221
2,703
3,153
2,927
札
幌
市
3,014
3,016
3,055
2,966
仙
台
市
3,226
3,282
3,378
3,228
千
葉
市
3,277
3,267
3,499
3,541
東京都(全体)
4,222
3,964
4,316
4,365
横
浜
市
3,490
3,452
3,544
3,309
川
崎
市
3,669
3,442
3,590
3,274
名 古 屋 市
4,151
3,900
3,614
3,642
京
都
市
2,907
2,815
3,021
2,973
大
阪
市
4,817
3,900
3,583
3,240
広
島
市
3,068
2,922
3,138
2,905
北 九 州 市
2,963
3,020
3,095
2,833
福
3,180
3,133
3,130
3,102
岡
市
出典:県民経済計算年報(内閣府)
11
【事業所・従業者数】
○ 市内事業所・従業員数(民営分)を見ると,事業所数は平成 3 年,従業者数は平成 8 年をピー
クに減少を続けている。業種別でみると、製造業が事業所数・従業者数ともに減少を続けてい
る一方で、サービス業については事業所数が平成 8 年を除いて、従業者数は平成 11 年を除
いて増加している。
市内事業所数(民営分)の推移
90,000
80,000
サー ビス業
運輸通信業
不動産業
金融、保険業
卸売業、小売業
電気、ガス、水道業
製造業
建設業
鉱業
農林漁業
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
元年
3年
6年
8年
11年
13年
(注)凡例のうち、
「農林漁業」
「鉱業」
「電気、ガス、水道業」は、事業所数が少ないため、グラフ上では見えてこない。
市内従業者数(民営分)の推移
800,000
700,000
サービス業
運輸通信業
不動産業
金融、保険業
卸売業、小売業
電気、ガス、水道業
製造業
建設業
鉱業
農林漁業
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
元年
3年
6年
8年
11年
13年
(注)凡例のうち、
「農林漁業」
「鉱業」
「電気、ガス、水道業」は、従業者数が少ないため、グラフ上では見えてこない。
出典
12
総務省:事業所・企業統計調査
【完全失業率】
○ 平成 12 年の国勢調査による神戸市の完全失業率(6.4%)は、大都市の中では大阪市
(9.1%)に次いで高く、大都市平均(5.9%)を 0.5 ポイント上回っている。
主な都市の完全失業率の推移
10.0
9.0
8.0
神戸市
北九州市
大都市平均
大阪市
名古屋市
東京都区部
兵庫県
全国
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
昭和55年
60年
平成2年
7年
12年
出典:総務省国勢調査
【倒産件数】
○ 神戸市の倒産件数・負債総額については高水準で推移しているが、倒産理由別にみると、
震災関連の倒産は収まっている。
倒産件数と負債金額の推移 (負債1千万円以上)
(%)
負債金額(平成6年対比)
倒産件数(平成6年対比)
300
250
200
150
100
50
0
9年
10年
資料:㈱東京商工リサーチ調査
11年
12年
13年
14年
倒産理由(負債1千万以上)
0
50
100
150
平成6年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
販売不振 震災関連 放漫経営
資料:㈱東京商工リサーチ調査
13
200
250
300
350
件
330
336
237
286
306
275
過小資本
関連倒産
その他
【オフィスビル空室率】
○ オフィスビルの空室率は、再建が相次いだ平成 9 年以降に空室率が急上昇してから現在
に至るまで国内主要都市の中で最も高い水準である。
国内主要都市におけるオフィス空室率の推移
20.0
18.0
17.2
16.0
14.9
14.5
14.0
13.6
12.0
10.9
10.0
9.6
8.6
8.0
7.2
6.8
8.0
6.0
5.9
5.4
9.6
7.3
6.7
6.4
6.1
6.0
7.3
5.8
5.4
4.8
4.5
4.0
8.7
8.2
7.0
6.1
6.1
3.8
3.5
2.8
2.7
2.0
10.4
神戸
東京23区
横浜
名古屋
京都
大阪
0.0
4年
6年
8年
10年
12年
14年
生駒シービーリチャードエリス㈱調べ
神戸都心部(三宮、元町、ハーバーランド)における業務ビル床面積の滅失量と供給量の比較
(坪)
△
△
△
△
△
30,000
20,000
10,000
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
(%)
140
120
100
7年
8年
9年
10年
11年
12年
13年
14年
80
60
滅失量,供給量
供給量累計/滅失量
40
20
0
生駒シービーリチャードエリス㈱調べ
14
3.すまい・まちづくり
【震災による住宅の被害状況と住宅着工状況】
○ 震災では8万2千戸の住宅が滅失したのに対し、震災後20万戸の住宅が着工された。
区別の住宅滅失状況
建物完成年次別の滅失状況
年代
東灘
滅失
灘
存続
58
∼1945
42
中央
1946∼1955
49
51
兵庫
1956∼1965
49
51
長田
23
1966∼1975
須磨
77
垂水
1976∼1985 6
94
滅失
北
1986∼ 6
94
存続
西
0
0%
20,000
40,000
60,000
20%
40%
60%
80,000 100,000
戸数
(神戸市調べ)
16
新規建設
住宅総計
14
計画戸数
72,000 戸
うち公営住宅等の達成状況
12
10
8
6
神戸市
東京都区部
大阪市
2
H6
H7
H8
120,107 戸
16,000 戸
16,365 戸
市営
10,500 戸
10,697 戸
県営
5,500 戸
5,668 戸
4,000 戸
4,156 戸
20,000 戸
20,521 戸
合
H9 H10 H11 H12 H13 H14
※H7.2∼H10.3
住宅着工
公営住宅
再開発系住宅
0
H5
100%
神戸市震災復興住宅整備緊急3か年計画の実績
住宅着工累計(平成5年の着工数を1とする)
4
80%
(神戸市調べ)
計
(住宅着工統計)
区別の着工戸数の推移(西区、北区、垂水区)
区別の着工戸数の推移(東灘区∼須磨区)
12,000
10,000
8,000
6,000
戸
12,000
東 灘 区
灘 区
中 央 区
兵 庫 区
長 田 区
須 磨 区
10,000
8,000
戸
西 区
北 区
垂 水 区
6,000
4,000
4,000
2,000
2,000
0
0
H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14
H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14
(住宅着工統計)
15
(住宅着工統計)
【住宅の質的変化】
○ 長屋建及び木造共同住宅が減少し、マンション(非木造共同住宅)が増えている。
建て方別住宅割合
マンション率(被災6区合計)
45,000
昭和43年
40,000
昭和48年
非マンション
マンション
35,000
昭和53年
昭和58年
一戸建
30,000
長屋建
25,000
その他
20,000
共同(木造)
昭和63年
15,000
共同(非木造)
10,000
平成 5年
5,000
平成10年
-
0%
20%
40%
60%
80%
7年
100%
8年
9年
10年 11年 12年 13年 14年
(住宅・土地統計調査)
(住宅着工統計)
○ 最低居住水準以上の世帯の割合、誘導居住水準以上の世帯の割合はともに伸びており、
全体的に居住水準は大幅に向上してきている。
最低居住水準以上の世帯割合の推移(他都市比較)
100
最低居住水準以上の世帯割合の推移
%
100
%
90
90
80
80
70
横浜市
京都市
大阪市
神戸市
70
全体
持家
借家
60
50
60
40
S53
S58
S63
H5
H10
(住宅・土地統計調査)
S48
S53
S58
S63
H5
H10
(住宅・土地統計調査)
誘導居住水準以上の世帯割合
全体(平成5年)
(平成10年)
持家(平成5年)
(平成10年)
借家(平成5年)
(平成10年)
00
10
10
20
20
30
30
16
40
50
60 (%)
(%)
40
50
60
(住宅・土地統計調査)
【まちの姿】
○
建物の更新状況をみると、震災前は新耐震設計法施行前の建物の占める割合がほとん
どの地域で 75%以上を占めているが、平成 15 年では新耐震後の建物の占める割合が高
い地域が大幅に増えている。
○ マンションの全体戸数に占める割合をみると、山麓部では変化が少ないところも多いが、
市街地部では、全般的にマンションの占める割合が増加している地域が多い。
○ 長屋・木賃は、震災前では 20%以上の割合を占めている地域がまだかなりあったが、平
成 15 年でみると、長屋・木賃の占める割合が高い地域は着実に減っている。
17
【震災復興土地区画整理事業の進捗状況】
○ 震災復興土地区画整理事業では、神戸市施行の 11 地区の仮換地指定率が 89%に達して
いる。鷹取東第一地区、六甲道駅西地区、森南第一・第二地区、御菅東地区の5地区で
事業が完了している。また、組合施行の 2 地区も事業が完了している。
震災復興土地区画整理事業の進捗状況
平成 15 年 11 月末現在
神戸市施行
森南
面 積 (ha)
換地処分
6.7
H 9. 9.25
100
H 15. 2.14
第二
4.6
H 10. 3. 5
100
H 15. 2.14
第三
5.4
H 11.10. 7
87
北
16.1
H 8.11. 6
96
西
3.6
H 8. 3.26
100
8.9
H 8. 3.26
96
東
5.6
H 8.11. 6
100
西
4.5
H 9. 1.14
96
59.6
H 8. 7. 9
80
第一
8.5
H 7.11.30
100
第二
19.7
H 9. 3. 5
88
松本
御菅
新長田駅北
合
仮換地指定( % )
第一
六甲道駅
鷹取東
事業計画決定日
143.2
計
H 13. 7.24
H 15. 4.11
H 13. 2.21
89
【震災復興市街地再開発事業の進捗状況】
○ 震災復興市街地再開発事業については、六甲道駅南地区では、14 棟すべてのビルが着工
し、うち 12 棟が完成、残り 2 棟は平成 15 年度末に完成予定である。新長田駅南地区で
は、順次着工がなされ、平成 15 年度末までに住宅戸数が震災前の水準となるとともに、
平成 15 年度末までに着工するビルにより、ほぼ震災前の商業床面積が確保できる予定
である。また、組合施行の 8 地区では、すべての事業が完了している。
震災復興市街地再開発事業の進捗状況
平成 15 年 11 月末現在
施行地区
六甲道駅南
新長田駅南
計
区域面積
5.9
20.1
26.0
ha
ha
ha
都市計
画決定
H7.3.17
H7.3.17
事業計画決
定
10 工区
14 棟
5.9 ha
管理処分計
画決定
10 工区
14 棟
5.9 ha
30
31
17.7
工区
棟
ha
20
21
10.6
工区
棟
ha
40
45
23.6
工区
棟
ha
30
35
16.5
工区
棟
ha
18
着工状況
完成状況
10
14
工区
棟
9
12
工区
棟
19
20
(915 戸)
工区
棟
11
12
(852 戸)
工区
棟
(1,739 戸)
29 工区
34 棟
(1,061 戸)
20 工区
24 棟
(2,654 戸)
(1,913 戸)
【住宅市街地整備総合支援事業】
○
住宅の供給や道路、公園等の公共施設の整備など、住宅市街地整備を総合的に進める
事業であり、8地区において事業が実施されている。
住宅市街地整備総合支援事業の実績
平成 15 年 11 月末現在
住宅供給
地区名
1
六甲
2
東部新都心周辺
3
神戸駅周辺
4
兵庫駅南
5
松本周辺
6
御菅
7
真陽
8
新長田
合計
面積
(ha)
承認年
296
168
58
22
35
29
8
251
867
関連公共施設整備
共同化等 受皿住宅
補助(戸) 建設(戸)
H7
H7
S60
H2
H7
H7
H4
H7
824
249
311
609
94
33
0
913
3,033
422
848
18
186
105
196
130
1,092
2,997
公園整備:3 箇所、道路整備:1 路線
区画整理:1 件
街路整備:1 路線
公園整備:1 箇所、道路整備:1 路線他
公園整備:1 箇所
公園整備:1 箇所
-公園整備:3 箇所
【密集住宅市街地整備促進事業】
○
防災上の課題等を有する密集市街地のうち、11 地区 514ha で密集住宅市街地整備促進
事業が実施されている。
密集住宅市街地整備促進事業の実績
平成 15 年 11 月末現在
地区数
面積
(ha)
老朽建築物
除却(戸)
11地区
514
534
住宅供給
共同化等
補助(戸)
受皿住宅
建設(戸)
353
285
19
道路整備
(㎡)
公園等整備
(㎡)
14,041
4,386
4.財政状況
【震災関連事業費と財源】
○ 震災は、市民の生活支援、公共施設の災害復旧、再開発や区画整理等の復興対策など、
本市に巨額の財政需要をもたらした。震災の発生した平成6年度から15年度までの
震災関連事業費の累計額は全会計で2兆7,077億円、うち一般会計では2兆507
億円に達する。一般会計の財源については、約3分の1が国・県の支出金で、約2分の
1の9,815億円が市債である。
震災関連事業費(一般会計)
億円
震災関連(復興対策)
震災関連(災害復旧)
震災関連(生活支援)
通常事業費
18000
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
(注)平成 14 年度までは決算、15 年度は予算現計(前年度繰越を含む)
20
(単位:億円)
区
分
事
業
金
費
額
20,507
財
国庫支出金
6,137
源
県支出金
内
市債
9,815
訳
その他
1,616
一般財源
2,260
679
〔参考:震災関連市債の内訳・一般会計発行分の主なもの〕
(注)災害復旧に係る市債の元
①阪神・淡路大震災復興基金
3,000億円
利償還金については、国による
②公共施設災害復旧
1,227億円
特別な財政援助がある。また、
③災害公営住宅の建設
1,038億円
起債制限比率が 20%以上であ
④復興区画整理・復興再開発
1,024億円
るが、復興事業の円滑な推進に
⑤災害援護資金貸付金
777億円
支障が生じないよう、国から起
⑥災害廃棄物(がれき)処理
770億円
債制限の緩和を受けている。
【市債残高】
○ 起債制限比率が20%以上で市債発行の制限を受けているのは、政令指定都市の中で神
戸市だけであり、市民一人あたりの市債残高も最も高くなっている。これは災害復旧や
復興基金への貸付などのために発行した市債の残高によるものであり、これらの市債残
高を除くと、市民一人あたりの市債残高は他の政令指定都市並みになる。
千円
%
30
市民1人あたり市債残高(一般会計)
1200
起債制限比率
1000
25
24.7
800
16.1
600
400
20
15
15.3
16.2
14.4
12.7
14.3
12.9
15.1
14.6
10
10.6
9.1
200
5
0
0
札幌
仙台
千葉
横浜
川崎
名古屋
京都
大阪
神戸
広島
北九州
福岡
注)神戸市以外の指定都市の数値は平成 13 年度決算、神戸市の数値は 14 年度決算
21
【市税収入】
○ 震災に伴う市民所得の減少や家屋等の滅失、震災減免の影響により、震災直後に市税収
入は激減した。その後、平成9年度までの間、震災復興の進展に伴い一旦回復をしたが、
平成10年度以降、景気の低迷や地価の下落により減収を続け、平成14年度決算では
対前年度55億円の減収(5年連続の減収)となり、平成2年度頃(12年前)の水準
となった。個人市民税はピーク時(平成4年度)の約4分の3の水準、法人市民税はピ
ーク時(平成元年度)の半分以下の水準となっている。
億円
3,500
その他
都市計画税
固定資産税
法人市民税
個人市民税
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
60
61
62
63
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
注)平成 14 年度までの数値は決算、平成 15 年度数値は当初予算
(参考)市域内税収(平成13年度)
区 分
金
(単位:百万円)
額
左
の
内
訳
国 税
940,271 所得税(333,600)法人税(95,491)その他(511,180)
県 税
239,470 県民税(94,750)事業税(61,594)その他(83,126)
市 税
269,729 市民税(101,883)固定資産税(122,711)その他(45,135)
合 計
1,449,470
注)国税は市内5税務署と芦屋、明石税務署の一部及び神戸税関分を含み推計値である。
県税は市内4県税務事務所の合計額で、推計値である。
22
年度
5.「しみん
しあわせ
(1)「しみん しあわせ
「しみん
しあわせ
指標」
指標」とは
指標」は、「神戸市復興計画推進プログラム」等の推進にあたり、
本懇話会の「市民とともに将来のまちづくりの目的を共有し、その成果を評価するために、
市民にわかりやすい指標を市民と一緒に作っていくべきである」との提言(平成 13 年 6 月)
を受けて、神戸市が市民との協働により策定した指標である。
この指標は、「神戸市復興計画推進プログラム」の中で、特に重点的に取り組むべき 16
の「重点行動プログラム」のテーマごとに設定されており、45 の項目ごとに「策定時の値」
と市民・事業者・行政などの協働による目標値である「ともに目指そう値」を設定されて
いる。
「ともに目指そう値」の設定のしかたは、神戸市の各種計画または国の計画などに目標
値がある場合にはこれを採用することとし、それ以外は、震災復興に関連が深いものにつ
いては震災前の数値、過去の統計データからのトレンド推計なども採用している。また、
この指標は、社会経済情勢の変化に合わせて、指標項目や「ともに目指そう値」の見直し
を行うこととしており、このたび小学校区の校区数の減少に伴う「ともに目指そう値」の
見直しを行っている。
「しみん
しあわせ
指標」が目指す時期は原則として平成 17 年度であり、目指す時期
に達していない現段階で個々の指標の達成状況を十分に評価することはできないが、策定
時の値との比較を中心に以下に記載する。
(2)「しみん しあわせ
指標」の達成状況
「しみん しあわせ 指標」の達成状況は、次ページ以降の表のとおりである。
「高齢者」や「子ども」、「地域のまちづくり」、「安全で安心なすまい」、「美しいまち」、
「ボランティア」、
「知識創造」関連の指標において、現状値が策定時の値を上回っており、
着実に進捗しているものが多い。
また、「医療産業都市づくり」、「情報化」関連の指標については、既に「ともに目指そう
値」を達成している指標も一部出てきている状況であり、情報化は策定当初に予定してい
た以上に進んでいる。
一方、「港湾」、「環境」における指標は、現状値が横ばいか策定時の値を下回っており、
当初の指標策定時の考え方と逆の方向に動いている。「港湾」についてはアジア諸港との競
争激化、「環境」については市民一人当たりの二酸化炭素排出量の増加など、全国的な動向
と同様の課題が、神戸においても見受けられる。
23
【しみん しあわせ 指標の達成状況】
指 標
策定時の値
時点
現状値
時点
―
―
38.1
平成12年度
平成13年度
166
ともに
目指す時期
目指そう値
1.高齢者等が安心して暮らせるまちをめざす
高齢者の社会活動への参加率 (%)
166
「小地域見守り連絡会」を開催している地区の数 (地区)
介護機能型施設の定員(人)
60
平成18年度
平成14年度末
170
平成18年度
8,472
平成13年度末
9,211
平成14年度末
11,761
平成18年度
637
平成13年度末
見込
1,217
平成14年度末
1,372
平成18年度
ホームヘルプサービスの年間利用回数 (回)高齢者100人あたり
2.‘21世紀の担い手’子どもを社会で育てるまちをめざす
子どもの地域行事・活動への参加率(小) (%)
―
―
80.1
平成12年度
85
平成17年度
子どもの地域行事・活動への参加率(中) (%)
―
―
73.1
平成12年度
75
平成17年度
子どもの地域行事・活動への参加率(高) (%)
―
―
42.1
平成12年度
45
平成17年度
子どものボランティアへの参加率(小) (%)
―
―
28.5
平成12年度
30
平成17年度
子どものボランティアへの参加率(中) (%)
―
―
31.9
平成12年度
35
平成17年度
子どものボランティアへの参加率(高) (%)
―
―
37.3
平成12年度
40
平成17年度
トライやるウィークの受入先の数(累計) (か所)
保育所受入数(人)
4,264
平成12年度
4,303
平成13年度
4,500
平成17年度
15,300
平成13年4月
16,700
平成15年4月
20,000
平成18年度
19.3
平成13年4月
20.8
平成15年4月
24
平成18年度
就学前児童に対する割合 (%)
3.地域に密着した市民・NPO (非営利活動組織)も活躍できる経済の構築をめざす
チャレンジショップ支援事業の活用団体数(累計) (団体)
4
平成13年度末
4
平成14年度末
10
平成17年度
コミュニティビジネス形成支援事業の活用団体数(累計) (団体)
9
平成13年度末
9
平成14年度末
30
平成17年度
神戸の地元農水産物の生産状況(のり) (万枚)
10,000
平成12年度
10,521
平成14年
11,000
平成17年度
神戸の地元農水産物の生産状況(野菜) (t)
28,602
平成12年度
29,000
平成14年度
30,200
平成17年度
2,210
平成12年度
2,104
平成14年度
2,800
平成17年度
10,770
平成12年度
10,744
平成14年度
11,300
平成17年度
「ふれあいのまちづくり協議会」が結成されている小学校区の数
(校区)
160
平成13年度
167
平成14年度
170
平成18年度
「ふれあい福祉プラン」を策定している協議会の数 (協議会)
76
平成13年度
83
平成14年度末
170
平成18年度
100
平成17年度末
280
平成17年度
神戸の地元農水産物の生産状況(肉牛) (頭)
神戸の地元農水産物の生産状況(米) (t)
4.協働で取り組む地域のまちづくりを進める
91.0
「防災福祉コミュニティ」の結成率 (%)
236
「すまい・まちづくりの専門家」の登録件数 (人・社)
平成14年
1月1日現在
93.8
平成15年
7月1日現在
平成13年度末
246
平成14年度末
5.協働による安全で安心なすまいを実現する
60.0
住宅の検査 完了検査済証交付率(建築確認分) (%)
「住宅品質確保促進法」による性能評価を受けた住宅の戸数割合
(%)
住宅のバリアフリー化率 (%)
9
―
平成12年度
平成12年10月
∼13年12月
73.0
平成14年度
75
平成15年度
19.6
平成14年10月
∼15年3月
30
平成17年度
―
31
平成10年
12月1日現在
33
36
平成15年
平成20年
平成12年度
10
平成13年度
25
平成22年度
6.地域で実践する環境にやさしいまちづくりを進める
10
ごみのリサイクル率 (%)
神戸市民一人当たりの二酸化炭素年間排出量 (t)
2.68
平成11年
2.81
平成12年
2.41
神戸の海の透明度 A類型 平均 (m)
5.0
平成12年度
5.0
平成14年度
5m以上
常時
平成22年
神戸の海の透明度 B類型 平均 (m)
4.1
平成12年度
4.1
平成14年度
4m以上
常時
神戸の海の透明度 C類型 平均 (m)
3.4
平成12年度
3.0
平成14年度
3m以上
常時
428
平成12年度
503
平成14年度
670
平成17年度
―
32.2
平成14年度
50
平成17年度
7.個性を生かした魅力ある美しいまちをめざす
「市民花壇」の設置数 (か所)
「都心(三宮や神戸駅周辺)でポイ捨てが減った」と感じている
人の割合 (%)
未調査
24
指 標
策定時の値
時点
現状値
時点
ともに
目指す時期
目指そう値
8.健康・スポーツ都市づくりを進める
「健康教室」の開催回数 (回)
3,241
平成12年度
3,397
平成14年度
3,400
平成18年度
「健康相談」の開催回数 (回)
1,185
平成12年度
1,165
平成14年度
1,250
平成18年度
27.6
平成12年度
26.1
平成14年度
37.5
平成18年度
9.9
平成12年度
11.9
平成14年度
25.8
平成18年度
各種健康診査の受診率(乳児健診) (%)
91.6
平成12年度
92.7
平成14年度
95
平成18年度
「日常的に運動やスポーツを行っている」人の割合 (%)
43.7
平成13年度
40.4
平成15年度
50
平成17年度
2,200
平成17年度
平成17年度
各種健康診査の受診率(基本健康診査) (%)
各種健康診査の受診率(肺がん検診) (%)
9.市民文化・芸術文化を生かしたまちづくりを進める
文化的・歴史的イベントの数 (件)
市立図書館での図書の貸出件数 (冊)
2,000
平成13年
2,000
平成14年
4,723,191
平成12年度
5,087,415
平成14年度
5,000,000
44,202
平成14年
3月1日現在
45,070
平成15年
7月1日現在
48,600
平成17年
8,586
平成12年度
8,496
平成14年度
14,600
平成17年度
34
平成11年
7月1日現在
40
平成13年
10月1日現在
60
平成16年
20
平成17年度
10.外国人市民が暮らしやすいまちづくりを進める
外国人登録者数 (人)
外国人市民相談窓口の相談件数・利用件数 (件)
外国企業数 (事業所)
11.ボランティア・NPO(非営利活動組織)・NGO(非政府組織)が活躍するまちをめざす
「ボランティア・NPO活動などに参加している」人の割合 (%)
14.5
ボランティア情報センター、各区ボランティアセンターに登録し
ている個人 (人)
平成13年度
16.0
平成15年度
2,202
平成12年度末
2,481
平成14年度末
2,900
平成17年度
ボランティア団体の数 (団体)
1,088
平成12年度末
1,277
平成14年度末
1,700
平成17年度
588
平成13年度末
604
平成14年度末
700
平成17年度
95,474
平成7年
10月1日現在
平成14年2月
末
平成14年2月
末
平成14年2月
末
104,287
平成12年
10月1日現在
107,000
平成17年
24 平成15年3月末
30
平成17年
97 平成15年3月末
160
平成17年
1,829 平成15年3月末
1,000
平成17年度
「まちの美緑花ボランティア」に参加している団体の数(団体)
12.知識創造を担う人が集まり活躍できるまちをめざす
科学研究者、技術者などの数 (人)
「(財)新産業創造研究機構(NIRO)」内「TLOひょうご」による
大学等の特許を企業にライセンスした件数(累計)(件)
12
特許出願件数(件)
61
606
「SOHOプラザ」の会員数 (名)
13.人・モノ・情報の総合的な交流拠点都市をめざす
港湾貨物取扱量 (万t)
4,102
平成12年
3,763
平成14年
5,523
平成17年
年間観光入込客数 (万人)
2,519
平成12年
2,606
平成14年
3,000
平成22年
195
平成12年
210
平成14年
220
平成17年
国際会議・学会の開催件数 (件)
14.医療産業都市づくりを進める
医療関連事業所数(医薬品製造業) (事業所)
13
平成11年
7月1日現在
17
平成13年
10月1日現在
18
平成16年
医療関連事業所数(医療用機械器具・医療用品製造業)
(事業所)
25
平成11年
7月1日現在
25
平成13年
10月1日現在
33
平成16年
医療関連事業所数(医薬品小売業) (事業所)
703
平成11年
7月1日現在
750
平成14年
6月1日現在
738
平成16年
「医療産業都市構想」による医療産業都市づくりに関係の深い
企業等の雇用者数 (人)
200
平成13年度末
800
平成14年度末
1,700
平成17年度
平成14年
1,250
平成17年
15.上海・長江交易促進プロジェクトを進める
中国と神戸港との間の貿易量 (万t)
1,081.4
平成12年
957.2
平成14年
2月27日現在
26
平成15年
3月31日現在
145
平成13年
78
平成15年
240
平成17年
情報関連事業所数(情報サービス・調査業) (事業所)
305
平成11年
7月1日現在
平成13年
10月1日現在
330
平成16年
「インターネットを利用している」人の割合 (%)
34.9
平成13年度
40.1
平成15年度
75
平成17年
21,000
平成14年2月
32,000
平成15年5月
24,000
平成17年
440,000
平成14年2月
502,000
平成15年5月
470,000
平成17年
17
中国系企業数 (社)
「中国ビジネスチャンスフェア」の出展企業数 (社)
24
平成17年度末
16.情報技術(IT)を生かしたまちづくりを進める
ケーブルテレビインターネットを利用している世帯数 (世帯)
ケーブルテレビを視聴可能な世帯数 (世帯)
25
442
第3章 震災5年時点で指摘されていた課題とその後の状況
【震災から 5 年時点までの経過】
平成 11 年度「復興の総括・検証」の結果をもとに、地震発生から現在にいたるまでの全
般的状況と施策の主な傾向を、時間の流れに沿って段階的に整理すると、下表のとおりと
なる。
震災からの時間
緊急対応・応急復旧期
地震発生
∼3日後
∼1月末頃
全
般
的
状
況
救助活動
・災害対応
−人命最優先−
(仮設住宅建設等)
避難生活の開始、救助活動
−応援部隊の活躍−
∼3月末頃
※分野別の復興計画等は下記のとおり
(港湾施設の復旧等)
復
修正・改善
興
−雇用・経済の問題、
市民生活の正常化−
前
3∼5年目頃
(平成7年6月)
・インフラの復旧
問題の収斂
−自立再建と自立困難の二極化−
∼2年目頃
・「神戸市復興計画」の策定
仮設住宅、自力再建着手、復旧活動
−個人資産への関心−
4月頃∼
施策の主な傾向
・復興中心の施策展開
(公営住宅の大量建設等)
新しい動き、一般施策の再開、
・復興施策の継続
仮設住宅の解消、経済の8割復興
(恒久住宅への移転支援等)
期
−震災以外にも原因が?、
・一般施策の再開
構 造 的 な 課 題 を 改 め て 認 識 − ・平 成 11年 度「 復 興 の 総 括 ・
検証」
※分野別の復興計画等(主なもの)
○神戸港復興計画委員会報告(平成 7 年 4 月)
○神戸経済復興委員会報告(平成 7 年 6 月)
○神戸市震災復興住宅緊急3か年計画(平成 7 年 7 月)
○市民福祉復興プラン(平成 7 年 7 月)
○神戸市地域防災計画(地震対策編)の抜本的改定(平成 8 年 3 月)
○神戸のすまい復興プラン(平成 8 年 7 月)
○神戸の生活再建支援プラン(平成 9 年 1 月)
○神戸経済本格復興プラン(平成 9 年 10 月)
26
【震災 5 年時点で指摘されていた後半 5 ヵ年の取り組みの方向性】
平成 11 年度「復興の総括・検証」では、後半 5 ヵ年の取り組みの方向性を下記のとおり
示していた。
これまでの復興過程の総括・検証とあわせて、震災の教訓や取り組みの成果を生かしな
がら、間近に迫った 21 世紀に向けて神戸のまちはどうあるべきかという都市像の模索も始
まった。
盛り上がりを見せたまちづくり活動や、ボランティア・NPOの事業展開は継続してい
くことが望ましいが、そのための人材育成や活動環境整備も必要であろうし、行政もこれ
まで以上に行財政改革に取り組み、多様な主体と連携していくことが求められる。復興し
ていく中で再認識された「つながり」
「自律と連携」を大切にしながら、協働のまちづくり
を進めなければならない。
一方、都市として生き残るための競争力を維持すべく、安全都市基盤整備や総合交通体
系の構築、産業の集積形成も必要である。震災で傷ついた神戸の都市イメージの回復や、
日本全体の不況からの脱出もそれにつながってくるだろう。
被災地をとりまく環境は依然として厳しいが、来るべき日本社会の姿が、震災によって
凝縮されたとも言えるこの地で、神戸の力が試されることになる。
【今回の「復興の総括・検証」の対象と本章の役割】
震災 10 年目を間近に控える中で実施した、今回の「復興の総括・検証」は、平成 11 年
度に市民とともに実施した前回の「復興の総括・検証」で明らかになった課題や、その後
の復興の取り組みの中で明らかになった新たな課題等を踏まえながら、これまでの復興過
程を経て築き上げられた「神戸の今」を総括・検証の対象とし、第 2 部以降の分析を進め
ていくこととしている。
本章では、この考え方を受け、第 2 部の「神戸の今」の分野別検証に入る前に、各分野
別に「震災 5 年時点で指摘されていた課題」を確認するとともに、その課題が震災 5 年か
ら「神戸の今」に至る過程でどう推移してきたかの概要を「その後の状況」として記載す
る。
ここでいう「震災 5 年時点で指摘されていた課題」とは、平成 11 年度「復興の総括・検
証」報告書で位置づけている課題や、その後、平成 11 年度に実施した「復興の総括・検証」
を受けて神戸市が平成 12 年度に策定した「神戸市復興計画推進プログラム」に位置づけら
れている課題のことである。以下の「震災 5 年時点で指摘されていた課題」の表記にあた
っては、原文を尊重して記載している。
27
第1節 市民生活分野
1.市民の地域における自律と助け合い
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○平成 11 年度に実施された「復興の総括・検証」において、市民は「人と人のつながり」
を生活再建の中で大きな課題として取り上げた。
○被災によって、それまでのつながりを失う反面、そこでまた新しいつながりを持つとい
うことになる。震災後、引越しなどで新しい環境に移行した人たちは、移行先などで新
しいコミュニティや人間関係を築いていかなければならなかった。その中で、新しいコ
ミュニティの形成が課題となった。同時に新しい神戸をつくるために一人ひとりの自律
と連帯が必要とされた。
○市民の一人ひとりが自律し、助け合っていくためには、人と人のつながりをつくること、
一人ひとりが地域の活動に参加すること、地域を支えるしくみづくりをつくることが必
要である。
(2)その後の状況
○地域を支える仕組みづくりについては、ふれあいのまちづくりでは、住民自ら取り組む
機運の高まりや、活動分野の広がりが見られる。また民間レベルでの地域活動への支援が
積極的に行われている。
○また、「区の個性をのばすまちづくり事業」や「地域の力を活かしたまちづくり事業」な
ど区独自予算の充実や、まち育てサポーター制度や区の地域提案型活動助成制度など区行
政の充実が図られている。
○人と人とのつながりをつくることについて、平成 15 年度神戸市民1万人アンケートの結
果でみると、
「地域でのつながりを大切に思う」といった神戸の市民意識は全国に比べて
高い状況にある。
○しかし、一人ひとりが地域の活動に参加することについて、平成 14 年度神戸市民1万人
アンケート結果でみると、少数の者が地域活動を担っていることが示唆されており、参加
層の拡大が課題となっている。
2.市民一人ひとりの健康づくり
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○平成 11 年度に実施された「復興の総括・検証」において、身体的な面の影響は少ないが、
28
精神的な面の影響が未だに残っており、医療・福祉面での見守りが必要であることがわ
かった。
○こころのケアを図るため、震災後に避難所内の救護所等で精神科救護所の設置、また仮
設住宅敷地内での「こころのケアセンター」の設置が行われた。こころのケアの問題は、
ケースによっては数年後あるいはもっと長い期間を置いて現れる場合もあり、細やかな注
意を払う必要がある。
○健康を維持・増進していくためには、健康・医療サービスを充実させる一方で、そのよ
うなサービスを受けずに済むよう、一人ひとりがスポーツに親しんだり、健康づくりに
取り組むことも重要である。
(2)その後の状況
○こころのケアを図るため、平成 13 年度には「こころの健康センター」が設置され、精神
保健の向上等の取り組みが行われている。また民間レベルでは震災遺児のこころのケアの
ため、「レインボーハウス」の運営がなされている。
○閉じこもりや外出機会の減少等により、ADL(日常生活動作)の低下や痴呆症状を発
症する又は進行するケースなどが目立ってきた。その対応として、神戸市では全戸訪問や
健康体操、機能訓練教室など、健康づくり事業が実施され、コミュニティの形成や地域見
守りにつなげていった。また、登山グループなど神戸の地形を活かした市民レベルでの健
康づくり運動が行われている。
○しかし一方、平成 14 年度の神戸市民1万人アンケートの結果から、20 歳代、30 歳代の
世代、また勤労者にとって、日常的に運動やスポーツを行っていない傾向が見られ、こ
のような世代へのアプローチを企業等と連携して行う必要がある。
3.高齢者・障害者が安心して暮らせるまち
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○高齢者・障害者等が地域で生活していくには、健康づくりとともに、できるだけ不自由
なく日常生活ができるようになることが必要である。この点から高齢者・障害者等が自立
して生活できるよう支援することが求められる。
○充実した生活を送るためには、生きがいを持って毎日を過ごすことも重要である。とり
わけ高齢者にとっては、趣味や特技あるいはそれまでの人生経験を生かした生きがいづく
りの視点からの取り組みが重要である。さらに、地域活動への参加も高齢者の生きがいづ
くりとして考えられる。
○災害援護資金の償還について、不況の影響もあり、いまだ経済的に厳しい生活を余儀な
くされていて、資金の償還に不安を感じる市民もいる。これらの市民の被災による生活へ
29
の不安をなくするためには、公平性や制度自体の制約も考慮しつつ、災害援護資金貸付金
の償還がしやすい仕組みをつくることが必要である。また、新たな住宅再建制度の創設が
求められる。
○また、災害公営住宅等での閉じこもり防止や地域住民間の交流に大きな役割のあった単
身高齢者等に対する見守りシステムを全市展開するとともに、高齢者の日常生活に必要
な消費生活情報や介護情報などを集約して提供できる生活情報拠点を整備しながら、地
域住民自らによる見守りを推進することが必要である。
(2)その後の状況
○高齢者、障害者等の自立生活支援について、平成 12 年度からスタートした介護保険制度
は、制度発足後3年半を経過したが、制度として定着し、概ね順調に推移している。また
障害者支援費制度が平成 15 年度に導入され、制度定着に向けた動きが見られる。このほ
か、障害者の就労支援や小規模作業所の運営及びその支援が民間レベルで実施されている。
○高齢者の生きがいづくりとして、各種生涯学習を受講した高齢者などが、各種ボランテ
ィア活動に取り組んでいる事例がある。また、生涯学習振興調査(平成 14 年6月)によ
ると、高齢者は一般教養やボランティア活動への参加割合が高い傾向が見られる。
○災害援護資金貸付金については、災害弔慰金の支給に関する法律に基づくもので、市と
借受人との契約に基づく融資であり、借受人又は保証人によって借受時の償還計画に従い
償還されることが大原則である。しかし、借受人が何らかの事情により償還が困難となっ
た場合は、償還免除、償還猶予及び少額償還等により柔軟に対応することとされた。
○住宅再建支援制度については、毎年の国家予算要望など機会あるごとに制度の実現が求
められてきたところであるが、国の方でも来年度予算に向けて検討されており、実現を期
待されるところである。
○地域見守りについては、閉じこもり防止や地域住民による見守りのためのコミュニティ
づくりに大きな成果があったことから、平成 13 年度から新たにあんしんすこやかセンタ
ーに見守り推進員を配置するなど仮設住宅や災害公営住宅にとどまらず、一般地域に拡大
し、民生委員をはじめ、LSA(生活援助員)
、見守り推進員、見守りサポーター、友愛
訪問グループ等により、数字的には市内全域の見守りが必要な世帯がカバーされている。
また、高齢者に対する生活情報拠点として、市内 77 箇所のあんしんすこやかセンターに
よる情報提供が行われている。しかし、大規模な災害公営住宅やシルバーハウジング等で
は、入居者の高齢化が一層進むとともに、自治会や民生委員等のなり手がなく自治組織が
十分に機能できない状況にあるなど、継続的な支援が必要であるとともに、今後増加が予
想される単身高齢者等への新たな対応が必要である。
4.子どもがいきいきと育ち、育てられるまち
30
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○これからの神戸の復興を担う子どもたちが震災を通じて学んだ「自ら学び、自ら考え、
たくましく生きる力(自律する力)
」や「地域の一員としてまちを愛し、その発展につく
す力(連帯する力)」を地域ぐるみで培う環境をさらに充実するとともに、子育て世代が
住み続けたくなるまちづくりを推進することが必要である。
(2)その後の状況
○学校や児童館、保育所など、施設の地域開放や民間への運営委託等が始まっており、よ
り市民ニーズに応じた、地域の特性を生かした取り組みがなされている。また、ファミリ
ーサポートセンターや自主的な子育てサークルなどにより、市民相互の子育ての助け合い
が始まっている。また、民間レベルでは震災遺児のこころのケアのため、「レインボーハ
ウス」の運営がなされている。
○学校教育では、
「特色ある神戸の教育推進アクティブプラン」が策定され、
「分かる授業・
楽しい学校」、「家庭・地域・学校の連携」、「情報を発信する学校」の3分野で教育活動
が行われており、地域の方々が講師として授業を行う「ゲストティーチャー」、「地域チ
ューター」の配置や「トライやるウィーク」など学校教育に地域の教育力を生かす取り
組みなどが始まっている。また、被災した児童生徒の多い学校に配置された教育復興担
当教員は、被災児童生徒に対する心のケアや生徒指導だけでなく、家庭、関係機関との
連絡調整など幅広い活動を行った。心のケアの面ではスクールカウンセラーも「心の専
門家」として問題解決にあたっている。
○「防災福祉コミュニティ」における中学生の「防災ジュニアチーム」や子どもたちが地
域でクリーン作戦を行うなど「KOBEこどもエコクラブ」といった、子どもの地域活動
への参加(社会参画)が始まっている。
○このような中、保育所待機児童や児童虐待、不登校問題など、子どもを取り巻く全国的
な新たな問題が神戸でも発生しており、これらの問題に対処する必要がある。
5.外国人市民が暮らしやすいまち
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災を契機に外国人市民が抱える様々な問題が明らかとなり、その生活支援を行うボラ
ンティア活動として、日本語学習支援、外国人高齢者支援、多言語による情報発信、就業
支援、民族文化教室の開催などが市民によって行われている。外国人市民が暮らしやすい
まちをつくるため、市民団体や外国人支援ボランティアとの連携を強化し、市民のボラン
ティア活動を側面的に支援することが必要である。
31
(2)その後の状況
○市の外国人市民に対する施策として、情報提供・相談、福祉・医療、教育・啓発、留学
生支援などの取り組みが進められてきたところであるが、本年度、設置した「外国人市民
会議」のもとで、外国人市民の支援のあり方の検討が進められている。
○震災以降、外国人コミュニティや外国人支援グループなどの特色ある活動が生まれてき
ているが、これらについては組織的・資金的に脆弱な団体が多く、活動継続のための支援
が求められている。
○外国人市民施策の最も基礎的なものである情報提供・相談に関しては、震災以降充実し
てきているが、情報窓口の一元化が課題となっている。
6.ボランティアやNPO・NGOが活躍するまち
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災では、のべ 130 万人といわれる、ボランティアやボランティアグループが全国から
駆けつけ、ボランティアの重要性が再認識された。また、被災した市民自らもボランティ
ア活動に取り組むなど、市民活動がかつてない盛り上がりを見せた。この流れが、平成
10 年 12 月の特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)の成立に結びついた。
○これまでの都市づくりにおいては行政が主導的な役割を果たそうとしてきたが、震災か
らの復興の中で、それには限界があるとともに、市民の持つ力の大きさも認識されるよ
うになってきた。市民に対するサービスには、行政だけでなく多様な供給主体がある中、
その大きな役割を担うボランティア・NPOをはじめとする市民の力が十分に発揮され
るよう、その活動を側面から支えることが重要である。
(2)その後の状況
○神戸市社会福祉協議会に登録しているボランティア団体数及びNPO法人数は年々増加
しており、特にNPO法施行後、NPOの活動領域はまちづくり、環境、芸術、文化など
極めて多様化し、広域性の高い分野で積極的な活動が続けられている。
○また、地縁型のNPOや震災を語り継ぐNPO、草の根NPOを支援する中間支援NP
OなどユニークなNPO団体も生まれている。
○NPO、NGO、行政がともに相互理解を図りながら協働の基本的な枠組みを検討して
いく継続的な場所として、平成 13 年度から「NPOと神戸市の協働研究会」を設置して、
検討が進められている。また、NPO・NGOへの事業委託、パートナーシップ助成など
の取り組みが行われている。
○しかし、ボランティア、NPO・NGOの多くは、現在もなお、経営基盤が脆弱であり、
独立性の担保に十分留意しながら、さらに活動への支援を行う必要がある。
32
第2節 都市活動分野
1.産業復興対策
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○復興が遅れている分野や産業構造転換の過程で生じる雇用不安などを防止するため、適
切な対策(セーフティネット)を講じる必要がある。(震災復旧融資の特例措置、復興支
援工場の運営等)
○ハード・ソフト両面の集積・ネットワークを生かした既存産業の高付加価値化と成長産
業の育成をバランスよく進める必要がある。“8 割復興”の言葉の中には震災前の状態を
目標にする姿勢が感じられるが、もはや震災前への状態への回復を目指すのではなく、21
世紀に向けて出発するという前向きの気持ちで新たな産業構造を創出していくことが大
きな課題となる。
○産業系の人材はその育成を大企業に依存していた面があるが、今後は、都市の様々な機
能を活用しながら進めていくことがもとめられている。ものづくり技術の継承・発展を
はかるとともに、ハイテク系、情報系、芸術系などの分野についても高度教育・研究機
能や交流、集積拠点の整備・充実を進めていく必要がある。
(2)その後の状況
○産業面のセーフティネットの観点から、震災復旧融資の据置期間・償還期間の延長や復
興支援工場の運営などの復興対策が継続されてきた。被災中小企業の資金繰りについては
依然厳しい状況にあり、平成 16 年度に向けては、震災復旧融資の据置期間・償還期間の
延長を行う必要がある。また、復興支援工場については震災からの時間の経過の中で入居
企業が徐々に減少してきており、被災企業を対象とした復興施策も見直しを迫られてきて
いる。
○産業構造転換に向けた対策の一つとして、復興特定事業への取り組みがこれまで進めら
れてきたが、当初から震災から 10 年を目処として実施してきた事業であり、その後のプ
ロジェクトの進め方については、個別に見通しを立てていく時期にきている。産業構造の
転換については、まだまだ道半ばという状況にある。
○震災 5 年時点で新たな課題とされた「人材育成機能の強化」については、神戸ものづく
り職人大学が開設されたほか、ブレインセンターの構築が始まったところであり、引き続
き進めていく必要がある。
○長引く景気低迷等による雇用問題は震災 5 年時点にも増して重要な課題となってきてお
り、神戸市においては「2 万人の雇用創出」の取り組みが始まった。今後とも、雇用対策
には継続して取り組んでいく必要がある。
33
2.新たな産業活力づくり
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○ベンチャー企業支援としては、イニシャルコストの抑制、情報の提供など、スタートア
ップしやすい環境・条件を整備していく必要がある。公共事業などにおいて、ベンチャー
を優先した受発注システムを検討する必要がある。交流会・商談会など、ビジネスチャン
スの拡大と情報交流・受発信に寄与する事業の拡充を図る必要がある。
○8 割復興からの新たな出発は、すべての産業分野にわたって均質にその機能強化をはかる
ことではない。現在の神戸のもつ力を十分に引き出すことができ、将来の神戸にとってふ
さわしい産業分野、経済機能を高めることである。そのためには、目標を絞り、そこに注
力していく“選択的集中”による高度化が求められる。今後、“選択的集中”のもとに育
成すべき産業の例として、情報通信関連産業、医療・健康・福祉関連産業、環境・エネル
ギー関連産業があげられる。
○震災直後、英国流のエンタープライズゾーンなどにならって、地域限定・期間限定で企
業に特別な優遇措置を講じる地域を設けるという復興施策が、学識経験者や被災地の経
済界・自治体から提案された。この構想に対して、国は民活法の被災地特例や、FAZ
法による特定集積地区の設定、オフィス賃貸料の補助などで支援したが、国税の被災地
特例については認められず、県・神戸市は、不動産取得税や固定資産税など自治体独自
で軽減が可能な優遇措置を中心に条例でポートアイランド第 2 期を対象に「神戸起業ゾ
ーン」(新産業構造拠点地区)を設置した。なお、ゾーン内で実験的に規制緩和を実施す
る提案についても、具体的な要望になっていないという理由で国は認めていない。
(2)その後の状況
○ベンチャー企業支援に関しては、阪神・淡路産業復興推進機構の事業などもあり、起業
家育成システムという形で体系的な支援が行われている状況にある。
○成長産業への選択的集中に関しては、医療産業都市構想が国の都市再生プロジェクトに
認定され、医療産業の集積拠点となる施策が集中的に実施されることとなり、研究施設等
の基盤整備が急速に進み、医療関連企業の進出が進むなど、一定の成果が生まれている。
○エンタープライズゾーンについては、その後、適用期限の延長、区域や対象分野の拡大
が行われ、復興基金を財源とする家賃補助制度などにより、産業集積は進みつつある。ま
た、国においては構造改革特区という制度が新たに設けられ、神戸市では平成 15 年 4 月
に「先端医療産業特区」及び「国際みなと経済特区」が、同年 11 月には「六甲有馬観光
特区」及び「人と自然との共生ゾーン特区(大都市近郊農業特区)
」がそれぞれ認定を受
けている。
○新産業の集積は一定進んでいるが、これらの新産業が神戸全体を牽引するまでには至っ
ていないのが現状である。今後、復興基金等の事業について震災 10 年を機に再構築し、
34
引き続き新産業が生まれやすい環境を確保していくとともに、医療産業都市構想をはじ
めとする成長産業の集積促進と地元企業との連携強化を進めていくことが必要である。
3.中小企業・生活文化産業の活性化
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○製造業の今後の復興・発展にあたっては、情報通信関連産業、医療・健康・福祉関連産
業、環境・エネルギー関連産業などの中核となる一般機械、電気機械関連分野をより付加
価値生産性の高い事業体へと転換していくとともに、商業・サービス業などの他産業、各
種の学術・研究機関との連携を強化していく必要がある。
○経営の合理化や集積による競争力強化が必要であり、工場・店舗の共同化・集団化、業
務機能の複合化を目指した合併も一つの方策として有効である。
○大手企業の協力工場として、高度な技術・技能の蓄積のある中小製造業が多いが、その
ほとんどで系列外取引先への営業開拓が進んでいないため、製品需要の減少や価格低下
に苦しむ事業所が多い。このため、販路の開拓に向けた情報化の推進や営業人材の育成、
集団受注方式の採用など自立に向けた支援方策を充実していく必要がある。
(2)その後の状況
○製造業では、神戸市機械金属工業会を中心に医療用機器開発研究会が結成され、開発、
販売に結びついている案件が出てきているとともに、高付加価値化に重要な産学連携につ
いても、様々な形で展開されている。また、生活文化産業においても神戸ブランドプラザ
や北野工房のまちを拠点として、ブランド化による高付加価値化が進みつつある。付加価
値の高い業種構成への転換に関しては、持続的な産業発展のためにいつの時代も欠かせな
い要素であり、今後も引き続き取り組んでいく必要がある。
○共同化・集団化等に関しては、アドック神戸などに代表される共同受注・開発実績があ
るとともに、医療産業に関しては共同受注・販売機能などの強化を図るため、
「神戸バイ
オメディクス株式会社」が設立されている。共同化等に関しては、販路の拡大の観点から
今後とも進める必要がある。
○従来からの系列取引に関しては、中小企業側から独り立ちしていく事例もあるが、昨今
では大手企業側が系列を維持できなくなってきている状況が生まれるなど、中小企業側
が好むと好まざるとに関わらず系列関係が希薄になる状況も発生してきている。しかし
ながら、全体としてみれば、大手と下請けという構造はまだまだ存在しており、中小製
造業の自立化が今後とも大きな課題である。
35
4.地域社会と連携した産業
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○地域商業・サービス業における復興の停滞は、震災という直接的な被害に加え、経営者
の高齢化や後継者の不在、需要の減少など構造的な課題によるものであり、事業意欲を失
った中小事業者が少なくない。このため、背後圏となる地域のまちづくりと連携しながら、
意欲のある事業者を再編成し、魅力ある商業集積を再生していく必要がある。
○地域住民の生活に密着した地場産業、地域商業・サービス業など中小事業所の事業活動
を支える新しい仕組みづくり、スモールビジネスの育成などを通じて自立した地域産業の
成長を促していく必要がある。また、コミュニティ経済の振興は、産業施策としてのみな
らず、市民生活や教育・文化などの機能とも密接に関連することから、地域全体としての
復興・まちづくりとの緊密な連携のもとに進めていく必要がある。
○農漁業に関しては、農水産物のブランド化、里づくりの推進が課題である。
(2)その後の状況
○意欲のある事業者への支援としては、イベント補助金に加えて、平成 13 年度にはコミュ
ニティ活性化に向けた取り組みに対する補助金を創設し、商店街全体で広くまちづくりに
取り組む地域の支援を始めた。また、一地域にとどまらず、市内全体のやる気のある商業
者が手を組んだ「やる気ネット・神戸」が設立された。しかしながら、全体としてみれば
意欲のある事業者の連携はまだまだ希薄であり、交流と情報発信を強化していくことが課
題である。
○コミュニティ経済に関しては、商店街・市場については、空き店舗活用支援制度を利用
して、チャレンジショップやコミュニティサロンなどが展開されてきたところである。ま
た、コミュニティビジネスについては、震災 5 年目以降も広がりをみせている。しかしな
がら、コミュニティ経済に関しては、持続的な活動を可能とするためにも、経済的な自立
性を高めていく必要がある。
○農漁業に関しては、里づくりが進むとともに、消費者との連携など、まちづくりと一体
となった展開が進みつつある。また、新規就農や雇用農業などの新たな課題も出てきて
おり、引き続きこのような課題解決を図っていくことが必要である。
5.神戸港などの広域交流基盤
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○国際的な競争力の向上をはかるため、港湾の利用促進に向けた取り組みを今後とも積極
的に進め、主力となるコンテナ貨物取扱量の確保を図る。また、港湾機能の集約・再整備
36
を図り、製造業・流通・集客産業などと結びついた新たな「都市機能」として再生してい
く。このほか、親水空間整備やまちづくりと連携した港湾施設の市民開放など、市民やま
ちづくりとの関係における港湾の新しい機能が求められる。
○神戸市は「海の港」を中心に発展してきた。この港湾はかつて人や文化・情報の窓口で
あったが、近年はその機能は物流中心のものに変貌してきている。このことから、今後
は「空の港」や「陸の港」としての広域的・複合的な拠点機能の強化を図り、海・空・
陸の総合的な交通ネットワークの形成を早急に進めていく必要がある。
(2)その後の状況
○神戸港の利用促進に向けて、ポートセールスや施設使用料の見直しなどが進められてき
たが、取扱貨物量については震災前の水準へ回復することはなく、トランシップ率も年々
低下している状況にある。その一方で、規制緩和により様々な企業の進出が可能となり、
従来にはみられなかった土地利用が進んでいる。また、親水空間整備については、神戸港
の西を親水ゾーンとすることが位置づけられ、ポートアイランド西地区の都市機能への転
換が進められつつある。今後、中国貨物等をターゲットとして取扱貨物量の回復を図ると
ともに、時代の変化に合わせた港の再構築を図っていく必要がある。
○総合交通体系の構築に向けては、神戸空港や広域道路ネットワークの整備が着実に進ん
でいる。今後、神戸空港の活用策の確立、広域道路ネットワークの充実を図るとともに、
空港開港後の海・空・陸の交通基盤の相乗効果を生かした都市づくりを具体的に図って
いく必要がある。
6.文化・芸術の振興
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災後は文化人を中心に新しい取り組みが始まっており、特にまちなかで市民が文化に
触れられるスポットづくりや、若い芸術家の活動拠点に対する支援の要望が高い。本来、
行政主導の文化育成には限界があり、箱物中心になったり、財政状況の影響を受けやすい
という欠点がある。文化活動のための環境整備などの支援を行政の主たる役割とするべき
である。
○産業、文化活動、まちづくり、いずれの分野においても、「神戸ならではのもの」「本物」
と呼べるものがなければ、すぐに他のところに取って変わられてしまうのであって、い
かにして独自化・集積化させていくかが鍵になる。
(2)その後の状況
○市民に根ざした神戸文化の醸成に関しては、旧神戸移住センターを活用した「CAP
37
HOUSE」が平成 14 年 5 月から常時開館し、新たな芸術の活動拠点になっているとともに、
平成 15 年 10 月には「兵庫津 NEO アルチザン工房」が新たに開設されるなど、若い芸術家
の活動拠点づくりが進んできている。また、市民の文化活動の場である区民センターにお
いても、東灘区民センター小ホールについて平成 13 年度から NPO に実験的に委託してき
ている。このような市民主体となった文化活動についてはさらに推し進めていく必要があ
る。
○「神戸らしさ」については、人によって捉え方が異なり一概には言えないが、震災後、
「神
戸らしさ」が薄れたとの指摘もある。震災から今日に至るまで「神戸らしさ」の再確認
が行われてきた状況にあるが、今後、神戸独自のものを確立させていくことが重要な課
題である。
7.集客観光都市づくり
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○神戸経済における観光関連産業の占めるウエイトは大きいが、比較的小規模な集客施設
が市内各所に散在しており、集客イベントについても一過性が強いため、近郊客が多く
宿泊客が少ない要因となっている。このため、広域来訪者を強く引きつけ、滞在性を促
進するホンモノの集客拠点・イベント群を今後形成し、京都・大阪と並ぶ関西観光の大
きな一角を占めることをめざすべきである。
(2)その後の状況
○観光入込客数については、震災 5 年目の平成 11 年度には、既に総数では震災前の水準を
上回っていたが、神戸港や六甲・摩耶などは 7 割程度の回復率であった。現在においても
市街地、須磨・舞子を除くと震災前の水準に回復していない状況にある。
○ホンモノの集客拠点の形成に向けて、有馬、摩耶・六甲などで観光関連施設の整備が進
められてきたが、広域来訪者を強く引きつけるという意味では、遠距離客の比率がむしろ
低下している状況にある。
○都市経済の中で、集客観光がますます重要な地位を占めるようになってきており、今後、
広域圏のみならず近距離圏も含めて、マーケティングに基づいた対策の充実を図ってい
くことが必要である。
38
第3節 すまい・まちづくり分野
1.復興まちづくりの中にみる知恵
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○都市計画事業については、個人の再建と都市計画・まちづくり、早期再建の要求と長期
を要する住民の合意形成の間では取り組みの姿勢にギャップがあり、行政と住民、地域
の住民同士の間で意見や評価が分かれた。特に震災直後の混乱のため、住民と行政の間
で意思疎通を欠いたという課題があったが、まちづくり協議会の設立・活動を通じて話
し合いを重ねることで、最初の対立から協働の方向に向かった。まちづくりは復興途上
であり、安全で安心なまちの再建への努力を継続していかねばならない。
○発意、計画段階からの住民参加を前提としたまちづくりから、法定都市計画に適切につ
ながるような仕組みの構築をめざす必要がある。
○分譲マンションの再建は、再建決議にいたる住民の合意形成をはじめ、資金調達、既存
不適格など、さまざまな課題に直面した。共同・協調建替も、資金調達や合意形成が容易
ではなかった。その他の住宅においても、資金・権利関係・接道条件などなかなかクリア
できない問題があった。住宅再建については一定の成果をあげているが、再建の努力を継
続していく必要がある。
○震災では多くのすまいを早期に大量に確保する必要が生じ、災害公営住宅も早期大量に
供給せざるを得なかったが、家賃低減措置の延長や地域との融合などの課題が残った。
(2)その後の状況
○都市計画事業については、まちづくり協議会方式を中心に着実に進められてきており、
それぞれの地区の特性に応じた取り組みがなされている。事業が終了する地区も出てきて
いる一方で、震災 10 年以降も継続する地区もあり、震災 10 年をひとつの節目に一定の目
処をつける必要がある。
○都市計画法の改正により、住民等からの提案制度が設けられたほか、課題認識の段階か
ら地元とともに検討する都市づくりの取り組みが始まっている。
○住宅再建については、支援施策の延長が行われるなか、権利者、関係者等の努力により
進められてきたところである。震災後 20 万戸を超える住宅が着工しており、量的な課題
は解消している。しかしながら、現状としては、供給過剰の側面も指摘されている。また、
分譲マンション再建の取り組みを教訓に、区分所有法の改正や関係法令の施行につながっ
た。
○災害公営住宅では、家賃低減措置について、入居後5年間のところをさらに 5 年間延長
され、本来の家賃体系へ段階的に移行しつつある。また、独居死などへの対応として、
39
地域見守りが推進されたほか、ひきこもり防止のためのふれあい交流事業等がなされて
きた。
2.安心して暮せるすまい・地域
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○超高齢社会を念頭に、高齢者や障害者のためのすまいとまちのバリアフリー対策を進め、
さらにソフトな対応にも配慮する必要がある。
○安全で安心なすまいを実現するためには、まず、住宅の性能と住環境について客観的な
評価が行われ、その情報が市民に公開されることが基本となる。すまい・まちづくりに関
わる専門家や事業者、行政などのネットワーク体制をつくり、住宅や住環境に関する情報
発信、知識の啓発に努める必要がある。
○住生活、ライフスタイルの多様化に対応した多様な住宅供給と住情報の提供、住み替え
に関する支援を行っていく必要がある。
○公的住宅を中心とする大量の住宅ストックを適切に維持管理するための総合的なマネー
ジメントが求められる。特に、まちの環境形成やコミュニティ形成に寄与するストック
として活用する必要がある。
(2)その後の状況
○平成 14 年に神戸市交通バリアフリー基本構想が策定され、これにあわせた整備も進んで
きたが、現在は、バリアフリーの考え方と併せ、さらに誰もが暮しやすい「ユニバーサル
デザインのまちづくり」の推進を図っていくことが必要となっている。
○被害を受けた建物の再建を通じて、新耐震基準前の建物の割合は減少しているものの、
平成 12 年度より制度化された耐震簡易診断の利用は進んでおらず、耐震改修に向けたさ
らなる取り組みが必要である。
○平成 12 年にすまいの総合拠点として「神戸市すまいの安心支援センター」が開設され、
相談・情報発信・普及啓発業務がスタートした。市民のニーズの変化に応じ、その機能の
拡充を図っていく必要がある。
○平成 12 年に「市営住宅マネジメント計画」が策定され、市営住宅の再編、改善が進めら
れている。良質な社会ストックとしての活用・運営を図っていく必要がある。
40
3.次世代につなぐ魅力ある都市空間
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○自律的なまちづくりによって、育ちつつある、地域の固有性に根ざした個性的なまちと
まちなみ形成をいっそう推進し、震災で損なわれたそれぞれの地域のイメージを回復し、
あるいは、新たにつくりあげる必要がある。
○これからの都市づくりには、単に利便性の高い都市空間を追求するだけでなく、地域の
特徴をいかした個性豊かな魅力あるまちを創っていくことが求められている。まちの美
化や緑化、飾花などの地域の取り組みを支援し、魅力あふれるまちづくりをより一層進
めていく必要がある。
(2)その後の状況
○まちなみが変わってしまった、神戸らしさがなくなったという意見とともに、地域らし
さを大切にしようという意見もある。また、景観形成市民協定など地域にふさわしい景観
を作っていこうとする取り組みもみられる。まちなみ形成は協働で取り組むべきものであ
り、景観形成に関する関心を高めていく必要がある。
○市民のまちに対する意識の向上を図るとともに、地域資源を大切にした地域の魅力づく
りなど、地域特性を活かしたまちづくりを支援していく必要がある。
○神戸の魅力・発展をリードするのは都心であり、神戸全体の活性化のためには、都心の
活性化が重要であると以前にもましてさけばれている。
4.環境にやさしい都市のすがた
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災により自然の厳しさを経験したところである。自然への畏敬の念を忘れず、自然と
の調和を図り、環境への負荷をできるだけ少なくすることにより、自然の恩恵・厳しさ
との共生を図っていく必要がある。
○都市における便利で豊かな市民生活を支えるため、日々大量の資源とエネルギーが消費
され、結果として廃棄物の増大や地球温暖化など環境に大きな負荷を与えている。地域
温暖化をはじめとする環境問題や資源枯渇の問題に対応するため、社会システムそのも
のの循環型への転換が重要であり、ライフスタイルやビジネススタイルそのものを変革
し、持続可能な都市をめざしていく必要がある。
(2)その後の状況
○市域の二酸化炭素排出量は、平成 10 年以降ほぼ横ばいの状況にあるが、家庭部門、業務
41
部門では大幅に伸びている。市民一人ひとり、またあらゆる事業者の取り組みが不可欠で
ある。環境について関心を持つ市民や事業者は着実に増えているが、関心の高い層だけで
無く、関心の無い層や関心の低い層も含めて、全ての市民・事業者をあげて取り組んでい
く必要がある。
○神戸市独自の簡易な環境マネジメントシステム審査登録制度である「KEMS」などの
取り組みも行われている。
○環境負荷を低減するために、公共交通の利用促進の取り組みも行われている。公共交通
を優先させる人と環境にやさしいまちづくりを進めていく必要がある。
5.市民主体の総合的な地域づくり
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○まちづくりのテーマは多様化しつつあり、ハードからソフトへ、整備から管理へという
動きもでてきている。協議会の組織自体も、恒常的なまちづくりを視野に入れた再編が始
まっている。縦割りの対応でなく、総合的な視点からのバックアップが必要である。
○従来の拡大基調の都市整備は、中心市街地の空洞化や環境問題などの弊害をもたらした。
経済が右肩上がりから停滞へ移行するなかで、少子・高齢社会を迎えて成熟都市となり、
都市はよりコンパクトなエリアでの機能向上が求められている。今後は地域に密着した
生活・活動により、まちの持続可能性をめざしていく必要がある。
(2)その後の状況
○震災復興事業の推進により事業が完了する地区も出てきており、地域の課題について、
ハードの整備から地域のマネージメント、コミュニティの形成等への変化が如実に表われ
てきている。引続き、協働で取り組む地域の活動を支援していく必要がある。
○神戸市外から多くの転入者が入ったため、今までのコミュニティ形成に変化が生じてい
る地区もある。
○地域の現状把握と行政の支援方策を検討するため、平成 11 年度からコンパクトタウンケ
ーススタディ調査が実施されている。現在 10 地区で検討が行われており、地域には様々
な課題があり、様々な地域活動が行われていることがわかった。また、地域活動を行う地
域団体の連携、地域間交流などの取り組みが出てきている。
○地域の個性を活かしながら様々な課題を総合的に解決していく、市民主体の総合的な地
域づくりを進めていく必要がある。
42
第4節 安全都市分野
1. 個人・地域での安全・安心の取り組み
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災前に比べ災害に対する備えをしている人の割合は増加しており、市民の災害に対す
る意識は向上しているが、今後、時間の経過とともに意識の低下が懸念されるため、この
ことを前提に今後の安全で安心なまちづくりを考えるべきである。
○防災福祉コミュニティの組織化が進んでいるが、地域が自律し、まちづくり活動を行う
ための行政との関係や、NPO等と地域が連携してまちづくりを進める仕組み等を検討す
る。
○市民安全まちづくり大学を地域でのまちづくり活動の進展にあわせ充実させるとともに、
地域のまちづくりを総合的に考え、実践することのできる人材づくりを進める。また、市
民防災リーダー・市民救命士等の専門知識を持った人材を継続的に養成するとともに、地
域のまちづくりの中で専門知識を活用できる環境づくりに努める。
○住民自身による地域の点検、安全マップづくり等を通じて、地域の情報を住民組織で把
握する動きがある。今後ともこのような動きが継続するよう支援していく必要がある。
(2)その後の状況
○市民の災害に対する意識は全国と比較して高いが、意識の低下傾向があることは否めず、
市民の防災意識を高める取り組みを継続的に行っていく必要がある。
○震災 5 年時点の平成 11 年度末に 120 地区であった防災福祉コミュニティの現在の結成数
は 182 となっており、組織づくりは順調に進んだ。しかし、組織化はしたものの活動が活
発でないところもあるほか、リーダーの高齢化や特定の人への負担の集中、コミュニティ
に対する市民の低い認知度など、課題も発生している。
○地域で中心となり活躍できる人材づくりについては、市民安全まちづくり大学(現在は
「こうべまちづくり学校(防災・防犯コース、コミュニティづくりコース)」)が引き続き
開催され、修了生のうちの希望者が市民安全推進員として登録されているほか、市民救命
士講習の受講者もこれまで 20 万人にのぼるなど、防災・防犯に関する専門知識を持った
人材が育ちつつあるが、知識を習得しても、地域で活用できる機会が少ないという課題も
ある。
○コミュニティ安全マップを作成している地区数は 111 であり、これは現在の防災福祉コ
ミュニティ数の約 61%にあたる。地域の危険な場所の情報や、防災資源の情報を地域で
共有化し、今後のまちづくりに活用するために、今後ともマップの作成を促進・支援し
ていく必要がある。
43
2. 都市安全マネージメント
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災時には、市役所庁舎が被災し、職員自身も被災したため、初動対応が遅れ、初期情
報の不足による被害状況把握の遅れが問題となった。また、震災後は、全国的・世界的に
自然災害をはじめとする大小さまざまな危機が発生している。このため、震災から得た教
訓を都市の危機管理に生かしていくことが必要である。
○災害発生時の対応の結果や、防災訓練の結果等をふまえ、地域防災計画の見直しを随時
行うとともに、増大する内容に対応できる活用のための工夫(電子文書化、マニュアルの
充実等)が望まれる。
○震災時、電話の輻輳等により、情報収集が困難となり、大量の情報需要への即時対応や
時系列的に変化する被災者ニーズにあったきめ細やかな情報伝達が問題となったため、
情報伝達体制の重要性は認識されているが、具体的な体制としては確立が遅れている。
多重性のある情報体制を確立するため、市民・事業者・行政の連携を進める必要がある。
(2)その後の状況
○近年、自然災害だけでなく、社会現象としての予測できない事故・事件・災害が増加し
ている。これらに対応するため、市では平成 14 年 4 月に「危機管理監」及び「危機管理
室」が設置された。また、平成 13 年 4 月には産学官による危機管理の研究の場として「神
戸安全ネット会議」が設立され、市民・事業者・市の危機管理体制が整えられ、その連携
も進みつつある。しかしながら、市の危機管理体制は災害発生後の対策に主眼が置かれて
いる面もあるため、今後は事前対策と初動対応を連携させながら、被害軽減に取り組むし
くみを構築していく必要がある。
○地域防災計画については、地震対策編に南海地震津波対策が追加されるなど、必要な見
直しが進められ、電子文書化もなされた。また、全市防災訓練等によりその実効性を確
保するための試みが行われている。今後、PDCA(計画・実行・評価・改善改革)サ
イクルの考え方を取り入れながら、見直しを図っていく必要がある。
○情報の収集・管理・伝達については、順次システムが稼動し、体制が整えられてきてい
るが、市では平成 15 年度に情報システムのあり方について検討が行われている。その結
果を踏まえ、今後、システムの見直し・整備等に取り組んでいく必要がある。
44
3.安全都市基盤
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○震災では道路網の整備、ライフライン等の耐震性能が十分でなかったため、救援・復旧
活動に支障をきたした。今後、広域的な道路ネットワークの整備や上下水道をはじめとす
るライフライン等の耐震化、消防水利の整備など、水やみどりを活用して、まちの安全性
を向上させていくことが必要である。
○安全都市づくりに必要な都市基盤の整備を進める際、整備の内容、必要性等について、
市民と行政が情報を共有するよう努める。
○学校等の公共建築物は、災害時には避難所等として利用されるため、耐震補強等による
耐震化を継続していく必要がある。
○震災の人的被害は、建物の倒壊、とりわけ老朽木造住宅の倒壊による圧死が多くを占め
た。また、震災後建設された建物でも耐震性・安全性に対する十分な配慮がなされてい
ない場合があり、震災以前の建物の耐震診断・改修も進んでいない。最も身近なところ
で生命を守るべき住宅が、人命を奪ったことを重く受け止めるとともに、住宅個々の安
全性向上がまちの安全性の向上につながるという視点に立った施策展開が必要である。
(2)その後の状況
○まちの安全性を向上させるため、上下水道等のライフラインの耐震化・多系統化や、水
とみどりのネットワークづくり等が進められている。また、広域道路網については明石海
峡大橋関連道路網の完成以降、平成 15 年4月に阪神高速道路北神戸線全線、平成 15 年8
月に神戸山手線(白川 JCT∼神戸長田 IC)がそれぞれ開通している。しかし、大阪湾岸道
路の整備が課題であり、今後も継続的に災害に強いまちづくりを進めていく必要がある。
○ワークショップによる道路や公園、せせらぎの整備など、市民・行政の協働による安全
都市基盤の整備が進められている。また、緊急時には災害復旧活動を行う拠点となり平常
時は地域の集会場や市民の憩いの場として開放される「河川防災ステーション」が整備さ
れている。このように、構想・計画から管理までの市民参加が可能で、身近に親しめる安
全都市基盤の整備が今後とも重要である。
○公共建築物の耐震化については、その進捗は遅れている。今後、平成 15 年度から 3 ヵ年
で、新耐震設計法導入以前に建設された小・中・高・養護学校の 924 棟のうち、既に診断・
改修済み、改築・統合等を除いた 770 棟の耐震診断の実施が予定されており、耐震性に問
題がある場合は、順次、耐震改修に着手していく必要がある。
○被害を受けた建物の再建を通じて、新耐震設計法導入以前の建物の割合は減少している
ものの、依然として耐震診断・改修は進んでいない。今後、地震ハザードマップ等を通
じて、耐震改修を促進していく必要がある。
45
4. 将来起こり得る災害への備え
(1)震災 5 年時点で指摘されていた課題
○平成 11 年度市民意識調査によると、神戸市に望む防災対策として、災害情報の公開・提
供に対する要望も多い。今後発生が予想される津波や水害等についての調査を継続して行
い、地域の危険に関する情報を公開していくことが必要である。
○復興が進み、まちの姿が落ち着いてきた段階で、その状況等(建物の耐震化・不燃化、
公園の整備等)を前提に被害想定を行い、地域防災計画を見直すことが必要である。ま
た、近年の気象状況の変化や、社会状況や都市構造の変化に伴う新たな災害への対応し
た地域防災計画の見直し、さらに、今後発生する可能性の高い大規模災害を想定した見
直しが必要である。
(2)その後の状況
○土砂災害危険予想個所図は平成 8 年から毎年梅雨期を前に全戸配布されていたが、平成
13 年 6 月からは市役所内にタッチパネルが設置された。さらに、平成 13 年 4 月からイン
ターネットによる雨量情報の提供も行われているほか、
「神戸 JIBANKUN」により、家を建
てる場合などに必要となる地盤情報が引き続き公開されている。また、平成 15 年3月に
は 2 地域で地域津波計画が策定されている。このように、安全に関する情報の公開は進ん
できているが、地震に関するハザードマップなど、早急に作成・公開が必要なものもあり、
今後も継続的に安全に関する情報を公開していく必要がある。
○地域防災計画については、今世紀前半に発生する可能性が高いと言われている南海・東
南海地震に対して、平成 14 年 6 月に「南海地震津波対策」が位置付けられるなど、必要
な見直しが行われてきている。今後も状況の変化に応じて、必要な見直しを図っていく必
要がある。
○南海・東南海地震に関しては、平成 15 年 7 月に法律が施行され、国レベルでの取り組み
が推進されている。南海・東南海地震は、長周期の揺れが長時間続くことなどの特徴か
ら、阪神・淡路大震災と異なった被害をもたらす可能性があり、今後の取り組みが重要
である。
46
第2部
分野別検証
第1章 市民生活分野
1.これまでの経緯
市民生活分野は、平成 11 年度に実施された「復興の総括・検証」において、
「神戸市復興
計画」の後半5か年に引き続き解決に向けて取り組むべき課題のひとつとして指摘された
市民の生活再建を対象としている。
前回の「復興の総括・検証」では、「生活の再建とは何を意味するのか」について、市民
参加型のワークショップを開催して検討した。その結果、生活再建の実感は「つながり」
「こ
ころとからだ」「行政とのかかわり」
「すまい」「まち」「そなえ」「くらしむき」の7つの要
素で構成されることが明らかになった。これら7つの要素の中の「つながり」「こころとか
らだ」「行政とのかかわり」についての検証結果を基に、当懇話会から市長に「市民の生活
再建についてはソフト面を重視し地域見守り活動の充実など多様な手法を用いて引き続き
支援する」旨の提言を行った。
また、復旧・復興へのプロセスにおける「市民力と地域力」の重要性が浮き彫りにされ、
その醸成のためには、市民・事業者・行政の「自律と連帯」がその鍵となることが確信さ
れた。それを踏まえて、提言の中で、具体的な提案として、
「自律と連帯の市民社会の構築」
「ヒューマン・サービスの質の向上」「市民主体の討議・検討システムの構築」を挙げた。
提言を受けて策定された「神戸市復興計画推進プログラム」では、
「生活再建を推進する」
ため、「地域活動の活性化」「市民一人ひとりの健康の増進や生活充実」
「市民との協働の新
しいあり方の展開」といった方向性が位置づけられている。このうち、
「地域活動の活性化」
に向けては、
「人と人とのつながりをつくる」「一人ひとりが地域の活動に参加する」「地域
のリーダーを育てる」「地域を支える仕組みをつくる」「地域見守りの体制を整備する」こ
とが求められている。また、「市民一人ひとりの健康の増進や生活充実」に向けては、「適
切な健康・医療サービスの提供」
「市民一人ひとりがスポーツや健康に取り組む」
「高齢者・
障害者等が自立して生活できるよう支援する」ことが求められている。さらに、
「市民との
協働の新しいあり方の展開」に向けては、「市民の活動を側面から支援する」「市民の参画
を進める」「行政サービスの充実を図る」ことが求められている。
現在、これらの方向に沿いながら、
「地域活動の活性化」
「市民一人ひとりの健康の増進や
生活充実」「市民との協働の新しいあり方の展開」により、市民生活の充実が目指されてい
る。
2.各節の構成
市民生活分野については、
「第 1 節
市民の地域における自律と助け合い」から「第6節
ボランティアやNPO・NGOが活躍するまち」までの6節で構成する。
「地域活動の活性化」については、
「第 1 節
47
市民の地域における自律と助け合い」で取
り扱っている。この節では、人と人とのつながりをつくること、一人ひとりが地域の活動
に参加すること、地域を支える仕組みをつくることといった切り口でまとめることとし、
地域活動の活性化、区行政の充実、学習機会の提供などについて記載する。
「市民一人ひとりの健康の増進」については、「第2節
市民一人ひとりの健康づくり」
で取り上げ、この節では、地域主体の健康づくりやこころのケア、アスリートタウンづく
りなど健康・スポーツ活動の拡大などについて記載する。
「市民一人ひとりの生活の充実」については、「第3節
せるまち」、「第4節
高齢者・障害者が安心して暮ら
子どもがいきいきと育ち、育てられるまち」、「第5節
外国人市民
が暮らしやすいまち」で取り上げている。
第3節は、高齢者・障害者の社会参画や介護保険制度、障害者支援費制度など、障害者・
高齢者が地域で自立して暮らせるまちについて記載する。また、高齢者等が安心して暮ら
せる地域見守り制度の整備についても記載する。
第4節は、子育てのための施設の地域開放や育児グループなどの市民相互の助け合い、地
域の協力を得た学校教育、さらには子育ちとして子どもの社会参画などについて記載する。
第5節は、外国人の生活環境の整備状況を踏まえた上で、外国人市民と日本人市民、外国
人コミュニティ同士などの交流や、外国人市民への支援などについて記載する。
「市民との協働の新しいあり方の展開」については、「第6節
ボランティアやNPO・
NGOが活躍するまち」と後述する第3部第2章第3節「市民・事業者と協働する行政の
かたち」で取り上げている。
第6節は、市民の多様化するニーズにきめ細かく対応しているボランティアやNPO等の
活動状況についてまとめることとし、NPO支援や新しい協働手法のあり方などについて
記載する。
各節を貫く考え方のひとつとして、前回の「復興の総括・検証」の中で重要性が認識され
た「自律と連帯」という考えを位置づけている。もうひとつの考え方として、震災からの
復旧・復興過程において、行政に加えて、民間企業、そして自治会、ボランティア団体、
NPOなどといった市民自治による市民社会組織が公共的活動を担ってきたことを踏まえ、
いわゆる「公共の再編」の考え方を位置づけている。これは、従前の「官・民」という枠
組みそのものを再構築して、市民社会組織までも公共の担い手と位置づけるものであり、
行政や民間企業に市民社会組織を加えた3者の協働で、地域ごとの最適化に向けて、社会
的課題の解決にあたり、
「自律と連帯」の実現を図ろうとするものである。
言うまでもなく、市民生活を考えるうえで、市民一人ひとりがそれぞれの違いを認め、尊
重し合い、各人の自覚と責任のもとに、共に生きる社会の実現という人権尊重の考え方は
基本となるものであり、また、本章以下の各分野においても根底となるものである。
以上の各節の主な関係を簡略化して図で示すと次のとおりとなる。
48
【市民生活分野の各節の主な関係】
第3節
高齢者・障害者が安
心して暮らせるまち
第4節
第2節
市民一人ひとりの健
子どもがいきいきと
育ち、育てられるまち
康づくり
第5節
外国人市民が暮らし
やすいまち
第1節
第6節
市民の地域における自律と助
ボランティアやNPO・NG
け合い
Oが活躍するまち
49
【他分野との関係(主なもの)】
市民生活分野
その他の分野
都市活動分野
第1節
市民の地域における自
律と助け合い
第2節
新たな産業活力づくり
第4節
地域社会と連携した産
業
第2節
市民一人ひとりの健康
づくり
第3節
高齢者・障害者が安心
第6節
文化・芸術の振興
第7節
集客観光都市づくり
すまい・まちづくり分野
して暮らせるまち
第1節
第4節
復興まちづくりの中に
みる知恵
子どもがいきいきと育
第2節
ち、育てられるまち
安心して暮らせるすま
い・地域
第5節
外国人市民が暮らしや
第5節
すいまち
第6節
市民主体の総合的な地
域づくり
安全都市分野
ボランティアやNP
第1節
O・NGOが活躍するまち
個人・地域での安全・
安心の取り組み
第2節
都市安全マネージメン
ト
第4節
の備え
50
将来起こり得る災害へ
第1節 市民の地域における自律と助け合い
1.ねらい
震災時の地域での助け合いの経験から、人と人とのつながりの重要性を強く再認識し、
日頃からの人間関係が不可欠であることを改めて実感した。しかし、恒久住宅移行後に「つ
ながり」が失われるケースが発生している。
地域社会は市民が日常生活を営むうえでかけがえのない場であり、そこでの地域活動の
活性化は市民生活にとって重要な要素である。
市民が地域レベルで、それぞれが自律し、また地域で助け合うまちづくりを行っていくた
めに、人と人とのつながりをつくること、一人ひとりが地域の活動に参加すること、地域
を支える仕組みをつくることが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
人と人とのつながりをつくること
○地域でのつながり(連帯感)が大切であるという市民の意識が高い。
平成 15 年度神戸市民1万人アンケートの集計結果によると、震災によって隣近所などの
他人との結びつきを大切に思うようになった人の割合は、55.6%となっている。これは、
平成 11 年度の結果(60.7%)と比べると多少下がっているものの、全国では約4割という
調査結果もあることから、地域でのつながりについて、神戸の市民意識は高いといえる。
70%
60%
H11時事通信社全国世論調
査結果
神戸市H11年調査
50%
40%
30%
神戸市H15年調査
20%
10%
51
自分の欲求がかなわなく
ても仕方がない
ものに対する執着心をあ
まり持たなくなった
人のために役立ちたいと
思うようになった
困っていることはみんな
で考えて解決すべき
将来に対して備えを十分
にすべき
他人との結びつきを大切
に思うようになった
0%
自治会連絡協議会ワークショップでの意見
「みんなの協力心が強くなった。各種団体同士、横の連絡が通じるようになった。自治会
員が仲良くなった。助け合う気持ちが強くなった。」
婦人団体協議会との意見交換会での意見
「震災後の考え方や行動の変化としては、他人との結びつきが大切で、困ったことがあれ
ば地域で考え、みんなで助け合い、将来への備えが大切である。」
また、全市ワークショップの結果では、「あなたにとって震災復興とは?」というテーマ
で、「地域や家族のつながり・助け合い、ボランティアが大切である」という回答が、意見
数でも参加者による優先順位付けでも1位という結果であった。
一人ひとりが地域の活動に参加すること
○少数の協働・参画積極層が地域活動を担っている。
平成 14 年度神戸市民 1 万人アンケートの集計結果によると、まちへの愛着度や地域との
関わりなどへの積極性についての回答から、少数の協働・参画積極層が地域活動を担って
いることが把握された。また、地域の課題を解決していくために必要なこととして、「近所
でのふだんからのつきあい」が最も高く、
「市民一人ひとりが地域の活動に関心を持つこと」
「活動に参加できるゆとりや時間」
「役員まかせにせず一人ひとりが責任感をもつこと」が
比較的高くなっている。
自治会連絡協議会ワークショップでの意見
「ボランティアする人が増えたが、リーダーが不足している。」
地域を支える仕組みをつくること
○ふれあいのまちづくりでは、住民自ら取り組む機運の高まりや、活動分野の広がりが見られる。
高齢化・少子化・過疎化などそれぞれの地域特性により、地域ニーズが異なるため、地
域課題に対応しようとする住民の取り組みも多様化した。その中で震災により、ひとりぐ
らしの高齢者を地域から孤立させないためのふれあい交流事業などが活発になった。また、
地域の問題に住民自らが取り組む機運の高まりが見られ、高齢者を地域で支える活動、地
域ぐるみの子育て、防災、環境、教育など活動分野が広がった。ふれあいのまちづくり以
外でも、地域の自治会館、財産区の会館、生活文化会館等でも地域活動が行われている。
平成7年度 助成対象協議会数 142 件(約 370 万円)⇒
平成 14 年度 645 件(約 2,400 万円)
52
ふれあいのまちづくり事業についての市政アドバイザー調査での意見
「若者が参加できる企画がない。若い世帯にもPRして、参加の企画をつくるべき、活動
している人は一握りの運営者と参加するだけの人になっている、地域福祉センターでの活
動にとけこむきっかけがほしい、子どもと親が一緒に使えるようなきっかけが必要。」
○民間レベルでの地域活動への支援が積極的に行われている。
市民運動を民間の側から支援するため、寄付金などを原資として、助成基金が相次いで
設立された。具体的には、「阪神・淡路ルネッサンス・ファンド(HAR基金)」は住民の
自主活動・自主組織への支援等を対象に助成を行った。また「コープともしびボランティ
ア振興財団」は主に福祉分野のボランティア活動への助成を行っている。さらに、「こうべ
まちづくり六甲アイランド基金」は、神戸における国際的かつ文化的なコミュニティづく
りに資する事業や活動への助成を行っている。このほか、NPO法人「しみん基金・こう
べ」は、市民活動の基盤づくりを公的な援助のみに求めるのではなく、市民・企業市民が
自発的に寄付を出し合って市民の公益的活動を支えることを目的に設立された。
平成8年 10 月に発足した「生活復興県民ネット」は被災地の1日も早い生活復興を目指
して、各種団体、ボランティアグループ、企業、個人が幅広いエネルギーを結集したグル
ープで、地域活動の担い手づくり、仲間づくりを目的とした「地域活動推進講座」を開催
する団体への助成をはじめ、地域活動スキルアップ講座の開催や、地域活動ステーション
事業などを実施している。
○区行政の充実が図られている。
【区の個性をのばすまちづくり事業】
市民の身近な窓口である区役所によって、区民とともに区の特色・個性を生かしたまちづ
くりを進めるため、「区の個性をのばすまちづくり事業」や各局との連携を図りながら区民
との協働のまちづくりを進める「地域の力を活かしたまちづくり事業」が実施されている。
区独自予算の推移(単位:千円)
年度
区独自予算
区の個性(内数) 地域の力(内数)
平成 12 年度
217,000
100,000
−
平成 13 年度
267,000
100,000
50,000
平成 14 年度
267,000
100,000
50,000
平成 15 年度
405,000
190,109
115,410
【まち育てサポーター制度】
福祉・環境・まちづくり・教育・文化など、市民主体の地域づくりを総合的に推進するた
め、経験や知識を有する民間の人材が「まち育てサポーター」として各区に配置されてい
る。各区計 13 名(平成 15 年度)
53
【区の地域提案型活動助成制度】
地域自らが企画し取り組む地域課題の解決や地域魅力の向上などを目指す活動について、
区独自の助成事業により、地域支援を行っている。
○大学等高等教育機関の公開講座が充実してきている。
近年、大学等高等教育機関では公開講座が拡充強化され、神戸市内のすべての大学で公
開講座が実施されている。また、学園都市では7大学1高専がユニティ(大学共同利用施
設)において、市民向けの公開講座を行っているほか、兵庫県においても三宮で大学連携
「ひょうご講座」を開設している。このほか、汎太平洋フォーラムでも、学長講座をはじ
め、各種市民向けの講座が開催されている。
「第4回学長との懇談会」での意見
「地域貢献の形として、1つは地域への人材供給、1つは研究成果の地域還元だと考えて
いる。(甲南女子大学)」、「地域の人を無視して大学の日常は成り立たない。公開講座や行
事のときだけではなく、日常的に顔見知りになることが大切。(神戸常盤短期大学)」
神戸市/大学等高等教育機関の公開講座・生涯学習関係委員会(研究会)の状況
前回調査(H6)
今回調査
公開講座(有り)
57.7%
100.0%
生涯学習関係委員会(有り)
26.1%
78.3%
神戸市生涯学習振興調査結果報告(平成 14 年 6 月)より
○学習・研究を行った人の割合は、大都市で上位にある。
平成8年社会生活基本調査によると、過去1年間に何らかの学習・研究を行った人は
45 万8千人で、10 歳以上人口に占める割合(行動者率)は、36.2%と、13 大都市のうち、
3番目と上位にある。
「学習・研究」の行動者率
大都市比較
【平成8年度】
【%】
東京
神戸
札幌
仙台
千葉
川崎
横浜
名古
京都
大阪
広島
福岡
北九
市
市
屋市
市
市
市
市
州市
都区
市
市
市
市
部
36.2
30.8
35.6
37.0
35.1
36.0
37.6
30.7
32.9
28.6
32.3
36.2
28.5
③
⑩
⑥
②
⑦
⑤
①
⑪
⑧
⑫
⑨
③
⑬
54
市の主な取り組み等
○地域を支える仕組みをつくること
○区行政の充実
・ ふれあいのまちづくり
・ 各区に「まち育てサポーター」を配置
・ まちづくり協議会
・ 区役所におけるまちづくり支援機能の強
化
・ 防災福祉コミュニティ
・ エコタウン
・ 区の個性をのばすまちづくり事業
・ 里づくり協議会
○学習機会の提供
・ コンパクトタウン
・ KOBEまなびすとネット
・ 神戸まちづくり学校
・ PTA家庭教育アカデミー
・ 「協働と参画のプラットホーム」の設置
・ 生涯学習支援センター
・ パートナーシップ活動助成
・ マナビィひろば
・ 神戸総合型地域スポーツクラブ
・ あじさい市民大学
3.これからの取り組み(方向性)
○地域の課題解決に向けた地域活動の活性化
平成 14 年度神戸市民1万人アンケートの集計結果において、「地域活動の活性化」のた
めには、
「地域の役員まかせにしない」
「地域行事の実施」
「地域の組織づくりを進める」
「若
年層の参加率を高める」ということが重要であることがわかった。地域組織の運営につい
て若者の参画を得るためには、例えば、イベントなどの企画・運営から実施までを若年層
に任せる、また小学生の段階から地域活動に参画してもらい、意識付けを行うことなども
一つの取り組みとして重要である。
自治会連絡協議会のワークショップでの意見
「自治会などコミュニティ活動の後継者養成によってコミュニティ意識を高める。若い人
の参画を図り、リーダーを育成する。若い人材の発掘など。世代をこえて集まれるイベン
トを計画する。」
婦人団体協議会との意見交換会での意見
「小さなイベントでもみんなが自覚して集まってこそ地域活性化につながると思う。イベ
ントの進め方は、地域団体が主になり行政との協働で参画していきたいという多数の意見
があった。」
また、地域の共有物や共同利益について「我がこと」と感じることが協働と参画のまち
づくりの要素であることから、例えば、地域の公園について、多くの人を結ぶ場所になる
よう、住民が公園に集まってきたくなるような仕掛けづくりを考えていく必要がある。
55
自治会連絡協議会のワークショップでの意見
「共通の利益を設定し、その実現に連携する。地域の歴史と自然の資源を活用する。地域
の歴史を再発見する。」
地域課題の存在により地域に対する住民の関心が高まる上で、例えば、北須磨団地で行
われている「あいさつ運動」や盆踊りなどの地域行事をはじめ、地域全体で凝集性を高め
る取り組みが重要である。特にあいさつは、心の通う家庭づくりや地域などの人間的なつ
ながりをつくる大切なものであり、人と人とのコミュニケーションの原点でもある。北須
磨団地に加えて、灘区赤坂地区で「防犯見張り番」という活動の取り組みが始まり、これ
らの活動は地域の犯罪防止だけでなく、地域の人同士や大人と子どもたちとの関わりを深
めることにも資することから、今後、市内各地で展開されることが望まれる。
行政としても、今後、地域組織が自律的に活動できるよう、地域課題の解決に役立つ情
報やノウハウの提供、民主的な合意形成の手法の紹介など、コミュニティの機能強化に対
するさらなる支援が必要である。また、多様な世代が共有できる空間としてふれあいのま
ちづくり協議会が活動するために、情報開示、PRなどにより地域に広く関心を持っても
らう必要がある。
また、地域振興を行うための組織づくりや資金調達について、北須磨団地における兵庫
労働金庫による自治会費徴収と自治会の運営や、南落合における警備員雇用などの事例が
見受けられる。このような先駆的な取り組みの成果を踏まえ、さらなる展開について検討
していくことも必要と考えられる。
○区行政のさらなる充実
まち育てサポーター制度が平成 14 年度からスタートし、各地で地域活動の活性化支援を
行っている。この機能をさらに拡充するとともに、コンパクトタウンケーススタディ地区
において地域の事務局の存在が活発な地域活動を下支えしていることから、地域活動の担
い手に悩んでいる団体に対して地域力強化のための側面的支援を行っていく必要がある。
市民と協働してまちづくりを展開するため、市民に最も身近な市政の窓口である区行政
のさらなる充実を図っていく必要がある。例えば、地区担当職員制度の導入や各区におけ
るプラットホーム機能の充実を図っていくことも一つの方策である。
○行政の縦割りから地域横断へ、地域の活動の度合いに応じた支援
ふれあいのまちづくり事業をはじめとする地域団体への助成については、地域ニーズに
より対応したものとなるようにするとともに、各局が縦割りで行っている助成について整
理・統合を行うことにより、地域の活動に応じた支援を行っていく必要がある。
56
○様々な学習機会による多様なコミュニティの構築
個人の価値観が多様化する中で、趣味やサークル・スポーツクラブ等多様で複合的な人
のつながりが生まれてきている。趣味やスポーツ、子育てや介護、ボランティア等様々な
学習や活動を通して、多様なコミュニティの構築とまちづくりを進めていくことが大切で
ある。これらの市民活動を促進し、コミュニティを活性化するためには、市民の自主性を
尊重するように活動支援のあり方を工夫するとともに、地域施設の運営についても市民と
の協働の視点が必要である。
○生涯学習をとりまく環境の変化に対応した取り組み
これまでの生涯学習施策の課題を踏まえ、従来の個人型学習から、仲間づくり、コミュ
ニティ・まちづくりへとつながるものにすることが必要である。
これまで全ての学習分野にわたって市民ニーズに対応しようとしてきた行政主導型から、
今後は学習内容に応じた民間教育事業者との連携・役割分担や大学等高等教育機関との連
携を図るパートナーシップ型にしていくことが必要である。
57
第2節 市民一人ひとりの健康づくり
1.ねらい
震災による甚大な被害は、特に高齢者・障害者・児童といった援護を必要とする市民へ
大きな影響をもたらし、その結果、保健・医療・福祉サービスへのニーズも急増した。し
かし、市民の生活がそれなりに落ち着きを取り戻すにつれ、こころのケアをはじめとする
幅広いニーズが発生し、市民一人ひとりがこころの面を含めた健康の増進が重要であると
わかった。そのためには、適切な健康・医療サービスの提供、市民一人ひとりがスポーツ
や健康づくりに取り組むことが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○震災後、健康づくりをきっかけにコミュニティの形成や地域の見守りにつなげた。
震災後、避難所から応急仮設住宅、そして災害公営住宅へと、多くの被災市民が住みな
れた地域やコミュニティから離れた場所で生活することを余儀なくされた。とりわけ高齢
者にとって、急激な生活環境や人間関係の変化に対応することが困難な事例が増え、閉じ
こもりや外出機会の減少等により、ADL(日常生活動作)の低下や痴呆症状を発症又は
進行するケースなどが目立ってきた。その対応として、神戸市では全戸訪問や健康体操、
機能訓練教室などが実施されている。この活動は健康という誰もが参加しやすい切り口で、
様々な年代でも参加できるよう工夫されているもので、健康づくりをきっかけに、コミュ
ニティの形成や地域の見守りにつなげていく事業としても実施されている。
今後、超高齢社会を迎える中で、地域主体の健康づくりは、国の健康日本21でも謳わ
れており、それを先取りする形で神戸が実施したものといえる。
健康づくりグループ交流会での意見
「グループのいいところは、仲間と知恵を出し合ったり、仲間との約束や応援で活動が続
けられること。」
、「歩きながら緑道のゴミ拾いなど地域の清掃を心がけている。」
【具体的な健康づくりグループの活動】
・ 菜の花グループ(垂水区)
基本健康診査の事後指導教室終了メンバーが自主グループとして結成。月2回のウォ
ーキングなど健康づくりに取り組んでいる。メンバーの感想「新しいおしゃべりの場
ができた。一人では継続が難しいが、仲間と一緒で同じ目標ができた。」
・ 花山いきいきサロン(北区)
花山ふれあいのまちづくり協議会が主体となり月2回の健康体操とレクリエーション
を中心とした活動を行っている。メンバーの感想「参加して自分の健康に対する意識
の向上が見られた。地域のふれあいの場となり、年齢を超えた交流ができ、仲間が増
えている。」
58
○神戸の地形を生かした健康づくり運動が行われている。
神戸は大都市でありながら、六甲山や瀬戸内海等、自然に恵まれている。また歴史的建
造物など、歩くことも楽しめる街並みも備わっている。神戸では六甲山を中心として市民
文化として古くから登山会活動が行われており、また六甲山全山縦走などのイベントによ
る健康づくりが行われている。例えば、創立 80 周年を迎えた「神戸ヒヨコ登山会」は、会
員数約 1,000 人で市内でも最大の登山グループである。歩くことを通して市民の健康増進
に寄与するほか、山の緑化活動や美化清掃などにも積極的に取り組んでいる。「毎日登山」
は街のすぐ背後に六甲山が迫る、まさに神戸ならではの活動であろう。
神戸ヒヨコ登山会会員の声
「1∼2 時間でも毎日登っていると、健康に良いだけでなく仲良しグループもできて色々と
情報のやりとりができる。自然とお互いに見守り活動をしているようなものだ。
」
○こころのケアの取り組みが進められている。
震災に起因するPTSD(心的外傷後ストレス障害)の予防や、情報提供等被災者のこ
ころのケアを図るため、震災直後には避難所内の救護所等で精神科救護所の設置、また仮
設住宅敷地内での「こころのケアセンター」の設置が行われた。平成 13 年度からは「ここ
ろの健康センター」が開設され、精神保健の向上等の取り組みが行われている。
また、民間レベルでは、親を亡くした子どもたちの支援を行っている「あしなが育英会」
が震災遺児のこころのケアのため「レインボーハウス」を運営している。
○神戸アスリートタウンづくりの取り組みが市民・NPO、事業者の連携のもと進められている。
子どもも高齢者も、障害者もトップアスリートも、すべての人がそれぞれの価値観・技
術レベルに応じて、スポーツを楽しみ、健康づくりができる神戸アスリートタウンの実現
に向けた各種事業や普及啓発などが実施されている。
多聞台わくわくスポーツクラブ会員のインタビューでの意見
「仲間がたくさんできて週1回の活動が生きる張り合いになった。クラブの練習・試合が
終わったあと、お茶を飲みながら話をするのが楽しみ。」
総合型地域スポーツクラブ結成状況
クラブ数
会員数
大人
高校生
中学生
小学生
平成 13 年 11 月
24
6,416
2,688
95
166
3,467
平成 14 年 11 月
41
10,233
4,267
123
229
5,614
平成 15 年 11 月
86
22,595
9,174
190
497
12,734
59
○スポーツを行った人の割合は、大都市で高い状況にある。
平成8年社会生活基本調査によると、過去1年間に何らかのスポーツを行った人は
100 万7千人で、10 歳以上人口に占める割合(行動者率)は、79.7%と、13 大都市のうち、
5番目である。これは一番高い広島市と 2.0 ポイントの差である。
「スポーツ」の行動者率
【平成 8 年】
大都市比較
【%】
東京
神戸
札幌
仙台
千葉
川崎
横浜
名古
京都
大阪
広島
福岡
北九
市
市
屋市
市
市
市
市
州市
都区
市
市
市
市
部
79.7
79.4
80.3
79.6
77.5
81.4
80.0
75.8
75.5
74.6
81.7
79.1
72.6
⑤
⑦
③
⑥
⑨
②
④
⑩
⑪
⑫
①
⑧
⑬
市の主な取り組み等
○健康こうべ21の推進
○各区子育て支援室
○健康コミュニティづくり支援事業
○健康教育・健康相談
○アスリートタウン構想
○各種健診事業
・神戸総合型地域スポーツクラブの育成
・ウォーキングタウン
・リコンディショニングの普及・啓発
・トップアスリートと市民の交流
・アスリートタウンウィークの実施
・御崎公園の整備
など
3.これからの取り組み(方向性)
○子育て世代の健康支援
平成 14 年度神戸市民1万人アンケートの結果から、20 歳代、30 歳代の世代、また勤労
者にとって、日常的に運動やスポーツを行っていない傾向が見られる。このような世代へ
のアプローチを企業等と連携することによって、健康づくりへの働きかけを行っていく必
要がある。
○健康づくりに関する情報公開・機会提供
平成 13 年度神戸市民1万人アンケートの結果では、健康のために日頃から行っているこ
とという設問に対して、5割近くの人が「適度な運動」を「必要だと思うができていない」
と回答している。また、それ以外の「必要だと思うができていない」と回答のあった項目
の上位は、「健康づくりに関する知識や情報の収集」(39.5%)、「定期的な健康診断の受診」
(33.4%)となっている。これらの意識はあるが、できていない市民に機会を提供するな
60
どといった工夫を行う必要がある。
○NPO・事業者・地域との連携・協力の強化
「神戸総合型地域スポーツクラブ」の結成が順調に進んでいるが、この活動を通じて住
民交流が図られ、地域でのつながりが強まることが考えられる。市民による健康・スポー
ツ活動の拡大を図るために、NPOや事業者と連携・協力を強化していく必要がある。
スポーツNPO法人(神戸アスリートタウンクラブ)に対するインタビューでの意見
「市民が身近にスポーツに親しめる環境づくりとして,小学校を拠点に「神戸総合型地域
スポーツクラブ」の結成が順調に進んでいる。クラブ活動を通じて住民交流が図られてお
り,地域でのつながりが強まることを期待する。これまで,学校開放や青少協活動などの
素地のある地域での結成が中心であったが,今後,地域のまとまり等の素地が比較的弱い
と思われる地域での結成が課題。」
○プロスポーツ等との接点による市民のスポーツ活動の拡大
神戸には、オリックスブルーウェーブ、ヴィッセル神戸といったプロスポーツチームの
本拠地があるとともに、神戸製鋼、ワールドや久光製薬といった社会人スポーツチームの
本拠地もある。市民がこれらのスポーツを観戦したり、交流を図ることにより、選手を身
近な存在として感じることは、特に小学生、中学生、高校生などの若年層のスポーツ活動
の底辺拡大のきっかけづくりにつながるものとして期待される。
○市民による健康・スポーツ活動の拡大
市民による健康・スポーツ活動の拡大を図るため、スポーツ産業振興を図るとともに、
健康・スポーツをテーマとし、「アスリートタウンづくり」と「医療産業都市構想」が連携
し、市民の健康を守り、関連産業の育成をめざす「健康を楽しむまちづくり」を今後推進
していく必要がある。
○身近なテーマによる健康づくり
健康づくりは市民にとって身近で関心の深い分野である。特に健康づくりに大切な適切
な運動と食生活は、市民にとって身近なテーマである。これら身近で市民が共有できる目
標を今後のまちづくりのテーマとして検討していく必要がある。
「第4回学長との懇談会」での意見
「まちづくりの基本は健康。21 世紀はケア(治療)の時代。キュアもケアに包含されなけ
れば超高齢化社会を乗り切れない。(神戸市看護大学・同短期大学部)」、「高齢化社会を迎
え、皆が健康にすごせるまちづくりを進めていくべき。(神戸学院大学)」
61
第3節 高齢者・障害者が安心して暮らせるまち
1.ねらい
高齢者、障害者がいつまでも住み慣れた地域で安心・安全に暮らしていくためには、高齢者・
障害者が自立して生活できるよう支援することが必要である。
高齢者等が充実した生活を送るためには、健康であることだけでなく、生きがいを持って毎
日を過ごすことも重要である。趣味や特技、あるいは、これまでの人生経験を社会に還元する
という視点から、高齢者をはじめとする市民の地域活動への参加や、地域の中で生涯学習がで
きる環境をつくることが必要である。
また、災害公営住宅等での閉じこもり防止や地域住民間の交流に大きな効果があった単身高
齢者等に対する見守りシステムを全市展開するとともに、地域住民自らによる見守りを促進す
ることが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○高齢者の約3分の1がボランティア活動への参加意向を示している。
神戸市高齢者生活実態調査(平成 12 年9月実施)によると「今後、ボランティア活動に参
加したいと思われますか」という設問に対し、「非常に参加したい」、「機会があれば参加した
い」という回答はそれぞれ 1.6%、31.2%であった。
問
あなたは、今後、ボランティア活動に参加したいと思われますか。
非常に参加したい 機会があれば
参加したい
(N=7528) 1.6
0
参加したくない
あまり参加したい
と思わない
31.2
20
12.6
30.8
40
60
その他
無回答
10.5
13.3
80
100 (%)
○社会的活動を行った人の割合は、大都市でも3位と震災後高くなった。
平成8年社会生活基本調査によると、過去1年間に何らかの社会的活動を行った人は 31 万
1千人で、10 歳以上人口に占める割合(行動者率)は、24.6%と、13 大都市のうち、3番目
と高い。平成3年の同調査では、9番目であり、震災を契機に社会的活動が活発になったとい
える。(ただし、平成3年の行動者率は 15 歳以上人口の数字である)
62
「社会的活動」の行動者率
大都市比較
【%】
東京
神戸
札幌
仙台
千葉
川崎
横浜
名古
京都
大阪
広島
福岡
北九
市
市
屋市
市
市
市
市
州市
都区
市
市
市
市
部
平成
24.6
19.6
26.3
20.0
16.8
20.5
19.7
18.6
18.3
19.3
26.7
23.8
20.6
③
⑨
②
⑦
⑬
⑥
⑧
⑪
⑫
⑩
①
④
⑤
21.8
23.8
30.6
17.8
22.7
24.2
20.3
22.9
20.7
29.8
28.3
24.8
⑫
⑧
⑤
⑪
⑦
⑩
②
③
④
8年
平成
3年
−
⑨
⑥
①
○高齢者の社会活動について、約 15%の市民が学習や教養を高めるための活動を行っている。
神戸市高齢者生活実態調査(平成 12 年9月実施)によると、社会活動について、
「何も参加
していない」が 57.3%と最も多くなっている。参加している活動では「学習や教養を高める
ための活動」
(14.4%)が最も多く挙げられ、次いで「自治会や町内会の活動」が1割を超え
る回答を得た。
○高齢者は、一般教養やボランティア活動への参加割合が高い傾向にある。
生涯学習振興調査(平成 14 年6月実施)でも、全体的には地域での各種活動への参加率が
61.1%と高い結果であったが、特に高齢者では、65−69 歳は 79.8%、70−74 歳は 78.9%と高
い傾向にある。また高齢者では、一般教養やボランティア活動への参加割合が高い傾向が見受
けられた。
○震災を契機に、各種生涯教育を受講した高齢者などが、各種ボランティア活動に取り組んでいる
事例がある。
各種ボランティア活動のきっかけとして、阪神・淡路大震災で、これまで築き上げてきた街
並みや財産の多くを失った一方で、
「命の尊さ」や避難所・仮設住宅などで芽生えた助け合い、
ボランティア活動等による「人と人とのつながりの大切さ」を気づいたことが挙げられる。
・ 老人クラブ
震災後の重点事業として取り組んでいた「高齢者相互支援事業」と「会員増強運動」を引
き続き実施している。また、平成 12 年度からは、介護予防という観点から「健康づくり
事業」を最重点事業として、「モデル活動事業」や「会長研修」・「リーダー研修」の中で
の健康づくりの推進、老人スポーツ大会などの運動による健康づくり事業に取り組んでい
る。そのほか、世代間交流事業等も実施している。
老人クラブのインタビューでの意見
「今後の老人クラブの方向性としては、子育て支援、地域見守りを強化していきたい。」
「若い 60 代の入会が少ない。会員の増強と後継者づくりが課題。」
63
・ こうのとりグループ
神戸婦人大学福祉学部に学ぶ受講生が目の不自由な人への「声の地図づくり」をしている。
・ グループ“わ”
シルバーカレッジの卒業生が活動主体となり、平成 9 年 7 月に設立。現在約 900 名の会員
が全市でボランティア活動を実践している。
シルバーカレッジ在学生、卒業生のインタビューでの意見
「シルバーカレッジに入学して仲間づくりの大切さがわかり、結果として地域での交
流活動に参加するようになった。」「震災時のボランティア活動をきっかけに、シルバー
カレッジの知識を社会に還元する必要性を痛感。グループ“わ”を立ち上げた。
」
・ 地域での「読み聞かせ活動」
・ ひまわりの会(ボランティアによる識字教室の活動)
など
○介護保険制度は制度として定着し、概ね順調に推移している。
介護保険制度は、制度発足後約3年半経過したが、サービスの利用状況も年々増加し、制度
として定着し、概ね順調に推移している。利用しているサービスの質に対する満足度は、満足、
ほぼ満足を合わせると、評価《質》の上位は「ケアプラン作成」(91.8%)、
「短期入所生活介
護」(88.4%)、
「福祉用具の購入費の支給」(84.4%)、
「短期入所療養介護」
(82.3%)、「訪問
入浴介護」(80.9%)の順に満足度が高く、無回答者を除くと満足度はいずれも 90%を超えて
いる。
○特別養護老人ホーム以外に、高齢者の実態に応じた高齢者施設が整備されている。
介護保険制度の発足前から、介護保険施設の整備が進められてきているが、特別養護老人ホ
ーム以外に、デイケア機能などの在宅支援機能を強化した老人保健施設をはじめ、家庭的雰囲
気のもとで介護を受ける痴呆性高齢者グループホーム、さらには介護機能型ケアハウスなど、
さまざまな形態の介護機能を持った施設整備が行われている。また、民間事業者により有料老
人ホームやケア付マンションが整備されている。
○権利擁護のニーズが増加している。
意思能力の不十分な高齢者等の権利擁護に関する相談・支援機関として設置された「こうべ
安心サポートセンター」の相談件数は年々増加している。また、日常の金銭管理や福祉サービ
スの利用について支援を行う「福祉サービス利用支援事業」や財産管理や身上監護をあわせ、
生活全般について支援を行う「成年後見制度」も利用が増加している。
○障害者支援費制度が平成 15 年度に導入され、制度定着に向けた動きが見られる。
支援費制度は制度開始直後、利用者の不安や混乱も見られた。しかし、利用者数も着実に増
64
加し、制度が定着しつつある状態である。震災を経験した障害者やその家族にあっては、地域
生活への不安も大きいが、地域での相談や情報提供、居宅生活支援事業等を着実に進めていく
中で、障害者の自立と社会参加が全体的に浸透していくと考えられる。
○障害者の就労支援が民間レベルで行われている。
社会福祉法人プロップステーションでは、コンピュータを活用して、チャレンジド:
challenged(障害のある人)の自立と社会参加、とりわけ就労の促進や雇用の創出を目的に活
動が行われている。
チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(C・C・P)として、プロップステーショ
ン、株式会社フェリシモ、兵庫県、神戸市が協働で行う知的障害者の自立支援を目指すプロジ
ェクトが始まった。これは兵庫県内の小規模作業所、授産施設の製品を、品質やデザイン面で
専門家の目を通して更なる向上を図った上で、カタログやインターネットで全国に向け販売を
行うものである。「福祉就労」と言われる場を「本当の働く場」にしようという全国で初めて
の試みであり、既に、さをり織り、クッキーの 2 つの商品販売が始まり、好評を得ている。
○障害者の訓練等の場として小規模作業所が民間レベルで運営され、それに対する民間支援も行
われている。
養護学校卒業生の受け皿等としての小規模作業所については、親の会などによる運営が民間
レベルで行われている。特に神戸市は政令指定都市比較では、利用者が5人∼7人以下の小規
模作業所が全体の7割と多いのが特徴である。このような障害者の生活を支援する小規模作業
所の運営をはじめ障害者福祉を実施している民間団体の事業に対して、その開設や機材・備品
の購入等の支援を行う「財団法人木口ひょうご地域振興財団」など、民間からの支援も行われ
ている。
○バリアフリーのまちから、ユニバーサルデザインのまちへ。
神戸市では平成 14 年 11 月「神戸市交通バリアフリー基本構想」が策定され、この構想に基
づき、市内の主要な駅周辺道路等のバリアフリー化が推進されている。具体的には市内鉄道駅
舎のエレベーター整備、ノンステップバスの導入、住宅のバリアフリー化などの取り組みが行
われてきた。現在は、バリアフリーの考え方と併せ、さらに誰もが住み慣れた地域で、健康で
自立して、できるだけ長く生活しつづけることができるよう、すべての市民の自立生活を支援
するユニバーサルデザインのまちづくりが推進されている。
平成 15 年 3 月神戸市ユニバーサルデザイン意識調査での意見
「ユニバーサルデザインの推進にあたっては、経済活動として広げることと、心のユニバーサ
ルデザインを広げることや学校での教育が重要である。」
65
市内鉄道駅舎のエレベーター等整備状況
平成 6 年 12 月
全駅数
EV 設置駅
117
平成 15 年 3 月
整備率(%) 全駅数
34
29.1
EV 設置駅
128
スロープ設置駅
63
整備率(%)
7
54.7
*整備率は、EV 整備又はスロープ設置により車いす単独利用が可能な駅の割合。震災前の
スロープ設置駅の状況は把握できていない。
民間鉄道事業者へのエレベーター等整備補助実績
年度
H4 年度
H5 年度
H6 年度
H7 年度
H8 年度
内
容
年度
阪急王子公園
神鉄西鈴蘭台
神鉄西鈴蘭台
神鉄北鈴蘭台(Ⅰ期)
阪急御影
山陽西代
山陽板宿
神鉄北鈴蘭台(Ⅱ期)
阪神新在家
神鉄岡場
阪急王子公園
JR新長田
山陽塩屋
JR六甲道
山陽板宿
阪神大石
阪神石屋川
阪神西灘
EV1
EV1
EV1
EV2
EV1
EV3
EV2
EV1
EV2
EV2
EV1
EV3
EV2
EV2
EV1
EV3
EV1
EV2
内
容
H9 年度 神鉄田尾寺
EV3
H10 年度 JR甲南山手
EV1
JR垂水
EV1
H11 年度 JR兵庫
EV2
阪急六甲
EV4
H12 年度 JR元町
EV2
JR住吉
EV2
H13 年度 JR新神戸 EV3
ESC3
多機能トイレ2
阪神三宮
階段昇降機1
H14 年度 山陽垂水
EV2
多機能トイレ1
H15 年度 JR三ノ宮 EV2
(予定) JR神戸
EV2、ESC3
JR舞子
EV1
多機能トイレ1
高速神戸
EV2
多機能トイレ1
1 日平均乗降客数 5,000 人以上の鉄道駅舎へのエレベーター等整備状況(H14 年度末)
札幌
仙台
千葉
東京
川崎
横浜
名古屋
京都
大阪
広島
北九州
福岡
うち、乗降客5千
神戸
全駅数
128
75
42
49
686
53
145
135
120
223
72
54
56
81
64
33
27
665
44
128
108
81
180
32
16
41
50
44
22
8
202
13
65
52
50
133
7
5
23
1
0
0
0
38
5
2
6
5
9
9
1
4
63.0
68.8
66.7
29.6
36.1
40.9
52.3
53.7
67.9
78.9
50.0
37.5
65.9
人以上の駅
EV 設置駅
スロープ等設置駅
整備率(%)
注)スロープ等設置駅:スロープ等によりバリアフリー化されており、エレベーター設置の必要のない駅
66
○地域見守りは閉じこもり防止や地域住民による見守りのためのコミュニティづくりに大きな成果が
あった。
阪神・淡路大震災を経験した神戸市では将来の日本の超高齢社会を先取りする形で復興施策
として地域見守りが実施された。高齢者の地域見守りが閉じこもり防止や地域住民による見守
りのためのコミュニティづくりに大きな効果があったことを受けて、仮設住宅や災害公営住宅
にとどまらず一般地域に拡大した。高齢者の地域見守りは、民生委員をはじめ、LSA(生活
援助員)、見守り推進員、見守りサポーター、友愛訪問グループにより、数字的には市内全域
の見守りが必要な世帯をカバーできていると考えられる。ただし、大規模な災害公営住宅やシ
ルバーハウジング等では、入居者の高齢化が一層進むとともに、自治会や民生委員等のなり手
がなく自治組織が十分に機能できない状況にあるなど、継続的な支援が必要であるとともに、
今後増加が予想される単身高齢者等への新たな対応が必要である。
兵庫県の「災害復興公営住宅コミュニティ調査」によると、LSA、自治会活動、近所づき
あいが復興感に与える影響は大きいことがわかった。特に、LSA派遣事業については、国の
事業は安否確認が中心であるが、神戸市ではお茶会等を通じての近隣の共同生活・コミュニテ
ィづくりや自治組織づくりを側面的に支援するなど、コミュニティワークにも取り組み、「神
戸市型LSA」ともいうべき、新たなLSA像を全国に発信した。また、これを雛型に平成1
3年度から新たにあんしんすこやかセンター(在宅介護支援センター)に見守り推進員を配置
し、全市的に見守りができるコミュニティづくりを進めており、見守りの支援を災害公営住宅
から一般地域まで拡大して地域を網羅した意義は大きい。
さらに、血縁者など頼りになる人が特にいない高齢者にとって、相談相手としてLSA、民
生委員が選ばれる可能性が高く、これらの支援者が安心・安全なくらしを支える重要な役割を
担っていることが確認できた。また、LSA等の公的支援者は、居住者全体の自治会活動や地
域活動の参加度を高めており、コミュニティづくりにおいて果たす役割も大きいことがわかっ
た。まったくゼロから出発した災害公営住宅のコミュニティは、近所づきあいや地域活動への
参加状況を見ると、わずか5∼6年の間で被災地全般と 1 割程度の差まで近づいていることか
らも、これら支援者の役割の大きさが示されている。
年齢区分別人口構成比
年齢区分
(%)
全市
市営住宅
災害公営住宅
(H12 国勢調査)
(H15.10 末) (H15.10 末)
∼19 歳
19.9
16.1
11.9
20∼59 歳
56.9
44.6
32.7
60∼64 歳
6.2
9.0
9.6
65 歳以上
16.9
30.3
45.8
(うち 75 歳以上)
(6.5)
(12.8)
(20.9)
合
100
計
100
67
100
単身高齢世帯比率
65 歳以上単身高齢世帯構成比
全市(H12 国勢調査)
9.0%
市営住宅(H15.10 末)
24.7%
災害公営住宅(H15.10 末)
39.4%
単身高齢者への地域見守り体制
人数
LSA
54
見守り推進員
76
見守りサポーター
78
友愛訪問
民生委員単独訪問
見守り不要
合計
(平成 15 年8月末)
訪問世帯数
1,600
主な対象
シルバーハウジング入居者
(3.2%)
機能
訪問・安否確認、コミュニティづく
り支援、緊急時対応
1,500
地域での見守りが困難な単身高 ネットワークづくり、支援者
(3.0%)
齢者等
2,300
災害公営住宅等で、見守り的支 訪問・安否確認
(4.6%)
援の必要な単身高齢者等
1,290
16,200
単身高齢者またはこれに準じる 訪問・安否確認・話し相手(活
グループ
(32.1%)
高齢者世帯
10,300
単身高齢者またはこれに準じる 訪問・話し相手
(22.4%)
高齢者世帯
2,426
育成、対象者把握・訪問
動回数は原則週1回以上)
17,500
(34.7%)
50,400
(100%)
地域見守り支援者ワークショップでの意見
「自治会がまとまらない。民生委員や自治会役員が高齢化し、後継者が不足している。」
「休日
に行政機関に連絡がとれない時、見守り推進員には連絡がすぐにとれて、相談できるのは心強
い。」「孤独で寂しいとき、見守り推進員の訪問は心の拠り所である。
」
このほかに、配食サービスや生きがい対応型デイサービスなど見守り機能を有する施策も地
域レベルで積極的に展開されている。
68
市の主な取り組み等
○介護保険制度
○地域見守りシステムの全市展開
○あんしんすこやかプラン
・見守り推進員
○あんしんすこやかセンター(在宅介護支援セ
・見守りサポーター
ンター)
・LSA派遣事業
○障害者支援費制度
・友愛訪問グループへの支援
○地域生活支援センターの運営
○神戸市シルバーカレッジ
○障害者就労推進センター
○高齢者学習支援センター
○ユニバーサルデザインの推進
○あじさい市民大学
・市民福祉大学
・神戸婦人大学
など
○神戸市老人クラブへの支援
3.これからの取り組み(方向性)
○定年を迎える団塊の世代のパワー、知恵を地域参画に活用
これからは、少子高齢化が進んでいく。みんなが寝たきりや痴呆になるわけではなく、介護
保険の対象になっているのは高齢者の 15%である。今後、団塊の世代が定年を迎える。その
パワーを地域参画に向けるべきである。
年をとっても元気に過ごしていくために、どういうまちづくり、住宅、ケアの仕組みなどが
必要であるかを考えていく必要がある。
地域福祉等ボランティア活動者からの意見
「高齢化社会への変化において、組織の効率を優先した仕事社会では発揮できなかった個人の
潜在能力も、さまざまな舞台で発揮できるチャンスが増える。その人の個性や特技によって社
会に役立つ分野は多様に広がっており、この多様な個性の集合によるネットワークの力が、巨
大なエネルギーとなって新しい時代をリードすることも可能となっている。行政としてもこの
力を引き出し生かすことが大切である。高齢者は自ら培った『知恵』を次世代に継承していく
責任が残されている。
地域福祉のボランティア活動を行っていて感じることは、結果は自分にとって大きなプラス
になったということである。自分が体得してきた知識と経験が社会に役立ったことへの充実感
であり、それまでの利害中心の人間関係ではない友諠的コミュニケーションとネットワークが
発見できた喜びである。行政が高齢者の参加を支援することが、共助協働の地域社会づくりの
ために大切である。」
69
○高齢者の活力を地域における世代間交流の促進に活用
急速な超高齢社会の到来を目前に、高齢者の活力の問題、子育ての問題、子育ちの問題とい
った様々な課題解決のために、元気高齢者の活力を生かすこと、また、それが地域において行
われることは、高齢者の生きがいにもつながり、同時に現役世代の問題解決にも資するものと
考えられる。子供から高齢者を含めた世代間の相互交流の促進は、それぞれの問題解決だけで
なく、住民同士の結びつきによる地域の連携の強化・活性化につながるものと考えられる。
○恒久的な地域見守り体制の構築
災害公営住宅では高齢化率が平均 40%を超え、今後も更に高齢化の進展が見込まれること
から、将来の超高齢社会を見据えた住民相互による恒久的な地域見守り体制を構築し、単身高
齢者等でも住み慣れた地域で安心して暮らせるまちづくりが図られる必要がある。
将来の超高齢社会に備えて住民相互の支援による自立した生活を確保していくため、引き続
き、見守りの手薄な地域の解消に努めるとともに、特に高齢化率の高い大規模災害公営住宅等
については、引き続き重点的な支援が求められる。また、小地域見守りネットワークをさらに
充実し、見守り対象者の早期発見と住民相互による地域見守り活動への連携をより一層推進さ
れる必要がある。
そのため、民生委員児童委員と友愛訪問ボランティアによる地域での見守り機能を充実強化
し、地域の中で互いに支え合うシステムづくりをさらにすすめ、地域の中に見守り空白地域を
生じさせないために、地域の実情に応じて民生委員児童委員の定数・地区割りの見直しや友愛
訪問ボランティア活動の活性化を図るなど、一層の支援が必要である。
また、アルコール依存症や精神疾患など地域住民だけでは対応困難な場合、基幹型在宅介護
支援センターが必要に応じて専門的な援助ができるよう、あんしんすこやかセンターや介護サ
ービス事業者をはじめとする関係者間の連携を強化していく必要がある。
あんしんすこやかセンターに配置している見守り推進員は、被災高齢者の見守りや地域住民
による見守りのためのコミュニティづくりに大きな効果があったと民生委員等からも評価を
得ており、今後、地域の状況に応じたより効果的で効率的な運営に向けて、見守り推進員の機
能を見直し、「神戸市復興計画」の終了後も、住民相互の見守りのためのコミュニティづくり
支援機能として引き続き、あんしんすこやかセンターの一体的な機能として確保していく必要
がある。
見守りサポーターについては、地域住民による見守り体制の確保状況も見ながら、今後、対
象世帯の訪問等について、地域での見守り体制が確保されている地域から順次、本来の民生委
員児童委員を中心とする地域住民相互の見守りにつないでいき、地域での相互連携を深めてい
くことが必要である。
○市民と事業者と行政が連携した新しい地域見守り体制の構築
ガスメーターの遠隔検針など IT 等を活用した高齢者見守りサービスについては、最近モデ
70
ル的な取り組みが始められている。今後、その可能性を検証するとともに、高齢者の選択と受
益に応じた負担のもとに、市民と事業者と行政が連携した新しい地域見守り体制の構築に向け
た検討を推進する必要がある。
○利用しやすい介護保険制度、支援費制度と、障害者の地域生活支援の充実
介護保険・支援費制度はそれぞれ介護が必要な高齢者、障害者が生活していく上で根幹とな
る制度であり、より利用しやすい制度となるよう取り組んでいく必要がある。また、障害者に
対する地域生活支援に際しては、支援費制度等の居宅サービス支援体制に加え、各種の相談支
援体制・就労支援体制を確立し、加えて、ユニバーサルデザインのまちづくり等の充実が必要
である。
○高齢者、障害者の権利擁護
高齢化と世帯の小規模化により、親族等の支援を得られない高齢者・障害者が増加すること
が予想され、権利擁護のニーズも増大すると予想される。神戸市では、高齢者・障害者の権利
擁護に関する相談・支援機関として「こうべ安心サポートセンター」を設置し、本人、関係者
からの電話・来所による相談・受付を行っているが、今後は、表面に出てこないニーズの発見・
掘り起こし(アウトリーチ)や、権利擁護を支える人材の養成が必要である。
71
第4節 子どもがいきいきと育ち、育てられるまち
1.ねらい
震災では、一人ひとりが自律すること、人と人とのつながりや日常の地域での人との関わり合い
の大切さを、大人も子どもも再認識することとなった。
子どもを取り巻く環境が大きく変化している中、家庭、学校、地域がそれぞれの役割を果たし、
相互に連携しながら、子どもたちの自律する力、連帯する力を伸ばし、震災を知らない子どもたち
にも震災で学んだ教訓を継承していくことが必要である。同時に、子育てをする親への支援、環境
の整備も必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○施設の地域開放、民間への運営委託等が始まっている。
【児童館】
休館日には児童館の地域開放により、子育てコミュニティ育成事業が実施され、地域と
児童館が連携したコミュニティづくりが進められている。
民立民営のあさひ児童館では、保育園併設型の利点を生かし、園の持てる施設、人材、
ネットワークを活用し、地域における児童の総合的な健全育成活動の助長を図るよう運営
されている。市立児童館においても平成 13 年度から、民間・地域団体への運営委託化が進
められ、民間の力を活用し、より市民ニーズに応じた、地域の特性を生かした運営が行わ
れている。
【保育所・幼稚園の活用】
保育所・幼稚園を活用して、同じ年頃の子ども同士が遊んだり母親同士が交流したりでき
る体験保育などの場の提供が行われている。また、地域子育て支援センターでは、面談や
電話による育児相談が実施されている。
【学校開放】
昭和 40 年から実施している学校施設開放は、現在ではすべての小学校で何らかの施設が
開放されている。
施設開放の状況(平成 15 年 11 月現在)
種
別
校数
運動場
体育館
プール
教室
図書室
小学校
170
167
160
138
65
80
中学校
83
5
12
4
1
6
高校・高専
12
3
3
―
―
―
養護学校
6
―
1
―
―
―
幼稚園
50
18
―
―
―
―
321
193
176
142
66
86
合
計
72
利用者の推移
年
(単位:千人)
度
3
利用人数
5
7
9
10
11
12
13
14
1,906 1,954 1,741 2,116 2,284 2,101 2,219 2,296 2,284
内
訳
運動場
875 1,015
902 1,096 1,152 1,059
978 1,072 1,070
体育館
284
290
258
348
385
360
411
425
469
プール
105
118
123
109
127
132
177
165
137
教室開放
163
119
79
113
117
99
113
111
98
市民図書室
446
379
329
370
416
369
414
397
378
幼児のひろば
33
33
50
80
87
82
126
126
132
○市民相互の助け合いが始まっている。
【ファミリー・サポート・センター】
子育ての応援をしてほしい人と子育ての応援をしたい人が会員となって育児について助
け合う制度であるファミリー・サポート・センター事業は、平成 13 年7月にセンターを開
設、平成 13 年 10 月から事業がスタートされている。会員数及び活動実績ともに年々増加
しており、地域での助け合いが進んでいる。
依頼会員(西区)の意見
「上の子どもが入院中に下の子二人を預けたが、二人とも迎えに行ったときは楽しそう
だった。それ以来お願いすることはないが、いつでも子どもを預けられるところがある
と思うと心強い。」
協力会員(西区)の意見
「自分自身子育ての最中だが、少しでも手助けができればと思っている。『本当に助か
りました』と言われると喜びもひとしお。これからも私なりにがんばってサポートした
い。」
登録会員数・活動実績の推移
依頼会員
協力会員
両方会員
合 計
月間活動実績
平成 13 年 10 月
300 人
194 人
57 人
551 人
71 件
平成 14 年 4 月
577 人
324 人
93 人
994 人
302 件
平成 14 年 10 月
721 人
477 人
114 人
1,321 人
394 件
平成 15 年 4 月
901 人
560 人
126 人
1,587 人
575 件
平成 15 年 11 月
1,150 人
621 人
165 人
1,936 人
733 件
※会員募集は平成 13 年 7 月から、サービス開始は 10 月から。
※会員数はその月 1 日現在の数
73
【子育てサークルなど】
市内各地域において、自主的な子育てグループが結成され、地域において子育てを支援
する活動が行われている。これは時代の要請に合致した注目すべき活動である。
(平成 15 年 11 月現在 187 グループ ※神戸市把握分のみ)
東灘区では、普段あまりつながりのない子育てグループ同士の交流を図るため、子育て
サークル交流会が開催された。
子育てサークル交流会での意見
「サークル運営上のいろいろな情報がほしい。」「資金や場所など活動するのに問題が多
い。」「サークル活動を通じて地域での交流ができる。」
これらの声を受け、子育てサークルのネットワーク組織「東灘サークルネット」が立ち
上がり、親子の交流や情報提供など市民の自主運営による活動を展開している。
甲南本通商店街では、商店街の施設などを開放し、親子で楽しむ場を提供する取り組み
が始まるなど、子育てをサポートする活動を行う民間事業者が現れている。そして個別の
グループや事業者、地域団体、行政を結ぶネットワーク化が進んでいる。
○特色ある神戸の教育の推進
【分かる授業・楽しい学校】
子どもたちが意欲的に学習や体力づくりに取り組めるよう、ITを活用した授業など
様々な工夫がなされている。また、小学校と中学校が連携し、子どもの規範意識や倫理観
の育成を図る取り組みが進められている。
【家庭・地域・学校の連携】
地域の方々が講師として授業を行う「ゲストティーチャー」や学習の補助にあたる「地
域チューター」の配置、 中学生が就業体験などを行う「トライやるウィーク」、地域の文
化、歴史、伝統芸能などを学び、継承し、発表する「地域子ども文化塾」など、学校教育に
地域の教育力を生かす取り組みが始まっている。また地元の大学生が「スクールサポータ
ー」や特別な教育的支援を要する子どもへの教員補助者として学校で教育活動に参加して
いる事例もある。
保護者や地域に開かれた学校づくりの一環として「授業公開ウィーク(デー)」が行われ
ているほか、地域と学校が連携して美化活動や「花の通学路」事業などを行う「美しいま
ち・人・学校」事業が実施されている。
また、PTAなど社会教育団体が自然体験講座を実施するなど家庭・地域・学校の連携
が始められている。
【情報発信する学校】
地域と学校が協力していく前提として、地域と学校の相互理解を図る「学校評議員」、中
学生が地域に学校行事の模様などを伝える「子ども情報局」、学校ホームページなど学校か
ら地域への積極的な情報発信が行われている。
74
○教育復興担当教員の果たした役割
被災した児童生徒の多い学校に配置された教育復興担当教員は、被災児童生徒に対する
心のケアや生徒指導だけでなく、家庭、関係機関との連絡調整など幅広い活動を行った。
心のケアの面ではスクールカウンセラーも「心の専門家」として問題解決にあたっている。
教育復興担当教員
配置数の推移
(人)
7 年度
8年度
小学校
63
88
80
88
92
92
84
55
18
中学校
14
30
45
51
47
47
44
38
28
計
77
118
125
139
139
139
128
93
46
スクールカウンセラー
9年度 10 年度 11 年度 12 年度 13 年度 14 年度 15 年度
配置数の推移
(人)
7 年度
8年度
9年度 10 年度 11 年度 12 年度 13 年度 14 年度 15 年度
小学校
1
2
4
8
8
12
0
0
0
中学校
1
3
5
7
11
14
32
45
54
高校
0
0
1
2
2
2
3
3
3
計
2
5
10
17
21
28
33
48
57
※13 年度以降は中学校区を単位として配置を行い、小学校については必要に応じて
属する校区の中学校からカウンセラーが巡回する形態をとっている。
○最近子どもを取り巻く全国的な新たな問題が発生している。
【保育所待機児童など】
少子化が進む一方で、女性の就労増等により保育需要が増加、神戸市でも大幅な受入枠
の拡大が進められているが、平成 15 年 4 月現在の待機児童数は 934 人で全国で 3 番目とな
っている。また、就労形態の多様化などにより、保育時間の延長に対するニーズや一時保
育ニーズ、また午後8時までの迎えが困難な家庭を対象とする夜間保育をはじめ病後時保
育といった多様な保育ニーズが発生している。併せて学童保育に対するニーズの増加や過
密解消などの課題がある。
【児童虐待】
こども家庭センターにおける児童虐待の相談件数は、平成 6 年度は 22 件(全体の 0.7%)
であったが、平成 14 年度では 182 件(全体の 4.2%)と大幅に増加している。
【不登校】
不登校の児童・生徒数は、平成 14 年度 1,525 人で、平成 13 年度と比べると減少してい
るが、依然として高い水準にある。
【刑法犯少年】
平成 14 年における刑法犯少年の検挙・補導人員は 3,101 人で、13 年より増加している。
【食生活の乱れ】
75
児童・生徒の肥満や女子のやせが増加、子どもの食生活の乱れが問題となっている。ま
た、子どもが精神的に不安定になりやすい原因はその食生活にあるとも言われている。
○子どもの地域活動への参加(社会参画)が始まっている。
日常のコミュニティ活動で育まれた住民相互の助け合いの絆を、災害時の初期消火等に
活かせるよう平常時から福祉・防災活動に取り組む組織である「防災福祉コミュニティ」
に、中学生が「防災ジュニアチーム」として参加している。
また、子どもたちが地域でクリーン作戦を行うなど、
「KOBE こどもエコクラブ」として環
境学習活動や環境保全活動を行っている。
(市の主な取り組み等)
○子育て支援・子どもの居場所づくり
○「地域」等を取り入れた学校教育
・学童保育所、児童館、保育所の運営
・ゲストティーチャー、地域チューター制度
・子育て学習、子育てセミナー、思春期セミナ
・スクールサポーターの配置
・「特別な教育的支援を要する子ども」への教
ー
員補助者の配置
・ファミリー・サポート・センター事業
・神戸っ子とびっきりタイム、トライやるウィ
・民間学童保育所への助成
ーク
○家庭・地域との連携・情報発信
・児童館:民間・地域団体への運営委託
○子どもの心のケア
・保育所:地域交流事業、子育て支援事業の実
・スクールカウンセラーの配置
施
○子どもを取り巻く環境の整備
・授業公開ウィーク
・ふれあい懇話会、すこやかタウン協議会
・地域子ども文化塾
・子ども会活動の支援
・学校評議員
・青少年育成協議会
・学校ホームページの開設
・こども 110 番青少年を守る店・守る家
・子ども情報局
・スマイル・ハート・あいさつ運動の展開
3.これからの取り組み(方向性)
○地域、市民、事業者、行政の連携と、より地域に密着した施設運営などの推進
【児童館】
市民がより利用しやすくなるよう、地域の特色を反映し地域に密着した運営を図るため、
地域に根ざした団体などへの運営委託が拡大、推進される必要がある。
児童館のあり方ワーキングでの声
「地域で活動する子育てサークルの活動場所が少ないので、児童館を子育てサークルに開
放してほしい。」
「日曜開放事業(子育てコミュニティ育成事業)で子ども同士のつながり
ができてよかった。」
「行事を通じた交流や場所の貸し借りなど、近隣の地域福祉センター
と連携した運営ができればよい。」
76
【保育所】
民間保育所も含め、施設開放の質量両面の拡大を行う必要がある。
平成 14 年度東灘区体験保育参加者アンケートでの意見
「お母さん同士仲間ができた。」、「子育てに対して、気持ちにゆとりが持てるようになっ
た。」また、今後の希望として、園庭開放や育児講座の実施などを求める声が強かった。
【市民相互の助け合い】
ファミリー・サポート・センターは、会員数の増加が続いており、利用者の満足度の向上
を図るため、支部の設置など身近なところでよりきめ細やかなコーディネートを行える体
制を整えることが必要である。
子育てを地域でサポートしていこうとする市民相互の助け合いは、より多くの主体の参加
を得たり、より小さな単位でネットワークが形成されるなど、さらに地域に密着したもの
としていく必要がある。
婦人団体協議会との意見交換会での意見
「住民内で気軽に頼めるボランティアのネットワークづくりが必要ではないか。
」
○特色ある「神戸らしい」教育の推進
震災を経験し、子どもたちは、人々の助け合い、ふれあいの大切さなど自分たちの住む地
域、「神戸のまち」を改めて見つめ直した。神戸の特色を活かした教育を進めることにより、
街への愛着を深め、神戸の特色を継承していくべきである。
たとえば、国際港湾都市として発展してきた多文化共生のまちという特色を活かし、実践
的コミュニケーション能力の向上を図るとともに国際教育を推進し、さらなる国際化の進
展に柔軟に対応できる人材を育成していくことが必要である。
また、これまでの産業の集積を活かしながら先端医療を始めとした新たな産業の育成に取
り組んでいる神戸において、総合的な「ものづくり」に対応できる技術者の育成、望まし
い勤労観、職業観を育てるキャリア教育を日常の教育活動の中で推進するとともに、「もの
づくり」を教育内容の柱とする中高一貫教育校の設置について検討を進めることが望まれ
る。
○学習の場としての地域の活用、地域の人材の活用のさらなる推進
子どもが地域社会を意識し、自らも地域の一員であることを経験的に知ることが重要であ
る。子どもが地域の様々な人や自然、伝統文化などに触れる体験ができるよう、地域と学
校が連携して学校教育の中にさらに積極的に地域の資源が取り入れられることが望まれる。
トライやる・ウィーク参加生徒の声
「『ごくろうさん』『がんばれ』と声をかけられやりがいがあった」
77
○地域活動への子どもの参加の推進
「小学校は、スポーツ・文化の両面において地域にとって身近な場所である。学校自体が
まちの公民館として気軽に入れるようにし、地域の知識交流の場にすべき。地域活動を子
どもにすりこむため、学校で活動することは重要である。
」といった意見がある。
学校開放については、子どもにとって身近な学校を地域のあらゆる年代層が参加する、住
民主体の「生涯学習・スポーツの拠点」とすることによって、子どもの地域活動への参加
を高めていくべきである。
○子どもと大人の交流機会の拡大
「地域社会で子どもを育む」といういわゆる「地域の教育力」の向上のために、地域レベ
ルにおいて、子どもと大人とが交わる機会を増やしていく必要がある。
婦人団体協議会との意見交換会での意見
「少年犯罪が増加している現在、地域全体で子どもを守り育てることを考えていかなけれ
ばならないのではないか。」
○地域活動の活性化による地域のつながりの強化
子ども会や青少年育成団体など地域活動団体の人材育成や情報提供などにより地域活動
を活性化し、子どもを含めた地域のつながりを強めるべきである。
○ユニバーサルデザインのまちづくりの推進
子どもにとっても、子育てをする親にとっても、まち全体が活動しやすい環境であるこ
とが必要である。ユニバーサルデザインのまちづくりは行政の力だけで進めることはでき
ず、市民、事業者も含めて今後積極的に推進される必要がある。
○全国的な新たな問題への対応
子どもを取り巻く環境は今後ますます変化していくものと思われ、特に最近問題となって
いる保育所待機児童の解消や延長保育、一時保育、病後児保育等の多様な保育サービス及
び学童保育サービスの拡大を図る必要がある。また国の幼保一元化の動きがある中、幼保
連携をさらに進めていく必要がある。さらに、児童虐待を未然に防ぐための取り組み等を
さらに積極的に行っていく必要がある。
婦人団体協議会との意見交換会での意見
「働く女性が増え、子どもを安心して預けられる施設の充実をお願いしたい。」
「育児不安
を持つ母親には地域でサポートを行い、虐待などのない『地域ファミリー』等の形成を考
えたい。」
78
○「食育」の推進
健康な体を育み、食を通じて環境や生産者に思いをめぐらす豊かな心を育てることを目的
に、コープこうべなどの民間団体では、「食育」に取り組んでおり、小学生を対象にしたハ
ンドブックの作成や親子料理教室などが行われている。健全な食習慣の確立のために食生
活全般について考えて、教え育てることは、子どもの健康づくりのためには欠かせないこ
とである。それは子どもに対する食育と同時に親に対する食育の必要性を意味している。
一緒に料理を作ったりすることで親子のコミュニケーションづくりにもつながる。今後こ
のような活動を推進していく必要がある。
79
第5節 外国人市民が暮らしやすいまち
1. ねらい
震災では、海外から数多くの援助を受け、市内では外国人コミュニティとの交流が生ま
れるなど、国際都市神戸にふさわしい様々な交流・協力が生まれた。特に、震災を契機に
外国人市民の生活支援を行うボランティア活動が市民によって行われており、それらの活
動の継続・活性化を図っていく必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○外国人は増加しているが、その中でもニューカマーの増加が著しい状況にある。
神戸市に住む外国人は、
平成 15 年 11 月現在、114 カ国 45,140 人で、神戸市人口の約 3.0%
を占めている。外国人登録者数(2001 年末)は、政令指定都市比較すると4番目になり、総
人口に占める割合も大阪市、京都市に次いで3番目になる。近年日系ブラジル人、インド
シナ難民などに見られるように、定住または滞在が長期化する人々の比率が上昇している。
また、留学生として来神し、神戸で就職するというコースで長期滞在する外国人も増えて
きている。
この 20 年の外国人の増加数を国籍別にみると、在日韓国・朝鮮、中国などの外国人が減
少あるいは横ばい、微増なのに対して、ベトナム、ブラジルなどのいわゆる“ニューカマ
ー”と呼ばれる外国人の数が急激に伸びている。
【国籍別登録外国人数の推移】
(各年3月末現在、単位:人)
昭和 58(1983)年
昭和 63(1988)年
韓国又は
27,276
27,594
朝鮮
(100)
中国
ベトナム
ブラジル
その他
総計
平成 10(1998)年
平成 15(2003)年
28,015
26,006
24,560
(101.2)
(102.7)
(95.3)
(90.0)
7,343
7,311
9,155
8,901
11,710
(100)
(99.6)
(124.7)
(121.2)
(159.5)
70
307
636
843
1,061
(100)
(438.6)
(908.6)
(1204.3)
(1515.7)
26
37
384
894
858
(100)
(142.3)
(147.7)
(343.9)
(330.0)
3,954
3,967
5,481
5,586
6,519
(100)
(100.3)
(138.6)
(141.3)
(164.9)
38,669
39,216
43,671
42,230
44,708
(100)
(101.4)
(112.9)
(109.2)
(115.6)
平成5(1993)年
※(
)は昭和 58 年を 100 とした数字
参考)昭和 54 年(1979 年)…インドシナ難民受け入れ、平成 2 年(1990 年)…入国管理法改正
80
【市内の留学生数の推移(各年 11 月 1 日現在)
】
年
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
大学・短大
1,066
1,070
1,076
1,122
1,191
1,371
1,564
1,741
留学生の内訳(2002 年 11 月 1 日現在)
・71 カ国(中国 1,050 名,韓国 161 名,台湾 76 名,インドネシア 51 名,アメリカ 38 名)
・17 大学・短大(神戸大 899 名,流通科学大 205 名,神戸商科大 124 名,
神戸学院女子短大 123 名,神戸学院大 82 名)
○外国人の生活環境が他都市に比べて整っている。
外国人コミュ
欧米系
ニティ
関西国際委員会、関西ジョージワシントン協会(米)、塩屋カント
リークラブ、西日本ドイツ協会、神戸ウィメンズクラブ、関西セ
ントジョージ協会(英・イングランド)、関西セントアンドリュー
ス協会(英・スコットランド)、在日関西ユダヤ協会、CHIC(コミ
ュニティハウス&インフォメーションセンター)等
韓国系
在日本大韓民国民団兵庫県地方本部
朝鮮系
在日本朝鮮人総聯合会兵庫県本部
中国系
神戸華僑総会
インド系
外国人クラブ
インドクラブ、インドソーシャルソサエティ
ブラジル系
関西ブラジル人コミュニティ(震災後発足)
ベトナム系
NGOベトナム inKOBE(震災後発足)
等
○(社)神戸外国クラブ(1869 年設立、北野町、会員約 300 人)
○(社)神戸レガッタ&アスレティッククラブ(1870 年設立、磯上公園内、会
員約 300 人)
外国人学校
兵庫朝鮮学園(3校)、神戸中華同文学校、カネディアン・アカデミィ、マ
リスト国際学校、聖ミカエル国際学校、ルーテル国際学校、神戸ドイツ学
院(市内に7法人9校、計 2533 人が在籍:平成 15 年 5 月 1 日現在)
宗教施設
神戸ムスリムモスク(イスラム教)、関帝廟(仏教・中国)、ジェイン寺院(ジ
ャイナ教・インド)、関西ユダヤ協会(ユダヤ教)、キリスト協会(カソリッ
ク、プロテスタントともに多数)、聖ミカエル大聖堂(英国国教会)
○外国人市民と日本人市民、外国人コミュニティ同士など様々な交流が進んだ。
阪神・淡路大震災をきっかけに、地域に暮らす日本人と外国人の相互理解が一層進むと
ともに、外国人コミュニティ相互の関係においても、震災により民族を越えた地球市民的
な意識が芽生えてきている。
81
外国人市民のワークショップでの意見
「避難所として、施設・場所を開放した。」「震災前までは対日本人のことしか考えてい
なかったが、震災で他の民族も視野に入ってきた。」「国籍を越えて水平に人間が見え
るようになった。」
○外国人市民を支援する新しい動きが生まれた。
震災以降、「FM わいわい」や「多文化共生センター」などの多言語・多文化の市民レベ
ルの活動が生まれている。
神戸クロスカルチュラルセンターなど震災前から国際交流活動を行っていた団体もある
が、神戸に暮らす外国人と日本人をつなぐ活動をしている団体、外国人を支援する団体、
外国人同士が形成するコミュニティなど、地域で国際化を受け入れ、それを広げようとす
る取り組みは、震災以降に加速したと考えられる。
震災後設立された外国人支援グループ・団体
①NGO神戸外国人救援ネット(1995 年 2 月)
②神戸定住外国人支援センター(1997 年 2 月)
③多言語センターFACIL(1999 年 6 月)
④多文化共生センター・ひょうご(2000 年 6 月)
(市の主な取り組み等)
○ 情報提供・相談
○ 教育・啓発
・ 区役所案内及び生活情報の多言語提供
・ 公民館識字事業
・ 外国人向けパンフレット作成(介護保険制
・ 人権教育
度パンフ、母子健康手帳、住宅防火パンフ、 ・ 国際理解教育
外国人救急ノート等)
○ 留学生支援
・ 案内サインの多言語化
・ 奨学金の支給
・ ビジネスライフサポート窓口の設置
・ 住宅の提供、住宅資金の貸付
○ 福祉・医療
・ 文化施設見学補助
・ 外国人救急医療費損失補助
○ 文化交流その他
・ 外国人対応病院輪番制
・ 外国人市民会議
・ 在日外国人等福祉給付金
・ 外国人生活支援事業助成
・ 国民健康保険適用
・ 青少年国際交流キャンプ
・ 結核検診無料実施・経費補助
・ 外国人職員採用
82
3.これからの取り組み(方向性)
○ 外国人市民の生活支援を行っている市民団体・コミュニティへの支援
外国人市民にとって暮らしやすいまちづくりを進めるためには、日常生活のレベルで外
国人の生活を支えるNGOをはじめとした民間レベルでのきめの細かい活動が特に重要で
ある。特に、ニューカマーへの対応は、外国人コミュニティが中心に対応していくことが
望ましい。しかしながら、これらの活動はボランティア的なものが多く、運営そのものは
非常に厳しいものになっているとともに、「関西ブラジル人コミュニティ」や「NGOベト
ナム inKOBE」のように震災後立ち上げられ、組織化が十分進んでいないものもある。
行政としては、コミュニティの成熟度等に応じた支援のあり方を検討する必要がある。
外国人市民会議での意見
「まず最初は言葉の通じる人を頼るので、同国人の組織がメインの窓口になった方がよ
い。」
「震災後、NGOとして在住ベトナム人の支援とベトナム文化の紹介をやっているが、
ボランティアなので財政的に苦しく、支援してほしい。」
「ただ単に通訳できるというのではなく、日本の法律や制度をわかっていないと十分で
はない。」
○国際都市にふさわしいまちづくり
国際都市にふさわしいまちにしていくためには、外国人居住者、訪問者を受け入れる市
民の理解を求めるとともに、情報がどこで得られるのかがわからない外国人に対して情報
の一元化及び相談体制の充実を図る必要がある。長期的には、英語教育など言葉のバリア
を引き下げていくという点が重要になる。
○神戸市地域国際化基本指針の策定
神戸市では、平成 15 年 5 月に外国人市民会議を設置し、震災から 10 年を迎える平成 17
年 1 月に向けて、外国人市民の生活支援のあり方等についてとりまとめが行われる。
本懇話会では同会議の場をお借りして、「外国人市民のワークショップ」を実施し、その
内容について本懇話会の報告書に取り入れることとしたが、同会議においては、今後、さ
らに分野別のテーマについて詳細の議論を行うとともに、外国人市民の生活実態調査や外
国人市民会議に属していない少数のコミュニティや留学生などの関係団体からのヒアリン
グを行うこととしている。
外国人市民の生活支援の問題については、上記で掲げた課題にあわせて、同会議でさら
に密度の濃い議論を行い、「神戸市地域国際化基本指針」をまとめられることを期待する。
83
第6節 ボランティアやNPO・NGOが活躍するまち
1.ねらい
震災後のまちづくり等において、ボランティア、NPO・NGOは大きな役割を果たした。
市民ニーズが多様化している現在、きめ細かくそれらのニーズに対応できる公益サービス
の提供者として、ボランティア、NPO・NGOが果たす役割は今後とも大きいと考えら
れる。しかし、ボランティア、NPO・NGOの多くは、経営基盤が脆弱であるため、こ
れを側面的に支援することによって、十分にその力が発揮されることを目指す。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○市社協に登録しているボランティア団体数およびNPO法人数は、年々増加している。
ボランティア(個人)は最近やや増加に鈍りがみられるが、この 8 年間では増加している
といえる。
NPO法施行後(平成 10 年 12 月 1 日)、NPOの活動領域はまちづくり、環境、芸術・
文化など極めて多様化し、かつ公益性の高い分野で積極的な活動が続けられている。
平成 14 年度神戸市民1万人アンケートの結果によると、ボランティア・NPO活動など
への参加状況では、年代層により偏りがみられ、60 歳代、70 歳以上の参加率が高い一方で、
20∼30 歳代の参加率は低くなっている。
神戸市内NPO法人認証数
平成 11 年度末
12 年度末
13 年度末
14 年度末
15 年 11 月末
25
65
101
155
201
NPO分野別認証数(平成 15 年 11 月末現在)
分
野
医療・福祉
注)NPO定款により分類
社会教育 まちづくり 文化・芸術
環境保全
災害救援
スポーツ
団体数
124
103
95
66
58
15
割合
61.7%
51.2%
47.3%
32.8%
28.9%
7.5%
地域安全
人権平和
国際協力
男女共同
子供育成
情報化
分
野
参
画
団体数
17
34
42
11
78
5
割合
8.5%
16.9%
20.9%
5.5%
38.8%
2.5%
科学技術
経済
職能開発
消費者保護
中間支援
分
野
活性化
団体数
1
7
9
2
85
割合
0.5%
3.5%
4.5%
1.0%
42.3%
※1つの団体が複数分野の活動を行う場合があるので合計は 100%にならない。
84
ボランティア個人・団体数の推移(市内各区ボランティアセンター登録数)
7年度
8 年度
9 年度
10 年度 11 年度
12 年度 13 年度 14 年度
個人登録
2,306
2,840
1,516
2,147
2,310
2,202
2,676
2,513
団体登録
312
501
610
728
869
991
1,141
1,201
○震災直後に比べ、ボランティアグループの性格が変わってきている。
震災をきっかけにして「できることからやろう」とするボランティア活動は大きく増え
たが、時間の経過につれ、分野に分かれ組織的な運営を進めるグループと、従来の「でき
ることをやろう」とするグループや個人に分かれてきた。
ボランティアグループインタビューでの意見
「震災で助けを求める人が目の前におり、夢中で生活支援のことなら何でもやった。今は
得意な分野や技術を活かして特定分野にしぼった活動をしている。」
○ユニークなNPO団体も生まれている。
神戸では、婦人会などを中心に地縁型のNPOが登場し、ふれあい給食・ミニデイサービ
ス・チャレンジショップなどの事業に取り組んでおり、全国的にもユニークな事例となっ
ている。
また、阪神・淡路大震災で被災した遺族が中心となって震災を語り継ぐNPOも生まれて
いる。さらに、草の根NPOの活動を支援する中間支援NPOや、新開地まちづくりNP
Oのように、まちづくり協議会がNPO法人として継承された事例もある。
○復興においてNPO・NGOが果たした役割
NPOワークショップでの意見
「介護、コーディネートなどのソフトな支援。」
、
「提言、提案、ニーズの掘り起こし。」
「支
えあいの文化の発信。」
○様々な形でNPO・NGOと行政の協働が行われているが、NPO・NGO活動のさらなる活性化に
向けた協働のあり方について検討が続けられている。
NPO・NGOへの事業委託、パートナーシップ活動助成などの取り組みがなされている。
また、これからの公共公益サービスを協働で進めていくために、NPO・NGO、行政が
ともに相互理解を図りながら協働の基本的な枠組みを検討していく継続的な場所が必要で
あるとの認識に立ち、平成 13 年度より「NPOと神戸市の協働研究会」
(協働研)を設置
して検討が続けられている。
協働研
公開フォーラムでの意見
「NPOと行政が協働する上では『対等の立場に立つこと』
『自主性の尊重』
『市民活動の
自律化』『相互理解』『目的の共有』『情報の公開』が前提条件として必要である。」「協働
の目的は『補完』『価値の創造』『効率化』である。」
85
(市の主な取り組み等)
○協働のしくみづくり
・ パートナーシップ活動助成
・ 協働研での協働フレーム構築に向けた活動
・ 市民活動データベースシステム構築
・ 協働と参画のプラットホーム
・ NPO への事業委託
○NPO・NGO、ボランティアの活動支援
(ボランティア活動を支援する施策)
(NPO・NGOへの支援、市民活動の広がりを支援
・ 区ボランティアセンターの設置運営
する施策)
・ ボランティア情報センターの運営
・ 場の提供
・ ボランティア情報システム
・ 法人市民税均等割免除
3.これからの取り組み(方向性)
○NPO・NGOの活動基盤の確立
国、県も含めて行政は、個人・企業がNPOに寄附しやすい環境整備を進めるなど財政
面をはじめとする活動基盤確立のための方策を講じていく必要がある。
NPOワークショップでの意見
「活動への参加者を拡大すること、組織運営のノウハウをもっと高めていくことが必要で
ある。」「NPOの独立性の担保に十分留意しながら、活動への支援、助成を求める。」
○中間支援NPO・NGOへの支援
行政は、個々の団体のパワーアップや、潜在的な資源・人材の掘り起こし、それによる地
域のエンパワメントといった中間支援組織の果たす役割を十分認識し、NPOに事業を委
託する場合、その教育効果や社会への啓発効果などを含め評価すべきである。
NPO公開フォーラムでの意見
「我々中間支援NPOは、神戸市所有の文化会館の管理業務を受託しているが、管理だけ
ではなく地域住民がその会館を使って新しい文化の着信・発信をする支援を行っている。」
○新しい協働手法 ―協働協定の検討
助成や事業委託といった既存の協働手法の不備を補完するため、今後は、①協働の目的、
②目的達成のための協働の主体(パートナー)、③パートナー各々の役割分担・資源分担、
④協働の成果と責任・リスク分担、⑤評価の方法
を定めた協定の検討が必要である。
NPOワークショップでの意見
「まち・社会・NPOの担い手をどうつくっていくのか一から考える場を設けるなど、
お互いに協働の目的を共有することが必要である。」
「多様な市民サービスのメニューが
必要とされている現在、マイノリティへの対応も可能なNPOと、行政とが補完し合う
必要がある。
」
「協働は目的の重なり合う部分で役割分担して行うべきもの。」
「課題によ
ってパートナーシップのあり方は異なる。」
86
○ボランティア、NPO・NGOと地域住民組織等との協働
自律し、連帯した地域社会を築くためには、地道な活動を行うグループ、個人のボランテ
ィアの力や、組織的に広域活動も可能なNPO・NGOの機動力を地域に活かしていくこ
とが重要であり、それが地域の活性化などにもつながるものと考えられる。
今後は、地域住民組織や企業とボランティア、NPO・NGOとの協働など、行政以外の
主体同士による協働についてもさらに進めていく必要がある。また、行政としてもこれら
の活動を支援するために、情報提供や相談機能を充実させていく必要がある。
NPOワークショップでの意見
「住民同士がつながり合う。そしてますますつながりを強くしていくこと。その人たちを
育てるのが、NPOの役割。」
「いろいろな触手を伸ばしてつながっていく。NPOの活動
はひとつのネットワーク社会の構築に向けての基礎づくり。」「異なる主体間をつなぐの
が、NPOの役割。」
ボランティアグループインタビューでの意見
「もっと地域との連携を深めて、地元還元型のボランティア活動を目指したい。
」
「行政はパイプ役となって、仕事を依頼するだけでなく、情報提供や相談相手となってほ
しい。」
○制度悪用への対策
最近の動きとして、NPO法人認証制度の隙間をかいくぐるように、暴力団関係者やテ
レクラ業者が関わるNPOが現れるなど制度を悪用する事例が見られる。このような動き
に適切に対処するため、NPO情報を得やすい環境づくりが求められるとともに、行政機
関が相互の連携を強めていく必要がある。
87
第2章 都市活動分野
1. これまでの経緯
都市活動分野は、経済、港湾、文化などの要素で構成されるが、市民生活を都市活動の面
から支える意味で重要な分野である。震災では、都市活動分野を支える港湾施設や都市基
盤等に甚大な被害を受け、多くの市民の雇用の場が奪われた。震災以降の復旧のスピード
は早かったが、経済面においては全体的にみれば震災前の水準に戻らず、「8 割復興」とい
う状態が続いていた。
このような中で行われた震災から 5 年目の「復興の総括・検証」では、残された3つの
課題の一つとして、「経済の再生」が掲げられ、
「自律型復興」の考え方のもとに、
「産業構
造の変革∼8 割復興からの再出発」、
「新しい社会基盤の構築」、
「神戸文化の発信」という方
向性が示された。
これを受けて策定した「神戸市復興計画推進プログラム」では、「都市活動の再生」を柱
として、「神戸経済の新生」と「神戸文化の創造・発信」の両面から進めていくこととして
いる。このうち、「神戸経済の新生」については、地域レベルの経済復興や神戸港の再生に
よる「既存産業の再活性化」を図るとともに、ベンチャー企業の育成や知識創造を担う人
づくり、交通・情報通信ネットワークの構築による「新規産業の創生」を図ることとして
いる。また、
「神戸文化の創造・発信」に向けては、神戸の国際性を生かしながら多様な文
化を育むまちをつくっていくこととしている。
現在、これらの方向に沿いながら、中小企業支援や産業構造の転換、神戸文化の発信など
により、都市活動の再生が目指されている。
2. 各節の構成
都市活動分野については、
「第 1 節 産業復興対策」から「第 7 節
集客観光都市づくり」
までの 7 節で構成する。
産業活動を特に復興の切り口でまとめる「第 1 節
産業復興対策」では、震災特例的な
制度、復興特定事業について記載する。第 1 節では、産業活動面の総論的意味合いをもた
せ、雇用対策など各節に共通したテーマについても記載する。
産業活動のうち、新規・成長産業については、
「第 2 節
新しい産業活力づくり」で整理
する。第 2 節では、ベンチャー企業支援などの起業、医療産業などの成長分野の産業集積、
外国・外資系企業の誘致等について記載する。
既存産業については、
「第 3 節
中小企業・生活文化産業の活性化」、
「第 4 節
地域社会
と連携した産業」で整理する。このうち、第 3 節では、工業を中心にまとめることとし、
中小製造業、生活文化産業について記載する。第 4 節では、地域社会と関係の深い業種に
ついてまとめることとし、商店街・市場を中心とした「小売商業」、震災後広がってきた「コ
88
ミュニティビジネス」、
「農漁業」について記載する。
都市活動のハード・ソフト両面のインフラとして、それぞれ「第 5 節
域交流基盤」
、「第 6 節
神戸港などの広
文化・芸術の振興」で整理する。第 5 節では、ハード面のインフ
ラとして海・空・陸の交流基盤についてまとめることとし、神戸港の利用促進・利用転換、
神戸空港の建設・活用について記載する。第 6 節では、ソフト面のインフラとして文化・
芸術の活動面を中心にまとめることとし、神戸らしさや地域の個性を生かしたまちづくり、
市民や芸術家の文化・芸術活動、文化を生かした都市再生を記載する。
以上の各節の内容を受けて、都市の総合力が問われる集客の観点からは、
「第 7 節
集客
観光都市づくり」を設け、観光資源、観光客の誘致・受入、コンベンションについて記載
する。
以上の各節の主な関係を簡略化して図で示すと以下のとおりとなる。
【都市活動分野の各節の主な関係】
(
産
業
活
動
)
第1節
第3節
産業復興対策
中小企業・生活文化産業の
活性化
第2節
新たな産業活力づくり
第4節
地域社会と連携した産業
第7節
集客観光都市づくり
第5節
第6節
神戸港などの広域交流基盤
文化・芸術の振興
(ハード・インフラ)
(ソフト・インフラ)
89
【他分野との関係(主なもの)】
都市活動分野
その他の分野
市民生活分野
第1節
第1節
市民が地域における
自律と助け合い
産業復興対策
第2節
市民一人ひとりの健康
づくり
第2節
第5節
新たな産業活力づくり
外国人市民が暮らしや
すいまち
第6節
ボランティアや NPO・
NG O が活躍するまち
第3節
中小企業・生活文化
産業の活性化
すまい・まちづくり分野
第1節
第4節
地域社会と連携した
復興まちづくりの中に
みる知恵
産業
第2節
安心して暮らせる
すまい・地域
第5節
第3節
神戸港などの広域交流
ある都市空間
基盤
第4節
第6節
次世代につなぐ魅力
環境にやさしい都市の
すがた
文化・芸術の振興
第5節
市民主体の総合的な
地域づくり
第7節
集客観光都市づくり
安全都市分野
第3節
90
安全都市基盤
第1節 産業復興対策
1. ねらい
震災では、神戸の経済は大きな被害を受けた。その後、ハード面の復旧は進んだものの、
人口の回復状況やまちづくりの進捗状況には地域により差があり、雇用不安などを防止す
るため、民間事業者だけの努力では限界がある場合には当面の支援が必要である。
また、震災を機に取り組みを始めた復興特定事業などにより、神戸経済の構造転換を図る
ことが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○震災前に回復していない原因として、震災よりも景気や構造変化の影響をあげる企業が多い。
市内の事業所において,震災前と現状の事業活動の比較については,13.1%が「回復して
いる」と回答したのに対し,76.1%が「回復していない」と回答している。
「回復していない」理由として、
「景気の影響が最も大きい」とする事業所が 72.3%にの
ぼるのに対し、「構造変化の影響が最も大きい」とする事業所が 22.0%、「震災の影響が最
も大きい」とする事業所は、4.1%にとどまっている。
回復していない(売上高・利益が減少している)理由
震災の影響が最も大きい
4.1%
72.3%
景気の影響が最も大きい
22.0%
構造変化の影響が最も大きい
阪神・淡路産業復興推進機構(HERO)アンケート調査(平成 15 年 6 月調査)
神戸経済同友会との意見交換会での意見
「神戸の現状については,全国的な要因と神戸での要因による問題の二面を持っている。
神戸においては,震災の打撃とバブル崩壊、メガコンペティション、中国・アジアの台頭
などが複合的に影響している。」「一般企業ではリストラや企業改革が進み,明るい兆しも
見られるようになってきた。しかし,経済状況については国全体の問題であり,神戸だけ
でどうなるものでもない。神戸だけが盛り上がるということも考えられない。」
91
○行政への支援ニーズとしては、金融支援が期待されている。
行政への支援ニーズとして、「運転資金支援」や「返済期限の延長等の既存借入金対策支
援」といった金融面での支援ニーズが、高くなっている。
資金・金融面の支援ニーズ以外では、新たな取引先や顧客・マーケットの創出につながる
「まちのにぎわい創出の為のイベント開催」や「企業誘致の推進」が高く、また、「規制緩
和」や「新事業展開のための支援」
、「人材育成」などのニーズが高い。
行政に対する支援ニーズ
0%
注)複数回答
10%
20%
30%
32.7%
運転資金支援
21.6%
返済期限の延長等の既存借入金対策支援
15.0%
まちのにぎわい創出のためのイベント開催
11.8%
企業誘致の促進
9.8%
規制緩和
設備資金支援
9.4%
新事業展開のための支援
9.4%
9.4%
人材育成や確保のための支援
7.9%
情報化支援
7.3%
異業種交流・技術交流会の開催支援
6.4%
観光宣伝活動・大規模イベントの開催
5.2%
経営相談や指導員の派遣
見本市・展示会・商談会参加のための支援
大学・研究機関等との連携支援
環境対策支援
40%
4.1%
3.1%
2.4%
15.0%
その他・無回答
阪神・淡路産業復興推進機構(HERO)アンケート調査(平成 15 年 6 月調査)
【県・市の震災復旧特別資金融資の償還状況(平成 15 年 9 月末現在)】
件
数
(%)
金
額
(%)
完済
代位弁済
現在償還中
据置期間中
計
12,527 件
3,529 件
14,406 件
3,089 件
33,551 件
(37.3%)
(10.5%)
(43.0%)
(9.2%)
(100.0%)
償還済額
代位弁済額
現在償還中
据置期間中
計
296,165 百万円
31,371 百万円
60,231 百万円
34,403 百万円
422,170 百万円
(70.2%)
(7.4%)
(14.3%)
(8.1%)
(100.0%)
○産業分野における国の震災特例的な制度は少なくなっているとともに、復興支援工場の入居企
業も減少している。
震災特例的な国の制度は、緊急災害復旧資金融資の据置期間等の延長、政府系金融機関の
災害復旧貸付制度の取扱期間の延長など、数は少なくなっている。
92
また、産業復興施策の代表的事例である復興支援工場においては、ピーク時(平成 13 年
度末)には約 9 割の入居率であったが、入居企業の自社工場への移転や不況による事業規
模の縮小等により、徐々に入居企業が減少している。
○復興に関連して、復興基金等による先駆的な制度が構築されているとともに、民間での新しい
取り組みも生まれている。
復興に関連して、ベンチャーキャピタル制度など、従来の行政施策にはなかった先駆的な
取り組みが復興基金や産業復興推進機構によって実施されているが、原則、震災から 10 年
までの時限的なものである。
民間レベルでも、被災企業のグループによる新たな金融手法として「神戸コミュニティク
レジット」といった全国初の取り組みなど、新しい取り組みが生まれてきている。
【神戸コミュニティ・クレジットの仕組み】
貸付
借入 25,000千円×2
政策投資銀行
しんきん信託銀行
みなと銀行
借入企業6社
回収
(委託者の一部)
1億円
返済
借入申込
金銭の信託 50,000千円
情報開示表明保証
東京商工リサーチ
配当
貸付について の受益者
のスクリーニング
部分保証
委託者兼受益者
(日本トラストファ
ンド等15社)
○復興特定事業は進んでいるものが多いが、神戸経済全体への波及効果を生み出していくのは
これからの課題である。
上海・長江交易促進プロジェクトについては、当初想定されていた専用船の就航や交易港
区の設置が進み、中国人街の形成に向けた企業誘致も進めている。また、これらに伴い、
ビジネスマッチングなど経済交流も進みつつある。
【ビジネスチャンスフェア推移】
回
開催年度
出展省市
出展社数
中国の参加
1
2
3
4
5
6
10(1998)
11(1999)
12(2000)
13(2001)
14(2002)
15(2003)
1省5市
3省5市
3省23市
3省30市
4省24市
5省17市
56社
84社
96社
145社
111社
78社
136人
215人
262人
359人
288人
314人
ブース数
商談件数
46ブース
83ブース
131ブース
181ブース
143ブース
96ブース
491件
1,633件
2,202件
2,737件
2,220件
1,785件
成約件数
137件
436件
726件
973件
1,044件
793件
成約額
来場者数
19億円
35億円
36億円
57億円
65億円
51億円
【企業誘致】
実績:29 ヶ所(平成 15 年 11 月 1 日現在)
※内訳:中国地方政府等神戸駐在員事務所
93
11
日中ビジネス関連民間企業等
18
1,084人
2,677人
2,866人
3,690人
3,897人
3,309人
新産業構造形成プロジェクトについては、概ね順調に進んでいるものが多いが、民間主導
で進める予定であった事業の一部に、経済情勢の変化により進んでいないものもある。
○人材育成・ネットワークづくりを図る神戸ブレインセンターの取り組みが始まった。
神戸経済の本格復興のためには、震災前の状態に戻すだけでなく、新たな産業構造の転換
が必要であるとの認識のもと、平成 12 年度に「神戸経済新生会議」を実施し、ここにおい
て目標を「『人』の活きる価値創造都市」とする提言がなされた。この提言を受けて、さら
に、平成 14 年度には、
「神戸ブレインセンター(知識創造機能)研究会」が開催され、
「人」
の知識・知恵の交流・融合により新たな価値の創造を目指す、とする提言がなされた。
現在、起業や第 2 創業を支援する講座の開催や専門家派遣などのほか、新産業・既存産
業ともに新たな人材育成・ネットワークづくりへの取組みが、産学官の様々な主体により
広がりを見せている。
【主な取り組み事例】
プロジェク
医療産業都市構想や神戸 RT 構想などの推進により,新しい技術を取り巻く
ト関係
人材のネットワークが広がっている。医療産業都市構想については,人材育
成や起業化支援の施設整備も進められている。
既存産業
既存産業においても,例えば商店街による新たなネットワークづくりや創業
者育成を目指すチャレンジショップといった取組みが行われているなど,活
性化に向けた人材育成やネットワークづくりへの展開が見られる。
経済団体
神戸商工会議所により,様々な分野の企業関係者や学識経験者の参加する
「神戸 21 世紀サロン」が開催されるなど,新たな交流の場が生まれている。
○「2万人の雇用創出」は順調に進んでいる。
「2 万人の雇用創出」では、平成 14 年度から平成 17 年度までの 4 年間で 2 万人の雇用
創出を目標としているが、平成 14 年度は目標の 4,500 人に対し 5,553 人(約 123.4%)の
雇用創出が達成された。平成 15 年度の上半期では 2,546 人の実績となっている。
【「2 万人の雇用創出」年次計画と 14 年度実績】
)は平成 14 年度実績
(
雇用創出予定人数(人)
事
業
内
容
1.商工業や集客観光などの振興
2.企業誘致
3.医療、福祉、環境など成長分野の産業育成
14 年度
15 年度
16 年度
17 年度
合計
1,500
(1,907)
1,700
(1,559)
1,300
(2,087)
1,500
1,600
1,900
6,500
1,500
1,500
1,300
6,000
1,500
1,300
1,400
5,500
0
0
100
1,900
2,000
4,500
(5,553)
4,500
4,500
6,500
4.神戸空港や臨空型産業の集積(平成 17 年度開港)
合
計
94
20,00
0
(市の主な取り組み等)
【復興対策】
【雇用対策】
○ 震災復旧特別資金融資(復興基金による利
○ 2 万人の雇用創出
子補給あり。当初据置期間 3 年、償還期間
○ 兵庫労働局等との連携
10 年。国に延長を要望し、現在各 9 年、
○ 神戸市就職支援講習会
16 年)
○ 中小企業融資制度(雇用拡大対策資金融
資)
○ 事業再開等資金融資(復興基金による利子
補給あり)
○ 緊急地域雇用創出事業
○ 復興支援工場
【復興特定事業の推進】
○ ハイテクイースト工業団地
○ 上海・長江交易促進プロジェクト
○ 民間賃貸工場家賃補助
○ 新産業構造形成プロジェクト
3.これからの取り組み(方向性)
○金融支援の継続実施
中小企業の資金繰りは、不況等による売上減少、不良債権処理の加速化に伴い、未だ厳し
い状況にある。引き続き、国・県・市が連携し、新たな資金需要や既往借入金の返済負担
について、状況に即した対応をしていく必要がある。
○中小企業の自立促進策の実施
中小企業については、震災の影響を引きずったまま、景気低迷のあおりを受けたため、新
規事業への展開や既存事業の高度化などの取り組みが進んでいないところも多い。事業意
欲を持ち,また,アイディアや技術力を持ちながらも事業を展開することができない企業
などについては,集中して支援し,自立を促す施策が必要である。
施策の検討にあたっては、費用対効果、時勢に即したニーズ、官民の役割分担等の視点か
ら、重点的に実施していく施策を検討する必要がある。
○震災 10 年を見据えた震災復興対策事業の一般施策化と復興特定事業の今後のあり方検討
産業復興推進機構のアンケート調査結果にあるように、現在の経済活動低迷の最も大きな
要因は、震災の影響ではなく、景気や構造変化の影響である。今後の都市間競争に対応す
るため、被災企業への震災復興対策の一般施策化を進めながら、産業構造転換については
地域自らの課題としてより重点を置いていく必要がある。
震災から 10 年を目処に復興特定事業については、個別に今後の展開方向を検討する必要
がある。特に、上海・長江交易促進プロジェクトについては、これまでに培った中国側と
の人的ネットワークを活用しながら、地元企業とのビジネスマッチングなど日中ビジネス
の企業支援やビジネス中華街の形成に絞って実施していくことが重要である。
95
○ものづくり拠点としての復興支援工場の活性化
被災企業の操業場所の確保という初期の目的を一定果たし、供用開始から 5 年余りが経
過することから、今後、新規入居要件の見直しを行うなど、復興支援工場が、神戸の「も
のづくりの拠点」となるよう活性化を図る必要がある。
○価値創造を担う人材・育成ネットワークづくりのさらなる推進
神戸経済の本格復興のためには、震災前の状態に戻すだけでなく、新たな産業構造の転換
が必要であるとの認識のもと、今後の知識社会への対応に向けた価値創造を担う人材の育
成やネットワークづくりがこれまで以上に求められている。今後の神戸経済を活性化して
いくのにあたっては、知的クラスターの形成などにより、あらゆる分野において、21 世紀
の知識社会を担う「人」が集まり、育ち、活躍できるまちづくりを横断的に進めていくこ
とが必要である。
○雇用対策の推進
労働行政担当機関等との連携、若年層・中高年齢者層・女性などへの対策、求職者と求人
者の効果的なマッチング、社会・経済構造の変化に対応した多様な働き方の検討などを総
合的に実施するとともに、「2 万人の雇用創出」の着実な推進による新たな雇用の場づくり
が必要である。
連合神戸との意見交換会での意見
「若年者のフリーターが増えているが、やむを得ずやっている人もいる。若い人の雇用は
重要な課題である。」
96
第2節 新たな産業活力づくり
1. ねらい
震災前から抱えている構造的な問題が神戸経済の復興の停滞に大きく影響しており、本格
復興に向けた神戸経済の構造転換は重要な課題である。神戸経済の構造転換のためには既
存産業の高度化と併せて、ベンチャー企業が自らの能力を試すことができる仕組みづくり
を進めるとともに、神戸の国際性や医療産業都市構想などのプロジェクトを生かしながら、
新規・成長分野の産業を集積させる必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○神戸の開業率は大都市の中で一番高く、開業率と廃業率の差が最も小さい。
神戸市の開業率 6.7%は、大都市の中で一番高い。全国・大都市とも、廃業率が開業率を
上回っているが、神戸市が開業率と廃業率の差が最も小さい。
【開業率・廃業率の都市別比較(平成 8∼11 年)】
(単位:%)
神戸
札幌
仙台
千葉
東京
川崎
横浜
名古
京都
大阪
広島
北九
福岡
市
市
市
市
区部
市
市
屋市
市
市
市
州市
市
開業率
6.7
5.6
5.8
5.0
5.2
4.2
4.8
4.5
3.9
4.5
5.1
4.8
6.0
廃業率
7.2
8.1
8.0
7.0
7.6
6.3
7.1
6.1
5.7
7.6
7.6
6.8
7.7
全国:開業率 4.1%、廃業率 5.9%
資料:事業所・企業統計調査
○ベンチャー企業の交流が広がっている。
ベンチャーカレッジ卒業生や各インキュベーションのつながりなどで構成される交流会
が定期的に開かれるなどベンチャー企業同士の横のつながりができ、情報交換の場となっ
ている。
【主なベンチャー企業向け交流会】
交流会名
参加企業
活動内容
神戸ステップアッ 神戸市内ベンチャー企業中心 情報交換(H13 年度∼;第 3 水曜日)
プサロン
15 名
神戸ベンチャース 神戸市内ベンチャー企業中心 トークイベント等の開催、情報交換
タイル
6名
企業育成室交流会
神戸市産業振興センター企業 講演会、展示会等の開催、情報交換
育成室入居企業
ビアバースト
10 名
(H5 年度∼;1 回/月)
SOHO プラザ会員
講演会、情報交換(H13 年度∼;1
参加者数
回/月)
不定
97
○外国人の生活環境が整っていることを強みとして、外国・外資系企業の立地は他都市に比べ
て進んでいる。
神戸には、子弟の教育・医療施設、宗教施設、外国人コミュニティの存在など外国人の生
活環境が整っており、外国・外資系企業誘致にあたっての神戸の強みとなっている。
【外国人学校数
学校数
政令指定都市比較(2002 年5月1日現在)】
神戸
札幌
仙台
千葉
川崎
横浜
名古
京都
大阪
広島
北九
福岡
市
市
市
市
市
市
屋市
市
市
市
州市
市
9
2
2
1
2
8
3
5
9
2
2
1
系
3
1
1
1
2
3
1
4
8
1
2
1
インターナショナル系
6
1
1
0
0
5
2
1
1
1
0
0
民
族
神戸に本社を置く外国・外資系企業数については、平成 12 年までは減少傾向にあっ
たが、オフィス賃貸料補助や神戸国際ビジネスセンターをはじめとする新しい受け皿の
完成に伴い、増加に転じている。
【外国・外資系企業数の比較(本社所在地)】
(外資系企業総覧<東洋経済>)
平成 10 年
平成 11 年
平成 12 年
平成 13 年
平成 14 年
56 社
51 社
52 社
62 社
64 社
東 京 都
2,560 社
2,553 社
2,587 社
2,496 社
2,461 社
大 阪 市
140 社
138 社
133 社
123 社
122 社
京 都 市
7社
6社
7社
7社
5社
名古屋市
18 社
19 社
19 社
18 社
20 社
広 島 市
3社
5社
3社
2社
8社
神戸市
○医療産業都市構想の拠点整備や関連企業の集積が進むとともに、地元企業への浸透を進
めている。
医療産業都市構想を打ち出してから、国や民間企業の支援も受け、拠点整備は急速に進ん
でおり、ポートアイランド第2期には平成 15 年 9 月末現在、既に 1000 人を超える研究者、
企業関係者が集い、研究開発活動及びその他事業活動を行っている。特に、再生医療分野
において、世界でも最先端の研究開発、事業化の取り組みが産学官連携により行われてお
り、商品化・実用化した際には、神戸経済に相当な波及効果をもたらす可能性のある取り
組みが行われている。
拠点整備に伴って関連企業の集積も進んでおり、同構想を理由にして起業・立地したベン
チャー企業も多く、海外の大手企業の進出も決まるなど、同構想公表以降のポートアイラ
ンド第 2 期への医療関連企業の進出は 50 社(平成 15 年 12 月 9 日現在)に上っている。
地元産業との関連においては、神戸市機械金属工業会会員企業が中心となった医療用機器
開発研究会の取り組みが進んでいるとともに、重厚長大産業などの市内大手企業等におい
ても、その保有技術を活用し、ロボット工学やコンピューター技術などを応用して、医療・
98
福祉介護機器の開発に取り組む例が増加しつつある。具体例をあげると以下の通りである。
川崎重工業
高気圧酸素治療装置、医療用配管設備、病院内コンソール、医療情報シス
テム
神戸製鋼所
チタン材、セラミック材を用いた人工股関節、人工膝関節
シスメックス
自動血球計数装置、がん転移検出装置、無侵襲ヘモグロビン測定装置
ナブコ
歩行支援機、アシストホイール(電動車椅子)
、インテリジェント義足
三菱重工業
高精度四次元放射線治療装置システム、小型アーム付きロボットシステム
(介護への応用)、高齢者向け生活支援ロボット
三菱電機
重粒子線ガン治療装置、放射線安全管理システム、光ファイバー放射線セ
ンシングシステム
医療関連大手企業の意見
「医療産業都市構想については、今のところ最先端過ぎるところがあり、もう一段降りて
こないと連携しにくいところがある。今はアカデミックなところであるが、開発の段階ま
でくれば実感の問題としてわかりやすいものになる。」
○ロボットテクノロジーは神戸の強みを生かせる成長産業分野であり、試作品開発も進んでいる
が、市場規模はまだ小さい。
神戸市及びその周辺には、川崎重工業㈱、三菱重工業㈱、㈱神戸製鋼所などの大手製造業
を中心に、産業用ロボットをはじめとするロボットの開発・製造に関する豊富なノウハウ
と実績があり、これら大手企業の協力メーカーとして発展してきた中小製造業が持つ高度
なものづくり技術が集積している。
(参考) 市内企業等の取り組み状況 −神戸におけるロボット技術の基礎的調査(平成 14 年)より−
・ロボット完成品を製造・販売している企業
24 社
・ロボットの機械部品を製造・販売している企業
13 社
・メカトロ製品(省力化機器)を製造・販売している企業
12 社
・ロボット用制御装置を製造・販売している企業
22 社
・減速機器を製造・販売している企業
5社
・メカトロ関連センサを製造・販売している企業
10 社
ロボットテクノロジーは神戸の製造業の高付加価値化を促す可能性のある産業分野であ
るが、現在のところ市場規模はまだ小さい状況にある。
ロボット研究会企業の意見
「RT(ロボットテクノロジー)に関しては、神戸のものづくりで活かせないものはおそら
くなく、ソフトまで含めると RT が発展して効果のない分野はないのでは。」
「産学連携レス
キューロボットの試作品開発に関わり、世の中に発表できるロボットができた。レスキュ
ーロボットはうまくいけば数多くの官需要が見込める分野であり、市場に受け入れられる
商品をつくっていくことが大切。」
「ロボットビジネスの現状の市場規模は小さい。」
99
○情報産業の集積は全国の平均的な数値であるが、デジタル映像産業の集積、神戸情報館
の開設等の新しい動きがある。
事業所・企業統計調査によると、平成 13 年 10 月 1 日現在のマルチメディア関連産業は神
戸市では事業所数 732 事業所、従業員数 14,561 人で、全国に占める割合はそれぞれ 1.37%、
1.15%となっている。神戸のマルチメディア産業の全国に占める割合は平均的な数値とい
える。
震災以降、コミュニティ放送局ができているほか、デジタル映像関連の専門学校などの立
地も進んでいるとともに、情報産業に関連した新しい動きとしては、市と神戸フィルムオ
フィスとの連携により映像制作関連企業の誘致を進めてきた結果、平成 15 年 5 月までにポ
ートアイランドの神戸国際交流会館 7 階に、デジタル映像制作関連企業3社が進出した後、
さらに集積が進み、11 月末で計 6 社が事業展開を行っている。
震災後、通信・放送機構(TAO)の研究開発事業として敷設された光ファイバーケーブ
ルを市が引き継ぎ、地域間幹線として民間通信事業者への貸付け等で活用されているほか、
今後の神戸の優位性を確立するため、平成 15 年 10 月、NTT西日本及びケイ・オプティ
コムをはじめとするIT関連産業の出資により、㈱神戸コミュニティ・エクスチェンジが
発足し、11 月に神戸IXの業務を開始した。また、行政情報・民間情報の区別なく、イン
ターネットを活用した情報発信を行う「神戸情報館」が平成 15 年 7 月に開設された。
○環境産業の立地については、「エコテック 21 構想」に掲げたモデル事業の立地は進んでいる。
臨海部の自動車リサイ 進出予定企業 2 社のうち、既に 1 社が平成 15 年 7 月から稼動。
クルシステム
もう1社についても平成 16 年 5 月稼動予定
内陸部の総合リサイク 発泡スチロールリサイクル事業が平成 15 年 6 月に稼動。
ル拠点
今後、空缶リサイクルなど、数事業の稼動が予定
○ベンチャー支援、成長産業の集積促進は一定の成果はあるが、マクロで神戸経済を牽引する
には至っていない。
震災以降、起業支援の仕組みとして、神戸市によるインキュベータの整備、兵庫県の新産
業創造キャピタル、商工会議所による創造塾など、手厚い支援がなされており、インキュ
ベータから上場企業が生まれるなど、一定の成果が上がっている。
成長産業の集積促進のために制定された神戸起業ゾーン条例(エンタープライズゾーン条
例)による支援により、215 社の企業進出(平成 15 年 11 月 1 日現在)を誘発している。
しかし、これらの新たな産業の動きが神戸経済を牽引するところまでには至っていないの
が現実である。
100
(市の主な取り組み等)
・ 「パイロットエンタープライズゾーン」の
【ベンチャー企業育成】
創設
○ 人材の育成(商工会議所の創業塾の開催、
ベンチャカレッジの開催、SOHO プラザの
・ 国の「都市再生プロジェクト」
、
「知的クラ
スター創成事業」に選定
運営、大学との連携)
○ 資金提供(県の新産業創造キャピタル制度、市
・「先端医療産業特区」認定
のベンチャー・経営革新等支援資金融資、 ○神戸 RT(ロボットテクノロジー)構想の推進
・レスキューロボット等の開発支援
創業支援資金融資)
○ インキュベータの提供(産業振興センター
企業育成室、神戸インキュベーションオフィス、神戸ファ
ッションマート、チャレンジオフィス
・産学連携、企業間ネットワークシステムの構築
・「神戸ロボット研究所」及び「神戸RT研究会」
の活動支援、ロボット関連イベントの誘致、開催
等)
○情報産業の集積促進
【国際経済交流】
・ 光ファイバーケーブルの民間通信事業者への貸付
○ 外国・外資系企業の誘致
・ IT スペースリース事業
・ひょうご投資サポートセンター(HIS)
・ ケーブルテレビ事業者に対する施設整備費補助
・神戸国際ビジネスセンターの建設
・ 神戸高度情報化(iDC, IX)研究会の開催
・外資系企業オフィス賃貸料補助
・ デジタルコンテンツクリエーター育成講座
・神戸国際経済ゾーンの創設
・ 「アニメーション神戸」の開催
○ 先進的対内直接投資推進事業
・ 「神戸フィルムオフィス」の設置
○ FAZ事業の推進
○環境産業の立地促進
【成長産業の集積】
○神戸起業ゾーン条例(固定資産税の減免等)
・ 臨海部の自動車リサイクルシステム
・ 内陸部の総合リサイクル拠点
○神戸医療産業都市構想の推進
・ 拠点整備(先端医療センター、発生・再生科学
総合研究センター、神戸臨床研究情報センター、起
業化支援施設、神戸バイオテクノロジー研究・人
材育成センター(仮称) 等)
3.これからの取り組み(方向性)
○ベンチャー支援、オフィス賃貸料補助などの復興基金に基づく先進的な制度の再構築
現在のベンチャー支援策や成長産業の集積は、復興基金に基づく先進的制度に負うところ
が大きい。復興基金の制度がなくなった後の制度の再構築について早急な検討が必要であ
る。
特に、成長産業の集積を促進しているエンタープライズゾーン条例については、現在のと
ころ平成 16 年度末までの時限条例であるが、その期限延長が必要である。
101
○外国・外資系企業の進出後のフォローアップと既存産業との連携
外国・外資系企業は、日本にない技術や経営ノウハウを持つとともに、迅速に事業展開を
図る傾向があり、短期間で雇用や市内中小企業との取引等につながるものであり、神戸の
国際性を生かしていく意味から、誘致を推進していく必要がある。具体的には、対日投資
促進の観点も踏まえて、神戸における日本貿易振興会(JETRO)の拠点施設を、JETRO、
県と共同で運営することにより、外国・外資系企業の立地支援・定着支援を総合的・一体
的に展開する必要がある。
また、企業進出後のフォローアップを行うため、外国・外資系企業のニーズに応じた
ビジネス・生活に関するワンストップサービスを提供し、企業の定着を促進する「ビジ
ネスライフサポート窓口」が開設されたが、関係機関と緊密に連携し、地元企業とのビ
ジネスマッチングなどの面で一層の充実を図る必要がある。具体的には、当該窓口の充
実を図りつつ、企業の国籍を問わず、ポートアイランド内企業相互の交流や地元企業との
交流を図る場の提供も行い、製品、部品、原材料等の購入、開発、製造などの取引を通じ
て、進出企業の事業拡大とともに、地元企業の事業拡大や技術の高度化を図ることが重要
である。
○関連企業や市民が身近に感じられる医療産業都市構想の推進(治験面の支援、健康・福
祉分野への拡充)と研究者・企業のコミュニティの形成
医療産業都市構想のテーマを先端医療中心から広く健康・福祉分野に拡充することにより、
関連事業に厚みを持たせるとともに、疾病予防、健康増進分野の追求により、超高齢社会
に対応した市民福祉の向上に資するよう取組む必要がある。
一層の産学連携、産産連携を促進し、クラスターならではの知的活動のアクティビティを
向上させるため、進出研究機関、企業間のコミュニティを結成する必要がある。
神戸経済同友会との意見交換会での意見
「健康都市ということでは、医療を中心に、病院や福祉,スポーツ施設,公園のほか六
甲山なども一体的に活用すればいい形になる。こういったものを生かしていけば、健康
をテーマにして多くの人が集まるまちになるのではないか。健康都市は、医療産業都市
構想を生かしていく中で、見えてくるものである。」
中小企業製造業者の意見
「神戸のものは安全で良いというブランド力を確立するとともに、コストを安く押さ
え、競争に勝つために治験データの共有化など、行政の支援やしくみづくりが不可欠。」
○ロボットテクノロジーの市場形成の促進
ロボットテクノロジーの集積のためには、市場形成が重要であり、作り手である企業の参
入意欲を掘り起こすため、神戸RT研究会等を中心に、地元企業のネットワーク化、情報
102
交流等の場・機会づくりなどによる競争力の強化を図るとともに、ロボットのユーザー拡
大のためのしかけづくりを検討し、ロボット分野の裾野を広げていく必要がある。また、
RT 構想の明確なビジョンを打ち出し、近隣の自治体や経済界とも連携し、情報発信を強化
していくことも必要である。
ロボット研究会企業の意見
「ユーザーのニーズをいかに的確にすくい上げられるかがキーポイントで、ニーズ側の
提案を受けられるような場の設定が必要。」
○デジタル映像産業をはじめとする情報産業の集積促進
今後、国際交流会館へのデジタル映像産業の進出を生かしながら、同会館に入居している
サンテレビジョン等との連携、ブロードバンド活用によるコンベンションの振興、医療産
業都市構想での医療映像コンテンツの充実、地域に根ざした映像の保存などにより、厚み
のある産業集積を図り、若手クリエイターの活躍の場を提供していくことが必要である。
情報化においても「神戸でなければならない意味」を明確化することが重要であり、神戸
の優位性である市保有の光ファイバー幹線の活用や先進的施策としての神戸IXの整備を
進め、情報産業集積のための基盤をつくる必要がある。
デジタル映像関連企業の意見
「デジタル映像産業の立地により、映像のワンストップサービスができるので、撮影し
たフィルムを東京に持って帰って処理しなくてもよくなる可能性がある。」
「デジタル映像産業は、神戸より西や北にはないので、この方面にサービスすることが
できる。」
「みんなでパイを大きくしたい。それを行政などの組織が助けてほしい。」
○リサイクル産業誘致のための規制緩和と多様な環境産業への展開
リサイクル施設は、循環型社会の形成に寄与する一方、原料として廃棄物を扱う例が多い
ことから、どうしても廃棄物処理施設としての側面を持つことが多く、立地場所によって
は、土地利用上の規制を受け、立地が制限されることがある。従って、今後は、誘致すべ
き敷地について、どのような街づくりを目指していくかについてのコンセプトを固めた上
で、必要に応じた規制緩和を検討していくことが重要である。その際、周辺環境との調和
や周辺住民の意向等について、十分な配慮がなされる必要がある。
また、今後は、長期的な視点に立ったゼロエミッション(最終的に処分地に入る廃棄物を
ゼロにしようとする考え方)を目指した施策の展開や、リサイクル産業という側面にとら
われず、環境負荷低減及び省資源型技術、省エネルギー及びエネルギー管理など、幅広い
観点から多様な環境産業の集積を進めていく必要がある。
なお、すべての産業活動において、循環型社会の形成に資するよう、3R(発生抑制・再
使用・再生利用)の観点を重視していくことが重要である。
103
第3節 中小企業・生活文化産業の活性化
1. ねらい
震災により、市内の中小企業や生活文化産業は生産基盤の破壊、取引先の喪失等、多大な
被害を受けた。震災から産業復興に向けて、企業や行政も懸命の努力を重ねてきたが、長
引く景気の低迷もあり、8 割復興という状況の中で、多くの中小企業・生活文化産業が厳し
い状況にある。
中小企業・生活文化産業の今後の発展のためには、社会経済情勢の変化に対応した経営革
新を進めていくことが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○中小製造業を取り巻く環境は厳しいが、高度なものづくり技術を生かした共同開発・受注等の
積極的な動きも生まれている。
工業統計調査によると、市内製造業の製造品出荷額は平成 3 年がピークで、平成 4 年か
ら連続してマイナスになったところに震災を迎えた。その後、平成 9 年に増加に転じたが、
平成 11 年に減少し停滞状況にある。大都市との比較では出荷額の落ち込みは中位にあり、
落ち込みの要因としては震災の影響は薄れてきているものと考えられる。
製造品出荷額(4人以上の事業所) 平成 5 年を 100 とした指数
3年
4年
5年
神戸市
109
105
100
札幌市
113
112
100
仙台市
105
103
千葉市
107
東京都区部
6年
7年
8年
9年
10 年
11 年
12 年
13 年
87
86
92
92
83
83
82
98
94
96
95
96
91
89
85
100
97
97
96
97
96
93
98
94
101
100
92
88
88
90
83
74
77
71
115
108
100
93
93
93
93
92
83
80
75
川崎市
121
110
100
91
96
100
100
85
81
76
71
横浜市
114
107
100
93
95
96
102
93
86
92
78
名古屋市
111
106
100
93
96
96
95
86
78
81
66
京都市
109
105
100
98
97
96
96
91
81
90
76
大阪市
116
110
100
91
94
94
92
85
78
76
74
広島市
115
110
100
91
82
86
83
78
74
74
69
北九州市
115
109
100
95
96
97
101
91
82
82
78
福岡市
113
108
100
99
96
94
95
90
89
89
87
全国
110
106
100
97
98
101
104
98
94
97
92
不詳
資料:工業統計調査
104
神戸の産業構造の特色であり、かつ最大の強みは、主要6業種(食料品、ゴム製品、鉄鋼、
一般機械器具、電気機械器具、輸送用機械器具)を中心とした既存の市内中小製造業等が
持つ高度な「ものづくり技術」である。
中小製造業の共同化に関して、次のような新しい動きが出てきている。
地元製造業の神戸医療産業都市 73 社(平成 15 年 11 月現在)が参画。開発した製品の販
構想への参画(「医療用機器開発 売体制の強化を図るため「神戸バイオメディクス㈱」が
研究会」の取り組み)
設立された。
共同受注・開発グループ「アド 40 社(平成 15 年 11 月現在)。共同開発製品をブランド
ック神戸」の取り組み
製品としての販売や法人組織との取引を望む発注企業の
要望に応え、㈲アドック神戸が設立された。
中小企業が持つものづくり技術と大学・公的研究機関が持つ知識を生かした産学連携の動
きも徐々に出てきている。ただ、中小製造業から「産学連携の一番の課題は、産と学のス
ピード感の違いをどう克服し、どれだけ期間を短縮できるかという点。」という意見が出る
一方、学の立場からは「企業が求めるのは現実的なものばかり。研究会を設けているが、
成果が出るまでには時間が必要。」という意見が出ており、産学の思惑の違いもある。
○ファッション産業(生活文化産業)は全体的に厳しい状況にあるが、新たなファッションスポット
の形成など新しい動きも生まれている。
神戸ファッション協会による「神戸ファッション産業規模調査」によると、ファッション
産業全体的には、売上高、企業数、従業員数ともに減少傾向にある。この要因としては、
①デフレ現象の進行、②消費の「海外高級ブランド」と「低価格品」への二極分化、③中
国からの安価な量販品の輸入の増加、などが挙げられる。
【神戸ファッション産業規模調査】
4年
売上高
単位:売上高(億円)
、企業数(社)
、従業員数(人)
7年
企業数 従業員数
売上高
10 年
企業数 従業員数
売上高
13 年
企業数 従業員数
売上高
企業数 従業員数
アパレル
6,022
174
14,808
5,933
163
12,019
5,944
193
11,412
5,313
170
10,077
清
酒
3,902
52
3,444
3,467
49
3,243
3,206
41
2,848
2,951
41
2,816
真
珠
1,669
127
4,198
1,462
118
4,150
1,422
127
3,600
1,054
130
2,924
洋菓子
1,678
16
6,367
1,661
16
6,003
1,556
16
4,848
1,583
18
4,139
715
236
6,709
285
214
3,640
459
194
3,778
514
167
3,160
ケミカルシューズ
(注)清酒の 13 年の欄は 12 年度の数字
【業種別の状況】
アパレル
大手は個人消費の低迷が続く中、厳しい経営環境にあるが、相対的な地位は
堅持している。中堅・中小企業では、高級ブランド・低価格品指向の二極分
化や少子化によって厳しい状況にさらされているが、一部の開業間もない企
105
業が、デザイン力・企画力によって業績を伸ばし、東京へ進出するといった
動きもある。
清酒
発泡酒や焼酎の消費量が伸びていることや若者の日本酒離れなど、清酒の消
費量は減少傾向にあり、震災以降で灘五郷酒造組合加盟の 11 社が廃業するな
ど、厳しい状況にある。
真珠
あこや貝の大量死による生産の減少、中国産淡水真珠の伸長など、業界を取
り巻く状況は極めて厳しい。一方で、神戸の真珠加工は全国の 8 割以上を占
めており、世界最大級の真珠の仕入れの場としての評価を得ている。
洋菓子
法人需要・贈答品が落ち込む厳しい基調の中だが、中小店の新規出店や中堅
企業の伸長により、平成 13 年は 10 年より売上高を 1.7%増加させている。
また、首都圏等の直営店や百貨店への出店が相次いでいる。
ケ ミ カ ル シ 個人消費が伸びないことから、全国的に靴が売れていないため、小売店、問
ューズ
屋の倒産が相次ぎ、靴の売り場が少なくなっている。主力商品である婦人靴
は、流行のサイクルが短く、また多品種少量となっており、流行商品の把握、
絞り込みが難しくなっている。紳士靴などについては輸入品の影響が大きい。
ファッション都市宣言から 30 年が経過し、その中心的なエリアであったファッションタ
ウン等については、時代の変遷の中で、所期の機能を果たしえなくなったケースもあり、
相互の有機的な連携も十分に取れているとは言い難い状況にある。その一方で、
「北野工房
のまち」や旧居留地、トアウエスト、栄町・海岸通などの新たなファッションスポットの
形成が進み、新しいファッション情報発信の起点になりつつある。
人材育成面では、神戸芸術工科大学や神戸ファッション専門学校等から多くのファッショ
ン関係の人材が輩出されるとともに、次代を担う若きクリエーターの発掘を目指す「神戸
ファッションコンテスト」をはじめ、新進デザイナーの発表・商談の場づくりや育成支援
のためのメニューも実施されてきた。しかし、製品化や販路開拓など、優秀なクリエータ
ーが次のステージであるビジネス過程へスムースに移行していけるようなトータルのサポ
ート体制がなく、人材育成事業が企業・産業と上手く結び付いていないのが現状である。
○神戸の貿易業者は専門化した業種が多く、約半数が中国との取引を行っている。
輸出では機械、輸入では雑貨を扱う業者が最も多く、また取扱品目を1品目に専門化した
業者が、輸入では 77%、輸出では 73%を占めており、これが神戸貿易業者の特徴である。
中国との取引については、約半数の業者が取引を行っている。
106
(市の主な取り組み等)
【中小製造業】
【ファッション産業】
〇医療機器等開発支援
○ 北野工房のまち
・アドバイザー派遣
○ 神戸ものづくり職人大学
・医療分野等研究開発補助制度
○ アパレル(神戸ファッションコンテスト、セミナー&スタージ
ュ、神戸デザイナーコンポーズド)
〇産学連携支援
・神戸リエゾン・ラボ
○ 清酒(灘の酒と食のマリアージュ)
・産学官連携ネットワークの構築
○ 真珠(ワールドパールフェスティバル、神戸パールアウォー
ド)
・イノベーションセンターの設置
○ 洋菓子(神戸洋菓子パラダイス,洋菓子 KOBE
・TLOひょうご
展)
〇技術移転支援・第二創業支援等
・技術移転支援センター(TTC)
○ ケミカルシューズ(神戸ブランドプラザ、シューズプラザ、
・第2創業塾の開講
ケミカルシューズコレクション、イタリアデザイン交流)
・神戸ブレインネットワークの形成
【貿易業】
〇中小企業の販路開拓支援
○ 経済ミッションの受入、貿易研究所の運営
・資材調達セミナー、逆見本市、中小企業商談
会の開催
〇中小企業融資制度の拡充
〇ものづくりクラスター協議会
3.これからの取り組み(方向性)
○プロジェクト推進による産学連携の促進や中小製造業の参入促進・受注拡大につながる仕組
みづくり
製造業のものづくり技術の高度化と新事業創出に向け、医療産業都市構想や RT(ロボットテク
ノロジー)構想等を積極的に推進していくとともに、これらの取り組みが、地元中小製造業の産
学連携や参入促進、受注の拡大につながるようなしくみづくりが重要である。
(財)新産業創造研究機構アドバイザーの意見
「技術はあるが何をやればいいかわからないという中小企業はたくさんある。医療産業
都市構想のように、公が「打ち出し」をすることによって、企業をうまく誘導していけ
るような施策が重要。」
中小製造業者の意見
「大学に期待するのは情報提供。知られていない特許の用途など、情報の活用が大切。」
○中小製造業者自らが取り組む第二創業や共同開発・共同受注等の自立化への取り組み促進
神戸の製造業が持続発展するためには、中小製造業者自らが取り組む自立化を促進してい
107
くことが不可欠であり、そのためには産学連携・異業種交流の場・機会の提供、情報提供
やアドバイスの実施など、行政の側面的な支援が必要である。
中小製造業者の意見
「自社の力だけで商品化することは難しい。「製品」はできてもそれを「商品」として
売れるようにするには、技術力や機能だけではなく、デザイン、素材など多くの要素が
必要。企業同士で連携を深めていくことが大切。」
○生活文化産業の再構築
ファッション都市宣言 30 周年を機に、新たな展開を志向する必要がある。持続的な産業
振興を図っていくためには、「新しいライフスタイルを提案する産業」への変革が求められ
ており、アンテナショップの活性化、効果的なコレクション事業・コンテスト事業の実施
などにより、神戸ブランドの確立やファッション関連企業・人材の育成を支援していく必
要がある。
また、神戸らしさを活用した展開が不可欠であり、新たなファッションスポットの動きな
どに留意しながら、神戸ファッション美術館の総合的なファッション拠点化に向けた再構
築をはじめ、神戸ファッションマート、シューズプラザといった既存の人的・物的資源の
有効活用を図っていく必要がある。さらに、神戸空港などプロジェクトとの連携も視野に
入れるとともに、神戸のグルメ等も盛り込みながら、生活文化産業の再構築を検討する必
要がある。
KOBEファッション新生会議での意見
「神戸というブランドイメージを食い潰しではなく少しでも再構築していくことが大
切である。」
108
第4節 地域社会と連携した産業
1. ねらい
震災からの復興過程では、それぞれの地域には、多様な人材、コミュニティの絆、文化な
ど、様々な資源があることが改めて認識された。これらを生かして、地域とのつながりの
深い産業である商業や農漁業などの振興につなげ、特徴ある地域密着型産業を育てていく
ことが必要である。また、震災以降、地域住民などが中心となって地域において事業を展開す
ることにより、地域社会が抱える課題を解決していこうとするコミュニティビジネスは、地域の高
齢者や女性などの活躍の場・雇用の場として重要性を増してきており、その振興を図っていくこ
とが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○商店街・小売市場の状況は厳しいが、コミュニティ施設としての役割は大きく、新たな
動きも出てきている。
小売業
従業者数・販売額
従業者数
販売額
3年
6年
3年
6年
9 年 11 年 14 年
神戸市
93
100
93
106
103
97
100
101
98
87
札幌市
91
100
101
111
107
99
100
107
103
97
仙台市
91
100
95
111
108
96
100
100
105
94
千葉市
95
100
97
106
108
93
100
103
98
95
東京都区部
99
100
97
106
106
109
100
101
98
94
川崎市
89
100
100
114
114
99
100
95
102
99
横浜市
88
100
100
115
112
99
100
101
105
97
名古屋市
91
100
98
108
104
100
100
100
102
93
京都市
93
100
97
108
101
93
100
101
101
88
大阪市
103
100
97
104
101
113
100
103
98
91
広島市
89
100
93
106
103
93
100
96
92
86
北九州市
95
100
101
102
98
96
100
105
101
90
福岡市
91
100
105
113
108
97
100
109
106
97
全
94
100
100
109
108
98
100
103
100
94
国
資料:商業統計調査
9 年 11 年 14 年
※平成6年を 100 とした指数、平成 14 年は速報値
市内の小売業全体では、震災前より商店数・販売額が 8 割台の水準である中で、中規模店、
109
大規模店へのシフトが起こっていることがわかる。従業者数は震災前の水準を超えている
が、商店街・小売市場など小規模店は廃業などにより事業所数が減少している状況にある。
商店街・小売市場等は、地域住民の消費の場としてばかりでなく地域の「顔」として、ま
た「にぎわい」の場として都市の重要な機能を担っているが、消費者ニーズの多様化、高
齢化、モータリゼーション化の進展等の社会経済環境の変化に直面し、生き残りのために
大きな変革が求められている。
このように小売商業については震災よりも社会経済環境の変化の影響が大きく影響して
いると考えられる。このことは、震災以降の従業者数・販売額を大都市比較でみると、神
戸市と同程度に減少している都市もあることからわかる。
小売業の事業所数及び販売額の推移
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
6,000
4,000
2,000
200
150
100
50
0
年間販売額
事業所数
(事業所)
4人以下
5∼49人
(億円)
10,000
8,000
5∼49人
6,000
50人以上
4,000
2,000
4人以下
50人以上
S47 49 51 54 57 60 63 H3 6
0
S47 49 51 54 57 60 63 H3 6
9 11 14
9
11 14
資料:商業統計調査
神戸市小売市場連合会の意見
「量販店でも経営状況が厳しい中、セルフ方式に業態転換している市場は比較的体力の
あるところが残っているが、対面方式で従来どおりの市場は今後、益々苦しくなるだろ
う。」
神戸市商店街連合会の意見
「店舗付住宅の場合はやむを得ず建て替えや改装もしているが、店舗のみの場合、商売
の見通しが暗いので、改装もせず、赤字にならない程度で細々と日銭を稼ぐ形のところ
が多い。よって店や商店街の魅力は一層なくなり悪循環となる。」
「都心部では大手チェーンの店舗が入居する場合が多いが、雇われ店長で決裁権がなか
ったり、貸主との契約で取り決めがなかったなどで、アーケード等施設借入金償還や電
気代等の共益費の支払いがされない場合があり問題となっている。」
110
【商店街・小売市場に関連した新しい動きの事例】
甲南本通商店街(振)
地域情報ネットワーク構築事業、子育て支援事業
㈱神戸ながたティ・エ 震災学習や商人体験などの「社会体験学習のまち」、新長田の食
ム・オー
材を活用した「食のまちながた」
長田神社前商店街(振)
特典カードで貯めたポイントの端数を地元NPOやボランティ
ア団体に寄付
等
等
「やる気ネット・神戸」 若手商業者(約 50 名)が、地域活性化活動の成功例・失敗例な
どを情報交換
○コミュニティビジネスは広がりを見せているものの、雇用創出、地域活性化の効果を生
み出すまでには至っていない。
介護サービスや子育て支援,まちづくり支援などの分野において起業の動きが多く見られ
ているほか,新しい社会的サービスの提供や地元企業による地域社会貢献などの分野で新
たな事業が生まれつつある。
全国を対象とした調査において、コミュニティビジネスの全体収支は、「収支が均衡してい
る」が最も多く 50%を超えている。一方で「収支が不均衡(赤字)である」は約3割で、「収益が上が
っている(黒字)」は約1割で少ない。収支構造を見た場合,人件費の圧縮・未計上や行政・企
業からの補助金・助成金など一般企業の収益構造とは異なる収益上の特殊要因により収支
を均衡させる団体も多い。また,運営上の課題・問題点として,資金繰りが苦しいことや
スタッフの不足を指摘している。これらの内容については、神戸においてもほぼ同様の傾
向があるものと考えられ、地域における雇用の創出、地域経済の活性化という面で期待さ
れている効果を生み出すまでは至っていないことが伺える。
【コミュニティビジネスの全体収支】
N=307
その他
6.8%
収益が上がっている
(黒字)
10.1%
収支が不均衡である
(赤字)
28.3%
収支が均衡している
54.7%
出典:(財)神戸都市問題研究所:地域を支え活性化するコミュニティ・ビジネスの課題と新たな方向性
○農漁業では生産基盤の整備が進められるとともに、生産者と消費者との交流が深まって
いる。
111
農業の現状
稲作:厳しい生産調整の中で、高品質米づくりへ。経済的側面と併せて環境
保全の役割
野菜・花:ハウスなどを利用した集約的な経営、地産地消による新鮮で安全・
安心な農産物の供給
肉牛:狂牛病問題の沈静化により、消費が回復するとともに、安全性の評価
を受けた。
等
人と自然との共生ゾーン・・・140 地区(164 集落)のうち 127 地区(152 集落)
で協議会設立。58 地区(71 集落)で里づくり計画を策定(平成 15 年 9 月 25
日現在)。
漁業の現状
274 の漁家。イワシ、イカナゴ等が漁獲量の高い割合を占める。のり養殖は
全国的な生産過剰により収益が低下。
農業従事者の意見
「震災を機に、農業のあり方を生産者のみでなく消費者も含めて考えるようになった。」
「里づくり協議会をつくったことによって、集落の中で協力し合うようになり、集落の
意見もまとまりやすくなった。」
漁業従事者の意見
「震災の時にお世話になったお礼というのがきっかけで、いかなごの釘煮が新たな特産
品になった。
」
「漁協で作った製品と、北区大沢のお米など、農業とも共同して交流して
いく。これからは、農業との交流活動も大切。
」
(市の主な取り組み等)
【商店街・小売市場】
【コミュニティビジネス】
○ 地域商業サポート事業
○ 神戸版コミュニティビジネスの形成
・ まちのリーダー養成等アドバイザー派遣
○ コミュニティ・ビジネス離陸支援事業
・ まちのにぎわい創出づくり
(県・復興基金の事業として、事業の立ち
・ 異業種・異地域間交流支援
上がり経費の助成やコンサル派遣等を実施)
○ 総合空き店舗活用支援事業
【農漁業】
・ 地域課題解決型
○ 人と自然との共生ゾーンの形成
・ 新規創業者育成型
○ ふる里一誇事業の推進
・ 不足業種対応型
○ 地域内流通・消費対策(「こうべ旬菜」等)
○ わらしべ塾事業
○ 新規就農・雇用農業の推進
○ 人と環境にやさしい農業の展開
○ 水産資源培養(稚魚・稚貝の放流)
○ 栽培漁業の推進
112
3.これからの取り組み(方向性)
○元気な地域商業づくりの展開
個店の魅力向上を側面から支援する商店街活動や支援制度のあり方の検討とともに、新た
な商業地の魅力づくりの可能性を探る必要がある。また、やる気ある人達の活動を制度的
に支援し、成功事例を積み上げることで、無気力な人達に刺激を与え、全体への統合に結
びつける方法も必要である。
アンケート調査結果から元気な地域商業の特徴から活性化方向を導き出すと、店舗集約・
共同店舗化、個性・強みを生かした事業展開、魅力ある個店づくりなどがあり、このよう
な取り組みにより、元気な地域商業を次々と生み出していくことが重要である。
○都心商業の活性化の組織的・戦略的展開
神戸都心商業の活性化を考えた場合、梅田をはじめ競合商業地との差別化を追求して
“神戸らしさ”を強化する方向で、神戸都心の目指すべ
いかなければならない。 今後、
き方向性を整理し、神戸都心における取り組みを束ねるグランドコンセプトを示し、具
体的な事業を組織的・戦略的に展開していく必要がある。
なお、神戸らしさの強化にあたっては、海、山、街といった神戸の物的な特性だけで
なく、新しいものに対する強い好奇心と自由な気質など「神戸の人」の資質にも着目して
いくことが重要である。
○コミュニティビジネスからソーシャルベンチャーへ
コミュニティビジネスの経済的自立のためには,経済主体としての信用を高めていくとと
もに、収益構造を転換させていくことが求められる。そのためには、活動主体の「社会性」
を捉えた価値付けや、新しい金融支援形態による資金調達、事業活動が軌道に乗るまでの
資金支援など、社会的に支援する仕組みをつくる必要がある。
コミュニティビジネスについては、今後、経済振興・雇用創出の面から社会的課題の解決
を目的としつつ、ビジネスとして自立することを目指す「ソーシャル・ベンチャー」への
転換が期待される。
○地域づくりと一体となった都市型農漁業の展開
消費者のニーズの把握を行いながら、神戸の農水産物のブランド化を図るとともに、農業
法人組織や女性農業者などの多様な担い手の育成、直売所・朝市の常設化や観光農業、貸
農園など都市住民との交流等を図る里づくりの推進や雇用の場としての農業、つくる漁業
の推進など、新しい時代に対応できる農漁業の展開が求められる。
さらに、規制緩和による「人と自然との共生ゾーン」特区を推進し、新規就農者や企業の
参画の促進に取り組む必要がある。
113
第5節 神戸港などの広域交流基盤
1. ねらい
震災で壊滅的な被害を受けた神戸港は 2 年で復旧したが、産業構造の変化や港間競争の
中で取扱貨物量は減少してきている。このため、トータルコストの削減や IT 化の推進など、
港湾サービスの向上や貨物の誘致促進に取り組んできたが、これに加えて、都市的な利用
を含めて港湾空間の利用転換を図ることが必要である。また、神戸空港の建設が着実に進
む中、海・空・陸の広域交通体系の確立を図っていく必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○神戸港の取扱貨物量は、震災前と比べて、外貿で 7 割弱、内貿で 35%の水準である。
【取扱貨物量の震災前との比較】
(単位
年
トン)
次
神戸港大観
総
外 国 貿 易
数
計
輸
出
内 国 貿 易
輸
入
計
移
出
移
入
平成 6 年
171,002,459
55,228,036
25,859,947
29,368,089
115,774,423
52,910,866
62,863,557
平成 14 年
78,601,295
37,633,840
16,466,349
21,167,491
40,967,455
16,555,238
24,412,217
比較
46.0%
68.1%
63.7%
72.1%
35.4%
31.3%
38.8%
○神戸港だけでなく、日本の主要な港湾の国際的な地位は低下している。
【主要港の世界のコンテナ取扱量ランキングの推移】
平成 5 年
平成 6 年
平成 7 年
平成 8 年
平成 9 年 平成 10 年 平成 11 年 平成 12 年 平成 13 年
神戸港
6位
6位
23 位
14 位
18 位
16 位
19 位
22 位
27 位
横浜港
9位
10 位
7位
11 位
13 位
17 位
20 位
20 位
22 位
東京港
17 位
15 位
12 位
12 位
14 位
14 位
14 位
15 位
19 位
名古屋港
22 位
24 位
22 位
23 位
25 位
29 位
29 位
28 位
29 位
大阪港
37 位
37 位
26 位
29 位
30 位
37 位
36 位
36 位
40 位
出典:コンテナリゼーション・インターナショナル
114
○外貿貨物の減少の大きな原因は、トランシップ貨物の減少にある。
神戸港は、従来、中国を始めとするアジア諸港からの貨物を集積し、北米、欧州などの
基幹航路に積替えるというトランシップ港としての役割を果たしてきた。近年、アジア諸
港の整備が進み、人件費等の差から来る荷役作業料金、パイロット料金などのポートチャ
ージの安い港に極東域内のトランシップハブが移っている。この結果、70 年代には 30∼40%
台で、震災前でも 30%弱であったトランシップ率が 10%以下に落ち込んでいる。
○中国との貿易量のシェアが拡大している。
国内製造業の生産拠点の海外(特に中国)への移転に伴い、震災以降、中国との貿易量
(特に輸入)の増加が著しくシェアが拡大しているが、ここ数年伸び悩んできている。
【貿易相手国の推移(神戸港大観)
】
1994年 輸出
1994年 輸入
アメリカ
23%
その他
30%
25,860千t
韓国
7%
中国
9% シンガポール
10%
29,368千t
台湾
11%
カナダ
5%
香港
5%
韓国
6% 台湾
6%
香港
10%
2002年 輸出
韓国
5%
アメリカ
26%
その他
28%
16,466千t
21,167千t
アメリカ
16%
オランダ
4%
中国
20%
2002年 輸入
中国
27%
その他
31%
アメリカ
29%
その他
29%
ドイツ
4%
台湾
4%
台湾
10%
カナダ
6%
シンガポール
7%
オーストラリア
8%
中国
24%
○内貿貨物の減少の原因としては、明石海峡大橋開通や地方港の整備の影響が大きい。
これまで、神戸港は瀬戸内海を始め、西日本全域を背後地とし、国内貨物を集積し、外
貿へのトランシップ港の役割を果たしてきた。近年、明石海峡大橋の開通による既存航路
の廃止に加えて、日本国内地方港の整備が進み、地方港から直接海外に積み出される場合
や、料金の安い韓国船を利用し、釜山港から基幹航路に積まれる例が増えている。
115
○外航客船寄港の実績は、年ごとに大きな差があるが、震災前の水準に近づいている。
震災の影響により、内航・外航とも客船の入港は一時減少したが、誘致対策や、外航ク
ルーズ客船(国際フェリーは除く)の入港の際に発生するポートチャージ(入港料、岸壁
使用料、渡橋使用料)の減免などにより、ほぼ震災前の水準に近づいている。
主要港外航客船寄港実績
平成6年 平成7年 平成8年 平成9年 平成 10 年 平成 11 年 平成 12 年 平成 13 年 平成 14 年
神
戸
45
10
24
20
15
17
103
53
39
大
阪
10
38
25
22
10
12
6
8
13
名 古 屋
9
9
7
7
8
8
2
3
3
横
浜
22
14
15
16
23
14
9
13
23
東
京
49
59
61
57
43
35
27
25
19
※平成 12 年 4 月より1年間、スタークルーズ社が日韓定期クルーズを 1 年間実施。
○港湾関連用地への進出要件の緩和により、コンテナ貨物以外の貨物の創出と新たな機能
への利用転換が進んでいる。
これまで、「倉庫業者」「港湾運送事業者」「海上運送事業者」「その他港湾関連業者」に
限られていた港湾関連用地の賃貸・分譲の対象を緩和し、
「海運貨物取扱量又は取扱額が進
出地での計画に対して 50%以上の見込みがあり、進出地を物流施設に利用する企業」とさ
れた。これを受けて、新車・中古車・中古建機関連企業の誘致が行われた結果、神戸港内
に自動車・建機関連の企業の集積が進みつつあり、コンテナ船以外の船舶の増加につなが
っている。
平成9年より港湾関連用地に進出した 94 社のうち、44 社が規制緩和により進出した(平
成 15 年 10 月末現在)。その結果,従来では見られなかった,中古自動車・中古建設機械の
オークション会場やフットサルのレンタルコートやゴルフ練習場,タクシーやバスの営業
所など,様々な企業が進出することができ,港に賑わいを見せている。
○都心ウォーターフロントの東西軸の整備やポートアイランド西地域の都市機能への転換を進めている。
ハーバーランド、メリケンパークのウォーターフロント空間に加えて、東部新都心での
ハーバーウォークの整備が進みつつあり、今後整備が進む(仮称)神戸震災復興記念公園
と併せて、都心ウォーターフロントの東西軸の整備が進みつつある。
「神戸港 21 世紀懇談会」
(平成 13 年度)では、神戸港の東を物流ゾーン、西を親水ゾー
ンとして再構築を図ることとしており、PC1∼5 については親水ゾーンの拠点に位置づけて
いる。また、同エリアは、都市再生の拠点として、都市再生緊急整備地域に指定された。
PC1∼5 は、ポートアイランドの都市機能やポートアイランド第 2 期における物流機能、医
療産業都市構想等と連携し、民間事業者の創意工夫を最大限活かしながら、都市機能も含
めた新しい都市型ウォーターフロント空間の創出をめざしている。
116
○神戸空港の建設は着実に進み、空港活用策の検討やエアポートセールスに取り組まれている。
神戸空港の建設は、平成 11 年9月の現地着工以来、順調に進んでおり平成 13 年 10 月初
旬には空港島の外周護岸が概成し、工事進捗率も約 7 割(平成 15 年 11 月末現在)となっ
ている。また、進入灯橋梁、連絡橋及び神戸新交通ポートアイランド線延伸事業にも着手
しており、鋭意事業の進捗が図られている。
空港の活用に向けて、
「神戸空港活用推進本部」が神戸市の組織として設置(平成 14 年 4
月 1 日)されるとともに、エアポートセールスチームの設置や「神戸空港ターミナル株式
会社」が設立された。平成 15 年 10 月 28 日には、スカイマークエアラインズ㈱から神戸空
港の開港時より就航する計画であることが発表された。
デジタル映像関連企業の意見
「神戸に来たのは、空港に期待する要素が高いというのがある。東京との関係では非常に
良い立地となる。空港ができたら、タクシーでもここまで 1000 円くらいで来れるのでは。」
○都市圏交通のうち、道路ネットワークは充実してきているが、自動車交通の東西通過交通の問
題や都市活動に重要な役割を担う公共交通機関の活用等の課題がある。
震災以降、神戸淡路鳴門自動車道、山陽自動車道、北神戸線等が供用され、交通の分
散化、沿道環境改善に役だつとともに、緊急・災害時の迂回を可能にし、代替性が確保
されてきている。一方、沿岸部の東西通過交通は阪神高速3号神戸線に集中するため、
慢性的な渋滞が発生している。
また、都市の魅力づくりの観点からの公共交通の活用が課題としてある。
(市の主な取り組み等)
○ トータルコストの削減とインセンティブ
・ 港湾関連用地賃貸料の減額
・ 港湾施設使用料の低減
・ 港湾関連用地への進出要件の緩和(平成9
年7月)
・ ポートアイランド(第 2 期)における事業
用定期借地制度及び傾斜減額制度の導入
・ 公社バース貸付料の減額(平成 14 年 1 月
より実施 平成 16 年度末まで)
・ 公共バースについての中国貨物に対する
インセンティブ(平成 14 年 7 月より実施
平成 18 年度末まで)
○ ポートセールスチーム(平成 14 年4月発
足)を主体としたポートセールス活動
○ IT化の推進
・ 港湾EDIシステム導入(平成 11 年 10 月)
・ 「神戸港IT調査研究会」による実証実験
○ スーパー中枢港湾の実現に向けた取り組
み
○ 神戸空港事業の推進
○ 神戸新交通ポートアイランド線延伸事業
○ 道路ネットワークの形成
117
3.これからの取り組み(方向性)
○神戸港の利用促進
神戸港は以前より日本一の航路数を有している。この神戸港の利点を今後も維持してい
くためには、北米・欧州等の基幹航路の維持充実を図る必要がある。
さらに、近年増加の著しい中国貨物を取り込むことは、神戸港活性化の重要な方策の一
つと考えられる。そこで、中国からのコンテナ船の荷役に係るガントリークレーン使用料
の 1/3 減額を平成 14 年より実施し、この結果、貨物の増加につながっている。今後、この
インセンティブを継続するとともに、官民一体となって、さらなる増加策を検討する必要
がある。
これまでも、施設使用料等の減額を行ってきたが、他港をリードするIT化や「国際み
なと経済特区」やスーパー中枢港湾への取り組みと併せて、官民一体で、民間料金も含め
たトータルコストの低減を図る必要がある。
また、今後は、自動車以外のリサイクル資源にも対象を拡げ、神戸港の港湾物流機能を
有効に活用するリサイクル事業を推進し、リサイクルポートなど、新たな産業の集積を図
る必要がある。
○客船誘致等による観光のみなとづくり
客船の神戸港寄港を促進するため、客船を運航している船会社、船舶代理店、旅行代理
店等を個別訪問し、神戸港のPRに努めるとともに、神戸港に寄港する外国籍船等に対し
て、歓迎セレモニーを実施し、神戸港のイメージアップに努める必要がある。
また、クルーズに対する認知度を上げ、神戸港から乗船するクルーズ人口の底辺を広げ
るため、クルーズ船の船内見学会や、市民クルーズを実施する必要がある。
さらに、三宮・元町・神戸の都心に近いハーバーランドから新港突堤西地区にかけての
水域は、多くの人々でにぎわうウォーターフロント空間であり、様々な水上での催しを行
うなどして、神戸の観光資源として活用していく必要がある。
○港湾空間の再構築
ハーバーランドからHAT神戸までを都心ウォーターフロント空間として整備するとと
もに、整備にあたっては市街地との連携強化に留意する。
また、PC1∼5 は、親水ゾーンの拠点として、既存のポートアイランドの都市機能との
連携、周辺の立地施設との調和に留意しながら、学術研究機能の集積、商業・集客施設の
導入による賑わいの創出などを目指した再開発を進めていく必要がある。
○都心型空港としての神戸空港の活用
2005 年度に開港する神戸空港は復興や活性化のために重要な都市装置であり、多様な空
港アクセスの確保など空港自体を魅力あるものにしていくとともに、集客観光との連携に
よる需要喚起・利用促進、空港を生かしたまちづくりなど、幅広く活用策を推進していく
118
必要がある。
○海・空・陸の広域交流基盤の連携推進
平成 17 年度に神戸空港の開港を迎えることから、空港と港湾が隣接した神戸ならではの
展開を考えていくことが重要である。今後、都市と港湾、都市と空港、港湾と空港など、
様々な形で相乗効果が生まれるような取り組みを検討していく必要がある。
また、港湾や空港を支える道路ネットワークとして、アクセス道路となる神戸中央軸の
強化に取り組むとともに、広域的な道路ネットワークの整備については、国、県と連携
を図りながら進めていく必要がある。
さらに、都市の魅力は賑わい、昼間人口で表されるものであり、その源である「人」を
中心部に運ぶことができる鉄道を中心とする公共交通機関の役割を十分踏まえ、活用して
いくことが必要である。
119
第6節 文化・芸術の振興
1. ねらい
震災は、市民の文化活動にも大きな影響を与えた。それは、活動の場の崩壊・消失であ
り市民が文化を享受する場の消失であった。しかし、震災復興の力になったものとして、
文化・芸術が果たした役割は大きく、多くのものを失った人々の心に芸術は深く響き、し
みこみ、市民は生きる力を与えられた。まさに、市民はその時、芸術に感動し、芸術の力
を感じた。今後、この震災時の体験を踏まえて、市民生活に根ざした文化・芸術のまちづ
くりを進めていく必要がある。
また、文化・芸術活動が活発になることによって、人々の生活に新しい価値観をもたら
せ、まちの賑わいの創出と活性化につなげていく必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○震災で文化・芸術活動の重要性が再認識されるとともに活発化し、多くのボランティアやNPO
活動が生まれてきている。
「神戸市文化活動団体調査」平成 11 年 8 月実施(神戸市民文化振興財団)よれば、3 分
の 2 の団体が震災によって活動が後退したのではなく,活動状況を前向きに捉えており,
この傾向は音楽や美術,文芸,演劇などの各ジャンル別にみても概ね同様の結果を示して
いた。
各団体が被災した人々の心のケアなど震災復興に向けて文化活動の果たしてきた役割を
非常に重要なものがあると認識し、また結束して「特色ある活動の展開」や「震災体験を
風化させない活動の展開」など前向きに取り組んでいる姿が現われていると考えられる。
【震災前後の活動状況の比較】
現在の方が
活発である
29%
無記入
18%
震災前の方
が活発であ
る
15%
震災前と変
わらない
38%
「神戸市文化活動団体調査」平成 11 年 8 月実施(神戸市民文化振興財団)
120
震災がきっかけとなり、文化・芸術活動が活発化し、アートエード神戸,100 年映画祭、
などの活動が続いてきている。
震災が及ぼした影響(平成 15 年度神戸芸術文化会議会員アンケート結果)
◇震災が創作に与えた力
・プラス面における記述が圧倒的に多い。「震災によって自分の制作姿勢を確認した。」
など
・評価の分かれる全体への影響
・第三に,神戸の芸術・文化への影響についてのプラス面では,悲惨な状況をくぐり抜
けることによってその内容が深まった,あるいは芸術家たちの結束や輪が広がったと
する意見が多い。
・神戸の芸術・文化へのマイナスの影響としては,上記のプラス面と逆に芸術・文化の
内容面での低下を述べる意見がある。
◇芸術人口の減少
・「お客さんが無料公演に慣れてしまい,有料チケットを買わなくなる傾向がある。」な
ど観客の姿勢に関する意見と,生徒・弟子など芸術人口の減少からの経済的苦境を述
べる意見が多い。
・第二に,芸術家個人が制作・創作に向き合う心境や態度について与えた影響に関して
は,
「震災後,何年間かは何の影響もなかったが,最近になって少し不安になってきた。」
「発表する機会,意欲ともにそがれ,活動を止めた人が周囲に多い。
」
芸術家・芸術文化会議へのインタビューの意見
「震災で、自分でやらないと、となった。アーチストも自分たちでアクションを起こす
きっかけとなった。」
「一般的には芸術がなくても生きていける。しかし実は最も人間らしい部分で、ないと
本当の意味では生きていけない。震災のときに、市民が生きている実感を得たのは、音
楽を聴いたときとか、芸術に接したときだった。」
「震災のマイナスの要因として、音楽家も美術家も発表する場所をなくしてしまった
が、それを何とか乗り越えていった。他分野の芸術家が交流して、今までにない盛り上
がりがあった。」
○震災以降、異なる分野間の交流が活発化している。
神戸では、震災前から芸術文化会議があり、そこで異なる文化・芸術の交流があったが、
震災後、そのような交流がさらに活発化している。
121
芸術家・芸術文化会議へのインタビューの意見
「震災からの一つの流れとして「神戸アーチストの会」をやっている。芸術家の卵達を
支援する多彩な異文化の交流であり、それらが懇親を深めていくことによって、一皮む
けたルネッサンスが生まれてくるのだと思う。
」
○震災の教訓が文化・芸術を介した取り組みにより伝播・伝承されようとしている。
震災モニュメント、慰霊と復興の碑、1.17希望の灯、神戸ルミナリエ等、震災を契
機として、人と人とのきずなの大切さや生命の尊さなどが再確認され、文化・芸術を介し
た取り組みにより伝播され、また、伝承されようとしている。
○神戸にはアマチュアとして生活文化を楽しむ高い技能をもつ人材が多く、様々な日常の文化・
芸術活動に関わっているとともに、市民が身近に文化にふれられる機会が提供されている。
神戸はこれまで西洋音楽と縁が深く、フルートコンクールやシャンソンコンクール、ジ
ャズストリート、1000人のチェロ、元町ミュージックウィークなどユニークなイベン
トが行われている。
また、演奏活動を通じて、神戸の文化発展に寄与することを目的として設立された室内
合奏団や混声合唱団の活動を通じて、市民が身近に文化にふれられる機会が提供されてい
る。
○新しい芸術の拠点から、芸術家が育ち、神戸から各地への人材発信等が行われている。
神戸の CAPHOUSE は、芸術家の育成拠点として高い評価を受けており、人材を発信してい
る。ここでは、アート林間学校など、子どもの教育・学習と関連した活動も行われている。
また、新開地アートビレッジセンターから、神戸をホームグランドとする演劇カンパニ
ーが育ってきている。
アーチストへのインタビューの意見
「ここでは、アーティスト同志が互いに刺激となり、育ってきている。活動場所をかえて
も、密なつながりが保たれている。
」
○伝統的な地域文化を見直そうという動きが出てきている。
震災では、市内の国指定・県指定・市指定文化財のうち有形の文化財 249 件の中で 94 件
が被災した。この中には、残念ながら滅失してしまったり、姿を変えてしまった建造物も
あるが、復旧されたものは、これまでの文化財修理の原則であった現状復旧だけでなく、
耐震対策を講じることによって、より災害に強い文化財建造物として再建された。
震災後の新しい動きとしては、震災の教訓や文化財保護法の改正など時代の変化に対応
した文化財保護施策の必要性とともに神戸市独自で特色のある神戸らしい文化財を保護す
るため、平成 9 年 3 月に「神戸市文化財の保護及び文化財等を取り巻く文化環境の保全に
122
関する条例」が制定され、この条例に基づき 172 件の文化財の指定等がなされている。ま
た、震災の復興事業に伴い、日常的に発掘調査が行われる状況を市民が見聞きする中で、
地域のコミュニティを形成する上での精神的拠り所として、文化財を捉えるようになって
きている。
芸術文化会議へのインタビューの意見
「開港以来が神戸であると考える人がいるが、古くは平清盛の大輪田の泊にもあるようにそ
の歴史は古い。その頃から神戸には港があり、国際交流があり、そのころから文化が繋が
っている。」
○都市の再生やまちづくりに果たす文化の役割が重視されるなど、文化・芸術に関連した新しい
動きが生まれてきている。
オープンスペースや商店街など街を舞台にした文化イベントが増加しているとともに、
地域や商店街などが文化をソフトとして,地域おこしや活性化を図る事例が増加している。
また、文化・芸術を産業や集客につなげる取り組み(アニメーション神戸、フィルムオ
フィス)が進展してきている。
さらに、ストリートダンスやバンドに情熱を燃やす中高生が増えてきているとともに、
「神戸よさこいまつり」などの新しい活動が生まれてきている。
○震災前の神戸のイメージから、震災後には新しい神戸らしさの模索が始まっている。
震災後、①山と海にはさまれた程良い大きさの街の利点、②ハイカラ文化でつちかわれ
た、多種多様な生活スタイル、③ファッション性豊かな「衣」、神戸洋食をはじめとするグ
ルメの「食」
、都市環境にすぐれた「住」がととのった神戸の生活スタイルこそが神戸らし
さではといった神戸らしさの再確認が行われてきた。
(市の主な施策等)
○ 事業の展開
・ 新開地アートビレッジでの事業展開
・ 神戸まつりの開催
・ 小磯良平大賞展の開催
・ 「音楽のまちこうべ」の推進(国際フルー
○ 市民との協働
トコンクール、神戸ジャズストリート、シ
・ NPOの文化活動支援
ャンソンコンクール 等)
・ 文化施設の管理運営委託
○ 芸術文化交流の推進(兵庫津 NEO アルチザ
○ 活動の支援
ン工房など実験プログラムの実施等)
・ 芸術文化活動助成
・ 活動の場所の提供(区民センター、学校施
○ 神戸文化憲章の策定及び文化芸術推進プ
ログラムの策定
設開放等)
○ 人材の育成
○ 文化財保護条例の運用
・ 市民文化振興財団での講座事業の実施
123
3.これからの取り組み(方向性)
○神戸らしさや地域の個性を生かしたまちづくりの推進
地域の活性化には文化の視点が重要であり、食事、ファッション、イベントなど文化的
な取り組みをコミュニティ密着型で進めるなど、従来から言われてきた神戸らしさを再点
検して有効に生かしていく必要がある。
また、地域や界隈のもつ場のエネルギー、歴史的蓄積、物語性などから、それぞれの「ら
しさ」を見つめ直し、地域の誇りやアイデンティティを再発見し、地域ごとのにぎわいや
活性化へ有機的に結び付け、再創造する作業をまちづくりの重要な要素として取り組む必
要がある
○市民・事業者・行政の役割の明確化と交流の環境づくり
文化・芸術の担い手は市民や民間事業者自身であり,行政はそのための環境の整備に留
意すべきであることから,自主事業の実施よりも,市民や民間への支援に重点を置く必要
がある。
行政の役割としては交流の環境づくりが重要であり、芸術家と芸術家の結びつけや、芸
術文化と生活、企業活動、教育、環境、福祉などの異なった分野間の多角的な接点づくり
が必要である。
芸術家・アートマネージャーの意見
「アーチストの側は行政に甘えてはいけない。行政はその助けをしたらよい。行政は決
めつけてはいけない。」
「行政は、ある芸術を別の芸術と結びつけることをやってくれればいい。」
○市民・芸術家の活動の場としての既存施設の活用
学校など既存施設を利用して、バレエ、芝居、ミュージカルなど、地域の人やボランテ
ィアとともに、地域の中で文化・芸術活動を行っていく必要がある。
また、神戸港の中で港湾としての役割を終えた地区をクリエーターが集まるエリアとす
るなど、既存の施設の新たな活用方法として、文化・芸術を検討する必要がある。具体的
には、CAPHOUSE や兵庫津 NEO アルチザン工房の暫定利用に引き続いて、舞台芸術の創造支
援拠点をつくっていくことが考えられる。
○市民主体の文化財の保存・活用
市民を地域文化の保存・継承と創造の主体として位置づけ、それらの活動に市民が積極
的に参加するよう促すとともに、地域文化の核となる文化財の保存と活用を市民の自主運
営に委ねていくという考え方も必要である。
124
○アートを生かした都市再生の推進
文化が経済復興、活性化の基礎となる考え方が重要である。映像やアニメなど産業と結
びつきやすい文化・芸術を都市再生の戦略ソフトとして位置づけて、重点的に支援してい
くとともに、多文化共生、異国情緒などの神戸らしさを都市のブランドとして賑わいや活
性化につなげていくなど、他分野との連携を積極的に図ることにより、巡回性、回遊性を
重視してアートを生かした都市再生を推進していくことが必要である。
当面、地元まちづくり協議会とアーチスト団体のマッチングシステムの整備、ジャズを
生かした都市ブランドの発信などにより、まちかどをステージとして日常的にアーチスト
がパフォーマンスを市民・観光客に披露し、まちの賑わいを創出していくことが必要であ
る。
また、芸術による目先の収益ではなく、長期的視野で都市のイメージ、デザイン、魅力
としての芸術の役割を考えることが重要である。
○芸術の鑑賞者(支援者)=受け手の育成
芸術の送り手だけでなく芸術の受け手をあわせて育てていくことにより、相乗効果で文
化・芸術のまちづくりが進んでいく。芸術家の出前授業、美術館やホールでの鑑賞教育の
充実など小中学校の学校教育との連携や、多様な芸術活動を広く市民に知らせる広報のあ
り方の検討が必要である。
125
第7節 集客観光都市づくり
1. ねらい
海や山などの自然や異人館、温泉、田園といった多様な観光資源に恵まれている神戸は、
観光都市として発展してきたが、震災によって神戸観光は大きなダメージを受けた。震災
以降、神戸ルミナリエなどの新たな資源を得て、観光入込客数は震災前の水準を超えるま
でに回復したが、今後、雇用吸収力の高い神戸のリーディング産業としての役割を果たせ
るよう、ハード、ソフトの両面から新たな取り組みが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○観光入込客数は震災前の水準を回復し、順調に伸びているが、ルミナリエを除くと震災前の
9 割弱の水準である。
観光入込客数は、平成 10 年には震災前の水準を回復し、その後も概ね順調に推移してい
る。平成 14 年の年間観光入込客数については、神戸ルミナリエや FIFA ワールドカップサ
ッカーの 457 万人を除くと、平成 6 年の 88.1%の水準にある。地域別では、市街地に比べ、
郊外の落ち込みが大きい。
観光入込客数の推移
3000
2500
2002FIFAワールドカップ
21世紀・復興記念事業
神戸ルミナリエ
2000
入込客数
西 北 神
須磨・舞子
1500
有 馬
六甲・摩耶
1000
神 戸 港
北野
500
市街地(北野除く)
21 世紀・復興記念
0
6年
7年
8年
9年
10年
暦年
11年
12年
13年
14年
事業は 13 年、
ワールド
カップは 14 年に開催
126
神戸市観光・ホテル旅館協会の意見
「神戸市内の観光入込客数は震災後に始まった神戸ルミナリエの効果もあり、震災前を上
回っている。しかしながら、全国・神戸市内共通の傾向であるが、長引く不況の影響から、
①平均宿泊数の下落、②宿泊旅行費用の下落、により厳しい状況が続いている。
」
○宿泊やおみやげなどの消費が期待される遠距離客の割合が震災前より低下している。
どこから来たかという居住地別でみると、神戸市内が 38%、兵庫県内(神戸市を除く)
が 23%、近畿地方(兵庫県以外)が 24%となっている。近畿地方以外では、関東からが多
くなっている。最も遠距離客の多い地域は北野であり、やはり北野が神戸観光のなかで「全
国区」的な位置を占めている。(平成 14 年観光動向調査)
なお、平成 14 年の訪日外客数は約 520 万人とされているが、このうち神戸市を訪問した
のは約 22 万人と推計されている。
北野
市街地
神戸港 六甲・摩耶 有馬
HAT 須磨・舞子 西北神
全市
H5 H14 H5 H14 H5 H14 H5 H14 H5 H14 H5 H14 H5 H14 H5 H14 H5 H14
近距離 43.0% 65.2% 75.0% 79.7% 71.0% 89.6% 85.0% 86.7% 90.0% 88.6% 遠距離 57.0% 34.8% 25.0% 20.3% 29.0% 10.4% 15.0% 13.3% 10.0% 11.4% -
県外者に占める割合
全体に占める割合
北海道
0.8%
0.3%
東北
0.8%
0.3%
関東
11.5%
4.5%
中部
6.7%
2.6%
北陸
2.1%
0.8%
92.7% 88.0% 89.4% 94.0% 90.2% 78.0% 85.3%
7.3% 12.0% 10.6% 6.0% 9.8% 22.0% 14.7%
近畿
62.3%
24.3%
中国
7.4%
2.9%
四国
5.4%
2.1%
九州
2.8%
1.1%
海外
0.5%
0.2%
旅行の日程については、日帰り客が 79%、宿泊客が 21%であった(居住地別の調査で神
戸市内 38%、兵庫県内(神戸市内除く)23%)。宿泊地は市内が 72%であり、概ね市内で
宿泊して神戸観光を楽しんでいる。(平成 14 年観光動向調査)
日帰り
1泊
宿 2泊
3泊
4泊
泊 5泊以上
計
北野
市街地 神戸港 六甲・摩耶
59.5%
76.4%
86.9%
75.9%
22.2%
15.7%
7.7%
17.4%
11.9%
4.5%
3.6%
3.5%
2.4%
1.8%
0.8%
2.0%
0.8%
0.5%
0.3%
0.3%
3.2%
1.0%
0.8%
0.9%
40.5%
23.5%
13.2%
24.1%
有馬
59.0%
33.9%
4.0%
1.3%
0.0%
1.8%
41.0%
HAT 須磨・舞子 西北神
94.5%
89.9%
81.1%
5.5%
7.6%
11.7%
0.0%
1.5%
5.8%
0.0%
0.2%
1.4%
0.0%
0.2%
0.0%
0.0%
0.5%
0.0%
5.5%
10.0%
18.9%
全市
78.9%
14.5%
4.0%
1.3%
0.3%
0.9%
21.0%
市内での観光消費額は、全市平均で 14,310 円、日帰り客の平均は 9,704 円、宿泊客の平
均は 36,460 円であった。
(単位:円)(平成 14 年観光動向調査)
宿泊費
交通費
飲食費
施設利用費
買物費
合計
日帰り客
宿泊客
北野
2,635
3,861
3,861
1,583
4,791
16,731
10,709
29,944
市街地
2,304
2,966
3,971
656
5,865
15,762
10,325
41,634
神戸港 六甲・摩耶
1,077
3,806
1,799
2,930
3,502
3,582
1,137
802
6,629
2,520
14,144
13,640
11,552
7,128
46,773
32,529
127
有馬
8,000
3,097
3,653
182
4,500
19,432
8,747
31,963
HAT
須磨・舞子
515
655
1,505
1,734
3,333
2,401
1,010
374
6,172
5,719
12,535
10,883
9,442
9,223
86,000
32,875
西北神
1,012
2,146
3,668
1,016
4,296
12,138
9,106
34,931
全市
2,315
2,510
3,520
763
5,202
14,310
9,704
36,460
○神戸は魅力度が高い観光地として一定の評価を受けている。
震災以降、「神戸の“オシャレでハイセンスなまち”というイメージがかすんでいる」と
いう指摘がよく言われるが、14 年度、東京、仙台、福岡の3都市において実施したイメー
ジ調査では、外から見た神戸は、現在でも“オシャレでハイセンスなまち”としてのイメ
ージをもっていることがわかる。
具体的には、昭和 52 年調査時と比較すると、
「異国情緒」が低下したが、これは福岡に
おける「異国情緒」が東京、仙台の半分以下であったことが要因と考えられる。一方、
「港」、
「お洒落なファッション」は上昇がみられた。東京と仙台においては「異国情緒」が 1 位
であったが、福岡では「港」が最も高かった。また、東京における「六甲の山と緑」は 20.3%
で仙台、福岡に比べて高い比率を占めた。
東京
仙台
福岡
総合
港
S52 H14
19.0% 25.0%
42.0% 29.8%
- 36.1%
24.0% 30.2%
異国情緒
S52 H14
51.0% 33.7%
33.0% 35.5%
- 16.7%
48.0% 28.7%
お洒落なファッション
六甲の山と緑
S52
11.0%
5.0%
10.0%
S52
14.0%
13.0%
13.0%
H14
12.0%
17.4%
17.3%
15.6%
H14
20.3%
6.0%
9.2%
11.9%
グルメ
S52 H14
- 2.0%
- 6.7%
- 9.2%
- 5.9%
その他
S52 H14
5.0% 7.0%
7.0% 4.7%
- 11.6%
5.0% 7.7%
また、
(財)運輸政策研究機構発行(1998 年)の「新時代の国内観光−魅力度評価の試み
−」では神戸は都市型観光地の中で「空間快適性」が最も高い都市として評価され、それ
以外の評価項目「賦存資源」
「活動メニュー」
「宿泊施設」についても良い評価を得ており、
京都に次いで魅力度が高い観光地として評価されている。
(総合2位)
○観光振興に関連した市民主体の新たな取り組みが生まれているが、おもてなしの心やマナー
の面で不十分なところがある。
【NPO 等による新たな観光資源づくりと観光資源の活用】
NPO「六甲山と市民
市と共同で、保養施設の相互利用や一般利用を推進する「保養施設
の ネ ッ ト ワ ー ク
活用コンソーシアム」を設立(H13.11)し、活動を進めるとともに、
( Rokkosan Citizen
六甲山の芸術村構想の一環として、同NPOが遊休保養所を賃借
Network)」
し、文化芸術活動の拠点(宿泊も可能な音楽練習場・スタジオ)と
して転活用を図っている。
㈱神戸ながたティ・エ
商人体験や震災学習などにより教育旅行を受け入れているほか、
ム・オー
「そばめし、お好み焼マップ」の作成や「ぼっかけカレー」を名産
品として地元食品メーカーと共同開発するなどの様々な取り組み
が行われている。
異なる業界の連携
ホテル、旅館、タクシー会社の連携など、異なる業界が連携して、
地元の観光資源を活用しようとする取り組みが生まれてきている。
128
【神戸 21 世紀・復興記念事業を継承した新たなおもてなしの仕組み】
KOBE観光ガイド
神戸21世紀・復興記念事業において「KOBEフラワーフレンズ
ボランティア
クラブ」でおもてなしに取り組んできたメンバーが中心となって結
成され(H13.10)、黄色い帽子と腕章を目印に道案内や同行ガイド、
シャッターサービス、観光相談などの活動に積極的に取り組んでい
る。
まちかど観光ステー
商店街や観光施設、駅等市内 141 箇所(H14.12 現在)の拠点におい
ション
て、観光施設・各種イベント情報の提供や外国語対応の観光ガイド
マップ等の配付を行っている。
【おもてなしの心やマナーの面】
新神戸駅や伊丹空港からのタクシーはマナーが悪いという指摘があるなど、おもてなしや
マナーの面で不十分なところがある。
○国際会議開催件数は、他都市で新規施設のオープンが相次ぐ中、健闘している。
国際会議・学会の開催件数については、2001 年(平成 13 年)は 207 件(全国 3 位)となっ
たが、1 位の東京(759 件)を除くと、2 位から7位までの各都市は開催件数に大差がなく、
年度によって順位が入れ替わっている状況である。
大都市のコンベンション開催件数の推移
(出典)国際観光振興会国際コンベンション誘致センター発行「コンベンション統計」
会議開催件数
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
2,713
2,747
2,696
2,478
2,415
2,175
2,000
1,833
1,786
1,665
1,487
1,244
1,077
東京都区部
793
759
705
603
436
344
343
287
208
259
228
181
172
京都市
209
192
190
181
198
195
169
154
180
150
180
209
184
神戸市
205
207
195
178
213
170
161
134
170
186
177
164
161
大阪市
192
230
224
222
224
197
171
219
206
196
164
98
96
名古屋市
167
194
200
195
194
196
180
182
175
141
105
146
87
福岡市
150
146
163
199
191
188
161
133
102
87
82
62
43
横浜市
130
105
96
107
121
100
80
86
104
85
87
68
49
大阪千里
119
113
81
99
115
90
71
82
86
82
51
-
-
つくば市
80
88
88
53
38
28
53
24
15
47
19
13
30
札幌市
71
96
107
112
95
84
76
69
78
68
72
65
42
仙台市
53
56
63
43
38
56
35
31
38
30
36
31
31
北九州市
43
69
72
71
68
65
63
61
60
48
43
39
27
東浦町
39
36
37
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
広島市
32
59
60
62
74
74
60
50
67
42
43
41
23
430
③
397
③
415
④
353
⑥
410
③
388
⑥
377
⑤
321
⑤
297
⑤
244
③
200
③
127
③
132
③
その他
順位(神戸市)
129
(市の主な取り組み等)
○観光資源の魅力向上・新しい観光資源の創造
○観光情報発信・誘致プロモーション
・ イベント開催を通じたまちの魅力発信(イ
・ Weekly KOBE FAN
ンフィオラータこうべ、神戸南京町春節
・ 神戸フィルムオフィス
祭、神戸北野クリスマスストリート、灘の
・ KOBE 観光特使
酒蔵スタンプラリー、六甲・摩耶 山の音
・ 教育旅行の誘致
楽祭等)
○受入体制の充実
・ 神戸ルミナリエ
・ 観光案内板の多言語化
・ 六甲・摩耶活性化(摩耶ケーブル・ロープ
・ おもてなしネットの構築
ウェー再開、国民宿舎神戸摩耶ロッジ再開
・ 神戸観光PRツールの製作
等)
・ KOBE 観光ガイドボランティア
・ 六甲山地区の土地利用規制の緩和
・ まちかど観光ステーション
・ 保養施設活用コンソーシアムの設立・運営
・ 神戸セミナーハウスの整備・運営
・ 有馬温泉活性化(銀の湯・金の湯・有馬の
工房の整備 等)
3.これからの取り組み(方向性)
○集客観光のもつ総合的な機能に着目した取り組みの推進
集客観光は 21 世紀のリーディング産業として期待されている分野であり、関連する産業
の裾野が広い観光産業の振興を神戸経済の活性化へ結びつけることはもちろん、人々の交
流の増大による情報の集積・発信、文化の創造、産業の創出効果や、
「住みやすく市民が誇
れるまち」がすなわち「訪れたいまち」であるという「まちづくり効果」といった集客観
光の持つ総合的な機能に着目し、全庁的な取り組みや民間との連携を進める必要がある。
○オンリーワンを目指した魅力ある観光資源の再構築
都市観光においては、
「∼流」、すなわち、際立った特長を有する「オンリーワン」を有す
ることが、優れた観光都市たる必要条件である。したがって、港・海、山、街、温泉など
既存の観光資源を生かしながら、神戸のライフスタイル・文化・ファッションに人為的に
磨きをかけるなど、魅力ある観光資源の再構築に向けたソフト戦略が必要である。
○ターゲットを絞り込んだ戦略的なプロモーションの展開
神戸のもつ魅力・イメージを再度、「都市ブランド」として構築し、発信していくため、
関東圏・東京への情報発信やプロモーションの強化が必要である。また、「顧客=観光客」
のターゲットを住民の延長線上ともいえる近距離圏域におくことは、速効性かつ量的効果
も期待できることから、近距離圏へのプロモーションの強化も重要である。
130
震災以降整備が進んできた旧居留地については、東京等の3都市の調査で、「神戸を代表
する観光地」とした人は 5.3%、
「神戸で行ってみたい所」として挙げた人は 4.5%と意外に
低い結果であったことから、お洒落な神戸をリードするエリアとして積極的に情報発信を
図る必要がある。
○おもてなしの充実
これからは、人が観光資源となる時代であり、ボランティアガイド、特にシニアを活用し
た受入の充実を図ることが重要である。このため、おもてなしの心の醸成やマナーの向上、
「KOBE観光ガイドボランティア」に次ぐ市民観光ガイドの組織化を積極的に支援して
いく必要がある。
○東アジアに重点を置いた国際観光の推進
日本人は海外に約 2000 万人が出ているが、海外から入ってくるのは数百万人ぐらいであ
り、やがて中国での団体訪日観光の可能な地域が拡大されると、東アジアからの観光客は
飛躍的に増大することが考えられる。国際観光の推進にあたっては、アジアなど外国人旅
行者数の目標を設定し、誘致・受入体制の整備を進める必要がある。
神戸経済同友会との意見交換会での意見
「集客の上では、東南アジアである。中国との交流も大事で、産業的には出ていくが、知
財などの視点が大事になってくる。分担や連携プレーが大事で、そこに人の行き来が出て
くる。」
○空港との連携による集客観光の推進と新神戸駅の充実
神戸空港開港を機に、就航予定都市への観光プロモーションの展開や空港ターミナル駅内
での観光案内所の設置など、空港を生かした集客観光の推進が必要である。
また、新神戸駅については、ウエルカムムードを醸し出す工夫など充実が必要である。
○産業観光の振興
工場や工場での生産活動、歴史的文化的価値を有する産業遺産などを地域の魅力資源とし
てとらえ、観光活用を図る産業観光を振興することにより、観光振興のみならず地域振興・
活性化を推進する必要がある。
○他分野との連携の推進等
集客観光にあたっては、都市のデザイン力の強化、エコツーリズムの振興、コンベンシ
ョンの振興など、分野横断的な取り組みをさらに進める必要がある。
また、「六甲有馬観光特区」が認定されたことを受けて、国立公園と温泉という市内の他
のエリアにはない豊かな資源を生かしながら、さらなる活性化を進める必要がある。
131
第3章 すまい・まちづくり分野
1.これまでの経緯
すまい・まちづくり分野は、
“すまい”とそれを支える“まち”の要素で構成されるが、
市民生活の基盤となる重要な分野である。震災では、神戸のすまいとまちに甚大な被害を
受け、8万戸以上の住宅が滅失するとともに、都市基盤についても壊滅的な打撃を被った。
応急仮設住宅の解消や住宅再建に目処がたちつつあるものの、まちづくりについては、
まっただ中であった平成 11 年度に行われた「復興の総括・検証」では、残された課題と
して「安全で安心なすまい・まちづくりの継続」を掲げ、すまい・まちづくりの方向性と
して「安全で安心なすまい・まちづくり」、
「住み続けたいすまい・まちづくり」
、
「自律と
連携のすまい・まちづくり」を示した。
これを受けて平成 12 年 10 月に策定された「神戸市復興計画推進プログラム」では、
「安
全で安心なすまい・まちづくり」のうち、すまい・まちづくり分野について、「都市基盤
整備等の推進」、
「住みたい、住み続けたい、魅力あふれる“まち”の形成」、
「自律と連携
のすまいづくり、まちづくりの推進」、「地域のまちづくり活動に応えるシステムづくり」
に係る施策が位置づけられている。
現在、これらの方向に沿いながら、すまい・まちづくりが進められている。
2.各節の構成
すまい・まちづくり分野については、「第 1 節 復興まちづくりの中にみる知恵」から
「第5節
「第1節
市民主体の総合的な地域づくり」までの5節で構成する。
復興まちづくりの中にみる知恵」では、すまい・まちづくりの復興過程で生
み出された知恵や制度、事業の活用時の工夫等を記載している。
「神戸市復興計画推進プログラム」の「都市基盤整備等の推進」、「住みたい、住み続
けたい、魅力あふれる“まち”の形成」を「第2節
安心して暮らせるすまい・地域」
「第
3節
環境にやさしい都市のすがた」で整
次世代につなぐ魅力ある都市空間」「第4節
理している。第2節では、すまいを中心に、それを取り巻く地域について、ユニバーサ
ルデザインなどハードだけではなく、ソフトの活動も組み合わせながら記載している。
第3節では、都市空間としてまちなみの形成、地域特性の活用、都心の活性化について
記載している。また、第4節では、環境に着目し、都市のすがたについて交通ネットワ
ークも織り交ぜながら記載している。
すまい・まちづくりを支える地域活動については、「神戸市復興計画推進プログラム」
の「自律と連携のすまいづくり、まちづくりの推進」「地域のまちづくり活動に応えるシ
ステムづくり」を「第5節
市民主体の総合的な地域づくり」で整理している。この第5
節では、地域の自律性を高める方法として、市民主体の総合的な地域づくりについて記載
132
するとともに、地域間交流などを通じた連携について記載している。
以上の各節の主な関係を簡略化して図で示すと以下のとおりとなる。
【すまい・まちづくり分野の各節の主な関係】
第1節
復興まちづくりの
中にみる知恵
《すまい・まち》
第2節
安心して暮らせる
すまい・地域
第3節
次世代につなぐ
第4節
魅力ある都市空間
環境にやさしい
都市のすがた
《地域活動》
第5節
市民主体の総合的な地域づくり
133
【他分野との関係(主なもの)】
すまい・まちづくり分野
その他の分野
市民生活分野
第1節
市民の地域における
自律と助け合い
第3節
第1節
高齢者・障害者が安心
して暮らせるまち
復興まちづくりの
中にみる知恵
第6節
ボランティアや NPO・
NGO が活躍するまち
第2節
都市活動分野
安心して暮らせる
すまい・地域
第3節
第2節
新たな産業活力づくり
第3節
中小企業・生活文化
次世代につなぐ
産業の活性化
魅力ある都市空間
第4節
地域社会と連携した
産業
第4節
第5節
環境にやさしい
基盤
都市のすがた
第5節
神戸港などの広域交流
第6節
文化・芸術の振興
第7節
集客観光都市づくり
市民主体の総合的な
地域づくり
安全都市分野
第1節
個人・地域での安全・
安心の取り組み
第3節
安全都市基盤
第4節
将来起こり得る災害へ
の備え
134
第1節 復興まちづくりの中にみる知恵
1.ねらい
復興まちづくりは、人々が住み働き生活してきた市街地の再建であり、平常時のしくみ、
制度では解決が困難なことが多くあった。災害公営住宅における超高齢化対策、マンショ
ン再建や建物の共同化などの課題は、将来の都市が直面すべき課題が集約して先行的に顕
在化したところがある。復興まちづくりの過程で行ってきた様々な工夫は、これから多様
な人々が暮らす都市における課題を解決する際に必要となる知恵であり、これらを発信し
ていくとともに今後のまちづくりに活用していく必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○まちづくり協議会方式により震災復興事業が進められている。
震災による被害が大きく、防災面等から都市基盤の整備改善を図る必要がある地区につ
いては、震災復興の土地区画整理事業、市街地再開発事業が行われている。第1段階で、
区域や主要な道路、公園といった基本的な枠組みを定め、第2段階で身近な道路、公園に
ついて住民意向を反映させた上で定めるという2段階方式の都市計画決定が行われた。当
初の混乱はあったものの、その後まちづくり協議会が設立され、住民が行政、専門家とと
もにまちの将来像について話し合い、まちづくり提案としてまとめ、それを尊重して進め
る“まちづくり協議会方式”により事業が進められている。
○複数事業の組み合わせにより事業が進められている。
震災復興事業において、土地区画整理事業、市街地再開発事業と住宅市街地整備総合支
援事業、密集住宅市街地整備促進事業が組み合わされて進められている。従前居住者用住
宅の柔軟な確保や共同化の促進等、権利者の生活再建や事業推進の観点から、複数の事業
手法の組み合わせが有効に機能している。
○復興事業地区においても地域特性に応じた取り組みがなされている。
震災復興事業の各地区において特色ある取り組みがなされており、例えば、松本地区、
六甲道駅北地区では、まちづくり提案に基づき歩道部にせせらぎが設置された。新長田駅
北地区では、下町のよさを生かした“いえなみ”に関するルールを策定してまちづくりが
進められている。また、新長田駅南地区では、㈱神戸ながたティ・エム・オー等により、
イベントの企画立案、ぼっかけカレー等の名産の開発、修学旅行生の受け入れなどが行わ
れている。
135
○ルールづくりにより地域マネージメントが行われている地区が増えている。
ルールづくりにより地域のマネージメントを行っていこうとする地区が増えている。ま
た、震災復興事業地区においては、事業による整備にあわせ、地域のルールを定めて規制・
誘導を図り、まちづくりを継続していこうとする地区もある。地区計画、まちづくり協定、
建築協定により地域のルールを決めている地区は、震災前より、延べ 89 地区 1,254ha 増え、
177 地区 3,766ha へと拡大している。市街化区域に占める割合も 18%を超えている。
(平成 15 年 10 月末現在)
震災前
震災後
合
地区数
面積(ha)
地区数
面積(ha)
23
2,069
45
906
68
2,975
3
152
6
259
9
411
建築協定
62
291
38
89
100
380
合
88
2,512
89
1,254
177
3,766
地区計画
まちづくり協定
計
地区数
計
面積(ha)
○様々な手法を駆使して住宅の早期大量供給が行われた。
公的住宅については、早期大量供給が図られたが、特に応急仮設住宅居住者に高齢者、
低所得者が多かったこともあり、公営住宅等については、供給戸数の増見直し(14,000 戸
→20,000 戸)が行われ、市街地立地を進めるために民間住宅借上や公団住宅借上等の借上
方式が導入されるなど様々な手法を駆使して行われた。公営住宅に偏重しているのではな
いかとの批判も一部ではあったが、低所得の被災者の住宅の確保、応急仮設住宅の解消等
に果たした役割は大きい。
また、民間住宅の再建については、災害復興融資や基金による利子補給等の資金面の支
援、復興住宅メッセによる情報提供のほか規制緩和による支援等が行われてきた。さらに、
民間賃貸住宅居住者への家賃助成も行われてきた。
○専門家派遣、補助制度等様々な支援策を組み合わせ、マンション再建、共同・協調建替が進め
られた。
被災による分譲マンションの再建は、従来の区分所有法では想定されておらず、合意形
成や再建資金の調達等の困難な課題に直面した。専門家派遣や優良建築物等整備事業など
の補助や低利融資、復興基金による利子補給などの支援策を総合的に活用し、マンション
再建が進められた。47 地区 3,404 戸(平成 15 年 11 月末現在)が再建している。これを契
機に「区分所有法」の改正や「マンション建替え円滑化法」、「マンション管理適正化法」
の施行等につながっていった。また、これらを通じ、平時のマンション管理の大切さが再
認識されたところである。
共同・協調建替についても、合意形成のための専門家派遣、補助制度、低利融資、利子
補給などの支援策を総合的に活用し進められた。113 地区 4,870 戸(平成 15 年 11 月末現在)
136
で共同・協調建替がなされている。震災復興の共同・協調建替では、未接道宅地や狭小宅
地などにより個別再建できないというやむをえない事情から出発しており、平時の場合と
は若干事情が異なるものの、今後の密集市街地における建替問題に対して参考となるもの
である。
○コレクティブハウジング、シルバーハウジング等ソフトとあわせたすまいづくりが進められている。
震災復興の取り組みの中から、新たな集住スタイルとしてコレクティブハウジングが採
用された。高齢者対応の一環として公営住宅のなかで供給されたものであるが、被災地外
でも公営住宅として供給されているほか、民間住宅でも供給の試みが始まっている。
公的住宅については、早期大量供給が図られたが、被災者に高齢者が多かったこともあ
り、LSA(生活援助員)が配置されるシルバーハウジングが大量に供給された。現在の
管理戸数は市営住宅 1,437 戸、県営住宅 941 戸であわせて 2,378 戸あり、全国の管理戸数
17,409 戸(平成 14 年度末)のうち 13.7%を占めている。
シルバーハウジング以外の災害公営住宅においても、閉じこもり防止や地域住民間の交
流促進のため、地域見守りが行われている。超高齢社会を先取りする形で一般地域にまで
拡大して、民生委員、見守り推進員、見守りサポーター、LSA、友愛訪問グループによ
る地域見守りが行われている。
○ワークショップにより愛着のある公園が市街地で増大している。
市街地の中にある公園は、市民生活に潤いを与えるとともに多様な防災機能を持ってい
る。東灘区から須磨本区までの公園(住区基幹公園:街区・近隣・地区公園)面積は、13
年度末で 194ha であるが、現在復興事業中の公園が完成すると約 9ha 増加し、ワークショ
ップ等により整備された愛着のある貴重な公共空間が増大する。
○身近な自然や共用空間づくりが進んでいる。
雨水や井戸水は、災害時には、消防用水、生活用水として活用される貴重な資源である。
公園や公共建築物での雨水、井戸水の活用が進められている。
例えば、生き物を大切にする学校ビオトープの整備や活用が、地域、企業、学校、行政
との協働により、平成 15 年 9 月末現在で 69 の学校で進んでいる。身近な自然や生き物と
のふれあいの場所として定着しつつある。
また、小学校の改築と隣接する河川改修とを連携させ、河川沿いに魅了的な空間が確保
されている事例など、工夫を重ねた公共空間の整備が行われている。
137
(市の主な取り組み等)
○震災復興事業
○住宅再建
・ 震災復興土地区画整理事業
・ マンション再建、共同・協調建替
・ 震災復興市街地再開発事業
・ 民間住宅再建支援
・ 震災復興街路事業
・ 公的住宅供給
・ 住宅市街地整備総合支援事業
○ソフトとあわせたすまいづくり
・ 密集住宅市街地整備促進事業
・ コレクティブハウジング
等
○地域主体のまちづくり
・ シルバーハウジング
・ 地区計画、まちづくり協定、建築協定
・ 地域見守りシステムの全市展開
・ 「今後の神戸の都市づくり」
○身近な自然や共用空間づくり
・ まちづくり協議会
・ 雨水利用、井戸水利用
・ ビオトープづくり
3.これからの取り組み(方向性)
○震災復興事業の総仕上げに向けた取り組み
震災復興事業についてはさまざまな工夫のもと着実に進んでいるが、震災後 10 年はひと
つの節目であり、事業として一定の目処をつける必要がある。また、継続する地区におい
ては、社会・経済状況の変化の中、地域の実情に沿った柔軟な対応を行い、整備が推進さ
れる必要がある。
○課題の認識の段階から地域とともに検討する「今後の神戸の都市づくり」の推進
まちづくり条例制定以来進めてきた“まちづくり協議会方式”が震災復興まちづくりに
おいて有効に機能した。これを教訓に、地域とともに課題の認識、課題解決策の検討を行
い、“ルールづくり”、“ものづくり”を進めていく取り組み「今後の神戸の都市づくり」が
進められている。まちづくりの気運を高め、協働のまちづくりを継続していこうとする地
域の取り組みを支援していく必要がある。
○マンション管理に対する総合的支援
震災により、マンション管理の大切さが認識されたところである。また、増加する分譲
マンションのなかには、意識の欠如や専門的知識不足、合意形成の難しさから十分な対応
ができていない管理組合もある。不良住宅ストックとならないよう、情報発信や相談体制
の充実、アドバイザー派遣など総合的な支援を進めていく必要がある。
○協同居住の推進
コレクティブハウジングについては、居住スタイルの主流となるものではないが、協同
のスペースを持ち、助け合いながら暮らしていくすまい方は、ひとつのスタイルとして定
138
着するよう支援していく必要がある。その際、完全なコレクティブのみではなく、集会所
を用いてコレクティブ的に使用するといった緩やかな協同も考えていく必要がある。
○恒久的な地域見守り体制の構築
災害公営住宅等では今後ますます高齢化の進展が見込まれるところであり、超高齢社会
を見据えた住民相互の恒久的な地域見守り体制を構築し、単身高齢者等でも住みなれた地
域で安心して暮らせるまちづくりの実現に取り組んでいく必要がある。
○環境・防災両面からのオープンスペース等の整備
ワークショップで「太陽、風など自然エネルギーを活用したクリーンな環境にやさしい
まちにしよう」との意見が出されたが、自然エネルギーは災害時などライフラインが途絶
えた場合でも利用できるという点で評価されている。平常時には環境調和型施設、緊急時
にはライフスポットとして活用できる施設として、公共建築物や公園等を中心に自然エネ
ルギーや雨水等の利用を一層進めていく必要がある。
○つくることから管理へ
震災復興事業が進み、道路、公園、せせらぎなどが順次整備されている。まちづくり協
議会へのインタビューで、
「自分たちで作ったものだから、自分たちできちんと管理したい」
「管理すべきものがあることによってコミュニティ形成のいいきっかけになる」という意
見があった。地域で議論を重ね、つくりあげたものである。今後はそれらをどうマネージ
メントしていくかが重要であり、みんなでつくったものをみんなで管理していく取り組み
をさらに進めていくことが必要である。
また、今後も公園など防災やコミュニティの拠点となる公共空間づくりについては、住
民の計画時からの参画、そして見張る公園ではなく「見守る」公園として、住民自らの管
理ができるように進める必要がある。
139
第2節 安心して暮らせるすまい・地域
1.ねらい
震災により、市民生活の基盤となる住宅にも大きな被害を受けたが、早期に大量の住宅
が供給され量的な課題は解決されたが、住宅ストックの安全性、居住性の課題のすべてが
解決されたわけではない。また、住宅が供給されても、なかなか生活が戻らない、地域が
戻らないところもある。誰もが地域で安心して快適に生活できるためには、住宅の安全性
能を向上させ、バリアフリーのようなハードの整備を行うだけでなく、生活に関わる多様
なサービスの連携や個々の生活者が地域の環境への関心を高めていくことが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○住み慣れた地域で暮らしたいと望む人は多い。
高齢者、障害者ともに地域で暮らしたいと思う人の割合は高く、シルバーハウジングや
グループホーム等の様々な自立生活支援が求められている。また、市営住宅をグループホ
ーム等へ福祉的に活用する事例も出てきている。
【高齢者の将来希望する介護形態】
自宅に住みながら、
在宅介護サービス
を利用したい
同居の家族から
介護を受けたい
平成8年度
(N=3,926)
27.5
平成12年度
(N=7,528)
28.8
施設等に入所して
介護を受けたい
2.1
29.3
34.4
6.7
47.4
0
20
無回答
その他
2.2
14.3
40
60
7.4
80
100
(%)
[高齢者生活実態調査(H13.3)]
【在宅障害者の将来の希望】
自宅で一人で暮らし、
在宅サービス
を利用したい
自宅で家族と暮らし、
主に家族に
介助してもらいたい
自宅で家族と暮らし、在宅
サービスを利用したい
地域で仲間と暮らし、在宅サービスを
利用したい
居住型施設に入所したい
その他
わからない
1.8
身体障害者
(N=1,283)
20.9
9.7
17.8
1.2
9.0
5.5
2.0
知的障害者
(N=607)
17.6
0
15.2
20
無回答
34.1
1.5
6.9
16.0
7.6
40
60
33.3
80
100
(%)
[心身障害者生活実態調査(H13.3)]
○安心して暮らせるユニバーサルデザインのまちづくりを進めている。
平成 14 年 11 月に「神戸市交通バリアフリー基本構想」が策定され、主要駅や周辺道路等
のバリアフリー化が推進されている。全駅舎 128 のうち、1日平均乗降客数が 5,000 人以
140
上の駅舎(交通バリアフリー法で、バリアフリー改修の努力義務のある駅)は 81 あり、そ
のうちエレベーター、スロープ設置駅数は 52、整備率は 64%であり、大都市の中では中位
に位置している。
平成 15 年度神戸市民1万人アンケートにおいても、今後望まれる住宅施策の中で、
「バ
リアフリー化を推進するための支援策の充実」が 34.9%で最も多かった。
また、市民、事業者、行政で「こうべUD広場(こうべユニバーサルデザイン推進会議)」が平成
15 年 5 月に結成され、
「ユニバーサルデザインのまち神戸」の実現にむけ、まち・もの・く
らし・意識づくりの分野で取り組むべき方向性の検討が行われている。
これまでの身体障害者への配慮が中心であったバリアフリーの考え方と併せ、高齢者、
障害者のみならず、だれもが暮らしやすい「ユニバーサルデザインのまちづくり」の推進
へと変わってきている。
○地域を美しくしようとする動きが出てきている。
政策提言会議やワークショップにおいて最近マナーが低下しているという意見が多く出
された。一部の心無い人によるごみの不法投棄や放置自転車、落書き、貼り紙などが美し
いまちを阻害する要因になっている。一方で、まちを美しくしようと自ら意欲的に取り組
もうとする地域や企業の動きもでてきている。
例えば、路上のポイ捨てを防止するため、若者を中心にしたボランティアが、捨てた人
の前でたばこの吸殻などを即座に拾い、美化啓発を訴える「まち美化エンジェル」が平成
15 年 5 月結成され、三宮等の中心街で活動を始めている。
○生活に密着したごみの排出量は震災前から増加してきたが、増加傾向は収まりつつある。
ごみの排出量は、震災前後の一時的な増加減少を除き、昭和 58 年頃から毎年増加してき
たが、平成 12 年度以降、国の循環型社会形成推進法等リサイクル関連法の整備などが進ん
だ結果、市民のごみ問題への意識が高まり、ほぼ横ばい状況にある。
また、資源集団回収の増加等により、ごみのリサイクル率は向上しており(平成 9 年度
7.4%→14 年度 11%)、最終処分量もごみ減量・資源化及び中間処理によるごみの減容化に
より減少している。
具体的な取り組みとしては、家庭ごみの分別収集が遅れていたが、平成 15 年 11 月より、
資源(缶・びん・ペットボトル)の分別収集が全市で実施されており、平成 16 年度からの
4分別収集(可燃、不燃、資源、粗大)の完全実施に向けて取り組みが進んでいる。また、
事業系ごみについては、平成 15 年 1 月に排出区分の見直し及び処理手数料の適正化が行わ
れている。
141
ごみ排出量の推移
人口
ごみ排出量
事業系ごみ
1,600,000
トン(ごみ量)・人(人口)
リサイクル率
家庭系ごみ
1,800,000
平成14年度
1,400,000
平成13年度
1,200,000
平成12年度
1,000,000
平成11年度
800,000
平成10年度
600,000
平成9年度
11
10
9.7
8.8
8.1
7.4
400,000
0
5
10
200,000
0
4 5
6 7 8
%
年度
9 10 11 12 13 14
○すまいからまちへと視野を広げた住宅施策が展開されている。
震災の教訓や大きく変化する社会経済情勢を踏まえ、市では平成 13 年 4 月に「神戸市住
宅基本計画(2001∼2010)」が策定されている。個々の住宅・くらしがまちをつくるという
「すまいから始めるまちづくり」の考え方のもと、住宅政策が展開されている。
その計画に基づき、住まいに関する様々なニーズにワンストップで応えるすまいの総合
拠点として「神戸市すまいの安心支援センター(すまいるネット)」が開設されている。一
般相談、専門相談、専門家派遣といった3段階の相談業務、物件情報提供や設計事務所、
建設業者の選定支援システム等の情報提供業務、セミナー等の普及啓発業務がなされてい
る。1 日当たりの来訪者は平均で 100 人を超えている。
また、震災後の大量供給により、市営住宅ストックは 4 万戸から 5 万 5 千戸(全市世帯
数の約 9%)へと急増した。その市営住宅ストックを適正に維持管理していくために、市で
は「市営住宅マネジメント計画」が策定されており、これに基づき、市営住宅の再編、改
善が進められている。
○既存住宅の耐震簡易診断、耐震改修は進んでいない。
被害を受けた建物の再建も進み、耐震性の高い建物が増えている。例えば、免震構造に
よる建物は約 30 棟できている。
一方、既存の住宅では、耐震性向上を目指し、平成 12 年度より耐震簡易診断が実施され
ている。15 年 10 月末までの申込みの累計はマンションで 224 件 14,244 戸、戸建住宅で
674 戸であり、対象戸数に対して、マンションでは約 35%、戸建住宅では約 1%である。
耐震簡易診断、耐震改修ともに進んでいるとはいいがたい状況にある。
142
15
(市の主な取り組み等)
○地域に住み続けるしくみづくり
○生活環境にかかる取り組み
・地域見守りシステムの全市展開
・ まち美化エンジェル
・グループホーム等の地域生活支援施設の整備
・ 美ing神戸市民運動
・シルバーハウジング
・ 美緑花ボランティア
○ユニバーサルデザインの推進
・ 市民花壇
・神戸市交通バリアフリー基本構想
・ 資源集団回収活動
・鉄道駅舎へのエレベーター等整備補助等
・ リサイクル工房
・ノンステップバス導入補助
・ 総合リサイクルセンター等の整備
・だれでもトイレタウン計画
・ 建設リサイクルの推進
・交通バリアフリー対策
・ 事業系ごみの減量・資源化
・ハートフルロード整備事業
○住宅ストックのマネージメントと活用
・公園のユニバーサルデザイン
・ 耐震簡易診断
・こうべUD広場(こうべユニバーサルデザイン推進
・ 住宅性能表示
会議)
・こうべUD(ユニバーサルデザイン)フェア
・ マンション管理支援
・ すまいるネット
・ 子育て支援のびのび住宅制度
・ 子育て応援すくすく住宅制度
・ 共同住宅バリアフリー改修助成
・ 完了検査済住宅への合格プレートの発行
・ 市営住宅のマネージメント
3.これからの取り組み(方向性)
○ユニバーサルデザインのまちづくりの推進
高齢者や障害者をはじめ誰もが社会参画できるための基盤整備を進めるとともに、誰も
が暮らしやすいユニバーサルデザインのまちづくりが求められている。その際、ハード面
だけでなく、思いやりや助け合いなど、ハード・ソフト一体となった取り組みを進めていく
ことが必要である。
○市民が誇れる「美しいまちづくり」の推進
市民が誇れる美しいまちを目指し、自律的に取り組む地域と行政が連携して取り組んで
いく必要がある。そのためには、美化活動、花とみどり・景観等の快適環境づくり、おも
てなしの気持ちを向上させる取り組み等を市民・事業者・行政が協働で進めていかなけれ
ばならない。美しいまちを効果的に実現するためには、それぞれの地域でどのような課題
があるか市民が自覚し、そのうえで行政からも地域課題にあった専門家派遣など人材支援
を行っていく必要がある。また、都心地域などでは、マナー向上のための行政による規制
143
強化等も考えていく必要がある。今後、市民による、美しいまち地域プロファイルの作成
や、評価を行いながら進めることが重要である。
学生からの提言
地域コミュニティの核をつくるとともに、神戸のイメージアップをはかるため、市内各地
に、花苗を植える場をつくり、地域住民が花苗を育て、まちを花いっぱいにする取り組み
を行っていくべきである。
○循環型社会の形成
市民・事業者・行政の協働により、3R(発生抑制・再使用・再生利用)を中心とした
ごみの減量・資源化を着実に進め、循環型社会の形成をより一層推進していかなければな
らない。そのためには、資源化施設の整備を進めていく必要があるが、事業者、行政の役
割分担のもとに進めていくことが重要である。
○多様化・高度化するすまいに対するニーズへの対応
住宅地として神戸の強みをいかしていくためには、総合的な住宅情報発信、居住サービ
スの提供を行っていく必要がある。
「すまいるネット」で行っている相談、情報発信、普及
啓発業務について、さらなる拡充を図っていく必要がある。
多様なニーズのなかで、例えば、郊外の高齢者の都心への住み替えニーズと、子育て期
の若年世帯の郊外への住み替えニーズを速やかにつなぐような新たな住み替えシステムを
検討する必要がある。
○市営住宅ストックの再編・改善と新たな運営
「市営住宅マネジメント計画」に基づき、着実に住み替えあっせん、建替、改善を推進
していく必要がある。既存ストックの改修による障害者向住宅の確保や、グループホーム
化等の福祉的活用も重要である。また、コミュニティ形成への支援、きめ細かな募集など
ソフト面におけるマネージメントも進めていく必要がある。
○安全なすまいの確保
安全なすまい・まちづくりには住宅の耐震化は不可欠である。特に震災で被害の大きか
った新耐震基準以前の住宅への対応が重要な課題である。住宅は災害時には市民の生命・財
産を守る基盤であり、リフォーム時の耐震改修の啓発、アドバイザー派遣によるきめ細か
な情報発信のほか、耐震改修支援等一歩踏み込んだ取り組みが必要である。
144
第3節 次世代につなぐ魅力ある都市空間
1.ねらい
震災により大きな被害を受け、建物の再建、まちづくりの進捗により、市街地の安全性
は着実に向上しているが、まちなみは大きく変化し、ともすれば、機能重視で画一的な雰
囲気のまちなみが見られる。自然環境、歴史、文化、人材など地域の持つ資源を活かした
多様な地域の魅力づくりを進めるとともに、次世代につなぐ魅力ある都市空間づくりを進
めていく必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○まちなみが変わったが、地域らしさを大切にしていこうと取り組む地域もある。
震災により、市街地は大きな被害を受けたが、神戸の特徴的な都市景観やまちなみ、文
化的資源も大きな被害を受けた。建物の再建も進み、まちなみが変わってきたところ、新
たなまちなみができてきたところもある。
そのような状況下で、震災前より取り組んでいる7地区の都市景観形成地域に加え、震
災後5地区において、地域でまちなみのルールをつくり守っていこうとする景観形成市民
協定の取り組みがなされている。その中で魚崎郷地区では、酒蔵地区としての景観を作っ
ていこうと景観形成市民協定が平成 10 年に締結されている。
ワークショップにおける意見
「まちなみが変わった」
、「神戸らしさがなくなった」という現状に対する意見のほか、
「まちの資源を活用し、地域らしさを大切にしよう」、
「まちづくりは市民が主役だ」
「自然
が豊かで花緑にあふれる美しいまちにしよう」といった今後のまちづくりについての意見
も多かった。
まちづくり協議会役員へのインタビューでの意見
「息の長い取り組みであるが、使命感を持ってやっていきたい。伝統のまちに誇りを持っ
て住めるようにしたい」
○夜間景観の形成に向けた取り組みがなされている。
神戸 21 世紀・復興記念事業をきっかけに、神戸らしい夜間景観の形成に向け、北野・ト
アロード・旧居留地周辺のエリアにおいて、地元の協力を得ながら、歴史的建築物等のラ
イトアップが推進され、夜のまちかどの魅力アップが進められている。
145
○都心での人の動きが鈍くなっているが、神戸の顔として魅力アップが必要である。
中央区の昼間人口や三宮駅の乗車人員が減少するなど、都心地域での人の動きは鈍くな
っている。また、オフィスビルの空室率も高い状況が続いている。
神戸市中央区の昼間人口
(H2基準:100%)
307,435
300,000
105%
284,186 280,227
100%
250,000
200,000
95%
150,000
90%
100,000
85%
50,000
三宮駅(JR・阪急・神戸高速・阪神・地下
(千人) 鉄・新交通)の乗車人員(H5年度基準:100%)
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
80%
0
H2
昼間人口
H7
平成2年比
105%
100%
95%
90%
85%
80%
75%
H
3年
H 度
4年
H 度
5年
H 度
6年
H 度
7年
H 度
8年
H 度
9年
H 度
10
年
H 度
11
年
H 度
12
年
度
(人)
350,000
H12
乗車人員
[国勢調査]
平成5年度比
[各鉄道会社・交通局調べ]
一方で、都心部に高層マンションの建設計画が相次ぐなど、都心回帰の動きが見られる。
良好な自然環境も近くにあり、利便性も伴った都心地域での都心居住ニーズが高まってく
るものと思われる。
震災後、神戸の顔である三宮地区は、長期的なビジョンのもとに、災害に強くより一層
魅力と活力にあふれるまちとするため、地区計画を定めてまちづくりを進めてきている。
三宮中央通りでは、住民の意見を反映させながらみちづくりが進められたほか、景観形
成市民協定が締結された。旧居留地や三ノ宮南地区でもまちづくり協議会による取り組み
がなされている。また、三宮からハーバーランドの間では地元参画による「花とみどりの
回廊づくり」が進められている。
都心部の活性化をより一層推進するため、神戸三宮駅南地域が都市再生特別措置法に基
づく緊急整備地域の指定を受けた。その中で、3層ネットワーク形成による歩行者空間の
整備や民間ビルの計画が進められている。
また、その周辺部では(仮称)神戸震災復興記念公園が予定されているほか、ウォータ
ーフロント整備の検討も進められている。
○空地はまちづくりの種地であるというとらえ方も大切である。
震災直後の空地数は 13 年度までに約 30%までに減少した。震災がなければ老朽化等に伴
い空家となっていたものが、震災によって空地となっている側面もある。
空地の暫定活用として、基金事業により、西出・東出・東川崎地区等では緑化が進めら
れているほか、灘中央地区等では地域イベントに活用されている事例がみられる。また、
御蔵通では、空地をアートの作品で飾る取り組みも行われている。
146
震災後空地数の推移
60,000
東灘区
灘区
中央区
兵庫区
長田区
須磨区
50,000
40,000
︵調査せず︶
30,000
20,000
10,000
0
H7
H8
H9
H10
H11
H12
H13
(神戸市調べ)
不動産関係者等へのインタビューでの意見
「地主が活用しようという意思のある空地はほとんど活用されており、残っているのは、
社会的・経済的情勢もあり意識的にそのままにしている土地、権利関係のトラブルがある
土地、あるいは街区の中で狭小・未接道等の問題を抱えた土地である」
まちづくり関係者へのインタビューでの意見
「空地を否定的な存在としてのみとらえるのではなく、まちづくりの種地というとらえ方
も大切である」
○魅力ある公共空間整備の取り組みがなされている。
市内各所で、まちかどに残っている樹木、石碑、門、像等を活かし、地域の歴史や文化
を伝えるとともに、まちの顔となる魅力的なスポット(小広場)を地域住民との連携によ
り整備が進められている。
酒造地域である灘五郷においては、酒蔵のまちなみを散策するためのルートとして整備
を行ってきたが、震災により木造酒蔵が全壊するなど大きな被害を受けた。震災後、新在
家南地区において酒蔵のイメージを継承するとともに、防災性にも配慮した「酒蔵の道」
が整備されている。
旧西国街道とその周辺では、歴史的資源をまちづくりに活かすため、歴史的・魅力的資
源を結び、市民が気軽にまわれるように「西国街道まわり道」としてルートが設定されて
いる。道標等を整備するなど、地域の歴史の再発見のための取り組みがなされている。
○老朽住宅等が密集している地域がある。
震災前に比べ、建物の再建や震災復興事業の進捗により、密集市街地の改善が進んでい
るが、市街地の中には、まだ老朽住宅が密集している地区が存在する。
147
(市の主な取り組み等)
○まちなみ形成
○空地の活用
・都市景観形成地域
・被災地空地緑化推進助成
・景観形成市民協定
・被災地空地活用パイロット事業
・景観形成重要建築物の保全活用
・地域コミュニティ活性事業
・夜間景観の誘導
○地域特性を活かした公共空間づくり
○都心の活性化
・魅力スポットの整備
・地区計画
・酒蔵の道の整備
・花とみどりの回廊づくり
・西国街道まわり道の整備
・3層ネットワーク構想
・(仮称)神戸震災復興記念公園
・ウォーターフロントの整備
3.これからの取り組み(方向性)
○地域特性を活かしたまちづくり
ワークショップにおいて、「地域らしさを大切にしよう」、
「自然が豊かで花緑にあふれる
美しいまちにしよう」という意見が出されていた。まちなみ形成は市民・事業者、行政が
協働で取り組むべきものであり、自然環境との共生や景観形成に関する関心を高める取り
組みを行っていく必要がある。
また、歴史や文化、身近な自然を活かした取り組みは、小さなことであっても、地域の
愛着を深め、まちの活気や活力を生み出すのに有効である。地域の個性を活かしたまちの
魅力を高めていく取り組みを支援していくことが必要である。
○プロジェクトの連携による都心の活性化
神戸の魅力・発展をリードするのは都心であり、神戸全体の活性化のためには、まず都
心の活性化が不可欠である。3層ネットワーク構想、(仮称)神戸震災復興記念公園、ウォ
ーターフロント整備のほか、都市再生特別措置法の緊急整備地域指定による民間開発事業
の推進など、各プロジェクトが連携し、一体となった取り組みを行っていく必要がある。
また、フラワーロードを花で埋め尽くすなどおもてなしの心を大切にし、うるおいのあ
る空間づくりを進める必要がある。
○地域マネージメントの推進
空地はまちづくりの種地という側面をもっている。また、防犯上、景観上は日常のきち
んとした管理が重要である。緑化の推進、イベントでの利用といった暫定活用を含め、地
域資源としての活用を図っていく必要がある。
148
震災復興事業地区では、つくったものを管理していこうという動きが出てきているほか、
事業地区以外でも公園や道路を地元で管理していこうとする動きが出てきている。公共施
設に愛着を持ってもらうとともに地元での管理、活用を進めていくことが必要である。
○地域特性を活かした密集市街地の改善
住宅等の再建も進み、震災復興事業地区をはじめ老朽住宅密集市街地は着実に減少して
いるものの、今まで面的整備がなされていない地域や山麓部などに、まだ密集市街地があ
る。これらの地域については、一律に面的整備を導入するのではなく、地域住民との協議
により、地域資源、地域特性や地形に応じた地域にふさわしい取り組みを行っていく必要
がある。
149
第4節 環境にやさしい都市のすがた
1.ねらい
震災を経験し、自然と共生することの大切さを再認識したところである。神戸は豊かな
自然環境に恵まれた都市であり、都市の財産として将来にわたってこの環境を守り育て、
共生していくことが重要である。一方、地球温暖化をはじめとする近年の環境問題に対応
するため、循環型社会を形成し、持続可能な都市を目指していく必要がある。特に、環境
と多核的ネットワークは綿密な関係にあり、なかでも良好な交通網整備は、環境の共生と
循環を促進するとともに、地域の自律や人と人とのネットワークづくりへとつながってい
く。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○自然共生的土地利用が行われ、無秩序な都市拡大が抑制されている。
市街化区域は既成市街地を中心に市域の約 36%の面積を占めている。また、市街化調整
区域は、市街化を抑制すべき区域で、良好な自然環境を有する六甲山、西北神地域の丘陵
地域、農地等において指定されている。市域の約 64%を占めているこれらの地域は、自然
環境を維持する緑地や農地として大切な役割を果たし、乱開発等を抑制したコンパクトな
都市を維持している。
環境をまもり支えてきた緑の保全、整備の推進を図るため、市街化調整区域では、「みど
りの聖域」、「人と自然の共生ゾーン」により良好な緑を保存・保全・育成していくととも
に、市街化区域においては、公園等の整備や、街路樹や屋上・壁面等建築物の緑化により、
緑の総量を増やし質の向上を図る取り組みがなされている。
○自律連携型の都市づくりが始まっている。
神戸の都市構造については、市街地部だけでなく、ニュータウンや農村もあり、それぞ
れが自律しながら互いに連携しあって都市として成立している。震災による被害は、市街
地部に集中していたが、郊外部においても、応急仮設住宅や災害公営住宅が建設されたほ
か、その周辺の地域住民がその入居者を支えるといった動きが芽生え、現在も継続されて
いるところがあり、自律連携型の取り組みが行われている。
各地域においても、それぞれ多様な課題を有しており、地域の特性を活かした取り組み
が始まっている。例えば、都心部では、商業・業務の中心性の低下などの課題に対して、
交通結節点を生かした都市機能の高度化を図るため、都市再生緊急整備地域の指定がなさ
れたり、都心周辺部では、地域密着型の小売業や製造業の低迷と、超高齢化・人口減少が
進行するインナーシティ問題に対して、地域の特徴を活かした細街路整備事業の実施、地
域の産業や魅力を活用した各種イベントの開催などが行われている。また、西・北区の農村
150
地域では、農業の後継者不足、学校存続の問題などに対して、都市部との交流、遊休地の
貸農園化などの取り組みが始まっている。一方で、これから取り組むべき課題として、昭
和 30∼40 年代にかけて造成された住宅団地では、地域住民の高齢化や住宅の老朽化が一斉
に進行するニュータウンのオールドタウン化が顕著になり、山麓部の住宅地では、擁壁の
老朽化、拡幅困難道路の存在など地形による課題がある。自律連携型の都市づくりには多
様な地域における取り組みとそれぞれの連携の視点が重要である。
○環境負荷を低減する公共交通の利用促進が始まっている。
震災前の平成 2 年度と平成 12 年度の京阪神都市圏パーソントリップ調査を比較すると、
公共交通機関(「鉄道」及び「バス」
)の分担率が横ばいであるのに対し、
「徒歩」が減少し、
「自動車」が増加傾向にある。一方、鉄道利用者は震災後減少傾向にあり、震災前を 100
とすると、平成 13 年度は鉄道全体では 95、JR108、私鉄 77 である。また、バス利用者は長
期減少傾向にある。
公共交通に関する市民からの要望として、神戸電鉄や北神急行の料金値下げや西区での
市営地下鉄延伸等がある。また、バス関連でも、路線の新設や延伸、ダイヤの充実などの
要望が多い。
このような状況を踏まえ、公共交通を優先する「人と環境にやさしいまちづくり」への
取り組みとして、市民や事業者で構成する神戸市TDM(交通需要マネージメント)研究
会が発足し、検討を始めている。まずは、一定期間、土日祝日の小学生の市バス、地下鉄
料金を無料にすることにより、自動車から公共交通への利用転換を図る実証実験の取り組
みが進められている。
○自動車の交通量の増加や渋滞対策とともに自動車の低公害化の取り組みが行われている。
自動車の交通量は増加傾向にあり、また、渋滞も増えてきている。渋滞については、解
消対策を行っているが、道路ネットワーク基盤の未整備等による影響もある。
神戸市管理道路の渋滞箇所数
平成 9 年 10 月:23 箇所 ⇒ 平成 14 年 11 月:25 箇所
(9 年 10 月の渋滞箇所は 11 箇所解消したが、新たな渋滞箇所が 13 箇所発生)
また、大都市における窒素酸化物及び粒子状物質排出量の少ない自動車の使用の促進と、
自動車走行量を減らす対策を定めた「自動車 NOx・PM 法(自動車から排出される窒素酸
化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法)」の改正等の状
況をふまえ、
「京阪神六府県市自動車排出ガス対策協議会」などによる近隣自治体や国との
連携による低公害車普及のための取り組みがなされている。
○家庭・業務両部門の二酸化炭素排出量が大幅に伸びている。
市域の二酸化炭素排出量は、震災後、平成 9 年にかけて増加傾向にあったが、平成 10 年
には減少に転じ、その後ほぼ横ばいの状況にある。
151
しかし、家庭部門、業務部門の二酸化炭素排出量は大幅に伸びており、家庭での市民一
人ひとりの取り組みや事務所・店舗等での取り組みが課題となっている。
部門別温室効果ガス排出量の推移
(千t-CO2)
(t-CO2/人)
2.2
産業 6,000
2
4,000
1.8
2,000
1.6
0
1.4
廃棄物 運輸 一人当たり(*)
01
年
(*)しみんしあわせ指標に
定める一人当たりの値
(家庭系・業務系・廃棄物計
合計値を人口で割った値)
20
00
20
99
19
98
19
97
19
96
19
95
19
94
19
93
19
92
19
91
90
19
19
年
8,000
年
業務 年
2.4
年
10,000
年
家庭 年
2.6
年
12,000
年
2.8
年
14,000
年
3
年
16,000
○環境行動に取り組む市民や地域の新たな活動が生まれてきている。
市民・事業者・美化活動団体・行政・学識経験者等の各層の参加を得て設置された「神
戸市地球環境市民会議」の協議・行動により、「市民行動計画」の策定や、「グリーン購入運
動」の推進など、市民や事業者による地球環境保全への取り組みが推進されている。
また、太陽光発電を設置し、エネルギーや人のこころを持続的に循環させる取り組み「く
るくるプロジェクト」、里山保全のリーダー育成や観察会開催等を行う「里山クラブ」、水
辺を守り育てる団体の連絡会による「水辺教室」、とんぼとの共生を考えながら環境行動に
取り組む「奥須磨公園にトンボを育てる会」など市民による独自の活動が芽生えてきてい
る。さらに、地球温暖化防止に取り組む環境 NPO や個人が、行動のネットワーク「アース
パル KOBE」を設立し活動を開始した。
さらに、地域主体で古紙などの資源集団回収やまちのマナーアップ&クリーン作戦、家
計にやさしいエコチェック、ニュースレター発行などに取り組む「エコタウンまちづくり」
の取り組みが進んでいる。現在 54 の地域(平成 15 年 11 月末現在)で活動がなされている。
152
(市の主な取り組み等)
○自然との共生にかかる取り組み
○環境意識向上への取り組み
・ みどりの聖域
・ KOBE環境大学、KOBEこどもエコク
ラブ、ふれあいごみスクール
・ 人と自然の共生ゾーン
○グリーンコウベ作戦の推進
・ 神戸市地球環境市民会議
・ 公園・街路樹等の整備
・ エコタウンまちづくり
・ 屋上・壁面等建築物の緑化の推進
○環境負荷の軽減のための取り組み
○公共交通の維持確保と利用促進
・ 環境調和型産業・技術の導入育成
・ 北神急行電鉄等民間鉄道に対する支援
・ CO2ダイエット作戦、ISO(国際標準化機構)
・ 生活交通バス路線維持のための民間バス
事業者への補助等
14001 の取得
・ KEMS(環境マネジメントシステム審査
・ 地下鉄海岸線の利用促進と沿線活性化へ
の取り組み
登録制度)の創設・運用
・ 低公害車の普及推進
○健全な水環境の確保
・ 道路ネットワークの形成
・ 下水処理水の高度処理
・ 渋滞対策プログラムの推進
・ 合流式下水道の改善
・ エコロジー建築の推進
・ 道路の高機能舗装(透水性舗装)
3.これからの取り組み(方向性)
○自律連携型の都市づくりの推進
地域ごとの課題を解決していくためには、地域の特色を活かしながら対応していくこと
が必要である。それぞれの地域の個性と自律性をのばしながら、各地域の連携を図り、多
核的ネットワークの構築につなげていく必要がある。そのためには、今ある制度の組み合
わせや、制度の改正など震災復興まちづくりで生まれでた知恵の活用や工夫を図っていく
必要がある。
○市民との協働による公共交通の利用促進
一部幹線道路での渋滞や、三宮・元町地区など都心部の道路の混雑による環境悪化等の
問題を軽減するため、自動車から公共交通への利用転換を図るとともに、環境問題への対
応や利用者の減少で経営が苦しくなっている公共交通機関を維持確保するため、公共交通
の利用促進を図る必要がある。
行政の財政的な支援は困難な状況となっており、交通事業者の経営努力が必要なことは
言うまでもないが、市民が主体的に交通問題を考え公共交通を支えていこうとする取り組
みが望まれる。行政は、市民の啓発活動、市民とともに交通問題を考える機会の創出、市
民の主体的な取組の支援などを、積極的に行っていく必要がある。
153
○まちづくりと一体となった交通体系の実現
交通はまちづくりとも密接な関係にあり、高齢化等によるニーズに対応したきめ細かな
公共交通サービスの実現や、TDM施策の実施など公共交通を優先させる「人と環境にや
さしいまちづくり」への取り組みにより、まちの魅力向上を図り、まちを活性化させてい
く必要がある。そのためには、沿線住民や周辺商業者との連携が必要である。
○渋滞対策・低公害車対策の推進
地域における環境悪化と経済活動への損失を及ぼす交通渋滞の解消・緩和に向けて、幹
線道路ネットワークの整備や交差点改良等を進めていく必要がある。整備にあたっては早
期着工・整備に向けて、市民と協力を図りながら進めていくとともに、整備効果が高い路
線を優先するなど、優先順位を考慮にいれながら進めていく必要がある。
また、近隣自治体や国との連携により、低公害車普及やDPF(ディーゼル微粒子除去
装置)の装着促進のための取り組みを進めていく必要がある。
○環境に関する意識の共有
環境について関心をもつ市民や事業者は着実に増えていると考えられるが、今後は一部
の市民や事業者だけではなく、全ての市民・事業者において環境に関する意識が共有され
ることが望まれる。そのためには、環境に関する意識の高い層だけでなく、関心の無い層、
関心が低い層への啓発、働きかけが必要である。また、実践活動や体験学習を通じて環境
に関する意識を高めてもらうなど、単に知識を得るだけではない、実効性のある働きかけ
の方法を検討する必要がある。さらに、次代を担う子供への教育を、学校や地域を通じて
充実、強化していく必要がある。
このような啓発、働きかけが効果的に行われるためには、
「神戸市地球環境市民会議」や
「アースパルKOBE」など市民やNPOとの協働を着実に進めていく必要がある。
○幅広い主体の環境負荷軽減対策の促進
二酸化炭素排出抑制等の環境への負荷を軽減するためには、市民一人ひとり、また、業
種や規模にかかわらずあらゆる事業者の取り組みが不可欠であり、市民・事業者各々が環
境に配慮した取り組みを実践するような動機づけが必要である。
また、中小企業などのための市独自の簡易な環境マネジメントシステム審査登録制度で
ある「KEMS 」の創設により、中小事業者の環境マネジメントシステムの導入を進め、
事業者の取り組みの裾野を広げていくとともに、家庭や地域の環境活動の表彰制度等も検
討し、動機づけを図っていく必要がある。
154
第5節 市民主体の総合的な地域づくり
1.ねらい
小さな地域単位で自律性が高いまちは、いざという時に対応が早いということを震災の
教訓として得た。この教訓を活かすために、市民が「わがまち」と認識できる範囲で、市
民が主体となって、地域の自律性を高める必要がある。また、地域には様々な課題がある
が、その課題を整理し、その地域の個性を活かしながら様々な課題を総合的に解決してい
くことが重要である。このような取り組み、いわゆる「市民主体の総合的な地域『コンパ
クトタウン』づくり」をできるところから進めていくことが必要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○市民の意見から、震災で人とのつながりが大切であること、そしてそれが定着してきている傾向
にあることがわかった。
ワークショップの意見
「あなたにとって震災復興とは?」というテーマに対して『地域や家族のつながり・助け
合い、ボランティアが大切だとわかった』という意見が多かった。
また、
「これからの神戸を∼に?」というテーマでは『人と人、地域とのつながりをこれか
らも深めていこう』という意見が多かった。
平成 15 年度神戸市民1万人アンケートによると、地域のまちづくりの進め方については、
「地域団体中心に行政と協働して」が 51.0%、「行政主導で住民の意見を聞きながら」が
41.4%、
「地域団体が独自で」が 6.0%である。平成 11 年度アンケートとほぼ同様の傾向で
あり、協働による進め方が定着してきていると考えられる。
<まちづくりの進め方>
H15 アンケート(N=4,684)
51.0
41.4
H11 アンケート(N=5,144)
52.9
37.2
0%
20%
40%
60%
6.0
8.1
80%
100%
地域の団体[自治会やまちづくり協議会(11年度)]が中心となって、行政と協働してまちづくりを進める
行政が主導して、住民の意見を聞きながら、まちづくりを進める
地域の団体[自治会やまちづくり協議会(11年度)]が主導して、独自にまちづくりを進める
その他
155
また、防災活動や福祉活動等様々な地域活動を重要と思っている人が概ね 7 割を超えてい
る一方で、活動そのものを「知らない・参加の機会がない」人が 4 割前後と多い。
「となり近所等他人との結びつきを大切に思うようになった」(55.6%)や「地域のみん
なが困っていることは、みんなで考えて解決すべきだと思うようになった」
(48.5%)が高率
であった。どちらも平成 11 年度と比べると割合が若干低下しているものの、依然、割合は
高く、定着してきている。
<震災によって、現在の考え方や日頃の行動の中で変わったことはありますか>
55.6
60.7
となり近所など の他人との結びつきを 大切に思うよ うになった
12.1
11.9
ど ち らかといえば他人はあまりあてにできないと思うよ うになった
61.0
59.3
将来に対して備えを 十分にすべきだと思うよ うになった
18.7
19.4
将来のことを 考える よ りも今を 楽しみたいと思うよ うになった
29.3
30.0
ものに対する 執着心を あまり持たなくなった
16.0
14.5
お金やものに対する こだわりが強くなった
22.5
人のためにもっと役に立ち たいと思うよ うになった
30.5
5.3
5.3
他人のことよ り自分のことを 中心に考える よ うになった
48.5
52.3
地域のみんなが困っている ことは、みんなで考えて解決すべきだと思うよ うになった
1.3
1.0
地域のみんなが困っている ことがあっても、他人が解決してくれる だろうと思うよ う
になった
26.3
25.4
ときには自分の欲求がかなわなくても仕方がないと思うよ うになった
1.8
1.9
自分の欲求はど んなことを してもかなえたいと思うよ うになった
3.8
3.6
その他
0%
10%
20%
30%
H11アンケート結果
40%
50%
60%
70%
H15アンケート結果
○地域には様々な課題がある。
都心部における中心性の低下、インナーシティ問題、ニュータウンのオールドタウン化、
老朽住宅の密集、山麓部における基盤の未整備などそれぞれの地域ごとに様々な問題がある。
また、子育てサークルの取り組みや地域の歴史を活用した取り組みなども増えており、テー
マによる課題も顕著になっている。
○地域には様々な活動団体があるが、団体同士が連携を図っている地域は活動が活性化してい
る。
156
地域には、自治会・婦人会・まちづくり協議会・ふれあいのまちづくり協議会・防災福
祉コミュニティ・エコタウン・里づくり協議会等があり、それぞれが様々な活動を行って
いる。その活動は一定の成果を挙げ、取り組まれているが、地域内の各組織が連携強化し、
地域の課題解決等に総合的に取り組んでいる地域はより一層活性化している。
(野田北部地
区(野田北ふるさとネット)、六甲アイランド地区(六甲アイランドコンパクトタウンフォ
ーラム)、大沢地区(大沢町コンパクトタウン研究会)等)
○地域間交流等を通じて、各地区で人と人とのネットワークづくりが始まっている。
地域間交流は、他地域の活動を実際に知ることにより、地域活動の活性化の糸口とするこ
とができる。また、人と人とのふれあい・交流が経済の活性化の一端を担う等の効果も期待
できる。市街地と農村部、ニュータウンと農村部との交流が行われている。
○若手の地域への参加や、転入してきた人との交流等ひとづくりが大切である。
地域団体のインタビューでは、「若手の地域団体への参加が少なく、活動に活気がない。
つながりを持続させるためには若手の参加が重要である。
」との意見が多くあった。
震災後、東灘区等では、大規模敷地にマンションが建設され、神戸市外から多くの転入者
が入ったため、今までのコミュニティ形成に変化が生じている。例えば、東灘区役所が行っ
た転入者に対するアンケートによると、7 割弱の人が地域活動に参加しておらず、その理由
が「興味はあるが、情報がなく参加できない」
「地域でいろいろな取り組みがあるようだが、
参加するきっかけがない」が 4 割強となっている。
○震災後は、地域を支えるひと(ボランティア、専門家、NPO 等)や企業が活躍した。
まちづくり協議会の役員等の多くは、ボランティアや専門家等の助けがなければ、今の活
動はないと感じている。まちづくり協議会だけでなく、他の地域団体においてもボランティ
アや専門家の震災での活躍は大きいが、平常時にそのノウハウが維持できる場が少ない。特
に若手専門家が活躍できる仕事、あるいは機会が少ない。非常時にすばやく対応できる体制
を整えるためにも、専門家やボランティアの育成、活動あるいは情報の提供が必要である。
また、地域に密着した企業の中には、非常時に地域に対してすばやく対応したところも多
い。企業が地域を支え、企業と地域が共存するといった協働が各地域で育まれつつあり、地
域の活性化に向けたお互いの取り組みがみられる。また、震災後に企業が寄付を募り、その
寄付金を市民や地域に還元する動きもみられ、企業が市民や地域のためにいろいろな形で働
きかける企業の地域に対する芽生えが出てきている。
○専門家派遣、活動助成が協働のまちづくりに大きな役割を果たしている。
震災復興事業地区において、事業の決定自体は行政が行ったが、具体のまちづくりの内容
については、まちづくり協議会で検討を重ね、まちづくり提案としてまとめられたものに基
157
づいて具体のまちづくりが進んでいる。また、事業だけにとらわれずに、環境対策や商業活
性化に取り組んでいるところもある。事業地区以外の地区においても、
「まちづくり協議会」
方式により、まちづくり協定や景観といったルールづくりでまちづくりを進めている地区も
ある。
協働のまちづくりを進めて行く上で、専門家派遣と活動助成の支援が大きな役割を果たし
ている。インタビューの中でも「とても有効である」「不可欠である」という意見が多かっ
た。
○地域の自律と連携を促進するため、区役所の機能が強化されつつある。
様々な地区の活動をみると、行政の窓口となる職員が存在する地域では、行政に対する親
近感・満足度が高いことがわかった。平成 15 年度には、各区役所で、まちづくりに携わる
課の統合や人員増強が行われた。また、区の予算も増え、地域の自律と連携を促進し、協働
で地域活性化に取り組む体制づくりが一歩踏み出された。
(市の主な取り組み等)
○人と人とのネットワークを大切にする施策
○まちづくり活動を支援する施策
・ 地域間交流の促進
・ まち育てサポーター
・
(野田北部地区と大沢地区の交流等)
・ まちづくり活動助成
総合情報誌等の発行・支援
・ 専門家派遣
(六甲アイランドコンパクトタウンニュース、 ・ ふれあいのまちづくり助成と活動活性化助成
プラットホーム通信、あーばんとーく等)
・ まちづくり系地域団体の連絡会支援
(景観形成市民団体連絡協議会、建築協
定地区連絡協議会等)
・ エコタウン助成
・ 防災福祉コミュニティ
・ パートナーシップ活動助成
・ 美緑花ボランティア助成
○まちづくりに携わる人を育成する施策
・ 市民花壇助成
・ こうべまちづくり学校
・ 各区における地域提案型活動助成
・ コミュニティパワーアップ事業
3.これからの取り組み(方向性)
○市民主体の総合的な地域「コンパクトタウン」づくりの推進
コンパクトタウンづくりを進めるためには、地域の合意形成、地域活動における財源の
確保、地域活動を支える人々の確保、地域活動のための拠点の確保が重要である。そのた
めには、地域間交流の促進や専門家の育成のほか、市民のまち・すまいに対する意識のよ
り一層の向上を図ることが必要である。また、市民・地域と行政が協働で取り組む仕組み
づくりについても、具体的に進めていかなければならない。
158
○地域間交流による活動の促進
地域間の交流は、地域によって魅力の創出や課題解決手法が異なるため、刺激となり、
交流によって経済効果も期待できる。そのため、地域間交流を促進する必要がある。
○市民のまち・すまいに対する意識のより一層の向上
日頃から「近隣とのコミュニケーションを大切にする」意識を向上させるため、例えば
防災意識を向上させるわかりやすいマニュアルづくりや「地域を知る・気づく」ための情
報誌の発行等、啓蒙活動・情報開示と発信手法の検討が必要である。
また、様々なニーズに対応できるパートナーシップ活動助成等提案活動型の助成制度に
ついては、市民の意識向上にも寄与しており、充実させていく必要がある。
さらに、神戸に新たに居住した市民に対して、地域にできるだけ早く馴染んでもらうた
めに、情報提供や交流の機会の充実に取り組む必要がある。
○協働のまちづくりの継続
震災復興事業で完了する地区が出てきているが、まちづくりで培ってきた地域力を次の
ステップに活かしていく必要がある。地域の主な課題も、ハードの整備から、地域のマネ
ージメント、まちなみ形成、コミュニティの活性化等へと移行しつつある。協働で取り組
む地域の活動を継続的に支援していく必要がある。
専門家派遣、活動助成については、震災復興においてその有効性が確認できたところで
あり、基金終了後も引続き推進していく必要がある。
○専門家の育成
専門家、特に次世代を担う若手の専門家の育成が必要である。そのためにも、若手専門
家の活動の場づくりやネットワークづくりの支援を検討する必要がある。
○地域の自律と行政との協働の取り組み
地域組織の自律を促進するためには、地域の情報の共有化や地域拠点の設置、総合的な
わかりやすい情報誌づくり等が大切である。
また、持続的に取り組むためには、地域総意の把握手法や経済的な自立の手法等の検討
も必要である。
地域に関わる行政の窓口として、より一層の区役所機能の充実が必要である。また、市
民の活動に即した、縦割りでない横断的な対応を行わなければならない。
市民・地域と行政とが地域活動を協働で取り組むためには、各々の役割分担や活動に対
するシステムづくりが必要である。そこで、協働と参画の条例化等を進め、活動を促進し、
活発化させることが必要である。
159
第4章 安全都市分野
1.これまでの経緯
安全都市分野は、多様な災害から市民生活や都市活動を守り支えるという重要な役割を
もっている。
阪神・淡路大震災では、神戸港をはじめ、道路や鉄道、ライフラインなど社会活動を支
える都市基盤施設が壊滅的な被害を受けたが、その復旧は多くの人々の尽力により概ね3
年で完了している。
震災から5年目の平成 11 年度に行った「復興の総括・検証」では、残された3つの課題
の一つとして「安全で安心なすまい・まちづくり」を掲げ、21 世紀の安全都市づくりに向
けた具体的な課題として「個人・地域の“安全”に関する意識・備え等の維持・向上」、
「自
律と連携によるまちづくりの推進」
、
「地域の自律的活動にこたえる行政の体制づくり」、
「都
市施設整備等の継続的推進」を示した。
これを受けて平成 12 年 10 月に策定された「神戸市復興計画推進プログラム」では、「安
全で安心なすまい・まちづくり」のうちの安全都市の分野について、
「災害の危機に対する
備えと安全に関する知識の啓発」、「都市基盤整備等の推進」に係る施策が位置づけられ、
それに沿った安全都市づくりが現在まで進められている。
2.各節の構成
平成7年6月策定の「神戸市復興計画」では、安全都市の体系として、圏域の広がりに
応じた「個人・地域の活動」、「都市基盤」、それらをつなぐ「マネージメント」が位置づけ
られている。この体系にあわせて本章は、
「第1節
「第2節
都市安全マネージメント」、「第3節
個人・地域での安全・安心の取り組み」、
安全都市基盤」、「第4節
将来起こり得
る災害への備え」の4節で構成されている。
「第1節
個人・地域での安全・安心の取り組み」では、震災後、結成が進んだ防災福
祉コミュニティを中心に、個人・地域の取り組みについて記載する。
「第2節
都市安全マネージメント」では、市民・事業者・市の危機管理体制や、事前
対策と初動対応の連携の重要性等について記載する。
「第3節
安全都市基盤」では、継続的な安全都市基盤整備の必要性、ソフトとの連携
や構想・計画から管理までの市民参加等、基盤整備に関する新たな動きについて記載する。
「第4節
将来起こり得る災害への備え」では、自然災害の発生形態の変化に応じた対
策、災害に関する情報の公開、発信、さらには、今世紀前半に発生する可能性が高いと言
われる南海・東南海地震への対策の方向性について記載する。
160
各節の主な関係を「神戸市復興計画」の「安全都市の体系」と照らし合わせて図で示す
と以下のとおりとなる。
【安全都市分野の各節の主な関係】
<神戸市復興計画での「安全都市の体系」>
<本章の柱立て>
人の活動
区生活圏
第1節
安全・安心に関する個
生活文化圏
人・地域での取り組み
近隣生活圏
都市安全マネージメント
第2節
都市安全マネージメント
第3節
安全都市基盤
※計画策定時は
「防災マネージメント」
安 全 都 市 基 盤
※計画策定時は「防災都市基盤」
第4節
将来起こり得る災害への備え
災害対策は次の図のように、事前対策としての「被害抑止」、「被害軽減」と、事後対策
として実際に災害が発生した場合に生じる「初動対応」、「復旧・復興」というプロセスが
あり、その繰り返しによって安全都市のレベルアップが図られる。
(事前対策)
(事後対策)
被害抑止
災害発生
初動対応
レベル
アップ
得られた経験・教
訓を生かし、将来
の災害に対する
事前対策を行う。
復旧・復興
被害軽減
これらを踏まえ、各節を貫く、今後の安全都市づくりに向けて重要となる事項を以下に
述べる。
【安全・安心に関する事前対策の充実】
震災では、発生直後に必要な被害状況の把握や情報伝達、広域応援などの初動対応の遅
れが指摘されたが、平常時の備えなくして対応力を発揮することは難しい。「普段やってな
いことは、非常時にもできない」ことから、日頃から非常時を想定した訓練・シミュレー
ション等を行う必要がある。また、非常時には震災の経験・教訓から得た知恵・知識や日
161
頃の訓練の成果、マニュアルに基づいた的確な判断・行動が必要である。
事後対策の初動対応、復旧・復興は、事前対策の被害抑止、被害軽減と密接に関連して
いることを充分に認識し、事前対策の充実を図っていく必要がある。
これまでの事前対策は、
「被害抑止」を目的とした基盤整備に主眼が置かれていた(下図
1)が、震災では「構造物だけによる対応」には限界があることがわかった。また、わが
国の基盤整備の安全性は既に非常に高い水準にあり、これ以上の整備は費用対効果の面か
ら無駄が多すぎることもわかった。
このため、既存のストックを生かしながら、今後、進めていくべきものとして重要視さ
れ始めたものとして「被害軽減」に関する取り組みがある。防災訓練など個人・地域レベ
ルの活動による被害軽減活動は、従来から行われてきていたが(下図2)、震災後、その重
要性がさらに認識され、シナリオ型から現場対応型へとレベルアップした形で行われるよ
うになっている。また、ITの進歩等により、システム構築等の被害軽減の基盤づくり(下
図3)への取り組みも強化され始めている。
個人・地域の活動による被害抑止の取り組みにも関心が高まっている。主に防犯に関す
る取り組みが中心で、「あいさつ運動」などが例としてあげられる(下図4)。
「基盤づくり」における取り組みと「個人・地域の活動」の取り組みは、バラバラでは
その力を十分に発揮できないため、それらをつなぐ、しくみ・しかけも重要である。
<「被害抑止」「被害軽減」から見た「基盤づくり」、「個人・地域の活動」>
基盤づくり
しくみ・しかけ
個人・地域の活動
ストックの充実
1
被害抑止
例)既存ストックの
耐震補強
例)あいさつ運動
火の用心見回り
4
1
例)シナリオ型防災訓練
被害軽減
例)強震度計による地震観測
ネットワークシステム
3
○
□
:
:
2
これまで重視されていた取り組み
今後重要な取り組み
2
例)現場対応型
防災訓練
【「自助」「共助」「公助」の適切な役割分担に基づく安全都市づくり】
震災の教訓の一つに「大規模災害が発生した場合の初期活動においては、行政機関の対
応には限界がある」がある。
また、平成 15 年度「防災白書」には、新しい防災対策に向けて、「自助」、「共助」
、「公
助」の適切な役割分担の必要性が明記されている。
以上のことから、今後、
「自分の安全は自分で守る」、「地域の安全は地域で守る」という
認識のもと、市民・事業者・行政がそれぞれの役割を果たす必要がある。
162
【他分野との関係(主なもの)】
安全都市分野
その他の分野
市民生活分野
第1節
第1節
市民の地域における自
律と助け合い
第4節
子どもがいきいきと育
ち、育てられるまち
個人・地域での安全・
安心の取り組み
都市活動分野
第2節
都市安全マネージメント
第5節
神戸港などの広域交流
基盤
すまい・まちづくり分野
第3節
第1節
安全都市基盤
復興まちづくりの中に
みる知恵
第2節
安心して暮らせるすま
い・地域
第4節
将来起こり得る災害への
第4節
備え
環境にやさしい都市の
すがた
第5節
市民主体の総合的な地
域づくり
163
第1節 個人・地域での安全・安心の取り組み
1. ねらい
阪神・淡路大震災では、発生直後に救出された人のほとんどが近所の人に助けられたこ
とから、多くの市民が人と人とのつながりや日頃の防災活動の重要性を認識することとな
った。このため、震災後、市内各地で防災福祉コミュニティづくりが始まった。これまで
組織づくりは順調に進み、現在ではほとんどの地域で防災福祉コミュニティが結成されて
いる。
また、地域での災害への備えには個人の防災意識の高まりが大切で、震災を契機に高まっ
た市民の防災意識を継続させることは勿論、今後、震災後に生まれた子供たちや、被災地
外から転入してきた市民など、震災を経験していない人たちの防災意識を高めていくこと
が重要となっている。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○震災後、個人や家庭での災害への備えの意識が高まり、現在備えを行っている人の割合は、
全国と比較して高い。
平成 14 年度市政アドバイザー調査によると、非常食を備蓄している市民の割合は 40.1%
であり、平成 14 年度の全国調査(18.6%)と比べて高い値となっている。しかし、
「震災後
新たに始めたが現在は行っていない」と回答した市民の割合は 23.4%となっており、防災意
識が低下していることがうかがえる。
非常食を備蓄している市民の割合
21.4
0%
18.7
20%
震災前から始めて
現在も行っている
40.1%
23.4
40%
震災後新たに始めて
現在も行っている
36.4
60%
震災後新たに始めたが、
現在は行っていない
80%
100%
震災前から現在まで
特に行っていない
(平成 14 年度市政アドバイザー調査)
○防災福祉コミュニティの結成は着実に進んでおり、活動が中学生や女性などに広がりを見せて
いる地域もある。事業者による防災活動が盛んな地域もある。一方で、リーダーの高齢化や特
定の人への負担の集中、防災福祉コミュニティに対する市民の低い認知度など、課題も発生し
ている。
【様々な主体による活動】
平成 15 年 10 月末現在の防災福祉コミュニティの結成数は 182 地区で、ほぼ全市にわた
り結成が進んでおり、その中で中学生による防災ジュニアチームの結成や、女性だけで構
164
成する市民消火隊の結成など、これまで参加の少なかった層の参加を促進する新たな取り
組みが行われている。
また、地域の事業所と協力した防災訓練の実施や、事業所と災害時の協力協定を結んで
いる地域もある。旧居留地では、
「事業所のための『防災マニュアル』作成の手引き」や「神
戸旧居留地/地域防災計画」が作成されており、事業者による防災活動も盛んに行われて
いる。
【活動の課題】
様々な取り組みが行われる一方で、平成 15 年度に行った防災福祉コミュニティ代表者へ
のアンケートによると、
代表者の半数以上が 70 歳代で、
「活動の中心者が高齢者」
(67.2%)、
「リーダーになれる人材が少なく、特定の人物に負担がかかる」(60.2%)などの回答数が
多く、活動の担い手に関する課題が生じてきている。
注)複数回答
防災福祉コミュニティの今後の課題
0%
20%
40%
60%
60.2%
リーダーになれる人材が少なく、特定の人物に負担がかかること
44.5%
住民の関心の低さ
43.0%
昼間に高齢者、女性、子供だけになること
39.8%
時防災活動へ興味を持つ人の減少
38.3%
防災訓練の参加者が減少し工夫が必要
他の地域団体との活動範囲や役割分担による問題
22.7%
防火活動と福祉活動の連携の方策
21.9%
防火活動と防犯活動の連携の方策
11.7%
日常活動を進めるうえでの活動費の工面
10.9%
地域活動と行政窓口が複雑で、相談窓口に困ること
100%
67.2%
活動の中心が高齢者であること
その他
80%
7.8%
6.3%
平成15年度 防災福祉コミュニティ代表者アンケート
平成 14 年度市政アドバイザー調査によると、
「地域における防災福祉コミュニティの結成
を知っている」という回答は 31.5%で、調査時点における防災福祉コミュニティの結成率
90%と比べ認知度が低いことがうかがえる。
165
区別ワークショップでの意見
「防災のためのいろいろな組織ができつつあるが、それぞれの機能の充実が大切。」
防災福祉コミュニティ役員の意見
「他の地域の活動を参考に活動内容を広げていきたいが、知る機会が少ない。」
○地域で新たな防犯への取り組みが生まれてきている。
北須磨団地では、防災訓練を行うだけでなく、防災・防犯センターの設置や「あいさつ
運動」の実施など、活動内容を防犯にも広げている。
婦人団体協議会との意見交換会での意見
「防犯のためには交番増設やパトロール強化はもちろん必要であるが、住民レベルでも協
力・連携して防犯活動を進めていくため、まず、婦人会から声かけ運動、あいさつ運動を
始めたいと思う。」
兵庫区新開地周辺では、防犯灯や玄関灯の電球色の統一や午前0時まで点灯することな
どのルールを作ることで、地域コミュニティの活性化や地域の防犯力を高めようとする「灯
かりのいえなみ協定」が締結されている。
また、灘区にある防犯協会の支部では、地域で簡単にできるひったくりや空き巣対策と
して、玄関に防犯シールを貼り、1日2回(就寝前や空き巣の発生が多い時間帯)近所を
見回る活動が行われている。
○防災・防犯に関する専門知識を持った人材が育ちつつあるものの、地域で活躍できる機会が少
ない。
「全世帯に1人の市民救命士」を目標に、年間2万人の市民救命士が育成されている。
また、「こうべまちづくり学校」では市民を対象として地域で活躍できる人材の育成を目的
に、「防災・防犯コース」と「コミュニティづくりコース」の講座が開講されている。修了
生のうち希望者が「市民安全推進員」として登録されている。(平成 14 年度末 296 名)
市民安全推進員の意見
「防災の専門知識を習得しても、地域で活用できる機会がほとんどない。」
○地域活動が活発な地域ほど放火件数が少ないという傾向がみられる。
平成 14 年度神戸市民1万人アンケートで、地域の自律度や連帯度が高く、地域活動が熱
心と分かった地域では、過去 10 年間放火件数が少ない傾向が見られるという結果が得られ
ている。
166
○危険個所などに関するマップづくりを通じて、地域でつながりが生まれている。
自分たちが住んでいるまちの危険個所や避難所、病院などを把握し、安全で安心なまち
づくりをすすめるために防災福祉コミュニティが中心となってコミュニティ安全マップを
作成している。現在、防災福祉コミュニティの約 61%で作成されている。
また、マップの作成にあたっては、防災福祉コミュニティなどの地域団体だけでなく、
子どもたちやPTA、各種ボランティア団体も参加することで、相互のつながりが生まれ
る契機になっている。
○子供たちの防災意識を高めるため学校教育の場でも防災教育の取り組みが進められている。
各学校では、震災体験作文集「わたし
せ
あなた
そして
みんな」や、副読本「しあわ
はこぼう」などを活用した震災の経験・教訓に関する学習が行われている。また、各
学校で震災対応マニュアルを作成し、防災訓練を年に2回以上実施するなど、防災につい
ての取り組みが進められてきた。
小学校の避難訓練の実施回数(H14調査)
6回
5回
4回
3回
2回
1回
0
20
40
60
80
100
120
140
(校)
防災教育に取り組む学校1∼6年の合計時間の区別平均(H14調査)
(時間)
70
60
50
40
30
20
10
0
東灘区
灘区
中央区 兵庫区 長田区 須磨区 垂水区
北区
西区
○災害発生時に地域の防災拠点である学校を即座に活用できる体制が求められている。
地域防災計画では、地域の防災拠点として学校が位置付けられており、「緊急を要する場
合には防災福祉コミュニティの判断で避難所を開設できる。」と記載されている。しかし、
学校を避難所として即座に開設できる仕組みが整っていない地域がある。
167
(市の主な取り組み等)
【個人・家庭での備え】
【地域での備え】
○
○ 防災福祉コミュニティ活動費助成
ケアライン119の設置
○ 「ともにつくる安全で安心なまちづくり
○ 広報紙、冊子等の配布による情報提供
賞」の表彰
【人材の育成】
○ こうべまちづくり学校(防災・防犯コース、 ○ 防災資機材の配備
○ 職員による訓練指導
コミュニティづくりコース)の開催
○ 市民救命士講習会の実施
○ コミュニティ安全マップ作成支援
○ 市民防災リーダーの育成
○ 「光のまち神戸」運動の推進
3.これからの取り組み(方向性)
○震災を経験していない市民の防災意識の向上
震災後に高まった市民の防災意識は全国と比較しても依然として高いと言える。しかし、
震災後、神戸市に転入してきた人や、震災後に生まれた子供など、震災を経験していない
市民が増加してきていることから、これら市民の防災意識を高める取り組みが重要となっ
てきている。
特に次世代を担う子供たちに対しては、震災の体験を生かした防災教育を充実させるた
め、各学校の教育課程に防災教育をしっかりと位置づけていく必要がある。
また、地域の防災福祉コミュニティが防災訓練等を、保護者、関係機関等と連携して行
うなど、子供たちが地域とともに防災を学習できる取り組みが重要である。
○防災福祉コミュニティの活動、体制のより一層の充実
【防災福祉コミュニティ活動の充実】
防災福祉コミュニティの継続的かつ活発な活動を進めていくため、市内の他の防災福祉
コミュニティや他都市の自主防災組織と互いに刺激を受けるような交流や情報交換などの
機会を設ける工夫が必要である。また、防災福祉コミュニティの認知度を高めることや、
防災活動への参加者を増やすしくみづくりが必要である。
防災福祉コミュニティの活動が防災から防犯に広がりを見せている地域もある。今後は
防犯等との連携について検討していく必要がある。
【様々な主体の防災福祉コミュニティへの参加の促進】
防災福祉コミュニティの裾野を広げ、活動を活発化させるためには、女性、子供の参加
とその支援が必要となっている。また、専門的な知識をもった市民安全推進員の地域活動
への参加やその活力を生かすしくみづくりが必要である。
今後はこれまで多くの経験を積み重ねてきた高齢者の知恵や、地域活動への参加の少な
い若い人の力を防災活動に生かすしくみづくりが必要である。
168
【防災福祉コミュニティの体制の充実】
平常時の防災福祉コミュニティの活動は小学校区程度の単位で行われているが、大災害
時の初動対応期には、機動的な活動が要求されるため、より小さな単位での活動を充実さ
せる必要がある。
また、地域の防災拠点である学校と防災福祉コミュニティが普段から連携を図りながら、
いざという時に学校が避難所としてうまく機能する体制やルールを作っておくことが必要
である。
○地域における危険情報の活用と自主避難に関する知識の普及・啓発
コミュニティ安全マップの作成を通じて地域固有の危険情報等が認識されてきている。
今後も、まちの変化に応じた安全マップの更新、次のステップとなるコミュニティ安全計
画の策定など、継続的な取り組みが重要となっている。
特に、台風や大雨によるがけ崩れなど、あらかじめ、種類や規模のわかる災害について
は、市民が自主的に避難すべきかどうかを判断するための知識の普及・啓発が必要である。
169
第2節 都市安全マネージメント
1. ねらい
都市の安全性を高めるためには、災害による被害の発生を事前に防ぐための事前対策へ
の取り組みが大事であるが、災害が発生した場合の被害を最小限にくい止めるための初動
対応策も重要である。とりわけ近年では、予測できない災害が頻発していることから初動
対応策の重要性が高まっている。
また、市民・事業者・行政の役割分担を明確にし、連携を図りながら社会全体の危機管
理体制を充実させていくことが重要である。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○市民・事業者・市の危機管理体制が整い、その連携も進みつつある。
【危機管理体制の充実】
市民の取り組みとしては、自主防災組織である防災福祉コミュニティが全市で目標の9
割以上の地域で結成されている。また、事業者の取り組みでは、旧居留地などで事業者に
よる自主防災活動が進みつつある。
市では平成 14 年4月に「危機管理監」および「危機管理室」が設置されるなど、危機管
理体制が整いつつある。
【市民安全推進条例の制定】
震災の経験等から、市民・事業者・市による安全の取り組みに対する基本的な考え方や
それぞれの役割分担を明らかにした「神戸市民の安全の推進に関する条例(市民安全推進
条例)」が平成 10 年1月に制定された。
【市民・事業者の連携】
長田区の真野地区では地元事業者が普段から地域活動に積極的に参加しており、非常時
にも市民と事業者が連携できる関係が築かれている。
【医療機関と行政の連携】
災害拠点病院の指定、災害時における指導医の消防管制室への派遣など医療機関と行政
の連携の取り組みが進んでいる。
【産学官の連携】
産学官の連携により神戸安全ネット会議が設立されている。本会議は危機管理の研究に
取り組むとともに、企業・研究機関・行政が連携体制を構築することにより、危機管理能
力の向上を目指している(平成 13 年4月設立。平成 15 年 11 月1日現在 89 会員)。
170
神戸安全ネット会議会員企業の意見
「震災時、地域住民とともにマニュアルにない事柄までも迅速に対応できた。それは普段
から地域住民と企業の密接な交流があったためで、今後も交流は重要であると考えてい
る。」
○防災訓練の内容が防災意識の啓発を重視したものから、計画や体制の検証を重視したものへ
と変わりつつある。
これまでの防災訓練は、市民の防災意識の啓発を主な目的として実施されてきたが、最
近では意識啓発だけでなく計画や体制が災害時に効率的に機能するかを検証するための訓
練へと変わりつつある。
○災害情報の収集・伝達・処理に対する取り組みは進んでいる。
市防災情報センターは、他都市と比較しても早い時期に整備されており、内容も充実し
ている。また、防災情報センターを中心として、こうべ防災ネット(総合防災通信ネット
ワークシステム)が整備され、情報収集・伝達処理システムが充実されつつある。
一方、市各部局が独自で保有している各種情報システムが連携されていないという課題
がある。
○広域災害に対する応援協定の締結数が震災前より増加している。
他都市との災害時相互応援協定については、震災前には「13 大都市相互応援協定」が締
結されており、震災後は隣接市町(芦屋市、西宮市、宝塚市、三田市、吉川町、三木市、
稲美町、明石市)に加え、岐阜市、静岡市、洲本市、徳島市とも協定が締結された。
○震災前と比べて総合的な消防力が高まり、火災による被害が減少している。一方で、個別の課
題も残されている。
震災前に 38 基あった耐震性防火水槽は、平成 14 年度末には 242 基に増加し、消防力は
高まっている。また、人口1万人あたりの出火率は、震災前と比較してほぼ横ばい傾向に
あるが、建物火災 1 件当りの焼損面積は平成8年をピークに減少傾向にある。
一方で、出火原因のトップである放火が近年増加傾向にあることや、一部地域で消防隊
などの到着までに時間がかかるなど課題も残されている。
○救急患者の生存率が高まっている。市民による救急救命の取り組みも進んでいる。
救急患者の生存率が高まっている。これは、救急車への救急救命士常時2名乗車体制の
確立などによるものと考えられる。
171
【救急救命の処置が行われた心肺停止患者の 1 ヶ月後生存率
(1ヶ月後の生存者数/救急搬送された全ての心肺停止患者)】
平成8年
3.6% (26 人/716 人) →
5.5% (51 人/927 人)
救急救命の処置が行われた心肺停止患者の1ヶ月後生存者数
(人)
1,000
800
平成 14 年
870
750
716
872
833
53
44
600
34
400
51 50
40
37
36
(人)
60
927
863
30
26
20
200
10
0
0
平成8年
平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年
救急搬送された全ての心肺停止患者数
うち1ヶ月後の生存者
市民救命士講習の受講者が 20 万人にのぼっている。また、事業所や商店街、市の組織に
よる市民救命士の資格取得など、組織単位での救命率向上への取り組みも進みつつある。
最近では市バス内において運転手の応急手当によりお年寄りの命が救われるなど、取り組
みの効果もあらわれてきている。
○救急需要が増大しており、救急体制・救急医療体制に負担がかかっている。
救急出動件数は年々増加しており、平成 14 年の件数は昭和 61 年の 2 倍となっている。
また、救急搬送された人のうち、医療機関での診断の結果、半数以上が軽症だったという
データがあり、自力で医療機関に行ける場合には救急車の要請を控えるなどの市民の対応
が求められている。
○社会現象としての予測できない事故・事件・災害が増加している。
【社会的に問題となった事故・事件・災害 等(例)】
事故
事件
災害・健康危機
明石市歩道橋圧死事故、新宿歌舞伎町雑居ビル火災
米国同時多発テロ、地下鉄サリン事件、池田小学校児童殺傷事件、
韓国地下鉄放火事件
福岡地下浸水災害、SARS(重症急性呼吸器症候群)、狂牛病、
O157
市では、事故・事件・災害などの事態に迅速かつ、的確な対応を行うため、緊急時の危
機管理全般を指揮・統括する危機管理室が設置され、対応が図られている。
地域防災計画は災害発生時の初動期における市組織の活動について、組織の人員や電話
等の通信手段などが万全な状態を想定し策定されている。しかし、大規模災害発生直後は
172
人員や設備が万全ではないことが考えられるため、人員が極端に少ない状況や通信手段等
の設備が限られている状況などを想定した訓練の実施等により職員個人や組織の対応力を
高める必要がある。
区別ワークショップでの意見
「地震だけでなくあらゆる危機に対して強いまちにしたい。」「リスク管理の重要性をもっ
と自覚したい。」
(市の主な取り組み等)
【市の危機管理体制】
○ 他都市等との相互応援体制の強化
○ 危機管理監、危機管理室の設置
○ 消防団の充実強化
【広域応援体制】
【救助・救急体制】
○ 応援協定の締結
○ 救急救命士常時2名乗車体制
○ 緊急時における生活物資確保に関する協
○ ドクターカーの運用
○ メディカルコントロール体制の整備
定の締結
【防災中枢拠点】
【救急医療体制】
○ 防災総合拠点の活用・機能強化
○ 市民病院群の整備
【情報収集・伝達・処理能力の向上】
○ 市内医療機関のコーディネート
○ 総合防災通信ネットワークシステム(こう
【社会現象としての災害への対策】
○ 特殊災害隊の創設(消防局)
べ防災ネット)の整備
○ SARS対策(各局による行動計画の策
○ 防災情報センターの整備
○ 防災行政無線同報系の整備
定、市保健所健康危機管理対策本部の設
【消防力の強化】
置)
○ 消防署所の整備
○ 消防部隊の強化
○ 消防水利の充実(耐震性防火水槽の増設
等)
3.これからの取り組み(方向性)
○事前対策と初動対応の連携による、被害軽減に取り組むしくみの構築
平常時には防災計画や初動体制が効果的に機能するかどうかを訓練等によりシミュレー
ションし、結果を防災計画に反映させることで、被害軽減力を高める必要がある。
また、市の危機管理体制は、災害発生後の対策に主眼が置かれている面がある。事前対
策と初動対応は互いに切り離せないもので、その連携が不可欠である。今後は防災情報の
発信や意識啓発など、事前対策のより一層の充実が必要である。
173
○IT(情報通信技術)を活用した情報収集・伝達・処理能力の向上
近年のITの高度化にあわせて効率的な情報の収集・伝達を行うため、システムのあり
方を調査・検討する必要がある。
ライフライン事業者の意見
「災害時に行政と情報を共有することが重要である。」
○広域災害に対する応援体制の充実
災害時応援協定は、平常時には協定内容の実効性の検証が困難であり、実効性を担保す
るための手段を検討する必要がある。
また、今世紀前半に発生する可能性が高いと言われている南海・東南海地震等の広域的
な災害に備え、国や他自治体と連携しながら広域応援体制の検討を早急に実施する必要が
ある。
○防災福祉コミュニティや消防団、行政の連携の強化
防災福祉コミュニティ、消防団と行政が協働で取り組まなければいけない課題として放
火対策があり、防災福祉コミュニティや消防団と行政の役割分担と更なる連携強化を図っ
ていく必要がある。
○消防需要に対応できる消防部隊の増強や適正な配置
消防需要や増大する救急需要に対応できる消防署所・部隊の増強や適正な配置が必要と
なっている。
○高度救急救命体制の整備や市民・医療機関・行政の連携による救命率の向上
救急救命士の救命処置の拡大等に応じた高度救急救命体制の整備や、市民及び医療機関、
救急隊の連携による救命率の向上が必要である。
災害時の対応として、災害拠点病院と地域の医療機関との機能分担及び連携方策の確立、
災害現場への医療救護チームの派遣体制の整備など関係機関の連携を一層進め、よりスム
ーズな医療対応を目指す必要がある。
○予測できない事故等の初動体制の強化
予測できない事故等の発生時には、危機の要因を分析・評価し、それを踏まえた初動対
応策を企て、実施できる体制が必要であるため、事前にその体制を確立できるしくみを築
いておく必要がある。
174
○PDCA(計画・実行・評価・改善改革)サイクルの考え方を取り入れた危機管理体制の充実
防災訓練の目的が、市民への広報から計画や体制の検証へと移りつつあるなど、訓練の
成果や実際の対応を計画や体制づくりに反映させるしくみづくりが始まったところである。
今後はPDCAサイクルの考え方を取り入れたマネージメントシステムを確立することで、
危機管理体制を充実させる必要がある。
175
第3節 安全都市基盤
1. ねらい
阪神・淡路大震災では、多くの尊い人命を奪われ、市民の家や社会活動を支える道路やラ
イフライン等の都市基盤が大きな被害を受けた。大震災の折には、自然災害のなかの「地
震」がクローズアップされたが、神戸は地形的な条件によって古くから水害、土砂災害な
どの自然災害に繰り返し見舞われ、その都度大きな被害を受けてきた。
このため、安全都市基盤の整備は神戸の取り組むべき重要な課題であり、今後も引き続
き取り組みを進めていく必要がある。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○社会活動を支える都市基盤の復旧は概ね震災から3年で完了し、震災を契機に都市基盤整備
が急速に進んだ。
【市街地整備による安全性の確保】
震災復興事業のなかの公園や道路などの都市基盤の整備や、密集市街地の解消に向けた
共同・協調建替など住宅に関わる取り組みが進められてきた。
【自然災害対策】
海や山などの自然に近い神戸は、古くから風水害に幾度と見舞われ、土砂災害や洪水・
高潮等への対策が進められてきた。近年は、全国各地で集中豪雨などによる新たな都市型
災害が発生しており、今後は神戸も予防対策を進めていくことが重要である。
【水とみどりのネットワークの形成】
平常時は都市の憩いの空間として、また災害時には安全な避難空間や消火・生活用水
として活用可能な「水とみどりのネットワーク」整備が進められている。
ニュータウンも含めた市街地全体の緑被率は平均して3割を越えているものの、六甲
山南側の旧市街地だけを見ると3割以下となっている。今後も積極的に緑の確保に努め
る必要がある。
【災害に強い多核ネットワーク都市の形成】
明石海峡大橋関連の道路網、地下鉄海岸線等の鉄道網など交通ネットワークの整備が進
められ、多核ネットワーク都市の形成が図られてきた。既存の道路では、緊急輸送路とな
る路線の橋梁の耐震補強や落橋防止対策の実施や、鉄道駅舎やトンネルの耐震性強化など
の取り組みが進められてきた。
【防災拠点の整備・機能強化】
地域に身近な公園や小中学校などの小規模な防災拠点から広域の大災害に対応すべき
大規模な防災拠点まで、それぞれの拠点に求められる機能を災害時に発揮できるように強
化されてきている。学校における耐震化の取り組みでは、924 棟の対象校(昭和 56 年の
176
新耐震設計基準以前の建物棟数)のうち、68 棟について耐震診断が実施され、30 棟が耐
震改修された。今後平成 15 年度から3カ年で、改築・統合等を除いた 770 棟の耐震診断
が実施される予定である。
【ライフラインの災害対策】
生活や都市活動を支える水道、工業用水道、下水道、電気、ガス、通信等では、耐震化
や多系統化、また共同溝の整備が図られ、災害に強いライフライン整備が進められてきた。
○ライフラインの耐震化に対する市民ニーズは高い。
平成 15 年度神戸市民1万人アンケート結果によると、今後特に力を入れて欲しい
防災対策として、「水道、下水、電気、ガスなどのライフラインの耐震化」が約7割
を占めており、市民生活を支える重要な基盤であるライフラインの安全性の向上に対
するニーズが依然として高い。
神戸市に特に力を入れて欲しい防災対策
80
70
%
69.0
57.3
60
54.1
50
40
33.3
27.2 26.8 24.2 23.9
22.7 21.4 19.4
19.1 17.8
30
20
11.7
10
1.3
そ の 他
地 す べ り 対 策 な ど の 土 砂 災 害
対 策 を す す め る
地 域 の 防 災 資 機 材 を 充 実 さ せ
る
市 民 救 命 士 講 習 な ど を 通 じ た
自 主 救 急 体 制 の 充 実
河 川 ・ 道 路 ・ 公 園 な ど を 整 備
し 、 避 難 路 や 延 焼 を 防 ぐ ま ち
づ く り
消 防 団 、 防 災 福 祉 コ ミ ュ ニ
テ ィ 等 を つ う じ た 地 域 活 性 化
や 防 災 訓 練 ・ 消 火 訓 練 の 実 施
消 防 体 制 の 充 実
病 院 や 学 校 な ど の 公 共 施 設 の
耐 震 性 を 強 化 す る
災 害 時 の 円 滑 な 物 資 の 輸 送 や
救 急 救 援 活 動 の た め に 道 路 網
を 整 備 す る
テ ロ や 凶 悪 犯 罪 に 対 す る 備 え
災 害 危 険 等 に 関 す る 情 報 公
開 ・ 提 供 を 一 層 進 め る
高 齢 者 や 病 人 、 外 国 人 に 対 す
る 支 援 体 制 を 充 実 さ せ る
非 常 用 物 資 の 蓄 え や 配 送 シ ス
テ ム の 充 実
救 急 体 制 や 医 療 機 関 を 充 実 さ
せ る
災 害 時 に 正 確 で 迅 速 に 情 報 を
伝 え る 手 段 を 充 実 さ せ る
水 道 、 下 水 、 電 気 、 ガ ス な ど
の ラ イ フ ラ イ ン の 耐 震 化
0
9.4
(平成 15 年度神戸市民1万人アンケート調査結果)
○安全・安心に関する取り組みの考え方に変化が出てきている。
震災以降、「被害抑止策」には限界があることの教訓から、「被害軽減策」との組み合
わせによる取り組みが進められるようになってきている。例えば、被災直後の初期活動に
より被害を最小限に食い止める役割を担う防災福祉コミュニティがほとんどの地域で結
成されている。また、下水道では一つの処理場が被災し処理機能が停止しても、他の処理
場で汚水処理を行うバックアップ機能を確保することを目的として耐震性能が高い大深
177
度のシールド幹線で下水処理場間を連絡する下水道ネットワーク計画が進められている。
さらに、平成 11 年に広島県で発生した土砂災害の経験から、土砂災害の警戒区域の指
定とそれに伴う建築物の構造規制や移転勧告を内容とする「土砂災害防止法」が平成 13
年に施行されるなど、国レベルの取り組みにおいてはハード中心からソフトも含めた総合
的取り組みへの転換の動きが見られる。
○六甲山系グリーンベルト事業など、震災の経験から生まれた新しい取り組みが広がっている。
日常生活に潤いを与え、災害時には防災機能を発揮する、市街地に隣接した山腹斜面に
一連の樹林帯の形成する六甲山系グリーンベルト事業や、地域のシンボルとなるせせらぎ
など、震災を契機に防災性のみならず都市魅力を高める基盤整備が進められている。
また、この六甲山系グリーンベルト事業は国の都市山麓グリーンベルト事業の先駆けと
なったことや、水道事業における耐震化計画の指標が全国の水道事業体の指標となるなど、
神戸での取り組みのノウハウが全国に生かされている。
○構想・計画段階から管理までの市民参加や、市民意見が反映できる制度などが出来た。
震災復興事業の区域などでは、地区計画などのルールづくりや道路、公園、せせらぎ
づくりなど、住民自らによる計画づくりが行われ、日常的な管理についても地元で行う動
きが出てきている。また、(仮称)神戸震災復興記念公園では、ワークショップによって
コンセプトや活用方策等が検討され、市民活動の中核をなす施設として整備が予定されて
いる。
また、水道や下水道の事業においては、ホームページやパンフレットを用いた事業のし
くみのPR、施設見学の実施など、ライフラインの重要性を市民に知ってもらう取り組み、
モニター制度などによる市民と事業者の双方向の意思疎通を図る取り組みなどが進めら
れている。
178
(市の主な取り組み等)
○市街地整備による安全性の確保
○災害に強い多核ネットワーク都市の形成
・震災復興区画整理・再開発事業
・防災拠点の整備・機能強化
・「今後の神戸の都市づくり」
・陸・海・空の広域防災拠点の整備
・生活道路の整備
・交通ネットワークの形成
・地域防災拠点等の公園整備
○ライフラインの災害対策
○自然災害対策
・大容量送水管事業(水道)
・土砂災害対策(土砂災害危険個所図等)
・下水道施設の耐震化
・洪水・浸水対策(河川防災ステーション等)
・共同溝、電線共同溝の整備
・高潮・津波対策
○水とみどりのネットワークの形成
・河川緑地軸の整備(防災ふれあい河川等)
・山麓緑地軸の整備(六甲山系グリーンベルト事業等)
・街路緑地軸の整備
・せせらぎの整備
3.これからの取り組み(方向性)
○継続的な都市基盤整備の推進
都市活動を支える基盤整備は、被害抑止だけでなく被害軽減策との組み合わせを考慮し
ながら、今後も継続的に進めていかねばならない。
公共建築物、とりわけ学校については耐震診断の結果改修が必要となった場合、優先性
を考慮しながら早急に耐震改修を進めていく必要がある。また、市役所、区役所等の防災
拠点においても、発災時に拠点機能や人的活動を有効に機能させる必要性が高いことから
耐震性を強化させておく必要がある。
また、広域的な道路ネットワークの整備については、都市活動の活性化の観点のみなら
ず、防災性の観点からも国、県等との連携を図りながら進めていく必要がある。
さらに、生活や都市活動を支えるライフラインについても、耐震化を含め継続的に整備
を進めていく必要がある。
○ハードとソフトの組み合わせによる総合的・効果的な取り組みの推進
土砂災害防止法による土砂災害対策が、建築物の構造規制や移転勧告ができる内容と
なっているように、ハードとソフトの組み合わせにより、効果的な安全都市づくりへの
取り組みを進めることが重要で、今後これらの取り組みを強化しなければならない。例
えば、構造物だけで災害から市民生活を守るのではなく、災害から距離減衰が期待でき
るバッファー(緩衝)機能と構造物とを併用した効果の検討なども重要である。
179
地域津波防災計画策定関係者の意見
「防災対策はハード整備だけではなく、ソフトをいかに上手く運用していくかが重要で
あるということを、阪神・淡路大震災で実感した。」
○構想・計画段階から管理までの市民参加や、自然環境・防災構造物の日常生活への取り込み
の推進
震災復興事業では、道路や公園等の整備内容について市民参加によるワークショップな
どで具体化が図られている。さらに、日常的な管理についても地元で行う動きが出てきて
いる。このように構想、計画から管理・運営の各段階において、今後も市民参加を推進し
ていくことが重要である。
また、多自然型河川工法やグリーンベルト構想の取り組みのように、自然環境や防災構
造物を市民の日常生活に取り込むことによって、平常時から自然の真の姿を体験し、災害
時の小さな異変にも気づく知恵を養うことにより、災害時の備えとなる仕組みをつくりあ
げていくことも重要である。
平常時
自然環境・防災構造物の日常生活への取り込み
しくみ
自然環境
防 災
構造物
災害
発生
バッファー
(空間)
災害時
減衰
被害到達点
180
市民生活の場
第4節 将来起こり得る災害への備え
1. ねらい
これまでに経験した災害から得られた教訓や、調査・研究による最新の知見など、備えに
必要な情報を収集・整理・公開し、具体的な行動に結びつけていくことが重要である。
特に、今世紀前半に発生する可能性が高いと言われている南海・東南海地震に対しては、
具体的な対策を明らかにすることが求められている。
2.「神戸の今」とその分析(評価)
○地震の発生を不安に思う気持ちがうまく備えの行動に結びついていない状況が伺われる。
平成 15 年度神戸市民1万人アンケート結果によると、防災・防犯面で不安に感じている
こととして、
「ふたたび大きな地震が発生しないか不安」という回答が約6割となっている。
しかし、耐震診断で危険と判定された自宅を改修する人が非常に少ないことや、平成 14 年
度市政アドバイザー調査(※グラフ参照
P164)で震災後に非常食の備えを始めた人のうち、
現在も続けている人(18.7%)よりやめてしまった人(23.4%)の方が多いことなどから、
不安に思う気持ちが備えの行動にうまく結びついていない状況が伺われる。
防災・防犯面で不安に感じていること
%
61.1
30.0 29.0
21.7 21.3 19.9 19.9 19.2
16.9
11.2
9.8
9.4
5.6
4.3
その他
倒壊や火災のおそれのある施設や
家屋が近くにあること
特に不安に感じることはない
消火栓や防火水槽などの防災施設
が近くにないこと
災害時にどこに避難したらよいか
わからないこと
大雨で浸水やがけ崩れが発生しな
いかどうかということ
昼間留守にしている家や空き家・
空き地が多いこと
近くに頼れる人がなく、また人と
のつながりが薄いこと
家族に高齢者や病人などがいるの
で、いざという時のこと
不審な人やグループをよく見かけ
ること
災害等の緊急時に備えた住民組織
がないこと
付近の道路や公園が暗い、また見
通しが悪く、死角が多いなど放火
やひったくりなどされないかとい
うこと
火事や急病の時に消防車や救急車
がすぐに来てくれるかどうかとい
うこと
ふたたび大きな地震が発生しない
かどうかということ
70
60
50
40
30
20
10
0
(平成 15 年度神戸市民1万人アンケート結果)
181
○災害に関する情報の蓄積、調査・研究が進められ、その成果が生かされている。
神戸の市街地は昭和 13、36、42 年の豪雨による大水害で大きな被害を受けた。昭和 13
年以降、本格的な砂防事業が実施され、これらの大水害の経験から「宅地造成等規制法」
や「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」が制定された。
地震に関しても、阪神・淡路大震災後、地盤情報のデータベースシステム「神戸 JIBANKUN」
が構築され、地盤に関する情報が蓄積されている。その成果・ノウハウは神戸だけでなく、
広く国内外に生かされている。さらに、
「神戸 JIBANKUN」をベースに、産官学連携の「神戸
の地盤研究会」により、地盤に関する研究が進められている。
○各種媒体を通じて災害危険情報等が発信されるようになってきた。また、災害情報の公開・提
供に関するニーズが高い。
土砂災害や水害に関しては、その危険予想個所を示した広報紙が全戸配布されたり、降
雨のレーダー情報がインターネットで公開されるなど、各種の取り組みが進められている。
地震に関しては、家を建てる場合などに必要となる地盤情報が「神戸 JIBANKUN」により公
開されたり、
「神戸の地盤研究会」の活動として地盤に関する研究発表や市民からの相談を
受け付ける取り組みが行われている。このように災害等に関する情報は研究者・行政に蓄
積されるだけでなく、各種媒体を通じて広く発信されるようになってきた。
一方、平成 15 年度神戸市民1万人アンケート結果に見られるように、市に力を入れて欲
しい防災対策として、約3割の人が「災害危険等に関する情報公開・提供の推進」を挙げ
ており、情報の受け手側となる市民からのニーズが高い。また、平成 13 年度の市政アドバ
イザー調査では、自然災害の発生に備えた防災情報として「地域で将来、被害を受ける可
能性が高い場所を示した地図」の充実を求める人が約 66%あり、いわゆるハザードマップ
(危険区域予測図)に対するニーズが高い。
東京の防災関係者との意見交換会での意見
「災害イメージの共有化が重要で、行政は高いレベルの情報を噛み砕いてわかりやすく
市民に提供する役割がある。」
区別ワークショップでの意見
「安全を確立できるよう行政からも情報提供を行ってほしい。」
○近年、自然災害の発生形態が変化しつつあるため、その対策が必要となってきている。
近年、全国的に局所的な集中豪雨が多発しており、降雨直後に大量の雨水が市街地に到
達し、浸水するケースが増えている。このような豪雨に対して、都市部では地下街や地下
鉄など浸水に対して弱い施設が多く、その対策が必要となってきている。
このため、神戸では雨水管きょなどによって排水能力を向上させたり、家庭での雨水貯留
など雨水の流出を抑制させようとする工夫が見られる。
182
区別ワークショップでの意見
「地震だけでなく水害にも強い街にしたい。」
○南海・東南海地震では、阪神・淡路大震災と形態の異なった被害が生じる可能性があり、今後
の取り組みが重要である。
近年、全国的に内陸直下の活断層による地震や海溝型(プレートの沈み込みに伴う地震)
の地震が頻繁に発生している。近畿地方にも多くの活断層が存在するため、引き続き警戒
しておかなければならない。
一方、今世紀前半に発生する可能性が高いと言われている南海・東南海地震対策に関して
は、平成 15 年7月に法律が施行され、国レベルでの取り組みが推進されている。海溝型地
震の特徴である長周期のユサユサとした揺れが2分以上続く(阪神・淡路大震災では 20 秒
程度)ことや、予想最高高さ T.P.(東京湾平均海面)+2.5mの津波が発生すること、南海
地震と東南海地震が連動して起きる可能性があることなどの特徴があり、阪神・淡路大震
災と形態の異なる被害が生じる可能性がある。また、阪神・淡路大震災でダメージを受け
た構造物は、耐震性が低下していることも十分考えられ、阪神・淡路大震災より揺れが小
さい場合でも注意しておく必要がある。
また津波に対しては、平成 14 年6月に市地域防災計画に南海地震津波対策が追加される
とともに、平成 15 年3月には、浸水予想地域 11 地域の中で、2地域で地域津波防災計画
が作成された。
(市の主な取り組み等)
○個人、地域での取り組み
○都市基盤の整備
・広報紙、冊子等の配布による情報提供
・震災復興土地区画整理・再開発事業
・防災福祉コミュニティの活動助成
・住宅の耐震診断
・こうべまちづくり学校の開催
・水とみどりのネットワークの整備
など
○都市安全マネージメント
・交通ネットワークの整備
・危機管理監、危機管理室の設置
・ライフラインの災害対策 など
・総合防災通信ネットワークシステムの整備
○南海・東南海地震対策
・消防水利の充実
・神戸市地域防災計画・南海地震津波対策など
・市民病院群の整備 など
3.これからの取り組み(方向性)
○安全・安心に関する市民の取り組みに対する行政の継続的な支援
安全・安心に関する取り組みは不変的かつ永続的なテーマであり、常に取り組みを進めて
おかなければならない。そのために、行政は防災に関する意識啓発や知識の普及などによ
り、安全・安心に関する市民の取り組みを継続的に支援していく必要がある。
183
○災害に関する情報の公開、発信、継承
行政は安全・安心に関する市民の取り組みを推進する上で、災害に関する情報を公開、
発信することが重要である。
情報の公開、発信にあたっては、①土砂災害、水害、震災などの過去の災害や、他地域
での災害の教訓から得られる情報、調査・研究によって得られた最新の知見等、災害に関
する情報を蓄積すること、②市民が自分の問題として認識できるようにわかりやすい形で
表現すること、③市民全体に情報が広く行き渡るようインターネットをはじめ各種媒体を
用いること、④市民・行政ともに将来にわたって生かしていけるよう継承していくことが
求められる。
○自然災害の発生形態の変化に応じた対策の充実
震災後、防災福祉コミュニティの結成が進み、市民による防災活動が充実してきた。今
後、地域での防災活動においては、過去の災害の教訓や特徴、災害危険個所の課題等を十
分に認識し、新たな災害の特性を把握しながら備えを推進していくことが重要である。特
に集中豪雨による都市型水害に対しては、地下街への浸水などに対して総合的な対策の検
討が必要である。
○南海・東南海地震の取り組みの推進
行政はこの地震によってどんな被害が発生するのか、また事前、事後のそれぞれにどの
ような対策があるのかについて、わかりやすく情報を公開し、地域の特性に応じた具体的
な対策を考えて実践してもらえるように取り組みを進めていく必要がある。特に、これま
では地震に対しては事後対策が中心であったが、事前に建物の耐震補強など対策を立てて
おくことが人命の安全につながり、費用対効果の面からも有効であることから、少なくと
も人の命だけでも守れる具体的な対策事例を示すなど積極的に事前対策を進めていかなけ
ればならない。
このような観点から、南海・東南海地震に対しては下記の項目を中心に対策の方針を示
していくことが重要である。
【地域の防災力の向上】
・防災福祉コミュニティの活動の充実(津波対策など)
【都市安全マネージメントの強化】
・情報収集・伝達・処理能力の強化
・広域応援体制の充実
・地震の特徴を考慮した防災訓練の実施
・事業所における防災体制の強化
184
・要援護者・外国人、観光客・帰宅困難者への対応
【構造物の耐震化・浸水対策等】
・民間住宅の耐震化
・学校を含む公共建築物の耐震化
・危険物施設の耐震化
・土木構造物の耐震化
・建築、ライフラインの液状化対策
・重要構造物の津波による浸水対策
【市民の意識啓発】
・最新の知見等(地震の揺れや液状化、津波の浸水区域に関するハザードマップ)の情報
発信
・防災教育の充実
185
186
第3部
全体的・分野横断的検証
(全体的・分野横断的検証の進め方)
「第 2 部
分野別検証」では、
「神戸の今」を分野別の項目ごとに分析してきたが、ここ
では、それらの内容を踏まえて、全体的・分野横断的に検証していく。
検証にあたっては、(1)「神戸の今」と震災との関わりをみていく「全体的検証」を行う
とともに、(2)震災と復興過程の教訓の内容とその生かし方について検証する「分野横断的
検証」を行い、これらを受けて(3)市民参画で出された様々な意見を踏まえた「これからの
神戸づくり」の方向性を探る。
【全体的検証 ∼「神戸の今」と震災との関わり∼】
全体的検証では、震災 10 年目を迎えようとする「神戸の今」が震災とどの程度関わりを
もっているかをみていくため、神戸市民 1 万人アンケート等のアンケート調査結果や統計
データ、震災後のプロフィールの変化のタイプ別整理により、分析を行う。
特に、プロフィールの変化ではタイプ別に課題を抽出し、その対応の視点を検討する。
【分野横断的検証∼震災と復興過程の教訓を生かしていくために∼】
分野横断的検証では、震災と復興過程の教訓を生かしていくために、まず、教訓とは何
だったのかについて再確認する。教訓の整理にあたっては、復興過程で質的な変化として
生まれてきた新たな動き(ベクトル)を参考として取り上げる。
その上で、教訓を生かしていくために重要な「教訓の継承・発信のしくみ」と「市民・
事業者と協働する行政のかたち」を分野横断的テーマとして検討する。
【これからの神戸づくりの方向性】
全体的検証、分野横断的検証の結果とともに、市民参画の場で出てきた市民・専門家の
意見から、具体的なテーマとなるキーワードを抽出し、その内容を分析することにより、
「こ
れからの神戸づくり」で取り上げるべきテーマを検討し、その方向性を提案する。
【全体的・分野横断的検証の進め方 概念図】
第3章
第 1 章 全体的検証
∼「神戸の今」と震災との関わり∼
(アンケート、統計データ、プロフィールの変化)
市民・
専門家
第 2 章 分野横断的検証
∼震災と復興過程の教訓を生かしていくために∼
(震災と復興過程から学ぶべき教訓
⇒継承・発信のしくみ、協働する行政のかたち)
187
の意見
これからの
神戸づくり
の方向性
第 1 章 全体的検証 ∼「神戸の今」と震災との関わり∼
震災から 10 年目を迎えようとしている現在、震災の影響に加えて、全国的な社会経済情
勢の変化の影響、さらには神戸固有の構造的問題、関西圏共通の課題など、様々な影響が
折り重なって、「神戸の今」が形成されている状況にある。
ここでは、「神戸の今」と震災とはどの程度関わりがあるのか、全国的な社会経済情勢の
変化の影響はどの程度かをみていくため、神戸市民 1 万人アンケートや経済関連のデータ、
震災後の特徴的なプロフィールの変化、の3つからみていくことにより、「これからの神戸
づくり」の方向性を探る。
1.神戸市民 1 万人アンケート結果でみる震災との関わり
神戸市民全体の震災復興に関する意識とその経年変化を把握するため、平成 11 年 9 月に
実施した神戸市民 1 万人アンケートとほぼ同様の設問で、平成 15 年 6 月に神戸市民 1 万人
を対象に、アンケートを実施した。
(くらし向き)
神戸市民 1 万人アンケートの「くらし向き」についての調査結果では、震災前と比べ「低
下している」が 48.0%と一番多く、ついで「同じようなもの」が 39.3%、「向上している」
が 6.7%となっている。
<あなたの世帯の生活は、阪神・淡路大震災(平成 7 年 1 月 17 日発生)前と比べていかがでしょうか。>
わからない
6.1%
向上している
6.7%
同じようなもの
39.3%
低下している
48.0%
この中では、震災前と比べて「低下している」理由が問題となるが、この理由として「震
災の影響が最も大きい」としている割合は 15.1%に留まり、
「不況などの景気による影響が
最も大きい」の 57.6%、「病気や退職など個人的な影響が最も大きい」の 22.4%を下回っ
ている。この内容からは、くらし向きが震災前よりも低下している人についても、その原
因は神戸特有の震災による影響よりも、不況など全国的課題や個人的な問題によるものが
大きいことがわかる。
188
<(上記質問で「低下している」と答えた人に対して)あなたの世帯の生活が震災前と比べて低下してい
る主な要因はどのようなことでしょうか。>
57.6
不況など景気による影響
22.4
病気や退職など個人的な影響
15.1
震災による影響
4.9
その他
0%
20%
40%
60%
80%
震災前とのくらし向きの比較に関する設問とその低下の主な要因に関する設問の結果か
らは、「震災前よりくらし向きが低下している人」のうち、「震災による影響を主な要因に
あげている人」の割合は、全体の 7.3%にあたることがわかる。
このような人は、それぞれに様々な事情を抱えており、一律にその姿を語ることはでき
ないと考えられるが、神戸市民 1 万人アンケートのクロス分析により見られた主な特徴を
あげると、次のようになる。
【「震災による影響によりくらし向きが低下している人」と全体との比較】
・全壊・全焼、半壊・半焼といった被害の大きかった人の割合が高い。
・年齢層は 50 代、60 代、70 代以上の占める割合が高い。
・単身世帯、夫婦のみ世帯の占める割合が高い。
・居住歴が 30 年以上の人の占める割合が高い。
・震災当時、持家(一戸建・長屋建)の人の割合が高い。
・建替えをして同じ場所に住んでいる人の割合が高い。
・震災による意識の変化では「住宅や土地の資産性に疑問を持つようになった」、「公営
住宅等の公共賃貸住宅に住みたいと思うようになった」と回答した人の割合が高い。
・特に力を入れてほしい住宅施策では、
「住宅の補修や再建、持ち家取得のための融資制
度の充実」、「地震共済・保険制度など住宅再建に対する支援策の創設」、「民間借家に
住む低所得者のための家賃補助制度の充実」と回答した人の割合が高い。
189
(地域の復興・回復状況)
地域の復興・回復状況については、「住宅の新築・再建状況」があまり戻っていないと感
じている人は 4.3%であるが、「近所の商店街や市場のにぎわい」や「都心部の繁華街や商
店街の活気」があまり戻っていないと感じている人はそれぞれ 23.7%、19.6%となってい
る。
「違法駐車やゴミなどのマナー」は 32.5%とあまり戻っていないと感じる人が最も多く、
「趣味などを楽しむゆとり」は 20.2%の人があまり戻っていないと感じている。
住宅については新築・再建がかなり進んだことが、神戸市民 1 万人アンケート結果から
も読み取れるが、全国的な課題でもある商店街のにぎわいは神戸においてもまだまだで、
違法駐車やゴミなどのマナーの面が震災以降悪化し、元に戻っていないことがわかる。
<あなたの周囲の状況をみて、阪神・淡路大震災からの復興・回復状況についてどのように感じておられ
ますか。>
①お住まいの地域の住宅の新築・再建状況
16.7
②近所の商店街や市場のにぎわい
13.5
③都心部の繁華街や商店街の活気
5.8 6.6
21.8
7.9
20.1
11.0 6.7
17.4
⑤趣味などを楽しむゆとり
10.4 6.0
19.4
震災による影響はなかった
ある程度戻っている
20%
震災前よりよくなっている
あまり戻っていない
13.1
23.7
32.5
11.7
19.6
14.5
18.0
32.5
26.2
40%
4.3 9.3
26.6
21.8
23.8
④違法駐車やゴミなどのマナー
0%
21.3
17.8
20.2
60%
80%
100%
震災前の状態に戻っている
わからない
(市政への要望)
市政全般への要望については、「医療・保健」が 48.8%で 1 位、「高齢者のための施策」
が 42.2%で 2 位となり、平成 11 年度の調査から入れ替わった。次いで「環境問題、ごみの
分別・リサイクル」が 35.2%、「産業振興・雇用拡大」が 33.6%となっている。
今回行った平成 15 年度の調査結果を平成 11 年度の調査結果と比較して見てみると、平
成 15 年度に大きく伸びている項目が「環境問題、ごみの分別・リサイクル」「産業振興・
雇用拡大」であるのに対し、これとは逆に平成 11 年度に比べて平成 15 年度に大きく下げ
た項目として「住宅建設、住宅環境」がある。この内容からは、復興と関連が深いと考え
られる住宅関連のニーズが下がっており、より全国的な課題である環境問題や経済問題へ
市民の関心が移ってきていることがわかる。
190
<今後神戸市に特に力を入れてほしいと思われるものはどのようなことですか。>
48.8
45.6
医療、保健
42.2
高齢者のための施策
12.5
15.1
まち の美化
48.2
環境問題、ごみの分別
・リサイ クル
12.7
12.9
交通体系・道路網の整備
35.2
生涯学習の振興
11.8
13.6
青少年のための施策
9.9
12.8
23.4
33.6
産業振興・雇用拡大
6.4
危機管理・防災対策
路上駐車対策など
自動車の規制
32.1
30.9
文化、芸術の振興
27.3
31.4
都市再開発や市街地の整備
26.6
28.4
消防や救急
22
20
学校教育
17.9
16.8
消費者のための施策
保育所など 幼児・児童
のための施策
16
15.1
バスや地下鉄など 交通事業
15.9
15.7
8.7
9.1
8.5
12.5
住宅建設、住宅環境
7.7
港やその周辺の活性化
7.7
6.4
15.5
6.2
6.4
スポーツ 、レクリエーショ ン の振興
4.1
市民活動を すすめる 施策
8.0
観光施策
3.9
3.0
国際交流を はかる 施策
3.1
4.2
15.1
障害者・難病者のための施策
21.6
14.4
11.6
交通安全対策
2.6
男女共同参画を すすめる ための施策
14.2
17.2
まち の緑化や公園の整備
0%
20%
8.5
0%
40%
60%
20%
H15
40%
H11
60%
2.経済関連のデータでみる震災との関わり
(全国・他都市比較)
事業所・企業統計調査に基づき、事業所数、従業者数の増加率(年率)について、昭和
50 年∼平成 13 年の推移を全国と比べると、震災後の平成8年を除き事業所数、従業者数と
もに全国の動きと大きな差はない。
同様に大都市と比べると、事業所数・従業者数ともいずれの都市も似たような動きがみ
られる。神戸市の増加率(年率)は、全国主要都市に比べると高くはないが、京阪神3都
市の比較では上位で推移しており、平成 13 年の減少幅も京都市・大阪市に比べて小さくな
っている。
191
事業所数,従業者数の増加率(年率)の推移
事業所数
(%)
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
神戸市
全国
S50 53
56
61
H3
8
全国
神戸市
S50 53
13
56
61
H3
8
13
(%)
(%)
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
従業者数
(%)
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
札幌市
福岡市
横浜市
名古屋市
神戸市
S50
53
56
61
H3
8
13
(%)
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
神戸市
京都市
大阪市
56
61
H3
8
名古屋市
福岡市
横浜市
神戸市
S50
(%)
S50 53
札幌市
13
53
56
61
H3
8
13
神戸市
京都市
大阪市
S50 53
56
61
H3
8
13
資料:事業所・企業統計調査(平成3年までは事業所統計調査)
工業統計調査の製造品出荷額では、神戸市は平成 5 年を 100 とすると平成 13 年が 82 と
いう水準にとどまっており、いわゆる「8 割復興」の状況にある。ただ、平成 13 年の 82 と
いう水準は 13 大都市のうち上から 4 番目の位置にあり、震災を受けなかった都市でも神戸
よりも低位にあるところの方が多くなっている。また、商業統計調査における従業者数・
販売額においても、平成 6 年と平成 14 年の比較を行うと、神戸は大都市の中で低位に位置
しているものの、震災を受けた神戸よりも低位に位置する都市もある。
このように、経済関連の主要な統計データでみてみると、概ね他の大都市と共通の経済
の動きとなっているものも多く、「神戸の今」と震災との関わりは見えにくくなっている。
192
(震災前と比べた売上高等∼産業復興推進機構のアンケート調査等から∼)
阪神・淡路産業復興推進機構のアンケート調査では、震災直後の平成 7 年 12 月から平成
15 年 6 月まで定期的に調査を行ってきたが、平成 7 年 12 月調査では売り上げが回復してい
ると答えた企業は 22.5%あったが、その後その割合は低下しつづけ、平成 12 年 11 月の調
査では 7.1%にまで低下した。その後、アンケート調査では若干の回復を示し、平成 15 年
6 月の調査(速報値)では 13.1%になっている。
震災前と現状の売上高・利益の回復状況(経年変化)
22.5%
平成7年12月
39.0%
19.8%
平成8年12月
39.6%
15.3%
平成9年12月
15.3%
22.2%
13.2%
26.9%
60.7%
8.6%
15.4%
平成10年11月
11.7%
70.0%
15.6%
2.7%
平成11年10月
10.0%
72.4%
15.0%
2.6%
平成12年11月
7.1%
76.9%
平成13年11月
10.4%
78.5%
平成14年11月
10.4%
80.2%
8.2%
1.2%
76.1%
9.4%
1.4%
13.1%
平成15年6月
0%
20%
回復している
13.8%
2.2%
8.8%
40%
60%
80%
回復していない 変わらない 無回答
2.3%
100%
(阪神・淡路地域における産業復興の実態に関するアンケート調査結果)
また、平成 15 年 6 月調査(速報値)では、「回復していない(売上高が減少している)」
と回答した事業所が 76.1%あるが、その理由については、下記のとおりの結果であった。
【震災前に回復していない理由】
震災の影響が最も大きい
4.1%
震災の影響も残っているが、景気の影響が最も大きい
42.0%
震災の影響も残っているが、構造変化の影響が最も大きい
13.2%
震災の影響はほぼなくなっているが、景気の影響が最も大きい
30.3%
震災の影響はほぼなくなっているが、構造変化の影響が最も大きい
8.8%
その他
1.1%
無回答
0.5%
上記の結果からは、震災だけでなく、景気や構造的な要因が折り重なっているのが、神
戸経済の現状であることがよくわかる。上記の内容を再集計すると、震災の影響が残って
いるとしているのは合計 59.3%となるが、その一方で、最も大きな理由について再集計す
193
ると、
「震災の影響」をあげた事業所は 4.1%,
「景気の影響」が 72.3%,
「構造変化の影響」
が 22.0%となっており、震災よりも景気や構造変化の影響が大きい、という結果になって
いる。
このことから、神戸経済の低迷の要因としては、様々な影響が重なっており見えにくく
なっているものの、震災による影響よりも、不況や産業構造など全国的な課題の影響が大
きくなってきていることがわかる。
3.震災後のプロフィールの変化でみる震災との関わり
次に、震災以降の神戸のプロフィールの変化に着目して、
「第 2 部
分野別検証」でふれ
た変化の内容を整理することとする。ここでいう「プロフィール」は、ストック面やフロ
ー面のみならず、市民の意識なども含めて、震災後に神戸に現れた様々な現象を総括的に
示す言葉として使っている。
変化のタイプとして次の3つを設定するが、これらのタイプは、プロフィールの変化を網
羅的にみるために設定したものではなく、震災による変化を特徴的に表すことのできるも
のを単純化して設定したものであり、このタイプの中から「これからの神戸づくり」の方
向性を検討するための新たな課題について言及する。
【プロフィールの変化の3つのタイプの整理】
タイプ1:震災前から
タイプ2:震災の影響
タイプ3:震災後高ま
のトレンドが加速化
で下方に向かったが、
ったが、その後日常化
したもの
その後回復したもの
の中で低下しつつあ
るもの
震災
震災
震災
○タイプ1:震災前からのトレンドが加速化したもの
このタイプについては、以前から進めていた行政の施策に沿ったトレンドが加速化した
ものと、その逆のものがある。
前者の例としては密集市街地の解消状況がある。神戸市では震災前からインナーシティ
対策を位置づけ、密集市街地の解消等に取り組んできたが、震災後、それが急速に進展し
た。具体的に、住宅の共同化の例では、震災前は年間に 1∼2 件の状況であったものが、震
194
災以後急激に増え、補助対象分の着工ベースで 7 年度 6 地区 324 戸、8 年度 28 地区 935 戸
と急増し、9 年度 30 地区 1395 戸でピークとなり、10 年度も 25 地区 1383 戸と高い水準で
推移した。現在では震災前の水準に戻ってはいるが、地域ごとの長屋木賃率や共同住宅(マ
ンション)戸数率などのデータをみると、密集市街地の解消問題は大幅に前進したと考え
てよい。この意味では、都市の安全性は全体的にみれば高まったと考えられる。ただし、
その一方で今まで面的整備がなされていない地域などで密集市街地が残されてきているこ
とは事実であり、震災の教訓を踏まえた安全なまちづくりの観点から、地域特性を考慮し
ながら課題解決に努める必要がある。
後者の例としては、神戸港の取扱貨物量があげられる。神戸港のハブ機能を示す外国貿
易のトランシップ率は 1970 年代には 50%近い水準の時期もあったが、震災前には 30%弱
に低下していた。震災以降はこの傾向が加速化し、現在では 10%を切り、外貿が震災前の
7 割弱の水準に落ち込んでいる大きな要因となっている。また、内貿貨物についても震災前
の 35%の水準に低迷している。これらの状況は震災を契機として顕著に現れている現象で
はあるが、外貿についてはアジア諸港の整備、内貿については明石海峡大橋開通による既
存航路の廃止等の構造的な問題が影響しており、このような新たな社会経済情勢を前提と
して、これからの神戸港のあり方を検討しなければならない状況にある。
○タイプ2:震災の影響で下方に向かったが、その後回復したもの
このタイプに属するものとしては、震災で壊滅的な被害を受けた都市基盤や全市人口、
観光入込客数などがある。このタイプのものは、全体としては震災前の水準に回復したも
のであり、復興の観点からは一定の成果があるものといえる。ただし、例えば、人口にお
いては、区別の人口増減状況が一様でないことや郊外部でのニュータウンのオールドタウ
ン化、郊外から市街地へといったこれまでとは逆の人口の流れが見られる点、東灘区など
では局所的に新住民が急増している点、など新たな課題が出てきていることに注意が必要
である。また、観光入込客数についても全体としては回復しているが、神戸ルミナリエを
除くと9割程度の水準にとどまっている。このタイプのものについては、回復した中身に
ついても十分検討する必要がある。
○タイプ3:震災後高まったが、その後日常化の中で低下しつつあるもの
このタイプについては、震災直後の復興需要に関連したものや、意識・活動の面で震災
からの時間の経過に伴い低下の恐れがあるものについて考慮する必要がある。
前者の顕著な例としては、住宅の着工戸数がある。震災では、神戸市内の住宅が8万2
千戸滅失したが、住宅着工統計によれば震災以降 20 万戸を超える住宅が着工している。震
災前の平成 6 年は 2.1 万戸であるのに対し、7 年は 3.4 万戸、8 年は 5.1 万戸、9 年は 3.0
万戸と大量に供給されたが、10 年以降は再建も落ち着き 1 万戸台となり、震災前の平成 6
年を下回っている。ストックの量的な拡大は過剰供給の懸念があるとともに、市営住宅に
195
ついてはマネジメントの課題が新たに出てきている。
後者の低下の恐れがある事例としては、防災意識の問題がある。古くから関西では大地
震は来ないと言われ、関東や東海地方などと比較すると、関西の地震に対する防災意識は
低かった。震災直後、防災意識が高まり、個人や家庭での備えが一時的に高まったが、そ
の後、時間の経過とともに、一部データでは意識の低下傾向が見受けられる。現状では、
意識の風化という状況にはないが、南海・東南海地震など次なる災害への備えのためにも、
風化が起こらないよう努める必要がある。
なお、前述のとおり、上記の3つのタイプは、プロフィールの変化を網羅的にみるため
に設定したものではなく、震災による変化を特徴的に表すことのできるものを単純化して
設定したものであり、これらのほか、ボランティア活動や市民・事業者・行政との協働な
ど「震災後上昇し、そのまま維持しているもの」や、神戸市民 1 万人アンケート調査結果
からもみられる違法駐車、ごみのポイ捨て、信号無視に代表されるマナーの問題など「震
災後低下して戻らないもの」があることに留意する必要がある。
4.「神戸の今」と震災との関わりについて
以上、「神戸の今」と震災との関わりを、神戸市民 1 万人アンケート結果、経済関連のデ
ータ、震災後のプロフィールの変化の 3 点からみてきた。
神戸市民 1 万人アンケート結果からは、くらし向きが震災前より低下している人が 48.0%
にも上ることがわかったが、そのうち震災を主な要因に掲げる人は 15.1%となり、これを
組み合わせると 7.3%の人が震災を主な要因としてくらし向きが低下した人ということに
なった。また、地域の復興・回復状況としては、最も震災前に戻っていないとされたのは、
「違法駐車やゴミなどのマナー」の問題であった。さらに、市政への要望からは市民の関
心も徐々に復興に関連の深い課題からより全国的な問題に移ってきていることがわかった。
経済関連のデータからは、全国や他の大都市と共通の動きをしているものが多いこと、
市内の事業所においては、震災前の売上高・利益に回復していない企業が 76.1%にも上る
ことがわかったが、その最も大きな理由として震災の影響を掲げる事業所は 4.1%にとどま
り、景気や構造変化の影響がいかに大きいかがわかった。
これらの結果から言えるのは、震災から 10 年目を迎えようとしている今日、「神戸の今」
と震災との関わりは全体として見えにくくなってきていることである。
さらに、タイプ別にプロフィールの変化をみてきたが、これを震災前の水準に回復して
いるかどうかという観点で捉え直すと、港湾貨物の状況が問題となる。ただ、これについ
ては、経済復興と同様に、もはや元に戻すという視点で考えても効果的な対策を提示でき
なくなっている分野であり、グローバル経済下における港間競争の激化の影響を踏まえた
196
新たな方向性を見出すことが必要になっている。このように、震災前の水準から落ち込ん
でいる最も顕著な事例の一つである神戸港の取扱貨物量でさえも、震災の影響よりも社会
経済情勢等の影響に対応していくことの方がより重要になってきているのが「神戸の今」
のすがたと言える。また、一方で、震災前の水準に回復、または震災前以上の水準になっ
ている事例についても、復興過程の時間経過の中で、新たな課題が発生してきており、震
災対策というよりは震災後の新しい情勢変化への対応が重要な政策課題となりつつある。
以上の分析からは、「震災復興に関わるものから全国的な課題、構造的課題へ」と課題の
変化が進んできていることと、震災からの時間の経過とともに新たな課題が生まれてきて
いる、ということが「神戸の今」を表しているものと考えられる。
今後、震災前の水準に回復していないもので、その原因として震災の影響が残っている
ものについては引き続き対策を講ずるなど、セーフティネットとしての震災復興対策が当
面必要であることは言うまでもないが、震災の影響よりも社会経済情勢の変化等の影響が
大きくなってきている中で、震災 10 年以降も見据えて構造的問題や新たな課題への対応に
重点を移していくことが「神戸の今」に課せられた課題であるといえよう。
197
第2章 分野横断的検証 ∼震災と復興過程の教訓を生かしていくために∼
震災から 10 年を目前に控えた我々が、その教訓を自ら再確認するとともに、国内外や次
世代に向けて継承・発信していくことは非常に意義深いことである。
ここでは、震災と復興過程から学ぶべき教訓をあらためて整理し、そのうえで教訓の継
承・発信のしくみと、教訓を生かした「これからの神戸づくり」を進めるにあたって重要
になる行政のかたちがどうあるべきか、という点について述べる。
第1節
震災と復興過程から学ぶべき教訓
第2節
教訓の継承・発信の
しくみ
震災の教訓
第3節
市民・事業者と協働
する行政のかたち
復興過程の教訓
第1節 震災と復興過程から学ぶべき教訓
震災は、神戸に甚大な被害を与える一方、人々の価値観や生き方、行動に大きな影響を
与えた。震災から 10 年を目前に控えた今日、市民一人ひとりや企業が震災と震災後の自ら
の生き様・行動についてその意義を問い直してみるのによい時期である。
震災以降の復興過程においては、課題が刻々と変化する中で、市民・事業者・市はそれ
ぞれに知恵を出し合い、学び合う中で、目の前の課題解決に向けた対応を図ってきた。震
災時の教訓とともに、震災後のこのような取り組みの中から教訓として学ぶべきことは
多々あると考えられる。
198
ここでは、まず、これまで学んできた教訓を振り返るとともに、震災と復興過程から学
ぶべき教訓をあらためて整理することとする。
1.これまで学んできた教訓
震災直後に学んだ教訓については「神戸市復興計画」から、震災 5 年までに学んだ教訓
としては平成 11 年度「復興の総括・検証」提言から、引用する。
(1)「神戸市復興計画」(平成 7 年 6 月策定)から
【「神戸市復興計画」で位置づけられた震災の教訓】
①都市の機能性とゆとりとの調和
現代の都市は、多くの人々の多様なニーズに応えられるよう、すぐれて機能的にでき
ているが、これまでの想定を上回る地震により、自然の力の前でいかに脆弱な一面をも
つかを思い知らされた。特に、いわゆるインナーシティを中心とした既成市街地では、
老朽木造住宅の密集や道路・公園などのオープンスペースの不足により、被害が一層大
きなものとなった。
安全は、都市に課せられた最も基本的な条件であり、都市機能の適正な配置や代替機
能の確保など、都市の機能性とゆとりとの調和を図っていく。
②自然の恩恵・厳しさとの共生
神戸は、海と山という自然条件に恵まれ、開港以来多くの人々が住み続けてきた魅
力的な地域であったが、その反面過去に大水害や高潮、そしてこの度の震災など自然
の厳しさを何度も経験してきた地域でもあった。
神戸はこれまでもみどりを保全・育成するとともに、自然との調和を図りながら都
市整備を進めてきたが、今後も自然への畏敬の念を忘れず、同時に都市容量に配慮し、
環境への負荷をできるだけ少なくすることにより、自然の恩恵・厳しさとの共生を図
っていく。
③人と人とのふれあいと交流
震災直後には、被害の甚大さにもかかわらず、市民は冷静さを失わず、お互いに励ま
し合いながら人命救助や避難活動を行った。その結果、震災の被害を軽減することがで
きたが、これは、自律的な市民が豊かな市民文化を育んでいた何よりの証であり、私た
ちの誇りとすべきことである。今後も、人々の相互の交流を深め、市民主体の魅力あふ
れるまちづくりを進める。
震災後のまちでも、地域での被災者同士や外国人市民と日本人市民の助け合いなど、
心温まるふれあいが数多く生まれた。また、ボランティアの献身的な救援活動や世界中
の人々からの支援や励ましが、最も苦しくつらいときの私たちを支えてくれた。私たち
199
は多くの物を失ったが、一方で人の心の大切さを身をもって知ったことは、なにものに
も代えがたい貴重な財産である。
人命の尊さを胸に刻むとともに、全ての人が等しく尊重され、ともに生きる、世界に
開かれた都市として、人と人とのふれあいと交流を大切にしていく。
「神戸市復興計画」に位置づけられた3つの教訓は、震災直後の教訓として安全都市づ
くりを考えるにあたって重要な教訓であるとともに、安全都市づくりを超えて分野横断的
にみても示唆に富んだ教訓として、将来に向けて引き継いでいく必要がある。
(2)平成 11 年度「復興の総括・検証」提言から
【平成 11 年度「復興の総括・検証」提言(抜粋):復興過程の教訓と考えられる部分】
○21 世紀に向けた都市づくりは、
「自律と連帯」に基づく成熟した市民社会の構築である。
そのためには、積極的な情報公開、計画段階からの市民参画(プロセスの共有)、多様
な人材育成・活用を進めることが不可欠である。市は、それらに対応できる組織・体制
を整えること。
○生活再建
・被災した市民や行政が生活再建を進めるにあたって、次の 6 点が大切であることを認
識した。
①環境の質を低下させないこと
②生活の質を低下させないこと
③活発な経済活動のための努力をすること
④次の世代に問題の先送りをしないこと
⑤立ち直ろうとする気概をもつこと
⑥復興は自分たちでやるという自覚をもつこと
・自律と連帯の市民社会の構築
・ヒューマンサービスの質の向上
・市民主体の討議・検討システムの構築
○安全都市
・個人・地域の「安全」に関する意識・備え等の向上
・自律と連携のまちづくりの推進
・地域の自律的活動にこたえる行政の体制づくり
・都市基盤整備等の継続的推進
○住宅・都市再建
・安全で安心なすまい・まちづくり
・住み続けたいすまい・まちづくり
・自律と連携のすまい・まちづくり
200
○経済・港湾再建
・自律型復興に向けた視点
・産業構造の変革∼「8 割復興」からの再出発
・新しい社会基盤の構築(コミュニティ経済等)
・神戸文化の発信
・神戸の復興過程は試行錯誤の連続であり、そのなかで培われた、失敗を受け入れる・
挑戦を続けられる土壌は、21 世紀の日本社会のリーディングケースとなりうる環境である。
○世界に、後世に伝えていくこと
・トルコ・台湾での地震対応で明らかなように、被災地ならではの経験やノウハウを的
確に伝えることで、迅速かつ円滑な復興に寄与することができる。様々な支援に対す
るお礼の意味も込めて、積極的にこのような役割を担っていくべきである。
・人と人とのつながりや地域コミュニティの大切さを、これほどまでに痛感したことは
なかった。今後、社会と人を支えるのは人であり、そのつながりであるという認識が
施策の根底にあることが第一に求められよう。
・今回の経験を単なる情報にとどまらない、災害文化と呼べるものにまで高めていくこ
と。記憶の風化を防ぎ、後世にまで伝えていけるよう最大限の配慮をすること。
○その他
・市民一人一人の再建の努力がなければ今日の復興はありえなかったという意味でも、
自立再建層はもっと高く評価されるべきであろう。
・また、地域への関心を高めるための教育の充実や、地域活動と両立できるしごとのあ
り方など、被災地だけでは解決できない問題については、国をはじめ社会全体の問題
として取り組むことが必要である。
平成 11 年度「復興の総括・検証」提言では、生活再建、安全都市、住宅・都市再建、経
済・港湾再建の各分野にわたって提言を行ったが、その中で各分野にわたる共通のキーワ
ードとして「自律と連帯」が出てきた。具体的には、生活再建では「自律と連帯の市民社
会の構築」、安全都市では「自律と連携のまちづくりの推進」、住宅・都市再建では「自律
と連携のすまい・まちづくり」、経済・港湾再建では「自律型復興」「コミュニティ経済」
といった考え方が示された。
また、提言では「世界に、後世に伝えていくこと」を整理し、特に「人と人とのつなが
りや地域コミュニティの大切さを、これほどまでに痛感したことはなかった。今後、社会
と人を支えるのは人であり、そのつながりであるという認識が施策の根底にあることが第
一に求められよう。」とされている点は、「自律と連帯」の基礎になるものとして、今後と
も引き継いでいく必要がある。
201
2.震災 10 年に向けた教訓の再確認
ここでは、震災時の出来事から学んだ「震災の教訓」と、その後の復興過程の中で学ん
できた「復興過程の教訓」に分けて取り上げ、それらを整理し、震災 10 年に向けた教訓を
再確認することとしたい。
(1)震災の教訓
「震災の教訓」については、「神戸市復興計画」で位置づけられた教訓でほぼ集約される
と考えるが、それを一言で言えば、次のようになる。
「防災」に「減災」の思想を
震災では、住宅をはじめ、都市基盤や港湾など、あらゆるものが破壊され、ハードの施
設は 100%安全ではないことがわかった。これからは、ある程度被害が出ることを前提と
して、被害抑止に加えて被害軽減の取り組みを推進していくことが重要である。
上記の中には、さらに以下の3つの教訓が位置づけられる。
○震災で自然の厳しさを改めて知った。自然災害はいつか必ず起こる。
震災前までは、関西には大きな地震がないという気持ちをもっていた面があったが、震
災により自然災害はいつか必ず起こることがわかった。人にやさしい側面とともに、厳し
い側面をもつ自然を理解し、自然との共生を図っていく必要がある。
この教訓に関連して、これからの課題となるものとして、南海・東南海地震対策があげ
られる。これについては、平成 14 年6月、神戸市地域防災計画に南海地震津波対策が追加
され、地震による津波の想定結果やその対策が位置づけられるとともに、国レベルでは平
成 15 年7月に「東南海・南海地震対策特別措置法」が施行され、南海・東南海地震への備
えが進められている。神戸では、これまで、津波による浸水が予測される地域で、市民が
中心となり、防潮扉等の閉鎖や避難時の心得、避難方法など具体的な行動計画を示した津
波防災計画がつくられたところもあり、地域レベルで南海地震に備える取り組みが始まっ
ている。
○地域コミュニティが命を守る。まずは、身近なところから始める。
安全は市民生活の基本的な条件である。このあたりまえのことが、尊い犠牲の上に実感
できたのが震災であった。自らのすまいが凶器となり、圧死者が多数を占めたことを考え
れば、身近なすまいの耐震性・安全性強化にまず個人や家族の単位で取り組んでいくこと
202
は重要である。
また、震災では、大規模災害においていかに行政は無力であるかを知るとともに、一方
で、救援活動や応急避難、支援物資の分配、安否確認などは自分ひとりではできず、相互
の助け合いや地域で支え合うことの大切さを知った。この最も特徴的な事例は、震災によ
る家屋倒壊で家の下敷きになった人の多くが、近所の人々によって救出されたことである。
これらは、まさに「自分の安全は自分で、地域の安全は地域で守る」という実例であり、
この教訓に基づいた取り組みとして、神戸市では「防災福祉コミュニティ」が各地で結成
されている。ほぼ全市的に組織化が進んだ防災福祉コミュニティの活動の中で、まちを歩
くことにより、まちの危険個所や安全資源を把握し、地域の安全まちづくりを進める取り
組みとして、子供たちやPTA、各種ボランティア団体の協働でコミュニティ安全マップ
づくりが進んでいる。また、中学生による防災ジュニアチームの結成、女性で構成する市
民消火隊の結成など、人と人のつながりを深め、活動の輪を広げる新たな取り組みも始ま
っている。
○日頃からやっていないことはできない。
震災では、直後の火災にあたって、普段からまとまりのある地域ではバケツリレーもな
され、延焼を防止したケースもある。また、震災では、震災前から締結していたコープこ
うべとの間での「緊急時における生活物資確保に関する協定」が機能し、震災直後の 2 日
間に、パン 13 万 5 千個(神戸市手配分約 20 万個の 7 割に該当)などが神戸市に提供された。
これらの事例からもわかるように、日頃からの活動が災害に役に立つというのは、震災の
教訓として重要である。
また、この教訓は、震災直後のみならず、復興過程の中でも実感された教訓でもある。
具体的には、①日頃からまちづくり活動を行っていたところでは、震災後の復興に向けた
活動の立ち上がりが早かった事例や、②いざというときに特別な対策はできず、日頃やっ
ていたことを工夫することが基礎となってきた事例、③制度の多くも、既存の制度の拡充
等での対応が多かったことがある。日頃からまちがどうあるべきか、まちを意識し続ける
ことが大切である。
203
(2)復興過程の教訓
「復興過程の教訓」については、平成 11 年度「復興の総括・検証」提言の中で位置づけ
られた内容でも記載されているところであるが、それを一言で言えば、次のようになる。
「自律」と「連帯」
震災を通じて、市民は人と人とのつながりの重要性を強く再認識したが、復興過程にお
いても改めて認識された。つまり一人ひとりが自己責任で自律し、自分の存在を地域社会
の一員として位置づける必要があるという認識が高まった。しかし、一人ひとりの能力に
は限界もあり、お互いの助け合いや相手への配慮が必要である。それが人と人との連帯を
生むきっかけとなっている。
また、一人ひとり個性あるものが集まって、そのつながりが新しい個性が生むなど、人
と人との連帯の中から自律が生まれてくることも、震災の復興過程でわかったことである。
このように、
「自律」と「連帯」は互いの相互作用により高まっていくものであり、一方
向的な関係としてではなく、一体的なものとして考えていく必要がある。
自律した市民が連帯する市民社会の構築こそが、これから生かしていくべき復興過程の
教訓といえる。
震災 5 年時点以降の復興過程も踏まえて、
「第 2 部
分野別検証」の中で位置づけられた、
復興過程で生まれてきた特徴的なトピックスを参考にしながら教訓を整理すると、上記の
中には、さらに以下の5つの教訓が位置づけられる。
○時間の経過の中で、「復興」が意味するものは変わる
震災5年目の「復興の総括・検証」のワークショップにおいて、「生活再建とは何か」に
ついて、
「すまい」
「つながり」
「まち」
「こころとからだ」
「そなえ」
「行政とのかかわり」
「く
らしむき」の7つのカテゴリーに集約されることが明らかになった。震災から 8 年余りが
経過した時点で実施した今回のワークショップでは、
「復興とは何か」のテーマで行ったが、
この中では前回トップの意見数であった「すまい」のカテゴリーは出てこなかった。住宅
復興に目処が立った段階では、「すまい」に関する関心は低下してきていることがわかる。
また、5年目との順位比較では、5年目の際に2番目の「つながり」、3番目の「まち」が、
今回は1、3番目になっている。また、5年目の際には「くらしむき」が6番目であった
が、今回は2位になっている。一方、前回のワークショップでは出てこなかった「人生観・
価値観の転換」「復興のあり方」「復興の教訓に関する発信」といったものが新しいカテゴ
リーとして出てきている。
このように、大規模災害からの復興過程においては、時間の経過とともに解決すべき課
204
題に質的な変化が現れてくる。災害救助から始まり、応急対応から復旧へ、そして本格的
復興へと進む中で、ハード面の回復からソフト面の充実へ、市民の生活再建から生活充実
へ、など施策の重点が移り、復興施策の一般施策化が図られてきた。復興過程においては、
時々刻々と変化する課題を冷静に見据え、それに柔軟に対応していくことが重要であると
いうことは教訓の一つに掲げられる。
○「復興」は、分野を相互に関連させながら柔軟に取り組まなければならない
各分野の目標がそれぞれ個別に達成されて成し遂げられるものではなく、他の分野の項
目が直接あるいは間接に関わり合い、互いに影響し合って成し遂げられるということは、
復興過程の教訓であるとともに、これからの神戸づくりのためにも重要である。
【関連する復興過程の取り組み】
○総合的な地域(コンパクトタウン)づくり
長田区野田北部地区のように、住民のニーズに応じて住民自らがハード面を中心とした
取り組みからソフトへ、さらには総合的な地域(コンパクトタウン)づくりへと展開して
いる地区も出てきている。野田北部では、震災後まちづくり協議会を中心にいち早く復興
に取り組み、区画整理事業の早期完成や細街路整備事業の着手、建築デザインのルール化
などの様々な成果が生まれた。ハード的な復興が着実に進み、ほぼ目処が立ったため、ソ
フト的な課題への充実を図る地域住民による発信「コミュニティ宣言」が行われ、その後、
地域の様々な団体のネットワークを行う「野田北ふるさとネット」を設立し、ソフト面を
中心とした様々な課題に取り組んでいる。現在は高齢者の食事会、ふれあい喫茶やエコタ
ウンの取り組み、他地域との交流、地域総合誌「わがまち野田北かわらばん」の発行、震
災の経験を継承する修学旅行生の受け入れや各種イベントなどを実施しながら、地域内外
の人と人との連携を強化するとともに、震災の教訓等を継承・発信している。
○震災の教訓の継承・発信の取り組み
神戸 21 世紀・復興記念事業から生まれた NPO 法人阪神・淡路大震災「1.17 希望の灯り」
では「復興モニュメントマップ」の作成が行われているとともに、長田区では、平成 15 年
4 月に「神戸長田コンベンション協議会」が設立され、これまで個別に行われてきた修学旅
行生の受け入れをネットワーク化する組織となっている。これらのうちでも、特に後者は、
この取り組みは、震災の教訓の継承・発信を行うと同時に、まちの活性化も図ろうとする
ものである。まちの活性化が、活動を継続させ、それがまた、まちの活性化につながると
いった好循環の形成が期待される。
また、復興の手法には一般化できるものとできないものがある。このたびの震災は、大
都市を襲った震災であったが、これが過疎地であればもっと違った対応が考えられるなど、
地域によって自ずと異なった対応が求められる。このことは、被災地内でも存在すること
であり、被災の程度や都市計画事業の区域か否かなどによって、様々な対応が行われてき
た。このたびの震災では、被災地神戸から他地域は既に様々なことを学び取った部分も多
205
いと考えられるが、それらすべてが一般化できるものではないことに留意が必要である。
なお、このことと関連して忘れてはならないのは、全国的な課題が震災復興においても
影響するということである。このたびの復興過程で特徴となったのは、長期にわたる不況
と重なり、「8 割復興」の状況が長く続いたことにある。被災地の復興においても、景気な
ど全国的な問題の影響に左右される部分が大きいことに留意する必要がある。また、この
たびの震災は地方分権が進む過渡期の震災であったことも忘れてはならないことである。
○自律した個々の取り組みが、まちをつくる
市民一人ひとりの再建の努力がなければ今日の復興はありえなかった。震災以降、大量
の住宅再建が行われたが、その復興過程において進んだマンション再建、共同化の取り組
みなどにより、個々の住宅再建がまちづくりにつながっていくということが実感された。
また、地域のあいさつ運動では、一人ひとりの心がけが防犯活動にも効果があることがわ
かった。自律した個々の取り組みが積み重なって、まちがつくられていくという考え方は、
今後とも重要である。
【関連する復興過程の取り組み】
○すまいから始めるまちづくり
震災以降、住宅の共同化・協調化やマンション再建などにより、大量の住宅が建設され
てきたが、その中で様々なノウハウが生み出されてきた。例えば、震災により大きな被害
を受けた市街地の中で、敷地が狭小なため十分な再建ができないなどの対策として共同化
が推進された。共同化は向う3軒両隣などの身近なまとまりによって取り組んだ典型例で
あり、さらにこの考え方を街区、地域へと広げていくと、まち全体の向上につながってい
く。地域の安全性もまちなみも個々のすまいの集積として成り立つ、すまいがまちをつく
っているという考え方を認識させられた。このような考え方に基づき、すまいの総合窓口
「すまいるネット」による情報発信・相談・啓発、耐震簡易診断、マンション管理支援や
沿道住民による細街路整備などが行われている。
○地域でのあいさつ運動
北須磨団地で行われている「あいさつ運動」は、心の通う家庭づくりや地域などの人間
的なつながりをつくるというあいさつが本来有する効用を生かした取り組みであり、人と
人とのつながりをつくっていく原点とも言える活動である。あいさつ運動は、地域の人同
士や大人と子どもたちとの関わりを深めることにも資するだけでなく、地域の犯罪防止に
もつながるものであり、全国的にも注目を浴びている。
○日頃からの協働と参画が、まちづくりを進化させる
「協働」の考え方は震災前に策定された「新・神戸市基本構想」で位置づけられたもの
であるが、震災以降の復興過程で大きく広がったまちづくり協議会方式等により、協働の
まちづくりが大きく進んだ。このような市民主体の協働のまちづくりが進むことにより、
206
計画づくりからの市民参画が進み、できあがったものについても愛着がわき、管理まで行
おうという動きにつながり、コミュニティ活動にもつながっていく。
また、神戸市では、震災前から市民・事業者・市の役割分担・連携の重要性を様々な行
政分野で積極的に進められてきた。復興過程においても、
「社会起業家」といった新しい企
業のスタイルが生み出されるとともに、「安全ネット会議」などの企業も参画した組織がで
きてきているなど、市民だけでなく、企業も主役となる取り組みも生まれてきた。
人と人のつながり、地域コミュニティの重要性については、今回行ったワークショップ
でも多くの意見が出されたところであり、社会と人を支えるのは人であり、そのつながり
であるという認識が今後とも重要である。
【関連する復興過程の取り組み】
○協働で取り組むまちづくり手法の確立
まちづくり条例制定以来、地域の住民、事業者等により「まちづくり協議会」を立ち上
げ、地域の将来像を「まちづくり提案」としてまとめ、市民・事業者、専門家、行政が協働
でまちづくりを進めてきた。この方式は、震災後の復興まちづくりにおいても有効に機能
し、協働のまちづくりの手法として定着してきた。震災復興事業においては、事業の決定
自体は行政が行ったが、その後、まちづくり協議会で具体的な内容についての検討が重ね
られ、まとめられたまちづくり提案に基づいて、各地区の特性を活かしながら事業が進め
られてきた。このような復興まちづくりの経験を教訓として、神戸市においては、事業計
画をまとめてから地元に説明に入るのではなく、課題の把握段階から地域とともに検討す
る「今後の神戸の都市づくり」という新たな取り組みが始められている。
○住民による地域マネージメント
復興まちづくりでは、ワークショップによる公園づくりやまちづくり提案に基づくせせ
らぎの整備など、これまでとは違った特色あるまちづくりが進められてきた。このように
参加型でつくられた公園やせせらぎには自然と愛着がわき、その管理も地元の住民が自ら
行うことにつながり、地域のコミュニティづくりにも資するものである。地域の住民が常
にまちのことを考え、ルールを作ったり、公共施設の管理を行ったり、地域をマネージメ
ントしていこうとする動きが出てきている。
○企業活動の新しいあり方の展開
企業活動についても、社会との関わりの中での新しい動きが芽生えてきている。震災以
降のコミュニティビジネスから出発して、いわゆる「社会起業家(ソーシャル・エンター
プライズ)」が生まれてきており、まちづくりと連動しながら活動が行われてきている。ま
た、経済活動だけでなく社会活動を通じて長期的な視点で利益をあげていく考え方をもっ
た企業の活動が、震災以降出てきている。
○防災面での産学官の連携
震災前からコープこうべとの間で締結していた「緊急時における生活物資確保に関する
協定」が震災時に機能した。当時、現地に駆けつけた全国 85 におよぶ生協は、このコープ
207
こうべの協定に学び、各自治体との協定締結の取り組みを広げていった。このような連携
は、震災以降さらに広がり、平成 13 年4月に産学官の連携による「神戸安全ネット会議」
が設立されている。この組織は、企業・研究機関・行政による研究活動・連携体制の構築
による危機管理能力の向上を目指しており、帰宅困難者支援実験など産学官の組織ならで
はの実践的な取り組みが行われている。
○「復興」とは、新しいシステムに挑戦していくことである。
震災以降、ゼロからの出発の中で、神戸では様々な新しいシステムが構築・提案されて
きた。行政施策としては、地域見守りやエンタープライズゾーンなどが代表例であるが、
地域から「負担者自治」や「神戸コミュニティクレジット」など、新しい時代に先駆けた
事例が生まれてきている。
「これからの神戸づくり」にあたっても、新しいシステムを構築・
提案していくこと、またそれに挑戦していく姿勢が重要であるということは教訓とすべき
テーマである。
【関連する復興過程の取り組み】
○地域見守りなど高齢者支援に関する新たな取り組み
単身高齢者の見守り活動については、震災前から行われてきたものであるが、震災復興
の過程の中で必要性が高まり、一般的な制度として確立されたものである。特に、神戸の
地域見守りの取り組みは、国の事業は安否確認が中心であるのに対し、お茶会等を通じて
の近隣の共同生活・コミュニティづくりや自治組織づくりを側面的に支援するなど、コミ
ュニティワークにも取り組んでいることが特徴であり、「神戸市型LSA」ともいうべき、
新たなLSA像が全国に発信されている。また、これを雛型に平成 13 年度から新たにあん
しんすこやかセンター(在宅介護支援センター)に見守り推進員を配置し、全市的に見守
りができるコミュニティづくりを進めており、見守りの支援を災害公営住宅等から一般地
域まで拡大して地域を網羅した意義は大きい。このような地域見守りの取り組みは、超高
齢社会を迎える日本社会で求められる対応を先取りする取り組みであり、これからも神戸
から全国に発信していくべき内容である。
また、震災では大量の仮設住宅を提供されたが、その中には 2 階建てでライフサポート
アドバイザーが配置された「高齢者・障害者向け地域型仮設住宅」が神戸市からの提案で
新たに認められた。阪神・淡路大震災までは、仮設住宅は 1 階建てが原則である中、これ
自体が新しい取り組みであった。このような新しい仮設住宅での住まい方が、建築家や地
元のNPOなどのボランティア的な協力を受けて、入居者の能力に応じた負担等の資金の
捻出などにより、グループホームへと発展した事例も生まれた。
○障害者の就労支援に関する新しい取り組み
社会福祉法人プロップステーションでは、コンピュータを活用して、チャレンジド:
challenged(障害のある人)の自立と社会参加、とりわけ就労の促進や雇用の創出を目的
に活動が行われている。チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(C・C・P)と
208
して、プロップステーション、株式会社フェリシモ、兵庫県、神戸市が協働で行う知的障
害者の自立支援を目指すプロジェクトが始まった。これは兵庫県内の小規模作業所、授産
施設の製品を、品質やデザイン面で専門家の目を通して更なる向上を図った上で、カタロ
グやインターネットで全国に向け販売を行うものである。
「福祉就労」と言われる場を「本
当の働く場」にしようという全国で初めての試みであり、既に、さをり織り、クッキーの 2
つの商品販売が始まり、好評を得ている。
○地域づくりの資金調達面での新たな取り組み
地域づくりにおける資金調達面での先駆的な取り組みとして、三宮センター街での防犯
活動における取り組みや、南落合における警備員雇用、北須磨団地における兵庫労働金庫
による自治会費徴収などの事例がある。このような先駆的な取り組みの成果を踏まえ、様々
な地域に広がっていくことが期待される。
○エンタープライズゾーンに向けた取り組み
「神戸市復興計画」で位置づけたエンタープライズゾーンの考え方を地元自ら実現する
ため、固定資産税の減免措置などを位置づけた「神戸起業ゾーン条例」を制定したことは、
国が進めている構造改革特区に先駆けた取り組みとして重要である。また、平成 14 年 10
月には医療産業の集積を図るパイロット・エンタープライズ・ゾーンを設定し、20 年以上
の期間を定めて土地を貸し付ける場合において、契約締結日から 10 年を経過する日まで、
貸付料を免除する制度も設定されている。このような取り組みは民間活力を引き出す制度
として、他地域からも注目を浴びているものである。
○神戸コミュニティクレジットの取り組み
これは、
「自立・自助による被災地経済の再生」を目的に被災企業等の自発的な連携によ
り設立された会が取り組んでいるもので、この仕組みの特徴は、地域社会において互いに
信頼関係にある企業等が、相互協力を目的に資金を拠出し合い連携することで、全体とし
て高い信用を創造し、資金調達の円滑化を図ることにあり、社会的な意義をもった活動と
して全国的に注目されている試みである。
○既存施設のNPOへの管理委託による芸術交流・発信拠点化
文化の面では、旧神戸移住センターを活用したCAP HOUSEの活動があげられる。
旧神戸移住センターは、1928 年に「国立移民収容所」として設置、1971 年に廃止された後
は神戸市に移管され、看護学校及び看護婦寮として 1990 年まで利用されてきた。この建物
は、2008 年にブラジル移民 100 周年を迎えるのを機に国により「海外日系人会館」として
整備してもらうことを目標としているが、その間の暫定的な活用として、移住資料の展示
などを行うだけでなく、芸術の交流・発信の拠点として活用している。建物管理等を芸術
団体である「芸術と計画会議」(C.A.P)に委託する一方で、芸術活動についてはC.A.P
が独自の活動として、イベント、展示会などを自らの経費で行っている状況にあり、行政
とNPOがうまく連携した新たな利用形態といえる。
209
(3)震災と復興過程の教訓を踏まえた「これからの神戸づくり」の基本姿勢
以上、「震災の教訓」では安全都市に関わりの深い教訓が、「復興過程の教訓」ではより
全体的な方向性を示す教訓が出てきた。これらは、互いに共通する部分が多々あり、それ
らを最大公約数的にまとめると、平成 11 年度の「復興の総括・検証」で確認された「自律
と連帯」の考え方に集約される。
震災を契機とした価値観や生き方の変化によって、「自律と連帯」の意識が高まり、それ
が復興過程での新しい取り組みにつながってきている。その特徴は、
「人の力」や「地域の
力」によって進められている点にあり、「市民参画・協働のまちづくり」が成果を生んでき
ている。この中では従来はあまり見られなかった企業の社会的貢献が広がっているのも震
災後の特徴である。
市民参画・協働のまちづくりが進んできた背景には、一人ひとりの個人の力(人的資本)
に加えて、互いの協力を促進する規範やネットワークといった特徴をもつ社会組織の存在
(いわゆる「ソーシャル・キャピタル」)によって、その推進力が生まれてきたことに注目
する必要がある。
「これからの神戸づくり」にあたっては、これまでの震災復興期における個別課題の対
応に成果をあげた「市民参画・協働のまちづくり」を、今後、初動期から第2ステージの
実践期に移していく観点から、より持続的で総合的に展開させていくために、地域レベル
だけでなくグローバルな関係性も含めて、水平的で開放性の高いネットワークとしての「ソ
ーシャル・キャピタルの醸成」を図っていくことが重要な課題となる。
なお、「ソーシャル・キャピタル」は、市民・企業が自発的に築き上げる社会関係の中に
存在するものであり、行政は、その醸成のきっかけづくりのための環境整備を通じて、促
進役の役割を果たすことになる。市においては、震災以降、区行政の充実や経営品質向上
の取り組みの着手など、そのかたちを変えつつあるが、このような方向性は今後も伸ばし
ていくべきものである。
「ソーシャル・キャピタル」とは
物的資本や人的資本と並ぶ新しい資本の概念として注目されているもので、「社会的資本」「社会関係資
本」
「市民社会資本」とも呼ばれている。
「ソーシャル・キャピタル」は、
「社会的なつながり(ネットワー
ク)とそこから生まれる規範・信頼感」であり、人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性
を高めることのできる社会組織の特徴と定義される。
神戸市の事例でいえば、たとえば、市民生活分野における、ふれあいのまちづくり協議会、民生委員、
ボランティアとの連携による「小地域見守りネットワーク」、都市活動分野における、互いに信頼関係にあ
る企業などの連携による「神戸コミュニティ・クレジット」
、すまい・まちづくり分野における「まちづく
り協議会」や「コンパクトタウンケーススタディ地区」、安全都市分野における「防災福祉コミュニティ」
や産官学連携による「安全ネット会議」などが、「ソーシャル・キャピタル」の事例といえる。
210
第2節 教訓の継承・発信のしくみ
神戸の市民は、震災で甚大な被害を被ったが、その一方で、地震発生時やその直後、さ
らには復旧・復興の過程では、貴重な経験をし、多くの教訓やノウハウを得た。震災から
得た貴重な経験や教訓を安全都市づくりをはじめとして、
「これからの神戸づくり」に生か
していく必要がある。また、経験や教訓を、震災を体験していない次世代の子供たちや、
神戸以外の各方面に広く伝えていく取り組みも求められている。
前節で導き出した震災と復興過程の教訓を、神戸に今住んでいる人々が再確認するとと
もに、さらに将来の神戸市民や国内外の人々に継承・発信していくことは被災地の責務と
もいえるものであり、ここでは、そのしくみについてこれまでの取り組み状況と今後の方
向性について整理する。
1.市民主体の継承・発信
(1)市民一人ひとりによる継承・発信
市民は、震災やその復興過程の中で、一人ひとりがそれぞれに異なる体験をし、これま
で様々な立場で自らの経験を伝えてきたものと考えられる。これからも、市民一人ひとり
が自らの経験を風化させず、その教訓の語り部として、次世代に継承していくとともに、
内外に発信していくことが重要である。これは、一人ひとりの心がけの問題であるが、教
訓を継承・発信していくしくみとして最も重要なことである。
(2)地域による継承・発信
長田区では、これまで個別のまちづくり組織で行われてきた修学旅行生の受け入れを、
ネットワーク化する組織として神戸長田コンベンション協議会が平成 15 年4月に設立され、
復興まちづくりや商店街の取り組みを見学する修学旅行生の受け入れが積極的に行われて
いる(平成 15 年4∼6月 18 校、約 1,700 人)。
今後、このような取り組みをはじめとして、市民が日常生活に密着した行事などの場を
通じて、各世代がそれぞれの役割を分担しながら、震災の教訓の継承に継続して取り組ん
でいくことができるようなしかけづくりが重要である。
2. 行事等による継承・発信
神戸 21 世紀・復興記念事業を機にNPO法人阪神淡路大震災「1.17 希望の灯り」で取り
組まれている「復興モニュメントマップ作成」や「ひまわりウォーク」といった行事や、
「メ
モリアルコンファレンス・イン・神戸」、「地域防災シンポジウムin神戸」など、震災の
経験・教訓の継承・発信に関する取り組みが毎年行われてきた。
このような行事については、震災の風化が進まないよう、震災 10 年を経た後も継承され
211
ていくことが望まれる。
【市民による震災関連周年事業の件数】
1 年目
2 年目
3 年目
4 年目
5 年目
6 年目
7 年目
8 年目
72
65
73
69
80
70
63
72
(財)阪神・淡路大震災記念協会調べ
3.施設による継承・発信
震災以降、公園や街角、学校などに数多くのモニュメント、慰霊碑、追悼碑が、個人や
自治会、学校、企業などによって建てられている。このような震災モニュメントは市内に
126 ヵ所(平成 15 年 6 月末現在)設置されており、亡くなった方々への鎮魂とともに、次
代を担う人々や後世に伝えるという意味で重要な役割を担っている。また、震災の被災状
況や復興の過程を広く後世に伝えることを目的として、神戸港震災メモリアルパークが整
備されている。これは、メリケン波止場の一部を震災で被災したままの状態で保存してい
るものであり、海洋博物館内の震災関連展示とともに、地震の衝撃を伝えている。
平成 14 年4月にオープンした「人と防災未来センター」では、阪神・淡路大震災で起こ
ったことや、子供達に伝えなければならないことを学習する施設として、いろいろな知恵
や知識をわかりやすく整理して、災害に強いまちづくり、地域づくりに役立つ取り組みを
行っており、入館者は平成 15 年 9 月に 50 万人を超えたところである。
今後、整備が予定される施設としては、「(仮称)神戸震災復興記念公園」がある。震災
の経験と教訓を後世の人々に継承するため、「みなとのもり公園」を基本理念に復興の記念
事業として整備される予定であり、市民によるワークショップを通じながら市民の発意を
活かす場として将来にわたって創りつづける公園をめざすこととなっている。
震災の教訓を広く国内外に発信するために施設が果たす役割は大きく、
「人と防災未来セ
ンター」や、今後整備予定の「(仮称)神戸震災復興記念公園」等は、今後もその活用や機
能充実を図る取り組みを継続していく必要がある。
4.行政による継承・発信
(1)市職員等による継承・発信
市の職員は、市民とともに震災やその復興過程の課題に直面したという経験を有してお
り、持てる経験やノウハウを生かしていくことが、将来の災害や復興に役立つことになる。
これまでも、震災で緊急対応や生活再建に従事した職員のトルコや台湾などの被災地への
派遣も行われてきたところであるが、現在、市では、被災地支援も視野に入れ、震災を経
験した職員を登録する職員震災バンクの整備が行われている。また、市の教育委員会では、
他都市の教育委員会や学校の要望に応じて現地に出向き、動画などのデジタル情報を活用
して、学校防災・危機管理研修などが実施されている。
職員が、国内外からの問い合わせや来訪者への応対、各地域での研修や講演の実施など
212
により、震災の経験や教訓を伝えることは、震災でお世話になった方々への感謝の気持ち
を伝えることになるというだけでなく、自らの震災や復興の経験を風化させないという意
味でも重要である。
(2)教訓を生かした制度等の新設・改正
震災後、改定された地域防災計画の中では、震災の経験やノウハウを生かされ、要援護
者対策やボランティア活動支援など、従来の地域防災計画にはなかった新たな対策が位置
づけられた。これらの内容は、震災の教訓を踏まえた地域防災計画として、全国の同計画
のお手本となってきた。この事例だけでなく、震災の教訓が生かされて、国の制度が新た
に創設されたり、従来の制度が改正されたものは多い。
これらの制度については、未だ十分なものとなっていないものもあるが、今後とも、震
災の教訓を継承・発信する中で、これらの制度のより一層の充実や新たな制度創設、既存
制度の改正が図られていくことが望まれる。
【教訓が生かされた国の制度(主なもの)】
市民生活分野
「被災者生活再建支援法」(平成 10 年 5 月)
「特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)
」(平成 10 年 12 月)
都市活動分野
「構造改革特別区域法」
(平成 14 年 12 月)
すまい・
「建築物に対する耐震改修の促進に関する法律」(平成 8 年 10 月)
まちづくり
分野
「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」
(平成 9 年 11 月)
「建築基準法」の改正(平成 10 年 6 月)
「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(平成 14 年 12 月)
「区分所有法」の改正(平成 14 年 12 月)
安全都市分野
「災害対策基本法」の改正
・災害時における緊急車両の通行の確保のための措置(平成 7 年6月)
・内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部の設置の弾力化等の災害
対策の強化(平成 7 年 12 月)
「消防組織法」の改正(平成7年 10 月)
5.継承・発信の基礎となる震災関連資料の収集・整理
震災後、行政機関や各種団体から復興に関する記録誌が発行されるとともに、行政や大
学、図書館などが震災関連資料の収集・整理が行われてきた。例えば、「人と防災未来セン
ター」のオープンにあたっては、ビラ、チラシ、ノート、メモ、写真、避難所で使用され
たものなどの、いわゆる一次資料を中心に収集し、約 16 万点の資料の収集が行われた。
しかし、時間の経過とともに、震災の記憶は薄れ、震災体験者は減っていくことが考え
られ、震災関連資料の収集・整理を早急に進めていく必要がある。
213
6.効果的な継承・発信の推進
震災の経験や教訓の継承・発信に関しては、さまざまな主体が多様な内容・手段により
取り組みを行ってきている。今後、伝えていく場としての家庭・地域・学校や、発信する
側としての市民・事業者・行政など、内容に応じて、継承・発信が効果的に行われるよう
なコーディネート機能の充実が求められている。
また、今回の「復興の総括・検証」は、震災復興に向けたさまざまな取り組みの成果を
明らかにし、それを国内外に発信していくことが目的のひとつである。市民・事業者・行
政が一体となって、震災 10 年に震災の教訓等を継承・発信していく必要がある。
【震災と復興過程の経験・教訓の継承・発信に関する意見】
○区別ワークショップでの意見
「震災のことを子供たちに語り継いでいくことが必要である。」「親の言うことを伝えてい
くことが大切。」「震災の歴史や体験を世界や後世に発信すべき。」「震災体験を世界に発信
できたときが復興と言える。」
○耐震関連専門家の意見
「日ごろの備えや隣近所とのコミュニケーションの重要性など、震災で明らかになった必
要なことを情報発信すべき。」
○まちづくり協議会関係者の意見
「こんなに早く復興したのは奇跡的であり、すごいことだということを発信すべき。」
○学長との懇談会での意見
「海外では『神戸地震』といわれている。震災の教訓を海外にも発信すべき。」
○東京の防災関係者との意見交換会での意見
「神戸は発信できるネタをたくさん持っているにもかかわらず、それを生かしてなく、内
向きすぎる。神戸以外の人は、震災のことをしゃべってくれる人を待っている。
」
214
第3節 市民・事業者と協働する行政のかたち
震災復興過程の中で、市民の持つ力の大きさが認識されるようになるとともに、地域に
おける生活上の課題や住民の価値観も多様化してきており、市民との協働について新しい
あり方の展開が必要になりつつある。このため、市民サービスの多様な供給主体の中で、
ボランティア・NPOをはじめとする市民の力が十分に発揮されるよう支援を行ったり、
行政の計画段階、実施段階、評価段階のそれぞれの段階での市民との協働と参画をすすめ
るとともに、窓口業務や情報提供の質の向上など行政サービスの充実が必要である。また、
復興過程における神戸は、来るべき日本社会を先取りしたとも言われており、今後とも広
域的・中長期的課題への対応にあたっては、先駆的取り組みが重要である。
このような方向は、第 1 節で述べた「これからの神戸づくり」の基本姿勢として重要な
「市民参画・協働のまちづくり」や「復興過程の教訓」の一つである「新しいシステムに
挑戦していくこと」と相通じるものである。
ここでは、震災と復興過程の教訓を踏まえて、
「これからの神戸づくり」に必要な行政の
かたちについて、これまでの取り組み状況と今後の方向性を整理する。
1.協働と参画によるまちづくりの推進
阪神・淡路大震災は、住民、ボランティア、NPOなど多様な市民が「公」を担う主体
となった歴史的転換点であるとともに、行政の限界を知り、市民自らが動き、支えあう尊
さを認識する契機となった。神戸市では、震災前の平成5年度に策定されてた「新・神戸
市基本構想」において、全国に先駆けて「協働」という考え方が打ち出されたが、この考
え方がまさに現実のものとして実感されたのが、震災からの復興過程であるといえよう。
また、震災後の地方自治を巡る大きな動きとしては、平成 12 年4月の地方分権一括法の
施行に伴い、自治体では住民自治への模索が始まり、自分たちのまちづくりを自分たちで
考える「協働と参画」の動きが見られるとともに、近年、PDCA(計画・実行・評価・
改善改革)サイクルの各段階において協働と参画の取り組みが進められている。
今後、「これからの神戸づくり」にあたって、協働と参画によるまちづくりをさらに推進
していくことが重要であるが、特に、当面は下記の点に留意していく必要がある。
(1)協働・参画3条例の制定
多様化する市民ニーズ、地域課題に的確に対応し、一人ひとりの「市民が主役のまち」
を実現するため、市民・地域の力を最大限に発揮できる協働と参画の仕組みづくりが必要
であるという考えのもとに、市政の計画・実施・評価の各段階における市民と行政の協働
と参画の仕組みとして、現在、神戸市では協働・参画3条例の制定が進められている。
各段階の仕組みを定める「協働・参画3条例」の制定にあたっては、市民によるワーク
215
ショップでの意見や検討会での議論が十分反映される必要がある。
①協働と参画のパブリックコメントに関する条例
②協働と参画の市民・地域活動の支援に関する条例
③協働と参画の行政評価に関する条例
特に、市民・地域活動の支援に関する条例については、その制定後は現行の支援に関す
る関連条例等の関係を踏まえて、実質的に協働・参画が図られるようにする必要がある。
条例づくりワークショップでの意見(テーマ:市民参画における市民の役割・行政の役割
とその実現のための手段)
「地域への愛着が参加へのスタートである。」
「市民の自律と連帯が協働と参画の前提であ
る。」
「住民を組織化し、住民自ら合意形成することが大切だ。行政はその支援をすること
が必要だ。」
「行政は、組織としての責任(範囲の明確化、継続性)を果たすとともに、各
段階でわかりやすく情報の提供、公開を行うことが必要だ。
」
「市民が市政に参画しやすい
しくみが必要だ。」
(2)区役所の総合調整機能等の充実
最も身近に住民と接している区長による区の個性を生かした地域主体のまちづくりをさ
らに進めるため、平成 15 年度に組織改正等が行われた。この他、出前トークによる対話型
の情報提供や、ITを活用した行政サービスの高度化についての取り組みもなされている。
今後、地域主体のまちづくりがより内実のあるものとなるよう、区役所の総合調整機能等
の充実が必要である。
行財政改善懇談会(平成 14 年度第1回懇談会)で出された意見
「地域別の予算がない。もっと区行政に財源を。地域別予算の捻出を。それを受けて考え
ることにより、市民は何をすべきか、市民の責務が現実性を帯びてくる。身近に予算を感
じる仕組みが必要。」
(3)より市民ニーズに対応した情報公開
復興への取り組みを進めていくなかで、地域の課題を解決していくためには、市民・地
域の知恵と力が必要であると再認識された。そこで、市民と市の相互理解を深め、市民・
地域の声を市政に反映させるため、市民と行政による対話型の手法を活用し、より市民ニ
ーズに対応した情報公開を行う必要がある。
また、引き続き、質の高い効率的な行政システムを構築するため、IT(情報通信技術)
を活用したシステムづくりを進め、市民サービスの向上に取り組んでいくことが必要であ
る。具体的には、電子申請・届出・申告、電子決済・納付、電子入札等の実現を図り、市
民の利便性向上に努める必要があるが、その際は、急速な情報化の進展や、市民の個人情
報の保護に十分留意する必要がある。
216
2.行政の経営品質の向上
平成 14 年 11 月、「神戸市行財政改善懇談会報告書−財政再生へ向けたゼロベースからの
改革−」が取りまとめられ、①市民本位、②補完性、③情報公開という3つの視点から行
政の経営品質向上を目指して改革に取り組むべきとの方向性が打ち出された。
経営品質とは、リーダーシップ・顧客理解・戦略など様々な視点から組織活動の質を高め
ていこうとする取り組みである。神戸市では、経営の質全体を高めて、神戸市の使命「市
民のくらしを守る」を実現するため、政令指定都市として初めて経営品質に着手した。14
年度には7つのモデル職場が活動を開始し、15 年度から本格展開が進められているところ
であるが、今後引き続き取り組みを進める必要がある。
また、平成 14 年度行財政改善懇話会報告書にも位置づけられているとおり、行財政改善
の目的は、「地域の活性化を通して“市民満足度の向上=このまちに住んでいてよかったと
思えること”にある」。市民が満足を実感できるためには、行政の活動そのもの(アウトプ
ット)に着目するのではなく、あくまでも市民の視点に立っての成果(アウトカム)が重
要と考えられる。今後、行政評価における施策レベルでのアウトカム指標の導入を検討し
ていく必要がある。
3.時代の変化に対応した役割分担の再認識
時代の変化に対応し、市民にとっての最適の質とコストを意識した、市民と行政の役割
分担を再認識していく必要がある。その際には、サービスの質の確保とそれを担保する評
価のしくみづくり、費用対便益効果及び適正な受益と負担、時代の変化に柔軟に対応した
サービス提供方法などを考慮し、役割分担を図っていく必要がある。
【児童館運営に関する事例】
児童館運営の民間・地域団体への委託化が進められ、より市民ニーズに応じた、地域特
性を生かした運営が行われている。平成 13 年度から、新たに整備した児童館を、より地域
に密着した弾力的な運営という観点から、同一小学校区にある保育園など地域と密接な関
係のある法人・地域団体に委託している。民間委託児童館においては、多忙時には保育園
職員の応援や保育園の備品・施設利用など、園の持てる人材・施設を活用して運営してい
る。
また、受益と負担の考えをさらに進めた取り組みとして、北須磨団地における兵庫労働
金庫による自治会費徴収と自治会の運営や、南落合における警備員雇用などの活動がある。
これは、まちの清掃や維持・管理から身近な公園や街路樹といった公共施設の管理まで、
あるいは地域活性化のためのイベントの企画・実施や企業誘致など、地域の実情に即し、
きめ細やかな方法で質的に高い公益サービスを自分たちで決定し、負担し、実行するとい
う、いわゆる「負担者自治」の考え方に立った活動である。このような「負担者自治」の
考えを取り入れていくことを検討していく必要がある。
217
4.様々な主体が参画できるまちづくり
「市民・事業者が協働する行政のかたち」のためには、様々な主体が参画しやすい条件を
整えていくことが重要である。ここでは、その中でも、分野別検証の中で取り上げられて
いなかった下記のテーマについて述べる。
(1)市民・事業者との協働による男女共同参画社会づくり
平成 15 年3月に、男女共同参画社会の実現に向けて、市の目指すべき方向を示し、市・
市民・事業者の協働の取り組みを定めた「男女共同参画の推進に関する条例」が制定され
た。この条例の基本的考え方については、男女共同参画懇話会からの提言が基になってお
り、同懇話会の検討過程において、ワークショップの開催、市民意見の募集などを通じて
多くの意見が寄せられた。
男女共同参画社会の実現には、市だけでなく、市民・事業者と市が共に力を合わせて取
り組むことが重要であり、市民・事業者の自主的・主体的な取り組みにつながるような情
報発信が必要である。また、市民団体・経済団体等との連携組織である男女共同参画推進
会議などを通じて様々な市民・事業者との連携を深めていく必要がある。さらに、市の施
策は市民生活の広範囲に及ぶため、市が率先して男女共同参画の推進に取り組む必要があ
る。
(2)大学生など若年層の参画促進等
従来、若年層は地域活動等への参加度合いが低かったが、最近は、大学生が地域のイベ
ントの実行委員会に参加したり、「スクールサポーター」、児童館での環境教育、「まち美化
エンジェル」など、幅広い分野でそのアイディアや知識、行動力などを発揮した活躍が見
られるようになってきた。
大学等高等教育機関は知的資源として貴重な存在であり、近年大学生など若年層の地域
活動への参画が進んでいることから、大学等高等教育機関と地域等との連携をさらに進め
るとともに、市の事業などへの若年層の参画を一層進めていく必要がある。
5.広域的・中長期的視点に立った施策の展開
震災以降、地域独自でのエンタープライズゾーンを設けるという実験的な取り組みが行
われるとともに、医療産業都市構想の推進など将来を見据えた先駆的な取り組みが進みつ
つある。
震災復興過程で、新しい制度づくりなどに取り組んできた姿勢は、今後の行政のあり方
としても重要であり、広域的・中長期的視点に立って、規制緩和の活用などにより、新し
い発想で新しい仕組みを創造する先導的な行政の展開を図る必要がある。
218
第3章 これからの神戸づくりの方向性
「これからの神戸づくり」の方向性については、前章で震災と復興過程の教訓として出
された、ソーシャル・キャピタルの醸成による「市民参画・協働のまちづくり」をその基本
姿勢とし、本章では「これからの神戸づくり」のテーマに関する検討を行うこととする。
テーマの検討にあたっては、市民参画の場で出てきた市民・専門家の意見から、具体的
なテーマとなるキーワードを抽出し、その中から「これからの神戸づくり」の方向性を探
ることとする。
1.市民から出された意見の抽出
市民から出された意見の抽出としては、今回の「復興の総括・検証」で実施した全市ワー
クショップの意見を中心にみてみる。
(1)全市ワークショップの実施結果
今回の「復興の総括・検証」では、前回同様、平成 15 年 6 月から 7 月にかけて区別のワ
ークショップを行うとともに、各区でのワークショップの成果を持ち寄って 7 月 26 日に全
市ワークショップを行った。
これらのワークショップでは、「あなたにとって震災復興とは?」と「これからの神戸
を∼に?」の2つのテーマで、参加した市民の方々全員で意見を出し合い、それを一つの
親和図にまとめて、意見の集約を行った。また、重要項目を3つ選んで投票する「参加者
による優先順位付け」も行っている。
全市ワークショップで最終的に集約された意見についても、その場で参加者による優先
順位付けがされており、
「これからの神戸づくり」の方向性を考えるにあたって、重要なデ
ータとなると考えられるので、以下のとおり紹介する。
【 「あなたにとって震災復興とは?」】
このテーマの「参加者による優先順位付け」では高い順に、
「つながり」、
「くらしむき」、
「まち」となっており、震災5年目の際には7項目中6番目であった「くらしむき」が今
回は 11 項目中2番目になっているのが特徴的である。
「意見数」と「参加者による優先順位付け」の差が大きいものとして「防災に関する備
え」がある。「意見数」では2番目だったが、「参加者による優先順位付け」では最下位に
なった。これについては、防災は大切だという意識は持っているが、経済など生活に差し
迫った問題と比べると、優先順位としては低いものになっているではないかと推測される。
ワークショップで集約された意見の優先順位付けについて、市政アドバイザーを対象に
219
アンケート調査を行った。これによると、ワークショップでの意見と市政アドバイザー調
査による意見は相関関係がみられ、ワークショップの意見は市民全般においても妥当する
ことが確認された。なお、市政アドバイザーについてはワークショップ参加者以上に「経
済や暮らしむきの回復」のことを重視していること、
「人生観や価値観に変化が生じた」、
「震
災体験や教訓の発信」、「まちづくりは市民が主役」といった項目について優先順位が低い
ことがわかった。
全市ワークショップ(あなたにとって震災復興とは?)2003年7月26日
(N=801)
250 232
も う 二 度 と 神 戸 で 地 震 は な い と 安
心 し て い る
ぜ い た く
震 災 時 に 不 便 な 感 じ が
な か っ た
)
団 体 に 変 な 縄 張 り 意 識 が あ っ て 活
動 が 有 効 的 に お こ な わ れ て い な い
学 生 向 け の 安 い 物 件 が 少 な く な っ
た
地 震 に よ っ て 個 人 的 な 行 動 活 動 意
識 な ど が 変 わ っ た と い う こ と は な
い
住 宅 が 傷 ん で き た
後
い
民
す
や
と
の
た
と
声
魅
が
個
い
行
も
力
大
人
と
政
生
を
切
へ
い
と
ま
再
だ
の
う
の
れ
提
対
声
か
て
示
応
が
か
き
す
を
あ
わ
た
る
こ
強
る
り
防 災 意 識 が 高 ま っ た け れ ど 、 風 化
し な い よ う に 継 承 し て い く こ と が
大 切 だ
災
ら
市
直
さ
記 憶 が 薄 れ 始 め て い る か ら こ そ 、
震 災 体 験 ・ 教 訓 を 世 界 に 発 信 し よ
う
震
も
、
見
し
心 と か ら だ が 、 元 に 戻 る こ と が 復
興 だ
は
て
で
を
ら
高 齢 者 や 社 会 的 弱 者 の 生 活 を 取 り
戻 せ る よ う な 復 興 に す べ き だ
地 域 経 済 ・ 仕 事 ・ 暮 し 向 き が ま だ
ま だ で 、 事 業 形 態 が 変 化 し た
ま ち づ く り は 、 住 民 が 主 役 だ
ま ち な み は 変 わ っ た が 、 空 き 地 な
ど が 残 り 、 ま だ ま だ 整 備 が 不 十 分
だ し 、 神 戸 ら し さ が 消 え た
人 生 観 ・ 価 値 観 が 変 わ り 、 生 き 方
が 前 向 き に な っ て き た
行 政
化 し
一 方
方
神 戸
2
地 域 や 家 族 の つ な が り ・ 助 け 合
い 、 ボ ラ ン テ ィ ア が 大 切 だ と わ
か っ た
220
10
10
10
(
121
10
10
5
参加者による
優先順位付け
150
10
8
12
0
38
9
10
16
45
37
28
23
17
28
35
38
74
69
80
100
48
50
意見数
200
【 「これからの神戸を∼に?」】
このテーマでは、参加者による優先順位付けでは、「これからの神戸は経済が強く、働く
場所の多い神戸になってほしい」が1位になっており、昨今の不況の影響もあり、市民の
差し迫った課題として雇用を支える経済への関心が高いことがわかる。
また、「あなたにとって震災復興とは?」と同様に、各区から幅広く出てきているのは、
「つながり」に関する項目であり、優先順位付けでも2位となっている。3位には、「神戸
らしさ」に関する項目が入っており、震災から8年余りを経て特色のあるまちづくりに関
する関心も高まってきているのではないかと考えられる。
以上の上位3項目については、「意見数」は「神戸らしさ」
、「つながり」、「経済」の順に
多かったが、
「参加者による優先順位付け」では逆の順番になっている。
また、同様の項目について、市政アドバイザーを対象としたアンケート調査を行ったが、
このテーマにおいても相関関係がみられ、ワークショップでの意見が市民全般において妥
当することが確認された。なお、ワークショップ参加者と比較して「高齢者、障害者等へ
の福祉の充実」のことを重視していること、「まちづくりは市民が主役」、「震災体験を語り
継ぎ、経験を生かす」といった項目の優先順位が低いことがわかった。
全市ワークショップ(これからの神戸を∼に?)2003年7月26日
(N=1157)
4
1
1
26
ハ イ カ ラ ・ お し ゃ れ ・ 海 ・ 山 ・
港 が 楽 し め る 、 国 際 観 光 都 市 を
目 指 そ う
こ れ ま で の 被 災 体 験 を 活 か し た
安 全 ・ 安 心 な ま ち に し よ う
子 育 て が し や す い ま ち と は 、 地
域 ぐ る み で 子 育 ち ・ 子 育 て に か
か わ れ る ま ち の こ と だ
ま ち の 公 共 物 が 整 備 さ れ 、 も っ
と 利 用 し や す く し よ う
市 民 と 行 政 と の 新 し い か か わ り
方 を 作 っ て い こ う
自 然 が 豊 か で 花 緑 に あ ふ れ る 美
し い 都 市 に し よ う
高 齢 者 や 障 害 者 、 子 供 へ の 福 祉
が 充 実 し た ま ち に し よ う
こ れ か ら の 神 戸 は 経 済 が 強 く 、
働 く 場 所 の 多 い 都 市 に な っ て ほ
し い
人 と 人 、 地 域 と の つ な が り を こ
れ か ら も 深 め て い こ う
神 戸 の 魅 力 は 、 海 山 港 緑 ・ 文
化 ・ 歴 史 ・ 国 際 色 の 豊 か な 洗 練
さ れ 、 人 生 を 楽 し め る ま ち で あ
る こ と
ま ち の 資 源 を 活 用 し 、 地 域 ら し
さ を 大 切 に し よ う
市 民 文 化 の 豊 か な 都 市 に し よ う
ま ち づ く り は 、 市 民 が 主 役 だ 。
み ん な で 、 ま ち を つ く ろ う
震 災 の 体 験 を 語 り 継 ぎ 、 経 験 を
伝 え て い こ う
5
9
0
221
6
11
が全市ワークショップでもキーワードとして出てきたことになる。
60
68
73
65
13 9
12
24
14
27
15
27
30
36
50
99
100
130
128
112
107
参加者による
優先順位付け
150
意見数
225
250
200
(2)「これからの神戸づくり」として生かすべきテーマ
全市ワークショップで最終的に集約された項目については、市内 9 区の一般の方々から
出された意見が集約されたものとして、すべての項目が重要であるが、この中でも分野を
横断する観点からは4つの分野すべてに関連の深い項目があることに注目する必要がある
(次ページの図参照)。
具体的には、
「人と人、地域とのつながり」
「地域らしさ」
「まちづくりは市民が主役」
「市
民と行政の新しいかかわり方」といった項目であるが、これらについてはすべての分野に
関連する内容であるとともに、優先順位付けにおいても比較的上位に位置しているものが
多い。これは、前章で位置づけられた「これからの神戸づくり」の基本姿勢と同じ考え方
その他にも参加者の優先順位付けの中で上位になっている「経済、雇用の場の確保」「神
戸の魅力」といった項目や市政アドバイザーへのアンケート調査で優先順位の高い「高齢
者、障害者等への福祉の充実」については、市民の期待が特に大きいものであり、「これか
らの神戸づくり」のテーマを考えるにあたって欠かせない考え方である。
【全市ワークショップの項目と分野の主な関係】
ってほしい
人と人、地域とのつながりをこれからも深めていこう
市民生活分野
これからの神戸は経済が強く、働く場所の多い都市にな
(参加者による優先順位付け順)
神戸の魅力は、海山港緑・文化・歴史・国際色の豊かな
まちの資源を活用し、地域らしさを大切にしよう
市民文化の豊かな都市にしよう
都市活動分野
洗練され、人生を楽しめるまちであること
まちづくりは、市民が主役だ。みんなで、まちをつく
自然が豊かで花緑にあふれる美しい都市にしよう
高齢者や障害者、子供への福祉が充実したまちにしよう
震災の体験を語り継ぎ、経験を伝えていこう
ハイカラ・おしゃれ・海・山・港が楽しめる、国際観光
都市を目指そう
すまい・まちづくり分野
ろう
これまでの被災体験を活かした安全・安心なまちにしよ
子育てがしやすいまちとは、地域ぐるみで子育ち・子育
てにかかわれるまちのことだ
まちの公共物が整備され、もっと利用しやすくしよう
市民と行政との新しいかかわり方を作っていこう
222
安全都市分野
う
2.専門家から出された意見の抽出
これまで、第1章では「神戸の今」と震災との関わり、第2章では震災と復興過程の教
訓等について検証し、その中から、震災の影響度や課題の変化、「これからの神戸づくり」
の基本姿勢など、全体的な方向性について検討してきた。
「これからの神戸づくり」の方向
性を考えるにあたっては、以上の全体的な方向性に加えて、「選択と集中」の視点でより重
点を絞った方向性(戦略)をもつことが重要である。
ここでは、重点を絞った方向性を探っていくために重要になってくる専門家の意見の中
でも、特に「これからの神戸づくり」のテーマに関する意見が多く出された本懇話会及び
政策提言会議の場での意見を中心に拾い上げ、
「これからの神戸づくり」のテーマを検討す
る。
(1)「これからの神戸づくり」の基本姿勢に関するテーマ
「これからの神戸づくり」の基本姿勢については、前章において「市民参画・協働のま
ちづくり」として、「人の力」、「地域の力」や「ソーシャル・キャピタル」という考え方が
示されたが、専門家からも、これと同じく「つながり」というテーマが数多く出されてい
る。このテーマについては、専門家の中でも学識経験者や民間各種活動の実践家のいずれ
からも意見が出ており、その具体的実践事例としては、復興住宅の交流会やあいさつ運動
など各種の取り組みが紹介されている。
(2)「これからの神戸づくり」の視点に関するテーマ
「これからの神戸づくり」全般に関わる大きな概念としては、「クオリティ・オブ・ライ
フ(生活の豊かさ)」
、「住みやすいまち」、「生活文化」というテーマが複数の委員から出さ
れている。
これらのテーマについて意見の中では、「クオリティ・オブ・ライフ」がもっとも大きな
概念として示されている。また、「住みやすいまち」という点では、市民自身が住みやすい
ということもさることながら、神戸の優位性である住みやすさを内外に発信していくとい
う考え方が示されている。「生活文化」については、神戸ならではの強みを生かして新たな
付加価値を生み出していくという意見が出されている。これらの考え方については、「これ
からの神戸づくり」の全体を通じて考えていくべき視点として重要なものである。
なお、中間報告に対して行った市民からの意見・提案の募集では、ユニバーサルデザイ
ンの考え方を入れるべきという意見が出された。ユニバーサルデザインの「すべての人が、
それぞれの個性が大切にされ、一人ひとりの人間として尊重される社会であるとともに、
誰もが安心して快適に暮らせる」という考え方は、「クオリティ・オブ・ライフ」の実現にあ
たっての基礎となるものと位置づけられよう。
223
(3)「これからの神戸づくり」の重点的方向性に関するテーマ
「これからの神戸づくり」に関するより重点を絞った概念としては、震災を受けた都市
として忘れてはならない「安全・安心」の考え方が示されたほか、クオリティ・オブ・ラ
イフや生活文化の中でも特に「健康」をテーマとすべきという意見や、訪れたいまちや世
界、アジアに加えて、新しい文化の創造、多文化共生など、外との関係を重視して「交流・
融合」のテーマが出されている。
「安全・安心」については、市民の生活の最も基礎となるものであるが、外資系企業の
人から神戸は世界で最も安全な都市になったと聞いて、神戸は安全都市であるという情報
発信がされていることがわかったという意見や、ハードができれば安全かもしれないが、
ソフトがないと安心にはならないので、安全と安心の両方が必要という意見が出されて
いる。
「安全・安心」は、震災を受けた都市である神戸の優位性としてさらに高め、情報発信
をしていくという観点とともに、昨今の情勢のもとで様々な危機への対応を図る観点から
重要性が増しているテーマである。
「健康」に関しては、関係者へのインタビューの中でも、医療を中心に、病院や福祉、
スポーツ施設、公園のほか六甲山なども一体的に活用すればいい形になるといったように、
都市全体で取り組んでいく考え方が出されているとともに、それをさらに進める形で、健
康をテーマにして多くの人が集まるまちにできないか、また神戸のケーキ、パン、惣菜、
ジュースにしろ、神戸から発信するものは健康なものにしていけばいい、といった意見も
出されている。
「健康」については、市民一人ひとりの個人レベルの、身体的な健康とともに、芸術や
多様な価値観の観点から心の豊かさや健全な精神を育てるといった精神面での健康、さら
には、都市レベルにおいて 21 世紀の新しい神戸を健康の軸でデザインしていくという内容
も含めて考えていく必要がある。都市の健康という点では環境分野もその中に位置づける
こともできよう。健康をテーマとすることは、神戸市が進めているや「医療産業都市構想」、
「アスリートタウン構想」、「健康を楽しむまちづくり」を生かしていくという意味でも重
要である。
「交流・融合」というテーマは、集客観光や新しいものの創造、アジアや世界の中での
神戸の位置づけなど様々な観点からの意見を踏まえたキーワードである。150 万都市として
は「訪れたいまち」を掲げるべきといった意見や、「世界で最も安全な都市」「アジアの中
で一番住みたいまち」といった意見にあるように、「これからの神戸づくり」を考えるにあ
たっての外からの視点を意識した戦略づくりと言える。市内大学生からの提言募集におい
ても、震災時に神戸に来たボランティアの中には元居た場所へ帰っても神戸のことを気に
224
して成長を見守る「神戸人(こうべびと)」がおり、神戸を訪れる「よそ者」からたくさん
の「神戸人」を生み出す「人と出会う街・神戸」を創り出していこうという提案があった。
「交流・融合」については、①港を通じた交流を生かして発展してきた神戸の歴史的な
特性をさらに伸ばしていくといった点や、②優秀な人材を集め・育て・輩出していく知的
ネットワークの構築、③さらには、21 世紀は大交流時代であるといったことを考慮してお
く必要がある。
これらのキーワードについては普遍性をもった概念ではあるが、「神戸の今」の有形無形
の資源を生かしながら、神戸らしい展開をしていくことが重要である。
キーワードと神戸との関係でいえば、「安全・安心」についてはまさに震災を受けた都市
ならではの展開を図ることが求められるとともに、「健康」については医療産業都市構想の
進展がなければおそらく出てこなかったキーワードであろう。また、
「交流・融合」につい
ては港を通じて発展してきた神戸では従来から重視してきたキーワードであるが、価値創
造や集客観光の観点からさらに未来に向けて展開していくべきテーマといえよう。
また、これらの3つのキーワードについては、相互に関連させて進めていくべきテーマ
である。インタビューの中でも、安全・安心と健康も深いつながりがあり、安全・安心と
健康は 21 世紀の都市の魅力になる、といった意見があったが、安全都市づくりを生かした
集客観光、健康をテーマとした多くの人が集まるまちなど、様々な展開が考えられる。今
後、重点的な方向性をどう組み合わせていくかを考えていくことも重要である。
以上、「第3部
全体的・分野横断的検証」の第1章から第3章までに出された「これか
らの神戸づくりの方向性」のキーワードを整理すると、次の図のとおりとなる。
225
これからの神戸づくりの方向性
【平成 15 年度「復興の総括・検証」
】⇒
市
ワークショップ
民
参
アンケート
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒
⇒【これからの神戸づくりの方向性】
画
「
インタビュー
市民や専門家の意見
・市民・・・・・全市ワークショップ
全体的・分野横断的検証
分野別検証
・専門家・・・政策提言会議、
インタビュー 等
・
・
・
・
神
戸
の
今
」
震災の影響が残っているものについては引き続き対策を講ずる必要がある
震災から 8 年を経過した今日、震災よりも全国的・構造的課題の影響が大きい
復興過程で生まれた新しい取り組みの成果が見られるようになってきた
震災後の時間の経過とともに、新たな課題が発生している
↓
↓
これからの神戸づくりの方向性
市民生活分野
「神戸の今」と震災との関わり
・1 万人アンケート
・経済関連のデータ
・プロフィールの変化
都市活動分野
すまい・まち
づくり分野
震災と復興過程の教訓を生かす
∼震災復興を超えて∼
これからの神戸づくりの基本姿勢に関するキーワード
・震災の影響度
・震災と復興過程の教訓
・これからの神戸づくりの
キーワード
・震災と復興過程から学ぶべき教訓
・教訓の継承・発信のしくみ
・協働する行政のかたち
安全都市分野
市民参画・協働のまちづくり∼初動期から実践期へ∼
人
の
力
地域の力、人と人のつながり
ソーシャル・キャピタルの醸成
これからの神戸づくりのテーマに関するキーワード
(
︻震災以降の計画の流れ︼
住みよいまち→
神戸市復興計画
市民の生活再建
視
点
)
クオリティ・オブ・ライフ
←生活文化
(生活の豊かさ)
神戸市復興計画
安心
推進プログラム
安全・安心
協働
活力
(重点的方向性)
都市活動の再生
魅力
健
康
交流・融合
安全で安心な
すまい・まちづくり
227
Fly UP