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第 3 滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の施工

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第 3 滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の施工
第3
第
4
章
検 査 対
第
3
象
滑走路等の耐震
化工事の概要
第
3
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の施工不良等の状況について
国土交通本省、 3 地方整備局
空港の滑走路や誘導路等について、救急・救命、緊急物資輸送拠点と
しての機能及び航空ネットワークの維持、背後圏経済活動継続のため
の機能を確保するのに必要な耐震性の向上等を図るもの
1
検査の対象とし
とした契約
滑走路等の耐震化工事において東亜建設工業株式会社による施工不良
上記の契約額
78 億 3870 万円
(平成 25 年度∼27 年度)
等が報告された 5 契約
検査の背景
⑴ 滑走路等の耐震化工事の状況
国土交通省は、平成 17 年 8 月に設置した
「地震に強い空港のあり方検討委員会」
におけ
る検討結果等を踏まえ、空港の滑走路や誘導路等について、航空輸送上重要な空港では、
救急・救命、緊急物資輸送拠点としての機能及び航空ネットワークの維持、背後圏経済活
動継続のための機能を、また、緊急輸送の拠点となる空港では、救急・救命、緊急物資輸
送拠点としての機能を確保するのに必要な耐震性の向上等を図ることとした。
そして、17 年度以降、空港整備事業の一環として、滑走路等について、レベル 2 地震
(注 1 )
動による液状化を防ぐため、薬液注入による地盤改良工事
(以下
「薬液注入工」
という。
)
を
行うなどの耐震対策を実施している。既設滑走路等の地盤の液状化対策のための薬液注入
工法には、主に、浸透固化処理工法やバルーングラウト工法があり、これらは、削孔機で
地盤を削孔して、凝固する性質を有する薬液を地盤中の所定の位置に注入することで地盤
を改良する工法である。削孔方法には、鉛直削孔等の直線的な削孔のほか、空港運用に支
障を与えないよう、近隣の場所から構造物直下の地盤に向けて曲線を描いて削孔する曲が
り削孔
(図 1 参照)
がある。
(注 1 ) レベル 2 地震動
当該施設を設置する地点において発生するものと想定される地震動
のうち、最大規模の強さを有するもの
図1
曲がり削孔の概念図
削孔機
滑走路
地盤改良
曲がり削孔
(注)「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会中間報告書」を基に本院が作成し
た。
⑵ バルーングラウト工法の概要
バルーングラウト工法は、20 年に東亜建設工業株式会社
(以下
「東亜建設」
という。
)
が中
心となって開発した薬液注入工法である。
― 934 ―
薬液注入工の目的が液状化対策の場合、
「バルーングラウト工法技術マニュアル」
(平成
23 年 2 月バルーングラウト工法研究会作成)によれば、バルーングラウト工法の適用性につい
ては、改良対象地盤の土質調査結果に基づいて検討することとされていて、改良対象地盤
の薬液注入工による目標強度は、作用する地震動による液状化に対する地盤の安定性が確
(注 2 )
保できるよう、一軸圧縮強さによって設計することとされている。
(注 2 ) 一軸圧縮強さ
土質等の強度測定法である一軸圧縮試験により得られる強度で、地盤
改良工事においては改良効果の確認等に用いる。
バルーングラウト工法による薬液注入工の削孔及び薬液注入の具体的な順序は、次のと
おりとなっている
(図 2 参照)
。
(注 3 )
① 土質調査を行い、土質、細粒分含有率等から目標強度、注入率等を決定する。
② 事前配合試験を行い、目標強度を達成する薬液の濃度を決定する。
(注 4 )
③ 削孔機を使用して、ケーシングにより所定の位置まで削孔する。
④ 注入管をケーシング内に建て込み、ケーシングを引き抜く。
⑤ 薬液を注入する所定の位置の両端にゴム製バルーンを膨張させ、地山とバルーンを密
着させた後、バルーンと地山の伱間に瞬結剤を充塡して、地盤に開けた孔と注入管との
伱間から薬液が逸散するのを防ぐ。
⑥ 薬液の当該地盤での浸透性を評価するために水を使用して注水試験を行い、薬液の注
入速度及び注入圧力を決定する。
⑦ 地盤の割裂、隆起等を伴わないよう薬液注入を行い、改良体を造成する。
(注 3 ) 細粒分含有率
液状化しにくい土質である粘土分及びシルト分が地盤にどれだけ含ま
れているかを示す値
(注 4 ) ケーシング
削孔の際に使用する鋼管
― 935 ―
第
4
章
第
3
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
図2
バルーングラウト工法の概要
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第
4
章
஫ೖ؅
第
3
節
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஫ೖ口
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
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第
3
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஫ೖ口
(注)「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会中間報告書」を基に本院が作成し
た。
⑶ 施工不良等の事態の経緯
28 年 4 月から 5 月にかけて、東亜建設から国土交通省に対して、東亜建設が主体と
なってバルーングラウト工法による薬液注入工を施工した東京国際空港 C 滑走路、H 誘
導路及び E 誘導路、松山空港誘導路並びに福岡空港滑走路において施工不良及びデータ
改ざんによる虚偽報告があったことが報告された。これらの工事の契約
(表 1 参照)
の空港
別の概要は次のとおりである。
ア 東京国際空港
関東地方整備局
(以下
「関東地整」
という。
)
は、東亜建設を含む特定建設工事共同企業
体と契約を締結して、東京国際空港 H 誘導路東側他地盤改良工事
(以下
「H25 羽田 H 誘
導路等工事」
という。
)
として、東京国際空港の H 誘導路及び E 誘導路において、1,450
本の鉛直削孔等を行って 4,632,295 L の薬液の注入を行う薬液注入工を、また、東京国
際空港 C 滑走路他地盤改良工事
(以下
「H27 羽田 C 滑走路工事」
という。
)
として、同空港
の C 滑走路において 275 本の曲がり削孔を行って 12,513,400 L の薬液の注入を行う薬液
注入工をそれぞれ行うこととしていた。
イ 松山空港
四国地方整備局
(以下
「四国地整」
という。
)
は、東亜建設と契約を締結して、松山空港
誘導路地盤改良工事
(以下
「H26 松山誘導路工事」
という。
)
として、松山空港の誘導路に
おいて、158 本の鉛直削孔及び 6 本の曲がり削孔を行って 1,122,888 L の薬液の注入を
行う薬液注入工を行うこととしていた。
― 936 ―
ウ 福岡空港
九州地方整備局
(以下
「九州地整」
という。
)
は、東亜建設を含む特定建設工事共同企業
体と契約を締結して、26 年度福岡空港滑走路地盤改良工事
(以下
「H26 福岡滑走路工事」
という。
)
として、福岡空港の滑走路において、104 本の曲がり削孔を行って 6,613,367 L
の薬液の注入を行う薬液注入工を、また、27 年度福岡空港滑走路地盤改良工事
(以下
「H27 福岡滑走路工事」
という。
)
として、同空港の滑走路において、174 本の曲がり削孔
を行って 9,957,980 L の薬液の注入を行う薬液注入工をそれぞれ行うこととしていた。
表1
空港におけるバルーングラウト工法による薬液注入工を含む契約
工事名
契約額
(円)
工期
発注者
請負人
26 年 1 月 31 日
東亜・大本特定建設工事共
H25 羽田 H 誘導路等工事 1,271,439,863 平成
∼27 年 3 月 20 日 関東地整 同企業体
H26 福岡滑走路工事
H26 松山誘導路工事
26 年 6 月 30 日
東亜・本間特定建設工事共
1,278,396,000 平成
∼27 年 3 月 27 日 九州地整 同企業体
26 年 9 月 18 日
175,824,000 平成
∼27 年 3 月 20 日 四国地整 東亜建設
H27 福岡滑走路工事
27 年 5 月 25 日
東亜・本間特定建設工事共
1,819,368,000 平成
∼28 年 5 月 31 日 九州地整 同企業体
H27 羽田 C 滑走路工事
27 年 5 月 28 日 関東地整 東亜・鹿島・大本特定建設
3,293,676,000 平成
工事共同企業体
∼28 年 3 月 18 日
計
7,838,703,863
これら 5 件の契約については、いずれも、価格に加え価格以外の要素を総合的に評価し
て国にとって最も有利な入札をした者を落札者とする総合評価落札方式により契約してい
る。そして、入札時の評価の際には、発注者が示す標準的な仕様に対して施工上の特定の
課題等に関して施工上の工夫等の技術提案を求めることにより、公共工事の品質をより高
めることを期待して、工事ごとに工事品質の確保や向上に係る技術提案の評価項目等を設
定し、評価を行っている。
なお、他空港においてバルーングラウト工法による薬液注入工の施工実績はない。
今回の地盤改良工事の施工不良等の判明を受け、国土交通省は、
「地盤改良工事の施工
不良等の問題に関する有識者委員会」
(以下
「有識者委員会」
という。
)
を 28 年 5 月 31 日に設
置した。有識者委員会は、施工不良等の原因、修補、再発防止等について専門的見地から
検討を行い、同年 8 月 2 日に
「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会中
間報告書」
(以下
「中間報告書」
という。
)
として国土交通省に提出している。
公表された中間報告書によれば、本件施工不良については、表 2 及び表 3 の状況が判明
している。
表2
曲がり削孔における施工不良の概要
工事名
H26 福岡滑走路工事
H26 松山誘導路工事
H27 福岡滑走路工事
H27 羽田 C 滑走路工事
削孔位置精度(B/A)
39.9%
0%
54.8%
0%
全体箇所数(A)
2,976 か所
6本
4,560 か所
275 本
正確な位置(B)
1,187 か所
0本
2,498 か所
0本
(注) 中間報告書を基に本院が作成した。削孔位置精度とは、契約で指定した位置どおりに施工された
削孔本数又は削孔箇所数(改良体造成位置への削孔箇所数)
の割合をいう。 1 本の削孔で複数箇所の
改良体が造成されており、 0 %の工事については、本数で表示している。なお、H25 羽田 H 誘導路
等工事については、曲がり削孔は施工していない。
― 937 ―
第
4
章
第
3
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
表3
薬液注入工の達成率
工事名等
第
4
章
H26 松山誘導路工事
H25 羽田 H 誘 H26 福岡滑走
H27 福岡滑走 H27 羽田 C 滑
導路等工事
路工事
走路工事
地下道側部 地下道下部 路工事
薬液注入割合
45.0%
42.8%
48.4%
76.8%
37.7%
5.4%
改良体造成割合
5.7%
12.9%
23.3%
0.0%
1.4%
0.0%
第
3 (注) 中間報告書を基に本院が作成した。薬液注入割合、改良体造成割合とは、契約で指定した薬液注
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
入量、改良体の造成箇所数に対して、実際に施工された薬液注入量及び契約どおり造成された改良
体箇所数の割合をいう。
また、中間報告書において、発注者が行うべき再発防止策として、施工方法の選定にお
ける対応については、民間の技術審査証明制度も活用し、必要に応じ、一定の技術力を有
する機関や専門家による委員会等が当該新技術について専門的かつ客観的な評価を行う仕
組みを検討することなどが示された。また、監督及び検査における対応については、抜き
打ちによる現場での立会を監督及び検査に導入するとともに、受注者による供試体の差し
替えの可能性を排除するため、事後調査時の事後ボーリングを工事とは分離して発注する
こと、さらに効果的な確認方法の開発・導入等により、不正に対して抑止力のある監督及
び検査に向けて見直しを進めることが示された。
⑷ 監督及び検査の体制
会計法(昭和 22 年法律第 35 号)によれば、契約担当官及び支出負担行為担当官は、工事の
請負契約を締結した場合、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必
要な監督をするとともに、給付の完了の確認をするため必要な検査をしなければならない
こととされている。そして、監督及び検査の方法については、予算決算及び会計令(昭和
22 年勅令第 165 号)及び契約事務取扱規則
(昭和 37 年大蔵省令第 52 号)によれば、監督職員
は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履行途中におけ
る工事製造等に使用する材料の試験又は検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必
要な指示をするものとされており、また、検査職員は、請負契約についての給付の完了の
確認につき、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づき、かつ、必要に応じ当
該契約に係る監督職員の立会いを求め、当該給付の内容について検査を行わなければなら
ないこととされている。そして、国土交通省は、地方整備局の所掌する港湾空港工事につ
いては、
「請負工事監督・検査事務処理要ྖの制定について」
(平成 8 年港管第 872 号。以下
「監督検査要ྖ」
という。
)
に基づき監督及び検査業務を実施することとしている。
また、薬液注入工については、東日本旅客鉄道株式会社が昭和 62 年 12 月から平成 2 年
11 月までの間に施行した東北新幹線の東京駅・上野駅間の建設工事の一環としてトンネ
ルを建設する際に施工した薬液注入工において手抜きによる不正行為が発生しており、こ
れを受けて、 2 年 9 月に、建設省
(当時)
が
「薬液注入工事に係る施工管理等について」
(平
「薬液通達」
という。
)
を発出して、施工管理並びに監
成 2 年建設省技調発第 188 号の 1 。以下
督及び検査体制の充実・強化を図ることとして、薬液の注入量の確認や注入の管理及び注
入の効果の確認等について具体的な項目を定めるなどして、手抜きによる不正行為を防止
するための方策を講じたところである。
― 938 ―
2
検査の観点、着眼点、対象及び方法
⑴ 検査の観点及び着眼点
今回施工不良等が判明した 3 空港は、地震災害時における緊急物資及び人員等の輸送基
地や航空ネットワーク維持等のための重要な施設である。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、薬液注入工の監督及び検査、薬液注入
工の工法選定、技術提案の履行確認がどのように行われているかに着眼して検査した。
⑵ 検査の対象及び方法
検査に当たっては、関東地整、四国地整及び九州地整において、今回、施工不良等が判
明した前記の 5 契約
(契約額計 78 億 3870 万余円)
を対象として、契約関係書類、監督職員
に提出された報告書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行っ
た。
3
検査の状況
⑴ 薬液注入工の監督及び検査の状況
前記 5 契約の薬液注入工のいずれについても、監督検査要ྖ、薬液通達等に基づき施工
管理並びに監督及び検査を実施することとなっている。そこで、薬液注入工の施工及び改
良効果の確認としての事後調査の実施状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
ア 薬液注入工の施工計画及び事後調査の実施方法
受注者は、空港土木工事共通仕様書(平成 26 年 4 月国土交通省航空局)等に基づき、工事
目的物を完成するために必要な手順等を記載した施工計画書を監督職員に提出し、これ
を遵守し工事の施工に当たらなければならないこととなっている。この施工計画書によ
れば、薬液注入工の施工計画及び事後調査の実施方法は次のとおりとなっていた。
削孔工
各工事における削孔については、削孔機を所定の位置に据え付け、ケーシングを回
(注 5 )
転・圧入させて先端ビットの向きを制御しながら所定の深度まで削孔を行うことと
なっていて、削孔出来形として削孔長や注入位置の誤差が規格値内となるよう施工管
理することとなっている。
5 契約中、曲がり削孔で施工した 4 契約のうち、H26 松山誘導路工事、H26 福岡
滑走路工事及び H27 福岡滑走路工事の 3 契約では、施工計画書において、薬液注入
工の品質確保のための削孔位置の確認方法として、先端ビットの向き及び位置をリア
ルタイムで管理する機器を使用して、先端ビットに取り付けられた発信器
(ビーコン)
の発する電波を地上から探査装置
(ロケーター)
で受信すること
(以下、これらの機器
を合わせて
「ロケーター・ビーコン」
という。
)
により削孔位置を計測することにしてい
(注 6 )
た。さらに、より正確に削孔精度を確認するものとして、挿入式ジャイロシステム
(以下
「ジャイロ」
という。
)
を一定程度、削孔を進める度に孔に挿入して巻き上げるこ
とで削孔軌跡を計測して、軌道修正をすることにしていた。
また、H27 羽田 C 滑走路工事では、施工計画書において、硬質地盤対応の削孔機
を使用するとともに、ジャイロと併せて、先端ビットの向き及び位置をリアルタイム
で管理する機器として、先端ビットに内蔵した三次元センサにより、削孔軌道と先端
ビットの軸傾斜及び方向のデータを計測して、削孔軌道を予測してモニター画面に表
― 939 ―
第
4
章
第
3
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
示するワイヤレス式位置計測システムにより削孔位置を計測して、削孔位置を管理す
ることにしていた。
(注 5 ) 先端ビット
第
4
章
地盤を削孔するためにロッドの先端に装着するもの
(注 6 ) 挿入式ジャイロシステム
削孔軌跡として距離や角度を検出する装置
注入工
第
3
節
各工事における薬液の注入については、注水試験により求められた注入速度、注入
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
圧力等で所定の量の薬液を注入することとなっていて、所定の薬液量を注入すること
第
3
圧力を超えないよう自動制御を行い、実際の注入速度及び注入圧力をチャート紙に記
で、目標強度を達成する改良体を造成することとなっている。注入速度がある限界を
超えると地盤の割裂、隆起等を起こすことから、これを起こさずに注入が可能な限界
注入速度及びそれに対応する限界注入圧力を注水試験により確認して、実際に注入す
る際の注入速度等の薬液の注入条件等を決めて注入を実施することとなっていた。
そして、薬液の注入については、受注者が用意した集中管理監視システムにより注
入速度及び注入圧力をリアルタイムで管理することとし、限界注入速度及び限界注入
録することとなっていた。また、滑走路等の運用に影響を与えないよう地盤の割裂、
隆起等を防止するために、滑走路等の舗装面の変状に関しても監督職員が承諾した管
理方法で計測管理を行い、注入中に注入圧力の上昇又は低下が著しくみられる場合に
は、注入圧力が安定するまで注入速度を下げたり、薬液の注入を一旦止めたりするな
どの調整を行うこととなっていた。
事後調査
四国地整については、薬液注入工の契約とは別に一般競争入札により事後調査を行
う者を決めて事後調査を実施することとしていた。一方、四国地整を除く地方整備局
では、改良効果の確認としての事後調査を薬液注入工の契約の中で実施させることと
して発注して、受注者が自ら計画し、監督職員が承諾した位置において事後ボーリン
グにより試料採取を行い、一軸圧縮試験等により改良効果の確認を行うこととなって
いた。
イ 施工実態及び隠 の状況
中間報告書及び東亜建設から国土交通省に提出された調査報告書等によれば、施工実
態及び隠 の状況の概要は次のとおりとなっていた。
削孔工
曲がり削孔により施工されたいずれの工事においても、次のような問題から、設計
図書どおりの削孔ができていなかった。
H26 福岡滑走路工事、H26 松山誘導路工事及び H27 福岡滑走路工事では、ロケー
ター・ビーコンについて、計測位置によってはロケーターの受信感度が低下する箇所
があり、位置計測を正確に行えなかった。また、削孔をやり直そうとしても直前の削
孔跡にケーシングが誘導されて軌道が修正できないなどのため削孔方向のコントロー
ルが正確にできなかった。
H27 羽田 C 滑走路工事では、ワイヤレス式位置計測システムについて、実際に施
工する削孔長が約 160ⅿあるのに、削孔長が 40ⅿ程度を超えると計測が不能となっ
た。また、ジャイロがケーシング内を通過する際、ケーシングのつなぎ目等の凹凸に
― 940 ―
ジャイロが引っかかり、跳ねることにより、計測データに異常値が検出されるなど正
確な位置計測を行うことができなかった。
そして、監督職員が現場立会する際には、計測の実測値ではなく、計測データの異
常値が出た時にこれを補正して表示させる機能を用いて、計測データを改ざんし、規
第
4
章
第
3
節
格値を満たす削孔位置及び削孔長をモニター画面に表示して見せていた。
注入工
5 契約のいずれの工事においても、次のように、設計図書どおりの注入ができてい
なかった。
注入に当たり、当初は計画された注入速度で注入しようとしたが、実際には、注入
に伴い薬液の逆流や周辺地盤からの薬液の漏出、地盤の隆起等がみられたことから、
例えば、H27 羽田 C 滑走路工事の場合、設計上 8 L/分としていた注入速度を監督職
員と協議することなく、 2 L/分に下げるなど、いずれの工事においても設計上の注
入速度を下げて注入した上、所定の注入量を満たさないにもかかわらず注入時間は所
定の時間で停止していた。
そして、監督職員の現場立会時には、あらかじめ設定した値を集中管理監視システ
ムの流量・圧力操作盤のモニター画面に表示することができる機能を用いて、注入速
度等を改ざんしたモニター画面を見せていた。また、改ざんしたデータがチャート紙
に記録され、この集計により薬液の日使用量が算定されていた。
薬液の材料については、規格値を満足する数量を現場に搬入していたが、薬液の注
入ができないことにより生じた廃液や余った薬液については、産業廃棄物として廃棄
又はメーカーへの返品により処理していた。
事後調査
薬液注入工の受注者が事後調査を行った 4 件の工事については、一軸圧縮試験によ
り目標強度の確認を行っていたが、受注者が供試体を採取した後、試験所に運搬する
までの間に、虚偽の供試体とすり替えが行われていた。
ウ 薬液注入工の監督及び検査に係る通達
5 契約については、監督検査要ྖに基づき、監督及び検査が実施されており、前記の
とおり、薬液注入工については、手抜きによる不正行為の発生を契機に、 2 年 9 月に薬
液通達が定められたことから、これに基づくなどして施工管理するとともに、監督及び
検査を実施することとなっている。そして、薬液通達では、不正行為を踏まえ、薬液注
入量を正確に把握するとともに、薬液注入時における手抜きによる不正行為を防止する
などのために材料搬入時及び注入時の管理方法等の項目が定められており、主なものは
次のとおりとなっている。
材料搬入時の管理
① 受注者は、薬液の材料については、入荷時に搬入状況の写真を撮影するととも
に、メーカーによる品質証明書及び数量証明書を監督職員に提出すること
② 監督職員は必要に応じて、材料搬入時の写真、数量証明書等について作業日報等
と照合すること
― 941 ―
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
注入時の管理
① 受注者は、発注者の検印のあるチャート紙を用い、これに受注者の施工管理担当
者が日々作業前にサイン及び日付を記入し、 1 ロールごとに監督職員に提出するこ
第
4
章
と
② 注入量 500kL 以上の大規模工事においては、プラントの材料タンクから薬液配
第
3
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
合のミキサーまでの間に流量積算計を設置し、薬液の日使用量等を管理すること
③ 監督職員は適宜、注入深度の検尺に立ち会うものとする。また、現場立会した場
合等には、注入の施工状況がチャート紙に適切に記録されているかどうか把握する
こと
注入効果の確認
発注者は、試験注入及び本注入後において、規模及び目的を考慮し必要に応じて、
適正な手法により効果を確認すること
エ 監督及び検査の実施状況
各地方整備局は、受注者の施工管理を踏まえるなどして監督及び検査を実施してい
た。そして、薬液通達に定められた各項目については、次のように実施していた。
材料搬入時のウ ①及び②について、受注者から提出された搬入状況の写真、品質証
明書、数量証明書等を確認するとともに、提出された作業日報と照合していた。しか
し、数量証明書及び作業日報との照合による薬液の材料の数量確認については、前記の
とおり、一旦納入はされていたものの、その後、東亜建設により、一部が廃棄処分又は
返品されており、これらの材料搬入時の管理は、今回の不正事案に対しては、薬液の注
入量を正確に把握するための有効な手段とはなっていなかった。
注入時の管理について、ウ ①については、発注者の検印のあるチャート紙を使用さ
せ、また、施工管理担当者のサインは記入されていなかったが、日付は記入させて提出
を受けていた。ウ ②については、受注者のシステム上で集計された数値やチャート紙
の記録等により薬液の日使用量を確認していた。ウ ③については、受注者からの施工
状況検査願の提出を受けて、注入深度の検尺に立ち会うとともに、注入の施工状況につ
いて現場立会した場合には、集中管理監視システムの流量・圧力操作盤のモニター画面
の計数をチャート紙の記録内容と比較して確認していた。しかし、前記のとおり、
チャート紙に記録された改ざんデータにより日使用量が集計されており、また、注入深
度の検尺や注入について、データが改ざんされ操作盤のモニター画面上に表示されてい
るなどしており、これらの注入時の管理についても、今回の不正事案に対しては、薬液
の注入量を正確に把握するための有効な手段とはなっていなかった。
注入効果の確認のウ については、一軸圧縮試験により目標強度の確認を行っていた
が、受注者が事後調査を行った 4 件の工事については、前記のとおり、供試体のすり替
えが行われていて、適正な注入効果の確認とはなっていなかった。
また、薬液注入工において、鉛直削孔等の直線的な削孔を行う場合は、その削孔位置
については、先端までの距離と削孔角度で比較的容易に把握できるが、曲がり削孔を行
う場合は、削孔位置の把握が難しいため、施工管理が極めて重要となっている。そし
て、施工計画書において削孔長及び削孔位置等の施工管理上の規格値が示されている一
方、薬液通達には、削孔工を監督及び検査するための具体的な方法については、ほとん
ど定められていない。
― 942 ―
⑵ 薬液注入工の工法選定の状況
関東地整は、東京国際空港の運用への影響等を考慮して、H25 羽田 H 誘導路等工事の
際には、それまで同空港におけるバルーングラウト工法の施工実績がなかったことから、
また、H27 羽田 C 滑走路工事の際には、同空港における曲がり削孔を用いたバルーング
ラウト工法の施工実績がなかったことから、それぞれ特記仕様書において、薬液注入工に
ついては同空港で施工実績のあった浸透固化処理工法を前提とし、浸透固化処理工法と異
なる工法に変更する場合には監督職員と協議した上で改良効果並びに滑走路及び誘導路に
与える影響がないことが確認されているもの、かつ施工の確実性が認められたものに限っ
て工法の変更を承諾することとしていた。
そして、H25 羽田 H 誘導路等工事については、26 年 1 月 31 日に浸透固化処理工法を
前提として契約を締結したが、これに先立ち、東亜建設が 25 年 10 月から 11 月にかけて
東京国際空港旧 B 滑走路跡地で実施したバルーングラウト工法の実証実験を踏まえ、26
年 5 月 29 日にバルーングラウト工法で施工するとして契約変更を行っていた。また、H
27 羽田 C 滑走路工事については、27 年 5 月 28 日に浸透固化処理工法を前提として契約
を締結して、その後、東亜建設が 27 年 7 月から 8 月にかけて千葉県袖ケ浦市の社内の敷
地で実施した長距離の曲がり削孔についての実験結果を踏まえ、27 年 8 月 4 日に工法変
更の承諾を行っていた。しかし、東亜建設が 27 年に実施した長距離の曲がり削孔の実験
結果については、その後、東亜建設から虚偽の施工データを用いた改ざんされたもので
あったことが報告されている。
また、四国地整の H26 松山誘導路工事及び九州地整の H26 福岡滑走路工事において
は、いずれも特記仕様書において薬液注入工の工法について特定しておらず、曲がり削孔
を用いたバルーングラウト工法の空港における施工実績はなかったが、関東地整のような
特記仕様書における工法選定時の条件も明示していなかった。そして、契約締結後に受注
者からバルーングラウト工法について協議を受け、類似の薬液注入工の空港における施工
実績、バルーングラウト工法の港湾における施工実績及びバルーングラウト工法の東京国
際空港における採用実績があることから、同工法を承諾していた。
⑶ 技術提案の履行確認の状況
公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成 17 年法律第 18 号)第 3 条第 2 項において、
公共工事の品質は、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質
が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならないと規定さ
れている。そして、同法第 9 条第 1 項の規定に基づく
「公共工事の品質確保の促進に関す
る施策を総合的に推進するための基本的な方針」
によれば、発注者
(平成 17 年 8 月閣議決定)
は、競争に参加しようとする者に対し、発注する工事の内容に照らし、必要がないと認め
る場合を除き、技術提案を求めるよう努めるものとされ、一般的な工事において求める技
術提案のうち、品質管理に関しては、工事目的物が完成した後には確認できなくなる部分
に係る品質確認頻度や方法等について評価を行うものとされている。また、総合評価落札
方式で落札者を決定した場合には、落札者決定に反映された技術提案について、その履行
を確保するための措置について契約上取り決めておくものとするとされている。
各地方整備局は、前記のとおり、いずれの契約についても、技術提案に基づき、総合評
価落札方式による一般競争入札により契約を締結して、技術提案の内容を遵守し、施工し
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第
4
章
第
3
節
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
第
3
なければならないと取り決めていた。そして、例えば、H27 羽田 C 滑走路工事において
は、滑走路・誘導路の日々の供用に支障を与えないため、平面的に連続する埋土層の改良
を舗装の変状に十分配慮して行う必要があることなどを踏まえ、
「舗装変状に配慮した地
第
4
章
盤改良工の確実な施工」
について技術提案を求めるなど、工事ごとに工事品質の確保や向
第
3
節
上に係る技術提案の評価項目等を設定して、いずれも加点評価していた。
特
定
検
査
対
象
に
関
す
る
検
査
状
況
不良の原因の一部となっていたものが、H26 松山誘導路工事、H27 福岡滑走路工事及び
第
3
このうち、削孔に係る技術提案の中には、実際には提案どおり実施できず、今回の施工
H27 羽田 C 滑走路工事においてあった。
そして、上記の 3 契約におけるこれらの技術提案の施工中の履行確認は、監督職員が現
場立会を行った際に、施工状況を目視確認することにより履行内容を確認し、また、施工
終了後の最終確認は、監督職員が受注者から提出された報告書類の内容を確認し、その妥
当性から技術提案のとおり履行されたとしていた。しかし、これらの技術提案は、適切に
履行したとして発注者に虚偽の報告がされていて、実際には提案どおりに履行されておら
ず、工事品質の確保や向上に寄与していなかった。
4
本院の所見
今回、施工不良等が判明した滑走路等の耐震化のための薬液注入工は、いずれも大規模地
震時における空港機能維持のために必要な工事であり、空港機能の重要性を鑑みれば、これ
らの施工不良が及ぼす影響は極めて大きいものになりうるものである。また、前記の 5 契約
では、滑走路等の日々の供用に支障を与えないよう舗装の変状に配慮するなどの工事の品質
を確保するため、受注者の技術提案を活用することなどにより、経済性に配慮しつつ価格以
外の要素も考慮して落札者を決定している。
したがって、前記のとおり、中間報告書においても、発注者側が行うべき再発防止策が示
されているところであるが、今後、滑走路等の耐震化工事において薬液注入工を施工するに
当たっては、国土交通省において、次の点に留意して、施工の確実性を確保する必要があ
る。
ア 監督及び検査については、薬液通達による管理方法に加え、施工機械、管理システム等
の現状の施工方法に即して、削孔時及び注入時における不正行為の防止及び発見のための
方策を検討すること
イ 施工実績のない工法の選定や改良効果の確認としての事後調査に当たっては、受注者と
関係のない第三者に評価又は実施をさせるなどして、施工の信頼性を確保するよう検討す
ること
ウ 技術提案については、総合評価落札方式における落札者決定の要素であることから、そ
の履行が工事品質の確保や向上に寄与するなど適切に行われるよう、必要に応じて履行状
況の確認を徹底するよう検討すること
本院としては、前記 5 契約の今後の修補工事の実施内容等を確認するとともに、今後とも
滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の監督及び検査等の実施状況について引き続き注
視していくこととする。
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