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中国で進む石炭由来オレフィン生産事業
JPEC レポート JPEC レポート 第 39 回 2012年度 平成 25 年 3 月 19 日 中国で進む石炭由来オレフィン生産事業 中国のエネルギー需給構造の最 大の特徴は、石炭の比率が圧倒的 1.石炭に依存する中国のエネルギー需給構造 P.1 に高いことである。中国では、自 2.中国における MTO テクノロジー P.4 動車の普及に伴って石油の需要が 3.主要 MTO プロジェクト p.5 拡大し、発電燃料や民生用に天然 4.MTP プロジェクト p.12 ガスの導入も進められているが、 5.石炭由来 EG 生産プロジェクト p.13 現在でも石炭の消費量が 1 次エネ ルギー消費に占める比率は 70% と極めて高い。このため、石炭燃焼に伴う大気汚染が深刻な事態を招いており、国内で豊 富に産する石炭を利用して石油製品を生産する石炭液化(CTL)や合成天然ガスを生産する 代替天然ガス(SNG) 、ジメチルエーテル(DME)とともに、石炭からメタノールを経てエチ レンなどの基礎石油化学原料(オレフィン)を生産する石炭由来オレフィン(CTO)や石炭 由来プロピレン(CTP) 、さらに石炭由来のエチレングリコール(EG)などが商業規模のプ ロジェクトとして進められており、石炭を原料とする化学(石炭化学)産業が新たな段階 に入っている。(MTO: Methanol to Olefin) 中国は、石炭からコークスやカーバイド・アセチレン、アンモニアなどを生産する石炭 化学を「伝統的石炭化学」と呼称し、これに対して石炭液化や代替天然ガス、DME、石炭由 来オレフィンなどを「現代的石炭化学」と呼称して区別している。このうち、今回は石炭 からのエチレンやプロピレンなどオレフィン生産にスポットをあてる。 なお、石炭液化や石炭由来の合成(代替)天然ガスについては、2011 年度・第 21 回およ び第 22 回の JPEC レポート「実用段階に入った中国の石炭による石油・天然ガス代替事業 (1)/(2)」を参照。 1.石炭に依存する中国のエネルギー需給構造 中国の化石燃料の生産(BP Statistical Review of World Energy より、以下同様)は、 図 1 のように主力の石炭が 2000 年以降に大きく伸び、石油は安定的に増加、天然ガスは幹 線パイプライン敷設で急増している。 石油の生産は緩やかながら拡大しており、1996 年に 1 億 5,000 万トン、1997 年に 1 億 6,000 万トン、2004 年に 1 億 7,000 万トン、2005 年に 1 億 8,000 万トン、2008 年に 1 億 9,000 万トンを突破し、2010 年には遂に 2 億トン台に乗せ、2011 年は 2 億 360 万トンとな 1 JPEC レポート った。ただ、大慶や勝利油田など大型油田がピークを過ぎて下降に向かっており、西部の 油田や海洋油田の増産は続くが、今後の増産は期待できない。 天然ガス生産は、四川を中心に 1980 年代から 1990 年代中期まで 1,500 万 toe(約 170 億 m3)前後で推移していたが、その後は輸送網の拡充で急増、2011 年は 9,230 万 toe(1,025 億 m3)にまで拡大している。 石炭生産は、発電燃料など旺盛な需要を背景に 1990 年代後半から急増、2000 年の 7 億 6,250 万 toe(13 億 8,420 万トン)から 2011 年には前年比 8.8%増の 19 億 5,600 万 toe(35 億 2,000 万トン)に達し、この間で約 2.6 倍に増えた。 中国の 1 次エネルギー消費(図 2, BP 統計、以下同様)は、2000 年に 10 億 toe(石油換 算トン)に乗せ、2008 年段階で 20 億 toe を突破、2011 年には前年比 8.8%増の 26 億 1,320 万 toe にまで増加した。 すでに中国は 2009 年から米国を抜いて世界最大のエネルギー消費 国となっており、2011 年時点で中国のエネルギー消費は世界全体の 21.3%を占めている。 このうち石油の消費は、2002 年段階で日本を上回っており、2011 年には前年比 5.5%増 の 4 億 6,180 万トンと世界の 11.4%を占め、8 億 3,360 万トンの米国に次いで世界第 2 位 である。長期的にみれば、いずれ中国が世界最大の石油消費国になるのは確実である。 天然ガスの消費は、西気東輸や国際パイプライン、LNG 輸入基地の建設で急速に拡大し ており、2008 年にドイツを、2009 年に日本や英国、2010 年にカナダを上回り、2011 年は 前年比 21.5%増の 1 億 1,780 万 toe(1,307 億 m3)となり、世界の 4.0%を占めている。 2 JPEC レポート 中国のガス消費は、今後も大幅な上昇が続き、数年後にはイランを抜き、米国、ロシアに 次いで世界第 3 位の消費国になるものとみられる。 そして主力エネルギー源である石炭の消費は、中国が現在のような経済大国になるはる か以前の 1987 年段階ですでに米国を上回っており、 中国が世界最大の石炭消費国となって 久しい。2011 年の消費は前年比 9.7%増の 18 億 3,940 万 toe に達した。これは、エネルギ ー消費の 70.4%を占めており、世界平均の 30%以下と比べ極めて高い数字である。また、 世界の石炭のほぼ半分が中国で使用されているということも注目に値する。 このように中国の 1 次エネルギー消費構成は、2011 年時点(BP 統計)で石炭が 70.4%、 石油が 17.7%、天然ガスが 4.5%、水力が 6.0%、原子力が 0.8%である。特徴的なことは、 石炭の比率がいっこうに減少しないことである。酸性雨や大気汚染などの環境汚染対策と して、1990 年代から中国当局はことあるごとに石炭消費の抑制策を口にしてきたが、実際 には原油価格高騰とエネルギー需要の急増が、これを有名無実化し、この間のエネルギー 需要拡大の大きな部分は石炭が支えてきた。 1990 年代から 2000 年代を通じて中国のエネルギー消費構造は、近代化に伴う石油の飛 躍的な増加、 西気東輸や竣工による天然ガスの本格的な立ち上がり、 大型水力発電所建設、 新たなエネルギー源である原子力の登場により、石炭の比率が徐々にではあるが低下する とみられた時期もあった。しかし、国内資源として豊富な埋蔵量をもつ安価なエネルギー 3 JPEC レポート 源である石炭の比率が大きく低下することはなく、逆に上昇に向かう局面も出現、クリー ンコール技術などによる石炭需要の開拓もあり、今後も石炭が主力であることに変わりは ない。ただ、大気汚染の激化で単純燃焼用途は抑制されるものとみられる。 2.中国における MTO テクノロジー もともと中国は、豊富な石炭資源を活用してアンモニア・尿素肥料の生産を行うべく 1950 年代後半から石炭ガス化技術の研究を開始し、国産技術の開発とともに海外技術の導 入を進め、当初は Texaco プロセス(2004 年に GE Energy が同プロセスを買収)が多くの アンモニアプラントに採用された。その後、Shell プロセスも数多く導入された。最近で は Siemens(Sustec-Future Energy)の GSP プロセスも実績をあげ、さらに中国国産プロ セスとして華東理工大学が開発した OMB プロセスも相次いで採用が決まり、建設されたも のとしては約 10 件、受注段階も含めると 30 件程度の実績を上げている。 こうした合成ガス製造は、 アンモニア以外に多くのメタノール製造プラントや石炭液化、 石炭ガス化発電などにも利用されることになり、現在の石炭化学隆盛に繫がっている。 合成ガスからのメタノール生産についても中国は多くの経験を積んでおり、Lurgi や Topsoe、Johnson Matthey など海外技術のほか国産技術も有している。 MTO プロセスは、国家プロジェクトとして開発が進められ、中国科学院大連化学物理研 究所(DICP)に洛陽石油化工工程公司(LPEC)が協力して開発した DMTO(Dalian Methanol to Olefin)プロセスがある。DMTO プロセスで使用する触媒は、正大能源材料(大連)公 司が 2,000t/y のプラントで生産している。 ちなみに、DMTO プロセスは、DICP が設立したライセンス管理会社である陝西新興煤化 工科技発展有限責任公司(SYN)と CB&1 Lummus Technology との間で、同ライセンスを共 同で販売する契約に調印しており、 DMTO にLummusのMTOリカバリー技術を組み合わせて、 石炭化学企業などへワールドワイドなマーケティングを展開する。 また、Sinopec も上海石油化工研究所(SRIPT)に中国石化工程建設公司(SEI)および北 京燕山石化公司が協力して S-MTO (Sinopec Methanol-to-Olefins)プロセスを開発して いる。2007 年に北京燕山石化公司で 100t/d のテストプラントを建設し、その後、中原石 油化工公司で商業プラントを建設した。使用する触媒は、中石化催化剤上海分公司が生産 している。 海外技術としては UOP と Norsk Hydro の開発した UOP/Hydro プロセスが知られており、 中国でも受注実績を重ねつつある。さらに、この UOP/Hydro プロセスに Total の OCP (Olefin Cracking Process)を組み合わせることで、副生する C4、C5 オレフィンを処理 してエチレン/プロピレン収率をさらに向上させることができる。Total はこの MTO/OCP 技術をベルギーFeluy に建設したプラントで実証しており、中国でも中国電力投資集団公 司(CPI)と共同で内モンゴルのプラントに適用する。 4 JPEC レポート (16) (3) (1) (14) (15) (2) (13) (8) (6) (5) (9) (10) 3.主要 MTO プロジェクト(図 3,表 1) (1)河北省 ①久泰能源集団公司:唐山市曹妃甸工業区管理委員会と DME、MTO などからなる大規模石炭 化学工業基地の建設に合意。2015 年の全面完成をメドに、3 期計画で 1,000 万 t/y のメタ ノールと 100 万 t/y の MTO プラント、さらに 300 万 t/y の DME プラントを建設する。 (2)山西省 ①中国石化南京化工公司/山西蘭花煤炭実業公司:山西省晋城市に 180 万 t/y のメタノール プラントと 60 万 t/y の MTO プラントを建設する。プロセスは、南京化工が独自開発した。 ②山西陽煤集団公司/孟県化工/孟県興欲煤業:山西省孟県で 60 万 t/y の MTO プラントを計 画している。他にアンモニア・尿素プラントも建設する。 ③大同煤鉱集団公司: 300 万 t/y のメタノールと 60 万 t/y の MTO プラント、さらに各 30 万 t/y のリニア低密度ポリエチレン(LLDPE)とポリプロピレン(PP) 、24 万 t/y のポリア セタール(POM)プラントも建設する。第 1 期は 2014 年完成予定。 5 JPEC レポート 6 JPEC レポート (3)内モンゴル自治区 ①神華包頭煤化工公司:神華集団公司が 76%、上海華誼集団公司が 24%を出資する合弁事 業。MTO と誘導品プラントを計画、2006 年 12 月に政府認可を取得した。2010 年 9 月に 180 万 t/y のメタノール、60 万 t/y の MTO、30 万 t/y の LLDPE、30 万 t/y の PP、24m3/d の空 気分離、 100MWの発電など各プラントが完成した。 プロセスは石炭ガス化がGE(旧Texaco) 、 メタノールが Davy Process Technology(DPT) 、MTO は DICP と SYN、LPEC が共同開発した DMTO 技術、MTO プロセスのうちリアクターと触媒を SYN、オレフィン回収技術は Lummus、 エンジニアリングは LPEC が担当した。LLDPE は Univation Technologies の UNIPOL 法、PP は Dow Technology Licensing(DTL) 。試運転は 2010 年 8 月から 9 月まで行われ、10 月と 11 月の調整後、12 月から正式生産に入った。神華集団公司は、内モンゴルのほか陝西省で も CTL や MTO/MTP プロジェクトを進めており、オレフィンなど石油化学製品を 2015 年に 500 万トン、2020 年に 1,000 万トン生産する計画である。 ただ、中国環境保護部は 2013 年 1 月 22 日、神華煤制油化工有限公司・包頭煤化工分公司 が操業している CTO プラントについて操業停止を命じるとともに 10 万元の罰金を科した。 その理由は、 「三同時(環境保護施設とプロジェクトの設計、施工、操業開始を同時に行う) 」 制度に違反したため。包頭神華は、CTO プラントの運転を 2010 年 6 月に試みたが、この時 点で同時に試験すべき環境保護設備は完成しておらず、 検収も行われていなかった。 また、 2010 年 9 月の試運転の際には、廃水、廃気、固形廃棄物が環境基準を満たしていなかった。 この点について環保部は 2012 年 10 月、包頭神華に違法状態であることを警告、2012 年内 に改善するよう求めたが、期限を迎えても改善の跡が見えないとして生産停止を命じた。 包頭 CTO プロジェクトは、中国 CTO 事業の代表的なプロジェクトであり、他の計画を含 め影響が懸念されている。 ②中煤能源集団公司:ホロンバイル市との戦略協定に基づき、傘下の中煤黒龍江煤炭化工 (集団)公司を通じて呼倫貝爾西胡里吐炭田を開発し、180 万 t/y のメタノールおよび 60 万 t/y の MTO プラントを建設する。 ③中国電力投資集団公司(CPI)/Total:オルドス市で MTO および Olefin Cracking Process (OCP)プロジェクトを計画、戦略協定に調印した。2015 年完成を目標に 100 万 t/y の MTO/OCPプラントを建設する。 技術はTotal、 原料の石炭はCPI が供給する。 MTO はUOP/Hydro が、OCP は Total と UOP が共同開発した技術をベースにしている。前述したように Total はベルギーの Feluy で、メタノール/MTO/OCP の実証プラントを操業している。 ④中天合創能源公司:オルドス市ウジン旗で 360 万 t/y のメタノールと 130 万 t/y の MTO および誘導品のプラントを計画。同社は、Sinopec、中煤能源集団、申能(集団)公司、中 国銀泰投資公司、内蒙古満世煤炭集団が共同出資で設立し、当初は、2010 年の生産開始を 目指して、2,500 万 t/y の炭鉱、420 万 t/y のメタノール、300 万 t/y の DME の各プラント を計画していたが、DME の市場性がないと判断し、MTO に切り替えた。 ⑤久泰能源(准格爾)公司:オルドス市の大路煤化工基地で 2014 年完成を目指して 60 万 7 JPEC レポート t/y のプラントを建設する。プロセスは UOP/Hydro 技術をベースにしている。UOP は、ライ センスのほかにベーシックエンジニアリング、触媒、吸着剤、専用機器、要員訓練、技術 サービスを提供する。また、KBR がオレフィン回収に関するライセンスとプロセスパッケ ージを提供する。 ⑥内蒙古中煤蒙大新能源化工公司 60 万 t/y:オルドス市ウジン旗の烏審召化工プロジェク ト区において、内蒙古博源聯合化工の 100 万 t/y 天然ガス由来メタノールと自ら建設する 80 万 t/y 石炭由来メタノールの計 180 万 t/y のメタノールを原料にエチレンおよびプロピ レンを生産し、各 30 万 t/y のポリエチレン(PE)および PP プラントに供給する。同社は、 中国中煤能源股分公司が 65%、内蒙古遠興能源股分公司が 25%、上海証大投資発展公司が 10%を出資した。 (4)黒龍江省 ⑦山東魯能発展集団公司:黒龍江省宝清県で、1,000 万 t/y の露天堀炭鉱、180 万 t/y のメ タノールと 60 万 t/y の MTO プラントを建設する。 ⑧七台河宝泰隆煤化工限公司/黒龍江龍煤砿業集団公司:前者が 65%、後者が 35%を出資 して黒龍江龍泰煤化工股份公司を設立、120 万 t/y のメタノールと 60 万 t/y の MTO プラン トを建設する。 (5)江蘇省 ①恵生(南京)清潔能源公司:UOP の MTO プロセスによる 29 万 5,000t/y のプラントを建 設する。完成は 2013 年内の予定で、UOP は、ライセンス、ベーシックエンジニアリング、 触媒、吸着剤、専用機器、技術サービスを提供する。 ②正大(常州)新材料有限公司:常州新北工業ゾーンで第 1 期として 33 万 t/y の MTO プラ ント建設を進めており、2014 年末に完成する。同プラントから独 Lanxess が常州市に建設 するエチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)プラントにエチレンとプロピレンを供 給する。 (6)安徽省 ①中安聯合煤業化工公司:Sinopec が皖北煤電集団と折半出資で設立。1 期で、400 万 t/y の朱集西炭鉱開発、170 万 t/y のメタノールと 60 万 t/y の MTO プラントを 2013 年末まで に建設する。 (7)山東省 ①臨沂陽煤恒通化工公司:Honeywell UOP との間で MTO 技術のライセンス、基本設計、触 媒、吸着剤、技術サービスの契約を交わしており、29 万 5,000t/y の MTO プラントを建設 する。EPC 業務およびオレフィン分離技術のプロセスデザインパッケージと技術サービス は恵生工程(中国)有限公司が受注、2014 年の完成を予定している。 ②聯想集団控股公司:IBM パソコン部門を買収した聯想集団(Lenovo Group)が実施主体 の山東神達化工公司を設立し、 山東省棗庄市で 2015 年までに 2 期に分けて 180 万 t/y のメ タノールと 100 万 t/y の MTO プラントを建設する。 8 JPEC レポート (8)河南省 ①中国国家開発投資公司/鄭州市:鄭州市を中国の重要石炭化工基地にするという「河南省 第 11・5 計画」に基づき、趙家砦、王家庄、李糧店の豊富な石炭を原料とする石炭化学基地 建設の一環として各 100 万 t/y 以上のメタノールおよび DME プラントと 60 万 t/y 以上の MTO プラントを建設する計画。 ②中原石油化工公司: LLDPE、PP プラントの増強に向けて S-MTO プロセスによる 60 万 t/y の MTO プラントを建設した。自社でメタノールは生産していないが、Sinopec の CTO プロ ジェクトのパートナーである河南煤化集団から受給している。 ③Sinopec/河南煤業化工集団有限責任公司:大規模な石炭開発から MTO までの CTO 一貫プ ロジェクトを推進する。事業実施企業は 2 部門に分かれ、石炭開発/メタノール部門には Sinopec が 49%、河南煤化集団が 51%を、MTO 部門には Sinopec が 51%、河南煤化集団が 49%を出資する。MTO プラントの生産能力は 180 万 t/y で、Sinopec の S-MTO プロセスを採 用する。 (9)湖北省 ①湖北三寧化工公司: 30 万 t/y の MTO プラントを建設する。FS は完了し、2013 年内の完 成を目指している。 (10)貴州省 ②中国石化四川ビニロン廠:貴州省織金県との間で、メタノール、MTO、メタノールカルボ ニル化法酢酸、ポリオレフィンなどからなる石炭化学工業基地建設に関する投資協定に調 印。能力は、石炭ガス化が 40 億 m3/y、メタノールが 100 万 t/y、MTO が 60 万 t/y、酢酸が 60 万 t/y、ポリオレフィンが 60 万 t/y。 (11)甘粛省 ①華亭煤業集団有限責任公司:甘粛省平涼市華亭県の工業開発区でメタノールプラントは 2010 年 11 月に完成しており、2014 年をメドに 60 万 t/y の MTO プラントを建設する。誘導 品の PP について、CB&I Lummus から Novolen 法のライセンス供与契約を結んでいる。 (12)雲南省 ①雲南煤化集団公司:250万t/yのメタノールと80 万t/yのMTO プラントを計画しており、 石炭ガス化には Shell、メタノールには Lurgi、MTO には UOP/Hydro のプロセスを計画して いる。他にアクリル酸エステルとエチレンオキサイド/エチレングリコール(EO/EG)に BASF、 フェノール・アセトンに UOP、PE に UCC、EPDM に EniChem、ビスフェノール A に出光、ポ リカーボネートに旭化成を考えている。 (13)陝西省 ①神華集団/Dow Chemical: 「神華陶氏(Dow)楡林循環経済煤炭綜合利用項目」として 2010 年 11 月、中国政府にプロジェクト認可申請書を提出。楡林市の楡神煤化学工業ゾーンの清 水溝廠阯北区で、豊富な石炭と岩塩などの資源をもとに、100 億ドルを投下してメタノー ル、MTO と誘導品プラント、さらにクロロアルカリ製品など 23 基のプラントからなる世界 9 JPEC レポート 最大級の石炭化学基地を建設する。能力は、メタノールが 332 万 t/y、MTO が 122 万 t/y、 EO/EG が 40 万 t/y、エタノールアミンとエチルアミンが併産で 21 万 t/y、ポリオールが 34 万 t/y、アクリル酸が 15 万 t/y、アクリル酸エステルが 20 万 t/y、クロロメタン化合物が 20 万 t/y、塩ビモノマー/塩化ビニル(VCM/PVC)が 50 万 t/y、クロルアルカリ関連が 50 万 t/y で、2016 年の操業開始を目指している。 同プロジェクトの交渉開始は 2005 年で、2007 年に協力協定を締結し、詳細 FS を進める ことを宣言、FS は 2009 年末に完成した。当初、Dow は投下資金を約 50 億ドルとしていた が、現在は 80–100 億ドルに引き上げている。2011 年初めには中国国家能源局が両社の合 弁会社設立を認可している。ただ、NDRC が石炭化学の規制に乗り出し、プロジェクトが遅 れていたが、復活した。 ②正大集団:中国生物制薬公司傘下の正大精化公司が 43%、陝西省煤業化工公司が 36%、 陝西省投資公司が 16%、陝西新興煤化公司が 5%を出資して事業主体を設立、楡林市の楡 横工業開発区に MTO プラントを建設する計画。2 期に分けてメタノール 300 万 t/y、エチレ ン 50 万 t/y、プロピレン 50 万 t/y の MTO プラントを計画している。 ③陝西延長石油(集団)/陝西省延安市:2010 年 4 月に協定に調印。延安市富県に資金 219 億元を投下して 12・5 計画内に 180 万 t/y の石炭由来メタノール、60 万 t/y の MTO、45 万 t/y の PE、25 万 t/y の PP、20 万 t/y のオクタノール、6 万 t/y の EPDM の各プラントを建 設する。 ④陝西延長中煤楡林能源化工公司:靖辺能源化工綜合利用産業ゾーンで、メタノール、重 油深度接触分解(DCC) 、MTO、PE、PP の 5 プラント建設を進めている。2013 年 6 月完成、 2014 年初めの生産開始を目指している。同社は、延長石油集団と中煤能源集団公司が資本 金 70 億元を投下して楡林能源化工公司を再編・設立した。石化産業調整・振興計画とオル ドス盆地エネルギー開発利用総合計画に基づくプロジェクト。能力は、メタノールが 180 万 t/y、DCC は 150 万 t/y、MTO は 60 万 t/y で、MTO には LPEC が参加した DMTO 技術を採用、 エンジニアリングも LPEC が担当している。PE、PP は各 30 万 t/y 設備を 2 ライン建設。 ⑤陝西星王企業集団公司:陝西省平涼市で 2 期に分けて 180 万 t/y のメタノール、 70 万 t/y の MTO プラント、さらに各 35 万 t/y の PE および PP プラントを建設する。完成は 2015 年 の予定。星王集団は、1996 年に設立された非鉄金属の採掘・精錬と石炭をコア事業とする 国営企業で、新石炭化学への進出はこれが初めて。 ⑥蒲城清潔能源化工公司:全体で 540 万 t/y のメタノールと 200 万 t/y の MTO プラント建 設を計画。 現在 1 期分180 万 t/y のメタノールと70 万 t/y の MTO プラントを建設中で、 2013 年 7 月に完成する予定。 同社は、 陝西煤業化工集団と中国長江三峡集団が合弁で設立した。 ⑦Gail India/華山化学工業集団公司:華県での MTO プロジェクトに合意している。 (14)寧夏回族自治区 ①寧夏宝豊能源集団公司:220 万 t/y のコークス炉、中国技術による 150 万 t/y のコーク ス炉ガス由来メタノール、DMTO 技術の 60 万 t/y の MTO、30 万 t/y の PE、Ineos プロセス 10 JPEC レポート による 30 万 t/y の PP といったプラントを 2013 年末の完成を目指して建設中。 (15)青海省 ①青海大美煤業限公司:西寧市周辺で生産される石炭を原料に 2015 年 5 月完成を目指して 炭鉱、洗選鉱施設、コークス炉ガスや石炭由来天然ガスを原料とする MTO プロジェクト。 生産能力は、コークス炉ガス由来メタノール 30 万 t/y、石炭由来メタノール 160 万 t/y、 60 万 t/y の MTO プラント、各 30 万 t/y の PE と PP プラントを建設する。 ②青海塩湖工業公司:西寧経済技術開発区甘河工業ゾーンで金属マグネシウムやメタノー ル、MTO、PVC、ソーダ灰などの生産を行う金属マグネシウム一体化プロジェクトを計画。 240 万 t/y のメタノールと MTO、200 万 t/y の PVC(エチレン、アセチレン併用)などのプ ラントを計画。1 期分の 100 万 t/y のメタノールおよび MTO、50 万 t/y の PVC(エチレンベ ース) 、100 万 t/y のソーダ灰、240 万 t/y のコークス、80 万 t/y のカーバイド、10 万 t/y の金属マグネシウムおよび塩化カルシウムの各プラント、600MW コジュネの建設を進めて おり、2013 年内に完成する予定。 (16)新疆ウイグル自治区 ①国家開発投資公司新疆伊犁煤化工公司:イリ・カザフ自治州ニルカ県胡吉爾台郷に 60 万 t/y の MTO プラントを建設するもので、2011 年 6 月に着工した。2020 年までに 120 万 t/y とする。国投公司は 2009 年末、Sinopec と共同でイリ自治州の石炭開発やコークス製 造、MTO など石炭化学に関する協力協定に調印している。 ②中煤能源伊犁煤電化公司:中煤能源公司と新疆生産建設兵団が合弁で設立。イリ・カザ フ自治州チャプチャル・シボ自治県の伊南工業ゾーンで 90 万 t/y の石炭由来メタノールと 60 万 t/y の MTO、各 30 万 t/y の PE、PP プラントを 2015 年末までに建設する計画で、2011 年 5 月に着工した。 ③中国神華煤制油化工公司新疆煤化工分公司:ウルムチ市甘泉堡工業ゾーンで 180 万 t/y のメタノールと 68 万 t/y の DCPC 技術の MTO プラントや 32 万 t/y の LDPE プラントを建設 する。完成は 2014 年の予定。 (17)その他 中国では、数は少ないがメタノールを輸入あるいは外部から購入してオレフィンに転換 する事業や天然ガスからのメタノールを原料とする計画もある。 ①大連福佳石油化工公司:メタノールを購入し、大連市長興島国家経済技術開発区にエチ レン 180 万 t/y とプロピレン 120 万 t/y の MTO プラントと誘導品プラントを建設する。 ②上海碧科清潔能源技術公司:江蘇省泰興市経済開発区で天然ガス由来メタノールを原料 とする 120 万の MTO プラントを建設する計画。上海碧科清潔能源技術公司は、中国科学院 が 51%、BP が 49%を出資し、クリーンエネルギー技術のライセンス供与、エンジニアリン グ・サービスの提供などを目的に 2009 年 3 月に上海市で設立された。 ③浙江興興新能源科技公司:輸入メタノールを原料とする MTO プロジェクト。浙江省嘉興 港区に 60 万 t/y のMTO プラントと 9 万 t/y の OCT プラントを建設する。 完成は 2014 年末、 11 JPEC レポート 生産開始は 2015 年の予定。DICP の DMTO プロセスを採用し、ほかに CB&I Lummus の軽質オ レフィン回収技術と OCT を使用する。誘導品プラントとして、30 万 t/y の PE プラントも 計画している。同社には、三江化工公司が 75%、浙江嘉化集団股份公司が 25%を出資。 ④上海碧科清潔能源技術公司:広東省の珠海高欄港経済区管理委員会と MTO プラントの建 設協定に調印。2 期計画で計 120 万 t/y のプラントを建設する。 ⑤重慶市 GTO 構想:天然ガスベースの計画。MTO プラントおよび誘導品とファインケミカ ル製品など 55 を超えるプラントを外資導入により推進する。MTO は 40 万 t/y で、UOP プロ セスが予定されている。誘導品プラントは EO/EG、エタノールアミン、エチレン・酢酸ビ ニル、アクリル酸/アクリル酸エステルおよび高吸水性樹脂、フェノール・アセトン、ビス フェノール A、ポリカーボネート、AN、2-EH、DOP。 4.MTP プロジェクト(MTP: Methanol to Propylene) (1) 中国におけるMTPプロセス 中国ではAir Liquide傘下のLurgiからプロセスが導入されている。ZSM-5タイプのゼオラ イト触媒を使用し、30トンのメタノールから9トンのプロピレンを生産することができ、ガ ソリンとLPGが副生する。 また、中国独自技術として、新一代煤能源化工産業技術創新戦略聯盟が流動床 FMTP の開 発を進め、中国石油・化学工業協会の検定にパスしている。中国化学工程集団公司、清華 大学、安徽淮北集団有限公司などが開発に参加し、安徽淮北集団に 3 万 t/y のテストプラ ントが建設された。 (2)主要 MTP プロジェクト ①大唐内蒙古多倫煤化工有限公司:内モンゴル自治区シリンゴル盟に、1,000 万 t/y の褐 炭乾燥設備、Shell プロセスによる 3,000t/d・3 基の石炭ガス化、Lurgi プロセスのガス精 製(Rectisol)および 167 万 t/y のメタノールと 50 万 t/y の MTP、Dow プロセスの 46 万 2011 年1 月の試運転でメタノール転換率 99.8%、 t/yのPP などのプラントを建設している。 プロピレン収率 31.9%を達成した。 ②神華寧夏煤業集団公司(SNCG) :出資比率は神華集団が 51%、寧煤集団ほか 49%。寧東 石炭化学エネルギー基地で、メタノール、MTP、DME、カルボニル化法酢酸、PP の各プラン トを建設、2010 年に完成した。空気分離プラントを Air Liquide、2,000t/d(500MWth) ・5 基の噴流床石炭ガス化プラント(GSP)を Siemens (Sustec-Future Energy) 、一酸化炭素 (CO)変換、酸性ガス除去(Rectisol) 、167 万 t/y のメタノール合成、イオウ回収、50 万 t/y の MTP を Lurgi、50 万 t/y の PP を Lummus(旧 Basell の Novolen 技術)が担当、2010 年央からの試運転で99.6%のプロピレン製造に成功、 同年12 月から本格稼働。 これにより、 世界初の MTP 商業プラントが全面稼働した。 2 期計画でも 50 万 t/y のプラントを計画、 2011 年 9 月に Lurgi と契約を結んだ。 12 JPEC レポート ③安徽華誼化工有限公司:安徽省淮北市に上海焦化 65%、上海華誼集団 30%、安徽淮北集 団 5%を出資し、2 期に分けメタノール、MTP、カルボニル化酢酸、EG、PVC などを建設す る。60 万 t/y の MTP は 2012 年から 2020 年の第 2 期で進めるもので、30 万 t/y プロピオン 酸も建設する。淮北砿業集団は中国技術の MTP テストプラントを持っている。 5.石炭由来 EG 生産プロジェクト 石炭合成ガスからエチレングリコール(EG)を生産するプロジェクトも実現している。 2011 年には、宇部興産が貴州省黔西県の黔希煤化工投資公司に、シュウ酸ジメチル(DMO) 製造技術と DMO を還元して EG を製造する MEG プロセスを供与した。これにより 30 万 t/y の EG 製造プラントを建設している。エンジニアリングは東華工程科技公司が実施した。 ほかに、 上海金煤化工新技術公司が内モンゴル自治区通遼市で 20 万 t/y のプラントを建 設し、最終的に 100 万 t/y とする。内モンゴルでは華電呼倫貝爾能源公司がホロンバイル 市で40 万t/y の計画を進め、 開滦集団も内モンゴルのオルドスで20 万t/y の計画がある。 また、河南省永城市で南龍宇煤化工公司、四川省瀘州市で江蘇三木公司、寧夏中衛市で 皖北煤電淮化公司、新疆自治区奇台県で蘇寧環球集団が計画している 参考 Statistical Review of World Energy(BP) 触媒懇談会ニュース No.46(触媒学会) 中国の石油産業と石油化学工業 2012 年版(東西貿易通信社) East & West Report 各号(東西貿易通信社) 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected] までお願いします。 Copyright 2013 Japan Petroleum Energy 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