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Special edition paper
分岐器管理および
鋼橋りょう検査の
技術継承ツールの開発
谷 隆一郎* 内藤 孝和* 立川 正勝* 波場 志郎** 小関 昌信*
当社の施設メンテナンス部門においては、社員の年齢構成は50歳以上の社員が多数を占めていることから、大量退職によるマン
パワーの急激な減少や保有する技術・ノウハウの分散が懸念されている。そこで、保線技術センター・土木技術センター社員など
へのアンケートを実施し、現状の技術継承の課題を明らかにしたうえで、保線部門では分岐器を、土木部門では鋼橋りょうを例にとり、
技術継承に効果的な教育ソフトの開発を行った。今回開発したソフトについては、関係技術センターにて効果の検証を実施し、有
用であることを確認した。
●キーワード:技術継承、検査、擬似体験、分岐器、鋼橋りょう
1. はじめに
49%が設備を見ながら教育を受ける機会が少ないと挙
げている
近年、わが国では団塊の世代の大量退職により、マンパ
ワーの急激な減少や保有する技術・ノウハウの分散が懸念
2.2 土木技術センターのアンケート結果
されている。当社の保線・土木部門のメンテナンス分野にお
職場内の技術継承の実態把握のため、土木技術センター
いても、社員の年齢構成は50歳以上の社員が多数を占めて
に以下の内容のアンケート調査を実施した。
おり、ベテラン技術者の大量退職に伴う技術者不足が懸念
・若手社員の今後の育成方法について
されているため、若手社員などへノウハウを確実に継承して
・現在の教育に関する満足度について
いく必要がある。
その結果、108人の社員から以下の回答が寄せられた。
そこで、テクニカルセンターでは保線・土木部門における
・若手社員の今後の教育手法については、44%が自己学
効果的な技術継承手法を研究し、保線部門では分岐器を、
土木部門では鋼橋りょうを例にとり、メンテナンスの技術継承
を効果的に実施できる手法の開発を行った。
習の必要性と現場OJTの充実を望んでいる
・現在の教育に関する満足度については、45%が満足し
ておらず、不満足の理由として時間不足、教育内容が
挙げられている
2. 技術継承の実態調査
調査結果をまとめると、現場OJTの充実を望む声が多く、
現在行われている技術継承の実態を把握するため、各部
ベテラン技術者の大量退職を考慮した場合、現場OJTを補
門のベテラン・若手社員を対象にアンケート調査を実施した。
完できる効果的な教育ツールの充実が必要であることが分
調査内容および結果は以下のとおりである。
かった。
そこで保線部門では分岐器を、
土木部門では鋼橋りょ
うを例にとり、教育ツールの開発に取り組んだ。
2.1 保線技術センターのアンケート結果
分岐器の検査管理を事例として、保線技術センターに以
下の内容のアンケート調査を実施した。
3. 技術継承ツールの開発
・現状の教育手法についてどのように考えているか
3.1 分岐器管理教育ソフト
・現状の職場内教育(OJT)を行ううえでの問題点・課
3.1.1 ソフトの構成
題は
分岐器の教育ソフトの構成は、①分岐器の構造、②検査
その結果、122人の社員から以下の回答が寄せられた。
や設備故障時の着眼点などに代表される分岐器メンテナンス
・現状の教育手法については、36%が現場OJTの充実を
技術継承の2つに大別した。①では、各部材の形状・役割
望んでいる
・現状の職場内教育(OJT)の問題点・課題としては、
を3Dモデルによって体験するとともに、学習者が自在に操作
することで学習効果を高めることとした(表1)
。②に関しては、
*JR東日本研究開発センター テクニカルセンター **東京支社 金町保線技術センター(元 テクニカルセンター)
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分岐器管理の基礎的な内容からベテラン社員が有する経験
則について章分けを行い、入社1年目社員から中堅社員を対
象に分岐器管理における必要な知識が段階的に学習できる
ソフト構成とした(表1)。さらに、学習理解度確認のための
復習テストを設けており、知識の定着を確認できる構成とした。
3.1.2 ソフトの代表的な画面
今回開発した分岐器管理教育ソフトは、2つの構成に大
別されており、分岐器における基本的な知識からベテラン社
員が有する経験則まで、若手社員・中堅社員と幅広く学習
できる教育ソフトとした。代表的な画面構成を以下に示す。
図1 画面構成の例(分岐器の全体図)
(1)分岐器の構造
分岐器全体を3Dモデルで確認し(図1)
、さらに分岐器図
集のように主要部材から付属部材に展開できる構成とした。
図2では転てつ棒の分解図を一例として示した。また、音声
解説によりそれぞれの部材の機能や役割などを説明できる内
容となっている。
分岐器の種類や構造は多種多様なことから、3Dモデルと
して取り上げた以外の部材の種類や構造解説についても2D
画像で確認できる構成とした。
(2)分岐器メンテナンス技術継承
設備故障防止の着眼点と対処法の一例を図3に示す。分
岐器のメンテナンスにおいて、調整作業のミスにより不良を発
図2 画面構成の例(分岐器の分解図)
生させる原因などを説明し、分岐器の点検を行う際の着眼
点を解説している。これは、いわゆるベテラン社員が有する
保守管理の勘所である。このように特に重要な勘所や注意
が必要な内容については動画を活用し、良好な状態から不
良となる過程を再現し、若手社員にも理解できるように工夫し
た。さらに音声解説により、発生原因や管理方法などの説
明を行い学習の手助けとしている。
以上のような構成により、分岐器の保守管理に関する内
容を学習できるシステムとなっている。
表1 分岐器管理教育ソフトの構成
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図3 画面構成の例(設備故障防止の着眼点と対処法)
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特 巻
集 頭
論 記
文 事
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表2 鋼橋りょう検査シミュレーションソフトの構成
3.2 鋼橋りょう検査シミュレーションソフト
3.2.1 ソフトの構成
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ど多様性を考慮して、e-ランニングをベースとしてシステムを
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構築した。全体構成は表2に示すように、①鋼橋りょう検査
の基本コンテンツと②擬似検査体験の2つに構成した。①で
は鋼橋りょうの部材解説や検査の着眼点を盛り込むことで基
本事項を学んでもらう。②では鋼橋りょうの3Dモデルを用い
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鋼橋りょうの教育ソフトに使用したシステムには、教育教材
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3.2.2 ソフトの代表的な画面
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て検査の擬似体験ができるとともに、学習者が自在に操作す
成とした。
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今回開発した鋼橋りょう検査シミュレーションソフトは、鋼橋
りょうの基本的な知識からベテラン社員が有する経験則まで、
若手社員・中堅社員と幅広く学習できる教育ソフトとした。
代表的な画面構成を以下に示す。
(1)橋りょうの基本
図4は、橋りょうにおける部材名称と役割を学習するもので
ある。橋桁のイラストまたは部材名称にカーソルを合わせると
当該箇所がマーキングされ、その部材の役割を学習できる。
(2)着目すべき部位
図5は、各部位における主な目視項目を学習するものであ
図4 画面構成の例(橋りょうの基本)
る。変状内容にカーソルを合わせると、イラストに変状が現れ
るようになっている。
(3)変状事例
図6は、これまでの変状事例から橋りょうの変状について学
習するものである。検査者の判定にばらつきが生じないこと
をねらい、自ら健全度判定について考えた後、判定ボタンを
押して標準的な判定例を確認して学習する。
図5 画面構成の例(着目すべき部位)
(4)3D モデルによるバーチャル検査
図7は、上路プレートガーター構造の橋りょうの3Dモデルを
用いて、ベテラン社員の検査の一事例を動画で学習できる
機能である。また、学習者が自ら橋りょうを画面上で動かす
ことにより検査の擬似体験ができる。より学習効果を高めるた
めに、目視をカーソルの位置に見立て、カーソルを動かして
いくと、矢印から指カーソルに変更する箇所(変状箇所)が
あり、その場所をクリックすることにより、変状写真が出力さ
れる工夫もした。
図6 画面構成の例(変状事例)
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図7 画面構成の例(3Dモデルによるバーチャル検査)
4. 効果の検証
学習前ではほとんど検査を理解できていなかった人が22%で
あったが、学習後にはゼロになっていた。また、目視点検箇
4.1 分岐器管理教育ソフト
所を理解できる程度以上の回答が31%から73%に増えてお
完成したソフトを、JR東日本総合研修センターの「保線レ
り、全体的なレベルアップが可能になった。
ベルアップ研修」(入社2∼4年目の社員を対象)においてデ
モンストレーションを行い、
今回作成したソフトに対するアンケー
ト調査を実施した。
5. おわりに
調査の結果、選択式の回答では各設問に対し、「非常に
今回、技術継承を効果的に行っていくための教育ツール
良い」、「良い」が約90%を占めており、概ね好評であった。
の開発を実施した。現在行われている技術継承の実態を把
特に3D表示が可能なソフトについては、これまで分岐器図
握するため、保線・土木技術センターのベテラン社員、若
集などの平面画像でしか見ることが出来なかった部材を立体
手社員からアンケートを実施した。その結果、現場OJTの充
的に見ることが可能になったため、理解しやすくなったようで
実を望む声が多く、ベテラン技術者の大量退職を考慮した
ある。また、分解動画では、実際に現場で分岐器を解体し
場合、現場OJTを補完できる効果的な教育ツールの充実が
たことがない社員に対し、分岐器構造を説明するうえで有効
必要であることが分かった。
であることも分った。
本件では、上記のような状況を踏まえ、分岐器管理と鋼橋りょ
さらに、設備故障防止の着眼点と対処法では、設備故障
う検査の技術継承を支援できる教育ソフトの開発を行った。利
の原因ともなる、レールふく進や軌道変位による不良状態を
点・特徴としては、学習者は同時間、同一場所に集まる必要
表現した動画により、分岐器管理の要点も理解しやすくなっ
がなく自由な時間場所で学習できる、また音声解説によりOJT
ている。
教育を受けているような体験ができることである。また、今回
当初OJTなどの個人レベルでの教育ツールとして開発を
特に3Dによるバーチャルを用いた擬似体験を盛り込むことで、
行ったが、音声解説を取り入れたシステムとなっていることか
興味をもって学習に取組むことが可能になったと考える。
ら、研修講師が教材として活用した場合、その音声解説が
なお、本システムで検査管理のすべてを補完できるもので
有効となり、レベルアップした教育が可能となるため、集合研
はないことは言うまでもないが、試行による検証の結果からは
修などでも使用可能なことが分った。
導入されれば使用してみたいという回答が多数を占めており、
当初の目標である若手社員の実務教育支援として活用できる
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4.2 鋼橋りょう検査シミュレーションソフト
と思われる。
完成したソフトを、関東・東北・上信越の代表土木技術
分岐器管理教育ソフトについては在来線特殊分岐器、新
センター社員を対象としてモニターテストを実施した。
幹線分岐器など今回取り入れていない分岐器についても、
テストの結果、システムを活用した基礎学習および技術継
今後、追加収録していくことを考えている。また、鋼橋りょう
承に関しては概ね満足する結果となった。また、若手社員を
検査シミュレーションソフトについては各支社に導入済であり、
対象として、学習前後の知識変化について調査した結果、
今後、他構造物への適用を考えている。
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