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Life Design Focus 「母親における子どもへの精神的依存」

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Life Design Focus 「母親における子どもへの精神的依存」
2015. 11.9
母親における子どもへの精神的依存
-「娘がいれば安泰」なのか-
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室
宮木 由貴子
<母親は父親に比べて子どもとの交流や子どもへの精神的依存度が高い>
娘がいる母親は、しばしば「娘さんがいるから将来安泰ね」などと言われる。実際
に、世界価値観調査のほか、多くの調査において、日本では生まれてくる子どもに女
児を希望する人が多いことが示されている。その理由としては、親、特に母親の話し
相手になる、一緒に出かけられる、ファッションを楽しめる、成長・独立後も付き合
いが期待できる、老後の面倒を見てもらえるなど、長期にわたる母子の接触頻度の高
さやコミュニケーション、老後のサポートなどがキーワードとしてあげられる。
実際のデータをみると、そうした傾向が裏付けられることがわかる。掲載した図表
はいずれも 2015 年に当研究所が全国の満 18~69 歳の男女 7,256 人を対象に人々のラ
イフデザインや生活意識についてたずねた「今後の生活に関するアンケート」を元に
作成したものである。
「今後の生活に関するアンケート」は、当研究所が 1995 年より
8回にわたって発行してきた「ライフデザイン白書」の基礎データとなる調査である。
図表1から4までは「心配ごとや悩みごとを聞いてくれる人」
「助言やアドバイスを
してくれる人」
「能力や努力を評価してくれる人」
「一緒に余暇や休日を楽しむ人」に
ついてそれぞれ複数回答でたずねたもので、子どものいる男女 4,052 人のうち、
「配偶
者」
「子ども」「自分の親」と回答した人の割合を示したものである。すべての選択肢
については文末に掲載した。
これによると、図表1から3のように精神的な支えとなる項目については子どもの
年齢が高いライフステージほど子どもをあげた割合が高くなるが、その割合に大きな
男女差があることがわかる。例えば、
「心配ごとや悩みごとを聞いてくれる人」につい
て「子ども」をあげた割合は、
「末子が就学終了」の男性で 19.5%であるのに対し、
女性では 61.8%に及ぶ。同じく、
「助言やアドバイスをしてくれる人」では「末子が
就学終了」の男性で 15.1%であるのに対して女性で 45.1%、
「能力や努力を評価して
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FOCUS
くれる人」では「末子が就学終了」の男性で 25.3%であるのに対して女性で 45.2%と、
いずれも女性が男性を大きく上回っていることがわかる。さらに、図表1から3のよ
うに精神的な支えとなる項目について、
「配偶者」をあげた割合は全体的に女性より男
性で多い。
一方、
「一緒に余暇や休日を楽しむ人」については、男女ともに子どもの年齢が低い
ライフステージほど子どもをあげた割合が高く、子どもが成長すると「子ども」をあ
げる割合が低くなる。ただし、
「末子が就学終了」の男性で「子ども」をあげた人が
30.7%であるのに対し、女性では 49.4%と、子どもが独立する頃を迎えても、母親の
半数近くが子どもと一緒に余暇や休日を過ごすと回答している(図表4)。
図表1 心配ごとや悩みごとを聞いてくれる人(性・ライフステージ別)<複数回答>
(%)
80
67.9
71.3
67.6
65.5
60.5
56.0 55.7
60
40
51.2
38.3
36.6
28.6
12.6
27.1
16.9
13.3
20
19.5
14.6
12.4
7.6
6.3
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
男性
末子が小・
中学生
末子が未就学
末子が就学終了
末子が高校・
大学 生
末子が小・
中学生
末子が未就学
0
配偶者
子ども
自分の親
61.8
57.0
78.3
76.6
女性
注:子どものいる人の回答。すべての選択肢のうち「配偶者」
「子ども」
「自分の親」の値。
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FOCUS
図表2 助言やアドバイスをしてくれる人(性・ライフステージ別)<複数回答>
(%)
80
64.0
60
54.8
45.8
52.2
51.9
49.5
配偶者
子ども
自分の親
67.7
49.6
45.1
49.8 49.5
46.7
37.6
40
34.1
20
6.5
10.4
13.7
15.1
7.3
6.5
男性
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
末子が小・中学生
末子が未就学
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
末子が小・中学生
末子が未就学
0
9.2
24.5
21.2
20.0
女性
注:図表1に同じ
図表3 能力や努力を評価してくれる人(性・ライフステージ別)<複数回答>
(%)
80
60
56.4
61.0
55.3
50.4
配偶者
子ども
自分の親
49.4
44.9
40
27.8
20
24.8
17.2
10.4
46.4 45.2
40.6
38.6
31.1 31.0
20.6
15.9
35.0
25.3
19.8
13.9
13.6
6.9
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
男性
末子が小・
中学 生
末子が未就学
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
末子が小・
中学 生
末子が未就学
0
女性
注:図表1に同じ
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FOCUS
図表4 一緒に余暇や休日を楽しむ人(性・ライフステージ別)<複数回答>
(%)
70.5 72.7
配偶者
子ども
自分の親
83.0
81.2 82.8
79.7 80.7
80
68.7
64.9
60.0
56.3 57.2
60
55.5
49.4
42.4
40
20
18.1
14.1
9.3
6.7
11.5
7.5
2.8
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
男性
末子が小・
中学生
末子が未就学
末子が就学終了
末子が高校・
大学生
末子が小・
中学生
末子が未就学
0
31.4
30.7
女性
注:図表1に同じ
<娘のいる母親は子どもとの交流や精神的依存が特に高い>
父親に比べて母親が子どもに精神的に依存したり一緒に過ごすことが多い傾向につ
いて、子どもの性別による差の有無を検証するため、それぞれの結果について女児の
有無別(子どものなかに少なくとも女児が 1 人いるか、男児しかいないかの別)に分
析を行った。
その結果、いずれの項目でも、女児が少なくとも1人以上いる母親では、女児がい
ない母親よりも「子ども」をあげる割合が高いとの結果を得た(図表5)。これに対し、
父親では子どもの性別による差はみられなかった。
娘がいる母親は、そうでない母親よりもさらに子どもとの交流や精神的な依存が高
い様子がうかがえる結果である。一般的にいわれるように、母娘は密着する傾向があ
り、子どもの成長に伴ってその傾向は強まるなど、密着傾向が長期にわたる可能性が
示唆された。
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FOCUS
図表5 各対象として「子ども」をあげた人の割合(性・女児の有無別)
(%)
80
66.5
60
54.3 52.9
48.9
37.8
35.5
40
33.3
25.2
24.4
20
17.8 19.6
12.8 14.5
女児がいる
男児のみ
父親
女児がいる
能力や努力を評価
してくれる人
男児のみ
母親
女児がいる
助言やアドバイスを
してくれる人
男児のみ
父親
女児がいる
母親
男児のみ
女児がいる
父親
男児のみ
心配ごとや悩みごとを
聞いてくれる人
女児がいる
母親
男児のみ
女児がいる
父親
10.1 11.1
男児のみ
女児がいる
男児のみ
0
58.0
母親
一緒に余暇や休日を
楽しむ人
<娘がいれば本当に「安泰」なのか>
こうした母子密着は本当に「娘さんがいるから将来安泰」につながるのだろうか。
実際、結婚後の娘が新居を実家の近くに構え、共働きの新婚夫婦世帯の生活のサポー
トや孫の世話を娘の親が行うなど、娘の独立後も親がかかわるケースは少なくない。
親側、特に母親にとっては精神的な依存相手・日々の交流相手である実の娘が近くに
住むことで、自らが娘の家族を助けてやれる充足感があることに加え、将来的に心身
が衰えてきた際も近くに娘がいるという安心感を持つことができる。娘側も、共働き
などで行き届かない家事や育児を助けてもらえる、経済的な援助を受けやすいなど、
近所に住む実母から得られるメリットは大きい。
しかし一方で、母子密着には精神的な自立面と物理的な負担において課題もある。
精神的な自立面については、幼少期からあまりに母子密着が強いと、娘の自立を阻ん
だり、反抗期となる娘の思春期を受け入れられなかったりすることがあるという。ま
た、成長した娘の異性交際や結婚の妨げになってしまうこともあるようだ。さらに、
娘の結婚後の生活や夫婦関係、孫の育て方などに干渉した結果、自分と娘の関係や娘
の家族に亀裂を入れてしまうケースもある。離婚した娘とその子どもと一緒に暮らす
のが気楽であるという母親もいる。さらに、配偶者より娘との関係を重視した結果、
夫婦で一緒に過ごす時間が少ないなど、夫婦関係の充実や相互理解が不十分になると
の声もある。
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FOCUS
物理的な負担としては、孫の世話が身体機能の衰えた母親の負担になったり、親の
老後の生活や介護が娘の心理的・物理的負担となるケースがある。特に介護において
は、外部サービスを使わず近くに住んでいる娘に頼ってしまうことで、娘の就労に影
響することもある。
筆者の周囲をみると、無論様々なケースはあるものの、男児しかいない母親は配偶
者や自分自身のネットワークの構築に注力し、老後も子どもを頼ろうとせず、女児し
かいない人に比べて自立した考えをもっている人が目立つように感じられる。
今回の調査では、老後の親子関係やネットワークの状況についてまで検証できない
が、もし子どもとの密着度が、母子双方の将来的な自立度に影響するとすれば、単純
に女児がいるだけで将来の保障はされない。社会的な「定説」に流されず、何が自分
にとっての安泰であるかを考えれば、
「娘がいるから安泰」などと安易に結論づけるこ
とはできないのである。
(みやき ゆきこ 上席主任研究員)
【注】
世界価値観調査(World Value Survey):世界の約100カ国の研究機関で実施している国際プ
ロジェクトで、各国・地域ごとに全国の18歳以上の男女約1,000サンプルの回収を基本とした
意識調査
【参考】
選択肢は以下の14項目である
1. 配偶者
2. 子ども
3. 自分の親
4. 配偶者の親
5. 兄弟姉妹
6. その他の親族
7. 学校・学生時代の友人(同窓生含む)
8. 趣味や習いごとを通じての友人
9. 配偶者を通じての友人
10.子どもを通じての友人
11.職場や仕事関係の人(元同僚含む)
12.地域や近所の人
13.その他の個人的友人
14.誰もいない
親族
友人・知人
【関連データ】
・ライフステージでみる対人関係
~ 自分にとって、日々交流したり精神的に依存したりする人とは? ~
『ライフデザイン白書 2015年』の調査より
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2015/news1509.pdf
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