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࣭͈ພ֭֓ࠐאȆۯၑࡄਘ౬ ༭࣬ - 日本医業経営コンサルタント協会
଼ IJĺ ාഽȪijııĸ ාȫ٬ࡄٸਘ ͈࣭܀ພ֭֓ࠐאȆۯၑࡄਘ౬ ༭࣬ ႋ࣭͈২ٛ༗વଷഽ͐ͅڠ ijııĸ ා IJı ĴIJ ȡ IJIJ Ĵ ଼ ijı ා ij 目 次 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 日 程 表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 参加者名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 研修先報告 1. Yeメディパートナー 2. 三星ソウル病院 1~2 1~2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 3. ブンタンソウル大学病院 4. ソウルウリドル病院 1~2 5. 健康保険審査評価院 6. 韓国の病院建築 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 1~3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 7. 韓国の研修に参加して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 8.韓国の医療システム等に学ぶ おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 はじめに 韓国の研修旅行を終えて 平成 19 年度韓国の病医院経営・管理研修団 団長 木村 佑介 こんなに真面目で充実し、しかも楽しかった研修旅行は初めてである。私はこの旅行の 計画の段階から韓国は何か違うぞと感じ、ある意味日本が遅れをとっていると危機感に近 いものを肌で感じていた。それだけに、この研修旅行のサブタイトルにあげた「隣国の社 会保障制度に学ぶ」に表されるように、わずか 3 泊 4 日で観光も全くなしであったが、“勉 強するんだ”と言う姿勢と気構えが参加者 38 名に行き渡っていたのは大変うれしかった。 そして参加メンバーが良かった。女性 3 人を含む 27 歳から 71 歳までのうち、65 歳以上 は私を含め 5 人いたため平均年齢は 59 歳と少し高めの年齢集団となった。しかもメンバー の中には、どなたもご存知の有名な方や、あちこちで講演されたり、本を書かれている方 も多く、またすでに韓国に精通されている方も参加され、私を含めた“韓国初めて組”と 一緒に決しておごることなく勉強されていたのは、さすが“能ある鷹は爪を隠す”であっ た。同行講師の方の説明もあり、大変中味の濃い勉強が皆様の協力でできたことを感謝す る。 個々の施設の報告や説明はそれぞれ担当になられた方が書いておられるので、私は全体 的な感想を主に書くことにする。 韓国は戦後、国の再建をしていくなかで日本を見習って“追いつけ追い越せ”でやって きたと聞いている。確かにそうだったと思う。しかし、そのプロセスの中で、しっかり日 本の良いところ、失敗したところを見据え、良いところは謙虚に取り入れ、難しいところ は熟慮し、覚悟を込めて一気にシステムを作り英断をもって実行している。 その結果、少子高齢化は日本以上で、社会保障の負担や格差等の問題も多いが、日本で まだまだ遅れているIT化は90%を超え、日本も近々導入されるであろう混合診療も範 囲を決めて、きちっと取り入れており、結果として国民と医療提供者側にも自由度を与え ている。 話は少し横道にそれるが、さすがだと思ったのが教育にも力を入れ、軍隊があるせいか と思うが、韓国の若い人達が礼儀正しく生き生きとしていることだ。また驚いたことは、 大学病院やサムソンのような大きな病院に必ずと言って良いほど葬儀場(葬祭場)が同じ 病院の経営で、同じ敷地内にあることである。しかもかなり上層の人達が葬儀を行い、病 院の大きな収入になっているとのことである。韓国は儒教の国で、またキリスト教(プロ テスタント)が40%と聞く。我々には感覚的に理解しがたいところである。 話を元に戻すが、日本が世界に誇れる医療(世界から日本に受けにくる医療)があるだ ろうか。個々の技術は素晴らしいものが日本の医療にもあるが、韓国はそれをシステム化 し、活かし世界から韓国に医療を受けにくる体制が出来つつある。 -1- インドや中国もすでに“売り”になるもの(医療分野)を世界にアピールしている。こ のように医療の国際化がすすんでいるという点でも日本は遅れている。いろいろ見れば見 るほど、勉強すればするほど日本は負けている。韓国にすでに追い越されていると強く感 じた。 かつて日本を手本にした隣国は今、アメリカ、次いでドイツ、フランスに目を向けてい る。そして、その次 4 番目位に日本があると思う。はじめに危機感に近いものを感じてい ると述べたが、さらに劣等感さえ覚えるのは考え過ぎだろうか。 最後になるが、同じ東洋人として「隣国に学ぶ」ところがたくさんあったと思う。そし て、今回学んだことを、今後みんなで少しでも日本の医療が良い方向に向かう努力をして いく中で、それぞれの立場で役立てていただくことを強く希望します。 最後に、副団長の佐久間賢一さんをはじめ、38 名全員が私に従って協力していただけた ことを心から感謝いたします。また勉強に行きましょう。今度は少し観光も入れて・・・・・。 なお、この報告書は参加者が分担して執筆したものです。ただ、一部私の裁量で修正・ 削除等をしていること、また、訪問先によって表現等が異なっていることをご承知おきく ださい。 -2- 平成19年度(社)日本医業経営コンサルタント協会海外研修 韓国の病医院経営・管理研修団 日程 月日曜 都市名/滞在地名 現地時間 交通機関 1 10月31日 (水) 摘 要 食事条件 8:00 成田空港第2ターミナルJLカウンター前に集合下さい。 朝 昼 夕 8:30 福岡空港国際線ターミナルKEカウンター前にご集合下さい。 × 機 ○ 成田空港 発 9:45 JL951 福岡空港 発 10:30 KE788 ソウル 着 11:55 ソウル 着 12:25 15:30 成田班到着 福岡班到着 (空港発13:20頃予定) 専用バス メディパートナー(株)を視察(15:30~18:00) 市内レストランにてご夕食 (ソウル泊) ホテル着 2 11月1日 (木) 8:30 ソウル 専用バス ホテル発 ○ ○ × 滞在 10:00 病院視察 午前:三星病院(10:00~12:00) 12:00 ご昼食 14:00 病院視察 午後:ブンタンソウル大学病院(14:00~16:00) ※視察終了後、南先生によるレクチャー(総括)をバス車中にて予定 視察終了後、市内観光、免税店、明洞散策 (ご夕食は各自にて) ホテル着 (ソウル泊) 3 11月2日 (金) 9:00 ソウル 滞在 専用バス ホテル発 9:30 病院視察 午前:ソウルウリドル病院(10:00~12:00) 12:30 ご昼食 14:00 病院視察 午後:健康保険審査評価院(14:00~16:00) 17:00 ホテル着 18:00 ○ ○ ○ 市内レストランにて夕食 ※視察終了後、ソン先生によるレクチャー(総括)をレストランにて予定 18:00~19:00 総括、19:00~21:00 夕食 21:00 4 11月3日 (土) 【成田組】 9:30 12:00 ソウル 発 14:10 成田空港 着 16:35 【福岡組】 13:30 空港着 JL954 発 18:20 福岡空港 着 19:40 空路帰国の途へ 到着後、入国手続きを済ませ、解散 専用バス ホテル発 土産店経由空港へ 16:10 ソウル (ソウル泊) ホテル着 専用バス ホテル発 土産店経由空港へ 空港着 KE781 空路帰国の途へ 到着後、入国手続きを済ませ、解散 ※発着日時及び交通機関は変更になる場合がございます。 ※食事:朝・・・朝食、昼・・・昼食、夕・・・夕食、機・・・機内食、×・・・食事なし ※利用予定日本発着航空会社: JL/日本航空 KE/大韓航空 -3- ○ 機 × 参加者名簿 氏 名 会員の別 都道府県 所 属 等 役職等 備考 1 木村 佑介 協会 東京 (社)日本医業経営コンサルタント協会 常務理事 団 長 2 佐久間賢一 協会 東京 (社)日本医業経営コンサルタント協会 委員長 副団長 3 川原 丈貴 会員 東京 ㈱川原経営総合センター 代表取締役 4 藤澤 功明 会員 大阪 ㈱日本経営 代表取締役 5 村川 琢磨 一般 佐賀 ㈱大平 常務取締役 6 大竹 悦男 会員 静岡 税理士大竹悦男事務所 所長 7 門原 郁洋 一般 大阪 ㈱マスブレーン財務指導部 課長 8 佐藤 正雄 会員 群馬 税理士法人湧志会計 所長 9 中島 敏郎 一般 群馬 税理士法人湧志会計 10 田中久実子 一般 東京 ㈱MMPG総研 11 相澤 郁子 一般 神奈川 ㈱大山会計 12 畠 善昭 会員 13 大山 文明 会員 宮城 ㈱仙台調剤 代表取締役 14 萩原 輝久 会員 福岡 ㈱ヘルスケア経営研究所 代表 15 田中 和美 会員 福岡 ㈱ヘルスケア経営研究所 副所長 16 木村 光雄 会員 17 江口 寛治 一般 福岡 ㈱佐々木総研 18 村田平八郎 会員 福岡 ㈱佐々木総研 19 内藤 啓志 会員 愛知 ㈱名南経営医業コンサルティング部 20 冨木 隆夫 会員 21 飯田 昭夫 会員 静岡 アイクス税理士法人 代表 22 田中 英雄 会員 富山 田中英雄税理士事務所 所長 23 角田 祥子 会員 大阪 ㈱亀岡合同総研 代表取締役 24 栗原 誠 会員 東京 大正富山医薬品㈱ 25 橋爪 大輔 一般 大阪 近畿合同会計事務所 課長代理 26 古川 久雄 一般 東京 ㈱CAS 代表取締役 27 松田紘一郎 会員 東京 松田公認会計士事務所 所長 28 野田 洋 会員 東京 日建設計㈱ 主査 29 木山 誠 会員 宮崎 (有)マネジメント・ケイ 代表 30 鈴木 勝義 会員 東京 ㈱メディカルトラスト 代表取締役 31 萩原 清次 会員 東京 ㈱メディカルトラスト 部長 32 小久保貴朗 一般 埼玉 ㈱CWM総合経営研究所 33 渡辺 一郎 会員 鹿児島 34 榎本 繁 会員 神奈川 35 丸山 定夫 会員 東京 石川福井 畠税理士事務所 石川福井 ㈱木村経営ブレーン 石川福井 冨木医療器㈱ 研究員 副所長 所長 専務取締役 課長代理 代表取締役 統括マネージャー MCS税理士総合事務所 所長 36 原 勇次 会員 東京 ㈱伊藤喜三郎建築研究所 代表取締役 37 越村 哲郎 協会 東京 (社)日本医業経営コンサルタント協会 事務局長 38 岩﨑 勉 協会 東京 (社)日本医業経営コンサルタント協会 総務部長 -4- 代表取締役 ㈱吉田経営 申込順 事務局 1.Ye ネットワーク及びメディパートナー株式会社 報告―1 所 在 地:131-6,Cheongdam-dong,Gangnam-gu,Seoul,Korea 訪問日時:平成 19 年 10 月 31 日 14:00-17:00 MMPG総研・研究員:田中久実子 1.はじめに 治療技術水準のみならず、サービスと施設の水準を世界レベルに引き上げたといわれる韓国 でナンバー1の “Ye 歯科” 。 「Ye 歯科は“進化”という言葉をキーワードに進んできた。進化 に終わりはなく、Ye 歯科は現在進行形で動いている」と Ye 歯科の代表院長兼メディパートナ ーのCEOであるパク・インチュル氏が語られた通り、Ye 歯科は 将来を見据えた経営を実践しており、今回は、その経営の現状と 将来像について見聞きした。 2.主な研修内容 Ye ネットワーク及びメディパートナー株式会社について パク・インチュル代表院長 説明者:パク・インチュル代表院長兼メディパートナーCEO ジョン・ハニョン先任コンサルタント兼戦略企画チーム チーム長 カン・ソウォン Ye 歯科経営企画室 チーム長 3.Ye 歯科の沿革 持株会社型病院の 基盤を構築 2006~2007 Ye ネットワーク 国内&海外拡大 2002~2005 Ye ネットワーク形成 1999~2001 知識の蓄積 1992~1998 2006 年 5 月 ベトナムで「Ye メディカルセンターホーチミン」開院 中国東北3省地域の7ヶ所の歯科と Ye 加入のための MOU を締結 Ye ネットワーク韓国国内(2007 年 10 月時点) Ye 歯科 61 ヶ所、Ye 漢方医院3ヶ所、Ye 整形外科1ヶ所 2005 年7月 総合口腔用品事業 別途法人“Ye デンタル・ケア”設立 Ye ネットワーク韓国国内(2002 年 3 月時点) Ye 歯科 24 ヶ所、Ye 漢方医院 2 ヶ所、Ye 整形外科1ヶ所 海外 Ye 歯科 北京(2004.4) 、吉林省・延吉(2005.7) 上海1号店(2005.8) 、上海2号店(2005.11) 1999 年 Ye ネットワークのフランチャイザーであるメディパートナー㈱設立 ●Ye ネットワーク 11 ヶ所構築 1992 年 カンナム Ye 歯科開院 4.Ye 歯科について Ye 歯科本院は、1992 年にパク・インチュル代表院長と大学の同級生 3 人で、 “医師中心では ない顧客中心の医院をつくっていく”ことを目標に、当時の韓国では大変珍しいグループプラ クティスの形で開設し、1995 年からは、審美歯科に特化している。設立形態は、個人事業者と -5- なる。 Ye(イェ)の意味は、韓国語で、①礼(Ye)―顧客に対するサービスを最も重要なものとし て考える、②芸(Ye)―Ye 歯科での全ての診療は“芸術” 、③Yes―“はい(Yes)!”顧客中 心の病院を作っていく――を指し、全て韓国語の読みで「イェ」と発音する。 このように、Ye という言葉からも顧客を中心にした医療サービスの提供を目指しており、Ye 歯科は哲学として「私たちは患者を最も重要視する。私たちは患者中心の医療サービスを提供 するために集まった一つのチームである。そのためには、私たちはシェアする精神に基づいて 常に最善をつくす。 」を掲げている。 2007 年 10 月現在、Ye 歯科は、国内に Ye ネットワークとしてフランチャイズ化された 61 ヶ 所の診療所と海外に直営又はフランチャイズ化された診療所を9ヶ所持っている。 一方、カンナム Ye 歯科本店は、2007 年 5 月に、 Ye 歯科は韓国(ソウル)のチョンダムの地域で新し Ye ビル所入り口 く生まれ変わり、地上 15 階、地下3階建てのビルを 建て、8階以上に歯科が入っているほか、5階、6 階に整形外科、皮膚科が入る予定で、今後、総合メ ディカルセンターになる。また、3階、4階、5階 には、メディカルパートナー㈱や技工所のYeデン タルアートに加え、旅行会社が入る。さらに、13 階 に新患のロビーがあり、夜になると、ワインバーに変 Ye 歯科本店 るといったユニークな構造となっている。 現在、新しいYeビルで働いているYeグループの職員数は、約 150 名。歯科のみでは、代 表院長5名(パク・インチュル氏を含む)と医師 10 名、診療に関わるスタッフ(衛生士、コ ーディネーター)45 名、駐車、掃除に 10 名が働いている。 一日医師一人当りの患者数は、10 人程で、診療費の保険・自費の割合は、1:9となってい る。 5.カンナム Ye 歯科本店のビルの構造及びコンセプトについて 新しい Ye ビルのコンセプトは、 「 “日常からの逸脱”を通じ、究極的に顧客が成功と幸せを 得られるように支援する、夢を実現することができる空間」の実現。これに伴い、建物もこの “夢”をコンセプトにデザインされている。 また、下記の通り、階によっては、フロア・コンセプトを持っ ている。 ≪フロア・コンセプト≫ ※12F の Ye VIP ラウンジは4人の院長の診療室があり、文化をコンセプト に、各々が、“キッチン”“ワイン”“アルバトロス”“図書館”のコンセ プトでインテリアがデザインされている。 ※9F は審美が中心で 40 代女性がメインとなるため、美しさがコンセプト になっている。 ※8F は矯正で、20、30 代の若い女性がメインとなるため、成功がコンセ プトになっている。 ※2F のピグマリオンホールはスタッフの研修所で夢をコンセプトにして いる。 -6- 8階の診療室 6.メディパートナー株式会社について 国内及び海外にある Ye 歯科、整形外科、漢方院等を経営コンサルティングするとともに、 経営品質等サービス面における管理・バックアップする組織として 1999 年 6 月 24 日に設立さ れた。Ye 歯科の代表院長であるパク・インチュル氏がCEOとなり、2007 年 10 月末現在、職 員数は、28 名となっている。 組織図 顧 問 CEO COO ブランド企画チーム ネットワーク事業 コンサルティン コンサルティン 1チーム 2チーム 財経チーム 戦略企画チーム 海外事業チーム ITチーム 現在、韓国では、医療界の経済規模が大きくなってきており、韓国政府としても、病院経営 の専門会社への支援が進んでいる。そのため、同社としても、メディカル病院に拡大し、将来 的には、ヘルスケアの総合関連企業になることを目標にしている。 短期的には、2010 年までに国内に 2,000 人、海外に 2,000 人の医師、1,000 ヶ所の診療所を ネットワーキング化することを目標にしており、そのために職員の全員は、2009 年までに医療 経営の分野で最高の専門家になり、その中の一部はCEOとして成長、国内外を舞台に活躍す ることを目指していくとしている。また、病院経営専門会社として国内株式市場上場および業 界最高の株価を維持するグローバル化企業になることを目標にしている。 また、韓国の医療産業のパラダイムを先導するための挑戦として、海外市場開拓の一環で中 国やベトナムへ進出することを達成したため、これからは、韓国の医療産業界を先導していく 役割を担っていきたいとしている。 次に、同社のビジネス構造あるが、同社では、 “Ye”というブランドを所有している。Ye ネ ットワークの個々の診療所に、 “Ye”ブランド使用の許可、経営コンサルティングをするとと もに、購買及び広報の代行を行っている。それに対し、個々の診療所からは 6000 万ウォンの 加入金と、売上の3%の月会費と共同広報費を取っている。海外については、直接投資または フランチャイズの両方がある一方、国内については、直接投資は違法であるためフランチャイ ズ形式のみとなっている。 現在、Ye ネットワークは韓国国内(2007 年 10 月時点)に Ye 歯科 61 ヶ所、Ye 漢方医院3ヶ 所、Ye 整形外科1ヶ所、海外で、中国、ベトナムに合わせて9ヶ所の診療所があり、医師数は 約 150 名、スタッフは約 890 人いる。 ネットワーク内では、▼“Ye”ブランドの共有、▼“Ye way”哲学の共有、▼Ye ネットワー ク内の臨床及び経営ノウハウの共有、▼病院経営専門企業の病院経営ノウハウ支援およびコン サルティング、▼独立的な事業体としてフランチャイズネットワーク病院の維持――がなされ ている。 -7- また、Ye ブランドは、国内の医療関係者の認知度はほぼ 100%で、ブランド価値を図ったと ころ、1,434 億ウォンであった。 同社は、病院経営専門企業として、MSO(Management Service Organization)サービス(下 記参照)を提供している。現在は、二重枠の部分の提供をしているが、それ以外の部分は将来 的に、医療業界の環境が変わった際に提供可能なサービスとなっている。本来個々の企業の取 引で行われるサービスであるが、MSO サービスは全てを網羅したビジネスモデルとなっており、 費用の削減や経営の効率、知識の共有が可能となる。 Cross Referrals Marketing Operation CRM Purchasing IT Solution Practice Incubating Payroll Doctor Training MSO Financial Analysis Services Staff Training Billing& Collections Trend Analysis Real Estate Statistical Reporting Recruiting Financing Scheduling System Patient Insurance Accounts Payable Construction 7.感 想 これまでも日本において Ye 歯科のセミナーに参加し勉強させて頂いた。 セミナーを通じ、 「患 者様を重要視し、医療だけでなく、サービスを提供する組織」であり、その原動力には、スタ ッフ教育、5人の代表院長をはじめスタッフのシェアする精神があり、これらが組織に浸透し ていることを感じていた。今回の訪問を通じ、スタッフの対応や診療室等から、私がこれまで 感じてきたものを実感することができた。 また、パク院長の「進化に終わりはない」と将来を見据えて、歯科を超え、医療全体のビジ ネス展開を捉え突き進む姿は、非常にエネルギッシュであった。今回は、 「ブルーオーシャン 経営」については、語られていなかったが、日本の医療界、とりわけ歯科においては、歯科予 防、審美といった自費治療の割合が増えていく中、Ye 歯科を特別な歯科であると考えるのでは なく、成功事例として、私たちは、この事例から学んでいくべきなのだと感じた。 -8- 1.Ye ネットワーク及びメディパートナー株式会社 報告―2 「期待は彫刻にも命を吹き込む」 Ye 歯科パク・インチュルを学ぶ ㈱亀岡合同総研 角田 祥子 1.共同経営そしてネットワーク化の成功 Ye 歯科代表院長であるパク・インチュルは韓国でまったくモデルのなかった医療機関のグ ループプラクティス(共同経営)を成功へと導いた。 さらにそのグループプラクティスを主体として韓国でまったくモデルのなかったネット ワーク化(フランチャイズ化)を成し遂げた。 時は 1992 年、医師会はじめ厚労省などに相当する機関の監視や法令の規制が日本以上に 厳しい時代の中で、韓国ではじめて医師の共同経営、さらにフラン チャイズ展開を始めたのであるから、その過程で起こりえた困難は 想像に難くない。 実際、たいへんな困難の連続であったと聞いた。 現在、韓国国内加盟 61 カ所、医師 151 人、職員 892 人がこのネッ トワークに所属、海外でも中国、ベトナム、など 24 カ所の歯科医院、 はじめメディカルセンターを開設している。 2006 年韓国経済新聞ブランド大賞も受賞。ブランディングに成功し まさに東アジア NO1の医療機関のネットワーク化に成功している。 しかもさらに驚くことは、これが 1992 年の共同経営開始からたっ た 15 年間という期間での実績であるということである。 翻って同じ 15 年間の日本では、経済はバブルの後始末にあえぎ、企業では不祥事が続発 し、政治は意志決定のできないまま、ほとんど経済も、政治も、停滞した状態である。その ような環境の中でも、良質な個別経営主体(企業や医療機関)の活動が重要であるにあると あらためて実感した Ye 歯科訪問であった。 2.経営学者であり哲学者であり創造博士 創造博士とは『スターバックス感性マーケティング』『ミ ンデュレ希望の物語』など大ベストセラーを生んだ作家キ ム・ヨンハンがパク・インチュル氏を表現した呼び名であ る。 パク・インチュルは経営への造詣が深い。しかも技術論 -9- だけではなく、特に経営哲学に関心を寄せる。日本の稲盛和夫も氏の大きなメンターという。 過去のビジネスの成功に学び、様々な経営理論を研究する。そして、その経営理論を次から 次へと実践してきた結果今日の成長がある。それはまさに創造する経営である。 今回の訪問でパク・インチュル院長が講演のテーマにしたのはピグマリオンリーダーシッ プ理論である。 昨年、MMPG がパク・インチュルを招聘した大阪講演で彼は、経営戦略論としてのブルーオ ーシャン理論を中心に自説を展開した。そして、今回の訪問では経営者論としてピグマリオ ンリーダーシップの理論と実践を披露した。特に今回は非常に限られた時間の中での講演で あったが、昨年の経営戦略論に続き、今回の経営者論へと講演テーマが展開されてきたのも パク・インチュル院長の凄いところである。 3.ピグマリオンリーダーシップとは ピグマリオンは古代ギリシャの王であり彫刻家でもあった。 ある日、彼は大理石で美しい一人の女性の像を造った。その彫刻は とても美しく、ピグマリオンはその彫刻が動き出し、彼の傍らで生き ることを切に願い続けた。 このピグマリオンの期待と願いを美の女神であるアフロディーテが 聞き入れその彫刻に命を与えた。こうして彫刻は一人の女性として生 まれ変わったという物語である。 物語と同様にポジティブな期待を組織の職員たちにかけることによって、全体の生命力が 増加、共通の目標があることによって驚くべき成果がやってくるというものである。 Ye歯科をアジア最高のネットワークに成長させたパク・インチュルの創造的“期待のリー ダーシップ”は、組織スタッフのモチベーションを高め、職員たち各々のクリエイティブ力 を引き出した。組織、職員たちの力を引き出すことによって夢を実現させる力、それがまさ に「ピグマリオンリーダーシップ」ということである。 4.なぜピグマリオンリーダーシップなのか 権威主義の時代には、上司は部下より優越な存在であって当然な時代だった。変化があま りなかった時代には、その仕事を一日でも早く始めた人の経験が正しかったので、間違って いると言えない場合が多々あるのも事実だった。 ところが、変化の時代には経験が必ずしも正しいとは言い難い。逆にたくさんの経験を積 んでいる人の方が間違った固定観念を持っている場合が多い。経験が豊かで、序列が高い人 だけがいつもリーダーになるわけではないのだ。 -10- 5.リーダーは新しい方向を提示し、変化を誘導する人でなければならない リーダーはチームの構成員の能力を認め、新しい能力を開発して業績を上げられるように 助ける人である。 知識サービス時代のリーダーはピグマリオンのように期待を持ってチャンスを与え、達成 できるように力を貸してあげなければならない。指示して統制する権威主義式のリーダーシ ップではなく、社員の能力を認めて期待しながらその能力を育んでいくピグマリオンリーダ ーシップが求められているのである。 6.ピグマリオンリーダーシップに必要な要素 パク・インチュルの展開するピグマリオンリーダーシップは次の 6 つの要素を実行した際に発揮できるとしている。 • Philosophy (哲学) • Your vision (ビジョン) • Grow pride (自信) • Mentoring (メンタリング) • Appreciate (尊重) • Learning (学習) 7.新しくなった Ye 歯科本院 最後に新しい本院のクリエイティビティ例が次の通り紹介された。 1,ロビーは1階ではなく最高の眺望を実現した13階に設置 2,13階にワインバーを設置(深夜1時まで営業) 3,大学病院のような規模 4,5,6階に整形外科、皮膚科がオープンして、一人の顧客に美しさを総合的にプロデュ ース 5,1階に絵画ギャラリー、5階に旅行会社 6,歯磨き、ハブラシ等日用品も自社製造でブランディングを 実現 7,3 階には Ye フランチャイズ展開を手がけるコンサルティング 会社メディパートナー 8,これらがシナジー効果で顧客のライフスタイルを提供する -11- 8.進化に終わりはない 日本では青山にたとえられるというソウルを代表する洗練されたチョンダムの地に、 漢川を眼下にしてすばらしい眺望と規模を誇る本院を移転した 2007 年現在、 隣地には現 ビルの2,3倍の規模でメディカルビルを建設予定という。これはもう「凄い」としか 言いようがない。 「キーワードは進化。進化に終わりはない。Ye 歯科は現在進行形だ」と語りパク・イン チュルの講演が締められた。 次に会うときにはどんな進化を遂げているのか、パク・インチュル院長に次に会うの が楽しみとなった訪問であった。 歯科診療室 パク・インチュル院長と 木村団長 -12- 2.三星ソウル病院(SAMSUNG MEDICAL CENTER) 報告-1 所在地 :ソウル特別市江南区逸院洞50 訪問日時:2007年11月1日(木) 10:00~12:00 税理士法人 湧志会計 佐藤 正雄 税理士法人 湧志会計 中島 敏郎 Ⅰ.はじめに 1.韓国の医療制度の特徴 (1)国民皆保険制度 ①1977年7月 日本の医療保険制度を参考に 500 人以上の職場勤労者を対象とした職域保 険制度を導入する。(保険者は医療保険組合連合会) ②その後、公務員及び教職員医療保険(保険者は医療保険管理公団) 、農漁村地域住民、自営業 者等を対象とした地域保険が実現し1989年国民皆保険制度完成。 97%が保険、3%の低所得者には医療給付。 (2)2000年保険が統合され、健康保険評価院(HIRA)が設立される。 ①保険者は「国民健康保険公団」、保険料の徴収と資格管理を行う。 ②審査機能は「HIRA」でレセプト審査を行う。医業の妥当性や費用の妥当性を評価する。 医療提供者に適正誘導、加入者に適正目的。乱用を防止する。 (3)混合診療と患者負担 ①公的医療保険の患者の自己負担額はイ.入院の場合20%、ロ.外来の場合、都市部の総合病 院50%、都市部の病院、歯科病院40%、医院(診療所)、歯科医院30%。ハ.調剤の場合 処方箋あり30%、処方箋なし40%。 ②保険料負担はサラリーマンの場合 4.77%(これを労使で折半)、国民総生産に占める総医療費 の割合は6%で(2005年)、10%を超えるドイツ、フランスや日本の8%に比べ小さな政 府となっている。 ③従って保険適用範囲が狭く、混合診療でないと治療できないので混合診療が認められているよ うである。入院患者保険給付に対する本人負担は20%だが、非給付を包含した負担は60% 前後と重くなる。 (4)進んでいるIT化 ①国の医療情報関連政策 韓国政府は1995年より情報基本計画を作成し、情報促進アクションプランを制定し国を挙 げて情報化に取り組んだ。十大重点政策のひとつに情報化による医療サービスの向上が位置づ けられた。電子レセプト・EDI(Electronic Data Interchange)方式など病院の情報化は 急速に普及した。 ②インターネットを介した情報共有化のための推進策 第1次段階(2001~04年)「基盤造成」が推進目標である。標準化、電子認証システム、 医療機関の情報化促進を推進課題としている。 -13- 第2次段階(2005~06年) 「システム構築」が推進目標である。情報化の連携システム構 築、モデル事業の推進を推進課題としている。 第3次段階(2007年~)「全国展開」が推進目標である。情報処理システムの設置拡大、教 育および広報活動を推進課題としている。 ③請求関連制度のEDIの法制化 1996年から1997年法制化によりEDIの普及促進策をした。電子レセプトEDIを 利用した場合には診療報酬支給期間を従来の30日から15日に短縮し、書面による請求には 40日以内と従来の支給日を伸ばして普及に政策誘導した。 ④Full PACS(画像管理システム:Picture Archiving and Communication System) の医療保険点数の優遇政策 1999年11月からFull PACSに対して医療保険の点数設定がされた。導入当初の 保険点数は2910ウォンと当時のフィルムの保険償還額の上限である800~1200ウォ ンを上回る水準に決められた。(2003年以降は点数が減額された。) PACSを推進する政策は韓国固有の制度であり、放射線フィルムを100%輸入依存してい る国情に加え国を挙げて情報化に賭ける表れである。 ⑤医療法改定によるIT化サポート 2002年3月30日に発行された改定医療法第21条の2(電子カルテ)では、 「医療関係者 または医療機関の開設者はカルテなどの医療情報を電子サイン法の定めによる電子サインを行 った電子文書によって作成し、かつ保管することができる」とされた。 また、同法30条の2(遠隔医療)では「医療関係者は患者が納得するに十分な利益がある 場合に限り、医療画像を情報通信技術等を活用して遠隔地の医療関係者に伝送し、医療知識ま たは技術支援を得る遠隔医療を行うことができる。」とされた。 これら法律改正により電子カルテ(EMR:Electronic Medical Record)に法的根拠が与 えられた。技術的には可能であったが低迷していた遠隔診療(Telemedicine)が大いに期待され た。 ⑥2010年間までに E-Health サービスの提供する目標を定める EMRは医療機関別に個別に情報開発されてきたが、国全体から見れば重複投資であり、ま たこのようなEMR導入は病院あるいは医師中心のものである。 政府は医療機関の間の情報互換性を高め、EMRなどの医療情報システムの標準モデルを開 発し患者中心の電子健康記録(EHR:Electronic Health Record)の開発を重要課題と定 めた。EHR開発事業計画 第1段階(2004~05年)保健医療情報インフラ構築 第2段階(2006~08年)公共医療機関の適用 第3段階(2008~10年)民間へのシフト (アジアマンスリーニュース2006年12月号 株式会社NTTデータ経営研究所 -14- 執筆・編集株式会社NTTデータ、 http://e-public.nttdata.co.jp より) 2.視察の目的 日本の公的医療保険制度を参考にして構築されてきた韓国の公的医療保険制度はIT化の面で は日本より数段進んでいる。レセプト請求は100%近くが電子化している。国家戦略として情 報化を進めている韓国では、医療業界の情報化も進んでいる。 日本も2011年度までに段階的にレセプトの電子化が義務付けられた。この時期にIT化の 先進国である韓国のIT化の状況を視察し、よい点、問題点を学びこれから始まる日本医療のI T化導入時に医療機関はどのように対応すべきかを考えてみたい。また、電子請求されたレセプ ト情報はどのように利用されているか興味があった。 Ⅱ 三星ソウル病院の案内 1.概 要 三星グループ財閥の私立病院として1994年11月9日開院。 「最善の診療、先端医学研究、優秀 医療人養成を通じて国民保健向上に寄与する」設立理念としている。 現在、敷地面積 148,500 ㎡、建物は地上 20 階地下5階の延べ 212,500 ㎡の知能型ビルに 1,278 病床、 40 診療科、8個の特殊化センター、100 あまりの特殊クリニック(専門外来)で構成されている。 1997年3月、成均館大学医科大学を発足し医師教育病院を兼ね、2003年 11 月病院経営研 究所 SMC Mini-MBA課程開設する。 2.規 模 ①人員 医師 902 人、看護師 1,374 人、医療技師 400 人、薬務・保健 108 人(薬剤師、医師記録師、栄養士 など)、行政職 349 人、研究員 21 人、その他 1,564 人の合計 4,718 人の職員がつとめる3次医療機関 である。 ②患者数 2006年の患者数は外来患者数 1,450,520 人、入院患者数 58,746 人。 (頂いたパンフレットより) 下の左表は年度別患者数、右表は平均在院日数(ホームページより) 1日当たり外来患者数 5,849 人、病院稼働率 93.5%、平均在院日数 6.9 人となっている。 -15- ③先端のインフラ 総合医療情報システム(SMIS)、医学映像保存送信システム、臨床病理オペレーティングシステ ム、物流自動化など完璧な先端インフラを取りそろえている。 真正な患者中心の医療サービスを提供する病院として韓国医療界に新たな病院文化を善導してい る。 ④顧客満足一位 「最高の診療を具現する患者中心の善導病院」のビジョンのもとCS経営を行い顧客満足1位を 続けている。顧客満足のための基本核心戦略として、イ.教育・研究、ロ.診療インフラ、ハ.顧客満 足を掲げ、6大CS実践目標として、イ.医療の質の高い病院、ロ.開かれた病院、ハ.愛の実践病院、 ニ.医療情報化構築、ホ.国民健康向上寄与、ヘ.職員の楽しみがわく病院を掲げている。 6. 活動結果 2) 競合病院との CS情報比較分析<NCSI 結果> 定期的に競争病院との CSI 水準比較を通じて当病院の強/弱点と顧客の NEEDSを 定期的に把握することで競争力を強化している 病院名 三星ソウル病院 ソウルアサン病院 ソウル大 学 病院 01년 02년 03년 04년 01년 02년 03년 04년 01년 02년 03년 04년 NCSI 80 84 87 80 79 82 81 73 71 77 71 顧客期待水準 89 86 91 83 90 85 85 78 83 86 80 顧客認知品質 84 86 91 82 83 86 84 73 72 79 75 顧客認知価 値 72 71 82 78 72 73 68 65 59 71 65 顧客不平率 6.4 16.3 5.7 2 9.3 6 12.3 1.2 6.2 4.4 8.3 顧客忠誠度 70 69 77 69 61 68 75 61 61 67 64 顧客維持率 84 83 86 81 82 82 84 75 76 81 76 競争 指数 109 100 97 ※ 指数はソウルアサン病院の総合満足度を 100とした相対数値 35 3.三星ソウル病院での研修 最初に三星ソウル病院の紹介ビデオを視聴し全体像を把握した。 三星ソウル病院は1982年三星生命共益財団が設立され、その財団を母体に1991年8月に着 工されて、米国のジョンズ・ホプキンス医大と協力関係を結び1994年開院している。 2004年9月に癌センターを着工し、現在、完成間近である。癌センターは 17 の手術室、69 病 床の重症患者室、48 の外来診療室を装備し、1日平均 1,500 人の外来癌患者と 700 余名の入院患者 が癌専門治療を受けられるそうである。 ビデオ視聴のあと、バイオメディカルエンジニアリング(医療工学)室長の権(コン)さんから説 明を受けた。権さんは医療と工学を専攻し、医療機器の評価、メンテナンス、教育を担当している。 -16- 韓国では、財閥系の病院が出来てから病院経営が変わってきたそうだ。1989年現代グループ財 閥のソウル中央病院〔2200 床〕が設立され、1994年三星グループ財閥の三星ソウル病院(1278 床)が設立されています。財閥系病院が大学病院の経営に影響を与えたようです。 三星ソウル病院は若さを持っていて韓国ではBig3,Big4の中に入っている。ホワイトハウ スの特別病院に指定され、米国の高官などがアジアで病気になるとヘリコプターで運ばれてくるそう です。その為にもヘリポートがありヘリコプターを2機持っています。「アジアで誰もが、探し求め てくる病院になろう。」としている。 権さんは我々の質問に答える形で次のように説明した。 質問1.看護師の確保はどうですか? 看護師問題は頭を悩ませている。新卒者を確保するのは命がけでやっている。確保して入社して も三交代の夜勤がいやで離職率が高い。また、配属先によってすぐ辞めるとこがある。新卒が 80% で経験者が 20%です。経験者は小さい病院等に勤務していても大きい病院にあこがれがある。Bi g3,big4の病院は成績優秀でないと採用されないと思われている。 外国人を採用することは韓国では無い。医師は大学と組んでいるので人材確保は出来るが、看護師 は学校とは組んでいないので、全国で説明会を開いてリクルートしている。 質問2.PETで日本の病院と提携していると聞いているがどうですか? PETスキャナーは2台ある。しかし、日本との協力は無い。医者同士のつながりはあるかもし れないが、医学的な意義を持つものは私にはわからない。 質問3.医療事故対策はどうしていますか? 法律を担当しているチームがある。予防に力を入れている。医者としてやっておくもの、やって はいけないものに力を入れている。法律で定められたことをし、記録に残す。 質問4.三星グループ財閥からの設備投資の支援はあるのですか? グループの投資は法律で定められているので、グループからの支援はない。癌センターは 250 億 円程度の投資となっている。病院としての投資は毎年変わる。機械は 300 億円規模のものが動いてい る。 質問5.外国との提携を進めていますか? 国際交流に力を入れている。特にアメリカとは癌の研究で行っている。 交流には学ぶために手を組む場合と相手に与えるために手を組む場合がある。ベトナムは国立病院 と手を組んで行う。中国とも手を組んで勉強している。マーケティング専門の企画チームがあり 15 ~16 名ぐらいで取り組んでいる。 アメリカや向けや、中国向け、日本向け等を分けている。学ぶべきか、与えるべきかのマーケテ ィングに取り組んでいる。 質問6.感染症対策はどうしていますか? 基本的には感染症管理室で対策を立てている。医師と看護師5人位で予防や問題が起きたときの 対応をしている。 感染症対策は具体的には「手を良く洗ってほしい。」ということです。だが、患者自ら問題を起こす 事がある。外出したら手を洗ってほしいと言っても洗わない人がいる。ステッカーを貼って注意をし -17- ている。 法律は薬事法と医療器械法に分かれている。感染症防止マニュアルを作っている。使った機器は消 毒してから他の場所にまわすことにしている。 質問7.混合診療の割合はどのくらいですか? 経理でないとわからない。 質問8.IT機器を利用した場合の情報管理をどうしているか、また問題点はありますか。 手でカルテを書くことや、フィルムを使うことからIT化に移行したことはどこの病院よりも進 んでいる。カルテはすべて電子カルテになっている。個人情報管理は、コンピュータは公的に認定し た者がパスワード等で管理している。 請求はオンライン請求をしているが、個人情報はインターネットには流さない。コンピュータを 使っての請求、領収は義務づけられている。しかし、難しいのは、保守管理している政府から請求が 正しいかの質問の裏付けが一番難しい。 経営に関して、病院運営は経営計画を立てて自立的に決定しており、グループからは独立採算で 経営している。病院としては赤字になってはいけない。病院は利益を追求する法人ではないが健診、 葬儀(病院内で行う)、食堂・売店(家賃)で収入を上げている。 癌センターは3人に1人は癌で死亡しているから赤字にはならないだろう。また、バランスト・ス コアカードは準備中で、ABC分析をしているそうである。 Ⅲ おわりに 韓国は1997年のIMF危機で経済が悪化したこと、また、2000年8月の医薬分業は医業経 営に大きな影響を与え病院の収益が悪化し、病院内に葬祭場、コンビニ、食堂等を入れ診療上の損失 補填を図った。日本では病院の中で葬儀場を経営するとは考えられない。 国政が大統領制のためか政府の方針はすぐに法制化され大胆な改正がすんなり受け入れられる、ま たは受け入れざるを得ない方向になっていると思われる。 三星ソウル病院の沿革を見ていると2003年の対応は「3月SMIS2003 新統合医療情報 システム Open」 「4月『ビジョン2010』宣布」 「8月「Mobile Hospital」Open」 「12月EMR 全病棟拡大」となっており政府の方針に沿っているように思える。 今回視察した病院は大病院と専門特化した病院だった。韓国の超低出産と高齢社会で高齢社会のス ピードは日本より速く、来年「老年長期療養保険制度」(日本の介護保険にあたる)で高齢社会に対 応しようとしている。現在65歳以上老齢人口は 9.5%だが2026年(9年後)は 20.8%と予測し ている。その結果、療養病院が多く設立され、供給過剰で倒産可能性が非常に高いとコンサルタント のチョン先生は予測している。 混合診療のため患者の診療報酬負担額は 60%となっている。今後、老齢化した国民の何割が負担 に耐えられるのかわからない。大病院や専門病院は海外の患者もターゲットにして経営を考えている ようだが、一般国民の医療はどこに行くのかよく見えなかった。 視察目的のIT部分は日本より進んでいると思った。今回の視察では経営内容、財務内容までは 発表してもらえなかったが、医業経営コンサルタントとしては数字の部分の必要性を感じた。 -18- 2.三星ソウル病院 報告―2 株式会社CWM総合経営研究所 経営コンサルティング事業部 1.施設の概要 ・財閥であるサムソンから寄附を受け設立 された公益法人 正式名称 『社会福祉法人 三星生命公益法人 三星ソウル病院』 ・三次医療機関 紹介状なしには診療を受けることができない。 Dr数 = 900 人 Ns数 = 1,200 人 その他 = 約 1,800 人 ・診療科 40 科 ・国際交流を盛んに行っている。 高度医療の普及を図るために国際交流を 盛んに行い、多くの Dr を受け入れている。 ・サムソングループの目標である「どの分野でも 世界で No1を目指す」という意味で、 親指を立てた銅像が病院内の敷地に設置。 ・アメリカとの交流が盛んで、アメリカ大統領が アジア圏で医療危機的な状況となった場合には 三星ソウル病院に運ばれる。 ⇒アメリカホワイトハウスアジア太平洋地域護送 病院に指定されている。 ・がんセンターを建設中 現在の建物に隣接してがんセンターを建設中 ・投資額 :250億円 ・ベッド数:800床を予定 -19- (三星病院の外観) 小久保 貴朗 2.ビジョン 「最上の診療を具現する患者中心の先導病院」 【ビジョンの実現1:建物】 上記のビジョンを掲げ、患者サービスが徹底されている。 その例として、建物のエントランスはホテルを思わせる ような雰囲気である。 ビジョンの実現が建物にも現れている。 (エントランス横の案内ブース) (エントランスに入った正面:高い吹き抜け) 【ビジョンの実現2:人】 右の写真は、小児科での写真。 塗り絵ができるブースがあり、そこには専任の スタッフが座って子供が飽きない工夫をしている。 日本にもお絵かきができるような筆記用具、紙は 用意されているが、専任のスタッフまでは用意され ていない。 -20- ・病院は、サムソンの寄附で設立されているため、 来院患者の寄附行為が行われている。 この寄附は、「Apple of Hope」と呼ば れている。 寄附を希望する人は、右図のようなリンゴの形をした 用紙に名前等を記入して、右図のようにボードに貼る。 寄付金は、色別に分かれている。 寄附金額は、 5,000 ウォン 10,000 ウォン ( 700 円程度) ( 1,400 円程度) ・病院内ではレストラン、ハンバーガーショップ、 ケンタッキーフライドチキンなどのお店もテナント で入店し、収益を上げている。 3.総評・感想 今回の韓国 その1: 病医院研修で感じたことは、以下の三点です。 病医院経営の中に、企業で活用している経営管理手法を取り入れている。 ・ ABC(活動基準原価計算) ・ シックスシグマ ・ BSC(バランスト・スコアカード)←まだ運用段階には至っていないと言っていまし た。そして、これかも多くの世界的に成功を収めている企業のベンチマークを実施し ていくだろうと予測できる。 その2: 4の病医院を訪問し、どの施設の解説者も『患者』という言葉を使わず『お客』という 言葉を使っていました。これは、お客さんを迎え入れるという考え方を持っているのだと 感じました。だからこそホテルのような医療施設、または専任スタッフの配置などの発想 が出てくるのだとも感じました。 医療をサービス業であると捉えれば、まだまだ進化の余地がある伴に、成功を収めてい る企業のベンチマークが重要な『キー』となる。 その3: 日本の保険制度をベンチマークしながらも、現在では日本の保険制度を追い越している。 IT化(EDI化)により効率な運営を実施している。また、収集したデータの分析を 通して、今後の国民の疾病予測をし、医療行政に反映させている。 -21- 3.ブンダンソウル大学病院 所在地 報告 :京畿道城南市盆唐九美洞300番地 訪問日時:2007年11月1日15:00~17:00 ~21世紀型最先端デジタル病院~ 株式会社吉田経営 経営サポート部 渡辺 一郎 株式会社大山会計 相澤 郁子 1.は じ め に ソウル市の南に位置するキョンギ道ソンナム市に、ソウル5大病院のひとつであるソウル大学 病院の分院、「ブンダンソウル大学病院」がある。 患者中心の快適な空間設計と、仏谷山と炭川とが出合うすばらしい展望の自然に囲まれた中に 聳え立つように存在する病院は、さながらホテルのような外観であった。 IT 化が進んでいると言われる韓国の病院の中でも、最初に電子カルテ(EMR)を導入し注目 をあびた当病院の実情を視察してきた。 -22- 2.病 院 概 要 開 業:2003年5月10日 目 的:①成人病・生活習慣病・老人病に対応する国家中央医療センターとしての役割 ②ブンダン地域住民の総合診療・救急センターの役割を実現 病 床:一般病床 833床 特殊病床 76床 特別室・1人部屋・集中治療室・5人部屋 診 療 科:23(内科・外科・整形外科・小児科・産婦人科など) 診療室数:76室 敷 地:36,500坪 本院・研究所・葬儀場 老人医療センター・心臓センター・脳神経センター・肺センター・健康増進センター 総合病院・教育病院・大学病院でありながら地域の救急病院の役割を果たしている 病 院 棟:29,264坪(地下3階~地上15階) 組 織:医師数・519人 常勤職員数・1,064人 委託職員含め総職員数・2,519人 昨年の主要業務:老人医療特性化センターとして研究 海外医療サービス・・・ウズベキスタンで心臓病の子供を看ている 医学教育システムの開発 病診連携:電算システム 医薬品のRITサービス 原価管理システム開発 6シグマ活動 評価部門の設置:100部門の評価を行っている 諮問会議:内部だけではなく外部からの専門家も参加し経営診断を行っている シンポジウムを開き事例の公開 CS評価システムを構築し顧客満足を定期的に測定している 3.外来、入院別実績 外 来 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 1/1~12/31 1/1~12/31 1/1~12/31 1/1~9/30 274 275 273 203 626,643 809,221 897,874 711,657 一日平均患者数 2,287 2,943 3,289 3,506 収益(百万ウォン) 50,546 70,919 90,166 78,651 一日平均収益(百万ウォン) 185 258 330 387 初診率 31% 28% 23% 23% 81 88 100 111 区 分 診療日数(日) 患者数(名) 患者単価(千ウォン) -23- 入 院 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 1/1~12/31 1/1~12/31 1/1~12/31 1/1~9/30 366 365 365 273 254,931 300,252 307,666 232,335 一日平均患者数 697 823 843 851 収益(百万ウォン) 92,793 114,112 130,661 109,279 一日平均収益(百万ウォン) 254 313 358 400 患者利用率 83% 88.7% 90.5% 91.4% 1患者単価(千ウォン) 364 380 425 470 区 分 診療日数(日) 患者数(名) 4.EMR導入 ◎導入方針 ソウル大学病院が取り入れようとしたEMRシステムは、病院の業務を100%連動させる総 合医療情報システムであった。国立病院であるソウル大学病院は、韓国の医療IT環境を自らの 技術で切り開かなければならないという考えのもと、国外のシステムを導入するのではなく、独 自にシステム開発を行ったという経緯がある。 ◎特徴 病院の業務プロセスの最適化を一つの方針として、院内の全てのシステムを連動させ、完全に 紙カルテを使用しない4Less(カルテ・フィルム・伝票・ペーパー)を追求したことにある。 ◎導入のメリット ・ カルテを探さなくてもよい ・ 救急の処置が早い ・ 効率的になった ◎導入のデメリット ・ セキュリティの管理 対応:情報管理室で100人のスタッフが入力状況を管理 ・ システム DOWN 対応:デュアルシステムでサーバーが壊れても支障がないようになっている ◎診察室の様子 診察室内は、医師・患者・看護師・看護補佐がおり、2台のパソコンを使用し、1台は電子カ ルテの記入をし、看護補佐がもう1台で予約の確認等を行っている。 電子カルテの使用は職員がそれぞれ持つ認証カードを用いて確認し、関係者以外は使用できな いように厳重に管理されている。 紹介状は CD にて渡し、患者にはペーパーで提供しているとのこと。 ◎導入成果 導入により、カルテ管理費及び人件費の削減、薬物の重複処方の激減、看護師の直接時間の増 加によりサービスの質の向上に繋がった。さらに、顧客満足度の向上、業務効率性の向上、外来 患者の増加の効果もあった。(図1) -24- 図 1:ソウル大学病院の EMR 導入後の ROI(投資収益率)分析資料 韓国の病院 ソウル大学校病院の総合医療情報化推進戦略 -25- 韓国の病院 6.感 総合医療情報事業の概念 想 特に印象に残ったことは、①国内最高の医療情報システムを誇っていて、完全な4Less(カル テ・フィルム・伝票・ペーパー)になっていたこと、②葬儀場が病院の敷地にあったこと、③発 展途上国への医療派遣など医療のグローバル化に取組んでいること、であった。 最後に、高齢化社会、高齢者医療は日本の方が進んでいるだろうが、これほどの大病院で高齢 者医療に取組んで、最新デジタルシステムを取り入れている点は、日本も見習うべきであると思 う。 -26- 4.ソウルウリドル病院 報告―1 所在地:ソウル市 訪問日時:2007年11月2日(金) 10:00~12:00 大正富山医薬品株式会社 栗原 誠 講義は広報室責任者から受ける。 1.はじめに(要約) 現在の韓国は、Big Five(ソウルアサン病院、ソウル大学病院、三星ソウル病院、延 世大学病院、Catholic 大学江南聖母病院)が中心で、各病院とも1500床を超える。 経営戦略は、心血管等の専門科を擁して韓国内及び外国の患者誘致計画を進めている。 韓国は、国民皆保険制度の下での混合診療が認められており、その中で中小病院の生 き残り戦略として様々な分野の専門病院が出現している。専門病院の医療の品質管理 は、大学病院等と比較して遅れをとらない。最高の競争力を維持している。その中で も韓国有数の「脊椎手術専門病院」がウリドル病院である。 2.病院の概要 ○ ウリドル病院の変革は、1982年に釜山に「イ・サンホ神経外科医院」の開設に 始まり、84年にウリドル病院を開院、86年に脊椎専門病院に転換した。その後 92年にソウル市に「ウリドル神経外科医院」を開院して脊椎専門病院となる。 ○ 病床数は166床(集中治療室6病床含む)、診療室は10室(外来7、痛症3)、 手術室13室 (全身麻酔10、局所麻酔3)である。 ○ その後ウリドルネットワークを形成し、中央にウリドル病院(ソウル市)があり、 ウリドル病院釜山、運動・リハビリの脊椎健康研究所、MRI撮影等の診断放射線 医院、そして電算・購買・広報担当の(株)Health Net Korea が連携し活動してい る。 ○ ウリドル病院のビジョンは①最高医術 ②最大希望 ③脊椎総合治療である。 ○ 病院の専門医の人的構成は、脊椎神経外科専門医21名、脊椎整形外科専門医3名、 脊椎一般外科専門医1名、脊椎胸部外科専門医1名、脊椎映像診断専門医3名、 脊椎痛症クリニック専門医6名、脊椎リハビリ医学科専門医1名の36名である。 看護師数は、外来看護チーム16名、手術看護チーム29名、麻酔看護チーム19 名、病棟看護チーム60名、外来施術チーム19名の脊椎専門看護チームで構成さ れている。その他医療技師や医療事務等、合わせて病院総人員は304人である。 ○ 治療の基本概念は、専門化―統合治療となる。そこで診断―物理治療―運動治療― -27- 最小浸潤脊椎手術―リハビリ療法―痛症―診断とケアシステムが出来ている。 ○ 脊椎専門病院として新手術法も開発をしており、97年に韓国内初の胸腔鏡脊椎手 術や人工ディスク置換術による国内初の手術等を手がけ、腰痛の内視鏡器具開発等 も行っている。病院の説明では、病院情報化へ果敢に投資を行っているという。 ○ 専門病院としての国際評価も高まり、国際教育(訓練)センター指定や国際学会開 催・主催を行い、英国、中国、フランス等における国際クリニック開設も入力して いる。 ○ 脊椎疾患専門病院であり、国際的という理由は2つある。一つは海外の医師の研修 を行っていることである。年間100人の医師が脊椎手術等、研修に訪問する。日 本からも20人の医師が研修している。一つは海外からの手術患者数である。20 06年の手術患者数はグループ3病院を合わせて19,651人で、国外41ヵ国 577人(アメリカ203人、中国133人、カナダ58人、日本39人他)であ る(データはホームページより)。患者1人当たりの費用は国内の韓国人50万円、 日本人120万円が自己負担である。 ○ 日本では韓国の医療は医療情報システムが日本より進化しているといわれている。 ウリドル病院の総合医療情報システム(HIS)導入の重点指標を以下に示してい る。 ・ 脊椎専門病院の特性に合致したシステムの実現 ―総合予約、診療、検査の進捗掌握、各部署のニーズにマッチした画面構成、 患者の状態情報への早期アプローチ、システム相互の有機的結合による情報 の重複、誤り排除 ・ 職員への抵抗克服を重視 ―医師の情報活用モチベーション(診療効率、カルテ記録省力、業務分担) ―看護師、技師、職員の業務上達及び適応への徹底的教育 ・ 資料の保安 ―WORM システム採択(EMR) ―業種・職位におけるIDの区分 ・ 手書きチャートの省力化 である。そして導入効果を病院側、患者側で評価している。 <病院側> ・ 迅速・正確な診療及び業務による生産性向上 ・ 人力の効率的活用、病院経営の合理化 ・ 迅速で豊かな研究情報提供 ・ 看護師の管理業務の削減、看護業務率向上、親切な看護実現 ・ フィルム、チャート保管空間、人力の削減、紛失危険度0% ・ 業務の単純化、標準化で業務プロセスの透明化 -28- ・ Any One、Any Information、Anywhere、Anytime ・ 情報の完全な共有と蓄積 <患者側> ・ 患者の導線の改善 ・ 診療予約率向上(80%)による待時間短縮 ・ 顧客満足度の向上 ○ 今後の総合医療情報システム実現方向として、Contact Center の実現、ABC 原価 分析システムの構築、OCS、EMRシステム改善による期待効果は各種情報の統 合や資源の効率的配分による投資効果の最大化、各 Network 病院の間の効率的な 協診体系等の実現である。混合診療であり、主要顧客への差別化サービス等で効果 を上げている。 ○ ウリドル病院の手術情報技術では、 手術情報学としてある3大 Mission(仮想手術、 コンピュータ手術、遠隔手術)を研究しているが遠隔手術が遅れている。脊椎手術 ロボット研究計画等、実用化に向けている。 <ウリドル病院グループ関連病院> ←今回訪問のウリドル病院 水中リハビリテーション(理学療法士) 在宅復帰用のリハビリとしての役目を果たす キッチンシステム -29- 3.研修内容 ○病院内会議室にて質疑応答含めて約1時間の講義受ける。講義内容は、上記の2で 記載した病院概要である。ここでは、質疑応答で出された項目に対しての病院の説 明を記載した。 Q 脊椎疾患専門病院だが、糖尿病等の合併症患者がいると思う。その場合、手術 可能か否かの内科的判断も必要と思うがどうなのか。 A 基本的には、内科医もいるので当病院で診る。グループの病院で協力して診る 場合もある。こちらで手術可能な患者さんを対象に手術をおこなう。 Q 多くの患者さんを国際的に診ておられる。その中で椎間板ヘルニア等に対して の予防も重要と思うが、予防に心がけることは何かあるか。 A 毎月、患者さん向けに公開で予防講座を行っている。また1年に1回はウオー キングも行っている。また学校や官庁で無料の予防教育も行なう。具体的な予 防は定期的な運動を行なうことで登山や走る方法もあるが、歩くことが一番良 い。姿勢も大切である。人によって異なるので運動健診等を行ない、個人に合 わせた運動メニューも作成する。 Q グループ全体の医師数や平均在院日数はどうなのか。 A 全国の5つのグループで、現在、267床、医師は120人である。平均在院 日数は5~6日であり85%の病床回転率である。 4.おわりに ○日本でもインターネットでウリドル病院を検索すると「脊椎疾患専門 ウリドゥル 病院」で病院概要が示されている。記載されている中に「日本の患者様のための新 しい診療システムを2007年11月から開始します」と書かれている。日本人の 患者も意識して「日本の患者様に世界最高水準の脊椎疾患治療を提供します。世界 最高水準の脊椎疾患治療を提供します」と広報されている。日本の病院は国内で広 告規制もあり、表現は難しい。この点は、ウルドル病院が世界戦略の中で攻めのマ ーケティングを行っているといえる。2006年の海外からの患者数は、アメリカ 203人、中国133人、カナダ58人、日本39人、台湾14人、オーストラリ ア11人等、合わせて557人が治療を受けていると広報している。 ○病院の面積規模は大きくないが機能的に活動している。印象に残るものをいくつか 上げるとX―MRIは2006年フィッリプス製、脊椎の可動を予防的に筋肉増強 等を行なう医療機器はドイツ製等の欧米の医療機器を使用している。腰椎に対する 予防の機器は効果を上げていることを数値で示し、院内で開示していた。 ○手術・病室の本院と隣接して外来・予防等のクリニックがあり連携している。 ○リハビリテーションとして水圧と浮力を利用して筋力トレーニングを実施していた。 -30- 日本でも多く行われている手法であるが、外からガラスを通して水中での患者さん の動きが把握(写真)できるようになっている。推測だがプールとしての面積を広 く取れないので効率的な効果を示す方法として水中運動を外部から水中を見ること で指導すると考えた。日本では見かけない。 ○リハビリ訓練として家庭で生活復帰できるように車イスで対応できるキッチンシス テムが完備されている(写真)。これも日本の大きな病院のリハビリで見ることがで きる。 ○病室は個室とナースステーションを見学したが液晶テレビや看護師の写真と名前が 開示されている。日本の病院と同じである。 <参考資料> ① ウリドル病院ホームページ(日本版) ② 韓国の病医院経営・管理研修資料、韓国研修資料(柳韓大学保健医療福祉研 究所・教授 南商尭・日本事務所所長 西山孝之) 脊椎矯正機器 -31- 4.ソウルウリドル病院 報告―2 (株)日本経営 藤澤功明、門原郁洋 1.ウリドル病院の概要 ウリドル病院は、「安心楽観」の医療哲学を土台として 1982 年にスタート。以後、脊椎 分野のみにすべての資本、労力を集中し、現在では脊椎疾患のトータルケア(Spine Total Care System)を提供する脊椎疾患専門病院。韓国国内のみならず、アジア・世界各国から 訪れる患者の椎間板ヘルニアをはじめとする脊柱疾患に関する治療をおこなっている。 【診療科目】整形外科、神経外科、胸部外科、外科、 痲酔痛症医学科、病理科、リハビリ医学科、内科 【特化診療分野】脊椎/椎間板分野 【病床数】ソウル 267、金浦空港 90、大邱 88、釜山 208 【総人員】304 人(うち医師 36 人) 2.ウリドルグループ ウリドル病院は、韓国内に 5 カ所の病院(ソウル:本院、金浦空港、釜山、釜山ナクミ ン、大邱)があり、2008 年には済州島病院と新金浦空港病院が開院予定である。海外では 2008 年に中国・上海とマレーシアで新病院が開院予定となっている。 3.ウリドル病院沿革 1982 年 釜山『イ・サンホ神経外科医院』開院 1984 年 釜山『ウリドル病院』開院 1986 年 脊椎専門病院に転換 1992 年 ソウル『ウリドル神経外科医院』開院(脊椎専門病院) 1994 年 『ウリドル脊椎健康研究所』『脊椎強化運動センター』設立 1996 年 『ウリドル診断放射線科医院』開院 1999 年 ソウルウリドル病院清淡洞新築移転 2000 年 『ザイロニック(脊椎柔軟運動)センター』開設 2001年 (株)Health Net Korea 設立 -32- ソウルウリドル病院正面玄関にて 4.ウリドル病院の理念 (1)ミッション 私たち(ウリドゥル)は愛と人類愛を基礎として、 脊椎疾患の苦痛と麻痺から全人類を救い、正常な生活が営めるよう努めます (2)ビジョン 世界最高の脊椎健康のガードマン (3)治療理念 “病院に必要なことは、患者様を安心させ必ず治るという楽観を与えることができる医 療技術と設備を整えるという‘安心楽観’の精神であり、これがウリドゥル病院の治療 理念です。” -33- 5.手術実績(ソウルウリドル病院) 頚椎 胸椎 腰椎 その他 手術 手術 手術 の手術 計 微細顕微鏡手術 138 39 6,471 6,448 前方切開手術 378 31 973 1,382 後方切開手術 40 38 415 493 内視鏡手術* 72 12 3,384 3,461 人工髄核置換 85 100 185 16 33 外科的 12,538 治療 腫瘍 5 5 奇形 40 40 感染 5 5 281 291 その他 非外科的 10 ペインマネージメント 12,047 12,291 治療 IVR** 244 計 *レーザー治療等の施術 718 125 11,369 326 24,829 **Interventional Radiology 6.手術内容と費用 (1)施術(切開しない脊椎椎間板ヘルニア微細治療:MIST)を受ける場合 日本人患者様用椎間板ヘルニア施術パッケージ(2 泊 3 日) 800 万ウオン(日本円で 104 万円:100 ウオン=13 円で換算) 【対象となる施術】 内視鏡レーザー腰椎椎間板ヘルニア切除術 内視鏡レーザー腰椎椎間板ヘルニア成形術 内視鏡レーザー胸椎椎間板成形術 (2)手術(最小侵襲脊椎手術:MISS)を受ける場合 手術方法によって、費用、入院期間等が異なるため、個別に対応 手術方法、手術部位(腰椎、頸椎など)、手術箇所(1~3 カ所)により異なる 約 1,000~2,000 万ウオン(日本円で 130~260 万円:100 ウオン=13 円で換算) 【対象となる主な疾患】 椎間板ヘルニア(腰椎、頸椎、胸椎) 脊柱管狭窄症など脊椎疾患全般 -34- (株)ウリドル脊椎健康研究所にて 7.その他(Q&Aの内容も含めて) ・ ソウルウリドル病院の病床稼働率は 85%、平均在院日数 5.6 日。 ・ 日本人も過去に 39 人が手術を受けにきた実績がある。 (うち半数は韓国国内の在住者。その他ウリドル病院のホームページや日経メディカル を見てこられた患者さんが多い。日本の医療機関との連携等は特に行っていない) ・ 毎年、世界から 100 人程このウリドル病院に勉強に来る(うち日本人は 20 人程) 。 ・ 日本語版のプロモーションビデオ(主に来訪者、見学者が見るため)がある。 ・ 施術・手術については、合併症などを引き起こすリスクも考えられるため、成功確率の 高い場合に行っていると推測される。 ・ 今後、韓国の高齢化にともない多くの高齢者が当病院の対象患者となる可能性が大きい。 過去には 86 歳でも手術した例がある。 -35- 5.健康保険審査評価院 所在地 報告(HIRA:Health Insurance Review & Assessment Service) :ソウル特別市瑞草区瑞草3洞1586-7 訪問日時:2007年11月2日(金)15:00~17:00 (税)近畿合同会計事務所 財務指導部 橋爪 大輔 1.はじめに 健康保険審査評価院では療養の給付費用の審査を行うとともに、審査基準と評価方法の研究を行 い、また医療の適正評価も行っている。このような活動を通じて韓国国民医療の向上に寄与してい る審査評価院の活動状況ならびにその活動の基盤となっているレセプトオンライン請求システム (EDI:Electronic Data Interchange)についての導入状況について視察を行った。 2.概 略 2000 年 7 月に特殊法人として設立された。審査評価院はソウル特別市内に単独のビルに設置さ れており、韓国内のレセプト集計データは当審査評価院に集約される。職員数は、2005 年 12 月現 在で 1571 人、うち医師は 31 人、非常勤医師 600 人、看護師 833 人(実務経験が 2 年以上必要)、 薬剤師 36 人、医療技師 69 人となっている。 本部のほかに 7 広域都市に支部がある。本部は、全国の総合専門療養機関、総合病院、漢方病院 等の診療費審査および医療給付内容の適切性の評価を行っている。各支部ではエリア内の病院、医 院、歯科病院、歯科医院、漢方医院、薬局、保健機関の診療費審査および医療給付内容の適切性評 価の補助業務を行う。 <沿革> 1963 年 12 月 医療保険法が制定 1977 年 11 月 全国医療保険協議会設立 1979 年 7 月 医療保険給付費用の審査を開始 1982 年 1 月 医療保険連合会と名称変更 2000 年 7 月 統合された国民健康保険公団の発足と同時に独立した審査・評価の専門機関として 発足 <任務>(国民健康保険法 56 条ほかで規定) 1.療養給付費用の審査 2.療養給付の適正性に対する評価 3.審査及び評価基準の開発 4.審査及び評価に関連した調査研究および国際協力 5.委託を受けた場合は他の法律の規定で支給される給付費用の審査および評価 6.健康保険に関して保健福祉部長官が必要と認めた業務 7.その他保険給付費用の審査と保険給付の適正性評価に関して大統領令が定める業務 8.療養給付費用審査請求に関連するソフトウェアの開発および供給 -36- 9.業務に関連した教育および広報 10.審査及び評価に関連した異議申請の処理 3.研修内容 審査評価院と EDI についての説明を受けた。 <健康保険審査評価院> 審査評価院は前身の組織が 79 年から医療保険給付費用の審査を開始したことに始まり、2000 年 7 月 1 日の国民健康保険法施行により、国民健康保険公団とともに創設された。 ●診療費の審査 国民健康保険法によって審査評価院は療養機関が患者に提供したサービスの診療費を審査する 権限が与えられている。審査は審査基準、各種の規則や指針にもとづいて患者に提供されたサー ビスが医学的に認められた範囲か、適正な水準か、費用対効果が高い方法かなどを審査する。こ の審査は不公正、不適正な診療への支払いの防止、不要または過度の診療抑制につながり、適正 な医療保険制度の確保に重要な機能である。 ●審査手順 審査は次のような手順で行われる。 1 段階:(レセプトの接受)記載事項点検、請求件数等主要内容点検。 2 段階:(審査職員による審査)療養給付費用の審査基準に対応させて算定の可否を審査 3 段階:(審査委員審査)専門医学的判断によって診療の適正性、医学的妥当性の可否を審査 4 段階:(審査委員会)審査の基準設定が必要な事案、高度の専門医学的判断を要する事案と審査 基準の解釈上の異見がある事案を合議的な方式で審議判定 5 段階:(審査結果の通報)療養給付費用の審査を終えた後、審査評価院は審査結果を国民健康保 険公団と療養機関に通報する。国民健康保険公団は審査評価院の審査結果によって療養 機関が請求した療養給付費用を支給する。 ●審査委員会 審査委員会は 30 名の常勤委員と 600 名の非常勤委員で構成される。委員は免許取得後 10 年以上 で高次機能病院での経験を積んだ医師、歯科医師、漢方医、薬剤師で構成される。 委員会の構成は、中央委員会が 31、地域委員会は 11 の小委員会が設置されている。委員は 2 年 ごとに交代する。 本部は総合病院、大学付属病院、漢方病院の療養給付費用の審査・評価を行う。支院は、ソウ ル、釜山、大邸、大田、水原、昌原、光州の 7 ヶ所にあり、病院、医院、歯科病院、漢方医院、 薬局、保険機関の療養給付費用の審査・評価を行う。 外来レセプトは、診療科や疾病別の全国平均額等で設定された各種の指標と比較して請求費用 が低い場合は請求の妥当性を調査する(指標審査)だけで、高い場合は詳細に審査が行われる(精 密審査)。入院レセプトは精密審査が行われる。 指標審査:対象機関は療養給付費用審査の経済性を考慮して、統計的に算出した基準指標が一定 基準以下の状態にある場合、一定期間審査を省略する。 主に外来療養給付費用を対象として、同一診療科目別、傷病別全国平均診療費と比較 -37- して基準指標を算出する。 精密審査:療養給付費用明細書を 1 件毎に診療内容の適正、適合性等を審査する方法指標審査の 物件を除いて主に入院療養給付費用明細書を対象に実施する。 医療機関の実査:年間数百件の規模で医療機関を訪問調査して実査を行っている。 医療機関は人員、設備、その他の医療サービスに関連する全ての情報を報告する。それらの情 報は変更のつど報告する必要がある。その情報は DW に蓄積されて審査に反映させる。 ●審査基準 毎年改正される「診療報酬点数表」は保健福祉部から公示される。その点数表の記載内容によ って計算された具体的な請求点数は名称とコードを付けて審査評価院のホームページで公開され る。 「算定基準及び算定指針」は審査の過程で必要と判断されたつど作成されて審査評価院のホー ムページに掲載される。関係者はそれによって具体的な対策を立てる。 ●診療給付の適正性評価 法的根拠と方針 審査と並んで審査評価院の重要な業務は、国民健康保険法第 56 条第 1 項第 2 号に規定された「診 療給付の適正性評価」である。これは医療機関が患者に提供する医療サービスの質、有効性、経済 性を高めることを目的としている。法第55条で療養給付費用を審査して療養給付の適正性を評価 するために健保審査評価院を設立することになっており、施行法則第 21 条で、具体的に療養給付 等の適正性評価方法に対して規定している。保健福祉法では「療養給付の適正性評価及び療養給付 費用の加減支給基準」を制定して公示し、療養機関の適正性評価に適用している。また保健医療基 本法第52条で保健医療サービスの質的向上のために評価を実施するように規定している。 評価委員会は評価対象と詳細な評価手順を決定する。下記は適正性評価の基本指針である。 1.個人に重大な健康的影響をもたらす診療内容、医療資源の利用に注目する 2.計測可能な指標を特定して医療の質の基準を定める。 3.診療行為の改善の可能性を明らかにする。 4.公式、非公式の連繁を審査評価院が主導して構築する。 5.実績の測定と統計分析に合理的な方法を採用する。 ●評価手順 1 段階:(問題の発見)問題の現況等の把握、評価の必要性等の情報管理 2 段階:(評価対象の選定)問題の大きさ、効果性、受容性等を考慮、公衆意見の聴取等 3 段階:(評価計画の構築および評価基準の開発)対象選定の理由、時期、評価方法等、専門家の 誥問または提供基準の開発。 4 段階:(調査の実行)診療の現地調査(臨床、調査専門家同行) 5 段階:(結果分析)評価結果のまとめ 6 段階:(結果管理) <医療機関、関連組織に対して> 評価結果を該当病院に通報 診療の質改善のための教育、資料の提供、評価基準の発行 -38- <政府に対して> 評価結果と結論の報告 政策決定のデータ、資料の提出 評価結果を反映した診療給付基準、診療報酬の更新、改定 <国民健康保険公団に対して> 請求・支払いの増減の理由となる評価結果の通知 実情に応じた段階的な対策実行 <EDI(レセプトオンライン請求)について> 請求審査事務の効率化とその他の費用の抑止策として、韓国テレコムとの提携で試験事業が開始 され、2000 年 7 月に施行された国民健康保険法施行規則の中で「EDI 方式による療養給付費用審査 請求書および明細書を審査評価院に提出し、審査評価院と国民健康保険公団は同方式により、療養 給付費用審査結果通知書および療養給付費用支給通知書をそれぞれ療養機関に知らせる」ように規 定された。EDI 請求は義務化ではなく、療養機関は書面請求、FD による請求、EDI 請求の3つの方 法が選択できる。EDI 方式による請求は、全請求の 89.7%、FD 請求が 7.6%、書面請求が 2.6%と なっている。 高い電子請求割合の実現が成功した背景として、①請求方法の簡素化、②韓国テレコム主導で通 信料を一部割引し、システム構築のためのフォロー体制が確立していた、③システム運用自体に公 的機関が積極的に関与し、広報活動も充実していた、④これまでの請求後40日払いから週毎の請 求で最短15日後払いが実現した、ことなどが想定される。 一方で現在抱えている問題点として、①すべての療養機関がオンライン化できているわけではな く、書面請求先への説得が続いている、②通信事業者にとってオンライン事業の採算性は悪い、③ 医療情報の標準化が未整備、④患者情報の保護への対処、などがあげられる。日本でのオンライン 化もレールが敷かれた段階であるが、韓国に類似した制度になる可能性もあり、韓国での導入後の 経過には学ぶべきところが多くある。 4.おわりに 日本の療養給付制を模範としてはじめた韓国の医療保険制度であるが、IT に先駆的である社会 経済環境を背景とするレセプトのオンライン化制度(EDI)を活用して、これから飛躍的に国民医 療を効率化し発展させていきつつある現状を肌で確認できた。日本においても社会保障費とりわけ 医療費に関して、抜本的に改善する方向で施政が進められているが、オンライン化のスケジュール が明確化されていることから、これからの医療機関側の対応策の検討として、韓国の現状と国側の 誘導ならびにその効果について学んでいく必要を感じた。一方で、オンラインによるデータ整備は それほど進んでおらず、オンライン化の成果が具体的に現れていない点も確認できた。日本におい ては病院の EDI は決まっているものの、小規模病院や診療所においても EDI 化した場合は支払を早 くするなどのインセティブ付け、普及を急ぐべきと思う。 -39- <添付資料・画像> -40- 療養機関別EDI導入現況 区分 療養機関数 EDI期間数 参加率(%) 計 72,141 62,331 86.4 病院級以上 1,598 1,289 80.6 医院・歯科医院 37,380 29,718 79.5 漢方病院 9,598 8,990 93.7 薬局 20,145 18,916 93.9 保険機関 3,420 3,294 96.3 (参考文献) 柳韓大学保健医療福祉研究所 東京保険医協会事務局次長 日本事務所・西山孝之氏の報告 栗林玲子氏の報告資料 説明に聞き入る -41- 6.韓国の病院建築 報告―1 (株)伊藤喜三郎建築研究所 原 勇次 訪問先:SMC(三星メデイカルセンター) (正式名―社会福祉法人 三星公益財団 三星ソウル病院) 所在地:大韓民国ソウル特別市江南区逸院洞 47 番地外 訪問日時:2007年11月1日 建築概要 施 主:三星生命保険株式会社 階 数:地上 20 階、地下3階(本館) 構 造:S 造(地上)SRC 造(地下) ベッド数:本館・別館 1,279 床 がんセンター800 床(2008 年竣工予定) 敷地面積:148,500 ㎡ 建築面積:19,203.8 ㎡(本館) 延床面積:212,500 ㎡(本館 198,122.9 ㎡) (本館外観) SMC は、目覚しい発展を続けるソウル市郊外に建設された韓国の代表的大規模総合病院の一 つである。本センターは、韓国を代表する企業集団「三星グループ」によって設立され、すべ ての診療科を備えた本館の他に、別館として健診センター、臨床医学研究所、医師および看護 師宿舎などの附帯施設を有している。 現在 2008 年の開業を目指し、アメリカの KPF の基本設計、三星グループの三友設計の実施設 計による、軽快なガラスカーテンウォールのがんセンターの建設が進められている。 約 15 万㎡の敷地のほぼ中央に配置した本館は、三角形の高層病棟、 矩形の低層外来診療棟及び中央診療棟の三棟から成り、それぞれ 広く明るいホスピタルストリートで連結する明快な平面構成とな っている。 病棟は中央に配置されたエレベーターコアを挟んで 1 フロア 2 看 護単位、中央の三角形の光庭を取り囲むように廊下と病室が配さ れ、明るく開放的な空間が実現している。雁行した病室が創りだ す軽快なリズム感のある外観デザインは、丘の上のランドマーク ともなっている。 低層部においてはアートワークのあるホスピタルストリートや各 所に設けられた光庭や吹き抜けにより、明るく開放的で、利用者 (ホスピタルストリート) にとって解りやすい計画となっている。特に天井の高い 2 層吹き抜けの、コンサートなども催 -42- される中央待合ホールは、外の景色を取り込んだ開放的で心地よい空間となっている。 地下 1 階には光庭の周辺に会議室、大講堂のロビー、ラウンジ、及び銀行、花屋、レストラン、 コンビニ等のショッピングモールが計画されており、ここが病院である事を忘れさせてしまう 位、多くの人々に利用されている。 中央待合ホール 地下 1 階光庭 地下 1 階コンビニエンスストア -43- 6.韓国の病院建築 報告-2 カンナムYe歯科本店とウリドル病院 視察日 2007年10月31日および11月2日 報告者 榎本 繁 2施設の階層構成 階 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 地下1階 地下2階 ウリドル病院 本館・別館 ウリドル病院 新館 セミナー・職員食堂・厨房 --研究室・会議室 --入院 7室 --入院 13室 --入院 13室 --手術室(計11室)・回復室・麻酔科 --手術室・回復室・麻酔科 院長室・職員食堂・セミナー室 手術室・回復室・麻酔科 リハビリ・病理 入院 7室 脊椎健康治療センター 入院 8室 ペインクリニック・事務 入院 7室 入院 7室 入院 8室 入院 8室 ---(4階なし) ---(4階なし) 診察室・入院準備室 非手術専門微細施療センター 受付・支払い・薬局・国際患者センタ同診断治療センター ロビー・コンビニ・メディコア・ATM ロビー・内科・応急・女性医科 放射線科・臨床病理・心電図 駐車場 総合物流在庫管理・遺失物 --- Ye歯科 本店 --医師室 経営室 歯科ロビー・ワインバー VIPルーム 歯科一般 インプラントセンター 歯科一般 矯正歯科 皮膚・形成外科入居予定 皮膚・形成外科入居予定 旅行会社・歯ブラシ製造 デンタルアート(歯科技工室) メディパートナー ピグマリオンホール ロビー・絵画ギャラリー(工事中) ----- チョンギソン教授は講義で、大学病院など「ビッグ4病院と他病院との格差は大きく、 タイムマシンに乗った如く」で、フランチャイズ化した「専門病院の品質管理努力は大学 病院に遅れをとらない」と述べられた。地方や中小医療施設との格差が指摘されるなかで あるが、ソウル市内の先進的な専門医療施設 2 つについて視察を行うことができた。 いずれも設立 15-25 年を経て移転し、改修(07 年)・新築(99 年)された歯科(美容)・ 脊椎専門のクリニックと病院。どちらも地上 15 階建て(Ye では 4 階を表示しない)のコ ンパクトプラン。ウリドル病院は本館と別館が結ばれ、離れて新館がある。Ye 歯科本店は 独立ビルであるが、隣地に複合診療所を計画中である。 -44- 院内情報の電子化が進み、書類・フィルム類の搬送がないため、高層化には有利である。 患者・職員とも上下交通はエレベーターが主で、かご内部には案内・広報用のテレビがあ り、各階表示が設けられているほか、スタッフ教育に力が入れられ、予約制で患者数が限 られているなど、患者移動に難はない。ウリドル本館では搬送用ダムウエーターが設けら れている。階段は Ye 歯科本店・ウリドル新館で配置が偏っており、非常時の 2 方向避難に 不安がある。 室内には新鋭医療機器がおかれ、Ye 歯科本店ではインテリアデザイナーを含めて広報や 内装のイメージ作りを行ったとのことで、周辺景色を取り入れながら、担当医師それぞれ の個性を際立たせ、患者の選良意識をくすぐる演出が行われている。建築の質、仕上げ、 使用材料に韓日の差はない、むしろ簡素であるといえる。 家族付添いがあって看護師が少なく、コンビニ・ワインバーなど「便宜施設」が充実し ている点などが目に付く。人々は社交性が高く真摯で、サービス精神旺盛であり感じ入っ た。蛇足ながら韓流映画で見られる加湿器は、日本の多くの場合、空調機器内で温度湿度の 調整が行われているため、ない。 ウリドル病院本館基準階 -45- ウリドル病院外観 6.韓国の建築 報告―3 盆唐ソウル大学病院(Seoul National University Bundang Hospital) 訪問日:平成19年11月1日(木) 日建設計 野 田 洋 1.訪問目的 「韓国に学ぶ」という気持ちで、隣国の医療事情、IT 技術、医療機能・制度等を知る機会を得た。本来のスケ ジュールは、アサン病院を訪問予定であったが、先方の都 合で急遽変更され、盆唐ソウル大学病院の快諾を得て見学 することが出来た。病院概要等を含め特徴を述べる。 盆唐ソウル大学病院は、急増する老人医療に対する需要 と地域住民向けの医療機関建設に対する政府の積極的な 要請を受け、2003 年 5 月 10 日より診療を開始した。 21 世紀の最先端デジタル病院で、韓国では初めて紙カルテをなくし、患者の診療データをコ ンピューターに保管する EMR( 電子医務記録 ) システムを完備した。ラップトップや PDA など を利用し、医師がいつでもどこでも患者の医務(医療)記録を照会できる革新的なシステム環 境を整えている。場所は、ソウル市内から約 1 時間の距離の新興都市に建設されている。盆唐 ソウル大学病院は、母体であるソウル大学病院と緊密な協力関係を保ち、最高水準の医療サー ビスを提供している。 所在地: 韓国 施設名: 盆唐ソウル大学病院(Seoul National University Bundang Hospital:SNUBH) 説明者: 教育研究チ-ム長:ソウ ヤンオー氏 関連病院: 京畿道 城南市 盆唐 ( 九美洞 300 番地 ) ソウル大学病院、ソウル大学病院こども病院、ソウル大学歯科病院、 ヘルスケアシステム 江南センター、盆唐ソウル大学病院、ボラメ病院 6疾患専門別センター:老人医療センター、心臓センター、脳神経センター、肺センター、関 節センター、健康増進センター 診療科(23 科) :内科、外科、胸部外科、神経外科、整形外科、形成外科、産婦人科、小児科な どの 23 の診療科 マンパワー:2,519 人(うち医師 ・院外処方を実施 519 人)、非常勤・委託業者( 936 人 ) 施設概要 ・ 施 設 規 模 : 36,500 坪( A棟:21,274 坪、B棟:15,226 坪 ) ・ 敷地面積:4,460 坪 延べ床面積:41,112 坪 ・ 病院施設:地下 3 階/地上 14 階/PH (29,264 坪) ・ Power Plant:地下 2 階、地上 3 階 ・ 葬祭場:地下1階、地上 3 階 ・ 駐車台数:1,567 台(地上:753 台、地下:814 台) ・ 外 来 患 者 数 : 3,500 人 、 収 容 率 23%、 ・ 平均入院患者数:850 人 (病床数:905 床) ・ 1 看護 45 床基本 看護基準 15:1(患者 15 人に対し看護師 1 人) -46- ・ 1 日の売上 400 万ウオン、1 人の日当点 11 万ウオン、1 人の売上 4 万ウオン ・ 救急医療センター拡充 33 ベッド→50 ベッドへ 総事業規模 事業名 土地購入費及造成費 建築費 医療機器装備 事業 550 2,110 447 電算及び什器備品 開院前運営費 財源 計 政 府 支援金 支援金 財政投融資金 自己資金 2.特 67 単位:億ウォン 備考 電 算:23 億ウォン 什器備品:44 億ウォン 30 3,204 1,907 818 479 リース:138 億ウォン 自己資金 341 億ウォン 徴 建物は Y 型で仏谷山の中腹の開けた場所を利用し計画されている。仏谷山と炭川とが出会うす ばらしい展望の場所である。ランドスケープとして自然の傾斜を出来るだけ残し、環境に配慮 した設計である。建物構造は、日本のように地震が多く発生していないこともあるのか免振で はないようだ。患者中心の快適な空間設計を演出するため、玄関ホールは高く、吹抜けの光の 降り注ぐアトリウムを設けている。ホールの色彩は、明るさと家庭的な雰囲気を演出する木目 調の建材を使用している。正面玄関を通ると、ホールの左側に総合案内、外来診療部門、エス カレータ、右側は中央採決室やリハビリ部門が配置され、来院者にとってわかりやすくなって いる。真正面を進むとそこにも案内コーナーが設けられ、病棟階への EV ホールがある。廊下の 壁面には絵画が描かれており、内観との調和がマッチしている。日本の病院にいる感覚である。 床材は全般的に長尺シートがほとんどでメンテナンスは行き届いている。天井はシステム天井 を採用し米国風である。壁面はさまざまな建材を使用し、色彩的には明るい配色で清潔感があ る。建築の質は日本と比べても変わらない。 SitePlan 1F -47- Plan 総合案内 待合所 ナースステーション -48- 7.韓国の研修に参加して ㈱ 仙台調剤 大山 文明 この度、日本医業経営コンサルタント協会の海外研修(10月31日~11月2日)に参 加してきたのでご報告申し上げます。今回で私は初回から1~2回欠席したのみで、隣国の 韓国の医療について興味を持って継続参加した次第です。経済成長著しい韓国にて、今や日 本の医療の位置付けはどのレベルにあるのか、不安と期待を持って研修に臨んだところです。 今回はYeネット歯科、大手病院、特殊診療の整形外科、審査評価院など多岐に渡っての 研修となり、多角的な面から韓国の医療事情が覗けて良かったです。我が国と大きく違う点 は、混合診療による、医療機関の経営が根本から違うことで多角的な経営が可能であること、 また、IT技術が、電子薬歴やPACS(画像のフィルムレス)EDIによるメール請求が先 行していたことが特筆されると思います。経済原則で大病院による、高いスキルを持った医 師や技術者が大手病院に集まり、高額な高度医療機器による患者満足度により、益々優勝劣 敗の色が医療でも濃くなってゆくのかと思うと何となく淋しい気持にもなった研修でもあり ました。 韓国は自由診療も可能な混合診療であり、この環境からかなり独自の経営をしていかない と、患者さまから見放されてゆく模様をみて、将来日本も混合診療はないにしても、独自な 技術を持っての診療形態をとらないと経営存続は難しいものと感じてきた。特に韓国内の5 大病院(三星ソウル病院、ソウル大学病院、ソウルアサン病院、延世大学病院、大学江南聖 母病院)など、大財閥や教育機関がその財力と機構に於いて、高度医療機器を完備しての対 応には目を見張るものを感じた。また、眼科、皮膚科、耳鼻科を除いて紹介状がなければ、 これら大手病院では受診できないことも合理的であると感じました。健康保険制度も、日本 を参考にアメリカの合理的な部分を取り入れて運営している様は好感を持てました。 私自身は自己管理ができていない、高血圧症や高脂血症、動脈硬化症などのいわゆるメタ ボリック症候群はあくまで自己責任の下、一定の患者負担が有って当然であり、この保険シ ステムに好感を持ちました。ITについても、韓国は進んでおり、紙カルテは少なく電子薬 歴や画像などもPACS 導入、医療保険制度においてもEDIを早期に導入され、この点は わが国も後れを取っていることに焦りを感じた次第です。 今や医療は国際化し諸外国から患者を集めての診療体制になっており、インドはその典型 であり、この韓国でも高額な歯科治療クリニック(後で知ったのですが、韓国ドラマの有名 なスターもこの歯科を利用しているとのこと)で多数の患者を集めたり、脊椎専門の外科病 院も世界から患者を集めている様はびっくりしてしまう。患者さまは必要であれば、高額で もこのような医療を受けたい希望があることも自然であるとの理解とこれが世界基準なのだ と妙に自分自身納得した研修でもありました。 -49- 8.韓国の医療システム等に学ぶ・・・・・・Look West (株)グロスネット(G-Net) 松田 紘一郎 1.はじめに 旅の楽しみは3つある。つまり事前(準備し想像すること)、実施(見学・研修のさまざまな出来ご ととの出逢い)、それに事後(かつての旅を思い出しながら資料を整理すること)の楽しみであり、私 は今まさに第3ステップの楽しみを享受中です。研修団・B班のとりまとめ役(班長)として、諸氏 のレポートを見ながら、皆様と異なる視点から日韓(中国を一部含む)の医療・世情・社会制度の在り 方を歴史的な長期スパンの中で見ていくとともに、それらについて我が国のありよう、特にいわゆる 「医療崩壊」の原点を見つめ直していくこととする。 2.“見えざるもの”の浄化 我が国は、古(いにしえ)の昔より先進諸国から思想・文化を含めた科学、技術、芸術などを学び、 我が国の風土など、“見えざるもの”(そこに“神の見えざる手”が働いているかは?)により変化さ せてきたことは誰も異論のないことでしょう。私はかねがね、中国にあって韓国(朝鮮半島を経由) にも一部に存在(変化)したが、我が国に存在しなかった、次の3つ(制度)について疑問をもって いた。 かきょ ・「科挙」・・・国家が国民を対象とした官史登用試験、合格者は成績による(トップは、状元(じょ うげん)といい、ここで合格した者は士太夫の官僚としての)身分保証あり。朝鮮では、 科挙の受験資格を両班(やんぱん:貴族階級)の子弟に限定したことにより中国の科挙 とは異質化したものといわれているが・・・・・・。 かんがん ・ 「 宦 官 」・・・王・王妃などの王宮につかえる官史の中で、王に使えた官史の男性性器を切り落し、 中性化(?)したが、大きな権限(権力)を持ち実質的(裏面から)に政治を動かした。 てんそく ・「 纏 足 」・・・女児(幼児期)のそれぞれの両足を特殊な包帯等できつく縛り、足の成長を止め男 性の“性の玩具”(逃走防止も)とすることだが、韓国にはなかったといわれている。 それに中国で朝鮮で滅びた帝王(君主制)が、我が国では残っているのは何故か。我が国では、 漢字の編をとり、カタカナ文字(例:伊→イ)草書体から、ひらがな文字(例:火→ひ)を創設、 原則として漢字を変えずに融合化したという事実がある。 また、中国で創設された漢字を、朝鮮では全く新しい文字ハングル・・・(世宗大王が創設した世界 一・科学的で合理的な言語といわれている「訓民正音」は、両班階級からは諺文(ウォンブン)とさげ すまれたが)に変えた。 これらの先に示した3つの弊害が、我が国に根づかなかったことについて、私自身は“見えざる ものの浄化” 、 「和をもって貴しとなす」という聖徳太子(AD574~622)の第 17 条憲法の第 1 条が庶 民の生活の中に根付いたこと。儒教:朱子学体制の弊害(例:古を好むなど)を日本流に改良、平 等思想を全ての国民生活の中で認識(例:禅宗の食(じき)平等など)させたことにあり、さらに“日 -50- 出ずる国”としての“大和”があり“やまと”と呼ぶ独立国家になっていったと考えている。 3.日韓医療制度の現況・カルチャーショック (1)我が国医療:三つの“崩壊” 医療制度は、医療保険(支払)制度とともに、次に示す医学・医療・医業の3つの概念の重層 的な融合によって成り立つものであるが、いずれも“崩壊”の危機にあるとみている。 ① 医 学 自然人の生命、健康、疾病・傷害の治療法などについて、生物科学的に研究し、教育・ 啓蒙する学問をいい、そのキーワードは、真理・真実であり、基本コンセプトは、医 の倫理・生命の科学・教育啓蒙などになると思われる「市場原理による財政施策」の 強行により、次のような“医学の崩壊”が起きかけている。 ・ 大学医学部の受験者が減少していること。 ・ 国立大学で移行時多額の借入金の「償還経費」 (借入金返済)をうるため、教育 時間・研究時間を減少し、収入アップのため診療時間を増加せしめていること。 (※1) ・ 医師・大学院生の国際的な臨床医学論文掲載数が減少(ピーク時の 88%)、反 面、欧米の先進国は増加し続けていること。(※1) ② 医 療 医学の社会的、実践的な適用に関する要請にこたえる人間科学の技術をいい、その キーワードは、使命感・ミッションであり、基本コンセプトは、医療技術・社会的要 請などになると思われるが、「医療崩壊」(※2)で明らかにされたように「立ち去り 型サボタージュ」等による「医療の崩壊」が起きかけている。 ③ 医 業 医療の目的達成のため反復・継続するサービスの経営科学的な医療提供行為をいい、 そのキーワードは、経営資源の活用であり、基本コンセプトは、機能特性・経済合理・ 財政市場などになると思われるが、 「市場原理による財政施策」などの要請による診療 報酬のマイナス改定が進み臨床医不足(偏在)による救急患者の“タライ廻し”の頻 発化、病院数の減少(平成2年・10,096 施設から平成 18 年 8,928 施設)が止まらな いなど「医業の崩壊」も起きかけている。 この三つの崩壊の端緒は、いずれもアメリカ型市場経済論理を基盤とする経済政策の失敗の“ツ ケ廻し”(“良いとこ取り”ダブル失敗)が原因となっていることを忘れてはならない。 (2)韓国の医療制度の秀れた点 韓国医療制度は、国民皆保険制や医療提供システムを含め、我が国の“良いとこ取り”である が、我が国は「世界に冠たる医療制度」と驕りの中で「医」の“崩壊”の危機を招いており、我 が国を次に示す(主なもの)ように凌駕(課題はあるものの)しつつある。 ① 医療保険の審査機関は、 「健康保険審査評価院」1ヵ所であり、看護婦が主体(高額なものは医 師)の効率的審査が行われていること。 ② 医療機関レセプトは、電子化したEDI(Electronic Data Interchange)が 94.6%(2005 年 7 月現在)を占め 15 日後に請求診療費の 90%が支払われていること。 ③ 医療機関には、大打撃を与えたが、1999 年 11 月に医薬品の償還払い制度を導入、医療費の削 減に効果があったこと。 -51- ④ 2000 年 8 月以降、7種の疾病にDRGを導入したことにより、原価計算の導入の他、次のよう な経営技法が採り入れられていること(※3)。 ・EMR (Electronic Medical Recording) ・CRM (Customer Relations Management) ・BSC (Balanced Score Card) ・ABC (Activity Based Costing) ・ERP (Enterprise Resources Planning) ⑤ 韓国の医療は、非営利で株式会社の経営を認めていないが「教育」とともに産業化し「経済特 区」を認めるとともに、次のように中国等への進出を企画している。 大韓病院協会は、医療団体としては最初に、対象国に中国を選んで、遠隔医療、病院進出、 マンパワー市場開放を表明して注目を集めている。 遠隔医療は、医師同士相互に限ってのコンサルテーションに限定した解放である。病院進出 は、競合力が充分な人工受精や脊椎・関節、形成分野を選んでいる。マンパワー市場の開放は、 医師に限っての海外進出を求めたものである。次の表は韓国と中国の間の市場開放に対する要 求案を整理したものである。 韓国・中国の間の保健医療分野の市場解放要求案(※4) 分 野 韓国からの要求案 中国からの要求案 医療サービスおよび歯科 非営利目的の患者の募集を要求 ・合弁病院および診療所の開設や所 サービス (歯科は除外) 有権の認定を要求 ・中国の医療免許の認定を要求 病院サービス ・医師間遠隔相談の解放要求 なし ・人工受精、脊椎・関節、形成外科 サービス分野の要求 ・MRA免許の認定を要求 韓国も我が国と同様、様々な課題(例えば、韓国政府の市場開放に対する基本戦略は韓国を 北東アジア・ビジネスの中心国家に育成していくための経済特区を設けるなど)であり、次の ように示している。(※4) 市場解放の議論の中心は、医療法人の営利化と、民間医療保険の導入である。医療法人の営 利化については未だ結論は出ていない。韓国には 1,000 余りの病院があるが、その 9 割までが 民間病院である。この民間病院を営利病院と非営利病院に二分し、規制や支援を区分して適用 する方式が浮上している。その導入手順としては、ます、経済特区における営利病院の運営経 験を踏まえ、専門的な医療法人を認可し、その後、病院の株式会社化を図ることが考えられる。 4.我が国の韓国への歴史認識 (1)我が国が朝鮮(韓国)から学んだこと 中国で発生した文明・文化が朝鮮半島を経て(あるいは直接)我が国に古く伝わったことは -52- 事実であるが、その中で主なものを列挙して示すと次のようになる。 ① 仏教の伝来・・・聖徳太子の師、慧慈(へんじゃ)は、高句麗の僧であり、大和の形成に大き な影響を与えた。 ② 余自身・・・百済の王族で 663 年、百済滅亡の際、日本に亡命、朝廷に仕えて大和の国づくり に貢献した。 ③ 天日槍(あまりひぼこ) ・・・新羅の王子(?)で大和に渡来し、先進の文化・技術を伝えた。 さらに恒武天皇の母は、百済系帰化人であるといわれている。 (2)我が国が朝鮮(韓国)に与えた害 日本列島とアジア大陸(朝鮮半島)は、約1万年前の氷河期の終りまで陸続きであり、多くの 人・動物が往来し、縄文や弥生時代にも、その痕跡があるといわれている。 2世紀ころに起きた高句麗(こうくり)は4世紀の終り、広開土王が出で百済(倭の連合軍) を攻め撃退したという広開土王碑(高さ 6.3m、1800 字の碑文)があり、これが歴史に残された 最初のことであろう。 以下、朝鮮に与えた(朝鮮側からの要請を含め)と思われる主な(加害者となるような出来 ごとを)概ね年代毎に客観的・冷静に示す。 ・ 百済の滅亡後、大和政権は百済復興を助けるため約3万人の兵を発したが敗れた。 ・ 13 世紀ごろ倭冠による朝鮮半島沿岸への海賊行為があった。 ・ 1592 年 4 月から 2 回におよぶ豊臣秀吉の命による侵略、すなわち壬辰倭乱(じんしんわ らん)があった。 ・ 1895 年 10 月、日本人による朝鮮王妃 閔妃(びんぴ)を暗殺し犯人は日本人で裁判に かけられたが全て無罪となっている。 ・ 1910 年 8 月・韓国合併条約により日本は韓国を植民地化、併合「創氏改名」、 「3・1 独立 運動の弾圧」などをし、これが「日帝 36 年」といわれている。 (3)我が国の歴史認識の転換(提言) 「医」の根源は、自然人の生命・倫理・科学であり、私達・日本人はどこから来たのか、古代 に遡り考察して見ると、日朝(韓)の歴史は避けられないものであるが、日朝(韓)の歴史的交 流を、このように客観的に見てみると、明らかに我が国に“分がない”と言わざるをえない。 何故、このような「害」を他国に与えつづけたのか、それは皇国史観にあるとみている。神功天 皇(応神天皇の母でもある)の三韓征代(新羅・高句麗・百済の3国)は、4世紀末から5世紀 初頭のできごとである。先に示した広開土王碑(改竄説もあるが)と合致しないのである。 神代9代(神武天皇以下9代)は、歴史ではなく、神話という説が主流なのは理解できるが、 天皇家の由来など、その謎をとくカギは我が国内に秘匿されているとみている。 それは「天皇陵」(皇族陵を含む・以下同じ)である。 明治 41 年(1908 年)制定の「皇室祭祀令」による宮内庁内規が天皇陛下の了承のもと、歴史、 考古学会から申請があれば見学できると平成 19 年 1 月に変更されたが、各学会に1人で古墳の平 坦部に限るとされた極めて限定されたものとなっている。 皇室の尊厳を最大に尊重し、敬意をはらいつつ、当代最高の学者による天皇陵についての内規 を再変更し組織的な発掘・学術調査を提言したい。仮に、 “万が一”朝鮮半島の王族の血がはい -53- っていたことがわかっても(古代史の一部の変更はあるが)1千数百年に及ぶ天皇制の持つ意 義は大きく、今後も我が国「国体」の根源となっていくはずである。 もう一つは、それがなかった場合「古事記」や「日本書紀」の記述が正しかった場合、それ はそれで良いのではないか。我々は、その時、新しい歴史認識を持つことになると確信してい る。 5.むすび:Look West 我が国は、中国や朝鮮半島と密接な関係を持ち、多くのものを学び、我が国なりに適合・融合さ せて、“良いものをとり”“不合理なもの”を排除して来た。いわば“良いとこ取り”の文化・風土 であった。そこからは世界をリードする独創性は産れないはずであるが、我が国は“侘び・寂びの 文化” “循環型システム社会の構築”などの我が国独特のものをつくり出し、さらに国内に戦乱はい くつもあったが「神の子孫」 (天皇)のもとに、全ての人民は平等であり、朝鮮半島の戦乱でみられ る(例:白村江(はくすきのえ)の戦い:(AD663 年)百済・日本連合軍と新羅・唐連合軍の戦い)よ うな外国の力(軍隊)による政権の交替など一度もなかった(危機は明治維新で幕府がフランス、 薩長がイギリスの軍事力を利用しようと検討したこと)稀有の国でもある。 しかし、今現在我が国全体を覆う閉塞感、特に医療制度の混乱は、医療崩壊ともいわれるような 現象が起きていることは前述した。 バブル崩壊後、経済財政政策の失敗を「市場原理」のもとに医療領域に押し付けた(例:6年間 におよぶ診療報酬のマイナス改定、規制の強化など)結果がこれである。 一方、韓国は 1997 年IMF危機を乗り越え、様々な課題はあるものの、先進医療技術等をアメリ カから、医療制度を我が国から学び、いわゆる“良いとこ取り”を実践し、さらにそれを中国や東 南アジアに「教育」とともに広げようとする、我が国と異なる独創性、つまり日米を超えようとし ている。 かつてマレーシアのマハティール首相(当時)は、 「Look East」と呼び、我が国の発展を範にす ることを提唱、それに追随した東南アジア諸国(タイなどの一部だが)、今日の繁栄を迎えている。 私は、この研修団報告をふまえ、韓国が様々な課題(例:我が国以上の格差社会化など)を抱え ているのは承知しているが、 「非営利で株式会社の参入を認めていないが、混合診療の容認」それに 海外への「産業としての進出」などについて、先に述べた「天皇陵」の古墳としての発掘・学術調 査の実施による歴史認識の是正を含めて、できれば共通の歴史認識を持つことが必要であり、それ により韓国に学ぶこと、「Look West」を提唱したい。 この研修団で団長・副団長、それに亜洲大学 鄚教授、柳韓大学 南教授 同研究所日本事務所西山 孝之所長始め、韓国の医療機関の大勢の方々との出逢い、そこから多くのことを学ばさせていただ きましたことを感謝してむすびとします。 (参考文献)(※1)豊田・三重大学学長の論文 (※2)「医療崩壊」朝日新聞社 小松 秀樹 著 (引用文献)(※3)鄚 基善(チョン ギソン)亜洲大学、経営大学院教授の論文 (※4)南 商尭・柳韓大学教授の論文 -54- おわりに 韓国の病医院経営・管理研修団 副団長 佐久間 賢一 (社)日本医業経営コンサルタント協会の海外研修は、昨年迄2年に一度実施されてき ましたが、本年より長期間の視察と短期間の視察を隔年実施することとなり、今回の韓国 視察が短期間視察の第一回目となるものです。 前回の北欧視察は募集を開始して直ぐに予定人数に達しただけに、今回の視察参加状況 が気になっていましたが、本年も熱心なコンサルタント協会の会員を主に、一般参加者か らも多くのお申し込みを頂き直ぐに定員に達し、欠員待ちが出る状況にホット胸を撫で下 ろしました。 総勢 38 名の参加者は、10 月 31 日に成田と福岡から飛び立ちソウルの空港で合流し、挨 拶もそこそこにバスに乗り、そのまま最初の視察医療機関であるYE 歯科の視察が開始され ました。 その後 2 日目、3 日目と各 2 ヶ所づつの視察がぎっしりと詰まったスケジュールでしたが、 参加者は熱心に視察研修に参加されていました。各施設での説明会の際には、施設側の説 明が終わり質問時間になると、堰を切ったように次から次へと質問が続き、大変申し訳な かったのですが時間の関係で質問を途中で切り上げざるを得ない状態でした。 各施設見学のバスの移動時間中にも、団長である木村先生から医師としての立場からの 専門的解説や事例説明がなされ、移動時間も充実したものとなりました。 また、サービス精神旺盛な木村団長のユーモアに飛んだお話や、添乗員顔負けの適切な 指示で遅刻者も無くスピーディに移動が出来、次第に参加者の気持ちも和らぎ、一体感の ある視察を行うことが出来ました。 視察の最終日には市内のレストランで、韓国の医業経営コンサルタントの第一人者でお られるチョンギソン先生の講演を聞かせて頂きました。チョンギソン先生は、公認会計士 であると同時に社団法人大韓病院行政管理者協会会長を歴任され、韓国の国家資格である 病院行政士制度導入に尽力された方です。 先生のお話は、韓国の医療事情を 1980 年の大規模病院化が開始された経済的背景の説明 から開始され、徐々に経営環境の悪化が始まり 2000 年になって中小病院の倒産が増加した 経緯を詳しくご説明して頂きました。その後、病院は対応戦略として患者の利便性を図る 為、コンビニや食堂、コーヒーショップ等を病院内に開設し、果ては霊安室とリンクする 形で葬祭場も設けるようになったとのこと。 確かに視察で訪れた、三星病院やソウル大学病院、ウリドル病院には必ずコンビニやコ ーヒーショップ等が設けてあり、日本の医療機関とは違った雰囲気をもっていました。 -55- 診療的には特定分野の専門化が進み、脊髄センター、消化器病センター、心血管センタ ー等が開設され、専門特化に成功した病院が収益性向上してきた経緯説明がなされました。 今回視察したウリドル病院も脊椎手術専門病院として、海外からも患者が多く訪れている 状況を視察で目の当たりにしました。 最後に、最近の病院経営現況として多数の中小病院が倒産し、診療所も供給過剰傾向に あり病院と同じく倒産が続出して来ているとのことです。病院数の増加は鈍化傾向にあり ながら、かたや先進的な少数病院は病床増加傾向にあり、完全に両極分化が進んでいるの が現状で、今回視察で訪れた三星ソウル病院は 2,000 床、ソウル大学病院も 1,550 床の規 模を誇っていました。 また、韓国も日本と同様少子高齢化が進んでおり、2026 年には 65 歳以上の老齢人口比率 が 20.8%に達すると言われており、その為、最近では老人療養病院が急増している状況にあ るとのことです。 韓国病医院視察を締め括る形でチョンギソン先生の講演を聞かせて頂き、充実した視察 を無事終えることが出来ました。今回の視察は 3 泊 4 日と短い時間ではありましたが、参 加者が一体となって楽しむ時は楽しみ、しっかり勉強する時は勉強するという充実した時 間を共有出来たと実感いたしました。 この報告書をご覧になられた方にも、きっと韓国の医療事情をご理解して頂ける充実し た内容だと確信しております。 Yeメディパートナーでの研修 -56- 2007年韓国の病医院経営・管理研修団 報告書 発 行 日 編集・発行 平成 20 年2月 (社)日本医業経営コンサルタント協会 東京都中央区東日本橋1丁目1番7号 野村不動産東日本橋ビル 電 話:03(5822)6996 FAX:03(5822)6991 【 禁 転 載 】