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事業報告 - 知床自然センター
事業報告 「H22 年度事業報告」 施設受託事業 指定管理者管理業務 総務管理係 斜里町の公の施設に係る指定管理者に関する条例に基づいて、公園利用 施設の管理運営業務を受託しました ① 幌別園地 施設及び園地周辺施設の維持管理、映像展示館(ダイナビジョン館)の 運営と料金徴収等の業務を行いました。平成 22 年度の映像展示館入館者数 は 23,784 名で、前年度より 7,191 名(前年度比△33.2%)減少し、過去最 低の数字となりました。世界遺産登録直後をピークに、入館者が減少を続 けるこのような状況を改善するために、映写機のデジタル化が行われ高精 細な上映が可能になりました。そして上映に合わせ、スタッフのレクチャ ーも行うようにし、来館者へのサービス向上に努めました。また、知床自 然センター施設周辺も含めたリニューアルを企画検討し、遊歩道新設に向 けた準備を進めました。 ② 知床自然教育研修所 ボランティアや外部研究者が活動する際の拠点となる知床自然教育研修 所の維持管理を行いました。平成 22 年度は延べ 215 名(826 泊)の利用が ありました。また、知識・技術の向上を図り交流を進める「しれとこゼミ」 の場としても活用されました。 ③ 知床五湖レストハウス 知床五湖レストハウス、及び関連施設の維持管理を行いました。平成 23 年度にオープン予定の新施設建設に向け、レストハウスはプレハブの仮設 施設で運用となりました。また、知床五湖の水道施設管理として、水源地 付近にある地下沈澱槽内の水道管交換工事等も行いました。 ④ 知床五湖園地夜間閉鎖業務 ヒグマに関わる安全管理対策、およびオートキャンプによるゴミなどの 散乱防止のため、町道知床五湖道路入口を閉鎖して夜間の園地内への立ち 入りを制限しました。 1 「H22 年度事業報告」 羅臼ビジターセンター関連管理運営業務 羅臼地区事業係 羅臼ビジターセンターの運営を円滑に進めるために、来館者対応や各種 問い合わせ、情報提供、イベント実施等の運営事業を行い、施設管理全般 については環境省と協力して実施しました。 ビジターセンターの来館者数は、平成 19 年の移転新築以降増加し続けて いましたが、平成 22 年度は 31,542 名となり前年度比 92 パーセントと、は じめて減少に転じました。このような中ですが、7 月 1 日には新館オープン 以降の累計来館者が 10 万人に達したことから、10 万人達成記念イベントを 実施しています。 また、特別展示室においては、シャチの写真展やヒグマ展、羅臼町ゆかり の絵本作家である関屋敏隆さんの版画原画展などを期間限定で実施するな ど、リピーターとして何度も足を運んでいただけるように様々な企画を行い ました。そのほか、各種研修、視察、講演、羅臼町内の高校生の就業体験な どの依頼に対し、随時受け入れを行いました。 普及研修係 世界遺産センター等運営業務 羅臼地区事業係 ① 知床世界自然遺産センター 4 月 29 日から 10 月 31 日まで、知床世界遺産センターの来館者を対象と したフロアレクチャーや館内のハンズオンアイテムや教材を利用した普及 啓発、および(財)自然公園財団のスタッフとインフォメーション業務を 行いました。7 月 17 日には、知床世界自然遺産登録 5 周年事業の一環とし て旭川市旭山動物園の坂東園長が「世界遺産知床のみらい」と題した講演 とクイズの出題・解説を行う一般観光客と地域住民を対象としたイベント を企画・運営しました。また、知床の自然保全に関する普及啓発を目的と したチラシを作製しました。平成 22 年 4 月 1 日から平成 23 年 3 月 31 日ま での間に 98,331 名の来館者がありました。 ② ルサフィールドハウス 平成 21 年の 6 月にオープンしたルサフィールドハウスでは、知床岬の先 端部などに立ち入る際のレクチャーが重要な業務の一つと位置付けられて いますが、2 年目に入って情報が浸透してきたようで、先端部に立ち入る前 にレクチャーを受けに立ち寄る人が増えています。 2 「H22 年度事業報告」 レクチャー受講者が増加することに伴い、ヒグマ撃退スプレーやフード コンテナの貸し出し数も確実に増加傾向にあります。フィールドに入る際 のヒグマ対策の必要性が浸透してきている手ごたえを感じています。また、 「知床半島先端部地区利用の心得」をパソコンでわかりやすく見ていただ くためのウェブサイトを作成しました(詳細は遺産地域利用適正化事業の ところで記述しています) 。 ③ 知床国立公園における環境教育事業 環境省事業として、斜里町、羅臼町民を主な対象とした「自然講座」を 全 5 回開催しました。この講座は、斜里町、羅臼町に住む皆様に、知床の 自然や野生動物などについて知ってもらい、関心を持ってもらうことを目 的として実施されました。講師には、知床財団職員のほか、知床世界自然 遺産地域科学委員会の委員の方々もお招きしました。講座のうち 1 回は、 座学とともに翌日のフィールド観察(観光船による海の生きもの観察)を 組み合わせた内容も企画し、多くの申込者がありましたが、残念ながらこ の講座は悪天候のため、中止となりました。 保護管理研究事業 羅臼町ヒグマ・自然環境管理対策業務 羅臼町一円におけるヒグマに関する危機管理や出没状況のモニタリング、 普及啓発および対応時の猟友会との連携等、現地対応に重点をおいた対策 事業全般を実施しています。また、自然環境保全に関する現地調査、パト ロール、啓発事業、傷病鳥獣の受入、野生生物の生息調査や保護管理業務 を羅臼町と連携して実施しました。 平成 22 年度のヒグマ対応は、対応件数 111 件、目撃件数 175 件となり、 過去最高の対応件数だった 21 年度(対応件数 175 件、目撃件数 165 件)よ り少ない結果となりましたが、目撃件数は若干増加しています。 5 月には、犬を放し飼いで海岸を散歩していた観光客の犬がヒグマに襲わ れ、飼い主のところまでヒグマを誘導してしまい、数 m という至近距離ま でヒグマに接近されてしまう事例が発生しました。 6~7 月は、ルサ~相泊間の道道脇で例年にはない頻度でヒグマが目撃さ 3 羅臼地区事業係 「H22 年度事業報告」 れました。これによって見物人も多く集まり、対応に苦慮する場面があり ました。また、化石浜では環境省職員が至近距離でヒグマに遭遇、後ずさ りの際に転倒し、軽傷を負うという事例も発生しました。 平成 22 年度の自然環境保護管理業務として行った 19 回のパトロールは、 ほとんどが相泊方面でした。これは、自然情報の入手や羅臼町を訪れる観 光客へ利用マナーの普及啓発を行うとともに、ヒグマ出現を警戒する意味 でも重要でした。 また、ふるさと雇用再生事業として、羅臼町で生活環境被害の原因とな っている野生生物のうち、特にオオセグロカモメとエゾシカに注目し、被 害の概要、分布、繁殖状況などに関する基礎データを収集すると共に、住 民でも実施可能な防御的手法の効果等についても検討しました。まず 6~9 月に町内でオオセグロカモメの営巣状況などを調査し、町内の人工建造物 上で最大 429 巣を確認したところ、オオセグロカモメは人為的な餌をとり やすい地区に集中して営巣していました。また過去 3 年間のシカ交通事故 および網絡まり事故(合計 81 件)の発生地点分布を地図上にまとめ、シカ が道路や人家付近に出てくる際の主要経路を絞り込みました。1~3 月には 網絡まり事故を減らすために町民に普及させたい目の細かい網の使用試験 を行ない、この網にはシカが絡まないことを確認しています。 斜里町ヒグマ・自然環境管理対策業務 斜里町からの受託事業として、人とヒグマの軋轢低減を目的に、斜里町内 一円のヒグマに関する危機管理(出没情報の収集や追い払い、ヒグマを誘引 するシカ死体などの回収、電気柵の管理、普及啓発活動など)を実施しまし た。また、自然環境保全のためのパトロールや普及啓発、傷病鳥獣の受け入 れ(知床博物館と連携)、ライトセンサス(夜間、車で走りながら周囲をラ イトで照らし、発見した動物種や個体数等を記録する調査) 、エゾシカ有害 駆除個体の下顎骨の処理・分析等の業務を行いました。 斜里町内におけるヒグマの目撃件数は 581 件、対策活動は計 480 件に及び ました(平成 22 年 3 月からの 1 年間を集計) 。いずれも一市町村の数字とし ては高い水準にあります。目撃件数は 6~8 月に多く、目撃場所の約 8 割が 知床国立公園内でした。対策活動の内訳は、ヒグマの出没に伴う緊急出動や 追い払い等の直接的な対応が 289 件、ヒグマの出没やヒグマとの危険な遭遇 を未然に防ぐための活動が 191 件でした。 4 保護管理研究係 「H22 年度事業報告」 知床五湖では日常的にパトロールを実施し、ヒグマ出没時には遊歩道の閉 鎖や観光客の誘導を行いました。またヒグマ活動期(6~8 月)には、ヒグ マの侵入を防ぐ電気柵を遊歩道沿いに設置しました。 ウトロ市街地では、市街地柵内にヒグマが侵入した事例が 3 件ありました。 平成 19 年から稼働している電気柵が山からのヒグマの侵入を防いでいます が、今年度は柵のない海岸沿いから侵入するケースが見られました。 山林に面した農地では 5 月上旬からヒグマの出没が本格的に確認され、6 月下旬以降、ヒグマによるビート・小麦への農作物被害が発生しました。斜 里町から出動を要請した猟友会員と連携して情報収集や対応にあたりまし た。また 10 月には斜里町市街地に 2 頭のヒグマが出没するという事例があ り、役場や猟友会と共に対応にあたりました。 傷病鳥獣の受け入れ件数は 19 件で、その内訳はエゾシカなど哺乳類が 12 件、カモメなどの鳥類が 7 件でした。外来種として特段の注意をはらってい るアライグマに関しては、目撃情報が 3 件、越川地区と国立公園内(幌別) で報告されました。ライトセンサス調査は、春期と秋期に各 5 回、幌別地区 と岩尾別地区においてそれぞれ行いました。エゾシカの下顎骨は、225 頭分 について年齢査定や各部の計測を行いました。 その他観光客の利用マナーから生じる問題や、野生動物と観光客、あるい は地域住民との間で生じているさまざまな軋轢など、緊急性の高い課題の解 決のために、緊急雇用対策事業として新たにスタッフを配置し、利用ルール やマナーの普及、巡視活動、さまざまな対策を行いました。 保護管理研究係 国立公園野生生物管理業務 野生生物との共生と適正利用に係わる保護管理業務や現地調査を行いま した。知床岬地区などの自然保護上重要な地域の自然保護監視・管理活動 業務を、環境省自然保護官事務所配置のアクティブレンジャーと業務分担 をしながら進めました。 ① アメリカオニアザミ 知床岬に繁茂していた外来種のアメリカオニアザミ(以下、アザミ)は、 平成 16~21 年の 6 ヵ年の駆除作業により、分布範囲が次第に縮小してきて います。平成 22 年度は、縮小しながらも最後に残った密生地である、羅臼 側赤岩の台地の縁から海岸までの斜面で重点的な複数回の駆除作業を行い 5 「H22 年度事業報告」 ました。もともとアザミの繁茂は、増えすぎたエゾシカが好む植物ばかり を食べてしまい、アザミが育ちやすい環境になってしまったことが大きな 原因でした。知床岬ではエゾシカの捕獲が 3 シーズン行われ、その数が減 ってきています。そのため、従来あった植物に回復の兆しがみられ、アザ ミ駆除と合わせて、アザミが少なくなってきています。 ② セイヨウオオマルハナバチ 平成 21 年度に引き続き 3 年目となる特定外来種セイヨウオオマルハナバ チの生息状況監視・防除を知床国立公園内中心に行いました。その結果、知 床岬地区で 2 頭を捕獲したほか、関係行政機関や地元の住民の協力を得て国 立公園内(知床岬除く)で 4 頭、国立公園の周辺部であるウトロ地区と羅臼 地区で 341 頭の合計 347 頭を捕獲しました。また 6 月には、町民向けに斜里 と羅臼でセイヨウオオマルハナバチについての講習会をそれぞれ開催しま した。 ③ サケ科魚類 ダムに魚道が設置されたサシルイ川とチエンベツ川でサケ科魚類の遡上 数・産卵床数を計数し、改良効果について調べました。8 月から翌年 1 月ま で 2 週間に 1 度、2 河川を河口から上流まで調査を行いました。カラフトマ スについては、明らかな改良効果が見られましたが、シロザケについては 魚道の上流側に遡上する割合がカラフトマスほど高くないという結果が得 られています。 ④ クマ対策関連 環境省事業として国立公園内におけるヒグマに関する危機管理や出没状 況のモニタリング、普及啓発等を行いました。詳細については両町のヒグ マ・自然環境管理対策業務の中で記述しています。 保護管理研究係 知床生物多様性保全業務 羅臼地区事業係 ① ヒグマ ルシャ地区では、直接観察による個体識別と、それらを基にした個体識別 台帳の作成を引き続きすすめました。さらにこれらに加えて、糞や体毛から DNA を採取し、DNA を用いた性別判定と個体間の血縁関係推定の可能性を探 6 「H22 年度事業報告」 りました。 また、長年財団独自調査として取り組んできた GPS 標識によるヒグマの行 動追跡調査についても、知床海と森の生物多様性支援事業の支援を受けて実 施しています。今シーズンは新たに 1 歳オス3頭を捕獲し、このうち 1 頭を 追跡中です。 その他、ヒグマに関する普及啓発事業として、今年も旭川市旭山動物園と の共催事業として「知床ヒグマわくわくウィークエンド」を開催しました。 昨年度の実績から、さらに趣向を凝らしたイベントを通じてこれまでの成果 を広く伝えました。なお 2 月には、旭山動物園を運営する旭川市と包括的な 連携と協力に関する協定を締結しました。 ② 稀少鳥類 知床半島におけるオジロワシの個体数動向を把握するため、繁殖状況に関 するモニタリングおよび情報集約をしました。また平成 22 年度の冬季は、 羅臼町~標津町北部の海岸線について、小型船による海からの営巣木調査も 実施しました。 ③ 海棲哺乳類 冬期間の調査として、海棲哺乳類モニタリング調査も継続して行っていま す。年末年始に集中的に行ったトドの陸上センサスで、近年の同時期では最 も多い頭数(179 頭)を確認しました。陸上センサスでは多数の標識個体を 昨年同様確認しました。また船による海上分布調査では、トド、ゴマフアザ ラシ、ケイマフリ、コオリガモの群れなどを確認しています。 森林再生推進事業 しれとこ 100 平方メートル運動森林再生推進事業 斜里町主催「しれとこ 100 平方メートル運動」の開始から 33 年、新運動 「100 平方メートル運動の森・トラスト」として原生の森の再生に向けた取 り組みが始まり 13 年が経過しました。この知床の森を守り育てる取り組み の中で、知床財団は、森づくり作業やしれとこの森交流事業など 100 平方 メートル運動に関わる現地業務を担っています。 7 自然復元事業係 「H22 年度事業報告」 ① 森林再生作業 知床での森づくり作業は、5 年毎の回帰作業方式を取り入れています。平 成 22 年度は、3 順目の回帰作業の 3 年目に当たり、岩尾別台地西側に位置 する第 3 区画を中心に作業を行いました。本格的な森づくり作業を開始して 13 年、初期の頃に設置した防鹿柵の木製の柱などは、腐食や劣化が進み交 換の時期にきています。そのため、順次、運動地各地の防鹿柵の改修作業を 進めています。その他にも、苗畑での広葉樹の苗木の育成や植樹、樹皮保護 ネットのメンテナンス作業などを行いました。 ② しれとこの森交流事業 森づくりの現場と運動参加者の皆さんをつなぐ交流事業では、 「第 31 回知 床自然教室」 (7 月 30 日~8 月 5 日、参加者 37 名) 、「第 14 回森づくりワー クキャンプ」 (10 月 30 日~11 月 4 日、参加者 15 名) 、「第 14 回しれとこ森 の集い」(10 月 18 日、参加者 124 名)の企画・運営を行いました。 5 泊 6 日の日程で森づくり作業に打ち込む「森づくりワークキャンプ」は、 10 年連続のご参加の方がいるなどリピーター参加者が多く、作業への貢献 の面でもなくてはらないイベントになっています。一方で、新しい参加者の 獲得が課題として挙げられていましたが、平成 22 年度は、知床財団の独自 事業としてワークキャンプ型の新イベントを別に 2 回開催し、新参加者を含 め多くの皆さんにご参加いただくことができました( 「しれとこ 100 平方メ ートル運動普及推進業務」参照) 。 ③ 森林再生専門委員会議運営 森づくり作業の方針や計画は、動植物の専門家や地元の有識者で構成され る森林再生専門委員会議の場で議論が行われその方向性などが定められて います。現地業務を担う知床財団では、平成 22 年度の活動の成果と課題を まとめるとともに、平成 23 年度の森づくり作業の具体的な方針や計画案を 斜里町と検討を重ねながら立案しました。11 月に開催された森林再生専門 委員会議では、今後の森づくりの方針や計画案について話し合われるととも に、高密度に生息するエゾシカへの対応方針などが議論されました。 ④ 運動地広報企画 100 平方メートル運動の広報誌『しれとこの森通信 No.13』 (A4 判カラー8 ページ)の企画・編集作業を行いました。また、知床財団ホームページのブ ログ「森づくり日誌」にて、日々の森づくり作業や知床の森の様子を発信し 8 「H22 年度事業報告」 ている他、斜里町の「しれとこ 100 平方メートル運動ホームページ」への掲 載用写真の提供、マスコミ等の取材を積極的に受けるなど、運動の広報業務 にも努めています。 遺産地域管理事業 保護管理研究係 遺産地域調査業務 羅臼地区事業係 ① エゾシカ関連 知床岬におけるエゾシカの密度操作(駆除)は 4 年目を迎え、「実験」か ら本格的な「事業」へ、新たな段階へ移行しました。今シーズンも、昨シー ズンに引き続き、エゾシカが知床岬に集結する厳冬期に捕獲を行いました。 厳冬期は、天候も海況も 1 年でもっとも厳しい時期です。流氷接岸後にヘリ コプターでの泊まりがけ捕獲(4 泊 5 日)を 1 回、海明け後の 3 月末に船の 日帰り捕獲をさらに 1 回と、合計 2 回の実施でメス成獣 20 頭を含む計 57 頭 を捕獲しました。これまでの捕獲数は 4 冬で合計 469 頭(うちメス成獣 271 頭)となり、岬の越冬群にかなりの打撃を与えられたと思います。 航空カウント調査は、1 月に1回行いました。航空カウント調査は、毎年 厳冬期にセスナ機で上空から岬の台地上の写真を撮り、シカの数を数える調 査です。調査の結果、246 頭のシカを確認し、シカの密度操作により順調に シカの数が減少していることを確認されました。 知床岬を対象にした航空カウントに加え、今冬はヘリによるカウント調査 を行いました。ヘリカウント調査は、5 年毎に知床半島全体を対象に、写真 を用いらず、ヘリコプターで上空から地上にいるシカの数を直接数える調査 です。調査の結果、合計 3930 頭のシカを確認しました。総発見数の 77%が 斜里側で確認され、羅臼側に比べ斜里側にシカの数が多い傾向が確認されま した。より詳細に分析すると、2003 年と比較し、知床岬と半島基部(斜里 側)で減少傾向、斜里町幌別岩尾別を中心とした地域で増加傾向、羅臼側で は変化なしという傾向が見られました。 また、平成 20 年度冬期にルサ・相泊地区で捕獲標識したエゾシカについ て季節移動調査を引き続き実施しました。22 頭中、年間を通じて追跡でき た個体は 17 頭でした。2 年間で大きく移動しているのが確かめられたのは 3頭で基部方向に 2 頭、先端部方向に 1 頭でした。その他の個体は通年同地 9 「H22 年度事業報告」 区に留まりました。 ルサ・相泊地区ではエゾシカの効率的捕獲手法の検討についても、引き続 き実施しました。これは主に、米国で確立されたシャープシューティングと 呼ばれる手法を、わが国の現行法で対応可能なものに改変して試行している ものです。平成 22 年度は 4 月に 12 頭、同 12~3 月に 25 頭の計 37 頭の捕獲 にとどまり、同地区では各種制約から実施可能場所が少ない点などが浮き彫 りになりました。ただ、隣接地で実施した囲いわな捕獲で 1~3 月に 64 頭を 捕獲しており、ルサ川河口付近半径 200 m のごく狭い範囲で合計 101 頭を捕 獲できたことは一つの成果です。なお、シャープシューティングは最近新聞 などにとりあげられることもあり、道内外の他地域でシカ対策に取り組んで いる方々が、ルサ地区での実施状況の視察にたびたび来られ、現場での説明 などを行いました。 その他エゾシカ関連では、知床でのエゾシカ個体数管理手法を改善するた めに、海外においてシカ管理の実績を有する専門家を招聘して、ルサ・相泊 地区と岩尾別地区を視察していただきました。現地を見ながらの議論を通じ て多くの有益なアドバイスを得ることができました。 また、招聘した専門家によるセミナーを開催し、エゾシカの保護管理や人 材育成に向けた意識や知識の普及啓発を図りました。 今後は専門家の助言を参考に従来の実施手法を改善するとともに、囲いわ な捕獲など別の捕獲方法も合わせて検討、実施していく予定です。 ② 希少猛禽類関連 知床岬では、エゾシカの捕獲が希少猛禽類の繁殖に与える影響をモニタリ ングするため、試行的に希少猛禽類の巣にカメラを設置しました。2 月のシ カ密度操作事業の際には、そのカメラを活用し、希少猛禽類の抱卵を確認す ることに成功しました。 その他、知床でエゾシカの捕獲を実施するにあたって、シマフクロウやオ ジロワシなど希少猛禽類の生息、繁殖に与える影響を検討し、より希少猛禽 に影響の少ないエゾシカの捕獲手法を検討するために、専門家による意見交 換会を開催しました。 ③ 知床岬鳥類相モニタリング 平成 20 年度より実施している知床岬における鳥類相の調査を、平成 22 年 度も引き続き実施しました。この調査は、知床岬で見られる鳥の種類や数が 昔と今とでどれくらい変わったか、また今後、どのように変わっていくかを 10 「H22 年度事業報告」 観察、記録しているものです。知床岬では、近年エゾシカの食害による植生 の変化がみられており、平成 19 年度からエゾシカの個体数調整を実施し、 冬季に一定量のエゾシカを捕獲しています。その捕獲効果が知床岬の植生に どのように現れるか、この調査結果を通して今後、長期的に観察していく必 要があり、引き続き、モニタリング調査等、知床岬においての鳥類相の調査 方法を検討していく予定です。 科学委員会等運営業務 保護管理研究係 知床世界自然遺産地域を適切に管理するために、科学的な見地からの行政 への助言が科学委員会会議やその付属会議によって行われています。これら の会議の委員は、道内外の多分野の研究者や専門家によって構成されていま す。当財団は科学委員会、エゾシカ・陸上生態系ワーキングとヒグマ保護管 理方針検討会議の運営事務局として日程調整、会場準備、資料・議事録の作 成などを担いました。 ① 知床世界自然遺産地域科学委員会 平成 21 年度までに遺産地域の管理計画が策定され、世界遺産委員会への 対応やモニタリング計画の策定など新たな課題に向けて今年度(平成 22 年 度)より体制が再編されました。第 1 回の会議は、7 月 24 日に羅臼町で、 第 2 回の会議は 2 月 24 日に札幌市で開催されました。 ② エゾシカ・陸上生態系ワーキング 平成 21 年度まではエゾシカワーキングとして、増えすぎたエゾシカを中 心に議論されていましたが、エゾシカを取り巻く様々な生物を含めた議論を する必要性が生じたため、平成 22 年度からエゾシカ・陸上生態系ワーキン グと名称が変わり、数名の新たな委員が加わりました。会議は 5 月 29 日(羅 臼町) 、10 月 21 日(釧路市)、3 月 15 日(斜里町)と 3 回開催されました。 また、今年度は、地元開催の際にシマフクロウやオジロワシなどを調査研究 の対象としている専門家も含め、これらの鳥類の保護策とエゾシカ捕獲など の管理についての情報共有の場が設定され、現地視察も行われました。 ③ ヒグマ保護管理方針検討会議 遺産地域を中心としたヒグマ個体群の保全と、ヒグマと人との軋轢の軽減 11 羅臼地区事業係 「H22 年度事業報告」 を目的として、遺産地域と標津町を含む隣接地域でのヒグマ保護管理に係る 統一的な基本方針を策定するために今年度から新たに開催されています。今 年度は、6 月 20 日(羅臼町)、11 月 9 日(斜里町)と 1 月 24 日(釧路市) に 3 回開催され、保護管理方針の案が概ねできてきています。 遺産地域利用適正化事業 普及研修係 遺産地域利用適正化業務 羅臼地区事業係 遺産地域利用適正化業務では、知床国立公園の適正な利用を目指し、様々 な業務を行っています。 ① 知床五湖関連 知床最大の観光スポットでもある知床五湖では、平成 23 年 5 月よりヒグ マのリスクを回避しつつより良い自然体験を提供する新しい利用制度がス タートします。新しい制度の柱となる自然公園法の利用調整地区制度を具体 化するために、様々な検討や試行の実施を担いました。 制度具体化のため、平成 22 年 6 月~7 月にかけての約 1 ヵ月間、ヒグマ 遭遇の危険から一般利用が制限されている遊歩道を登録ガイドの引率ツア ー限定で利用する実験が実施されました。当財団が環境省のエコツーリズム 総合推進業務として、実験の企画、運営、とりまとめなどを行いました。 地域関係者が新制度導入に関する協議・合意形成を行う「知床五湖の利用 のあり方協議会」の運営業務を環境省より受託し、8 回の協議会開催におい て手数料金額や運用体制など制度運営を具体化するための検討資料作成な どを行いました。また、北海道大学の愛甲准教授の協力の下、利用による環 境への影響や利用者意識調査などモニタリング計画策定に必要な各種調査 を行いました。さらに具体化した新制度を利用者に広報するため、旅行業界 および一般向けの旅行イベントへの参加、説明会の実施、パンフレットの作 成などを行いました。 平成 23 年 2 月、知床財団は環境大臣より知床五湖利用調整地区の指定認 定機関に指定され、新制度の運用においても中心的な役割を担うこととなり ました。 12 「H22 年度事業報告」 ② マイカー規制 カムイワッカ地区で行われているマイカー規制の現地連絡調整業務を自 動車利用適正化対策連絡協議会から受託し、運営の円滑化のためにバス会社 や各地に配置された警備員や巡視員との連絡調整、利用状況の調査や利用者 への情報提供、ヒグマ出没時の連絡整理、負傷者への対応などを行いました。 ③ 知床半島先端部地区利用適正化 「知床半島先端部地区利用の心得」をパソコンでわかりやすく見ていた だくためのウェブサイトの作成を行いました。従来の「知床半島先端部地 区利用の心得」は、文字が多く一般の方には見づらいものであったため、 イラストや写真を多用したわかりやすいサイトを作成しました。先端部地 区への立ち入りを考えている方々にとって、理解しやすい内容になってい ます。 財団独自事業 総務管理係 財団活動業務 情報係 羅臼地区事業係 ■ 知床自然センター及び羅臼ビジターセンターインフォメーション事業 知床自然センターと羅臼ビジターセンターのインフォメーションカウン ターを拠点に、知床の自然情報や交通情報、登山やトレッキング等に関する 問い合わせ、簡単な旅行の助言などを、財団ならではの専門性を加味しつつ 実施しました。対応の際には、ルールやマナーのほか、ヒグマの目撃情報や 遭遇時の注意点など、知床の自然を適切且つ安全に利用してもらうための情 報提供を併せて行うよう努めています。 ① 知床自然センター 知床自然センターでは、スタッフによる日々の自然情報収集を積極的に行 うように努め、来館者への案内に役立てました。また、明るいイメージの施 設になるよう、全ての来館者に笑顔で挨拶するよう心がけました。そして地 元の方との交流を一層深めるよう、来館された地元の方には必ず声かけを行 うようにもしました。 13 「H22 年度事業報告」 ② 羅臼ビジターセンター 新しい羅臼ビジターセンターがオープンして 4 年目となリましたが、来 館者数は初めて減少に転じました。しかしながら、冬期間の来館者の少な い時期に地元の高校生や羅臼町民の方々の利用も増えているように感じま す。インフォメーションボードには、常に最新情報を書き込み、来館者へ の適切な情報提供を心がけて行きたいと思っています。 ■ 会員サービス事業 平成 22 年度の入会状況は、年個人会員の新規入会は 116 口、更新数 509 口、合計 625 口で前年の 604 口から 21 口の増加でした。終身個人会員の新 規入会は 9 口で、こちらも前年の 6 口に対し 3 口増加しました。年法人会 員の新規入会は 4 口、更新 31 口、合計 35 口でこちらは前年度と同様の数 字でした。法人特別年会員への新規入会者は 1 法人、更新は 2 法人でした。 個人の新規会員数および終身会員数は昨年と比較し、若干の増加傾向にあ ります。 賛助会員向けの会報誌である知床自然情報紙「SEEDS」は、平成 21 年度 から年 4 回の季刊化、オールカラー化となり 2 年目となりましたが、会員 の皆さまからは引き続き好評を得ております。ボランティア事業の参加日 程のチラシを同封したり、通信販売のチラシを同封したりしたほか、チラ シ内に会員様からのお便り欄を設けるなど、会員の皆さまと知床財団をつ なぐ定期便としての役割をより充実させることを目指しています。これか らも、会員の皆さまに楽しみにしていただけるよう、また、知床や知床財 団のことが少しでも会員の皆さまに伝わっていくよう、充実した紙面作り に取り組んでいきます。 ■ 寄付拡大推進事業 財団活動に対する支援を募るため、平成 14 年度より知床自然センター内 に募金箱を設置しています。世界遺産登録以来、毎年約 90 万円の募金が寄 せられていた募金金額は、平成 21 年度は 60 万円台、今年度は 50 万円台と 大幅な減少傾向にあります。知床自然センターへの入館者数が大幅に落ち 込んでいることが、募金額の減少に影響していると考えられるため、館内 の展示物のリニューアルを行なうなど、入館者数増加を図るための工夫を 行なっています。羅臼ビジターセンターに平成 20 年度に設置した募金箱は、 引き続き入館者の導線を工夫し、募金箱の側に活動内容をイラストでわか りやすく紹介したものを展示したほか、ゴミとして捨てられてしまうガラ 14 「H22 年度事業報告」 ス製の浮玉を募金箱の横に設置し、募金のお礼として自由に持参してもら えるようにしました。その結果、前年度比約 153%の 107,113 円の募金を集 めることができました。 また、平成 22 年度にご厚意を一般寄付としてお寄せいただいた件数は 63 件、合計 1,191,600 円に上りました。企業等からのご支援としては、コベ ルコ・コンプレッサ株式会社から、 「クールアースキャンペーン」における 寄付金 316,500 円をいただいたほか、エヌ・ティ・ティ レゾナント株式会 社から「緑の goo」というキャンペーンの収益の一部、450,000 円を寄付し ていただきました。 知床自然センター・羅臼ビジターセンター館内展示や財団ホームページ では、賛助会員募集や寄付の呼びかけ、そして寄付のお礼の掲載などの掲 載に力を入れ、継続的なご支援が知床財団の活動の支えになっていること を訴えました。 ■ 地域向け財団活動紹介・情報提供事業 知床財団の活動に対する理解と協力を得るために、地元やその他の地域 に向けて財団活動紹介を行っています。地元の斜里・羅臼両町民の方向け には、平成 21 年度より知床の旬の自然情報や当財団の活動・イベント情報 をお知らせする「知床財団だより」を発行しています。今年度は2ヶ月に 1回、斜里・羅臼両町の広報誌に折り込みました。 (発行部数:斜里町 5200 部、羅臼町 2100 部) 。読みやすい自然情報や活動紹介を通じて、知床財団 の名前だけではなく、私たちの活動も知っていただければと考えています。 また、知床財団や知床の自然への理解や親しみを深めていただくきっか けを増やすために、会報誌 SEEDS とその年の活動をまとめた年次報告書「ア ニュアルレポート 2009」を地元の役場などの公共施設のみならず、他の地 域の自然系施設や宿泊施設、観光関係者に配布しました。 さらに、今年度の夏から、斜里・羅臼両町の宿泊施設にご協力いただき、 会報誌 SEEDS を町内の旅館やホテルの宿泊部屋に置いており、観光客の皆 さまに対し、SEEDS を通した知床財団の活動PRや賛助会員獲得に向けた広 報を展開しています。 ■ 財団ホームページによる広報活動事業 財団の活動に対する理解と支援の輪を広げる「伝える活動」の主軸として、 ホームページでの情報発信を継続して行っています。簡単に情報を更新でき るブログ形式のページでは、「財団の最新の活動」を伝えるページを 58 回、 15 「H22 年度事業報告」 「知床の旬の自然情報」を伝えるページを 265 回更新し、ほぼ毎日新しい情 報を発信するよう努めました。 また、近年増加傾向にある中国人観光客に対応できるよう、既存の英語ペ ージに加えて中国語ページ(簡体と繁体)を追加しました。 ボランティア活動推進業務 普及研修係 知床の自然のために何かしたい、そんな思いや気持ちを持っている方を 対象に、知床財団では、森づくり作業や普及活動などをお手伝いいただく という形でボランティア活動の場を提供しています。 平成 22 年度末でのボランティア登録者数は 217 名、その内の 38 名の皆 さんが知床を訪れ、森づくり作業などのボランティア活動に参加し、汗を 流しました。 総活動日数は 48 日間、延べ 121 人の力が知床に集まりました。 参加していただいた方の年齢層は、10 代から 70 代までと幅広く、また道内 のみならず遠くは関東や関西などからもたくさんのボランティアの皆さん に駆けつけていただきました。 平成 22 年度の活動内容は、 「100 平方メートル運動の森・トラスト」の現 場での森づくり作業や羅臼ビジターセンターを拠点にした遊歩道の整備作 業などを行いました。また、2 月には一年の活動を振り返る「ボランティア・ ミーティング」(参加者 14 名)を開催しました。 知床財団のホームページでは、それぞれの活動報告を掲載しています。 また、平成 22 年度のボランティア活動のまとめとして「ボランティア通信」 を作成し、一年間お世話になったボランティアの皆さんへお送りしました。 ボランティアの皆さんがこの活動を通して、知床の自然環境の保全に貢 献するだけではなく、知床の自然に触れ、そして理解を深めることで、こ れからも知床を応援する気持ちをもっていただければ幸いです。 エコツーリズム推進に関する検討業務 斜里町、羅臼町、両町の観光協会と共に、知床エコツーリズム推進協議会 の事務局を担い、地域の発展と、観光利用、自然保護を両立させるエコツー リズムを推進する取り組みについて、協議を行っています。 16 普及研修係 「H22 年度事業報告」 保護管理研究係 調査研究業務 羅臼地区事業係 ■ エゾシカ個体群の動態に関する調査研究 平成 22 年の 1 月から 5 月、斜里町真鯉の国道沿い(約 14 km 区間)では 3 月上旬に最多で 700 頭近いシカが現れました。その後シカの出没は例年ど おりに減り、5 月上旬には 100 頭未満となっています。 平成 22 年 5 月の知床岬における自然死調査では死体を発見できませんで した。同時期、自然センター周辺で回収した自然死体は 5 体(オス成 3、0 才 2)で、シカには穏やかな冬であったようです。 ■ 知床半島におけるヒグマの生態等に関する調査 ヒグマによる農業被害防止手法の開発のため、ウトロ高原地区農地にお いて、平成 20 年度から地元農家と知床財団が共同で既存の防シカ柵の一部 の電気柵化を実施しています。現状では電気ワイヤーの設置区間が一部で あるため、効果が十分に発揮されているとは言えませんが、管理方法も含 めたノウハウの蓄積を農家とともに行っています。一部区間では電気柵化 が遅れており、全面電柵化は H23 年度の予定です。全面電気柵化すること により、電気柵の効果検証も行えるようになります。 なお、知床生物多様性保全推進支援事業の支援対象分は、受託事業の部 分で詳しく記述しています。 ■ 稀少鳥類などの長期モニタリング調査 冬期のオジロワシ、オオワシの飛来状況の長期的変動傾向を把握するため、 羅臼の海岸線で冬期間のオジロワシ・オオワシの個体数調査も実施しまし た。 なお、知床生物多様性保全推進支援事業の支援対象分は、受託事業の部分 で詳しく記述しています。 ■ 水域における生物群集モニタリング調査 平成 21 年度に引き続き、海藻類分布調査を春に 1 回知床岬で、外来魚侵 入状況調査を秋に羅臼側の 2 河川(チエンベツ川、サシルイ川)で行いま した。海藻の分布には、温暖性の種が目立つといった大きな変化は認めら れず、ニジマスをはじめとする外来魚も確認されませんでした。 17 「H22 年度事業報告」 羅臼漁港の深層水汲み上げ施設によって捕獲される深海魚調査は、羅臼 町役場と羅臼漁業協同組合の協力のもとに北海道大学と共同で平成 21 年度 に引き続き実施しています。とても珍しいチョウチンアンコウやカジカの 仲間が確認されています。 9 月には平成 21 年度まで環境省事業として実施されていた浅海域生物相 調査の補完調査を北海道大学と東京農業大学と共同で実施しました。その 際に、近年目立つようになってきたキタムラサキウニの採集を知床岬の文 吉湾で行いました。今後、年齢組成を調べる予定です。 ■ 調査研究に関わる交流、及び、成果公表に関する事業 22 年度の秋は色丹、国後、そして南サハリンの調査に財団職員が参加し ました。 まず 8 月 20 日から 31 日、色丹島での外来生物種と絶滅危惧種の調査(北 大主催)に職員が 1 名参加、河川や浅海行きでの魚類や貝類などの生物採 集調査を行いました。続いて 9 月 10~20 日の日程で、「国後島陸生哺乳類 専門家交流」に職員 1 名が参加し、ロシア人専門家と共に同島爺々岳山麓 において、国後・択捉のみに生息するとされる白い体毛をもったヒグマの DNA・安定同位体分析用体毛採取と画像撮影、コウモリ類の標識調査等を実 施しました。 さらに 10 月 20~23 日、東京農大による「環オホーツク海沿岸生態系と 沿岸生物相の調査研究と国際交流」に職員 1 名が参加、南サハリンの海跡 湖で生物採集と調査を行いました。 学会関係では、日本哺乳類学会大会(平 22 年 9 月岐阜)に 1 名(自由集 会発表)が参加しました。また、国立公園内で目撃されたヒグマの秋の交 尾行動の記録が国際誌「Ursus」21 巻 2 号に掲載となりました。 自然教育研修所(斜里町ウトロ)等を利用した「しれとこゼミ」は 9 回 開催し、地元自然ガイド、行政関係者、学生や財団職員等、延べ 240 名の 参加がありました。 ■ 知床の生態系の保全・復元に関する調査検討事業 「100 平方メートル運動の森・トラスト」による生物復元の取り組みとし て、北見管内さけ・ます増殖事業協会の協力のもとにサクラマスの発眼卵 の放流が行われています。知床財団では孵化状況の確認などその後の追跡 調査を行っています。 平成 21 年の秋期に岩尾別川支流の白イ川へ放流した 20 万粒のサクラマ 18 「H22 年度事業報告」 ス発眼卵のふ化状況の調査を 5 月に実施し、稚魚を確認しました。一方、9 月には放流魚の再生産状況を例年どおり調査し、幌別川・岩尾別川で各々1 尾の親魚を確認しましたが、産卵床は確認できませんでした。また、10 月 には白イ川へ 10 万粒の発眼卵を放流しました。 情報係 環境教育等推進業務 普及研修係 自然復元事業係 ■ 道東自然系施設ネットワーク推進業務 道東自然系施設ネットワーク推進事業は、道東各地に散在するネイチャ ーセンターやビジターセンターが互いに情報を共有し合いながら、結びつ きを深め、助け合うためのネットワークです。現在 13 施設が参加していま す。このネットワークは平成 13 年に緩やかにスタートしたのち、平成 17 年に正式に発足、その後平成 18 年度まで当財団がネットワーク代表および 事務局として運営を担いました。平成 19 年度より事務局業務からは外れた ものの、引き続きネットワークの事業に積極的に参加しています。 主な事業として、来館者が道東他地域を旅行(はしご)する際に役立つ よう、最新のフィールド情報を各施設が提供し合う「はしご情報」を毎月 2 回発行しました。また、各地域の旬の見所を一覧できる「月刊いきもの予 報」も毎月 1 回、発行しました。これらの情報は各施設に掲示されると共 に、釧路管内の NHK 地上デジタル放送でもデータ通信で公開されました。 施設の展示や教育プログラムをより洗練させるために、個人が持つ専門 の知識や技術を各施設のスタッフに提供し合う施設相互研修も主な事業の 一つです。今年度は 6 月に海産植物アマモの生態と、そこに集まる生き物 について学習する野外研修が実施されました。 12 月には、別海町の「きらくる」にて、野生動物に対する餌付けについ て話し合うワークショップと、平成 22 年度を振り返り次年度事業の方向性 を確認する総会が行われました。総会では、引き続き情報の共有と発信を 行うと共に、施設間の交流と相互研修に力を入れていく方針が確認されま した。 ■ 職員の技術知識を高めるための研修事業 平成 22 年 8 月下旬から約 2 週間、アラスカのデナリ国立公園へ視察研修 として 2 名の職員を派遣しました。前年は野生動物対策の研修として、同 19 羅臼地区事業係 「H22 年度事業報告」 じくアラスカへ別のスタッフを派遣しましたが、今回の研修では利用者を いかに楽しませるか、その為の国立公園利用システム(マイカー規制&シ ャトルバスシステム、施設の運営方法、バックカントリー利用システム等) を学んできました。そして学んできたことの報告会として、斜里町で 2 回、 羅臼町で 1 回の合計 3 回、報告会を実施いたしました。 ■ 地域向け環境教育業務 地域が支える世界遺産・知床を目指して、知床の自然とその自然に携わる 人々の活動をより深く知ってもらう機会を様々な形で地域に提供していま す。 学校教育では、ウトロ小中学校全校生徒を対象にクマ授業を実施しまし た。毎春恒例となっているこのクマ授業は、ヒグマに出会った時の対処法 を中心として、いろいろな切り口から身近な自然に対して子供たちが想像 したり、発見したり、そして自分たちで考えてみたりする手伝いができる よう毎回スタッフが趣向を凝らして行っています。また総合学習の一環と して、夏に中学 1 年生を対象としたポンホロ沼へのフィールドトリップ、 冬に小学校 1~6 年生を対象とした環境教育授業を行いました。 本年度は更に 11 月から 12 月にかけて峰浜小学校、朝日小学校、斜里小 学校の各全校生徒を対象としたヒグマに関する授業を計 5 回行いました。 これらは斜里市街地の朝日町に現れた親子グマ事件をきっかけとして依頼 されたものです。 知床博物館と共催で行っている知床自然史講座は今年で4回目を迎えま した。 「知床の海」をテーマに財団スタッフを含む 5 人の専門家が講演を行 いました。 羅臼の中学校・高校一貫教育のカリキュラムとして行っているヒグマ授 業は、4 年目を迎えました。ヒグマの疑似テレメトリー調査を体験するとい う、野外実習を取り入れた授業では、生徒の皆さんとどきどきしながら学 校の周辺を歩きながら、ヒグマ調査を学びます。さらに高校 2 年生の授業 では、ヒグマに関するディスカッションを生徒たちどうしで行ってもらう など、内容の濃い授業となっています。 羅臼町教育委員会などと共に、羅臼町内の小学生を対象にして実施して いる知床キッズ(羅臼町ふるさと体験教室)は、6 月から 2 月までの間に計 10 回の講座を実施しました。平成 22 年度は天候にも恵まれ、子どもたちと 一緒に様々な体験をすることが出来ました。 20 「H22 年度事業報告」 ■ しれとこ 100 平方メートル運動普及推進業務 本業務は、斜里町主催「100 平方メートル運動の森・トラスト」の安定的 な継続と発展を図るため、運動地を含めた運動の普及と推進に、運動の現 地業務を担う知床財団が斜里町と連携を図りながら独自事業として取り組 んでいるものです。 平成 22 年度は、運動の趣旨に賛同する企業や団体、教育機関を対象に、 運動地を歩きながら 100 平方メートル運動や開拓の歴史などを紹介し、そ して実際の森づくりの作業も経験する運動地公開プログラムを行いました。 地元の斜里高校の生徒や知床愛護少年団を始め、 「ユネスコキッズ in 知床」 (読売新聞主催)や日本赤十字北海道看護大学の学生など約 240 人が、知 床の森を訪れ、運動と森づくりに触れていきました。 その他、新しい企画として「森づくりの日」と題した 4 泊 5 日の合宿イ ベントを 5 月と 8 月の 2 回開催しました。合わせて 22 名の参加があり、そ れぞれの季節で森づくり作業に汗を流しました。また、冬期は知床自然セ ンター周辺に「スノーシュー・歩くスキーコース」を設置し、利用者の方 に運動と森づくり作業を紹介する地図を配布するなど運動の普及と運動地 の公開に努めました。 6 月、横浜で開催された「知床世界遺産登録 5 周年記念シンポジウム」に 斜里町と共同で運動を紹介するブースを出展し、会場を訪れる多くの方に 運動の PR を行いました。また、同日には、関東や関西の運動関係者が一同 に会す機会を設け(参加者 63 名)、親交を深めるとともに情報交換を行い ました。 平成 22 年 11 月、100 平方メートル運動での買い取りの対象地となってい たが最後の土地が取得されました。この土地は知床自然センターなどの幌 別園地に隣接していることから、今後は森づくり作業だけではなく運動の 伝える場所としても活用していく方針となっています。 本業務では、この土地の具体的な活用方法を検討するとともに、新イベ ント「森づくりの日」を継続して実施して行く他、今後も運動の普及と推 進に向けた取り組みを行っていきます。 21 「H22 年度事業報告」 財団管理運営事業 理事会・評議員会・協議会の開催・運営 総務管理係 定例の理事会・評議員会を、5 月、12 月、3 月の年 3 回開催しました。12 月に行われた理事会では公益法人移行後の定款を承認され、3月 22 日に北 海道より認定を受け、3月の理事会において公益財団法人への移行を確認 しました。 その他、当財団の役員の方々に向け、事務局の最新の動向をお知らせす る「財団ニュースレター」を、10 月、3 月の年 2 回発行しました。 財団組織改革推進事業 総務管理係 公益財団法人移行検討専門委員会は 5 月、11 月、3 月の 3 回開催し、公益 法人移行への検討を重ねてきました。4 月 1 日には登記が完了し、正式に公 益財団法人としてスタートしました。 普及研修事業 総務管理係 普及業務 普及研修係 羅臼地区事業係 ■ 普及資料等販売、および写真貸出し事業 知床自然センターと羅臼ビジターセンターのインフォメーションカウン ターで、知床の自然や動植物に関する知識を深める書籍類や、ルールやマ ナーを普及するパンフレット、自然観察や登山道沿いの植生保護などに役 立つアウトドア用品の販売、レンタルを行いました。 知床財団の活動を広く知っていただくことを目的に、知床財団オリジナ 22 「H22 年度事業報告」 ル商品の開発に力を入れました。平成 22 年度は散策に役立つものの紹介と して軍手の製作を行いました。スタッフのデザインしたプリントが施され、 人気の商品になりました。また、野外でのフィールドノートとして使える、 リングノートも製作しました。 散策の際に役立つ長靴、双眼鏡のビジターへの有料貸出しも知床自然セ ンターで行い、長靴は 434 件、双眼鏡が 97 件の貸出しがありました。特に 長靴に関しては羅臼湖利用者のレンタルが定着してきたようです。 情報提供事業の一環として行ってきた写真貸出しは、雑誌等掲載のため の知床のイメージ写真などの有償貸し出しが 5 件ありました。また、旅行 ガイドブックや旅行情報サイト上の知床自然センターの施設紹介など、無 償貸し出し扱いのものは 5 件ありました。 ■ ヒグマ対策普及事業 知床自然センター、羅臼ビジターセンター、ルサフィールドハウスで、 知床における安全対策上大きな効果のある「ヒグマ撃退スプレー」と「フ ードコンテナ」の有料貸出しを行いました。羅臼岳登山道入り口にある木 下小屋では、 「ヒグマ撃退スプレー」の貸出しを行いました。貸出しの際に は契約内容や使用方法を分かりやすく説明できるよう、スライド画像を用 いて 20 分程度のレクチャーを行ったのち、利用者に契約書を提出していた だきました。近年増加している外国人利用者には、レクチャーののち英語 表記の貸出し契約書を提出していただきました。 平成 22 年度の「ヒグマ撃退スプレー」の貸出し件数は、知床自然センタ ー56 件、羅臼ビジターセンター18 件、ルサフィールドハウス 9 件、木下小 屋 100 件でした。「フードコンテナ」の貸出しは、知床自然センター4 件、 羅臼ビジターセンター3 件、ルサフィールドハウス 8 件、でした。 平成 21 年度にヒグマにテントを荒らされる事例が発生したため、今年度 は知床自然センター館内に「フードコンテナ」の利用を推奨する展示を作 成しました。今後、こうした普及活動をさらに拡充し、利用者に「ヒグマ 撃退スプレー」と「フードコンテナ」の携行をより強く呼びかけていきた いと思います。 研修実習業務 ■ 知床の自然保護活動についての体験型教育プログラム事業 ゴールデンウィークと夏休みの期間に知床自然センターを訪れたビジタ 23 普及研修係 「H22 年度事業報告」 ーを対象に、知床の自然の魅力や知床が抱える課題、財団の活動などにつ いて、実際の骨格標本や毛皮、小道具などを使いながら財団スタッフが分 かりやすく解説する『ミニレクチャー』を無料で行いました。ゴールデン ウィークは 4 月 29 日~5 月 8 日までの 10 日間、夏休みは 7 月 18 日~8 月 22 日までの 36 日間実施しました。『ミニレクチャー』はスタッフの「伝え る」技術を高めるための研修としても位置づけ、係・担当を超えて多くのス タッフがレクチャーに携わったほか、インターンシップの研修の場として も活用しました。 ■ 研修・実習受け入れ事業 知床には、豊かな自然のみならず、ヒグマと共存するための努力、自然 を守るための各種制度を整えてきた歴史や数百年の時の流れを必要とする 森づくり活動など、自然と人間が共存するための様々な取り組みがありま す。そして知床にはそれらを体験できる現場があります。 財団が担う野生動物保護管理、調査研究や公園管理の実績を反映した研 修プログラムとして、国際協力機構(JICA)主催の海外からの研修生向けの 研修や北大獣医学部生の研修などを受け入れました。また環境教育や調査 研究、地域振興の現場で活躍する人材の就業体験の場として、インターン シップを 4 大学より 7 名受入れました。 他にも、道内外の各種団体からの講演依頼、知床でのレクチャー対応、 行政視察などの受入れ対応を通じて、知床の価値を広く伝える活動を行い ました。 JBN事業 JBN業務 保護管理研究係 日本クマネットワーク(JBN)からの受託業務として、JBN 会員向けニュ ースレター「Bears Japan」の発行・発送、 「ヒグマとの遭遇回避と遭遇時の 対応に関するマニュアル」の発行・販売、JBN ホームページの運営管理を行 いました。 日本クマネットワークは、個人や地域ごとの単独の活動だけでは難しい全 国レベルの諸問題や国際問題に関し、必要に応じて社会に対して働きかけを 24 「H22 年度事業報告」 行い、人とクマのより良い関係を構築する活動を行っている NGO 組織です。 昨年は本州で発生したツキノワグマの大量出没に対応し、全国各地の状況を 取りまとめ、その状況を報告するシンポジウムの開催などを行っています。 会員は専門家やクマに関心を持つ一般市民、およそ 320 名で構成されてい ます。 JBN 会員向けニュースレター「Bears Japan」は計 3 回、計 956 部を印刷 発行し、会員に向けて発送しました。また、 「ヒグマとの遭遇回避と遭遇時 の対応に関するマニュアル」については、店頭および通信販売を通じて計 93 部を販売しました。ホームページについては、日常的な掲載内容の更新 を中心に、幅広い運営業務を JBN 事務局と連携して実施しました。 25