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「2020 年東京オリンピック・パラリンピック活用地域活性化戦略プラン検討会」コラボレーションシ
ンポジウム
「我が国のものづくり現場や伝統文化を核とした活気ある地域コミュニティの創造と発信」
シンポジウム(議事要旨
【開催要領】
日時 平成 26 年 6 月 3 日(火)10:00~12:30
場所
東京中小企業投資育成(株)8階大会議室(東京都渋谷区渋谷 3-29-22)
【出席者】
(基調講演)
北條 規 株式会社ものづくり研究所 代表取締役
鈴木 淳 台東デザイナーズビレッジ 村長
浜野 慶一 株式会社浜野製作所 代表取締役
(パネルディスカッション)
(ショートプレンゼンーテーション)
國定 勇人 新潟県三条市 市長
矢島 里佳 株式会社和える 代表取締役
(討議)
(モデレーター)
野口 聡
関東経済産業局 地域経済部長
北條 規
株式会社ものづくり研究所 代表取締役
(パネラー)
國定 勇人 新潟県三条市 市長
鈴木 淳 台東デザイナーズビレッジ 村長
浜野 慶一 株式会社浜野製作所 代表取締役
矢島 里佳 株式会社和える 代表取締役
<開会挨拶>
安藤 久佳
関東経済産業局長
<司会>
門田 靖
関東経済産業局 地域経済部 地域経済課 課長補佐
<事務局>
関東経済産業局 地域経済部 地域経済課
1
【プログラム】
1.開会挨拶
2.基調講演
3.パネルディスカッション
① メンバーからのプレゼンテーション
② 討議
【配布資料】
1.プログラム
2.
「2020 年東京オリンピック・パラリンピック活用地域活性化戦略プラン検討会」
趣旨説明資料
3.株式会社ものづくり研究所 北條代表取締役 ご講演資料
4.台東デザイナーズビレッジ 鈴木村長 ご講演資料
5.株式会社浜野製作所 浜野代表取締役 ご講演資料
6.新潟県三条市 國定市長 ご講演資料
7.株式会社和える 矢島代表取締役 ご講演資料
【基調講演】
1.北條 規 株式会社ものづくり研究所 代表取締役
「2020 年の日本が世界に発信するものづくり・伝統文化の魅力について」
○東京オリンピック・パラリンピック開催を地域活性化に活用するための、局長のおっ
しゃる“おいしい食べ方”のスープ・前菜にあたる部分を私からはご紹介させていた
だく。
<「メイド・イン・ジャパン」を支える地域の地場産業をとりまく現状>
○我が国ものづくり産業の「メイド・イン・ジャパン」として世界に誇ってきた品質・
技術力の高さを支えてきた地域の地場産業の土台は厳しい状況下にある。2020 年まで
の6年間をかけて、世界が日本に注目するまたとないチャンスである東京オリンピッ
ク・パラリンピックを活用し、情報発信のあり方について検討を進めるべき。
○近年、アマゾン等のインターネットが消費者市場を動かしているように、我が国の流
通システムは大きく変革を遂げた。中間流通機能を担っていた産地問屋が衰退したこ
とで、市場動向の把握から商品企画からデザイン、製造、販路開拓まで地場産業の事
業者が行わなければならなくなった。更には、国内市場のみならず海外市場や外国人
需要を見据え、2020 年までの6年間をうまく活用しながら情報発信の方策を検討しな
ればならない。
2
<マーケットインへの発想転換の重要性>
○これまで、国の“Cool Japan”戦略に基づく施策を活用し、自治体や産業支援機関等
を中心に、地場産業の海外展示会の出展支援などを通じた海外需要の開拓や、クリエ
イターと連携した商品開発の取組を行っているが、成功事例はまだ少ない。
○海外展開がうまく進まない理由として、①今あるものをどう売るのかというプロダク
トアウト型の発想、②出展しようとする展示会の来場者の把握や、販路開拓のきっか
けづくりについて下調べが不足、③海外の消費者ニーズや商習慣・ライフスタイル・
文化を認識していない、などがあげられる。
○私がプレゼントした日本酒用の升を植木鉢として使っている外国人がいる。寿司のカ
ルフォルニアロールも日本人にはない発想で生まれたもの。外国人の価値観やニーズ
を商品開発に活用するべきであり、それを理解している海外デザイナーやクリエイタ
ーとコラボすることで、海外における開発商品の伝わり方は変わってくる。
「消費者動
向や生活者の視点で商品開発や販売を行う」マーケットインの発想が求められる。
<事例①「百年物語」プロジェクト>
○にいがた産業創造機構などの支援を受けたメーカーが主体となった取組で、
「ブランド
構築には最低 10 年かかる」というコンセプトに基づき、100 年後も大切に使ってもら
える商品開発に向けた取組を 10 年継続して行っている。
○特長として、①毎年統一したテーマで商品を開発。それらを使う生活イメージに踏み
込んで提案、②開発に参加する企業は公募ではなく、同機構が市場調査に基づく開発
テーマを提示し、高い品質の製品を作れる企業を厳しく選定。開発費用に対する行政
からの補助等はなく、企業がリスクを負って製品開発に取り組む、③ブランド構築に
は最低 10 年の戦略が必要であるとして、同じ専門家・コーディネーターが継続してサ
ポートしていく体制を整えている、ことがあげられる。
<事例②新伝統工芸プロデュース TOKYO CRAFTS & DESIGN>
○2012 年、東京都の指定する 41 の伝統工芸分野の職人と、工芸の魅力を知り自らのアイ
デアやデザインを生かしたいと考えるデザイナーを公募してチームを編成。職人とデ
ザイナーとの「協働」による新商品開発を行わせた取組。東京都立美術館の学芸員と
アートディレクター ムラタ・チアキ氏のプロデュースにより実現した。
○職人とデザイナーが使う言語はドイツ語と中国語くらい異なる。彼らの使用言語を通
訳できるコーディネーターの役割が重要。デザイナーに職人の持つ加工技術の限界等
を通訳したことで、デザイナーの作品ではない売れる商品開発を行うことができた。
<事例③TOKYO DESIGN &CRAFT MARKET 2013>
○展示会出展の問題点として、①ターゲットを固めて出展していない等、商談の成果が
少ない、②展示会の来訪者の傾向や特徴等の事前リサーチ不足等により、ターゲット
となる事業者との出会いが少ない、③出展しても商品の魅力や開発ストーリー、地域
の魅力等がうまく伝えられない、ことがあげられる。
3
○関東経済産業局主催の本展示会では、上記の問題を解決すべく①技術・素材を持つも
のづくり企業、②新たなデザインコンセプトを提案できるデザイナー、③市場ニーズ
を知る流通関係者
をプロデューサーがコーディネートし、商品化に着地できるよう
三者をつなぐマッチングイベントとした。
○出展企業に対しては事前に展示方法等についてアドバイスを行い、マッチしそうな事
業者とデザイナーを事前調整して商談に結びつけるなどして、高い商談達成率を実現。
成功事例として、越前塗りの職人と荒川区のエボナイト製作所が連携して万年筆の開
発に成功。池波正太郎モデルとして同事務局の協力の下、サライの通販に掲載される
という成果を出している。
<B to B 市場への着目>
○海外の B to C 市場のみならず、B to C 市場にも目を向けるべき。世界市場で商品を流
通させている海外ブランド等内外のメーカーとのコラボレーションも考慮すべき。エ
ルメスやドンペリニョンなどのメーカーが金沢の伝統工芸品の職人に注目、視察に訪
れていると聞く。海外ブランドも日本の高い品質や精神性を有する商品や技術を発掘
しようとしているが、まだまだ出会いが少ない。
○同じコーディネーターが継続的に職人やデザイナーとのコーディネート、海外販路開
拓などを支援し続ける必要もある。
<2020 年東京オリンピック・パラリンピックに向けて>
○単なる日本の PR にとどまらず、日本文化や精神性の魅力・被災地の復興に向けた取組
も発信すべき。それは日本人が日本を見直す機会にもなり得る。また、オリンピック
開催後にも発信の効果がつながるよう、10 年以上のスパンで戦略を立てる必要がある。
○戦後から世界第2位の経済大国にまで復興したのが日本。今世界は、東日本大震災
の被災地の復興に注目している。例えば、群馬県桐生市の朝倉染布による水が運べる
風呂敷は被災地支援に大きな役割を果たした。このような震災復興を通じて日本の技
術や素材の品質の高さ、すばらしさをどんどん世界に発信していくべき。併せて、日
本のものづくりは、日本人の精神性、食器を持って食事をする等の日本文化に裏付け
られたものであると発信しなければならない。
○2020 年までの6年をかけ、オリンピックでの「競争・競走」を通じた世界との「共
創・協創・共想」を目指し、各国が相互理解を深め、共に繋がり、共に競い、共に創
り、共に平和を目指すプロモーションテーマ「KYOSO」に基づき日本が世界に発信する
文化交流の戦略ストーリーを立案すべきである。
○具体的には各国歴代のゴールドメダリスト(世界の英雄)を招聘し、日本文化やも
のづくりの現場、被災地訪問してもらい日本人の「和」の精神性による強さや可能性
にも触れていただく。その一部市場を国内外マスコミや SNS を通じて世界に発信して
はどうか。
○行政・産業支援機関はこの東京オリンピックというめちゃくちゃ良いビジネスチャン
4
スを食べない手はない。ものづくり事業者等がチャンスを活かす取組を下支えする戦
略づくりや体制整備も行い、日本全体のものづくり産業活性化につなげて欲しい。
2.鈴木 淳 台東デザイナーズビレッジ 村長
「2020 年に向けたものづくり現場の魅力を活用した地域ブランド戦略について」
○台東デザイナーズビレッジ村長として、ものづくりの現場の魅力発信、ものづくり事
業者とクリエイターの支援を行っている。北條氏が先ほど事例として紹介した「新伝
統工芸プロデュース TOKYO CRAFTS & DESIGN」でのクリエイターの紹介やコーディネ
ートなど、裏方としてお手伝いさせていただいた。
<台東区の特徴>
○台東区は東京の下町として浅草寺やスカイツリー、上野動物園、秋葉原の電気街など
が立地。カチクラ地域(注:徒蔵(カチクラ)地域とは、台東区南部の御徒町から蔵前、
浅草橋にかけての2km 四方のエリア。)は財布・バッグなどの革製品、ジュエリー等の
卸売業やそれらを製造する下請けメーカーや職人が集積している地域。台東区の面積
は 23 区最小で、人口は 1960 年代をピークに減少傾向にあった。ものづくりの下請け
がアジアで海外生産されるようになり、都市の中の過疎地域化していた。子供も減少
したため、小中校も 22 校が廃止され、現存しているのは 26 校。
<台東デザイナーズビレッジの取組>
○高付加価値なものづくりを目指し、デザイナーを誘致したいと台東区から打診があり、
廃校となった小学校の跡地に「台東デザイナーズビレッジ」という日本初のものづく
り系クリエイターの創業支援施設を 2004 年に設立。
○同施設の特長は、ファッション関係の創業5年以内のクリエイターに入居対象を限定
し、最大3年間の入居期間中に企業経営者としてビジネスを成長させ、卒業させるこ
と。日本中から入居希望があり、現在倍率は 10 倍くらい。3年の入居期間中にアルバ
イトや貯金を崩しながらビジネス経験を積み、中には 20 倍くらいの年商を実現して卒
業する方もいる。現在の入居者の8割が 25 歳女性で、平均年齢は 32 歳から 33 歳くら
い。服飾デザイナーや革製のアクセサリー製作など分野も様々。55 組が卒業し、うち
28 組が区内でデザイナーとして創業している。
○これまでのカチクラ地域は下請企業の街として何を作っているのか発信してはいけな
かったが、クリエイターの集積を進め、職人とともに発信していくクリエイティブな
街を目指していく。
○入居者に対しては、知名度や価格競争ではかなわない有名ブランドにはない、自身の
個性を活かした製品作りやファンを増やしていくことが重要とアドバイスしている。
また、工場見学や催事販売などを通じ、現場を知ってもらうことも重視している。
○クリエイターはいわば設計図を描く人。設計図に基づいた製品を商品化するには工場
5
の協力が必須。両者が相互にクオリティーを高め合うことが重要で、クリエイターに
ものづくりの現場を見学させることは非常に重要。例えば甲府の宝石工場を見学する
ことで、実際に人の手で宝石が製造される過程や、職人による研磨の技術の苦労や限
界を知ることで、自分達の描く設計図と製品化される商品との違いを理解することが
できる。織物工場の見学も同様。実際に繊維が機械と職人の手でいかに苦労して製造
されているのか実感することができる。クリエイターがものづくり現場への理解と尊
敬を持つことが、新しい商品やビジネスを生むきっかけとなる。
<地域発信イベント「モノマチ」>
○カチクラ地域のものづくりの魅力発信や、商品の作り手を知ってもらい、下請けから
製造小売への転換を目指すイベントの企画を平成 23 年1月に開始。その後の震災のイ
ベント自粛ムードも乗り越え、平成 23 年5月にものづくり系企業 16 社、クリエイタ
ー87 人が参加した第1回「モノマチ」を開催。予算もなかったため、普段見せること
のない地域の工場や職人の作業場を一般市民に開放し、ものづくりの現場をアピール
した。普段は老人しか通らない地元の佐竹商店街に 30 年ぶりの賑わいが復活した。
○イベント内容は、工房での体験型ワークショップや普段は小売りをしない工房での製
品販売など。自分達のものづくりの仕事で多くの人が楽しんだり、商品を購入してく
れたりすることで、自分達の仕事が評価され、事業者や職人の自信にもつながった。
○今年5月には第4回「モノマチ」を開催。ものづくり系企業 257 社、クリエイター97
人が参加しており、毎年規模は拡大し続けている。ものづくりの現場を発信すること
で来場者がその価値を再認識し、職人の意識も変えることができた。また、地域内に
業種を越えたネットワークが生まれ、企業の連携によるビジネスチャンスも拡大して
いる。
○目指しているのはニューヨークの SOHO 地域。同地域は、もともと繊維工場とその従業
員が住む街だったが、工場の市外移転などで 1950 年代には倉庫や低賃金の零細工場な
どが立地するだけの荒廃した地区だった。その後 1960 年代から 1970 年代にかけて、
低い賃料で作品の制作に適した広いスペースを有する建物を、お金のない芸術家やデ
ザイナーたちが工房やアトリエとして使うようになっていった。1980 年代には芸術家
の集うレストランやギャラリー、ライブハウスもでき、芸術家の街として復活を遂げ
ている。
○その他パリ、ミラノ、フィレンツェもファッション等クリエーションを発信すること
で街の魅力がブランド化されている。ブランド化された街は、現地に行って買い物を
したいという観光客を呼びこめる。クリエイターの集積による台東区の街の魅力のブ
ランド化を目指したい。
<2020 年東京オリンピック・パラリンピックに向けて>
○2020 年のオリンピック・パラリンピック開催前に日本のファンを増やさなければなら
ない。そのためには、クリエイターがものづくりの現場を演出し、地域の魅力を高め、
6
東京という街のブランド化を進めるべき。そうすることで 2020 年に世界の人が東京で
作られたものを東京で買ってくれるようになる。
○東京オリンピック・パラリンピックの来場者向けに、東京の浅草の伝統、上野のアー
ト、秋葉原のアニメやコンテンツを見てもらうともに、カチクラ地域の職人やクリエ
イター、ものづくりの現場も見てもらう。次の日には静岡や燕三条に行ってもらって
も良い。現場と人のファンになってもらえば、現場でものを買ってくれることにつな
がる。
3.浜野 慶一 株式会社浜野製作所 代表取締役
「2020 年に向けた新たなものづくり地域活性化戦略」
○今までの登壇者は企画や枠組み作りを通じ、ものづくり企業を支援される立場からの
話。私は町工場を経営しており、支援を受ける側・ものづくり企業側としてお話をさ
せていただく。
<墨田区と墨田区の町工場の特徴>
○墨田区も台東区のように東西が5㎞、南北が6㎞。1時間半くらいで区内を歩ける狭
い地区。
町工場といえば大田区が有名だが、墨田区も 23 区内で工業数は2番目に多く、
面積当たりの工場数は最大。工場の密集度が最も高い区である。最盛期は 9,700~9,800
の工場数だったが、現在は 1/3 以下の 3,100 件に減ってしまった。更に特徴的なのは
区には工業専用地域として都市計画上の用途指定を受けた地域がなく、ほとんどの町
工場が準工業地域に住宅と混在して立地していること。
○従って町工場の規模は非常に小さく、3,100 件のうち 8 割が従業員数5人以下。父親が
社長、息子が専務か工場長、母親が経理担当、1人か2人の職人が従業員というのが
典型的なイメージ。
<会社紹介>
○自分は2代目の社長。主要業務は精密板金加工で半導体製造装置や医療機器向け等の
部品を製造。最終製品は少ない。14 年前は家族経営で3~5アイテムを大量生産する
4次から5次下請企業だった。発注先の製品がモデルチェンジされるとアイテム全て
の発注がなくなってしまうこともあった。
○国内産業空洞化やサプライチェーンの変化、輸送コストが安くなったため、国内下請
製造業の市場がどんどん縮小していった。これを受け、これまでの大量生産部品の受
注から、カメラや医療機器向けの微細加工による多品種少量部品の生産、設計から試
作開発の受注へと業務転換していった。
○しかし最近は、試作開発すらも海外の生産現場で対応するようになった。そこで目を
つけたのが外部との連携事業。
<産学官、異業種連携事例>
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(電気自動車「HOKUSAI」開発プロジェクト)
○2009 年、東京スカイツリーの開業にあわせ、墨田区ゆかりの葛飾北斎にちなんだ電気
自動車を早稲田大学・区内中小企業とで共同開発した。2012 年には公道を走れる1人
乗り用「HOKUSAI-Ⅲ」が完成し、スカイツリーを周遊させ区内中小企業の技術力の高
さを発信した。2020 年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、今後は観光客
に墨田の町を歩いてもらう交通手段として開発を進めている。
(深海探査艇「江戸っ子1号」プロジェクト)
○2009 年、下町の中小企業・海洋研究開発機構(JAMSTEC)・芝浦工業大学・東京海洋大
学・東京東信用金庫等と水深 8000m の深海にも耐え得る無人探査艇の開発に着手。2013
年 11 月に深海約 8000m で世界初の 3D 撮影に成功した。
○こうしたプロジェクトは本格的な事業化に向け、ビジネスとして成功しつつあるとと
もに想定していなかった副産物も得ている。例えば HOKUSAI を大手タイヤメーカー社
長や開発担当部長が視察に来てくれたことがあった。開発経緯や当社の取組を知って
いただき、かつては4次から5次下請企業だった当社だが、今や直接大手企業と取引
するようになった。江戸っ子1号も同様。開発をしていく中で知り合った大学や研究
機関から別の仕事の依頼を受けられるようになった。
(廃材プロジェクト)
○2012 年、墨田区内の金属・皮革・ガラス・プラスチック等から排出される「廃材」を
デザイナーやクリエイターが再利用し、照明器具やアート作品を製作するプロジェク
ト。リサイクル業者に手数料を支払って廃棄していた廃材が、たまたま視察に来たデ
ザイナーやクリエイターが活用してくれた。子供向けものづくり体験ワークショップ
では、廃材を入れた万華鏡を製作している。
○町工場の人間だけでは廃材をこのように利用する発想は絶対に生まれない。異業種の
メンバーとの出会いによってこちらの視野も広がり、新しい発想も生まれてくる。
(アウトオブキッザニア in すみだ)
○2012 年より、墨田区内の中小企業が連携して子供向け職人体験教室を開催。観光ツア
ーとして JTB で販売。工作機械と最先端の技術を使って子供達が東京スカイツリーの
模型を製作する。当然、自分で完成させなければ完成品は手に入らない。
○子供達にとってはものづくりの楽しさや難しさを知る機会、企画運営する若手職人に
とっては、子供達のために作業上の安全確保を徹底することの重要性を再認識できる
研修の機会となっている。
○本体験教室の対象は小学4年生から中学2年生。ものづくりを体験させたい彼らの親
の勧めがきっかけで参加することが多い。ものづくりに関心のある親は自身がメーカ
ーで開発を担当していたり、研究機関に勤めていたりすることが多く、子供に同行し
てきた親との出会いにより、彼らの勤務する大手企業関係者と直接取引させていただ
いていることも大きな副産物。
8
(ものづくりベンチャー支援、デジタル工作機器を備える試作工房“Garage Sumida”
)
○私の自宅マンションの一部をものづくりベンチャー起業家向けにインキュベーション
オフィスとして提供し、早稲田の学生ベンチャーでロボット開発に取り組む(株)オ
リィ研究所の創業支援を開始している。同社は 2012 年 10 月に 4 人の若者で設立され
た。創立者の吉藤オリィ氏は、小学5年生から中学2年生まで不登校で長期の入院経
験を持ち、「孤独を癒すこと」をテーマとした遠隔型ロボット“Orihime”を開発。
“Orihime”にはカメラ・スピーカー・マイクが内蔵され、使用者がベッドの上に居て
も外部とコミュニケーションができるロボット。同氏のような優秀な若手人材を呼び
込み、墨田区をものづくりのスタートアップの聖地にしていく計画を推進していると
ころ。ものづくりベンチャー企業に共通する課題として、企画や制御、設計は得意だ
が、量産向けのコストダウンを見据えた設計のノウハウがない。当社からアイデア出
しをするなどタイアップしたものづくりの支援も行っている。
○当社の一画に 3D プリンターなどのデジタル工作機器を備えた実験施設“Garage Sumida”
を開設。墨田区や全国の町工場と連携しながら、企業や個人の製品・試作開発、量産
化の支援を行う。現在 30 件の取引があり、若手ベンチャー企業を含む様々な関係者を
町工場や全国のものづくり企業へつなげるゲートウェイとしての機能を果たしている。
東京オリンピック・パラリンピック向けの製品開発や商品づくりも行っていきたい。
<2020 年東京オリンピック・パラリンピックに向けて>
○町工場が世界中から製品製作の依頼を受ける拠点となり、海外からの受注拡大を目指
す以下の取組を行う。
・パラリンピック選手のサポート機器・器具の新製品開発を行う、若手ロボットベン
チャー企業や町工場による若手チームの立ち上げ、大会開催前にパラリンピック選
手から直接要望等をリサーチした上で開発に着手。
・電気自動車 HOKUSAI を会場移動用のモビリティーとして使用できるよう開発・改
良を進める。
・大会に来場する外国人観光客向けに町工場見学ツアーを企画、技術力の高さを発信。
【ショートプレゼンテーション】
1.國定 勇人 新潟県三条市 市長
「ものづくり・伝統文化を活用した三条地区の活性化について」
○実は三条市には縁もゆかりもなく、神田神保町生まれ。墨田や台東の下町の空気には
なじみがある。本日は三条地区のオープンファクトリーの取組についてお話させてい
ただきたい。
<三条市の産業特性>
○三条市には金属加工業を中心とした産業集積が存在。その 93%が伝統的な鍛冶技術を
9
ベースに鍛造機やプレス機を駆使しながら機械部品を製造。残り7%が伝統的な鍛冶
技法で伝統産業品として刃物等を製造。市にとっては両方とも大事な産業。特に産業
のベースとなっている伝統的な鍛冶技術の火を絶やさないことが長年の課題であった。
○地元民ではなく外から三条市を見ていると、ものづくりこそ三条地区のアイデンティ
ティなのにもかかわらず、街にものづくりの匂いが感じられなかった。ちょうど藻谷
浩介氏が、「地方の里山には資本主義的な価格という価値に換算できない資源が眠って
いる」と「里山資本主義」を提唱されており、三条地区も価格という価値で戦ってはい
けない、と考えた。三条地区で生み出せる価値は、無機質な大量生産品ではなく、地
域における有機的なつながりやものづくりの匂いを感じることのできるもの。この価
値を生み出すための取組を目指すようになった。
<「燕三条 工場の祭典」>
○これまでもテントを張って商品を説明・販売するというイベントはあったが、三木市
や関市の金物祭りのにぎわいには歴然とした差があり負けていた。そこで職人の魅力
や価値、匂いを感じてもらおうと考えたのが工場見学を中心としたイベント「燕三条
工場の祭典」
。
○これまでのイベントの対象は県内客や一般の方であったが、価格という価値観を越え
た燕三条地区のディープなファンを創るべく、地域的な制約を乗り越えた首都圏の方
や海外の方をターゲットとした。
○総務省時代に三条市に出向辞令が出た際、どこにあるんだ?と正直思った。県外の新
幹線を使ってくる方にとってなじみのあるのは三条ではなく、燕三条駅であると
考え、イベント名も「燕三条 工場の祭典」とした。
○日本全国や世界から集客するため、燕三条地域全体の工場を開放、予約無しで自由に
工場を訪問できるようにした。イベント全体の予算額は 950 万でそれほどお金はかけ
ていないが、工場の魅力の見せ方についてはトップクリエイターの(株)メソッドの
山田遊氏に徹底的にコンサルティングしていただいた。費用をかけずに発信効果が高
い手段として、イベントの共通イメージカラーをピンクとし、参加する全ての工場・
工房の扉にピンクのテープを貼り、視覚的に開放している工場を見えやすくした。ま
た、SNS を活用し、興味・関心の高そうな方に効果的に PR を行った。
○イベントの結果・効果として来場者数は 10,708 人にのぼり、うち4割が県外・海外か
ら。こちらから取材依頼を行っていない JAPAN TIMES が記事に採用、オランダ大使館
の来場、外国人のための包丁づくり体験講座には定員を超える応募があったなど海外
の関心も高かった。翌年4月にはミラノで開催される世界最大規模のデザインの祭典
「ミラノサローネ」にも招待受けた。全体的な経済的な効果は約3億円。
<2020 年に向けたインバウンド拡大戦略についての提言>
○ものづくり・伝統技術の現場は、その魅力の見せ方・伝え方次第では、海外からの集
客を図る観光資源となりうる。2020 年に向けて、そのような観光資源を育てるべく、
10
ものづくりの現場の魅力の見せ方、伝え方を検討することが必要。
2.矢島 里佳 株式会社和える 代表取締役
「地域の伝統的工芸品などを活用した地域活性化について」
<会社紹介>
○実は当社の事業目的は地域振興や地域の活性化ではない。自身が伝統工芸品を作って
いる職人さんに会いたい、伝統工芸品にはどんな魅力があるのか知りたいという単純
な興味がそもそものきっかけであった。学生であったため、取材活動として採用して
くれれば旅費等を負担してくれるという思惑もあり、全国の伝統産業の 20 代~40 代ま
での職人にスポットを当てるという企画を JTB に持ち込み採用され、全国の現場を訪
問した。
○若手の職人にフォーカスしたのは、若くして困難な現場にあえて飛び込む理由として
我々には見えない魅力があるのではないか、それを知りたいと思ったから。3年間の
取材活動の中で、事実、お会いした職人の皆さんは目をきらきら輝かせながら、仕事
に誇りを持って取り組まれ、自分のためだけに仕事をするのではなく、伝統を受け継
ぎ次世代に受け継ぐという強い責任感を持っていた。
○同時に後継者不足、商品がなかなか売れないという厳しい課題も知ることとなった。
課題の根源は、私たちが伝統工芸品について“知らず”、したがって“興味がもてず”
に“購入しない”というループがあるから。自身も東京生まれの千葉県のベットタウ
ン育ち。伝統工芸品を知らずに育ってしまい、非常にくやしいと思った。
○当時は大学3年生。徐々に“知る”を広げ、特に日本を選んで生まれてくれた子供達
が、当たり前に伝統工芸品に触れられるような環境づくりをしたいと考えるようにな
った。就職活動を開始したが、
“職人のものづくり技術による子供の育児用品を企画・
プロデュースし、職人の思いを伝えながら販売する”ことを行っている企業に出会え
なかった。そのような企業に出会えなかったのは、大人がその必要性・価値に気がつ
いていないか、少子高齢化の中でそのような伝統工芸品の市場づくりが困難であるた
めか明確にはわからないが、存在しないのではあれば起業するしかないと決心。
○設立資金を稼ぐためにいろいろなビジネスコンテストに出場。なかなか優勝できなか
ったが、
2010 年に東京都の学生起業家選手権 優勝し、賞金 150 万円を得ることができ、
この賞金を設立費用に充て 2011 年3月に当社を設立することができた。
企業理念は「21
世紀の子供たちに日本の伝統をつなげる」こと。事業は①日本全国の職人と連携した0
から6歳児向けの独自ブランド aeru 商品の開発・販売、②伝統の魅力を伝えるための
他企業と連携した商品開発・イベント企画運営を行う「和のコンシェルジェ事業」。
<0から6歳児向け商品ブランド aeru>
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○開発した商品例は、徳島の本藍染による赤ちゃんの産着・靴下・タオルセット。徳島
の本藍染には抗菌作用・紫外線遮蔽・防虫など知られていない機能がある。この機能
や価値を大人に“知ってもらい”
、日本を選んで生まれてくれた赤ちゃんを本藍染で迎
えようというのが伝えたいブランドストーリー。もう一つの例はこぼしにくい子供向
けの器。商品デザインはあえて子供らしくせず、素材や商品の本質を伝えるためシン
プルなものにしている。
○購入されたお客様からダイレクトに喜びのメッセージをいただいており、全国の職人
にとってはモチベーションの向上、購入者にとっては地域にある宝物の再発見。その
相乗効果によって地域活性化につながるのではないか。
○aeru を評価していただき、伊勢丹と三越の1階ショーウィンドーに aeru ブランドを置
いてくれることになった。バイヤーの方々が一生懸命発信してくれたおかげ。
「子供た
ちに日本の伝統をつなげるため」に大人がそれぞれの仕事を通じて動き、ビジネスと
して利益を得ながら地域・地場産業の活性化に貢献することは可能だと痛感している。
<2020 年東京オリンピック・パラリンピックに向けて>
○2020 年東京オリンピック・パラリンピックは日本の伝統文化・産業を発信していく絶
好の機会。先人達が育んできた他国にはない文化がかろうじて残っている。次世代に
受け継げるぎりぎりのタイミング。日本の産業・技術であり文化として発信すべくオ
リンピックに臨むべき。21 世紀の日本はゆるやかな経済成長と心の豊かさを追求する
文化大国であると世界に発信すべき。
○発信方法の具体例は、メダルの紐や装飾、聖火台への伝統技術の活用。メダルの紐は
真田紐、装飾には蒔絵、聖火台を全国の伝統産業・職人の技術を活かして製作するな
ど。その際、次世代の若手職人・デザイナー・プロデューサーの活躍の場を創出すべ
き。彼らを大人がサポートしている姿を発信し、日本では次世代を担う若者が輝き、
活躍していると世界に PR していくべき。
○また、オリンピック・パラリンピックはインバウンド拡大の絶好の機会でもある。取
材活動をしながら全国を回っていたとき、地元の方と仲良くなると普段観光客には出
さない食材を出してくれたり、宴会の時地元の歌や踊りを披露してくれることがあっ
た。このような“日本に行かないと体験できない”体験を提供すべきではないか。例
えば地域の産業に関係する場所の観光、見学・体験会の開催、地域ならではの伝統食
とおもてなしを体験できる地域の魅力体験ツアーなど。
【パネルディスカッション】
モデレーター:北條 規氏、野口 聡 関東経済産業局地域経済部長
パネリスト:國定 勇人氏、鈴木 淳氏、浜野 慶一氏、矢島 里佳氏(50 音順)
【論点① ブランディングにおけるストーリーの重要性について】
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(北條氏)
○地域のものづくりや伝統工芸品への購買意欲を高めるためには、
「もの」それ自身の魅
力に加えて、地域の歴史・文化やそれを作る職人やデザインするクリエイターの思い
や個性、技術の背景など、販売するモノに係る「ストーリー」を提示してブランド化
していくことが重要なのではないか。
○國定市長から「街からものづくりの匂い」を感じさせることが重要とのお話をいただ
いたが、伝統文化の「ストーリー」をどのように意識しているかお伺いしたい。
(國定氏)
○一般の消費者が「ストーリー」までたどり着くための工夫が必要。関心を持ってもら
えるための仕掛けが重要。三条市の場合は、ピンクのデザイン。それを前提に「スト
ーリー」についてお話しすると、伝統技術に立脚した地場産業には、現代の資本主義
から脱却した価値がある。それを「ストーリー」として提示することはその価値を見
える化する手段だと思う。
「安ければ安い方、同じ値段であればよりセンスの良いもの
を買う」という考え方に資本主義は立脚しているが、伝統工芸品はそれと同じ土俵で
は戦ってはいけない。伝統工芸品ひとつひとつのストーリーを消費者が咀嚼していく
ことは無理だが、関心を持つ消費者をそっと入り口に後押しをするための「ストーリ
ー」を提示することはできるのではないか。
○例えば「伊勢神宮の式年遷宮を 2,000 年以上、三条地域の金物は支えてきた」と「ス
トーリー」を提示することで、消費者は三条地域の金物製品の長年にわたる伝統に裏
付けられた高い品質を想像することができる。歴史に関心のない人に対しては「街か
ら立ち上るものづくりの匂い」という「ストーリー」を発信することで、ものづくり
に関心のある人に来てもらえるのではないか。
(北條氏)
○三条市の産業基盤を支えてきた伝統技術を感じてもらうということか。矢島さんはど
のように考えるか。
(矢島氏)
○大量生産品とは違い、伝統工芸品は職人が 100 個試作してやっとその中の1つが商品
化できるもので、高価格となる。ものを作っている現場を見たり、職人と接すること
で感覚として理解できるもの。現代の生活の中で必要とされる商品を消費者が取捨選
択できるよう工芸品の技術や機能、背景を「ストーリー」として消費者に語るだけで
は不十分で、理解・実感してもらう作業が必要ではないか。
(野口部長)
○さきほど、「ストーリー」にたどり着くための仕掛けが重要というお話があったが、も
う少し補足説明をして頂けないか。
(國定氏)
○「燕三条 工場の祭典」ではピンクというイメージカラーとロゴデザインに徹底的こだ
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わった。これまでは鍛冶技術を伝えるイメージカラーとして、暗い工房で燃える炎の
イメージから黒と赤を使ってきた。山田遊氏と同祭典のイメージカラーを検討するに
あたり、黒と赤は刺激の強い色で拒否反応を示す人もいるのでないか、意外に地味な
色の組み合わせなのではないかと考えた。そこで、黒よりも灰色、赤よりもピンクと
柔らかい色合いの組み合わせに決定した。黒と赤よりも祭典のターゲットとなる対象
の裾野を広げられたと思う。
「ストーリー」に関心を持ってもらうため、人の興味を引
く分かりやすいイメージを発信する戦略は有効であり重要。
【論点② ネットワークによる新たなものづくりの可能性について】
(北條氏)
○浜野さんより産学官連携、若手ベンチャー経営者と組んだ新たなものづくりについ
ての取組事例の紹介があったが、その狙いについてお聞かせいただきたい。
(浜野氏)
○工業会メンバーなど、自分と同じようなものを作る側の人間と話をしていても新た
な発想や視点は生まれない。良く“よそもの、わかもの、ばかもの”と言うが、ク
リエイターやデザイナーと連携することも狙いは同じ。
(北條氏)
○子供向けのワークショップでも新たな発想や視点は得られるものか。
(浜野氏)
○ワークショップに参加した小学4年生の女の子が「ものづくり体験はとても楽しか
った。大きくなったら浜野製作所で働きたい。私が大人になるまでつぶれないで。」
と感想を聞かせてくれた。年齢や国を超えたネットワークは、ものづくり企業にと
って貴重な新しい視点や視野をもたらしてくれると思う。
(北條氏)
○鈴木さんは台東区のクリエイターと富士吉田や甲府など広域的なものづくり産地の
連携を推進されているが、双方にどのような効果が生まれているのか。
(鈴木氏)
○富士吉田の鋳物産地、甲府の織物産地はそれぞれ高品質な技術や製品を生み出して
いるのに値段が高いとされ、商品の価格以外の価値をうまく伝えきれていないとい
う課題があった。
○現場を見た台東区のクリエイターはその品質や技術の高さにまず驚く。作り手が気
づかない価値をどのように活かして魅力ある商品とするか、クリエイターは価値を
翻訳し、顧客が購入するような商品企画を創造することができる。逆にクリエイタ
ーは現在の技術や品質を高めたり、高付加価値化することが苦手。クリエイターの
発想力・企画力とものづくり側の高品質・高付加価値化された技術力の相乗効果に
よって良い商品が生まれていると思う。
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【論点③ 広域連携による発展の可能性について】
(北條氏)
○紹介のあった台東区の「モノマチ」、墨田区の「スミファ」
、三条市の「工場の祭典」
など、ものづくりの現場をオープンにする「オープンファクトリー」の取組の先進
事例。他の地域でその取組が拡大していく可能性がある中、注意すべき点や互いの
取組についての情報交換のあり方や広域連携の可能性について意見をいただきたい。
(國定氏)
○「工場の祭典」のプレイベントに参加して感動して泣き出した芸大の学生がいた。
それを見た職人はもっと感動し、喜んだ。このことは三条の伝統技術が金銭的価値
以外の価値をファンとなった人が理解してくれる可能性を示唆するものであり、職
人のモチベーションを向上させるヒントでもある。
○また、「工場の祭典」には1万人の人にお越しいただいた。100 万や 200 万の来場者が
なくても、1 万や 2 万の人にディープなファンになっていただければ地元企業 10 社
が生き残れる。三条市が元気になるためには1万人の来場者で十分という割り切り
が重要。100万人を目指す計画を立てても失敗するだけ。1 万人の来場者の中には
九州や北海道から来たくれた方もおり、ディープなファンは地理的制約を乗り越え
てしまう。また埼玉県の女性が 10 本近い数の鍬を買ってくださった。どうしてそん
なに買うのかお聞きしたところ、畑仕事やガーデニングを趣味にしている知り合い
が多く、三条金物ブランドの鍬はきっと喜ばれるので買っていくとの話だった。デ
ィープなファンはこのように金銭的な制約をも乗り越えてしまう。
○「工場の祭典」のディープなファンは他地域や他のジャンルのオープンファクトリ
ーには参加したいはず。来場者に台東や墨田の取組を情報提供すれば必ず行ってく
ださるだろう。逆に台東や墨田のイベントの来場者に私たちの取組をインフォーム
していただければ、相乗効果が高まり、広域で連携する意義はあると思う。
(鈴木氏)
○「モノマチ」は外部で活躍する人を招くのではなく、地元地域の工場や工房、職人を
主役にしている。来場者とふれあうことで、下請業者として直接消費者に販売した経
験のない事業者にとって自分でモノを作り、消費者に売っていくきっかけになった。
○2020 年東京オリンピック・パラリンピックの開催は、自分達で作ったモノを来て買っ
てもらう取組の機会とすべき。SNS 等で効果的にものづくりの現場の魅力を世界に発信
する仕組みを作れば、ファンとなった世界の人が現場に来てモノを買い、自国に持ち
帰って宣伝してくれる。特定の地域だけでなく、広域的にオープンファクトリーの取
組を連携させる体制や枠組みを構築すれば効果的なものになる。
(野口部長)
○国定市長からは「工場の祭典」を開催される際、100万人の来場者を目指すのでは
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なく1万人の来場者で十分という見極めが重要と位お話しがあった。これは、自治体
としても市場動向などを見極めて「実現可能なビジネスモデル」を立てていくべきと
理解してよいか。さらには、山田遊氏という若手トップクリエイターを起用され、同
氏に徹底的にコンサルティングしてもらったとのお話があったが、ディープなファン
やマーケットを作るための実現可能なビジネスモデルを策定していく際には、優秀な
若手を見いだして巻き込んでいくことが重要ということか。
(國定氏)
○そうだと思う。世界観を維持・構築する戦略づくりは、ものづくりの現場を客観視し、
当事者が気づかない価値に気づける行政や産業支援機関にしかできないと思う。
○ディープなファンを集めるための世界観、三条市のケースでいう「ものづくりの匂い」
を維持・構築させることが必要。豊かになった成熟社会を享受している日本や欧米の
人の 100 人に1人は価格ではない、商品の裏にある世界観に散財する人がいるはず。
【論点④ 次世代の担い手の育成について】
(北條氏)
○今後の日本において、ものづくりの基盤となるような技術や習得することが容易では
ない伝統工芸技術などを継承していくために、次世代の若手の担い手育成のあり方や
どのように若者を巻き込んでいくか、ご意見をいだだきたい。
(矢島氏)
○これまで行政側が若手職人育成のための予算措置を講じてもほとんど成功しないと相
談を受けることがある。担い手の教育訓練費を支援し、職人として育成しても仕事が
なければ補助金が切れてしまったら転業してしまう。
○また、ほとんどの支援期間が2~3年。職人を育成するには 10 年かり、育成する側も
される側にも覚悟が必要。どのような人がどの分野の職人に向いているか、目利き役
が必要。目利き役の理想は昔の旦那集。才能ある若者のファンとなり、パトロンにな
って育てることを粋とする価値観を私たちが持てるようになれば良いのだが。
○例えば、5年間かけて年間 200 万の訓練費を支給しながら職人としての自立化を進め
るとともに、彼らがゆるやかに市場を開拓していく取組も支援していくべき。
【論点⑤ 2020 年に向けて地域活性化・インバウンド拡大に重要なことについて】
(矢島氏)
○生まれたばかりの子供が 20 歳になった時「日本に生まれて良かった」と思える国を創
出すべき。自国民が誇れる国になれれば、世界中から尊敬され着実にインバウンド
は拡大していく。
(國定氏)
○行政や産業支援機関等の関係者が資本主義的な価格という価値観からの脱却にこだ
わり続けること。
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(浜野氏)
○日本人みんなが情熱と愛をもって行動すること。
(鈴木氏)
○「職人やものづくりの仕事ってかっこいい」と子供が思えるように大人が背中を見せ
ること。
(北條氏)
○消費者や観光客が現場や本当のものづくりを知る機会や場面を作ること。
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